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「営業アウトソーシング」に関する裁判例(72)平成23年12月21日 宇都宮地裁 平16(ワ)483号 各損害賠償請求事件

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(72)平成23年12月21日 宇都宮地裁 平16(ワ)483号 各損害賠償請求事件

裁判年月日  平成23年12月21日  裁判所名  宇都宮地裁  裁判区分  判決
事件番号  平16(ワ)483号・平16(ワ)621号・平16(ワ)680号・平17(ワ)77号・平17(ワ)419号・平18(ワ)338号
事件名  各損害賠償請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2011WLJPCA12216002

要旨
◆被告銀行の増資に応じて株式を取得した原告らが、被告銀行が破綻し、取得した株式が無価値になったことに関して、被告銀行に対し、被告銀行が株式発行前に作成した有価証券報告書等に虚偽記載があるとして、また、被告監査法人及び監査を行った被告公認会計士に対し、同報告書等について適正意見の監査証明を行ったとして、損害賠償を請求した事案において、被告が作成し提出した本件有価証券報告書等に虚偽記載の事実を認めることはできないとして、原告らの請求を棄却した事例

出典
判時 2140号88頁

評釈
弥永真生・ジュリ 1451号108頁

参照条文
証券取引法17条(平16法97改正前)
証券取引法18条(平16法97改正前)
証券取引法21条1項1号(平16法97改正前)
証券取引法21条1項3号(平16法97改正前)
証券取引法22条(平16法97改正前)
証券取引法23条の12第5項(平16法97改正前)
証券取引法24条の4(平16法97改正前)
証券取引法24条の5第5項(平16法97改正前)
民法709条

裁判年月日  平成23年12月21日  裁判所名  宇都宮地裁  裁判区分  判決
事件番号  平16(ワ)483号・平16(ワ)621号・平16(ワ)680号・平17(ワ)77号・平17(ワ)419号・平18(ワ)338号
事件名  各損害賠償請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2011WLJPCA12216002

別紙当事者目録記載のとおり

 

 

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。
二  訴訟費用は原告らの負担とする。

 

事実及び理由

第一  請求
一  平成一六年(ワ)第四八三号事件
(1)  被告株式会社足利銀行及び同みすず監査法人は、別紙請求金額等一覧表一記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一一年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2)  被告株式会社足利銀行及び同みすず監査法人は、別紙請求金額等一覧表二記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二  平成一六年(ワ)第六二一号事件
(1)  被告株式会社足利銀行及び同みすず監査法人は、別紙請求金額等一覧表三記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一一年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2)  被告株式会社足利銀行及び同みすず監査法人は、別紙請求金額等一覧表四記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三  平成一六年(ワ)第六八〇号事件
(1)  被告株式会社足利銀行及び同みすず監査法人は、別紙請求金額等一覧表五記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一一年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2)  被告株式会社足利銀行及び同みすず監査法人は、別紙請求金額等一覧表六記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四  平成一七年(ワ)第七七号事件
(1)  被告株式会社足利銀行、同みすず監査法人及び同Y1は、別紙請求金額等一覧表七記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一一年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2)  被告株式会社足利銀行、同みすず監査法人及び同Y1は、別紙請求金額等一覧表八記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五  平成一七年(ワ)第四一九号事件
(1)  被告株式会社足利銀行、同みすず監査法人及び同Y1は、別紙請求金額等一覧表九記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一一年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2)  被告株式会社足利銀行、同みすず監査法人及び同Y1は、別紙請求金額等一覧表一〇記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六  平成一八年(ワ)第三三八号事件
(1)  被告株式会社足利銀行、同みすず監査法人及び同Y1は、別紙請求金額等一覧表一一記載の各原告に対し、各自、それぞれ同一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一一年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2)  被告株式会社足利銀行、同みすず監査法人及び同Y1は、別紙請求金額等一覧表一二記載の各原告に対し、各自、同一覧表「請求金額」欄記載の金員及びこれに対する平成一四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二  事案の概要
原告ら(一部その相続人を含む。)は、被告株式会社足利銀行(以下「被告足銀」という。)が平成一一年八月及び平成一四年一月に行った増資に応じて株式を取得した者であり、平成一五年一二月一日に被告足銀の全株式が預金保険機構により強制取得され、株式が無価値になったところ、本件は、原告ら(一部その相続人を含む。)が、上記株式発行に先立ち被告足銀から関東財務局長に提出された平成一一年三月期(第一八八期)の有価証券報告書等及び平成一三年九月期(第一九一期中)の半期報告書等において、重要な事項に虚偽の記載があったために、株式取得額相当額の損害を被ったと主張して、被告足銀に対しては、平成一六年法律第九七号による改正前の証券取引法(以下「旧証取法」という。なお、同法は、平成一八年法律第六五号により法律の題名が「金融商品取引法」と改められた。二四条の四、二四条の五第五項、又は二三条の一二第五項、二二条、二一条一項一号、一八条、一七条)又は不法行為に基づき、被告足銀の財務計算書類について適正意見の監査証明を行った監査法人である被告みすず監査法人(旧名称は「中央青山監査法人」である。以下名称変更の前後を問わず「みすず監査法人」という。)及び同じく監査証明を行った公認会計士である被告Y1に対しては、旧証取法(二四条の四、二四条の五第五項、二二条、二一条一項三号)又は不法行為に基づき、損害賠償及び遅延損害金の支払を求める事案である。
一  前提事実(争いのない事実及び括弧内掲記の証拠により容易に認められる事実等)
(1)  当事者等
ア 原告ら
原告らは、被告足銀が行った、平成一一年八月の乙種優先株式による増資募集又は平成一四年一月の普通株式による増資募集の際に、被告足銀の株式を取得した者又はその相続人(被承継人亡Cは、平成一七年三月一六日死亡し、その承継人原告らが相続し、被承継人亡Dは、平成一七年二月一八日死亡し、その承継人原告が相続した。)である。
イ 被告ら
(ア) 被告足銀
被告足銀は、栃木県宇都宮市に本店を置く、預金又は定期預金の受入れ、資金の貸付け又は手形の割引並びに為替取引などを目的とする銀行である。
被告足銀は、平成一五年一一月二九日、内閣総理大臣から「破綻金融機関であって、その財産をもって債務を完済することができないもの」に該当するとして、預金保険法一〇二条一項三号に基づく措置認定を受け、同年一二月一日には、同法一一一条及び一一二条に基づき、被告足銀の全株式が預金保険機構によって強制取得され(特別危機管理開始決定)、一時国有化されるに至った。
(イ) みすず監査法人(以下「被告監査法人」という。)
被告監査法人は、公認会計士法三四条の二の二に基づき設立され、同法二条一項に定める財務書類の監査及び証明を業とする監査法人であった(現在は、清算法人となっている。)。被告監査法人は、被告足銀との間の委任契約に基づき、平成三年三月期から平成一六年三月期までの間、被告足銀の財務書類に対する監査又は監査証明を行った者である。
(ウ) 被告Y1(以下「被告Y1」という。)
被告Y1は、被告監査法人の代表社員の地位にあった公認会計士であり、平成九年三月期以降、被告監査法人の代表社員として、被告足銀の財務書類に対する監査及び監査証明を行った者である(以下、被告監査法人及び被告Y1をまとめて「被告監査法人ら」という。)。
(2)  有価証券報告書等の提出
ア 平成一一年三月期
被告足銀は、平成一一年六月二九日、平成一〇年四月一日から平成一一年三月三一日までの第一八八期事業年度に係る有価証券報告書(以下「平成一一年三月期報告書」という。)を関東財務局長に提出した。
同報告書中の財務諸表の貸借対照表において、同期末時点における総資産額は六兆〇〇四九億五二〇〇万円、総負債額は五兆九二一三億九一〇〇万円、貸倒引当金は三四八二億三九〇〇万円、繰延税金資産は一四八九億七五〇〇万円と記載されていた。
被告監査法人らは、平成一一年三月期報告書に添付された同年六月二九日付け監査報告書において、被告足銀の前記財務諸表に対し、同行の同年三月三一日現在の財務状態及び同日をもって終了する事業年度の経営成績を適正に表示しているものと認める旨の意見を表明した。
イ 平成一三年九月期
被告足銀は、平成一三年一二月一三日、同年四月一日から同年九月三〇日までの第一九一事業年度の中間会計期間を対象とする半期報告書(以下「平成一三年九月期報告書」という。)を関東財務局長に提出した。
同報告書中の中間財務諸表の中間貸借対照表において、同中間会計期末時点における総資産額は五兆三七八〇億八〇五四万円、総負債額は五兆三七八〇億五四〇〇万円、貸倒引当金は一四三六億八八〇〇万円、繰延税金資産は一七二七億八一〇〇万円と記載されていた。
被告監査法人らは、平成一三年九月期報告書に添付された同年一二月一三日付け中間監査報告書において、被告足銀の前記中間財務諸表に対し、同行の同年九月三〇日現在の財務状態及び同日をもって終了する中間会計期間の経営成績に関する有用な情報を表示しているものと認める旨の意見を表明した。
(3)  被告足銀による株式発行及び原告らの株式購入
ア 平成一一年八月の乙種優先株式の発行
(ア) 被告足銀は、平成一一年五月二五日開催の取締役会において、同行の主要株主及び主要取引先に対する第三者割当の方法により、配当等については優先権があるが議決権のない非上場の乙種優先株式を発行することを機関決定し、被告足銀の既存の取引先や顧客等を中心として、優先株式の引受についての募集を行い、同年八月三一日、乙種優先株式合計八五六四万株(発行価格は一株につき五〇〇円、総額四二八億二〇〇〇万円)を発行した。
上記乙種優先株式発行に当たり被告足銀より提出された発行登録書には、平成一一年三月期報告書中の財務諸表と同内容の記載があった。
(イ) 請求金額等一覧表一、三、五、七、九及び一一記載の各原告らないしその被相続人は、前記募集に応じ、同表の「株式取得額」欄記載のとおりの各金額をそれぞれ出資して、上記乙種優先株式を取得した。
イ 平成一四年一月の普通株式の発行
(ア) 被告足銀は、平成一三年一〇月に、普通株式の第三者割当の方法による増資を募集し、平成一四年一月九日開催の取締役会において普通株式の発行を機関決定し、同月三一日に三〇〇億円の普通株式を発行した。
上記普通株式発行に当たり被告足銀から提出された発行登録書には、平成一三年九月期報告書中の中間財務諸表と同内容の記載があった。
(イ) 請求金額等一覧表二、四、六、八、一〇及び一二記載の各原告らないしその被相続人は、前記募集に応じ、同表の「株式取得額」欄記載のとおりの各金額をそれぞれ出資して、上記普通株式を取得した。
(4)  AFGへの株式移転
被告足銀が、北関東リース株式会社と共同で、平成一五年三月一二日、持株会社として株式会社あしぎんフィナンシャルグループ(以下「AFG」という。)を設立したことに伴う株式移転により、原告らを含む同行の株主は、AFGの株主となった。
(5)  被告足銀の国有化
被告足銀は、預金保険法一〇二条一項三号に定める措置の認定を受けるとともに、同法一一一条一項に基づく特別危機管理開始決定を受けたことにより、平成一五年一二月一日、国有化されるに至った。
上記国有化に伴い、預金保険機構が、AFGの保有する被告足銀の株式をすべて強制的に取得した。
(6)  貸倒引当金の計上に関する諸制度等
ア 早期是正措置制度の導入
平成八年六月二一日に成立した「金融機関等の経営の健全性確保のための関係法律の整備に関する法律」に基づく銀行法等の改正により、銀行経営の健全性を確保するための金融行政当局による監督手法として、平成一〇年四月一日から、自己資本の充実の状況に応じて経営改善計画の作成・実施命令、個別措置の実施命令、業務命令等必要な措置が講じられるという早期是正措置制度が導入されることとなった。
イ 資産査定通達の概要等
(ア) 上記早期是正措置制度の導入に伴い、銀行等金融機関は、自ら資産の査定基準を定めて、これに従った自己査定の結果を適正に反映させた償却・引当を行うことが求められることとなり、導入後の金融検査においては、金融機関による自己査定を前提として、その結果の正確性等を審査することとなった。
(イ) そこで、大蔵省大臣官房金融検査部は、早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定が適切かつ統一的に行いうるよう、平成九年三月五日付けで、「早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定について」と題する通達及び同通達別添の「資産査定について」と題する書面(以下併せて「資産査定通達」という。)を発出した。
(ウ) 資産査定通達においては、債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により返済能力を判定して、債務者を、「正常先」(業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者をいう。)、「要注意先」(金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する先をいう。)、「破綻懸念先」(現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。具体的には、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど事業好転の見通しがほとんどない状況で、自行(庫・組)としても消極ないし撤退方針としており、今後経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる先をいう。なお、自行(庫・組)として消極ないし撤退方針を決定していない債務者であっても、当該債務者の業況等について、客観的に判断し、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる場合は、破綻懸念先とする。)、「実質破綻先」(法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいう。具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多額な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している先などをいう。)及び「破綻先」(法的・形式的な経営破綻の事実が発生している先をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、和議、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者をいう。)に区分し、これを前提に、担保及び保証等を考慮して、債務者ごとに貸出金を「Ⅰ分類」(Ⅱ分類、Ⅲ分類及びⅣ分類としない資産)、「Ⅱ分類」(債権確保上の諸条件が満足に充たされないため、あるいは、信用上疑義が存する等の理由により、その回収について通常の度合を超える危険を含むと認められる債権等の資産)、「Ⅲ分類」(最終の回収又は価値について重大な懸念が存し、従って損失の発生の可能性が高いが、その損失額について合理的な推計が困難な資産)及び「Ⅳ分類」(回収不可能又は無価値と判定される資産)にそれぞれ分類することとされていた。
ウ 四号実務指針の公表及び一部改正
(ア) 日本公認会計士協会は、早期是正措置制度に伴って導入される自己査定制度の整備状況の妥当性及び査定作業基準への準拠性を確かめるための実務指針を示すとともに、貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱いを明らかにするため、平成九年四月一五日付けで、銀行等監査特別委員会報告第四号「銀行等金融機関の資産の自己査定に係る内部統制の検証並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」(以下「四号実務指針」という。)を作成・公表した。
同指針は、原則として、同月一日以後開始する事業年に係る監査から適用され、同年九月三〇日に終了する中間会計期間において銀行等金融機関が自己査定に係る内部統制を構築し、その旨を表明した場合には、当該中間会計期間に係る監査から適用された。
(イ) 四号実務指針においては、貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱いについて、「正常先債権」(業況が良好であり、かつ財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者に対する債権)、「要注意先債権」(貸出条件に問題のある債務者、履行状況に問題のある債務者、赤字決算等で業況が低調ないし不安定な債務者に対する債権)、「破綻懸念先債権」(現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者に対する債権)、「実質破綻先債権」(法的、形式的な経営破綻の事実は、発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見込みがたたない状況にあると認められるなど、実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権)及び「破綻先債権」(破産、清算、会社整理、会社更生、和議、手形交換所における取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者に対する債権)の五つの債権区分が示されていた。
(ウ) 四号実務指針は、平成一一年四月三〇日付けで一部が改正され、上記五つの債権区分のうち、「要注意債権」は貸出条件に問題のある債務者、履行状況に問題のある債務者、赤字決算等で業況が低調ないし不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後注意を要する債務者に対する債権に、「破綻懸念先債権」は、現状、経営破綻の状況にはないが、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者に対する債権に、「実質破綻先債権」は、法的、形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど、実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権に、「破綻先債権」は、法的、形式的な経営破綻の事実が発生している債務者、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、和議、手形交換所における取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者に対する債権に、それぞれ定義が改められた。
改正後の四号実務指針は、原則として、同月一日以後開始する事業年度から適用された。
エ 金融検査マニュアルの策定・公表
(ア) 金融監督庁(平成一二年七月に「金融庁」に改組された。)検査部内に設置された金融検査マニュアル検討会は、金融検査マニュアル及びチェックリストの整備に向けた検討を行い、その成果として、平成一〇年一二月一二日付けで、「中間取りまとめ」(以下「金融検査マニュアル中間取りまとめ」という。)を公表した。
金融検査マニュアル中間取りまとめにおける債務者区分及び債権の分類基準は、上記資産査定通達におけるそれと同内容であった。
(イ) 平成一一年四月八日付けで金融検査マニュアル研究会が公表した金融検査マニュアルの最終とりまとめの内容を踏まえ、金融監督庁は、同年七月一日付けで「預金等受入金融機関に係る検査マニュアルについて」と題する書面を発出し、金融検査の基本的考え方及び検査に際しての具体的着眼点等を整理した「金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)」(以下単に「金融検査マニュアル」という。)を策定・公表し、同日以降に実施される金融検査は金融検査マニュアルに従って行われることとなった。
金融検査マニュアル内の「信用リスク検査用マニュアル」において、金融機関による自己査定基準の適切性及び自己査定結果の正確性並びに償却・引当額の総額及びその水準の適切性に対する検証の方法やチェック項目等が定められた。
上記自己査定基準の適切性の検証に関し、債務者区分を正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に分け、このうち、要注意先、破綻懸念先及び実質破綻先について、次のとおり定められた。要注意先は、「金利減免・棚上げを行っているなど貸し出し条件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないし不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者」をいう。破綻懸念先は、「現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(金融機関等の支援継続中の債務者を含む。)」であり、「具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており、業績が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり、従って損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者」をいう。実質破綻先は、「法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者」であり、「具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している債務者など」をいう。
(7)  繰延税金資産の計上に関する諸制度等
ア 税効果会計の導入
平成一〇年一〇月三〇日付けで企業会計審議会が、「税効果会計に係る会計基準」を含む「税効果会計に係る会計基準の設定に関する意見書」を公表し、これを受けて、同年一二月に「株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書に関する規則」が改正され、平成一一年四月一日以降開始する事業年度から、個別財務諸表にも税効果会計が適用されることとなった。銀行においては、同年三月期から税効果会計の早期適用が認められており、被告足銀も、同期から税効果会計を導入した。
イ 税効果会計に係る会計基準の内容
税効果会計に係る会計基準によれば、一時差異(貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額)に係る税金の額は、将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を除き、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上しなければならず、繰延税金資産については、将来の税金の回収の見込みについて毎期見直しを行わなければならないとされている。
ウ 税効果会計実務指針・税効果会計に関するQ&Aの公表
日本公認会計士協会は、上記のとおり、個別財務諸表にも税効果会計が適用されるようになったことを受けて、平成一〇年一二月二二日付けで、会計制度委員会報告第一〇号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「税効果会計実務指針」という。)を公表し、平成一一年一月に「税効果会計に関するQ&A」を公表した。
同指針及びQ&Aでは、将来減算一時差異に係る繰延税金資産から控除する金額の決定に当たっては当該資産の回収可能性を十分に検討しなければならず、その判断においては収益力に基づく課税所得の十分性、タックスプランニングの存在、将来加算一時差異の十分性を判断要件とするとされている。
エ 事務ガイドライン及び金融検査マニュアルの内容
(ア) 金融監督庁により平成一〇年一二月に改正された「金融監督等にあたっての留意事項について―事務ガイドライン―第一分冊:預金取扱い金融機関関係」(以下「事務ガイドライン」という。)には、一―三―四「自己資本比率算定に際してのチェック」において、資本勘定に算入されている税効果相当額(=繰延税金資産見合い額)が適正に計上されているかの検証にあたっては、例えば、計上された税効果相当額が今後五年間の利益見込額の合計額を上回っている場合には、監査法人と十分な協議が行われているかを含め、その理由等を聴取するとの注意書きがある。
(イ) 金融検査マニュアル内の信用リスク検査用マニュアルにおいても、自己資本比率の正確性の検証にあたって、計上された税効果相当額が今後五年間の課税所得の見込額に実効税率を乗じた額を上回っている場合には、合理的な理由があるかを検証するとされている。
オ 中間実務指針、中間Q&Aの公表及びその内容
日本公認会計士協会は、特に中間財務諸表等及び中間連結財務諸表に固有の論点に対する実務指針として、平成一一年一月一九日付けで、「中間財務諸表等における税効果会計に関する実務指針」(以下「中間実務指針」という。)を公表し、その後「中間財務諸表等における税効果会計の適用に関するQ&A」(以下「中間Q&A」という。)を公表した。
これらでは、原則法に従った中間財務諸表における法人税等の会計処理について、中間会計期間を一事業年度とみなして、年度決算と同様の方法により、税額計算を行い、これにより生じた将来減算一時差異に対しては繰延税金資産を計上するとされている。
カ 六六号報告の公表及びその内容
(ア) 日本公認会計士協会は、繰延税金資産の回収可能性の判断に関して監査上留意すべき事項について、平成一一年一一月九日付けで、監査委員会報告第六六号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下「六六号報告」という。)を公表した。
(イ) 同報告においては、過去の業績等に基づいて将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性の判断を行う場合について、以下のような判断指針が示されている。
a 過去の業績が不安定な会社等(過去の経常的な損益が大きく増減しているような会社)の場合には、将来の合理的な見積可能期間(おおむね五年)内の課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、それに係る繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できる。
b 重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社等については、原則として、翌期に課税所得の発生が確実に見込まれる場合で、かつ、その範囲内で翌期の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、当該繰延税金資産を計上している場合には、それに係る繰延税金資産は回収可能性があると判断できる。ただし、重要な税務上の繰越欠損金や過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が、事業のリストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因により発生したものであり、それを除けば課税所得を毎期計上している会社の場合には、将来の合理的な見積可能期間(おおむね五年)内の課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、それに係る繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できる。
c 過去(おおむね三年以上)連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社で、かつ、当期も重要な税務上の欠損金の計上が見込まれる会社(債務超過の状況にある会社や資本の欠損の状況が長期にわたっている会社で、かつ、短期間に当該状況の解消が見込まれない場合も同様に扱う。)の場合には、原則として、繰延税金資産の回収可能性はないものと判断する。
(ウ) また、同報告では、収益力に基づく課税所得の十分性を根拠に繰延税金資産を計上する場合には、原則として、取締役会等における承認を得た将来の業績予想が作成されていなければならないとされている。
キ 七〇号報告の公表及びその内容
(ア) 日本公認会計士協会は、平成一三年四月一日以後開始する事業年度から「その他有価証券」の時価評価が全面適用になることに先立ち、同年二月一一日付けで、監査委員会報告第七〇号「『その他有価証券』の評価差額に対する税効果会計の取扱い」(以下「七〇号報告」という。)を公表した。
(イ) 同報告では、その他有価証券の時価評価に伴い純額で評価差損が生じた場合について、当該純額の評価差損は、スケジューリング不能な将来減算一時差異に当たり、原則として、当該繰延税金資産の回収可能性はないものとして取扱うが、六六号報告における「期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会社等」及び「業績は安定しているが、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどに課税所得がない会社等」については当該評価差損の回収可能性があると判断でき、「業績が不安定であり、期末における将来減算一時差異を上回るほどの課税所得がない会社等」及び「重要な税務上の繰越欠損金が存在するが、重要な税務上の繰越欠損金や過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が非経常的な特別の原因により発生したものである場合」は、将来の合理的な見積可能期間(おおむね五年)内の課税所得の見積額からスケジューリング可能な一時差異の解消額を加減した額を限度として計上された、純額の評価差損に係る繰延税金資産は回収可能性があると判断できるとされている。
(8)  被告足銀における自己査定基準等の策定等
ア 前記のとおり、早期是正措置制度の導入に伴い、各金融機関に対し適正な自己査定を実施することが義務づけられたことを受けて、被告足銀は、平成一一年三月期決算に先立ち、平成九年一二月一五日付け「資産自己査定基準」及び平成一〇年二月一〇日付け「貸倒償却および貸倒引当金等の計上に関する基準」を策定した。
上記「資産自己査定基準」によれば、被告足銀の自己査定は、まず全与信先について、その財務内容や延滞状況から、「正当先」、「要注意先」、「破綻懸念先」、「実質破綻先」及び「破綻先」の五段階に区分したあと、与信先の資金使途等の内容を個別に検討し、担保や保証等の状況を勘案した上で、債権をⅠ、Ⅱ、Ⅲ及びⅣの四段階に区分する方法で実施するとされている。上記「貸倒償却および貸倒引当金等の計上に関する基準」によれば、被告足銀の貸倒引当金の計上は、上記分類を前提に、各対象債権に応じた基準に従って実施するとされていた。
イ 被告足銀は、平成一三年九月期決算に先立ち、平成一二年一二月二六日付け「与信関係自己査定マニュアル」を策定し、平成一三年三月六日付け「資産自己査定基準」及び同月二三日付け「償却・引当基準」をそれぞれ同年九月二七日付けで改定した。
上記「資産自己査定基準」及び「与信関係自己査定マニュアル」による自己査定の方法は、前記アの方法と同様であるが、債務者区分や債権の分類基準がより精緻化された。
二  争点
(1)  虚偽記載の判断基準(争点一)
(2)  平成一一年三月期の有価証券報告書における虚偽記載の有無(争点二)
ア 貸倒引当金の過少計上の有無(争点二の①)
イ 繰延税金資産の過大計上の有無(争点二の②)
(3)  平成一三年九月期の半期報告書における虚偽記載の有無(争点三)
ア 貸倒引当金の過少計上の有無(争点三の①)
イ 繰延税金資産の過大計上の有無(争点三の②)
(4)  各被告の責任の有無(争点四)
(5)  損害及び因果関係(争点五)
三  争点に関する当事者の主張の要旨
(1)  虚偽記載の判断基準について(争点一)
(原告らの主張)
虚偽記載の判断に当たって、平成一一年三月期及び平成一三年九月期に共通して、会計原則の根本である「真実性の原則」(虚偽の前提や根拠のない前提を置いて会計処理を行ってはならないという原則)が会計基準として適用される。
上場会社である被告足銀の財務諸表の作成にあたっては、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「財務諸表等規則」という。)に規定される「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」(以下「公正妥当な企業会計基準」という。)を遵守する必要があり、また被告監査法人も、同基準に照らして財務諸表の記載内容が適正であるか否かについて監査を実施しているのであるから、有価証券報告書等の記載事項につき、「公正なる会計慣行」(平成一七年法律第九六号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)三二条二項)に反する記載だけではなく、上記「公正妥当な企業会計基準」に反する記載も、虚偽記載に当たるというべきである。
(被告足銀の主張)
ア 虚偽記載の要件の一つとして、貸倒引当金又は繰延税金資産の計上につき、法令若しくは「企業会計審議会により公表された企業会計の基準」において会計上一定の計上額を導くことができる具体的な会計処理方法が定められていたこと、又は、会計上一定の計上額を導くことができる具体的な会計処理方法が各決算期において貸倒引当金又は繰延税金資産の計上に係る「唯一」の「公正なる会計慣行」となっていたことが必要である。
そして、ある具体的な会計処理方法が各決算期において貸倒引当金又は繰延税金資産の計上に係る「唯一」の「公正なる会計慣行」となっていたといえるためには、まずもって、当該具体的な会計処理方法が、当該決算期において、一般的に広く公正な会計上の習わしとして相当の時間繰り返して行われ根付いていなければならず、さらに、当該具体的な会計処理方法が従前の具体的な会計処理方法を一義的明確に排除するに至らなければならない。
イ 貸倒引当金及び繰延税金資産の計上について、旧証取法、財務諸表等規則その他の法令からは、作成者にとって一義的に明確な具体的会計処理方法を導くことはできないから、被告足銀が平成一一年三月期及び平成一三年九月期に計上した貸倒引当金及び繰延税金資産の金額に係る具体的な会計処理方法が、一般的に広く会計上の習わしとして相当の時間繰り返して行われ「公正なる会計慣行」となり、当該「公正なる会計慣行」に基づく解釈・運用が他の取扱いを排除するほど繰り返されて根付き、必ず従うべきとされる意味の法規範(「唯一」の「公正なる会計慣行」)に適ったものではなく、当該有価証券報告書等に記載された金額が、かかる法規範となっていた会計処理から算出されるべき金額と異なっていた場合に「虚偽」となる。また、貸倒引当金及び繰延税金資産の計上において遵守すべきとされる基準等は、一義的明確性及び具体性を有していなければ「公正なる会計慣行」とはいえない。
(被告監査法人らの主張)
ア 「虚偽記載」の成立要件として、各決算期における貸倒引当金又は繰延税金資産の計上につき、法令若しくは「企業会計審議会により公表された企業会計の基準」において会計上一定の計上額を導くことができる具体的な会計処理方法が定められていたこと、又は、会計上一定の計上額を導くことができる具体的な会計処理方法が各決算期において貸倒引当金又は繰延税金資産の計上に係る「唯一」の「公正なる会計慣行」となっていたことが必要である。そして、ある具体的な会計処理方法が、「唯一」の「公正なる会計慣行」となっていたといえるためには、まず、当該方法が、当該決算期において、一般的に広く公正な会計上の習わしとして相当の時間繰り返して行われ根付いていなければならず、さらに、当該方法が従前の具体的な会計処理方法を一義的明確に排除するに至らなければならない。
イ 平成一一年三月期及び平成一三年九月期において、貸倒引当金の計上の前提となる債務者区分の判定基準及び繰延税金資産の計上の前提となる繰延税金資産の回収可能性の判断に関する会計処理方法について、「公正なる会計慣行」は存在せず、まして、これに従わなければ違法となるというような拘束力をもった「唯一」の「公正なる会計慣行」は存在していなかった。
(2)  平成一一年三月期の有価証券報告書における虚偽記載の有無について(争点二)
(原告らの主張)
ア 総論
被告足銀は、平成一一年三月期において、①少なくとも個別の一四債務者について合計四〇〇億二五〇〇万円の貸倒引当金の引当不足が存在し、その他の事情を考慮すれば、少なくとも七三八億一五〇〇万円の貸倒引当金の引当不足が存在し、また、②繰延税金資産を計上すること自体許されなかったにもかかわらず、繰延税金資産として一四八九億円を計上し、仮に一定限度の繰延税金資産の計上が許される余地があるとしても、少なくとも五八八億円を過大に計上することにより、有価証券報告書における自己資本(基本的項目)の額について、二二五五億円を過大に計上した。
イ 貸倒引当金の過少計上について(争点二の①)
(ア) 適用される会計基準
平成一一年三月期において、被告足銀が貸倒引当金を計上するにあたっては、会計原則の根本である真実性の原則に加えて、「資産査定通達」、「四号実務指針」、金融検査マニュアル中間とりまとめ内の「信用リスク検査用マニュアル」、平成九年一二月一五日付け「資産自己査定基準」及び平成一〇年二月一〇日付け「貸倒償却および貸倒引当金等の計上に関する基準」の各基準を遵守すべきであった。
a 資産査定通達
資産査定通達は、監督官庁からの通達として、後には実質的に法令上の根拠も有するに至り、平成一一年三月期までには被告足銀を含む金融機関の資産査定の基準とされていたものであり、これが被告足銀の財務諸表を作成・公表する上で、平成一一年三月期以降における「一般に認められる会計実務慣行」として、「公正妥当な企業会計基準」に該当していたことは明らかであり、監査上も留意されるべき基準となっていた。
b 四号実務指針
四号実務指針は、資産査定通達に対する監査実務上の対応を明らかにするために、日本公認会計士協会により公表されたものであるから、平成一一年三月期において被告足銀の会計監査をする上で、公正妥当な監査基準に該当していたことは明らかである。また、四号実務指針は、早期是正措置制度の下、資産査定通達と事実上一体として運用されていて、監査対象である各金融機関にとっても実務上準拠すべき会計処理等の基準となっていたから、平成一一年三月期において、「一般に認められる会計実務慣行」として、被告足銀の財務諸表作成における「公正妥当な企業会計基準」であった。
c 信用リスク検査用マニュアル
信用リスク検査用マニュアルは、資産査定通達と同様に、金融機関の再生のための緊急措置に関する法律(以下「金融再生法」という。)六条二項に規定される「主務省令で定める基準」の具体的な指針として、その公表時点において、各金融機関の「資産の査定」における実質的な基準となっており、実質的に法令上の根拠も有していたから、平成一一年三月期には金融機関の資産査定の基準として用いられていた。また、信用リスク検査用マニュアルは、特殊事業者である銀行について、監督官庁によって定められた会計規則であり、同期において、「一般に認められる会計実務慣行」として、被告足銀が財務諸表を作成する上での「公正妥当な企業会計基準」に該当するものであったことは明らかである。また、資産査定通達を具体化、明確化した信用リスク検査用マニュアルは、平成一一年三月期において監査上も留意されるべき基準となっていた。
d 資産自己査定基準並びに貸倒償却および貸倒引当金等の計上に関する基準
資産自己査定基準並びに貸倒償却および貸倒引当金等の計上に関する基準は、いずれも上記各基準の要請により、被告足銀において、それらの基準の内容を踏まえて作成された、貨出債権を回収リスクに応じて分類する際の査定基準及びこの査定により分類された債権に対する償却・引当の基準である。これに従い、自己査定及びその査定結果を前提とした償却・引当を行うことは、金融再生法六条により要請される「資産の査定」にほかならず、これら一連の会計処理が、法令に基づくものである以上、資産自己査定基準並びに貸倒償却および貸倒引当金等の計上に関する基準が「一般に認められる会計実務慣行」として、平成一一年三月期における「公正妥当な企業会計基準」となっていたことは明らかである。
また、被告足銀の財務諸表の監査にあたっても、四号実務指針により、実際に自己査定及び償却・引当が上記の各基準に従ってなされているか否かを監査するものとされていたから、上記の各基準は、平成一一年三月期において、監査上も留意されるべき基準となっていた。
e なお、資産査定通達及び四号実務指針は、政府による明確な方針と指導に基づき、一般貸出債権の償却・引当について、金融機関が例外なく一斉に新しい基準を採用することとなり、従前の税法基準の併用は行われない状態に至ったのであるから、これらの会計基準は慣行として即時に成立したものと解するべきである。また、上記各基準は、一般貸出債権に係る償却・引当の実務に関する根本的な基準であるから、仮に抽象的な要素があったとしても、それによって「公正なる会計慣行」性が否定されるものではない。
(イ) 個別の貸出先に対する引当不足
被告足銀は、以下の債務者について、債務者区分の判定を恣意的に行い、貸倒引当金を過少に計上した。
a 株式会社あさやホテル(以下「あさやホテル」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期におけるあさやホテルについて、債務者区分を破綻懸念先に区分し、総与信額一六三億〇五〇〇万円のうち、四九〇〇万円を非分類、六九億円をⅡ分類、九三億五五〇〇万円をⅢ分類に分類した上で、Ⅲ分類に分類された九三億五五〇〇万円の五〇パーセントである四六億七七〇〇万円を個別引当金として計上した。
(b) しかしながら、平成一一年三月期において、あさやホテルは、「事業を形式的には継続しているが」、売上高の約三倍の一六三億〇五〇〇万円という「債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥って」いた。また、経営改善計画の内容は不十分であった上、その不十分な計画すら達成できておらず借入過多や債務超過が解消される見込みはなく、将来ゴルフ場関連開発子会社の清算によって多額の損失が生じることが確実に見込まれるという「再建の見通し」がない状態にあり、かつ「利息について実質的に長期間延滞している先」であるなど、事業継続による余剰資金(営業キャッシュフロー)からの返済が見込めない債務者であったから、その債務者区分は、破綻懸念先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において、被告足銀が把握していたあさやホテルの保全額は六九億円であったから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて六九億五〇〇〇万円(分類対象外四九〇〇万円及び保全額六九億円の合計)、Ⅳ分類九三億五五〇〇万円となり、償却・引当基準に従えばⅣ分類については全額引当を行う必要があるから、本来であれば九三億五五〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、あさやホテルに対する引当不足額は四六億七八〇〇万円であった。
b 株式会社サンシャイン(以下「サンシャイン」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期におけるサンシャインについて、その債務者区分を要注意先に区分し、総与信額三六億六二〇〇万円の全額についてⅡ分類に分類し、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一一年三月期において、サンシャインは、「現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており」、ホテル間の競争激化により連続して経常赤字、当期損失を計上し続ける「業況が著しく低調」な状態であって、元金据置措置等の支援措置によって何とか形式的な延滞を免れるという実質的には「貸出金が延滞状態」にあった。また、その当時策定されていた事業計画も達成できていないのみならず、借入金の金額が年商の三倍以上であったため具体的で確実性の高い改善計画が必要であったにもかかわらず、当時策定されていた事業計画の内容は当該事業計画を実現しても、借入過多の解消及び実質債務超過の解消が見込めない状況にあったから、「事業好転の見通しがほとんどない状況」であった。したがって、被告足銀にとって、「消極ないし撤退方針を決定していない与信先であっても、当該与信先等の業況等について、客観的に判断し、今後経営破綻に陥る可能性が高いと認められる」債務者であったから、その債務者区分は、要注意先ではなく、破綻懸念先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において、被告足銀がサンシャインについて把握していた保全額としては、多くとも九億六八〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である九億六八〇〇万円、Ⅲ分類二六億九四〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類については五〇パーセントの引当を行う必要があったから、本来であれば一三億四七〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、サンシャインに対する引当不足額は、一三億四七〇〇万円であった。
c シモレン株式会社(以下「シモレン」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期におけるシモレンについて、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額一一七億一九〇〇万円のうち一一三億二八〇〇万円をⅠ分類、三億九一〇〇万円をⅡ分類に分類して、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一一年三月期において、シモレンは、「現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており」、建設業界の不況によって決済資金も不足するなど「業況が著しく低調」な状態であって、「貸出金が延滞状態」にあった。また、その当時策定されていた中期経営計画の内容は極めて不十分で、仮に計画通りに返済が進んでも借入過多の解消も、実質債務超過の解消も見込めず、多層商流の構造についても全く改善の兆しが見られず「事業好転の見通しがほとんどない状況」であった。したがって、シモレンは、被告足銀にとって、「消極ないし撤退方針を決定していない与信先であっても、当該与信先等の業況等について、客観的に判断し、今後経営破綻に陥る可能性が高いと認められる」債務者であったから、その債務者区分は、要注意先ではなく破綻懸念先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において被告足銀が把握していたシモレンの保全額は六一億四三〇〇万円と評価されていたから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である六一億四三〇〇万円、Ⅲ分類五五億七六〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類については五〇パーセント引当を行う必要があるから、本来であれば二七億八八〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、シモレンに対する引当不足額は、二七億八八〇〇万円であった。
d 熊谷商事株式会社(以下「熊谷商事」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期における熊谷商事について、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額一六〇億五六〇〇万円のうち二億五一〇〇万円をⅠ分類、一五八億〇五〇〇万円をⅡ分類に分類し、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一一年三月期において、マンション・建売住宅の分譲業者であった熊谷商事は、「現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており」、事業化や分譲が遅延して不良在庫が増加するという「業況が著しく低調」な状態であって、「貸出金が延滞状態」にあった。また、その当時策定されていた経営改善計画の内容は極めて不十分で、仮に改善計画通りに返済が進んでも借入過多の解消も、実質債務超過の解消も見込めないという「事業好転の見通しがほとんどない状況」であった。したがって、熊谷商事は、被告足銀にとって、「消極ないし撤退方針を決定していない与信先であっても、当該与信先等の業況等について、客観的に判断し、今後経営破綻に陥る可能性が高いと認められる」債務者であったから、その債務者区分は、要注意先ではなく破綻懸念先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において被告足銀が熊谷商事について把握していた保全額は五六億六二〇〇万円と評価されていたから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である五六億六二〇〇万円、Ⅲ分類一〇三億九四〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類については五〇パーセント引当を行う必要があるから、本来であれば五一億九七〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、熊谷商事に対する引当不足額は、五一億九七〇〇万円である。
e 株式会社三協(以下「三協」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期における三協について、債務者区分を破綻懸念先に区分し、総与信額七〇億円のうち二〇億〇一〇〇万円をⅠ分類、二〇億三六〇〇万円をⅡ分類、二九億六三〇〇万円をⅢ分類に分類した上で、Ⅲ分類に分類された二九億六三〇〇万円の五〇パーセントである一四億八一〇〇万円のみを個別引当金として計上していた。
(b) しかしながら、ゴルフ場を経営していた三協は平成一一年三月期において、多額の債務超過の状態にあったが、当期赤字が続き収益による債務超過の解消はできず、さらには、ゴルフ会員権販売ができず会員権販売による債務超過の解消も見込むことができない状況にあった。また、被告足銀も別件の訴訟において実質破綻先と認定すべきことを認めており、実際、三協が平成一六年には民事再生手続開始を申し立てたことなども総合的に勘案すれば、平成一一年三月期において、三協は、「事業を形式的には継続しているが」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、この債務超過の解消には相当長期間を要するばかりか見込みすら全く立っておらず、かつ、「事業好転の見通し」がなく、「再建の見通しがない状況」で、しかも、「元金」「について実質的に長期間延滞している先」であったから、その債務者区分は、破綻懸念先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において、被告足銀が三協について把握していた保全額としては、多くとも四〇億三七〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である四〇億三七〇〇万円、Ⅳ分類二九億六三〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類はその全額について引当を行う必要があるから、本来であれば二九億六三〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、三協に対する引当不足額は、一四億八二〇〇万円であった。
f 松栄不動産株式会社(以下「松栄不動産」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期における松栄不動産について、債務者区分を破綻懸念先に区分し、総与信額一一八億五六〇〇万円のうち六七億六四〇〇万円をⅡ分類とし、五〇億九二〇〇万円をⅢ分類に分類した上で、Ⅲ分類に分類された五〇億九二〇〇万円の五〇パーセントである二五億四六〇〇万円についてのみ引当金を計上していた。
(b) しかしながら、松栄不動産は、平成六年から元利金が延滞となっており、資金繰りを維持するために多額の売却損を出しながらも保有資産を売却し巨額の債務超過に陥っており、さらには、別件の訴訟で被告足銀自身が実質破綻先であったことを認めており、平成一五年には破産手続開始決定を受けるに至ったことなどを総合的に勘案すれば、平成一一年三月期において松栄不動産は、「深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められる等、実質的に経営破綻に陥って」おり、「財務内容において多額の不良資産を内包し」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがな」く、かつ「再建の見通しがない状況で、元金または利息について実質的に長期間延滞している先」に当たるから、その債務者区分は、破綻懸念先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において、被告足銀が松栄不動産について把握していた保全額は、多くとも六七億六四〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類併せて保全額である六七億六四〇〇万円、Ⅳ分類五〇億九二〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類はその全額について引当を行う必要があるから、本来であれば五〇億九二〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、松栄不動産に対する引当不足額は、二五億四六〇〇万円であった。
g 株式会社上野百貨店(以下「上野百貨店」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期における上野百貨店について、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額一一三億六七〇〇万円のうち一八億六五〇〇万円をⅠ分類、九五億〇二〇〇万円をⅡ分類に分類し、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、上野百貨店は、長期にわたり多額の債務超過を継続し、一方で何年にもわたり営業赤字、当期赤字を継続するほどに業績は悪化し、資金繰りも事実上破綻しており、平成一二年には自己破産を申し立てるに至ったことなどを総合的に勘案すれば、平成一一年三月期において上野百貨店は、「現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており」、経常損益、当期損益ともに赤字を計上し続ける「業況が著しく低調」な状態であって、「貸出金が延滞状態」にあった。また、長期間にわたり当期赤字のみならず営業赤字を出すほどに業況が悪化していたこと、当時百貨店業全体の売上げが減少し構造不況業種となっていたこと、さらに被告足銀による支援融資に過度に依存した財務体質であったことなどを総合勘案すれば「事業好転の見通しがほとんどない状況」であった。したがって、上野百貨店は、被告足銀にとって、「消極ないし撤退方針を決定していない与信先であっても、当該与信先等の業況等について、客観的に判断し、今後経営破綻に陥る可能性が高いと認められる」債務者であったから、その債務者区分は、要注意先ではなく少なくとも破綻懸念先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において、被告足銀が上野百貨店について把握していた保全額としては、多くとも三八億円とみることができる上、大田原出店資金一九億〇五〇〇万円が分類対象外とされていたことから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて分類対象外としていた一九億〇五〇〇万円及び保全額三八億円の合計五七億〇五〇〇万円、Ⅲ分類五六億六二〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類はその五〇パーセントについて引当を行う必要があるから、本来であれば二八億三一〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、上野百貨店に対する引当不足額は、二八億三一〇〇万円であった。
h 株式会社川治温泉一柳閣本館(以下「川治温泉一柳閣」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期における川治温泉一柳閣について、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額三六億五九〇〇万円のうち八三〇〇万円をⅠ分類、三五億七六〇〇万円をⅡ分類に分類し(うち一五億一一〇〇万円は要管理債権)、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、川治温泉一柳閣は、平成一一年三月期において、総資産の約二倍、売上高の約四倍を超える過大な借入金を抱え、巨額の債務超過の状態にあり、平成七年以降売上げは減少し、かつ当期赤字が継続しており、さらには平成二〇年には破産手続開始を申し立てるに至ったことなどを総合的に勘案すれば、「深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められる等、実質的に経営破綻に陥って」おり、「財務内容において多額の不良資産を内包し」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがな」く、かつ「再建の見通しがない状況で、元金または利息について実質的に長期間延滞している先」に当たるから、その債務者区分は、要注意先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において、被告足銀が川治温泉一柳閣について把握していた保全額は、多くとも六億七二〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類併せて保全額である六億七二〇〇万円、Ⅳ分類二九億八七〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類はその全額について引当を行う必要があるから、本来であれば二九億八七〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、川治温泉一柳閣に対する引当不足額は二九億八七〇〇万円であった。
i 有限会社泉屋旅館(以下「泉屋旅館」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期における泉屋旅館について、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額三六億五六〇〇万円のうち一四〇〇万円をⅠ分類、三六億四二〇〇万円をⅡ分類に分類し、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、泉屋旅館は平成一一年三月時点において、売上げの四倍を超える過大な借入金を抱え、一方で、売上高は平成八年四月期以降年々減少傾向にあった上、一般取引債務(買掛金)の支払すら滞るようになっており、さらには、平成一六年には民事再生手続開始の申立てをするに至ったことなどを総合的に勘案すれば、平成一一年三月期において泉屋は、多額の債務超過を抱え、かつ、実質的に長期間延滞しており、かつ再建の可能性がなかったのであるから、「深刻な経営難の状態にあり、再建の見建しがない状況にあると認められる等、実質的に経営破綻に陥って」おり、「財務内容において多額の不良資産を内包し」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがな」く、かつ「再建の見通しがない状況で、元金または利息について実質的に長期間延滞している先」に当たるから、その債務者区分は、要注意先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
被告足銀が泉屋旅館について把握していた保全額としては、多くとも一二億九六〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である一二億九六〇〇万円、Ⅳ分類二三億六〇〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類はその全額について引当を行う必要があるから、本来であれば二三億六〇〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、泉屋旅館に対する引当不足額は二三億六〇〇〇万円となる。
j 株式会社栃木冨士工(以下「栃木冨士工」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期における栃木冨士工について、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額六三億二〇〇〇万円の全額をⅡ分類に分類して(うち四三億六九〇〇万円は要管理債権)、個別引当金を一切計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一一年三月期において、栃木冨士工は、「事業を形式的には継続しているが」、栃木冨士工の返済は親会社からの肩代わり弁済で賄われ、しかも、親会社自体もその弁済原資をメインバンクからの融資金に全面的に頼っていた以上、結局は、メインバンクの融通金でしのいでいたにすぎず、メインバンクもかかる返済の取りやめ要請をしていたのであるから、栃木冨士工の「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、かつ、「事業好転の見通し」がなかったといえ、実際に、平成一三年三月二三日に親会社が、同年七月九日には栃木冨士工が、それぞれ民事再生手続開始の申立てをして破綻したのであるから、その債務者区分は、要注意先ではなく破綻懸念先として査定されるべきものであった。
被告足銀が栃木冨士工について把握していた保全額は多くとも一二億七一〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅲ分類五〇億四九〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類についてはその五割の引当を行う必要があるから、本来であれば二五億二四〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、栃木冨士工に対する引当不足額は、二五億二四〇〇万円であった。
k 株式会社板屋(以下「板屋」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期における板屋について、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額五一億二四〇〇万円のうち、三二〇〇万円をⅠ分類、五〇億九二〇〇万円をⅡ分類に分類して個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一一年三月期において、板屋は、「事業を形式的には継続しているが」、「債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、かつ、年々、急激に売上が減少していく中、経営再建計画も策定されておらず、「事業好転の見通し」がなかったのであるから、その債務者区分は、要注意先ではなく破綻懸念先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において、被告足銀が板屋について把握していた保全額は多くとも一八億四九〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である一八億四九〇〇万円、Ⅲ分類三二億七五〇〇万円であった。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類についてはその五〇パーセントの引当を行う必要があるから、本来であれば一六億三七〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、板屋に対する引当不足額は、その全額である一六億三七〇〇万円であった。
l Eについて
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期におけるEについて、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額二四億三〇〇〇万円につき、その全額をⅡ分類に分類して(うち一九億八〇〇〇万円は要管理債権)、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一一年三月期において、Eは、「事業を形式的には継続している」が、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「元金または利息について実質的に長期間延滞している先」であった上、追加融資に依存して延命しているにすぎないなど「再建の見通しがない状況」であったから、その債務者区分は、要注意先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
被告足銀がEについて把握していた保全額は、多くとも三億八七〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である三億八七〇〇万円、Ⅳ分類二〇億四三〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類については全額引当を行う必要があるから、本来であれば二〇億四三〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、Eに対する引当不足額は、二〇億四三〇〇万円であった。
m 荒川観光開発株式会社(以下「荒川観光」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期に荒川観光について、債務者区分を破綻懸念先に区分し、総与信額一一九億二〇〇〇万円のうち一〇〇万円をⅠ分類、四一億八二〇〇万円をⅡ分類、七七億三七〇〇万円をⅢ分類に分類した上で、Ⅲ分類に分類された七七億三七〇〇万円の五〇パーセントである三八億六八〇〇万円を個別引当金として計上していた。
(b) しかしながら、平成一一年三月期において、ゴルフ場開発会社である荒川観光は、「事業を形式的には継続しているが」、年間売上見込額の二一倍強にも達する一一九億二〇〇〇万円という「債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」ており、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥って」いた。また、会員権の販売計画は依然として凍結中であり、販売再開計画の実現可能性は低く、重い金利負担から解放される見通しが立っていなかったため、「再建の見通し」がない状態にあり、かつ「利息について実質的に長期間延滞している先」であるなど、事業継続による余剰資金(営業キャッシュフロー)からの返済が見込めない債務者であったから、その債務者区分は、破綻懸念先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において被告足銀が荒川観光について把握していた保全額は四一億八二〇〇万円であったから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額の四一億八三〇〇万円、Ⅳ分類七七億三七〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類については全額引当を行う必要があるから、本来であれば七七億三七〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、荒川観光に対する引当不足額は、三八億六九〇〇万円となる。
n 関東自動車株式会社(以下「関東自動車」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一一年三月期における関東自動車について、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額一三三億七七〇〇万円の全額についてⅡ分類に分類して個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一一年三月期において、一般路線バス事業等を行っていた関東自動車は、「現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており」、輸送人員の減少による営業収入の減少が続く「業況が著しく低調」な状態であって、「貸出金が延滞状態」にあった。また、その当時策定されていた経営改善計画を実現しても、借入過多の解消及び実質債務超過の解消が見込めないという「事業好転の見通しがほとんどない状況」であった。したがって、関東自動車は、被告足銀にとって、「消極ないし撤退方針を決定していない与信先であっても、当該与信先等の業況等について、客観的に判断し、今後経営破綻に陥る可能性が高いと認められる」債務者であったから、その債務者区分は、要注意先ではなく破綻懸念先として査定されるべきであった。
平成一一年三月期において被告足銀が関東自動車について把握していた保全額は二四億九四〇〇万円と評価されていたから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である二四億九四〇〇万円、Ⅲ分類一〇八億八三〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類については五〇パーセント引当を行う必要があるから、本来であれば五四億四一〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、関東自動車に対する引当不足額は、五四億四一〇〇万円であった。
o 小括
上記の一四債務者について、平成一一年三月期における被告足銀の個別引当金の引当不足額は合計四一七億三〇〇〇万円に上る。もっとも、Ⅱ分類債権のうち、要注意先に対する貸出債権(要管理債権及びその他の債権)に対しては、要管理債権に対して一五パーセント、その他の債権に対して一・二二パーセントの一般貸倒引当金が計上されていたから、上記一四債務者に対する実際の引当不足額は、個別引当金の引当不足額から、もともと引き当てられていた一般貸倒引当金の額合計一七億〇五〇〇万円を控除した四〇〇億二五〇〇万円となる。
そして、上記引当不足を考慮すると、被告足銀の平成一一年三月期における自己資本比率は、国内基準である四パーセントを大きく割りこむ二・二四パーセントであった。
(ウ) Ⅲ分類債権に対する恣意的な引当率変更
被告足銀は、平成一一年四月に実施された日本銀行考査(以下「日銀考査」という。)において償却・引当不足及び自己資本比率が二・一パーセントまで低下する旨の指摘を受けたことから、破綻懸念先Ⅲ分類債権に対する引当率を七〇パーセントから五〇パーセントに変更した。
日銀考査の結果は会計上の後発事象に当たらないにもかかわらず、すでに承認を受けていた第一八八期(平成一一年三月期)の計算書類等の内容を後発事象による変更として決算を承認した点において、上記引当率の変更が専ら自己資本比率の国内基準四パーセントを維持し、虚偽の財務状態を恣意的に作出することを目的としたものであることは明らかである。
上記引当率の変更の結果、当時、破綻懸念先Ⅲ分類債権に分類されていた債権のうち一二五八億円に対して必要となる引当金が二五一億円圧縮された。また、前記(イ)記載のとおり、本来破綻懸念先に分類されるべき七債務者(サンシャイン、シモレン、熊谷商事、上野百貨店、栃木冨士工、板屋及び関東自動車)に対するⅢ分類債権は四三五億七九〇〇万円であったから、これに対してさらに八七億一五〇〇万円だけ引当不足額が増加することとなる。したがって、被告足銀による上記引当率の変更によって隠蔽された引当不足額は、少なくとも三三八億一五〇〇万円であった。
(エ) まとめ
以上のとおり、平成一一年三月期における貸倒引当金の不足額合計は、少なくとも七三八億一五〇〇万円であり、これだけでも、被告足銀の自己資本比率は国内基準四パーセントを大きく下回る〇・五〇パーセントとなっていた。
ウ 繰延税金資産の過大計上について(争点二の②)
(ア) 適用される会計基準
平成一一年三月期において、被告足銀が繰延税金資産を計上するにあたっては、会計原則の根本である真実性の原則に加えて、「税効果会計に係る会計基準」、「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「税効果会計実務指針」という。)、「税効果会計に関するQ&A」、「事務ガイドライン」及び金融検査マニュアル中間とりまとめ内の「信用リスク検査用マニュアル」(以下「信用リスク検査用マニュアル」という。)の各基準を遵守すべきであった。
a 税効果会計に係る会計基準
税効果会計に係る会計基準は、税効果会計の導入にあたり、財務諸表における税効果会計に係る包括的な基準を定めたものであり、企業会計審議会により公表された会計基準であるから、平成一一年三月期において「公正妥当な企業会計基準」に該当する。
b 税効果会計実務指針及び税効果会計に関するQ&A
税効果会計実務指針及び税効果会計に関するQ&Aは、日本公認会計士協会が、税効果会計に関する会計基準の実務上の取扱いを明確にするために公表したものであり、その内容からしても、税効果会計に係る会計基準を補足し、これと不可分一体のものとして運用される性格のものであるから、同基準と同様に、平成一一年三月期において「公正妥当な企業会計基準」に該当する。
c 事務ガイドライン及び信用リスク検査用マニュアル
事務ガイドライン及び信用リスク検査用マニュアルは、いずれも早期是正措置制度を有効に機能させるために、資産査定通達と同様に、監督官庁の通達として制定され、平成一一年三月期までには金融機関の資産査定の基準とされたものであり、平成一一年三月期以降における「一般に認められる会計実務慣行」として、被告足銀の財務諸表を作成する上で、「公正妥当な企業会計基準」に該当していたことは明らかである。
(イ) 繰延税金資産の計上が許されなかったこと
被告足銀は、平成一一年三月期において、自己資本(基本的項目)の額八三五億円の約一・八倍に相当する一四八九億円を繰延税金資産として計上しており、同期の繰延税金資産依存率(繰延税金資産計上額÷自己資本(基本的項目))は、都市銀行、地方銀行及び第二地方銀行合計一三四行の平均値である二六パーセントを大幅に上回る一七八パーセントに達していた。
平成一一年三月期における被告足銀は、被告監査法人が繰延税金資産の計上を否認した平成一五年九月期と同様に、債務超過ないし自己資本比率が四パーセントを下回っており、企業の継続性に疑義があり、過度に繰延税金資産に依存することにより将来の課税所得見積りのぶれに伴う繰延税金資産額の変動によって債務超過に陥る可能性があった上、多額の不良債権の無税処理を余儀なくされることにより、将来の収益計画の達成に懸念があったから、繰延税金資産の計上が許されない状態にあった。
(ウ) 計上額が過大であったこと
仮に、平成一一年三月期において、被告足銀が繰延税金資産を計上することが許される状態にあったとしても、同期の繰延税金資産の計上額は、以下のとおり、自己資本比率四パーセントを維持するために、違法に過大計上されたものであった。
a 不合理な課税所得見積期間の設定
平成一一年三月期当時、銀行業における税効果会計において遵守すべき会計基準であった事務ガイドライン及び金融検査マニュアル中間とりまとめによれば、銀行業においては、課税所得見積期間が原則として五年とされており、これを超過する期間を見積対象とする場合にはそうすることについての合理的な理由が必要であり、この基準は非常に重い会計基準として実務を支配していた。
被告足銀は、平成一〇年度に多額の不良債権処理を余儀なくされたことにより、平成一一年三月期決算には、繰延税金資産を計上しなければ、直ちに債務超過に陥り、業務停止命令を免れないという厳しい局面に立たされたため、自己資本比率四パーセントを維持する目的で、合理的な理由に基づくことなく、課税所得見積期間を五年から七年に延長し、繰延税金資産を水増し計上した。このような繰延税金資産の計上は、上記各基準に反する恣意的な計数操作であった。
b 一時差異等解消計画の恣意的な変更
さらに、被告足銀は、平成一一年四月に実施された日銀考査において六三二億円の引当不足を指摘され、この指摘をもとに追加引当を行うと、さらに自己資本比率が低下する状況にあったことから、自己資本比率四パーセントを維持する目的で、当初の一時差異等解消計画を恣意的に変更した。これに伴い、上記七年間の業務純益合計額が当初計画値より五五五億円増額し三九四九億円となり、これにより増加した一時差異等全額を算定根拠としたことにより導かれた繰延税金資産を計上することは、真実性の原則を含む会計の基本原則に背馳する違法な行為であった。
(エ) 以上のとおり、平成一一年三月期における繰延税金資産にかかる有価証券報告書の記載は、虚偽記載に該当する。
(被告足銀の主張)
ア 貸倒引当金の過少計上について(争点二の①)
(ア) 適用される会計基準の主張に対する反論
a 信用リスク検査用マニュアルは、金融検査マニュアル策定に向けた検討段階において、平成一〇年一二月に一項目として掲げられていたものにすぎず、平成一一年三月期に「公正なる会計慣行」となることはあり得ない。
b 資産査定通達及び四号実務指針は、早期是正措置制度の導入に伴い、金融検査における資産査定の基準及び監査の基準として、平成一〇年三月期決算以降から適用されることになったものであり、平成一一年三月期当時に、被告足銀のような地方銀行において、各基準に基づく会計処理の枠組みが、一般的に広く会計上の習わしとして相当の時間繰り返して行われることによって「公正なる会計慣行」を形成していたとはいえない。また、上記枠組みは、単に「五つの債務者区分に応じて償却・引当を行う」ことを指し示すだけであり、具体的な貸倒引当金の金額を導くことはできないから、各債務者区分ごとの「貸倒引当金」の具体的金額を算出するにあたっての「公正なる会計慣行」を形成することはない。したがって、上記各基準は有価証券報告書における「貸倒引当金」の具体的金額についての虚偽記載の存否の判断にあたっての法規範にはなり得ない。
c 資産自己査定基準並びに貸倒償却および貸倒引当金等の計上に関する基準は、被告足銀が自己査定及び償却・引当に関する行内の内部基準として作成したものであり、広く一般に行き渡っていたものではないから、「公正なる会計慣行」になることはない。
d したがって、平成一一年三月期において、原告らが遵守すべきであると主張する上記各基準に従って会計処理を行うことは、「公正なる会計慣行」を形成しておらず、これらの基準に違反していたことをもって、同期の有価証券報告書に虚偽記載があったとはいえない。
e なお、「真実性の原則」は、有価証券報告書等の作成者に対して具体的な会計処理方法を指し示すものではなく、ある勘定科目につき具体的金額を算出するにあたっての行為規範として機能し得ないから、虚偽の有無の判断にあたっての法規範とはなり得ない。
(イ) 仮に、上記各基準等の内容が平成一一年三月期において必ず従うべきであるという意味においての法規範となっていたとしても、被告足銀は、具体的な貸倒引当金の計上方法について上記各基準等の内容に沿った行内の内部基準を策定し、当該基準に則り、同期における貸倒引当金を計上していた。
実際にされた債務者区分の判定が、その決算期時点での債務者区分の判定基準の解釈の範囲内に収まっているかどうかを判断するには、当該債務者の業種等の特性を踏まえた上で、その決算期時点における事業の継続性と収益性の見通し、キャッシュフローによる債務償還能力、経営改善計画の妥当性、金融機関の支援状況等(中小・零細企業等であれば、それらに加えて、当該企業の技術力、販売力や成長性、代表者等役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状況や資産内容、保証状況と保証能力等)を総合的に勘案しなければならない。
被告足銀は、資産査定通達及び四号実務指針が定める貸倒引当金の計上についての会計処理の枠組みに基づき、平成一一年三月期当時において、五つに区分すべきとされた各債務者区分についての判定基準について、まず①既に法的・形式的又は実質的に破綻している債務者か、②いまだ破綻していない債務者かによって二分し、次に①に区分される債務者を「実質破綻先」又は「破綻先」に区分し、非保全額を予想損失額として個別貸倒引当金を計上した。②に区分される債務者については、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者を「破綻懸念先」とし、非保全額に予想損失率を乗じた額を予想損失額として個別貸倒引当金を計上し、貸出条件や履行状況、財務内容等から見て今後注意を要する債務者は「要注意先」とし、それ以外を「正常先」として、両区分の債務者については債権額に予想損失率を乗じて一般貸倒引当金を計上した。
したがって、被告足銀は、各債務者について適正に債務者区分の判定を行い、貸倒引当金を計上しており、個別の債務者に対する貸倒引当金が不足していた事実は存在しない。
(ウ) なお、同期における破綻懸念先Ⅲ分類債権に対する引当率(五〇パーセント)は、個別貸倒引当金の引当率を過去三年間の貸倒実績率(四九・一八パーセント)に基づき算出されたものであり、上記引当率を採用したことに違法はない。これに対し、破綻懸念先Ⅲ分類債権に対する引当率七〇パーセントという数値は、国際基準行のうち資本増強の審査対象となる銀行に対して金融再生委員会が通知した目安であって、国内基準行である被告足銀が遵守すべき必要はなかった。現に、平成一〇年三月期における地方銀行の破綻懸念先Ⅲ分類債権の引当実績率は、六四行平均で三九・七二パーセント程度にすぎなかった。
(エ) まとめ
以上のとおり、被告足銀の平成一一年三月期報告書の貸倒引当金の記載に「虚偽」は存在しない。
イ 繰延税金資産の過大計上について(争点二の②)
(ア) 適用される会計基準の主張に対する反論
a 前記のとおり、信用リスク検査用マニュアルは、平成一一年三月期において「公正なる会計慣行」になることはなかった。
事務ガイドラインは、銀行監督にあたっての財務局の事務処理手続について定めたものにすぎないから、「公正なる会計慣行」になることはない。
税効果会計に関するQ&Aも、税効果会計の適用にあたっての留意点等を記載しているにすぎないから「公正なる会計慣行」にはならない。
b 他方、税効果会計に係る会計基準は、法令上の根拠を有しており(財務諸表等規則一条二項)、税効果会計実務指針は、税効果会計に係る会計基準の実質的な委任に基づき作成されたものであることから、適用初年度である平成一一年三月期においても、「公正なる会計慣行」となっていた。
しかし、前記各基準は、繰延税金資産の回収可能性に関して、「将来の会計期間において回収(又は支払)が見込まれない税金の額を除き計上しなければならない」と規定しているのみで、一義的明確性及び具体性に欠け、回収可能性の判断につき何ら具体的な会計処理方法も記載していない。また、税効果会計適用の初年度である平成一一年三月期においては、「繰延税金資産の回収可能性」に関する会計処理について、銀行業において広く一般的に相当の時間繰り返して行われていた会計処理方法も存在しなかった。
c 真実性の原則が虚偽記載の有無を判断するにあたっての法規範となり得ないことは前記のとおりである。
d したがって、前記各基準が示す会計処理が「公正なる会計慣行」となっていたのは、一時差異等に係る税金の額について全額を繰延税金資産として計上するという会計処理方法に限ったものであり、前記各基準は、「繰延税金資産の回収可能性」の判断について何ら具体的な会計処理方法も記載していないから、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する部分については「公正なる会計慣行」を形成することはなく、「繰延税金資産の回収可能性」の判断にあたっての法規範とはならない。
(イ) 仮に上記各基準等の内容が、「繰延税金資産の回収可能性」の判断にあたって、必ず従うべきであるという意味においての法規範となっていたとしても、被告足銀は、平成一一年三月期において、上記各基準等の内容に従って、繰延税金資産を計上していた。
a 平成一五年九月期との違い
平成一五年九月期において、被告足銀は繰延税金資産の計上を全額否認されたが、平成一一年三月期は、被告足銀を取り巻く環境・状況及び繰延税金資産についての会計処理方法の解釈・運用が平成一五年九月期のそれと全く異なっていた上、平成一一年三月期には、自己資本比率は四パーセントを超えるなど自己資本に余裕があり、その上で決算後の資本増強策も予定されていたから、平成一五年九月期とは全く異なる状況下での決算であった。
一時差異等に係る税金相当額の回収可能性の判断が適正であったかどうかは、あくまで当時の事情を基に検証されなければならず、平成一五年九月期の事情から推測しようとすることは誤りである。
b 資本依存率に問題がないこと
資本依存率(繰延税金資産計上額を自己資本で除したもの)が一〇〇パーセントを超える繰延税金資産の計上を規制する法令又は会計基準は存在せず、資本依存率が一〇〇パーセントを超える繰延税金資産の計上はしないという「公正なる会計慣行」も存在しなかった。
被告足銀による平成一一年九月の公的資金注入の申請に対し、金融再生委員会は、同年三月期決算を基に「企業の継続性」に問題は認められないとして、公的資金の注入を認めたのであるから、同期において、被告足銀が繰延税金資産を計上することに何の支障もなかったことは明らかである。
c 計上額及びその過程が適正であること
被告足銀は、税効果会計導入初年度である平成一一年三月期当時、銀行業は安定的な収益が見込める業種であり、地域シェアが高く、価格支配力を有しており、収益の安定性はさらに高まるなどの事情から長期的な安定収益が見込まれたため、比較的長期の課税所得見積期間の設定が可能であると考え、七年間の課税所得見積期間を前提として算出した繰延税金資産を計上したのであって、被告足銀のかかる判断は合理的であった。
一時差異等解消計画の変更は、平成一一年四月の日銀考査の指摘を踏まえ、被告足銀が、追加のリストラ策を策定し、経営体力強化に注力することとなった結果、将来にわたって経費削減効果が生み出され、それに伴い業務純益が増加することが見込まれたことから、これを決算上も反映すべく、日銀考査が入る前に作成された当初の計画を変更したのであって、水増しをしたのではない。
また、平成一一年三月期において発生している一時差異の認容見込額が平成一六年以降急増しているのは、被告足銀が作成した一時差異等解消計画が、あくまで地域経済を考慮し、無税化処理時期の見極めに時間をかけるという融資管理方針を採っていた結果にすぎず、恣意的な調整を行ったものではない。
(ウ) 小括
以上のとおり、被告足銀の平成一一年三月期報告書の繰延税金資産の記載に「虚偽」は存在しない。
(被告監査法人らの主張)
ア 貸倒引当金の過少計上について(争点二の①)
(ア) 適用される会計基準の主張に対する反論
a 資産査定通達は、各債務者を五つに区分した上でそれに基づいて償却・引当を行うという枠組みを定めるものであるところ、平成一一年三月期決算当時、この枠組み自体は根付いていたといえるが、債務者区分の判定基準に関する具体的な会計処理方法は、およそ根付いておらず、債務者区分の判定基準に関する「公正なる会計慣行」にはなっていなかった。
b 四号実務指針は、監査に関する実務指針であって、被監査会社における具体的な会計処理方法に直接的な影響を与えるものではない上、各債務者を五つに区分した上でそれに基づいて償却・引当を行うという枠組みを定めるのみで、具体的にどのような場合にどの程度の償却・引当を行うべきかについては定めがなく、そこから具体的な会計処理の方法が導かれるものではなかったから、債務者区分の判定基準に関する「公正なる会計慣行」ではなかった。
c 金融検査マニュアル中間とりまとめも、あくまで「中間とりまとめ」にすぎないから、その性質上「公正なる会計慣行」とはなり得ない。
d 資産自己査定基準並びに貸倒償却および貸倒引当金等の計上に関する基準は、資産査定通達及び四号実務指針を参考に、被告足銀が独自に策定したもので、広く一般に行き渡っていたものではないから、その性質上「公正なる会計慣行」とはなり得ない。
e 平成一一年三月期は、平成一〇年三月期の自己査定制度の導入によって初めて金融機関が「自己査定」するものとされて、金融機関の償却・引当の会計処理に係る制度の厳格化が図られている途上にあり、債務者区分の判定基準に関する解釈・運用が定まるような状況にはなく、前記のとおり、平成一一年三月期決算において、上記各基準はいずれも、債務者区分の判定基準に関する「公正なる会計慣行」ではなかった。
f なお、真実性の原則は、「会計上一定の計上額を導くことができる具体的な会計処理方法」を定めるものではなく、それ自体が具体的な裁判規範性を有するものではないから、虚偽記載の判断基準とはなり得ない。
(イ) 平成一一年三月期決算の経緯
平成一一年三月期決算は、平成一〇年一一月から実施された金融監督庁検査による指摘の趣旨を反映させた上に、上記検査よりもさらに厳重に行われた平成一一年四月の日銀考査における指摘を受け容れてこれを反映させたものであり、また、金融再生委員会により、厳重な審査がされた上で、「健全な自己資本の状況の区分」(単体自己資本比率四パーセント以上)であることが確認されている。したがって、その貸倒引当金の計上に関する内容について、虚偽がなかったことは明らかである。
(ウ) 貸倒引当金の計上が適正であること
平成一一年三月期においては、「既に形式的又は実質的に経営破綻した債務者」に区分される「破綻先」及び「実質破綻先」に対する債権については、非保全額の全額を予想損失額として個別引当を行うものとされ、「経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者」は「破綻懸念先」に区分して非保全額に予想損失率を乗じた額を予想損失額として個別引当を行い、貸出条件や履行状況、業績や財務内容等から見て、今後注意を要する債務者を「要注意先」、それ以外を「正常先」に区分し、各債務者に対する債権全額に対して予想損失率を乗じた額を予想損失額として一般引当を行えば足りるとされていた。そして、「実質破綻先」と「破綻懸念先」の区分のメルクマールは、「事業継続が形式的なものにすぎず、実質的には既に経営破綻に陥っている」か否かであり、「破綻懸念先」と「要注意先」の区分のメルクマールは、「経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる」か否かであり、この点については、従前の税法基準の考え方を参考として、金融機関の当該債務者に対する支援方針が消極ないし撤退方針でなければ、原則として経営破綻に陥る可能性が大きいとは認められないと解釈・運用することが適正なものとされていた。
したがって、仮に、上記各基準のうち資産査定通達が、各債務者を五つに区分して償却・引当を行うという枠組み以外の点において、「公正なる会計慣行」になっていたとしても、同通達の文言の解釈は一義的ではなく幅があったため、平成一一年三月期決算における貸倒引当金の計上の適否については、以上のような当時の解釈・運用を踏まえて判断されるべきである。
イ 繰延税金資産の過大計上について(争点二の②)
(ア) 適用される会計基準の主張に対する反論
a 平成一一年三月期において、税効果会計に係る会計基準及び税効果会計実務指針は、これらが示す「一時差異等に係る税金の額については、すべて繰延税金資産として認識する」という会計処理方法については「公正なる会計慣行」となっていたものの、繰延税金資産の回収可能性に関する判断について具体的な会計処理方法を示すものではなく、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する「公正なる会計慣行」ではなかった。
b 金融検査マニュアル中間とりまとめは、あくまで「中間とりまとめ」にすぎず、「公正なる会計慣行」とはなり得ない。
事務ガイドラインは、銀行監督にあたっての財務局の事務処理手続について定めたものにすぎず、唯一絶対的な法的拘束力を持ち得ようのないものである上、繰延税金資産の計上について極めて抽象的な記載しかなく、将来課税所得の見積可能年数の上限を規制するものではなかった。加えて、上記記載がされた平成一〇年一二月からわずか四か月しか経過していない平成一一年三月期決算において、事務ガイドラインが繰延税金資産の計上に関する「公正なる会計慣行」とはなり得ない。
税効果会計に関するQ&Aは、初めて税効果会計を導入する企業等に対し、実務指針の内容を平易に説明するためのものであり、その記載は抽象的なものであって、繰延税金資産の計上に関する具体的な会計処理方法を示すものではなかったから、それが平成一一年三月期当時、「一般的に広く公正な会計上の習わしとして相当の時間繰り返して行われ根付いている基準」とはなり得なかった。
c したがって、平成一一年三月期決算において、原告らの主張する上記各基準がいずれも繰延税金資産の回収可能性の判断に関する「公正なる会計慣行」ではなかったことは明らかである。
d なお、「真実性の原則」が虚偽記載の判断基準となりえないことは、前記のとおりである。
(イ) 平成一一年三月期決算の経緯
平成一一年三月期決算が、平成一〇年一一月の金融監督庁検査及び平成一一年四月の日銀考査における指摘を反映させたものであって、また、金融再生委員会により単体自己資本比率四パーセント以上であることが確認されたものであることは前記のとおりであり、その内容に虚偽がなかったことは、繰延税金資産の計上の点に関しても同様である。
(ウ) 平成一五年九月期との違い
平成一一年三月期においては、被告足銀に対して資本増強ための公的資金の注入及び自助努力による増資が予定されるなど、平成一五年九月期における被告足銀を取り巻く状況が異なっていた上、平成一五年九月期は、同年二月二四日に公表された「会長通牒」により、主要行の監査人に対して繰延税金資産の計上等に関して厳正な監査を求められており、繰延税金資産の計上に関する会計処理の解釈・運用が、平成一一年三月期に比べて極めて厳格化していた。したがって、平成一五年九月期において被告足銀が計上した繰延税金資産が全額否認されたことが、平成一一年三月期における虚偽記載の根拠とはならない。
(エ) 繰延税金資産の計上が適正であったこと
仮に、原告らが主張する上記各基準が唯一の公正なる会計基準であったとしても、上記各基準は、将来の会計期間において回収が見込まれない額を除き、「一時差異等に係る税金の額」をすべて繰延税金資産の対象とすることとし、「将来の会計期間において回収が見込まれない」かどうかの判断に当たっては、将来課税所得の見積可能年数にあらかじめ一定の制限を設けておらず、年数の上限を規制するものではなかったのであるから、平成一一年三月期における繰延税金資産の計上の適否は、前記解釈・運用に従って判断されるべきである。
また、被告監査法人は、一般に銀行業が安定的な収益が見込めるものであることや、被告足銀が栃木県最大の地方銀行であり、地域に強固な営業基盤を有していたことを踏まえて、将来課税所得七年分の繰延税金資産を計上することを承認したのであり、上記各基準に反するものとはいえない。
(3)  平成一三年九月期の半期報告書における虚偽記載の有無について(争点三)
(原告らの主張)
ア 総論
被告足銀は、平成一三年九月期において、①少なくとも個別の一七債務者について合計四二三億一七〇〇万円の貸倒引当金の引当不足が存在し、その他の事情を考慮すれば、少なくとも一一〇一億四三〇〇万円の貸倒引当金の引当不足が存在し、また、②そもそも繰延税金資産を計上すること自体許されなかったにもかかわらず、繰延税金資産として一七二七億円を計上することにより、有価証券報告書における自己資本(基本的項目)の額について、約二八二八億円を過大に計上した。
イ 貸倒引当金の過少計上について(争点三の①)
(ア) 拠るべき判断基準
平成一三年九月期において、被告足銀が財務諸表を作成・公表するにあたっては、前記のとおり、平成一一年三月期にすでに公正妥当な企業会計基準となっていた前記「資産査定通達」及び「四号実務指針」に加えて、金融検査マニュアル内の「信用リスク検査用マニュアル」(以下「信用リスク検査用マニュアル最終版」という。)、平成一三年三月六日付け「資産自己査定基準」、平成一二年一二月二六日付け「与信関係自己査定マニュアル」及び平成一三年三月二三日付け「償却・引当基準」の各基準を遵守して、貸倒引当金を計上すべきであった。
a 信用リスク検査用マニュアル
信用リスク検査用マニュアルは、監督官庁から資産査定における実務指針として平成一一年七月一日に公表された金融検査マニュアルの一部であって、金融再生法上の根拠に基づき、公表以降、金融機関の資産査定の基準として用いられていたものであるから、平成一三年九月期において、被告足銀の財務諸表を作成する上で「一般に認められる会計慣行実務」として「公正妥当な企業会計基準」となっていた。
b 資産自己査定基準、与信関係自己査定マニュアル及び償却・引当基準
これらの各基準は、平成一一年三月期における資産自己査定基準等と同様、被告足銀が、他の基準の内容を踏まえて作成した債権に対する償却・引当の基準であるから、平成一三年九月期において、公正妥当な企業会計基準となっていたことは明らかである。
(イ) 個別の貸出先に対する引当不足
a あさやホテルについて
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期におけるあさやホテルについて、債務者区分を形式区分は実質破綻先、実態区分は破綻懸念先に区分し、総与信額一五九億九五〇〇万円のうち、五八億六四〇〇万円をⅡ分類、一〇一億三一〇〇万円をⅢ分類に分類した上で、Ⅲ分類に分類された一〇一億三一〇〇万円の四六パーセントに当たる四六億六六〇〇万円を個別引当金として計上した。
(b) しかしながら、同期において、あさやホテルは、「事業を形式的には継続しているが」、売上高の約三倍の一五九億九五〇〇万円という「債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥って」いた。また、新規経営改善計画の内容は不十分であった上に、その不十分な計画すら達成できておらず、借入過多や債務超過が解消される見込みはなく、ゴルフ場関連開発子会社の清算時に、民事再生手続の申立てが予定されるといった「再建の見通し」がない状態にあり、かつ利息について実質的な延滞期間が二年半を超えているなど、事業継続による余剰資金(営業キャッシュフロー)からの返済が見込めない債務者であったから、その債務者区分は、破綻懸念先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一三年九月期において、被告足銀が把握していたあさやホテルの保全額は五八億八七〇〇万円であったから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額五八億八七〇〇万円、Ⅳ分類一〇一億〇八〇〇万円となり、償却・引当基準に従えばⅣ分類については全額引当を行う必要があるから、本来であれば一〇一億〇八〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、あさやホテルに対する引当不足額は五四億四八〇〇万円であった。
b サンシャインについて
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期におけるサンシャインについて、その債務者区分を要注意先に区分し、総与信額三五億二五〇〇万円の全額についてⅡ分類に分類し、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一三年九月期において、サンシャインは、「現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており」、ホテル間の競争激化により連続して経常赤字、当期損失を計上し続ける「業況が著しく低調」な状態であって、長期にわたって元金据置措置等の支援措置を受けるなど、実質的には「貸出金が延滞状態」にあった。また、その当時策定されていた改善計画を実現しても、借入過多の解消及び実質債務超過の解消が見込めない状況にあったから、「事業好転の見通しがほとんどない状況」であり、被告足銀として「消極ないし撤退方針を決定していない与信先であっても、当該与信先等の業況等について、客観的に判断し、今後経営破綻に陥る可能性が高いと認められる」債務者であったから、その債務者区分は、破綻懸念先として査定されるべきであった。
平成一三年九月期において、被告足銀がサンシャインについて把握していた保全額としては、多くとも一二億五二〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅱ分類一二億五二〇〇万円及びⅢ分類二二億七三〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類については四六パーセントの引当を行う必要があったから、本来であれば一〇億四五〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、サンシャインに対する引当不足額は、一〇億四五〇〇万円であった。
c 大慶商事株式会社(以下「大慶商事」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における大慶商事について、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額九〇億二三〇〇万円の全額をⅡ分類に分類して、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一三年九月期において、大慶商事は、「事業を形式的には継続しているが」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「実質的には大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、かつ「事業好転の見通し」がなかったものであるから、その債務者区分は破綻懸念先として査定されるべきであった。
平成一三年九月期において被告足銀が把握していた大慶商事の保全額は、多くとも二六億〇九〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅱ分類二六億〇九〇〇万円、Ⅲ分類六四億一四〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類については四六パーセント引当を行う必要があるから、本来であれば二九億五〇〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、大慶商事に対する引当不足額は、二九億五〇〇〇万円であった。
d 栃木皮革株式会社(以下「栃木皮革」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における栃木皮革について、債務者区分を破綻懸念先に区分し、総与信額四三億〇三〇〇万円のうち六億四九〇〇万円をⅠ分類、六億九八〇〇万円をⅡ分類に分類、二九億五六〇〇万円をⅢ分類に分類して、Ⅲ分類に分類された二九億五六〇〇万円の四六パーセントに当たる一三億五九〇〇万円を個別引当金として計上した。
(b) しかしながら、平成一三年九月期において、栃木皮革は、「事業を形式的には継続しているが」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「元金又は利息について実質的に長期間延滞している先」であった上、同期には民事再生法による具体的な破綻処理が予定されていたのであるから「再建の見通しがない状況」にあったといえ、その債務者区分は実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一三年九月期において被告足銀が把握していた栃木皮革の保全額は多くとも八億〇七〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である八億〇七〇〇万円、Ⅳ分類三四億九六〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類についてはその全額の引当を行う必要があるから、本来であれば三四億九六〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、栃木皮革に対する引当不足額は、二一億三七〇〇万円であった。
e 三協について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における三協について、債務者区分を破綻懸念先に区分し、総与信額七〇億円のうち一〇〇万円をⅠ分類、三三億三八〇〇万円をⅡ分類、三六億六一〇〇万円をⅢ分類に分類して、Ⅲ分類に分類された三六億六一〇〇万円の四六パーセントに当たる一六億八四〇〇万円を個別引当金として計上した。
(b) しかしながら、平成一三年九月期において、三協は、「事業を形式的には継続しているが」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「実質的には大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、この債務超過の解消の見込みすら全く立っておらず、かつ、「事業好転の見通し」がなく、「再建の見通しがない状況」で、しかも、「元金又は利息について実質的に長期間延滞して」いた債務者であったから、その債務者区分は、破綻懸念先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一三年九月期において被告足銀が把握していた三協の保全額としては、同年三月期に無配会社となり実質的に保証能力のなかった佐田建設によって保証された二〇億円を除くと、多くとも一三億三八〇〇万円であったとみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である一三億三八〇〇万円、Ⅳ分類五六億六二〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類はその全額について引当を行う必要があるから、本来であれば五六億六二〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、三協に対する引当不足額は、三九億七八〇〇万円であった。
f 松栄不動産について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における松栄不動産について、債務者区分を破綻懸念先に区分し、総与信額一一八億五六〇〇万円のうち四八億八二〇〇万円をⅡ分類とし、六九億七四〇〇万円をⅢ分類に分類した上で、Ⅲ分類に分類された六九億七四〇〇万円の四六パーセントに当たる三二億〇八〇〇万円を個別引当金として計上していた。
(b) しかしながら、松栄不動産は、平成六年から元利金が延滞となっており、資金繰りを維持するために多額の売却損を出しながらも保有資産を売却し巨額の債務超過に陥っており、さらには、別件の訴訟で被告足銀自身が実質破綻先であったことを認めており、平成一五年には破産手続開始決定を受けるに至ったことなどを総合的に勘案すれば、平成一三年九月期において松栄不動産は、「深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められる等、実質的に経営破綻に陥って」おり、「財務内容において多額の不良資産を内包し」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがな」く、かつ「再建の見通しがない状況で、元金または利息について実質的に長期間延滞している先」に当たるから、その債務者区分は、破綻懸念先ではなく実質破綻先として査定されるべきものである。
平成一三年九月期において、被告足銀が松栄不動産について把握していた保全額としては、多くとも四八億八二〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である四八億八二〇〇万円、Ⅳ分類六九億七四〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類はその全額について引当を行う必要があるから、本来であれば六九億七四〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、松栄不動産に対する引当不足額は、三七億六六〇〇万円であった。
g 有限会社鬼怒川温泉山水閣(以下「山水閣」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における山水閣について、債務者区分を要注意先(旧基準の要管理先)に区分し、総与信額七七億三五〇〇万円のうち二二〇〇万円をⅠ分類、七七億一三〇〇万円をⅡ分類に分類し、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、山水閣は、売上高の約二倍に相当する実質債務超過に陥っており、平成一七年には産業再生機構の支援決定を受けたことや別件の訴訟で被告足銀自身が平成一三年三月期について実質破綻先であったことを認めたことなどを総合的に勘案すれば、同年九月期において、「深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められる等、実質的に経営破綻に陥って」おり、「財務内容において多額の不良資産を内包し」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがな」く、かつ「再建の見通しがない状況で、元金または利息について実質的に長期間延滞している」債務者に当たるから、その債務者区分は、要注意先ではなく実質破綻先として査定されるべきものである。
平成一三年九月期において被告足銀が山水閣について把握していた保全額は多くとも一二億四六〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である一二億四六〇〇万円、Ⅳ分類六四億八九〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類については全額引当を行う必要があるから、本来であれば六四億八九〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、山水閣に対する引当不足額は、六四億八九〇〇万円であった。
h 川治温泉一柳閣について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における川治温泉一柳閣について、債務者区分を要注意先(旧基準の要管理先)に区分し、総与信額三八億八八〇〇万円のうち五五〇〇万円をⅠ分類、三三億三三〇〇万円をⅡ分類に分類し、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、川治温泉一柳閣は、平成一三年九月期において、総資産の約二倍、売上高の約四倍を超える過大な借入金を抱え、巨額の債務超過の状態にあり、平成七年以降売上げは減少し、かつ当期赤字が継続しており、さらには平成二〇年には破産手続開始を申し立てるに至ったことなどを総合的に勘案すれば、「深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められる等、実質的に経営破綻に陥って」おり、「財務内容において多額の不良資産を内包し」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがな」く、かつ「再建の見通しがない状況で、元金または利息について実質的に長期間延滞している先」に当たるから、その債務者区分は、要注意先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一三年九月期において、被告足銀が川治温泉一柳閣について把握していた保全額は、多くとも六億二〇〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である六億二〇〇〇万円、Ⅳ分類三二億六八〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類はその全額について引当を行う必要があるから、本来であれば三二億六八〇〇万円が個別引当金として計上されるべきだった。
したがって、川治温泉一柳閣に対する引当不足額は三二億六八〇〇万円であった。
i 泉屋旅館について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における泉屋旅館について、債務者区分を破綻懸念先に区分し、総与信額三九億二八〇〇万円のうち一四億三一〇〇万円をⅡ分類、二四億九七〇〇万円をⅢ分類に分類し、Ⅲ分類に分類された二四億九七〇〇万円の四六パーセントに当たる一一億四八〇〇万円を個別引当金として計上していた。
(b) しかしながら、泉屋旅館は平成一三年九月期時点において、売上げの六倍を超える過大な借入金を抱え、一方で、売上高は長期間低迷し、一般取引債務(買掛金)の延滞も長期間にわたっており、さらには、平成一六年には民事再生手続開始の申立てをするに至ったことなどを総合的に勘案すれば、平成一三年九月期において泉屋旅館は、「事業を形式的には継続しているが」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、この債務超過の解消の見込みすら全く立っておらず、「事業好転の見通しがな」く、かつ「再建の見通しがない状況で、元金または利息について実質的に長期間延滞している」債務者に当たるから、その債務者区分は、破綻懸念先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
被告足銀が泉屋旅館について把握していた保全額は、多くとも一四億三一〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類併せて保全額である一四億三一〇〇万円、Ⅳ分類二四億九七〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類はその全額について引当を行う必要があるから、本来であれば二四億九七〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、泉屋旅館に対する引当不足額は一三億四八〇〇万円であった。
j 株式会社柏屋ホテル(以下「柏屋」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における柏屋について、債務者区分を要注意先(旧基準の要管理先)に区分し、総与信額三三億二八〇〇万円のうち、三七〇〇万円をⅠ分類、三二億九一〇〇万円をⅡ分類に分類し、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、柏屋は平成一三年九月時点において、「事業を形式的に継続しているが」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、かつ、「事業好転の見通し」がなかったから、その債務者区分は、要注意先ではなく破綻懸念先として査定されるべきであった。
被告足銀が柏屋について把握していた保全額は、多くとも二二億三四〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である二二億三四〇〇万円、Ⅲ分類一〇億九四〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類についてはその四六パーセントの引当を行う必要があるから、本来であれば五億〇三〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、泉屋旅館に対する引当不足額は五億〇三〇〇万円であった。
k 板屋について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における板屋について、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額五〇億〇五九〇万円のうち、二七〇〇万円をⅠ分類、五〇億三二〇〇万円をⅡ分類に分類して、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一三年九月期において、板屋は、「事業を形式的には継続しているが」、「債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、かつ、再建計画策定後も売上げ減少が継続し、同計画の実現可能性が疑問視されており「事業好転の見通し」がなかったものであるから、その債務者区分は、要注意先ではなく破綻懸念先として査定されるべきであった。
平成一三年九月期において、被告足銀が板屋について把握していた保全額は多くとも一四億一三〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である一四億一三〇〇万円、Ⅲ分類三六億四六〇〇万円であった。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類についてはその四六パーセントの引当を行う必要があるから、本来であれば一六億七七〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、板屋に対する引当不足額は、一六億七七〇〇万円であった。
l Eについて
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期におけるEについて、債務者区分を要注意先(旧基準の要管理先)に区分し、総与信額二四億一八〇〇万円のうち、三〇〇〇万円をⅠ分類、二三億八八〇〇万円をⅡ分類に分類して、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一三年九月期において、Eは、「事業を形式的には継続している」が、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、「返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、「元金または利息について実質的に長期間延滞している先」であった上、追加融資に依存して延命しているにすぎず、経営改善計画も実現の見込みがないものであって「再建の見通しがない状況」であったから、その債務者区分は、要注意先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
被告足銀がEについて把握していた保全額は、多くとも四億〇八〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である四億〇八〇〇万円、Ⅳ分類二〇億一〇〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類については全額引当を行う必要があるから、本来であれば二〇億一〇〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、Eに対する引当不足額は、二〇億一〇〇〇万円であった。
m 荒川観光について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期に荒川観光について、債務者区分を破綻懸念先に区分し、総与信額一一九億二〇〇〇万円のうち一〇〇万円をⅠ分類、四九億五八〇〇万円をⅡ分類、六九億六一〇〇万円をⅢ分類に分類した上で、Ⅲ分類に分類された六九億六一〇〇万円の四六パーセントに当たる三二億〇二〇〇万円を個別引当金として計上していた。
(b) しかしながら、荒川観光は、平成九年五月期以降決算上四期連続して債務超過の状態にあって、平成一三年九月期においては、「事業を形式的には継続しているが」、年間売上の約四〇倍にも達する一一九億二〇〇〇万円という「債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」ており、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥って」いた。また、会員権の販売計画は依然として凍結中であり、販売再開計画の実現可能性は低く、荒川観光単体では借入金の返済が不可能であって「再建の見通し」がない状態にあり、かつ「利息について実質的に長期間延滞している先」であるなど、事業継続による余剰資金(営業キャッシュフロー)からの返済が見込めない債務者であったから、その債務者区分は、破綻懸念先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一三年九月期において被告足銀が荒川観光について把握していた保全額は、三三億三五〇〇万円であったから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて三三億三六〇〇万円(Ⅰ分類一〇〇万円及び保全額の合計)、Ⅳ分類八五億八四〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類については全額引当を行う必要があるから、本来であれば八五億八四〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、荒川観光に対する引当不足額は、五三億八二〇〇万円であった。
n 関東自動車について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における関東自動車について、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額一二五億一六〇〇万円の全額についてⅡ分類に分類して、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一三年九月期において、関東自動車は、「現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており」、輸送人員の減少による営業収入の減少が続く「業況が著しく低調」な状態であって、「貸出金が延滞状態」にあった。また、新たな経営改善計画の策定や効果的な経費節減策もなかったため、借入過多の解消及び実質債務超過の解消が見込めないという「事業好転の見通しがほとんどない状況」であった。したがって、関東自動車は、被告足銀として「消極ないし撤退方針を決定していない与信先であっても、当該与信先等の業況等について、客観的に判断し、今後経営破綻に陥る可能性が高いと認められる」債務者であったから、その債務者区分は、要注意先ではなく破綻懸念先として査定されるべきであった。
平成一三年九月期において被告足銀が関東自動車について把握していた保全額は一四億五五〇〇万円と評価されていたから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である一四億五五〇〇万円、Ⅲ分類一一〇億六一〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類については四六パーセントの引当を行う必要があるから、本来であれば五〇億八八〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、関東自動車に対する引当不足額は、五〇億八八〇〇万円であった。
o 成井農林株式会社(以下「成井農林」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における成井農林について、債務者区分を破綻懸念先に区分し、総与信額三五億一二〇〇万円のうち、二一億四〇〇〇万円をⅡ分類に、一三億七二〇〇万円をⅢ分類に分類して、Ⅲ分類一三億七二〇〇万円の四六パーセントに当たる六億三一〇〇万円を個別引当金として計上していた。
(b) しかしながら、平成一三年九月期において、成井農林は、「事業を形式的には継続しているが」、売上げの三倍を超える借入金があって「債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し」、かつ、オーストラリアの物件に対する約四四億円の投資が不良資産化したことにより、「実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており」、かつ、被告足銀が平成一六年三月以降に成井農林の破綻処理を計画していたように「再建の見通しがない状況」で、経営健全化計画に定める約定返済を履行できず、元金返済も他行からの借入れ等によって賄われており「元金について実質的に長期間延滞している」債務者であったから、その債務者区分は、破綻懸念先ではなく実質破綻先として査定されるべきであった。
平成一三年九月期において被告足銀が成井農林について把握していた保全額は多くとも一五億九三〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅱ分類一五億九三〇〇万円、Ⅳ分類一九億一九〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅣ分類については全額引当を行う必要があるから、本来であれば一九億一九〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、成井農林に対する引当不足額は、一二億八八〇〇万円であった。
p 鬼怒川グランドホテル株式会社(以下「鬼怒川グランドホテル」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における鬼怒川グランドホテルについて、債務者区分を要注意先に区分し、総与信額三九億五八〇〇万円のうち七八〇〇万円をⅠ分類、三八億八〇〇〇万円をⅡ分類に分類し、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一三年九月期において、鬼怒川グランドホテルは、「現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており」、団体客の減少等により売上げが低迷して利益が上がらないという「業況が著しく低調」な状態であって、返済期限延長などの支援措置によって形式的な延滞発生を免れるなど、実質的には「貸出金が延滞状態」にあり、実質債務超過の解消も見込まれず、「事業好転の見通しがほとんどない状況」であった。したがって、「消極ないし撤退方針を決定していない与信先であっても、当該与信先等の業況等について、客観的に判断し、今後経営破綻に陥る可能性が高いと認められる」債務者に当たるから、その債務者区分は、要注意先ではなく破綻懸念先として査定されるべきであった。
被告足銀が鬼怒川グランドホテルについて把握していた保全額は、多くとも一一億五八〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類併せて保全額である一一億五八〇〇万円、Ⅲ分類二八億円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類についてはその四六パーセントの引当を行う必要があるから、本来であれば一二億八八〇〇万円が個別引当金として計上されるべきであった。
したがって、鬼怒川グランドホテルに対する引当不足額は一二億八八〇〇万円であった。
q 有限会社鬼怒川パークホテル(以下「鬼怒川パークホテル」という。)について
(a) 被告足銀は、平成一三年九月期における鬼怒川パークホテルについて、債務者区分を要注意先(新基準の要管理先)に区分し、総与信額二九億八二〇〇万円のうち一億七九〇〇万円をⅠ分類、二八億〇三〇〇万円をⅡ分類に分類し、個別引当金を計上していなかった。
(b) しかしながら、平成一三年九月期において、鬼怒川パークホテルは、「現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており」、景気の低迷等により売上げが低迷して利益が上がらないという「業況が著しく低調」な状態であって、返済期限延長などの支援措置によって形式的な延滞発生を免れるなど「貸出金が延滞状態」にあり、実質債務超過の解消等も見込まれない「事業好転の見通しがほとんどない状況」であった。したがって、「消極ないし撤退方針を決定していない与信先であっても、当該与信先等の業況等について、客観的に判断し、今後経営破綻に陥る可能性が高いと認められる」債務者に当たるから、その債務者区分は、要注意先ではなく破綻懸念先として査定されるべきであった。
被告足銀が鬼怒川パークホテルについて把握していた保全額としては、多くとも一三億三四〇〇万円とみることができるから、真実の分類額は、Ⅰ分類及びⅡ分類を併せて保全額である一三億三四〇〇万円、Ⅲ分類一六億四八〇〇万円となる。そして、償却・引当基準に従えばⅢ分類についてはその四六パーセントの引当を行う必要があるから、本来であれば七億五八〇〇万円が個別引当金として計上されるべきだった。
したがって、鬼怒川パークホテルに対する引当不足額は七億五八〇〇万円であった。
r 小括
上記の一七債務者について、平成一三年九月期における被告足銀の個別引当金の引当不足額は合計四八四億二三〇〇万円に上る。もっとも、旧基準による要管理先に対する貸出債権について一八・九三パーセント、新基準による要管理先に対する貸出債権について三・〇二パーセント、その他の貸出債権に対しては一・三三パーセントの一般貸倒引当金が計上されていたから、上記一七債務者に対する実際の引当不足額は、個別引当金の引当不足額から、もともと引き当てられていた一般貸倒引当金の額合計六一億〇六〇〇万円を控除した四二三億一七〇〇万円となる。
(ウ) 被告足銀が自認するその他の引当不足
被告足銀は、別件の訴訟において、平成一三年三月期において、上記(イ)の一七債務者とは異なる一一債務者について合計四六億九〇〇〇万円の引当不足額があった旨を自認している。
上記の一一債務者については、いずれも平成一三年九月期においても債務者区分や引当額について変更がなかったことから、平成一三年三月期における上記引当不足額四六億九〇〇〇万円は、平成一三年九月期においてもそのまま引当不足額となる。
(エ) 平成一四年三月期の引当不足から推認されるその他の引当不足
平成一四年三月期ころに被告足銀の行員であったF(以下「F」という。)によって作成された文書(以下「F文書」という。)によれば、平成一四年三月期において被告足銀には、与信残高一〇億円以上の要注意先、要管理先及び破綻懸念先だけで、合計約九八六億円もの引当不足が存在していた。
被告足銀も、これらの引当不足の一部について、平成一三年三月期に存在していたことを認めており、また、同文書の中で検討されている債務者について、平成一三年九月期から平成一四年三月期にかけて大きな変化がなかったことなどから、これらの引当不足はいずれも平成一三年九月期時点で既に存在していたと考えられる。そして、これらの引当不足のうち、上記(イ)の一七債務者、及び上記(ウ)の一一債務者と重複する引当不足額(合計三五五億四八〇〇万円)を除外しても、依然として六三一億三六〇〇万円もの引当不足額が存在していた。
なお、F文書については、まさに被告足銀内部において正直ベースの数字を上司に報告するために、Fが自ら作成したものであり、その内容の正当性については、別件の訴訟における被告足銀の主張内容とも整合し、裏付けられているものであるから、高い信用性が認められる。
(オ) まとめ
以上のとおり、平成一三年九月期における貸倒引当金の不足額合計は、少なくとも一一〇一億四三〇〇万円であり、これだけでも、被告足銀の自己資本比率は国内基準四パーセントを大きく下回る〇・〇六パーセントとなっていた。
ウ 繰延税金資産の過大計上について(争点三の②)
(ア) 適用される会計基準
平成一三年九月期において、被告足銀が繰延税金資産を計上するにあたっては、会計原則の根本である真実性の原則のほか、平成一一年三月期に既に「公正妥当な企業会計基準」となっていた「税効果会計に係る会計基準」、「税効果会計実務指針」、「税効果会計に関するQ&A」、「事務ガイドライン」及び「信用リスク検査用マニュアル最終版」に加えて、「六六号報告」、「七〇号報告」、「中間実務指針」、「中間Q&A」の各基準を遵守すべきであった。
a 六六号報告について
六六号報告は、日本公認会計士協会が税効果会計における会計監査上の取扱いのうち、特に繰延税金資産の回収可能性の判断について明確にするために公表した監査委員会報告であり、平成一三年九月期において公正妥当な監査基準に該当していた。また、六六号報告は、同年一月以降、税効果会計実務指針でも引用され、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたって参照すべきとされており、同指針と一体として運用されることとなったのであるから、日本公認会計士協会から公表された会計制度委員会等の実務指針、あるいは一般に認められる会計実務慣行として、平成一三年三月期以降の「公正妥当な企業会計基準」に該当していた。
b 七〇号報告について
七〇号報告は、六六号報告と同様、日本公認会計士協会が、税効果会計に関する実務上の取扱いを明確にするために公表した監査委員会報告であるから、平成一三年九月期において、公正妥当な監査基準に該当するものであった。また、七〇号報告は、税効果会計におけるその他有価証券の評価差額に関する会計上の処理基準を具体的内容とするものであったから、財務諸表の作成についても会計実務上の基準となるものであって、同期において、一般に認められる会計実務慣行として、「公正妥当な企業会計基準」に該当していた。
c 中間実務指針及び中間Q&Aについて
中間実務指針は、税効果会計実務指針を前提に、特に中間財務諸表及び中間連結財務諸表に固有の論点について、会計上の取扱いを示した実務指針であり、中間Q&Aは、中間実務指針の内容に関する留意点等を問答形式で平易に説明したものである。
これらの会計基準は、税効果会計実務指針及び税効果会計に関するQ&Aと同様に、日本公認会計士協会が、税効果会計に関する会計基準の実務上の取扱いを明確にするために、実務指針又はQ&Aとして公表したものであるから、平成一三年九月期において「公正妥当な企業会計基準」に該当していた。
(イ) 繰延税金資産の計上が許されなかったこと
被告足銀は、平成一三年九月期において、自己資本(基本的項目)一二〇一億円の約一・四倍に相当する一七二七億円の繰延税金資産を計上しており、同額は、被告足銀における過去最高額であった。
同期の繰延税金資産依存率は、都市銀行、地方銀行及び第二地方銀行合計一二八行の平均値である二五パーセントを大幅に上回る一四四パーセントであり、平成一一年三月期同様、極めて高い依存率を維持していた。
平成一三年九月期における被告足銀は、被告監査法人が繰延税金資産の計上を否認した平成一五年九月期と同様に、債務超過ないし自己資本比率が四パーセントを下回っており、企業の継続性に疑義があり、過度に繰延税金資産に依存することにより将来の課税所得見積りのぶれに伴う繰延税金資産額の変動によって債務超過に陥る可能性があった上、多額の不良債権の無税処理を余儀なくされることにより、将来の収益計画の達成に懸念があった。
したがって、被告足銀は、平成一三年九月期においても、平成一一年三月期同様、繰延税金資産を計上することが許されない状態にあった。
(ウ) 取締役会による承認又は監査を経ていない違法な計上
平成一三年九月期の繰延税金資産の計上に当たり取締役会で承認された一時差異等解消計画(足銀原案)は、被告監査法人による監査において妥当であると承認された一時差異等解消計画(「監査人了承スケジュール」と標題が付されたものと同内容のもの)とは異なるものであり、後者は、被告監査法人自らが策定したものであって、監査対象企業である被告足銀が策定又は承認したものではなかった。
上記経緯で計上された繰延税金資産は、その会計処理及びその監査手続が公正なる会計慣行に反するものであるから、平成一三年九月期報告書の記載内容は、一般に公正妥当と認められる基準に準拠した監査を行った結果、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠している旨の無限定有用意見が表明されている点で事実に反しているし、特に繰延税金資産の計上に関しては、監査による承認がされていないにもかかわらず、計上額全額について妥当と認められる旨の監査意見が付されているから、その計上額全額について虚偽がある。
(エ) 不合理な一時差異等解消計画に基づく計上
a 六六号報告では区分④ただし書に該当する企業の課税所得見積期間は五年以内とすべきと定められていたが、一時差異等解消計画(「監査人了承スケジュール」と標題が付されたもの)においては、課税所得見積期間が六年間とされていたから、同計画に基づく繰延税金資産の計上は、「公正なる会計慣行」に反し違法である。
b 一時差異等解消計画(足銀原案)におけるタックスプランニングは子会社の売却を内容とするものであったが、企業売却については購入希望者の存在が前提となる上、被告足銀の上記売却計画は、六六号報告において規定される「意思決定が取締役会等で承認された事業計画等により明確になっている場合」にも該当しない。
また、有価証券評価差額解消分については、六六号報告によれば含み益に係る金額として見込むことが許されない将来予測が盛り込まれており、かかる将来予測に基づき計上された繰延税金資産は架空の資産である。
c 平成一三年一一月一九日時点における一時差異等解消計画には存在していなかった「債権回収強化による回収分」という収益項目は、必要十分な合理的かつ具体的な検討がされることなく、数合わせの方便として、同月二二日の取締役会までに創設されたものである。
(オ) まとめ
以上のとおり、被告監査法人は、被告足銀が策定・承認した一時差異等解消計画に基づく繰延税金資産の計上に対して監査において承認せず、被告監査法人が自ら策定した独自見積りを承認したことをもって、平成一三年九月期報告書に監査において妥当と認めた旨の意見を記載している点で、計上された全額について虚偽記載がある。
(被告足銀の主張)
ア 貸倒引当金の過少計上について(争点三の①)
(ア) 適用される会計基準の主張に対する反論
a 資産査定通達は、平成一三年九月期当時、金融検査マニュアルに置き換えられており、基準として存在すらしていなかった。
b 資産自己査定基準、与信関係自己査定マニュアル及び償却・引当基準は、行内の内部基準として作成したものであり、広く一般に行き渡っていたものではないから、「公正なる会計慣行」になることはない。
c 四号実務指針及び金融検査マニュアル内の信用リスク検査用マニュアル最終版が定める会計処理の枠組みは、平成一三年九月期において、銀行業において広く一般的に相当の時間繰り返して行われ、かつ、当該会計処理の枠組みに基づく解釈・運用が他の取扱いを排除するほど繰り返されて根付くことによって、「唯一」の「公正なる会計慣行」として確立されていたとはいえない。また、平成一一年三月期と同様、上記各基準が示す会計処理の枠組みからだけでは、具体的な貸倒引当金の金額を導くことはできないから、これに従うことが、各債務者区分ごとに貸倒引当金の具体的金額を算出するにあたっての「公正なる会計慣行」を形成することはない。したがって、上記各基準は、半期報告書における貸倒引当金の具体的金額についての虚偽記載の存否の判断にあたって法規範になり得ない。
d なお、真実性の原則が虚偽記載の有無の判断基準となり得ないことは前記のとおりである。
(イ) 仮に、上記各基準等の記載内容が平成一三年九月期において必ず従うべきとされる意味においての法規範となっていたとしても、被告足銀は、具体的な貸倒引当金の計上方法について上記各基準等の記載内容に沿った行内の内部基準を策定ないし改定し、当該基準に則り、上記各期において貸倒引当金を計上していた。
平成一三年九月期における貸倒引当金の計上についての会計処理に関する解釈及び具体的運用は、「要注意先」と「破綻懸念先」の区分に関する解釈がやや厳格化した点を除いては、平成一一年三月期と同様であり、被告足銀は、かかる当時の債務者区分の判定基準の解釈及び具体的運用を参考に改定した行内の内部基準に則り、各債務者について、経営状況等の改善点、悪化点、業種の特性、取引金融機関の支援状況等の情報を総合的に勘案し、適正に債務者区分の判定を行った上で貸倒引当金を計上していたから、同期において、個別の債務者に対する貸倒引当金が不足していた事実は存在しない。原告らが主張する個々の債務者の区分及び貸倒引当金の不足の点は、いずれも否認する。
(ウ) 原告らの主張に対する反論
a 平成一三年九月期との関係
自己査定とは、目まぐるしく変化する貸出先の経営状況等を、決算期ごとに、その時点までの状況とその時点における将来の見通し等を検討した上で、当該決算期において適切と考えられる債務者区分の判定基準の解釈に基づき、適正に債務者区分を判定しようとするものであるから、異なる決済期に関する被告足銀の別件の訴訟における主張は、平成一三年九月期報告書の虚偽記載の根拠とはならない。
b F文書の信用性
F文書における試算は、平成一四年三月期のデータを使用して、日本銀行(以下「日銀」という。)が、平成一三年五月の金融庁検査よりもさらに厳しい債務者区分の判定基準の解釈のもと考査を実施した場合の全体的な影響を把握することを目的として、短期間に、主に債務償還年数・債務超過解消年限の指標のみを基に機械的・画一的に行ったものであり、これをもって、平成一四年三月期において、被告足銀に貸倒引当金の不足が存在していたとはいえず、ましてや決算期の異なる平成一三年九月期の貸倒引当金の不足の事実を導くことはできない。
(エ) まとめ
以上のとおり、被告足銀の平成一三年九月期報告書の貸倒引当金の記載に「虚偽」は存在しない。
イ 繰延税金資産の過大計上について(争点三の②)
(ア) 適用される会計基準の主張に対する反論
a 事務ガイドラインは、平成一一年三月期同様、銀行監督にあたっての財務局の事務処理手続について定めたものにすぎないから、その内容からして平成一三年九月期において「公正なる会計慣行」になることがない。
中間Q&Aは、税効果会計適用にあたっての留意点その他を記載しているにすぎず、その内容からして「公正なる会計慣行」にはならない。
六六号報告は、平成一二年三月三一日以後終了する事業年度から適用された監査に関する実務指針であり、財務諸表等の作成者に対する規範を設定するという位置づけにはなっていないから、この指針が示す具体的会計処理方法が「公正なる会計慣行」を形成するためには、まず被監査会社において同指針に沿った具体的な会計処理が行われ、その方法が一般的に広く会計上の習わしとして相当の時間繰り返される必要があるところ、適用開始後間もない平成一三年九月期において、この指針が、被監査会社である被告足銀にとって、「公正なる会計慣行」の一つになっていたとはいえない。
信用リスク検査用マニュアル最終版は、金融検査官の対応が示されているにすぎず、七〇号報告は、「その他有価証券」の評価差額に関する一時差異の取扱いを定めたものにすぎないから、いずれも繰延税金資産の計上に関する会計処理の枠組みを指し示すものではない。
b 他方、税効果会計に係る会計基準については法令上の根拠を有しており、税効果会計実務指針及び中間実務指針は、税効果会計に係る会計基準の実質的な委任に基づき作成されたものであるから、平成一三年九月期においても、「公正なる会計慣行」となっていた。
しかし、上記各基準が指し示す内容は、平成一一年三月期と同様、一義的明確性及び具体性に欠け、回収可能性の判断につき何ら具体的な会計処理も記載されていなかった。また、平成一三年九月期において、「繰延税金資産の回収可能性」に関する会計処理について、銀行業において広く一般的に相当の時間繰り返して行われ、かつ、他の取扱いを排除するほど繰り返されて根付くことによって、「唯一」の「公正なる会計慣行」として確立された会計処理方法も存在していなかった。
したがって、上記各基準が定める会計処理の枠組みのうち「公正なる会計慣行」となっていたのは、一時差異等に係る税金の額については全額を繰延税金資産として計上するという会計処理方法に限られたものであり、「繰延税金資産の回収可能性」の判断については何ら具体的な会計処理方法も定められていなかったから、この判断に関する部分については「公正なる会計慣行」を形成しえず、「繰延税金資産の回収可能性」の判断にあたっての法規範とはならない。
c なお、真実性の原則が虚偽記載の判断基準となり得ないことは前記のとおりである。
(イ) 仮に、上記各基準の内容が、「繰延税金資産の回収可能性」の判断にあたって、必ず従うべきとされる意味においての法規範となっていたとしても、被告足銀は、平成一三年九月期において、上記各基準の内容に従って、繰延税金資産を計上していた。
a 平成一五年九月期との違い
平成一三年九月期は、繰延税金資産に対する当局の検査の運用が厳格化する前の決算であり、前記の平成一一年三月期同様、繰延税金資産の計上が全額否認された平成一五年九月期とは、被告足銀を取り巻く環境や繰延税金資産についての会計処理方法の解釈・運用が全く異なっていた上、自己資本比率は四パーセントを超えるなど自己資本に余裕があり、その上で決算後の資本増強策も予定されていたのであるから、平成一五年九月期とは全く異なる状況での決算であった。
前記のとおり、一時差異等に係る税金相当額の回収可能性の判断が適正であったかどうかは、あくまで当時の事情を基に検証されなければならないから、平成一五年九月期から推測することはできない。
b 資本依存率に問題がないこと
資本依存率が一〇〇パーセントを超える繰延税金資産の計上を規制する法令又は会計基準は存在せず、資本依存率が一〇〇パーセントを超える繰延税金資産の計上はしないという「公正なる会計慣行」が存在しなかったことは平成一一年三月期と同様である。
また、平成一三年八月には、平成一一年八月に提出した「経営の健全化のための計画」の見直しを行い、金融庁との協議を踏まえて策定した新たな計画を金融庁に提出し、同庁に受領されていたのであるから、平成一一年三月期同様、平成一三年九月期において、繰延税金資産を計上することに何の支障もなかった。
c 繰延税金資産の計上額が適正であったこと
被告足銀は、平成一三年九月期当時、六六号報告例示区分④の「重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社等」に該当したが、当該欠損金が金融機関の自己査定に基づく償却・引当という全く新しい制度が導入されたことに伴うものであったことから、法令等の改正による「非経常的な特別の原因によって発生したもの」等であると評価し、六六号報告例示区分④ただし書に沿って、五年の課税所得の見積額を限度として、当該期間の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、繰延税金資産を計上したものである。
そして、上記五年間の将来限度における課税所得見積りに含まれた各課税所得見込額は、いずれも、実現可能性を備えており、六六号報告の規定に反するものでもなかったから、これに基づき被告足銀が計上した繰延税金資産額は、税効果会計に係る会計基準等の各基準の内容に沿うものであった。
(ウ) 計上の過程に違法がないこと(原告らの主張に対する反論)
被告足銀の取締役会における決算承認の根拠となった一時差異等解消計画(足銀原案)に基づく繰延税金資産の計上額については、被告監査法人の審議会において承認されている。そして、「監査人了承スケジュール」との標題の付された一時差異等解消計画は、当時被告足銀において繰延税金資産の算出の責任者かつ一時差異等解消計画のとりまとめの担当者であったGが、被告監査法人による承認の経緯を明らかにするために作成し取締役会議事録に添付したものである。
したがって、平成一三年九月期における繰延税金資産の計上に関して、取締役会による承認又は被告監査法人による承認のいずれかを欠いたとの事実はない。なお、上記各計画において計上可能とされている繰延税金資産の金額は同額である。
(エ) 課税所得見積期間が適正であったこと
また、一時差異等解消計画(「監査人了承スケジュール」との標題が付されたもの)において課税見積期間が六年と設定されているが、これは、六六号報告における「おおむね五年」の表現に反するものではない上、同報告に適合するか否かは、将来年度の所得の見積りが合理的かどうかという観点から判断されるべきであるから、上記一時差異等解消計画における課税所得見積期間が六六号報告に適合しないとはいえない。
(オ) 小括
以上のとおり、被告足銀の平成一三年九月期報告書の繰延税金資産の記載に「虚偽」は存在しない。
(被告監査法人らの主張)
ア 貸倒引当金の過少計上について(争点三の①)
(ア) 適用される会計基準の主張に対する反論
a 資産自己査定基準、与信関係自己査定マニュアル及び償却・引当基準は、被告足銀が独自に策定したもので、広く一般に行き渡っていたものではないから、「公正なる会計慣行」とはなり得ない。
b 資産査定通達は、平成一三年九月期当時、既に廃止されていたから、同期における「公正なる会計慣行」とはならない。
c 四号実務指針は、平成一一年四月三〇日に一部改正され、同年九月期以降適用されたものであり、同指針では、各債務者を五つに区分した上で償却・引当を行うという枠組みについて、改正前の同指針より詳細な定めがされ、前記枠組み自体は「公正なる会計慣行」となっていたが、依然として債務者区分の判定基準に関しては抽象的な記載しかなく、具体的な会計処理の方法が導かれるものではなかったので、平成一三年九月期決算において、改正後の四号実務指針は、債務者区分の判定基準に関する「公正なる会計慣行」ではなかった。
d 信用リスク検査用マニュアル最終版は、検査官向けの通達により発出された検査官の手引書にすぎないから、法令や会計基準、金融機関向けの通達よりも一層金融機関に対する規範性の低いものであり、その規定自体、各金融機関による幅の広い解釈や裁量を認めることを前提にした記載ぶりであった上、平成一三年九月期までの間に、主要行に対する金融検査さえ一巡しておらず、金融検査マニュアルの内容が一義的なものとして慣行化するには至っていなかったのであるから、少なくとも同期においては、同マニュアルは、債務者区分の判定基準に関する「公正なる会計慣行」ではなかった。
e なお、真実性の原則が虚偽記載の判断基準となりえないことは前記のとおりである。
(イ) 平成一三年九月期決算の経緯
被告足銀は、金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律における公的資金注入行となったため、平成一一年九月の経営健全化計画策定後、監督当局等から、継続的かつ徹底的に監督されており、公的資金注入以降初めて行われた平成一三年三月期決算を対象とした金融庁検査は、特に厳重に行われた。そして、被告足銀は、平成一三年九月中間期決算については、特に厳重に行われた前記金融庁検査の指摘を踏まえ、原則としてその指摘の趣旨を反映しており、同期決算に対しては、その決算内容を含め、引き続き監督当局等による継続的かつ徹底的な監督がなされていたのであるから、その内容が適切なものであったことは明らかであり、同決算における貸倒引当金に関する内容に虚偽記載がなかったことは明らかである。
(ウ) 貸倒引当金の計上が適正であったこと
平成一三年九月期における金融機関の債務者区分及びそれに応じた償却・引当の考え方は、「破綻懸念先」と「要注意先」の区分のメルクマールを除いて、平成一一年三月期と同様である。
平成一三年九月期において、「破綻懸念先」と「要注意先」の区分は、「金融機関が支援している」事実を他の事情とあわせて考慮し「経営破綻に陥る可能性が大きい」とはいえない場合には、「要注意先」に該当するとされており、当時は、金融機関からの支援を前提に経営破綻に陥る可能性が大きくないと判断して「要注意先」に区分するという緩やかな解釈・運用が実務上多くなされていた。
したがって、仮に、原告らの主張する上記各基準が、「唯一」の「公正なる会計慣行」であったとしても、平成一三年九月期決算における貸倒引当金の計上の適否については、当時の上記解釈・運用に基づき判断されるべきである。
(エ) F文書の信用性
F文書のうちFが「試算」と称する部分は、試算の前提となる時点・データが平成一三年九月期決算とは異なっているのみならず、今後想定される日銀考査において、同年五月の金融庁検査における解釈を反映した平成一三年度決算の内容に対する指摘がされることによるリスクについて融資部門の上司に説明することを目的として、日銀が上記金融庁検査よりもさらに厳しい目線で自己査定を検証した場合にどのようになるのかという偏った視点に基づいて作成されたものであるから、平成一三年九月期決算の被告足銀の財務諸表等に貸倒引当金の過少計上があったことの根拠となるものではない。
イ 繰延税金資産の過大計上について(争点三の②)
(ア) 適用される会計基準の主張に対する反論
a 平成一三年九月期において、税効果会計に係る会計基準、税効果会計に関する実務指針及び中間実務指針は、平成一一年三月期同様、繰延税金資産の回収可能性の判断について具体的な会計処理方法を示すものではなかったから、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する「公正なる会計慣行」ではなかった。
b 税効果会計に関するQ&A及び中間Q&Aは、平成一一年三月期と同様、実務指針の内容を平易に説明するためのものであって、繰延税金資産の計上に関する具体的な会計処理方法を示すものではなかったから、平成一三年九月期において、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する「公正なる会計慣行」ではなかった。
c 事務ガイドラインも、平成一一年三月期同様、その性質及び内容からすれば、平成一三年九月期においても、繰延税金資産の計上に関する「公正なる会計慣行」とはなり得ない。
d 六六号報告は、平成一一年一一月九日に公表された監査実務上の指針にすぎず、その内容も、具体性、一義性を欠くものであったから、被監査会社の具体的な会計処理方法について唯一絶対的な法的拘束力を有しうるものではなかった上、同報告が適用されてから一年半しか経過していなかった平成一三年九月期において、相当の時間繰り返して行われて根付くといった状況にはなく、繰延税金資産の回収可能性に関する「公正なる会計慣行」を形成するまでに至っていなかった。
e 金融検査マニュアル(信用リスク検査用マニュアル最終版を含む。)は、その内容が具体的基準性を有していない上、検査官の手引書にすぎず、平成一三年九月期時点では、これに基づく金融検査の内容が周知徹底される段階には至っていなかったから、同期において、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する「公正なる会計慣行」ではなかった。
f したがって、原告らの主張する上記各基準がいずれも繰延税金資産の回収可能性に関する「公正なる会計慣行」でなかったことは明らかである。
g なお、真実性の原則が虚偽記載の判断基準となりえないことは前記のとおりである。
(イ) 平成一三年九月期決算の経緯
平成一三年九月期決算は、前記のとおり、特に厳重に行われた同年三月期決算を対象とした金融庁検査の指摘を踏まえたものであり、被告足銀は監督当局等による継続的かつ徹底的な監督も受けていたのであるから、その内容は適切なものであって虚偽記載がなかったことは、繰延税金資産の計上の点に関しても同様である。
(ウ) 繰延税金資産の計上が適正であったこと
仮に、原告らが主張する上記各基準が「唯一」の「公正なる会計慣行」であったとしても、上記各基準は、以下のとおり、将来課税所得の見積可能年数にあらかじめ一定の制限を設けておらず、その年数の上限を規制するものではなかった。
a 六六号報告の例示区分④ただし書の将来課税所得の計上可能年数に関する「将来の合理的な見積可能期間(おおむね五年)」との記載は、「将来の合理的な見積可能期間」という抽象的な規範を定立するもので、かつ、その期間については括弧書きで目安を示すものにすぎず、前記記載をもって、一義的に、将来課税所得五年分を超えた繰延税金資産の計上が直ちに違法となるとはいえない。むしろ、上記記載が、将来課税所得六年分未満の繰延税金資産の計上を許容する趣旨であることは明らかである。
b また、金融検査マニュアル上の「計上された税効果相当額が今後五年間の課税所得の見込額に実効税率を乗じた額を上回っている場合には、合理的な理由があるかを検証する。」との記載が、将来課税所得の見積可能年数に上限を設けるものでなかったことは明らかである。
c 以上の解釈・運用を踏まえて、被告監査法人は、被告足銀の平成一三年九月期における繰延税金資産の計上につき、六六号報告の前記記載を前提としても、少なくとも将来課税所得六年分未満であれば「おおむね五年」以内の範疇に収まるものとして繰延税金資産の計上を認める趣旨に読みとれたところ、今後六年間に相当する課税所得見込額を算出した場合、被告足銀の計上した一時差異の解消見込額及び有価証券評価差額金を控除しても余剰が発生し、一時差異の解消見込期間は六年未満と解釈できたことから、被告足銀が計上した繰延税金資産について妥当なものと判断した。
(4)  各被告の責任の有無(争点四)
(原告らの主張)
ア 被告足銀
(ア) 平成一一年三月期報告書又は平成一三年九月期報告書及びこれらの記載内容を前提とした各発行登録目論見書の各虚偽記載について、発行者として、旧証取法二四条の四、二四条の五第五項、又は二三条の一二第五項、二二条、二一条一項一号、一八条、一七条に基づき、損害賠償責任を負う。
(イ) 他の被告らと共同して、上記各報告書等の重要な事項について虚偽の記載を行い、これらを公表することによって、被告足銀が、債務超過又は自己資本比率四パーセント未満の状態にはないという虚偽の事実を前提に増資を募集したことについて、発行者として、民法七〇九条、七一九条に基づき、損害賠償責任を負う。
イ 被告監査法人及び被告Y1
(ア) 被告足銀の上記各虚偽記載について、適正意見の監査証明を行った監査法人又は公認会計士として、旧証取法二四条の四又は二四条の五第五項、二二条、二一条一項三号に基づき損害賠償責任を負う。
(イ) 他の被告らと共同して、上記各報告書等に虚偽記載があったにもかかわらず、故意又は過失により、監査法人又は公認会計士として適正意見の監査証明を行ったことについて、民法七〇九条、七一九条に基づき損害賠償責任を負う。
(ウ) 平成一一年三月期と平成一三年九月期の各決算において、被告Y1を中心とする被告監査法人の公認会計士らは、被告足銀が自己資本比率四パーセントを確保する必要があることを十分認識し、被告足銀との協議を踏まえた上で、虚偽記載を含む決算について監査証明を行っていた上、被告足銀が、被告監査法人に対して、平成一三年三月期の粉飾決算に深く関与したことにより違法に配当させたことを理由として、約一一億円の損害賠償請求訴訟を提起したこと、金融庁が、平成一七年一月に、被告監査法人が被告足銀等に対して行った平成一五年三月期決算及び平成一五年九月決算の監査証明について、監査法人の運営が著しく不当と認められるときに該当するとして戒告処分を行ったこと等の事情に照らせば、被告足銀と被告監査法人及び被告Y1との間には通謀があったのは明らかである。
(被告足銀の主張)
争う。
(被告監査法人らの主張)
争う。
被告監査法人らが被告足銀に対し不良債権の隠蔽の指南や粉飾の指南等その他通謀等をしたなどという事実はない。
なお、財務諸表等の作成に関する第一義的な責任は、被監査会社の経営者がこれを負わなければならず、監査人は、被監査会社が作成した財務諸表等に対し、その適正性に関する意見表明の枠組みの中で検討して意見を表明する第二義的な責任を負うにすぎない。
(5)  損害及び因果関係(争点五)
(原告らの主張)
前記のとおり、被告足銀の平成一一年三月期及び平成一三年九月期の各有価証券報告書等には重要な事項について虚偽記載があり、これを前提として平成一一年八月の優先株発行及び平成一四年一月の普通株発行の各増資が実行された(以下「本件増資」という。)。原告らに対する募集行為は上記虚偽記載を前提としてされたものであり、仮に、被告足銀が、自己資本比率四パーセントを下回ることを前記財務諸表上で明らかにしていた場合には、早期是正措置の対象となることが対外的に明らかとなり、本件増資をすることは不可能であったし、原告らが被告足銀に対する出資に応じることはなかった。したがって、原告らは、被告足銀に出資し被告足銀の株式を取得したことにより、それぞれの株式取得額相当額の損害を被った。また、原告らは、本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任しており、弁護士費用相当額の損害を被った。
(被告足銀の主張)
被告足銀が行った本件増資に対する引受は、被告足銀に対する「支援」にほかならなかったのであり、預金・貸出金シェアともに約五割を誇る栃木県下最大の地方銀行であり、同県内において強固な営業基盤を有している地方銀行であれば、当時の金融不安の世相においても、早期是正措置発動後に破綻に至ることなく増資を成功させることができる可能性は十分に存在していたから、仮に、平成一一年三月期報告書及び平成一三年九月期報告書における被告足銀の貸借対照表上の自己資本が実態よりも過大に計上されていたとしても、原告らが被告足銀の上記各株式を引き受けるに至ったこととの間には何らの因果関係も存在しない。
また、原告らが被告足銀の上記各株式を引き受けるに至ったことと、原告らに発生したとする損害との間にも何らの因果関係は存在しない。
(被告監査法人らの主張)
単体自己資本比率が一パーセント以上四パーセント未満の場合には、新株発行等の「資本の増強」等による「自己資本の充実」によって、銀行が破綻に至ることを防止すべく早期の是正措置をなすことが銀行法上予定されており、仮に各決算期において被告足銀の単体自己資本比率が一パーセント以上四パーセント未満であった場合には、被告足銀の既存の顧客、取引先及び地域住民らが被告足銀の再建のため、被告足銀に対する手厚い支援を行ったことは確実である。したがって、仮に、被告足銀の各決算期における被告足銀の財務諸表等に虚偽記載があったとしても、当時の被告足銀の単体自己資本比率が少なくとも一パーセントを割らない限り、上記各虚偽記載と原告らの主張する損害との間には因果関係はない。
また、原告らが自ら述べていたとおり、原告らは、被告足銀の財務諸表等によったのではなく、被告足銀の職員らによる違法勧誘によって本件増資の募集に応じたのであるから、この点からも、虚偽記載と原告らの主張する損害との間には因果関係はない。
第三  争点に対する判断
一  虚偽記載の判断基準(争点一)について
(1)  本件で虚偽記載に当たるかどうかが問題となっている株式会社における貸出金の償却・引当に関して、商法(平成一一年法律第一二五号又は平成一四年法律第四四号による改正前のもの)二八五条の四第二項が、金銭債権の評価について、「金銭債権に付取立不能の虞あるときは取立つること能はざる見込額を控除することを要す」と規定しているところ、取立不能のおそれの有無やその取立不能見込額の算定方法について、具体的にどのような基準によって判断されるべきかに関しては、商法その他の法令に明示的な規定は存在しない。また、本件で同じく虚偽記載への該当性が問題となる株式会社において計上が許される繰延税金資産の額について、具体的にどのような基準によって判断されるべきかに関しても、商法その他の法令に明示的な規定は存在しない。
そうすると、これらの判断基準については、総則規定である旧商法三二条二項が「商業帳簿の作成に関する規定の解釈に付ては公正なる会計慣行を斟酌すべし。」と規定していることから、「公正なる会計慣行」を斟酌して決めることになると解するのが相当である。そして、「公正なる会計慣行」とは、企業の財政状態及び経営状況を明らかにするという商業帳簿作成の目的に照らして、一般に妥当かつ合理的と認められ、広く会計上の習わしとして、相当の期間繰り返し行われてきた会計処理に関する具体的基準ないし処理方法を指すものと解すべきである。
このような「公正なる会計慣行」は複数存在することがあり得ると考えられるから、それに従わなければ違法になる「公正なる会計慣行」は、唯一のものでなくてはならないと解するのが相当である。そして、従前の慣行と抵触する新たな慣行が成立した場合、新たな慣行が「唯一」のものといえるためには、その抵触する従前の慣行に従った会計処理を確定的に廃止し、例外的な取扱いを許容しないことが一義的に明確であることが条件の一つとして必要であるというべきであり、そうした一義的明確性に欠けるもの(基準としての内容が不明確である場合など)は、唯一の会計慣行には未だなっていないものと解するのが相当である。
(2)  この点、原告らは、被告足銀の有価証券報告書等における虚偽記載の有無は、被告足銀が同有価証券報告書上において依拠したと明記した各基準に従って、資産の計上が行われたか否かという観点から判断すべきである旨主張する。
しかしながら、旧証取法の目的が「有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ、かつ、有価証券の流通を円滑ならしめること」により、国民経済の適切な運営及び投資者の保護を図ることにあることからすれば(同法一条参照)、虚偽記載とは、投資者の投資判断に影響を与えるような基本的な事項について真実に合致しない記載があることをいい、その有無については、有価証券報告書等に記載された内容が「公正なる会計慣行」を斟酌し、法令に定められた方法により記載されるべきものに反しているか否かの観点から実質的に判断すべきである。したがって、仮に財務諸表等の内容が有価証券報告書等に依拠すると記載されている基準に従っていないとしても、当該基準が「公正なる会計慣行」になっていなければ、虚偽記載に当たらないと解すべきであり、これに反する原告らの上記主張は、採用することはできない。
(3)  また、原告らは、上場会社は、「公正妥当な企業会計基準」に従って財務諸表を作成すべきであるから、当該財務諸表が「公正なる会計慣行」に反して作成された場合だけでなく、「公正妥当な企業会計基準」に反して作成された場合にも虚偽記載に当たると主張する。
たしかに、財務諸表等規則一条一項は、有価証券報告書ないし半期報告書に記載される財務諸表の用語、様式及び作成方法は、原則として一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うべき旨定めているが、他方、前記のとおり、財務諸表は商法等の規定によって作成される計算書類として(商法(平成一七年法律第八七号による改正前のもの)二八一条一項)、公正なる会計慣行を斟酌して作成されるべきものであると定められている(旧商法三二条二項参照)ことからすると、財務諸表等規則における「公正妥当な企業会計基準」と商法における「公正なる会計慣行」とは、少なくとも虚偽記載の有無を判断する基準としては実質的に同内容のものを指すと解するのが相当である。
(4)  そこで、以下では、被告足銀の平成一一年三月期報告書ないし平成一三年九月期報告書における貸倒引当金及び繰延税金資産に係る記載が虚偽であったか否かの判断に先立ち、原告らの主張する各基準が「唯一」の「公正なる会計慣行」に該当するかどうかをまず検討する。
なお、原告らは、虚偽記載の判断に当たって適用される会計基準として、本件各決算期に共通して「真実性の原則」を挙げる。しかし、「真実性の原則」自体は、会計上一定の計上額を導くことができる具体的な会計処理方法を定めるものではないから、同原則を用いて基準となるべき計上額を算出することはできず、虚偽記載の該当性の判断基準とはなり得ないというべきである。
(5)  平成一一年三月期における貸倒引当金の計上について
ア 資産査定通達
(ア) 前記認定事実、証拠〈省略〉によれば、以下の各事実が認められる。
a 税法基準下における償却・引当の方法
平成四年四月三〇日蔵銀第八〇九号「『普通銀行の業務運営に関する基本事項等について』通達の一部改正について」の第五の一の決算経理基準(以下「決算経理基準」という。)では、貸出金については、「回収不能と判定される貸出金及び最終の回収に重大な懸念があり損失の発生が見込まれる貸出金については、これに相当する額を償却するものとする。なお、有税償却する貸出金については、その内容をあらかじめ当局に提出するものとする。」とされ、貸倒引当金については、「税法で容認される限度額を必ず繰り入れるものとし」、「債権償却特別勘定への繰入れは、税法基準のほか、有税による繰入れができるものとする。」と定められていた。
法人税基本通達九―六―四は、法人の有する貸金に係る「債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがないこと、…〈省略〉…その他これらに類する事由が生じたため、当該貸金等の額の相当部分(おおむね五〇%以上)の金額につき回収の見込みがないと認められるに至った場合」には、「その回収の見込みがないと認められる部分の金額」以下の金額を当該事業年度において損金経理により債権償却特別勘定に繰り入れることができると定めていた。
そして、大蔵省と国税庁の協議に基づく不良債権償却証明制度の下において、金融証券検査官が回収不可能又は無価値と判断した債権及びこれに準ずる債権と証明した不良債権については原則として法人税法上の損金として容認される扱いとされており、その審査基準について、「不良債権償却証明制度等実施要領について」は、「合理的な合併計画や再建計画が作成中あるいは進行中である場合」や「債務者に対して追加的な支援(融資、増資・社債の引受、債務引受、債務保証等)を予定している場合」に当たる債務者(以下「支援先等」という。)については、法人税基本通達九―六―四における「事業の好転の見通しがない」と判断することは原則として適当ではないとされていた(以下資産査定通達が発出される以前の、上記各規定に基づく取扱いを「税法基準」という。)。
b 資産査定通達の内容
平成九年三月五日付けで出された資産査定通達において、初めて債務者区分に応じて貸出金を分類し、その分類に応じた貸倒引当金を計上するという自己査定制度が導入されることとなった。その債務者区分の定義をみると、「実質破綻先」は「法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められる債務者」とされているのに対し、「破綻懸念先」は「現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者」とされているのみであって、その具体的適用の違いは必ずしも明確とはいい難かった。
また、特に、「破綻懸念先」の定義については、従前の税法基準下での解釈と同様に、「自行(庫・組)としても消極ないし撤退方針」としているか否かを一つの要素とするなど、資産内容の実態を客観的に反映させるという資産査定通達の趣旨を徹底させるものであったかという点について明確性を欠いていた。
c 金融検査マニュアル中間とりまとめの公表
金融監督庁より平成一〇年一二月に金融検査マニュアル中間とりまとめが公表され、その中の「信用リスク検査用マニュアル」では、金融機関が定めた自己査定基準の適切性及び自己査定結果の正確性並びに償却・引当基準及び償却・引当結果の適切性を検証する際の判断枠組みが示された。同マニュアルにおける債務者区分の定義は、資産査定通達と同様であり、その具体的適用の違いは必ずしも明確でなく、また、「金融機関の支援を前提として経営改善計画等が策定されている債務者」について、一定の要件を充たしている場合には、破綻懸念先ではなく要注意先と判断して差し支えないものとするなど、金融機関の支援の有無により、債務者区分の適用が異なる可能性を認めるものとなっていた。このように、同マニュアルの公表によっても、資産査定通達の前記bで認定した問題点が解消されたということはできない。
(イ) 小括
資産査定通達の上記内容等によれば、全体として、定性的かつガイドライン的なものでしかなかったといわざるを得ず、特に支援先等に対する貸出金の査定に関しては、幅のある解釈の余地を含んだものであり、新たな基準として直ちに適用するには明確性に乏しく、平成一一年三月期決算に先立って平成一〇年一二月に金融検査マニュアル中間とりまとめが公表されたことを踏まえても、従来の税法基準下における解釈に基づく会計処理を排除して厳格に資産査定通達に従うべきことも明確であったとはいえず、過渡的な状況にあったといえるから、支援先等に対する貸出金について、これまで「公正なる会計慣行」として行われていた税法基準の解釈によって行うことも許容されていたというべきである。
したがって、平成一一年三月期において、資産査定通達に従うことが「唯一」の「公正なる会計慣行」であったとは認められない。
イ 四号実務指針
(ア) 前提事実、証拠〈省略〉によれば、四号実務指針は、貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱いを明らかにすることを目的の一つとして作成・公表されたものであるところ、債務者区分の定義が規定されてはいたが、資産査定通達同様、その具体的適用の違いは明らかでなかった上、資産分類に関する規定は存在せず、債務者区分、資産分類及び算定されるべき引当金の関係について明確に定められておらず、具体的な計算方法や計算例についての規定も存在していなかったことが認められる。
(イ) 四号実務指針は、そもそも監査上の取扱いに関する指針である以上、これが公表後直ちに監査の対象である金融機関にとって遵守すべき「公正なる会計慣行」に当たるとはいえないのみならず、(ア)で認定したところによれば、同指針も、資産査定通達同様、定性的な内容を示すにとどまり、金融機関が資産査定を実施するに当たって、定量的な償却・引当基準として機能しうるものではなかったといえる。
したがって、平成一一年三月期において、四号実務指針に従うことが「唯一」の「公正なる会計慣行」であったとは認められない。
ウ 金融検査マニュアル中間とりまとめ内の信用リスク検査用マニュアル
(ア) 前記前提事実、証拠〈省略〉によれば、金融検査マニュアルの整備に向けて検討を行っていた検討会より、外部の意見を聴取するために、金融検査マニュアル中間とりまとめが平成一〇年一二月公表されたこと、金融監督庁は、その後、聴取した意見等を踏まえて内容の具体化を進め、最終的な金融検査マニュアルを確定することを予定していたこと、平成一一年三月決算期までに、同中間とりまとめに従った金融検査が実施された事実はないことが認められる。
(イ) 上記事実によれば、金融検査マニュアル中間とりまとめ(信用リスク検査用マニュアルを含む。)は、金融検査官が検査を実施する際に用いるマニュアル策定のためのたたき台としての性格を有するものであったとするのが相当である。そうすると、平成一一年三月期において、同中間とりまとめが、検査の対象である金融機関にとって、自己査定及びこれに基づく償却・引当等を実施するにあたり一つの参考資料になり得るとしても、この基準に従うことが平成一一年三月期において「公正なる会計慣行」であったと認めることはできない。
エ 平成九年一二月一五日付け「資産自己査定基準」、「貸倒償却および貸倒引当金等の計上に関する基準」
前記前提事実によれば、平成九年一二月一五日付け「資産自己査定基準」並びに「貸倒償却および貸倒引当金等の計上に関する基準」は、早期是正措置制度の導入に伴い、自己査定の実施が義務づけられたことを受けて、被告足銀が自行の自己査定を実施する際の基準・方法等を定めたものにすぎないから、その余の点について判断するまでもなく、これらの各基準が「公正なる会計慣行」に当たらないことは明らかである。
オ 小括
以上のとおり、原告らが主張する各基準は、いずれも平成一一年三月期の貸倒引当金の計上にあたって「唯一」の「公正なる会計慣行」であったと認めることはできない。
(6)  平成一一年三月期繰延税金資産に係る記載について
ア 税効果会計に係る会計基準、税効果会計実務指針、税効果会計に関するQ&A
税効果会計に係る会計基準及び税効果実務指針が、繰延税金資産の計上にあたって「公正なる会計慣行」を形成していたことは争いがない。
イ 税効果会計に関するQ&A
前記前提事実及び証拠〈省略〉によれば、税効果会計に関するQ&Aは、日本公認会計士協会が個別財務諸表に税効果会計が適用されるようになったことを受けて、一問一答方式で税効果会計の導入に係る留意点等を解説したものにすぎないことが認められるから、金融機関がこれに従うことが「公正なる会計慣行」であったと認めることはできない。
ウ 事務ガイドライン
前記前提事実、証拠〈省略〉によれば、事務ガイドラインは、金融監督庁が銀行監督にあたっての財務局の事務処理手続について定めたものであることが認められる。
そうすると、その監督対象である銀行にとって、繰延税金資産の計上額を定める際の一つの判断指針であったとはいえても、平成一一年三月期において、同ガイドラインに従った会計処理を行うことが「公正なる会計慣行」であったとまで認めることはできない。
エ 金融検査マニュアル中間とりまとめ内の信用リスク検査用マニュアル
金融検査マニュアル中間とりまとめ(信用リスク検査用マニュアルを含む。)が、平成一一年三月期の繰延税金資産の計上において「公正なる会計慣行」に当たらないことは、前記貸倒引当金に係る判断と同様である。
オ 小括
以上のとおり、平成一一年三月期において繰延税金資産を計上する際、原告らが主張する各基準のうち、税効果会計に係る会計基準及び税効果会計実務指針に従うことは「公正なる会計慣行」であったと認められるが、その他の基準についてはいずれも、それに従うことが「公正なる会計慣行」であったと認めることができない。
(7)  平成一三年九月期貸倒引当金に係る記載について
ア 資産査定通達
証拠〈省略〉によれば、資産査定通達は、平成一一年七月一日に金融検査マニュアルが施行されたことに伴い、同日をもって廃止されたから、同通達が平成一三年九月期の貸倒引当金の計上に関する「公正なる会計慣行」であったとは認められない。
イ 改正後四号実務指針
(ア) 前記前提事実、証拠〈省略〉によれば、平成一一年四月三〇日に一部改正された四号実務指針(以下「改正後四号実務指針」という。)は、金融機関の自己査定並びにこれに基づく貸倒償却及び貸倒引当金の計上に対する監査手続について、以前より精緻化された留意事項が示され、同月一日以後開始する事業年度に係る監査から適用されることになったが、同指針は、改正前の四号実務指針同様、各債務者区分の具体的適用の違いは明らかでなく、資産分類に関する規定は存在せず、債務者区分、資産分類及び算定されるべき引当金の関係について明確に定められておらず、具体的な計算方法や計算例についての規定も存在していなかったことが認められる。
(イ) 上記内容によれば、改正後四号実務指針も、定性的な内容を示すにとどまり、金融機関が資産査定を実施するに当たって、定量的な償却・引当基準として機能しうるものではなかったとするのが相当である。
したがって、同指針が平成一三年九月期における貸倒引当金の計上に関して「唯一」の「公正なる会計慣行」であったと認めることはできない。
ウ 金融検査マニュアル内の信用リスク検査用マニュアル最終版
(ア) 前記前提事実、証拠〈省略〉によれば、平成一一年七月一日付けで金融検査マニュアルが公表され、同マニュアル内の信用リスク検査用マニュアル最終版において、自己査定、償却・引当及び自己資本比率等に関する検査を実施する際の具体的な着眼点等が整理されたこと、同マニュアルは、同日以降を検査実施日とする検査について適用されることとなったこと、同マニュアルは、「検査官が金融機関を検査する際に用いる手引書として位置づけられ」、各チェック項目は、「検査官が金融機関のリスク管理態勢及び法令遵守態勢を評価する際の基準であり、これらの基準の達成を金融機関に直ちに法的に義務づけるものではない」とされていたことが認められる。
(イ) 上記によれば、金融検査マニュアル(信用リスクマニュアル最終版を含む。)は、金融検査官が金融検査を実施する際に用いる指針であるから、検査対象である金融機関が自己査定や貸倒引当金の計上を実施するに当たって判断要素の一つとはなり得ても、直ちに遵守すべき基準とはならない上、その内容が明確性、一義性に欠けるところがあり、平成一三年九月決算期までに同マニュアルに基づいて実施された金融検査は主要行についても一巡するに至っていなかったことをも踏まえれば、同期において、同マニュアルが示す基準が「唯一」の「公正なる会計慣行」を形成していたと認めることはできない。
エ 平成一三年三月六日付け「資産自己査定基準」、「与信関係自己査定マニュアル」、「償却・引当基準」
前記前提事実によれば、平成一三年三月六日付け資産自己査定基準、与信関係自己査定マニュアル及び償却・引当基準は、被告足銀が自行の自己査定の方法等について、平成一三年九月期決算に先立ち策定ないし改定したものにすぎないから、平成一一年三月期における判断と同様、これらの各基準が「公正なる会計慣行」に当たらないことは明らかである。
オ 小括
以上のとおり、原告らが主張する各基準は、いずれも平成一三年九月期の貸倒引当金の計上にあたって「唯一」の「公正なる会計慣行」であったと認めることができない。
(8)  平成一三年九月期繰延税金資産に係る記載について
ア 税効果会計に係る会計基準、税効果会計実務指針、中間実務指針
前記のとおり、税効果会計に係る会計基準及び税効果会計実務指針に従うことが「公正なる会計慣行」であったことは争いがなく、また中間実務指針に従うことが「公正なる会計慣行」であったことについても争いがない。
イ 税効果会計に関するQ&A、中間Q&A
税効果会計に関するQ&Aが「公正なる会計慣行」であると認められないことは、平成一一年三月期における判断と同様である。
また、中間Q&Aも、日本公認会計士協会が、中間財務諸表等に税効果会計が適用されることになったことに伴う留意点等を一問一答方式で解説したものにすぎないから、税効果会計に関するQ&A同様、これに従うことが「公正なる会計慣行」に当たるとは認められない。
ウ 事務ガイドライン
前記のとおり、事務ガイドラインは、金融監督庁が銀行監督にあたっての財務局の事務処理手続について定めたものであって、監督対象である銀行にとって直ちに遵守すべき基準となる性格を有するものではない。そして、事務ガイドラインに従った銀行監督が繰り返されることにより、その内容に従うことが銀行等にとっても「公正なる会計慣行」となることがあることを考慮しても、平成一三年九月期は、個別財務諸表に税効果会計制度が全面的に導入されてから二年余りが経過したにすぎず、本件全証拠によっても、同ガイドラインに従うことが同期において「公正なる会計慣行」を形成していたと認めることはできない。
エ 金融検査マニュアル内の信用リスク検査用マニュアル最終版
金融検査マニュアル(信用リスク検査用マニュアル最終版を含む。)が、平成一三年九月期の繰延税金資産の計上において「公正なる会計慣行」に当たらないことは、前記貸倒引当金に係る判断と同様である。
オ 六六号報告
前記前提事実、証拠〈省略〉によれば、六六号報告は、日本公認会計士協会が、平成一一年四月一日以後開始される事業年度における税効果会計の全面適用に当たり、繰延税金資産の回収可能性の判断に関して、監査上留意すべき事項を実務指針として取りまとめ、公表したものであることが認められる。
上記のとおり、同報告は、財務諸表や計算書類等に対する監査を実施する際の判断指針を示すものにとどまり、監査の対象となる財務諸表等の作成者である金融機関にとっては、直ちに遵守すべき基準となるものではないというべきである。そして、同報告に基づく監査が繰り返し実施されることにより、その内容が財務諸表等の作成者である金融機関にとっても「公正なる会計慣行」を形成する余地はあるとしても、平成一三年九月期においては、前記のとおり、個別財務諸表に税効果会計制度が全面的に導入されてから二年余りが経過したにすぎないことに照らせば、同期決算において、六六号報告に従うことが「公正なる会計慣行」であったとは認められない。
カ 七〇号報告
前記前提事実、証拠〈省略〉によれば、七〇号報告は、平成一三年四月一日以後開始する事業年度におけるいわゆる「その他有価証券」の時価評価の全面適用に伴い発生する評価差額に対する税効果会計の適用における監査上の取扱いを、日本公認会計士協会がとりまとめ、同年二月に公表したものであることが認められる。
上記のとおり、同報告は、六六号報告同様、財務諸表や計算書類等に対する監査を実施する際の判断指針を示すものにとどまり、監査の対象となる財務諸表等の作成者である金融機関にとっては、直ちに遵守すべき基準となる性質のものではないというべきである。そして、七〇号報告に基づく監査が繰り返し実施されることにより、その内容が財務諸表等の作成者である金融機関にとっても、「公正なる会計慣行」となる余地はあるとしても、平成一三年九月期は、同報告が公表されてから数か月しか経過していなかったのであるから、同期において、七〇号報告に従うことが「公正なる会計慣行」であったとは認められない。
キ 小括
以上のとおり、平成一三年九月期において繰延税金資産の計上の際、原告らが主張する各基準のうち、税効果会計に係る会計基準、税効果会計実務指針及び中間実務指針に従うことは「公正なる会計慣行」であったと認められるが、その他の基準についてはいずれも、それに従うことが「公正なる会計慣行」であったと認めることはできない。
二  平成一一年三月期の貸倒引当金過少計上の有無(争点二の①)について
(1)  前記のとおり、平成一一年三月期において、原告らが主張する資産査定通達等に従うことが唯一の公正なる会計慣行であったとは認められず、支援先等に対する貸出金については、税法基準の解釈に従って償却・引当等を実施することも許容されていたと認められる。そこで、以下の各貸出先(債務者)に対する貸出金について、税法基準の解釈を前提とした場合に引当不足が存在するか否かについて、順に検討する。
なお、前記大蔵省の通達である「不良債権償却証明制度等実施要領について」が定める、「合理的な合併計画や再建計画が作成中あるいは進行中である場合」とは、貸出先の実態や計画の進捗状況に応じ、経営改善に向けた実現可能性を備えた再建計画等が作成中ないし進行中である場合をいい、また「追加的な支援を予定している場合」とは、金融機関にとって貸出金の回収の改善につながる合理性を備えた支援がある場合をいうと解するのが相当である。そして、各貸出先が上記要件を充足する支援先等に該当するか否かの判断は、金融機関による将来の予測を含む経営判断によって行われるものであるから、裁量性のある金融機関の経営判断として許容範囲内にあるかどうかという観点から検討するのが相当である。
(2)  以下、認定事実については、争いのない事実、証拠〈省略〉により認める。
ア あさやホテルについて
(ア) 概要
あさやホテルは、栃木県鬼怒川温泉地区では最有力ホテルとして知られる温泉旅館である。
a 財務状況
あさやホテルの売上高は、遅くとも平成四年一一月決算期以降減少傾向で推移しており、同決算期から平成一〇年一一月決算期まで、経常損失を毎期計上していた。もっとも、平成九年一一月期及び平成一〇年一一月決算期の売上高(五四億円余り)は、それぞれ経営改善計画の目標値の九五パーセントを上回っていた。また、平成一〇年一一月決算期においては、借入れの増加に歯止めがかかり、経常損失額は前期に比べやや減少した。
同社は、平成一〇年一一月決算期までに少なくとも三期連続して債務超過状態にあり、同決算期の債務超過額は二七億六一〇〇万円であった。
b 経営改善計画等の取組と経過
あさやホテルは、平成八年ころから業務全般の改善を目指した内部改革に取り組み、平成九年一月から第一次経営改善計画を実行し、その達成状況を踏まえ、平成一〇年四月からは新たに策定した経営改善計画に基づき、経常利益の赤字脱却を目標に営業力の強化や経費の削減等に取り組み、さらに、同年一一月同計画の達成状況等を被告足銀に報告し、その中で平成一三年一一月期に当期利益を八〇〇〇万円の黒字とする業績見込みを提出した。その結果、平成一〇年一一月期以降経常損失の額は減少し、平成一二年一一月期には経営改善計画の目標値には届かなかったものの、経常利益五八〇二万円を計上するに至った。しかしながら、同期においても依然として二七億円超の債務超過状態にあった。
c その後の経過
あさやホテルは、平成一六年一二月八日、株式会社産業再生機構(以下「産業再生機構」という。)から、株式会社産業再生機構法(以下「産業再生機構法」という。)二二条三項に基づく支援決定を受けた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、あさやホテルについて、赤字状態が継続していた上、経営改善計画の進捗状況が芳しくなく、債務超過額が二七億六一〇〇万円に達していたことから、「破綻懸念先」に分類した。
平成一一年三月期におけるあさやホテルに対する総与信額一六三億〇五〇〇万円のうち、Ⅱ分類債権を六九億円、Ⅲ分類債権を九三億五五〇〇万円に分類し、四六億七七〇〇万円(九三億五五〇〇万円に貸倒引当率五〇パーセントを乗じた額)を個別引当金として債権償却特別勘定に計上していた。
b 取組方針
被告足銀は、あさやホテルに対して、利息の支払の棚上げ措置や返済期限の繰延措置を行うとともに、同行の人材を派遣するなどして、資金繰りの安定化や業績の回復を継続的に支援することにより、平成一八年度以降に正常化を図る方針としていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、あさやホテルは、平成九年一月から経営改善計画に基づく取組が進行中であったところ、同計画の内容は短期間のうちに借入金の返済や債務超過の解消の実現を目指すものではなかったものの、平成一三年一一月期には当期利益を計上することを目指すものであり、平成九年一一月期及び平成一〇年一一月期の売上高は、計画に比して九五パーセント以上の実績を確保していたことからすれば、事業好転に向けて十分な実現可能性を備えていたものといえ、同計画には合理性があったと認めるのが相当である。
そうすると、あさやホテルは、売上高の約三倍の借入金があり、利息を長期間支払っていなかったことや、平成一一年三月期において、少なくとも三期連続して債務超過の状態にある貸出先であったこと等を考慮しても、「合理的な再建計画が進行中」であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
イ サンシャインについて
サンシャインは、宇都宮市で市内最大級の規模を有するビジネスホテルなどを営む会社である。
(ア) 概要
a 財務状況
サンシャインの売上高は、平成六年五月決算期以降増加傾向にあり、平成一〇年五月決算期は八億八二〇〇万円であった。また、少なくとも平成六年五月期から平成一〇年五月期まで毎期連続して経常損失を計上していたが、その損失額は減少傾向にあり、同期の経常損失は四三〇〇万円であった。
同社は、平成一〇年五月決算期までに少なくとも三期連続して債務超過の状態にあり、同決算期の債務超過額は一二億一五五九万円であった。
b 業績改善計画の実施状況等
サンシャインは、平成一一年三月期当時、年間事業計画を策定するなどして経営改善に取り組んでおり、平成一〇年六月から同年一〇月までの売上げ収入額は、同計画の目標値には達しなかったものの、その九五パーセントを上回った。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、サンシャインについて、業績は改善傾向にあるものの、依然として大幅な債務超過であったことから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一一年三月期における同社に対する総与信額三六億六二〇〇万円全額をⅡ分類債権に分類し、これに一五パーセントを乗じた額を一般貸倒引当金として計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀は、サンシャインに対し、元金据置措置や金利減免措置を実施するとともに、平成一一年五月決算期まで七〇〇〇万円の追加支援を行い、同社の計画達成を支援し、同決算期以降は自力運営が可能となるものと見込んでいた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、サンシャインは、年間事業計画に基づき経営改善に取り組んでおり、その内容は、債務超過の早期解消を目指すものではなかったものの、平成一一年五月期以降に、自力での事業継続を目標とするものであり、平成一〇年六月から同年一〇月までの売上高は、計画に比して九五パーセント以上の実績を確保していたことからすると、同計画は十分な実現可能性を備えており、合理性を有するものであったといえる。さらに、被告足銀は、同社に対して、平成一一年五月期以降の自力での運営を目指し、同期まで七〇〇〇万円の追加支援を実施して、前記事業計画の資金不足を補っていたが、当時、前記のとおり、同社の事業計画の進捗状況はおおむね順調であり、保有不動産の売却による借入金の圧縮へ向けた取組も行われていたこと等の事情に照らせば、上記追加支援は合理性を備えたものであったというべきである。
そうすると、サンシャインは、平成一一年三月期において、少なくとも三期連続して債務超過の状態にある貸出先であったが、「合理的な再建計画が進行中」であり、「追加的な支援が予定されている」貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ウ シモレンについて
シモレンは、セメント等建設資材の商社であり、平成一一年三月期当時、栃木県内のシェア六〇パーセント以上を占めていた。
(ア) 概要
a 財務状況等
(a) 平成一一年三月期までに被告足銀に開示されていた情報を基にすると、シモレンの売上高は、平成六年三月期決算期以降わずかながら増加傾向にあり、平成一〇年三月決算期においては二九七億円、平成一一年三月決算期においては三三七億円の売上高をそれぞれ計上した。また、経常利益として、平成一〇年三月決算期に八八〇〇万円、平成一一年三月決算期には三億五〇〇〇万円をそれぞれ計上し、二期連続して経常黒字であった。同社は、同決算期において七億五七六三万円の資産超過とされていたが、資産のうち六億八一四六万円については被告足銀により不良資産であると捉えられていた。
(b) もっとも、同社は、平成七年三月期ころから赤字決算ないし債務超過を隠蔽するために連続して粉飾決算を行い、平成一一年一〇月、被告足銀にその旨を報告した。同社の真実の財務状況は、平成一〇年三月決算期において経常損失三億八五〇〇万円、平成一一年三月決算期において経常損失一億四九〇〇万円であり、同期における実質債務超過額は六七億九三〇〇万円であった。
b 中期経営計画の実施
シモレンは、中期経営計画を策定し、平成一五年度までに長期借入金一〇億四〇〇〇万円の返済を目標としていた。
c その後の経過
シモレンは、平成一三年一〇月一日、民事再生法に基づく民事再生手続の開始を申し立てた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、シモレンについて、現状利益体質を維持しており、営業に懸念はないが不良資産が大きいことなどから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一一年三月期における同社に対する総与信額一一七億一九〇〇万円のうち、一一三億二八〇〇万円をⅠ分類債権に、三億九一〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀は、平成一一年三月期までは、シモレンの資金繰りの安定のため、返済期限の延長などの支援措置を実施して正常化とすることを見込んでいた。
しかしながら、被告足銀は、その後、前記のとおり、シモレンが平成一三年一〇月に民事再生手続開始の申立てをしたことなどを受けて実施した同社に対する有税個別引当金について、再生計画が認可された後の平成一四年九月期に無税化処理する予定とした。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、シモレンは平成七年三月期ころから粉飾決算を行い、経常損失及び債務超過額を隠蔽していたが、このような場合、被告足銀が同社の粉飾決算の事実を容易に知り得た等の特段の事情がない限り、シモレンの実際の財務状況を前提とする貸倒引当金を計上しなかったことをもって、「虚偽記載」に当たると解するのは相当でない。被告足銀がシモレンの粉飾決算の事実を認識したのは、同社に対する財務状況の実態調査が行われた後の平成一一年一〇月であったと認められ、上記特段の事情の存在を認めるに足りる的確な証拠がない。
シモレンが平成一一年三月期当時、中期経営計画を策定し、被告足銀においても返済期限の延長などの支援措置を実施していたことなどから、「合理的な再建計画が進行中」な貸出先であったと認められ、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たると認めるのが相当である。したがって、シモレンにつき、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
エ 熊谷商事について
熊谷商事は、栃木県内大手のマンション等の不動産の分譲業者であった。
(ア) 概要
a 財務状況等
熊谷商事は、かつては栃木県内のデベロッパーとして好調な業績を確保していたが、バブル崩壊に伴う不動産市況の悪化の影響を受け、売上高は減少傾向にあり、平成一一年一月決算期に至るまで連続して経常利益を計上していたものの、同決算期の売上げはピーク時の約半分程度に当たる五七億七七四九万円、当期利益は七三二万円にとどまった。同社の保有する商品用不動産や資産用土地は含み損を抱えており、平成一一年一月決算期において八二億円の実質債務超過の状態にあった。
b 経営改善計画の実施等
熊谷商事は、平成一一年三月期当時、栃木県内のマンション分譲計画をはじめとする複数のプロジェクトを手がけていたが、その中には計画が遅れているものもあった。
同社は、平成一〇年三月、回収が長期化しているプロジェクトに係る既存物件の早期売却などを主な内容とする経営改善計画を策定し、収支改善に向けて取り組んでおり、事業も進行していた。
c その後の経過
熊谷商事は、平成一三年一月一二日、民事再生手続開始の申立てを行った。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、熊谷商事について、連続して利益を計上しているものの、借入れが多く、事業化が遅延しているプロジェクトがあり、回収に長期間を要することなどから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一一年三月期における同社に対する総与信額一六〇億五六〇〇万円のうち、二億五一〇〇万円をⅠ分類債権に、一五八億〇五〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
なお、平成一一年四月に実施された考査において、日銀から、当初、熊谷商事について「破綻懸念先」と査定すべきであるとの指摘があったが、被告足銀との質疑の結果を踏まえ、最終的な査定結果は「要注意先」となった。
b 取組方針等
被告足銀は、同社の資金繰りの安定のため、借入金の返済期限を延長するなどの支援措置を実施していた。
なお、被告足銀は、その後、同社について、平成一二年九月期に債務者区分を破綻懸念先に変更し、三八億七五〇〇万円の個別有税貸倒引当金を計上し、これを平成一七年九月期に無税化予定とした。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、熊谷商事は、平成一〇年三月に経営改善計画を策定しており、また、被告足銀は、同社に対して、返済期限の延長をするなどして支援をしていた。平成一一年三月期において、熊谷商事が手がけていた複数のマンションの分譲計画や建売計画の中には、遅延しているものがあったとはいえ、事業化に向けて進行している状況にあったのであるから、被告足銀が、その後のプロジェクトの実施により保有物件の売却を進めていくことが貸出金の回収に資するものと判断し、上記支援を継続したことについては合理性があったものと認めることができる。
そうすると、熊谷商事は、平成一一年三月期において、実質債務超過の状態にある貸出先であったものの、「合理的な再建計画が進行中」であり、「追加的な支援が予定されている」貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
オ 三協について
三協は、ゴルフ場(しぶかわカントリークラブ)を経営する会社である。
(ア) 概要
a 財務内容
三協は、当初平成三年四月に開業予定であったしぶかわカントリークラブを平成一〇年一〇月三〇日に仮開場させ、平成一一年五月に正式開場の予定としていた。
同社は、少なくとも平成九年三月決算期以降連続して経常損失を計上しており、平成一一年三月決算期に計上された経常損失は二億六五〇〇万円で、決算上の債務超過額は一〇億一三二二万円であった。
b 経営改善計画等
同社は、平成一一年三月期において、未だ実施段階には至っていなかったが、経営改善計画の策定に向けて会員権の販売計画が作成されるなどの検討がされていた(同計画は、同年六月に書面化された。)。
c その後の経過
三協は、平成一六年一二月二一日、民事再生手続開始の申立てをした。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、三協について、借入金が多く、開業後の収支計画では元金返済が難しいことから、「破綻懸念先」に分類した。
平成一一年三月期における三協に対する総与信額七〇億円のうち、Ⅰ分類債権を二〇億〇一〇〇万円、Ⅱ分類債権を二〇億三六〇〇万円、Ⅲ分類債権を二九億六三〇〇万円に分類し、一四億八一〇〇万円(二九億六三〇〇万円に貸倒引当率五〇パーセントを乗じた額)を個別引当金として債権償却特別勘定に計上していた。
b 取組方針等
被告足銀は、三協の資金繰りの安定のため、同社の借入金について返済期限の延長を支援措置として行っていた。
被告足銀は、同社について、当面、会員権の売上げにより利払いを履行できると考えていたが、会員権の販売代金が減少することが予想される平成一六年上期に同社を廃業とし、個別引当金の無税化を図る予定としていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、三協は、平成一一年三月期において、事業改善に向けて、書面化には至っていなかったものの経営改善計画を作成中であり、被告足銀は、同社に対して、借入金の返済期限の延長などの支援措置を実施していた。
前記のとおり、しぶかわカントリークラブは、当初の計画より大幅に遅延したものの、平成一一年五月には正式開場が予定される段階にあったのであるから、正式開場後にはゴルフ場の運営及び新規会員権の販売等による資金調達が見込まれていた状況にあったといえ、上記支援を実施したことについては合理性があったものと認めることができる。なお、被告足銀は、当時、同社について、会員権の販売が一巡すると思われる平成一六年上期ころに資産売却により廃業とするのが合理的な処理方針であるとの検討をしていたことが認められるが、将来売却されることが予定されていたとしても、ゴルフ場の経営を軌道に乗せ資産価値を高めた上で売却することとして、売却に至るまでの収益を弁済原資とすることが、被告足銀による貸出金の回収にとってメリットになることは十分に考えられるから、上記事実によっても、被告足銀の支援の合理性は否定されない。
そうすると、三協は、平成一一年三月期において、債務超過の状態にある貸出先であったものの、「合理的な再建計画が作成中」であり、「追加的な支援が予定されている」貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
カ 松栄不動産について
松栄不動産は、当時埼玉県下三位の建設会社であった松栄建設株式会社から独立して設立され、不動産開発などを主な業務内容としていた。
(ア) 概要
a 財務状況等
松栄不動産は、不動産市況の低迷などにより、少なくとも平成七年七月決算期から連続して経常損失を計上しており、赤字幅は拡大傾向にあり、平成一〇年七月決算期には一七四億三三〇〇万円の債務超過状態にあった。
また、同社が昭和六二年から進めていた「大宮西口再開発プロジェクト」(以下「本件プロジェクト」という。)は、肥大化・長期化しており、資金繰りが厳しい状況にあった。ただし、平成一一年三月期時点でも、本件プロジェクトは、完成に向け進行していた。
b その後の経過
松栄不動産は、平成一五年一月に破産宣告を受けた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、松栄不動産について、赤字幅が拡大し、大幅な債務超過であり、本件プロジェクトの商品化についても遅延する可能性が高かったことから、「破綻懸念先」に分類した。
平成一一年三月期における松栄不動産に対する総与信額一一八億五六〇〇万円のうち、Ⅱ分類債権を六七億六四〇〇万円、Ⅲ分類債権を五〇億九二〇〇万円に分類し、二五億四六〇〇万円(五〇億九二〇〇万円に貸倒引当率五〇パーセントを乗じた額)を個別引当金として債権償却特別勘定に計上していた。
b 取組方針等
被告足銀は、本件プロジェクトの公共性に鑑み、他の取引銀行とともに松栄不動産に対する支援協力体制を組んでおり、本件プロジェクトの商品化が予定されていた平成一二年三月まで貸出金の棚上げ措置を実施した。前記棚上げ措置は、その後、本件プロジェクトの遅延により、さらに期限を平成一五年三月末日まで再度延長された。
なお、被告足銀は、同社に対する上記個別引当金について、本件プロジェクト完成後の平成一六年下期に廃業により無税化処理をする予定としていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、被告足銀は、松栄不動産に対し、他の取引金融機関とともに、本件プロジェクトの完成まで元利金の返済の棚上げ措置を実施するなどして、支援をしていた。
平成一一年三月期時点において、松栄不動産の手がける本件プロジェクトは遅延していたものの、完成に向けて進行している状況にあり、他の取引金融機関も上記のとおり支援をしていたことや、本件プロジェクト完成後には、一定程度の貸出金の回収が見込まれていたことなどからすると、被告足銀の上記支援は合理性があったものと認められる。
なお、同社について将来的に廃業ないし清算することが予定されていたとしても、支援を継続することが被告足銀の貸出金の回収にとってメリットになることは十分考えられるから、この事実をもって、同社に対する支援の合理性は否定されるものではない。
そうすると、松栄不動産は、平成一一年三月期において、債務超過の状態にあったものの、「追加的な支援が予定されている」貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
キ 上野百貨店について
上野百貨店は、宇都宮市内を中心に百貨店業を営む会社であった。
(ア) 概要
a 財務状況
上野百貨店は、宇都宮市内の百貨店等の競争激化や景気低迷の影響を受けて、少なくとも平成七年八月決算期以降、売上高の減少が続いており、平成九年八月決算期を除き、連続して当期損失を計上しており、平成一〇年八月決算期における債務超過は三一億七九一九万円に上った。
b 大田原店の出店計画等
上野百貨店は、競合店の少ない栃木県大田原市への新規出店を決定し、準備を進め、平成一一年四月二五日、大田原店を開店した。他方、宇都宮新館については、平成九年一一月以降、経営コンサルタントの指導のもと、人件費・販売管理費削減を中心としたリストラ策に取り組んでいた。
c その後の経過
上野百貨店は、上記大田原店の開店により平成一二年八月期には増収となったが、宇都宮新館のテナントが撤退し、賃料収入が大幅に減少して繰越損失が拡大したことや、不動産の売却が不調であったことなどから、同年一二月二〇日、自己破産を申し立て、営業を停止した。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、上野百貨店について、大田原店出店による業績改善が見込まれたものの、大幅な債務超過であったことから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一一年三月期における同社に対する総与信額一一三億六七〇〇万円のうち、一八億六五〇〇万円をⅠ分類債権、九五億〇二〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、これに対する一般貸倒引当金は計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針等
被告足銀は、上記大田原店出店計画について、計画内容の妥当性を検証した結果、十分に実現可能であると判断し、上野百貨店に対し、出店資金として五二億円の支援を実行した。
宇都宮新館については、大田原店の業績が軌道に乗った時点で、閉鎖・売却により借入金の圧縮を図る方針としていた。
被告足銀は、上記のほか、上野百貨店に対し、その運転資金を融資し、手形貸付における返済期日の延長に応じるなどしていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、上野百貨店は、平成一一年三月期時点において、リストラ策を実施していた上、新規店舗の開店も間近に控えている状況にあり、被告足銀は、同社の出店計画に対して、開店資金として五二億円の融資を実行するなどして支援に取り組んでいた。上野百貨店については、将来的には、新規店舗の開業後、既存の不採算店舗を閉鎖し保有資産を処分することにより、借入金の圧縮を図るとともに、新規店舗に経営資源を注力し業績改善を図ることが見込まれていたのであるから、被告足銀が、支援を維持することが貸出金の回収に資すると判断したことには合理性があったといえる。
そうすると、上野百貨店は、平成一一年三月期において、債務超過の状態にあったものの、「追加的な支援が予定されている」貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ク 川治温泉一柳閣について
川治温泉一柳閣は、栃木県川治地区有数の温泉旅館であった。
(ア) 概要
a 財務状況
川治温泉一柳閣は、少なくとも平成七年一一月決算期以降売上高が減少を続けており、連続して経常損失を計上していた。平成一〇年一一月決算期における債務超過額は、二一億六四〇〇万円に上っていた。
b 再建計画等の実施
川治温泉一柳閣は、平成九年に財団法人社会経済生産性本部による経営診断を受け、平成一〇年一二月時点において、コンサルタントの主導により、経営陣の刷新、宿泊施設の改装、露天風呂の新設など経営改善のための具体策に取り組んでいた。
c その後の経過
平成二〇年一月七日、川治温泉一柳閣に対し、破産手続開始決定がされた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、川治温泉一柳閣について、大幅な債務超過であったが、経営改善計画を徴求し、業績改善を図っていたことから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一一年三月期における同社に対する総与信額三六億五九〇〇万円のうち、八三〇〇万円をⅠ分類債権、三五億七六〇〇万円をⅡ分類債権(うち一五億一一〇〇万円は要管理債権として一般貸倒引当金を計上していた。)に分類し、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀は、川治温泉一柳閣に対する支援措置として、昭和六二年三月、同社との間で、約三億二一〇〇万円の棚上げ利息分を管理利息手形として、毎月一〇万円ずつ支払う旨の合意をし、これに基づき、平成一一年三月期までに七三〇〇万円の弁済を受けた。
また、同社の再建を支援するため、運転資金の融資を行っていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、川治温泉一柳閣は、第三者機関による経営診断を受けた上で、経営改善に向けて取り組んでいた。同計画は、短期的な財務状況の改善に結び付くものではなかったものの、経営コンサルタントの意見を反映し、宿泊施設の改装等を内容とする具体的なものであったから、合理性を有するものであったといえる。
そうすると、川治温泉一柳閣は、平成一一年三月期において、債務超過の状態にあったものの、「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ケ 泉屋旅館について
泉屋旅館は、福島県岳温泉有数の旅館であった。
(ア) 概要
a 財務状況
泉屋旅館は、少なくとも、平成八年四月決算期以降、売上高はわずかながら減少傾向にあり、連続して経常損失を計上していた。もっとも、同社の営業利益は年々増加しており、経常損失の赤字幅は縮小傾向にあった。平成一〇年四月決算期における債務超過額は、五億五三〇〇万円であった。
b 経営改善計画等の実施
泉屋旅館は、平成一〇年八月、経費削減や売上の拡大を目指す経営改善計画を策定し、平成一一年一月ころから、経営コンサルタントを導入して再建策に取り組んでいた。
c その後の経過
泉屋旅館は、平成一六年一〇月二六日、民事再生手続開始の申立てを行った。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、泉屋旅館について、大幅な債務超過であったが、再建中であり支援先であったことから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一一年三月期における同社に対する総与信額三六億五六〇〇万円のうち、一四〇〇万円をⅠ分類債権、三六億四二〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、一般貸倒引当金を計上するのみで個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀は、泉屋旅館の資金繰りの安定のため、平成九年九月から元金据置措置を行うなどして支援を行っていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、泉屋旅館は、平成一〇年八月に策定した経営改善計画に加え、平成一一年一月からは経営コンサルタントの指導のもと、さらなる再建策に取り組んでおり、同年三月期までには営業利益が増加するなどの業績改善の効果も現れていたから、上記再建策等の内容は合理的なものであったといえる。
そうすると、泉屋旅館は、平成一一年三月期において、債務超過の状態にあったものの、「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
コ 栃木冨士工について
栃木冨士工は、冨士工の子会社であり、平成八年五月開業のゴルフ場(八洲カントリークラブ)を経営していた。
(ア) 概要
a 財務状況
市況低迷の影響等により、前記ゴルフ場の会員権の販売状況は低迷しており、栃木冨士工の平成一〇年三月決算期における決算上の債務超過額は、二九億一〇〇〇万円であり、実質債務超過額は三一億六七〇〇万円に上った。
b 冨士工の経営改善計画の実施等
冨士工は、平成九年一一月、「三カ年経営計画」を策定し、人件費等の削減やリフォーム分野の拡充による新収益源育成を柱として経営改善に取り組んでいた。
c その後の経過
冨士工は平成一三年三月二三日に、栃木冨士工は同年七月九日に、それぞれ民事再生手続開始の申立てを行った。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、栃木冨士工について、大幅な債務超過の状態にあったが、同社に対する貸出金には冨士工の正式保証が付いており、冨士工のメイン取引行である他行の支援体制が明確であったことから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一一年三月期における同社に対する総与信額六三億二〇〇〇万円全額をⅡ分類債権に分類し、これに対する一般貸倒引当金を計上するのみで、個別引当金は計上していなかった。
なお、同行は、前記のとおり冨士工が経営改善に取り組んでいる最中であったこと等の事情を考慮し、同社による保証については優良保証ではなく、一般保証として取り扱うこととしていた。
b 取組方針
被告足銀は、栃木冨士工に対する貸出金について、保証人である冨士工から毎月五〇〇万円の約定弁済を受けていた。なお、冨士工による約定弁済は、平成一三年二月ころまで継続した。
被告足銀は、上記約定弁済の継続を最低条件として、栃木冨士工に対する貸出金について支払期限の延長措置をとっていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、被告足銀は、栃木冨士工に対し、保証人である冨士工による約定弁済の継続を条件として、貸出金の支払期限の延長などの支援措置を継続していた。
被告足銀は、冨士工の約定弁済という形で着実に貸出金の回収を図っていた上、平成一一年三月期当時、栃木冨士工は、赤字状態を脱するには至っていなかったとはいえ赤字幅が縮小傾向にあったことからすれば、上記支援は合理性を有するものであったと認められる。
そうすると、栃木冨士工は、平成一一年三月期において、債務超過の状態にあったものの、「追加的な支援が予定されている」貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
サ 板屋について
板屋は、栃木県内有数の規模を誇るホテルであった。
(ア) 概要
a 財務状況
板屋の売上高は、平成一〇年一二月決算期までやや減少傾向にはあったが、平成七年一二月決算期以降連続して償却前黒字を確保していた。平成一〇年一二月決算期における債務超過額は四億三八〇〇万円であったが、償却未実施のため実質債務超過額は三九億〇五〇〇万円であった。
b 経営改善計画の策定等
板屋は、平成一〇年一〇月以降経営コンサルタントを導入した上で、経営改善計画の策定に取り組んでおり、同年一二月時点において、その骨子は完成していたが、個別の具体策については検討段階にあった。なお、同計画は、平成一一年六月に策定された。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、板屋について、大幅な債務超過にあったが、平成七年一二月決算期以降三期連続して期間償却前黒字を計上していることから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一一年三月期における同社に対する総与信額五一億二四〇〇万円のうち、三二〇〇万円をⅠ分類債権、五〇億九二〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、これに対する一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀においては、平成七年以降、板屋に対する諸経費支払融資を証書貸付に一本化することが実施されていた。
被告足銀融資審査部長は、平成一〇年六月、当時の担当支店長に対し、板屋について、現状のままでは元金返済の再開が期待できないとして、同社の顧問コンサルタントを交えて経営改善計画を策定させ、経営改善を図らせるよう指導した。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、板屋は、平成一〇年一〇月から、経営コンサルタントを導入した上で経営改善計画の策定に向けた取組を実施している段階にあった。前記計画は、平成七年一二月決算期以降連続して償却前黒字を計上し、借入金の残高も減少し続けていた状況にあったなかで、第三者の意見を踏まえて更なる経営改善を図ろうとしたものであって、その内容は合理的であったといえる。
そうすると、板屋は、平成一一年三月期において、債務超過の状態にあったものの、「合理的な再建計画が作成中」である貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
シ Eについて
Eは、H病院の経営者であった。
(ア) 概要
a 財務状況
Eは、近隣地区の同業者の開業などの影響によりH病院の売上げが伸びず、平成六年から平成八年にかけて毎期当期損失を計上していたが、後記経営改善の取組により、平成九年及び一〇年には二期連続して減価償却後黒字を計上するに至った。もっとも、平成一〇年一二月決算期における債務超過額は二六億七二〇〇万円に上った。
b 経営改善に向けた取組
Eは、平成一三年三月まで経営改善計画を策定してはいなかったが、平成一一年ころまでには、患者数の増加や経費節減に注力し、経営改善を図っていた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、Eについて、平成九年一〇月及び平成一〇年一二月に長期貸出金について大幅な条件変更をしたことから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一一年三月期における同社に対する総与信額二四億三〇〇〇万円全額をⅡ分類債権に分類し、これに対する一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀は、H病院が地域医療の中核を担っていることに鑑み、メインバンクとして支援を継続することとしていた。
同行は、平成一〇年三月期まで、Eに対する貸出金を延滞先債権として管理していたが、Eの資金繰りを安定させるため、同年一二月、元金据置の条件変更を実施した。また、同年七月、病院職員の賞与の支払のため、毎月一〇〇〇万円の分割返済を条件として、六〇〇〇万円の追加融資を実施した。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、被告足銀は、平成一一年三月期において、Eに対し、元金据置の条件変更をするとともに、追加融資を実施するなどして支援を継続していた。Eの経営するH病院が、同決算期までに、経営改善計画の策定までには至っていなかったものの、常勤内科医の設置や医内給食の外部委託といった患者数増加及び経費削減に向けた具体的な改善策を実施しており、その成果として、平成九年以降連続して減価償却後黒字を計上するなどの一定の経営改善傾向が見られていたことからすれば、被告足銀の上記支援は、合理性を有するものであったというべきである。
そうすると、Eは、平成一一年三月期において、債務超過の状態にあったものの、「追加的な支援が予定されている」貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ス 荒川観光について
荒川観光は、ゴルフ場(秩父キングダムゴルフ倶楽部)経営のため設立された。
(ア) 概要
a 財務状況
荒川観光は、同ゴルフ場を平成一〇年一一月五日に仮開場させ、正式な開場は平成一一年四月を予定していた。同社は、当時会員権市況が低迷していたため、その販売募集を平成五年八月をもって凍結しており、ゴルフ場としての知名度が向上するまでパブリック形式で運営することを予定していた。
平成一〇年一一月決算期における債務超過額は、三億四三〇〇万円であった。
b 正式開場後の年間売上計画等
平成一一年一月時点において、前記ゴルフ場の正式開場後の年間売上計画では、営業日数三〇八日、利用人数三万五〇〇〇人として五億五三〇〇万円の売上げが見込まれていた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、荒川観光について、会員権販売が頓挫しており、今後の見通しも不透明であり、貸出金の回収の長期化が予想されたことなどから、「破綻懸念先」に分類した。
平成一一年三月期における荒川観光に対する総与信額一一九億二〇〇〇万円のうち、Ⅰ分類債権を一〇〇万円、Ⅱ分類債権を四一億八二〇〇万円、Ⅲ分類債権を七七億三七〇〇万円に分類し、三八億六八〇〇万円(七七億三七〇〇万円に貸倒引当率五〇パーセントを乗じた額)を個別引当金として債権償却特別勘定に計上していた。
b 取組方針
会員権の販売が凍結されたことにより荒川観光には収入がなく、被告足銀は、同社に対し、資金繰りの安定のため、貸付金の返済期限の延長や金利支払のための追加融資などを支援策として実施していた。
そして、同社に対する貸出金については、販売再開後の会員権の販売代金、保証人の個人資産の売却及び同社が属するグループの収益によって回収を図ることとしていた。
なお、被告足銀は、荒川観光に対する上記個別引当金について、平成一四年一二月から会員権の販売を開始し、ゴルフ場の営業収支は黒字が見込まれるとして、平成一五年下期に正常化により取崩予定としていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、被告足銀は、平成一一年三月期において、荒川観光に対し、貸付金の返済期限の延長や金利支払のための追加融資を支援策として実施していた。当時、荒川観光が、秩父キングダムゴルフ場の正式開場を間近に控えており、パブリック形式での運営により知名度が向上した後に凍結していた会員権の販売を再開する予定であったことに加え、保証人である経営者の個人資産の売却も検討していたことに照らせば、被告足銀が、同社に対する支援を維持することが貸出金の回収に資すると判断したことには合理性があったといえる。
そうすると、荒川観光は、平成一一年三月期において、債務超過の状態にあったものの、「追加的な支援が予定されている」貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
セ 関東自動車について
関東自動車は、栃木県内において一般路線バス事業や貸切バス事業を営んでいた。
(ア) 概要
a 財務状況
関東自動車は、少なくとも平成六年三月決算期以降、輸送人員の減少による売上高の減少傾向が続き、連続して経常損失を計上しており、平成一〇年三月期における売上高は八〇億四一〇〇万円、当期損失は三億一四〇〇万円であり、同期において決算上は約四億円の資産超過であった。なお、被告足銀によれば、平成一一年三月期の実質債務超過額は約一八億九〇〇〇万円であるとされていた。
b 経営改善計画等の実施
関東自動車は、平成九年一二月、「経営改善五ヶ年計画」を策定し、人件費の圧縮等に取り組んでいた。そして、平成一〇年七月からは経営コンサルタントを導入した上で抜本的な経営改善に着手し、同年一一月までには改善策の根幹である給与引下げに関して労使間で合意が形成された。さらに、同年一二月には前記計画を改定し、「経営改善提案と新中期経営計画概要」と題する新しい経営改善計画を策定した。
c その後の経過
関東自動車について、平成一六年一一月二六日、産業再生機構により、産業再生機構法二二条三項に基づく支援決定がされた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、関東自動車について、大幅な債務超過状態であったが、公共性が強く、徹底したリストラ策に取り組んでいたことなどから改善の見込みがあるとして「要注意先」に分類した。
同行は、平成一一年三月期における同社に対する総与信額一三三億七七〇〇万円全額をⅡ分類債権に分類し、これに対する一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀は、関東自動車が長年地元公共機関として地域に貢献していることや経営改善努力がみられることから支援を継続し、同社の資金繰り安定のため、反復融資による支援策を実施していた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、関東自動車は、平成九年一二月に経営改善計画を策定し、平成一〇年七月からは経営コンサルタントを導入し、同年一二月には新たな経営改善計画を策定しており、人件費削減計画については、平成一一年三月決算期においてすでに計画を上回る給与削減実績をおさめるなど、進捗状況も順調であったから、その内容は実現可能性のある合理的なものであったといえる。
そうすると、関東自動車は、平成一一年三月期において、実質債務超過の状態にあったものの、「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であったと認められるから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるということができる。したがって、同社について貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ソ 小括
以上のとおり、税法基準の解釈を前提とした場合、原告らが主張する引当不足の事実を認めることはできない。
また、以上認定の事実等に照らすと、被告足銀がした前記各債務者の貸倒引当金に関する分類・計上が資産査定通達等に反するとまでは認められない。
(3)  原告らは、被告足銀が日銀考査の結果を受けて、破綻懸念先Ⅲ分類債権に対する引当率を七〇パーセントから五〇パーセントに恣意的に変更した旨主張する。
しかしながら、被告足銀が、過去三年間の貸倒実績率を算出した結果四九・一パーセントであったことから、これを採用して引当率を五〇パーセントとしたこと、破綻懸念先Ⅲ分類債権に対する引当率七〇パーセントの数値は国際基準行のうち資本増強の審査対象となる銀行に対して金融再生委員会が目安として通知した数値であり、国際基準行であっても絶対に遵守しなければならない数値とはいえず、まして被告足銀のような国内基準行が遵守する必要はないこと及び地方銀行の平成一〇年三月期における破綻懸念先Ⅲ分類債権の引当率は六四行の平均で三九・七二パーセントであったことによれば、五〇パーセントという上記引当率自体は不合理なものとはいえない。
したがって、日銀考査後に上記のとおり引当率を変更したことをもって、虚偽の財務状態が作出されたと認めることはできない。
三  平成一一年三月期の繰延税金資産の過大計上の有無(争点二の②)について
(1)  前記前提事実、証拠〈省略〉によれば、以下の事実が認められる。
ア 一時差異等解消計画(平成一一年三月期)の作成経緯
(ア) 被告足銀は、平成一一年三月期における繰延税金資産の計上の前提となる一時差異等解消計画を策定するに当たり、課税所得見積期間を五年間とした場合の試算を行い、また、他行の方針等の確認や被告監査法人との間で協議を行うなどした。
(イ) 被告監査法人は、被告足銀が課税所得見積期間を七年間として繰延税金資産の資産性を判断する意向であることを前提に、平成一一年三月九日、かかる判断が妥当であるかという点について事前審議を実施した。その際、参照された被告監査法人の金融委員会が作成した「金融機関における繰延税金資産の回収可能性(資産性)の判断基準について」には、期末時点の繰延税金資産の回収可能性は、原則として、今後五年間の課税所得見込の範囲で判断するが、その見込額に実効税率を乗じた額を上回る繰延税金資産を計上する場合には、合理的な理由を説明できるようにしておかなければならない旨の指摘があった。
(ウ) 平成一一年四月六日から同月二八日、同年三月末日を基準日として、被告足銀に対する日銀考査が実施され、被告足銀は、六三二億円の追加償却・引当額が必要である旨の指摘を受けた。
日銀による考査結果を受けて、被告足銀は、人件費(従業員を削減し、三八〇〇人体制の実現を一年前倒しで行い、平成一六年三月末には三四〇〇人体制を目指し、賞与等の水準の見直しにより平成六年度比一五パーセントの削減を目指し、平成一五年度末までに類型で人件費を一五〇億円削減する。)・物件費(システム部門のアウトソーシングによる年間約二五億円の経費削減、営業店体制・本部組織体制の見直し等)・役員報酬の削減(役員数及び役員報酬の削減)、関連会社の統廃合等を主な内容とするリストラ計画を策定した。
(エ) 被告足銀は、平成一一年三月以前までに作成していた当初の一時差異等解消計画(以下「当初計画」という。)の内容の一部を改め、同年五月七日ころまでに、新しい一時差異等解消計画(以下「一時差異等解消計画(平成一一年三月期)」という。)を策定し、同月一四日、取締役会において、同計画に基づく繰延税金資産の計上を承認した。
イ 被告足銀における繰延税金資産の計上
被告足銀は、平成一一年三月期において、自己資本八三五億円に対し、約一・八倍に相当する一四八九億円を繰延税金資産として計上し、うち繰越欠損金に係るものは二九九億円、将来減算一時差異に係るものは一一九〇億円、法定実効税率は四一・七四パーセントであった。
上記繰延税金資産の計上の前提となった一時差異等解消計画(平成一一年三月期)における、同期末時点での一時差異の残高は合計二八五二億円、税務上繰越欠損金は七一六億円、課税所得見積期間を七年間として計算された同期間の業務利益は合計三九四九億円(平成一一年度二四五億円、平成一二年度四二二億円、平成一三年度四六九億円、平成一四年度五六二億円、平成一五年度六六九億円、平成一六年度七四九億円、平成一七年度八二九億円)、調整前課税所得合計は合計三八〇九億円であった。
なお、当初計画の同期末時点での一時差異の残高は合計二四二二億円、税務上繰越欠損金は七六九億円、課税所得見積期間を七年間として計算された同期間の業務純益は合計三三九四億円、調整前課税所得合計は三二三四億円であった。
(2)  「公正なる会計慣行」について
前記説示のとおり、平成一一年三月期における繰延税金資産の計上に関する「公正なる会計慣行」になっていたのは、税効果会計に係る会計基準及び税効果会計実務指針であり、税効果会計に関するQ&A、事務ガイドライン及び信用リスク検査用マニュアルは、「公正なる会計慣行」にはなっていなかった。
(3)  繰延税金資産の計上の可否
原告らは、被告足銀の平成一一年三月期の財務状態は、繰延税金資産を計上することが許されない状況にあったから、繰延税金資産に係る有価証券報告書の記載は虚偽であると主張する。
前記認定のとおり、平成一一年三月期の繰延税金資産の計上額は自己資本の約一・八倍に相当するものであったが、同期において公表されていた各基準のうち、税効果会計実務指針によれば、繰延税金資産は、その回収可能性が認められる限りにおいて計上することが許容されていたのであって、その計上額について自己資本との対比で何らかの制限を設ける基準が存在していたとは認められないから、上記事実のみをもって、被告足銀が当時繰延税金資産を計上することが許されない財務状態にあったと認めることはできない。
そして、本件全証拠によっても、被告足銀が平成一一年三月期において繰延税金資産の計上が許されない財務状態にあったとは認められず、同期において計上された繰延税金資産が、「公正なる会計慣行」を斟酌し、法令に定められた方法により算出及び記載されるべきものに反していると認めることはできない。
なお、平成一五年九月期においては、被告監査法人により、被告足銀の繰延税金資産の計上が全額否認されたが(争いのない事実)、平成一一年三月期以降平成一五年九月期までには、「六六号報告」や「会計通牒『主要行の監査に対する監査人の厳正な対応について』の公表について」(以下「会計通牒」という。)等の発出を受けて、繰延税金資産の計上に関する会計処理の運用が税効果会計の適用初年度であった平成一一年三月期と比べ厳格化していたことや、平成一五年九月期の被告足銀の自己資本比率は繰延税金資産の計上を前提としても一パーセントを切っていた上、公的資金注入等の資本増強も予定されていなかったこと等の事情によれば、平成一一年三月期における繰延税金資産の計上の許否について、平成一五年九月期と同様の状況にあったと判断することはできない。
(4)  繰延税金資産の計上額の相当性
ア 課税所得見積期間の点について
原告らは、被告足銀が、事務ガイドライン及び金融検査マニュアル中間とりまとめに反して、合理的な理由に基づくことなく、課税所得見積期間を七年と設定して繰延税金資産を計上したことが虚偽記載に当たり違法であると主張した。
しかしながら、前記のとおり、平成一一年三月期において、事務ガイドライン及び金融検査マニュアル中間とりまとめが「公正なる会計慣行」を形成していたとは認められない。また、この点を措くとしても、上記各基準の内容や他行の計上の状況に照らせば、繰延税金資産の計上にあたり、課税所得見積期間については五年間とするのが一つの目安となっていたことがうかがわれるものの、上記各基準が五年間を超える期間の課税所得を基準に繰延税金資産の資産性を認めることを否定するものとは認められないから、被告足銀が課税所得見積期間を七年間とした上で繰延税金資産を計上したこと自体が上記各基準に反していると認めることもできない。
イ 一時差異等解消計画の変更について
原告らは、被告足銀が、平成一一年四月の日銀考査により追加引当が必要となったことにより生じた一時差異三七七億円に対応する繰延税金資産を全額計上し、自己資本比率四パーセントを維持する目的で、当初の一時差異等解消計画を変更して七年間の業務純益の合計額を水増しし、個別貸倒引当金超過の解消見込み時期も操作したと主張する。
前記認定のとおり、一時差異等解消計画(平成一一年三月期)の内容は、平成一一年三月以前に作成された当初計画とは異なっており、課税所得見積期間における業務純益の合計は五五五億円、調整前課税所得の合計は五七五億円それぞれ増額されているが、上記計画の変更は、当初計画作成後に策定した新たなリストラ計画による経費削減効果を考慮し、将来年度においてさらなる業務利益の増加が見込めるものと判断したことによるものであって、その数値も、同年九月に作成された被告足銀において策定された経営健全化計画において設定された数値と大きく離れるものではないことからすれば、上記事実をもって不合理な見積りであったとはいえない。また、上記計画においては、平成一六年度以降に一時差異認容見込額が急増していることが認められるが、被告足銀が栃木県内における中核的金融機関であり(公知の事実)、地域における金融機関としての重要性や融資先に地元企業等も多いことなどから、地元経済に与える波及効果を考えると、直ちに貸出金に関する競売の申立て等の処理を実行することは困難であり、無税化処理時期の見極めには長期間を要する状況にあったと推認され、このような当時の融資管理方針に照らせば、上記のとおり平成一六年度以降に一時差異認容見込額が急増している点についても、合理性を欠く見積りであったということはできない。
したがって、被告足銀による繰延税金資産の計上について、自己資本比率四パーセントを維持する目的で恣意的に作成された一時差異等解消計画に基づいて行われた不合理なものであったとは認められない。
(5)  小括
以上のとおり、平成一一年三月期における繰延税金資産に係る有価証券報告書の記載が、虚偽記載に該当すると認めることはできない。
四  平成一三年九月期の貸倒引当金過少計上の有無(争点三の①)について
(1)  前記のとおり、平成一三年九月期においても、支援先等に対する貸出金については、税法基準の解釈に従って償却・引当等を実施することも許容されていたと認められる。そこで、以下の各債務者に対する貸出金について、税法基準の解釈を前提とした場合に引当不足が存在するかという点について、順に検討する。
(2)  以下、認定事実については、争いのない事実、証拠〈省略〉により認める。
ア あさやホテルについて
(ア) 概要
a 財務状況
あさやホテルの売上高は、平成一一年一一月決算期以降もやや減少傾向ではあったが、経費の圧縮により営業利益は改善基調にあり、平成一二年一一月決算期には経常利益五八〇〇万円を計上した。同期における決算上の債務超過額は二七億円余りであったが、実質債務超過額は一〇八億九六〇〇万円であった。
なお、あさやホテルは、同期時点において、ゴルフ場開発関連子会社の清算に伴い、同社に対する貸付金や同社の債務に対する保証債務などについて新たな損失負担が予想されていた。
b 経営改善計画等の取組と経過
あさやホテルは、平成一一年二月代表者を変更し、同年四月以降、経営コンサルタントを導入した上で経営改善に取り組み、同年六月には新経営陣により経営改善計画を策定したところ、平成一二年一一月期には売上高の目標を達成し、経常利益も計上した。
c その後の経過
あさやホテルは、前記のとおり、平成一六年一二月八日、産業再生機構法二二条三項に基づく支援決定を受け、被告足銀は、最終的にあさやホテルグループ全体に対する一九一億円の債権放棄をした。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、あさやホテルについて、利息棚上げ期間が一年を超えるものの、新規利息の一部徴求を始め、経営改善計画もおおむね計画通り進捗していることから、「破綻懸念先」に分類した。
平成一三年九月期におけるあさやホテルに対する総与信額一五九億九五〇〇万円のうち、五八億六四〇〇万円をⅡ分類債権、一〇一億三一〇〇万円をⅢ分類債権に分類し、四六億六〇〇〇万円(一〇一億三一〇〇万円に貸倒引当率四六パーセントを乗じた額)を個別引当金として債権償却特別勘定に計上していた。
b 取組方針
被告足銀は、平成一三年九月期においても、元金据置措置及び利息棚上げによる支援策を継続していたが、棚上げ利息については平成一四年一一月期から全面的に利払いを再開させ、平成一七年一一月期に完済できるところまで業績改善を見込んでいた。そして、同社に対する個別引当金については、平成一八年三月期に正常化することにより取崩予定としていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、あさやホテルは、平成一一年に経営コンサルタントを導入した上で新たに経営改善計画を策定し、同計画は、平成一七年一一月期に償却後黒字の計上の実現を目指すものであり、短期間での債務超過の解消を内容とするものではなかったが、平成一二年一一月期には売上高について目標を達成し、経常利益を計上するに至っていたことからすれば、同計画は、同社の事業の好転に向けて実現可能性を備えたものであったといえ、合理性のあるものであったといえる。
そうすると、あさやホテルは、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
イ サンシャインについて
(ア) 概要
a 財務状況
サンシャインは、積極的な営業展開及び経費節減努力の結果、宿泊部門の稼働率は八〇パーセント近くに達するなど改善が図られており、平成八年五月決算期以降平成一一年五月決算期までは増収が続き、平成一二年五月決算期は前年より減収となったものの、平成一三年五月決算期には再び増収となり、経常利益を計上できる見込みであるとしていた。
平成一二年五月決算期における債務超過額は一二億六七〇〇万円であり、実質債務超過額は一四億九一〇〇万円であったが、平成一二年一一月に保有不動産の売却により、借入金が二億三〇〇〇万円圧縮された。
b 業績改善計画の実施状況等
サンシャインは、平成一三年七月時点においても、償却前利益を安定して確保することができる体質に改善することを目標として、経費削減、不動産売却による借入金圧縮、宿泊料値上げなどの経営改善に取り組んでいた。なお、上記取組の成果として、同社は、平成一四年五月決算期に、償却前経常黒字を計上した。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、サンシャインについて、大幅な債務超過状態にあるが、業況は期毎に改善していることや、着実に経営改善に向けた取組の成果も上がり今後の業況回復の見込みも高いとして、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一三年九月期における同社に対する総与信額三五億二五〇〇万円のうち、七〇〇万円をⅠ分類債権、三五億一八〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、要管理債権としてこれに一八・九三パーセントを乗じた額を一般貸倒引当金として計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
なお、被告監査法人は、被告足銀による平成一二年九月期の自己査定について、サンシャインの債務者区分は実質破綻先とすべき旨の指摘を行った。
b 取組方針
被告足銀は、サンシャインに対し、経営改善計画書に基づく業績改善が可能であるとして、平成一三年九月期時点においても、引き続き、元金据置措置や金利減免措置を実施し、同社を支援していた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、平成一三年九月期においてサンシャインは、経営改善に取り組んでおり、その成果として平成一四年五月決算期には償却前経常黒字を計上するに至ったのであるから、前記取組の内容は、直ちに債務超過の解消に結び付くものではなかったものの、償却前黒字の安定的な計上に向けて実現可能性を備えた合理的な内容であったといえる。
そうすると、サンシャインは、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが、「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ウ 大慶商事について
大慶商事は、パチンコ店をはじめとする遊技場などを経営する会社であった。
(ア) 概要
a 財務状況等
大慶商事は、競合他店との競争激化の影響により、少なくとも平成九年五月決算期以降、売上高・経常利益ともに減少が続いており、平成一一年五月決算期には経常損失一億七七〇〇万円を計上するに至った。平成一二年五月決算期には経常黒字となり、平成一三年五月決算期にも当期利益を計上した。
平成一二年五月決算期における決算上の資産超過額は一三億一五〇〇万円であり、実質的にも債務超過状態にはなかった(平成一三年五月決算期においても決算上一三億二五〇〇万円の資産超過であった。)。
b 経営改善計画の実施
平成一一年一二月から改善計画を策定・修正を繰り返したのち、平成一二年一月からこれを実施した。同計画に基づき、借入金圧縮のため遊休不動産の処分等に着手し、同年五月期の売上・粗利はともに計画を上回った。ただし、平成一三年五月期の売上は計画を若干下回った。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、大慶商事について、資金繰りが悪化していたが、経営改善計画に基づく改善効果が現れており、改善見込みが認められたことから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一三年九月期における同社に対する総与信額九〇億二三〇〇万円全額をⅡ分類債権に分類し、要管理債権として一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀は、大慶商事に対し、平成一一年四月から毎月の返済額を従前の三分の一程度にするなどの支払条件の緩和措置や、平成一二年八月から、平成一三年七月までを予定として元金据置措置を実施していた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、大慶商事は、平成一二年一月から経営改善計画を実施し、その結果、同年五月決算期には、売上げ及び粗利ともに計画を上回る実績を残し、同決算期及び平成一三年五月決算期において当期利益を計上したこと、同計画に基づき遊休資産の売却による借入金の圧縮を実現したことからすれば、同計画は、経営改善に向けて実現可能性を備えた計画であり、合理性を備えていたといえる。なお、経営改善計画について状況の変動を踏まえた見直しが図られることは不自然なことではなく、修正が繰り返されたことをもって、同計画に実現可能性がなかったということはできない。
そうすると、大慶商事は、平成一三年九月期において、債務超過状態にあったと認めるに足りる証拠はない上、「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であったから「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
エ 栃木皮革について
栃木皮革は、主に加工用革の製造販売を行う会社であり、村上グループの中核企業であった。
(ア) 概要
a 財務状況等
栃木皮革は、昭和六〇年に事業拡大を目的として結城化工株式会社(以下「結城化工」という。)を買収したが、採算ベースに乗せることができず、同社は平成九年に操業停止となった。
上記事業拡大の失敗や村上グループ全体の経営悪化の影響などにより、栃木皮革は、平成九年六月決算期以降平成一二年六月決算期まで売上高の減少が続いており、平成一三年六月決算期には売上高は増加したものの、二期連続して経常赤字を計上した。また、多額の債務及び不良資産を抱えており、少なくとも平成一〇年六月決算期以降実質債務超過状態にあり、その額は平成一二年一二月時点で一九億六九〇〇万円、平成一三年六月期時点で二三億三六〇〇万円に上っていた。
b 業績改善への取組
村上グループは、業績改善に向けて、平成七年一〇月から経営コンサルタントを導入し、リストラ策に着手した。
c その後の経過
栃木皮革は、平成一六年七月二一日、産業再生機構から、産業再生機構法二二条三項に基づく支援決定を受けた。これを受けて、被告足銀は、同日、同社に対する貸出金を債権放棄することとした。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、栃木皮革について、年商と比較して実質債務超過額が多額であり、結城化工の問題も抱えていたことなどから、平成一一年三月期以降、債務者区分を「要注意先」から「破綻懸念先」に分類した。
平成一三年九月期における栃木皮革に対する総与信額四三億〇三〇〇万円のうち、六億四九〇〇万円をⅠ分類債権、六億九八〇〇万円をⅡ分類債権、二九億五六〇〇万円をⅢ分類債権に分類し、一三億五九〇〇万円(二九億五六〇〇万円に貸倒引当率四六パーセントを乗じた額)を個別引当金として債権償却特別勘定に計上していた。
b 取組方針等
被告足銀は、栃木皮革に対する支援措置として、平成一三年六月時点で、証書貸付の約定弁済を猶予し、手形貸付の支払期日を延長するなどし、その後更に新たな融資を行った。また、同行は、村上グループに対しては、平成一〇年七月から平成一三年三月まで、金利棚上げ措置や元金据置措置などの支援策を実施していた。
被告足銀は、栃木皮革に対する上記個別貸倒引当金につき、平成一五年九月期に無税化とする予定としていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、被告足銀は、平成一三年九月期において、栃木皮革に対する貸付金の一部について約定弁済を猶予するなどの支援措置をとっていた。当時、栃木皮革がタンニンなめし部門において高い技術力と国内トップのシェアを有していたこと、被告足銀において同社の遊休資産の処分による貸付金の回収が検討されていたこと、同社を含む村上グループがリストラ策を実施し経費削減に取り組んでいたこと等の事情を踏まえれば、事業存続を前提とした長期的な回収を図る可能性を考慮して、上記支援を継続したことについて合理性が認められるといえる。
そうすると、栃木皮革は、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが、「追加的な支援が予定されている」貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできず、同社に対して被告足銀が計上していた個別引当金に不足があったとは認められない。
オ 三協について
(ア) 概要
a 財務内容
三協は、平成一一年五月、しぶかわカントリークラブを正式開場させ、その集客数は、平成一二年七月以降、悪天候の影響を受けた平成一三年冬期を除き、前年対比増加傾向ではあったが、平成一二年三月決算期以降も引き続き経常損失を計上しており(もっとも、平成一三年三月決算期の経常赤字額は前年より一億円余り圧縮された。)、平成一三年三月決算期における決算上の債務超過額は一六億四一〇〇万円に上った。
b 経営改善計画等の実施
三協は、平成一一年七月以降中止していた前記ゴルフ場の会員権の販売を平成一二年一〇月に再開した。また、同社は、大口債権者の支援体制のもと、平成一三年六月には経営改善計画を新たに策定し、経営改善に取り組んでおり、同計画によれば平成一六年三月期には黒字転換も見込まれていた。
なお、平成一三年一一月時点で、営業収支については前記計画の約九〇パーセントの達成率を上げた。
c その後の経過
三協は、前記のとおり、平成一六年一二月二一日、民事再生手続開始の申立てをした。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、三協について、平成一三年六月時点で借入金の延滞が八か月に及んでいたが、再建計画が開始されてから間もなかったことなどから、「破綻懸念先」に分類した。
平成一三年九月期における三協に対する総与信額七〇億円のうち、一〇〇万円をⅠ分類債権、三三億二二〇〇万円をⅡ分類債権、三六億六一〇〇万円をⅢ分類債権に分類し、一六億八四〇〇万円(三六億六一〇〇万円に貸倒引当率四六パーセントを乗じた額)を個別引当金として債権償却特別勘定に計上していた。
b 取組方針等
被告足銀は、三協の資金繰りの安定のため、同社の借入金について返済期限の延長を行うとともに、これまでの未収利息については平成一四年五月まで棚上げを実施し、支援を継続する方針としていた。
被告足銀は、ゴルフ場の運営が軌道に乗るまでの間支援を継続し、黒字転換が図れ、会員権販売計画の達成の目処が立ったところで、平成一六年九月期に三協に対する上記個別引当金についてゴルフ場の売却により無税化を図る予定としていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、三協は、平成一六年三月期の黒字転換を目指し、平成一三年六月以降経営改善計画に取り組んでおり、営業収支については同年一一月の時点で約九割の実績を収め、経常損失の額も減少傾向にあったことからすれば、同計画の内容は実現可能性を備えたものであったといえる。また、被告足銀は、同社について、ゴルフ場の経営が軌道に乗り、事業価値が向上したところで売却することを予定して、未収利息の棚上げ措置などの支援策を継続していたが、前記のとおり、経営改善の成果が現れていたことを考慮すれば、事業継続を支援することが貸出金の回収に資すると判断したことは、合理性があったものと認められる。
そうすると、三協は、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」で、「追加的な支援が予定されている」貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできず、同社に対する個別引当金が不足していたとは認められない。
カ 松栄不動産について
(ア) 概要
a 財務状況等
松栄不動産は、平成一一年七月決算期以降も連続して経常損失を計上しており、赤字幅は大幅に拡大傾向にあり、平成一二年七月決算期の債務超過額は三五五億五七〇〇万円に上っていた。
また、同社が手がけていた本件プロジェクトが属していた大宮市(当時)の区画整理事業は、平成一一年一一月に反対派住民との間で住民の負担を軽減させる内容で合意に至り再始動したものの、本件プロジェクトの完成は依然として大幅に遅延する見込みであった。
b 経営改善の取組
平成一二年二月、松栄不動産を含むグループの経営改善計画が策定され、これに基づき所有不動産の処分や親会社の収益強化が図られていた。
c その後の経過
前記のとおり、松栄不動産は平成一五年一月に破産した。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、松栄不動産について、同社が掲げる販売予想価格を実現する可能性に乏しく、残債務の引受先である親会社の体力にも疑問があったことから、「破綻懸念先」に分類した。
平成一三年九月期における松栄不動産に対する総与信額一一八億五六〇〇万円のうち、四八億八二〇〇万円をⅡ分類債権、六九億七四〇〇万円をⅢ分類債権に分類し、三二億〇八〇〇万円(六九億七四〇〇万円に貸倒引当率四六パーセントを乗じた額)を個別引当金として債権償却特別勘定に計上していた。
b 取組方針等
被告足銀は、本件プロジェクトに対し、現段階で転売するよりも事業を完成させる方がリスクが小さいと判断し、協調支援行とともに同プロジェクト完成まで松栄不動産を支援する方針を維持しており、引き続き平成一五年三月三一日を期限として、元金の返済の猶予や金利棚上げ措置を実施していた。
なお、被告足銀は、前記のとおり、本件プロジェクトについて平成一六年七月期に売却見込みであり、同プロジェクト終了後の平成一六年九月期に同社に対する上記個別引当金を廃業により無税化処理をする予定としていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、被告足銀は、平成一三年九月期において、事業化が遅延していた松栄不動産の本件プロジェクトについて、現段階で転売するよりも事業化が完成するまで支援を継続する方が最終的なリスクは小さいと考え、貸付金の元金の返済を猶予するなどの支援措置をとっていた。当時、本件プロジェクトの完成にとって一つの障害となっていた反対派住民との間で合意が形成されたこと、本件プロジェクトの松栄不動産を含むグループ全体が経営改善計画に取り組んでいたこと、プロジェクトの完成により商品不動産の商品価値は向上すること、他の取引金融機関も支援方針を維持していたこと等の事情に照らせば、支援を継続することが被告足銀の貸出金の回収に資すると判断したことは合理性があったといえる。
そうすると、松栄不動産は、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが、「追加的な支援が予定」されている貸出先であったから、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできず、同社に対する個別引当金が不足していたとは認められない。
キ 山水閣について
山水閣は、鬼怒川地区において五位の集客人員を誇る温泉旅館を経営する会社であった。
(ア) 概要
a 財務状況
山水閣は、景気低迷や旅行形態の変化により売上高の減少が続いていたものの、原価及び経費の圧縮により平成一一年五月決算期以降収益体質へと転換し、三期連続して償却前経常利益を計上し、その額も増加傾向であった。もっとも、同社の債務超過額は、平成一二年五月決算期において一七億一三〇〇万円、平成一三年五月決算期において一六億七二〇〇万円であった。
b 経営改善計画の策定等
山水閣は、平成一一年一〇月経営コンサルタントを導入した上で、平成一二年六月経営改善計画を策定し、経費削減を徹底することにより、前記のとおり売上げの低迷にもかかわらず償却前黒字を計上するなど一定の成果を収めていた。また、同社は、平成一三年五月期以降、広告宣伝費の投入やサービスの強化を図る取組も実施した。
c その後の経過
山水閣は、平成一七年一月一八日、産業再生機構から支援決定を受けた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、山水閣について、大幅な債務超過ではあったが、改善計画に基づく取組により、一定の成果が現れており、着実な業務改善が見込まれたことから「要注意先」に分類した。
同行は、平成一三年九月期における同社に対する総与信額七七億三五〇〇万円のうち、二二〇〇万円をⅠ分類債権、七七億一三〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、要管理債権として一般貸倒引当金は計上していたものの、個別引当金は計上していなかった。
なお、被告監査法人は、平成一三年九月期の上記自己査定に対する監査において、当初山水閣を実質破綻先とする可能性をも考慮して検討したが、最終的には被告足銀の上記査定を妥当であると判断した。
b 取組方針等
被告足銀は、山水閣の資金繰りの安定のため、支援策として、平成二年以降諸経費資金融資を継続的に実施し、平成一一年ころからは元金返済の据置措置を実施していた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、山水閣は、経営コンサルタントを導入して平成一二年六月から経営改善計画を実施しており、平成一一年五月決算期以降連続して償却前経常利益を計上するなど経営状況は改善基調にあったから、経営改善に向けた実現可能性を備えたものであったといえる。同計画は、短期的な債務超過の解消に結び付くものではなかったものの、平成一五年五月決算期以降年間二億円を超える営業キャッシュフローの確保することを予定しており、これによる借入金の圧縮も見込まれたことからすれば、合理性を有するものであったといえる。
そうすると、山水閣は、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ク 川治温泉一柳閣について
(ア) 概要
a 財務状況
川治温泉一柳閣は、経営改善に向けた体制が整った平成一一年八月以降は回復軌道に乗り始め、平成一二年一一月決算期には、売上高・利益ともにほぼ計画通りの実績となり、六〇〇万円の営業利益を計上した。もっとも、平成一二年一一月決算期における決算上の債務超過額は二二億八八〇〇万円であり、実質債務超過額は三七億円に上っていた。
b 再建計画等の実施
川治温泉一柳閣は、引き続き経営改善に取り組んでおり、その結果平成一一年九月以降はほぼ計画通りの集客数となり、前年を大きく上回った。さらに、同社は、平成一二年一月三一日、営業利益の黒字化ひいてはキャッシュフローの実現を目指し、新たに経営改善計画書を策定し、売上高の向上・コストダウン・管理体制の強化に注力した。
c その後の経過
前記のとおり、平成二〇年一月七日、川治温泉一柳閣に対し、破産手続開始決定がされた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、川治温泉一柳閣について、平成一二年一一月決算期には営業損益が大幅に改善しており、経営改善計画の進捗に問題ないと判断し、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一三年九月期における同社に対する総与信額三八億八八〇〇万円のうち、五五〇〇万円をⅠ分類債権、三八億三三〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、要管理債権として一般貸倒引当金は計上していたものの、個別引当金は計上していなかった。
なお、被告監査法人は、平成一三年九月期の上記自己査定に対する監査において、当初川治温泉一柳閣が実質破綻先となる可能性をも考慮して検討したが、最終的には被告足銀の上記査定を妥当であると判断した。
b 取組方針
被告足銀は、川治温泉一柳閣に対する管理利息債権について、前記合意に基づき、引き続き毎月一〇万円ずつ弁済を受けており、平成一三年六月二八日現在で、残高が二億四五〇〇万円となっていた。
また、平成一三年九月期においても、運転資金の融資を引き続き行って同社の経営改善に向けた取組を支援していた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、川治温泉一柳閣は、従前の経営改善に向けた取組に加え、平成一二年一月から新たに策定した経営改善計画に取り組んでおり、同計画は短期間での債務超過の解消を実現させるものではなかったが、平成一五年一一月期までに損益の黒字転換を目指すものであり、当時、ほぼ計画どおりの集客数を確保し、平成一二年一一月決算期には営業利益を計上するに至ったことからすれば、同計画は経営改善に向けて、実現可能性を備えた合理的な内容であったといえる。
そうすると、川治温泉一柳閣は、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ケ 泉屋旅館について
(ア) 概要
a 財務状況
泉屋旅館は、平成一一年四月決算期以降も売上高の減少傾向は続いていたが、経営改善に向けた取組により、赤字幅は着実に減少しており、平成一二年四月決算期及び平成一三年四月決算期には償却前黒字を計上するに至った。
b 経営改善計画等の実施
泉屋旅館は、新たに平成一二年一〇月経営改善計画を策定し、単年度黒字体質の確立と定着を目指し、経営改善に取り組んでいた。平成一三年四月期の売上高の点では計画に届かなかったものの、上記のとおり、経費削減による収益拡大の点では一定の成果を上げていた。
c その後の経過
泉屋旅館は、前記のとおり、平成一六年一〇月二六日、民事再生手続開始の申立てを行った。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、泉屋旅館について、大幅な業績改善が図られているが、債務者区分が一〇年間で正常先へ改善されるのは困難であることから、債務者区分を「要注意先」から「破綻懸念先」に変更した。
同行は、平成一三年九月期における同社に対する総与信額三九億二八〇〇万円のうち、一四億三一〇〇万円をⅡ分類債権、二四億九七〇〇万円をⅢ分類債権に分類し、一一億四八〇〇万円(二四億九七〇〇万円に貸倒引当率四六パーセントを乗じた額)を個別引当金として計上していた。
なお、被告足銀は、平成一八年九月期に泉屋旅館の正常化が見込めるとして、上記引当金を同期に取り崩す予定としていた。
b 取組方針
被告足銀は、平成一三年九月期においても、泉屋旅館に対し、元金据置措置等を継続して、同社の正常化を目指し支援していた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、泉屋旅館は、平成一二年一〇月から新たに策定した経営改善計画に取り組んでおり、その結果として、経費削減による収益拡大により償却前黒字の計上を実現するなどの成果が見られたことからすれば、同計画は、短期間に債務超過の解消を実現することを目指すものではなかったものの、経営改善に向けて実現可能性を備えた合理的な内容であったといえる。
そうすると、泉屋旅館は、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
コ 柏屋ホテルについて
柏屋ホテルは、川治温泉地区を代表するホテルを経営する会社であった。
(ア) 概要
a 財務状況
柏屋ホテルは、平成九年一二月の新館開業以降、売上高は順調に推移していたものの、利益を計上するまでには至っていなかったが、経費削減に努めた結果、平成一二年六月決算期及び平成一三年六月決算期は連続して償却前黒字の計上が見込まれていた。同期における債務超過額は一八億〇七〇〇万円であり、未償却資産を踏まえた実質債務超過額は二〇億円余りに上っていたが、その額は減少傾向にあった。
b 経営改善計画の実施等
柏屋ホテルは、平成一一年六月より経営コンサルタントを導入し、同月三〇日には経営改善計画を策定し、経費削減や売上げ増加策を実施していた。その結果、上記のとおり業況は着実に改善傾向にあった。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、柏屋ホテルについて、大幅な債務超過の状態にあったが、業績が改善基調にあることから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一三年九月期における同社に対する総与信額三三億二八〇〇万円のうち、三七〇〇万円をⅠ分類債権、三二億九一〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、要管理債権として一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀は、遅くとも平成一二年ころから、柏屋ホテルに対する支援策として元金据置措置を実施していた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、柏屋ホテルは、経営コンサルタントを導入した上で、平成一一年六月から経営改善計画に取り組んでおり、その結果、平成一二年六月決算期以降、連続して償却前黒字を計上し、債務超過額も減少傾向にあったから、同計画は、経営改善に向けて実現可能性を備えた合理的な内容であったといえる。
そうすると、柏屋ホテルは、平成一三年九月期において、債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
サ 板屋について
(ア) 概要
a 財務状況
板屋は、依然として売上高の減少傾向は継続していたが、平成一一年一二月決算期までに五期連続して償却前黒字を確保しており、業績改善に向けた取組により、平成一二年一二月決算期には償却後黒字の計上を実現した。
平成一二年一二月決算期における債務超過額は三億七八〇〇万円であり、実質債務超過額は二九億一六〇〇万円であったが、その額は年々減少傾向にあった。
b 経営改善計画の策定等
板屋は、平成一一年六月に策定した経営改善計画に基づき、業績改善に取り組んでおり(なお、同社は平成一二年一二月に同計画を下方修正した。)、平成一二年一二月決算期において、キャッシュフローの点では計画達成率七割程度にとどまったが、人件費削減や借入金の圧縮の点では計画以上の実績を収め、前記のとおり償却後黒字化も達成した。なお、同計画では、計画終了時の平成二六年までに実質債務超過状態を解消することは困難であることが見込まれていた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、板屋について、借入過多の状態にあるが、今後の業績改善が十分に見込めることから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一三年九月期における同社に対する総与信額五〇億五九〇〇万円のうち、二七〇〇万円をⅠ分類債権、五〇億三二〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、これに対する一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀においては、板屋に対し、平成一三年九月期も諸経費支払融資を継続するとともに、最終返済期限の延長を実施し、借入金の年間圧縮額の目標達成を支援していた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、板屋が平成一一年六月から実施していた経営改善計画は、計画期間中の債務圧縮額がわずかであり、短期間での債務超過の解消に結び付くものではなかったものの、前記取組の結果、平成一二年一二月決算期において、人件費削減や借入金の圧縮については計画以上の実績をおさめ、売上高についても計画比九割、キャッシュフローについては七割の実績をおさめ、償却後黒字の計上を達成したことからすれば、同計画は、経営改善に向けて実現可能性を備えた合理的な内容であったといえる。
そうすると、板屋は、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
シ Eについて
(ア) 概要
a 財務状況
Eは、平成一一年一二月決算期には、H病院の内科の充実と療養型病床の設置に伴う経費の増加により経常損失を計上したものの、平成一二年一二月決算期には売上高も向上し再び黒字となり、キャッシュフローは一億〇六〇〇万円へと大きく上昇した。
平成一二年一二月決算期の債務超過額は二六億二七〇〇万円であった。
b 経営改善に向けた取組
Eは、平成一三年三月二一日、経営改善計画を策定し、債務超過状態を脱するため、収入増加策と費用削減策に取り組んだ。同計画では、Eの債務超過状態は一四年間で解消される見込みとされた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、Eについて、債務超過の回収には一四年程度要するが未収利息の一部について返済を受けていることから、「要注意先」に分類した。
同行は、平成一三年九月期における同社に対する総与信額二四億一八〇〇万円のうち、三〇〇〇万円をⅠ分類債権、二三億八八〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、要管理債権として一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀は、平成一三年九月期においても、Eに対する元金据置措置を継続していたが、H病院の売上げ及び収益の拡大により、四年程度で未収利息が回収でき、五年目には元本の返済が再開されるものと見込んでいた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、Eが平成一三年三月から取り組んでいた経営改善計画では、一四年間で債務超過状態が解消される見込みとされており、その内容も、自治医科大学の協力を前提とした診療科目の新設による収益増加や余剰人員の削減や低価格品への切替えによるコスト削減を内容とするものであり、これらは自助努力による部分が大きい施策であったから合理性を備えていたといえる。
そうすると、Eは、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同人について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ス 荒川観光について
(ア) 概要
a 財務状況
荒川観光は、秩父キングダムゴルフ場を平成一一年四月一日に正式開場させたが、開場後の年間売上げは計画の七割程度にとどまり、売上高・経常利益ともに計画を大きく下回り、平成一一年一一月決算期以降連続して当期損失及び経常損失を計上した。また、平成一三年九月期においても、会員権の販売は凍結されていたが、平成一四年一二月から、会員権価格を一口四九〇万円として一八〇〇名に販売する予定とした。
平成一二年一一月決算期の決算上の債務超過額は六億〇三〇〇万円、未償却資産を踏まえた実質債務超過額は一七億二七〇〇万円に上っていた。
b 経営改善に向けた取組等
前記の初年度実績を踏まえ、荒川観光は、当初の年間売上計画のうち平成一三年一一月決算期以降の売上目標値を下方修正した。また、同社は、リゾート開発コンサルタントによる経営診断を受け、その結果を踏まえて平成一三年八月に経営改善計画書を策定し、収益の向上に向けて取り組んでいた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、荒川観光について、前記ゴルフ場の正式開場後も経常・当期ともに赤字計上であったが、経営の抜本的見直しを実施した上、当面資金繰り破綻がないことなどから、「破綻懸念先」に分類した。
平成一三年九月期における荒川観光に対する総与信額一一九億二〇〇〇万円のうち、一〇〇万円をⅠ分類債権、四九億五八〇〇万円をⅡ分類債権、六九億六一〇〇万円をⅢ分類債権に分類し、三二億〇二〇〇万円(六九億六一〇〇万円に貸倒引当率四六パーセントを乗じた額)を個別引当金として債権償却特別勘定に計上していた。
b 取組方針
被告足銀は、平成一三年九月期においても、荒川観光に対し、資金繰りの安定のため、貸付金の返済期限の延長や契約条件変更による低金利の適用などを支援策として実施していた。
そして、同社に対する貸出金については、会員権の販売代金から八〇億円、残額を前記ゴルフ場経営の利益及び保証人が所有するダム建設予定地内の用地売買代金から回収を図ることとしていた。
なお、被告足銀は、荒川観光について、平成一六年九月期には一億八六〇〇万円の経常黒字が見込まれ、残債務を一五年間で償還可能であると判断し、同社に対する上記個別貸倒引当金を平成一六年九月期に正常化により取崩予定としていた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、荒川観光は、正式開場後も売上高・経常利益ともに計画を大きく下回る状態であったため、この実績を踏まえて新たに平成一三年八月に経営改善計画を策定し、収益の向上に向けた取組をしていた。また、同社は、平成一四年一二月から会員権販売の再開を予定しており、この販売代金等から貸出金の回収も見込まれていた。このような事情からすると、上記計画は合理性を備えたものであったといえる。
そうすると、荒川観光は、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務付けられていたということはできない。
セ 関東自動車について
(ア) 概要
a 財務状況
関東自動車では、平成一一年三月期以降も輸送人員の減少による売上高の減少傾向が続いていたが、人件費等の削減効果により、平成一二年三月決算期以降連続して経常黒字を計上した。平成一三年三月決算期において、決算上六億七六〇〇万円の資産超過であったが、実質債務超過額は七億四九〇〇万円であり、平成一一年三月期と比較して大きく減少した。
b 経営改善計画等の実施
前記のとおり、関東自動車の経営改善に向けた取組は、収益体質への転換、借入金及び債務超過の圧縮の面で大きな成果を上げており、さらに同社では、第二次計画の策定に向けた検討も実施されていた。
c その後の経過
前記のとおり、関東自動車について、平成一六年一一月二六日、産業再生機構法二二条三項に基づく支援決定がされた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、関東自動車について、収益体質は確立されたが、借入過多の状態が続いていることなどから「要注意先」に分類した。
同行は、平成一三年九月期における関東自動車に対する総与信額一二五億一六〇〇万円全額をⅡ分類債権に分類し、要管理債権として一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
b 取組方針
被告足銀は、平成一三年九月期においても、一行取引である関東自動車に対する支援策として反復融資を継続していたが、同社の経営改善計画の進捗状況に照らし、数年内に実質債務超過状態を解消し、借入金の圧縮が進むものと見込んでいた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、関東自動車は、従前から実施している経営改善計画の成果として、平成一二年三月決算期以降連続して経常黒字を計上し、実質債務超過額も大きく減少しており、平成一三年九月期において、このまま進捗すれば、数年内に実質債務超過を解消することが見込まれていたのであるから、同計画には、経営改善に向けて、十分な合理性を備えたものであったといえる。
そうすると、関東自動車は、平成一三年九月期において、なお実質債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ソ 成井農林について
成井農林は、主にゴルフ場やガラス館等といったレジャー事業を営む会社であった。
(ア) 概要
a 財務状況
成井農林は、事業の中心であったゴルフ場経営の不振などにより、少なくとも平成九年三月決算期以降売上高は減少傾向が続いており、平成一二年三月決算期及び平成一三年三月決算期は二期連続して経常赤字を計上した。また、平成六年以降凍結状態としていたオーストラリアでのゴルフ場建設計画は、依然として分譲にまでは至っていなかった。
同期における決算上は八億一六〇〇万円の資産超過であったが、前記ゴルフ場建設計画に係る出資金を踏まえると、実質債務超過額は四七億七四〇〇万円に上っていた。
b 計画等
同社は、平成一一年四月に策定した五か年計画について、平成一三年三月期に悪天候等の影響を受けて計画が未達成となったことを受けて、計画内容を見直した新たな改善計画の策定に取り組んでいた(なお、同計画は平成一四年三月期に策定された。)。
c その後の経過
成井農林は、平成一六年一〇月七日、特別清算を申し立て、経営破綻に至った。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、成井農林について、二期連続して赤字を計上し、債務超過の状態にあり、返済額の大幅な見直しが実施されたことなどから、債務者区分を「要注意先」から「破綻懸念先」に変更した。
平成一三年九月期における成井農林に対する総与信額三五億一二〇〇万円のうち、二一億四〇〇〇万円をⅡ分類債権、一三億七二〇〇万円をⅢ分類債権に分類し、六億三一〇〇万円(一三億七二〇〇万円に貸倒引当率四六パーセントを乗じた額)を個別引当金として債権償却特別勘定に計上していた。
b 取組方針
被告足銀は、成井農林について、他の取引先金融機関とともに、資金繰りの安定化のために、同社のキャッシュフローに応じた元本回収を図るべく、約定弁済の条件変更を行い、返済計画に従った弁済を受けていた。
なお、被告足銀は、成井農林について、約定弁済による回収を進めたのち、平成一六年三月期に再建の目処が立たないことが確認された場合には、他行との協調支援体制も維持できないため、担保物件を処分した上で、平成一七年三月期に同社に対する上記個別引当金を無税化する予定とした。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、成井農林は、平成一一年に策定した五か年計画が未達成になったことを受けて、新たな改善計画の策定に取り組んでいる段階であった。被告足銀は、平成一三年九月期において、同社について、当面の間、約定弁済による回収を進めたのち、再建の目処が立たないことが確認されたところで無税化を図る予定として、貸付金について約定弁済の条件変更を行うなどの支援措置を継続していたが、同社が新たな経営改善計画を検討中であったこと、返済計画に従った弁済をしていたこと、同社に対するメイン行の支援継続が見込まれていたこと等からすれば、被告足銀の上記方針は合理的なものであったといえる。
そうすると、成井農林は、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「追加的な支援が予定されている」貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできず、同社に対して計上された個別引当金に不足があったとは認められない。
タ 鬼怒川グランドホテルについて
鬼怒川グランドホテルは、鬼怒川地区において温泉旅館業を営む会社であった。
(ア) 概要
a 財務状況
鬼怒川グランドホテルは、客単価の減少などの影響を受け、平成七年五月決算期以降売上高の減少が続くなか、償却前黒字は継続して計上していたものの、平成一二年五月決算期及び平成一三年五月決算期には連続して経常赤字を計上するに至った。同期における決算上の実質債務超過額は、九億四九〇〇万円に上っていた。
b 経営改善に向けた取組等
平成一一年五月決算期より人件費削減に向けた取組みを開始し、平成一二年三月には経営コンサルタントを導入した上で、中期経営改善計画を策定し、その進捗状況を踏まえて、平成一三年五月決算期から同計画の見直しを実施した結果、同期には目標値以上の売上げを収めた。同計画に従い、平成一六年五月決算期以降に償却後経常利益を計上することを見込んでいた。
c その後の経過
鬼怒川グランドホテルは、平成一七年一月一八日、産業再生機構から、産業再生機構法二二条三項に基づく支援決定を受けた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、鬼怒川グランドホテルについて、債務超過であり当期損失を計上していたが、経営改善に向けた本格的な取組が実施されており、債務超過額の圧縮が可能であることなどから「要注意先」に分類した。
同行は、平成一三年九月期における鬼怒川グランドホテルに対する総与信額三九億五八〇〇万円のうち、七八〇〇万円をⅠ分類債権、三八億八〇〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、要管理債権として一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
なお、被告監査法人は、平成一三年九月期の鬼怒川グランドホテルの債務者区分について、当初「破綻懸念先」に該当する可能性があることも踏まえた検討をしていたが、最終的には被告足銀による上記自己査定を妥当であると認めた。
b 取組方針
被告足銀は、鬼怒川グランドホテルの資金繰りの安定を目的として、契約条件を変更し、返済期限の延長や新規発生分の利息につき低金利の適用を実施し、同社を支援していた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、鬼怒川グランドホテルは、経営改善計画を策定し、平成一三年五月決算期から同計画の見直しを実施し、その結果同期には目標以上の売上げを収めたこと、同計画によると平成一六年五月決算期以降償却後経常利益を計上することが見込まれていたことからすれば、同計画には合理性が備わっていたと評価することができ、被告足銀が支援を継続していたことにも相当な理由があると認められる。
そうすると、鬼怒川グランドホテルは、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務付けられていたということはできない。
チ 鬼怒川パークホテルについて
鬼怒川パークホテルは、鬼怒川温泉地区において温泉旅館業を営む会社であった。
(ア) 概要
a 財務状況
鬼怒川パークホテルは、景気低迷の影響を受け、平成五年一二月決算期以降、売上げの減少傾向が続いていたが、経営改善に向けた取組の成果により、平成一二年一二月決算期には売上高が前期を上回り、平成八年一二月決算期以降は連続して償却前利益も計上していた。
平成一二年一二月決算期における同社の決算上の債務超過額は四〇〇〇万円であり、未償却資産を踏まえると、平成一三年七月時点で実質債務超過額は一二億七四〇〇万円に上っていた。
b 経営改善計画の策定等
鬼怒川パークホテルは、平成一一年五月経営改善計画を策定し、平成一二年一二月決算期には売上高については目標値を達成し、経常利益については目標の約九割を達成しており、前記のとおり償却前利益を継続的に確保するなど、同計画に基づき一定の成果を収めていた。
同計画によれば、平成一四年一二月決算期からは償却後経常損益について黒字転換する見込みとされていた。
c その後の経過
平成一七年一一月八日、鬼怒川パークホテルに対し、民事再生手続開始の決定がされた。
(イ) 被告足銀による融資状況等
a 引当状況
被告足銀は、鬼怒川パークホテルについて、大幅な債務超過の状態にはあったが、延滞状態にはなく、経営改善計画に基づく業績改善が十分に見込まれたことなどから「要注意先」に分類した。
同行は、平成一三年九月期における鬼怒川パークホテルに対する総与信額二九億八二〇〇万円のうち、一億七九〇〇万円をⅠ分類債権、二八億〇三〇〇万円をⅡ分類債権に分類し、要管理債権として一般貸倒引当金を計上していたが、個別引当金は計上していなかった。
なお、被告監査法人は、平成一三年九月期の鬼怒川パークホテルの債務者区分について、当初「実質破綻先」に該当する可能性があることも踏まえた検討をしていたが、最終的には被告足銀による上記自己査定を妥当であると認めた。
b 取組方針
被告足銀は、鬼怒川パークホテルの資金繰りの安定化を目的として、同社に対する貸付金に係る返済期限の延長を支援措置として実施していた。
(ウ) 判断
前記認定のとおり、鬼怒川パークホテルは、平成一一年五月に策定した経営改善計画について、平成一二年一二月決算期において、売上高は目標を達成し、経常利益は目標の九割以上を達成しており、同計画によれば、平成一四年一二月決算期以降、償却後黒字を計上する見込みとされていたことからすれば、同計画は、短期間の借入金の返済を実現することを目標としたものではなかったが、経営改善に向けて実現可能性を備えた合理的なものであったといえる。
そうすると、鬼怒川パークホテルは、平成一三年九月期において、なお債務超過の状態にあったが「合理的な再建計画が進行中」である貸出先であり、「事業の好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるといえる。したがって、同社について、貸出金の回収不能額を確定させ、その金額について引当を実施することが義務づけられていたということはできない。
ツ 小括
以上のとおり、税法基準の解釈を前提とした場合、原告らが主張する引当不足の事実を認めることはできない。
また、以上認定の事実等に照らすと、被告足銀がした前記各債務者の貸倒引当金に関する分類・計上が改正後四号実務指針等に反するとまでは認められない。
(3)  原告らは、別件の訴訟において、被告足銀が、平成一三年三月期における上記以外の一一の債務者について、合計四六億四九〇〇万円の引当不足があった旨自認しているとして、同年九月期においても、そのまま同額が引当不足となること、F文書によれば、上記引当不足額と重複しない引当不足額として六三一億三六〇〇万円が存在していた旨主張する。
しかしながら、被告足銀が、平成一三年三月期の債務者区分をそのまま同年九月期にも適用していたと認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠〈省略〉によれば、債務者区分を変更した債務者も少なからずあることが認められる上、原告らは、上記一一の債務者について、平成一三年九月期における財務状況や被告足銀による融資状況等の具体的な主張立証をしない。
また、F文書についても、証拠〈省略〉によれば、同文書の債務者区分の再査定作業は、近々に見込まれた日銀考査に備え、日銀が何らかの特別な意図をもって、極めて厳しい基準で考査に臨んだ場合に及ぼす影響を把握するために行われたものであり、Fにはこれを平成一四年三月期決算に反映する意図はなく、また、その作業も、限られた指標を基に機械的、画一的にされたものであることが認められるから、それ自体、平成一四年三月期の貸倒引当金の不足を示すものではなく、平成一三年九月期の貸倒引当金の不足を示すものともいえない。
以上に照らすと、別件の訴訟における被告足銀の主張やF文書の内容をもって、平成一三年九月期の貸倒引当金に引当不足があったとの事実を認めることはできず、原告らの上記主張は理由がない。
五  平成一三年九月期の繰延税金資産の過大計上の有無(争点三の②)について
(1)  前記前提事実、証拠〈省略〉によれば、以下の事実が認められる。
ア 一時差異等解消計画(平成一三年九月期)の作成経緯
(ア) 被告足銀は、平成一三年一一月二〇日、経営会議において、同年九月期の中間決算で計上した繰延税金資産の検証をするため作成した一時差異等解消計画(以下「一時差異等解消計画(足銀原案)」という。)を承認し、同月二二日、取締役会において前記決算に対し承認決議をした。
前記計画では、課税所得見積期間は五年間とされ、将来年度における課税所得のうち、「タックスプランニング」として、平成一五年度に二〇億円、平成一八年度上期に二二六億円が、「債権回収体制強化分」として、平成一四年度に二九億円、平成一五年度に三九億円、平成一六年度に四九億円、平成一七年度に五九億円、平成一八年度上期に三四億円が、「有価証券評価差額解消分」として平成一三年度下期に一〇八億円、平成一四年度に一一六億円、平成一五年度に一三〇億円、平成一六年度に二九二億円がそれぞれ見込まれており、これらを含む上記課税所得見積期間における調整前課税所得の合計額は四五二一億円とされていた。
(イ) 被告監査法人において、平成一三年一二月初めころ、被告足銀の上記中間決算に対する審議が実施され、レビューパートナーであったIから、被告足銀の繰延税金資産の資産性の判断に関して、①タックスプランニングの項目のうち五年後に北関東リース株式会社及び足銀リース株式会社(以下「リース会社二社」という。)の株式の売却益一四一億円を見込んでいる点について、売却の具体性がなく認めがたいこと、②有価証券評価差額金の項目について、将来の値上がりを加味して税効果額を算出している点について、約一四〇億円の繰延税金資産が過大であることなどの指摘があった。被告監査法人の関与社員であった被告Y1らは、上記指摘①については、当該子会社の売却は、経営健全化の一環である「関連リース会社二社の統合計画」に基づくものであり、現状では実現可能と判断でき、上記指摘②については、被告足銀の試算する株価水準のシュミレーションは妥当であり、評価差額の解消も確実なものと判断できる旨の意見を述べ、被告足銀の策定した一時差異等解消計画を支持した。
審議の結果、被告監査法人は、平成一三年一二月一二日に開催した東京審議会において、上記レビューパートナーの指摘を酌み、タックスプランニングのうち平成一八年度上期の一四一億円及び有価証券評価差額解消分を否認した場合であっても、課税所得見積期間を六年として算出した課税所得見込額が、一時差異解消見込額を上回ることから、一時差異等の解消期間がおおむね五年以内であるとして、被告足銀の一時差異等解消計画に基づく繰延税金資産の計上が妥当であると判断し、その計上額を承認した。
(ウ) 上記承認後、当時被告足銀の総合企画部の管理グループ担当次長であったG(以下「G」という。)は、同部副部長であったJの指示を受けて、課税所得のうちタックスプランニング及び有価証券評価差額解消分という項目を除き、課税所得見積期間を六年間と設定した一時差異等解消計画を作成し(以下「一時差異等解消計画(監査人了承スケジュール)」という。)、平成一三年一二月二一日ころ、「監査人了承スケジュール」という標題を付けて、一時差異等解消計画(足銀原案)とともに同年一一月一一日に開催された取締役会の議事録に添付した。
イ 被告足銀における繰延税金資産の計上
被告足銀は、平成一三年九月期において、自己資本一二〇一億円に対し、その約一・四倍に相当する一七二七億円を繰延税金資産として計上し、うち将来減算一時差異に係るものは一四四五億円、有価証券評価差額にかかるものは二八二億円、法定実効税率は四一・六七パーセントであった。
上記繰延税金資産の計上の根拠となった一時差異等解消計画(足銀原案)における、同期末時点での一時差異の残高は、四一四六億円であった。
(2)  「公正なる会計慣行」について
前記のとおり、税効果会計に関する会計基準、税効果会計実務指針及び中間実務指針に従うことが「公正なる会計慣行」であったが、原告らが主張するその他の基準に従うことは、「公正なる会計慣行」であったと認めることはできない。
しかし、以下、原告らの主張を踏まえ、平成一三年九月期における繰延税金資産の計上について、検討する。
(3)  繰延税金資産の計上の可否
原告らは、被告足銀の平成一三年九月期の財務状態は、繰延税金資産を計上することが許されない状況にあったから、繰延税金資産に係る有価証券報告書の記載は虚偽であると主張する。
前記認定のとおり、平成一三年九月期の繰延税金資産の計上額は自己資本の約一・四倍に相当するものであったが、同期において公表されていた各基準のうち、税効果会計実務指針によれば、繰延税金資産は、その回収可能性が認められる限りにおいて計上することが許容されていたのであって、その計上額について自己資本との対比で何らかの制限を設ける基準が存在していたとは認められないから、上記事実のみをもって、被告足銀が繰延税金資産を計上することが許されない財務状態であったと認めることはできない。
そして、本件全証拠によっても、被告足銀が平成一三年九月期において繰延税金資産の計上が許されない財務状態にあったとは認められず、同期において計上された繰延税金資産が、「公正なる会計慣行」を斟酌し、法令に定められた方法により算出及び記載されるべきものに反していると認めることはできない。
なお、前記認定のとおり、平成一五年九月期において被告足銀が計上した繰延税金資産額は、被告監査法人により全額否認されたが、同期においては、平成一三年九月期と異なり、会計通牒により繰延税金資産の回収可能性の判断を厳格に実施するよう求められていたこと、同期の被告足銀の自己資本比率は、繰延税金資産の計上を前提とした場合でも一パーセントを下回っていた上、増資による自己資本の増強も予定されていなかったこと等の事情によれば、平成一三年九月期について、平成一五年九月期と同様に繰延税金資産の計上が許されない状況にあったとは認められない。
したがって、この点に関する原告らの主張は採用することはできない。
(4)  手続違背について
原告らは、平成一三年九月期の繰延税金資産の計上にあたり取締役会で承認された一時差異等解消計画(足銀原案)と、監査において妥当と判断された一時差異等解消計画(監査人了承スケジュール)は異なっているから、その会計処理及び監査手続が「公正なる会計慣行」に反する旨主張する。
六六号報告は、収益力に基づく課税所得の十分性を根拠に繰延税金資産を計上する場合には、原則として、取締役会等における承認を得た将来の業績予測が作成されていなければならないと定めているところ、前記認定のとおり、被告足銀は一時差異等解消計画(足銀原案)を作成・承認した上で、これに基づき計上された繰延税金資産を取締役会で承認したことが認められるから、前記規定に反しない。また、被告監査法人は、被告足銀が計上した繰延税金資産額の妥当性を判断するにあたり、被告足銀の作成した一時差異等解消計画は、リース会社二社の株式の売却益及び有価証券評価差額解消分の実現可能性の点で問題があると考えたが、これらを除き、期間を六年間として課税所得見込額を試算したところ、これが平成一三年九月期の一時差異等解消見込額の残高を上回ったことから、六六号報告の定める判断指針に従って、被告足銀が計上した繰延税金資産額全額について回収可能性があると判断し、その上で、計上額全額について妥当であるとの監査意見を付したことが認められる。また、一時差異等解消計画(監査人了承スケジュール)は、前記認定のとおり、被告監査法人による繰延税金資産の回収可能性の検討の経緯を明らかとするためにGが作成したものであって、被告監査法人が同計画を作成したとの事実は認められない。
以上のとおり、平成一三年九月期に計上された繰延税金資産について、被告足銀の取締役会における承認又は被告監査法人における承認を欠いていたとの事実は認められず、この点に関する原告らの主張は採用することができない。
(5)  一時差異等解消計画の内容の合理性
原告らは、一時差異等解消計画(足銀原案)の内容が不合理であるから、これに基づいて計上された繰延税金資産が虚偽である旨主張する。
六六号報告は、監査上の留意点として、収益力に基づく課税所得の十分性を根拠に繰延税金資産を計上するにあたって被監査会社が作成した業績予測が明らかに合理性を欠くものと認められる場合には、適宜修正を行った上で課税所得を見積もる必要がある旨規定する。前記のとおり、六六号報告は、平成一三年九月期において「公正なる会計慣行」であったとは認められないが、この点を措くとしても、以下のとおり、一時差異等解消計画(足銀原案)が明らかに合理性を欠くものであったとは認められないから、六六号報告の上記指針に照らしても、同計画に基づき繰延税金資産を計上したことが虚偽記載に当たるとは認められない。
ア 課税所得見積期間について
六六号報告は、過去の業績が不安定な会社等(過去の経常的な損益が大きく増減しているような会社)の場合には、将来の合理的な見積可能期間(おおむね五年)内の課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等に係る繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できる旨定める。
前記認定のとおり、被告足銀は、課税所得見積期間を五年とした一時差異等解消計画(足銀原案)に基づき繰延税金資産を計上したのであるから、上記規定に反するものでないことは明らかである。のみならず、上記規定の趣旨が五年間を超える課税所得の見積額を回収可能性の判断の基礎とすることを許さない趣旨であると解することはできない。したがって、被告足銀が計上した繰延税金資産が六六号報告の上記規定に反するとはいえない。
イ 「タックスプランニング」、「有価証券評価差額解消分」について
(ア) 六六号報告は、タックスプランニングに基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断する場合には、資産の含み益等の実現可能性を判断することが必要であり、その判断に当たっては、当該資産の売却等に係る会社としての意思決定の有無及び実行可能性、並びに売却される当該資産の含み益等に係る金額の妥当性を検討する必要があると定めている。
証拠〈省略〉によれば、一時差異等解消計画(足銀原案)におけるタックスプランニングのうち子会社の売却により発生が見込まれるとされた一四一億円については、被告足銀は、遅くとも平成一三年一一月ころまでには前記子会社二社の統合計画を実行し、当時、同計画の中で平成一九年三月末を目処に株式を当時の株主に譲渡することを予定していたこと、売却金額は当該二社について策定されていた財務・損益計画を根拠として算出されたものであったことが認められるから、同計画策定当時、具体的な売却先が未定であったことを考慮しても、六六号報告の上記判断指針に照らし、上記タックスプランニングが実現可能性に乏しいものであったとは認められない。
(イ) 「有価証券評価差額解消分」を課税所得として計上することの可否について、平成一三年九月期当時、明確な判断指針が定められていたと認めるに足りる証拠はないが、税効果会計実務指針を参考にすれば、課税所得見込額の一つである以上、その十分性が検討される必要がある。
証拠〈省略〉によれば、一時差異等解消計画(足銀原案)において計上された将来年度における「有価証券評価差額解消分」の金額は、当時公刊されていた資料による株価水準を基に計算されたものであることが認められるから、これが将来の課税所得として見込むことについて合理性を欠いていたとはいえない。
(ウ) もっとも、上記タックスプランニング(子会社株式売却益)及び有価証券評価差額解消分について、当該所得発生の不確実性を考慮して全額否認した場合であっても、平成一三年度九月期における一時差異等解消見込額は六年分の課税所得見積額を下回っていたことからすれば、子会社株式売却益ないし有価証券評価差額解消分を課税所得として見積もることが許されるか否かにかかわらず、前記一時差異等解消見込額に対応する繰延税金資産を計上することができたといえ、被告足銀が同額を計上したことについて虚偽があったとは認められない。
ウ 「債権回収体制強化による回収分」について
原告らは、被告足銀が数合わせの方便として、実体のない「債権回収体制強化」という収益項目を設定したと主張する。
しかしながら、平成一三年九月期決算当時、被告足銀は平成一三年八月に策定した新たな経営健全化計画に基づき、債権回収を強化していく体制を整備していたことからすれば、このような体制を踏まえた業績予測として「債権回収体制強化」という項目を設けて課税所得を見積もったことが明らかに合理性を欠くものであったとはいえず、他に、同項目が数合わせの方便として設定されたものと認めるに足りる証拠はない。
エ 以上のとおり、一時差異等解消計画(足銀原案)が明らかに合理性を欠く業績予測であったとは認められず、六六号報告の定める判断指針を前提としても、これに基づいて計上された繰延税金資産が、「公正なる会計慣行」を斟酌し、法令に定められた方法により算出及び記載されるべきものに反していたと認めることはできない。
(6)  小括
したがって、平成一三年九月期における繰延税金資産に係る半期報告書の記載が、虚偽記載に該当すると認めることはできない。
六  以上のとおり、平成一一年三月期報告書及び平成一三年九月期報告書につき、原告らが主張する虚偽記載の事実を認めることはできないから、被告足銀、被告監査法人及び被告Y1が原告らに対して損害賠償責任(旧証取法二四条の四等及び不法行為)を負うとすることはできない。
第四  結論
以上の次第で、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹内民生 裁判官 篠原康治 川又真紀)

 

別紙 当事者目録(原告)
原告〈省略〉
上記一〇二名訴訟代理人弁護士 伊藤茂昭
同 棚村友博
同 朝田規与至
同 太田孝彦
同 人見友美
平成一六年(ワ)第四八三号事件原告ら(原告〈省略〉を除く。)訴訟復代理人兼同事件原告〈省略〉、平成一六年(ワ)第六二一号事件原告〈省略〉並びに平成一七年(ワ)第七七号、同第四一九号及び平成一八年(ワ)第三三八号事件原告ら訴訟代理人弁護士 古川和典
原告〈省略〉訴訟代理人弁護士 隅田敏
同 岡本毅
(以上各事件の原告らを総称して「原告ら」という。)
別紙 当事者目録(被告)
平成一六年(ワ)第四八三号、同第六二一号、同第六八〇号、平成一七年(ワ)第七七号、同第四一九号、平成一八年(ワ)第三三八号事件被告 株式会社足利銀行
上記代表者代表執行役 A
上記訴訟代理人弁護士 須藤英章
同 赤川公男
平成一六年(ワ)第四八三号、同第六八〇号、平成一七年(ワ)第七七号、同第四一九号及び平成一八年(ワ)第三三八号事件被告訴訟代理人弁護士 廣瀬正剛
平成一六年(ワ)第四八三号、同第六二一号、同第六八〇号、平成一七年(ワ)第七七号、同第四一九号、平成一八年(ワ)第三三八号事件被告 みすず監査法人
上記代表者代表清算人 B
平成一七年(ワ)第七七号、同第四一九号、平成一八年(ワ)第三三八号事件被告 Y1
上記両名訴訟代理人弁護士 足立格
同 山中修
同 柴田勝之
同 山岸良太
別紙 請求金額等一覧表一~一二〈省略〉

 

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