「営業アウトソーシング」に関する裁判例(46)平成26年 2月26日 東京地裁 平23(ワ)13586号 損害賠償等請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(46)平成26年 2月26日 東京地裁 平23(ワ)13586号 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成26年 2月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)13586号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA02268029
要旨
◆被告との間で物流業務委託基本契約を締結し、被告のアパレルブランド商品の入出荷業務等を受託していた原告が、被告に対し、被告から違法に本件基本契約を終了させられた、委託料金の料率を一方的に低下させられたと主張し、債務不履行又は優越的地位の濫用に基づき損害賠償を求めるとともに、同不法行為によって本件基本契約と不可分一体の関係にある被告からの借入金の支払を中止せざるを得なくなったから、当該貸金債務は消滅した等と主張して当該貸金債務の不存在の確認を求め、また、経営・技術指導料名目で被告に支払った本件指導料について原被告間に返還合意があったと主張し、本件指導料の返還を求め、さらに、原被告間には原告の創業時の損失を被告が填補する旨の合意があったと主張し、原告の創業時の損失の支払を求めた事案において、原告の主張をいずれも否定し、請求を棄却した事例
参照条文
民法1条2項
民法1条3項
民法415条
民法588条
民法709条
民法710条
裁判年月日 平成26年 2月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)13586号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA02268029
福島県須賀川市〈以下省略〉
原告 株式会社サンエーインダストリー
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 鈴木輝雄
東京都世田谷区〈以下省略〉
被告 株式会社サンエー・インターナショナル
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 野村晋右
同 伊藤弘隆
同訴訟復代理人弁護士 神尾大地
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,5億5256万8429円及びこれに対する平成23年6月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,原告との間の平成14年5月31日付けの7000万円の消費貸借契約に基づき,平成22年12月1日以後,元利金の返還請求権を有しないことを確認する。
第2 事案の概要
1 本件は,被告との間で,平成14年5月28日に物流業務委託基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結し,被告のアパレルブランド商品の入出荷業務等を受託していた原告が,被告に対し,(1)被告から,①違法に本件基本契約を終了させられた,②委託料金の料率を一方的に低下させられたと主張し,債務不履行又は優越的地位の濫用(不法行為)に基づき4億4406万0895円の損害賠償を求める(請求1)とともに,(2)経営・技術指導料名目で被告に支払った1200万円(以下「本件指導料」という。)について,原被告間に返還合意があったと主張し,同合意に基づき,本件指導料の返還を求め(請求2),(3)原被告間には原告の創業時の損失を被告が填補する旨の合意(以下「本件損失填補約束」という。)があったと主張し,本件損失填補約束に基づき,原告の創業時の損失9650万7534円の支払を求め(請求3),(4)上記(1)の不法行為によって,本件基本契約と不可分一体の関係にある被告からの借入金7000万円の支払を中止せざるを得なくなったから,当該貸金債務は消滅した等と主張し,当該貸金債務の不存在の確認を求める(請求4)事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,又は後掲の証拠若しくは弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告
原告は,原告代表者と被告の当時の代表取締役であったC(以下「C」という。)等によって,アパレル縫製事業を被告と共同して行うために昭和62年4月6日に設立された,婦人服の製造,販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告
被告は,昭和24年8月13日に設立された,婦人服・紳士服・子供服・服飾品の企画,製造及び販売を主たる目的とする株式会社であり,平成15年9月24日に東京証券取引所第二部に上場した。
(2) 原告の事業開始
原告は,設立後,被告の自家縫製工場という性格を有するものとして,被告が企画したブランド衣料品の縫製加工等を主たる業務とし,その事業を開始した(甲37,141,弁論の全趣旨)。
(3) 経営・技術指導契約の締結等
原告は,被告との間で,平成8年10月1日,被告が原告に対して経営及び被告の発注製品に関する技術指導を行い,原告が被告に対して当該経営及び技術指導の報酬として年間1200万円を支払う旨の契約(以下「本件指導契約」という。)を締結し,被告に対し,平成9年9月8日と平成10年9月18日に各600万円の合計1200万円の本件指導料を支払った(甲37ないし40,弁論の全趣旨)。
(4) 本件基本契約の締結・内容等
原告は,被告との間で,平成14年5月28日,次の約定を含む平成13年12月1日付け本件基本契約(甲7の1)を締結するとともに,覚書(甲7の2)を取り交わした。
ア 被告は,本件基本契約3条1項で定める物流業務(以下「本業務」という。)を原告に委託し,原告はこれを受託した。原告は,本業務が被告の物流システム上,重要な業務であることを認識し,誠意をもってこれを遂行する。(1条)
イ 被告と原告は,この約定の基本前提となるパートナーシップにつき,以下のとおり確認する。(2条。以下「パートナーシップ条項」という。)
(ア) 被告と原告は,原被告間の取引が相互の信頼に基礎を置くものであることを認識する。
(イ) 原告は,善良なる管理者の注意をもって業務の遂行に当たり,被告の指示には誠意をもって対応し,迅速・正確かつ安全確実に約定を履行する。
ウ(ア) 被告が原告に委託する本業務の内容は以下のとおりとする。(3条1項)
a 被告の商品に関わる入出荷業務
b 百貨店用値札の作成及び取付業務
c 別途被告が定める業務
(イ) 被告が原告に本業務以外の業務を委託する場合は,その内容及び委託料金等について,原被告協議の上決定する。(3条3項)
エ(ア) 本業務に対する原告の委託料金は,別途覚書で定める金額とする。(7条1項)
(イ) 委託料金について異議があるとき,又は経済情勢等の著しい変化のあったときは,原被告協議の上,これを改定することができる。(7条2項)
(ウ) 別途覚書で取り決められた内容に変更が生じたときは,原被告協議の上,変更の内容に応じて委託料金の改定をするものとする。(7条3項)
(エ) なお,覚書(甲7の2)では,委託料金につき次のとおり定められている(以下,この委託料金の算出方式を「枚単価方式」という。)。
a 対象事業部 ヴェールダンス事業部(ヴェールダンスとは,原告の物流取扱商品のブランドの一つである。)
b 出荷手数料 70円/点
c 坪単価 6500円/坪
オ 本件基本契約の有効期間は,平成13年12月1日から平成16年11月30日までの3年間とする。ただし,「本件基本契約を維持できない特別な条件変更」(以下,この文言を示すときは,単に「「特別な条件変更」」という。)が生じない限り,同一条件により更に3年間自動的に延長されるものとし,以後同様とする。(11条。以下,この条項を「本件期間条項」という。)
カ(ア) 被告又は原告が本件基本契約の一部又は全部において不履行を行った場合若しくは本件基本契約を円滑に遂行することを困難ならしめる事態を生じさせた場合,被告又は原告は,相手方に業務の完全な履行を求めることができる。この場合,被告及び原告は,本件基本契約2条に定めるパートナーシップの精神を相互に尊重し,業務の完全な履行のために必要な事項及び履行期限を書面にて確認する。要請を受けた相手方当事者は,当該書面の定めに従い履行期限までに業務の完全な履行を行うものとする。(13条1項)
(イ) 契約初年度取引の年間売上の基準値として,その50%以下になった場合,被告及び原告は,速やかに事業の回復に向けで協議し,誠心誠意をもってこれに当たる。(13条2項。以下,同条1項と併せて「業務支援条項」という。)
(5) 原被告間での準消費貸借契約の締結に至る経緯等
ア 1億5000万円の支払方法についての原被告間における平成14年5月10日の合意
被告は,原告が設立された昭和62年4月6日頃,原告に対し,後に弁済を受けることを前提に,3億8384万5050円を交付した。原告は,被告に対して同金員を少しずつ弁済しており,平成14年2月頃の時点では,その残高は1億5000万円となっていた(以下「本件残金1億5000万円」という。)ところ,同年5月10日,被告との間で,今後の予定として,本件残金1億5000万円のうち8000万円については,三永事業協同組合(以下「三永組合」という。)が商工組合中央金庫(以下「商工中金」という。)から借り入れて原告に転貸する1億6000万円(以下「三永組合借入金」という。)の一部をもって弁済し,他方,残り7000万円(以下「本件7000万円」という。)については,被告との間で準消費貸借契約を締結し,10年間の据置期間経過後に5年間の分割均等払により弁済していくことに合意した。なお,その際,三永組合借入金については,10年間の元金均等弁済をすることとした。(乙21,弁論の全趣旨)
イ 原被告間での準消費貸借契約の締結
原告は,上記アの予定どおり,本件7000万円について,被告との間で,平成14年5月31日,同額をもって消費貸借の目的とし,次のとおり合意した(以下「本件準消費貸借契約」という。)。
(ア) 弁済方法 平成24年6月13日から平成28年10月まで毎月13日限り各130万円
平成28年11月14日限り110万円
(イ) 利息 年2.1%(ただし,長期プライムレートに従い変動する。)
(ウ) 利息の弁済期
平成14年8月13日から平成24年5月13日まで
毎年2月,5月,8月及び11月の各13日
平成24年6月13日から平成28年11月14日まで
毎月13日
ウ 三永組合借入金について
上記アの予定のとおり,三永組合は,商工中金から,平成14年5月31日,1億6000万円を借り入れ,これを原告に対して次の約定で転貸し(甲15),原告は,うち8000万円を,同日,被告に対する本件残金1億5000万円の一部弁済に充てた。
(ア) 弁済方法 同年6月13日から平成24年4月13日まで,毎月13日限り133万円
平成24年5月13日限り173万円
(イ) 利息 年2.1%(ただし,三永組合の商工中金からの借入利率に連動して変更する。)
(ウ) 利息の弁済期
借入日に平成14年6月13日までの利息を支払い,以後毎月元金弁済日にその弁済日の翌日から次の元金弁済日までの利息を支払う。
(6) 物流取扱商品の新たな指定及び委託料金の設定・変更
ア 被告は,平成18年7月,原告の本業務の取扱商品として,ユニックパーヴェールダンスというブランドを新たに指定したところ,その委託料金は,原告が入出荷の物流業務で取り扱った商品の毎月の総売上金額に対する3.4%の料率で算出することとされた(以下,委託料金を総売上金額に対して料率で算出する方式を「料率方式」という。)。
イ ヴェールダンスの委託料金は,平成19年3月,それまでの枚単価方式から料率方式に変更され,その料率は,運賃・梱包代込みで4%とされた(以下「平成19年変更」という。)。
ウ 被告は,原告に対し,平成21年5月20日,本件基本契約の委託料金について,ヴェールダンスの料率を4%から2.5%に,ユニックパーヴェールダンスの料率を3.4%から2.3%に,それぞれ変更する旨を要請した(弁論の全趣旨)。
そして,同年9月1日以降の委託料金について,上記の料率に変更された(以下「平成21年変更」という。)。
(7) 本件基本契約の終了に至る経緯
ア 平成22年7月における原被告間の交渉
(ア) 原告は,本件基本契約の被告の担当責任者であるD取締役生産本部長(以下「D」という。)に対し,平成22年7月2日付け文書(甲47)をもって,平成21年9月以降,激減した売上げに対して速やかな業務支援(物流の量の補填,枚単価への変更)による回復を再三要請してきたが,具体的な回答がないことを述べた上で,本件基本契約13条1項の状況が発生しているので,「業務の完全な履行のために必要な事項及び履行期限」について,具体的にどう遵守するのかを平成22年7月9日までに文書で回答するよう要請した。
(イ) これに対し,被告は,同日付け申入書(甲48)をもって,①同年4月27日,同年5月18日及び同年6月9日の3回にわたる原告との面談にて,本件基本契約締結時と比べて,現状は,日本経済及び業界の環境並びに被告を取り巻く経営事情がそれぞれ劇的に変化し,被告では希望退職,事業撤退,本社移転等あらゆる経営努力を重ねてきたものの,客観的にみてもはや本件基本契約の維持継続が不可能である旨,事例を挙げて繰り返し説明してきたこと,②その上で被告は,長年にわたる原告との関係に最大限配慮し,上記面談の際,新たな物流業務委託契約(以下「新契約」という。)への切替を提示したこと,③未曽有の厳しい環境にあるのは原告を含む業界共通のことであり,原告においても,今後,経費削減を自ら図るなど特段の経営努力に取り組んでいくものと拝察しているので,時代の趨勢と現状を冷静に賢察し,速やかに新契約の締結に同意するようお願いすること,④本件基本契約は,同年11月30日をもって終了とするが,同年8月31日までに新契約の締結に至らない場合,同年11月30日以降は,被告のニーズ発生の都度,原告に対し個別に発注し,業務内容も対価もその都度交渉する形態になることを伝えた。
イ 平成22年8月における原被告間の交渉
(ア) 原告は,平成22年8月10日付け通知書(甲49)をもって,被告の上記ア(イ)の申入れは,「特別な条件変更」が発生していないのに本件基本契約を期間満了で終了させようとするものであり,「特別な条件変更」が発生していない以上,本件基本契約は同一条件により更に3年間自動的に延長される見通しであると認識していることを述べるとともに,被告が一方的に改定した料率では三永組合借入金及び本件準消費貸借契約に基づく借入金の返済資金を捻出できない程の売上状況となり,業務支援条項の定める場合に該当するとして,業務委託の物流量が年計60億円となる事業部門の設定,枚単価40円相当額の委託料金の改定及びその履行期を同年9月1日からとする旨の文書による回答を同年8月31日までにするよう要求した。
(イ) これに対し,被告は,同月24日付け文書(甲50)をもって,①上記ア(イ)で述べたのと同様の経営事情の劇的変化等の状況において,事業の継続のためには,これ以上本件基本契約を同一条件で継続することはできず,「特別な条件変更」に該当し,本件基本契約の更新をすることができないので,平成22年12月以降の取引内容として新契約の受諾を検討されたいこと,②被告が一方的に料率を変更したという事実はなく,被告全体の物流費比率と比べて原告の担当商品の物流費比率が高かったことから,原告に料率の引下げを要請し,原告から費用削減が可能であるとの回答があったことを受けて合意したものであり,その際,原告の負担を軽減するため,それまで原告が負担していた原告から被告までの商品の運賃を被告が負担することとしたことなどを伝えた。
ウ 新契約案の内容
被告が原告に提示した新契約の契約書案及びその委託料金等を定めた覚書案(甲50)は,業務内容については本件基本契約とほぼ同じであり,委託料金の料率については平成21年変更と同じであるが,パートナーシップ条項及び業務支援条項に相当する条項がなく,また,契約期間が次のとおりの内容となっている。
契約の有効期間は,平成22年12月1日から平成23年11月30日までとする。ただし,期間満了6か月前までに原被告いずれからも何ら意思表示がないときは,同一条件により更に1年間延長されるものとし,以後も同様とする。
エ 本件基本契約の終了
その後も原被告間で交渉が行われたが,議論は平行線をたどり(甲51,52),被告は,原告に対し,平成22年10月26日付け文書(甲53)をもって,本件基本契約が同年11月30日に終了すること及びそれに伴う最終の入出荷日,最終の棚卸日及び商品の在庫移管日を通知した。
この通知に対し,原告は,同月4日付け文書(甲54)をもって,抗議の申入れをし,善処するよう求めたが,被告は,上記通知の日程のとおりに作業を行い,本件基本契約は,同日,終了した。
3 争点及びこれについての当事者の主張
(1) 「特別な条件変更」の意義(争点1)
(原告の主張)
ア 被告の代表者であったCは,自社の生産部門を合理化する目的で,原告代表者を三顧の礼でヘッドハンティングして,売り場の情報と連動する一気通貫の生産システムを被告のいわゆる自家工場として構築することを委託し,パートナーシップで縫製加工業の共同事業をすると約束していたにもかかわらず,自家工場による物づくりの理念を一方的に放棄し,自社の機構改革の一環として原告の物流センター化構想を示し,原告との共同事業の構造を生産から物流に再構築させる政策を進め,本件基本契約の締結に至らしめた。
イ 本件期間条項の作成経緯は,概ね以下のとおりである。
原告は,被告から,平成14年4月17日に草案(甲63)の提示を受けたが,同草案では,契約期間3年,自動更新期間3年となっていたので,自動更新条項につき「特別な条件変更」が生じない限りという文言を加えるよう求めた。また,原告は,被告に対し,同月19日付け修正案(甲134,乙10)において,契約期間10年,自動更新期間3年を提案したが,被告はこれに応じなかったことから,その際にも,上記文言を加えるよう求めた。
ところが,被告は,同年5月24日付けの草案(甲64)においても,同月27日午後3時2分にFAX送信した草案(乙11)においても,上記文言を加えず,同日午後6時21分にFAX送信した草案(甲65)においては「特別な条件変更があると判断しない限り」という微妙な表現で修正をしてきた。そこで,原告は,「特別な条件変更が生じない限り」という文言にするよう被告の担当者に要請したところ,同月28日,同担当者から,当該文言で上司の決裁を得た旨の連絡を受けたことから,同担当者と面談し,本件基本契約の確認事項を記載した原告代表者作成に係るメモ(甲8の黒字部分)を1部交付し,当該文言に該当する具体的事例が根本的な社会変革や倒産であることを相互に確認し,そのことを当該メモに赤字で記入した(以下,当該メモの黒字部分及び赤字部分の全体を「本件メモ」という。)。
なお,被告は,同年4月上旬,契約期間1年,自動更新期間1年とする契約書案(乙7)をドラフトしたのに対し,原告が,同月10日,契約期間10年,自動更新期間5年とする修正案(乙8)を提示した旨主張するが,否認する。同月10日頃まで,原被告間での契約締結交渉は決裂しており,そのようなやり取りがあったはずがない。
ウ 原告が本件期間条項に「特別な条件変更」という文言を付したのは,原告の創業以来,被告は政策変更期ごとに共同事業の基本構造又は業務体制やその運用プロセスの基本軸を大きく変更する政策決定をし,原告に対して著しい不利益を与えてきた経緯があったので,本件基本契約においては,被告の都合や必要によって一方的に行われる組織の再編成や業務システムの改革などによって原告が不利益を受けることを阻止するためであった。
また,原告は,本件基本契約が本件残金1億5000万円の返済財源を生み出すものであることから,本件基本契約の有効期間は,本件残金1億5000万円の返済期間と見合い,これと連動連結するものでなければならないとする姿勢を貫いていた。すなわち,原告は,被告に対し,平成14年4月9日,本件残金1億5000万円を15年かけて償還するという計画と,その財源となる本件基本契約とを同時に作成する必要がある旨意思表明し,被告も,この償還計画に沿って手続を進めるとともに,原告の意向に配慮した本件基本契約のドラフトを作成して同月18日までに原告にFAX送信するなど,両者を並行して進める旨意思表明し,原被告間では,本件基本契約が少なくとも15年間は存続する方向で交渉が進められた。そして,結局,本件基本契約の有効期間については,本件残金1億5000万円の償還期間である15年間を前提に,契約の自動更新を阻止できる条件を付款するほかないという結論に至り,「特別な条件変更」が生じない限り本件基本契約は自動更新されることになったものである。
エ 以上によれば,「特別な条件変更」とは,被告の契約交渉担当者が根本的な社会変革や倒産を具体的事例として考えていたように,被告が原告との間の物流業務を廃止しないと被告自身の企業維持ができなくなる程度の出来事が発生した場合をいうと解すべきである。
(被告の主張)
ア(ア) 本件期間条項の作成経緯は,概ね以下のとおりである。
まず,被告は,平成14年4月上旬,契約期間1年,自動更新期間1年とする最初の契約書案(乙7)をドラフトしたのに対し,原告は,同月10日,契約期間10年,自動更新期間5年とする最初の修正案(乙8)を提示した。
被告は,契約期間10年はあまりに長過ぎると考えて,同月15日,契約期間3年,自動更新期間3年とする第2次の契約書案(乙9)を提示した。これに対し,原告は,同月19日,契約期間10年,自動更新期間3年とする第2次の修正案(乙10)を提示した。
被告は,やはり契約期間10年では到底呑めないと考え,同年5月27日,第2次の契約書案と同じ案(乙11)を再度提示した。これを受け,原告代表者は,同月28日,契約期間3年に応じるとした上で,「特別な条件変更」が生じない限り自動更新されるという内容の修正案を提示した。
「特別な条件変更」という文言は一般的ではなかったため,被告は,当初,この修正案を拒否する旨述べたが,協議をする中で,原告代表者も,3年間で一応契約が切れることは理解しているようであること,上記文言にしても,上記交渉経緯からも分かるとおり,契約期間10年ではさすがに折り合えないことを前提とした上での妥協案であること等に鑑みて,被告は,上記文言が特に狭く解釈されるべきものではないと考え,原告の修正案に応ずることとした。
(イ) 以上の本件期間条項の作成経緯に照らせば,「特別な条件変更」とは,業界の環境変化や契約当事者を取り巻く経営事情,社会経済的な事情の変化等によって本件基本契約を維持し難い状況が生じた場合を広く含み得ると解すべきである。
この点,原告の最初の修正案にしても,10年の経過により,被告が意思表示をすれば,契約が終了することは認めているのであり,そこを一方の出発点として妥協点を模索する交渉を行ったのであるから,少なくとも10年間を超えて契約の継続性が保証されるような強い拘束性が前提とされていないことは明らかである。
イ(ア) 原告は,被告の代表者であったCが,創業時のパートナーシップによる物づくりの理念を一方的に放棄し,自社の機構改革の一環として原告の物流センター化構想を示し,本件基本契約の締結に至らしめた旨主張するが,否認する。
原告は,被告の自社工場として創業したものの,原告が,①平成9年10月8日に被告の反対を押し切って隣接地を購入し,②平成12年7月4日に550万円の増資を行い,原告代表者らが合計110株を引き受けた結果,原告代表者らの原告に対する持株比率が従来の50%から60.8%へと増大し,原告代表者が独立して経営権をコントロールする関係へと移行し,さらに,③平成13年10月30日に被告側に無断で原告から被告側役員全員を退任させる旨の株主総会決議をしたことによって,本件基本契約の締結時には,原被告間の創業時のパートナーシップは完全に変容・崩壊し,過去のものとなっていた。
(イ) 原告は,本件基本契約は,本件残金1億5000万円の返済財源を生み出すものであるから,その返済期間と見合い,これと連動連結するものでなければならない旨主張するが,否認する。
被告は,原告に対し,平成14年4月26日,物流業務委託契約と金銭準消費貸借契約とは別個独立の契約であり,別々の問題として議論されるべきであることを伝えている。
ウ(ア) 原告は,平成14年4月17日付けの草案(甲63)で,「特別な条件変更」が生じない限り自動更新される旨の修正案を提示した旨主張するが,否認する。同草案の裏面には,原告代表者による「②特別な条件変更がない限り」との殴り書きがあるが,その上の「①3年で切れること前提ではダメ」との記載,同頁最下部の「うちはやめる様に●●しまう(●●は解読不能)」との記載等と照らし合わせてみても,これは,あくまで原告代表者が被告との協議の前後で考えた交渉上の留意点・願望・方針を書き留めたメモにすぎないというべきである。
(イ) 本件メモ(甲8)には,「特別な条件変更」につき,赤字で「一般的には根本的な社会変革…倒産」と記載されているようであるが,これはあくまで,原告代表者が自らの解釈を面談後に書き留めたにすぎず,被告がこのような解釈に同意した事実はない。
本件メモには,上半分左側に黒字で「③特別な条件変更とはどんなこと」等の交渉上の論点・検討事項が,右側に黒字で括弧書(括弧内はブランク)が記載されていることから,本件メモの黒字部分は,原告代表者が被告との協議前に交渉上留意すべき点や検討事項等を整理するために書いたものであり,他方,その赤字部分は,原告代表者が面談後に自身の思いや解釈・考え方を反省がてら書き留めたものであると考えられる。仮に,「特別の条件変更」が,上記の赤字部分の記載のような極限的な場合以外は自動更新されるという理解が原告代表者から示されたのであれば,被告は,これを即座に拒絶したであろうことは疑いない。
(2) 本件基本契約の終了に関する被告の違法性の有無(争点2)
(原告の主張)
ア 本件基本契約の終了は,被告による本件期間条項に仮託した物流体制改編の政策的企図によるものであること
被告は,ロジスティクス体制の政策変更によって,被告と各物流センターとの間の契約内容の統一化・委託料金の平準化政策を推進し,本件基本契約に内在する重要な規範に反し,本件基本契約の終了という非倫理的事態をもたらした。
すなわち,被告は,平成20年2月14日,ロジスティクス体制改革の基本方針を決定して,各物流センターとの契約内容の統一化政策,委託料金体系の平準化政策を段階的に実行していくことを決定し,この後,本件基本契約を他の物流センターとの間の契約内容と統一化し,物流委託料金の平準化政策を推進し,平成22年5月27日には,株式会社サンエー・プロダクション・ネットワーク(以下「サンエー・ネットワーク」という。)を設立し,被告の生産・物流機能を集約し,商品調達能力の向上や一層の業務の効率化を図った。その後,被告は,原告に新契約の案を提示し,これを容認しなければ本件基本契約を終了させる意思を示し,もって原告の物流業務を業務再編の対象とし,本件期間条項の「特別な条件変更」に該当していなかったにもかかわらず,同年11月30日には本件基本契約を終了させ,その政策的企図を実現した。
このように,被告は,本件期間条項に仮託して,本件基本契約を他の物流センターとの物流契約の内容と同一にしてこれらを統一化し,原告の物流センターの特性を無視してその委託料金を他の物流センターと平準化し,もって,物流業務の全体像を容易に把握できるようにして物流センター間の競争を促進し,物流コストを削減する政策を実施しようとしたが,原告がこれに応じなかったために,本件基本契約を終了させたのである。
イ 「特別な条件変更」に該当する事由が発生した旨の被告の主張に対する認否・反論
(ア) 本件基本契約の期間満了当時(平成22年11月30日),アパレル業界全体が不況であったか,被告の経営状態が大幅に悪化していたか,それはアパレル業界全体の不況のあおりを受けたからなのかについては,いずれも不知。
被告単体の経営状態は,第55期(平成16年8月期)から第61期(平成22年8月期)まで,営業利益も経常利益も黒字を続けていたのであって,被告は継続的に収益力のある会社である。なお,第60期(平成21年8月期)の連結営業利益は,営業外の一時的な特別損失である店舗等除却損失によって経常損失になったものであり,被告単体では店舗除却損失を吸収して経常利益が出ている。被告単体の損益状況の特徴は,関係会社整理損失,ブランド整理損失,投資有価証券評価損失等の一時的な特別損失によって本業の営業利益を減殺していることにある。
また,本件基本契約の満期時直近の第61期(平成21年9月1日から平成22年8月31日まで)の被告の財産及び営業状態に特別問題とすべき点は見当たらず,経常利益9億8700万円があり,株主への剰余金の配当も,利益配分の基本方針に沿って行われている。この決算期においても,投資有価証券評価損,関係会社整理損,希望退職関連費用,本社移転費用という一時的な特別損失が発生しているが,会社の継続的収益力に問題があるものではない。経常利益をこのような特別損失によって税引前の損益を出す点は,税務対策等の被告内部の経営政策によるものであり,このような事情を原告の不利益に転嫁して「特別の条件変更」に当たる事由とすることは不当である。
(イ) 被告が希望退職,事業撤退,本社移転等の経営改善努力を積み重ねたという事実の具体的内容は不知。
被告は,日常的ないし決算期ごとに希望退職,事業撤退を行っており,したがって,これらの事柄は「特別な条件変更」に当たるとはいえない。また,本社移転は,賃料が安いとか,部屋のスペースが広いとか,今の場所より便利である等によりこれまでも行われてきたことで,これらも「特別な条件変更」に当たる事由とはいえないし,アパレル業界の景況は織込み済みのはずである。
(ウ) 本件基本契約に基づいて被告が原告に支払っていた委託料金は,被告の売上高の0.1%程度にすぎないから,本件基本契約を廃止しなければ被告の事業継続ができなくなるなどという関係にはない。
ウ 被告が業務支援条項に違反したこと
被告は,本件基本契約上,委託料金は当事者双方の協議により合意で改定されるとされていたにもかかわらず,当該委託料金を原告の承諾を得ることなく一方的に改定した。そして,原告が,被告との力関係から,やむなく,この一方的な改定後の委託料金で業務を遂行したところ,平成21年末には,原告の同年9月1日以降の年間売上げが対前年比50%以下に落ち込む見通しとなり,三永組合借入金の分割弁済の履行が困難な状況に陥った。そこで,原告は,被告に対し,同年末から翌平成22年3月頃にかけて,業務支援条項に基づき,再三,委託業務の物流量の補填,委託料金の変更,三永組合借入金の返済条件の見直し等により速やかに原告の事業の回復に向けて協議する義務を尽くすことを求めたが,被告は全くこれに応じず,仕方なく原告は,同年8月10日付け通知書(甲49)により,委託料金を変更前の料金で計算することなどを要求したが,被告はこれも無視した。
以上の被告の行為は,業務支援条項に違反する債務不履行であると同時に,原告にとって著しく不利益な条件での新契約締結の申込みであっても原告が承諾せざるを得ないと判断した上での不公正な取引方法であり,優越的地位の濫用である。
(被告の主張)
ア 本件基本契約の終了が,被告による本件期間条項に仮託した物流体制改編の政策的企図による旨の原告の主張に対する認否・反論
原告は,被告が,本件期間条項に仮託して,物流コストを削減する政策を実施するために本件基本契約を終了させた旨主張するが,否認する。
被告は,平成20年2月14日付けで「ロジスティクス体制改革案」(甲149)を策定したが,同改革案は,被告の物流環境・物流業務の現状分析を前提に,第1フェーズと第2フェーズに分けて,物流業務の合理化・効率化,物流コストの削減など,被告の全社的な課題とこれに対する取組み方針について述べたものである。また,被告が,同改革案の策定以降,全ての取引先の物流業者を対象として新たな契約の締結を含む物流業務の合理化・効率化策を推進したこと,平成22年5月27日に,サンエー・ネットワークを設立し,被告の生産・物流機能を集約し,商品調達能力の向上や一層の業務の効率化を図ったことは認めるが,サンエー・ネットワークは,それまで被告内に存在した一つの部署(生産・物流業務のオペレーションを一元化し,現在及び将来の生産・物流コストを削減するための検討を行うことを目的とする部署)をそのまま外に切り出して分社化したものであり,被告グループ内の組織再編(機能移転)であるから,原告の物流業務に何ら有意な影響を与えるものではない。
本件基本契約が終了したのは,後記のとおり,アパレル業界の環境及び被告を取り巻く経営事情が劇的に変化して「特別な条件変更」に該当する事由が発生し,もはやこれ以上,本件基本契約を同一条件で継続することができなくなったためであり,原告主張のような被告の政策ないし政策変更の結果ではないし,本件期間条項に仮託したものでもない。
イ 「特別な条件変更」に該当する事由の発生
(ア) 平成19年以降,景気の悪化及び海外企業との競争激化等に伴うアパレル業界全体の不況のあおりを受けて,被告の業績は急激に悪化し,経常利益ベースで見ると,平成18年8月期の80億2100万円が,平成19年8月期には74億7500万円,平成20年8月期には55億8100万円,さらに平成21年8月期には5億2500万円のマイナスに転落した。
被告は,この劇的な変化に対応するために,経費削減,希望退職,事業撤退,本社移転等の考え得る経営改善努力を積み重ねた。すなわち,抜本的なリストラ策として,①平成21年5月には大幅な経費の削減(販売管理費を7億3700万円削減し,前年同月比93.5%となった。)をし,②同年8月に不採算店舗の撤退(同月期に223店舗を退店し,平成22年8月期には152店舗を退店した。これらの退店は,大規模かつ断固として実行されたもので,百貨店から苦情や反発を招くほどであった。)をし,③同年5月には希望退職の募集・実行(従業員88名が退職し,これによる年間人件費削減総額は約5億円である。)をし,④平成23年3月にはより賃料の低いビルに本社を移転させるなどした。もっとも,それでも本件基本契約をそのまま維持継続することはできない状態にあった。
したがって,平成22年11月30日の時点において「特別な条件変更」が生じた場合に該当し,本件基本契約は同日をもって適法に終了している。
(イ) 被告が単体ベースの営業利益・経常利益でみると,マイナスになっていないこと自体は認めるが,被告のような上場グループ会社については,金融商品取引法上,損益状況の開示は連結ベースで行うものとされているから,本件においても,基本的には連結の数値を問題とすべきである。また,営業利益ベースでマイナスというのは,再生可能性すら疑義のある状況を意味するのであり,殊に被告グループ会社のような上場会社について,営業利益や経常利益が僅かでもプラスか否かで経営状態の健全性を議論すること自体が的外れである。被告グループ会社の連結の当期純利益が第58期以降大幅に悪化していることは一見して明らかであり(第60期には経常利益・当期純利益ともにマイナスに陥っている。),これが経営状況の大幅な悪化(緊急事態というべきレベルの経営不振)に当たることは論を俟たない。
なお,被告が日常的ないし決算期ごとに希望退職,事業撤退を行っていた旨の原告の主張は根も葉もない話であり,経営を効率化するために当然に行われるべき日常的な経営施策としての組織変更等と,経営状況の著しい悪化を受けて行われる抜本的なリストラ策とは厳に区別されなければならない。
ウ 業務支援条項の違反がないこと
原告は,被告が業務支援条項に違反した旨主張するが,同条項の文言から,委託物流量の填補や委託料金の料率の変更に応ずべき義務を被告に課すことなど到底できない。
業務支援条項のうち,本件基本契約13条1項は,いずれかの当事者に,契約の一部又は全部において不履行を行ったとか,契約を円滑に遂行することを困難ならしめる事態を生じさせたといった落ち度等がある場合に,パートナーシップの精神を尊重して,両者で必要な事項を確認して実施すべきとの規定であり,経営環境の変化等のやむを得ない外部的事情によって委託料金が減少したような場合を想定した規定ではなく,本件は,同項の定める場合には該当しない。仮に,上記の落ち度等がない場合に同項により求められる義務が何らかあるとしても,「業務の完全な履行のために必要な事項」にはおのずと限界と制約があるといわざるを得ず,少なくとも,原告の主張するような,どのような経営環境・業況にあろうとも,被告が業務委託量を確保したり,委託料率を変更したりして原告の面倒をみることが「業務の完全な履行」に当たらないことは,業務支援条項の文言上明らかである。
また,同条2項は,当事者の売上が契約初年度取引の年間売上の50%以下となった場合に,速やかに事業の回復に向けて協議することを定めているが,本件においては原被告間で4回にわたり誠心誠意協議が行われており,被告には当該義務の不履行はない。
つまるところ,原告は,創業当時のパートナーシップなる曖昧模糊とした理念にすがりついて,いつまでも被告に依存した「おんぶに抱っこ」の経営を継続したいとの過度に甘い希望を持ち続けていたにすぎず,原告が業務停止に至った原因は,アパレル物流業界の経営環境が年々厳しくなっていた上,被告から再三助言を得ていたにもかかわらず,原告が,これらを無視して合理的な経営努力を何ら行わず,被告のみに依存しきった経営を安穏と継続してきたこと,本件基本契約の終了に至る交渉過程において,被告と新契約を締結する機会が再三あったにもかかわらず,これを無視し,被告との取引継続という選択肢を自ら放棄したことにあるというべきであって,被告に原告主張の優越的地位の濫用はない。
(3) 平成19年変更及び平成21年変更が原被告間の合意に基づくか否か(争点3)
(被告の主張)
ア 平成19年変更について
本件基本契約に基づくヴェールダンスの委託料金は,当初,枚単価方式で1点当たり70円と定められたが,この金額は,被告における通常の出荷手数料が1点当たり50ないし60円であるのと比較して高く,原告に非常に有利な内容であったことから,平成19年初旬頃,被告の事業部から,原告の委託料金は他の物流会社と比較して高額に過ぎ,アンバランスではないかとの意見が出るようになった。そこで,被告は,原告に上記事情を説明し,協議した上で,同年3月,ヴェールダンスの委託料金を被告の総売上金額の4%とする料率方式に変更した。
なお,被告が原告に支払った委託料金は,第57期(平成17年9月1日から平成18年8月31日まで)は1億3647万3302円,第58期(同年9月1日から平成19年8月31日まで)は1億9204万2627円,第59期(同年9月1日から平成20年8月31日まで)は2億8294万2943円と,平成19年変更後においてむしろ増加しているのであり,変更後の委託料金が,原告に一方的に不利益,不合理なものではない。
イ 平成21年変更について
平成21年当時,被告が原告に物流業務を委託していたヴェールダンス,ユニックパーヴェールダンスの物流費比率(被告の売上高に占める物流コストの比率)は,第60期(平成20年9月1日から平成21年8月31日まで)において4.52%であり,被告が業務委託している原告以外の物流会社(他ブランド)の物流費比率平均2.78%と比較すると,非常に高かった。
そこで,被告は,原告の委託料金を再度変更する必要があると考え,被告のDらは,同年5月20日,原告代表者と面談し,被告の経営状況が厳しいことを直近の中間決算資料をベースに説明し,被告が全社を挙げて人件費等の経費削減を含む経営努力を可能な限り行っていることを述べるとともに,原告への委託料金が他の物流業者と比較し非常に高いことを説明し,原告への委託料金を他の物流業者並に引き下げることに協力して欲しい旨要請した。これに対して,原告代表者は,利益を計上して納税するよりも委託料金の引下げ等の形で被告に還元したいとの意向であり,被告の申入れ内容は厳しいが,社内で検討して回答する,4000万円くらいの削減であれば頑張れると思うなどと述べて,委託料金の引下げに協力するとの態度を示した。そこで,原告と被告は,具体的な料率は現場で調整することとして,原告の売上高を昨期より4000万円削減した額(約1億3100万円)として,そこから逆算した数字をベースとした新料率で翌期(同年9月以降)の業務を行うことで合意した。このようにして,ヴェールダンスの新料率が2.5%,ユニックパーヴェールダンスの新料率が2.3%ということで比較的すんなりと話が付き,双方納得して委託料金を改定した。このことは,同年7月2日,原告のE(以下「E」という。)が,被告の担当者に対し,電子メール(乙2の1)添付の「料率変更の件」と題する書面(乙2の2)で,原告代表者から「選択肢がない以上やれ!」,「従来の枠を破って挑戦するように」と前向きに対応するよう指示があった旨の報告をしていることからも明らかである。
(原告の主張)
被告は,本件基本契約の委託料金が原告に非常に有利な内容であった旨主張するが,否認する。原告の物流は一次品の配送だけでなく,二次品,返品,B品の受理,修理,検査まで含むトータルの物流であり,他社の委託料金に比較して高いという根拠が不明であって,平成19年変更及び平成21年変更は,いずれも不合理性が明らかであり,原告が変更に同意するはずがない。
平成21年変更につき原被告間で比較的すんなりと話が付いた旨の被告の主張は,その結論も,そこに至る過程における筋書も,いずれも虚偽である。同年5月20日の会議は,料率変更を具体的に協議決定するために開かれたものではなく,被告がロジスティクス体制改革を推進している中で,現状確認と今後の委託料金体系の平準化のための単価の見直しの意図で打合せをした初会合であって,料率を具体的に協議・決定するのに必須の資料の提示もされていないことから,同会議において,被告主張の料率変更の合意など成立する訳がない。被告は,Eの電子メール(乙2の1)を合意の根拠として主張するが,同メールの文言は,原告代表者において,被告のコスト削減企画に同調するわけにはいかないが,その優越的地位を利用した押し付けに対し,従業員を元気付けるためにゲキを飛ばしたものにすぎない。
(4) 原告の損害(争点4)
(原告の主張)
上記(2)及び(3)の被告の行為は,本件基本契約上の義務に違反する債務不履行であるのみならず,被告の取引上の地位が原告に優越していることを利用した優越的地位の濫用に当たるところ,これにより,原告は,以下の合計4億4406万0895円の損害を被った。
ア 本件基本契約の終了による損害
(ア) 機械及び装置,工具,器具及び備品,建物付属設備,通信設備等の損害
被告は,一方的に本件基本契約を終了させ,平成22年11月30日,原告に委託していた全商品を引き上げ,原告の配送オペレーティングシステムを中止させた。これにより,被告の物流業務のために有機的一体として機能していた原告の工場内の機械及び装置,工具,器具及び備品,建物付属設備,通信設備,無体財産権及び繰延資産(オペレーションプログラム等)の全てがその機能を喪失し,原告の全業務が直ちに停止し,上記資産は廃品同様となってしまった。同年7月31日時点の上記資産の簿価は2489万0488円であるところ,これをもって,同年11月30日の原告の全物流業務停止時点の損害というべきである。
(イ) 三永組合借入金の遅延損害金相当額
被告の債務不履行等により,原告の事業を全面的に中止せざるを得なくなり,三永組合借入金は平成23年1月13日に支払不能となったことから,残元利金のうち,同日以降の年14.5%の割合による約定遅延損害金は,被告の行為と因果関係のある損害というべきである。
そして,同日から,三永組合等が抵当権の実行により残元利金を回収する期間を3年と予想し,その損害額を計算すると,1000万9350円(=残元金2301万円×14.5%×3年間)となる。
(ウ) 原告の物流業務の中止による逸失利益
本件基本契約は,三永組合借入金及び本件準消費貸借契約に係る借入金が完済となる平成28年11月13日の弁済期を契約期間に含む契約期間の満了日である同月30日まで当然に存続する予定であったものであり,本件期間条項における3年毎の自動更新を基準にすると,被告が本件基本契約を一方的に終了させた平成22年11月30日の翌日から平成31年11月30日までの9年間の原告の逸失利益が損害として算定されるべきである。
そして,本件基本契約が中止になった日から遡り,原告の事業内容が縫製加工から100%被告の委託する物流業務となった平成16年8月1日から始まる第19期の決算期から,平成21年変更の直前の第23期決算期である平成21年7月31日までの5年間について,売上総利益の総額は10億6113万2551円(年平均売上総利益は2億1222万6510円)で,純利益の総額は1億9302万1146円であり,この売上総利益の総額に対する純利益の総額の割合は約18.19%である。そうすると,9年間の得べかりし利益の総額は,3億4743万6019円(=年平均売上総利益2億1222万6510円×約18.19%×9年間)である。
イ 被告による委託料金の変更による損害
(ア) 平成21年変更による平成21年9月1日から平成22年8月31日までの委託料金の差額損失
原告は,平成21年変更による平成21年9月1日から平成22年8月31日までの委託料金の差額損失として,下記⑦記載の損害を被った。
① 平成21年変更前の料率による委託料金総額 1億4804万9813円
② 平成21年変更後の料率による委託料金総額 9427万4646円
③ ①-② 5377万5167円
④ 物流費用 2959万5953円
⑤ 純利益(③-④) 2417万9214円
⑥ 消費税 120万8961円
⑦ 税込純利益額(⑤+⑥) 2538万8175円
(イ) 平成22年9月分の委託料金の未精算額
被告は,平成22年12月24日付け「業務委託手数料(物流業務料)等のお支払いについて」と題する書面(甲28。以下「委託料金精算書」という。)において,同年10月1日から同年11月30日までの委託料金については,枚単価方式による算出金額との差額精算を行っているが,他方,同年9月1日から同月30日までの委託料金については,枚単価方式から除外して精算しているところ,これは恣意的であり,次の計算による同年9月分の未精算額がある。
① 枚単価40円による委託料金 3002万4320円
② 9月分の値札取付手数料 117万4460円
③ 合計委託料金(①+②) 3119万8780円
④ 既払額 2421万1291円
⑤ 未精算額(③-④) 698万7489円
⑥ 消費税 34万9374円
⑦ 税込未精算委託手数料(⑤+⑥) 733万6863円
(ウ) 以上より,委託料金の変更による原告の損害は,上記(ア)⑦と(イ)⑦の合計額3272万5038円となる。
ウ 弁護士費用相当損害金
本件の事案の内容等からみて,被告の債務不履行及び優越的地位の濫用行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額は,原告の損害額の約7%相当である2900万円というべきである。
(被告の主張)
ア 本件基本契約の終了による損害について
被告が,平成22年11月30日,原告に委託していた商品を引き上げ,配送システム機器を撤収したことは認め,その余は否認ないし争う。
原告の業務停止に伴い,原告が保有する資産の価額が損害となったとの主張は,それ自体全く意味不明というほかない。
また,本件基本契約と本件準消費貸借契約は 全く別個独立の契約であるから,両契約を関連付けて,本件基本契約が平成28年11月30日まで存続する予定であったなどと主張するのは無理である。
イ 被告による委託料金の変更による損害について
平成22年10月1日から同年11月30日までの委託料金について,委託料金精算書に従って精算されたことは認め,その余は否認ないし争う。
委託料金精算書は,原告が同年11月末までに取り扱った商品のうち直近取扱い分については,被告における売上高がまだ確定していなかったことから,当該商品の平均販売日数である8.7週間(約61日)に限って(すなわち同年11月末から2か月間遡って,同年10月及び同年11月のみを対象として),まさに契約終了に伴う「特別の措置」として,枚単価方式による算出金額との差額精算を行ったものである。また,同年9月分については,既に被告における売上高が確定しており,そもそもこのような精算措置をとる必要がなかったものである。したがって,被告が当該措置の対象を同年10月及び11月分に限ったのはむしろ当然である。
(5) 本件指導料の返還約束の有無(争点5)
(原告の主張)
原告は,被告との間で,平成8年10月1日,原告の第10期の決算期である同年9月30日時点の売上高が19億6387万7095円,営業利益が9746万7857円と好成績であったことから,本件指導契約を締結し,被告に1200万円の本件指導料を支払ったところ,本件指導契約の締結の際,被告は,本件指導料を被告の預り金として特別の勘定科目で保管し,原告の業績不振等の機会に原告へ返還する旨を約束していた。
よって,被告が本件基本契約を一方的に終了させ,原告の事業を中止させた以上,上記約束に基づき,本件指導料を原告に返還すべきである。
(被告の主張)
否認ないし争う。被告が原告に対して本件指導料の返還約束をしたことなど一切ない。
(6) 本件損失填補約束の有無(争点6)
(原告の主張)
ア 被告の代表取締役であったCは,原告代表者に対し,昭和63年11月28日,原告の創業時の損失を填補する旨約束した(本件損失填補約束)。
原告と被告はパートナーシップの形で共同事業を営み,共存共栄を図ることを目的としていた関係上,共同事業が継続する限り,原則として,その履行を請求しないことが暗黙の了解事項となっていたが,被告が違法に原告との共同事業を終了せしめた以上,原告としては本件損失填補約束の履行を求めざるを得ない。
イ 原告の創業時の損失額は,次のとおり合計9650万7534円である。
(ア) 第1期(昭和62年4月6日から同年9月30日まで)
工場が未だ建築できず,賃借工場で仮操業をし,被告の縫製加工委託もまだ準備が間に合っていなかった。
営業損失 1817万4752円
(イ) 第2期(昭和62年10月1日から昭和63年9月30日まで)
昭和62年12月16日に工場が完成したが,未だ試行稼働の状態で,被告からの縫製加工委託の体制整備も十分でなかった。
営業損失 5170万9121円
(ウ) 第3期(昭和63年10月1日から平成元年9月30日まで)
被告の自家生産工場として本格的に稼働し始めた時期である。
営業損失 2662万3661円
(被告の主張)
否認ないし争う。昭和63年11月28日に,被告の代表取締役であったCが,原告代表者と面談したが,Cが原告に対して本件損失填補約束をしたことはない。
当該面談の際,Cが,創業当初における原告の経営状況が厳しいことを考慮し,覚書を締結して,被告から一定の支援をすることも考えており,具体的には,決算で判明する原告の損失のうち一定部分を被告が填補すること等を検討中である旨述べたことはある。しかし,その際に,Cが填補すべき損失としてイメージしていたのは,第1期及び第2期の営業損失のうち一定部分であったところ,その後に原告から報告を受けた第2期決算の営業損失が想定外に大きく,今後の原告の経営・財務の改善策等についてあれこれと協議するうちに,覚書の締結がされないまま,損失填補の合意の話は立ち消えになったというのが実態である。
(7) 本件準消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の存否(争点7)
(原告の主張)
ア 本件7000万円については,三永組合借入金の最終弁済日である平成24年5月13日の翌月である同年6月13日にその分割金の最初の弁済期が到来することとされ,それまでは本件7000万円に対する利息のみ支払うこととされていたところ,原告は,被告が原告の事業を中止させる直前の平成22年11月13日の利払日まで,順調に,この利息の支払を継続してきた。
そして,原告は,本件基本契約に基づく被告からの委託料金を原資として,本件7000万円を弁済することを,本件基本契約締結の条件としており,被告もこのことを承知していた。
したがって,本件基本契約と本件準消費貸借契約は不可分一体の関係になっていたというべきところ,被告は,原告に対する優越的地位を濫用して,本件基本契約を終了させたのであるから,被告のこの行為は,本件準消費貸借契約の効力ひいては同契約に基づく貸金返還請求権をも消滅させる行為であると解すべきである。
イ 仮に本件基本契約と本件準消費貸借契約とが不可分一体の関係にないとしても,本件基本契約に違反し,その優越的地位を濫用して原告が受け入れられない著しく不利な契約条件を一方的に設定し,原告の再三の協議要請や是正申入れを無視し,本件基本契約を終了させ,原告の事業経営の継続を中止させ,それまで円滑に弁済してきた原告の弁済資金調達能力を奪い,支払能力の継続性を欠く状態にした被告の行為は,パートナーシップの形で共同事業をしてきた者の行為として,信義誠実の原則に反し,権利の濫用として許されず,その反射的効果として本件準消費貸借契約に基づく貸金返還請求権は消滅すると解すべきである。
(被告の主張)
本件準消費貸借契約の元金及び利息の支払方法並びに原告がその利息の支払を平成22年11月13日まで継続していたことは認め,その余は否認ないし争う。
本件基本契約が適法に終了したことは上記(2)で主張したとおりである上,本件基本契約と本件準消費貸借契約は別個独立の契約であり,不可分一体の関係など到底認められない。
第3 当裁判所の判断
1 「特別な条件変更」の意義(争点1)
(1) 認定事実
前提事実に後掲の各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,次の各事実を認めることができる。
ア 原告の設立
被告の代表取締役であったCは,被告の生産部門合理化計画の一環として,自家縫製工場の設立を思い立ち,昭和40年代から長い間縫製加工業に携わり,昭和54年4月以降は父親から福島県内の縫製工場を受け継いで経営していた原告代表者に対し,遅くとも昭和61年10月頃までに,原告の創業を持ちかけた(甲85の2,86,弁論の全趣旨)。
その後,原告は,昭和62年4月6日,原告代表者とC等によって,アパレル縫製事業を被告と共同して行うために設立され,原告は,その設立以降,被告の自家縫製工場という性格を有するものとして,被告が企画したブランド衣料品の縫製加工等を主たる業務とし,その事業を開始した(前提事実(1)ア及び(2))。
イ 承諾書の作成
原告の業務量が平成10年9月1日以降,減少していったので,原告は,被告に対し,被告以外の取引先と取引を行うことを承諾するよう要請した(甲141,弁論の全趣旨)。
そこで,原告と被告は,平成12年12月1日,原告と被告との業務取引については,従来と変わらないが,被告は,今後,被告以外の取引先との取引について承諾するものとする,ただし,被告は,原告と被告以外の取引先との間に発生する問題については一切責任を負わないものとすることを確認する旨の承諾書を取り交わした(甲133,乙4)。
ところが,その後も,原告は,被告以外の取引先を積極的に開拓することはなく,被告からの受注による委託料金が収入の大半を占めていた(証人D,弁論の全趣旨)。
ウ 平成14年2月上旬から同年4月上旬にかけての交渉経過(本件残金1億5000万円の返済計画等について)
(ア) 被告は,原告に対し,平成13年10月12日付け文書等をもって,縫製加工業の業況がますます厳しくなる中で,原告を維持存続させるためには,縫製事業から物流事業へと業態を変更するしかない旨を説明していたところ,原告は,遅くとも平成14年4月上旬頃までに,これに同意した(甲12ないし14,弁論の全趣旨)。
(イ) 他方で,被告は,同年2月上旬頃,上場を目指して所要の作業を進めていたところ,担保もなく具体的な返済計画もないような貸付金は不良債権扱いとなり,上場の審査上問題となる上,債権の管理・回収の見地からも問題であると考え,本件残金1億5000万円の返済計画について,原告代表者,被告の担当者ら間で協議を開始した(乙12,弁論の全趣旨)。
(ウ) 同月6日に開催された第1回定例会において,被告の担当者らは,原告代表者に対し,本件残金1億5000万円について,具体的な返済計画を立案して欲しい旨要請するとともに,年間約3000万円ずつを7,8年間で返済するとの内容をベースに返済計画を作成すること,原告が返済計画を同月末の中間決算報告の際に提出することを提案した(乙12)。
しかし,同月27日に開催された第2回定例会において,原告代表者は,返済計画書を提出せず,被告の担当者に対し,年間3000万円,返済期間8年の計画は現状の収益状況からして不可能で,年間1000万円の返済が限界である旨を伝えた。被告の担当者は,原告から返済計画書を出してもらわないと具体的な協議ができない旨を説明して,原告代表者との間で,原告が次回定例会までに返済計画書を出し,これに基づき次回の定例会で協議することが決定された。(甲110,111,乙13)
同年3月11日に開催された第3回定例会において,原被告間では,原告が提出した返済計画書をもとに,原告の当時の商工中金からの長期借入金3600万円を現状のまま(毎月130万円ずつ)返済し,本件残金1億5000万円に原告の当時の商工中金からの短期借入金4900万円とを併せた合計1億9900万円を,三永組合が商工中金から借り入れて原告に転貸する資金をもって返済することとし,この三永組合からの借入金については,年間最低1500万円ずつ,8ないし10年間で返済する(最終期限に残額がある場合は一括償還する。)という計画について協議された(甲112,113,乙14,15)。そして,被告は,原告に対し,上記計画が上記定例会において原被告間で合意された旨を記載した同月18日付け書面(甲112)を送付し,同書面は同月19日に原告に到達した(甲113,乙15)。
これに対して,原告は,被告に対し,同月20日付け通知書(甲113,乙15)を送付し,①上記1億9900万円の長期一括借入れについては,できるだけ事業推進に影響のないように,次への再投資・資金計画の可能な実績に見合った緩やかな返済にしたい意向を前提に,融資先である商工中金への交渉を被告の担当者に依頼した旨,②この一括融資についての返済期間は10ないし15年位とすることを第一の要望とし,8ないし10年間では,元金の償還を無理のないようにすると残額が発生する旨,③返済の財源を物流事業の展開による事業成果だけとすると,取組みに困難が予想されるので,償還財源の不足が生じた場合における償還計画の変更をどのように取り組むべきかを今後の課題として提案する旨等を伝えた。
これを受け,被告の担当者は,原告に対し,同月22日付け書面(甲114,乙16)を送付し,「合意した結論に対して安易に変更意見が述べられているのは,ビジネスの交渉として理解に苦しむ態度」,「当社からの借入金150百万円に対して,事業家として,A社長の返済に対する責任感が希薄と判断されます事は大変残念」,「当社が,物流業務の委託を行い,両社が協力し借入金返済の体制を構築しようとしている事に対し,A社長は“オンブにダッコ”的態度であり失望を感じます」などと原告代表者に対して強い不信感を持っていることを表明し,「一度両社の取引を精算(ロジステックも白紙に戻す)することを前提に解決策を検討せざるを得ない」との考えを示した。
(エ) 上記のとおり原被告間の交渉は決裂しかけたが,同年4月1日,原告の相談役であったFと被告の社長であったCとが協議した結果,交渉は再開されることとなった。なお,この頃から,被告は,原告に対し,本件残金1億5000万円のうち,1億円については原告の商工中金からの借換えを原資として返済を受け,残金5000万円については,原告との間で準消費貸借契約を締結し,原告の所有物件に抵当権を設定し,商工中金に対する返済期間の終了後から5年間の分割返済とすることなどの意向を示していた。(甲118の1,乙17)
これに対して,原告は,被告に対し,同月9日付け書面(甲120)をもって,本件残金1億5000万円を含むその時点における原告の借入金合計2億3000万円について,商工中金から一括転貸融資を受け,うち1億5000万円を10年間で償還した後,残額8000万円を5年間で償還する旨の計画を伝えるとともに,この計画を実現するためには,財源となる物流業務委託契約書を同時に作成する必要がある旨を提案した。
そして,原被告間では,同月10日,原告代表者提出の借入金返済計画書に沿って借入金返済の手続を進めること,物流業務委託契約を締結することとし,その際,被告は原告代表者の意向に配慮したドラフトの作成を進めることなどについて合意された。また,それ以降,借入金の返済についての案件と,物流業務委託契約の締結についての案件とは,被告側では異なる者が担当することとなったが,両案件は同時並行的に協議が進められた。(甲122,乙18,弁論の全趣旨)
エ 平成14年4月中旬の交渉経過(物流業務委託契約の締結に向けて)
原告と被告は,同月11日までに,物流業務委託契約の締結に向けた協議を開始した(弁論の全趣旨)。
そして,同日以降,原被告間では,物流業務委託契約書の作成に向けた具体的な交渉が行われ,特に本件期間条項について,まず,被告は,原告に対し,同日,契約期間を1年とするが,期間満了6か月前までに双方いずれからも何らの意思表示がないときは同一条件により1年間自動更新される旨の契約書案(甲62の1,乙7。以下「第1契約書案」という。)を提示した。これに対し,原告は,同案を拒否した(弁論の全趣旨)。
そこで,被告は,同月15日,契約期間を3年とするが,期間満了6か月前までに双方から何ら意思表示がないときは同一条件により3年間自動更新される旨の契約書案(甲60の1。以下「第2契約書案」という。)を提示した。これに対し,原告は,同月16日,契約期間を10年とし,期間満了6か月前までに双方から何ら意思表示がないときは同一条件により5年間自動更新される旨の修正案(甲62の2。以下「第1修正案」という。)を提示した。
被告は,同月17日,第2契約書案と同じ契約期間及び自動更新条項を記載した案(甲63)を提示した。これに対し,原告は,同月19日,契約期間を10年とし,期間満了6か月前までに双方から何らの意思表示がないときは同一条件により3年間自動更新される旨の修正案(甲134,乙10。以下「第2修正案」という。)を提示した。
オ 平成14年4月下旬から同年5月中旬にかけての交渉経過(本件残金1億5000万円の返済計画等について)
(ア) 原被告間では,上記エの交渉と並行して,本件残金1億5000万円を含む当時の借入金の返済計画についての交渉も行われていたところ,同年4月23日に行われた会議において,原告代表者は,被告が従前から提案していた,原告の所有物件への抵当権の設定には応じられないとの意思を表明し,事業を清算する方向も含めて今後の対応を検討したい旨を述べた。これに対し,被告の担当者は,抵当権の要否や事業の清算の是非をこの場で方向付けすることはできないので,被告の社内で協議する旨を返答した。(甲124,乙19)
(イ) 被告の担当者は,同月26日に行われた会議において,原告代表者に対し,被告の社内での協議した最終結論として,原告の所有物件への抵当権の設定は必須であり,この条件を応諾しないということであれば,取引の清算との二者択一で対応せざるを得ない旨を伝えたところ,原告代表者は,最終的には,抵当権の設定を受け入れる意向を示したが,他方,物流業務委託契約の契約期間については,借入金の返済期間に見合った期間を希望する旨を述べた。これに対し,被告の担当者は,物流業務委託契約において5年とか10年間という契約は不可能であり,相互の信頼関係の再構築と双方が了解できる業務遂行状況であることを前提に,契約更新する方法としたい旨を返答した。(乙20,弁論の全趣旨)
(ウ) 原告と被告は,同年5月10日,今後の予定として,本件残金1億5000万円のうち8000万円については,三永組合借入金の一部をもって弁済し,本件7000万円については,被告との間で準消費貸借契約を締結し,10年間の据置期間経過後に5年間の分割払により弁済していく旨等を合意した(前提事実(5)ア)。
カ 平成14年5月下旬の交渉経過
(ア) 物流業務委託契約の有効期間について,被告は,同月24日,契約期間を3年とし,期間満了6か月前までに双方から何ら意思表示がないときは同一条件により3年間自動更新されるとする第2契約書案の条項に,更なるただし書として,原告又は被告から,更新に伴う条件変更の提示があった場合,原被告誠実に協議の上,従前の契約条件を変更して期間延長を行うことができる旨を追加した契約書案(甲64。以下「第3契約書案」という。)を提示したが,原告は,第3契約書案を拒否した(甲64,弁論の全趣旨)。
これに対し,被告は,原告に対し,同月27日午後3時2分に,第2契約書案に戻した条項案(乙11)をFAX送信して提示したが,原告はこの案にも応じなかった(甲65,弁論の全趣旨)。
そこで,被告は,原告に対し,同日午後6時21分,契約期間を3年とするが,原被告双方が本件基本契約を維持できない特別な条件変更があると判断しない限り,同一条件により3年間自動更新される旨の契約書案(甲65。以下「第4契約書案」という。)をFAX送信して提示した。これに対して,原告代表者は,「特別な条件変更が生じない限り」という文言に修正するよう被告の担当者に口頭で要求したところ,同月28日の本件基本契約締結の場において,物流業務委託契約書(甲7の1)中に上記文言が記載されていることを確認した(甲141,弁論の全趣旨)。
(イ) ところで,原告代表者は,同日の被告の担当者との面談に先立ち,自らの備忘録として本件メモ(甲8)の黒字部分を書き込んでおり,同面談の際に,本件メモの赤字部分を書き込んだ(甲141,原告代表者)。
本件メモには,黒字で「③特別な条件変更とはどんなこと」と記載された横に赤字で「その時にならないとわからないが一般的には根本的な社会変革,倒産,その他維持できない用件」などと記載されている。
(ウ) 原告は,被告との間で,同日,本件基本契約(甲7の1)を締結するとともに,覚書(甲7の2)を取り交わした(前提事実(4))。
(エ) また,原告は,同月31日,上記オ(ウ)の合意どおり,本件残金1億5000万円のうち8000万円については,三永組合借入金の一部をもって弁済するとともに,本件7000万円については,被告との間で,本件準消費貸借契約を締結した(前提事実(5)イ及びウ)。
(2) 認定事実の補足説明
ア 原告の主張について
(ア) 原告は,被告が,一方的に自家工場による物づくりの理念を放棄し,被告の機構改革の一環として原告の物流センター化構想を示し,原告に対して本件基本契約の締結を押し付けたかの如くの主張をする。
確かに,証拠(甲12ないし14)によれば,被告が原告に対して平成13年10月12日に縫製事業から物流事業への業態変更を説明した背景には,被告の機構改革の一環として原告の物流センター化構想が存在していたことが認められる。
しかしながら,証拠(甲87)及び弁論の全趣旨によれば,被告において上記の機構改革が必要となったのは,当時,消費者に受け入れられているのが「ユニクロ」に代表されるローコストな価格革命商品と,大型旗艦店を繰り出すスーパーブランド群とに二極化する現象が生じるなど,アパレル市場を取り巻く環境が激変している中で,生産はますますアウトソーシングに向かい,自社工場を持ってはどうしても赤字になると考えられたためであると認められる一方,原告が上記業態変更の説明に対して抗議等をしたことを裏付ける証拠はなく,かえって,原告は,平成14年4月11日以降,物流業務委託契約書の作成に向けた具体的な交渉をしていたことは上記(1)エに認定したとおりであることに照らすと,原告も,遅くとも同月上旬頃までには上記業態変更に同意したとみるのが自然である。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(イ) 原告は,原告代表者が,被告から同月17日に提示された草案(甲63)に対し,「特別な条件変更」が生じない限りという文言を加えるよう求め,また,同月19日に提示した第2修正案(甲134,乙10)に被告が応じなかった際にも同様の文言を加えるよう求めた旨主張する。
確かに,上記草案(甲63)及び第2修正案(甲134)には,「特別な条件変更」が生じない限り等という原告代表者の手書部分が存在する。しかしながら,原告代表者がこの時点で上記文言への修正を被告に求めていたのであれば,原告から,被告に対し,その頃,上記文言を記載した更なる修正案が書面の形で提示されてしかるべきであるのに,そのような書面は証拠として提出されていない。かえって,①原告代表者が,同月26日の会議において,物流業務委託契約の契約期間については,借入金の返済期間に見合った期間を希望する旨を述べたのに対し,被告の担当者は,物流業務委託契約において5年とか10年間という契約は不可能であり,相互の信頼関係の再構築と双方が了解できる業務遂行状況であることを前提に,契約更新する方法としたい旨を返答したにとどまっていること(上記(1)オ(イ)),②同年5月24日に被告が提示した第3契約書案が,第2契約書案の条項に,更なるただし書として,原告又は被告から,更新に伴う条件変更の提示があった場合,原被告誠実に協議の上,従前の契約条件を変更して期間延長を行うことができる旨を追加したものにすぎず,しかも,原告が第3契約書案を拒否した後の同月27日に被告が最初に提示したのは,第2契約書案に戻した条項案であり,原告がこれを拒否した後の同日午後6時21分に,被告は,原被告双方が本件基本契約を維持できない特別な条件変更があると判断しない限り,同一条件により3年間自動更新される旨の第4契約書案を提示していること(上記(1)カ(ア))に照らすと,少なくとも第4契約書案が提示される前の時点で,原告代表者が「特別の条件変更」が生じない限りという文言を加えるべきことを被告の担当者に要求したことはなかったとみるのが合理的である。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(ウ) 原告は,被告の担当者と同年5月28日に面談した際,同担当者に対し本件メモの黒字部分を1部交付し,当該面談の場で,「特別な条件変更」に該当する具体的事例が何であるかを同担当者と相互に確認し,その内容を本件メモの赤字部分として記載した旨主張し,原告代表者はこれに沿う供述をする。
しかしながら,本件メモの記載内容は,いずれも原告代表者による手書で,特にその赤字部分の字体は走り書きに近く,これを原告代表者以外の第三者が読んだときにその記載内容を明瞭に理解することは容易ではないといわざるを得ないことからすれば,本件メモが,第三者に交付されることを予定して作成されたものとは考え難く,むしろ,原告代表者自身の備忘録として作成されたものとみるのが自然である上,被告は,当該担当者への本件メモの交付及び当該担当者との赤字部分の相互確認の事実を否認しているところ,当該交付及び相互確認の事実を裏付ける客観的証拠がないことに加え,上記(1)ウからカまでに認定した交渉の経緯によれば,被告は,本件基本契約の有効期間をできる限り短くしようとしていたのに対し,原告代表者は,同期間が10年以上になるようにしたいと考えて,そのような契約書の修正案を被告に提示し,交渉が何度も積み重ねられ,この点に関する契約書案が何度も出し直された末の妥協の産物として,契約期間は3年間とするが,「特別な条件変更」がない限り自動更新されるとの文言で交渉が妥結したものであると認められるところ,「特別な条件変更」の具体的場合が,本件メモの赤字部分に記載されている,「根本的な社会変革,倒産」ないしこれらに類する「その他維持できない用件」に限られるとすれば,本件基本契約の有効期間についての原告の第1修正案における契約期間10年,双方から何ら意思表示がない場合の自動更新期間5年という期間条項案よりも長い期間の半永久的な契約継続が保障されることになるのであって,上記の交渉経緯に照らし,このような期間条項による本件基本契約の締結を被告が了解するとは到底考え難い。
そうすると,原告代表者の上記供述のうち,本件メモの黒字部分を被告担当者に交付した旨及び赤字部分が被告担当者と相互確認した内容である旨の供述部分は,採用し難いというほかなく,当該赤字部分は,原告代表者が,面談の最中又は面談終了後に,「特別の条件変更」についての自己の解釈を書き込んだものにすぎないとみるべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 原告は,原被告間において,本件基本契約の契約期間が少なくとも15年間は存続する方向で交渉が進められた旨主張する。
確かに,原告が,被告に対し,同年4月9日,本件残金1億5000万円を含むその時点における原告の借入金合計2億3000万円について,商工中金から一括転貸融資を受け,うち1億5000万円を10年間で償還した後,残額8000万円を5年間で償還する旨の計画を伝えるとともに,この計画を実現するためには,財源となる物流業務委託契約書を同時に作成する必要がある旨を提案したことは上記(1)ウ(エ)で認定したとおりである。しかしながら,被告が原告の上記提案を受け入れたことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,被告の担当者は,同月26日の会議において,原告代表者から,物流業務委託契約の契約期間については借入金の返済期間に見合った業務委託契約の期間を希望する旨が述べられたのに対し,物流業務委託契約において5年とか10年間という契約は不可能であり,相互の信頼関係の再構築と双方が了解できる業務遂行状況であることを前提に,契約更新する方法としたい旨を伝えたことは上記(1)オ(イ)で認定したとおりであるから,15年という存続期間は,あくまで原告側の要望にとどまっていたとみるべきであって,原告の上記主張を採用することはできない。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は,平成14年4月上旬に最初の契約書案(乙7)を原告に提示した後,原告が同月10日に最初の修正案(乙8)を被告に提示した旨主張する。
しかしながら,乙7及び乙8には,その提示日の記載はない上,これらが被告主張の時期に提示されたことを裏付ける客観的証拠はない。かえって,証拠(甲122)によれば,同日,原被告間の会議において,物流業務委託契約書を締結することが合意されるとともに,今後,原告代表者の意向に配慮した同契約書ドラフトを作成し,同月17日までに被告が顧問弁護士と協議して同契約書の案文を作成して,これを同月18日には原告代表者にFAXすることとされたことが認められるから,同月10日の上記会議よりも前に既に上記各書面のやり取りがあったとはにわかに考え難い。とりわけ,被告のいう最初の修正案(乙8)は,その記載内容が,同月16日に原告から提示された第1修正案(甲62の2)と全く同一であると認められることからすれば,これと同内容のものが,同月上旬において既に提示されていたとはにわかに考え難い。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(イ) 被告は,原告に対し,同月26日の会議において,物流業務委託契約と金銭準消費貸借契約とは別個独立の契約であり,別々の問題として議論されるべきであることを伝えた旨主張するが,同日の面談についての被告の議事録(乙20)には,その旨の記載はなく,他にこれを認めるに足りる証拠もないから,被告の上記主張を採用することはできない。
(3) 検討
ア 原告は,「特別な条件変更」とは,被告が原告との間の物流業務を廃止しなければ被告自身の企業維持ができなくなる程度の出来事が発生した場合をいう旨主張し,原告代表者はこれに沿う陳述(甲141)及び供述をするところ,本件メモには,黒字で「③特別な条件変更とはどんなこと」と記載された横に赤字で「その時にならないとわからないが一般的には根本的な社会変革,倒産,その他維持出きない用件」などと記載されており,この赤字の記載は,原告代表者が,被告の担当者と面談した際に書き込んだものであることは,上記(1)カ(イ)に認定したとおりである。
しかしながら,原告代表者と被告の担当者との間で,「特別な条件変更」というのを,「根本的な社会変革,倒産」又はそれに類する事情に限る旨が相互に確認されたとの原告の主張を採用することができないことは,上記(2)ア(ウ)で説示したとおりである。
また,原告は,原被告間では,契約期間が少なくとも15年間は存続する方向で交渉が進められた旨主張するが,これがあくまで原告側の要望にとどまっていたと認められることは上記(2)ア(エ)で説示したとおりである。
そして,上記(1)で認定したとおりの「特別な条件変更」という文言が用いられるに至った経緯,とりわけ,被告の担当者が原告代表者に対し,平成14年4月26日の面談の際,物流業務委託契約の契約期間を5年とか10年にすることは不可能である旨を告げていたこと(上記(1)オ(イ))からすれば,「特別な条件変更」という文言は,原被告間で契約書のドラフトのやり取りを繰り返すも,原告が原則10年,被告が原則1年ないし3年の契約期間をそれぞれ主張して,なかなか折り合いがつかない中で,合意を成立させるための妥協の産物的文言であったことは明らかである。そうであるにもかかわらず,「特別な条件変更」という文言を,原告のいうように,被告が原告との間の物流業務委託を廃止しないと被告自身の企業維持ができなくなる程度の出来事が発生した場合をいうと解するのは,原告が第1修正案で提示していた原則10年という契約期間を超えた半永久的な契約期間を是認するに等しい解釈といえるのであって,被告がそのような解釈を是認していたとは到底考え難い。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 他方,被告は,①原告が,平成9年10月8日に被告の反対を押し切って隣接地を購入し,②平成12年7月4日に原告につき550万円の増資を行い,原告代表者らが合計110株を引き受けた結果,原告代表者の原告に対する持株比率が従来の50%から60.8%へと増大し,原告代表者が独立して経営権をコントロールする関係へと移行し,③平成13年10月30日に被告側に無断で原告から被告側役員全員を退任させる旨の株主総会決議をしたことによって,本件基本契約の締結時には,原被告間の創業時のパートナーシップは完全に変容・崩壊し,過去のものとなっていたことなどからすれば,「特別な条件変更」とは,業界の環境変化や契約当事者を取り巻く経営事情,社会経済的な事情の変化等によって本件基本契約を維持し難い状況が生じた場合を広く含み得るものである旨主張し,平成10年11月に被告の常勤監査役に就任したG(以下「G」という。)は,これらに沿う陳述をする(乙33)。
しかしながら,上記①については,原告が平成9年10月8日に隣接地を購入したことについては当事者間に争いがないものの,原告代表者はGの陳述に反する陳述をしており(甲141,147),原告代表者の当該陳述を排斥して,Gの陳述を採用するに足りる証拠はない。
また,上記②については,証拠(甲104,105)及び弁論の全趣旨によれば,被告主張のとおりの原告による増資及び原告代表者による当該増資に係る株式の引受けが行われたことが認められるが,これが,原告代表者が独立して経営権をコントロールするために行われたものであることを認めるに足りる客観的証拠はない上,原告代表者は,Gの陳述に反する陳述をしている(甲147)。かえって,原告は,この増資の理由につき,被告のCから,被告の連結決算の対象となる子会社に該当しないようにするべく,増資をして持株比率を変更すべき旨の指示を受けたためであり,その具体的な実施方法として,被告の担当者から,1100万円の増資をして株主全員が新株を引き受け,被告のみが新株の払込期日までに払込みをしなければ,結果として株式の持株割合に差が生じるため,その方法によるべき旨を指示されたものであると主張し,原告代表者はこれに沿う陳述をする(甲141)ところ,この主張及び陳述は,上記増資が,原告代表者が,被告のCと面談した後で行われていること(弁論の全趣旨),増資の際,被告は,自らも550万円で110株を引き受ける旨の新株式申込証に記名押印していること(甲106),被告は,払込期日までに当該申込みに係る新株式の払込みをしなかったこと(弁論の全趣旨)という客観的事実によく符合するものであって,信用することができるというべきである。
さらに,上記①及び②によって,原被告間の創業時のパートナーシップが変容・崩壊しつつあったのであれば,平成12年12月1日に作成された承諾書において,原告と被告との業務取引については従来と変わらないものである旨があえて記載されること(上記(1)イ)は考え難いというべきである。
上記③については,原告が,平成13年10月30日に原告から被告側役員全員を退任させる旨の株主総会決議をしたことは当事者間に争いがないものの,これが被告側に無断で行われたことを裏付ける客観的証拠はなく,かえって,原告は,平成14年2月14日に,役員の交代を報告し(甲107の1・2,141),同年7月17日には,被告から,その株主総会議事録を送付するよう求められ,これに応じていること(甲108の1ないし3),被告が上記役員の交代について原告に対して抗議したことを窺わせる証拠がないことからすれば,上記役員の退任は,被告も了解していたことであるとみるのが自然である。
以上によれば,本件基本契約の締結時に,原被告間の創業時のパートナーシップは完全に変容・崩壊し,過去のものとなっていたことを前提とする「特別な条件変更」の解釈についての被告の上記主張をそのまま採用することはできない。
ウ そこで,「特別な条件変更」の意義を検討するに,原告が,被告に対し,平成14年4月9日,本件残金1億5000万円を含むその時点における原告の借入金の償還計画と,その財源となる物流業務委託契約書を同時に作成する必要がある旨を書面で提案したこと(上記(1)ウ(エ)),原告代表者が,被告の担当者に対し,同月26日にも,物流業務委託契約の契約期間については,借入金の返済期間に見合った期間を希望する旨を伝えたこと(上記(1)オ(イ))からすれば,原告代表者が,物流業務委託契約の契約期間と本件残金1億5000万円を含むその時点における原告の借入金の償還期間とを連動させたいと考えており,被告に対してその旨を強く要望していたことは明らかである。
また,原被告間では,同月10日の面談において,物流業務委託契約を締結する際には,被告は原告代表者の意向に配慮した契約書のドラフトの作成を進めることなどについて合意された(上記(1)ウ(エ))ところ,被告の担当者は,同月26日の原告代表者による上記の契約期間の希望の表明に対し,物流業務委託契約において5年とか10年間という契約が不可能である旨は伝えたものの,物流業務委託契約と本件残金1億5000万円等の原告の借入金の償還とを連動させるという原告の考え方自体は否定していなかった(上記(1)オ(イ))。
そして,原告の上記のような要望は,原告代表者がCから誘いを受けたことを機に,被告の自家縫製工場という性格を有するものとして原告が設立されて,被告が企画したブランド衣料品の縫製加工等を主たる業務としてその事業を開始し(上記(1)ア),その後,原告は,被告からの受注による委託料金が収入の大半を占めており,被告からの受注なしに本件残金1億5000万円を返済することは現実的に困難であったこと(上記(1)イ)を踏まえれば,原告にとっては切実な要望であったということができる。
加えて,原告は,原則10年の契約期間を主張し,被告の提案する原則1年ないし3年の契約期間を拒み続けていたこと(上記(1)エ)も併せ考慮すると,妥協の産物的文言である「特別な条件変更」とは,被告が原告との間の物流業務を廃止しないと被告自身の企業維持ができなくなる程度の出来事が発生した場合とまで狭くは解されないことは上記アで説示したとおりであるが,その該当性の判断は慎重に行われる必要があると解すべきであって,被告が主張するような,本件基本契約を維持し難い状況が生じた場合を広く含み得るものと解することはできない。すなわち,具体的には,原告主張の場合のほか,原告又は被告の経営状態の悪化や,一方当事者の不合理な要求等により,本件基本契約の条項をそのまま維持継続することができず,条項の一部の変更が不可避となったが,誠意交渉しても原被告間において合意に達しない状況に陥った場合などがこれに当たると解すべきである。もっとも,交渉段階において原告が被告に提示した第1修正案及び第2修正案ですら,原則10年の契約期間で,期間満了6か月前までに双方から何らかの意思表示がなければ3年間ないし5年間自動更新されるというものであったこと(上記(1)エ)に鑑みると,原告としては,少なくとも本件基本契約の有効期間の始期である平成13年12月1日から10年後である平成23年11月30日までは契約が存続することは期待していたものの,これを超えてまで本件基本契約が更新されることについては期待の程度は弱かったということができるから,同日までの契約期間さえ保障されない場合に限って,「特別な条件変更」の該当性を上記のように慎重に行えば足りるというべきである。
2 本件基本契約の終了についての被告の違法性の有無(争点2)
(1) 「特別な条件変更」該当性について
上記1の解釈を前提に,被告による本件基本契約の更新拒絶が「特別な条件変更」に該当するか否かを検討する。
ア まず,被告の経営状態について検討する。
(ア) 証拠(乙26)によれば,被告の経営状態は,連結決算での経常利益ベースでみると,第57期(平成18年8月期)には80億2100万円であったが,第58期(平成19年8月期)には74億7500万円,第59期(平成20年8月期)には55億8100万円,第60期(平成21年8月期)にはマイナス5億2500万円に転落し,第61期(平成22年8月期)にはマイナスの状態からは回復するも,4億5900万円にとどまっていたことが認められる。
なお,被告は多くのグループ会社を有する上場企業である(乙27,28)から,その経営状態を判断するに当たっては連結ベースでみるのが相当であるが,単体の経常利益ベースでみても,第57期には69億5800万円であったが,第58期には66億6300万円,第59期には48億6400万円,第60期には4700万円に転落し,第61期には若干回復するも,9億8700万円にとどまっていたことが認められる(乙26)。
(イ) また,被告は,①第60期(平成21年8月期)には,その下半期に経費の削減(販売管理費を18億6200万円削減し,前年同期比93.5%,通期では,7億3700万円削減し,98.7%となった。)をし(乙27),②低収益・不採算店舗の撤退について,同年7月及び8月だけで131店舗について行い,同月期(第60期)全体では223店舗を退店した(乙27)上,第61期(平成22年8月期)にも152店舗を退店し(乙28),③同年2月26日からは希望退職者の募集をし(乙29の1・2),その結果,従業員88名が退職し,これによる年間人件費削減総額は約5億円となり(弁論の全趣旨),④平成23年3月には,大規模な固定費削減を理由の一つとして,より賃料の安いビルに本社を移転させたこと(乙30,弁論の全趣旨)などが認められる。
そして,被告は,インターネット上で公表している各決算期の決算短信において,①第60期(平成21年8月期)については,当該連結会計年度における我が国の経済は,平成20年9月にアメリカのリーマン・ブラザーズが破綻し世界的な景気後退が続く中,個人消費が冷え込み企業収益が大幅に悪化するなど,深刻な状況にあり,アパレル業界においては,不要不急の支出を控えるなど消費者の生活防衛意識が一層高まる中,低価格商品の台頭,海外のファストファッションブランドの日本進出など,企業間競争はますます激しさを増しており,このような状況にあって,被告のグループは,比較的堅調なインターネットショッピング事業に注力する一方,収益性の低いブランドや店舗の撤退,経費削減などを実行してきたが,年間を通じて販売は低調に推移し損益が大きく悪化した結果,当該連結会計年度の経常損失が上記のとおり5億2500万円となったこと等を報告し,②第61期(平成22年8月期)については,当該連結会計年度における我が国の経済は,政府による経済対策の効果もあり,一部に持ち直しの動きが見られるものの,個人所得の減少や企業収益の悪化,為替リスクの高まりなど,依然として厳しい状況で推移し,アパレル業界においては,衣料品や服飾雑貨への消費者の購買意欲が低迷する中,海外ブランドの更なる進出や低価格商品の台頭など,企業間競争がますます激化しており,このような状況にあって,被告のグループは,ファストファッションブランドの立ち上げや基幹ブランドへの投資に注力し,収益性の低いブランドや店舗のスクラップを行うとともに,生産・物流機能を集約するための新会社設立,希望退職者の募集,本社オフィスを東京都渋谷区から東京都世田谷区へ移転することを決定するなど,大幅な経費削減施策と業務の効率化を積極的に推進した結果,当該連結会計年度の経常利益が上記のとおり4億5900万円となったこと等を報告していることは公知の事実である。
(ウ) これらに照らすと,被告の経営状態は,いわゆるリーマンショックによる世界的な景気後退に伴う個人消費の落ち込みや,アパレル業界における競争の一層の激化のあおりを受け,経費節減等に努めたものの,第60期(平成21年8月期)から第61期(平成22年8月期)にかけて,かなり悪化していたと認められる。
(エ) この点,原告は,本件基本契約の満期時直近の第61期(平成21年9月1日から平成22年8月31日まで)の被告の財産及び営業状態に特別問題とすべき点は見当たらず,経常利益9億8700万円があり,株主への剰余金の配当も,利益配分の基本方針に沿って行われている旨,また,被告においては,投資有価証券評価損,関係会社整理損,希望退職関連費用,本社移転費用という一時的な特別損失が発生しているところ,これは,税務対策等の被告内部の経営政策によるものであり,会社の継続的収益力に問題があるものではない旨主張する。
しかしながら,上記原告の主張は,まず,単体の経常利益ベースで被告の経常利益を捉えている点で相当でないというべきであり,また,被告においては第57期から経常損益が大きく低下を続けているところ,とりわけ上記のとおり第60期から第61期にかけての経常損益の悪化の背景には,世界的な景気後退や,アパレル業界の競争の激化などがあると認められるから,仮に原告のいう特別損失の計上といった要因が一定程度寄与していたとしても,被告の経営政策だけで説明が付くとはおよそ考え難く,被告の継続的収益力に問題がないとはいえないから,原告の上記主張は採用することができない。
イ 次に,原告の経営状態について検討する。
(ア) 平成21年変更により,本件基本契約の委託料金について,ヴェールダンスにつき4%から2.5%に,ユニックパーヴェールダンスにつき3.4%から2.3%に,それぞれ変更されたことは前提事実(6)ウのとおりであり,証拠(甲47,49,原告代表者)によれば,これにより,原告の業務委託料金に基づく売上が,従前の半分以下(約57%の減額)となっていたことが認められる。
しかしながら,①原告は,平成20年から平成21年にかけて,繰越剰余金も含めて,一定の利益を貯め込んでいたこと(原告代表者),②平成19年変更は,第59期(平成19年9月ないし平成20年8月)において,原告以外の物流会社も含めた被告全体の物流費比率は2.68%であったのに対し,原告の物流費比率は,4.56%で,他と比べて突出して高かったために行われたものであり,平成19年変更によって,原告の料率は,他社の物流費比率と近いものになったにすぎないこと(後記3(2)アに認定のとおり),③原告は,被告から,度々,被告以外の他社との取引等の営業努力をしないのかという指摘ないし助言を受けており,平成14年3月22日付け被告の担当者の書面において「A社長は“オンブにダッコ”的態度であり失望を感じます」とまで記載されていたにもかかわらず(認定事実ウ(ウ)),自ら積極的に他社への開拓活動等の営業努力を行った形跡がみられないこと(原告代表者)に照らすと,原告の経営状態が,少なくとも自らの営業努力等によって改善することが容易でない程度にまで悪化していたとは考え難い。
(イ) この点,原告代表者は,平成21年変更により売上が激減し,その収支は不採算となり,第14半期(平成21年8月から同年10月まで)の試算表ができた時点で,このままの取組みで事業を続ければ,この先半年ぐらいで事業として底抜けとなるであろうとの危機感があった旨陳述する(甲145)が,少なくとも上記(ア)の説示の限りにおいて,原告代表者の上記陳述は採用することができない。
ウ さらに,原告及び被告のそれぞれの要求について検討する。
(ア) 前提事実(7)によれば,原告は,被告に対し,平成22年7月から同年8月にかけて,平成21年9月以降激減した売上に対して速やかな業務支援を再三要請した上,業務支援条項の規定する状況が発生しているとして,業務の完全な履行のために必要な事項及び履行期限を文書で具体的に回答するよう要請するとともに,被告に一方的に料率を変更されたとして,その改定を要求し,これに対し,被告は,経営事情等が劇的に変化する中で経営努力を重ねてきたものの,客観的にみてもはや本件基本契約の維持継続が不可能である旨,事例を挙げて繰り返し説明してきたもので,それでも長年にわたる原告との関係に最大限配慮した上,新契約への切替を要求していたが,結局,原告は,被告からの業務支援及び委託料金の改定に固執し,新契約への切替に応じなかったことが認められる。
(イ) まず,原告の被告に対する業務支援及び委託料金改定の要求は,被告に一方的に料率を変更されたことを前提とするものであるが,この前提自体が誤っていることは後記3で説示するとおりである上,そもそも上記イ(ア)で説示したとおり,原告の経営状態が少なくとも自らの営業努力等によって改善することが容易でない程度にまで悪化していたとは考え難い状況においては,原告による上記の要求は正当なものであったとはいえないというべきである。
(ウ) 一方,被告が原告に対して締結を求めていた新契約は,業務支援条項やパートナーシップ条項がないほか,契約期間が原則1年とされ,期間満了6か月前までに原被告いずれからも何ら意思表示がないときは,同一条件により更に1年間延長されるものとし,以後も同様とされる等の点で,本件基本契約とは異なるものの(前提事実(7)ウ),上記のとおり経営状態がかなり悪化していた被告にとっては,更なる経営状態の悪化に備えて,料率をはじめとする取引先との間の契約上の諸条件をできる限り柔軟に変更することが可能な状態としておくこと,すなわち,契約の拘束期間をできる限り短くしておくことが重要であったということができる。にもかかわらず,本件基本契約が更新され,これから更に3年間は原告との間の本件基本契約が続くとなれば,被告としては,3年の間,更なる経営状態の悪化の場合の柔軟な対応が困難になるという点で,リスクを負担することになるから,被告の原告に対する新契約への切替要求というのは,被告の経営状態の更なる悪化によるリスク回避という観点からは重要な意味を有していたということができる。
他方で,原被告間で新契約を締結することになると,原告としては,本件基本契約が更新された場合に比べ,契約期間の点や業務支援条項及びパートナーシップ条項がない点で不利益になるが,少なくとも平成23年11月30日までは被告との間の取引関係が保障されることになるところ,「特別な条件変更」の該当性については,同日までの契約期間さえ保障されない場合に限って慎重に行えば足りることは上記1(3)で説示したとおりであるから,本件基本契約から新契約への切替についての被告の要求は,不当なものとまではいえないというべきである。
エ そうすると,経営状態がかなり悪化していた上,原告から,業務支援条項を根拠に挙げて,正当なものとはいえない業務支援や委託料金改定の要求を受けていた被告にとって,本件基本契約の条項をそのまま維持継続することができず,条項の一部の変更が不可避となった状態が生じていたというべきであって,被告が新契約への切替を求めたにもかかわらず,原告が上記要求に固執してこれに応じなかった以上,原被告間においては,もはや誠意交渉しても合意に達しない状況に陥っていたとみるのが相当である。
してみると,被告が,原告に対し,平成22年10月26日付け文書(甲53)をもって,本件基本契約が同年11月30日に終了すること等を通知した時点では,「特別な条件変更」に該当する事由が生じていたと認められるから,本件基本契約の終了について被告に何らかの違法性があったということはできない。
したがって,本件基本契約の終了が,被告による本件期間条項に仮託した物流体制改編の政策的企図による旨の原告の主張を採用することはできない。
オ この点,原告は,本件基本契約に基づいて被告が原告に支払っていた委託料金は,被告の売上高の0.1%程度にすぎないから,本件基本契約を終了しなければ被告の事業継続ができなくなるという関係にはない旨主張するが,「特別な条件変更」とは,被告が原告との間の物流業務を廃止しないと被告自身の企業維持ができなくなる程度の出来事が発生した場合とまで狭くは解されないことは既に説示したとおりであるから,原告の上記主張はその前提を欠き失当というほかない。
(2) 業務支援条項の違反について
原告は,被告が委託料金の変更に応じなかったことや,事業の回復に向けた協議義務を尽くさなかったという点で,被告には業務支援条項の違反があるとも主張する。しかしながら,原告からの業務支援や委託料金改定の要求が正当なものとはいえないことは上記(1)ウ(イ)で説示したとおりであるから,被告がこれらの要求に応じなかったからといって,被告に業務支援条項の違反があったとはいえず,原告の上記主張は採用することができない。
3 平成19年変更及び平成21年変更が原被告間の合意に基づくか否か(争点3)
(1) 平成19年変更について
平成19年変更について,原告代表者自身,合意があったことを認める旨の供述をしており(原告代表者),この供述と弁論の全趣旨によれば,原告と被告が平成19年変更について合意していたことは優に認められる。
(2) 平成21年変更について
ア 証拠(甲145,乙35,証人E,証人D及び後掲の証拠)及び弁論の全趣旨によれば,①被告の第59期(平成19年9月から平成20年8月まで)において,原告以外の物流会社も含めた被告全体の物流費比率は2.68%であったのに対し,原告の物流費比率は,4.56%であり,同業他社と比べて突出して高く,これは,枚単価に換算すると63.4円に相当するものであったこと,②そこで,Dは,平成21年5月20日,原告代表者と面談し,原告の物流費比率は他社よりも突出して高く,被告の厳しい経営状況,財務状況に照らせば,原告の物流費を削減しないわけにはいかないので,原告の物流費比率を他社並にしてほしい旨伝えたこと,③これに対し,原告代表者は,単純に高い低いと言われても困るという反応を示し,その日のうちに合意に至ることはなかったこと(なお,被告は,同日,平成21年変更の合意の前提となる基本合意が成立したかのように主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。),④原告のEは,被告の担当者に対し,同年7月2日,料率の件で原告代表者と打合せを行った旨を本文に記載したメール(乙2の1)を送信し,同メール添付の「料率変更の件」と題する書面(乙2の2)には,「他のセンターと違い,選択肢がない以上やれ!」「他のセンターの取扱量が違うが従来の枠を破って挑戦するように」というのが原告代表者からの指示であった旨記載されていること,⑤同月10日,被告の担当者らが物流費の件で原告を訪れ,原告代表者は,「やってみて,半年経過後に,次年度に向けての話し合いをする」旨の発言をしたこと(甲66,乙34),⑥同年8月下旬,Eは,被告担当者から,被告との取引に係る委託料金については,同年9月分以降,ヴェールダンスにつき2.5%,ユニックパーヴェールダンスにつき2.3%の料率が適用されるようになり,これらの委託料率は枚単価40円に相当する旨及び物流経費(運賃・梱包資材)は上記の料率に含まれず,別途支払う旨の説明を受けたこと(甲66),⑦その後,同年9月分から,上記料率によって計算された委託料金が支払われるようになり,少なくとも同年12月末までは,原告は,これらの料率に対する見直しを求めなかったことの各事実を認めることができる。
これらの事実に照らすと,原告は,遅くとも同年8月下旬の時点では,ヴェールダンスにつき2.5%,ユニックパーヴェールダンスにつき2.3%の料率が適用されることを承諾したとみるのが相当であるから,平成21年変更は,原被告間の合意に基づくものであると認められる。
イ これに対し,原告は,原告の物流は一次品の配送だけでなく,二次品,返品,B品の受理,修理,検査まで含むトータルの物流であることをもって,他社の委託料金に比較して高いという根拠が不明である旨主張する。
しかしながら,証拠(乙35)によれば,被告は,基本的に,原告を含む全物流会社に対して,一次品の配送だけでなく,二次品,返品に関する業務も委託していること,一方,B品管理センター業務についての料金は,原告を含むどの物流会社に対しても,物流費ではなく事業部経費として別途に支払をしており,そもそも物流費比率の対象に含まれないことが認められるから,原告の物流と他社の物流に差異があることを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。
ウ Eは,上記ア④のメールの添付書面の「他のセンターと違い,選択肢がない以上やれ!」という記載は料率に関するものではない旨の証言をし,また,同⑤の原告代表者の発言は枚単価についての発言である旨を証言する。
しかしながら,同④のメールの本文には,料率の件で原告代表者と打合せを行った旨が記載されている上,同メールの添付書面は「料率変更の件」という表題であることからすると,「他のセンターと違い,選択肢がない以上やれ!」という記載が料率に関するものであることは明らかであり,また,同⑤の発言は,同④のメールの8日後にされたものであることからすると,同⑤の発言も,料率についての発言であることが推認されるというべきであるから,Eの上記証言は到底措信することができない。
エ 原告代表者は,上記ア④のメールの添付書面の「他のセンターと違い,選択肢がない以上やれ!」という記載は枚単価についてのものである旨供述をするが,上記説示に照らし,採用することができない。
また,原告代表者は,同⑤の原告代表者の発言は全くのでたらめである旨供述するが,当該発言は,原告の従業員で,原告側の証人として証言をしたEが自ら作成し,原告が本件訴訟において自ら提出した書証(甲66)に記載されている事柄である上,Eは当該発言があったことを肯定する証言をしていることに照らし,原告代表者の上記供述は到底措信することができない。
(3) したがって,平成19年変更及び平成21年変更は,いずれも原被告間の合意に基づくものであると認められる。
4 請求1についての小括
以上によれば,原告が,被告から,平成22年11月30日をもって違法に本件基本契約を終了させられたとも,料率を一方的に低下させられたとも認められないから,被告に債務不履行及び優越的地位の濫用(不法行為)があったということはできない。
したがって,争点4(損害)について判断するまでもなく,請求1は理由がない。
5 本件指導料の返還約束の有無(争点5)
原告は,被告との間で,本件指導契約を締結し,被告に1200万円の本件指導料を支払ったところ,その際,被告は,本件指導料を被告の預り金として特別の勘定科目で保管し,原告の業績不振等の機会に原告へ返還する旨を約束していた旨主張し,原告代表者はこれに沿う陳述(甲141)及び供述をする。
しかしながら,上記返還約束の存在を裏付ける客観的証拠はない上,本件指導契約の契約書(甲37)には,本件指導料の返還約束の存在を窺わせる記載すらないばかりか,本件指導料が,被告の「経営及び業務指導の報酬」であることが明記されていることに鑑みると,上記返還約束があった旨の原告代表者の上記陳述及び供述はにわかに信用することができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
6 本件損失填補約束の有無(争点6)
原告は,被告が原告に対し,昭和63年11月28日,原告の創業時の損失を填補する旨約束した(本件損失填補約束)旨主張し,原告代表者はこれに沿う陳述(甲141)及び供述をするところ,上部に手書きで同日の記載がある書面(甲41)には,被告のCの手書きで「②覚書 サンエーインターナショナルとサンエーインダストリーは下記用件に於いて相互に合議した上に於いて約束する ①9/末 決算に於いて損失を保てんする ②3.5%の金利に対しては1期2期請求しない ④その他話し合に於て合議する」との記載があり,また,当時,Cが,創業当初における原告の経営状況が厳しいことを考慮して,覚書を締結して,被告から一定の支援をすることを考えており,具体的には,決算で判明する原告の損失のうち一定部分を被告が填補すること等を検討中である旨述べたという限度では被告もこれを認めている。
しかしながら,上記書面は,メモ用紙のような紙で,原告及び被告の署名も押印もなく,二重線で消されている箇所があったり,上記「④その他話し合に於いて合議する」との記載の下に「⑤」(ただし,④とも読め,判読困難である。)との文字もあるが,その右は空欄になっていたりと,その体裁上,ドラフト途中の文書であるように思われ,上記「①9/末 決算に於いて損失を保てんする」等の記載が,被告の原告に対する損失填補の確定的な意思を表明しているものとは考え難い。そして,被告が本件損失填補約束をしたのであれば,契約書や覚書等のその旨の正式な書面が作成されるはずであるが,これが作成されたことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,被告が主張するように,原被告間において,本件損失填補約束をするべく,覚書を作成するという話が出て,そのドラフト途中の文書として上記書面(甲41)が作成されたが,結局,その後,正式な覚書が作成されないまま,本件損失填補約束の話は立ち消えになったとみるのが自然である。
してみると,本件損失填補約束があった旨の原告代表者の陳述及び供述はたやすく採用し難く,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
7 本件準消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の存否(争点7)
(1) 原告は,本件基本契約に基づく原告の被告に対する委託料金を原資として,本件準消費貸借契約の借入金である本件7000万円を弁済することを,本件基本契約締結の条件としており,被告もこのことを承知していたことを根拠に,本件基本契約と本件準消費貸借契約とは不可分一体の関係になっていたところ,被告は,原告に対する優越的地位を濫用して,本件基本契約を終了させたから,被告のこの行為は,本件準消費貸借契約の効力ひいては同契約に基づく貸金返還請求権をも消滅させる行為である旨主張する。
確かに,原告代表者が,物流業務委託契約の契約期間と本件残金1億5000万円を含むその時点における原告の借入金の償還期間とを連動させたいと考えており,被告に対してその旨を強く要望していたこと,他方で,被告の担当者は,物流業務委託契約と本件残金1億5000万円等の原告の借入金の償還とを連動させるという原告の考え方自体を否定してはいなかったことは上記1(3)ウで説示したとおりである。
しかしながら,単に被告が原告の上記要望を知っていたというだけでは,本件基本契約と本件準消費貸借契約が不可分一体の関係であったということはできず,かえって,両契約の契約書は別個に作成されている(甲7の1,17)上,これらの契約書に,両契約の関係性を窺わせる記載はみられないことも踏まえると,両契約が不可分一体の関係であったなどと認めることはできない。
また,この点を措いても,本件基本契約の終了についての被告の行為が優越的地位の濫用に当たらないことは上記2で説示したとおりであるから,この観点からも,原告の主張は採用することができない。
(2) 原告は,本件基本契約と本件準消費貸借契約とが不可分一体の関係にないとしても,本件基本契約に違反し,その優越的地位を濫用して原告が受け入れられない著しく不利な契約条件を一方的に設定し,原告の再三の協議要請や是正申入れを無視し,本件基本契約を終了させ,原告の事業経営の継続を中止させ,それまで円滑に弁済してきた原告の弁済資金調達能力を奪い,支払能力の継続性を欠く状態にした被告の行為は,パートナーシップの形で共同事業をしてきた者の行為として,信義誠実の原則に反し,権利の濫用として許されず,その反射的効果として本件準消費貸借契約に基づく貸金返還請求権は消滅する旨主張するが,上記2で説示したことに照らし,採用することはできない。
8 請求2ないし4についての小括
以上によれば,請求2ないし4はいずれも理由がない。
第4 結論
よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 始関正光 裁判官 谷田好史 裁判官宮﨑文康は,差し支えにつき,署名押印することができない。裁判長裁判官 始関正光)
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