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「営業支援」に関する裁判例(74)平成24年 8月28日 東京地裁 平22(ワ)21647号 地位確認等請求事件 〔ブランドダイアログ事件〕

「営業支援」に関する裁判例(74)平成24年 8月28日 東京地裁 平22(ワ)21647号 地位確認等請求事件 〔ブランドダイアログ事件〕

裁判年月日  平成24年 8月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平22(ワ)21647号
事件名  地位確認等請求事件 〔ブランドダイアログ事件〕
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2012WLJPCA08288005

要旨
◆被告に部長として雇用された原告が、懲戒解雇処分及び同処分に先立つ降格・降給処分の無効を主張して、雇用契約上の地位確認、解雇後の賃金支払、部長の地位にあること及び降給処分前の額で基本給を受ける地位にあることの確認並びに賃金支払を求め、懲戒解雇等は不法行為に当たるとして、損害賠償を求めた事案において、本件降格・降給処分の具体的理由のうち原告の責めに帰すことができる事情は1つのみである一方、同処分による原告の減額幅は相当に大きいことなどから、同処分を裁量権の濫用として無効とし、また、原告による顧客データの送信行為は、就業規則中の懲戒解雇事由に該当するが、その動機や実害が生じていないことなどを総合考慮すると、本件懲戒解雇は社会通念上相当とはいえないとしてこれを無効とした上で、本件懲戒解雇に関しては、賃金相当額以上に損害賠償を命ずべき特段の事情はないとして、確認請求及び賃金支払請求のみ認容した事例
◆一般に、降格処分のうちでも、使用者が労働者の職位や役職を引き下げることは、人事権の行使として就業規則等に根拠規定がなくても行い得ると解されるが、使用者が有する人事権といえども無制限に認められるわけではなく、その有する裁量権の範囲を逸脱したり、またはその裁量権を濫用したと認められる場合には、その降格処分は無効となるといえ、特に、降格に伴って労働者の給与も減額されるなど不利益を被る場合には、その降格に合理的な理由があるか否かは、その不利益の程度も勘案しつつ、それに応じて判断されるべきであるとされた事例

評釈
実務家のための労働判例・労政時報 3834号134頁
慶谷典之・労働法令通信 2297号18頁

参照条文
労働契約法6条
労働契約法15条
労働契約法16条
民法709条

裁判年月日  平成24年 8月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平22(ワ)21647号
事件名  地位確認等請求事件 〔ブランドダイアログ事件〕
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2012WLJPCA08288005

神奈川県横須賀市〈以下省略〉
原告 X
訴訟代理人弁護士 岡田修一
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y株式会社
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 石渡進介
同 笠松航平

 

 

主文

1  原告が被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2  原告が被告に対し,インタラクティブコミュニケーショングループ2部の部長職の地位にあり,かつ,月額基本給48万円の支払を受ける雇用契約上の地位にあることを確認する。
3  被告は,原告に対し,96万円及びこれに対する平成22年6月19日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
4  被告は,原告に対し,平成22年6月から本判決確定の日まで,毎月末日限り48万円の割合による金員を支払え。
5  原告のその余の請求を棄却する。
6  訴訟費用は,これを5分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
7  この判決は,第3項及び第4項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  主文第1項ないし第4項と同旨
2  被告は,原告に対し,413万円及びこれに対する平成23年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,被告のインタラクティブコミュニケーショングループ2部の部長として雇用された原告が,平成22年4月8日に被告から受けた懲戒解雇処分が無効であるとして,被告に対し,雇用契約上の地位確認及び解雇後の賃金の支払を求めるとともに,上記懲戒解雇に先立ち同年3月30日に受けた降格・降給処分が無効であるとして,被告に対し,上記部長の地位にあること及び上記降格・降給処分前の額である月額48万円の基本給の支払を受ける地位にあることの確認並びに平成22年4月以降本判決確定までの賃金の支払を求め,さらに,上記懲戒解雇等が被告の不法行為に当たるとして,損害賠償を請求した事案である。
1  前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び後掲各証拠等により容易に認められる事実。証拠の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)  当事者及び雇用契約の締結
ア 被告は,インターネットによる情報サービス等を業とする会社であり,営業支援,顧客管理に関する※※型(ソフトウェアを提供者〔プロバイダ〕側のコンピュータで稼働させ、ユーザーはそのソフトウェア機能をインターネットなどのネットワーク経由でサービスとして使用し、サービス料を支払う形態のもの)の情報ソフトウェアである「△△」「○○」などの商品を販売していた(甲6)。
イ 原告は,平成21年7月21日,被告との間で,以下の約定において,期間の定めのない雇用契約を締結した(以下「本件雇用契約」という。乙1)。
業務内容 ICG(インタラティブコミュニケーショングループ)2部の部長職
賃金 基本給 月額48万円
通勤手当 1か月の通勤定期代実費
支払方法 毎月末日締め,当月末日払い
(2)  被告の就業規程の定め(乙5)
被告の就業規程には,従業員が,会社の秘密情報を社外に漏らし又は事業上の不利益を計ったときはその内容により種類と程度を会社が決定し懲戒処分とする旨を定め(第62条(13)),懲戒の種類と程度について定める第61条においては,(1)譴責,(2)減給,(3)出勤停止,(4)降職降格,(5)諭旨退職,(6)懲戒解雇の6種の懲戒処分を規定している(乙5)。
(3)  原告に対する降格・降給処分の経緯
ア 被告は,平成22年1月ころ,原告に対し,口頭で「懲罰として10%減額する」と述べたが,その後同給与減額の処分を撤回した。
イ 被告は,同年3月30日,原告に対し,「降格・降給通知書」を交付して,同年4月1日付けで部長職降格及び月額給与5万円(部長職手当相当額)の降給処分(以下「本件降格・降給処分」という。)を行った。
上記通知書には,本件降格・降給処分の理由として,「現在の役職及び給与額は採用前の見込み能力に基づいたものだが,以下の事項において他の社員より逸脱して優れていると判断するに乏しく,採用前の見込み能力と入社後9か月間の活動経歴に基づく評価能力に差異があり,部長職としては不的確と,総合的に判断したものである。―マネージメント力(部全体の目標達成管理,全社員を巻き込んだリーダーシップ力)―社内調整力,協調性能力(部内他,部外からの信用力や業務遂行力)―社外との折衝力(パートナーとの契約折衝能力)」との記載がある(甲2)。
(4)  原告に対する懲戒解雇の経緯
ア 原告は,平成21年12月18日と同月24日の2回にわたり,株式会社a(以下「a社」という。)の代表取締役であるB(以下「B」という。)に対し,被告の顧客リストをメール送信したことがあった(以下,この顧客リストを「本件顧客リスト」といい,原告が,Bに対し,上記のとおり2回にわたり同リストをメールで送信した行為を「本件顧客データ送信」又は「本件顧客データ送信行為」という。リストに掲載された顧客の数等,その内容については当事者間に争いがあるが,原告も,本件顧客リストが約3800社に上るものであるという限度では認めている。)。
イ 被告は,原告による本件顧客データ送信行為が,前記就業規則61条,62条(13)に違反することを理由として,平成22年4月8日,原告を懲戒解雇した(以下「本件懲戒解雇」という。)。
ウ なお,a社の旧商号は「株式会社a1」(以下「a1社」という。)であり,同社は,被告商品の販売代理店であった。
エ 被告は,財団法人日本情報処理開発協会(以下,単に「協会」という。)からプライバシーマークを付与されていた。プライバシーマークとは,協会から,個人情報保護マネジメントシステムが日本工業規格の「個人情報マネジメントシステム―要求事項JISQ15001」(以下「JIS」という。)に適合している旨認定を受けた事業者のみが付与される特別の表示のことをいう(乙38の1)。
協会のプライバシーマーク制度設置及び運営要領には,プライバシーマーク付与を受けた事業者は,個人情報の取扱いにおける事故等が発生した場合には,速やかに指定機関に報告しなければならない旨定められているところ(19条の2),被告は,平成22年5月7日付けで,協会のプライバシーマーク事務局(以下,単に「プライバシーマーク事務局」という。)に対し,「個人情報の取り扱いに関する事故等の報告書」と題する書面を送付し,原告のa社に対する本件顧客データ送信により顧客情報の漏洩が生じた旨及びその経緯等を報告した(乙25。以下「本件事故報告書」という。)。
2  争点及び当事者の主張
(1)  本件降格・降給処分の有効性(争点1)
(被告の主張)
本件降格・降給通知書に記載したとおり,原告にはマネジメント力の不足,社内調整力・協調性能力の不足,社外との折衝力の不足などがあった。その詳細は以下のとおりであるが,被告は,原告の適性や実績を評価し,人事上の措置として,部長職の役職を解く降格処分,降格に伴う部長職手当相当分の降給処分を行っているもので,その有効性は明らかである。
ア マネジメント力の不足
(ア) 原告との対立を理由として退職した被告従業員がいたこと
原告と同じ部署で勤務していたC(以下「C」という。)は,平成21年9月,被告を退職したが,少なくともその一因は原告との営業方針の対立,人間関係の悪化にあった。Cは,全社員宛てにメールを送信しその中で「Xチームと対立します。僕は,彼等が会社を駄目にしてるとおもいます。」「一緒に仕事したくないね。自分たちのことしか考えていないね。」(乙27)とまで言っているのであり,このメール自体が,原告とCとの対立がいかに深刻なものであったかを物語っており,部長職にある者としてリーダーシップに欠けていると評価せざるを得ない(「Xチーム」というのは,原告とその部下のD〔以下「D」という。〕を指す。)。
(イ) 同じ所属部門の部下社員の面前で,被告の経営陣に対する誹謗中傷をしたこと
原告は,Dとともに同所属部門の部下の従業員の前で,被告経営陣の批判をし,転職を勧めるような発言をしている。例えば,平成22年1月29日夜,原告が部下のDとEと共に社外で食事をしている際,Eに対し,被告の経営陣は頭が悪いとか「(被告の役員である)Fは以前銀行で仕事をしていたという割には何にも分かっていない。あんなのでよく財務が務まるな。」とか「(被告の役員である)Gさんはまともな方だが,当事者で関わらないことに関しては無関心」,「(被告代表者の)Aは本当に馬鹿でどうしようもない。出身大学を知っているが頭の悪い大学だからあんななんだ。メールの文面を読んでも国語がよっぽどできない文章だと分かる。」という趣旨の誹謗中傷をしている。また,Eに対し,「3月にベンチャーキャピタルの審査があるらしい。その際に会社として訴訟が起きているなどのマイナス要因があると投資の引き揚げを行うことになる。投資を引き揚げられたら,うちの会社は,金がなくなって経営が立ちゆかなくなるから,倒産することになってしまうだろう。減給だ降格だの話になったら訴訟に持ち込むので会社はそれを踏まえたら自分に対して処分ができないはずだ。会社が倒産でもして給料未払などの状況になったら,社長の家に押し掛けてでも給料を回収しに行く。」「ベンチャーキャピタルが投資を引き揚げたら,会社は倒産することになるから,倒産した際の動きを今から考えておいた方がよい。」という趣旨のことを述べている。
経営陣の決定した経営方針に積極的に協力すべき立場にある部長職にありながら,入社して間もない従業員に対し,経営陣が無能であると誹謗中傷し,転職を検討することを勧めるような発言をすることが同じ所属部門の従業員の士気やモチベーションを著しく低下させることは明らかである。
イ 社内調整力,協調性の不足
(ア) 被告の顧客に対し,独断でスパムまがいのメールを送信したこと
原告は,平成22年1月18日,被告の当時の顧客及び過去の顧客に対し,受信者側や上司の同意を取らず,その意向を無視して無差別かつ大量に広告宣伝メールを一斉送信している(乙28)。このようなメール送信は営業方法として常識的にあり得ない方法である上,事前承諾をしていない受信者に対する電子メール広告の提供が特定電子メール送信適正化法及び特定商取引法によって刑事罰をもって原則禁止されていることに照らしても,上記の送信行為は,被告の対外的な信用を失墜させかねない行為である。このメール送信に対し,クレームをつけた顧客は複数社あり,実際に被告の信用は毀損され,被告社員は事後の謝罪対応に追われることになった。
しかも,当該広告宣伝メール送信の前提として,原告が社内のセキュリティルール(乙10)に違反して一斉メール配信のフリーソフトを外部からダウンロードしたり(乙29),顧客ごとにそれぞれ担当の営業社員がいるにもかかわらず,その意向を無視して原告とDの名において送信を行うなど,その行為態様も極めて悪質であった。
(イ) 原告の友人に対し,被告の同意なく,サービスの開発状況や弱点等の機密情報を漏洩していること
原告は,被告入社後1か月も経たない平成21年8月19日,その友人と思われるH(以下「H」という。)に対するメールで,「とりあえず動くものを作ったみたいでメンテナンス性が悪く,困っています。見直しのポイント・DB設計・モジュール構成・クラス構成・外部に提供するAPI仕様」と述べて,被告のサービスの弱点等の機密情報を漏洩している。またHからの「それって,グリッディで動いているグループウェア?」という質問に対し,「当たりです。だから笑えないのです。。。しかもそのソースコードを流用してCRMもリリースしようとしています。」と述べているものであって,その開発状況やリリース予定に関する情報とソフトウェアのソースコードという企業秘密そのものを漏洩している(乙30)。
サービスの開発情報が競合他社に流出した場合,他社との差別化・優位性を保持できなくなるし,サービスの弱点等の情報が被告の顧客に流出した場合,その情報が真実か否かを問わず,顧客獲得機会の喪失や,顧客の喪失につながる重大な事態を引き起こしかねない。原告は,それを知りながら,サービスの開発情報や弱点等の情報を友人に漏洩しているもので,極めて悪質な行為である。
ウ 社外との折衝力の不足
(ア) 重要案件において被告に不利な契約締結を進めたこと
原告が被告側の交渉窓口となってスターティア株式会社(以下「スターティア」という。)との販売パートナー契約の交渉を進めていたとき,被告としては,交渉当初,契約内容について十分に検討ができていなかったため,原告に対し,先方提示にかかる契約書案を整理し,リーガルチェックにより被告側のリスクを低減する内容に修正した上でその内容を先方に提示するよう指示をした。しかるに,原告は先方の担当役員と当初案のまま合意し,契約内容とリスクの程度を十分詰めることのできないまま,当初案でスターティアとの契約を締結してしまった(なお,前記の原告との対立を理由に被告を退職した従業員も,スターティアとの間の契約内容を問題視していた〔乙27〕。)。
(イ) 他社に対して被告の知的財産を無断で使用させたこと
平成22年2月ころ,原告が交渉に当たっていたb株式会社(以下「b社」という。)が,被告に無断でホームページ上の被告商標及びロゴを使用し代理店契約締結の事実をプレスリリースしていることが発覚した(乙31)。当時,b社と被告は契約締結交渉過程にあり,代理店契約は締結されていなかったことから,原告としては,上記商標及びロゴの使用が商標権を侵害することを警告し,それらの無断使用をしないよう適切に注意喚起すべき立場にあったし,また,プレスリリースの内容や時期についても適切に協議すべきであった。しかるに,原告は上席の同意を得ることなく商標やロゴを無断使用させているものであって,知的財産戦略・知的財産管理の重要性への理解が不足していると評価され,また会社外のパートナーとの折衝能力に疑問を抱かれてもやむを得ないものである。
(原告の主張)
本件降格・降給処分は,無効である。被告主張にかかる同処分理由に対する反論は,以下のとおりである。
ア 「マネジメント力の不足」について
(ア) 「原告との対立を理由として退職した被告従業員がいたこと」について
Cは,入社当時から敬語が十分に使えず,同僚,上司に対しても横柄な態度をとることが多く,入社直後で業務内容を十分把握していないにもかかわらず,上司や先輩従業員の指示に従わないなど,原告にとって頭の痛い部下であった。平成21年11月ころ,取引先の展示会において,DとCが仕事の内容をめぐって口論となり,Cが,先輩であるDに対し,「てめぇ,この野郎。」といった暴言を吐くなどした。原告としては,そもそもの口論の原因が極めて些細なことであり,Cに非があると思われたので,同人を注意したところ,Cは,同月16日夜,怒って原告に電話をかけてきて,「お前ら,ぶっつぶしてやる。」などという内容の電話をかけた上で,乙27のメールを全従業員に送信して,そのまま会社を辞めたものである。些細なことで注意を受けたくらいで,暴言を吐き突然退職するような非常識な従業員を,入社後わずかな時間で矯正するなどということは,およそ不可能なことであって,この点をもって,原告のマネジメント力が不足しているといえないことは言うまでもない。
(イ) 「同じ所属部門の部下社員の面前で,被告の経営陣に対する誹謗中傷をしたこと」について
原告が,平成22年1月下旬にD,Eと食事を共にした際に,酒に酔っていたこともあって,被告経営陣に対する不満を述べた記憶はある。しかし,被告主張の内容については,大げさに書かれていたり原告が話していない内容も多いことから,否認する。原告は,当時被告から不当な減給処分を通告されたこともあって,不満を述べたものであるが,酒席で従業員同士で上司の不平,不満を述べたり,業務の内容について自分の意見を述べるなどというのは一般的によくある行為であり,少なくともそうした行為が10%以上の減給を伴う不利益処分を正当化する事情になり得ないことは明らかである。
イ 「社内調整力,協調性能力の不足」について
(ア) 「被告の顧客に対し,独断でスパムまがいのメールを送信したこと」について
乙28のメールの内容はやや不明な点があるものの,少なくとも,当該顧客が退会したにもかかわらず,このようなメールが送信されてきたという点については,被告のシステム上の問題であり,原告の責任ではないはずである。ソフトウェア会社がユーザー登録された顧客に対して,製品情報を伝えたり,新製品の紹介メールを送信すること自体は,被告に限らず一般的に行われていることであり,取引関係のない者をも含めて無差別,大量にメールを送りつけるスパムとは全く性質が異なる。したがって,「スパムまがい」などという被告の主張自体が悪質なこじつけである。
(イ) 「原告の友人に対し,被告の同意なく,サービスの開発状況や弱点等の機密情報を漏洩していること」について
平成21年8月ころから,被告の商品ソフトにはバグが多発しており,全社的な問題となっていたところ,原告も役員(I,J)とこの問題について話し合っており,その際,「問題解決にいいところがあったら聞いてみて。」と言われ,システム開発会社に勤務している友人(H)に,被告の製品のバグ対策について問い合わせた。乙30のメールは,その際になされたやりとりであって,正当な業務にすぎない。同メール中の「見直しのポイント・DB設計・モジュール構成・クラス構成・外部に提供するAPI仕様」という言葉は,平たく言えば,「設計から見直す必要がある」といった程度の概括的な説明にすぎず,このような言葉を用いなければ説明もできないものである上,そもそも企業秘密に当たるような内容ではない。
ウ 「社外との折衝力の不足」について
(ア) 「重要案件において被告に不利な契約締結を進めたこと」について
スターティアとの契約交渉を担当していたのは原告であるが,そもそも,先方の役員と当初案のまま合意したという事実は存在しない。実際には,原告は,同契約条項案については先方との間で何度も協議・修正を行った上で調印に至っているし,同契約の内容については,比較的大型の案件であったため,被告から褒められこそすれ,内容や交渉経過に関して注意を受けたことすらない。
(イ) 「他社に対して被告の知的財産を無断で使用させたこと」について
原告が,b社に対し,契約締結前のロゴ使用を許諾した事実などなく,b社からそのような問い合わせを受けたことすらない。単なる交渉相手にすぎない同社の行動について原告が事前にコントロールできるはずもなく,原告が管理責任を負うべき事情もない。乙31の2のメールからも明らかなように,当該問題はb社側の不注意にすぎず,問題発生後,原告も迅速に相手方に連絡を取り,対応を行ったもので,その後,社内で問題になったような事実もない。
エ さらに,月額5万円もの減給をする本件降格・降給処分は,労基法91条にも違反するものである。
(2)  本件懲戒解雇の有効性(争点2)
(被告の主張)
以下のとおり,本件懲戒解雇は有効である。
ア 懲戒事由該当性について
(ア) 被告は,顧客情報を営業秘密として管理していた。顧客情報は,企業の永年の取組や多額の投資の結集であり,収益を生み出す源泉としての価値を有しているのみならず,多数の者の個人情報及びプライバシー情報を取り扱っており,一度侵害されると瞬時に拡散し回復困難な損害を与える可能性があるものであって,その意味においても厳重な管理が要求されるものである。しかも,被告は,プライバシーマーク制度及び情報セキュリティの国際規格である「ISO/IEC27001:2005」に沿って開発した営業支援・顧客管理ソフトウェアサービスの提供を事業の中核の1つとしている会社であり,そのサービスを提供する被告自身の顧客管理に問題があるという評価を受けてはビジネスが到底成り立たないというべきである。このような意味において,被告は,特に顧客情報等の営業秘密を厳重に保持,管理すべき立場にあった。
しかるに,原告は,被告の承諾を得ることもなく,個人情報を含む4257名にも上る被告の全顧客リストを漏洩したものであって,この行為は,被告就業規程62条(13)の「会社の秘密情報を社外に漏らしたとき」に該当する。
(イ) 原告は,顧客名簿を販売代理店に送付することについては前例もあり,被告の包括的承諾があったと主張する。
a しかし,原告が主張するような前例は存在しない。前記(ア)のとおり,被告においてはその職種上顧客名簿を営業秘密として管理すべき必要性が極めて高かったものであるし,販売代理店の活動範囲は自ずからその所在地の地域に限定されるところ,被告には,三重県所在の代理店であったa1社に対し,全国の全顧客の情報を送信する利益も必要性も存しなかったものであり,かえって,個人情報漏洩のリスクを負うという観点からも,原告主張のような包括的承諾を与えるということはあり得ない。また,a社(a1社)と被告とでは,将来市場が部分的に競合する可能性も十分にあり,将来にわたってこのような損害発生の危険を負うことになるのである。実際,被告において,営業目的で販売代理店に全国の全顧客名簿を送信したことはこれまで一度もなかった。
b 被告は,本件顧客リスト送信の事実が判明した後プライバシー資格維持のために財団法人日本情報処理開発協会に漏洩の報告を行い(乙25,26),また「個人情報の保護に関する法律についての経営産業分野を対象とするガイドライン」に基づき,4257社の顧客に対し,漏洩の事実を報告し,その後の説明や謝罪対応に追われている。また,被告は,顧客情報の漏洩先であるBに対し過去に顧客情報を使用していないことの確認,将来の顧客情報の不使用及び漏洩対策をとることについての誓約を求めたが,結局拒否されている。これらの事情も,被告が本件顧客リスト開示に同意を与えていなかったことを示している。
c むしろ,以下に述べる事情から,原告による本件顧客データ送信は,被告の営業目的ではなく,明らかに原告や第三者(a社)の私利を計る目的に出た背信行為であったことは明らかである。
(a) 原告とBが,親密な友人関係にあることは乙6ないし8,12ないし14の各メールの内容から明らかである。上記各メールの中には,被告の利益ではなく,Bの利益を優先した原告の言動が複数の箇所にわたって認められる。
(b) また,原告は,Bと友人関係にあるに止まらず,Bが代表取締役を務めるa社の事業に被告に無断で参加し,同社に転職することを考えていた(a社は,東京に事務所を有していたのみならず,その事業領域は多岐にわたり,被告の一代理店に止まらない事業内容を有しており,原告が同社への転職を前向きに考えても,何ら不自然ではない。)。被告代表者が原告に対し本件懲戒解雇を言い渡した際に,原告は,BとグーグルのGメールでa社への転職に関するやりとりをしていたことを認めていたし,a社の会社案内(乙9)に「営業部」の「営業コンサルティング(□□・○○)」として原告の氏名が挙がっていることや,テレアポリスト準備及び営業先紹介が原告の役割と記載されていることからも,このことは明らかである。なお,同会社案内には,「協力依頼会社リスト」という項目があるにもかかわらず,被告の会社名は一切記載されていないところ,このことからも,原告個人での事業参加が予定されており,被告の意向に沿うものでないことは明らかである。
(c) また,前記電話営業リスト(テレアポリスト)の準備がa社における原告の役割とされていることや(乙9),1回目の本件顧客リスト送信後の平成21年12月24日,Bが,もらった資料に電話番号が入っていないことを指摘し,これに応じて原告が電話営業に直ちに使える形で顧客情報を送信していることからも(乙4),a社にとって,被告の顧客情報が新規事業立ち上げに必要かつ重要であったことは明らかである。
(ウ) 原告は,被告がa1社とa社とを別会社であるという認識を有しており,被告の代理店であるa1社が被告の営業のために正当に顧客情報を利用するにすぎないにもかかわらず,それを別会社による利用であると誤解して本件懲戒解雇を行ったもので,同懲戒解雇は重大な誤解に基づくものであり無効である旨主張するが,両社が同一の存在であるか否かは,本件懲戒解雇の有効性に何ら影響を与えない事情である。
すなわち,被告は,本件顧客データ送信の事実が発覚した時点から,全顧客4257社のデータの漏洩というその行為自体の危険性や結果の重大性について一貫して主張しているところ(甲4の回答書参照),本件懲戒解雇は正にこの点を重視してなされたものであり,a1社が被告の代理店であるからといって,被告が4257件の全顧客データの送信を許すはずがない。
また,プライバシーマークは,大手企業との契約締結等の前提条件となることも多い上,被告は顧客管理に関するサービスの提供を事業の中核としていることから,これを喪失すると中核的サービスに対する対外的信用を失うことにもなりかねなかったところ,本件事故報告書(乙25)は,そのように事業に重大な影響を与えるプライバシーマーク喪失の危機を回避するために,資格維持の帰趨に直結する被告の情報管理体制自体に事故の原因があるのではないことを強調する内容になっている。
販売代理店に顧客情報を提供すること自体は漏洩行為として扱わない旨記載しているのは,管理責任者の承認がある場合に,必要な範囲で代理店への顧客情報の提供ができる場合があるという一般論以上の意味を持たないし,原告とBが友人関係にあるとか,別会社を設立するという点は,上記のとおり,本件顧客データ送信による情報漏洩が被告の情報管理体制に問題があるのではなく,原告個人の特殊事情に焦点を置いた報告をしたためである。
したがって,本件事故報告書の内容は,従前の被告主張と何ら矛盾するものではないし,a1社とa社が同一の会社であることは,本件懲戒解雇を行うに当たり何ら本質的な事柄ではない。
イ 本件懲戒解雇の相当性について
(ア) 前記のとおり,被告は4257社に上る本件顧客リストを営業秘密として保持,管理し,就業規則において秘密情報の漏洩を禁止しているのみならず,原告を含む個々の従業員に対しても,入社に当たって誓約書(乙2)を提出させ,顧客情報を「供与」「開示」しないこと(3項,4項),秘密情報が記録された媒体について会社から明示に許諾がなされた場合を除いて会社に無断で送信しないこと(5項)を誓約させ,この秘密保持義務に違反した場合,就業規則に定める懲戒の対象となることを了解してもらっている。
また,被告は,従業員の理解を深めるため,秘密情報の重要性について理解してもらうだけに止まらず,継続して研修・セミナーを行っており,その際に従業員に交付している「Y株式会社セキュリティハンドブック」(乙10)でも,Eメール送受信ルールとして,「原則として電子メールで社外秘以上の情報を送信してはならない」「業務上必要な場合には,所属部長の許可を得る」ことが明記されている。また,個人情報及び顧客情報は秘密情報の中でも最も秘匿性の高い「極秘」として位置付けられ,管理責任者すなわち担当役員の許可なく電子メール送信することが厳禁されている。
したがって,原告が,顧客情報を無断で送信する行為が厳禁されていることやそれが懲戒の対象になることを認識していたことは明らかである。
それにもかかわらず,原告は,前記のとおり,a社の利益を優先させて複数回にわたり,Bに対し,本件顧客リストを送信しているもので,その悪質性・重大性は高い。
(イ) 原告は,本件顧客リスト送信により実害が生じていない旨主張するが,前記ア(イ)bのとおり,関係機関や顧客に対し説明や謝罪に追われているものであって,実害が生じていないとはいえないし,Bには漏洩対策をとることについての誓約を求めるも拒絶されるなどしており,今後も回復困難な損害が生じることが懸念される状況である。
(ウ) 不正競争防止法は,営業秘密侵害行為に対し,10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し,又はこれを併科し(同法22条1項),法人について3億円以下の罰金刑を科するという重い刑罰が定められている。本件顧客リストも営業秘密の典型であり,民事的救済に止まらず,刑事上の厳罰をもって臨んでいる不正競争防止法の趣旨からも,懲戒解雇が相当であることは明らかである。
(エ) その他,原告は,即戦力として被告に雇用され,営業部の従業員の中で最も高い給与を支給されていたにもかかわらず,後記のとおりその勤務成績や勤務態度も不良であり,しかも何らの謝罪や反省の弁もなく,このような点からしても懲戒解雇相当であるといえる。
(原告の主張)
以下のとおり,本件懲戒解雇は無効である。
ア 懲戒事由該当性がないこと
(ア) 原告は,顧客リストの一部を電子メールで送信した事実はあるが,当該行為は被告の包括的承諾に基づくもので懲戒事由には該当しないというべきである。
(イ) すなわち,被告の業務の大きな柱となっているのは,自社制作のコンピュータソフトウェアを無料ないし有料でユーザーにレンタルすることであるところ,こうした事業の営業は,被告従業員による直接の営業活動の他,全国に存在する販売代理店によっても行われる。被告は,平成21年後半ころ,いったん無料ユーザーとして登録した顧客を有料ユーザーに切り替えてもらうための営業に力を入れようとしていたが,全国に散らばる大勢のユーザーに営業を掛けるのは被告従業員のみでは限界があるため,各自販売代理店の力も利用して広く営業活動を行うこと自体,被告の方針となっていた。
こうした方針に従い,原告は販売代理店に対し,無料ユーザーの名簿を交付し,販売代理店から直接ユーザーに連絡を取ってもらって有料への切り替え等を行ってもらうことを考え,大阪府所在の販売代理店に顧客名簿を送付することについて上司に申し出たところ,上司は承諾した。こうした流れもあって,原告は,平成21年12月に三重県所在の被告の販売代理店であるa社に対し,本件顧客リストの電子メール送信を行ったものである。当該代理店への顧客データを送信するに当たって,原告は,被告の個別の承諾を求めてはいないものの,顧客リストを販売代理店に対し必要な範囲で送付することは,被告の方針として承諾を受けており,問題のないものとの判断で行った。
なお,被告は,原告が,本件顧客リストとして,被告の全顧客である4257名の顧客リストを送信したと主張するが,原告がBに送信したのは,リストの全顧客ではなく,代理店送付に適さない顧客名(有料ソフトの顧客や情報が古いもの,重複があるもの)を削除して送信している。現時点において正確な数は不明であるが,約3800名であったと記憶している。
(ウ) 被告は,a社の会社案内(乙9)や,原告とBとのメールでのやりとり(乙6ないし8)などから,原告の本件顧客リスト送信行為が背信的行為であると主張するが,以下のとおり,同主張には理由がない。
a まず,上記会社案内に原告の氏名が記載されている点については誤解を招く記載の仕方ではあるものの,原告が個人的に別事業に参画していることを示すものではない。すなわち,本件リストの送付先であるa社は被告の代理店であったa1社が商号変更したものにすぎないし,乙9に繰り返し出てくる「○○」「□□」「△△」「※※型ソフトウェア」とは,被告会社の製品名ないし被告の製品を指す名称である。要するに,上記各記載は,被告の代理店が代理店として被告製品の営業計画を記したものなのである。この点を踏まえて乙9をみると,「営業コンサルティング(□□・○○)X」などの個人名は単に取引先の営業担当として,原告の氏名を載せているに過ぎないことが分かる。また,「テレアポ」なる記載も,「○○テレアポ」などの記載から分かるように,被告製品の営業方法を記載したに過ぎないものである。本来,営業担当者に過ぎない「X」という個人名ではなく,原告の勤務先であり○○等の製造者である「Y社」の名称を記載するのが正確であるといえるが,それは代理店側の日本語表現の問題であり,原告の関知するところではない。
b そもそも,原告とBは平成21年11月以降に数回程度会った関係に過ぎず,原告が,取引先という意味を超えて,a社の事業に参画した事実も存しない(被告が主張するように,被告代表者が本件懲戒解雇を言い渡した際に,原告がa社への転職を認めた事実はない。)。上記原告とBとの間で交わされたいずれのメールについても,a1社との商談の中あるいはその一環として送信されたものにすぎない。原告とBとは年齢が近く,Bも気さくで,気安い感じのやり取りを好んでいると思われたことから,乙6ないし8のようなメールの表現になったものである。
被告は,原告とBとの間のメールを全て閲覧していると思われ,それを読むことで原告とBがごく最近に知り合い,何回か会っている程度の関係にすぎないことを容易に知り得たにもかかわらず,メールを部分的・恣意的に引用して事実とかけ離れたストーリーを作出しているもので,被告の主張は,意図的に誤解・誤導を狙った悪質なものである。
(エ) 本件事故報告書(乙25)の記載によると,被告の販売代理店制度は,被告から顧客情報の提供を受けて被告の営業協力を行うというスタイルを採り,顧客からは販売代理店への情報提供に同意を得ていることから,販売代理店に顧客情報を提供すること自体は漏洩行為とはしていないとされているもので(同2丁目),これは裏返せば,代理店であるa1社が顧客情報を受領して営業活動に利用することは全く問題と考えていなかったことを意味する。
しかし,同報告書では,a1社が被告の代理店であることを前提に,原告とa1社代表者であるBが新会社を設立する計画を立て,原告が新会社に転職した上で,本件顧客情報の活用を企図したもので,悪意ある顧客情報漏洩に該当すると判断したとされているところ(同2~3丁目),このような記載に照らすと,被告は,本件懲戒解雇当時,a1社とa社が同一の会社であることを知らず,a社は顧客情報の利用を許諾された被告の代理店とは別の会社であるという根本的な誤解を出発点として,本件懲戒解雇を決定したということができる。しかも,被告は,このような誤解について何ら検証することなく,その日のうちに原告に懲戒解雇を言い渡した。
イ 本件懲戒解雇に相当性がないこと
(ア) 前記のとおり,本件顧客リスト送信行為については,被告の包括的承諾に基づくものであり,仮に,個別の承諾を得なかった点が不注意であると認定される余地があり得るとしても,重大性・悪質性に欠けるものであるから,本件懲戒解雇は重きに失するもので,相当性を欠く。
(イ) また,原告は,あくまで営業促進の正当な目的に基づいて送信を行ったものであり,私利を図るなどの不正な目的はなかった。
(ウ) さらに,送信先の販売代理店は,実際に本件紛争が発生するまでの間,送信された顧客データを利用した営業活動を行っていなかったとのことであり,しかも,紛争発生後,データも全て消去した旨述べていることから,何ら実害は発生していない。
(3)  被告の不法行為の成否及びそれによる原告の損害(争点3)
(原告の主張)
ア 被告による本件懲戒解雇及びその後の本件訴訟における虚偽主張は,以下のとおり,原告に対する不法行為に当たる。
(ア) 前記のとおり,本件懲戒解雇は,a1社とa社が同一会社の商号変更にすぎないにもかかわらず,両社が別会社であるという誤解を出発点としてなされたものであった。しかも,その誤解は原告やa1社に確認するなどわずかな調査さえ行えばすぐに解消するものであったにもかかわらず,被告代表者は,まともな検証をすることさえ怠り,本件顧客データ送信の事実を認識するや,即時原告に懲戒解雇を言い渡し,しかも警察に通報するなどした。
懲戒解雇という労働者にとって極刑ともいうべき重大な処分を行う場合,使用者としては慎重に解雇事由の有無を判断し,労働者にもできる限り弁明の機会を与えることは当然であるが,被告代表者は,極めて軽率かつ杜撰な態度で本件懲戒解雇を行っている。
(イ) また,被告は,a1社とa社の同一性を知ったのは,本件訴訟において原告がa社の履歴事項全部証明書(甲5)を提出した後であると主張するが,被告代表者が,答弁書作成の段階まで両社が同一の存在であることを知らなかったとは信じ難い。少なくとも,答弁書作成時には誤解の存在を知りつつ,それを隠ぺいして主張を行っていたと考えられ,その態度は悪質であると言わなければならない。仮に真実両社の同一性に気付いていなかったとすれば,それはそれで驚くべき軽率さという他はなく,その酷さは変わらない。しかし,被告は,その後も,被告のそのような態度を正当化する主張を大々的に展開しており,意図的な虚偽主張をあえて行っているといわざるを得ない。
(ウ) さらに,被告は,a1社とa社の同一性が明らかになった後も,原告とBが友人で原告がa社に転職予定であるなどという根拠もない憶測を大展開して,本件顧客データを悪用する意図があったかのような虚偽主張を積み重ねているのであって,その主張は極めて不当かつ名誉毀損的である。
イ 上記被告の不法行為により,原告は,以下の損害を被った。
(ア) 慰謝料 300万円
不当な懲戒解雇を受けたという事実のみだけでも,原告の受けた精神的損害は著しいものといえるが,本件では,それが極めて軽率,単純な誤解に基づいていることや,原告が弁解の機会も与えられることなく会社を追い出され,しかも犯罪者扱いされ警察に通報までされていること,被告は誤解に気付いた後も,反省するどころか意図的な虚偽主張を行っていることなどからすれば,被告の行為の違法性・悪質性は際立って大きいといえる。このような点を考慮すれば,本件懲戒解雇により原告が被った精神的損害に対する慰謝料としては,300万円が相当である。
(イ) 弁護士費用 113万円
前記の誤解に基づく本件懲戒解雇にみられる被告の杜撰さはもちろん,その後も虚偽主張を平然と行う被告の態度からすれば,原告においては,かかる悪質な使用者との間の紛争解決を図るためには弁護士の助力を受けることが必須であったというべきである。したがって,原告において負担を強いられた弁護士費用も被告の不法行為と相当因果関係を有する損害であるということができる。その額としては訴額の約1割である113万円が相当である。
(被告の主張)
本件懲戒解雇が,a1社とa社が同一の存在であることを誤解してなされたものであり,不法行為を構成するとする点については争う。前記(2)ア(ウ)のとおり,両社が同一の存在であることは,本件顧客データ送信による情報漏洩に関し,何ら本質的な事柄ではない。
第3  争点に対する判断
1  認定事実
前記前提となる事実及び証拠(B,原告,J及び被告代表者の各陳述書〔甲7,10,乙43,45〕,証人J及び証人Bの各証言並びに原告本人及び被告代表者各尋問の結果のほか,後掲のもの。ただし,必要に応じ,上記各証拠も掲記することがある。)等によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)  被告の事業,業務内容等について
ア 被告は,企業向けグループウェア(企業内において,文書,スケジュールなどの情報共有やコミュニケーションの効率化を図り,グループによる協調作業を支援するソフトウェアの総称)の開発,販売等を中心的な事業としている。
イ 被告は,従業員30名程度の比較的小規模ないわゆるベンチャー企業であるところ,マイクロソフト社,IBM社,サイボウズ社といった大手の競合他社に対抗し,対外的な信用を高め競争力を強化する目的で,協会のプライバシーマークや,ISO27001などの資格を取得していた。
ウ 被告には,平成19年5月25日に制定され,平成21年9月30日に改訂されたとする「Y株式会社セキュリティハンドブック」(以下,単に「セキュリティハンドブック」という。)がある。
セキュリティハンドブックにおいては,職位ごとのセキュリティ上の役割・責任について定めており,このうち,部長は,部門内のセキュリティ確保の責任者とされている(1頁)。また,「Eメール送受信ルール」中には,「原則として,電子メールで社外秘以上の情報を送信してはならない。業務上必要な場合には所属部長の許可を得る。」との定めがある(6頁)。さらに,「情報資産の分類」において,顧客情報の機密レベルは「極秘」とされ,電子メールによる移動には「・情報セキュリティ管理責任者の許可要」「添付ファイルを送信する場合は,パスワードを設定。」とされている(7~8頁)。そして,「緊急連絡先」の項には「情報セキュリティ管理責任者(経営企画部・F)」との記載がある(11頁)。(以上,乙10)
(2)  本件雇用契約の締結及び誓約書の提出
前提となる事実(1)イのとおり,原告は,平成21年7月21日に被告との間で本件雇用契約を締結し,入社前の同年6月15日,被告に対し秘密情報の取扱等に関する誓約書(乙2)を作成,提出している。同誓約書の5項には,秘密情報が記録された媒体について,被告から明示に許諾がある場合を除いて,無断で社外に持ち出し,送信,保存をしない旨記載され,17項では,この秘密保持義務に違反した場合,就業規程に定める懲戒の対象となる場合があることなどを了解する旨記載されている。
(3)  原告とBとのやりとり(本件顧客データ送信を含む。)及びa1社とa社の関係等について
ア 原告とBが知り合ったのは,平成21年11月ころであった。Bが,被告の事業内容に関心を抱き,被告にメールを送信したところ,原告が営業担当になり,原告が,三重県伊勢市にあるa1社の事業所を訪問したのがそのきっかけであった。
イ 原告とBは,年齢がさほど違わないということもあって,個人的にも親しくなり,Bが上京した折りなどに打ち合わせを兼ねて共に食事をするなどしていた(乙6ないし8,12ないし14)。
ウ 原告は,平成21年12月14日,被告のシステム担当の職員に対し,「本件とは別で,全顧客リストを頂くことは可能でしょうか。」というメールを送信している(乙44)。原告は,被告の取締役であるIに対し,分析のために必要である旨を告げて,同人から本件顧客リストのデータを受け取っている(証人Jの証言,原告本人尋問の結果)。
エ 原告は,同月18日,Bに対するメールで,「以前の打合せにて弊社宿題事項となっておりました資料を送付致します。」として,本件顧客リストのデータを送信した。これに対し,Bは,同月24日,原告に対するメールで,同リストに担当者の氏名,電話番号,メールアドレスなどの記載がなかったことから,それらの情報はないのかと聞いたところ,原告は,同日,それらの情報を記載した本件顧客リストのデータを再度送信した(乙4,本件顧客データ送信)。
オ この本件顧客データ送信に当たり,原告は事前に上司であるJに相談したことはなかったし,同送信の事実を何らかの形でJに知らせることもなかった。また,同メールの送信に当たり,Jら上司をCCに入れることもしなかった(乙43,原告本人尋問の結果)。
カ 原告は,Bに対し,○○のバグ等不具合についてしばしば述べ,その問題が解決するまでしばらく時間がかかる旨伝えていたところ,Bが,原告に対するメール(平成22年1月4日)で,○○についていつから営業をかけたらいいか,同年3月までは静観した方がいいかと聞いたのに対し,代理店担当としては今すぐと言いたいところだが,友人としては3月まで静観を勧める旨答えた。Bは,この原告の言動に従って,被告商品に関する営業活動をしばらく控えることにした(乙12,証人Bの証言)。
キ 被告とa1社は,平成22年2月下旬ころ,被告が開発し著作権を有するソフトウェアである○○・□□等について販売パートナー契約を締結した。同契約書は平成21年11月27日付けであるが,上記時期にバックデートで作成されたものである(乙18)。
ク a1社は,平成22年2月24日,同月1日付けで「株式会社a社」に商号を変更した旨の登記を経由した(甲5)。
ケ a社の会社案内には,経営者の紹介,各事業部門等に関する記載のほかに,組織体制等に関する記載があり,営業・コンサルティング(□□・○○)という欄に「X」と記載され,あたかも,原告がa社の従業員であるかのような記載がある。他方,「ICT活用部門」の説明や「会社概要」の「取扱製品」欄に,「○○」「△△」という被告のソフトウェアのロゴが記載されており,a社が被告の代理店であることを前提とした記載がなされている(乙9)。
なお,同会社案内を見た原告は,平成22年1月13日,Bに対し,「資料拝見しましたよ。さすがに上手ですね。」とのメールを返信している(乙13)。
(4)  原告の業務遂行状況等及び本件降格・降給処分に至る経緯
ア 原告は,入社後約1か月が経過した平成21年8月19日,友人でIT関連企業に勤務するHに対し,被告の製品(○○)の改良作業(原告は「作り直し」と表現している。)を依頼できるか提案する内容のメールを送信したが,その中で○○に関し,「とりあえず動くものを作ったみたいでメンテナンス性が悪く,困っています。○見直しのポイント(これでどのくらい酷いか想像できると思います)・DB設計・モジュール構成・クラス構成・外部に提供するLPI仕様」と述べるとともに,「○こちらからのアピールポイント」として,「流行の※※モデルなので,この仕事に携わるとエンジニアの業務経歴が格好良くなります。あと,時代の流れはクラウドソーシングに向かうので先行優位性が出ます。他にも何社か当たっているので,無理しなくて平気ですよ。」と記載している(乙30)。
さらに,原告は,Hからの,○○で動いているグループウェアかという質問に対し,「当たりです。だから笑えないのです。。。しかも,そのソースコードを流用して,CRMもリリースしようとしています。火に油。」というメールを返信している(乙30)。
イ 原告は,平成21年10月29日,Dからマイナビのホームページの「転職Q&A」の内容が添付されたメールを受け取った。同添付データは,競合他社に転職することに法的な問題があるかという問いに対し,雇用契約書や就業規則に競合他社への転職について特に記載されていないのであれば法的な問題はないが,競合他社が質問者の職務能力を求めるのではなく,現在の顧客リストを転職先に流用するなど企業情報を持ち出すような転職であれば,転職先で一時的に受け入れられることはあっても信頼関係が築けず,長続きしないと思われるので,よく検討した方がよいという内容の回答が寄せられていた(乙46の1,2)。
ウ Cは,原告の進言により被告に就職した者であり,原告の部下として勤務していたが,平成21年11月17日,被告代表者に対してメールを送信し,「Xチームと対決します。僕は,彼達が会社を駄目にしているとおもいます。…一緒に仕事したくないね。自分たちのことしか考えていないね。社長,短い間で申し訳ないですが解雇でお願いします。」と述べ,その後,被告を退職した。また,Cは,同メール中で,「グループウェアの権利を安くうり,僕らをただの会社にしてるね。スターティアに独占契約??契約内容安いよ。」と述べ,原告が担当者として締結したスターティアとの独占契約の契約条件が被告に不利なものであって,担当者である原告の行動が不満である旨を述べている(乙27)。
エ 平成22年1月19日,被告の過去の顧客から,被告に対し,既に退会手続をとったにもかかわらず,被告製品(○○)の宣伝のメールが送信されてきたとする苦情メールが送信された。上記宣伝のメールの担当者名が原告とDになっていたため,Jは,原告に対しこのようなメールを送らないようにと注意をし,原告もその注意を受け入れた(乙28,原告本人尋問の結果)。
オ このころ,被告代表者は,原告に対し,口頭で給与を10%減額する旨通告したが,原告は,労働基準監督署に行って相談した上で,被告代表者に対し,かかる一方的な給与の減額は認められないと異議を述べたところ,被告代表者は,同給与減額の意向を撤回したことがあった。なお,この給与減額を実質的に主導したのはJとFであり,被告代表者はそれに同意を与えてはいるものの実質的には関与していない。同撤回についても同様である(被告代表者尋問の結果)。
カ 原告は,上記のとおり,被告からいったん給与の減額を通告されたことについて強い不満を抱いており,平成22年1月29日夜,部下のD及びEと共に社外で食事をした際に,Eに対し,被告の経営陣は頭が悪いなどと述べた上で,3月にベンチャーキャピタルの審査があることについて触れ,ベンチャーキャピタルは訴訟等の案件があれば投資を引き揚げるところ,減給等の処分を受けたら自分は訴訟に持ち込むので,会社はそれを踏まえたら自分に対して処分ができないはずであるなどと述べ,ベンチャーキャピタルが投資を引き揚げたら,会社は倒産することになるから,Eとしても,倒産した際の動きを考えておいた方がよいという趣旨のことを述べた(乙34)。
キ Jは,平成22年2月ころ,原告が販売パートナー契約に向けて交渉中であったb社が同契約が締結されていないにもかかわらず,被告のロゴを使用し,代理店契約を締結した旨公表していることを発見し,同月7日の原告に対するメールで,無断掲載に対し同社へ対応が必要である旨述べるとともに,そのような事実を原告から報告を受けていないとして,原告に注意を与えた(乙31の1,2)。
ク 被告は,同年3月30日付けで,原告に対し,本件降格・降給処分を行った。前記オ同様,この決定を主導したのは,JとFであって,被告代表者はその決定に同意を与えたものの,実質的には関与しなかった(被告代表者尋問の結果)。
(5)  本件懲戒解雇に至る経過
ア 被告代表者は,従前から原告が会社に対する不満や悪口を述べているという話を聞いていたが,原告が,平成22年4月ころに役員に就任した(登記簿上は同月30日就任となっている。)Kに対し,帰り際にこんな会社辞めた方がいいですよなどと述べて去ったという話を聞くに至って,原告が使用しているパソコンに残された原告の送受信メールの内容を調査することを決めた(被告代表者尋問の結果)。
イ 被告代表者は,同月7日,原告が退社した午後7時ころから深夜にかけて原告の送受信メールの内容の調査を行い,本件顧客データを送信したBへの2通のメールや,その他原告とBが親しく会話を交わす内容のメールを発見した(また,Hに対する○○のバグに関するメール〔前記1(4)ア参照〕の存在についても,この時初めて被告側に判明した。)また,被告代表者は,Bから原告へのメールに,a社の社外秘の組織図が添付され,同組織図中に原告が同社の営業部員であるかのような記載があること(前記(3)ケ参照)を発見し,原告がa社に転職して,被告の顧客情報を不正に利用することを企図していると推測した(乙45)。
ウ 被告代表者は,翌8日午前,原告を会議室に呼び,面談を行った。冒頭,被告代表者は,原告に対し,a社に転職して,同社の営業担当者として被告の顧客情報を利用しようとしていたのではないかと問い質したところ,原告は当初沈黙していたが,被告代表者からメールを1通1通読み上げられて,Bに対し本件顧客データを送信したことや,Bと親しい関係にあることなどを認めた。他方で,原告は,a社への転職を検討したこともあるがそれは取り止めた,Bが被告の顧客情報を利用したことはないはずであるなどとも述べた。
以上のやりとりを経て,被告代表者は,a社において被告の顧客情報が利用されたのかについては確認できなかったものの,原告による本件顧客データ送信の事実は確認でき,原告がa社に転職を検討していた事実も明らかになったと考え,原告に対し,懲戒解雇処分とする旨申し渡した。これに対し,原告は,「不当減給と手打ちにしますか。」などと挑発的な言辞を述べたことから,被告代表者が怒りを露わにするという経過もあった。
(6)  本件懲戒解雇後の経過及び本件訴訟の審理経過
ア Jは,本件懲戒解雇の翌日である平成22年4月8日,Bの下を訪問し,同人に対し,過去に顧客情報を使用していないことの確認,将来の顧客情報の不使用及び漏えい対策をとることの誓約を求めたところ,Bは被告に対し,顧客情報を消去したとメールで通知した。
また,被告は,同月28日,被告が運営するグループウェア上のホームページに「顧客情報漏洩に関するお詫びとご報告」と題する内容を掲示した(乙17)。
その後,現在まで,被告の顧客から,被告の下に,本件顧客データ送信により顧客データが不正利用された旨の苦情が寄せられたことはない。
イ 原告訴訟代理人は,平成22年4月21日付けの被告に対する内容証明郵便において,本件訴訟における原告主張に沿う内容を述べて本件懲戒解雇が無効であると主張し,同書面は同月22日被告に到達した(甲3の1,2)。これに対し,被告訴訟代理人らも,同月28日付けの原告に対する内容証明郵便で,本件訴訟における被告主張に沿う内容を述べて本件懲戒解雇が無効であると反論した(甲4)。
ウ 被告は,上記内容証明郵便のやりとりがされた後の平成22年5月7日,財団法人日本情報処理開発協会プライバシーマーク事務局に対し,「個人情報の取り扱いに関する事故等の報告書」(本件事故報告書)を送付して,本件顧客データの事実を報告している(乙25)。
同報告書には,「事案の概要」として以下の記載がある。
「当社営業社員(以下「L」という。)が,当社の一販売代理店(以下「e社」という。)に対して個人情報(会社名,メールアドレス,担当者名,電話番号(一部))を含む顧客情報4,725件を,パスワードのかかったデータファイルで電子メールにより送付したことにより,顧客情報を漏洩するという事実が判明しました。
当社は自社サービスの販売チャネルを拡大すべく販売代理店制度を導入しており,代理店契約を締結し,秘密保持義務および顧客情報漏洩禁止義務を約束させたうえで,当社から顧客情報を提供し,代理店に営業協力をさせるスタイルを採っております。
またサービスを利用する顧客(見込み顧客を含む)からは,サービス申し込み時にその利用規約において,弊社が定める個人情報保護方針に基づく,販売代理店への情報提供に同意して頂いております。
よって単純に販売代理店に顧客情報を提供すること自体は当社業務フロー上,漏洩行為としておりません。
今回のe社も,三重県に本社,支店を東京(渋谷)に拠点を構え,中部地区,関西地区および東京地区を営業エリアとしており,当社顧客情報をもとに営業活動を展開して頂く予定でした。
しかし,4月上旬に社員に対する電子メール送受信記録の監査を抜き打ちで行ったところ,Lとe社社長は,友人関係であったことが判明し,更には弊社に報告もなく,Lはe社社長と2010年4月以降別会社(以下「c社」という。)を設立する計画をたて,その準備としてのc社の会社概要・事業計画書などの資料のやりとりなどを弊社電子メールで行っていたことが分かりました。
また,Lはc社設立後,c社社へ転職する予定だったことも判明し,転職までの間,上記販売代理店制度を利用して,弊社顧客情報の入手を試みようと画策し,新会社での活用を企図しておりました。
弊社においては代理店に顧客情報を提供する際には,利用目的を明確にしたうえで顧客情報の管理責任者に申請し,承認を得るべきルールとなっており,特定のシステム担当者以外は顧客情報へのアクセスができない仕組みになっております。また承認は2重化されており,管理者申請他,誰がアクセスできる担当者なのか,役員及びシステム担当者以外分からない仕組みを採用しております。
しかしLは弊社顧客情報を「営業戦略上の分析」を目的として,顧客情報の管理責任者に申請したにも関わらず,この一部の特定顧客情報を抜き出し,利用目的と異なる用途(c社設立後の利用)で顧客情報を電子メールでe社に送りました。
以上より,社内的見解としてLとe社およびc社との経緯を鑑み,通常の代理店への顧客情報提供義務とは異なる,代理店制度を利用した悪意ある顧客情報漏えいに値すると判断し,Lについては懲戒解雇,またe社に対しては販売代理店契約の秘密保持契約および顧客情報漏えい禁止条項に基づき顧客情報の削除を依頼し,口頭及び電子メールでの削除完了報告を受けました。
なお現在までにe社からの削除報告後の2次被害報告は受けておりません。」
エ 被告は,本件訴訟においても当初は本件顧客データにおける顧客数を4725名としていた。当裁判所は,当初,本件顧客データ自体の提出を強く促すことなく本件訴訟の審理を進め,いったん平成24年4月3日に弁論を終結したが,その後,同年5月7日に弁論を再開し,被告に対し,本件顧客データ自体の提出を促した。これに対し,被告は,顧客に対する秘密保持という観点から,本件顧客データの一部をマスキングした形でプリントアウトした書面(乙62)を書証として提出した。しかるに,被告は,平成24年6月22日付け第8準備書面において,本件顧客データにおける顧客数を4725名としていた従前の主張は誤りであって,実際には4257名が正しい旨訂正した。
2  争点1(本件降格・降給処分の有効性)について
(1)  被告は,原告についてマネジメント力の不足,社内調整力・協調性能力の不足,社外との折衝力の不足などがあったなどとして,人事上の措置として本件降格・降給処分を行った旨主張する。
一般に,降格処分のうちでも,使用者が労働者の職位や役職を引き下げることは,人事権の行使として,就業規則等に根拠規定がなくても行い得ると解される。しかし,使用者が有する人事権といえども無制限に認められるわけではなく,その有する裁量権の範囲を逸脱したり,またはその裁量権を濫用したと認められる場合には,その降格処分は無効となるというべきである。特に,降格に伴って労働者の給与も減額されるなど不利益を被る場合には,その降格に合理的な理由があるか否かは,その不利益の程度も勘案しつつ,それに応じて判断されるべきである。
(2)  以下,このような見解を前提に,本件降格・降給処分の有効性について検討する。
ア 被告主張にかかる各事情について
(ア) まず,被告は,本件降格・降給処分の理由の1つとして,まず,原告のマネジメント力の不足を挙げ,その具体的事情として,部下のCとの対立について主張する。
前記1(4)ウのメールの内容に照らすと,Cが被告を退職した原因が,原告ないしその周辺の者との感情的対立にあることは明らかである。しかし,このメールのみを根拠にCの退職に関する責任が原告にあると推認するのは相当ではない。むしろ,Cが,上記メールにおいて「僕は,d社がきらいです。使えない奴が多い。優秀なコンサルタントのフリをすることが多い。…彼達の話をきちんと理解すると,ITがわかっていなかったり,ロジックミスが多い。ITに弱い企業と思ってなめてるな。」などと,社長であるAに対し非常識とも思える強い言辞を述べていることからすると,Cの態度にも問題があった可能性も十分にある。また,その後,被告がCの退職に関し原告に注意,指導を与えた状況も窺われず,当時,被告がこの点を原告自身の問題としてどの程度重視していたかも不明であることからすれば,Cが被告に就職したのが原告の進言によるという面があるとしても,この点を理由に,原告のマネジメント力が不足していたと推認するのは相当でない。
(イ) また,被告は,原告は,部下の面前で被告経営陣の批判をし,転職を勧めるような発言をしていると主張するところ,前記1(4)カのとおり,原告は,平成22年1月29日夜,部下のEに対し,被告の経営陣は頭が悪いなどと述べたのみならず,ベンチャーキャピタルが投資を引き揚げたら被告は倒産することになるから,Eとしても,被告が倒産した際の動きを考えておいた方がよいという趣旨のことを述べている。
このような原告の言動からすれば,当時から,原告と被告経営陣との折り合いが悪かったことが窺われるというべきであるが,そもそも,このような酒食の席における言動に多少の行き過ぎが生じるのは世上あり得ることであるから,このような酒食の席での言動を捉えて降格等の不利益処分を行うのには慎重であるべきである。また,原告は,平成22年1月に被告から口頭で前件降給処分を受け,その後,原告からの異議を受けて同処分は撤回されたところ,このような経緯からすれば,被告が適切な手続を践むことなく同降給処分を行ったことが推認されるのであって,原告が,被告経営陣に対し強い憤懣を抱くこともそれなりに理解できるところである。したがって,上記のような発言があったからといって,それを強く非難することはできない。
したがって,この点から,原告のマネジメント能力が欠けていると評価するのは相当ではない。
(ウ) また,被告は,本件降格・降給処分の理由として,原告が,被告の当時の顧客及び過去の顧客に対し,受信者側や上司の同意を取らずに無差別かつ大量に広告宣伝メールを一斉送信したことを挙げる。
前記1(4)エのとおり,退会の手続をとったという顧客から,被告に対し,被告製品に関する宣伝メールが届いた旨の苦情が届いたことが認められるところ,Jが原告に対しこの点について注意をし,原告もそれを受け入れていることからすれば,この顧客からの苦情については,原告の落ち度に起因するものであると推認するのが相当である。
(エ) さらに,被告は,原告がサービスの開発状況や弱点等の機密情報を漏洩していると主張する。
この点については,前記1(4)ア認定のとおり,原告が被告に入社して早々の平成21年8月,Hへのメールで,被告の商品(○○)の弱点を具体的に指摘するとともに,その内容がひどいものであると批判している。しかし,そのメールの内容からも明らかなように,同メールは,旧知の仲であるHに対し,○○のバグの解消作業を依頼できるか打診する趣旨であって,そのような趣旨である以上,当該時点での○○の問題点に,ある程度具体的かつ率直に触れざるを得ないのは当然である。したがって,この点をもって,原告が被告商品に関する機密情報を漏洩したと評価するのは相当ではない。
さらにいえば,このHへのメールは,本件懲戒解雇の前日である平成22年4月7日に原告の送受信メールの調査を行ったことにより発覚したものであって,本件降格・降給処分の時点(同年3月30日)では,被告には認識されていなかった(証人Jの証言〔同尋問調書44頁〕)。このように,処分当時,被告が認識すらしていなかった事情をその理由の1つとするのは相当でないというべきである。
(オ) 被告は,スターティアとの販売パートナー契約の交渉に当たり,被告が,リーガルチェックによりその契約条件を修正するよう指示したにもかかわらず,原告がそれを行うことなく先方の担当役員と合意してしまった旨主張する。確かに,前記1(4)ウのとおり,Cの被告代表者に対するメールには,スターティアとの契約条件が被告に不利な内容であり,Cがこのときの原告の行動について不満を感じている旨の記載があるが,原告が被告経営陣の意向,指示を無視して独断で契約締結に及んだことを窺わせる証拠はなく,格別の問題行動は認められない。仮に,原告がそのような被告の経営陣の意向を無視する行動に出たとすれば,もっと早い時点でこの問題が表面化していたはずと推認される。したがって,このスターティアとの契約条件の問題を本件降格・降給処分の理由の1つとするのは相当ではない。
(カ) さらに,被告は,b社が,被告との代理店契約締結前に,無断でホームページ上の被告商標及びロゴを使用し,代理店契約締結の事実をプレスリリースしていたことについて,原告に責任があると主張する。
しかしながら,別企業であるb社の行動について,原告がコントロールできるはずがないのは原告が主張するとおりである。また,原告がb社に対し,被告のロゴの使用を許諾したという事情は証拠上認められないし,代理店契約締結前に被告のロゴを使用することができないという当然のことについて,原告がb社側に注意喚起すべき特段の事情も証拠上窺われないことからすれば,この点が原告の落ち度に起因するものであると認めることはできない。
イ 総合判断
(ア) 以上のとおり,被告が本件降格・降給処分の理由として主張する具体的事実のうち,原告の責めに帰することができる事情は前記ア(ウ)の宣伝メールに対する顧客からの苦情のみであって,他の事実についてはいずれも原告の責めに帰するものと認めることはできない。しかも,上記宣伝メールの苦情といっても,どの程度広範囲の顧客に対し送信したかについては証拠上何ら明らかでないし,原告が,退会した顧客に対し故意にそのようなメールを送信する合理的な理由もないことからすれば,被告が主張するように,これをスパムまがいと決めつけることは,およそ行き過ぎというべきである。
(イ) 他方で,本件降格・降給処分により,原告は部長職から一般職員に降格され,役職手当相当額5万円を減額されている。この5万円という減額幅は相当に大きいものといわざるを得ず,原告の部長職からの降格がかような給与減額を伴う処分であることからすれば,使用者固有の権限としての人事権の行使といえども,相応の合理性が要求されるというべきであって,そのような合理性が認められない場合には,過度に不利益を課すものとして,裁量権の濫用に当たるというべきである。
(ウ) しかるに,本件降格・降給処分の理由として原告の責めに帰すべき事情と認められるのは前記(ア)の限度であって,これのみでは,上記(イ)のような大きな不利益を伴う本件降格・降給処分の合理性を基礎付けることはできないというべきである。
原告が,その入社当初から,被告の商品内容や経営方針に批判的な言辞を繰り返していたことは,既に認定した事実からも明らかであって,それによって被告の経営陣が不快感を覚えたであろうことは想像に難くないが,以上にみたところからすれば,その発言にもそれなりの理由があるものもあるし,少なくとも降格,降給に値するような非違行為とは認めることはできない。むしろ,(後に撤回されたものの,)前記1(4)オのとおり,平成22年1月にも被告が原告に対し,同様の降給処分を行ったことからすれば,本件降格・降給処分については,原告に対する被告経営陣の悪感情が過度に反映されていると推認するのが相当である。
したがって,本件降格・降給処分は,裁量権の濫用というべきものであって,これを無効と認めるのが相当である。
3  争点2(本件懲戒解雇の有効性)について
(1)  使用者による懲戒権の行使は,企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが,就業規則所定の懲戒事由該当事実が存する場合であっても,当該行為の性質や態様等の状況に照らし,それが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当性を欠くと認められる場合には権利の濫用に当たるものとして無効になる(労働契約法15条)。特に,懲戒解雇は,労働者にとって最も厳しい制裁手段であり,多くの局面で当該労働者に不利益を与えるのが実情であることにかんがみれば,上記の権利の濫用に当たるか否かについては,その行為により使用者側が受けた被害の重大性,回復可能性はもとより,そのような行動に出た動機や行為態様を子細に検討した上で判断する必要があるというべきである。
以下,このような観点から,本件懲戒解雇が権利の濫用に当たるか否かについて検討する。
(2)  被告においては,顧客情報を電子メールにより移動する際に情報セキュリティ管理責任者の許可を必要とする扱いをしていたところ(前記1(1)ウ),原告は,本件顧客データ送信に当たり,事前にも事後にも上司の許可を得ていないばかりか(前記1(3)オ),本件顧客データを取得する際に,被告の取締役に対し実際とは異なる利用目的を告げている(前記1(3)ウ)。このように,本件顧客データ送信は,原告が被告の同意を得ずに行ったものであると認められるものであって,このような原告の行為は,被告就業規程62条(13)所定の懲戒事由に該当するというべきである。
(3)  しかしながら,原告による本件顧客データ送信行為については,以下の事情も認めることができる。
ア 本件顧客データの送信を受けたBが代表取締役を務めるa社は,被告商品の販売代理店であるa1社が商号変更した会社であり,原告とBとの間においては,本件顧客データの送信後もしばしばメールのやりとりが続けられていたが,同人らの間で,原告がa社に転職して同データを不正利用しようとしていたことを窺わせるような会話はかわされておらず,かえって,a1社が被告の代理店となることを前提に,Bがいつから営業をかけるべきかと原告に聞いているのに対し,原告は被告商品にバグがあったことから平成22年3月までは静観を勧め,Bもそれに従って(前記1(3)カ),本件顧客データを利用しての営業活動を控えている。Bが本件顧客データを不正な目的で利用しようとしていたのであれば,もっと早い時点で被告に顧客データの不正利用に関して顧客から苦情が寄せられてもおかしくはないが,現時点まで,そのような事実はない(前記1(6)ア)。また,a社の会社案内には,被告のソフトウェア(「○○」「△△」)のロゴが掲載されているところ(前記1(3)ケ),これは,a社が被告の販売代理店であることを前提とした記載であって,Bがa社において被告の顧客情報を不正利用しようとする意図であったならば,このような記載をあえてするとは考えられない(上記ロゴの掲載という事情に照らすと,上記会社案内中に,あたかも原告がa社の従業員であるかのような記載があること〔前記1(3)ケ〕についても,Bが説明するように,同人が当時考えていたビジョンを下書き程度に書き出したものであったことから〔甲7〕,必ずしも正確な記載ではないと考えざるを得ない。)。そもそも,原告が不正な意図で本件顧客データ送信を行っていたとすれば,Bとの関係自体を秘匿しようとするか,少なくとも上記のようなa社の会社案内などの不正行為の徴表を残すことはないと考えられるが,原告はその後も職場のパソコンにこのような情報を残しており,徴表を隠蔽しようとした形跡がまったくない。このような状況に照らすと,原告が本件顧客データをBに送信した意図としては,Bの下(a1社〔a社〕)に転職し,同顧客データをBに不正利用させるところにあったのではなく,被告商品の販売代理店であるa1社(a社)の営業を促進させ,被告の売上を伸ばすという面があったことは否定できない。
前記(2)のとおり,原告が実際の利用目的と異なる理由を告げて本件顧客リストを取得した点は不審ではあるものの,上記説示の諸事情に照らすと,その点から不正な利用目的であったことまで推認できるものではない(むしろ,原告がしばしば被告の経営陣と衝突していたことからすれば,原告としては,たとえ営業推進目的であっても,真実を告げれば同リストの送信を許可してもらえないと考えていたとも推測されるところである。)
イ 被告は,本件顧客リストを営業秘密として保持,管理し,個々の従業員に対しても,それをみだりに開示しないことを誓約させるなど,その取扱いに万全を期していたものであって,本件顧客リストを無断で開示した原告の責任は重い旨主張する。
しかしながら,本件顧客データ送信により,現在までに,(プライバシーマーク事務局や取引先との対応によるコスト以上に)被告に実害が生じた形跡は認められない。
また,前記認定のとおり,被告は,原告による本件顧客リストの送信の事実を知った後,直ちにプライバシーマーク事務局にその事実を報告したわけではなく,原告に対し本件懲戒解雇の意思表示をし,原告訴訟代理人からの内容証明郵便でその無効を主張され,訴訟提起が予測される段階に入ってから,ようやくプライバシーマーク事務局への報告(本件事故報告書)を行っており(前記1(6)ウ),この間,1か月以上も同報告がなされないまま推移していた。さらに,被告は,本件事故報告書において,本件顧客リスト上の顧客数について4725名と誤った数値を記載したのみならず,本件訴訟においても,当初は同様にその誤った数値を主張し,その誤りに気付いてその数を4257名に訂正したのは,本件訴訟の最終段階に入った時点であった。顧客数という最も基本的な情報について,しかも数百名レベルの誤りがあるとは,容易に理解し難いところである。
このように,被告は,顧客情報を厳格に管理しているとはいいながら,実際には,その情報管理がどこまで厳格であったのか疑わせる事情も存するもので,このような被告における情報管理の状況にかんがみ,実質的にみて,原告の本件顧客データ送信行為が即懲戒解雇に該当するような重大な非違行為であるといえるのか,疑問がある。
ウ むしろ,被告は,平成22年1月ころ,原告に対し,口頭で給与を10%減額する旨通告した後,原告の異議を受けて撤回し,同年3月30日付けで本件降格・降給処分を行い,そこから10日も経たないうちに,原告に対し,本件懲戒解雇を行っている。しかも,前記2のとおり,本件降格・降給処分は,同処分に見合う合理的な理由がなく,裁量権の濫用に当たるものであった。このような点や,被告代表者が本件懲戒解雇時にa1社とa社とが別法人であると誤解していたことなどに照らすと(このことは,前記1(6)ウの本件事故報告書の内容に照らし,明らかである。同報告書の内容は,Bが新会社を設立し,原告が同新会社に就職して不正に本件顧客データの利用を企図していたという内容であって,本件訴訟における被告の主張とは必ずしも整合しない内容となっている。),争点1において説示したように,被告経営陣の原告に対する悪感情が,懲戒解雇という最も重い処分に結び付いた可能性を否定できないところであって(前記2(2)イ(ウ)),被告が,原告使用にかかるパソコンに保存されていたメール等,当時把握していた資料についてすら十分に検討することなく,また,Bに対する照会等当時行い得た調査を十分に行うこともなく,原告に対する懲戒解雇に踏み切ったことを推認させる。
(4)  以上にみたように,原告の本件顧客リスト送信行為が,被告就業規則所定の懲戒事由に該当する行為であることは否定できないものの,その動機が被告における営業を推進するためであって不正なものとはいえないことや,被告に実害が生じていないことなどをはじめとする,前記(3)において説示した諸事情を総合考慮すれば,原告を懲戒解雇に処することは酷に失するといわざるを得ない。したがって,本件懲戒解雇は,社会通念上相当であるということはできないから,懲戒権の濫用に当たり,無効と認めるのが相当である。
4  争点3(被告の不法行為の成否及びそれによる原告の損害)について
(1)  前記3のとおり,本件懲戒解雇は無効であるところ,被告が,本件懲戒解雇当時把握していた資料についてすら十分に検討することなく,原告に対する懲戒解雇を行ったことなどからすれば,被告の行為が原告に対する関係で違法性を有することは否めない。
しかしながら,本件懲戒解雇が無効と認められ,原告には同解雇後の賃金請求権が認められているのであるから,これによりその経済的損失は填補されているというべきである。この点に加えて,本件顧客データ送信が懲戒事由に該当する行為であって,原告にも責められるべき点があることは否定できないことにかんがみると,本件懲戒解雇に関しては,上記賃金相当額以上に,被告に対し損害賠償を命ずべき特段の事情は存しないというべきである。したがって,本件懲戒解雇について不法行為が成立する旨の原告の主張については,理由がない。
(2)  また,原告は,被告がa1社とa社とが別会社であるとの誤解が解けた後も,本件訴訟において,本件懲戒解雇が有効であると意図的な虚偽主張を行っていると主張する。前記(1)のとおり,原告が被告に無断で本件顧客データを送信した行為が懲戒事由に該当する非違行為であることに変わりはなく,この点は,a1社とa社との同一性いかんとは関係がないことからすれば,本件訴訟における本件懲戒解雇に関する被告の主張内容が,原告に対する関係で,不法行為としての違法性を有するとまではいうことができない。
したがって,この点についても,原告の主張を採用することはできない。
第4  結論
以上のとおりであるから,本件請求のうち,原告が,被告に対し,①雇用契約上の地位確認を求めた点,②インタラクティブコミュニケーショングループ2部の部長職の地位にあり,かつ,月額基本給48万円の支払を受ける雇用契約上の地位確認を求めた点,③平成22年4月以降本判決確定まで月額48万円の賃金等の支払を求めた点についてはいずれも理由があるからこれを認容し,④被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた点については理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 西村康一郎)

 

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