「営業アウトソーシング」に関する裁判例(43)平成26年 6月10日 東京地裁 平23(ワ)8047号 損害賠償請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(43)平成26年 6月10日 東京地裁 平23(ワ)8047号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成26年 6月10日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)8047号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA06108016
要旨
◆労働者派遣事業等を目的とする会社である原告が、従業員用の社宅兼賃貸物件の取得・運用を自社の出資や金融機関からの借入れ等に基づく不動産ファンドスキームによって実現することを企図し、被告Y1にその相談をしたことを契機として、当時被告Y1が代表者を務めていた被告R社の完全子会社であった被告L社をアセット・マネージャーとする匿名組合を用いた不動産ファンドが組成され、原告がこれに出資したところ、本件ファンドのスキームが違法・不適切なものであり、金融機関からの借入れが実現されず、最終的に原告の出資金全額が毀損したとして、被告らに対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案において、本件ファンドのスキームが違法・不適正なものであったと断ずることはできないなどとして、原告の主張をいずれも否定し、請求を棄却した事例
参照条文
民法415条
民法709条
民法719条
会社法429条1項
裁判年月日 平成26年 6月10日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)8047号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA06108016
東京都品川区〈以下省略〉
原告 UTエイム株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 大塚和成
同 根井真
同 高谷裕介
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 レッドホース株式会社
同代表者代表取締役 Y1
札幌市〈以下省略〉
被告 リーパック株式会社
同代表者代表取締役 B
東京都世田谷区〈以下省略〉
被告 Y1
被告ら訴訟代理人弁護士 谷眞人
同 難波英俊
同 齋雄一郎
同 川野裕之
同訴訟復代理人弁護士 山本和広
主文
1 原告の各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 (主位的請求)
被告らは,原告に対し,連帯して2億5000万円及びこれに対する平成18年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 (予備的請求①)
被告らは,原告に対し,連帯して2億5000万円及びこれに対する平成20年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 (予備的請求②)
被告らは,原告に対し,連帯して2億5000万円及びこれに対する被告レッドホース株式会社については平成23年3月26日から支払済みまで年6分の,被告リーパック株式会社については同月29日から支払済みまで年6分の,被告Y1については同年4月2日から支払済みまで年5分の各割合による金員を支払え。
4 (予備的請求③)
被告らは,原告に対し,連帯して2億5000万円並びにこれに対する被告レッドホース株式会社及び被告リーパック株式会社については平成25年3月28日から支払済みまで年6分の,被告Y1については同日から支払済みまで年5分の各割合による金員を支払え。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は,労働者派遣事業等を目的とする会社である原告(旧商号・日本エイム株式会社)が,従業員用の社宅兼賃貸物件の取得・運用を自社の出資や金融機関からの借入れ等に基づく不動産ファンドスキームによって実現することを企図し,原告代表者のA(以下「A」という。)において被告Y1(以下「被告Y1」という。)に対してその相談を行ったことを契機として,当時被告Y1が代表者を務めていた被告レッドホース株式会社(以下「被告レッドホース」という。)の完全子会社であった被告リーパック株式会社(旧商号・インシグノパートナーズ株式会社。以下「被告リーパック」という。)をアセット・マネージャーとする匿名組合を用いた不動産ファンド(名称・エイムオーエス社宅ファンド。以下「本件ファンド」という。)が組成され,原告においてこれに2億5000万円を出資したところ,当該不動産ファンドのスキームが違法・不適切なものであり,確実であるとされていた金融機関からの借入れが実現されず,最終的には資金不足に陥り,原告の上記出資に係る金員全額が毀損し,そのことについて,被告らにはそれぞれ不法行為責任又は債務不履行責任があるなどと主張して,被告らに対し,上記出資に係る金員相当額の損害金及びその遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
2 前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 当事者等
ア(ア) 原告は,労働者派遣事業等を目的とし,半導体,FPD(フラット・パネル・ディスプレイ),太陽電池等の製造に係る工場の生産ラインの一括アウトソーシングサービス事業を主な事業とする会社である。原告は,平成19年4月2日まで,その発行する普通株式をジャスダック証券取引所(当時)に上場していたところ,同日,株式会社エイペックス(以下「エイペックス」という。)と共同して,株式移転によりユナイテッド・テクノロジー・ホールディングス株式会社を設立し,その完全子会社となり,平成24年7月1日,その商号を「日本エイム株式会社」から現商号に変更した。また,ユナイテッド・テクノロジー・ホールディングス株式会社は,平成21年1月1日にその商号を「UTホールディングス株式会社」に変更し,また,現在,その発行する普通株式を大阪証券取引所ジャスダック市場に上場している。(甲1から4まで)
(イ) Aは,原告及びUTホールディングス株式会社の代表取締役である(甲1から4まで)。
イ(ア) 被告レッドホースは,経営・財務コンサルタント業,有価証券の売買,取得,運用,保有及び投資業務,企業に対する投資業務等を目的とする会社である。被告レッドホースは,平成19年10月1日,その商号を「テイボンアソシエイツ株式会社」から現商号に変更した。(甲8の1・2)
平成18年3月31日当時における被告レッドホースに対する出資状況は,被告Y1が経営する資産管理会社である有限会社アクセルホールディングス(同社は,平成20年7月2日,その商号を「株式会社アクセルホールディングス」に変更し,通常の株式会社に移行した。)が32.16パーセント,被告Y1が28.25パーセント,被告Y1の子であるCが10.31パーセントであった(甲49,81,82)。
(イ) 被告リーパックは,不動産特定共同事業法に基づく事業,商業施設,不動産の証券化等を目的とする会社である。被告リーパックは,平成19年10月1日,その商号を「リーパック株式会社」から「レッドホースアセットマネジメント株式会社」に変更し,平成21年8月14日,これを「インシグノパートナーズ株式会社」に変更し,さらに,平成25年4月1日,これを現商号に変更した。(甲10の1・2)
被告リーパックは,平成18年当時,被告レッドホースの完全子会社であった。
(ウ) 被告Y1は,被告レッドホースの創業者であり,平成18年当時,被告レッドホースの代表取締役を務めていた者である。被告Y1は,同年から平成21年3月31日まで及び平成22年4月から現在に至るまで,上記代表取締役の地位にある。(甲8の1・2)
また,被告Y1は,平成15年6月26日まで,被告リーパックの代表取締役の地位にあり,その後も,平成18年6月29日まで及び平成19年10月1日から平成20年1月15日まで,被告リーパックの取締役を務めていた。なお,平成15年6月26日に被告Y1に代わってD(以下「D」という。)が被告リーパックの代表取締役に就任し,Dは,平成19年10月1日まで,その地位にあった。(甲10の2,甲22)
被告Y1は,平成18年ころ当時,自身が被告レッドホース及び被告リーパックを含むその関連会社数社によって構成されるレッドホースグループを代表する者である旨を標榜していた(甲9)。
(2) 本件ファンドの組成及びその経緯等
ア 原告は,平成18年当時,前記(1)ア(ア)の工場の生産ラインの一括アウトソーシングサービス事業を展開するに当たり,工場に派遣する多数の従業員のための社宅の確保が懸案事項となっていたことから,自らの出資のほか,同様の懸案事項を抱えているものとみられる同業他社からも出資を募り,金融機関からも借入れを受けるなどしてファンドを組成し,これによって工場集積地の近郊等に社宅用建物を共同で建設するという構想の実現に期待を寄せていた。
Aは,同年5月ころ,当時原告と業務提携関係にあったエイペックスを介して知己を得た被告Y1に対し,上記の構想の実現方について相談し,被告Y1から,当時被告リーパックの代表取締役であったDの紹介を受けた。
イ Dは,平成18年7月から同年11月ころにかけて,前記の構想に関し,度々Aと面談した。その間,Dは,Aに対し,以下の各書面を作成して交付した。
(ア) 「社宅ファンドの概況について」と題する平成18年7月19日付け書面(甲13)
内容は,別紙1のとおり
(イ) 「社宅ファンドの契約要因」で始まる平成18年7月28日付け書面(甲14)
内容は,別紙2のとおり
(ウ) 「社宅共同運営のご提案」と題する平成18年7月20日付け書面(甲15)
原告が所属する日本製造アウトソーシング協会(JMOA。以下「JMOA」という。)の会員向けに「JMOA社宅投資ファンド」の設立を提案する原告作成名義の説明資料として用意されたものであり,その中には,当該ファンドの基本スキームを示す図として別紙3の内容のものが含まれていた。
ウ(ア) 原告は,平成18年11月22日,本件ファンドのスキームにおける特別目的会社である株式会社リーパック・セカンドファンド(以下「SPC-1」という。)との間で,原告を匿名組合員とし,SPC-1を営業者とする,本件ファンドに係る匿名組合契約を締結し,これに基づき,同月28日までに,本件ファンドに係る2億5000万円の出資を行った(甲17。以下,この出資を「本件出資」といい,本件出資に係る金員を「本件出資金」という。)。
(イ) 本件ファンドに係る当初のスキームの概要は,以下のとおりであり,別紙3の内容に沿ったものであった(以下,当該スキームを「本件スキーム①」ともいう。)。
a 被告リーパックが,100パーセント出資をして,有限責任中間法人リーパックプロパティーズ(以下「リーパックプロパティーズ」という。)を設立する。
b リーパックプロパティーズが,それぞれ100パーセント出資をして,投資家からの匿名組合出資を受け入れる特別目的会社であるSPC-1及び不動産を保有する特別目的会社である株式会社エイムオーエス社宅ファンド(以下「SPC-2」という。)を設立する。
c 原告その他の出資者は,SPC-1に対して匿名組合出資を行う。
d SPC-1は,SPC-2に対して匿名組合出資を行う。
e アセット・マネージャーには,被告リーパックが就任する。
f SPC-2は,金融機関から融資を受ける。
g SPC-2は,SPC-1を通じて得る原告その他の出資者からの出資金及び金融機関からの借入金により,派遣社員の住居ニーズがある地域の土地を購入し,建設会社に発注をして,社宅用建物を建設する。
(ウ) 本件ファンドについては,原告のほか,株式会社ウィルホールディングス(原告と同様の事業を営む子会社の株式保有を目的とする会社。以下「ウィルホールディングス」という。)が1億円,被告リーパックが1億5000万円を,それぞれ平成18年11月28日ころまでに出資した。また,平成19年6月には,大和自動車工業株式会社が,本件ファンドに係る1億5000万円の出資を行った。
エ 被告リーパックは,平成18年11月28日,SPC-1及びSPC-2との間で,本件ファンドに係る両社の業務の全て(SPC-2が土地を購入して開発した社宅不動産に係るプロパティ・マネジメント業務及びマスター・リース業務を除く。)を受託する旨のいわゆるアセット・マネジメント業務委託契約(以下「本件アセット・マネジメント業務委託契約」という。)を締結した(甲20の12)。
オ 被告リーパックは,以下のとおり,SPC-2に,社宅建設予定地の購入及び建設会社に対する社宅用建物の建設の発注をさせた。
(ア) 三重県津市島崎町の物件
a 平成18年10月2日 7930万円で購入(甲20の2,乙2の1)
b 平成19年4月1日 4億2000万円で発注(甲20の3)
同年4月2日 着工
平成21年11月 竣工
(イ) 静岡県浜松市砂山町の物件(以下「浜松物件」という。)
a 平成18年10月24日 2億1387万円で購入(甲20の4,乙2の2)
b 平成19年3月1日 4億3995万円で発注(甲20の5)
同月22日 着工
(ウ) 兵庫県尼崎市神田南通2丁目の物件(以下「尼崎物件」という。)
a 平成18年12月20日 2億4000万円で購入(甲20の8,乙2の3)
b 平成19年5月16日 5億5114万5000円で発注(甲20の9)
同月中旬 着工
(エ) 三重県四日市市中川原1丁目の物件
a 平成19年4月25日 1億0669万6200円で購入(甲20の6,乙2の4)
b 平成19年9月4日 3億8850万円で発注(甲20の7)
カ 本件ファンドのスキームは,平成19年6月,別紙4のとおり,SPC-2に代えて資産の流動化に関する法律に基づき設立された特定目的会社(エイムオーエス社宅ファンド特定目的会社。以下,「TMK」という。)を利用するものに変更され(以下,当該変更後のスキームを「本件スキーム②」ともいう。),これに伴い,SPC-2において取得していた不動産等は,TMKに譲渡されることとされた。
キ(ア) 本件ファンドについては,当初,金融機関から21億円の融資を受けることが想定されており,被告リーパックは,平成18年12月までに,モルガン・スタンレー証券株式会社(以下「モルガン・スタンレー証券」という。)に対し,当該融資の申込みを行い,同月22日,モルガン・スタンレー証券から,当該融資に係る同日付けのローン仮条件書(いわゆるタームシート。以下「本件タームシート」という。)の発行を受け,同月25日付けでこれに記載された条件に同意する旨をモルガン・スタンレー証券に対して回報した(乙1)。
(イ) しかし,最終的に,モルガン・スタンレー証券は,当該融資の実行には応じず,また,被告リーパックは,それに代わる融資金融機関を確保するに至らなかった。
ク 被告リーパックが作成した平成21年11月付けの「エイムオーエス社宅ファンドの概要」と題する書面(甲33)には,本件ファンドについて,当初は出資金及び借入金の総額27億円での運営が予定されていたが,前記キ(イ)の事態が生じたことにより,不動産売買契約,建設請負契約,設計契約等の各契約の解約をせざるを得なくなり,計画の一時中止及び方向転換を余儀なくされた旨,本件ファンドに係る債務の返済に迫られた結果,平成20年6月に尼崎物件を,同年11月に浜松物件をそれぞれ売却処分した旨等が記されている。
3 当事者の主張の要旨
(1) 原告
ア 主位的請求について
(ア) 被告らの以下の各行為は,原告に対する共同不法行為を構成する。
a 違法・不適正なファンドを組成し,原告を勧誘し,原告に本件出資をさせた行為
(a) 本件ファンドのスキームは,SPC-1,SPC-2,被告レッドホース及び被告リーパックが不動産特定共同事業に係る許可を得ていない点において不動産特定共同事業法に違反するとともに,SPC-2が宅地建物取引業に係る免許を有していない点において宅地建物取引業法に違反するものであり,また,前記2(2)オの各物件(以下「本件各物件」という。)に係る各土地の各売買契約書にいわゆる表明保証条項が設けられていないために倒産隔離が図られておらず,税務上も不適正で数千万円規模の全く必要のない支出を免れない,およそ不適正なものであって,このことは,株式会社サタスインテグレイトの代表取締役であり,不動産特定共同事業法や不動産証券化事業等に係る専門的知見を有するEの作成に係る平成24年4月30日付け意見書(甲51。以下「E意見書」という。)の内容に照らして明らかである。そのため,本件ファンドのスキームは,これを成立させるために不可欠であった金融機関からの融資が受けられる可能性も極めて低いものであったが,それにもかかわらず,被告リーパックは,原告からの社宅保有目的のファンドの組成の依頼に応じ,原告に対して上記スキームについての説明をするなどして出資勧誘を行い,上記スキームによる本件ファンドを組成した上,原告に本件出資をさせた。被告リーパックによる当該行為は,原告に対する不法行為を構成する。
(b) 被告レッドホースは,被告リーパックをして前記(a)の行為をさせ,又は被告リーパックによる前記(a)の行為を幇助したものであり,被告レッドホースの当該行為は,原告に対する不法行為を構成する。
(c) 被告Y1は,被告レッドホースの代表取締役及び被告リーパックの事実上の代表取締役であり,被告リーパックをして前記(a)の行為をさせ,又は被告リーパックによる前記(a)の行為を幇助したものであって,被告Y1の当該行為は,原告に対する不法行為を構成する。
b モルガン・スタンレー証券からの融資が確実ではないにもかかわらず,確実である旨を述べて原告を勧誘し,原告に本件出資をさせた行為
(a) 被告リーパックの代表取締役であるDは,本件ファンドに対するモルガン・スタンレー証券からの融資が確実ではないにもかかわらず,原告に対して「モルガン・スタンレー証券から21億円のノンリコースローンを受けられることが確実である。既に同社から融資契約に関するタームシートも出ており,問題はない。」旨の虚偽の事実を述べ,原告に本件出資をさせた。被告リーパックによる当該行為は,原告に対する不法行為を構成する。
(b) 被告レッドホースは,被告リーパックをして前記(a)の行為をさせ,又は被告リーパックによる前記(a)の行為を幇助したものであり,被告レッドホースの当該行為は,原告に対する不法行為を構成する。
(c) 被告Y1は,被告レッドホースの代表取締役及び被告リーパックの事実上の代表取締役であり,被告リーパックをして前記(a)の行為をさせ,又は被告リーパックによる前記(a)の行為を幇助したものであって,被告Y1の当該行為は,原告に対する不法行為を構成する。
c 被告リーパックの不動産ファンドの組成・運用の実績に係る虚偽の事実を述べて原告を勧誘し,原告に本件出資をさせた行為
被告レッドホースの代表取締役及び被告リーパックの事実上の代表取締役である被告Y1並びに被告リーパックの代表取締役であるDは,被告リーパックには不動産ファンドの組成・運用に係る経験が全くなかったにもかかわらず,その実績がある旨を述べて原告を勧誘し,原告に本件出資をさせた。被告らの当該行為は,原告に対する不法行為を構成する。
(イ) 原告は,前記(ア)の被告らの各共同不法行為がなければ,本件出資を行うことはなかったものであるから,本件出資金の全額が被告らの共同不法行為によって原告が被った損害である。
(ウ) よって,原告は,被告らに対し,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金2億5000万円(本件出資金相当額)及びこれに対する平成18年11月22日(本件出資の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
イ 予備的請求①(前記アの請求が認められない場合における予備的請求)について
(ア) 被告らの以下の各行為は,原告に対する共同不法行為を構成する。
a 被告リーパックは,本件ファンドのスキームが違法・不適正なものであり,そのために金融機関から21億円もの多額の融資を受けられる可能性がほとんどなかったにもかかわらず,何ら当該融資の確約がとれていない段階で,前記第2・2(2)オの社宅建設予定地の購入及び建設会社に対する社宅用建物の建設の発注を進め,その結果,本件ファンドは,上記融資が得られずに頓挫し,原告の本件出資金は,その全額が毀損するに至った。被告リーパックによる当該行為は,原告に対する不法行為を構成する。
b 被告レッドホースは,被告リーパックをして前記aの行為をさせ,又は被告リーパックによる前記aの行為を幇助したものであり,被告レッドホースの当該行為は,原告に対する不法行為を構成する。
c 被告Y1は,被告レッドホースの代表取締役及び被告リーパックの事実上の代表取締役であり,被告リーパックをして前記aの行為をさせ,又は被告リーパックによる前記aの行為を幇助したものであって,被告Y1の当該行為は,原告に対する不法行為を構成する。
(イ) 前記(ア)のとおり,原告は,被告らの共同不法行為により,本件出資金全額の損害を被った。
(ウ) よって,原告は,被告らに対し,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金2億5000万円(本件出資金相当額)及びこれに対する平成20年3月24日(原告においてその損害の発生が明らかとなった日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
ウ 予備的請求②(前記ア及びイの各請求が認められない場合における予備的請求)について
(ア) 被告レッドホース及び被告リーパック(以下,併せて「被告会社ら」という。)に対する契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求
a 原告は,平成18年6月15日,被告レッドホースとの間で,以下の内容の委任契約及び準委任契約(以下,併せて「本件委任契約①」という。)」を締結した。
(a) 委託内容
以下の内容のファンドの組成及び運用
ⅰ 工場集積地や新工場の建設が予定されている場所において,派遣従業員の社宅として利用することができ,かつ,外部からも賃借人を募集する,社宅兼賃貸物件の保有・運用を目的としたファンドの組成及び運用。ファンド組成の資金は,派遣事業者からの出資及び金融機関からの借入れによる。
ⅱ 具体的な委任内容は,ファンドスキームの設計,派遣事業者に対する出資の勧誘,金融機関からの借入れ,建物建設用地の取得,建物の建設,賃借人の募集,社宅物件の管理等,ファンド組成及び運用のために必要な一切の行為
(b) 報酬
有償。具体的な金額は,追って決定する。
b 原告は,平成18年6月27日,被告リーパックとの間で,前記a(a)及び(b)と同内容の委任契約及び準委任契約(以下,併せて「本件委任契約②」という。)」を締結した。これにより,被告会社らは,共同して,本件委任契約①及び本件委任契約②(以下,併せて「本件各委任契約」という。)に基づく各業務を遂行することとなった。
c 被告会社らによる以下の各行為は,本件各委任契約上の善管注意義務違反としての債務不履行に当たる。
(a) 違法・不適正なファンドを組成し,原告を勧誘し,原告に本件出資をさせた行為(前記ア(ア)a(a)・(b))
(b) 金融機関からの融資の確約がとれていない段階で,前記第2・2(2)オの社宅建設予定地の購入及び建設会社に対する社宅用建物の建設の発注を進め,本件ファンドを頓挫させた行為(前記イ(ア)a・b)
d 原告は,前記c(a)の行為により本件出資金の出捐自体に係る損害を,同(b)の行為により本件出資金全額の毀損に係る損害をそれぞれ被った。
(イ) 被告Y1に対する会社法429条1項に基づく損害賠償請求
被告Y1は,被告レッドホースの代表取締役及び被告リーパックの事実上の代表取締役であり,前記(ア)cの被告会社らの各行為を放置し,その任務を懈怠したものであるから,原告に対し,会社法429条1項に基づく責任を負う。
(ウ) よって,原告は,被告らに対し,被告会社らについては本件各委任契約上の債務不履行責任に基づき,被告Y1について会社法429条1項の責任に基づき,損害金2億5000万円(本件出資金相当額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告レッドホースについては平成23年3月26日,被告リーパックについては同月29日,被告Y1については同年4月2日)から支払済みまで商事法定利率年6分(被告Y1については民法所定の年5分)の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
エ 予備的請求③(前記ア,イ及びウの各請求が認められない場合における予備的請求)について
(ア) 被告会社らに対する契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求
a 前記ウ(ア)a・bのとおり,原告は,被告会社らのとの間で,本件各委任契約を締結し,被告会社らは,共同して,これに基づく各業務を遂行することとなった。
b 被告会社らが,モルガン・スタンレー証券からの融資が確実ではないにもかかわらず,確実である旨を述べて原告を勧誘し,原告に本件出資をさせた行為(前記ア(ア)b(a)・(b))は,本件各委任契約上の善管注意義務違反としての債務不履行に当たる。
c 原告は,前記bの行為により,本件出資金の出捐自体に係る損害を被った。
(イ) 被告Y1に対する会社法429条1項に基づく損害賠償請求
被告Y1は,被告レッドホースの代表取締役及び被告リーパックの事実上の代表取締役であり,前記(ア)bの被告会社らの行為を放置し,その任務を懈怠したものであるから,原告に対し,会社法429条1項に基づく責任を負う。
(ウ) よって,原告は,被告らに対し,被告会社らについては本件各委任契約上の債務不履行責任に基づき,被告Y1について会社法429条1項の責任に基づき,損害金2億5000万円(本件出資金相当額)及びこれに対する平成25年3月28日(同月26日付け訴え変更の申立書送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分(被告Y1については民法所定の年5分)の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
オ 過失相殺に係る被告らの主張について
争う。原告は,不動産ファンドにつき素人であったのに対し,被告リーパックは,宅地建物取引業及び一般不動産投資顧問業に係る各免許を有する不動産ファンドに係る専門業者であって,原告においてそのような専門業者が組成した本件ファンドにつき適法・適正なスキームによるものであると信頼したこと等に過失はない。
(2) 被告ら
いずれも争う。
ア 主位的請求について
(ア) 被告らが原告に対して本件ファンドに係る出資を勧誘した事実はない。本件ファンドは,原告代表者であるAが被告らに対して原告が出資者となることを前提としたファンドの組成を打診し,被告リーパックにおいて,原告が出資者となることを前提として本件ファンドを組成し,その後,予定された流れのとおりに原告が本件出資をするに至ったものであり,その一連の過程において,被告らから原告に対して出資を勧誘するという行為が介在する余地はなかったものである。
(イ)a 本件ファンドのスキームについて,原告が主張するような違法・不適正な点はない。
b 被告らが原告に対して融資の確実性について虚偽の説明をした事実はない。
c 被告リーパックには,本件ファンドの組成前に,現に不動産ファンド(1号ファンド)の組成・運用に関する実績があり,被告らが原告に対して被告リーパックにおける不動産ファンドの組成・運用の実績について虚偽の説明をした事実ない。
(ウ) 仮に,本件ファンドのスキームにつき何らかの違法・不適正な点があるなどして被告らに不法行為責任が認められるとしても,そのことと原告が主張する損害との間に相当因果関係はない。
イ 予備的請求①について
(ア) 本件各物件に係る購入及び発注は,いずれもモルガン・スタンレー証券からの融資が実行されることについての裏付けに基づいて行われたものであり,被告らについて,原告が主張する不法行為責任は生じない。
(イ) 本件ファンドが失敗に終わった原因はその組成当初には予期し得なかった事情が重なったことにあるから,仮に,前記(ア)の裏付けが不十分であったと評価されるとしても,そのことと原告が主張する損害との間に相当因果関係はない。
ウ 予備的請求②について
(ア) 原告と被告会社らとの間において,本件各委任契約その他の契約が締結された事実はない。
(イ) 仮に,本件各委任契約の成立の事実が認められるとしても,本件ファンドのスキームについては,原告が主張するような違法・不適正な点はなく,また,本件各物件に係る購入及び発注は,いずれもモルガン・スタンレー証券からの融資が行われることについての裏付けに基づいて行われたものであるから,被告会社らについて,原告が主張する善管注意義務違反はない。
(ウ) 被告会社らについて善管注意義務違反がない以上,被告Y1がこれを放置したという事実もない。
(エ) 本件ファンドが失敗に終わった原因はその組成当初には予期し得なかった事情が重なったことにあるから,仮に,被告らが原告に対して債務不履行責任又は会社法429条1項の責任を負う可能性があるとしても,そのことと原告が主張する損害との間に相当因果関係はない。
エ 予備的請求③について
(ア) 原告と被告会社らとの間において,本件各委任契約その他の契約が締結された事実はない。
(イ) 仮に,本件各委任契約の成立の事実が認められるとしても,被告会社らが原告に対して融資の確実性について虚偽の説明をした事実はないから,被告会社らについて,原告が主張する善管注意義務違反はない。
(ウ) 被告会社らについて善管注意義務違反がない以上,被告Y1がこれを放置したという事実もない。
(エ) 本件ファンドが失敗に終わった原因はその組成当初には予期し得なかった事情が重なったことにあるから,仮に,被告らが原告に対して債務不履行責任又は会社法429条1項の責任を負う可能性があるとしても,そのことと原告が主張する損害との間に相当因果関係はない。
オ 過失相殺について
原告の主張を前提にすれば,本件ファンドのスキームに違法・不適正な点があることは明らかであったというのであるから,上場企業であるUTホールディングス株式会社の完全子会社である原告においては,当然,コンプライアンスの観点から,その違法・不適正な点に検討を加えるべきであったということができる。このような事情からすれば,仮に被告らが原告に対して何らかの損害賠償義務を負うべき場合には,相応の過失相殺がされるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 前記前提となる事実に証拠(甲13から15まで,17から33まで,40から45まで,51,52,58から61まで,83,84,乙1から5まで,7,9から19まで,22から27まで。枝番のあるものは,いずれもそれを含む。証人F,証人G,原告代表者,被告レッドホース代表者兼被告Y1本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実を認めることができ,前掲証拠中これに反する部分は採用しない。
ア 本件ファンドの組成に至る経緯について
(ア) 平成15年6月26日に被告リーパックの代表取締役に就任したDは,株式会社東京相和銀行の新宿支店長等を務めた経歴を有し,不動産ファンドに係る知見を有していた。
被告リーパックは,平成17年3月にさいたま市内の不動産(アサヒ大宮倉庫)を投資対象物件とする不動産ファンド「リーパック1号ファンド」(有限会社リーパック・ファーストファンドを営業者とする匿名組合(「リーパック・ファーストファンド匿名組合」)を用いたスキームによるもの)を組成して運用し,平成18年5月9日の清算結了に至るまでの間に,合計配当率36.13パーセントの配当を行った実績を有していた。
(イ) 被告レッドホースは,平成18年当時,エイペックスの株式を多数保有し,エイペックスと業務提携関係にあったところ,被告Y1は,エイペックスの社長であるHの紹介により,Aと面識を有するようになった。
(ウ) 原告は,前記第2・2(2)アのとおり,平成18年当時,半導体,FPD太陽電池等の製造に係る工場の生産ラインの一括アウトソーシングサービス事業を展開するに当たって懸案事項となっていた従業員のための社宅の確保という問題の解消を図る合理的な方策として,当時盛んにその活用が報じられていた不動産ファンドのスキームを利用し,自ら出資をするとともに,同様の懸案事項を抱えているものとみられる同業他社からも出資を募り,金融機関からも借入れを受けるなどして当該不動産ファンドを組成し,工場集積地の近郊等に社宅用建物を共同で建設するという構想の実現に期待を寄せていた。
原告の代表者であるAは,同年4月ころ,上記の構想について,ウィルホールディングスの代表者であるIの賛同を得たほか,同年5月ころにかけて,不動産ファンドに係る事業を行っていた複数の専門業者に対し,上記構想の実現方について相談を持ちかけていた。Aは,被告Y1が不動産に係る投資事業において相当な成功を収めている旨を伝え聞いていたことから,被告Y1にも上記の相談を行うこととし,同月ころ,被告レッドホースの本社を訪ね,被告Y1に対し,上記の構想を説明した。
被告Y1がAの話に興味を示したことから,Aは,同年6月15日,再度,被告Y1を訪ね,原告が抱えている社宅の確保という懸案事項とその解消策としての不動産ファンドの構想について,より詳細の説明を行った。これを聞いた被告Y1は,以後の対応を被告リーパックの代表取締役であるDにさせることとした。
(エ) 平成18年6月27日,Dは,被告Y1と共に,原告の本社を訪ね,Aに対し,それまでにAから伝えられた原告の前記構想に関し,組成し得る不動産ファンドのスキームの概要や運用方法について,自身が考えたところの概略を説明した。その後,Dは,原告の前記構想に係る不動産ファンドの組成に向けて,そのスキームの概要を本件スキーム①とすることを前提に,税理士(b会計事務所),弁護士(a法律事務所)に本件スキーム①の検証依頼を行い,原告からは社宅建設候補地に係る情報の提供を受けるなどして,その組成に向けた実務的な作業を進めていき,その間,前記第2・2(2)イの各書面を作成し,これらをAに交付するとともに,Aや原告会社の担当取締役であったJ(以下「J」という。)らと度々面談し,協議を重ねた。なお,上記各書面のうち,同(ウ)の「社宅共同運営のご提案」と題する平成18年7月20日付け書面(甲15)は,原告作成名義のものであり,同日開催されたJMOAの会員向けの説明会において説明資料として使用されたものであった。
また,Dは,社宅建設候補地の選定等を進める一方で,融資金融機関の確保に向けた作業にも当たり,同年8月下旬ころから,モルガン・スタンレー証券との間で頻繁に協議を行い,同年11月には,本件各物件の取得ないしその見通しを前提として,タームシートに係る具体的な条件の調整に入り,同月21日には,モルガン・スタンレー証券の担当者から,タームシート案の送付を受けていた。なお,Aは,原告が本件出資を行う前に,Dに対し,融資金融機関からの借入れの実現につき問題がないかどうかを確認したところ,Dは,タームシートの発行を受けているので大丈夫である旨を返答した。
(オ) SPC-1及びSPC-2は,それぞれ,平成18年8月11日,リーパックプロパティーズの100パーセント出資により,設立された。
(カ) 原告は,平成18年10月30日,同日付けの日経新聞夕刊掲載の記事を通じて,被告リーパック等と共同して社宅の借上げ及び購入を目的とする20億円規模の投資ファンドを同年11月に立ち上げる旨を公表した。
(キ) 前記のようなDを中心とした被告リーパックによる本件ファンドの組成に向けた実務的な作業は,組成が見込まれる本件ファンドの不動産ファンドのアセット・マネージャーに被告リーパックが就任することを想定して行われたものであったが,その作業自体に関しては,原告と被告リーパックとの間においていわゆるアレンジメント業務に係る契約その他の契約の締結を証する契約書の作成はされず,原告と被告レッドホース又は被告Y1との間においても,格別の契約書の作成がされることはなかった。また,被告リーパックがアセット・マネージャーに就任した場合における報酬に関しては,Aと被告Y1との間で話題に上ったことがあったものの,上記の組成に向けた作業自体の報酬に関しては,そのように話題に上ったことはなく,原告と被告らとの間において具体的な合意がされることもなかった。
イ 本件ファンドの組成後の運用状況等について
(ア) 平成18年11月22日,原告とSPC-1との間で,本件ファンドに係る匿名組合契約に係る契約書(甲17)が取り交わされ,もって当該匿名組合契約が成立した。また,同月24日,SPC-1とSPC-2との間で,本件ファンドに係る匿名組合契約に係る契約書(甲20の11)が取り交わされ,もって当該匿名組合契約が成立した。さらに,同月28日,被告リーパックは,SPC-1及びSPC-2との間で,本件ファンドに係る業務報告委託契約書(甲20の12)を取り交わし,もって本件アセット・マネジメント業務委託契約を締結した。
(イ) 原告,ウィルホールディングス及び被告リーパックは,それぞれ平成18年11月28日ころまでに,各自がSPC-1との間で締結した匿名組合契約に基づき,原告にあっては2億5000万円を,ウィルホールディングスにあっては1億円を,被告リーパックにあっては1億5000万円をそれぞれ出資した。
(ウ) 被告リーパックは,平成18年12月以降,3か月ごとに,原告を含む本件ファンドの出資者らに対し,書面をもって,本件ファンドの現況報告を行っていた。
(エ) Dは,前記ア(エ)のとおり,モルガン・スタンレー証券との間でタームシートに係る具体的な条件の調整を重ねた結果,平成18年12月22日,モルガン・スタンレー証券から,21億円の融資に係る同日付けの本件タームシートの発行を受け,同月25日付けでこれに記載された条件に同意する旨をモルガン・スタンレー証券に対して回報した。なお,被告リーパックが作成した同月の本件ファンドの現況報告に係る書面(甲19の1)には,21億円の融資(ノンリコースローン)についてモルガン・スタンレー証券からタームシートが発行されている旨が記載されていた。
(オ) 被告リーパックは,本件ファンドに係るアセット・マネージャーとして,前記第2・2(2)オのとおり,社宅建設予定地の購入及び建設会社に対する社宅用建物の建設の発注に係る作業を進める一方で,平成18年12月以降,モルガン・スタンレー証券から発行された本件タームシートに係る条件(本件タームシートにおいては,本件各物件に第一順位の抵当権を設定すること等が条件として掲げられていた。)を踏まえ,モルガン・スタンレー証券からの融資が実行されるまでの間のつなぎ融資の確保のため,Dにおいて,モルガン・スタンレー証券の担当者を帯同して,複数の金融機関との折衝を行っていた。
(カ) 被告リーパックは,平成19年6月,金融商品取引法の改正を考慮して,モルガン・スタンレー証券や税理士(b会計事務所)等とも協議を重ねた上,本件ファンドのスキームを本件スキーム①から本件スキーム②に変更することとした。
(キ) 被告リーパックは,本件ファンドの組成後,モルガン・スタンレー証券に対して進捗状況を逐次報告しており,モルガン・スタンレー証券も,本件スキームに対する21億円の融資の実行に前向きの姿勢を示していた。しかし,モルガン・スタンレー証券は,平成19年6月21日,被告リーパックに対し,上記融資の実行には応じられない旨を通告するに至り,その後,被告リーパックは,原告やウィルホールディングスにも協力を求めるなどして,モルガン・スタンレー証券に代わる融資金融機関の探索に努めたが,結局,これを確保するには至らなかった。
(ク) 平成20年3月24日,被告リーパックの本社会議室において,本件ファンドに係る出資者総会が開催され,原告を含む出席した出資者らに対し,被告リーパックから,本件ファンドについて,状況の説明等がされたほか,今後の方針として資金調達と資産売却による整理とが考えられること,資金調達については融資金融機関の確保の見通しが立っていないこと等の説明がされた。また,その席上で配布された「ファンドスキーム・債権関係図」と題する資料(甲24)には,被告リーパックが融資金融機関からの21億円の融資までのつなぎ資金としてSPC-2の保有に係る資産に根抵当権を設定して株式会社三井住友銀行から6億円を借り受け,これをSPC-2に対して貸し付けていること,TMKがその保有に係る資産に根抵当権を設定してキャップマークジャパン株式会社から4億1000万円のつなぎ融資を受けていること,それらの借入金の残債務及び建設会社に対する請負代金等の残債務の合計額が19億4439万5300円であること等が記されていた。
(ケ) 平成20年4月11日,本件ファンドに係る出資者らに対する説明会が開催され,その席上,被告リーパックは,融資金融機関の確保に至っておらず,融資を得て本件ファンドを維持することは困難な見通しにあること,本件ファンド自体の購入希望先はみつかっていないこと,本件各物件の個別売却については,早いタイミングで行った方がより高額での売却が可能となるものとみられるが,それでも相当額の毀損が確実な状態であること等を説明し,出席者らに対し,上記個別売却についての了承を求めた。
(コ) 平成20年5月23日,本件ファンドに係る出資者らに対する説明会が開催され,その席上,被告リーパックは,融資金融機関の確保に至っていないことのほか,各債権者との折衝状況,本件各物件の個別売却に係る進捗状況等について説明した。
ウ E意見書(甲51)について
原告が提出するE意見書は,不動産特定共同事業,宅地建物取引業,不動産投資顧問業等を営む株式会社サタスインテグレイトの代表取締役であり,不動産特定共同事業法や不動産証券化事業等に係る専門的知見を有するとされるEの作成に係るものであり,その記載内容の要旨は別紙5のとおりである。
(2) 以上の認定事実に関し,原告は,前記のとおり,原告と被告会社らとの間には,原告の前記構想に関する不動産ファンドの組成及び運用に係る本件各委任契約が成立した旨主張し,原告代表者の供述(甲58,原告代表者)やJの供述中にも,これに沿う部分及び原告と被告Y1との間にも同旨の契約が成立したとする部分が存する。
しかしながら,まず,弁論の全趣旨によれば,不動産ファンドの組成に係る過程において,投資家等の関係者から依頼を受けたアレンジャーがいわゆるアレンジメンド業務を行う場合には,当該業務の内容及び範囲等が当該依頼者のニーズに応じて各別であることから,それらを詳細に定める契約書が作成されることが通常であることが窺われるところであり,原告と被告らとの間に本件各委任契約ないしそれらに類する契約が現に締結されたとすれば,行われるべき業務の内容等を明記した契約書の作成が行われてしかるべきである(なお,本件ファンドに係る各匿名組合契約や本件アセット・マネジメント業務委託契約について,いずれも契約書が作成されていることは,前記認定のとおりである。)と思われるところ,本件ファンドの組成段階に関しては,前記(1)ア(キ)のとおり,その組成に向けた被告リーパックによる実務的な作業自体につき,原告と被告リーパックとの間において,被告リーパックが原告の委託を受けて行うべきアレンジメント業務その他の業務の内容や範囲等を定めた契約の締結を証する契約書の作成はされておらず,原告と被告レッドホース又は被告Y1との間においても格別の契約書の作成がされることはなく,また,当該作業自体の報酬につき,原告と被告リーパックの間においても,被告レッドホース又は被告Y1との間においても,具体的な合意がされることはなかったことが認められることからして,原告代表者及びJの上記各供述部分をもって直ちに原告主張の本件各委任契約ないしそれらに類する契約の成立に係る事実を認めることはできず,また,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
また,本件ファンドの運用段階に関しても,前記(1)イ(ア)を含む前記認定事実によれば,原告はSPC-1との間で匿名組合契約を締結し,被告リーパックはSPC-1及びSPC-2との間で本件アセット・マネジメント業務委託契約を締結したものの,原告と被告リーパックとの間において,上記各契約とは別に両者間に直接契約関係を生じさせるような内容の契約書の作成がされておらず,また,原告と被告レッドホース又は被告Y1との間においても同様に何ら契約書の作成がされていないことが認められることからして,原告代表者及びJの上記各供述部分をもって直ちに原告主張の本件各委任契約ないしそれらに類する契約の成立に係る事実を認めることはできず,また,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
そして,他に前記(1)の認定を左右するに足りる証拠はない。
2 主位的請求について
(1)ア 原告は,被告リーパックについて,本件ファンドのスキームはE意見書の内容に照らして明らかなとおり違法・不適正なものであり,そのために金融機関からの融資が受けられる可能性が極めて低いものであったにもかかわらず,被告リーパックが原告に対して本件ファンドへの出資勧誘を行い,上記のような本件ファンドを組成し,原告に本件出資をさせたことが,原告に対する不法行為を構成する旨主張し,また,被告レッドホースについては,被告リーパックに上記行為をさせ又は被告リーパックによる上記行為を幇助したことが,被告Y1については,被告レッドホースの代表取締役及び被告リーパックの事実上の代表取締役として被告リーパックに上記行為をさせ又は被告リーパックによる上記行為を幇助したことが,それぞれ原告に対する不法行為を構成する旨主張する。
イ そこで検討するに,まず,本件ファンドの組成段階において,原告と被告リーパックとの間にアレンジメント業務その他の業務に係る契約関係が成立していたものとは認め難いことは前記説示のとおりであるとともに,前記認定の事実経緯に照らせば,その組成に係る作業は,平成18年7月20日開催のJMOAの会員向けの説明会において用いられた説明資料が原告名義のものであったこと,原告が前記1(1)ア(カ)の公表を行ったこと,本件ファンドの名称が「エイムオーエス社宅ファンド」されたこと等からも明らかなとおり,原告が当時抱えていた社宅の確保という懸案事項の解決策として自らの出資を前提とした不動産ファンドの利用を構想し,その実現を目指して,被告Y1から紹介を受けた被告リーパックと共同して進めたものであり,被告リーパックにおいては出資者及びアセット・マネージャーとして収益及び報酬が得られることを期待してこれに協力したものとみるのが相当であって,原告が行った本件出資については,もともとその上記構想の当初の段階から原告においてその実行が想定されており,原告が本訴において主張するように被告リーパックの勧誘によって行われることとなったものであると認めることはできないところであるから,本件出資が被告リーパックによる勧誘によって行われたことを前提とする原告の前記主張は,その前提において失当であり,そうであれば,仮に,本件ファンドのスキームにつき何らかの違法・不適正な点があったとしても,そのことから直ちに被告リーパックが原告に対して不法行為責任を負うこととなるものではないというべきである。
ウ 加えて,原告が提出するE意見書の記載内容の要旨は別紙5のとおりであって本件ファンドのスキームの違法・不適正の点等に係る原告の上記主張に沿うものであるが,その内容は,不動産特定共同事業法及び宅地建物取引業法の各規定等についての一定の解釈を前提とするものであって,本件ファンドが原告における上記懸案事項の解決策としての構想に係るものであり,原告及び被告リーパックを除く出資者については当面JMOAの会員に限られることとされていたものとみられること等の前記認定事実から窺われる事情をも勘案すれば,E意見書の記載内容をもって直ちに本件ファンドのスキームが違法・不適正なものであったと断ずることは困難であるというべきであり,このことは,本件証拠上,Dを中心とした被告リーパックによる本件ファンドの組成に向けた実務的な作業の過程において,そのスキームの概要を本件スキーム①とすることを前提として,税理士(b会計事務所),弁護士(a法律事務所)による検証作業が行われ,あるいは,モルガン・スタンレー証券やその他の金融機関との間で本件ファンドに対する融資に関する協議や交渉が行われた中にあって,本件ファンドのスキームにつき違法・不適正である旨の指摘があったことが窺われないことからも明らかであるということができる。
なお,本件ファンドについては,平成19年6月にそのスキームが本件スキーム①から本件スキーム②に変更されているが,当該変更は前記1(1)イ(カ)の経緯によるものであると認められるところであって,当該事情は,上記説示を左右し得るものではない。また,モルガン・スタンレー証券が最終的に21億円の融資の実行に応じなかったことについては,本件証拠上,その経緯が判然としないものの,モルガン・スタンレー証券が,被告リーパックとの間における本件ファンドに対する融資に関する協議や交渉において,本件ファンドのスキームにつき違法・不適正である旨の指摘を被告リーパックに対して行った証跡が存しないことに加え,弁論の全趣旨により明らかな米国におけるいわゆるサブプライム・ローン問題の顕在化等の平成19年当時の経済情勢等をも考え合わせれば,モルガン・スタンレー証券が上記の融資の実行に応じなかったことや,被告リーパックがこれに代わる融資金融機関の確保に至らなかったことに係る事情も,直ちに本件ファンドのスキームに起因するものとは認め難く,上記説示を左右し得るものではないというべきである。
エ そうであれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の上記各主張は理由がない。
(2) 次に,原告は,被告リーパックについて,本件ファンドのスキームに対するモルガン・スタンレー証券からの融資が確実ではないにもかかわらず,それが確実である旨の虚偽の事実を述べ,原告に本件出資をさせたことが,原告に対する不法行為を構成する旨主張し,また,当該主張を前提として,被告レッドホース及び被告Y1も原告に対して不法行為責任を負う旨主張するところ,前記認定事実によれば,被告リーパックの代表取締役であるDにおいては,原告が本件出資を行った時点において,モルガン・スタンレー証券との間の協議の状況からして,モルガン・スタンレー証券から本件ファンドに対する21億円の融資が受けられることを確実視しており,本件出資前にAからその融資の実現につき問題がないかどうかを確認されたのに対し,タームシートの発行を受けているので大丈夫である旨を返答したことが認められるが,当該返答は,その時点におけるモルガン・スタンレー証券との協議の概況を伝えるものであり,その内容については直ちに事実と相違する部分を含むものとまでは認められないというべきである。そして,本件証拠上,他にDないし被告リーパックが原告に対して上記融資の確実性等につき虚偽の事実を述べたものとみるべき事情も窺われないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の上記各主張は失当であるといわざるを得ない。
(3) さらに,原告は,被告Y1及びDが被告リーパックにおける不動産ファンドの組成・運用に係る実績に関する虚偽の事実を述べて原告を勧誘し,原告に本件出資をさせたことが,被告らの原告に対する不法行為を構成する旨をも主張するが,そもそも本件出資が被告リーパックの勧誘によって行われることとなったものであると認めることはできないことは前記説示のとおりである上,被告リーパックの代表取締役であったDが不動産ファンドに係る知見を有し,被告リーパックが本件ファンドの組成に先立つ平成17年3月に別の不動産ファンドを組成して運用し,平成18年5月9日の清算結了に至るまでの間に合計配当率36.13パーセントの配当を行った実績を有していたものと認められることは前記1(1)ア(ア)のとおりであるところ,本件証拠上,上記の点に関して被告Y1又は被告Dが原告に対して虚偽の事実を申し述べたことは窺われないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の上記各主張は失当であるというほかない。
(4) 以上のとおり,原告の主位的請求は理由がない。
3 予備的請求①について
(1) 原告は,被告リーパックについて,本件ファンドのスキームが違法・不適正なものであり,そのために金融機関から21億円もの多額の融資を受けられる可能性がほとんどなかったにもかかわらず,何ら当該融資の確約がとれていない段階で,前記第2・2(2)オの社宅建設予定地の購入及び建設会社に対する社宅用建物の建設の発注を進めたことが,原告に対する不法行為を構成する旨主張し,また,当該主張を前提として,被告レッドホース及び被告Y1も原告に対して不法行為責任を負う旨主張する。
そこで検討するに,本件ファンドのスキームは金融機関から21億円の融資を受けることを想定して構築されていたものであるところ,本件ファンドに係るアセット・マネージャーである被告リーパックにおいては,モルガン・スタンレー証券から上記21億円の融資が受けられることを確実視し,それを前提として,その融資が現実に実行される前に,前記第2・2(2)オのとおり社宅建設予定地の購入及び建設会社に対する社宅用建物の建設の発注に係る作業を進めていたことは前記認定のとおりであるが,本件ファンドのスキームが違法・不適正なものであったと断ずることができないことは前記説示のとおりであるほか,被告リーパックとの交渉の過程においてモルガン・スタンレー証券が本件タームシートの発行に応じ,上記融資の実行に前向きの姿勢を示していたこと等の前記認定事実からすれば,本件ファンドに係るアセット・マネージャーとしての業務その他の本件ファンドの運営に係る業務に関して原告との間に直接の契約関係が存したものとは認められない被告リーパックの上記行為については,それが直ちに原告に対する不法行為を構成するとは解し難いところであって,この点に係る原告の上記主張は採用することができないというべきである。
(2) したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の予備的請求①は理由がない。
4 予備的請求②及び予備的請求③について
原告が予備的請求②及び予備的請求③として主張するところは,いずれも,原告と被告レッドホースとの間に本件委任契約①が,原告と被告リーパックとの間に本件委任契約②がそれぞれ成立したことを前提とするものであるが,本件証拠上,それらの成立の事実が認められないことは前記説示のとおりであるから,その余の点について検討を加えるまでもなく,予備的請求②及び予備的請求③については理由がないというべきである。
5 よって,原告の本訴各請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 藤倉徹也 裁判官 村井佳奈 裁判長裁判官相澤哲は,転補のため,署名押印することができない。裁判官 藤倉徹也)
〈以下省略〉
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