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「営業支援」に関する裁判例(122)平成19年 6月27日 福岡地裁 平17(行ウ)35号 遺族補償一時金及び葬祭料不支給処分取消請求事件 〔国・福岡中央労基署長(九州テン)事件〕

「営業支援」に関する裁判例(122)平成19年 6月27日 福岡地裁 平17(行ウ)35号 遺族補償一時金及び葬祭料不支給処分取消請求事件 〔国・福岡中央労基署長(九州テン)事件〕

裁判年月日  平成19年 6月27日  裁判所名  福岡地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(行ウ)35号
事件名  遺族補償一時金及び葬祭料不支給処分取消請求事件 〔国・福岡中央労基署長(九州テン)事件〕
裁判結果  認容  上訴等  確定  文献番号  2007WLJPCA06276006

出典
労判 944号27頁

裁判年月日  平成19年 6月27日  裁判所名  福岡地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(行ウ)35号
事件名  遺族補償一時金及び葬祭料不支給処分取消請求事件 〔国・福岡中央労基署長(九州テン)事件〕
裁判結果  認容  上訴等  確定  文献番号  2007WLJPCA06276006

原告 X
同訴訟代理人弁護士 梶原恒夫
同 稲尾吉茂
被告 国
同代表者法務大臣 長勢甚遠
処分をした行政庁 福岡中央労働基準監督署長
同指定代理人 Aほか7名

 

 

主文

1  福岡中央労働基準監督署長が,原告に対して,平成13年10月12日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償一時金及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。
2  訴訟費用は,被告の負担とする。

 

 

事実及び理由

第1  請求
主文同旨
第2  事案の概要
本件は,原告が,原告の子であるBが縊死したのは,業務上の事由によるものであると主張して,福岡中央労働基準監督署長(以下「本件監督署長」という。)に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償一時金及び葬祭料の支給を請求したところ,同監督署長が,平成13年10月12日,Bの自殺は業務上の事由によるものとは認められないとして,原告の上記各請求につき不支給処分をしたため,原告が,被告に対し,同処分の取消しを求めた事案である。
1  争いのない事実並びに証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
(1)  当事者等
ア 原告は,Bの父である。
イ Bは,昭和○年○月○日に出生し,a大学大学院で数理科学・情報システムを専攻し,同大学院修了後,平成12年4月,株式会社九州テン(以下「九州テン」という。)に入社し,同年9月26日に死亡するまで,同社福岡支店第二技術部第1システム課・(以下「第1システム課」という。)にシステムエンジニアとして勤務した。
(以上につき,〈証拠略〉)
(2)  九州テンの会社概要
九州テンは,富士通グループに属し,長崎県佐世保市に本社があり,各種通信機器の設計及び製造,通信機器,電子計算機,応用機器の販売,据付け,保守,ソフトウェアの開発及び販売等を営んでいる。
(弁論の全趣旨)
(3)  Bの自殺
Bは,平成12年9月25日ころ,精神障害を発症し(以下「本件精神障害」という。),翌26日,縊死した(以下「本件自殺」という。)。
(4)  本件処分等の経緯
ア 原告は,Bの死亡は同人が従事していた業務に起因して発生した業務災害であるとして,本件監督署長に対し,労災保険法に基づき遺族補償一時金及び葬祭料の支給を請求した。
これに対し,本件監督署長は,平成13年10月12日,「業務による心理的負荷の強度が,判断指針における精神障害を発病させるおそれがある程度のものとは認められなかった」として,遺族補償一時金及び葬祭料を支給しない旨の決定(以下「本件処分」という。)をした(〈証拠略〉)。
イ 原告は,平成13年11月27日,本件処分を不服として,福岡労働者災害補償保険審査官(以下「本件審査官」という。)に対し,審査請求をした。
これに対し,同審査官Jは,平成14年3月27日付けで上記審査請求を棄却する旨の決定をした。
ウ 原告は,上記イの決定を不服として,平成14年5月2日,労働保険審査会に対し,再審査請求をした。
これに対し,労働保険審査会は,平成17年4月21日付けで再審査請求を棄却する旨の裁決をした(〈証拠略〉)。
(5)  労災保険法に基づく保険給付の対象(〈証拠略〉)
労災保険法に基づく保険給付の対象となる業務上の疾病は,労働基準法(以下「労基法」という。)75条2項に基づいて定められた同法施行規則135条,同規則別表第一の二に列挙されている。
本件自殺が上記保険給付の対象となるには,Bが業務により精神障害に罹患した結果,正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で本件自殺が行われたと認められ,かつ,上記精神障害が同表第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当することが必要である。
(6)  心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針(〈証拠略〉)
労働省(平成11年当時。現厚生労働省。)労働基準局長は,平成11年9月14日,「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(同日付基発第544号。〈証拠略〉。以下「判断指針」という。)及び「精神障害による自殺の取扱いについて」(同日付基発第545号)の各通達を発した。これらの通達の概要は,以下のとおりである。
ア 判断指針の概要
(ア) 心理的負荷による精神障害の業務上外の判断に当たっては,精神障害の発病の有無,発病の時期及び疾患名を明らかにした上で,業務による心理的負荷,業務以外の心理的負荷及び個体側要因の各事項について具体的に検討し,それらと当該労働者に発病した精神障害との関連性について総合的に判断する必要がある。その際,本人がその心理的負荷の原因となった出来事をどのように受け止めたかではなく,多くの人々が一般的にはどう受け止めるかという客観的な基準によって評価する必要がある。
(イ) 判断指針が対象とする疾病(以下「対象疾病」という。)は,原則として国際疾病分類第10回修正第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害とする。
(ウ) 〈1〉対象疾病に該当する精神障害を発病していること,〈2〉対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること,及び〈3〉業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないことの3要件をいずれも満たす精神障害は,労基法施行規則別表第一の二第9号に該当する疾病として取り扱う。
(エ)a 〈2〉業務による心理的負荷の強度の評価に当たっては,当該心理的負荷の原因となった出来事及びその出来事に伴う変化等について,別紙1別表1「職場における心理的負荷評価表」(以下「別表1」という。)を指標として,総合的に検討する。同表は,(1)当該精神障害の発病に関与したと認められる出来事が,一般的にはどの程度の強さの心理的負荷と受け止められるかの判断,(2)出来事の個別の状況をしんしゃくし,その出来事の内容等に即した心理的負荷の強度の修正,(3)出来事に伴う変化等がその後どの程度持続拡大あるいは改善したかの評価から構成されている。なお,上記(2)及び(3)を検討するに当たっては,本人がその出来事及び出来事に伴う変化等を主観的にどう受け止めたかではなく,同種の労働者,すなわち,職種,職場における立場や経験等が類似する者が,一般的にどう受け止めるかという観点から検討されなければならず,具体的には,以下のb,c,dの手順で行う。
b 出来事の心理的負荷の評価は,別表1の(1)「平均的な心理的負荷の強度」欄のどの具体的出来事に該当するかを判断して,平均的な心理的負荷の強度をⅠ(日常的に経験する心理的負荷で一般的に問題とならない程度の心理的負荷),Ⅱ(ⅠとⅢの中間に位置する心理的負荷),Ⅲ(人生の中でまれに経験することもある強い心理的負荷)のいずれかに評価し,出来事の具体的内容,その他の状況等を把握した上で,同表の(2)「心理的負荷の強度を修正する視点」欄に掲げる視点に基づいて修正の要否を検討する。
c 出来事に伴う変化等による心理的負荷は,出来事に伴う変化として,別表1の(3)「出来事に伴う変化等を検討する視点」欄の各項目に基づき,出来事に伴う変化等がその後どの程度持続,拡大あるいは改善したかについて検討する。具体的には,仕事の量(労働時間,仕事の密度等)の変化,仕事の質の変化,仕事の責任の変化,仕事の裁量性の欠如,職場の物的・人的環境の変化,支援・協力等の有無を考慮する。
d 生死にかかわる事故への遭遇等心理的負荷が極度のもの,業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者に発病した精神障害及び極度の長時間疲労が認められる場合には,上記b及びcにかかわらず,心理的負荷は強と判断される。
(オ) 業務以外の心理的負荷の強度は,発病前おおむね6か月の間に起きた客観的に一定の心理的負荷を引き起こすと考えられる出来事について,別紙1別表2「職場以外の心理的負荷評価表」(以下「別表2」という。)により評価する。
(カ) 個体側要因として,精神障害の既往歴,社会適応状況,アルコール等依存状況及び性格傾向について考慮すべき点が認められる場合は,それが客観的に精神障害を発病させるおそれがある程度のものと認められるか否かについて検討する。
(キ) 業務以外の心理的負荷,個体側要因が特段認められない場合で,業務による心理的負荷が「強」と認められる場合には,業務起因性があると判断する。
業務による心理的負荷が「強」と認められる場合であっても,業務以外による心理的負荷又は個体側要因が認められる場合には,業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷の関係について検討を行う必要があるが,業務以外の心理的負荷が極端に大きかったり,強度Ⅲに該当する出来事が複数認められる等,業務以外の心理的負荷が精神障害発病の有力な原因となったと認められる状況がなければ,業務起因性があると判断する。
また,個体側要因に問題が認められる場合にも,業務による心理的負荷と個体側要因の関係について検討を行う必要があるが,精神障害の既往歴や生活史,アルコール等依存状況,性格傾向に顕著な問題が認められ,その内容,程度から個体側要因が精神障害発病の有力な原因となったと認められる状況がなければ,業務起因性があると判断する。
イ 精神障害による自殺の取扱いについて
業務上の精神障害によって,正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には,結果の発生を意図した故意には該当しない。
2  争点及びこれに対する当事者の主張(略)
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記争いのない事実等並びに証拠(〈証拠・人証略〉,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  Bの性格等
ア Bの性格
Bは,昭和○年○月○日生まれの真面目かつ几帳面で,責任感が強く,人に気を遣う性格の男性であり,人付き合いもよく,友達も多かった(〈証拠略〉)。
イ 健康状態
Bには,精神障害の既往歴は認められず,これまでの生活史にも特段の問題はなく,アルコール依存状況もなかった(〈証拠略〉)。
(2)  Bの業務内容等
ア 第1システム課の構成
Bが配属された第1システム課は,主としてCAD(コンピュータ支援設計)系のシステム開発を行っていた。Bが配属された平成12年4月当初,同課には,L次長のほか,M(以下「M」という。),N,Oがおり,同年6月にPが加わったほか,派遣社員が1名いた(〈証拠略〉)。
イ Bの業務内容
Bは,新入社員向けの研修を受けた後,第1システム課に配属され,システムエンジニアとして,システム開発作業の一員としてプログラミング作業等を行った(〈証拠略〉)。
ウ Bの労働時間(〈証拠略〉)
九州テンの所定就業時間は,次のとおりである。
・実労働時間 8時間
・始業時刻 午前8時40分
・終業時刻 午後5時40分
・休憩時間 午後0時10分から午後1時まで,午後4時から午後4時10分までの合計60分
(3)  Bの入社後自殺直前までの勤務状況
ア 入社後平成12年5月24日までの勤務状況
(ア) Bは,同年4月に九州テンに入社した後,同月3日から同月7日までの間,同社総務部主催の「新人受入研修」を同期入社の13名と共に受講した。
(イ) Bは,同月10日から同年5月24日までの間,FQS教育部が主催するシステムエンジニアとしての「新人教育研修」を受講した
(以上につき,〈証拠略〉)
イ 平成12年5月25日から同年7月24日までの勤務状況
(ア) Bは,同年5月25日,第1システム課で業務説明,OJT計画の説明を受け,同月29日から約2か月間,OJTの一環として,b社向けシステム開発作業に従事した(〈証拠略〉)。
(イ) 上記作業は,b社I-LINKシステムと称する同社新営業支援開発作業であり,第1システム課のMをプロジェクトリーダー,Nをサブリーダーとして,Bを含む6人体制で行われた。Bは,主としてVBを開発言語としたプログラミング作業及びテスト作業を担当し,作業は特に問題なく完了した(〈証拠略〉)。
ウ 平成12年5(ママ)月25日から同年9月17日までの勤務状況
(ア) Bは,同年7月25日以降,OJTの一環として,本件システム開発作業に従事した(〈証拠略〉)。
本件システムは,c社から株式会社富士通(以下「富士通」という。)が発注を受け,富士通がこれをFQSに発注し,さらに,FQSがこれを九州テンに発注したものであり,九州テンは二次下請となっていた(〈人証略〉)。
(イ) 本件システムは,薬品合成装置からのデータを読み込み,これを画面に表示するとともに,入力されたデータを反映してデータベースに書き込むというプロセスを薬品合成の流れに従い,5又は6段階繰り返すプログラムを,試薬管理,固相合成及び液相合成の3種について,VBAを用いて作成するものであり(〈証拠略〉),既存のものの応用ではできず,ゼロから立ち上げる内容のシステムであった(〈人証略〉)。
Bは,VBAを使うのは本件システム開発作業が初めてであったが,VBAは,b社向けシステム開発作業において使用したVBと90%は同じであり,その応用となるものであった(〈人証略〉)。
(ウ) 本件システムの工程数は,1万6000ステップというものであったが,そのうち,開発言語のソフトが3分の1程度まで自動的に作成するので,実際の作成作業は,そのステップのうちの3分の2を作成すればよいものであった(〈人証略〉)。
(エ) 本件システム開発作業は,プロジェクトリーダーのN,P,Q及びBの4人体制で行われ,Nが一番難易度の高いデータベースの部分を,Pが固相合成処理部を,Bが液相合成処理部を,Qが画面周りのプログラミング作業及びテスト作業をそれぞれ担当した(〈証拠略〉)。
液相とは液体に関するデータの流れをいい,固相とは固体に関するデータの流れをいうが,固相よりも液相の方が画面の数も少なく,データの流れの把握も比較的簡単であったため,Bを液相の担当とした(〈人証略〉)。
(オ) 本件システムの納期は,約2か月後の同年9月26日までとされていた(〈証拠略〉)。
Nは,本件システムのテスト作業まで考えると,更に1か月は必要であると感じていた(〈証拠・人証略〉)。
c社は,納期後,仮運用期間を経てから本件システムを使い始める予定であった(〈人証略〉)。
(カ) 本件システム開発作業は,同年9月17日まで九州テン福岡支店内で行われ,プログラムの作成作業が終了し,用意されたサンプルデータでのテスト作業も終了し,特に問題は生じなかったため,c社研究所のある現地で実際のデータを使って稼働テストを行い,修正しながら調整することとなった。(以上につき,〈証拠・人証略〉)
(キ) Bは,同年8月の盆休みに帰省することを予定していたが,本件システム開発作業に追われ,盆休みがとれず,帰省できなかった(〈証拠略〉,原告本人55項)。
エ 平成12年9月18日から同月26日までの業務状況
(ア) 同月18日(月曜日)
Bは,同月18日,本件システムの稼働テスト及び納入のため,N,FQSのR及び富士通のSの3名と共に,同月18日から同月22日までの予定で,千葉県袖ヶ浦市所在のc社研究所(以下「c社研究所」という。)に出張し,システムインストールとネットワーク設定作業を行ったが,Bにとって,初めての出張であった(〈証拠略〉,弁論の全趣旨)。
Bは,同月18日午前8時40分に九州テン福岡支店に出社し,羽田を経由して,Nらと共にc社研究所に向かい,同所で,午後1時から午後7時30分まで作業に従事し,その後宿泊先のホテルに戻った(〈証拠略〉)。この間の拘束時間は,10時間50分であった。
(イ) 同月19日(火曜日)
この日の作業は,各制御装置からのデータ出力に予想外の時間を要したため,待機時間が長くなり,予定どおりに進まなかった(〈証拠略〉)。
Bは,同日,午前7時55分にホテルを出発し,午前9時から午後6時30分までc社研究所で作業に従事し,Nと夕食をとって,午後7時30分にホテルに戻った。c社研究所での拘束時間は9時間30分であった。
(以上につき,〈証拠略〉)
Bの私物のパソコンには,同日午後7時53分,午後8時4分,翌20日午前2時12分に,本件システム開発に関するデータを扱った履歴があり,Bは,同月19日にホテルに戻った後も,翌20日午前2時12分ころまで,本件システムのプログラムの確認等の作業を行っていた(〈証拠略〉)。
(ウ) 同月20日(水曜日)
この日の作業は,午前中はデータ配信待ちの状態で進まず,午後から実データによる稼働テスト作業が開始された。稼働テスト作業を開始すると,エラーメッセージが出ないはずのところに出たり,仕様と異なった画面表示が出るなどのバグが発生するようになり,修正を行い作業を進めたが,バグを一つ解消すると,また次にバグが発生することが続いた。このため,Nは,福岡に帰る予定日を当初の同月22日から同月26日に変更した。
(以上につき,〈証拠・人証略〉)
Bは,同日午前7時55分にホテルを出発し,午前9時から午後8時までc社研究所で作業に従事し,Nと夕食をとって,午後9時ころホテルに戻った(〈証拠略〉)。c社研究所での拘束時間は11時間であった。
Bの私物のパソコンには,同日午後9時31分,午後10時34分,翌21日午前1時21分,午前3時26分,29分,52分,午前4時12分,33分,48分,52分,57分,59分,午前6時17分,18分,21分,22分,29分,41分,午前8時4分,6分,54分,56分に本件システム開発に関するデータを扱った履歴があり,Bは,ホテルに戻った後も,午後9時31分ころから翌21日の朝まで,徹夜で本件システムのプログラムの確認等の作業を行っていた(〈証拠略〉)。
このように,同月20日のBのホテルでの労働時間は,午後9時31分から午後12時までの約2時間30分間であり,c社研究所での拘束時間と合計すると,同日の拘束時間は約13時間30分であった。
(エ) 同月21日(木曜日)
Nは,液相部分も含めたバグの修正作業を担当し,Bは,もう一方の稼働テスト作業とバグの場所の特定作業を担当した(〈証拠略〉)。
Bは,前記のとおり,同日午前0時以降も午前8時56分まで私物のパソコンで本件システムのプログラムの確認等の作業に従事し,引き続き,午前9時から午後9時までc社研究所で上記作業に従事し,私物のパソコンで午後9時9分ころ本件システムのテストデータを扱った(〈証拠略〉)。同日における私物のパソコンでの作業時間とc社研究所での拘束時間を合計すると約21時間5分であった。
(オ) 同月22日(金曜日)
NとBは,前日に引き続き,稼働テスト作業とバグの修正作業を行った。
Nは,稼働テストの進ちょく状況が悪かったため,自分用にc社研究所からパソコン1台を借り,c社研究所での作業後も,宿泊先のホテルで作業を継続した。
(以上につき,〈証拠略〉)
Bは,同日午前6時41分ころから午前8時7分ころまで,私物のパソコンで本件システムのプログラムの確認等の作業を行い(〈証拠略〉),午前9時から午後8時30分まで,c社研究所で,上記作業を行った(〈証拠略〉)。同日における私物のパソコンでの作業時間とc社研究所での拘束時間を合計すると約12時間56分であった。
(カ) 同月23日(土曜日)
NとBは,前日に引き続き,稼働テスト作業とバグの修正作業を行った(〈証拠略〉)。
Bは,午前5時57分ころから午前8時34分ころまで,私物のパソコンで確認等の作業に従事し,午前10時から午後7時20分まで,c社研究所で上記作業を行い,ホテルに戻った後も,午後9時5分ころから午後11時24分ころまで,私物のパソコンで作業に従事していた(〈証拠略〉)。同日における私物のパソコンでの作業時間とc社研究所での拘束時間を合計すると約14時間16分であった。
(キ) 同月24日(日曜日)
NとBは,前日に引き続き,稼働テスト作業とバグの修正作業を行った。Nは,同月25日は富士通及びFQSの担当者が不在であったため,c社研究所ではなく宿泊先のホテルで作業を行うこととし,このため,B用にもパソコンを借りた。
(以上につき,〈証拠略〉)
Bは,同日午前8時22分ころから34分ころまで,私物のパソコンで確認等の作業に従事し(〈証拠略〉),午前10時から午後8時30分まで,c社研究所で上記作業を行い,その後,同研究所のパソコンを借りて(以下「借用パソコン」という。),ホテルの自室に持ち帰った(〈証拠略〉)。同日における私物のパソコンでの作業時間とc社研究所での拘束時間を合計すると約10時間42分であった。
これに加えて,Bは,同月19日ないし21日は,ホテルに戻った後,私物パソコンを動かしているのに,同月24日は,ホテルに戻った後翌25日午前3時13分まで私物パソコンを動かした履歴がないこと(〈証拠略〉),Bは,翌25日午前3時13分に,私物パソコンで作業した履歴があること(〈証拠略〉),借用パソコンで修正作業を行うことは可能であったこと(〈証拠略〉),Nは,Bも,借用パソコンをホテルに持ち帰っており,Bもホテルで修正作業を行った可能性がある旨述べていること(〈証拠略〉)からすれば,Bは,ホテルに戻った後も,開始時刻は不明であるが,借用パソコンを使って同月25日の午前3時13分ころまでバグの修正作業を行っていた可能性が高いと認められる。
(ク) 同月25日(月曜日)
原告は,Bの出張中,数回メールを送ったが,Bから返信がないため,同日午前7時ころ「届いているか」などとメールを送ったところ,Bは,直ちに,原告らに電話をかけてきて,母親に対し,元気のない声で「いろいろ大変なんよ。」などと言った(〈証拠略〉,原告本人)。
Bは,同日午前8時40分ころから,宿泊先のホテルのNの部屋で,Nと共に,九州テン福岡支店にいるPと電話で連絡をとりながら,バグの修正作業に従事し,昼食,夕食を挟んで,午後10時ころまで作業を行ったが,バグは完全には解消しなかった(〈証拠略〉)。PとNは,固相関係の修正作業を,Bは,液相関係の修正作業を行った(〈人証略〉)。
この日の夕食は,各自コンビニで購入したが,Bはあまり食べなかった(〈証拠略〉)。
Pは,当時,九州テン福岡支店において,既に本件システム開発とは別の仕事に従事していたが,同日午前8時ころ,出張先のBから本件システムの固相関係の修正作業を依頼され,午前10時ころ,Bから本件システムのデータの送信を受け,そのころから午後7時46分ころまで固相関係の修正作業を続けたが,修正が終わらなかった。そこで,残業することにしたが,プログラムの修正作業で超過勤務手当をもらうことははばかられると思い,一度,午後7時46分にタイムレコーダーを切り,残業届を出さずにその後も修正作業を続けた(〈証拠略〉)。
Nは,午後10時ころ,もう間に合いそうにないと思い,Bに対し,「もういいよ。できんなら自分がどうにかするから。」などと言って,Bをホテルの自室に戻し,一人で作業を続けた(〈証拠・人証略〉)。
Nとしては,同月26日までにできなかったら顧客に話して納期を延期してもらい,九州テンに持ち帰って再度修正して出直すことを考えていたが,Bにそのことを話すと,逆に終わらせなければならないというプレッシャーを与えてしまうと思い,話さなかった(〈人証略〉)。
Bは,同日午後10時過ぎに,借用パソコンを持ってホテルの自室に戻ったが,Pと電話で連絡をとりながら,引き続きバグの修正作業に従事した(〈証拠・人証略〉)。
Rが,同日午後10時30分ころ,仕事のことでBの部屋を訪ねた時,Bは,体調の不良を訴えていた(〈証拠略〉)。
同日の拘束時間は,午前8時40分から午後12時までの15時間20分であった。
(ケ) 同月26日(火曜日)
Bは,同日午前0時以降もホテルの自室で,引き続き上記作業を行っていた。
L次長は,同日午前2時ころ,九州テン福岡支店で,別件の仕事をしており,その際,Pが残業届を出さずに本件システムの固相関係の修正作業をしていることに気付き,事情を尋ねると,Nらも同様に作業しているとのことであったため,Nに電話して状況を尋ね,「これ以上やっていても仕方がない。朝,富士通と話をして後のことを決めるので,今日はもう休むように。」などと伝え,Pにも止めて退社するよう指示して帰宅した。
Nは,L次長からの電話を受けた後,Bの携帯に電話をかけて,「もういいけん,やめんね,後は何とかするけん。」などと言ったが,Bは,「分かりました。」と答えたものの,その後もPと連絡を取りながら同日午前3時37分ころまでパソコンで作業を続けた。
(以上につき,〈証拠・人証略〉)
Pは,同日午前3時17分ころ,Bに対し,固相関係の修正分を送信し,確認の電話をかけて,簡単な会話を交わしたが,Bは声に元気がなかった(〈証拠略〉)。
Bは,同日午前3時54分ころ,原告に対して「本当にごめんなさいB」と書いたメールを送信した(〈証拠略〉)。
Pは,同日午前4時50分に固相関係の再修正分を送信し,受信確認をするためBの携帯に電話をしたが,Bは,電話に出なかった(〈証拠略〉)。
そこで,Pは,同日午前4時50分ころ,Nに電話をかけ,「Bさんが電話に出ない,私はもう帰りますのでよろしくお願いします。」と伝えた(〈証拠略〉)。
Bは,同日午前5時ころ,「本当に申し訳ありません。死んで解決するものではありませんが私には,もうどうしようもありません。」,「Nさんヘ デスクトップのchm_KANRIが最新です あと○○○○○○○○○というディレクトリがPさんから送られてきたファイルです。」という遺書を残し,ホテルの自室で縊死した(〈証拠略〉)。
Nは,Pからの電話を受け,Bに電話したが,Bは電話に出ず,10分後再度電話しても出ず,Bの部屋の前で電話したところ,室内で電話が鳴っているのが聞こえるにもかかわらずBが電話に出ないので不審に思い,ホテルの関係者に話して鍵を開けて中に入り,Bが死亡しているのを発見した(〈証拠略〉)。
オ 入社後から死亡日までの労働時間(〈証拠略〉)
(ア) Bの九州テン入社後から本件システム開発の出張前までの労働時間で,勤怠表及びパソコンの履歴等から確実に認定できる時間は,別紙2記載のとおりである。
(イ) Bの本件システム開発の出張中の労働時間(拘束時間)は,上記エで認定したとおりであり,これをまとめると以下のとおりである。
9月18日 10時間50分
19日 9時間30分
20日 13時間30分
21日 21時間05分
22日 12時間56分
23日 14時間16分
24日 10時間42分
25日 15時間20分
26日 3時間37分
(ウ) Bの九州テン入社後から死亡日前日までの1日平均の拘束時間は,以下のとおりである。
研修期間 8時間56分
(4月3日から5月24日まで)
b社向けシステム開発期間 10時間26分
(5月25日から7月24日まで)
本件システム開発期間 10時間27分
(7月25日から9月17日まで)
本件システム開発の出張期間 13時間31分
(9月18日から同月25日まで)
(エ) ただし,Bの勤怠表では,平成12年8月5日(土曜日)は休日となっているが,Bは,同日午後8時53分ころ,原告に対し,「土曜出社中です」等というメールを送信していること(〈証拠略〉),Pは,同年9月25日,プログラムの修正作業で超過勤務手当をもらうことははばかられると思い,一度,午後7時46分にタイムレコーダーを切り,残業届を出さずに翌26日午前4時50分まで残業していたこと(〈証拠略〉),L次長が提出した「c社殿向けプロジェクト トラブルに関する御報告」と題する書面には,今回の様な事件を再発しないための対策として「社内,社外での勤怠管理を徹底し,」「届出無しの場合は,業務命令として作業を停止させる。」などと記載されていること(〈証拠略〉)からすれば,本件自殺が発生する前までは,九州テン福岡支店では,Bを含め,超過勤務手当を受け取るのを遠慮して,残業届等を出さずに残業や休日出勤をすることが度々行われていたと推測され,Bの研修期間後の実際の労働時間は,別紙2及び前記労働時間よりも多かったと推認できる。
なお,Bは,上記事実から,同年8月5日に休日出勤をしていたと認定できるものの,その労働時間が勤怠表等の資料から読み取れないため,同日の労働時間は,別紙2及び前記労働時間には入れていない。
ところで,前記のとおり,同年9月19日夜から翌20日午前2時12分にかけて私物パソコンの履歴があり,その間継続して作業していたか明確に認定できないため,その間の作業時間は前記労働時間には入れていないが,少なくともその間の一定時間は本件システムに関する作業を行っていたと認められる。これに対し,Nは,本件システムのソース(プログラム言語によるソフトの設計書)を管理しており,Bにコピーさせていなかったため,Bの私物のパソコンではバグの修正等の本格的な作業ができない旨述べるが(〈証拠略〉),Nは,同月20日から翌21日にかけてのBの私物のパソコンの履歴について,Bは,「21日から本格的な作業に入るため,正常に稼働するか気になっていたのではないか。直接B君が携わっていない箇所も開いているが,システムは一連のものであり,他者が担当した箇所にエラー等があれば上手く稼働しないため,その確認の意味もあったであろうと思う。」とも述べており(〈証拠略〉),少なくとも,Bの私物のパソコンで本件システムに関する確認作業を行うことができたと認められることから,Bは,ホテルに戻った後も,私物のパソコンで本件システムに関しての確認等の作業を行っていたと推認できる。同月20日から同月23日までのBの私物のパソコンでの作業についても,同様である。
また,Bは,同月24日にホテルに戻ってから,借用パソコンで修正作業を行ったと認められるが,何時間行ったかは不明であるため,前記労働時間には入れていない。
カ Bの死亡後の本件システム開発作業
L次長とNは,Bの死亡後,1週間で本件システムの問題点を洗い出し,更に1週間,P,T及びUらと共に修正作業を行い,合計2週間程度で稼働テスト作業と納品を完了した(〈証拠略〉)。
(4)  Bの精神障害の発症について
ア K医師の意見書(〈証拠略〉)
K医師の意見書には,Bの精神障害について,以下のような意見が述べられている。
Bには,平成12年9月25日ころから食欲減退・体調不良等の症状が見られており,国際疾病分類第10回改訂版(以下「ICD―10」という。)を作成した専門家チームにより作成された臨床記述と診断ガイドライン(以下「ICD―10診断ガイドライン」という。)に照らすと,「F43.0急性ストレス反応」と診断するのが妥当と考える。
イ V医師の意見書(〈証拠略〉)
V医師の意見書には,Bの精神障害について,以下のような意見が述べられている。
Bは,c社研究所に出張し,作業が予定どおりに進ちょくせず,バグが頻発し,それに対応しなければならなかった精神的,身体的疲労が重なって,2,3日という短期間のうちにうつ状態に陥り,自殺するに至ったものと思われる。
急性ストレス反応という精神障害は,ICD-10によると,極度な精神的又は身体的ストレス(米国精神医学会診断分類マニュアル第4版DSM-IV-TRによると実際に又は危うく死ぬような出来事)に暴露されてから普通数分以内に症状が現れ,症状は注意の狭窄,見当識障害,怒りや攻撃性,絶望や失望などが現れ,8時間ないし48時間以内に沈静化し始めるなどと規定されている。典型的なのは,例えば戦場で砲弾が身近で炸裂し,隣にいる戦友が死亡したときのショックのような場合で,以前はシェルショック(砲弾ショック)などと呼ばれていた。
Bのストレスは,急性ストレス反応のように突然出現したものではなく,数日のうちに次第に強くなったいわば亜急性ともいえる現れ方をしている。ストレスの強度も客観的に見て,実際に又は危うく死ぬような出来事とかシェルショックのような極度な精神的又は身体的ストレスがあったというには足りないと思われる。とはいえ,最終的に自殺に至ったのであるから,症状はうつ状態と思われるが,通常は2,3日という極めて短期間のストレスに関連してうつ病が誘発されることは極めてまれであるから,急性ストレス反応という診断になったのだと思う。
ウ W医師の意見書(〈証拠略〉)
W医師の意見書には,Bの精神障害について,以下のような意見が述べられている。
「Bはc社の仕事をするようになって作業が思い通りに進まないこともあり,精神的身体的疲労が重なりストレス状態となって,9月25日ころから食欲不振,元気のなさが現れてきているのでうつ状態の発症はこのころが考えられる。また,うつ状態と自殺に関しては経験的に言われているように発病初期や回復期に自殺が多く見られるものである。つまり,Bは9月25日ころにうつ状態(うつ病?)という精神障害に罹患しており,このうつ状態によってBは自殺したものと考えるのが妥当である。」
エ 以上のように,Bの病名について,K医師は急性ストレス反応,V医師及びW医師はうつ状態と医師の間でも意見は分かれているが,いずれの医師も,Bが,平成12年9月25日ころに,うつ状態ないし急性ストレス反応といった精神障害に罹患し,これを原因として本件自殺に至ったと判断している。
(5)  業務以外の出来事
その他,B及びその家族に,Bの自殺の原因となるような特別な出来事は認められない(〈証拠略〉)。
2  本件精神疾患が業務に起因したものであるか否かについて
(1)  業務起因性の判断基準について
ア(ア) 労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の保険給付は,労基法79条及び80条所定の「労働者が業務上死亡した場合」に行われるものであるところ(労災保険法12条の8第2項),精神障害による自殺がこれに当たるというためには,精神障害が労基法施行規則別表第一の二第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当することを要し,精神障害につき業務起因性が認められなければならない。
そして,労災保険法に基づく労働者災害補償制度が,業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化して労働者に傷病等を負わせた場合には,使用者の過失の有無にかかわらず労働者の損失を補償するのが相当であるという危険責任の法理に基づくものであることにかんがみると,業務起因性を肯定するためには,業務と死亡の原因となった疾病との間に条件関係が存在するのみならず,社会通念上,疾病が業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものと認められる関係,すなわち相当因果関係があることを要するというべきであり,業務が単に疾病の誘因ないしきっかけにすぎない場合には相当因果関係を認めることはできないのであって,この理は,疾病が精神障害の場合であっても異なるものではない。
(イ) ところで,現在の精神医学においては,精神障害の発症について,環境由来のストレスと個体側の反応性,脆弱性との関係で精神破綻が生ずるかどうかが決まるとする「ストレス―脆弱性」理論によって理解することが広く受け入れられているところ,個体側要因(反応性・脆弱性)については,客観的に把握することが困難である場合もあり,これまで特別な支障もなく普通に社会生活を行い,良好な人間関係を形成してきていて何らの脆弱性を示さなかった人が,心身の負荷がないか又は日常的にありふれた負荷を受けたにすぎないにもかかわらず,突然精神障害に陥ることがあるのであって,その機序は,精神医学的に解明されていない。このように個体側要因については,顕在化していないものもあって,客観的に評価することが困難な場合がある以上,他の要因である業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷が,一般的には心身の変調を来すことなく適応することができる程度のものにとどまるにもかかわらず,精神障害が発症した場合には,その原因は,潜在的な個体側要因が顕在化したことに帰するものとみるほかはないと解される。
したがって,業務と精神障害の発症との間の相当因果関係の存否を判断するに当たっては,ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性とを総合的に考慮し,業務による心理的負荷が,社会通念上,客観的にみて,精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合には,業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして,当該精神障害の業務起因性を肯定することができると解すべきである。
これに対し,業務による心理的負荷が精神障害を発症させる程度に過重であるとは認められない場合には,精神障害は,業務以外の心理的負荷又は個体側要因(もともと顕在化していたもののほか,潜在的に存在していた個体側要因が顕在化したものを含む。)のいずれかに起因するものといわざるを得ず,業務の過重性を理由として精神障害の発症につき業務起因性を認めることはできないと解すべきである。
(ウ) そして,前記のとおり,労働者災害補償制度の趣旨が,業務に内在し又は通常随伴する危険が現実化して労働者に傷病等を負わせた場合には,使用者の過失の有無を問わず,労働者の損失を補償するものであることに照らせば,業務による心理的負荷の有無及びその強度を判断するに当たっては,当該労働者と同種の労働者,すなわち職場,職種,年齢及び経験等が類似する者で,通常業務を遂行できる者を基準として検討すべきである。
イ(ア) この点,原告は,業務による心理的負荷の強度の評価は,当該本人がその心理的負荷の原因となった出来事をどのように受け止めたかという基準に基づき評価するのが相当であるとして,いわゆる労働者基準説を主張する。
しかしながら,上記見解は,当該労働者の個体側の要因を過度に重視するもので,客観的基準となり得るものではなく,採用できない。
(イ) 他方,被告は,精神障害の業務起因性の判断は,判断指針に基づいて行うべきである旨主張する。
しかしながら,判断指針は,立証責任の軽減,認定の画一性を図るため,労働基準監督署長が,疾病が業務上発症したか否かの認定を行うに当たっての判断の指針を示したものにすぎず,判断指針に該当することが支給の要件となるものでもない。
また,日本産業精神保健学会「精神疾患と業務関連性に関する検討委員会」が平成18年12月20日に示した「過労自殺を巡る精神医学上の問題に係る見解」(〈証拠略〉)によれば,判断指針は,現在の医学的知見に沿い,一定の合理性があると認められるものの,基準に対する当てはめや評価においては,判断者の裁量の幅が広く,また,各出来事に対する心理的負荷の判定を基礎としており,各出来事相互間の関係,相乗効果等を評価する視点が必ずしも十分でないことからすれば,同指針は,精神障害の業務起因性を判断するための資料の一つに止まると解すべきである。
この点,被告は,判断指針は,複数の出来事の位置づけを分析した上で,他の出来事が基本とされるべき出来事の変化に伴う通常以上の変化であるか否かにより,独立の出来事として位置づけるかを判定し,その上で複数の出来事を総合的に判断することとしているのであり,総合的判断の視点が弱いとの上記批判は誤解に基づく旨反論するが,このような類型化ができない場合,すなわち,それぞれの出来事が独立しており,そのどれかを基本となる出来事として位置づけることが不可能な場合には,各出来事の相乗効果等を評価することができないという限界があるので,やはり判断指針では十分な基準ということはできない。
3  業務起因性の有無について
(1)  業務内容及び生活状況等による心理的負荷について
ア 労働時間の増加による心理的負荷について
前記認定事実によれば,Bは,平成12年8月の盆休みに帰省することを予定していたが,本件システム開発のプログラミング作業に追われ,盆休みをとることができなかったこと,入社からの1日の平均拘束時間が,研修期間中(同年4月3日ないし同年5月24日)は8時間56分であったのに対し,b社向けのシステム開発期間中(同年5月25日ないし同年7月24日)は10時間56分,本件システム開発のプログラミング期間中(同年7月25日ないし同年9月17日)は10時間27分,本件システム開発の出張期間中(同年9月18日ないし同月26日)は13時間31分以上と,入社後わずか半年の間に著しく増加していること,Bは,残業届や休日出勤届を出さずに残業や休日出勤を行っていた可能性が高く,実際の労働時間は上記認定時間よりも多いと推認されること,Bのパソコン履歴からすれば(〈証拠略〉),出張の前々日である同年9月16日は14時間48分の拘束時間,同月17日は14時間13分の拘束時間と出張の直前も長い労働時間であったこと,出張期間中も,同月18日は午前8時40分から午後7時30分まで,同月19日は午前9時から翌20日午前2時12分まで,同月20日は午前9時から翌21日午前8時56分まで徹夜で,同月21日もそのまま休まずに午前9時から午後9時9分まで,同月22日は午前6時41分から午前8時30分まで,同月23日は午前5時57分から午後11時24分まで,同月24日は午前8時22分から翌25日午前3時13分ころまで,同月25日は午前8時40分から翌26日午前3時37分まで徹夜で作業を行っており,同月16日から同月26日まで,2日間徹夜で,他の日も夜は午前0時過ぎまで作業を行ったり,早朝午前6時ころから作業を開始したりするなど,睡眠時間を削り,寝ている時間と食事の時間以外は,断続的に業務に従事していたこと,同月26日午前2時ころL次長が作業を止めるよう指示し,Nがその旨Bに指示したが,結局,九州テン福岡支店にいるPも,Pと連絡をとりながら作業していたBも,同月26日の納期に間に合わせようとして同月25日から翌26日にかけて徹夜で作業を続けていたことが認められる。
以上の事実に照らせば,Bは,平成12年4月1日の入社後,同年5月25日以降のOJT期間に入ってから急激に労働時間が増えた上,予定していた同年8月の盆休みもとれずに勤務せざるを得なくなり,同年9月には精神的,肉体的に疲れが溜まっていたと認められ,その後も,特に休養期間をとることなく出張に行くことになり,出張直前の同年9月16日から出張中の同月26日までの間,休日なく11日間連続で勤務し,そのうち2日間は徹夜,他の日も早朝から深夜に至るまで睡眠時間を削って作業に従事していたと認められ,このような勤務の状況からすれば,Bは,2回目の徹夜となる同月25日の夜には,以上のような勤務の状況により,精神的,肉体的に疲労が蓄積して疲れ切った状態になっていたことが認められる。
イ 業務内容の困難性による心理的負荷について
前記認定事実によれば,Bは,本件システム開発作業前は,b社向けシステム開発作業しか携わった経験がなく,同作業では,VBというBが研修中に習った言語を使用し,バグが大量に発生するなどの問題は特に起きなかったこと,これに対し,本件システム開発作業では,VBAというBが今までに使用したことのない言語でプログラミングしなければならない上,本件システムは,既存のシステムを利用して作ることはできないものであったこと,しかも,納期までの期間は,プロジェクトリーダーのNが1か月足りないと感じるくらい厳しいものであり,実際にも,納品できたのは本件納期から約2週間後であったこと,さらに,本件システム開発作業では,実データを使った稼働テストでバグが大量発生し,Bは,次々と発生するバグの場所を特定し,バグの原因を解明して解消するという作業まで従事しなければならなくなったことが認められ,これらの事情に照らせば,本件システム開発作業は,入社して半年ほどの経験しかなく,出張先でバグの特定及び修正作業を行うのが初めてであるBにとって,その困難性は相当程度大きかったといえる。
ウ 出張先とホテルでの勤務状況による心理的負荷について
前記認定事実によれば,Bは,九州テンに入社後,同社福岡支店で勤務しており,本件システムのために出張するまで,出張先に泊まり込んで勤務するという経験がなかったこと,Bは,平成12年9月18日から同月26日まで9日間連日,Nと共に,c社研究所で本件システムの作業に従事し,同所での作業を終えた後,Nと共に,ホテルに戻って宿泊し,ホテルでも引き続き作業に従事していたことが認められ,このように自宅から離れた勤務場所で,かつ,Nと共にホテルと出張先を往復して作業を続けるという状況は,閉塞的で,逃げ場のない環境といえるのであり,このような環境がBに及ぼす心理的負荷は大きいと考えられる。
エ 納期に追われること及び納期に間に合わなかったことによる心理的負荷について
前記認定事実によれば,本件システムの納期は,平成12年9月26日であったこと,BとNは,同月18日から同月26日まで土日も休まず9日間連日で,出張先の千葉のホテルに泊まり込み,本件システムの稼働テスト作業,バグの特定及び修正作業に従事していたこと,バグが予想外に次々と発生し,同月26日の納期には間に合わない状況となっていたこと,そのため,NとBは,当初の同月22日までの出張予定を同月26日まで延期したこと,Nは,納期に間に合わせようと,同月22日からは出張先のc社研究所での作業後,パソコンを借りて宿泊先のホテルでも作業を続けたこと,Bも,同月23日までは私物のパソコンで,同月24日からはc社研究所からパソコンを借りて,宿泊先のホテルでも作業を続けたこと,Bは,納期前日の同月25日から納期当日の同月26日午前3時37分にかけて作業し続けていたこと,Nは,納期前日の午後10時の時点で作業が終わらないBに対し,「もういいよ。できんなら自分がどうにかするから。」と言って部屋に戻しただけで,同月26日までにできなかったら,顧客に話して納期を延期してもらい,九州テンに持ち帰って再度修正して出直すなどの対応策や見通しについてBに話さなかったこと,Bは,納期当日の早朝,宿泊先のホテルで,「本当に申し訳ありません。死んで解決するものではありませんが私には,もうどうしようもありません。」,「Nさんへ デスクトップのchm_KANRIが最新です あと○○○○○○○○○というディレクトリがPさんから送られてきたファイルです。」という遺書を残して自殺したこと,結局,作業は同月26日の納期には間に合わなかったことが認められ,以上の事実に照らせば,NとBは,納期に追われて精神的な余裕のない状態で作業し続け,とりわけ,経験が浅く裁量の乏しいBは,なんとしても納期に間に合わせなければならないという思いで心理的に追い詰められ,遂には納期に間に合わないという状況に陥って絶望したと考えられる。
(2)  業務以外の出来事による心理的負荷について
本件業務以外に,特にBの心理的負荷となるような出来事があったことを認めるに足りる証拠はない。
(3)  Bの個体側要因について
前記認定事実によれば,Bには,精神障害の既往歴は認められず,これまでの生活史にも特段の問題はなかったこと,アルコール依存状況もないことが認められる。
また,前記認定事実によれば,Bは,家族,友人,会社関係者から,一様に真面目で几帳面で,責任感が強く,人に気を遣うタイプであるとの評価を得ていたが,このようなBの性格に,同種の労働者の範囲を逸脱するような偏りがあるとまでいうことはできないのであり,同種の労働者の範囲に属するというべきであって,他に同種労働者の範囲を逸脱していることをうかがわせる証拠はない。
したがって,Bに精神障害の発症に寄与する個体側要因はなかったといえる。
(4)  総合判断
以上によれば,Bは,平成12年4月1日の入社後,OJT期間に入ってから急激に労働時間が増えた上,盆休みも取れないまま本件システムのプログラミング作業に従事し,入社以来の精神的,肉体的疲労が蓄積していたこと,同プログラミング作業終了後休息期間を取ることなく初めての出張に行き,出張直前の同年9月16日から出張中の同月26日まで,休日なく11日間連続で勤務し,その間に2日間も徹夜状態で作業するなど,その拘束時間が急増したこと,本件システム開発の納期は,Nが更に1か月ほど必要と感じたほど厳しいものであったことに加え,Bは,出張中,数日後に納期が迫る中で次々と発生するバグの場所の特定及び修正作業という経験したことのない困難な業務に追われたこと,Bは,出張中,ずっとホテルに連泊して作業するという閉塞的で逃げ場のない環境で業務に従事していたこと,Bは,納期前日の同月25日,Nから納期に間に合わない場合の対策や今後の見通しを聞かされていない状態で作業を続け,同月26日の納期に何とか間に合わせようとして,同月26日午前2時ころにL次長からNを通じて作業を止めるよう指示された後も,九州テン福岡支店にいるPと共に,同日午前3時37分ころまで作業を続け,同日未明にはそれでも納期に間に合わないという状況に陥ったこと,Bにとって,出張も,納期に迫られながらのバグ修正作業も,初めての経験であったことが認められ,これらの事情を総合的に判断すれば,Bと同程度の経験の同種の労働者であれば,同月25日夜から同月26日早朝には心身の疲労が限界に達し,同月26日未明に納期に間に合わないことが確実になったことで,遂にその限界を超え,精神の変調を来したとしても不自然ではないと認められるのであり,本件システム開発業務は,社会通念上,客観的にみて,本件精神障害を発症させる程度に過重の心理的負荷を与える業務であったと認めるのが相当である。
そして,Bに,本件業務以外の出来事による心理的負荷がうかがえないこと,Bに特段の個体側要因がないことからすれば,本件精神障害(具体的には,後述のとおり,うつ病と認められる。)は,上記業務上の心理的負荷を主な原因として発症したといえるのであり,Bの従事した業務と本件精神障害の発症との間には相当因果関係が認められる。
(5)  被告の主張について
ア これに対し,被告は,出張先での稼働テストの業務の困難度について,平成12年9月24日までは,バグの修正作業はNが行い,Bはバグの箇所の特定と修正したデータのテストを行うだけであり,同月25日からの業務も,Nの指示,サポートといった配慮を受けながら,液相部分というB自身が本件システム開発時に担当した箇所のバグを修正する作業であることからすれば,業務はさほど困難ではなかった旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,Bは,出張に行くまでは,b社向けシステム開発作業におけるプログラミング,本件システム開発における液相部分のプログラミング及び社内でのサンプルデータを使ったテストの経験はあるものの,顧客先での実データを使っての稼働テストは初めての経験であるし,また,本件は,稼働テストをするたびにバグが多発するという予想外の事態に陥っており,バグの発生の頻度の高さからすれば,実データを使った稼働テストを初めて経験するBにとっては,稼働テスト及びバグの箇所の特定という作業は困難であったというべきであり,さらに,同月25日からは,バグの修正作業という応用力や経験が必要と考えられる作業を行うことになったのであるから,業務はさほど困難ではないなどということはできない。
また,修正箇所の液相部分は,B自身がプログラミングを行った場所であるとしても,プログラムの仕様書に従ってプログラムを作成していくプログラミング作業(乙5添付の「図解雑学ソフトウェア開発」52頁参照)と,バグが発生するたびにその箇所を探り,その原因に応じて解決方法を講じていかなければならないという修正作業とでは,応用力や経験を必要とする程度が異なると考えられるので,自らがプログラミングをした場所であることのみをもって,その修正作業が困難でないとはいえない。
さらに,前記認定のとおり,N自身も,同月22日から納期に間に合わせるべくバグの修正作業に追われており,ホテルに帰ってからも深夜まで修正作業を行っていたことからすれば,精神的余裕があったとは考えられず,Bに対する指示やサポート等を十分に行っていたとは認め難い。
以上の事実に照らせば,業務はさほど困難ではなかったとの被告の主張は採用できない。
イ また,被告は,納期について,Bが強く意識していたとは考えられず,Bが同月26日を何らかの期限として意識していたとしても,仕事の要求度等には反映されず,Bは責任を負う立場にもないから,納期の切迫により心理的負荷が強まると評価できない旨主張する。
しかしながら,そもそも,前記認定のとおり,Bは,納期前日の朝から納期当日の未明にかけて,Nの作業中止の指示に反してまで,バグの修正作業に従事し続け,納期当日の早朝,宿泊先のホテルで「本当に申し訳ありません。死んで解決するものではありませんが私には,もうどうしようもありません。」との遺書を残して自殺しており,かかる事実からすれば,Bが納期を強く意識して追い詰められていたことは明らかである。
また,納期が迫っていれば,バグの箇所の特定及び修正という作業をできるだけ短時間で行わなければならないのであるから,仕事の要求度は自ずと高くなるし,Bは新人であって責任を負う立場にないとしても,本件システム開発の九州テンのメンバーは,Bを含めたわずか4人であり,しかも,同メンバーの中で,顧客先での稼働テスト及び修正作業に従事していたのはNとBの2人のみであり,その2人で分担して作業を行っていたという状況からすれば,Nのみに責任を負わせて,自分自身は何らの責任も感じなかったとは到底考えられない。
さらに,Nが苦情の窓口を引き受け,Bの耳に苦情が入らないようにし,夜遅くまで作業していたことについても伝えないなど配慮していたとしても,Bは,同月25日午後10時より前は,c社研究所でもホテルでもNと一緒に作業していたのであるから,Nが感じているプレッシャーや顧客からの苦情について,同様に感じ取っていたことが推認できる。
したがって,被告の主張は採用できない。
ウ さらに,被告は,出張自体は,特別なストレスを伴うものではないし,ホテルでの生活の期間や滞在時間は長くなく,閉塞的とまではいえないから,ホテルでの生活は,心理的負荷の強度を修正するほど心理的負荷とはいえない旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,Bは出張が初めてであったこと,出張先は千葉であり,実家が宮崎,出身大学院が熊本,普段の勤務先が福岡であるBからすれば,出張先は自宅から遠く離れた慣れない場所であったこと,本件での出張期間は,平成12年9月18日から同月26日までの9日間であり,1週間を超えるものであること,当初,出張は同月22日までの予定となっていたが,出張中に急遽予定が変更され同月26日まで延びたことからすれば,Bにとって,ただでさえ初めての出張という緊張する状況下に置かれ,同月22日には帰れるとの予測が裏切られたのであるから,ホテルの滞在期間は長く感じるものと考えられ,ホテルとc社研究所を往復して作業に従事する生活状況からすれば,閉塞的と評価するのが相当であって,これらの事情を併せ考えると,ホテルでの生活がBの心理的負荷を強くしていったと考えるのが相当であるから,被告の主張は採用できない。
エ 加えて,被告は,新人であるというBの立場のみを前提にして,そのストレス強度を強いものに修正することは,その立場自体によって多くの配慮がされており,ストレス強度を弱く修正されているともいえることを無視することになりかねないから許されない旨主張する。
確かに,新人という立場のみでストレス強度を強いものに修正することは妥当ではないが,どの業務にも新人という労働者が一定数いることが想定されるのであるから,新人という立場は同種の労働者の範囲に含まれると考えるべきであるし,新人は,経験不足のため,業務を困難と感じたり,納期の切迫や環境の変化等への耐性が弱いという傾向にあるから,かかる立場を心理的負荷の強度を評価する際の一要素と評価すべきであるし,新人であるがゆえに受ける配慮についても一要素し(ママ)て考慮すれば,その配慮によるストレス強度の低下を無視することにもならない。
オ また,被告は,責任感が強いという性格を前提に,Bが責任を感じたとしてストレス強度を強いものと評価するのは誤りである旨主張する。
確かに,責任感の強さは個体側の要因ともいい得るものであるから,責任感の強さを過大に考慮してストレス強度を評価することは許されるべきではないが,責任感が強いという性格は,同種労働者の範囲内といい得るものであり,総合的に判断するに当たってある程度考慮されることは当然に許容されるものであり,そもそも前記判示のとおり,Bの責任感の強さを特に考慮しなくても,Bの経験の乏しさなどから,納期に間に合わないことへの心理的負荷が相当重いと認定できるのであるから,上記被告の主張は採用できない。
カ さらに,被告は,V医師の意見書(〈証拠略〉)を根拠に,急性ストレス反応において典型的に存在すると考えられる実際に又は危うく死ぬような出来事による極度の精神的又は身体的ストレスは本件では存在しないし,うつ病に罹患するにしてもストレスにさらされる期間が短すぎ,このように,精神医学上考え得る診断名とBに認められる臨床経過に乖離があるので,Bに生じた客観的なストレス強度がそれ自体強度なものではなかった旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,Bが罹患した精神障害は,K医師は急性ストレス反応,V医師及びW医師はうつ状態などというように,医師によって評価が分かれている。そして,V医師は,「通常は2,3日という極めて短期間のストレスに関連してうつ病が誘発されるのは極めてまれである」ことを理由に,急性ストレス反応と診断されたものと判断しているが(〈証拠略〉),前記判示のとおり,本件精神障害及び本件自殺に至った経過は,平成12年4月の入社後,同年5月25日からOJT期間に入って労働時間が増加し,本件システム開発作業に追われて同年8月に盆休みを取れずに身体的,精神的な疲労が蓄積していた状況にあったのに加え,さらに,同年9月の出張により,出張の2日前から本件自殺に至るまで,11日間連続で,納期に追われながら,不休で働き,もともと蓄積していた身体的,精神的な疲労が限界に達し,納期に間に合わないという状況になって,その限界を超えて精神障害に罹患して自殺に至ったと認められるのであって,決して同月22日ないし同月25日の2,3日間の出来事だけが原因となったというものではないから,上記V医師の意見書における判断は,その前提が事実と異なっている。そして,上記長期間の身体的,精神的疲労に照らせば,Bは,うつ状態であっただけでなく,むしろうつ病を発症していたことが推認できるのであり,考え得る診断名とBに認められる臨床経過に乖離があるとする被告の主張は,採用できない。
(6)  以上によれば,Bの本件精神障害の発症には,業務起因性が認められる。
そして,前記認定事実によれば,Bが,本件精神障害によって正常の認識,行為選択能力,抑制力が著しく阻害された状態で自殺に及んだことは明らかであるから,結局,本件自殺によるBの死亡は,業務に起因するものと認められる。
したがって,Bの本件精神障害及びこれに基づく本件自殺に業務起因性を否定した本件処分は,違法といわなければならない。
4  結論
以上によれば,本件処分の取消しを求める原告の請求は,理由があるから,これを認容することとし,よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 木村元昭 裁判官 村上泰彦 裁判官 下山久美子)

 

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