「営業アウトソーシング」に関する裁判例(63)平成24年 9月18日 東京地裁 平24(レ)547号 キャンセル料請求差止め請求控訴事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(63)平成24年 9月18日 東京地裁 平24(レ)547号 キャンセル料請求差止め請求控訴事件
裁判年月日 平成24年 9月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(レ)547号
事件名 キャンセル料請求差止め請求控訴事件
裁判結果 控訴棄却 文献番号 2012WLJPCA09188010
要旨
◆被控訴人との間でホテルの宿泊予約をした後、宿泊予定日の7日前にキャンセルした控訴人が、キャンセル料を請求されたため、本件キャンセル料の支払義務を定める規定は消費者契約法9条1号により無効であるとして、同キャンセル料の支払義務のないことの確認を求めたところ、原審で請求を棄却されたことから控訴した事案において、本件宿泊予約に係る契約当事者は控訴人と被控訴人であり本件ホテルの運営会社は当事者ではないから、同契約における消費者契約法上の「事業者」は被控訴人であるとした上で、本件キャンセル規定は本件キャンセルにより被控訴人に生じる平均的な損害額を超える損害賠償額の予定を定めたものとはいえないから無効とはいえないとして、控訴を棄却した事例
裁判経過
第一審 東京簡裁 判決 平23(ハ)35353号
参照条文
消費者契約法9条1号
裁判年月日 平成24年 9月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(レ)547号
事件名 キャンセル料請求差止め請求控訴事件
裁判結果 控訴棄却 文献番号 2012WLJPCA09188010
東京都西東京市〈以下省略〉
控訴人 X
東京都千代田区〈以下省略〉
被控訴人 株式会社イーウェル
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 蒲俊郎
同 中田成徳
同 松本彰夫
同 茂垣博
同 平岩桃子
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人に対し平成23年9月15日に請求した宿泊予定日平成23年9月10日分のキャンセル料3万4000円の支払義務がないことを確認する。
3 被控訴人は,控訴人に対し,平成23年9月15日に請求した宿泊予定日平成23年9月10日分のキャンセル料である3万4000円の請求を取り下げる。
第2 事案の概要
1 本件は,被控訴人(1審被告)との間で株式会社ミリアルリゾートホテルズ(以下「ミリアルリゾート」という。)が運営するaホテル(以下「本件ホテル」という。)の宿泊予約をし,宿泊予定日の7日前に同予約をキャンセルした控訴人(1審原告)が,被控訴人から同キャンセルに係るキャンセル料の支払を請求されたため,被控訴人に対し,上記キャンセル料の支払義務を定める規定は消費者契約法9条1号により無効であると主張して,上記キャンセル料の支払義務がないことの確認等を求める事案である。
原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が,これを不服として控訴をした。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実,弁論の全趣旨及び以下の各項に掲記の証拠により容易に認定することができる事実)
(1) 当事者
ア 控訴人は,b株式会社(以下「b社」という。)の従業員である。
イ 被控訴人は,企業の従業員に対する福利厚生を代行するサービスを提供する株式会社であり,提携している全国各地の施設やサービスを割引価格等で使用することができるパッケージ型の福利厚生アウトソーシングサービス「○○」を運営している。
(2) ○○サービスに関する契約
ア 被控訴人と○○サービスの利用契約を締結した企業の従業員は,○○サービスを利用することができ,被控訴人が提携する全国各地の施設やサービスを割引価格等で利用することができる。(乙1)
イ b社は,被控訴人との間で,平成17年9月30日,○○サービスの利用契約を締結した。(乙2)
ウ 被控訴人は,本件ホテルを運営するミリアルリゾートとの間で,平成21年6月14日,本件ホテルの利用に関する施設利用基本契約を締結した。(乙3)
エ 前記ウの施設利用基本契約には,次の定めがある。(乙3)
(ア)○○サービス利用者による予約の変更,取消しに伴いキャンセル料が発生する場合には,被控訴人がミリアルリゾートに対してキャンセル料を支払うものとする。なお,キャンセル料は客室料金に適用するものとし,キャンセル料の料率は別途設定内容確認書にて定めることとする。(5条4項)
(イ)ミリアルリゾートは,○○サービス利用者が本件ホテルを利用した場合,被控訴人に対して客室料金(消費税等相当額を含む。)の5%に相当するシステム利用料を支払うものとする。(4条)
(3) 控訴人は,被控訴人との間で,平成23年9月10日に本件ホテルに大人2名,子供2名,宿泊料金6万8000円(消費税等相当額を含む。)で宿泊する旨の予約(以下「本件宿泊予約」という。)をした。(甲1)
(4) 被控訴人は,○○サービスのウェブサイト上にある本件ホテルの宿泊予約申込み画面において,宿泊予約をキャンセルする場合には,キャンセルする時期等に応じたキャンセル料(宿泊予定日の8日前の午後から2日前の午前中までにキャンセルする場合には,宿泊料金の50%相当額)を被控訴人に対して支払わなければならない旨を表示しており,利用者が本件ホテルの宿泊予約をするためには,これに同意しなければならない(以下,被控訴人と○○サービス利用者との間の上記キャンセル料の支払義務に関する定めを「本件キャンセル料規定」という。)。(乙4)
(5) 控訴人は,被控訴人に対し,平成23年9月3日,本件宿泊予約をキャンセルする旨の意思表示をした(以下,このキャンセルを「本件キャンセル」という。)。
(6) ミリアルリゾートは,本件ホテルの宿泊予約を宿泊予定日の7日前にキャンセルした場合には,宿泊料の50%に相当する額のキャンセル料の支払義務を定めている。
(7) 被控訴人は,控訴人に対し,平成23年9月21日,本件キャンセルに係るキャンセル料として,本件宿泊予約に係る宿泊料金6万8000円の50%に相当する3万4000円の支払を請求した(以下,被控訴人が控訴人に対して請求する上記キャンセル料を「本件キャンセル料」という。)。
(8) ミリアルリゾートは,被控訴人に対し,平成23年11月17日付け請求書により,本件キャンセルに係るキャンセル料3万4000円から,ミリアルリゾートが被控訴人に支払うべきあっせん手数料1700円を控除した残金3万2300円の支払を請求し,被控訴人は,ミリアルリゾートに対し,同年12月9日,これを支払った。(乙11,乙12)
3 本件の争点は,本件キャンセル料規定が消費者契約法9条1号により無効であるかである。
4 当事者の主張
当事者の主張は,以下に記載するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の3(原判決2頁19行目から7頁14行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 控訴人
ア 本件の場合,本件ホテルの宿泊予約に関する役務の提供は,被控訴人単独ではできず,ミリアルリゾートが共同でないと提供することができないのは明らかであるし,被控訴人はミリアルリゾートからの請求に基づいて控訴人に本件キャンセル料を請求しているのであるから,実際の事業者であるミリアルリゾートと代行業者である被控訴人とは共同事業体と捉えるべきであり,消費者契約法にいう「事業者」は,この共同事業体と考えるべきである。
上記共同事業体としての実質的な損害,平均的損害,逸失利益のいずれにも根拠がないことは原審で主張したとおりであるから,本件キャンセル料規定は,消費者契約法9条1号により無効である。
イ 被控訴人がミリアルリゾートに対して支払うキャンセル料は,両者の間で交渉すべき話であり,これを消費者に請求するのは筋違いである。これが認められるとすれば,消費者と実際の事業者との間に代行業者を挟めば,実損害,平均的損害,逸失利益といった根拠に基づかなくても請求をすることができることになってしまい,消費者契約法の趣旨が没却されてしまう。
(2) 被控訴人
ア 本件宿泊予約に係る契約の当事者は控訴人と被控訴人であり,ミリアルリゾートはその当事者ではないから,同契約における消費者契約法上の「事業者」は,被控訴人である。
消費者契約法上の「事業者」とは,契約の当事者となる主体に限定されるのであり,控訴人主張の共同事業体なるものに対して消費者契約法が適用される余地はない。また,被控訴人とミリアルリゾートとの間には何らの資本関係もなく,本件ホテルは被控訴人が提携する多数の宿泊施設の1つにすぎないから,被控訴人とミリアルリゾートとは共同事業体ではない。
イ 被控訴人は,本件キャンセルにより,ミリアルリゾートに対して宿泊料金の50%のキャンセル料を支払わなければならないのであるから,被控訴人が控訴人に請求している本件キャンセル料が「平均的な損害の額を超えるもの」でないことは明らかである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件キャンセル料規定が消費者契約法9条1号により無効であるとは認められず,控訴人は被控訴人に対して本件キャンセル料の支払義務を負うものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
2(1) 前記前提事実(3)のとおり,本件宿泊予約に係る契約の当事者は控訴人と被控訴人であり,本件ホテルを運営するミリアルリゾートはその当事者ではないから,同契約における消費者契約法上の「事業者」は,被控訴人であると解するのが相当である。
(2) これに対し,控訴人は,前記第2の4(1)のとおり,ミリアルリゾートと被控訴人とを共同事業体と捉えるべきであり,この共同事業体が消費者契約法にいう「事業者」に当たる旨を主張する。
しかしながら,事業者が消費者契約法の適用を免れる目的で消費者との間に形式的第三者を介在させたというような特段の事情があれば格別,単に事業者が広く顧客を獲得するために他の事業者と提携をしたというだけでは,その両者を一体として消費者契約法上の「事業者」に当たると解することはできない。
そして,控訴人が指摘する,被控訴人が本件ホテルの宿泊予約に関する役務を提供するにはミリアルリゾートとの提携が不可欠である旨の事実をもってしても,上記特段の事情があるとは認められないし,本件について上記特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。
控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3) したがって,本件キャンセル料規定の全部又は一部が消費者契約法9条1号により無効であるか否かは,キャンセルの事由,時期等の区分に応じ,本件ホテルの宿泊予約のキャンセルに伴い被控訴人に生ずべき平均的な損害の額を基準に判断すべきである。
3 そして,前記前提事実(2)エ(ア),同(6)から同(8)まで及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,○○サービス利用者が本件ホテルの宿泊予定を宿泊予定日の7日前にキャンセルした場合には,ミリアルリゾートに対し,同予約に係る宿泊料金の50%に相当する額のキャンセル料の支払義務を負うものと認められるのであるから,本件キャンセル料規定はこれに連動したものであって,殊更に被控訴人独自に高率のキャンセル料を定めたものではなく,被控訴人がミリアルリゾートに対して支払義務を負う上記キャンセル料は,上記キャンセルによって被控訴人に生じる平均的な損害であると認められる(なお,前記前提事実(8)のとおり,被控訴人は,ミリアルリゾートから,あっせん手数料1700円の支払を受けているけれども,控訴人が本件宿泊予約をキャンセルすることなく実際に宿泊した場合には,被控訴人は,ミリアルリゾートから,宿泊料金6万8000円の5%に相当する3400円のあっせん手数料の支払を受けることができるのであり(前記前提事実(2)エ(イ)及び弁論の全趣旨),被控訴人は本件キャンセルによってあっせん手数料の支払を受けることになったわけではないから,上記平均的な損害の額を算定するに当たり,これを考慮すべきではない。かえって,ミリアルリゾートから被控訴人に支払われるあっせん手数料の額が本件キャンセルによって減少していることに照らせば,被控訴人がミリアルリゾートに対して支払うキャンセル料3万4000円のほか,本件キャンセルによるあっせん手数料の減額分1700円についても,本件キャンセルによって被控訴人に生じる平均的な損害であるということができる。)。
そうすると,本件キャンセル料規定は,本件キャンセルによって被控訴人に生じる平均的な損害の額を超える損害賠償額の予定を定めたものということはできず,消費者契約法9条1号により無効であるということはできない。
4 なお,当裁判所も,①本件ホテル及びそれと隣接する△△テーマパークの知名度や人気の高さからすれば,本件ホテルにおいては,宿泊予定日の7日前にキャンセルがされたとしても,同宿泊予定日までの間に新たな宿泊予約が行われる可能性が高いと考えられること,②原判決の「事実及び理由」の第3の1(11)(原判決10頁2行目から同頁18行目まで)のとおり,帝国ホテル東京やフォーシーズンズホテル椿山荘東京,プリンスホテル,ホテルオークラ東京,東京ベイ舞浜ホテル等の著名な各ホテルでは,宿泊予定日の前日又は2日前以降のキャンセルについて宿泊料の20%ないし100%のキャンセル料の支払義務が定められているものの,それよりも前のキャンセルについてキャンセル料の支払義務が定められていないことなどからすれば,控訴人が指摘するように,本件ホテルの宿泊予約が宿泊予定日の7日前にキャンセルされた場合にミリアルリゾートに生じる平均的な損害の額は,宿泊料金の50%相当額を相当程度下回るのではないかとの疑念が生じるのであり,本件ホテルとの間で直接宿泊予約の契約をした場合には,前記前提事実(6)が消費者契約法9条1号との関係で問題になる余地がないではない。
しかしながら,控訴人は,ミリアルリゾートと直接契約をしたものではないから,上記の点は本件では問題にならず,また,ミリアルリゾートと被控訴人との間の契約は,事業者間の契約であって消費者契約ではないから,消費者契約法によって無効になることはないし,他にこれが無効であることをうかがわせる事情は存しないから,ミリアルリゾートの被控訴人に対するキャンセル料の請求が無効であるということはできない。
そして,本件宿泊予約に係る契約の当事者が控訴人と被控訴人であり,被控訴人がミリアルリゾートに対して本件キャンセルに係るキャンセル料の支払義務を負う以上,本件キャンセル料規定が消費者契約法9条1号により無効であるということができないのは,前判示のとおりである。
第4 結論
以上によれば,控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,これを棄却した原判決は正当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三村晶子 裁判官 大嶋洋志 裁判官 行川雄一郎)
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