【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業支援」に関する裁判例(89)平成23年 5月19日 東京地裁 平21(行ウ)55号 遺族補償給付不支給処分取消等請求事件 〔船橋労基署長事件〕

「営業支援」に関する裁判例(89)平成23年 5月19日 東京地裁 平21(行ウ)55号 遺族補償給付不支給処分取消等請求事件 〔船橋労基署長事件〕

裁判年月日  平成23年 5月19日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(行ウ)55号
事件名  遺族補償給付不支給処分取消等請求事件 〔船橋労基署長事件〕
裁判結果  認容  上訴等  確定  文献番号  2011WLJPCA05198002

要旨
◆業務による出張中に橋出血により死亡した亡Bの妻である原告が、労災による保険給付を請求したところ労働基準法9条の労働者に当たらないとして処分行政庁である労基署長から不支給処分を受けたことから、同処分の取消しを求めた事案において、亡Bは、執行役員という地位にあったものの、その業務実態は、本件会社の指揮監督の下にその業務を遂行し、その対価として報酬を受けていたということができ、従業員としての実質を有していた者と認められるから、労災保険法(労働基準法)上の労働者に該当するというべきであるとして、上記不支給処分を取り消した事例

評釈
國武英生・ジュリ臨増 1440号240頁(平23重判解)
南健悟・法セ増(新判例解説Watch) 11号255頁
山崎隆・労経速 2115号2頁
実務家のための労働判例・労政時報 3804号134頁
橋本陽子・ビジネス法務 12巻3号100頁
知神亮祐・賃金と社会保障 1564号58頁

参照条文
労働者災害補償保険法1条
労働者災害補償保険法7条1項1号
労働基準法9条

裁判年月日  平成23年 5月19日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(行ウ)55号
事件名  遺族補償給付不支給処分取消等請求事件 〔船橋労基署長事件〕
裁判結果  認容  上訴等  確定  文献番号  2011WLJPCA05198002

横浜市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 尾林芳匡
同 和泉貴士
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 A
処分行政庁 船橋労働基準監督署長
被告指定代理人 今井学
同 竹本智子
同 小川徳雄
同 中山始
同 小菅拓也
同 石田進

 

 

主文

1  船橋労働基準監督署長が原告に対し平成18年3月20日付けでした労働者災害補償保険法による遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。
2  訴訟費用は,被告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
主文同旨
第2  事案の概要等
1  事案の概要
本件は,原告が,その夫であるB(以下「亡B」という。)が出張中に橋出血により死亡したこと(以下「本件死亡」という。)について,亡Bが勤務していたa株式会社(以下「本件会社」という。)における業務に起因するものであるとして,船橋労働基準監督署長(以下「本件処分庁」という。)に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき遺族補償給付及び葬祭料の請求をしたところ,亡Bは労働者とは認められないとして,これらを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことから,その取消しを求める事案である。
2  前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがない事実又は文末に記載する証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。
(1)  当事者等
ア 本件会社
本件会社は,各種産業機械や建設機械の卸し販売等を業とする株式会社(資本金6億1800万円)である。本件会社は,大阪府茨木市に本社(以下「大阪本社」という。)を置き,平成17年2月当時,国内事業所として,東京支社(東京都中央区),東北支店(青森市),東京建設機械部(千葉県船橋市),名古屋支店(名古屋市),岡山支店(岡山市),四国支店(高松市)及び福岡支店(福岡県大野城市)並びに浜松市,広島市,島根県八束郡及び松山市に営業所を有していた。
[甲2の1・2,乙2,3]
イ 原告
原告は,亡Bの妻である。
ウ 亡B
(ア) 亡B(昭和17年○月○日生まれ)は,昭和40年3月29日に本件会社に入社し,同年7月1日から昭和56年11月まで名古屋支店及び同支店の営業所で勤務し,同年12月1日から本件死亡時まで,下記のとおりの職歴(なお,兼務辞令については,当該役職の末尾に「(兼務)」を付し,役職を解く辞令については,解かれる役職の冒頭に「*〔解〕」を付して表記している。)を有し,一貫して,建設機械部門の業務に従事していた者である。
昭和56年12月1日
東京建設機械部次長(臨時次長代理待遇)
昭和58年12月1日
*〔解〕東京建設機械部次長(臨時次長代理待遇)
東京建設機械部次長(次長代理待遇)
昭和59年12月1日
建設機械営業本部本部長補佐(兼務)
昭和62年6月1日
bレンタル(株)東京営業所所長(兼務)
昭和62年12月1日
東京建設機械部第三課課長(兼務)
平成元年6月1日
建設機械営業本部本部長付(兼務)
平成元年12月1日
*〔解〕建設機械営業本部本部長付(兼務)
平成2年12月1日
*〔解〕東京建設機械部第三課課長(兼務)
東京建設機械部第一課課長(兼務)
*〔解〕東京建設機械部次長(次長代理待遇)
東京建設機械部次長
平成4年12月1日
*〔解〕東京建設機械部次長
東京建設機械部部長代理
平成5年12月1日
*〔解〕東京建設機械部部長代理
東京建設機械部部長
平成6年6月1日
*〔解〕bレンタル(株)東京営業所所長(兼務)
平成8年12月1日
*〔解〕東京建設機械部部長及び東京建設機械部第一課課長(兼務)
東京建設機械第一部部長
東京建設機械第一部第一課課長(兼務)
平成9年10月27日
東京建設機械第二部部長(兼務)
同年12月1日
*〔解〕東京建設機械第一部部長,東京建設機械第一部第一課課長(兼務)及び東京建設機械第二部部長(兼務)
東京建設機械部部長
東京建設機械部第二課課長(兼務)
平成10年12月1日
本件会社の理事に就任(なお,本件会社は,亡Bの理事就任に際し,亡Bが一般従業員を退職したとして取り扱い,亡Bに対し,退職金1828万5022円を支払った。)
平成11年12月1日
建設機械本部副本部長
平成12年1月5日
中部建機部部長(兼務)
同年2月25日
本件会社の理事を退任し,取締役に就任
*〔解〕東京建設機械部第二課課長(兼務)
同年6月1日
*〔解〕東京建設機械部部長
東京建設機械部部長(兼務)
同年12月1日
*〔解〕建設機械本部副本部長,東京建設機械部部長(兼務)及び中部建機部部長(兼務)
建設機械本部本部長
平成13年7月1日
中部建設機械部部長(兼務)
同年9月1日
*〔解〕中部建設機械部部長(兼務)
東京建設機械部部長(兼務)
同年12月1日
執行役員(兼務)に就任
*〔解〕建設機械本部本部長及び東京建設機械部部長(兼務)
建設機械本部副本部長(東京駐在),東北建設機械部部長
平成14年2月27日
本件会社の取締役を退任
*〔解〕執行役員(兼務)
執行役員に就任
同年6月1日
bレンタル(株)の取締役(非常勤)に就任
同月14日
東京建設機械部部長(兼務)
平成15年12月1日
*〔解〕建設機械本部副本部長
建設機械本部本部長
平成16年6月1日
cレンタル(株)の取締役(非常勤)に就任
同年12月1日
東京建設機械部部長(兼務)
[甲1,乙1,4,9の2,13]
(イ) 亡Bは,平成17年2月16日当時,本件会社の執行役員であり,建設機械本部本部長及び東京建設機械部部長(兼務)の役職に就いていた者であったところ,東京建設機械部課長を帯同して,同日午前8時ころから福島県いわき市に車で出張し,取引先2社と商談を行い,同日午後5時過ぎに車で東京に戻っている途中,突然目の痛みを訴えるなどし,いわき市立総合磐城共立病院に救急車で搬送されたが,同日午後10時45分,同病院において橋出血により死亡した(当時62歳)。
[甲1,12,乙1,12]
(2)  本件訴えに至る経緯
ア 原告は,平成17年7月29日,本件処分庁に対し,亡Bは業務(過重労働)に起因して橋出血を発症したものであるとして,労災保険法による遺族補償給付及び葬祭料の請求をした。本件処分庁は,亡Bは「労働基準法第9条に該当する労働者とは認められないため不支給とするが妥当であると決定しました」として,平成18年3月20日付けで本件処分を行い,同月22日付けで原告に通知した。
[乙30の1・2]
イ 原告は,本件処分を不服として,千葉労働者災害補償保険審査官に対し,同年3月24日付けで審査請求をした。同審査官は,平成19年8月2日付けで同審査請求を棄却する旨の決定をした。
[乙31]
ウ 原告は,同年9月12日付けで労働保険審査会に対し,再審査請求をした。労働保険審査会は,平成20年8月29日付けで同再審査請求を棄却する旨の裁決をした。
[甲1]
エ 原告は,平成21年2月10日,本件処分の取消しを求めて,本件訴えを提起した。
3  争点
亡Bは,労災保険法上の労働者に当たるか。
第3  当事者らの主張
1  原告の主張
(1)  執行役員は,以下に述べる執行役員制度の導入目的,導入当時の企業や商法学者の認識,行政解釈,労働基準法の強行法規性の趣旨等によれば,労災保険法上の労働者に該当するというべきである。
ア 執行役員制度は,平成9年ころから監査等に関する商法の特例に関する法律が施行された平成15年までのごく限られた期間に導入されたものがほとんどであるところ,本件会社の執行役員制度も,上記の期間中の平成12年12月に導入されたものであるから,上記の期間に導入された一般的な執行役員制度とかけ離れた特殊なものであるとは考え難く,本件会社における執行役員の法的性質を検討するに当たっては,上記の期間に導入された執行役員制度の導入目的,学者や実務家の解釈,企業の認識等が重要な資料になるというべきである。そして,以上の点に関する実情は以下(ア)~(ウ)のとおりであり,いずれの点からも,執行役員は,経営担当者としての側面が希薄であり,労働者に該当するものと考えられる。
(ア) 執行役員制度は,会社内の意思決定・監督と執行とを分離するアメリカの株式会社制度を参考にして,日本の各会社が任意で導入したものであり,その実質的な目的は,意思決定・監督を本来の機能としている取締役会の構成員から,執行のみを担当する従業員兼取締役らを外すことによって,取締役会の活性化を図ることにあると説明されている。本件会社についても,取締役数は順次減少しており,同様の目的が存在したものと認められ,本件会社の執行役員は,その権限等からみて取締役会の構成員とするにはふさわしくない者を遇するためのポストとして創設されたものと考えられる。したがって,執行役員は,取締役と異なり,経営担当者としての性格が希薄であるというべきである。
(イ) 執行役員については,「業務執行に関しては相当の裁量権限を有するものの,法的には会社の機関ではなく,一種の重要な使用人(会社法362条4項3号)である。会社との契約が雇用契約か委任契約かの点については,通常は前者である」(江頭憲治郎「株式会社法(第3版)」380頁),「会社法上は特に規定がない『執行役員』については,『労働者』といえる場合が多いと考えられる。」(菅野和夫「労働法(第9版)」96頁)などと説明されており,執行役員を労働者と考えるのが,学者や実務家の一般的解釈であった。
(ウ) 商事法務研究会が執行役員制度を導入した140社に対して行ったアンケート調査(平成11年4月)によれば,その大多数が,執行役員について労働契約法理の適用を肯定しており,例えば,66.7%の会社が執行役員との契約関係は雇用契約であると回答し,77.8%の会社が執行役員を労働法上の労働者と考えていると回答している。また,一般従業員が執行役員に昇進する場合に退職金を精算支給している会社は33.3%に達しているが,執行役員を労働者に該当しないと回答した会社は12.7%にすぎない。
イ(ア) 執行役員が労災保険法上の労働者に該当するか否か(労働者と経営担当者のいずれに該当するか)を判断するに当たっては,執行役員が業務執行に関する意思決定や業務執行を行っていたかどうかという視点が重要である。執行役員は,上記ア(イ)のとおり,会社法制上は「重要な使用人」(会社法362条4項3号)にすぎないから,執行役員が行う業務執行は全て従業員としての業務執行にすぎず,執行役員が経営担当者たり得るのは,業務執行に関する意思決定権限を有しているような特殊な場合に限られるというべきである。
(イ) 昭和34年1月26日労働省解釈例規は,「法人の取締役,理事,無限責任社員等の地位にある者であっても,法令,定款等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められる者以外の者で,事実上業務執行権を有するにすぎない者で取締役,理事,代表社員の指揮,監督を受けて労働に従事し,その対償として賃金を受けている者は,原則として労働者として扱うこと」としている。執行役員の業務執行権は,商法・会社法上当然に認められるものではなく,代表取締役の授権により発生し,その指揮監督に服することとなるから,上記解釈例規によれば,執行役員も原則として労働者に該当するというべきである。
また,執行役員が例外的に労働者に該当しないと判断される可能性が高まる事情として,①執行役員就任時の退社を明確にすること,②執行役員就任時に従業員の退職金を現実支給すること,③担当業務に関する権限委譲を進めること,④服務規律を取締役に準じたものとすること,⑤労働対価型ではなく,業績反映型の報酬体系とすること,⑥一般従業員に比べて報酬において相当厚遇され,任期満了や契約解除によって社外に放出されたとしても経済的に見合うだけの報酬(少なくとも取締役と同等の報酬)が支給されていることが指摘されている(松井真一「執行役員制度をめぐる理論と実務」商事法務1540号24頁以下)。しかしながら,亡Bは,執行役員就任後も,従業員に位置づけられる東京建設機械部部長等として業務を行っており,一般従業員を退職していることが明確になっているとはいい難い(上記①の不充足)。また,本件会社が執行役員に担当業務に関する権限委譲を進めていた事実はなく,亡Bは,執行役員就任に伴い,建設機械本部本部長から同本部副本部長に降格されている(上記③の不充足)。さらに,執行役員の服務規律は取締役とは異なっており(上記④の不充足),執行役員に対する報酬は業績に応じて支給されるという体系にはなっていない(上記⑤の不充足)。亡Bの報酬額は,在籍年数の長さも考慮されて決められており,一概に取締役と同等とはいい難い(上記⑥の不充足)。以上によれば,亡Bについて,例外的に労働者性を否定するような事情もないというべきである。
ウ 執行役員は,その選任資格もなく,株主総会による選任手続も要しないのであり,その労働者性を安易に否定することは,会社と執行役員との個別契約によって強行法規である労働基準法の潜脱を容易に認める結果となってしまい,妥当ではない。
(2)  従業員兼取締役の労働者性に関する従来の裁判例と同様の観点から,亡Bの権限の範囲,代表取締役による指揮監督,報酬,社会保険の取扱い等の事情を個別具体的に検討し,その使用従属関係を判断した場合にも,以下ア~キの事情によれば,亡Bは,労災保険法上の労働者に該当するというべきである。
ア 執行役員(亡B)の資格,権限等
(ア) 執行役員は,①株主総会ではなく,取締役会により選任され,欠格事由も法定されていないこと,②競業避止義務,利益相反取引の禁止等が法定されていないこと,③株主総会の特別決議等によらずに解任することが可能であること,④株主代表訴訟の対象とされておらず,その行為が株主の違法行為差止請求の対象にもならないこと,⑤取締役会により報酬が決定されること,⑥役員登記が不要であること,⑦取締役に対する監視・監督義務もないことなど,会社法制上取締役について規定されている資格・権限等について相違点がある。これら相違点にかんがみれば,業務執行に関する意思決定等を行う取締役の構成員である取締役が,株主に対して直接責任を負うなど,経営担当者であることを当然に予定されているのに対し,執行役員は,必ずしも経営担当者であることは予定されていないというべきである。
(イ) 本件会社の執行役員は,本件会社の業務執行に関する意思決定機関である取締役会への出席権限がなく,本件会社が定める執行役員規程(以下,単に「執行役員規程」という。)の内容(4条1項,15条3項・4項)に照らせば,代表取締役,取締役会及び各取締役の指揮命令に従って,業務を遂行する立場にあるものというべきである。
また,本件会社は,亡Bについて,全社的な経営判断に関与させるよりも建設機械部門の業務に専念させるべきとの判断から,取締役を退任させて執行役員に降格させたものと解され,このような経緯からも,亡Bが業務執行に関する意思決定権限を有していたとは考えられない。
イ 亡Bの業務実態等
亡Bの業務実態は,以下(ア)~(ウ)のとおりであり,書類の確認,経営会議への参加等も業務内容に含まれてはいたが,様々な場合に取引先と直接交渉を行うなど,その業務の大半は,建設機械売買の成約へ向けた交渉業務であった。このような業務実態に照らせば,亡Bは,本件会社の経営に関する意思決定に参画したり,経営担当者として業務を執行したりすることはなく,執行役員の業務は,営業の現場を指揮し,自らも営業活動を行うという単なる管理職(労働者)としての業務にとどまるものであった。
(ア) 本件会社(建設機械部門)は,主としてコベルコ建機株式会社から建設機械を購入して,これを取引先(建設会社等のユーザー)に売却する卸売業務を行っていた。取引先の多くは,いわゆる大手ゼネコンではなく,その下請けとして工事を行う資金力の弱い中小規模の建設会社であり,ファイナンスリース契約の形態で取引を行うことも多かった。
(イ) 建設機械販売における成約までの流れ,そのうち亡Bの関与の実情等は,以下a~eのとおりであり,亡Bは,日常業務として,直接訪問や電話などによって,大阪本社,営業担当者,取引先等との打合せを行っていた。亡Bは,東京建設機械部の担当管内だけでなく,地方の各営業所における取引についても,建設機械本部本部長として,全国の得意先回りや営業担当者の応援等を行っていた。なお,亡Bは,取引先との交渉等のために外出することが多く,東京建設機械部に終日いるのは月に1,2回にすぎず,デスクワークの比率は少なかった。
a 営業担当者は,担当する取引先を回り,その要望にあった商品購入を斡旋する。取引先に購入意欲がある場合,亡Bが,営業担当者とともに取引先を訪問し,商品確定,代金額,支払方法等を協議し,ある程度確定的な稟議段階まで持って行くこととなる。亡Bがこれらの業務を担当していた背景事情として,亡Bが建設機械部門一筋で勤務してきた者であって豊富な経験と実績を有しており,亡Bが説明すれば説得できることも少なくなかったこと,取引先には中小企業が多く,付き合いの長い亡Bの言うことは聞くという社長も少なくなかったことなどが挙げられる。
b 稟議書は,建設機械本部本部長決裁のものを除けば,大阪本社の管理本部に回される。管理本部は,ファイナンスリース契約の有無,割賦販売の回数,頭金の額など,融資に関する条件付けをし,リスク(取引先の破産等)回避の観点からの指示を,建設機械本部本部長宛てのファックス文書によって行う。本件会社の取締役会長であるC(以下「C会長」という。)や管理本部本部長であるD常務取締役(以下「D常務」という。)は,稟議書の内容等に疑問がある場合,亡Bに直接電話をかけて,契約内容や与信条件等について質問や指示を行っており,その中には,かなり頻繁に電話をかけてくる案件があった。なお,建設機械の取引は,取引価格が高く,中古の建設機械など価格の低い例を除いた年間の取引件数は少ない傾向があり,亡Bは,多くの案件において,C会長やD常務から具体的指示を受けていた。
c 亡Bは,大阪本社からの指示を受けて,営業担当者との協議,取引先との再交渉などの業務を行い,営業担当者と大阪本社のパイプ役として,上記指示を営業担当者や取引先に伝えたり,取引先の要望や財務状況等を説明して大阪本社を説得したりする業務を日常的に行っていた。
d 東京建設機械部に所属する社員は,亡Bを含めて4名であり,100社程度の取引先への営業をこの4名全員で行っていた。亡Bは,担当エリアを持たず,重要な取引先や難しい案件については,上記a,cのとおり,担当社員とともに取引先を訪問して,信頼関係の構築に努めたり,自ら交渉を行ったりしていた。また,亡Bも,専属的な担当取引先を一社(松庫工業)有していた。
e 本件会社は,本件死亡当時,東北支店に2名,大阪本社に4名,名古屋支店に1名,福岡支店に2名の営業担当者を配置しており,亡Bは,建設機械本部本部長としての立場から,これら各営業所についても,その知識や経験を頼りとする営業担当者からの応援要請を受け,重要な取引先や難しい案件について直接取引先を訪問するなど,全国を飛び回っていた。亡Bは,月平均5回程度出張しており,出張先から別の出張先に移動することも多かった。
(ウ) 亡Bは,日常業務として,以下a~cの業務も行っていた。
a 亡Bは,出張の帰りなど,営業所に立ち寄った際,必要書類(販売稟議書,見積書,注文書,契約書,成約台帳,売上伝票,請求納品書,立替旅費伝票)に目を通し,疑問点があれば作成者に質問するなどして,所定の場所に押印していた。
b 亡Bは,社内LANで共有していた業務日報を読み,営業担当者の行動予定欄にコメントを書き込むなどしていた。
c 亡Bは,経営会議(毎月初め)及び中間集計(毎月20日ころ)のため,大阪本社に出張していた。亡Bは,経営会議において,前月の売上報告を行い,その際,営業所の当月目標,改善事項等の指示を受け,同指示を各営業担当者に伝えていた。
ウ 亡Bに対する指揮・監督,亡Bの裁量等
(ア) 亡Bは,一取引当たり3000万円を超える与信又は取引先に対する総与信額が5000万円を超える取引について,大阪本社(会長及び社長)の決裁を受けるものとされ,高額取引については,独自に決裁できる権限を有していなかった。建設機械は1台当たりの価格が高額であり,建設用クレーンに至っては1億円程度に至ることもあり,与信額3000万円以内の取引の決裁権限というのは,広範な裁量権を付与されたものとはいえない。亡Bが代表取締役等に決裁を仰ぐのは,むしろ日常的なことであったということができ,亡Bについては,代表取締役等による指揮監督が恒常的に及んでいたものというべきである。また,亡Bは,上記のような決裁権限しか有していないことにかんがみれば,経営陣の一員として業務執行に関する意思決定権限を有していたともいえない。
なお,労働基準法が,事業場外労働や裁量労働など,業務の遂行方法等の決定を労働者の裁量に委ねる場合があることを予定していることに照らせば,亡Bが労災保険法上の労働者に当たるかどうかの判断要素としての使用従属関係は,本件会社が亡Bに対してその業務遂行のために必要な指示を行い,その指示に従った亡Bによる労務提供がなされれば足り,当該指示が具体的な労務提供方法を詳細に指定するものであることまでは必要ではないというべきである。
(イ) 亡Bの出退勤は,タイムカード等によって管理されていなかったが,そもそも亡Bを含む営業担当者全員について,タイムカード等による出退勤管理はされておらず,以上の事実は,亡Bの労働者性を否定する事情には当たらない。
なお,労働基準法が,フレックスタイム制など,労働者が始業・終業時刻や時間配分を自由に決定できる場合があることを予定していることに照らせば,労災保険法上の労働者性は,労務提供時間の厳格な管理・指定がなくとも肯定されるというべきである。
エ 亡Bの業務の代替性
亡Bの業務内容は,上記イのとおり,取引先との交渉や需要の開拓であり,かかる業務は,取引及び取引先に関する知識があれば誰でも遂行可能な業務であり,代替性が認められる。
オ 亡Bに対する報酬
亡Bに対する報酬は,取締役に就任する以前に支給されていた金額とさほど差がない定額のものが固定給として支給されており,支給額が業績と連動するような支給体系が採用されていないことに照らせば,従業員として行った業務への対価であったというべきである。
また,亡Bに対する報酬については,所得税等が源泉徴収されており,この事実も,亡Bの労働者性を基礎付ける事情である。
カ 社会保険料
本件会社は,亡Bにとどまらず,執行役員及び従業員兼取締役の全てについて雇用保険に加入させて保険料を徴収しており,この事実からすれば,本件会社は,亡Bを労働者として認識していたというべきである。この点,被告は,本件会社が雇用保険の被保険者資格の喪失に関する手続を失念していたにすぎないなどと主張するが,あまりに不自然であり,本件会社は,執行役員や従業員兼取締役が労働者に該当することを前提にして,資格喪失届等の提出は必要ないと判断していたものと解するのが自然である。
キ その他
(ア) 被告は,経営会議が業務執行における実質的な意思決定を行っていたとし,経営会議の構成員であった執行役員は,経営陣の一員である旨主張する。しかしながら,取締役会には決議事項があり,これら事項に関する決議を経営会議が行うことはできないのであり,本件会社の基本的な経営戦略や,財政,組織構成などの会社の重要事項について,経営会議が最終的意思決定権限を有していたと評価することはできない。また,亡Bは,建設機械本部の業務遂行の方向性や人事等を説明し,その承認を得るために経営会議に参加していたにすぎない。
(イ) 被告は,亡Bが平成10年に一般従業員を退職してその身分を失っており,その後,委任契約の受任者として執行役員となった旨主張する。しかしながら,亡Bが,上記退職後も従業員としての業務に従事していることからすると,上記退職は便宜的なものにすぎないというべきである。
(ウ) 本件会社の主力は,産業機械部門であり,建設機械部門の出身者が会社経営に対して有する発言力は微弱なものにすぎなかった。また,本件会社は,C会長が経営の実質的決定権を独占しており,業界特有のワンマン経営体質を持つ会社であった。亡Bは,建設機械部門一筋で勤務し,取締役会への出席権限を有しない執行役員にすぎなかったのであり,本件会社の経営に対して発言力を有することはなかった。
2  被告の主張
(1)  労災保険法上の労働者は,労働基準法上の労働者と同一であると解すべきであり,労働基準法上の労働者とは,使用者の指揮監督の下に労務を提供し,使用者から労務に対する対償としての報酬が支払われる者をいうと解すべきであって,使用従属性を有する者あるいは使用従属関係にある者とされている。そして,上記の労働者であるかどうかは,実際の労務提供の態様が多様であることなどにかんがみると,個々の事案の実態に即して,労務提供の形態,報酬の性格,その他の労働者の定義に関する諸要素を勘案して,総合的に判断することが必要となる。
昭和60年12月19日付け労働基準法研究会報告の「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(以下「労基法研究会報告」という。)は,使用従属性の判断基準となる事項として「指揮監督下の労働」及び「報酬の労務対償性」を挙げ,「指揮監督下の労働」に当たるか否かの具体的な判断要素として,①具体的な仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無,②業務遂行上の指揮監督の有無,③勤務場所及び勤務時間が指定され,管理されているかどうかという拘束性の有無,④本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているかという代替性の有無を示している。また,「報酬の労務対償性」については,使用従属関係の判断の補強基準として位置付けて,報酬が時間給を基礎として計算されるなど労働の結果による較差が少ないこと,欠勤した場合には応分の報酬が控除されること,残業をした場合には通常の報酬とは別の手当が支給されることなど,報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合には,使用従属性を補強するとしている。また,労基法研究会報告は,以上の外にも,労働者性が問題となる限界的事例において,その判断を補強する要素として,①事業者性の有無,②専属性の程度,③その他,選考過程(一般従業員の選考方法との異同),給与所得としての源泉徴収の有無,社会保険料の負担の有無,服務規律の適用の有無等の諸要素を挙げている。
(2)  亡Bは,以下で述べる本件会社の組織構成,本件会社における執行役員の地位,亡Bの実際の担当職務の内容,実態,報酬の支払方法等を総合的に考慮すると,実質的にみて本件会社の経営担当者としての地位ないし立場にあったということができる者であり,労災保険法上の労働者に当たると認めることはできない。
なお,平成17年法律第87号による改正前の商法の下における執行役員は,会社の機関ではなく,企業が任意に設ける役職であり,会社が執行役員を委任型,雇用型又は両者の混合型として導入することは,強行法規に反しない限り,自由である。したがって,執行役員の法的性質は,個別事案ごとに実態に即した判断をするほかなく,一般論としてこれを論ずることはあまり意味がないというべきである。
ア 本件会社の組織構成,本件会社における執行役員の地位について
(ア) 本件会社の組織構成
a 本件会社は,本件死亡当時,資本金6億1800万円,連結決算対象のグループ企業も併せて338名の従業員を有する株式会社であり,役員として,代表取締役会長1名,代表取締役社長1名,常務取締役2名,取締役3名,常勤監査役2名,監査役1名,執行役員6名が置かれていた。また,本件会社には,法令上の組織として,株主総会,取締役会が置かれていたほか,本件会社の取締役会の構成員に加えて執行役員及び関連会社の役員が出席する経営会議が置かれていた。経営会議は,毎月2回開催され,経営戦略・販売計画,人事・労務等の経営事項について検討し,本件会社としての実質的な意思決定を行い,毎月1回行われる取締役会において,経営会議の決定事項を概ね追認する形で意思決定がされていた。
b 本件会社の取締役会の決定事項について,取締役以外に,実際上これを遂行する事実上の機関として,会長・社長の直下に,産業機械本部,海外本部,建設機械本部及び管理本部の各本部長が置かれており,産業機械本部本部長はE常務取締役が,海外本部本部長はF取締役が,建設機械本部本部長は亡Bが,管理本部本部長はD常務が,それぞれ務めていた。各本部長は,経営会議に諮るための「経営計画(経営プラン)」や各本部に係る人事異動についての原案を立案するなどしており,各本部長の権限は全く同一とされていた。
(イ) 本件会社における執行役員の地位
a 本件会社は,平成12年12月,取締役会,監査役の監督機能を強化し,経営の透明性・客観性を確保すべく,①取締役の減員(取締役から執行役員への変更)と社外取締役の導入,②社外監査役の導入,③執行役員制度の導入を行った。その結果,本件会社の経営は,①経営についての実質的な意思決定は経営会議で行い,②経営会議の決定を取締役会に諮り,社外取締役・社外監査役によるチェックを受け,③取締役会の決議に基づき,業務執行権を有する代表取締役の統括の下,各執行役員が担当業務を執行するという形態となったものであり,本件会社は,執行役員を経営会議の構成員と位置付け,いわば経営陣の一員としての立場を認めている。
b 本件会社の執行役員規程をみると,執行役員とは,取締役会で選任された会社の業務の執行を担当する者をいうと定められており(2条),①原則として,一般従業員に適用される就業規則が適用されないこと(3条2項),②取締役会の決定に従い,取締役の指示の下に会社の業務執行を行うこと(4条1項),③従業員である者が選任されたときは,従業員としての身分を失い退職とし,退職金を支給すること(8条),④取締役会は,執行役員に対し,取締役会が決定する会社の業務の執行を「委任」し,社長が,執行役員の職務執行を統括・指揮監督し,取締役会及び取締役が,執行役員の職務を監督する権利を有し,その責任を負うこと(15条),⑤執行役員の報酬は,取締役会の決議によること(22条)などが定められている。これらの規定内容に照らせば,執行役員規程は,明らかに,執行役員を一般従業員と区別し,取締役に類似するものとして取り扱っているというべきである。
c 亡Bは,平成10年12月,理事に就任し,その際,一般従業員を退職してその身分を失い,退職金1828万5022円を受領しており,このとき,亡Bと本件会社の間の雇用契約が終了し,別途,その間において,理事に就任するための委任契約が締結されたものと考えられる。そして,亡Bは,平成12年2月,取締役に就任し,平成13年12月,取締役のまま執行役員に就任し,平成14年2月,取締役を辞任しているところ,上記bで述べた本件会社における執行役員と取締役との類似性を併せ考慮すれば,本件会社と亡Bとの間には,亡Bが取締役に就任する際に締結した委任契約の受任者たる地位をそのまま承継して執行役員に就任したものというべきである。
(ウ) 以上によれば,本件会社における執行役員と一般従業員との間には,下記表のとおりの相違点があり,本件会社が,執行役員を一般従業員と区別し,取締役に類似するものとして取り扱っていることは明らかであり,亡Bが執行役員に就任した経緯をみても,亡Bが委任契約の受任者として執行役員に就任したということができる。

執行役員 一般従業員
契約形態 委任契約 労働契約
契約期間 原則2年 期間の定めなし
就業規則 適用なし 適用あり
執行役員規程 適用あり 適用なし
労働時間・休日 定めなし 定めあり
報酬の決定 取締役会の決議 給与規定
定年 62歳 60歳
退職金 役員退職慰労金支給規程 退職金規程

イ 亡Bの担当職務の内容,実態等について
(ア) 具体的な職務内容
亡Bは,執行役員であり,本件会社の6つの支店を統括する建設機械本部の責任者である本部長であった。その具体的な職務内容は,①建設機械本部の販売戦略・販売計画の策定,②建設機械部門の統括,③建設機械部門の営業予算・経費予算の検討と管理,④販売網の整備強化・販売促進に関する企画・実施,⑤営業統計資料作成・分析,⑥建設機械各支店の人員配置等の人事原案作成等であった。
(イ) 亡Bの職務執行に関する指揮監督の状況等
a 執行役員は,取締役以上の者の監督を受けつつ,自らの職務として,委任を受けた範囲内で会社の業務執行を行う(執行役員規程15条)。本件会社は,平成15年12月から本件死亡に至るまでの間,執行役員である亡Bに対し,建設機械本部本部長を担当させていたが,建設機械本部本部長は,上記ア(ア)bのとおり,取締役が担当する各本部長と同様,本件会社の制度上,代表取締役会長及び同社長の直下にあった。
b 亡Bは,以下(a)~(d)のとおり,本件会社から,建設機械本部本部長として,広範な業務執行の権限を付与されていた。
(a) 亡Bは,一取引当たり3000万円を超える取引又は一ユーザーに対する総与信額が5000万円を超える取引について会長・社長の決裁を仰ぐほかは,建設機械本部本部長として,その裁量により契約を締結できる権限を有しており,一部の例外を除き,具体的な営業戦略(営業対象の選定や営業推進方法の選択など)を決定する権限を有していた。
(b) 日常業務についてみても,亡Bは,兼務していた東京建設機械部部長として,東京建設機械部の置かれていた支店(千葉県船橋市)において業務を行っていたが,同支店での業務執行を義務付けられていたものではなく,建設機械本部本部長として,同支店の業務のみならず,自らの判断で部下を帯同し,出張等について自ら決裁して全国の取引先を回るなどし,また,建設機械本部に属する従業員に対し,個別の業務執行に係る指示,命令をしていた。
また,亡Bは,建設機械部門について,経営計画の立案だけでなく,部門内の人事異動案を立案するなどしていた。
(c) 亡Bは,就業規則の適用はなく,就業規則に定める始業・終業時刻の拘束は受けていなかった。なお,亡Bは,日常の業務執行等のため,概ね,午前8時30分ころ上記支店に出勤し,午後6時30分ころ退勤していたが,亡Bが任意に勤務形態を選択していたにすぎない。
(d) 原告は,亡Bが有していた裁量権の範囲はさほど広くはなかったなどと主張し,証人Gも,これに沿った証言をする。しかしながら,本件会社のような規模の会社で,本部長が事実上専決できなければ,到底,迅速かつ合理的な経済活動を行うことはできず,原告の上記主張には理由がない。また,証人Gの証言は,本件会社の常務であって亡Bの業務内容を詳細に知っている証人Dの証言に反しており,東京建設機械部の年間取引件数について,本件会社の規模からあり得ない件数(20~30件)を述べるなど,その信用性は全体として低い。
(ウ) 以上によれば,亡Bは,その具体的な業務内容等からしても,本件会社の指揮監督を受ける労働者とはいい難く,取締役と同様の経営担当者の地位ないし立場にあったというべきである。
ウ 亡Bの報酬について
(ア) 本件会社は,亡Bに対し,給料の名目で毎月一定額の支給と賞与の支給をしていたが,①月払いのものについては, その金額は,取締役会の決定に委ねられていて,業績が大きく反映され,本件会社の業績に応じて変動しており,その支給手続が一般従業員と異なること, 時間給を基礎とせず,欠勤による控除やいわゆる残業手当の支給もなく,賃金としての性格が見受けられないこと, 本件会社は,亡Bに対し,年間合計1105万3240円の報酬を支給しており,当時の一般取締役の最低報酬額(1200万円)と遜色がないこと,②賞与については,定額制ではなく,業績を査定して支給額が決定されていることに照らせば,亡Bに支給されていた金員は,役員報酬であり,労務対償性は認められないというべきである。
(イ) 亡Bについては,本件死亡に至るまで,支払われていた給与名目の報酬から社会保険料が控除されていた。これは,本件会社において,常務以上の取締役になった時点で雇用保険の被保険者資格がなくなるという取扱いをしていたことによる結果であり,亡Bについても,理事,取締役及び執行役員に就任している間も,雇用保険の被保険者として取り扱われていた。しかしながら,この取扱いは,本件会社における雇用保険法の被保険者についての理解が十分でなく,亡Bが労働者でないにもかかわらず,雇用保険法7条に基づく「資格喪失届」の届出を行わず,また,「兼務役員等の雇用実態証明書」の提出を失念していたため,誤って徴収が継続されていたものである(本件会社は,現在,このような取扱いを改めることを検討している。)。したがって,亡Bについて社会保険料が控除されていたことは,亡Bの労働者性を基礎付ける事情には当たらない。
(ウ) 原告は,亡Bの報酬について,源泉徴収がされていた事実を指摘するが,源泉徴収の対象となる給与所得(所得税法28条1項)には法人役員等に対する報酬も含まれるから,上記指摘事実は,亡Bの労働者性を基礎付ける事情には当たらない。
エ その他
亡Bは,本件会社内において,他の取締役と同様の取扱いをされていた。すなわち,亡Bが執行役員又は建設機械本部本部長として出張した際に利用することが可能な飛行機やホテルのランクは,平取締役及び監査役と同じであり,その出張に係る決裁権限も,平取締役及び監査役と同様に,亡B自身が有していた。また,本件死亡による弔慰金等の支給についても,一般従業員の死亡退職に対しては,退職金規程に基づく退職金及び勤続10年以上の者が死亡した場合における弔慰金130万円が支給されるにすぎないのに対し,亡Bに対しては,その死亡による執行役員退任に伴い,退職慰労金270万円,功労金100万円及び弔慰金100万円の合計470万円が支給されており,これらの支給は執行役員以上の者のみが支給対象者とされているものであって,その支給額は取締役と同額である。
第4  当裁判所の判断
1  労災保険法上の労働者の意義
労災保険法には,保険給付の対象となる労働者の意義について定めた規定はないが,同法12条の8第2項が,労働者の業務災害に関する保険給付について,労働基準法に規定する災害補償の事由が生じた場合に,これを行う旨定めており,労災保険法が労働基準法第8章「災害補償」に定める使用者の労働者に対する災害補償義務を補てんする制度として制定されたものであることにかんがみると,労災保険法上の労働者は労働基準法上の労働者と同一のものであると解するのが相当である。
そして,労働基準法9条は,「この法律で『労働者』とは,職業の種類を問わず,事業又は事業所(…中略…)に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。」と規定しており,同法11条は,「この法律で賃金とは,賃金,給料,手当,賞与その他名称の如何を問わず,労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と規定していることを併せ考えると,労災保険法上の労働者とは,①使用者の指揮監督の下において労務を提供し,②使用者から労務に対する対償としての報酬が支払われる者をいうと解すべきであり,これに該当するかどうかは,実態に即して実質的に判断するのが相当である。
2  亡Bが使用者(本件会社)の指揮監督の下において労務を提供していた者に当たるかどうかについて
(1)  認定事実
上記第2の2の前提事実(以下,単に「前提事実」という。),文末に記載する証拠及び弁論の全趣旨(当事者間に争いのない事実を含む。)によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件会社の組織構成等
(ア) 執行役員制度の導入
a 本件会社は,平成12年12月,取締役会及び監査役の監督機能を強化して経営の透明性ないし客観性を確保し,取締役会をスリム化して経営上の意思決定を迅速化するという趣旨・観点から,①取締役の減員(取締役から執行役員への変更)及び社外取締役の導入,②社外監査役の導入並びに③執行役員制度の導入を実施し,本件会社における意思決定・監督機能と執行機能とを分離した。
[乙13,22,24,証人D]
b 本件会社が執行役員制度の導入に際して制定した執行役員規程の主な規定内容は,以下のとおりである。
第2条(執行役員)
この規程で執行役員とは,取締役会規則の定めにより取締役会で選任された会社の業務の執行を担当する取締役でない者をいう。
第3条(優先適用)
1 執行役員に関する事項については,法令もしくは定款または取締役会での決議に別途定める場合を除き,本規程に従うものとする。
2 就業規則は,特にこの規程で準用する場合を除き,執行役員には適用されないものとする。
(3項省略)
第4条(忠実義務等)
1 執行役員は,この規程を遵守し,取締役会の決定に従い,取締役の指示の下に会社の業務の執行を行う。
2 各執行役員は協力して,誠実かつ忠実に役員としての自覚と職責を持って業務を執行し,社業の発展に努めなければならない。
第5条(選任)
1 執行役員の選任は,取締役会の決議により選任する。
(2項省略)
第8条(従業員の身分との関係)
従業員である者が執行役員に選任されたときは,前条の就任日の前日をもって従業員としての身分を失い退職とし,社員の「退職年金規程」により退職金を支給する。ただし,労働基準法,社会保険法その他法令の適用については各法律の定めるところによる。
第10条(任期)
1 執行役員の任期は2年とする。
(2項及び3項省略)
第12条(解任)
(1項省略)
2 解任された執行役員は,原則として従業員の地位を失うものとする。
第14条(定年)
1 執行役員の定年は,次の区分により定める年令に到達後,最初に訪れる定時株主総会の日とする。
① 専務執行役員 65歳
② 常務執行役員 64歳
③ 執行役員 62歳
(2項及び3項省略)
第15条(執行業務)
1 取締役会は,選任した執行役員に対して,取締役会が決定する会社の業務の執行を委任する。
2 取締役会は,いつでも執行役員の執行業務の内容を変更また追加することができ,執行役員はこれに従うものとする。
3 社長は,執行役員の職務の執行を統括し,指揮監督するものとし,執行役員はこれに従うものとする。
4 取締役会及び各取締役は,執行役員の職務を監督する権利を有し,その責任を負う。
第16条(執行役員の責務)
執行役員は,次の点に留意して所管業務の執行に当たらなければならない。
① 取締役会で決定した会社の方針及び社長の指示に基づき,担当業務に責任を持って誠実に執行に当たること。
② 職責を十分に自覚し,責任をもって創意と工夫をこらし,忠実に執行に当たること。
③ 各部門との連携のもとに,部下の監督,指導,教育を行い,取締役会及び社長,取締役との連絡を密にして執行に当たること。自己の担当する業務はもとより,全社的立場に立って執行に当たり,会社の業績向上,株主の利益の確保,社会的責任を持って執行に当たり,公共への配慮にも努めること。
第22条(報酬等)
執行役員の報酬の額または賞与の額は,取締役会の決議による。
第23条(退職慰労金)
執行役員が会社を退職するときは,その業務上の功労により,別に定める「役員退職慰労金支給規程」に従って退職慰労金を支給する。
[乙11]
(イ) 役員及び執行役員
a 人数の推移
本件会社の執行役員制度導入直前から導入後における役員(取締役及び監査役)の人数及び執行役員の人数の推移は,次のとおりである。
役員(うち取締役) 執行役員数
平成11年12月当時 16名(12名) -
平成12年12月当時 15名(12名) 7名
平成13年12月当時 12名(9名) 9名
平成14年12月当時 11名(8名) 9名
平成15年12月当時 9名(6名) 9名
平成16年12月当時 10名(7名) 6名
なお,平成12年12月当時は,取締役から執行役員になった者はいない。平成13年12月当時は,取締役から執行役員になった者は亡Bを含めて2名いたが,亡Bは取締役としての任期が残っていたため,取締役に就いたままであった。平成14年12月当時は,取締役から執行役員になった者はおらず,亡Bは取締役を任期満了に伴い退任していたから,取締役と執行委員の両方に就いていた者はいない。平成15年12月当時は,取締役から執行役員になった者はいない。平成16年12月当時は,執行役員から取締役になった者が2名いる(なお,亡Bは,執行役員のままである。)。
[乙4,5]
b 平成16年12月以降本件死亡当時までの役員及び執行役員
上記当時の役員10名は,①代表取締役会長がC会長,②代表取締役社長がH(以下「H社長」という。),③常務取締役がE(以下「E常務」という。)及びD常務の2名,④取締役がF(以下「F取締役」という。),I及びJの3名,⑤常勤監査役がK及びLの2名,⑥監査役がMであった。
上記当時の執行役員6名及びその担当は,①亡B(建設機械本部本部長,東京建設機械部部長),②N(岡山支店長),③O(秘書室長。以下「O室長」という。),④P(海外営業部部長,PM社長),⑤Q(東京支社長,東京産業機械部第一部長,広州担当),⑥R(名古屋支店長,中部建設機械部部長,天津担当)であった。
[乙4,6]
(ウ) 本件会社の経営組織
a 本件会社は,平成17年2月当時,C会長及びH社長の直下に,産業機械本部,海外本部,建設機械本部及び管理本部の4部門のほか,秘書室等を設けていた。上記4部門の長は,下記のとおりであり,本部長4名を構成員とする本部長会議が毎月大阪本社において開催され,営業戦略,新商品,ユーザーの動向などについて,情報交換,議論が行われた。
産業機械本部 E常務
海外本部 F取締役
建設機械本部 亡B
管理本部 D常務
[乙4,6,13]
b 経営会議
本件会社は,C会長,H社長,取締役,執行役員及び関係会社の責任者を構成員とする経営会議を設置していた(なお,経営会議は,執行役員制度を導入する以前から存在していた。)。経営会議は,大阪本社において,原則毎月2回開催され,H社長が議長となり,販売稟議に関する事項,本部長会議における協議事項,予算関係事項,賞与支給・表彰関係事項,人事・労務関係事項等を協議していた。
[乙4,6,13,15,27,29,証人D]
c 取締役会
取締役会は,大阪本社において原則毎月1回開催され,経営会議で審議,承認された事項が議決事項として付議されていた。本件会社の取締役会は,事実上,経営会議における協議結果を追認する結果となっていた。
なお,執行役員は,取締役会の構成員ではなく,取締役会に出席していない。
[乙4~6,15,証人D]
d 経営計画委員会
本件会社は,各年度において,経営計画を立案するため,経営計画委員会を編制していた。平成16年9月には,H社長が同月3日付け「2005年経営計画委員会編制の件」と題する社内通達を発し,各部門の責任者及び関係会社の責任者合計8名を経営計画委員会の委員に指名した。亡Bは,建設機械本部担当として,同委員に任命された。
上記経営計画委員会の各委員は,①部別,商品別及び期別の営業計画,②月次ベースの売上,経費等及び③既存の経営計画の進捗状況を,添付されたフォーム及び用紙に記入して,同年11月19日の経営会議に計画案を提出できるよう準備することを求められていた。また,上記委員は,担当部門の経営計画案の内容を経営会議において説明して,承認を得ることとされており,その後,取締役会の承認を得て,正式な経営計画とされることとなっていた。
[乙28,29,弁論の全趣旨]
(エ) 建設機械本部
a 業務内容
本件会社の建設機械部門は,主としてコベルコ建機株式会社から建設機械を購入して,建設会社等のユーザー(取引先)に売却する卸売業務(商社業務)を行っていた。建設機械部門の取引先は,いわゆる大手ゼネコンではなく,その下請けとして工事を行う資金力の弱い中小規模の建設会社が多く,ファイナンスリース契約の形態で取引を行うことが一般的であった。
建設機械本部には,①大阪コンストラクション(大阪建設機械部,略称はOC),②東京建設機械部(略称はTC),③東北支店(略称はTH),④福岡支店(略称はFC),⑤四国支店(略称はSK)及び⑥中部建設機械部(略称はCC)があり,建設機械本部は,これらの建設機械部門を統括する部署である。
本件会社の建設機械部門(全国)における従業員(営業担当者)は,合わせて十数名であった。
[乙4,6,9の1・2,13,15]
b 東京建設機械部
東京建設機械部は,千葉県船橋市潮見にあり,その施設は,船橋港近くの倉庫地帯に,建設機械(レンタル用機械,中古機械等)が置かれている広い敷地の一画に建てられた平家建ての建物(営業所)であった(以下,同建物を「船橋営業所」という。)。なお,本件会社の関連会社であるbレンタル(株)の営業所も,船橋営業所内に置かれていた。
東京建設機械部の担当地域は,関東各都道府県,福島県及び北陸地域(一部)であった。東京建設機械部の構成員は,平成17年2月当時において,亡Bのほか,S(課長),T(営業担当),U(営業担当)及びG(事務・派遣社員)の合計5名であった。なお,他の建設機械部門における営業担当社員の人数は,大阪コンストラクション4名,東北支店2名,福岡支店2名,四国支店1名,中部建設機械部(名古屋支店)1名であった。
[甲13,14,乙6,8の1・2,証人G,弁論の全趣旨]
c 業務の流れ
建設機械部門の営業担当社員が取引先と販売契約等を締結するまでの一般的な業務の流れは,以下(a)~(c)のとおりである。
(a) 営業担当社員は,担当地域の取引先を定期的に訪問し,既に販売した建設機械の調子を確認し,新型機械の説明を行うなどして,取引先の要望に応じた商品の購入を斡旋する。
(b) 営業担当社員は,取引先に購入意欲がある場合,繰り返し取引先を訪問するなどして,購入商品の選定,代金額,支払方法等について交渉し,契約条件がある程度具体化した段階において,稟議書を作成し,上司の決裁を得る。
建設機械の販売における決裁は,取引金額等に応じて,最終的な決裁権者が異なっている。東京建設機械部においては,①1件当たり500万円以下の取引(与信)の場合は,東京建設機械部部長が決裁権限を有しており,②1件当たり3000万円以下の取引(与信)であり,かつ,当該取引先に対する総与信額が5000万円以下となる取引(与信)の場合は,建設機械本部本部長が決裁権限を有している。③1件当たり3000万円を超える取引(与信)又は当該取引先に対する総与信額が5000万円を超える取引(与信)の場合は,大阪本社(管理本部及び会長)の決裁を得る必要がある。
(c) 営業担当者は,決裁を得る過程において,上司又は決裁権者から指示等があった場合,必要に応じ,取引先との再交渉,上司等への説明等を行うなどして,決裁を得た後,契約締結,契約実行等の事務を行う。
[甲13,乙15,21,証人G,証人D]
イ 亡Bの業務内容,業務実態等
(ア) 亡Bの死亡当時の業務内容,業務実態等
a 東京建設機械部部長としての業務内容等
亡Bは,東京建設機械部部長として,東京建設機械部の営業担当社員をまとめる立場にあり,従業員の労務管理のほか,建設機械の営業・販売業務(取引先,営業担当者及び大阪本社との打合せ等を含む。),書面の確認,決済業務等を行っていた。亡Bの具体的業務として,以下(a)~(c)のようなものがあった。
(a) 亡Bは,営業担当者が,取引先との間で,購入商品の選定,代金額,支払方法等について協議する際(上記ア(エ)c(b)),営業担当者と打合せをするだけではなく,当該担当者とともに,当該取引先を訪問して,営業業務ないし交渉業務を行い,稟議書(特に,大阪本社の決裁を要するもの)の作成等にも関与することがあり,特に,取引先との交渉等が難しい案件については,亡Bが関与することがあった。
(b) 東京建設機械部が担当した取引のうち,大阪本社の決裁が必要な取引(上記ア(エ)c(b))については,後記b(b)ⅳのとおり,大阪本社から亡Bに対し,直接,指示,問合せ等が来ることがあった。亡Bは,建設機械本部本部長又は東京建設機械部部長として,営業担当者に対して大阪本社の指示を伝達して対応させるとともに,必要があれば,亡Bが,営業担当者を帯同して,直接取引先を訪問するなどして再交渉することもあった。
(c) 亡Bは,東京建設機械部部長として,販売稟議書,見積書,注文書,契約書,成約台帳,売上伝票,請求納品書,立替旅費伝票等の書面に目を通し,疑問点等があれば作成者に質問するなどして確認の上,押印決裁していた。また,亡Bは,営業担当者の業務日報を読み,行動予定欄にコメントを書き込むこともあった。
[甲5の1・2,甲6,13,乙8の1・2,乙15,証人G,証人D,弁論の全趣旨]
b 建設機械本部本部長としての業務内容等
本件会社において,建設機械本部本部長の業務は,①建設機械本部の販売戦略,販売計画の策定,②建設機械部門の統括,③建設機械部門の営業予算及び経費予算の検討・管理,④販売網の整備強化,販売促進に関する企画・実施,⑤営業統計資料の作成・分析等とされていた。ただし,亡Bは,下記(a)のとおり,建設機械本部本部長として,大阪本社の会議に出席したり,経営計画案の策定に関与したりしていたものの,下記(b)のとおり,全国の取引先への挨拶回りや,個別案件における営業担当者の支援など,営業・販売業務としての性質を有する業務に従事しており,それは,亡Bが建設機械本部本部長として従事した業務の相当部分を占めていた。
(a) 亡Bは,原則として,毎月2回,大阪本社における会議(本部長会議及び経営会議)に出席していた。なお,本件会社においては,各本部長が,経営会議において,①本部長以上の決裁(社長決裁)を要する取引については,販売稟議の説明をして承認を得る,②各本部長が決裁権限を有している取引については,各本部長が決裁済みの案件について事後説明をして承認を得るという取扱いがされていた。亡Bは,建設機械本部本部長として,これら会議における建設機械本部に係る説明内容等を準備したり,人事事項,労務管理事項について検討したりすることがあった。
(b) 亡Bは,建設機械本部本部長として,全国の建設機械部門の営業担当者をまとめる立場にあったが,地方の営業担当者が担当している取引先を訪問するなどして,当該担当者の営業・販売業務を支援しており,そのほか,書面の確認,決裁業務等を行っていた。亡Bが行った建設機械本部本部長としての具体的業務には,次のⅰ~ⅳのようなものがあった。
ⅰ 亡Bは,建設機械本部本部長として,全国の得意先回りを行っており,例えば,大阪本社への出張等の機会を活用して,地方の取引先への挨拶回りを行うなどしていた。また,亡Bは,取引先が参加する旅行会や建設機械の見学会を企画,実施することもあった。
ⅱ 亡Bは,個別案件について,地方の営業担当者と打合せを行い,必要があれば,当該取引先を直接訪問するなどして,営業・販売業務を行っており,その具体的内容は,東京建設機械部部長としての業務内容(前記a(a)参照)と同様のものであった。
ⅲ 亡Bは,建設機械本部本部長として,販売稟議書,見積書,注文書,契約書,成約台帳,売上伝票,請求納品書,立替旅費伝票等の書面に目を通し,疑問点等があれば作成者に質問するなどして確認の上,決裁(押印)していた。
ⅳ 大阪本社の決裁が必要な取引に係る稟議書は,亡B(建設機械本部本部長)の決裁を経て,大阪本社に上げられるが,建設機械は1台当たりの価格が高額であり,例えば,建設用クレーンの場合,1億円程度となることもあるため,少なくとも全取引の3~4割程度が大阪本社の決裁が必要な取引であった。
大阪本社(管理本部)は,稟議書の内容を確認し,融資に関する条件(ファイナンスリース契約の内容,分割回数,頭金の額等)について,建設機械本部本部長宛てのファックス文書を送信して,必要な指示を行っていた。また,大阪本社の決裁過程において,D常務(管理本部本部長)やC会長は,稟議書の内容に疑問等がある場合,亡Bに直接電話を掛けて質問や指示をすることがあった。亡Bは,大阪本社の指示を営業担当者に伝えて打合せをし,必要があれば,取引先の要望や財務状況等を説明して大阪本社(管理本部)を説得したり,取引先を直接訪問して再交渉したりしていた。
[甲3,4,5の1・2,甲6~8,9の1・2,甲13,乙6,9の1・2,13,15,21,27,29,証人G,証人D]
c 執行役員としての業務内容等
亡Bは,執行役員として,経営会議に出席しており,また,経営計画委員会の委員として,その業務にも従事していた。しかしながら,亡Bは,上記業務のほか,建設機械本部本部長及び東京建設機械部部長(兼務)としての業務以外に,執行役員として独自の業務があったわけではなかった。
[乙10の1・2,乙11]
(イ) 亡Bの勤務場所,勤務時間管理等
a 亡Bは,本件会社において建設機械部門一筋に経歴を積み上げ,東京地区で勤務するようになってからは,東京建設機械部がある船橋営業所において勤務しており,亡Bが,理事,取締役及び執行役員に就任した以降においても,本件死亡までの間,その勤務場所は船橋営業所のままであった。なお,亡Bは,執行役員当時,大阪本社に机と椅子が用意されてはいたが,本件会社に入社して以降,大阪本社で勤務をしたことは一度もなかった。
b 亡Bは,出張等がない限り,横浜市青葉区の自宅を午前7時ころに出て,午前8時50分(ただし,東京建設機械部の朝礼がある場合は,午前8時)に定時出社しており,出張等がある場合には,その前日に現地に移動して宿泊したり,当日に自宅から現地に直接移動したりしていた。
c 本件会社は,就業規則により,従業員の所定労働時間について,午前8時50分から午後5時30分まで(休憩時間1時間)と定めて,週休2日制を採用していた。また,本件会社は,一般従業員の勤怠管理を出勤簿によって行い,出勤簿に一般従業員が署名するという管理方法をとっていた。亡Bについては,理事に就任して以降,出勤簿は作成されておらず,勤怠管理や労働時間の管理はされていなかった。
d 東京建設機械部では,社内LAN(営業支援システム)を利用して,各従業員が行動予定表に記入することにより,それぞれの行動予定等が管理されていた。なお,亡Bの行動予定については,事務職員が行動予定表に記入していた。
e 亡Bが出張等をする際の交通費支給については,他の従業員と同様に,出張申請書に必要事項を記入して大阪本社に提出して精算するという方法がとられていた。ただし,出張申請書の決裁は,亡B自身が行っていた。
[甲7,12,13,乙5~7,22,証人G,証人D]
(2)  検討
前提事実及び上記(1)の認定事実(以下,この項において単に「認定事実」という。)に基づき,亡Bが本件会社の指揮監督の下において労務を提供していた者に当たるといえるかどうかを検討する。
ア 亡Bの本件会社における職歴は,前提事実(1)ウ(ア)のとおりであり,亡Bが,昭和40年3月29日に本件会社に入社してから平成10年12月1日に理事に就任するまでの間,本件会社の一般従業員(労働者)であったことについては,当事者間に争いがない。
イ 亡Bの業務実態
(ア) 前提事実(1)ウ(ア)によれば,亡Bは,一般従業員から理事に就任し,その後,取締役,取締役兼執行役員(兼務)を経て,執行役員となっており,その間,兼務のものも含めて,東京建設機械部部長,東京建設機械部第二課課長,中部建設機械部部長,建設機械本部副本部長,建設機械本部本部長,東北建設機械部部長の役職に就いており,本件死亡当時は,執行役員であり,建設機械本部本部長及び東京建設機械部部長(兼務)の役職に就いていたことが認められる。
(イ) 理事就任後から本件死亡時までの間における亡Bの業務実態について
a 理事就任から取締役就任まで
(a) 前提事実(1)ウ(ア)によれば,亡Bは,理事就任前の一般従業員であったときに就いていた東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長(兼務)の役職に理事就任後も引き続き就いていたこと,その後,亡Bは,建設機械本部副本部長及び中部建設機械部部長(兼務)の役職にも就いていること,これらの役職のうち東京建設機械部第二課課長(兼務)職はその後に亡Bが理事を退任して取締役に就任した平成12年2月25日に,東京建設機械部部長職は更に後の同年6月1日に至ってそれぞれ解職されていることが認められる。
証拠(乙13,15,24)によれば,本件会社の理事は,執行役員制度が導入されるまであった地位であり,本件会社は,取締役等の会社法上の機関ではないが,一般従業員とは区別して,今後会社を担うであろう人材を取締役に就任させるか否かを含めて取締役に準ずる位置付けの者として,取締役会において理事の選任を行っていたことが認められる一方,本件会社が,亡Bの理事就任の際に,亡Bとどのような内容及び法形式の契約をしたのかを明らかにする証拠も,理事に就任する亡Bに対し,東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長(兼務)としての業務及び権限以外に,理事としての独自の業務ないし権限を付与したことをうかがわせる証拠もない。
さらに,認定事実イ(イ)aによれば,亡Bの勤務場所は,理事就任の前後を通じて,船橋営業所であったことが認められる。
(b) 以上の事実関係によれば,本件会社は,理事を取締役に準じた位置付けの者として扱っているというのであるが,理事は,会社法上の機関に当たるものではなく,本件会社が独自に設けた地位ないし身分である。そして,理事が一般従業員とは異なる独自の権限を有していることはうかがえず,亡Bについては,理事就任後も,一般従業員であったときに就いていた東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長(兼務)の役職に引き続き就いてその業務を行っていたこと,一般従業員が就く東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長(兼務)と理事が就く東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長(兼務)との間において業務内容や権限が異なることをうかがわせる事情もないことからすると,亡Bが理事に就任する前後において,実際に携わっていた東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長(兼務)の業務実態に違いはなかったものと推認することができる。そして,認定事実ア(エ)bで認定した東京建設機械部の業務範囲及び認定事実イ(ア)aで認定した東京建設機械部部長の業務内容に照らすと,東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長(兼務)の業務内容は,一般従業員の管理職が行う営業・販売業務であると認められるものである。そうすると,理事に就任した後の亡Bの東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長(兼務)としての業務実態は,亡Bが一般従業員であったときに行っていた業務実態と変わらないものであったといえる。
亡Bは,理事就任中に建設機械本部副本部長及び中部建設機械部部長(兼務)の役職にも就いているところ,これらの役職の具体的業務内容を認め得る証拠はない。しかし,証拠(乙4)によれば,中部建設機械部は,建設機械部門において東京建設機械部と同列の部署であることが認められ,これによると,中部建設機械部部長の業務内容は,東京建設機械部部長のそれと同内容のものと推認される。また,建設機械本部副本部長は,その名称からして,建設機械本部本部長を補佐する役職であると解されるところ,その業務内容は,認定事実イ(ア)bで認定した建設機械本部本部長の業務内容に照らすと,経営担当者が行うものというよりは,一般従業員の管理職が行う営業・販売業務であると解されるものである。したがって,これらの役職の業務実態は,東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長(兼務)としての業務実態と同種のものということができる。
(c) なお,前提事実(1)ウ(ア)によれば,亡Bが理事に就任した際,本件会社は,亡Bが一般従業員を退職したものとして取り扱い,亡Bに対し,一般従業員に係る退職金として1828万5022円を支払っていることが認められる。このように,亡Bは,理事に就任した際,一般従業員を退職したものと取り扱われ,一般従業員に係る退職金の支給を受けているが,上記(a),(b)の事実関係に照らすと,この取扱い及び退職金支給は,本件会社が理事を役員候補者として位置付けて一般従業員と区別して扱い,一般従業員が理事になる際に,一つの区切りとして,一般従業員に係る分の退職金を支払うこととしているという事実上の取扱いであると解されるものであるから,本件会社の上記取扱い等は,上述の理事の地位や権限に関する認定判断及び理事就任の前後を通じて亡Bの業務実態が変わらないとの認定判断を左右するものではない。
b 取締役就任から執行役員就任まで
(a) 前提事実(1)ウ(ア)によれば,亡Bは,平成12年2月25日に理事を退任して取締役に就任しているが,証拠(乙5)によれば,本件会社の取締役には,従業員を兼ねる者がいたことが認められ,これによると,本件会社においては,取締役に就任することによって当然に従業員たる立場を喪失するというものではなかったことが推認される。したがって,亡Bが取締役に就任したことは,それだけで亡Bの従業員性を否定する根拠となるものではない。
(b) 前提事実(1)ウ(ア)及び認定事実イ(イ)aによれば,亡Bは,取締役就任の前後を通じて,一般従業員であったときから引き続き理事就任中も就いていた東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長(兼務)の役職に就いており,また,これらの役職と業務実態が同種のものと認められる理事就任中に就いた建設機械本部副本部長及び中部建設機械部部長(兼務)の役職(上記a(b)の説示参照)にも就いていたこと,亡Bの勤務場所は,理事就任前から取締役に就任した後も,東京建設機械部部長職の役職に就いていなかったとき期を含めて,一貫して船橋営業所であったことが認められる。
以上の事実関係によると,亡Bは,理事を退任して取締役に就任したというものの,その過程において,一般従業員のときから行っていた東京建設機械部部長等として行う業務内容には変化がなかったものと推認することができ,この役職に係る業務実態は,取締役就任中においても,一般従業員及び理事就任中に行っていた業務実態と同じものであったと解される。
(c) 前提事実(1)ウ(ア)によれば,亡Bは,平成12年12月1日に上記の役職を全て解職され,新たに建設機械本部本部長に就き,平成13年7月1日に中部建設機械部部長(兼務)に就いた後,同年9月1日に同部長職(兼務)を解職されて東京建設機械部部長(兼務)に就いていることが認められる。
これらの役職のうち建設機械本部本部長を除いたものの業務実態については,上記説示のとおり,亡Bが一般従業員であったときに就いていた当該役職のそれと同じないし同種のものであったと推認される。また,建設機械本部本部長の業務についても,認定事実イ(ア)bのとおり,全国の取引先への挨拶回りや,個別案件における営業担当者の支援など,営業・販売業務としての性質を有する業務がその相当部分を占めていたのであって,経営担当者が行うものというよりは,一般従業員の管理職が行う営業・販売業務であったものと解される。そうすると,亡Bは,取締役就任中においても,一般従業員であった当時と同様の営業・販売業務に従事していたと解されるのであり,亡Bが,これら営業・販売業務を専ら取締役として行っていたとか,これら業務について取締役として独自の権限等を付与されたことをうかがわせる証拠はない。
c 執行役員就任以降について
前提事実(1)ウ(ア)及び認定事実イ(イ)aによれば,亡Bは,取締役在任中の平成13年12月1日に執行役員(兼務)に就任するとともに,建設機械本部副本部長(東京駐在)及び東北建設機械部部長の役職に就いたこと,平成14年2月27日に取締役を任期満了により退任するとともに執行役員(兼務)を解職された上,新たに執行役員に就任したこと,その後,同年6月14日に東京建設機械部部長(兼務)の役職に就き,平成15年12月1日に建設機械本部副本部長を解職され,建設機械本部本部長の役職に就き,平成16年12月1日に東京建設機械部部長(兼務)の役職に就いたこと,亡Bの勤務場所は,執行役員就任後も引き続き船橋営業所であったことが認められる。
これらの役職は,いずれも,亡Bが一般従業員であったときから引き続き就いていた役職又はそれと同種の役職であり,執行役員就任の前後でこれらの業務内容が変わったことをうかがわせる証拠はなく,証拠(乙5)によれば,本件会社は,執行役員が執行役員制度導入前の理事に相当する地位であると認識しているものと認められることを併せかんがみると,それぞれの業務実態は同じものであると解される。
d 以上によれば,亡Bは,一般従業員であったときから,理事に就任し,次いで取締役に就任し,更に執行役員に就任したという一連の経過を通じて,その間に役職の異動はあったものの,船橋営業所を拠点として,一貫して,建設機械部門における一般従業員の管理職が行う営業・販売業務に従事してきたものであり,その業務実態に質的な変化はなかったものということができる。
ウ 亡Bの業務に対する指揮監督
(ア) 亡Bが一般従業員であった当時における労働者性については当事者間に争いがないから,亡Bが本件会社から指揮監督を受けてその当時就いていた東京建設機械部部長等の業務を行っていたものといえる。そして,亡Bは,一般従業員から理事に就任し,その後取締役に就任し,更に執行委員に就任した経過の中で,上記イ(ア)で挙げた各役職に就いて一般従業員の管理職が行う営業・販売業務を一貫して行っており,当該業務を行うについて一般従業員であったときとは異なる特別の授権等を受けておらず,その業務実態に質的な変化がなかったこと(上記イ),亡Bは,建設機械本部本部長として,1件当たり3000万円を超える取引(与信)又は取引先に対する総与信残高が5000万円以下の取引について決裁権限を有していたものの,これらを超える取引については,大阪本社の決裁を得る必要があり,現に,大阪本社(C会長,D常務)から具体的な質問や指示を受けていたこと(認定事実ア(エ)c(b)及び同イ(ア)b(b)ⅳ)からすると,これら一連の経過の中で亡Bが行った建設機械部門における営業・販売業務についても,一般従業員として東京建設機械部部長等に就いていたときと同様に,本件会社からの指揮監督を受けていたものと解するのが相当である。
(イ) 被告は,上記の決裁権限を根拠として,亡Bが広範な業務執行の権限を付与されていた者であり,取締役と同様の経営担当者の地位にあったというべきである旨主張する。しかし,認定事実ア(エ)c(b)のとおり,亡Bは,一般従業員であった当時から,東京建設機械部部長として,1件当たり500万円以下の取引(与信)について決裁権限を有していたのであり,一定範囲の取引について決裁権限を有していたこと自体から直ちに,亡Bの経営担当者性が裏付けられるものとはいえないし,認定事実イ(ア)b(b)ⅳのとおり,建設機械は1台当たりの価格が高額であって,少なくとも本件会社における取引の3~4割は,建設機械本部本部長より上位の決裁を要する取引であったというのであるから,必ずしも上記決裁権限が広範なものということはできない。そうすると,亡Bが建設機械本部本部長として上記の決裁権限を有していたことは,本件会社による指揮監督の存在を否定し,亡Bが経営担当者の地位にあることを根拠付ける事情として重視することはできない。
また,被告は,亡Bが自らの判断で部下を帯同し,出張等について自ら決裁して全国の取引先を回るなどしており,取締役と同様の経営担当者の地位にあったというべきである旨主張する。しかし,亡Bが行っていた上記業務は,認定事実イ(ア)bのとおり,一般従業員の管理職が行う営業・販売業務としての性質を有する業務といえるものであって,営業担当者として行った業務という側面が強く,経営担当者でなければできないものとは到底いえないし,建設機械部門を統括する管理職(建設機械本部本部長)として通常認められる権限内のものと解される。以上に加えて,認定事実イ(イ)eのとおり,亡Bは,出張の際の交通費支給において,他の従業員と同様,出張申請書に必要事項を記入して精算するという手続をとっていたことをも併せ考慮すると,被告の上記主張事実は,本件会社による指揮監督の存在を否定し,亡Bが経営者の地位にあることを根拠付ける事情として重視することはできない。
さらに,被告は,亡Bが就業規則の適用を受けず,始業・終業時刻の拘束を受けておらず,取締役と同様の経営者の地位にあったというべきである旨主張する。しかし,認定事実イ(イ)によれば,Bは,その役職の変更等にかかわらず,船橋営業所を勤務地とし,他の従業員と同様に,出張等がない限り,船橋営業所に定時出社し,その行動予定は,社内LAN(営業支援システム)によって把握されていたのである。そして,亡Bは,東京建設機械部及び建設機械部門を統括する責任者としての立場にいたのであり,管理監督者に当たり得る者であるから,出勤・退勤時間の拘束を受けていなかったという事情は,本件会社による指揮監督の存在を否定し,亡Bが経営者の地位にあることを根拠付ける事情として重視することはできない。
したがって,被告の上記各主張は採用することができず,他に,上記推認を覆すに足りる証拠はない。
エ 亡Bの執行役員としての業務等
(ア) 本件会社の執行役員制度
a 認定事実ア(ア)aによれば,本件会社の執行役員制度は,会社法その他の関係法令に根拠を有するものではなく,本件会社が任意に設置したものであること,本件会社の執行役員制度は,取締役・監査役の監督機能を強化し,経営の透明性,客観性を確保するために,①取締役の減員及び社外取締役の導入,②社外監査役の導入及び③執行役員を設置し,意思決定・監督機能と執行機能とを分離したものであり,本件会社における事業の意思決定行為及び監督行為を取締役及び監査役に,事業の執行行為を執行役員に,それぞれ分けて担当させることとしたものである(証人Dが「B氏は入社以来,建設機械一筋で来られてきたこともあって,a社の中では建設機械では右に出るものがいないくらいの,非常にプロフェッショナルな仕事をやっていただいたということでありまして,より仕事に専念するためには執行役員だけに就いていただいたほうがよかろうという,会社の経営戦略上そうしたということでございます」と証言している部分は,正に上記のことをいうものである。)。
b 本件会社は,執行役員制度を導入するに際して執行役員規程を制定しているところ(認定事実ア(ア)b),執行役員規程2条は,執行役員について,「取締役会で選任された会社の業務の執行を担当する取締役でない者をいう」と定め,同15条1項は,「取締役会は,選任した執行役員に対して,取締役会が決定する会社の業務の執行を委任する」と定めている。しかしながら,これらの規定は,その内容に照らすと,執行役員が本件会社の事業の経営担当者であると定めているものと直ちに解し得るものではないこと,亡Bが平成13年12月1日に執行役員(兼務)に,平成14年2月27日に執行役員にそれぞれ就任した際に,本件会社が亡Bとどのような内容及び法形式の契約をしたのかを明らかにする証拠はないこと,上記イ(イ)cで説示したとおり,亡Bが執行役員就任後も行っていた建設機械部門における営業・販売業務の業務実態が,一般従業員当時からのそれと変わらないものであることからすると,上記の各規定は,執行役員の経営担当者性を根拠付けるものということはできない。
執行役員規程8条本文は,「従業員である者が執行役員に選任されたときは,前条の就任日の前日をもって従業員としての身分を失い退職とし,社員の『退職年金規程』により退職金を支給する。」と定めている。しかしながら,他方において,同8条ただし書は,「ただし,労働基準法,社会保険法その他法令の適用については各法律の定めるところによる。」と定め,同12条2項は,「解任された執行役員は,原則として従業員の地位を失うものとする。」と定めており,これらの規定は,その内容に照らすと,執行役員が労働基準法等の法律における労働者である場合があること及び執行役員であっても従業員としての地位を有する者がいることを想定していると解することができるものである。したがって,執行役員規程8条本文の規定は,執行役員の経営担当者性を根拠付けるものということはできない。
執行役員規程3条は,その1項において,「執行役員に関する事項については,(中略)本規程に従うものとする。」と定め,その2項において,従業員に適用される「就業規則は,特にこの規程で準用する場合を除き,執行役員には適用されないものとする。」と定めているが,これらの規定も,上記の執行役員規程8条ただし書,同12条2項の各規定内容にかんがみれば,執行役員の経営担当者性を当然に根拠付けるものとはいえない。
執行役員規程22条は,「執行役員の報酬の額または賞与の額は,取締役会の決議による。」と定め,同23条は,「執行役員が会社を退職するときは,その業務上の功労により,別に定める『役員退職慰労金支給規程』に従って退職慰労金を支給する。」と定めて,執行役員の報酬等の支給について従業員と異なる定めをしている。しかしながら,これらの規定も,執行役員と従業員とが区別して扱われることを示しているものにすぎず,執行役員の経営担当者性を当然に根拠付けるものではない。
他に,執行役員規程中に,執行役員が本件会社の事業の経営担当者であることを認め得る規定はない。
(イ) 執行役員としての業務内容等
a 経営会議への出席
(a) 認定事実イ(ア)cによれば,亡Bは,執行役員として,建設機械本部本部長及び東京建設機械部部長(兼務)としての業務を行うほかに,大阪本社で毎月開催される経営会議に出席していたこと,経営会議は,H社長が議長となり,本件会社に関する様々な事項について協議する会議であることが認められる。しかし,経営会議は,会社法に基づく機関ではなく,本件会社が任意に設置しているにすぎないものであるし,その権限内容,運営手続等は証拠上明らかでない。また,乙4(経営組織概要図)によれば,経営会議は,執行役員制度を導入する以前から存在しており,取締役会の下位で社長と並ぶ位置に配置されているものであるところ,認定事実ア(ウ)cによれば,本件会社の最終意思決定は,経営会議ではなく,必ず取締役会において行っていることが認められる。
以上によれば,経営会議は,取締役において決議を行うべき事項について事前に協議する組織であるが,本件会社独自の組織であって,会社法に基づく意思決定機関ではないことは明らかである。そうすると,経営会議の構成員であることは,当然に経営担当者であることを裏付けるものということはできない。そして,執行役員が,取締役と異なり,法令上の責任を有しているわけではなく,執行役員規程においても,代表取締役社長による指揮監督並びに取締役及び取締役会の監督を受けるものとされていること(15条)を併せ考えると,執行役員が経営会議の構成員であることをもって経営担当者であると解することはできない。
(b) この点,被告は,経営会議が本件会社における実質的な意思決定機関であり,その構成員であった亡Bは,経営陣の一員であった旨主張する。
確かに,認定事実ア(ウ)cによれば,本件会社の取締役会は,経営会議における協議結果を追認する結果となっていることが認められる。しかしながら,経営会議の構成員(合計14名)は,C会長,H社長,取締役,執行役員及び関連会社の責任者であり,経営会議の構成員の半数が取締役会の構成員であることが認められ,このような構成員の関係にかんがみると,取締役会が経営会議における協議結果を追認する形となることは,至極自然なことと解される。そして,上述のとおり,本件会社の最終的な意思決定機関は取締役会であって,執行役員は,取締役と異なり,法令上の責任を有しているわけではないことを併せ考えれば,執行役員が経営会議の構成員であることをもって,その経営担当者性を根拠付ける事由ということはできない。
したがって,被告の上記主張は,上記(a)の判断を左右するものではない。
b 経営計画委員会の業務等
認定事実ア(ウ)dによれば,亡Bは,経営計画委員会の委員に指名され,同委員としての業務に従事しているところ,被告は,亡Bが取締役である他の本部長と同一の権限を持って,経営会議に諮るための「経営計画(経営プラン)」や各本部に係る人事異動についての原案を立案するなどしているから,経営陣の一員である旨主張する。
しかしながら,認定事実ア(ウ)dによれば,経営計画委員会は,各部門の経営計画案の作成を行うために編制される組織であり,経営計画案は,各委員に対し,添付されたフォーム及び用紙に,部別,商品別及び期別の営業計画,月次ベースの売上,経費等を記入したものを提出するよう要求して,これらを併せて作成するものであり,最終的な経営計画は,経営会議の承認を経て,取締役会において決定されるものである。これらの事情に照らすと,亡Bが経営計画委員会の委員として経営計画案の作成に関与していたからといって,同事実は,亡Bが経営担当者であることを根拠付けるものとして十分なものとはいえない。また,亡Bが人事異動についての原案を立案していたという点についても,このような原案の作成は,経営陣に属する者でなければできないというものではなく,一般従業員の管理職であっても担当し得る業務であって,重視すべき事情には当たらない。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば,本件会社の執行役員は,その制度上の観点からは,事業主体の機関として法律上定められた業務執行権を有する者ということはできないし,また,亡Bが執行役員として経営会議に出席し,また,経営計画委員会の委員として活動していたからといって,経営担当者に当たるということもできない。
オ 以上によれば,亡Bは,業務実態等の観点からは,理事,取締役及び執行役員にそれぞれ就任していた間も,本件会社の指揮監督の下に,業務執行権の一部を分担してそれを遂行していた者ということができる。
カ その他の被告の主張について
(ア) 被告は,亡Bが,取締役に就任した後,取締役のまま執行役員に就任し,その後,取締役を退任して執行役員となったという経緯によれば,亡Bは,委任契約の受任者としての地位にあるものと考えられる旨主張し,本件会社の法務部長であるVの陳述書(乙5)及び回答書(乙9の2),本件死亡当時本件会社の常務取締役管理本部長であったDの陳述書(乙6,13,22,24)及び証人Dの証言中には,同主張と同旨の陳述等がある。また,証拠(乙10の1)によれば,本件会社が,亡Bを執行役員に任命するに先立ち,平成13年11月19日開催の取締役会において,亡Bを執行役員に選任して,「取締役・建設機械副本部長,東北建機部長」の業務を委任することを決議した旨が取締役会議事録に記載されていることが認められる。
しかし,証拠(乙5)及び弁論の全趣旨によれば,本件会社の取締役の中には,賃金と役員報酬の支給を受けている従業員を兼務する者がいることが認められ,取締役であるからといって,本件会社との契約内容が単純な委任契約であるということはできない。また,上記エ(ア)bで認定説示したとおり,本件会社が制定した執行役員規程は,従業員の地位を有する執行役員の存在を想定していること,上記イ及びウで認定説示したとおり,亡Bの業務実態は,一般従業員のときから執行役員に就任した後本件死亡時まで,一貫して,本件会社の指揮命令を受けて建設管理部門における一般従業員の管理職が行う営業・販売業務に携わっていたのであり,その間に業務実態の質的な変化はなかったことを併せ考えると,亡Bが,本件会社の取締役のまま執行役員になった,あるいは,取締役を退任して執行役員になったからといって,それだけで執行役員が単純な委任契約の受任者としての地位にあるということはできない。
なお,本件会社と亡Bの間の契約内容が,雇用契約として性質を有しない単純な委任契約であったとするならば,その委任する業務内容を変更する際には,その旨を別途合意することが必要であると解される。しかしながら,亡Bについては,多数回にわたって役職変更が行われているが,その際,上記の合意がされたことをうかがわせる証拠はない。前提事実(1)ウ(ア)の本件会社が行った亡Bの役職変更歴をみると,亡Bが一般従業員であった当時にされたものと,その後理事,取締役及び執行役員に順次就任していた間にされたものとの間で法的性質に違いがあることはうかがわれず,本件会社が使用者としての立場から,その時々の必要性等に基づき,業務命令として行ったものと推認するのが相当である。
以上によれば,上記の被告の主張及びこれに沿う陳述等は採用することができない。
(イ) 被告は,亡Bが,建設機械本部本部長として,建設機械部門を統括する業務に従事しており,その具体的な職務内容等からしても,到底労働者とはいい難い旨主張するが,上記イ及びウにおいて認定説示したところによれば,被告が指摘する事情を根拠として亡Bの労働者性を否定することができない。
3 亡Bが使用者(本件会社)から労務に対する対償としての報酬が支払われている者に当たるかどうかについて
(1)  認定事実
ア 亡Bに対する報酬の支払状況等
(ア) 本件会社は,執行役員に対する報酬を取締役会の決議によって決定し,決定した額を給料の名目で支給している。執行役員に対する報酬の支払は,毎月基本給名目で定額のものが支給されるほか,賞与が年2回(夏期及び冬期)支給されていた(執行役員規程22条参照)。
なお,取締役に対しては,役員報酬が支給されていた。
(イ) 本件会社における賃金ないし報酬ベースは,概ね以下のとおりであった。
a 課長クラス 平均700万円
b 執行役員ではない部長クラス 800万円~900万円
c 執行役員 1000万円~1200万円
d 一般取締役 1200万円~1800万円
(ウ) 本件会社は,亡Bが理事に就任する以前から本件死亡までの間,亡Bに対し,一貫して,給与の名目で報酬を支払っており,平成10年以降の亡Bに対する報酬額の推移は,以下のとおりであった。
a 平成10年 年収:872万1670円
なお,亡Bは,東京建設機械部部長及び東京建設機械部第二課課長の役職にあったが,同年12月1日,理事に就任している。
b 平成11年 年収:905万0830円
c 平成12年 年収:1072万3800円
なお,亡Bは,同年2月25日,理事を退任し,取締役に就任している。
(a) 同年2月時点 基本給(月額)59万円
なお,上記額は,取締役就任直前におけるものである。
(b) 同年3月以降 基本給(月額)68万円
d 平成13年 年収:1108万9240円
亡Bは,同年12月1日,取締役兼執行役員に就任している。
(a) 同年3月以降 基本給(月額)77万円
(b) 同年9月以降 基本給(月額)73万2000円
e 平成14年 年収:1003万8240円
なお,亡Bは,同年2月27日,取締役を退任して執行役員に就任している。
(a) 同年3月以降 基本給(月額)64万4000円
(b) 同年12月以降 基本給(月額)66万円
f 平成15年 年収:974万7240円
同年3月以降 基本給(月額)68万円
g 平成16年 年収:1105万3240円
同年3月以降 基本給(月額)69万円
(エ) 亡Bは,理事就任以降,その勤怠管理上の欠勤控除等をされたことはなく,時間外割増賃金の支給もされたことはない。
[甲11の1~12,乙5,6,9の1・2,13,14,22,証人D]
イ 社会保険料等の取扱い
(ア) 本件会社は,毎月,亡Bに対し,社会保険料(健康保険,厚生年金,雇用保険)並びに所得税(源泉徴収)及び市町村税を控除して報酬を支給しており,その際,「給与支給明細書」を交付していた。なお,これら支給事務については,亡Bが理事に就任する以前から本件死亡までの間,特段の変更はなかった。
[甲11の1~12,甲12,乙14,原告本人]
(イ) 本件会社は,一般従業員であった者が理事ないし取締役となった場合,社会保険(雇用保険等)について特段の処理をすることはせず,常務取締役となった場合には,雇用保険の対象外とするという処理をしていた。
[乙20の1・2,24,証人D]
ウ 本件会社は,亡Bの執行役員の退任に伴い,退職慰労金270万円,功労金100万円及び弔慰金100万円を支給した。なお,一般従業員が死亡退職した場合,退職金のほか,10年以上の勤続者である場合において弔慰金13万円を支給することとされていた。
[乙13]
(2)  検討
上記(1)の認定事実(以下,この項において,単に「認定事実」という。)に基づき,亡Bが本件会社から支給を受けていた報酬が労務に対する対償に当たるものといえるかどうかについて検討する。
ア 認定事実ア(ア)によれば,亡Bは,役員報酬ではなく,基本給名目で報酬の支払を受けていることが認められる。これは,執行役員に対する報酬について,取締役とは異なる報酬体系及び経理処理がとられていたことを示すものである。
イ 認定事実ア(イ)によれば,執行役員は,一般取締役より報酬ベースが低くされていることが認められ,報酬額それ自体から,両者の同質性を認めることはできない。もっとも,上記認定事実によれば,一般従業員と執行役員との間にも報酬ベースに格差が設けられていることも認められ,一般従業員と執行役員についても,報酬額それ自体から,両者の同質性を認めることは困難である。また,認定事実ア(イ),(ウ)によれば,亡Bに実際に支給された報酬額は,一般従業員,理事,取締役,執行役員それぞれの報酬ベースに応じたものであったことが認められることからすると,亡Bの報酬額の変遷によって執行役員の報酬の性質決定をすることもできない。
ウ 認定事実ア(ア),(ウ)によれば,支給される報酬額は,取締役会の決議によって定められているものの,決定額に基づき毎月定額の金額が賃金として支給され,その際,社会保険料の控除や源泉徴収がされて,これら内容を記載した給与明細書が交付されていることが認められる。この事実によれば,亡Bに対する報酬の支払は,経理処理上,本件会社の従業員に対する賃金支給として処理されていたものと推認される。
なお,亡Bの報酬については,時間外手当の支給や欠勤控除はされていない。しかしながら亡Bの役職,業務内容,報酬額といった事情を勘案すれば,亡Bは,管理監督者と解され得る立場にあったということができるから,時間外手当の不支給等の事情は,重視すべきものとは解されない。
エ 以上の点に加え,上記2で説示したとおり,亡Bは,本件会社の指揮監督の下で建設機械部門における営業・販売業務を行っていたといえることをも併せ考えると,亡Bが本件会社から支給を受けていた報酬は,労務に対する対償に当たるものと評価するのが相当である。
オ 被告の主張について
(ア) 被告は,亡Bの報酬は役員報酬であり,労務対償性がないと主張し,その理由として,上記第3の2(2)ウ(ア)の① ~ 及び②の点を上げるが,上記ア~エで説示した理由により,採用することができない。
(イ) 被告は,亡Bの報酬から社会保険料が控除されていたのは,本件会社が,雇用保険法の被保険者についての理解が十分でなく,従業員が理事ないし取締役となった場合においても,常務取締役とならない限り,雇用保険の対象から除外しないという取扱いをしていたことによるものであると主張し,D常務の陳述書(乙24)及びその証言中に,同主張に沿う陳述等がある。
しかし,亡Bは,理事,取締役及び執行役員となった後においても,従業員としての業務を行っており,その観点からは,亡Bが従業員としての地位を保有していたものと認められることからすると,亡Bに対する報酬から社会保険料が控除されていたという事実は,亡Bの労働者性を裏付ける事情に該当するというべきである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 被告は,亡Bが,本件会社内において,出張の際の利用ホテル等のランク,死亡による弔慰金等の支給に関して他の取締役と同等の取扱いをされていたと主張する。
しかし,本件会社内の上記取扱いは,これまで認定判断してきた亡Bの業務実態,本件会社による指揮命令,報酬の労務対償性を否定する事由に当たるものとはいえないから,被告の上記主張は採用することができない。
4 以上2及び3の検討によれば,亡Bは,執行役員という地位にあったものの,その業務実態は,本件会社の指揮監督の下にその業務を遂行し,その対価として報酬を受けていたということができ,従業員としての実質を有していた者と認められるから,労災保険法(労働基準法)上の労働者に該当するというべきである。
第5  結論
以上によれば,亡Bが労災保険法上の労働者に当たらないことを理由としてした本件処分は,違法があり,取消しを免れない。なお,本件死亡の業務起因性については,本件処分で判断されておらず,審査請求及び再審査請求においても判断されていない(再審査請求に対する裁決では,なお書きとして,本件死亡の業務起因性に関する労働保険審査会の意見が付されているにすぎない。)から,裁判所としては,上記の点についての判断はしない。
よって,原告の請求には理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青野洋士 裁判官 渡邊和義 裁判官村田一広は,差し支えのため署名押印できない。裁判長裁判官 青野洋士)

 

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