「営業支援」に関する裁判例(127)平成19年 3月29日 東京地裁 平17(ワ)7089号 損害賠償請求事件
「営業支援」に関する裁判例(127)平成19年 3月29日 東京地裁 平17(ワ)7089号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年 3月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)7089号・平17(ワ)22154号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA03298020
要旨
◆原告らが、被告ゴルフクラブらは原告らがゴルフ会員権を購入するに際し、違法な勧誘を行い、また、回収の見込みが極めて低い投資により財産を散逸させたなどしたと主張して、被告らに対して損害賠償を求め、かかる損害賠償請求権を被保全権利として詐害行為取消などを求めた事案において、被告らは違法販売を行っていないため損害賠償は認められず、かかる違法販売を理由とする請求が認められることを要件とする請求についても理由がないなどとして、原告らの請求をいずれも棄却した事例
参照条文
民法424条
民法709条
民法719条
商法421条(平17法87改正前)
商法424条(平17法87改正前)
銀行法12条
裁判年月日 平成19年 3月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)7089号・平17(ワ)22154号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA03298020
当事者目録 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 富士カントリー大多喜城ゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフ場」という。)のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。)の違法販売行為による損害賠償請求
(1) 被告フジパングループ本社株式会社(以下「フジパン」という。),被告富士カントリー株式会社(以下「富士カントリー」という。),被告Y1及び被告Y2は,別紙当事者目録原告(1)記載の各原告(原告株式会社鶴岡興産,原告株式会社ミツワ及び原告東京ビジネスデータ処理サービス株式会社を除く。)に対し,連帯して3500万円及びこれに対する別紙遅延損害金起算日目録記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告フジパン,被告富士カントリー,被告Y1及び被告Y2は,別紙当事者目録原告(2)記載の各原告に対し,連帯して4000万円及びこれに対する別紙遅延損害金起算日目録記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告フジパン,被告富士カントリー,被告Y1及び被告Y2は,原告株式会社鶴岡興産に対し,連帯して3385万円及びこれに対する平成2年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告フジパン,被告富士カントリー,被告Y1及び被告Y2は,原告株式会社ミツワに対し,連帯して3262万円及びこれに対する平成2年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告フジパン,被告富士カントリー,被告Y1及び被告Y2は,原告東京ビジネスデータ処理サービス株式会社に対し,連帯して2245万円及びこれに対する平成15年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(被告富士カントリーの本案前の答弁)
原告らの被告富士カントリーに対する訴えを却下する。
2 有限会社大多喜城ゴルフ倶楽部(以下「大多喜城ゴルフ倶楽部」という。)の財産散逸行為による損害賠償請求
(1) 被告Y1及び被告Y2(以下「被告Y1ら」という。)は,別紙当事者目録原告(1)記載の各原告に対し,連帯して3500万円及びこれに対する平成16年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y1らは,別紙当事者目録原告(2)記載の各原告に対し,連帯して4000万円及びこれに対する平成16年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告富士カントリーの財産隠匿行為による損害賠償請求
(1) 被告Y1ら,被告フジパン,被告株式会社可児ゴルフ倶楽部(以下「可児ゴルフ倶楽部」という。),被告株式会社明智ゴルフ倶楽部(以下「明智ゴルフ倶楽部」という。),被告株式会社房総カントリークラブ(以下「房総カントリークラブ」という。)及び被告株式会社笠間ゴルフクラブ(以下「笠間ゴルフクラブ」という。)は,別紙当事者目録原告(1)記載の各原告に対し,連帯して3500万円及びこれに対する平成17年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y1ら,被告フジパン,被告可児ゴルフ倶楽部,被告明智ゴルフ倶楽部,被告房総カントリークラブ及び被告笠間ゴルフクラブは,別紙当事者目録原告(2)記載の各原告に対し,連帯して4000万円及びこれに対する平成16年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告可児ゴルフ倶楽部株式の質権設定についての詐害行為取消請求等
(1) 被告房総カントリークラブと被告富士カントリーとが,平成15年3月14日に,被告可児ゴルフ倶楽部の株式3000株についてなした質権の設定契約のうち,36株の限度でこれを取り消す。
(2) 被告房総カントリークラブが,被告富士カントリーに対し,上記質権に基づき平成16年11月16日になした質権の実行を36株の限度で取り消す。
(3) 被告房総カントリークラブは,原告有限会社丸大水産(以下「丸大水産」という。)及び原告高喜建設株式会社(以下「高喜建設」という。)に対し,各3500万円及びこれに対する上記(1)(2)の判決確定日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告笠間ゴルフクラブ株式の質権設定についての詐害行為取消請求等
(1) 被告明智ゴルフ倶楽部と被告富士カントリーとが,平成15年3月14日に,被告笠間ゴルフクラブの株式1400株についてなした質権の設定契約のうち,70株の限度でこれを取り消す。
(2) 被告明智ゴルフ倶楽部が,被告富士カントリーに対し,上記質権に基づき平成16年11月16日になした質権の実行を70株の限度で取り消す。
(3) 被告明智ゴルフ倶楽部は,原告株式会社テコム医学研修協会(以下「テコム医学研修協会」という。)に対し,3500万円及びこれに対する上記(1)(2)の判決確定日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件会員権の違法販売行為による損害賠償請求
各原告が,本件会員権の購入に関して,被告Y1らと共謀した各金融機関から違法な勧誘を受けたことにより損害を被ったと主張して,被告Y1らに対し,不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに,両名の行為は代表取締役の職務執行行為としてなされたと主張して,被告Y1らが代表取締役であった被告フジパン及び被告Y2が代表取締役であった被告富士カントリーに対し,代表者の職務執行行為についての損害賠償を求めた事案である。
2 大多喜城ゴルフ倶楽部の財産散逸行為による損害賠償請求
各原告が,被告Y2は大多喜城ゴルフ倶楽部の代表取締役及び取締役として,被告Y1は大株主として,いずれも会社の経営を支配していたところ,両名は,共謀して,入会から15年経過以降の預託金返還時期に預託金を返還することが著しく困難となることを知りながら,各原告らが預けた預託金をリスクの高い海外のゴルフ場に投資するなどして,返還を不可能にしたと主張して,被告Y1らに対し,共同不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
3 被告富士カントリーの財産隠匿行為による損害賠償請求
各原告が,被告Y2は被告富士カントリーの代表取締役であり,被告Y1は取締役であったところ,被告可児ゴルフ倶楽部,被告明智ゴルフ倶楽部,被告房総カントリークラブ及び被告笠間ゴルフクラブ(以下,4社をあわせて「存続4社」という。)の各代表取締役と共謀の上,被告富士カントリーの財産を被告存続4社に移転するなどして隠匿し,各原告の被告富士カントリーに対する上記1に基づく債権の行使を妨げたと主張して,被告Y1らに対し,取締役の第三者に対する損害賠償を求め,被告存続4社及び被告Y1らが代表取締役であった被告フジパンに対し,代表者の職務執行行為についての損害賠償を求めた事案である。
4 被告可児ゴルフ倶楽部株式の質権設定についての詐害行為取消請求等
原告丸大水産及び原告高喜建設が,被告富士カントリーの被告房総カントリークラブに対する質権設定及び被告房総カントリークラブによる質権実行は,同原告両名の上記1に基づく被告富士カントリーに対する債権を害するものであると主張して,被告房総カントリークラブに対し,詐害行為として質権設定の取消及び価額賠償を求めた事案である。
5 被告笠間ゴルフクラブ株式の質権設定についての詐害行為取消請求等
原告テコム医学研修協会が,被告富士カントリーの被告明智ゴルフ倶楽部に対する質権設定及び被告明智ゴルフ倶楽部による質権実行は,同原告の上記1に基づく被告富士カントリーに対する債権を害するものであると主張して,被告明智ゴルフ倶楽部に対し,詐害行為として質権設定の取消及び価額賠償を求めた事案である。
第3 前提事実(証拠等で認定した事実については,各項の末尾に証拠等を摘示した。)
1 当事者等
(1) 被告フジパンは,昭和26年,富士製パン株式会社の商号で,各種パン,菓子類の製造及び販売等を主たる目的として設立され,昭和41年,フジパン株式会社に商号変更し,平成18年7月1日,現商号に変更した。そして,被告フジパンは,同月3日,会社分割により新会社であるフジパン株式会社(以下「新会社」という。)を設立し,これまで営んできたパン事業をすべて承継させ,その新会社の持株会社となった。
なお,本件請求に関する債務は,パン事業に関して発生したものではないから,その債務は新会社に承継されなかった。
被告Y1は,昭和26年から被告フジパンの取締役であり,昭和40年から現在に至るまで代表取締役である。
被告Y2は,昭和48年から平成14年9月25日まで被告フジパンの代表取締役であり,昭和40年から平成15年5月1日まで取締役であった。
(甲1の1,4,5,甲206の1から3まで,被告Y1,被告Y2(第1回),弁論の全趣旨)
(2) 被告富士カントリーは,昭和46年12月,ゴルフ場の開発とゴルフ場運営会社への出資及び会員権販売請負を目的として設立された。
被告富士カントリーは,自らゴルフ場事業を営むほか,大多喜城ゴルフ倶楽部,被告存続4社を含むグループ企業の中核会社として,グループ企業に対して金融支援,営業支援及び業務支援をしていた。
被告Y2は,被告富士カントリーの設立当時から平成16年12月15日(解散の日)まで被告富士カントリーの代表取締役であり,その持株数は,平成元年ころにおいて発行済株式の19%であった。
被告Y1は,被告富士カントリーの設立当時から平成15年2月26日まで被告富士カントリーの取締役であり,昭和52年2月22日から昭和56年6月30日まで代表取締役であった。また,被告Y1は,設立当初から被告富士カントリーの株主であり,平成元年ころにおいて発行済株式の12%を所有していた。
被告フジパンは,被告富士カントリーの設立直後に発行済株式の20%を所有していたが,昭和60年ころまでに被告Y2及び被告富士カントリーの関連会社にすべて売却した。
(甲2の1から3まで,甲3の1から5まで,甲27の1,2,甲205の1,2,乙A4,乙B2,被告Y2(第1回))
(3) 大多喜城ゴルフ倶楽部は,本件ゴルフ場の開発・運営を主たる目的として,昭和61年9月,株式会社富士カントリー大多喜城ゴルフ倶楽部の商号で設立され,平成13年8月,有限会社に組織変更し,平成17年8月1日,現商号に変更した。
被告Y2は,平成元年1月から平成11年ころまで大多喜城ゴルフ倶楽部の取締役,平成元年1月から平成6年3月まで代表取締役であった。
(甲5の1から4まで,甲64)
(4) 被告可児ゴルフ倶楽部(旧商号株式会社富士カントリークラブ),被告房総カントリークラブ,被告明智ゴルフ倶楽部(旧商号株式会社富士カントリー明智ゴルフ倶楽部)及び被告笠間ゴルフクラブは,いずれも被告富士カントリーの関連会社として設立された。
(弁論の全趣旨)
2 本件会員権の募集
(1) 大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成元年7月以降,本件ゴルフ場のゴルフ会員を募集し,その際,被告富士カントリーが募集代行業者を務めた。
(甲64,70の2)
(2) 大多喜城ゴルフ倶楽部は,朝日信用金庫,株式会社千葉銀行,株式会社みずほ銀行(当時は株式会社富士銀行又は株式会社第一勧業銀行),株式会社京葉銀行,株式会社名古屋銀行,株式会社東京スター銀行(当時は株式会社東京相和銀行),株式会社岐阜銀行及び株式会社東日本銀行(以下,上記の金融機関をあわせて「提携金融機関」という。)との間で,平成元年12月ころまでに,提携金融機関が,その取引先等に対して本件ゴルフ場を紹介し,本件会員権の購入希望者に対して,その購入資金を融資するとともに,大多喜城ゴルフ倶楽部が購入希望者の借入債務について提携金融機関に対して連帯保証する旨の提携ローンの合意をした。
(甲41,被告Y2(第1回),被告房総カントリークラブ代表者,弁論の全趣旨)
(3) 別紙当事者目録原告(1)記載の各原告(原告平林物産株式会社については有限会社平林種苗農芸,原告東京ビジネスデータ処理サービス株式会社についてはセンチュリー監査法人,原告X1については株式会社森田デザイン・アソシエイツをいう。同原告らはいずれも本件会員権の譲受人である。)は,平成元年12月から平成2年8月までの間に,特別縁故募集により,入会金309万円,預託金3500万円で本件会員権を購入した。また,別紙当事者目録原告(2)記載の各原告は,平成3年5月から11月までの間に,第一次募集により,入会金500万円,預託金4000万円で本件会員権を購入した。
(甲45の1から7まで,甲46の1から16まで,甲47,甲48,甲49の1から5まで,甲50から甲52まで,甲71の1から6まで,甲72の1から4まで,甲73の1,2,甲74,甲75の1から3まで,甲76)
3 大多喜城ゴルフ倶楽部の投資行為等
(1) 大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成2年6月,海外投資会社であるエフジェーシー有限会社に35億円を出資し,昭和62年から平成5年6月までに,アメリカ合衆国にゴルフ場を所有していたFBD ENTERPRISES USA INCに対し,12億9291万8000円を出資した。
(乙D5,被告富士カントリー代表者,弁論の全趣旨)
(2) 大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成2年6月,兼松日産農林株式会社の株式23万4000株を2億7329万5740円で購入し,平成5年6月,約1億2285万円で売却した。
(甲224の1,弁論の全趣旨)
(3) 大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成3年6月,日米富士自転車株式会社の株式13万6000株を9385万3600円で購入し,平成8年6月,約3600万円で売却した。
(甲224の2,弁論の全趣旨)
(4) 大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成元年6月期に1億7545万2200円で被告フジパンの株式11万株を,平成2年6月期に4億3788万7134円で被告フジパンの株式28万2742株をそれぞれ購入し,平成14年6月,4億3201万6200円で売却した。
(弁論の全趣旨)
4 被告富士カントリーの財産処分行為
(1) 被告フジパンの株式等の売却
ア 被告富士カントリーは,平成14年11月30日までに,有限会社富士カントリー小萱倶楽部に対し,所有していた被告フジパンの株式72万株を3億7000万円で売却した。また,平成14年7月1日から平成15年6月30日までの間に,所有していた被告フジパンの株式332万7000株をベーカリーシステム研究所に売却した。
(乙D5,被告富士カントリー代表者,弁論の全趣旨)
イ 被告富士カントリーは,平成15年11月20日,被告可児ゴルフ倶楽部に対し,所有していた株式会社コモ(以下「コモ」という。)の株式21万8000株を3億0052万4415円で売却した。
(乙D5,弁論の全趣旨)
(2) 被告存続4社株式に対する質権設定
ア 被告富士カントリーは,平成15年3月14日ころ,所有していた被告可児ゴルフ倶楽部の株式1万株のうち,被告明智ゴルフ倶楽部との間で3000株,被告房総カントリークラブとの間で3000株,被告可児ゴルフ倶楽部との間で4000株について,それぞれに対する貸金債務を担保するため質権を設定する旨合意をした。
(乙D5,被告富士カントリー代表者,弁論の全趣旨)
イ 被告富士カントリーは,同日ころ,被告明智ゴルフ倶楽部との間において,所有していた同社の株式22万4438株について,同社に対する貸金債務を担保するため質権を設定する旨合意した。
(乙D5,被告富士カントリー代表者,弁論の全趣旨)
ウ 被告富士カントリーは,同日ころ,被告房総カントリークラブとの間において,所有していた同社の株式200株について,同社に対する貸金債務を担保するため質権を設定する旨合意した。
(乙D5,被告富士カントリー代表者,弁論の全趣旨)
エ 被告富士カントリーは,同日ころ,被告明智ゴルフ倶楽部との間において,被告笠間ゴルフクラブの株式1400株について,被告明智ゴルフ倶楽部に対する貸金債務を担保するため質権を設定する旨合意した。
(乙D5,被告富士カントリー代表者,弁論の全趣旨)
オ 平成16年11月16日,アからエまでの各質権設定契約の質権者は,それぞれ質権を実行して,各株式を取得した。
(乙D5,被告富士カントリー代表者,弁論の全趣旨)
(3) 借入金弁済のための資産売却
ア 被告富士カントリーは,平成13年8月28日,被告明智ゴルフ倶楽部に対し,所有していた明智ゴルフ場東コースを,75億4972万円で売却し,その代金と被告明智ゴルフ倶楽部からの借入金とを相殺した。
(甲78の1,甲121の2,甲228,乙D5,被告富士カントリー代表者)
イ 被告富士カントリーは,被告可児ゴルフ倶楽部に対し,平成13年12月27日,所有していた可児ゴルフ倶楽部美濃コースの持分5分の3を,58億4527万円で,平成15年12月8日,同持分5分の2を30億1988万円で,それぞれ売却し,いずれも代金と被告可児ゴルフ倶楽部からの借入金等とを相殺した。
(甲77の1,2,乙D5,被告富士カントリー代表者)
ウ 被告富士カントリーは,平成15年3月26日及び27日,所有していた十六銀行の株式393万6000株を市場で売却し,118株は十六銀行に対して端株買取請求をし,その代金は,十六銀行に対する債務の返済に充当した。
(乙D5,弁論の全趣旨)
エ 被告富士カントリーは,千葉銀行との間において,平成15年3月12日,出島ゴルフ倶楽部の不動産に極度額を25億円とする根抵当権を,同年4月15日,市原ゴルフ倶楽部の不動産に極度額を25億円とする根抵当権を,それぞれ設定する合意をした。
(甲171の1,2,被告富士カントリー代表者)
オ 被告富士カントリーは,平成13年9月26日,岐阜銀行との間において,小萱チェリークリークゴルフ場の不動産に極度額を20億円とする根抵当権を設定する合意をした。
(甲171の3,被告富士カントリー代表者)
5 大多喜城ゴルフ倶楽部の推移
(1) 大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成元年以降,特別縁故募集として800名の法人会員を集めた後,追加の第一次募集を行い,平成4年11月30日,本件ゴルフ場を開場した(平成12年ころの公表会員数は法人939名)。
(甲42,64,甲70の2)
(2) 大多喜城ゴルフ倶楽部は,上記3(1)のとおり,海外ゴルフ場等への投資を行ったが,その後海外のゴルフ場の価額が大幅に下落し,出資会社が大幅な債務超過に陥ったことから,出資金の回収が不能となった。
また,大多喜城ゴルフ倶楽部は,本件会員権の販売にあたって,購入者が前記提携ローンを利用した際には,自らも連帯保証債務を負担していたが,バブル経済崩壊後における経済不況の深刻化・長期化によって,会員権購入のためのローンの支払が困難となる会員が続出した結果,提携金融機関から,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して保証債務の履行請求が相次ぎ,その支払額は約92億円となり,それ以上の提携ローンの連帯保証債務履行が不可能な状態に陥った。
さらに,平成7年当時約1000万円であった会員権相場が,平成15年には250万円程度に下落し,預託金券面額を大幅に割り込むこととなり,大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成16年12月30日以降に償還時期を順次迎える預託金について,会員権の分割を条件に据置期間の延長を求めたが,その約3割について同意を得ることができず,預託金返還請求に応じられない見込みとなった。
(甲28の1,甲64)
(3) こうしたことから,大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成16年12月6日に,当庁に対して民事再生手続開始の申立てを行って倒産し,同月10日に民事再生手続開始決定を受けた。その後,平成17年4月27日,スポンサーとして東急不動産株式会社を選定し,預託金返還請求権について元本等の95%の免除を受けること等を内容とする再生計画について認可決定を受けた。
(甲28の1,甲64,甲158の1,2,乙C6,8,9)
6 被告富士カントリーの清算手続
(1) 被告富士カントリーは,平成16年12月15日,株主総会において解散を決議し,当庁に対して特別清算手続開始の申立てを行い,同月16日に特別清算手続開始決定を受けた。
(甲3の5,甲27の1,乙D1)
(2) 被告富士カントリーは,平成16年12月20日,同月21日及び同月22日の3回,被告富士カントリーは解散したこと,同月20日の翌日から2か月以内に債権の申出をすべきこと,申出がない場合は清算から除斥する旨を公告したが,原告らはいずれも債権申出期間中に被告富士カントリーに対する本訴請求債権の申出をしなかった。
(乙D3の1から3まで,弁論の全趣旨)
(3) 債権の申出の結果によれば,被告富士カントリーの総債務額は約1801億円であり,別除権付債権の不足見込額と一般債権額の合計は約1799億円であったのに対し,特別清算手続開始決定時における資産評価額の合計は約38億円であった。
(甲27の1)
第4 請求原因事実の骨子と争点(主要な争点については,後記第5において当事者の主張を記載した。)
1 本件会員権の違法販売行為による損害賠償請求について
(1) 被告Y1らに対する請求(不法行為責任)について
ア 被告Y1らと提携金融機関との共謀について(争点1)
イ 提携金融機関による違法な勧誘行為について(争点2)
(ア) 本件会員権に関する虚偽の説明
(イ) 本件会員権に関する断定的な説明
(ウ) 提携金融機関の優越的地位の濫用
(エ) 販売媒介行為の銀行法違反
ウ 被告Y1らの故意又は過失について(争点3)
エ 原告らの損害について(争点4)
オ 提携金融機関による違法な勧誘行為と原告らの損害との因果関係(争点5)
(2) 被告フジパンに対する請求(法人の不法行為責任)について
ア 前記(1)と同じ。
イ 被告Y1らと提携金融機関との共謀の職務関連性について
(原告らの主張)
被告フジパンは,自らのブランドを利用させる対価として被告富士カントリーから事業資金の提供を受けていたのであり,被告Y1らと提携金融機関との共謀は,被告フジパンの代表取締役としての職務執行としてされたものである。
(3) 被告富士カントリーに対する請求(法人の不法行為)について
ア 訴えの利益について(争点6)
イ 前記(1)と同じ。
ウ 被告Y2と提携金融機関との共謀の職務関連性について
(原告らの主張)
被告Y2と提携金融機関との共謀は,被告富士カントリーの代表取締役としての職務執行としてされたものである。
2 大多喜城ゴルフ倶楽部の財産散逸行為による損害賠償請求(不法行為責任)について
(1) 大多喜城ゴルフ倶楽部の財産散逸行為について
(原告らの主張)
大多喜城ゴルフ倶楽部は,原告らから預託を受けた資金を利用して海外ゴルフ場や株式への投融資を行い,85億円の回収不能を生じさせた。
また,大多喜城ゴルフ倶楽部は,預託金の償還責任を優先するのであれば,提携金融機関への保証債務履行は棚上げする必要があったにもかかわらず,会員権ローンの保証債務の履行として,提携金融機関に対して漫然と返済に応じ,そのため92億円の資金を流出させた。
(2) 被告Y2の故意又は過失及び被告Y1らの共謀について(争点7)
(3) 原告らの損害について
(原告らの主張)
別紙当事者目録原告(1)記載の原告らは,大多喜城ゴルフ倶楽部に対し,3500万円を,同目録原告(2)記載の原告らは,4000万円を,それぞれ預託金として支払ったが,預託金の返還は不可能となったから,同額の損害が発生した。
(4) 大多喜城ゴルフ倶楽部の財産散逸行為と原告らの損害との因果関係について
(原告らの主張)
大多喜城ゴルフ倶楽部の財産散逸行為がなく,177億円が確保されていれば,平成16年12月以降に償還時期を迎える預託金は230億円であったこと,ゴルフ場資産が無担保であったこと,会員の7割は会員権分割によって据置期間の延長に同意していたことに照らして,大多喜城ゴルフ倶楽部が倒産することはなかった。
3 被告富士カントリーの財産隠匿行為による損害賠償請求について
(1) 被告Y1らに対する請求(取締役の第三者に対する責任)について
ア 被告富士カントリーの財産処分行為について
前記第3の4に認定のとおり。
イ 被告Y1らの任務懈怠について(争点8)
ウ 被告Y1らの故意又は重過失について
(原告らの主張)
被告Y1らの行為は,両名が中心となって直接計画して実行したものであって,悪意に基づくことは明らかである。
エ 原告らの損害について
前記2(3)と同じ
オ 被告富士カントリーの財産隠匿行為と原告らの損害との因果関係について
(原告らの主張)
前記1(3)のとおり,原告らは,被告富士カントリーに対し,違法販売による損害賠償請求権を有しているところ,被告Y1らの任務懈怠行為により,被告富士カントリーの特別清算における配当率は1%程度になり,原告らは債権届出の必要性を考えることができなくなったのであるから,原告らは債権届出や適正な配当を受ける権利を侵害された。
したがって,原告らの損害と上記任務懈怠との間に因果関係がある。
(2) 被告フジパン及び被告存続4社に対する請求(法人の不法行為責任)について
ア 前記(1)ア,エ及びオと同じ。
イ 被告Y1ら,A(以下「A」という。),B(以下「B」という。),C(以下「C」という。)及びD(以下「D」という。)の共謀について
(原告らの主張)
被告Y1ら,A,B,C及びDは,平成13年8月ころ,被告富士カントリーが所有する被告存続4社の株式を適正に換価して債権者に配当することを免れるとともに,自らの経営者としての地位を保全するために,被告存続4社の株式に質権を設定し,実行することにより,被告存続4社を被告富士カントリーから独立させて,親子関係の切断をはかることを共謀した。
ウ 上記6名の故意又は過失について
(原告らの主張)
上記6名の共謀は,上記6名が中心となって直接計画して実行したもので,悪意に基づくことは明らかである。
エ 上記6名の共謀の職務関連性について
4 被告可児ゴルフ倶楽部の株式の質権設定についての詐害行為取消請求等について
(1) 被保全権利について
前記1(3)と同じ。
(2) 詐害行為取消権の成立について
ア 除斥債権か否かについて(争点9)
イ 被告富士カントリーの無資力について
(原告丸大水産,原告高喜建設の主張)
被告富士カントリーと被告房総カントリークラブとの間の被告可児ゴルフ倶楽部の株式3000株の質権設定契約時(平成15年3月14日)において,被告富士カントリーは,原告丸大水産及び原告高喜建設の被告富士カントリーに対する債権を満足させるに足りる資産を有しなかった。
ウ 被告富士カントリーの詐害意思について
(原告丸大水産,原告高喜建設の主張)
被告富士カントリー及び被告房総カントリークラブは,上記質権設定契約時において,質権設定により被告富士カントリーの債権者を害することを知っていた。
(3) 価額賠償の可否及びその数額について(争点10)
5 被告笠間ゴルフクラブの株式の質権設定についての詐害行為取消請求等について
(1) 被保全権利について
前記1(3)と同じ。
(2) 詐害行為取消権の成立について
ア 前記4(2)ア及びウと同じ。
イ 被告富士カントリーの無資力について
(原告テコム医学研修協会の主張)
被告富士カントリーと被告明智ゴルフ倶楽部との間の被告笠間ゴルフクラブの株式1400株の質権設定契約時(平成15年3月14日)において,被告富士カントリーは,原告テコム医学研修協会の被告富士カントリーに対する債権を満足させるに足りる資産を有しなかった。
(3) 価額賠償の可否及びその数額について(争点11)
第5 争点についての当事者の主張(争点について,被告らはいずれも否認又は不知と認否しており,「被告らの主張」には,それ以外の主張を記載した。)
1 争点1(被告Y1らと提携金融機関との共謀)について
(原告らの主張)
本件会員権の募集当時,被告フジパンは被告富士カントリーの親会社ではなく,被告フジパンが,被告富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかった。それにもかかわらず,被告Y1らは,経営母体が重要という時代背景に乗って本件会員権を売り切る必要があると判断して,フジパンブランドを利用して本件会員権購入の勧誘をすることとした。
被告Y1らは,平成元年10月ころ,本件会員権を提携金融機関に事実上委託して販売することを決定し,被告Y2は,部下のE,Cとともに提携金融機関の割当口数を決定し,被告Y1の了解を取った。その上で,被告Y1らは,被告富士カントリーの提携金融機関担当の営業部長に提携金融機関の本部を訪問させるなどして,購入希望者の紹介を依頼させ,営業社員をして,提携金融機関の各支店長に対して,パンフレットと入会申込書などの必要書類一式が入った封筒を配り,被告フジパンが経営母体のゴルフ場であることを説明し,顧客に対してフジパンブランドを利用して勧誘することを依頼させた。これにより,フジパンブランドを利用して本件会員権購入の勧誘をすることについて,被告Y1らと提携金融機関との共謀が成立した。
(被告フジパン及び被告Y1の主張)
被告フジパン及び被告Y1が,被告富士カントリーに対して,自社のブランドを使用して本件会員権を販売することを承諾していたことはない。
(被告Y2の主張)
被告富士カントリーは,昭和60年ころまでは,被告フジパンから人員の派遣や出資を受けるという協力関係にあったが,昭和61年3月ころには,その協力関係は清算している。被告Y2が被告フジパンと被告富士カントリーの役員を兼務していたからといって,被告フジパンの事業と被告富士カントリーの事業が同一になるものではない。被告Y2は,ゴルフ場事業の業務遂行に関して,被告フジパンの副社長等役員であると名乗ったことはないし,名刺も所持していなかった。
平成元年ころにおいても,フジパンの関東地域におけるパン業界でのシェアは数パーセントにすぎず,フジパンの知名度は極めて低いものにすぎなかった一方,大多喜城ゴルフ倶楽部は被告富士カントリーグループ企業に属することで,買い希望の顧客が殺到する状況であった。
被告Y2は,被告富士カントリーが本件会員権を販売するに際して,被告フジパンの名を利用するよう指示したことはなく,提携金融機関による本件会員権購入の勧誘に際しても,被告フジパンの名を利用するよう指示したことはないし,被告フジパンの名を利用する必要も全くなかった。
(被告富士カントリーの主張)
本件会員権の募集当時,ゴルフ会員権は,その相場価格の急激な上昇により投資対象として人気があり,ゴルフ会員権の縁故募集といえば,経営母体にかかわらず,申込みが殺到していた。大多喜城ゴルフ倶楽部は,高級接待用ゴルフ場として当時のニーズに合致しており,被告富士カントリーは,ゴルフ場経営会社として高い知名度を獲得していたので,募集開始当初から申込みが殺到し,入会審査が遅れがちで対応に困ったほどであった。また,昭和59年9月には被告フジパンとの資本関係を解消し,昭和61年3月には,被告フジパンとの関係も出向者をなくすなど,両者の関係を整理しており,平成元年以降の本件会員権の募集において,被告富士カントリーの従業員が入会希望者に対して「フジパンのゴルフ場」などと説明することはあり得ない。
2 争点2(提携金融機関による違法な勧誘行為)について
(原告らの主張)
提携金融機関による勧誘行為は,以下のとおり,虚偽で断定的な内容を説明し,優越的地位を濫用し,取締法規に違反する違法なものであった。
(1) 虚偽説明
本件会員権の募集当時,被告フジパンは被告富士カントリーの親会社ではなく,被告フジパンが,被告富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかったのであるから,提携金融機関は,そのような誤解を与えることのないような説明を行うべきであったにもかかわらず,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還について被告フジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行った。
(2) 断定的説明
提携金融機関は,原告らに対し,「フジパンだから安心」「フジパンだから絶対につぶれない」などゴルフ場の経営が万全であるかのような断定的な説明を行った。
(3) 優越的地位の濫用
提携金融機関は,その社会的な信用に加えて,取引先である原告らとの継続的な銀行取引によって培ってきた信頼関係や,原告らの経営内容や資産状況などの内情を把握しているという点や,今後も融資の可否を判断する立場という総合的な優越的地位を利用して本件会員権の販売を媒介した。
(4) 銀行法違反の販売媒介行為
提携金融機関は,単なるゴルフ場の紹介にとどまらず,ゴルフ場の入会申込書までも原告らから受領した。ゴルフ場関係者による説明や勧誘などが一切介在しない金融機関の直接媒介による入会手続は,銀行法や大蔵省の通達によって禁止されている金融機関の目的外行為であり,当然に違法である(銀行法12条)。また,こうした提携金融機関による媒介行為に対して,大多喜城ゴルフ倶楽部からは,協力預金という名のもとに対価が支払われていたから,特にその違法性は強い。
(被告富士カントリーの主張)
仮に提携金融機関が「フジパンのゴルフ場」などと説明したとしても,被告富士カントリーが提携金融機関に対してそのような勧誘をするように指示をしたことはない。
3 争点3(被告Y1らの故意又は過失)について
(原告らの主張)
被告Y1らは,上記2の提携金融機関による違法な勧誘行為を次のとおり認識し,予測していたのであるから,被告Y1らには故意又は過失がある。
(1) 虚偽説明
被告Y1らは,従来,被告フジパンのゴルフ場として,可児ゴルフ倶楽部,房総カントリークラブ,笠間ゴルフクラブ等の会員権の販売を提携金融機関に委託していた経過から,平成元年から販売を開始した本件会員権についても,そのまま委託すれば「フジパンのゴルフ場」という説明付きで提携金融機関の行員が勧誘することは明らかであった。平成元年当時は,既に被告フジパンは被告富士カントリーの親会社でなかったにもかかわらず,被告Y1らは,フジパンブランドの使用中止を指示しなかった。
(2) 断定的説明
被告Y1らは,提携金融機関の行員が,フジパンのブランドを出して勧誘する場合に,「フジパンだから安心」「フジパンだから絶対つぶれない」という断定的な説明を行うことは当然認識していたし,3809万円という高額な商品をローンで購入する場合に,購入者は絶対の安心感がなければ契約しないということは当然知っていた。また,勧誘する提携金融機関の行員が,預金と貸付けのノルマ達成のために,断定的な言い方に及ぶことも当然予測していた。
(3) 優越的地位の濫用
被告Y1らは,提携金融機関の行員が,上記2(3)のとおり,優越的地位を利用して,勧誘することも当然予定していた。
(4) 銀行法違反の販売媒介行為
被告Y1らは,上記2(4)の勧誘方法が違法であること,協力預金という名のもとに対価が支払われ,特に違法性が強いということ,この勧誘方法が国会でも問題とされ,大蔵省から自粛通達が繰り返しなされていたことを知っていた。
4 争点4(原告らの損害)について
(原告らの主張)
原告株式会社オーモリ,原告渋谷商事株式会社及び原告有限会社なべやは,それぞれ預託金4000万円,入会金500万円,銀行借入金の利息等を支出しており,損害額はそれぞれ4000万円を下らない。
原告株式会社鶴岡興産は,預託金3500万円,入会金309万円,銀行借入金の利息等を支出し,弁護士費用として200万円以上の支出が予定されているが,平成17年5月26日の本件口頭弁論期日において,本件の損害賠償請求権をもって,提携ローンの残額と対当額で相殺する旨の意思表示をしたため,相殺後の残額は3385万円であり,これが損害額である。
原告株式会社ミツワは,預託金3500万円,入会金309万円,銀行借入金の利息等を支出し,弁護士費用として200万円以上の支出が予定されているが,平成17年5月26日の本件口頭弁論期日において,本件の損害賠償請求権をもって,提携ローンの残額と対当額で相殺する旨の意思表示をしたため,相殺後の残額は3262万円であり,これが損害額である。
原告明治神宮は,預託金3500万円,入会金309万円を支出しており,損害額は3500万円を下らない。
原告東京ビジネスデータ処理サービス株式会社は,平成15年11月ころ,Fから,同人がセンチュリー監査法人名義で3500万円で購入した本件会員権を2000万円で購入し,その際,名義変更入会金として大多喜城ゴルフ倶楽部に30万円,仲介業者に15万円を支払い,弁護士費用として200万円以上の支出が予定されているから,損害額は2245万円を下らない。
その余の原告ら(原告平林物産株式会社については有限会社平林種苗農芸,原告X1については株式会社森田デザイン・アソシエイツをいう。同原告らはいずれも本件会員権の譲受人である。)は,それぞれ預託金3500万円,入会金309万円,銀行借入金の利息等を支出しており,損害額はそれぞれ3500万円を下らない。
(被告Y2の主張)
原告らは,いずれも本件会員権を取得しており,その意味において原告らに損害は発生していない。
5 争点5(提携金融機関による違法な勧誘行為と原告らの損害との因果関係)について
(原告らの主張)
原告らは,被告Y1ら及び提携金融機関の共謀がなければ,提携金融機関の行員が原告らに対して「フジパンが経営母体である」との虚偽の説明を行わず,そうであれば,原告らはいずれも本件会員権を購入していないし,ローン契約も締結していないのであるから,各勧誘行為と原告らの損害とは因果関係がある。
(被告Y2の主張)
原告らは,いずれも本件会員権を取得しており,その意味において損害は発生していない。その後大多喜城ゴルフ倶楽部の民事再生手続において再生計画案が可決認可されたことにより,原告らの有していた預託金債権が減額されたにすぎず,本件会員権販売行為と原告らの主張する損害とは法的に相当因果関係がない。
6 争点6(訴えの利益)及び争点9(除斥債権か否か)について
(被告富士カントリーの本案前の答弁に関する主張)
原告らは,被告富士カントリーの特別清算手続における債権申出期間中に本訴請求債権について申出をしなかったから,特別清算手続から除斥されており,たとえ本案判決において本訴請求債権の存在が認められたとしても,被告富士カントリーに対する関係では原告らが債権回収をすることは事実上不可能であるから,原告らの被告富士カントリーに対する請求について訴えの利益はない。
(被告明智ゴルフ倶楽部の主張)
原告らは,被告富士カントリーの特別清算手続における債権申出期間中に本訴請求債権について申出をしなかったのであるから,除斥債権である。
(原告らの主張)
被告富士カントリーは,特別清算手続における債権者集会において,被告フジパンと共同してフジパンブランドを利用した販売を行った事実を否定する虚偽の説明をし,また,多額の財産隠匿行為を明らかにせず,配当率はせいぜい2%に過ぎないと説明したため,原告らは債権申出をしても実益に乏しいと考えて申出をしなかったものであり,債務者の妨害行為によって申出が困難となったものであるから,除斥債権とはならないとすべきである。
仮に,債権届出期間中に申出をしなかった債権について除斥債権の規定が適用されるとしても,被告富士カントリーは,会員の氏名及び住所を把握しており,フジパンブランドを偽装した違法販売行為に基づく損害賠償義務を負うことを認識していたから,原告らは「知れている債権者」に該当し,特別清算手続から除斥されないというべきである。
7 争点7(被告Y2の故意又は過失及び被告Y1らの共謀)について
(原告らの主張)
被告Y2は,海外ゴルフ場への投資について資金の回収の見込が極めて低いことを予想していたか予想し得たのであって,かつ,将来確実に預託金償還の時期が到来する事を確知していたのであるから,投資に失敗すれば,そのしわ寄せが原告ら本件会員権の購入者らに及ぶことを当然に認識していた。また,景気が低迷すれば,新規の会員権販売による収入によっては,預託金返還に要する費用をまかなうことができないことも十分に予想し得た。したがって,預託金を元に投資を行う以上,あらゆる経済事象の変動を予測した上で慎重に投資計画を立てるべきであって,安易な計画に基づいて根拠薄弱な投資を行うべきではなかった。さらに,預託金の償還責任を優先するのであれば,提携金融機関への会員権ローンの保証債務の履行は棚上げする必要があった。それにもかかわらず,被告Y2は,預託金を保持して会員の地位を保全する義務に違反して,漫然と海外投資や株式投資など前記第4の2(1)の財産散逸行為を繰り返したものであって,これらの行為は被告Y2の故意又は過失に基づくものである。
被告Y1らは,いずれも大多喜城ゴルフ倶楽部の役員及び大株主であり,また,親会社である被告富士カントリーの役員として,大多喜城ゴルフ倶楽部の経営を左右する支配的立場にあったのであるから,大多喜城ゴルフ倶楽部の財産散逸行為は,被告Y1らの共謀の上行われたものである。
(被告Y2の主張)
本件会員権の募集当時は,日本のゴルフ場経営会社の多くが,多数の海外ゴルフ場に多額の投資をした時期であり,ブランドイメージの向上という点では,海外進出は必要かつ有益なことであった。また,大多喜城ゴルフ倶楽部は,本件会員権募集に際して,募集要項に海外のゴルフ場利用についても明示しており,その当時は,ニューヨークへの日本企業の進出が急増したころでもあったため,ニューヨーク近郊にあるゴルフ場でプレーできることで本件会員権の価値を高めることを意図したものである。さらに,海外拠点を有することにより,若いスタッフの教育訓練の場を得て,人材の募集が極めて困難であった時期に,優秀な人材が確保しやすくなったという効果もあった。
なお,投資対象のゴルフ場を選定するに当たっては,パブリックで運営されている物件であるか否か,日本企業が集中している大都市から利便性を有する立地条件であるか,将来的なゾーニング規制の変更の可能性があるか否かを主な着眼点として綿密に検討をして判断をしたものである。
ところが,バブル経済が崩壊し,海外ゴルフ場を利用する日本企業の駐在員も激減し,被告富士カントリーも事業継続のため海外ゴルフ場を手放さざるを得なくなったのであり,経営権取得時には長期保有を考えており,バブル経済の崩壊を予想することは不可能であった。
8 争点8(被告Y1らの任務懈怠)について
(原告らの主張)
平成13年の段階で,被告富士カントリーは,すでに海外投資の損失は確定的であり,またゴルフ会員権相場が再び上昇することも見込めないという事態に陥り,平成17年ころより本格化する預託金の償還に応じることは不可能であった。また大多喜城ゴルフ倶楽部など子会社ゴルフ場において,預託金の償還が不能となった場合には,原告らのように被告フジパンのゴルフ場と騙されて購入した会員たちが,販売者たる被告富士カントリーに損害賠償を請求することが予想されていた。
平成13年時点で,被告富士カントリーに残っていた価値ある財産は,被告フジパン及びコモの株式,株主会員制にて経営する子会社株式,ゴルフ場コースの所有権などであったが,これらを総合しても,提携金融機関に対する残債務や,預託金返還請求及び損害賠償請求を満足させることは不可能であった。
会社が債務超過に陥り,その上債務の履行ができず破綻が免れない状態に至った場合,当該会社の取締役らは,会社の債権者に対して,残った会社財産を保全して,倒産手続を通じて適正に換価して配当するという注意義務を負担する。債権者としては,会社の財産が保全され,その財産が,適正に換価されて配当されるのであれば,たとえ配当率がわずかであっても了解せざるを得ない。倒産手続が適正に遂行されるように進めることは,破綻に瀕した会社の取締役にとっての重要な任務である。
それにもかかわらず,被告Y1らは,被告富士カントリーの破綻により被告フジパンの株式が散逸することを防ぐため,被告富士カントリーの系列会社が保有していた被告フジパンの株式を被告フジパンの関連会社に移転させることにした。また,被告存続4社についても,連鎖倒産を免れるため,被告富士カントリーとの親子関係を切断することとし,被告存続4社が被告富士カントリーに対して有していた債権を利用して被告富士カントリーの保有していた被告存続4社の株式を移転させることとした。
その結果,被告Y1らは,A,B,C及びDとともに,平成13年8月ころ,①被告富士カントリー所有の被告フジパンの株式及びコモの株式を被告フジパンに移転させること,②被告富士カントリーが所有する被告存続4社のゴルフ場不動産を被告存続4社の名義に移転させるとともに,被告存続4社が被告富士カントリーに有する債権の担保として被告富士カントリーが所有する被告存続4社の株式に質権を設定し,その後被告存続4社の名義に移転させること,③財産隠匿が明らかにならないように,被告富士カントリーの決算を粉飾し,その後,破産手続を回避し,特別清算手続や民事再生手続を利用することを決定した。
(被告Y2及び被告富士カントリーの主張)
被告存続4社の株式を担保提供したのは,平成15年3月以降,被告房総カントリークラブ,被告可児ゴルフ倶楽部及び被告明智ゴルフ倶楽部からの借入金の利率を下げ,返済期限を長期に変更することを要請した際,多額かつ長期の借入金であるので担保を取得したいとの要請を受け,これに応じたものである。また,ゴルフ場用地は,被告可児ゴルフ倶楽部及び被告明智ゴルフ倶楽部に賃貸していたところ,両者から賃貸を解消する要請を受け,不動産鑑定士の評価を参考にして価格を定めたものである。その余の株式も,運転資金確保及び金融機関への弁済のため監査法人の評価等に基づく適正な価格で処分したものである。いずれも,被告富士カントリーの財産の隠匿を目的としたものではない。
9 争点10(価額賠償の可否及びその数額)について
(原告丸大水産及び原告高喜建設の主張)
原告丸大水産及び原告高喜建設は,それぞれ3500万円を被保全権利とするところ,被告可児ゴルフ倶楽部の株式の価格は,平成14年ころ被告富士カントリーが富士グリーン株式会社から購入した際には1株200万円と評価されていた。したがって,原告丸大水産及び原告高喜建設の被保全債権に相当する株式は各18株である。
被告可児ゴルフ倶楽部は,被告房総カントリークラブと共謀の上,平成17年1月31日,劣後株式1万1000株(割当先は,被告房総カントリークラブ3000株,被告明智ゴルフ倶楽部3000株,被告笠間ゴルフクラブ5000株)を,発行価格1株2万0458円という破格に安い金額で発行した。この増資によって,取消の対象である被告可児ゴルフ倶楽部の株式36株の価値は大幅に毀損させられ,もはや36株についてそのまま引渡しを受けたとしても,到底元の価値に戻ることはないから,本件目的物は被告房総カントリークラブの行為により毀損されたものということができる。
価額賠償を求める場合の価額の算定は,特別の事情がない限り,当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時を基準としてなすべきものとされているが,上記のように,取消しの目的物を返還すべき第三債務者が目的物を毀損したことによって価格が下落するという事情が生じた場合,特別の事情にあたるものとして,その価額賠償は毀損の時点を基準時としてその価額の算定をなすべきである。
本件では,被告可児ゴルフ倶楽部の株式が毀損される前の取引価額は,上記のとおり,1株200万円であるところ,原告丸大水産及び原告高喜建設の被保全債権は各3500万円であるから,原告丸大水産及び原告高喜建設が請求できる価額賠償額は,各3500万円である。
10 争点11(価額賠償の可否及びその数額)について
(原告テコム医学研修協会の主張)
原告テコム医学研修協会は,3500万円を被保全債権とするところ,被告笠間ゴルフクラブの株式の価格は,被告富士カントリーが,平成13年12月1日から平成14年11月30日までの間に富士グリーン株式会社に売却した際には1株50万円から60万円と評価されていた。したがって,評価額を50万円とすると,原告テコム医学研修協会の被保全債権3500万円に相当する株式数は70株となる。
被告笠間ゴルフクラブは,被告明智ゴルフ倶楽部と共謀の上,平成17年1月31日,新たに劣後株式4150株(割当先は被告可児ゴルフ倶楽部及び被告房総カントリークラブ)を,発行価格1株1万6941円として発行した。この増資によって,取消の対象である被告笠間ゴルフクラブの株式70株の価値は大幅に毀損させられ,もはや70株についてそのまま引渡しを受けたとしても,到底元の価値に戻ることはないから,本件目的物は被告明智ゴルフ倶楽部の行為により毀損されたものということができる。
金額については,争点9の主張と同じ。
(被告明智ゴルフ倶楽部の主張)
被告笠間ゴルフクラブの株式の1株あたりの株価について,富士グリーン株式会社への売却時には60万円,増資の際には1万6941円とされていたことは認め,その余は否認する。
現物返還が原則であり,本件でもそれが可能な以上,価額賠償は認められない。
第6 当裁判所の判断
1 本件会員権の違法販売行為による損害賠償請求について
(1) 原告は,被告富士カントリーは,昭和46年の設立直後には被告フジパンが発行済株式の20%を所有し,被告Y2が代表取締役,被告Y1が取締役であったが,設立当初は会員権の販売に際して必要な独自のブランド力がなかったことから,開発したゴルフ場について「フジパンのゴルフ場」として,提携金融機関を通じてその会員権を販売するというシステムを構築してきたところ,被告Y1らは,本件会員権の販売に当たっても,提携金融機関の各支店に対し,本件ゴルフ場は,あたかも被告フジパンが事業の一環として行っているゴルフ場であり,経営的に余裕があり,経営の安定性や永続性が被告フジパンにより保証され,このため値上がりも期待できるし,将来の預託金返還も安心できるゴルフ場であるかのような虚偽の説明を行うよう依頼することを共謀した旨主張する。
(2) 被告フジパンと被告富士カントリーの関係の推移について
本件各証拠(甲39,甲92の1,6,甲93の1から3まで,5から20まで,甲110,甲124の3,甲136の4から13まで,甲151の1,乙B1,2,乙D5,乙D11の1,乙D12,被告Y2(第1回,第2回),被告富士カントリー代表者,被告房総カントリークラブ代表者,弁論の全趣旨)によれば,次の事実を認めることができる。
ア 被告富士カントリーは,昭和46年12月に設立されたが,設立直後には,被告フジパンとの間において,被告フジパンが被告富士カントリーの発行済株式の20%を所有するという資本関係を有していた。また,昭和48年から平成14年まで被告フジパンの代表取締役であった被告Y2が,被告富士カントリーの設立時から解散時まで同社の代表取締役であり,昭和40年から現在まで被告フジパンの代表取締役である被告Y1が,被告富士カントリーの設立時から平成15年まで同社の取締役であったという人的関係が存在した。さらに,被告富士カントリーの従業員についても,設立当初は,被告フジパンからの出向を受け,特に被告富士カントリーが新規に開発したゴルフ場の会員を募集する時期には多くの人員が必要となることから,被告フジパンからスポットで必要な人員の派遣を受けるなどの人的支援を受けていた。
被告富士カントリーがゴルフ場を開場した当初は,被告富士カントリーに会員権を販売するために必要な固有の信用があるわけではないため,被告富士カントリーにおいては,被告フジパンの関連会社であることを広報として利用しており,昭和48年,被告富士カントリーの最初のゴルフ場である可児カントリーのゴルフ場が開場した際には,「フジパン株式会社がゴルフ場建設」などと地元新聞に報道され(甲92の1,6,甲110),昭和50年ころの房総カントリーのゴルフ場の会員募集に当たっては被告フジパンの名前を出して募集した(甲151の1)。そして,ゴルフ業界の有力な情報誌である「ゴルフ特信」においては,昭和61年ころまで,被告富士カントリーの子会社が運営するゴルフ場について,「富士パンの」「富士パンを母体とする」という表現で,被告フジパンが経営主体であるかのような記載がされ(甲93の1ないし3,5ないし8,甲136の4ないし13),昭和51年発行の「愛知百科事典」においても,被告フジパンの説明として,「関連企業を通じてゴルフ場の経営もしている」と記載される(甲39)など,被告富士カントリーの開発したゴルフ場は「フジパンのゴルフ場」として受け止められていた(被告Y2(第2回))。
イ その後,もともと被告富士カントリーを設立する際に,被告Y1らは,兄である被告Y1が被告フジパンの運営,弟である被告Y2が被告富士カントリーの運営にそれぞれ専念するという意図であったこと(乙B1),「1つ100円のパンを包んでやっているのと,1つ売って何千万,何百万というのは全然違い」「一緒くたにして商売できるわけない」という社風の違いがあったこと(乙B2,被告Y2(第2回)),昭和59年ころには,可児クラブ,明智ゴルフ倶楽部,房総カントリークラブ及び笠間ゴルフクラブの募集も終了し,被告富士カントリーの経営も安定してきたこと(乙D5),その当時,被告富士カントリー及び関連会社は,被告フジパンよりもはるかに自己資本が大きくなったことから,被告富士カントリーは,被告フジパンとの間で,これまでのような被告フジパンとの資本関係や従業員の出向関係を断つことを合意した(被告Y2(第2回))。
そして,昭和56年ころ,被告Y1は,被告富士カントリーの代表取締役を辞任し,昭和61年ころまでに,被告フジパンが所有していた被告富士カントリーの株式は,被告Y2及び被告富士カントリーの関連会社が買い取ることにより,被告フジパンとの資本関係は解消された(被告Y2(第1回,第2回))。また,同年3月には,被告富士カントリーは,被告フジパンから派遣されたり出向していた者全員に対し,被告フジパンに戻るか,被告富士カントリーに転籍するかの選択を求めて,従業員の雇用関係を整理した(乙D5,被告富士カントリー代表者)。
当時,被告富士カントリーの取締役総務部長であったG(以下「G」という。)は,「ゴルフ特信」に「フジパン系」として紹介された際には,発行者である一季出版株式会社に訂正を申し入れたほか,その他の雑誌であらかじめ原稿の送付を受けたものについては手を加えるように努め(乙D5,被告富士カントリー代表者),また,被告房総カントリークラブの従業員も,ゴルフ雑誌の取材に対して被告フジパンとのつながりを否定する(甲124の3)など,被告富士カントリーは,被告フジパンとの関係を否定する態度を外部にも示すようになった。そのころから,「ゴルフ特信」においても,被告富士カントリーの子会社が運営するゴルフ場について,「富士カントリーグループ」と記載されるようになり(甲93の9,10,12,14),現に,原告ら提出に係る「ゴルフ特信」の昭和62年以降の記事(甲93の9から20まで)の中にも,被告フジパンとの関係が表示されるものは見あたらない。
ウ 上記の認定事実によれば,被告富士カントリーは,その設立当初は,被告フジパンの関連会社であることを広報として利用していたものの,その後,被告フジパンとの資本関係及び従業員の出向関係を絶つ方針とし,本件会員権の募集当時には,現実に被告フジパンとの資本関係及び従業員の出向関係を絶っていたことが認められる。
(3) 本件会員権の募集方法に関する関係者の供述について
ア 本件会員権の募集当時に被告富士カントリー代表取締役であった被告Y2は,その陳述書(乙B1)において,昭和60年以降は,ゴルフ会員権の人気は高く,是非売ってほしいと頼まれるような時代であって,ゴルフ会員権販売に際し,被告Y1らが,被告フジパンの名前を使って販売するように銀行に依頼していたことはない旨陳述し,本人尋問(第1回,第2回)においても,本件会員権の募集当時は,募集開始と同時に購入申込みが殺到し,むしろ人数を絞ることを工夫していた状況であって,被告富士カントリーが提携金融機関に対して,被告フジパンのゴルフ場であることを説明して,提携金融機関の取引先に本件会員権を紹介してほしい旨依頼したことはない旨供述する。
また,Gも,本件会員権については,本件ゴルフ場が法人向け高級接待ゴルフ場の需要に合致していたことから,募集開始と同時に購入申込みが殺到し,資格審査が追いつかなかった状況であって,縁故募集を途中で打ち切り,第一次募集に定員を回すことにした旨,被告富士カントリーが提携金融機関に対して,被告フジパンのゴルフ場であることを説明して,提携金融機関の取引先に本件会員権を紹介してほしい旨依頼したことはない旨供述する(乙D5,被告富士カントリー代表者)。被告富士カントリーにおいて関東営業統括部長として本件会員権の募集を担当したCも,その陳述書(乙D11の1)において,提携金融機関の顧客の中には新規募集のゴルフ会員権が欲しいという顧客が多く,新規の会員権を顧客に紹介することで金融機関が感謝されることが多かった状況であって,被告富士カントリーではむしろ提携金融機関に紹介をお願いする口数を制限していたのであり,本件会員権の募集は,その直前に募集した市原ゴルフ倶楽部に入会できなかった入会希望者が殺到し,宣伝するまでもなく好調に推移したので,「フジパンのゴルフ場だから安心だ」という必要は全くなかった旨を述べ,東京営業部営業次長であったDも,その陳述書(乙D12)及び代表者尋問において同旨を供述する。
そして,昭和60年ころから,ゴルフ場の開発がブームになり,ゴルフ会員権の相場も高騰を始め,昭和63年ころから平成元年ころにかけては,さらに相場が上昇し,千葉県内のゴルフ場会員権が数千万円で販売されることも珍しくない状態であったこと(甲120,甲136の12,甲137の2,5から11まで,甲138の5),現に,原告らの中にも提携金融機関による勧誘ではなく自ら興味を抱いた者もあったこと(甲198の10,甲203の2)は,本件会員権の募集状況に関する上記の各供述を裏付けるものということができる。
イ 本件会員権の募集当時,被告富士カントリーの東京事務所に勤務していたHは,原告ら代理人の聴取書(甲151の1)において,被告富士カントリーは募集人数の制限は厳格に行っており,提携金融機関の希望があっても割当てを増やすことはなかったこと,本件会員権は人気が高く,半月程度で募集枠を超えたこと,昭和50年の房総カントリークラブの募集のころには,関東での初めての会員権の募集で希望者も少なく,被告富士カントリーの営業担当者は被告フジパンの名前を出して説明していたが,本件会員権募集のころには,ゴルフブームとなり,被告富士カントリーの実績があったため,被告フジパンの名前を利用していなかったこと,出島,市原,大多喜,富岡の各ゴルフ場の募集のころからは,被告フジパンから独立して被告富士カントリー独自で行っていたことを述べる。
ウ 本件会員権の募集当時,被告富士カントリーの東京事務所に勤務していたIも,原告ら代理人の聴取書(甲151の2)において,平成の初めころは,ゴルフ会員権の購入希望者が会員権がなくて銀行に押し掛けてくる時代であり,今になると,金融機関から買わされたとか,名前でもって買ったとか言う人がいるが,当時は財テクのためゴルフ会員権が人気であったのであり,フジパンと言って売ったかもしれないけれども,フジパンと言わなくても売れた時代であった旨を述べる。
エ これに対し,名古屋においてゴルフ会員権の仲介を主な業務とする会社を経営するJは,その陳述書(甲99の2)において,被告フジパンイコール被告富士カントリーであることは東海地域では周知の事実となっており,被告富士カントリーのゴルフ場は被告フジパンのゴルフ場として親しみを持たれていたし,被告フジパンの信用がそのまま被告富士カントリーの信用に繋がった旨述べ,他の陳述書(甲128)においても,中部地区はもちろん,関東地区においても,被告富士カントリーグループといえばイコール被告フジパンということはゴルフ界にとっても周知の事実である旨述べ,この供述は原告らの主張に沿うものということができるが,被告富士カントリーのゴルフ場開発は長期にわたるものであるのに対し,本件で問題とされるのは関東地区における本件会員権の勧誘方法であるところ,上記供述はこの点に関する具体性に欠けることは否定できない。
(4) 本件会員権の募集に関するパンフレット及び提携金融機関に交付された説明資料について
ア 本件会員権の募集のために作成され,本件会員権の購入を検討する顧客に対して交付された本件ゴルフ場のパンフレット及び募集要項(甲70の1,2)には,本件ゴルフ場の経営会社は大多喜城ゴルフ倶楽部であることが明確に表示されている一方,被告フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しない。ゴルフ会員権の購入を検討している顧客は,当該ゴルフ場のパンフレットに目を通し,それを1つの重要な資料として購入の是非を検討すると考えられるところ,上記パンフレットを読めば,本件ゴルフ場の運営主体は大多喜城ゴルフ倶楽部であることを容易に理解できるものといえる。
イ また,「富士カントリー大多喜城倶楽部の縁故会員の募集について(初回募集)」と題する書面(甲41)は,本件会員権の募集代行業者であった被告富士カントリー及び東方興業株式会社が,本件会員権の募集に関して,平成元年12月7日に千葉銀行の部・室長・営業店長に宛てて送付した書面であるところ,同書面には,事業母体が被告富士カントリー,運営会社が大多喜城ゴルフ倶楽部であることが明確に表示されている一方,被告フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しない。
ウ これに対し,「富士カントリー市原倶楽部会員募集について」と題する書面(甲147の1)には,「当店親密取引先富士カントリー株式会社では総力を結集して千葉県市原市に富士カントリー市原倶楽部18ホールズをオープンいたしました。ご高承のとおり,当社はフジパン株式会社の関連優良会社で,関東・中部地区を中心に459ホールズを有するゴルフ場経営最大手の一つで,当行とは極めて親密な取引関係があります。」との記載があり,同書面に添付された「ゴルフ倶楽部会員券販売情報」と題する書面(甲147の2)には,「経営会社:富士カントリー株式会社,系列:フジパン株式会社」との記載がある。
しかしながら,これらの書面は,株式会社第一勧業銀行(以下「第一勧業銀行」という。)作成に係る書類であって(「ゴルフ倶楽部会員券販売情報」と題する書面も,第一勧業銀行作成に係る「富士カントリー市原倶楽部会員募集について」と題する書面に添付されたものであること及び照会窓口欄の「富士カントリー(株)K部長」との記載の後に(当行出向者)との記載があることから,第一勧業銀行作成と認められる。),被告富士カントリー作成に係る書面ではなく,いずれも平成6年当時に富士カントリー市原倶楽部の会員募集に関して,第一勧業銀行八重洲口支店長から同銀行の他の支店長に対して発せられた依頼文書であることが明らかである。
エ 上記の認定事実によれば,本件会員権の募集に関するパンフレットや提携金融機関に交付された説明資料には,本件ゴルフ場の経営会社は大多喜城ゴルフ倶楽部であることが明確に表示されている一方,被告フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しないことが認められ,この事実は,前記被告Y2,G,C及びDの供述を裏付けるものということができる。
(5) これに対し,原告らは,被告フジパンが被告富士カントリーにフジパンのブランドを流用することを認めていたと主張し,これを裏付ける事実として様々な事実を指摘するので,この点を検討する。
ア 原告らは,被告フジパンの商号は,昭和41年まで「富士製パン」であって,被告富士カントリーは,当初,中日開発株式会社として設立されたところ,昭和47年に「富士カントリー」に商号変更し,被告フジパンの旧商号と共通の「富士」を使用することにしたが,これは被告富士カントリーが被告フジパンの経営であることを印象付けようとしたものであると主張する。
これに対し,中日開発株式会社の商号を変更した理由について,Gは,代表者尋問において,被告フジパンと別働隊にしたいから,中日開発という商号を選択したが,中日新聞からクレームがついたため,馴染みのある「富士」の名称を選択したと聞いている旨供述し,被告Y2も,本人尋問(第2回)において同旨を供述するとともに,その陳述書(乙B2)において「富士とフジパンですから,特に両者を同一視して混同されることがあるとはおもっておりませんでした。むしろ富士ということで,静岡のゴルフ場だと思われることが当初は多かったと思います」と述べる。
なるほど,「富士」と「フジ」とでは,読みは共通しているということができ,両社が関連性を有するものとして受け止められる可能性は否定できないが,被告富士カントリーでは「フジパン」という名称そのものを商号に利用してはいないこと,「富士」と「フジ」では表記も異なることに加えて,商号変更の経緯に関するGらの供述に照らせば,被告富士カントリーが「中日開発」から「富士カントリー」に商号変更したことをもって,直ちに,被告富士カントリーが被告フジパンの経営であることをことさらに印象付けようとしたものであると即断することはできない。
イ 原告らは,平成元年から平成3年にかけての被告富士カントリーの役員には,被告Y1ら以外にもE,L,C,G,Mなど被告フジパン出身者が多いこと(甲84の1ないし4),被告フジパンは,被告富士カントリーとともに,昭和63年ぎふ中部未来博において「宇宙館」を出展し(甲109の1),平成元年開催の世界デザイン博覧会にはフジパングループとして被告フジパンと被告富士カントリーがパビリオンを出展し(甲123の1,2),平成2年の国際花と緑の博覧会の公式記録には,「富士カントリーグループ」として被告フジパンが含まれている記載がある(甲111)ことなどから,被告フジパンは被告富士カントリーに自らのブランドを流用させている旨主張する。
しかし,前記のような被告富士カントリーの設立経過や,両社の代表者が兄弟であったことなどに照らすと,両社に人的繋がりがあったり,一緒にパビリオンを展示することは不自然なことではなく,かえって,国際花と緑の博覧会の公式記録は,被告フジパシが富士カントリーグループの一員であるかのような表示となっている。これに加え,前記(2)のとおり,被告富士カントリーは被告フジパンとの資本関係及び従業員の出向関係を絶つ方針を立て,本件会員権の募集当時には,これを実行していたことを併せ考えれば,原告ら主張の事実をもって,被告フジパンが被告富士カントリーにブランドを流用させていたとは推認することはできない。
ウ 原告らは,ゴルフ雑誌等に被告富士カントリーの子会社が運営しているゴルフ場について被告フジパンが経営しているかのような記事が掲載された場合のGによる訂正申入れが一部に留まっている点から,被告Y1らはマスコミによってブランドの流用が報道されることを歓迎していた旨主張する。
なるほど,一部のゴルフ雑誌では,Gによる訂正申入れがされた以降も,昭和62年から平成3年にかけて,被告富士カントリー系列のゴルフ場について,「フジパンが経営母体」などの表現で,被告フジパンが経営主体であるかのような記事が掲載されている(甲136の3から11まで,甲138の1から5まで,8,9)。
しかしながら,仮に,被告富士カントリーが被告フジパンとの関係を強調した報道を歓迎する方針であったのであれば,被告富士カントリーとしては記事の訂正を申し入れないはずであって,Gらによる「ゴルフ特信」に対する申入れはこれと矛盾するし,また,数多くの報道について,被告富士カントリーにおいてすべて点検して訂正を申し入れるということは現実的でもないから,一部のゴルフ雑誌において上記の記事が掲載されていたことをもって,被告富士カントリーが被告フジパンとの関係を強調した報道を歓迎する方針であったと推認することはできない。
エ 原告らは,被告富士カントリー系列のゴルフ場で,被告フジパン製のパンをお土産として提供していたこともフジパンブランドの流用である旨主張する。
なるほど,被告富士カントリー系列のゴルフ場では,平成10年ころから2,3年間,来場した会員へのお土産や競技会の商品として被告フジパン製のパンやコモ製のパンを提供していたこと,そのころ,被告富士カントリーの営業担当者が,会員権募集に際しコモ製のパンの詰め合わせセットを持参したこともあることが認められる(甲56,甲57,甲58の1ないし4,甲59の5,甲151の1,甲160,甲162の2,被告Y2(第2回),被告富士カントリー代表者,被告房総カントリークラブ代表者)。
しかしながら,被告Y2は,その陳述書(乙B2)において,その理由について,被告フジパンやコモが遠距離の配達や比較的廉価での納入に協力してくれたからであると供述しており,この供述に加え,パンの提供は,主として入会後に来場した会員へのサービスとして行われたものであること,コモは被告富士カントリーの子会社であったこと,提供の時期も平成10年ころ以降の2,3年間であることを併せ考えれば,被告フジパンの製品であるパンの提供をもって,被告富士カントリーが本件会員権募集に際して被告フジパンとの関係をことさらに示そうとしたものであると解することはできない。
オ 原告らは,被告富士カントリーのホームページに被告フジパンの関連会社である旨記載されていたことから,ブランドの流用を行っていたと主張する。
なるほど,平成12年9月時点の被告富士カントリーのホームページには,被告フジパンが関連会社として表示されている(甲122)。
しかしながら,平成12年当時,被告フジパンと被告富士カントリーとの間には,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係や被告富士カントリーが被告フジパンの株式を保有するという資本関係が存在したのであるから,その趣旨では被告フジパンを関連会社とする表示は必ずしも虚偽とはいえない上,被告富士カントリーの社長であったGは,その当時ホームページの表示を認識しておらず,社員からその指摘を受けて直ちに表示を削除する指示をしたというのであるから(被告富士カントリー代表者),被告富士カントリーのホームページにおける被告フジパンを関連会社とする記載をもって,被告富士カントリーが被告フジパンのブランドを流用したものということはできない。
カ そうすると,原告らの主張する各事実をもって,被告富士カントリーが被告フジパンのブランドを流用しており,被告フジパンがこれを承認していたと認めるには足りない。
(6) 原告らは,被告フジパンは本件会員権の募集当時は,被告富士カントリーの親会社でなかったところ,従来のとおり提携金融機関に勧誘を依頼すれば,「フジパンのゴルフ場」という説明付きで勧誘することは明らかであったから,被告Y1らは,従業員や提携金融機関に対し,従来のような「フジパンのゴルフ場」などという説明をしないように注意すべきであった旨主張する。
なるほど,提携金融機関の行員の中には,本件会員権購入の勧誘に際し,大多喜城ゴルフ倶楽部が被告フジパンの関係会社である旨,又は被告フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部のバックにいると述べた者があることが認められる(甲72の2,甲160,甲202のB,C)。
しかしながら,本件会員権の募集当時,フジパンと富士カントリー及び大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,前記第3の1のとおり,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係が存在していたことからすると,大多喜城ゴルフ倶楽部が被告フジパンの関係会社であるという説明又は被告フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部のバックにいるという説明は,その人的関係を説明する趣旨においては必ずしも虚偽とまでいうことはできない。また,本件会員権の募集当時には,被告富士カントリーは,被告フジパンとの資本関係及び従業員の出向関係を絶つという方針を実行していたのであって,Gも,マスコミに対して被告フジパンと被告富士カントリーの関係を示す記載について訂正申し入れを行っていること,前記(4)アに認定のとおり,本件会員権の募集のために作成され,本件会員権の購入を検討する顧客に対して交付された本件ゴルフ場のパンフレット及び募集要項には,本件ゴルフ場の経営会社は大多喜城ゴルフ倶楽部であることが明確に表示されている一方,被告フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しないことを併せ考えれば,被告Y1らに,これに加えて,上記パンフレットに本件ゴルフ場が被告フジパンと関係を有しないことをことさらに表示するとともに,提携金融機関に対して本件ゴルフ場が被告フジパンと関係を有しないことを強調すべき法的義務が存在したと解することはできない。
(7) 小括
以上によれば,被告富士カントリーは,その設立当初は,被告フジパンの関連会社であることを広報として利用していたものの,本件会員権の募集当時には,被告フジパンとの資本関係及び従業員の出向関係を絶つとともに,本件会員権の募集にあたって被告フジパンとの関係を利用しない方針であったのであり,本件会員権の募集に関するパンフレットや提携金融機関に交付された説明資料にも,本件ゴルフ場の経営会社は大多喜城ゴルフ倶楽部であることが明確に表示されている一方,被告フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しないことが認められ,この事実に照らせば,原告らの主張する事実をもって,被告Y1らが,本件会員権の販売に当たって,提携金融機関に対し,本件ゴルフ場があたかも被告フジパンが事業の一環として行っているゴルフ場であるかのように虚偽の説明を行うよう依頼することを共謀したと認めることはできない。
そうであれば,その余について判断するまでもなく,本件会員権の違法販売行為を理由とする原告らの被告Y1らに対する請求は理由がない。
また,被告Y1らに対する請求が認められることを要件とする原告らの被告フジパン及び被告富士カントリーに対する請求も,その余について判断するまでもなく理由がない。
2 被告富士カントリーに対する訴えの利益について
(1) 被告富士カントリーは,原告らは,被告富士カントリーの特別清算手続における債権届出期間中に本訴請求債権について届出をせず,特別清算手続から除斥されているから,原告らの被告富士カントリーに対する請求には訴えの利益がないと主張し,訴えの却下を求める。
(2) そこで検討すると,清算手続(特別清算手続を含む。)においては,会社に知れたる債権者を除き,債権申出期間内に申出をしない債権者は,清算から除斥される(平成17年法律第87号による改正前の商法421条2項)。これを本件についてみるに,被告富士カントリーは,平成16年12月20日から同月22日までの3回,同月20日の翌日から2か月以内に債権の申出をすべき旨及び期間内に申出がないときは清算から除斥される旨を公告したのに対し(乙D3の1から3まで),原告らは,当該期間内に債権の申出をしなかったから,仮に原告らの主張する不法行為に基づく損害賠償請求権が存在するとしても,被告富士カントリーの清算から除斥されることになる。
これに対し,原告らは,被告富士カントリーは,債権者集会において,本件会員権の販売時点でフジパンブランドを利用したことについて虚偽の説明を行い,配当率が極端に少ないことを偽装することによって届出を妨害する行為を行ったのであるから,このような場合には除斥されない旨主張するが,被告富士カントリーが,原告らの損害賠償請求権の存在を認識しつつ,原告らの届出を妨害するために配当率について虚偽の説明をしたと認めるに足りる証拠はないから,原告らの主張は前提を欠き採用することができない。
また,原告らは,被告富士カントリーは,提携金融機関から販売相手についての事前審査依頼書の交付を受けているから,販売相手である原告らの氏名,住所を当然に知っているし,自らが不法行為に基づく損害賠償責任を負うことは当然に認識していたはずであるから,知れたる債権者である旨を主張するが,被告富士カントリーが自らの不法行為を認識していたことを認めるに足りる証拠や,原告らが債権申出期間経過前から被告富士カントリーに対して損害賠償請求権の主張を行っていたことを認めるに足りる証拠はないから,原告らを知れたる債権者ということもできない。
(3) そして,清算から除斥された債権者は,債権申出期間内に申出をした債権者及び会社に知れたる債権者(以下「申出債権者等」という。)に対する弁済が終了した後に残余財産がある場合に,当該残余財産についてのみ弁済を請求することができるにすぎず,残余財産が存しない場合には一切弁済を受けることができない(平成17年法律第87号による改正前の商法424条1項)。
しかしながら,原告らの被告富士カントリーに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の存在が認められた場合において,清算から除斥されたために残余財産が生じない限り原告らが弁済を受ける余地は存在しないとしても,それは,申出債権者等に対する弁済が終了するまで判決に基づき清算会社の財産に対して執行し得ないというにとどまり,そのことをもって,原告らの被告富士カントリーに対する本訴請求について訴えの利益が失われるということはできない。
3 大多喜城ゴルフ倶楽部の財産散逸行為による損害賠償請求について
(1) 原告らは,被告Y2は,平成元年1月から平成6年3月まで大多喜城ゴルフ倶楽部の代表取締役であり,その後も取締役であるとともに,親会社である被告富士カントリーの代表取締役であったから,投資において資金の回収の見込みが極めて低いことを予想していたか予想すべきであり,また,投資に失敗すれば預託金返還に必要な費用をまかなえないことも予想し得たにもかかわらず,海外ゴルフ場や株式への投融資を行い,85億円の回収不能を生じさせ,また,会員権ローンの連帯保証債務を履行しても求償は見込めなかったのであり,連帯保証債務を履行すれば預託金返還を不能にすることは明らかであったにもかかわらず,漫然と履行に応じて92億円の資金を流出させたのであるから,被告Y2のこれらの行為は故意又は過失に基づく旨主張する。
(2) なるほど,証拠(乙D5,被告富士カントリー代表者,弁論の全趣旨)によれば,大多喜城ゴルフ倶楽部は,米国ニュージャージー州所在のリバーベイルカントリークラブ(以下「リバーベイル」という。)と提携することとし,平成2年6月,エフジェーシー有限会社に対して35億円を出資し,エフジェーシー有限会社は,これをリバーベイルの買収資金として使用したこと,また,大多喜城ゴルフ倶楽部は,現地法人であるFBD ENTERPRISES USAへ約13億円を出資し,同社は,これをリバーベイルのコース改修費用として使用したこと,その後,バブル経済崩壊の影響から,海外のゴルフ場については売却処分して撤退せざるを得ない事態となり,被告富士カントリーグループでは平成10年から平成17年までにかけてすべての海外ゴルフ場を処分し,リバーベイルについても平成15年10月ころに処分したこと,被告富士カントリーグループが行った海外ゴルフ場への投資は,出資・貸付合計で約238億円,売却額の合計が約82億円で,差引156億円の損失となったこと,回収金額は借入金の返済に充てたため,大多喜城ゴルフ倶楽部の出資は回収されずに全額損失となったこと,その間,エフジェーシー有限会社が債務超過となったため,大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成15年6月期にエフジェーシー有限会社に対する出資持分について評価減を行い,被告富士カントリーに1円の備忘価格で譲渡したことが認められる。
また,大多喜城ゴルフ倶楽部は,本件会員権購入のためのローンを連帯保証していたところ,提携金融機関から保証債務の履行請求が相次ぎ,その支払額は約92億円となり,それ以上のローンの連帯保証債務履行が不可能な状態に陥ったこと,そして,上記の各事実,すなわち,被告富士カントリー関係の海外ゴルフ場等への投融資が回収不能に陥ったこと,バブル経済崩壊後における経済不況の深刻化・長期化によって,会員権購入のためのローンの支払が困難となる会員が続出した結果,提携金融機関から大多喜城ゴルフ倶楽部への保証債務の履行請求が相次いだこと,本件会員権の相場の大幅な下落により会員からの預託金の返還請求が避けられない見込みとなったことが,大多喜城ゴルフ倶楽部が民事再生手続開始の申立てをするに至った主たる要因であったことは,前記第3の5に認定のとおりである。
(3) そこで,大多喜城ゴルフ倶楽部が海外ゴルフ場投資を行ったことについての被告Y2の故意又は過失の有無について検討する。
被告富士カントリーが海外ゴルフ場への投資を行った当時,取締役総務部長であったGは,その陳述書(乙D5)において,海外ゴルフ場への投資を行った理由について,第1に被告富士カントリーグループのブランドイメージを高めること,第2に米国での乗用カートの利用・セルフプレーによる少人数化したゴルフ場の経営を学ぶこと,第3に被告富士カントリーグループの会員が安心して気楽に海外のゴルフ場でプレーできるようにすること,第4に若手社員の海外派遣制度を設けることにより有能な人材を確保できるようにすることがあったこと,また,投資対象のゴルフ場を選定するに当たっては,第1に,将来何らかの事由により海外ゴルフ場を売却して投下資本を回収する際に売却をスムーズにするためにパブリックとして運営されているコースであること,第2に日本企業が集中している大都市からできる限り近距離であること,第3にゾーニング規制の変化により将来有利な条件で売却できる可能性があることを基準とした旨,もっとも,当初は,日本人の経営が米国で受け入れられるか検証するため,サンフランシスコ郊外及びサンディエゴ郊外の比較的安価なゴルフ場を買収するという慎重な手順を踏んだ旨,大多喜城ゴルフ倶楽部がニューヨーク近郊にあるリバーベイルと提携した目的として,被告富士カントリーグループのゴルフ場がニューヨーク近郊にあることによりブランドイメージを向上させることと,大多喜城ゴルフ倶楽部の会員がニューヨーク近郊にあるゴルフ場でプレーできるという制度を採用することにより本件会員権の価値を高めることがあった旨を述べ,海外ゴルフ場進出が損失になると分かっていたならばそのような投資をするはずはなく,大多喜城ゴルフ倶楽部は,預託金債務が履行されないと予見しつつリバーベイルに投資したものでないと述べる。また,被告Y2も,その陳述書(乙B2)において,本件会員権の販売に伴う将来の預託金償還については,ゴルフ場の会員にとっての利便性の向上,ブランド価値の向上等により会員権の価値を向上させることが基本と考えており,昭和62年当時はもちろん,バブル経済崩壊後の経済状況下でも乗り切れると考えていたが,ゴルフ会員権は下落の一途をたどり,ゴルフ会員権相場が預託金額の20分の1までに下落する事態は全く予想外であったと述べる。
そして,証拠(甲93の18,甲137の2,4から9まで,甲138の2,5,乙D4から6まで,被告Y2(第2回),被告富士カントリー代表者)及び弁論の全趣旨によれば,昭和62年ころから日本のゴルフ場経営会社の多くがブランドイメージを高めるため,海外のゴルフ場に投資をするようになり,昭和63年には58コースであったものが,平成元年から平成5年まで前年比30コース以上の増加で推移し,平成7年時点には269コースのピークに達したこと,ところが,バブル経済の崩壊に伴い,国内の業績悪化から海外資産を処分する動きが始まり,平成5年ころから徐々に売却・撤退等による減少が生じ,平成8年以降には,この減少が表面化・本格化し,平成9年を除いて2桁減で推移し,平成13年には179コースとなったこと,日本国内においても,昭和60年ころから,ゴルフ場の開発がブームになり,ゴルフ会員権の相場も高騰を始め,昭和63年ころから平成元年ころにかけては,さらに相場が上昇し,千葉県内のゴルフ会員権が数千万円で販売されることも珍しくない状態であったことが認められ,一部にゴルフ場の供給過剰を懸念する指摘もあったものの,前記投資等の当時において,ゴルフ場を経営する会社の倒産やゴルフ場の開発の著しい遅延,あるいはゴルフ会員権の相場が預託金額の20分の1までに下落するという具体的な状況が存し,社会的な問題となっていたという状況はうかがうことはできない。
上記の経済情勢に照らせば,大多喜城ゴルフ倶楽部が,本件会員権の募集を行い,海外ゴルフ場への投資を行った平成2年当時,一般に,海外ゴルフ場への投資は回収の見込みが極めて低く,その結果,大多喜城ゴルフ倶楽部が預託金返還債務を履行することができず,破たんするおそれがあると予見できる状況にあったと認めることはできない。また,海外投資先としてリバーベイルを選定した過程をみても,その判断が著しく不合理ということもできない。
したがって,被告Y2が大多喜城ゴルフ倶楽部の代表者として行った海外投資の判断が,同人の過失を構成するということはできず,他に被告Y2が行った海外投資の判断に過失があることを基礎づける事実を認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告らは,株式投資は一般にリスクを伴う投機的行為であるから,預託金の運用先としてはあまりに不安定であり,預託金から支出する合理性はないし,また,被告フジパン株式に対する投資については,同社は非上場会社であるから,売買代金が被告Y1らの一存で決められることになり,不透明な取引であった旨主張する。
なるほど,大多喜城ゴルフ倶楽部が,平成2年に購入した兼松日産農林株式会社の株式を平成5年に売却して約1億5000万円の損失を発生させていること,平成3年に購入した日米富士自転車株式会社の株式を平成8年に売却して約5700万円の損失を発生させていること,平成元年及び平成2年に購入した被告フジパンの株式を平成14年に売却して約1億8100万円の損失を発生させていることは,前記第3の3に認定のとおりである。
しかしながら,安定的な運用が求められる年金基金においても運用先の一部として株式投資が組み入れられていることは公知の事実であり,株式に対する投資自体が直ちに危険性の高い行為であるとはいうことはできないし,また,我が国株式相場は,平成元年をピークとして,バブル経済崩壊以降,長期低落傾向にあったところ,大多喜城ゴルフ倶楽部が株式投資を行った平成元年から平成3年までの当時,一般に株式相場の下落を予測することが困難な状況にあったことも周知のとおりであり,大多喜城ゴルフ倶楽部が投資した株式につき,その投資の時点において,被告Y2が回収の見込みに関して具体的な危険性を認識し又は認識し得たことを認めるに足りる証拠はない。
(5) 原告らは,会員権ローンの連帯保証債務を履行しても求償は見込めなかったのであるから,大多喜城ゴルフ倶楽部は,連帯保証債務を履行すべきでなかったし,原告らのように提携金融機関の販売方法に違法があったとしてその支払を拒否している会員については,その抗弁を援用して連帯保証債務の履行を拒否すべきであった旨主張する。
しかしながら,大多喜城ゴルフ倶楽部は,提携金融機関との間の保証契約に基づき連帯保証債務を負担していたところ,これらの債務は,そもそも原告らの大多喜城ゴルフ倶楽部に対する預託金返還請求権が成立したとほぼ同じ時期に既に存在していたものであって,主債務者である会員が弁済を滞らせた結果,それが顕在化し,提携金融機関から履行を求められるに至ったにすぎず,提携金融機関に対する弁済は大多喜城ゴルフ倶楽部の義務に属するものであるから,提携金融機関に対する弁済をもって,原告らの権利を侵害する違法な行為ということはできない。そして,大多喜城ゴルフ倶楽部の行った弁済の中に,会員が履行済みであるとか,期限が到来していないなどの理由により履行の義務のない弁済が存在し,被告Y2がその事実を知り又は知り得たにもかかわらず弁済を行ったと認めるに足りる証拠もない。
また,前記1において判示のとおり,被告Y2が,本件会員権募集に先立ち,提携金融機関との間において違法な販売方法をとることについて共謀したと認めることはできず,被告Y2が,会員らが提携金融機関に対して抗弁を有していることを認識していたとは到底認められないから,原告らの主張は前提を欠くといわざるを得ない。
(6) 以上によれば,大多喜城ゴルフ倶楽部における投資行為及び提携金融機関に対する弁済について,被告Y2に故意又は過失があったと認めることはできないから,被告Y2に対する原告らの請求は,その余について判断するまでもなく理由がない。また,原告らの被告Y1に対する請求も,被告Y2に故意又は過失が存在することを前提とするものであるから,その余について判断するまでもなく理由がない。
4 被告富士カントリーの財産隠匿行為による損害賠償請求について
(1) この請求は,第4の1(3)のとおり,原告らが被告富士カントリーに対し,本件会員権の違法販売行為による損害賠償請求権を有していることが前提となるところ,前記1に判示のとおり,上記請求権を認めることはできないから,原告らの被告Y1らに対する請求並びに被告フジパン及び被告存続4社に対する請求は,その余について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
(2) 念のため,仮に原告らが被告富士カントリーに対して本件会員権の違法販売行為による損害賠償請求権を有するとして検討する。
ア 原告らは,会社が債務超過に陥り,債務の履行ができず破綻が免れない状態に至った場合,当該会社の取締役らは,会社の債権者に対して,残った会社財産を保全して,倒産手続を通じて適正に換価して配当するという注意義務を負担するのであり,倒産手続が適正に遂行されるように進めることは,破綻に瀕した会社の取締役にとっての重要な任務であると主張する。
なるほど,破産手続開始の決定がされると,株式会社の取締役は,破産管財人等に対して破産に関して必要な説明をしなければならず(破産法40条1項3号),破産者は,その所有する重要な財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない(同法41条)など,破産手続の円滑な遂行に協力すべき義務を負う。
しかしながら,株式会社が解散した場合における清算人については,会社が債務超過の状態にあることが明らかになったときは,直ちに破産手続開始の申立てをする義務を負うことが規定されているのに対し(平成17年法律第87号による改正前の商法430条1項,124条3項,民法81条),株式会社が解散する前の取締役についてはこのような義務を定める規定はない。これは,株式会社がいったん債務超過状態に陥っても,その後の経営努力や遊休資産の有利な売却,経済状況の変化等により債務超過が解消される可能性もあることから,取締役に対して経営改善の努力を期待する一方,取締役による不適切な資産処分については,債権者による保全処分の申立てや,債権者による破産手続開始決定の申立て及び破産手続開始後の破産管財人による適切な否認権の行使等により対応することを予定している趣旨であって,仮に被告富士カントリーが解散決議を行った平成16年12月15日以前の一定の時点において債務超過状態に陥ったとしても,これにより被告Y1らが,被告富士カントリーにつき破産手続開始の申立てを行うべき義務を負うに至ったと解することはできない。
イ 被告富士カントリーの特別清算手続において,申出債権者等に対する総債務額は約1801億円,別除権付債権の不足見込額と一般債権の合計は約1799億円であったのに対し,開始決定時における資産評価額の合計は約38億円であり,約1700億円を超える大幅な債務超過であったところ(甲27の1),原告らは,特別清算手続の対象になった債務のうち661億円分は存在しないか,否認されるべきものであったので,総債務額は約1100億円であり,これに原告らの損害賠償請求権債務を加えても約1500億円であった一方,被告富士カントリーが保有していた財産には,特別清算手続の対象となった資産のほかに,被告フジパンの株式及びコモの株式合計約63億円相当,被告存続4社の株式合計約1427億円相当,ゴルフ場敷地約164億円相当,提携金融機関への偏頗弁済資金約38億円相当があり,資産は合計約1700億円であったので,被告Y1らが破産手続開始決定を申し立てれば,原告らへの配当は100パーセント程度まで確保できたはずであると主張する。
なるほど,被告富士カントリーが,平成13年8月ころから平成15年12月ころまでにかけて,その所有財産を処分したことは,前記第3の4に認定のとおりである。また,第30期(平成12年12月1日から平成13年11月30日まで)までは黒字決算であった被告富士カントリーが,第31期(平成13年12月1日から平成14年11月30日まで)には約9000万円の損失を計上し,第32期(平成14年12月1日から平成15年11月30日まで)には約630億円の貸倒損失額を計上するに至ったという経緯に照らせば,仮に原告らが被告富士カントリーの債権者であるとした場合,原告らが財産処分の適正に疑念を抱くことも無理からぬことと考えられる。
しかしながら,被告Y1らが破産手続開始の申立てをしなかったために原告らに損害が生じたというためには,一定の時点における被告富士カントリーの正確な資産と負債を明らかにした上で,その時点で破産手続が開始されたとした場合における清算処分価格を前提に,破産手続において原告らが配当を受け得たであろう金額を算出するとともに,現実に受領した弁済との差額を主張立証すべきところ,原告らは,時点を特定しないまま,原告らの理解するおおまかな資産と負債を主張するのみであり(例えば,原告らは被告富士カントリーが所有していた被告明智ゴルフ倶楽部の株式22万4438株の価値を1171億円と主張するが,平成13年当時のゴルフ場の価格は大幅に下落しており,芝山ゴルフ場の民事再生手続における評価は12億円であったことは原告らの自認するところであり(原告ら平成18年12月7日付準備書面35頁),このような極めて高額な評価は不合理といわざるを得ないし,原告らが評価額は約1700億円と主張する財産の実際の価格が不明であることも原告らの自認するところである(同40頁)。また,提携金融機関の債権の合計約1000億円のうち少なくとも半額は否認されるべきであると主張するが,ゴルフ場事業は被告富士カントリーと提携金融機関との共同事業であるから債権の半分は提携金融機関が負担すべきであるというのみで,合理的根拠を欠く。),本件記録中に原告らの損害を認めるに足りる的確な証拠は存在しない。
(3) そうであれば,被告富士カントリーの財産処分が適正なものであったか否かについて調査検討の余地があることは否定できないものの,原告らの被告Y1ら,被告フジパン及び被告存続4社に対する被告富士カントリーの財産隠匿行為に基づく損害賠償請求は,いずれの点からみても,理由がない。
5 被告可児ゴルフ倶楽部の株式及び被告笠間ゴルフクラブの株式の質権設定についての詐害行為取消請求等について
(1) 詐害行為取消請求の被保全権利は,原告丸大水産,原告高喜建設及び原告テコム医学研修協会(以下「取消請求原告ら」という。)の被告富士カントリーに対する本件会員権の違法販売行為による損害賠償請求権であるところ,前記1に判示のとおり,これらの請求権を認めることはできない。
(2) 念のため,仮に詐害行為取消請求の被保全権利が認められるとした場合の詐害行為取消請求権の行使の可否についても判断する。
取消請求原告らは,債権申出期間内に債権の申出をしなかったから,仮に取消請求原告らの主張する本件会員権の違法販売行為による損害賠償請求権が存在するとしても,被告富士カントリーの清算から除斥されることになることは,前記2において判示したとおりである。
そこで,取消請求原告らの詐害行為取消権行使の可否について判断すると,詐害行為取消権は,債務者の責任財産を確保し,将来の強制執行を保全するために債権者に認められた権利である。他方,清算から除斥された債権者は,申出債権者等に対する弁済が終了した後に残余財産がある場合に,当該残余財産についてのみ弁済を請求することができるにすぎず,残余財産が存しない場合には一切弁済を受けることができないことは,前記2において判示したとおりである。そうであるならば,清算から除斥された債権者は,詐害行為取消権を行使しても残余財産が生じる余地がない場合には,弁済に与ることができないのであるから,詐害行為取消権を行使する前提を欠くというべきであり,債務者が清算手続の申立て前にした財産処分行為につき,その債権に基づき詐害行為取消権を行使することは許されないと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,被告富士カントリーの申出債権者等に対する総債務額は約1801億円,別除権付債権の不足見込額と一般債権の合計は約1799億円であったのに対し,開始決定時における資産評価額の合計は約38億円であり,約1700億円を超える大幅な債務超過であったのであるから(甲27の1),詐害行為取消権の行使に基づき大多喜城ゴルフ倶楽部に対する29億3200万円の貸付金を取り戻したとしても申出債権者等に対する弁済が終了した後に残余財産が生じることはないし,他に残余財産が生じる可能性があることを窺わせる事情も認められない。そして,仮に取消請求原告らの主張する本件会員権の違法販売行為による損害賠償請求権が存在するとしても,取消請求原告らは被告富士カントリーの特別清算から除斥された債権者であるから,その債権に基づき詐害行為取消権を行使することは許されないというほかない。
(3) 以上によれば,取消請求原告らの被保全権利(被告富士カントリーに対する本件会員権の違法販売行為による損害賠償請求権)はこれを認めることができず,また,仮に認められたとしても除斥債権であって取消請求原告らは詐害行為取消権を行使することはできないから,その余について判断するまでもなく,取消請求原告らの詐害行為取消請求等は理由がない。
第7 結論
以上のとおり,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鹿子木康 裁判官 森純子 裁判官 小川雅敏)
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