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「成果報酬 営業」に関する裁判例(56)平成24年 3月 2日 東京地裁 平22(ワ)43600号 賃金請求事件

「成果報酬 営業」に関する裁判例(56)平成24年 3月 2日 東京地裁 平22(ワ)43600号 賃金請求事件

裁判年月日  平成24年 3月 2日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平22(ワ)43600号
事件名  賃金請求事件
裁判結果  認容  文献番号  2012WLJPCA03028007

要旨
◆被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、営業担当として勤務してきた原告が、被告に対し、雇用契約による賃金等請求権に基づく未払賃金等の支払を求めたところ、被告が、取引台帳の作成・提出業務の遂行が歩合給及び達成賞の支給条件である以上、原告が取引台帳の作成・提出業務を完了しない限り、原告に対する歩合給及び達成賞の達成賞の支給義務は発生しない旨主張して争った事案において、「取引台帳の作成・提出業務の完了」が歩合給及び達成賞の支給条件である旨の事実は、歩合給及び達成賞の支払義務の履行を拒否する被告の主張、立証責任事項であると解されるが、本件雇用契約では、原被告間で「取引台帳の作成・提出業務の完了」が歩合給及び達成賞の支給条件として取り決められたことを認めるに足りる証拠が全くない以上、被告の主張は採用できず、原告の本訴請求は理由があるとして、請求を全部認容した事例

参照条文
労働契約法6条

裁判年月日  平成24年 3月 2日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平22(ワ)43600号
事件名  賃金請求事件
裁判結果  認容  文献番号  2012WLJPCA03028007

横浜市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 蓮見和也
同 花井ゆう子
東京都台東区〈以下省略〉
被告 株式会社Y
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 竹本裕美
同 永田毅浩

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,113万1030円及びこれに対する平成22年12月2日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
2  訴訟費用は,被告の負担とする。
3  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実

第1  当事者の求めた裁判
1  請求の趣旨
主文と同旨
2  請求の趣旨に対する答弁
(1)  原告の請求を棄却する。
(2)  訴訟費用は原告の負担とする。
第2  当事者の主張
1  請求原因
(1)  当事者
ア 被告は,不動産賃貸の仲介等を業とする株式会社である。
イ 原告は,平成21年11月4日から平成22年12月1日まで,被告に期間の定めのない雇用契約を締結して,営業担当者として勤務してきた者である。
(2)  雇用契約の締結
原告と被告との間で締結された雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)上の給与等の条件は以下のとおりである。
ア 基本給
20万円(平成22年5月分以降は月額21万5000円)
イ 交通費
通勤及び営業案内の交通費として月額2万円の固定給
ただし,月の途中の入退職の場合には日当500円
ウ 歩合給
(ア) 売上に応じた歩合給として,売上が月額80万円(税込み84万円)を超えた場合には,超過分につき,次の割合に応じた歩合給が支給される。なお,売上とは,営業担当者が担当する賃貸物件ついて,入居者が決まった場合に被告に入金される,入居者からの仲介手数料又は管理会社からの広告料(入居者から管理会社に礼金として支払われた金員のバックマージンを含む。)である。
(イ) 歩合の内容
a 総売上80万円から99万円
80万円を超えた金額に対する20パーセントの金額
b 総売上100万円から119万円
80万円を超えた金額に対する24パーセントの金額
c 総売上120万円から149万円
80万円を超えた金額に対する28パーセントの金額
d 総売上150万円から179万円
80万円を超えた金額に対する32パーセントの金額
e 総売上180万円から209万円
80万円を超えた金額に対する34パーセントの金額
f 総売上210万円から239万円
80万円を超えた金額に対する36パーセントの金額
g 総売上240万円から269万円
80万円を超えた金額に対する38パーセントの金額
h 総売上270万円以上
80万円を超えた金額に対する40パーセントの金額
エ 達成賞
(ア) 歩合給とは別に,売上に応じた達成賞として,以下のとおりの報償金が支給される。
(イ) 達成賞の内容
a 売上80万円(税抜き) 1万5000円
b 売上100万円(同) 2万5000円
c 売上120万円(同) 3万5000円
d 売上150万円(同) 5万円
e 売上180万円(同) 6万円
f 売上200万円(同) 7万5000円
オ 給与支払日
毎月末日締め,翌月10日払い
(3)  未払給与額等
ア 基本給及び交通費の未払額
平成21年11月から平成22年7月までの基本給は合計167万2000円,交通費は合計15万0500円の合計182万2500円であるところ,既払額が113万3927円であるから,これを控除した残額である68万8573円が基本給及び交通費の未払合計額である。
イ 歩合給及び達成賞の未払額
(ア) 原告の担当業務
原告は,不動産賃貸仲介業務を主として扱う被告の営業職に従事していた。その業務の具体的内容は,自らが担当する物件について顧客から問い合わせを受けると,物件を案内する等して顧客対応し,その後,その顧客から契約の申込みを受けた場合,契約事務手続を執り行い,その顧客と物件管理者との間で賃貸借契約が成約するに至った場合には,入居する顧客に対しては仲介手数料を,当該物件管理者に対しては広告料をそれぞれ請求する,というものであり,原告は,自身の担当物件につき,上記業務の流れに沿って業務を順次履行し,所定の方法により売上請求書を作成して,月末に被告に提出していた。
(イ) 原告の売上額
原告の売上請求書に基づいて顧客から被告に入金された売上合計金額(税込み)のうち,平成22年3月分から同年5月分までについては,別紙記載の各表の各被告資料欄下の売上合計(税込み)欄に記載のとおり,同年3月分が合計172万2835円,同年4月分が116万1855円,同年5月分が89万1645円である。
(ウ) 歩合給及び達成賞の金額
a 消費税別の売上金額
消費税別の売上金額は,同年3月分が164万0795円,同年4月分が110万6528円,同年5月分が84万9186円である。
b 歩合給及び達成賞
同年3月分の歩合給は26万9054円,達成賞は5万円,同年4月分の歩合給は7万3566円,達成賞は2万5000円,同年5月分の歩合給は9837円,達成賞は1万5000円であり,それらの総合計額は,歩合給合計額35万2457円,達成賞合計額9万円を合算した44万2457円である。
(4)  結論
よって,原告は,被告に対し,雇用契約による賃金等請求権に基づき,113万1030円及びこれに対する平成22年12月2日(被告退社日の翌日)から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律所定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
2  請求原因に対する認否
(1)  請求原因(1)ア及びイの各事実は認める。
(2)  同(2)アないしオの各事実は認める。
(3)  同(3)アの事実は認める。
(4)  同(3)イの(ア)及び(イ)の各事実は認める。
(5)  同(3)イ(ウ)のa及びbの各事実は否認する。
3  抗弁
(1)  原告の営業活動による売上金として上記1(3)イ(イ)のとおりの入金があったことは確認できる。しかし,被告は,原告が取引台帳(顧客ごとに契約書等を綴って一冊とした台帳)を作成し,被告にそれを提出してくれなければ,担当者としての業務が完了したことを確認することができない。
被告は,上記のとおり原告の業務結果である売上金を得たからといって歩合給及び達成賞の支払に応ずべき義務はなく,取引台帳の作成・提出業務の処理が完了することを条件として,原告に対して歩合給及び達成賞を支給していた。
(2)  しかるに,原告は,退職手続もせず,引継ぎも全くしないまま出社しなくなったのであるから,被告は原告に対して歩合給及び達成賞を支給する義務がない。
4  抗弁に対する認否
否認する。
営業担当者は,担当物件の入金状況について被告所定の「売上請求書」を作成し提出することによって被告に報告し,入金が確認された段階で各営業担当者の売上金額として認定される仕組みとなっていた。
したがって,上記3(1)の事務処理は歩合給及び達成賞の支給条件ではない。

 

理由

1  請求原因について
(1)  請求原因(1)のア及びイの各事実は当事者間に争いがない。
(2)  請求原因(2)のアないしオの各事実は当事者間に争いがない。
(3)  請求原因(3)ア並びにイ(ア)及び(イ)の各事実は当事者間に争いがない。
(4)  請求原因(3)イ(ウ)について
ア  同aについて
(ア) 請求原因(3)イ(イ)の事実(原告の売上請求書により被告に入金された売上合計金額(税込み)が,平成22年3月分172万2835円,同年4月分116万1855円,同年5月分89万1645円であること)は当事者間に争いがない。
(イ) そうすると,上記各金額から消費税相当額を控除した売上金額(消費税別)が,同年3月分につき164万0795円,同年4月分につき110万6528円,同年5月分につき84万9186円となることは明らかである。
イ  同bについて
(ア) 原告が被告から支給されるべき歩合給及び達成賞が,請求原因(2)ウ及びエの計算式で算定されることは当事者間に争いがない。
(イ) 上記ア(イ)の平成22年3月分ないし同年5月分の各売上金額(消費税別)を基にして算定すると,同年3月分が歩合給26万9054円,達成賞5万円,同年4月分が歩合給7万3566円,達成賞2万5000円,同年5月分が歩合給9837円,達成賞1万5000円であることが認められ,これらの総合計額は,歩合給が35万2457円,達成賞が9万円となることが認められる(合計44万2457円)。
(5)  まとめ
よって,原告が被告に対して支払を求めることができる未払給与等の金額は,基本給及び交通費の合計額68万8573円,被告が原告の営業職としての業務遂行の結果得ることができた売上金を基に算定される歩合給及び達成賞の合計額44万2457円の総合計額113万1030円である。
2  抗弁について
(1)  被告は,原告の営業活動による売上金の入金の事実が確認されたとしても,原告が取引台帳の作成・提出業務を完了しない限り,同業務の遂行が歩合給及び達成賞の支給条件である以上,被告は原告に対する歩合給及び達成賞の支給義務が発生しない旨主張する。
(2)  しかし,本件雇用契約上営業職としての枢要な業務は,営業担当者が担当する物件に関して顧客から問い合わせを受けた場合の顧客対応(電話等の照会への回答,物件案内,説明),顧客と不動産管理者との間の成約とその後の仲介手数料及び広告料の請求手続,それらの各金員の入金確認に至るまでの過程にあること,また,歩合給及び達成賞が被告に入金された売上金額に基づき算定されて支給されるとされており,それが被告の売上に貢献した結果に対する成果報酬の趣旨であると解されること,取引台帳の作成・提出業務は上記の重要な各業務に比して軽微で事後処理的な位置付けでしかないことからすると,営業活動から売上金の入金までの必要な事務処理がなされ,かつ,上記の入金の確認業務(入金未了であれば督促する必要がある。)が完了した段階で,歩合給及び達成賞の支払義務が発生すると解するのが相当である。
したがって,本件雇用契約の締結の際,雇用契約書が作成され,それに明確に「取引台帳の作成・提出業務の完了後に支給する。」旨定められている場合であれば格別,そうでない本件においては,「取引台帳の作成・提出業務の完了」が歩合給及び達成賞の支給条件である旨の事実は,歩合給及び達成賞の支払義務の履行を拒否する被告の主張,立証責任事項(抗弁事実)であると解するのが相当である。
(3)  そして,本件雇用契約において,原告と被告との間で「取引台帳の作成・提出業務の完了」が歩合給及び達成賞の支給条件として取り決められたことを認めるに足りる証拠が全くない以上,被告の上記(1)の主張は理由がないといわざるを得ない(原告本人も支給条件であることを否定する。なお,被告は売上に係る請求書の控えや契約書控え等の関係書類全般を保管していると考えられ,そのような書類の編綴と台帳作成に係る業務は被告にとって極めて容易なものといえる。そうすると,仮に上記事務処理の完了が歩合給及び達成賞の支給条件として雇用契約上定められていたとしても,給与のみならず実費として賄われるべき交通費さえも支払わない被告が,重要な業務を完了した原告に対し「取引台帳の作成・提出業務」の処理の未了による条件不成就を主張して歩合給及び達成賞の支払を拒絶することは信義則に反するし,そもそも,証拠(原告本人)によれば,上記事務処理に係る労務提供を被告(店長)が拒否した事実も認められることからすると,この点からも,被告の上記(1)の主張は理由がないというべきである。)。
(4)  よって,被告の抗弁を採用することはできない。
3  結論
以上によれば,本訴請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 渡邉和義)

 

〈以下省略〉

 

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