【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業支援」に関する裁判例(2)平成30年11月29日 東京地裁 平28(ワ)29478号 報酬支払請求事件、損害賠償請求事件

「営業支援」に関する裁判例(2)平成30年11月29日 東京地裁 平28(ワ)29478号 報酬支払請求事件、損害賠償請求事件

裁判年月日  平成30年11月29日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)29478号・平29(ワ)8860号
事件名  報酬支払請求事件、損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA11298010

裁判年月日  平成30年11月29日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)29478号・平29(ワ)8860号
事件名  報酬支払請求事件、損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA11298010

平成28年(ワ)第29478号 報酬支払請求事件(第1事件)
平成29年(ワ)第8860号 損害賠償請求事件(第2事件)

横浜市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 仲江武史
同 枝廣恭子
佐賀市〈以下省略〉
被告 株式会社Y
同代表者監査役 A
同訴訟代理人弁護士 青山隆徳
同 井上裕也

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告は,原告に対し,1247万8263円及びうち15万2174円に対する平成28年7月1日から,うち235万8696円に対する同年8月1日から,うち235万8696円に対する同年9月1日から,うち228万2609円に対する同年10月1日から,うち235万8696円に対する同年11月1日から,うち228万2609円に対する同年12月1日から,うち68万4783円に対する平成29年1月1日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2  被告は,原告に対し,3350万8041円及びこれに対する平成28年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成29年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,平成28年6月29日被告の定時株主総会(以下「本件定時株主総会」という。)において被告の取締役に選任され,同年12月9日の臨時株主総会(以下「本件臨時株主総会」という。)において取締役を解任(以下「本件解任」という。)された原告が,被告に対し,①在任中の取締役報酬が全く支払われていないと主張して,上記在任期間中の取締役報酬合計1247万8263円及びこれに対する各弁済期の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(第1事件。以下「本件第1請求」という。),②本件解任には正当な理由があるとはいえないと主張して,会社法339条2項に基づき,得べかりし取締役報酬相当額である3350万8041円の損害賠償金及びこれに対する弁済期の翌日である同年12月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(以下「本件第2請求」という。),③被告が本件解任の理由として一定の事項を公表したことが原告に対する名誉毀損に当たると主張して,不法行為(民法709条,710条)に基づき,550万円の損害賠償金及びこれに対する第2事件の訴状送達の日の翌日である平成29年3月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下「本件第3請求」という。本件第2請求及び本件第3請求が第2事件である。)事案である。
2  前提事実(争いのない事実又は後掲各証拠により容易に認められる事実)
(1)  当事者
ア 被告は,ライセンス販売・保守サポートサービス等を主たる事業とする株式会社東京証券取引所(以下「東京証券取引所」という。)市場第一部上場の株式会社である。
平成28年1月以降,本件定時株主総会までの間の被告の取締役は,平成26年8月13日に重任された①B(同人は同日代表取締役にも重任された。以下「B社長」という。),②C(以下「C取締役」という。),③D(以下「D取締役」という。),④E(以下「E取締役」という。)及び⑤社外取締役であったF(以下「F取締役」という。)であった(甲1,2)。
イ 原告は,平成28年6月29日から同年12月9日までの間,被告の取締役の地位にあった。
(2)  本件定時株主総会の基準時における被告の発行済株式の総数等
本件定時株主総会の基準時である平成28年3月31日時点において,被告の発行済株式総数は661万1600株,株主総数は3391名であった。B社長は,そのうち持株数423万0900株,持株比率63.99パーセントを保有する筆頭株主であったが,他に,東日本電信電話株式会社(持株数40万株,持株比率6.05パーセント),G(13万6200株,2.06パーセント),株式会社SBI証券(8万8400株,1.34パーセント),富士ゼロックス株式会社(7万3660株,1.11パーセント),D取締役(2万株,0.30パーセント)等の大株主がいた(甲2,3)。
(3)  本件定時株主総会における原告の取締役選任決議等
平成28年6月29日開催された本件定時株主総会において,B社長,C取締役,D取締役,E取締役及びF取締役を取締役として再選し,新たに原告を取締役に選任する旨の決議がされ,原告はこれを承諾して被告の取締役に就任した。被告の定款21条1項によれば,原告の取締役としての任期は,選任後2年以内に終了する事業年度のうち,最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり,具体的には,平成30年6月に開催される予定の第18期定時株主総会終了時までであった。(甲4,13,乙4)
本件定時株主総会の後,平成28年6月29日中に取締役会が開催される予定であったが,形式上,取締役会としての決議がされることはなかった。
(4)  本件臨時株主総会の招集通知
被告は,平成28年10月25日,東京証券取引所が運営する適時開示情報システムに掲載する方法及び被告のホームページの投資家向けニュースの欄に掲載する方法により,本件解任の件を決議事項とする臨時株主総会を開催することを取締役会で決議した旨の文書を公表した。また,被告は,同年11月18日,本件臨時株主総会の招集通知を被告の株主に対して発送した。適時開示情報システム等に掲載した文書及び上記招集通知のいずれにも,本件解任の理由として,下記の事項(以下,これらの事項全体を「本件掲載事項」という。)が記載されていた(甲16の1・2,17の1・2)。

原告は,取締役に就任後,①被告に告知することなく,他社の代表取締役に就任していた事実の発覚(以下「本件掲載事実①」という。),②秘密保持誓約の締結拒否(以下「本件掲載事実②」という。),③役員責任の一部免除を求める要求(以下「本件掲載事実③」という。),④職務発明が自己に帰属するとの主張(以下「本件掲載事実④」という。),⑤登記等に要する必要書類提出の拒否・遅延(以下「本件掲載事実⑤」という。)など,取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反し,その資質に重大な疑義を生じさせる言動が相次いだ(以下「本件第1文」という。)。また,⑥原告の合弁事業計画は,達成目標やコストについての説明が二転三転し,目標売上の規模が縮小していくなど,被告の目指す合弁戦略と乖離する事態となった一方で,原告が当初,合弁事業計画案とあわせて提案していた高額報酬については,強硬に要求するなど,信頼関係を構築できない状態に至った(以下「本件第2文」という。)。
(5)  本件臨時株主総会における原告の解任決議
平成28年12月9日開催された本件臨時株主総会において,原告は取締役を解任された。
(6)  原告の被告に対する第1事件の訴え提起と取締役報酬相当額の請求
原告は,平成28年9月1日,東京地方裁判所に対し,第1事件の訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。
さらに,原告は,平成28年12月13日付け通知書により被告に対し,本件第2請求に係る得べかりし取締役報酬相当額3350万8041円を通知書到達後10日以内に支払うよう請求し,同通知書は,同月15日被告に対して配達された(甲15の1・2)。
(7)  原告の取締役報酬の決定及び支払
この間,被告の取締役会は,平成28年8月18日,原告を含む被告の取締役の報酬の決定をB社長に一任する旨の決議をし,B社長は,これに基づき,同日,原告の報酬を月額5万円(年額60万円)とすることを決定して,原告に対して通知した。なお,同日の取締役会決議については,原告からその存在について疑問が呈されたことから,被告は,再度同年9月14日に取締役会を開催し,改めて代表取締役としてB社長の選定を行った上で,原告を含む被告の取締役の報酬の決定をB社長に一任する旨の決議を行った。そして,同日の取締役会において,原告の取締役報酬を月額5万円とするB社長の決定は承認された(以下,これらの取締役会決議を「本件取締役会決議」という。)。
被告は,本件訴えが提起された後である平成30年6月29日,原告に対し,月額5万円の割合で計算した平成28年6月から同年12月までの間の取締役報酬35万円及びこれに対する年6分の割合による遅延損害金3万6587円(合計38万6587円)から源泉徴収税額1万0717円を控除した37万5870円を振込送金して支払った(乙80,81)。
(8)  取締役の報酬に関する定款の定めや株主総会における決議
ア 被告の定款28条には,取締役が,その報酬,賞与その他の職務執行の対価として被告から受ける財産上の利益は,株主総会の決議によって定める旨の定めがある(甲13,乙4)。
イ 被告は,平成12年6月8日開催された創立時株主総会において,取締役に対する年度報酬限度額の総計を1億円以内とする旨決定した(乙1の1)。
その後,被告は,平成21年6月26日開催された定時株主総会において,上記1億円の上限額とは別に,取締役報酬のうち賞与として支給するものの総額に関する年度限度額を3000万円とする旨を決議し,さらに,平成25年6月27日開催された定時株主総会において,同金額を5000万円に変更する旨を決議した(乙1の2・3)。
3  争点及びこれに関する当事者の主張
(1)  原告の取締役報酬請求権の有無及び金額(本件第1請求関係)
(原告の主張)
ア(ア) 原告は,平成28年1月B社長から,被告の取締役への就任を要請され,同年2月B社長から,平成28年度(就任予定の平成28年6月29日から平成29年3月31日まで)の取締役報酬を2100万円とする案を提示されたため,同条件にて取締役に就任することを承諾した。
(イ) また,原告は,平成28年5月6日,B社長の指示を受けたC取締役,D取締役及びE取締役と面談した際,同取締役らから,原告とB社長との間で大筋合意された原告の報酬金額(平成28年度は2100万円,平成29年度以降は2000万円)が記載された「X氏のコミットメント」と題する書面(以下「本件コミットメント」という。甲5)を示され,その内容を承諾したことにより,原告と被告との間で,上記金額のとおりの報酬に関する合意が成立した。
(ウ) それ以降,原告が本件定時株主総会において被告の取締役に選任されるまでの間,原告の報酬金額を初年度2100万円から引き下げるという話は一切出ておらず,同金額が原告と被告との間で合意された唯一の報酬金額である。
イ 被告の株主総会において,原告の報酬金額を明示的に承認する決議はされていないが,被告の発行済株式の過半数を有するB社長,C取締役及びD取締役が,原告の報酬金額を十分に認識かつ理解した上,本件定時株主総会において原告の選任決議に賛成したのであるから,原告の報酬金額を承認する株主総会決議があったとみなすことができる。
ウ 仮に,本件定時株主総会において原告の報酬金額を承認する株主総会決議があったとみなすことができないとしても,B社長,C取締役,D取締役及びE取締役(以下「B社長ら」という。)は,本件定時株主総会に先立ち原告と被告とが原告の報酬金額について合意したことを認識しながら,当該合意から本件定時株主総会までの間,原告の報酬金額について一切異議を述べず,本件定時株主総会において原告の選任決議に賛成したのであるから,合意された原告の報酬金額を承認する旨の取締役会決議があったとみなすことができる。
エ また,上記のような事情の下で,被告が,合意された原告の報酬金額を承認する取締役会決議の欠缺を主張することは,信義則に反して許されない。
オ さらに,株主総会において原告の報酬金額を承認する決議があったものとは認められないとしても,B社長らは,本件定時株主総会に先立ち原告と被告とが原告の報酬金額について合意したことを認識していたのであり,それにもかかわらず,原告が取締役に選任された後の取締役会において,このような合意を無視して原告の報酬金額を月額5万円という不当に低い額とする旨決議することは,株主総会が取締役会に対して個別の取締役の報酬金額の決定を委任した趣旨に反し,その裁量の範囲を逸脱するものであって,信義則上許されない。
(被告の主張)
ア(ア) 原告と被告との間には,特定額の報酬を支払う旨の契約その他の合意を含む文書は一切存在しない。また,原告と被告の取締役との間における書面のやり取りや口頭の協議においても,原告に特定の金額の報酬を支払う旨の合意をした事実は存在しない。
(イ) 被告は,原告の報酬について,原告が提示した事業計画の実現可能性の程度,原告の従前の収入金額といった要素を勘案しつつ,原告の事業計画の具体化と並行して,原告との間で協議を重ねてきた。しかし,このような協議は,原告の事業計画が合理性を欠いた状況で下方修正され,原告の従前の収入金額について虚偽申告がされていることが発覚し,これらを踏まえて被告が再提示した提案を原告が明確に拒否したことにより,合意に至らないまま終了した。
(ウ) 原告が報酬合意の根拠であると主張する本件コミットメントは,このような協議の初期に作成された文書であり,その時点で被告が取締役報酬について確定的に合意・保証したものではなく,原告が提示した事業計画の検討の一過程において作成されたものにすぎないから,原告と被告との間の報酬合意の存在を裏付けるものとはいえない。
(エ) 被告は,株主総会において取締役報酬の総額について決定を行い,その内訳については,取締役会において自らその額を決議するか又はその額の決定を代表取締役に一任するとの決議をしていたものであって,個別の取締役の報酬金額の決定を株主総会において行った事実はない。
イ 原告は,被告の発行済株式の過半数を有するB社長,C取締役及びD取締役が原告の報酬金額を十分に認識かつ理解した上,本件定時株主総会において原告の選任決議に賛成したのであるから,原告の報酬金額を承認する株主総会決議があったとみなすことができる旨主張する(上記(原告の主張)イ)。
しかしながら,被告は,東京証券取引所市場第一部上場の公開会社であり,B社長を始めとする主要株主のほかにも多数の一般株主を擁しているところ,被告の株主総会において,原告の報酬金額につき全く情報提供されていないにもかかわらず,原告に対してその主張に係る報酬支給を認める意思が全ての株主に存在するとは考えられないから,株主総会決議を擬制することは不可能である。
ウ 原告は,仮に本件定時株主総会において原告の報酬金額を承認する株主総会決議があったとみなすことができないとしても,B社長らは,原告と被告とが原告の報酬金額につき合意したことを認識しながら一切異議を述べず,本件定時株主総会において原告の選任決議に賛成したのであるから,合意された報酬金額を承認する旨の取締役会決議があったとみなすことができる旨主張する(上記(原告の主張)ウ)。
しかしながら,①原告が取締役に着任する前においては,原告に対する取締役報酬の決議をする余地はないこと,②被告の取締役会は,後に本件取締役会決議において原告の報酬を月額5万円と定めており,合意された報酬金額を承認する意思を有していないことは明らかであること,③取締役会の決議を安易に擬制することは許されないことからすると,原告の上記主張は採用できない。
エ また,原告は,上記のような事情の下で,被告が,合意された原告の報酬金額を承認する取締役会決議欠缺を主張することは,信義則に反して許されない旨主張する(上記(原告の主張)エ)。
しかしながら,仮に信義則に反する状況があるとしても,そのことから直ちに特定の取締役会の決議があると擬制されるものではないから,いかなる理由で取締役会の決議のないまま原告の報酬請求権が発生するのか不明というほかはない。
オ さらに,原告は,B社長らは,本件定時株主総会に先立ち原告と被告とが原告の取締役の報酬金額について合意したことを認識していたのであり,それにもかかわらず,原告が取締役に選任された後の取締役会において,このような合意を無視して原告の報酬金額を月額5万円という不当に低い金額とする旨決議することは,株主総会が取締役会に対し個別の取締役の報酬額の決定を委任した趣旨に反し,その裁量の範囲を逸脱するものであって,信義則上許されない旨主張する(上記(原告の主張)オ)。
しかしながら,被告は,原告の取締役としての能力・資質,事業計画の実現可能性,取締役就任後の担当業務の内容(原告は,平成28年7月中旬以降,被告の職務を一切担当していない。),原告の従前の収入に係る虚偽申告の発覚等を考慮して,原告の求める金額は取締役報酬として極めて過大であるとの各取締役の判断に基づき,被告の他の社外取締役の報酬水準も勘案した上で,月額5万円という原告の報酬金額を決定したものである。したがって,上記報酬決定は,取締役会における経営判断において認められる裁量権の範囲内のものであり,何ら違法性は存しない。
カ 加えて,原告は,取締役会決議等の信義則違反を主張するが,原告が主張する報酬合意自体存在しない上,原告が主張する報酬を支払うべき義務を被告が負うとの客観的な状況も何ら存在しないから,信義則違反をいう原告の主張は,理由がない。
(2)  本件解任についての正当な理由(会社法339条2項)の有無(本件第2請求関係)
(被告の主張)
本件解任の理由は,次のとおりであり,いずれも解任についての正当な理由に当たる。
ア 被告に告知することなく他社の代表取締役に就任していたこと(本件掲載事実①)が取締役の競業避止義務ないし善管注意義務・忠実義務に違反すること
(ア) 会社の取締役は,他の会社の代表取締役に就任する場合には,実務上,重要事実を開示して取締役会の包括的承認を受けることが必要であるとされており,当該手続は一般的にも必ず履践されている。
また,会社の取締役の候補者となる者は,他社の取締役等に就任している場合又は就任する可能性がある場合には,会社に対し,速やかにその旨を報告する義務を負う。
(イ) 原告は,被告に無断で,平成28年4月自らが設立したa株式会社(以下「a社」という。)の代表取締役に就任し,遅くとも同年9月には,同社の代表取締役として活動していた。また,原告は,同年8月19日被告に対し,b株式会社(以下「b社」といい,a社と合わせて「競業2社」という。)を設立して自らが代表取締役に就任する旨を通知し,同月31日付けで同代表取締役に就任した。競業2社は共にコンサルティング業を主たる業務とするところ,原告は,被告の取締役として入手した被告の内部情報,技術情報,顧客・見込客の情報等を,競業2社のコンサルティング業務の遂行の際に流用することにより,個人的利益を受ける可能性がある。
(ウ) したがって,原告は,競業2社の代表取締役に就任するに際し,被告の取締役会に対して重要事実を開示してその包括的承認を受けることが必要であるにもかかわらず,被告に対し,会社の事業の種類,会社が取り扱うことになる商品・サービス,取引先及び取引の希望等について,具体的な説明や資料の提示をしなかったばかりか,被告の取締役に就任するに際し,既にa社が設立されて自らが代表取締役に就任したことも報告しなかった。
これらの事実は,取締役としての競業避止義務に違反し,善管注意義務・忠実義務に違反する。
イ 秘密保持誓約(守秘誓約書)の締結を拒否したこと(本件掲載事実②)及び不当な修正要望をしたこと(本件掲載事実③,④)が取締役の善管注意義務(秘密保持義務又は法令遵守義務)・忠実義務に違反すること
原告は,守秘誓約書の差入れを拒み,秘密保持誓約(守秘誓約書)の締結自体を拒否した上,守秘誓約書の修正を協議した際,役員責任の一部を免除するよう要求するとともに,職務発明に係る権利を全部自己に帰属させるよう主張した。これらの事実は,取締役としての善管注意義務(秘密保持義務又は法令遵守義務)・忠実義務に違反する。
ウ 登記等に要する必要書類提出の拒否・遅延など(本件掲載事実⑤)が取締役の善管注意義務・忠実義務に違反すること
原告は,取締役就任承諾書の不合理な修正を求め,適切な就任承諾書を提出しなかったため,原告が取締役に就任した旨の登記手続が遅延したが,これらの事実は取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反する。
エ 原告の合弁事業計画における売上規模が縮小する一方で,原告が高額報酬を強硬に要求し,信頼関係が構築できない状態に至ったこと(本件第2文)
原告の合弁事業計画の説明が二転三転し,売上規模が縮小したにもかかわらず,原告は,被告の取締役からの事業計画の修正要望を拒否し,被告に対し,当初要望した報酬の支払を強硬に主張して高額報酬を請求し,訴訟を提起するに至ったものであり,これにより,原告と被告との間の信頼関係は破壊され,改めて信頼関係が構築できない状態となった。
(原告の主張)
ア 本件解任について被告が主張する事実は,いずれも正当な理由に当たらない。
(ア) 本件掲載事実①について
a社及びb社は,その事業内容に照らして,被告と競業する会社ではないため,原告は,両社の代表取締役に就任することについて被告の取締役会の承認を求めなかった。また,原告は,他社の代表取締役に就任することについてB社長に告知し,その了承を得ている。
(イ) 本件掲載事実②~④について
原告は,被告から提示された守秘誓約書の案文が会社と従業員との間の雇用契約に付随して締結される内容のものであり,委任関係にある原告と被告との間で当該案文のまま契約を締結すると不都合な部分があったため,秘密保持誓約(守秘誓約書)の締結を拒否したものである。また,原告が同守秘誓約書の案文の内容について修正を求めたのは,契約の内容に関する交渉の一環であり,原告が被告の提案にそのまま従わなかったとしても,善管注意義務・忠実義務に違反することにはならない。
(ウ) 本件掲載事実⑤について
取締役の選任登記が遅れたのは,主として被告の社内の事務手続の遅れによるものであり,被告は,求められた書類は速やかに提出している。
(エ) 本件第2文について
原告の事業計画の説明が二転三転したことは否認する。そもそも原告と被告との間で,事業計画の内容を勘案して原告の報酬金額を決定するという話はしていない。
被告は,株主総会の決議を経て取締役に就任した原告を取締役と認めず,取締役会に出席しさえすればよいと告げ,その後報酬額を一方的に月額5万円と定めた上でそれすら支払わないといった対応をしたものであり,原告が取締役として職務を遂行する機会を奪ったのは被告自身である。原告は,そうした状況を正常化する手段として,訴訟を選択したものである。
イ 原告は,本件解任がなければ,残存任期期間(本件解任の翌日である平成28年12月10日から,原告が取締役に選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時である平成30年6月30日まで)中に3350万8041円の報酬を取得したはずであり,本件解任により同額の損害を被った。
(3)  名誉毀損に基づく被告の不法行為責任の有無(本件第3請求関係)
(原告の主張)
ア 被告は,適時開示情報システムに掲載した文書等及び被告の株主に発送した本件臨時株主総会の招集通知に,本件解任の理由として本件掲載事項を記載したものであるところ,本件掲載事項は原告の社会的評価を低下させるものである。すなわち,被告は,あたかも原告が被告の取締役として職務を執行するに当たり,法令違反行為をしたり不当な要求をして被告の経営を妨害したりしたかのような事項を記載し,これを,一般の投資家や被告の取引先・関係先等が閲覧する場に掲載したり株主に送付したりしたことにより,上場会社の取締役を経験し,現在も他の会社の取締役等を務めている原告の経済人としての社会的信用を著しく低下させた。
このような被告の行為は,原告に対する名誉毀損行為に該当する。
イ 原告が被告の名誉毀損行為により被った精神的損害及び無形損害は,500万円を下らない。また,原告は,原告代理人らに本件訴訟の追行を委任しており,弁護士費用として同額の1割に相当する50万円の損害を被った。
ウ 本件掲載事項は,いずれも真実に反する事実であるか,又は被告が原告に対して何の指摘もせず弁明の機会も与えないまま一方的に主張している事実である。
(被告の主張)
ア 会社法301条1項,会社法施行規則78条2号は,株主総会における議決権行使について議決権行使書面制度を採用した会社においては,取締役の解任議案を上程するに当たり,株主総会参考書類に「解任の理由」を記載することを義務付けている。この規定の趣旨は,取締役の解任議案の賛否を株主総会に諮る際,会社が,解任対象である取締役のいかなる言動や事情により解任が必要であると判断したか,解任についてどのような正当事由があると判断したかを広く株主に周知し,議決権行使に際しての判断資料を予め提供しようとするとともに,株主総会の場において建設的な議論がされるための環境整備をしようとすることにある。
本件掲載事項は,被告が原告の取締役解任の是非を株主総会という会社の最高意思決定機関に諮るため,取締役としての原告の言動等を記載したものであり,公共の利害に関する事項である。
また,適時開示情報システム及び被告ホームページに掲載する方法で株主総会招集通知書の添付参考書類を公表することは,株主総会における議決権行使の適切な環境整備の一環であり,東京証券取引所市場第一部上場企業である被告にとっては証券取引所から要請されている周知方法である。
イ 上記(2)の(被告の主張)のとおり,本件掲載事項は,いずれも真実である。
ウ 以上のとおり,本件掲載事項を摘示しての名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事項に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったものであり,摘示された事項はいずれも真実であったのであるから,原告の主張する不法行為に基づく損害賠償請求権は成立しない。
第3  当裁判所の判断
1  争点(1)(原告の取締役報酬請求権の有無及び金額(本件第1請求関係))について
(1)  前提事実,証拠(後掲各証拠のほか,甲21,30,乙77~79,証人E,証人D,原告本人,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告が被告の取締役に就任した経緯等について,次の各事実が認められる。
ア 原告は,平成19年6月以降,株式会社c(以下「c社」という。)の専務取締役を務めていた(乙14,40)。
原告は,平成27年6月1日付けで,被告との間で,期間を同日から平成28年3月31日まで,顧問料を月額20万円(消費税別)とし,原告が顧客及び顧客候補の紹介・助言等の協力,その他これに付帯する事項等への協力をすることを内容とする顧問契約(以下「本件顧問契約」という。)を締結し,同契約に基づき,被告に対し顧客の紹介等を行ってきた(乙34)。
イ 原告は,平成28年1月13日,B社長と面談し,c社の取締役を退任することを考えており,退任後は被告の取締役に就任したいなどと述べて被告の取締役に就任したいとの意向を示した。その際,原告は,B社長に対し,被告の取締役に就任すれば,自らが主導して被告と多様な業種の会社との合弁会社を設立することにより,その当時年間25億円程度であった被告の売上げを2年間で25億円増加させて倍にする事業計画がある旨説明するとともに,自らの報酬について,従前の原告の年収である約4000万円の収入水準を維持したい旨を要望した。
B社長は,被告の売上げの増大を望んでおり,本件顧問契約の実績によれば原告の有する人脈等が被告の営業に関して有用であるとの認識を持っていたことから,原告を被告の取締役として迎え入れることを検討することにし,その後は,自ら又はE取締役やD取締役に依頼して,原告との間の電子メールのやり取りや面談により,被告の取締役に就任する場合の条件等につき協議をした。
(甲9,乙20~22(枝番を含む。))
ウ 原告は,平成28年2月18日,B社長と面談し,再度報酬金額として4000万円を希望する旨を伝えたところ,B社長から強く難色を示されたため,被告が一部出資して設立する合弁会社から受領する報酬を合わせて4000万円とすることを提案し,B社長から,まずは原告が提案すべき事業計画や売上見込み等を詰めるよう要請された。
エ 原告は,平成28年3月22日電子メールにより,E取締役から,原告の収入面や経費のバジェットの考え方についてB社長と話をしたと聞いたがどのように決まったのか教えてほしいと要望されたため,同日電子メールにより,E取締役に対し,収入の総額としては年間4000万円に近い額でB社長の了解を得たものと考えており,取締役就任1年目は,合弁会社から原告が受け取る報酬総額を900万円と想定しているため,被告から受け取る報酬を2100万円に業績連動賞与を加えたものとしたい旨を返信した(甲9)。
オ 原告は,平成28年5月2日,被告の東京本社において,被告の役員及び従業員に対し,原告が目指す合弁計画を含めた具体的な事業計画を説明した(なお,B社長は,同日以降,平成28年6月22日までの間,原告と面談していない。)。
原告は,その際,極めて少ない人的投資で多くの営業パワーを得ることが可能であると説明するとともに,売上額について,平成28年度以降3年度で約20億円の売上げを計上するとの事業計画を説明したが,当該事業計画は,被告の売上げを2年間で25億円増加させて倍にするとの当初の事業計画を下回るものであったばかりか,その根拠等についても具体性に欠けるものであった。そこで,被告は,原告に対し,更なる事業計画の具体化を指示するとともに,被告が負担すべき必要資金や経費の額を明らかにするよう求めた。(乙23,24)
カ これを受けて,原告は,平成28年5月5日,被告に対し,事業計画の修正案を提示したが,同修正案においては,売上目標額が更に下方修正されていたのみならず,事業計画のリスクとして,合弁会社において開発費用が必要となり被告において出資金の応分の負担を求められる可能性があることなどが説明された(乙26,27)。
キ(ア) この間,C取締役,E取締役及びD取締役は,平成28年5月4日,B社長から,原告の事業計画における売上目標額のこれ以上の下方修正を認めるべきではない旨の指示を受けていたため,同月6日,売上目標額等を確認するために原告と面談し,下記の記載のある本件コミットメントを原告に提示した(本件コミットメントには,署名・押印がない。甲5,乙24)。

原告が推進する合弁会社設立による売上げ及び利益拡大施策において,以下の条件をコミットメントとする。
① 「連結子会社の売上高」+「Y社の売上高」-「連結売上高内のY社売上高」の金額が,平成28年度9950万円以上,平成29年度8億3025万円以上,平成30年度20億2020万円以上となること
②(以下略)
Y社が負担する原告の給与・経費条件
① 平成28年度の給与を2100万円とする。
② 平成28年度の経費の上限を1340万円とする。
③ 平成29年度以降の給与を2000万円とする。
④ 平成29年度以降の経費の上限を1000万円とする。
(イ) これに対し,原告が平成28年5月6日被告に対して提示した事業計画においては,売上額が,平成28年度8050万円,平成29年度5億6800万円,平成30年度13億8400万円と記載されており,本件コミットメントより少なくなっていたため,C取締役,E取締役及びD取締役は,原告に対し,事業計画の再検討を求めた(乙28)。
(ウ) これを受けて,原告は,平成28年5月7日,3年目の売上高を20億円とすることを目標とする旨事業計画を変更し,C取締役,E取締役及びD取締役に対し,変更後の事業計画を送付した(乙29,30)。
ク 原告は,平成28年5月12日,B社長に対し,自分も含めた役員全員の決算賞与はどうなるか,決算賞与の支給基準を検討しているかなどを照会したが,被告側からの返信はされなかった(甲10,乙25)。
ケ 原告は,平成28年7月初め頃,被告に対し,平成27年の原告の給与収入が2922万円である旨が記載された収入額の証明資料を提出した(乙6,7)。
これを受けて,E取締役は,同年7月5日,原告と面談し,原告が従前,年収は4000万円であると説明していたにもかかわらず,上記資料においては3000万円にも達していない点について説明を求めたところ,原告は,被告からの報酬について,「Y社の本体の役員の中ではいくらっていうふうに決めて,残りの分に関してはどうやってもらうかなんかも全部含めて,きちんと決めましょうっていうような話があって,それで何回か知恵を出して。だったら例えばY社で出せるのプラス,子会社の分プラス,業績考課連動でやったらいかがですかっていうのを何回か出してるわけ。で,そこで今は止まってるわけ。だから話はそこで止まっちゃってるね」,「俺の理解は,だからその金額がやり方の方法論と金額とっていうのをもう一回決めなきゃいけないんだけども,それはもちろん決めなけりゃ,それこそ困るんで。だからそこに関してはまだきちんとした話合いがもたれてなくて,前回話したときもそこまでの話になってないんで,だからそれはもしかしたらBさんと俺がね,話しすべき,2人で話すべきことなのかなっていうふうに思ってるままなんだよ。」などと発言し,原告とB社長との間の報酬金額をめぐる交渉が途中で中断しており,報酬金額が具体的には決まっていないことを示唆する趣旨の発言をした(乙35,36)。
コ 原告は,平成28年7月11日頃,B社長らと面談した際,B社長から,原告の固定報酬を年間1000万円とし,その余は最大1億円までの業績連動給とし,兼業を禁止するなどの新たな提案を受けたが,これを拒否した(甲20)。
もっとも,原告は,平成28年7月14日,B社長に対し,兼業を認めてもらえれば,報酬額を1000万円とすることも検討するので再度協議したいなどと記載した電子メールを送信したが,被告側からの返信はなく,翌15日,E取締役から,同月11日に提示した条件については交渉の余地がない旨の回答を受けた。
サ 原告は,平成28年7月19日頃,E取締役からの求めに応じて,被告から貸与されたパソコンや入館証を返還したため,以後,被告の取締役会に出席する以外に被告の取締役としての業務を行うことが困難な状況になった(実際,原告は,この頃以降,被告の取締役会に出席する以外に被告の業務を行っていない。)。
(2)  被告の株主総会・取締役会の決議による原告の報酬請求権の発生の有無について
ア 原告は,被告の発行済株式の過半数を有するB社長,C取締役及びD取締役が原告の報酬金額を十分に認識かつ理解した上,本件定時株主総会において原告の選任決議に賛成したのであるから,原告の報酬金額を承認する株主総会決議があったとみなすことができる旨主張する(争点(1)に係る(原告の主張)イ)。
しかしながら,株式会社の取締役については,定款又は株主総会の決議によって報酬が定められなければ,具体的な報酬請求権は発生せず,取締役が会社に報酬を請求することができないと解するのが相当である。けだし,会社法361条は,取締役の報酬額について,取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するため,これを定款又は株主総会の決議で定めることとし,株主の自主的な判断に委ねることにしたものであり,その趣旨からすると,定款又は株主総会の決議がない限り具体的な報酬請求権は発生しないと解する必要があるからである(最高裁判所平成11年(受)第948号同15年2月21日第二小法廷判決・金融・商事判例1180号29頁参照)。もっとも,同条の趣旨が上記のようなものであるとすれば,取締役の報酬について,株主総会の決議がなくとも総株主の同意(実質的にこれと同視できる場合も含む。)があれば,会社ひいては株主利益を害するおそれはないのであるから,取締役の報酬請求権は認められるものというべきである。
これを本件についてみるに,前記前提事実及び上記(1)の認定事実によれば,被告は,東京証券取引所市場第一部に上場している公開会社であること,本件定時株主総会の基準時である平成28年3月31日時点における被告の発行済株式の総数は661万1600株,株主総数は3391人であり,B社長は持株数423万0900株,持株比率63.99パーセントの筆頭株主であり,東日本電信電話株式会社は持株数40万株,持株比率6.05パーセント,株式会社SBI証券は持株数8万8400株,持株比率2.06パーセント,富士ゼロックス株式会社は持株数7万3660株,持株比率1.11パーセント,D取締役は持株数2万株,持株比率0.30パーセント等の大株主であり,B社長及びD取締役の持株比率を合算しても64.29パーセントにすぎず,その他にも多数の一般株主が存在したことが認められるところ,これらの株主全てが,原告に対し,原告主張のとおり取締役としての報酬を支給することについて同意していたことを認めるに足りる証拠はない(B社長及びD取締役以外の株主全てが,経営に関心のない零細株主であることを窺わせる証拠はないから,B社長及びD取締役の同意をもって,総株主の同意があった場合と実質的に同視できる場合に当たるということもできない。)。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,仮に,本件定時株主総会において原告の報酬金額を承認する株主総会決議があったとみなすことができないとしても,B社長らは,原告と被告とが原告の報酬金額につき合意したことを認識しながら一切異議を述べず,本件定時株主総会において原告の選任決議に賛成したのであるから,合意された報酬金額を承認する旨の取締役会決議があったとみなすことができる旨主張する(争点(1)に係る(原告の主張)ウ)。
前記前提事実によれば,被告は,平成12年6月8日開催された創立時株主総会において,取締役に対する年度報酬限度額の総計を1億円以内とする旨決定したことが認められ,これをもって,その枠内では,各取締役に対する配分を取締役会の決定に委ねていたと解する余地がないではない。
しかしながら,仮にそのように解するとしても,本件において,本件定時株主総会の後,平成28年6月29日中に取締役会が開催される予定であったが,形式上,取締役会としての決議がされなかったことは,前記前提事実記載のとおりであり,他に原告を含む各取締役に対して報酬の配分をするための取締役会の決定がされたことを認めるに足りる証拠はない。のみならず,被告には社外取締役であるF取締役がいたことは前記前提事実記載のとおりであるが,F取締役が,原告に対し,原告主張のとおり取締役としての報酬を支給することについて同意していたことを認めるに足りる証拠もないから,結局,取締役全員が同意したことにより取締役会の決定があったのと同視できるという状況にもない。
そうすると,本件においては,株主総会が定めた枠内で各取締役に対する配分を定める取締役会の決定があったとはいえず,これと同視できる状況にあったことを認めるに足りる証拠もないから,合意された報酬金額を承認する旨の取締役会決議があったということはできない。
したがって,原告の上記主張も理由がない。
(3)  本件合意の成否について
ア 原告は,平成28年2月B社長から平成28年度の取締役報酬を2100万円とする案を提示されたため,同条件で取締役に就任することを承諾した旨主張する(争点(1)に係る(原告の主張)ア(ア))。
しかしながら,原告が,平成28年2月18日B社長に対し,報酬金額として4000万円を希望する旨を伝え,さらには被告が一部出資して設立する合弁会社から受領する報酬を合わせて4000万円とすることを提案したが,B社長から,まずは事業計画や売上見込み等を詰めるよう要請されたことは,上記(1)の認定事実記載のとおりであり,その際,B社長が原告主張の提案をしたことを裏付ける客観的証拠はない。のみならず,上記(1)の認定事実によれば,原告が平成28年3月22日付けでE取締役に送信した電子メールにおいて,収入の総額としては年間4000万円に近い額でB社長の了解を得たものと考えており,取締役就任1年目は合弁会社から受け取る報酬を900万円と想定しているため,被告から受け取る報酬を2100万円に業績連動賞与を加えたものとしたい旨を記載していることが認められるところ,原告は,本人尋問において,2100万円という金額が同日以前にB社長から提案されたことはなく,原告が上記電子メールにおいて初めて提案したものであるなどと供述していること(原告本人・調書4頁)からすると,原告の上記主張を採用することはできない。
イ 原告は,平成28年5月6日,B社長の指示を受けたC取締役,D取締役及びE取締役と面談した際,同取締役らから,原告とB社長との間で大筋合意された報酬金額が記載された本件コミットメントを示され,その内容を承諾したことにより,原告と被告との間で,前記金額のとおりの報酬に関する合意が成立した旨主張する(争点(1)に係る(原告の主張)ア(イ))。
しかしながら,上記(1)の認定事実によれば,本件コミットメントは,C取締役らが,B社長から,原告の事業計画における売上目標額のこれ以上の下方修正は認めるべきではない旨の指示を受けて原告に提示されたものであること,その記載内容や体裁をみても,平成30年度20億2020万円以上などの売上目標が達成可能なものとして具体化した場合に被告が支払を検討している報酬額を記載したものにすぎないというべきものであり,双方の署名・押印等を予定したものとは認め難いこと,実際,本件コミットメントが提示された平成28年5月6日に原告が被告に対して提示した事業計画上の売上額は本件コミットメントにおける上記売上目標を下回るものであったこと,原告は,本件コミットメントを授受した後である同月12日B社長に対し,役員賞与について照会していること,原告は,同年7月5日E取締役と面談した際,原告とB社長との間の報酬金額にめぐる交渉が途中で中断しており,報酬金額が具体的には決まっていないことを示唆する趣旨の発言をしていることが認められるから,これらの事情によれば,本件コミットメントに記載されている原告の報酬金額は,原告と被告との間で原告の取締役就任に向けた条件交渉が続いている中で,被告が原告に示した一つの提案にすぎないというべきであって,原告とB社長ないし被告との間で本件コミットメントに記載されたとおりの報酬合意があったと認めることはできない。
したがって,原告が,平成28年5月6日C取締役らから本件コミットメントを提示されてその内容を承諾したことにより,原告と被告との間で報酬合意が成立したということはできず,原告の上記主張を採用することもできない。
ウ 他に,本件において,原告の取締役報酬を月額5万円と定めた本件取締役会決議より前の時点で,原告とB社長ないし被告との間で原告の取締役報酬に係る合意が成立したことを認めるに足りる証拠はない。
エ 原告は,原告と被告との間で原告の報酬金額について合意が成立したことを前提として,①B社長らは,上記合意の成立を認識しながら一切異議を述べず,本件定時株主総会において原告の選任決議に賛成したのであるから,合意された報酬金額を承認する旨の取締役会決議があったとみなすことができる(争点(1)に係る(原告の主張)ウ),②上記のような事情の下で,被告が合意された原告の報酬額を承認する取締役会決議の欠缺を主張することは,信義則に反し許されない(同エ),③B社長らが,上記合意の成立を認識していたにもかかわらず,原告が取締役に選任された後の取締役会において,上記合意を無視して原告の報酬額を月額5万円という不当に低い金額とする旨決議することは,株主総会が取締役会に対し個別の取締役の報酬額の決定を委任した趣旨に反し,その裁量の範囲を逸脱するものであって,信義則上許されない(同オ)などと主張するが,原告と被告との間で報酬合意が成立したということはできないことは上記認定・説示のとおりであるから,(原告の報酬金額について合意が成立しておらず,それについて合意が成立する見込みも極めて乏しいにもかかわらず,被告が本件定時株主総会において原告を取締役に選任したことの妥当性については,上場企業として疑問なしとはしないものの)上記主張は,いずれも前提を欠くこととなって採用することができない。
(4)  そして,被告の取締役会が,平成28年8月18日ないし同年9月14日,原告を含む被告の取締役の報酬の決定をB社長に一任する旨の決議をし,B社長が,これに基づき,原告の報酬を月額5万円(年額60万円)とすることを決定して,原告に対し通知したこと,被告が,平成30年6月29日原告に対し,月額5万円の割合で計算した平成28年6月から同年12月までの間の取締役報酬35万円及びこれに対する年6分の割合による遅延損害金3万6587円(合計38万6587円)から源泉徴収税額1万0717円を控除した37万5870円を振込送金して支払ったことは,前記前提事実記載のとおりであるから,被告の原告に対する取締役報酬支払義務は,遅延損害金を含めて存在しないことになる。
(5)  したがって,争点(1)に係る原告の主張はいずれも理由がない。
2  争点(2)(本件解任についての正当な理由(会社法339条2項)の有無(本件第2請求関係))について
(1)  前提事実,証拠(後掲各証拠のほか,甲21,乙77~79,証人E,証人D,原告本人,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件解任に関連して,次の各事実が認められる。
ア 原告は,平成28年4月6日付けで,経営コンサルティング業務,各種マーケティング業務等を目的とするa社を設立し,同時に同社の代表取締役に就任した(乙9)。
E取締役は,平成28年9月初め頃,原告に対し,a社の事業が被告との関係において競業に当たらない旨の説明をするか,これが競業に当たる場合には被告に与える影響等について具体的説明をするよう求めたが,原告から回答はなかった。その後,原告は,同月14日に開催された被告の取締役会において,a社は既に事業を行っていること,その業務はc社に対する営業支援の会社であり,具体的な取引も存在することなどを説明したが,a社の事業についての詳細な説明や具体的な取引内容については説明しなかった。(甲19,乙3,9,41,48,49,51,55)
イ 原告は,平成28年8月31日付けで,経営全般に関するコンサルティング業務等を目的とするb社を設立し,Hと共同で同社の代表取締役に就任した。これに先立って,原告は,同月19日,E取締役に対し,同社の代表取締役に就任する予定である旨を電子メールで伝えたが,b社の事業についての詳細や説明や具体的な取引内容を説明することはなかった。(乙50,52,54,72)
ウ(ア) 原告は,被告の取締役に就任した後,被告から守秘誓約書(秘密保持契約書)のひな型を提示されて秘密保持契約の締結を求められていたところ,平成28年9月8日頃,被告に対し,①正当な理由がある場合には,秘密情報を開示・漏洩できるようにすること,②提示された守秘誓約書の職務発明・考案の権利帰属に係る条項(第5条)について,被告における職務に起因する発明・考案に関する権利は被告ではなく原告に帰属するものとすること,②守秘誓約書の損害賠償に係る条項(第7条)について,同誓約違反により被告が被った損害に関し,原告が被告に対して損害賠償義務を負う額の上限を,当該違反をした事業年度における原告の年度報酬額に限定することといった修正案を提案した(乙10,44,46,47,53)。
(イ) 原告は,平成28年9月14日開催された被告の取締役会において,守秘誓約書が従業員向けのものであり,役員用のものとしては不相当であることなどを理由として,守秘誓約書への署名・押印を拒否した(甲19,乙3,41,48,49)。
エ 原告は,平成28年8月29日頃被告の管理担当者から,取締役就任登記を経由するために必要な就任承諾書等を手交され,これに署名・押印して提出するよう求められたのに対し,同年9月14日頃E取締役に対し,上記就任承諾書に記載された遵守事項のうち,原告が被告の定める各規程を遵守する旨の文言を削除したものを提出することに固執し,E取締役から受領を拒まれた。このような経緯を経たため,原告らの取締役就任登記が完了したのは同年10月31日となった(乙60~62)。
(2)  本件解任についての正当な理由の有無
ア 前記前提事実,上記1(1)及び上記2(1)の認定事実によれば,①原告は,もともと年間25億円程度であった被告の売上げを2年間で25億円増加させて倍にする事業計画があるなどと説明し,B社長も被告の売上げの増大を切望していたため,原告を被告の取締役として迎え入れることを検討することとしたこと,②原告は,平成28年5月2日,被告に対し,平成28年度以降3年度で約20億円の売上げを計上するなどと説明し,事業計画上の売上げが下方修正され,同月5日提示された修正案では,売上目標額がさらに下方修正されたこと,③その後,被告が原告に交付した本件コミットメントにおいては,原告が約束する売上高の金額が,平成28年度9950万円以上,平成29年度8億3025万円以上,平成30年度20億2020万円以上と記載されていたが,原告が平成28年5月6日被告に提示した事業計画では,売上額が本件コミットメントにおける金額よりも少なく記載されていたこと,④原告は,C取締役らから同事業計画の再検討を求められ,翌7日,3年目の売上高を20億円と増額する事業計画を作成して提出したこと,⑤このように,事業計画上の売上高は変更を繰り返しながら次第に減少していったにもかかわらず,原告は,当初から,前年度の年収である4000万円を確保したいという希望を掲げてこれを取り下げず,同年7月11日頃,B社長らから,原告の固定報酬を年間1000万円とし,その余は最大1億円までの業績連動給とすることとし,兼業は禁止するといった新たな提案を受けた際も,即座にこれを拒否したこと,⑥この間,被告は,同月初め頃原告から,前年度の報酬額が4000万円を大きく下回ることを示す資料が提出されるに及んで,原告に騙されたとの思いを強く抱き,それ以上の交渉を打ち切って,原告に対し,パソコンや入館証の返還を要求したことが認められ,これらの事情によれば,被告は,原告を取締役に選任することにより売上げの飛躍的増大を期待するとともにこれに応じた報酬の支払を企図していたが,原告が,目標の売上高を繰り返し一方的に下方修正したにもかかわらず,報酬金額の支払にだけは固執したこと(しかも,原告が報酬金額として支払を希望した4000万円は,水増ししたものであった。)による信頼関係の崩壊があるというべきであり,原告は,このような信頼関係の崩壊につながる不誠実な職務遂行を行った者として,その取締役としての職務遂行能力や適性に問題があったというべきである。
さらに,上記1(1)及び上記2(1)の認定事実によれば,原告は,①平成28年4月にa社の代表取締役に就任したが,そのことが被告の知るところとなって被告から説明を求められたにもかかわらず,a社の事業が被告との関係で競業に当たらないことなどについて,被告に対し十分な説明を行っていないこと(なお,原告は,他社の代表取締役に就任することについてB社長に告知し,その了承を得ているなどと主張し,証拠(甲21)中には,原告が,平成28年1月及び同年2月B社長に対し,被告の取締役に就任するに当たり,従前の収入水準を維持するためには兼業を認めてもらう必要があること,c社の取締役を退任してもその営業支援を続ける必要があることを伝え,B社長の了解を得たとの陳述記載があるが,証拠(甲21,乙77)によれば,当時は競業2社共に設立されておらず,競業2社についての説明も極めて概括的であったことが認められるから,これをもってB社長の了解を得たということはできない。),②同年8月31日,経営全般に関するコンサルティング業務等を目的とするb社を設立して代表取締役に就任するに当たり,被告の取締役会の承認を受けていないこと,③被告から秘密保持契約の締結を求められたにもかかわらず,職務発明・考案の権利帰属に関する条項や損害賠償に係る条項に修正を加えるよう提案してこれに応じなかったばかりか,同年9月14日開催された被告の取締役会において,守秘誓約書が従業員向けのものであることを理由として署名・押印を拒否したこと,④同年8月29日頃,被告の管理担当者から,取締役就任登記を経由するために必要な就任承諾書等を提出するよう求められたにもかかわらず,同承諾書の文言の修正(削除)を行うことに固執してその提出が遅れたため,取締役就任登記の経由を遅延させたことが認められるところであり,これにより原被告間の信頼関係はさらに悪化したものというべきである。
イ これらの事情によれば,原告は,このような信頼関係の崩壊・悪化につながる不誠実な職務遂行を行った者として,取締役としての職務遂行能力や適性に著しく欠けるところがあったというべきであり,本件解任には正当な理由(会社法339条2項)があるというべきである。
(3)  したがって,争点(2)に係る被告の上記主張は理由があるから,原告の被告に対する損害賠償請求は,その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
3  争点(3)(名誉毀損に基づく被告の不法行為責任の有無(本件第3請求関係))について
(1)  名誉毀損の成否が問題となる表現における事実の摘示と意見ないし論評の表明の区別
ア 事実を摘示しての名誉毀損においては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があったときには,その行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実を真実であると信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定されるものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁)。他方で,ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見又は論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の主要部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定されるものと解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁,最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁)。
ここで,問題とされている表現が,事実を摘示するものか,意見ないし論評の表明であるかを判別するに当たっては,当該表現が,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり(上記最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照),上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値,善悪,優劣についての批評や論議などは,意見ないし論評の表明に属するものというべきである。
イ これを本件についてみるに,本件掲載事項中の本件第1文は,本件掲載事実①~⑤の事実を摘示しながらも,全体としては,原告が,取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反しており,その相次ぐ言動からすると,取締役としての資質に重大な疑義を生じさせるとの事項を主張するものであり,これは証拠等をもってその存否を決することができない事項であるから,意見ないし論評の表明に当たるというべきである。また,本件第2文は,「原告の合弁事業計画は,達成目標やコストについての説明が二転三転し,目標売上の規模が縮小していくなど,被告の目指す合弁戦略と乖離する事態となった一方で,原告が当初,合弁事業計画案とあわせて提案していた高額報酬については,強硬に要求する」といった事実を摘示しながらも,全体としては,原告が被告との間で,信頼関係を構築できない状態に至ったとの事項を主張するものであり,同じく証拠等をもってその存否を決することが困難な事項であるから,意見ないし論評の表明に当たるというべきである。
(2)  意見ないし論評の表明である本件についての名誉毀損の成否
ア 摘示事実の内容の公共性,公表目的の公益性について
株主総会における議決権行使について議決権行使書面制度を採用した会社においては,取締役の解任に関する議案を株主に上程するに当たり,株主総会参考書類に解任の理由を記載することが法令上義務付けられている(会社法301条1項,同法施行規則78条2号)。のみならず,証拠(乙69)によれば,東京証券取引所市場第一部上場の株式会社は,同取引所から,適時開示情報システム及び被告のホームページにおいて株主総会参考書類を公表することが要請されていること(東京証券取引所コーポレートガバナンスコード第1章原則1-2及び補充原則1-2②)が認められるところ,上記法令の規定及び準則の趣旨は,株主が株主総会において議決権を行使するに際し,十分な判断資料の提供を受けられるようにすることにあると解されることに照らすと,被告が本件掲載事項を株主に対する招集通知,適時開示情報システム及び被告のホームページに掲載した行為は,公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと推認するのが相当である。
イ 前提となる事実の真実性について
そこで,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったといえるかを検討するに,本件第1文については,その前提となる本件掲載事実①~⑤の事実が重要な部分について真実であるとの証明があったことは,上記2(1),(2)アにおいて認定・説示のとおりであり,本件第2文についても,その前提となる「原告の合弁事業計画は,達成目標やコストについての説明が二転三転し,目標売上の規模が縮小していくなど,被告の目指す合弁戦略と乖離する事態となった一方で,原告が当初,合弁事業計画案とあわせて提案していた高額報酬については,強硬に要求する」という事実が重要な部分について真実であるとの証明があったことも,前記前提事実,上記1(1),2(2)アにおいて認定・説示のとおりである。
そして,上記意見ないし論評の表明は,本件掲載事項中の本件第1文においては,本件掲載事実①ないし⑤の事実を摘示しつつ,原告が,取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反しており,取締役としての資質に重大な疑義を生じさせるとの事項を主張するものであり,本件第2文においても,前提となる事実を摘示しつつ,原告が被告との間で信頼関係を構築できない状態に至ったとの事項を主張するものであって,その表現内容に照らしても,原告に対する人身攻撃に当たるということはできず,他に上記意見ないし論評の表明が,意見ないし論評としての域を逸脱したものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。
ウ 以上によれば,被告が,本件掲載事項を被告の株主に対する招集通知,東京証券取引所が運営する適時開示情報システム及び被告のホームページの投資家向け情報の欄に掲載した行為は,違法性を欠くものというべきである。
(3)  したがって,原告の被告に対する損害賠償請求は,その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
第4  結論
以上の次第で,原告の被告に対する請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第8部
(裁判長裁判官 大竹昭彦 裁判官 坂田大吾 裁判官 太田慎吾)

 

*******

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。


Notice: Undefined index: show_google_top in /home/users/1/lolipop.jp-2394bc826a12fc5a/web/www.bokuore.com/wp-content/themes/rumble_tcd058/footer.php on line 296

Notice: Undefined index: show_google_btm in /home/users/1/lolipop.jp-2394bc826a12fc5a/web/www.bokuore.com/wp-content/themes/rumble_tcd058/footer.php on line 296