判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(217)平成23年10月25日 東京地裁 平22(ワ)23311号 保証金返還請求事件(本訴)、土地賃借権設定登記等抹消登記手続請求事件(反訴)
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(217)平成23年10月25日 東京地裁 平22(ワ)23311号 保証金返還請求事件(本訴)、土地賃借権設定登記等抹消登記手続請求事件(反訴)
裁判年月日 平成23年10月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)23311号・平22(ワ)32919号
事件名 保証金返還請求事件(本訴)、土地賃借権設定登記等抹消登記手続請求事件(反訴)
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA10258001
要旨
◆ゴルフ場の経営等を業務とする原告が、ゴルフ場の敷地利用権の獲得に関し、後に原告に吸収合併する訴外会社と敷地の地権者の一人である被告との間で締結されていた賃貸借契約及び業務委託契約を解除したことに基づき、保証金・預託金の返還と前払賃料の返還を求めた(本訴)ところ、被告が、上記各契約に基づいて同人所有地に経由されていた賃借権設定登記等の抹消登記手続を求めた(反訴)事案において、訴外会社による本件各契約の解除は有効であるから、原告の被告に対する保証金・預託金の返還請求については理由があるが、敷地利用の確保のためにその対価として支払われた前払賃料の返還請求については理由がないとするとともに、反訴請求に係る各抹消登記手続は、保証金等返還債務と同時履行の関係にあるなどとし、本訴請求及び反訴請求を一部認容した事例
参照条文
民法601条
民法643条
民法703条
裁判年月日 平成23年10月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)23311号・平22(ワ)32919号
事件名 保証金返還請求事件(本訴)、土地賃借権設定登記等抹消登記手続請求事件(反訴)
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA10258001
平成22年(ワ)第23311号保証金返還請求事件(本訴)
平成22年(ワ)第32919号土地賃借権設定登記等抹消登記手続請求事件(反訴)
東京都港区〈以下省略〉
本訴原告(反訴被告) PGMプロパティーズ2株式会社
(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 松平久子
山梨県南都留郡〈以下省略〉
本訴被告(反訴原告) Y(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 板谷栄司
主文
1 被告は,原告に対し,原告から主文第2項の抹消登記手続を受けるのと引き換えに,6867万7073円及びこれに対する平成22年7月2日から支払済みまで,年6分の割合による金員を支払え。
2 原告は,被告に対し,被告から主文第1項の金員の支払を受けるのと引き換えに,別紙物件目録記載の各不動産についてされた別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続をせよ。
3 原告のその余の本訴請求及び被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,本訴・反訴を通じてこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴(主位的請求,予備的請求とも)
被告は原告に対し,6923万0099円及びこれに対する平成22年7月2日から支払済みまで,年6分の割合による金員を支払え。
2 反訴
原告は,被告に対し,別紙物件目録記載の各不動産についてされた別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続をせよ。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告に対し,ゴルフ場の敷地利用権の獲得に関し後に原告が吸収合併する訴外会社と被告との間で締結されていた賃貸借契約及び業務委託契約を解除したことに基づき,保証金及び預託金の返還(原状回復)並びに前払賃料の返還(不当利得)を求め(本訴),被告は,原告に対し,所有権に基づき,これらの契約に基づいて被告所有地(別紙不動産目録記載)に経由されていた別紙登記目録記載の各登記の各抹消登記手続を求めた(反訴)事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠により容易に認定できる事実)
(1) 原告は,ホテル,レストランの経営,ゴルフ場の建設並びに経営等を目的とする会社であり(旧商号株式会社秦野カントリー倶楽部),平成20年10月1日,ゴルフ場及びホテル,スポーツ施設の企画,保有並びに経営等を目的としていた訴外PGPアセットホールディングス1有限会社(甲9。以下「PGPAH1」という。)を吸収合併したものである。
(2) 被告は,富士河口湖ゴルフクラブ(以下「本件ゴルフ場」という。)の敷地の一部(別紙物件目録記載の3筆。面積合計3779.79坪。以下「被告所有敷地」という。)を所有する地権者のひとりであり,もと同ゴルフ場の経営主体であった富士河口湖倶楽部株式会社の代表取締役であった。(甲3)
(3) 富士河口湖倶楽部株式会社は,平成17年1月26日に破産宣告を受け,B弁護士及びC弁護士が破産管財人に就任した(以下同社を「破産会社」といい,同破産管財人ら又はそのいずれかを単に「破産管財人」という。)。
(4) 破産管財人は,訴外株式会社レイコフインベストメント(以下「レイコフインベストメント」という。)との間で,平成18年9月26日,営業譲渡に関する基本合意書(甲30)を締結し,同合意の有効期間を平成19年6月30日と定めつつ,以後同社との間で,最終的な営業譲渡に向けた手続を双方協力して行うこととした。
(5) 他方,PGPAH1は,被告との間で,平成18年12月15日,要旨以下の内容の覚書を締結した(甲1。以下「覚書」という。)。
ア 被告は,PGPAH1が,本件ゴルフ場の地権者と土地の賃貸借契約を締結できるよう,本件ゴルフ場の運営に必要となる土地の全地権者を取りまとめるものとする。地権者の中には被告も含まれ,PGPAH1と被告は,被告所有敷地について,PGPAH1と賃貸借契約を締結する。
イ PGPAH1は被告に対し,本件ゴルフ場の借地の取りまとめ業務に対する報酬金相当額及び被告所有敷地分の賃貸借契約の保証金相当額が2億5100万円であることを確認する。同金額には,本件ゴルフ場の地権者である大田和財産区とPGPAH1との間の賃貸借契約を確保することに必要な費用8000万円を含む。
ウ 被告は,PGPAH1が破産会社から取得予定の資産のうち,本件ゴルフ場に関連する資産を除くすべての資産を保有する会社の株式を100万円でPGPAH1から買い取るものとする。なお,登記費用等,PGPAH1が被告に譲り渡す会社が当該買取資産を取得するに要した費用は被告の負担とし,支払は本覚書で定める賃貸借契約の保証金等を支払原資とする。
(6) PGPAH1は,被告との間で,平成19年5月29日,以下のような5つの合意を締結した(これらを総称して「本件各契約」という。)。
ア 業務委託に関する覚書(甲2。以下「本件業務委託契約」という。)。
(ア) 本覚書は,PGPAH1が,本件ゴルフ場の運営に必要な土地について土地利用権(賃借権又は地上権)又は所有権を取得すること及び破産管財人との間で本件ゴルフ場の事業譲渡契約(以下「本件事業譲渡契約」という。)を締結することを目的とし,その目的達成のためにPGPAH1が被告に委託する業務について定める。
(イ) PGPAH1は,被告に対し,以下の業務を委託する。
a 本件ゴルフ場の全地権者に,PGPAH1との間で土地賃貸借契約,地上権設定契約又は売買契約を締結させ,PGPAH1に本件ゴルフ場の運営に必要な全土地についての利用権又は所有権を取得させる業務
b 本件ゴルフ場の全地権者に,PGPAH1をスポンサーとして推薦する書状を破産管財人に送付することを説得する業務
c その他上記目的を達成するために必要な業務で,PGPAH1が指定するもの
(ウ) 業務委託料
成功報酬 1億5000万円
本件業務の成功は,本件事業譲渡契約が締結されることであり,本件委託料は,本件事業譲渡契約が締結されることを停止条件として発生し,同契約が締結できない場合は,業務委託料は生じないものとする。
(エ) 預託金
a PGPAH1は,被告に対して以下の金員を預託する。
① 本覚書締結時 1000万円
② 被告が大田和財産区との賃貸借契約を締結したとき 8000万円
③ 被告が,本件ゴルフ場の地権者のうち30名を超える者と土地賃貸借契約を締結したとき 2000万円
④ 被告が本件ゴルフ場の全地権者から本件ゴルフ場運営に必要な全土地について土地利用権を取得したとき 2000万円
⑤ 本件事業譲渡契約が締結されたとき 2000万円
b 以下の事由が生じたときは,被告はPGPAH1に上記預託金全額を返還する。
① 本件事業譲渡契約が締結されたこと(ただし,委託料と相殺)
② 本覚書が解除されたこと
(オ) 解除
PGPAH1は,以下のいずれかの事由が発生した場合,何らの催告を要せず本件業務委託契約を解除することができる。a及びbによる場合は,PGPAH1及び被告は相手方に対し損害賠償を請求することはできない。
a 本件事業譲渡契約が相当な期間内に締結されないと合理的に判断されること(以下「解除原因1」という。)
b PGPAH1が本件ゴルフ場の全地権者との間で本件ゴルフ場の運営に必要な全ての土地について土地利用権を相当な期間内に取得することができないと合理的に判断されること(以下「解除原因2」という。)
c 被告が,本件業務委託契約を含むPGPAH1との間の一切の合意に定める義務のいずれかに反したこと
イ 被告所有敷地についての賃貸借契約(甲3。以下「本件賃貸借契約」という。)。
(ア) 期間 契約締結日から20年
(イ) 賃料 年132万2927円(1坪350円)
(ウ) 解除
PGPAH1は,以下の事由のいずれかが発生したときは,無催告で本件賃貸借契約を解除することができる。
a 解除原因1と同じ
b 解除原因2と同じ
c 賃貸物件について,担保権,賃借権その他賃貸物件をゴルフ場の一部として利用するに際しての障碍となりうる一切の権利が存し,PGPAH1が後記売買予約にかかる売買によって賃貸物件の完全な所有権を取得できないと合理的に判断されること
d 被告が,本件賃貸借契約を含む,PGPAH1との一切の合意に定める義務のいずれかに反したこと
(エ) 保証金 9867万7073円(以下「本件保証金」という。)
被告は,本件賃貸借契約終了時に,全額をPGPAH1に返還する。
支払時期及び方法は,別途覚書により定める。
(オ) 売買予約
別途賃貸物件についての売買予約契約を締結するものとする。
ウ 本件保証金支払いに関する覚書(甲4。以下「本件保証金覚書」という。)。
(ア) 本件保証金9867万7073円のうち,3000万円は,平成18年12月29日に既に被告が受領済みであることを確認し,その余の6867万7073円については,以下のとおり支払う。
① 本件保証金覚書締結時 2867万7073円
② 被告所有敷地についての全同生活協同組合を権利者とする所有権移転請求権仮登記(以下「全同生活協同組合の仮登記」という。)の抹消登記手続が完了したとき 2000万円
③ 被告所有敷地についての山梨信用金庫(登記簿上は大月信用金庫)を権利者とする根抵当権設定登記(以下「大月信用金庫の根抵当権設定登記」という。)の抹消登記手続が完了したとき 2000万円
(イ) 本件賃貸借契約が終了したときは,被告は,PGPAH1に対し,本件保証金を返還する。
(ウ) PGPAH1は,以下の事由のいずれかが発生したときは,無催告で本件保証金覚書を解除することができる。後記a又はbによる解除の場合には,PGPAH1と被告は,いずれも相手方に対して損害賠償を請求することができない。
a 解除原因1と同じ
b 解除原因2と同じ
c 被告が,本件保証金覚書を含む,PGPAH1との一切の合意に定める義務のいずれかに反したこと
エ 売買予約契約書(甲5。以下「本件売買予約契約」という。)
PGPAH1は,被告に対し,本件賃貸借契約に基づき,以下の内容の売買を予約し,被告はこれを承諾した。
(ア) 代金 9867万7073円
(イ) 目的物 被告所有敷地
(ウ) PGPAH1は,予約完結権を完全なる任意の判断により行使又は行使しないことができる。したがって,PGPAH1は,本件破産管財人との間で,本件事業譲渡契約を締結しない場合その他本件不動産を取得する必要のない場合には,予約完結権を行使しないことができ,かかる予約完結権不行使によりいかなる責任も負わない。被告は,PGPAH1が予約完結権を行使しないことを理由としては,PGPAH1に対し,損害賠償請求その他名目の如何を問わず一切の請求をすることができない。
(エ) 解除
PGPAH1は,以下の事由のいずれかが発生したときは,無催告で本件売買予約契約を解除することができる。
a 解除原因1と同じ
b 解除原因2と同じ
c 被告が,本件売買予約契約を含む,PGPAH1との一切の合意に定める義務のいずれかに反したこと
オ 解除事由に関する覚書(甲6。以下「本件解除覚書」という。)
(ア) 目的
前記アからエは,いずれもPGPAH1が破産管財人との間で本件事業譲渡契約を締結することを最終的な目的とするものであり,よって,かかる目的が達成できないときはPGPAH1が解除できることとなっているが,本件解除覚書により,かかる事業譲渡不達成による解除の条件をより明確化するものである。
(イ) 上記アからエの各解除原因(解除原因1)として定められている「事業譲渡契約が」「締結されない」とは,いずれも譲渡対価6億5000万円以下での事業譲渡契約締結が締結できないことをいう。
(6) PGPAH1は,被告に対し,次の金員を支払った。
ア 平成18年12月27日 本件賃貸借契約に基づく保証金3000万円
イ 平成19年5月30日 本件賃貸借契約に基づく保証金2867万7073円
ウ 同日 本件業務委託覚書に基づく預託金 1000万円
エ 平成19年5月29日 同日から同年12月31日分賃料 132万2927円
オ 同年12月28日 平成20年1月1日から1年分の賃料 132万2927円
(7) 被告は,被告所有敷地について,平成19年6月1日,本件賃貸借契約及び本件売買予約契約に基づき,被告所有敷地について別紙登記目録記載の各登記(同目録1記載の賃借権設定登記を「本件賃借権設定登記」と,同目録2記載の所有権移転請求権仮登記を「本件仮登記」といい,両者を併せて「本件各登記」という。)を経由した。
(8) 被告は,被告所有敷地に関し,全同生活協同組合の仮登記の抹消登記手続を完了し,平成19年9月13日付けで,PGPAH1に対し,本件賃貸借契約及び本件保証金覚書に基づく保証金2000万円の支払を求めた。
PGPAH1は,同年9月14日の破産管財人との面談の結果,本件事業譲渡契約の締結に障碍のある状態であり,その締結可能性について検証を行う必要があるとして,同月19日,被告に対し,上記保証金の支払を留保する旨通知した。(甲14)
(9) 被告は,PGPAH1に対し,平成19年9月26日,1週間以内に保証金2000万円を支払うよう催告するとともに,これが履行されない場合には,本件保証金覚書,本件賃貸借契約,本件売買予約契約を解除する旨の意思表示をした。(甲15)
(10) 原告は,平成19年12月28日,本件賃貸借契約に基づき,翌平成20年1年分の賃料を被告に支払った。
(11) レイコフインベストメントは,平成20年3月20日,民事再生手続開始申立てをし,事実上本件ゴルフ場の営業譲渡先からはずれることとなった。
(12) 破産管財人は,PGPAH1の資産管理会社でありPGPAH1のために破産管財人との交渉に当たっていたパシフィックゴルフプロパティーズ株式会社(以下「PGP」という。)に対し,平成20年6月20日,本件ゴルフ場の営業資産の譲渡先をPGPAH1から富士鳴沢リゾート株式会社(以下「鳴沢リゾート」という。)に変更することになったこと及びその理由を記載した「ご連絡」と題する書面(甲7)を送付した。
(13) PGPAH1は,被告に対し,平成20年7月28日付け通知書(甲8)をもって,破産管財人と本件事業譲渡契約を締結できなかったことは,本件各契約の解除原因1及び同2に該当するとして,同年7月31日をもって,本件業務委託契約,本件賃貸借契約及び本件売買予約契約を解除する旨の意思表示をした。
3 当事者の主張
(本訴)
(1) 本件賃貸借契約の解除に基づく保証金返還請求及び前払賃料(解除の翌日から平成20年12月31日までの分)の不当利得返還請求関係
【主位的請求関係】
(請求原因)
ア PGPAH1と被告は,平成19年5月29日,被告所有敷地について,以下の約定による本件賃貸借契約及び本件保証金覚書を締結した。
期間 平成19年5月29日から20年間
賃料 年132万2927円
保証金 9867万7073円
(支払期限等につき以下の定めがある。被告は,PGPAH1に対し,本件賃貸借契約終了時に全額返還する。)
平成18年12月29日 3000万円(支払済み)
本件保証金覚書締結時 2867万7073円
全同生活協同組合の仮登記の抹消登記手続完了時 2000万円
大月信用金庫の根抵当権設定登記の抹消登記手続完了時 2000万円
解除原因 解除原因1及び同2が生じたときは,PGPAH1は,催告を要することなく,本件賃貸借契約及び本件保証金覚書を解除することができる。
イ PGPAH1は,被告に対し,本件賃貸借契約に基づき,保証金5867万7073円を支払った。
ウ PGPAH1は,被告に対し,平成19年12月28日に平成20年分の賃料として132万2927円を支払った。
エ 破産管財人は,PGPAH1のために本件事業譲渡契約の締結交渉に当たっていたPGPに対し,平成20年6月20日,本件ゴルフ場の営業資産を鳴沢リゾートに譲渡する方針を通知した。
これは,解除原因1及び同2に該当することから,PGPAH1は,被告に対し,平成20年7月28日,本件賃貸借契約及び本件保証金覚書を解除する旨の意思表示をした。
オ 原告は,平成20年10月1日,PGPAH1を吸収合併した。
カ よって,PGPAH1は,被告に対し,以下の支払を求める。
(ア) 解除に基づく保証金返還請求権として5867万7073円
(イ) 解除に基づく前払賃料(解除の日の後である平成20年8月1日から同年12月31日まで153日分。年365日の日割計算)についての不当利得返還請求権として55万3026円
(請求原因に対する被告の認否)
アからエの前段及びオは認める。エの後段及びカは争う。
(抗弁1:先立つ解除)
ア 被告は,平成19年9月10日,被告所有敷地について全同生活協同組合の仮登記の抹消登記手続を完了した。
イ 被告は,PGPAH1に対し,平成19年9月26日,本件賃貸借契約及び本件保証金覚書に基づく保証金2000万円の支払を催告するとともに,同催告から1週間以内に支払がされない場合は,上記各契約を解除する旨の意思表示をした。
ウ 平成19年10月3日は経過した。
(抗弁2:停止条件の故意による成就)
原告の主張する解除原因1及び同2が生じたのは,原告が,破産管財人との間での本件事業譲渡契約の締結交渉において,あくまで自己に有利な条件に固執し,意図的に破産管財人の受け入れ難い条件(本件ゴルフ場用地に必要な土地利用権を破産管財人において確保をした上での事業譲渡)を提示したことによるものである。
原告は,解除原因1及び同2が生じれば本件賃貸借契約の解除に基づく保証金返還請求権及び前払賃料の不当利得返還請求権を取得することになる等の考えから,故意に,解除の停止条件というべき解除原因1及び同2を生じさせたものとして,民法130条の類推適用に基づき,解除原因1及び2は生じていないものとみなされる。
(抗弁3:相殺①)(抗弁1,再抗弁1を前提として)
ア PGPAH1が,被告が被告所有敷地について平成19年9月10日に全同生活協同組合の仮登記の抹消登記手続を了したにもかかわらず,保証金2000万円を支払わなかったこと(債務不履行ないし不法行為)により,PGPAH1との間の信頼関係は失われ,本件業務委託契約に基づき,大田和財産区との賃貸借契約締結時にPGPAH1から支払われるべき8000万円の預託金債務の履行についても不安が生じた。
大田和財産区は,本件ゴルフ場敷地の敷地利用権の約3割を有する最大の地権者である上,その他のほとんどすべての地権者が同財産区の組合員である。その意味で,本件ゴルフ場敷地利用権の確保において非常に重要な地権者であり,同財産区から敷地利用権を獲得できれば,ほぼその余の敷地利用権も確保することができる。
当時,8000万円の預託金が支払われれば,大田和財産区からの敷地利用権の獲得は可能な状態であったが,上記のとおりこの点に不安が生じ,その結果本件事業譲渡契約は締結することができなかった。
この点につき,原告は,大田和財産区については平成19年6月以前に既に鳴沢リゾートが本件ゴルフ場敷地利用権を確保しており,保証金2000万円の支払留保と被告が同財産区の敷地利用権の確保ができなかったことは関係がない旨主張するが,誤りである。大田和財産区が鳴沢リゾートとの間で賃貸借契約を締結していたことは認めるが,当時の鳴沢リゾートには十分な資金力はなく,賃貸借契約は形式的なものにとどまったのであって,最終的にPGPAH1が敷地利用権を獲得できる可能性は十分にあった。
イ また,抗弁2に記載のとおり,原告は,被告に支払うべき1億5000万円の成功報酬の支払いを免れる目的で,意図的に破産管財人の受け入れ難い条件を提示して,解除原因1及び同2を作出したのであり,これは不法行為に該当する。
ウ このような次第で,被告は,PGPAH1の上記債務不履行ないし不法行為により,以下の損害を受けた。
(ア) 平成18年12月15日覚書に基づき,被告は,PGPAH1から,1億0100万円の価値を有する資産(PGPAH1が破産会社から取得予定の資産)を100万円で購入し得るはずであったところ,これができなくなったことによる損害として1億円
(イ) 本件業務委託契約に基づき,本件事業譲渡契約締結時に得られるはずであった成功報酬1億5000万円から大田和財産区の土地利用権獲得のための費用である8000万円を控除した残額7000万円が得られなくなったことによる同額の損害
(ウ) 仮に上記による損害額の算定が困難な場合には,民事訴訟法238条による裁量的な損害額の認定を求める。
エ 被告は,原告に対し,平成22年10月15日第2回弁論準備手続期日において,上記ウを自働債権として,原告の主張する保証金返還請求権,次いで前払賃料の不当利得返還請求権と,対当額において相殺する旨の意思表示をした。
(抗弁4:相殺②)(抗弁1,再抗弁1を前提として)
ア 本件業務委託契約によれば,原告は,被告に対し,本件事業譲渡契約が締結されることを停止条件として,1億5000万円の成功報酬を支払うべきところ,原告は,被告の抗弁2に記載のとおり,意図的に破産管財人の受け入れ難い条件を提示して,解除原因1及び同2を作出し,故意に上記停止条件の成就を妨げたものというべきである。
したがって,被告は,民法130条に基づき,上記停止条件が成就されたものとみなすことができるから,原告に対し,1億5000万円の報酬請求権を有する。
イ 被告は,原告に対し,平成23年4月22日第8回弁論準備手続期日において,上記アを自働債権として,原告の主張する保証金返還請求権,次いで前払賃料の不当利得返還請求権と,対当額において相殺する旨の意思表示をした。
(抗弁に対する原告の認否)
ア 抗弁1について認める。
イ 抗弁2は否認し,争う。
(ア) PGPAH1は,本件事業譲渡契約の締結に向けて,平成19年末に,被告以外の他の地権者分も含め,平成20年1月分の賃料を支払っている。そのことからしても,PGPAH1が,解除原因1及び同2を生じさせ,ひいては本件事業譲渡契約を頓挫させる意図など有していないことは明らかというべきである。
なお,解除原因1及び同2が生じた原因は,破産管財人が,破産財団に属する本件ゴルフ場の土地のみを株式会社整理回収機構(RCC。以下「整理回収機構」という。)の担保権が付着したままの状態で譲り受けることを求めたのに対し,PGPAH1は,破産財団に属する土地について,整理回収機構の担保権を解除し,かつ本件ゴルフ場の敷地全体についての敷地利用権を確保した上での営業譲渡を求めていたことから,両者間の事業譲渡に係る契約締結交渉が決裂したことに基づくものであって,PGPAH1が被告に対する保証金返還請求権及び前払賃料の不当利得返還請求権を取得する目的で故意に解除原因を生じさせたものではない。
(イ) また,民法130条を類推適用しても,本件賃貸借契約が存続しているものとみなす効果はないことからすれば,結局,本件賃貸借契約の終了に基づく保証金返還請求権及び前払賃料の不当利得返還請求権の発生を妨げることができないというべきである。
ウ(ア) 抗弁3は,ア並びにイのうち大田和財産区が,本件ゴルフ場敷地の敷地利用権の約3割を有する最大の地権者であること及び地権者の大多数が同財産区の地権者であることは認め,その余は否認し争う。
(イ) 大田和財産区については,平成19年6月以前の時点で既に鳴沢リゾートが本件ゴルフ場敷地利用権を確保しており,同財産区の平成20年度の区長(D)はもと鳴沢リゾートの取締役でもある鳴沢リゾートの支持者であったから,保証金2000万円の支払留保と上記利用権の確保ができなかったこと(ひいては,本件事業譲渡契約が成約に至らなかったこと)との間には何らの関連性もない。被告の主張は失当である。
(ウ) そもそも,PGPAH1が本件事業譲渡契約を締結するか否か,いかなる条件でこれを行うかは,PGPAH1の経営判断に委ねられているものである。PGPAH1は,本件事業譲渡契約を締結する義務を負うものではなく,仮にPGPAH1が完全に任意に撤退したとしても,保証金返還請求権の帰趨に何らの影響も及ぼすものではないし,被告に本件事業譲渡契約の成約により得べかりし利益についての損害賠償請求権が生ずるものでもない(ただし,解除原因1及び同2が生じ,本件事業譲渡契約が成約に至らなかったのは,上記イ(ア)に記載のとおりの理由で,破産管財人との間の契約締結交渉が決裂したことに基づくものであって,PGPAH1が意図的に破談に至らしめたものではない。)。したがって,同覚書に基づく損害賠償請求権の主張は失当である。
エ 抗弁4については,否認し争う。
(再抗弁:抗弁1に対するもの)
ア 解除の意思表示の黙示の撤回
(ア) 被告は,抗弁記載の解除の意思表示の後も,平成19年12月28日に,平成20年分の賃料を異議なく受領した。
(イ) 被告は,平成20年1月28日,PGPとの間で,自らもPGPAH1と賃貸借契約を締結している本件ゴルフ場の地権者として記載されている借地一覧表(甲17)に基づいて,本件ゴルフ場敷地の利用権の確保状況に係る打合せを行い,同年2月21日及び同年5月13日には,PGPと現地での面談も行った。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)を総合すると,被告は,仮に解除の意思表示を行っていたとしても,これを撤回したものというべきである。
イ 信義則違反
(ア) 上記ア(ア)及び(イ)に同じ。
(イ) (ア)によれば,被告が,解除の効果を主張すること(本件賃貸借契約の存続を否定すること)は信義に反し許されないというべきである。
(再抗弁に対する被告の認否)
争う。原告主張の借地一覧表は,PGPAH1の担当者が作成し送付してきたものを,送り返したに過ぎない。
【予備的請求関係】
(請求原因)
ア 主位的請求の請求原因アからウ及びオに同じ(ただし,同ア中の解除原因に係る記載に代えて,「保証金の返還 本件賃貸借契約が終了したときは,被告は,PGPAH1に対し,本件保証金を返還する。」を加える。)。
イ 主位的請求に係る抗弁1のアからウに同じ。
ウ よって,PGPAH1は,被告に対し,以下の支払を求める。
(ア) 被告の解除に基づく保証金返還請求権として5867万7073円
(イ) 被告の解除に基づく前払賃料(解除の日の翌日である平成19年10月4日から同年12月31日まで89日分(年217日(賃貸借契約締結の日から同年年末まで)の日割計算)及び平成20年1年分)についての不当利得返還請求権として186万5509円のうち55万3026円
(抗弁等)
主位的請求に係る抗弁3及び同4に同じ。
(2) 本件業務委託契約の解除に基づく預託金返還請求関係
(請求原因)
ア PGPAH1と被告は,平成19年5月29日,以下の約定による本件業務委託契約を締結した。
(ア) PGPAH1は,被告に対し,本件ゴルフ場の全地権者にPGPAH1との間で土地利用権の設定又は所有権の譲渡をさせる契約を締結させる等の業務を委託する。
(イ) PGPAH1は,被告に対し,本件事業譲渡契約が締結されることを停止条件として発生する業務委託料(成功報酬)1億5000万円を支払う。
(ウ) PGPAH1は,被告に対し,本件業務委託契約が解除されたときはPGPAH1に返還すべきことを約して,預託金1000万円を本件業務委託契約締結時に支払った。
(エ) 解除原因1及び同2が生じたときは,PGPAH1は,何らの催告を要せず,本件業務委託契約を解除することができる。
イ 破産管財人は,PGPAH1のために本件事業譲渡契約の締結交渉に当たっていたPGPに対し,平成20年6月20日,鳴沢リゾートに対し本件ゴルフ場の営業資産を譲渡する方針を通知した。
これは,解除原因1及び同2に該当することから,PGPAH1は,被告に対し,平成20年7月28日,本件業務委託契約を解除する旨の意思表示をした。
ウ 原告は,平成20年10月1日,PGPAH1を吸収合併した。
エ よって,PGPAH1は,被告に対し,解除に基づく預託金返還請求権として1000万円の支払を求める。
(請求原因に対する被告の認否)
ア,イの前段及びウは認める。イの後段は争う。
(抗弁1:停止条件の故意による成就)
前記(1)の主位的請求に係る抗弁2に同じ。
(抗弁2:相殺①)
ア 前記(1)の主位的請求に係る請求原因ア及び抗弁3に同じ。
イ 被告は,原告に対し,平成22年10月15日第2回弁論準備手続期日において,被告主張の損害賠償請求権を自働債権として(ただし,前記(1)に係る保証金返還請求権及び前払賃料の不当利得返還請求権と相殺した残額部分),原告の主張する預託金返還請求権と,対当額において相殺する旨の意思表示をした。
(抗弁3:相殺②)
ア 前記(1)の主位的請求に係る抗弁4アに同じ。
イ 被告は,原告に対し,平成23年4月22日第8回弁論準備手続期日において,上記アによる被告主張の報酬請求権を自働債権として(ただし,前記(1)に係る保証金返還請求権及び前払賃料の不当利得返還請求権と相殺した残額部分),原告の主張する預託金返還請求権と,対当額において相殺する旨の意思表示をした。
(抗弁に対する原告の認否)
否認し争う。
(反訴)
(請求原因)
ア 被告は,被告所有敷地を所有している。
イ 被告所有敷地について,PGPAH1を権利者とする本件各登記が経由されている。
ウ 原告は,平成20年10月1日,PGPAH1を吸収合併した。
エ よって,被告は,原告に対し,本件各登記の抹消登記手続を求める。
(請求原因に対する原告の認否)
請求原因アないしウは認める。
(抗弁:登記保持権限(被告の不利益陳述))
ア PGPAH1と被告は,平成19年5月29日,被告所有敷地について,本件賃貸借契約を締結した。
イ PGPAH1と被告は,本件賃貸借契約において,被告所有敷地について,別途売買予約契約を締結することを約し,これに基づき,同日,PGPAH1は,被告に対し,以下の内容の売買を予約し,被告はこれを承諾した。
(ア) 代金 9867万7073円
(イ) PGPAH1は,予約完結権を任意の判断で行使又は行使しないことができる。
ウ PGPAH1は,本件賃貸借契約及び本件売買予約契約に基づき,被告所有敷地について,本件各登記を経由した。
(再抗弁1:解除①)
ア 本訴主位的請求に係る抗弁1(先立つ解除)のアからウに同じ。
イ 被告は,PGPAH1に対し,平成19年9月26日,本件賃貸借契約及び本件保証金覚書に基づく保証金2000万円の支払を催告するとともに,同催告から1週間以内に支払がされない場合は,本件売買予約契約を解除する旨の意思表示をした。
(再抗弁2:解除②(原告の不利益陳述))
ア 本訴主位的請求に係る請求原因ア及びエに同じ。
イ PGPAH1と被告は,本件売買予約契約において,同契約の解除原因について,解除原因1及び同2が生じたときは,PGPAH1は,催告を要することなく同契約を解除することができる旨約した。
ウ 破産管財人は,PGPAH1のために本件事業譲渡契約の締結交渉に当たっていたPGPに対し,平成20年6月20日,本件ゴルフ場の営業資産を鳴沢リゾートに譲渡する方針を通知した。
これは,解除原因1及び同2に該当することから,PGPAH1は,被告に対し,平成20年7月28日,本件売買予約契約を解除する旨の意思表示をした。
(再抗弁1に対する原告の認否)
認める。
(再々抗弁1(再抗弁1に対して):解除の意思表示の撤回,信義則違反)
本訴主位的請求に係る原告の再抗弁に同じ。
(再々抗弁2(再抗弁1及び2に対して)
本訴主位的請求及び同予備的請求に係る本件賃貸借契約に基づく保証金返還債務の履行まで,反訴請求を認めない。
(再々抗弁に対する被告の認否)
ア 再々抗弁1については,本訴(1)の主位的請求に係る原告の再抗弁に対する認否に同じ。
イ 再々抗弁2については,争う。
(再々々抗弁その他:再々抗弁2に対して)
本訴主位的請求及び同予備的請求に係る本件賃貸借契約に基づく保証金返還債務に係る被告の抗弁等及びこれに対する反論等に準ずる。
第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲1から8,同11から21,同29から32,乙2から7,同12から16,同19から21,証人E,同F,被告本人)及び前記前提事実並びに弁論の全趣旨を考え合わせれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件ゴルフ場の敷地のうち,本件ゴルフ場の経営主体であった破産会社自体が所有する土地は,3.65パーセントにとどまり,その余の96.35パーセントは,被告を含む40名以上の地権者からの借地であり,中でも大田和財産区は,本件ゴルフ場敷地の28.38パーセントの土地を所有していた。
(2) 破産会社の株式は,もともと銀行の子会社が75パーセントを,その余の25パーセントを被告が所有し,被告と大田和財産区の代表的な立場であるGが取締役に就任していたほかは,大半の役員が同銀行出身者であったが,バブル経済崩壊後の厳しい経営環境の中で,平成11年ころ,被告らが中心となって実質的に銀行の支配を脱し,被告が代表取締役に就任して,経営再建に当たることとなった。
他方,上記銀行の破産会社に対する貸付金は,整理回収機構に譲渡され,破産会社と同機構との間で同貸付金の処理について交渉が行われたが,妥結せず,整理回収機構は,平成16年12月,債権者として,破産会社について破産手続開始申立てをした。
(3) 破産会社について破産手続開始決定がされ,平成17年10月18日,破産管財人は,株式会社東横イン(以下「東横イン」という。)との間で,同社に対して本件ゴルフ場等の営業を譲渡することとして,最終的な営業譲渡に向けた手続を相互に協力して遂行する旨の基本合意書(乙15)を締結して,調整に入った。同合意書には要旨以下のような定めがある。
ア 東横インは,自己の責任と負担において,本件ゴルフ場の地権者と新たな賃貸借契約を締結する交渉を行うものとする。これについて破産管財人が可能な協力をしたとしても,破産管財人には,なんら上記責任及び負担は生じない。
イ 営業譲渡の代金総額は,6億5000万円を基本とする。
ウ 最終的な営業譲渡契約の基本内容として,破産管財人は,破産会社の破産財団に所有権が帰属する不動産及び動産については,破産管財人の責任と負担において,全ての担保権設定登記及差押登記を抹消し,第三者の占有を排除し,何ら権利制限のない状態で,東横インに譲渡することとする。
(4) 東横インとの間では,東横イン側の事情により,上記営業譲渡の最終合意には至らず,破産管財人は,平成18年9月26日,レイコフインベストメントとの間で,同社に本件ゴルフ場等の営業を譲渡することとして最終的な営業譲渡に向けた手続を相互に協力して遂行する旨の基本合意書(甲30)を締結した。同合意書には要旨以下のような定めがある。
ア レイコフインベストメントは,自己の責任と負担で,本件ゴルフ場施設の敷地を所有する地主と新たな賃貸借契約を締結する交渉を行う。これについて破産管財人が可能な協力をしたとしても,破産管財人には,なんら上記責任及び負担は生じない。
イ 営業譲渡の代金総額は,6億5000万円を基本とする。
ウ 最終的な営業譲渡契約の基本内容として,破産管財人は,破産会社の破産財団に所有権が帰属する不動産及び動産については,破産管財人の責任と負担において,すべての担保権設定登記及び差押登記を抹消し,第三者の占有を排除し,何ら権利制限のない状態でレイコフインベストメントに譲渡する。
エ 本合意の有効期間は,平成19年6月30日までとする。
(5) レイコフインベストメントは,平成20年3月20日,民事再生手続開始申立てをし,事実上,上記営業譲渡先候補からの除外が決定的となった。
(6) この間,PGPAH1と被告は,平成18年12月15日,PGPAH1が,被告に対し,本件ゴルフ場の借地の取りまとめ業務を委託することとすること等を内容とする覚書を締結し,被告は,同月21日には,レイコフインベストメントへの営業譲渡について消極的な地権者等を中心とする地権者説明会を行い,PGPAH1は,被告を含め17名の地権者(借地面積全体の21パーセント)との間で賃貸借契約を締結した。また,被告は,平成19年2月から3月ころには,大田財産区庁等との交渉を行うなどした上,同年5月29日には,PGPAH1との間で,本件各契約を締結した。
(7) しかし,同年5月,大田和財産区は,レイコフインベストメント系列の鳴沢リゾートとの間で賃貸借契約を締結し,同年7月3日には,破産管財人から被告に対して,要旨以下のとおりの書簡(甲19)が,また同年8月20日には,破産管財人から各地権者に対し,要旨以下のとおりの連絡文書(甲20)が送付された。
ア 被告宛て書簡
レイコフインベストメントとの基本合意期限は,同年6月30日であったが,同年5月から6月にかけて,多くの地権者が鳴沢リゾートないしPGPと賃貸借契約を締結し,レイコフインベストメントからは,鳴沢リゾートとの契約者について,一旦賃貸借契約解約の上での対応が可能との報告があったものの,上記期限までに調印はされなかった。破産管財人は,レイコフインベストメントから,上記期限の延長を求められたが,これを更新しなかった。今後の選択肢としては2つ(①レイコフインベストメント以外の新たな業者を紹介する,②現状のまま営業譲渡する)あるが,現状では,賃貸先が区々のため,いずれかの業者が撤退しない限り,ゴルフ場としての再生は不能となる可能性を想定しておく必要があることから,②を第一選択として対応することとする。ただし,レイコフインベストメントが,同年7月1日から2週間以内に鳴沢リゾートと合意にしたがった処理をできるか否かを見極めた上で,破産管財人が選択したその他の業者の意向を聴取しつつ進めることとする。
イ 地権者宛て連絡文書
破産裁判所と協議の上,今後の方針について,レイコフインベストメントは,結局鳴沢リゾートと賃貸借契約を締結した地主との契約には至らなかったが,提出資料等によると,締結可能性はあると判断されることから,他の業者の意向等も考え合わせると,現時点では,営業譲渡等の交渉をレイコフインベストメントとの間で行うことが相当とする。
(8) 上記を踏まえ,PGPAH1は,被告に対し,同年9月19日,要旨以下のとおりの書簡(甲14)を送付した。
同年9月14日に破産管財人と面談したところ,同年中に破産事件を終結するスケジュールを破産裁判所が予定しており,レイコフインベストメントを買主とする売買契約を交渉中である旨の説明を受けた。したがって,現状は,本件事業譲渡契約の締結について障壁のある状態といわざるを得ず,本件保証金覚書に基づく2000万円の支払を留保する。
(9) これに対し,被告は,PGPAH1に対し,同年9月26日,停止条件付きで,本件保証金覚書,本件賃貸借契約,本件売買予約契約を解除する旨の意思表示をした。
ただし,被告は,上記解除の意思表示の後である同年12月28日にも,PGPAH1から平成20年分の賃料132万2927円の支払いを受領している。
(10) その後,平成20年3月20日にレイコフインベストメントが民事再生手続開始申立てを行ったことを踏まえ,破産管財人は,同年4月9日,各地権者に対し,レイコフインベストメントを買受人としていた態度を改め,PGPAH1を買受人とした旨を通知し,PGPAH1との間で基本合意書の締結に向けた交渉に入った(甲18,32,乙13)。
(11) しかし,結局,破産管財人は,同年6月20日,PGP宛てに,要旨以下のとおりの「ご連絡」と題する書面(甲7)を送付した。
ア 前向きな検討をもらいながら,希望に添えず心苦しいが,次のような理由で,営業資産の譲渡先をPGPAH1から鳴沢リゾートに変更することとした。
イ 地主の対立構造の中では,本件ゴルフ場再生は不確実と理解しているところ,PGPAH1が買受人と選考された時点以降,地主間の対立に融和は見られ始めているものの,破産裁判所及び破産管財人ともに,依然再生不確実との見方を捨て去ることができない。レイコフインベストメントとの間でも,単なる物件譲渡(すなわち,本件ゴルフ場の営業の可否はレイコフインベストメント側の責任)を前提として,代金額を6億円とすることで妥結していた(破産管財人は5億円で了解したが,整理回収機構がこれに同意せず,結局レイコフインベストメントと整理回収機構との間で,6億円に増額されることとなった。)のであり,破産管財人が第一次的に求めるのは,本件ゴルフ場の実質的な営業譲渡ではなく,不動産の任意売却である。ただし,再生可能性を全否定するものではなく,再生がかなうのであれば,その方がよいとの希望もある。
再生のためには,地権者及び担保権者の了解が重要であるところ,担保権者の同意については,整理回収機構が時価評価と乖離する金額を要求しており,同意を得られる可能性は極めて低い状況にある。そして,破産管財人としては,担保権付きでPGPAH1に売却すれば,担保解除交渉について整理回収機構の妥協が得られやすくなるものと考えたが,PGPAH1からは,これについての理解は得られなかった。
また,地権者の了解については,4月初めには,全地権者が破産管財人の選択に従うとの意向を示しており,PGPAH1の交渉により達成可能との見通しを持っていたが,先般,地権者からいくつもの要望が出され,単に破産管財人が選択した業者に無条件で賃貸するという意識ではないことが判明した。しかし,この点に関しても,PGPAH1の理解は得られなかった。
ウ したがって,現時点では,再生の確実性はなく,破産管財人としては,不動産の任意売却によりこれをいかに高価で換価するかに尽き,確実な売却の機会を逃せば,破産管財人としての善管注意義務に違反することにもなる。
エ また,クラブハウスの電気料や破産財団管理のための支出についての支払期限が経過しているが,PGPAH1からは,最終的な妥結までの支払原資の提供は得られなかった。
オ 以上の次第で,破産管財人としては,不動産の任意売却を承諾する鳴沢リゾートへの売却の方向で交渉する以外にはない。ただし,同社の支払能力に不安はあることから,同能力がないとなれば,仕切り直しとならざるを得ない。
(12) これを受けて,PGPAH1は,被告に対し,平成20年7月28日付けで,本件業務委託契約,本件賃貸借契約及び本件売買予約契約を解除する旨の意思表示をした。
2 本訴(1)について
(1)ア 被告は,原告の本訴(1)【主位的請求関係】の請求原因のうち,上記1(11)記載の通知が解除原因1及び同2に該当することを争うものの,前記1記載の事実によれば,少なくともこれは解除原因1に該当するものと認めるのが相当であり,同認定を左右するに足りる証拠はない。
イ その余の請求原因事実については,当事者間に争いがない。
(2)ア 抗弁1の事実については,当事者間に争いがない。
しかしながら,前記認定のとおり,被告は,解除の意思表示の後も平成20年分の賃料を異議なく受領していること,被告本人尋問の結果においても,その後の情勢の推移によっては,再び本件業務に携わることを念頭においていたことがうかがわれること等に鑑みれば,被告の解除の意思表示は,その後黙示的に撤回されたもの(再抗弁)と認めるのが相当であり,同認定を左右するに足りる証拠はない。
したがって,被告の抗弁1は理由がない。
イ 前記1の認定事実によれば,本件事業譲渡契約が妥結に至らなかった最大の原因は,破産管財人が,本件ゴルフ場敷地の地権者間の対立が根強く,PGPAH1が全地権者との間で本件ゴルフ場の営業に必要な敷地利用権を確保し,本件ゴルフ場事業を再生することが確実であるとの認識には至らず,また本件ゴルフ場敷地のうち破産会社所有地について設定された整理回収機構の担保権については,整理回収機構との交渉経過からして,同土地の譲渡以前にこれを破産管財人において抹消することは困難であり,かえって同担保権付きのままで同土地をPGPAH1に譲渡し,同譲渡後にPGPAH1が整理回収機構と交渉する方が,合理的な対価での担保権抹消を得られると判断していたことから,PGPAH1に対し,本件事業全体を営業譲渡として移転するのではなく,上記担保権が設定されたまま不動産の任意売却の形式をとるべきであるとの立場であったのに対し,PGPAH1としては,あくまで想定された予算内で,本件ゴルフ場の経営権を確実に取得することを目的としていたことから,譲渡の時点で,本件ゴルフ場の敷地全体についての利用権が確保されること及び整理回収機構の担保権が抹消されることを必須の条件としていたために,両者間の基本合意書締結に向けた交渉が決裂したことにあるものと認められる。
これについて,被告は,原告が,意図的に破産管財人の受け入れ難い条件を提示して,故意に解除条件の成就を招来したものである旨主張する。確かに,前記1(3)及び同(4)記載のとおり,PGPAH1との交渉に先だって破産管財人との間で交渉を行っていた東横イン及びレイコフインベストメントのいずれにおいても,本件ゴルフ場の地権者と新たな賃貸借契約を締結する交渉は,それぞれ東横イン又はレイコフインベストメントの責任と負担において行うものとされている。しかしながら,いずれの基本合意においても,東横イン又はレイコフインベストメントは,本件ゴルフ場の地権者と新たな賃貸借契約を締結できないと客観的に認められる事情が生じた場合,1か月前の予告により,同合意を解約することができることとされている。また,いずれの基本合意においても,破産財団に所有権が帰属する不動産については,破産管財人の責任と負担において全ての担保権設定登記等を抹消し,第三者の占有を排除し,何ら権利制限のない状態で,東横イン又はレイコフインベストメントに譲渡する旨規定されており,少なくとも各基本合意の内容は,PGPAH1の立場と概ね軌を一にするものと認められる。結局,上記交渉におけるPGPAH1と破産管財人の対立と交渉の決裂は,基本的に,各当事者の契約目的やリスク負担に係る立場・考え方の違いに由来するものであって,原告主張の交渉条件が取引通念上一概に不合理なものと断ずることはできず,他に同認定を左右するに足りる証拠もない。
したがって,被告の抗弁2,同3イ及び同4はいずれも理由がない。
ウ 被告は,原告が本件保証金覚書に基づく2000万円の支払を怠った債務不履行により,本件事業譲渡契約が締結することができなくなった旨主張する(抗弁3ア)が,本件事業譲渡契約が妥結に至らなかった原因は上記のとおりであって,より直接的には,整理回収機構の担保権抹消に係る破産管財人と原告との見解の相違が大きな要因となっていることに鑑みれば,被告の主張する上記債務不履行によって,本件事業譲渡契約の締結が不可能となったものと認めることはできず,他に同認定を左右するに足りる証拠はない。
したがって,被告の抗弁3アも理由がない。
(3) そうすると,原告主張の本件賃貸借契約の解除に基づく保証金返還請求については,理由があるものと認められる。
他方で,同解除に基づく前払賃料の不当利得返還請求については,仮に対象土地が,本件賃貸借契約に基づき原告に引き渡されておらず,原告がこれを占有利用していなかったとしても,前記認定事実及び本件賃貸借契約上賃貸借期間は同契約締結日から20年間と定められていること,解除の場合の前払賃料の返還義務を定める条項も見当たらないこと(甲3)等の事実に鑑みれば,本件賃貸借契約に基づき,被告は原告のために同対象土地の利用を確保する義務を負い,同前払賃料はこれに対する対価であったものと認めるのが相当であるから,後に同契約が解除されたとしても,既に支払われた前払賃料は,いわゆる前払賃料として不当利得となるものではないというべきである。
したがって,原告の前払賃料の不当利得返還を求める部分については,理由がない。
3 原告の本訴(2)について
前記2に判示したところに鑑みれば,原告の本訴(2)の請求は理由がある。
4 被告の反訴請求について
(1) 請求原因(なお,反訴状には,同請求につき,解除に基づく原状回復請求として請求するが如き記載が認められるものの,本件弁論の全趣旨からすれば,同訴訟物は,所有権に基づく抹消登記手続請求と善解すべきである。)及び抗弁については,当事者間に争いがない。
(2) 再抗弁1が理由がないことは,前記2に判示したところと同様である。
(3) 再抗弁2は,当事者間に争いがなく,これに対する再々抗弁2については,前記認定事実から,本件各契約が一体として本件事業譲渡契約の成否に係る相互に密接な関係を有するものとして,当事者間で合意されていることが認められることから,解除に基づく原状回復の一環としての本件各抹消登記手続と保証金返還債務とは同時履行の関係に立つものというべきである。そして,被告の再々々抗弁が理由がないことは,前記2において判示のとおりであるから,原告の再々抗弁2は理由がある。
5 なお,原告の本訴(1)及び同(2)について,被告は,反訴請求に係る本件各抹消登記手続の請求との同時履行を明示的には主張していないものの,弁論の全趣旨に鑑みれば,黙示的にこれを主張するものと善解すべきであるから,原告の本訴(1)及び同(2)もまた,本件反訴請求に係る本件各抹消登記手続と同時履行の関係にあるものと認められる。
6 結論
よって,原告の請求は,反訴請求に係る本件各抹消登記手続と引き換えに,保証金5867万7073円及び預託金1000万円の返還(遅延損害金とも)を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,被告の反訴請求は,上記の保証金5867万7073円及び預託金1000万円の返還(遅延損害金とも)と引き換えにこれを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれをいずれも棄却することとし,仮執行宣言については,上記のとおり本訴請求と反訴請求は相互に引換給付の関係にあることから,これを付さないこととして,主文のとおり判決する。
(裁判官 手嶋あさみ)
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