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「成果報酬 営業」に関する裁判例(19)平成28年11月10日 東京地裁 平27(ワ)11848号 損害賠償請求事件

「成果報酬 営業」に関する裁判例(19)平成28年11月10日 東京地裁 平27(ワ)11848号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成28年11月10日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)11848号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2016WLJPCA11108014

裁判年月日  平成28年11月10日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)11848号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2016WLJPCA11108014

東京都港区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 湯川將
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 Y1株式会社
同代表者代表取締役 E
東京都港区〈以下省略〉
被告 Y2
川崎市〈以下省略〉
被告 Y3
上記3名訴訟代理人弁護士 若槻哲太郎
同 渡邊満久

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告らは,原告に対し,連帯して,880万円及びこれに対する平成27年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告と被告Y1株式会社との間において,原告が出向先である株式会社aに就労すべき労働契約関係に基づく地位を有することを確認する。
第2  事案の概要
本件は,被告Y1株式会社(以下「被告会社」という。)から,その子会社である株式会社a(以下「a社」という。)に出向していた原告が,被告会社の取締役で常務執行役員である被告Y2(以下「被告Y2」という。)及び被告Y3(以下「被告Y3」という。)から,その地位を利用したパワハラ行為等を受けたため,原告はほぼ回復していたうつ病を悪化させたなどと主張して,被告Y2及び被告Y3に対しては,民法709条に基づき,被告会社に対しては,民法709条又は715条1項に基づき,平成27年12月末までの損害(一部請求)として,休業損害,慰謝料及び弁護士費用等の損害合計880万円及びこれに対する平成27年4月1日(最終の不法行為日)から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告会社による原告に対するa社から被告会社に異動させる旨の人事通達が無効であると主張して,被告会社との間で,原告がa社で就労すべき労働契約関係に基づく地位を有することの確認を求めた事案である。
1  基礎的事実(当事者間に争いがないか,掲記証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)  当事者
ア 被告会社は,インターネット広告関連サービス業を営む株式会社である。
被告Y2は,被告会社の取締役,COO(最高執行責任者),常務執行役員(社長補佐)であり,被告Y3は,被告会社の取締役,CFO(最高財務責任者),常務執行役員(経営管理・戦略統括・リスク管理担当)である。
イ 原告は,平成18年5月に被告会社に入社し,平成23年4月1日から平成27年3月末日まで被告会社の100パーセント子会社であるa社に出向していた。
原告は,a社への出向後である平成24年10月にうつ病を発症したが,2週間ほど休暇をとった後に通院しながら勤務に復帰した後,次第に病状が緩和し,平成25年末頃にはほぼ回復して,1か月10ないし20時間程度の残業もできるようになっていた(原告本人,弁論の全趣旨)。
(2)  a社によるインセンティブ名目の金員の支給
a社は,原告その他の従業員に対し,インセンティブ名目の金員(以下「本件インセンティブ」という。)を支給しており,原告は,平成24年6月,同年12月,平成25年6月,同年12月及び平成26年6月の5回にわたり合計295万3500円の本件インセンティブの支給を受けた(乙8)。その支給は,a社のF(以下「F」という。)前社長から,被告会社の人事総務部に直接支払指示がされ,被告会社から支払がされていた。そして,毎月,被告会社とa社の間で精算がされ,a社が最終的に負担していた。なお,a社における給与の支払と経理業務は,被告会社が行っていた。
(3)  原告の人事異動
原告は,被告会社の平成27年4月1日付けの「新分掌:経営管理本部ディレクター」とする人事通達(以下「本件人事通達」という。)により,被告会社人事総務部への異動を命じられた。
(4)  原告の休職の申出等
原告は,平成27年3月20日,被告Y2及び被告Y3に対し,メールにより,診断書を送付して同月23日からの休職を告げ(争いがない),以降,就業していない(甲18,弁論の全趣旨)。
2  争点及び当事者の主張
(1)  本件インセンティブの返還要求による不法行為の成否(争点1)
(原告の主張)
ア インセンティブとは,一種の成果報酬制度である。原告は,a社から本件インセンティブを受け取っていたが,本件インセンティブは,開始当初から被告会社執行役員経営管理本部長らも了承しており,a社関係者は誰も規定等に反するとは考えてもいなかった。
しかし,原告は,平成26年12月3日,被告Y2から突然呼び出され,原告が5回にわたり受け取った約300万円の本件インセンティブを返還することに誓約する念書(甲2)に署名して提出するよう求められた。
イ また,原告は,平成26年12月4日,被告Y3の部下である被告会社戦略統括本部社長室マネージャー兼内部監査室長であるG(以下「G」という。)から呼び出され,録音されながらの事情聴取を受けた。Gの質問は,他の社員に比べたくさんもらいすぎて悪いと思わなかったか,規定に反していると思わないか等の誘導尋問的な内容であり,理不尽極まりないものであった。
ウ 被告Y2が,原告に約300万円もの本件インセンティブの返還を迫った行為は,常務執行役員の立場を利用して,義務なき返済を迫る恐喝行為であり,また,被告Y3が,部下であるGに行わせた行為も,同様に事情聴取に名を借りた恐喝行為であるから,被告Y2及び被告Y3の行為は不法行為を構成し,また,被告会社は,これらの行為が被告会社自身の行為であるとともに,監督責任を負うから,不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
ア 本件インセンティブは,具体的な目標の設定や達成にかかわらず,極めて高額の支払を内容とするものであり,成果報酬ではない上,正規のインセンティブ支給に関する具体的な手続も取られていないなど重大な問題があったため,被告会社は,本件インセンティブ支給について,ヒアリング調査をするとともに,自主的に返還する意向を確認することとした。
そこで,被告Y2は,平成26年12月3日,原告と面談し,ヒアリング及び意向確認を実施し,念書(甲2)を提出してほしい旨要請したものである。これに対し,原告は,本件インセンティブとして支給を受けた金額は過分であると認識していたこと,自主返還の打診には応じる意向であるが,一部は既に費消していることなどから,分割返済をお願いしたいこと,念書(甲2)は,記載内容が事実と異なる部分があるので署名できないことなどを説明し,自主返還に理解を示すとともに,異議を述べる点は異議を述べる対応を取っていた。
イ Gは,平成26年12月4日,原告に改めて面談し,ヒアリング及び意向確認を行ったが,Gが一方的な発言や理不尽な質問をしたものでないことは,面談録音反訳書(乙10)から明らかである。
ウ したがって,上記ア及びイの面談等に関して,被告らが不法行為責任を負うことはない。
(2)  賞与の支給時期の延期による不法行為の成否(争点2)
(原告の主張)
被告Y2は,平成26年12月8日,原告に対し,本件インセンティブ支給問題に関する客観的な調査のため1週間かかるので,賞与の支給日を本来の同月10日から1週間後の同月19日まで待つよう要求した。原告は,被告会社役員からの直接の話ということもあり,これを受け入れた。
しかし,賞与の支給時期に関する話であれば,被告会社経営管理本部を統括する被告Y3の所管であるにもかかわらず,なぜ被告Y2からの指示なのか,原告は極めて不自然に感じ,不安を募らせた。原告に思い当たることは,原告が本件インセンティブの返還に応じないことくらいであり,被告Y2の行為は,常務執行役員という立場を利用して,原告を不安に陥れたものであり,不法行為を構成する。
(被告らの主張)
被告会社においては,本件インセンティブ支給問題の関係者に対するヒアリングや意向確認を行っていたところ,被告会社の賞与支給日である平成26年12月10日まで数日となったが,被告会社としては,本件インセンティブ支給問題に関する事実調査の継続と,被告会社としての対応方針を検討する時間が必要であった。
そこで,被告Y2は,平成26年12月8日に原告と面談し,賞与の支給日を同月19日としたい旨述べ,原告は異議なくこれを承諾した。
このように,被告Y2の行為は,被告会社の正当な業務行為であり,職場内の優位性を背景にした行為でも,業務の適正な範囲を超えて行われた行為でもなく,不法行為に該当することはない。
(3)  人事考課ダウンによる不法行為の成否(争点3)
(原告の主張)
被告Y2は,平成26年12月17日,原告に対し,次のような処分をする旨通告した。すなわち,①今回と次回の賞与の考課1ランクダウン,②翌年1ないし3月の3か月間の給料を1ないし3パーセントダウン,③付随事項として今までに得た本件インセンティブの自主的返上は会社として受け入れる,というものであった。
そして,原告は,賞与の考課書面を渡されたところ,一次・二次評価は「B」であったが,最終評価は一切のコメントもなく「C」に下げられていた。これは人事考課を装っているものの,本件インセンティブの返還請求に従わない原告に対する理不尽な制裁であることは明らかである。
被告Y2は,「法的な問題はないが,このような事態になった道義的責任は重大だと理解するように」,「余談だが自分も処分を受ける」と続け,「道義的責任」という言葉を繰り返した。
上記のような人事考課は,原告への嫌がらせであり,不法行為を構成する。また,被告Y2が,本件インセンティブの自主的返上をせまり道義的責任を取るよう強要した行為は,常務執行役員という立場を利用して原告を道義的に反していると追い詰め,人格権を侵害したもので,不法行為を構成する。
(被告らの主張)
ア 被告会社は,例年2回,従業員に対し,賞与支給に併せて人事考課を告げており,原告に対しても,平成26年12月17日,被告Y2が面談し,成果評価シート(甲3)を交付した上で人事考課の告知を行った。その際,被告Y2は,本件インセンティブ支給につき,原告はa社の管理責任者として被告会社に対して報告を行うべき立場にあり,この点も踏まえて総合的に判断すると厳しい評価になること,他の従業員が少額の賞与しか受領していない状況で多額の支給を受けていたことに対する道義的責任を感じる必要があること,本件インセンティブ支給問題に関して,平成26年12月3日の面談で捺印を求めた念書については,特にこれ以上捺印を求めることはせず,原告が任意に返還する場合にこれを受け入れるという程度の対応に留めること等を説明した。
また,原告は,この際,被告Y2が強要したかのように主張するが,被告Y2のこの際の説明は,諭すような口調で行われ、一方的に強要するような口調や厳しい口調ではなかった。
イ 被告会社における人事考課に当たっては,数個の「成果目標」が定められ,その達成度合いを一次評価者がSからDの5段階で評価して集計した一次評価と,二次評価者がSからDの5段階で評価して集計した二次評価を算出した上,かかる2段階の評価を踏まえた上で,最終評価を決定するという手法がとられている。
そして,最終評価に当たっては,SからDまでの段階といっても,例えば同じBでもAに近いBもあれば,Cに近いBもあること,他の従業員との相対評価を行う必要があることの他,最終評価においても,その他の加点,減点評価も踏まえることから,まさに「総合」判断がされることになり,一次評価と二次評価の結果から自動的に総合判断が算出されるものでもない。
平成26年上期の人事考課における原告の最終評価が「C」であるのも,他の従業員との相対評価も必要となる中で,上記アのように,本件インセンティブ支給問題に関して,原告はa社の管理責任者として被告会社に対して報告を行うべき立場にある点も踏まえ,最終的な総合評価がされたものであり,本件インセンティブ問題だけを理由に懲罰的に総合評価の引き下げがされた事実はない。
ウ 以上によれば,平成26年上期の原告に対する人事考課の内容,原告との人事考課面談時における被告Y2の応対のいずれかの内容についても,職場内の優位性を背景にした行為や業務の適正な範囲を超えて行われた行為とは評価できず,不法行為に該当することなどあり得ない。
(4)  報告義務違反の始末書要求による不法行為の成否(争点4)
(原告の主張)
平成27年1月になり,被告Y3は,原告にメールで,スケジュールを押さえるよう突然連絡してきた。そして,同月15日,原告に対し,制裁通知書(甲4)と始末書(甲5)を渡し,「減給の額は大したことはない,月に1万3千何百円くらいだ。この場で署名してくれてもいい。」と言った。原告は,渡された文書を持ち帰って読むと,制裁事由は「子会社管理上重要な事項に関する報告を怠り,会社に損害を与えたことにより,社員就業規則第63条17号に抵触した」というものであったが,原告には思い当たることはなかった。また,被告Y2は,平成26年12月17日,原告に対し給与カットを「3か月」と明言していたが,制裁通知書では「5か月」になっていた。被告Y3は,被告会社社員の人事考課や給与賞与の支払を取りまとめる役職にありながら,同被告から,かかる変更に関する説明は一切なかった。
このような被告会社による要求・制裁の理不尽な変遷により,原告の不安は増大し,病状は急速に悪化した。
被告Y3の行為は,常務執行役員という立場を利用して原告に懲戒対象事由を明らかにしないまま「始末書」を要求するという強要行為であって不法行為を構成する。
(被告らの主張)
被告Y3が原告に対して,電子メールによる面談の依頼をしたこと,被告Y3が同月15日に原告と面談し,社員就業規則63条17号違反を理由とする制裁通知書(甲4)及び始末書(甲5)を交付し,5か月の減給処分を告知したこと,その際,被告Y3が,減給額は大きくなく,始末書については原告が望むならこの場で署名する形でもよい旨説明を行ったこと,平成26年12月に被告Y2が処分の見通しを述べた時点では3か月の減給処分であったことは認め,その余は否認ないし争う。
減給処分が最終的に3か月ではなく,5か月となったのは,原告に支給された本件インセンティブ支給が計5回であったことから,支給実績に即した適切な処分がされるべきとの最終判断がされたためである。
(5)  マスターキャリアコースによる不法行為の成否(争点5)
(原告の主張)
被告Y2の統括下にあるa社のH(以下「H」という。)社長は,原告に,平成27年3月17日,原告がマスターキャリアコースの適用対象であることと,a社出向解除と被告会社人事総務部への異動を突然通告した。その際,原告は,マスターキャリアコースという制度は,50歳以上が対象で,原告の場合は1年後から給与がカットされるとだけ説明を受けた。原告はこの理不尽な通告により,翌18日に診断を受けた医師から,双極性感情障害との病名で,2か月の自宅療養を要する旨の診断を受けた。
原告は,H社長の上司である被告Y2と就業規則等を統括する被告Y3にマスターキャリアコースの説明資料を渡すように求めたが,無視された。そこで原告は,平成27年3月19日の時点で,Webで社内に公開されている被告会社社内規定集で探したが,マスターキャリアコースの根拠規定は掲載されておらず,詳細も根拠も不明であることにより,一層不安をかき立てられた。
ところで,被告会社の就業規則によれば,定年は満60歳とされているのであるから,マスターキャリアコースは,不利益変更に該当し,原告を苦しめるためのパワハラ行為である。被告会社がH社長をして,原告にマスターキャリアコースの適用対象であり減給されると通告せしめた行為は,いたずらに原告を不安にさせ苦しめる行為であって不法行為を構成する。
(被告らの主張)
被告会社は,平成26年3月に,役職定年制度の適用開始年齢の変更を含めた人事制度変更について全従業員を対象として説明を行うとともに(乙21),平成27年5月には被告会社の役職者の会合において,マスターキャリア制度の説明を行っており(乙12),平成26年3月の説明には,原告も出席していた。
また,マスターキャリア制度は,本件インセンティブ支給問題とは関係なく,日々新たな知見が必要とされる広告業界において,そのような知見をより多く有する若手を積極的に役職者として取り立てるという目的のために従前より検討され,役職定年後の役職者に適用する人事制度として設けられた制度であって,当該役職定年制度は本件インセンティブ支給問題が発覚する前である平成26年3月の時点で,全従業員宛て説明を行っているものであるし,当然ながら,役職定年制度及びマスターキャリア制度は,全従業員に対して同じ条件で適用されるものである。
以上のとおり,マスターキャリア制度の適用は,職場内の優位性を背景にした行為でも,業務の適正な範囲を超えて行われた行為でもなく,パワハラには該当しない。
(6)  人事異動による不法行為の成否(争点6)
(原告の主張)
原告のうつ病は,平成25年末頃にはほぼ回復し,原告は,勤労意欲も高く,精神的にも身体的にも充実した状態で業務を行っていた。しかし,原告は,被告会社が原告をa社から異動させるとの風評を聞くようになり,H社長にa社からの異動は望まない旨告げ,H社長からも,異動には反対すると繰り返し聞かされていた。そこで,原告は,平成27年2月12日,被告Y2に対し,H社長がa社に原告を残留させたいという意見を持っていること,原告自身も異動を望まない旨メールを発信した。
また,原告は,平成27年3月20日,被告Y2に対し,本件人事通達の理由と異動後の人事総務部における原告の役割を書面又は電子メールで直ちに交付するようメールで求めたが,回答はなかった。また,以前より,人事総務部は,いわゆるリストラ部屋として度々使われていた現実を原告自身が被告会社経営管理本部在籍時に目の当たりにしてきた。自らに対する一連の仕打ちに加え,マスターキャリアコースの適用と人事総務部への異動は,退職の強要以外の何ものでもないと原告は考えざるを得なかった。
被告会社が,H社長をして通告せしめた被告会社人事総務部への異動は,原告の人格権(名誉)を侵害し,職場内・外で孤立させ,勤労意欲を失わせ,やがて退職へ追いやる意図をもってされたものであり,被告会社に許された裁量権の範囲を逸脱した違法無効なものであって,不法行為を構成する。
(被告らの主張)
被告会社の経営管理本部人事総務部がいわゆるリストラ部屋であるという事実も,同部屋に移動したことを原因に従業員が退職したという事実もない。
原告に対する人事異動は,被告会社の経営管理本部人事総務部の人員が不足している状況において,もともと被告会社の経理管理本部法務部に所属しており,a社への出向後も,総務,法務,人事,経理といった管理業務全般を担当していた原告が適任との判断からされたものである。
そして,出向元である被告会社は,出向先であるa社からの復帰命令権を有することは,最高裁昭和56年(オ)第856号同60年4月5日第二小法廷判決・民集39巻3号675頁に照らし,明らかである。
(7)  原告の損害額(争点7)
(原告の主張)
被告らの不法行為による原告の損害は,平成27年末までで次のとおり合計880万円である。
ア 休業損害 251万9340円
イ 治療費,交通費等 3万9130円
ウ 慰謝料 544万1530円
エ 弁護士費用 80万円
(被告らの主張)
原告の損害は否認する。
(8)  原告の地位確認請求の可否(争点8)
(原告の主張)
本件人事通達は,上記(6)(原告の主張)のとおり,違法無効である。
したがって,原告と被告会社との間において,原告が出向先であるa社に就労すべき労働契約関係に基づく地位を有することの確認を求める。
(被告会社の主張)
上記(6)(被告らの主張)のとおり,本件人事通達に何ら問題はない。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
上記基礎的事実,証拠(甲2ないし6,11,18,乙5,10ないし15,21ないし27,原告本人,被告Y2本人,被告Y3本人。ただし,甲18及び原告本人は,以下の認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  本件インセンティブ支給問題について
ア 被告会社において,平成26年9月25日,従業員の賞与原資決定基準を議題として開催された会議において,被告会社の代表取締役社長から,a社において独自の賞与支給がされているとの情報があるため,調査を行うよう指示がされた。
そして,その調査が実施された結果,a社では,①被告会社における賞与支給月である6月と12月に「インセンティブ」名目で,通常の賞与と同じタイミングで賞与に加えた支給がされていること,②「インセンティブ」名目ではあるものの,具体的な目標の設定やその達成に関わらず支給がされていること,③支給金額は,賞与支給額と同額から2倍程度にも達するなど極めて高額であり,受給者によっては,1回100万円前後の支給もあったこと,④各従業員に対する支給額は,a社の代表取締役社長であったFが決定していたこと等が判明した。
イ そして,被告会社は,本件インセンティブ支給については,①被告会社の正規のインセンティブは,具体的な目標が設定され,その達成に応じて支給されるが,本件インセンティブは,具体的な目標は設定されず,その達成に応じて支給されるものでもないこと,②被告会社の正規のインセンティブは,通常,概ね数千円から数万円程度であるが,本件インセンティブは賞与支給額と同額水準であったり,その2倍程度に相当する極めて高額なものであること,③本件インセンティブが被告会社における賞与支給と同じタイミングでされていたことなどからすれば,本件インセンティブは,事実上賞与の上乗せを行うものであるとして,重大な問題があると判断した。そこで,被告会社は,本件インセンティブの支給を受けた主要な当事者にヒアリングを行い,受領した金銭を自主的に返還する意向の有無を確認することとし,F前社長をはじめ原告を含む7名に対して,ヒアリング及び意向確認が行われた。
ウ 被告Y2は,平成26年12月3日,原告と面談し,ヒアリング及び意向確認を実施し,本件インセンティブを全額返還することを誓約する旨の念書(甲2)を提出してほしい旨要請した。これに対し,原告は,①本件インセンティブは,2年前に体調不良で倒れたことへの配慮であると認識していたこと,②原告としては,支給を受けた金額は過分であると認識していたこと,③自主返還の打診には応じる意向であるが,一部は既に費消していることなどから,分割返済をお願いしたいこと,④念書(甲2)は,記載内容が事実と異なる部分があるので署名できないことなどを説明し,自主返還に理解を示すとともに,異議を述べる点は異議を述べる対応を取っていた。
また,Gは,平成26年12月4日,改めて原告に面談し,ヒアリング及び意向確認を行ったが,Gは,原告の発言をよく聞きながら,終始おだやかな態度で質問した(乙10,15)。
(2)  賞与の支給延期について
被告会社においては,本件インセンティブ支給問題が発覚し,関係者に対するヒアリング等を行っていたため,被告会社の賞与支給日である平成26年12月10日まで数日となったが,本件インセンティブ支給問題に関する事実調査の継続と被告会社としての対応方針を検討する時間が必要であった。そこで,被告Y2は,平成26年12月8日,原告と面談を行い,賞与の支給日を同月19日としたい旨話したところ,原告は,特に異議なくこれを承諾した。
(3)  人事考課について
ア 被告会社では,例年,従業員に対し,年2回,賞与支給に先立ち人事考課を告げているところ,平成26年12月の賞与支給にあわせた人事考課も,賞与支給までに各従業員に告知を行い,原告に対しても,平成26年12月17日,被告Y2が,面談し,成果評価シート(甲3)を交付した上で,人事考課の告知を行った。
その際,被告Y2は,①本件インセンティブ支給につき,原告はa社の管理責任者として被告会社に対して報告を行うべき立場にあり,この点も踏まえて総合的に判断すると厳しい評価になること,②他の従業員が少額の賞与しか受領していない状況で多額の支給を受けていたことに対する道義的責任を感じる必要があること,③本件インセンティブ支給問題に関して,平成26年12月3日の面談で捺印を求めた念書については,特にこれ以上捺印を求めることはせず,原告が任意に返還する場合にこれを受け入れるという程度の対応に留めること,④本件インセンティブ支給問題については,3か月の減給処分になる見通しであること,⑤被告Y2を含む関係者が一定の処分を受けるものであり,原告のみに責任を押し付けようとしているような話ではないことなどを説明した。
イ 被告会社における人事考課に当たっては,数個の「成果目標」が定められ,その達成度合いを,一次評価者及び二次評価者がSからDの5段階で評価して集計して,それぞれ一次評価と二次評価を算出した上,この2段階の評価を踏まえた上で最終評価が決定される。そして,最終評価に当たっては,例えば同じ「B」評価でも「A」に近い「B」もあれば「C」に近い「B」もあることや,他の従業員との相対評価を行う必要があることのほか,最終評価においても,その他の加点,減点評価を踏まえることから,総合判断がされることになり,一次評価と二次評価の結果から自動的に総合判断が算出されるものではない。
(4)  本件インセンティブ支給問題に対する処分等
ア 被告会社においては,原告を含む本件インセンティブ支給問題の関与者に対する制裁の要否及び内容について最終的な検討を行った。原告に対しては,①原告がもともと被告会社の経営管理本部法務部に所属し,社内の各種規則等には精通しているべき立場にあったこと,②原告は,a社出向後も,同社の経営管理統括マネージャー,すなわち総務,法務,人事,経理といった管理業務全般を担当するマネージャー(取締役や執行役員の下に位置する役職)の地位にあったことから,a社において本件インセンティブ支給がされる場合には,その適切な手続の履行に最も注意を払うべき実務の責任者であったことなどから,過去5回にわたって行われた本件インセンティブ受給のすべて(5事案)につき,減給処分に付することが相当と判断された。
イ そこで,被告Y3は,平成27年1月15日に原告と面談し,制裁事由を「子会社管理上重要な事項に関する報告を怠り会社に損害を与えたことにより,社員就業規則第63条17号に抵触した。」とし,制裁対象を5回にわたるインセンティブ支給とし,制裁の種類及び期間を「減給 平均給与額の1日の分の2分の1を減給するものとする」「期間 2015年1月支給の給与より5か月間」とする制裁通知書(甲4)及び始末書(甲5)を交付し,社員就業規則63条17号違反を理由に原告を減給処分とする告知を行った。その際,被告Y3は,減給額は大きくなく,始末書については原告が望むならこの場で署名する形でもよい旨説明を行った。
なお,この減給処分は,被告会社の代表取締役及び取締役による報酬の自主返上も併せて,合計10名を対象に行われた。
(5)  マスターキャリア制度について
ア 被告会社では,従前より,日々新たな知見が必要とされる広告業界において,そのような知見をより多く有する若手を積極的に役職者として取り立てる若手活用策として,役職定年制度を設けていたが,同制度は,適用対象年齢が43歳であるなど,現実味を欠いていたことから,実際の運用はされていなかった。そこで,被告会社は,役職定年を50歳又は52歳に引き上げ,現実に適用し得る新たな役職定年制度である「マスターキャリア制度」の導入を検討した。そこで,平成26年3月には,役職定年を50歳等とする変更を含む人事制度の改訂に関する説明を全従業員宛てに行っており(乙21),原告もこれに出席していた。さらにその後の詳細検討を経て,平成27年4月からマスターキャリア制度を導入することとなった。もっとも,マスターキャリア制度の適用対象者においては,総受給額が減額となるため,同制度の適用に当たっては,3年間の移行措置が設けられ,移行措置期間に応じた一定割合の補填がされるものとなっていた(乙12)。
イ 他方,被告会社では,本件インセンティブ支給問題の調査対応に追われ,マスターキャリア制度の適用対象者に詳細決定後のマスターキャリア制度に関する事前説明を行うことができていなかった。そこで,取り急ぎ,マスターキャリア制度の適用者である原告に対しては,出向先であるa社のH社長との面談を実施し,人事異動に関する説明と併せて同制度の個別説明を行うこととした。そして,平成27年3月17日,実際にH社長が,原告と面談し,原告がマスターキャリア制度の適用対象者となること及びその内容について説明を行った。
ウ また,原告から,同制度に関する説明資料を交付してほしい旨の要請がされたこと等を踏まえ,同年3月20日には,経理管理本部副本部長人事総務部長であるIが原告と面談し,「マスターキャリア制度適用対象者への移行措置について」(乙13)を交付の上,改めて説明を行った。
そして,これらの説明においては,原告に対する余裕をもった事前説明が確保できなかったため,原告に対する同制度の適用については本来の4月ではなく半年後の平成27年10月からとすること,移行措置の適用についても,平成27年度については減額に見合う全額補填を行った上,補填を一定割合とする移行措置は平成28年を始期として行うこと等の説明がされた。その後,被告会社は,平成27年5月25日,役職者全員にマスターキャリア制度の詳細について説明を行っており,この制度は従業員全員に適用される制度である。
(6)  平成27年4月1日付け人事異動通達
被告会社は,例年,4月1日付けで人事異動を行っており,平成27年においても,同日付けで多数の人事異動を行った(甲6)。
原告についても,平成27年4月1日の人事異動の一環として,もともと原告が所属していた被告会社へ復帰する旨の人事異動を行うこととなり,H社長による平成27年3月17日の面談において,原告にその旨を告知した。
原告の人事異動の内容は,原告の新分掌を,被告会社の経営管理本部人事総務部ディレクターとするものであり,これは,被告会社の人事総務部の人員が不足している状況の下,もともと経営管理本部法務部に所属しており,a社出向後も,総務,法務,人事,経理といった管理業務全般を担当していた原告が適任と判断されたためであった。
2  争点1(本件インセンティブの返還要求による不法行為の成否)について
原告は,平成26年12月3日,被告Y2から,原告が受け取った約300万円の本件インセンティブを返還することに誓約する念書に署名して提出するよう求められ,また,同月4日,被告Y3の部下であるGから,理不尽極まりない事情聴取を受けるなどし,これらの行為は,同被告らの常務執行役員の立場を利用した恐喝行為であるなどとして,被告らが不法行為責任を負う旨主張する。
しかしながら,上記1(1)イの理由により,被告会社は,本件インセンティブ支給には重大な問題があると判断し,関係者のヒアリング調査と自主返納の意向確認を実施したものであるところ,その判断並びに調査や意向確認の実施自体が不当なものということはできない上,原告に対するヒアリング調査や意向確認の内容及び態様等は上記1(1)ウのとおりであるから,被告Y2及び被告Y3の意向を受けたGが,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて行われたものということはできない。その他,被告Y2及びGの面談等が不法行為上の違法性を有するものと認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
3  争点2(賞与の支払時期の延期による不法行為の成否)について
原告は,被告Y2が,原告に対し,賞与の支給日を本来の平成26年12月10日から1週間後の同月19日まで待つよう要求したが,被告Y2のこの行為は,常務執行役員という立場を利用して原告を不安に陥れたものであった不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら,被告会社においては,本件インセンティブ支給問題の関係者に対するヒアリング等を行い,被告会社の賞与支給日である平成26年12月10日まで数日となったが,本件インセンティブ支給問題に関する事実調査の継続と被告会社としての対応方針を検討する時間が必要であったため,被告Y2は,同月8日に原告と面談し,賞与の支給日を同月19日としたい旨述べ,原告も特に異議なくこれを承諾したことが認められる(上記1(2))。
そうすると,被告Y2の上記行為が,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて行われたものということはできず,その他,上記の行為は不法行為上の違法性を有するものと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
4  争点3(人事考課ダウンによる不法行為の成否)について
ア  原告は,原告の考課書面における一次・二次評価は「B」であるのに,最終評価は「C」に下げられており,これは人事考課を装っているものの,本件インセンティブの返還の請求に従わない原告に対する理不尽な制裁であることは明らかである旨主張する。
しかしながら,被告会社(及びa社)における人事考課の内容・手法等は上記1(3)のとおりである。そして,原告が問題とする評価について,被告Y2は,原告の直属の上司はH社長であるから,一次評価者と二次評価者は同じH社長となり,最終評価者は被告Y2であるところ,設定された目標とその達成度からすれば,Hが「B」と評価している評価は甘いところがあったこと,Hが評価を行った際にはまだ本件インセンティブ支給は問題事項として取り上げられていなかったことなどから,これも考慮し,最終評価を「C」が妥当であると判断した旨説明しているところ(乙26,被告Y2本人),この説明は特段不自然・不合理でなく,また,そのような判断が不当であるということもできない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
イ  また,原告は,被告Y2が,本件インセンティブの自主的返上をせまり道義的責任を取るよう強要した行為は,常務執行役員という立場を利用して原告を道義的に反していると追い詰め,人格権を侵害したものである旨も主張する。
なるほど,被告Y2は,平成26年12月17日に原告に面談した際,本件インセンティブ支給に関して,他の従業員が少額の賞与しか受領していない状況で多額の支給を受けていたことに対する道義的責任を感じる必要があることを述べたことは認められる(上記1(3)ア)。しかしながら,上記1(1)の本件インセンティブの問題性やその金額に加え,本件インセンティブの支給が開始された平成24年6月頃以降は,それ以前に比べ被告会社の営業利益が相当落ち込んでいた時期であるにもかかわらず(乙6の1ないし3,7の1ないし9),a社で高額の本件インセンティブの支給がされていたことに照らせば,被告会社の従業員が少額の賞与しか受領していない状況で多額の支給を受けていたことに対する道義的責任を感じる必要があると述べること自体が不相当であるということもできない。
したがって,被告Y2の上記説明が,常務執行役員という立場を利用して原告を追い詰め,人格権を侵害したものであると認めることはできず,他にそのように評価すべき被告Y2の言動を認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
5  争点4(報告義務違反の始末書要求による不法行為の成否)について
原告は,被告Y3が「始末書」を要求した行為は,常務執行役員という立場を利用して原告に懲戒対象事由を明らかにしないまま「始末書」を要求するという強要行為であって不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら,上記1(4)イのとおり,被告Y3は,平成27年1月15日に原告と面談し,社員就業規則63条17号違反を理由とする制裁事由が記載された制裁通知書(甲4)及び始末書(甲5)を交付し,5か月の減給処分を告知したこと,その際,被告Y3が,減給額は大きくなく,始末書については原告が望むならこの場で署名する形でもよい旨説明を行ったことが認められる。
したがって,被告Y3が,始末書を書くことを強要したものとは認められず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
なお,減給処分が最終的に3か月ではなく,5か月となったのは,原告に支給された本件インセンティブ支給が計5回であったことから,支給実績に即した適切な処分がされるべきとの最終判断がされたためであると認められ,原告は,被告Y2から,平成26年12月17日に,3か月の減給処分になる見通しであることを聞いていたことは認められるものの(上記1(3)),あくまで見通しとして告げられていたにすぎないから,それが最終的に5か月となったからといって,不法行為上の違法性を有するということもできない。
6  争点5(マスターキャリアコースによる不法行為の成否)について
原告は,被告会社がH社長をして,原告にマスターキャリアコースの適用対象であり減給されると通告せしめた行為は,いたずらに原告を不安にさせ苦しめる行為であって不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら,上記1(5)のとおり,被告会社は,平成26年3月に,役職定年制度の適用開始年齢の変更を含めた人事制度変更について全従業員を対象として説明を行うとともに,平成27年5月には被告会社の役職者の会合において,マスターキャリア制度の説明を行っており,平成26年3月の説明には,原告も出席していたこと,マスターキャリア制度は,日々新たな知見が必要とされる広告業界において,そのような知見をより多く有する若手を積極的に役職者として取り立てるという目的のために従前より検討され,役職定年後の役職者に適用する人事制度として設けられた制度であって,当該役職定年制度は本件インセンティブ支給問題が発覚する平成26年9月の前である同年3月の時点で,全従業員宛て説明を行っているものであること,役職定年制度及びマスターキャリア制度は,全従業員に対して同じ条件で適用されるものであること,原告に対する余裕を持った事前説明が確保できなかった点については,移行措置につき相応の配慮がされていることが認められる。
そうすると,マスターキャリア制度の適用ないし原告に対する告知は,原告に対し,職場内の優位性を背景にし,業務の適正な範囲を超えて行われた行為とはいえず,不法行為上の違法性がある行為ということもできない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
7  争点6(人事異動による不法行為の成否)について
原告は,被告会社が,H社長をして通告せしめた,本件人事通達は,原告の人格権(名誉)を侵害し,職場内・外で孤立させ,勤労意欲を失わせ,やがて退職へ追いやる意図をもってされたものであり,被告会社に許された裁量権の範囲を逸脱した違法無効なものであって,不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら,原告が主張するように,被告会社の経営管理本部人事総務部がいわゆるリストラ部屋であるという事実も,同部屋に移動したことを原因に従業員が退職したという事実も認めるに足りる証拠はない。
そして,出向元である被告会社は,出向先であるa社からの復帰命令権を有するところ(最高裁昭和56年(オ)第856号同60年4月5日第二小法廷判決・民集39巻3号675頁参照),上記1(6)のとおり,本件人事通達は,被告会社の経営管理本部人事総務部の人員が不足している状況において,もともと被告会社の経営管理本部法務部に所属しており,a社への出向後も,総務,法務,人事,経理といった管理業務全般を担当していた原告が適任との判断からされたものであることが認められる。
そうすると,本件人事通達が,原告が主張するような意図でなされたものということはできず,他にその主張事実を認めるに足りる証拠はない。なお,原告は,a社からの異動を望まない旨をH社長に告げ,被告Y2に対しても,H社長がa社に原告を残留させたいという意見を持っており,原告も異動を望まない旨をメールで伝えていたことなどを主張しているが,その主張を考慮しても,本件人事通達がされた上記の経緯や原告の就労状況(基礎的事実(1)イ。原告自身,原告のうつ病は,平成25年末頃にはほぼ回復し,原告は,勤労意欲も高く,精神的にも身体的にも充実した状態で業務を行っていた旨主張している(上記第2の2(6)(原告の主張))等からすれば,本件人事通達が違法なものとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
8  原告の損害賠償請求についてのまとめ
上記2ないし7のとおり,争点1ないし6に係る原告の主張はいずれも採用できないから,争点7(原告の損害額)を判断するまでもなく,原告の被告らに対する損害賠償請求はいずれも理由がない。なお,原告は,渋谷労働基準監督署により,労働者災害補償保険法に基づく給付を受けていることが認められるものの(甲12の1ないし3,13),その事実のみによって,以上の認定判断は左右されない。
9  争点8(原告の地位確認請求の可否)について
原告は,本件人事通達は,違法無効である旨主張するが,上記7の認定判断に照らせば,その主張は採用できない。
したがって,原告と被告会社との間において,原告が出向先であるa社に就労すべき労働契約関係に基づく地位を有することの確認を求める原告の請求は理由がない。
第4  結論
以上の次第であるから,被告らに対し,不法行為に基づき損害賠償を求める原告の請求及び被告会社との間で,原告がa社において就労する労働契約関係に基づく地位を有することの確認を求める原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第17部
(裁判官 松本利幸)

 

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