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「テレアポ 営業」に関する裁判例(7)平成29年 3月 7日 大阪地裁 平27(ワ)7616号 賃金等請求事件

「テレアポ 営業」に関する裁判例(7)平成29年 3月 7日 大阪地裁 平27(ワ)7616号 賃金等請求事件

裁判年月日  平成29年 3月 7日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)7616号
事件名  賃金等請求事件
文献番号  2017WLJPCA03078001

裁判年月日  平成29年 3月 7日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)7616号
事件名  賃金等請求事件
文献番号  2017WLJPCA03078001

大阪府藤井寺市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 大河原壽貴
同 谷文彰
同訴訟復代理人弁護士 寺本憲治
大阪市〈以下省略〉
被告 有限会社Y
同代表者取締役 A
同訴訟代理人弁護士 吉村卓輝
同 西村直樹

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,144万8228円及びうち138万8684円に対する平成27年7月1日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の請求を棄却する。
3  訴訟費用は,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4  この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
被告は,原告に対し,783万6001円及びうち433万2298円に対する平成27年7月1日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,原告が,家庭用電気製品の小売店である被告との間で雇用契約を締結したことを前提に,①最低賃金法(以下「最賃法」という。)違反の期間について差額賃金の支払,②自宅待機命令を受けたとして自宅待機期間中の賃金の支払,③時間外労働を行ったとして割増賃金の支払を求める事案である。
なお,原告は,当初は,株式会社a(以下「a社」という。)も被告として訴えを提起していたが,後に,a社との関係では訴えを取り下げようとしたところ,a社が訴えの取下げに同意しなかったため,a社との関係では請求を放棄した。
1  前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認めることができる。)
(1)  当事者
ア 被告は,a社のフランチャイジーとして,「a1電器○○店」の名称で家庭用電気製品の小売業を営む有限会社である。
イ 原告は,平成5年○月○日生まれの男性である。
(2)  契約書の作成
ア 原告,a社,被告は,平成25年4月1日付けで,「a1電器開業者研修及び開業契約書」(以下「本件契約書」という。)を作成した。本件契約書には以下の定めがある。(以上につき,甲2)
株式会社aを甲,開業者(研修生)を受け入れる店を乙,開業者(研修生)を丙と定め三者次の契約をかわす。
【第1条】(乙の店名について)
a1電器又は乙固有の店名のいづれでも可とする。但し丙が開業する時は,丙はa社チェーン加盟契約を結びa社チェーンのメンバー店として開業する。
【第2条】(研修期間について)
平成25年4月1日~平成26年3月31日までの1年間とする。
【第3条】(研修期間中の待遇)
研修費は無料です。逆に奨励金として1ヶ月10万円を受け取ることが出来ます。
※店の手伝いをしながら研修を受ける形となります。
【開業の取決め】
・丙が左記1年間の研修を終えた時,甲,乙,丙三者が甲の会社に集り下記4パターンについて今後の話合いをする。
①ないし③(略)
④乙が現状の形で続行を希望し,丙が開業に対し時期尚早と判断した時
【上記4パターンについての取決め】
①ないし③(略)
④乙が現状の形で続行を希望し,丙が開業に対し時期尚早と判断した時
丙が乙の店で開業の自身がもてるまで社員として働き,丙の給料,開業の時期については甲の仲立ちで1年ごとに三者話し合う。
イ 原告,a社,被告は,平成26年3月又は4月頃,「a社チェーン開業希望者員契約書」(以下「開業希望者契約書」という。)を作成しようとしたが,書面作成には至らなかった(丙29)。
ウ(ア) 原告,a社,被告は,平成27年3月又は4月頃,開業希望者契約書を作成しようとしたが,協議がまとまらなかったため作成には至らなかった。上記の開業希望者契約書には以下の定めがある。(以上につき,甲3)
◎(株)aを甲,開業希望社員受入店を乙,開業希望社員を丙と定め三者次の契約をかわす。
【第1条】(期間について)
平成27年4月1日~平成28年3月31日までの1年間とする
【第2条】(待遇について)
基本給 158,000円
保険 労災保険,雇用保険のみ
甲は乙及び丙に対し下記支援を行う
①乙応援費用として月10,000円の援助を行う
②丙の交通費応援代として月11,000円の援助を行う
(イ) 被告は,平成27年3月31日付け雇用契約書を原告に提示したが,契約締結には至らなかった。同契約書には以下の定めがある。(以上につき,甲4)
勤務時間 9:30~18:00(これ以外の時間は自分の時間として活用すること)
休日 日曜・(祝日)*繁忙期はこれに限らず,出勤となることもある。
賃金
基本給 158,000*経費はa社本部でみてもらえる。
応援措置として,出勤日数の8割が○○店勤務,2割を自店勤務扱いとする。
自店勤務の時に応援要請が発生した場合は,応援手当金が生じる事とする。
諸手当 自分から営業をかけて売った商品に対して手当を支払う。手当基準は,○○店テリトリーで売れた場合は利益の2割を,X店テリトリーで売れた場合は利益の9割を支払う。
賃金からの控除 雇用保険料,所得税,店舗使用料及び事務員応援代20,000円
(3)  被告による金員の支払
ア 被告は,原告に対し,平成25年4月から平成26年3月,毎月10万円を支払った。なお,同金員の支払の性質については,当事者間に争いがある。
イ 被告は,原告に対し,平成26年4月に13万8000円,同年5月から平成27年3月は毎月15万8000円,同年4月は11万5867円を支払った。なお,同金員の支払の性質についても,当事者間に争いがある。
2  争点
本件の主な争点は,①原告が労働者に当たるか(争点1),②被告が原告に対し自宅待機を命じたか(争点2),③割増賃金の額(争点3)である。
3  争点に関する当事者の主張
(1)  争点1(原告が労働者に当たるか)について
(原告の主張)
ア 原告は,平成24年10月上旬頃,a社で面談を受けた。同面談の中で,原告が,電器店を開くことに興味があると述べたところ,担当者から,共同店舗方式(社員の状態で既存の店舗に入り,そこで顧客を付けた上で独立する方式)でやってみてはどうかと紹介された。原告が了解したところ,a社は,被告を紹介し,原告は,同月下旬頃から被告でアルバイトとして勤務するようになった。
イ 被告から原告に対して支払われた金員が原告の労働の対価であることは,2年目以降,当初の10万円から少なくとも最賃法違反にならない金額である15万8000円まで引き上げられたこと,同年7月以降,雇用保険料が天引きされるようになったことからも明らかである。
ウ 原告は,被告代表者が午前9時頃に来てシャッターを開ける前に店の前で待機しておくことを義務付けられていた。終業時間についても,被告代表者が帰宅するまで退社することは許されず,店長の帰宅時間が退社時間であった。つまり,原告は,被告から出退勤時間を指示命令されていて,その間,拘束されていた。業務の内容及び遂行方法についても全て被告の指示命令に従っていた。
エ 原告の「給料支払明細書」によると,「給料」として被告から賃金が支払われていたといえる。さらに,被告は,原告の給料から雇用保険料を控除し,さらに源泉徴収を行っており,使用者たる被告が原告を労働者として取り扱っていることがうかがえる。
オ(ア) 原告は,a社から営業用のチラシを渡され,これを配布して顧客を募るよう指示された。しかし,その後,被告代表者は,被告の顧客を増やすため,被告の近くにもチラシを配布するよう原告に指示し,原告はやむを得ずこれに従っていた。具体的には,原告は,チラシやカタログ等を持って,被告の付近を飛び込みで営業活動を行っていた。チラシをみると,「a社○○店」と被告の名前が大きく記載されており,チラシの配布は被告の名前を顧客に周知するのに役立つものである。
(イ) 売上目標を記載した紙は,被告代表者から,「これぐらいの数字だせるやろ」等と言われ,作成を求められたため,それに従ってやむを得ず作成したものである。しかも,この「売上げ月30万円」は原告独自の利益になるわけではない。飽くまで被告の,いわば営業社員として「売上げ月30万円」を求められていたのである。
テレアポについても,被告代表者から,被告の顧客を増やすために被告の近くにチラシを配布する旨及びテレアポ営業をするように指示され,原告はやむを得ずこれに従っていたものである。
(ウ) 販売金額及び経費明細一覧表については,原告は,この訴訟で初めて見たものであり,原告が作成したものではない。同一覧表では,「売上げによる利益」,「経費」の記載があるが,原告はこれらの利益を得たこともなく,経費を負担したこともない。
パソコンの使い方については,当該顧客はもともと被告の顧客であり,原告が新規に開拓した顧客ではない。原告は,しばらく被告の顧客サービスの一環として無料でパソコンの使い方を教えていたが,被告から業務の対価をもらうようにと指示があり,これに従って些少な金額を受け取っただけである。しかも,領収書は,被告の従業員としての原告名で作成されている。
(エ) 印鑑は,a社と被告から作るよう指示されたためである。実際には,この印鑑を使用したこともないし,原告の手元にも保管されていなかった。
印鑑の電話番号については,a社から新しいエリアを開拓するにあたってテレアポをするための新しい回線を引けと指示されたためである。a1電器○○店名義で手続をして,最終的にはa社が必要な金を払っている。
(オ) 原告は,確定申告をしたことが一度もない。原告が,被告で働き始めて1年が終わる頃,被告に出入りしている税理士から,「Y社の方で処理すると労働者性が問題になると思うので,自分で税務署に行って確定申告に行ってくれ」等と言われ,確定申告書を渡された。原告が,同申告書をもって,枚方市にある税務署に行くと,担当者は,「Y社として処理できているようなので確定申告は不要である。なぜ来たのか」等と言われた。このような扱いに原告は不安になり,a社に相談しに行き,確定申告はしなくても大丈夫なのかと聞いた。その後,a社からは法律的に問題になるだろうということで正社員に切り替えるという話になった。
(被告の主張)
ア 本件契約書の冒頭をみれば明らかなとおり,原告は,「開業者(研修生)」であり,被告は研修生を無償で受け入れて独立開業に向けた研修を提供する受入店である。研修生は,研修期間である1年間の経過後,自身で独立開業することが前提とされていた。ただし,その間の生活のため,原告に対し,奨励金として10万円が支給されることとなっていた。原告に労働者性が皆無であることは本件契約書をみれば誰の目にも明らかである。
イ 原告は,1年の研修期間後,独立開業することが前提であったが,この時点ではまだ独立に十分な顧客・営業力・技術力が備わっていなかったため,原告の依頼により,もう1年研修期間を継続することとなった。その際の諸条件については,開業希望者契約書記載のとおりとすることが協議されたが,最終的に協議がまとまらないまま時間が経過したことから,原告の生活等のことも考え,とりあえず研修奨励金を15万8000円に増額するとともに雇用保険等も付保することとして,前年同様の契約関係を継続することとした。したがって,2年目についても,飽くまで原告の身分は研修生のままであり,労働者ではない。
ウ また,原告については,2年目の研修終了後も独立開業について不安があったことから,被告にとっては負担であったが,特例的に3年目の研修を認めることになった。a社チェーン開業希望社員契約書及び雇用契約書は締結されるには至らず,被告としては,研修2年目及び3年目についても,飽くまで原告の身分は1年目と同様の研修生のままであり,労働者ではないと認識していた。
エ(ア) 研修生であっても,研修の始期と終期を定めるのは当然であるから,研修時間を午前9時半から午後6時までとすることは出退勤時間を管理していたことにはならない。むしろ,被告は,タイムカード等による出退勤管理は行っていないのであり,出退勤時間が管理されていたという原告の主張は事実に反する。
(イ) 仮に,原告が被告代表者の退勤時まで全ての時間を労働者としての業務に専従することになっていたのだとすれば,ビラを配布するような原告自身の営業活動はできなかったはずである。
原告は,弁護士業界でいう「ノキ弁」と同様に,被告の店舗の一部を借用しながら,独立のa社チェーン店舗として個人事業主の地位を有していた。原告は,a社から,淡路,東淡路,西淡路,菅原,東中島,柴島を営業エリアとして与えられ,営業用のチラシを配布して顧客を募っていた。原告は,同チラシにおいて,自筆で,「このたび電器屋を開業します『X』です。」,「平成25年4月よりa1電器○○店(b大学前にあります。)にて修行して来ました。」と自己紹介しているが,これが本件訴訟における原告の主張と矛盾し,被告の主張に沿うものであることは誰の目にも明らかである。
(ウ) 顧客先に出向いて工事等の作業を行うのは1日あたり,一,二件程度であり,遅くとも午後4時から5時くらいには店舗に戻ることができ,時間が空くのが通常であった。原告は,工事等の注文については被告代表者に同行し,作業を手伝いながら作業工程を勉強したが,それ以外の時間は,被告の営業時間内でも,自身の営業エリアにチラシを配布したり,テレアポ営業をしていた。したがって,原告が被告とは独立した事業主としての地位を有していたことは明らかである。例えば,原告は,月間目標として1週間で70件のテレアポをすることやチラシ配布を実施することを掲げ,あるいは月間30万円の売上目標を掲げている。これらは,原告が独立の事業主として営業活動を行っていたことの証左である。
被告代表者は,あまりに原告に顧客が付かないため,原告とも相談し,まずは被告の顧客内での原告の知名度を上げ,口コミで原告独自に割り当てられた営業エリア内にいる顧客を紹介してもらうことによって徐々に原告独自の営業エリア内での知名度を上げていく戦略をとることを勧めた。全ては,原告の知名度を上げるためのチラシの配布であって,専ら被告のための配布ということはない。
(エ) 平成26年11月度の「販売金額及び経費明細一覧表」によれば,原告が,自身の売上げ及び経費として,同月中にコンセントや暖房器を販売し,営業用の紹介カード作成費用を経費として負担していたことが分かる。同様に,平成27年1月度,同年3月度の一覧表では,原告がシャープクリーナーやテレビを販売し,営業用のニュースレター作成費用等を経費負担したことが分かる。さらに,原告は,a社に係る売上げ以外にも,自身で顧客を獲得し,得意なパソコンの使い方等を顧客にレクチャーし,その対価を受領していた。
(オ) 原告は,自身の名前が入ったゴム印,自身をイメージした似顔絵,a1電器○○店の印を独自に作製して保有しており,必要に応じて使用していた。原告が,被告の従業員の身分にとどまるのであれば,被告の許諾を得て被告の印鑑を使用すべきところ,原告が被告の印鑑とは別に上記のような独自の事業用印鑑を作製したのは,被告とは独立の事業主として自身の印鑑を押印するためであるから,原告が個人事業主としての地位を併有していたことを裏付ける事実である。
少なくとも,被告が,原告に対し,印鑑の作製を指示したことはない。原告名の印鑑には電話番号の記載があるが,これは原告自身が契約した電話番号であり,被告の電話番号とは異なる。原告が被告の営業社員であれば,敢えて被告と異なる独自の電話を引く必要など全くない。
(カ) 確定申告をしたことがないという事実は,単に原告が申告義務に違反して脱税という違法行為を行っていたということの告白でしかない。
(2)  争点2(被告が原告に対し自宅待機を命じたか)について
(原告の主張)
原告は,被告及びa社との契約に疑問を持ち,労働組合に加入することになった。原告は,平成27年4月23日,労働組合の役員とともに被告を訪れ,原告が労働組合に加入したことを通告し,団体交渉を申し入れた。そうしたところ,被告は,原告に対し,自宅待機を命じた。
(被告の主張)
ア 被告は,原告に対し,自宅待機など命じていない。仮に,原告と被告との間に労働契約があったとしても,原告が主張する期間は原告の欠勤であるから給与は発生しない。
イ 被告代表者が,平成27年4月23日に出勤すると,原告と見知らぬ男がおり,その見知らぬ男が,突然,原告が組合員になったこと,自分が原告の担当者であることを告げ,一方的に団体交渉申入書を読み上げ始めた。被告代表者は,顧客先の工事に向かう必要があったため,原告に対し,「仕事はどうするのか,今日は一緒に行くのか,帰りたいということか。」と繰り返し質問したが,原告は黙ったまま何ら回答しなかった。そうしたところ,労働組合担当者が,「それは自宅待機命令か」と突然主張し始めたので,被告代表者は,「違う」と答えた。
ウ 被告代表者は,平成27年4月末頃,労働組合の担当者から,「原告の休暇届をファックスするので受け取ってください」という連絡を受けた。被告代表者が,まずはa社に連絡するよう依頼するとともに,「こちらとしてはいつ来てもらってもいい」旨告げたところ,労働組合の担当者は,「本人に確認して連絡します。」と言って電話をきった。
(3)  争点3(割増賃金の額)について
(原告の主張)
ア 出勤時間は午前9時と定められていた。出勤後,午前9時30分に開店するまでは開店準備と打合せを行い,午前9時30分になると,原告は,被告代表者と顧客先での工事に出発するのが日常であった。被告は,午後7時30分に閉店するが,閉店後も店長が帰宅するまで原告が退社することは許されず,店長の帰宅時間が原告の退社時間であった。そのため,原告の退社時間は午後8時から午後9時の間くらいの時間になることが多かった。
イ(ア) 原告は,甲5号証のノート(以下「本件ノート」という。)記載のとおり,平成27年1月1日も勤務を行った。被告が指摘している広報の記事については,被告代表者から,仕事のことを書かないようにと言われたことから,それ以前に勝尾寺に行ったときのことを書いたものにすぎない。
(イ) 本件ノートの記載をみると,出勤時間が午前8時50分頃から午前9時10分頃までの間で日々ばらつきがある理由は,原告が午前8時50分頃に店の前で待っていて,被告代表者が午前9時よりも少し早めに来た日は午前8時50分頃の時間,少し遅めに来た日は午前9時10分頃の時間で記載しているからである。このように,本件ノートは,日々,個別具体的に時間が記載されており,信用性が高い。
(ウ) 手帳の外観に関する被告の主張は,独自の評価にすぎない。
(エ) 被告の工事台帳は,基本的に被告代表者が作成したものであり,時折原告の字もあるようであるが,これも被告代表者の指示に基づいて書いたものにすぎない。また,工事台帳の最終ページに「X休」となっている日以降も作業内容の記載があることからわかるとおり,工事台帳の記載は原告の勤務状況を直接示すものではない。さらに,日曜祝日定休日や盆休み年末年始休暇には,被告代表者が店に来ていないことも多く,工事台帳が記載なしとなっているのはそのためである。
なお,被告代表者は,日曜祝日定休日や盆休み年末年始に出勤したことにすると給料が発生するので,出勤は記録しない旨を原告に対して述べていた。
別紙1について述べると,例えば,平成26年2月14日は,「大雪(キャンセル)」となっているが,原告は,大雪の中,既に出勤していて店内でできる業務を行っていた。同年3月6日は「クエ旅行」となっているが,これは被告の店員となじみの顧客が旅行に行ったものにすぎず,原告は旅行に行かずに被告にて業務に従事していた。平成27年3月21日は,「X事故で来ない!!」となっているが,原告は被告で勤務している期間に一度も事故になどあったことなどなく,全く事実無根である。同年4月23日は,「X休」となっているが,原告は,労働組合の役員と共に被告を訪れて団体交渉を求めた結果,被告から自宅待機を命じられたのであり,休んだわけではない。
ウ 被告は,労働者の労働時間管理を全くしていない。かかる使用者の義務違反に基づく不利益を労働者たる原告に及ぼすことは信義則上も許されない。
(被告の主張)
ア 仮に,研修2年目以降,原告に労働者的要素が認められるとしても,それは午前9時30分から午後6時までの範囲である。原告は労働者と個人事業主の地位を併有していたということにしかならず,純粋な労働者ではない。1日の動きとしては,午前9時30分から午後6時頃までは店長に付いて回って電気工事等を学び,午後6時以降は個人事業主として自身が担当するエリア等にビラ配りをするなどして顧客獲得のための活動を行っていた以上,仮に労働者性が認められるとしても,午前9時30分から午後6時までの範囲である。
街中の小さな電気店に午前9時30分の開店と同時に来店する客はいないのであり,毎朝,開店前の時間帯から開店準備をすることなどない。
イ 被告では被告代表者が出勤してシャッターを開け,午前9時30分に開店することになっており,そこから諸々の準備をして,顧客先での工事等に出発するのは午前10時頃となるのが通常である。原告は,朝の混雑を避けるため,開店よりも早い時間に被告に着いていたようであるが,それは飽くまで原告の都合であり,被告の業務命令として午前9時出勤を命じた事実はない。
被告は,午後7時30分を閉店時間としているが,冬季等の閑散期には午後7時前に閉店することもあり,必ずしも午後7時30分まで営業しているわけではない。また,原告に対する研修は午後6時までであり,それ以降は,原告自身が独立開業に向けた営業等を行う自由時間であったから,店長が帰宅するまで原告の退社が許されなかったなどということはない。
ウ 休憩時間についても,手が空けば休憩をとることはできたし,原告自身の仕事をすることもできたのであり,正午からの1時間に限定されたものではない。
エ(ア) 原告は,本件ノートに自らの出退勤時間を毎日記録していたと主張するところ,本件ノートによれば,平成27年度は1月1日から勤務していたとのことであるが,同日は,当然ながら正月休みである。原告自身,被告が発行する広報に,平成27年1月1日には高校の同級生らと勝尾寺に初詣に出かけた旨の記事を載せており,労務に服していなかった事実は明らかである。原告が主張するように毎日作成していたのであれば誤解による誤記などないはずであるから,上記は意図的な虚偽記載ということになる。残業代をより高く請求するための後付けの証拠である疑いが極めて高い。
(イ) 本件ノートの記載期間は平成25年4月1日から平成27年4月14日まで丸2年にわたって毎日作成されているにもかかわらず,本件ノートの角などに目立った傷みがないというのは不自然極まりない。また,毎日の記載である以上,記入する際のボールペンのインクの濃淡が日ごとに変化するのがごく自然であるところ,ページごとに異なるというのは極めて不自然である。時刻の記載も一定の角度を保って斜めにずれ,ふと途中で書き直すような体裁となっている。毎日1行ずつ記載していれば,そのようなことは起きず,一度に書こうとした結果,記載のずれに気付かずに起きた現象である。字の大きさ,形もページごとに似通っており,毎日,1行ずつ記載したようには見えず,むしろ一度に記載したとも言えるような体裁である。そのためか,各ページの最後の数日分は一度に書いた疲れからか,多くの字は崩れている。
(ウ) 別紙1のとおり,被告の工事台帳と対照すれば,本来店舗が休みの日や,自身の都合で休んだ日にまで仕事をしていたことになっており,ここからも手帳には明らかな虚偽が含まれていることが分かる。
日曜祝日や盆正月は,被告は休業日であり,被告代表者が店に来るはずがなく,作業がないため記載がない。原告が休日出勤していたという事実もなく,その根拠もない。
被告代表者や家族は,原告から,車3台による玉突き事故で車の修理や通院が大変だという報告を受けており,当時かなり心配したこともあって明確に記憶している。仮に,原告が主張するとおり,実際には交通事故はなかったのだとすれば,虚言を弄して無断欠勤した日について出勤した旨記載してあるということである。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前提事実のほか,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
(1)  原告が研修生になる前の時点における被告の従業員は,代表者,代表者の妻(ただし,原告が研修生として来た以降は被告の従業員としては勤務していない。),代表者の妹であるB,代表者の父親,代表者の母親であった。被告の営業時間は午前9時30分から午後7時30分,定休日は日曜・祝日である。(以上につき,丙1,被告代表者尋問調書36頁)
(2)ア  a社は,「経営者募集・後継者研修制度のご案内」と題する資料で電器店経営者の募集や研修制度の紹介を行っている(丙9)。
イ  原告は,平成24年11月25日付けでエントリーシートを提出した。原告は,同シートの「志望動機・特技・好きな学科など」欄に,「高校の時に将来電器屋をやりたいと思ったが,周りに反対され,知識もないので,別の仕事をして資金を貯めてから電器屋を開業しようとしましたが,色覚異常が発覚し,電気工事士の就職も駄目になりかけた時に御社のインターシップを知り,共同店舗の話をお聞かせていただき,私にとってとても魅力的感じ,契約の話までしていただき,とても嬉しかったです,知識も余り無いですが,宜しくお願い致します。」と記載した(丙13)。
ウ  被告は,原告に対し,平成25年4月分ないし平成27年4月分の給料支払明細書を交付していた(甲6の1ないし23)。
エ  被告の平成26年2月頃のチラシには,「淡路,東淡路,西淡路,菅原,東中島,柴島は私Xが担当します」と印字され,原告の第二種電気工事士免状が掲載されている。また,同チラシには,原告が自筆で,「はじめまして,このたび電器屋を開業します「X」です。専門学生時代に「でんきやさんの1日体験」に参加し「やっぱり,この仕事はエエな,やってみたい!」と思いました。学校では電気工事士2種の免許も取り,平成25年4月よりa1電器○○店(b大学前にあります。)にて修行して来ました。まだ,21才という若さなので,至ぬ所も多々ありますが,他のスタッフのサポートをもらいながら,がんばります。何かお困りごとがありましたら,ご気楽にご相談下さい!!」と記載している。また,同チラシには,被告の住所・電話番号が記載されている。(以上につき,丙3)
オ  原告は,平成26年5月,「Xちゃん通信」を創刊した。「Xちゃん通信」には,「発行:a1電器○○店 X」,「縁あって,現在はa1電器○○店開業研修生として電気屋開業を基礎から学んでおり,来年四月には独立を予定しております。」などと記載されているほか,被告の住所・電話番号が記載されている。(以上につき,丙14)
カ  原告は,平成26年2月から同年9月にかけて,Cにパソコンの使用方法を教えた代金を受領した(丙6の1ないし7)。
キ  原告は,平成26年10月25日,同年12月26日,平成27年1月29日,同年3月27日,a社の担当者に対し,経費報告書,領収書を送信した(丙17,19ないし21)。
ク(ア)  平成26年11月度の「販売金額及び経費明細一覧表」には,「売上による利益」として,コンセント及び暖房機を合計1万3000円で販売し,粗利が合計6406円であること,「経費」として紹介カードの金額が2550円であることが記載され,下部に「a社○○店 氏名X」と記載されている(丙5の1)。
(イ) 平成27年1月度の「販売金額及び経費明細一覧表」には,「売上による利益」は空欄であり,「経費」として自転車修理代及びニュースレターが8713円であることが記載され,下部に「a社○○店 氏名X」と記載されている(丙5の2)。
(ウ) 平成27年3月度の「販売金額及び経費明細一覧表」には,「売上による利益」として,クリーナー及びテレビを合計9万1600円で販売し,粗利が4万6202円であることが記載され,「経費」は空欄であり,下部に「a社○○店 氏名X」と記載されている(丙5の3)
ケ(ア)  原告は,「H27年 1月目標」として,「テレアポ(1週間で70件)」,「チラシくばり(カタログくばり)」,「H27年1年間の目標」として,「売り上げ月30万円」などと記載した(丙4の1)。
(イ) 原告は,「4月目標」として,原告の欄に「テレアポを平日にする」,「休日:チラシくばり&営業」,店の欄に「テレアポ」,「困ったチラシくばる」,「売上目標:30万円!!」などと記載した(丙4の2)。
コ  原告は,「a1電器○○店X TEL〈省略〉」などと記載された印鑑,原告の似顔絵の印鑑,「a1電器○○店印」との印鑑を作成した(丙7の1ないし3)。
(3)  労働組合cユニオンは,平成27年4月23日付けで,被告及びa社に対し,原告が加入したことを通知するとともに,団体交渉の申入れを行った(甲8)。
(4)ア  本件ノートには平成25年4月1日から平成27年4月14日までの日付が記載されている。また,各日付ごとに,二つの時間が記載されている。(以上につき,甲5)
イ  原告は,平成27年1月吉日付け被告の広報誌に,「元日に高校の同級生達と初詣に。毎年,初詣は伏見稲荷大社(京都)に行くのが恒例だったのですが,今年は大阪府箕面市にある,勝負の神様で有名な「勝尾寺」に行ってきました!山の頂上付近にある為,車で行くことになりました。山の麓までは順調に到着。(時刻は14時30分)」などと記載した(丙2,原告本人尋問調書37ないし39頁)。
ウ  被告の工事台帳には,「X休」,「X早退」,「X事故で来ない!!」などと記載されている日がある。また,平成27年4月23日以降についても作業内容が記載されている。(以上につき,丙8)
2  争点1(原告が労働者に当たるか)について
(1)  前提事実(2)アのとおり,原告は,本件契約書において,「開業者(研修生)」として記載されている。しかし,労基法9条は,同法における「労働者」について,職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者をいうと定義しているところ(労基法9条),そうであるならば,当事者間において,「雇用契約」あるいは「労働契約」などとは異なる名称の契約を締結して業務に従事していたとしても,そのことをもって,直ちに,「労働者」に当たらないことになるのではなく,その実態を踏まえて判断することが必要である。
(2)  本件についてみると,原告は,高等学校卒業後,専門学校(電気工学学科電気工事工コース)在学中にa社の1日体験のチラシを見たことを契機として被告でアルバイトを行い(丙13),平成25年4月1日付けで本件契約書を締結したものであるが,原告の経歴から明らかなとおり,社会人経験はなく,実務経験も数か月のアルバイトのみである(原告の電気工事に関する知識も経験も不十分であったことは被告代表者も自認している(丙29)。)。そのため,原告は,同日以降,被告において,被告代表者が顧客の下に赴く際に同行し,電気工事の方法等の指導を受け,技術を修得するなどしていたものであり,かかる状況に鑑みれば,原告が,被告からの指示を拒否することは想定し難く(原告が被告からの指示を拒否したというような事情を認めるに足りる証拠もない。),また,原告が,実際に電気工事を行う際には,知識も能力も不十分であることからすれば,被告代表者の指示に従って行うほかないから,具体的な業務遂行方法について,被告の指揮命令下にあったことは明らかである。
また,工事台帳(丙8)には,原告が早退したり,欠勤したりした旨の記載がなされているところ,「早退」とは定刻より早く退出することをいい,「遅刻」とは定刻より遅れて来ることを意味するが,そのような記載がなされているということは,原告が,定められた時間までに被告の店舗に出社すること及び定められた時間まで被告の店舗に在社することとされていたことを意味するものであるから,原告には,時間的・場所的拘束性があったといえる。
さらに,証拠(甲6の1ないし23)によれば,被告が,原告に対し,毎月「給料支払明細書」を交付し,「基本給」,「本部」,「交通費」という費目で金員を支給するとともに,平成26年7月分以降は源泉徴収や雇用保険への加入もしていたことが認められるところ,特に,「給料支払明細書」を使用していたことや,「基本給」という費目で支給していたこと,源泉徴収をしていたこと,雇用保険に加入させていることは,被告が(あるいは,制度を実施しているa社が),原告に対する支払を賃金と認識していたことをうかがわせる事情であると評価することができる(なお,平成25年4月分から平成26年6月分までの期間は雇用保険に加入しておらず,源泉徴収も行われていないが(甲6の1ないし14),支給総額が変更されておらず,ほかに特段の事情があることもうかがわれないことからすれば,被告(あるいは制度を実施しているa社)が必要な措置をとることを怠っていたにすぎない。)。
そして,本件契約書で「奨励金」とされているものが,生活の保障のためであることは被告も自認している(被告準備書面1・12頁)。なお,被告は,原告の立場はいわゆる「ノキ弁」と同様であるとも主張するが(被告準備書面1・12頁),「ノキ弁」の場合は,既存の法律事務所から「ノキ弁」として独立開業している弁護士に個別の事件の処理とは関係なく金員が支払われることはないから,事情が異なることが明らかである。
加えて,原告が独立した事業主であるのならば,税務申告をすることが必要になることもあり得るところ,確かに,被告が主張するとおり,税務申告は個人の責任ではあるが,他方で,初めて開業する者にとっては税務申告の必要性・方法等について適切な知識・能力を有していないことも珍しくない。そして,原告が独立した事業主として,かつ,a社のフランチャイズとして活動するのであれば,原告が適正な税務申告を行わなければ,税務調査の対象となったり,更正処分を受けたり,刑事事件となったりすることもあるが,そのような事態が報道されることとなれば,a社のブランドイメージにも悪影響を及ぼすことになるのだから,a社あるいは被告から,原告に対し,指導・助言がなされてしかるべきである。しかし,本件において,原告に対し,被告あるいはa社から税務申告の必要性等について指導・助言が行われたというような形跡は見当たらない。
また,真に,研修生であったのであれば,研修(a社が,家庭用電気製品の小売業であることからすれば,家庭用電気製品についての知識の習得,電気工事に関する知識の習得,電気工事の実技研修等が想定される。)を実施しているはずであるが,本件において,a社自身が何らかの研修を行ったことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,本件契約書等に照らせば,a社のフランチャイジーである被告に任せており,a社自身は何らの研修を行っていないことがうかがわれる。そして,被告においても,原告が被告の日常業務に同伴したり,店舗での接客業務に従事していたことは認められるものの,顧客対応等の被告の業務を離れて,原告に技術・知識を習得させるために,被告が,原告に対し,何らかの研修を行っていたというような事情もうかがわれない。
さらに,被告が主張するように,独立開業を前提とした研修生であれば労働者に当たらないというのであれば,企業が,将来的に自社のフランチャイズ等になることを前提とした研修制度を設け,日常の業務の中で技術・ノウハウを取得させるとして,協力店で日常業務に従事させることとすれば(なお,本件契約書においても,店の手伝いをしながら研修を受けることが明記されている。),労基法等の労働関係法令の規制を潜脱しながら自社の業務に従事させることが可能となるが,そのような事態を招くこととなっては,労働者の保護を図ることができないこととなる。
(3)  被告は,原告が,独立した個人事業主として営業活動を展開していたとし,その具体的な根拠として,①ビラを配布したり,電話による営業をしていた,②月間30万円の売上目標を掲げている,③「販売金額及び経費明細一覧表」によれば,原告が自身の売上げ及び経費を計上し,負担している,④パソコンの使い方をレクチャーし,対価を受領していた,⑤自身の名前が入ったゴム印等を作成・使用していた旨指摘する。
しかし,①については,認定事実②エ,オのとおり,原告が配布していたチラシには,「a1電器○○店」と被告の名称が記載され,被告の電話番号が記載されている。また,同チラシには,原告のほか,被告代表者や被告の親族といった,被告の従業員が写った写真が掲載されている。そうすると,確かに,丙3号証のチラシには,原告が電器屋を開業する旨の記載もあるが,他方で,同チラシが,原告の事業として配布されていたのであれば,被告の電話回線とは異なる電話回線を原告が引いていたというのであるから,当該原告独自の回線に係る電話番号が記載されるはずであるが,上記のとおり,同チラシに記載されている電話番号は被告の電話番号であることや,丙14号証のチラシでは,平成27年4月に独立予定である旨記載されており,かかる記載を前提とすれば,原告がいまだ独立していないことが前提となっていることがうかがわれ,これらの記載を全体としてみれば,原告が配布していたチラシは,原告の宣伝というよりも,被告の宣伝と評価すべきものとなっている。また,原告が行っていたとされる電話による営業の具体的内容は明らかとなっていない。
そうすると,ビラや電話による営業に関する事情をもって,原告の労働者性を否定する証左と評価することはできない
②については,確かに,認定事実(2)ケ(ア)のとおり,原告が,平成27年1年間の目標として,月の売上げ30万円としていることが認められるが,他方で,認定事実(2)ケ(イ)のとおり,原告は,店(被告を表すものと解される。)の目標として「売上目標30万円!!」とも記載している。かかる記載に照らせば,月の売上目標30万円というのは,被告の従業員として月30万円という目標を掲げたものと解される(ノルマと評価するのかはともかく,従業員が売上目標を設定することは珍しいことではない。)。
そうすると,月間売上目標に関する事情をもって,原告の労働者性を否定する証左と評価することはできない
③については,確かに,認定事実(2)キ,クのとおり,「販売金額及び経費明細一覧表」には,利益及び経費が記載されていること,原告がa社の担当者に経費報告書,領収書を送信していること,原告自身が,経費負担を認める旨の供述をしていること(原告本人尋問調書21,22頁)が認められる。
しかし,実際に,原告が独立の事業主として独自の活動を行い,その活動において利益を上げたり,経費を負担していたのであれば,毎月,その利益については,被告あるいはa社から原告に支払われ,経費については,原告が被告あるいはa社に支払うことになるが,原告に係る給料支払明細書(甲6の1ないし23)をみても,そのような記載はなく,ほかに,原告がそのような経費の支払をしていたことあるいは利益の支払を受けていたことを認めるに足りる証拠もない。なお,原告の供述には,「個人に渡されてた経費」(原告本人尋問調書22ページ)とあるところ,原告が個人的に(自らの出捐で)経費を負担していたのではなく,原告が使用することができる経費枠があったことを意味するとすれば,整合的に説明することができる
そうすると,「販売金額及び経費明細一覧表」に関する事情をもって,原告の労働者性を否定する証左と評価することはできない。
④については,確かに,認定事実(2)カのとおり,原告が,平成26年2月から同年9月にかけてパソコンの使用方法を教えた対価を受領しているが,月額数千円程度にとどまっており,同時期に,原告が被告から支払を受けていた金額が10万円ないし15万8000円であることと対比すれば,④の事実をもって,直ちに,原告の労働者性を否定することは困難である。
⑤については,確かに,認定事実(2)コのとおり,原告は,自身の名前や似顔絵が入った印鑑を作成している。しかし,実際に,原告が,独立した事業主として活動し,その活動において,自身の名前や似顔絵が入った印鑑を使用していたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,証拠(丙6)によれば,原告個人の事業としてなされたものであるというパソコンの使い方のレクチャーの対価を受領した際に作成された領収書にも,被告が指摘する原告自身の名前や似顔絵が入った印鑑は押印されておらず,被告の名称,住所,電話番号が入った印鑑が押印されていることが認められる(原告名の押印は,その外観・位置に照らせば,被告の担当者として押印したものであることがうかがわれる。)。
そうすると,原告の名前や似顔絵が入った印鑑に関する事情をもって,原告の労働者性を否定する証左と評価することはできない
以上に加えて前記(2)の説示をも併せ考慮すれば,原告が,研修2年目以降について独立した個人事業主であったということはできない。
(4)  被告は,原告の研修1年目は,1年後に独立開業することを前提とした研修であった,1年間の研修が終了した時点では独立するのに十分な顧客・営業力・技術力が備わっていなかったため研修をもう1年継続することになった,2年目の研修が終了した時点でもやはり独立するのに不安があったことから3年目の研修を行うことになった旨主張する一方で(被告準備書面3・2頁等),原告が,少なくとも研修2年目以降については独立した個人事業主の地位を有していた旨も主張している(被告準備書面3・2頁等)。
しかし,独立開業することができないから2年目以降も研修を継続することとしたというにもかかわらず,2年目以降は独立した個人事業主の地位を有していたというのは,その主張自体が矛盾しているといわざるを得ない。
(5)  以上を総合考慮すると,被告が主張する開業者研修は,その制度について十分な検討がなされたものということはできず,既に説示した客観的な事情等からすれば,被告あるいはa社において開業者研修と位置づけており,原告が,「研修生」と呼称されていたとしても,法的に評価すれば,原告は,労基法が定める「労働者」に該当するというべきである。
なお,被告は,前記のとおり,仮に,原告が「労働者」に該当する余地があるとしても,それは研修2年目以降に労働者としての地位が併存していたという限度であり,1年目と2年目以降は異なる旨主張する。しかし,被告の主張によれば,原告の顧客・営業力・技術力が不十分であったことから,2年目あるいは3年目も研修を継続することとなったというところ,そうであるならば,1年目と2年目以降を比較しても,普段の活動状況等の客観的な状況は同一であったことになり,実際,1年目と2年目以降を比較しても,「奨励金」の金額が変更になった以外は,原告の被告における日常の活動内容や原告と被告(あるいはa社)との関係が変更になったというような事情はうかがわれない。そうすると,1年目と2年目以降も,原告の立場(労基法が定める「労働者」)は同様であると認められる。
3  争点2(被告が原告に対し自宅待機を命じたか)について
原告は,平成27年4月23日,被告から自宅待機を命じられた旨主張し,原告本人もこれに沿う供述をする。
しかし,原告の供述を客観的に裏付ける証拠はないほか,原告が労働組合に加入しており,同日も,労働組合の役員が原告と共に被告を訪れて団交交渉を申し入れているところ(認定事実(3)),仮に,原告が主張するとおり,被告が,原告が労働組合に加入し,労働組合が団体交渉を申し入れたことを理由として原告に自宅待機を命じたのであれば,労働組合としては,漫然と放置するのではなく,不当労働行為であるとして抗議したり,被告に対し,自宅待機の理由・期間を明らかにするよう求めたり,その間の賃金の支払を求めることが容易に想定されるが,本件において,労働組合がそのような行動をとったことを認めるに足りる証拠はない。
以上からすると,原告の供述を採用することはできず,ほかに,被告が,原告に対し,自宅待機を命じたことを認めるに足りる証拠もないことからすれば,被告が,原告に対し,自宅待機を命じたと認めることはできない。
4  争点3(割増賃金の額)について
(1)  原告は,出勤時間が午前9時と定められていた,開店時間までは開店準備と打合せを行っていた,午後7時30分に閉店した後も,店長(被告代表者)が帰宅するまで退社することは許されないため午後8時から午後9時くらいになることが多かったとした上で,本件ノートが労働時間を正確に記載したものである旨主張し,原告本人もこれに沿う供述をする。
ア しかし,本件ノートの記載を前提とすれば,原告が,平成25年から平成26年にかけての年末年始(平成25年12月31日ないし平成26年1月4日),平成26年から平成27年にかけての年末年始(平成26年12月31日ないし平成27年1月10日)に勤務したことになり,平成25年及び平成26年とも盆休みもなかったことになるほか,被告が別紙1で指摘するとおり,被告の定休日である日曜・祝日にも頻繁に勤務していたことになるが,認定事実(1)のとおり,被告が従業員5人の小規模家族経営の店舗であることに鑑みれば,上記のような年末年始あるいは盆といった期間を営業日とすることは想定し難く(被告代表者も,年末年始及び盆は休みである旨供述している(被告代表者尋問調書36,37頁)。),また,定休日である日曜・祝日に頻繁に勤務が必要になるという事態も想定し難い。そして,工事台帳(丙8)をみても,日曜・祝日に作業が行われた旨の記載はほとんど見当たらない(なお,工事台帳は,日常の業務の遂行のために作成されたものであると認められ,その記載内容は基本的に信用することができる。)。
イ また,認定事実(4)イのとおり,原告自身が,被告の広報において,平成27年元日午後に友人と勝尾寺に初詣に出かけた旨記載しているところ,他方で,本件ノートには,同日は午前8時53分から午後7時1分まで勤務した旨の記載があるが,午後に初詣に出掛けながら本件ノートに記載されたような時間に勤務することは不可能である。
原告は,広報の記載は,被告から仕事のことを書かないように言われたことから以前のことを書いたにすぎない旨主張し,原告本人もこれに沿う供述をするが,被告がそのような指示をしなければならない理由も必要性もうかがわれない。また,原告の供述を前提とすれば,平成27年元日にカタログの配布作業を行っており,朝と夜に店舗に入ったことになるが(原告本人尋問調書39頁),あえて元日にカタログ配布を行う理由も必要性もないほか,広報(丙2)をみれば,他の従業員の欄にも写真が掲載されており,記事の内容も具体的で迫真性に富んでいることなどからすれば,他の従業員は被告代表者が供述するとおり(被告代表者尋問調書35,36頁),家族旅行に出かけていたことがうかがわれ,そうであるならば,店舗の鍵を所持していない原告が店舗に立ち入ることはできなかったことになる。
以上からすると,広報の記載に関する原告の主張・供述を採用することはできない。
ウ さらに,被告においては,平成25年11月23日,同月24日,平成26年11月22日,23日にセールが実施されているところ(丙8),原告は,セールに出勤していたか尋ねられると,「出た記憶はありますね。その前に,まず,店としてもこういう制度があるということを本部のほうから聞いていましたので」(原告本人尋問調書41頁),「売り屋のほうで,本部の所長のほうとかも来た記憶がありますので」(原告本人尋問調書42頁)と供述したが,本件ノートには,上記4日間について,平成26年11月22日を除いては勤務した旨の記載がないことを指摘されると,「1年目のときは,来なくていいよということで店の人に言われたので来ていません。」,「2年目の冬のとき,1日だけ出まして,もう1日のほうは本部ですね,のほうで何かあったので,そっちに出勤のほうしてるはずなんで」(原告本人尋問調書42頁)と供述するに至っている。
しかし,上記のような供述の変遷自体が不自然・不合理であることに加えて,原告が研修生であったことからすれば,顧客獲得や技能習得のため,あるいはセールの実情を学ぶためにも,研修先である被告において業務に従事することが想定され,他方,そのように知識も経験も不十分である原告をa社本部で勤務させる理由も必要性もうかがわれないほか,原告自身,本部でいかなる業務に従事していたのか具体的な説明をすることができていない。
以上からすると,セールの日について,平成26年11月22日を除いて本件ノートに記載がないことに関する原告の供述を採用することはできない。
エ そして,被告は,平成27年3月21日について,原告から玉突き事故にあったため休む旨の申告があった旨主張し,被告代表者もこれに沿う供述をする(丙29,被告代表者尋問調書13頁)のに対し,原告は,被告で勤務していた期間に事故に遭ったことはない旨主張し,原告本人もこれに沿う供述をする(甲10,原告本人尋問調書5頁)。
この点については,認定事実(4)ウのとおり,工事台帳(丙8)の平成27年3月21日欄には,「X事故で来ない!!」との記載がなされているのに対し,本件ノートには,同日は午前8時51分から午後8時30分まで勤務した旨の記載がある。被告代表者の供述は工事台帳の記載と整合しているところ,前記説示のとおり,工事台帳の記載内容は基本的に信用することができること(後日書き加えたことをうかがわせる事情は認められない。),他方,前記イ説示のとおり,同年1月1日に関する本件ノートの記載を採用することができないこと,後記説示のとおり,本件ノートに関する被告の指摘には傾聴すべきものがあること,実際に,原告が事故にあったか否かはさておき,原告からそのような申告があったため工事台帳に記載したとの供述内容は,具体的かつ合理的なものといえることなどからすれば,被告代表者の供述を採用することができ,他方,原告の供述を採用することはできない。
したがって,平成27年3月21日については,原告は勤務していないものとする。
オ なお,原告によれば,本件ノートを常に鞄に入れて携帯し,日々,朝に出勤した後ですぐに正確な出勤時間を記載し,あるいは店を出た後で正確な退勤時間を記載していたというのである(甲10・15頁,原告本人尋問調書4,5頁)。被告は,本件ノートは丸2年にわたって記載されているというにもかかわらず,ノートの角などに目立った傷みがないのは不自然であること,毎日記載していたのであれば濃淡が日ごとに変化するのが自然であるが,本件ノートはページごとに異なっていること,時刻の記載も一定の角度を保って斜めにずれ,途中で書き直すような体裁となっていることなどを指摘するところ(なお,本件ノートの状態が被告が指摘するとおりであることは第1回弁論準備手続期日で確認したとおりである。),確かに,被告が指摘するとおり,2年間もの長期間にわたって持ち歩いていたのであれば,ノートに変形・変色等の時の経過に伴う変化が生じる可能性が高いことなどに照らせば,被告の指摘には傾聴すべきものが含まれているというべきである。
カ 以上に加えて,本件ノートには日付,出勤時間とされる時間,退勤時間とされる時間しか記載されておらず,ほかに,本件ノートの記載を客観的に裏付ける証拠も何ら存在せず,本件ノートの他の記載事項や客観的な事実と本件ノートに記載された時間とを対比して,その内容の正確性を検討するということもできないことなどをも併せ考慮すれば,本件ノートの記載をもって,原告の労働時間を裏付けるものであると評価することはできないといわざるを得ない。
(2)ア  前記(1)説示のとおり,本件ノートの記載を採用することができないこと,ほかに原告の労働時間を客観的に裏付けるに足りる証拠もないことからすれば,原告の労働時間を直接裏付ける証拠は存在しないこととなる。また,原告は,店長(被告代表者)が帰宅するまで退社することが許されなかった旨主張し,原告本人もこれに沿う供述をするが,既に説示したとおり,被告が小規模家族経営の店舗であること,工事台帳に記載された作業内容等に鑑みれば,掃除や伝票の整理,片付け等の作業を含めて営業時間内に行うことが可能であったことがうかがわれるのであり,開店時間の30分前である午前9時に出勤しなければならない理由や必要性があったということはできず(開店前に行わなければならない恒常的な作業を想定することができない。),また,閉店時間を大幅に超過して午後8時から午後9時頃まで勤務しなければならないような理由や必要性があったということもできない(閉店後に恒常的な作業が想定できないことについても,開店前と同様である。)。
なお,原告は,関西電力に申請する図面作製の手伝いをするなどしていた旨供述するが(原告本人尋問調書2頁),既に説示したとおり,被告が小規模家族経営の店舗であること,原告自身も自認するとおり,日常的に申請業務があったものではないこと(原告本人尋問調書29頁)からすれば,申請が必要となるような工事が頻繁にあったとは想定し難いというほかない。
イ(ア)  もっとも,他方で,使用者は労働者の労働時間を適切に把握・管理する義務を負っているところ,被告が原告の労働時間を把握・管理しようとしていなかった結果,原告の労働時間が不明であるとして,時間外労働を一切認めないというのは相当ではない。そして,被告においてシフト制が採用されていたというような事情もうかがわれないことからすれば,原告は,少なくとも,被告店舗の営業時間内(午前9時30分から午後7時30分)は被告で勤務していたことがうかがわれるということができる。この点について,被告は,冬季等の閑散期には午後7時前にも閉店することがあり,必ずしも午後7時30分まで営業しているわけではない旨主張し,被告代表者もこれに沿う供述をするところ,確かに,被告が小規模家族経営の店舗であることからすれば,そのような事態もあり得るといえるが,本件において,具体的に,いつ,何時に(所定閉店時間より前に)閉店したのかを認めるに足りる証拠はないことからすれば,原告の退勤時間を午後7時30分より前とすることはできない。また,工事台帳(丙8)によれば,原告が早退した日があることが認められるが,早退した時間が明らかとなっていないので,原告の退勤時間を午後7時30分より前とすることはできない。
(イ) 被告は,仮に,原告が労働者としての地位を併有していたとしても,それは午前9時30分から午後6時までの範囲であり,午後6時以降は,個人事業主としての活動をしていた旨主張するが,被告において,そのように明確に区分されていたことを認めるに足りる証拠はなく,また,実際に,原告が,午後6時より後に被告に来客があった場合に対応しなかったことや,被告からの作業指示・依頼があってもこれを拒否したことがあったり,午後6時以降は,被告の業務と無関係な作業をしていたというような事情があることを認めるに足りる証拠もない。
(ウ) なお,原告の主張には,午前9時30分より後に出勤したとするもの及び午後7時30分より前に退勤したとするものがあるが,それらについては,原告主張どおりとする。また,本件ノートには勤務した旨の記載があるが,訴状あるいは請求の趣旨を変更する書面に添付されている別紙では勤務した旨の記載がない日についても,原告主張どおりとする(勤務していないものとする。)。
(3)ア  訴状あるいは請求の趣旨を変更する書面に添付されている別紙の休憩時間欄に時間が入力されていないことからすれば,原告は,休憩時間がなかった旨主張しているものと解される。
しかし,他方で,原告が勤務形態として休憩時間が1時間であった旨主張していること(準備書面(1)・4頁),原告自身,昼休憩は30分程度であった旨陳述していること(甲10・7頁)からすれば,休憩時間がなかったとの訴状別紙の記載は,自らの主張あるいは陳述と整合していないというほかない。また,原告が,陳述書において,店長の指示があればすぐに動かなければならない状態であった旨陳述していることからすれば,昼休憩もいわゆる手待ち時間であった旨主張しているとも解されるが,既に説示したとおり,被告が小規模家族経営の店舗であるという規模からすれば,交代で休憩をとることが困難なほどに繁忙であることが常態であったとは想定し難い。
イ  他方,被告は,休憩時間について,手が空けば休憩をとることができたし,原告自身の仕事をすることもできたのであり,正午からの1時間に限定されたものではない旨主張する。
確かに,被告が小規模家族経営の店舗であることからすれば,常に来客があるのではなく,手が空く時間があったであろうことは容易にうかがわれるが,それはいわゆる手待ち時間であり,休憩時間と認めることはできない。
ウ  以上を総合考慮すれば,原告の休憩時間については毎日1時間と認めるのが相当である。ただし,原告が主張する始業時刻が開店時間よりも大幅に遅く,昼休憩をとっていないことがうかがわれる日については,休憩時間はないものとする。
(4)  証拠(甲4,丙1)及び弁論の全趣旨によれば,被告は日曜・祝日が定休日とされていたことが認められ,工事台帳(丙8)をみても,おおむね日曜・祝日に作業を行った旨の記載はない。そして,本件ノートの記載を採用することができないことはすでに説示したとおりである。
また,証拠(丙8,被告代表者尋問調書37,38頁)及び弁論の全趣旨によれば,被告では,毎年8月13日から同月17日頃(曜日の配置による。平成25年は8月13日ないし同月18日,平成26年は8月13日ないし同月17日)までがお盆休みであったこと,毎年12月30日が仕事納めであったこと,毎年1月5日頃(曜日の配置による。平成26年は1月6日,平成27年は1月5日)が仕事始めであったことが認められる。
そうすると,上記の期間(休日)については,工事台帳に作業をした旨の記載がある日については原告が勤務したことを認めることができるが,記載がない日については原告が勤務したことを認めることはできない。
また,工事台帳(丙8)によると,平成25年12月15日については,「半日で終」との記載があるので,午前中で勤務が終了したものとし,同年4月16日,同年6月19日,同月27日,同月28日,同年8月1日,同年12月18日,平成27年2月20日,同月23日,同月24日,同年4月8日については,「X〈休〉」との記載があるので,原告が欠勤したものとした。
(5)  割増賃金の基礎賃金については,原告が,平成25年4月ないし平成26年4月,平成27年4月については最低賃金としているのでこれを採用する。また,平成26年6月ないし平成27年3月については,原告が,基本給13万8000円及び本部手当2万円に加えて,平成26年6月分の「扇風機拡充費3000円」,平成27年3月分の名目不明の2000円を算定基礎としているところ,これらの項目を算定基礎に入れることができない旨の主張もないことからすれば,いずれも算定基礎に入れることとする。
(6)  以上を前提に原告の労働時間を認定し,割増賃金の額を計算すると別紙2ないし4のとおりとなる。
5  小括
(1)  前記2認定説示のとおり,原告が労働者であることからすれば最賃法の適用を受けることになるところ,前提事実(3)のとおり,被告から原告に支払われた金員は,平成25年4月分から平成26年3月分が金額は毎月10万円であったこと,平成26年4月分が13万8000円であったこと,平成27年4月分が11万5867円であったことからすれば,上記期間は最低賃金(平成25年10月18日までは時給800円,同月19日から平成26年4月までは時給819円,平成26年10月5日以降は838円)を下回ることになる(月平均所定労働時間は173.8時間とする。なお,上記のとおり,月の途中で最低賃金額が変更になっているが,原告が変更前の金額で計算しているので,同金額を採用する。)。そうすると,以下の計算式のとおり,未払いがあることになる。
なお,原告は,平成27年6月30日,退職した(甲10,弁論の全趣旨)。
(計算式)
・平成25年4月分から同年10月分
時給800円×173.8-10万円=3万9040円
3万9040円×7か月=27万3280円
・平成25年11月分から平成26年3月分
時給819円×173.8-10万円≒4万2342円
4万2342円×5か月=21万1710円
・平成26年4月分
時給819円×173.8-13万8000円≒4342円
・平成27年4月分
時給838円×173.8×28/31-11万5867円≒1万5682円
・小計
50万5014円
(2)  原告が平成27年4月23日以降勤務していないことは当事者間に争いがないところ,原告は,自宅待機を命じられたことを前提に賃金未払いがある旨主張するが,被告が原告に対し自宅待機を命じたと認められないことは前記3認定説示のとおりである。そうすると,原告が勤務していない以上,同日以降については賃金が発生しないから,賃金未払いもないことになる。
(3)  割増賃金については前記4説示のとおりである。
そして,原告が被告で働くこととなったのは,「a1電器開業者研修及び開業契約」に基づくものであるところ,同制度は,その名称から明らかなとおり,被告が設けた制度ではなく,フランチャイザーであるa社が設けた制度であること,被告においては,従前は親族のみが従業員となっていたものであって,原告を受け入れたことで,従前は被告で勤務していた代表者の配偶者が,被告の業務に従事するのを辞めてパートに出るに至っている(被告代表者尋問調書36頁)という経緯に照らせば,被告において,積極的に新たな従業員を雇用する必要があったとはいえず,被告が原告を受け入れたのは,フランチャイザーであるa社からの打診に基づくものであるといえること,被告が,フランチャイザーが設けた制度の内容について疑問を呈するというようなことは困難であったことが容易にうかがわれることなどからすれば,被告において,原告に関して,労働関係法令を潜脱しようとする意図はなかったというべきであって,以上のような本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば,被告に対し,付加金という制裁を課すことは相当ではないというべきである。
第4  結論
以上の次第で,原告の請求は,主文掲記の限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部
(裁判官 佐々木隆憲)

 

〈以下省略〉

 

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