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判例リスト「営業代行会社 完全成功報酬|完全成果報酬」(436)平成 3年 9月25日 東京高裁 平2(う)349号 法人税法違反被告事件

判例リスト「営業代行会社 完全成功報酬|完全成果報酬」(436)平成 3年 9月25日 東京高裁 平2(う)349号 法人税法違反被告事件

裁判年月日  平成 3年 9月25日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平2(う)349号
事件名  法人税法違反被告事件
文献番号  1991WLJPCA09256003

要旨
〔判示事項〕
◆(1) 土地仲介料収入の一部は、その金員が将来の地元対策費という性質及びその受領時期等に照らし翌期に帰属するべきものであり、また、そのように認識していたのであるからほ脱の故意はないなどとする被告人主張を排斥した事例
◆(2) 原審が被告法人のダミー法人と認定した訴外法人名義の取引による土地売上収入等については、当該訴外法人の所得として申告すべくその準備をしていたのであるから、その所得に関し、被告会社の法人税をほ脱する故意はなかったとの被告人主張を排斥した事例
◆○ 控訴審において実刑判決が維持された事例

出典
税資 203号2497頁

裁判年月日  平成 3年 9月25日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平2(う)349号
事件名  法人税法違反被告事件
文献番号  1991WLJPCA09256003

本店所在地 埼玉県三郷市早稲田五丁目五番地一五
新星商事株式会社
右代表者代表取締役 青木新治
本籍 埼玉県三郷市駒形三七五番地三
住居 同市半田一〇七六番地
会社経営者 工藤幸三
昭和一四年九月二五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成二年一月一七日浦和地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らからそれぞれ控訴の申立があつたので、当裁判所は、検察官樋田誠出席の上審理し、次のとおり判決する。

 

 

主文

本件各控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は、被告人らの連帯負担とする。

 

 

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人五木田彬、同辰野守彦連名の控訴趣意書に、これらに対する答弁は、検察官樋田誠名義の答弁書に、それぞれ記載のとおりであるから、これらを引用する。
第一  各控訴趣意中事実誤認等の主張について
1  昭和六二年一〇月期における「土地仲介料収入」のうち、「パークフィールドみさと」第二次開発事業関係の三億七〇〇〇万円について
論旨は、要するに、「原判決は、被告人新星商事株式会社(以下「被告会社」という。)が、昭和六二年一〇月期中に、ユニゾン株式会社(以下「ユニゾン」という。)の名義を使用して、株式会社小松原研修事業団(以下「小松原研修事業団」という。)と株式会社リクルート・コスモス(以下「リクルート・コスモス」という。)との間のいわゆる「パークフィールドみさと」第二次開発事業(以下「みさと第二次開発事業」という。)に関する共同事業契約を取り纒めたことの報酬として、右両社から、右ユニゾンを経由し、京葉住宅株式会社(以下「京葉住宅」という。)をダミーとして、合計三億七〇〇〇万円を受領しながらこれを秘匿した旨、認定している。しかし、〈1〉被告会社が右両社から金員を受領した趣旨は、原判示報酬としてではなく、みさと第二次開発事業を円滑に進捗させるための将来の地元対策費としてであり、かつ、受領した金額は、昭和六二年一二月一五日に一億九〇〇〇万円、同六三年五月一八日に六〇〇〇万円の合計二億五〇〇〇万円に過ぎない。〈2〉右二億五〇〇〇万円の収益の帰属時期は、(a)将来の地元対策費という性質及びその受領時期に照らし、(b)仮にそれが右共同事業取纒めの報酬とみられるとしても、その取纒め委託契約が成立した時期、取纒め業務が実質的に終了した時期、右報酬中の被告会社の取り分が確定した時期に照らし、昭和六三年一〇月期とみるべきである。〈3〉少なくとも、被告人工藤幸三(以下「被告人」という。)としては、右収益が二億五〇〇〇万円であり、かつ、昭和六三年一〇月期に帰属するものと認識していたのであるから、被告人には逋脱の故意はない。以上に対し、原審は、原審弁護人の証人申請を不当に却下した上、証拠の取捨選択を誤つて前示認定をしたものであつて、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認、法令適用の誤り等があつて、破棄を免れない。」というのである。
しかし、原判決挙示の関係証拠を総合すれば、被告会社が小松原研修事業団及びリクルート・コスモス間の共同事業契約取纒めの報酬として三億七〇〇〇万円を取得した旨認定し、これを被告会社の昭和六二年一〇月期の「土地仲介料収入」に計上した原判決は、右金員の性質、帰属時期及び逋脱の故意の点を含め、正当として是認することができ、その他記録を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて検討しても、右判断を覆すに由ないものというべきである(ちなみに、原判文及び所論中、「会計年度」とあるのは「事業年度」の明白な誤記と認める。)。以下、所論に鑑み、若干補足説明する。
原判決挙示の関係証拠、殊に被告人の検察官に対する平成元年四月一三日付、同月一九日付各供述調書、川又秀信、小野吉男(平成元年四月一七日付、四四枚綴りのもの)、田中隆、梅田光一、南川淳一の検察官に対する各供述調書、小室忠道の収税官吏に対する質問てん末書、収税官吏作成の土地仲介手数料収入調査書及び支払名義料調査書によれば、以下の事実が認められる。
(1)  不動産開発等を業とする小松原研修事業団は、昭和五六年ころ三井不動産株式会社等から埼玉県三郷市所在のマンション建設用地を購入し、同五八年以降、勤労者住宅協会と共同して右宅地のうち「東街区」と呼称される部分の開発(いわゆる「パークフィールドみさと」第一次開発事業)を行つたが、残つた「西街区」と呼称される部分(約一〇万平方メートル、有効面積約七・七万平方メートル)については、勤労者住宅協会が共同事業の主体とならない意向を示していたため、これに代わる相手方を探していた。
(2)  被告人は、昭和六二年の初めころ右の事情を小松原研修事業団の専務小野吉男(以下「小野」という。)から聞き、被告会社において、小松原研修事業団の相手方としてリクルート・コスモスを紹介して両社の間に共同事業(契約上は、小松原研修事業団が同社所有の前記宅地を担保としてリクルート・コスモス側から右宅地の時価相当額の融資を受け、造成、マンションの建設及び分譲後、マンションの分譲利益を両社で分配する形となるが、小松原研修事業団に対する分配金をもつて右融資金額と相殺するというものであるから、その実態は、小松原研修事業団からリクルート・コスモスへ前記宅地を売却するものであつて、開発の許認可を受けていた小松原研修事業団を事業主体として残しておく必要があつたため、同社との共同事業という形式をとつたものにほかならない。)の契約を締結させて報酬を得ようと考え、かつ、その報酬を裏金とするため被告会社を表面に出さない目的その他の思惑から、同年春ころ、以前リクルート・コスモスと取引した経験があり、同社の実情に詳しいユニゾンの代表取締役梅田光一(以下「梅田」という。)に対し、右の情報を知らせた上、同社をしてリクルート・コスモスの意向を打診させた。
(3)  リクルート・コスモスにおいては、同年二月ころから大和ビルヂング株式会社(以下「大和ビル」という。)から得た情報に基づいて小松原研修事業団と交渉していたが、ユニゾンの働き掛けを契機として交渉を積極的に進めたところ、小松原研修事業団においても、被告人の指示を受けた梅田の働き掛けなどによりリクルート・コスモスを相手方とすることに乗り気となつたため、同年七月ころ以降、小松原研修事業団とリクルート・コスモスとの話合いが急速に進捗して、同年九月初旬までには両者の間でみさと第二次開発事業に関する基本合意が成立し、同年九月九日付の「共同事業体による三郷マンション建設分譲に関する基本合意書」が作成される運びとなり、その後、右基本合意に基づき、両社の間で共同事業契約が成立して同月三〇日付の「共同事業契約書」が作成された。
(4)  被告人は、梅田をして、小松原研修事業団とリクルート・コスモスに対し、共同事業契約取纒めの報酬として、三パーセント(不動産売買の場合に認められている仲介手数料の上限であり、本件においては、共同事業契約が成立した場合に小松原研修事業団が取得することとなる利益分配金―約二〇〇億円と予想されていた―の三パーセントの趣旨である。)を要求させたところ、小松原研修事業団の小野は、同年八月ころ、ユニゾンの背後に被告人がいることを知り、右要求は多大に過ぎるとして被告人と直談判した上、しぶる被告人に対して「その代わり、今後行う開発に当たつて埋め合わせするから」などと言つて説得し、結局、小松原研修事業団が支払う報酬額を一億円に値切つてしまつた。一方、リクルート・コスモスにおいては、ユニゾンより先に情報を提供してくれた大和ビルにも報酬を支払う必要があつたことから、ユニゾン及び大和ビルの両社に対して、それぞれ三億二二〇〇万円(その合計が前記利益分配金の三パーセントに当たる。)を支払うこととし、両社とリクルート・コスモスとの間で、これを明らかにする昭和六二年九月一日付の「共同事業取りまとめ委託契約書」「以下「委託契約書」という。)を作成した。
(5)  被告人は、梅田に対し、同事業契約取纒めの報酬が入れば、その一部をユニゾンに分配する旨約束していたところ、昭和六二年八月下旬ころ小松原研修事業団とリクルート・コスモスとの共同事業契約成立が内定し、ユニゾン名義で受領する報酬の合計金額が四億二二〇〇万円と決定したので、その直後の話合いで、被告会社の取り分を三億七〇〇〇万円、ユニゾンの分を五二〇〇万円とすることとし、梅田の了承を得た。そして、被告会社の所得となる残りの三億七〇〇〇万円を秘匿する目的で、知人の南川淳一(以下「南川」という。)に依頼して探させた京葉住宅(代表者は、菊池清、以下「菊池」という。)をダミーとすることとして、同社には名義使用料として一億二〇〇〇万円を支払うことを約束した。
(6)  前示(4)の委託契約書の趣旨に従い、ユニゾンの口座に、同年一一月四日、小松原研修事業団から一億円が、同年一一月二六日、リクルート・コスモスから三億二二〇〇万円がそれぞれ振込入金されたが、被告人は、入金された合計四億二二〇〇万円のうちユニゾンの取り分である五二〇〇万円を除く残りの三億七〇〇〇万円について、同年一二月一五日にユニゾンから京葉住宅の銀行口座に振り込ませ、即日、南川をして現金化させて、うち一億二〇〇〇万円を京葉住宅に名義料として支払い、残りの二億五〇〇〇万円を南川から受け取つた。なお、京葉住宅が受領した一億二〇〇〇万円のうち、一〇〇〇万円は紹介者の南川が、一〇〇〇万円は菊池の代理人として行動した小室忠道が取得した。
以上(1)ないし(6)の事実関係によると、被告会社の実質上の経営者である被告人は、みさと第二次開発事業について、ユニゾンの梅田の協力を得て、小松原研修事業団に対して、リクルート・コスモスを共同事業の相手方とするよう働き掛けると共に、リクルート・コスモスに対し、小松原研修事業団との共同事業に参加することを勧め、リクルート・コスモスと小松原研修事業団の共同事業(ジョイント・ベンチャー)契約(その実質が土地売買契約であることは、前示(2)のとおりである。)の取纒めに成功したことから、その報酬(原判決のいう「ジョイント料」であり、その実質は土地売買の仲介手数料である。以下、本判決においても「ジョイント料」という。)として、小松原研修事業団及びリクルート・コスモスから、ユニゾンの名義で合計四億二二〇〇万円の金員を受領し、うち五二〇〇万円をユニゾンに配分し、残りの三億七〇〇〇万円を取得して、その中から一億二〇〇〇万円を京葉住宅に名義使用料として支払つたものと認められる。したがつて、被告会社が昭和六二年一〇月期に収入として計上すべき土地仲介料として三億七〇〇〇万円を取得したことが明らかである。
以下、右認定に反する所論につき、順次検討する。
第一に、所論は、原判決挙示の被告人の検察官に対する供述調書や収税官吏作成の調査書中の被告人の供述記載(以下「捜査段階の供述」という。)の信用性を争うのであるが、原判決も説示するとおり、被告人の捜査段階の供述には内容に一貫性が認められる上(被告人は、収税官吏の事情聴取に対し、昭和六三年五月一九日の時点において、みさと第二次開発事業に関する土地仲介収入について、昭和六二年一二月一五日にユニゾンから被告会社がダミーとして利用した京葉住宅の銀行口座に三億七〇〇〇万円を振り込ませ、そのうち一億二〇〇〇万円を京葉住宅に名義料として支払い、残りの二億五〇〇〇万円を受領したが、右金員は小松原研修事業団とリクルート・コスモスをジョイントさせたことによる成功報酬である旨明確に供述し、その後の収税官吏や検察官の取調べに対しても、同旨の供述を繰り返しているのである。)、梅田や南川だけでなく、リクルート・コスモスの田中隆、小松原研修事業団の川又秀信、小野らの関係供述とも整合若しくは符合していることが認められるから、被告人の捜査段階の供述の信用性はたやすく否定できないところである。
所論は、被告人の捜査段階の供述が信用できない理由として、「被告人は梅田からの依頼に応じて殊更虚偽の供述をしたものである。すなわち、被告人は、昭和六三年三月中旬ころ梅田から、ユニゾンがダミーとして利用した京葉住宅は実在しないことが判明し、同月末日のユニゾンの決算期を控え脱税を摘発される虞が生じたので、ユニゾンから京葉住宅に宛てて支払われた形となつている三億七〇〇〇万円の金員は全額被告会社が受領したことにして貰いたい旨依頼され、即答を避けたものの、その後同年五月一一日には被告会社に査察が入る事態となり、ユニゾンの税申告期限も迫つたことから、梅田の依頼に応じることとして、その旨返事した上、同月一八日に同人から現金六〇〇〇万円を受領し、以後、同人と口裏を合わせて被告会社に不利な虚偽の供述を繰り返し、原審第一回公判期日においてもこれを維持したものである。」というのである。
確かに、被告人の原審第四、第五回公判期日における供述(以下「被告人の原審供述」という。)中には、右所論に副う部分が存在する。しかし、前示のとおり、京葉住宅をダミーとして利用したのは被告会社であつてユニゾンではないから、京葉住宅が実体のない会社であることが発覚して困るのも被告会社の筈であつて、梅田の方から一方的に工作を持ち掛けるのは不自然であること、被告会社の方は現に査察を受けているというのに、未だ税務当局の調査も行われていないユニゾンの脱税工作に協力するという危険を冒し、しかも、その対価として六〇〇〇万円を受領したというのは一層不自然、不合理であること、その他内容的に曖昧、不自然な供述が多々含まれていることに照らし、被告人の右原審供述はたやすく措信できないものといわなければならない。被告人は、当審において、最初に取り調べた証人梅田の口から黒川憲一(以下「黒川」という。)の名前が述べられるや、原審供述を変更し、梅田と黒川を一体のものと考えていたために原審では黒川の名前を出さなかつたけれども、被告人に対しユニゾンのために虚偽の供述をして貰いたい旨依頼して六〇〇〇万円を提供したのは、梅田ではなくて黒川であつた旨供述するに至つたのであるが、被告人は、原審では、弁護人からの質問に対し、自己の主張を裏付ける者は梅田で、同人を取り調べて貰えば真相が判る筈であり、他の人を庇つたりしていることはない旨明言していたのであつて、被告人が原審で黒川の名前を出さなかつた理由として説明するところにも納得できるものがないから、当審における被告人の供述は、原審供述と同様、俄に信用し難いところである。そして、当審証人梅田、同黒川は、いずれも、被告人に対して虚偽の供述を依頼したようなことはない旨供述しているのであつて、少なくとも右両名の供述が被告人の原審供述に副うものとは認められない(もつとも、黒川は、昭和六三年五月ころ被告人から要求されて預かつていた七〇〇〇万円の現金の中から六〇〇〇万円を被告人の妻に手交した旨被告人の原審供述に副うかのような証言をしている。しかし、右証言は、黒川が七〇〇〇万円を預かつていた理由について曖昧であり、自己のものになるかどうか、それが何時確定するか、全く判らないというのに、七〇〇〇万円の現金を自宅に保管し、被告人から要求されるや、勝手に一〇〇〇万円だけ除外して残りを被告人に返却した、というのも不自然であつて、そのままには措信できない上、右六〇〇〇万円の性質や返却の理由及び経緯の点で被告人の原審供述と食い違うものであるから、結局、右証言は、被告人の原審供述を補強するものとはいえない。)。
してみると、原判決が被告人の捜査段階の供述を措信したことに誤りはなく(原判決の理由中「弁護人の主張に対する判断」の項の説示の中には、原審弁護人の主張や被告人の原審供述の趣旨を誤解したとみられる部分や措辞が必ずしも適切とはいえない部分もない訳ではないが、被告人の原審供述を措信できないとして排斥した結論において正当である。)、これを争う所論は理由がない。
第二に、所論は、被告会社が、みさと第二次開発事業に関して受領した金額は、原判示の三億七〇〇〇万円ではなく、昭和六三年五月一八日に追加された六〇〇〇万円を合わせても二億五〇〇〇万円に過ぎない、と主張し、その理由として、「原判決において被告会社がダミーとして利用したと認定されている京葉住宅及び菊池は実在せず、被告会社以外の第三者が自己の必要のために創作したダミーであり、そうすると、被告会社が名義使用料として京葉住宅に支払つたものと認定されている一億二〇〇〇万円も、実際には、実在する第三者が取得したことになるのであつて、これが被告会社の所得になるものとは認められない。」というのである。
しかし、前示のとおり、被告人は、被告会社がみさと第二次開発事業に関して取得した右三億七〇〇〇万円の秘匿を図り、南川をしてその受け皿として利用できるダミー会社を捜させた結果、京葉住宅を利用することとし、右三億七〇〇〇万円を京葉住宅の銀行口座に振り込ませた上、即日南川をしてこれを現金化させ、うち一億二〇〇〇万円を同社代表者の菊池に対して支払い、残額の二億五〇〇〇万円を受領したものである。そして、菊池に対して支払つた一億二〇〇〇万円は、京葉住宅をダミーとして利用したことの対価、換言すれば、いわゆる脱税協力金にほかならず、法人税法上損金とは認められないものであるから、これを被告会社の所得から控除すべきいわれはなく、結局、三億七〇〇〇万円全額が被告会社の所得になるものというべきである。確かに、京葉住宅の実体は証拠上明らかではなく、その実在性に疑問の余地がないではないが(但し、代表者と称する菊池については、南川のみならず、小室宅研経営者の小室忠道が収税官吏に対し具体的に供述しているところであつて、その実在性は否定すべくもない。)、所論にもかかわらず、架空の、あるいは登記簿上のみの存在に過ぎない会社こそ、むしろ典型的なダミー会社と呼び得るものである。そして、京葉住宅の実在性の如何にかかわりなく、被告人において同社の名義や銀行口座をダミーとして利用し、その対価として、被告会社の取得した三億七〇〇〇万円の中から一億二〇〇〇万円を支払つたことは動かし得ない事実であつて、これを取得したのが京葉住宅の名を藉りた第三者であつたとしても、そのことから直ちに右一億二〇〇〇万円が当初から被告会社の所得となつていなかつたというのは、論理の飛躍以外の何物でもない。
この点に関し、所論は、京葉住宅をダミーとして利用したのは被告会社ではなく、ユニゾンであると主張するかの如くであるが、これが被告会社であることは当審証人黒川の証言を含む関係証拠上明らかであつて、これに反する被告人の原審供述は措信できない。なお、所論は、一億二〇〇〇万円という金額は異常に多く、いわゆるB勘屋に対する脱税協力金としてはバランスを失していると主張するが、関係証拠によれば、右金額の中には、京葉住宅に納税の必要が生じた場合の税金相当分六〇〇〇万円並びに南川及び菊池の代理人に対する謝礼各一〇〇〇万円が含まれていることが窺われるので、これらを差し引いた実額は四〇〇〇万円に過ぎず、被告人がこれまでに自己の支配下の企業以外に支払つた脱税協力金がおおむね秘匿金額の一〇パーセントであつた事実と対比してみても、異常に多いものとも、不自然であるものとも認められない。この所論も採るを得ない。
第三に、所論は、被告会社が受領した金員は、ジョイント料ではなく地元対策費である、と主張し、その理由として、「二億五〇〇〇万円(ないし原判示の三億七〇〇〇万円)という金額は、単にユニゾンの背後で糸を引いたに過ぎない被告会社に対するジョイント料として多過ぎる上、みさと第二次開発事業については、事業主体が民間業者であるリクルート・コスモスに変更されたことから、地元の反対運動が予想され、地元対策の必要があつたし、現に被告会社が地元対策を行つたにもかかわらず、右金員のほかには被告会社に支払われた金員はない。」というのである。
しかし、前示のとおり、被告会社の実質的経営者である被告人は、小松原研修事業団に対し、ユニゾンの梅田を通じて、みさと第二次開発事業の共同事業の相手方としてリクルート・コスモスを勧め、一方、リクルート・コスモスに対し、小松原研修事業団側の情報を提供するなどしたものであつて、その結果、小松原研修事業団とリクルート・コスモスの共同事業契約の締結に至つたのであるから、被告会社には相当額のジョイント料を受領する権利があるというべきところ、本件ジョイント料は、二〇〇億円を超える大規模な事業(実質的な売買価格ともみられる小松原研修事業団の利益分配金は、二一四億六九〇〇万円である。)に係るものであり、これが四億二二〇〇万円(ユニゾンの受領分五二〇〇万円を含む。)となつたのは、被告人や梅田において、当初、小松原研修事業団及びリクルート・コスモスに対し、売買の場合に認められている仲介手数料の上限である三パーセント(宅地建物取引業法四六条、昭和四五年建設省告示一五五二号第一参照)の金額の支払いを要求したところ、小松原研修事業団においては、専務の小野が、ユニゾンの背後に被告会社があることを知り、被告人と直談判した結果、被告人の納得を得て、支払金額を一億円と決め、一方、リクルート・コスモスにおいては、情報を提供して共同事業契約成立のために尽力してくれた大和ビルにも報酬を支払う必要があつたことから、大和ビル及びユニゾンに各三億二二〇〇万円(その合計が前記二一四億六九〇〇万円の三パーセントに該当する。)を支払うこととしたためであり、更に、右四億二二〇〇万円の分配については、被告人が梅田と協議した結果、被告会社が三億七〇〇〇万円を取得し、ユニゾンが五二〇〇万円を取得することになつたものである。このような共同事業契約締結のために被告会社が果たした役割、共同事業の規模、ジョイント料決定の経緯等に鑑みれば、四億二二〇〇万円というジョイント料が多額といえないことはもとより、被告会社とユニゾンの内部分配の結果についても、これが特に不自然であるとは認められないところである。そして、関係証拠を検討してみると、みさと第二次開発事業の遂行者が民間業者であるリクルート・コスモスに事実上変更されたことに伴う地元住民らとのトラブル発生の一般的可能性は、否定できないとしても、当時、右事業に関して現実に地元対策の必要が生じていたものとは認められず、被告会社が、具体的な地元対策をした事実も地元対策のために費用を支出した事実も認められない上、被告人は、捜査段階において、昭和六一年一〇月期、同六二年一〇月期の対策費収入に関して詳細に供述し、ほかに対策費収入はない旨明言しているのである(もつとも、被告人の検察官に対する供述調書中には、被告会社がパークフィールドみさとの第一次、第二次の開発を通じて、合計約一億三〇〇〇万円を地元対策費として支出した旨の記載が存するが、その相手方は昭和六三年一月に死亡した岡田と白井の両名であるというのであるから、右供述調書の記載をもつてしても、みさと第二次開発事業に関して地元対策費が支出されたものと認めるに由ないところである。)。
これらの諸点に鑑みると、被告会社がジョイント料として受領した金員は、その全額につき昭和六二年一〇月期に帰属する土地仲介料と認められ、その旨認定判示した原判決に誤りはない(なお、被告人の関係供述調書や当審における黒川の証言などの中には、本件金員は地元対策のために被告会社に支払われたものである旨の供述が散見されるが、これをよく検討してみると、小松原研修事業団やリクルート・コスモスが被告会社に対して、みさと第二次開発事業について地元対策という役務を負担させ、その対価として本件金員を被告会社に支払つたものである旨を供述しているのではなく、小松原研修事業団やリクルート・コスモスの被告会社に対するジョイント料の中には、地元の有力業者である被告会社に対する顔繋ぎないし挨拶の趣旨が含まれている旨を供述しているものと解されるから、これらの供述をもつてしても、本件ジョイント料を所論の「地元対策費」と認めることはできないところである。)。
第四に、所論は、「仮に、原判示のとおり、被告会社が取得した二億五〇〇〇万円(ないし三億七〇〇〇万円)がジョイント料であるとしても、〈1〉小松原研修事業団とリクルート・コスモスの共同事業取纒めの業務が実質的に終了した時期は、昭和六二年九月一日付の委託契約書において委託期間を締結日から三か月としている点などに徴し、同年一一月末日ころとみられる上、〈2〉ユニゾンとリクルート・コスモスとの右取纒め委託契約が実質的に成立した時期は、委託契約書に記載された昭和六二年九月一日ではなく(委託契約書は、添付された共同事業契約書案に同月九日付の図面が引用されている点やリクルート・コスモスから小松原研修事業団に支払われるべき分配金の金利起算日が同月三〇日付の共同事業契約書と同一になつている点に徴し、日付を遡らせたものと認められる。)、リクルート・コスモスからジョイント料が支払われた直前のことで、同年一一月中旬以降であり、〈3〉小松原研修事業団とリクルート・コスモスからユニゾン名義で受領したジョイント料の合計四億二二〇〇万円のうち被告会社が取得する金額が確定した時期は、同年一二月中旬以降であるから、いずれの点からみても、二億五〇〇〇万円(ないし三億七〇〇〇万円)の本件ジョイント料は、翌六三年一〇月期に帰属するものというべきである。」と主張する。
しかし、本件金員がジョイント料と認められることは、前示のとおりであり、小松原研修事業団とリクルート・コスモスとの協同事業契約が、契約書に記載のとおり昭和六二年九月三〇日に締結されたことは、関係証拠上否定できないところであるから、被告会社の共同事業取纒めという業務も、右契約締結の時点で終了しているのであり、所論指摘〈1〉の委託契約書における委託期間の記載は、必ずしも、所論の根拠となるものとは考えられない。
また、所論指摘〈2〉の委託契約の実質的な成立時期について検討するに、所論が前提とする委託契約書の作成日付に関し、当事者であるリクルート・コスモスの田中隆及びユニゾンの梅田は、いずれも、検察官に対して、委託契約書の作成日付を遡らせた記憶はない旨供述している上(梅田は、当審においても、必ずしも明確ではないものの、委託契約書の作成日付を遡らせたという記憶はなく、委託契約書と共同事業契約書は、ほぼ同じ時期に作成されたもので、暑い時であつた旨証言している。)、委託契約書に当事者として署名している大和ビルには、委託契約書の作成日付を遡らせる必要はなく、これに加担する理由も見当たらないから、これらの諸点に鑑みると、委託契約書の作成日付が所論のように大幅に遡らされているとは、到底考えられないところである。もつとも、当審における黒川の証言中には、所論に副うかの如き部分があるが、同人は、委託契約書の作成に直接関与したものではなく、日付が遡らされたものと判断した理由として述べるところも、単なる推測に止まるのであつて、たやすく措信できない。そして、委託契約書が作成される時点では、委託契約が成立しているのであるから、本件における委託契約の実質的な成立時期は、昭和六二年八月ないし九月と認めるのが相当である。なお、このことは、梅田や田中隆が、リクルート・コスモス関係の本件ジョイント料の金額は同年八月末までに大体決まつていた旨、小野や被告人が、小松原研修事業団関係の本件ジョイント料の金額は同年八月中に合意が成立していた旨、それぞれ供述していること、また、小松原研修事業団内部において、同年一〇月末の時点で「リクルート・コスモスとの共同事業の合意が成立したことから、ユニゾンに対し仲介手数料一億円を支払うので、支出の決裁を仰ぐ」趣旨の稟議書が決裁されていることなどによつても、裏付けられているものである。それ故、委託契約の実質的な成立時期が同年一一月以降であつたとする所論は、失当というほかない。
更に、ジョイント料のうち被告会社の取り分の金額が確定したのは同年一二月中旬であつた旨の、所論指摘〈3〉の点については、信用性に乏しい被告人の原審供述以外にこれを認めるに足る証拠はなく、却つて、被告人及び梅田の検察官に対する関係各供述調書によれば、前示(4)及び(5)のとおり、被告人は、小松原研修事業団やリクルート・コスモスとの交渉の進行中から、梅田に対し、ジョイント料として受領する金員のうち約三億円を被告会社の方で取得したい旨申し向け、梅田の了解を得ており、更に、同年八月下旬ころ、ジョイント料の合計金額が四億二二〇〇万円と決定した直後の話合いで、被告会社の取り分が三億七〇〇〇万円、ユニゾンの取り分が五二〇〇万円と確定した経緯が認められるのであつて、この所論も採用できない。
第五に、所論は、「仮に、客観的には被告会社の取得した本件ジョイント料の金額が三億七〇〇〇円であり、かつ、その帰属時期が昭和六二年一〇月期であつたものとしても、被告人としては、被告会社の所得となるのは、そのうち、同年一二月一五日に受領した一億九〇〇〇万円及び翌六三年五月に受領した六〇〇〇万円のみであり、かつ、これらは地元対策費として翌昭和六三年一〇月期に属するものと認識していたのであるから、三億七〇〇〇万円全額について被告人に逋脱の故意があつたと認定した原判決は、明らかに事実を誤認したものである。」と主張する。
しかし、前示のとおり、被告人は、捜査段階において、本件ジョイント料の点を含め、法人税逋脱の故意があつたことを自認しており、右自認は真実に合するものと認められる。所論は、信用性に乏しい被告人の原審供述に依拠するものであつて、採るを得ない。
なお、その余の所論にもかかわらず、記録を調査しても、原審弁護人のなした本件土地仲介料関係の証人申請を全部却下した原裁判所の措置が証拠の採否につき与えられた裁量権行使の範囲を逸脱したものとは認められず、また、原裁判所の被告人に対する質問の態度、方法に違法があつたものとも認められない。
以上のとおり、被告会社の昭和六二年一〇月期の「土地仲介料収入」中、みさと第二次開発事業関係の三億七〇〇〇万円に関する原判決の認定に所論事実誤認、法令の適用の誤り、その他の違法は認められず、論旨は理由がない。
2  昭和六二年一〇月期における「土地売上収入」等のうち、有限会社郷総合企画名義の取引によるものに関する逋脱の故意について
論旨は、要するに、「原判決は、被告会社の昭和六二年一〇月期における土地売上収入等のうち、有限会社郷総合企画(以下「郷総合企画」という。)名義の取引によるものは、同社をダミーとして被告会社の所得を秘匿したものであると認定しているが、被告会社及び郷総合企画は、いずれも被告人の実質的支配下に属する企業であるところ、被告人は、郷総合企画名義の取引による土地売上収入等については、同社の昭和六三年三月期の所得として申告すべく、その準備をしていたのであるから、右所得に関し、被告人には被告会社の法人税を逋脱する故意はなかつたものであつて、これを肯認した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認等がある。」というのである。
しかし、原審記録を調査しても、被告会社の昭和六二年一〇月期の法人税申告期限である同年一二月末日ころまでの時点において、被告人が、郷総合企画名義の取引による収益を同社の所得として申告する意思を有していたものとは、到底認められない。すなわち、関係証拠によれば、被告人は、もともと被告会社の所得を秘匿する目的で郷総合企画をダミーとして利用する意図であつたのであり、同社名義の取引による収益を、被告会社はもとより郷総合企画の所得としても、申告する意思は全くなかつたものであるが、昭和六三年一月になつて、形式的に被告会社の代表者となつている青木新治(以下「青木」という。)が実質的に経営する青木不動産株式会社に武蔵野税務署の調査が入つたことを契機として、青木において、被告会社の郷総合企画名義の取引による収益が問題になることを惧れ、顧問税理士に相談したところ、同社名義の取引による収益は同社の所得として申告した方がよいと助言され、その旨を被告人に伝えるに至り、被告人としても、ようやくこれに従い郷総合企画の所得として申告する気持になつたことが認められるのである(もつとも、被告人及び青木は、原審公判廷においては昭和六二年九月か同年一〇月ころには、郷総合企画の所得として申告する意思があつた旨供述しているが、その理由とするところに曖昧な点や不自然な点が多く、たやすく措信するを得ない。)。
また、よしんば被告人において、当初から郷総合企画名義の取引による収益を同社の所得として申告する意思があつたものとしても、当該取引は被告会社が行つたものであり、郷総合企画には企業としての実体がなく、同社名義とされている取引も実際に行つた事跡が全くない以上、そのような真実に反する申告が否認されるのは必定であり、被告人としても、そのことは十分知悉していたものと認められるから、被告人に被告会社の法人税逋脱の故意があつたことに変わりはない。この点に関し、所論は、被告会社も郷総合企画も被告人の支配下にある会社であり、郷総合企画に累積欠損が存在しない以上、被告人が被告会社の所得を郷総合企画の所得として申告することは、被告人の自由な裁量に委ねられているところであつて、何ら国家の徴税権を侵害するものではないから、被告人に法人税逋脱の故意を認めるべきではないと主張するが、到底承服し難い独自の見解というほかなく、採用すべき限りでない。
なお、所論は、郷総合企画名義の取引による所得につき被告人には逋脱の故意がないとする原審弁護人の主張に対し何らの判断を示していない原判決には、判決に理由を附さない違法があるとも主張するが、刑訴法三三五条二項の主張に対する判断遺脱は理由不備に当たらないのみならず、そもそも故意を否認するに過ぎない主張は刑訴法三三五条二項の主張にも当たらないから、これに対する判断遺脱を論ずる余地はない。所論は主張自体失当というべきである。
したがつて、郷総合企画名義の取引による所得に関する逋脱の故意についての原判決の事実認定は正当であつて、更に原審記録を調査し当審における事実取調べの結果を加えて検討しても、原判決に所論の事実誤認等は見当たらないから、論旨は理由がない。
第二  各控訴趣意中量刑不当の主張について
そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、本件は、宅地建物取引業及び宅地の造成開発業等を目的とする被告会社の実質的な経営者である被告人が、被告会社の業務に関して法人税を免れようと企て、土地売上収入、土地仲介料収入等の一部を除外し、架空経費を計上するなどの不正な方法で所得を秘匿した上、被告会社の昭和六一年一〇月期及び同六二年一〇月期の二事業年度の実際所得金額の合計が八億二八八三万六八〇〇円、課税土地譲渡利益金額の合計が六億七三六八万九〇〇〇円であつたのに、所得金額の合計が七八四万九四三三円で、課税土地譲渡利益金額の合計が五二六〇万一〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一二三六万三二〇〇円である旨虚偽過少の確定申告書をそれぞれ提出して各納期を徒過させ、もつて不正の行為により、被告会社に対する正規の法人税額合計四億八七二三万六三〇〇円との差額合計四億七四八七万三一〇〇円を免れた、という事案である。
右に明らかなように、逋脱額が巨額であり、逋脱率も平均約九七パーセントと極めて高率である上、犯行の主たる動機は、被告会社の事業遂行上必要な地元対策のための資金の蓄積というのであるが、かかる逋脱事犯において特に有利に酌むべきものとは考え難く、現実には秘匿所得のかなりの部分が被告人個人の馬券の購入や複数の異性との遊興・交際などに費消されていること、被告人は、昭和五六年一一月の被告会社設立の二年位後から脱税行為に及んでいた形跡があり、同六〇年一一月ころには所轄越谷税務署の調査を受け、その結果修正申告の上、本税、重加算税の納付を余儀なくされたというのに、性懲りもなく、本件各犯行に及んだものであること等に徴しても、犯情は全体として甚だ悪質であつて、被告人らの刑責は、いずれも重いといわなければならない。
所論は、本件逋脱金額の約三〇パーセントがいわゆる土地重課による課税分(租税特別措置法六三条一項に基づく課税土地譲渡利益に対する加算分)である点を量刑上被告人らに有利に考慮すべきである旨主張するが、逋脱事犯に対する量刑において、逋脱額の多寡を考慮するに際し、課税土地譲渡利益に対する加算分を特別に扱い、これが逋脱額の中に占める割合の大小によつて情状に差異を認めるべきものとは考えられないから、この所論には到底左袒できない。
してみると、被告会社においては、事犯の発覚後、逋脱した本税はもとより延滞税、重加算税の納付をも完了していること、被告人らは、これまで三郷市北部地域等の開発にそれなりの貢献をしてきたものであること、既に相当の社会的制裁を受けているとみられること、必ずしも再犯の虞が強いものとは認められないこと、被告人には自動車損害賠償保障法違反の罪による罰金一犯のほかには前科がないこと、その他被告人の服役が被告会社、その関連企業及び被告人の家族らに及ぼす影響等所論指摘の首肯できる諸点を十分に斟酌し、更に、同種逋脱事犯との量刑の実質的均衡の点を考慮しても、本件が被告人に対して刑の執行を猶予すべき事案とは認められず、被告会社を罰金一億円に、被告人を懲役一年六月にそれぞれ処した原判決の量刑は、いずれもまことにやむを得ないところであつて、これらが重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。
第三  結語
以上第一の1、2及び第二のとおりであつて、本件各控訴は理由がないから、刑訴法三九六条に則りこれらを棄却し、当審における訴訟費用については、同法一八一条一項本文、一八二条に従いこれを被告人らに連帯して負担させることとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 半谷恭一 裁判官 堀内信明 裁判官 新田誠志)

 

控訴趣意書
法人税法違反 新星商事株式会社
同 工藤幸三
右被告人らに対する頭書被告事件につき、平成二年一月一七日浦和地方裁判所第一刑事部が言い渡した判決に対し、被告人から申し立てた控訴の理由は、左記のとおりである。
平成二年五月一六日
弁護人 五木田彬
同 辰野守彦
東京高等裁判所刑事第一部 御中
原判決は、事実の誤認および法令の解釈適用の誤りがあり、これらの誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである上、本件の諸情状を考慮すれば、原判決の量刑は著しく重きに失し不当であるから、到底破棄を免れないものと思料する。
以下、その理由を述べる。
第一点、原判決は、左記の弁護人の主張に対する判断につき重大な事実誤認が存在する。
一、弁護人の主張
弁護人は、原審において、
(一)昭和六二年一〇月期の被告会社の所得中、「株式会社小松原研修事業団と株式会社リクルート・コスモスから共同事業契約取りまとめの報酬(ジョイント料)としてユニゾン株式会社を経由して被告会社に支払われた」とされる三億七〇〇〇万円につき、
1 金額は、二億五〇〇〇万円であること
2 その性格は、「パークフィールドみさと」第二次開発事業を円滑に勧めるための地元対策費であること
3 二億五〇〇〇万円の受領時期及びその性格から見て、右所得は翌期である六三年一〇月期に帰属すべきものであること
を主張し、また
(二)被告会社のダミーとされた有限会社郷総合企画の所得につき被告人及び被告会社にはほ脱の犯意が無かったこと
を主張して、これらの主張を立証するための証人尋問を申請した。
二、原判決の判断
しかしながら原審は、弁護人による証人尋問の申請を、被告人質問の前と後の二度にわたって却下し、これに対する弁護人らの各異議も棄却した上、判決を言い渡した。
原審は右判決において、弁護人の前記(一)の主張に対し
1 弁護人の主張は、公判廷における被告人の供述(以下、単に「被告人供述」という)に全面的に依拠したものであること
を前提とした上、主張の根拠たる被告人供述の吟味を行ない、
2 被告人は、金の性格について、一方では被告会社の受け取るべき地元対策費である旨供述しながら、他方ではユニゾンの受け取るべきジョイント料と被告会社の受け取るべき地元対策費の双方をひっくるめたものであることが前提しているとして理解できない供述をしているなど最も肝腎の点についてきわめて曖昧模糊とした供述をしていること
3 被告人が捜査段階における己の供述とこの点に関する自己矛盾に関し納得のできる説明を全くなしえていないこと
4 被告人は弁護人らの質問に対してすらすらと供述しながら、検察官や裁判所に対しては質問を逸らして答にはならない答えをもって臨み、あるいはしばしば絶句して弁護人らの顔色をうかがうなどしどろもどろの供述態度に終始していること
などから、被告人供述はそれ自体からして信を措きえないものであることは明らかであるとし、さらに、他の証拠との対比において被告人供述に吟味を加え、
5 他の関係者の捜査段階における一致した供述とも真っ向からくいちがっていること
6 そもそも被告人の当公判廷における供述は被告人との綿密な打ち合わせの結果作成されたものと認められる弁護人らの冒頭陳述書の主張とさえくいちがったものであること
7 被告人が国税庁の取り調べの最初の段階から検察官の主張に沿う供述をしていたことは、収税官吏作成の土地仲介料収入調査書中の被告人の供述記載からして明らかであること
8 被告人の当公判廷における弁解が虚構に他ならないことは疑いを容れる余地の全くないものであることなどに照らし、到底信用できないものであると評価し、他方において
9 被告人の検察官に対する供述調書は、本件に関する一連の事実関係をきわめて詳細、具体的に述べたものであって、その内容も客観的な事実関係の流れからして不合理な点のいささかもないごく自然なものであるうえ、その内容には取調官においてあらかじめ他の関係者の供述等から知りえたとは到底認めがたい事項が多く含まれており、この点からしても右供述が取調官の誘導や押しつけによるものではないことが明白であること
10 被告人の検察官に対する供述調書の内容は、梅田や南川の供述のみならず、小松原研修事業団やリクルート・コスモスの関係者との供述ともよく符号していること
等を指摘し、弁護人らの主張を排斥している。
さらに原判決は、「弁護人らが、前記三億七〇〇〇万円がジョイント料であることを前提とした上その帰属年度が昭和六三年一〇月期であるとする冒頭陳述における主張を維持しているものと解せられる」として判断を加え、
1 小松原研修事業団とリクルート・コスモスとの間の共同事業契約もユニゾンを名目人とする被告会社と小松原研修事業団及びリクルート・コスモスとの本件ジョイント料支払契約もすべて本会計年度中に締結されていることは関係証拠に照らして明らかであること
2 本件ジョイント料が小松原研修事業団とリクルート・コスモスといわゆる縁結びをしたこと自体の対価であって、右両者の共同事業に対する将来の協力に対しての対価の主旨をも含むものではないこと、関係証拠からして疑いをさしはさむ余地は全くないこと
を指摘し、右三億七〇〇〇万円を昭和六二年一〇月期の所得と認めた国税当局及び検察官の措置は正当であるとしている。
続いて、前記(二)の弁護人の主張に関しては、原判決は何らの判断を加えておらず、わずかに、前記(一)の主張を排斥するくだりにおいて「弁護人らのその余の主張につき按ずるまでもなく」との語句を挿入しているのみである。
三、原判決の事実誤認
原判決のこのような事実認定は、以下に述べるとおり、弁護人らの主張を誤解し、証拠の評価を誤ったもので不当であると言わなければならない。
(一)まず原判決は、弁護人らの主張が当公判廷における被告人の供述に全面的に依拠したものであることを前提とし、その主張の根拠である被告人供述の吟味を行っているが、こうした前提とそれに続く判断の論理構成自体が不当と言わなければならない。
弁護人の主張の根拠が当公判廷における被告人供述のみであることは、原審が弁護人の証人申請を二度にわたって却下しこれに対する異議をも棄却したためであり、証人尋問による立証の道を封じられた被告人・弁護人にとって、その主張を根拠付ける証拠方法として残されたものは公判廷における被告人供述以外にないことは明らかであろう。
弁護人らの主張と証人申請が、明らかに理由のないものであったり訴訟の遅延を意図しているものであるような場合はいざしらず、本件においては前記三億七〇〇〇万円の性格が果たして検察官主張のとおりジョイント料であったのか否か大いに疑問が存するものである。
即ち、本件においては、従来から被告会社が三郷市において行ってきた中心的業務が大手開発業者の依頼による地元対策であったこと、本件パークフィールドみさと第二次開発事業においても当然地元対策が必要であったこと、しかるに三億七〇〇〇万円の性格が検察官主張のとおりだとすれば本件において右金員以外に被告会社に対して別に地元対策費が支払われた形跡は全くないこと、にもかかわらず、被告会社はその後現実に地元対策を行っていること等の背景事実に加え、検察官より当公判廷に提出された土地仲介料収入調査書(甲八一号証)中のユニゾン(株)代表取締役梅田光一の供述には「三郷地区開発の件で、・・・工藤幸三さんから私に連絡があり、〈大規模開発になると対策費が大変である。対策費を捻出できるような会社でないと大規模開発はできない。あなたはリクルート・コスモスに顔が効き親しいだろうから三郷地区を開発する話を持ちかけてみてくれ〉・・・という話でした。。」との記載があり、三億七〇〇〇万円はジョイント料だとする梅田光一の検察官に対する供述調書(甲六四号証)と際立った食い違いを見せていること、前記土地仲介料収入調査書中には、このほかにも「ユニゾンの梅田社長から三郷地区での力のある開発業者として新星商事の工藤さんを紹介され、小松原研修事業団が工藤さんの協力を得て三郷地区の開発を行っていることを知りました」とのリクルート・コスモス新宿支社次長田中隆の供述記載や、「リクルート・コスモスの方でも埼玉県三郷地区で開発事業するには新星商事の工藤幸三と話をつけなければできないことはわかっているので・・・」との被告人の供述記載など、前記三億七〇〇〇万円の性格が地元対策費であることを伺わせる供述記載が存すること等、右金員がジョイント料だとする検察官の主張・立証に合理的な疑いを差しはさまざるをえない証拠が公判廷に提出されていたのである。
かような証拠関係を無視し、梅田光一その他についての証人申請を却下した上、弁護人らの主張の根拠は当公判廷における被告人供述のみであると決めつけ、被告人供述の吟味を行うという原審の判断構造自体がまずもって不当だと言わざるを得ないのである。
(二)次いで原判決は、被告人供述それ自体の吟味に入っているが、被告人供述が措信できぬとして列挙する各理由も以下に述べるごとく、あるものはその理由自体が失当であり、あるものは明らかに偏頗な評価であるなど、総じて不当なものである。
1 原判決は、まず、公判廷における被告人供述が「きわめて曖昧模湖」(曖昧模「糊」の誤記と見られる)としたものであると評価し、その理由として、被告人供述がリクルート・コスモス及び小松原研修事業団から支払われた金の性格につき、一方では、被告会社の受け取るべき地元対策費であるとしながら、他方ではユニゾンの受け取るべきジョイント料と被告会社の受け取るべき地元対策費の双方を含むものとしている点を挙げている。
原判決の言う「金」は、文脈からして一応、リクルート・コスモス及び小松原研修事業団からユニゾンに支払われた「金」を指すものとみられるが、他面「一方では被告会社の受け取るべき地元対策費である旨供述しながら」という表現を用いているところを見ると、最終的にユニゾンから被告会社に支払われた「金」を指す趣旨とも見られ、この点、判決文自体からは必ずしも明らかでないと言わなければならないが、「一方」と「他方」という比較をする限り、同じ「金」を指すものでなければ論理が成り立たないので、まずこの「金」がリクルート・コスモス及び小松原研修事業団からユニゾンに支払われた「金」を指すものと考えてみると、この「金」の性格は、まさに被告人供述の言うとおりユニゾンの受け取るべきジョイント料と被告会社の受け取るべき地元対策費の双方を含むものでなければならない。
即ち、前述のとおり被告会社が受け取るべき「金」は地元対策費であり、リクルート・コスモス及び小松原研修事業団も被告会社による地元対策の能力・実績に着目しその対価として金員を支払ったのであるが、これに対し、ユニゾンには三郷市における地元対策の実績も能力もなく、リクルート・コスモス及び小松原研修事業団においてもユニゾンによる地元対策費に期待などしていないのであるから、ユニゾンがこの両者から地元対策費を受け取るいわれは全くないと言わざるを得ず、ユニゾンがリクルート・コスモス及び小松原研修事業団から受領した金員はジョイント料以外には有り得ないというべきである。
そして、リクルート・コスモス及び小松原研修事業団は、まずユニゾンに合計四億二二〇〇万円の金員を支払っているのであり、その中からユニゾンが被告会社に一億九〇〇〇万円(検察官の主張及び原判決によれば三億七〇〇〇万円)を支払っているのであって、右の差額としてユニゾンに留保された「金」は、ユニゾンがリクルート・コスモス及び小松原研修事業団からジョイントの仲介手数料として受領した金員と言わなければならない。
ユニゾンの役割と被告会社の役割がこのようなものであり、リクルート・コスモス及び小松原研修事業団もこれを了解の上、ユニゾンに合計金四億二二〇〇万円を支払っている以上、リクルート・コスモス及び小松原研修事業団からユニゾンに支払われた「金」の性格は、まさに被告会社の受け取るべき地元対策費とユニゾンの受け取るべきジョイント料の双方を含むのがむしろ当然であって、そこには原判決の論難するような「曖昧模糊」なるものは全くない。
また原判決の言う「金」がユニゾンから被告会社に支払われた「金」を指すものだとすれば、右「金」は全て被告会社が受領した地元対策費であり、右「金」の中からユニゾンにバックされた金員が全くない本件においては、右「金」が「ユニゾンの受け取るべきジョイント料と被告会社の受け取るべき地元対策費の双方をひっくるめたもの」となるはずがないのであって、現に被告人供述のどこにもそのような供述が存在していなことは記録上明らかである。
要するに、この点に関する原判決の判断は、一面においては被告人供述の信用性を論難する理由とならないもので理由とするところ自体が失当であり、他面においては被告人供述を誤解し判断を誤ったものというほかないのである。
2 次いで原判決は、被告人供述における前記「金」の性格以外の点に関し「その他の点でも自己矛盾や不自然な供述が少なからず散見される」としているが、具体的に何を指すものなのかが全く不明であり、誤解を恐れず敢えて言えば実にラフな判決と言わなければならない。
3 さらに原判決は、被告人の供述態度を取り上げ、「弁護人らの質問に対してはすらすらと供述しながら、検察官や裁判所の質問に対しては答えにならない答えをもって臨み、あるいはしばしば絶句して弁護人らの顔色をうかがうなどしどろもどろの供述態度に終始している」としているが、このような評価は表面的に過ぎ独断的とさえ言わなければならないものである。
刑事事件一般に言えることであるが、法律の素人である被告人が弁護人の質問には比較的よどみなく答えるものの、検察官・裁判所の質問に対し緊張などからしばしば言いよどむ場合があることは、まま見られることであって、このことだけを取り上げて被告人供述の信用性を云々することには合理性がない。
しかも本件においては、被告人に対する裁判所の質問に威圧的・威嚇的なものが大いに存在しており、それがため被告人が公判廷において「しばしば絶句」したり、あまり強引な質問に耐えかねて弁護人らに目を向けたという事実を指摘しないわけには行かない。
即ち、原審第五回公判における被告人調書を見れば明らかなとおり、被告人は原審検察官の被告人質問の半ばまで、原判決の言うような「検察官の・・・質問に対しては質問をそらして答えにはならない答えをもって臨」んでいるようなものはなく、質問が被告人に不利なものであってもほとんど全て「はい」、「そうです」という答えに終始している。
しかしながら、その後、原審第五回公判被告人質問調書九七丁にあるとおり、検察官が「君としては、保釈になった後か前か知らんけれども、弁護士に、このくらいの事件では実刑になるということを聞かされて、初めて、今日法廷で行ったような事実に反する主張をしているんじゃないの」と質問し、被告人が「そういう観点もありますが、一番最初に申し上げたように、私自身が悪者になったということは非常に悔しいということもありまして、申し上げました」と答え、これ自体で質問とその答えとしては完結しており十分噛み合っていると見られるにもかかわらず、原審裁判官が介入し「質問に完結に答えてください。弁護士さんからそう言われたかどうかという質問です」と被告人に迫ったのである。
右の検察官の質問は記録上明らかなとおり、「弁護士から事実に反する主張をしろと言われたか」などという質問では決してなく、公訴官たる検察官が弁護人と被告人の秘密交通権に係わる事柄を公判廷で質問するはずもないことは、原審も十分承知していたはずである。
しかしながら原審は、右検察官の質問をことさらにすりかえ、あたかも被告人が検察官の質問に簡潔に答えておらず、質問をはぐらかしているかのような発言をし、被告人を不安に陥れたと言わなければならず、このような原審の訴訟行為は被告人あるいは弁護人に悪意を持っているとさえ感じられるものであったのである。
その後被告人は、被告人質問調書にもあるとおり、検察官の質問に対し「・・・」として答えない部分が存在するが、いずれも検察官の質問を見れば明らかなとおり、被告人としては「いいえ」としか答えられないものであり、にもかかわらず「・・・」いう答えに終わったのは、前記の質問に見られるような原審の被告人に対する態度を敏感に感じ取った被告人が、否定すれば裁判官の心証を悪くするのではないかという威圧を感じ、沈黙したものに他ならないのである。
ところが原審裁判官は右第五回公判の検察官の質問終了後、被告人に対し、国税庁の取り調べに関連して「(査察官が)認めれば刑事事件にしないということまで言ったと言いましたね」とたずね、被告人が「そういうニュアンスのことを言いました」と答えたのに対し、「あなた、この前の法廷ではそれは明確に否定しましたよ」という誤導にまで及んでいるのである。
原審裁判官の言う「この前の法廷で」云々というのは記録上、第四回公判被告人質問調書中の原審裁判官の「検察庁に告発はしないということを約束しました?」という質問に対し、被告人が「いや、そんなことはしません」と答え、さらに原審裁判官が「それはしていない?」と質問したことに対し、被告人が「ええ。包み隠さず言えば、そういう恩恵もあるようなことは言いました」と答えていることをさすものと見られるが、右のやりとりで明らかなように、被告人は、結局「査察官から、自白すれば告発しないと明確に言われたことはないが、そういうニュアンスのことは言われた」という趣旨の供述をしているであって、被告人が査察官の利益誘導的な行為を「明確に否定した」という原審の質問は全くの誤導といわなければならない。
多くの弁護人も同様であろうが、弁護人らはこれまで裁判所の質問に対して異議を申し立てた経験など全くなく、このときの原審の質問についても、誤導と知りつつもただ唖然としていたのである(もっとも、原審による同種の質問がさらに続いたため、記録上明らかなように弁護人もその後、裁判所の質問に対して異議を申し立てるという体験をすることとなった)。
このように原審が指摘する被告人の供述態度なるものは、原審の常軌を逸したとも言い得る威嚇的・誤導的質問によるものであり、かかる質問自体の違法性を不問にしたまま被告人の供述態度の不自然さをあげつらうことは片手落ちであり全く不当というほかはないのである。
4 また原判決は、公判廷における被告人供述を信用しない理由として、被告人が「捜査段階における己の供述とのこの点に関する自己矛盾」につき納得できる説明をなし得ていないことを挙げているが、これまた不当な評価と言わなければならない。
原判決のいう自己矛盾とは、要するに被告人の検察官に対する供述調書と公判廷における収入供述との食い違いを指すものであろうが、なぜそのような食い違いを生じたかについては原審の被告人質問調書を見れば明らかであり、弁論においても纓纓述べたとおり、本件脱税に対する素人判断から梅田光一らの虫のよい要望を受け入れ、いわば同人らと口裏を合わせてまで自己に不利益な供述をあえてしていた被告人が、その後の本件刑事事件の展開を目の当たりにして自分の素人判断の誤りに気付き、公判廷において真実を述べるに至ったものであり、この真実は右梅田光一らに対する証人尋問を実施すればたちどころに明らかになったはずである。
しかるに原審は、前記のとおり弁護人らの証人申請をいたずらに却下し、被告人供述の変遷について合理的な説明及び立証をなす道を塞いだ上で、被告人供述だけでは納得の行く説明になっていないとしてその信用性を否定しているものであり、アンフェアな評価というほかないのである。
(三)このようにして被告人供述それ自体を吟味し措信できぬとした原判決は、次いで他の証拠との対比においてさらに被告人供述に吟味をくわえ、到底信用できないとの結論に至っているのであるが、ここにおける原判決の判断も、あるものは論理的でなく、あるものは明らかに証拠の評価を誤っており、これまた不当と言わざるを得ないのである。
1 他の証拠との対比において原判決はまず、「他の関係者の捜査段階における一致した供述と真っ向からくいちがっている」ことを挙げているが、すでに再三述べてきたとおり、被告人は国税局の査察段階及びこれにつづく検察庁の捜査段階を通じ、梅田光一らの虫のよい要望を受け、同人らと口裏を合わせてことさらに自己に不利益となる供述をなしてきたものであって、その限りにおいて捜査段階における被告人の供述と梅田光一ら関係者の供述が一致していたことは当然であり、同時に、原審公判廷において被告人が真実として供述した内容と「他の関係者の捜査段階における一致した供述」とか「真っ向からくいちがっている」ことも当然であると言わなければならない。
弁護人らは、公判廷における被告人供述と関係者の捜査段階における供述とが食い違っていることを前提とし、被告人供述の真実性を立証するため右梅田光一らの証人尋問を申請したものであり、これを却下しておきながら、被告人供述が他の関係者の検察官に対する供述調書と食い違っていることを理由に信用性がないとするのは、およそ論理的でない筋違いの判断であると言わざるを得ないのである。
2 次に原判決は、原審公判廷における被告人供述が弁護人らの冒頭陳述書の主張と食い違っていると指摘しているが、こうした指摘は事実に反し意図的な曲解である。
原判決が「そもそも被告人工藤の当公判廷における右供述は」という表現を用いていることから見て、前記弁護人の主張(一)に関する被告人供述、つまり本件三億七〇〇〇万円の実際金額・性格・帰属年度にかかわる被告人供述と弁護人の冒頭陳述の当該部分に食い違いがあるとする趣旨と理解するほかないが、原審の被告人質問調書と弁護人の冒頭陳述とを対比してみれば明らかなとおり、この両者間には食い違いなど全くない。
すなわち、弁護人らは右冒頭陳述において、検察官主張の三億七〇〇〇万円に関する疑問点として、第一に、検察官主張のように被告人がリクルート・コスモスと小松原研修事業団との共同事業取りまとめに際しユニゾンの梅田光一の背後で「糸を引いた」に過ぎないのであれば、なぜそれだけで三億七〇〇〇万円もの大金を手にすることができたのか、第二に、仮に検察官主張のとおり三億七〇〇〇万円が共同事業取りまとめ報酬だとしても、右取りまとめ業務なるものは、共同事業契約の締結だけで完了するものではなく、その後右共同事業が合法的に軌道に乗ることまでも含む、即ち共同事業に対する将来の協力業務をも含むのではないのか、第三に、右三億七〇〇〇万円の授受について架空領収書を作成したとされる京葉住宅株式会社及びその代表者とされる菊池清につき、検察官の立証においては何ら明らかにされておらず、同会社がだれに依頼されてかかる行為をし、同社が受領したとされる金員はどこへ消えたのか謎のままであるという点を指摘し、これらの疑問点を明らかにするため梅田光一・南川淳一その他の証人尋問と被告人質問とを申請したものであった。
そして弁護人らは、原審において証人尋問の申請を却下された後、残された唯一の立証方法として被告人質問を行ったものであり、原審公判記録を素直に読めば右冒頭陳述と被告人供述との間に食い違いなど存在しないことは明らかであって、食い違いがあるとする原判決の指摘は全くの言い掛かりと言わざるを得ないのである。
3 さらに原判決は、検察官提出の土地仲介料収入調査書中の被告人の供述記載と公判廷における被告人供述とを対比し、「被告人が国税庁の取り調べの最初の段階から前記のような検察官の主張に沿う供述をしていたことは・・・明らかであり」と指摘し、「被告人の当公判廷における右弁解が虚構に他ならないことは疑いを容れる余地の全くないものである」と判断しているが、かかる対比は土地仲介料収入調査書記載の被告人その他関係者の供述記載の証拠評価を誤ったものであると言わざるを得ない。
原判決が指摘している土地仲介料収入調査書中の供述記載とは、同調査書「犯則行為者工藤幸三及び関係人の供述、(1)犯則行為者工藤幸三の供述」(6.3.5.19問4)と表示された部分中の「このジョイントの成功報酬として小松原から一億円、リクルートから三億二〇〇〇万円の計四億二〇〇〇万円を出すことで合意して・・・」と記載された箇所であると見られ、原判決はこの箇所に「ジョイントの成功報酬」とあることを捉えて、被告人が査察調査のごく初期の段階においてすでに検察官主張に沿う供述をしていたとし、これに反する原審公判廷の被告人供述は信用できないとしている模様である。
しかしながら、弁護人が弁論においても述べたとおり、右土地仲介料収入調査書にある他の関係者の供述記載を見ると、例えば、(63.6.7問4.5.7.8.9.10)と表示されたユニゾン代表取締役梅田光一の供述には、「三郷地区開発の件で・・・工藤幸三さんから私に連絡があり〈大規模開発になると対策費が大変である。対策費を捻出できるような会社でないと大規模会社はできない。あなたはリクルート・コスモスに顔が効き親しいだろうから三郷地区を開発する話を持ちかけてみてくれ〉・・・という話でした」という記載、また「(受取対策費の額は)・・・三億二二〇〇万円で決まりました。これはリクルート・コスモスからのもので小松原研修事業団からは工藤幸三さんが一億円と決めたようです」という記載が存在するのである。
これらの供述記載は、査察官が作成した質問顛末書に録取されたところを後になって調査書中に転記したものと見られるが、右被告人の供述記載の日付と梅田光一のそれとを比較すれば明らかなように、査察調査中の昭和六三年五月一九日と同年六月七日という接着した時期に、本件三億七〇〇〇万円の性格につき、査察官自身が、一方ではジョイント料、他方では地元対策費という相互に矛盾した供述をそれぞれ録取しているのである。
このことは、少なくとも昭和六三年五月あるいは六月という時期においては、本件の査察調査を実施した国税当局においてさえも右六億七〇〇〇万円の性格につき、確固たる見解を固めるに至っていなかったことを物語るといわなけれはならない。
しかも、本件においてリクルート・コスモスおよび小松原研修事業団からユニゾンに支払われた金員は、おそらく両者の税務上の配慮によるものと見られるが、「共同事業取りまとめ報酬」という支払名目を用いているのであり、査察調査の初期段階、しかも右金員に対する国税当局の見解すら固まっておらず、従って右金員の性格を意識した取り調べが行われていなかったと見られる時期において、被告人が右金員の支払名目に引きずられるまま「ジョイントの成功報酬」という供述をしたからといって、それが直ちに右金員の性格に対する評価をも踏まえた被告人の供述であるとは到底言い得ないことは明らかであろう。
この点を看過し、ただ表面的にのみ、原審公判廷における被告人供述と右土地仲介料収入調査書の被告人の供述記載とが食い違っているとして被告人供述の信用性を否定する原判決の判断は、明らかに証拠の評価を誤ったものであり、単なる挙げ足とりに近い不当なものというほかはないのである。
第二点、原判決の金三億七〇〇〇万円の被告会社の昭和六二年会計年度帰属についての理由に不備があり、かつ法人税法の解釈を誤っている。
一、「金三億七〇〇〇万円」の所得帰属年度について
1、弁護人らの主張
(一)「パークフィールドみさと」に関する小松原とコスモス社の共同事業の成立に伴う報酬が、仮に右共同事業成約を対象業務とする報酬であるとしても、その対象業務の終了は早くとも昭和六二年一一月半ば以降であり、この時点をもって対象業務が完了したものと解すべきで、その収益帰属年度は被告会社の昭和六三年一〇月末日に終了する会計年度である。
(二)「パークフィールドみさと」に関するコスモス社とユニゾンの間の「とりまとめ委託契約」は文書上、昭和六二年九月一日付とされているが、これは(地元対策費の早期捻出)の目的でバックデートされて作成されたもので、その実質的合意の成立も、業務の達成も、また、文書の作成自体も昭和六二年一一月半ば以降であり、後述するとおり、右「とりまとめ契約」の文言中にもバックデートされたことを明らかに物語るものが含まれている。また原判決言渡後の弁護人の調査により、都市計画法関係の許可の時期等を明らかにする証拠書類が発見されている。
2、原判決の判示内容と三億七〇〇〇万円の帰属
(一)原判決(罪となるべき事実)第二記載の昭和六二年期一〇月のほ脱所得額に、本書第一点に詳述したコスモス社、小松原からの「パークフィールドみさと」の第二期開発に関するジョイント料の金三億七〇〇〇万円が算入されていることは原判決別紙(三)添付の修正損益計算書の記載から明らかであり、その金額の収受が翌会計年度であったが、昭和六二年一〇月期の会計年度の被告会社の所得として計上すべき理由について、原判決一〇丁三行目から一一丁一行目までに左のとおりの見解が示されている。
「なお、弁護人らは、右の三億七〇〇〇万円がジョイント料であることを前提としたうえ昭和六二年会計年度の経過後小松原研修事業団やリクルート・コスモスからユニゾンを介して被告人工藤に支払われている点をとらえてこれを同会計年度の所得とみるべきではないとの冒頭陳述における主張をもなお維持しているものと解せられるので、この点についても付言するに、たしかに金員の支払は本会計年度経過後になされていることは弁護人らの指摘するとおりであるけれども、小松原研修事業団とリクルート・コスモスとの間の共同事業契約も、ユニオンを名目人とする被告会社と小松原研修事業団及びリクルート・コスモスとの本件のジョイント料支払契約もすべて本会計年度中に締結されていることは関係証拠に照らして明らかである(本件ジョイント料が小松原研修事業団とリクルート・コスモスとのいわゆる縁結びをしたこと自体の対価であって、右両社の共同事業に対する将来の協力に対しての対価の趣旨をも含むものではないことも、関係各証拠からして疑をさしはさむ余地は全くないところというべきである。)から、右報酬(ジョイント料)は、本会計年度中に具体的債権として発生したものというべく、したがって、これを本会計年度の所得と認めた国税当局及び検察官の措置は正当といわなければならず、弁護人らのこの点に関する主張も採用できない。」
(二)原判決の右の部分の要旨は、小松原とコスモス社の共同事業契約も、ユニゾンを名目人とする被告会社と右両者のジョイント料支払契約も本会計年度中に成立したので、ジョイント料は昭和六二年会計年度に発生した、というものである。
3.原判決の誤り
原判決の右の点に関する法解釈には明らかな誤りが存在する。
(一)債権発生時期
(1) 第一に、「ユニゾンを名目人とする被告会社と小松原研修事業団及びリクルート・コスモスとの本件ジョイント料支払契約」が存在した、とするなら、原判決の解くところによれば、被告会社のジョイント料はユニゾンが受領した総額である金四億二二〇〇万円で、三億七〇〇〇万円との差額が被告会社からユニゾンへの支払金として処理されるべきである。
そのような計算処理がなされていないことは原判決別紙(三)から明らかであるので、原判決は税額計算上は右三億七〇〇〇万円の被告会社への金員の支払主体はユニゾンと解しているものと解され、内容的な矛盾が存在する。
(2) この点は、単なる計算処理上の問題と済ませられない重要な論点を内蔵している。それは、金三億七〇〇〇万円がユニゾンから被告会社に支払われたものであるなら、その額が合意されたのはいつか、という点である。
真実は被告会社が金一億九〇〇〇万円を受領した昭和六三年一二月一五日の直前であり、いわばこの時点が「具体的債権」としての確定時期であった(右の事実については被告人の平成元年付供述調書五五丁裏参照)。
(3) 右のように原判決は係数処理上は被告会社への「金三億七〇〇〇万円」の入金はユニゾンからとしているにも拘わらず、報酬額が「具体的債権」として確定した時期については「被告会社と小松原研修事業団及びリクルート・コスモスとの本件ジョイント料支払契約もすべて本会計年度中に締結されている」と安直に、自己矛盾の認定をしている。
なお、梅田光一の検察官に対する供述調書三二丁には「この様な話があったのは(昭和六二年)八月の初旬ころでした」とユニゾンと被告人との仲介料の分配合意時期に関して記載されているが、これについては、原村薫作成の土地仲介料収入調査書に「梅田光一の供述(同五丁)」に梅田の関与開始時期が同年八月とされていること、ジョイントに関する正式契約が同年九月三〇日であること、小松原における金一億円の支払稟議が同年一〇月末日付で作成され、同年一一月四日に支払がなされていること(小野吉男の平成元年四月一七日付検察官に対する供述調書末尾添附の稟議書参照)等から日時についての記憶違いもしくは誘導による供述の誤りであることは明らかである(なお関係各契約の日付と現実の合意時点については後述する疑問点が存在する)。
(二)対価業務(仲介か地元対策か)
(1) 次に、右金三億七〇〇〇万円の対価となるべき被告会社の業務についてわずかに「勤労者住宅協会が手を引いて小松原研修事業団が新たなパートナーを求めるようになったところから、右被告人がユニゾンの梅田を使ってリクルート・コスモスと手を組ませようとした」(原判決九丁表)という極めて漠然とした認定しか行っておらず、既に大和ビルヂング株式会社経由で取引の話があった小松原、コスモス社の両社から、自らは全く表面に出ず、最も重要なジョイント契約の条件に何ら関与せず、所論のジョイント料の九〇パーセント近くを入手できるという極めて異例の状況について合理的な説明がなされておらず、更に各供述調書に添附されて原審における真実認定の資料とされるべきジョイントに関する契約書その他の関連文書の具体的な内容が一顧だにされていない。単純に、右両社のジョイントだけを業務としてとらえるなら、ユニゾンが取得したとされる、金五二二〇万円が相当な報酬といえよう。
小松原・コスモス社の契約は実質的な開発主体の変更であり、勤住協とのジョイントとは開発内容も変動し、コスモス社の仕様によるマンション計画への変更のため、都市計画法第二九条に基づく開発行為(変更)の許可申請を経ることを要し、県の開発許可の取消や新たに地元からの反対運動が発生する可能性が極めて強い状態でスタートし、そのことは小松原と、コスモス社間の昭和六二年九月九日付基本合意書(前記梅田調書に添附)第二条二項第七条一項等からも明らかに読み取れる。
また右事業の「とりまとめ委託契約書」において「本委託契約の期間は本日より3ケ月とする」とされ(4項)、報酬の支払時期は「共同事業契約締結後2ケ月以下」(同3項末尾)とされ、所定の「とりまとめ業務」においてすら昭和六二年一一月末までの期間を想定しているのである。
実際に右都市計画法第二九条による許可が埼玉県知事から通知されたのは一年以上後の昭和六三年一〇月一三日であり、この時点ではじめて共同事業が達成可能となるに至ったのであり、それまではあくまで流動的な状況にあった。仲介手数料という名目の金銭がそれよりも早く支払われた理由は、前述の対策費を早期に捻出し、かつ、ユニゾンにおいて早期に仲介対価を取得するためである。
(2) 右の「とりまとめ契約」は、同年九月一日付とされているものの、それに添附された「共同事業契約書案」がそれより後の同年九月九日付の図面を引用していること(共同事業契約書案第一条二項三段落、三項)、「9月9日付にて締結済の基本合意書」という文言が存在すること(同第四条一項)等から判断して何らかの理由で日付をさかのぼらせたものであることが明確である。即ち、右の「とりまとめ契約」は、同年九月三〇日付の共同事業契約成立後、同文に「案」という文字を付して後日作成されたものにほかならない。
このことは、実質的には地元対策費であるべき金銭を、「とりまとめ報酬」としてコスモス社から早期に支払えるようにしたことの傍証であり、被告人の原審公判廷における主張の裏付けとなるべきものであった。
また、ユニゾンと「京葉住宅株式会社」の覚書の調印時期が南川の検察官供述調書二〇丁表記載のとおり昭和六二年一二月一五日にバックデートして作成されたものであるなら、右「とりまとめ契約」も同じようにバックデートしたものと推認するに難しくない。
(3) このように、原判決は取り調べた証拠から明らかに了知しうる事項を看過して、本件被告会社がユニゾンから受領した金員の対価業務の内容を誤り、漫然と昭和六二年会計年度中の業務であると認定したものであり、その誤りにより前記金三億七〇〇〇万円の帰属年度に関する解釈を誤ったものである。
(三)取得主体不明の金一億二〇〇〇万円の収益計上、経費否認
(1) 原判決は、検察官立証により「京葉住宅」が取得したものとされる金一億二〇〇〇万円を「名義貸料として一億二〇〇〇万円を支払うことを約し」「(これを)さしひいた二億五〇〇〇万円を受け取った」と認定している(原判決九丁表末尾)が、真実はこの「京葉住宅」もその代表者「菊池清」も実在しないものであり、実在することを供述した南川の調書、小室忠道の質問顛末書のみが同社の存在を語っているに過ぎない。
同社の本店所在地は別法人が入居しているうえ、同社の商業登記簿は関東信越国税局、検察官、弁護人のいずれにおいても入手不能であった。
(2) これらの者が虚構であることは本件において次のことを意味する。
(ア) 「京葉住宅」は被告会社のダミーではなく、他の関係者が自らの必要のために創作したダミーである。
(イ) 架空のダミーである以上、その利益(少なくとも一億二〇〇〇万円)の帰属主体は、実在している。
(3) 右の点については、南川らの人証の取調により容易に明らかにされるものであるので弁護人は二度にわたり人証取調を請求したが、いずれも却下された経過がある。
(4) 被告人、被告会社が全く関与しない架空のダミー、換言すれば実在する第三者に対し一億二〇〇〇万円以上の金額が渡ったとすれば、少なくともその額について被告会社の所得として計上することはできない、といわなければならない。また、その金額から判断してもいわゆる「B勘屋」に対する脱税協力金として金額的にバランスを失していることも指摘できる。
4、以上のとおり、原判決は、基礎となるべき事実の誤認により、前記金三億七〇〇〇万円についての収益帰属年度(対価業務の性質を含む)、金額のいずれにおいても事実認定および法人税法の解釈・適用を誤っている。
第三点、原判決には、脱税故意についての重大な法解釈の誤りならびに理由の不備がある。
一、「パークフィールドみさと」に関する収入金についての被告人の認識
1、弁護人らの主張
被告人・被告会社は「パークフィールドみさと」に関連する金一億九〇〇〇万円および後に受領した金六〇〇〇万円を地元対策費であって昭和六三年一〇月期に帰属する所得であると信じ、またそのような協議のもとに受領し、かつ、同額を昭和六三年一〇月期中に公表口座に計上したのであって、法人税法上その帰属年度が昭和六二年会計年度に属するとしても、被告人・被告会社について右所得額を昭和六二年会計年度の所得から除外して申告する犯意はなく、同法一五九条一項の適用上は、同額をほ脱所得額から除外すべきである。
2、原判決の判断
原判決においては、右の点に全く考慮をなさず、被告会社の修正所得額について法一五九条一項の適用上、同額の所得に対する税のほ脱の故意ありと安直に認定している。
3、金銭の性質について
(一)被告人は昭和六二年一二月一五日に金一億九〇〇〇万円、昭和六三年五月に金六〇〇〇万円を受領するにあたり、昭和六二年一〇月期の被告会社の所得であるという認識・認容はなく、またその時点において自社が原判決所論のジョイント料を収受しうる立場にあるとの認識も認容もなかった。
(二)このことは第一点で詳述した金銭の性質の認定にもかかわることであるが、仮に、右の金員がジョイント料の分け前であるとしても、被告人、被告会社は地元対策費として収受したものであり、「パークフィールドみさと」の開発の進捗により必要となる金員であると理解したことにつき、被告人・被告会社の過去における担当業務の性質、金銭の受領時期が同年一二月一五日であること、実際に地元対策業務が残っていたこと等に鑑み、被告人が被告会社の昭和六二年一〇月期の収入ではなく翌期の収入であると確信したことについて真にやむをえないものといえる。
4、金額について
(一)次に被告人は三億七〇〇〇万円の全額を自己の所得とし、その余をいわゆる脱税経費とする認識も認容もなく、自己には金二億円から一〇〇〇万円を控除した金一億九〇〇〇万円が入金されることしか認識していなかった。
この点の詳細は第一審の公判廷における平成元年一〇月二四日付供述書五五丁以下に詳細に記載されている。このことは被告会社・被告人において金三億七〇〇〇万円の全額をコントロールできる立場にないことを意味している。
(二)従って金三億七〇〇〇万円の全額について被告会社がほ脱の意思をもっていたという認定は明らかな誤りであり、被告人・被告会社において年度はともかく、自己の所得として認識・認容した限度は昭和六二年一二月一五日受領の金一億九〇〇〇万円と翌六三年五月受領の金六〇〇〇万円に過ぎないのである。
二、有限会社郷総合企画名義の所得金
1、弁護人らの主張
被告会社の昭和六二年会計年度における所得額中、有限会社郷総合企画に関する所得額については、同会社が申告期である昭和六二年五月末日までに申告する準備をしていたものであり、同額については脱税の犯意を欠くものである。
2、原判決の判断
本件公訴事実において有限会社郷総合企画名義の不動産取引は昭和六二年会計年度における被告会社のダミー取引としてその所得に計上され、これを含む金額が原判決(罪となるべき事実)第二および同別紙三に計上されているので、原判決はこれらを全て被告会社と認定したことは明らかである。
弁護人らの冒頭陳述、弁論要旨において、郷総合企画の収入については同社の昭和六三年三月期における所得として同年五月末までに申告意思があったこと、昭和六二年一〇月期の被告会社の申告時期である同年一二月末日までにはその意思があったことを主張し、その金額について、被告人・被告会社の所得ほ脱の故意はなかったことを主張しているが(冒頭陳述一五頁以下、弁論要旨四七頁以下)、原判決はこの点に関する認定理由を付していない。
3、関連会社による申告意思と脱税の犯意
(一)郷総合企画は、被告人の兄である工藤馨が代表者であったものの、実質的に被告人が支配していたことについては争いがない。
(二)しかしながら、被告人が自己の支配下にある関連会社に利益計上することは同人の自由であり、例えば当該会社が多額の赤字を計上しているのでダミーとして利用することにより、収益を相殺することは実質的脱税として非難される理由はあるが、そうではなく、単に所得を自己の支配下にある数社に配分すること自体、累進税制でない法人税法上の所得処理としては全く合法といわねばならない。
原審で単に「郷総合企画は実態がない」ことが主張・立証されたに過ぎず、むしろ郷総合企画は実在すること、同社自体には累進欠損が存在しないことが大前提とされていた。
(三)税務におけるいわゆる「ダミー理論」は前述の赤字会社の利用や個人の有価証券の利益配分による免税・低率税額の利用等、ダミーを用いることにより国家の徴税権を侵害することをもって違法性が認められるものであって、これにより国家の権益を害することがない限り、いかなる会社に利益を帰属せしめるかは個人に認められた営業の自由(憲法二二条に包摂されている)、財産権の保障(同二九条一項)により、自由な裁量でなしうるものである。
(四)従って、自己が支配する他社へ利益を帰属せしめるに際し、
(1) これにより税額を少額化させる方途も目的もなく、
(2) 当該関連会社において適法に税務申告する意思がある場合、
当該他社に帰属せしめられた利益金については、法人税ほ脱の故意を認めえないものというべきである。
4、被告会社の規模との関係
成る程、被告会社は昭和六〇年度ころから多額の所得を計上するに至ってはいるものの、実質的には資本金五〇〇万円の個人企業の法人成であり、有機的組織体としての被告会社は従業員数名の零細企業に過ぎない。このような程度の会社において、実質的な利益主体としての被告会社という観点を適用すること自体が大きな虚構といえる(そもそも本件公訴提起自体が、被告会社イコール被告人という前提に立っている。)。端的に言えば、実体がないと決めつけられた郷総合企画も被告会社も五〇歩、百歩の相違に過ぎないのであり、一方の所得を他方に計上するということを即違法とする理由は見出しえないのである。
例えば現在の税制において交際費の一定額計上が認められる規模の資本金の自己の子会社に実態のない取引により利益を計上せしめ、実質的に非課税の交際費を計上している大会社の経理処理こそが、国家の徴税権の侵害として非難されるべきであろう。
5、被告会社代表者の公判廷における供述について
(一)この点については、被告会社代表者の公判廷における供述により事実関係の立証を試みた。
要点は、郷総合企画の収益は昭和六二年一二月中には武蔵野税務署から株式会社青木不動産(被告会社代表者の個人企業)のダミー所得として判断されたので(速記録三〇丁以下)、右青木不動産と同一税務署に本店を移転して郷総合企画名で申告を行おうとし、昭和六三年三月以降、申告準備を開始し、五月一五日ころ税理士に資料提供し、同月末日までに申告する手筈となっていたところ、同月一一日に査察が入り、今度は国税査察官が被告会社の所得であると決めつけて一切郷総合企画の所得としての申告を一切受付なかった、というものである。
(二)このような流れの中で、右青木が検察官に対する供述調書の段階で、右の事実を進んで告知しないことは理解できるし、話そうとしても取り上げられなかったことも理解できる。
しかしながら右の被告代表者の昭和六三年五月の査察に至るまでの経過は極めて自然で、虚偽でないことは、検察官が被告人の保釈決定に対する準抗告で、
「昭和六三年春ころ株式会社青木不動産が武蔵野税務署の税務調査を受けた際、有限会社郷総合企画の無申告事実が発覚したが、被告人は前記青木をして、・・・あくまでも郷総合企画の取引・収入として申告させようと画策した・・・」と主張しているにも拘わらず、公判においてこれに関連する証拠を一切提出しないので弁護人が事実経過の供述を求めたのである。
この青木の供述は虚構ではないにも拘わらず、同人の公判における供述調書の末尾八丁以下の裁判官による同人に対する質問は常軌を逸したものと評するほかはない程に、露骨に敵意をむき出したものであり、「実態がないこと」即「税法上のダミー」という先述の誤解を基礎とし、検面調書の記載事項にしか眼をやらない偏見に充ちたものであり、「だれの計算でやった取引かと聞いているんだよ」(末尾六丁以下)と、法律家以外には意味不明の質問を繰り返し、答えられない青木を「黙秘します」と言わしめるまでに追い込んでいる。
前述のとおり、郷総合企画と税務署とのやりとりについての被告会社代表者は検察官自体が公判期日前にこれを(悪し様にではあるが)主張しているのであり、そのことをもってしても、嘘言と決めつけた原審での裁判所の質問方法は不当といわざるをえない。
6、「実質的帰属理論」による財産権の侵害
前述したとおり、国税徴収権を害さない限り、複数の会社に利益帰属を配分することは合法かつ相当であるところ、これを税務において認めない、という対応は、「実質的帰属主体」の利益を不当に侵害するものである。
本件のように、他方の会社(実際の利益主体。本件では郷総合企画)が適法に税務申告できる場合は、不申告による加算税の納付を要さず、かつ、法人税法一五九条による罰金その他の罰則を要しないにも拘わらず、別に「実質的帰属主体」を設定さえすればその会社は当然のことながら申告はしていないのだから、不申告による加算税、罰金等を負担せざるをえないことである。
行き過ぎた「ダミー論」に対しては御庁が近時誠備グループ脱税事件において正しい解釈をされ、税務当局ならびに検察の右の運営方針に歯止めをかけられたことを評価させていただき本件においても適正な御判断を賜りたい。
第四点、量刑の不当
一、事実認定、法律判断と量刑
1、「パークフィールドみさと」関係
原判決は、前述の小松原、コスモス社からユニゾンを経由した「パークフィールドみさと」関係の金員につき、金三億七〇〇〇万の全額を被告会社の昭和六二会計年度の所得とし、これについて「一切経費計上を認めず、ほ脱所得、脱税額を算定したものであるが、この点については第一点、第二点、第三点で詳述したとおり事実の認定・法律解釈を誤ったものである。
この誤りを補正するとほ脱所得において金三億七〇〇〇万円、脱税額において金一億五五四〇万円(ほ脱額の四二パーセントの税率を乗じた額)の減少が生じ、量刑上大きな影響が生じる。
2、郷総合企画の利益計上
第三点に記載したとおり、郷総合企画の所得金については、同社に納税義務はあるものの、被告会社がほ脱の故意をもって脱税した金額ではないので、法一五九条の適用上はほ脱額から除外すべきものであるところ、これにより郷総合企画の不動産譲渡所得金二三七、七〇九、八三二円(全額が課税土地譲渡利益金となる)がほ脱額から控除され、脱税額は金一四七、〇九五円(法人税率四二パーセントに重加算税二〇パーセントを加えた六二パーセントを乗じた金額)減額されるべきである。
3、1、2を総計すると脱税額は、金三億二七八万九五円減少し、到底実刑相当案件といえない数値となる。
4、被告会社の脱税額とされる金額のうち、課税土地譲渡利益に対する二〇パーセントないし三〇パーセントの重加算が多額(合計金一四一、七九八、二〇〇円)含まれていることも無視できない。
公訴事実ならびに原審認定の昭和六一、六二会計年度のほ脱所得額は合計金八二八、八三六、九〇〇円で、これに対する通常の法人税は金三四一、九六四、一五八円であり、極めて政策的な前述の加算が脱税額とされる額の約三〇パーセントを占めていることも充分に考慮されるべきである。
5、実質脱税額
原判決は、右の点を考慮することなく、被告人・被告会社の所為を「悪質」と決めつけているが、右1については計上所得額が計上年度と、所得主体の認定、計上金額のいずれにおいても税法上の特殊な解釈に基づいたものであること、右2については、主体こそ異なれ、納税意思が存在したことを全く考慮していない。
御庁において、仮に1、2の金額を脱税額と認定するのであっても、被告人・被告会社の脱税犯としての刑事責任は実質的にこれらを控除したうえで量刑されるものと思料する。
二、再犯の可能性
1、原判決の認定
原判決は被告人において再犯の可能性が大きいことを量刑の一資料としている(原判決一二丁)。
2、被告人の反省と再犯可能性の不存在
しかしながら本件被告人・被告会社と本件を契機として納税態度(本件発覚後の会計年度分)を一新し、また、本件にかかる税額の納付も極めて真摯に実施している。その納税額の実態ならびにこれによる被告会社の経理面の圧迫については原審弁論要旨を参照されたい。
なお、原判決が、被告人に多額の資産があることをことさらに強調し、これをもって本件を「利欲犯的色彩の強い」ものと決め付けたこと(一三丁)については、余りに短絡的というほかはない。被告人の資産とされるものは、同人が公判廷で供述したとおり(平成元年九月一九日付被告人の公判廷における供述調書三一~三二、四一丁)、借入により購入した土地の評価増であり、本件や被告会社の債務返済のために売却されれば、処分に対する譲渡益課税により、殆ど残らない程度のものに過ぎないのである。
3、現状の罰則等と再犯防止効果
本件の発覚に伴い、被告会社が納付した諸税額は、本件公訴事実記載のほ脱額を上回り、これに今後予想される罰金を加えるとその額は被告人・被告会社の実質全資産に近いものといえる。
このような脱税による多大な負担は今後の同社・同人の再犯の可能性を阻止するに余りあるものというべきである。
三、同種犯罪における量刑との比較
1、過去の事例
脱税事犯の歴史は古く太古に遡るが、戦後の日本社会において世の耳目を集めた事件としては次のようなものがあり、それらに対する量刑は下欄に記載のとおりである。
(ア) 草月流家元事件(昭和五一年一二月一五日東京高裁判決・判例タイムズ三四九号二六三頁)
ほ脱税額 合計三億四〇〇〇万円
量刑 罰金 一億円
(イ) ネズミ講事件(昭和五三年一一月八日熊本地裁判決・判例時報九一四号二三頁)
ほ脱税額 約二〇億円
量刑 懲役三年、執行猶予三年
罰金 七億円
(ウ) 殖産住宅事件(昭和五五年七月四日東京高裁判決)
ほ脱税額 約二九億円
量刑 懲役二年六月、執行猶予三年
罰金 四億円
2、これら社会的に大きな影響を与えた大事件で、主犯に対する量刑がいずれも罰金のみか執行猶予付であることは、本件原判決との比較において極めて注目に値する。
しかも各事件当時の脱税額は現在の貨幣価値に換算するか当時の国庫規模との比較において本件との開差は歴然としている。
3、脱税事件への処罰強化が顕著な昨今においても、本件起訴額を上回る脱税額について執行猶予付の自由刑が課せられている事例が散見する。
例えば神戸地方裁判所昭和六三年六月二七日判決(判例時報一二八二号一六九頁)において、脱税額金五億五〇〇〇万円の所得税法違反事件につき執行猶予付の判決を言い渡した例等が散見する。この案件も、財テクとその失敗で世間の耳目を集めた著名な企業の役員の財テク脱税事件であり、一般投資家の被害と裏腹に、利益を計上した会社役員に対する処断であることに注目すべきである。
4、更に重要なことは、世上、刑事事件にならないが本件をはるかに上回る脱税事件が多数存在することである。多くは「税務との見解の相違」という形で処理されているが、大規模法人に対する査察が困難であるため、資料調査により摘発され、責任関係が明確でないために告発されないためである。
近時、多額脱税事件が相次ぎ、日本経済新聞平成二年二月二一日付の朝刊(一四版)社会面に本件を上回る二件の脱税事件(一件はリクルート社江副元会長で申告漏れ三〇数億円とされ、一件は稲村利幸氏秘書で記事によると「稲村サイドが得た売買益は約十億円に上るとみられる」とされている。これらの件についてその後告発がなされたという情報はない。)が掲載されていることが象徴的である。
5、以上の他例との比較、ならびに本件において昭和六二年一〇月期に空前の土地ブームによる譲渡益が急激に発生したこと、第一点、第二点、第三点の第一項で詳述した「パークフィールドみさと」関係の受領金が仲介報酬として同年度の所得に一括計上されたこと等により一挙に多額の所得計上がなされる結果となったことをも加味すると、被告人を一年六月の懲役刑に処するとする原審の量刑は重きに失するものといわねばならない。
四、被告人の社会的貢献
1、埼玉県三郷市は東京都に隣接しながらも後進地域であったところ、被告人が同市に在住し、不動産開発業務に従事するようになった昭和四〇年代後半からめざましい発展を続け、特に被告会社の活動の中心である同市北部は、秩序ある開発が進められ、新しいベッドタウンに変貌しつつある。
もとよりこの開発が独り被告人の功績というものではないが、従来の土地所有者である農業従事者の利益をも保護し、開発側にも秩序ある開発を求めてきた被告人の姿勢が同市北部のバランスある開発に寄与したことは特筆されるべきである。
2、この被告人、被告会社の活動は、依然として発展途上にある三郷市の将来においても須要であり、住宅需給が逼迫した今日こそが同人の最大の活躍の時というべきである。被告人の従来の活動が公共事業とリンクしたものであることも無視できない。
従って、被告人に執行猶予を伴う自由刑の御処断があれば、被告人は反省および感謝の念をもって今後の秩序ある開発に一層奮励努力することが確実であり、これにより三郷市民だけでなく、より良い住環境を求める日本国民総体の利益の一助になるものである。
3、また、被告人、被告会社に対し、三郷市民をはじめ、多くの者が減刑を嘆願していること、被告人、被告会社において社会活動に多大な関心を抱くにいたり、贖罪寄付等により、社会的貢献をなしていることについても、付言しておく。
五、被告人に対する周囲の依存
1、被告人は言うまでもなく家族関係においては一家の柱であるとともに、被告会社の大黒柱でもある。
本件による多額の税負担、借入の増大により被告会社の財政は窮状にあり、被告人が不在となれば倒産は必定である。
現に本件において被告人が逮捕され勾留された間、被告会社への入金は滞り、業務を凍結し極端な業績不振に陥った経過もある。
2、被告人に対する実刑判決が維持されれば、病身の妻を含む家族はもとより、従業員およびその親族の生活に重大な影響を与える。
六、量刑に関する小括
およそ、刑事事件において自由刑の執行の猶予を希望することは如何なる被告人においても共通のものといえるが、本件においては被告人の自由刑の執行を猶予すべき事由が、右に述べたとおり極めて顕著である。
即ち、既に逮捕・勾留により自由刑同様の制裁を受け、税負担や今後支払うべき罰金により経済的制裁を受け、新聞報道等により社会的制裁をも受けた被告人は、充分に自戒の念を抱いているうえ、被告人の今後の活動に対する社会的な期待は大きく、また、周囲も被告人に大きく依存している。
このような状況で、被告人を更に懲役刑の実刑を課するというのは、第一点ないし第三点に記載した実質脱税額が少額であることに鑑みても不相当といわざるをえない。
よって、右のいずれの理由によっても、被告人を懲役一年六月、被告会社を罰金一億円に処した原判決は違法かつ不当であるので破棄を免れないものと思料する。

 

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