判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(276)平成21年 3月18日 東京地裁 平19(ワ)33983号 本訴・売買代金等請求事件、反訴請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(276)平成21年 3月18日 東京地裁 平19(ワ)33983号 本訴・売買代金等請求事件、反訴請求事件
裁判年月日 平成21年 3月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)33983号・平20(ワ)12454号
事件名 本訴・売買代金等請求事件、反訴請求事件
裁判結果 本訴認容、反訴棄却 文献番号 2009WLJPCA03188002
要旨
◆自動車雑誌を発行する原告が、被告との間で、取次店と取引を開始できるよう被告が尽力・助言するコンサルタント契約と雑誌の販売代行契約を締結したところ、被告において請負契約の目的である取次店との取引開始という目的を達成できなかったとして、原告が被告に対して既払コンサルタント料の返還等を求めるなどし、一方、被告がコンサルタント契約は準委任契約であるとして原告に対して未払コンサルタント料の支払を求めた事案について、コンサルタント契約は結果達成を目的とする請負契約であるとして、原告の被告に対する請求(本訴)を認めるとともに、被告の原告に対する請求(反訴)を棄却した事例
参照条文
民法632条
民法656条
裁判年月日 平成21年 3月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)33983号・平20(ワ)12454号
事件名 本訴・売買代金等請求事件、反訴請求事件
裁判結果 本訴認容、反訴棄却 文献番号 2009WLJPCA03188002
平成19年(ワ)第33983号 本訴・売買代金等請求事件
平成20年(ワ)第12454号 反訴請求事件
東京都狛江市〈以下省略〉
本訴原告・反訴被告 株式会社バークレー出版(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 A
東京都新宿区〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告 株式会社有朋書院(以下「被告」という。)
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 原和良
主文
1 被告は,原告に対し,949万6951円及びこれに対する平成19年12月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決の主文第1項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
主文第1項同旨
2 反訴
原告は,被告に対し,300万円及びこれに対する平成20年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,後記甲5契約(コンサルタント契約)及び甲1契約(雑誌販売代行契約)を締結した原告と被告との間の紛争であり,(1)本訴において,原告が被告に対し,既払のコンサルタント料の返還及び雑誌販売代金の支払を求め,(2)反訴において,被告が原告に対し,未払のコンサルタント料の支払を求める事案である(なお,いずれも支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の附帯請求がある。)。
1 前提事実
争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1) 当事者等
ア 原告は,書籍及び雑誌等の出版及び販売等を目的とする株式会社であり,平成18年11月から隔月刊の自動車雑誌「ジムニーキング&エスクード」(以下「本件雑誌」といい,その号はNo.で示す。)を発行した。
イ 被告は,出版物の企画,製作及び販売等を目的とする株式会社である。
(2) 甲5契約及び甲1契約
ア 甲5契約
原告と被告は,原告が取次店と取引を開始できるよう被告が尽力助言し,原告が被告にコンサルタント料を支払うこと等に関し,平成18年9月29日付けコンサルタント契約書(甲5。以下「甲5契約書」という。)を作成し,同契約書に係る契約(以下「甲5契約」という。)を締結した。
イ 甲1契約
原告と被告は,原告が発行する本件雑誌を被告が販売代行すること等に関し,同年11月9日付け雑誌販売代行契約書(甲1。以下「甲1契約書」という。)を作成し,同契約書に係る契約(以下「甲1契約」という。)を締結した。
ウ 甲5契約書及び甲1契約書の記載内容は,別紙のとおりである(本判決の略称等に従って表示を変更し,下線を付す等した。)。
(3) 甲5契約及び甲1契約に基づく債権関係等
ア 甲5契約のコンサルタント料請求権等(本訴請求及び反訴請求関係)
甲5契約に基づく被告の原告に対するコンサルタント料は,総額1000万円で,うち300万円は平成18年10月末日までに支払うものとされ,また,甲5契約書3)前段(以下「本件規定」という。)は,「前項の目的が被告の都合で契約成立後6か月以内に達成できない場合」,被告は受領した金額全部を原告に返還しなければならないと定めている。
原告は,被告に対し,コンサルタント料として,同年10月末日までに300万円を支払い,同年12月28日及び平成19年1月31日に各50万円を支払ったが,その余の支払をせず,同年11月12日付け請求書により,本件規定に基づき同月19日までに既払の上記コンサルタント料合計400万円を返還するよう請求した(争いのない事実,甲7,9)。
イ 甲1契約に基づく原告の販売代金請求権(本訴請求関係)
甲1契約に基づく原告の被告に対する本件雑誌No.1ないしNo.3(甲10ないし12)の販売代金請求権額(消費税込み)は,No.1が164万9638円,No.2が166万7511円,No.3が217万9802円の合計549万6951円であり,その弁済期は平成19年10月5日以前である(争いのない事実。上記各金額は,被告作成の精算報告書(甲2の1ないし3)の当該号支払額欄記載の各金額に消費税を加算した金額)。
他方,被告の原告に対する手数料は,本体価格の15パーセントで,半額を納入翌月に,残りの半額を「a.項の精算時における相殺」とされ(甲1契約書1.,3.a.,b.),返品管理料は,本件雑誌No.2以降,返品率が50パーセントを超える場合に定価の5パーセントとされている(同2.)。
2 争点
(1) 甲5契約における債務履行の有無等(本訴におけるコンサルタント料返還請求権及び反訴におけるコンサルタント料請求権の有無)
(2) 甲1契約における自働債権の存否(本訴において被告が自働債権とする手数料債権の存否)
3 当事者の主張
(1) 甲5契約における債務履行の有無等(本訴請求及び反訴請求)
(原告の主張)
ア 甲5契約は,請負契約であって,被告において,原告が甲5契約書記載の取次6社と直接取引ができるように尽力・助言し,原告が直接書籍販売ができ得る状況にすることを目的としている。
同契約によるコンサルタント料は成功報酬であり,本件規定は,上記目的が達成されなかった場合,被告は原告に対し,既払のコンサルタント料を返還する旨定めている。
イ 被告は,上記目的を達成しなかった。
ウ したがって,被告は,原告に対する既払コンサルタント料400万円の返還義務があり,原告は,被告に対する未払コンサルタント料の支払義務はない。
(被告の主張)
ア 甲5契約は,原告の努力協力を前提に,被告が目的達成のための助言・指導を行う準委任契約である。
イ 原告は,被告の再三の助言・指導にもかかわらず,出版物の企画書を作成せず,あるいは作成した企画書に対して被告が変更,補充を助言しても無視し,さらにコンサルタント料の支払を中止した。
原告が書籍販売ができないのは,被告が同契約に基づき書籍販売がいつでも可能な状況を提供したにもかかわらず,原告において発売に値する書籍の出版計画が存在しないためであり,被告に債務不履行はない。
ウ 被告は,平成19年2月に原告の出版社コード記号を取得し,かつ,原告が配本・流通に値する出版物を制作すればいつでも取次店を通じた書籍販売ができる状況を提供した。
エ したがって,被告は,原告に対する既払コンサルタント料400万円のの返還義務はなく,原告は,被告に対する未払コンサルタント料300万円(同年6月,8月,10月,12月,平成20年2月及び4月分の各50万円の合計)の支払義務がある。
(2) 甲1契約における自働債権の存否(本訴請求)
(被告の主張)
ア 被告は,甲1契約に基づき,以下のとおり,原告が未払(未精算)の本件雑誌の販売代行による手数料請求権(消費税を含む。)を有する。
No.1 129万6650円 No.4 105万9743円
No.2 141万7309円 No.5 99万2473円
No.3 122万1160円 No.6 99万1555円
(小計 393万5119円) No.7 88万5984円
(小計 392万9755円)
イ 被告は,原告の販売代金請求権につき,うち393万5119円は上記No.1ないしNo.3の同額の手数料請求権権と相殺済みである。
ウ 被告は,原告の残請求権156万1832円と上記No.4ないしNo.7の手数料請求権合計392万9755円と対当額で相殺する(平成20年4月16日の第2回口頭弁論陳述の被告の準備書面(1)における意思表示)。
(原告の主張)
被告の主張は,いずれも否認し争う。
被告は,原告の有する本件雑誌の販売代金について精算していない(原告の本訴請求における本件雑誌No.1ないしNo.3の販売代金額は被告主張の額に合わせたものにすぎない。)。
第3 当裁判所の判断
1 甲5契約における債務履行の有無等(本訴請求及び反訴請求)
(1) 出版取次制度及び本件契約締結に至る経緯
ア 出版業界においては,出版物を全国の書店で大量かつ同時に販売するための配本・流通制度である出版取次制度が確立しており,出版物を取次店を通じた流通に乗せるには,いずれかの取次店で出版社コード記号を取得し,取次店との取引口座を開設する必要がある。
株式会社トーハン,日本出版販売株式会社,株式会社大阪屋,栗田出版販売株式会社,株式会社太洋社及び株式会社中央社(以下,併せて「本件6社」,前3社を「トーハンら3社」,後3社を「栗田ら3社」といい,個別には株式会社を略して表記する。)は,取次店(出版取次会社)であり,そのうちトーハン及び日本出版販売は配本・流通に大きなシェアを占めるガリバーと称される取次店である。
出版社は,出版取次制度による配本・流通の資格を得て業界内で認知されるため,取次店に対し,出版内容や契約を詳細・説得的に説明した企画書を作成して売り込み,予定出版物を全国的な配本・流通に乗せて採算がとれることを説明し,理解してもらう必要がある(争いのない事実,弁論の全趣旨)。
イ 被告は,平成5年12月17日設立の出版物の企画,製作及び販売等を目的とする会社であり,被告代表者(41歳)は,大学在学中から出版業界において雑誌を作り,書店を担当する等の業務を行ってきた。なお,Cは,被告代表者の母であり,20年間以上出版業界に身を置き,取次店の営業を主に行っており,被告の取締役ではないが,取締役の肩書のある名刺(甲16)を使用していた(前提事実,乙18,被告代表者)。
ウ 原告は,平成18年9月7日設立の書籍及び雑誌等の出版及び販売等を目的とする会社であり,資本金の額は500万円である。原告代表者(原告の代表取締役のうちAをいう。以下同じ。)らは,所属していた会社を退職して原告を設立し,本件雑誌のほか,複数の書籍の出版を計画していたものの,出版に関する知識に乏しかった(前提事実,甲17ないし21(枝番のあるものはこれを含む。),26,27の1ないし3,乙18,原告代表者,被告代表者,弁論の全趣旨)。
エ 被告は,原告代表者らが所属していた会社と取引があり,原告代表者らを知っていたが,原告代表者らから出版社を起業したいとして,そのサポートと雑誌販売代行を依頼された(乙18)。
(2) 甲5契約の締結及びその後の経緯
ア 被告は,上記依頼に応じ,原告との交渉結果に基づき,原告設立直後の同月29日付け甲5契約書(コンサルタント契約書)及び同年11月9日付け甲1契約書(雑誌販売代行契約書)の案文を作成し,その各日付ころ,原告との間で,甲5契約及び甲1契約を締結した(前提事実,乙18)。
イ 甲5契約は,被告において,原告の企画書の作成や出版物の内容・出版計画及び取次店に対する営業活動を指導・助言すること等を内容とするものであり,甲5契約書は,①原告が雑誌・書籍を発行するに当たり,被告は,取引口座の開設推進と販売上の適切な助言を与え(甲5契約書1)),原告が本件6社と直接取引が開始できるよう尽力・助言を行い,平成19年1月29日までに書籍発売ができ得る状況にすること(同2)),②被告は,被告の都合で契約成立後6か月以内に原告が本件6社との直接取引ができ得る状況にするとの目的が達成できない場合,受領した金額全額を原告に返還すること(同3)の本件規定),③原告は,これに対するコンサルタント料1000万円のうち,合計300万円を平成18年10月末日までに支払い(同6)),その余を隔月末(書籍又は雑誌が出版された月は当該月末)に支払うこと(同4),5))等を定めているが,被告は,取次店から信頼を得ており,被告が各取次店に対する推薦,紹介及びサポートを行えば,原告の出版社コード記号の取得及び口座開設が促進される関係にあった(争いのない事実,原告代表者,被告代表者)。
ウ 原告は,コンサルタント料1000万円のうち400万円を支払ったが,その余の支払をしていない(前提事実)。
原告は,被告の尽力により,平成19年2月27日,栗田出版販売等を通じて原告の出版社コード記号6979を取得し,栗田出版販売ら3社とは直接取引ができる状態になったが,トーハンら3社とは直接取引ができない状態である(争いのない事実,原告代表者,被告代表者)。
エ 原告は,その後の株式会社河出書房新社(以下「河出書房」という。)との間の契約により,原告が上記出版を計画していた書籍である「パピヨンと歩こっ!」を平成20年6月ころ,同「いつかきっと」を同年11月ころ,それぞれ河出書房発売として発行した。
原告は,上記契約締結に際し,河出書房に対し,それまでに原告が日本出版販売等の取次店に提出していたのと同様の企画書を提出したが,その記載内容等が格別問題とされることはなく,また,河出書房との契約は原告に格別不利な内容ではなかった(甲22の1及び2,甲26,29,原告代表者)。
(3) 甲5契約の性質,債務履行の有無及び請求の当否等
ア 上記甲5契約締結の経緯及び甲5契約書の記載内容等からすれば,甲5契約は,会社設立後間もなく,その代表者らが出版に関する知識に乏しい原告に対し,その知識経験に富み,取次店から信頼を得ている被告において,原告から1000万円のコンサルタント料と称する報酬を得て,原告が本件6社と直接取引が開始できるよう尽力・助言し,これによって,平成19年1月29日,遅くともまで甲5契約成立から6か月(甲5契約書3),6)と原告のコンサルタント料のうち300万円の支払により同年4月末日)までに,原告をして本件6社と直接取引ができ得る状況を作出することを仕事とし,かつ,上記期限にその仕事が完成しないとき(本件規定の文言では,目的が達成できない場合)は,被告が原告から受領したコンサルタント料全額を原告に返還するとの本件規定を定めた請負契約の性質を有する契約であるということができる。
そして,被告は,原告が栗田出版販売ら3社と直接取引ができるようにしたものの,上記期限経過後も,出版業界において大きなシェアを占めるトーハンら3社とは直接取引ができるようにはしておらず,甲5契約における仕事を完成しなかったといえる。
したがって,本件規定に基づき,被告に対して既払のコンサルタント料全額である400万円の返還を求める原告の本訴請求は理由がある。
他方,被告は,甲5契約における上記仕事を完成していないのであるから,約定のコンサルタント料残額中の300万円の支払を求めることはできず(受領しても本件規定により返還しなければならない。),その支払を求める被告の反訴請求は理由がない。
イ 被告は,以上に反する主張をする。
しかし,甲5契約は,原告の努力協力を前提に被告が目的達成のための助言・指導を行えば足りる単なる準委任契約であるとは解し得ないこと,原告をして栗田出版販売ら3社と直接取引ができるようにしたからといって,仕事を完成したとはいえないことは上記のとおりである。
さらに,被告が甲5契約における目的達成のため,原告に対し,適切な助言や指導をしたことなどを認めるに足りる証拠はない(乙18の陳述書の記載及び被告代表者の供述は,いずれも具体性を欠いており,的確な裏付け証拠がない上,上記認定の原告と河出書房との契約及び書籍の出版に関する事実等からすれば,被告が原告に適切な指導や助言を行い,原告がこれに従わなかったとも考え難い。)。
したがって,上記被告の主張は採用することができない。
2 甲1契約における自働債権の存否(本訴請求)
(1) 原告の本訴請求債権
原告は,被告に対し,本件雑誌No.1ないしNo.3の販売代金債権549万6951円を有する(前提事実)。
なお,これに関する事実関係は,次のとおりである。
ア 被告は,甲5契約締結後の平成18年11月9日,これと不可分の関係にある甲1契約を締結した(前提事実,乙18)。
甲1契約は,本件雑誌の販売を被告が代行し,①被告は,手数料(甲1契約書1.における取扱い手数料又は同3.b.における販売手数料)として発売部数分の本体価格(本件雑誌の税別の価格)の15パーセント(ただし,同3.b.により,その半額は本件雑誌納入の翌月末に,残る半額は原告への販売代金精算時に相殺)及び定価の5パーセントの追加返品手数料(同2.における返品管理料)を取得すること,②被告は,原告に対し,販売代金として実売部数分の65パーセント(同3.の仕入掛け率)を本件雑誌納入後7か月目の5日に支払うこと(同3.a.),③被告は,原告に対し,発売翌月末時点での販売状況の経過報告を行い,精算時は当該号6か月末の数字及びその他の号の数字を提出し,協議の上精算すること(同5.)等を定めている。
イ 原告は,本件雑誌No.1ないしNo.13を平成18年11月から平成20年11月まで隔月刊で発行した(甲10ないし12,28,原告代表者)。
被告は,原告に対し,上記③の報告及び協議をしなかったが,本件雑誌No.1ないしNo.3の精算報告書(甲2の1ないし3)を提出した。
上記各精算報告書によれば,上記②により原告に支払われるべき本件雑誌の販売代金は,平成18年11月9日発行のNo.1につき平成19年5月31日現在で157万1048円(消費税加算後164万9638円),同年1月9日発行のNo.2につき同年6月30日現在で158万8106円(同166万7511円),同年3月9日発行のNo.3につき同年8月31日現在で207万6002円(同217万9802円)であり(消費税加算後の合計金額549万6951円),その支払期限は同年10月5日までに到来した(前提事実,甲26,乙18,原告代表者,被告代表者)。
(2) 被告の主張する自働債権の存否
ア 被告は,被告が原告に対し,本件雑誌No.1ないしNo.3の手数料請求権393万5119円及び本件雑誌No.4ないしNo.7の手数料請求権合計392万9755円を有し,これを自働債権として本訴請求債権は相殺済みである又は相殺すると主張する。
イ しかし,上記自働債権が存在するなどとすることはできない。
すなわち,本件雑誌No.1ないしNo.3分につき,被告が作成して原告に提出した各精算報告書(甲2の1ないし3)には,被告の主張額と同額又は近似する金額から消費税を控除した金額に相応する金額が手数料欄及び追加返品手数料欄に記載されているが,その計算及び計算過程で算式に代入された数値が正しいものであることを認めるべき証拠はない(これらに対応する乙19及び20の各1ないし3についても同様である。なお,被告代表者は,上記各精算報告書の記載は確定したものではないと供述している。)。のみならず,上記①のとおり,販売代行手数料は,その半額が本件雑誌納入の翌月末に支払われ,断余の半額は原告への販売代金精算時に相殺されることとされているが,被告は,上記③の報告や協議をしておらず,したがって,本件雑誌No.1ないしNo.3の手数料請求権は,その金額が確定しておらず,支払期限も到来しているとはいえない。
また,本件雑誌No.4ないしNo.7分についても同様であり(乙19及び20の各4ないし7の各請求書につき,数値の正しさの裏付けとなる証拠はない。),被告の手数料請求権は,その金額が確定しておらず,支払期限も到来しているとはいえない。
なお,原告は,本訴請求において,上記各精算報告書の当該号支払額欄記載の各金額に消費税を加算した金額に基づき販売代金を請求しているが,それは被告が上記③の報告や協議をしないまま,上記②の支払期限を経過したため,やむなく上記各精算報告書の数値によることとしたものであり(甲26,原告代表者),そのことによって本件雑誌No.1ないしNo.3の手数料請求権の金額が確定し,支払期限が到来したことになるものではない。
ウ したがって,被告には自働債権があるとはいえず,被告の相殺に関する主張は理由がない。
3 以上によれば,原告の本訴請求は全部理由があり,被告の反訴請求は全部理由がないから,主文のとおり判決する。
(裁判官 笠井勝彦)
別紙
甲5契約書 [平成18年9月29日付けコンサルタント契約書]
1) 被告は原告が雑誌・書籍を発行するに当たり,取引口座の開設推進と,販売上の適切な助言を与えるものとする。
2) 被告は原告が,トーハン,日本出版販売,大阪屋,栗田出版販売,太洋社,中央社と取引が開始できるよう尽力・助言を行い,平成19年1月29日までに書籍発売ができ得る状況にしなくてはならない。
3) 前項の目的が被告の都合で契約成立後6か月以内に達成できない場合,被告は受領した金額全額を原告に返還しなければならない。原告の都合で,中止・変更などが行われる場合は返還を必要としない。
4) コンサルタント料は総額1000万円とし,原告は,隔月末日50万円を被告に支払うものとする。出版社記号が判明した当該月末より支払は開始されるものとする。
5) ただし,書籍又は雑誌が出版された月は,前項の定めによらず,当該月末に50万円を支払うものとする。
6) 前項のコンサルタント料金のうち,300万円(6回分)の支払をもって,本件契約は成立する。ただし,うち100万円(2回分)については平成18年9月末日に支払い,残る200万円(4回分)については同年10月末日に支払うものとする。
7) 本契約の内容は互いに第三者に開示・漏洩してはならない。
8) 原告の委託を受けて被告が発売する本件雑誌について,被告は発売会社変更の承諾書を作成する。
甲1契約書 [平成18年11月9日付け雑誌販売代行契約書]
原告と被告は,原告の発行する本件雑誌を被告の取引先である取次口座を使用して書店販売を行うに当たり,以下のとおり契約書を取り交わす。
1. 取扱い手数料 委託配本品&注文品とも本体価格の15パーセントを手数料とする。
2. 返品管理料 返品率が50パーセント以内の場合は上記に含まれる。50パーセントを超える返品については管理料として定価の5パーセントを原告は負担する。ただし,創刊号については適用しないものとする。
3. 支払方法 本件雑誌の被告の仕入掛け率は65パーセントとする。ただし,仕様が創刊時と変更になる場合はこの限りでない。
a. 被告は原告に対して納入後(25日締め)7か月目の5日にその指定口座に振り込むものとする。
b. 原告は被告に対して1.に定める販売手数料の半額を納入翌月末に支払い,残る半額についてはa.項の精算時における相殺とする。
4. 返品の処理 返品については取次店における断裁処理を行う。
5. 売上げ報告 被告は原告に対し,発売翌月末時点での販売状況の経過報告を行う。精算時は当該号6か月末の数字を提出,その他の号の返品の数字を提出し協議の上精算,その後の返品分の支払方法は別途協議する。
6. 商品の補充 原告被告は適宜検討の上,原告が被告に補充する。被告の指定倉庫までの補充送料は原告の負担とする。
7. 期間 原則として納入後半年間は被告は取次店への納入を行う。
8. 表示等 原告は,表紙,表四,奥付における表示について事前に被告の了解を得なければならない。
9. その他 上記以外の取引上の諸問題が発生した場合はその都度原告被告協議の上決定する。 〈以上〉
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