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「業務委託 代理店 営業」に関する裁判例(16)平成30年 3月29日 東京地裁 平27(ワ)32062号 損害賠償請求事件

「業務委託 代理店 営業」に関する裁判例(16)平成30年 3月29日 東京地裁 平27(ワ)32062号 損害賠償請求

裁判年月日  平成30年 3月29日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)32062号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  棄却  上訴等  控訴  文献番号  2018WLJPCA03296007

裁判経過
控訴審 平成30年10月 4日 東京高裁 判決 平30(ネ)2428号 損害賠償請求控訴事件

評釈
前田修志・ジュリ臨増 1531号97頁(平30重判解)
岩田合同法律事務所・新商事判例便覧 3316号(旬刊商事法務2178号)
末永敏和・金商 1563号2頁
大塚和成・銀行法務21 840号78頁
大塚和成・銀行法務21 834号68頁

参照条文
会社法339条2項

裁判年月日  平成30年 3月29日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)32062号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  棄却  上訴等  控訴  文献番号  2018WLJPCA03296007

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告Y1社は,原告に対し,4億2925万7500円及びこれに対する平成27年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告Y2社は,原告に対し,1億7078万7500円及びこれに対する平成27年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告Y3社は,原告に対し,612万5000円及びこれに対する平成27年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  被告Y4社は,原告に対し,2042万2500円及びこれに対する平成27年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,被告らの取締役であった原告が,正当な理由なく取締役を解任されたこと(以下,被告らによる原告の取締役からの解任を併せて「本件解任」という。)により,被告Y1社に関しては報酬相当額2億8925万7500円及び退職金相当額の一部である1億4000万円(合計4億2925万7500円),被告Y2社に関しては報酬相当額1億4078万7500円及び退職金相当額の一部である3000万円(合計1億7078万7500円),被告Y3社に関しては報酬相当額612万5000円,被告Y4社に関しては報酬相当額2042万2500円の損害をそれぞれ被った旨主張して,被告らに対し,会社法339条2項に基づく損害賠償請求として,被告ごとに対応する損害金合計額及びこれに対する各被告についての訴状送達の日の翌日(被告Y2社については平成27年11月20日,その余の被告については同月21日)から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2  前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠(特記しない限り枝番を含む。以下に同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1)  当事者等
ア 原告
原告は,被告らの取締役を務め(被告Y2社においては代表取締役でもあった。),いずれの会社においても平成26年6月30日に取締役に再任された。また,原告は,株式会社a(以下「a社」という。)において,唯一の取締役かつ代表取締役の地位にあった。
イ 被告ら
(ア) 被告Y1社は,菓子,冷菓,飲料等の製造,加工,販売等を目的とする株式会社であり,株式会社b(以下「b社」という。)の100パーセント子会社である。また,被告Y1社はa社の100パーセント親会社である。
(イ) 被告Y2社は,内外国製菓子,食品類の輸出入及び販売等を目的とする株式会社であり,b社の100パーセント子会社である。
(ウ) 被告Y3社は,鉄,非鉄金属及びこれらの製品,鉱石,鉱産物等の売買及び輸出入業等を目的とする株式会社であり,b社の100パーセント子会社である。
(エ) 被告Y4社は,不動産の管理,売買,賃貸,仲介,鑑定及び調査等を目的とする株式会社であり,b社の子会社がその株式の100パーセントを保有する会社である。
ウ ○○グループ
(ア) ○○グループは,主として日本及び韓国において菓子製造,ホテル経営等の各種事業を行っているところ,日本国内においては,持株会社であるb社を経営のトップとし,そのほかに中核事業子会社である被告Y1社を始めとして,被告ら等多数の事業子会社を有している。これらの事業子会社はそれぞれが独立した法人格を有しているが,実態としては○○グループ全体が一体として事業活動を行っており,各事業子会社は,生産,営業等の機能や取り扱う製品の種類等により区分されたものであって,大企業における社内部門に近いものとして機能している。
(イ) ○○グループにおいては,創業者でありb社の代表取締役会長であったC(以下「C会長」という。)を経営陣のトップとし,近年はC会長の長男である原告がb社の取締役副会長及び複数の事業子会社の代表取締役社長として日本における経営を担当する一方,C会長の次男であるDがb社の取締役副会長及び韓国の複数の事業子会社の役員として韓国における経営を担当するという体制によって経営が行われていた。
(2)  本件でa社において実施された事業
ア 事業の概要
a社は,E(以下「E」という。)が代表取締役を務める株式会社c(d株式会社の子会社である。以下「c社」という。)と共同して,小売店舗における商品陳列棚の写真を撮影し,その画像をマーケティングに有用な情報にデータ化した上で販売するという事業(以下「本件事業」という。本件事業の具体的な内容やa社の関与については当事者間に争いがある。)を実施した。本件事業では,△△と呼ばれる画像をテキストデータ化するエンジン(処理装置。以下では「画像認識エンジン」などともいう。)を使用した技術を開発した上,これを用いて小売店舗における商品の陳列の状況を撮影した画像を処理し,撮影された陳列棚における商品の位置,商品別個数,商品販売価格及び商品一覧等の情報をデータ化することが予定されていた。
イ 本件事業の検討に関する経緯等
(ア) 本件事業の検討開始
本件事業は,平成22年頃から,a社における新規事業として検討が開始され,その後,日本において△△のライセンスを受けていたc社と共同して本格的な検討が行われるようになった。a社では,本件事業に係るプロジェクトチームが設置され,a社の従業員であったF(以下「F」という。)がチームのリーダーとして本件事業を担当した。本件事業は,Fが○○グループ内の新規事業提案制度(以下「社内ベンチャー」という。)に応募したことに端を発して検討が開始されたが,最終的には社内ベンチャーの対象となる事業としては採用されず,別の形で事業として進められることとなった。
(イ) b社における取締役会決議等
平成23年12月21日,b社の取締役会(以下「本件取締役会」という。)が開催され,原告他のb社の取締役や本件事業の担当課長であったFが出席した上で本件事業の検討を行い,最終的に,事業開始後3年度終了時点で事業継続についてレビューすることを前提として,全会一致で本件事業の実施を承認する決議(以下「本件取締役会決議」という。)がされた(乙1)。
また,a社においては,同日付けで,本件事業のための約4億7000万円の概算稟議が承認された(乙52の1)。
(ウ) 本件事業に対する追加投資の稟議の承認
本件事業においては,c社に対するシステム,撮影機器等の開発や運用実験のための委託料等の支払が積み重なり,平成25年7月時点で上記(イ)の予算約4億7000万円をほぼ費消した。そこで,a社は,本件事業に対する追加投資の稟議を行い,同年8月21日付けでこれが承認された(以下「本件追加投資承認」という。なお,承認された追加投資額については後記のとおり争いがある。)。(乙2の1)
(エ) 本件事業の終了
本件追加投資承認により拠出された3億6750万円は平成26年5月までに本件事業のために全て費消され,本件事業を継続するためには,更に追加投資が必要となった。そこで,同年9月頃,本件事業継続のために追加投資の承認申請がされたが,追加投資や○○グループによる事業の引継ぎ等の支援が行われなかったため,本件事業は終了した。
(3)  インターネットサポート業務委託
被告Y1社は,株式会社e(以下「e社」という。)に対し,○○グループが共同利用するメールサーバー装置等の故障対応やバックアップ,メールログ解析による不正転送監視,不正アクセス監視等を行うインターネットサポート業務(以下「本件委託業務」という。)を委託することとし,平成14年4月1日,インターネットサポート基本契約を締結した(乙23)。
e社は,原告の大学の同級生であるG(以下「e社のG」という。)が代表取締役を務める会社であり,本件委託業務も同人が中心となって遂行した。上記業務委託により,e社は,本件委託業務の遂行に必要な範囲で○○グループ役職員等が外部の者との間で送受信した電子メールにアクセスする権限を有していた。
(4)  本件解任の経緯
原告は,平成26年12月26日,b社の取締役会において,原告以外の出席取締役全員の賛成によりb社取締役副会長の地位を解職された。さらに,原告は,被告Y1社,被告Y2社,被告Y3社については同日付け(a社についても同日付け)で,被告Y4社については平成27年1月7日付けで,いずれも任期満了前に取締役から解任された(本件解任)。(甲1~4,乙29。弁論の全趣旨)
本件解任に際して,原告は,被告らから,①原告がa社の代表取締役として実行したc社に対する支払方法等が不適切であり,②○○グループ役員としての職務についても不適切な点があることが解任理由であるとの説明を受けた。
3  争点及びこれに関する当事者の主張
(1)  本件解任の正当な理由の有無(争点1)
(被告らの主張)
本件解任には,以下のとおり正当な理由(会社法339条2項)の根拠となる事情があり,しかも,これらはそれぞれ単独で解任の正当な理由の根拠となるものである。
ア 違法かつ小売業者との信頼関係を破壊する本件事業を実行したこと(正当な理由①)
本件事業では隠し撮りカメラを使用して小売店舗の無断撮影を行っているが,明示的に写真撮影を禁止している小売店舗に無断撮影目的で立ち入る行為は刑事上建造物侵入罪となることは明らかであり,民事上も小売店舗の管理者の権利又は利益を侵害する不法行為に該当する。また,小売店舗で無断撮影した画像を基にしたデータの販売を行う本件事業は,○○グループと小売業者との間の信頼関係を破壊し,○○グループ全体の経営に重大な悪影響を及ぼすおそれが大きい。
原告は,本件事業において無断撮影を行うこと及び本件事業が違法とされかねないものであることを認識していたのであり,さらに,本件事業が小売業者との間の信頼関係を破壊し,○○グループ全体の経営に重大な悪影響を及ぼすおそれがあることについても当然認識していた。それにもかかわらず,原告は,本件事業を企図し実行したのであるから,かかる原告の行為が解任の正当な理由の根拠となることは明らかである。
イ 本件取締役会において虚偽説明をしたこと(正当な理由②)
Fは,本件取締役会において,本件事業が顧客となるデータ販売企業から提供されたデータの解析のみを行う事業であり,a社が自ら店舗調査を行うことはなく,データ販売も自ら行わず,消費財メーカーは直接の顧客とはならないため,無断撮影による違法性の問題や小売業者との間の信頼関係破壊の問題は生じないとの説明を行った。
しかしながら,本件事業では顧客となるデータ販売企業からデータが提供されたことは一切なく,当然のことながら,提供されたデータの解析処理も一切行われていない。実際は,本件取締役会の前後を通じ,一貫して主な顧客は消費財メーカーとされ,データ販売企業への販売,営業活動は一切準備,検討されていなかった。むしろ,本件事業においては,a社は,自ら小売店舗で無断撮影を伴う店舗調査を実施した上,データ販売をすることとされており,違法行為が行われ,小売業者との信頼関係の破壊が生じ得る状態になっていた。こうした点に鑑みれば,Fの上記説明は虚偽であることが明らかである。
そして,Fはかかる説明について原告から事前に了解を得ている上,本件取締役会に出席した原告もFの説明に何の異論も差し挟んでいないのであるから,当該説明は実質的には原告が行ったというべきである。原告は,本件取締役会において意図的に実態と異なる虚偽の説明を行ったのであるから,かかる原告の行為が解任の正当な理由の根拠となることは明らかである。
ウ 本件追加投資承認の稟議において虚偽説明をしたこと(正当な理由③)
Fは,平成25年8月21日の本件追加投資承認の稟議において,以下のように,売上げ見込み,投資回収見込み,資金使途及び画像取得方法に関して虚偽の説明を行った。当該説明は,原告の承認及び指示の下でされたものであるから,かかる原告の行為が解任の正当な理由の根拠となることは明らかである。
(ア) 売上げ見込みに関する虚偽説明
Fは,本件追加投資承認の稟議の際,本件事業の売上げ見込みに関し,①平成25年7月初旬現在,本件事業に係るデータ購入見込企業は,合計22社,95カテゴリーであり,1カテゴリー当たりの販売額を1100万円から1300万円と計画していること,②平成26年4月ないし5月から本件事業に係るc社の売上計上が開始し,同年度の売上げは6億1000万円,平成27年度の売上げは7億9000万円と計画されていること,③本件事業への投資は今回追加の3億6750万円が最終となることなどを説明した。
しかしながら,上記①については,本件追加投資承認がされた頃,データ購入の見込みがあったのはせいぜい数社程度であり,データ購入見込企業が22社である旨の説明に根拠はなく,実際,翌年平成26年9月頃までの間にc社がデータ購入契約を締結できたのは2社のみである。また,上記②については,c社の売上げの計画は3000店舗の調査を行う場合を想定したものであるところ,本件追加投資承認当時,調査対象店舗が3000店となる時期は平成26年10月まで後ろ倒しにされたことなどからすれば,平成26年度の売上げを6億1000万円とする根拠はない。そして,上記③についても,かかる売上げが発生し,本件事業のキャッシュフローが回っていくからこそ,それ以上の追加投資が不要になるのであるから,前提となる売上げ見込みに関する説明が虚偽である以上,本件追加投資承認をもって本件事業に対する投資は最終になるという説明も当然虚偽である。
(イ) 投資回収見込みに関する虚偽説明
Fは,本件事業の投資回収見込みに関し,a社がc社からシステム賃料を収受することで投資を回収することができるところ,その賃料は,当初c社の売上げの10パーセントであったものの,追加投資により少なくとも30から40パーセントとすることができ,投資額の回収期間も当初予定していた8年から5年に短縮することができる旨説明した。
しかしながら,そもそもa社とc社との間では,本件事業によるc社の売上高の一部をa社がシステム賃料として収受するという取決め自体存在しておらず,システム賃料の収受割合に係る説明は事実に反し,そうである以上,投資額の回収が8年から5年に短縮されるとの説明も当然虚偽である。
(ウ) 資金使途に関する虚偽説明
Fは,追加投資の資金使途に関し,顧客からの提供データ詳細化の要求に応えるため,データ処理に必要なオペレーションセンターの人員を80名から160名に増員する人件費(平成25年8月から平成26年5月までを対象として合計2億7056万円)が大部分を占めると説明した。
しかしながら,顧客から新たに要求されたデータの内容として本件追加投資承認の稟議書に記載されている事項(乙2の3)は,本件事業開始当初から想定されていた事項(乙17)であるから,顧客からの提供データ詳細化の要求に応えるために人員の増員が必要になることはあり得ない。また,平成25年8月時点のオペレーションセンターの人員は20名であり,80名増員したとしても100名分の人件費で済むはずであり,しかも,c社はオペレーションセンターの人員に要する人件費を1億2780万円としか計画しておらず,Fが説明する金額を大きく下回っている。実際,追加投資された資金は,オペレーションセンターの人件費以外に,c社が委託する外部の調査業者への業務委託料等として支払われていることからすれば,追加投資の大部分を人件費に使う旨の説明は虚偽である。
(エ) 画像取得の方法に関する虚偽説明
Fは,本件事業における画像取得の方法に関し,c社が協力店舗から画像を取得すると説明したが,実際には,明示的に店舗内の撮影を禁止している小売店舗をも対象として隠し撮りにより店舗画像が取得されているのであるから,かかる説明は虚偽である。
エ 被告Y2社に対して販売データの購入要求をしたこと(正当な理由④)
原告は,本件事業の売上確保のため,自らが代表取締役を務める被告Y2社をしてc社から販売データを購入させようとした。その過程において,原告は,被告Y2社の取締役に対して早期に稟議決裁をするよう圧力をかけ,無断撮影を行っているにもかかわらず,小売店から承諾を得ているかのように自ら虚偽説明を行い,また,原告の容認の下でF及びc社に対して本件事業について同旨の虚偽説明を行わせていたのであるから,かかる原告の行為が解任の正当な理由の根拠となることは明らかである。
オ ○○グループ内の手続違反をしたこと等(正当な理由⑤)
原告は,前記アないしエのほかに,本件事業に関し,次のような手続違反等をしており,これらも解任の正当な理由の根拠となるものである。
(ア) 新規事業の開始に必要な手続の違反
○○グループにおいては,事業子会社が新規事業を開始する場合には,持株会社であるb社の取締役会の承認を要することとされていた。それにもかかわらず,原告は,本件事業の開始に関する本件取締役会決議(平成23年12月21日)よりも前の平成23年10月28日に,a社を代表してc社との間でソフトウェア開発に関する委託契約を締結し,事実上本件事業を開始させており,○○グループ内の承認手続に違反している。
(イ) 契約締結に必要な手続の違反
○○グループにおいては,事業子会社が第三者との間で契約を締結しようとする場合,事前に担当部署において特殊文書印鑑捺印申請書を起案し,同申請書に被告Y1社の法務担当部長の確認,承認印を得なければならない。ところが,本件事業に係る契約についての申請書には,被告Y1社の法務担当部長の確認,承認印ではなく,被告Y1社の法務担当の一従業員に過ぎず,承認権限のないH(以下「H」という。)の押印しかないから,契約締結に関する手続に違反している。同申請書はFが起案したものであるが,Fは,原告と二人で本件事業を担当し,原告から直接に指示,監督される立場にあった従業員であるから,原告はFの同申請行為についても責任を負うべきである。また,原告は,同申請書の上部欄に,わざわざ原告を表す「A」印を押印することで,提出先に圧力をかけて手続違反に加担していたのであるから,原告が責任を負うことは免れない。
(ウ) 支払に必要な手続の違反
a ○○グループにおいては,事業子会社が第三者に対して支払をするに当たり,概算額の支払に関する稟議を経ていても,具体的な支払額が確定する都度,個別に稟議を経る必要があった。それにもかかわらず,a社は,本件事業に関し,別表の番号1ないし39の支払のとおり,個別の稟議を経ないという手続違反の支払を繰り返した。各支払の申請はFがしたものであるが,Fは原告と二人で本件事業を担当し,原告から直接に指示,監督される立場にあった従業員であるから,原告はその手続違反についても責任を負うべきである。また,原告は,別表の番号23以降48までの全ての支払において,出金伝票の「部署長」欄に原告を表す「A」の押印をすることで提出先に圧力をかけて上記手続違反に加担していたのであるから,原告が責任を負うことは免れない。
b 本件追加投資承認においては,当初申請された3億6750万円の支払の稟議は承認されず,その10分の1の金額である3675万円の支払についてしか承認されていない。それにもかかわらず,a社は稟議を経ていない3億3075万円について別表の番号40ないし48のとおり支払を行った。原告及びFは,本件追加投資承認の稟議において,回議(稟議書の回付を受け,承認すること。)の対象役員であるb社取締役のI(以下「I取締役」という。)から個別の支払について稟議を経るよう念押しされていたにもかかわらず,a社に稟議を経ない支払をさせるという手続違反を行った。
(エ) 原告が全株式を保有する会社への事業移転の画策
原告は,a社において本件事業を進める一方で,Fに対し,新たに会社を設立した上でc社から本件事業を移転させるよう指示し,実際に新会社の定款案を作成して具体的な設立の準備を行うなど,○○グループに多額の投資をさせた本件事業の成果を取り込もうとする背任行為を画策していた。なお,本件事業の移転先としては具体的には株式会社fが想定されていた。かかる事業移転の画策は原告が自らFに指示して行わせているものであり,原告が責任を免れることはない。
カ ○○グループ役職員の電子メール情報の不正取得(正当な理由⑥)
(ア) e社のGは,平成23年10月から平成26年12月17日までの間,継続的に○○グループ役職員の電子メールにアクセスし,原告に対して電子メールの転送を行っていた。このようなアクセス及び転送は,本件委託業務の遂行目的外であることは明らかであり,不正なアクセス及び許容されない情報漏えいである。そして,原告は,かかる転送メールを受信したことを認識しながらe社のGに対して異議を述べていないことからすれば,同人による不正アクセス及び転送は,原告の依頼又は容認の下に行われたものといえる。
(イ) さらに,e社のGは,本件解任間際である平成26年12月17日以降も○○グループ役職員の電子メールにアクセスし,原告に対し,本件解任に関する社内の検討状況等を内容とする電子メールを転送していた。同日以降のe社のGの不正アクセス及び情報漏えいは,その経緯に照らせば原告の依頼に基づき行われたことは明確である。
(ウ) 以上のように原告が漏えい情報を不正取得したことは,悪意による職務上の不正行為であり,解任の正当な理由の根拠となることは明らかである。
キ 被告らが本件解任後に認識した事情についても解任の正当な理由の根拠になること
原告は,被告らが本件解任後に認識した事情は正当な理由の根拠になり得ない旨主張するが,会社法339条2項の損害賠償責任は会社の故意過失を要件としない法定責任であること,取締役への解任の告知も要件とされていないこと,条文上も正当な理由の認識に関して限定が付されていないこと,取締役を解任する権限は代表取締役や取締役会ではなく株主総会にあるから,解任理由について会社の認識を問題とすること自体そもそも不合理であること,会社ないし株主の認識を要件とする場合には,重大な不正行為を行っていた取締役が巧みに不正を隠ぺいすればするほど解任の正当な理由が認められにくくなり,妥当性を欠くことなどからすれば,正当な理由は解任時点で客観的に存在していれば十分であり,それ以上に解任時点での会社の認識も取締役への解任理由の明示も不要と解すべきである。
(原告の主張)
被告らは,様々な事情を挙げて本件解任に正当な理由がある旨主張するが,以下のとおり,被告らが挙げる事情はそもそも認められないか,仮に認められるとしても殊更に取り立てること自体が不適切な些細なことばかりであり,本件解任の正当な理由の根拠には到底なり得ない。
ア 被告らの主張する正当な理由①(違法かつ小売業者との信頼関係を破壊する本件事業を実行したこと)について
(ア) 本件事業に関して取得された弁護士作成の各法律意見書(乙5,31,32。以下,それぞれ「J弁護士ら意見書」(乙5),「K弁護士意見書」(乙31),「L弁護士意見書」(乙32)といい,併せて「本件各意見書」という。)は,本件事業の実施可能性を直ちに否定するものではなく,明示的に写真撮影等を禁じている小売店舗についても,無断で撮影を行うことが違法となる可能性が高いことを一致して指摘していたわけではない。
また,小売業者にとって,全国の小売店舗における商品棚に関する情報を集約したデータの取得が経営戦略を練る上で有用であることは明らかであるから,小売業者が当該データの提供を受けられることを条件として店舗内撮影に承諾することは十分に考えられる。
(イ) 本件事業は,Fや,被告Y1社の総務部法務担当部長であり社内ベンチャーの選考委員でもあったM(以下「M」という。)などによって,本件各意見書を踏まえた本件事業の適法性の検討や,小売業者とのトラブル回避のため○○グループの名前が出ないスキームの検討が行われ,最終的には,本件取締役会決議を経て実施されたものである。こうした点からすれば,本件事業を企図し,実行したことに対する責任を原告一人に負わせるのは筋違いである。
イ 被告らの主張する正当な理由②(本件取締役会において虚偽説明をしたこと)について
(ア) 本件事業は,各段階においてスキームに変更があったところ,本件取締役会においては,当時検討されていたスキームに沿って適切に説明がされていたから,何ら虚偽説明はされていない。
(イ) また,本件取締役会における説明を行ったのは基本的にはFであり,仮に,Fの説明に事実と異なるところがあったとしても,そのことによる責任を原告のみが退任という形で負うべき筋合いはない。
ウ 被告らの主張する正当な理由③(本件追加投資承認の稟議において虚偽説明をしたこと)について
以下のとおり,Fは,本件追加投資承認に係る稟議において虚偽説明をしていない。また,原告が,Fに対して,説明内容について指示や承認をしたこともない。
仮に,本件追加投資承認の稟議に際して一部不正確な説明があったとしても,かかる不正確な点を看過して本件追加投資承認がされたことにつき,b社の取締役会全体ないし法務部や財務部の責任が問題とされるのであればともかく,原告一人の責任に帰すべき理由はない。
(ア) 売上げ見込みに関する説明に虚偽はないこと
本件追加投資承認の稟議当時,データ購入見込みの企業からの要望を受けてデータの項目が増加し,その内容も詳細化していたため,各企業との間で複数のカテゴリーについて契約締結を期待することができ,売上額の増加も見込まれるといった状況にあったことから,Fは合理的な売上げ見込みの説明をしたのであり,説明内容に虚偽はない。
(イ) 投資回収見込みに関する説明に虚偽はないこと
本件追加投資承認の稟議の時点において,a社とc社との間で,a社が本件事業によるc社の売上高の一部をシステム賃料として収受する旨の取決めがあることを前提に,c社の売上高に占めるシステム賃料の割合を従前より増加させる旨の合意がされていたから,Fの投資回収見込みに関する説明に虚偽はない。
(ウ) 資金使途に関する説明に虚偽はないこと
オペレーションセンターの人員や人件費等については,Fがc社から提供された資料を基に説明を行ったものであり,意図的に虚偽の説明を行ってはいない。仮に,説明内容と実際の人員や人件費等が異なっていたとしても,当時,同センターの人件費が原因で本件事業の資金繰りが苦しくなっていたことは事実であり,虚偽の説明にはならない。
(エ) 画像取得方法に関する説明に虚偽はないこと
Fは,本件事業における画像取得方法について,被告らの主張するような虚偽説明はしていない。
エ 被告らの主張する正当な理由④(被告Y2社に対して販売データの購入要求をしたこと)について
被告Y2社は,同社の原告以外の取締役の判断により本件事業に係るデータの購入を決定したものであるから,被告Y2社が原告により不当に同データを購入させられたと評価されるべきではない。
原告は,被告Y2社の取締役に対し,早期にデータ購入に関する稟議を承認するよう圧力をかけるような発言をしたことはない。また,本件事業の販売データを購入するよう被告Y2社に対して営業活動を行っていたのは主にc社であって,原告及びFはかかる営業活動を行っておらず,被告Y2社に対する説明内容に一切関知していない。
オ 被告らの主張する正当な理由⑤(○○グループ内の手続違反をしたこと等)について
(ア) 新規事業の開始に必要な手続に違反はないこと
○○グループにおいては,新規事業の開始にあたって,b社の取締役会の承認を必要とする旨の定めは存在せず,同承認は手続上必要ではない。
他方,当時の○○グループにおいては,新規事業の開始を含め,○○グループにおける重要事項についてC会長の承認を得ることが必要とされており,本件事業は,平成23年10月11日にC会長の承認を得ているから,手続上必要な承認は得ていた。
(イ) 契約締結に必要な手続の違反はないこと
特殊文書印鑑捺印申請書については,被告Y1社の法務部の承認を得る必要があるとされていたものの,同法務部の法務担当部長の確認,承認印まで得なければならないという決まりはなかった。このことは,同申請書の提出先である会長秘書室が法務担当部長ではないHの押印がされた申請書を承認し,契約書に会社の代表印を押印していることからも明らかである。
また,原告が本件事業の契約締結に関する特殊文書印鑑捺印申請書の上部欄に「A」印を押印したのは,Fの上司として申請内容を承認してもらう必要があるとFから説明を受けたからであり,申請書の提出先に圧力をかける趣旨ではない。
仮に,法務担当部長の確認,承認印を得ていないことが手続違反だとしても,Hが押印しているのであるから,被告Y1社の法務部内の手続違反であり,あるいは被告Y1社の法務部長の確認,承認がないにもかかわらず申請書を承認した会長秘書室の手続違反にすぎず,特殊文書印鑑捺印申請書を起案したF,ひいては起案部署であるa社の社長であった原告に責任があることにはならない。
(ウ) 支払に必要な手続に違反はないこと
a 本件事業については,本件取締役会決議の日と同じ平成23年12月21日に約4億7000万円の支払を行うことについて承認を得ていたところ,Fは,本件事業開始当初から平成24年5月頃までは当該金額に含まれる個別の支払についてもその都度稟議していた。しかし,同月頃,被告Y1社の財務部担当者から,上記金額に含まれる支払について個別の稟議を経ることは不要であるとの指摘を受けたため,以後,個別の稟議を経なかったものである。
また,原告が別表の番号23以降48までの出金伝票に「A」印を押印したのは,Fの上司として申請内容を承認してもらう必要があるとFから説明を受けたからであり,申請書の提出先に圧力をかける趣旨ではない。
仮に,個別の支払ごとに稟議が必要だとすると,出金伝票に必要な稟議書が添付されていないことになるから,被告Y1社の財務部がそのことを指摘し,支払の承認がされなかったはずであるが,かかる指摘や不承認がされたことはなかった。被告らが主張する点が手続違反になるとすれば,支払に関する承認権限を有する被告Y1社の財務部の手続違反であり,原告の責任とされるべきではない。
b 本件追加投資承認の稟議書が受け付けられた後,回議対象の役員であるI取締役からFに対し,稟議に係る金額が3億5000万円だと金額が大きく見えるので,月額3500万円に修正して申請して欲しい旨の要請があった。かかる要請を受けて,Fは,別表の番号40から48までの支払に関し,総額の記載を形式的に月額の記載に修正しただけであり,実際には,月額3500万円(税抜)の10か月分である合計3億5000万円(税抜)の支払について稟議が承認された。
仮に,被告らが主張する点が手続違反になるとすれば,支払に関する承認権限を有する被告Y1社の財務部の手続違反であり,原告の責任とされるべきではない。
(エ) 原告が全株式を保有する会社への事業移転の画策をしていないこと
新会社への事業移転は,c社からd株式会社に対して本件事業が移転されてしまう可能性があるという話が出たため,それを防ぐ方策として検討されていたものであって,単なるアイディアにすぎず,実際に設立の準備などは進めていなかった。
なお,被告らは,上記新会社が具体的には株式会社fのことであるとするが,原告及びFが同社の取締役に就任したのは本件解任後の平成27年7月のことであり,新会社への事業移転とは全く関係がない。
カ 被告らの主張する正当な理由⑥(○○グループ役職員の電子メール情報の不正取得)について
(ア) 平成23年か24年頃から平成26年12月17日までの間,原告に電子メールが転送されてきたことはあったが,原告は,それらの電子メールがいかなる目的でどのような方法で転送されているかを知らず,当然のことながら転送を誰かに指示したこともなかった。
(イ) また,原告は,平成26年12月17日にC会長から突如解任の通告をされた後,e社のGに対し,原告の解任について何かあれば教えて欲しいと伝えたが,誰のどのような電子メールを転送して欲しいなどと具体的な依頼をしたわけではない。解任通告以降の電子メールの転送については,理由も分からず突如として解任を通告されたという極めて特殊な状況において,原告がとったやむを得ない緊急避難的・正当防衛的な対応である上,転送された電子メールの数も多いわけでもなく,その内容を第三者に漏えいしたわけでもないから,本件解任の正当な理由の根拠にはならない。
キ 正当理由は被告らが本件解任当時に認識していた事情に限られること
被告らは,本件解任の時点において,本件事業に関して主張する正当な理由①ないし⑤に係る大部分の事実及び正当な理由⑥に係る事実を認識していなかったところ,解任時点で被告らが認識していなかった事情は本件解任の正当な理由の根拠とはなり得ない。とりわけ,本件においては,b社経営陣の一部が原告を○○グループの経営から完全に排除するために本件解任を実行したという特殊事情が存在することに鑑みれば,会社が解任後に事後的に認識した事情を正当な理由の根拠として主張することは認められるべきではない。
(2)  原告の損害額(争点2)
(原告の主張)
ア 被告Y1社について
原告が被告Y1社から解任された翌日である平成26年12月27日から原告の任期満了時である平成28年6月までの期間の報酬相当額から既に支払を受けた分を控除した2億8925万7500円及び退職金相当額1億4000万円が原告の損害である。
なお,被告Y1社においては退職金規程が存在し,本件解任がなければ取締役の任期満了時までの退職金を受領することができたはずであるから,かかる退職金相当額についても損害額に含まれる。
イ 被告Y2社について
原告が被告Y2社から解任された翌日である平成26年12月27日から原告の任期満了時である平成28年6月までの期間の報酬相当額から既に支払を受けた分を控除した1億4078万7500円及び退職金相当額3000万円が原告の損害である。
なお,被告Y2社においては退職金規程が存在し,本件解任がなければ取締役の任期満了時までの退職金を受領することができたはずであるから,かかる退職金相当額についても損害額に含まれる。
ウ 被告Y3社について
原告が被告Y3社から解任された翌日である平成26年12月27日から原告の任期満了時である平成28年6月までの期間の報酬相当額から既に支払を受けた分を控除した612万5000円が原告の損害である。
エ 被告Y4社について
原告が被告Y4社から解任された翌日である平成27年1月8日から原告の任期満了時である平成28年6月までの期間の報酬相当額から既に支払を受けた分を控除した2042万2500円が原告の損害である。
(被告らの主張)
原告の主張は争う。
退職金相当額については,被告Y1社及び被告Y2社の定款には役員の退職金に係る具体的な定めがなく,両社の退職金規程も株主総会決議なしに退職した役員に当然に退職金を支給することを定めるものではない。その上,本件解任に至る経緯において,争点1の被告らの主張に挙げた各事情があることからすれば,原告に関し,本件解任がなかった場合に退職金規程に基づく退職金が支給されていた可能性はほとんどなかったというべきであり,本件解任によって原告に退職金相当額の損害が発生していないことは明らかである。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記前提事実並びに証拠(後掲の書証のほか,甲13,14,乙60,61,証人F,同N(以下「N」という。),同M,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  本件事業の提案
Fは,営業担当として勤務した経験から,店頭陳列棚における配置や個数が商品の販売実情に影響することを実感していたところ,平成21年頃,本件事業の基となるアイディアを思いついた。そこで,Fは,知り合ったc社と共同して本件事業を企画することを考えた。
c社は,a社に対して,平成22年8月26日付け「店頭調査事業に関するご提案書」と題する書面(乙3)を作成して本件事業の提案を行った。同書面は,小売店舗の商品棚情報を得るための画像認識エンジン開発から商品棚データ出力までの技術開発内容を説明するとともに,そのコストを明確にすることを目的として作成されたものである。同書面においては,商品陳列棚の撮影手段を動画撮影とすることを前提とし,隠し撮りカメラを使用することとされていた。
(2)  Fによる社内ベンチャーへの応募
Fは,c社からの上記提案を受けて,平成22年12月頃,本件事業を社内ベンチャーに応募した。その際の本件事業の内容は,a社又は同社が出資したジョイントベンチャー企業が,調査会社に対して店頭陳列棚の画像の取得を委託し,取得された画像を画像認識エンジンで解析した上,マーケティング上有用なデータに加工して,最終的に消費財メーカーや小売業者等に対して販売するというものであった。
Fは,社内ベンチャーの審査過程において,平成23年1月頃,被告Y1社の総務部法務担当部長であり社内ベンチャーの選考委員であったMほかの者から,本件事業において無断撮影を行うことは,違法性の点や○○グループと小売業者との信頼関係を破壊しかねない点でリスクがある旨指摘された。
(3)  本件各意見書の取得
ア 法律意見書取得の指示
b社の総務担当部長であったO(以下「O」という。)は,社内ベンチャーの審査過程での議論を踏まえ,FとM両名に対し,本件事業の違法性の有無について弁護士が作成する法律意見書を取得するよう指示した(甲15)。
Fは,法律意見書の取得に際し,平成23年1月11日,原告から,違法性等の点について,グレーならゴーする,g社に対しても1月の早い段階で返答をする旨を言って来ているので対応を急ぎたい,弁護士費用については別途被告Y1社で支払う方法を総務と打ち合わせるよう,法務の本来の仕事は,事業に係わる事案に対し,事業性が高いのであればブラックを濃いグレーに,濃いグレーを薄いグレーにすることだ,自社の中で保身みたいな事を言っているようでは新しいことは難しいなどと言われた(乙6)。
イ J弁護士ら意見書の取得
Mは,J弁護士らに対し,本件事業に関し,小売店舗の商品陳列状況を当該小売店舗の承諾を得ずに写真やビデオ等で撮影し,商品陳列状況に関する情報を第三者に販売することを前提に,どのような法的問題点があるかについて照会し,平成23年1月21日頃,J弁護士ら意見書を取得した。J弁護士ら意見書には,明示的に撮影禁止が表示されている小売店舗に関して本件事業を行うことは,民事刑事の両面において法的リスクが高く,明示的に撮影禁止が表示されていない小売店舗の場合であっても,法的リスクが完全に無くなるわけではないこと,将来的に明示がなされる可能性があるからそれ以降の法的リスクを十分に考慮する必要があることについての記載がある。(乙5)
ウ K弁護士意見書の取得
Fは,K弁護士に対し,本件事業に関し,小売店舗内において商品陳列棚などの写真撮影を当該店舗の承諾なしに行うことを前提として,①商品陳列棚を写真撮影すること自体の問題及び②商品陳列棚を写真撮影する目的による小売店舗への立入りに関する問題について照会し,平成23年1月23日頃,K弁護士意見書を取得した。K弁護士意見書には,上記①については,大量生産された商品が陳列されている状態を写真撮影する行為自体の違法性が問われ,損害賠償義務を負うなどの可能性は極端に低いと考えられ,この点は,具体的損害の主張・立証可能性の観点から考えれば,当該店舗管理者によって明確に写真撮影が禁止されている場合も同様であると考えられること,上記②については,調査対象となる店舗が明確に店舗内における写真撮影を禁止しており,それが店舗内に立ち入る者に周知されうる状態にある場合を除けば,建造物侵入罪に問擬される可能性は比較的低いものと考えられること,ただし,判例理論を文字通り理解する限り,管理権者が明確に写真撮影を禁止し,立ち入り者がそれを容易に認識しうる状態である場合についてまでも,建造物侵入罪が成立する可能性が低いと結論づけることは出来ないことについての記載がある。(乙31)
エ L弁護士意見書の取得
Fは,L弁護士に対し,店舗実測調査を行う際に小売店舗内の商品陳列状況を写真撮影し,メモを取るなどの行為の違法性について照会し,平成23年1月31日頃,L弁護士意見書を取得した。L弁護士意見書には,上記行為は,その是非に関する道徳上倫理上の問題はともかく,仮に店舗管理者の明示の承諾を得ていなかったとしても,目的において正当なものと考えられ,その手段も相当性の範囲にとどまるものであり,撮影された写真やメモ等の資料について適正な管理がなされるのであれば,そのこと自体が直ちに違法となる根拠はないが,当該行為を禁止する旨が小売店舗内に明示されている場合には,店舗管理者の明示の意思に反することから,これを違法でないというのはかなり困難であり,特に,写真撮影については,店舗管理者が撮影禁止を明示している以上,撮影されたくないという期待は法的にも保護されるのが相当であり,それを知って店舗内に立ち入ることは,禁止行為に該当することを了解していると解され,店舗管理者の法的利益を侵害し,違法になる場合があると考えることについての記載がある。(乙32)
オ 本件各意見書取得後の原告の対応
原告は,本件各意見書の内容を確認するとともに,Fから,自ら取得したK弁護士意見書及びL弁護士意見書に記載された意見の内容を整理した書面も受け取った(甲24)。
(4)  本件事業に関する決裁及びNからの指摘
ア a社が事業を行うに当たり必要となる決裁等について定めた「決裁・権限区分表」によれば,新規事業を開始する際には,社長の決裁のほか,「取締役会の決議」が必要であると備考欄に記載されている(乙10)。
イ 原告は,平成23年6月末頃,b社の代表取締役社長であったNに対し,本件事業について説明したところ,Nは,売上げ,利益ともに大きなものではないにもかかわらず,店舗内の無断撮影を行うことで小売業者とトラブルになる可能性があることから,本件事業について強く反対した。これに対し,原告は,無断撮影の違法性の問題については,商品陳列は公知の事実であり,問題がないことは弁護士に確認済みである旨説明し,小売業者とトラブルになる可能性についても,店舗内の撮影は○○グループではない別会社が行うため問題がない旨説明した。しかし,Nは,弁護士の意見は当てにならないし,いずれ○○グループとのつながりがあることが小売業者に分かってしまうなどと反論した。
原告は,同年7月1日,Fに対して,Nが本件事業に反対していることを伝えたが,Fは,この段階で本件事業を断念することは不適切である旨進言し,原告及びFは,引き続き本件事業を進めることとした。(乙45)
(5)  会長会議
原告及びFの働きかけで,平成23年10月11日,本件事業を進めることにつき,○○グループの創業者であり会長であったC会長から承認を得るための会長会議が開催された。同会議においては,原告らから,本件事業がa社の新規事業として展開するものであり,ビジュアルデータを機械的に認識する新システムを開発取得し,当該システムを販促関連企業及び調査企業へ賃貸し,その賃貸料等を売上げとする事業である旨の説明がされた。その結果,C会長は,本件事業をa社の事業として進め,これに投資することを承認した。(甲23)
被告Y1社の常務取締役等を務めていたP(以下「P」という。)は,会長会議後の平成23年10月27日,Fに対し,本件事業はリスクが多過ぎるためやめるように言ったにもかかわらず,会長会議が開催されるに至った経緯の説明を求めた。これに対し,Fは,今回の事業スキームは社内ベンチャーの際に予定されていたスキームとは異なり,調査データの販売ではなく,システムを賃貸する内容であり,調査会社や広告代理店,製造メーカー等がそのシステムをどう使うかは借り先が決めることであって,以前のスキームと異なるものであるから,会長に報告することとなった旨回答した。(乙65,66)
(6)  ソフトウェア開発委託基本契約の締結
a社とc社は,平成23年10月28日,本件事業に使用するコンピュータプログラム及びこれに関するドキュメントの開発を目的として,a社がc社に対して委託する個別具体的な契約の基本条件を定める契約(以下「本件基本契約」という。)及び本件基本契約に基づく個別契約をそれぞれ締結した(乙11,12)。
(7)  本件事業の概算稟議
Fは,平成23年11月1日,本件事業の予算を確保するために約4億7000万円の概算稟議を行った。Fは,稟議の過程で,Mほかの者に対し,本件事業において現地調査を行うのはデータ購入企業であり,a社は解析システムを保持し,データ購入企業から数値,画像等の処理の委託を受けるのみで,調査及び配信データの再販売を行わないため,コンプライアンス上の問題は生じないと説明した。この説明に対し,Mらから本件事業のスキームの詳細な説明を求められたFは,同月17日付けの補足説明資料を作成し,これに基づいて説明をした。同資料には,従前のスキームは,a社とは無関係の調査会社から小売業者の店舗情報を取得して「完全データ」(店頭映像等のデータを解析して得られるデータを顧客のニーズに応じて整理し,マーケティング上有用な形にしたデータのこと。以下に同じ。)にした上で,a社とは別の会社が消費財メーカー等へ販売するというものであったが,このスキームだと小売業者との摩擦リスクが大きくなる可能性があることに鑑み,新たなスキームでは,完全データ化したものを販売するのではなく,提供された情報を統計処理可能な程度にデータ化する処理のみを行い,同データを貸し出すこととしたため,法的問題はなく,○○グループの得意先との摩擦リスクも生じない旨の記載がある。(乙52,乙67)
(8)  c社による撮像機器等の提案
c社は,平成23年12月7日頃,a社に対し,「画像認識エンジンを含む総合システムおよび撮像デバイス要件定義書(Ver.1)」と題する書面(乙17)を交付し,商品棚等を撮影するために必要となる撮像機器(デバイス)の仕様概要等の提案を行った。同書面においては,c社が,本件事業における撮像デバイスの開発を担当し,食品メーカー,飲料メーカー,日用品メーカー等の消費財メーカーの顧客に対し,商品の陳列位置,売価,POP(販売促進用の広告)設置の有無等に関する情報を提供することが想定されていた。
(9)  本件取締役会における説明
平成23年12月21日に本件取締役会が開催されたところ,Fは,本件事業のスキームにつき,顧客であるデータ販売企業が調査会社に店頭調査を委託して店頭の画像を収集し,a社はデータ販売企業から提供された画像の解析処理のみを行い,データ販売企業が解析処理後のデータを完全データ化した上で消費財メーカー等に販売するものである旨の説明をした。これに対し,出席取締役から事業の適法性や企業倫理に関する質問があったが,Fは,a社は顧客から提供を受けた画像を解析するだけであり,自ら店頭撮影を行うものではないため,適法性に問題はなく,企業倫理にも反しない旨の回答を行った。その後,本件取締役会決議において,事業開始後3年度終了時点で事業継続についてレビューすることを前提に,本件事業が全会一致で承認された。(乙1,65,67)
本件取締役会の後,Fは,原告に対し,原告のお陰で無事,開発着手,事業準備の承認を得たこと,今後原告の考えを基本に事業を具現化し,消費財メーカーのみならず,広く製造メーカーにおける購買行動の新たな解に寄与できるビジネスを目指し最大限努力する所存であることなどを記載した電子メールを送信したところ,原告は,同意向を了解し,今後,実現に向けて頑張るようにと返信した(乙57)。
(10)  本件取締役会決議後の関係者間の検討状況
本件取締役会決議から本件追加投資承認までの間,本件事業の関係者の間で,主として,次のような検討や情報交換等が行われた。
ア 事業の検討
c社は,平成24年1月24日付け「ユーザーインターフェイス仕様打合せ用資料Ver0.1」と題する書面(乙42)を作成し,これをFに示した。同資料においては,前記(8)の「画像認識エンジンを含む総合システムおよび撮像デバイス要件定義書(Ver.1)」と題する書面(乙17)に添付されているものと同一のスキーム図が添付されており,本件事業の顧客として,食品メーカー,飲料メーカー,日用品メーカー等の消費財メーカーが想定されていた。
平成24年4月27日から同年6月28日にかけて,F,c社の代表者であるEら関係者が出席したミーティングや事業検討会等が複数回開催され,調査会社の選定,小売店舗調査のスケジュール,調査に要する費用や人員等の検討,後記の原告への報告会に向けた準備等が行われた。これらのミーティング等においては,クライアント候補として消費財メーカーを念頭においた議論がされ,調査会社については株式会社h(以下「h社」という。)及び株式会社i(以下「i社」という。)が候補として挙げられた。(乙33,54~56,72,73,89,93,95)
Fは,平成24年5月17日から同年10月9日にかけて,原告に対し,本件事業に関するFの外出スケジュール表を添付した上,調査会社,調査対象店舗,調査人員等の検討状況を報告する電子メールを頻繁に送信した。そのうち,同年6月8日の電子メールにおいて,Fは,原告に対し,c社の代表者であるEが韓国(ソウル)へ隠し撮り用カメラの製品に関する実情を調査するために出張する旨報告した。(乙88,91,92,94,96,98~100,103,104,108,110~112,117,125)
イ 平成24年7月11日の原告への報告会
平成24年7月11日に開催された原告への報告会において,FやEらは,原告に対して,同日付け「店頭実測調査データ提供サービス事業~進捗ご報告~」と題する資料(乙43の2)に基づき,本件事業の進捗状況について報告した。同資料においては,同年12月頃から50店舗トライアル(トライアルとは,システムの不具合改修や運用上の課題点の抽出等を目的として行われる試行的な店舗調査のこと。以下に同じ。),平成25年4月頃から500店舗トライアルをそれぞれ実施することとし,その総合監督はFとされた。また,調査会社の選定基準はランニング費用のコストパフォーマンスが良いことなどとされ,その候補としてh社及びi社が挙げられ,顧客としては,食品メーカー,飲料メーカー,日用品メーカー等の消費財メーカーが想定され,それ以外への販売は,本来の目的を阻害しない範囲,かつ情報漏えいがない範疇で検討することとされた。さらに,店舗調査で使用するカメラの例として,帽子の前頭部分に装着し,カバーで見えなくする仕組みにするものが紹介された。Fらからの報告を受け,原告は,調査店舗数が一人10店舗では少ない旨の指摘をしたほか,調査会社候補をh社とすること等を承認した。(乙43)
上記報告会の後も,F,Eらが出席の上,引き続き,ミーティングや事業検討会等が複数回開催され,調査会社の選定,トライアルの実施店舗,そのスケジュール等の検討が行われた(乙74,101,102,105,106,109,113,118,123,124,131)。
ウ 本件事業についてのリリース文の作成
本件事業においては,当初,○○グループが関連性を疑われないように新会社を設立し,当該新会社が調査会社への店頭調査の委託主体及びデータの販売主体となることが予定されていた(乙58,94の1)。しかし,平成24年9月頃,他社が本件事業と同様の事業内容に係るリリース(発表)を出したことから,早急に本件事業のリリースを出すことになった。もっとも,その時点で新会社が設立されていなかったため,c社を本件事業の主体としてリリースを行うこととされた(乙119)。それ以降,c社が調査会社への店舗調査の委託主体及びデータの販売主体の役割を担うこととされた(乙164)。
Fは,同月4日,原告に対し,本件事業のリリースの主体をc社としたリリース文案の骨子を添付した電子メールを送信したところ,同日中に原告から同骨子に添削を加えたものが返信された(乙115)。Fは,同年10月5日,原告に対し,同日時点の本件事業のリリースの文案や送付先のリスト等を添付した電子メールを送信した。同リストには,主として消費財メーカーが送付先として挙げられており,データ販売企業として想定されていた企業は挙げられていなかった。(乙122)
Fは,c社の代表者であるEに対し,同月11日には本件事業に係る同日時点のリリース文案を,同月12日にはリリース文送付先のリストを添付した電子メールをそれぞれ送信した。同リストにも,主として消費財メーカーが送付先として挙げられており,データ販売企業として想定されていた企業は挙げられていなかった。(乙126,127)
c社は,同月15日,ホームページ上に本件事業に係るリリース文を公表した。同リリース文においては,本件事業は,c社が毎週3000店舗,15000商品の店頭陳列状況を「見える化」し,データ配信するものである旨説明された。(乙128)
エ a社のc社に対する業務委託
a社は,平成24年11月1日,c社に対し,本件事業のためのカメラの開発,試作及び量産等の業務を委託する旨の契約とともに,本件基本契約に基づいて開発されたソフトウェアに最適な画像を提供するための撮影条件に関する調査業務を委託する旨の契約をそれぞれ締結した(乙7,15)。
オ 平成24年11月21日の原告への報告会
平成24年11月21日に開催された原告への報告会において,FやEらは,原告に対して,同日付け「店頭実測調査データ提供サービス事業~進捗ご報告~」と題する資料(乙4の2)に基づき,本件事業の進捗状況について報告した。同資料においては,同年12月頃から50店舗トライアル,平成25年6月頃から500店舗トライアル,同年9月頃から1000店舗プリサービス,同年10月頃から3000店舗本サービスを実施する予定とされた。また,コストダウンの観点等から,従前候補とされていたh社からi社に調査会社を変更するとされた。さらに,店舗調査で使用するカメラの例として,ショルダーやウィッグに装着するものが紹介された。Fらからの報告を受け,原告は,店舗内で撮影するに当たって不自然な動きにならないように連写速度を数秒にすること,アウトプットデータは地域別のものが必要であることなどの指摘をした。(乙4)
カ 店舗調査の実施
前記エの業務委託契約締結後,a社から委託を受けたc社が調査会社であるi社に対して店舗調査業務について再委託を行うこととされ,平成24年12月1日,c社とi社との間で店舗調査委託契約が締結された。c社は,同月頃,a社から委託を受けて開発したカメラをa社から借り受けたこととし,これをi社に交付した。i社は,平成25年1月7日から同カメラを用いて50店舗トライアル対象店舗の店舗調査を開始した。50店舗トライアル対象店舗には明示的に写真撮影等を禁じている店舗が含まれていたところ,店舗調査においては対象店舗の承諾を得ずに店舗内撮影が行われ,調査員が小売店舗の従業員に見とがめられて調査することができない店舗があった。(乙30,129の2,150,165,166)
キ 平成25年7月1日の原告への報告会
平成25年7月1日に開催された原告への報告会において,Fらは,原告に対して,同日付け「店頭実測調査データ提供サービス事業~進捗ご報告~」と題する資料(乙77)に基づき,本件事業の進捗状況について報告した。同資料においては,同年9月から615店舗,同年12月から900店舗,平成26年1月から1000店舗の調査を実施する予定とされ,1調査員当たり最も高い効率で調査することを前提に人員を確保し,調査コストの圧縮,低減を図ることが記載された。また,営業対象会社として消費財メーカーが挙げられ,データ販売企業は挙げられていなかった。さらに,店舗調査で使用するカメラの例としてバックパックに装着するものが紹介された。Fらからの報告を受け,原告は,データ購入意向を高めるためにPOSデータ(販売実績データ)との相関分析手法を教示するかという営業上の課題について,POSデータとの相関はデータ購入企業がそれぞれ考えるものであり,データの使い道はこちらから教える必要はないなどの指摘を行った。(乙153)
(11)  本件追加投資承認
ア 追加投資
本件事業においては,c社に対するシステムや撮影機器等の開発や運用実験のための委託料等の支払が積み重なり,平成25年7月時点で約4億7000万円の当初予算をほぼ費消した。そこで,a社は,以下の稟議書の作成及びFの説明を前提に,本件事業に対する追加投資の稟議を行い,同年8月21日付けでこれが承認された。(前提事実(2)イ(ウ))
(なお,後記のとおり,承認された追加投資額については争いがある。)
イ 稟議書の記載
Fが平成25年7月7日頃に起案した本件追加投資承認の稟議書(乙2の1)には,あらかじめ「社長」印欄には原告の押印がされ,添付資料の原告の指示事項欄には「投資金額詳細内容については,各担当(企業含む)より事前確認済み。当該稟議申請に問題及び内容相違はないと判断し,申請内容を承認する。」と記載され,その横に原告の押印がされた状態で提出された(乙62)。また,同稟議書には,当初,「本体価格」欄,「消費税額」欄,「支払総額」欄にそれぞれ「350,000,000円」,「17,500,000円」,「367,500,000円」とワープロ字で記載されていたが,それぞれ「月額:35,000,000」,「1,750,000」,「36,750,000」と手書きで訂正された。
ウ 稟議におけるFの説明
Fは,本件追加投資承認の稟議の過程において,次のような説明を行った。
(ア) 本件事業の売上げ見込みに関し,Fは,平成25年7月初旬現在,本件事業に係るデータの購入見込企業は合計22社,95カテゴリーであり,1カテゴリー当たりの販売額は1100万円から1300万円を計画していること,平成26年4月ないし5月より本件事業についてc社の売上計上が開始し,同年度の売上げは6億1000万円,平成27年度の売上げは7億9000万円と計画されていること,本件事業への投資は今回の3億6750万円が最終となることなどを説明した(乙2の1,2の2)。
(イ) 本件事業の投資回収見込みに関し,Fは,a社がc社からシステム賃料として収受するのは,当初,c社の売上げの10パーセントであったが,追加投資により少なくとも30から40パーセントとすることができ,投資額の回収期間も当初予定していた8年から5年に短縮することができると説明した(乙2の1,2の2)。
(ウ) 追加投資の資金使途に関し,Fは,c社がデータのテスト販売を行ったところ,顧客からデータの詳細化について要望があったため,それに応えるためにオペレーションセンターの人員を80名から160名に増員するなどの体制整備をする必要があり,増員に伴う人件費として平成25年8月から平成26年5月までで2億7056万円を要するほか,臨時雇用のための費用,設備投資資金,システム改修費,オペレーションセンターの賃料を確保するために追加投資が必要であるとした(乙2の1,2の3)。
(エ) 画像取得の方法に関し,Fは,画像データはc社が協力店舗から取得すると説明した(乙2の1)。
(12)  本件追加投資承認後の本件事業の収支計画
本件追加投資承認後も本件事業の予算は逼迫していたところ,c社は,平成26年1月14日付けで「今後のProj.収支計画」(以下「本件収支計画」という。)と題する書面(乙16)を作成した。本件収支計画においては,同月以降,月額費用が予算を超過し,本件追加投資承認された予算も同年3月に使い切る見込みであること,平成25年8月時点でのオペレーションセンターの人員は20名であり,同月から平成26年5月までの人件費は1億2780万円程と計画されていること,本件追加投資承認により投資された資金は,c社が平成25年8月から委託する外部の調査業者への業務委託料等の支払に使用されていることなどが記載された。
(13)  本件事業の顧客
本件追加投資承認後,本件事業の調査対象店舗数は徐々に増加し,平成25年10月に500店舗,平成26年2月には1000店舗になったため(乙166),目標とされた3000店舗には到達しないものの,限定的な範囲でデータ販売を行うことになった。
c社は,平成26年3月12日にj株式会社と,同年8月1日にk株式会社との間で,本件事業のデータ提供等に係る契約を締結した。c社は,前者の契約においては,同年3月3日から同年10月31日までは調査店舗数を1000店舗とし,2カテゴリーのデータを提供して,月額約70万円(同期間の合計約560万円)を受領することになっており,後者の契約においては,契約期間は同年8月1日から同年12月31日まで,調査対象店舗数を約300店舗とし,7カテゴリーのデータを提供して,約450万円を受領することとなっていた。本件事業における顧客はこの2社のみであり,いずれも消費財メーカーであった。(乙162,163)
(14)  本件事業の終了
本件事業においては,本件追加投資承認後も予期せぬ開発の遅れ等が生じ,平成26年5月の段階で予算を使い切り,更に追加で出資を受けなければ本件事業の運用を開始することができない状況であった。そこで,Fは,原告の承諾の下,本件事業継続のために更に3億8000万円の追加投資を申請したものの,これが承認されず,○○グループによる事業の引継ぎ等の支援も行われなかったため,本件事業は終了することになった。(前提事実(2)イ(エ))
(15)  被告Y2社に対する本件事業のデータ販売
原告は,平成24年7月11日に開催された原告への報告会(前記(10)イ)において,本件事業の販売データを○○グループに購入させることを了承した(乙43の1)。その後,原告は,平成25年2月15日頃,Fに対し,本件事業の販売データにつき,○○グループの企業も買うのだから,そこで生じる固定経費を賄う分の利益が出るようにグループ外企業との契約を多く取らなければならない旨伝えた(乙144)。
被告Y2社においては,平成26年5月2日,c社から本件事業の販売データを4400万円(税抜)で購入する(データ購入期間は同年4月から平成27年3月まで)旨の稟議書(乙18)が起案されたが,被告Y2社の取締役であったQ(以下「Q」という。)は,すぐにはこれを決裁せず,保留する扱いとした。その後,Qは,Fに対し,店頭画像の取得に関する小売業者との間の契約書等の客観的な証拠の提示を求めたところ,Fは,平成26年6月2日,原告に対し,c社にはデータ取得は合法的かつ安全であり,購入メーカーに問題が及ぶことはなく,同時に店頭情報取得内容は秘匿にすると回答させるつもりである旨電子メールで伝えた。Fは,同月10日,c社の代表者であるEに対し,被告Y2社に対する回答案を添付した上で,「昨日,商事取締役(ここまで捺印済み)にXから『しのごの言ってないでとっとと稟議を回しなさい』(R部長が聞いてしまった,そうです)と言ったそうです。また,本日,最大の邪魔者には,稟議が回った瞬間,『私が言う』と言う事でした。」などと電子メールで伝えた。(乙48,63,158)
また,Fは,同月11日,被告Y2社から,小売業者との契約に基づき店舗内撮影を行っていることを示す書面を求められたことを受け,Eが被告Y2社に対する2度目の回答案として作成した「(株)c データ購入契約に関しての確認事項Ⅱ」と題する書面(乙160の2)に添削を加え,同月18日,これをEに送付した。同書面には,契約という意味では,文章化している小売業者もあれば,単に口頭で許可を得ている小売業者もある,許可を得ている先としては本部のところもあれば個店のところもある,いずれにしても,小売業者には個店情報(場所はもちろん,チェーン名も)を一切分からなくするという条件の下に特別に許可を得ているなどと記載されていた。(乙159,160)
c社は,同月24日付けで「(株)c データ購入契約に関しての確認事項」と題する書面(乙19)を作成し,被告Y2社に対して提示した。同書面には,小売業者とは厳密な秘密保持契約を含む契約書を締結していること,契約の基本事項については情報提供先の個店情報(場所はもちろん,チェーン名も)を一切分からなくすることを条件に特別の許可を得ていることなどが記載されていた。(乙63)
以上を受けて,Qは,同年7月30日,保留していた前記稟議書を回議に回したが,最終的にこれは承認されなかった(乙18)。その後,被告Y2社においては,同年9月1日,c社から本件事業の販売データを1830万円(税抜)で購入する(データ購入期間は同年9月から平成27年3月まで)旨の稟議書が起案され,平成26年9月17日にこれが承認された(乙20)。ただし,最終的には,被告Y2社とc社との間でデータ購入に係る契約は締結されなかった(乙63)。
(16)  被告らにおける本件事業に関係する手続
ア 本件事業の契約締結手続
被告Y1社の総務部総務担当は,平成20年6月20日,○○グループ各社責任者,同管理部門責任者等に対し,事業子会社が第三者との間で契約を締結しようとする場合,事前に担当部署にて特殊文書印鑑捺印申請書を起案し,同申請書に「(株)Y1法務担当」の確認,承認印を得なければならない旨通達した(乙53)。
Fは,a社がc社との間で本件事業に係る下記の各契約を締結するに当たり,原告の押印とともに,法務部の従業員であったHの確認,承認印を得た特殊文書印鑑捺印申請書を作成した。同申請書には,被告Y1社の法務部長であったMの印はなかった。(乙13,27)

平成23年10月28日付けソフトウェア開発委託基本契約書(本件基本契約に係るもの)及び個別契約書1(乙27の1)
平成24年4月27日付けプロトタイプ用サーバ環境構築・運用契約書及び個別契約書2-(1)(乙27の2)
平成24年7月1日付け個別契約書2-(2)及び合意書(乙27の3)
平成24年11月1日付け店舗実査業務委託契約書(乙27の4)
平成24年11月1日付けデータ処理及びデータ運用管理業務委託契約書(乙27の5)
平成24年11月1日付け開発業務委託契約書(乙27の6)
平成24年12月1日付け個別契約書2-(2)(乙27の7)
平成24年12月1日付けサーバ貸与契約書(乙27の8)
イ 本件事業の支払手続
○○グループにおいては,事業子会社が第三者に対して支払をする場合,個別の支払ごとに稟議承認が要求されていた。稟議に係る金額が一定額以上の場合,中核会社である被告Y1社の経理担当役員や総務担当役員等の回議が必要とされており,事業子会社内だけでは手続が完結しない取扱いとなっていた(乙10)。支払について稟議を経た場合,担当部署が出金伝票を作成した上,承認済みの稟議書及び請求書を添付して被告Y1社の財務部に提出し,同財務部は,書面上問題がなければ支払手続を行うこととなっていた。
本件事業に係る支払においては,平成24年6月以降,別表のとおり,Fの申請により合計48回,約6億8000万円につき,個別の支払ごとの稟議を経ずに支払がされた。なお,本件追加投資承認に係る支払については,別紙番号40から48までの支払の他に,平成25年8月21日決裁の稟議書(乙2の1)に基づいてされた3675万円の支払がある(本件追加投資承認に係る支払の合計は3億6960万円である。)。別表の番号1ないし22までの支払では出金伝票の「部署長」欄に「S」の押印がされていたが,同23以降の支払では,同欄に原告を表す「A」の押印がされた。(乙28,弁論の全趣旨)
(17)  e社のGによる原告に対する電子メール転送
e社のGは,平成23年10月から平成26年12月にかけて,本件委託業務の遂行目的以外で○○グループ役職員の電子メールにアクセスし,原告に対して,本件事業や本件解任に関する内容のものも含め,少なくとも30件の転送を行った。具体例を挙げると,e社のGは,平成25年9月12日及び平成26年10月27日,「□□-MAILER-DAEMON(failure-notice@□□.co.jp)」のメールアドレスから原告の○○グループにおけるメールアドレスに対し,原告を送受信者に含まない○○グループの役職員等の電子メールを転送した。平成25年9月12日に転送されたものは,b社政策本部所属の従業員から韓国の○○グループの関連会社の秘書室所属の従業員に対して送信された,NのC会長に対する報告書が添付された電子メールであり,平成26年10月27日に転送されたものは,「N社長に,c社の件を訊かれ,報告いたしました。N社長は,事業性と撮影が及ぼすリスクを理由に反対されました。」などと記載されたb社役職員間の電子メールである。(乙24,25)
また,e社のGは,平成26年12月24日9時31分頃,上記と同様の送信元メールアドレスから原告のメールアドレス(ただし,上記の原告のメールアドレスとは別のもの)に対し,被告Y1社の総務部法務担当のMが本件解任の手続や対応方針等を取りまとめたファイルを添付した電子メールを転送した。さらに,e社のGは,同日午後4時47分頃,個人のメールアドレスから原告の同メールアドレスに対し,Mがb社の顧問弁護士に対して本件解任に関する状況報告と質問事項を送付した電子メールを転送した。(乙26)
2  争点1(本件解任の正当な理由の有無)について
(1)  被告らの主張する正当な理由①(違法かつ小売業者との信頼関係を破壊する本件事業を実行したこと)について
ア 被告らの主張
被告らは,本件事業が,小売店舗に無断で撮影を行うことで違法性の問題を生じさせかねないものであり,○○グループと小売業者との信頼関係を破壊するものであるから,本件事業を企図し,実行した原告には解任の正当な理由(会社法339条2項)が認められる旨主張する。
そこで,以下において,本件事業で予定された撮影方法,小売業者との関係,原告の関与の点ごとに検討する。
イ 本件事業における小売店舗内の撮影方法について
(ア) 前記認定事実によれば,c社がa社宛に作成した本件事業に関する平成22年8月26日付け提案書においては,商品陳列棚の撮影手段は隠し撮りカメラを使用することが前提とされており(認定事実(1)),本件各意見書のうち,J弁護士ら意見書及びK弁護士意見書を取得するに際しても,小売店舗の承諾を得ずに商品陳列状況を写真,ビデオ等で撮影することを前提として意見照会を行っている(認定事実(3)イ,ウ)。そして,Fは,平成24年6月8日,原告に対して,c社の代表者であるEが韓国へ隠し撮り用カメラの実情を調査するために出張する旨報告しており(認定事実(10)ア),同年7月11日,同年11月21日及び平成25年7月1日に開催された原告への報告会において,店舗調査で使用するカメラの例として,帽子の前頭部分に装着し,カバーで見えなくなる仕組みのもの,ショルダー,ウィッグ,バックパックに装着するものを紹介している(認定事実(10)イ,オ,キ)。その上,同年1月7日から開始された50店舗トライアルにおいて,実際に明示的に撮影を禁止されている小売店舗においても無断で撮影している(認定事実(10)カ)。
これらの事実によれば,本件事業は,そもそも小売業者の承諾を得ずに店舗内撮影をすることを前提として考案され,必要な道具の検討,開発等を経て,実際に小売業者の承諾を得ずに実施されたものといえる。他方で,Fは,本件追加投資承認に係る稟議の過程において,c社が協力店舗から画像データを取得する旨説明しているものの(認定事実(11)ウ),本件において,その説明の前後を通じて,実際に撮影に当たって小売業者から承諾を得るための措置をとったことをうかがわせる証拠はないばかりか,そのような措置をとることを前提とした検討がされたことをうかがわせるに足りる証拠もない。なお,原告は,その本人尋問において,隠し撮りをするためのカメラを開発していたことを否定する供述をするが,前記のとおり,「隠し撮りカメラ」という文言が記載された提案書や電子メールのやり取りが存在すること,実際に承諾を得ずに店舗内撮影を行っていたことなどに照らして,同供述を採用することはできない。
(イ) そして,前記認定事実によれば,本件各意見書では,本件事業に関し,少なくとも明示的に写真撮影が禁止されている小売店舗において承諾を得ずに店舗内を撮影することには,刑事上ないし民事上,違法と判断される危険性があるともされている(認定事実(3)イ~エ)。その上,本件事業においては,明示的に店舗内撮影を禁止されているか否かを区別することなく,一貫して小売業者の承諾を得ずに店舗内撮影をすることが前提とされ,実際に50店舗トライアルにおいて明示的に撮影を禁止されている店舗においても無断で撮影がされ,小売店舗の従業員に見とがめられていること(認定事実(10)カ)からすれば,店舗内での無断撮影を前提とする本件事業は,刑事上ないし民事上,違法と判断される危険性のあるものであったといえる。
ウ 本件事業の実施による小売業者との関係について
前記の隠し撮りによる画像データの収集については,同業者との厳しい競争の中で価格設定や商品陳列を工夫している小売業者側にしてみれば,隠し撮りをしていることが判明した場合に不快の念を抱くであろうことは容易に想像することができるところであり,本件事業のスキームにおいて,a社が何らかの形で関与して小売業者の承諾を得ずに店舗内撮影を実施すれば,同社と小売業者との間の信頼関係が破壊されるおそれが高いといえる。そして,本件事業については,後記のとおり,a社がc社に調査業務を委託する形で進めることが想定されていた点に鑑みれば,c社と共同で事業を進められているのであるから,隠し撮りをしていることが判明すれば,a社と小売業者の間の信頼関係が破壊されるおそれがあったといわざるを得ない。さらに,○○グループにおいては菓子の製造,加工,販売等の事業を行っているところ(前提事実(1)イ,ウ),菓子を消費者に販売する役割を担う量販店,コンビニエンスストア,ドラッグストア等の小売店舗は,チョコレートやガム等の菓子類の販売額の大部分を占める重要な販売チャンネルであるから(乙44),○○グループにとって小売業者はビジネス上重要な取引相手といえ,○○グループの一社であるa社が小売業者との間の信頼関係が破壊されるおそれのある行為に及べば,○○グループの事業全体に重大な悪影響が生ずるおそれがあるというべきである。
なお,原告は,本件事業で販売されるデータは小売業者にとっても有用なものであるから,小売業者が店舗内撮影に承諾することも十分考えられる旨主張するが,かかる主張は,小売業者が承諾する抽象的な可能性を指摘するにとどまるものであって,実際に本件において小売業者の承諾を得たことを認めるに足りない以上,上記の判断を左右するものではない。
エ 本件事業における原告の関与について
(ア) 前記前提事実及び認定事実によれば,原告は,平成23年6月末頃,b社の代表取締役であったNに対し,本件事業について説明し(認定事実(4)イ),C会長から本件事業を進めることについての承認を得るために自ら働きかけて平成23年10月11日の会長会議を開催させている(認定事実(5))。そして,原告は,本件取締役会に出席し,本件事業を承認した本件取締役会決議がされた後,Fから原告の考えを基本に事業を具現化するなどという電子メールを受け取ったことに対し,今後,実現化に向けて頑張るようになどと返信している(前提事実(2)イ(イ),認定事実(9))。さらに,原告は,本件取締役会決議以降,Fから,逐次,本件事業に関してFの外出スケジュールや検討状況等について報告を受け(認定事実(10)ア),平成24年7月11日,同年11月21日及び平成25年7月1日に原告のために本件事業の検討状況等を報告する会合を開催させ,Fらから報告を受けて,カメラの仕様に対する指示や調査会社選定の承認等もしている(認定事実(10)イ,オ,キ)。
以上によれば,原告は,本件事業の検討状況を逐次把握し,指示や承認等を行っていたといえ,単に部下であるFと情報共有を図っていた程度にとどまらず,自ら積極的にFを指揮して本件事業を遂行させていたと認めるのが相当である。
(イ) その上,前記認定事実によれば,原告は,平成23年1月11日,Fに対し,本件事業に係る法律意見書の取得に際し,違法性等の点についてグレーならゴーするとか,法務の本来の仕事は,事業に係わる事案に対し,事業性が高いのであれば,ブラックを濃いグレーに,濃いグレーを薄いグレーにすることだとか伝えており(認定事実(3)ア),その後に取得された本件各意見書の内容を確認し,FからK弁護士意見書及びL弁護士意見書の内容を整理した書面も取得している(認定事実(3)オ)。そして,原告は,同年6月末頃,店舗内の無断撮影を行うことで小売業者とのトラブルになる可能性があることを理由に本件事業に反対していたNと,本件事業の適法性や小売業者とのトラブルの可能性に係る意見交換をしている(認定事実(4)イ)。
以上の点に鑑みれば,原告は,小売店舗内の無断撮影を伴う本件事業を実施すれば,違法と判断されるリスクがあること及び小売業者との信頼関係が破壊されるおそれがあることを十分認識していたというべきである。
オ 小括
そうすると,原告は,違法と判断されるリスクがあり,かつ,小売業者との信頼関係を破壊し,○○グループ全体の経営に重大な悪影響を及ぼすおそれのある事業を企図し,実行したといえ,かかる行為は,経営者としての適格性に疑問を抱かせるものと評価し得るから,解任の正当な理由の根拠となる事情に当たるというべきである。
なお,原告は,本件事業が本件取締役会決議を経て実施されたものであるから,実行したことに対する責任を原告一人に負わせるのは筋違いである旨主張するが,本件取締役会決議の存在を考慮しても原告についての上記疑問が解消されるものでもなく,本件事業を中心となって企図し,実行した原告が責任を負うのは当然である。そして,後述するように,本件取締役会において,原告以外の取締役は本件事業のスキームについて実態に即した説明を受けていないことからしても,この点に関する原告の主張は採用することができない。
(2)  被告らの主張する正当な理由②(本件取締役会において虚偽説明をしたこと)について
ア 被告らの主張
被告らは,Fが,本件取締役会において,原告の了解の下に意図的に実態と異なる虚偽の説明をしており,これは実質的には原告が虚偽説明を行ったというべきであるから,かかる原告の行為が解任の正当な理由の根拠となる旨主張する。
イ 本件取締役会における説明内容と実施された本件事業の内容
(ア) 前記認定事実によれば,Fは,本件取締役会において,本件事業のスキームにつき,顧客であるデータ販売企業が調査会社に店頭調査を委託して店頭の画像を収集し,a社はデータ販売企業から提供された画像の解析処理のみを行い,解析処理後のデータをデータ販売企業が完全データ化した上で消費財メーカー等に販売するものである旨の説明をし,a社は提供された画像の解析処理しかしないとしている(認定事実(9))。
しかし,a社がc社に対して平成24年11月1日に本件事業の調査業務を委託した後,同年12月1日,c社が調査会社であるi社に対して同調査業務を再委託し,i社が平成25年1月7日から50店舗トライアルの店舗調査を開始したところ,調査会社に店頭調査を委託した主体は,a社と共同で本件事業を進めているc社であって,データ販売企業ではない(認定事実(10)エ,カ)。そして,本件取締役会決議後,FやEらの関係者間において,本件事業の顧客は一貫して消費財メーカーが念頭に置かれて検討がされ,データ販売企業を顧客とした準備や検討は行われておらず(認定事実(10)ア~ウ),実際に本件事業の顧客となったのも,消費財メーカー2社であり(認定事実(13)),本件事業において,a社がデータ販売企業から画像の提供を受け,その解析処理をしたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,実際に実施された本件事業におけるスキームは,本件取締役会において説明された内容と異なるものであるといえる。
(イ) そして,前記認定事実によれば,Fは,社内ベンチャーに応募した段階で,実際に実施された本件事業のスキームと類似のスキームを想定しており(認定事実(2)),本件取締役会の開催直前である平成23年12月7日頃にc社がした提案においても,本件事業では撮像機器等の開発はc社が担当し,消費財メーカーが顧客になるとされ(認定事実(8)),本件取締役会決議の約1か月後の平成24年1月24日付けでc社が作成した打合せ資料においても,同提案の際に添付されていたものと同一のスキーム図が添付され,消費財メーカーが本件事業の顧客になるとされていた(認定事実(10)ア)。その後のFやEらの関係者間の検討においても,本件事業の顧客は一貫して消費財メーカーであることを前提とした議論がされている(認定事実(10)ア~ウ)。
それにもかかわらず,Fが本件取締役会において実際と異なる本件事業の内容を説明している点に鑑みれば,本件取締役会において説明された本件事業のスキームは,実際に実施することが検討されていたものではなく,b社の代表取締役社長であったNなどからの反対意見で指摘された問題点を払拭したかのように繕って説明し,本件取締役会で承認決議を得るためだけに考案されたものに過ぎないというべきである。
したがって,Fは,本件取締役会において,本件事業に関して虚偽説明をしたといわざるを得ない。
(ウ) これに対し,原告は,本件事業は,各段階においてスキームに変更があったのであり,本件取締役会における説明内容と実際に実施された本件事業の内容が異なるとしても,本件取締役会においては,当時検討されていたスキームに沿って適切に説明がされていたから,何ら虚偽説明はされていない旨主張し,Fもその証人尋問において同主張に沿う供述をする。
しかしながら,前記認定判断のとおり,FやEなどの関係者間では一貫して顧客を消費財メーカーとして検討していたのであるから,Fの上記供述はにわかに信用することができない。加えて,a社が店頭調査にどのように関与するかは本件取締役会において中心的な問題といえるにもかかわらず,本件においてFらが変更前後のスキームの比較検討をしたり,再度の稟議を経るか,少なくともその要否の検討をしたりしたことを認めるに足りる証拠もない。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 本件取締役会の虚偽説明に対する原告の関与について
前記認定事実によれば,本件取締役会における説明はFが行ったものの,原告は,本件各意見書の取得に際し,Fに対して本件事業の違法性等に関する意見を伝えており(認定事実(3)ア),本件事業の検討過程においても,Fから逐次電子メールで報告を受けており(認定事実(10)ア),原告からの指摘や承認を受けながら本件事業の検討が進められていた(認定事実(10)イ,オ,キ)。そうすると,Fは,原告の指示ないし承認を得ながら本件事業を進めていたといえ,本件取締役会においても独断で説明を行ったわけではなく,原告の指示ないし承認の下に説明を行ったと推認することができる。そして,前記認定を踏まえれば,原告は,本件取締役会におけるFの説明内容が虚偽であることも,当然,認識していたといえる。
エ 小括
よって,本件取締役会においては,原告の指示ないし承認の下に,本件事業に関して虚偽説明がされたといえる。そして,かかる行為は,原告が職務上の不正をしたことを示すものであり,経営者としての適格性に疑問を抱かせるものであると評価し得るから,解任の正当な理由の根拠となる事情に当たるというべきである。
(3)  被告らの主張する正当な理由③(本件追加投資承認の稟議において虚偽説明をしたこと)について
ア 被告らの主張
被告らは,Fが,本件追加投資承認の稟議において,原告の承認及び指示の下で,売上げ見込み,投資回収見込み,資金使途及び画像取得の方法に関して虚偽の説明をしているとして,原告には解任の正当な理由の根拠となる事情が認められる旨主張する。そこで,上記各説明対象ごとに検討する。
イ 売上げ見込みに関する説明について
前記認定事実によれば,Fは,平成25年8月21日の本件追加投資承認に係る稟議に際し,本件事業の売上げ見込みに関して,同年7月初旬現在,本件事業に係るデータ購入見込企業は合計22社,95カテゴリーであり,1カテゴリー当たりの販売額は1100万円から1300万円を計画していること,平成26年4月ないし5月より本件事業についてc社の売上計上が開始し,同年度の売上げは6億1000万円,平成27年度の売上げは7億9000万円と計画されていること,本件事業への投資は今回の3億6750万円が最終となることなどを説明している(認定事実(11)ウ(ア))。
しかしながら,本件事業における顧客は平成26年9月までに2社のみであり,1社については同年3月3日から同年10月31日まで2カテゴリーのデータを提供して月額約70万円(同期間の合計約560万円)をc社が受領するという契約であり,もう1社についても7カテゴリーのデータを提供して約450万円をc社が受領するという契約になっていたのであるから(認定事実(13)),実際に本件事業においてデータ提供に係る契約を締結することができた企業数(2社),カテゴリー数(9カテゴリー)及びc社の売上げ(約1100万円)は,本件追加投資に係る稟議において説明された上記の購入見込みの企業数等と大幅に乖離している。
加えて,証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば,本件事業に係る調査対象店舗数については,平成24年6月8日時点において,平成25年2月から4月に500店舗,同年4月から7月に1000店舗,同年8月以降に3000店舗と計画されていたが(乙33),本件追加投資承認に近接した同年6月3日時点において同計画が大幅に変更され,同年11月に1000店舗,平成26年1月に2000店舗,同年4月に3000店舗となり(乙76),本件追加投資承認に係る稟議書起案日以降の平成25年7月29日時点には,更に計画が遅れて同年12月に500店舗,平成26年3月に1000店舗,同年10月に3000店舗と変更されるなど(乙69),調査対象店舗数についての計画は徐々に後ろ倒しにされていることが認められ,このような計画の後ろ倒しが売上げ見込みに負の影響を及ぼすことは明らかである。
そうすると,Fが説明した前記の売上げ見込みに関する説明は,当時の状況に照らした合理的な売上げ見込みを説明したものとは到底いえない。
ウ 投資回収見込みに関する説明について
前記認定事実によれば,Fは,本件追加投資承認の稟議に当たり,本件事業の投資回収見込みに関し,a社がc社からシステム賃料として収受する割合は,当初,c社の売上げの10パーセントであったが,追加投資により,少なくとも30から40パーセントとすることができ,投資額の回収期間も当初予定していた8年から5年に短縮することができると説明している(認定事実(11)ウ(イ))。そして,原告は,①a社がc社からシステム賃料を収受すること及び②本件追加投資により,c社の売上高に占めるシステム賃料の割合が増加することについてc社と口頭で合意された旨主張し,Fもその証人尋問においてこれに沿う供述をする。
しかしながら,本件証拠上,上記合意を認めるに足りる客観的ないし的確な証拠がないのみならず,c社の代表者であるEは,別件訴訟の証人尋問において,上記①及び②の合意をしたことを否認する供述をしており(乙58),本件において,Fの上記供述を裏付けるに足りる証拠はない。
そうすると,a社がc社から収受するシステム賃料が当初c社の売上げの10パーセントであったこと及び追加投資によりそれが増加するという説明はいずれも事実に反し,そうである以上,収受するシステム賃料が増加することを前提とする投資額回収期間が短縮するとの説明も事実に反するものといわざるを得ない。Fの投資回収見込みに関する前記の説明も虚偽であったといえる。
エ 資金使途に関する説明について
(ア) 前記認定事実によれば,Fは,本件追加投資承認の稟議に際し,追加投資の資金使途に関し,①c社がデータのテスト販売を行ったところ,顧客からデータ詳細化の要望があったため,②それに応えるためにオペレーションセンターの人員を80名から160名に増員するなどの体制整備をする必要があり,③増員に伴う人件費として平成25年8月から平成26年5月までで2億7056万円を要するほか,④臨時雇用のための費用,設備投資資金,システム改修費,オペレーションセンターの賃料を確保するため追加投資が必要であると説明している(認定事実(11)ウ(ウ))。
(イ) まず,上記①については,本件追加投資承認の稟議書等(乙2の1(1枚目,4枚目),2の3)に顧客からの要望があったことについて記載があることに加え,テスト販売後に顧客がその有するニーズに合わせて詳細なデータを要求することもあり得るから,①に関するFの説明を直ちに虚偽であると断ずることはできない。
この点,被告らは,上記の新たに要求されたデータの内容(商品の陳列箇所数等。乙2の3)は,その多くが本件事業開始当初の要件定義書(乙17(8頁))で想定されていたデータの事項であるから,顧客からの提供データの詳細化の要求に応えるために人員の増員が必要になることはない旨主張するが,データの分類項目が同一であるからといって具体的なデータ自体について詳細化を要求されても何ら不自然でなく,上記判断を左右しない。
(ウ) 他方,上記②のオペレーションセンターの人員が現状80名であるという説明は,c社が本件追加投資承認(平成25年8月21日)の後に作成された本件収支計画(平成26年1月14日付け。認定事実(12))において平成25年8月時点の人員が20名であると記載されていることに反する。また,上記③の増員に伴う人件費が2億7056万円であるとする説明も,その前提とする増員数を信用することができない上,本件収支計画における同期間の人件費(1億2780万円程)よりも1億円以上多額であることからすれば,事実に反するというべきである。さらに,上記④の臨時雇用のための費用,設備投資資金,システム改修費,オペレーションセンターの賃料を確保するために追加投資が必要であるとする説明も,本件収支計画において,同月からc社が委託する外部の調査業者への業務委託料等の支払に使用されていると記載され,c社における開発業務に用いられているとされていない点で事実に反するといわざるを得ない。
なお,原告は,オペレーションセンターの人員や人件費等に係る本件追加投資承認に係る稟議の際の説明は,Fがc社から受けた説明のとおりに行ったにすぎない旨主張するが,本件において,同主張に係る事実を認めるに足りる客観的ないし的確な証拠がない。Fにとってこの点の真偽を確認することが困難であったとみるべき事情はうかがわれないことからすれば,c社の説明を真に受けたにすぎないとする上記主張は採用し難いものである。
オ 画像取得の方法に関する説明について
前記認定事実によれば,Fは,本件追加投資承認の稟議において,画像データはc社が協力店舗から取得すると説明しているが(認定事実(11)ウ(エ)),前記のとおり,本件事業においては,明示的に撮影を禁止しているか否かを問わず,無断で店舗内撮影をする前提で検討が進められていたから,かかる説明は事実に反するものである。
カ 本件追加投資承認の稟議時の説明における原告の関与について
前記(2)ウにおいて挙げた事実(本件取締役会におけるFの説明が原告の指示ないし承認の下に行われたと認められる根拠として挙げた事実)に加え,前記認定事実によれば,本件追加投資承認の稟議書は,あらかじめ「社長」印欄に原告の押印がされ,同稟議書の添付資料の原告の指示事項欄には投資金額詳細内容について事前確認済みであり,申請内容を承認する旨が記載され,その横には原告の押印がされている(認定事実(11)イ)。そして,証拠(乙46)によれば,原告は,本件追加投資承認前の平成25年7月4日,Fに対し,追加投資については3億5000万円で申請するよう指示をしたことも認められる。これらの事実からすれば,Fは,本件追加投資承認の稟議において,独断で説明を行ったわけではなく,原告の指示ないし承認の下に説明を行ったと認めるのが相当であり,原告は,本件追加投資承認の稟議におけるFの説明内容が虚偽であることも,当然,認識していたといえる。
なお,Fは,その証人尋問において,原告は多忙を極めていたため,説明資料の内容の詳細まで逐一把握することは不可能であり,本件追加投資承認に係る稟議書の添付資料の記載も原告の指示ないし承認の存在を裏付けるものではないなどと供述する。
しかしながら,原告は,Fらからメールや報告会等の機会に本件事業に係る検討状況等の報告を逐次受けていたものであるし(認定事実(10)ア,イ,オ,キ),本件追加投資承認の稟議書の添付資料に記載された前記文言及び押印の事実からすれば,原告が稟議の内容について把握した上でこれを承認し,稟議が通るように自ら圧力をかけていることは明らかである。
キ 小括
よって,Fは,本件追加投資承認の稟議の過程において,原告の指示ないし承認の下に,本件事業に係る売上げ見込み,投資回収見込み,資金使途及び画像取得方法に関して,事実に反する虚偽の説明をしたといえる。そして,原告がそのような指示ないし承認をしたことは,原告が職務上の不正をしたことを示すものであり,経営者としての適格性に疑問を抱かせかねないものであると評価できるから,解任の正当な理由の根拠となる事情に当たるというべきである。
なお,原告は,仮に,本件追加投資承認の稟議に際して一部不正確な説明があったとしても,かかる不正確な点を看過して追加投資を承認したことにつき,b社の取締役会全体ないし法務部や財務部の責任が問題とされるのであればともかく,原告一人の責任に帰すべき理由はないと主張する。しかしながら,原告の指示ないし承認の下で虚偽説明がされたことからすれば,原告が責任を免れないことは当然であって,原告の主張は採用することができない。
(4)  被告らの主張する正当な理由④(被告Y2社に対して販売データの購入要求をしたこと)について
ア 被告らの主張
被告らは,原告が,被告Y2社に対して,本件事業の販売データを購入するよう,稟議決裁に圧力をかけ,本件事業について自ら虚偽説明を行い,あるいはF及びc社に対して虚偽説明を行わせたから,解任の正当な理由の根拠となる旨主張する。
イ 原告の被告Y2社に対する本件事業のデータ購入要求について
前記認定事実によれば,原告は,平成24年7月11日に開催された原告への報告会において,○○グループに本件事業の販売データを購入させることを了承し,平成25年2月15日頃にも,Fに対して,○○グループが本件事業の販売データを購入することを前提する発言をしている(認定事実(15))。そして,Fは,平成26年6月10日,c社の代表者であるEに対し,原告が「しのごの言ってないでとっとと稟議を回しなさい」などと言ったと電子メールで伝えている(認定事実(15))。この点,メールの送受信者であるFとEは,原告とともに本件事業を遂行していた者であって,その伝達内容の信用性は高いものといえる。さらに,被告Y2社の取締役であったQの陳述書(乙63)には,同年5月頃,原告から本件事業の販売データを被告Y2社で購入するよう求められたものの,同購入に係る稟議を保留にしていたところ,原告から「しのごの言ってないでとっとと稟議を回しなさい。」と命じられた旨の記載があり,前記電子メールの内容と整合する。そうすると,原告はQに対し,「しのごの言ってないでとっとと稟議を回しなさい」といった趣旨の発言をしたと認めるのが相当であり,原告は,被告Y2社の他の取締役に対して,本件事業に係るデータの購入を検討するように指示したというに止まらず,稟議決裁に圧力をかけたといわざるを得ない。
ウ 被告Y2社に対する本件事業に関する虚偽説明について
前記認定事実((15))によれば,c社は,平成26年6月24日頃,被告Y2社に対し,本件事業において店舗内での撮影は小売店舗からの許可を得て行う旨の説明を行っている。しかしながら,前記のとおり,本件事業においては,明示的に撮影を禁止しているか否かを問わず,無断で店舗内撮影をする前提で検討が進められていたから,かかる説明は事実に反するものである。また,c社が行った上記の説明は,FがEの作成した被告Y2社に対する回答案に添削を入れるなどして,Fの指示によってされたものである。
そして,前記(2)ウにおいて挙げた事実に加え,前記イのとおり,原告が自ら被告Y2社に対して本件事業の販売データを購入するよう圧力をかけていたことも考慮すると,FないしEによる上記の虚偽説明もまた,原告の指示ないし承認の下に行われたものと認めるのが相当である。
なお,被告らは,原告が,Qに対し,前記の発言とともに,小売店舗と契約するから店舗内撮影は大丈夫だとの趣旨の発言をした旨主張し,Qの陳述書(乙63(4頁))には同旨の記載があるが,本件において同記載を裏付ける客観的ないし的確な証拠はなく,同主張を採用することができない。
エ 小括
そうすると,原告は,被告Y2社に対し,虚偽説明を伴って,本件事業に係る販売データの購入圧力をかけたといえる。そして,原告のかかる行為は,原告が被告Y2社の代表取締役であり,C会長の長男であって,b社の取締役副会長の地位にあることを考慮しても,取締役としての適格性を疑わせしめるものであるといわざるを得ず,解任の正当な理由の根拠となる事情に当たるというべきである。
なお,原告は,被告Y2社は,同社の他の取締役の判断により本件事業に係る販売データの購入が決定されたのであるから,原告の要求により不当に販売データを購入させられたと評価することはできない旨主張するが,同主張に係る事実が仮に認められるとしても,原告自身が上記の行為に及んだことが否定されるものでもない。しかも,被告Y2社の取締役は,本件事業における小売店舗からの店舗内撮影の承諾の有無について実態に即した説明を受けられないまま販売データを購入する決定をするに至ったのであるから,原告が主張する点は,前記認定を何ら左右するものではない。
(5)  被告らの主張する正当な理由⑤(○○グループ内の手続違反を行ったこと等)について
ア 新規事業開始に必要な手続の違反について
(ア) 被告らは,○○グループにおいて事業子会社が新規事業を開始する場合には,b社の取締役会の承認を要するにもかかわらず,原告は,その承認を得る前にa社とc社との間で本件事業に係る契約を締結し,事実上本件事業を開始させたという手続違反をした旨主張する。
(イ) この点,前記認定事実によれば,a社が事業を行うに当たり必要となる決裁等について定めた「決裁・権限区分表」において,新規事業を開始する際には,「取締役会の決議」が必要であるとされているところ(認定事実(4)ア),N及びMは,証人尋問において,同「決裁・権限区分表」の備考欄にある「取締役会の決議」とは,b社の取締役会の決議を指すと供述し,Oの陳述書(乙71)においても,○○グループの新規事業にはb社の取締役会の承認が必要である旨の記載がある。
しかしながら,上記「決裁・権限区分表」自体には「取締役会の決議」がb社の取締役会の決議を指すと明確には記載されておらず,同表の記載から「取締役会の決議」がb社の取締役会決議を指すと断定することはできない。また,本件においては,原告自身がb社の取締役会(本件取締役会)に本件事業開始を付議しているが,この点のみをもって上記のNらの供述等が裏付けられるともいえない。そのほかに,本件において,a社が新規事業を開始するに当たり,b社の取締役会の決議が必要であると認めるに足りる客観的ないし的確な証拠はない。Nらの上記供述等も採用することができない。
(ウ) したがって,この点に関する被告らの前記主張は採用することができない。
イ 契約締結に必要な手続の違反について
被告らは,○○グループにおいて事業子会社が第三者との間で契約を締結する場合には,特殊文書印鑑捺印申請書に被告Y1社の法務担当部長の確認,承認印を得た上で,契約書に会社の代表印を押印させなければならないにもかかわらず,原告は法務担当部長の確認,承認印を欠いたまま本件事業に係る契約書に代表印を押印させて契約を締結したという手続違反をした旨主張する。
この点,前記認定事実によれば,○○グループでは,社内通達において,事業子会社が第三者との間で契約を締結しようとする場合,特殊文書印鑑捺印申請書について「(株)Y1法務担当」の確認,承認印を得なければならないとされていたところ(認定事実(16)ア),Mは,その証人尋問において,押印権限のある被告Y1社の法務担当とは,法務担当部長のみであり,法務部の従業員であるHではない旨供述する。
しかしながら,被告Y1社の社内通達(乙53)をみても,特殊文書印鑑捺印申請書には,「必ず,(株)Y1法務担当の回議・捺印をもらう事。」と記載されているにとどまり,被告Y1社の法務担当部長自体の回議,捺印を得なければならないと明確に記載されているわけではない。そして,特殊文書印鑑捺印申請書(乙27)にも,「法務担当」の押印欄が設けられているのみで,申請部署の押印欄のように「部署長」の押印欄が設けられてもいない。そのほかに,本件において,特殊文書印鑑申請書に被告Y1社の法務担当部長の確認,承認印を得なければならないことを認めるに足りる客観的ないし的確な証拠はない。
したがって,この点に関する被告らの主張も採用することができない。
ウ 支払に必要な手続の違反について
(ア) 被告らは,原告が,事業子会社が第三者に支払をするに当たって必要な個別の稟議を経ずに別表記載の支払を行ったことが手続違反であると主張する。
(イ) まず,本件追加投資承認前の支払(別表の番号1~39)に関しては,本件において,Fが別表の番号1から39までについて個別の稟議なく支払の申請をしたことは認められるものの(認定事実(16)イ),本件当時,被告らがこれを問題視していたとは認められず,同支払がa社等の支払手続に違反したことを認めるに足りる的確な証拠もない。まして,本件において,原告が,被告Y1社の財務部に対し,個別の稟議なしに支払手続をするよう指示ないし要請したと認めるに足りる証拠もない。別表の番号23以降の支払に係る出金伝票の部署長欄に原告を表す「A」の押印がされていること(認定事実(16)イ)をもって,このような指示ないし要請があったとまで推認することもできない。よって,この点が,解任の正当な理由の根拠となる事情に当たるとはいえない。
(ウ) 次に,本件追加投資承認後の支払(別表の番号40~48)に関しては,被告らは,当初の申請に係る3億6750万円ではなく,その10分の1の3675万円の稟議しか経ておらず(乙2の1),3675万円を超える支払は手続違反である旨主張し,I取締役の陳述書(乙62)にも同旨の記載がある。
しかしながら,前記認定事実によれば,本件追加投資承認に係る稟議書には,当初,「本体価格」欄,「消費税額」欄,「支払総額」欄にそれぞれ「350,000,000円」,「17,500,000円」,「367,500,000円」とワープロ字で記載されていたが,それぞれ「月額:35,000,000」,「1,750,000」,「36,750,000」と手書きで訂正されており(認定事実(11)イ),同稟議書やその添付資料において修正された部分以外は本体価格が3億5000万円であることを前提とした記載となっていることからすると,月額としては3500万円(消費税額を含めて3675万円)であるものの,総額としては3億6750万円の支払が承認された可能性を否定することはできず,その10分の1の3675万円しか承認されていないとまで断定することはできない。かえって,別紙の番号40から48までについては,各支払ごとに同稟議書が添付され(乙28の40~48),本件証拠上,当時,被告らにおいて同各支払について稟議が通っていないことを問題視していたとは認められないことも考慮すると,本件追加投資承認に係る稟議においては,月額としては消費税額を含めて3675万円であるものの,総額として3億6750万円の支払が承認されたと認めるのが相当である。
(エ) したがって,支払手続の違反に関する被告らの主張も,いずれも採用することができない。
エ 原告が全株式を保有する会社への事業移転の画策について
(ア) 被告らは,原告が,○○グループに多額の投資をさせながら,Fに対して,新たに会社を設立させた上で,c社から本件事業を移転させるよう指示した行為が背任行為に当たり,解任の正当な理由の根拠となる旨主張する。
(イ) この点,証拠(乙21)及び弁論の全趣旨によれば,a社においては,c社の親会社であるd株式会社が本件事業ともどもc社を吸収することを恐れ,平成25年7月頃より,原告の指示で新会社を設立し,本件事業を同会社に移転することが計画されていたことが認められるものの,それ以上に,新会社の設立及び同会社への本件事業の移転準備が具体的にされたと認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告が本件事業の移転を計画したことだけでは,解任の正当な理由の根拠となるとまではいえない。
なお,被告らは,上記の新会社として株式会社fが想定されており,定款案作成等の設立準備がされていたと主張するが,証拠(乙22)によれば,同社は上記計画以前の平成23年9月30日に設立されたものであり,上記の計画における新会社と直ちに認められず,ほかに本件証拠上,同主張に係る事実を認めるに足りない。
(ウ) したがって,この点に関する被告らの主張も採用することができない。
(6)  被告らの主張する正当な理由⑥(○○グループ役職員の電子メール情報の不正取得)について
ア 被告らの主張
被告らは,原告がe社のGに○○グループ役職員の電子メールを転送させ,不正に取得したことが,悪意による職務上の不正行為であり,解任の正当な理由の根拠となる旨主張する。
イ 電子メールの転送
前記認定事実によれば,e社のGは,平成23年10月から平成26年12月にかけて,本件委託業務目的以外で○○グループ役職員の電子メールにアクセスし,原告に対して,本件事業や本件解任に関する内容のものを含め,○○グループの役職員等の電子メールを少なくとも30件転送していた(認定事実(17))。そして,前記前提事実によれば,e社のGは,本件委託業務の遂行目的以外で○○グループ役職員の電子メールにアクセスする権限がなく(前提事実(3)),その権限の範囲を超えてまで,自らの判断のみで原告に電子メールの転送という便宜を図る動機の存在はうかがわれない。そして,証拠(甲13,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,e社のGから電子メールが転送されてくることを認識しながら,そのことについて,同人に対して何ら異議を述べておらず,原告がC会長から解任の通告がされた後には,e社のGに対し,何かあれば教えて欲しいとさえ伝えたことが認められる。これらの事実からすれば,e社のGは,原告の指示ないし要請を受けて前記転送を行ったと認めるのが相当である。
これに対し,原告は,その本人尋問において,平成23年10月から平成26年12月17日までの間に転送されてきた電子メールがe社のGからのものであるか明確に認識していなかった旨供述するが,上記の認定に鑑みて同供述はにわかに措信し難い。
ウ 小括
そうすると,原告が,平成23年10月から平成26年12月にかけて,e社のGに指示ないし要請をして,○○グループ役職員等の電子メールの転送を受け,当該電子メールに含まれる情報を取得したことは,原告と○○グループの他の役職員との間の信頼関係を著しく破壊するものである上,○○グループ各社はメールサーバーを共同利用していること(前提事実(3))に照らすと,3年余りの長期にわたり○○グループ全社を不正アクセス及び情報漏えいの危険にさらすものであったといえる。
なお,原告は,C会長からの解任通告以降の電子メールの転送については,緊急避難的,正当防衛的なやむを得ないものであるなどとして解任の正当な理由の根拠となる事情ではない旨主張するが,解任の通告がされたからといって電子メールを不正に取得するという不正行為が正当化されるわけでもなく,上記判断は左右されない。
よって,原告のかかる行為は,原告が職務上の不正行為に及んだこと,ないし経営者としての不適格性を示すものと評価し得るから,解任の正当な理由の根拠となる事情に当たるというべきである。
(7)  解任の正当な理由となる事情が解任当時会社が認識していたものに限られるかについて
原告は,本件解任時点で被告らが認識していなかった事情は,本件解任の正当な理由の根拠とはなり得ない旨主張する。
しかしながら,会社法339条は,1項において株主総会決議による役員解任の自由を保障しつつ,2項において当該役員の任期に対する期待を保護するため,解任に正当な理由がある場合を除き,会社に特別の賠償責任(法定責任)を負わせることにより,会社及び株主の利益と当該役員の利益の調和を図ったものと解されることに加え,同条において,役員を解任するに当たり,会社の故意過失や当該役員への解任事由の告知は要件とされていない上,「正当な理由」を会社が認識していた事情に限定する旨の規定も存在しないことからすれば,正当な理由の根拠となる事情は,本件解任時点で客観的に存在していれば足り,被告らが認識していることまで要しないというべきである。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
(8)  本件解任の正当な理由
以上のとおり,被告らの主張する正当な理由①ないし④及び⑥については,本件解任の正当な理由の根拠となる事情に該当する。本件事業は,小売店舗の店頭で商品陳列状況を無断で撮影し,その画像をマーケティングに有用な情報にデータ化した上で販売するというものであり,適法な手続を経たものであれば,当該データと販売実績データ(POSデータ)の相関分析を行うことなどでマーケティングに新たな道を開く可能性があるとはいえるものの,店舗内で隠し撮りをする点で違法と判断される危険性があり,かつ,小売業者との信頼関係を破壊し,○○グループ全体の経営に悪影響を及ぼしかねないおそれのあるものである。原告は,こうした本件事業を企図しており,販売促進のための新たなマーケティング手法を模索するという姿勢自体は評価することができるものの,本件事業の問題点を過小に評価し,Fに虚偽の説明をさせるなどしてまで本件取締役会決議及び本件追加投資承認を得,さらに,被告Y2社に虚偽説明をしてまでデータを購入するよう圧力をかけるなどして本件事業をいわば強引に遂行している。こうした点に鑑みると,原告には,業務を遂行するに当たって要求される手続を軽視する姿勢が顕著に見られるというべきである。また,原告は,e社のGに○○グループ役職員等の電子メールを転送させ,情報を不正に取得していることなどからすると,コンプライアンス意識も欠如しているといわざるを得ない。
以上によれば,被告らの主張する正当な理由①ないし④及び⑥については,それぞれが単独で本件解任の正当な理由になるとまではいえないものの,これらを総合勘案すれば,本件事業について本件取締役会決議などがされていることなどを踏まえても,原告は,被告らの取締役として著しく不適任であるとされてもやむを得ないといえ,本件解任には正当な理由があるというべきである。
なお,前記理由⑥が○○グループ全体との関係で問題となるのは前記説示したとおりであり,本件事業については,それ自体は被告Y1社の子会社であるa社により実施されたものであるものの,○○グループ全体が一体として事業活動を行っており,各事業部門は大企業における社内部門に近いものとして機能していること(前提事実(1)ウ(ア))からすれば,前記理由①ないし④も,いずれの被告らとの関係において,正当な理由の根拠となるというべきである。
したがって,本件解任について,会社法339条2項の「正当な理由」があったと認められる。
3  結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第8部
(裁判長裁判官 岩井直幸 裁判官 岡本陽平 裁判官 君島直之)

 

別紙
当事者目録
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 Aこと

同訴訟代理人弁護士 森大樹
同訴訟復代理人弁護士 秋山恵里
同 小松隼也
同 松下昂永
同 中村慶彦
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 株式会社Y1(以下「被告Y1社」という。)
同代表者監査役 B
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 Y2株式会社(以下「被告Y2社」という。)
同代表者監査役 B
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 Y3株式会社(以下「被告Y3社」という。)
同代表者監査役 B
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 Y4株式会社(以下「被告Y4社」という。)
同代表者監査役 B
被告ら訴訟代理人弁護士 奥田洋一
宮谷隆
横田真一朗
若林功晃
金村公樹

〈以下省略〉

 

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