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「業務委託 代理店 営業」に関する裁判例(14)平成30年 4月25日 東京地裁 平28(ワ)24691号 損害賠償請求事件

「業務委託 代理店 営業」に関する裁判例(14)平成30年 4月25日 東京地裁 平28(ワ)24691号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成30年 4月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)24691号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2018WLJPCA04258034

裁判経過
控訴審 平成30年10月17日 東京高裁 判決 平30(ネ)2788号

裁判年月日  平成30年 4月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)24691号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2018WLJPCA04258034

新潟県南魚沼市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 U1
U2
U3
静岡県磐田市〈以下省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 V1
V2

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成25年6月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  訴訟費用は,これを20分し,うち1を被告の,その余を原告の負担とする。
3  この判決1項は,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成25年6月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,平成25年6月当時,株式会社aの代表取締役であった原告が,同月当時,同社の取締役であった被告に対し,被告が同月上旬頃に金融庁証券取引等監視委員会等の関係各所に対して送付した文書は,原告が同社の代表取締役にふさわしい人格・経営能力を有しないとの印象を与え,原告の社会的評価を低下させる内容であり,これを送付した被告の行為は,原告に対する名誉棄損に当たるとして,不法行為に基づく損害賠償金20億8594万8869円(精神的損害5000万円,財産的損害20億3594万8869円)の一部である5000万円及びこれに対する同月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1  争いのない事実等
次の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲5,16,乙2,15)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。
(1)  当事者
ア 原告は,株式会社a(以下「a社」という。)の創業者であり,創業後間もなくa社の代表取締役に就任し,平成25年11月22日まで代表取締役であった者である。
イ 被告は,平成23年6月29日から平成25年6月27日までの間,a社の取締役であった者である。
(2)  被告による本件文書の送付行為
被告は,平成25年6月上旬頃,金融庁証券取引等監視委員会(以下「証券取引等監視委員会」という。),株式会社東京証券取引所(以下「東京証券取引所」という。),監査法人l,株式会社m銀行,株式会社n銀行,株式会社o(以下「o社」という。)及び株式会社p(以下「p社」という。)に対し,a社及び原告の経営上及び倫理上の問題点を指摘し,a社に対して会社法847条に基づく訴えを提起することを要求するとともに,原告に対して代表取締役を退任することを要求することにした旨の文書(その記載内容の詳細は,別紙「本件記載一覧表」記載のとおり。以下「本件文書」という。)を送付した(以下,この被告の行為を「本件文書送付行為」という。)。
(3)  a社は,本件文書が関係各所に送付されたことを受けて,b法律事務所に所属する弁護士及び株式会社cに所属する公認会計士から成る調査チームを発足させ,平成25年6月27日から同年7月19日までの間,本件文書で指摘された問題点のうち,会計処理に係る事項について調査(以下「本件社外調査」という。)を行った。その調査の結果は,a社の会計処理に不適切な点はなく,過年度の計算書類の訂正等を必要とする事項は発見されなかったというものであった。
(4)  証券取引等監視委員会は,本件文書の送付を受けて,平成25年8月27日,a社に対する立入調査を行った。a社は,上記立入調査の結果及び本件社外調査の結果を踏まえて,同年10月18日,社内に調査委員会を発足させ,不適切な会計処理の有無について調査(以下「本件社内調査」という。)を開始した。同調査委員会は,同年11月5日,会計処理の一部に不適切な点があり,過年度の計算書類の一部に訂正を要するとの調査結果を公表した。原告は,かかる調査結果の公表を受けて,同月22日,a社の代表取締役を退任した。
(5)  株式会社q銀行(以下「q銀行」という。)を始めとするa社の取引銀行ら(以下,単に「取引銀行ら」という。)は,平成27年2月23日,原告が保有していたa社の株式に設定されていた質権を実行し,米国投資ファンドのr社に対して売却した。
2  争点
本件における主たる争点は,次のとおりである。
(1)  本件文書送付行為により原告の社会的評価が低下したか(争点1)。
(2)  本件文書送付行為が違法性を欠くものであるか(争点2)。
(3)  原告の受けた損害額(争点3)。
3  争点1に関する当事者の主張
[原告の主張]
(1) 原告の社会的地位
原告は,平成25年6月当時,上場企業であるa社の代表取締役であり,その経営手腕が各メディアで取り上げられるなど,高い社会的評価を得ていた。
(2) 本件文書の内容は,別紙「本件記載一覧表」記載のとおりであるところ,同一覧表の「番号」欄1~18に対応する「記載内容」欄の各記載(以下,その各記載をそれぞれその番号に従い「本件記載1」などといい,併せて「本件各記載」と総称する。)は,以下のとおり,原告の社会的評価を低下させるものである(なお,同一覧表中の下線部及びその末尾の「(本件記載1①)」等の記載は,いずれも原告がその社会的評価を低下させるものとして特に摘示する部分及び当該部分の名称を示すものである。)。
ア 本件記載1について
本件記載1①~③は,これを読む者に,原告が何らの検討もなく独断で,不必要な時期に,不当に高額の費用が生じるコンサルタント契約を締結したとの印象を抱かせるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の社会的評価を低下させるものである。
イ 本件記載2について
本件記載2①及び②は,納豆工場の新設が無謀な計画であり,原告は他人からの忠告に耳を貸さず,慎重さがなく,a社には経営を監視監督する機能がないという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が上場企業の代表取締役としての判断能力がない人物であるとの印象を抱かせるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の社会的評価を低下させるものである。
ウ 本件記載3について
本件記載3①は,原告が何らの検討もせずに思いつきで多額の広告宣伝費を支出したという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が上場企業の代表取締役として,広告宣伝活動について,検討もなく思いつきで多額の費用を会社から流出させており,経営者としての判断能力がない人物であるとの印象を抱かせるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の社会的評価を低下させるものである。
エ 本件記載4について
(ア) 本件記載4①は,原告及び他の取締役が何らの検討もせずに思いつきでカット野菜事業を開始したという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が上場企業の代表取締役であるにもかかわらず,検討もせずに思いつきで多額の費用を要する事業を開始するような,経営者としての判断能力がない人物であるとの印象を抱かせるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の社会的評価を低下させるものである。
(イ) 本件記載4②及び③は,原告が何らの検討もせずにカット野菜事業を開始した結果,a社に損害が発生したという事実を前提に,原告について,a社の損害について能天気であり,自分の思うようにならなければ我慢ならず,会社の利益を考えていない人間であるという意見・論評を表明するものであり,原告の品性,信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものである。
オ 本件記載5について
本件記載5①は,原告を始めとする経営陣が何らの検討もせずにいい加減な計画で米国ニューヨークの土地を購入したという事実,a社と米国地元市民との間で環境問題について訴訟が起きたという事実,原告が不適切な会計処理を主導したという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が上場企業の代表取締役でありながら,a社の資金で何ら検討なしに米国ニューヨークの土地を購入するような,いい加減な経営をしており,経営者としての判断能力がない人物であるとの印象を抱かせるとともに,上記判断について,原告に善管注意義務・忠実義務違反があるかのような印象を与えるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の社会的評価を低下させるものである。
カ 本件記載6について
本件記載6①は,原告を始めとする経営陣が,何らの検討もせずにおよそ利用することができない滋賀県○○町所在の土地(以下「本件○○町土地」という。)を取得するとともに,仲介手数料,調査費等で会社に損害を生じさせる経営判断をしたという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が検討なしに思いつきで多額の費用をかけてa社に本件○○町土地を購入させたとの印象を抱かせるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の社会的評価を低下させるものである。
キ 本件記載7について
本件記載7①は,原告が,当初から利用することもできないような埼玉県日高市の市街化調整区域内の土地(以下「本件日高市土地」という。)を取得した上,利用方法の検討もないままa社に本件日高市土地を転売したという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が自己利益のために,およそa社が利用することのできない土地をa社に転売したとの印象を抱かせるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものである。
ク 本件記載8について
本件記載8①は,原告が主導して減損回避のために監査法人に虚偽報告をしたという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が上記の虚偽報告を主導したとの印象を与えるものであり,原告の社会的評価を低下させるものである。
ケ 本件記載9について
(ア) 本件記載9①及び②は,原告がキノコの生産メーカーの代表取締役でありながら,キノコ生産設備の調達についての知識を有していなかったという事実,菌の研究について何らの検討もせず,自らが儲かることだけを考えてぶなしめじ事業を行っていたという事実を摘示するものである。これらの記載は,これを読む者に,原告にきのこの生産メーカーの代表取締役としての見識がないとの印象を抱かせるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の社会的評価を低下させるものである。
(イ) 本件記載9③は,原告を始めとする経営陣が,ぶなしめじ小株化事業について,損益分岐点等の検討をせずにa社に損害を発生させたという事実,a社に融資を得させるために銀行に虚偽の申告をしているという事実を摘示するものである。これらの記載は,これを読む者に,原告が上場会社の代表取締役としていい加減な投資判断をし,通常であれば得られるはずもない銀行融資を得るために虚偽事実の申告をしたとの印象を抱かせるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の社会的評価を低下させるものである。
コ 本件記載10について
(ア) 本件記載10①は,本件文書が全体として原告の代表取締役退陣を要求することに主眼を置き,その内容の大半が,原告が無検討に経営判断を繰り返していることを非難する趣旨の文章であること,本件記載10⑤に「これは社長の経営レベルがいかにひどいかを端的に示す典型的事例」という記載があることなどを踏まえ,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると,中国事業について,単独で出資しなかったことがまともでないという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が上場企業の代表取締役でありながら,単独出資をしないという著しく不合理な判断をし,経営者としての判断能力がない人物であるとの印象を与えるものである。
(イ) 本件記載10②は,原告が前管理本部長の責任を漫然と看過し,改善策を提示した被告を非難する一方,より大きな金額の損失を出した取締役であるA(以下「A」という。)を非難しなかったという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が社内で実績に関係なくえこひいき,差別をしているとの印象を抱かせるものである。
また,本件記載10②は,原告が何らの検討もせずに中国事業を開始し,被告の実施した改善策を非難する一方,その後にさらに大きな損失を出したAを非難しなかったという事実を前提に,原告について,無能者であるとして,その人格を否定するような意見・論評を表明するものである。
(ウ) 本件記載10③は,原告とAがa社と中国企業とのいい加減な関係を継続してa社に損害を与えたという事実を前提に,原告について,全くの無能な経営者であり,中国においてお人好しの慈善事業を行ったにすぎないとして,その人格を否定するような意見・論評を表明するものである。
(エ) 本件記載10④は,a社の生産現場が,原告を含めた経営陣の会社経営に不満を持っているが,我慢して業務を行っているという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告の経営には問題があり,a社の生産現場が原告の退陣を要望しているとの印象を抱かせるものである。
(オ) 本件記載10⑤は,原告が平成18年当時の事情に照らして,中国事業について著しく不合理な判断をしたという事実を前提に,原告について,その経営レベルがひどいものであり,無能さは呆れるレベルであるとして,その人格を否定するような意見・論評を表明するものである。
(カ) 本件記載10⑥は,a社の会議では原告が精神論と夢を語るばかりで,何の決定もなされないまま時間が過ぎているという事実を摘示するものである。かかる記載は,他の経営陣が原告に追随している,原告の思いつきで経営がなされているなどという本件文書の他の記載と相まって,これを読む者に,原告がa社の会議において,経営判断について闊達な議論をすることを阻害しているとの印象を抱かせるものである。
(キ) 本件記載10の各記載は,これを読む者に,全体として原告が経営者としてふさわしい人物ではないとの印象を抱かせるものであり,原告の品位及び信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものである。
サ 本件記載11について
(ア) 本件記載11①,③及び④は,原告がa社内において一部の人間のセクハラについて抗議する声を黙殺し,パワハラを容認したという事実を摘示するものである。これらの記載は,これを読む者に,原告が社内においてセクハラ及びパワハラを容認していたとの印象を抱かせるものである。
また,本件記載11①は,a社の管理本部長になったB(以下「B」という。)が,平成24年に営業本部の女性にセクハラをしたが,注意処分を受けたにとどまったことに社内から非難の声が続出したにもかかわらず,原告が当該非難の声を黙殺したという事実を前提に,原告について,自分の利益になるかどうかがすべての判断基準であり,コンプライアンスや他人のことには構わない人物であるとして,その人格を否定するような意見・論評を表明するものでもある。
(イ) 本件記載11②は,Bが業務部長でありながら担当の物流費を把握しておらず,女性社員にセクハラをし,原告の息子の機嫌をとっているだけの人物であるにもかかわらず,原告がBを管理本部長にしたものであり,その判断が著しく不当であったという事実を前提に,原告について,無見識でどうにもならない人間であるという意見・論評を表明するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が,経営者でありながら会社の経費には無関心であり,セクハラを容認するような無見識な人物であるとの印象を抱かせるものである。
(ウ) 本件記載11⑤は,原告が部下及び取引先との面談をICレコーダーで録音して証拠に使うと平然と話していたという事実を前提に,原告について,まともかと疑いたくなるという意見・論評を表明するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が行っている行為がまともではないとの印象を抱かせるものである。
(エ) 本件記載11⑥及び⑦は,原告が部下を尾行させたり,部下の写真撮影をしたりして部下を脅すなど,脅迫罪等の刑法上の犯罪に該当する行為やストーカー行為を行ったという事実を摘示するものである。これらの記載は,これを読む者に,原告が犯罪行為を行っているとの印象を抱かせるものである。
また,本件記載11⑦は,原告がパワハラ,脅迫罪に該当する行為,ストーカー行為を行ったという事実を前提に,原告について,人間のクズであり,コンプライアンスはどうでもいいとする人物であるという意見・論評を表明するものでもある。
(オ) 本件記載11⑧は,a社が無農薬,有機栽培を目指しておらず,放射能汚染のないおがを使用していないという事実を前提に,原告について,真に顧客のことを考えておらず,自己利益ばかりを考えている人物であるという意見・論評を表明するものである。
(カ) 本件記載11の各記載は,これを読む者に,全体として原告が自己利益を優先するコンプライアンス意識に欠けた人物であり,パワハラやセクハラを容認し,自ら犯罪行為まで行っているとの印象を抱かせるものであり,原告の品位及び信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものである。
シ 本件記載12について
(ア) 本件記載12①は,原告に愛人がおり,その愛人であるC(以下「C」という。)をa社の取締役に任命していたという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が不倫をしており,個人的な関係から不倫相手を会社の取締役にしていたとの印象を抱かせるものである。
(イ) 本件記載12②は,原告が社内において,気に入った何人もの女性と肉体関係を持ったという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告がその地位を利用して社内において女性社員と不適切な関係を持っていたとの印象を抱かせるものである。
(ウ) 本件記載12③は,原告が不倫関係にある女性と利益相反取引を行っているという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告は,その地位を利用して,利益相反行為を行っているとの印象を抱かせるものである。
(エ) 本件記載12④は,原告が愛人から損害賠償請求訴訟を提起されており,その中で愛人が原告の子供を8回妊娠し,中絶したとの主張がされているという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が愛人に8回も妊娠中絶を繰り返させ,損害賠償請求訴訟を提起されているとの印象を抱かせるものである。
また,本件記載12④は,原告が複数の女性社員と肉体関係を持ち,愛人を妊娠中絶させるなどして訴訟を提起されているという事実を前提に,原告について,このような人間としてあるまじき者を上場会社のトップにしておくべきではないという意見・論評を表明するものでもある。
(オ) 本件記載12の各記載は,これを読む者に,全体として原告が女性関係にだらしなく,愛人から訴訟を提起されているとの印象を抱かせるものであり,原告の品位及び信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものである。
ス 本件記載13について
本件記載13①は,原告が指示したa社の株式会社d(以下「d社」という。)へ支払った損害賠償金の会計上の処理が不適切であるという事実を摘示するものである。かかる記載は,本件文書の原告の経営能力を批判する他の記載と相まって,これを読む者に,原告が不正会計を行っているとの印象と共に,上記会計処理判断について原告に善管注意義務・忠実義務違反があるかのような印象を抱かせるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものである。
セ 本件記載14について
(ア) 本件記載14①は,原告の行動が原因でa社が資本市場において信頼を失っているという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が資本市場においてa社の信頼を失わせるような行動をし,周囲の者と共にコンプライアンス上問題のある行動をしているとの印象を抱かせるものである。
(イ) 本件記載14②は,a社が原告の行動が原因で資本市場の信頼を失ったという事実,平成23年に違法な配当を行ったという事実,平成24年にa社には利益剰余金がなく,資本剰余金,利益準備金の取崩しをしないと配当できない状況であったのに配当を行おうとしたという事実を前提に,原告について,会社の存続,債権者・投資家への情報提供など考えておらず,自己利益のために株価に悪影響を与えないようにすることだけを考えており,有価証券報告書に虚偽報告をしているかのような上場企業の代表取締役として許されない人物であるという意見・論評を表明するものである。
(ウ) 本件記載14③は,原告が平成23年に他の取締役や大手法律事務所弁護士から創業者一族を除いた配当を行うことが法律上問題であるとの忠告を受けながらも,会社法をよく解さない弁護士へ照会したのみで,当該配当を行ったという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,経営判断をする上で必要な調査や検討を経ることなく,独断により違法配当を強行したとの印象を抱かせるものである。
また,本件記載14③は,原告が平成23年に法律上問題があると指摘されながらも,必要な調査をせずに配当を強行したという事実を前提に,原告について,自己利益を優先する人物であり,他人の忠告を一切聞かず,正論をいう者に対しては無能の烙印を押すような人物であるという意見・論評を表明するものである。
(エ) 本件記載14④は,原告がa社の元顧問であるDに対し,a社の業務とは無関係な原告個人に関わる業務をやらせており,そのほかにもa社の業務や利益とは関係なく個人的な理由で継続している顧問契約があるという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告がa社の資金を私的に流用しているとの印象を抱かせるものである。
(オ) 本件記載14⑤は,本件記載14①,③,④において摘示された事実を前提に,原告によるa社の経営が個人商店の域を出ないものであり,a社が上場企業であるためには,原告が代表取締役を退陣する必要があるという意見・論評を表明するものである。
(カ) 本件記載14の各記載は,これを読む者に,全体として原告が自己利益のみを追求している人物であり,会社の資金を個人的に流用し,他人の忠告や意見は聞かずに独断で経営判断をしているとの印象を抱かせるものであり,原告の品位及び信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものである。
ソ 本件記載15について
本件記載15①は,原告が経営と所有の分離ができておらず,ワンマンな経営をし,場合によっては,イリーガルな言動もしていたという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が,会社を自らの利益のために利用し,ときには違法行為をも行っていたとの印象を抱かせるとともに,原告に善管注意義務・忠実義務違反があるかのような印象を与えるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の社会的評価を低下させるものである。
タ 本件記載16について
本件記載16①は,a社の朝会が原告の判断に取締役が従うだけの形式的な会議であるという事実,原告がa社のガバナンスを機能させていないという事実,取締役の欠格事由に該当する者を取締役に選任したために,a社の取締役会決議には重大な瑕疵があるという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告がa社において独裁者のように振舞っており,その結果,会社法上,重大な瑕疵のある取締役会決議がなされていたとの印象を抱かせるとともに,原告に善管注意義務・忠実義務違反があるかのような印象を与えるものであり,高い経営手腕を有するとされていた原告の信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものである。
チ 本件記載17について
(ア) 本件記載17①は,a社の経営においては,a社自体の負債だけではなく,原告の個人的な負債をも調整する必要があるという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,a社の代表取締役として,原告が個人的な負債とa社の負債を混同させているかのような印象を抱かせるものである。
(イ) 本件記載17②は,原告が会社の経営立て直しのために会社にとって何が一番重要かと言うことを考えるべきときに,自己利益を実現できなければ会社諸共沈没させると脅し,会社にとって有益な判断をすることを阻害していたという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が自己利益の実現のために脅迫行為を行い,会社にとって有益な判断をすることを阻害していたとの印象を抱かせ,高い経営手腕を有するとされていた原告の信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものである。
ツ 本件記載18について
(ア) 本件記載18①は,これまで摘示された事実を総括し,原告が会社経営をする上でリスクの検証やマーケティング戦略の検討等必要な検討を行っていないという事実を摘示するとともに,原告が「経営とは金を借りることで,地元でこれだけの雇用を生んでいる会社を銀行はつれずはずがない」と豪語し,自らの利益が実現できないのであれば会社諸共潰すと述べたという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,原告が何らの検討もなしに自らの利益のためだけに会社経営をし,自らの利益を実現できないのであれば会社の利益になど関心がない経営者であるとの印象を抱かせるものである。
また,本件記載18①は,これまで摘示されてきた各事実(原告が何らの検討もなしに経営判断を繰り返しているとの事実,セクハラ及びパワハラを容認していた事実,愛人がおり,女性社員と肉体関係を持っていた事実,ワンマン経営の末に会社の財産を私的に流用していたとの事実等)を前提に,原告について,経営能力が不十分であり,会社のトップに立つ者として当然備えていなければならないコンプライアンス意識がなく,人間としての倫理観もない人物であるという意見・論評を表明するものである。
(イ) 本件記載18②は,原告に対しては内部統制が及ばず,監査役が監査意見を述べることもできない状況であったために,E(以下「E」という。)が監査役を辞任するに至ったという事実を摘示するものである。かかる記載は,これを読む者に,a社において,監査法人による監査の結果,その経営に問題があるとの結論に至っていたにもかかわらず,原告がその意見を封じ込めたとの印象を抱かせるものである。
(ウ) 本件記載18の各記載は,これを読む者に,全体として原告が経営判断に必要な調査検討を怠っている上,自らの利益を追求するあまり脅迫等の犯罪行為を行い,監査意見を封じ込めるなどしており,善管注意義務・忠実義務違反があるかのような印象と共に,原告について,経営能力が十分ではなく,コンプライアンス意識及び倫理観のない人物であるとの印象を抱かせるものであり,原告の品位及び信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものである。
(3) 以上のように,本件文書は,これを読む者に,原告が十分な検討を踏まえない経営判断を繰り返しており,コンプライアンス意識に乏しく,セクハラ・パワハラを容認し,適切な人事評価を行うことができず,また,犯罪行為を指示・実行しており,a社やその顧客の利益よりも自らの利益を優先しているなどの印象を与えるものである。
被告は,遅くとも平成25年6月4日までに,本件文書送付行為に及び,原告の社会的評価を低下させた。
[被告の主張]
(1) 原告の経営者としての社会的評価は,少なくとも本件文書の送付先に限れば,本件文書の送付時において,既に地に落ちていたものであり,本件文書送付行為によって原告の社会的評価が低下したという事実はない。
(2) 本件記載9③は,原告がぶなしめじの事業に関して銀行融資を得るために虚偽の申告をしたということであれば問題であるという趣旨の記載であることは明らかであり,これを読む者に,原告がぶなしめじの事業に関して銀行融資を得るために虚偽の申告をしたとの印象を抱かせるなどということはあり得ない。
(3) 原告は,本件記載10①について,被告が,a社が中国事業について単独で出資しなかったことをまともでないと記載しているかのように主張するが,正解しないものである。被告が指摘したのは,中国事業に対する投資や中国事業のオペレーションについて,a社として中国事業におけるノウハウを蓄積するというような投資によって得られるメリットを放棄し,漫然と投資を続けてきたことであり,これは,前後の文脈からも明白である。
4  争点2に関する当事者の主張
[被告の主張]
(1)ア 本件は,マスメディアが表現行為の主体となった事件(以下「マスメディア型事件」という。)ではなく,マスメディア以外の私人が表現行為の主体となった事件(以下「非マスメディア型事件」という。)であるところ,マスメディア型事件においては,広く一般国民・市民に向けられた言論,出版等の表現行為が問題とされるのに対し,非マスメディア型事件においては,表現の手段・態様・程度は様々であり,また,マスメディア型事件においては,表現者と表現の対象とされた者との間に,個別具体的な経緯,関係等が存在しないことがほとんどであるのに対し,非マスメディア型事件においては,両者の間の従前の経緯,背景事情,特殊な人間関係等を前提とした上で表現行為がなされることが少なくない。そこで,非マスメディア型事件において,表現行為が不法行為を構成するだけの違法性を具備するかどうかについては,①表現の動機・目的,当該表現をするに至った経緯,②表現の内容(事実摘示の程度,真実性の程度),③表現の態様を考慮し,検討すべきである。
イ 本件文書送付行為については,以下に述べるとおり,違法性がない。
(ア) 本件文書送付行為に係る表現の動機・目的,当該表現をするに至った経緯について
a社は,平成25年頃,破たんの危機に瀕しており,かかる危機を回避するためには,第三者の出資を仰ぐことが必要不可欠であり,第三者からの出資を受けるための前提条件は,原告が取締役を退任することであった。ところが,原告は,これを拒否し,a社が早晩に破たんすることが避けられない状態となっていた。そして,被告がa社の取締役として,窮状のa社を再建するために奔走していたにもかかわらず,a社において絶対的な権力を有していた原告は,この再生案を了承しない上,被告を取締役から解任した。そこで,被告は,通常の方法であれば,a社の再生を実現することはできないと考え,本件文書を送付してa社の監査役に訴えを提起するよう求めたものである。このように,被告が本件文書を送付した目的は,正当なものである。
(イ) 本件文書の内容について
本件文書には多数の事実や意見などが記載されているが,その内容は,要するに,a社の経営に関し,絶対君主的な権力を有する原告に対するチェック機能が全く機能せずに財務が悪化し,債務超過の危機にあることを指摘するとともに,原告がa社の代表取締役であることによる事業運営上の問題とコンプライアンス・倫理上の問題を指摘し,これを是正するために,原告を除く新しい経営体制の実現を求めるというものである。そして,a社が,本件社内調査の結果を記した報告書(以下「社内調査報告書」という。)等の中で,不適正会計が生じた原因を原告の強すぎたリーダーシップによる暗黙の重圧によるものと断定し,取締役会などの経営管理組織が機能していなかったと認め,再発防止のためには全社的な経営方針,財務方針,組織の運用体制,経営レベルにおける意思決定のプロセスの在り方の見直しと強化が必要不可欠である旨を繰り返し示していることに照らせば,本件文書の要旨を成す部分については,明確に裏付けられている。
(ウ) 本件文書送付行為に係る表現の態様・程度について
本件文書は,特定の宛先にしか送付されておらず,その送付先も,本件文書により指摘する事項について何らかの関係を有するところに限られている。また,その表現ぶりについても,多少強調された点があり得るものの,a社の実情を社外にリアリティをもって伝え,a社の再生を実現する上で必要な表現であり,人身攻撃に及ぶようなものではない。そうすると,本件文書送付行為に係る表現は,社会的に許容できないような態様・程度であるとは認められない。
(エ) 以上の事情を考慮すれば,本件文書送付行為には,不法行為を構成するだけの違法行為はないものというべきである。
(2) 仮に,マスメディア型の事件において適用される基準によって違法性の判断をするとしても,以下に述べるとおり,本件文書送付行為は,違法性を欠く。
ア 本件文書の記載内容は,本件文書が送付された平成25年6月の時点において,東京証券取引所第二部に上場していたa社の事業運営上の問題点やコンプライアンス上の問題点を指摘するものであるから,公共の利害に関する事実であることは明らかである。
イ 被告が,本件文書を作成し,送付した目的は,a社の事業運営上の問題点やコンプライアンス上の問題点を指摘し,これを是正しようとするものであるから,もっぱら公益を図るものであったことは明らかである。
ウ 本件各記載については,原告が十分な検討をすることなく独断で意思決定をし,a社の内部統制が機能不全に陥っていたことを指摘するものであり,その重要な部分について,真実性又は真実と信じることについての相当性が認められる。
(ア) 本件記載1について
平成22年当時のa社の財務状況は,経常利益が3億円に落ち込む状況であり,そのような財務状況を踏まえて,被告が原告に対しコンサルタント契約の中止を勧告したにもかかわらず,原告が平成22年にコンサルタント契約を締結し,それ以降,a社の業績がコンサルタントから何の効果も得られずに悪化の一途をたどったことは,客観的な事実である。また,コンサルタントの成果物がその対価に釣り合わないレベルの低いものであったことは,被告の経験に基づく正当な意見・論評である。コンサルタント契約に関する紹介料については,その支払が事実であれば,その分,a社の財務に与える影響が大きくなったことは自明である。
(イ) 本件記載2について
納豆工場の新設に関する投資計画については,販路の確保など投資のために検討すべき事項が多数あった。ところが,原告は,これらの事項を十分に検討することなく投資に及んだのであり,無謀ないし暴挙と評価し得るものである。
(ウ) 本件記載3について
原告が平成23年3月期の経常利益約3億円を大きく上回る7億3300万円を投じて広告宣伝活動を行ったこと,その投資をする前提として費用対効果の十分な検証を行うことがなかったことは,いずれも客観的な事実である。
(エ) 本件記載4について
原告が十分な検討をせず循環型農業団地事業を開始したことは,社内調査報告書の内容のほか,同事業が平成24年度末には減損処理を余儀なくされていることから,優に裏付けられる。また,原告がa社の業績が悪化している状況下において,同事業が赤字となったことについて,「これはテストだから赤字が出てもしょうがない」と発言したことも事実であり,かかる発言は,能天気と評価されてもやむを得ない。また,原告が自分の言うとおりやらなければ我慢できず,会社にとってベストかどうかは二の次であり,その結果が上場会社とは程遠い無責任なガバナンスのない事態を招いた旨は,客観的事実を前提とした正当な意見・論評である。
(オ) 本件記載5について
米国における事業展開が失敗に終わり,減損処理をするに至ったことは,客観的な事実であり,米国における事業展開について十分な検討がされていなかったと評されてもやむを得ない。
(カ) 本件記載6について
本件○○町土地に対する投資について,まいたけ工場の新設という当初の目的を達せず,事業化されることないまま処分しなければならない事態に至ったことは,客観的な事実であり,原告らが投資に関して十分な検討をしなかったと評されてもやむを得ない。
(キ) 本件記載7について
a社による本件日高市土地に対する投資が費用対効果をほとんど検証せずにされたものであることは,客観的な事実である。
(ク) 本件記載8について
社内調査報告書においては,東京の△△所在のeビル(以下「eビル」という。)について,平成18年3月期に減損処理する必要があった旨の判断がされており,「経営会議,取締役会で将来の計画について十分に議論されないまま,経理担当者が会計年度ごとに監査法人への具体性に欠ける将来見込みを説明することで減損回避を行って」いたという問題点が指摘されていることから,減損回避のために監査法人に対して虚偽報告がされたことは,客観的な事実である。
(ケ) 本件記載9について
ぶなしめじ小株化事業への投資について,原告らが十分な検討をしなかったことは,客観的な事実である。
(コ) 本件記載10について
本件記載10は,原告が中国事業に対する投資によって得られるメリットを放棄して漫然と投資を継続してきたことについて,まともな経営判断ではないことを摘示するものであるところ,a社として,中国事業におけるノウハウを蓄積するというような投資によって得られるメリットを放棄し,漫然と投資を続けてきたことは,客観的な事実である。かかる客観的な事実に基づけば,原告による中国事業に関する一連の判断が決してほめられるものではないとの評価は,正当な意見・論評である。また,原告が会議を時間制限なく長時間行い,会議の内容も原告が精神論ばかりを話しているというのも事実であり,かかる会議は,時間の浪費と評されてもやむを得ないものである。
(サ) 本件記載11について
本件記載11のうちセクハラ及びパワハラに関する事実は,被告が直接経験した事実である。また,原告が部下や取引先との面談を録音し,証拠に使うと述べていたことも,客観的な事実である。さらに,部下を尾行させ,写真を撮影し,その写真を用いて部下を脅迫するなどしていたことも,被告が原告から直接聞いた事実である。
本件記載11のうち意見・論評に当たる部分は,上場会社の代表取締役として当然重視すべきコンプライアンス違反を軽視する原告の態度を非難したものであり,事実に基づく正当な意見・論評である。
(シ) 本件記載12について
本件記載12①については,CがXと愛人関係であることは,a社社内では知らない者がないほど有名な事実である。また,本件記載12②については,パッケージセンター長を務めていたC取締役と取引上付き合いのあったa社との取引先企業の役員ら複数人から,被告が何度も聞いた事実である。
本件記載12③については,原告は,愛人であるF(以下「F」という。)と共同出資をしてf社という会社を設立し,a社本社の傍にある原告の所有建物を社屋として,Fをその社長に据え,a社が販売している健康食品を販売する事業をさせたものであるところ,被告は,原告と愛人関係にあったFが事実上原告の支配下にあることから,a社の代表取締役である原告がa社と競合する事業をするのは利益相反に該当する疑いがあるとの弁護士の意見を得て,その旨を指摘したものである。
本件記載12④については,被告が,Cから申し立てられた調停に関して原告から相談を受け,その調停申立書内に記載されていた事実を確認したものであり,原告も,かかる事実を否定していなかったものである。
上記事実に基づく被告による意見・論評は,正当なものである。
(ス) 本件記載13について
原告がd社に対し,台湾にa社の販売代理店を設置することを委託した後にこれを止めたことを理由として損害賠償金を支払い,これを特別損失として計上したところ,当時監査役であったEは,取締役会において,これについて会計処理上疑義がないようにヒアリングをするなど事実関係を改めて調べておくべきである旨を指摘した。被告は,この出来事をそのまま記載したものである。
(セ) 本件記載14について
平成21年度以降,被告が本件文書を送付する平成25年6月上旬頃までの間,a社が業績予想を下方修正しなかった年度はなく,特に平成22年度から平成24年度までは,毎半期ごとに(時には下半期だけ2回も)下方修正を繰り返しているのであり,かかる状況をみれば,株式市場においてa社が開示した情報自体を信用できないと評価されていたことは,明らかである。そして,被告は,このように実現見込みのない強気の計画を開示することで株価を反応させるという原告の考えについて,原告に対して強気の計画を控えるように意見具申をした際に直接聞かされており,原告の考えのとおりに対応するように指示を受けていたものである。
また,原告は,度々自己株式取得を実施し,業績が極めて悪化していた平成22年以降,平成23年度及び平成24年度において,資本剰余金又は利益剰余金を取り崩してまで配当を強行したことは,客観的な事実である。特に,平成23年度の配当については,被告は,当時のa社の財務状況が配当できるような状態でなかったことに加え,原告が配当可能余剰金を捻出するために原告ら創業者一族が配当請求権を事前に放棄する意向を示したことについて,g法律事務所から,配当請求権は株主総会決議により発生するものであるから事前放棄はできないとの見解を得たことから,原告に対し,財務上配当すべき状況でない以上,違法とされるリスクを負ってまで配当請求権を事前に放棄して配当を実施するべきではない旨を進言したが,原告は,これを強行した。
本件記載14③については,被告は,配当請求権について事前の放棄はできないとの見解を得たことから,原告に対し,財務上配当すべき状況でない以上,違法とされるリスクを負ってまで配当請求権を事前に放棄して配当を実施するべきではない旨を進言したが,原告は,これに耳を貸すことなく,a社の顧問であったH弁護士に意見を求めたところ問題ないとの意見を得たとして,配当を強行した。しかし,この配当については,監査役も問題を指摘し,かつ,被告が監査法人にも確認したところ,問題がないとの意見を得ることができなかったのであり,このように法律上問題あるとの意見がある以上,コンプライアンスの観点からは慎重に対応すべきであった。しかるに,原告は,自身の配当を実現したいとの強い意向を優先させたのであり,かかる事実に基づけば,被告による原告に対する批判的な意見は,何ら違法性を有するものではない。
本件記載14④については,D顧問が,a社との顧問契約の業務として,原告の自宅前の落葉の収集も含まれており,D顧問がそれも大事な仕事だと被告に対して述べていたのは事実であり,かかるD顧問との関係を前提とすれば,原告が公私混同をしていたとの非難を受けても仕方のないところである。
(ソ) 本件記載15について
本件記載15については,a社において,財務状況が平成22年以降ひっ迫し,平成23年度には赤字に陥り,投資よりも財務内容の改善が喫緊の課題であったにもかかわらず,強気の計画を維持するために無理な投資を強行して,更に財務内容を悪化させたこと,配当原資もままならないのに配当を実施したことなどは,いずれも原告がその絶対的な権力を背景にして違法の疑いも構わずに実施してきたものであり,a社,ひいては株主等ステークホルダーのためではないこと,すなわち,所有と経営が未分離であることは,財務諸表等の業績経過をみれば明白である。
(タ) 本件記載16について
本件記載16は,要旨,a社における経営に関する意思決定が,実質的には全くガバナンス機能を発揮していない機関による形式的な決定であることを指摘したものである。このことは,a社自身が,このような問題が生じた原因を,原告の強すぎたリーダーシップによる暗黙の重圧によるものと断定し,幹部社員はコンプライアンス意識が希薄になり取締役会などの経営管理組織が機能していなかったと認め,再発防止のためには全社的な経営方針,財務方針,組織の運用体制,経営レベルにおける意思決定のプロセスの在り方の見直しと強化が必要不可欠であるという認識を示していることから明らかである。
(チ) 本件記載17について
本件記載17①については,原告がその所有するa社の株式を担保に多額の借入れをし,その担保権の実行により株式をすべて失ったことは,客観的な事実である。そして,平成22年以降,a社に融資をしていた取引銀行らが,第三者の出資によってa社の自己資本を増強するしかないと判断し,原告の了承の下,被告が中心となって事業会社,ファンドなどとの交渉を始めており,原告がその経営から離れることを前提条件としてa社のために資本を得る好機があったにもかかわらず,原告が経営から離れることを拒み,そのためにa社が破たんしてもやむを得ない旨の発言をしたことも事実である。このように,原告は,個人的に負っていた債務とa社が負っていた債務の狭間においてa社の経営を行い,その結果,a社の存続より自らの経営権の維持に執着して,合理的な経営判断をすることができなかったのである。
本件記載17②については,原告がそのような発言をしていたことは事実である。
(ツ) 本件記載18について
本件記載18①については,本件文書において既に述べてきたことを改めてまとめたものである。また,本件記載18②については,社内調査報告書において,「監査役会は,平成24年4月に社長,取締役及び執行役員宛に監査役の所見として書面による意見具申を行っている。所見の内容は,当社の実情を的確に捉え,コーポレートガバナンス,組織運営問題,資金繰り,会計処理関係,労務安全など多岐にわたる課題について提言してい」たところ,このように「監査役会が幅広く当社の課題を提言しているにもかかわらず監査役会の意見を真摯に受け止めることができなかった社長や取締役のコーポレートガバナンスの認識不足は改めなければならない」と指摘されているとおり,客観的な事実である。
[原告の主張]
(1) 被告は,取締役在任時には取締役会等で反対意見を述べることもなかったのに,被告の取締役報酬が減額されていなかった問題などを契機として,取締役に再任されないことが分かるや,a社の業績が既に黒字となっていたにもかかわらず,本件文書を送付するという行為に至ったものである。本件文書送付行為の目的は,a社の経営の改善などではなく,原告の名誉を傷つけることであったことは明らかである。
(2) 本件各記載において摘示された事実は,以下に述べるとおり,真実ではなく,真実であると信ずるにつき相当な理由があるともいえない。また,本件各記載において表明された意見・論評は,いずれも,その基礎又は前提となる事実が真実ではなく,真実であると信ずるにつき相当な理由があるとはいえず,公正な論評の範囲内のものでもない。以下,詳述する。
ア(ア) a社においては慎重な調査検討を経て投資や事業に関する決定がされていたこと
被告は,本件文書において,原告がa社において無検討で無謀な経営判断を繰り返し行っていたと指摘する。
しかし,原告が代表取締役であった頃のa社においては,投資や事業の決定をする際には,まず担当部署において調査が行われ,取締役も構成員となっている経営会議に諮られ,そこで取締役会に上程する案件が絞られていた。経営会議を経て,投資案件や新規事業案件等が取締役会に上程される際には,担当部署の調査に基づく市場調査レポート,投資計画,損益計算書などの事業計画書が添付され,これらの添付書類や担当取締役の説明をもとに取締役会において慎重に審議された。経営会議や取締役会で問題が指摘されれば,再度,担当部署において必要な調査が追加で行われ,経営会議及び取締役会において承認が得られた投資や事業のみが実行されていた。事業計画どおりに事業が進まない状況に陥った場合や資産の利用方法を変更すべき場合にも,再度,担当部署において調査と検討が行われ,経営会議に諮られ,事業計画の変更や廃止,資産の利用方法の変更についても取締役会において慎重に審議決定されていた。
また,a社の規定では,3億円以上の案件については,必ず取締役会の承認が必要とされており,3億円以下の案件であっても,5000万円以上の支出を伴うものについては,取締役会の承認を得る運用がされていた。
このように,a社においては,5000万円以上の支出を伴う案件について,慎重な調査検討を経て決定されていたのであり,被告が本件文書で指摘するような無検討で無謀な経営判断などは存在しない。
結局のところ,被告は,当初想定された事業計画のとおりに進まない事業が存在するということをもって,原告が責任を負うべきであると主張しているにすぎず,経営判断当時の判断が不合理であったことを裏付ける根拠は何もない。
(イ) 社外調査報告書で問題は指摘されなかったこと
被告が本件文書を関係各所に送付した後,本件文書で指摘された会計処理について調査するために,b法律事務所のG弁護士を始め,原告ともa社とも関わりのない弁護士及び会計士からなる調査チームが設置され,本件社外調査が行われ,その結果,何ら問題がなかったと結論づけられた。
被告は,その後に行われた本件社内調査の結果によって,減損処理をすることとなったものがあることをもって,本件文書の内容が真実であったなどと主張する。
しかし,社内調査報告書には,原告が十分な検討をすることなく,独断で意思決定したなどという記載はなく,論理の飛躍が甚だしい。また,社内調査報告書は,証券取引等監視委員会から決算修正を要求され,「我々証券取引等監視委員会と争っていては中間決算はできませんよ」と言われたため,a社としては,第2四半期報告書の提出期限を遵守できずして行政処分の対象となり,上場廃止となることを避けるために,証券取引等監視委員会の指示どおりに決算修正をした内容で作成されたものであり,公正な調査の結果でき上がったものではない。a社が,原告の代表取締役在任期間中,監査法人の監査を受け,無限定適正意見を得て会計処理を行ってきたことからも,a社の会計処理が不合理であったとはいえず,原告が不正な会計処理を主導したということはない。
(ウ) 株主代表訴訟において十分な立証がなされていないこと
被告は,平成25年11月,本件文書において指摘した原告の行為について,原告の取締役としての責任を追及するため,株主代表訴訟を提起した(新潟地方裁判所長岡支部平成25年(ワ)第218号。その後,平成26年にも,同庁同年(ワ)第50号が提起された。)ところ,平成26年10月の期日において,裁判所から,証拠収集を行っているのか,どのような立証を行う予定であるのかと指摘があった。しかし,被告は,具体的な立証の予定を説明することができなかった。そして,その更に約5か月後には,裁判所から,被告の主張は曖昧で,取締役の法的責任及び損害額を基礎付ける事実の主張立証が十分にされていないとの指摘がされた。
このように,被告は,株主代表訴訟が提起されてから1年半程度が経過しているにもかかわらず,本件文書において指摘した各事実を十分に主張立証することもできていないのであり,本件文書で指摘した事項が真実であると証明するだけの証拠や裏付けもないままに本件文書を作成したものといわざるを得ない。
イ 犯罪行為を行っていたとの指摘について
原告は,被告が主張するような,ストーカー行為や脅迫行為について,捜査を受けたことはない。被告は,自らが被害者であるというが,被害届も出しておらず,原告がこのような行為を行ったという証拠は,何ら提出されていない。原告が自ら他人の行動を許可なく録画したことはなく,また,会話の録音についても,平成24年9月に2日間だけ録音機器を設置したが,会社内での不穏な動きを危惧した従業員からの勧めで,業務について会議を行うべき会議室に設置しただけであり,個人の自宅や他人のプライベートな空間を盗聴したことはない。被告は,録音の内容や状況について原告に確認することもなく,本件文書において重大な犯罪行為を行っているなどと指摘したのである。
ウ セクハラ,パワハラに関する指摘について
原告が代表取締役であった頃のa社においては,賞罰委員会が設置されており,相談窓口にセクハラ・パワハラの報告があった場合には,関係者に対するヒアリングが行われ,処分が決定されていた。当該処分に原告が関与することはない。
また,原告は,日頃から社内においてセクハラ,パワハラといった問題が起こることのないように,弁護士や元警察官を招いて講演会や社内研修を行うなどして,常にコンプライアンス遵守に気を配り,対策に取り組んでいた。原告が社内でセクハラやパワハラを認容し,主導していたということはない。
エ 女性関係に関する指摘について
女性関係に関する指摘については,いずれも真実ではない。
その指摘の根拠とされるのは,被告がそのような噂話を聞いたこと,Cの申立てに係る調停の申立書を見たこと,写真週刊誌(h誌)の記事を見たことであるところ,社内外での噂話や写真週刊誌の記事を信じたことをもって,真実であると信じるにつき相当な根拠があるとはいえず,また,仮に被告が上記申立書を目にしていたとしても,訴訟や調停における一方当事者の主張が必ずしも真実であるといえないことは当然であり,これをもって当該事実を真実であると信じるにつき相当な理由があるともいえない。
オ 以上のとおり,本件文書で指摘された事実は,いずれも真実ではなく,真実であると信じるにつき相当な理由もないものである。
(3) 被告は,本件文書において,摘示する事実が真実であることを前提に,原告について人間のクズ,無能者,無能さは呆れるレベル,人間としてあるまじき者,コンプライアンスはどうでもいい人間,まともか疑いたくなる,自らの利益ばかりを考えているといった人格攻撃に及ぶような意見・論評を表明している。
しかしながら,本件文書において摘示された事実が真実ではなく,被告がそれらを真実であると信じるにつき相当な理由がなかったことは,既に述べたとおりである。また,被告は,a社の業績が低迷している時期に自己株式の取得や平成23年の配当を行ったことをもって,原告が会社の利益を顧みずに自らの利益のみを追求しているなどと主張するが,原告は,a社の業績の影響を最も受ける大株主であったのであり,a社の業績や利益をないがしろにできるはずがない。また,原告は,この頃,役員報酬を半分減額し,平成23年の配当も受け取らず,さらに,取締役を退任する際,2億7000万円以上の退職金の受け取りを辞退している。原告は,個人的な利益よりも,a社の従業員,他の株主,取引先,ひいては社会への貢献を優先し,会社のために自ら借り入れをしてまで,会社の業績を良くするために必死に業務を行っていたのであり,会社のことを考えなかったことなど一度もない。
被告の本件文書における意見・論評は,真実(真実と信じるにつき相当な理由のある事実)に基づく正当な意見・論評として違法性を欠くものではない。
5  争点3に関する当事者の主張
[原告の主張]
原告は,それまで,経営者として非常に高い社会的評価を受けていたにもかかわらず,本件文書送付行為によって,その社会的評価を低下させられ,a社の代表取締役の地位を失うに至った。本件文書送付行為によって原告の受けた精神的損害は,5000万円を下らない。
また,本件文書が送付されたことによって,a社の経営に混乱を来たし,q銀行による経営介入を許し,最終的には,q銀行が原告の保有していたa社の株式に設定していた質権を実行し,原告が保有していたa社の株式を喪失するに至ったものであり,原告は,本件文書送付行為によって,20億3594万8869円の財産的損害を受けた。
以上のように,原告は,本件文書送付行為により,合計20億8594万8869円の損害を受けたところ,本訴において,その一部である5000万円を請求する。
[被告の主張]
(1) 争う。本件文書送付行為は,不法行為に当たらない。原告の主張する財産的損害については,本件文書送付行為との相当因果関係が認められないことも明らかである。
(2) 仮に,本件文書送付行為について不法行為が成立するとしても,本件が非マスメディア型の名誉棄損であり,被告にとってa社の再建のためには本件文書の送付しか方途が残されていなかったものであり,本件文書送付行為の動機・目的,これに至った経緯等には正当性が優に認められること,本件文書は,その要旨の部分において真実であること,本件文書がごく限られたところにのみ送付されていること,原告の常軌を逸した言動に照らし,その表現態様が社会的に許容できないものとまではいえないことなどの諸事情を総合考慮すれば,その損害は,もはや観念できない程度にすぎないものというべきである。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記争いのない事実等に,証拠(甲2~13,16,17,19,22,乙1,2,4~10,14(枝番を含む。),15,16,18,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(1)  本件文書の送付前における原告に対する社会的評価
原告は,平成18年頃,テレビ番組において,a社を大きく成長させた経営者として紹介され,平成21年には,ビジネス雑誌のオンライン記事において同様の紹介を受けるなど,経営者として高い評価を得ていた。
(2)  a社の経営等
ア 各種事業に係る取締役会の決定等
(ア) a社は,平成22年5月10日,ぶなしめじ増産計画について,取締役会で決議した。
(イ) a社は,平成22年5月24日,茨城県内における露地栽培実験事業(循環型農業団地構想に係るカット野菜原料栽培・加工事業)について,取締役会で決議した。
(ウ) a社は,平成22年8月23日,米国パイロットプラント事業計画の着工について,取締役会で決議した。
(エ) a社は,平成22年12月14日,茨城県内における露地栽培実験事業に関し,守谷市大野土地改良区内の農地の賃貸借と,露地・ハウス栽培の実施について,取締役会で決議した。
(オ) a社は,平成23年1月26日,守谷市内にカット野菜加工施設を建設することについて,取締役会で決議した。
(カ) a社は,平成23年7月15日,「守谷パッケージセンター」の施工について,取締役会で決議した。
(キ) a社は,平成23年8月10日,中国におけるえのき茸の生産・販売事業に関し,中国企業であるi有限公司(以下「i社」という。)との合弁会社であるj有限公司(以下「j社」という。)の吉林省長春市内の工場を増設することについて,取締役会で決議した。
(ク) その後,j社の長春市内の工場の建設着工が停止・延期され,これに伴って返済資金及び運転資金が不足する事態となり,a社においては,その資金不足解消を目的としたj社の増資が検討されていたところ,平成24年9月19日,取締役会において,j社の増資については,a社が保有する中国企業の持分を譲渡し,その譲渡代金の入金確認後,改めて決議をする旨の報告がされた。
イ 財務状況
平成22年3月期以降のa社の財務状況は,以下のとおりであった。
(百万円,自己資本比率のみ%)
〈表省略〉
ウ a社の業績予想について
a社は,平成21年度以降,本件文書送付行為がされた平成25年6月までの間,毎年少なくとも1回,業績予報の下方修正を行っていた。
エ 配当について
a社は,平成24年3月に,原告を始めとする創業者一族に対する配当を事前に放棄した上で,それ以外の株主に対する配当を行った。被告は,かかる配当に対し,配当の事前放棄の可能性について疑問を抱き,弁護士事務所に照会するなどした上で,原告に対して,配当を行わない方がよい旨の意見具申をした。
オ 監査役会の意見具申とE監査役の辞任
監査役会は,平成24年4月,原告,取締役及び執行役員宛に監査役の所見として書面による意見具申を行った。その所見の内容は,a社の実情を的確に捉え,コーポレートガバナンス,組織運営問題,資金繰り,会計処理関係,労務安全など多岐にわたる課題について提言するものであった。もっとも,かかる意見具申が取締役会において取り上げられることはなく,その後,Eは,監査役を辞任するに至った。
(3)  取締役報酬について
a社の取締役会は,平成23年11月から平成24年3月まで,代表取締役について50%,役付取締役について40%,取締役について30%の減額をする旨の決定をした。かかる決定に基づき,平成24年3月までは,被告にも,40%減額された報酬が支給された。
被告は,同年4月からは,一度決議された取締役報酬は,会社及び取締役の双方の同意によってしか減額できないとして,減額されていない役員報酬を受領していた。a社においては,同年10月頃,被告に対して満額の役員報酬が受給されていることが問題となり,a社は,平成25年1月頃,k法律事務所のH弁護士に対し,当該問題について相談をした。
(4)  本件文書送付行為
被告は,平成25年5月頃,原告から,被告を取締役として再任しないことを告げられていた。その後,被告は,遅くとも同年6月4日までに,本件文書送付行為をした。原告は,同年6月4日,監査法人lから本件文書をファクシミリで送付されたことにより,本件文書送付行為を知った。
(5)  本件社外調査の実施と結果
a社では,本件文書が送付されたことを受けて,b法律事務所の弁護士及び株式会社cに所属する公認会計士による社外調査チームを発足させ,本件社外調査を開始した。調査の範囲は,a社の会計処理に関する事項に限定するものとされた。その調査の詳細な結果は,次のとおりである。
ア 広告宣伝費の会計処理
広告代理店である株式会社s(以下「s社」という。)による役務提供は,平成26年3月までの期間中,継続して行われており,かつ,a社において,s社による支出をその都度管理することが困難であるから,契約期間30か月に分割して費用を計上することはやむを得ないといえ,会計処理上の問題はない。
イ 本件○○町土地の減損処理
本件○○町土地は,その全部がパッケージセンターとして利用されているわけではないから,利用されていない部分については遊休資産として扱うべきとの見解もあるが,仮に遊休資産として扱ったとしても,不動産鑑定評価額が帳簿価額を上回るから,減損処理は不要であったとして,減損処理会計の導入時に減損処理をしなかったことには問題がない。
ウ 本件日高市土地の減損処理
本件日高市土地は,将来使用見込みのある遊休資産にあたるというべきところ,将来における用途において営業資産としてグルーピングするに当たり,複数の可能性が考えられるものの,いずれのグルーピングを採用した場合においても,割引前将来キャッシュフローの総額が帳簿価額を上回っていたものであるから,減損処理をしなかったことには問題がない。
エ eビルの減損処理
マーケティング部をeビルに配置する理由の説明に著しく不合理な点は認められないから,減損処理を回避する目的でeビルにマーケティング部を設置したとはいえない。したがって,eビルを営業部門にグルーピングしたことは不合理ではなく,減損処理は不要であったのだから,減損処理をしなかったことに問題はない。
オ d社関係
a社の説明するd社との取引関係を前提とすると,a社は,平成24年11月に,平成20年3月に行われたa社とd社の取引についての損害賠償として4924万4809円を支払ったことになり,かかる支払を特別損失として計上したことは不合理とはいえないものの,a社とd社の取引関係全般について,その正当性を判断することは困難であり,更なる調査を行うことが望ましい。
(6)  本件社内調査の結果
本件○○町土地の取得に関する事項,減損会計基準導入時の不動産の減損処理の要否,広告宣伝業務委託契約にかかる会計処理について,その適否及び原因等について,本件社内調査が行われた。その結果は,次のとおりである。
ア 本件○○町の土地に関して
a社は,近江八幡市に物流拠点を確保することを目的としていた期間に,土地の取得費用等として建設仮勘定に7億1600万円を計上した。その後,近江八幡市への進出計画が頓挫し,新たに本件○○町土地を取得するに際して,近江八幡市の土地取得関連費用は,本件○○町土地の開発費用の一部でもある,あるいは,本件○○町土地の取得代金の一部に,近江八幡市の土地取得関連費用として既払いの7億1600万円が充当されたとの理由で,平成15年及び平成20年に,建設仮勘定に計上していた7億1600万円を,本件○○町土地についての土地勘定に計上した。
しかしながら,近江八幡市の土地開発と本件○○町土地開発との関連性,土地勘定に計上するに至った経緯等を検証すると,近江八幡市の土地開発に関連して支出した7億1600万円は本件○○町土地の取得価額を構成するものではなく,近江八幡市での開発計画が中止となった時点で費用計上すべきものであった。
イ 日高配送センター及び日高工場並びにeビルについて,
平成18年3月期より,減損会計基準が強制適用され,a社は,日高配送センター及び日高工場並びにeビルを減損の必要性を検討すべきものとしてリストアップしたが,いずれも減損処理の必要性がないとして,減損処理をしなかった。
しかしながら,日高配送センター及び日高工場並びにeビルについて,いずれも,当時の利用状況,その後の利用目的などを総合的に検討した結果,平成18年3月期において,減損処理をする必要があった。
ウ 広告宣伝委託業務に係る会計処理について
a社は,s社との間で,平成23年9月10日付けで,同月1日から平成26年3月31日までを契約期間として,総額7億3300万円で販売促進及び広告宣伝を委託する旨の契約(以下「本件広告宣伝契約」という。)を締結した。a社は,本件広告宣伝契約に関して,30回の分割支払に応じ平成24年3月期から平成26年3月期までの期間にわたり分割して広告宣伝費等として費用計上した。
しかしながら,本件広告宣伝契約に基づくs社の役務提供は,その大部分が平成24年3月末までに終了しているから,a社の行った同年3月期から平成26年3月期の期間にわたる費用の分割計上は適切ではなく,平成24年4月期以降に支出したと認められる一部の費用を除き,同年3月期に費用計上すべきであった。
エ 違法配当
本来必要であった減損処理等を踏まえた過去決算の修正を行うと,平成24年3月期に行った配当は,配当可能剰余金がゼロの状態で行われたことになり,全額違法配当の状態となる。
オ 原因分析
(ア) 経営者のリーダーシップ
原告の強すぎたリーダーシップが,幹部や担当者に対して黒字維持という原告の意向を忖度させ,無理な会計処理を行わせた。
(イ) 経営管理組織の機能
幹部といえども定着率が悪く,職務権限が曖昧な状態になっており,適切な監督体制が機能しているとは認め難く,組織体制を超えた業務指示が行われ経営管理組織が十分に機能しない局面がみられる。
(ウ) 幹部社員のコンプライアンス意識
幹部社員のコンプライアンス意識が低下しており,リスク管理意識が希薄となっている。
(エ) 業務プロセスにおける内部統制
本件広告宣伝契約に係る費用の処理については,契約交渉から契約締結までのプロセスが担当者任せになり,上司その他の者による交渉の途中経過の確認や契約締結の最終確認手続きがされなかったことにより,不適切な会計処理が発見できなかった。
(オ) 会計監査人への対応
本件○○町土地に関しては,平成17年3月期に会計監査人を変更した際,前任の会計監査人からの引継ぎがされず,a社の担当者も特別な説明をしなかったため,近江八幡市の土地に係る建設仮勘定の,本件○○町土地への資産計上が容認された。
本件広告宣伝契約に関しては,a社の担当者が,分割支払によって生じた金利を営業管理費との名目にした上,添付されていたはずの作業内訳を除外した契約書を会計監査人に提出し,実施細目は委託者であるs社の裁量となっているので費用の分割計上が妥当である旨の説明をしていた。
固定資産の減損処理については,将来の利用見通しが明確でないのに利用計画を説明し,その後,一時しのぎの利用実績を作り上げ,会計監査を意識した固定資産の活用方針を取締役会に取り上げるなどして,減損処理を回避していた。
(カ) 監査役会の機能
監査役会は,平成24年4月,原告,その他の取締役,執行役員宛てに,監査役の所見として書面による意見具申を行っており,その中では,本件広告宣伝契約に係る広告宣伝費用の分割計上が不適切である旨の指摘もされているが,原告やその他の取締役は,かかる意見具申を黙殺した。
カ 責任の所在
(ア) 社長
社長の強くなりすぎたリーダーシップが,自ら構築した組織を軽視する行動や過度の目標設定などにつながり,不適切な会計処理を招くに至った。
(イ) 経営幹部
取締役は,代表取締役の業務執行を監督するとともに,自らも業務執行の一部を担う立場にありながら,不適切な処理に関して阻止するどころか,加担し,あるいは,部下が社長の意向を忖度するなどして動いていることに関して見過ごしてきた。
キ 再発防止に関する提言
不適切な会計処理が行われた背景には,社長の強いリーダーシップによってもたらされた不適正な会計処理の容認,それに対する取締役や監査役,内部監査室による監査機能が果たされていなかったことにより,全社的な内部統制の一部が機能していなかったことを指摘した上,以下の内容の改善策を提言する。
(ア) 取締役会の機能の強化や,職務権限の見直し,業務プロセスにおける内部統制の強化・是正など,経営レベルにおける意思決定のプロセスの在り方についての見直しと強化が必要である。
(イ) 内部監査については,一定以上の金額の稟議に関しては,金額や支出内容の妥当性,投資判断基準の合理性等より深く監査する体制が求められる。
(7)  改善報告書の提出とその内容
ア a社は,平成25年11月28日,東京証券取引所に対し,改善報告書(以下「改善報告書」という。)を提出した。
改善報告書では,不適正開示が発生した原因の分析として,概ね,社内調査報告書と同様の原因が挙げられ,取締役会の機能強化や内部監査機能の強化について,設備投資の目的や投資の回収期間などについて経営改善委員会において審議することなど,具体的な改善策を実施していく旨の報告がされた。さらに,近江八幡市の土地への設備投資については,当初のまいたけ工場建設計画段階で法律・環境面を考慮して投資の意思決定をする必要があった旨の指摘がされた。
取締役の業務執行の問題点としては,取締役は,代表取締役の業務執行を監督するとともに,自らも業務執行の一部を担う立場にありながら,原告の意見に対して問題点を検討,協議することなく賛同し,あるいは,原告の意向に対して関係法令などを確認することなく計画を立案・実行させていることを見過ごしていた旨の報告がされた。
監査役会の業務執行の問題点としては,平成24年3月に「コーポレートガバナンス」,「組織運営問題」,「資金繰り」,「会計処理関係」,「労務安全」について取締役会に意見具申を行ったのち,取締役会がかかる意見具申を経営会議,取締役会の議題として取り上げ,十分検討するまで問題提起を続けるべきであった旨の報告がされた。
イ a社は,平成26年6月,東京証券取引所に対し,改善状況報告書(以下「改善状況報告書」といい,改善報告書と併せて,「本件改善等報告書」と総称する。)を提出した。
改善状況報告書では,a社において,設備投資を行う際,投資効果や法律・環境面の議論が十分にされないまま意思決定をしていた状況があるという前提の下,そのような状況を改善するために実施された職務権限規程及び稟議既定の見直しを行った旨の報告がされた。
(8)  a社に対しては,平成26年1月16日,土地の過大計上や広告宣伝費の過小計上等,有価証券報告書に虚偽の記載があったことを理由に,課徴金2250万円が課された。
(9)  原告がa社の株式を喪失するに至る経緯
原告は,平成25年11月22日,a社の代表取締役を辞任し,Iが代表取締役に就任した。その後,平成26年6月のa社の株主総会において,原告らは,会社側提案には賛成せず,株主権を行使し,J,K,Lら6名を取締役に選任する旨の動議を提出し,これが可決された。そして,Jが新たに代表取締役に選任された。
平成27年2月23日,取引銀行らは,r社と事前に意を通じた上,原告の保有するa社の株式に設定されていた質権を実行し,その株式をr社に売却することにより,原告のa社に対する株主たる地位を喪失させた。
2  争点1について
(1)  判断の枠組み
ある表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断すべきである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。また,名誉毀損の成否が問題となっている表現が,意見ないし論評の表明に当たるかのような語を用いている場合にも,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に、前後の文脈や記事の公表当時に読者が有していた知識ないし経験等を考慮すると,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は,上記特定の事項についての事実の摘示を含むものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。
これを本件各記載についてみると,以下のとおり,認めることができる。
(2)  本件記載1について
本件記載1は,原告が,被告の反対を押し切り,コンサルタントと契約したという事実(以下「本件摘示事実1」という。)を摘示するとともに,コンサルタントと契約をしたことは,当時のa社の経営状態に照らせば不適切であり,報酬も不当に高額であったとの論評(以下「本件論評1」という。)を表明するものであると認められる。
(3)  本件記載2について
本件記載2は,原告が十分な検討をせずにカット野菜事業や納豆事業に設備投資を行い,多額の損失を出したという事実(以下「本件摘示事実2」という。)を摘示するとともに,a社の経営状態が悪化しているのは,原告が十分な検討をせずに投資を繰り返しているためであるとの意見ないし論評(以下「本件論評2」という。)を表明するものであると認められる。
(4)  本件記載3について
本件記載3は,原告が何らの検討をせずに多額の広告宣伝費を支出したという事実(以下「本件摘示事実3」という。)を摘示するとともに,広告宣伝費の支出は失敗に終わったとの意見ないし論評(以下「本件論評3-1」という。)及び原告の経営手法は博打経営と評すべきものであるとの意見ないし論評(以下「本件論評3-2」という。)を表明するものであると認められる。
(5)  本件記載4について
本件記載4は,原告及び他の取締役が十分な検討をせずにカット野菜事業を開始したため,a社に多額の損失が生じたものであるところ,原告がカット野菜事業の赤字について楽観視しているという事実(以下「本件摘示事実4」という)を摘示するとともに,原告の,会社の利益よりも自らの思いどおりになるかどうかを重視している原告の姿勢がa社に内部統制のない状態をもたらしているという意見ないし論評(以下「本件論評4」という。)を表明するものであると認められる。
(6)  本件記載5について
本件記載5は,原告ら経営陣が十分な検討をせずに米国の土地を購入し,結果として現地住民から訴訟を提起されたという事実(以下「本件摘示事実5-1」という。),原告が不適切な会計処理を主導したという事実(以下「本件摘示事実5-2」という。)を摘示するものであると認められる。
(7)  本件記載6について
本件記載6は,原告ら経営陣が十分な検討をせずに,利用困難な本件○○町土地を購入し,その際の仲介手数料等でa社に損害を与えたという事実(以下「本件摘示事実6」という。)を摘示するものであると認められる。
(8)  本件記載7について
本件記載7は,原告が,当初から利用するようなこともできないような土地を取得した上,利用方法の検討もせずにa社に同土地を転売したという事実(以下「本件摘示事実7」という。)を摘示するものであると認められる。
(9)  本件記載8について
本件記載8は,原告の主導により固定資産の減損処理を回避するために監査法人に虚偽の報告をしているという事実(以下「本件摘示事実8」という。)を摘示するものであると認められる。
(10)  本件記載9について
本件記載9は,a社がきのこの生産メーカーでありながら,原告ら経営陣は,その生産設備についての検討が杜撰であり,収益の計算だけをしてリスクに十分な注意を払わなかったという事実(以下「本件摘示事実9-1」という。),原告が,ぶなしめじ小株化事業に対する融資を得るに当たり,銀行に対して虚偽の説明をした可能性があるという事実(以下「本件摘示事実9-2」という。)を摘示するものであると認められる。
(11)  本件記載10について
ア 本件記載10①は,原告が十分な検討をしなかった結果,a社の上海の子会社を独資としなかったという事実(以下「本件摘示事実10-1」という。)を摘示するとともに,上海の子会社を独資としなかったことはまともな経営判断ではないとの意見ないし論評(以下「本件論評10-1」という。)を表明するものであると認められる(なお,被告は,本件記載10①について,中国事業に対する投資や中国事業のオペレーションについて,a社として中国事業におけるノウハウを蓄積するというような投資によって得られるメリットを放棄し,漫然と投資を続けてきたことを摘示するものである旨を主張するが,一般通常人の読み方を基準とした場合,上海の子会社を独資としなかったとの記載の直後にまともな経営判断ではないとの論評が記載されていることからすると,まともではないとの論評の対象となっているのは上海の子会社を独資としなかった判断であると読むのが相当であるから,被告の上記主張は,採用することができない。)。
イ 本件記載10②は,原告が前管理本部長の責任を追及せず,改善策を提案した被告を非難し,その後更に損失を拡大させたAを非難しなかったという事実(以下「本件摘示事実10-2」という。)を摘示するとともに,原告が無能であるとの意見ないし論評(以下「本件論評10-2」という。)を表明するものであると認められる。
ウ 本件記載10③は,原告及びAが,不十分な検討の結果,中国において原告にとって不利な内容での合弁事業を漫然と継続したという事実(以下「本件摘示事実10-3」という。)を摘示するとともに,そのような状態を放置した原告は無能であるとの意見ないし論評(以下「本件論評10-3」という。)を表明するものであると認められる。
エ 本件記載10④は,a社の生産現場では,原告ら経営陣がq銀行によって排除されることを期待しているという事実(以下「本件摘示事実10-4」という。)を摘示するものであると認められる。
オ 本件記載10⑤は,原告の中国における事業における経営判断は著しく不合理なものであるという事実(以下「本件事実摘示10-5」という。)を摘示し,原告には経営能力がないとの意見ないし論評(以下「本件論評10-4」という。)を表明するものであると認められる。
カ 本件記載10⑥は,a社の会議では,原告が夢と精神論を語るばかりで,何の決定もされないまま時間だけが過ぎているという事実(以下「本件摘示事実10-6」という。)を摘示するものであると認められる。
(12)  本件記載11について
ア 本件記載11は,次の各事実を摘示するものであると認められる。
(ア) 原告が,a社内において,セクハラ,パワハラを容認したという事実(以下「本件摘示事実11-1」という。)
(イ) Bが自らの職掌であるはずの物流費を把握していなかったためにa社の物流費が高額となったという事実,Bが女性社員にセクハラをしたという事実及びBが原告の息子の機嫌をとっているだけの人物であるという事実(以下「本件摘示事実11-2」という。)
(ウ) 原告が部下及び取引先との面談をICレコーダーで録音し,証拠に使っているという事実(以下「本件摘示事実11-3」という。)
(エ) 原告が部下を尾行させ,写真を撮影した上で,脅迫罪などの刑法上の犯罪に該当する行為をしたという事実(以下「本件摘示事実11-4」という。)
(オ) a社が無農薬,有機栽培を目指しておらず,放射性物質に全く汚染されていないおがではなく,放射性物質の検出値が基準値内のおがを利用しているという事実及び原告がa社の顧客よりも自己の利益ばかりを優先しているという事実(以下「本件摘示事実11-5」という。)
イ また,本件記載11は,次の各意見ないし論評を表明するものであると認められる。
(ア) 本件摘示事実11-2を前提に,そのようなBを管理本部長にした原告が,無見識でどうにもならない人物であるとの論評(以下「本件論評11-1」という。)
(イ) 本件摘示事実11-3を前提に,そのような行為をする原告が,まともではないとの論評(以下「本件論評11-2」という。)
(ウ) 本件摘示事実11-4を前提に,原告がコンプライアンスを意に介さない人間のクズであるとの論評(以下「本件論評11-3」という。)
(13)  本件記載12について
ア 本件記載12は,次の各事実を摘示するものであると認められる。
(ア) 原告がその愛人をa社の取締役にしていたという事実(以下「本件摘示事実12-1」という。)
(イ) 原告が社内において,気に入った何人もの女性と肉体関係を持ったという事実(以下「本件摘示事実12-2」という。)
(ウ) 原告が愛人と利益相反取引を行っているという事実(以下「本件摘示事実12-3」という。)
(エ) 原告が愛人を8回も妊娠させて中絶させ,現在,その愛人から損害賠償請求訴訟を提起されているという事実(以下「本件摘示事実12-4」という。)
イ また,本件記載12は,本件摘示事実12-4を前提に,原告が上場会社であるa社のトップにふさわしくないとの意見ないし論評(以下「本件論評12」という。)を表明するものであると認められる。
(14)  本件記載13について
本件記載13は,原告の指示によってされたa社のd社に対する損害賠償金の支払に係る会計上の処理が,不適切であった可能性があるという事実(以下「本件摘示事実13」という。)を摘示するものであると認められる。
(15)  本件記載14について
ア 本件記載14①は,原告が強気の経営計画を開示しては,その後下方修正することを繰り返しており,a社が資本市場での信頼を失っているという事実(以下「本件摘示事実14-1」という。)を摘示するものであると認められる。
イ 本件記載14②は,原告が自己利益の実現のために株価に悪影響を与えないようにすることだけを考えているという事実(以下「本件摘示事実14-2」という。)を摘示するとともに,a社による経営計画の開示が開示制度の趣旨を没却するようなものであり,そのような経営計画の開示を主導する原告について,上場企業の代表取締役としてふさわしくないとの意見ないし論評(以下「本件論評14-1」という。)を表明するものであると認められる。
ウ 本件記載14③は,原告が,創業者一族に対する配当を事前放棄するという方法で他の株主に配当を行い,被告が配当の事前放棄は適法には行えないのではないかとの反対意見を述べた事実(以下「本件摘示事実14-3」という。)を摘示するとともに,それらの事実を前提に,原告は合理的な反対意見を排斥してでも自己利益を優先する人間であるとの意見ないし論評(以下「本件論評14-2」という。)を表明するものであると認められる。
エ 本件記載14④は,原告が,a社の元顧問であるDに対し,a社の業務とは無関係な原告個人に関わる業務を行わせており,そのほかにも,a社の業務や利益とは無関係な個人的な理由で継続している顧問契約があるという事実(以下「本件摘示事実14-4」という。)を摘示するものであると認められる。
オ 本件記載14⑤は,本件摘示事実14-1~本件摘示事実14-4を前提に,原告によるa社の経営が上場企業の水準に達しておらず,a社の経営を上場企業の水準に達せさせるためには原告が代表取締役から退任する必要があるとの意見ないし論評(以下「本件論評14-3」という。)を表明するものであると認められる。
(16)  本件記載15について
本件記載15は,原告が経営と所有の分離ができておらず,ワンマンな経営をし,場合によってはイリーガルな言動もしていたという事実(以下「本件摘示事実15」という。)を摘示するものであると認められる。
(17)  本件記載16について
本件記載16は,a社の朝会が原告の判断に取締役が従うだけの形式的な会議であるという事実(以下「本件摘示事実16-1」という。),取締役の欠格事由に該当する者を取締役に選任したために,a社の取締役会決議には重大な瑕疵があるという事実(以下「本件摘示事実16-2」という。)を摘示するとともに,原告がa社のガバナンスを機能させていないとの意見ないし論評(以下「本件論評16」という。)を摘示するものであると認められる。
(18)  本件記載17について
本件記載17は,原告がa社自体の負債だけではなく,原告の個人的な負債をも考慮して,a社の経営に当たっているという事実(以下「本件摘示事実17-1」という。),原告が,a社の経営状態が危険な水準にまで悪化している状況の下,自己の利益を実現できなければ会社諸共沈没させるなどと述べて,a社にとって有益な選択をすることを阻害したという事実(以下「本件摘示事実17-2」という。)を摘示するものであると認められる。
(19)  本件記載18について
ア 本件記載18①は,原告が会社経営をする上でリスクの検証やマーケティング戦略の検討など必要な検討を行っていないという事実(以下「本件摘示事実18-1」という。),原告が「経営とは金を借りることで,地元でこれだけの雇用を生んでいる会社を銀行はつれずはずがない」と豪語し,自己利益が実現できないのであれば会社諸共潰すと述べたという事実(以下「本件摘示事実18-2」という。)を摘示するものであると認められる。
また,本件記載18①は,これまで摘示されてきた各事実を前提として,原告について,経営能力が不十分であり,会社のトップに立つ者として当然備えていなければならないコンプライアンス意識がなく,人間としての倫理観もない人物であるとの論評ないし意見(以下「本件論評18」という。)を表明するものであると認められる。
イ 本件記載18②は,原告に対しては内部統制が及ばず,監査役が監査意見を述べることもできない状況であったために,Eが監査役を辞任するに至ったとの事実(以下「本件摘示事実18-3」という。)を摘示するものである。
(20)  小括
以上によれば,本件各記載に含まれる事実摘示及び意見論評は,本件文書を読む者に,全体として,原告が経営判断に必要な調査検討を怠り,また,自己利益を追求するあまり脅迫行為等の犯罪行為を行い,a社やその消費者の利益を犠牲にし,さらには,監査意見を封じ込めるなどしており,原告に善管注意義務・忠実義務違反があるかのような印象を与えるとともに,原告について,経営能力が十分ではなく,コンプライアンス意識及び倫理観のない人物であるとの印象を抱かせるものであり,原告の品位及び信用等の人格的価値についての社会的評価を低下させるものであるというべきである。
3  争点2について
(1)  本件文書送付行為の違法性の判断枠組みについて
被告は,本件文書が,マスメディア以外の者が主体となって行った表現行為であることを理由に,本件においては,表現に至る経緯,動機・目的,表現の内容,表現の態様・程度等を総合考慮して違法性の有無を決すべきである旨を主張する。
しかしながら,被告は,マスメディアではない私人であるものの,被告による本件文書の送付先には,マスメディアであるところの新聞社が含まれているものである。そうすると,被告において,本件文書を送付するに際し,マスメディアによって本件文書の内容が広く報道されることを期待していたものと考えるのが相当であり,また,送付を受けた新聞社においても,本件文書が当時a社の取締役であった被告から送付されたものであり,東京証券取引所二部上場企業であるa社の経営実態に問題があるなどという内容のものであることからすると,本件文書の内容について報道することも十分あり得ると考えられるところである。したがって,被告による本件文書の送付行為には,本件文書の内容が広くマスメディアによって報道される危険性が内包されていたものといえ,本件文書の送付行為によって原告の名誉が侵害される危険性は,マスメディアによる報道が行われる場合と大きく異なるものではないというべきである。
そこで,本件文書送付行為について,民事上の不法行為としての違法性の有無については,次のように判断するのが相当である。
すなわち,①事実を摘示しての名誉棄損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも,行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定され,不法行為は成立しないものというべきである(最高裁昭和37年(オ)815号同41年6月23日第1小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。また,②ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉棄損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分につき真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性がなく,仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも,行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定され,不法行為は成立しないものというべきである(最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決・民集41巻3号490頁,最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁,前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。
そして,本件各記載は,全体として本件文書を構成するものであり,相互に関連し,補完し合い,一部については重複するものであるから,本件文書送付行為の違法性については,本件各記載を全体として判断するのが相当である。
以下,かかる判断枠組みに従い,本件文書送付行為の違法性の有無について検討する。
(2)  本件文書送付行為が公共の利害に関する事実に係るものであるかどうかについて
被告が作成・送付した本件文書の記載内容は,当時上場会社であって多数の一般株主を有し,また,広く一般消費者の用に供せられる食料品の供給会社であるa社の事業運営上の問題点やコンプライアンス上の問題点を指摘するものであって,公共の利害に関する事実であることは明らかである。
したがって,本件文書送付行為は,公共の利害に関する事実に係るものであるというべきである。
(3)  本件文書送付行為の目的が公益を図ることにあったかどうかについて
公共の事実に関する事柄に関する表現行為については,特段の事情がない限り,目的の公益性が推認されると解するのが相当である。
そこで,本件において,かかる特段の事情の存否について判断するに,被告は,取締役たる地位を失うことが事実上確定した後に,本件文書を送付しており,原告に対する私的な報復がその主たる目的であるとみる余地もないではない。しかしながら,本件文書の主たる送付先は,監督官庁や東京証券取引所,取引銀行,新聞社など,公的機関又は公的性格の強い機関であり,本件文書の前文にはa社の経営改善のために本件文書を送付する旨が明記されていることに照らせば,取締役たる地位を失い,a社の内部から経営を改善する方策を失った被告が,a社の経営改善を実現するために本件文書を送付したものと認めることも十分に可能であるから,目的の公益性の推認を妨げる前記特段の事情が存するものと認めることができない。
したがって,被告が本件文書を送付した目的は,公益を図るためであると認めることができる。
原告は,被告が平成25年6月に本件文書を送付した時点において,a社の業績は既に黒字になっていたのであるから,被告が本件文書をa社の再生を目的として送付したとはいえない旨を主張するが,平成25年6月に直近の決算期は,同年3月期であるところ,同期におけるa社の経営状況は,14億2000万円の経常損失を計上するというものであったから,被告において同年6月の時点でa社の財務状況が改善しているとの認識を有していたとは考え難い。原告の上記主張は,採用することができない。
また,原告は,被告が取締役在任中に取締役会等で決議に反対の旨を示すなどしておらず,被告が真にa社の再生を考えていたとはいえない旨を主張するが,a社自身が社内調査報告書及び本件改善等報告書において,取締役らの原告に対する監視・監督機能が十分に発揮されていなかった旨を認めていることに照らせば,被告がa社の社内において反対意見を述べた上で,これを取締役会議の議事録等に残すことは,相当困難であったといえ,取締役会議事録に反対の旨が付記されていないことをもって被告が特に反対意見を述べることがなかったと認めることはできない。原告の上記主張は,採用することができない。
(4)  摘示事実の真実性又は摘示事実を真実と信ずることについての相当の理由の有無について
ア 経営判断に係る検討の不十分性及び取締役会の形骸化にかかる事実の摘示について
原告の経営判断に係る検討が不十分であることに係る事実及び取締役会が形骸化していたことに係る事実の摘示(本件摘示事実1,2,3,4,5-1,6,7,9-1,10-1,10-3,10-5,16-1,18-1)については,当該摘示事実の真実性又は摘示事実を真実と信ずることについての相当の理由の有無を一括して判断するに,前記認定事実によれば,社内調査報告書及び本件改善等報告書には,取締役が原告の意見に対して問題点を検討,協議することなく賛同し,あるいは,原告の意向に対して関係法令などを確認することなく計画を立案,実行させていることを見過ごしていた旨の報告がされ,また,改善状況報告書には,a社において,設備投資を行う際,投資効果や法律・環境面の議論が十分にされないまま意思決定をしていた状況があるという前提の下,そのような状況を改善するために職務権限規程及び稟議既定の見直しを行った旨の報告がされている。そして,社内調査報告書及び本件改善等報告書は,主として,不適正な会計処理が行われていたとの問題について焦点を当てたものではあるものの,本件改善報告書において,本件○○町土地に係る投資の意思決定における検討の不十分さにも言及されているなど,会計処理の適否を端緒として,経営判断の在り方にも踏み込んだ内容のものになっている。また,a社の取締役会は,経営に関する事項全般についての意思決定機関であるところ,会計処理に関する事項については,その機能が形骸化し,それ以外の経営上の検討事項についても,十分な機能を発揮していたとは考え難く,経営上の検討事項全般について,取締役会での十分な検討が行われる状況にはなかったものと認められる。そうすると,本件文書で言及されている納豆事業,カット野菜事業,米国における事業,中国における事業に係る設備投資や,広告宣伝費の投資等について,被告において,原告が十分な検討をしないままこれを行ったと信ずるにつき相当な理由があるものと認められる(なお,社内調査報告書については,証券取引等監視委員会において,a社に対し,あえて実態と異なる内容の報告書を作成させるべく圧力をかける具体的な理由を認めるに足りる証拠はなく,他に社内調査報告書の内容が実態と異なることを裏付けるに足りる的確な証拠もない。)。
イ 本件摘示事実5-2について
本件摘示事実5-2については,米国における事業に係る会計処理が不適切であったことについて,これを認めるに足りる的確な証拠はなく,原告が不適切な会計処理を主導したことを認めるに足りる証拠もない。したがって,本件摘示事実5-2は,その重要な部分について真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
ウ 本件摘示事実8について
本件摘示事実8については,前記認定事実によれば,a社が減損処理を回避するために監査法人に対して不適切な報告を行っていたことがうかがわれるものの,原告がこれを主導していたとは認められず,被告がそのように信ずることが相当であると認めるに足りる証拠もない。したがって,本件摘示事実8は,その重要な部分について真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当な理由があると認めることもできない。
エ 本件摘示事実9-2について
本件摘示事実9-2については,原告が,ぶなしめじ小株化事業に対する融資を得るにあたり,銀行に対して虚偽の説明をした可能性があることについて,これを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,本件摘示事実9-2は,その重要な部分について真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
オ 本件摘示事実10-2,10-4,10-6について
本件摘示事実10-2,4,6については,これを真実であると認めるに足りる的確な証拠はない。これらの事実が真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
カ 本件摘示事実11-1~11-5について
本件摘示事実11-1~11-5については,被告の陳述書(乙18)には,これが真実であることをうかがわせる記載があるものの,上記記載と相反する趣旨の原告の本人尋問における供述及び陳述書(甲19)の記載に照らせば,被告の陳述書中の上記記載は,直ちに信用することができず,他に本件摘示事実11-1~11-5が真実であることを認めるに足りる的確な証拠はない。本件摘示事実11-1~11-5が真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
キ 本件摘示事実12-1~12-4について
(ア) 本件摘示事実12-1~12-3については,被告の陳述書(乙18)には,これが真実である旨の記載があるものの,いずれも具体的な根拠を伴うものでなく,被告の陳述書中の上記記載をもって,本件摘示事実12-1~12-3が真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
(イ) 本件摘示事実12-4については,原告本人尋問の結果によれば,原告がCから調停の申立て及び訴訟の提起をされたこと,その訴状又は調停申立書には,本件摘示事実12-4に係る記載があったことが認められるものの,訴状又は調停申立書は,一方当事者の言い分を記載した書面にすぎないのであるから,そこに記載された事実については,直ちにそれを真実であると認め得るものではなく,他に本件摘示事実12-4が真実であると認めるに足りる証拠はない。本件摘示事実12-4が真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
ク 本件摘示事実13について
前記認定事実によれば,本件社外調査の結果として,4924万4809円の損害賠償の基礎となった契約関係を含む,a社とd社の間の取引関係全般については,その正当性を判断することが困難であり,更に事実関係を調査することが望ましいとされたものであることが認められる。そうすると,本件摘示事実13については,被告において,d社との取引に関して4924万4809円の特別損失を計上したことが会計上不適切であった可能性があると信じることについては,相当の理由があると認められる。
しかし,かかる処理が原告の指示によってされたものであることを認めるに足りる的確な証拠はなく,不適切であった可能性のある会計処理が被告によってされたものであることについては,それが真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
ケ 本件摘示事実14-1~14-4について
(ア) 本件摘示事実14-1については,前記認定事実によれば,a社は,平成21年度以降,被告が本件文書を送付した平成25年6月までの間,業績の下方修正を行なった年度がないことが認められ,原告が積極的な業績予想を開示してはこれを下方修正することを繰り返していたことがうかがわれる。そうすると,被告において,a社が強気の経営計画を開示してはこれを下方修正することを繰り返しており,また,これが原因となってa社が資本市場からの信用を喪失していると信ずることについては,相当の理由があるものと認められる。
(イ) 本件摘示事実14-2については,被告の陳述書(乙18)には,これが真実であることをうかがわせる記載があり,原告も,その本人尋問において,株価維持を一つの目的として自己株式の取得を行ったことを認める旨の供述をする。しかし,原告が株価の維持のみを目的にa社を運営していた事実を認めるに足りる証拠はなく,本件摘示事実14-2が真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があったと認めることもできない。
(ウ) 本件摘示事実14-3については,前記認定事実によれば,原告が自らを含む創業者一族に対する配当を放棄し,平成24年3月期の配当を実施したこと,被告が弁護士の意見を徴した上で配当の事前放棄という手法に反対したことが認められ,本件摘示事実14-3は,真実であるものと認められる。
(エ) 本件摘示事実14-4については,被告の陳述書(乙18)には,これが真実であることをうかがわせる記載があるが,かかる記載を裏付けるに足りる的確な証拠はなく,被告の陳述書の上記記載は直ちに信用することができず,他に本件摘示事実14-4が真実であると認めるに足りる証拠もない。本件摘示事実14-4が真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
コ 本件摘示事実15について
本件摘示事実15については,イリーガルな言動をしていたという部分も重要な部分であると認められるところ,原告がイリーガルな言動をしていたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,本件摘示事実15は,その重要な部分について真実であると認めることはできず,被告がそれが信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
サ 本件摘示事実16-2について
本件摘示事実16-2については,a社の取締役会において,取締役欠格事由に該当する者を取締役に推薦することが決定されたという事実を認めるに足りる的確な証拠はなく,本件摘示事実16-2が真実であることを認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
シ 本件摘示事実17-1及び17-2について
本件摘示事実17-1及び17-2については,被告の陳述書(乙18)には,これが真実であることをうかがわせる記載があるが,かかる記載を裏付けるに足りる的確な証拠はなく,被告の陳述書の上記記載は直ちに信用することができず,他に本件摘示事実17-1及び17-2が真実であると認めるに足りる証拠もない。本件摘示事実17-1及び17-2が真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
ス 本件摘示事実18-2及び18-3について
(ア) 本件摘示事実18-2については,原告が自己利益を実現できないのであれば会社諸共潰すとの発言をした事実を認めるに足りる的確な証拠はなく,本件摘示事実18-2が真実であると認めることはできず,被告がこれを真実であると信ずることについて相当の理由があると認めることもできない。
(イ) 本件摘示事実18-3については,前記認定事実によれば,監査役会による意見具申がa社社内で取り上げられることはなく,Eは監査役を辞任するに至ったものと認められ,被告が本件摘示事実18-3を真実であると信ずることについて相当の理由があるものと認められる。
(5)  論評のうち,論評の前提となる事実につき真実であるか,又は被告がその事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるものと認められるものについて
ア これまで検討したところによれば,前提となっている事実が真実であり,又は,被告がその事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるものと認められる論評は,本件論評1,2,3-1,3-2,4,10-1,10-3,10-4,14-2であると認められるところ,以下,各論評について,公正な論評の範囲を逸脱しないものであるかどうかについて検討する。
イ 本件論評1,2,3-1,3-2,4,10-1,10-3,10-4については,これらは,いずれも,原告の経営手法あるいは経営判断について批判するものであり,無謀である,暴挙である,まともでない,無能である等といった,やや穏当を欠く表現が用いられているものの,東京証券取引所二部の上場企業であり,多数の株主を有し,また,広く一般国民の用に供せられる食料品を供給する会社の代表取締役であった原告の経営手法,経営判断について激しい反対意見を表明するものであり,原告本人に対する人身攻撃に及ぶようなものではないと認められる。
また,本件論評14-2は,原告が違法のおそれのある配当を強行したとの事実を前提に,反対意見を無視してでも自己利益を優先する人物であるとの論評を加えるものであるが,これも,a社の経営に係る事項についての論評であり,原告の人身攻撃に及ぶものではないと認められる。
ウ したがって,本件論評1,2,3-1,3-2,4,10-1,10-3,10-4,14-2については,いずれも公正な論評の範囲を逸脱するものではないというべきである。
(6)  小括
以上検討してきたところによれば,本件記載のうち,経営判断の不十分さを指摘し,会議体が形骸化していたなど内部統制が十分に機能していなかったことを指摘する部分については,摘示した事実がその重要な部分について真実であり,又は,被告がこれを真実であると信ずることにつき相当の理由が認められ,論評にわたる部分については,公正な論評と認めることができる。
しかしながら,それ以外の,原告が会社や顧客の利益を犠牲にして自己の利益を図っているという部分,原告の女性問題に係る部分,社内におけるパワハラやセクハラに係る部分,原告がストーカー行為や無断録音を行い,又は,これを行わせているという部分等については,摘示した事実がその重要な部分について真実性又は真実であると信ずることについての相当の理由の存在を認めることができない。そして,これらの部分も本件文書の一部を成すものであり,これらの部分について真実性又は相当性を認めることができない以上,本件文書送付行為については,違法性を欠くものとはいえず,不法行為が成立するものというべきである。
4  争点3について
(1)  慰謝料額について
前判示のとおり,本件文書送付行為については,不法行為が成立し,被告は,原告に生じた損害を賠償すべき義務を負うものであるところ,これまでに認定・判断したところによれば,原告は,本件文書送付行為により,精神的損害を被ったものと認められる。
そこで,原告の慰謝料額について検討するに,被告が本件文書を送付した先には,o社やp社など報道機関も含まれており,本件文書送付行為には,広く社会一般にその内容が伝播する高い危険性が内在していたものであるといえる。
他方,本件文書の紙面の多くは,原告の経営に関する検討が不十分であった旨の指摘に割かれており,その部分については,被告においてそのように信ずることについて相当な理由が認められること,本件各記載における論評のうち,前提となる事実について真実性又は真実と信ずることについての相当の理由が認められるものについては,人身攻撃にわたらない正当な論評と認められること,本件文書が文書中に記載のある送付先以外の送付先に送付されたとは認められないこと,内部統制が少なくとも一部機能不全に陥っていたa社において,被告が社外に対する告発という手段に訴えたことは,あながち不合理なものとして責められない部分もあることなどの事情を指摘することができる。
このような本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,本件文書送付行為によって受けた精神的損害に係る慰謝料の額は,150万円であると認めるのが相当である。
(2)  財産的損害について
原告は,本件文書送付行為によって,保有していたa社の株式を喪失するに至ったため,20億3594万8869円の損害を受けたと主張する。
しかしながら,前記認定事実によれば,そもそも取引銀行らは,債務の不履行を理由に質権を実行したものであり,その点を措くとしても,原告が株式を喪失するに至ったのは,原告が平成26年6月末の株主総会において,a社の経営権を取り戻すべく,株主提案としてa社の提案とは異なる取締役候補案を提出し,かかる株主提案を議決したのに対して,取引銀行らが原告の保有する株式に設定されていた質権を実行したためであると認められるから,被告による本件文書送付行為と原告が株式を喪失したことの間に相当因果関係を認めることはできないというべきである。原告の上記主張は,採用することができない。
(3)  したがって,本件文書送付行為によって原告が受けた損害額は,150万円にとどまるものというべきである。
5  結論
よって,原告の請求は,損害賠償金150万円及びこれに対する平成25年6月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の部分は理由がないから,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第32部
(裁判長裁判官 中吉徹郎 裁判官 長谷川翔大 裁判官日浅さやかは,転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 中吉徹郎)

 

〈以下省略〉

 

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