
「営業代行」に関する裁判例(14)平成28年 3月15日 東京地裁 平27(ワ)4689号 損害賠償等請求事件
「営業代行」に関する裁判例(14)平成28年 3月15日 東京地裁 平27(ワ)4689号 損害賠償等請求事件
要旨
◆被告KH社の従業員の勧誘により、新規上場を予定していたとされる同社の未公開株である本件株式を買い受け、合計4600万円を交付した原告が、本件株式の上場は予定されていない上、被告KH社は実態のないいわゆるペーパーカンパニーであったことから、株式の購入代金名下に金銭を詐取されたと主張して、被告KH社、その代表取締役である被告Y1、交付金の送金先であった被告KC社及びその代表取締役であった被告Y2に対し、民法719条等に基づき、交付金4600万円及び弁護士費用相当額952万円等の連帯支払を求めた事案において、擬制自白により被告KH社の不法行為責任及び被告Y2の共同不法行為責任を認めるとともに、全国的に展開された架空投資詐欺に関連している本件株式の勧誘、販売行為に係る共同不法行為を幇助したとして、被告Y1の共同不法行為責任を認めたほか、被告KC社の共同不法行為責任も認めた上で、交付金及びその10パーセントに相当する弁護士費用460万円を原告の損害と認定し、請求を一部認容した事例
参照条文
民法709条
民法719条
会社法429条1項
民事訴訟法159条
裁判年月日 平成28年 3月15日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)4689号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2016WLJPCA03158012
愛知県豊明市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 倉﨑淳一
横浜市〈以下省略〉
被告 株式会社共生ホールディングス
同代表者代表取締役 Y1
埼玉県所沢市〈以下省略〉
被告 Y1
同訴訟代理人弁護士 島田進一郎
横浜市〈以下省略〉
被告 株式会社共生コーポレーション
同特別代理人 B
東京都杉並区〈以下省略〉
被告 Y2
主文
1 被告らは,原告に対し,連帯して5060万円及びこれに対する平成24年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,被告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告らは,原告に対し,連帯して5520万円及びこれに対する平成24年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告株式会社共生ホールディングス(以下「被告共生HD」という。)の従業員の勧誘により,新規上場を予定していたとされる被告共生HDの未公開株(以下,「本件株式」という。)を買い受け,合計4600万円を交付した原告が,真実には,本件株式の上場は予定されていない上,被告共生HDは実態のないいわゆるペーパーカンパニーであったことから,被告共生HDが,株式の購入代金名下に原告から金銭を詐取したものであったと主張して
① 被告共生HDに対しては,民法709条に基づき,
② 被告Y1に対しては,被告共生HDとの共同不法行為として,民法719条2項1項,又は被告共生HDの代表取締役であったことから,会社法429条1項に基づき,
③ 被告株式会社共生コーポレーション(以下,「被告共生CO」という。)に対しては,被告共生HDとの共同不法行為として,民法719条2項1項に基づき,
④ 被告Y2に対しては,被告共生HD及び被告共生COとの共同不法行為として,民法719条2項1項,又は被告共生COの代表取締役であったことから,会社法429条1項に基づき,
連帯して,損害賠償金5520万円(交付金4600万円及び弁護士費用相当額952万円の合計額)及びこれに対する不法行為の日である平成24年3月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である(上記②④の各訴訟物は,選択的併合である。)。
1 前提となる事実(証拠を掲記しないものは,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者ら
ア 原告は,昭和22年生の女性であり,後記記載の経緯により,本件株式を購入した当時,年齢は,65歳であり,無職(主婦)であった。
イ 被告共生HDは,商業登記記録上,平成2年11月21日に設立され,資本金の額は,9900万円であり,事業目的として,老人ホームの経営等を掲げている。しかし,被告共生HDの営業の実態はなく,いわゆるペーパーカンパニーであった。(甲37から甲41まで《枝番省略》,甲47から甲50まで,弁論の全趣旨)
ウ 被告Y1は,遅くとも平成23年12月20日から被告共生HDの取締役であり,同日から被告共生HDの代表取締役である。
エ 被告共生COは,商業登記記録上,平成18年4月26日に設立され,資本金の額は,1000万円であり,事業目的として,営業代行業務,事務代行業務,老人ホームの経営等を掲げている。しかし,被告共生COの営業の実態はなく,いわゆるペーパーカンパニーであった。
被告共生COは,原告が本件株式の購入代金を送金した宛先であった。
被告共生COは,後記オ記載のとおり,被告Y2が代表者であったが,取締役を退任し,代表者が不在となった。
当裁判所は,平成27年6月15日,B弁護士を,被告共生COの特別代理人に選任した。(甲15,甲26,甲77から甲79まで,弁論の全趣旨)
オ 被告Y2は,遅くとも平成23年12月14日から被告共生COの取締役であり,同日からまた,本件の株式取引当時においても被告共生COの代表取締役であった。被告Y2は,刑事事件において,実刑判決を受け,会社法331条1項4号の欠格事由に該当し,被告共生COの取締役を退任した。(弁論の全趣旨)
(2) 本件株式の売買
原告は,被告共生HDの従業員を名乗る者から本件株式の購入に関する勧誘を受け,被告共生HDから本件株式を購入し,被告共生HDに対し,次のとおり,4600万円を支払った。
ア 平成24年2月23日 2000万円
イ 同年2月27日 1000万円
ウ 同年3月6日 1600万円
(3) 本件株式の売買の背景事情等
ア 本件株式の売買に関わった被告共生HD及び被告共生COは,株式会社共生の関連会社である。株式会社共生は,高齢者を被害者とする全国的に展開された架空投資詐欺の首謀者と疑われているAが役員となっている会社である。Aは,架空投資詐欺に関与したとして逮捕され,その後起訴され,刑事訴訟手続が進行中である。(甲85から甲91まで,弁論の全趣旨)
イ 原告は,本件株式の売買によって,4600万円が詐取されたとして,警察署に被害届出を提出した。(甲91,弁論の全趣旨)
2 争点及び当事者の主張
(1) 争点①(被告らの共同不法行為責任)について
(原告の主張)
ア 本件株式の購入の勧誘は,営業の実態のない被告共生HDの法人格を詐欺の手段として利用した,被告共生HDの関係者による故意の欺罔を内容とする詐欺行為といえる。
よって,詐欺の手段となった詐欺の実行行為を直接に構成することとなった被告共生HDは,原告に対する不法行為責任(民法709条)を免れない。
イ 被告Y1は,被告共生HDの代表者として,被告共生HDの詐欺の実行行為に加担ないし幇助をしたといえ,少なくとも重大な過失により,詐欺の実行行為に何らかの関与促進したことは明らかであるから,被告共生HDとともに,共同不法行為責任(民法719条2項1項)の責任を負う。
ウ 被告共生COは,レンタルオフィスを賃借し,送金の宛先となったことから,被告共生HDの詐欺の実行行為を幇助したといえ,被告共生HDとともに,共同不法行為責任(民法719条2項1項)の責任を負う。
エ 被告Y2は,被告共生COの代表者として,被告共生COの詐欺の実行行為の幇助行為に加担ないし幇助をしたといえ,少なくとも重大な過失により,詐欺の実行行為に何らかの関与促進したことは明らかであるから,被告共生HD及び被告共生COとともに,共同不法行為責任(民法719条2項1項)の責任を負う。
(被告共生HD及び被告Y2の主張)
被告共生HD及び被告Y2は,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面を提出しない。
(被告Y1の主張)
被告Y1は,被告共生HDの代表者として名義を貸しただけであり,本件株式の売買は当然のこと,被告共生HDの実態についても認識がない。
よって,被告Y1は,原告主張の共同不法行為責任を負わない。
(被告共生COの主張)
原告の主張は,いずれも不知ないし争う。
(2) 争点②(被告Y1の会社法429条1項の責任)について
(原告の主張)
被告Y1は,被告共生HDの代表取締役として,被告共生HDが本件株式の売買のような詐欺行為が行われないように業務執行をすべきであったのに,悪意又は重過失によりこれを怠ったものであるから,原告に対し,会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
(被告Y1の主張)
被告Y1は,被告共生HDの代表者として名義を貸しただけであり,本件株式の売買は当然のこと,被告共生HDの実態についても認識がない。
よって,被告Y1は,原告主張の会社法429条1項の責任を負わない。
(3) 争点③(原告の損害)について
(原告の主張)
ア 被告共生HDに対し交付し,返還を受けることのできない金額
4600万円
イ 弁護士費用
920万円
本件損害額と相当因果関係の認められる弁護士費用は,少なくとも損害額の2割を下らない。
(被告共生HD及び被告Y2の主張)
被告共生HD及び被告Y2は,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面を提出しない。
(被告Y1の主張)
原告の主張は,いずれも不知ないし争う。
(被告共生COの主張)
原告の主張は,いずれも不知ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点①(被告らの共同不法行為責任)について
(1) 被告共生HDの不法行為責任(民法709条)について
被告共生HDにおいては,民訴法159条1項及び同3項により,原告主張の不法行為責任を構成する事実について争うことを明らかにしないものとして,これを自白したものとみなす。
(2) 被告Y2の共同不法行為責任(民法719条2項1項)について
被告Y2においては,民訴法159条1項及び同3項により,原告主張の共同不法行為責任を構成する事実について争うことを明らかにしないものとして,これを自白したものとみなす。
(3) 被告Y1の共同不法行為責任(民法719条2項1項)について判断する。
ア 前記第2の1前提となる事実によれば,被告共生HDは,営業行為として本件株式の売買の勧誘を行っていたが,被告共生HDは,営業の実態はなく,ペーパーカンパニーであったこと,本件株式の勧誘,販売行為は,全国的に展開された架空投資詐欺に関連していることが認められ,これに反する証拠はない。
そうすると,被告共生HDの従業員による本件株式購入の勧誘行為は違法であり,それ自体不法行為を構成するものと解するほかはなく,被告HDは,原告に対し,不法行為責任を負う。
イ そして,本件株式の勧誘,販売行為は,被告共生HDの法人格が利用されており,その法人格の取得に協力し,かつ,代表取締役の就任することついても少なくとも名義を貸すことで協力したことを認めているのであるから,これにより,本件株式の勧誘,販売行為を促進かつ助長したことを明らかであり,共同不法行為を幇助したとして,被告Y1は,原告に対し,被告共生HDとともに不法行為責任を負う。
ウ 被告Y1は,本件株式の勧誘,販売行為について具体的な認識もなく,関与もしておらず,共同不法行為責任の成立を争うが,証拠(甲104)によれば,被告共生HDの名義を貸すことにより,何らかの違法行為が行われることを懸念しつつも,それでも報酬を得ようとしたことが認められ,採用できない。
(4) 被告共生COの共同不法行為責任(民法719条2項1項)について
前記(3)アで説示したことに加え,また,前記第2の1で認定した事実によれば,被告共生COは,本件株式の購入代金を送金した宛先となり,被告共生HDの詐欺行為に一部加担していることが明らかであり,原告に対し,被告共生HDとともに不法行為責任を負う。
2 争点②(被告Y1の会社法429条1項の責任)については,争点①と選択的主張であり,被告Y1の責任が肯定したので,判断が不要である。
3 争点③(原告の損害)について
(1) 被告共生HD及び被告Y2においては,民訴法159条1項及び同法3項により,損害の発生について争うことを明らかにしないものとして,これを自白したものとみなすことも考えられるが,損害額の賠償相当性については,自白の拘束力は及ばないことを前提に判断する。
(2) そこで,原告の損害について検討するに,前記第2の1前提となる事実(2)記載のとおり,被告共生HDに対し,4600万円を交付し,その返還を受けておらず,原告は,同額の損害を受けたと認められる。
また,原告は,その結果,本件訴訟提起を余儀なくされていることからすると,原告主張の弁護士費用相当額のうち,上記金額の10パーセントに相当する弁護士費用460万円に限度で被告らの共同不法行為との相当因果関係のある損害と認められる。
(3) よって,原告の被告らに対する請求については,連帯して5060万円の支払を求める限度で理由がある。
4 以上によれば,主文の限度で理由があるから,これらを認容することとし,その余は理由がないので,棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,同法64条但書を,仮執行宣言について同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 澤井真一)
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