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判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(347)平成18年 4月26日 東京高裁 平16(ネ)4076号 損害賠償請求控訴事件 〔ブブカアイドル事件・控訴審〕

判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(347)平成18年 4月26日 東京高裁 平16(ネ)4076号 損害賠償請求控訴事件 〔ブブカアイドル事件・控訴審〕

裁判年月日  平成18年 4月26日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平16(ネ)4076号
事件名  損害賠償請求控訴事件 〔ブブカアイドル事件・控訴審〕
裁判結果  変更、一部認容、一部控訴棄却  上訴等  上告  文献番号  2006WLJPCA04260013

要旨
◆芸能人の容貌や姿態を撮影した写真や実家の所在地等に関する写真を公表した行為につき、肖像及び情報プライバシー権を侵害したとして、損害賠償請求が認められた事例

新判例体系
民事法編 > 民法 > 民法〔明治二九年法律… > 第三編 債権 > 第五章 不法行為 > 第七〇九条 > ○不法行為の一般的な… > (一)要件 > A 違法性(権利侵害… > (2)各種の権利侵害 > (ソ)ノ二 パブリシティ権の侵害
◆芸能人の私生活に関する写真等を掲載した雑誌の出版、販売は、プライバシー権及びパブリシティ権の侵害を構成し、出版社らに対する損害賠償請求が認められる。

 

裁判経過
第一審 平成16年 7月14日 東京地裁 判決 平14(ワ)27427号 損害賠償請求事件 〔ブブカアイドル事件・第一審〕

出典
判タ 1214号91頁
判時 1954号47頁

評釈
内藤篤・判タ 1214号19頁
斉藤博・判評 585号36頁(判時1978号198頁)
内藤篤・ジュリ別冊 198号180頁(著作権判例百選 第4版)
慰謝料請求事件データファイル(名誉毀損・プライバシー侵害)
豊田彰・日本法学 75巻1号250頁
小野田丈士・コピライト 576号28頁
豊田彰・日本法学 74巻3号330頁
大家重夫・コピライト 548号35頁
花本広志・リマークス 35号62頁

参照条文
民法709条
民法715条
民法719条
民法723条

裁判年月日  平成18年 4月26日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平16(ネ)4076号
事件名  損害賠償請求控訴事件 〔ブブカアイドル事件・控訴審〕
裁判結果  変更、一部認容、一部控訴棄却  上訴等  上告  文献番号  2006WLJPCA04260013

《目次》
当事者の名称〈省略〉
主文/93
事実及び理由/94
第1 当事者の求める裁判/94
1 一審原告Aら14名の控訴の趣旨/94
2 一審原告Aら14名の控訴の趣旨に対する一審被告らの答弁/94
3 一審被告らの控訴の趣旨/94
4 一審被告らの控訴の趣旨に対する一審原告A,同H,同I,同K,同L,同M,同N,同O及び同Pの答弁/94
5 一審原告J/94
第2 原判決(主文)の要旨/94
第3 事案の概要/94
1 事案の要旨/94
2 当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実/95
(1) 一審原告らについて
(2) 一審被告らについて
(3) 本件雑誌の出版,販売
(4) 一審被告Y2の対応
第4 当事者の主張/96
1 プライバシー権侵害について/96
(1) 一審原告らの主張
ア 肖像プライバシー権
イ 情報プライバシー権
ウ 一審被告らによる一審原告らのプライバシー権侵害行為
エ 一審被告らの主張に対する反論
(2) 一審被告らの主張
ア 一審原告らの主張に対する認否
イ 社会の正当な関心事の法理の抗弁
ウ 著名人の法理による包括的承諾
2 パブリシティ権侵害について/98
(1) 一審原告Aら10名の主張
ア 著名人の肖像,名称等の顧客吸引力
イ パブリシティ権に対する表現の自由による制約について
ウ パブリシティ権侵害の成立要件について
エ マスメディアの貢献とパブリシティ権
オ 肖像使用の取引慣行の存在について
カ 一審被告らによる一審原告らのパブリシティ権侵害行為
キ パブリシティ権侵害の限定解釈と本件におけるパブリシティ権侵害行為について
(2) 一審被告らの主張
ア パブリシティ権に法令の根拠のないこと
イ 顧客吸引力とフリーライドの関係
ウ 取引慣行の不存在
エ パブリシティ権侵害行為の不存在について(いわゆる「専ら」要件の限定解釈について)
3 責任原因/101
(1) 一審原告らの主張
ア 一審被告Y3及び同Y4の責任原因
イ 一審被告Y2の責任原因
ウ 一審被告らの違法性の認識について
(2) 一審被告らの主張
ア 一審被告Y3及び同Y4の責任原因について
イ 一審被告Y2の責任原因について
ウ その余の主張
4 損害についての当事者双方の主張/102
(1) 一審原告らの主張
ア プライバシー権侵害に対する慰謝料について
イ パブリシティ権侵害に対する損害について
ウ 本件雑誌による販売利益
エ 弁護士費用
(2) 一審被告らの主張
第5 当裁判所の判断/103
1 当事者及び本件雑誌の出版,販売について/103
2 プライバシー権侵害の不法行為と損害賠償義務の成否について/103
(1) 結論
(2) 公共性とプライバシー権
(3) 著名人とプライバシー権
3 パブリシティ権侵害の不法行為と損害賠償義務の成否について/104
(1) パブリシティ権により保護される法的利益と侵害の違法性
(2) パブリシティ権と表現の自由の関係
(3) 一審原告Aら10名の著名性について
(4) 本件雑誌の出版,販売について
ア 本件雑誌の形状,記載の内容,構成等について
イ 無断行為
(5) 個別記事についての判断
ア 一審原告Aの符号1〜5の写真
イ 一審原告Bの符号6,75〜77の写真
ウ 符号7〜9,11,12の写真(いわゆる「腋の下」。一審原告H,同E,同C,同F,同G)
エ 一審原告Hの符号36〜39の写真
オ 一審原告Hの符号48〜53の写真
カ 一審原告Hの符号65〜69の写真
キ 一審原告Hの符号78及び79の写真
ク 一審原告Iの符号61〜63の写真
ケ 一審原告Oの符号70〜74の写真
コ 一審原告Pの符号83〜85の写真
(6) 一審被告Y3,同Y4及び同Y2の故意過失について
(7) 結論
4 損害/112
(1) プライバシー権侵害の損害とパブリシティ権侵害の損害の算定について
(2) 各一審原告らの損害を算定するについての考慮すべき事情について
ア プライバシー権侵害の損害の算定について考慮すべき事情
イ パブリシティ権侵害の損害の算定について考慮すべき事情
(3) 各一審原告らの損害
ア 一審原告A
イ 一審原告B
ウ 一審原告C
エ 一審原告E
オ 一審原告F
カ 一審原告G
キ 一審原告H
ク 一審原告I
ケ 一審原告J
コ 一審原告K
サ 一審原告L
シ 一審原告M
ス 一審原告N
セ 一審原告O
ソ 一審原告P
第6 結論/114
別紙 当事者目録
別紙 一審原告請求損害額一覧
 

控訴人・被控訴人(一審原告) A
控訴人(一審原告) B
外4名
控訴人・被控訴人(一審原告) H
外7名
上記控訴人・被控訴人(一審原告)14名訴訟代理人弁護士 村上重俊
同 外山太士
同 岩垂章
同 定近直之
被控訴人・控訴人(一審被告) 株式会社コアマガジン
(同上「一審被告会社」という。)
代表者代表取締役 Y2
被控訴人・控訴人(一審被告) Y4
外2名
被控訴人・控訴人(一審被告)4名訴訟代理人弁護士 阿部裕三
被控訴人(一審原告) J

 

主文
1  一審原告A,同B,同C,同E,同F,同G,同H,同I,同K,同L,同M,同N,同O,同Pの本件控訴に基づき,原判決中これらの一審原告らの各請求に関する部分を次のとおり変更する。
(1)  一審被告らは,連帯して,次に掲げる一審原告らに対し,次に掲げる各金員及びその各金員に対する平成14年6月15日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
①  一審原告Aに対し,66万円
②  一審原告Bに対し,132万円
③  一審原告Cに対し,17万円
④  一審原告Eに対し,22万円
⑤  一審原告Fに対し,22万円
⑥  一審原告Gに対し,17万円
⑦  一審原告Hに対し,220万円
⑧  一審原告Iに対し,88万円
⑨  一審原告Kに対し,44万円
⑩  一審原告Lに対し,33万円
⑪  一審原告Mに対し,33万円
⑫  一審原告Nに対し,33万円
⑬  一審原告Oに対し,66万円
⑭  一審原告Pに対し,55万円
(2)  上記の一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
2  上記の一審原告らのその余の本件控訴をいずれも棄却する。
3  一審被告らの本件控訴をいずれも棄却する。
4  訴訟費用のうち,一審原告A,同B,同C,同E,同F,同G,同H,同I,同J,同K,同L,同M,同N,同O,同Pと一審被告らとの間に生じた分は,第1,2審を通じてこれを4分し,その1を一審被告らの負担とし,その余を上記一審原告らの各負担とする。
5  上記1(1)は,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1  当事者の求める裁判
1  一審原告A,同B,同C,同E,同F,同G,同H,同I,同K,同L,同M,同N,同O及び同P(これらの14名を「一審原告Aら14名」という。)の控訴の趣旨
(1)  原判決中,一審原告Aら14名敗訴部分を取り消す。
(2)  一審被告らは,連帯して,一審原告Aら14名に対し,別紙「一審原告請求損害額一覧」の各一審原告の「請求金額」欄記載の金員及びその金員に対する平成14年6月15日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)  訴訟費用は,第1,2審とも一審被告らの負担とする。
2  一審原告Aら14名の控訴の趣旨に対する一審被告らの答弁
(1)  本件控訴をいずれも棄却する。
(2)  訴訟費用は,第1,2審とも一審原告らの負担とする。
3  一審被告らの控訴の趣旨
(1)  原判決中,一審被告らの敗訴部分を取り消す。
(2)  一審原告A,同H,同I,同J,同K,同L,同M,同N,同O及び同Pの請求をいずれも棄却する。
(3)  訴訟費用は,第1,2審とも一審原告Aら14名及び一審原告Jの負担とする。
4  一審被告らの控訴の趣旨に対する一審原告A,同H,同I,同K,同L,同M,同N,同O及び同Pの答弁
(1)  本件控訴をいずれも棄却する。
(2)  訴訟費用は,第1,2審とも一審被告らの負担とする。
5  一審原告J
一審原告Jは,当審において適式の呼出しを受けたが,当審の口頭弁論期日に出頭せず,かつ,控訴答弁書その他の当審における準備書面を提出しない。
第2  原判決(主文)の要旨
1  一審被告らは,連帯して,次に掲げる各一審原告に対し,次に掲げる各金員及びその各金員に対する平成14年6月15日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(1)  一審原告Aに対し,36万円,
(2)  一審原告Hに対し,165万円,
(3)  一審原告Iに対し,69万円,
(4)  一審原告Jに対し,48万円,
(5)  一審原告Kに対し,36万円,
(6)  一審原告Lに対し,24万円,
(7)  一審原告Mに対し,24万円,
(8)  一審原告Nに対し,30万円,
(9)  一審原告Oに対し,48万円,
(10)  一審原告Pに対し,36万円
2  一審原告B,同C,同E,同F,同G及び一審相原告Dの請求並びにその余の一審原告らの請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,一審原告B,同C,同E,同F,同G及び一審相原告Dと一審被告らとの間においては,一審被告らに生じた費用の5分の1を一審原告B,同C,同E,同F,同G及び一審相原告Dの負担とし,その余は各自の負担とし,その余の一審原告らと一審被告らとの間においては,その余の一審原告らに生じた費用の3分の1を一審被告らの負担とし,その余は各自の負担とする。
4  上記1及び3につき,仮執行宣言。
第3  事案の概要
1  事案の要旨
本件は,芸能人である一審原告Aら14名,一審原告J及び一審相原告Dが,本件雑誌(ブブカスペシャル7)の出版社,発行人,編集人又は代表取締役である一審被告らに対し,一審原告らの写真等の掲載された本件雑誌を出版,販売した一審被告らの行為は,一審原告A,同H,同I,同K,同L,同M,同N,同O,同P及び同Jの各プライバシー権(肖像,個人情報)を,一審原告A,同B,同C,同E,同F,同G,同H,同I,同O,同P,同J及び一審相原告Dの各パブリシティ権をそれぞれ侵害すると主張して,不法行為に基づく損害賠償金及びその遅延損害金の支払(請求損害額は,原判決別紙「原告請求損害額一覧」に記載のとおりである。)を求める事案である。
原判決は,一審被告らが本件雑誌に一審原告A,同H,同I,同K,同L,同M,同N,同O,同P及び同Jの各写真を掲載して出版,販売したことによりこれらの一審原告らの各プライバシー権を侵害したことになると認め,前記第2の1の限度で一審被告らに対し,連帯してその不法行為による損害賠償請求を認容し,その余のプライバシー権の侵害に基づく損害賠償請求を棄却するとともに,一審原告A,同B,同C,同E,同F,同G,同H,同I,同O,同P,同J及び一審相原告Dの各パブリシティ権侵害に基づく損害賠償請求を棄却したので,一審原告ら16名及び一審被告らがそれぞれ控訴をした(一審原告J及び一審相原告Dは,各控訴を取り下げたので,一審原告Jの本件請求のうちパブリシティ権侵害に基づく損害賠償請求訴訟及び一審相原告Dの本件請求については,原判決が確定した。)。
2  当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実
(1)  一審原告らについて
ア 一審原告A,同C,同E,同F及び同Gは,本件雑誌が出版,販売された当時(平成14年6月15日以前ころ),いずれも写真集等に登場し,テレビ番組等にレギュラーないし準レギュラーとして多数出演している著名な芸能人である。
イ 一審原告Bは,平成4年にミス日本グランプリとして表彰されて以来,数多くのテレビ番組,テレビコマーシャル等に出演し,平成14年のサッカーワールドカップ開催に当たり,日韓親善大使の役を果たしたほか,本件雑誌の出版,販売当時も,多方面にわたる出演機会の多い極めて著名な芸能人である。
ウ 一審原告H,同I,同K,同L,同M,同N及び同Jは,本件雑誌の出版,販売の当時,いずれも人気歌唱グループ「モーニング娘。」に所属し,同グループの発売したシングルCD15枚のうち10枚すべてオリコン週刊チャート最高順位3位以内(うち6枚が同1位)を記録するなど,その人気は絶大であり,それぞれ同グループのメンバーないし元メンバーとして,多数の機会に出演する著名な芸能人である。
エ 一審原告Oは,本件雑誌の出版,販売の当時,数多くのテレビドラマ,映画等に出演するほか,歌手として多くのCDを発売し,その人気からテレビコマーシャルへの出演を多数こなす著名な芸能人である。
オ 一審原告Pは,本件雑誌の出版,販売の当時,テレビ番組等に多数出演し,その人気からテレビコマーシャルへの出演も多数こなしている著名な芸能人である。
(2)  一審被告らについて
ア 一審被告会社は,雑誌等の発行,出版,販売を業とする株式会社であった。
イ 一審被告Y2は,本件雑誌が出版,販売された当時,一審被告会社の代表取締役であった。
ウ 一審被告Y3は,本件雑誌の出版,販売の当時,本件雑誌の発行人であった。
エ 一審被告Y4は,本件雑誌の出版,販売の当時,本件雑誌の編集人であった。
(3)  本件雑誌の出版,販売
ア 一審被告会社は,原判決別紙記事目録の「記事の内容」欄記載の内容の記述及び写真(ビデオやテレビの静止画像である場合を含む。)から成る記事(以下「本件記事」といい,各記事は,「符号1の写真」,「符号80の記述」のように表示する。)が掲載された雑誌「ブブカスペシャル7」(甲1,乙1。以下「本件雑誌」という。)を出版し,平成14年6月15日以前に,その販売を開始した。
イ 本件記事のうち一審原告らの容貌等を撮影した写真が撮影された状況については,原判決別紙記事目録の「撮影状況等」欄記載のとおりである。
ウ 一審原告らは,上記イの状況のうち,プライバシー権侵害に関しては,① 芸能人となる前の姿を撮影した写真として,一審原告Aにつき符号2〜5,一審原告Hについて符号65〜68が,② 私服姿で路上を通行中等の姿を撮影した写真として,一審原告H,同I,同J,同K,同L,同M及び同Nにつき符号13〜60及び69が,③ 制服姿で通学中の姿を撮影した写真として,一審原告Jにつき符号64,一審原告Oにつき符号70〜74,一審原告Pにつき符号83〜85があり,④ 実家の所在地等に関する写真及び記述として,一審原告Hにつき符号80,一審原告Pにつき符号81,82を挙げている。
エ 一審原告らは,上記イの状況のうち,パブリシティ権侵害に関しては,一審原告Aにつき符号1から5,一審原告Bにつき符号6及び75〜77,一審原告Hにつき符号7,36〜39,48〜53,65〜69,78及び79,一審原告Eにつき符号8,一審原告Cにつき符号9,一審原告Fにつき符号11,一審原告Gにつき符号12,一審原告Iにつき符号61〜63,一審原告Oにつき符号70〜74及び一審原告Pにつき符号83〜85の各写真を挙げている。
(4)  一審被告Y2の対応
一審被告Y2は,芸能人の肖像写真の無断使用等の問題が生じた際,自ら一審被告会社の代表者として,次のとおり対処してきた。
a 平成12年11月20日,自ら立ち会い,社団法人日本音楽事業者協会(以下「日本音楽事業者協会」という。)との間で,同協会所属アーティストの氏名・肖像に関する人格権及びパブリシティ権を最大限尊重する旨の合意書を交わした(甲2)。
b その後,平成13年1月24日,上記合意書の更新を拒絶する旨の書面を作成して,日本音楽事業者協会あてに同書面を送付した(乙2)。
c 平成13年5月2日,一審被告会社の出版に係る雑誌において音楽芸能家の肖像写真を無断使用したことに対し,当該雑誌の編集長と連名の謝罪文を作成し,日本音楽事業者協会代理人あてにこれを送付した(乙7)。
d 平成16年2月26日,一審被告会社を債権者,日本音楽事業者協会を債務者とする仮処分事件(東京地裁平成16年(ヨ)第599号)の審尋期日に代理人と共に出頭し,一審被告会社が本件訴訟の第一審判決の言渡しまでの間,一審被告会社出版に係る雑誌において,日本音楽事業者協会所属のアーティストを取り扱わないこと等を内容とする和解を提案した。
e 一審被告会社は,一審原告ら及びその他の芸能人の肖像を本件雑誌に掲載すべく,平成12年12月から平成13年2月19日までの合意書の効力期間内に,合意に基づく肖像の事前の使用許諾に関する手続に基づく申し入れをしたが,いずれも拒否されている。拒否する理由については,投稿写真や過去の素材に関してはイメージを損なうこと,どういった内容で掲載するか不明であること,わいせつ本のイメージが強いこと,写真集を発売したばかりであることといったことが記載されている(甲2,乙56から67,68の1.2)。
第4  当事者の主張
1  プライバシー権侵害について
(1)  一審原告らの主張
ア 肖像プライバシー権
何人もみだりに自己の容貌や姿態を撮影されず,撮影された肖像写真を公表されないという人格的利益は,法的に保護される(プライバシー権(肖像))。
イ 情報プライバシー権
何人もみだりに私的事柄についての情報を取得されず,取得された私的事柄を公表されないという人格的利益は,法的に保護される(プライバシー権(個人情報))。
ウ 一審被告らによる一審原告らのプライバシー権侵害行為
前記第3の2(3)ウに挙げた写真及び記述は,いずれも一審原告らのプライバシー権を侵害するものである。
① 一審原告らが芸能人となる前の姿は,一般人の感受性を基準としてその公開を欲しない事柄であり,また,一般の人々に広く知られているとはいえず,一審原告A及び同Hは,公表により精神的苦痛を被ったから,これらの写真を公表した一審被告らの行為は,同一審原告らのプライバシー権(肖像)を侵害する。
② 私服姿で路上を通行中等の一審原告らの姿は,一般人の感受性を基準としてその公開を欲しない事柄であり,また,一般の人々に広く知られているとはいえず,一審原告H,同I,同J,同K,同L,同M及び同Nらはこれにより精神的苦痛を被ったから,これらの写真を公表した一審被告らの行為は,同一審原告らのプライバシー権(肖像)を侵害する。
③ 制服姿で通学中の一審原告らの姿は,一般人の感受性を基準としてその公開を欲しない事柄であり,また,一般の人々に広く知られているとはいえず,一審原告J,同O及び同Pは,これにより精神的苦痛を被ったから,これらの写真を公表した一審被告らの行為は,同一審原告らのプライバシー権(肖像)を侵害する。
④ 実家の所在地等に関する写真及び記述
符号80の写真及び記述から,同写真に撮影された駅を利用する者は,どの駅が撮影されたものかすぐに理解することができ,その駅が一審原告Hの実家の所在地に最も近い駅であることを知ることができるところ,一審原告Hの実家の所在地は,一般の人々に広く知られているとはいえず,この事実が公表されると,同一審原告のファンやいわゆる「追っかけ」がその実家の所在地を突き止めて押しかける事態が生じ,同一審原告の平穏な私生活が脅かされることになることは明らかであるから,符号80の写真及び記述を公表した一審被告らの行為は,一審原告Hのプライバシー権(個人情報)を侵害する。
符号81及び82の写真及び記述は,一審原告Pの元実家の最寄り駅を示し,一審原告Pの元実家の外観を明らかにしているところ,一審原告Pの元実家の所在地及び元実家の外観は,一般の人々に広く知られているとはいえず,これが明らかになることによって,一審原告Pの生活水準等が明らかになり,一般人の感受性を基準としてその公開を欲しない事柄であるから,同写真及び記述を公表した一審被告らの行為は,一審原告Pのプライバシー権(個人情報)を侵害する。
エ 一審被告らの主張に対する反論
① 社会の正当な関心事の法理は,犯罪報道等の真に社会的な価値を有する報道等を保護する考え方であって,一審被告らの主張する「公共性」「公益目的」については,読者の単なる好奇心に応えようとする興味本位のものにすぎず,のぞき見趣味的な表現を保護するものではない。
最高裁判所大法廷昭和44年12月24日判決・刑集23巻12号1625頁は,「何人も,その承諾なしに,みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するものというべきである」と判示して,公道上であっても他人の容貌を無断で撮影してはならないのが原則であることを明らかにしており,一審被告らの主張は原則と例外をすり替えるものであって,著しく失当である。
② 一審被告らの述べるところの「著名人の法理」に基づきプライバシー権侵害を否定した裁判例は,公刊物に登載されている範囲内では見あたらず,一審被告らの主張は,理由がない。
(2)  一審被告らの主張
ア 一審原告らの主張に対する認否
一審原告らの主張する上記(1)ア,イ(プライバシー権(肖像)及び(個人情報)についての記述)は,認める。
イ 社会の正当な関心事の法理の抗弁
しかし,個人情報の公開によるプライバシー侵害の成立要件としては,単に公開を欲しない,或いは他人に知られたくないとか,不快・不安の念を覚えるだけでは足りないのであって,個人の私生活上の情報が公開,或いは公表され,社会生活上の平穏を害されたり,社会的地位を低めたりして,精神的苦痛を被ることが先ず必要であり,その上で表現の自由とプライバシー権とを相関的に比較衡量して判断すべきものであり,公共性や公益性を有する表現行為は,保障されなければならない。
たとえば,一般的な公共の場所(街頭・公園・通勤電車・駅・空港等)に市民が身を置いている場合,その容貌・姿態を撮影する行為は,それが一般人が通常とっている行動であって,その行動自体が撮影されることに心理的負担を覚えない形態でされるときは,肖像権侵害に当たらないとされている。
また,著名人の私生活上の事実の公開がプライバシー権の侵害とならない法理として「著名人の法理」,すなわち,公衆に自己を曝す職業を選択した者はプライバシーの権利を一部放棄したこと,並びに公衆の関心事の法理としては,私生活上の事実の公開が正当な公衆の関心事であるときは,プライバシーの侵害とはならないとする法理が提唱されている。
本件雑誌は,娯楽誌であり,芸能情報誌であるが,適法に出版された雑誌であって,公衆の正当な関心に応えて,主として有名若手芸能人に関する写真・記事・情報などを掲載した雑誌である。アメリカ合衆国の連邦最高裁は「ライブ・エンターテインメントは表現の自由の保障の下にある」としていること,竹田稔著乙31の1頁目の下段左側には「表現行為が民主主義社会の健全な発達から見て有用とはいえないものであってもその表現行為は保障されている。……その意味では,興味本位のおよそ国民の知る権利とは無縁な写真報道であっても,表現の自由の保障の枠内にある。」とされていること,東京地方裁判所昭和47年7月12日判決(判例タイムズ282号196頁以下)の判決理由7項では,「女子プロレスは一般公衆の関心事である」ことから,公共性を認めているようであること,最高裁判所平成6年2月8日判決・民集48巻2号149頁(「逆転」事件上告審判決)において,「社会一般の関心あるいは批判の対象となるべき事項」について公共性を認めているようであることからすると,一般公衆の関心事を掲載した本件雑誌及び掲載された写真,記事等については,公共性が認められるものである。
これによると,一審被告らの掲載した写真等は,いずれも一審原告らのプライバシー権(肖像)侵害には,該当しない。すなわち,芸能人の珍しい写真,素顔の写真,私服姿の写真,学校制服姿の写真,魅力的な写真等や趣味,出身,さらには芸能人の服装や帽子・サングラスその他の持ち物は,社会の正当な関心事であるところ,本件において一審原告らがプライバシー侵害と主張する写真及び記述は,一審原告らのデビュー前の姿,日常生活上の姿,制服姿及び日常生活に関する情報を内容とするものであり,これらに対する大衆の関心は,社会的に正当なものとして許容される。
すなわち,個別に検討すると,
① 芸能人となる前の姿を撮影した写真(符号2〜5の写真及び符号65〜68の写真)は,それぞれ一審原告A,同Hの写真であるとの識別が可能であって,私事性は低い。芸能人である一審原告らは,容貌が広く知られることによってその評価が高められることから,その氏名,肖像が広く社会に公表されることを希望,意欲しているものと認められ,上記写真は,一般人の感受性を基準として公開を欲しない写真であるとは認められない。芸能人の芸能活動にとって容貌は重要なものであるから,芸能人となる前の容貌は,現在の容貌と関係があり,一般人の感受性を基準として公開を欲しない事柄であるとはいえない。符号2〜5の写真は,一審原告Aが通っていた小学校の卒業アルバムから転載された写真であるところ,この卒業アルバムは,一審原告Aの同期生及び教師等に相当部数頒布され,一般の人々にいまだ知られていないものではない。一審被告会社の取得の方法も,頒布を受けた同級生の一人から提供を受けたという正当なものである。
② 一審原告Hらの容貌を路上等の公共の場所において撮影した写真(符号13〜60及び69の写真)は,私的領域へ侵入したものではないから,その私事性は低い。芸能人である一審原告らは,容貌が広く知られることによってその評価が高められることから,その氏名,肖像が広く社会に公表されることを希望,意欲しているものと認められ,上記写真は,一般人の感受性を基準として公開を欲しない写真であるとは認められない。掲載の態様も,一審原告らの人格的利益を毀損するとか,不利益を与えるものでもない。
③ 一審原告J,同O及び同Pの通学中を撮影した写真(符号64,70〜74,83〜85の写真)は,同一審原告らの在学の事実が知られている以上,その私事性は低い。芸能人である同一審原告らは,容貌が広く知られることによってその評価が高められることから,その氏名,肖像が広く社会に公表されることを希望,意欲しているものと認められ,上記写真は,一般人の感受性を基準として公開を欲しない写真であるとは認められない。
④ 実家の所在地等に関する写真及び記述
一審原告Hの実家の所在地等に関する写真及び記述については,符号80の写真に最寄り駅の名称が分からないようにするため,駅ビルの名称を消す処理が施され,本件雑誌の読者が一審原告Hの実家を探し出すことができないように配慮されているから,符号80の写真及び記述が公表されることによって,一審原告Hの私生活の平穏が脅かされることはない。
一審原告P及びその家族は,元実家には居住していないから,符号81及び82の写真及び記述が公表されることによって,一審原告Pの私生活の平穏が脅かされることはない。また,芸能人の立身出世物語は,一種の美談,成功談であり,芸能人としての評価や名声を低下させるものではない。
ウ 著名人の法理による包括的承諾
一般に,芸能人はテレビや映画に出演し,雑誌等の記事の対象となることを当然容認しているのであるから,一般の人々が関心を持つであろう事柄がその芸能人のプライバシーにわたる場合であっても,相当の範囲で公表されることを承諾しているものとみてよい。一審原告らがプライバシー権侵害を主張する写真及び記述は,私事性が強いなど通常その公表を承諾しないであろう事柄を含まないから,その公表を包括的に承諾していた範囲に含まれる。
2  パブリシティ権侵害について
(1)  一審原告Aら10名の主張
ア 著名人の肖像,名称等の顧客吸引力
固有の名声,社会的評価,知名度等を獲得した芸能人等の氏名,肖像等を商品に付した場合,当該商品の販売を促進する効果(以下「顧客吸引力」という。)を生ずるところ,この顧客吸引力には,経済的な価値があるから,これを獲得した芸能人等は,この経済的利益をパブリシティ権として排他的に支配することができる。このパブリシティ権は,アメリカにおいて,プライバシー権から分化する形で提唱され,判例により承認,確立された権利であり,我が国でも,東京地裁昭和51年6月29日判決(判例時報817号23頁,マーク・レスター事件)において,パブリシティ権という名称は用いなかったものの,俳優の氏名・肖像のテレビコマーシャルへの無断使用行為に対し損害賠償請求が認められ,その後,タレントグッズの販売の差し止めについて東京地裁平成元年9月27日判決(判例時報1326号135頁,光GENJI事件),東京高裁平成3年9月26日判決(判例時報1400号3頁,おニャン子クラブ事件控訴審判決),さらには,東京地裁平成10年1月21日判決(判例時報1644号141頁,キング・クリムゾン事件東京地裁判決)では,「著名人の氏名,肖像から生ずる顧客吸引力は,当該著名人の獲得した名声,社会的評価,知名度等から生ずる独立した経済的な利益ないし価値として把握することが可能であるから,これが当該著名人に固有のものとして帰属するというべきであり」と判示され,広告への利用と商品への利用(商品化)という二つの類型以外にも著名人に関する氏名,肖像等の各種情報を発表する出版物においてもパブリシティ権を侵害する場合があることを指摘したところからも明らかである。
パブリシティ権は,自然人の名声,社会的評価,知名度を基礎とする権利であり,その価値は当該自然人の業績に大きく左右され,ひとたび著名人が自己の氏名・肖像等を悪用,濫用されてしまえば,その名声や社会的評価を損なう場合があるので,著名人はその氏名・肖像等の使用許諾に当たり,そのパブリシティ価値を維持,発展させるべく常に細心の注意を払う必要がある。また,本件雑誌のようにアーティストのプライバシー権を悪意的に侵害する雑誌に肖像が無断で掲載されれば,タレントイメージが毀損され,芸能活動の継続に支障をきたすものである。したがって,パブリシティ権侵害を主張する者が著名人であって,第三者が当該著名人のパブリシティ価値を無断で商業的に使用した場合にパブリシティ権侵害が成立すると解すべきであり,パブリシティ権侵害の要件としては,当該著名人の氏名,肖像等の使用が商業的使用に当たるというためには,収支相償うことが予定されていること,すなわち,直接ないし間接に利益を出すつもりで行っていたことがあれば足りる。
イ パブリシティ権に対する表現の自由による制約について
また,パブリシティ権については,マスメディアの報道の自由,表現の自由からの制約が主張されることがあるが,表現の自由が優越的地位を占めるのは,自由な意見の表明が民主主義の基盤であるからにほかならず,批判や論評に当たらない「紹介等」がこうした優越的地位を占める筋合いはないからである。
芸能活動に携わる者は,それぞれの公的活動が報道(紹介)され,良きに付け悪しきに付け評価されること(芸能評論)は,芸能人が社会的活動をする場合の当然の結果であり,これらに関する記事や写真が出版物に掲載されることについて,芸能人である一審原告らは何ら異議を述べるものではない。また,著名人の宿命として,結婚など芸能人にまつわる重要な出来事が社会的事件として報道されることも,受忍せざるを得ない。しかし,他方,表現の自由の名の下に芸能人の私的な側面を暴露するような興味本位の出版が許されてはならず,商品広告やタレントグッズと同視できるような氏名・肖像等を認めれば,出版物を装った脱法的な無断使用に道を開くことになり,パブリシティ権を認めた前記各裁判例の趣旨を没却し,ひいてはパブリシティ権そのものを破壊することにつながりかねない。芸能人といえども日常生活においては一般人同様のプライバシー権を享受するのであり,みだりに日常生活の写真を掲載されない権利を有しているのであるから,原判決がパブリシティ権侵害を否定する要因として,「芸能人等の仕事を選択した者は,芸能人等としての活動やそれに関連する事項が大衆の関心事となり,雑誌…等のマスメディアによって批判,論評,紹介等の対象となることや,そのような紹介記事等の一部として自らの写真が掲載されること自体は容認せざるを得ない立場にある」が,「そのような紹介記事等には,必然的に芸能人等の顧客吸引力が反映し,それらの影響を紹介記事等から遮断することは困難である」と判示する(原判決28頁15行目)ことは,論理矛盾である。
ウ パブリシティ権侵害の成立要件について
以上の法理をパブリシティ権に類推すると,表現の自由の観点から著名人の肖像の無断使用が許されるか否かは,使用の目的,使用された肖像と使用する媒体それぞれの性質・内容・分量,肖像掲載の方法・態様等の事実関係を踏まえて,肖像使用が使用者の表現行為に対し付従的な性質を有しているか否かにより個別に判断すべきであり,少なくとも,著名人の肖像が独立して鑑賞し得るに至るような使用については,表現の自由によって正当化される使用行為にあたらないというべきである。
これに対し,原判決が摘示するところのパブリシティ権侵害の成立要件について,「ある者の行為が上記パブリシティ権を侵害する不法行為を構成するか否かは,他人の氏名,肖像等を使用する目的,方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して,上記使用が当該芸能人等の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものであるといえるか否かによって,判断すべきである」と解すると,芸能人の氏名や肖像等を使用しても,出版物としての体裁を整え,短文のコメントや紹介を付する等の「工夫」さえしておけば,「専ら」顧客吸引力を利用したわけではないという言い逃れが可能となってしまう。これを許せば,たとえカメラ小僧等の撮影した投稿写真を無数に掲載した投稿雑誌であっても,パブリシティ権侵害の成立する余地がほとんどなくなってしまう。
エ マスメディアの貢献とパブリシティ権
マスメディアの「貢献」がパブリシティ権の獲得に貢献することを理由に,あたかもメディアが著名性の獲得に貢献したことにより,マスメディアに当該著名人の氏名・肖像の利用権が生ずる,あるいは,著名人がそのパブリシティ権を行使するに際して,一定の制約を受けるかのごとき見解があるが,財産権の獲得に貢献した者が,第三者が取得した財産権について当然に利用権を取得することにはならないから,マスメディアの貢献とパブリシティ価値の排他的支配権とは,本来無関係である。
オ 肖像使用の取引慣行の存在について
著名な芸能人等の氏名・肖像の利用行為に関しては,利用者において当該芸能人ないしはその所属プロダクション等との間で,対価を支払いその使用の許諾を受ける取引慣行が成熟し,近年,その取引市場がますます巨大化・広範囲化している。メディアによるパブリシティ権の承認の動きとして,NHKサービスセンター事件における謝罪文(甲61)の作成と日本音楽事業者協会への交付(甲47,当審証人尾木),毎日新聞社事件における謝罪文(甲63)の作成と同協会への交付及び同新聞全国版におけるパブリシティ権についての特集記事(甲64)の掲載(甲47,当審証人尾木)などが見られる。実際,一審原告らの属する業界においては,雑誌掲載に際し相当額の掲載料が支払われる取引慣行があり(甲28ないし32),37誌もの雑誌がアーティストのパブリシティ権を最大限尊重し,これを侵害するような肖像使用を行わない旨の覚書(甲33ないし44は,その一部)を締結している。一審被告会社も,同様の和解(甲48)や合意書(甲2)を受け容れるとともに,無断使用行為の違法性を認めて500万円もの賠償金を支払ったことがある(乙69)。こうした事実に照らせば,一審原告らの属する業界においては,肖像を無断使用してはならず,肖像の利用行為に際し利用者において対価を支払いその使用の許諾を受ける取引慣行が確立したものと評価できる。
カ 一審被告らによる一審原告らのパブリシティ権侵害行為
前記第2の2(1)アないしエの事実によれば,一審原告Aら10名は,パブリシティ権の主体となり得る著名性を有していたところ,一審被告らは,前記第3の2(3)の事実のとおり,本件雑誌を出版,販売するために,著名人である一審原告A,同B,同C,同E,同F,同G,同H,同I,同O,同Pの氏名,肖像(写真)等を掲載して販売し,同一審原告Aらのパブリシティ権を侵害した。
キ パブリシティ権侵害の限定解釈と本件におけるパブリシティ権侵害行為について
仮に,パブリシティ権侵害の要件として,当該著名人の氏名,肖像等を使用する目的,方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して,その使用が当該著名人の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものでなければならないと解釈(いわゆる「専ら」要件の限定解釈)する場合であっても,次のとおり,本件雑誌の販売は,同要件を充たしている。
① 本件雑誌の表表紙には,右側に「アイドル激似ビデオ 春の新春スペシャル」の見出しが,左側に「モーニング娘。&浜崎あゆみ」の見出しがそれぞれ大きな活字で記載されているほか,一審原告H,同I,同E,同C,同G,同F,同O,同B及び同Pの氏名又は芸名が記載されている。
② 本件雑誌の表表紙には,一審原告A,同B及び同Oの顔写真並びに同Pの全身を撮影した写真が掲載され,一審原告A,同B,同O及び同Pの写真を含む芸能人の写真の占める割合は,3分の2を超えている。
③ 本件雑誌は,総頁数112頁(表・裏の表紙を含まない。)で構成され,すべての頁が光沢紙を使用したカラーグラビアである。29頁,58頁,70〜72頁,82頁,92頁及び102頁(広告部分)並びに112頁(読者に抽選でプレゼントが当たるという内容の告知をした部分)の計9頁を除く103頁すべてに芸能人の写真が掲載されている。掲載されている写真すべてについて,どの芸能人を撮影したものであるか,又はどの芸能人に似た者を撮影したものであるかが明らかにされている。
④ 芸能人の写真が掲載されている103頁のうち,活字が紙面の半分以上を占める頁は,33頁(芸能人の小学校時代の文集),42頁〜57頁(芸能人の実家等の情報)並びに61頁,63頁,65頁,67頁及び69頁(キャラクターグッズの品評)の22頁にすぎず,残りの81頁は,芸能人の写真によって構成されている。
⑤ 本件雑誌は,一審原告ら著名アーティストの氏名を多数表紙に掲げ,カメラ小僧などから買い取った「お宝写真」を散りばめてそのプライバシーを売り物にするもので,まさしく「商業的領域」に足を踏み入れ,一審原告らのパブリシティ価値を利用した出版物にほかならず,本来言論・出版の自由として保障されるべきものに当たらないことは明らかである。
(2)  一審被告らの主張
ア パブリシティ権に法令の根拠のないこと
著名人が有する氏名・肖像等の排他的支配権,いわゆるパブリシティ権は,法令等の根拠がないので認められないことについて,最高裁判所第二小法廷平成16年2月13日判決・民集58巻2号311頁(ギャロップレーサー事件)は,競走馬の名称を無断使用した事例において,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきであるとした。この最高裁判例によると,一審原告の主張するパブリシティ権について「著名人(本件の場合,所属芸能人ら)の名称・肖像等から生ずる経済的利益,ないし価値を排他的に支配する財産的権利」であると理解した場合,これが認められるためには,「法令等」の根拠が必要である。
パブリシティ権の根拠とされる著名人が著名性や顧客吸引力を取得したか否かという基準は,あまりに主観的かつ曖昧である。顧客吸引力というものは,その存在は誰がどのようにして認定できるのか,顧客吸引力とはどの程度の吸引力を想定しているのか,どのあたりまで権利が及ぶのか,明確でない。これらの不明確な基準により排他的な権利の発生を肯定するようなことがあれば,その独占的保護の外延が明らかでないため,混乱を招くことになりかねず,実際にもそのような見解や実務慣行が長年承認されてきたと認めることもできない。その法令等には著名人がその著名性によって,その名称・肖像等から生ずる顧客吸引力を生じたときは,その顧客吸引力から生ずる経済的利益を独占的に享受することができるとの社会的な慣行が存在し,その慣行が長い間尊重され,慣習にまで高められていたと評価され,そのような利益を排他的な権利として肯定するとの見解をとった場合には,それも含まれるかも知れない。
しかし,一審原告らのようなタレントと称される芸能人の場合には,そのような慣行は存在しないし,長い間尊重され,慣習にまで高められたこともない。
また,知的財産権の制度のように一般に権利の存在や範囲がわかるように登録により権利が発生し,それが公示されたりする権利と異なり,氏名・肖像のパブリシティ権というものは,一審原告らの主張によっても全く公示されないし,権利の存在や権利の外延もはっきりせず,その権利の譲渡性,相続性,或いは存続期間についても明確でないものであって,権利の内容が,非常に曖昧である。
イ 顧客吸引力とフリーライドの関係
「顧客吸引力にただ乗りする」(以下「フリーライド」という)ことを規制しないでよいのかという問題があるが,他人の成果にフリーライドすることは原則として自由であり,すぐに禁止されたり,違法になることではない,むしろフリーライドすることによって,お互いに発展して豊かになっていくという部分があるのであり,フリーライドに対する規制は,例外的に行われると考えるのが近代法の自由主義的な考え方である。
フリーライドに対する規制としては,成果開発者や創作者に損害が生じて,技術の発展や文化の発展が阻害されることになる場合(例として不正競争防止法2条1項3号の商品形態の模倣の規制がある。)とフリーライドによって信用蓄積が阻害されて,競争秩序の混乱を招くような場合(例として不正競争防止法2条1項1号の,周知の営業等表示に関する混同禁止規定がある。)があるところ,これらの規制についても成果開発者や創作者,信用を独占させる弊害と社会全体の利益を衡量しながらバランスの取れた規制をするというようなことを立法判断として行うべきであり,これらの規制に際しては,必ずあらかじめ禁止される行為を社会に告知しておくこと,すなわち法令により明確な基準を設けておくことが不可欠である。この規制は,本来,自由であるはずの経済的活動を規制する法令であるから,国会の法律によって,民主的コントロールの下でそういうものを決めていくことが不可欠であり,わが国においては,制定法の明文の規定なしに差止請求権や損害賠償請求権を認めるということについては,極めて慎重に考えられるべきである。
ウ 取引慣行の不存在
一審原告Aら10名は,一審原告らの属する業界においては,雑誌掲載に際し掲載料が支払われる取引慣行があると主張するが,大手新聞社や大手雑誌社の発行する週刊誌,例えば「週刊朝日」,「サンデー毎日」,「Yomiuri Weekly」,「週刊新潮」,「週刊文春」,月刊誌「文芸春秋」,その他「女性自身」,「アサヒ芸能」,「週刊実話」などは,甲33ないし甲44と類似した覚書は結んでおらず(尾木徹第2回証人調書33丁),また,一審原告らは協定書を提出するのみで,雑誌掲載について掲載料支払の実例についてはほとんど主張,立証をしなかったから,そのような取引慣行がある旨の主張は認められない。
原審判決は,一審原告Hの符号36〜39,符号48〜53及び65〜68の写真,並びに同Oの符号70〜74の写真についてパブリシティ権侵害を認め,その理由として何れも「文章部分は極めて少なく1頁のおよそ15パーセント程度で4枚あるいは5枚若しくは6枚の写真を見開き全面に掲載していて,モデル料等が通常支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用に比肩すべき程度に達している」としている。
しかし,週刊誌等におけるグラビア写真としての利用の場合においても,未だ慣習によりパブリシティ権を認めることができるまでには至っていないと考えられる。原審判決も,グラビア写真利用の場合に慣習を認めたものとは考えられず,「モデル料等が通常支払われている」ことを理由としているだけで慣習の存在までは認定しておらず,法的説得力に欠けている。
エ パブリシティ権侵害行為の不存在について(いわゆる「専ら」要件の限定解釈について)
以上のように,パブリシティ権は,制定法の根拠を欠き,裁判例が認めた権利又は法益であるから,パブリシティ権侵害を認めるとしても,裁判例の認める範囲でのみ限定的にこれを認めるものと解すべきである。
著名人は,自らが大衆の強い関心の対象となる結果として,必然的にその人格,日常生活,日々の行動等を含めた全人格的事項がマスメディアや大衆等による紹介,批判,論評等の対象となることを免れない。また,現代社会においては,著名人が著名性を獲得するに当たってはマスメディア等による紹介等が大きく与って力となっていることを否定することができない。そして,マスメディア等による著名人の紹介等は本来言論,出版,報道の自由として保障されるものである。芸能人に関して出版された書籍・雑誌に関し,最終的に芸能人のパブリシティ権侵害を根拠として損害賠償請求を認めた裁判例はない(乙30。東京高裁平成11年2月24日判決,キング・クリムゾン事件東京高裁判決)。
よって,著名人の紹介等がパブリシティ権侵害となるのは,当該著名人の氏名,肖像等を使用する目的,方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して,その使用が当該著名人の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とする場合に限られるところ,次の事情によると,本件雑誌は,一審原告Aほか13名の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものとは認められない。
① 本件雑誌は,アイドルを主とする芸能人の私服姿,制服姿及び魅力的な姿を撮影した写真並びにアイドルの趣味,出身及び日常生活等を知ることのできる写真及び情報等を掲載して紹介し,一般の人々の芸能人の全人格的事項に対する強い関心を精神的に満足させ,楽しませることを目的とする娯楽雑誌である。
② 符号2〜5の写真は,一審原告Aの小学校時代の写真を紹介し,ファンの同一審原告に対する強い関心,娯楽心に応え,これを満足させることを目的としたものである。現在の写真である符号1の写真を載せているのは,小学校時代の写真と比較・対照するためである。なお,符号1の写真は,撮影が許されていた同一審原告の写真集出版記念イベントで撮影されたものである。
③ 符号6及び75〜77の写真は,7,8年前の一審原告Bの珍しい魅力的な容貌・容姿を紹介し,ファンの同一審原告に対する強い関心・娯楽心に応え,これを満足させることを目的としたものである。
④ 符号7〜12の写真は,その珍しさと美しさから魅力の一つとなっている若手女性芸能人の腋の下の写真を掲載して順位を付けるという編集方法を採って,その魅力を高め,紹介したものである。
⑤ 符号36〜39の写真(一審原告Hの制服姿),符号48〜53の写真(同一審原告の黒色の上着姿)及び符号65〜69の写真(同一審原告の友人等との姿)は,中学校の制服姿等の同一審原告の珍しい写真を紹介してファンの同一審原告に対する強い関心,娯楽心に応え,これを満足させることを目的としたものである。
また,符号78及び79の写真は,一審原告Hの実家を探し出す記事に添えられた写真であって,同一審原告の顧客吸引力を利用したものではない。
⑥ 符号61〜63の写真は,一審原告Iの映画撮影のために駅伝に出場するという珍しい写真を紹介して,ファンの同一審原告に対する強い関心・娯楽心に応え,これを満足させることを目的としたものである。
⑦ 符号70〜74の写真は,一審原告Oの下校時の珍しい写真を紹介し,ファンの同一審原告に対する強い関心・娯楽心に応え,これを満足させることを目的としたものである。
⑧ 符号83〜85の写真は,一審原告Pの元実家を探し出す記事に添えられた3年前の写真であって,同一審原告の顧客吸引力を利用したものではない。
3  責任原因
(1)  一審原告らの主張
ア 一審被告Y3及び同Y4の責任原因
一審被告Y3は発行人として,同Y4は編集人として,本件雑誌の出版,販売に関与したものであるから,同一審被告らには,一審原告らのプライバシー権及びパブリシティ権を侵害しないようにすべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った過失がある。
イ 一審被告Y2の責任原因
① 一審被告Y2が,芸能人の肖像写真の無断使用等の問題が生じた際,自ら一審被告会社の代表者として,前記第3の2(4)の対応をしており,これによると,一審被告Y2は,本件雑誌を出版,販売する以前から,一審被告会社の雑誌の編集方針を決定する権限を行使していたから,一審原告らのプライバシー権及びパブリシティ権を侵害しないように編集方針を決定すべき義務を有していた。
② 仮に具体的な編集に関与していなかったとしても,一審被告Y2は,上記のように芸能人との間でプライバシー侵害及びパブリシティ権侵害の有無について紛争が生じていたのであるから,本件雑誌の出版に当たり,一審原告らの権利侵害が生じないような編集方針を採用するよう編集人らに働きかける義務を有していた。
③ ところが,一審被告Y2には,この注意義務を怠った過失がある。
ウ 一審被告らの違法性の認識について
前記2(1)オの主張のとおり,一審原告らの属する業界においては,雑誌掲載に際し相当額の掲載料が支払われる取引慣行があり(甲28ないし32),37誌もの雑誌が芸能人のパブリシティ権を最大限尊重し,これを侵害するような肖像使用を行わない旨の覚書(甲33ないし44は,その一部)を締結しており,一審被告会社も,同様の和解(甲48)や合意書(甲2)を受け容れるとともに,無断使用行為の違法性を認めて500万円もの賠償金を支払ったことがあること(乙69),日本音楽事業者協会は,「肖像権啓蒙キャンペーン」の一環として,平成13年6月から10月にかけて,「顔を盗む人たちへ。」と題する意見広告(甲24の1)を,朝日新聞朝刊に2回(うち全面広告1回),毎日新聞朝刊に2回(いずれも全面広告),スポーツ紙6紙にのべ22回掲載し(甲24の2・平成13年12月25日付け事業実施報告書),平成14年6月7日には,「肖像権をナメてませんか?」と題する全面意見広告(甲25の1)を読売新聞朝刊に掲載し(甲25の2・平成15年3月31日付け事業実施報告書)ており,本件雑誌が出版された平成14年6月15日当時,既に一般市民の中に,芸能人の肖像無断使用は法的に許されないという共通認識が醸成されており,一審被告らは,一審原告Aら10名を本件雑誌に掲載することが同人らのパブリシティ権侵害であることを知りながら,あえて掲載に及んだのであって,違法性の認識に欠くところはない。
(2)  一審被告らの主張
ア 一審被告Y3及び同Y4の責任原因について
一審原告らの主張は,否認する。
イ 一審被告Y2の責任原因について
一審原告らの主張は,否認する。代表取締役である一審被告Y2は,本件雑誌を含む各雑誌の具体的な編集に関与していない。
ウ その余の主張
一審原告らの主張するような肖像使用に対し対価を支払うという取引慣行は,存在しないし,一審被告会社が500万円を支払ったのは,肖像の無断使用の違法性を認めて支払ったものではなく,和解調書(甲48)に直接抵触する和解条項違反に基づく違約賠償金の支払である。
4  損害についての当事者双方の主張
(1)  一審原告らの主張
ア プライバシー権侵害に対する慰謝料について
プライバシー権侵害の慰謝料は,下記の侵害態様及び後記ウの一審被告会社の得た利益を考慮すべきである。
符号13ないし60(一審原告H,同I,同J,同K,同L,同M及び同N),符号64(一審原告J),符号70〜74(同O)及び符号83〜85(同P)の写真は,「追っかけ」又は「カメラ小僧」の撮影した写真であり,一審被告会社は,追っかけ等から上記写真を買い受けた。
現に,一審被告会社は,本件雑誌の表表紙の内側の左下の角部分に,「★求む! アイドル投稿→BUBKA SPECIALでは,アイドル投稿ページを常設中。イベント,通学,プライベート何でもOK,投稿お待ちしてます。」等と写真の投稿の勧誘文及び連絡先を記載し,追っかけ等の撮影した芸能人等の写真を募集している。
それらの写真を本件雑誌に掲載して出版,販売することにより,追っかけ等の活動を助長する結果を生じさせている。追っかけ等の行為は,同一審原告らを単に追跡するだけにとどまらず,同一審原告らをつけ回し,嫌がらせをするストーカー行為にまで発展する危険性をはらんでいる。
符号80の写真及び記述は,一審原告Hの実家の所在地をある一定の範囲に特定することを可能にする内容であって,追っかけ等の行為を容易にし,同一審原告に対する被害発生の可能性をより現実的なものとする。
人格権(名誉,プライバシー権)侵害による慰藉料の額について,とりわけマスメディアによる人格権侵害は,その影響力の大きさゆえに被害者はきわめて重大な精神的苦痛を受けるのに,裁判で得られる慰藉料の「相場」が少なすぎるため,被害者は泣き寝入りを余儀なくされてきた。他方,マスメディアの側は,仮に裁判となって敗訴しても,人格権侵害の報道によって慰藉料の「相場」をはるかに上回る追加利益を得られるため,慰藉料がいわば「必要経費」程度に考えられ,一向に人格権無視の報道姿勢を改めないことが指摘されてきた。一審原告らの被った重大な精神的苦痛を慰藉し,かつ一審被告らに対し従前の出版行為が経済的に見合わないと自覚させるために,一審被告らに高額の慰藉料を命ずる必要がある。
以上によると,一審原告A,同H,同I,同J,同K,同L,同M,同N,同O及び同Pが一審被告らのプライバシー権侵害行為によって被った損害の額は,それぞれ別紙「一審原告請求損害額一覧」の「プライバシー権」欄記載の額を下らない。
イ パブリシティ権侵害に対する損害について
民法709条の「損害」とは,本来の財産状態と加害行為後のそれとの差額であるから,不法行為の一種であるパブリシティ権侵害による損害も同様に,氏名・肖像等のもつ本来の価値と,無断使用後の価値との差額と理解すべきであって,一審原告らの得べかりし利益(雑誌掲載許諾料)をもって損害のすべてであると解すべきではなく,私的な側面を強調して読者の興味をそそる本件雑誌に氏名・肖像を掲載され,これによりタレントイメージの形成・発展・維持に支障をきたし,パブリシティ価値そのものが毀損させられたというパブリシティ価値低下分の損害も考慮すべきである。
よって,一審原告A,同B,同C,同E,同F,同G,同H,同I,同O及び同Pが一審被告らのパブリシティ権侵害行為によって被った損害の額は,それぞれ別紙「一審原告請求損害額一覧」の「パブリシティ権」欄記載の額を下らない。
その損害額の算定はきわめて困難であるが,侵害者の利得額をもって被害者の損失額と推定するという著作権法114条2項の規定をパブリシティ権に類推すべきであり,一審原告Aらの被ったパブリシティ価値毀損の損害額は,総額で下記金額を下らない。
ウ 本件雑誌による販売利益
本件雑誌は,その名称からも明らかなように月刊誌「BUBKA」の増刊号であること,その発行部数が16万1600部であること,「BUBKA SPECIAL」誌はおおむね年1回ないし2回発行され(乙24),その内容は,「BUBKA」等の月刊誌に掲載された「お宝写真」半年分ないし1年分の中から「精選」したものを掲載しているとみられることから,販売期間については明らかではないが,上記内容及び発行部数等からすれば,少なくとも月刊誌である「BUBKA」等を下回るものではないと考えられ,本件雑誌の実売率は,他の雑誌の販売率からすると控えめに見積もっても60パーセント(実売部数9万6960部)は下らないものである。
一審被告らの得た利益は,過大に計上された疑いの濃厚な一審被告ら主張の総制作費を前提にしても,1945万7286円を下らない。
【計算式】
一審被告ら主張の売上収入  30,392,529円 …A
一審被告ら主張の広告収入   630,000円 …B
一審被告ら主張の総制作費  21,869,572円 …C
一審被告ら主張の実売部数   72,410部 …D
真の実売部数(推計値)    96,960部 …E
一審被告らの得た利益=A÷D×E+B−C≒19,457,286円
エ 弁護士費用
一審原告らは,一審原告ら訴訟代理人弁護士らに対し,本件訴訟の提起及び追行を委任し,着手金及び成功報酬として,それぞれ別紙「一審原告請求損害額一覧」の「弁護士費用」欄記載の金額を支払うことを約束した。
本件訴訟の規模,専門性からすると,その全額を一審被告らの不法行為と相当因果関係のある損害と認めるべきである。
(2)  一審被告らの主張
一審被告らに一審原告らのプライバシー権及びパブリシティ権侵害は,いずれも認められないところである。
一審被告会社が追っかけ等からの写真を買入れたことは,認めるが,追っかけを助長したことは,否認する。アイドルが追っかけ等の被害に遭うのは,アイドルとして人々の関心の対象となっているからであって,このような被害と一審被告会社の写真の買入れとの間に因果関係はない。
本件雑誌は,16万1600部印刷・製本し,実売部数は,7万2410部である(乙18。本件雑誌の発行による利益額は850万円余である。)。
判決によって支払を命じられた損害賠償額は516万円であり,あわせて平成14年6月15日から年5分の割合による損害金の支払を命じられている。訴訟に要する手数や心労,費用等の経済的負担,及び一審被告らの失うおそれのある一審被告会社発行の雑誌に対する信用などのことを考えると,とても必要経費程度に考えられるものではなく,一審被告らとしてはこのような訴訟は本来,強く避けたいと考えているものである。
第5  当裁判所の判断
1  当事者及び本件雑誌の出版,販売について
前記第3の2の事実(一審原告らが本件雑誌発行時に芸能人であったこと,一審被告会社が本件雑誌を発行し,一審被告Y2が本件雑誌が出版,販売された当時,一審被告会社の代表者であり,一審被告Y3が発行人,一審被告Y4が編集人であったこと,本件雑誌の記事内容,本件雑誌発行前の一審被告Y2の対応)については,当事者間に争いがない。
2  プライバシー権侵害の不法行為と損害賠償義務の成否について
(1)  結論
当裁判所も一審原告らのプライバシー権侵害に基づく損害賠償請求については,本件雑誌の出版,販売時の代表取締役であった一審被告Y2,編集人であった同Y4,発行人であった同Y3による本件雑誌の出版,販売により,一審原告らのプライバシー権が侵害されたものであり,この不法行為による損害について一審被告会社は,民法715条,商法261条3項,78条2項,民法44条1項による賠償責任を負い,かつ,一審被告らは,民法709条,上記の民法及び商法の条項,民法719条により,連帯して一審原告らのプライバシー権が侵害されたことによる損害の賠償義務を負うものと認めるのが相当であると判断する。すなわち,前記第3の2(3)ウの各写真及び記述は,同一審原告らの私生活上の事実を表現するものであり,証拠(甲11〜18)及び弁論の全趣旨によれば,これらの写真や記述による私生活上の事実は,一般人の感受性を基準にすると他人への公開を欲しない事柄に該るものであり,これが一般にいまだ知られておらず,かつ,その公表により同一審原告らが不快,不安の念を覚えたことが認められるから,一審被告Y3及び同Y4がこれらの写真及び記述を本件雑誌に掲載し,それを出版,販売した行為は,同一審原告らのプライバシー権(肖像及び個人情報)の侵害に該当するものであり,また,一審被告Y2についても前記第3の2(4)の経過からすると,本件雑誌の編集に具体的に関与していなかったとしても,本件雑誌の出版,販売以前に,芸能人の肖像等に関する人格権等の保護につき問題が生じた際,日本音楽事業者協会との間で合意書を取り交わしたり,謝罪文を送付していたものであるから,一審被告会社の代表取締役として,一審被告会社の出版する雑誌においてプライバシー権侵害が生じないように,内部的な取扱方針及びチェック態勢を定める等の方法により,同一審原告らのプライバシー権を侵害しないように配慮すべき義務を有しており,一審被告Y2がこれを怠ったことが認められるのであり,反面において,個々の写真や記事について一審被告らが主張するプライバシー権の侵害に該当しない,あるいは,違法性が阻却されるとする主張がいずれも理由がないと判断されるのであり,以上のような認定及び判断の理由は,下記(2)(3)に付加するほかは,原判決「理由」中の2項,3項の認定・説示(原判決18頁2行目から同25頁10行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(2)  公共性とプライバシー権
一審被告らは,社会の正当な関心事の法理の抗弁,すなわち,本件雑誌は,娯楽誌であり,芸能情報誌であるが,適法に出版された雑誌であって,公衆の正当な関心に応えて,主として有名若手芸能人に関する写真・記事・情報などを掲載した雑誌であり,これら一般公衆の関心事を掲載した本件雑誌及び掲載された写真,記事等については,公共性が認められるものであるから,一審原告らのプライバシー権(肖像)侵害には,該当しないし,一審被告らの掲載した写真や記事は,いずれも芸能人の珍しい写真,素顔の写真,私服姿の写真,学校制服姿の写真,魅力的な写真等や趣味,出身,さらには芸能人の服装や帽子・サングラスその他の持ち物は,社会の正当な関心事であるところ,本件において一審原告らがプライバシー侵害と主張する写真及び記述は,一審原告らのデビュー前の姿,日常生活上の姿,制服姿及び日常生活に関する情報を内容とするものであり,これらに対する大衆の関心は,社会的に正当なものとして許容される旨の主張を提出する。
しかしながら,社会の正当な関心事の法理は,犯罪報道等の社会的ないし公益的な価値を有する報道等を保護する考え方であり,この考え方によって,一審原告らが芸能人としてその芸能活動について論評される,あるいは,批評されるといった領域に属する活動とは異なる純然たる私的な言動ないし活動についてまで「公共の利益」に関わるとしてそのプライバシーが制限されるという結果が肯定されることになるとは,到底認められないところというべきである。もちろん,芸能人の中には,自らの私的な事項についても情報を発信し,これにより大衆から注目を集めるなどの行動をする者が存在することもあり得るが,このような行為は,自己に関する情報を自ら承諾した結果であって,いわゆる情報化社会の出現とともに提唱されている「プライバシー権とは,個人が自己に関する情報を,いつ,どのように,また,どの程度に他人に伝えるかを自ら決定できる権利である。」とする自己情報コントロール権に基づくものであり,このような行為があることを根拠として芸能人である各個人が「一人にしておいてもらう権利」という内容をも含むプライバシー権を放棄したものと解することはできないし,一審原告らについて,本件雑誌の掲載を個別に許諾したことが全くないことからすると,著名人であるといった理由や大衆の興味の対象であるといった理由から,そのプライバシー権侵害の違法性が阻却されるとは,到底解されないところといわなければならない。
(3)  著名人とプライバシー権
また,一審原告らは,芸能人であって,政治家のように私生活の行状等が国民の選挙権行使に当たって重視される者ではないし,また,本件雑誌に掲載された①一審原告A及び一審原告Hの芸能人になる前の写真(一審原告Aの小学校のアルバムの集合写真は,ごく限定された同窓生等の関係する人に対し公開されているものであって,発行部数16万1600部もの本件雑誌への掲載は,質的にも公開の程度が異なることは,明白である。),②一審原告Hらの路上で撮影された写真(なお,これらの写真が公共の場所で撮影されたとしても,ことさら,一審原告Hらに焦点を合わせて撮影されたものであって,年末の空港等の混雑した様子を撮影した中にたまたま写ったというものではない。),③一審原告Jらの通学中の写真,④一審原告Hの実家や一審原告Pの元実家についての記事などについては,これらがいずれも同一審原告らのファンであれば,興味があり,知りたいと思うところであるとしても,結局のところこれらのファンの興味本位の欲求に応えるものでしかなく,この情報が民主主義に不可欠な情報であってその制限が許されないなどという領域に関わるものでないことも明白である。
3  パブリシティ権侵害の不法行為と損害賠償義務の成否について
(1)  パブリシティ権により保護される法的利益と侵害の違法性
一審原告らは,一審被告らの行った本件雑誌の出版,販売が,一審原告らのパブリシティ権を侵害する不法行為に該当する旨主張するので,まず,一審原告らのような芸能人のパブリシティ権(保護法益)とこれに対する侵害の違法性について,検討する。
一般に,固有の名声,社会的評価,知名度等を獲得した著名な芸能人の氏名,芸名,肖像等(氏名,芸名を含め,以下「肖像等」という。)を商品に付した場合には,当該商品の販売促進に有益な効果,すなわち,顧客吸引力があることは,一般によく知られているところであり,著名な芸能人には,その肖像等が有する顧客吸引力を経済的な利益ないし価値として把握し,これを独占的に享受することができる法律上の地位を有するものと解される。けだし,芸能人は,その芸能の卓越し,秀でることを目指し,その芸能を高めることを追求しようとする職業人であって,日常的な稽古,練習,レッスン等によりその芸能を磨き,磨いた芸能を観客,聴衆,視聴者などに披露し,その拍手喝采あるいは逆の不評,不人気を受けていずれの評価をもこれを糧として更なる披露の機会を目指す者であり,その固有の名声,社会的評価,知名度等が世の中に知れ渡る著名な芸能人になるためには,天賦の才能等に加え,相当の精神的,肉体的な修練とその修練を積み重ねるにつき必要不可欠な出費に耐える労苦とを要することが明らかであり,芸能人がそのように著名な芸能人として知れ渡った暁には,当該芸能人がその固有の名声,社会的評価,知名度等を表現する機能がある肖像等が具有する顧客吸引力に係る経済的価値を独占的に享受することは,当該芸能人が努力した上記のような修練,労苦等のもたらす当然の帰結であるからである。
著名な芸能人の上記のような法律上の地位は,パブリシティ権と称されるところ,著名な芸能人は,その肖像等が有する顧客吸引力が正当に人々に利用されいよいよ大きなものとなることを望むものの,他の者により無断でこれらが不当に取り扱われることによりその有する固有の名声,社会的評価,知名度等が損なわれたり,汚されたりしてその芸能を披露するのに妨げとなることに対しては,許せるわけではないし,その肖像等が人々から悪いイメージで受け止められたり,飽きられたりすることに対しても,無関心ではあり得ないと認められる。ところが,当該芸能人の顧客吸引力を利用することに伴う多大な経済的効果に眼を奪われて当該芸能人の肖像等を無断で利用する者が現れるのであって,このような無断の商業的利用の場合においては,当該芸能人の固有の名声,社会的評価,知名度等を意識的無意識的に歪曲ないし軽視し,これを損なわせ,汚す(当該芸能人が自らあるいはその許諾のもとにその顧客吸引力を商品化し,あるいは宣伝に用いる場合とは異なり,とかく猥雑,下品,劣等なものとなりがちである)こととなり,ファンなどが離れ,当該芸能人の肖像等のイメージが悪くなり,これが飽きられるなどの不人気の弊害すら招きかねないのである。
このような著名な芸能人の肖像等の性質にかんがみると,著名な芸能人の有するパブリシティ権に対して,他の者が,当該芸能人に無断で,その顧客吸引力を表わす肖像等を商業的な方法で利用する場合には,当該芸能人に対する不法行為を構成し,当該無断利用者は,そのパブリシティ権侵害の不法行為による損害賠償義務を負うと解するのが相当である。
ところで,著名な芸能人であっても,私的活動の領域においては,前記2のとおり,プライバシー権を有しており,プライバシー権による法的な保護を受け,あるいは,肖像等の利用のされ方によっては,著作権法による保護を受ける場合のほか,人格権に対する名誉毀損として法的な保護を受け得るのであるが,このプライバシー権,著作権法及び名誉(人格権)による法的保護では,著名な芸能人の肖像等の上記のような性質に鑑みると,著名な芸能人の肖像等の上記のような無断利用に対する被害の保護には,不十分にとどまる場合が生じることが避けられないと認められるのであって,そうすると,パブリシティ権について実体法上これを明記する規定がないとしても,何ら法的な保護を受けないと解することは,社会の変化,社会通念の変化に応じて人々の私法上の法律生活関係が豊かなものに発展することを否定する考え方というべきであり,著名な芸能人の名声,社会的評価,知名度等,そしてこれらを表現する肖像等,これが表す顧客吸引力などを無断で利用する行為に対しては,プライバシー権侵害とは別個の不法行為を構成する場合があると解するのが,公平の原則にも合致するというべきである。
これまでにもいくつかの裁判例があるように,パブリシティ権という名称を用いるか否かはさておき,著名な芸能人の肖像等を無断で広告や商品に用いる場合に違法とされる場合があることが示唆されており,また,NHKサービスセンター事件における謝罪文(甲61)の作成と日本音楽事業者協会への交付(甲47,当審証人尾木),毎日新聞社事件における謝罪文(甲63)の作成と同協会への交付及び同新聞全国版におけるパブリシティ権についての特集記事(甲64)の掲載(甲47,当審証人尾木)などメディアによるパブリシティ権の承認の動きが認められるのをはじめ,本件にあらわれた甲28ないし32の証拠によれば,雑誌掲載に対し,掲載料が支払われる取引慣行が存することが認められるほか,同じく甲33ないし44の証拠によれば,日本音楽事業者協会と多くの雑誌出版社との間で,日本音楽事業者協会に所属する芸能人の肖像・パブリシティ権を最大限尊重すること,取材に対する取材協力費を支払うこと,芸能人の肖像権の無断使用を行わないことなどについての覚書が締結されている状況が認められ,そこでは,同時に,取材協力費について支払対象から除外するものとして①記者会見取材,②音楽演劇等のステージ取材,③番組取材,④慶弔時に関する取材に限定しており,これらは,芸能活動に対する正当な紹介,批評,プライバシーに属するといっても著名な芸能人であるがゆえに制限されてもやむを得ない慶弔時の取材に限られており,芸能人のパブリシティ権と正当な表現の自由との間の相応の利益衡量もなされた内容となっており,一審被告会社も,同様の和解(甲48)や合意書(甲2)を通じて一旦は,上記の所属芸能人の肖像・パブリシティ権に対する尊重を受け容れたところでもあり,以上のような事実も,前記のように,著名な芸能人の肖像等の無断利用行為につき不法行為の成立を肯認する解釈適用の正当性を基礎づけるものと考えられるのである。
これに対し,一審被告らは,競走馬についてパブリシティ権を否定した最高裁判所第二小法廷平成16年2月13日判決・民集58巻2号311頁をその根拠として,パブリシティ権は否定される旨主張するが,この判例は,有体物については,民法上の物権により所有者の権利が定められているところであり,また,無体物としての利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の法律が一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利を保護し,もって,その排他的な使用権の付与が国民の経済的活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,立法により解決しているところである旨を明らかにしていると解されるのであるが,これら有体物及び無体物については,人格権の内容ないし要素とは,関わりがあるものとは解されない。著名な芸能人の有するパブリシティ権については,その肖像等というその人格と分離することができない法律上の利益に係るものであり,かつ,前示のように,当該著名な芸能人以外の者に無断で利用される場合には,その固有の名声,社会的評価,知名度等が損われ,汚されるおそれも否定しがたく,物の知名度等を利用する場合と比較して看過できないような当該著名な芸能人自身及び当該芸能人のその後の芸能活動に対する不利益などを生じさせるおそれがあり,その被害も名誉毀損やプライバシー権侵害の不法行為についての賠償では填補が不可能ないし不十分となることもあり得るのである。そうすると,物に対するパブリシティ権と同様に著名な芸能人についてもパブリシティ権は認められないとする一審被告らの主張は,採用することができない。
(2)  パブリシティ権と表現の自由の関係
本件雑誌の出版,販売は,著名な芸能人の名声を利用した広告や商品の販売そのものというよりは,一審原告Aら10名のほか,多数の著名な芸能人の写真(肖像等)や記述を掲載する出版物の販売に該当し,そのため表現の自由の保護対象となる可能性もあるのであるが,出版物であるとの一事をもって,表現の自由による保護が優先し,パブリシティ権の権利侵害が生じないと解するのは相当ではなく,当該出版物の販売と表現の自由の保障の関係を顧慮しながら,当該著名な芸能人の名声,社会的評価,知名度等,そしてその肖像等が出版物の販売,促進のために用いられたか否か,その肖像等の利用が無断の商業的利用に該当するかどうかを検討することによりパブリシティ権侵害の不法行為の成否を判断するのが相当である。
この場合,芸能人の職業を選択した者は,芸能人としての活動とそれに関連する事項が,雑誌,新聞,テレビ等のマスメディアによって批判,論評,紹介等の対象となることや,そのような紹介記事等の一部として自らの写真が掲載されること自体は容認せざるを得ない立場にあるので,芸能活動に対する正当な批判や批評,紹介については,表現の自由としてこれが尊重されなければならないし,慶弔時には,その著名度に比例する重大さが認められる社会的事象としてそれが報道されることも容認されるべきことは動かないところであるが,表現の自由の名のもとに,当該芸能人に無断で商業的な利用目的でその芸能人の写真(肖像等)や記述を掲載した出版物を販売することは,正当な表現活動の範囲を逸脱するものであって,もはや許されないところといわなければならないし,芸能人としての活動のほかにこれに「関連する事項」を紹介の対象とする記述を内容とする出版物の販売を容認するとした場合,例えば,若手の芸能人については,芸能活動の内容面(演技,歌唱力など芸能の本来的部分)よりも美貌,姿態,体型といった外面に記述の中心が向けられ,芸能活動に対する正当な批判,批評の紹介の域にとどまらなくなったり,当該芸能人のプライバシーに関わることまでも芸能活動に関連するとしてそのすべてに批評や紹介が及ぶことになったりしかねないのであるし,また,その写真等の利用のされ方によっては,たとえば読者の性的関心に訴えるような紹介方法などその芸能人のキャラクターイメージを毀損し,汚すような逸脱も生じかねず,これらの事態が表現の自由としてであれ許されるべくもないことは明らかというべきである。
(3)  一審原告Aら10名の著名性について
前記第3の2(1)の事実及び証拠(乙1)によれば,本件雑誌の出版,販売の当時一審原告Aら10名は,既に,それぞれ,固有の名声,社会的評価,知名度等を有する芸能人であって,いずれもパブリシティ権の主体となり得る著名性を有していたものと認められ,これに反する一審被告らの主張は,採用することができない。本件雑誌(乙1)中の特に多くの頁に掲載されている一審原告Hや文字で芸名も大きく紹介されている一審原告A,同B,同H,同O,同Pらについては,その顧客吸引力が抜きん出て高く,一審被告らがその顧客吸引力の高さを含め一審原告Aら10名の顧客吸引力に着目していたものと推認される。
(4)  本件雑誌の出版,販売について
続いて,前記(1)及び(2)を本件雑誌の出版,販売について検討する。
ア 本件雑誌の形状,記載の内容,構成等について
証拠(乙1)によれば,次の事実が認められる(一部は争いがない。)。
① 本件雑誌の形状
ⅰ 本件雑誌は,AB判サイズ(縦B5判,横A4判),全116頁(表表紙及び裏表紙の表裏の合計4頁を含む。),全頁4色オフセット印刷のカラーで構成されている。
ⅱ 表表紙の上部には「ブブカ・スペシャル」という題名(アルファベット文字,カタカナ)の記載及び「アイドルの決定的スクープ写真と超貴重写真がもう一度楽しめるおトクな総集編」という白抜きの記載がされ,右端部に「アイドル激似ビデオ 春の新春スペシャル」の見出しが,左端部に「モーニング娘。&浜崎あゆみ」の見出しがそれぞれ大きな活字で記載されているほか,中段に一審原告H,同J及び同Pの氏名又は芸名が,下段に一審原告H,同I,同E,同C,同G,同F,同O,同B及び同Pの氏名又は芸名が記載されている。
ⅲ 表表紙には,一審原告A,同B及び同Oの顔写真並びに同Pの全身を撮影した写真が掲載されており,一審原告A,同B,同O及び同Pの写真を含む著名な芸能人の写真が表の表紙に占める面積の割合は,3分の2を超えている。
ⅳ 一審被告会社は,本件雑誌の表表紙の内側の左下の角部分に,「★求む! アイドル投稿→BUBKA SPECIALでは,アイドル投稿ページを常設中。イベント,通学,プライベート何でもOK,投稿お待ちしてます。」等と写真の投稿の勧誘文及び連絡先を記載し,追っかけ等の撮影した芸能人等の写真を用いた投稿を募集している。
② 本件雑誌の構成
ⅰ 「アイドル激似ビデオ」と題するアダルトビデオ紹介記事が,2頁〜7頁に掲載されている。
ⅱ 「大発掘写真館」という題名の下,著名な芸能人の小中学校時代の写真を紹介する記事が,30頁〜33頁に掲載されている。
ⅲ 「ストーカーズハイ」という題名の下,芸能人の実家等を探し出して明らかにするという内容の記事が,42頁〜57頁に掲載されている(なお,42頁,43頁,56頁,57頁は,本件記事を含む。)。
ⅳ 芸能人の写真が掲載されているカードに関する情報が,59頁〜69頁に掲載されている。
ⅴ 著名な芸能人の「お宝コレクション」と題して,写真集,雑誌その他の商品に掲載されている当該芸能人の写真を紹介する記事が,73頁〜81頁に掲載されている。
ⅵ また,他の芸能人の「お宝コレクション」と題して,写真集,雑誌その他の商品に掲載されている当該芸能人の写真を紹介する記事が,83頁〜91頁に掲載されている。
ⅶ タレント集団の「お宝コレクション」と題して,写真集,雑誌その他の商品に掲載されている当該タレント集団のメンバーの写真を紹介する記事が,93頁〜101頁に掲載されている。
ⅷ 「モーニング娘。お宝コレクション2」と題して,写真集,雑誌その他の商品に掲載されている「モーニング娘。」の写真を紹介する記事が,103頁〜111頁に掲載されている。
ⅸ 主として男性読者向けの各種の広告が,29頁,58頁,70〜72頁,82頁,92頁,102頁に掲載されている。
ⅹ 読者に抽選でプレゼントが当たるという内容の告知記事が,112頁に掲載されている。
イ 無断行為
本件雑誌への一審原告Aら10名の写真(肖像等)を含む同一審原告らに関する記事の掲載については,前記第3の2(4)eの事実のとおり,同一審原告らが,一審被告会社側からの許諾申入れに対し,明らかに拒否したにもかかわらず,同一審原告らに無断で,その掲載そして本件雑誌の出版,販売が前記第3,2(3)のとおり公然と実行され,少なくとも,発行部数16万1600部の総売上数7万2410部に及んだ(乙18,19,22,24,弁論の全趣旨)ことが認められる。
(5)  個別記事についての判断
前記(1)及び(2)を個別記事の内容について検討する。
原判決別紙記事目録の「記事の内容」欄及び「撮影状況等」欄の各記載及び証拠(乙1)に前記(4)の認定を総合すると,以下の事実が認められる。
ア 一審原告Aの符号1〜5の写真
本件雑誌の第1頁(表表紙の表裏の次の頁を第1頁とし,その次の頁以下を第2頁以下とその頁数を数えることとする。以下同じ。)には,「初公開!ロリータ時代のA」,「窓際族になりつつある巨乳アイドル 小6時代のA 修学旅行集合写真がありました!!」と題する記事が掲載されている。
同記事は,符号1〜5の写真のほか,同一審原告の小学校時代の身長や性格,運動,成績を紹介する文章部分(下段の文章部分は,同頁の6分の1以下に収まっている。)から構成されており,全体として,同一審原告の小学校時代を紹介する記事となっている。符号1の写真は,芸能人となった後に撮影された約5cm×約4cmの大きさの写真であり,符号2〜5の写真(小学校時代の修学旅行の写真であり,プライバシー権侵害の主張のされた写真でもある。)と対比するために掲載されたものである。符号2の写真が9.9cm×約11cm,符号3の写真が直径7cmの円形,符号4の写真が8.9cm×14.2cm,符号5の写真が直径7cmの円形であり,標題の「A」という文字の大きさは,15.7cm×4.2cmである。
以上の事実によれば,符号1〜5の写真は,表紙をめくった最初の頁に掲載されており,Aという文字も注目を集める大きさであること,一審原告Aの小学校時代の体型や生活振りを紹介する記事の部分は,同一審原告の私的な生活の記事であって,同一審原告の芸能活動についての正当な紹介や批評に該当するとは認められないことを合わせると,一審被告らは,一審原告Aの顧客吸引力に着目して本件雑誌販売による利益を得る目的で符号1ないし5の写真(肖像等)を利用したものと認められる。
イ 一審原告Bの符号6,75〜77の写真
符号6の写真(アサヒビールのイメージガール時代)は,本件雑誌の8頁のほとんど全面にわたって掲載されており,その大きさは25.6cm×19.7cmであり,同一審原告の顧客吸引力の高さを利用しようとする目的が顕著に表れている。同頁の記事は,「大発掘写真館 Special」という見出しの下,一審原告Bの知名度が低かった時期に撮影されたものであることを示すコメント及び文章部分により構成されており,全体として,知名度の低かったころの水着姿の一審原告Bを紹介する形式をとっているものの「何と,パンツが透けてますよお!」,「しかも何とお宝なことに,B先生のパンツが透けて見えるじゃありませんか。でもこれって確信犯?普通,事務所のネガチェックありでしょう。パンツ透けてたらマネージャーが使用禁止にするよね。100歩譲って見逃したとしても(まず,あり得ないことだけど),色校で誰もが気づくはずじゃないですか?」という記載であり,符号6の写真の掲載が過去の芸能活動の紹介である形式を取りながら,読者の性的な関心を呼び起こさせる甚だ不当な掲載となっている。
符号75の写真(アサヒビールのイメージガール時代)は,本件雑誌の38頁の下側約4分の3にわたって掲載されており,その大きさは25.6cm×18.6cmであり,ここでも同一審原告の顧客吸引力の高さを利用しようとする目的が顕著に表れている。同頁は,「Bの透け乳首写真を発掘!」との見出しの下,「お高くとまってそうで実は気さくなおねえちゃんタイプのB先生のヤバ過ぎる写真が編集部に届きました。実にウレシイ見え具合ですね。でもこれ現場で誰も指摘しなかったんでしょうか?」との記載があり,符号75の写真の掲載が過去の芸能活動の紹介である形式を取りながら,読者の性的な関心を呼び起こさせるような甚だ不当な記載となっている。
符号76及び77の写真(TBSドラマ)は,本件雑誌の39頁の上半分にわたって掲載されており,その大きさは,符号76の写真の大きさが11.7cm×15.2cmであり,符号77の写真の大きさが3.8cm×5.1cmである。同頁上半分は,「お顔がパンパン丸のB。何とTVドラマ『毎度おジャマしまぁす』(TBS系)にチョイ役で出てたのだ」との見出しの下,「右のわざととしか思えない胸チラシーンの設定。何だと思います?胸の谷間からカギを取り出し,それを床に落として四つん這いになって探しているシーン(笑)なんですよ。」との記載がされており,符号76,77の写真の掲載が過去の芸能活動の紹介である形式を取りながら,読者の性的な関心を呼び起こさせる不当な記載となっている。
以上のとおり,符号6,符号75から77の写真の掲載は,いずれも一審原告Bの過去の芸能活動の紹介という形式を取っているものの,見出しには,「B」の文字が大きく記載されており,また,その記述は,読者の性的な関心を呼び起こさせる不当な内容であり,これらの写真の大きさや記述内容からすると,一審被告らは,一審原告Bの高い顧客吸引力に着目の上本件雑誌販売による利益を得る目的でこれらの写真(肖像等)を利用したものと認められる。
ウ 符号7〜9,11,12の写真(いわゆる「腋の下」。一審原告H,同E,同C,同F,同G)
本件雑誌の9頁〜11頁には,「アイドル腋―1グランプリ」と題して,女性アイドルの腋の下の処理具合の優劣に順位を付けてその見え方を紹介した記事が掲載されている。
符号7の写真(一審原告H)は,上記記事の一部を成す写真であり,その大きさは15cm×7.3cmである。
符号8の写真(一審原告E)は,上記記事の一部を成す写真であり,その大きさは10.7cm×7.3cmである。
符号9の写真(一審原告C)は,上記記事の一部を成す写真であり,その大きさは17.3cm×12.5cmである。
符号11の写真(一審原告F)は,上記記事の一部を成す写真であり,その大きさは7.2cm×5.8cmである。
符号12の写真(一審原告G)は,上記記事の一部を成す写真であり,その大きさは8.1cm×7.2cmである。
これらの写真の大きさは,それぞれの一審原告らの顧客吸引力の大きさに対する着目度ないしその利用に係る一審被告らの関心の大きさを相応に反映しているものと認められる。また,写真に関連する記述の中には,「香りたつような腋でないとヌケません。」「牛乳石鹸で洗っているのだろう(妄想)肌艶がたまらない!」といった読者の性的な関心を呼び起こす不当なものや「腋汚染が進行中の青カビ軍団」といった悪意のある記述をもってキャラクターイメージを汚そうとしているものがある。上記の一審原告らは,女性アイドルという芸能人として,その容貌の美しさをもその魅力の一つとして芸能活動をしているのであるが,上記の記述は,芸能人としての演技や歌唱といったその芸能活動の本来の部分についての論評ではないし,容貌といっても腋の下の見え方の紹介といった読者の性的な関心を呼び起こす不当な方法での上記の写真の掲載と記述がその芸能活動に対する正当な批評ないし紹介となるものとは到底認められないし,かえって一審被告らが本件雑誌販売による利益を得るために上記の写真(肖像等)を掲載して同一審原告らの顧客吸引力を利用しようとする目的に出たものと認められるのであって,かかる一審被告らの表現の自由の名の下に,芸能人であることを選択したとはいえ,一審原告らが,上記のような品位に欠ける記事の一部として上記の写真(肖像等)が掲載されることを受忍しなければならないいわれは,全くないといわざるを得ないのである。
そうすると,一審被告らは,符号7から9,11,12の各写真(肖像等)について,一審原告H,同E,同C,同F,同Gの顧客吸引力に着目して本件雑誌販売による利益を得る目的でこれを利用したものと認められる。
エ 一審原告Hの符号36〜39の写真
符号36〜39の写真(プライバシー権侵害の主張もされている写真である。)は,デビュー後に通学中とする一審原告Hの写真であり,本件雑誌の見開き2頁(16頁及び17頁)のほとんど全面にわたって大きく掲載されている。
符号36の写真の大きさは25.6cm×20.9cm,符号37の写真の大きさは12.9cm×9cm,符号38の写真の大きさは12.6cm×9cm,符号39の写真の大きさは19.4cm×11.6cmである。本件雑誌の16頁及び17頁は,「スクープショット H」,「中学制服姿」という見出しの下,符号36〜39の写真のほか,見出し部分の下の3行の説明部分,各写真に付されたコメント部分及び17頁下の文章部分から構成されている。コメントの一例として,符号39の写真には,「えーっ,Hちゃんに子どもがー!?」「うおーー!!赤ちゃんを抱いたHちゃん,という貴重なショット。微笑ましい一コマ。」とのコメントが付されている。文章部分には,符号36〜39の写真についてのコメントとして,「胸キュンモノの超お宝写真をここに大公開。なんと都内の某区立中学校に通うHちゃんの制服姿だ!」,「白いブラウスに紺のプリーツスカートというシンプルな制服なんだけど,Hちゃんは抜群の着こなしを見せてくれた。」,「自家用車から赤ちゃんを抱きかかえて降ろしている写真は,二度と見れるかどうか分からない特大級に貴重な一枚。」などの記述があり,最後に「プッチモニのファーストシングル「ちょこっとLOVE」もとうとう発売された。ハードなダンスがあるけど,頑張ってこなして欲しいな。」というシングルCDの発売等について紹介されている。
以上によると,符号36〜39の写真は,一審原告Hのファンが見てみたいと思うような一審原告Hの制服姿の写真であり,25.6cm×20.9cmの大きさの符号36の写真を中心に4枚の写真を見開き2頁のほぼ全面に掲載しており,芸能活動の紹介記事は,最後の4行部分のみであること,写真の掲載方法も通常モデル料が支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用と同視できるものであり,一審被告らは,人気歌唱グループの一員として人気の高い一審原告Hの顧客吸引力を利用して本件雑誌販売による利益を得る目的で符号36から39の写真(肖像等)を掲載したものと認められる。
オ 一審原告Hの符号48〜53の写真
符号48〜53の写真(プライバシー権侵害の主張もされている写真である。)は,デビュー後の正月休みに私服で路上で待ち合わせ中とする一審原告Hを撮影した写真であり,本件雑誌の見開き2頁(20頁及び21頁)のほとんど全面にわたって大きく掲載されている。符号48の写真の大きさは25.6cm×18.6cm,符号49の写真の大きさは9.5cm×5.5cm,符号50の写真の大きさは9.6cm×11.2cm,符号51の写真の大きさは12.9cm×9.3cm,符号52の写真の大きさは9.7cm×11.2cm,符号53の写真の大きさは12.7cm×9.4cmである。本件雑誌の20頁及び21頁は,「スクープショット まるで別人!?変装プライベート現場 H」という見出しの下,符号48〜53の写真のほか,見出し部分と同じ頁に記載された4行の説明部分,21頁中央に記載された「膝上15cm以上は必至のミニスカートで美脚ぶりがわかります」との説明部分,各写真に付されたコメント部分及び21頁下の文章部分から構成されている。コメントの一例として,符号50の写真には,「どうしても足に目がいくね。顔が小さいから余計スタイルがよく見える。」とのコメントが付されている。文章部分には,符号48〜53の写真についてのコメントのほか,芸能活動に関する記述として「さて,モーニング娘。は映画『ピンチランナー』の主演が決まりましたが,Hちゃんが駅伝を走るなんて大丈夫でしょうか?途中で倒れちゃいそう。「あか組」としての活動も気になります。K,信田美帆,ダニエルという気の強そうな,歳の離れたメンバーに囲まれてもマイペースに進んでくれるでしょう。」との記述がある。文章部分の占める大きさは,1頁の15%程度である。
以上によれば,符号48〜53の写真は,一審原告Hのファンが見てみたいと思うような一審原告Hの私服で休暇中の姿を撮ったものであり,文章部分は極めて少なく,25.6cm×18.6cmという相当の大きさの符号48の写真を中心に6枚の写真を見開き2頁のほぼ全面にわたり掲載しており,芸能活動の紹介記事は,比較的少ない部分にとどまっており,写真の掲載方法も通常モデル料が支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用と同視できるものであり,一審被告らは,人気歌唱グループの一員として人気の高い一審原告Hの高い顧客吸引力を利用して本件雑誌販売による利益を得る目的でこれらの写真(肖像等)を掲載したものと認められる。
カ 一審原告Hの符号65〜69の写真
符号65〜69の写真は,25頁からの「大発掘写真スペシャルpart2」「モーニング娘。大特集なんです。」という題名の記載中の写真であり,符号65〜68の写真は中学校1,2年のころに友人と一緒に撮影したとする一審原告Hの写真であり,本件雑誌の見開き2頁(26頁及び27頁)の全面にわたり掲載され,符号69の写真は,デビュー後に通学していた中学校で教師らと一緒に撮影した一審原告Hの写真で,本件雑誌の28頁上半分に掲載されている。符号65の写真の大きさは12.6cm×20.9cm,符号66の写真の大きさは13cm×19.3cm,符号67の写真の大きさは12.6cm×20.9cm,符号68の写真の大きさは13cm×19.9cm,符号69の写真の大きさは12.5cm×20.9cmである。各写真には,コメントが付され,符号67及び69の写真には,白抜き文字による文章部分がある。コメントの一例として,符号65の写真には,「ガングロH。ヤンキー丸出しの頃」とのコメントが付され,符号69の写真には,「デビューしたてつんく師匠に「天才的に可愛い」と言われた頃」とのコメントが付されている。
文章部分には,いずれも一審原告Hの容姿のかわいさや雰囲気について記載されているが,文字自体が白抜きであり,小さなものであり,文章部分の占める大きさは,符号67の写真の文章部分は,1頁の10〜15%程度であり,符号69の写真の文章部分は,同写真の6分の1程度にとどまるものである。
以上によれば,符号65〜68の写真は,一審原告Hのファンが見てみたいと思うような一審原告Hの中学校1,2年ころの姿であり,文章部分は極めて少なく,12.6cm×20.9cm程度の相当の大きさの写真4枚を見開き2頁の全面にわたり掲載するとともに,引き続き次ページで符号69の写真を掲載しているのであり,一審被告らは,人気歌唱グループの一員として人気の高い一審原告Hの顧客吸引力に着目して本件雑誌販売による利益を得る目的でこれらの写真(肖像等)を利用したものと認められる。
キ 一審原告Hの符号78及び79の写真
本件雑誌の42頁及び43頁には,「ストーカーズハイ」と題して,一審原告Hの実家を探し出す記事が掲載されている。同記事の大部分は,文章により記載されているが,符号78及び79の写真のほか,最寄り駅,通学した中学校,商店街,実家の店構え等の写真(一部はモザイク処理)が掲載されている。上記記事が一審原告Hの実家を探し出す記事であるため,同一審原告をイベント会場で撮影した符号78及び79の写真を記事の中に使用したものである。
符号78の写真の大きさは14.8cm×約4.4cmである。符号79の写真の大きさは4cm×3cmであり,トリミングされた同一審原告の顔写真が「ニセ散歩の達人」と題する雑誌の表紙に使用されている。
以上によれば,符号78及び79の写真は,一審原告Hの実家を探し出すという文章が主な記事の一部として使用されたものであるが,これらの記事は,一審原告Hの芸能活動に関する正当な紹介や批評に該当するとは認められないものであり,一審原告Hのファンにとって,その実家を知り,尋ねてみたいという欲求に応える内容であり,この記事により一部の熱烈なファンが一審原告Hの実家周辺を訪れ,一審原告Hのプライバシー権を侵害する行動に出るやも知れないことは,容易に予測できることであり,かつ,記事とともにこれらの写真(肖像等)は,同一審原告の顧客吸引力に着目して本件雑誌販売による利益を得る目的でこれらを利用したものと認められる。
ク 一審原告Iの符号61〜63の写真
符号61〜63の写真は,本件雑誌24頁に「モーニング娘。I走る!」との標題で1頁に掲載されているもので,いずれも一審原告Iがひたちなか少女駅伝に出場した際の写真である。符号61の写真には,「むっちむちの太モモたぷたぷ揺らして一生懸命走った僕らのI」とのコメントが,符号62の写真には,「ゴールインして精根尽き果ててひざまずいてしまった。」とのコメントが,符号63の写真には,「座り込んで一歩も動けない状態のI。眩しいね。」とのコメントが付されている。一審原告Iがひたちなか駅伝に出場したのは,映画の撮影のためであるが,映画について紹介する記事はない。
以上によると,符号61〜63の写真は,大きさ,掲載方法,映画の撮影のための活動であることの紹介もないことからすると,一審被告らは,人気歌唱グループの一員で人気の高い一審原告Iの顧客吸引力に着目して本件雑誌販売による利益を得る目的でこれらの写真(肖像等)を利用したものと認めることができる。
ケ 一審原告Oの符号70〜74の写真
符号70〜74の写真(プライバシー権侵害の主張のされた写真でもある。)は,デビュー後で通学中とする一審原告Oを撮影した写真であり,本件雑誌の見開き2頁(34頁及び35頁)のほとんど全面にわたって掲載されている。符号70の写真の大きさは25.6cm×20.9cm,符号71の写真の大きさは6.9cm×4.9cm,符号72の写真の大きさは19.4cm×11.2cm,符号73の写真の大きさは10.9cm×9.4cmであり,符号74の写真の大きさは13.6cm×9.4cmである。本件雑誌の34頁及び35頁は,「スクープショット O」という見出しの下,符号70〜74の写真のほか,各写真に付されたコメント部分及び35頁下の文章部分から構成されている。コメントの一例として,符号72の写真には,「遠くを見つめて,微笑んでいる。何を思い出しているんだろう。大事な約束をした事とか?」とのコメントが付されているが,いずれも短いものである。文章部分には,符号70〜74の写真についてのコメントのほか,芸能活動を紹介する部分として「フジテレビ系連続ドラマ「イマジン」のヒロインとしても活躍中だし,主題歌「煌めきの瞬間」ももうすぐ発売されるからね」,「あと,今夏公開のホリプロ40周年記念映画「死者の学園祭」での主演も決定している。恋に仕事に絶好調みたいでとってもうらやましい。」と記述があるが,文章部分の占める大きさは,1頁の15%程度である。
以上によれば,符号70〜74の写真は,一審原告Oのファンが見てみたいと思うような一審原告Oの制服での通学中の姿であり,文章部分は比較的少なく,25.6cm×20.9cmの極めて大きい符号70の写真を中心に5枚の写真を見開き2頁のほぼ全面にわたり掲載しているものであるから,同写真の使用の態様は,モデル料等が通常支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用と同程度であり,一審被告らは,人気の高い一審原告Oの顧客吸引力を利用して本件雑誌販売による利益を得る目的でこれらの写真(肖像等)を利用したものと認められる。
コ 一審原告Pの符号83〜85の写真
本件雑誌の56頁及び57頁には,「ストーカーズハイ」と題して,一審原告Pの元実家を探し出す記事が掲載されている。同記事の大部分は,文章により記載されているが,符号83〜85の写真のほか,最寄り駅,通学した小学校,中学校,高等学校,元実家の付近の路上風景,元実家の写真が掲載されている。上記記事が一審原告Pの元実家を探し出す記事であるため,同一審原告を撮影した符号83〜85の写真を記事の中に使用したものである。符号83〜85の写真(プライバシー権侵害の主張もされている写真である。)は,いずれもデビュー後の同一審原告の通学中とする姿を撮影したものであり,符号83,84の写真の大きさは5.9cm×4.2cm,符号85の写真の大きさは12cm×約4.7cmである。
以上によれば,符号83〜85の写真は,一審原告Pの元実家を探し出すという文章が主な記事の一部として使用されたものであり,記事の内容も一審原告Pのファンにとって知りたいと思うような一審原告Pの出身,経歴,家族の生活状況などの記事であって,一審原告Pの芸能活動に関する正当な紹介や批評に該当するとは認められないものであり,そして,一審被告らは,人気の高い一審原告Pの顧客吸引力に着目して本件雑誌販売による利益を得る目的でこれらの写真(肖像等)を利用したものと認めることができる。
(6)  一審被告Y3,同Y4及び同Y2の故意過失について
前記(1)から(4)のとおり,一審原告Aらの写真(肖像等)の本件雑誌への掲載は,同一審原告らのパブリシティ権を侵害するものと認められるところ,一審被告Y3,同Y4及び同Y2には,この侵害につき故意又は過失があったか否かが問題となる。これらの一審被告らは,それぞれ,前記第3,2,(2),イないしエのとおり,雑誌等の発行,出版,販売等を業とする一審被告会社の営業行為である本件雑誌の出版,販売に関し,同一審原告らの写真(肖像等)の掲載,これらが掲載された本件雑誌の出版,販売の可否,当否の決定に携わり,又は携わることが可能であった者であるところ,前記(1)のとおり,一審被告会社は,本件雑誌の発行より前に,和解や合意書を通じて一旦は日本音楽事業者協会に所属する芸能人の肖像・パブリシティ権を尊重することを認めていたのであり,そのことに加えて,本件雑誌の出版前に一審被告会社が一審原告らを含む多くの芸能人に対しその写真使用の許諾を求めたが,いずれも拒否された経緯があり(乙56から67,68の1・2),拒否された理由は,投稿写真や過去の素材に関してはイメージを損なうこと,どういった内容で掲載するか不明であること,わいせつ本のイメージが強いこと,写真集を発売したばかりであることといった理由すなわちいずれも合理的と認められる理由によるものであったのであり,それにもかかわらず,本件雑誌の出版,販売が前示のとおり実行されているのであり,そうしてみると,一審被告Y3,同Y4,同Y2は,著名な芸能人の写真が雑誌に掲載される場合,掲載のされ方によっては,そのキャラクターイメージが損われ,また,発売した写真集の売上げに影響があることなどについての認識があることが認められるのであり,一審被告会社が一審原告らに無断で,一審原告らの顧客吸引力を利用してこれらの写真(肖像等)を用いて本件雑誌の販売による商業的な利益を得ることについては,一審原告らのパブリシティ権を違法に侵害することになることの認識があり,又はその認識がなかったことにつき過失があったといわなければならない。
具体的には,一審原告A,同B,同H,同E,同C,同F,同G,同I,同O,同Pの写真(肖像等)については,本件雑誌への利用のされ方は,同一審原告らの写真(肖像等)の有する経済的な価値を毀損するような利用をしているもの(読者の性的な関心を呼び起こす不当な掲載をしている符号6,7から9,11,12,75から77),同一審原告らの有するイメージを維持しているものの通常の掲載であれば取材協力費が支払われるものと認められるもの(鑑賞に堪えるグラビア写真と同視できる符号36から39,48から53,70から74),同一審原告らのプライバシー権(肖像)を侵害する側面もみられるもの(符号2ないし5,36ないし39,48ないし53,65ないし74,83から85),プライバシー権(個人情報)を侵害する側面もみられる記事を伴って用いられているもの(符号1,77ないし79)であって,その写真(肖像等)の掲載方法についても,人気の高い一審原告Hについては,枚数も多いことなどにもみられるように,一審被告Y4,同Y3,同Y2が同一審原告Aらには,著名な芸能人としての顧客吸引力があることを十分認識し,本件雑誌販売による利益を得る目的で同一審原告Aらの顧客吸引力を無償で用いており,しかも,同一審原告Hらの紹介の仕方も腋グランプリのようにそのイメージを貶めるような不当な方法を用いている上,著名な芸能人に似た者が出演しているというアダルトビデオの紹介記事を同一審原告Aらの写真(肖像等)の掲載部分と容易に見分けにくいような一体不可分な体裁で記載し,これによっても本件雑誌が一部の読者の低俗な関心(芸能人のプライバシーの部分を知りたい,性的な部分について知りたいなど)に応えようとするものであって,そのため,一審被告会社が事前に写真の使用を求めても同一審原告らを含む芸能人らは,自己の芸能人としての価値を貶める可能性もあるなどの理由から本件雑誌への掲載を拒否していたのであり,これらの経緯からすると,一審被告らは,著名な芸能人の名声,社会的評価,知名度等を表現する肖像等の顧客吸引力に係る経済的価値を十分認識した上で,本件雑誌販売による利益を得るといった目的でこれを利用して本件雑誌を出版,販売しているものであって,一審被告らには,前示のような故意又は過失があると認められるのである。
(7)  結論
以上によれば,一審被告らは,民法709条,715条,商法261条3項,78条2項,民法44条1項,719条により,パブリシティ権侵害により一審原告A,同B,同H,同E,同C,同F,同G,同I,同O,同Pに生じた損害を連帯して賠償する義務を負うものと認めるのが相当である。
4  損害
(1)  プライバシー権侵害の損害とパブリシティ権侵害の損害の算定について
本件は,本件雑誌への一審原告らの写真(肖像等)の掲載等及びその出版,販売という同一の態様によるプライバシー権侵害とパブリシティ権侵害が認められる事案であり,これらの写真の中には,同一の写真についてプライバシー権侵害とパブリシティ権侵害が認められるものもあり,また,前記3(1)のパブリシティ権の性質からすると,パブリシティ権は,名誉やプライバシー権と異なるものではあるが,著名な芸能人の肖像等というその人格と分離することができない法律上の利益に係るものであることにおいて共通する側面が認められるのであるから,パブリシティ権侵害による損害額の算定においては,プライバシー権侵害による損害額の算定とを適切に関連させて検討するのが相当である。
(2)  各一審原告らの損害を算定するについての考慮すべき事情について
ア プライバシー権侵害の損害の算定について考慮すべき事情
プライバシー権侵害については,一審原告らの承諾なく,追っかけ等から撮影されたと推測できる符号13ないし60(一審原告H,同I,同J,同K,同L,同M及び同N),符号64(一審原告J),符号70〜74(同O)及び符号83〜85(同P)の写真があり,一審被告会社は,本件雑誌の表表紙の内側の左下の角部分に,「★求む! アイドル投稿→BUBKA SPE-CIALでは,アイドル投稿ページを常設中。イベント,通学,プライベート何でもOK,投稿お待ちしてます。」等と写真の投稿の勧誘文及び連絡先を記載し,追っかけ等の撮影した芸能人等の写真を用いる投稿を募集していること(乙1),制服姿や実家の所在地が明らかになることで,ストーカーの被害にあうおそれがあることが認められること(甲11から15まで)を考慮すべきである。
イ パブリシティ権侵害の損害の算定について考慮すべき事情
一審原告Aらパブリシティ権侵害が認められる一審原告らは,その各一審原告の広告や雑誌掲載のモデル料について一審原告Pについて25万円(表紙と見開き2頁に掲載されている)であることの書証(甲45の1ないし3)を提出しているものの,その余の一審原告らのモデル料は,明らかにしていない。他の芸能人(水野美紀,熊田曜子,仲間由紀恵,磯山さやか)の雑誌掲載料については,証拠(甲28の1ないし13,29の1ないし4,30の1ないし3,31の1ないし3,32の1,2)によると,写真の枚数や当該芸能人の著名度,掲載雑誌の影響力にもよるが,1年連続したモデル料(甲28の1ないし28は,1050万円)を除くと,10万円から40万円となっている。
一審被告会社が本件雑誌の出版,販売によりどれだけの利益を得ていたかについては,証拠(乙18,19,22,24,46,75の1ないし18,81)によると,本件雑誌の発行部数は,16万1600部であり,8万9190部が返本処分がされ,総売上数は7万2410部であると認定できるものの,経費等は,多めに見積もられているものと思われ,また,広告収入については,平成14年当時,本件雑誌の広告単価が白黒で1頁につき25万円,色刷で1頁につき50万円とされており(甲26の1ないし3),9頁もの広告収入が63万円であったとすることには,値引きや経費を考慮しても合理性が乏しいことなどを総合すると,1000万円を下らない利益を得ていたものと推測できる。
本件雑誌の頁数は,112頁あり,一審原告ら以外の芸能人の写真や記事も相当多数掲載されている。
なお,一審原告Aらパブリシティ権侵害が認められる一審原告らは,一審原告Pを除き,自己の雑誌掲載料等を明らかにしないが,他方で,本件雑誌には掲載を拒否しているものであって,事前の掲載料相当額を得べかりし利益として算定することもでき,少なくとも,相応の掲載料額を下回ることのない損害額を考慮せざるを得ず,結局は,掲載された写真の大きさ,著名な芸能人としてのイメージを損なうおそれがある点の有無,そのおそれの内容等,一審被告会社が得た利益の価額等を考慮の上,決するのが相当である。
(3)  各一審原告らの損害
ア 一審原告A
符号2ないし5の写真は,一審原告Aのプライバシー権を侵害するものであり,符号1は,小学校時代の一審原告Aの顔写真との対比のために掲載されたものであり,パブリシティ権を侵害するものであること,1頁全面に掲載されていること,一審被告会社の利益や雑誌のモデル料を考慮すると,総額として60万円(プライバシー権侵害分が40万円,パブリシティ権侵害分が20万円)が相当である。また,その弁護士費用としては,6万円が相当である。(総額66万円)
イ 一審原告B
符号6,75ないし77の写真は,一審原告Bのパブリシティ権を侵害するものであり,その掲載及び記述が同一審原告のイメージを損なうおそれがあること,頁数もおよそ2頁半近く掲載されていることからすると,パブリシティ権侵害の損害賠償金としては,120万円が相当である。また,その弁護士費用としては,12万円が相当である。(総額132万円)
ウ 一審原告C
符号9の写真による一審原告Cのパブリシティ権侵害の損害金としては,その写真及び記事を考慮すると,15万円が相当である。また,その弁護士費用としては,2万円が相当である。(総額17万円)
エ 一審原告E
符号8の写真が一審原告Eのパブリシティ権を毀損するような方法でこれを侵害するものであることからすると,パブリシティ権侵害の損害金としては,20万円が相当である。また,その弁護士費用としては,2万円が相当である。(総額22万円)
オ 一審原告F
符号11の写真が一審原告Fのパブリシティ権を毀損するような方法でこれを侵害するものであることからすると,パブリシティ権侵害の損害金としては,20万円が相当である。また,その弁護士費用としては,2万円が相当である。(総額22万円)
カ 一審原告G
符号12の写真が一審原告Gのパブリシティ権を毀損するような方法でこれを侵害するものであることからすると,パブリシティ権侵害の損害金としては,15万円が相当である。また,その弁護士費用としては,2万円が相当である。(総額17万円)
キ 一審原告H
符号7の写真は,一審原告Hのイメージを損なうような記述とともに掲載されており,また,符号13,16,22,30,47,56,57の写真は,いずれも,同一審原告のプライバシー権を侵害するものであり,符号78,79の写真と80の最寄り駅の記事は,同一審原告のプライバシー権とパブリシティ権を同時に侵害するものであり,符号36ないし39,48ないし53,65ないし69も,同一審原告のプライバシー権とパブリシティ権を同時に侵害するものであり,一審原告Hに関するこれらの写真等の掲載は,合計して15頁にわたっている上,グラビア写真と同視できるものもあることなどを総合すると,総額として200万円(プライバシー権侵害分が150万円,パブリシティ権侵害分が50万円)が相当である。また,その弁護士費用としては,20万円が相当である。(総額220万円)
ク 一審原告I
符号13ないし17,21ないし29,43,46,54,55の写真は,いずれも一審原告Iのプライバシー権を侵害するもの,符号61ないし63は,同一審原告のパブリシティ権を侵害するものであり,一審原告Iに関する写真の掲載は,6頁にわたっていること,グラビア写真と同視できるものもあることなどを考慮すると,総額として80万円(プライバシー権侵害分が60万円,パブリシティ権侵害分が20万円)が相当である。また,その弁護士費用としては,8万円が相当である。(総額88万円)
ケ 一審原告J
符号16,17,19,22,31,40,41,46,64の写真は,いずれも一審原告Jのプライバシー権を侵害するものであり,その損害金としては,少なくとも50万円を下らない額が相当である。また,弁護士費用としては,少なくとも5万円を下らない額が相当である。
コ 一審原告K
符号14ないし16,18ないし20,22,33,45,46の写真は,いずれも一審原告Kのプライバシー権を侵害するものであり,その損害金としては,40万円が相当である。また,弁護士費用としては,4万円が相当である。(総額44万円)
サ 一審原告L
符号13,16,19,34,35,44,54の写真は,いずれも一審原告Lのプライバシー権を侵害するものであり,その損害金としては,30万円が相当である。また,弁護士費用としては,3万円が相当である。(総額33万円)
シ 一審原告M
符号16,17,21,22,32,42,46,59,60の写真は,いずれも一審原告Mのプライバシー権を侵害するものであり,その損害金としては,30万円が相当である。また,弁護士費用としては,3万円が相当である。(総額33万円)
ス 一審原告N
符号13,15ないし17,22,35,46の写真は,いずれも一審原告Nのプライバシー権を侵害するものであり,その損害金としては,30万円が相当である。また,弁護士費用としては,3万円が相当である。(総額33万円)
セ 一審原告O
符号70ないし74の写真は,一審原告Oのプライバシー権とパブリシティ権を同時に侵害するものであり,一審原告Oに関するこれらの写真等の掲載は,グラビア写真と同視できるものであり,制服姿を撮影したものであることなどを総合すると,総額として60万円(プライバシー権侵害分が40万円,パブリシティ権侵害分が20万円)が相当である。また,その弁護士費用としては,6万円が相当である。(総額66万円)
ソ 一審原告P
符号81,82の記事は,一審原告Pのプライバシー権を,符号83ないし85の写真は,同一審原告のプライバシー権とパブリシティ権を同時に侵害するものであり,制服姿を撮影したものであることを考慮すると,総額として50万円(プライバシー権侵害分が30万円,パブリシティ権侵害分が20万円)が相当である。また,その弁護士費用としては,5万円が相当である。(総額55万円)
第6  結論
以上によれば,一審原告ら(ただし,一審原告Jを除く。以下同じ。)の本訴請求は,一審被告らに対し,上記認定の金額及び各金額に対する不法行為後である平成14年6月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は,理由がないから棄却すべきであるところ,これと結論を異にする原判決中の上記の一審原告らの請求に関する部分は,その異なる限度で相当でなく,上記の一審原告らの本件控訴は,いずれも,一部理由があるから,上記の一審原告らの本件各控訴に基づき原判決中の上記の一審原告らの請求に関する部分を主文1(1)のように変更することとし,上記の一審原告らのその余の本件控訴は,理由がないから,いずれも棄却する(一審原告Jの本訴請求については,前記のように,少なくとも原判決認容の48万円及びこれに対する平成14年6月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を上回る金員の連帯支払を求める限度で理由があるが,一審原告Jは,控訴を取り下げたので,原判決中一審原告Jの請求に関する部分を変更するには及ばない。)こととし,一審被告らの本件控訴は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,64条本文,65条及び61条を,仮執行の宣言につき同法310条を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・雛形要松,裁判官・中島肇,裁判官・中山直子)

別紙

一審原告請求損害額一覧
一審原告 一審原告の請求損害額
プライバシー権 パブリシティ権 弁護士費用 請求金額
A 2,000,000 1,000,000 720,000 3,720,000
B   3,000,000 720,000 3,720,000
C   800,000 228,000 1,028,000
E   1,000,000 260,000 1,260,000
F   1,000,000 260,000 1,260,000
G   800,000 228,000 1,028,000
H 5,000,000 1,000,000 1,170,000 7,170,000
I 3,000,000 1,000,000 870,000 4,870,000
J※ 2,000,000 1,000,000 720,000 3,720,000
K 2,000,000   480,000 2,480,000
L 2,000,000   480,000 2,480,000
M 2,000,000   480,000 2,480,000
N 2,000,000   480,000 2,480,000
O 3,000,000 1,000,000 870,000 4,870,000
P 3,000,000 1,000,000 870,000 4,870,000

※一審原告Jは,控訴を取り下げた。

 

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