判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(284)平成20年 9月16日 東京地裁 平20(ワ)5636号 未払賃金請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(284)平成20年 9月16日 東京地裁 平20(ワ)5636号 未払賃金請求事件
裁判年月日 平成20年 9月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)5636号
事件名 未払賃金請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2008WLJPCA09168005
要旨
◆被告会社の従業員であった原告が退職後に退職間際の期間の賃金及び歩合給を請求した事案で、未消化の有給休暇を原告が就業規則にある3日前に申請せず2日前に申請したことをもって当該有給休暇の権利行使が無効とはならず、営業手数料の在職要件を規定した賃金規程及び就業規則は原告に対する関係で周知を欠くことを理由に効力を否定した上で、原告の請求を全部認容した事例
参照条文
労働基準法39条4項
労働契約法8条
労働契約法9条
労働契約法10条
裁判年月日 平成20年 9月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)5636号
事件名 未払賃金請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2008WLJPCA09168005
さいたま市〈以下省略〉
原告 X
群馬県高崎市〈以下省略〉
被告 株式会社商建
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 秋野卓生
同 有賀幹夫
同 永瀬英一郎
同 吉川幹司
主文
1 被告は,原告に対し,58万1576円及びこれに対する平成19年10月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨(平成19年10月21日は訴状送達の日の翌日)
第2 事案の概要
本件は,被告に雇用されていた原告が退職したが,退職間際の期間の賃金及び歩合給並びにこれらに対する遅延損害金の各支払を求める事案である。
1 請求の原因
(1) 当事者等
ア 被告は,建築工事の設計及び施工の請負等を業とする株式会社である(当事者間に争いがない。)。
イ 原告は,平成18年3月1日,被告に入社し,同社東京本部所属の川越営業所に配属され,平成19年4月10日まで勤務し,同日退職した(4月10日まで勤務した事実を除き,当事者間に争いがない。)。
ウ 原告の賃金は,本給,調整手当及び営業手数料から構成される。従業員の賃金は,毎月20日締めで同月25日支払である。被告では,日曜祭日も勤務日で,毎月5日の休日が与えられている(当事者間に争いがない。)。
(2) 賃金請求
ア 原告は,退職前,未消化有給休暇を10日保有していた(当事者間に争いがない。)。原告はそのうち8日を4月分出勤に充て,現実に8日出勤した。したがって,原告の4月分出勤は,3月21日から4月20日までの期間で16日である。
イ 原告の基本賃金は,本給及び調整手当の合計25万円である。出勤日が16日なので,4月分の賃金は15万3840円である。
250000基本賃金×16日数÷(31-5)月日数から休日数を控除≒153840
ウ 被告は,4月分の本給6万4000円及び有給休暇名目の9200円の合計7万3200円を支払った(当事者間に争いがない。)のみで,残額8万0640円を支払わない。
(3) 歩合給(営業手数料)の請求
ア 営業手数料は,住宅建築の新規成約に至るまでの営業社員の労働に対して支払われるものである。
イ 営業手数料は,請負金額から実行工事予算額を控除して得られる粗利益の金額を請負金額で除して得られる粗利率を,手数料規定(甲13)又は賃金規程7枚目の「営業手数料」の欄に対照して得られる報奨率を請負金額に乗じて得られる。
ウ 原告には訴外B邸(甲5の1)及び同C邸(同2)の営業実績があり,本件の営業手数料は,これら書証の合計の50万0936円である。
2 被告の認否及び主張
(1) 請求の原因(1)について
ア 原告は,平成19年3月29日に,被告に対し,退職したい旨電話で申し入れた。この申入れを受け,被告は原告と協議し,業務引継,関係書類の整理をするため,退職日を同年4月10日とすることで合意した。
イ しかし原告は,3月31日から,引継業務を放置して無断欠勤し,電話1本入れなかった。4月6日になって,原告のデスクの上に有給休暇願が置かれていたことが判明した。原告が有給休暇に充てたと主張しているのは,3月31日から4月9日までの間の定休日を除いた日数のことであり,3月31日から全く稼働していない。
(2) 請求の原因(2)について
ア 被告の就業規則21条2項は,「有給休暇願は原則として3日前に提出するものとし,社員が指定した時季に与える。ただし,事業の都合によりやむを得ない場合には他の時季に変更することがある。」と定める。
原告の上記(1)イの有給休暇の申請は,この規定を遵守していない。
イ 原告の業務の重要性から,この時期原告から有給休暇の申請がされても,業務の必要上,時季変更権を行使せざるを得ないところであった。しかるに原告の上記行動のため,被告は,時季変更権を行使することができなかった。このため被告は,代替要員を確保する必要に迫られ,川越営業所の通常業務及び本社の人事業務は混乱した。このように,原告の有給休暇の申請は,権利の濫用として効力を生じないものである。
ウ したがって,原告は,3月31日から4月9日までの間無断欠勤しているのであるから,この間の賃金請求権を有しない。
エ 被告は,法令遵守及び早期解決の観点から,川越労基署と相談し,有給休暇の申請を4月6日とみなし,時季変更権を行使した結果として3日分を控除し,1日分の9200円を支払ったので,解決済みである。
(3) 請求の原因(3)について
ア 被告においては,営業手数料は,社員が支払予定日に在職・在籍していることを要件としている。営業手数料は一律の労働対価ではなく,業績についての成功報酬である。業績により粗利益等の査定を受けた後に支払われるものであって,未査定のまま支給額が決定されることはない。査定終了まで在職していない場合には支給することは不可能である。
この在職要件は,就業規則(乙1の2)のうち賃金規程の7枚目に記載されている。この部分は,労基署には届け出ていないが,原告入社以前から確立した運用をしてきたところで,原告にも十分説明している。
イ 営業担当社員の職務は,契約締結のみでなく,契約締結後も図面,見積書,仕様書等の記載内容の確認及び契約図書どおりに工事が進行していることを確認し,問題点を早期に発見することで損失が発生することを防ぐことも含まれる。引渡後の施主からのクレーム対応窓口となり,手直し工事の確認・対応をすることも含まれる。被告では,これら業務を行ったこと,工事原価額の精算及びその遂行態度,今後の営業活動への期待等,諸般の事情を総合的に考慮・検討して,最終的な利益率に応じた相当な営業手数料を決定し,支給している。具体的には,実行予算等を基に粗利益を確定した上で,上棟時に営業手数料の一部を前払いし,最終的な粗利益額が確定した後に,この前払分を控除した残額を支払っている。したがって,上記作業が終了し,粗利益の有無・金額が具体的に確定した後でなければ残額を支払うことはできない。手数料請求書(甲5の1及び2)は,あくまでも営業担当社員からの請求であって,その額で確定するものではない。
ウ 営業手数料については在職要件がある以上,被告に支払義務があるものではないが,予備的に次のとおり主張する。本件で問題となっているB邸(甲5の1の件)及びC邸(甲5の2の件)に関する営業手数料の額は別紙1のとおりである。甲5の1及び2と別紙1とでは,粗利益の金額が異なるが,これは甲5の1及び2記載の(工事)実行金額が,実際にはこの額でなかったからであって,実際の額は別紙2及び3のとおりである。これにより,粗利率も異なり,報奨率も異なってくる。さらに,原告は中途で退職したため,これを引き継いだ担当者に各5万円の営業手数料を支払ったので,仮に原告に支払う分があるとしても,別紙1の「報奨金残額」の欄外に記載の計14万9733円となる。
3 原告の反論
(1) 被告の主張(2)について
ア 原告は,3月29日に有給休暇の申請をした。原告は,同日夕方被告の埼玉ブロック長のDに同申請書をファクス送信したが,同人が不在のため,事務員のEに翌日Dに渡すよう依頼し,同人はこれを了承した。
イ 原告は,出勤簿の記載とは異なり,有給休暇中も引継業務を行った。後任のFに,原告が担当していたG邸,H邸の件の引き継ぎをした(当事者間に争いがない。)。原告は,4月1,4,7日の各日,それぞれ出勤して引継業務を行った。
(2) 被告の主張(3)について
ア 営業手数料の在職要件は原告の在職中は存しなかった。賃金規程は全6枚であった。乙1の2の賃金規程には7枚目があるが,これは被告が原告の退職後追加したもので,体裁上も本文との一体性がない。乙1の2の賃金規程は,4枚目に「付則」があって実施日が記され,最終頁であることが示されており,その後は「別表1」「別紙1」があるのに,その次に本文のような体裁の7枚目があるのである。被告は当初この部分のない賃金規程である乙1を提出し,これを撤回して乙1の2を提出した経緯がある。
原告がこの在職要件を知っていれば,営業手数料の受領前に退職することはあり得ない。
イ 請求の原因(3)イの実行工事予算額は,工事課がその原案を,①請負契約成立時,②着工時,③工事完了・引渡時の各時期に作成する。不測の事態に備え,早い時期ほど予算額を多めにするので,報奨率は低くなる。
ウ 着工時の実行工事予算額の原案は,東京本部の取締役の承認を得たとき,実行予算確認書と呼ばれ,前記Dに渡され,同人の調査・確認を経て正式な実行工事予算額となり,各営業店の経理に渡される。
エ 最終営業手数料請求書(甲5の1,2)は,東京本部から請負代金総額入金済みの通知を受けて建物の完成・引渡後,川越店の経理担当者がDから送られた実行予算確認書に基づき作成した。原告はこれを受け取り,Dに提示し,承認を求めた。Dは,営業手数料請求書に関する実行予算確認書及び上棟時の支払済み営業手数料請求書の控えを持っており,関係データをパソコンに入力済みなので,最終営業手数料請求書と前記データを照合し,さらに施主からの入金,工事の経過,建物の竣工等を関係先とリアルタイムで照会・確認した。このようにして,同人は1請求書当たり10分程度で調査・確認して請求書を承認し,押印していた。
したがって,Dの押印のある最終営業手数料請求書(甲5の1,2)は,査定済みで支給すべき営業手数料が確定した文書であり,この金額が減額される根拠はない。
第3 当裁判所の判断
1 賃金請求について
(1)ア 前記当事者間に争いがない事実,証拠(甲4,6)及び弁論の全趣旨によれば,原告が,平成19年4月10日をもって退職することで被告と合意していたところ,原告は有給休暇を申請して,同月31日から4月2日までと,4月5日から同月9日まで,休暇を取得していたが,実際には,この間2ないし3日出勤して引継業務を行った事実が認められる。
イ 被告は,有給休暇の申請に関しては,第2,2(2)記載のように,就業規則の定めにより,3日前に申請することを要し,被告が時季変更権を行使することがあるのに,原告がこの定めを遵守せず,原告の机の上に休暇願を置いていてこれが4月6日に発見されただけで適正な時期に申請せず,またこのため,被告の時季変更権を行使する機会が失われ,被告の事業の正常な運営を妨げたので,休暇の申請が権利の濫用に当たると主張する。
ウ しかし,甲6の2通の休暇の届出用紙(なお,うち1通の休暇年月日の欄の「3月30日」は3月31日の誤記と認められる。)は3月29日付けで作成されており,責任者欄に同日付けの「I」という押印がされていること,甲4の出勤簿でも上記届出どおりの記載がされていることが認められる。そして,この「I」は,証拠(乙4)によれば,当時被告川越店の店長代理を務めていたものであることが認められるから,原告は,責任ある立場の者に,遅くとも2日前には休暇を申請をしたものというべきである。乙2の出勤簿は,甲4と同じものに,被告が有給休暇を認めたくないがために,「欠」という文字を後から書き込んだものと考えられる。
エ ところで,上記のように,3月31日から4月2日までの休暇の申請には,3日前という就業規則の定めに関し,2日前の申請であるので,1日の不遵守がある。このような就業規則の定めは,休暇の取得が使用者の事業の正常な運営を妨げ得る場合に,使用者が時季変更権を行使する機会を得るためのものと解される。しかし,有給休暇の権利は,勤続期間と全労働日の8割の出勤という要件を充足した場合に当然に発生するものであり,労働者の請求によりはじめて生じるものではない。であれば,このような事前申請の定めに関する,3日のうちの1日の不遵守に,欠勤という効果を生じさせるのは相当でない。かつ,本件のように,労働者が退職間際に未消化の有給休暇を消化しようとする場合には,使用者が時季変更権を行使すれば,労働者は当然に行使し得る有給休暇の権利を行使できなくなるので,この時期の時季変更権の行使は通常許されないと解すべきであるから,時季変更権の行使のための上記就業規則の定めを重視することはできないというべきである。
したがって,原告はこの期間欠勤なく勤務したものとみなすべきである。
(2) 証拠(甲3の1,甲4,乙6)によれば,原告の4月分出勤は,3月21日から4月20日までの期間で16日であること,原告の基本賃金は,同年3月時点で,本給及び調整手当の合計25万円であることが認められる。そうすると,原告の4月分基本賃金は,第2,1(2)イのとおり15万3840円と認められる。被告の既払額については争いがないので,この額を差し引くと,4月分の未払賃金は,原告の請求どおり8万0640円と認められる。
2 歩合給の請求について
(1) 営業手数料の在職要件について
ア 被告は,営業手数料は社員が支払予定日に在職・在籍していることを要件とすると主張し,その根拠は賃金規程の7枚目に記載されているとし,この頁は労基署には届け出ていないが,原告入社以前から確立した運用をしており,原告にも説明していると主張する。
イ そこで乙1の2の賃金規程を見ると,同規程は,4枚目に「付則」があって実施日が記され,本文の最終頁であることが示され,その後は「別表1」「別紙1」があって,ここで完結した体裁となっていることが認められる。ところが,その次に本文のような体裁の7枚目が出現する形となっており,この7枚目は,体裁上明らかに本文との一体性がないといえる。
なお,就業規則抜粋(乙7)は,一体性がある体裁であるが,原告は受領していないと主張し,末尾の従業員の押印は原告退職後にしたものであると被告も認めているので,作成自体が原告退職後と考える余地がある。
ウ 在職要件について説明を受けたかについては,原告は否定しており,原告同様に被告の元営業社員だった者複数名が,説明を受けたことがない旨述べている(甲12)。
原告がこの在職要件について説明を受け,これを知っていれば,原告が退職を急いだ事情は認められないから,営業手数料の受領前に退職することは考えにくいというべきである。
以上を総合すると,原告の被告在職時には,明文でこの要件を定めた文書はなく,かつ口頭でも原告に説明がされたとは認め難いというべきである。したがって,周知されていない就業規則の規定であるので,原告に対し効力を生じないというべきである。
(2) 営業手数料の金額について
ア 営業手数料の算定過程については,原告は第2,3(2)ウ,エのとおり主張し,これに対し被告は,査定が完全に終了するまでは営業手数料は確定しない旨主張する。
イ 本件では,甲5の1及び2の2通の請求書の金額が最終的に確定したものであるか否かが問題となる。証拠(甲11,12)及び弁論の全趣旨によれば,この請求書は営業担当社員でなく,各営業店の経理事務担当者が作成するものであること,同担当者が作成するには,東京本部において,より上級の職の者の承認を経た工事実行予算確認書が,埼玉ブロックの責任者であるブロック長のDに送られ,同人の調査・検討を経た上で各営業店の担当者に渡されて,これにより担当者が上記書類を作成していること,営業担当社員は,上記事務担当者からこの書類を受領してDに見せて,同人の承認を得,その後社長決裁も経て,最終的に営業手数料が支払われること,の各事実が認められる。
そして,甲5の1及び2を見るに,これらはいずれも「最終営業手数料請求書」との題名で,物件の引渡し及び最終入金が済んだ後に作成されているものであること,Dの認印が押されていることが認められる。また,営業担当社員から同請求書を受け取ったDは,必要に応じ,営業手数料を50%とすることなどの指示をし,これを請求書に記入していること(甲9),このようなDによる記入のない件に関しては,請求書の金額が営業担当社員にそのまま支払われている例があること(甲8の1及び2,甲15及び16の各1ないし3),これらの件はいずれも,社長決裁を経ない段階での額がそのまま支払われていることから,社長決裁段階での減額はあまりなく,実質的にDの決裁が最終的なものであると考えられること,以上の事実が認められる。
ウ 被告は,甲5の1及び2の2通の請求書の金額は最終的に確定したものでないとし,これら請求書記載の工事実行金額が,実際にはこの額でなく,実際の額は別紙2及び3のとおりであると主張する。被告の主張は,上記請求書の作成過程を考慮すれば,甲5の1及び2作成後に,クレームによる手直し工事等があって,実際の工事金額が変わったとの主張と解される。
しかしながら,別紙2及び3を見ても,平成19年2月及び3月に発生した出費は全く計上されていないし,「追加金額」や「追加工事」の欄の金額も,甲5の1及び2記載の実行金額と別紙2及び3のそれとの差と合致しない。B邸については加圧ポンプ設置工事が同年5月以降に必要になったとのことであり(乙3),これは原告も認めているが,別紙2にはこの件も計上されている様子がない。そして,被告の主張によっても,営業手数料は毎月20日に申請を締め切り,翌月25日支払とされているところ(前記賃金規程7枚目),証拠(甲7)によれば,同年2,3月分の営業手数料は4月16日に振り込まれる旨,各営業店の経理事務担当者宛に東京本部の担当者から同月12日に連絡があったことが認められるから,その間に出費があって減額がされたということも考え難い。
さらに,被告は,原告の跡を引き継いだ担当者に営業手数料を各5万円支払ったと主張するが,この段階になって担当した者にインセンティブがあるとは到底考え難い。
したがって,上記被告の主張は採用できず,甲5の1及び2の2通の請求書の金額は最終的に確定したものと認めるべきで,原告はこれら請求書に記載の金額を請求し得るというべきである。
3 結論
よって,原告の請求は,いずれも理由があるから認容し,訴訟費用については被告に負担させることとし,仮執行の宣言を付することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 村越啓悦)
〈以下省略〉
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