判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(222)平成23年 9月 9日 東京地裁 平20(ワ)290号 業務委託料請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(222)平成23年 9月 9日 東京地裁 平20(ワ)290号 業務委託料請求事件
裁判年月日 平成23年 9月 9日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)290号
事件名 業務委託料請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA09098008
要旨
◆原告が、被告に対し、被告との間の業務委託契約に基づいてシステム開発に係る営業活動を行ったと主張して、未払報酬の支払を求めた事案において、本件業務委託契約においては、被告と顧客との間にシステム開発等に係る契約が成立することを停止条件として、案件ごとに相当額の報酬等を支払う合意があったと認定した上で、訴外会社のシステム開発案件について、原告の訴外代表者の営業活動の内容、重要度、契約の規模、同種案件の報酬額、関係者の認識その他の諸点を総合して相当報酬額を算出するなどし、請求を一部認容した事例
参照条文
商法512条
裁判年月日 平成23年 9月 9日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)290号
事件名 業務委託料請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA09098008
横浜市〈以下省略〉
原告 株式会社ソプロン
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 石下雅樹
同 布施正樹
同訴訟復代理人弁護士 江間由実子
同 渡辺知博
東京都港区〈以下省略〉
被告 有限会社ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 菊地賢一
主文
1 被告は,原告に対し,283万5000円及びこれに対する平成19年10月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,2299万5000円及びこれに対する平成19年10月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,同社との業務委託契約に基づいてシステム開発に係る営業活動を行ったのに,その報酬支払が未了であるとして,その支払を求めるものである。
すなわち,原告は,被告との間で,平成19年2月1日付けで,被告のシステム開発及びシステムコンサルティング(以下,併せて「システム開発等」という。)の受注先となる顧客を原告が新規に開拓し,被告に紹介することを内容とする業務委託契約(以下「本件新規開拓契約」という。)を締結し,次に,平成19年2月5日頃,被告が既に開拓してシステム開発等に係る営業活動を始めていた訴外株式会社ロッテリア(以下「訴外ロッテリア社」という。)外2社に対して,原告がその受注に向けて営業活動を行うことを内容とする業務委託契約(以下「本件委託契約」という。)を締結していたところ,本件委託契約においては,原告の営業活動に対する費用及び報酬(以下,併せて「報酬等」という。)の支払について,①被告と顧客との間にシステム開発等に係る契約が成立することを停止条件に,当該案件の受注額の20パーセントを支払う旨の合意があった,②仮に,上記①の合意が認められないとしても,被告と顧客との間に同じく契約が成立することを停止条件に,当該案件につき相当額の報酬等を支払う旨の合意があり,同相当額は受注額の20パーセントが相当であると主張し,本件委託契約に基づき訴外ロッテリア社に対するシステム開発に係る営業活動を行い,平成19年8月に被告と訴外ロッテリア社との間にシステム開発に係る受託契約が成立したとして,本件委託契約に基づき上記受託契約の受注額の20パーセントに当たる2299万5000円及びこれに対する上記①の合意における支払期と主張する同年10月1日から支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求め,③仮に,本件委託契約において上記①及び②のいずれの合意も認められないとしても,原告は商法512条に基づき相当の報酬を請求することができ,相当の報酬は受注額の20パーセントが相当であると主張して,同額の報酬等の支払を求めるものである。
これに対し,被告は,原告と被告との間に本件委託契約が成立したことは認めるものの,報酬等について①及び②の合意があったことは否認し,同契約においては,④被告と顧客との間の契約成立を停止条件とせず,被告が顧客から入金を受けるなどの区切りごとに,その時点までの原告の委託業務全体の仕事量等に応じて相当額の報酬等を支払う旨の合意があったと主張し,この相当額に当たる額は既に支払済みであるとして,争っている。
1 前提事実(末尾に証拠等を掲げた事実のほかは,当事者間に争いがない。)
(1) コンピューター・ソフトウェアおよびシステムの研究開発等を目的とする有限会社である被告の代表者B(以下「被告代表者」という。)は,平成18年11月中頃,知人を介して,インターネットシステムの企画,開発,運営及び販売等を目的とする株式会社である原告の代表者A(以下「原告代表者」という。)と知り合い,その後,原告代表者の申出を受け,原告代表者にシステム開発の顧客開拓を委託することとし,同年12月には,原告代表者に被告の営業担当者肩書の名刺を交付し,被告のドメイン名によるEメールアドレスを割り当て,原告代表者は被告の顧客開拓に向けた活動を始めた(甲4,62,153~160,乙37)。
(2) このように先行していた原告代表者による被告の顧客開拓について,平成19年2月1日付けで,被告は,原告との間で,「業務提携契約書」を作成して本件新規開拓契約を締結した。
同契約書には,第1条(業務提携の対象)として,被告が提供するシステム開発等の販売代行業務を原告に委託すること等が,第2条(業務の内容)として,原告が被告に対し,被告のシステム開発等の販売先となる顧客を開拓,紹介する業務であること等が,第4条(業務の委託にかかる費用)として,被告は原告に対し,月額5万円の活動費と交通費及び交際費の実費を支払うこと等が,第5条(対価)として,原告が被告に新規に顧客を開拓,紹介した結果として被告がその顧客とシステム開発等契約を締結した場合,当該契約の20パーセント以上を支払うこと等が,第6条(支払)として,被告と顧客とのシステム開発等契約を締結した場合,上記対価を翌月末に支払い,合意の上で分割支払を可能とすること等がそれぞれ定められた(甲3)。
(3) その後,平成19年2月5日頃,被告代表者が,原告代表者に対し,本件新規開拓契約とは別に,被告が既に開拓してシステム開発等についての営業活動を始めていた訴外ロッテリア社,訴外株式会社リテイルネットワークス(以下「訴外リテイル社」という。)及び訴外株式会社ヒト・コミュニケーションズ(以下「訴外ヒトコミ社」という。)に対して一定の営業活動を行わないかと持ち掛けたところ,原告代表者が,これに応じ,被告と原告との間で,口頭により,原告代表者が上記3社に営業活動を行うことを内容とする本件委託契約が締結されたが,この契約について書面は作成されなかった。
(4) それ以降,原告代表者は,本件委託契約に基づき,訴外ロッテリア社,訴外リテイル社及び訴外ヒトコミ社に対して,被告のシステム開発等に係る契約の成立に向けて,被告代表者の指示を仰ぎつつ,先方の担当者と電子メールでやりとりを行い,一定の資料の電子文書の作成に関与するなどして,営業活動を行い,被告は,原告に対して,原告代表者の本件委託契約に基づく営業活動について,平成19年3月に84万円,同年5月に42万円,同年7月に126万円及び42万円,同年10月に126万円を支払った。
(5) しかし,被告代表者は,平成19年10月9日,原告代表者に対し,電子メールで,同月末日をもって原告と被告との間の本件新規開拓契約及び本件委託契約をいずれも解除する旨の意思表示をした。
2 争点
(1) 本件委託契約の報酬等に係る合意の成否及び内容について(争点1)
本件委託契約においては,原告に対する報酬等について,原告の主張する,①被告と顧客との間にシステム開発等に係る契約が成立することを停止条件に,当該案件の受注額の20パーセントを支払う旨の合意(以下,「契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意」という。)があったのか,②被告と顧客との間に同じく契約が成立することを停止条件に,当該案件につき相当額の報酬等を支払う旨の合意(以下,「契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意」という。)があったのか,あるいは,被告の主張する,④被告と顧客との間の契約成立を停止条件とせず,被告が顧客から入金を受けるなどの区切りごとに,その時点までの原告の委託業務全体の仕事量等に応じて相当額の報酬等を支払う旨の合意(以下,「業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意」という。)があったのか,それとも,③いずれの合意もなかったのか。
(2) 訴外ロッテリア社との契約の成否について(争点2)
本件委託契約において,上記①又は②の契約成立を条件とする合意があった場合に,被告と訴外ロッテリア社との間のシステム開発に係る契約は成立したか。
(3) 相当の報酬額について(争点3)
本件委託契約において,上記②の契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意があった場合,上記④の業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意があった場合,又は上記③の報酬等に係る合意が認めらず,原告が商法512条に基づき相当の報酬を請求する場合に,それぞれその相当額はいくらか。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件委託契約の報酬に係る合意の成否及び内容について)
(原告の主張)
下記のように,本件委託契約においては,原告の営業活動に対する報酬等の支払について,①契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意があった,②仮に,①の合意が認められないとしても,契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意があったものである。なお,弁済期については,契約が成立した月の翌月末日限りとの合意がされていた。
ア 原告代表者は,平成19年2月5日頃,被告代表者から,被告が既に開拓してシステム開発等についての営業活動を始めていた訴外ロッテリア社外2社に対して,契約成立に向けた営業活動を行わないかと持ち掛けられたので,被告の窓口として交渉に当たる業務,プレゼンテーション資料等営業資料の作成業務,外部委託業者の手配と連絡調整業務,開発開始後の調整業務等の営業活動について受託することとし,このとき,原告代表者は,これらの営業活動についても,先に決まった本件新規開拓契約と同様に20パーセントのインセンティブ(成功報酬)でなければ行わない旨申入れ,被告代表者は「そうだね。」と述べて,これに応じた。
イ 被告は,訴外リテイル社との間でシステム開発等に係る契約が成立するごとに,平成19年3月,7月及び10月の3度にわたって,原告に対し,それぞれ受注額の20パーセントに当たる額に消費税を加えた額を支払い,訴外ロッテリア社との間でシステム開発に向けたフィージビリティスタディ(本件においては,システム開発の実現可能性を見極めるため業務分析,現行システム調査及び顧客要望調査等を行うことをいう。)の委託契約が成立したとき,平成19年5月及び7月の2回に分けて,原告に対し,受注額の20パーセントに当たる額に消費税を加えた額を支払ったが,訴外ヒトコミ社との間ではシステム開発等に係る契約が成立せず,同社に対する原告の活動については,報酬は支払われなかった。
なお,被告は,これらの支払の際に,原告代表者の営業活動について,その作業量を調査するなど,活動に見合う報酬の査定を行うことはなかった。
このような被告による報酬等の支払状況は,契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意があったことの証左であり,少なくとも,契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意があったことの証左である。
ウ 平成19年7月9日,被告代表者が,原告代表者に対し,訴外ロッテリア社とのシステム開発に係る契約が成立したときには,合意したインセンティブの額を約50パーセント減額し,月額80万円で12か月の分割払としたい旨提案し,これに対して,原告代表者が,月額100万円で10か月の分割払であれば応じる旨応答したことがあった。
被告代表者がこのような提案をしたことは,同年10月15日の被告代表者の電子メールにおいても否定されていない。
これらの事実は,この頃,被告代表者が,被告と原告との間に契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意があったと認識していた証左であり,少なくとも,契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意があったと認識していた証左である。
エ(ア) ところで,被告は,本件委託契約においては,原告は,新規の顧客を開拓して営業活動を行うのではなく,既に被告が開拓し営業活動を始めている顧客に対して営業活動を行うのであるから,本件新規開拓契約と同じ受注額の20パーセントという高額の報酬等を支払う合意をするはずがないと主張する。
(イ) しかし,本件新規開拓契約における原告の業務は,顧客を開拓し被告に紹介することであり,紹介してから当該顧客との間で契約成立に至るまでの営業活動を行うことは予定されておらず,これに対し,本件委託契約における原告の業務は,契約成立に向けた営業活動であって,両契約が想定している原告の業務の範囲は重ならず,重複のない異なる業務であるから,被告の主張は前提を欠くものである。
(ウ) また,本件委託契約においては,被告と顧客との間の契約が成立しない限り,被告は原告に対し報酬等を支払う必要がないのであるから,原告は,いかに契約成立に向けた活動を行っても,報酬等を一切受けられないリスクを抱えており,被告は,契約が成立せず利益がない場合には,報酬等支払を免れるから,契約が成立したときの報酬をある程度高額とすることも不合理ではない。
オ(ア) さらに,被告は,訴外ロッテリア社との間では,本件委託契約締結の時期には,既に,予算1億円程度のシステム開発等につき被告が受注することが内定してしていたものであり,原告代表者に委託した業務は,被告代表者の補助としての顧客窓口対応であって重要性の低いものであったから,高額の成功報酬を支払う合意をするはずがないと主張する。
(イ) しかし,当時,被告には訴外ロッテリア社に対する営業活動を行う人材がおらず,同社との間のシステム開発等に係る契約が成約に至る可能性は低かったのであり,原告代表者は,被告の窓口として交渉に当たる業務,プレゼンテーション資料等営業資料の作成業務,外部委託業者の手配と連絡調整業務,開発開始後の調整業務等の実質的で重要な営業活動の委託を受けたものであり,契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意も不合理ではない。被告が,従業員を雇用し営業活動に当たらせて,契約の成否にかかわらず,相当額の経費を負担し続けることに比しても,同報酬合意は不合理ではない。
(被告の主張)
本件委託契約において,①契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意があったことも,②契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意があったことも否認する。
かえって,下記のように,本件委託契約においては,原告の営業活動に対する報酬等の支払について,④業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意があったものである。
ア 被告代表者が,原告主張の日に,原告代表者に対し,原告主張の訴外ロッテリア社外2社に対して,契約成立に向けた被告代表者の指示に従う顧客対応窓口としての業務を行わないかと持ち掛けたところ,原告代表者が,そのような活動も受託する旨応答し,本件委託契約を締結することとなったが,このとき,この報酬については,業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意をしたのであり,被告代表者は,報酬の相当額について,原告代表者が本件新規開拓契約を締結する過程で月額50万円の固定報酬等を希望したことを念頭に,委託業務全体につき平均すれば同程度の月額報酬を支払うことになるよう,一区切りごとに報酬額を決めようと考えていた。
イ 本件委託契約においては,原告代表者は,新規に顧客を開拓して営業活動を行うのではなく,既に被告が開拓し営業活動を始めている顧客に対する顧客対応窓口として営業活動を行うのであり,本件新規開拓契約における新規開拓の顧客に対する営業活動がいわば「無から有を生み出す」業務であるのとは,性質も範囲も異なるから,同契約と同一の受注額の20パーセントという高額の報酬等を支払う合意をするはずがない。
ウ また,被告と訴外ロッテリア社との間のシステム開発等に係る契約については,本件委託契約締結の時期には,既に,同社の幹部から被告代表者に対し,被告を第一順位で採用すると表明されていて,訴外ロッテリア社がこのシステム開発等に約1億円の予算を計上していることも被告代表者及び原告代表者の知るところとなっていたのであり,被告が原告に委託した業務は,被告代表者の補助として顧客との窓口対応を行うことであって,実質的な交渉や実質的な資料の作成等を求めたものではなかったから,そのような重要性の低い業務に約2000万円という高額の報酬を支払うこととなるような合意をするはずは到底ない。
エ(ア) ところで,原告は,被告が原告に対し,訴外ロッテリア社との間のフィージビリティスタディの委託契約及び訴外リテイル社との間のシステム開発等に係る契約について,契約が成立するごとに受注額の20パーセントに消費税を加えた金額を支払ってきたことが,契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意があったことの証左であるなどと主張する。
(イ) 被告が,原告主張のとおり,原告に対する支払を行ったことは認めるが,これは,被告代表者が,業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意に基づいて,それぞれ受注額の入金等があった都度,原告代表者の行った委託業務全体の仕事量等を勘案し,平均すると50万円程度の月額報酬となるよう配慮し,また,原告代表者が借金あって苦しい旨申し向けていたことから,原告代表者の求めに応じて結局上記額の支払を決定してきたものであり,契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意を裏付けるものではない。
オ(ア) また,原告は,平成19年7月9日,被告代表者が,原告代表者に対して,訴外ロッテリア社とのシステム開発に係る契約の報酬について,合意したインセンティブの額を約50パーセント減額し,月額80万円で12か月の分割払としたい旨提案したなどとして,これが,被告代表者が契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意があったと認識していたことの証左であるなどと主張する。
(イ) しかし,同日の原告代表者と被告代表者とのやり取りは電車内の数分の立ち話であり,原告代表者から,訴外ロッテリア社からの今回の受注額の20パーセントの2000万円が支払われるのかと問われ,被告代表者が,新規に開拓した案件ではなく,そもそもそれほどの仕事をしていないから,そのような金額は支払えないと応じたところ,さらに,それなら1000万円ではどうか,分割でも良い旨申し入れられ,被告代表者が,1年間で月額80万円を12か月というのはどうかと提案したが,原告代表者が,月額100万円で10か月でどうかと応答し,結局,結論には至らなかったものである。したがって,これは,被告代表者が契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意があったと認識していたこと等を裏付けるものではない。
(2) 争点2(訴外ロッテリア社との契約の成否について)
(原告の主張)
被告は,平成19年8月14日,訴外ロッテリア社との間で,契約金額を1億2967万5000円(消費税込み。ハードウェア代金1470万円を含む。)とするシステム開発に係る契約を締結した。
(被告の主張)
訴外ロッテリア社との間でシステム開発に係る契約を締結したこと自体は認めるが,その契約金額及び成立日については否認する。
このシステム開発に関する訴外ロッテリア社内の予算上限枠が原告主張の金額に決まったのが平成19年10月29日であり,その上限枠から,被告以外に支払われる開発に必要な経費が減額されて,原告との契約額が決まるから,実際に訴外ロッテリア社から被告に対して支払われる額は決まっていない。
(3) 争点3(相当の報酬額について)
(原告の主張)
ア 本件委託契約において,②契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意があったとき,又は③報酬等に係る合意が認めらず,原告が商法512条に基づいて相当報酬を請求するときの相当の報酬額は,訴外ロッテリア社との間のシステム開発に係る契約の受注額の20パーセントに相当する額である。
イ 原告代表者は,訴外ロッテリア社のシステム開発に係る契約について,例えば,システム開発のプレゼンテーション資料を,被告代理人と打合せをしながら,訴外ロッテリア社の担当者と調整を行って,電子文書として完成させたり,システム開発の契約書の損害賠償条項について同社の担当者と交渉を行ったりなど,契約の成立に向けて主体的に時間と労力をかけて営業活動を行ってきたものであり,契約締結に重要な役割を担っていた。
そして,上記(1)(原告の主張)イのように,訴外ロッテリア社とのフィージビリティスタディに係る契約や訴外リテイル社とのシステム開発等に係る契約が成立したときには,被告から原告に対し,それぞれ受注額の20パーセントに消費税を加えた金額が支払われていたものであり,上記(1)(原告の主張)エ(ウ)のように,原告は,営業活動を行っても,契約が成立しなければ無報酬となるリスクを負っていたものであって,このような事情に照らせば,相当報酬は,受注額の20パーセントに相当する額というべきである。
(被告の主張)
ア 本件委託契約において,④業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意があったとき,又は③報酬等に係る合意が認めらず,原告が商法512条に基づいて相当報酬を請求するときの相当の報酬額は,原告代表者の本件委託契約に基づく9か月間の営業活動に照らすと,月額50万円前後が相当であり,既に被告が原告に支払った合計420万円をもって,相当報酬は既に支払済みである。
イ 原告代表者は,訴外ロッテリア社のシステム開発等に係る契約について,被告代表者の指示に従って,同社の担当者との対応窓口となっていたに過ぎず,実質的な交渉を行っていたわけではないし,提案書や資料の作成についても,被告代理人が口頭や板書によって指示した内容を電子文書に浄書していたものであり,被告事務所への出社義務もない勤務形態で,もっぱら電子メールでやり取りをしていたに過ぎず,契約締結に重要な役割を担っていたわけではなく,それほどの時間と労力が掛かっていたものでもない。
そして,訴外ロッテリア社側は,既に,被告にシステム開発等を委託することとしていたのであり,少なくともフィージビリティスタディを行うことが見込まれていたから,原告が無報酬に終わるリスクを負っていたわけではないのであり,被告は,訴外リテイル社との契約を含めて,それぞれ,それなりの受注額が得られた都度,元々原告代表者が月額50万円の固定報酬等を希望していたことを勘案して,原告代表者の仕事量等に応じて,報酬等を支払ったものである。
このような事情に照らせば,相当報酬は,訴外ロッテリア社,訴外リテイル社及び訴外ヒトコミ社とのシステム開発等に係る営業活動の全体を含めて,月額50万円前後というべきである。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実に加え,証拠(甲1~147,150,151,153~170,乙1~42,証人C,原告代表者及び被告代表者(但し,甲141,170,乙22,40,42,原告代表者及び被告代表者については下記認定に反する部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば,次のような事実を認めることができる(なお,以下では年月日については特段の記載のない限り平成19年を指す。)。
(1) 本件新規開拓契約及び本件委託契約の締結に至る経緯
ア 原告は,インターネットシステムの企画,開発,運営及び販売等を目的とする株式会社であるが,資本金の額は10万円で,原告代表者の住所を本店所在地としており,その営業は基本的に原告代表者個人の営業活動というべきものであった。なお,原告代表者はいわゆるシステムエンジニア等の技術者ではない(甲1)。
イ 被告は,コンピューター・ソフトウェアおよびシステムの研究開発等を目的とする有限会社であるが,資本金の額は300万円で平成17年4月に設立し,平成19年の初め頃は,被告代表者を含めて従業員は10名程度であった。
被告代表者は,平成4年に訴外株式会社ダイエーに入社し,在職中に業務コストの大幅な削減を可能にするシステム開発手法を確立することに成功し,同社の商品部長を3年以上務めるなどした後,同社を退社して,被告を設立し,ほどなく流通の大手である訴外株式会社良品計画の主幹システム開発等を手掛け,上記開発手法を用いてこれを成功させていた(甲2,乙5~7,22)。
ウ 被告代表者が,平成18年11月中頃,知人主催の酒席で,原告代表者と同席し,被告代表者の確立したシステム開発手法や被告の事業について,原告代表者に説明をしたところ,その後,原告代表者は,被告事務所を訪れ,被告代表者が確立した手法によるシステム開発を,原告代表者の知己のある先に売り込むべく,顧客開拓の営業活動を行いたい旨申し入れた。
被告にあっては,営業担当者として訴外D(以下「訴外D」という。)に業務を委託していたが,業務が拡大してきて,同人一人では手が回らなくなっていたことから,原告代表者の申入れを受け入れて,原告代表者に被告のシステム開発等に係る新規顧客の開拓を担当させることとし,同年12月には,原告代表者に被告の営業担当者肩書の名刺を交付し,被告のドメイン名によるEメールアドレスを割り当て,原告代表者は,訴外株式会社ジェイティービー,訴外ソネットエンタテインメント株式会社等数社にアポイントメントを取るなど被告の顧客開拓に向けた営業活動を開始した(甲4,62,153~160,乙37)。
エ 原告代表者による顧客開拓活動が先行していたが,原告と被告との間で,この顧客開拓について正式に業務委託契約を締結することとなり,原告代表者と被告代表者との間でやり取りがされ,平成19年2月1日付けで,「業務提携契約書」を作成して本件新規開拓契約を締結した。
この間,本件新規開拓契約の報酬等については,原告代表者から,月額50万円程度の固定の活動費と成約額の5パーセントの成功報酬とする案,月額25万円程度の活動費と12パーセントの成功報酬とする案,活動費なしで20パーセント以上の成功報酬とする案が提示され,被告代表者の方が,原告代表者の仕事ぶりをみて引き続き協議するが,当初は固定経費が少額で済むようにしたいとして,月額5万円の活動費と成約額の20パーセント以上の成功報酬という折衷案を提案し,原告代表者がこれを応諾した。
この業務提携契約書には,上記前提事実(2)の各条項がそれぞれ定められた(甲3,66)。
オ その後,2月5日頃,被告の事務所において,定例ミーティングの後,被告代表者が,原告代表者に対し,本件新規開拓契約とは別に,被告が既に開拓してシステム開発等販売の営業活動を始めていた訴外ロッテリア社,訴外リテイル社及び訴外ヒトコミ社に対しても,原告代表者が被告のシステム開発等の受注に向け一定の営業活動を行えないか,と提案したところ,原告代表者は,被告がこれら3社に対してシステム開発等の営業活動の途上にあることを,かねて聞き及んでおり,これら案件についても自ら被告の営業活動を行うことを承諾した。
カ このようにして,原告と被告との間に本件委託契約が締結されたが,同契約にあっては,上記の本件新規開拓契約とは異なり,契約書面は作成されず,本件委託契約によって,原告代表者が具体的にどのような営業活動を行うと合意されたか,原告に対しどれだけの報酬をいつ支払うと合意されたかが,書面等に明記されることはなかった。
なお,上記のように,原告代表者が委託を受けた業務の内容については,原告は,被告の窓口として交渉に当たる業務,営業資料の作成業務等の営業活動であり,主体的かつ重要なものとの合意があったと主張し,被告は,被告代表者の指示に従う顧客対応窓口業務であり,実質的交渉権限のないものとの合意があったと主張するし,原告の報酬については,原告は,主位的に契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意が,予備的に契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意があったと主張し,被告は,業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意があったと主張するが,いずれもそれら合意の存在を直接証明する証拠は各代表者本人の陳述書及び供述以外になく,それらは食い違っており,これらの争点については,後記認定の諸事情をも総合して,後に検討する。
キ このように,原告代表者は,新規顧客の開拓とともに,訴外ロッテリア社外2社に対する営業活動を行うことになったが,基本的に,週1回の定例ミーティングには出席するが,それ以外は被告事務所に出勤する必要はなく,原告代表者が自由に顧客方を訪れるなどして営業活動を行い,必要に応じて電子メールにより被告の代表者その他担当者との間,顧客の担当者との間の連絡,報告,打合せ等を行うこととし,電子掲示板の形で原告代表者のスケジュール表を被告代表者等に開示することとされた(甲65,乙11~19)。
ク ところで,当時,被告ともう一人の営業担当である訴外Dとの間の業務委託契約における,報酬等の定めは,訴外Dが新規に開拓した顧客と成約した場合には,成約額を基準に成功報酬を支払い,訴外Dが開拓したのではない顧客に対する営業活動にあっては,月額にして40万円前後となるよう調整をして,受注代金の払込みがあるなど区切りごとに支払うというものであった(乙25)。
もっとも,原告代表者については,被告代表者は,本件新規開拓契約及び本件委託契約の当時,原告代表者の従前の事業実績を知らず,顧客開拓は勿論,被告が開拓した顧客への営業活動にあっても,原告代表者がどの程度仕事ができるのか分からない状況であった。
(2) 訴外リテイル社のシステム開発等案件について
ア 被告代表者は,事業再生中の会社の経営支援を業とする訴外株式会社リヴァンプ(以下「訴外リヴァンプ社」という。)から,1月下旬,同社が事業再生を手がけている会社で,その基幹システムの開発等を検討している訴外リテイル社を紹介され,同社の担当者を被告事務所に招いて,被告代表者の確立したシステム開発手法について説明し,2月6日には,訴外リテイル社を訪れ,システムの機器や予算等にまで及ぶ打合せを行った(乙26,27)。
イ その後,原告代表者が訴外リテイル社に対する営業活動を行うようになり,原告代表者は,2月下旬から3月下旬にかけて,訴外Dから,同人が作成途中であった見積書のフォーマットの送付を受けて,これを元にシステムコンサルティング費用の見積書を作成し,被告代表者に電子メールで確認を求めたり,訴外リテイル社との間の機密保持契約書について,数日間,同社担当者と電子メールでやりとりをして,双方が義務を負う契約条項に取りまとめたり,同社から送付された基本契約書に小修正を加えて,被告代表者に電子メールで確認を求めたりといった活動を行った。
この間,原告代表者は,被告代表者に電子メールや面談で報告,連絡をし,その指示を仰いでおり,また,訴外リテイル社の担当者に送る電子メールも,被告社内の担当者に送る電子メールも,原則として同時に被告代表者に送る扱いとして,被告代表者が原告代表者の活動状況を把握できるようにしていた。この取扱いは,これに続く後記の営業活動においても変わらなかった(甲76,乙28~31)
ウ 被告と訴外リテイル社との間でコンサルティング契約が代金400万円で成立し,原告代表者は,3月29日,被告に対し,販売手数料の名目でその20パーセントに消費税を加えた84万円を請求する請求書を送付し,被告は,31日,請求どおり同額を支払った(乙4)。
エ 原告代表者は,その後も,訴外リテイル社に対する営業活動を続け,被告のコンサルティングの仕事ぶりについて,訴外リテイル社側から不満が出ているから被告側で対応をする必要があると注意喚起をしたり,同社の社内の仕組み概要図等を参考に,必ずしも十分に理解できていないながらも,次の受注案件であるマスタ登録システム及びレポートシステム開発の概要資料や見積りの案を作り,被告の担当者にチェックを依頼したりといった活動を行った(甲63,64,乙32,34)。
オ 被告と訴外リテイル社との間では,7月2日,マスタ登録システム等の開発契約が代金600万円で成立し,原告代表者は,6日,被告の訴外Dに対し,マスタ登録システム等受注のインセンティブの名目でその20パーセントに消費税を加えた126万円の請求書を送付し,被告は,31日,請求どおり同額を支払った(甲134,135,168)。
カ さらに,原告代表者は,その後も,訴外リテイル社に対する営業活動を続け,次の受注案件である商品管理システム開発について,被告の担当者と共に訴外リテイル社の担当者と打合せを行ったり,これを踏まえて作成された同システム開発の概要説明資料及び見積りについて摺り合わせの意見交換を行ったりといった活動を行った(乙35,36)。
キ 被告と訴外リテイル社との間では,10月5日,商品管理システム開発契約が代金600万円で成立し,原告代表者は,9日,被告代表者に対し,商品管理システム受注のインセンティブの名目でその20パーセントに消費税を加えた126万円の請求書を送付した。
被告は,後記のとおり,同日,本件委託契約を解除する通知をしたが,31日,請求どおり同額を支払った(甲169の1・2)。
ク この間,訴外リテイル社は,原告代表者の仕事ぶりについてクレーム等を述べたことはなく,同社の担当者と原告代表者とは一定の信頼関係で業務を行うことができていた(甲142,143)。
(3) 訴外ヒトコミ社のシステム開発等案件について
ア 訴外ヒトコミ社は,被告代表者がそのシステム開発について既に接触を持っていたものであるが,原告代表者は,2月22日に,被告代表者が同社を訪れるのに同行し,以後,同社に対する営業活動を始めたが,同社との間で打合せ等の電子メールを数通やり取りするなどしたのみで,上記以外に同社を訪問することはなく,3月30日には,同社の担当者から被告の開発提案に対する断りの電子メールがあり,4月初めに同社担当者と面会が予定されていたものの,結局,成約には至らなかった(乙11の1,13の1,20)。
イ 訴外ヒトコミ社との案件について,原告代表者は被告に対しその報酬等を請求せず,被告は原告に報酬等を支払わなかった。
(4) 訴外ロッテリア社のシステム開発等案件について
ア 原告代表者が関与するまでの経緯について
(ア) 訴外ロッテリア社は,訴外リヴァンプ社の支援を受けて事業再生中であったが,平成18年夏頃,平成20年秋頃までに受発注や経理等に関する基幹システムを更新する計画を立て,複数の業者に見積りを依頼するなど,システム開発の委託先の選定を検討し始めていた(乙1)。
(イ) 訴外リヴァンプ社からの出向者で,訴外ロッテリア社の執行役員であった訴外C(以下「訴外C」という。)は,平成18年11月頃,訴外リヴァンプ社の同僚から被告代表者を紹介されて,同年12月から平成19年2月初めにかけて,被告代表者と数回面談し,被告代表者が確立したシステム開発手法について説明を受け,訴外株式会社良品計画において被告のシステムが稼働していることについても説明を受けて同社を訪問するなどし,被告にシステム開発等を委託することを検討するようになった(乙1,証人C)。
(ウ) 訴外Cは,2月8日,被告代表者と面談した際,訴外ロッテリア社のシステム開発計画では,予算は1億円程度,納期は平成20年秋を希望しているなどと概要を説明し,被告においてそのような条件でシステム開発を行うことが可能かと相談を持ち掛け,これに対して,被告代表者が可能である旨回答したことから,訴外Cとしては,諸条件を勘案して,システム開発等の委託先として被告を第1順位と考えるに至った(乙1,証人C)。
(エ) そこで,訴外Cは,訴外ロッテリア社の情報システム担当者であった訴外E(以下「訴外E」という。)を,被告代表者に引き合わせるとともに,訴外Eに被告との契約締結に向けて実務的な協議を行うよう指示した(乙1)。
イ フィージビリティスタディの成約までの経緯について
(ア) 原告代表者は,本件委託契約を締結した後,2月上旬から,訴外ロッテリア社に対する営業活動に参加するようになったが,上記のように,被告代表者と訴外ロッテリア社の幹部との間で一定程度話ができていることを前提として,まずは,システム開発を受注するための調査等であるフィージビリティスタディの正式受託を目指す営業活動を行うことになった。
原告代表者は,この業務においても,訴外ロッテリア社への営業活動の状況を,被告代表者に対し電子メールや面談でその都度報告,連絡し,その指示を仰いでおり,また,原告代表者から訴外Eに送る電子メールも,被告社内の担当者に送る電子メールも,原則として同時に被告代表者に送る扱いとして,被告代表者が原告代表者の活動状況を把握できるようにしていた。
(イ) 原告代表者は,被告代表者から板書された原案を基に,訴外ロッテリア社向けシステム開発の提案書の電子文書案を作成し,被告代表者の指示でサーバーの仕様等必要な補充と修正を繰り返し,2月21日までに,一応の開発提案書案を取りまとめて,被告代表者に電子メールで送信し,その頃,被告代表者は,訴外Cに対し,訴外ロッテリア社向けの提案が社内でまとまったから,その説明に赴き伺いと申し入れ,26日に,原告代表者を伴って同社を訪問して説明を行った(甲5,6,138~140,161)。
この間,原告代表者は,2月23日,被告代表者が,被告本社において,訴外E及び既存の訴外ロッテリア社のシステムを担当する業者に対し,被告のシステムを説明し,実演するのに立ち会った。
(ウ) 次に,原告代表者は,フィージビリティスタディの提案のための資料について,3月1日に,被告代表者から,その概要及び見積りを箇条書きで示されて,これを電子文書に取りまとめ,被告代表者による確認と修正を経て,訴外Eに電子メールで送信し,以降,これを基に関係者間で打合せが行われるようになり,フィージビリティスタディの提案資料作成が本格化した(甲7,8,76,77,136,137,162)。
(エ) 原告代表者は,3月14日,被告代表者から,訴外Eとの間で確定したフィージビリティスタディの調査対象の資料を示され,その調査内容や調査上の問題点,納品する書類のリスト等の説明を受け,その概要を表した資料の作成を命じられて,電子文書に取りまとめたが,被告代表者が,より端的にフィージビリティスタディの必要性とその内容を表現したものに改訂し,この資料に基づき,20日,訴外ロッテリア社を訪れて,フィージビリティスタディについてプレゼンテーションを行い,原告代表者は,これに同行した。
訴外ロッテリア社は,被告にフィージビリティスタディを委託することを実質的に決定した(甲9,10,78,79,乙21)。
(オ) その後,フィージビリティスタディの対価をめぐって,訴外Eから原告代表者に対し,値下げの要望が寄せられ,原告代表者は,被告代表者に相談しながら,訴外Eとやり取りを行い,調査等の期間を2か月として400万円で合意することとなった(甲11)。
(カ) 原告代表者は,4月末頃,訴外Eに対し,フィージビリティスタディの調査作業が既に始まっているが,その正式な発注が未了であり,早期に事務処理されたいと要望を伝え,仮発注書のフォーマットを電子メールで送信するなどし,訴外ロッテリア社は,事務処理を行うとともに,5月30日,同受注額の半分の210万円の支払を,その後,残りの半分の支払をした(甲12~14,165)。
(キ) 原告代表者は,5月30日,被告代表者に対し,フィージビリティスタディ受注に係る同月分のインセンティブの名目で,その20パーセントに消費税を加えた42万円の請求書を電子メールで送付した。
これに対し,被告代表者が,「とりあえず請求書ベースですが」として,42万円を翌31日に支払うと返信したのに対し,原告代表者は,「請求書ベースでのインセンティブは,助かります。」との電子メールを,被告代表者の携帯電話宛に送信した。
被告は,同日,原告に対し,この42万円を支払った(甲15~17,166)。
(ク) 原告代表者は,7月5日,訴外Dに対し,フィージビリティスタディ受注に係る6月分のインセンティブの名目で,その20パーセントに消費税を加えた42万円の請求書を電子メールで送付し,被告は,同月31日,請求どおり同額を支払った(甲167の1・2)。
ウ システム開発の経営会議承認までの経緯について
(ア) 上記のような経緯で,被告は,訴外ロッテリア社のシステム開発に向けたフィージビリティスタディ,すなわち,システム開発の実現可能性を見極めるため業務分析,現行システム調査及び顧客要望調査等を開始したが,実際には,被告代表者と原告代表者の紹介で訴外株式会社トゥ・フィールドから派遣された訴外F(以下「訴外F」という。)とが,これら調査等に当たった。
原告代表者は,フィージビリティスタディの調査等は行っていないが,被告代表者や訴外Fの意を受けて,訴外Eとの間で,訴外ロッテリア社の現行システムに関する聞き取り調査が早期に行えるよう期日調整の依頼をするなどしていた(甲21)。
(イ) そして,被告では,フィージビリティスタディの結果を踏まえ,訴外ロッテリア社からシステム開発本体に係る契約を受注できるよう,訴外ロッテリア社に提出する開発概要書の作成や同社へのプレゼンテーションに向けた準備が,被告代表者,訴外F及び原告代表者を中心に始まった。
(ウ) まず,被告代表者が,6月中旬,開発概要書に盛り込む項目立てを抽出し,開発方針や業務方針,機器構成図やデータ配置図等の技術的な知識経験を要する項目については,被告代表者及びFがそれぞれあるいは共同で担当し,新システム移行の効果やスケジュール,見積り等の項目については,被告代表者及び原告代表者が共同で担当するよう割り振り,この項目及び割り振り案を原告代表者及び訴外Fに電子メールで送信した(甲80,81)。
(エ) これを受けて,原告代表者は,その担当部分について,自ら素案を作成して被告代表者及び訴外Fに電子メールで送信したり,被告代表者からの具体的指示に従って電子文書にまとめたりし,担当部分以外も,訴外Fに従前の開発提案書を参考のために送付したりし,訴外Fの案に間違いがないか確認したりしていたが,この間,開発概要書案は原告代表者,訴外F及び被告代表者間を何度も電子メールで行き来して修正が続けられた(甲22~25,80~89)。
(オ) 6月下旬になり,原告代表者は,担当部分である見積りの概算を被告代表者の指示を踏まえて作成したり,開発概要書案について訴外Fと共に訴外Eと打合せを行ったり,訴外Fが作成した開発概要書案に項目ごとの枝番号を付して分かりやすくしたりして,7月3日頃まで開発概要書の作成に当たっていたが,この間も,開発概要書案は原告代表者,訴外F,被告代表者及び訴外E間を何度も電子メールで行き来し,ロッテリア社側の意向も容れて修正が続けられたもので,実質的内容の修正整理は被告代表者が訴外Fに指示するなどして行っていたものであり,原告代表者は形式的修正等できる範囲でその完成に協力していた(甲90~118)。
(カ) 被告代表者は,7月4日,訴外Fに対し,来る7月10日に実施する訴外ロッテリア社の経営陣に対するシステム開発のプレゼンテーションに用いる資料を作成するよう,具体的に記載事項や体裁を指示して命じ,訴外Fは,直ちに電子文書で同資料の案を作成し,被告代表者,原告代表者及び訴外Eに電子メールで送信した(甲119,120)。
(キ) 原告代表者は,上記資料のレイアウトを調整したり,同資料中の経費削減効果についての記述部分をめぐって,訴外E及び被告代表者との間で,各経費の修正確認についてやり取りを行ったり,同じく確定情報の処理期間についての記述部分をめぐって,訴外E,訴外F及び被告代表者との間でやり取りを行ったりして,上記資料の作成に関与した(甲26,27,121~129,132,133)。
(ク) 原告代表者は,7月9日,被告代表者に同行して,訴外ロッテリア社を訪れ,翌日の経営陣に対するプレゼンテーションの打合せに参加し,同日,この打合せ内容を反映させて上記資料を修正し,被告代表者の確認を経て,訴外Eに対し,プレゼンテーション資料の完成版として電子メールで送信した(甲28,29,75)。
(ケ) 被告代表者は,7月10日,訴外ロッテリア社を訪れ,同社経営陣に対し,上記資料に沿って,システム開発の受注に向けたプレゼンテーションを行い,これを受けて,訴外ロッテリア社の経営会議は,被告にシステム開発を発注する方針を承認した(甲29,33)。原告代表者は,このプレゼンテーションには同席しなかった。
エ 原告代表者と被告代表者との7月9日のやり取りについて
(ア) 上記ウ(ク)のように,原告代表者と被告代表者とが,7月9日,訴外ロッテリア社の担当者との打合せに出席するため電車に乗っていたとき,その車両内において,両者の間で,訴外ロッテリア社とのシステム開発契約が成立した場合の原告の報酬のことが話題となり,原告代表者から月額100万円で10か月間の支払ではどうかという発言があり,被告代表者から月額80万円で12か月間の支払ではどうかという発言があったが,どのような話の流れでそのような発言をしたかは判然とせず,結局,このとき,この報酬について何らかの結論が出るということはなかった。
(イ) なお,この7月9日のやり取りについて,原告は,被告代表者が合意したインセンティブを減額するよう提案してきた旨主張し,原告代表者はこれに沿う陳述をし,被告は,原告代表者が受注額の20パーセントの報酬を求めてきたのに対し,被告代表者が新規開拓案件ではないから,そのような額は支払えないと拒んだ旨主張し,被告代表者はこれに沿う陳述をするところ,この点についての直接証拠は双方の陳述以外になく,後の電子メールのやり取りについては,後記(6)キのように考えられるから,これら電子メールからいずれかの陳述が信用できるということはできず,上記認定事実の範囲で認定することができるにとどまるものである。
オ 基本契約書の確定に向けた経緯について
(ア) 上記のように,フィージビリティスタディ及びシステム開発の各受注に向けて,やり取りが続いている間に,原告代表者は,訴外Eとの間で,被告と訴外ロッテリア社との間の基本契約書及びライセンス契約書の締結に向けても,やり取りを行っていたもので,まず,4月12日,訴外Eの求めに応じ,同人に対し,被告が他の顧客との間で締結していた契約書を修正して作成した基本契約書及びライセンス契約書の案を電子メールで送付した(甲11)。
(イ) 原告代表者は,その後,基本契約の文言をめぐって,訴外Eとの間で,やり取りを行い,5月23日には,訴外Eからの要望への返答を同人に電子メールで送信するなどして,調整を続けたが 特に損害賠償に関する規定をめぐっては,被告側が契約金額を上限とする制限を設ける案を,訴外ロッテリア社の法務部が制限を設けない案をそれぞれ主張して調整が難航し,原告代表者は,6月4日には,被告代表者に対し,この点に関する交渉状況を報告するとともに,落としどころとして,賠償金額を被告と訴外ロッテリア社との協議の上で決定する案を考えておくことを提案し,被告代表者に指示を仰いだ(甲18,19,72の1~3,73の1・2)。
(ウ) 原告代表者は,6月6日,訴外Eから直接交渉するよう紹介された訴外ロッテリア社法務部の担当者に対し,基本契約書の損害賠償条項に関する被告の考え方を説明する機会を持ちたいと申し入れ,その後,法務部長と打合せを行ったが,やはり損害賠償の規定については調整が付かず,その後も進捗がなく,7月23日には,訴外Eに対し,法務部と調整が付いていないが,被告としては賠償金額に上限を設けた契約を締結したいと伝えるなどしていた(甲20,35)。
(エ) 原告代表者は,その後も,訴外ロッテリア社の法務部と損害賠償の規定を調整することができず,9月21日にも,訴外Eに対し,基本契約書の損害賠償条項について被告側の案で締結してくれるよう依頼していた(甲74)。
カ システム開発の対価の支払計画策定に向けた経緯について
(ア) 上記のように,訴外ロッテリア社の経営会議が,7月10日,被告にシステム開発を発注する方針を承認したことを受けて,訴外Fは,翌11日,早速システム開発の予定案を作成し,原告代表者は,システム開発の対価の見積りの作成に着手し,20日には,被告代表者に対し,その時点で見積りに含まれていないソフトウェア調達費用や認証費用等についての指示を仰いだ(甲30,31,34)。
(イ) 訴外Eが,7月31日,被告代表者及び原告代表者に対し,システム開発の詳細な予定表の作成を依頼するとともに,開発の対価の見積りについて,訴外ロッテリア社側の予算を変更することは困難であり,被告以外の業者から別に調達するソフトウェア等の経費を含めて,予算の範囲内で対処できるよう,また,他に費用が増額する要因が出てこないよう要望したところ,原告代表者は,訴外Eに対し,Fに調整役を担わせる旨応答したが,本来,見積りについては原告代表者が窓口担当であった(甲36,37)。
(ウ) 原告代表者は,被告代表者の指示の下,上記訴外Eの要望を踏まえて,訴外ロッテリア社案件の開発費用を,別の業者から調達するソフトウェア等の経費込みで1億2967万5000円(消費税込み)とする見積りを作成し,被告代表者の了解を得た上で,8月14日,訴外Eに電子メールで送信し,同額で開発の対価については合意に至ったが,被告代表者から原告代表者に対し,この交渉につき,最後は少し訴外ロッテリア社側に押されたので,今後は気を付けようという趣旨の指摘がされていた。
そして,被告は,基本契約書の締結を待たず,8月20日頃には,システム開発作業に着手したが,この後平成21年年初を目指して行われる開発作業中,原告代表者は営業担当として,訴外ロッテリア社と被告との間の連絡調整等に当たることが予定されていた(甲21,29,38~42)。
(エ) 原告代表者は,8月22日,訴外Eに対し,訴外ロッテリア社が上記原告に対する開発費用を平成19年9月から平成20年12月までに分割して支払う支払計画案を,被告代表者の了承を得た上で,電子メールで送付したが,8月27日,訴外Eから,この支払計画案ではシステムの検収前に支払う額が多すぎるので,訴外ロッテリア社として承諾できないとして,検収前の支払を総額の半分以下とし検収後に残額を支払う代替計画案が送付されてきた(甲45~49)。
(オ) 原告代表者は,8月27日,訴外Eに対し,上記代替計画案では開発作業に支障が出かねないとして,再考を求めたが,訴外Eから,訴外ロッテリア社の経理部門の意向であり,再考は難しい旨の応答があり,交渉が行き詰まったことから,30日,原告代表者は,打開策として,被告が既に開始していたシステム開発作業を中断するか,システム開発の委託契約を訴外ロッテリア社の独自開発を支援する契約に改めるかするという訴外ロッテリア社側が容認し難い策を提案して,被告代表者に検討を求める一方,31日には,被告代表者に同時送信することなく,訴外Eに対し,再度原告代表者の支払計画案を承諾するよう求め,さもなければ,訴外ロッテリア社とのシステム開発の委託契約を,被告が訴外ロッテリア社の独自開発を支援する契約に変更することを被告社内で検討する旨伝えた(甲50~53)。
(カ) 結局,原告代表者と訴外Eとの間では交渉が進展せず,被告代表者が,訴外Eと調整を行い,システム開発は従前どおりの委託契約とすることを確認した上で,支払計画については,検収前に支払う分割金の額の割合を引き上げる方向で再検討することが合意され,被告代表者から,原告代表者に対し,この合意に沿って事務処理を行うよう指示がされて,原告代表者は,9月18日,訴外Eに対して,具体的事務処理のための打合せを行いたいと電子メールで伝えた(甲56)。
(キ) 訴外ロッテリア社では,上記の合意に沿って,支払計画の調整が行われ,9月23日には,訴外Eから原告代表者及び被告代表者に対し,その進捗状況が伝えられたが,被告代表者は,27日,訴外Eに対し,被告の決算の都合で,支払計画の分割金の支払開始を11月にするよう検討を依頼し,原告代表者は,この被告代表者の依頼を反映した支払計画案を作成して訴外Eに電子メールで送信した(甲57~59)。
(ク) 10月初旬,訴外ロッテリア社では,上記の支払計画の調整が続けられるとともに,検収を経ていない段階での支払をどのような事務手続で行うかについても検討が続けられていたが,この頃までには,訴外ロッテリア社側は,原告代表者の営業活動に不満を覚えており,被告代表者に対してクレームを寄せていた(甲60,乙41)。
(5) 訴外ニュートン社のシステム開発等案件その他の原告の業務について
ア 訴外ニュートン社のシステム開発等案件について
(ア) 原告代表者は,2月初めまでには,知己の訴外株式会社ニュートン(以下「訴外ニュートン社」という。)に対して,被告のシステム開発について営業活動を開始し,訴外ニュートン社から業務系のシステムについて引き合いがあったので,2月13日には同社に赴いて,被告のシステム開発の説明を行い,その後も,訴外ニュートン社を訪問したり,同社社長向けのプレゼン資料を送付したりして,同社の担当者と連絡協議を続け,その質問に応答するなどし,6月5日には同社において幹部への説明の機会を得るなど,成約に向けて活動していた(乙8,38,39)。
(イ) その後,後記のとおり,10月9日に被告が本件新規開拓契約を解除する通知をしたが,原告代表者は,訴外ニュートン社に対する営業を,訴外Dに引き継ぐため,25日には同人を同社の担当者に引き合わせ,訴外Dは,11月には同社との間でシステム開発委託契約を締結するに至った(甲151,乙9,23~25)。
(ウ) 被告は,12月31日,原告代表者のインセンティブ請求に基づき,原告に対して,訴外ニュートン社との契約の受注額である合計830万円の20パーセントに消費税を加えた174万3000円を支払った(甲151,乙9,25)。
なお,原告代表者が,本件新規開拓契約に基づき営業活動を行って,成約に至ったのは,この訴外ニュートン社との契約のみである。
イ その他の業務について
原告代表者は,上記の外に,被告代表者の指示で,2月下旬頃,既に進行していた訴外インテル社と合弁事業会社を設立するという案件につき,提案書の電子文書案を作成するなどし,4月末から6月にかけて,やはり既に進行していた訴外東信電気株式会社及び株式会社良品計画と合弁事業会社を設立するという案件につき,設立案の電子文書案を数次にわたって作成するなどし,5月半ばには,被告の求人資料を作成するなどした。
これらの合弁事業の案件は成就することなく,原告は,被告に対し,これら業務について,報酬を請求せず,被告は,これら案件分として報酬等を支払うことはなかった(甲67~71)。
(6) 本件委託契約の解除前後の状況について
ア 原告代表者は,電子掲示板による原告代表者のスケジュール表を7月分以降は開示しないようになり,被告の定例ミーティングに8月20日以降は出席しないようになっていた上,訴外リテイル社との関係では,基本的に良好な関係で営業活動を続けており,訴外ニュートン社との関係でも,委託契約の締結に向けて,同社担当者との連絡を継続していたものの,訴外ロッテリア社との関係では,10月初めには,基本契約書の条項をめぐる交渉を進展させることができず,支払計画については原告代表者に代わって被告代表者が交渉を行って進捗を図るという状況で,訴外Eに対する連絡の頻度も減ってきて,訴外ロッテリア社から被告代表者に,原告代表者の営業活動に対するクレームが提出されるに至っていた(甲142,143,乙17~19,39,41)。
イ そのような状況で,被告代表者は,10月9日,原告代表者に対し,11月から被告の営業体制の見直しを行うのに合わせて,原告と被告との間の本件新規開拓契約及び本件委託契約を解除する旨電子メールで通知した。
同電子メールにおいて,被告代表者は,訴外リテイル社との案件については,営業サポートフィーとして10月末に120万円(消費税抜き)を支払うことを,訴外ニュートン社との案件については,10月中に同社の担当者との引き合わせを要請するとともに,同案件が後に成約した場合は受注額の20パーセントの営業インセンティブを支払うことをそれぞれ約束し,訴外ロッテリア社との案件その他の案件については活動を休止するよう要請するなどした(甲61)。
ウ 原告代表者は,10月12日,被告代表者に電子メールで返信し,被告代表者の解除通知に驚いたと述べ,本件新規開拓契約は翌年1月まで有効であると主張し,契約関係の存続について翌週に話合いの場を持つよう求めた,
同電子メールにおいて,原告代表者は,訴外ロッテリア社との案件については,7月10日の同社経営陣の承認,8月14日の最終見積りの確定,同月20日からの実質的開発開始を経て,ほどなく代金が支払われる運びであると述べて,「ロッテリアのインセンティブに関しても,抜けていますので話し合いによる調整が必要と思います。」と記していた(甲145)。
エ これに対し,被告代表者は,10月14日,原告代表者に対し,電子メールで応答し,同月22日に話合いをすることを提案し,「先回お話いたしましたように,USP研(被告)が新規開拓した案件については,契約にもあるとおり,Aさん(原告代表者)の営業獲得フィーではありませんので,USP研(被告)の業務サポートとして随時お話あいで決めさせていただくとのことで,ご了解いただいております。」と被告の見解を述べていた(甲146)。
オ そして,原告代表者は,10月15日,被告代表者に対し,電子メールで応答し,7月9日のやり取りに触れ,被告代表者から契約に基づく報酬額を約50%減額して月額80万円で12か月の分割支払の提案がされ,原告代表者が,長期的な関係を重視して基本的に合意し,月額100万円で10か月にしてほしいと申し入れたと述べ,その後,8月末~9月初旬にかけて,被告代表者から,新規開拓ではないから,成功報酬は支払えない旨聞かされたが,合意には至っていない旨述べ,今後の対応として同様の案件については,先に対価を決めてもらわないと活動できない旨申し入れたと述べるなど,報酬を支払わない被告代表者を非難していた(甲146)。
カ これに対し,被告代表者は,10月15日,原告代表者に対し,電子メールで応答し,原告と被告との間は信頼関係が崩れたので契約関係を続けていけないと述べ,7月9日のやり取りについては,「Aさん(原告代表者)との口頭のお話は,Aさんのことを考えた精一杯の弊社側の気持ちでありましたが,今はその気持ちはございません。また,そのような内容での契約は一切ございません。」と記した上,2月当時には本件新規開拓契約に基づく新規開拓案件がなかったから,被告が既に開拓していた案件を手伝うよう依頼したのであって,事務手伝いをしただけで,本件新規開拓契約と同様の報酬を支払うという合意をすることなどないと述べるなど,原告代表者の要求を拒否する意向を明らかにしていた(甲147)。
キ なお,原告は,上記10月15日の被告代表者の電子メールにおける7月9日のやり取りに関する記述部分をもって,被告代表者が合意した報酬を50パーセント減額して80万円を12か月支払うと提案したという原告の主張の裏付けるものであると主張するが,同記述部分は,7月9日に被告代表者が訴外ロッテリア社のシステム開発に係る報酬として80万円を12か月という提案をしたこと以上に,原告主張の事実も推認させるものではないというべきである。
ク さらに,原告代表者は,10月15日,被告代表者に対し,電子メールで応答し,原告代表者が行ってきた業務は事務の手伝いではなく,顧客に提案を行い交渉して契約締結に向かわせる業務であり,実際に契約が不成立となった場合には報酬を請求しておらず,成功したときのみに報酬を請求してきたと述べ,本件新規開拓契約締結の過程で,被告代表者が成功報酬重視の報酬案を選んだので,原告代表者としては,それ以来,契約の成立に向けて全精力で取り組んできたと述べて,解除通知を受けたことに納得できないと結んでいた(甲147)。
2 争点1(本件委託契約の報酬に係る合意の成否及び内容について)
本件委託契約において,原告に対する報酬等につき,①契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意があったのか,②契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意があったのか,あるいは,④業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意があったのか,それとも,③いずれの合意もなかったのかについて,検討する。
(1) 本件委託契約において委託された原告代表者の営業活動について
まず,前提として,本件委託契約において,原告代表者が行うこととされた営業活動がどのようなものであったかについて検討する。この点,原告は,被告の窓口として交渉に当たる業務,プレゼンテーション資料等営業資料の作成業務,外部委託業者の手配と連絡調整業務及び開発開始後の調整業務等の営業活動であって,実質的で重要なものであったと主張し,被告は,被告代表者の補助として顧客との窓口対応を行う業務であって,実質的な交渉や実質的な資料の作成等ではなかったと主張する。
ア 上記認定のように,原告代表者が,本件委託契約に基づいて現実に行った活動は,訴外リテイル社,訴外ヒトコミ社及び訴外ロッテリア社のそれぞれ担当者との間で,被告側の窓口となり,被告代表者の指示に従って,システム開発等に係る契約の受注に向けて,各段階において必要な連絡調整を行うこと,訴外リテイル社及び訴外ロッテリア社にあっては,被告代表者が口頭であるいは板書して指示をした内容を電子文書の各種資料に取りまとめ,被告代表者のチェックを受けて相手方に送付すること等が主なものであり(1(2)~(4)),例えば,各案件の見積りの策定は,主に原告代表者が担当していたが,それとてもシステムの技術的な部分が十分理解できないから,基本的に被告代表者や被告の担当者から情報を得て,これを取りまとめるというものであり(1(2)エカ,1(4)イ(ウ)(オ),1(4)ウ(ウ)(エ),1(4)カ(ア)~(ウ)),このように,原告代表者は,原則として,実質的な中身についての資料作成や交渉を自由な裁量で行うことはなかったということができる。
他方,例えば,訴外リテイル社の担当者との間で,秘密保持契約書の条項を修正するやり取りをしたり(1(2)イ),同社が被告の現場の仕事ぶりに不満を持っているとの情報を得れば,主体的に被告側に注意喚起したり(1(2)エ),訴外ロッテリア社がフィージビリティスタディの作業が進んでいるのに,正式な発注を行わないのを,早期に事務処理するよう促したり(1(4)イ(カ)),同社との基本契約書の確定に向けたやり取りで,損害賠償条項について,落としどころを踏まえて,相手方との交渉に臨んだり(1(4)オ(イ))などしていたもので,これらの原告代表者の行為は,一定の実質的な意味を持ち,一定の裁量を前提としたものということができる。
そして,いわゆる営業活動を実際に行う場合,その広狭の幅はあるにしろ,あらかじめ一定の裁量権限が与えられていなくては,通常,相手方との連絡調整ないし交渉を行うことは難しいと考えられ,原告代表者は,対応相手への電子メールを被告代表者に同時送付するなどして,その活動状況を知らせ,被告代表者が止めなければ,その範囲で営業活動を続けることが許されていると考えて,活動を続けていたものと見ることができる。
そうすると,原告代表者が行っていた営業活動は,原告のいうようにすべて実質的で重要なものとはいえないが,被告のいうように単なる窓口というものではなく,基本的に被告代表者の指示に従う窓口としての連絡調整等であるが,その都度与えられた裁量権限の範囲で一定の実質的交渉等も行うものであったというべきである。
イ そして,上記認定のように,原告代表者の営業活動は,本件委託契約の当初から,上記のようなものであり,原告代表者と被告代表者との間で,活動の範囲等について紛争が生じたとは窺われないから,本件委託契約の段階で,被告と原告とは,上記のような営業活動を委託することで,少なくとも黙示には合意していたということができる。
ウ ところで,原告は,本件委託契約において委託されたのは,契約成立に向けた営業活動であるが,本件新規開拓契約において委託されのは,顧客を開拓し被告に紹介することであり,紹介してから当該顧客との間で契約成立に向けて営業活動を行うことは予定されていないと主張するので,ここで,この点について検討することとする。
上記認定のように,本件新規開拓契約の業務提携契約書には,第1条(業務提携の対象)として,被告が提供するシステム開発等の販売代行業務を原告に委託することとされ(前提事実(2)),単に紹介ではなく販売代行業務が業務提携の対象とされていること,また,新規開拓案件である訴外ニュートン社との案件において,原告代表者は,2月初めに営業を開始し,同社から引き合いがあった後,同社に赴いたり,資料を送付したり,質問に答えたりして,担当者と連絡協議を続け,10月9日まで,断続的に営業活動を続けており(1(5)ア),実際に契約成立に向けた営業活動が行われていたこと等に照らせば,本件新規開拓契約においても,新規顧客に対して営業活動を行うことが予定されていたというべきであり,この点の原告の主張は採用することができない。
(2) 業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意があったかについて
被告は,本件委託契約において,原告の報酬につき,④業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意,すなわち被告と顧客との間の契約成立を停止条件とせず,被告が顧客から入金を受けるなどの区切りごとに,その時点までの原告の委託業務全体の仕事量等に応じて相当額の報酬等を支払う旨の合意があったと主張するので,この点について検討する。
ア まず,被告代表者の陳述書及び供述中には,上記被告の主張に沿う部分もあり,上記認定の電子メール(1(6)オカ)によれば,訴外ロッテリア社のシステム開発に係る報酬が原告代表者と被告代表者との間で問題となった後に,被告代表者がこのような合意があったと述べていたことが窺われる。
イ しかしながら,他方,被告代表者尋問において,被告代表者は,本件委託契約の際,原告代表者に対し,それなりの相当報酬を支払う,お礼をすることは話をしたが,入金を受けたとき等に,それまでの仕事量等に応じて相当額を支払うとも,月額50万円程度を考えているとも,話しておらず,被告代表者がそのように考えていたのみである旨供述しており,この供述は自己の主張に反する事実を法廷で述べたものであり,信用することができ,この供述に照らせば,そもそも被告代表者が原告代表者に話していないことが合意される余地はなく,業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意があったとは認めることができない。
ウ ところで,業務全体の仕事量等に応じた相当報酬の合意は,被告が別に営業を委託していた訴外Dとの間の報酬の合意と同旨であるが(1(1)ク),本件委託契約の際に,原告代表者が被告と訴外Dとの報酬合意を知っていて,原告代表者と被告代表者との間で,原告と被告との間もこれに合わせようといった明示ないし黙示の合意がされたと窺わせる証拠はない。なお,被告は,同契約の時点で,原告代表者の従前の実績を知らず,どの程度仕事ができるか知らないのであるから(1(1)ク),旧知の訴外Dとは異なる報酬合意とすることとしても不自然とはいえない。
(3) 契約の成立を条件とする報酬の合意があったかについて
原告は,本件委託契約において,原告の報酬等につき,①契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意にしろ,②契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意にしろ,被告と顧客との間にシステム開発等に係る契約が成立することを停止条件に,案件ごとに報酬を支払う旨の合意があったと主張するので,まず,そのような合意があったのかについて検討する。
ア この点について,原告代表者の陳述書及び供述は,そのような合意があったと述べ,被告代表者の陳述書及び供述は,これを否定するものであるところ,上記認定の原告代表者と被告代表者との間の7月9日のやり取り(1(4)エ)によれば,翌日のプレゼンテーションにより訴外ロッテリア社の経営陣が被告へシステム開発を発注すると決定するというタイミングで,原告代表者と被告代表者との間で原告に対する報酬の額をどうするかが話題となっており,これは,契約成立を停止条件として当該案件の報酬等が支払われるものと両者が認識していたからこそ,このタイミングで報酬が話題になったと見るのが自然である。
イ また,上記認定のように,被告は,訴外リテイル社とのコンサルティング契約(1(2)ウ),同社とのマスタ登録システム等開発契約(1(2)オ),同社との商品管理システム開発契約(1(2)キ)及び訴外ロッテリア社とのフィージビリティスタディ契約(1(4)イ(キ)(ク))において,いずれも契約が成立した都度,原告は被告に対して各案件ごとの報酬請求を行い,被告がこれに応じて報酬を支払っていたものであり,契約の成立に至らなかった訴外ヒトコミ社の案件については,原告は被告に報酬を請求せず,被告も報酬を支払っておらず(1(3)),これは,その他の合弁事業案件においても同様であること(1(5)イ)に照らしても,契約成立を停止条件として当該案件の報酬等が支払われるものと,原告と被告との間で認識を共通にしていたというべきである。
ウ そして,上記認定のように,本件委託契約の時点で,被告代表者は,原告代表者の従前の実績を知らず,どの程度仕事ができるか知らなかったから(1(1)ク),原告代表者が担当する案件について契約成立に向けて営業活動に注力するよう,契約成立を停止条件として報酬を取り決めることは十分考えられることであり,訴外ロッテリア社との案件のように,既に,同社の幹部と話ができていて,契約成立の可能性が高い場合であっても(1(4)ア(ウ)),原告代表者に注力させるために,そのような取決めをすることは考えられるし,また,被告は,固定経費を少額にしたいと考えていたから(1(1)エ),この点でも,そのような取決めは合理性があるといえる。
エ そうすると,本件委託契約において,原告の報酬等につき,被告と顧客との間にシステム開発等に係る契約が成立することを停止条件として,案件ごとに報酬を支払う旨の合意があったということができる。
(4) 報酬等を受注額の20パーセントとする合意があったかについて
原告は,本件委託契約において,原告の報酬等につき,①契約成立を条件とする20パーセント報酬の合意,すなわち契約成立を停止条件に,当該案件の受注額の20パーセントを支払うとの合意があったと主張するので,この点について検討する。
ア 原告代表者の陳述書及び供述には,上記原告の主張に沿う部分があり,また,上記認定のように,訴外リテイル社とのコンサルティング契約(1(2)ウ),マスタ登録システム等開発契約(1(2)オ)及び商品管理システム開発契約(1(2)キ)並びに訴外ロッテリア社とのフィージビリティスタディ契約(1(4)イ(キ)(ク))においては,いずれも,原告は被告に対し受注額の20パーセントを報酬として請求し,被告がこれに応じて同額を支払っており,これらに照らせば,当該案件の20パーセントを報酬とする合意があったやにも見ることができる。
イ しかし,上記(1)ウのように,本件委託契約において,原告代表者が委託を受けた訴外ロッテリア社外2社に対する営業活動というのは,被告のいうように単なる窓口というものではないが,原告のいうように実質的で重要なものではなく,上記認定の原告代表者の活動のように基本的に被告代表者の指示に従う窓口としての連絡調整等であり,その都度与えられた裁量権限の範囲で一定の実質的交渉等も行うものであったのであり,当該案件の受注額が相当に高額である場合に,必ず当該案件の受注額の20パーセントという高額の報酬が妥当するほど,重い業務ではなく,高い資質能力が求められるものではないと考えられる。
ウ また,上記のように,本件新規開拓契約においては,原告が新規に開拓した顧客に対して営業活動を行って契約が成立した場合に,受注額の20パーセントを報酬とする旨定めており,その報酬の定めとの均衡から考えても,原告が開拓したわけではない訴外ロッテリア社外2社に対する営業活動に必ず受注額の20パーセントを支払うというのが合理的とは考えられない。
エ そして,上記認定の原告代表者と被告代表者との間の7月9日のやり取り(1(4)エ)によれば,訴外ロッテリア社がシステム開発の発注を決定した場合に,原告に対する報酬の額をどうするかという話題において,原告代表者が月額100万円で10か月間の支払ではどうかと発言し,被告代表者が月額80万円で12か月間の支払ではどうかと発言したのであるから,いずれにしろ,原告代表者及び被告代表者が承知していた訴外ロッテリア社のシステム開発の予想受注額である約1億円の20パーセントとは全く異なる価額を述べ合っていたものであり,このことに照らしても,原告と被告との間に,報酬を案件の受注額の20パーセントとする合意があったとは考えられない。
オ 上記のように,訴外リテイル社とのコンサルティング契約,マスタ登録システム等開発契約及び商品管理システム開発契約並びに訴外ロッテリア社とのフィージビリティスタディ契約において,それぞれ受注額の20パーセントが報酬として支払われているが,訴外リテイル社とのコンサルティング契約では,原告代表者は約1か月半にわたって上記認定のような営業活動を行い84万円の(1(2)イウ),マスタ登録システム等開発契約では,約3か月にわたって上記認定のような営業活動を行い126万円の(1(2)エオ),商品管理システム開発契約では,約3か月にわたって上記認定のような営業活動を行い126万円の(1(2)カキ),そして,訴外ロッテリア社とのフィージビリティスタディ契約では,約3か月にわたって上記認定のような営業活動を行い合計84万円の(1(4)イ(ア)~(ク))それぞれ支払を受けたものであり,それぞれ支払われた額は,各案件において原告代表者が行った営業活動に相応した額ということができ,必ずしも受注額の20パーセントとする合意がなくとも,それらの額が支払うこととして,不自然ではないものと考えられる。
カ さらに,上記認定のように,被告代表者が,原告からの受注額の20パーセントに当たる報酬請求に対して,請求書ベースで支払う旨応答した際,原告代表者が殊更に礼を述べていたことも(1(4)イ(キ)),報酬を受注額の20パーセントとする合意がなかったことを窺わせるし,また,被告による本件委託契約の解除後の電子メールにおいて,原告代表者が,訴外ロッテリア社の報酬について,話し合いによる調整が必要と思う旨述べていることも(1(6)ウ),同様に,報酬を受注額の20パーセントとする合意がなかったことを窺わせるものである。
(5) 以上のとおりであるから,本件委託契約において,原告の報酬等につき,契約成立を停止条件とする報酬の合意はあったが,その額を受注額の20パーセントとする合意があったとはいえないところ,被告代表者尋問において,被告代表者は,本件委託契約の際,原告代表者に対し,それなりの相当報酬を支払う,お礼をすることを話したと供述していること,上記認定のように,被告による本件委託契約の解除後の電子メールにおいて,被告代表者が原告代表者に対し,被告が開拓した案件については,業務サポートとして報酬額を話し合いで決めたい旨述べていること(1(6)エ),そして,原告が予備的に相当額の報酬の合意があったと主張していること等を併せ考えれば,②契約成立を条件とする案件ごとの相当報酬の合意,すなわち被告と顧客との間にシステム開発等に係る契約が成立することを停止条件として,当該案件につき相当額の報酬等を支払う旨の合意があったというべきである。
2 争点2(訴外ロッテリア社との契約の成否)について
そこで進んで,本件報酬請求の停止条件としての被告と訴外ロッテリア社との間のシステム開発に係る契約が成立したかについて検討するに,上記認定のように,訴外ロッテリア社とのシステム開発案件は,7月10日に同社の経営陣によって被告への発注が決定され(1(4)ウ(ケ)),8月14日にその対価を,別の業者から調達するソフトウェア等の経費込みで1億2967万5000円(消費税込み)とすることで合意し,8月20日頃には開発作業が開始されていたものであるから(1(4)カ(ウ)),10月9日に被告が原告に対して本件委託契約を解除した段階では,基本契約の締結及び支払計画の策定は未了であったものの,原告に対する案件の報酬を支払うための停止条件としてみれば,既に契約が成立していたということができると考えられる。
3 争点3(相当報酬の額)について
上記のように,本件委託契約において,原告の報酬等につき,被告と顧客との間にシステム開発等に係る契約が成立することを停止条件として,当該案件につき相当額の報酬等を支払う旨の合意があったと解されるから,訴外ロッテリア社のシステム開発案件について,原告が受けるべき報酬等はいくらが相当かが問題となるところ,この額を検討するに当たっては,原告代表者が行った営業活動の内容,難易度,期間,要した労力・費用,成立した取引の額,貢献の程度その他諸般の事情を勘案して算定するのが相当と考えられる。
ア そこで,検討するに,上記認定のように,被告と訴外ロッテリア社との間で,4月にフィージビリティスタディ契約の発注が決まった後,原告代表者は,5月半ば以降,システム開発に係る契約に向けて,被告代表者の指示に従い,開発概要書やプレゼンテーション資料の作成に関与し,特に見積りの策定に尽力し,訴外ロッテリア社の担当者と打合せをするなどの活動を行い,7月10日に同社経営陣が被告にシステム開発契約を発注すると決定したものであり(1(4)ウ(ア)~(ケ)),この間,原告代表者は,同契約のための基本契約書の条項の確定に向けて,同社の担当者とやり取りを繰り返し,被告代表者に落としどころを提案するなどし,協議は合意に達しないまま,10月9日に被告による本件委託契約の解除となったものであり(1(4)オ(ア)~(エ)),また,原告代表者は,訴外ロッテリア社経営陣の被告へのシステム開発発注の決定後も,このシステム開発の対価の見積りにつき,同社の担当者とやり取りを続け,結局,8月14日に同社側の意向をある程度容れる形で交渉が決着し,続いて,支払計画の策定に着手し,やはり同社の担当者とやり取りを続け,交渉が行き詰まり被告代表者が同社担当者と直接調整することになるなどし,最終的な合意に達しないまま,10月9日に被告による本件委託契約の解除となったものであり(1(4)カ(ア)~(ク)),このように,原告代表者が行った訴外ロッテリア社とのシステム開発に係る営業活動は,約4か月半にわたり,基本的に被告代表者の指示に従って連絡調整や資料作成等を行い,その都度一定の範囲で裁量権限を与えられて交渉等に当たることもあったもので,単なる窓口というものではないものの,すべて実質的で重要な業務とまではいえず,高い資質能力が求められるものともいえないが,相応の労力が費やされていたということはできる。
そして,この間の原告代表者の営業活動は,基本契約書中の損害賠償条項をめぐって,訴外ロッテリア社の担当者と調整ができず,5月半ばから10月に至っても,決着を見ることができていなかったし(1(4)オ(イ)~(エ)),支払計画の策定について,訴外ロッテリア社の担当者との交渉が行き詰まり,被告代表者が同社担当者と直接調整をして進捗を図ることになっていたし(1(4)カ(オ)(カ)),訴外ロッテリア社側から,被告代表者に対し,原告代表者の活動へのクレームが寄せられていた(1(4)カ(ク))ものであり,必ずしも優れた活動振りというわけではなかったと考えられる。
イ 上記認定のように,訴外ロッテリア社のシステム開発案件は,その対価が別の業者から調達するソフトウェア等の経費込みで1億2967万5000円(消費税込み)というもので,8月20日頃の開発作業の開始から平成21年年初のシステム移管まで1年半近く掛かる予定のものであって,原告代表者は,開発終了まで,営業担当として,連絡調整に当たることが予定されていたものであり(1(4)カ(ウ)),被告にとって,その規模からして重要な案件であって,被告に人が足りないことから,原告代表者が営業活動を行った(1(1)ウ)という点も考慮すべきである。
ウ また,上記認定のように,訴外リテイル社とのコンサルティング契約では,原告代表者は約1か月半の営業活動を行い,400万円の契約が成立して,84万円(1か月約53万円,消費税抜き以下同じ。)の(1(2)イウ),マスタ登録システム等開発契約では,約3か月の営業活動を行い,600万円の契約が成立して,126万円(1か月約40万円)の(1(2)エオ)及び商品管理システム開発契約では,約3か月の営業活動を行い,同じく600万円の契約が成立して,126万円(1か月約40万円)の(1(2)カキ)並びに訴外ロッテリア社とのフィージビリティスタディ契約では,約3か月の営業活動を行い,400万円の契約が成立して,84万円(1か月約26万円)の(1(4)イ(ア)~(ク))それぞれ報酬の支払を受けたものであり,これらとの均衡が考慮されるべきであり,その観点から,訴外ロッテリア社とのシステム開発案件では,原告代表者が約4か月にわたり上記のような営業活動を行い,別業者の経費を含むものの1億円を超える契約が成立したものであることをも考えるべきである。
エ そして,上記認定のように,原告代表者と被告代表者とは,7月9日の電車内でのやり取りにおいて,システム開発を受注した場合の原告の報酬額につき,このとき結論は出ていないものの,それぞれ,月額100万円で10か月(1000万円),月額80万円で12か月(960万円)という金額を発言しており(1(4)エ),このときには,原告代表者が基本契約書の締結や支払計画の策定等その後に必要となる連絡調整や交渉を続けて行い,それらを成就させ,さらに開発の終了まで約1年半の期間,営業担当として連絡調整等に当たることが前提になっていたと推認されるものであり,そういうものとして1000万円近くの報酬が想定されていたとみることができる。
オ 以上のような原告代表者の活動の内容,重要度,契約の規模,同種案件の報酬額,関係者の認識その他の諸点を総合すれば,原告代表者による訴外ロッテリア社とのシステム開発に係る営業活動に対する報酬等としては,1か月60万円として4か月半で270万円と考えるのが相当である。
そして,本件委託契約においては,原告の報酬等につき,上記のように,契約の成立を停止条件として,相当額の報酬を支払うとの合意があったものの,その支払時期について,何らかの合意がされていたと認めることはできず,したがって,この報酬については期限の定めのない債務と解され,上記認定のように,原告は10月12日の電子メールで,被告に対し,訴外ロッテリア社のシステム開発に係る報酬の支払を求めているから(1(6)ウ),遅くとも同月13日には報酬支払債務は遅滞に陥っているものということができる。
したがって,被告は原告に対して,本件委託契約に基づき,270万円に消費税を加えた283万5000円及びこれに対する平成19年10月13日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるものというべきである。
第4 結論
よって,原告の請求は,283万5000円及びこれに対する平成19年10月13日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 垣内正 裁判官 堀田匡 裁判官 伊藤聡志)
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