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「営業支援」に関する裁判例(61)平成25年12月18日 東京地裁 平21(ワ)28035号 損害賠償請求事件、貸金請求事件

「営業支援」に関する裁判例(61)平成25年12月18日 東京地裁 平21(ワ)28035号 損害賠償請求事件、貸金請求事件

裁判年月日  平成25年12月18日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)28035号・平23(ワ)2040号
事件名  損害賠償請求事件、貸金請求事件
裁判結果  第1事件一部認容、第2事件認容  文献番号  2013WLJPCA12188017

要旨
◆原告会社が、被告は同社の従業員として銀行口座を管理していた立場を利用し、権限のない支払をするなどして、原告会社に損害を与えたと主張して、被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を求め(第1事件)、被告が、原告会社に対し、貸金の返還を求めた(第2事件)事案において、被告は、原告会社の総支配人の地位にあり、営業及び財務管理の責任者としての権限を有し、その権限には、取引先の選定、契約の許諾等営業面の業務を決定し執行する権限並びに従業員を雇用しその給与を決定する権限が含まれていたと認定した上で、被告による各支払のうちの一部については不法行為を構成するなどとして、第1事件に係る請求を一部認容し、また、被告の原告会社に対する貸付けを認めるなどして、第2事件に係る請求を認容した事例

参照条文
民法587条
民法623条
民法703条
民法709条
会社法11条1項
会社法11条2項

裁判年月日  平成25年12月18日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)28035号・平23(ワ)2040号
事件名  損害賠償請求事件、貸金請求事件
裁判結果  第1事件一部認容、第2事件認容  文献番号  2013WLJPCA12188017

平成21年(ワ)第28035号 損害賠償請求事件(以下「第1事件」という。)
平成23年(ワ)第2040号 貸金請求事件(以下「第2事件」という。)

東京都板橋区〈以下省略〉
第1事件原告・第2事件被告 株式会社X(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 小川恵司
同 西川貴晴
神奈川県足柄下郡〈以下省略〉
第1事件被告・第2事件原告 Y(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 上松信雄
同 三ツ村英一

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,1798万4493円及びこれに対する平成20年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の請求を棄却する。
3  原告は,被告に対し,1537万2131円及びこれに対する平成20年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  訴訟費用は,第1事件,第2事件を通じて,これを10分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
5  この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  第1事件
被告は,原告に対し,4493万2623円及びこれに対する平成20年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  第2事件
主文第3項同旨
第2  事案の概要等
1  事案の概要
第1事件は,原告が,被告が原告の従業員として銀行口座を管理していた立場を利用し,権限のない支払をするなどして,原告に損害を与えたと主張して,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として4493万2623円及びこれに対する不法行為後の日である平成20年7月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
第2事件は,被告が,原告に対し,貸金の返還として1537万2131円(以下「本件貸金」という。)及びこれに対する支払催告に係る期限の翌日である平成20年6月10日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2  前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実。証拠によって認定した事実については,証拠を掲記した。)
(1)  原告は,平成17年7月22日に設立された仏壇,仏具,神具の製造,輸出入及び卸販売等を目的とする株式会社である。
原告の代表取締役であるA(以下「原告代表者」という。),取締役及び監査役(以下「原告役員ら」という。)と被告は親族関係にあり,その親族は代々仏具小売業を営み,○○グループとして,仏具小売業を主たる業とする会社をそれぞれ経営している。同グループの店舗は,関東一円に16店舗ある。(証人B)
(2)  原告代表者の甥であるC(以下「C」という。)は,○○グループの一員として,仏具小売業である株式会社a(以下「a社」という。)を営み,東京都世田谷区二子玉川,横浜市戸塚区及び神奈川県横須賀市に店舗を有していた。被告は,Cの弟(原告代表者の甥)であり,平成15年から米国ハワイ州(以下「ハワイ」という。)において仏具等の販売・補修を行うb社(以下「b社」という。)を経営し,ハワイに居住していた。b社は,原告設立前はB(以下「B」という。)が経営する株式会社cから仏壇・仏具を仕入れており,○○グループの関係会社であると称していた。(甲13,15,53,乙109,証人B)
(3)  Cは,仏壇・仏具の販売以外にもa社の事業を広げたが,失敗して経営難に陥り,多額の負債を負い,仕入先への支払も遅滞するようになったこと,C自身が癌と診断されたことなどから,a社を整理することとした。そして,原告役員らは,その出資によって原告を設立し,a社の営業権の譲渡を受けることにし,平成17年7月4日付けで「新会社設立概要」と題する書面(以下「本件設立概要書」という。乙1)を作成し,その内容に従って原告を設立する旨の合意をした。本件設立概要書には,原告代表者を含む発起人7名のうち6名の署名押印並びに本件設立概要書の内容を確認する者としてC及びその家族の署名押印がある。また,被告は,原告の総支配人に任命される者として,本件設立概要書に署名押印し,原告の総支配人となることを承諾した。本件設立概要書には,以下の内容の記載がある。
ア 原告は,事業目的を「仏壇仏具神具の製造輸入輸出卸販売」及びこれに付帯する投資とし,平成17年7月中に設立後速やかにa社から同社の仏具販売部門の債権債務を含めた総括した営業権を購入し,同社の戸塚及び横須賀にある店舗の在庫,社員,賃貸借を継承し,即日営業を開始する。二子玉川店については継承しない。
イ 原告は,設立と同時に,b社に対し,その代表者である被告を,原告の営業及び財務管理責任者として派遣する要請を行い,b社と上記派遣に係る契約を締結し,被告を総支配人に任命し,営業面,財務面での業務担当権限を与え,被告は「都度取締役会に承認を計り,業務を進める」とされた。
ウ 原告の売上げ,支払に関する現金出納は被告が管理し,月1回前月の出納を遅くとも翌月10日までに取締役会に報告する。
エ 原告は,設立後2年間又は取締役会の承認なく,普通預金取引以外の銀行取引はできない。リース,ローン契約等を新規に締結する場合には,その都度取締役会の承認のもとに行うものとする。
オ 原告は,設立後2年の期間を設けて営業し,その期間満了時又はその2年の間,全株主は,求めによりC若しくはその家族又はb社に対し,原告の全株式を,払込金額で,各株主に対する仮払金勘定と対当額において相殺した上で譲渡することを承諾した。
万一,2年の間に,株式の譲渡の求めがされない場合は,その後の会社経営,営業方針などを現役員が権限をもって決定し,C,その家族及び被告はその決定に従うものとする。
カ 全株主及び現行取締役は,b社が,被告を総支配人として派遣中,原告からその業務の報酬(以下「本件報酬」という。)として,毎月原告売上総額の10パーセントの支払を受けることを承諾する。
(4)  被告は,原告設立当初から平成19年12月末日まで,原告の従業員であり,原告の総支配人として原告の職務に従事し,少なくとも同年11月までの間,原告の銀行口座(りそな銀行普通預金口座・口座番号〈省略〉。以下「原告口座」という。)の通帳及び印鑑を所持し,原告口座を管理していた(被告がいつまで原告口座を管理していたかについては争いがある。)。
(5)  被告は,原告に対し,平成20年5月30日に原告に到達した書面で,同書面到達後10日以内に本件貸金を返還するよう催告した。(乙135(枝番を含む。))
3  争点及び争点に関する当事者の主張
(1)  被告に不法行為責任又は債務不履行責任が認められるか及び認められる場合の損害額(争点1)
(原告の主張)
ア 原告における被告の権限
原告が被告に付与した権限は,本件設立概要書にあるとおり,「営業面,財務面での業務担当権限」のみであり,かつ,被告は業務を執行するに当たり取締役会の承認を得ることとされていた(乙1)。すなわち,被告は,営業面に関しては,取締役会の承認を得ることを条件として,取引先の選定,契約の諾否等,営業面の業務を決定し執行する権限を有し,財務面に関しては,会社設立後2年間は,普通預金取引のみの銀行取引及び取締役会の承認を条件としてリース,ローン契約その他の財務に関する業務を決定し執行する権限を有し,設立後2年経過後は,銀行取引を含めすべての財務に関する業務について,取締役会の承諾を得ることを条件として,決定し,執行する権限を有していた(乙1)。
被告には,上記の権限以外に権限はなく,従業員の採用及びその雇用条件につき決定し執行する権限は有していなかった。
イ 被告の原告に対する決算報告状況
被告は,原告の監査役であるBに対しては,平成17年7月22日から平成18年6月30日まで(以下「第1期」という。)の決算報告書(乙3),同年7月1日から平成19年6月30日まで(以下「第2期」という。)の決算報告書(乙32)及び同年7月1日から同年11月30日まで(以下「第3期」という。)の決算報告書(乙33。以下,これらの決算報告書を併せて「本件各決算報告書」という。)のうち,「勘定科目内訳書」を除いたものを送付していたが,「勘定科目内訳書」は送付せず,また,B以外の原告役員らには,原告の第1期のうち前期分の決算報告書(ただし,「勘定科目内訳書」を除く。甲11)を送付したのみであり,口頭による報告も行わなかった。被告が原告役員らに対して行ったのは,毎月の売上報告書(甲12の1ないし5)をファックス送信したことと,月に1度開催される原告の代表者会議に時折出席して,売上報告書の内容である売上及び利益の報告をしたことのみであった。
なお,被告作成の報告書(乙38ないし79)のうちの一部(乙59,60,72及び73)は,原告役員らが経営するいずれの店舗にも送付されていなかったが,その余は被告から原告役員らの店舗に送付されていた。
ウ 被告の不法行為及び原告の損害
被告は,原告に対し,以下の(ア)ないし(ケ)の不法行為により,合計4493万2623円の損害を与えた。
なお,被告は,平成19年12月末日に原告を退職したが,その後も原告口座の管理を継続していた。すなわち,被告は,原告口座について,インターネット取引を行うために必要なパスワードとIDを知っており,平成20年1月22日に原告口座から被告の妻であるD(以下「D」という。)への送金がされていることからすると,少なくとも同日まで,被告は原告口座を管理していた。
(ア) 架空の顧問契約に基づく報酬支払(以下「不法行為1」という。) 損害額337万9800円
被告は,平成17年8月3日,原告口座から3万米ドル(邦貨換算337万9800円)をb社に送金した(以下「第1支払」という。甲2の1及び2)。
第1支払は,被告が,原告の承認なく,原告とb社との間で架空の顧問契約を締結して(甲1),これに基づく報酬として支払ったものであり,原告は同額の損害を被った。
被告は,第1支払は,平成17年5月から7月までの間に被告が原告の設立準備を行ったことに対する報酬であると主張するけれども,報酬は,単なる報告事項とは異なり,原告役員らが金額及び内容を精査した上で決定すべきであり,そのような決定はされていない。本件各決算報告書は,Bに送付されただけで,他の原告役員らには送付されず,また,本件各決算報告書に第1支払の事実の記載はなく,原告役員らは,繰延資産償却の対象に第1支払が含まれているとの報告も受けていない。
仮に,被告が原告の設立準備行為をしたとしても,そのための稼働日数は46日に過ぎないから,337万9800円の報酬は高額に過ぎ,原告役員らが承諾するはずがない。
また,会社法上,会社設立中の設立費用は,定款に定めがない限り,設立後の会社に請求できないこととされている。原告の定款には,設立準備行為に対する報酬に関する定めはない。
(イ) 他人の債務の支払(以下「不法行為2」という。) 損害額26万5860円
被告は,dパークのチラシ代として,原告口座から株式会社eに26万5860円を支払った(以下「第2支払」という。甲3,4)。
第2支払は,b社が墓石を販売するためのチラシ代(甲53,54)であって,原告に支払義務はなく,原告は同額の損害を被った。
なお,原告役員らは,前記イのとおり,監査役であるBを除いては,被告から本件各決算報告書の送付を受けていないし,第2支払を承認していない。Bにおいても,被告から,本件各決算報告書の概要の説明を受けただけで,そのすべての説明を受けたわけではなく,Bは第2支払を承認していない。このことは,以下の(ウ)ないし(ケ)の支払についても同様である。
第2支払は,原告の承認を得ることなく,被告が代表者を務めるb社の債務を支払った利益相反取引であり,違法である。
(ウ) 住宅補助(以下「不法行為3」という。) 損害額188万6000円
被告は,「住宅補助開始通知」と題する文書(甲5)を作成し,原告から,住宅補助の名目で別紙1の「被告への住宅補助額」欄記載のとおり合計188万6000円の支払を受けた(以下「第3支払」という。)。
被告は,原告から住宅補助の支払を受ける権利はないにもかかわらず,原告に無断で第3支払を受けたものであって,原告は同額の損害を被った。
なお,a社の従業員であったE(以下「E」という。)がa社から住宅補助を受けていたことは認めるが,従業員又は役員への住宅補助の支給は,1人の従業員が決定できる性質のものではなく,また,就業規則その他の報酬・賃金規定も存在しないから,被告は,原告の代理人として被告に住宅補助を支払う旨の自己取引を行ったことになる。自己取引については,取締役会の決議が必要である。被告には,住宅補助の支給を決定する権限はなく,また,取締役会の決議もなく,原告は支給につき承認もしていない。
(エ) 架空従業員雇用(以下「不法行為4」という。) 損害額1250万5096円
① 被告は,Dに対し,別紙1の「Dへの給与額等」欄記載のとおり,原告口座から払い戻した金員から,合計1250万5096円を給与又は支度金として支払った(以下「第4支払」という。甲6)。
被告は,従業員を雇用する権限はなく,原告の承認を得ていないにもかかわらず,Dと原告との間で雇用契約を締結し,第4支払を行ったものであって,当該雇用契約は,架空のものないし契約の効果が原告に帰属しない無効な契約であり,原告は同額の損害を被った。
なお,Dの担当人事表(乙7ないし9)は,原告役員らに送付されたことはないし,役員会においてDの雇用につき報告されたこともない。
② 仮に,被告に従業員を雇用する権限があったとしても,Dが原告のために労務を提供した実態はなく,Dの経済的利益を図る目的でDを雇用することは,被告の人事権の裁量の範囲を逸脱した行為である。
また,被告は,b社及びf社(以下「f社」という。)を経営しており,仮に,ハワイ又は韓国においてDが営業活動を行ったとしても,それは,原告のためではなく,b社又はf社のためのものであった(乙19,21ないし24)。
③ Dは被告と生計を同一にしており,被告によるDへの賃金等の支払の決定及び執行は,実質的には自己取引(利益相反行為)であり,原告代表者の承認を得た上で執行しない限り,不法行為法上の客観的注意義務違反及び誠実義務に違反する行為に当たる。
(オ) 架空旅費等(以下「不法行為5」という。) 損害額1734万7369円
① 被告は,原告口座から払い戻した金員から,出張旅費として,韓国,北海道,函館及び箱根の旅費につき別紙2のとおり合計537万3345円の支払を受けた(以下「第5支払」という。甲14の1ないし34)。
原告には上記場所における取引はなく,原告の業務上必要な出張に係る旅費ではないから,原告は同額の損害を被った。
仮に,被告及びDが韓国の寺院等に営業を行い,また,そのために韓国への旅費が必要となったとしても,それは,原告のための営業・渡航ではなく,f社のための営業・渡航であるから,その費用は原告が負担すべきものではない。
第5支払に関する原告のその余の主張は,別紙2の「原告の主張」欄記載のとおりである。
② 原告は被告がハワイに出張する旅費の支払を認めていたが,被告は,別紙3-1及び同3-2のとおり,わずか2年間で交通旅費(旅行途中の食事代,旅行の保険に係る保険料等を含む。)1151万3524円(別紙3-1のうち「摘要」欄に日当又は手当とあるもの以外の合計)を計上しており,余りにも高額である。また,被告はハワイへの出張日当として,286万0500円(別紙3-1のうち「摘要」欄に日当又は手当とあるものの合計)の支払を受けているが,原告は出張手当等の支払を認めていない。原告は,上記ハワイに係る支払の総額1437万4024円のうち,1か月1往復10万円は必要であるとみなして,240万円は経費として認めるが,残額の1197万4024円(以下「第6支払」という。)は原告の業務のための支出ではないから,原告に同額の損害を与えた(甲42,43)。
なお,ハワイ旅費に含まれる多数の食事代については,交際費として認められる特別の事情は認められないから,すべて原告の業務と関連性のない違法な支出である。
また,上記の1か月1往復10万円の金員には,航空券代のみならず,成田空港までの交通費も含まれる。仮に,成田空港までの交通費を別途原告が負担すべきであったとしても,原告は,通常選択され得る合理的な交通手段に係る交通費の限度で負担する義務を負うに過ぎず,成田空港との間のタクシー代を負担する義務はない。
第6支払に関する原告のその余の主張は,別紙3-1の「原告の主張」欄記載のとおりである。
(カ) 架空立替金等(以下「不法行為6」という。) 損害額283万1504円
① 被告は,別紙4のとおり,Cに対する立替え経費等,車両(オペル。以下「本件車両」という。)の修理代等として,原告の金員から,283万1504円を支払い(以下「第7支払」という。),同額の損害を被った。
被告には,従業員を雇用する権限がなく,原告の承認も得ていないから,Cと原告との間で雇用契約を締結していたとしても,当該契約は,架空のものないし無効な契約であること,仮に被告に雇用権限があったとしても,原告のために労務を提供しない者を被告の身内の経済的利益を図るために雇用することが被告の人事権の裁量の範囲を逸脱した行為であることは,前記(エ)と同様である。
② 本件車両は,平成18年6月ころCから原告に登録名義が移転しているが,登録名義移転後も原告の業務に供されず,Cが私的に使用していたから,原告が本件車両に関する費用を負担する理由はない。被告が本件車両の所有権を原告に移転した目的は,原告の資産から本件車両の修理代,車検代及び自動車税を支払うことにあった。
また,仮に,Cが原告の業務に従事したことがあったとしても,別紙4の支出のうち,少なくとも,平成18年3月27日の50万円のほか浄水器,ボトルウォーター,茶菓子代,宅配便,マインマート,乾電池,小林紙工,ブックスオオトリ,節分志納及びマット代金の支出については,いずれも原告の業務に関連しない商品又はサービスのための支出であって,C個人の私生活上の支出であるから,原告が負担すべきものではない。
(キ) 追加旅費等(以下「不法行為7」という。) 損害額43万1020円
被告は,別紙5のとおり,原告から合計43万1020円の支払を受けた(以下「第8支払」という。)。
別紙5の京都への旅行,千葉県館山への旅行,韓国への旅行及びCの診断書の取得は,いずれも原告の業務に関連するものではない。別紙5記載のハワイ渡航のための航空券の取消手数料も,ハワイへの渡航費用として許容される範囲を超えた支出に係るものであるから,原告が負担すべき業務上の支出ではない。
したがって,原告は,第8支払によって,同額の損害を被った。
(ク) 従業員の賃金(以下「不法行為8」という。) 損害額362万3224円
① F
被告は,原告の承認なく,b社の従業員であったF(以下「F」という。)を,原告に雇用させ,Fに対し平成18年及び平成19年中の賃金合計340万1000円を支払い(以下「第9支払」という。甲15ないし18,44),これにより,原告は,同額の損害を被った。
被告には原告の従業員を雇用する権限がなく,原告の承認も得ていないことからFとの雇用契約は,架空のものないし無効な契約であること,仮に被告に雇用権限があったとしても,原告のために労務を提供しない者を被告の経済的利益を図るために雇用することが被告の人事権の裁量の範囲を逸脱した行為であることは,前記(エ)と同様である。Fは,b社の業務に従事していたものであって,原告の業務に従事した実態はない。
② G
被告は,平成17年10月10日から同月17日までの間,原告の従業員であるG(以下「G」という。)をハワイにおけるb社の業務に従事させ,原告に対し,原告がGに支払った同期間分の賃金相当額7万4322円(月額賃金28万8000円の8日分。以下「第10支払」という。)の損害を与えた(甲19,21)。
上記Gの行った業務は,b社が原告から仕入れた仏具等をb社の顧客等へ設置するというb社が行うべき業務であり,原告の従業員が行うべき業務ではなかった。下記③及び④についても同様である。
③ E
被告は,平成17年12月26日から平成18年1月1日までの間,原告の従業員であるEをハワイにおけるb社の業務に従事させ,原告に対し,原告がEに支払った同期間分の賃金相当額9万1451円(月額賃金40万5000円の7日分。以下「第11支払」という。)の損害を与えた(甲20,22)。
④ H
被告は,平成17年12月26日から平成18年1月1日までの間,原告の従業員であるH(以下「H」という)をハワイにおけるb社の業務に従事させ,原告に対し,原告がHに支払った同期間分の賃金相当額5万6451円(月額賃金25万円の7日分。以下「第12支払」という。)の損害を与えた(甲23)。
(ケ) 運送費用(以下「不法行為9」という。) 損害額266万2750円
① 被告は,別紙6のとおり,本来原告が負担する必要のない原告とb社との間の取引に係る運送費用合計266万2750円を,原告の資産から支払い(以下「第13支払」という。),原告に同額の損害を与えた。原告の勘定元帳には海外への運送費用として合計266万2750円が計上されている(甲40,41)が,これらはすべてb社が負担すべき運送費用であった。
② なお,原告とb社との間の取引における商品の仕入価格と卸売価格は,別紙7のとおりであり(甲24ないし39),仮に粗利益が15パーセントないし30パーセントであったとしても,原告が海外への運送費用を負担すれば,取引の収支及び人件費等の負担からして,原告が赤字を被ることは明らかであった。
③ b社が負担すべき運送費用を原告が負担することは,被告が代表者を務めるb社を有利に取り扱う利益相反行為であり,原告の利益を侵害する。
(コ) 被告の不法行為により原告が被った損害額の合計は,前記(ア)ないし(ケ)の合計である4493万2623円である。
エ 労働契約上の誠実義務違反
原告と被告との間には雇用契約が締結されていたが,労働者は,使用者に対し,雇用契約に付随する信義則上の義務として,就業規則を遵守するなど雇用契約の債務を忠実に履行し,使用者の正当な利益を不当に侵害してはならないという誠実義務を負い,その一内容として,権限を逸脱濫用する行為を行ってはならない義務,業務上必要性が認められないことのために使用者の資産を使用してはならない義務を負う。前記ウの被告の各行為はこの義務に違反するものであり,被告は,原告に対し,前記ウの損害について債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
(被告の主張)
ア 原告における被告の権限
被告は,原告の総支配人として原告の業務を行うことを原告役員らから要請されたのであり(乙1),会社法上の「支配人」は,会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする包括的な権限を有するとされていること(会社法11条1項),本件設立概要書には被告の権限から従業員の雇用等の権限を除外する文言はないことからすれば,被告は,営業,財務についての広範な権限を有していたのであって,住宅補助を支給する権限及び従業員を雇用しその給与を決定する権限を有していたことは明らかである。
実際に,被告は,原告設立前には設立業務及びa社から原告への営業譲渡に関する業務,原告設立後は総支配人として経営戦略,人事・組織及び会計・財務と多岐にわたって業務を行っていた。また,原告代表者に対して,平成17年8月2日付けの「報告・新規稟議申請」と題する書面(甲10,乙2)及び同年7月31日付けの「業務規定・権限規定」と題する書面(乙25)を送っているところ,「報告・新規稟議申請」(乙2)には原告が住宅補助を支給することが記載され,「業務規定・権限規定」(乙25)には総支配人が人事権及び給与金額決定権限を有することが記載されているが,これらの内容について原告代表者から異議を述べられたことはなかった。
イ 被告の原告に対する決算報告状況
被告は,原告役員ら全員に対し,本件各決算報告書を送っている。
また,被告は,役員会における決算の報告に際しては,勘定科目内訳書を添付し,それに基づいて原告役員らに説明している。さらに,被告は,原告役員らに対し,売上げ及び利益を報告するだけでなく,その時々の原告の状況や今後の経営方針などについても報告している(甲11,12の1ないし5,乙38ないし79)。
原告役員らは,被告から経費について説明を受けた上で,被告に経費を削減するように指示し,具体的な数字まで挙げているのであるから(乙59),原告役員らが販売費の具体的な内容を把握していたことは明らかである。
ウ 不法行為及び損害について
以下のとおり,被告の原告に対する不法行為は成立しない。
なお,被告が原告を退社した後の残務については,I(以下「I」という。)が行うことになったため,原告口座の通帳及び印鑑を原告に返還した。ただし,平成19年12月27日の原告の従業員J(以下「J」という。)との打合せにより,給与の支払は日割計算が必要であって,被告でないと分からないことから,給与の振込みのみ,被告が行うことになり,被告は,インターネットによってDに対する給与の振込みのみを行った。
(ア) 不法行為1について
被告が第1支払を行ったことは認める。
原告とb社との間では,本件設立概要書に基づき顧問契約(以下「本件顧問契約」という。)が締結されており(乙1,2),原告が架空の顧問契約書であると主張する書面(甲1)は,平成17年5月から7月までの間に被告が原告の設立準備を行ったことに対する報酬の請求書である。この設立準備には,原告の設立業務のほか,a社から原告への営業譲渡に関する業務が含まれる。
第1支払は,被告が原告代表者から口頭で了解を得て行ったものであり,後日,「報告・新規稟議申請」(甲10,乙2)を作成して,原告役員ら全員に送付したが,何の異議も述べられていないし,本件各決算報告書にも記載され,監査役の監査により適法とされている(乙3,4)。
原告の設立準備については,平成17年5月から7月まで3か月を要したことから,b社における被告の報酬(1か月1万ドル)を基準として,3万ドルを請求したものであり,その報酬は高額ではない。
(イ) 不法行為2について
被告が,第2支払を行ったことは認める。
第2支払に係るチラシ代は,原告の事業のための経費であり,被告の権限の範囲内の支出である。これは,本件各決算報告書に記載され,役員会において原告役員ら全員に報告して承認され,監査役の監査により適法とされている(甲3,乙3,5,6)。
(ウ) 不法行為3について
被告が,第3支払を行ったことは認める。
a社の幹部社員には住宅補助が支給されていたことから,被告は,総支配人としての裁量に基づいて,原告においても引き続き同一条件で住宅補助を支給し,これに併せて,他の幹部社員と同一の基準で,被告にも日本で使用する住宅について住宅補助を支給したものであり,被告の権限の範囲内の支出である。これは,本件各決算報告書に記載され,役員会において原告役員ら全員に報告して承認され,監査役の監査により適法とされている(甲5,乙2,3,32)。
(エ) 不法行為4について
① 被告が,Dに対し,給与又は支度金として,別紙1のとおり合計1250万5096円を支払ったことは,平成20年1月22日の33万7096円を除いて認める。上記33万7096円の支払については不知。上記33万7096円は,その金額からして,Dへの給与とみるのは不自然である。
② 被告は,韓国系の寺院への新規営業及び韓国での販売を行うために,韓国語と日本語に堪能な被告の妻であるDを雇用したものであって,雇用契約は架空のものではないし,前記アのとおり,被告には,従業員を雇用しその給与を決定する権限があったから,雇用契約は有効である。したがって,Dに対する給与等の支給は,適法であって,不法行為を構成しない。
③ 被告は,Dの氏名が記載された担当人事票を作成し(乙7ないし9),Dが韓国で営業を行っていることを原告役員ら全員に報告し,Dに対する給与等の支払は本件各決算報告書に記載され,役員会において原告役員ら全員に報告して承認され,監査役の監査により適法とされている(乙3,32,33)。また,Dには原告の業務についての勤務実態がある(乙10ないし24,80ないし86,89ないし91)し,Dが行った取引の代金は,原告に入金されている。
なお,f社という会社は存在しない。f社は,原告におけるハワイでの売上げと韓国での売上げを区別するために,公認会計士の指示によって,便宜上付けたものに過ぎず(乙105),f社の売上げは原告の売上げであり,f社の顧客は原告の顧客である。
(オ) 不法行為5について
① 第5支払
第5支払のうち,別紙2の「認否」欄に○印があるものについて,被告が原告から支払を受けたことは認めるが,△印があるものについては不知,×印があるものについては否認する。
ただし,認否において不知とした支出について,経費の支出自体を否認するものではない。原告から領収書の提出がないため,支出内容について不明というものである。また,いずれにしても,被告は,原告の業務のために必要な旅費等以外は,原告から支払を受けていない。
第5支払に関するその余の被告の主張は,別紙2の「被告の主張」欄記載のとおりである。
② 第6支払
第6支払については,別紙3-1の「認否」欄に○印があるものについて,被告が原告から支払を受けたことは認めるが,×印があるものは否認し,△印があるものについては不知。
ただし,いずれにしても,被告が原告の業務のためにハワイに出張することは,役員会において認められていた(乙2)し,被告が原告から支払を受けたハワイの旅費,出張手当等は,高額なものではなく,被告は,原告の業務規定(乙25)に基づいて,適正に支払を受けたものである。また,上記支払は,本件各決算報告書に記載され(乙3,32,33),役員会において原告役員ら全員に報告して承認され,監査役の監査により適法とされている。
ハワイの寺院との取引のない原告がb社を通してハワイの寺院と取引できたのは,b社の人脈や信用を利用したからであり,また,b社はハワイの寺院との取引を原告に発注する義務はなく,原告の売上げを補うために原告に発注したのであって,原告は,b社を通してのハワイの寺院との取引による利益を得ている。
原告とb社との取引について,原告のb社に対する売買代金の請求には,仕入原価に原告の利益を加え,更に人件費,旅費,日当及び運送費を加算しているのであるから,原告に損害はない。
また,被告が,月1回の頻度でb社の業務のためにハワイ渡航することは,原告が認めていたから,当然月1回分については,原告の損害額から除かれるべきである。
なお,ハワイでの売上に関し,b社が負担すべき費用は,b社が負担している。
第6支払に関するその余の被告の主張は,別紙3-1の「被告の主張」欄記載のとおりである。
(カ) 不法行為6について
第7支払については,すべて不知。
Cが原告の業務に関連して経費を支出した場合には,Cが原告に領収書を持参し,原告の担当者が領収書と引換えにその支払を行っていたのであって,被告は支払に関与していない。
もっとも,①平成18年3月27日の立替金50万円は,原告がa社から営業権引継ぎと同時に引き継いだ債務の計上漏れであり,原告が支払うべきものであったことから,被告としては,a社の債務整理の中で処理する予定であったが,債権者が○○グループの顧客であり,原告の監査役であるBから強く支払を要請されたことから,Cへの立替払として処理したもの,②別紙4の「摘要」欄に浄水器,ボトルウォーターとあるものは,原告の店舗に設置されたもの,③本件車両に係る修理代,車検代,自動車税とあるのは,原告の所有する車両に係るもの,④マット代金とあるものは,原告店舗入口に敷いてあるマットのレンタル代金,⑤茶菓子代は,原告の営業において寺院に持参したもの,⑥宅配便は,原告の仕入先又は顧客への商品送付の運賃,⑦酒類小売は,顧客の寺院が法要を行う際の接待の一環として持参したもの,⑧乾電池,雑貨代等は,原告の事務用品,⑨節分志納は,寺院へのお祝金であり,いずれも原告の業務上の支出である。
また,本件車両は,原告の営業社員を増員したことから,営業車両が足りなくなり,第三者から原告名義で購入したものであり,Cの私的な使用はない。
なお,被告には,従業員を雇用しその給与を決定する権限があったから,雇用契約は有効であり,これに対する給与等の支給が適法であることは,前記アのとおりである。Cとa社当時からの原告の顧客との間には人的なつながりがあったため,被告は,総支配人としての裁量によって,報酬は出来高により,実費は支払うという条件で,Cを臨時社員として雇用した。現実にCは営業活動を行っていたし(乙26ないし28,93ないし97),原告役員ら全員に,Cの氏名が記載された担当人事票(乙7ないし9)を送って報告していたが,異議はなかった。また,第7支払に係る支出については,監査役の監査により適法とされている。
(キ) 不法行為7について
第8支払については不知。
仮に第8支払の事実があったとしても,いずれも原告の業務上必要なものとして支払われたものである。
(ク) 不法行為8について
① Fの賃金
被告が,原告とFとの間で雇用契約を締結し,第9支払を行ったことは認める。被告には,従業員を雇用し,その給与を決定する権限があったから,雇用契約は有効であり,Fに対する給与等の支給は適法である。
Fは,当初は,原告の海外営業担当として採用されたものであるが,原告の国内営業部門に人員補充の必要が生じたことから,平成18年8月ころからは,原告戸塚駅前店の店長心得及び仕入れと商品管理責任者としての業務を行っていた(乙72,73,98,99,110ないし117)。
② Gの賃金
被告が平成17年10月10日から同月17日までの間,Gをハワイに出張させたことは認めるが,その目的は,Gに不正の疑惑があり,その調査のためにGを国内から不在にさせる必要があったからであり,ハワイにおいて,原告の営業活動と原告がb社に販売した商品の納品の業務に従事させた。上記調査により,現実にGの不正が発覚している。(乙44,45)。
③ E及びHの賃金
被告が平成17年12月26日から平成18年1月1日までの間,E及びHをハワイに出張させたことは認めるが,両名は,原告の業務として,原告がb社に販売した仏壇,仏具を納品,設置するためにハワイに出張したものであって,b社の業務に従事させたものではない。
(ケ) 不法行為9について
被告が別紙6のとおり原告とb社との間の取引に係る運送費用を原告の資産から支払ったことは認める。
上記運送費用に係る取引は,b社が原告に利益を得させるために,わざわざ自己の取引に原告を介在させたものであるから,上記運送費用を原告が負担するのは当然である。原告からb社に仏具等を卸す際には,線香などの消耗品には15パーセント,仏具などには30パーセントの利益を上乗せしていたことから,原告にとって利益があり,原告は,b社との取引により約2338万円の粗利益を得ていた(乙88)。少なくとも,原告がb社に仏具等を配送するために要した費用は,原告の業務に係るものであるから,その費用は原告が負担すべきである。また,b社は,原告に対し,ハワイに関連する取引において,ハワイの寺院に仏具等を設置する費用合計386万3500円を支払っており,上記支払額は,原告が主張する運送費用(合計266万2750円)を上回る。
(2)  被告の原告に対する未払報酬請求権を自働債権とする相殺の可否(争点2)
(被告の主張)
ア 被告は,平成17年7月9日,原告との間で,本件設立概要書の本件報酬の定めのとおり,被告の業務報酬として,原告の売上総額の10パーセントを受け取る旨合意した(乙1)。
イ 原告の売上額は,第1期につき1億5837万8245円(乙3),第2期につき1億2144万4098円(乙32),第3期につき1686万8313円(乙33)であり,売上総額は2億9669万0656円である。
したがって,被告は,原告に対し,売上総額の10パーセントに当たる2966万9065円の報酬請求権を有するところ,原告から支払を受けた金額は1563万円(乙34ないし37)のみであり,1403万9065円の未払報酬請求権を有する。
被告は,原告に対し,平成21年10月16日の本件口頭弁論期日において,上記報酬請求権をもって,原告の第1事件の請求債権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。
なお,「報告・新規稟議申請」(甲10)には,売上げ歩合制報酬以外にも給与として支払が発生したと記載されており,本件報酬が被告に対する月額55万円の給与に変更されたものではない。
(原告の主張)
ア 本件設立概要書の本件報酬の定めに従って報酬請求権を有するのは,b社であって,被告ではないから,被告には報酬請求権は発生しない。
しかも,被告作成の「報告・新規稟議申請」(甲10)のとおり,平成17年8月以降の本件報酬については,「売上げの10パーセントをb社に支払う」方法から,「被告自身に月額55万円(後に額は変更された。)を支払う」方法に変更されているから,b社は,原告に対する報酬請求権を有しない。
(3)  被告は,原告に対し,本件貸金に係る債権を有するか(争点3)。
(被告の主張)
ア 被告は,原告に対し,平成19年7月4日から同年11月30日までの間に,原告の買掛金,未払金,社会保険料,税金等の支払に充てるため,次のとおり,本件貸金1537万2131円を貸し渡した(乙31)。
(ア) 7月4日 500万円
(イ) 7月9日 100万円
(ウ) 7月17日 150万円
(エ) 7月17日 200万円
(オ) 7月24日 50万0420円
(カ) 7月24日 493万3724円
(キ) 7月30日 216万5856円
(ク) 8月21日 50万円
(ケ) 8月30日 180万0315円
(コ) 11月30日 41万8341円
(サ) 以上合計1981万8656円
(シ) 被告は,7月20日50万円,8月14日300万円,同月21日50万円及び12月31日44万6525円の合計444万6525円の返済を受けたため,本件貸金は1537万2131円となる。
イ 原告がDからの送金であると主張する入金については,Dの預金口座から振り込んだためにDの名義で送金されたに過ぎず,実際には,被告がDから金銭を借りて原告に振り込んだものである。
(原告の主張)
ア 原告口座に,下記のとおり平成19年の各日に各金員の入金があったことは認めるが,これらが被告からの借入金であることは否認する。消費貸借契約の成立には,返還合意が必要であるが,返還合意の事実はない。被告が主張するその余の貸金については,原告に入金があったこと及び借入れを受けたことはない。なお,前記(被告の主張)(イ)ないし(オ),(キ)ないし(ケ)の入金は,Dからのものであり,被告からの借入金ではない。
(ア) 7月4日 500万円
(イ) 7月24日 50万円
(ウ) 7月30日 216万5856円
(エ) 8月30日 180万円
イ 仮に,原被告間で,被告が主張する消費貸借契約が成立しているとしても,平成17年9月4日から平成19年1月26日までの間,被告は,別紙「被告による預金の引き出し」(以下「別紙一覧表」という。)のとおり,原告口座から預金を合計2361万9307円引き出しており,これらは使途不明である。前記アの(ア)ないし(エ)の金員の入金は,被告の原告に対する弁済である。
(4)  原告の被告に対する貸金債権又は不当利得返還請求権を自働債権とする相殺の可否(争点4)
(原告の主張)
別紙一覧表の被告による原告口座からの預金の引き出しは,原告の被告に対する貸付けであるか,被告が法律上の原因なく利得したもののいずれかであるから,原告は,被告に対し,別紙一覧表の引き出し相当額である2361万9307円について,貸金債権又は不当利得返還請求権を有する。
原告は,被告に対し,平成24年10月1日の本件弁論準備手続期日において,上記貸金債権又は不当利得返還請求権をもって,被告の第2事件の請求債権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。
(被告の主張)
原告の主張する原告口座からの預金の引き出しは,原告の経費の支払,被告の原告に対する貸付金や立替金の弁済に充てるために使用したものであって,原告から被告に対する貸付けではない。原告が引き出されたと主張する預金の相手勘定科目の元帳を見れば,引き出された預金が原告の経費ないし被告への立替金の弁済に使われていることは明らかである(乙131ないし133)。
なお,現金勘定元帳には,韓国出張旅費(乙131),ハワイ出張旅費(乙132)との記載があるが,原告は,被告に対する損害賠償としてこれらの費目を請求しながら,預金の引き出し行為を被告への貸付けと主張するのは,二重請求ともいうべきものであって,失当である。
第3  争点に対する判断
1  争点1(被告に不法行為責任又は債務不履行責任が認められるか及び認められる場合の損害額)について
(1)  原告における被告の権限について
ア 前記第2の2判示の事実及び証拠(甲10,乙1,2,25,109,被告本人)によれば,被告は,原告が設立された平成17年7月22日から平成19年12月末日までの間,原告の総支配人の地位にあり,営業及び財務管理の責任者としての権限を有し,その権限には,取引先の選定,契約の諾否等営業面の業務を決定し執行する権限並びに従業員を雇用しその給与を決定する権限が含まれていたと認めることができる。
イ 前記認定に関し,原告は,被告に付与された権限は「営業面,財務面での業務担当権限」のみであり,かつ,被告は業務を執行するに当たり取締役会の承認を得ることとされていたから,被告には,取締役会の承認なく営業面の業務を決定し執行する権限はなく,従業員の採用及びその雇用条件を決定し執行する権限もなかった旨主張し,本件設立概要書(乙1)には「Yを総支配人に任命し,営業面,財務面での業務担当権限を与え」という記載に続けて,「Yは都度取締役会に承認を計り,業務を進める。」旨の記載がある。
ウ よって検討するに,本件設立概要書によれば,被告は原告の総支配人に任命するとされているところ,支配人は,会社法上,会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有し,使用人の選解任権を有するとされている(同法11条1項,2項)。そして,本件設立概要書には使用人の選解任権を制限する定めは見当たらず,前記第2の2(1)判示の事実によれば,原告役員らは,仏具小売業を主たる業務とする会社をそれぞれ経営しているのであり,原告役員らのうちの誰かが原告の業務を直接執行することは想定されておらず,被告以外には原告の業務を直接執行する立場の者はいなかったことが推認される上,前記第2の2(3)判示のとおり,本件設立概要書には,原告の売上げ,支払に関する現金出納は被告が管理し,月1回取締役会に報告する旨の記載があり,また,取締役会の承認がなければできない事項として,「普通預金取引以外の銀行取引」及び「リース,ローン契約等を新規に締結する場合」が掲げられているのみであり,取締役会の承認がなければ,被告には営業面,財務面での業務担当の権限がないことを示す記載はない。さらに,被告から原告代表者に宛てられた「報告・新規稟議申請」(乙2)には,報告事項として,被告が原告の人事と業務規定・権限規定を定めた旨の記載があり,上記業務規定・権限規定(乙25)には,「総支配人は,各業務分担責任者(部長,店長,担当)から報告を受け,すべての業務を統括し営業,財務,労務の責任を負い,人事権並びに給与金額決定権限を持ちながら業務に当たる。」旨の記載があるのであり,これらの書面(乙2,25)は原告役員らに送付されたものと認められる(被告本人)が,原告役員らから上記内容について異議が述べられた形跡はないのであり,以上の事情に照らせば,本件設立概要書の前記イの記載をもって,被告の権限に従業員の採用及び雇用条件の決定の権限が含まれないものと解することは相当ではなく,被告の業務執行の内容を事後的に取締役会に報告してその承認を得ることを許容するものと解するのが相当であるから,この記載をもって,前記アの認定を左右するものではないというべきである。
(2)  不法行為1について
ア 被告によって第1支払が行われたことは当事者間に争いがないところ,証拠(甲1,乙109,被告本人)によれば,第1支払は,原告から,b社に対し,b社の代表者である被告が原告の設立準備のために行った原告の設立業務及びa社から原告への営業譲渡に関する業務の報酬として支払われたものであり,その支払に関する契約書は存在せず,その金額は,被告が作業をした日数が延べ46日であり,被告のb社における1か月の報酬が1万ドルであったことを根拠に被告が3万ドルを請求することにしたことから定められたことが認められる。
イ しかし,原告における被告の権限は,前記(1)判示のとおり,原告の営業面,財務面での業務を担当することであって,原告が設立されるまでに行われた原告の設立準備のための業務はこれに含まれていない。したがって,原告の設立準備のための業務について報酬額を決定し,これを支払うことも,被告の権限には含まれないというべきである。しかも,前記第2の2判示の事実によれば,原告とb社との間の本件顧問契約は,原告の設立と同時に締結されるものであるから,原告の設立前に被告が行った作業についての報酬は,本件顧問契約に基づく本件報酬にも該当しないというべきである。
ウ 被告は,第1支払について,原告代表者から口頭で了解を得て行ったものであって,後日,「報告・新規稟議申請」(甲10,乙2)を作成して,原告役員ら全員に送付したが,何の異議も述べられていないし,本件各決算報告書にも記載され,監査役の監査により適法とされている旨主張し,被告本人尋問の結果及び同人作成の陳述書(乙109)には,被告はUFJ銀行赤塚支店で資本金を払い込む際に同行してもらった原告代表者に口頭で報告して了解を得ている旨の供述ないし記載がある。
よって検討するに,被告が原告代表者の了解を得るに当たっては,b社が原告宛てに発行した平成17年7月9日付けの請求書(甲1)を示した形跡はうかがわれず,第1支払の金額は原告の事業規模に比較して小さくない額であり,その算定根拠も1か月1万ドルの3か月分という大雑把なものであることを考慮すれば,原告代表者が口頭のみの説明により第1支払を了解したとみることは不自然不合理であるといわざるを得ず,第1支払について原告代表者から口頭で了解を得たとの被告本人尋問の結果及び同人作成の陳述書の記載は,原告代表者作成の陳述書(甲52)の記載に照らし,採用することができないというべきである。他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
エ また,証拠(甲2の1,2,甲10,乙2ないし4,109,被告本人)によれば,被告は,平成17年8月2日付けの「報告・新規稟議申請」と題する書面(乙2)を原告役員らに送付したが,これには「(株)Xから私への給与は,(中略)実力主義の売上歩合制と致しました。支払につきましてはハワイのb社と私を総支配人として人的労務の派遣を依頼する契約の締結により,その報酬として直接b社へ支払して頂く様になりますので再ご確認・ご承認願います。(中略)その契約条項に7月迄の経費相当額(試算中)を一時金支払する様に含めたく合わせてご承認願います。」との記載があること,第1支払に係る送金は,その翌日である同月3日に行われたこと,被告は,同年11月11日付けの「報告・新規稟議申請」と題する書面(甲10)を原告役員らに送付したが,これには「株式会社Xから私への7月迄の報酬と経費相当額は,試算致しましてb社へ支払した上で会計処理上は繰延資産として創業費・開業費に計上して有ります。」との記載があること,これらの記載に関し,原告役員らから異議が述べられた事実はないこと,被告の平成17年度元帳(開業費)には,「顧問料として/b社」として337万9800円の支払が計上されており,被告の決算報告書(第1期)には,繰延資産償却として382万8975円が計上されていること,以上の事実が認められる。
オ 前記エ認定の事実によれば,被告は,原告役員らに対し,第1支払をする前に,「7月迄の経費相当額(試算中)」を支払うことの承認を求め,第1支払をした後に,「7月迄の報酬と経費相当額」を支払ったことを報告したものであるが,第1支払の金額は示さなかったこと,第1支払をすることは前記イ判示のとおり被告の権限外の行為であり,本件報酬にも該当しないものであることを考慮すれば,被告から原告役員らに対して第1支払についての十分な説明がされたとはいえず,原告役員らが異議を述べなかったことをもって,原告役員らが第1支払を承認したとみることはできないというべきである。さらに,原告の平成17年度元帳(開業費)(乙4)に第1支払が計上され,原告の決算報告書(乙3)に繰延資産償却として第1支払が計上されており,これについて原告の監査役の監査を経ているものであるとしても,そのことをもって,被告がした権限外の支払について,原告が承認したものとは認めることはできないというべきである。
カ したがって,第1支払は,被告が権限なく行ったものであり,原告がこれを承認したものとも認められないのであるから,違法な支払として,原告に対する不法行為を構成するというべきである。
(3)  不法行為2について
ア 被告によって第2支払が行われたことは当事者間に争いがないところ,証拠(甲53,54,被告本人)によれば,第2支払は,b社がハワイにおいて墓石を販売するためのチラシ代であって,墓石の供給は「g社」という会社を通じて原告ではない石材業者から行われること,原告の事業には墓石の販売は含まれていないことが認められ,これによれば,このチラシによる墓石の販売は原告の事業とは関係がないというべきである。
したがって,本件チラシの製作は原告の売上げの増加に寄与するものではなく,その代金の支払は業務上必要のないものであったと認められるから,第2支払は,被告の権限外の行為であり,原告に対する不法行為を構成すると認められる。
イ 被告は,第2支払が本件決算報告書に記載され,役員会において原告役員ら全員に報告して承認され,監査役の監査により適法とされている旨主張し,被告本人尋問の結果及び同人作成の陳述書(乙109)にはこれに沿う内容の供述ないし記載があるけれども,証人Bの証言及び同人作成の陳述書(甲49)の記載に照らし,採用することができず,他に被告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
(4)  不法行為3について
ア 被告によって第3支払が行われたことは当事者間に争いがないところ,第3支払は,被告が賃借している住居を借上げ社宅とし,その賃料をいったん原告が支払い,その半額を被告の給料から差し引くことにより,賃料の半額を被告に対して補助する住宅補助であると認められる(甲5,乙3,32,33,109,被告本人)。そして,前記(1)の判示に照らせば,その支給を決定する権限は被告の権限に含まれていたというべきである。
イ 原告は,被告に住宅補助の支給の決定権限はなく,就業規則その他の報酬・賃金規定も存在せず,取締役会の決議もないにもかかわらず,原告に無断で支給したものであって,不法行為を構成する旨主張する。
しかし,証拠(甲5,乙2,3,32,109)によれば,原告の営業部長兼戸塚不動坂店長であったEは,a社に在職していた当時から住宅補助を受けており,同人が引き続き住宅補助を受領することについては,平成17年8月2日付けの原告代表者に宛てた「報告・新規稟議申請」(乙2)にも記載され,被告はその承認を求めていたのであるから,住宅補助を支給する権限は被告の権限に含まれていたと解するのが相当であり,就業規則その他の報酬・賃金規定が存在せず,取締役会の決議がないとしても,前記アの認定判断を左右するものではないというべきである。
ウ したがって,第3支払は,原告に対する不法行為に当たるとは認められないというべきである。
(5)  不法行為4について
ア 被告が,第4支払として,別紙1記載のとおり,その妻であるDに対し合計1250万5096円を支払ったことは,平成20年1月22日の33万7096円を除いて,当事者間に争いがない。
イ 原告は,被告には従業員を雇用する権限はなく,かつ,Dの雇用は利益相反行為に該当するものであるにもかかわらず,原告の承認を得ていないから,雇用契約は架空のものないし契約の効果が原告に帰属しない無効な契約である旨主張する。
しかし,証拠(甲6,乙72,73,109,被告本人)によれば,Dは原告から雇用された事実が認められるところ,従業員を雇用する権限が被告の権限に含まれていたことは前記(1)判示のとおりであるから,原告とDとの雇用契約が架空のものであり,又は,その効果が原告に帰属しない無効な契約であるとは認められない。Dが雇用された事実が,被告が平成18年7月16日付けで作成した「株式会社Xの今後の営業方針シナリオについて」と題する文書(乙65)に記載されていないとしても,同文書の従業員に関する記載は国内の営業に関するものと認められる(被告本人)から,これをもって,前記認定を左右するものではないというべきである。
ウ また,原告は,Dが原告のために労務を提供した実態はなく,Dの経済的利益を図る目的でDを雇用することは,被告の人事権の裁量の範囲を逸脱した行為であると主張する。
エ よって検討するに,証拠(甲6,10,乙10ないし24,72,73,80ないし86,89ないし91,109,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 平成18年7月10日付けでDを名宛人とする被告名義の「特別採用通知」と題する書面(甲6)が作成されており,これによれば,「貴女を弊社特販部在国内大韓民国系仏教寺関係並びに海外事業所(ハワイ)担当営業課長として,平成18年7月11日付けをもって以下条件により採用する。なお,大韓民国釜山市から渡航して来る支度金として金500,000円也を平成18年7月14日までに支給する。毎月給与総額(基本給)金500,000円也とする。(以下略)」との記載があった。
(イ) 平成18年8月25日付けの「人事異動」と題する被告作成の文書(乙72)には,「特販部海外営業担当(韓国浄土宗担当)」として,同年9月5日付けの「営業時間の変更並びに人員削減に伴う定休再開と確認事項について」と題する被告作成の文書(乙73)には,「特販部海外事業専任担当課長(韓国浄土宗担当)」として,それぞれDが記載されている。
(ウ) Dは,平成18年8月17日から21日まで,同年9月7日から9日まで,同月27日から30日まで及び平成19年1月10日から14日まで韓国に出張して,原告のために営業活動を行い,平成18年8月から9月にかけて合計206万8000円の売上を上げた。
(エ) Dは,平成18年9月13日から20日まで,同年10月13日から同年11月13日まで,同月21日から同年12月4日まで,同月13日から同月31日まで,平成19年1月15日から同年2月3日まで,同月8日から同月20日まで及び同月25日から同年3月28日まで,いずれも被告とともにハワイに出張して,原告のために営業活動を行い,原告がb社に販売した仏具等をb社の顧客に納品する作業に立ち会うなどした。
(オ) 前記(ウ)及び(エ)以外には,Dについて,韓国又はハワイに対する出張旅費は計上されていない。
オ 前記エの認定に関し,原告は,韓国及びハワイにおけるDの行動は,b社又はf社のための活動であって,原告の営業活動ではない旨主張する。しかし,f社は,原告の会計顧問を務めていた公認会計士が,会計帳簿作成に際し,韓国向け輸出売上げを区分記帳するために用いた呼称であって,f社という関係韓国法人が存在することを意味するものではないこと(乙105,109,被告本人),ハワイの顧客はb社から仏具等を購入するものであるが,その売上の増加により,原告のb社に対する売上の増加につながり,ハワイの顧客に対する営業活動は原告の業務の遂行に必要ではないとはいえないこと,以上の事情を考慮すれば,原告の主張をもってしても,韓国及びハワイにおけるDの行動が原告のための営業活動であったとの前記認定を左右するものではないというべきである。
カ 前記エ,オの判示に照らせば,Dが原告のために労務を提供した事実が認められるのであって,第4支払の全部が必要性のないものであったとはいえないが,他方,Dは,原告の設立前は被告とともにハワイに居住していた(被告本人)のであり,原告の従業員としての採用に当たり,韓国から渡航してくるための支度金として50万円を支払う必要性はないこと,「特別採用通知」(甲10)によれば,Dの給与は月額50万円とされているのであるから,これを超える部分について支払う必要性はないこと,Dは,平成19年4月以降,原告から出張旅費の支給を受けて韓国又はハワイに出張した事実はなく,同月以降,Dが韓国又はハワイにおける売上に寄与したことを示す証拠もないから,同月以降,特販部海外事業専任担当課長としての活動を行っていなかったものと推認すべきであること,以上の事情を考慮すれは,第4支払のうち,平成18年7月14日に支払われた50万円,同年8月31日から平成19年3月31日までに支払われた1か月85万円のうちの35万円(8か月分)及び同年4月30日以降に支払われた各月の給与(平成20年1月22日に支払われたものを除く。)463万円,以上合計793万円については,被告の妻であるDに対し支払う必要のない給与を支払ったものと認められる。そして,これについては,業務上必要のない支払であり,被告の権限外の行為であるから,原告に対する不法行為を構成すると認めることができ,第4支払のうちその余の支払については,不法行為を構成するとは認められないというべきである。
キ なお,原告は,Dは被告と生計を同一にしており,被告によるDへの賃金等の支払の決定及び執行は実質的には自己取引であり,原告代表者の承認を得た上で執行しない限り,不法行為法上の客観的注意義務違反及び誠実義務に違反する行為となる旨主張するけれども,原告のための労務の提供の事実があり,これに対する給与として支払われるものについては,被告の権限内の行為であり,原告代表者の承認を得た上で執行しない限り不法行為法上の客観的注意義務違反又は誠実義務違反となるものと解することはできない。
また,被告は,Dに対する給与等の支払は,本件各決算報告書に記載され,役員会において原告役員ら全員に報告して承認され,監査役の監査により適法とされている旨主張するけれども,前記カ判示の事情をも含めて報告がされ,原告役員らの承認を得た事実を認めるに足りる証拠はないから,前記カの認定判断を左右するものではないというべきである。
(6)  不法行為5について
ア 第5支払について
(ア) 別紙2の番号1の北海道出張(支払日平成17年8月28日,支払金額34万6026円)について,被告は,幹部社員であるEに対し,今後の経営方針を説明,説得するために,慰労をかねて北海道に出張したことによる旅費交通費である旨主張し,E作成の陳述書(乙103)にはこれに沿う内容の記載がある。しかし,E作成の別の陳述書(甲46,47)には,平成17年8月に北海道旅行に行ったことはなく,それはEの過去の手帳の記載からも裏付けられる旨の記載があり,これに照らせば,前記陳述書(乙103)の記載は採用することができない。そうすると,この北海道出張については,原告の業務上の必要性はなかったものと推認するのが相当であり,この推認を左右するに足りる証拠はない。
(イ) 別紙2の番号2ないし4,95,89及び90の北海道出張(支払日平成18年2月10日,支払金額合計55万3183円)並びに番号79及び80の「箱根他研修出張」(支払日平成18年8月11日,支払金額合計25万1699円)について,被告はその内容に関する具体的な主張立証をしないところ,これらの出張の時期及び出張先に照らせば,これらの出張(支払金額の合計は80万4882円)については,原告の業務上の必要性はなかったものと推認するのが相当であり,この推認を左右するに足りる証拠はない。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)以外の別紙2の支払については,Dの韓国出張は,原告のための営業活動であったと認められることは前記(5)判示のとおりであり,被告の韓国出張についても同様と認められる(乙109,被告本人)から,別紙2記載の韓国に対する出張については,原告の業務上の必要性がなかったとは認められないこと,北海道への出張についても,取引先の接待ないし市場の研究として業務上の必要がなかったものとは認められないことに照らせば,これらの支払が原告に対する不法行為を構成するものとは認められないというべきである。
(エ) したがって,第5支払のうち前記(ア)及び(イ)の金額の合計である115万0908円の支払は,業務上必要のない支払であり,被告の権限外の行為であるから,原告に対する不法行為を構成するというべきである。
イ 第6支払について
(ア) 別紙3-1の支払のうち,番号96の旅費交通費(支払日平成18年9月20日,支払金額27万9460円)については,弁論の全趣旨によれば,平成18年9月1日から同月20日までハワイ出張する予定で購入した航空券代であり,これは別紙3-1の番号94の手数料を支払ってキャンセルされたことが認められ,これによれば,前記支払金額の27万9460円は原告に返還すべきものというべきである。
(イ) 別紙3-1の支払のうちの被告に対する出張日当について検討する。
被告が原告代表者に提出した「報告・新規稟議申請」(乙2)によれば,「新規稟議申請」の項目中に「8月から今後,私がb社維持管理と必要な処置対応の為ハワイ迄渡航する経費について,会社で負担していただく申請を8月2日のオーナー会議で行いました」との記載があり,これによれば,被告はb社の業務のためにハワイに渡航することが認められ,その経費を原告が負担するとされているけれども,これによるハワイ渡航は,原告の業務の遂行上必要な出張とは異なるから,「業務規定・権限規定」(乙25)に定める出張の日当及び宿泊費の規定は適用されないものと解すべきである。
ところで,弁論の全趣旨によれば,被告は,原告の総支配人となった後,平成17年8月9日から14日まで(6日間),同年9月18日から25日まで(8日間),同年10月10日から15日まで(6日間),同月24日から27日まで(4日間),同年12月15日から20日まで(6日間),平成18年1月31日から同年2月4日まで(5日間),同月13日から20日まで(8日間),同月28日から同年3月29日まで(30日間),同年4月10日から19日まで(10日間),同月21日から29日まで(9日間),同年5月12日から同年6月3日まで(23日間),同月6日から29日まで(24日間),同年7月25日から28日まで(4日間),同年8月1日から8日まで(8日間),同年9月13日から20日まで(8日間),同年10月13日から同年11月13日まで(32日間),同月21日から同年12月4日まで(14日間),同月13日から31日まで(19日間),平成19年1月15日から同年2月3日まで(20日間),同月8日から20日まで(13日間),同月25日から同年3月28日まで(32日間)及び同年7月25日から同年8月11日まで(18日間),合計22回,307日間にわたりハワイに渡航したことが認められる。
そして,平成18年2月27日付けの原告役員らに対する被告作成の文書(乙58)には,「平成17年8月からこの1月迄はハワイへの出張も最低限に抑えて,契約高を確保する為,社員との同行営業など行い,契約高を確保して参りましたが,2月も更に3月以降はハワイ事業も,友人達から出資に答える要求が出て,今後相当期間ハワイに滞在する必要が出て参ります。」「平成17年5月から実質的にハワイ事業は新規営業活動が出来ていませんので再度明日28日から3月下旬頃迄ハワイで営業活動して参ります」との記載,平成18年7月1日付けの原告役員らに対する被告作成の文書(乙62)には,「私がハワイ関連で3月から6月迄実質的に常勤出来なかった要因も相当大きいと存じますが(中略)ハワイ事業も他人の資本家によって設立立ち上がっている経緯が御座いますので,現状では私も精一杯の情況です」との記載があり,これらの記載に照らせば,被告は,b社の事業活動のために相当長期間ハワイに滞在する必要があったものであり,前記のハワイへの渡航は主にそのためのものであったと推認するのが相当である。
そうすると,被告のハワイ出張に関する日当については,「業務規定・権限規定」(乙25)の規定が適用されるものではなく,原告が負担する必要性のないものというべきである。したがって,別紙3-1の支払のうち,番号4のうちの8万4000円,番号13(7万2000円),番号26(6万円),番号47(9万6000円),番号64(12万円),番号68(9万6000円),番号71(26万4000円),番号77(27万6000円),番号85(3万6000円),番号92(8万4000円),番号99(10万8000円),番号107のうちの31万円(1日当たり1万円),番号116のうちの14万円(1日当たり1万円),番号122のうちの19万円(1日当たり1万円),番号132(13万円)及び番号140(32万円),以上合計238万6000円の支払は,業務上必要のない支払であり,被告の権限外の行為であるから,原告に対する不法行為を構成するというべきである。
被告は,出張日当の支払は,本件各決算報告書に記載され,役員会において原告役員ら全員に報告して承認され,監査役の監査により適法とされている旨主張するけれども,前記の各日当の支払が役員会において承認された事実を認めるに足りる証拠はないし,本件各決算報告書に記載され,監査役の監査を経たものであるとしても,業務上必要のない支払として原告に対する不法行為を構成するとの前記認定判断を左右するものではないというべきである。
(ウ) 原告は,1か月1往復10万円を超える支払は原告の業務のための支出ではない旨主張するけれども,前記(イ)認定のとおり,原告は,原告の経費負担により被告がb社の業務を遂行するためにハワイに渡航することを認めており,かつ,原告が負担する経費の上限を定めていたものではないから,1か月1往復10万円を超える支払が直ちに違法な支払となるものとは認められないというべきである。
(エ) また,原告は,ハワイ旅費に含まれる食事代について,原告の業務と関連性のない違法な支出である旨主張するけれども,個々の食事代の支払が原告の業務と関連性のないものであったと認めるに足りる証拠はない。さらに,繁忙期において航空運賃についてエコノミークラスではなくビジネスクラスの運賃が支出されていること,成田空港との間の交通についてタクシー代が計上されていることについても,業務上必要のない支払であったとまで認めるに足りる証拠はない。
(オ) なお,D,E及びHに関する出張日当を含む旅費の支払については,被告本人尋問の結果及び同人作成の陳述書(乙109)の記載に照らし,業務上必要のない支払であったとまでは認められない。
(カ) Fに対する出張旅費の支給について
証拠(甲16,乙72,73,98の1,2,乙109ないし117)によれば,Fは,もとb社に雇用されていたこと,その後日本に帰国し,横浜市の株式会社hに勤務していたこと,被告は,平成18年1月19日,Fを「特販部1部海外営業担当(兼)新規営業担当」として原告の従業員として採用したが,その際,「ハワイ事業所出張主旨業務命令」と題する書面(甲16)を交付し,ハワイ事業所営業支援のため出張を命じ,その内容として,b社支配人代行として同社業務全般を遂行するように命じ,「公には打合せ通り今後は(株)X海外営業担当者として行動し」としながらも,b社としてハワイの市場で販促活動等を行うこと,同社の仕掛り業務を完結させる活動をすること等,b社の業務を行うよう命じたこと,その後,平成18年8月25日付けで,原告の国内業務の担当を命じ,Fは,原告の国内業務に従事したことが認められる。
前記認定事実によれば,Fは,平成18年8月24日までは,原告ではなくb社の業務に従事していたものというべきであり,この間のハワイ出張については,その旅費を原告が負担する理由はないというべきである。
したがって,別紙3-1の番号37(支払日平成18年2月14日,支払金額11万1820円)及び番号59(支払日平成18年4月10日,支払金額9万7800円)については,業務上必要のない支払であったと認められる(合計20万9620円)。
(キ) 以上判示したところによれば,第6支払のうち,前記(ア)の27万9460円,前記(イ)の238万6000円及び前記(カ)の20万9620円,以上合計287万5080円は,業務上必要のない支払であり,被告の権限外の行為であるから,原告に対する不法行為を構成するというべきである。
(7)  不法行為6について
ア 第7支払について,原告は,被告には従業員を雇用する権限がなく,原告の承認も得ていないことから,Cと原告との間で雇用契約を締結していたとしても,当該契約は架空のものないし無効な契約である旨,また,仮に被告に雇用権限があったとしても,原告のために労務を提供しない者を雇用することは,人事権の裁量の範囲を逸脱した行為である旨主張し,証人Bの証言並びにJ,I及びB作成の陳述書(甲48,49,51)には,Cが原告のために労務を提供した事実はない旨の供述ないし記載がある。
しかし,証拠(乙72,73,109,被告本人)によれば,Cは非常勤の外部参与に就任し,お寺,葬儀屋,霊園,その他外商営業を専任で回るとされていたことが認められるのであり,Cが作成したお買上げ明細書(乙93ないし97)が存在すること(乙109,被告本人)に照らし,Cが原告のために労務を提供した事実はない旨の証人Bの証言及び前記各陳述書の記載は採用することができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そして,被告の権限に従業員を雇用する権限が含まれていたことは前記(1)判示のとおりであるから,Cと原告との間の雇用契約が架空のものないし無効な契約であるとは認められず,また,労務を提供しない者を雇用したものとも認められないから,Cを雇用したことについて,被告の権限の範囲の逸脱ないし権限の濫用があったものとは認められないというべきである。
イ 本件車両に関する支払について,本件車両が原告の業務に供されず,Cが私的に使用していたことを認めるに足りる証拠はない。
しかし,別紙4の支出のうち,平成18年7月31日に支払われた「車両修繕代(オペル)/カタヤマオート」(金額68万4000円)については,修理代金は6万8400円であったと認められる(甲67)から,これを超える61万5600円の支払は業務上必要のない支払であり,被告の権限外の行為であるから,原告に対する不法行為を構成すると認められる。
ウ 別紙4の支出のうち,前記イ以外の項目については,いずれも,業務上必要のない支払であったと認めるに足りる証拠はない。
(8)  不法行為7について
第8支払について,原告は,原告の業務に関連しないものであると主張するけれども,被告本人尋問の結果に照らせば,第8支払が業務上必要のない支払であったとは認められないというべきである。原告の主張は採用することができない。
(9)  不法行為8について
ア Fの賃金について
Fについては,前記(6)イ(カ)判示のとおり,平成18年1月19日に原告の従業員として採用されたものの,同年8月25日付けで国内業務の担当を命じられるまでは,原告ではなくb社の業務に従事していたものと認められるのであり,この間の賃金の支払は,雇用の実態のない者に対するものとして,業務上必要のない支払であり,被告の権限外の行為であるから,原告に対する不法行為を構成するというべきである。他方,国内業務担当を命じられた後については,Fが原告の業務に従事していなかったと認めるに足りる証拠はない。
そうすると,Fに対する第9支払のうち,平成18年に支払われた賃金の額である281万3000円(甲17)を①同年1月19日から8月24日まで(218日)と②同月25日から12月31日まで(129日)で按分すると,①については176万7245円となるから,Fの賃金に関しては,同額の支払が原告に対する不法行為を構成すると認められ,その余の賃金の支払については,不法行為を構成するとは認められないというべきである。
イ G,E及びHの賃金について
原告は,Gが平成17年10月10日から同月17日までの間,E及びHが同年12月26日から平成18年1月1日までの間,それぞれ原告の業務ではなくb社の業務に従事したとして,上記期間に対応するG,E及びHの賃金の支払は,原告に対する不法行為に当たる旨主張し,被告からG及びEに宛てた海外出張辞令(甲19,20)には,原告がb社に対して納品した仏壇,仏具等の搬入,展示作業及びに今後の営業展開のため,ホノルル市在日本在来仏教寺院に挨拶周り営業の為出張を命ずる旨の記載がある。
しかし,証拠(乙88,101,109ないし117,被告本人)によれば,b社は,原告に対し,原告がb社に対して納品した仏具等をハワイの寺院に設置する費用を支払っていることが認められ,これに加えて,ハワイの寺院がb社から仏具等を購入することにより,原告のb社に対する売上の増加につながることを考慮すれば,上記期間のG,E及びHの賃金を原告が負担したことは,業務上必要のない支出であったとまでは認められず,Gに対する第10支払,Eに対する第11支払及びHに対する第12支払が原告に対する不法行為を構成するとは認められないというべきである。
(10)  不法行為9について
ア 原告は,別紙6の運送費用について,本来原告が負担する必要がない運送費用を支払って,原告に損害を与えた旨主張する。
しかし,動産の売買において納品場所までの運送費用を売主と買主のいずれが負担するかは,当事者間の契約において定められるべき事項であり,原告の主張する運送費用について,買主であるb社が負担するとの合意があったものと認めるに足りる証拠はない。
イ 原告は,b社が負担すべき運送費用を原告が負担することは被告が代表者を務めるb社を有利に取り扱う利益相反行為に当たる旨,また,原告がb社に販売した商品の仕入価格と卸売価格を比較すると,原告が海外への運送費用を負担すれば,原告が赤字を被る旨主張する。しかし,証拠(乙101の1ないし13,乙109,被告本人)によれば,運送費用は原告の販売価格に上乗せされているものと認められるから,原告が運送費用を負担することが利益相反行為に当たるとはいえないし,原告が海外への運送費用を負担することによって原告が赤字を被るものとも認められない。原告の主張は採用の限りではない。
(11)  労働契約上の誠実義務違反の主張について
原告は,被告は,労働者としての雇用契約上の誠実義務の一内容である権限を逸脱濫用する行為を行ってはならない義務,業務上必要性が認められないことのために使用者の資産を使用してはならない義務を負うのに,不法行為1ないし9に係る被告の行為はこの義務に違反するものであり,債務不履行に基づく損害賠償責任を負う旨主張する。
しかし,被告の行為について,前記(1)ないし(10)判示のとおり原告に対する不法行為を構成すると認められるもの以外のものについては,その権限を逸脱濫用する行為ないし業務上必要のない支出とまで認められないことは,前記(4)ないし(10)判示のとおりである。
原告の主張は採用することができない。
(12)  小括
以上判示したところによれば,被告は,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,第1支払の337万9800円,第2支払の26万5860円,第4支払のうち793万円,第5支払のうち115万0908円,第6支払のうち287万5080円,第7支払のうち61万5600円及び第9支払のうち176万7245円,以上合計1798万4493円の支払義務を負うものというべきである。
2  争点2(被告の原告に対する未払報酬請求権を自働債権とする相殺の可否)について
前記第2の2判示の事実によれば,b社は原告に対して毎月原告の売上総額の10パーセントについて本件報酬として支払を受ける権利を有するとされているが,その後,被告が原告から月額55万円の給与の支払を受けることになったこと(甲10)により,この合意は変更されたものとみる余地がある上,そもそも,本件報酬に係る請求権の主体はb社であって被告ではないから,被告がこの報酬請求権を自働債権として原告の本訴請求債権と相殺することは許されないというべきである。
したがって,被告の原告に対する未払報酬請求権を自働債権とする相殺の主張は,理由がない。
3  争点3(被告は,原告に対し,本件貸金に係る債権を有するか。)について
(1)  前記第2の3(3)(被告の主張)ア(ア)ないし(コ)の貸付けのうち(ア)の500万円,(オ)のうち50万円,(キ)の216万5856円及び(ケ)のうち180万円について主張されている日に原告口座に入金があったことは当事者間に争いがなく,この事実と証拠(乙31,109,118ないし126,136,被告本人)を総合すれば平成19年7月4日,500万円が被告の預金口座から原告口座に振り込んで送金され,原告の長期借入金元帳(乙31)には,同日付けで被告からの長期借入金として計上されたこと,Dの口座から,同月9日100万円,同月17日150万円及び200万円,同月24日50万0420円,同月30日216万5856円,同年8月21日50万円及び同月30日180万0315円が引き出され,又は原告への送金がされ,かつ,これらはいずれも原告の長期借入金元帳に被告からの長期借入金として計上されたこと,同年7月24日,原告がb社から借り入れた金員4万ドル及び支払利息等を被告が立て替えて支払い,支払手数料等を含めた支払の合計額である493万3724円が原告の長期借入金元帳において同日付けで被告の長期借入金として計上されたこと,同年11月30日,被告が立て替えていた経費の精算により,41万8341円を被告の原告に対する貸付けとして,原告の長期借入金元帳に計上したこと,以上の事実が認められ,これによれば,被告から原告に対し合計1981万8656円の貸付けが行われたものと認めることができる。
(2)  前記認定に関し,原告は,前記金員の一部はDの口座からの入金であるから被告からの借入金ではない旨,消費貸借契約の成立に必要な返還合意がされた事実はない旨,また,前記金員の一部は被告からの借入金ではなく,被告が原告口座から引き出した使途不明金の返還である旨主張する。
しかし,原告の長期借入金元帳(乙31)の記載並びに被告本人尋問の結果及び同人作成の陳述書(乙109,136)の記載に照らせば,前記金員の一部がDの口座からの入金であること,原被告間の返還合意の存在を裏付ける消費貸借契約書が存在しないことをもって,前記(1)の認定を左右するものではないというべきである。また,被告が原告口座から引き出した使途不明金があることを認めるに足りる証拠もないのであるから,原告の前記各主張をもって,前記(1)の認定を左右するものではないというべきである。他に前記(1)の認定を左右するに足りる証拠はない
(3)  そして,前記(1)の貸付けのうち合計444万6525円について,被告が原告から返済を受けたことは被告が認めているのであるから,本件貸金の額は,その差額である1537万2131円であると認められる。
4  争点4(原告の被告に対する貸金債権又は不当利得返還請求権を自働債権とする相殺の可否)について
原告は,別紙一覧表の被告による原告口座からの預金の引き出しは,原告の被告に対する貸付けであるか,被告が法律上の原因なく利得したもののいずれかである旨主張する。
しかし,証拠(乙58,131ないし133)によれば,別紙一覧表記載の金員の引き出しについては,いずれも,相手勘定を明確にして帳簿上の処理が行われていると認められるから,これをもって,原告の被告に対する貸付けであるとも,被告が法律上の原因なく利得したものであるとも認めることはできないというべきであり,他に原告の主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。
原告の主張は採用することができない。
第4  結論
以上によれば,第1事件についての原告の請求は,1798万4493円及びこれに対する平成20年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,第2事件についての被告の請求は,理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 後藤博 裁判官 田口紀子 裁判官 佐々木耕)

 

〈以下省略〉

 

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