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「営業 スタッフ」に関する裁判例(15)平成21年12月 9日 知財高裁 平21(ネ)10016号 特許確認等請求控訴事件 〔血糖値上昇抑制乃至下降用組成物事件・控訴審〕

「営業 スタッフ」に関する裁判例(15)平成21年12月 9日 知財高裁 平21(ネ)10016号 特許確認等請求控訴事件 〔血糖値上昇抑制乃至下降用組成物事件・控訴審〕

裁判年月日  平成21年12月 9日  裁判所名  知財高裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ネ)10016号
事件名  特許確認等請求控訴事件 〔血糖値上昇抑制乃至下降用組成物事件・控訴審〕
裁判結果  一部取消  文献番号  2009WLJPCA12099002

要旨
◆被控訴人(一審原告)が控訴人(一審被告)会社に対し、商品の売掛金及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、被控訴人が控訴人らに対し、控訴人Aが有する米国での特許権が有効であり権利行使可能であることを前提として、被控訴人は控訴人会社との間で独占販売契約を締結したにもかかわらず、その特許権は、控訴人Aが特許明細書に虚偽の臨床試験データを記載するなどして無効又は権利行使不可能となったため、損害を被った等と主張して、損害賠償金等(主位的請求)又は不当利得金等(予備的請求)の支払いを求め(第1事件本訴)、控訴人会社が被控訴人に対し、被控訴人が独占販売契約上の最低引取保証義務に違反したことが債務不履行に該当するなどと主張して、損害賠償金等を求め(第1事件反訴)、被控訴人が控訴人会社に対し、被控訴人が控訴人会社の口座に誤って振り込んだ金員につき、不当利得金及びこれに対する利息の支払いを求めた(第2事件)ところ、原判決が被控訴人の請求の一部を認容し、被控訴人のその余の請求及び控訴人の請求を棄却したことから、これに不服の控訴人が控訴した事案において、第1事件の主位的請求(詐欺行為による損害賠償請求)の一部を認容した原判決は正当ではないから、これを取り消し、この点の被控訴人の請求を棄却し、第1事件の予備的請求(錯誤等による不当利得返還請求)は、理由がないから、棄却することとし、第2事件の過誤払金返還請求の一部を認容、一部を棄却した原判決は、不利益変更禁止の原則に従い、これを維持し、第1事件反訴の控訴人会社の反訴請求は理由がないとして棄却した原判決は正当であるとした事例

裁判経過
第一審 平成21年 1月21日 東京地裁 判決 平18(ワ)14587号・平18(ワ)23109号・平19(ワ)14939号 特許確認等請求、反訴請求、不当利得返還請求事件 〔バナバ茶事件〕

出典
裁判所ウェブサイト

評釈
知的財産研究センター研修チーム・知的財産権判決速報 417号5頁
青山紘一・特許ニュース 12692号15頁(IP研究会 監修:青山紘一)

参照条文
民法505条
民法703条
民法704条
民法709条
会社法350条

裁判年月日  平成21年12月 9日  裁判所名  知財高裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ネ)10016号
事件名  特許確認等請求控訴事件 〔血糖値上昇抑制乃至下降用組成物事件・控訴審〕
裁判結果  一部取消  文献番号  2009WLJPCA12099002

控訴人 株式会社ユース・テクノコーポレーション
控訴人 A
上記2名訴訟代理人弁護士 富田純司
同 木暮信吉
被控訴人 研光通商株式会社
同訴訟代理人弁護士 外山興三
同 大久保宏昭
同 原田芳衣

 

主文

1  原判決のうち,主文第1項(2)の「損害賠償請求等」の主位的請求(詐欺行為による損害賠償請求)の「被告ら(控訴人ら)は,原告(被控訴人)に対し,連帯して,3187万5000円及びこれに対する平成20年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」とある部分を取り消し,同取消しに係る部分の被控訴人の請求を棄却し,さらに,予備的請求(錯誤等による不当利得返還請求)を棄却する。
2  原判決のその余の部分の取消しを求める控訴を棄却する。
3  訴訟費用は,第1,2審を通じて,訴訟費用のうち原判決の主文第1項(1)及び第2項(1)について生じた訴えの提起及び控訴の提起の手数料は控訴人株式会社ユース・テクノコーポレーションの負担とし,その余の訴訟費用は,すべて各自の負担とする。

事実及び理由

本判決においては,控訴人株式会社ユース・テクノコーポレーションを「控訴人会社」,控訴人Aを「控訴人A」といい,訴外人の呼称については,特に断らない限り,自然人の場合,初出のときは氏名を表記し,再出以降のときは名を省略し,会社の場合,初出のときは株式会社を入れて表記し,再出以降のときは株式会社を省略する。
第1  当事者の求める裁判等(訴訟費用等に関する部分は省略)
1  当事者双方の原審における請求
当事者双方とも,原審において,その求めた請求は,訴えの取下げ,請求や請求原因事実,金額等がかなり変遷しているが,最終的に求めた請求は,次のとおりである(括弧内は当裁判所の説示)。
(1)  第1事件本訴(被控訴人の控訴人らに対する本訴請求)
ア 売掛金請求
控訴人会社は,被控訴人に対し,840万円及びこれに対する平成18年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(この請求については,その発生について争いがなく,これに対する控訴人会社の主張する相殺の抗弁が認められるか否かが,原審及び当審の争点となっている。)
イ 損害賠償請求等
(ア) 主位的請求(詐欺行為による損害賠償請求)
控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して,4187万5000円及びこれに対する平成20年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(この請求については,売買代金として被控訴人から控訴人会社に対し2887万5000円が支払われたことに争いがなく,被控訴人は,これを控訴人らの不法行為(詐欺)によって生じた損害であると主張し,これに弁護士費用相当額1300万円を加えた金額が,上記4187万5000円である。)
(イ) 予備的請求(錯誤等による不当利得返還請求)
控訴人会社は,被控訴人に対し,2887万5000円及びこれに対する平成20年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(この請求は,上記4187万5000円から弁護士費用相当額1300万円を除いたものである。)
(2)  第1事件反訴(控訴人会社の被控訴人に対する反訴請求)
ア 不当提訴による損害賠償請求(訴え変更後の請求)
被控訴人は,控訴人会社に対し,418万円及びこれに対する平成20年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 本件独占販売契約上の引取保証義務違反等による請求
(ア) 主位的請求(独占販売契約の引取保証義務違反による損害賠償請求)
被控訴人は,控訴人会社に対し,5億7544万1372円及びこれに対する平成20年4月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(イ) 予備的請求(被控訴人が控訴人会社不経由で取引したこと等の損害賠償請求)
被控訴人は,控訴人会社に対し,7817万9200円及びこれに対する平成20年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)  第2事件(被控訴人の控訴人会社に対する過誤払金返還請求)
控訴人会社は,被控訴人に対し,279万5832円及びこれに対する平成19年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(この請求については,被控訴人が,全く別な訴外会社(控訴人会社と類似商号)の銀行口座に振り込むべきものを誤って,控訴人会社の銀行口座に279万5832円を振り込んだことに争いがなく,控訴人会社が主張する相殺の抗弁が認められるか否かが,原審及び当審の争点となっている。)
2  原判決の主文
(1)  第1事件本訴
ア 売掛金請求
控訴人会社は,被控訴人に対し,840万円及びこれに対する平成18年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(原判決は,控訴人会社が主張する相殺の抗弁をすべて排斥し,この請求を全額認容した。)
イ 損害賠償請求
控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して,3187万5000円及びこれに対する平成20年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(原判決は,控訴人らの詐欺による不法行為の成立を肯認し,売買代金として被控訴人から控訴人会社に対して支払われた全額を損害として認定し,2887万5000円の損害と弁護士費用相当額300万円を合計した3187万5000円について,請求を認容した。)
ウ 被控訴人のその余の第1事件本訴請求を棄却する。
(2)  第1事件反訴
控訴人会社の反訴請求をいずれも棄却する。
(3)  第2事件
ア 控訴人会社は,被控訴人に対し,249万3161円及びこれに対する平成19年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 被控訴人のその余の第2事件の請求を棄却する。
(原判決は,控訴人会社が主張する相殺の抗弁の一部(金額で30万円)を採用し,残金部分に係る請求を認容した。)
3  当審における控訴人らの控訴の趣旨
(1)  原判決をいずれも取り消す。
(2)  被控訴人の第1事件本訴及び第2事件の請求をいずれも棄却する。
(3)ア  主位的請求
被控訴人は,控訴人会社に対し,1億7817万9200円及びこれに対する平成20年4月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(この1億7817万9200円は,引取保証義務違反等に基づく上記主位的請求のうち1億円と,被控訴人が控訴人会社不経由で取引したことなどを理由とする上記予備的請求の7817万9200円とを合算した金額である。)
イ  予備的請求(不当提訴による損害賠償請求)
被控訴人は,控訴人らに対し,418万円及びこれに対する平成20年4月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
第1事件本訴のうち,
①売掛金請求は,被控訴人が控訴人会社に対し,商品の売掛金及び遅延損害金の支払いを求めたものであり,
②損害賠償請求等のうち主位的請求は,被控訴人が控訴人らに対し,控訴人Aが有する米国での特許権が有効であり権利行使可能であることを前提として,被控訴人は控訴人会社との間で独占販売契約を締結したにもかかわらず,その特許権は,控訴人Aが特許明細書に虚偽の臨床試験データを記載するなどして無効又は権利行使不可能となったため,損害を被ったと主張して,詐欺による不法行為に基づき,控訴人会社から購入した商品の既払代金及び弁護士費用の損害賠償金並びに遅延損害金の連帯支払いを求めたものであり,
③損害賠償請求等のうち予備的請求は,被控訴人が控訴人会社に対し,独占販売契約は,詐欺取消し又は錯誤により無効であるとして,商品の購入代金につき不当利得金及び利息の支払いを求めたものである。
また,第1事件反訴の主位的請求(控訴審段階のもの)は,控訴人会社が被控訴人に対し,
①被控訴人が独占販売契約上の最低引取保証義務に違反したことが債務不履行に該当すると主張して,損害賠償金及び遅延損害金の支払いを,
②被控訴人が控訴人会社を経由せずに商品の取引を行ったことが,平成11年に当事者間で作成された覚書又は独占販売契約違反の債務不履行あるいは不法行為に該当すると主張して,損害賠償金及び遅延損害金の支払いを,それぞれ求めたものであり,
第1事件反訴の予備的請求(控訴審段階のもの)は,
控訴人会社が被控訴人に対し,被控訴人による第1事件本訴提起(ただし,訴え変更後の,詐欺による不法行為,錯誤又は詐欺取消しによる不当利得に関する部分)が不当であり,不法行為を構成するとして,応訴のための弁護士費用の損害賠償金及び遅延損害金の支払いを求めたものである。
第2事件は,被控訴人が控訴人会社に対し,被控訴人が控訴人会社の口座に誤って振り込んだ金員につき,不当利得金及びこれに対する利息の支払いを求めたものである。
なお,控訴人会社は,以下の各債権につき,その記載の順序による相殺を主張している。
(1)  第1事件本訴のうち売掛金請求に対し,独占販売契約上の最低引取保証義務違反の債務不履行に基づく損害賠償金の一部を自動債権とする相殺の主張
(2)  第2事件の請求に対し,
①平成17年6月20日付けの投資家への文書送付行為による不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金,
②平成18年11月の株主への文書送付行為による不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金,
③臨時株主総会招集請求行為による不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金,
④不当提訴(訴え変更前の第1事件本訴請求のうち,逸失利益の損害賠償を求める部分)の不法行為に基づく損害賠償金を,それぞれ自動債権とする相殺の主張(ただし,④は予備的抗弁としての主張である。)
1  前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか(この場合にも参考として証拠を掲げたものもある。),又は関係証拠(当該箇所に掲記)及び弁論の全趣旨により認められる事実である。
(1) 当事者
ア 被控訴人は,化学工業薬品の輸出入,医薬原料,健康食品の輸出入,医薬品及び動物医薬品の一般販売等を業とする株式会社である。
イ Bは,被控訴人の代表取締役である。
ウ 控訴人会社は,バナバ抽出エキス,バナバ茶,バナバ葉,バナバ錠剤などバナバに関する商品全般及びグァバ葉等の機能性食品の製造販売及び研究開発を業とする株式会社である。
エ 控訴人Aは,控訴人会社の代表取締役である。
オ 株式会社常磐植物化学研究所(以下「常磐化学」という。)は,医薬品をはじめ化粧品,健康食品,食品添加物等に利用するための植物成分の抽出,精製,分析評価をすることを業とする株式会社である。
(2) 控訴人会社による日本国での特許出願
ア 出願
控訴人会社及び三井物産株式会社は,共同出願人となって,次のとおり,名称を「血糖値上昇抑制乃至下降用組成物」とする発明(以下,後出の米国出願の場合を含め,「本件発明」という。)について,特許出願をした(以下,この特許を「日本特許出願」,後出の米国特許出願と併せ「本件特許出願」ともいう。その明細書(甲1)の記載内容は,別紙1のとおりである。)。
出願番号 特願平10-349667号
出願日 平成10年12月9日
発明者 控訴人A
「【請求項1】 乾燥したバナバ葉の熱水抽出物もしくはアルコール抽出物の濃縮物を主成分とし,該濃縮物100mg当たりコロソリン酸含有量が0.1~15mgである,血糖値上昇抑制乃至下降用組成物。
【請求項2】 経口投与錠剤の形態を有する請求項1記載の血糖値上昇抑制乃至下降用組成物。」
イ 特許拒絶査定
(ア) 拒絶理由通知
審査官は,控訴人会社及び三井物産に対して,平成18年8月11日(起案日)付けの拒絶理由通知書(乙28)により,日本特許出願の請求項1及び2の発明は,次のとおり進歩性欠如の無効理由がある旨の拒絶理由を通知した。
「下記刊行物1(特開平5-310587号公報)に記載されているように,バナバ葉の抽出物が,血糖値上昇抑制乃至下降作用を有することは本出願前周知技術であり,かつ,その有効成分がコロソリン酸であることも,下記刊行物2(Murakami, Chikage et al, Screening of plant constituents for effect on glucose transport activity on Ehrlich ascites tumor cells, Chemical & Pharmaceutical Bulletin, 1993 年, Vol.41, No.12, pp.2129-2131),3(YAMASAKI K. et al, EFFECT ON SOME SAPONINS ON GLUCOSE TRANSPORT SYSTEM, ADV EXP MED BIOL , 1996 年, No.404, pp.195-206)に記載されている。よって,バナバ葉の抽出物の濃縮物中に有効成分であるコロソリン酸がなるべく高くなるようにすること及びその際の含有量を請求項1記載の所定の量とすることは,当業者であれば必要に応じ適宜為し得る程度のことである。したがって,請求項1,2記載の発明は,下記刊行物1~3記載の技術に基づいて,当業者であれば容易に為し得たものと認める。」
(イ) 拒絶査定
控訴人会社及び三井物産は,平成18年10月16日,請求項1を「乾燥したバナバ葉をエタノールまたはエタノール水溶液で抽出して得られる抽出物の濃縮物を主成分とし,該濃縮物100mg当たりコロソリン酸含有量が0.1~15mgである,血糖値上昇抑制乃至下降用組成物。」と,請求項2を「乾燥したバナバ葉をメタノールまたはメタノール水溶液で抽出して得られる抽出物の濃縮物を主成分とし,該濃縮物100mg当たりコロソリン酸含有量が0.1~15mgである,血糖値上昇抑制乃至下降用組成物。」と,請求項3を「経口投与錠剤の形態を有する請求項1または2記載の血糖値上昇抑制乃至下降用組成物。」と補正し,手続補正書(乙34の2)と意見書(乙34の1)を提出した。
審査官は,同年11月10日,次のとおり拒絶査定(乙35)をした。
「この出願については,平成18年8月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書並びに手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」
「備考 引用文献2には,バナバからメタノール抽出でコロソリン酸を得ることが記載されているので,請求項1,2に記載されたバナバ葉をエタノールあるいはメタノールで抽出し,所定量のコロソリン酸を含有する濃縮物を得ることは,当業者であれば容易に為し得ることである。」
(ウ) 拒絶査定の確定
控訴人会社及び三井物産は,拒絶査定を検討したが,「エタノールとメタノールはいずれも低級アルコールとして多用されており,抽出溶媒としては略同等の機能を有するため,抽出溶媒の限定による進歩性の主張は困難と考え」(乙36),審判請求をせず,上記拒絶査定は同年12月14日に確定した。
(3) 控訴人Aが米国で有していた特許
ア 控訴人Aは,米国において,次の特許(以下「米国特許1」という。その明細書(甲8の1)の記載内容は,別紙2のとおりである。)を出願し,査定を受けた。
特許番号 US6,485,760号
発明の名称 オオバナサルスベリを用いて血糖値の上昇を阻害するもしくは血糖値を下げる方法(判決注:オオバナサルスベリとはバナバのことである。)
出願日 平成11年11月10日
優先日 平成10年12月9日(前記の日本特許出願に基づく)
登録日 平成14年11月26日
発明者 控訴人A
請求項1 「血糖値の上昇が問題となっている患者における血糖値の上昇を抑制する組成で,患者に対し経口投与によりオオバナサルスベリの熱水抽出物若しくは含水エタノール抽出物を含有する成分で,さらにコロソリン酸含有の濃度が100mg中0.1~15mgで,さらに1日当たり,体重1kg当たり50mg~1000mgの上記抽出物を投与し,血糖値上昇を抑制する効果を得られるもの。」
請求項2ないし請求項17は省略。
イ 控訴人Aは,米国において,次の特許(以下「米国特許2」という。その明細書(甲8の2)の記載内容は,別紙3のとおりである。米国特許1,2をまとめて「米国特許」ともいう。)を出願し,査定を受けた。
特許番号 US6,716,459号
発明の名称 血糖値上昇抑制乃至下降用組成物
出願日 平成14年8月20日(米国特許1の分割出願)
優先日 平成10年12月9日(日本特許出願に基づく)
登録日 平成16年4月6日
発明者 控訴人A
請求項1 「1 A composition for inhibiting an increase in, or lowering, a blood sugar level, in a human patient in need thereof, consisting essentially of:
a concentrate of ethanol or ethanol aqueous solution extract of leaves of Lagerstroemia Speciosa, Linn. or Pers, having a corosolic acid content of 0.01 to 15 mg per 100 mg of the concentrate.」
(訳文:血糖値の上昇が問題となっている患者における血糖値の上昇を抑制するもしくは血糖値を低下させる組成で,オオバナサルスベリのエタノールもしくは含水エタノール抽出物を含有する成分で,さらにコロソリン酸含有の濃度が100mg中0.1~15mgであるもの。)
請求項2 「2 The composition according to claim 1, wherein said ethanol solution contains 50 to 80 by weight of ethanol.」
(訳文:請求項1に記載された方法で含水エタノールのエタノール組成が50~80%であるもの。)
ウ 米国特許2の明細書(甲8の2)には,以下の記載がある(以下,訳文のみ)。
(ア) 発明の詳細な説明
従来の技術(原文の2欄1行~4行,9行~25行)
「また,バナバ葉の抽出物中如何なる成分がヒトの抗糖尿病治療に活性を有しているかについて具体的に臨床試験で確認された知見は存在しない。…
そこで本発明者は,バナバ葉の抽出物中の成分とヒトの血糖値の上昇あるいは抑制との関係を臨床実験に基づいて調べた。空腹時の血糖値が約110mg/dlよりやや高い軽症糖尿病患者であって,インシュリン非依存型の患者に対して,バナバ葉の抽出濃縮物であって,コロソリン酸をある特定割合含有する組成物を投与すると,血糖値の上昇が抑制され,かつ,平均的に低下が確認された。
また,本発明者の研究によれば,前記コロソリン酸を一定割合含有する組成物は,乾燥したバナバ葉を一定条件下で抽出,濃縮及び乾燥することにより得られることが判明した。」
(イ) 実施例
実施例1
①  乾燥バナバ葉からの濃縮物の調製(原文の5欄35行~54行)
「フィリピン産の乾燥バナバ葉1kgを切断し,80重量%エタノール水溶液5リットル中に入れ加熱還流下(約85℃)にて1.5時間抽出操作を行った。抽出後バナバ葉を濾別し,再び80重量%エタノール水溶液中に入れ,加熱還流下(約85℃)にて1.5時間抽出操作を行いバナバ葉を濾別した。1回目および2回目の抽出液を合わせて500gの活性炭を加えて脱色処理を行った。活性炭を除去した後,60℃減圧下にエタノールおよび水を除去して濃縮物を得た。次いで,60℃にてさらに減圧下に保持して乾燥固形物を得た。この固形物を粉砕して粉末濃縮物150gを得た。」
②  コロソリン酸の分析(原文の5欄55行~62行)
「前記①で得られた粉末状の濃縮物1gをメタノール10mlに溶解し,高性能液体クロマトグラフ(HPLC)にて分析したところ,コロソリン酸が前記濃縮物当たり30mg(濃縮物100mg当たり3mgに相当)含有されていた。」
③  錠剤の調製(原文の5欄64行~最終行)
「前記①で得られた粉末状の濃縮物を用いて下記組成の臨床試験用の錠剤を作った。
組成         重量%
粉末状濃縮物     50
食物繊維       20
しょ糖脂肪酸エステル  3
乳糖         22
硬化油         5 」
「前記組成を均一に混合して打錠機にて1錠が250mgの錠剤(以下”A錠”という。)を調製した。一方,前記組成において粉末状の濃縮物を含有しない腑形剤のみでA錠とは識別困難な錠剤(以下”B錠”という。)も調製した。」(原文の6欄14行~21行)
④  臨床試験(原文の6欄22行~40行)
「空腹時の血糖値が約100~約210mg/dlの軽度糖尿病患者であってインシュリン非依存型糖尿病患者22人を選び2つのグループに分けた。Ⅰ群(11名)には,0週から4週間の間一日3回食後に1人当たり毎回A錠を3錠コップ一杯の水で飲用させ,第5週から4週間同様の条件でB錠の投与を行った。
一方,Ⅱ群(11名)には,0週から4週間の間一日3回食後に1人当たり毎回B錠を3錠コップ一杯の水で飲用させ,第5週から4週間同様の条件でA錠の投与を行った。
各患者の投与開始時,4週間経過時及び8週間経過時の3回採血し,血糖値を調べた。その結果を下記表1に示した。
表1
開始時    4週間後     8週間後
Ⅰ群  169.1  →  132.8  →   143.4
(11名)    A錠      B錠
平均値(mg/dl)
Ⅱ群  129   →  128   →   110
(11名)    B錠      A錠
平均値(mg/dl)                」(原文の6欄41行~50行)
「A錠の有意差を調べたところ,Prob>(T)の値は0.0030であり,血糖値の低下に高度に有意差有と認められた。」(原文の6欄52行~55行)
エ 米国特許商標庁による米国特許2の許可理由(Reasons for Allowance)として,以下の点が挙げられていた(甲29)。
「クレームの対象となっている組成物について,先行技術においては,何ら教示又は示唆はされていない。I氏らによる先行技術(ケミカル・ファーマシー・ブレティン(1993)41巻(12),2129-2131頁)においては,濃度0.17%のコロソリン酸を含むサルスベリの抽出方法(2131頁)が教示されているが,I氏による抽出方法においては,メタノールが用いられている。J氏らによる先行技術(JP07228539)においては,サルスベリの葉は,エタノールを含む有機溶媒によって抽出されやすいということについては教示されているが,濃縮物中のコロソリン酸の量,又は濃度については言及されていない。J氏とI氏は,異なる溶媒を用いての抽出方法を教示しているところ,異なる溶媒を用いて抽出した濃縮物の容量も異なると考えられるので,当業者であれば,J氏の抽出方法による濃縮物の容量とI氏の濃縮物のコロソリン酸の量が同じであるとは考えなかったであろう。これらの理由により,本クレームは認められるべきである。」
(4) 米国特許1及び2の無効ないし権利行使不可能
ア  控訴人らによる米国訴訟の提起
控訴人らは,平成18年4月24日,米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所(以下「連邦地裁」という。)において,被控訴人の米国子会社である米国法人ソフト・ジェル・テクノロジーズ・インコーポレイテッド(以下「ソフト・ジェル社」という。),ケムコ・インダストリーズ・インコーポレイテッド(以下「ケムコ社」という。)や被控訴人の米国子会社の取引先であるアイオベイト社等に対し,米国における,バナバ葉からの抽出に係るコロソリン酸関連の商品の販売等が米国特許1及び2を侵害するとして,販売等の差止め,損害賠償等を求める訴訟(以下「別件米国訴訟」又は「米国訴訟」という。)を提起した(甲13)。
米国特許1に基づく控訴人らの請求について,連邦地裁は,平成19年7月13日,ソフト・ジェル社らの略式判決の申立てを認めた(甲34,争いのない事実)。
イ  米国特許2の無効ないし権利行使不可能
(ア) 連邦地裁は,同年9月4日,次のとおり,米国特許2は無効及び権利行使不可能であるとして,ソフト・ジェル社らの略式判決の申立てを認めた(甲31)。
a 実施可能要件(enablement requirement)の欠如による無効
「実施可能要件は,『明細書には,発明,及びその作成・使用の過程と方法を,関連する,またはもっとも近接するあらゆる当業者が同様にこれを作成・使用できるように,完全,明確,簡潔,そして正確な用語により記載するものとし,発明を実施する上で発明者の考える最もよい方法を記載するものとする。』とある(35 U.S.C § 112)。」(甲31の3頁下から3行目~4頁3行目,訳文:2頁下から5行目~3頁3行目)
「ここで,459特許(判決注:米国特許2)の明細書は,エタノールまたはエタノール水溶液による抽出方法をただ1つだけ開示している。…この方法がコロソリン酸濃度15%を超えないことについては,争われていない。…その代わり,当該濃度を超えるためには,明細書に記載されていない,A氏の特別な研究に関する知識がなければならない。」(甲31の5頁15行目~下から2行目,訳文:3頁下から13行目~6行目)
「当業者が15%のコロソリン酸濃度に到達するためには,過度の実験作業を行わなければならない…」(甲31の8頁13行目~15行目,訳文:6頁11行目~13行目)
「さらに,15%のレベルに達するために特別なバナバ葉が必要とされる限りにおいて,明細書は不可欠な出発物質の開示を欠いていることになる。…原告ら(判決注:本訴の控訴人らを意味する。)は,…当業者が明細書を用いて,実際に15%を達成したことについて何らの証拠も提出していない一方,当業者が明細書に記載されている方法では,過度の実験作業なくして15%のサンプルを獲得できないことについての証拠が存在する。
したがって,明確かつ説得的な証拠に基づき,459特許は実施可能要件を欠くことにより無効である。」(甲31の9頁15行目~26行目,訳文:6頁下から6行目~7頁6行目)
b 反衡平行為(Inequitable conduct)による権利行使不可能
「特許が反衡平行為により権利行使不可能であるというためには,(1) 重大な事実について,積極的に誤った陳述をした,重大な情報を開示しなかった,または重大な誤った情報を提出したこと,及び(2) 米国特許商標庁を欺く意図を有していることについての,明白かつ説得的な証拠がなければならない。…」(甲31の9頁最終行~10頁3行目,訳文:7頁8行目~11行目)
「ここで,459特許は,22名のインシュリン依存度の低い患者への臨床実験について言及し,この実験の結果を表にして記載している(米国特許2の明細書6欄22行~55行)。特に,本件特許では,明細書に記載されたエタノール抽出方法を用いて得られた粉末の濃縮物を含む『A錠』を,これらの患者の1グループに投与したと述べている(同明細書5欄35行~6欄55行)。A氏は,実験は本件特許の出願において重要な部分であったと証言している。しかし,A氏はまた,実験は行われていなかったと証言している。」(甲31の11頁下から5行目~12頁5行目,訳文:8頁下から12行目~6行目)
「A氏は,さらに,E教授のデータは,臨床実験があったかのように見せかける本件特許記載の表のデータを作成するために用いた,唯一の参考資料であったと証言している。」(甲31の12頁下から2行目~13頁1行目,訳文:9頁下から4行目~2行目)
「この証拠は,459特許が述べるところに反し,臨床研究の結果は,例1(Example 1)で特定された方法によって作られた成分から生じた結果ではないことを立証しているのである。」(甲31の13頁下から12行目~10行目,訳文:10頁下から14行目~12行目)
「結局,明細書の特許請求の範囲であるところの,エタノール抽出によって得られた錠剤を用いて臨床実験が行われたことについては,なお何らの証拠が存在しない。」(甲31の14頁3行目~5行目,訳文:11頁4行目~6行目)
「本件特許では,臨床実験はあたかもエタノール抽出方法によって製造された錠剤を用いて実施されたかのように記述されており,それは合理的な特許審査官にとって重要であろう事項である。459特許の場合には,特にヒトに対する実験が重要である。本件特許には,以下の記載がある。
『さらに,オオバサルスベリの葉の抽出物の成分について,それがヒトの糖尿病治療の効果があるという臨床知識は存在しなかったのである…そこで発明者は,臨床実験により,バナバ葉の抽出物の成分とヒトの血糖値の上昇との相関関係を研究したのである。』(同明細書2欄1行~4行,9行~13行)
明細書のこの部分は,議論の余地はあるものの,誤解を招きやすいものではない。なぜならば,臨床実験は確かにコロソリン酸と糖尿病との相関関係を示すものだからである。しかし,459特許に記載された臨床実験の結果は,それが「タブレットA」がエタノール抽出方法によって得られたものであると記載していること,そしてクレームがエタノール抽出方法によって得られたコロソリン酸濃縮物のためのものであることから,誤解を招くものである。さらに言えば,459特許についての米国特許商標庁の許可理由書においては,エタノール抽出方法が他との区別の目安となる特徴であるとしている。
故意について,直接の証拠はないが,状況の全てに鑑みれば,A氏は不注意により勘違いをしたのではなく,陳述書において,ヒト臨床実験がエタノール抽出方法によって製造された錠剤を用いて行われたと,故意に欺罔しようとしたと認められる。…
したがって,459特許は反衡平行為により権利行使不可能である。」(甲31の14頁11行目~15頁15行目,訳文:11頁11行目~33行目)
(イ) 上記判決の確定
平成20年1月10日付けで,控訴人らの米国特許1及び2に基づく請求をいずれも棄却する旨の終局判決が出され(甲34),控訴人らは,同判決に対して控訴を提起したが,同年9月10日,控訴は棄却され(甲43),同判決は確定した。
(ウ) 争点効
米国において,特許侵害訴訟における特許無効の判断には,争点効(コラテラル・エストッペル)が生じ,事実上対世効が認められている(甲45)。
(5) 控訴人会社と被控訴人間の契約内容等
ア  独占販売契約締結以前の取引
(ア) バナバに関する商品の商品化(争いのない事実)
被控訴人,常磐化学及び控訴人会社は,平成10年12月ころ,米国での販売用に,「バナバアルコール抽出エキス1%」(以下「本件1%品」という。)を商品化し,平成11年1月ころから,米国市場において,ソフト・ジェル社等を介して,本件1%品の販売を開始した。
(イ) 覚書の作成
被控訴人と控訴人会社は,平成11年11月17日付けの「覚書」と題する書面(乙37。以下「平成11年覚書」という。)を取り交わした。
平成11年覚書には,以下の各条項が記載されている。
「第一条(製品の範囲と指示)
葉,花及び地上部の溶媒抽出物(含水エタノール及びエタノール含有溶媒による抽出物を言う)の取扱の全ては甲(被控訴人)の指示に従うものとする。
第二条(葉,花及び地上部(以下本原料という)の溶媒抽出物(以下本製品という)の商流)
第一項(物の流れ)
甲は乙(控訴人会社)より本原料を購入し常磐化学に販売し,常磐化学はこの本原料を溶媒抽出し液体又は,粉末(固体)の形態の本製品を作る。甲はこの本製品を購入するものとし,乙は常磐化学とは直接の交流は行わない。
第二項(委託製造)
乙は本製品の製造を他の会社に委託しない。
第三項(本製品の販売)
基本的に甲が本製品を販売する。従って,乙は甲の同意なく本製品を海外・国内に販売しない。
現在,乙は甲の同意のもとにアサヒビール薬品株式会社のみに本製品を販売できるが,甲より購入し販売する。
(以下省略)
第三条(特許及び,科学的情報の機密保持)
科学的情報のお互いの交流を行うが,あくまでも,本覚書に沿った趣旨での開示であり,正当な理由に基ずいて特許申請がなされるものとする。特に臨床データの取扱に関してはその計画と実施をした者及び資金供与をした者を判断して特許所有者を設定する。科学的情報の開示に関してはお互いが協議するものとする。
第四条(価格の決定)
甲,乙間の本原料,本製品及び本最終製品の価格に関してはお互いの協議に於いて決定されるものとし,特に,本製品を原料としない熱水抽出物の販売に於いて,販売方法,価格,客先に関して本製品及び最終製品(本最終製品)との不都合が起こらない様,努力する。
第五条(協議事項)
この有効期間は締結の日から1年間とし,双方に異議がない場合は自動的に継続する。
変更に際しては協議するものとする。」
イ  独占販売契約の締結及びその後の取引
(ア) 独占販売契約の締結
被控訴人は,控訴人会社との間で,平成17年1月26日ころ,米国市場における商品に係る独占販売に関する契約(以下「本件独占販売契約」という。)を締結し,同日付けの「米国市場における条件付独占販売基本契約書」と題する書面(甲9の1)を取り交わした。
(イ) 本件独占販売契約の内容
同契約に係る契約書には,以下の記載がある。
「第1条(米国市場における期間限定での条件付独占販売権付与)
甲(控訴人会社)は,乙(被控訴人)に対し,平成17年1月1日から平成21年12月31日までの5年間,本契約に定める条件により,甲が所有する特許権の商品「バナバ抽出エキス」について米国市場における独占販売権を付与する。但し,甲乙協議により,期間を延長する場合がある。
第2条(商品内容)
甲が乙に販売する商品の内容は次の通りとする。
A-1 バナバアルコール抽出エキス1%(判決注:「本件1%品」)
A-3 バナバアルコール抽出エキス3%(判決注:以下「本件3%品」といい,「本件1%品」と併せて「本件各商品」という。)
第3条(販売条件)
乙は,本件販売条件として次の通り最低引き取り数量を保証するものとする。
平成17年1月1日~12月31日 10,000kg
平成18年1月1日~12月31日 20,000kg
平成19年1月1日~12月31日 30,000kg
平成20年1月1日~12月31日 30,000kg
平成21年1月1日~12月31日 30,000kg
2 甲および乙は,発注単位,単価,納入条件等について協議し,6ヶ月毎に定める。
3 上記の引き取り数量達成率が年度毎に60%未満の場合は,甲は,乙に対し90日間の予告期間をもって独占販売権を解除することができるものとする。
‥‥‥‥
第5条(販売努力)
乙は,甲から買い受けた本件商品を健康食品向けに販売するものとし,販路の開拓,維持,確立に向けて誠実に努力する。
第6条(販売目標管理)
甲および乙は,本契約第3条に定める最低引取り数量の進捗状況について,原則として3ヶ月毎に協議し,協力して販売数量達成の実現をはかる。
第7条(販売協力)
甲は,乙の要請があるときは,本件商品の説明書,カタログなど本件商品の販売促進に必要な資料を無償で乙に提供する。
2 本件商品の販売促進に必要な広告・宣伝に要する費用は乙が負担する。
‥‥‥‥
第16条(期限の利益喪失・解除)
乙において,次の各号の一に該当したときは,乙は当然に期限の利益を失い,甲は,乙に対し,本契約上の債務全額を請求することができ,何ら催告することなく,個別契約ないし本契約を解除することができる。
①  一回でも個別契約その他の債務の支払いを怠ったとき
‥‥‥‥
⑥ 本契約または個別契約に違反したとき
‥‥‥‥
第17条(協議)
甲および乙は,本契約に定めなき事項について疑義が生じた場合は,お互いに誠意を持って協議し定める。」
(ウ) 確認書の作成
控訴人会社は,本件独占販売契約の締結と同日付け(平成17年1月26日付け)で,被控訴人あてに,次の内容の「確認書」と題する書面(甲9の2。以下「本件確認書」という。)を差し入れた。
「平成17年1月26日付『米国市場における条件付独占販売基本契約書』に関し,次の内容につき確認いたします。
第3条 3.項の『数量達成率が年度毎に60%未満の場合は,甲は,乙に対し90日間の予告期間をもって独占販売権を解除することができるものとする。』につきまして,自動的に解除ということではなく,甲および乙の協力関係により目標達成に向けて努力するものとし,万一達成率が60%未満の場合は,その原因や課題について甲乙協議し,合意の上判断することとします。」
(エ) 購入数量
被控訴人は,本件独占販売契約締結後,別紙4「取引経過一覧表」67ないし70欄記載のとおり,本件1%品を,平成17年2月ころに300kg,同年3月ころに300kg,同年7月ころに500kg(合計1100kg),それぞれ購入し,控訴人会社に対し,合計2887万5000円(消費税相当額を含む。)を支払った(甲32,乙42の1ないし7,乙43の1ないし4)。
(6) 売掛金
ア  被控訴人は,平成18年3月1日,控訴人会社に対し,本件1%品310kgを,1kg当たりの単価2万円,合計651万円(消費税相当額を含む。)で売り渡す旨の契約を締結し,同月3日,これを引き渡した(甲16,19)。
イ  被控訴人は,同月10日,控訴人会社に対し,コロソリン酸18%品10kgを,1kg当たりの単価18万円,合計189万円(消費税相当額を含む。)で売り渡す旨の契約を締結し,同月18日,これを引き渡した(甲17,19)。
ウ  被控訴人と控訴人会社は,上記ア及びイの売買代金合計840万円の支払期限につき,同年4月30日とする旨合意した(甲19)。
(7) 被控訴人による誤振込み
ア  被控訴人は,平成19年1月31日,279万5832円を,取引先である訴外ユース株式会社と間違えて,控訴人会社名義の銀行口座に送金した(甲39の1,2,甲40)。
イ  被控訴人は,上記誤りに気付き,同年2月1日ころ,控訴人会社に対し,誤振込みの事実を伝えるとともに,過誤払金の返還を請求した(甲40)。
(8) 被控訴人による控訴人会社株主らへの文書送付及び株主総会招集請求
ア  被控訴人は,平成17年6月20日ころ,投資家26社に対し,「Use-Techno Corp.への出資御願いの件」と題する文書(乙29の1の10頁及び11頁)を送付し,約3億円の出資を依頼した。同文書には,その理由として,(ⅰ)被控訴人が控訴人会社と平成14年ころにいったん取引を中断し,出資関係を清算したが,平成16年12月に控訴人会社の営業方針が被控訴人の希望に添うことになったため,コロソリン酸1%含有バナバExtractの対米輸出を再開したこと,(ⅱ)平成17年中に10トン,2.5億円の購入予定を確立したこと,(ⅲ)コロソリン酸の事業を成功させるために,約3億円の資金が必要であることが記載されている。
このほか,同文書には,次の記述(以下「係争記述①」という。)がある。
「Use Techno 社の経営陣にGを非常勤役員として送り込み同社現営業スタッフの教育を弊社米国子会社SoftGel Technologies Inc.と共同で行うことにより経営の改革を推進し,大幅な営業成績の改善と,利益ある操業実現に専念させる。」
イ  被控訴人は,控訴人会社の株主全員に対し,平成18年11月1日ころに「株式会社ユーステクノコーポレーションの法人,個人株主の皆様」と題する文書(乙29の1)を,同月27日ころに「株式会社ユーステクノコーポレーションの法人,個人株主の皆様(No.2)」と題する文書(乙33の1)を,それぞれ送付した。
上記各文書には,以下の各記述がある。
(ア) 「‥‥‥‥『A社長が社長職を退任して,相談役の閑職に就き,一切経営に干渉しない』ことを基本とするものでした。彼自身に対し,当時の同社役員からも同様の要求が為され,最終的にA氏も弊社の条件に同意しました。(」乙29の1の1頁下から10行~7行(以下「最終的に‥‥同意しました」の部分を「係争記述②」という。)
(イ) 「Aこの原因は,私の観るところ,A社長の経営思想を欠いた経営感覚にあります。」(同4頁7行),「B‥‥ハッキリ言えることは『A氏は人格的,能力的に果たして実業家として適正な人物かどうか,おおいに疑問』ということです。」(同7頁最終行~8頁2行),「C‥‥A氏は狂人としか思われません」(同8頁下から5行~4行),「D‥‥過去,投資家より集めた7-8億円もの資金は全く無駄に浪費され,」(同8頁6行)(以下,順に「係争記述③A」ないし「係争記述③D」といい,これらをまとめて「係争記述③」ともいう。)
(ウ) 「当社が得た情報によれば,中国及びインドの商社はA氏に依って組織され,彼等にはパテントの心配をすることなく,インド品及び中国品を弊社の需要家に売り込むよう,販売活動を行いました。」(同4頁17行~19行)(以下「係争記述④」という。)
(エ) 「A『‥‥両社に無断で,必要データを入手し,勝手にパテント申請した』というものです。」(同6頁下から14行~13行),「B‥‥必要データについては常磐化学・弊社が所有する資料を無断盗用してカモフラージュしたものです。」(同6頁下から11行~10行),「CA氏の盗用」(同6頁下から4行),「D‥‥率直に申し上げれば 『UTCとA氏は他社の製造方法を盗用し特許を成立させた』 ということです。」(乙33の1の2頁12行~13行)(以下,順に「係争記述⑤A」ないし「係争記述⑤D」といい,これらをまとめて「係争記述⑤」ともいう。)
(オ) 控訴人らが,米国訴訟において,アイオベイト社と和解したこと及びその和解内容に関する記述(乙29の1の6頁7行~13行)(以下「係争記述⑥」という。)
(カ) 「‥‥上記基本契約書は,名称はともあれ,契約書としては認識しておらず,実態としては単なる目標数量としか認識しておりません。」(乙33の1の3頁下から14行~13行)(以下「係争記述⑦」という。)
ウ  被控訴人は,平成18年12月20日付けで,控訴人会社の21名(被控訴人を含む。)の株主と共同して,控訴人会社の役員全員の解任を求める旨の臨時株主総会招集請求を行った(乙65)。
控訴人会社は,平成19年2月15日,臨時株主総会を招集したが,出席株主の株式総数は1.8%にとどまり,法定の3%に達しなかったため,流会となった(乙66,67)。
2 本件訴訟の請求等の推移
記録によれば,本件訴訟における当事者の請求等の変動は,次のとおりである。
(1) 被控訴人の第1事件本訴の訴状における請求
ア  日本特許出願についての持分確認請求
第1事件本訴の訴状における被控訴人の請求の趣旨第1項に係る部分については,本件発明は,被控訴人社員であるEが,バナバ葉に含まれる成分のうち,抗糖尿病作用のための有効成分としてコロソリン酸を規格化することを着想し,常磐化学社員のD研究員が,バナバ葉からコロソリン酸をアルコール抽出によって高濃度で抽出する方法を確立し,控訴人Aが上記製法によって得られた濃縮物につき臨床実験を通じて血糖値の上昇抑制ないし下降の効果を確認し,その効果を生じさせるために適切な濃度を特定することにより完成されたものであるから,三者の共同発明であり,被控訴人はEから本件発明につき特許を受ける権利の3分の1を譲り受けたと主張して,日本特許出願の出願人である控訴人会社及び三井物産に対して,日本特許出願の特許を受ける権利につき,3分の1の持分を有することの確認を求める,というものであった。
イ  独占販売権を有することの確認請求
上記訴状の被控訴人の請求の趣旨第2項に係る部分は,被控訴人が,本件独占販売契約はいまだ終了していないと主張して,控訴人会社に対し,被控訴人が同契約に基づき,米国市場における本件各商品の販売権を有することの確認を求める,というものであった。
ウ  売掛金請求
上記訴状の被控訴人の請求の趣旨第3項は,その後も維持され,前記第1の1(1)第1事件本訴の「ア売掛金請求」記載のとおりである。
エ  損害賠償請求
(ア) 上記訴状の被控訴人の請求の趣旨第4項の一部は,控訴人らが,本件発明に関して被控訴人が特許を受ける権利を侵害したこと等を理由に,不法行為に基づく損害賠償として,弁護士費用等3000万円及び遅延損害金の支払いを求める,というものであった。
(イ) 上記訴状の被控訴人の請求の趣旨第4項のその余の部分は,控訴人らが,本件独占販売契約の終了を一方的に主張するとともに,別件米国訴訟を提起したことは,不法行為又は本件独占販売契約上の債務不履行に当たるとし,その損害賠償として,逸失利益1883万2515円及び遅延損害金の支払いを求める,というものであった。
(2) 被控訴人の上記請求の変動
ア  日本特許出願の持分確認請求の訴えの取下げ
被控訴人は,前記1(2)イ(ウ)のとおり,日本特許出願について平成18年12月14日に拒絶査定が確定し,特許を受ける権利を確認する利益がなくなったので,平成19年2月1日,前記(1)アの請求に係る訴えを取り下げた。
イ  独占販売権の確認請求の訴えの取下げ
被控訴人は,別件米国訴訟において,米国特許2が無効である旨の略式判決が出されたため,同年12月4日,前記(1)イの請求に係る訴えを取り下げた。
ウ  損害賠償請求等の変動
被控訴人は,上記米国判決を受けて,同日,従前の特許を受ける権利の侵害及び別件米国訴訟提起等による4883万2515円の損害賠償請求に加え,控訴人らの詐欺行為を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として,2887万5000円の請求を追加した。
そして,被控訴人は,平成20年1月18日,従前の特許を受ける権利の侵害及び別件米国訴訟提起等による損害賠償の訴えを取り下げるとともに,上記控訴人らの詐欺行為を理由とする損害賠償請求の損害として,弁護士費用1300万円を追加した。
さらに,被控訴人は,予備的請求として,本件独占販売契約は錯誤により無効であるか,又は詐欺によりこれを取り消すとして,同契約に基づき控訴人会社に支払った2887万5000円が不当利得であるとして,その返還を求める請求を追加した。
エ  まとめ
したがって,訴えの取下げにより終了した被控訴人の請求は,
①  本件発明につき日本で特許を受ける権利の確認請求
②  本件独占販売契約上の地位確認請求
③  控訴人らによる,特許を受ける権利の侵害,別件米国訴訟提起等を理由とする不法行為又は本件独占販売契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求である。
(3) 被控訴人の第2事件の請求
被控訴人の第2事件の請求は,誤振込みに係る金員の返還を求めるものであるが,その請求に変動はなく,相殺の点を除いて,その事実関係に格別な争いはない。
(4) 控訴人会社の第1事件反訴の反訴請求
ア  控訴人会社の反訴請求及びその請求原因は,平成18年10月17日受付の反訴状によれば,次のとおりである。
被控訴人は,控訴人らを被告として,特許を受ける権利の確認等を求める訴訟(第1事件本訴をいうもの)を提起したが,控訴人会社は,被控訴人に対し,契約不履行(最低引取保証義務違反)に基づき,11億8900万円の損害賠償債権を有しており,控訴人会社は,被控訴人に対し,被控訴人が請求する売掛金840万円を差し引いた残額11億8060万円のうち6億円及びこれに対する遅延損害金の支払いを請求する。
イ  控訴人会社は,同年12月25日付けの準備書面(同月26日の第2回弁論準備期日で陳述)で,上記反訴請求につき,5億8060万円及びその遅延損害金の支払いを求めるとの請求に変更し,請求原因も一部改めた。
ウ  その後,控訴人会社は,その請求及び請求原因を変更し,原審の弁論終結の段階では,前記第1の1(2)ア記載のとおり不当提訴による418万円及びその遅延損害金の請求,並びに,同イの独占販売契約上の引取保証義務違反等に基づく請求((ア)の5億7544万1372円及びその遅延損害金の請求(主位的請求),(イ)の7817万9200円及びその遅延損害金の請求(予備的請求))をしていた。
3 争点
(1) 控訴人らによる不法行為(詐欺)の成否及び損害額
(2) 被控訴人の錯誤等による控訴人会社の不当利得の成否及び損失額(予備的主張)
(3) 本件独占販売契約上の引取保証義務違反を理由とする被控訴人の債務不履行の成否及び損害額
(4) 被控訴人が,控訴人会社から本件各商品を購入せず,又は控訴人会社を介さずに本件各商品の取引を行ったことについての債務不履行又は不法行為の成否及び損害額
(5) 被控訴人が係争記述①ないし⑦を含む文書の送付等を行ったこと及び株主総会招集請求をしたことが,控訴人会社に対する信用・名誉毀損等の不法行為に該当するか否か及びその損害額
(6) 被控訴人による不当訴訟(第1事件本訴)提起の不法行為の成否及び損害額(訴え変更前後の請求それぞれにつき)
第3  争点に関する当事者の主張
1  争点(1)(控訴人らによる不法行為(詐欺)の成否及び損害額)
(1)  被控訴人の主張
ア 控訴人Aの故意及び欺罔行為
(ア) 控訴人Aは,①米国特許2の明細書の記載のみでは15%の濃度のコロソリン酸を含むバナバエキスを抽出することが不可能であること,及び②米国特許2の明細書に実施例として記載されていたエタノール抽出エキスを用いたヒト臨床試験が,実際には行われていないことを知っていた(控訴人Aは,単に臨床試験データの重要性を認識していただけでなく,これが米国特許2の成立を決定づける資料であることを知りつつ,架空のデータをねつ造して米国特許商標庁に提出した。)から,米国特許2に無効又は権利行使不可能とする重大な瑕疵があることを認識していた。
(イ) 控訴人Aは,被控訴人に対し,米国特許2を行使することにより中国やインドからの廉価な類似品を市場から排除することができる旨の説明をし,本件独占販売契約の締結を勧誘した。
(ウ) 控訴人らは,詐欺の故意はなかった旨主張するが,溶媒を用いて成分の抽出を行う場合,抽出物にはその溶媒に溶解する成分しか含まれないし,含有される成分の量や構成比も,使用した溶媒への溶解度によって変化するから,溶媒が異なると同じ効果が期待できないことは当然である。特に,米国特許2において有効成分とされているコロソリン酸は,水に溶けにくい性質を持っているから,熱水抽出物で実施例記載の濃度のコロソリン酸を含有する抽出物を作成すること自体,不可能である。
仮に,平成10年にE教授によって行われた熱水抽出臨床試験を参考にして,何らかの発明が完成されていたとしても,その発明は,エタノール抽出エキスを用いたヒト臨床試験によって効果が確認される米国特許2の明細書に記載された発明とは異なる発明である。
イ 被控訴人の誤信
(ア) 被控訴人は,前記ア(イ)の説明を受け,米国特許2を控訴人らと共同行使することにより,前記類似品を市場から排除して,本件各商品の売上げを回復することができると考えて,本件独占販売契約を締結した。
被控訴人は,米国特許2が有効に存在すると信じたからこそ,本件独占販売契約を締結し,控訴人会社に対し,中間利益を支払ってきたのであり,被控訴人が,米国特許2の支配力・排除力を信頼していたことも明らかである(控訴人会社は,本件各商品の製造等に実質的に関与しておらず,同社に対して支払った金員は,米国特許2の使用許諾の対価としてであった。)。
(イ) 控訴人らの積極主張に対する反論
a 後記(2)イ(イ)aのうち,①~④の事実は認め,被控訴人の認識(米国特許2の明細書に記載されたエタノール抽出エキスでのヒト臨床試験が行われていないことを知っていた旨)は否認する。
被控訴人は,米国特許2につき,無効又は権利行使不可能とする瑕疵があることを知らなかった。
b 後記(2)イ(イ)bのうち,被控訴人が米国特許2は冒認出願であると考えていたことは認め,その余は否認する。
c 後記(2)イ(イ)cのうち,被控訴人が①ないし⑦の点につき指摘した事実は認め,その余は否認する。
資料(乙91の1の3頁及び4頁)は,本件独占販売契約の締結交渉の過程で,被控訴人が控訴人会社との契約交渉を有利に進めるための材料として作成したものにすぎず,現に,被控訴人が上記資料に記載した米国特許の不合理性とは,請求項の記載の妥当性など評価にわたる問題にすぎず,エタノール抽出エキスによるヒト臨床試験データの不存在の点については全く触れられておらず,被控訴人が真に米国特許2等が無効であると認識していたことを示すものではない。
被控訴人が真に米国特許が無効であると認識していたならば,本件独占販売契約を締結して,控訴人会社に対し中間利益(ライセンス料)を支払うはずがない。
(ウ) 信義則違反
後記(2)イ(ウ)は否認ないし争う。
ウ 控訴人らの不法行為責任
(ア) 前記ア(ア)(イ)記載の控訴人Aの行為は,被控訴人に対する詐欺行為であり,不法行為(民法709条)を構成する。
(イ)a 上記行為は,控訴人Aが控訴人会社の代表取締役として,同社の職務を行うにつきした行為である。
b よって,控訴人会社も,会社法350条(民法44条と記載されているが,このように解することとする。)に基づき,被控訴人に生じた損害を賠償する義務を負う。
エ 損害
(ア) 本件1%品の購入費用2887万5000円
被控訴人は,控訴人らの詐欺により錯誤に陥った結果,本件独占販売契約を締結した上で,前記第2の1(5)イ(エ)のとおり,同契約に基づき,控訴人会社から,本来購入する必要のない本件1%品を合計1100kg購入し,控訴人会社に対し,合計2887万5000円(消費税相当額を含む。)を支払った。
なお,被控訴人の損害額を算出する上で,控訴人会社が得た利益額は無関係である。また,出荷履歴表(甲32)によれば,上記1100kgはすべて在庫として残っている。
(イ) 弁護士費用
a 被控訴人は,本件訴訟の準備及び遂行を被控訴人訴訟代理人外山弁護士らに委任し,相当額の弁護士費用を支払う旨約束した。
b 被控訴人が負担する弁護士費用のうち,1300万円が控訴人らの上記不法行為と相当因果関係を有する損害である。
オ まとめ
よって,控訴人らは,被控訴人に対し,民法709条,会社法350条に基づき,連帯して,合計4187万5000円及びこれに対する不法行為の後である平成20年1月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
(2)  控訴人らの主張
ア 控訴人Aの故意及び欺罔行為
(ア) (1)ア(ア)は否認し,(イ)は認める。
(イ) 米国において,ヒト臨床試験をしなくても動物実験だけで特許が認められるものである上,バナバエキスにおいては,熱水抽出エキスに含まれているものはエタノール水溶液抽出エキスに必ず含まれており,熱水抽出エキスで効果があったものであれば,エタノール水溶液抽出エキスにおいても同等以上の効果が期待できることは,当業者間においては科学常識である。
控訴人Aは,この科学常識に基づいて,熱水抽出エキスによる臨床試験をすれば,日本においても米国においても特許が取得できると信じていたものであり,詐欺の故意はなかった。
イ 被控訴人の誤信
(ア) 認否
(1)イ(ア)は否認する。被控訴人に錯誤はない。本件は,本件独占販売契約締結上の詐欺,錯誤が問題となっているから,特許そのものではなく,これが米国市場において有する支配力・排除力が重要であり,被控訴人は,その支配力等につき正しく認識していたが,一度特許庁の審理を経て成立した特許は簡単に覆すことができないと考えて,米国特許2につき無効原因があると知りつつ,これを販売戦略上利用しようと考えていたのである。
(イ) 控訴人らの積極主張
a 以下の①ないし④の各事実からすれば,被控訴人は,米国特許2の明細書に記載されたエタノール抽出エキスでのヒト臨床試験が行われていないことを知っていた。
① 被控訴人には,本件独占販売契約の締結前に,米国特許2の明細書を確認する機会があったこと
② 被控訴人は,別件米国訴訟において,米国特許2の瑕疵を自ら主張したこと
③ 被控訴人は,熱水抽出臨床試験が熱水抽出エキスにより行われたものであることを熟知していたこと
④ 被控訴人は,熱水抽出臨床試験の後,すぐに米国子会社において,エタノール抽出エキスによるヒト臨床試験を行っていること
b 被控訴人は,米国特許2は冒認出願であると考えていたのであるから,米国特許2には瑕疵があり,無効や権利行使不可能をきたすことを知っていた。
c 被控訴人は,平成16年2月に医家向け医薬品のライセンス交渉の際や平成18年3月に本件独占販売契約の解除につき争いが生じた際に,控訴人らに対して,①コロソリン酸の糖尿病に対する有効成分の確認が既知であること,②標準化が被控訴人の米国子会社で既にされていること,③溶媒の問題,④精製製剤の他の成分の未確認の問題,⑤投与量の問題,⑥薬物動態試験のデータがない問題,⑦本件1%品については既にデータが常磐化学に存在することを指摘し,米国特許2に無効原因がある旨主張し(乙90の1及び2,91の1及び2),無効審判手続に入る旨を通告していた。
このように,被控訴人は,少なくとも,米国特許2には何らかの瑕疵があり,無効や権利行使不可能をきたすことを知っていた。
(ウ) 信義則違反
被控訴人は,本件訴訟の当初は本件独占販売契約が有効である旨主張していた上,同契約締結の当初から,在庫品を控訴人会社を介さないで販売し,同契約に従った履行をする意思がなかったのであるから,被控訴人が,同契約について,詐欺や錯誤の主張をすることは,信義則に違反し,許されない。
ウ 控訴人らの不法行為責任,被控訴人に損害が発生したこと及び損害額は争う。
仮に詐欺があったとしても,それによって控訴人らが受けた利益は,商品1kgあたり1万円であるから,被控訴人の損害額は1100万円にすぎない。また,被控訴人は,本件独占販売契約締結後の取引分すべてにつき損害とするが,被控訴人は,この取引分が現在も在庫として残っていることを証明しなければならない。その上,被控訴人主張の「在庫」のうち,控訴人会社を経由したものと経由していないものを分けて議論する必要がある。
2  争点(2)(被控訴人の錯誤等による控訴人会社の不当利得の成否及び損失額)
(1)  被控訴人の主張
ア 錯誤無効
(ア) 前記1(1)イ(ア)のとおり,本件独占販売契約において,米国特許2が有効であることは重要な前提事実であり,被控訴人は,米国特許2が有効で,権利行使可能であり,それを利用して類似品を米国市場から排除することができると誤信して,本件独占販売契約を締結した。
(イ) したがって,本件独占販売契約は,被控訴人の要素の錯誤により,無効であり,被控訴人に重大な過失はなかった。
イ 詐欺取消し
(ア) 前記1(1)ア(ア),(イ),同イ(ア)のとおり,控訴人Aの欺罔行為により,エタノール抽出エキスによるヒト臨床試験を行っていないことなどのため米国特許2が無効又は権利行使不可能であるにもかかわらず,被控訴人は,このような瑕疵がなく,同特許を利用して類似品を米国市場から排除することができると誤信して,本件独占販売契約を締結した。
(イ) 被控訴人は,控訴人会社に対し,平成19年12月7日の原審第9回弁論準備手続期日において,本件独占販売契約につき詐欺を理由に取り消す旨の意思表示をした。
ウ 不当利得
本件独占販売契約は,錯誤無効又は詐欺取消しにより遡及的に無効となるから,控訴人会社は,被控訴人が同契約に基づき控訴人会社に対して支払った売買代金合計2887万5000円について,法律上の原因なく利得し,被控訴人は,同額の損失を被った。
エ まとめ
よって,控訴人会社は,被控訴人に対し,民法703条,704条に基づき,不当利得金2887万5000円及びこれに対する控訴人会社が悪意となった後である平成20年1月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息を支払う義務がある。
オ 不法原因給付に関する控訴人会社の主張は争う。
(2)  控訴人会社の主張
ア 錯誤無効
(ア) (1)アは否認ないし争う。被控訴人に錯誤はない。
また,本件独占販売契約は,本件各商品について米国での独占販売権を付与する契約であり,被控訴人は,米国特許2だけでなく,被控訴人の米国子会社であるケムコ社が有する特許と併せて警告活動をすることにより,市場支配上の効果を発揮することを企図していたもので,米国特許2に決定的排除力があることまで期待していたわけではない。したがって,米国特許2が有効であることは,本件独占販売契約の要素に当たらない。
(イ) 少なくとも,被控訴人には,重大な過失があった。
イ 詐欺取消し
(ア) (1)イ(ア)は否認する。
(イ) (1)イ(イ)(取消しの意思表示)は認める。
ウ 控訴人会社に不当利得が存すること及びその利得額は争う。仮に控訴人会社に不当利得が存在したとしても,前記1(2)ウ同様,利得額はせいぜい1100万円であり,かつ,現在も在庫として残っている分に限られる。
エ 不法原因給付
被控訴人は,米国特許2が無効であるとの認識を持ちながら,米国特許2の排他力を利用して本件各商品を販売したものであり,第三者に対する詐欺行為を行ったものである。そして,控訴人会社に対する売買代金名下の支払いは,詐欺行為による利益を分配したものであり,不法原因給付に該当するから,控訴人会社に対して不当利得として返還を求めることはできない。
3  争点(3)(本件独占販売契約上の引取保証義務違反を理由とする被控訴人の債務不履行の成否及び損害額)
(1)  控訴人会社の主張
ア 引取義務
(ア) 被控訴人は,本件独占販売契約に基づき,控訴人会社から,本件各商品を,平成17年分として10トン,平成18年分として20トン,平成19年分として30トン,平成20年分として30トン,平成21年分として30トン,それぞれ引き取るべき義務を負っていた。
なお,上記数量は,本件1%品についてのものであり,本件3%品であればその3分の1が相当する。
そして,引取数量保証は,米国における本件各商品についての独占販売権の付与の対価であり,高い経済合理性がある。
なお,本件独占販売契約が無効である旨の被控訴人の主張は争う。
(イ)a 被控訴人の自認
被控訴人は,訴状において,契約書上の引取保証条項が「数量保証」であることを自認している上,同条項に関して,保証でありしかも責任が伴うものであることを対外的にも表明している(乙29の1)。
b 本件確認書の解釈
本件確認書(甲9の2)は,被控訴人から「独占販売権」消滅の要件を重くしてほしい旨の要望があったため,作成したものであるが,本件確認書には,上記数量保証が努力目標であるとは記載されていない。
(ウ)a 違約金条項の不存在
後記(2)イ(ウ)aのうち,本件独占販売契約に違約金条項がないことは認め,その余は否認する。
Fは,控訴人会社の社員ではなく,当時仲介者的に本件独占販売契約の締結に関与していたにすぎない。
また,違約金条項がないことは,賠償額の予定(民法420条)がされなかったことを意味するが,損害賠償義務を負わないことを意味しない。
b 在庫品の存在
後記(2)イ(ウ)bは否認する。
「2004/12/08研光通商様との話し合い」と題する書面(甲27の2)中の「(10)⑤ 一年半しないと,UTCオフィシャル製品を買おうとしない→A理解」との記載は,「米国の競合会社が1年半くらいしないと控訴人会社の特許の許諾を受けた製品を買おうとしないだろう」との趣旨であり,「在庫を売り切るために1年半程度の期間が必要であり,それ以降でないと控訴人会社から新たな商品を購入できない」ことを意味していない。
(エ) 心裡留保の主張がないこと
本件確認書の存在をもって,数量保証が「努力目標」にすぎないと解することはできず,このように解するためには,「本件独占販売契約の数量保証部分は心裡留保である」旨の被控訴人の主張が必要であり,そのような主張がない限り,同契約上の表示を覆すことはできない。原判決は,被控訴人の主張がないにもかかわらず,心裡留保を認定したものであり,弁論主義に違反する。
イ 本件独占販売契約の解除
(ア) 被控訴人は,本件独占販売契約を締結した平成17年1月26日以降,控訴人会社を介さないで,本件各商品を販売した。
(イ) 控訴人会社は,被控訴人に対し,平成19年1月31日,控訴人らの同日付け準備書面(6)の送達により,上記控訴人会社を介さずに販売した本件各商品について,同書面到達後2週間以内に回復措置をとることを催告した。
(ウ) よって,本件独占販売契約は,催告期間経過又は同契約第16条①違反により,同年2月14日の経過により終了した。
ウ 損害
(ア) 取引価格
控訴人会社と被控訴人は,本件1%品に関し,控訴人会社の取得する売買差額につき1kg当たり1万円(控訴人会社は1kg当たり1万5000円で被控訴人から購入し,1kg当たり2万5000円で被控訴人に販売する。)と定めた。
(イ) 損害額
被控訴人は,平成17年分の商品1.1トンを引き取ったのみであるため,控訴人会社は,被控訴人に対し,平成17年分8.9トンにつき売買差額8900万円,平成18年分20トンにつき同2億円,平成19年から平成21年分については,各年3億円から中間利息を控除した残金のうち各年1億円,合計3億円につき,それぞれ請求権を有する。
エ 催告
控訴人会社は,被控訴人に対し,平成20年4月8日,同日付けの準備書面送達により,上記損害金の支払いを催告した。
オ まとめ
よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,本件独占販売契約上の引取保証義務違反を理由とする債務不履行による損害金5億8900万円及びこれに対する同月9日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
控訴人会社は,後記カのとおり,一部相殺に供した後の残金のうち,1億円及びこれに対する同日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
カ 相殺の意思表示
控訴人会社は,被控訴人に対し,同年10月20日の原審第15回弁論準備手続期日において,控訴人会社の上記債権の一部937万8628円をもって,前記第2の1(6)記載の被控訴人の売掛金債権840万円及びこれに対する平成18年5月1日から平成20年4月8日まで年6分の割合による遅延損害金97万8628円の合計937万8628円と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(2)  被控訴人の主張
ア 本件独占販売契約の無効等
本件独占販売契約は,前記2(1)のとおり,詐欺取消し又は錯誤により無効である(被控訴人は,控訴人会社に対し,平成19年12月7日の原審第9回弁論準備手続期日において,同契約につき詐欺を理由に取り消す旨の意思表示をした。)から,そもそも被控訴人は,同契約3条による商品の引取義務を負わない。また,仮に同契約が有効であったとしても,以下のとおり,最低購入保証条項は努力目標にすぎず,いずれにしても被控訴人は商品の引取義務を負わない。
イ 引取義務
(ア) (1)ア(ア)は否認ないし争う。
本件独占販売契約第3条は,単なる努力目標を定めたものにすぎず,被控訴人はその不履行により何ら義務を負わない。仮に,被控訴人が同契約上何らかの義務を負うとしても,被控訴人の不履行の効果は,独占販売権の解除をされることだけであり,(同契約に商品の単価の記載がないことからしても)得べかりし利益の損害賠償義務は生じない。
(イ)a (1)ア(イ)a(被控訴人の自認)は否認ないし争う。それらは,自認には当たらない。
b (1)ア(イ)b(本件確認書の解釈)は否認する。本件確認書(甲9の2)の記載内容(前記第2の1(5)イ(ウ))は,最低引取数量が努力目標にすぎないことを示しており,被控訴人・控訴人らともにこれを確認している。
(ウ)a 違約金条項の不存在
本件独占販売契約には,最低購入保証が実現できなかった場合の違約金条項がない。当初案には違約金条項があったが,契約の交渉過程において,「両社が達成に向けて努力する前提のため」(平成16年12月22日付け有限会社フィスコムのFからE社員あてのEメール-甲28),削除された。
b 在庫品の存在
被控訴人は,平成11年以降の取引により,大量の在庫を抱えていたため,控訴人会社に対してその旨を伝え,努力目標であるとしても,契約書記載の数量は非現実的な数字であることを告げ,併せて,本件独占販売契約締結後も,まずは在庫の処分を済ませてから新たな引取りを始めたい旨申し入れ,控訴人らもこれを了承していた(甲27の2参照)。
しかし,被控訴人は,控訴人らから,本件独占販売契約上に引取保証条項が存在することが控訴人会社の事業遂行に関する株主への説明のために不可欠であると懇願されたため,控訴人会社との間で,同数量が努力目標であるということを明確に合意し,その旨の本件確認書(甲9の2)を差し入れさせた上で,本件独占販売契約の契約書自体には「保証」という文言を用いることを承諾したものである。
(エ) (1)ア(エ)(心裡留保の主張がないこと)は否認ないし争う。
原判決は,被控訴人の主張どおり,本件独占販売契約の「最低引き取り数量」記載の数量の商品が購入されない場合でも,被控訴人が損害賠償義務を負わないことが当事者間で合意されていた旨認定しており,何ら弁論主義に違反しない。
ウ 本件独占販売契約の解除
(1)イのうち,(ア)(イ)は認め,(ウ)は否認ないし争う。
エ 被控訴人が平成17年分の商品につき1.1トンしか引き取っていないこと,控訴人会社が平成20年4月8日付けで被控訴人に支払いを催告したことは認め,控訴人会社に損害が発生したこと及びその損害額,被控訴人の債務不履行責任はいずれも争う。
オ 相殺の意思表示の存在は認める。
4  争点(4)(被控訴人が,控訴人会社から本件各商品を購入せず,又は控訴人会社を介さずに本件各商品の取引を行ったことについての債務不履行又は不法行為の成否及び損害額)
(1)  控訴人会社の主張
ア 平成11年1月から平成15年9月まで
(ア) 平成11年覚書
被控訴人は,平成11年覚書(乙37)の下,本件各商品については,控訴人会社を介して購入し,控訴人会社に売買差額を支払うことを約束していた。
被控訴人が平成11年10月18日に提案した覚書原案(乙58)においては,本件各商品の製造から輸出や国内販売までの商流(常磐化学→被控訴人→控訴人会社→被控訴人→輸出先)が指定されており,平成11年覚書も,ここで指定された商流がベースになっている。このように,平成11年覚書は合意の一部分にすぎず,乙58と併せて取引全体をみる必要がある。
実際にも,このような取引形態は頻繁に行われており,同取引形態は平成11年覚書にも矛盾せず,被控訴人の行動とも合致する。
なお,控訴人会社にマージンを落とすのが被控訴人の好意や恩恵であるならば,平成11年覚書締結の際にその旨の合意があるべきだが,本件において,そのような合意の存在は認められない。そもそも,商人は,他の商人に対して好意や恩恵で金を出すことはなく,この点においても,原判決は不合理である。
このほか,被控訴人が控訴人会社に対して売買差額を支払わなかったのは,平成12年10月から平成13年7月にかけてであり,時期的にみて,これが公認会計士の指摘に基づくものでないことは明らかである。
(イ) 本件1%品
a 被控訴人は,平成11年覚書の存続中に,本件1%品合計968.6kg(別紙4「取引経過一覧表」9,10,12,13,15,17,20,21,23ないし25,28,29,32欄)を,控訴人会社を介さないで,売買差額を支払わず,販売した。
b 被控訴人は,控訴人会社に対し,本件1%品1kg当たり2万円の売買差額を支払う義務を負う。
c よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,合計1937万2000円を支払う義務を負う。
(ウ) 本件3%品
a 被控訴人は,平成15年に,本件3%品合計310kg(別紙4「取引経過一覧表」63ないし65欄)を,控訴人会社を介さないで販売した。
b 被控訴人が控訴人会社に対して支払うべき本件3%品1kg当たりの売買差額(平成15年当時のもの)としては,4万円が相当である。
c よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,合計1240万円を支払うべきである。
d 後記(2)ア(ウ)bは否認する。
e 後記(2)ア(ウ)cは否認する。この時に取引されたバナバ葉は,コロソリン酸を多く含むものであったため,1kg当たり1000円という価格になったものであり,妥当な価格であった(乙48~57参照)。
イ 平成17年1月26日以降
(ア) 本件独占販売契約による義務
本件独占販売契約には,被控訴人が同契約締結以前に常磐化学から買い入れた本件各商品(在庫)につき,控訴人会社を経由せずに販売しても債務不履行にならない旨の特約は記載されておらず,その他,控訴人会社が,このような取引を承諾した事実は認められない。
したがって,被控訴人は,同契約に基づき,控訴人会社から本件各商品を購入する義務を負うだけでなく,同契約締結以前に購入したものであっても,控訴人会社に売買差額を支払っていないものについては,同契約に基づき,売買差額を支払う義務をも負っていた。
(イ) 本件1%品
a 被控訴人は,平成17年1月26日以降,本件1%品合計2350kg(別紙4「取引経過一覧表」39ないし41,53ないし62欄)を,控訴人会社を介さないで販売した。
b 被控訴人は,控訴人会社に対し,本件1%品1kg当たり1万円の売買差額を支払う義務を負う。
c よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,2350万円を支払う義務を負う。
(ウ) 本件3%品
a 被控訴人は,平成17年1月26日以降,本件3%品合計790kg(別紙4「取引経過一覧表」66,71ないし73欄)を,控訴人会社を介さないで販売した。
b 被控訴人が控訴人会社に対して支払うべき本件3%品1kg当たりの売買差額(平成17年以降のもの)としては,2万円が相当である。
c よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,合計1580万円を支払うべきである。
d 後記(2)イ(ウ)bのうち,被控訴人による210万円の支払いは認め,その余は否認ないし争う。控訴人会社は,平成18年2月1日に,同金員(210万円)を被控訴人に返還した。
(エ) 本件独占販売契約が無効である旨の被控訴人の主張は争う。
ウ 不法行為
被控訴人による前記ア及びイの行為は,契約上の債務不履行に当たるだけでなく,詐欺に該当し,不法行為を構成する。
エ 損害
(ア) 売買差額
控訴人会社は,前記ア及びイの売買差額合計7107万2000円の損害を被った。
(イ) 弁護士費用
a 控訴人会社は,反訴請求の提起及び遂行を控訴人ら訴訟代理人富田弁護士らに委任し,相当額の弁護士費用を支払う旨約束した。
b 本件と相当因果関係のある弁護士費用は,請求額の1割である710万7200円である。
オ まとめ
よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,平成11年覚書契約,本件独占販売契約上の債務不履行又は詐欺の不法行為に基づいて,合計7817万9200円及びこれに対する準備書面送達の日の翌日である平成20年4月9日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
(2)  被控訴人の主張
ア 平成11年1月から平成15年9月まで
(ア) 平成11年覚書
a (1)ア(ア)は否認ないし争う。
b 乙58は,平成11年覚書の検討段階での一草案にすぎず,平成11年覚書は,控訴人会社に対する売買差額の支払義務を定めていない。
そもそも,平成16年以前には,ライセンスの基礎となる特許権等が存在しておらず,被控訴人が控訴人会社に対して中間利益を支払うべき法的義務を負うことなどあり得ない。
また,控訴人会社は,原葉の納入により,それに見合う経済的利益を得ていた。
被控訴人は,共同事業を背景とした好意に基づいて,控訴人会社に利益を得させるために,いったん常磐化学から購入した商品を控訴人会社に転売し,それを買い戻す形式を採っていた。しかし,控訴人会社の公認会計士から不適切との指摘を受けてからは,被控訴人と控訴人会社は,上記迂回取引を自粛していた。
(イ) 本件1%品
(1)ア(イ)のうち,aは認め,b及びcは争う。
(ウ) 本件3%品
a (1)ア(ウ)のうち,aは認め,b及びcは争う。
b 本件3%品500kg(別紙4「取引経過一覧表」63ないし66欄)は,平成15年にサンプルとして製造したものである。
c 被控訴人は,控訴人会社の公認会計士から迂回取引は問題である旨の指摘を受けたため,控訴人会社から継続的に本件各商品を購入することを自粛していたが,資金的に困窮を極めていた控訴人会社から,本件各商品を購入できないのであれば,原葉を高く買ってほしいと懇願されたため,通常は1kg当たり450円であった原葉を,1kg当たり1000円で購入し,試験的に本件3%品を製造したものである。
イ 平成17年1月26日以降
(ア) 本件独占販売契約による義務
a (1)イ(ア)は否認ないし争う。
b 本件独占販売契約において,被控訴人が,同契約締結後は,控訴人会社を介して本件各商品を購入する旨定められているとしても,同契約締結前に被控訴人が常磐化学から購入した在庫品を控訴人会社を介さないで販売することが,同契約に違反するものではない。
c すなわち,被控訴人は,同契約交渉の段階から,上記在庫の存在を明らかにし,同在庫を優先的に処分しない限りは,控訴人会社から新たに商品を購入することができない旨伝えていた。
そして,交渉の末,上記在庫の存在を勘案して,同契約上の最低引取保証の数量を減らすとともに,本件確認書を交わすことで実質的にこれを努力目標の数値としたものである。
(イ) 本件1%品
a (1)イ(イ)のうち,aは認め,b及びcは争う。
b 本件1%品2350kg(別紙4「取引経過一覧表」39ないし41,53ないし62欄)は,いずれも本件独占販売契約締結以前に控訴人会社から購入した原葉で製造されたか,被控訴人が常磐化学より購入した商品であり,在庫となっている。
(ウ) 本件3%品
a (1)イ(ウ)のうち,aは認め,b及びcは争う。
b 被控訴人は,控訴人会社の承諾の下,平成18年1月に常磐化学から本件3%品(別紙4「取引経過一覧表」71欄)を購入し,同年2月に被控訴人の米国子会社に輸出したが,当該分につき,平成17年11月30日に,控訴人会社に対し,210万円を先払いした。控訴人会社が後に210万円を返還したことは認めるが,控訴人会社は,いったん承諾して金員を受領したのであって,上記210万円の返還により,遡って同取引が正常な取引でなかったことになるものではない。
c 平成18年4月購入分200kg及び同年8月購入分200kg(別紙4「取引経過一覧表」72,73欄)の本件3%品については,控訴人会社が被控訴人の子会社に対し,米国訴訟を提起して一方的に連絡を絶ってしまった後に,被控訴人が常磐化学から購入して米国に輸出したものであり,控訴人会社を通じた取引を行うことが事実上不可能であった。
(エ) 本件独占販売契約の無効
本件独占販売契約は,前記2(1)のとおり,詐欺取消し又は錯誤により無効であるから,被控訴人には,控訴人会社を通じて商品を購入し,売買差額を支払うべき義務はない。
ウ 以上のとおり,被控訴人が控訴人会社を介さずに本件各商品の取引を行ったことや,売買差額を支払わなかったことは,控訴人会社に対する債務不履行や不法行為には該当せず,控訴人会社に損害は発生していない。
5  争点(5)(被控訴人が係争記述①ないし⑦を含む文書の送付等を行ったこと及び株主総会招集請求をしたことが,控訴人会社に対する信用・名誉毀損等の不法行為に該当するか否か及びその損害額)
(1)  控訴人会社の主張
ア 平成17年6月20日付け投資家への文書送付行為
(ア) 文書の送付
被控訴人は,平成17年6月20日,控訴人会社への出資の可能性のある投資家26社に対して,「Use-Techno Corp.への出資御願いの件」と題する文書(乙29の1の10頁及び11頁)を送付したが,同文書上には,係争記述①がある。
(イ) 不法行為
a 被控訴人の取締役を控訴人会社の取締役として送り込むことは,まだ確定的な事実ではなく,結果として実現しなかった。
b 被控訴人の上記時点での同文書送付は,控訴人会社に対する投資可能性を奪うものであり,控訴人会社の信用や名誉を毀損し,その業務を妨害する不法行為である。
(ウ) 損害
上記不法行為の結果,控訴人会社は,70万円の損害を被った。
(エ) まとめ
よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,不法行為による損害賠償金70万円及びこれに対する不法行為の日である同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
イ 平成18年11月の株主への文書送付行為
(ア) 文書の送付
被控訴人は,平成18年11月1日,控訴人会社の株主全員に対し,「株式会社ユーステクノコーポレーションの法人,個人株主の皆様」と題する文書(乙29の1)を,同月27日,「株式会社ユーステクノコーポレーションの法人,個人株主の皆様(№2)」と題する文書(乙33の1)を,それぞれ送付したところ,これらの文書上には,係争記述②ないし⑦がある(なお,係争記述⑥に関し,被控訴人は,当事者間に守秘条項があることを知りながら,控訴人らがアイオベイト社と和解したこと及びその和解内容を恣意的に解釈し開示している。)。
(イ) 不法行為
これらの文書の送付は,株主権の行使の外形を採っているが,被控訴人は,別件米国訴訟を有利に運ぶために行ったものであり,株主権の濫用であって,控訴人会社の業務に対する不法行為となる。
その上,係争記述②ないし⑤,⑦は,いずれも事実に反しており,控訴人会社の名誉・信用を毀損する不法行為にも該当する。
さらに,係争記述⑤ないし⑦は,株主を誤導し,控訴人会社の業務を妨害するものである。
(ウ) 損害
上記不法行為の結果,控訴人会社は,100万円の損害を被った。
(エ) まとめ
よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,不法行為による損害賠償金100万円及びこれに対する不法行為の後である同月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
ウ 臨時株主総会の招集請求
(ア) 被控訴人の行為等
a 被控訴人は,同年12月20日,控訴人会社の21名の株主と共同して,控訴人会社の役員全員の解任を求める旨の臨時株主総会招集請求を行った。
b 控訴人会社は,平成19年2月15日,臨時株主総会を開催したが,当日出席したのは,被控訴人と他1名のみであり,出席株主の株式総数は1.8%にとどまり,法定の3%に達しなかったため,流会となった。
(イ) 不法行為
被控訴人の上記臨時株主総会招集の請求は,別件米国訴訟を有利に進めることを目的とする不当なものであり,株主権の濫用であり,不法行為となる。
(ウ) 損害
上記不法行為の結果,控訴人会社は,130万円の損害を被った。
(エ) まとめ
よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,不法行為による損害賠償金130万円及びこれに対する不法行為の日である平成18年12月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
エ 相殺の意思表示
控訴人会社は,被控訴人に対し,①前記アの損害賠償請求権70万円及びこれに対する平成17年6月20日から平成19年1月31日まで年5分の割合による遅延損害金5万6671円の合計75万6671円,②前記イの損害賠償請求権100万円及びこれに対する平成18年11月28日から平成19年1月31日まで年5分の割合による遅延損害金8904円の合計100万8904円,③前記ウの損害賠償請求権130万円及びこれに対する平成18年12月20日から平成19年1月31日まで年5分の割合による遅延損害金7657円の合計130万7657円,④後記6(1)ア(ウ)の損害賠償請求権488万円の各債権を有するところ,平成20年10月20日の原審第15回弁論準備手続期日において,①ないし④の請求権をもって,その順序で,被控訴人の前記第2の1(7)記載の不当利得返還請求権279万5832円と対当額で相殺する旨の意思表示をした(ただし④の債権については,予備的に相殺に供することとする。)。
(2)  被控訴人の主張
ア 平成17年6月20日付け投資家への文書送付行為
(ア) (1)アのうち,(ア)(文書の送付)は認め,その余は否認ないし争う。
(イ) 上記文書の送付当時,控訴人会社は,新たな投資を得なければその存続が危ぶまれる状況にあった。
被控訴人は,同文書において,取引面において本件独占販売契約を締結して控訴人会社を支援していくため,控訴人会社からの要請に基づき,今後は安定的な収益が期待できる旨を述べて,新規投資を勧誘したものであり,控訴人会社にとって不利益になる内容ではない。
イ 平成18年11月の株主への文書送付行為
(ア) (1)イのうち,(ア)(文書の送付)は認め(ただし,係争記述⑥に関し,アイオベイト社との和解内容を恣意的に解釈し開示している旨の部分は除く。),その余は否認ないし争う。
(イ) 被控訴人は,控訴人会社の株主であり,株主同士が情報を交換し,会社の経営や役員の選任,解任などについて意見を述べ,賛同を求めることは,株主権の行使として当然に許される。
控訴人Aの手がけた事業が失敗し,控訴人会社が被控訴人との間で本件独占販売契約に基づき再開した共同事業も成果が上がらず,危機的な状況が改善できる目途も立たないのに,控訴人Aは,しばしばその所在がわからなくなるなど,投資家(株主)に対し,十分な説明責任を果たしていなかった。
そこで,被控訴人は,控訴人Aが控訴人会社の経営者として不適切であると考えて,臨時株主総会の招集を請求するとともに,①控訴人Aの解任,②新社長の選任,③控訴人会社の直近の決算書,財務諸表を基に,第三者の公認会計士による同社の財務内容についてのコメントと,債務超過の可能性についての質疑応答,④控訴人会社のメインバンクの京都銀行からの長期借入金の返済状況についての説明と満期期日を延長したことについての説明を同行より聴取し,さらに今後の同行の控訴人会社に対する方針につき説明を受けることの4点につき株主間で相談するという,経営建直し,健全化のための具体的な提案を行った。
このような行為は,株主として正当な権利の行使であって,何ら違法なものではなく,控訴人会社の利益にも資する行為である。
また,被控訴人は,株主としての権利を行使するため,公共の利害に関する事実に係り,公益を図る目的で上記文書を送付したものである。文書に記述された内容は,真実であり,少なくとも被控訴人が真実であると信じたことにつき,相当の理由がある。
ウ 臨時株主総会の招集請求
(ア) (1)ウのうち,(ア)(被控訴人の行為等)は認め,その余は否認ないし争う。
(イ) 株主総会の招集を請求することは,株主の権利であり,被控訴人に不当な目的はない。控訴人会社の長期に及ぶ経営不振と控訴人Aの投資家からの信用の失墜という状況下で,経営者の交代を求めて株主総会の招集を請求することは,株主に株主総会招集請求権を認めた法の趣旨に合致するものである。
エ 相殺の意思表示の存在は認める。
6  争点(6)(被控訴人による不当訴訟(第1事件本訴)提起の不法行為の成否及び損害額(訴え変更前後の請求それぞれにつき))
(1)  控訴人会社の主張
ア 訴え変更前の請求について(相殺の抗弁のみ)
(ア) 不当提訴
a 被控訴人は,控訴人会社が米国の裁判所において被控訴人の米国子会社に対して提起した米国訴訟を牽制し,米国子会社を援護し,あるいは米国訴訟のための資料を得るために,本件訴訟を提起したものである。
そして,米国特許に無効理由があれば,被控訴人は本件各商品を販売できなかったのであるから,被控訴人に別件米国訴訟を提起されたことによる逸失利益の損害が生じるはずがなく,被控訴人も,損害が発生しないことを知っていた。
さらに,被控訴人は,米国特許が有効であることを前提に本件各商品を販売していたのであるから,その特許権に基づいて訴訟が提起されたからといって,特許権の無効を主張して損害賠償を請求することは,クリーンハンドの原則に違反する。
b 以上のとおり,別件米国訴訟提起を理由とする被控訴人による逸失利益の損害賠償請求(前記第2の2(1)エ(イ))は,公序良俗違反であり,不法行為に該当する。
(イ) 損害
a 控訴人会社は,被控訴人の上記訴えに応訴するために,本訴控訴人ら代理人である富田弁護士らに委任し,相当額の弁護士費用を支払う旨約束した。
b 被控訴人の上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は488万円である。
(ウ) まとめ
よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,不法行為による損害賠償として488万円を支払う義務を負う。
イ 訴え変更後の請求について(予備的請求原因)
(ア) 不法行為
a 被控訴人は,本件独占販売契約を締結する前に,米国特許2が無効であって権利行使可能でないことを知り,又は容易に知ることができた。
b したがって,詐欺行為の不法行為並びに錯誤又は詐欺取消しを理由とする控訴人会社に対する第1事件本訴の請求(詐欺による不法行為,錯誤又は詐欺取消しによる不当利得に関する部分)は,不当訴訟であり,不法行為に該当する。
(イ) 損害
a 控訴人会社は,被控訴人の上記訴えに応訴するために,本訴控訴人ら代理人である富田弁護士らに委任し,相当額の弁護士費用を支払う旨約束した。
b 被控訴人の上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は418万円である。
(ウ) まとめ
よって,被控訴人は,控訴人会社に対し,不法行為による損害賠償として418万円及びこれに対する平成20年4月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
(2)  被控訴人の主張
ア (1)アのうち,(イ)aは不知,その余は否認ないし争う。
イ (1)イのうち,(イ)aは不知,その余は否認ないし争う。
第4  当裁判所の判断
1  前記(第2の1)前提事実,並びに証拠(甲2,4,5の1及び2,6の1及び2,7,9の2,10ないし15,21ないし23,26,27の1及び2,28,32,33,35,37,38,乙21ないし23,25,27,29の1,32,37ないし39,40,41,44,45,47の1及び2,54,55,57,58,60,62の1ないし4,63,64,68,72,77の1,90の1及び2,91の1及び2,93,95,99,原審における証人E,B被控訴人代表者,控訴人A本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(1)  本件発明に至る経緯及び臨床試験の内容
ア 被控訴人社員のEは,平成8年ころ,他の社員から,当時日本においてバナバ茶を販売していた控訴人会社を紹介された。控訴人会社代表者の控訴人Aは,被控訴人の米国子会社を通じて,バナバ茶を米国市場で販売することを希望していたが,米国では茶の需要がさほど高くないと見込まれていた。
当時,バナバ葉に含まれる有効成分のうちコロソリン酸に血糖値低下作用等があることは既に知られていた(乙27)が,Eは,バナバ葉に含まれるコロソリン酸で規格化されたエキスを製造し,これを健康食品として販売することを思い付き,控訴人Aに提案した。控訴人Aは,当初,この提案に乗り気ではなかったが,Eが繰り返し説得したこともあって,賛同するようになり,控訴人会社と被控訴人は,バナバ葉が含有するコロソリン酸を規格化して米国での販売に適したエキスを製造するための共同開発を行うことを合意した。
イ(ア) 控訴人会社も被控訴人も,当時,バナバの原葉からコロソリン酸を高濃度で抽出する技術を有していなかった。そこで,被控訴人は,平成10年4月ころ,取引先であった常磐化学に対し,コロソリン酸を高濃度で含むバナバ葉エキスの製造を依頼した。
(イ) 常磐化学の研究開発部所属のDは,同月ころ,コロソリン酸抽出実験に着手し,同年秋ころまでに,バナバ葉からエタノール抽出によって高濃度のコロソリン酸を抽出する製法を確立し,エキスの製造に成功した(甲4,5の1及び2)。
ウ 控訴人会社は,平成9年7月ころ,東京CRO株式会社との間で,臨床試験実施契約を締結し,同社に対し,熱水抽出方法により製造したエキスである控訴人会社の健康商品「バナバミン」を,軽症の糖尿病患者に投与して,その有効性,安全性を検討することを目的とするヒト臨床試験を委託した。なお,控訴人会社は,東京CROから,コロソリン酸自体は既知物質である上,これが抗糖尿病作用,血糖値低下作用を有することも既知であるが,これらの作用がヒトで確認できれば,用途発明として特許取得の可能性があるとの報告を受けていた(乙27,21,25)。
東京慈恵会医科大学のE教授ほかは,東京CROからの依頼を受けて,前記「バナバミン」を用いてヒト臨床試験を実施し(乙22),平成11年5月20日発行の「薬理と治療 Vol.27 No.5」(乙23)上に,「バナバ葉の熱水抽出エキスを含有するバナバミン錠の投与により,軽症糖尿病患者において,血糖値が有意に低下し,安全性にも問題がない」旨のヒト臨床試験結果を公表した。なお,東京CROは,平成10年11月ころ,控訴人Aに対し,これとほぼ同旨の内容を報告していた。
エ E教授らは,その後,バナバ葉含水アルコール抽出エキスによる臨床試験を実施し,その結果を,平成14年4月5日受付で「健康・栄養食品研究 Vol.5 No.22002」(乙72)に掲載したが,日本特許や米国特許1の出願当時は,アルコール(エタノール)抽出エキスによるヒト臨床試験が行われていたわけではなかった。
(2)  米国特許2の有効性並びに関係者の役割及び認識
ア 控訴人会社は,平成10年11月27日,常磐化学の研究開発部所属の主任研究員Hに対し,特許出願に必要であるとして,バナバアルコール抽出エキスの製造工程について照会し(甲6の1),Hは,同月28日,控訴人会社に対し,その製造工程を記載した書面をファクシミリで送付した(甲6の2)。
イ 日本特許出願や米国特許1及び2の明細書上には,いずれも,前記(1)ウの,E教授による,熱水抽出方法によって製造された「バナバミン」を用いて行われたヒト臨床試験のデータが,エタノール抽出方法によって製造されたエキスを用いて行われたヒト臨床試験のデータであるかのように記載されている。
そして,控訴人Aは,このような記載の仕方は米国特許法のベストモードの要請上許される範囲内であると思ったと供述している(原審におけるA本人調書19頁以下)。
ウ 被控訴人及び常磐化学は,控訴人Aが本件発明について日米両国で特許出願したことに直接関与はしなかったが,特許出願したこと自体は,被控訴人の意思に反するものではなかった。被控訴人社員のEは,平成14年10月ころ,控訴人Aから米国特許1の明細書を見せられた際に,米国特許1の特許請求の範囲の記載が不合理であることを指摘した。これを受けて,控訴人Aは,米国特許2の出願(分割出願)をするに至った。
被控訴人は,遅くともこの時点で,上記出願において,自身が発明者とされていないことを知ったが,特許成立後には,名義にかかわらず,控訴人会社と被控訴人の共同の利益のために,共同で特許権を行使できるものと考えていた。
エ 被控訴人は,平成16年2月24日付け文書(乙91の1)で,控訴人会社に対し,コロソリン酸の医家向け医薬品の多国籍企業へのライセンス交渉に関し,控訴人会社との間で合意に至っていない事実を指摘し,早期に合意に至らなければ,被控訴人が独自に多国籍企業とライセンス交渉を開始するとともに,米国特許2につき,特許無効審判手続に入る旨通告した。なお,同文書には,「ユーステクノの特許無効審判に関する資料」と題する資料が添付されており,ここでは,米国特許に関し,常磐化学がデータを保有していること(先発明者に当たり得ること)や,特許請求の範囲の記載の不合理性などが指摘されていた。
また,被控訴人は,平成18年3月17日付け文書(乙90の1)で,控訴人会社に対し,本件独占販売契約の現状に触れるとともに,控訴人会社があくまで同契約の解消を主張するのであれば,米国特許2の無効審判手続をも辞さない旨通告した。なお,同文書には,常磐化学が同日付けで作成した「UTC保有特許に関する先発権を主張できる根拠」と題する書面(乙90の2)が添付されており,ここでは,米国特許2につき,常磐化学が先発明者たり得る旨が記載されていた。
(3)  控訴人会社と被控訴人間の取引状況
ア 平成11年覚書に基づく取引
(ア) 控訴人会社,被控訴人,常磐化学の三者間で,平成11年以降,平成11年覚書に基づき,本件各商品に係る取引が行われるようになり,控訴人会社は,被控訴人に対して原材料であるバナバ葉を販売し,被控訴人は,常磐化学に対して,同バナバ葉の加工を依頼し,常磐化学は,同バナバ葉から本件各商品(ただし,そのほとんどが本件1%品であった。)を製造し,被控訴人は,常磐化学から本件各商品を買い取って,ケムコ社等に輸出し,米国市場で販売していた(乙41,甲32)。
そして,被控訴人は,常磐化学から購入した本件1%品の多くにつき,帳簿上,いったん控訴人会社に転売し,同社から買い戻したことにして,同社に対して,商品1kg当たり2万円の売買差額を支払っていた(乙41)。
被控訴人が,平成11年1月21日から本件独占販売契約締結までの間に,常磐化学から購入した本件各商品の購入時期,数量,米国への輸出時期及び控訴人会社への売買差額の支払の有無は,別紙4「取引経過一覧表」の1ないし66欄のとおりであり(同表の「売買差額請求分」欄に○印がないものは,控訴人会社に対して売買差額が支払われている。),同表の1ないし62欄の部分が本件1%品に関する取引であった(甲32)。
なお,被控訴人が,同年10月18日ころ,控訴人会社にファックス送信した「グルコソールの取扱いに関する覚書」と題する書面(乙58)には,被控訴人が常磐化学から購入したエキス(本件1%品)につき,いったん控訴人会社を介した上で,輸出等する旨の商流が記載されていたが,同書面上,日付の記載や当事者の社印等もなく,これは正式な契約書面ではない。他方で,正式な契約書面である平成11年覚書(同年11月17日付け)上には,被控訴人が常磐化学から購入した本件各商品につき,いったん控訴人会社に転売し,被控訴人がこれを買い戻す旨の記載はなかった(乙37)。
(イ) 被控訴人は,平成12年から平成13年にかけて購入,輸出した本件1%品のうち,合計968.6kg分(同表9,10,12,13,15,17,20,21,23ないし25,28,29,32欄)については,控訴人会社を介して取引を行わず,同社に対して売買差額を支払わなかった。
控訴人会社は,平成14年ないし15年ころ,株式公開を目指して公認会計士の監査を受けるようになったが,公認会計士から,上記被控訴人からの本件1%品の購入と販売は,入荷及び出荷の事実がなく,利益に操作性があるように見える不明瞭な取引であり,1kg当たり2万円の売買差額を得る理由が明確ではないと指摘された(同公認会計士は,控訴人会社に対し,いったん商品を実際に入荷して,品質検査を行った上で,これを被控訴人に出荷する方法等を勧めた。)(乙41)。
イ 取引の停止
(ア) 被控訴人による本件1%品の米国への輸出量は,平成13年がピークであり,平成14年に入ると,中国やインドなどから廉価な類似品が販売されたため,売上げが急激に減少し,被控訴人は,大量の在庫を抱えるようになった。
また,被控訴人代表者のBは,カリフォルニア州アナハイムで開催された展示会で,控訴人Aが,被控訴人の取引先に働きかけている様子を見かけ,これが被控訴人に対する背信行為であると考えたこともあって,平成14年5月末ころを最後に,控訴人会社との取引をいったん停止した(ただし,後記ウの取引を除く。)(甲32,乙29の1)。
(イ) 被控訴人は,この時点で,在庫として本件1%品を約3000kg抱えており,平成17年1月時点でも,2000kg以上の在庫を有していた(甲32)。
被控訴人は,同年2月以降,在庫を減らすために上記在庫品を米国子会社に輸出したが,米国子会社の在庫となった。
被控訴人は,この本件1%品の在庫2350kg分(別紙4「取引経過一覧表」39ないし41,53ないし62欄)について,控訴人会社に対して,売買差額を支払っていない。
(ウ) 控訴人Aは,平成15年6月ころ,被控訴人に対し,取引高の激減を理由に,平成11年覚書の解消を申し入れた。被控訴人と控訴人会社は,遅くとも,平成15年11月25日,被控訴人が,控訴人会社の取締役会の承認の下で,所有していた控訴人会社の株式を他に売却した(乙44)際に,平成11年覚書についても合意解除した。この際,控訴人会社と被控訴人との間で,売買差額の支払について話し合われたことはない。
ウ 本件3%品の取引
被控訴人は,平成15年2月ころ,控訴人会社からの依頼により,試験的に本件3%品を製造することとし,バナバ葉を1kg当たり1000円という高値で購入し(乙54,55),本件3%品の製造を常磐化学に依頼した。そして,被控訴人は,同年8月から12月にかけて,本件3%品合計500kg(別紙4「取引経過一覧表」の63ないし66欄)を常磐化学から購入し,そのうち310kg(同表63ないし65欄)は同年8月から9月にかけて,残り190kg(同表66欄)は平成17年12月22日に,米国に輸出した。
被控訴人は,控訴人会社に対し,この本件3%品合計500kgについての売買差額を支払っていない(甲32)。
エ 本件独占販売契約の締結
(ア) 事前交渉
a 以上のような状況の下,平成16年4月に米国特許2が認められた後に,控訴人Aは,同年10月ころ,被控訴人に対し,控訴人会社との取引を再開し協力して米国市場において本件各商品の販売を行うよう申し入れた。
b 被控訴人は,前記イのとおり,控訴人会社との取引を停止している状態であったが,被控訴人と控訴人会社とが共同で米国特許2を利用し,競合会社に警告を与え,破壊された市場を立て直せば,中国やインドの廉価な類似品を排除し,売上げを回復できると考え,本件各商品の米国市場での販売を再開することとした(乙60,63)。
c 被控訴人は,当時既に大量の在庫を抱えていたことから,本件独占販売契約上に被控訴人の最低引取数量保証条項を入れることに難色を示した。また,被控訴人は,米国特許2による他社の排除が功を奏するまでに時間がかかるとして,3年の契約期間では短い旨を主張した(甲27の2,乙45,63)。
しかし,控訴人Aは,投資家から新規投資を引き出すためには,契約書に最低引取数量保証条項を入れる必要があると述べたため,被控訴人は,やむを得ず同条項を残すこととし,その代わりに,同契約書の草案に記載されていた商品の単価や最低引取数量が未達成の場合の違約金条項を削除し(甲28),さらに,本件独占販売契約に係る契約書と一体のものとして,控訴人会社から被控訴人にあてた本件確認書を差し入れさせ,当初の契約期間を5年とすることで,控訴人会社と合意した(甲27の2,28,乙45,63)。
(イ) 本件独占販売契約の締結
被控訴人は,控訴人会社との間で,平成17年1月26日,前記第2の1(5)イ(イ)の内容を有する本件独占販売契約を締結し,米国内での本件各商品の販売を再開したが,同契約書上,商品の単価の記載や違約金条項はなく,同日付けで,控訴人会社から被控訴人に,前記第2の1(5)イ(ウ)の内容を有する本件確認書(甲9の2)が差し入れられた。
なお,同契約上,被控訴人は,控訴人会社から本件各商品を購入することとされており,控訴人会社は,同年3月1日,常磐化学との間で取引基本契約を締結し,常磐化学に対して本件各商品の製造を委託し,常磐化学は,控訴人会社から購入したバナバ葉により本件各商品を製造することとされた(乙64)。
(ウ) 本件独占販売契約締結後の取引
a 被控訴人は,平成18年1月以降,別紙4「取引経過一覧表」71ないし73欄のとおり,常磐化学から,直接,本件3%品を合計600kg購入し,米国に輸出した(甲32)。
被控訴人は,平成17年11月30日,控訴人会社に対して,上記本件3%品のうち200kg分(同表71欄)につき,1kg当たり1万円,合計210万円(消費税込み)の手数料(売買差額)を前払いしたが,控訴人会社は,平成18年2月1日,被控訴人に対し,上記210万円を返金した(甲26,32,乙47の1及び2,62の1ないし4)。
b 被控訴人と控訴人会社は共同して,被控訴人の米国子会社ソフト・ジェル社名で,平成17年2月ころ以降,競合品を販売する業者に対して,米国特許1,2等を侵害するとして,警告書(乙77の1等)を送付した。
オ 本件独占販売契約の解消に至る経緯
(ア) 平成17年12月27日までの経緯
a 本件独占販売契約締結後,本件各商品の米国での売上げは低迷していた上,控訴人Aが,平成17年6月ころ,「本件1%品には,血糖値上昇抑制の効果がなく,18%程度の濃度が必要である」などと言い出したことも一因となり,被控訴人は,同年7月以降,販売不振・在庫負担を理由に,控訴人会社から商品を購入することを中止した。
b 控訴人Aは,同年9月3日,被控訴人のG専務とEにあてて,本件各商品の購入を要請し,本件独占販売契約には3か月前の通告による解約条項等が存在することに触れ,購入できないのであれば,早めの契約変更も可能である旨記載したEメール(甲23)を送信した。
また,控訴人Aは,同月12日,Gらにあてて,「15%品」ないし「18%品」も米国特許の範囲内であるから購入してもらいたい旨記載したEメール(甲37)を送信した。
c 他方で,Bは,同月6日,控訴人会社に対し,被控訴人は一時在庫として4トン以上の商品を抱えていたこと,現状の販売数量と警告相手の対応などからすれば,本件1%品の在庫をどの程度減らせるか疑問であること,控訴人らが提案する「18%品」については,特許による保護がなければ注文できないこと,契約に基づき達成率から被控訴人が独占販売権を委託する相手としてふさわしくないと判断するのであれば,他の販売会社の起用等を検討してよいこと,その場合でも被控訴人が控訴人会社から購入した原葉で製造したエキス及び控訴人会社から購入したエキスについては特許への抵触を問題としないでほしいこと,被控訴人は株式公開に向けて準備中であることから,これ以上は購入できないことを記載した書面(乙38)をファックス送信した。
控訴人Aは,同月19日,Eにあてて,被控訴人の同月6日付けの上記書面は,本件独占販売契約を解消するという趣旨であるか否かを確認する旨のEメールを送信した。
d さらに,控訴人Aは,同年10月1日,Bに対し,商品を購入できないのであれば,本件独占販売契約を被控訴人側から破棄するか否か,被控訴人が在庫を販売する場合に,控訴人会社に対してライセンス料として一定の金額を支払うか否かなどを問いただす内容の書面(乙39)を送付した。
これに対し,Bは,同月25日,控訴人Aあてに,本件3%品について受注があったため,控訴人会社に対して200kg分を発注する予定であること,ようやく売上げ改善の兆しが見えてきた旨の書面(乙95)を送付した。
e しかし,その後も被控訴人からの本件1%品の購入はなく,控訴人Aは,同年12月24日,Bにあてて,同月27日に面談をしたい旨申し入れるとともに,その際に確認すべき内容をまとめた書面(乙40の2頁以降)を送付した。同書面には,「3.現契約解消に関する確認 ①以上の理由から現契約・・・だけは,御社のご都合で解約せざるを得なくなりました。先ず,この点を確認させていただきます。(お世話になりましたが残念な結果と相成りました。) ②契約数量は過大であったかもしれません。何れにせよ,B社長様ご指摘の通り,現契約・・・が一旦解消し,新たな関係を構築する準備を始めるべきと,考えます。」と記載されていた。
f 控訴人Aは,同日,Bらと面談した。被控訴人側の方針は,商品をこれ以上は購入できないものの,在庫があるため,自ら本件独占販売契約を解消する意思はなく,この点については控訴人会社に委ねるというものであった(乙38,39)。
(イ) 平成17年12月27日以降の経緯
a 控訴人会社は,被控訴人に対し,本件独占販売契約は平成17年12月27日に終了したこと,最低引取数量保証義務の履行を求めること,被控訴人は,同契約解消により,米国での独占販売権も特許権に基づく販売権も有していないことなどを記載した平成18年2月20日付け書面(甲10)を送付した。
これに対し,被控訴人は,控訴人会社に対し,被控訴人から本件独占販売契約の破棄を申し入れたことはない旨記載した同月27日付け書面(甲11)を送付した。
b そこで,控訴人会社は,被控訴人に対し,再度,本件独占販売契約は,平成17年12月27日をもって解消した旨を記載した平成18年4月24日付け書面(甲12)を送付し,控訴人らは,同日,別件米国訴訟を提起した(甲13)。
c 被控訴人は,同年5月1日付けで,控訴人会社に対し,米国での「告訴通告」につき異議を述べる(甲14)とともに,①本件独占販売契約は終了しておらず,有効に存続していること,②本件発明は,被控訴人社員のE,常磐化学社員のD(又はH),控訴人Aの共同発明であり,日本特許出願について出願人名義の変更(被控訴人,常磐化学,控訴人会社の三社の共有)に協力すべきこと,米国特許についても,発明者名の訂正手続に協力すべきこと,③売掛金840万円の支払を請求することを内容とする同年6月9日付け内容証明郵便を送付し(甲15),同年7月7日,東京地方裁判所において,本件訴訟(第1事件本訴)を提起した。
2  争点(1)(控訴人らによる不法行為(詐欺)の成否及び損害額)及び争点(2)(被控訴人の錯誤等による控訴人会社の不当利得の成否及び損失額)について
事案にかんがみ,予備的請求,主位的請求の順に判断することとする。
(1)  本件独占販売契約の締結と被控訴人の錯誤無効,詐欺取消しに基づく不当利得返還請求(予備的請求)
ア 上記1判示の事実及び前記第2の1の前提事実によれば,被控訴人と控訴人会社とが一連の事業展開を行うに至った経緯は,被控訴人社員のEが,バナバ葉に含まれるコロソリン酸に血糖低下作用があることから,コロソリン酸の規格化されたエキスを商品として開発して米国で販売することを思い立ち,バナバ茶等の製造販売を業とする控訴人らに提案し,当初乗り気ではなかった控訴人Aを説得して,両社でこれを共同開発等をすることにし,平成10年4月ころ,被控訴人がその取引先の常磐化学に対しコロソリン酸を高濃度で含むバナバ葉エキスの製造を依頼したところ,これを受けた常磐化学は,同年秋ころまでには,エタノール抽出による高濃度のコロソリン酸の抽出,エキスの製造に成功した,他方,控訴人会社も,平成9年7月ころ,東京CROに対し熱水抽出に係るエキス(商品名は「バナバミン」)を用いた血糖低下作用についての臨床試験を委託し,同社から,コロソリン酸が血糖低下作用を有することは既知ではあるものの,この作用をヒトで確認できれば,特許取得の可能性があるとの報告を受け,さらに,東京CROの依頼を受けて臨床試験をしていた東京慈恵会医科大学のE教授に対し,そのころ,上記バナバミンを用いたヒト臨床試験の実施を委託した,控訴人会社は,三井物産を共同出願人とし,控訴人Aが発明者となって,平成10年12月9日,バナバ葉の熱水又はアルコール抽出によって得られるコロソリン酸について,濃縮物100mg当たりの含有量を0.1~15mgの範囲に限定する構成で日本で特許出願をし,そして,平成11年11月に覚書を取り交わして取引に入ったが,平成13年にピークに達した後,中国やインドなどからの廉価な類似品に押され,売上げが急激に減少した,このため,被控訴人が大量の在庫を抱えるようになり,平成14年5月末ころには取引は停止状態に至っていた,そのような状況の下で,控訴人Aがした分割出願に基づき平成16年4月に米国特許2が査定されたところ,控訴人Aが同年10月ころに被控訴人に対し取引再開を申し入れ,これに対し,既に大量の在庫を抱えていた被控訴人は,米国特許2の権利を行使し,これによって競合会社,競合商品を排除できるものと考え,結局,平成17年1月26日に本件独占販売契約を締結するに至った,というのである。
そうであれば,両社は,特許権があることを出発点として,これを行使して販売戦略を立てたというものではなく,被控訴人側が,バナバ茶の有する周知の健康増進作用に着眼し,これを米国で販売することを持ちかけ,その過程の中で,控訴人Aが特許出願も可能との情報に接し,三井物産とともに,特許出願をするに至ったものであるから,特許出願は,販売戦略の主軸としてされたものではなく,その過程の中で偶々生じたにすぎないのであり,本件での特許権のこのような位置付けは,被控訴人と控訴人らとで格別な差異はなく,被控訴人が最終的にその訴えを取り下げたものの,本件訴訟で,日本特許出願の特許を受ける権利が両社の共有関係にあることの確認を求めたことが物語るように,本件での特許権は,その持分割合はともかく,両社ともその共有に係るものであるという認識があったともいえるものである。
確かに,本件独占販売契約を締結しての取引再開後の両社の取引は,米国特許によって競合会社,競合商品を排除できるものと考えたことが重要な契機の一つになっているが,米国特許が法的な効力を維持できることが条件とされたものではなく,査定された特許が実際に市場において支配力・排除力を発揮することが重要であるとして締結された契約であると認められるものであり,そして,実際にも,本件独占販売契約が事実上終了するまで,米国特許はその効力を維持していたのであり,取引の終了後に,特許要件のうち,手続的な要件を欠いたことにより,無効ないし無効と準ずる事態になったとしても,これによって,被控訴人には契約上格別な損失が生じているわけではなく(被控訴人の販売不調が特許の上記のような瑕疵事由によるものではなく,後述のように本件各商品の有する弱点に起因するものと認められる。),本件独占販売契約が既往に遡及して錯誤によって無効に帰するものではないというべきである。
イ 本件における日米での特許権の帰趨をみると,上述したように,被控訴人と控訴人会社との取引関係が販売不調等により破綻し,かつ,両社の人的な関係も悪化したことから,本件独占販売契約が事実上の終焉を迎え,平成18年4月,控訴人らが被控訴人の米国子会社等を被告として別件米国訴訟を提起し,その訴訟の中で,被控訴人の米国子会社等が妨訴の抗弁として米国特許の無効等を主張し,米国特許1,2とも,実施可能要件や臨床試験の虚偽記載を理由に無効ないし権利行使不可能であるとの判決がされたものであるが,この点に関し,被控訴人は,虚偽記載については,被控訴人は全く関知していないとして,控訴人らにのみにその責任があると主張する。
そもそも,本件発明は,バナバ茶を健康商品として売り出す戦略のいくつかある手段の一つとして控訴人らによって特許化されたものであり,被控訴人も控訴人らも,本件発明が,商業的にはともかく,技術思想としては,決して画期的なものではなく創作性があまり高くないことは,相当程度に実際に認識していたはずである。我が国の特許庁が行った本件発明の特許出願の審査手続からでも明らかであるように,本件発明は,健康ブーム,肥満対策という先進国の社会に共通する高い関心に視点を当て,新たな健康商品を製造販売しようとするものであり,既に自然界に嗜好品として存在するバナバ茶を材料にするため,人体への危険がなく容易に臨床試験を行うことができ,消費者にも安心して気軽に利用してもらえ,バナバ茶には,血糖値低下作用があり,それはバナバ茶に含まれるコロソリン酸によるものであり,バナバ葉から熱水又はエタノールによってコロソリン酸を抽出し,そのエキスを作るというありふれた方法が用いられ,ただし,特許出願するに当たっては,含有量について数値限定をしたものである。弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実からすれば,本件発明は,周知の課題に対し,周知で,かつ,容易な技術によって構成され,しかも,その作用効果も特段の事情でもない限り構成から容易に予想されるというものであり,このような特許出願については,進歩性の判断基準においてやや緩やかであったとされる平成10年11月の出願当時における日本の特許庁の実務であっても,特許査定になる可能性はあまり高いものではなく,仮に特許査定を受けたとしても,いずれ特許無効の審判請求を受ければ,無効になる可能性は無視することはできないものであったといえる。そして,日本におけるこのような状況は,控訴人らも,被控訴人も,本件特許出願時ないしはその後にある程度は認識していたか,あるいは容易に認識し得たはずである。このような本件発明やこれによって製造販売される本件各商品の有するそもそもの弱点は,仮に運良く商業的に成功すると,他社も同様の商品の開発を行い,容易な技術であるため模倣されやすく,しかも,そうした競合商品に対して実効ある排除力を発揮することは,法的にはともかく実際上難しく,避け難いということである。そして,実際に,被控訴人が平成13年に売上げを伸ばすと,中国やインドからの廉価な類似品に押され,所望の売上げに及ばず,挫折したものである。その主要な原因は,本件発明の創作性について存する弱点にあるのであって,米国特許が特許要件上の手続違背により無効等になり得るものであったことによるものではない。
なお,米国特許商標庁が米国特許2につき先行技術と比較対照させながら進歩性を肯認した根拠が甲29に提示されているが,必ずしも説得的な理由付けであるとは思われない。そして,別件米国訴訟の連邦地裁の判決では,米国特許2について,同訴訟の被告(被控訴人の子会社等)のした主張に基づいて,実施可能要件の欠如及び虚偽記載を理由に無効ないし権利行使不可能と判断したものと解されるが,実施可能要件の説示部分は,我が国の実務でいえば,周知技術によって容易に行うことができるものと解される事項につき実施可能要件欠如と判断しており,また,虚偽記載の説示部分は,被控訴人のような本件発明の開発に関与した者でないと想到するのに困難を伴う特異性の高い主張に基づいて行われた判断であると解され,客観的には,特許の瑕疵事由としては,進歩性の欠如と異なり,指摘されやすい瑕疵事由ではない。
ウ 虚偽記載の点については,被控訴人社員のEが,平成20年5月23日付けの陳述書(甲38)において,被控訴人側は,控訴人らから,米国特許に係る明細書において実施例として記載されていたヒト臨床試験が,いつどのように行われたかについては,一度も説明を受けておらず,そもそも米国特許の出願自体につき,秘匿されていた旨陳述する。
米国特許の出願に先立って被控訴人に対しどのような情報提供がされたかについては,これを明らかにする具体的な証拠はないものの,被控訴人及びその社員Eが本件発明の開発等に初期段階から深く関わった前記経緯に照らすならば,特許出願されたこと自体を長期間全く知らなかったとのEの陳述部分はにわかに信用することはできず,また,被控訴人が控訴人らから正式な書面などによる事前の照会はなかったとしても,出願された後,そう遅くない段階で出願に関する情報に接していたものと考えられ,遅くとも本件独占販売契約の締結の交渉が始まるまでの間に,特許出願の明細書に関する情報に接し,これを検討する機会は十分に与えられていたものといえる。
他方,控訴人Aが,米国特許2の瑕疵事由である虚偽記載について,客観的な事実(記載自体)として認識していたことは当然のことながら認められるが,それが,将来,重大な瑕疵事由の原因になるとまで確定的な見通しができたかについては,否定せざるを得ない(後記(2)において,さらに検討する。)。
エ 以上のとおり,被控訴人にとって,米国特許2が法的に有効かつ権利行使可能であるとして維持されることが,本件独占販売契約締結の重要な前提であったとは到底認めることはできず,特許査定されたこと自体を重視し,これを根拠に他の競合会社や競合商品を排除する販売戦略を立て,これを行うことに意味があり,取引の事実上の終了後に第三者等から特許無効の審判や裁判を実際に受けても特許として無効とはならないこと自体を重要視していなかったと認められる。そうすると,被控訴人が,米国特許に基づいて,控訴人らから自己の子会社らに対する特許権侵害訴訟の提起を受け,その訴訟で,自らの子会社らにおいて,米国特許は無効ないし権利行使不可能であるという主張をし,その主張に沿った判決を獲得したとしても,既に他社商品や類似商品との差別化ができないことなどから売上げ不振になって事実上終了していた本件独占販売契約の要素に錯誤があったとはいえず,錯誤無効に基づく不当利得返還請求も,詐欺取消しに基づく不当利得返還請求も,理由がないといわざるを得ない。
(2)  控訴人Aによる欺罔行為及び控訴人らの不法行為責任の有無(主位的請求)
ア 上記(1)で判示したところから明らかなように,米国特許の法的な効力の存続は本件独占販売契約の契約内容として重要な事項ではなく,事後的に無効等になったとしても,これを理由に詐欺による同契約の取消しを肯認すべきではなく,被控訴人の詐欺による取消しの主張は採用することができないが,被控訴人は,控訴人Aが詐欺行為という不法行為をしたと主張するので,改めて,被控訴人の同主張を判断することとする。
イ 控訴人Aは,米国特許出願時点において,エタノール抽出によるバナバエキスを用いたヒトへの臨床試験を行っていなかったにもかかわらず,同臨床試験を行ったかのような虚偽の明細書を提出したものであるところ,控訴人Aが米国の特許商標庁審査官に対する欺罔行為を行う意思があったか否かについて,検討する。
この点に関し,控訴人らは,熱水抽出によるバナバエキスよりも,エタノール抽出によるバナバエキスの方がコロソリン酸含有量が多いため,実施例としてベストイグザンプルを記載したものであって,審査官を欺罔するまでの意図はなかった旨主張する。
しかし,ここで問題になっているのは,どちらがコロソリン酸含有量が多いかではなく,行っていない臨床試験を行ったかのように明細書上に記載したこと自体であって(控訴人らの主張を前提としても,単に,熱水抽出による臨床試験結果を記載した上で,「エタノール抽出によればより多くのコロソリン酸が得られる」旨記載すれば足りるはずである。),控訴人らの上記主張は適切な反論となってはいない。
もっとも,明細書の記載を検討するも,熱水抽出によるコロソリン酸のエキスか,エタノール抽出によるコロソリン酸のエキスかで,作用効果に差異があるという記載はなく,含有量のみの共通性に着目して,抽出方法の異なるコロソリン酸のエキスの臨床試験の結果を代用させることは,実施例重視の化学分野の特許出願としては適切ではないとしても,控訴人Aが,この点につき,必ず特許出願の瑕疵事由となり無効等になり得るものであることを法的に理解していたとは認められない。
すなわち,被控訴人が別件米国訴訟で主張した虚偽記載の瑕疵事由は,前記(1)イで判示したように,発見されやすいものではなく,明細書の記載自体にのみ接した無関係な第三者には容易に想到し得ないものであり,侵害訴訟を提起されただけの被告の場合には,当該部分に疑問を抱いて証拠開示の請求でもしない限り主張立証に及ばないものであると認められ,米国における特許出願の運用に専門家として精通しているとは認められない控訴人Aが,本件のような虚偽記載が最終的に無効や権利行使不可能の事由を構成することを本件独占販売契約の締結までに認識理解していたとは,証拠上,認めることができない。
ウ そうであれば,控訴人Aに,米国特許商標庁の審査官や,ひいては被控訴人を欺罔する故意は,未必の故意を含めて,あったとは認めることはできない。したがって,被控訴人の詐欺を理由とする損害賠償請求は,理由がない。
3  争点(3)(本件独占販売契約上の引取保証義務違反を理由とする被控訴人の債務不履行の成否及び損害額)について
(1)  前記判示によれば,被控訴人は,本件独占販売契約の締結に当たって,当時既に大量の在庫を抱えていたことから,契約条項に被控訴人の最低引取数量保証条項を入れることに難色を示したが,控訴人Aは,投資家から新規投資を引き出すためには,契約書に最低引取数量保証条項を入れる必要があると主張したため,被控訴人は,やむを得ず同条項を残すこととし,その代わりに,同契約書の草案に記載されていた商品の単価や最低引取数量が未達成の場合の違約金条項を削除し,さらに,本件独占販売契約の契約書と一体のものとして,控訴人会社から被控訴人にあてた本件確認書を差し入れさせたというのである。
さらに,前記第2の1(5)イ(イ)によれば,本件独占販売契約の第3条1項では,確かに「最低引き取り数量を保証するものとする。」との記載があるが,「保証する」で言い切らずに,これに「ものとする」を付加して表現を和らげていること,3項では「引き取り数量達成率が年度毎に60%未満の場合は,甲(判決注:控訴人会社)は,乙(判決注:被控訴人)に対し90日間の予告期間をもって独占販売権を解除することができるものとする。」とあり,達成されない場合のペナルティが約定されていること,第5条は,ことさらに,乙(被控訴人)の販売努力を定め,第6条も,「甲および乙は,本契約第3条に定める最低引取り数量の進捗状況について,原則として3ヶ月毎に協議し,協力して販売数量達成の実現をはかる。」とあり,さらに,本件確認書が上記第3条の解除条項を緩和することを定めている(実際上,解除には合意を必要とすることになっている。)ことに照らして考えると,第3条1項の「最低引き取り数量」の条項は,投資家向けの色彩が強く,単なる努力条項ではない(これに違反すると契約解除事由を構成するもの。もっとも,この点も,本件確認書で緩和されている。)ものの,これに違反すると,直ちに債務不履行となり相手方に対する金銭賠償責任が生ずるようなものではないものとして,契約書に盛られたものと認められる。
(2)  そうすると,控訴人会社による,引取保証義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権による相殺の主張は理由がなく,前記第2の1(6)により,控訴人会社は,被控訴人に対し,売買代金合計840万円及びこれに対する平成18年5月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。
(3)  なお,控訴人会社は,原判決が,被控訴人の主張がないにもかかわらず,本件確認書の存在をもって,数量保証が「努力目標」にすぎないとして心裡留保を認定したものであって,これは弁論主義に違反するなどと主張する。
しかし,原判決は,被控訴人が原審で主張していたとおり,本件独占販売契約の「最低引き取り数量」記載の数量の商品が購入されなくても,被控訴人が損害賠償義務を負わない旨認定したにすぎないので,弁論主義違反はなく,この点に関する控訴人会社の主張は理由がない。
4  争点(4)(被控訴人が,控訴人会社から本件各商品を購入せず,又は控訴人会社を介さずに本件各商品の取引を行ったことについての債務不履行又は不法行為の成否及び損害額)について
(1)  平成11年覚書上の債務不履行又は不法行為の成否
ア 控訴人会社は,平成11年以降,平成17年1月に本件独占販売契約を締結するまでの取引について,①本件1%品968.6kgの売買差額,②本件3%品310kgの売買差額の各支払を請求している。
イ 確かに,前記1(3)ア(ア)のとおり,被控訴人は,平成11年以降,常磐化学から購入した本件1%品の多くにつき,帳簿上,いったん控訴人会社に転売し,同社から買い戻す形を採って,控訴人会社に対し,1kg当たり2万円の売買差額を支払っていたものであり,被控訴人が,平成11年10月18日ころ,控訴人会社にファックス送信した「グルコソールの取扱いに関する覚書」と題する書面(乙58)上にも,被控訴人が常磐化学から購入したエキス(本件1%品)につき,いったん控訴人会社を介した上で,輸出等する旨の商流が記載されていたものである。
しかし,上記書面(乙58)上,日付の記載や当事者の社印等はなく,これが正式な契約書面であるとはいえない上,正式な契約書面である平成11年覚書(同年11月17日付け)上には,被控訴人が常磐化学から購入した本件1%品につき,いったん控訴人会社に転売した後に,被控訴人がこれを買い戻し,その際,売買差額を支払う旨の条項はなかったものである。
このように,本件独占販売契約締結以前において,被控訴人・控訴人会社間で,被控訴人が,控訴人会社を介して本件1%品の取引を行い,同社に対して売買差額を支払う旨の取引形態が検討されており,実際にも,この検討内容に沿った取引が頻繁に行われていたものではあるが,この取引形態については,正式な契約書面である平成11年覚書に盛り込まれるには至っていない。
以上のとおり,被控訴人と控訴人会社が,同取引形態につき検討しながら,あえて契約書面上に記載しなかった以上,この点について法的にみて拘束力のある合意は成立しなかったとみるのが合理的である。
なお,前記1(3)イ(ウ)のとおり,平成15年11月に,平成11年覚書が合意解除されるに至った際にも,被控訴人・控訴人会社間で,売買差額の支払について話し合われた形跡はなく,同事実も,上記認定に沿うものである。
したがって,控訴人会社が被控訴人に対して,本件独占販売契約締結以前において,①本件1%品につき必ず控訴人会社を介して取引すべきことや,②その際に控訴人会社に対して売買差額を支払うべきことを,請求することはできないというべきである。
ウ 本件3%品についても,基本的に上記イ同様の議論が妥当する上,本件1%品と異なり,本件独占販売契約締結以前において,控訴人会社に対し,1回も売買差額が支払われていないものであるから,被控訴人・控訴人会社間で,「本件3%品につき,必ず控訴人会社を介して取引しなくてはならず,その際に,被控訴人が控訴人会社に対して売買差額を支払うべき」旨の合意があったとは到底認められない。
エ 以上のとおり,本件独占販売契約締結前に,被控訴人が控訴人会社を介さず,売買差額を支払わずに本件各商品の取引を行ったことにつき,債務不履行は成立しない(当然に,不法行為も成立しない)ため,この点に関する控訴人会社の請求は理由がない。
(2)  本件独占販売契約上の債務不履行又は不法行為の成否
ア 控訴人会社は,被控訴人が同契約締結以前に購入した本件各商品についても,控訴人会社に売買差額を支払っていないものについては,同契約に基づき,売買差額を支払うべき義務を負っていた旨主張する。
しかし,同契約に係る契約書(甲9の1)上,被控訴人が控訴人会社に対し,被控訴人が同契約締結以前に購入した本件各商品につき売買差額を支払う旨の定めはない上,上記(1)で検討したとおり,同契約締結以前に,被控訴人が控訴人会社に対し,売買差額を支払うべき義務を負う旨の合意が存在したとは認められないため,控訴人会社の上記主張は理由がない。
イ 証拠(甲22,32,33,38,原審における証人E,B被控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれば,本件独占販売契約に基づく取引が終盤近くになると,被控訴人は,売上げが伸びず,在庫量も改善しなかったことから,同契約の趣旨に必ずしも沿うものではないことを懸念しながらも,本件各商品を,控訴人会社からだけではなく,常磐化学からも購入したことが認められる。
そして,控訴人会社は,被控訴人の上記行為は,本件独占販売契約上の債務不履行に該当すると主張するので,以下検討するに,同契約に係る契約書(甲9の1)の標題には「米国市場における……独占販売基本契約書」,前書きに「米国市場における特定商品を期間限定での独占販売契約……に関して,次の通り契約する。」,第1条に「甲(控訴人会社)は,乙(被控訴人)に対し,……までの5年間,……条件により,甲が所有する特許権の商品「バナバ抽出エキス」について米国市場における独占販売権を付与する。」とあるだけであり,これによれば,被控訴人が,控訴人会社から,本件各商品につき,米国における独占販売権を付与されたことは明らかであるが,その内容については,契約書上,最低引取数量の保証条項等以外に,具体的な債権債務を定めた条項がなく,被控訴人が本件各商品を第三者から仕入れ,これを米国に販売することが債務不履行に当たるか否かが,契約の条項上,不明である。
確かに,一般に「独占販売契約」を締結した当事者間において,一方が他方に対してのみ当該商品を売り渡し,他方が一方からのみ当該商品を購入し続けることが,両当事者にとって最も望ましい円満な取引形態であり,その限りで,本件において,被控訴人が,控訴人会社以外の第三者から本件各商品を仕入れることについて,商売上の義理を欠くとの懸念等を抱いたことは不自然なことではない。
しかしながら,契約書は,契約者の一方又は双方が望ましくない苦境等に立ち至った場合を想定し,契約に基づく債権債務の内容を具体的に明記し,どのような事態に至った場合に,契約を一方的に解除することができ,あるいは,債務不履行としてどのような損害賠償をすべきものなのかなどを取り決め,将来の紛争発生に対処するものである。これを本件での契約書(甲9の1)についてみるに,第16条には,「期限の利益喪失・解除」として,甲(控訴人会社)に対し,乙(被控訴人)に生じた様々な事由について契約解除権を付与しているが,「独占」の具体的な内容については何ら言及せず,その他の条項も,甲(控訴人会社)に優位な地位を定めながらも,「独占」の具体的な内容に言及していない。
以上のような契約書上の記載に加え,本件において,投資家から新規投資を引き出すことを主目的として本件独占販売契約が締結され,同契約の締結と同時期に本件確認書が差し入れられたこと,控訴人らと被控訴人の関係,控訴人Aの特許明細書への真実に反する記載等を原因として米国特許が事後的に無効ないし権利行使不可能とされたこと,本件各商品の売上げ不振から,本件独占販売契約が事実上終了したこと等の諸事情を考慮すると,被控訴人が,控訴人会社から製造委託を受けて本件各商品を製造していた常磐化学から,本件各商品を仕入れても,直ちに,本件独占販売契約の債務不履行にはならないものというべきである。
ウ なお,被控訴人が控訴人会社ではなく常磐化学から本件各商品を購入したことや,控訴人会社に対して売買差額を支払わなかったことが,控訴人会社に対する詐欺行為になるものでもない。
エ 以上のとおり,被控訴人が,本件独占販売契約締結後に,控訴人会社を介さず本件各商品の取引を行ったこと等につき,債務不履行や不法行為(詐欺)は成立せず,この点に関する控訴人会社の請求は理由がない。
5  争点(5)(被控訴人が係争記述①ないし⑦を含む文書の送付等を行ったこと及び株主総会招集請求をしたことが,控訴人会社に対する信用・名誉毀損等の不法行為に該当するか否か及びその損害額)について
(1)  係争記述①について
控訴人会社は,被控訴人の取締役を控訴人会社の取締役として送り込むことはまだ確定的な事実ではなかったものであり,被控訴人による平成17年6月20日付け「Use-Techno Corp.への出資御願いの件」と題する文書(乙29の1の10頁ないし11頁)の送付は,控訴人会社に対する投資可能性を奪い,その信用や名誉を毀損し,業務を妨害する不法行為である旨主張する。
しかし,前記第2の1(8)アのとおり,そもそも,同文書全体の趣旨は,被控訴人の控訴人会社への出資や協力内容を説明した上で,投資家に対し,控訴人会社への新規投資を求めるものである上,被控訴人の取締役を控訴人会社の取締役として送り込む旨を開示することが,控訴人会社に対する投資可能性を奪ったり,その信用・名誉を毀損したり,業務を妨害するものではない。
以上のとおり,投資家への平成17年6月20日付けの文書送付行為は何ら不法行為に当たらず,これが不法行為に該当することを前提とする相殺の抗弁は理由がない。
(2)  平成18年11月の株主への文書送付行為
ア 控訴人会社は,係争記述②ないし⑦等が記載された「株式会社ユーステクノコーポレーションの法人,個人株主の皆様」と題する文書(乙29の1)及び「株式会社ユーステクノコーポレーションの法人,個人株主の皆様(№2)」と題する文書(乙33の1)の送付が,いずれも株主権の濫用であり,控訴人会社の業務妨害に当たる上,同社の信用・名誉を毀損する旨主張する。
しかし,上記各文書は,いずれも,控訴人会社の株主である被控訴人が,控訴人会社の代表取締役である控訴人Aの経営手法等に疑問を抱き,同人の解任等を求めて,他の株主に対して情報提供を行うために送付したものであって,これが株主権の濫用に当たらないことは明らかであり,以下,係争記述②ないし⑦が控訴人会社の信用・名誉を毀損するか否か,係争記述⑤ないし⑦が同社の業務を妨害するか否かという点につき専ら検討する。
イ 事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁判所昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。他方で,ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁判所平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁参照)。
係争記述②ないし⑦が控訴人会社の名誉・信用を毀損するか否かについては,上記基準に則って検討することになる。
ウ 係争記述②について
係争記述②及びその周辺部分については,事実を摘示しての信用・名誉毀損が問題となるところ,控訴人会社が問題とするのは「最終的にA氏も同意した」という部分のみであって,「控訴人Aが社長職を退任して,相談役の閑職に就き,一切経営に干渉しないことに最終的に同意した」としても,控訴人会社の信用・名誉が毀損されるものではなく,この点に関する控訴人会社の主張は理由がない。
エ 係争記述③について
係争記述③は,基本的に,控訴人会社の代表者である控訴人Aの経営手腕について批判的な意見を述べるものであり,意見ないし論評の表明による名誉・信用毀損が問題となる。ただし,「過去,投資家により集めた7-8億円もの資金は全く無駄に浪費され」の部分(係争記述③D)は,基本的に事実を摘示しての名誉・信用毀損が問題となる。
そして,これらの記載は,一般の読者(本件では控訴人会社の株主ら)の普通の注意と読み方とを基準にすれば,控訴人Aの経営者としての信用・名誉を毀損するものであり,ひいては,控訴人会社の信用・名誉を毀損するものといえる。
他方で,証拠(甲21,22,32,33,乙29の1,33の1,62の1,3,乙97)から,平成18年当時,本件各商品の米国での売上げが減少し,控訴人Aによる経営の下,控訴人会社の経営状態が悪化していたこと,控訴人会社が,それまで協力して事業を行ってきた被控訴人の米国子会社らを相手に別件米国訴訟を提起したこと,乙29の1や乙33の1は,控訴人会社の株主である被控訴人が,少数株主権を行使して,控訴人会社の代表者である控訴人Aの解任等を議題とする臨時株主総会を招集するため,被控訴人に賛同する株主を募るために送付された文書であること等が認められる。
以上の事実,及び係争記述③B,③Dの前後に「(控訴人Aが)約70ないし80名の社員を次々と採用しながら,次々と解雇し,現在では2名のみ残っているが,この2名に対しても給料はろくに払えないと聞いている」旨が記されていること等をも考慮すれば,「7ないし8億円の資金が無駄に浪費された」との記述(係争記述③D)は,事実を摘示しての名誉・信用毀損において,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったといえ,行為者(被控訴人)において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があったといえる(少なくとも,控訴人Aが控訴人会社を経営したことにより,控訴人会社の経営状態が悪化したことは事実である。)から,被控訴人の故意又は過失は否定されるというべきである。
また,「A社長の経営思想を欠いた経営感覚にあります」「A氏は人格的,能力的に果たして実業家として適切な人物かどうか,おおいに疑問」という部分(係争記述③A,B)は,意見ないし論評の表明による名誉・信用毀損において,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあり,行為者(被控訴人)において上記意見ないし論評の前提としている事実の重要部分を真実と信ずるについて相当な理由があったといえるので,被控訴人の故意・過失は否定される。
そして,「A氏は狂人としか思われません」との部分(係争記述③C)についても,その直前部分に,被控訴人がこのように判断した根拠(被控訴人とその米国子会社のソフト・ジェル社こそが本件各商品に関する事業を推進できるにもかかわらず,控訴人らはソフト・ジェル社らを相手に別件米国訴訟を提起したこと)が示されていること等を考慮すれば,意見ないし論評の表明による名誉・信用毀損において,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあり,行為者(被控訴人)において上記意見ないし論評の前提としている事実の重要部分を真実と信ずるについて相当な理由があったといえ,未だ意見ないし論評としての域を逸脱したものとまでは解されないから,被控訴人の故意・過失は否定され,控訴人会社に対する名誉・信用毀損は成立しないというべきである。
オ 係争記述④について
係争記述④については,事実を摘示しての名誉・信用毀損が問題となるところ,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすれば,(「控訴人Aが)中国及びインドの商社を組織し,パテントの心配をすることなく,インド品及び中国品を弊社の需要家に売り込むよう,販売活動を行いました」旨の部分は,控訴人Aないし控訴人会社の名誉・信用を毀損するものとはみられない。
確かに,控訴人会社と被控訴人との関係を十分に理解した者が係争記述④及びその周囲の文章を読めば,控訴人会社が主張するとおり,「控訴人Aが,被控訴人の背後で色々と画策をするような,信用のおけない人物であり,控訴人会社も信用できない」旨理解するものと解される。しかしながら,係争記述④自体は,単に,控訴人Aないし控訴人会社の販売活動(ただし被控訴人の主張に基づくもの)を摘示しただけであって,控訴人らの名誉・信用を明らかに毀損するような記載ではなく,控訴人会社の他の株主らの普通の注意と読み方とを基準にすれば,名誉・信用毀損が成立するものとはいえない。
カ 係争記述⑤について
係争記述⑤については,いずれも事実を摘示しての名誉・信用毀損が問題となるところ,乙29の1の記述部分(係争記述⑤AないしC)については,その前後の部分で,係属中の訴訟における被控訴人の主張内容であることが明示されている(「弊社(被控訴人)の主張は」「というものです。」)(乙29の1の6頁下から16行目,13行目参照)ことからして,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすれば,概ね被控訴人の主張にすぎないと理解されるものといえ,控訴人会社の信用・名誉を毀損するものとは認められない(業務妨害にも当たらない。)。
他方で,係争記述⑤のうち,乙33の1の「控訴人両名が,他社の製造方法を盗用し特許を成立させた」旨の記述部分(係争記述⑤D)については,それ自体において,係属中の訴訟における被控訴人の主張内容とは受け取り難く,控訴人会社の名誉・信用を毀損するものと認められる。しかし,同記載は,人身攻撃に及ぶものではなく,前記1(2)のとおり,控訴人Aが,バナバアルコール抽出エキスの製造工程についての情報提供者である常磐化学や,本件発明に関して協力者であった被控訴人の明示的同意を得ないまま,単独で米国特許の出願をしたものである上,被控訴人が,株主権を行使する前提として他の株主に情報を提供すべく,係争記述⑤Dなどが記載された文書を作成・送付したことからすれば,係争記述⑤Dに関しては,事実を摘示しての名誉・信用毀損において,「その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,行為者(被控訴人)において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があった」といえるから,被控訴人には故意・過失がなかったというべきである。同様に,同記述部分は,控訴人会社の業務を妨害するおそれはあるが,被控訴人には故意・過失がなかったというべきである。
キ 係争記述⑥について
係争記述⑥については,事実を摘示しての名誉・信用毀損が問題となるところ,控訴人会社は,(被控訴人が)和解当事者間に守秘条項があることを知りながら,控訴人ら・アイオベイト社間で和解が成立した事実及びその内容を恣意的に解釈して開示しており,これは控訴人会社の信用・名誉毀損,業務妨害に該当するなどと主張する。
しかし,控訴人会社の株主である被控訴人が,上記当事者間で和解が成立したことや,その和解内容につき,控訴人会社の活動につき多大な利害関係を有する他の株主に対して開示する行為自体が,控訴人会社の信用・名誉を毀損したり,業務を妨害するものとはいえない(いずれにしても正当な行為である。)。また,本件において守秘義務違反があったことや,被控訴人が和解内容を恣意的に解釈していることを認めるに足る証拠はなく,控訴人会社の上記主張は理由がない。
ク 係争記述⑦について
係争記述⑦は,単に,本件独占販売契約の内容についての被控訴人の認識を述べた部分にすぎず,何ら控訴人会社の信用・名誉を毀損するものではなく,同社の業務の妨害にも当たらない。
ケ 以上のとおり,係争記述①ないし⑦は,いずれも控訴人会社に対する信用・名誉毀損を構成するものではなく,この点に関する控訴人会社の損害賠償請求権はいずれも成立しない。
(3)  臨時株主総会招集請求について
控訴人会社は,被控訴人による臨時株主総会招集の請求は,別件米国訴訟を有利に進めることを目的とする不当なものであり,株主権の濫用である旨主張するが,これらを裏付けるに足る証拠はない。
逆に,控訴人会社の経営状態が悪化している状況において,株主が,経営者の解任等を目的として株主総会の招集を請求することは,法律が少数株主に認めた株主権の行使として何ら違法ではなく,同株主総会が結果として開催のために必要な法定の株式数を有する株主の出席がなかったために流会となったからといって,被控訴人の少数株主としての権利行使が不当な目的に基づくものであったと認めることはできない。
よって,臨時株主総会招集の請求は,何ら不法行為には当たらず,これが不法行為に該当することを前提とする相殺の抗弁は理由がない。
(4)  以上のとおり,係争記述①ないし⑦にはいずれも名誉毀損等の成立はなく,控訴人会社の反対債権は認められないが,原判決では,係争記述④により控訴人会社に30万円の損害賠償請求権が生じたと認定され,これを反対債権として相殺が行われており,この点につき,被控訴人から控訴の提起はないから,不利益変更禁止の原則により,この点に関する原判決の判断を維持することとする。
そうすると,前記第2の1(7)記載の被控訴人による過誤払金の返還請求は,249万3161円及びこれに対する平成19年2月2日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払を求める限度で理由があることになる。
6  争点(6)(被控訴人による不当訴訟(第1事件本訴)提起の不法行為の成否及び損害額(訴え変更前後の請求それぞれにつき))について
(1)  訴え変更後の請求について
ア 訴えの提起は,提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り,相手方に対する違法な行為となる(最高裁判所昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。
イ 確かに,当裁判所は,前記2のとおり,被控訴人の第1事件本訴請求のうち,損害賠償請求等(訴え変更後のもの)につき理由がないものと判断したが,本件において,米国特許2が成立した後に,控訴人会社・被控訴人間で本件独占販売契約が締結され,事後的に,控訴人Aの特許明細書への真実に反する記載等を原因として,米国特許2が無効ないし権利行使不可能とされたことは事実である。
以上からすれば,被控訴人が,控訴人らに対し,控訴人Aの特許明細書への真実に反する記載等によって米国特許2が無効ないし権利行使不可能となったとして,詐欺による不法行為に基づく損害賠償請求等をすることにつき,事実的,法律的根拠が全く存在せず,かつ,被控訴人もそのことを知りながら,又は容易に知り得たにもかかわらず,あえて提訴したとまではいえない。
したがって,被控訴人の第1事件本訴請求のうち訴え変更後のもの(損害賠償請求等)が不当訴訟であることを理由とする控訴人会社の(予備的)請求は理由がない。
(2)  訴え変更前の請求について
ア 控訴人会社は,別件米国訴訟の提起を理由とする訴え変更前の被控訴人の逸失利益の損害賠償請求は,①別件米国訴訟を牽制し,米国子会社を援護し,又は別件米国訴訟のための資料を得るための提訴であること,②米国特許1,2に無効理由があれば,被控訴人は本件各商品を販売できなかったのであるから,別件米国訴訟を提起されたことによる逸失利益の損害が生じることはないこと,③被控訴人は,米国特許1,2が有効であることを前提に本件各商品を販売していたのであるから,その特許権に基づいて訴訟が提起されたからといって,米国特許1,2の無効を主張することはクリーンハンドの原則に違反し,公序良俗違反であり,不法行為に該当する旨主張する。
しかし,被控訴人が,別件米国訴訟を牽制等するために本件訴訟(第1事件本訴)を提起したことを裏付けるに足る証拠はない。
また,前記1(3)オのとおり,被控訴人が,平成17年末ころ,本件3%品の注文を受けようやく売上げ改善の兆しが見えたと考えていたにもかかわらず,控訴人らが,平成18年4月に別件米国訴訟を提起したこと等の諸事情からすれば,被控訴人が同訴訟を提起されたことによる逸失利益の損害賠償を求めることに,事実上,法律上の根拠がなかったとまではいえない。
さらに,被控訴人が,従前,米国特許1,2が有効であることを前提として販売をしていたとしても,その後に控訴人らから別件米国訴訟を提起された以上,米国特許1,2の無効を主張することが信義則に反するともいえない。
イ 以上のとおり,被控訴人の第1事件本訴請求のうち訴え変更前のもの(逸失利益の損害賠償を求める部分)が不当訴訟であることを理由とする控訴人会社の相殺の抗弁は,理由がない。
第5  結論
以上のとおり,第1事件本訴(1)の売掛金840万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める請求は理由があり,認容すべきであり,これと同旨の原判決は正当であるが,(2)の主位的請求(詐欺行為による損害賠償請求)のうち3187万5000円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるとして認容し,その余の部分を棄却した原判決は正当ではないから,これを取り消し,この点の被控訴人の請求を棄却し,原判決が主位的請求を基本的に認容したため判断しなかった(2)の予備的請求(錯誤等による不当利得返還請求)2887万5000円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める部分は,理由がないから,棄却することとし,第2事件の過誤払金返還請求のうち249万3161円及びこれに対する遅延損害金の支払いを命じ,その余の部分を棄却した原判決は,不利益変更禁止の原則に従い,これを維持し,第1事件反訴の控訴人会社の反訴請求は理由がないとして棄却した原判決は正当である。
訴訟費用の負担については,被控訴人の請求を認容した部分は,債権の発生について争いがないため,被控訴人の勝訴部分に係る訴えの提起及び控訴の提起に係る手数料は控訴人会社の負担とし,その余の訴訟費用は,本件訴訟の争訟のすべてが互いに請求し合っている損害賠償等の請求であり,それらは基本的にいずれも理由がないこと,控訴人会社の請求額が被控訴人の請求に比して多額であることなどを考慮し,各自の負担とするのが相当である。
よって,主文のとおり,判決する。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)
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