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「営業アウトソーシング」に関する裁判例(50)平成25年 9月17日 東京地裁 平25(ヒ)123号 株式取得価格決定申立事件

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(50)平成25年 9月17日 東京地裁 平25(ヒ)123号 株式取得価格決定申立事件

裁判年月日  平成25年 9月17日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  決定
事件番号  平25(ヒ)123号
事件名  株式取得価格決定申立事件
上訴等  抗告  文献番号  2013WLJPCA09176001

要旨
◆参加人の普通株式を保有していた申立人が、参加人による全部取得条項付種類株式の全部取得に反対し、会社法172条1項に基づき、申立人保有株式の取得価格決定を求めた事案において、申立人保有株式のうち、基準日後に取得した株式に係る申立ては会社法172条1項2号所定の株主に該当しないから不適法であると参加人は主張するが、そのことのみをもって本件申立てを不適法とすることはできないとして、同主張を退けた上で、株式取得価格決定申立事件における「公正な価格」とは、基準日である取得日において、いわゆるナカリセバ価格と、MBOの実施により増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分とを合算して算定すべきところ、本件では、本件公開買付けにおける買付価格と同額の1株当たり1310円とするのが相当であるとした事例
◆会社法172条1項2号所定の「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」につき、基準日後に株式を取得したことをもって、当該株主に対しその投下資本回収の機会を保障しないとする合理的な理由は認められないから、基準日後に株式を取得した株主も同号所定の「株主」に該当するとされた事例
◆市場株価のある株式の客観的価値を算定するに当たっては、異常な価値形成がされた場合等、当該市場株価がその企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情が存在しない限り、評価基準時点にできる限り近接した市場株価を基礎として、当該株式の客観的価値を評価するのが相当であるとされた事例
◆経営者による企業買収(MBO)の実施によって増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分の算定に当たっては、当該MBOの目的や実施後の事業計画から予測される収益力や業績についての見通しのほか、本件買付価格が、経営者と株主との利益相反関係に十分に配慮し、これを抑制するための適切な措置が講じられた上で、株主の利益を踏まえた真摯な交渉を経て決定されたか否か、当該公開買付けが適切な情報開示がされた上で株主の多数の賛成を得て成立したか否か、当該公開買付けに近接した時期に実施された他社の事例におけるプレミアム率等を総合的に考慮するのが相当とされた事例

出典
金商 1427号54頁

評釈
前田修志・ジュリ 1478号107頁
弥永真生・ジュリ 1461号2頁
三宅新・ジュリ臨増 1466号108頁(平25重判解)
飯田秀総・旬刊商事法務 2136号50頁
岩田合同法律事務所・新商事判例便覧 3087号(旬刊商事法務2020号)
松本拓生=鈴木翔平・金法 1990号91頁
矢崎淳司・法学会雑誌(首都大学東京・東京都立大学法学会) 55巻2号413頁
加藤貴仁・リマークス 49号94頁
大塚和成・銀行法務21 770号100頁
大塚和成・銀行法務21 765号69頁
鳥山恭一・法セ 709号121頁
金澤大祐・法セ増(新判例解説Watch) 15号119頁
笹川敏彦・札幌学院法学(札幌学院大学) 32巻2号37頁

参照条文
会社法172条1項

裁判年月日  平成25年 9月17日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  決定
事件番号  平25(ヒ)123号
事件名  株式取得価格決定申立事件
上訴等  抗告  文献番号  2013WLJPCA09176001

申立人 X
利害関係参加人 株式会社セレブリックス
代表者代表取締役 A
代理人弁護士 木田飛鳥
西岡祐介
大塚和成

 

 

主文

1  利害関係参加人発行に係る普通株式のうち、申立人が保有していた2427株の取得価格は、1株につき1310円とする。
2  手続費用は申立人の負担とする。

 

理由

第1  申立ての趣旨
申立人が保有していた利害関係参加人発行に係る全部取得条項付種類株式2427株の取得価格の決定を求める。
第2  事案の概要
本件は、利害関係参加人(以下「参加人」という。)の普通株式(以下、単に「株式」ともいう。)を保有していた申立人が、参加人による全部取得条項付種類株式の全部取得(以下「本件全部取得」という。)に反対し、会社法172条1項に基づき、申立人が保有していた参加人の株式2427株(以下「本件株式」という。)の取得価格の決定を求めた事案である。
1  前提事実
一件記録及び審問の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)  当事者等
ア 申立人は、平成25年1月7日から参加人の株式を取得し、参加人による本件全部取得に係る株主総会決議の日までの間に、参加人の株式2427株(本件株式)を保有するに至った(乙32、審問の全趣旨)。
イ 参加人は、平成10年5月15日に設立された営業マネジメントの代行業、労働者派遣事業等を業とする株式会社である(乙1)。
参加人の株式は、平成17年5月から株式会社大阪証券取引所(現在の商号は株式会社日本取引所グループ)が開設するJASDAQグロース市場(ただし、上場当時はヘラクレス。以下、名称変更の前後を問わず、「JASDAQ」という。)に上場されていたが、いわゆるマネジメント・バイアウト(経営者による企業買収、以下「MBO」という。)の実施により、平成25年3月25日、上場廃止となった(乙29)。
(2)  参加人の発行する株式の公開買付けに至る経緯
ア 参加人の収益状況及び財務状態の悪化
参加人は、平成17年5月のJASDAQへの上場後、営業コンサルティング及び人材アウトソーシングに事業を拡大し、平成19年3月期までは順調に業績を伸ばしたが、参加人が買収した企業の業績が急激に悪化したことや、世界的な金融危機の影響により参加人の主力事業であったアウトソーシング事業も業績低下を余儀なくされたことなどから、参加人の財務内容は悪化の一途を辿った。参加人は、平成19年9月以降、4回にわたって第三者割当増資を実施したほか、新たに企業買収を実施して新規事業を組み入れるなどしたが、人材の採用・教育等が追いつかず、業績の回復には至らなかった。(乙19、46)
そのため、参加人は、メインバンクである株式会社みずほ銀行(以下「みずほ銀行」という。)に対し、弁済期日である平成23年3月31日までに借入金元本約8億2458万円を返済することができず、弁済計画の変更を求めて交渉した結果、追加担保の差し入れによって2か月の猶予期間を与えられたが、当該猶予後の弁済期日である同年5月31日までに元利金の返済ができず、支払不能の状態に陥った。参加人は、みずほ銀行に対し、更なる弁済計画の変更を求めたが、その了承を得ることができず、上記同日をもって期限の利益を喪失した状態となった。(乙6ないし10、46)
その後、参加人は、平成24年3月期決算において、連結で純資産が約1億9155万円の赤字(単体では約1億5582万円の赤字)となり、債務超過の状態に陥ったため、平成24年4月1日付けでJASDAQの有価証券上場規程47条1項3号(債務超過)の猶予期間入りした銘柄及び監視区分銘柄に指定され、同指定により、平成25年3月31日までに債務超過の状態を解消しなかった場合には上場廃止基準に該当し、平成25年3月期の決算報告書の提出後に整理銘柄に指定され、整理銘柄指定後1か月後に上場廃止となる見込みとなった。また、参加人の平成24年3月期の連結・単体財務諸表には、継続企業の前提に関する注記が付された。(乙3、12の1・2)
参加人は、平成24年4月以降、主力のアウトソーシング事業に集中することによって事業の立て直しを図ったが、元連結子会社との訴訟上の和解による貸倒引当金の増加や連結子会社の業績低下の影響から、平成24年度第1、第2四半期決算ともに連結業績予想を下回り、平成24年度第2四半期連結累計期間において、営業損失約3387万円、純損失約6125万円を計上し、債務超過額は約2億5280万円に達した。そのため、参加人は、平成24年8月13日及び同年11月12日の2回にわたって、連結業績予想の下方修正を行った。(乙4、5、11、13、16、19)
イ 参加人の取締役によるMBOに向けた買収監査の実施
このような状況の中、参加人の代表取締役であるA(以下「A」という。)及び同取締役であるB(以下「B」といい、A及びBを併せて、「Aら」という。)は、参加人の2期連続債務超過による上場廃止及びその後の法的倒産手続を回避するため、平成24年6月頃から、参加人が執り得る最善の可能性を模索し、第三者割当の方法による資本増強を目指したが、債務超過を解消し得る引受先は見つからなかった。そのため、Aらは、平成24年8月頃、民事再生手続の申立てを視野に入れた検討と、参加人を対象とするMBO(以下「本件MBO」という。)の実現可能性の精査のために買収監査を実施することとし、東京フィナンシャル・アドバイザーズ株式会社(以下「東京FA」という。)をフィナンシャル・アドバイザーに選任した。(乙3、4、5、15、19、46)
東京FAによる買収監査の結果、本件MBOの実施により、2期連続債務超過を理由とした上場廃止によって生じる取引先の信用毀損を避けることができ、併せて上場維持コストの削減により、キャッシュフローの増加が見込まれるため、慢性的な支払不能状態を脱することができるほか、既存株主の投下資本の回収機会を喪失する事態を避け、抜本的な事業改革や長期的視点に立脚した事業運営が可能となるなどの利点が生じることが判明した(乙19、46)。
ウ Aらによる本件MBOの提案等
そこで、Aらは、本件MBOを実施することが参加人の株主及び参加人にとって最善の方策であるとの結論に至り、本件MBOに関する融資等の条件を整えた後、平成24年11月1日、参加人に対し、参加人の発行する株式の公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)を含む本件MBOの提案を行うとともに、同月2日、本件MBOを実施するための買収目的会社として、AとBが各50%を出資してレッドオスカーキャピタル株式会社(以下「レッドオスカー」という。)を設立した。なお、Aは、みずほ銀行との間で本件MBOの実施に関する交渉を行い、貸付条件の変更を含めて、その内諾を得た。(乙2、14、46)
エ 第三者算定機関からの株式価値算定書の取得
(ア) レッドオスカーは、本件公開買付けに係る買付価格(以下「本件買付価格」という。)を決定するため、レッドオスカー及び参加人と利害関係を有しない独立した第三者算定機関である東京FAに対し、参加人の株式価値の算定を依頼し、平成24年11月21日付けで株式価値算定書を取得した(乙17、19)。
東京FAは、参加人の有価証券報告書、四半期報告書、決算短信等の公表された資料、市場株価等の公表情報のほか、レッドオスカーが提供した参加人の事業計画及びレッドオスカーへのヒアリングにより入手した情報をもとに、公開買付けを実施した場合を前提として、下記のとおり、参加人の株式価値を算定した。なお、東京FAは、参加人が債務超過であり純資産がマイナスであることから、コスト・アプローチ(純資産法)を採用せず、市場株価法及びDCF法を採用した。(乙17、審問の全趣旨)
①市場株価法 1307円~1488円
②DCF法 738円~981円
③上記2算定方法の平均値 1128円
上記①の市場株価法による算定に当たっては、平成24年8月13日及び同年11月12日の連結業績予想の下方修正による影響を考慮し、後者は本件公開買付けの公表日に近接することから、当該下方修正に係るプレスリリースの前営業日である平成24年11月9日を算定の基準日とし、市場株価の算定期間を当該基準日から直近1週間、1か月及び3か月と設定して、各期間の終値平均株価を算出している。また、②のDCF法による算定に当たっては、参加人の本件MBOを前提とした事業計画に基づく収益予測や投資計画等を考慮し、参加人が将来生み出すフリー・キャッシュ・フローを事業リスクに応じた割引率で現在価値に割り戻して評価した株式価値をもとに算定している。③の平均値は、市場株価法及びDCF法に基づく各算定結果の平均値を1対1の比重で平均したものである。
(イ) 参加人は、平成24年11月1日、レッドオスカー及び参加人と利害関係を有しない独立した第三者算定機関であるエースターコンサルティング株式会社(以下「ASC」といい、東京FAと併せて、「本件各第三者算定機関」ともいう。)に対し、参加人の株式価値の算定を依頼し、同月21日付けで株式価値算定書を取得した(乙18、19)。
ASCは、Aらを除く参加人の取締役から、参加人の事業の現状、業績に関する直近の状況、参加人作成の将来の事業計画等の資料を取得し、必要な説明を受けた上で、東京FAと同様、コスト・アプローチ(純資産法)を採用せず、下記のとおり、市場株価法及びDCF法により、参加人の株式価値を算定した(乙18、審問の全趣旨)。
(本件公開買付けを実施しなかった場合)
①市場株価法 1314円~1497円
②DCF法 0円
③上記2算定方法の平均値 703円
(本件公開買付けを実施した場合)
①市場株価法 1314円~1497円
②DCF法 1071円~1213円
③上記2算定方法の平均値 1274円
上記①から③の算定方法は東京FAと同様であり、参加人が提供した事業計画は、みずほ銀行に対してMBOを実施した場合及び実施しなかった場合の事業計画を提示するために用いたものであった(審問の全趣旨)。
オ 参加人における第三者委員会の設置及び当事者間の交渉経過
(ア) 参加人は、平成24年11月1日、参加人の少数株主を保護することを目的として、本件公開買付けの公正性の担保、本件公開買付けを含む本件MBOの実施を決定するに至る意思決定の過程における恣意性を排除し、参加人の意思決定過程の公正性、透明性及び客観性を確保するため、参加人の社外監査役1名及び外部有識者2名(レッドオスカー及び参加人から独立した弁護士及び公認会計士各1名)の合計3名からなる第三者委員会(以下「本件第三者委員会」という。)を設置し、同委員会に対し、本件MBOの目的の正当性、本件買付価格その他条件の妥当性、本件公開買付けの手続の適正性について諮問した(乙19、47)。
また、参加人は、上記同日、取締役会としての意思決定過程の透明性及び合理性を確保するため、リーガル・アドバイザーとして独立した第三者である二重橋法律事務所(以下「本件リーガル・アドバイザー」という。)を選任し、同事務所から本件公開買付けを含む本件MBOにおける意思決定の過程・方法その他の留意点について助言を受けることとした(乙19、47、審問の全趣旨)。
本件第三者委員会は、参加人からの諮問事項について、レッドオスカー及び参加人並びに本件各第三者算定機関(東京FA及びASC)に対し、資料の提供を求めるとともに、本件公開買付け及び本件MBOに関して必要な事項を聴取した(乙19、47)。
(イ) 参加人は、平成24年11月9日、レッドオスカーから、本件買付価格を1株当たり1135円とする提案を受けたが、第三者委員会の議論等を踏まえ、当該価格が上記前日での市場株価(1株当たり1313円)に比してディスカウントが大きく、株主の賛同を得ることは困難であるとして、レッドオスカーに対し、本件買付価格の再検討を要請した。
レッドオスカーは、同月21日、参加人に対し、理論上の参加人の株式価値の算定結果は1株当たり1128円であるものの、第三者委員会の意見を踏まえて再提案を行うと報告し、同月22日、最終的に本件買付価格を1株当たり1310円とする再提案を行った。(乙19、47、審問の全趣旨)
(ウ) 本件第三者委員会は、平成24年11月22日、参加人に対し、本件MBOの目的は正当であり、レッドオスカーが最終提案した本件買付価格(1株当たり1310円)は、本件公開買付け公表日の前営業日(平成24年11月22日)の株式終値(1260円)及び業績の下方修正が行われた平成24年11月12日の前営業日(平成24年11月9日)の株式終値(1300円)を上回っているほか、参加人の現状及び上場廃止基準への抵触の蓋然性等に照らすと、現時点の市場株価に現れている株主の期待権の実現は極めて困難であり、現状のままでは法的倒産手続を経て株式価値がゼロとなる確度が高いことなどから、他社事例と比較してプレミアムが少ないことも首肯し得るとして、その他の条件を含めて妥当であり、本件公開買付けの手続の適正さも担保されているなどとして、本件公開買付けを含む本件MBOが参加人の少数株主にとって不利益ではない旨の答申書を提出した(乙19、47)。
カ 参加人の取締役会における本件公開買付けへの賛同意見の表明
参加人は、平成24年11月26日、本件MBOに利害関係を有するAらを除く取締役全員及び監査役全員の出席により取締役会を開催し、本件公開買付けを含む本件MBOについて審議した。取締役会では、第三者算定機関であるASCから取得した株式価値算定書、本件第三者委員会の答申や本件リーガル・アドバイザーの助言等を踏まえ、参加人の現状や上場廃止基準への抵触の蓋然性、必要な抜本的改革の内容等を考慮すると、本件MBOにより非上場化することが参加人の企業価値向上の観点から有益であり、1株当たり1310円という本件買付価格その他の諸条件も妥当であり、参加人の株主にとって合理的な株式売却の機会を提供するものであると判断し、出席取締役の全員一致により、本件公開買付けについて賛同する意見を表明するとともに、株主に対して本件公開買付けへの応募を推奨することを決議した。また、出席監査役も、いずれも取締役が上記決議をすることにつき異議がない旨の意見を述べた。(乙20の1)
キ レッドオスカーによる本件公開買付けの決定及びその旨の公表等
レッドオスカーは、平成24年11月26日、本件MBOの一環として、本件公開買付けを実施することを決定し、本件公開買付けの内容やその後の本件MBOによる二段階買収の方針、本件MBOに至った経緯・目的等を公表した(乙19、審問の全趣旨)。
一方、参加人も、上記同日、取締役会において、本件公開買付けに賛同する意見を表明し、株主に対して本件公開買付けへの応募を推奨することを決議したことのほか、本件MBOに至った経緯や本件公開買付けの内容等を公表した。(乙20の1・2)。
本件公開買付けでは、①その買付期間を法令で規定された最短期間20営業日に対し30日営業日とし(平成24年11月27日から同25年1月15日まで)、②レッドオスカー以外の買付等の機会を確保するため、参加人がレッドオスカーの対抗的買収提案者と接触等を行うことを制限する合意をせず、③本件買付価格を1株当たり1310円とし、④公開買付けの成立条件として、参加人の発行済株式総数(12万6999株)に3分の2を乗じて得た株式数(8万4666株)を買付予定数の下限と設定するとともに、⑤本件公開買付後の方針として、いわゆる二段階買収により本件公開買付後に本件全部取得を実施することによって、参加人の株主に対し、本件買付価格を基準として端数相当株式の売却によって得られる金銭を交付することなどが定められた(乙19)。
(3)  本件公開買付けの結果等
本件公開買付けは、参加人の株主から9万2253株(保有割合は約72.64%)の応募がされ、買付予定数の下限に達したことにより成立した。その結果、レッドオスカーは、平成25年1月22日の時点において、参加人の株式9万2253株(保有割合は72.64%)を保有するに至った(乙22、23)。
(4)  参加人による本件全部取得の実施
参加人は、基準日を平成25年1月31日(以下「本件基準日」という。)と定めた上で、同年2月12日の取締役会決議を経て、同年3月7日、臨時株主総会及び普通株式を構成員とする種類株主総会(以下、まとめて「本件株主総会」という。)を開催した。臨時株主総会では下記①から③の議案が、種類株主総会では下記②の議案が、それぞれ提出され、いずれも原案どおり可決する旨の決議がされた(乙1、24ないし27)。
① 「種類株式発行に係る定款一部変更の件」
定款の一部を変更し、残余財産分配優先株式であるA種種類株式を発行する旨の定めを新設する。
② 「全部取得条項の付加に係る定款一部変更の件」
前記①による変更後の定款を一部変更し、参加人の発行する全ての普通株式に全部取得条項を付す旨の定めを新設する。
③ 「全部取得条項付種類株式の取得の件」
前記①及び②による変更後の定款に基づき、参加人が、全部取得条項付種類株式である参加人株式の全部を取得し、当該取得と引換えに、参加人株式を有する株主に対し、参加人株式1株につきA種種類株式を3万4746分の1株の割合をもって交付する。
その後、参加人は、平成25年3月7日の取締役会において、本件全部取得の取得日(以下「本件取得日」という。)を同月28日とすることを決議した(乙28)。
(5)  申立人による取得反対の意思表示及び取得価格決定の申立て
申立人は、本件株主総会に先立って、参加人に対し、本件全部取得に反対する旨を通知し、本件株主総会においても、本件全部取得に反対する旨の議決権を行使した。なお、申立人の保有していた本件株式(2427株)のうち2081株は、本件株主総会の本件基準日後に取得したものであった。(甲5、8、9、乙32)。
申立人は、本件株主総会の日から20日以内である平成25年3月27日、当庁に対し、本件株式の取得価格決定の申立て(以下「本件取得価格申立て」という。)をした(顕著な事実)。
(6)  参加人の市場株価の推移
参加人のJASDAQにおける株式の市場株価(終値)は、本件公開買付けの公表日の6か月前の日の翌営業日(平成24年5月28日)から同年9月26日までは概ね1500円から1600円台で推移した(安値は1380円台、高値は1800円台)が、その後は徐々に下落し、本件公開買付けの基準日(平成24年11月9日)には1300円、本件公開買付けの公表日(同年11月26日)には1233円となり、公表後は上場廃止日の前営業日(同年3月22日)まで本件買付価格(1310円)をやや下回る価格で推移した(乙33)。この間、参加人は、平成24年8月13日及び同年11月12日に連結業績予想の下方修正に該当するプレスリリースをしたところ、後者のリリース後には株価が下落したが、前者のリリース後は顕著な下落は見られなかった(乙13、16、33)。
なお、本件公開買付けの基準日(平成24年11月9日)の過去1週間の終値平均株価は1307円、過去1か月間の終値平均株価は1357円、過去3か月間の終値平均株価は1488円であった(乙17、18、33)。
2  争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は、本件取得価格申立てに係る参加人の本件株式1株当たりの「公正な価格」である。
(1)  申立人の主張
ア 参加人は、本件基準日後に取得した株式については、会社法172条1項2号所定の「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」に該当しないと主張するが、基準日の時点では株主総会の議案は不明な状態にあるのが実情である上に、株主総会の議案が可決されるかは決議を経なければ分からないものである。また、そもそも基準日後に取得した株主に取得価格決定の申立権を認めないとすると、一般的に定時株主総会の基準日後における株式譲渡に著しい支障をもたらすことになり、基準日後に取得した株主の保護にも欠けることになる。
したがって、本件基準日後に取得した株式を含め、申立人の本件取得価格申立ては適法である。
イ 本件買付価格(1株当たり1310円)は、参加人の過去の市場株価(本件公開買付け公表日を基準とした過去1年の終値単純平均は約1648円、過去2年の終値単純平均は約2689円)に比して著しく低廉であるところ、参加人の簿価を基準とした貸借対照表によって債務超過か否かが証明されるものではなく、仮に本件取得日の時点で債務超過があるとしても、株式価値がゼロになることはない。現実にも、参加人の市場株価は、帳簿上の債務超過を前提としつつも、投資家によって種々の事情を考慮して評価されていたものであり、これを否定する合理的理由はない。
したがって、本件では、参加人の過去の一定期間における市場株価の平均を企業の客観的価値と評価すべきであり、本件買付価格は、これに20%程度以上のプレミアムを加えた価格とすべきである。
(2)  参加人の主張
ア 申立人は、保有していた本件株式(2427株)のうち2081株については本件基準日後に取得したものであるところ、基準日後に株式を取得した株主に取得価格決定の申立権を保護すべき実質的理由はなく、一般的にも会社法172条1項2号所定の「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」に該当しないものと解されるから、本件取得価格申立てのうち本件基準日後に取得した株式に係る申立ては、不適法であり、却下されるべきである。
イ その余の株式に係る申立てについては、会社法172条1項所定の取得価格は「公正な価格」をいい、これは、MBOが行われなかったならば株主が享受し得る価値(ナカリセバ価格)に、MBOの実施によって増大が期待される価格のうち株主が享受してしかるべき部分(増加価値分配分)を加算した価格であると解される。
本件では、参加人は、平成24年3月期以降債務超過の状態にあり、本件MBOを実施しなければ2期連続債務超過により上場廃止となることが確実であり、法的倒産手続に入ることも想定されたことからすれば、参加人の市場株価は、参加人の客観的価値を反映していないと認められる特段の事情が存在することは明らかであり、「ナカリセバ価格」はゼロであると認められる。
増加価値分配分についても、本件公開買付けに当たっては、レッドオスカー及び参加人は、それぞれ利害関係を有しない独立した本件各第三者算定機関を選定し、株式価値算定書を取得したほか、参加人が、独立した本件リーガル・アドバイザーを選任してその助言を受けつつ、外部有識者等からなる本件第三者委員会を設置し、同委員会の議論等を踏まえて、レッドオスカーとの間で本件買付価格その他の条件等の交渉をし、最終的に、本件第三者委員会から、本件公開買付けを含む本件MBOの目的の正当性や対価の妥当性、その意思決定過程の手続の適正性を認める旨の答申を受け、参加人の取締役会において、利害関係を有するAらを除く出席取締役及び出席監査役の全員一致により、本件公開買付けに賛同する旨の意見を表明するに至ったものである。したがって、本件買付価格は、構造的な利益相反を回避するための措置を講じた上で、第三者算定機関の株式評価を踏まえた合理的な根拠に基づく交渉を経て合意に至ったものと評価することができ、これに加えて、株主に対して十分な情報開示がされた上で株主の多数の応募により本件公開買付けが成立したことに照らせば、本件買付価格は、参加人の少数株主の利益に配慮した増加価値分配分を十分に上積みした「公正な価格」である。
ウ よって、本件の株式取得価格は、本件買付価格と同額の1株当たり1310円とするのが相当である。
第3  当裁判所の判断
1  本件取得価格申立ての適法性
参加人は、申立人が保有していた本件株式(2427株)のうち本件基準日後に取得した2081株に係る申立ては、会社法172条1項2号所定の株主に該当しないから、不適法であると主張する。
しかし、会社法172条1項2号は「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」と規定するのみであり、他に基準日後に取得した株主に取得価格決定の申立権を認めない旨の明文の規定は存在しない。また、株主が株式の全部取得に係る株主総会の基準日後に株式を取得した場合であっても、その時点において、当該株主が株主総会の議案を認識しているとは限らず、全部取得に係る株主総会決議が成立することが決定しているものでもない。実質的にも、基準日後に株式を取得した株主は、株式の全部取得に係る株主総会の決議において議決権を有しないとしても、その後の株式の全部取得に係る取得価格決定の申立権までも有しないものと解すべき必然性はなく、全部取得によって株主は強制的に株式を取得されることや、一般的に基準日から株主総会決議の日まで相当の期間が設定される可能性があることに照らすと、基準日後に株式を取得したことをもって、当該株主に対しその投下資本の回収の機会を保障しないとする合理的な理由があるものと認めることはできないというべきである。このことは、株式会社が基準日後に取得した株主の総株式数やその後にされる反対株主による取得価格決定の申立て及びその取得価格を把握できない事情があるとしても、上記判断を左右しない。
そうすると、本件において、参加人が本件基準日の設定前に株式の全部取得に係る本件株主総会の議案を公表したことや、本件公開買付けによって本件全部取得に係る本件株主総会決議の成立が確実であったことを考慮しても、申立人の本件取得価格の申立てを不適法とまで認めることはできず、その他、申立人が株式取得価格決定の申立制度を濫用し不当な投機的目的のみをもって本件基準日後に参加人の株式を取得したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、参加人の上記主張を採用することはできない。
その他、前提事実(4)及び(5)によれば、申立人による本件株式の取得価格決定の申立て(本件取得価格申立て)は、会社法所定の手続を履践して適法に行われたものと認められる。
2  取得価格決定の判断基準
(1)  会社法172条1項所定の株式取得価格決定の申立制度は、全部取得条項付種類株式の全部取得が株主総会の決議により行われ、当該株式の全部が強制的に取得されることになるから、これに反対する株主等に取得価格決定の申立権を保障し、その経済的価値を補償することにより、当該反対株主等の保護を図ることにある。
したがって、株式取得価格決定申立事件における「公正な価格」とは、強制的に株式を取得される少数株主の利益にも配慮し、基準日である取得日において、経営者による企業買収(MBO)が行われなかったならば株主が享受し得る価値(ナカリセバ価格)と、MBOの実施によって増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分とを合算して算定するのが相当であり、裁判所は、その合理的な裁量により、これを決定するものであると解される。
(2)  本件取得日における「ナカリセバ価格」の算定
ア 一般に、株式市場においては、投資家による一定の投機的思惑など偶然的要素の影響を受けながら、多数の投資家の評価を通して、企業を取り巻く経済環境下における、個別企業の資産内容、財務状況、収益力及び将来の業績見通しなどを考慮した企業の客観的価値が株価に反映されているということができる。したがって、市場株価のある株式の客観的価値を算定するに当たっては、異常な価格形成がされた場合等、当該市場株価がその企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情が存しない限り、評価基準時点にできる限り近接した市場株価を基礎として、当該株式の客観的価値を評価するのが相当である。
イ この点、前提事実(6)のとおり、参加人のJASDAQにおける市場株価(終値)は、本件公開買付けの公表日の6か月前の日の翌営業日(平成24年5月28日)から同年9月26日までは概ね1500円から1600円台で推移し、その後は徐々に下落しつつ、本件公開買付けの基準日(平成24年11月9日)には1300円、本件公開買付けの公表日(同年11月26日)には1233円となっており、本件公開買付けの基準日(平成24年11月9日)の過去1週間の終値平均株価は1307円、過去1か月間の終値平均株価は1357円、過去3か月間の終値平均株価は1488円であったことが認められる。
しかし、他方、前提事実(2)のとおり、参加人は、平成19年4月以降、グループ会社を含めた業績悪化により収益状況及び財務状態が悪化し、メインバンクであるみずほ銀行に対し、弁済期日である平成23年3月31日までに借入金元本約8億2500万円の返済ができず、同年5月31日をもって期限の利益を喪失し、支払不能の状態に陥った上に、平成24年3月期決算において、連結純資産が約1億9155万円の赤字、単体純資産でも約1億5582万円の赤字となって債務超過に陥り、連結・単体財務諸表にも継続企業の前提に関する注記が付されたというのである。そして、参加人は、その後も第三者割当増資による財務改善を模索したものの引受人が見つからず、平成25年3月31日までに債務超過の状態を解消しなければ上場廃止基準に該当し、これにより強制的に上場廃止となるところ、平成24年8月時点では民事再生手続の申立てを視野に入れた検討を開始し、平成24年度の第2四半期における債務超過額は約2億5300万円に達し、約3000万円程度の営業損失が継続していたことからすると、平成25年3月31日までに債務超過の状態を解消する具体的な見通しはなかったものと認めざるを得ない。
ウ そうすると、前記アで指摘した市場株価の有する指標を考慮しても、参加人の市場株価は、その企業の客観的価値を反映しているものとは認められないというべきである。他方、上記のとおり、参加人は、平成25年4月1日の時点で、2期連続債務超過により上場廃止基準に該当する蓋然性が非常に高い状態にあった可能性はあるものの、参加人の潜在的な収益力や今後の業績見通しに対する投資家の株式市場での評価に照らし、これがゼロであると認めることは相当ではなく、これに沿う参加人の主張は採用することができない。
ここで、参加人が依頼した第三者算定機関であるASCの株式価値算定書(乙18)では、本件公開買付けを実施しなかった場合として、市場株価法とDCF法の各算定結果の平均値を1対1の比重で平均した結果として、参加人の株式価格が1株当たり703円と算定されているところ、ASCは、前提事実(2)イのとおり、本件MBOに利害関係を有するAらを除く参加人の取締役から、参加人の事業の現状、業績に関する直近の状況、参加人作成の将来の事業計画等の資料を取得し、必要な説明を受けた上で、債務超過を理由として純資産法を除外しつつ、市場株価法及びDCF法によって株式価値を算定したものであり、上記事業計画もメインバンクであるみずほ銀行に提示したものが使用されていることに照らすと、その算定結果に不合理な点は見当たらないというべきである。
したがって、本件取得日における本件株式の客観的価値、すなわち本件MBOが行われなかったならば株主が享受し得る価値としては、ASCの算定した株式価値を採用するのが相当であり、これを1株当たり703円と認めるのが相当である。
エ これに対し、申立人は、参加人の市場株価は、帳簿上の債務超過を前提としつつも、投資家によって種々の事情を考慮して評価されていたものであり、これを否定する合理的理由はないから、参加人の過去の一定期間の市場株価の平均を企業の客観的価値と評価すべきであると主張するが、前記イのとおり、参加人は、平成25年4月1日の時点で、2期連続債務超過により上場廃止基準に該当する蓋然性が非常に高い状態にあったものであり、客観的な企業価値は投資家に開示された情報以外のものも含まれることからすれば、本件において、参加人の市場株価を企業としての客観的価値と認めることはできない。したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。
(3)  本件MBOの実施によって増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分の算定
ア 次に、本件MBOの実施によって増大が期待される価値のうち既存株主が享受してしかるべき部分について検討するに、MBOは経営者と株主との間で構造的な利益相反関係にあるから、本件公開買付けを含めた一連の本件MBOの実施によって増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分の算定に当たっては、本件MBOの目的や実施後の事業計画から予測される収益力や業績についての見通しのほか、本件買付価格が、経営者と株主との利益相反関係に十分に配慮し、これを抑制するための適切な措置が講じられた上で、株主の利益を踏まえた真摯な交渉を経て決定されたか否か、本件公開買付けが適切な情報開示がされた上で株主の多数の賛成を得て成立したか否か、さらに、本件公開買付けに近接した時期に実施された他社の事例におけるプレミアム率等を総合的に考慮するのが相当である。
イ 本件MBOの目的や実施後の事業計画から予測される収益力や業績についての見通し
まず、前提事実(2)ア及びイのとおり、本件MBOの目的は、参加人が2期連続債務超過を理由とした上場廃止によって生じる取引先の信用毀損を避け、併せて上場維持コストの削減により、キャッシュフローの増加をもって慢性的な支払不能状態を脱するとともに、既存株主の投下資本の回収機会を保障し、抜本的な事業改革や長期的視点に立脚した事業運営を可能とすることにあると認められるが、これは、債務超過に陥り、今後上場廃止基準に該当して上場廃止となる可能性が否定できなかった参加人の当時の経営状態からすれば、その目的は正当といえる。また、前提事実(2)エ(ア)及び(イ)のとおり、レッドオスカー及び参加人が作成した事業計画は、いずれも上記の目的に沿った本件MBOを実施することを前提として作成されたものであり、これは本件各第三者算定機関が採用したDCF法による株式価値の算定にも反映されており、その算定に特段不合理な点はうかがわれないから、本件MBO実施後の事業計画から予測される収益力や業績についての見通しは、本件各第三者機関による株式価値算定書に反映されているものと認められる。
ウ 買付価格の公正性を担保し利益相反を回避するための措置等
次に、前提事実(2)オによれば、参加人は、取締役会の意思決定過程の透明性及び合理性を確保するため、本件リーガル・アドバイザーを選任し、本件公開買付けを含む本件MBOにおける意思決定の過程・方法その他の留意点について助言を受けることとし、さらに、本件公開買付けの公正性の担保、本件公開買付けを含む本件MBOの実施を決定するに至る意思決定の過程における恣意性を排除し、参加人の意思決定過程の公正性、透明性及び客観性を確保するために、本件第三者委員会を設置し、同委員会の議論等を踏まえて本件買付価格の引き上げを交渉し、最終的に、本件第三者委員会から、本件MBOの目的は正当であり、本件買付価格その他の条件も妥当であり、本件公開買付けの手続も適正である旨の答申書の提出を受けたものである。また、レッドオスカー及び参加人は、参加人の株式価値を算定するために、それぞれ利害関係を有しない独立した本件各第三者算定機関を選定し、本件買付価格(1株当たり1310円)は、本件各第三者算定機関が評価方法として採用した市場株価法による株式価値の下限付近あるいはこれを若干下回るものの、DCF法による株式価値の上限をいずれも上回るものであったことが認められるところ、参加人の市場株価がその客観的な企業価値を反映したものといえないことは前記(2)イ及びウのとおりである。そして、これらの措置・検討を踏まえて、参加人の取締役会において、本件買付価格その他の諸条件が妥当なものであり、参加人の株主にとって合理的な株式売却の機会を提供するものであると判断し、利害関係を有するAらを除いた取締役全員の一致により、本件公開買付けについて賛同意見を表明し、株主に対して本件公開買付けへの応募を推奨することを決議したというのである。
そうすると、本件公開買付を含む本件MBOは、経営者と株主との利益相反関係を踏まえ、これを抑制するための相応の措置が講じられ、株主の利益を踏まえた真摯な交渉を経て決定されたものと認めることができる。
エ 本件公開買付けの応募率等
そして、前提事実(2)キのとおり、本件公開買付けに当たっては、株主に対し事前に必要な情報が開示されたほか、相応の買付期間が確保され、買付予定数の下限が設定されるとともに、公開買付者以外にも買付等をする機会を確保した上で実施されたものであり、これらは公開買付けの適正性を担保するものと認めることができる。その上で、前提事実(3)のとおり、本件公開買付けにおいて、議決権総数のうち約72.64%の株式を保有する株主から応募がされた結果、レッドオスカーは、平成25年1月22日の時点において、上記同率の株式を保有するに至ったというのである。
オ 以上検討したところからすれば、本件公開買付けを含む本件MBOは、経営者と株主との利益相反関係を踏まえ、これを抑制するための相応の措置が講じられ、株主の利益を踏まえた交渉を経て決定されたものと認めることができる上に、本件公開買付けも適切な情報開示がされた上で株主の多数の賛成を得て成立したものということができ、これらを総合的に考慮すれば、本件買付価格は、本件取得日における参加人の客観的価値(703円)に比して相当のプレミアムが付されていると評価することができる。
そうすると、本件においては、本件公開買付けに近接した時期に実施された他社の事例におけるプレミアム率は明らかでないものの、本件買付価格は、本件MBOの実施によって増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分として十分な増加価値の分配がされているものと認められる。
(4)  したがって、本件買付価格は相当であり、本件の株式取得価格も、本件買付価格と同額の1株当たり1310円とするのが相当である。
3  結論
以上によれば、申立人の保有していた本件株式の取得価格を1株につき1310円と定めるのが相当であり、会社法172条1項を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 日置朋弘)

 

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