「営業支援」に関する裁判例(129)平成19年 3月27日 東京地裁 平18(ワ)14356号 損害賠償等請求事件
「営業支援」に関する裁判例(129)平成19年 3月27日 東京地裁 平18(ワ)14356号 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成19年 3月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)14356号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA03278020
要旨
◆原告が、被告との間で訴外株式会社の株式を買い受ける契約をして、代金を支払い、本件株式の引渡しを催告したが、被告がこれに応じないとして、債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案において、本件契約が成立するには、原告からの意思表示が被告に到達し、これに対する被告からの承諾の意思表示が原告に到達することの双方が必要であるが、被告に届いた原告作成の書面には、株式数以外の記載がなく、原告から被告に対する本件契約締結の意思表示が到達したということはできず、また、承諾の意思表示が被告によってされたと認める証拠はないから、本件契約が成立したと認めることはできないとして原告の請求を棄却した事例
参照条文
民法415条
民法555条
裁判年月日 平成19年 3月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)14356号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA03278020
東京都中央区〈以下省略〉
原告 株式会社YKプランニング
代表者代表取締役 A
仙台市〈以下省略〉
被告 YAGINUMAビジネスデザイン事務所こと
Y
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1)被告は,原告に対し,470万円及びこれに対する平成18年4月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
(3)仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1)原告は,被告の代理人B(以下「B」という。)との間で,被告が原告に対し株式会社ビラ・デ・エステ(以下「ビラ・デ・エステ」という。)の株式(以下「本件株式」という。)を1株11万円で譲渡し,原告がこれを第三者に対し1株30万円で譲渡する旨の合意をした。
(2)原告は,平成18年4月17日,被告との間で,本件株式14株を154万円で買うとの合意(以下「本件契約」という。)をした。
(3)原告は,平成18年4月17日,被告に対し,154万円を支払った。
(4)原告は,そのころ,新規上場予定株研究会の会員に本件株式の情報を提供したところ,3名から合計14株の購入申し込みを受け,420万円の支払を受けた。
(5)原告は,平成18年5月26日ころ,被告に対し,本件株式14株を引き渡すように催告したが,被告は,これに応じず,同年6月7日,原告に対し,本件株式が手元にないので,本件契約を破棄したいと通告した。
(6)そこで,原告は,平成18年7月3日までに,本件株式の購入を申し入れた新規上場予定株研究会の会員3名に対し,420万円を返金した。
(7)原告は,被告の債務不履行により,以下の損害を被った。
支払済みである本件契約の代金 154万円
逸失利益 266万円
信用失墜 50万円
(8)よって,原告は,被告に対し,債務不履行に基づき,損害賠償として470万円及びこれに対する平成18年4月17日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)から(3)までは否認する。
同(4)は不知。
同(5)は否認する。
同(6)は不知。
同(7)は否認ないし争う。
理由
1 事実関係
証拠(甲1から3まで,12,乙2,4,5,原告代表者,被告)によれば,次の事実が認められる。
(1)被告は,主に外食産業を中心として,フランチャイズ展開,株式公開などの企画立案,営業支援を行っているが,投資事業組合の無限責任組合員でもある。
被告は,取得する予定のあった本件株式を他に譲渡しようと考え,Bに対し,希望するものがいれば紹介して欲しいと依頼した。被告は,Bに対し,本件株式の譲渡が完了した後,譲渡価額から譲渡益課税を控除した金額と被告の取得する金額との差額を支払うことを口頭で約束した。
なお,本件株式には譲渡制限が付されていたので,譲渡するには,ビラ・デ・エステの譲渡承認が必要であった。そのため,被告と購入者との契約は,相対取引にして,被告において購入者が株主として適格を備えているかどうかを確認し,さらに,ビラ・デ・エステの代表者が面談し,次に取締役会の承認決議を得るという手続を経ることが予定されていた。
(2)原告は,平成18年3月,Bの訪問を受けた。Bは,原告代表者に対し,「IPO案件ご案内」と題する冊子と「株式譲渡引き受け申込書」と題する書面を示して,本件株式の購入を勧誘した。
(3)原告は,本件株式を購入し,他に転売して利益を得ようと考え,これを購入することとし,平成18年4月17日,Bとの間で,株式引き受け契約を締結し,「株式譲渡引き受け申込書」と題する書面に,譲渡引き受け株式数14株,1株当たりの引き受け価格11万円,譲渡引き受け総額154万円,申し込み証拠金154万円と記載して,Bに引き渡し,現金154万円を支払い,Bから,株式会社鷹匠が領収した旨の領収書を受け取った。
なお,「株式譲渡引き受け申込書」と題する書面には,譲渡制限に関する事項として,「株式の譲渡及び名義変更については取締役会の譲渡承認が必要となります。取締役会の譲渡承認が得られない場合には申し込み証拠金は無利息での返却となります。」との記載がある。
原告は,同日,譲渡引き受け株式数欄に14株と記載し,1株当たりの引き受け価格欄,譲渡引き受け総額欄及び申し込み証拠金欄を白紙のままにしたもう一通の「株式譲渡引き受け申込書」と題する書面(乙2)を作成し,これもBに引き渡した。
(4)Bは,平成18年4月17日,被告の三菱東京UFJ銀行の預金口座に112万円を振り込み,同月19日ころまでに,被告に対し,株式譲渡引き受け申込書」と題する書面(乙2)を渡した。
(5)被告は,平成18年5月26日,Bに対し,112万円を返済した。
(6)ビラ・デ・エステ代表者は,平成18年5月ころ,原告には,本件株式の譲渡承認をしないことを決めた。
(7)原告代表者は,平成18年6月2日,初めて被告と面談し,その場に,Bも同席した。原告代表者は,被告に対し,本件株式を引き渡すように求めたが,被告は,譲渡承認が得られないから,譲渡できない旨返事した。
その場で,Bは,原告代表者に対し,受け取った154万円を返すと申し入れたのに対し,原告代表者は,受け取れないから,返したのであれば,供託するように話した。
(8)ビラ・デ・エステは,平成18年8月30日,債権者に対し,水戸地方裁判所に同年9月中に法的整理の申立てをする旨の御連絡と題する書面を送付した。
2 本件契約の成否について
原告代表者は,被告に対し,「株式譲渡引き受け申込書」と題する書面を提出すれば,譲渡が制限される場合に該当するという連絡がない限り,申込みの時点に遡って本件契約が成立すると考えていた旨供述する。
しかし,原告代表者は,原告と被告との間に,直接にも間接にも,そのような取り扱いをするという合意は成立していないと供述し,また,そのような合意が成立したと認めるに足りる証拠はない。
被告がBを通じて原告に対し「株式譲渡引き受け申込書」と題する書面を交付した行為は,誘因行為であったというべきである。また,上記認定事実のとおり,本件株式は,譲渡制限付きであったため,被告としては,購入者との相対取引にして,購入者が株主として適格を備えているかどうかを確認し,さらに,ビラ・デ・エステの代表者が面談し,次に取締役会の承認決議を得るという手続を経ることが予定されていたのであって,「株式譲渡引き受け申込書」と題する書面が被告に届けられることによって本件契約が成立するということは予定されていなかった。
したがって,本件が成立するには,原告が作成した「株式譲渡引き受け申込書」と題する書面(必要事項が記載されたもの)が被告に届けられることによって,原告からの意思表示が被告に到達し,これに対する被告からの承諾の意思表示が原告に到達することの双方が必要である。ところが,被告に届いた「株式譲渡引き受け申込書」と題する書面(乙2)には,株式数以外の記載がなく,Bから振り込まれた112万円が購入金額の全額かどうかは不明であるから,原告から被告に対する本件契約締結の意思表示が到達したということはできないし,また,被告が112万円を1か月余り手元に保有していたことが承諾に当たるとまではいえず,他に,本件契約の承諾の意思表示が被告によってされたことを認めるに足りる証拠はない。原告と被告との間で直接本件契約が締結されたと認めるに足りる証拠はない。
さらに,被告がBに対し,本件株式の譲渡について委任していたと認めるに足りる証拠もないから,原告が被告の代理人であるBとの間で,本件契約を締結したということもできない。
以上の次第であって,本件契約が成立したと認めることはできない。
3 よって,原告の本件請求は,理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり,判決する。
(裁判官 長秀之)
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