【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業支援」に関する裁判例(156)平成11年 7月13日 東京地裁 平9(ワ)3993号 配転無効確認等請求事件 〔ソフィアシステムズ事件・第一審〕

「営業支援」に関する裁判例(156)平成11年 7月13日 東京地裁 平9(ワ)3993号 配転無効確認等請求事件 〔ソフィアシステムズ事件・第一審〕

裁判年月日  平成11年 7月13日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平9(ワ)3993号
事件名  配転無効確認等請求事件 〔ソフィアシステムズ事件・第一審〕
裁判結果  棄却  上訴等  控訴  文献番号  1999WLJPCA07136005

要旨
◆一 自らの勤務地、所属の確認を求める訴えは、単なる事実の確認を求めているのではなく、労働契約上の地位確認を求めていると解されるので、不適法として却下することはできないとされた事例。
二 原告が異議なく現在の就労場所で就労しているというだけで、原告が自らの勤務地、所属の確認を求める訴えが確認の利益を欠いているとはいえないとされた事例。
◆一 就業規則上に一般的な配転根拠規定が存すること、被告会社では配転は常に行われており、原告労働者も何度もそれを経験していること、広域配転の場合は対象労働者から個別の同意を得るという労働慣行が成立していたとはいえないことからすれば、被告会社は業務上の必要性に応じて労働者の個別の同意なしに配転を行う権限を有しているといえるとされた事例。
二 原告労働者に対する、名古屋営業所の技術職から川崎事業所の営業担当社員への配転命令につき、名古屋で余剰人員となった原告の雇用を維持することを目的とするもので、労働力の適正配置という観点から業務上の必要性があり、退職の強要を真の目的とするものでもなく、また単身赴任による家庭生活上の不利益は通常甘受すべき程度を著しく超えるとはいえず権利濫用にも該当しないとして、右命令を有効であると判断した事例。〔*〕

出典
労判 773号22頁
労経速 1739号3頁

評釈
石嵜信憲・労経速 1739号2頁

裁判年月日  平成11年 7月13日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平9(ワ)3993号
事件名  配転無効確認等請求事件 〔ソフィアシステムズ事件・第一審〕
裁判結果  棄却  上訴等  控訴  文献番号  1999WLJPCA07136005

原告 矢船良洋
右訴訟代理人弁護士 小野毅
同 小賀坂徹
同 堀沢茂
同 陶山圭之輔
同 佐伯剛
同 宮代洋一
同 星野秀紀
同 鈴木健
被告 株式会社ソフィアシステムズ
右代表者代表取締役 斉藤正志
右訴訟代理人弁護士 八代徹也

 

 

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。
二  訴訟費用は原告の負担とする。

 

 

事実及び理由

第一  請求
一  原告の勤務地、所属が名古屋市中区〈以下略〉所在の被告名古屋営業所であることを確認する。
二  被告は、原告に対し、金一八七万二〇二〇円及びこれに対する平成八年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二  事案の概要
一  本件は、被告に雇用されている原告は、平成八年三月一日付けで被告名古屋営業所から川崎市所在の被告マイコンシティ事業部(ママ)への転勤を命ずる配転命令を受けたが、この配転命令が広域移(ママ)動に際し異動者から事前の同意を得るという慣行を無視するものであること、そもそも原告について名古屋から川崎という広域配転を行う必要性がなかったこと、仮に広域配転の必要性があったとしても、この配転命令が原告に退職を強要する目的により行われたものであること、この配転命令により発生する損害が原告の通常甘受すべき程度の損害を超えていることを理由に、この配転命令が無効であるとして、被告に対し、原告の勤務地、所属が被告名古屋営業所であることの確認を求めるとともに、原告が平成八年四月一日から同年一〇月一五日までマイコンシティ事業部(ママ)に赴任していないことを理由に休職扱いとされたことは無効であるとして、右の期間の賃金の合計として金一八七万二〇二〇円及びこれに対する支払日の後であることが明らかな平成八年一一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
二  前提となる事実
1  被告は、電子機器の開発、製造、販売、修理、保守及びコンサルティングなどを目的として昭和五〇年八月一一日に設立された株式会社であり、平成八年一〇月現在の従業員数は約一八〇名である。被告の本社は東京都新宿区に置かれ、マイコンシティ事業所が川崎に、営業所が名古屋、大阪、九州に、それぞれ置かれていたが、被告は平成一〇年六月二六日本社を肩書住所地に移転した(本社を移転したこと及びその日にちは証人樫平扶(以下「樫平」という。)、弁論の全趣旨。その余は争いがない。)。
2  原告は昭和六一年四月被告に技術職として入社した(争いがない。)。入社後の原告の配属先は、次のとおりである(〈証拠・人証略〉)。
(一) 昭和六一年四月
生産本部製造部検査二係(一般職)
(二) 同年一〇月七日
生産本部製造部製造課
(三) 昭和六二年一一月一日
生産本部製造部品質保証課
(四) 昭和六三年一一月七日
国内事業本部製造部サービス課(名古屋営業所転勤)
(五) 平成二年四月一日
営業事業部東京営業所(東京営業所転勤)
(六) 平成三年四月一日
営業事業部マーケティング課(マイコンシティ事業所転勤)
(七) 同年九月一日
営業事業部名古屋営業所
(八) 平成六年六月一六日
一般職から主任補になる。
原告は被告に入社すると同時に八王子にある事業所において営業、カスタマエンジニア、販売店又はレンタル会社から送られてくる被告の製品の故障品の修理や動作チェックを行う部署に配属され、昭和六二年一〇月末日まで同部署で修理を担当していたが、同年一一月一日からは被告の製品を使っている顧客のもとに出向いて被告の製品の故障の修理やトラブルの処理を担当しており、昭和六三年一一月七日には名古屋営業所に転勤し、平成二年四月一日東京営業所に転勤し、平成三年四月一日には川崎にあるマイコンシティ事業所に転勤し、同年九月一日には再び名古屋営業所に転勤し、平成八年二月末日まで名古屋営業所に配属されていたが、この間原告は右の各営業所や事業所において被告の製品を使っている顧客のもとに出向いて被告の製品の故障の修理やトラブルの処理を担当していた(〈証拠略〉、証人長瀬裕(以下「長瀬」という。))。
3  被告は平成八年二月二八日名古屋営業所において原告に対し同年三月一日付け辞令を交付して、右同日付けで原告にマイコンシティ事業所管理部生産統括ボードサービスグループでの勤務を命じた。右の辞令には「主任補矢船良洋殿 上の者、主任補職3級として管理部生産統括ボードサービスG勤務を命ずる。」と書かれていた(原告に交付された右の辞令に基づいて平成八年三月一日付けで原告に発令された配転命令を以下「本件配転命令」という。)(原告に交付された辞令の内容については〈証拠略〉。その余は争いがない。)。
4  原告は本件配転命令を不服として直ちにその撤回を求め、マイコンシティ事業所には赴任しなかったが、同年一〇月一六日本件配転命令に異議をとどめつつ川崎にあるマイコンシティ事業所に赴任した。被告は原告が同年四月一日から同年一〇月一五日までの間マイコンシティ事業所に赴任しなかったことを理由に右の間の賃金を支払っていない(争いがない。)。
5  被告の就業規則(以下「本件就業規則」という。)には、次のような定めがある(〈証拠略〉)。
(一) 第九条(転勤・出向等)
(1) 業務上の都合により、転勤・出向・派遣等を命ずることがある。
(2) 前項により転勤・出向・派遣等を命じられたときは、発令の日から七日(暦日)以内に赴任しなければならない。ただし、業務の都合により、特に赴任期日を指定された場合または会社の許可を受けたときはこの限りではない。
(二) 第一〇条(職種変更・配置転換)業務の都合により、職種変更または配置転換を命ずることがある。
(三) 第五四条(賃金および退職金)
社員の賃金および退職金は、別に定める賃金規程および退職金規程の定めによる。
6  被告の賃金規程(以下「本件賃金規程」という。)には、次のような定めがある(〈証拠略〉)。
第二七条(住宅手当)
(一) 社員が、次の各号の一に該当する場合には、住宅手当を支給する。ただし、会社住宅施設の居住者は除外する。
(1) 扶養家族を有する世帯主 月額二四〇〇〇円
(2) 上記以外の世帯主 月額二二〇〇〇円
(3) 持ち家で扶養家族を有する世帯主 月額一四〇〇〇円
(4) その他 月額 二〇〇〇円
(二) 前項の住宅手当は、その賃金計算期間の20日現在で該当する者に支給する。ただし、その賃金計算期間の全部を欠勤した場合は、これを支給しない。
7  被告は、平成八年七月二四日、配転命令に基づいて赴任する社員が家族と別居して単身赴任する場合に、その社員に対し手当を支給する制度を新設したが、その内容は次のとおりである(争いがない。)。
次の条件に該当する従業員に対し、支給限度を三年間とし、一律毎月二万五千円を支給する。また、月一日(一回)の帰省補助(国内出張旅費規定に基づく家族の住居地までの交通費の実費支給。本人のみ適用)を行う。
子女が高校以下の学校に在学中で直ちに転居できない場合または、同居の扶養親族(税法上の扶養家族をさす)の病気看護など会社が認めるやむを得ない事由により、家族を帯同できず、単身で赴任する場合において、従業員は本手当の申請に際し、子女の在学証明書、同居親族の疾病に関する診断書等、単身赴任となる旨を証明する書類を提出することにより手当が支給される。ただし、共稼ぎ等、同居親族の収入維持を理由とする単身赴任については、本手当は支給しない。
8  原告は名古屋営業所で勤務中であった平成五年二月に武藤恵利子(以下「恵利子」という。)と結婚した(〈証拠・人証略〉)。
9  被告の社員の賃金は前月二一日から当月二〇日までの勤務について当月中に支払う(〈証拠略〉)。
三  争点
1  本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は不適法として却下すべきであるか。
(一) 被告の主張
(1) 一般にある事実を確認しなければ紛争を解決することができないという特段の事情のない限り、事実の確認を請求することは認められないのであり、本件ではそのような事情はない。
(2) 原告が確認を求めるのは「勤務地、所属が名古屋営業所であること」であるが、このような確認判決が確定すれば、既判力により原告の勤務地、所属は定年まで名古屋営業所としなければならないことになるが、そうすると、被告の配転命令権は原告に限っては行使することができないということになってしまい、そのようなことが許されるものではない。
(3) 原告は平成九年四月二三日付けでデザインオートメーション事業部EDA技術グループに異動したが、原告はこの四月の異動について何ら異議を述べておらず、業務命令に従って就労している。このように現在の就労場所に争いがない以上、過去の一時点における配転命令の効力について確認を求める利益はない。
(二) 原告の主張
(1) 勤務地がどこかというのは重要な労働条件の一つであり、債務履行地の確認であって、単なる事実の確認ではない。
(2) 既判力は口頭弁論終結後の事実や事情の変化については及ばないと解されており、既判力により原告の勤務地、所属が定年まで名古屋営業所となるわけではない。
(3) 原告が、その勤務地、所属が名古屋営業所であることの確認を求めているのはそれ以外の勤務地、所属を認めるものではないという趣旨であって、原告が平成九年四月二三日付けでデザインオートメーション事業部EDA技術グループに異動したからといって、確認の利益がなくなるわけではない。
2  本件配転命令の発令に当たって原告の事前の同意は必要か。
(一) 被告の主張
(1) 被告は、原告のような正社員を採用するに当たって、全国の事業所に配転される可能性があることを説明しており、また、配転について定めた本件就業規則九条及び一〇条は個別的な労働条件となっている。原告は過去においても勤務地を異にする転勤及び配置転換などに異議なく従っており、被告に配転命令権があることは明らかである。
(2) これに対し、原告は広域配転なる概念を創設し、広域配転においては配転に当たって配転される従業員に対し配転を打診し、内示し、その同意を得るという制度があるかのように主張し、また、事前に同意を得るという労働慣行が成立しているかのように主張するが、そのような制度も、労働慣行も存在しない。広域配転の命令が出ると、退職者が続出したなどという事実はないし、それを前提として被告が配転において社員の個別に同意を求めるようになったという事実もないから、事前に同意を得るという労働慣行が成立しているということもあり得ない。配転命令を発するに当たり事前に社員からその意向を聞いたとしても、それは本人の希望を聞いたにすぎず、配転命令の効力には関係がない。そもそも配転命令は人事権の根幹であり、人事権の行使には公正さが求められるところ、個々の従業員の家庭の事情を重視した上で配転命令を発するとなると、千差万別である個々の従業員の家庭の事情という私的かつ個人的な事柄に配転命令の効力が左右されることとなって、人事の公正など及ぶべくもなくなる。本来配転は業務上の必要に応じてされるものであり、従業員本人からの要望があったからといって配転を行うことはないし、そのような要望をいちいち聞いていたら会社組織における経営の根幹である人事権は絵に描いた餅となり、会社組織が成立し得ないことは明らかである。
原告は本件配転命令が原告に単身赴任を命じたものであるかのように主張するが、本件配転命令は原告に対し勤務場所及び業務を指示するのみで、原告がその家族を帯同するか否かについて命令するものではない。家庭のあり方や判断は一義的に決定されるものではない。原告の主張するように家族がいる者については同意がない限り単身赴任は許されないとすると、同意が得られない限り、家族がいる者についてはその者が単身赴任となるような配転命令はおよそ一切発せられなくなることになり、広域配転は専ら独身者がその対象になるということになるが、それが人事の公正という観点から容認できないことはいうまでもない。
(3) 被告が原告に対し川崎への転勤か名古屋での職種変更かのいずれかを選択するよう打診した事実はなく、原告の意向を聴取したこともない。田中晃生(以下「田中」という。)名古屋営業所所長代理が同年二月二一日に本件配転命令の予定を告げたが、これはいわゆる内示ではなく事実上の行為にすぎない。原告は同年四月一日に赴任すればよいとされていたのであり、本件就業規則九条二項では発令日から七日以内に赴任すれば足りるとされていた。転勤に伴い住居を探す間の寮施設は完備しており、その用意があることは伝えており、原告は東京都立川市内にマンションを所有しているから、名古屋から川崎への転勤について社宅や住居が問題となるはずがない。
(二) 原告の主張
(1) 原告は、被告に採用されるに当たって、全国の事業所に配転される可能性があることを説明されたことはない。被告においては、業務の都合によりその社員に対して、例えば、名古屋、大阪、九州の各営業所と本社又はマイコンシティ事業所などの首都圏との間の転勤のように当該社員が住居を移転する必要のある広域配転を行う場合には、事前に当該社員の個別的な同意を得た上で、転勤の発令をするという労働慣行が遅くとも昭和六三年ころまでには成立していた。もともと被告は広域配転に伴う不利益の軽減措置を執ることなく、広域配転命令を発し、そのため配転命令を受けた社員が次々と退職するという事態を迎えたことがあり、そのため欠員が生じた営業所で社員を現地採用することが続いたが、このような苦い経験を踏まえて被告は広域配転をする場合には打診、内示、同意を求めるようになり、社員も広域配転については拒否できるのが当然であると考えるに至り、被告では従来から管理職を含めて「(遠隔地への)転勤が嫌なら、断れるんだ。」ということが言われ続けていたのである。現に本件配転命令が発令されるまでに原告は三回にわたり広域転勤をしたが、いずれの場合も右に述べた労使慣行に基づいて事前に行われる転勤の内示の際に原告の同意が求められ、この同意に基づいて転勤が行われていたのであり、田中名古屋営業所所長代理が平成八年二月一九日に原告に対し転勤か営業職への変更かという選択の形で内示が行われた。また、被告には転勤に伴う社員本人の不利益を補う制度が極めて不十分であること、原告は遅くとも同年三月六日までには赴任しなければならず、事前に転居の準備をしておかないと、到底転勤できないような制度となっていることなどからも、裏付けられる。このように広域配転については社員の個別の同意を得た上で行うという労働慣行が成立しており、したがって、本件就業規則九条及び一〇条は広域配転に関する限り適用されない。
(2) ところで、民法七五二条は、夫婦は同居し、生活を営むに当たって互いに協力し扶助しなければならないと定めているが、これは家族生活の核心であり、円満な家庭生活があってこそ、労働者は業務に専念することができ、企業もその円滑な業務の遂行を期待できるところ、近年の女子の職場進出や労働者の意識変化などに伴い、労働者の家庭生活を尊重する必要性が高まっており、職業生活と家庭生活の両立を支持する法制度の整備が高まっているという観点からは、単身赴任が民法九〇条に反する高度の反社会性を有するとまでいうかどうかは別としても、右の社会的要請を取り込み、単身赴任が労働契約締結後及び配転命令を受けた時点での当該労働者の選択の結果といえるかどうかをメルクマールにして、配転命令の有効性を検討すべきであると解される。そうであるとすると、広域配転において単身赴任をするという場合には、個別労働者の同意が必要であるというべきである。
(3) ところが、原告が平成八年二月一九日の内示の際に転勤には絶対に応じられないので営業職を選択することを明確に回答したにもかかわらず、被告は同月二八日になって突然同年三月一日付けで東京(ママ)への転勤を命ずる辞令を原告に交付したのである。このように本件配転命令は原告の同意を欠いており無効である。
3  本件配転命令の必要性について
(一) 被告の主張
(1) 原告は本件配転命令の発令時に名古屋営業所に勤務していたが、平成七年度上半期(平成七年四月から同年九月まで)が始まった時点に名古屋営業所に配置されていた人員は、所長一名(営業を行う場合がある。)、営業担当者二名、フィールドサポートサービス(顧客に対し被告が販売した製品の維持管理修理などを行う業務)担当一名、アシスタントスタッフ一名であり、原告はフィールドサポートサービスを担当していたが、平成七年度上期の名古屋営業所の売上げはその目標の五四パーセントにとどまり、フィールドサポートサービスの仕事も必然的に大幅に減少し、被告は営業担当者一名を異動させた。ところが、平成七年度下半期(平成七年一〇月から平成八年三月まで)の売上げも目標の六五パーセントにとどまり、名古屋営業所の平成五年度から平成七年度までの売上げの推移は、平成五年度が一億九四八六万七四六七円、平成六年度が二億八一五五万一〇八五円、平成七年度が一億三八六九万〇〇七八円であったことから、名古屋営業所を縮小することにし、フィールドサポートサービスについては担当者を一名置いておくだけの意味も効果もないと判断されるので、これを廃止し、必要な都度大阪営業所から支援を得るという形で処理することにした。樫平事業部長は平成七年度上半期からフィールドサポートサービスの業務量が大幅に減少したことに伴い平成七年五月二六日及び同年七月七日原告に対しフィールドサポートサービス以外の営業支援活動を行うよう指示したところ、原告は自分は技術者であって営業の担当ではないと言って営業支援活動を熱心に行わず、上司が再三にわたり注意したにもかかわらずトレーニングウェアで出社して業務を行い、フィールドサポートサービスの業務の減少により暇を持て余して勤務中にゲームなどを行っていた。原告は平成七年度の個人業務目標設定において「なるべくユーザーに出向き顔をつなげる。特に大手」としていたが、原告はこの目標については未達成と自己評価していた。そこで、被告は原告に対し本件配転命令を発令したのであり、平成八年度に名古屋営業所に配置された人員は、営業所長は大阪営業所の課長が兼務し、営業担当者二名、アシスタントスタッフ一名であった。本件配転命令による原告の配転先であるマイコンシティ事業所管理部生産統括ボードサービスグループ(現名称は情報通信機器事業部技術部技術グループ)はプリント基板関連のキャドシステム(ソフトウェア)を使ったキャドのオペレーション業務を行っており、原告がこれまでに行ってきたプリント基板の設計における技術や経験を生かしてさらに原告の能力を磨くことが可能である。
(2) 原告は平成九年四月二三日付けでデザインオートメーション事業部EDA技術グループに異動したが、原告は本件配転命令の一年後に右の異動を行ったことをもって本件配転命令に業務上の必要性がないことの論拠としているが、そもそも同グループにおける業務はボードサービスグループ同様キャドのオペレーションが主たる業務であり、原告はキャドシステムと試作基板製作システムの技術サポートであり、技術サポートの業務が加わった外はほぼ従前の業務と同一であり、原告の技術、経験、能力を生かすことができる業務であるとしてこの四月の異動を行ったのであり、この四月の異動をもって本件配転命令に業務上の必要性がないことの論拠とすることはできない。原告はこの四月の異動について何ら異議を述べておらず、業務命令に従って就労している。
(3) 以上によれば、本件配転命令に業務上の必要性があることは明らかである。
(二) 原告の主張
(1) 平成七年度上期が始まった時点に名古屋営業所に配属されていた人員が被告の主張のとおりであること、名古屋営業所の売上げが平成六年度から一定程度落ちていたこと、フィールドサポートサービスの仕事も一定程度落ちていたこと、原告がトレーニングウェアで出社したことがあること、原告が仕事の手持(ママ)ち時間にゲームを行っていたことがあること、原告が設定した平成七年度の個人業務目標の内容及びこの目標が達成できたかどうかについての原告の自己評価の内容が被告の主張のとおりであること、本件配転命令による原告の配転先の業務の内容は認め、被告が原告に対しフィールドサポートサービス以外の営業支援活動を行うよう指示したこと、本件配転命令がフィールドサポートサービス担当の廃止を理由に発令されたことは否認し、平成七年度上期及び下期の名古屋営業所の売上高が目標に達していなかったこと、平成八年度の名古屋営業所における人員の配置は知らない。被告では技術職はたいがいラフな格好で通勤しており、原告もこの例に倣っていたが、職場には常にスーツ、ワイシャツ及びネクタイを用意しており、顧客に赴くときにはこれらを着用していた。
被告はコンピューターの開発、デバッガー(バグ取器)、CADソフトの開発などを行う先端技術の会社であり、その取引先の直接の交渉相手などは特殊専門技術を有する担当者が多く、このような担当者と直接交渉などを行う場合には技術を有する営業マンの方がやりやすいことも多いところ、原告は名古屋営業所においてICE(通称はアイス)の職務に従事し、コンピューターの修理(ハード及びソフトの両面)を行ってきており、これは、営業マンが対応できない場合には依頼先に赴いて依頼者をなだめながら修理を行うというもので、修理という技術面のみならず営業的側面も有していたのであって、このように原告には営業マンとしての才能も有していたのである。ところが、被告は本件配転命令後営業担当の新人を採用しており、営業マンを一名増やす必要があったのに、原告が名古屋営業所において営業職を希望したのを無視して原告を営業職に転換せずに本件配転命令を発したのであるが、以上の経過によれば、本件配転命令に業務上の必要性がないことは明らかである。
(2) 原告は平成九年四月二三日付けの異動による異動先の業務の内容は認めるが、被告において一人前の技術職として勤務するには高度の技術、技能、知識の集積が不可欠であり、特定の職種において一定の年数就労し、高度の技術などを習得する必要があるところ、原告は名古屋営業所からマイコンシティ事業所に転勤してPCB(プリント基盤(ママ))の設計を担当していたが、そのわずか半年後にはEDD(回路ソフトの開発)を担当することになったが、EDDは工業高校の高校生でもできる補助的な業務であって原告の技術、経験、能力を活用するのにふさわしい場所とはいえない。また、本件配転命令後にマイコンシティ事業所のPCB部門から原告に対し早く赴任するよう求められたことはない。このような状況からすれば、本件配転命令に係る配転先において原告を必要としていたとはいえない。
(3) 以上によれば、本件配転命令に業務上の必要性がないことは明らかである。
4  本件配転命令の真の目的は退職の強要であるか。
(一) 原告の主張
(1) 原告が平成八年二月一九日の内示の際に転勤には絶対に応じられないので営業職を選択することを明確に回答したにもかかわらず、被告は同月二八日になって突然同年三月一日付けで東京(ママ)への転勤を命ずる辞令を原告に交付したのであり、しかも、辞令の交付まで原告に対し何らの説得も行っておらず、転勤の連絡すらしていないのである。樫平部長は同月二八日の辞令交付の際に原告に対し、辞令に従えないのであれば別の会社を探してもらうほかないと述べて原告に退職を勧奨している。辞令は同年二月二八日に交付されたが、辞令の日付けは同年三月一日であり、土曜日と日曜日を入れても遅くとも同月六日には本件配転命令に係る配転先であるマイコンシティ事業所に赴任していなければならなかったわけであるが、被告には用意された社宅はないから、仮に被告が原告に多少の余裕を与えたとしても、到底このような短期間に転居などできるはずがない。原告は本件配転命令の発令後にすぐに全日本金属情報機器労働組合(以下「本件組合」という。)に加入し、同月一二日には被告に組合員通知書、要求書及び団体交渉申入書を交付し、同年四月二日には団体交渉が開かれることになったが、その日までに原告に転勤を受け入れるよう説得してはいないのである。このような経過及び本件配転命令に業務上の必要性がないことからすれば、本件配転命令の真の目的が原告に対する退職の強要であることは明らかであるというべきである。
これに対し、被告は、原告が本件配転命令による配転先に赴任していないにもかかわらず、被告が原告に退職を求めたことも業務命令違反を理由に懲戒解雇処分もしていないことを理由に本件配転命令の真の目的が原告に対する退職の強要であるとはいえないと主張するが、これは原告が本件配転命令後直ちに本件労組に加入して同年三月一二日には団体交渉を申し入れたため懲戒解雇という強硬手段を執る機会を失ったためである。
(2) 被告は本件配転命令の発令後に原告に対し業務などにおいて数々の嫌がらせをし、また、組合活動に対し数々の嫌がらせないし不当労働行為をしてきたのであって、これらの事実からも、本件配転命令の真の目的が原告に対する退職の強要であることは明らかであるというべきである。
ア 業務などにおける嫌がらせ
(ア) 平成九年四月に異動した職場で原告が行っている業務は工業高校の高校生でもできるアルバイト的な仕事であり、当初は原告の机を窓際の棚と棚との間に設置し、同じEDA技術グループの社員と隔離していた。その後被告は右の職場の配置を変更し、原告の机を他の社員と同じところに移動したが、それによって被告がした原告に対する嫌がらせの事実がなくなるものではない。
(イ) 原告を除くEDA技術グループの社員にはネットワークでつながっているパソコンを貸与されているが、原告にはネットワークでつながっていないパソコンが貸与されている。
(ウ) 原告は、「樫平事業部長は原告を嫌っているから出席しない方がよい。」と忠告されたにもかかわらず、平成九年八月一日に開かれた職場の懇親会に出席し、懇親会の席で樫平部長に酒を勧めたところ、同人から「お前の酒など飲めるか。注いでもらいたくない。」などと拒絶された。
イ 組合活動に対する数々の嫌がらせないし不当労働行為
(ア) 被告は平成九年四月一五日付け「夕刊ソフィア」において事実を歪曲して原告を誹謗中傷するとともに本件組合に対する誹謗中傷を行って、本件組合に加入ないし協力しないよう訴えた。
(イ) 原告は平成九年の春闘に際して要求をまとめるために昼休みに被告の社員に対し春闘のアンケートに協力するよう訴えてきたが、被告はこれを敵視して原告に対し同年二月一七日付けの警告文を発し、原告に職場内でビラの配布やアンケート用紙の配布、回収を辞めるよう警告した上、「夕刊ソフィア」において「矢船主補に警告」という文章を掲載してこれを社員に配布して原告に同調しないよう呼び掛けた。
(ウ) 原告が平成九年六月ころ昼休みに社員に対しアンケートを配布していると、長瀬総務課長が原告を付け回し、アンケート用紙の配布を妨害するようになり、他の社員に対しアンケート用紙の受取を拒否するよう呼び掛けたりもした。その上、被告は原告に対し同年六月二〇日付けの警告文を交付するとともに「夕刊ソフィア」において原告の正当な組合活動をあたかも違法であるかのように述べて誹謗中傷の度合いを強めていった。また、被告は同年一〇月に数回にわたり「夕刊ソフィア」を通じて「業務外のアンケートに回答する必要はありません。」などという内容の文書を配布し、「原告の加入する労働組合のアンケートには一切協力する必要はありません。」などと露骨に組合活動に干渉するとともに原告に対し改めて警告文を発した。
(エ) 被告は平成九年夏期一時金について「会社の基準以外の線で妥結はあり得ないから、団交をやっても無駄である。」などと主張し、本件組合との団体交渉を拒否し続けたため、団体交渉が長引くことによって原告の経済的負担が大きくなると判断した本件組合は同年九月下旬に被告に対し妥結を申し入れた。ところが、被告は同月二九日付けの「夕刊ソフィア」において「矢船主補に夏期賞与を支給」という見出しで原告に対する夏期一時金の支給を大々的に宣伝するという行動に出たが、これは被告が自らの不当労働行為を臆面もなく表明するものであり、原告に対する嫌がらせである。
(オ) 被告は本件組合との間で単身赴任に関する労働条件の変更に関する交渉においても殊更に原告のみを救済の対象外とする差別的な取扱いをしている。
(3) 原告は名古屋営業所に勤務していた当時労働学校に通い、不必要なサービス残業に協力しなかったことがあるが、その影響が他の従業員に及び、一時午後八時ないし九時ころまであったサービス残業が午後六時までに短縮されることがあった。被告はこのことを疎ましく思い、退職を強要する目的で本件配転命令を発し、それでも退職しない原告に対し右の(2)のとおり各種の嫌がらせや不当労働行為を行ってきたのである。以上によれば、本件配転命令の真の目的が原告に対する退職の強要があることは明らかである。
(二) 被告の主張
(1) 被告は原告が本件配転命令による配転先に赴任していないにもかかわらず、原告に退職を求めたことも業務命令違反を理由に懲戒解雇処分もしておらず、原告に本件配転命令に従って赴任するよう求めており、この経過によれば、本件配転命令の真の目的が原告に対する退職の強要であるということはできない。
(2) 原告は本件配転命令後の事情を挙げているが、これらはいずれも本件配転命令の違法性とは無関係な事柄であるが、念のため次のとおり反論する。
ア 業務などにおける嫌がらせ
(ア) 原告は、原告の席が他の社員と隔離されていたとか、原告に貸与されたパソコンが社内ネットワークに接続されていないことを問題としているが、席や場所、使用機器などは必要に応じて決定又は変更されるのであり、このことは原告に限ったものではない。したがって、席の移動があった社員も社内ネットワークに接続していないパソコンを使用する社員もいることは自明である。
(イ) 原告は平成九年八月一日に開かれた職場の懇親会の席で樫平部長から嫌がらせを受けたかのように主張しているが、原告が懇親会の席上でカラオケのマイクを離さずに独り占めしていたのを見て樫平部長が原告に対し他の社員のことも考えろと注意したにすぎない。
イ 組合活動に対する数々の嫌がらせないし不当労働行為
(ア) 企業内にあって労働組合又は組合員が組合活動を行う場合、企業施設を利用するのであれば使用者の許諾が必要であること、就業時間中に行うのであれば使用者の許諾が必要であることは最高裁の説くところである。したがって、被告は原告に対し、企業施設を利用したり就業時間中に組合活動を行う場合は就業規則に則って許可を取るよう求めたが、原告は無許可のまま組合活動を行ったため警告を発したにすぎない。休憩時間中といえども職務遂行義務からの解放があるだけで企業の施設管理権に服するのであり、そのため休憩時間中の組合活動にも許諾を必要とすることも判例上明らかであり、就業規則の適用も受けることも明らかであって、原告の主張は独自の解釈に立っているというほかない。
(イ) 団体交渉において被告が提示する条件について本件組合がその選択と判断に基づいて当初妥結せず、その後その選択と判断に基づいて妥結するに至ったことが、あるいはその経過を「夕刊ソフィア」に掲載したことが不当労働行為に該当するはずがない。
(ウ) 被告は本件組合との間で単身赴任に関する労働条件の変更に関する交渉においても殊更に原告のみを救済の対象外とする差別的な取扱いをしている(ママ)。
(3) 被告は原告が名古屋営業所に勤務していた当時原告に対し必要であろうが不必要であろうがサービス残業を一切させていないし、午後六時になると全員に対して早く帰宅するよう指示していたのであり、本件配転命令の真の目的が原告に対する退職の強要であるはずがない。
5  本件配転命令は原告に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益をもたらすものであるか。
(一) 原告の主張
(1) 原告は、〈1〉 結婚して新居として名古屋でマンションを購入したばかりであること、〈2〉 原告の妻が兼(ママ)ねてから希望していた保育園の保母の職務に就いており、その意思を尊重しなければならなかったこと、〈3〉 原告の妻は保母という激務が原因で椎間板ヘルニアによる腰痛に悩まされており、さらにこれに起因して自律神経失調症にり患するに至り、医師はストレスなどは原告の妻の病状に好ましい影響を与えるものではないとして本件配転命令を避けるべきであると指示したことなどから、原告は妻を連れて名古屋営業所から他に転勤することはできなかったのであり、また、〈1〉 原告は従前より夫婦は同居すべきであるという持論を有していたが、とりわけ新婚間もない時期であったことや子宝に恵まれなかったことから、単身赴任を避けたいと考えていたこと、〈2〉 別居生活を強いられると、マンションの購入代金の支払が厳しくなること、〈3〉 原告の収入は手取りで一か月当たり約一七万円であるから、原告の賃金だけで夫婦としての生活を維持していくのは著しく困難であり、被告には単身赴任者に対する補助の制度がないから、川崎と名古屋を往復する交通費はすべて原告夫婦が負担せざるを得ず、そのほかにも二重生活に伴う経費の増加、通信費の増加などに耐えられないこと、〈4〉 別居生活に伴う精神的負担に自信がもてなかったことなどから、原告は単身で転勤することもできなかったのである。
(2) 原告は本件配転命令によって次のような不利益を受けており、本件配転命令は原告に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益をもたらすものであるというべきである。
ア 精神的、肉体的疲労
原告は基本的に週末は妻のいる名古屋に戻ることとしているが、原告の収入は手取りで一か月当たり約一七万円と低賃金であるので、週末に名古屋と東京を往復する費用をできる限り低く抑えるために高速バスや割安の「青春18きっぷ」を利用している。そのため原告は疲労が蓄積して慢性的な疲労に悩まされており、その上、妻との別居生活に伴うストレスがたまるばかりでなく、酒量が増え、従前に比較して風邪をひく頻度も多くなった。
イ 経済的な負担の加重
原告は名古屋営業所に勤務していた当時は妻の収入と合わせて何とか人並みの生活を維持してきたが、被告には原告のような単身赴任者に対する補助の制度がないから、本件配転命令後は東京と名古屋の二重生活による出費がかさんできており、原告の実家が東京都立川市にあってそこで原告が生活しているため、住居費の負担が少なくて済むので、何とか生活できているが、東京と名古屋を往復する交通費はすべて原告夫婦が負担せざるを得ない状況にある。一昨年から今日に至るまでの交通費及び実家に入れる食費の総計だけでも一七七万七七一〇円に及んでおり、一か月の平均は約八万四〇〇〇円であり、このほかに電話代、家具購入費など単身赴任に伴う諸経費が増加しており、原告夫婦の生活はぎりぎりのところまで追いつめられている。これは、被告に単身赴任に対する援助策が全くないためであり、原告は被告から東京への赴任の際の引っ越しに要した実費が支給されただけであり、給与の〇・三か月分の赴任手当も支給されるはずであったが、原告が平成八年四月から同年一〇月まで東京に赴任しなかったことを理由に欠勤扱いされたことに伴い右の期間の社会保険料などの支払に充当され、結局支給されなかったのである。なお、東京立(ママ)川市には原告の所有名義のマンションがあるが、これは原告の父母が原告の名義を借用して購入したものであり、原告が所有しているわけではない。
(二) 被告の主張
(1)ア 標準的な生活に要する費用を理論的に算出した値で人並みに生計を維持していくのに必要な金額として人事院や各県の人事委員会の調査によって公表されている標準生計費(これは公務員の給与改定や婚姻分担の指標となっている。)によれば、原告が勤務すべき川崎を包含する神奈川県の県庁所在地である横浜市の平成八年四月における標準生計費は世帯一名で一二万五五七〇円、世帯二名で二一万一五七〇円であるから、原告の賃金が低すぎるということはない。
イ 原告は被告に入社した当時東京都立川市〈以下略〉に住んでいたが、本件配転命令後は原告の所有に係る東京都立川市〈以下略〉に住んでおり、本件配転命令に伴って新たな住居を探す必要が発生したということはない。
ウ 本件賃金規程二七条一項によれば、原告は持ち家で扶養家族を有しないから、住宅手当は月額二〇〇〇円となるはずであるが、従来からの運用により持ち家で扶養家族を有しない世帯主については月額一万二〇〇〇円を支給しており、原告にも同額を支給している。
(2) 原告夫婦が川崎と名古屋で離れて暮らすことによって生じたと原告が主張する不利益は、いずれも転勤に伴って通常甘受すべき事由であるというべきである。
なお、原告のように配転命令によって結果的に家族との別居が生じた場合の手当については平成八年七月二四日に新設されているが、原告は支給条件を満たさないため支給されていない。
また、被告は、本件配転命令後の団体交渉において、原告の妻が東京、川崎の付近で就労する場合のために、求人情報の紹介や職業安定所への求職名簿登載手続などの協力をすることを申し出ており、その他協力すべきことがあれば具体的に要求するよう述べているが、原告は、毎週自宅に帰ることが必要であるからその旅費の全額の支給、緊急に自宅に戻る場合の旅費の全額の支給、住居について備品家具などを含めて被告が準備すること、別居手当として毎月五万円を支給すること、裁判準備時間を特別有給とすることを要求しているが、いずれも被告が到底受諾できるものではない。
6  平成一〇(ママ)年四月一日から同年一〇月一五日までの賃金の請求の可否について
(一) 原告の主張
(1) 原告は本件配転命令を不服として平成八年三月一日以降も名古屋営業所に出社を続け、同年四月一日に採用された新人に対し自発的に会社製品などの説明をしていたが、被告は原告に仕事を与えようとはしなかった。そして、被告は同年四月二日原告に対し、原告が名古屋に出社することを認めないこと、マイコンシティ事業所に出社することを求め、これによって原告の労務提供の受領を拒否する意思を明らかにしたのであるから、被告が原告による労務の提供の受領を拒否して賃金の支払を拒否した平成八年四月一日から同年一〇月一五日までの分の支払を求める。
(2) 原告の賃金は、平成八年一月が金三一万九六五〇円、同年二月分が金二七万一三六〇円、同年三月分が金二七万三〇〇〇円であるから、右の三か月の平均賃金は金二八万八〇〇三円となる。これに基づいて同年四月一日から同年一〇月一五日までの賃金の合計は金一八七万二〇二〇円となる。原告は未払賃金として金一八七万二〇二〇円及びこれに対する支払日の後であることが明らかな平成八年一一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
これに対し、被告は通勤費と時間外手当を除外して未払賃金を計算すべきであると主張しているが、原告は平成八年四月一日から同年一〇月一五日までの就労日については有給休暇を取得した日を除いて毎日出社して労働力を提供し被告にその受領を求めていたのであり、被告が受領しさえすればすぐにその指示に従うことができるように名古屋営業所で待機していたのであり、被告が原告の提供する労働力を受領すれば、他の従業員と同様に残業があったはずであるから、未払賃金の計算の基礎とすべきであるのは平均賃金であると解するのが相当である。
(二) 被告の主張
原告の主張に係る計算方法によれば、時間外手当や通勤費なども平成八年四月一日から同年一〇月一五日までの未払賃金に含まれてしまうが、原告が右の期間に全く就労していないことからすれば、時間外手当や通勤費などが含まれてしまうことは失当であって、右の期間の未払賃金を算出するに当たっては、被告の賃金規程で従業員本人に支払われるものとされている基本給(本人給、職能給、役付手当の合計)を基礎とすべきである。そして、原告の基本給は二二万〇五〇〇円である。
第三  当裁判所の判断
一  争点1(本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は不適法として却下すべきであるか。)について
1  本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は単なる事実の確認を求めるものとして不適法であるかどうかについて
確認の訴えは特定の権利又は法律関係の存在又は不存在を確認する判決を求める訴えであるのに対し、事実は普通権利又は法律関係の発生、変更、消滅の要件の一つにすぎず、あるいはその判断資料となるにすぎないから、事実は独立に確認の訴えの対象適格を持たないのが原則であるところ、原告が確認を求めている対象は原告の勤務地、所属であり、右は原告と被告との間に成立している雇用関係という法律関係において原告が被告に対し労務を提供するという債務を履行すべき場所を決定する基準となるべき事実であるものの、単なる事実である以上、原告が確認を求めている対象である原告の勤務地、所属は確認の訴えの対象適格を有しないものというべきであり、したがって、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は不適法であるように考えられないでもない。
しかし、原告は平成八年一〇月三一日受付の訴状の請求の趣旨において本件配転命令が無効であることの確認を求めていたが、平成九年七月一五日付け請求の趣旨変更申立書において本件配転命令の無効確認を原告の勤務地、所属の確認に変更したのであり(当裁判所に顕著である。)、右の経過に加えて、原告が確認を求めている対象である原告の勤務地、所属は原告と被告との間に成立している雇用関係という法律関係において原告が被告に対し労務を提供するという債務を履行すべき場所を決定する基準となるべき事実であることも併せ考えれば、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は、要するに、原告が被告の名古屋営業所において勤務する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めているものと解せられ、言辞に不適切な点があることは否定できないものの、原告が確認を求めているのは単なる事実の確認ではなく、右に説示したような労働契約上の地位の確認と解すべきであって、そうであるとすると、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分が単なる事実の確認を求める訴えであるかのような内容になっていることだけを理由に不適法であるとして直ちに却下することはできないというべきである。被告の主張は採用できない。
2  本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分の判決が確定すれば、既判力により原告の勤務地、所属は定年まで名古屋営業所としなければならないことになることを理由に原告の勤務地、所属の確認を求める訴えが許されないかどうかについて
本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は、原告が被告の名古屋営業所において勤務する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めているものと解するとしても、既判力を有するのは、口頭弁論終結の時点を基準に原告が被告の名古屋営業所において勤務する労働契約上の権利を有する地位にあることであるから、仮に原告の確認請求を認容する判決が確定したとしても、原告の勤務地、所属を原告の定年まで名古屋営業所にしなければならないことになるものではない。被告の主張は採用できない。
3  原告が異議なく現在の就労場所で就労している以上、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は確認の利益を欠いているかどうかについて
本件確認の訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は本件配転命令が無効であることを前提とする主張であり、原告が本件訴訟の口頭弁論終結の時点において本件配転命令の効力を争っていることは明らかであるから、原告が異議なく現在の就労場所で就労しているというだけでは、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分が確認の利益を欠いているということはできない。被告の主張は採用できない。
4  以上によれば、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分を不適法として却下すべきであるという被告の主張はいずれも採用できない。
二  争点2(本件配転命令の発令に当たって原告の事前の同意は必要か。)について
1  配転は、労働者の勤務場所又は職種(提供すべき労務の種類)を将来にわたって変更する人事異動の一つであるが、使用者が労働者の個別的同意なしに労働者の勤務場所を決定してこれに転勤を命じて労務の提供を求め、又は労働者の個別的同意なしに労働者の職種の変更を決定してこれを命じて労務の提供を求めるためには、雇用契約その他の両当事者の合意の解釈として、使用者が労働者の個別的同意なしに労働者の勤務場所を決定してこれに転勤を命じて労務の提供を求める権限又は労働者の職種の変更を決定してこれを命じて労務の提供を求める権限(両者の権限を合わせて以下「配転命令権」という。)を有すると認められることが必要であると解される。
2  そこで、本件において、原、被告間の雇用契約その他原、被告間の合意の解釈として被告が配転命令権を有すると認められるかどうかについて検討するに、
(一) 本件就業規則九条一項には「業務上の都合により、転勤・出向・派遣等を命ずることがある。」という規定が、同条二項本文には「前項により転勤・出向・派遣等を命じられたときは、発令の日から七日(暦日)以内に赴任しなければならない。」という規定が、一〇条には「業務の都合により、職種変更または配置転換を命ずることがある。」という規定が、それぞれ設けられていること(前記第二の二5)、
(二) 被告は原告が入社した昭和六一年四月当時は本社の外、東京、名古屋、大阪、九州の四つの営業所などを置いていた(前記第二の二1、2、〈証拠略〉)が、被告の社員の勤務場所は被告に入社すると同時に配属された勤務場所に限定されているわけではなく、被告の社員は本社、原告の入社後に設立されたマイコンシティ事業所、四つの営業所などの間を転勤することがあり(〈証拠・人証略〉)、原告について言えば、原告は被告に入社すると同時に八王子にある事業所に配属され、昭和六三年一一月七日には名古屋営業所に、平成二年四月一日には東京営業所に、平成三年四月一日には川崎にあるマイコンシティ事業所に、同年九月一日には名古屋営業所に、それぞれ転勤していること(前記第二の二2)、
(三) これに対し、原告は、被告が広域配転に伴う不利益の軽減措置を執ることなく、広域配転命令を発し、そのため配転命令を受けた社員が次々と退職するという事態を迎えたことがあり、そのため欠員が生じた営業所で社員を現地採用することが続いたが、このような苦い経験を踏まえて被告は広域配転をする場合には打診、内示、同意を求めるようになり、社員も広域配転については拒否できるのが当然であると考えるに至り、こうして社員が住居を移転する必要のある広域配転を行う場合には、事前に当該社員の個別的な同意を得た上で、転勤の発令をするという労働慣行が遅くとも昭和六三年ころまでには成立していたと主張しており、その陳述書(〈証拠略〉)及び本人尋問において、原告は上司や同僚などの発言やこれまでの転勤の例、自分の転勤の際の経験などから被告においては転勤の打診があったときに断れば転勤を強行されることはないと考えていたこと、原告が本件配転命令後に行ったアンケートではアンケート回答者の八四パーセントが配転、転勤には同意が必要であると回答していることから、原告は被告では広域な配転では社員の同意を得ることが労働慣行になっていたと思うことなどを供述をしているところ、
(1) 右の原告の供述に係る原告の転勤の際の経験について言えば、
ア 原告は本件配転命令の発令までに三回転勤しているが、これらの転勤について、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、原告が昭和六三年一一月七日に八王子の事業所から名古屋営業所に転勤するのに先立ち、当時の原告の上司は原告に対し二年間で東京に戻すという条件で名古屋営業所に転勤するよう打診し、原告は短期間で東京に戻るという条件で転勤に応じることにしたこと、原告は名古屋営業所に転勤してから約一年四か月後である平成二年四月一日には東京営業所に転勤したこと、原告は名古屋営業所に勤務中に名古屋在住の武藤恵利子と知り合い、原告は東京営業所に転勤した後も名古屋に住む武藤恵利子とのつきあいを続け、次第に同人との結婚を考えるようになり、再び名古屋に転勤することを希望するようになったこと、そこで、原告は当時の原告の上司や名古屋営業所長に対し名古屋営業所への再転勤の意思のあることを伝え、原告が名古屋営業所に転勤できるよう働きかけたところ、原告の希望が叶い、原告は平成三年九月一日再び名古屋営業所に転勤し、本件配転命令が発せられるまで名古屋営業所で勤務していたことが認められる(この認定に反する証拠(証人樫平、同長瀬)は採用できない。)が、原告が初めて名古屋営業所に転勤するのに先立って原告の当時の上司が原告に対し転勤するよう打診しており、また、原告が平成二年四月に名古屋営業所から東京営業所に転勤し、平成三年九月に再び名古屋営業所に転勤したのは、いずれも原告が希望し、その旨を被告に申し入れていたことであり、右の二つの転勤はいわば原告の希望を被告が聞き届けたために行われたことであるといえるものの、それだけでは、被告が社員に配転を命ずるに当たってその社員の個別的同意が必要とされていることを裏付ける事実としては足りないのであり、
イ 原告は、本件配転命令の発令の直前の経過について、名古屋営業所の所長代理であった田中が平成八年二月一九日原告に対し川崎への転勤か名古屋での職種変更かのいずれかを選択するよう打診したと主張し、その陳述書(〈証拠略〉)及び本人尋問において右の主張に沿う供述をしているが、後記認定の本件配転命令の発令までの経過に照らし、この原告の供述は採用できないのであり、他に名古屋営業所の所長代理であった田中が平成八年二月一九日原告に対し川崎への転勤か名古屋での職種変更かのいずれかを選択するよう打診したという原告の主張を認めるに足りる証拠はなく、したがって、右の原告の主張は採用できないのであり、
(2) 前掲の原告の供述に係る原告の転勤の際の経験以外の事実について言えば、ア 仮に前掲の原告の供述に係る原告の転勤の際の経験以外の事実が真実であるとしても、その事実だけでは、原告の主張に係る労働慣行の成立を認めるには足りないというべきであり、イ 被告が広域配転に伴う不利益の軽減措置を執ることなく、広域配転命令を発し、そのため配転命令を受けた社員が次々と退職するという事態を迎えたことがあり、そのため欠員が生じた営業所で社員を採用することが続いたことについてはこれを認めるに足りる証拠はない上、かえって仮に原告の主張のとおり被告が広域配転に伴う不利益の軽減措置を執ることなく、広域配転命令を発し、そのため配転命令を受けた社員が次々と退職するという事態を迎えたことがあったとすれば、広域配転に伴う不利益の軽減措置を充実させる何らかの方策が採用されていたものと考えられるところ、社員が単身赴任した場合の不利益の軽減措置として手当を新設したのは本件配転命令の発令後の平成八年七月二四日であり(前記第二の二7)、そのほかに被告が本件配転命令の発令前に原告の主張に係る広域配転に伴う不利益の軽減措置を採用していたということはないのであって(弁論の全趣旨)、そうであるとすると、被告が広域配転に伴う不利益の軽減措置を執ることなく、広域配転命令を発し、そのため配転命令を受けた社員が次々と退職するという事態を迎えたことがあったことを認めることはできないのであり、
(3) 以上、(1)、(2)を総合すれば、原告の主張に係る労働慣行が遅くとも昭和六三年ころまでには成立していたという原告の主張は採用できないこと、
以上、(一)ないし(三)によれば、原、被告間の雇用契約その他原、被告間の合意の解釈として、被告は業務上の必要性に応じてその裁量により原告の個別的同意なしに原告の勤務場所を決定してこれに転勤を命じて労務の提供を求める権限又は労働者の職種の変更を決定してこれを命じて労務の提供を求める権限を有するものと認められる。
これに対し、原告は、民法七五二条の規定や近年の女子の職場進出や労働者の意識変化などを根拠に、単身赴任が民法九〇条に反する高度の反社会性を有するとまでいうかどうかは別としても、広域配転において単身赴任をするという場合には個別労働者の同意が必要であるというべきであると主張するが、原告の主張に係る社会情勢や家族生活の核心が夫婦の同居にあることなどを勘案しても、原告の主張する論拠だけでは、広域配転において単身赴任をするという場合には個別労働者の同意が必要であるというべきであるという原告の主張は採用できない。
3  そうすると、被告は本件配転命令の発令に当たって原告が本件配転命令に従って転勤することについて原告の個別的同意を得ていない(争いがない。)が、そのことを理由に本件配転命令が無効であるということはできない。
三  争点3(本件配転命令の必要性)について
1  原、被告間の雇用契約その他原、被告間の合意の解釈として、被告は業務上の必要性に応じてその裁量により原告の個別的同意なしに原告の勤務場所を決定し原告に転勤を命じて労務の提供を求めることができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、原告の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、被告の配転命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されないことはいうまでもないところ、原告の勤務場所を決定し原告に転勤を命じるという配転命令につき業務上の必要性が存しない場合には、当該配転命令は権利の濫用として無効であるというべきである。そして、業務上の必要性については、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである(最高裁昭和六一年七月一四日第二小法廷判決裁判集民事一四八号二八一ページ)。
2  そこで、本件配転命令に業務上の必要性を肯定できるかどうかについて検討するに、前記第二の二3の事実、次に掲げる争いのない事実、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠(〈証拠・人証略〉)中の部分は採用できない。
(一) 平成七年度上半期(平成七年四月から同年九月まで)における名古屋営業所の人員の配置は、営業所長一名、営業担当の社員が二名、フィールド・サポート・エンジニアが一名、アシスタントスタッフが一名、合計五名であり、営業所長が営業を直接担当することもあったから、名古屋営業所で営業を担当する社員は実質的には営業所長を含めた三名であった。名古屋営業所の売上げは、平成五年度が一億九四八六万七四六七円であるのに対し、平成六年度が二億八一五五万一〇八五円で、前年度を上回ったが、平成六年度下半期(平成六年一〇月から平成七年三月まで)の売上げは一億三四〇〇万円(一〇〇万円未満の端数は省略した数字)で目標の七八・八パーセントにとどまり、平成七年度上半期の売上げは七五〇〇万円(一〇〇万円未満の端数は省略した数字)で目標の五四・一パーセントにとどまった(〈証拠・人証略〉)。
(二) 被告は名古屋営業所の平成七年度上半期の売上げが芳しくなかったことから、営業担当の社員一名を転勤させ、名古屋営業所の営業担当の社員は営業所長を含めて二名にしたが、平成七年度下半期(平成七年一〇月から平成八年三月まで)の売上げは六二〇〇万円(一〇〇万円未満の端数は省略した数字)で目標の六四・九パーセントにとどまり、結局、平成七年度の売上げは一億三八六九万〇〇七八円にとどまったが、これは前年度の売上げの四九・三パーセント(小数点第二位四捨五入)、平成五年度の売上げの七一・二パーセント(小数点第二位四捨五入)であった。被告全体としての平成五年度の売上げは三三億一四一四万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満の端数は省略した数字)、平成六年度の売上げは四八億四四一四万七〇〇〇円(一〇〇〇円未満の端数は省略した数字)、平成七年度の売上げは三八億八七〇四万八〇〇〇円(一〇〇〇円未満の端数は省略した数字)であり、被告全体としての平成七年度の売上げは平成六年度の売上げと比べるとよくなかったが、その中でも名古屋営業所の売上げの落ち込みはひどかった(〈証拠・人証略〉)。
(三) フィールド・サポート・エンジニアとは、顧客に出向いて被告の製品の保守作業を担当するいわゆるカスタマエンジニアであるが、被告の名古屋営業所の売上げの減少とともに原告のフィールド・サポート・エンジニアとしての仕事も減少していき、原告は勤務時間中に暇を持て余すようになった。樫平部長は平成七年五月二六日マイコンシティ事業所における原告との個人面談の際に同人に対し過去に被告の製品を購入したことがある顧客に電話を架けるなどして新規需要を開拓したり買い替え需要を掘り起こしてみたりするといった営業支援もやってみるよう命じたが、原告はフィールド・サポート・エンジニアの仕事の外に営業の仕事をするのは無理であると言ってこれを断った。樫平部長は同年七月七日名古屋営業所における原告との個人面談の際に同人に対し真剣に営業を支援してみるように指示し、また、同年九月二六日には名古屋営業所の営業担当の社員一名を転勤させたことに伴い、真剣に営業を支援するよう指示したところ、原告も過去に被告の製品を購入したことがある顧客に電話を架けるなどして新規需要を開拓したり買い替え需要を掘り起こしてみたりすることを始めてみたが、思うように成果が上がらない上、電話を架ける件数が多くなっていったことから、途中で営業支援はやめてしまった(〈証拠・人証略〉)。
(四) 被告には半期ごとに自分の目標を自己申告する目標管理制度という制度があり、原告は平成七年度上半期の目標として「修理の取引、返却でなるべくユーザに出向き顔をつなげる。特に大手」という目標を自主的に設定したが、平成七年度上半期でこの目標を達成することはできず、その後もこの目標を達成したといえる状況は見られなかった。平成七年度上半期の終わりには原告自身がこの目標については「未達成」と評価していた(原告の設定した平成七年度の目標の達成の度合いに対する第三者の評価については〈証拠・人証略〉。その余は争いがない。)。
(五) 名古屋営業所の平成七年度下半期の売上げも前年度同期と比べて減少する見通しであった上、平成八年二月当時の名古屋営業所の所長であった小林から同年三月一杯で退職したいという申出があったことから、被告は平成八年二月上旬に平成八年三月から名古屋営業所の人員の配置について同営業所の営業所長は大阪営業所長がこれを兼務し、営業担当の社員は二名とし、新規採用によって一名を補充し、フィールド・サポート・エンジニアはこれを廃止し、必要なときに大阪営業所から出張してもらって対応することを決め、原告は名古屋営業所から川崎のマイコンシティ事業所に転勤させることにした。被告は、原告を川崎に転勤させることを決めるに当たって、原告に妻がいることは知っていたが、原告がその家庭の事情から妻と一緒に名古屋を離れることができないことまでは知らなかった(〈証拠・人証略〉)。
(六) 名古屋営業所の所長代理をしていた田中が同年二月一九日ころ原告に対し原告が同年三月一日付けをもって名古屋営業所から川崎のマイコンシティ事業所に転勤する予定であることを伝えたところ、原告は、転勤することはできない、フィールド・サポート・エンジニアの仕事がなくなるのなら、営業担当に変わりたいので、転勤することについては再考してほしいと申し入れたが、被告からは返事はなかった。樫平DA事業部長と長瀬総務課長が名古屋営業所に新たに補充する営業担当の社員の採用面接を行うために同月二八日に名古屋営業所を訪れた。樫平部長は右同日原告に本件配転命令を記載した辞令を交付し、その際に転勤に当たっては一か月の猶予を与えるので、マイコンシティ事業所への出社は同年四月一日でよいことを伝えたところ、原告からは転勤できないので再考してほしいという申し入れがあったが、樫平部長は転勤できないのなら被告を辞めてもらうほかないと答えた。その後、樫平部長と長瀬課長は採用予定者数人と面接をした。そして、平成八年三月以降の名古屋営業所の人員の配置は、同営業所の営業所長は大阪営業所長がこれを兼務し、営業担当の社員が二名、アシスタントスタッフが一名となり、フィールド・サポート・エンジニアはこれを廃止し、必要なときに大阪営業所から出張してもらって対応することになった(〈証拠・人証略〉)。
(七) 本件配転命令に係る原告の配転先である管理部生産統括ボードサービスグループ(現名称は情報通信機器事業部技術部技術グループ)における原告の業務は、プリント基板関連のキャドシステム(コンピューター上でプリント基盤(ママ)の設計をする装置)を使ったキャドのオペレーション業務(キャドを操作してプリント基盤(ママ)を設計すること)であり、これは、原告が本件配転命令の発令前に行っていた被告の製品の故障の修理やトラブルの処理とは全く異質のものであり、それまでの経験がそのまま使えるわけではなかった。原告は本件配転命令を争って平成八年一〇月一五日までマイコンシティ事業所に赴任しなかったが、それによって本件配転命令に係る配転先で何らかの支障が起こったということはなかった。管理部生産統括ボードサービスグループの組織換えが平成九年四月にあり、原告は同月二三日付けで管理部生産統括ボードサービスグループからデザインオートメーション事業部EDA技術グループに異動したが、この異動先における原告の業務は、プリント基板関連のキャドシステムを使ったキャドのオペレーション業務に加えてその顧客に対する技術サポートであり、技術サポートという点では原告が本件配転命令の発令前に行っていたフィールド・サポート・エンジニアの仕事と似ていたが、扱っていた製品は全く異なっており、それまでの経験がそのまま使えるわけではなかった(〈証拠・人証略〉)。
3  そこで、以上を前提に本件配転命令の業務上の必要性の存否について判断するに、
(一) 被告の名古屋営業所の売上げは平成六年度下半期及び平成七年度上半期にそれぞれ目標を大きく下回ったこと(前記第三の三2(一))、被告の平成七年度の売上げは全体としてよくなかったが、その中で名古屋営業所の売上げの落ち込みがひどかったこと(前記第三の三2(二))、被告は名古屋営業所の平成七年度上半期の売上げが芳しくなかったことから、名古屋営業所の営業担当の社員を転勤させたこと(前記第三の三2(二))、以上を総合すれば、被告は落ち込んでいく売上げに見合った人員の配置を行うといういわゆる縮小均衡の観点から名古屋営業所の人員配置について検討して営業担当の社員一名を他に転勤させることにしたものと認められる。そして、企業には経営の自由があり、経営に関する危険を最終的に負担するのは企業であるから、企業が自己の責任において企業経営上の論理に基づいて経営上の判断をすることは当然のことであり、また、その判断には広範な裁量権があると解されるところ、被告が落ち込んでいく売上げに見合った人員の配置を行うといういわゆる縮小均衡の観点から名古屋営業所の人員配置について再検討して営業担当の社員一名を他に転勤させることにしたことが被告の裁量権を逸脱したものと認めるに足りる証拠はなく、したがって、落ち込んでいく売上げに見合った人員の配置を行うといういわゆる縮小均衡の観点から名古屋営業所の人員配置について検討して営業担当の社員一名を他に転勤させることにしたという被告の判断は合理性を有するものと認められる。
(二) ところが、被告の名古屋営業所の平成七年度下半期の売上げも前年度同期と比べて減少する見通しであったこと(前記第三の三2(五))から、被告は平成八年三月以降の名古屋営業所の人員の配置について再検討し、同営業所の営業所長は大阪営業所長がこれを兼務し、営業担当の社員は二名とし、新規採用によって一名を補充し、フィールド・サポート・エンジニアはこれを廃止し、必要なときに大阪営業所から出張してもらって対応することを決めた(前記第三の三2(五))というのであるから、被告は落ち込んでいく売上げに見合った人員の配置を行うといういわゆる縮小均衡の観点から名古屋営業所の人員配置について再検討して右のとおり平成八年三月以降の人員の配置を決めたものと認められ、右(一)で説示したことからすれば、被告は落ち込んでいく売上げに見合った人員の配置を行うといういわゆる縮小均衡の観点から名古屋営業所の人員配置について再検討して右のとおり平成八年三月以降の人員を配置することにしたという被告の判断は合理性を有するものと認められる。
(三) そうすると、名古屋営業所においてフィールド・サポート・エンジニアを担当していた原告は名古屋営業所においていわば余剰人員となってしまったというべきであり、被告としては名古屋営業所において余剰人員となった原告について職種を変更して名古屋営業所で勤務させ続けるか、それとも、勤務場所を変更して他で勤務させ続けるかを選択することになるが、樫平部長が三回にわたり原告に対し営業支援をするよう指示などしたにもかかわらず、原告はこれに消極的な姿勢をとり続けるなどした(前記第三の三2(三)、(四))というのであるから、このような事情の下では被告としては技術職であった原告の職種を営業担当の社員に変更して名古屋営業所で勤務させ続けることはできないと判断したことは当然というべきであって(これに対し、原告は自分には営業担当としての適性があると主張し、その本人尋問には右の主張に沿う部分がないではないが、原告が主張する論拠(前記第二の三3(二)(1))だけでは原告に営業の適性があったということはできないのであって、右の原告の主張は採用できない。)、被告が原告の勤務場所を変更して他で勤務させ続けることを選択したことは合理性を有するものと認められる。そして、本件配転命令に係る配転先における業務はそれまでに原告が行っていた業務と全く異質なものであること(前記第三の三2(七))、原告が本件配転命令を争って平成八年一〇月一五日までマイコンシティ事業所に赴任しなかったことによって本件配転命令に係る配転先で何らかの支障が起こったということはなかったこと(前記第三の三2(七))からすれば、本件配転命令に係る配転先において原告をどれほど必要としていたかは疑問ではあるが、原告の配転先は川崎にあるマイコンシティ事業所であり(前記第二の二3)、かつて原告も勤務したことがあること(前記第二の二2)、原告が生まれ育ったのは東京の三多摩であり、原告が被告に入社したときの原告の実家は東京立(ママ)川市にあること(〈証拠・人証略〉)、原告が名古屋に転勤するまでの勤務場所(前記第二の二2)を勘案すれば、本件配転命令に係る配転先がマイコンシティ事業所であることは名古屋営業所において余剰人員と化した原告に対する配転先として不合理であるということはできない。
このように本件配転命令は専ら名古屋営業所においていわば余剰人員と化した原告を引き続き被告において雇用することを前提として他の勤務場所で勤務させ続ける目的でされたのであり、原告が余剰人員と化する原因となった名古屋営業所におけるフィールド・サポート・エンジニアを廃止するという被告の判断、原告の職種を営業担当に変更して名古屋営業所で勤務させ続けることはしないという被告の判断、原告を川崎のマイコンシティ事業所に転勤させるという被告の判断にはいずれも合理性があると認められる以上、本件配転命令には労働力の適正配置という観点から業務上の必要性があるものと認められる。
四  争点4(本件配転命令の真の目的は退職の強要か。)について
1  前記第三の三1で説示したことからすれば、原告の勤務場所を決定し原告に転勤を命じるという配転命令につき業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき又は労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどの特段の事情の存する場合は、当該配転命令は権利の濫用として許されないものというべきである(前掲最高裁昭和六一年七月一四日第二小法廷判決)。
2  被告が本件配転命令を発するに至った経過及びその目的は前記第三の三2及び3で認定、説示したとおりであり、これらによれば、本件配転命令の真の目的が退職の強要であるということはできない。(人証略)は本件配転命令の真の目的が退職の強要であるとしてその論拠をるる証言しているが、採用できない。樫平部長は本件配転命令の辞令を原告に交付する際に配転に応じられなければ辞めてもらうほかないと述べている(前記第三の三2(六))が、このことは、本件配転命令の真の目的が退職の強要であるということはできないという右の判断を左右しない。
3  原告は、本件配転命令後の原告に対する被告の取扱いの例を挙げて本件配転命令の真の目的が退職の強要であることは明らかであると主張するが、被告が本件配転命令を発するに至った経過及びその目的は前記第三の三2及び3で認定、説示したとおりである以上、本件配転命令後の原告に対する被告の取扱いの例を根拠に本件配転命令の真の目的が退職の強要であるということはできない。
五  争点5(本件配転命令は原告に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益をもたらすものであるか。)について
1  次に掲げる争いのない事実、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(一) 原告はその妻である恵利子と結婚してから名古屋でマンションを購入し、本件配転命令の発令当時原告と恵利子はこのマンションで生活していた(〈証拠・人証略〉)。
(二) 恵利子は本件配転命令の発令当時名古屋市内において保育園の保母をしているが、椎間板ヘルニアから自律神経失調症を併発している。自律神経失調症はストレスによって症状が悪化することもあるため、医師は本件配転命令に基づいて恵利子が東京に転居することには消極的である(〈証拠・人証略〉)。
(三) 原告は本件配転命令に基づいて平成八年一〇月一六日から川崎にあるマイコンシティ事業部(ママ)に出社しているが、原告の東京における生活の本拠は東京都立川市にある原告の実家であり、原告はおおむね毎週週末は名古屋に住む恵利子のもとに帰っている(〈証拠・人証略〉)。
(四) 本件賃金規程二七条一項によれば、持ち家で扶養家族を有しない世帯主については月額二〇〇〇円しか支給できないが、被告は運用により月額一万二〇〇〇円を支給しているところ、東京都立川市〈以下略〉が原告の所有名義であることから、被告は原告に対し月額一万二〇〇〇円を支給しているが、単身赴任手当(前記第二の二7)については条件に該当しないという理由で支給していない。被告には右の外に単身赴任による経済的不利益を緩和する措置は設けられていない(争いがない。)。
2  右1で認定した事実によれば、原告と恵利子は本件配転命令後は東京と名古屋に別れて住んでおり、原告はおおむね毎週週末は名古屋に帰っているというのであるから、東京と名古屋で別居することによって原告と恵利子は肉体的、精神的及び経済的な点において家庭生活上の不利益を相応に被っているものと認められるが、右1で認定した事実に加えて、原告の陳述書(〈証拠略〉)及び本人尋問における供述並びに恵利子の陳述書(〈証拠略〉)における供述を併せ考えても、これらの供述からうかがわれる原告と恵利子の肉体的、精神的及び経済的な点における家庭生活上の不利益はいまだ本件配転命令に基づく転勤によって通常甘受すべき不利益の程度を著しく超えていないものと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
3  そうすると、本件配転命令が原告に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益をもたらすものとして権利の濫用として無効であるということはできない。
六  小括
以上によれば、本件配転命令が無効であるということはできない。したがって、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は理由がない。
七  争点6(平成一〇(ママ)年四月一日から同年一〇月一五日までの賃金の請求の可否)について
本件配転命令が無効であるということはできないのであるから、原告の勤務場所は平成八年四月一日以降川崎にあるマイコンシティ事業部(ママ)ということになり(前記第三の三2(六)を参照)、原告がその場所で勤務して初めて原告は債務の本旨に従って労務を提供したということができることになるが、原告は右同日から同年一〇月一五日までマイコンシティ事業部(ママ)には出社しなかった(前記第二の二4)というのであるから、原告が名古屋営業所に出社し、そこで何らかの労務を提供することがあったとしても、それは債務の本旨に従った労務の提供ということはできない。したがって、仮に原告が平成八年四月一日から同年一〇月一五日まで名古屋営業所に出勤していたとしても、そのことから原告が平成八年四月一日から同年一〇月一五日までの間の賃金債権を取得したということはできない。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、平成一〇(ママ)年四月一日から同年一〇月一五日までの賃金の請求は理由がない。
八  結論
以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がない。
(裁判官 鈴木正紀)

 

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