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「営業アウトソーシング」に関する裁判例(40)平成26年11月 5日 東京地裁 平25(ワ)435号 業務委託料請求事件

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(40)平成26年11月 5日 東京地裁 平25(ワ)435号 業務委託料請求事件

裁判年月日  平成26年11月 5日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(ワ)435号
事件名  業務委託料請求事件
裁判結果  請求認容  上訴等  控訴  文献番号  2014WLJPCA11058001

参照条文
民法91条
商法512条

裁判年月日  平成26年11月 5日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(ワ)435号
事件名  業務委託料請求事件
裁判結果  請求認容  上訴等  控訴  文献番号  2014WLJPCA11058001

東京都千代田区〈以下省略〉
原告 株式会社エクシード・ワン
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 澁谷展由
東京都目黒区〈以下省略〉
被告 株式会社DoCLASSE
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 竹田洋平

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,1860万0750円及びこれに対する平成24年10月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2  訴訟費用は被告の負担とする。
3  この判決は,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
主文と同旨
第2  事案の概要
本件は,コンピュータシステムの企画・開発会社である原告が,通信販売会社である被告に対し,①被告との間でサーバーのレンタル等に関する契約を締結していたところ,原告の責めに帰すべき事由によらずに同契約が解約されたとして,解約から契約期間満了までの契約所定のサービス料合計776万4750円及び②被告からレプリケーションの構築業務・クラスターの構築業務を受託し,これらのシステムを完成させたとして,各業務委託料合計1083万6000円の総合計1860万0750円並びにこれに対する最終の支払期日である上記①の契約期間満了日の翌日である平成24年10月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1  前提事実(争いのない事実(証拠等の挙示のないもの)又は括弧内挙示の証拠等により明らかに認められる事実)
(1)  当事者
ア 原告は,コンピュータシステムの企画,開発,販売,保守及びこれらに関するコンサルタント等を目的とする会社である。
イ 被告は,洋服,服飾雑貨,ジュエリーの製造・販売等を目的とする会社であり,自社が発行するカタログに掲載された洋服等を主としてインターネットを通じて通信販売することを主たる事業としている。
(2)  用語(甲9,10,弁論の全趣旨)
ア レプリケーション(replication:複製)とは,あるサーバーのデータベースと同じものを他のサーバーに作成し,相互にデータをやり取りして,互いの内容を最新の状態で一致させる機能である。
イ クラスター(cluster:結合)とは,複数のコンピュータを連携させ,1つのシステムとして利用する機能であり,例えば,1台のコンピュータで障害が発生しても,他のコンピュータに処理を肩代わりさせることで,システム全体として処理を停止させないようにするものである。
ウ レプリケーションとクラスターは,目的とするところは類似するが,サーバー間で内容を一致させることの即時性(リアルタイム性)の点でレプリケーションの方が劣る。
(3)  原告と被告は,平成21年6月9日,被告の事業であるインターネット等を通じた洋服等の通信販売事業において,被告が原告から,被告の顧客から受けた注文を処理するためのコンピュータシステム(以下「本件システム」という。)を構築・運営するための物品及びサービスの提供を受けることを目的として,「アウトソーシングサービス基本契約」を締結した(甲3。以下「本件基本契約」という。)。同契約の内容は,要旨別紙「本件基本契約」記載のとおりである(条項中の「甲」は被告,「乙」は原告の意味である。)。
(4)  被告は,平成21年12月頃,イースピリッツ株式会社(以下「イースピリッツ社」という。)に対し,本件システムのうち顧客からの受注システムが記録されているサーバーについてのクラスターの構築業務を委託したが,イースピリッツ社は,クラスターの構築を完成させることができず,平成22年3月頃,被告の本件システムの開発プロジェクトから撤退した。イースピリッツ社の撤退後,被告は,費用のかかるクラスターの構築に代替する本件システムのバックアップ体制としてレプリケーションの構築の方針を採ることを決めた。
(5)  原告と被告は,平成22年1月頃,本件基本契約4条に基づき,「コンピュータ資源提供サービス」を業務内容とする個別契約(以下「本件個別契約1」という。)を締結し,同年4月頃,同契約に係る契約書(甲4)を取り交わした。同契約の内容は,要旨別紙「本件個別契約」記載のとおりである(条項中の「甲」は被告,「乙」は原告の意味である。以下,同契約に基づいて原告が被告に貸与したサーバーを併せて「本件レンタルサーバー」という。)。
(6)  原告は,平成22年2月12日,被告に対し,サーバー機2台を売却した(甲26,甲27,弁論の全趣旨。以下,これらを併せて「本件売却サーバー」という。)。
(7)  原告と被告は,平成24年2月1日,本件個別契約1について,「1.業務名」及び「2.業務内容」に,従前の「コンピュータ資源提供サービス」に加え,障害が発生した場合などに,両当事者合意の上,適宜原告が対応する「技術支援スポットサービス」の条項を付加し,更に「3.責任対応範囲」を付加してその内容を別紙2のとおりとし,契約期間を「平成24年3月1日から平成26年2月28日まで」,「6.」「①」の「回線」のレンタル料を月額5万円に増額するなどした上,契約更新する旨合意した(甲6。以下,この契約更新後の個別契約を「本件個別契約2」という。)。
(8)  被告は,平成24年7月2日,原告に対し,同年9月末をもって本件基本契約及び本件個別契約2を解約する旨通知した(甲7)。同年7月13日,原告は,被告の解約の申出に応じることを決め,原告及び被告は,同年9月30日,本件基本契約34条1項(以下「本件解約条項」という。)に基づき,本件基本契約及び本件個別契約2を合意解約した(甲8。以下,被告の上記解約通知を「本件解約予告」といい,本件解約予告に基づいてされた本件基本契約及び本件個別契約2の上記合意解約を「本件解約」という。)。
2  争点及び争点に関する当事者の主張
(1)  本件解約は,原告の責めに帰すべき事由によらない解約か(争点1)
【原告の主張】
ア 被告は,本件解約予告において,原告から他の会社に変更する理由として,①仮想サーバーの品質・拡張性・費用の点,②独自キャリアとのセットによる提供の2点を挙げていた。したがって,本件解約は,専ら被告の都合によるものであり,原告の責めに帰すべき事由による解約ではない。
イ 原告は,被告に対し,本件個別契約1及び同2に基づき,本件レンタルサーバーであるサーバー機2台を提供したほか,平成22年2月に本件売却サーバーであるサーバー機2台を売却した。本件レンタルサーバーは,東京都江東区所在の原告の賃借建物内に設置されて被告の受注管理プログラム,顧客データ等が保存され,本件売却サーバーは,東京都目黒区所在の被告本社内に設置されて被告のスタッフが自社システムを使用するためのIDやパスワード等のデータが保存されていた。そして,被告が主張している平成24年3月に発生したネットワーク障害は,本件売却サーバーにおいて発生したものであるところ,原告が,本件個別契約2によって稼働確認及び管理作業を受託したのは,前者の本件レンタルサーバーについてであり,本件売却サーバーについては受託していなかったから,上記ネットワーク障害は,原告の債務不履行によって生じたものではない。また,本件個別契約2の別紙2「システム運用の対応責任範囲について」で規定されているとおり,顧客データ,受注データ及びその他のシステムデータの管理は被告の責任範囲であり,原告は,被告に対し,上記障害の報告義務及び対応義務を負っていなかった。したがって,被告の主張するように,上記ネットワーク障害発生後,直ちに原告が被告に対して報告をしなかったことをもって,本件個別契約2の別紙1の2「稼働確認・管理作業」のうち「システム監視(自動・手動)」及び「障害対応」を怠ったというのは当たらない。なお,平成24年4月2日に原告が被告に対してメールを送信したのは,次の理由によるものであった。すなわち,本件システムにおいて,原告の賃借したスペースに設置されている本件レンタルサーバーで保管中の顧客データについては,自動的に専用回線を通じて遠隔地である被告本社内の本件売却サーバーに送信され,本件売却サーバー内にバックアップデータが作成される設定になっていたところ,原告は,上記バックアップが通常どおり行われていないことを発見し,原因を調査したところ,被告の本社に設置された本件売却サーバーの障害により本件レンタルサーバーのデータが売却データに送信できなくなっていることが判明したため,報告義務はなかったものの,親切心から被告にその旨を連絡したにすぎず,上記メールの送信が遅れたことを被告から非難されるいわれはない。
【被告の主張】
ア 被告は,原告との間で本件基本契約並びに本件個別契約1及び同2を締結し,上記各契約に基づき,原告に対し,本件システムの提供及び保守管理業務を委託したところ,以下のとおり,原告は,極めて不十分なサービスしか提供しなかった。そのため,被告は,自社の業務に支障を来し,営業上の損害を生じさせるおそれがあったことから,やむを得ず,上記各業務を原告以外の他社に行わせることを決定して,本件解約予告をなし,本件解約条項に基づき,本件解約に至ったものであり,本件解約は,原告の責めに帰すべき事由による解約である。
イ 被告が,本件解約をするに至った経緯は,次のとおりである。
(ア) 原告は,平成22年2月から,被告から委託された業務を開始したが,当初,設定ミスにより,被告において端末が起動できない事態が多発した。
(イ) 平成22年8月,原告は,被告の本社移転に伴う本件システムの設定変更が完了していないにもかかわらず,作業が完了したとして,設定変更未了の状態のまま放置し,被告を本件システムによる通信ができない状態に陥らせた。
(ウ) 平成22年11月,原告は,設定ミスにより,被告の拠点間のネットワークによる通信速度が極めて遅くなる事態を発生させた。
(エ) 平成23年3月頃,被告の配送センターに光回線を導入することに伴ってネットワークを切り替えた際,原告の段取りが悪く,通常よりも長時間の作業となり,被告の従業員が長時間拘束された。
(オ) 平成23年11月頃,被告の事業運営上,サーバーの処理能力が限界に達するようになり,同年12月に応急処置として物理サーバーリソース(CPU,メモリ)を最大限データベースサーバーに集中するなどして,データ量の多い繁忙時期を何とか乗り切るという状況が生じた。被告は,平成23年12月及び平成24年1月頃,原告営業担当者に対し,原告が提供するサーバーの処理能力が限界に近づいているので処置を講じてほしいとの要望を伝えたが,原告は,被告の上記要望に応えることなく,処理能力が限界付近にあり,サーバーが使用不可能な状況となる危険性が高まっている事態を放置した。被告は,本件基本契約の解約及び本件個別契約1を更新しないことを検討したが,スイッチングコスト(レンタルサーバーの移設に関わる一連の費用)を考えて満足のいくサービス内容及びランニングコストのレンタルサーバーを見つけることができなかったため,やむを得ず,平成24年2月1日,原告との間で,本件個別契約2を締結した。
(カ) 平成24年3月30日,原告の提供する2台のサーバーのうちの1台が一時的に使用不可能な状態に陥り,外部ネットワークとの通信が不可能になるなどのネットワーク障害が発生し,これにより被告のコールセンター及び配送センターの業務が混乱するなど,被告の業務に影響が生じた(以下,被告の主張する上記ネットワーク障害を「本件ネットワーク障害」という。)。本件ネットワーク障害については,被告のシステム担当者が設定を変更するなどして対応し,完全に復旧するまでには1週間程度の期間を要したところ,被告のコールセンターでは,本件システムを使用して顧客からの注文を受けているため,システムが数時間止まるだけでも,顧客からの注文を逃すことによって相当額の損失が発生する。被告は,今後受注の増加に伴って通信データ量も更に増大することが見込まれ,原告が提供する不安定なサーバーに依拠して業務を行うことは出来ない状況であると判断し,やむを得ずサーバー変更のため本件解約を決定したのである。
ウ 本件個別契約1及び2においては,原告の責任範囲として,「要求仕様を満たすサーバ等ハードウェアの安定稼働」及び「要求仕様を満たすネットワークの安定稼働」等が規定されているところ,前記イ(カ)のサーバーが使用不可能な状態に陥るという事態は,原告の上記債務が履行されていないことにほかならない。また,原告は,本件ネットワーク障害の発生を平成24年4月2日になってようやく認識し,被告に対し,状況を確認する連絡をメールで行ったが,これは,本件個別契約2の別紙1の2「稼働確認・管理作業」のうち「システム監視(自動・手動)」及び「障害対応」を怠ったものであるといえ,原告による本件個別契約2所定の債務の履行が不完全履行であったことは明らかである。したがって,本件解約は,原告の責めに帰すべき事由による解約であり,被告は,原告に対し,本件解約条項2文所定の債務を負担しない。
(2)  本件解約条項2文所定の「原告の責めによらずに個別契約が解約された場合」に,被告が原告に対して支払うべき「サービス料金全額」の内容(争点2)
【原告の主張】
ア 本件解約条項は,1文で3か月前の解約予告による解約を認めつつ,2文において,原告の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず,被告が中途解約した場合には,原告に対し,当初の契約期間満了までのサービス料全額を支払うことを定めた規定である。したがって,原告は,被告に対し,本件個別契約2の残りの期間(平成24年10月から平成26年2月まで)の料金776万4750円(=43万5000円×17か月分+消費税)の支払を求めることができる(以下,原告が,被告に対し,本件解約条項2文に基づいて支払を求める「サービス料金全額」に係る金銭債権を「本件債権1」という。)。
イ 被告は,本件解約条項2文の「サービス料金全額」の文言につき,同項1文の解約予告期間中のサービス料全額の意味であるなどと主張するが,原告は,被告から3か月前の解約予告を受けたとしても,解約の効力が生じる時点まで,所定のサーバーのレンタル,稼働確認・管理作業等の業務を継続しているのであるから,解約についての帰責性の有無にかかわらず,被告が上記期間分の料金を支払わなければならないのは当然であり,そのような当然の内容をわざわざ規定するはずがない。原告は,本件基本契約の締結時に,本件レンタルサーバーの購入費用,本件レンタルサーバーやサーバーに搭載するOSのメンテナンスサービス費用,本件レンタルサーバー設置のスペース確保のための諸費用(敷金,礼金等),本件レンタルサーバーや本件システム設定のための人件費,レンタル開始後に適切に本件システムが稼働するための原告の有する各種技術やノウハウの提供等の多額の費用を負担したため,被告に対し,上記費用を前金,頭金又は初期費用の名目で被告から受領することを希望したが,被告の担当者であったC(以下「C」という。)から前金なしでやるよう強く要請され,やむを得ず上記費用を契約期間全体のサービス料の支払を受けることによって回収することとした。しかし,契約が途中で解約されたり,被告が破産するなどして回収不能になる事態が発生すると,原告が上記費用の回収をなし得なくなるリスクがあったことから,原告と被告は,本件解約条項2文のとおり,原告の責めに帰すべき事由によらない中途解約があったときは,原告が残りのサービス料全額の支払を受けることを条件に,前金なしで,月々のサービス料の支払のみとする料金設定に合意したのである。したがって,途中解約の場合に,原告が,残りの契約期間満了までの料金を受領しても,二重に利得するという事態は生じない。また,被告としても,残りの契約期間満了までの料金を支払えば,途中解約が可能となるから,本件解約条項2文を上記のように解したとしても,同項1文の規定が無意味になるということもない。
ウ 被告の公序良俗違反及び権利の濫用の主張は争う。
【被告の主張】
ア 仮に,被告が原告に対し,本件解約条項2文に基づくサービス料の支払義務を負うとしても,同条において,3か月前の解約予告による解約が認められている以上,同項にいう「サービス料金全額」とは,上記解約予告期間中のサービス料を意味するものと解すべきである。そして,被告は,原告に対し,平成22年9月30日までのサービス料130万5000円(月額43万5000円×3か月分)を支払済みであるから,原告の被告に対する上記条項に基づくサービス料の支払請求は,認められない。
イ 原告が主張するように,本件解約条項2文の「サービス料金全額」を当初契約期間満了までの料金であると解すると,原告において,解約による余剰リソースによる利得と上記条項に基づくサービス料全額を二重に利得する不当な結果が生じる上,3か月前の解約予告により契約の中途解約を認める実益がなくなり,同条1項1文が無意味な規定となる。したがって,本件解約条項は,当事者双方にいつでも任意に解約することができる権利を認める一方で,3か月前の予告期間を設けることにより,当事者に不測の損害を与えることを防止し,サービスを提供する原告に帰責性がない場合には,解約後直ちに残余期間の料金合計額の支払義務を生じさせ,被告の期限の利益を喪失させることで,当事者の公平を図る趣旨の規定と解するのが当事者の合理的意思に合致する。
ウ 仮に,原告が主張するように本件解約条項2文を解釈すると,そもそも任意解約条項を認める意味が失われるほか,被告の解約の自由を不当に制約し,原告が二重の利得を得ることになる点で原告に過剰な利益を与えることになるから,同条項は,民法90条により,公序良俗に違反し無効である。
エ また,原告は,本件解約の際,本件解約条項2文に基づく違約金の支払について一切言及していなかったから,それから3か月後になされた本件債権1に係る請求は,権利の濫用であり,許されない。
(3)  原告と被告の間で,レプリケーションの構築及びクラスターの構築に関する業務委託契約が締結されたか(争点3)
【原告の主張】
ア 被告は,平成22年3月頃,イースピリッツ社が構築に失敗したクラスターの構築の代替策として,原告に対し,本件システムが記録されたサーバーについてのレプリケーションの構築業務を持ちかけ,同月12日,同業務を発注し,原告は,これを受注した(以下,この原告が被告から受注したと主張しているレプリケーションの構築業務を「本件レプリケーション構築業務」といい,本件レプリケーション構築業務を内容とする原被告間の業務委託契約を「本件レプリケーション構築契約」という。)。
イ 被告は,平成22年3月16日に原告から完成したレプリケーションの引渡しを受けた直後に,レプリケーションよりも高機能であるクラスターを自社のシステムに設定することを決め,原告に対し,クラスター構築業務を委託し,原告は,これを受注した(以下,この原告が被告から受注したと主張しているクラスターの構築業務を「本件クラスター構築業務」といい,本件クラスター構築業務と本件レプリケーション構築業務を併せて「本件各構築業務」といい,本件クラスター構築業務を内容とする業務委託契約を「本件クラスター構築契約」といい,本件クラスター構築契約と本件レプリケーション構築契約を一括して「本件各構築契約」という。)。
ウ 本件各構築契約は,いずれも本件システムで使用されている本件レンタルサーバーの各サーバー相互間にレプリケーション及びクラスターの機能を持たせることを内容とするものであり,具体的なシステムの内容については,原被告間でメールをやり取りして確定している。また,本件レプリケーション構築業務の納期については,本件レンタルサーバーの1号機の納期は平成22年3月15日,同2号機の納期は同月19日と定められ,本件クラスター構築業務についても,被告は,同年4月30日までに稼働することを求めていた。本件各構築契約締結時に,契約締結から納期までの期限が極めて短かったため,契約書が作成されず,具体的な代金額も決まっていなかったが,本件各構築業務の代金については,口頭で,原告の技術者の人件費を中心とした相応の費用となることが合意されていた。したがって,本件各構築契約については,各契約の給付内容及び期限は確定していたし,具体的な代金額が定められていなくても,契約の特定性に欠けることはないから,本件各構築契約の確定性に何ら問題とすべき点はなく,いずれも有効に契約は成立している。
エ 平成22年3月当時,Cは,被告の「プロジェクトマネージャー」であり,和訳すれば「企画部長」の地位にあった。したがって,Cは,被告の本件システム整備に関する企画について「委任を受けた使用人」(会社法14条1項)であったものであり,原告に対し,本件各構築業務を委託する権限を有していた。また,Cは,原告に対し,被告の「プロジェクトマネージャー」であると名乗り,被告の「システム事業部 C」との署名入りのメールを送信し,本件レプリケーション構築業務を発注しているところ,このメールは,他の被告の従業員にも送信されていたにもかかわらず,本件訴訟が提起されるまで,何らの異議も述べられなかった。したがって,仮に,被告が主張するように,Cが,本件各構築業務を発注する権限を有していなかったとしても,原告は,Cの代理権の内部的制限について善意であり,かつ,それを知り得なかったことについて何らの過失もないから,被告は,原告に対し,会社法14条2項により,Cの代理権に加えた制限を対抗することができない。
【被告の主張】
ア 被告は,原告との間で,本件各構築契約を締結していない。原告の主張する各契約の履行内容や期日等の契約内容が不明であり,確定性の要件を満たしていないため,契約として有効に成立していない。
イ 原告が本件各構築契約を締結した相手方であると主張しているCは,被告の従業員ではなく,契約締結権限も授与されていなかった。被告において,契約締結権限は,被告代表者及び経営管理業務の責任者であるD(以下「D」という。)の権限であり,Cは,平成22年3月当時,本件システムの開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーとして,システム全体の設計,実際にシステムを作成するエンジニア,ITサービス業者の選定等,プロジェクトの進行管理を担う役割であり,外部業者等との窓口となる立場であったが,その権限には,契約締結権限は含まれず,決定できる予算枠もなかった。また,IT業界において,「プロジェクトマネージャー」は,「企画部長」と和訳されることはなく,「システム開発案件担当者」として,あくまで外注業者との外部との窓口となってプロジェクトの進行管理を担う者と解するのが一般的な解釈であり,原告代表者も,Cに契約締結権限がないことを認識していた。したがって,Cは,原告との間で,本件各構築契約を締結する権限は有していなかったし,上記各契約について,会社法14条2条に基づく被告の責任を認める余地もない。
(4)  原告が,本件レプリケーション構築業務を遂行し,被告に対し,構築したレプリケーションを引き渡したか(争点4)
【原告の主張】
ア 原告は,本件レプリケーション構築契約によって被告から受注した本件レプリケーション構築業務を遂行し,平成22年3月16日,レプリケーションの構築を完成させ,被告に対し,構築したレプリケーションを引き渡した(以下,この原告が本件レプリケーション構築委託契約に基づいて構築し,被告に引き渡したと主張しているレプリケーションを「本件レプリケーション」という。)。
イ 本件レプリケーションの引渡後,同システムは,本件解約によって,原被告間の契約関係が終了した平成24年9月31日まで,被告において問題なく稼働していた。
【被告の主張】
ア 原告の主張アは否認する。
イ 被告において,平成22年8月頃より,一時本件レプリケーションが稼働していた時期はあったものの,エラーが多発するなど,レプリケーションとしての機能を果たすものではなかったため,後に使用が停止された。したがって,原告が,本件レプリケーション構築業務を遂行し,本件レプリケーションを完成させたとは認められない。
(5)  原告が,本件クラスター構築業務を遂行し,被告に対し,本件クラスター構築契約に基づく代金を請求できるか(争点5)
【原告の主張】
ア 原告は,被告から受注した本件クラスター構築業務を遂行し,平成22年3月29日,構築したクラスターのテストを行い,同月30日,被告に対し,構築したクラスターを引き渡した(以下,この原告が本件クラスター構築契約に基づいて構築し,被告に引き渡したと主張しているクラスターを「本件クラスター」という。)。
イ 被告において,本件クラスターを稼働させるためには,被告の本件システムのプログラムをクラスターに適合するよう修正する必要があった。原告は,本件クラスターを引き渡した後,被告から,本件クラスターに適合させるための本件システムのプログラムを修正する業務の見積もりを求められ,その概算見積金額を合計2184万円として提出したが,被告は,上記金額を支出する予算を組むことができず,最終的に,上記業務を発注しなかった。このように,被告において本件クラスターが稼働していないのは,被告が,自社の予算の都合で,本件システムをクラスターに適合させるための作業を発注しなかったことが原因であり,クラスターが稼働しなかったことについて原告に何ら落ち度はない。
【被告の主張】
ア 原告の主張アは,否認する。
イ 被告において,原告が構築したと主張しているクラスター(本件クラスター)のテストを行ったことはあるが,結局正常に機能せず,現在まで,本件クラスターが稼働したことは一切ない。
(6)  本件各構築業務の相当代金額(争点6)
【原告の主張】
ア 原告が被告との間で締結した本件各構築契約では,いずれも急遽発注され,納期までの期間も短く,見積書や契約書を取り交わす時間的余裕がなかったことから,各作業の具体的な代金額は定められていなかった。しかし,原告と被告担当者のCとの間においては,レプリケーション及びクラスターの構築代金について,原告の技術者の人件費を中心とした相応の費用が支払われることが合意されていた。そして,原告は,被告のための本件各構築業務として,実働として14.1人月の作業を行ったところ,原告においては,1人月当たりの作業代金を80万円と設定しているため,上記作業の相当代金額は1128万円(14.1月×80万円)から本件個別契約2において被告から受領済みである「仮想ホスト(VM Ware×2)」部分の「1.2月分」の代金を控除した金額となる。したがって,原告は,被告に対し,上記業務代金として,消費税を含めて1083万6000円(={1128万円-(80万円×1.2人月)}×1.05)を請求できる(以下,原告が主張している本件各構築業務に係る各代金債権を,一括して「本件債権2」という。)。
イ 仮に,原告と被告の間で,本件債権2に係る代金の支払合意が認められなかったとしても,原告は,商法512条に基づき,被告に対し,本件各構築業務の相当代金である上記1083万6000円の支払を求めることができる。
【被告の主張】
原告の主張アは否認し,同イは争う。前述のとおり,そもそも原告と被告との間で本件各構築契約が締結された事実はなく,原告が,本件各構築業務を遂行し,本件レプリケーション及び本件クラスターを完成させたということもなかったから,被告は,本件債権2の代金支払義務を負わない。また,仮に,商法512条に基づく請求が認められるとしても,原告の主張する代金額は高額すぎるし,本件レプリケーション及び本件クラスターが正常に機能せず,被告において稼働していないことを考慮すれば,大幅に減額されるべきである。
(7)  被告の消滅時効の主張が,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきか(争点7)
【原告の主張】
ア 原告は,平成25年1月10日,被告に対する本件訴訟を提起した。原告及び被告は,同年3月27日の第2回口頭弁論期日において,裁判所から,次回期日までに関係者の陳述書を提出するよう求められ,原告は,同年4月24日の第3回口頭弁論期日において,原告代表者の陳述書(甲33)を提出したが,被告は,被告関係者の陳述書を提出せず,同年7月3日の第5回口頭弁論期日にE(以下「E」という。)及びF(以下「F」という。)の各陳述書を提出したものの,平成26年1月15日の第4回弁論準備手続期日には,裁判所から同期日までに主張書面の提出を求められていたにもかかわらず,準備書面を提出しなかった。その後,被告は,Cの証人尋問を申請し,同年3月19日の第6回弁論準備手続期日で原告の代表者本人尋問及び被告申請に係る他の証人尋問と併せて被告のCの証人尋問も採用されたが,被告は,原告代表者本人尋問及び被告申請に係るE,F及びCの各証人尋問が予定されていた同年5月7日の第7回口頭弁論期日にCを同行せず,その上で,再度Cを同行して証人尋問を実施することを希望した。その際,被告は,裁判所及び原告代理人に対し,同年6月6日までにCの陳述書を提出すると述べたが,結局上記期限までに同人の陳述書を提出せず,同月10日,裁判所から,Cの証人尋問の採用決定を取り消された。そして,同月30日の第8回口頭弁論期日において,原告及び被告は,裁判所から,同年7月31日までに最終準備書面を提出することを指示され,同年8月13日の次回口頭弁論期日で結審予定である旨告げられ,更に,和解勧告を受け,同期日前の同年7月8日に和解期日が設けられたが,同期日において,被告は,何ら歩み寄りの姿勢を見せずに和解を拒否し,提出期限である同月31日までに最終準備書面を提出せず,結審予定の期日の前日夜半に被告第3準備書面を提出し,そこで初めて本件債権2の消滅時効を主張した。また,被告は,上記準備書面を結審予定期日の前日夜半に提出した理由として,「期日を翌週だと勘違いしていたこと」及び「作成が遅れたこと」である旨述べた。
イ 上記アの審理の経緯からすれば,被告の本件債権2の消滅時効の主張は,故意又は重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であり,訴訟を遅延させるものであるから,民事訴訟法157条により却下されるべきである。
【被告の主張】
原告の主張イは,争う
(8)  本件債権2の消滅時効の成否(争点8)
【被告の主張】
ア 本件債権2は,いずれも民法173条2号所定の「自己の技能を用い,注文を受けて,物を制作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権」であるから,その消滅時効は,本件レプリケーション及び本件クラスターを完成させ引き渡したと原告が主張している平成22年3月16日及び同月30日からそれぞれ進行し,2年間の経過により消滅時効が完成した。
イ 被告は,原告に対し,平成26年9月10日の第10回口頭弁論期日において,本件債権2に係る消滅時効を援用する意思表示をした。
【原告の主張】
ア 被告の主張アは,争う。
イ 消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する(民法166条)ところ,原告と被告は,平成22年4月,被告が原告に対して平成28年1月31日まで本件基本契約に基づくサーバー個別契約の発注を継続することを停止条件として,原告が被告に対して本件債権2の代金1083万6000円の支払を免除する旨合意した(以下,この原告が被告と合意した旨主張している条件付免除合意を「本件条件付免除合意」という。)。そして,被告は,平成24年7月31日,原告に対し,本件解約予告により,原被告間で締結されたすべての契約を解約することを申し入れ,これを受けて,原告が,同年9月31日をもって本件基本契約及び本件個別契約2を解約することに合意したため(本件解約),同日,本件基本契約に基づくサーバー個別契約の発注が継続されず,本件条件付免除合意の停止条件が成就しないことが確定した。したがって,本件債権2の消滅時効は,原告が被告に対して本件債権2に係る代金を請求できるようになった平成24年10月1日から進行し,その時効期間満了日は平成26年10月1日であるところ,原告は,平成25年1月10日,被告に対し,本件債権1と併せて本件債権2に係る代金請求を内容とする本件訴訟を提起したから,それにより本件債権2の消滅時効は中断した(民法147条1号)。したがって,本件では,本件債権2の消滅時効は完成していない。
第3  争点に対する判断
1  証拠(各項末尾の括弧内に挙示したもの)又は弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(なお,前後の関係を示すため,前記「前提事実」記載の事実も改めて記載することがある。)。
(1)  被告は,平成19年9月に被告代表者によって設立され,直販店並びに電話・FAX及びインターネットによる通信販売により洋服等を販売し,電話・FAX及びインターネットで顧客から注文を受けた場合には,被告の社内に構築された受注システムによって処理していた。当初,被告に構築された受注システムは,簡易なもので,処理能力が高くなかったため,被告の事業が軌道に乗って売上が増加すると,多くの注文に対応できなくなるおそれが生じたことから,平成21年頃,被告は,より多くの注文を処理することができる新受注システム(本件システム)を構築することを決定し,当時Cが社長を務めていた株式会社ジープレ(以下「ジープレ」という。)に対し,上記新受注システム構築業務を委託した(以下,この被告の新受注システム構築計画を「本件プロジェクト」という。)。本件プロジェクトによる被告の新受注システムは,当初平成21年9月28日の稼働開始が予定されていたが,その後平成22年2月19日及び同年4月30日に二度延期され,最終的に同年8月10日から稼働を開始した。(甲2,乙8)
(2)  Cは,平成18年4月にジープレを設立し,同社の社長を務めていたが,平成21年4月にジープレが株式会社ビットクルーズ(以下「ビットクルーズ」という。)に吸収されると,一時同社の取締役に就任した後,平成22年1月に同社を退社し,独立した。Cは,ジープレ及びビットクルーズに在職中,部下であったシステムエンジニアのE(同月に被告に移籍した。)と共に本件プロジェクトを担当し,ビットクルーズ退社後は,被告との間で,個人として業務委託契約(乙9)を締結し,本件プロジェクトを担当した。(乙5,乙8,乙9,証人E)
(3)  本件プロジェクトが計画された当時,被告にはIT部門が存在せず,Cは,E以外に,イースピリッツ外3社から4名のエンジニアの派遣を受け,本件プロジェクトを進めた。また,Cは,同人の個人的なつてを通じて外注業者としてイースピリッツ社及び原告に声をかけ,イースピリッツ社に対し,本件プロジェクトのうちの顧客に関するデータベースの構築やデータのバックアップ体制の整備に関する業務を発注し,原告に対し,本件システムのためのサーバーの用意及びその保守・管理などのインフラ関連の整備に関する業務を発注することとした。(乙5,証人E)
原告は,平成21年5月頃,Cから連絡を受け,本件システムのサーバーの購入,レンタル及び稼働確認・管理等の業務を委託したい旨の申出を受けた。その際,Cは,原告に対し,被告のプロジェクトマネージャーと名乗り,その肩書が付いた名刺(甲25)を交付した。(甲25,甲33)
(4)  原告と被告は,平成21年6月9日,本件基本契約を締結した。その際,原告代表者であるG(以下「原告代表者」という。)は,被告側の交渉窓口であったCに対し,原告において,業務開始後に,レンタルしたサーバーの設置スペースを賃借するための賃料,同サーバーをインターネット回線に接続するためのインターネット接続業者へ支払う回線使用料及び同サーバー及びシステムの維持,保守・管理に係る人件費等(以下,これらを一括して「本件業務継続費用等」という。)を負担するほか,業務開始に当たり,①レンタルするサーバーの購入費用,②同サーバーのメーカー及び同サーバーに搭載するOSのソフト会社へ支払う各メンテナンスサービス費用,③同サーバーの設置スペースを賃借するための敷金及び礼金,④顧客の希望に従った設定をするための人件費,⑤ⅰ レンタル開始後に適切かつ効率的に同サーバーが作動するための適切なサーバー及びOSの選定及び設定,ⅱ 精密機器であるサーバーの適切な保管及びレンタルするサーバー内のデータの盗難防止等のセキュリティが確保されたサーバー設置スペースの選定・確保,ⅲ レンタルするサーバーをインターネット回線と接続するための適切なインターネット接続業者の選定の各作業を行うために原告の提供する技術上,営業上のノウハウの対価,⑥同サーバーのインターネット回線への接続作業の立会及びインターネット回線へ接続する際のネットワーク機器設定作業の各人件費(以下,これらの費用及び対価を一括して「本件初期費用等」という。)を負担し,かつ,⑦レンタル期間中にレンタルしているサーバーが不可抗力などで損傷した場合に代替サーバーを原告の負担で準備しなければならないリスク,⑧契約期間中に被告の支払い停止や倒産によって原告が負担した各種費用及び対価が回収不能になるリスク,⑨想定される顧客数,スタッフ数,業務遂行時間,取引態様など被告に特有な事情を聴取した上で,それに最も適合する処理性能,記憶容量等の仕様となっているサーバーを購入するため,被告が契約を途中解約した場合には,他の顧客向けにサーバーを転用することが困難であるというリスクを負っていること(以下,これらのリスクを一括して「本件初期リスク」という。)を主張し,契約締結時に約400万円から600万円程度のまとまった初期費用又は前渡金の支払がなければ,被告から求められた業務委託を受けられない旨を述べた。これに対し,Cは,原告代表者に対し,「被告は急成長をしているため資金が不足しており,一括では払えない。初期費用及び前渡金なしでお願いしたい。その分,長く契約を継続し,レンタル,稼働確認・管理業務以外も発注するのでお願いできないか。」などと述べ,最終的に,原告代表者が,中途解約の場合には,解約時から契約期間終了時までの「サービス料金全額」の支払を受けられることを条件として挙げたところ,Cもこれを了解し,上記内容を本件解約条項2文に反映させた上で,本件基本契約書(甲3)を取り交わした。(甲33,原告代表者本人)
(5)  原告と被告は,平成21年12月頃,本件個別契約1を締結した。原告は,本件レンタルサーバーを購入し,東京都江東区内に設置するスペースを賃借し,設定を行った上で,平成22年2月1日からレンタルを開始した。本件レンタルサーバーは,被告社内において,それぞれ「物理サーバー1号機」及び「物理サーバー2号機」と呼称され(以下,本件レンタルサーバーの各サーバー機を表示する場合,上記呼称を用いることがある。),同サーバーには,被告の受注管理プログラム,顧客データ,受注データ等が保存されていた。(甲6,甲16,甲32,甲33,弁論の全趣旨)
(6)  原告は,平成22年2月12日,被告に対し,本件売却サーバーを売り渡した。その際,原告は,被告から,本件売却サーバーの初期設定業務を受託したが,稼働開始後の稼働確認・管理業務等の委託は受けなかった。本件売却サーバーは,いずれも当時東京都目黒区祐天寺所在の被告本社内に設置され,被告において,それぞれ「DOSVDC01」及び「DOSVDC02」と呼称されていた(以下,本件売却サーバーの各サーバー機を表示する場合,上記呼称を用いることがある。)。本件売却サーバーには,被告のスタッフが自社システムを使用するためのIDやパスワード等のデータが保存されていた。(甲26から甲30まで,甲33,乙1)
(7)  被告は,平成21年12月頃,イースピリッツ社に対し,物理サーバー1号機及び物理サーバー2号機についてクラスターを構築する業務を発注したが,イースピリッツ社は,クラスターを構築できなかった。
(8)  イースピリッツ社によるクラスターの構築の失敗は,平成22年2月又は3月頃に関係者の間で明らかになり,原告は,同月上旬頃,Cから,「クラスター構築とは別なやり方で,一方のサーバーが不調になっても,他方のサーバーを稼働させてシステムなどが処理を停止しないようにする方法はないか。」との相談を受けた。原告は,Cに対し,複数のサーバー内データを一致させる速さは,クラスターよりも遅いが,技術的には,クラスターに比べれば難易度が低いレプリケーションを提案し,Cから,レプリケーション導入の発注を検討したいので,資料を送るよう求められた。(甲33,原告代表者本人)
(9)  原告代表者は,平成22年3月8日15時46分に,C及びEに対し,物理サーバー1号機及び物理サーバー2号機のレプリケーションテスト環境の資料を添付したメール(甲15。以下「本件メール1」という。)を送信し,同日16時58分に,Cから,「社内に,クラスタ化は放棄をメールで告知しました。」「抜粋ですが,下記の様な告知内容です。」「調査に時間を費やす事を止め,セカンドプランへの移行を決定します。当座のサーバクラスタ化は諦め,レプリケーション構成に拠る実装を勧めます。本番で使用する環境での動作検証を行い,12日に結果報告できる様に致します。障害復旧性能はクラスタよりも落ちますが,導入実績事例ではクラスタよりも豊富である為,本番運用にも十分に耐え得ると考えております。」「質疑に関しては,明日の進捗会議にて受け付ける事としておりますが,方向性は異論無く承認されることは確信しております。」「それよりも,12日に無事に意思決定される様に準備をする事が肝要と考えておりますので,ご協力の程,よろしくお願い致します。」との内容のメール(甲13,以下「本件メール2」という。)を受信し,更に,同月12日,「懸念とおっしゃっておりました経緯ですが,Hも含む責任者の揃う場で,問題はイースピリッツ社だと名指しで指摘しております。EX1社としては,現在の契約条件の中で最大限の誠意を見せようと行動してくださった旨を明確にしてあります。今後も契約は契約としてシビアな要求はあるかと思いますが,EX1社への信頼はむしろ増したと考えております。」「さて,本題の環境構築の件ですが,提示頂いた構成での作成をお願い致します。」「1号機環境(本番環境)は,そのままユーザーテスト環境としても使用するつもりなので,これは可能な限り早い構築が望まれます。火曜日に予定されているテストを本番環境で行って欲しいので,希望ベースで言うと月曜日中に欲しいです。」「2号機環境については,1週間は待てます。」との内容のメール(甲16,以下「本件メール3」という。)を受信した。また,その頃,Cは,原告代表者に対し,レプリケーションを含めバックアップ装置ができないのであれば,被告代表者が本件レンタルサーバーの保守料金なども支払わない可能性があるなどと述べたため,原告は,被告から本件レプリケーション構築業務を受託することを決めた。(甲13,甲15,甲16,甲33,原告代表者本人)
(10)  原告は,本件レプリケーション本番環境(1号機)を作成し,原告代表者は,平成22年3月16日2時58分に,E及びCに対し,その旨のメール(甲17,以下「本件メール4」という。)を送信し,同日16時37分に,C及びEに対し,レプリケーションを設定し,稼働中である旨のメール(甲17,以下「本件メール5」という。)を送信した。(甲17,甲33,原告代表者)
(11)  Cは,平成22年3月16日に原告が被告へ本件レプリケーションを納品した際,被告社内において,原告代表者に対し,「被告の社内で,やはり物理サーバー1号機と物理サーバー2号機の間に,レプリケーションよりも複数のサーバー内のデータを一致させる速度が速いクラスターを導入したいとの要望が強くなった。今回,レプリケーションを迅速に構築してくれたので,原告に対する信頼が高まったので,クラスター構築もお願いしたい。」旨を述べ,原告代表者は,これを了承し,Cに対し,本件各構築業務について,おおよそ10人月から20人月の費用となることを伝えた。同月19日,被告社内において,C,E,原告代表者及びイースピリッツ社の代表者らが出席して本件クラスターの構築に関する会議が開かれ,同日,原告は,C及びEに対し,上記会議の議事録(スケジュールと構成)を送付する旨のメール(甲18,以下「本件メール6」という。)を送信した。本件メール6には,項目,予定日,完了日,担当等が記載された本件各構築業務の工程表が添付され,同表には,原告が担当したレプリケーション本稼働(1号機),レプリケーションテストの構築(1号機),単純負荷テスト及び負荷テストは,予定日である3月16日に完了し,レプリケーション本稼働(2号機),レプリケーションテストの構築(2号機),バックアップ・リストア,障害時切替テストについては3月16日及び同月31日に予定され,レプリケーションテストの報告書提出は4月6日に予定されているとの記載があり,上記工程表の末尾に赤字で「4月末にクラスターかレプリケーション報告書で判断する。」との記載があった。同年3月25日,原告代表者は,C及びEに対し,レプリケーションの切替テストと開発環境の構築が完了した旨のメール(甲39,以下「本件メール7」という。)を送信した。本件メール7には,レプリケーションテストが同月16日及び同月24日に完了し,クラスターテストを同月29日22時から被告本社で実施予定であるとの内容に修正された工程表が添付されていた。(甲18,甲33,甲39,原告代表者本人)
(12)  原告は,本件メール6及び本件メール7添付の各工程表に従って本件クラスター構築の作業を進め,平成22年3月30日,クラスター構築を完成させ,同月29日から同年4月1日までの間に,構築したクラスター(Cluster 7.0.13)を本件システムにインストールして稼働テストを実施し,原告代表者は,C及びEに対し,上記テストの経過をメール(甲19,甲20)で報告した。上記テストは,原告がパソコン10台を用意し,それらに同時に入力した情報を処理できるかどうかを試す同時入力テストや,将来の被告の顧客データ数を想定して,1000万件のデータを自動的に登録できるプログラムを組んだ上,登録されている1000万件のデータに耐えられるかどうかを試すテスト,大量のデータ投入テスト等であり,被告のパソコン50台を使用して被告の業務で使用していない夜間に原告の社員2,3人が被告本社に赴いて実施した2回のテストを含め,合計20回くらい行われた。これらのテストにより,構築した本件クラスターを本件システムで稼働させるためには本件システムの受注管理プログラムをクラスターに適合するよう修正する作業(以下,この作業を「システム適合化作業」という。)が必要であることが判明し,Cは,原告に対し,システム適合化作業を発注する場合の概算見積もりを出すことを求め,原告代表者は,同月2日,概算コストを2184万円とする概算見積書(以下「本件概算見積書」という。)を添付したメール(甲31)を送付した。(甲19,甲20,甲31,甲33,原告代表者本人)
(13)  原告は,本件概算見積書提出後も,本件クラスターの稼働に向けたテストを継続したが,平成22年4月下旬頃,Cは,原告に対し,システム適合化作業の予算が組めないため,発注は見合わせることになった旨連絡した。その後,被告は,本件システムのバックアップ体制として原告が構築した本件レプリケーションを採用し,クラスター化を放棄することを決定した。同決定後,原告が,Cに対し,本件各構築業務の代金の支払を求めたところ,Cは,原告に対し,「今後,基本契約に基づく個別契約の発注をいろいろと継続していくので,レプリケーション構築とクラスターの構築の代金は,請求しないこととしてもらえないか」などと述べた。原告は,一旦はCの上記要求を断ったものの,同人から「長期間にわたって個別契約を継続して,月々のサービス料金を支払っていくので,なんとかレプリケーション構築及びクラスター構築の代金を請求しないこととしてほしい」旨懇請されたため,Cに対し,6年間サーバーレンタル個別契約を継続するのであれば,本件各構築業務の代金を請求しない旨を告げたところ,Cは,原告に対し,6年以上個別契約の発注を続ける旨を述べた。(甲33,乙3,原告代表者本人)
(14)  被告は,平成24年1月16日,原告に対し,本件レンタルサーバーにつき,リソース増強のために仮想サーバー群の再構成を実施することになった旨のメール(甲32,以下「本件メール8」という。)を送信した。本件メール8には,「Server再配分案【決定】」,「レプリケーション構成+(LVS&WEB冗長化+リリーステスト環境+遠隔バックアップ」との表題の本件システムの構成図が添付されており,同図面では,物理サーバー1号機と同2号機の間にはレプリケーションが構築され,物理サーバー1号機と被告社内に設置された本件売却サーバー(DOSVDC2)の間には遠隔バックアップ(遠隔BKUP)が構築されていた。(甲32,甲33,原告代表者本人)
(15)  平成24年3月30日,本件売却サーバー(DOSVDC2)のハードディスクが故障し,上記サーバーが一時的に使用不能となったことが原因で,外部ネットワークとの通信が不可能になるなどのネットワーク障害(本件ネットワーク障害)が発生し,これにより被告のコールセンター及び配送センターでの業務が混乱し,被告の業務に支障が生じる事態となった。本件ネットワーク障害については,被告のシステム担当者が,設定を変更するなどして対応し,完全に復旧するまでに1週間を要した。(乙1,乙6)
本件ネットワーク障害発生後,原告は,本件レンタルサーバーから本件売却サーバーへの自動バックアップが通常どおり実行されず,その原因が被告社内に設置された本件売却サーバー(DOSVDC2)で発生した障害であったことから,同年4月2日,被告に対し,その旨のメール(乙2)を送信したところ,被告担当者は,原告に対し,「先週末,当該のHWにてHDD障害が発生し,対処しております。」「いつからいつまでの障害でしょうか?弊社の業務に影響はあったのでしょうか?」「具体的な障害内容と直接の原因となる故障箇所とその因果関係,実質的な影響範囲,現在の具体的な状況,発生日時と現場復旧日時等,障害報告としての要件が全くわかりません。」「もし,先週末に発生していた件であれば,ご報告としては遅すぎます。よろしければ,再度ご報告ください。」との内容のメール(乙2)を返信した。この被告からのメールを受信後,原告は,被告に対し,本件ネットワーク障害に関する報告を行わなかった。その後,原告は,被告から本件売却サーバーのハードウェアに関する問い合わせを受け,同月5日,被告に対し,初回購入時で1年間の翌日オンサイト保守と3年間のパーツ保障が付いていること,現状で保守更新のお知らせが届いていないのであれば,ユーザー登録がされていない可能性があり,HPへのユーザー登録をこれから行うことにより保守を現時点から継続して締結することが可能であること等を内容とするメール(甲30)を送信した。(甲30,甲33,乙2,原告代表者本人)
(16)  原告と被告は,平成24年7月13日,本件個別契約2及び本件基本契約を本件解約条項に基づき,同年9月30日をもって解約することを合意するとの内容の合意解約書(甲8)を取り交わした。その後,原告及び被告は,本件解約に伴う作業手順等についてやり取りし,同年9月28日に原告の設置した回線を撤去したが,それまでの間,原告は,被告に対し,同年7月分,同年8月分及び同年9月分の本件個別契約2所定のサービス料を請求し,被告も,これらを支払った。本件解約後,原告は,被告に対し,本件債権1に係る請求書(乙4)を送付したところ,被告は,同年10月26日頃,原告に対し,本件債権1について話合いの機会を持つことを求める書面(甲34)を送付した。同書面には,本件解約条項では,3か月前の解約通知で解約可能であることが規定されているので,同条所定の「全額」とは,解約までの3か月分のサービス料であると認識していたこと,被告にとって本件レンタルサーバーのキャパシティが限界に達しており,平成23年12月に応急処理を施して繁忙期を乗り切るという状況であったにもかかわらず,年明けにサーバーが限界に近づいているので処置を講じてほしいという被告の要望を伝え,対応を待っていたところ,平成24年4月中旬に本件ネットワーク障害が発生し,業務に支障を来したこと,サーバーが数時間ストップすれば,被告は数千万円単位の損失が発生し,不安定なサーバーに依拠することができないので,サーバー変更に踏み切ったのであり,本件解約には,理由がある旨の記載があるが,これらは,上記書面が送付されるまで,被告から原告に伝えられたことはなかった。(乙4,甲33,甲34,証人F,原告代表者本人)
2(1)  争点1(本件解約は,原告の責めに帰すべき事由によらない解約か)について
証拠(甲7)によれば,被告は,本件解約予告において,本件解約に至った理由として,被告のビジネス拡大により急激に増えているシステム及びデータのトラフィック量とトランザクション量に対応するためであり,他社に決めた理由として,①仮想サーバーの品質・拡張性・費用の点,②独自キャリアとのセットによる提供(1G回線で静岡を含む4拠点を結ぶ)であった点を挙げたことが認められるところ,上記解約理由は,いずれも原告の責めに帰すべき事由によるものとはいえない。これに対し,被告は,それまでの原告の対応に問題があり,本件解約は,原告の責めに帰すべき事由による解約である旨主張する。しかし,被告が本件解約の理由として挙げる事由のうち,平成24年2月1日以前に生じた事由は,本件個別契約2の締結前の事情であるから,それを理由に本件解約を決定したものでないことは明らかである。また,本件個別契約2の締結後に生じた本件ネットワーク障害の発生及びその際の原告の対応についても,前記1(15)のとおり,本件ネットワーク障害は,被告本社内に設置された本件売却サーバー(DOSVDC2)のハードディスクが故障し,同サーバーが一時的に使用不能となったことが原因であったこと,前記1(6)のとおり,原告は,被告との間で,本件売却サーバーの保守・管理について業務委託を受けていなかったこと,本件個別契約2の別紙2「システム運用の対応責任範囲について」によれば,顧客データ,受注データ及びその他システムデータに関する運用中のデータ管理,バックアップデータの管理及びリストア時のデータ内容確認については,被告の責任範囲とされ,原告の責任範囲に含まれないことが認められることに照らせば,原告は,本件ネットワーク障害の発生についての責任を負わず,また,それに対応する責任も負っていなかったというべきである。この点,被告は,本件個別契約2別紙2「システム運用の対応責任範囲について」によれば,要求仕様を満たすサーバー等ハードウェアの安定稼働及び要求仕様を満たすネットワークの安定稼働も原告の対応責任範囲であったから,本件ネットワーク障害の発生及びその後の原告の対応は,本件個別契約2で定められた原告の上記債務を果たしていないものであった旨主張する。しかし,本件基本契約1条及び本件個別契約2の内容に照らせば,本件個別契約2によって,原告が対応すべき責任を負うのは,同契約別紙1により原告が被告に対して提供しているハードウェア及びネットワークについてであると解され,被告社内に設置され,かつ,保守・管理の責任のない本件売却サーバーの故障について,原告は,調査・報告又は修繕その他の対応をすべき義務を負っていなかったというべきであり,このことは,被告が,自ら本件ネットワーク障害の復旧に対応し,原告に対し,上記業務を果たすことを求めた形跡がないことや,原告も,本件ネットワーク障害について,本件売却サーバーに関する被告からの問い合わせに回答したに止まり,それ以上積極的に対応した形跡がないこととも一致する。よって,被告の前記主張は採用できず,本件解約は,原告の責めに帰すべき事由によらない解約であると認められる。
(2)  争点2(本件解約条項2文所定の「原告の責めによらずに個別契約が解約された場合」に,被告が原告に対して支払うべき「サービス料金全額」の内容)について
前記1(4)の本件基本契約締結に至る経緯及び本件解約条項の文言に照らせば,同項2文の「サービス料金全額」は,個別契約が解約された時点から契約所定の契約期間が満了するまでの間のサービス料全額の意味であると解するのが相当である。
これに対し,被告は,上記「サービス料金全額」とは,3か月前までにされる解約予告から解約時までの期間のサービス料金全額の意味であると主張し,その理由として,①そのように解さなければ,本件解約条項1文が,3か月前の解約通知によって当事者の任意の解約を認めた趣旨が失われること,②原告の主張するように解約時から契約期間満了までのサービス料金全額を原告が取得できることを認めると,原告は,契約所定のサービス料金全額を取得できる一方で,解約によって提供義務を免れるリソースを他に転用することで二重の利得を得ることになって不当であり,当事者の合理的意思に反することを挙げる。しかし,解約予告から解約時までの期間は,契約が継続しており,被告は,原告から契約所定のサービスの提供を受けるのであるから,本件解約条項2文の有無にかかわらず,被告が原告に対して上記期間のサービス料金を支払う義務を負うのは当然であって,被告の主張を採用すると,本件解約条項2文が無意味な規定になる。他方で,本件個別契約1を締結するに際し,原告が,本件初期費用等を負担したことは容易に想定できるところ,本件個別契約1では,契約締結時に支払われる前金の支払条項が設けられていないため,原告は,負担した本件初期費用等を本件継続費用等に加えて契約期間中に被告から支払われるサービス料金によって回収を図ることになるが,本件個別契約1が途中で解約された場合には,原告は,被告から支払われるサービス料金によって支出した本件初期費用の回収が不可能となるから,原告が,被告に対し,本件初期リスクを考慮して本件解約条項2文を設けることを要求したことには合理性がある。更に,本件解約条項2文が設けられていなければ,被告は,原告の責めに帰すべき事由によらずに本件個別契約1を解約しようとすると,当該解約によって原告に生じたすべての損害を賠償すべき責任を負うことになるが,本件解約条項を設けることによって,原告の帰責事由がない場合であっても,残りの契約期間分のサービス料金を支払うことによって契約期間中であっても自由に解約できることになり,被告にとっても,本件解約条項2文の有用性がないとはいえない。そして,本件個別契約1によって被告に提供される本件レンタルサーバー及びネットワーク等の設備は,被告の構築する本件システムに合わせた仕様及び設定になっているため,解約後直ちに本件個別契約1で提供した上記設備を他に転用することが困難であることは容易に想定できるから,本件解約条項2文によって,原告が二重に利得する不当な結果が生じるとの被告の指摘も当たらないというべきである。
また,被告は,本件解除条項2文に関する原告の主張を認めると,原告に二重の利得を得させる不当な結果となるから,同条項は,民法90条により,公序良俗に違反し無効であるとか,本件解約予告後,原告が,被告に対し,本件解約条項2文に基づく請求する意思を示さず,本件解約後に突然請求したことは,権利の濫用であるとも主張している。しかし,本件解除条項2文により,解約時から契約期間満了時までのサービス料金を原告が取得しても,二重の利得が生じないことは前記で説示したとおりである上,そもそも,契約の途中解約を認めるかどうか,それを認める場合にどのような条項を設けるかについては,契約自由の原則により当事者が自由に定められる事柄であり,本件解除条項2文が公序良俗違反となると解する余地はなく,また,被告が,通信販売事業を営む企業であり,かつ,本件基本契約の当事者であって,契約の内容を十分認識し,当然本件解除条項2文の存在も認識していたはずであることに照らせば,原告が,被告に対し,本件解約前に同条項に基づく責任を通知すべき義務を負っていたと解する余地はないから,権利濫用の主張も失当である。その他,前記認定を覆すに足りる証拠はなく,被告の前記主張は採用できない。よって,原告は,被告に対し,本件債権1の支払を求めることができる。
(3)  争点3(原告と被告の間で,本件各構築契約が締結されたか)について
ア 前記1(8)及び(9)の各事実によれば,イースピリッツによるクラスター構築の失敗が判明した平成22年3月上旬頃,原告は,被告のプロジェクトマネージャーであったCから,クラスター構築に代わる本件システムのバックアップ体制について相談を受け,クラスターの代替としてレプリケーション構築を提案し,同月8日,本件メール1により,その資料をCに送付したこと,Cは,同日,原告に対し,本件メール2により,被告社内にクラスター構築を放棄し,レプリケーション構成による実装を勧め,同月12日に最終的な意思決定を行うことを伝え,同月12日,本件メール3により,原告に対し,本件メール1で原告が提案した内容で,本件レプリケーション構築業務を発注したことが認められる。また,前記1(11)の事実によれば,同月16日頃,Cは,原告に対し,本件クラスター構築業務を発注し,同月19日,被告社内において,被告側の担当であるC及びE,原告代表者,前のクラスター構築業務の担当者であったイースピリッツ社の代表者らが出席した会議が開かれ,本件レプリケーション構築業務(その後の稼働テストも含む)とともに,本件クラスター構築業務(同)についての作業工程についても検討されたことが認められる。上記の各事実によれば,原告と被告の間において,平成22年3月12日,本件レプリケーション構築契約が締結され,同月16日頃から19日頃までの間に,本件クラスター構築契約が締結されたことが認められる。
イ これに対し,被告は,本件各構築契約については,具体的な給付内容,納期,代金額等が不明であり,特定性を欠いているから,契約として有効に成立していない旨主張する。しかし,本件レプリケーション構築業務については,原告は,Cに対し,本件メール1に添付した「レプリケーションテスト環境」と題する図面によって構築するレプリケーションの内容を具体的に提案し,本件メール3において,上記図面どおりの内容で本件レプリケーションを構築する業務を受注したことは明らかであるし,納期についても,同メールでは,物理サーバー1号機の環境構築は月曜日(本件メール3が送信された金曜日から2日後の平成22年3月14日),同2号機については1週間後(同月19日)と指定されていること,代金額については,請負契約又は準委任契約において,具体的な金額を定めることは,必ずしも契約成立要件として必須の要件ではなく,目的物の完成又は委託された事務の完了後に定められることも少なくないことに照らせば,本件レプリケーション契約について,特定性を欠いているといえないことは明らかである。また,本件クラスター構築契約についても,平成21年3月16日頃に原告が本件クラスター構築業務を受託した時点では,構築するクラスターの内容及び納期等が明確に定まっていなかったとしても,同月19日の関係者の会議で工程表が策定され(ただし,本件メール7に添付された工程表により修正された。),構築するクラスターの内容及び納期が具体的に決められていたことは明らかであるから,上記契約についても,確定性を欠くとはいえない。したがって,被告の前記主張は採用できない。
ウ 次に,被告は,Cについて,本件プロジェクトのプロジェクトマネージャーにすぎないから,同人には契約締結権限がなく,被告において契約締結権限を有していた被告代表者及びDが,Cによる本件各構築契約の締結を承認したこともない旨主張し,それに副う内容のE(乙5)及び被告代表者(乙8)の各陳述書がある。しかし,Eが,その証人尋問において,自分はSE(システムエンジニア)として与えられた作業を行ったにすぎず,本件各構築契約が,有効に締結されたものかどうかはわからない旨述べていることに照らせば,Eの上記陳述書の供述記載部分については,にわかに採用できない。また,被告代表者の陳述書には,当初クラスターを導入しようとしたものの,うまくいかず,それより性能の劣るレプリケーションを採用した旨の報告は受けていたが,本件各構築契約を原告との間で締結したという報告は受けていないし,被告として,原告と上記各契約を締結しているとの認識もなかった旨の供述記載部分がある。しかし,本件メール2によれば,Cは,被告代表者を含む被告の責任者の揃う場で,イースピリッツ社によるクラスター化の失敗と共に,原告について,現在の契約条件の中で最大限の誠意を見せようと行動している旨報告したことが認められ,イースピリッツ社がクラスター化に失敗したのであれば,それに代わる外注業者は原告以外になかったのであるから,レプリケーション導入を決めた際,本件レプリケーション構築業務を担当するのが原告であることを被告代表者がまったく認識していなかったというのは不自然である。特に,本件プロジェクトは,被告の主要な事業である通信販売事業における受注処理システムを構築するというものであり,被告の通信販売事業において一時的に受注処理システムが停止すると,甚大な損失が生じること(乙6)に照らせば,本件システムのバックアップ体制の構築は,被告の事業を執行する立場にあった被告代表者やDにとっても,重大な関心事であったと見るのが自然であり,そのことは,原告代表者が,本件プロジェクトに参加した際,Cと共に被告代表者の自宅に招かれ,被告代表者からその旨告げられて激励されたこと(原告代表者本人)からも推認できる。また,本件レプリケーション構築業務及び本件クラスター構築業務については,Cのみならず,既に正式に被告の従業員となっていたEも作業に参加し,業務の進捗状況の報告を受けるなどしていたほか,本件クラスターの稼働テストを実施した際には,被告のパソコン50台を使用して,夜間,被告本社に原告の社員2,3人が赴き,作業を実施するという大がかりなものであり,これらの事情からすれば,被告の社内では,原告が本件各業務を遂行していることは,広く認識されていたと考えるのが自然である。更に,本件クラスターの稼働テストによって本件システム適合化作業が必要となることが判明した際,Cは,原告に本件概算見積書を作成させ,その内容を検討した結果,被告において本件システム適合化作業の予算を組めないことを理由にクラスター構築を中止しているところ,Cが,予算枠や予算の決定権限を有していなかったことを考慮すれば,新たな予算を伴う本件システムのバックアップ体制の採否を決定するに当たり,被告の側の責任者である被告代表者又はDが,それにまったく関与していなかったということは通常考え難い。これらの事情を総合すると,Cは,原告との間で本件各構築契約を締結することについて,被告の同意又は承認を得ていたことが推認されるというべきであり,これに反する被告代表者の上記陳述書の供述記載部分は採用できない。その他,被告の前記主張を認めるに足りる証拠はなく,同主張は採用できない。
エ 以上によれば,原告と被告の間において,本件各構築契約が締結されたことが認められる。
(4)  争点4(原告が,本件レプリケーション構築業務を遂行し,被告に対し,構築した本件レプリケーションを引き渡したか)について
前記1(10)から(12)まで及び(14)の各事実並びに平成22年8月から被告において本件システムが正式稼働した事実を総合すると,原告は,平成22年3月16日頃に本件レプリケーションの構築を完了し,本件メール7添付の工程表のとおり,同月24日頃までテストを行った上で,同月25日に本件クラスターを完成させ,同年8月までに被告に引き渡したことが認められる。これに対し,被告は,本件レプリケーションが稼働した事実はあったものの,エラーが多発するなど,レプリケーションとしての機能を果たすものではなかったため,後に使用が中止されたとして,原告が本件レプリケーション構築業務を遂行し,本件レプリケーションを完成させたとはいえない旨主張する。しかし,原告代表者は,その陳述書(甲33)及び本人尋問において,本件レプリケーションが,本件解約時まで,被告において稼働していた旨供述し,Eも,本件解約前の平成25年1月頃まで,本件レプリケーションが稼働していたことを認めていること(証人E)に照らせば,原告が,本件レプリケーション構築業務を構築し,完成したレプリケーションを被告に引き渡した事実は明らかである。そして,前記1(14)のとおり,平成24年1月16日に被告から原告に送信された本件メール8に添付された本件システムの構成図において,物理サーバー1号機及び物理サーバー2号機の間でレプリケーションが構築されている旨の記載があること(甲32),そもそも,レプリケーションが構築されていないのであれば,物理サーバー1号機と物理サーバー2号機の2台のサーバー機を使用する必要性が失われる(原告代表者本人)が,本件個別契約2を締結した際,本件レンタルサーバーの2台のサーバー機を継続して使用していたこと,仮に,被告が主張するように,エラーが多く,システムが停止するなど,レプリケーションの機能を果たしていなかったのであれば,被告が本件レプリケーションを構築した原告に対し,何らかの修繕又はシステムの改良を要請するのが通常であると考えられるところ,そのような要請があった形跡が見当たらないことに照らせば,本件レプリケーションについては,本件解約に伴うシステムの切り替えが行われた平成25年8月頃まで,被告において稼働していたものと認められる。よって,上記認定に反する被告の前記主張は採用できない。
(5)  争点5(原告が,本件クラスター構築業務を遂行し,被告に対し,本件クラスター構築契約に基づく代金を請求できるか)について
前記1(12)及び(13)並びに原告代表者の供述(甲33,原告代表者本人)を総合すると,原告は,本件クラスター構築業務に従事し,平成22年3月30日頃,本件クラスターの構築を完了し,同年4月頃まで,本件クラスターの稼働テストを続けたが,同月下旬頃,被告において,システム適合化作業の予算を組めないことを理由にクラスターの採用を断念したため,原告が構築したクラスターは本件システムで正式に稼働しなかったことが認められる。上記事実に照らせば,原告は,本件クラスター構築契約で定められた作業(本件メール6及び本件メール7に添付された工程表の内容)を遂行したものと認められ,被告に対し,同契約に基づいて行った業務の対価の支払を求めることができるというべきである。これに対し,被告は,本件クラスターのテストが行われたことはあったが,正常に機能しなかったとして,原告が本件クラスター構築業務を遂行し,本件クラスターを被告に引き渡した事実はない旨主張する。しかし,前述のとおり,原告は,本件クラスターの構築を完成させ,本件システムで稼働させるためのテストを実施し,それによって,当初予定していなかったシステム適合化作業が必要になることが判明したところ,同作業は,本件クラスター構築契約の内容(本件メール6及び本件メール7に添付された工程表にない作業)として予定されていないものであったから,被告との間で追加の契約が締結されない限り,原告にシステム適合化作業を行う義務はなかったというべきである。そして,被告において,システム適合化作業を原告に発注するための予算が組めず,最終的にクラスターの採用を断念したことに照らせば,本件クラスターが稼働しなかった原因は,原告の落ち度によるものではなく,専ら被告側の事情によるものであったことが認められ,被告の主張する事情を考慮しても,原告は,被告に対し,本件クラスター構築契約に基づく代金の支払請求権を行使することができるというべきである。これに反する被告の前記主張は採用できない。
(6)  争点6(本件各構築業務の相当代金額)について
前記1の事実経過に照らせば,原告と被告は,本件各構築契約を締結した際,各業務の代金額について具体的な金額を定めていなかったことが認められるものの,原告は,コンピュータシステムの企画,開発,販売,保守及びこれらに関するコンサルタント等を業とする会社であり,原告が被告のために行った本件各構築業務は,いずれもその営業の範囲内において他人のためにした行為であるから,商法512条により,原告は,被告に対し,上記各業務についての相当な報酬を請求することができる。
そして,証拠(甲21,甲33,原告代表者本人)によれば,原告は,同社が行った本件レプリケーション構築業務につき1.5人月(1人月は,技術者1人が1か月間働いた場合の業務量),本件クラスター構築業務につき12.6人月の業務量と評価し,原告における1人月の単価が80万円(税抜き)であることから,前者の業務の相当代金額を120万円(1.5人月×80万円,税抜き),後者の業務の相当代金を1008万円(12.6人月×80万円,税抜き)と見積りをしていることが認められ,本件レプリケーション構築業務及び本件レプリケーション構築業務の発注から納期までの期間が短かったこと,同じ業務についての他社の見積もり(甲22,甲23)と比較しても,原告の上記見積もりは控えめな内容であることに照らせば,原告が見積もった上記業務量及び単価については,いずれも相当と認められる。したがって,消費税を加算した本件レプリケーション構築業務及び本件レプリケーション構築業務の相当代金額は,合計1184万4000円(120万円×1.05+1008万円×1.05)となる。これに対し,被告は,原告の主張する本件レプリケーション構築業務及び本件レプリケーション構築業務の相当代金額は高額すぎるし,本件レプリケーション及び本件クラスターが正常に機能せず,被告において稼働していないことを考慮すれば,大幅に減額されるべきである旨主張する。しかし,上記各業務の相当代金額については,前記説示のとおりであり,これを覆すに足りる証拠はない。また,後者の点についても,本件レプリケーションについては,被告において正式に稼働し,少なくとも平成22年8月から本件解約に至るまで稼働していたものであるから,正常に機能していなかったという被告の主張を認める余地はないし,本件クラスターについても,原告は,本件クラスターの構築を完了し,その稼働テスト中に判明したシステム適合化作業について,被告が予算を組むことができなかったことが原因で稼働に至らなかったものであるから,原告は,同社が行った本件クラスター構築業務に対する代金請求権を失わないというべきである。したがって,被告の前記主張はいずれも採用できない。
(7)  争点7(被告の消滅時効の主張が,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきか)について
本件訴訟における審理経過及び被告が,正当な理由なく,争点及び証拠調べが終了し,結審が予定されていた口頭弁論期日の前日夜に提出した最終準備書面において,それまで主張していなかった本件債権2の消滅時効を初めて主張したことに照らせば,被告の上記主張については,民事訴訟において当事者に求められる信義則(民事訴訟法2条)に違反し,故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃防御方法といわざるを得ない。しかし,被告の主張及び原告の反論のいずれについても,新たな主張整理及び証拠調べを行う必要がなく,被告の準備書面が提出された次回の口頭弁論期日において原告の反論がなされ,同期日に結審することができたことを考慮すれば,被告による時機に後れた攻撃防御方法の提出により,訴訟の完結を遅延させたとまでは認められない。
したがって,民事訴訟法157条に基づく攻撃防御方法の却下を求める原告の申立てを採用することはできない。
(8)  争点8(本件債権2の消滅時効の成否)について
本件債権2は,民法173条2号所定の債権に当たるから,2年間権利を行使しない場合には,短期消滅時効により時効消滅する。しかし,消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する(民法166条1項)ところ,前記1(13)のとおり,原告は,本件レプリケーション構築業務が完了し,被告が本件レンタルサーバーのクラスター構築を中止した平成22年4月上旬頃,Cに対し,本件各構築業務の代金を請求し,その際,同人との間で,サーバーレンタル個別契約を被告が6年以上継続すれば,上記代金を請求しない旨を合意したことが認められ,同事実によれば,本件基本契約に基づく本件レンタルサーバーに関する個別契約を平成28年1月31日まで継続することを停止条件として,被告に対し,本件債権2を放棄又は免除したこと(本件条件付免除合意)が認められる。そうすると,本件において,原告が被告に対して本件債権2を請求することが可能になったのは,本件解約によって本件レンタルサーバーに関する個別契約が平成28年1月31日まで継続しないことが確実になり,本件条件付免除合意の停止条件が成就しないことが確定した平成24年9月30日であるから,その時点から本件債権2の短期消滅時効は進行するというべきである。そして,原告が,被告に対し,本件債権2の代金支払を求める本件訴訟を平成25年1月10日に提起したことは,当裁判所に顕著な事実であって,上記訴訟提起により,本件債権2の短期消滅時効は中断した(民法147条1号)。よって,被告の前記主張は採用できない。
3  以上の次第で,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条を,仮執行の宣言につき,同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 平田豊 裁判官 宮島文邦 裁判官 中川真梨子)

 

〈以下省略〉

 

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