【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(275)平成21年 4月24日 東京地裁 平19(ワ)12964号 損害賠償本訴請求事件、退職慰労金等反訴請求事件

判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(275)平成21年 4月24日 東京地裁 平19(ワ)12964号 損害賠償本訴請求事件、退職慰労金等反訴請求事件

裁判年月日  平成21年 4月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平19(ワ)12964号・平19(ワ)16491号
事件名  損害賠償本訴請求事件、退職慰労金等反訴請求事件
裁判結果  一部認容(本訴)、一部認容(反訴)  文献番号  2009WLJPCA04248013

要旨
◆本訴は、原告の代表取締役であった被告Aが原告の取引相手から金品を受領しており、これがリベートに当たるとして原告に対する課税処分がなされたことについて、被告Aには、原告の取引相手からリベートを受領した上これを自己のものとし、さらに、それに基因する課税処分を原告に受けさせて原告に損害を被らせたことにつき取締役の任務に違反した責任があるとして、また、原告の取締役であった被告U及び被告Iには、被告Aの任務違反行為について監視義務を怠り善管注意義務ないし忠実義務に違反した責任があるとして、損害賠償請求し、反訴は、被告U及び被告Iが、原告に対し、退職慰労金及び退職慰労金不支給による損害賠償請求並びに顧問契約に基づく報酬請求をした事案において、本訴については、被告Aに任務に違反した責任があるとして、被告U及び被告Iには、一部を除き稟議書に押印するなどして被告Aの業務執行の存在及び内容を認識していた等の理由から監視義務違反を認め、請求の一部を損害と認めるなどし請求の一部を認容し、反訴については、顧問契約に基づく報酬請求の一部についてのみ請求を認容した事例

参照条文
会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律78条
商法260条1項(平17法87改正前)
商法266条1項5号(平17法87改正前)
会社法330条
会社法350条
会社法355条
会社法361条
民法620条
民法644条
民法651条2項
民法652条
民法656条

裁判年月日  平成21年 4月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平19(ワ)12964号・平19(ワ)16491号
事件名  損害賠償本訴請求事件、退職慰労金等反訴請求事件
裁判結果  一部認容(本訴)、一部認容(反訴)  文献番号  2009WLJPCA04248013

平成19年(ワ)第12964号 損害賠償本訴請求事件
平成19年(ワ)第16491号 退職慰労金等反訴請求事件

東京都千代田区〈以下省略〉
本訴原告・反訴被告 全国保証株式会社(以下「原告」という。)
同代表者監査役 A
同訴訟代理人弁護士 小西貞行
同 寺西康一郎
同訴訟復代理人弁護士 鈴木雄介
同 平林有紀
横浜市〈以下省略〉
本訴被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
同訴訟代理人弁護士 源光信
横浜市〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告 Y2(以下「被告Y2」という。)
東京都新宿区〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告 Y3(以下「被告Y3」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 内田智
同 石岡修

 

 

主文

1  被告Y1は,原告に対し,被告Y2及び被告Y3と連帯して,2億6425万3173円及びこれに対する平成19年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告Y2は,原告に対し,被告Y3及び被告Y1と連帯して,2億3740万5850円及びこれに対する平成19年5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告Y3は,原告に対し,被告Y2及び被告Y1と連帯して,2億3740万5850円及びこれに対する平成19年5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  原告は,被告Y2に対し,80万円及びこれに対する平成19年4月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5  原告は,被告Y3に対し,80万円及びこれに対する平成19年4月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6  原告のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
7  被告Y2及び被告Y3のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
8  訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを100分し,その30を原告の負担とし,その20を被告Y1の負担とし,その25を被告Y2の負担とし,その25を被告Y3の負担とする。
9  この判決は第1項から第5項までに限り,仮に執行することができる。

 

 

事実及び理由

第1  請求
1  本訴
(1)  被告らは,原告に対し,連帯して,4億3091万8776円及びこれに対する平成18年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)  訴訟費用は被告らの負担とする。
(3)  仮執行宣言
2  反訴
(1)  原告は,被告Y2及び被告Y3に対し,それぞれ,1億0240万円及び内金1億円に対する平成19年4月1日から支払済みまで,内金80万円に対する平成19年4月25日から支払済みまで,内金80万円に対する平成19年5月25日から支払済みまで,内金80万円に対する平成19年6月25日から支払済みまで,それぞれ年6分の割合による金員を支払え。
(2)  訴訟費用は原告の負担とする。
(3)  仮執行宣言
第2  事案の概要
本件は,①原告の代表取締役であった被告Y1が原告の取引相手から金品を受領していたこと,及び,これがリベート(原告が取引相手に支払った代金の割り戻し)に当たるとして麹町税務署長から原告に対する課税処分がなされたことについて,被告Y1には,原告の取引相手からリベートを受領した上これを自己のものとし,さらに,それに基因する課税処分を原告に受けさせて原告に損害を被らせたことにつき取締役の任務に違反した(善管注意義務ないし忠実義務に違反した)責任があるとして,また,原告の取締役であった被告Y2及び被告Y3には,被告Y1の上記任務違反行為について監視義務を怠り善管注意義務ないし忠実義務に違反した責任があるとして,それぞれ,原告が被告らに対して,平成17年法律第87号会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という。)78条及び整備法による改正前の商法(以下「旧商法」という。)266条1項5号に基づく損害賠償請求(本訴請求)をしたのに対し,被告Y2及び被告Y3が,原告に対して,それぞれ,②取締役任用契約に基づく各1億円の退職慰労金請求及び退職慰労金不支給による損害賠償請求,並びに,③顧問契約に基づく各240万円の報酬請求(反訴請求)をした事案である。
1  前提事実(争いがない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって認められる事実)
(1)  原告
原告は,昭和56年2月19日に設立された信用保証業務等を目的とする株式会社である。
原告の発行済株式の総数は,20万株(資本金の額2億円)であったところ,平成18年6月30日に22万6000株(資本金の額2億0975万円)に,同年7月31日に23万6000株(資本金の額2億1350万円)に変更された。
(弁論の全趣旨)
(2)  被告ら
ア 被告Y1
被告Y1は,昭和61年3月に原告に入社し,平成11年7月29日から平成18年7月3日まで取締役(常勤)の地位にあり,この間,平成14年6月19日から平成17年6月27日まで代表取締役(社長),同月28日から平成18年6月28日まで代表取締役(会長)の地位にあり,同日代表取締役を辞任するとともに,同年7月3日に取締役を辞任した。
(甲1,弁論の全趣旨)
イ 被告Y2
(ア) 被告Y2は,昭和62年4月に入社し,平成7年7月21日から平成18年7月10日まで取締役(常勤)の地位にあり,この間,平成12年3月28日から平成14年6月18日まで代表取締役(社長),平成18年6月28日から同年7月10日まで代表取締役(会長)の地位にあり,同日取締役を辞任した。
(イ) 被告Y2は,経理及び税務を含めて総務全般に精通していたところ,昭和62年4月から平成7年8月までは東京生命保険相互会社(現T&Dフィナンシャル生命保険株式会社)から原告に出向し,原告の社内規定の整備や決算を含め総務分野全般を担当してきた。
(甲2,乙B11,弁論の全趣旨)
ウ 被告Y3
(ア) 被告Y3は,昭和61年9月,原告に入社し,平成元年7月25日から平成11年7月28日までと,平成12年8月10日から平成18年7月10日まで取締役(常勤)の地位にあり,同日取締役を辞任した。
(イ) 被告Y3は,不動産や債権管理の知識・経験を有し,原告の不動産の管理や不良債権の処理に取り組み,平成9年以降は,民間金融機関に対する保証という新規業務を,被告Y1とともに行った。
(甲3,弁論の全趣旨)
(3)  本件の関係者等
ア 有限会社エムティー企画,B
有限会社エムティー企画(以下「エムティー企画」という。)は,平成16年10月12日に設立された不動産の売買・交換・仲介・賃貸・管理に関する業務,不動産に関するコンサルティング,化粧品の製造・販売等を目的とする特例有限会社である。
エムティー企画の唯一の取締役は,被告Y1の妻であるB(以下「妻B」という。)である。
(乙A8)
イ 有限会社シティーコーポレーション,C
有限会社シティーコーポレーション(以下「シティーコーポレーション」という。)は,平成16年12月22日に設立された,不動産の売買・賃貸・仲介・管理,宝石・貴金属・毛皮の売買等を目的とする特例有限会社である。発行済株式の総数は60口,資本金の額は300万円であり,元取締役であるCが40口,原告の関連会社である株式会社野村エステート(以下「野村エステート」という。)(シティーコーポレーション設立当時の野村エステートの代表取締役は被告Y1であった。)が20口を出資して設立された。
シティーコーポレーションは,平成19年2月28日に株主総会の決議により解散し,Dが清算人に就任した。
被告Y1とCとは,後記(4)の本件各案件が行われていた当時,個人的に親密な関係があった。
(乙A6,7,弁論の全趣旨)
ウ 千里土地株式会社,株式会社エスティ創研,E
E(以下「E」という。)は,被告Y1がその中学時代の先輩であるFの紹介で知り合った者であり,大阪で不動産業を営む者であった。被告Y1は,EやFとともに,ノンバンクである株式会社野村エステート・ファイナンス(以下「野村エステート・ファイナンス」という。)を設立した。
Eは,千里土地株式会社(以下「千里土地」という。)の代表取締役であり,また,株式会社エスティ創研(以下「エスティ創研」という。)の代表取締役である。
(乙A9,弁論の全趣旨)
エ 株式会社パワーマネージメント,G
株式会社パワーマネージメント(以下「パワーマネージメント」という。)は,ファンドの組成等を業としており,その代表取締役はG(以下「G」という。)である。
(乙A9)
(4)  被告Y1が原告の代表取締役として行った各投資案件(以下,下記アからカまでの取引を「本件各案件」という。)と,その取引相手からの被告Y1又は被告Y1の関係者による金品の受領
ア 「大阪建物解体工事」案件
(ア) 原告において,平成16年5月7日,「投資用不動産購入の件」と題する稟議書が作成された。同稟議書は,総務部のH(以下「H」という。)が起案し,被告Y1が「決裁者印」の「社長」欄に押印して決裁をした。
また,同稟議書には,「承認及び回覧」欄と「不承認」欄があり,被告Y2及び被告Y3は,いずれも「承認及び回覧」の欄に押印した。
同稟議書には,大阪市中央区○○a丁目62番3,62番1,63番2所在の宅地を購入価額2億9100万円で取得すること,千里土地からの紹介物件であること,建物は,昭和37年築であり資産価値は全くないが,土地は大阪心斎橋に至近で,前に学校もあることから環境も比較的良好であること,現在も低迷している経済圏だが,将来的には不動産価格の上昇も期待でき,この価格での購入は格安であると思料すること,建物の取り壊しもふまえ土地の有効利用を検討して,投資利回りの上昇を図りたいと思料することなどが記載されている。
(甲41)
(イ) 原告において,平成16年5月17日,「投資用建物解体工事の件」と題する稟議書が作成された。同稟議書は,総務部のHが起案し,被告Y1が「決裁者印」の「社長」欄に押印して決裁をした。
また,同稟議書には,「承認及び回覧」欄と「不承認」欄があり,被告Y2及び被告Y3は,いずれも「承認及び回覧」の欄に押印した。
同稟議書には,取得した大阪市〈以下省略〉所在の土地にある建物について,昭和37年築のもので,このままでは十分な運用ができないと思料すること,そのため,当初予定どおりこの建物を解体し,十分な投資利回りを確保できるように建て替えたいと思料すること,解体工事費用は1995万円であり,工事実施業者はエスティ創研であることなどが記載されている。
(甲29)
(ウ) 原告は,平成16年5月20日,エスティ創研に対し,マンション建設用地として取得した大阪市〈以下省略〉所在の土地上の建物解体工事(RC造4階建ビル解体工事)代金として1995万円を支払った。
(甲10)
(エ) エスティ創研は,妻Bが居住する神戸市〈以下省略〉所在のマンション(bマンション1202号室)で使用する家具及び家電製品等の購入代金795万円(消費税37万8572円含む)を負担した。
(原告と被告Y1との間においては争いがない)
(被告Y2及び被告Y3との関係おいて甲4,5)
イ 「大阪土地仲介」案件
(ア) 原告において,平成16年11月9日,「投資用不動産購入の件」と題する稟議書が作成された。同稟議書は,総務部のHが起案し,被告Y1が「決裁者印」の「社長」欄に押印して決裁した。
また,同稟議書には,「承認及び回覧」欄と「不承認」欄があり,被告Y2及び被告Y3は,いずれも「承認及び回覧」の欄に押印した。
同稟議書には,大阪市〈以下省略〉所在の宅地について,所有者株式会社シティライフコーポレーションから,購入価額8億円で購入すること,仲介業者である野村エステート及び千里土地に対する仲介手数料が2520万円であること,千里土地からの紹介物件であること,現在は駐車場として利用されているが,大阪市営堺筋線「日本橋」駅徒歩6分で,500坪とまとまった東南角地の物件になり,今後も地価の上昇が期待できるものと思料すること,土地転売にても十分な運用となると思料すること,居住者の多い地域ということで投資利回り等を考慮しマンション建設などの土地の有効活用を検討したいことなどが記載されている。
(甲26)
(イ) 原告は,平成16年11月25日,株式会社シティライフコーポレーションから,大阪市〈以下省略〉所在の宅地を売買代金8億円で購入し,千里土地に対して,仲介手数料として1680万円を支払った。
(甲8,9)
(ウ) 千里土地は,同日,原告から支払を受けた1680万円のうち840万円を当該土地に係る仲介手数料として,三菱東京UFJ銀行都島支店のエムティー企画名義の普通預金口座に振り込んだ。
(原告と被告Y1との間においては争いがない)
(被告Y2及び被告Y3との関係おいて甲4,5)
ウ 「大阪マンション建築発注」案件
(ア) 原告において,平成17年1月28日,「cマンション建設の件」と題する稟議書が作成された。同稟議書は,総務部のHが起案し,被告Y1が「決裁者印」の「社長」欄に押印して決裁した。
また,同稟議書には,「承認及び回覧」欄と「不承認」欄があり,被告Y2及び被告Y3は,いずれも「承認及び回覧」の欄に押印した。
同稟議書には,施工は千里土地の紹介で岩出建設株式会社(以下「岩出建設」という。)に依頼すること,マンション建設の総費用は2億6000万円で,千里土地作成の想定資料からすると表面で6.22%の利回りとなること,将来的にリートに売却することも想定し,土壌調査・測量・境界確認・検査等遺漏なく対応していること,現地には既存物件が残っており,その解体・隣地補修で3500万円を予定していること,新築ということもあり若干低い利回りとなっているがその分物件の流通性は向上していると思料することなどが記載されている。
(甲24)
(イ) 原告において,平成17年1月28日,「dマンション建設の件」と題する稟議書が作成された。同稟議書は,総務部のHが起案し,被告Y1が「決裁者印」の「社長」欄に押印して決裁した。
また,同稟議書には,「承認及び回覧」欄と「不承認」欄があり,被告Y2及び被告Y3は,いずれも「承認及び回覧」の欄に押印した。
同稟議書には,施工は,千里土地の紹介で岩出建設に依頼すること,現地は,近鉄大阪線・地下鉄堺筋線「日本橋」駅徒歩6分と交通の便がよく,立体駐車場も完備することでより多くの需要を期待できること,マンション建設の総費用は19億4385万円で,千里土地作成の想定資料からすると表面で7.84%の利回りとなること,将来的にリートに売却することも想定し,土壌調査・測量・境界確認・検査等を遺漏なく対応していること,リートにおいてもこのような大型物件は中心物件としての需要が予想されることなどが記載されている。
(甲25)
(ウ) 原告は,岩出建設との間で,eマンション南久宝寺新築工事に係る平成17年2月3日付の工事請負契約書(請負代金額2億4780万円)及びeマンション島之内新築工事に係る同日付の工事請負契約書(請負代金額18億6165万円)を作成し,マンション建築工事2件(以下,この建築工事2件を「本件大阪マンション建築工事」という。)を発注した。
(甲6の1,2)
(エ) 千里土地は,被告Y1から,本件大阪マンション建築工事の施工業者の選定を任せられ,岩出建設を請負業者と選定したが,その際,千里土地と岩出建設との間で,岩出建設が千里土地に対して工事の一部を下請け発注することが条件とされ,千里土地は,岩出建設から,工事の一部を下請け受注した。
(甲4)
(オ) 原告は,平成17年2月7日,岩出建設に対して,本件大阪マンション建築工事の契約時請負代金として,4億5000万円を支払った。岩出建設は,同日,千里土地に対して,千里土地が岩出建設から下請け受注した工事にかかる工事代金等を支払った。
(甲4)
エ 「入や萬成証券株式取得」案件
(ア) 原告の取締役会において,平成17年4月4日,「入や萬成証券株式会社の株式取得の件」について,「入や萬成証券株式会社」の株式380万株を19億1520万円で,647万7932株を28億9563万5604円で,それぞれ取得することを承認する旨の決議をした。
上記取締役会には,代表取締役被告Y1,取締役被告Y2及び被告Y3並びに監査役Iが出席していた。
(甲35)
(イ) 原告とパワーマネージメントは,平成17年4月27日,原告がパワーマネージメントに対して入や萬成証券株式会社の株式売買に関するアドバイス業務を委託する旨のコンサルティング委託契約を,成功報酬を9762万6633円として締結した。
原告は,平成17年4月28日,パワーマネージメントに対し,コンサルティング料として9762万6633円を支払った。
上記コンサルティング契約締結及びコンサルティング料の支払に関する稟議書は存在せず,役員の決裁も行われていない。
(甲11,37,38,弁論の全趣旨)
(ウ) パワーマネージメントは,平成17年5月25日,シティーコーポレーションに対し,紹介手数料名目で,2440万6658円を支払った。
(原告と被告Y1との間においては争いがない)
オ 「横浜新山下老人ホーム建築」案件
(ア) 株式会社野村メディカル・サポート(以下「野村メディカル・サポート」という。)において,平成17年1月31日,「新山下老人ホーム設計業務依頼の件」と題する稟議書が作成された。同稟議書は,同社横浜支店のJが起案し,被告Y1が「決裁者印」の「社長」欄に押印して決裁した。
また,同稟議書には,「承認及び回覧」欄と「不承認」欄があり,被告Y2及び被告Y3は,いずれも「承認及び回覧」の欄に押印した。
(甲32)
(イ) 原告は,平成17年1月,株式会社一鐵建築デザイン事務所(以下「一鐵建築」という。)との間で,横浜市中区○○f丁目4番6,10,19所在の有料老人ホーム「新山下有料老人ホーム」新築工事に関して,業務報酬を5113万5000円とする建築設計・監理業務委託契約を締結した。原告は,平成18年8月31日までに,一鐵建築に対して,設計・工事監理費として5113万5000円を支払った。
(甲14,15の1から4)
(ウ) 一鐵建築は,シティーコーポレーションに対し,有料老人ホーム申請業務手数料名目で,平成17年6月15日に340万9020円,同年8月1日に170万4480円の合計511万3500円を支払った。
(原告と被告Y1との間においては争いがない)
カ 「投資事業組合出資」案件
(ア) 原告において,平成17年9月16日,「日本株式投資ファンド出資について」と題する稟議書が作成された。同稟議書は,経理部のHが起案し,被告Y1が「決裁者印」の「Y1会長」欄に押印して決裁した。
また,被告Y2及び被告Y3は,いずれも同稟議書の「承認」欄に押印した。
同稟議書には,パワーマネージメントのG社長の提案で,今後上昇が期待される日本株への投資ファンドへの出資であること,パワーマネージメントは,不動産ファンドでの運用で実績があり,入や萬成証券を絡めたスキームにてファンドの組成を行っていること,不動産ファンドは市況の高騰から投資を控えるなど,適切な投資を行っていると思料していること,原告の資産は600億を優に超え,運用資産も増加していること,手数料等により費用はかかるが,それを上回る運用益も期待できるので,人数が限られた中での運用活動にこのようなプロの担当者に任せるファンドを活用することは有効であると思料すること,今回のファンドでは,上場株式だけでなく未上場株式・投資信託など同社の投資情報を活かした幅広い投資対象を予定していることから,任意組合でのファンド組成となること,任意組合は,原告にとって無限責任となることから,借入や債務の保証を禁止すること,原告の資金繰りにあわせた自由度の高い資金拠出ができるようにすることなどを盛り込んで契約を締結したいと思料することなどが記載されている。
(甲39)
(イ) 原告は,パワーマネージメントとの間で,平成17年9月22日,パワーマネージメントを業務執行組合員,原告を一般組合員とし,目的を,国内の会社の発行する株式等に投資を行うことで,組合財産の増加と安定収入の確保を追及することとし,業務執行組合員は業務執行費用として各事業年度末における組合の貸借対照表におけるファンド目的証券の帳簿価額総額に対して年率2%を乗じた金額や,組合設立費用として3000万円を受領することができることなどを内容とする投資事業組合出資契約を締結した。
原告は,平成18年1月31日までに8回に分けて,出資金合計30億円を払い込んだ。
(甲12,13の1から8)
(ウ) パワーマネージメントは,平成18年4月11日,シティーコーポレーションに対し,紹介手数料名目で3150万円を支払った。
(原告と被告Y1との間においては争いがない)
(5)  被告Y1の国税当局に対する確約書の提出
被告Y1は,平成18年5月10日,原告の代表取締役として,東京国税局統括国税調査官(以下,後記(6)の麹町税務署長を含めて「国税当局」という。)に対して,「確約書」と題する書面(以下「本件確約書」という。)を提出した。
本件確約書には,平成17年10月5日から行われている税務調査において指摘を受けた事項については指摘事項に相違はなく,いずれも被告Y1に対する認定賞与として処理し,今後このようなことがないよう適正な経理処理を行うことを確約する旨記載されている。本件確約書中の上記(4)の取引に関する内容は以下のとおりである。
ア 「大阪建物解体工事」案件
原告が,大阪市〈以下省略〉の土地の取得に伴い,平成16年5月20日にエスティ創研に支払った建物解体工事代金1995万円については,原告は当該土地の取得価額及び仮払消費税額等に計上しているが,その内795万円は原告の代表取締役である被告Y1の妻Bが居住しているbマンション1202号室(神戸市〈以下省略〉所在)で同人が使用している家具,電化製品等の購入代金であり,当該金額を被告Y1に対する認定賞与とする。
イ 「大阪土地仲介」案件
原告が大阪市〈以下省略〉の土地の仲介手数料として千里土地に支払った1680万円を基因として平成16年11月25日に千里土地からエムティー企画に支払われた840万円を,原告の収入として受け入れ,当該金額を被告Y1に対する認定賞与とする。
ウ 「大阪マンション建築発注」案件
(ア) 千里土地から被告Y1に対して,平成17年2月9日に支払われた4800万円及び同年3月29日に支払われた現金3000万円については,原告が大阪市〈以下省略〉所在のマンション「(仮称)eマンション島之内」及び大阪市〈以下省略〉所在のマンション「(仮称)eマンション南久宝寺」の建設を岩出建設に発注したことに基因して,千里土地から支払われたものであり,原告の収入として受け入れ,当該金額を被告Y1に対する認定賞与とする。
(イ) 平成17年2月10日に千里土地からエムティー企画名義の普通預金口座に支払われた合計3986万円については,上記マンションの建設を岩出建設に発注したことに基因して千里土地から支払われたものであり,原告の収入として受け入れ,当該金額を被告Y1に対する認定賞与とする。
(甲5)
(6)  原告に対する法人税額等の更正通知及び重加算税の賦課決定処分
原告は,税務調査を経て,平成18年6月30日付で麹町税務署長から法人税額等の更正処分及び加算税の賦課決定処分を受けた。同処分において,麹町税務署長は,以下のとおりの認定をした。
ア 「大阪建物解体工事」案件
原告は,大阪市〈以下省略〉の土地取得に伴い,平成16年5月20日にエスティ創研に支払った建物解体工事代金1995万円を当該土地の取得価額等に計上しているが,その内795万円は,被告Y1の妻Bが居住しているbマンション1202号室(神戸市〈以下省略〉所在)で妻Bが使用している家具及び家電製品等の購入代金に充てられ,被告Y1が個人的に負担すべき金額を建物解体工事代金等に仮装したものであるから,被告Y1に対する賞与と認められる。
イ 「大阪土地仲介」案件
千里土地が平成16年11月25日にエムティー企画名義の普通預金口座に振り込んだ840万円は,原告が同日に大阪市〈以下省略〉の土地を取得した際に千里土地に仲介手数料として1680万円を支払ったことに基因して千里土地から原告に支払われたリベートであり,雑収入として計上すべきであり,かつ,被告Y1が個人的な使途に費消していると認められるから被告Y1に対する賞与に当たる。
ウ 「大阪マンション建築発注」案件
(ア) 千里土地の代表取締役であるEから原告の代表取締役である被告Y1に対して,平成17年2月9日に支払われた現金4800万円及び平成17年3月29日に支払われた現金3000万円については,原告が大阪市〈以下省略〉所在のマンション「(仮称)eマンション島之内」及び大阪市〈以下省略〉所在のマンション「(仮称)eマンション南久宝寺」の建設を岩出建設に発注したことに基因して,千里土地から支払われたリベートであり,原告の雑収入として計上すべきであり,かつ,被告Y1が個人的に費消しているから,被告Y1に対する賞与と認められる。
(イ) 千里土地がエムティー企画名義の預金口座に平成17年2月10日に振り込んだ合計3986万円は,原告が岩出建設に対して建設工事を発注したことに基因して千里土地から原告に支払われたリベートであり,原告の雑収入として計上すべきであり,かつ,被告Y1が個人的に費消しているから,被告Y1に対する賞与と認められる。
(甲4)
(7)  原告の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度(以下「平成18年3月期」という。)の確定申告
ア 「大阪マンション建築発注」案件
原告は,平成18年3月期において,「大阪マンション建築発注」案件に関して,平成17年9月20日に千里土地から被告Y1に対して支払われた4500万円を雑収入として計上し,同額を被告Y1に対する賞与として支払った旨の申告をした。
イ 「入や萬成証券株式取得」案件
原告は,平成18年3月期において,上記(4)エ(ウ)のシティーコーポレーションがパワーマネージメントから受領した2440万6658円を雑収入として計上し,同額を被告Y1に対する賞与として支払った旨の申告をした。
ウ 「横浜新山下老人ホーム建築」案件
原告は,平成18年3月期において,上記(4)オ(ウ)のシティーコーポレーションが一鐵建築から受領した合計511万3500円を雑収入として計上し,同額を被告Y1に対する賞与として支払った旨の申告をした。
エ 「投資事業組合出資」案件
原告は,平成18年3月期において,上記(4)カ(ウ)のシティーコーポレーションがパワーマネージメントから受領した3150万円を雑収入として計上し,同額を被告Y1に対する賞与として支払った旨の申告をした。
(甲7,弁論の全趣旨)
(8)  役員退職慰労金関係
ア 原告の役員退職慰労金規定
原告の役員退職慰労金規定には,以下のとおり,記載されている。
第1条(目的)
この規定は,役員の退職または死亡について,退職慰労金を支給し,役員の在任期間中の功労に報いることを目的とする。
第2条(適用の範囲)
この規定は,取締役,監査役の全員に適用する。退職慰労金は役員として円満に勤務し,死亡,任期または辞任により退職した者に対し株主総会の決議を経て支給する。
第3条(支給算定基準)
退職慰労金の支給算定基準額は,在任時の平均報酬月額をもって基準額とし,これに次の倍率を乗じた額とする。
支給額=在任時平均報酬月額×倍率×在任年数
倍率(在任1年あたり) 取締役・監査役 一律3倍
第4条(特別功労金)
取締役会は,退職役員の功績を評価し,前条で定めた退職慰労金のほかに特別功労金を加算して支給することができる。
(中略)
第6条(在任期間の計算)
1項 在任年数は就任の月から起算し,死亡または退任の月までとする。
2項 在任年数の計算において1年未満の端数は7か月以上をもって1年とする。
(以下略)
(甲17)
イ 平成18年6月28日付第26回定時株主総会決議
平成18年6月28日に開催された原告の第26回定時株主総会において,被告Y1,被告Y2及び被告Y3外の取締役及び監査役らについて,在任期間中の労に報いるため一定の基準に従い,相当額の範囲内で退職慰労金を,各氏の退任時に打ち切り支給する旨,その具体的金額,支払の時期及び方法は取締役会在任期間分については取締役会に,監査役在任期間分については監査役の協議に一任する旨,本総会の後引き続き取締役,監査役の任にある者については,本議案により確定した退職慰労金は,本人が取締役,監査役のいずれをも最終的に退任した時点で支給する旨決議した。
(甲20)
ウ 平成18年6月28日付取締役会決議
平成18年6月28日に開催された原告の取締役会において,第26回定時株主総会で決議された,退職慰労金制度廃止に伴う打ち切り支給についての退職慰労金の金額,支払の時期及び方法等についての決定を代表取締役会長に一任する旨決議した。
(甲21)
(9)  顧問契約の締結と解除
ア 顧問契約の締結
(ア) 被告Y2と原告は,平成18年7月11日,被告Y2が原告に対して原告の業務に関する助言を与える事務を委託すること,報酬については月額80万円を毎月の原告の給与支払日(25日)に支払うこと,出社日については,定時取締役会及び臨時取締役会の開催日に出社するほか,必要に応じて出社するものとすることなどを内容とする顧問契約を締結した。
(乙B3)
(イ) 被告Y3と原告は,平成18年7月11日,被告Y3が原告に対して原告の業務に関する助言を与える事務を委託すること,報酬については月額80万円を毎月の原告の給与支払日(25日)に支払うこと,出社日については,定時取締役会及び臨時取締役会の開催日に出社するほか,必要に応じて出社するものとすることなどを内容とする顧問契約を締結した。
(乙B2)
イ 顧問契約解除の意思表示
原告は,被告Y2及び被告Y3に対し,平成19年4月分以降の顧問料の支払をとりやめる旨の通知をし,いずれも,同月25日到達した。
(甲23の1,2,3)
2  争点
(1)  被告Y1が受領したリベートの額及びリベート受領による責任の有無
(2)  被告Y2及び被告Y3の監視義務違反による責任の有無
(3)  被告らの取締役の任務違反行為(善管注意義務ないし忠実義務違反)によって原告に生じた損害及び損害額
(4)  被告Y2及び被告Y3の退職慰労金請求権の有無
(5)  被告Y2及び被告Y3の退職慰労金不支給による損害賠償請求の可否
(6)  被告Y2及び被告Y3の顧問契約に基づく報酬請求の可否
3  争点に対する当事者の主張
(1)  被告Y1が受領したリベートの額及びリベート受領による責任の有無
【原告の主張】
ア 発注行為とリベート提供との時期の先後を問わず,発注行為に基因して受注業者側から提供される売上割戻しその他のリベートは値引きとしての性質を有するものである。その原資が発注価格に含まれることに変わりはない。したがって,リベートによる利益はその性質上,当然に発注者が収受すべきものであり,発注行為の業務を執行した取締役が自己もしくは第三者の利益として収受すべき性質のものではない。
被告Y1としては,原告の名義と計算において発注行為がなされたことに基因して受注業者側からリベート提供の申し出を受けた場合,リベートの原資は原告が支払った発注価格に含まれており,リベートによる利益は原告が収受すべきものであるから,そのリベートを原告の益金として計上するか,リベート相当額を値引きした価格で発注すべき義務がある。
それにもかかわらず,被告Y1は,善管注意義務,忠実義務に違反し,漫然と,リベートを自己のほしいままに費消し,もしくは自己の特定利害関係者に帰属せしめた。
よって,被告Y1は,取締役として課せられた善管注意義務ないし忠実義務に違反して,原告の名義かつ計算で取引を行ったことに基因して発生し,原告が受け取るべきリベートを自己費消し,もしくは特定利害関係者に利益を帰属させたから,これによって原告が被った損害を賠償する責任がある。
イ 「大阪マンション建築発注」案件について
(ア) 被告Y1が千里土地から受領したリベートの金額は,平成17年2月9日に4800万円,同年3月29日に3000万円,同年9月20日に4500万円,同年2月10日に3回合計3986万円(名義上は,エムティ企画が千里土地から受領したもの)の合計1億6286万円である。
(イ) エムティ企画は被告Y1の妻Bが代表を務める会社であり,エムティ企画名義で受領されたものも,実質的には被告Y1に対して支払われたものである。
【被告Y1の主張】
ア 「大阪建物解体工事」案件
(ア) エスティ創研(E)の被告Y1に対する神戸のマンションの家具及び電化製品の提供は,厚意による単なるプレゼント(贈与)と認識していたし,後日その評価が795万円と知らされた。リベートではない。
(イ) 大阪建物解体工事につき,妻Bは,関与しているわけではないが,同人及び被告Y1が知らない間に,エスティ創研なる会社が神戸のマンションで使用する家具,電化製品(795万円相当)を持ち込んだものであり,その理由の説明もなく,趣旨不明の贈与である。
イ 「大阪土地仲介」案件
(ア) 原告は,千里土地に対して,土地仲介手数料として1680万円を支払ったが,これは当然のことであり,千里土地(E)が,エムティー企画に対して840万円を支払ったことは,千里土地が受領した金員を自由に処分したものであり,リベートではない。
(イ) 千里土地(E)は,エムティー企画が被告Y1の妻Bの会社であることから,原告の中興の祖である被告Y1との良好な関係を維持すべく,原告から受領した正規の手数料の2分の1相当の840万円を自発的に(被告Y1が要求したのではない)エムティー企画に対して贈与したものである。取得した手数料をどのように処分するかは千里土地の自由であり,第三者がとやかくいう筋合いのものではない。
ウ 「大阪マンション建築発注」案件
Eは,被告Y1に対して,日常業務の世話や新築のお礼として,合計7800万円の申し出をし,被告Y1は,この申し出を受けた。しかし,このうち,2000万円は授受されず,Eが個人的に流用した。この2000万円は除かれるべきである。
被告Y1は,平成17年2月9日に2800万円,同年3月29日に3000万円を受領した。授受の趣旨は,被告Y1からの日常業務の世話,新築の各お礼である。
エ 「入や萬成証券株式取得」案件
(ア) 「入や萬成証券株式取得」案件は,パワーマネージメントのG,C及び被告Y1の3名で平成17年4月ころ会食中話題となり,Cも原告が入や萬成証券株式会社の株式を取得するためにパワーマネージメントに働きかける発言をしたことも影響して,コンサルティング委託契約が締結されたものである。
この経緯により,パワーマネージメントが原告から受領したコンサルタント料の約25パーセントの2440万6658円を紹介手数料名目にてシティーコーポレーションに対して支払った。シティーコーポレーションに対する正当な報酬である。
(イ) パワーマネージメント及びシティーコーポレーション間に平成17年4月27日に締結されたK氏一族が保有する入や萬成証券株式会社の株式売却についての紹介業務を目的とする紹介手数料支払契約書が締結され,この契約に基づいて支払われた成功報酬である。リベートではない。
オ 「横浜新山下老人ホーム建築」案件
有料老人ホームの申請業務をシティーコーポレーションのJ顧問が現実に行っている。一鐵建築が原告から設計監理業務を5113万5000円で請け負い,その下請けとしてシティーコーポレーションが上記申請業務をなし,その正当な報酬として約511万を受領したものである。原告に対するリベートではない。
カ 「投資事業組合出資」案件
(ア) パワーマネージメントとシティーコーポレーション間の平成17年9月の「投資事業組合出資」に関する契約に基づき,成功報酬として3150万円が支払われたものである。リベートではない。
(イ) シティーコーポレーションは,本件に関与していないが,同社が被告Y1の知人の会社であるという関係から,パワーマネージメント及びシティーコーポレーション間に紹介手数料契約が締結され,成功報酬として3150万円がシティーコーポレーションに対して支払われた。シティーコーポレーションに対する正当な報酬である。
キ いわゆるリベートには,さまざまなケースがあり,その一つが売上割戻金であり,この性格を有するものは会社(原告)に帰属すべきものであろう。他方,取引に関連して実力を有する特定の個人に対し,謝礼あるいは取引強化を期待してのリベートもありうるのであり,かかる場合は,特定の個人に対する単なる贈与とみるべきもので,売上割戻金又は実質的な値引きと見るのは,取引社会の通念に反する。
【被告Y2及び被告Y3の主張】
ア 本件各案件に関して授受されたという金品の大部分は,被告Y1個人が受けたものではなく,関連してはいてもそれぞれ独立した法人による通常の商取引上の利益である。千里土地やパワーマネージメント等が,エムティー企画やシティーコーポレーション等の各企業に業務を発注したことや,Eないし千里土地及びエスティ創研が,被告Y1や妻Bに対して贈与を行ったことが,なぜ原告の損害となるのか,なぜ被告Y1の利得となるのか等は,何ら立証されていない。
イ 被告Y1が税務署に提出した本件確約書の1点に依拠して取締役の責任追及の前提としての原告の損害を認定することは,決して妥当とはいえない。けだし,税務署との間で利益の出ている企業・事業体が見解の相違に関していわば「手打ち」が行われることなど珍しくなく,本件についても「徴税上のテクニック」で,かつ「粗削りの認定と処理」だからである。
(2)  被告Y2及び被告Y3の監視義務違反による責任の有無
【原告の主張】
ア 被告Y2及び被告Y3は,原告の取締役会の構成員として,取締役会を通し,不適切な業務執行により会社に損害が生じないよう,他の取締役の業務執行を監督するべき義務がある(旧商法260条1項)。
取締役会には会社の業務執行について監督するべき職責があり,取締役会を構成する取締役は,会社に対し,取締役会に上程された事項について監視をするだけでなく,代表取締役の業務執行全般につき,これを監視し,必要に応じて是正のための措置をとるべき職責を有する。
したがって,被告Y2及び被告Y3は,原告がこれまで手掛けてこなかった関連事業に関し,平成16年に至り急激に着手し,しかもその額が106億2942万2304円にも上るのであるから,これら関連事業に付随して不正行為が行われていないかどうかを厳重に監視すべき注意義務がある。
しかし,被告Y2及び被告Y3は,原告の取締役として課された監視義務を怠り,本件各案件について被告Y1のなすがままを許した過失があり,これによって原告が被った損害を賠償する責任がある。
イ 以下の点から,被告Y2及び被告Y3には,被告Y1の任務違反行為によって原告に損害が発生することの予見可能性があった。
(ア) 本件各案件における取引金額が多額であること
a 原告が拠出した資金は,「大阪建物解体工事」案件に関連して1995万円,「大阪土地仲介」案件に関連して8億円,「大阪マンション建築発注」案件に関連して21億0945万円,「入や萬成証券株式取得」案件に関連して46億7488万7304円,「横浜新山下老人ホーム建築」案件の設計業務に関連して5113万5000円(その他,用地取得に2億6000万円余り,建物建築に9億8000万円を要している。),「投資事業組合出資」案件に関連して30億円,合計106億2942万2304円(ただし,原告が主張する上記金額の合計額は106億5542万2304円になる。)にも上る。
本件各案件の総投資額は,総資産の8分の1,年間の売上高の4分の1を超えるものである。平成18年3月期の総資産は806億円,営業利益は31億円,経常利益は51億円,当期純利益は26億円にしかすぎない。なお,同期の負債は713億円であり,資本は92億円である。本件各案件に対しては,原告の純利益の約4倍に相当する額であり,かつ,資本の額を超える投資がなされている。このように,本件各案件の総投資額は,原告の資産力,収益力から見ても過大なものであり,いかに資産運用の必要があるとしても軽々に判断しうるものではない。
b 原告の平成18年3月期における負債として,前受保証料53億円,長期前受保証料553億円が計上されているが,いくら総資産があるとはいっても,その大半は前受の保証料であり,いわば預り金の性質を有するものであるから,その運用は慎重であるべきであり,元本が欠損するような可能性のあるリスクの高い運用は慎むべきである。また,新たな投資事業を手掛けるにあたっては,投資資金の原資が前受の保証料であることに鑑み,その投資案件が利潤を生むものであるか慎重に検討すべきである。
(イ) 本件各案件が原告おいて従前取り扱ったことのないものであること
a 原告は,保証引受等を業とする株式会社であり,マンション開発は,「大阪マンション建築発注」案件,「大阪土地仲介」案件及び「大阪建物解体工事」案件以前には,全く行っておらず,老人ホームの建設は「横浜新山下老人ホーム建築」案件以外には全く行っていない。また,「入や萬成証券株式取得」案件及び「投資事業組合出資」案件のような会社買収や投資事業組合出資への出資も殆ど行っていない。
b これら一連の行為は,平成16年ころに至り,いずれも被告Y1の主導によって急に行われ始めたものであるが,原告にはこれらの企画,実施運営のノウハウは全くなく,その実施については全てを外部の業者に委ね,原告は資金を拠出するに留まった。
c 本件各案件は,賃貸マンション事業や老人ホーム事業など原告がこれまで手掛けたことのない事業であったり,これまで取引実績が無く,また,過去の運用実績がどの程度のものであったのかも分からないような者の助言により投資を行ったりするものであり,そもそも,資産運用としての適格性を検討する以前に,何故に被告Y1が急激に投資に傾倒し,しかもその悉くが被告Y1の個人的な人間関係から持ち込まれたものなのかについて,疑念を抱くのが健全なる常識というものである。
d 原告においては,不動産の「売買」については取り扱ったことがあるが,本件のように収益物件を新たに建築取得し,これを賃貸に出すなどという事業は行ったことがない。個人の住居を年に10から15件程度取得して転売するということはしたことがあるが,「大阪マンション建築発注」案件とは質的にも量的にも異なる。藤和不動産を介してマンション投資を行ったことがあるが,「横浜新山下老人ホーム建築」案件のような老人ホーム事業はない。自ら競売を申し立てた物件を競り落としたり,投資用マンションを購入することと,新たに用地を取得して賃貸マンションを建設したり,老人ホームを建てたりすることは異次元の事柄である。
(ウ) 本件各案件の相手方が被告Y1の個人的関係のある者であること
a 被告Y2及び被告Y3は,被告Y1が,これまで取引をしたこともないEが率いる千里土地の紹介で10億円単位の投資をしようとするのに,Eがどのような人物であろうか知ろうとはしなかった。Eがどんな人物であろうとも,これまで何の取引実績もない人物と,これまで取り扱ったことのない投資事業を,しかも10億円の単位で行おうというのであるから,案件が持ち込まれてきた経緯についてまでも精査するのが当然である。
b Eは,野村エステート・ファイナンスの取締役であったが,もともと,被告Y1とEは,共通の友人を介しての知り合いであり,被告Y1がEに対して資産運用の相談を持ちかけた結果,野村エステート・ファイナンスが設立されたという経緯がある。
(エ) 本件各案件における原告担当者が被告Y1以外にいなかったこと
a 稟議書を起案したHも,当時の関連事業部長のL(以下「L」という。)も,Eが持ち込んできた案件については詳細を承知していない。これらの案件は,ボトムアップで積み上げられるものではなく,被告Y1からのトップダウンで指示が出されたものであり,実際,HもLも,施工会社である岩出建設の関係者とは,完成物件の引渡しまでに会ったことはない。
b 原告の社内において,本件各案件の詳細を把握していたのは,被告Y1のみである。H及びLは,稟議書を起案するに際して,被告Y1などから資料を渡されたことはあるが,その資料の裏付けは行っていない。当時取締役でもないH及びLは,代表取締役である被告Y1の直轄案件について,被告Y1から指示をされたならこれを抗し得ない立場にあった。
c 被告Y2及び被告Y3が,H及びLを信頼していようといまいと,稟議書に相見積書が添付されていないことは明白であり,また,稟議書が回付されてくるまでの間,事業の進捗状況についてはHからもLからも被告Y2及び被告Y3に対して何の報告もされていないのであるから,被告Y2及び被告Y3としては,取締役としての監視義務を果たすべく,稟議書ができあがるまでの経緯について精査を行うべきであった。
d 被告Y1と取引相手とが結託すれば,発注価格をつり上げ,浮いた金額を山分けするという古典的な背任行為が行われることが類型的に懸念される。発注者側の担当者が受注者側に対して,受注の見返りとしてリベートを要求するということは古典的な不正行為である。権限が特定の者に集中すると濫用が横行して誰も暴走を止められなくなるという経験則は古くから知られている。
ウ 上記イのとおり,原告にとって,本件各案件は,いずれも本業からかけ離れた投資事業であり,しかも投資額が何れも巨額であることから,そのことだけで十分に監視義務が根拠付けられることに加え,いずれも被告Y1の個人的な人間関係から持ち込まれてきた投資案件であること,案件の実施に当たる実質的な協議については被告Y1だけが関与しており原告の従業員は書式を整える程度の関与しかしていないことからすれば,被告Y1が情実的な関係から不正に利益を収受している可能性が類型的に懸念される。
エ 被告Y2,被告Y3が,本件各案件について関与した程度が,本件訴訟において書証として提出されている程度の書類を見ただけということは,同人らが取締役に課された監視義務を一切果たしていなかったことの証左である。具体的にどの関連資料から,どのようなことを考え,検討し,討議されたかなどという具体的な事情は何一つ指摘されていない。
重要な不動産投資案件に着手する場合,運用成績に関する試算がデベロッパーによる契約欲しさから出た根拠不明なコマーシャルトークにすぎないかどうか,社内でも十分に議論を行うとともに,不動産投資事業に精通した第三者からコンサルタントを受けるのが常識である。
この点,被告Y2,被告Y3は,「それぞれの時期に開催された取締役会において,そこで開示され配布された事業計画の関連資料を見,その場で検討した結果,いずれも適切な事業計画であると判断」したなどと述べる。
しかし,具体的にどの関連資料からどのようなことを考え,検討し,討議されたかなどという具体的な事情は何一つ指摘されていない。
被告Y2,被告Y3は,「関連資料(両名の記憶では今回,訴訟に提出されている各事業の添付資料以外のものにつき,具体的な記憶はない)」などと述べるが,原告が提出した資料で100億円を超えるような投資に邁進したというのであれば,被告Y2,被告Y3は,監視などは何も行っていなかったといわざるを得ない。実際に,これらの各投資案件は,悉く失敗に終わっており,原告の財務状況を大きく蝕んでいる。
オ 被告Y2及び被告Y3は,①そもそも出社せず,②案件を持ち込んできた関係者から事情を聞くこともなく,③独自の調査もせず,④部下からの聞き取りも行わず,⑤稟議書も押印しただけで終わりという状況であったのであり,取締役としての監視機能を全く果たしていない。
【被告Y2及び被告Y3】
ア 取締役の監督義務は,「取締役会を通し」ての「他の取締役の業務執行」の監督なのであるから,本件のごとく取締役会に上程されることもなく,被告Y2及び被告Y3が知り得ない非行行為,すなわち,他の取締役や監査役に隠れて被告Y1が画策したリベートの授受について,被告Y2及び被告Y3に監督義務違反がないことは明らかである。
イ 原告が,被告Y2及び被告Y3において予見可能性あるという根拠として主張する点について
(ア) 本件各案件における取引金額が多額であることについて
当時,原告では,顧客及び契約の急増によって保証料収入が飛躍的に伸び,キャッシュフローが大きくなっており,その運用自体がまず急務であった。預かり資産を5%以上の利回りで運用することやそのための投資先を見つけることが課題であった。また,当時,一般的に不動産は底値水準にあると考えられており,実際,アメリカの投資会社による投資が活発化してきており,積極的に不動産関係に投資すべき経済事情があった。本件各案件は,そのような状況下で行われていたのであり,金額のみを見て被告Y2及び被告Y3が疑念を抱く状況ではなかった。被告Y2及び被告Y3は,投資が急務であると認識していた一方,投資額が多額であるのがおかしいとか,怪しいなどという認識はなかった。
(イ) 本件各案件が原告おいて従前取り扱ったことのないものであることについて
原告では,昭和61年から継続的に,保証業務の一環として,求償権の行使において不動産を取得して売却するということをしていた。原告においては,組織をあげてこのような業務に従事していた。このような売買を年間10件から15件程度は行っていた。原告では,不動産価格の動向を精査したり,市場の情報を入手することを既に行っていた。
(ウ) 本件各案件の取引相手が被告Y1の個人的関係のある者であることについて
Eは,平成16年1月に原告の子会社として設立された野村エステートファイナンスの当初からの大阪担当役員である。被告Y2及び被告Y3は,Eを子会社の役員として紹介された。Eは,その業績等において,平成17年には,高い評価を受けていた。H及びL作成の稟議書にも,「子会社業務等で色々とお世話になっている千里土地からのご紹介物件です。」と記載している。
本件各案件を起案したHらは,Eと懇意にしていたのであり,Hの起案した稟議書を信頼するのは当然である。現場の担当者が,契約の相手方や物件の内容等をよく知らずに稟議書を起案しているなどあり得ないことである。起案者は十分に物件を精査し関係者と協議打合せを経ているはずであり,Eの人間性や人間関係も了解しているはずである。
一般に,取引社会において,何ら面識のない者と取引をすることの方がよほど危険である。Eのように実際に原告の子会社で実績を上げた役員であれば,信用して取引ができると考えることが普通である。
原告は,平成16年9月の中間決算時に,多額の特別損失を出した。これは,M及びHが担当した案件であり,証券会社(三菱証券)の投資勧誘に誘われるまま自分たちでスワップ債投資をした結果,投資の失敗によって損失を生じた。この出来事を受けて,原告では,投資については極力外部の専門家に依頼するべきであるとの認識が生まれた。
(エ) 本件各案件における原告担当者が被告Y1以外にいなかったことについて
本件各案件に関する稟議書を起案したのは,主にHであり,それを指揮監督していたのは現社長のLである。被告Y2及び被告Y3は,稟議書を起案したHやその上司であるLを信頼していたのであり,本件各案件に担当者がいないなどと認識することはあり得ない。
ウ 被告Y1の金銭授受は,一見して明るみに出ることのない,社外との取引関係を利用した巧妙な手口であり,誰もが疑うことができないものだった。
現に,本件各案件について総務の現場を仕切っており,被告Y1の側近というべき地位にあり,本件各案件について稟議書の起案まで行っていた現社長LやH部長らすら,全く気がついていなかった。具体的に実務を担当する現場の者(幹部社員)が全く気付き得ないような金銭収受を,被告Y2及び被告Y3が気付かなかったことにつき過失があるとはいえない。
エ 本件各案件の稟議書は,H部長が起案し,L現社長が確認するなどし,その後被告Y1,監査役及び各執行役員等のチェックを受けて,いずれも「認可」「承認」等の判断を得た上で最後に被告Y2及び被告Y3に届けられたものである。これだけの数のチェックを経て,そこまで誰も一切気付かなかったのに,不審な点があるとしてこれを全て覆して徹底的な調査をして暴くべき高度の注意義務が両名にあったという主張は,業界の一般的平均的な取締役の注意義務の範囲及び内容の解釈として明らかに誤りである。
オ 原告の本業は保証引受等であるが,国のゼロ金利政策が長年継続してきた経済環境の下,原告が保証業務を確実に履行するために預かり資産を一定の利率で運用すべく,適宜,これまで手掛けてこなかった不動産投資や会社買収等の事業を行う必要性があった。
他方,本件で問題となる関連事業を行うに際して,被告Y1が行ったような不正行為が常に「関連事業に付随する」といえないことは明らかである。本件の各不正行為は,まさに尋常ではない異常な事態の発生である。このような不正行為が被告Y1によって行われていたことは,被告Y2及び被告Y3にとってまさに寝耳に水,驚天動地の意外な出来事であった。まして取締役会においてこれら不正行為をうかがわせるような何らかの関連情報が取りざたされた事実も全くない。
原告において,本件本訴請求に係る事件と同種の事件は,過去,全くなかった。被告Y1において,そのような不正行為を行ったこともない。
カ 被告Y2,被告Y3は,本件各案件につき,いずれも事前に被告Y1や原告の担当者から事前にそれらの話を聞いていたことはなく,それぞれの時期に開催された取締役会において,そこで開示され配付された事業計画の関連資料(両名の記憶では,今回,訴訟に提出されている各事業の添付資料以外のものにつき,具体的な記憶はない。)を見て,その場で検討した結果,いずれも適切な事業計画であると判断して各稟議書に押印をした。
キ 取締役は,「各業務担当取締役の職務執行の内容につき疑念を差し挟むべき特段の事情がない限り,監督義務懈怠の責を負うことはない」。本件においては,被告Y2及び被告Y3にとって,「疑念を差し挟むべき特段の事情」など些かもなかった。被告Y2及び被告Y3が稟議書に押印する以前に,他の全ての会社担当者,取締役,執行役及び監査役たちが,何ら被告Y1の不正に不審を抱くことなく押印している。また,何年間にもわたり,監査法人も一切,被告Y1の不正に疑いをもたなかった。
(3)  被告らの取締役の任務違反行為(善管注意義務ないし忠実義務違反)によって原告に生じた損害及び損害額
【原告の主張】
被告らの取締役の注意義務違反によって原告に生じた損害及び損害額は以下のとおりである。
ア 被告Y1が本件各案件に関して受領したリベートの額
(ア) 「大阪建物解体工事」案件
妻Bがエスティ創研に対して負担させた家具,電化製品等の購入代金795万円
(イ) 「大阪土地仲介」案件
エムティー企画が千里土地から平成16年11月25日に受領した840万円
(ウ) 「大阪マンション建築発注」案件
a 被告Y1が千里土地から平成17年2月9日に受領した4800万円
b 被告Y1が千里土地から平成17年3月29日に受領した3000万円
c 被告Y1が千里土地から平成17年9月20日に受領した4500万円
d エムティー企画が千里土地から平成17年2月10日に3回に分けて受領した合計3986万円
(エ) 「入や萬成証券株式取得」案件
シティーコーポレーションがパワーマネージメントから平成17年5月25日に受領した2440万6658円
(オ) 「横浜新山下老人ホーム建築」案件
a シティーコーポレーションが一鐵建築から平成17年6月15日に受領した340万9020円
b シティーコーポレーションが一鐵建築から平成17年8月1日に受領した170万4480円
(カ) 「投資事業組合出資」案件
シティーコーポレーションがパワーマネージメントから平成18年4月11日に受領した3150万円
イ 重加算税 1309万3500円
「大阪マンション建築発注」の関係で賦課された重加算税1309万3500円
ウ 源泉税の不納付可算税,延滞税 972万4300円
麹町税務署長が,被告Y1に対して賞与が発生したと認定し,遡って被告Y1に対する源泉税の徴収義務があったとして賦課した不納付加算税,延滞税972万4300円
エ 法人税実効税率の割戻額
原告は,上記アからウまでの金額について,被告Y1から損害賠償債務の履行を受けたとしても,これに対して更に課税関係が発生することから,その分原告は損害を回復し得ない。原告が被告Y1から賠償債務履行を受けることによって課税されることは,被告Y1らの善管注意義務・忠実義務違反に基因するものであるから,相当因果関係が存在する。
(ア) 「大阪建物解体工事」案件の法人税実効税率40.69パーセントを割り戻した545万4147円
(イ) 「大阪土地仲介」案件の法人税実効税率40.69パーセントを割り戻した576万2873円
(ウ) 「大阪マンション建築発注」案件(重加算税の額を含む。)の法人税等実効税率40.69パーセントを割り戻した1億2071万4009円
(エ) 「入や萬成証券株式取得」案件の法人税実効税率40.69パーセントを割り戻した1674万4341円
(オ) 「横浜新山下老人ホーム建築」案件の法人税実効税率40.69パーセントを割り戻した350万8148円
(カ) 「投資事業組合出資」案件の法人税実効税率40.69パーセントを割り戻した2161万0773円
(キ) 源泉税の不納付可算税,延滞税に対する法人税実効税率40.69パーセントを割り戻した667万1417円
オ 社内調査委員会関連費用 1545万円
被告Y1らの行状に対して社内調査委員会を開催したことに伴う調査委員報酬1545万円
カ 弁護士費用 3910万円
被告らは,平成18年7月3日以降も損害を賠償しようとしないばかりか,かえって退職金の支払を迫るなどしており,原告は損害回復のため本訴を提起せざるを得ず,そのため原告代理人に対し訴訟委任を行い,弁護士費用を負担した。
上記アからオまでの損害額の合計4億5896万3666円のうち本件請求に係る3億9181万8776円の1割である3910万円の弁護士費用は,被告らの善管注意義務ないし忠実義務違反と相当因果関係のある損害である。
キ 総計
上記アからカまでの損害の総計4億9806万3666円のうち4億3091万8776円
【被告Y1の主張】
不知ないし争う。
【被告Y2及び被告Y3の主張】
争う。
(4)  被告Y2及び被告Y3の退職慰労金請求権の有無
【被告Y2及び被告Y3の主張】
ア 平成18年6月28日開催の第26回原告定時株主総会において,取締役らの退職慰労金制度廃止に伴い,被告Y2及び被告Y3の退職慰労金を,同人らがそれぞれ取締役を最終的に退任した時点で,打ち切り支給することが決議された。
イ 上記決議の時点で,退任を停止条件として,「一定の基準に従い,相当額の範囲内で」退職金請求権が発生している。その「具体的金額,支払いの時期及び方法」の決定が取締役会に委任されたにすぎない。
ウ 上記同日,「具体的金額,支払いの時期及び方法」の決定は,取締役会から代表取締役に委任された。
エ 原告の代表取締役であるLは,平成18年秋ころ,2度にわたり,「平成19年3月の決算が終わったら,平成19年4月には支払うので,それまで待って欲しい。」と述べるとともに,「退職金は1億円ということにして欲しい。」と述べた。
オ 原告の主張について
原告の役員退職慰労金規定には,「退職金」として「退職慰労金」と「特別功労金」が規定されている。前者は賃金の後払い的なものであり,後者は功労報酬であると解される。そして,前者については,「円満」に勤務し,退職したことが要件とされている。
一般に,雇用において,賃金の後払い的な性格の退職金が支払われないのは,懲戒解雇のような場合でかつ,「過去の労働に対する評価をすべて抹消させてしまうほどの著しい不信行為があった場合」など,特に著しい不信行為があった場合に制限される。
そして,取締役の退職金の性格も功労報酬的性格と賃金の後払い的性格を併せ持つものである以上,本件における「円満」も,懲戒解雇のような場合でかつ著しい不信行為があった場合を除外する趣旨であると解するのが普通である。
少なくとも,取締役の善管注意義務に違反するとすらいえない本件の場合に,「円満でない」と評価する余地はない。
【原告の主張】
ア 原告の「役員退職慰労金規定」は,平成18年6月28日定時株主総会において廃止されたが,廃止当時の役員に対する退職慰労金の支給は「当社基準」(甲18)もしくは「一定の基準」(甲19,20)すなわち「役員退職慰労金規定」に基づいて行われることとされている。
そして,「役員退職慰労金規定」においては,支給の要件として,原告において円満に勤務していたことが挙げられる。ここに「円満」とは,退職慰労金が「役員の在任期間中の功労に報いることを目的とする」(甲17)との制度趣旨に鑑みれば,役員としての善管注意義務,忠実義務を尽くした上で,社業の発展に尽くし,原告の社会的地位の向上に貢献したものであることを指すと言うべきである。
しかしながら,被告Y2及び被告Y3は,本件の善管注意義務,忠実義務に違反し,そのため麹町税務署から重加算税を含む加算税の賦課決定を受け,そのため株式上場の計画も頓挫してしまい,平成18年7月3日には不祥事が報道された。
よって,被告Y2及び被告Y3の原告における勤務は円満であったとはいえず,退職慰労金支給のための要件を満たしておらず,退職慰労金請求権は発生しない。
イ 平成18年6月28日開催の取締役会においては,被告Y2及び被告Y3に対する退職慰労金の支給に際し,その具体的金額の決定は代表取締役会長に選任された被告Y2に一任されたが,被告Y2は具体的金額を定めることなく取締役の地位を退いた。
よって,退職慰労金は未だ具体的金額が決定しておらず,退職慰労金請求権は発生していない。
ウ 原告代表者は,被告Y2及び被告Y3の希望として話を聞いたことがあるものの,退職慰労金を1億円とするなどと確約したことはない。
仮に,原告代表者がそのようなことを約束していたとしても,原告取締役会において退職慰労金額決定について一任された被告Y2は,退職慰労金額を具体的に決定することなく取締役を辞したから,これを受けて退職慰労金額を誰がどのように算定するかについて取締役会決議がない以上,原告代表者には退職慰労金額を決定する権限はない。
(5)  被告Y2及び被告Y3の退職慰労金不支給による損害賠償請求の可否
【被告Y2及び被告Y3の主張】
「具体的金額,支払の時期及び方法」の決定は,代表取締役に委任されたのであるから,被告Y2の辞任によって,原告代表取締役Lがその任を負うのであって,合理的かつ客観的に妥当な金額につき不当に遅延することなく,すみやかに決定して支払う必要がある。
そして,上記権限と責任を負う原告代表取締役Lは,二度にわたり,「退職金は1億円ということにしてほしい。」旨被告Y3に対して述べた。
また,Lが代表取締役就任後,現在に至るまでの長期間,退職慰労金を支払おうとしないことは,明らかに取締役の任務懈怠である。二度にわたり上記のように額まで明示して申し出ておきながら,本件訴訟において上記発言を翻し,退職慰労金は発生していないと述べるのは不当である。
【原告の主張】
Lは,被告Y2及び被告Y3の退職慰労金の額を1億円とすることについて明言していない。被告Y2及び被告Y3が,退職後執拗に退職慰労金を支払うように申し入れてくるのに対して,Lは,仮に支払うにしても時期が悪いと回答し,また,退職慰労金の額は2億数千万円とされたいとの申し入れに対しては,そのような金額は無理であると回答し,被告Y3から1億円との提案がなされたので,提案として了承したと回答したにすぎない。
(6)  被告Y2及び被告Y3の顧問契約に基づく報酬請求の可否
【被告Y2及び被告Y3の主張】
ア 原告と,被告Y2は,平成18年7月11日,報酬を月額80万円,支払期限を毎月の25日として顧問契約を締結した。
原告は,被告Y2に対し,平成18年7月から平成19年3月まで上記顧問契約に基づく報酬を支払ったが,その後これを支払わない。
イ 原告と,被告Y3は,平成18年7月11日,報酬を月額80万円,支払期限を毎月の25日として顧問契約を締結した。
原告は,被告Y3に対し,平成18年7月から平成19年3月まで上記顧問契約に基づく報酬を支払ったが,その後これを支払わない。
ウ 顧問契約の解除は,①被告Y1の不正行為を原因としてその不正行為と関係がない被告Y2及び被告Y3との契約を解除するものであること,②原告は,被告Y1の不正行為が発覚した後の平成18年7月11日に顧問契約を締結したものであることから,不当であり,少なくとも信義則に反して無効である。
【原告の主張】
原告は,被告Y2及び被告Y3に対し,平成19年4月24日付け「通知書」と題する内容証明郵便によって,顧問契約を解除する旨通知し,同通知はいずれも同月25日に到達した。
第3  当裁判所の判断
1  争点(1)(被告Y1が受領したリベートの額及びリベート受領による責任の有無)について
(1)  「大阪建物解体工事」案件のリベート性
被告Y1は,エスティ創研(E)から被告Y1に対する神戸のマンションの家具及び電化製品の提供(前提事実(4)ア(エ))は,厚意による単なるプレゼント(贈与)と認識していたからリベートではない,被告Y1及び妻Bが知らない間に家具及び電化製品(795万円相当)を持ち込んだものであり,その理由の説明もなく,趣旨不明の贈与であると主張する。
しかしながら,被告Y1の弁解は不合理であり容易に採用することはできない。そして,証拠(被告Y1本人)によれば,被告Y1は,妻Bから,Eが新しいマンションの家具や電化製品を買ってくれるからと一緒に買いに行ったことを聞いていたことが認められ,これに,前提事実(4)ア及び(5)から認められる,授受された家具及び電化製品の価額(795万円相当)及び経緯並びに被告Y1が国税当局に提出した本件確約書においてリベートであることを認めることを前提にした経理処理を確約していることを総合すると,家具及び電化製品(795万円相当)は「大阪建物解体工事」案件に係るリベートであると認められる。
(2)  「大阪土地仲介」案件のリベート性
被告Y1は,千里土地(E)がエムティー企画に対して840万円を支払ったこと(前提事実(4)イ(ウ))は,千里土地が受領した金員を自由に処分したものであり,リベートではないと主張する。
しかしながら,前提事実(4)イ及び(5)から認められる,授受された金額,時期及び経緯並びに被告Y1が国税当局に提出した本件確約書においてリベートであると認めることを前提にした事務処理を確約していること並びに被告Y1も千里土地(E)からの現金の提供が原告と千里土地(E)との取引に関連する謝礼であると認識していたと供述していること(被告Y1本人)に照らせば,エムティー企画が千里土地から受領した840万円は「大阪土地仲介」案件に係るリベートであると認められる。
(3)  「大阪マンション建築発注」案件のリベート性及びその額
ア 証拠(各項末尾掲記のもの)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) Eは,被告Y1から「大阪マンション建築発注」案件に係るリベートを要求され,被告Y1に対し,平成17年2月9日に4800万円,同年3月29日に3000万円を現金で支払った。
被告Y1は,上記同年2月9日にEから受領した4800万円を,りそな銀行大手町営業部の被告Y1名義の普通預金口座に振り込んだ。
上記同年3月29日の3000万円については,同月28日に三井住友銀行南千里支店の千里土地名義の普通預金口座から3000万円の現金が払い出されたが,千里土地又はEにおいて,被告Y1に対するリベートの支払以外に充てられた形跡はない。また,被告Y1は,その3000万円のうち1101万8286円を個人的な株式購入資金に充てるため,りそな銀行川崎中央支店の大和証券川崎支店名義の当座預金口座に振り込んだ。
(甲4,5)
(イ) Eは,被告Y1から「大阪マンション建築発注」案件に係るリベートを三菱東京UFJ銀行都島支店のエムティー企画名義の普通預金口座に入金するように要求され,平成17年2月10日に,3186万円,600万円及び200万円の3回に分けて合計3986万円を,それぞれ同口座に振り込んだ。
(甲4,5)
(ウ) 千里土地(E)は,平成17年9月20日,被告Y1に対し,4500万円を振り込んで支払った。
(甲7,弁論の全趣旨)
イ 上記アの認定事実によれば,被告Y1が「大阪マンション建築発注」案件に関して受領したリベートの額は,合計1億6286万円であると認められる。
被告Y1は,平成17年2月9日の4800万円及び同年3月29日の3000万円の合計7800万円のうち,2000万円については現実に交付されていないと主張し,その旨供述する(被告Y1本人)上,Eから被告Y1の代理人弁護士に対して平成17年度分所得税の更正の請求を提出した旨のファックス文書(乙A1)を証拠として提出する。
しかしながら,被告Y1の供述(被告Y1本人)によっても,受領していないという2000万円が上記授受のどの2000万円であるのか明らかでなく(被告Y1は,平成17年2月9日の4800万円のうちの2000万円であると主張していたが,本人尋問においては,同日の4800万円を受領したなどと主張と一致しない供述をしている。),また,被告Y1は,本件確約書において7800万円を受領していることを自認している上に,振込入金されたという当該預金口座の資料等を証拠として提出するなどの反証もしていないから,その主張を採用することはできない。
ウ エムティー企画名義の預金口座に振込入金された3986万円の受領者について
被告Y1は,千里土地とエムティ企画との間には,何らかの契約関係があるなどと述べるが,これを裏付ける客観的証拠はなく,被告Y1は本件確約書において,それを自らが受領したことを自認している。
したがって,上記3986万円は被告Y1が受領したものと認められる。
エ リベート性について
前提事実(4)ウ,(5)及び(7)並びに上記アの認定事実から認められる,授受された金額,時期及び経緯並びに被告Y1が国税当局に提出した本件確約書においてリベートであると認めることを前提にした事務処理を確約し,原告は平成18年3月期における税務申告においてリベートであると認めることを前提にした申告をしていること,さらに,その金銭の趣旨はEの被告Y1に対する「会長,儲けさせていただきました。ありがとう。」ということでいただいたものと認識している旨の被告Y1の供述(被告Y1本人)を総合すると,「大阪マンション建築発注」案件に係るリベートであると認められる。
(4)  「入や萬成証券株式取得」案件のリベート性及びその額
ア 前提事実(4)エ(ウ)のとおり,シティーコーポレーションが平成17年5月25日にパワーマネージメントから2440万6658円を受領したことは,原告と被告Y1との間では争いがなく,また,前提事実(7)イのとおり,原告が平成18年3月期の確定申告において,上記の事実を前提とした申告をしていることからすると,原告と被告Y2及び被告Y3との関係においても上記の事実を推認することができ,これを覆すに足る証拠はない。
イ 被告Y1は,「入や萬成証券株式取得」案件は,パワーマネージメントとシティーコーポレーション間に平成17年4月27日に締結されたK氏一族が保有する入や萬成証券株式会社の株式売却についての照会業務を目的とする紹介手数料支払契約に基づいて支払われた成功報酬である,本件は,パワーマネージメントのG,シティーコーポレーションのC及び被告Y1の3名で平成17年4月ころ会食中話題となり,Cも原告が入や萬成証券株式会社の株式を取得するためにパワーマネージメントに働きかける発言をしたことも影響して,コンサルティング委託契約が締結されたものであるからリベートではないと主張し,パワーマネージメントとシティーコーポレーションとの間の平成17年4月27日付け紹介手数料支払契約書(乙A2)を証拠として提出する。
しかしながら,シティーコーポレーションがパワーマネージメントに対してしたという「紹介業務」の内容も,シティーコーポレーションの実体も,具体的に明らかにされていない。
そして,前提事実(4)エ及び(7)から認められる,授受された金額,時期及び経緯並びに原告は平成18年3月期における税務申告においてリベートであることを認めることを前提にした申告をしていることに照らせば,シティーコーポレーションがパワーマネージメントから受領した2440万6658円は「入や萬成証券株式取得」案件に係るリベートであると認められる。
(5)  「横浜新山下老人ホーム建築」案件のリベート性及びその額
ア 前提事実(4)オ(ウ)のとおり,シティーコーポレーションが一鐵建築から平成17年6月15日に340万9020円,同年8月1日に170万4480円の合計511万3500円を受領したことは原告と被告Y1との間では争いがなく,また,前提事実(7)ウのとおり,原告が平成18年3月期の確定申告において,上記の事実を前提とした申告をしていることからすると,原告と被告Y2及び被告Y3との関係においても上記の事実を推認することができ,これを覆すに足る証拠はない。
イ 被告Y1は,シティーコーポレーションのJ顧問が有料老人ホームの申請業務を現実に行っていること,一鐵建築が原告から設計監理業務を5111万3115円で請け負い,その下請けとしてシティーコーポレーションが上記申請業務をなし,その正当な報酬としてシティーコーポレーションが約511万を受領したものであることから,原告に対するリベートではないと主張し,「横浜新山下倶楽部(介護付有料老人ホーム)の施設建設にあたり,神奈川県高齢者福祉課に提出する施設設置事前協議書の作成及び協議作業は有限会社シティーコーポレーションに業務委託しました事を確認します。」と記載された一鐵建築作成の平成19年7月31日付確認書(乙A4)を証拠として提出する。
しかしながら,シティーコーポレーションのJ顧問が行ったという有料老人ホームの申請業務の具体的内容も,シティーコーポレーションの実体も,具体的に明らかにされていない。
そして,前提事実(4)オ及び(7)から認められる,授受された金額,時期及び経緯並びに原告は平成18年3月期における税務申告においてリベートであることを認めることを前提にした申告をしていることに照らせば,シティーコーポレーションが一鐵建築から受領した511万3500円は「横浜新山下老人ホーム建築」に係るリベートであると認められる。
(6)  「投資事業組合出資」案件のリベート性及びその額
ア 前提事実(4)カ(ウ)のとおり,シティーコーポレーションが平成18年4月11日にパワーマネージメントから3150万円を受領したことは,原告と被告Y1との間では争いがなく,また,前提事実(7)エのとおり,原告が平成18年3月期の確定申告において,上記の事実を前提とした申告をしていることからすると,原告と被告Y2及び被告Y3との関係においても上記の事実を推認することができ,これを覆すに足る証拠はない。
イ 被告Y1は,パワーマネージメントとシティーコーポレーション間の平成17年9月の「投資事業組合出資」に関する契約に基づき,成功報酬として3150万円が支払われたものであること,シティーコーポレーションは,本件に関与していないが,同社が被告Y1の知人の会社であるという関係から,パワーマネージメント及びシティーコーポレーション間に紹介手数料が締結され,成功報酬として3150万円がシティーコーポレーションに対して支払われたことから,リベートではないと主張し,パワーマネージメントとシティーコーポレーションとの間の平成17年9月付け紹介手数料支払契約書(乙A3)を証拠として提出する。
しかしながら,シティーコーポレーションがパワーマネージメントに対してしたという「紹介し,投資事業組合契約を締結させる業務」も,シティーコーポレーションの実体についても,具体的に明らかにされていない。
そして,前提事実(4)カ及び(7)から認められる,授受された金額,時期及び経緯並びに原告は平成18年3月期における税務申告においてリベートであることを認めることを前提にした申告をしていることに照らせば,シティーコーポレーションがパワーマネージメントから受領した3150万円は被告Y1に対するリベートであると認められる。
(7)  被告Y1の原告に対する責任
原告の代表取締役であった被告Y1が本件各案件の取引相手からリベートを受領し,これを自己のものとすることは,すなわち,原告の損失に基因して被告Y1が利得を得たということであり,被告Y1の行為は原告に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する行為であるというべきである。
(8)  被告らの主張について
ア 本件確約書について
被告らは,被告Y1が国税当局に対して提出した本件確約書は,税務署との関係でのいわば「手打ち」として提出されたものであり,その認定と処理は,「徴税上のテクニック」であり,「粗削りの認定と処理」であるから,本件確約書に基づく事実認定は妥当でないと主張する。
しかしながら,本件確約書の内容は,被告Y1ないしその関係者による金品の受領について,それが認定賞与であるという税務上の評価を自認したというものにとどまらず,本件各案件に関して被告Y1ないしその関係者が金品を受領したという事実関係を認めるものであるから,単に「見解の相違」について「手打ち」をしたものにすぎないということはできない。
また,本件確約書に記載された内容のうち,認定賞与であるという税務上の評価以外の事実関係について,真実の事実関係が異なるにもかかわらず虚偽の事実関係を認めたというのであれば,それ自体が被告Y1の原告に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する行為となる可能性があるが,被告らの主張がそのような趣旨であるとは解されず,また,被告Y1の供述によっても,虚偽の事実関係を認めたものとまでは認められない。
さらに,証拠(甲42の1)によれば,当時,原告は,株式公開を準備していたが,平成17年10月から始まった税務調査において重加算税の賦課の可能性を指摘され,重加算税が賦課されることになれば,株式公開ができなくなることが見込まれる状況にあったことが認められ,これに,税務調査において指摘された事項は当時原告の代表取締役であった被告Y1本人及び被告Y1に極めて近い関係者が原告の取引相手から極めて多額の金品を受領したことに関するものであって,被告Y1がその事情を最もよく知っていたことを併せ考えると,被告Y1が国税当局に対して認めた事実関係が真実に反するとは容易に認められない。
したがって,本件においては,被告Y1は,本件確約書の内容と異なる主張をしても,それだけでは本件確約書の信用性を弾劾することは到底できないのであって,これと異なる事実関係を立証しない限り,本件確約書に基づく事実認定を覆すものではないというべきである。
したがって,本件確約書の内容に基づいて,前提事実(4)及び(5)並びに上記(1)ないし(6)のとおり認定するのが相当である。
イ 本件各案件に関する主張について
被告Y1は,いわゆるリベートには,さまざまなケースがあり,その一つが売上割戻金であり,この性格を有するものは会社(原告)に帰属すべきものであるが,他方,取引に関連して実力を有する特定の個人に対し,謝礼あるいは取引強化を期待してのリベートもありうること,かかる場合は,特定の個人に対する単なる贈与とみるべきもので,売上割戻金又は実質的な値引きと見るのは,取引社会の通念に反すると主張する。
しかしながら,被告Y1は,本件各案件に関して単なる「取引に関連して実力を有する特定の個人」ではなく,原告の代表権を有する代表取締役であったのであり,また,原告に対して善管注意義務ないし忠実義務を追う立場にあったのであるから,上記の被告Y1の主張は理由がない。
2  争点(2)(被告Y2及び被告Y3の監視義務違反による責任の有無)について
(1)  判断の枠組み
取締役会設置会社にあって,取締役会は,会社の業務執行につき監査する地位にあるから,取締役会を構成する取締役は,会社に対し,取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず,代表取締役の業務執行一般につき,これを監視し,必要があれば,取締役会を自ら招集し,あるいは招集することを求め,取締役会を通じて業務執行が適正に行なわれるようにする職責を有する(最高裁判所第三小法廷昭和48年5月22日判決・民集27巻5号655頁)。
ただし,代表取締役の業務全てについて取締役の監督権限を行使することは事実上不可能であるから,代表取締役の任務違反行為の全てにつき取締役が監視義務違反の責任を問われるものではなく,取締役会の非上程事項については,代表取締役の業務活動の内容を知り又は知ることが可能であるなど特段の事情があるのに,これを看過したときに限って監視義務違反が認められると解するのが相当である。
(2)  証拠(各項末尾掲記のもの)によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠は採用しない。
ア L及びHの役職及び担当職務
(ア) Lは,平成16年10月から総務部長の役職に,平成17年4月から関連事業部(原告の本業である保証業以外の事業を統括する部)の部長の役職にあった。
本件各案件のうち,「大阪マンション建築発注」案件,「入や萬成証券株式取得」案件,「横浜新山下老人ホーム建築」案件,「投資事業組合出資」案件などの一部は,Lの管轄する部署の事項だった。
(甲43)
(イ) Hは,平成17年3月までは総務部経理課長の,同月から経理部長兼財務課長の,平成18年4月から財務部長の,それぞれ役職にあった。
経理課長の職務は,主に,原告の経理及び税金に関係するものであり,財務課長の職務は,投資していたファンド,債券等の管理,取得した株式の管理であった。財務課長の部下はおらず,H1人で担当していた。
(証人H,被告Y1本人)
イ 被告Y1の独断による本件各案件の取引の内容の決定
(ア) 被告Y1は,Eから,大阪に土地を取得し,マンションを建築して,転売益10億円以上を上げる,「出口は決まっている(買い手となるファンドがいるという意味)ので安心である。」,原告は資金さえ出せば大きな利益を得ることができるなどと持ちかけられ,「大阪マンション建築発注」案件等を行うこととした。また,被告Y1は,Eに対し,「大阪建物解体工事」案件を一任した。
被告Y1は,Lに対して,請負業者と請負代金が決まったので,代金を支払っておくようにと指示し,Lからの「金額も大きいので稟議を通しておいた方がよいのではないか。」という進言を受けて,L及びHに指示して稟議書を作成させた。
Hは,被告Y1に対して,稟議書を作成するのであれば取引に関する資料が欲しい旨言ったところ,被告Y1は,Eに指示して,工事請負契約の契約書案などの関連資料を届けさせ,Hは,届いた資料から情報を拾って稟議書を作成した。
(甲24,25,42の1,2,甲43,乙A9,証人H)
(イ) 「横浜新山下老人ホーム建築」案件は,原告が老人ホームを建築し,被告Y1が関係する野村メディカル・サポートに賃貸し,同社が老人ホームを経営するというスキームであるが,設計士の選定など業者の選定について,野村メディカル・サポートが行い,原告の担当者は全く関与していないものであった。
「新山下老人ホーム設計業務依頼の件」と題する野村メディカル・サポートの稟議書が作成されているが,原告のものはない。
(甲43)
(ウ) 「投資事業組合出資」案件は,パワーマネージメントのGが被告Y1に対して提案したものであり,その判断資料としては,パワーマネージメントのGから提供された説明及び資料があるのみだった。Hは,Gから資料等を受領して,稟議書を作成した。
(乙A9,証人H)
(エ) 原告が投資として不動産を取得することになっても,購入前に,Hが現地に行くこともなく,売主との交渉を担当することもなく,マンションの建築についても,具体的な建築内容を詰めていく作業をしたこともなく,契約書を作成するときに初めて建設業者関係者と会う状態であった。
本件各案件は,いずれも,被告Y1の「直轄案件」というべきものであり,実際の事業の企画・運営のほとんどは被告Y1と被告Y1が個人的に親しい社外の関係者との間で進められていた。
被告Y1は,原告が取得する不動産の価額,建築工事代金の額等については,Eに任せきっていた。Hが取引の代金額を聞いたのは,被告Y1かEであった。
(証人H,被告Y1本人)
ウ 稟議書の起案及び決裁の実態
(ア) 平成16年から平成17年当時,資産運用業務にかかる工事発注及び不動産取引は,被告Y1と受注業者やその関係業者等との間で取引を行うことや取引額などの具体的な取引内容が決められ,その後に,稟議書が起案されて,稟議が回されていた。
本件各案件についても,被告Y1によって,すべて実質的な決定・判断が下された後に,被告Y1が,L又はHに対して,稟議書の起案や社内の調整,細部の詰めを指示して行わせていた。Hは,本件各案件の契約にあたって,契約書の誤字脱字をチェックしたり,既に決められた代金額の範囲内で支払方法の変更を相手方に依頼したことはあったが,それ以上に本件各案件の契約締結に関与をしていない。
(甲42の2,甲43,証人H,被告Y1本人)
(イ) 平成17年当時,原告における建設工事に関する一般的な稟議では,建設会社等が作成した建設費用等の計算に関する簡易な書類を添付資料として稟議していたことが通常であり,原告が独自に作成した資料はなかった。
(甲42の1)
(ウ) 原告の取締役,監査役,執行役員及び総務部長は,既に,被告Y1が稟議対象の取引を行うことを決めた後であることを承知していた。稟議書に押印する順番は,起案者,所属部署確認印,被告Y1,その他の承認・回覧印の順であり,稟議に際して表立って反対をする者はいなかった。
本件各案件の稟議においても,Hが稟議書を作成し,Lが押印した後3番目に被告Y1が押印していた。その後は反対する者もなく,被告Y2及び被告Y3は,週に1,2度程度出社したときに,溜まっていた稟議書への印をまとめて押していたことから,最後になるのが通例だった。
(甲42の1,2,証人H,被告Y3本人)
(エ) Hは,被告Y2及び被告Y3から,本件各案件及びそれ以外の取引について,稟議書及び稟議書添付資料以外に,追加資料を求められたり,追加の作業・調査を命じられたりしたことは一度もなかった。
被告Y2及び被告Y3からは,「大阪建物解体工事」案件,「大阪土地仲介」案件,「大阪マンション建築発注」案件についても,これ以外の工事発注及び不動産取引についても,稟議書及び稟議書添付資料以外に,追加資料を求めたり,追加の作業・調査を命じたことは一度もなかった。
(甲42の1,2,証人H,被告Y1本人,被告Y3本人)
(オ) 被告Y3は,本件各案件については,被告Y1の「直轄案件」であると理解していた。被告Y3は,被告Y1は顔が広く,いろいろな投資情報から取捨選択して悪いものを持ってくるわけがないと認識し,また,本件各案件の担当者はL及びHであると認識していた。
被告Y2も,本件各案件の担当部署は総務であり,L及びHが担当者であると認識していた。
(被告Y3本人,被告Y2本人)
(3)  被告Y2及び被告Y3の監視義務違反の有無
前提事実(3)及び(4)並びに上記(2)の認定事実によれば,取引金額が高額で,またリスクのある投資案件である本件各案件に関する被告Y1の業務執行の内容は,被告Y1が原告の代表取締役として本件各案件を行うに際し,自ら単独で,個人的に親しい取引相手を選定し,代金額を含む取引の内容をすべて決定し,あるいは取引相手に一任し,原告の社内においては,その取引相手の選定や代金額を含む取引の内容を検証する部署も担当者も置かずに,被告Y1が取引相手から受け取った資料のみに基づいて,総務担当の部署に稟議書を起案させ,これを被告Y2及び被告Y3をはじめとする原告の取締役らの決裁を経て,本件各案件を行ったというものである。
また,原告における稟議書の作成が専ら取引相手からの資料提供に依存し,かつ,被告Y1が事実上決定した後で行われていることを,本件各案件の取引相手は,認識していたと推認することができる。
そして,被告Y2及び被告Y3は,少なくとも,被告Y1が原告の代表取締役として「入や萬成証券株式取得」案件のコンサルティング料の支払を除く本件各案件を行うことを認識し,かつ,これらの取引が,上記のとおり,原告の社内において,その取引相手の選定や代金額を含む取引の内容について検証されずに,これを検証する部署も担当者も置かれずに,被告Y1・1人の独断で行われていたことを認識していたか,あるいは容易に認識することができたといえる。
そうすると,被告Y2及び被告Y3は,代表取締役である被告Y1が事実上独断で多額の支出を伴う,利益と損失のリスクのある取引を行っているという業務活動の内容を知り又は知ることが可能であるなど特段の事情があるのに,本件各案件に関する稟議書の決裁において,その稟議書及び添付書類を一瞥する程度で,その内容について,被告Y1や稟議書を起案した部署ないし担当者に詳しく質問し,検討することもなく,決裁印を押印して決裁することを繰り返し,被告Y1による業務執行の危険性を看過して,被告Y1にその意のままに業務執行をさせたものということができ,したがって,被告Y2及び被告Y3について,取締役としての監視義務違反があるというべきである。
(4)  被告Y2及び被告Y3の主張について
ア 被告Y2及び被告Y3は,担当取締役は,自らの掌握する分野について,一般的な善管注意義務として部下を監視する義務を負っているから,部下が「不正」を行った際に一般的に注意義務を負うが,それ以外の取締役において,何らかの疑念を抱く契機がまったくないのに,常に他の従業員や取締役が「不正をはたらくかもしれない」ことを前提として,およそ想定しうるあらゆる調査をしなくてはならないとすると,極めて過大な負担を課すことになり,そのような義務は事実上果たすことはできず,結局のところ,全ての「結果責任」を追及されるというに等しくなるから,「疑念を差し挟むべき特段の事情」があって初めて任務懈怠の責任が検討されるべきであるが,被告Y1の行動について「疑念を差し挟むべき特段の事情がなかった。」と主張する。
そして,被告Y2及び被告Y3は,被告Y1が取引相手から金品を受け取っていたという不祥事を知ったのは平成18年7月3日の新聞記事によってであり,平成16年から平成18年までの時期の稟議等によっても,被告Y1について不審な点は全くなかったと供述する(乙B11,乙B12,被告Y3本人)。
しかしながら,上記(3)のとおり,被告Y1が本件各案件について事実上独断で取引相手や代金額を含む契約内容を決定するなど,原告の業務執行の意思決定及び実行をし,被告Y2及び被告Y3は,被告Y1が代表取締役としてそのような業務執行をしていることを認識し,あるいは容易に認識することができたのであるから,被告Y2及び被告Y3が主張する「疑念を差し挟むべき特段の事情」があったといえる。
したがって,被告Y2及び被告Y3の上記の主張は当たらない。
イ 被告Y2及び被告Y3は,被告Y1の本件各案件に係る金品の授受は,外部企業同士の取引関係に基づくもの(千里土地ないしパワーマネージメント等がエムティ企画やシティーコーポレーション等の企業に業務を発注したこと)や,全くのプライバシーの領域での行為(Eないし千里土地及びエスティ創研が被告Y1や妻Bに対して贈与を行ったこと)であるが,本件各案件について総務の現場を仕切っており,また被告Y1の側近というべき地位にあって本件各案件について稟議書の起案まで行っていたLやHも被告Y1の行為について何も疑っていなかったのであり,このように,実際に本件各案件で実務を担当していた現場の者が全く気付き得ない金銭収受等につき,被告Y2及び被告Y3が気付かなかったことは当然であると主張する。
また,被告Y2は,稟議書の決裁にあたっては,運用面における効果を最重要視していた,被告Y1が不正を行うことを前提にそれを疑って稟議に臨むことなど不可能であると供述し(乙B11),被告Y3は,被告Y1の手腕,行動力及び人脈に信頼を寄せており,被告Y1の人柄は,実直で誠実であり,会社の財産を私的に流用するとか取引業者からリベートを得ようとしたとかいう不正行為を耳にしたことはなかったと供述する(乙B12)。
しかしながら,前提事実(4)及び前記(2)の認定事実によれば,①被告Y2及び被告Y3は,本件各案件(「入や萬成証券株式取得」案件のコンサルティング料の支払を除く。以下,本段落において同じ。)について,稟議書に押印するなどして,被告Y1が本件各案件に関して行おうとする業務執行の存在及び内容を認識していたこと,②本件各案件については,原告社内に,本件各案件の内容について実質的に関与する現場の担当者及び部署が置かれておらず,被告Y1が独断で取引相手及び取引内容を決定し,総務担当者が,被告Y1から渡された資料に基づいて稟議書を作成していた程度であり,本件各案件の内容について原告の社内において検証が行われていないことについて,被告Y2及び被告Y3は認識していたか,あるいは容易に認識することができたこと,③本件各案件の稟議書及びこれに添付された資料には,本件各案件において原告が取引相手に対して支払う代金額の相当性について,原告社内における検証過程が明らかにされておらず,その代金額の相当性について確認する材料がない(原告社内において独自にその原価や利益率あるいは利回りを算定し検証をする体制を整えるか,そうでなければ第三者に対しても見積もりをさせるなどの代金額の相当性を担保する措置をとるなどの合理的な措置が何ら講じられていない)こと,④原告の規模に照らしても,本件各案件がいずれも原告の代表取締役の日常の常務行為であるといえる金額及び内容ではないこと(それ故に稟議・決裁という手続が採られたものと解される。)の事情によれば,被告Y2及び被告Y3において,被告Y1にその独断による本件各案件に係る業務執行を任せることによって原告に損害が生じるおそれがあると予見することができたということができる。
そして,被告Y2及び被告Y3は,原告の取締役として,被告Y1が行う本件各案件の取引相手,内容,代金額,契約内容の決定経緯等について報告を求め,質問及び調査をするなどの監視をすべきであったし,あるいは,被告Y2及び被告Y3において直接的に具体的かつ詳細な監視ができないのであれば,原告社内に,本件各案件を実質的に取り扱う部署及び担当者を設けて,被告Y1の業務執行の過程に被告Y1・1人でなく原告社内の者が関わるようにして,業務執行の客観的な,あるいは事後的な検証ができるようにするなどして監視をすべきであり,そのような監視の措置を講じていれば,被告Y1は,本件各案件の取引相手,内容,代金額を独断により決定することができず,また,取引相手も,原告においては被告Y1の意のままに業務執行を決定しているものではないと認識して,被告Y1に対するリベートの提供が抑制され,被告Y1がリベートを受領した本件のような事態を防ぐことができたということができる。
したがって,被告Y2及び被告Y3の主張は理由がない。
(5)  そして,前提事実(4)及び前記1によれば,被告Y1が,本件各案件において受領したリベートは,工事代金1995万円の「大阪建物解体工事」案件について795万円,仲介手数料1680万円の「大阪土地仲介」案件について840万円,建築工事の発注価格合計21億0945万の「大阪マンション建築発注」案件について1億6286万円,コンサルティング料9762万6633円の「入や萬成証券株式取得」案件ついて2440万6658円,設計・工事監理費5113万5000円の「横浜新山下老人ホーム建築」案件について511万3500円,出資金30億円の「投資事業組合出資」案件について3150万円であることが認められる。
上記のとおり,被告Y1が受領したリベートの金額がいずれも相当高額であり,原告が取引相手に支払った金額に対する被告Y1が受領したリベートの金額の割合も高いこと,原告社内において被告Y1が事実上独断で業務執行を行っていたことが,本件各案件の取引相手が被告Y1に対してリベートを交付し被告Y1がこれを受領するという事態を招いたといえること,にかんがみれば,被告Y2及び被告Y3が,その取締役の監視義務を尽くしていれば,本件各案件に関して,被告Y1が取引相手からリベートを取得して原告に損害を生じさせる結果を回避することができたというべきである。
3  争点(3)(被告らの取締役の任務違反行為(善管注意義務ないし忠実義務違反)によって原告に生じた損害及び損害額)について
(1)  被告Y1の任務違反行為(善管注意義務ないし忠実義務違反)による損害賠償責任の範囲
ア 前記1のとおり,被告Y1がリベートを受領したことは取締役の任務違反行為に当たるから,下記のとおり,被告Y1が本件各案件に関して受領したリベートの金額は,原告に生じた損害であるといえる。
(ア) 「大阪建物解体工事」案件 795万円
妻Bがエスティ創研に対して負担させた家具,電化製品等の購入代金795万円
(イ) 「大阪土地仲介」案件 840万円
エムティー企画が千里土地から平成16年11月25日に受領した840万円
(ウ) 「大阪マンション建築発注」案件 1億6286万円
a 被告Y1が千里土地から平成17年2月9日に受領した4800万円
b 被告Y1が千里土地から平成17年3月29日に受領した3000万円
c 被告Y1が千里土地から平成17年9月20日に受領した4500万円
d エムティ企画が千里土地から平成17年2月10日に3回に分けて受領した合計3986万円
(エ) 「入や萬成証券株式取得」案件 2440万6658円
シティーコーポレーションがパワーマネージメントから平成17年5月25日に受領した2440万6658円
(オ) 「横浜新山下老人ホーム建築」案件 511万3500円
a シティーコーポレーションが一鐵建築から平成17年6月15日に受領した340万9020円
b シティーコーポレーションが一鐵建築から平成17年8月1日に受領した170万4480円
(カ) 「投資事業組合出資」案件 3150万円
シティーコーポレーションがパワーマネージメントから平成18年4月11日に受領した3150万円
イ 上記アの損害の合計2億4023万0158円については被告Y1の任務違反行為によって原告に生じた損害であると認めるのが相当であり,その1割に相当する2402万3015円相当の弁護士費用についても,被告らの善管注意義務ないし忠実義務違反と相当因果関係のある損害であると認められる。
したがって,認められる損害の合計額は,2億6425万3173円となる。
ウ 原告は,附帯請求として,平成18年7月2日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
しかしながら,本件本訴請求は取締役の任務違反行為(善管注意義務ないし忠実義務違反)による旧商法266条1項5号に基づく損害賠償請求であり,その性質は債務不履行責任であって期限の定めのない債務であるから,履行の請求によって遅滞に陥ることになる。しかるに,原告の被告Y1に対する本件各案件に係る損害賠償請求については,本件本訴請求の平成19年5月31日の訴状送達以前に原告が被告Y1に対して履行の請求をしたことを認めるに足る証拠はない。
したがって,被告Y1に対する本件本訴請求の遅延損害金起算日は,訴状送達の日の翌日の平成19年6月1日と認めるのが相当である。
(2)  被告Y2及び被告Y3の監視義務違反による損害賠償責任の範囲
ア 前記(1)ア(エ)の「入や萬成証券株式取得」案件については,稟議書が作成されておらず,被告Y2及び被告Y3は,これに押印をしていない(前提事実(4)エ(イ))。他に,被告Y2及び被告Y3において,被告Y1が「入や萬成証券株式取得」案件のコンサルティング料の支払を行うことについて認識していたか,あるいは認識することができたと認めるに足る証拠はない。
したがって,被告Y2及び被告Y3が負うべき責任の範囲は,前記(1)アの被告Y1の責任のうち「入や萬成証券株式取得」案件を除いた2億1582万3500円にその1割相当の2158万2350円の弁護士費用相当額を加えた2億3740万5850円である。
イ 前記(1)ウのとおり,本件本訴請求は取締役の任務違反行為(善管注意義務ないし忠実義務違反)による旧商法266条1項5号に基づく損害賠償請求であり,その性質は債務不履行責任であって期限の定めのない債務であるから,履行の請求によって遅滞に陥ることになる。
証拠(甲23の1,2,3)によれば,原告の被告Y2及び被告Y3に対する履行の請求は,平成19年4月25日に到達した通知によって同年5月11日までの支払を求めたものであることが認められる。
したがって,被告Y2及び被告Y3に対する本件本訴請求の遅延損害金起算日は平成19年5月12日となる。
(3)  原告主張の損害のうち被告らの取締役の任務違反行為(善管注意義務ないし忠実義務違反)と相当因果関係にある損害と認定できないもの
ア 社内調査委員会委員報酬
前記1及び2のとおり,原告の本件本訴請求は,被告Y1については,本件各案件に係る被告Y1による取引相手からのリベートの受領という任務違反行為による取締役の責任を原因とし,被告Y2及び被告Y3については,上記被告Y1の業務執行に対する監視義務違反による取締役の責任を原因としている。
ところで,証拠(甲16の5)によれば,社内調査委員会の調査報告事項の中には,本件各案件だけでなく,その他に,「ハワイ預金担保案件」,「NEF株取引案件」,「R証券リベート案件」,「横浜新山下老人ホーム建築斡旋手数料案件」,「NEFキャンセル料案件」,「NEF融資手数料案件」,「神戸マンション家賃不払い案件」,「東心斎橋マンション案件」,「葵友会案件」,「ストックオプション案件」,「政治献金案件」についても調査報告していることが認められるから,原告が調査委員に対して支払った報酬の全額が上記のとおりの本件本訴請求の被告らの責任原因と相当因果関係のある損害であると認めることができず,他にこれを特定する証拠はないから,相当因果関係がある範囲も不明であるというほかない。
したがって,社内調査委員会委員報酬の額を損害と認めることができない。
イ 重加算税
原告は,原告に賦課された重加算税1309万3500円は「大阪マンション建築発注」案件の関係であると主張する。
平成18年6月30日付法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書(甲4)によれば,原告に賦課された重加算税の額が上記のとおりであることは認められるが,それが「大阪マンション建築発注」案件において被告Y1がリベートを受領したことに基因して賦課されたものであるか否か明らかでなく,他にこれを認めるに足る証拠はない。
したがって,重加算税の額を損害と認めることができない。
ウ 源泉税の不納付加算税,延滞税
本件全証拠によっても,本件各案件に係る被告Y1に対する認定賞与に関して原告に対して源泉所得税の不納付加算税及び延滞税が賦課されたこと及び原告がこれを納付したことを認めるに足る証拠はない。
したがって,源泉所得税の不納付加算税及び延滞税の額を損害と認めることができない。
エ 法人税実効税率の割戻額
原告は,被告Y1から損害賠償債務の履行を受けたとしても,これに対して更に課税関係が発生する(法人税法上,被った損害について賠償金を得たとしても,益金として通算され,これに対して法入税が課される。)から原告は損害の全額を回復することができないが,損害賠償債務の履行を受けることによって課税されることは被告らの善管注意義務・忠実義務違反に基因するものであるから,相当因果関係があると主張する。
しかしながら,原告が主張する上記損害は,原告の被告らに対する損害賠償請求権の確定ないし実際の賠償金の支払によって原告の益金に計上された事業年度についての課税関係であるから,本件の口頭弁論終結時において未だ発生していない損害である。また,原告に対する課税は,本件本訴請求に係る損害賠償債務の履行に対して行われるのではなく,原告の当該事業年度の課税所得に対して行われるものであるから,単に,本件本訴請求に係る損害賠償債務の額に対して税率で割り戻すことによって損害額を確定することはできない。
したがって,本件本訴請求に係る被告らの取締役の任務違反行為(善管注意義務ないし忠実義務違反)と相当因果関係がある損害とは認められない。
4  争点(4)(被告Y2及び被告Y3の退職慰労金請求権の有無)について
(1)  被告Y2及び被告Y3は,①平成18年6月28日の株主総会で,役員退職慰労金制度廃止に伴い,それまでの功労に報いるため,打ち切り支給が提案され,可決された,②その際,「退任時に」,「一定の基準に従い,相当額の範囲内で」支給することが定められるとともに,「具体的金額」等は取締役会に一任された,③取締役会は,同日,「退職慰労金の金額」及び「支払の時期」等について,さらに代表取締役に一任した,④上記一定の基準については,役員退職慰労金規定(甲17)が存在し,これに従来の慣行や実績を加味すると,自ずと基準たり得る,⑤役員退職慰労金規定(甲17)によると,退職慰労金には,取締役の平均月収から裁量の余地なく導かれる部分(第3条)と特別功労金の部分(第4条)とが存在する,⑥役員退職慰労金規定で用いられる「退職慰労金」には,3条に基づく「狭義の退職慰労金」と4条に基づく「広義の退職慰労金」がある,⑦株主総会で決議された退職慰労金は,「広義の退職慰労金」である,⑧「広義の退職慰労金」は,これまでの退職慰労金支払の実績,会社の貢献等の事情によって算出される,⑨以上に基づくと,被告Y2及び被告Y3の退職慰労金の額は1億円であると主張する。
しかしながら,そもそも,取締役の退職慰労金額の決定は,定款に定めがない限り,株主総会決議によって定めなければならない(会社法361条)。これは,お手盛りによる弊害から株主を保護する趣旨であり,無条件に取締役会等に退職慰労金額の決定を一任することは許されないが,株主総会決議において,明示的若しくは黙示的に,退職慰労金支給に関する基準を示し,具体的な金額・支払期日・支払方法などはその基準によって定めるべきものとして,その決定を取締役会等に任せることは許されると解される(最高裁判所第二小法廷昭和39年12月11日判決・民集18巻10号2143頁,最高裁判所第二小法廷昭和48年11月26日判決・判時722号94頁)。
そうすると,株主総会決議によって委任を受けた取締役会が代表取締役に対して退職慰労金額の決定を再委任することが許される場合であったとしても,当然に,退職慰労金支給に関する基準に従うことが前提となる。
しかるに,本件においては,まず,被告Y3は,被告Y2及び被告Y3が請求する1億円という退職慰労金額は,原告の退職慰労金規定に従って算出した金額ではなく,「打ち切り支給」として株主総会が支給決議したことに基づく請求であると供述している(被告Y3本人)。しかし,原告の株主総会においては,被告Y2及び被告Y3に対して支給する退職慰労金の具体的な金額を決議していない(前提事実(8)イ)から,株主総会決議から直ちには1億円の退職慰労金請求権は発生しない。
(2)  次に,仮に,取締役会から再委任を受けたLが,原告の代表取締役として,被告Y2及び被告Y3の退職慰労金額を1億円とする旨の意思表示をしていたとしても,それが,原告の退職慰労金規定に基づくものと認められなければ,会社法361条に反し無効であると解される。
そして,証拠(甲17,22)によれば,原告の退職慰労金規定に従って算出した退職慰労金の額は,被告Y2について1899万7539円,被告Y3について1525万1832円であると認められるところ,Lが原告の代表取締役として決定したという被告Y2及び被告Y3について各1億円という金額は,退職慰労金規定に従って算出した額の5倍以上の金額であり,確かに,原告の退職慰労金規定には特別功労金という加算して支給する規定があるものの,退職慰労金規定に従って算出した金額の5倍以上の金額を代表取締役が決定するのは,上記会社法361条の趣旨に照らして,その裁量権を逸脱したもので,無効であるというべきである(仮に,被告Y2及び被告Y3に多大な功績が認められたとしても,会社法361条の趣旨に照らせば,株主総会において,特別功労金の額を定めるか,退職慰労金規定の基準を変更すべきであって,無制限な加算を取締役会や代表取締役に対して委任することは会社法の趣旨に照らして許されないと解すべきである。)。
したがって,被告Y2及び被告Y3は,原告に対して,各1億円の退職慰労金請求権を有しない。
5  争点(5)(被告Y2及び被告Y3の退職慰労金不支給による損害賠償請求の可否)について
(1)  判断の枠組み
取締役は,株主総会決議に従って,忠実に職務を遂行する義務を負う(会社法330条,民法644条,会社法355条)から,株主総会が一定の基準に従い退職慰労金額を決定することを取締役会等に委任する旨の決議をした場合には,速やかに,これを決定する義務を会社に対して負っている。したがって,取締役会等が,退職慰労金額の決定を,正当な理由なく,合理的期間を過ぎても懈怠している場合には,取締役としての職務を怠るものとして,善管注意義務違反ないし忠実義務違反を構成する。
そして,代表取締役の善管注意義務ないし忠実義務違反等が問われている場合には,会社法350条により,会社は,代表取締役その他の代表者がその職務を行うにつき第三者に加えた損害を賠償する義務を負うことになる。
(2)  これを本件についてみると,被告Y2及び被告Y3は,Lが原告代表取締役に就任した後現在に至るまでの長期間にわたり退職慰労金を支払おうとしないことは取締役の任務懈怠であると主張する。
しかしながら,前提事実(8)アによれば,原告の役員退職慰労金規定には,第2条に「退職慰労金は役員として円満に勤務し,死亡,任期または辞任により退職した者に対し株主総会の決議を経て支給する。」という規定があるところ,原告は,被告Y2及び被告Y3について,その取締役在任中の善管注意義務ないし忠実義務違反に関する本件本訴請求をし,被告Y2及び被告Y3と係争中であるから,仮に,原告の代表取締役であるLが株主総会から取締役会を介して再委任を受け,かつ,未だ退職慰労金額の決定をしていないとしても,それには正当な理由があるというべきである。
したがって,Lには,被告Y2及び被告Y3の退職慰労金額を未だ決定していないことについての取締役の善管注意義務ないし忠実義務違反はなく,それを前提とする原告の会社法350条に基づく責任も成立しない。
したがって,被告Y2及び被告Y3の反訴請求に係る退職慰労金不支給による損害賠償請求は理由がない。
6  争点(6)(被告Y2及び被告Y3の顧問契約に基づく報酬請求の可否)について
(1)  前提事実(9)ア(ア)及び(イ)によれば,原告と被告Y2及び被告Y3の当該顧問契約は,その内容からして準委任契約(民法656条)であると解されるところ,契約の各当事者はいつでもその契約の解除をすることができる(同法651条1項)。そして,準委任契約の解除は,将来に向かってのみその効力を生じる(同法652条,620条)。
前提事実(9)イによれば,原告の被告Y2及び被告Y3に対する当該顧問契約解除の意思表示は平成19年4月25日に到達したが,同日は当該顧問契約に基づく4月分の報酬の支払期限であり(前提事実(9)ア(ア)及び(イ)),既に期限が到来している。したがって,被告Y2及び被告Y3は,原告に対し,当該顧問契約に基づき,それぞれ平成19年4月分の報酬各80万円を請求する権利を有する。
他方,平成19年5月分以降の報酬請求権については,被告Y2及び被告Y3のいずれについても,当該顧問契約が解除されたことによって発生しない。
(2)  被告Y2及び被告Y3は,顧問契約の解除は,①被告Y1の不正行為を原因としてその不正行為と関係がない被告Y2及び被告Y3との契約を解除するものであること,②原告は,被告Y1の不正行為が発覚した後の平成18年7月11日に顧問契約を締結したものであることから,不当であり,少なくとも信義則に反して無効であると主張するが,上記(1)の判示するところに照らせば失当である。
(3)  したがって,被告Y2及び被告Y3の原告に対する顧問契約に基づく報酬請求については,各80万円の支払及び平成19年4月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を請求する限度で理由がある。
第4  結論
よって,原告の本訴請求は,主文第1項から第3項までに記載した限度(被告Y1,被告Y2及び被告Y3に対する旧商法266条1項5号に基づく損害賠償請求については,被告Y2及び被告Y3に対する請求が認容された限度で被告らは連帯してその責任を負い,附帯する遅延損害金請求については,被告Y1に対する請求が認容された限度で被告らは連帯してその責任を負うとともに,被告Y2及び被告Y3に対する請求が認容された限度で被告Y2及び被告Y3は連帯して責任を負う。)で理由があるからこれを認容することとし,その余の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし,また,被告Y2及び被告Y3の反訴請求は,顧問契約に基づく報酬請求について主文第4項及び第5項に記載した限度で理由があるからこれを認容することとし,その余の反訴請求は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,65条1項ただし書を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 西村英樹)

 

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