【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業代行」に関する裁判例(25)平成24年 6月26日 東京地裁 平22(ワ)23038号 損害賠償請求事件

「営業代行」に関する裁判例(25)平成24年 6月26日 東京地裁 平22(ワ)23038号 損害賠償請求事件

事案の概要
◇原告が、被告に対し、原告が被告からその所有するビルの地下1階部分を賃借して事務所として使用していたが、①上記事務所において日常的にコバエが発生したのは被告の賃貸借契約上の義務違反に当たり、これにより原告は1億1680万3398円の損害を被ったとして、債務不履行(ただし、弁護士費用相当額の損害についてのみ不法行為に基づく損害賠償請求を重畳的に主張している。以下「本件債務不履行等」という。)に基づき、上記損害の一部である3028万8312円の賠償を請求し、②原告が預け入れた敷金のうち被告が控除して未返還の残敷金2310万4899円の返還を請求し、③原告が上記賃貸借契約に基づき専有利用していた部分の面積が契約上の専有面積より少なく、これらの面積差分の賃料合計660万6789円を被告は不当利得しているとして、その返還を請求し、予備的に、賃貸借契約の債務不履行に基づき、同額の損害賠償を請求するとともに、請求の日の翌日(ただし、上記②の請求については、上記事務所の明渡日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案

評釈
借地借家紛争事例データファイル(借家)

裁判年月日  平成24年 6月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平22(ワ)23038号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2012WLJPCA06268002

東京都新宿区〈以下省略〉
原告 株式会社エムエム総研
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 野間啓
東京都千代田区〈以下省略〉
中央三井信託銀行株式会社訴訟承継人
被告 三井住友信託銀行株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 酒井剛毅
同 中村雅隆
東京都千代田区〈以下省略〉
被告補助参加人 サンフロンティア不動産株式会社
同代表者代表取締役 C
同訴訟代理人弁護士 関口裕
同訴訟復代理人弁護士 西岡義晃

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,607万5000円及びこれに対する平成21年8月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の請求を棄却する。
3  訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
被告は,原告に対し,6000万円及びうち3689万5101円に対する平成21年8月27日から,うち2310万4899円に対する平成21年10月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  事案の要旨
本件は,原告が,被告に対し,原告が被告からその所有するビルの地下1階部分を賃借して事務所として使用していたが,①上記事務所において日常的にコバエが発生したのは被告の賃貸借契約上の義務違反に当たり,これにより原告は1億1680万3398円の損害を被ったとして,債務不履行(ただし,弁護士費用相当額の損害についてのみ不法行為に基づく損害賠償請求を重畳的に主張している。以下「本件債務不履行等」という。)に基づき,上記損害の一部である3028万8312円の賠償を請求し(以下「本件請求1」という。),②原告が預け入れた敷金のうち被告が控除して未返還の残敷金2310万4899円の返還を請求し(以下「本件請求2」という。),③原告が上記賃貸借契約に基づき専有利用していた部分の面積が契約上の専有面積より少なく,これらの面積差分の賃料合計660万6789円を被告は不当利得しているとして,その返還を請求し,予備的に,賃貸借契約の債務不履行に基づき,同額の損害賠償を請求するとともに(これらの請求を以下「本件請求3」という。),請求の日の翌日(ただし,上記②の請求については,上記事務所の明渡日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2  前提事実(当事者間に争いがないか,掲記証拠と弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  原告は,テレマーケティング業務(顧客からの委託に基づくテレホンアポイントによる営業代行)等を営む株式会社であり,被告は,銀行業を営む株式会社である。被告補助参加人(以下「参加人」という。)は,平成19年3月30日,被告から後記(2)の建物につき,建物共用部分の清掃,設備機器の保守管理及び設備保守点検等の建物保守管理業務並びに賃借人からのクレーム対応等を含む業務(以下「ビル管理業務等」という。)を受託した株式会社である。
(2)  原告と被告は,平成19年5月30日,被告が所有する東京都新宿区〈以下省略〉所在のaビルの地下一階部分(以下「本件建物」という。)につき,次の内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
ア 契約面積 165.08坪
この面積には,地下一階部分の居室外にあるトイレ,給湯室,廊下部分(以下「トイレ等」という。)が含まれていた。
イ 目的 事務室
ウ 月額賃料 218万4008円(税込み)
エ 共益費 41万6001円(税込み)
オ 敷金 2496万0096円
カ 期間内解約 契約期間内に本件賃貸借契約を解約しようとするときは,相手方に対し書面をもって予告しなければならないが,賃借人は,予告に代えて6か月分の賃料及び共益費相当額を賃貸人に支払うことにより,本件賃貸借契約を即時解約することができる(本件賃貸借契約19条1,2項)。賃借人が上記予告期間に満たない解約の予告をした場合でも,予告期間に不足する期間の賃料及び共益費相当額を賃貸人に支払うことにより,本件賃貸借契約を解約することができる(同3項)。
(3)  原告は,平成19年6月1日,本件賃貸借契約に基づき,被告から本件建物の引渡しを受け,以後,テレホンアポインターがブースで代行の委託を受けた営業目的の電話をかけるコールセンター事務所として利用してきた。
(4)  原告は,被告に対し,平成21年7月6日,被告の債務不履行を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示を文書で行い(翌7日到達),さらに,同年8月26日,本件請求1及び3(ただし,その金額は,本件請求1につき1億1656万7945円,本件請求3につき916万1435円)を請求した(甲5の1,2)。
(5)  原告は,平成21年10月29日,被告に対し,本件建物を明け渡した。
(6)  被告は,原告による前記(4)の意思表示は期間内解約の申入れに当たるとして,平成21年11月17日,原告に対し,原告が預け入れた敷金から解約申入後6か月分の賃料1564万0315円及び共益費297万9103円,電気料7万5481円並びに原状回復費用441万円の合計2310万4899円を控除(以下「本件控除」という。)した残金185万5197円を返還する旨通知し,その頃,同額を返還した(甲8)。
3  争点
(1)  本件建物におけるコバエの発生状況及びその原因(本件請求1及び2)
(2)  本件債務不履行等の有無(本件請求1及び2)
(3)  本件債務不履行等により原告に生じた損害(本件請求1)
(4)  本件控除の可否(本件請求2)
(5)  トイレ等の専有利用につき原告の錯誤ないし被告の債務不履行の有無(本件請求3)
4  争点に関する当事者の主張
(1)  争点(1)(本件建物におけるコバエの発生状況及びその原因)について
(原告の主張)
ア 本件建物におけるコバエの発生状況
原告は,平成19年7月1日,本件建物の使用を開始したが,間もなく居室内にコバエが常時飛び回るようになった。原告は,同年8月21日,参加人に対しコバエ発生の事実及びその状況を伝達して対処を要請し,これを受け,参加人は,同月23日,害虫駆除及び本件建物の地下にある汚水槽(以下「本件汚水槽」という。)内の殺菌消毒を実施した。これによりコバエの数は減少したが収束せず,12月頃に気温が低下するまで原告はコバエの飛散に悩まされた。
平成20年5月頃コバエが再び発生し,夏以降は様々な対策にもかかわらず増える一方の状態となった。原告は,同年4月頃から10月までゴミ箱の運用の変更,観葉植物の処分,窓を開けないなどの対策を実施したが効果はなかった。原告は,同年10月14日,参加人に対し対処を要請したところ,参加人の担当者は本件建物の状況を確認し,「いや,これはひどいですね。」と述べていた。同月18日に全館消毒が実施されたが状況は好転せず,同年12月27日,本件汚水槽の清掃と消毒が実施され,気温低下も相まってコバエの発生はようやく小康状態になった。
平成21年4月末頃,コバエが発生し,同年5月1日参加人に対処を申し入れた。原告は,あまりにもひどく改善が進まない状況に,自費で専門家である株式会社フェイマス(以下「フェイマス」という。)に調査を要請したところ,コバエの発生には本件建物の構造的な要因(後記イ)があることや,参加人による対処が全く不十分と分かり,コバエの衛生面,従業員の健康面への多大な問題性を認識するに至ったことから,本件賃貸借契約を解除した。
イ コバエの発生原因
本件建物内においてコバエが発生したのは,本件汚水槽が原因である。
本件汚水槽には構造的な問題があった。すなわち,本件汚水槽は,汚水と雑排水が同一槽となっており,人糞を含んだ本件汚水槽が流し台からの配水管とつながっていた上,本件汚水槽の釜場の面積が広いため,人糞を含む汚水が拡散・堆積しやすく,揚水ポンプによる排斥が十分に達成されず,ヘドロ化しやすくなっていた。さらに,揚水ポンプの作動位置を定めるフロート位置が高すぎるため,汚泥が相当程度堆積し,揚水ポンプの作動によっても排除しきれずにヘドロ化し,また,停止位置を定めるフロート位置が低すぎるため,揚水ポンプの作動直後にはヘドロが直接空気と触れる状態が出現し,おそらくは常態化した。
しかも,本件建物の流し台からの配水管にはトラップがなく,本件汚水槽の空気が居室と直結しており,また,流し台の下がコンパネ1枚だけであり,隙間から本件汚水槽の空気と直結していた。ここからコバエが居室内に流入する状態となったことが容易に想定される。
(被告の主張)
ア 本件建物におけるコバエの発生状況
原告が平成19年8月21日,清掃会社である株式会社フレサ(以下「フレサ」という。)に対してコバエ発生に関する連絡をしたこと及び同月23日に本件汚水槽の殺菌消毒が行われたことは認めるが,それ以前の状況は不知。同日後もコバエの飛散が続いたとの点は否認する。フレサは,トイレ,給湯室,廊下の清掃を平日5日間毎日実施し,かつ,毎週1回事務室内の清掃も実施していたが,コバエ発生の連絡を受けた時期を除き,コバエが多数飛び回っている状況を確認していない。
平成20年8月11日,原告から事務所内にコバエが発生したとの連絡があり,対応したが,トイレや給湯室(本件汚水槽につながる配管周りを含む。)を探してもコバエが全く確認できず,給湯室等にコバエ取りを設置して二,三日様子を見ても1匹もコバエがかからなかった。このため,事務室内でコバエが発生していることが強く疑われ,原告と相談の上で,同月24日に消毒を実施するとともに,ジュースの空き缶の回収頻度を増やすなどの対策を原告に実施してもらい,改善した。
平成20年10月14日に事務室内にコバエが再発生し,参加人に対し対処の要請があったことを受け,同月18日に全館消毒を実施したが,同月22日,原告から,コバエの数は大幅に減ったが完全にいなくなったわけではないので,対応策を検討してほしいとの要請を受けたため,参加人は,コバエの発生原因の一つとして疑われる本件汚水槽内の改良工事(本件汚水槽天井・壁の防水工事)を実施することを決定し,同年12月27日に実施した。被告及び参加人はかかる改善工事をなるべく早く実施したいと考えていたが,原告に工事日程を相談したところ,工事の際の臭気等の影響を避けるため年末年始の休暇中に工事を実施してほしいとの要請を受けたため,工事の実施は同日まで延期された。
平成21年4月末頃,コバエがわずかながら発生したこと及び原告がフェイマスに調査を依頼したことは認める。同年5月1日,原告から参加人に対し,またコバエが発生し始めたとの連絡があり,参加人担当者が同日現地を確認したが,ほとんどコバエは見当たらず,どこにいるか探し回ってようやく見つけられるレベルであった。しかし,わずかながらもコバエの発生が確認されたことや原告担当者から対処及び再発防止策提示の要請があったことから,本件汚水槽の清掃・消毒を実施するとともに,追加対応策を提示した。同年5月17日の工事以降は,コバエの発生は見られなくなった。
コバエの発生状況は,以上のとおりであり,常態化していなかった。清掃会社(フレサ)は,トイレ,給湯室,廊下の清掃を平日5日間毎月実施し,かつ,毎週1回事務室内の清掃も実施していたが,日常的にコバエが大量発生していた事実はない。参加人の担当者も月1回程度現地を確認に訪れているが,トイレ,給湯室,廊下部分においてコバエが気になるほど発生していたことは,連絡を受けた時期(平成19年8月,平成20年8月,同年10月の3回)を除いて一度もない。参加人の担当者が平成20年10月17日に現地確認した際には,打合せ用の会議室内にコバエが数匹飛んでいる状態であったが,翌18日の消毒実施で大幅に改善しており,その後,再発防止策の打合せの際に原告事務所を訪れた際に同様の状態であったことはない。
イ コバエの発生原因
一般的にコバエは多くの場所で見られるものであり,特にビルの周りにコバエが生息しやすい場所がある場合には,数匹程度の侵入は避け難いところ,本件建物の前の歩道には多数の街路樹が植わり,道路を挟んだ向かい側には公園及び付属の公衆便所がある。
本件汚水槽は,雑排水と汚水を同一槽で処理する「混合層」であるが,混合層を採用している建物は現在も非常に多く見られ,関連法令においても何ら制限されていない。東京都の指導要綱には汚水槽と雑排水槽を原則分離することを推奨する規定があるが,本件建物の建築申請時に行政協議を行った結果,混合槽の採用について問題ないと判断され,確認許可を受けたものであり,現状の排水設備に何ら問題はない。また,排水管にベルトラップが設置され,適切に機能しており,本件汚水槽内の空気が配水管を通じて流し台の空気と交わることもない。
釜場の面積についても,東京都環境局の指針により,一定以上の大きさとする必要があるし,フロートの位置についても,排水時にすべての汚水を排除して溜まり水をゼロの状態にすることは故障の要因となるとされており,一定のたまり水が残る位置に設定することが通常であって,いずれも不適切なものではない。なお,釜場とは,汚水槽内の揚水ポンプにより円滑に汚水・汚泥の排出がされるように汚水槽内の一部を掘り下げた部分のことを指すが,汚水槽内の汚水・汚泥は排水槽全体に溜まることを想定して設計されており,釜場部分だけに留まることが想定されているわけではない。
被告としても,本件汚水槽がコバエの発生原因の一つである可能性を否定するものではないが,平成20年8月及び同年10月は,コバエは主に原告の事務室内で確認されており,本件汚水槽とつながっている配管があるトイレ,給湯室ではほとんど確認されていないし,平成20年8月の発生時には,トイレ,給湯室を探してもコバエは1匹も確認できず,コバエ取りを設置して二,三日様子を見ても,1匹もコバエがかからなかった。このため,フレサは,コバエがゴミ箱内にある空き缶のジュース等で繁殖している可能性が高い旨を原告に伝え,ゴミ回収の頻度を増やすようアドバイスしている。本件建物の構造上,本件汚水槽と事務室とは直接つながっておらず,本件汚水槽で発生したコバエが事務室内に移動するためには,トイレ等から廊下を経由して移動する必要がある。したがって,本件汚水槽が原因である場合,トイレ等にコバエが1匹もいない状態になることは考えにくく,本件汚水槽だけが発生原因であると考えるには疑問が残る。仮に本件汚水槽が発生原因であるとしても,ゴミ箱等での二次繁殖等の可能性も強く疑われる。
(2)  争点(2)(本件債務不履行等の有無)について
(原告の主張)
被告は,本件賃貸借契約の賃貸人として,本件建物を事務所用に賃貸するに当たり,原告の従業員が安全かつ健康に居室において過ごせるようにし,原告がその従業員に対し本件建物による健康被害を与えないようにさせる契約上の義務を負っていた。
本件建物には,前記(1)(原告の主張)のとおり構造上問題があり,さらに,繰り返しコバエが発生しているにもかかわらず,参加人は本件汚水槽の定期的な清掃,洗浄を実施せず,原告の訴えにも対症療法のみで抜本的対策をとらないなど,全く不十分なビル管理業務等に終始した。果ては,参加人は,原告従業員の健康上の問題も顧みず,居室内への殺虫剤散布を要請するような有様であった。
原告の前に本件建物を賃借していた株式会社藤木工務店(以下「藤木工務店」という。)の入居当時の平成17年にもコバエが発生した事実があり,そのことは,当時の管理会社であり現在の清掃会社であるフレサにも連絡したが,その点につき参加人に引き継ぎがされていない。本件建物では,平成21年5月まで,立て続けにコバエが発生し,その発生源が本件汚水槽であるという業者報告まで得ていたにもかかわらず,管理担当者間で情報が共有されず,消毒等の対症療法を繰り返すにとどまった。遅くとも,2回目の通報である平成20年8月あるいは10月の段階で,徹底した原因究明と構造的な改善によりコバエが生じないようにすることは可能であった。
このような被告の行為は,本件賃貸借契約上の債務不履行に当たり,また,原告に対する不法行為を構成する。
原告は,本件建物におけるコバエの発生原因が構造的な問題を有していることを受け,このような事務室内において従業員を勤務させることは,労働安全衛生法22条ないし25条に違反することが明白であることから,直ちに事務室としての使用を中止し,平成21年5月29日,本件地賃貸借契約を解除し,コールセンターの機能を別の用途に使用するために新たに賃借していた西新宿の事務所(原告の平成22年10月1日の本店移転前の本店所在地(東京都新宿区〈以下省略〉(bビル8階))の5階)に移した(同所の建物につき,以下「bビル」という。)。
(被告の主張)
原告からコバエに関して連絡があったのは,平成19年8月,平成20年8月,同年10月,平成21年5月の4回だけであり,平成21年5月についてはよく探さないとコバエを発見できない程度の状態であったし,清掃会社のフレサは清掃のために週6回本件建物を訪れており,被告の担当者も月1回は現地を確認に訪れているが,コバエが気になるほど発生していたことは,連絡を受けた時期(平成19年8月,平成20年8月,同年10月)を除いて一度もなく,コバエの発生は常態化していたものではない。
また,コバエの発生原因は,前記(1)(被告の主張)のとおりであり,本件建物に構造上の問題はなく,ビル管理業務等も適切であった。フェイマスの実績,技術は不明であり,本件建物の設計図書と現場の照合確認さえしていないと思われる上,トラップの有無等明らかな事実誤認が散見され,その信頼性には大きな疑問がある。被告及び参加人は,原告からコバエの発生に関する連絡を受けた際は,いずれも迅速に対応し,適切な処置を行った。消毒等の実施までに多少の期間が空いている場合があるのは,原告担当者と相談の上,原告の業務に支障のない週末や長期休暇に対応を行ったためである。
なお,藤木工務店が賃借していた4年間は,被告が本件建物を取得する前であり,参加人もビル管理業務等の受託会社ではなかったが,コバエが発生したのは1回のみであり,その際も,消毒実施により直ちに改善した。
以上から,被告及び参加人に,過失や債務不履行はない。
(3)  争点(3)(本件債務不履行等により原告に生じた損害)について
(原告の主張)
本件債務不履行等により,原告には,次の損害が生じた。
ア 本件建物での備品,設置費用(別表1) 2955万0910円
イ 移転及び新設費用(別表2) 2176万5702円
ウ 調査費用 157万5000円
エ 労務費増加分(別表3-1~3) 5021万0840円
オ 慰謝料 813万8880円
(月当たり,月額坪単価2400円×使用面積(141.30坪)の24か月分。なお,上記2400円は,本件建物の当時の賃料+共益費とその現在の募集価格(共益費込み)との差額)
カ 弁護士費用 556万2066円
(被告の主張)
原告の主張する各損害は,コバエの発生との関連性が薄く,相当因果関係が存在しない可能性が極めて高い。
原告は,「キャリアディベロップメントサポート」という新規事業(以下「本件新規事業」という。)のため,転居先を借りて,平成21年4月の時点で既に引っ越しの準備もしていたが,その新規事業が頓挫したため本件賃貸借契約を解除したものであり,その解除はコバエとは無関係の理由によるものである。
(4)  争点(4)(本件控除の可否)について
(原告の主張)
原告は,被告の債務不履行を理由として本件賃貸借契約を解除したものであり,本件賃貸借契約19条2項の規定する期間内解約には該当しないから,被告は6か月分の賃料及び共益費相当額を相殺することはできず,かかる相殺は無効である。また,原状回復費は,移転に伴う損害そのものであるから,被告が負担すべきである。
したがって,被告は,原告に対し,未返還の敷金残金2310万4899円を返還すべきである。
(被告の主張)
解除事由に該当するのは本件賃貸借契約20条の列挙事由に匹敵するような著しい債務不履行を指すが,前記(2)(被告の主張)のとおり,被告には解除事由に該当するような債務不履行はない。平成20年12月27日の改善工事によってコバエの発生がほぼ改善され,平成21年5月1日にわずかに発生したコバエについても原告及びフェイマスから指摘された懸念を考慮した改善措置を実施した結果,コバエは確認できない状態にまで改善しているのである。原告は,それにもかかわらず,平成21年7月6日付け書面によって一方的に本件地賃貸借契約の解除を通告してきたものであり,これは,本件賃貸借契約上の期間内解約として扱うべきものである。
(5)  争点(5)(トイレ等の専有利用につき原告の錯誤ないし被告の債務不履行の有無)について
(原告の主張)
ア 本件賃貸借契約の契約書上,専有面積はトイレ等を含めた165.08坪とされており,原告もそのように認識していた。しかるに,本件賃貸借契約において,トイレ等は共用部分として取り扱われており,真の契約内容においては141.30坪が専有部分である。したがって,原告には,契約内容につき錯誤があり,同面積を超える部分についての賃料支払合意は無効である。
したがって,本来の賃料額は141.30坪を基に計算されるべきであり,本件地賃貸借契約上の賃料坪単価は1万2600円であるから,141.30坪で計算した場合の月額賃料は186万9399円(税込み)となり,原告が毎月支払っていた218万4008円との差額31万4609円を被告は不当利得している。原告は,被告に対し,平成19年9月分から平成21年5月分までの21か月分を支払っているから,被告は,合計660万6789円を不当利得している。
イ 仮に,真の契約内容も専有面積は165.08坪であるとしても,被告は141.30坪を超える部分(トイレ等)については,原告の占有部分として使用させておらず,本件賃貸借契約における賃貸人の義務を履行していない。これによる損害は,141.30坪を専有面積とした場合の賃料相当額との差額と同額である。
(被告の主張)
ア 本件賃貸借契約の契約面積に「トイレ,給湯,廊下部分の面積」が含まれていることは,重要事項説明書の「賃貸借部分」の欄に明記され,契約書においても添付図面において赤枠で明示されているとおりであり,原告には,契約面積に関する錯誤は存在しない。
イ トイレ等は各フロアに設置されているため,地下1階にあるトイレ等は原告が専用使用できる状態にあったし,実際にも,原告がトイレ等を使用する上で何ら問題は生じていないのであるから,トイレ等として使用収益させる義務が果たされていることは明らかである。
第3  当裁判所の判断
1  争点(1)(本件建物におけるコバエの発生状況及びその原因(本件請求1及び2))について
(1)  認定事実
前提事実に加え,掲記証拠と弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,この認定を覆すに足る証拠はない。
ア フレサは,参加人が平成19年3月30日にビル管理業務等を受託する前の平成15年から,別の業者からの委託により,本件建物の設備点検,清掃等の業務を担当していたが,平成17年7月に,当時の入居者である藤木工務店からコバエの発生について連絡を受け,薬剤散布と全館消毒の対処を行った(甲65,乙13,証人D(以下「証人D」という。調書6頁,10,11頁))。
イ 原告は,平成19年5月30日に本件賃貸借契約を締結し,同年6月1日に本件建物の引渡しを受け,同年7月1日,本件建物の使用を開始したが,その後間もなくコバエが発生し始め,市販の殺虫剤で駆除していたものの,同年8月21日,給湯室や事務室内に一気に発生したことから,参加人から物産ファシリティ株式会社を通じて本件建物の設備点検・清掃等の業務の委託を受けているフレサに対処を要請し,フレサにおいて消毒業者に依頼して,同月24日,発生源と考えられる本件汚水槽の消毒を行い,給湯室や事務室内については,殺虫剤で駆除した結果,同月30日には,コバエが見られなくなった(乙5の3,乙13,証人D(調書3頁),証人E(以下「証人E」という。調書2頁))。
以上の点について,フレサの代表取締役である証人Dは,平成19年8月は,廊下や給湯室に10匹程度いただけである旨陳述書に記載し(乙13),事務室で発生したとの話は聞いていない旨の証言をする(調書2頁)。しかし,当時の原告のクレームは,「多数発生」,「今般一気に発生した」というもので(乙5の3),その数は相当多数であり,また,廊下等に限定されたものとは解し難いことから,上記認定に沿う証人Eの証言(調書2,3頁)に照らし,採用することができない。
他方,証人Eは,コバエは,その年の12月まで飛んでいた旨の証言をし(調書3頁),原告は,その証言に沿う証拠(甲74)も提出しているが,同年8月以降,原告においてクレームを述べた記録がないことから,これらの証拠は直ちに採用することができない。
ウ 平成20年4月頃,コバエが再び発生し,夏頃には大量に発生したため,原告は,ゴミ箱の運用の変更,観葉植物の処分,窓を開けないなどの対策を実施したが効果はなく,同年8月24日頃フレサが依頼した業者によって本件汚水槽内の薬剤散布処理や,廊下に空間噴霧処理を実施したものの,本件汚水槽内の幼虫には効き目がないことから,一時的には治まっても,しばらくすると,また発生するという状況であった(証人F(以下「証人F」という。調書2から4頁,12,13頁),甲75,76,77,乙5の15,乙19)。
以上の点について,証人Dは,平成20年8月に事務室内に発生との連絡を受け,事務室内の自動販売機の周辺に10匹程度のコバエを確認したが(調書24,25頁),給湯室や廊下には発見できず(調書4,5頁,16頁),コバエの種類も,前年のチョウバエではなくノミバエであったことから,本件汚水槽が原因ではなく,一次発生の場所は分からないが,事務室内で二次発生したと思った(調書4から6頁,16から18頁)旨証言する。しかし,同年9月2日付けの報告では,「蚤バエがB1Fテナント様の室内に繰り返し発生した」との記載及び「今般駆除を実施した業者からの報告では,発生原因が汚水槽となっており,汚水槽の対処の方が重点となっています」との記載がある(乙5の15)。また,その駆除を実施した業者のフレサ宛て同年8月28日付け報告書では,「汚水槽内を点検したところ,大量のノミバエが確認されました。槽内の薬剤散布処理は成虫には効きますが,スカムに生殖する幼虫には,効きめが少ない」との報告がされていること(乙19),証人D自身も「大量」という言葉を使用していること(調書17頁)からすると,同年は,8月前から継続して発生していたこと,同年8月頃の発生数は相当大量であったこと,一次発生の原因は本件汚水槽であり,薬剤散布によっては根本的な対策とはならないことは,フレサにおいても認識されていたものと推認でき,上記認定に反する証人Dの上記証言部分は採用することができない。
エ 原告は,同年10月14日,参加人に対し再度対処を要請したところ,参加人の担当者である証人G(以下「証人G」という。)は,同月17日,本件建物の状況を確認し,打合せをしていても気になる状況であったため,「いや,これはひどいですね。」と述べていた(証人G(調書23,25頁),証人F(調書6,7頁),甲77の2頁)。そこで,同月18日に全館消毒が実施されたが(甲66),参加人においては,本件汚水槽内の卵を薬剤で駆除することはできないことを認識しており,フレサに対し根本的な対策を指示し,フレサからは,コバエが配管や配線とコンクリートの隙間やコンクリートのクラックを伝わって本件汚水槽内から外部に出てくるのを防ぐため,本件汚水槽内の壁,天井に防水剤を塗布すること等が提案された(乙5の17)。しかし,当該工事は,施工後数日間にわたって臭気が残ることから,原告側の希望により,年末年始の休暇中に実施することとなり,同年12月27日,本件汚水槽内の配管,配線周りのシーリングと本件汚水槽の壁面及び天井への防水剤の塗布の工事が行われ,その結果,コバエの発生はなくなった(乙13)。
なお,平成21年2月13日,本件建物周辺に異臭が生じるとの事態が発生し,本件汚水槽に基準値を超える硫化水素が発生したことが判明し,排水を制御するフロートセンサーの高さを調整することで対処することとなり,実際に対応を行ったが,特に,コバエの発生原因との関連性までは検討されなかった(乙5の21,乙16,乙20の1,証人D(調書13頁),証人G(調書19,20頁,26頁))。
オ 平成21年4月末に,またコバエが飛び始め,参加人は,同年5月1日,原告からコバエが発生し始めたので対処してほしいとの連絡を受け,同月11日に原告と打ち合わせの上,同月17日,地下フロアと本件汚水槽内の消毒殺虫を実施し,一定期間殺虫効果のある殺虫棒を本件汚水槽内に設置した結果,その後,同月17日及び19日に調査したが,コバエの発生を確認することができなかった(甲66,85,乙16,証人G(調書26から28頁))。
カ 他方,原告は,フェイマスに調査を要請し,フェイマスにおいては,平成21年5月14日から18日までの間調査を実施し,同月20日及び22日付けで,原告に対し,①汚水と雑排水が同一槽となっており,糞尿の堆積により揚水ポンプの作動が不可能となっていること,②清掃用具庫内につき,本件汚水槽と配管内部が直結しており,コバエが配管内部を伝って室内に上がってくること,③給湯室につき,流し台配水管が本件汚水槽と直結しており,コバエが配管内部を伝わって室内に上がってくること,④揚水ポンプの作動位置を定めるフロート位置が高すぎるため,汚泥が相当程度堆積していることなどを指摘した(甲63,64,69)。
参加人は,上記フェイマスの報告を検討し,指摘された事項については事実と異なると判断したものの,本件汚水槽に対する対策を講じることとして,①流し台の下へのトラップ設置,②SKシンクのフランジ,ガスケットの交換,③釜場の縮小の工事,④再度の配管及び電気配線周りのシーリング,⑤雑排水層のマンホール並びに合併層及び湧水層のゴムパッキンの交換の5点をまとめ,同月29日,原告に対し説明した(甲9,67,乙16,証人G(調書5頁))。そして,その工事は同年6月6日に実施され,その後はコバエの発生は認められていない(甲68,乙16)。
キ 原告は,平成21年5月29日の上記説明に納得せず,このままでは本件賃貸借契約を解除するしかないと述べるとともに,賃貸人からの謝罪がないのは不誠実ではないかと指摘した(証人E(調書18頁,32から34頁),証人G(調書6,7頁))。そのため,Gは,平成21年6月14日,被告の担当者とともに原告を訪れ,被告から謝罪が行われるとともに,参加人からは,上記のとおり行った対策の工事の内容と今後の対策について報告した(証人G(調書8頁,29頁))。
ク 原告は,平成21年7月6日,被告に対し,同年5月29日に,本件賃貸借契約解除したことを確認する文書を送付し,同文書は,翌7日に被告に到達した(甲3の1,2)。
(2)  以上のとおり,本件建物においては,平成17年7月,平成19年7,8月,平成20年4月から同年12月まで,及び平成21年4月末から5月にコバエが発生し,そのうち平成19年8月,平成20年8月及び10月は相当大量に発生していたものと認められる(証人Dは,平成19年8月,平成20年8月及び10月以外は,特にコバエが気になったことはないとしているが(乙13,調書1頁),コバエ発生の継続期間は上記認定のとおりで,その程度もより高かったものと認められるから,証人Dの上記証言等は,前記各証拠に照らし,採用することができない。)。
また,そのコバエ発生の原因については,本件汚水槽内の駆除を担当した業者において,本件汚水槽内でコバエ(ノミバエ)が大量に確認された旨報告していること,本件汚水槽内の消毒や本件汚水槽の壁面,天井への防水剤の塗布などでコバエが一定期間発生しなくなったこと,より根本的には平成21年6月の本件汚水槽に対する対策工事以降はコバエが発生しなくなったことからすると,主たる原因が本件汚水槽の機能や構造にあったものと推認することができる。
平成20年8月や10月には,給湯室や廊下にコバエが見られなかったとの証言(証人D(調書16頁),証人G(調書17頁))を前提に,本件建物の外部の公園などで一次発生したコバエが本件建物内に侵入し,事務室内の空き缶や観葉植物等で,更に二次的に発生したと推論すること(乙11,14,15,証人D(調書16頁))については,その可能性は否定できないが,上記の事情からすると,主たる原因と認めることはできない。
2  争点(2)(本件債務不履行等の有無(本件請求1及び2))について
(1)  債務不履行等の成立
前提事実(2)のとおり,本件賃貸借契約は,本件建物を事務室として使用する目的で締結されたものであり,原告は本件建物をコールセンター事務所として使用していたのであるから,賃貸人である被告は,その賃貸目的に従った使用ができるよう本件建物を維持,管理する本件賃貸借契約上の義務がある。ところが,上記1の認定,判断のとおり,本件建物では一定期間コバエが発生し,その主たる原因も本件建物の本件汚水槽の機能や構造にあったと認められるところ,証拠(甲77,証人F)によれば,そのコバエの発生期間中,従業員が不快感を持つとともに,事務に集中できないなどの支障も生じたほか,コバエ対策のため総務担当の事務員がゴミの処理について従業員に注意を促す広報に従事するなど余分な事務が増え,さらには,外部からのコバエの侵入を防ぐ趣旨で窓を開けられないとか,外部から来た客の不快感に苦慮するなど,本件賃貸借契約の目的に沿った原告の利用が一定程度妨げられる事態が生じていたことが認められるのであるから,本件賃貸借契約上の債務に不履行があったというほかない。
これに対し,原告の不法行為の主張は,弁護士費用の請求のため,債務不履行に重ねて行われていることが,その主張自体から明らかであるところ,原告の被侵害利益は上記のとおり本件賃貸借契約上の利益である上,その侵害態様については,原告の本件建物の本件汚水槽の機能や構造につき建築基準法及び同法の関連法令上の違反までは認められず(乙1,4),また,原告の従業員の健康に被害を及ぼす現実的な危険があったことを認めるに足る証拠もないことからすると,不法性は大きくないというほかないから,本件建物の維持,管理が不十分であったことをとらえて,不法行為に該当するということまでは困難である(なお,本件建物内において,原告が従業員をしてその事務に従事させることが労働安全衛生法22条ないし25条違反になるということも認定することができない。また,殺虫剤の散布等により,健康被害の現実的な危険が生じたことを認めるに足る証拠もない。)。
(2)  債務不履行等の程度及び本件賃貸借契約解除との因果関係
原告は,上記債務不履行を理由として,平成21年5月29日に本件賃貸借契約を解除した旨主張するので,以下解除の意思表示の時期と解除原因について検討する。
ア 認定事実
前提事実と前記1(1)の認定事実のほか,掲記証拠と弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ,この認定を覆すに足る証拠はない。
(ア) 原告代表者は,平成20年秋頃,株式会社ビジャスト(以下「ビジャスト」という。)の代表者と知り合い,離職者の再就職支援を行う新規事業をビジャストと提携して展開することを検討し始め,平成21年3月31日にbビル8階の当時の本店所在地のほかに同ビル5階(約67から68坪)も賃借した(甲83,証人F(調書24頁),証人E(調書11から16頁,27頁))。
(イ) 原告は,平成21年4月初め頃から電気設備工事などにとりかかり(甲49,50の各1,2,甲51,52の各1から4,甲53の1,2,甲54,証人E(調書28,29頁)),新規事業の準備を始めたが,退職者が大量に出る4月から6月にかけて同事業が稼働するまでに至らず,それが新規事業断念のきっかけとなり,同年9月には,ビジャスト側の事情もあって新規事業を断念することとなった(甲83,証人E(調書30頁))。
(ウ) 原告は,前提事実(4)及び(5)のとおり,平成21年7月7日,文書によって本件賃貸借契約解除の意思表示をし,同年8月26日,本件請求1及び3を行い,同年10月29日に本件建物を明け渡した。
イ 本件賃貸借契約解除の意思表示について
原告は,前記1(1)カ及びキのとおり,平成21年5月29日に,参加人から今後のコバエに対する対策の説明を受けた際,その説明が納得できず,このままでは本件賃貸借契約を解除するしかないと述べたことが認められるが,証人Eは,その場でGに対し解除になりますと伝えた上,原告代表者に確認した上,Gに電話をして,やはり契約解除になりますと伝えた旨証言する(調書35頁)。しかし,証人Gは,当日Eは,社長と検討すると述べて,その後電話では本件賃貸借契約を解除するという話ではなく,賃料を支払わないという話であった旨証言する(調書6,7頁)。
そこで検討するに,前記1(1)カ及びキのとおり,参加人においては,同年6月6日に,予定した工事を実施した上,同月14日には,被告担当者とともに原告を訪れ,被告から謝罪するとともに,今後の対策が説明されていること,本件賃貸借契約のような契約面積も大きく月額賃料額も高額な賃貸借契約について,原告代表者に確認した上での契約解除の意思表示が電話で伝えられるということは通常考え難いこと,その後,更に確認のため文書で意思表示するまでに1か月以上もかかるということも考え難いことを考慮すると,同年5月29日に解除の意思表示があったとの認定をすることは困難であり,証人Eの上記証言は直ちに採用することができない。
ウ 本件賃貸借契約の解除原因の有無について
そこで,平成21年7月7日の原告の本件賃貸借契約解除の意思表示について,解除原因が認められるかを検討する。
(ア) まず,本件賃貸借契約20条は賃借人に生じた事由により契約が解除できる場合を定めたものであり,賃貸人に生じた事由については特に契約上の定めがない。
(イ) そこで,前記(1)に認定した被告の債務不履行が本件賃貸借契約解除の原因と認められるかについて検討するに,前記1(1)に認定したとおり,本件賃貸借契約が締結されて以降,平成19年7,8月,平成20年4月から同年12月まで,及び平成21年4月末から5月にコバエが発生し,そのうち平成19年8月,平成20年8月及び10月は相当大量に発生していたものと認められるが,参加人においては,その都度,消毒等に務めたこと,平成20年12月の対策工事は,同年10月に提案されたものが,施工に伴う臭気のあることから年末年始の休暇中に施工せざるを得なかったのであり,その工事によって,翌平成21年4月末まではコバエの発生が治まっていたこと,同年4月末から5月には一時的に発生したものの,同月17日の対策を経て,同年6月6日の工事以降発生が確認されていないことを考慮すると,同年7月7日時点で,原告と被告との間の信頼関係が破壊されていたということはできず,解除原因があったということはできない。
(ウ) そうすると,原告が平成21年7月7日の時点で解除の意思表示をした理由が問題となるが,上記アのとおり,原告においては,本件新規事業のため平成21年3月末にbビル5階を新規に賃借し,同年4月初めにはその新規事業の準備に取り掛かっていたものの,その後,4月から6月までの間,同事業が稼働するまでに至らなかったことから,同年7月には本件建物賃借の必要性が低くなっていたことがうかがわれる。この点につき,証人Eは,上記のとおり新規事業が稼働するまでに至らなかった事情は,コバエにある旨の証言をし(調書29頁),ビジャストの代表者の陳述書(甲83)にも,この証言に沿う記載があるが,同事業のためにbビル5階が新規に賃借されていたこと,同年4月末から5月のコバエの発生状況が事業に支障を来すほどのものであったことを認定するに足る証拠がないことからすると,上記の証言と陳述書の記載は直ちに採用することができない。
(エ) なお,前記1(1)アの平成17年7月のコバエの発生は,本件賃貸借契約締結前の事由であり,フレサから参加人への引き継ぎされていないことを考慮しても,上記のとおり原告による解除の意思表示に解除原因が認められないとの判断は左右されない。
(オ) また,前記1(1)エの平成21年2月の異臭については,その原因につきコバエの発生原因と共通であることがうかがわれるが(甲82),コバエはその時点で発生しておらず,その後4末から5月に一時的に発生したものの対策が採られ,同年6月6日の工事以降発生が確認されていないのであるから,上記異臭の点も上記判断を左右しない。
以上のとおりであるから,原告の同年7月7日の解除の意思表示については,解除原因が認められないというほかない。
3  争点(3)(本件債務不履行等により原告に生じた損害(本件請求1))について
上記2(1)の被告の債務不履行との間に相当因果関係の認められる損害について検討する。
(1)  原告主張の「ア 本件建物での備品,設置費用」及び「イ 移転及び新設費用」は,原告の本件賃貸借契約解除が有効であることを前提として,原告の本件建物からの移転によって生じた損害であるが,上記2の認定,判断のとおり,本件賃貸借契約の解除原因は認められないから,上記各損害は,上記2(1)の債務不履行と相当因果関係のある損害と認めることができない。
(2)  原告主張の「ウ 調査費用」については,前記1(1)カのとおり,原告はフェイマスに調査を依頼し,参加人は,その調査結果については,事実と異なると判断したものの,その調査結果を踏まえた対策を講じた結果,その後コバエの発生が認められなくなったのであるから,上記調査のために要した費用157万5000円(甲62)は,上記2(1)の債務不履行と相当因果関係のある損害と認めることができる。
(3)  原告主張の「エ 労務費増加分」について,証人Eは,訴状添付の別表5に基づき,本件建物に勤務していた者の退職者が,bビルに勤務していた者より目立つが,これはコバエが原因である旨証言する(調書6,7頁)。しかし,上記別表5の本件建物の退職者数を見ても,平成19年8月,平成20年8月及び10月に特に目立って退職者数が増加しているという関係を認めることはできず,コバエ発生との間の因果関係を認めるに足る証拠はないというほかない。
また,同証人は,退職者が出れば,派遣労働者に依頼することになるが,単価が高く,また,効率が落ちて労働時間も増加したという趣旨の証言もするが(調書7から9頁),上記のとおり,退職者数とコバエの関係を認定するに足る証拠はないというほかないし,別表3-2,3-3のとおり,労働時間が契約時間より増加し,かつ派遣費用が発生した時期と,前記認定のコバエの発生状況との関係も明らかではなく,それらがすべてコバエの発生と因果関係があると認めることは困難であるというほかない。
しかし,他方,前記2(1)のとおり,コバエの発生期間中,原告の従業員が事務に集中できないなどの支障も生じたのであるから,原告の主張する労働時間の増加や派遣費用の増加による損害についても,一定の限度ではコバエ発生との間に因果関係が認められないわけではない。また,前記2(1)のとおり,原告においては,コバエ対策のため総務担当の事務員がゴミの処理について従業員に注意を促す広報に従事するなど余分な事務が増えたのであるから,これらによって原告に本来は数理的な算定が可能な一定の経済的損害が生じたということも可能である。もっとも,以上の各損害については,その性質上額を立証することが極めて困難であると認められるから,民事訴訟法248条により,口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に基づき,原告主張金額の約20分の1に相当する250万円をもって相当な損害額と認定することとする。
(4)  原告主張の「慰謝料」(原告は法人であるから,無形の損害というべきである。)については,前記2(1)のとおり,コバエの発生期間中,原告の従業員が不快感を持つとともに,外部からのコバエの侵入を防ぐ趣旨で窓を開けられないとか,外部から来た客の不快感に苦慮するなど,上記(3)のとおり認められる財産上の損害のほかにも,数理的な算定のできない無形の損害も生じたというべきである。そして,そのコバエが発生していた期間や,平成19年8月,平成20年8月及び10月には相当大量に発生していたものと認められることなどの諸般の事情を総合考慮すると,上記無形の損害の賠償額は200万円と認めるのが相当である。
(5)  原告主張の「弁護士費用」については,前記2(1)のとおり,不法行為の成立が認められないから,理由がない。
(6)  結局,原告の本件請求1は,上記(2)の157万5000円及び上記(3)の経済的損害の250万円及び(4)の無形損害200万円の合計607万5000円とこれに対する請求の日の翌日である平成21年8月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がない。
4  争点(4)(本件控除の可否(本件請求2))について
前記2(2)のとおり,原告主張の解除原因は認められず,平成21年7月7日の本件賃貸借契約解除の意思表示は解約申し入れと認められ,本件賃貸借契約19条2項に基づく本件控除には理由があり,権利濫用とも認められないから,原告の本件請求2は理由がない。
5  争点(5)(トイレ等の専有利用につき原告の錯誤ないし被告の債務不履行の有無(本件請求3))について
原告は,本件賃貸借契約の契約書上,専有面積はトイレ等を含めた165.08坪とされているが,トイレ等は共用部分として取り扱われており,真の契約内容においては141.30坪が専有部分であるから,原告には,契約内容につき錯誤があり,同面積を超える部分についての賃料支払合意は無効である旨主張する。
しかし,証拠(甲1,2)によれば,本件賃貸借契約の対象となった貸室の面積は165.08坪とされているが,当該契約締結時の重要事項説明書においては,その契約面積にはトイレ等の面積が含まれていることが明記されていることが認められるし,実際,原告においてトイレ等につき,その用途に従って利用することが妨げられたことを認めるに足る証拠はないから,その契約面積に関する原告の錯誤ないし被告の債務不履行があったものとは認められない。したがって,原告の本件請求3は理由がない。
なお,証人Eは,上記トイレ等のうちの廊下部分に自動販売機を設置しようとして参加人に断られた旨の証言をするが(調書9,10頁),本件賃貸借契約上の用途である廊下としての使用が妨げられたものではないから,同証言は,上記の認定判断を左右するものではない。
6  以上のとおり,原告の請求は607万5000円とこれに対する平成21年8月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 都築政則 裁判官 齊藤隆広 裁判官篠田賢治は,転補のため,署名押印できない。裁判長裁判官 都築政則)

 

〈以下省略〉

 

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