判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(235)平成23年 2月28日 東京地裁 平21(ワ)9386号 預託金返還請求事件、株主権確認等請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(235)平成23年 2月28日 東京地裁 平21(ワ)9386号 預託金返還請求事件、株主権確認等請求事件
裁判年月日 平成23年 2月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)9386号・平21(ワ)20438号
事件名 預託金返還請求事件、株主権確認等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA02288001
要旨
◆訴外会社名義で購入及び増資引受がなされた被告会社の株式につき、原告が実質的な株主であるとして、被告らに対し、原告が本件株式の株主であることの確認を求めるとともに、本件株式を占有する被告Y1に対し株券の引渡しなどを求めた事案において、本件株式の代金は実質的に原告が負担したものと評価できること、原告は訴外会社の100パーセント株主であること、原告に被告会社の株主となる意思が皆無ではないこと、訴外会社が被告会社の株主として振る舞った形跡はなく、むしろ、訴外会社において原告に名義を貸した書面を作成していることなどを理由に、本件株式の株主は原告であると認め、株券占有者である被告Y1への引渡請求を認めるなどした事例
参照条文
会社法131条
裁判年月日 平成23年 2月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)9386号・平21(ワ)20438号
事件名 預託金返還請求事件、株主権確認等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA02288001
平成21年(ワ)第9386号 預託金返還請求事件(A事件)
平成21年(ワ)第20438号 株主権確認等請求事件(B事件)
静岡県伊豆の国市〈以下省略〉
A・B事件原告 X(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 南木武輝
同 伊勢谷早紀
東京都千代田区〈以下省略〉
A・B事件被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
東京都江東区〈以下省略〉
B事件被告 株式会社サン・マル・サン(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 Y1
上記2名訴訟代理人弁護士 塩谷安男
主文
1 被告Y1は,原告に対し,2億4000万円及びこれに対する平成21年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告と被告Y1との間で,原告が被告会社の普通株式6万株を有する株主であることを確認する。
3 被告Y1は,原告に対し,被告会社の普通株式6万株の株券を引き渡せ。
4 原告の被告Y1に対するその余の請求及び原告の被告会社に対する請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,原告及び被告Y1に生じた費用の各20分の19を被告Y1の負担とし,原告及び被告Y1に生じた費用の各20分の1並びに被告会社に生じた費用の全部を原告の負担とする。
6 この判決は,1項及び3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 A事件
被告Y1は,原告に対し,2億5000万円及びこれに対する平成21年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 B事件
(1) 原告と被告らとの間で,原告が被告会社の普通株式6万株を有する株主であることを確認する。
(2) 被告Y1は,原告に対し,被告会社の普通株式6万株の株券を引き渡せ。
(3) 被告Y1は,原告に対し,262万5000円及びこれに対する平成21年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告会社は,原告に対し,1500万円及びこれに対する平成21年7月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
A事件は,被告Y1に対し2億5000万円を預託した原告が,同預託金の返還及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成21年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
B事件は,株式会社エーエーディ(以下「エーエーディ」という。)の名義で購入及び増資の引受がなされた被告会社の普通株式合計6万株(以下「本件株式」という。)の実質的株主であると主張する原告が,〔1〕原告と被告らとの間で,原告が本件株式の株主であることの確認を,〔2〕本件株式の株券を占有する被告Y1に対し,同株券の引渡しを求めた事案である。また,原告は,これらの請求と併せて,〔3〕被告Y1に対し求償金262万5000円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成21年7月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,〔4〕被告会社に対し貸金1500万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成21年7月18日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
1 前提事実
(1) A事件について
ア 原告は,平成20年4月9日,被告Y1に対し,2億5000万円(以下「本件金員」という。)を預託した(争いがない。甲A1参照)。
イ 被告Y1は,平成20年5月,本件金員をもって,吉備システム株式会社(以下「吉備システム」という。)から,株式会社クロースタジオ(以下「クロースタジオ」という。)の発行済み株式の全部(以下「クロースタジオ株式」という)を,被告Y1名義で買い取った(争いがない)。
ウ 原告は,平成21年2月5日,内容証明郵便をもって,被告Y1に対し,クロースタジオ株式の引渡しを請求し,同引渡しをしない場合には,「本件金員を預けた趣旨に反する」として,即時2億5000万円を支払うように請求した(争いがない。甲A3の1・2参照)。
(2) B事件〔1〕及び〔2〕について
ア 被告会社について
(ア) 被告会社は,昭和46年12月10日に設立された株式会社であり,株券発行会社である(甲B1)。
(イ) 被告会社の発行済み株式は,平成19年7月17日当時,普通株式2万株であり,同日当時被告会社の代表取締役であったA(以下「A」という。)が,発行済み株式の全部を所有していた(争いがない)。
イ Aの株式の売却及び被告会社の新株の発行
(ア) 原告は,平成19年当時,エーエーディの発行済み株式の全部を保有しており,かつ,同社の代表取締役を務めていた(争いがない。甲A11参照)。
(イ) エーエーディは,平成19年7月17日,Aから,被告会社の普通株式2万株を,代金1000万円で購入した(争いがない。甲B3参照。以下「本件売買契約」という。)。
(ウ) エーエーディは,平成19年7月25日,被告会社に対し,同社の普通株式4万株について,株式引受の申込みをしたところ(甲B5),被告会社は,同月31日,以下の内容にて,第三者割当増資(以下「本件増資」という。)を実施した(甲B6)。
① 発行株式数 4万株
② 総額 2000万円
③ 発行日ないし割当日 平成19年7月31日
④ 割当先 エーエーディ
ウ 被告Y1は,本件株式,すなわち,上記イ(イ)の2万株及び(ウ)の4万株の株券を占有している(甲B22の2頁参照)。
(3) B事件〔3〕について
ア 株式会社ライブアソシエイツ(以下「ライブアソシエイツ」という。)は,エーエーディが被告会社を買収するための仲介・コンサルタント業務を行った(争いがない)。
イ エーエーディは,平成19年7月30日,ライブアソシエイツに対し,上記業務に関する報酬として525万円(以下「本件報酬」という。)を支払った(甲B8)。
(4) B事件〔4〕について
原告は,平成19年9月25日,被告会社に対し,1500万円を振り込んだ(甲B11。以下「本件振込」という。)。
2 争点
(A事件)
(1) 預託金返還請求権の成否(本件金員の趣旨等)
(B事件〔1〕及び〔2〕)
(2) 原告が本件株式の株主か。
(B事件〔3〕)
(3) 原告の被告Y1に対する求償権の成否
ア 本件報酬は原告が出捐したか。
イ 原告が出捐したとして,原告と被告Y1との間で,本件報酬を折半して負担する合意があったか。
(B事件〔4〕)
(4) 貸金返還請求権の成否(本件振込につき返還約束の有無)
第3 争点に対する当事者の主張
1 争点(1)(本件金員の趣旨等)
(原告の主張)
(1)ア 原告は,平成20年4月9日,被告Y1に対し,期限の定めなく,本件金員を預託した。
イ 原告は,平成21年2月5日,被告Y1に対し,本件金員の返還を催告した。
(2) 原告が被告Y1に対し,本件金員を預託する際,口頭で,以下のとおり合意した。同合意の性質は,条件付寄託契約または金員預託を伴う委任契約である。
ア 原告は,クロースタジオ株式の買取代金として使うために,被告Y1に2億5000万円を預託し,被告Y1はこの資金により,被告Y1名義で同株式を購入する。被告Y1が,クロースタジオの代表取締役となり,原告の経営権を代行する。
イ クロースタジオの買収手続の完了後,平成21年1月を目処として,クロースタジオ株式の名義人を被告Y1から原告へ変更し,原告を実質的な経営者として社内に公表し,処遇する。
ウ 被告Y1は,平成21年3月の株式譲渡税・税金申告納付の時期までに,原告に対し,納税資金1億6000万円,沼津マンション購入代金に相当する1億3000万円,東雲のスタジオの設備資金に相当する7000万円の合計3億6000万円を貸し付ける。貸付の主体,方法は,被告Y1に任せる。
エ 本件金員と上記ウの貸付金の各利息は相殺勘定とする。
(3) 被告Y1の主張に対する反論
ア 自然債務に対して
被告Y1の主張は否認ないし争う。
原告は,被告Y1との関係が悪化した平成20年10月以降,円満に解決することを目指して,被告Y1に対して解決案を提示したことはあるが,話し合いがまとまらなかった以上,何らの法的効果もない。
イ 匿名組合に対して
匿名組合契約における営業者は商人でなければならないところ,被告Y1は商人ではない。
また,クロースタジオ株式及びクロースタジオの所有する不動産等を買収することは,被告Y1の営業といえない。
さらに,原告と被告Y1は,クロースタジオから生じた利益の分配方法に関して合意したことはない。
ウ 共有に対して
被告Y1の主張は争う。
(被告Y1の主張)
(1) 原告が,平成20年4月9日,被告Y1に対し,本件金員を預託したことは事実である。原告と被告Y1との間には,本件金員について,金銭消費貸借,贈与その他法的性質について,何らの取決めがなく,かつ,返還時期,条件等に関する合意も存在しなかった。原告と被告Y1との間には,被告Y1が本件金員をクロースタジオの買収資金の一部として使用するという共通認識だけがあった。
したがって,本件金員の趣旨は,以下の(2)ないし(4)のとおり,解釈すべきである。
(2) 自然債務
ア 原告が被告Y1に本件金員を預託した当時,原告と被告Y1との関係は良好であり,被告Y1は,原告からの委任事務(伊豆ゴルフ開発株式会社(以下「伊豆ゴルフ開発」という)の株式の売却)を処理することにより,多額の手数料収入を得る見込みがあった。
また,原告及び被告Y1は,本件金員を用いて購入したクロースタジオ株式の上場利益を見込んでいた。
イ 原告及び被告Y1は,本件金員の預託に際し,上記アの収入ないし利益をもって,本件金員を清算することを予定しており,仮に,同清算が実現しなかった場合には,「被告Y1において資金的に余裕ができた時点で返還すればいい」という合意があった。
このことは,原告が,平成20年10月3日,被告Y1に対し,本件金員について,「一応賃借としておき,返済されなくても良い方法を考えたいと思う」という趣旨の書面を手渡していることからも明らかである。
ウ 以上より,被告Y1の原告に対する本件金員の返還債務は,自然債務に該当する。
(3) 匿名組合
ア 本件金員の授受がなされる際,原告と被告Y1との間に,口頭で,以下の合意が成立した。
(ア) 原告が被告Y1に対し,2億5000万円を出資する。
(イ) 被告Y1は,本件金員を一部として,クロースタジオ株式を吉備システムから買収する。
(ウ) 買収後,被告Y1においてクロースタジオを運営し,その株式公開もしくは株式の譲渡によって利益を取得し,原告に利益分配を行う。
イ 上記合意は,商法上の匿名組合契約と解すべきところ,両当事者の意思を合理的に解釈すれば,同契約の終了時期は,クロースタジオが株式市場に上場を果たした決算期の末日とするべきである。
ウ 同契約上,被告Y1の原告に対する配当時期も,同契約の終了時期も到来していない。
(4) 共有
被告Y1は,本件金員をもって,クロースタジオ株式を取得しているが,同時に,クロースタジオが吉備システムから別紙土地目録記載の各土地及び別紙建物目録記載の建物(以下,土地と建物を合わせて「aビル物件」と総称する。)を14億円(ただし,代金のうち2億円は,本件会社の吉備システムに対する新株予約権付劣後債務とされ,現実に支払われたのは12億円である。)で購入している。
クロースタジオ株式及びaビル物件の買収のために必要であった合計14億5000万円の資金のうち,原告が2億5000万円,被告Y1が12億円を準備したのであるから,原告と被告Y1は,クロースタジオ株式を,同金額の割合によって共有しているというべきである。
したがって,原告は,被告Y1に対し,2億5000万円の返還を求めることはできない。
2 争点(2)(原告が本件株式の株主か)
(原告の主張)
(1) 原告がこれまでもエーエーディの名義を借用していたこと
ア 原告は,平成19年7月当時,株式会社アリキ(以下「アリキ」という),エーエーディ,株式会社悠々(以下「悠々」という),伊豆ゴルフ開発,株式会社ケーケーアリキ(以下「ケーケーアリキ」という)等のグループ会社(以下,これらのグループ会社を「アリキグループ」と総称する。)のオーナーであった。
イ アリキグループを統括する原告は,グループ全体の経理(資金管理及び資金繰り)をグループ各社の経理担当役員であるB(以下「B」という。)に担当させていた。
ウ アリキグループの売掛金その他売上げの回収,金融機関からの借入れ,仕入れ,支払等の経理処理の一切は,原告の指示の下に,Bが行っていたものであるが,原告及びアリキグループ間においては,相互に資金を融通し合い,必要な場合は原告が資金を拠出するなど資金管理及び資金繰り等を一体として行っていた。
また,原告個人がM&A等で資金を出す場合でも,資金の取扱いを記録に残すため,グループ会社を経由して行うことが多かった。
(2) 原告が本件株式の株主であること
ア 原告は,エーエーディ及び被告会社の了解の下,原告自らが被告会社の株主となる意思をもって,本件売買契約の代金及び本件増資の払込をした。すなわち,本件売買契約の代金,本件増資の払込金及び本件報酬の合計3525万円は,いずれも原告が,Bに指示して,エーエーディの預金口座から送金させたものであるところ,経理上は,原告によるエーエーディ資金の一時流用(借入)として処理されている。
イ 原告は,平成19年11月19日,Cに対し,エーエーディの発行済み株式の全部を,代金10億3691万4585円で売却しているところ,平成20年4月7日,エーエーディに対し,同売買代金の中から,エーエーディからの借入金3525万円を弁済した。
(被告らの主張)
(1) 原告は,エーエーディの資金を借りて,本件売買契約の代金及び本件増資の払込金を出捐したと主張するところ,仮に同主張が正しいとしても,本件株式の取得者の名義を,エーエーディにする必然性はない。
(2) また,原告がエーエーディの名義で本件株式を取得していたのであれば,原告とエーエーディとの間で,本件株式の帰属について,何らかの書面を取り交わすのが自然であるにもかかわらず,このような書面は提出されていない。
(3) さらに,原告は,平成20年4月7日,エーエーディ株式を売却した代金の一部を用いてエーエーディからの借入金3525万円を弁済した旨主張するが,その裏付けとして原告が提出する書証は,数字合わせによって作成された可能性が高く,信用性に疑問がある。
3 争点(3)(原告の被告Y1に対する求償権の有無)
(原告の主張)
(1)ア 原告及び被告Y1は,被告会社買収のためのコンサルタント及び仲介をライブアソシエイツに依頼した。被告会社の買収は,原告が,Aが保有する被告会社の普通株式2万株を1000万円で譲り受け,同時に被告会社の行う第3者割当増資による普通株式4万株を原告が2000万円で引き受ける方法で行われることになった。
イ 原告と被告Y1との間には,ライブアソシエイツに対する報酬を,原告及び被告Y1が折半して負担する旨の合意が存在する。
(2) 平成19年7月30日,エーエーディを振込名義人として,ライブアソシエイツに対し,525万円の報酬が振り込まれているところ(前提事実(3)イ),本件報酬を,実質的に負担したのは,原告である。
(被告Y1の主張)
(1) 本件報酬はエーエーディ名義により振り込まれたものであり,ライブアソシエイツからの請求書,同社に対する領収証等は,いずれもエーエーディ名義であったはずである。
(2) ライブアソシエイツとの間で仲介・コンサルタント契約を締結したのは,エーエーディである以上,本件報酬を支払ったのが原告である旨の主張は不合理である。
4 争点(4)(本件振込について返還合意の有無)
(原告の主張)
(1)ア 被告Y1は,平成19年8月21日,原告に対して,返還期日を同年10月3日とする被告会社への1000万円の事業資金の貸付を依頼してきた。
イ 原告は,同年9月20日,上記依頼を了承し,さらに被告会社が資金繰りに窮していることを懸念して,500万円を上乗せした1500万円を貸し付けることとした。
ウ 原告は,同年9月25日,被告会社に対する返済期限の定めのない貸付金として,同社の銀行口座宛に1500万円を振り込んだ。
(2) 被告会社の主張に対する反論
被告会社の主張するM&Aは失敗に終わり,原告は一旦は売却したケーケーアリキ株式の買戻しを余儀なくされるなどの損害を被っているから,本件振込みが,M&Aに関するアドバイザリー契約に基づく成功報酬の支払である筈がない。
(被告会社の主張)
(1) 原告は,平成19年8月12日,被告会社との間で,原告が保有していたケーケーアリキの株式を株式会社関東エアーサービス(以下「関東エアーサービス」という。)に譲渡するというM&Aに関するアドバイザリー契約を締結した。
原告は,平成19年9月27日,関東エアサービスに対し,ケーケーアリキの株式を6012万5000円で売却し,上記M&Aは成功した。
以上からすれば,本件振込は,上記アドバイザリー契約における被告会社の功績に報いる趣旨の報酬と考えるのが自然である。
(2) なお,原告は平成19年10月22日,関東エアーサービスからケーケーアリキの株式を買い戻しているが,これはケーケーアリキの従業員らが原告に対しM&Aの白紙撤回を懇願したという本件振込後の事情に起因するものであり,本件振込が報酬であることを否定する根拠にはなり得ない。
第4 当裁判所の判断
本件において,B事件の事実関係が,A事件の事実関係に先行するので,争点(2)ないし(4)(B事件),争点(1)(A事件)という順序で判断する。
1 争点(2)(原告は本件株式の株主か)及び争点(3)(求償権の成否)について
(1) 事実関係
関係証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告Y1はライブドアグループの社員であったところ,平成18年1月のいわゆるライブドア事件以降,原告と頻繁に連絡をとるようになった(乙B10,被告Y1本人)。
イ エーエーディはアリキグループに属しており,印刷事業を主力としていた。他方,被告会社は,広告事業を主力としていた。
ライブドアグループには被告会社のM&A案件が持ち込まれていたところ,被告Y1は,ライブドアグループの担当者として,エーエーディが被告会社を買収すれば,被告会社から印刷物の受注が可能となり,エーエーディの業績向上にもつながると考え,原告に被告会社の買収を提案した。また,被告Y1は,ライブドアグループの先行きに対する懸念から,上記提案の際,原告に対し,被告Y1が被告会社の経営に携わりたいと申し出た。(以上,甲B22の1頁,乙B10の8頁,原告本人の9・10頁,被告Y1本人の3・4頁)
ウ エーエーディは,平成19年7月17日,Aから,同人の保有する被告会社の株式2万株を,代金1000万円で購入した(前提事実(2)イ(イ)の本件売買契約。甲B3)。
そして,エーエーディは,同月30日,Aに対し,上記株式購入代金として,1000万円を振り込んだ(甲B2)。
エ エーエーディは,同日,ライブアソシエイツに対し,被告会社を買収するための仲介・コンサルタント業務の報酬として525万円(本件報酬)を振り込んだ(前提事実(3)イ。甲B8)。
オ(ア) エーエーディは,同月25日,被告会社に対し,同社の普通株式4万株について,株式引受の申込みをしたところ,被告会社は,同月31日,2000万円でエーエーディに普通株式4万株を割り当てる第三者割当増資(本件増資)を実施した。
(イ) エーエーディは,同月30日,被告会社に対し,本件増資の払込金として,2000万円を振り込んだ(甲B7)。
カ エーエーディは,同月31日,Aから被告会社の普通株式2万株の株券の引渡しを受け,かつ,本件増資による普通株式4万株の株券の発行を受けた(甲B3,弁論の全趣旨)。
キ 原告,被告Y1及びDが,同年8月17日,被告会社の取締役に就任し,うち原告及び被告Y1が代表取締役となった(甲B1)。
ク 被告会社は,同月下旬,優先株式4万株を発行し,これを原告に割り当て,原告は,上記優先株式の払込金として,以下のとおり,被告会社に振り込んだ(甲B1,乙B1,原告本人の13頁)。
(ア) 同月23日 1000万円(甲B9)
(イ) 同月27日 1000万円(甲B10)
ケ 被告Y1は,同年10月末ころ,ライブドアグループを退職した。
被告会社は,被告Y1がライブドアグループを退職して以降,原告の保有する株式の売却の仲介業務にも携わるようになった。(以上,被告Y1本人の9・11・28頁)。
コ 原告は,同年11月19日,被告会社の仲介により,Cに対し,原告の保有するエーエーディの発行済み株式の全部を,以下の約定により,売却した(甲B13)。
(ア) 代金 10億3691万4585円
(イ) 支払方法
平成19年11月19日 4億9391万4585円
平成20年4月2日 5億4300万円
(ウ) 清算
原告は,Cから4億9381万4585円の支払を受けた後,原告又は原告の関連企業との間における下記記載の各債権債務について,速やかに清算する義務を負う。
記
① Xのエーエーディに対する貸付金4781万4667円
Xのエーエーディからの借入金2億円
② アリキのエーエーディに対する貸付金1億0229万9289円
原告のエーエーディに対する貸付金1009万9900円
③ 原告のエーエーディからの借入金2億6776万2477円
④ ケーケーアリキのエーエーディからの借入金7万3000円
⑤ Xが債務引受を行うことを了解した,エーエーディが保有するエーエーディの社員に対する貸付金合計878万1538円
⑥ X又はXの関連企業がエーエーディから所有権を譲り受けることを了解した,不動産の評価額2942万5757円
⑦ X又はXの関連企業は,エーエーディの伊豆ゴルフ開発に対する貸付金1億4065万5066円を421万9651円で,伊豆ゴルフクラブ会員権について50万円で優先的に債権譲渡を受ける権利を付与される。
サ 原告は,Cから,エーエーディ株式の譲渡代金として,以下のとおり,合計4億5620万8746円の支払を受けた(甲B17)。
(ア) 平成19年11月19日 1億4808万5669円
(イ) 平成20年4月7日 3億0812万3077円
シ 原告は,平成19年11月26日,被告会社に対し,エーエーディの株式売却の仲介手数料として,6000万円を支払った(甲B17,原告本人の15頁,被告Y1本人の9頁)。
ス 平成20年2月13日,原告が被告会社の代表取締役を辞任し,平取締役となったことにより,被告Y1が被告会社の唯一の代表取締役となった(甲B1)。
セ 上記サ(イ)の3億0812万3077円は,平成20年4月2日に支払われるべき5億4300万円から,下記(ア)ないし(ウ)の合計2億3487万6923円を差し引いた金額である(甲B14,B17)。
記
金額 趣旨 証拠
(ア) 72,480,852
(内訳)
原告又はアリキグループの会社のエーエーディーに
支払うべき債務を原告が受け取る売買代金と
相殺勘定としたもの。
甲B14
-30,895,880 〈1〉エーエーディの悠々に対する債務 甲B19の1
65,901,650 悠々のエーエーディに対する債務 (同上)
356,455 〈2〉ケーケーアリキのエーエーディに対する債務 甲B19の2
1,868,627 〈3〉伊豆ゴルフ開発のエーエーディに対する債務 甲B19の3
35,250,000 〈4〉原告のエーエーディに対する債務 甲B19の4
(イ) 12,915,000 土壌汚染対策費 甲B20
乙B15参照
(ウ) 149,481,071 不動産取得費用の返済 甲B21の1・2
原告本人44頁
ソ(ア) 原告は,平成20年12月24日,被告Y1に対し,被告会社の優先株式4万株を,1株当たり500円,合計2000万円で売却した(甲B12)。
(イ) 上記売買契約については,約定どおり,代金決済がなされた(甲B22の6頁)。
(2) 争点(2)(原告は本件株式の株主か)の検討
ア 一般に,ある者(買主)が,自ら株主となる意思をもって,他人(名義貸与者)の承諾を得て,当該他人の名義で売主から株式を購入し,又は,ある者(引受人)が,他人(名義貸与者)の承諾を得て当該他人の名義で株式を引き受けた場合,株主となるのは,名義貸与者ではなく,実際に対価の提供や払込を行った名義借用者であると解される(実質説。最高裁第二小法廷昭和42年11月17日判決・民集21巻9号2448頁参照)。
そして,実質上の株主の認定に当たっては,株式の取得代金ないし払込金の出捐者,名義貸与者と名義借用者との関係,名義借りの理由等を総合的に考慮して判断すべきである。
イ 本件売買契約及び本件増資の引受は,いずれもエーエーディを契約当事者ないし引受名義人として行われているものの,① 売買代金,増資の払込資金及び本件報酬の合計3525万円は,原告のCに対するエーエーディ株式の売却代金から精算されており(前記(1)セ(ア)④),実質的には原告が負担したものと評価できること,② 本件売買契約及び本件増資の当時,原告がエーエーディの100%株主であり,かかる密接な関係にある両者の間で名義の貸与・借用が行われることはそれ程不自然ではないこと,③ 被告会社の優先株式の払込は原告の名義で行われており(前記(1)ク),原告に被告会社の株主となる意思が皆無ではないこと,④ 原告は,平成19年11月19日,Cに対し,エーエーディの発行済み株式の全部を売却しているところ,同日当時,被告会社の普通株式6万株及び優先株式の名義人はエーエーディであるにもかかわらず,同日以降,エーエーディが被告会社の株主として振る舞った形跡はなく(被告Y1の14頁参照),むしろ,エーエーディにおいて原告に名義を貸した旨の書面を作成していること(甲B4)などを総合すると,エーエーディ名義で行われた本件売買契約及び本件増資により,本件株式の株主となったのは,原告であると認めるのが相当である。
ウ もっとも,被告会社の株主名簿には,本件売買契約及び本件増資により,エーエーディが被告会社の株主となったことを前提に,エーエーディから被告Y1に対し,平成19年8月31日,被告会社の普通株式4万株の譲渡が,平成20年2月13日,被告会社の普通株式2万株の譲渡が,それぞれ行われた旨の記載があり(乙B1),一旦は原告が本件株式の株主になったとしても,同譲渡により株主権を喪失したかについて検討する。
(ア) 平成19年8月31日付け譲渡について
同譲渡については,エーエーディを譲渡人,被告Y1を譲受人,譲渡代金を2000万円とする同月30日付けの株式譲渡契約書(乙B2)が存在するものの,被告らは,同譲渡契約書のエーエーディ作成部分の成立を否認している。
まず,同日当時,原告及び被告Y1のいずれもがエーエーディの代表取締役に就任しており,被告Y1において,エーエーディの代表印を使用することは容易であったと考えられる。
また,被告Y1は,同譲渡契約書に記載された代金2000万円を支払っていないことを自認している(被告Y1の10頁)。この点について,被告Y1は,「原告とCとの間で平成19年8月23日,原告の保有するエーエーディの株式を売却することが決まり,意向表明書が作成された」,「想定よりも高額で売却できることが決まり原告は非常に喜んでいたこと,エーエーディを売却するのであれば被告会社の存在価値はなくなることなどの理由から,原告は,被告Y1個人に対し,謝礼として,被告会社の普通株式4万株を無償で譲渡した」などと供述する(被告Y1本人の12・13・31・32頁)。
しかしながら,原告とCとの間で,原告の保有するエーエーディの株式譲渡契約が成立したのは平成19年11月19日のことであり(前記(1)コ),意向表明書が書証として提出されていないことも併せ考えれば,被告Y1の供述はただちに採用しがたい。また,原告の計算で平成19年7月30日に本件株式の取得費用及び本件報酬の合計3525万円が,同年8月下旬に優先株式4万株の取得のために合計2000万円が,それぞれ支出されていることに照らせば,平成19年8月下旬に,原告が被告会社の株式を無償で手放すとは考えがたい。
以上からすれば,平成19年8月30日付け譲渡契約書は真正に成立したものとは認められず,原告は,被告会社の普通株式4万株を譲渡していない。
(イ) 平成20年2月13日付け譲渡について
同譲渡について書証は提出されておらず,被告Y1は同譲渡に当たり対価を支払っていないことを自認している(被告Y1本人の16頁)。
そうすると,同譲渡を認めるに足りないというべきである。
エ 以上によれば,原告が本件株式の株主であると認められる。
したがって,原告と被告Y1との間の本件株式についての株主権確認請求及び原告の被告Y1に対する本件株券の引渡し請求は理由がある。
他方,原告と被告会社との間の本件株式についての株主権確認請求は,原告が株主名簿の名義書換を受けていない以上,これを棄却するべきである(会社法130条1項)。
(3) 争点(3)(求償権の成否)の検討
ア 原告は,「原告と被告Y1との間に,ライブアソシエイツに対する報酬を,原告及び被告Y1が折半して負担する旨の合意が存在する」と主張し,原告本人も同旨の供述をする(原告本人の10・12・13・37頁)。
イ この点,被告会社の買収は被告Y1が原告に提案したものであり,その際,被告Y1は買収後の被告会社の経営に携わりたいとの申し出をしていること(前記(1)イ),現実に,被告Y1は被告会社の代表取締役に就任する一方,ライブドアグループを退職していること(前記(1)キ・ケ)が認められる。
ウ しかしながら,被告Y1は原告の上記主張を否定する供述をしていること(被告Y1本人の33頁),原告の上記供述を裏付ける的確な証拠がないこと,Aから被告会社の株式を譲り受けたのは原告であり被告Y1ではないことからすれば,上記イの各事情が存在することを考慮しても,原告と被告Y1の間で本件報酬を折半する旨の合意が成立したと認めるに足りない。
エ 以上によれば,原告の被告Y1に対する求償金請求は認められない。
2 争点(4)(本件振込について返還約束の有無)
(1) 事実関係
関係証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,平成19年7月中旬ないし下旬,本件売買契約及び本件増資により,被告会社の一人株主となった。
イ 原告と被告会社は,平成19年8月12日,下記約定により,アドバイザリー契約を締結した。なお,同契約において,被告会社の代表取締役として記名押印をしたのは被告Y1であった。(以上,乙B3)
記
(ア) 被告会社は,原告に対して,原告の保有するケーケーアリキの株式を関東エアーサービスに譲渡することについてのコンサルティング業務を行う。
(イ) 成功報酬
原告と関東エアーサービスとの間で,最終的な拘束力のある契約が締結された場合,原告は被告会社に対し,業務の対価として,同契約に基づき関東エアーサービスから原告への移動金額に5%の料率を乗じて得られた額を報酬として支払う。ただし,算出された金額が1000万円に満たない場合は,1000万円を成功報酬として支払う。
(ウ) 成功報酬の振込先
被告会社のさわやか信用金庫口座
(エ) 費用
原告は,原告が事前に承諾した場合に限り,被告会社が業務の履行のために支出した費用を負担する。
上記費用を除き,本契約に基づき被告会社に生じる全ての損害,責任,負担は,被告会社が負担する。
ウ 原告,被告Y1及びDが,平成19年8月17日,被告会社の取締役に就任し,うち原告及び被告Y1が代表取締役となった(甲B1)。
エ 被告Y1は,同月21日,原告に対し,同月24日までに被告会社の百十四銀行の口座に1000万円を送金するように依頼するFAXを送信した。
上記FAXには,「10月3日の返金(貸付け)になります」という記載がある。(以上,甲B15)
オ 被告会社は,平成19年8月下旬,優先株式4万株を発行し,これを原告に割り当て,原告は,上記優先株式の払込金として,以下のとおり,被告会社の百十四銀行の口座に振り込んだ(甲B1,乙B1,原告本人の13頁。前記1(1)ク参照)。
(ア) 同月23日 1000万円(甲B9)
(イ) 同月27日 1000万円(甲B10)
カ アリキグループの経理を担当するBは,同年9月20日,被告会社の百十四銀行の口座を入金先として1000万円の貸付を実行することについて原告の決裁を求め,原告は,同日,これを承認した(甲B16)。
キ 原告は,同月25日,被告会社の三井住友銀行の口座に対し,1500万円を振り込んだ(本件振込。甲B11)。
ク 原告と関東エアーサービスは,同月27日,原告が関東エアーサービスに対し,同月28日付けで,原告の保有するケーケーアリキの普通株式185株を,1株当たり32万5000円,合計6012万5000円で譲渡する旨の株式譲渡契約を締結した。
関東エアーサービスは,同月27日,原告に対し,上記株式譲渡代金の一部として4012万5000円を支払った。(以上,甲B17,乙B4,原告本人の14頁)
ケ ケーケーアリキの従業員らは,同年10月5日,原告に対し,関東エアーサービスのE社長の進め方はとても理解ができず,このままだと全員が退社してしまうなどと,関東エアーサービスとのM&A契約(株式譲渡契約)を翻意を嘆願する書面を提出した(乙B5,原告本人の14・35・36頁)。
コ 原告は,従業員らの嘆願を受け,関東エアーサービスに売却したケーケーアリキの株式を買い戻すこととした。
原告と関東エアーサービスは,同月18日,関東エアーサービスが原告に対し,同月22日付けで,関東エアーサービスが保有するケーケーアリキの普通株式185株を,1株当たり43万3356円,合計8017万0860円で譲渡する旨の株式譲渡契約を締結した。
原告は,平成19年10月22日,関東エアーサービスに対し,上記株式譲渡代金の一部として,6017万1700円を支払った。(以上,甲B17,乙B6,17,原告本人の14頁,被告Y1の19頁)
サ 被告会社は,原告から平成19年9月25日に支払を受けた1500万円(上記キ)及び同年11月26日に支払を受けた6000万円(前記1(1)シ)の合計7500万円から消費税を控除した7142万8573円を手数料収入として計上した(乙B8の16丁目,乙B11,12,被告Y1本人の16・17頁)。
(2) 検討
ア 原告は,本件振込が原告の被告会社に対する貸付であることの根拠として,被告Y1が原告に対して1000万円の送金を依頼したFAX文書(前記(1)エ参照)を提出する。
しかしながら,上記FAX文書は,平成19年8月24日までに1000万円の送金を求めるものであり,本件振込とは別に,原告から同月23日に1000万円が振り込まれていること(前記(1)オ(ア))をも考慮すると,同FAX文書が本件振込(同年9月25日になされた1500万円の振込)に対応しているというには疑義がある。
また,本件振込について,アリキグループ内部では貸付と処理されていることを示す決裁文書が存在するものの(前記(1)カ),同文書はアリキグループが,いかようにも作成することのできる書面であり,これによって,本件振込に返還合意があったと認めるには十分ではない。
イ 他方,被告会社は,原告と関東エアーサービスとの間に株式譲渡契約が成立したことにより,原告に対し,平成19年8月12日付けアドバイザリー契約に基づく報酬債権を取得するものであり(前記(1)ア,ク),同債権は,原告がケーケーアリキの従業員らの嘆願を容れて関東エアーサービスから株式を買い戻したこと(前記(1)ケ,コ)によって消長を来すものではないと解される。
ウ 以上のとおり,本件振込に返還合意があったことを裏付ける的確な証拠がないこと,本件振込の時期及び金額と原告の被告会社に対する1000万円の報酬支払債務の発生時期,金額及び入金先の口座との間には多少の齟齬があるものの,同報酬債務の存在は本件振込に返還合意があったとの認定を妨げる間接事実たりうることを総合すると,本件振込に返還合意があったと認定することはできない。
3 争点(1)(本件金員の趣旨等)について
(1) 事実関係
関係証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア アリキグループに属する会社の1つであるアリキは,もとaビル物件を所有していた(争いがない)。
同じくアリキグループに属するクロースタジオは,平成9年ころから,aビルの一部分において,ビデオ編集事業を営んでいた(争いがない)。
イ 吉備システムは,平成13年ころ,aビル物件及びクロースタジオの発行済み株式の全部を取得した(甲A7の6頁,甲A8,9)。
ウ 原告は,平成19年ころ,クロースタジオの従業員から,吉備システムの経営方針についての不満を聞き,クロースタジオ株式の買戻しを考えるようになった(甲A7の6頁)。
また,被告Y1は,被告会社とクロースタジオの事業を提携させれば,相乗効果が生じると考えていた(乙A5の13頁)。
エ 被告Y1は,平成19年11月ころ,吉備システムに対し,クロースタジオ株式の売却を持ちかけ,同月30日には,被告会社が吉備システムから,クロースタジオ株式及びaビル物件を合計17億5000万円(内訳:株式について2億5000万円,物件について15億円。)で購入する内容の買受申込書を提出した(乙A1,乙A5の13頁)。
オ 被告Y1は,上記購入資金をファンドで調達することを計画していたが,アメリカで発生したサブプライム問題の影響もあり実現できなかったため,金融機関からの借入れで調達することとし,複数の金融機関と融資の交渉をしたが,全額を借入れで賄うのは困難であった(乙A5の15ないし18頁)。
他方,原告は,平成20年4月7日,Cから,エーエーディ株式の売却代金として,3億0812万3077円の振込を受けていたところ(甲B13,17。前記1(1)サ参照),同月9日,被告Y1に対し,本件金員を振り込んだ(甲A1)。
カ 被告Y1は,金融機関との交渉の傍ら,吉備システムとの間でも購入代金額の交渉を行い,同月24日,同社との間で,代金を1億円減額した総額16億5000万円とし,かつ,うち2億円は新株予約権付劣後債務とすることが合意された。なお,吉備システム,クロースタジオ及び被告Y1の3者間で成立した具体的な合意の内容は,下記のとおりである。(以上,乙A2,乙A5の18頁)
記
(ア) 吉備システムは,被告Y1に対し,クロースタジオ株式を代金2億5000万円で譲渡する。株式譲渡の決済期日は同年5月14日とする。
(イ) 吉備システムは,被告Y1がクロースタジオの取締役に就任した後に,クロースタジオに対し,aビル物件を代金14億円で譲渡する。ただし,うち12億円を支払い,残金2億円はクロースタジオの吉備システムに対する新株予約権付劣後債務とする。また,不動産譲渡の決済日は平成20年5月30日とする。
(ウ) 上記(ア)の株式譲渡及び上記(イ)の物件譲渡を不可分一体とするものであり,一方が成約した場合でも,もう一方の不成約が確定した場合は,その成約は遡及して効力を失う。
キ 被告Y1は,平成20年5月14日,吉備システムに対し2億5000万円を支払い,クロースタジオ株式を被告Y1名義で購入した。
被告Y1は,同日,クロースタジオの取締役兼代表取締役に就任した。(以上,甲A5,乙A5の18頁,被告Y1本人の50頁)。
ク クロースタジオは,平成20年8月5日,吉備システムとの間でaビル物件について売買契約を締結し,同月中旬に代金12億円を決済した。なお,同決済資金は,aビル物件を担保としてクロースタジオが金融機関から借り入れた13億円で賄われており,被告Y1は同借入の少なくとも5億円について連帯保証している。(以上,甲A8,9,乙A10,12ないし16,被告Y1本人の63・64頁)
ケ aビル物件の所有者となったクロースタジオは,平成20年9月30日,原告が代表取締役を務める悠々に対し,同年10月31日をもって,aビルの明け渡しを求めたことから,原告と被告Y1の関係が悪化した(甲A10の12頁,乙A5の20頁,弁論の全趣旨)。
コ 原告と被告Y1は,平成20年10月3日,話合いの機会を持った。原告は,その際,被告Y1に対し,「本件金員に関しては,一応貸借としておき,返済されなくても良い方法を考えたいと思います。」などと原告の考えを説明した書面を交付し,借用証を差し入れるように求めたが,被告Y1はこれを拒絶した。(以上,甲A7の9頁,乙A4,乙A5の20頁,原告本人の40頁,被告Y1本人の54頁)
サ 被告Y1は,平成20年11月12日,原告の代理人である南木武輝弁護士の事務所に赴き,本件金員について原告との間で,初回3000万円,以後10年間の分割返済とする消費貸借契約を結ぶことを提案したが,話合いはまとまらなかった(甲A6,原告本人の21頁)。
なお,被告Y1は,上記認定に反する供述をするが(被告Y1本人の55ないし59頁),採用できない。
シ 被告Y1は,平成21年1月30日,原告に対し,本件金員の一部弁済として,1000万円を振り込んだ(甲A2の2,甲A3の1)。
ス 被告Y1は,平成21年2月初め,原告に対し,本件金員につき,下記事項を記載した平成20年4月9日付けの預り証(以下「本件預り証」という。)を,郵送した(甲A2の1)。
記
1項 平成20年4月9日に原告から2億5000万円を預かったこと。
2項 上記金員は,クロースタジオの株式・土地・建物を取得する資金に当てるものとすること。
3項 本件金員の返還は,以下のとおりとすること。
「クロースタジオ株式の上場ないしM&Aにより,クロースタジオの発行済み全株式の売却等譲渡によって,返還するに十分な資力が回復した時に返還するものとし,それまでは返還義務はなく,かつ利息も生じないものとする。」
セ 原告は,平成21年2月5日,被告Y1に対し,本件預り証の内容,特に3項について,被告Y1の勝手な考えであり認められないとして,即時,クロースタジオ株式を引き渡すか,2億5000万円を返済するように催告した(甲A3の1・2)。
ソ 被告Y1は,原告からの上記セの催告に対し,「原告は被告Y1に対し『クロースタジオの上場またはM&Aなどによって利益が出たら分けてくれ』と発言しており,本件金員は原告の被告Y1に対する投資であること,又は,原告と被告Y1がクロースタジオ株式を共有していることを理由に,本件金員の返還の請求は不当であり,そもそも平成21年1月30日に1000万円を返還済みであるから残額は2億4000万円である」などと回答した(甲A4)。
(2) 検討
上記(1)において認定した事実関係,とりわけ,① 被告Y1において,原告から本件金員の預託を受けた旨の陳述をし,原告から本件金員の贈与を受けた旨の主張はしていないこと(弁論の全趣旨。なお,上記(1)ス参照),② 被告Y1が平成20年11月12日,原告の代理人に対し,消費貸借契約を結ぶことを提案していること(前記(1)サ),③ 被告Y1が平成21年1月30日,原告に対し,本件金員の一部として1000万円を返還していること(前記(1)シ)に照らせば,原告は,被告Y1に対し,消費寄託契約に基づいて本件金員を振り込んだと認めることができる(以下「本件消費寄託契約」という。)。
本件消費寄託契約について返還時期が定められたことを認めるに足りる事実はないから,原告は,被告Y1に対し,いつでも本件金員(ただし,上記(1)シにおける1000万円の弁済後の残額2億4000万円)の返還を請求することができるところ(民法666条1項・2項),原告は平成21年2月5日,被告Y1に対し,本件金員の返還を催告している(前提事実(1)ウ)。
以上によれば,原告のA事件の請求は,2億4000万円及びこれに対する平成21年3月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(3) 被告Y1の主張について
ア 自然債務について
被告Y1は,「被告Y1が原告から本件金員の預託を受ける際,原告と被告Y1との間に,被告Y1において資金的に余裕ができた時点で返還すればいいという合意が成立した」旨主張する。
この点,原告は,平成20年10月3日の話合いの際,被告Y1に対し,「本件金員に関しては,一応貸借としておき,返済されなくても良い方法を考えたいと思います。」などと原告の考えを説明した書面を交付した事実が認められるが(前記(1)コ),同書面は両名の話合いの一場面で提出された書面にすぎず,同書面に本件金員の返還請求権の執行力を免除ないし放棄する旨の原告の意思表示が記載されていると認めることはできない。
また,上記話合いにおいて,被告Y1は,原告の借用証の差入れ要求を拒絶しているのであって(前記(1)コ),上記話合いの機会又はその他の機会に,原告と被告Y1との間に,本件金員の返還請求権の執行力を排除する旨の合意が成立したと認めることもできない。
イ 匿名組合について
匿名組合契約は,出資者と営業者との間に営業者が出資者に対してその営業から生じる利益を分配することの合意が成立することを契約の要素とするところ,原告と被告Y1との間に,かかる利益の分配方法について合意した事実を認めるに足りない。
ウ 共有について
被告Y1は,クロースタジオ買収のために必要であった14億5000万円のうち,2億5000万円を原告が,12億円を被告Y1が準備した旨主張する。
しかしながら,上記12億円はクロースタジオの所有するaビル物件を担保にしてクロースタジオが自ら借主となって金融機関から融資を受けた金員であり,被告Y1が同借入れについて連帯保証をしていることを考慮しても,被告Y1が準備したとの主張は,採用できない。
また,被告Y1は,原告から預託された本件金員でクロースタジオ株式を購入しているところ,上記(1)において認定した事実関係に照らせば,被告Y1は単なる名義貸与者とはいえないから,原告がクロースタジオ株式について共有持分を取得することはない。
エ その他
以上のほか,被告Y1は,本件金員が貸金であったとしても,返済に条件又は期限が付されていたなどと主張するが,これを認めるに足りない。
したがって,被告Y1の主張はいずれも採用できない。
4 結論
よって,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 安田大二郎)
〈以下省略〉
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