【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(56)平成25年 3月13日 山口地裁 平21(ワ)197号 地位確認等請求事件 〔マツダ事件〕

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(56)平成25年 3月13日 山口地裁 平21(ワ)197号 地位確認等請求事件 〔マツダ事件〕

裁判年月日  平成25年 3月13日  裁判所名  山口地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)197号
事件名  地位確認等請求事件 〔マツダ事件〕
裁判結果  一部認容、一部却下、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2013WLJPCA03136001

要旨
◆派遣労働と被告の直接雇用とを繰り返す形で被告工場において同一業務に従事していた派遣労働者である原告らが、派遣元との間で締結した派遣労働契約は無効であり、かつ、原被告間には黙示の労働契約が成立しているなどとして、被告に対し、正社員としての地位確認、未払賃金の支払及び損害賠償を求めた事案において、被告が、常用雇用の代替防止という労働者派遣法の根幹を否定する施策を実施していたと認められることなどによれば、本件直接雇用制度を含む制度全体が同法に違反するといえ、また、本件直接雇用制度を経験した原告らの一部には本件派遣労働契約を無効と解すべき特段の事情があると認められるとして、同原告らの派遣労働契約を無効とした上、被告との間の黙示の労働契約の成立を認めて地位確認請求及び未払賃金請求を一部認容したが、未払賃金請求のうち将来請求分は訴えの利益がないとして却下し、損害賠償請求は理由がないとして棄却した事例

評釈
水町勇一郎・ジュリ 1461号119頁
桑村裕美子・ジュリ臨増 1466号234頁(平25重判解)
岡田和樹・NBL 1004号7頁
吉田肇・民商 149巻1号91頁
萬井隆令・龍谷法学 51巻4号613頁
鎌田耕一=野川忍・日本労働研究雑誌 652号2頁(対談)
原昌登・労働法学研究会報 2578号4頁
中村和雄・ジュリ増刊(実務に効く労働判例精選) 11頁
河合塁・労働法学研究会報 2561号24頁
塩見卓也=和田肇・法政論集(名古屋大学) 251号395頁
佐藤次徳=高根孝昭=仁比聡平・前衛 897号159頁(座談会)
横山詩土・週刊法律新聞 1994号4頁
矢野昌浩・法セ 701号121頁
大賀一慶・季刊労働者の権利 299号77頁
労働判例セレクト・労政時報 3848号14頁
(記事)・週刊法律新聞 1986号2頁
高根孝昭・労働法律旬報 1795号32頁
中山達夫・労働法令通信 2326号24頁
加茂善仁・労経速 2182号2頁
山本陽大・日本労働法学会誌 122号167頁
平澤卓人・法セ増(新判例解説Watch) 14号295頁
沼田雅之・法時 86巻9号136頁
久保以明・経営法曹 180号39頁

参照条文
労働契約法6条
民法90条
民法709条
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律40条の2
職業安定法44条

裁判年月日  平成25年 3月13日  裁判所名  山口地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)197号
事件名  地位確認等請求事件 〔マツダ事件〕
裁判結果  一部認容、一部却下、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2013WLJPCA03136001

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
 

主文

1  原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5,同X6,同X7,同X8,同X10,同X11,同X12,同X14及び同X15が,被告に対し,被告正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2  被告は,原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5,同X6,同X7,同X8,同X10,同X11,同X12,同X14及び同X15に対し,それぞれ別紙1ないし8,10ないし12,14及び15の「未払賃金額(認定分)」欄記載の金員及びこれらに対する平成21年5月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3  被告は,原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5,同X6,同X7,同X8,同X10,同X11,同X12,同X14及び同X15に対し,平成21年5月から本判決確定の日まで,毎月25日限り,それぞれ別紙1ないし8,10ないし12,14及び15の「平均給与額(認定分)」欄記載の金員及びこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4  原告らの本判決確定の日以降履行期の到来する賃金(遅延損害金も含む。)の支払請求部分をいずれも却下する。
5  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6  訴訟費用は,原告らに生じた費用の15分の13と被告に生じた費用の15分の13との合計の10分の1を原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5,同X6,同X7,同X8,同X10,同X11,同X12,同X14及び同X15の,10分の9を被告の各負担とし,原告らに生じた費用の15分の2と被告に生じた費用の15分の2との合計を原告X9及び同X13の負担とする。
7  この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
 

事実及び理由

第1  請求
1  原告らが,被告に対し,被告正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2  被告は,原告らに対し,それぞれ別紙1ないし15の「未払賃金額(請求分)」欄記載の金員及びこれらに対する平成21年5月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3  被告は,原告らに対し,平成21年5月から毎月25日限り,それぞれ別紙1ないし15の「平均給与額(請求分)」欄記載の金員及びこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4  被告は,原告らに対し,それぞれ110万円及びこれらに対する平成21年3月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  事案の要旨
(1)  本件は,派遣労働者として自動車製造業を営む被告のa工場(b地区及びc地区)の各職場に派遣されて自動車製造業務に従事していた原告らが,労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(平成24年法律第27号による改正前の名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」。以下,その改正の前後を通じて「労働者派遣法」という。)が定める派遣可能期間を超えて被告が労働者派遣の役務の提供を受けていたことや原告らの就業実態等の事情によれば,原告らが派遣元事業主との間で締結した派遣労働契約は無効というべきであり,かつ,原告らの就業実態等によれば,原告らと被告との間には黙示の労働契約が成立しているなどと主張して,被告に対し,原告らが被告正社員としての労働契約上の地位を有することの確認,賃金の支払,不法行為(被告の違法行為に基づく原告らの雇用継続に対する期待権侵害)に基づく損害賠償を請求する事案である。
(2)  なお,物の製造領域における労働者派遣事業は平成15年の労働者派遣法の改正により解禁されたものであり,派遣可能期間を最長3年とすることが可能となったが(労働者派遣法40条の2第1項本文,第2項1号),同改正法の施行日(平成16年3月1日)から起算して3年を経過する日(平成19年2月末日)までの間は,1年とされた(附則5項)。
2  前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,当裁判所に顕著な事実又は証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)
(1)  当事者等
ア 原告らは,d株式会社(以下「d社」という。),e株式会社(以下「e社」という。),株式会社f(以下「f社」という。),株式会社g(以下「g社」といい,d社,e社,f社及びg社を一括して「派遣元」ともいう。)との間で派遣労働契約を締結して,a工場の各職場に派遣されて自動車製造等の業務に従事していた派遣労働者であったところ,原告らが派遣労働契約を締結した相手方,派遣期間,原告らが派遣されていた職場名,従事していた業務の具体的内容については,別紙1ないし15記載のとおりである。
なお,原告X9及び同X13については,後述のサポート社員を経験していない。
イ 被告は,乗用車等の製造,販売を主な事業内容とする資本金2589億5709万6762円(平成24年3月27日現在)の株式会社であり,国内生産拠点として広島県に本社工場(本社・宇品)及び三次事業所,山口県にa工場(b地区及びc地区)を有している。
(2)  被告が労働者派遣の役務の提供を受けるに至った経緯
ア 平成15年6月の労働者派遣法の改正により,平成16年3月1日から物の製造領域における労働者派遣事業が解禁されることとなったのを受け,被告は,平成15年11月頃,社内にプロジェクトチームを設け,当時の自動車の増産傾向に対応しながら将来的な生産量の変動に対応できる人員配置の方法を検討した(なお,プロジェクトチームが発足した平成15年11月当時,a工場等においては業務請負方式による自動車製造業務の外部委託が行われていた。)。
イ 被告は,平成16年4月以降,派遣労働者を受け入れることとし(以下,a工場の各職場における派遣元による被告に対する労働者派遣を「本件派遣」という。),派遣元との間で労働者派遣基本契約(以下「基本契約」という。)を締結するとともに,都度,派遣労働者の人数等が記載された労働者派遣個別契約(以下「個別契約」という。)を締結し,労働者派遣の役務の提供を受けていた(派遣形態は,いわゆる「登録型派遣」であり,派遣労働者は被告に派遣されることを前提に派遣元との間で派遣労働契約を締結していた。)。
ウ 被告は,平成16年10月以降,派遣可能期間経過後,同期間経過前に受け入れていた派遣労働者を被告の期間社員(以下「サポート社員」)として直接雇用する制度(以下「サポート社員制度」という。)を導入することとした。
(3)  サポート社員制度の概要等
ア 被告は,平成16年10月以降,サポート社員制度を導入し,各職場において順次,サポート社員制度の運用を開始した。
イ 被告がサポート社員として派遣労働者を直接雇用する期間(以下「サポート期間」という。)は,当初3か月と1日間であったが,後に6か月間に延長された。
ウ なお,被告は,サポート社員制度の導入に先立ち,平成16年5月頃から,派遣元との間で,被告が派遣労働者をサポート社員として直接雇用する具体的方策について協議していたところ,下記(4)ア記載の業務(以下「コンサルティング業務」という。)を派遣元に委託することとなり,被告は,派遣元との間で,当該委託に係る業務委託契約(以下「コンサルティング契約」という。)を締結した。
(4)  コンサルティング契約の概要等
ア 被告がコンサルティング契約に基づき派遣元に委託していたコンサルティング業務の内容は,次のとおりである。
(ア) サポート社員の採用選考,入社受入れに関連する業務
a サポート社員候補者に対する「募集告知」の配布及び募集内容説明会の開催
b 応募者に対する選考結果の発送業務,内定者に対する入社手続書類の作成サポート・回収,記入漏れチェック業務
c 入社手続に伴うバックオフィス業務(応募者情報のデータ化,入社手続書類の事務処理補助,書類の整理)
d 入社時教育研修会の開催(就業の心得,就業規則,職場安全衛生教育等)
e 入社時配布物の発送業務
(イ) サポート社員期間中の福利厚生補助
a サポート社員の期間中の就業等に関するコンサルティング(職場及び寮生活における問い合わせ対応,情報提供等)
b サポート社員期間中の寮・送迎等,福利厚生補助業務
c サポート社員期間中の通勤手当データを「生産サポート社員就業規則」に基づき作成
d サポート社員契約を継続する場合の対象者に対する意思確認業務
(ウ) サポート社員の退職に関連する業務
a サポート社員退職者に対する退社手続書類の作成サポート及び回収業務
b 退社時配布物の発送業務
イ 被告は,コンサルティング業務の対価として,派遣元に対し,サポート社員1人につき毎月約4万円ないし8万円の報酬を支払っていた。
(5)  派遣料金の料金体系の見直し
ア 被告は,平成18年9月以降,派遣料金の体系を大幅に見直すこととし,派遣労働者のランクを4つに格付けする制度(以下「ランク制度」という。)及び派遣元の業績を評価する制度(以下「パフォーマンス評価制度」という。)を導入した。
イ 両制度の概要は,次のとおりである。
(ア) ランク制度
同制度は,職務に対する期待値によって派遣労働者を「スタンダード」及び「ハイポジション」に大別し,前者を3段階(Cランク・Bランク・Aランク),後者を1段階(Sランク)として,4ランクの格付けを行うというものである。
(イ) パフォーマンス評価制度
同制度は,派遣元の業績を次の5つの尺度で評価(以下「パフォーマンス評価」という。)するものである。
a 出勤率・・・派遣労働者の出勤率の向上に努めたか
b 定着率・・・派遣労働者の定着率の向上に努めたか
c 事前教育の成績・・・優秀な人材の派遣に努めたか
d 配置領域・・・難しい作業工程に対する派遣に努めたか
e 増員比率・・・増員要請にどれだけ応えられたか
ウ 両制度の導入に合わせて派遣料金の料金体系が変更され,料金体系が基本部分,ランク連動部分及びパフォーマンス連動部分に細分化された。
そして,派遣労働者のランク及び派遣元のパフォーマンスは,上記各連動部分を通じて派遣料金に反映されることとなった。
(6)  原告らが派遣元又は被告を退職した経緯
ア 被告は,平成20年9月のリーマン・ショック後の景気低迷に伴い自動車生産台数を減産し,派遣労働者の受入人数を減らすこととした。そのため,当時,派遣労働者として就業していた原告X1,同X2,同X7,同X8,同X9,同X10,同X12,同X13及び同X15については,派遣元との間の派遣労働契約が更新されなかった。
イ また,当時,サポート社員として被告に直接雇用されて稼働していた原告X3,同X4,同X5,同X6,同X11及び同X14については,サポート期間満了後,派遣元との間で派遣労働契約を締結できず,再び派遣労働者として被告において就業することができなかった。
(7)  厚生労働省の指針等
ア 「派遣先が講ずべき措置に関する指針」
厚生労働省が制定した「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(平成11年労働省告示第138号,改正・平成21年厚生労働省告示第245号)によれば,労働者派遣の役務の提供を受ける期間の制限の適切な運用のために派遣先が講ずべき措置として,「派遣先は,労働者派遣法第40条の2の規定に基づき派遣労働者による常用労働者の代替の防止の確保を図るため,次に掲げる基準に従い,事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について,派遣元事業主から同条第2項に規定する派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならないこと。」とされ,「労働者派遣の役務の提供を受けていた派遣先が新たに労働者派遣の役務の提供を受ける場合には,当該新たな労働者派遣の開始と当該新たな労働者派遣の役務の受入れの直前に受け入れていた労働者派遣の終了との間の期間が3月を超えない場合には,当該派遣先は,当該新たな労働者派遣の役務の受入れの直前に受け入れていた労働者派遣から継続して労働者派遣の役務の提供を受けているものとみなすこと。」とされていた。
イ 「いわゆる『2009年問題』への対応について」
厚生労働省職業安定局長の平成20年9月26日発出に係る「いわゆる『2009年問題』への対応について」によれば,「継続して労働者派遣の役務の提供を受けているかどうかについては,労働者派遣の役務の提供を受けていた派遣先が,提供を受けていた労働者派遣の終了と新たな労働者派遣の開始の間の期間(以下「クーリング期間」という。)が3か月を超えているかどうかによって判断しているところであるが,単に3か月を超える期間が経過すれば,新たに当該業務に労働者派遣の役務の提供を受けることとすることは,労働者派遣法の趣旨に反するものであること。このため,労働者派遣の役務の提供を受けていた派遣先が,派遣可能期間を超えてもなお,同一の業務を処理することが必要な場合には,基本的には,クーリング期間経過後再度の労働者派遣の受入れを予定することなく,指揮命令が必要な場合は直接雇用に,指揮命令が必要でない場合は請負によること」とすべきであるとされていた。
3  争点及び争点に関する当事者の主張
(原告らの主張)
(1) 原告らの主張の骨子
原告らの主張は,次の3点から成る。
ア 労働者派遣法に違反する労働者派遣は,もはや「派遣」とは評価できず,職業安定法(以下「職安法」という。)44条が禁止する労働者供給にほかならないから,原告らと派遣元との間の派遣労働契約は無効である。
その上で,原告らと被告との実質的な関係を考察すれば,両者の間には黙示の労働契約が成立する。
イ 仮に,労働者派遣法に違反する労働者派遣を「派遣」と評価するにせよ,本件においては最高裁平成21年12月18日第2小法廷判決(民集63巻10号2754頁。以下「平成21年判決」という。)が判示する派遣労働契約を無効と解すべき「特段の事情」が認められるため,原告らと派遣元との間の派遣労働契約は無効である。
そして,原告らと被告との実質的な関係を考察すれば,両者の間には黙示の労働契約が成立する。
ウ 仮に,労働者派遣法に違反する労働者派遣を「派遣」と評価し,かつ,本件において平成21年判決がいう「特段の事情」が認められず,原告らと派遣元との間の派遣労働契約が有効であるとしても,原告らと被告との実質的な関係を考察すれば,両者の間には黙示の労働契約が成立する。
以下,詳述する。
(2) クーリング期間経過後の派遣労働者の再度の受入れが労働者派遣法40条の2に違反することについて
ア 被告は,派遣労働者を受け入れていた業務と同一の業務を恒常的に行い,かつ,業務の取扱状況等に何ら事情の変化がないにもかかわらずクーリング期間を設定してサポート社員という名の直接雇用労働者を配置し,クーリング期間経過後には派遣労働者の再度の受入れを行っていた。厚生労働省職業安定局長が平成20年9月26日に発出した「いわゆる『2009年問題』への対応について」によれば,要旨「派遣元事業主が,派遣就業を終え派遣元事業主と雇用関係のなくなった派遣労働者(旧派遣労働者)について,派遣就業を行っていた派遣先(旧派遣先)において,直接雇い入れること及び旧派遣先での直接雇用の後に派遣労働者を改めて雇い入れて,再度派遣労働者として旧派遣先において派遣就業を行うことを派遣先と合意している,又は派遣労働者への説明において明らかにしている場合等には,旧派遣労働者が自由な意思に基づいて結果として旧派遣先と雇用契約を締結する場合を除き,旧派遣先が旧派遣労働者を直接雇い入れている期間に派遣元事業主と旧派遣労働者との間に支配従属関係が認められ,労働者供給に該当するところ,このように直接雇用への切替えによる対応が違法な労働者供給事業として判断される場合には,クーリング期間が適正に3か月を超えているとは判断できない。」とされているところ,サポート期間が平成19年頃以降を除いて3か月プラス1日であったこと等の事情によれば,サポート期間が単にクーリング期間を満たすだけのものとして制度設計されたものであることは明らかである。そして,被告がクーリング期間を満たすためにサポート社員制度を導入したということは,被告が派遣労働者の再度の受入れを予定していたことを意味する。
また,当時,被告の自動車生産台数が増産傾向にあったにもかかわらず被告従業員及び派遣労働者の数にほとんど変化がなかったことによれば,サポート期間終了後の派遣労働者の受入れは被告にとって必須であったといえることに加え,サポート社員への切替えは職場ごとに順次サポート期間を設定して行われていたこと,現実に多くの派遣労働者が派遣労働者・サポート社員・派遣労働者の循環を繰り返していたこと,ランク制度の運用上,在職期間は派遣期間とサポート期間が通算される取扱いとされていたこと,被告が派遣元との間で「派遣料金パフォーマンス部分に関する覚書」を締結し,パフォーマンス評価制度を導入して派遣労働者の「定着率」によって派遣料金を増減させていたこと,被告が派遣労働者に対して「Y社製造カレンダー」を配布して1年間の生産計画及び勤務シフトを示していたこと,被告が派遣労働者に対し有効期間1年間の入門証を交付し,派遣労働者又はサポート社員の別にかかわらず同じ入門証を使用させていたことからすれば,被告は派遣労働者を長期間にわたって就労させる意図を有していたといえる。さらに,被告がサポート期間終了後に再び同社員を派遣労働者として受け入れるにはサポート社員の入退社手続や労務管理を派遣元に代行させたほうが混乱が生じないと考え,派遣元との間でコンサルティング契約を締結して派遣元にサポート社員の入退社手続等のコンサルティング業務を代行させていたこと等の事情によれば,被告がサポート社員をサポート期間終了後に当該社員がサポート期間前に所属していた派遣元に戻すことを予定していたことは明らかである。
イ なお,前記「いわゆる『2009年問題』への対応について」によれば,「旧派遣労働者が自由な意思に基づいて結果として旧派遣先と雇用契約を締結する場合を除き」という除外事由が設けられている。しかし,被告は,派遣労働者と同一人物が同一職場でサポート社員となることを望んでおり,実務面での混乱回避や品質向上,効率改善に関するノウハウの維持,蓄積という面からして,被告には同一人物を同一職場においてサポート社員とする高度の必要性があり,事実上の強制を行う契機があった。
また,派遣労働者は,派遣労働者として就労を継続しようと思っても,サポート期間中である職場では派遣労働者として就労することはできないし,派遣期間中である他の職場では他の派遣労働者がすでに就労していて空きがないから就労することができず,被告での就業を望む派遣労働者にとって,サポート社員となることの事実上の強制は,いわば制度自体に内在していた。さらに,派遣労働者に対しては「法律のため,1年以上は働けない。それで,職場ごとに区分けして,一度Y社の社員になってもらう。3か月して,また戻ってきてもらう。」などの説明が派遣元担当者からなされていたこと,「派遣をいったん切ります。サポートになれば給料は派遣よりちょっといい。サポートが終われば元に戻れるから。」などの説明が被告従業員からなされていたことからすれば,制度設計上,派遣労働者はサポート社員となることを事実上強制されていたといえる。
(3) 派遣労働契約が無効と解されることについて
ア 被告と派遣元との間の労働者派遣契約が違法な労働者供給に該当すること
(ア) 労働者派遣法の制定に当たり職安法4条6項の労働者供給の定義から労働者派遣が除外されたが,労働者供給が禁止されている趣旨に照らせば,職安法の適用が除外される労働者派遣は,適法な労働者派遣に限られるというべきである。この点,政府は国会答弁において労働者派遣法40条の2違反が職安法44条違反であるとの見解を示しているし,厚生労働省も「いわゆる『2009年問題』への対応について」において,派遣可能期間経過後において派遣先が派遣労働者を雇い入れて対応する場合,派遣元事業主が派遣就業を終え派遣元事業主と雇用関係のなくなった派遣労働者について,派遣事業を行っていた派遣先において,直接雇い入れること及び旧派遣先での直接雇用の後に旧派遣労働者を改めて雇い入れて,再度派遣労働者として旧派遣先において派遣就業を行うことを,派遣先と合意している又は派遣労働者への説明において明らかにしている場合等には,旧派遣労働者が自由な意思に基づいて結果として旧派遣先と雇用契約を締結する場合を除き,旧派遣先が旧派遣労働者を直接雇い入れている期間に派遣元事業主と旧派遣労働者との間に支配従属関係が認められ,労働者供給に該当するとの指針を示している。
(イ) 前記のとおり,被告はクーリング期間を悪用して派遣可能期間を超えて継続して労働者派遣の役務の提供を受けているところ,このような違法な労働者派遣はもはや労働者派遣とはいえず,被告と派遣元との間の労働者派遣契約は違法な労働者供給に該当する。したがって,その労働者供給のために締結された原告らと派遣元との間の派遣労働契約は,職安法44条,労働基準法(以下「労基法」という。)6条に違反する。
よって,原告らと派遣元との間の派遣労働契約は,民法90条により無効である。
イ 派遣労働契約を無効と解すべき「特段の事情」が認められること
(ア) 平成21年判決によれば,派遣元事業主と派遣労働者との間の法律関係について,「労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質,さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば,仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効となることはないと解すべきである。」と判示されているところ,その調査官解説によれば,「特段の事情のない限り」という判示部分の趣旨は,「労働局による指導等に対応して出現すべき脱法的な違法派遣の態様は今後も様々なものが想定されることから,その態様によっては派遣元と派遣労働者との間の雇用契約が無効になる可能性があり得ることをあらかじめ宣明しておくという趣旨」とされている。
そして,本件派遣における脱法的な違法派遣の態様によれば,原告らと派遣元との間の派遣労働契約を無効と解すべき「特段の事情」が認められる。
以下,詳述する。
(イ) まず,労働者派遣法は,幾度の改正を経た今日においても労働者派遣をあくまで臨時的・一時的な労働力の需給調整のためのシステムとして位置づけているところ,平成11年改正により適用対象業務が限定されなくなった(いわゆるネガティブリスト化)ことで,派遣可能期間を定めた労働者派遣法40条の2が常用雇用の代替を防止するための「最後の砦」となった。換言すれば,同条は,労働者派遣の合法性を根拠付ける最も根幹的な規定であり,したがって,同条違反は,労働者派遣法の趣旨及び目的を根本から否定する悪質性を有する。
被告が同条を遵守し,直接雇用申込義務を果たしていれば,原告らは被告の正社員となる機会を与えられた上,解雇権濫用法理の下に保護され救済されていたか,または少なくとも有期契約社員となる機会を与えられた上,雇止め法理の下に保護され救済されていたはずである。本件における被告の「脱法的な違法派遣の態様」は,労働者派遣法を適用することでは派遣労働者を保護することができないものであり,本件においては,むしろ労働者派遣法の適用を否定して派遣労働者を保護することが要請される。
(ウ) 次に,被告は,クーリング期間を悪用するためにサポート社員制度を導入していたところ,派遣元がコンサルティング契約を締結してサポート期間中のコンサルティング業務を受託していたことによれば,そのようなクーリング期間の悪用は,被告と派遣元との理解と協同の下でなされていたといえる。
また,被告は,Cランク・Bランク・Aランク・Sランクの4段階に派遣労働者を格付けし,ランクが上がるごとに派遣料金も上昇する仕組みを構築していたところ,このランク制度を被告が考案したことや,派遣労働者のランクを決定していたのが被告であることに争いはない。被告は,複数存在する派遣元について,一律に,派遣料金の上昇額を決定していた。そして,職場を変わった派遣労働者は,従前のランクを維持することはできず,再びCランクから始まることになっていた。
これらを前提にすると,被告が自ら決定するランクによって同一人物が同一職場で就労し続けるように仕向けていたことが明らかとなる。すなわち,派遣元としては,より高額の派遣料金を得るため同一人物を同一職場に派遣し続けることが合理的であり,派遣労働者としても,その時点でのランクを維持して,より高額の賃金を得ようとするから,同一職場への派遣を希望することになる。
このように,クーリング期間悪用のシステムであるサポート社員制度が極めて大規模かつ組織的に実施されていたこと,サポート期間の前後を通じて同一人物が派遣されるようにするためランク制度が用いられていたこと等の事情によれば,本件派遣における被告の悪質性は,極めて高い。
(エ) さらに,原告X2,原告X3,原告X7及び原告X11の4名については,平成16年2月29日以前からa工場で就労していたものであるところ,その就労形態は,派遣元が被告と業務請負契約を締結し,派遣元の従業員としてa工場で就労するというものであったが,上記4名は被告の指揮命令を受けて就労しており,当該就労形態が違法な偽装請負であったことは自明である。
このように,被告が派遣労働者の受入れ以前に違法な偽装請負をしていた事実は,前記「特段の事情」を補強するものというべきである。
(4) 原告らと被告との間に黙示の労働契約が成立すること
ア 労働契約が労働者の使用者に対する「人的従属性」及び「経済的従属性」を内在している以上,労働契約の成否は,使用者・労働者の形式的な意思表示の有無によって決せられるべきではなく,当該労働供給形態の具体的実態により,両者間に従属性が認められるか否か,換言すれば,事実上の使用従属関係(使用者からの指揮命令関係)があるか,労務提供関係(それに対する労働者の労務の提供)があるか,賃金支払関係があるかという実態面から判断されるべきものである。
イ 被告は,平成18年9月以降ランク制度を導入したところ,派遣労働者のランクと派遣労働者の賃金は連動するように仕組まれていた。いずれの派遣元においても,ランクと時給は連動していたのであり,ランク決定の実質的な意味は,派遣労働者の時給決定にあった。また,サポート社員にあっても,その時給は,派遣労働者時代の賃金と同一水準になるよう制度設計がなされていた。
このように,ランク制度に基づき被告のイニシアティブによって習熟度が判断され,それに連動して派遣労働者の賃金が決定されていたのであり,この連動こそが派遣労働者の賃金決定権に当たる。
ウ さらに,被告は,派遣労働者を受け入れる際に試験を行って派遣労働者を評価した上で,その評価に従って派遣労働者の配置部署を決定し,被告が派遣労働者を別の職場に異動させることもあった。派遣労働者が休暇を取得する場合には被告工場の職長の許可が必要であった。被告は,ゴールデンウィーク,お盆,年末年始等の長期休暇の際には「緊急連絡用住所録」を作成し,正社員との区別なく労働者の所在を把握していた。
a工場における自動車の製造ラインは,大まかにいえばプレス工程に始まり,溶接工程,塗装工程,各種部品の取付工程,完成検査工程という順番を辿るところ,どの職場においても被告従業員・派遣労働者・サポート社員が入り交じって働いており,派遣労働者らは,被告従業員と全く同一の労務を提供していた。被告は,派遣労働者の出退勤を「エムタス」というシステムを用いて被告自身で管理しており,休憩の付与,残業命令についても雇用形態の区別なく同一の取扱いをしていた。派遣労働者も被告従業員と全く同一の指揮命令系統に組み込まれ,派遣労働者は被告従業員と同一の備品を利用し,被告工場の社員食堂,売店の利用も許されていた。一部の派遣労働者は,被告の所有する寮に入寮していたものもいる。被告工場では,TPMと呼ばれる生産システムの効率化を図る講習会などが実施され,被告従業員だけでなく派遣労働者もこれに参加していたし,年1回開かれる○○(人材育成を図る講習会)にも参加していた。
エ 以上によれば,原告らと被告の間には「事実上の使用従属関係」と「客観的に推認される黙示の意思の合致」のいずれもが認められるから,原告ら派遣労働者と被告との間には黙示の労働契約が成立しているといえる。
(5) 不法行為(期待権侵害)について
ア 原告らは,その就労期間の長短や,「解雇」の態様(就労の終期において派遣労働者であったかサポート社員であったかを問わない。)にかかわらず,等しく雇用継続に対する期待を有していたところ,被告は,労働者派遣法違反の行為を継続して原告らを就労させた上で「解雇」し,原告らのかかる雇用継続の期待権,正社員化への期待権を侵害した。
たしかに,労働者派遣においては,派遣元事業主が雇用主として派遣労働者に対して雇用契約上の契約責任を負うものであり,派遣先において派遣労働者に対する契約上の責任を負うものではない。しかし,派遣先は,派遣労働者を受け入れ就労させるにおいて,労働者派遣法上の規制を遵守するとともに,その指揮命令下に労働させることにより形成される社会的接触関係に基づき派遣労働者に対し信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務がある。したがって,かかる義務に反し,ただでさえ雇用の継続性において不安定な地位に置かれている派遣労働者に対してその勤労生活を著しく脅かすような信義にもとる行為が認められるときには,派遣先の行為は違法となる。
イ 前記のとおり,被告は自ら「クーリング期間悪用の一体的システム」を構築したのであるから,当然ながら労働者派遣法に違反する基礎となる事実関係は十分認識しており,それにかかわらず,被告は違法状態を解消することなく漫然と労働者派遣の役務の提供を受け,原告らを「解雇」して原告らの期待権を侵害したのであるから,この点について故意,少なくとも過失が認められる。
ウ そして,原告らが長きにわたる違法な派遣労働下において就労させられたという違法の重大性に鑑みれば,原告らに対する慰謝料としては,各100万円が相当である。
(被告の主張)
(1) クーリング期間経過後の派遣労働者の再度の受入れが労働者派遣法40条の2に違反しないこと
ア 被告がクーリング期間経過後の派遣労働者の再度の受入れを予定していなかったこと
被告が平成15年6月の労働者派遣法の改正を受けて派遣労働者の受入れを開始した背景には,主力車種のフルモデルチェンジに伴う翌年以降の一時的な増産への期待感の高まりがあったが,変動する景気状況や販売状況を長期的に予測することは困難であり,被告は,景気や販売状況の変動に的確に対応した自動車の製造を行うため,生産計画については1か月単位で確定させるとともに,職場ごとの必要人員数についても1か月単位で確定させていた。
そのため,被告は,派遣人数,業務内容,派遣期間,就業場所等の具体的な内容を定めた派遣元との間の個別契約については,その都度,職場ごとに,原則として1か月単位で締結していた。仮に,被告が長期的な派遣労働者の受入れを当初から予定していたのであれば,事務処理の効率化の観点からも,毎月その都度個別契約の締結を繰り返すような非効率なことをする訳がなく,被告が,毎月,個別契約の締結を行っていたこと自体,被告において長期的な派遣労働者の受入れを予定していなかったことの証左である。
このように,被告においては,職場ごとの必要人員数につき長期的な予測を立てることはそもそも困難ないし不可能であり,1か月単位でなければ職場ごとの必要人員数が確定しないのであるから,3か月を超えるサポート期間終了後に再び派遣労働者を受け入れることを当初から予定することなど,そもそもあり得ない。
イ サポート社員又は派遣労働者の切替えが派遣労働者の自由意思に基づき行われていたこと
サポート社員への応募,サポート期間経過後の派遣元との間の派遣労働契約の締結は,いずれも派遣労働者の自由意思により行われていた。サポート社員としての雇用は,該当する職場の派遣労働者全員につき,無条件に行われるものではなく,職場ごとの被告の募集に対し,自由意思で応募してきた派遣労働者のみを対象として,さらに被告における採用決定を経て行われていた。
また,被告は,サポート期間終了後のサポート社員の去就について何ら関与しておらず,サポート期間終了後,なお人員の必要があるため再度派遣労働者を受け入れる場合であっても,派遣元から通知のあった派遣労働者をそのまま受け入れており,派遣労働者を特定するような行為は一切行っていない。
このような被告におけるサポート社員の採用方法等からすれば,派遣労働者がサポート社員になることや,サポート期間終了後再び派遣元に戻ることにつき,事実上であれ強制されていたということはあり得ない。派遣労働者が被告のサポート社員となるか否か,サポート社員が期間満了後再び派遣元との間で派遣労働契約を締結するか否かについては,いずれも派遣労働者の自由な意思に委ねられていたことは明らかである。
(2) 派遣労働契約を無効と解すべき「特段の事情」がないこと
ア 万一,被告におけるサポート社員制度の運用が,結果的に違法ないし労働者派遣法の趣旨に反するものとの評価がなされることがあったとしても,本件派遣において派遣労働契約を無効と解すべきような特段の事情は認められない。
イ 原告らは,労働者派遣法40条の2の趣旨とされている「常用代替防止」の概念が,生存権(憲法25条)及び個人の尊厳の尊重(憲法13条)に由来する労働者の憲法上の権利であるとの理解を前提として,労働者派遣法40条の2違反は,それ自体同法の他の諸規定の違反とは異なる特段の悪質性を有するものである旨主張する。
しかし,労働者派遣事業は,労働者派遣法制定当初から労働力需給機能をもつ雇用形態として認識されており,同法制定当初こそ長期雇用制度を基調とするわが国の雇用慣行を重視した法規制が行われていたものの,わが国における経済社会の構造改革及び国際競争力の強化の必要性や,労使双方の意識変化といった社会環境の変化を受けて,雇用調整機能としての機能がより重視されていったものである。「常用代替防止」の概念は,従来からの長期雇用を基調とするわが国の雇用慣行に基づき,あくまでも立法政策として採用されたものに過ぎないのであって,わが国における経済社会の構造改革推進の必要性や労使双方の意識変化,さらには派遣先の営業の自由や採用の自由等との関係で,これらに優越する程の高度な要保護性,普遍性を持つものということまではできない。
そもそも,労働者派遣法40条の2違反がそれ自体同法の他の諸規定の違反とは異なる特段の悪質性を有するものと評価し得ないことは,同法第5章の罰則規定において,同法40条の2違反が挙げられていないことからも明らかである。
ウ また,原告らは,労働者供給事業の禁止と労働者派遣事業の解禁とが原則・例外の関係にあるとの理解を前提として,労働者派遣法40条の2に反する労働者派遣事業は,職安法44条によって禁止される労働者供給事業に該当する旨主張する。
しかし,昭和60年の労働者派遣法の制定に当たり,労働者派遣事業と労働者供給事業とは,それぞれ概念の明確化が行われているのであって,両者が全く別の概念であることは,法制定当初から確認されていたところであるし,労働者派遣事業が労働者供給事業の例外でないことは,平成21年判決が「労働者派遣である以上は,職安法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はない」と判示していることからも明らかである。
エ 被告における派遣労働者の受入れの運用には,何ら悪質性がない。被告は,派遣労働者を受け入れるに当たって,派遣元との間で基本契約を締結し,受入れの都度,個別契約を締結するとともに,派遣元から派遣通知書の送付を受けており,実際にも,派遣通知書に記載された派遣労働者をそのまま受け入れていた。このことは,サポート期間終了後,結果的に再度派遣労働者の受入れを行うことになった場合でも何ら変わるところはなく,被告においては,関係監督官庁からの指示に基づき,派遣労働者の特定に該当する行為を行わないことを周知徹底していた。さらに,被告は,派遣労働者をサポート社員として雇用する際には,入退職にかかわる書類の受発信業務や福利厚生事務の一部(寮の管理)こそ一部派遣元会社に委託していたものの,採否決定,給与計算及び給与支払,各種保険の付保,勤怠管理,有給休暇の管理等,雇用主として行うべき労務管理については,自らこれを実施していた。
このように,被告における派遣労働者の受入れ及びサポート社員の雇用については,いずれも,それぞれの法形式に則った形で適切に運用がなされており,これらの運用が形骸化していたような事情も全くなかった。
オ 被告は,派遣労働者の受入れを開始するに先立ち,平成16年2月頃,広島東公共職業安定所に相談に赴き,製造部門への派遣労働者の受入れを行うことや,派遣可能期間経過後になお人員が不足する場合の措置として期間を定めた直接雇用の方法を考えていることについて相談をしていたが,かかる相談に対しては,当時,広島東公共職業安定所からは特に問題はない旨の回答を受けていた。
また,被告は,サポート社員制度を導入するに先立ち,平成16年5月頃,広島東公共職業安定所に相談に赴き,クーリング期間経過後の直接雇用の期間を3か月と1日とすることや,派遣可能期間経過後になお人員の必要性がある場合には再度派遣労働者の受入れを行う可能性があることについても相談をしていたが,かかる相談に対しても,当時,広島東公共職業安定所からは特に問題はない旨の回答を受けていた。
(3) 原告らと被告との間に黙示の労働契約が成立しないこと
ア 本件においては,派遣労働契約が無効となる余地はなく,原告らと被告との関係は,あくまでも派遣労働者と派遣先の関係の域を出るものではない。また,被告が派遣先としての関与を超えて,原告らとの間で黙示の労働契約を締結したと評価し得る事情も存在しない。
イ 原告らは,いずれも,派遣元が行った新聞の折り込み広告やチラシ等により派遣元において求人がなされていることを知り,派遣元に応募したものであり,原告らは,いずれも派遣元に雇用されていたとの認識を有していた。原告らは,いずれも,実際に被告の職場で就労する以前から,業務の内容,就労場所,契約期間,給与(時給等),有給休暇の有無及び寮の有無等の労働条件について,派遣元の担当者から説明を受けていた。派遣労働者としての原告の採用手続は,もっぱら派遣元との間でのみ行われており,かかる原告らの採用に被告が関与した事実はない。原告らは,いずれも,応募の時点で,自らの雇用形態が正社員でなく派遣労働者であることを十分認識しており,被告における就労があくまでも派遣先としての就労に過ぎないことについて十分認識していた。
また,被告が原告らの賃金決定に関与した事実はない。派遣元が派遣労働者に支払っていた賃金については,派遣元ごとに賃金体系もまちまちであり,日給制の派遣元もあれば時給制の派遣元もあったほか,実際の賃金単価の多寡も派遣元によって異なっていた。原告らは,ランク制度の存在を根拠として,被告が原告らの賃金を決定していた旨主張するが,そもそもランク制度は,当時の人材派遣業界の売り手市場を背景として,派遣元から優れた人材を確保するとともに,派遣労働者のスキルアップの支援やモチベーションを向上させることを目的とした制度であって,被告が派遣労働者の賃金を決定することを目的とした制度ではない。
さらに,被告は,派遣通知書に記載された派遣労働者をそのまま受け入れていたのであって,被告が派遣労働者の就労場所の決定に関与した事実はない。また,原告らは,有給休暇取得の是非を被告が決定していたかのように主張するが,原告らの有給休暇の取得について時季変更権の行使等を行い得るのは派遣元であって,被告は,派遣労働者の有給休暇取得については何らの権限も有していない。このことは,派遣契約終了後,原告X6及び原告X14が,未消化の有給休暇の買取り等について派遣元と交渉していたことからも明らかである。
(4) 不法行為(期待権侵害)が成立しないこと
ア 原告らは,被告の派遣労働者の受入れに労働者派遣法40条の2違反が存在したことを前提に,被告に原告らを直接雇用して正社員とすべき義務が発生したとして,被告が原告らを雇止めしたことが原告らの「継続雇用の期待権」を侵害する行為であるとして,不法行為に基づく慰謝料請求を行っている。
しかし,原告らは,いずれも,派遣元において雇用された際,自己の雇用形態が労働者派遣であることを認識していたところ,派遣可能期間に制限がある以上,派遣労働者として被告における永続的な就労が望めないことは当然であるから,原告らが継続雇用の期待権を有していたと解する余地はない。
イ また,そもそも労働者派遣法は行政取締法規であるから,労働者派遣法によって保護される利益は,基本的には派遣労働に関する雇用秩序であり,これを超えて,派遣労働者と派遣先企業との労働契約の成立を保障したり,個々の派遣労働者の利益を保護したりするものではない。
したがって,派遣先に労働者派遣法40条の2違反があったとしても,そのことによって直ちに,個々の派遣労働者が派遣先に対する「継続雇用の期待権」が生じることはない。
第3  当裁判所の判断
1  前記前提事実に証拠(甲A5,6,17~23,40,42~51,甲B1の4~8,甲B2の1,甲B3の2,甲B4の5,6,甲B5の5,甲B6の4~6,甲B7の5,6,甲B8の5,6,甲B9の4,甲B10の4,5,甲B11の4,甲B12の5,6,甲B13の4,5,甲B14の4,甲B15の4,甲B16の2,甲B17の5~16,乙A1~95,乙B1の1,2,乙B2の1,2,乙B3の1,2,乙B4の1~4,乙B5の1~3,乙B6の1~5,乙B7の1~4,乙B8の1~3,乙B9の1,2,乙B10の1,2,乙B11の1,2,乙B12の1~3,乙B13の1,2,乙B14の1,2,乙B15の1~4,乙B16の1,2,乙B17の1,2〈枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ〉,原告X7本人,原告X5本人,弁論分離前原告B本人,原告X14本人,原告X6本人,証人C)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次のとおり認められる。
(1)  a工場の概要等
ア 概要
a工場は,b地区(敷地面積79万2000m2)とc地区(同53万7000m2)から成る自動車製造工場であり,主としてb地区においては□□,△△等の自家用自動車を,c地区では変速機を生産している。
イ 組織構成
(ア) a工場の組織構成は,部・課・係から成り立っており(例えば,第4車両製造部は,プレス課,第1塗装課,第2塗装課,第1組立課,第2組立課等に分かれ,プレス課は,第1プレス係及び第2プレス係に分かれていた〈乙A74〉。),各係には職長(被告従業員)が置かれ,その当時の職長の名を冠して何々職場と呼称されていた。
(イ) 各職場は,派遣労働者が就業する最小単位の組織であり,同職場における業務は,労働者派遣法上の「事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務」(同法40条の2)に該当する。
ウ 派遣元ブース
a工場構内には,派遣元のブースが設けられており,派遣元の社員が常駐していた。
(2)  被告における労働者派遣の役務の提供の受入れ
ア 被告が労働者派遣の役務の提供を受けるに至った経緯
(ア) 平成15年6月の労働者派遣法の改正により,平成16年3月1日から物の製造領域における労働者派遣事業が解禁されることとなった(その派遣可能期間は,平成19年2月までは1年間であり,同年3月以降は3年間である。)ことを受け,被告は,平成15年11月頃,社内にプロジェクトチームを設け,当時の増産傾向に対応しながら将来的な生産量の変動に対応できる人員配置の方法を検討した(なお,プロジェクトチームが発足した平成15年11月当時,a工場等においては業務請負方式による自動車製造業務の委託が行われていた。)。
(イ) プロジェクトチームによる検討の結果,被告は,平成16年4月から労働者派遣の役務の提供を受けることとし,派遣元との間で基本契約を締結した。
なお,基本契約によれば,被告に派遣される派遣労働者の業務内容,人数等は個別契約に定め締結するとされており,また,派遣料金についても,派遣元と協議の上,個別契約により取り決めるとされていた。
イ 労働者派遣の役務の提供の受入れ
被告は,毎月中旬頃に生産管理部において翌月の自動車生産計画を確定し,毎月20日頃,各職場において必要となる派遣労働者の人数を確定するとともに部長が派遣元との間で個別契約(Sランクを除く。Sランクの個別契約の契約期間は1年間であった。)を締結し,労働者派遣通知書(乙A34)に従い,派遣労働者を受け入れていた。
(3)  原告らの就労実態等(原告X9を除く〈同人の陳述書は提出されておらず,人証申請もなされなかった。〉〉
ア 原告X1
原告X1(昭和35年○月○日生〉は,福岡県の高校卒業後,福岡県内で車の部品販売店などに勤務し,平成16年には派遣労働者として神奈川県平塚市の日産自動車株式会社の工場で働いた後,平成16年7月,d社と派遣労働契約を締結し,同年8月17日から,a工場(b地区)の第4車両製造部の職場において,車のサイドフレームに大小の部品を取り付けていくセット場と呼ばれる場所に部品を供給する作業に従事していた。原告X1は,派遣という不安定な地位から抜け出して正社員になりたかったので,残業や休日出勤を断ることもなかった。平成18年9月1日,Aランクに昇格した。ランクの認定は,職長が行った。TPM(Total Productive Maintenance)と呼ばれる改善作業(生産活動における各種ロスを軽減するための自主保全活動〈甲B10の5〉)にも参加していた。
原告X1は,2回サポート社員を経験した。サポート社員になる前,d社の担当者から,「法律のため,1年以上は働けない。それで,職場ごとに区分けして,一度Y社の社員になってもらう。3か月して,また戻ってきてもらう。」との説明を受けた。サポート社員の雇用契約書は,d社の担当者から渡され,d社の担当者に提出した。契約内容についても,d社から説明された。サポート社員の仕事は,派遣労働者のときと内容は同じであり,利用していたロッカーも同じだった。身に着ける物で,派遣労働者のときとサポート社員のときで違うのは,ヘルメットのマークだけで,入門証は,派遣労働者からサポート社員に変わっても,派遣労働者のときの物をそのまま使用し,有効期限が切れたときに更新していた。宿舎からの送迎バスも,派遣労働者のときと変わらなかった。
有給休暇を取得するときは,派遣労働者のときもサポート社員のときも,まず職長に申し出て許可を貰っていた。派遣労働者のときはその後,d社に申請書を提出していたが,実質的な許否の判断は,職長が行っていた。
原告X1は,被告で長く働き続けたいと考えており,そのためには資格の取得が不可欠と思い,在職中,自主保全士,アーク溶接,ガス溶接,危険物乙4種,研削砥石,有機溶剤作業責任者の資格を自費で取得した。特に,自主保全士の資格取得は職長から勧められたものであり,2年目に2級を,3年目に1級を取得した。
平成20年11月下旬,d社の担当者から解雇通知を手渡され,同年12月26日をもって被告における就業を終えた。職場の係長からは,「すまない。こんな結果になって。X1には残ってもらおうと努力はしたのだが。」と言われた。原告X1は当時,d社の寮に住んでいたが,d社の担当者から「住居は,年明けの1月いっぱいに転居してほしい。」と言われ,平成21年1月,民間アパートに転居した。
イ 原告X2
原告X2(昭和41年○月○日生)は,山口県の中学卒業後,塗装業,建設会社などいくつかの職を経験したのち,d社の募集に応じ,平成15年7月から被告のa工場においてサイドフレームの部品組付作業,溶接作業等に従事していた(なお,当初はd社の業務請負方式による就業であったが,原告X2に請負との認識はなかった。平成16年4月以降,派遣形態となった。)。原告X2は,やりがいを感じながらそれらの仕事をこなしており,新入社員の指導を行うことや,残業もそれなりにこなしていた。上司から「X2君に任せていたら,仕事が早く終わる。」と言われたこと,仕事を1人で任されたこともあった。原告X2は,働ける限りずっと,被告で働きたいと考えていた。
原告X2は,2回サポート社員を経験した。サポート社員制度について,d社の担当者からは,「3か月と1日が終わったら,また戻ってくる。」,「形だけ」,「書類上のこと」,「わからないだろうけど,そうしないとややこしいことが発生する」などの説明を受けていた。
平成20年12月頃,d社の担当者から,「Y社の車が減産になったため,派遣は首を切られることになった。申し訳ないけど,1月半ばくらいでやめてもらう。」と言われ,平成21年1月16日をもって被告における就業を終えた。原告X2は,d社が次の派遣先を見付けてくれると考えていたが,d社の担当者からは次の派遣先はないと言われた。
ウ 原告X3
原告X3(昭和36年○月○日生)は,熊本県の高校卒業後,九州日本電気株式会社に就職し,その後,いくつかの職を経験した。新聞の営業の仕事をしていた平成15年9月当時,給料の安定した製造の仕事に就きたいと考え,求人案内を見てf社に応募した。同月2日,福岡県の同社事務所で面接と適性試験を受け,同月3日,h寮に入寮し,同月4日から3日間,被告の社員からボルトの締め方,器具・機械の使い方,安全教育などの研修を受け,4日目にa工場(b地区)のD職場に配属された(なお,当初はf社の業務請負方式による就業であったが,平成16年4月以降,派遣形態となった。)。
a工場(b地区)では,クーラー外部の配線やワイパー起動装置の取付けを行うD職場,アクセルワイヤー,ボンネット裏側カバー,サンルーフ本体の取付けを行うE職場,前輪左側本体カバー,ブレーキワイヤー取付け,ボルト締付作業を行うF職場,3つの職場を経験したところ,いずれの職場も3分の1が派遣労働者,3分の2が被告従業員であり,両者で仕事の内容に違いはなかった。原告X3がa工場(b地区)にいる間で,原告X3が知る限り3人くらいの派遣労働者が職長の推薦で正社員となっており,原告X3も,なれるものなら身分の安定した正社員になりたいと思い,仕事をしていた。
平成16年8月22日から,a工場(c地区)第2変速機組立係の職場に異動となり,トランスミッションの組立作業に従事していた。ここでも,被告従業員と派遣労働者が同一の作業に従事していた。
原告X3ら派遣労働者には,被告従業員と同じように休日出勤が求められており,機械の調整や清掃,ペンキ塗り等の改善作業や,安全対策の一環として作業手順のリスク評価の追求など事務的作業のために休日出勤を求められたこともあったが,原告X3は,頑張って休日出勤していれば正社員になれるかもしれないという期待もあり,それに応じていた。
有給休暇を取得するときは,まず職長の了解を得て,休暇申請書に職長の押印を貰ってからf社に提出していた。職長から「その日は休まないでくれ。」と言われて休めなかったこともあった。
作業着については,最初の1着だけf社から支給されたが,その後はa工場の売店で購入していた。派遣労働者は社員割引を利用できないことになっていたが,職長から職員専用の発注書を貰い,社員割引を利用して購入していた。
平成17年夏ころ,班長から「職長から,X3さんを正社員にしようかという問いかけがあったけど,そうなったらどうする?」と言われたことがあったが,後日「あの話はなくなった。その気にさせてごめん。」と言われた。
原告X3は,3回サポート社員を経験した。サポート社員についてf社の担当者から「仕事内容は変わらず,3か月と1日だけY社の社員となり,その後また派遣社員に戻る。給料も今の時給に見合うように出る。実質的に何も変わらないから,理解できたらサインちょうだい。」などと説明された。原告X3が「サポートにならなかったらどうなるの。」と聞いたことがあったが,答えは「辞めるか,職場異動になる。」というものであった。サポート社員になっても,事前の説明のとおり仕事内容に変化はなかった。
3回目のサポート社員であった平成21年2月中旬頃,サポート社員全員が集められ,被告総務部の社員から,「サポート社員は全員,4月以降は派遣元には戻れません。また,Y社にも残れません。」と通告され,原告X3は,平成21年3月31日をもって被告における就業を終えた。
エ 原告X4
原告X4(昭和32年○月○日生)は,日本体育大学中退後,いくつかの飲食店での勤務を経た後,平成17年にf社の求人案内を見て,同社の面接を受けたところ,被告のa工場に派遣された。初日,車の運転適性テストと知能テストを受けた後,a工場(b地区)の検査部管理課製品検査係のG職場に配属された。仕事内容は,外観の塗装に傷がないか,内装,ラジオ,エアコン,ワイパー,ライト,ストップランプなどの作動チェック,ギアがスムースに動くか,ドアの開閉等の確認というものだった。この職場は,昼夜二交代制で,それぞれ6人位の労働者がいたところ,監督する側の人間が被告従業員,実際作業する人間が派遣労働者だった。原告X4が知る限り,同じ職場で働いていた派遣労働者の1人が被告の正社員募集に応募して採用された。
原告X4は,寮の暮らしが我慢できなかったことなどから平成18年4月30日をもってf社をいったん退職して被告における就業を終えたが,平成19年11月20日以降,再びf社との間で派遣労働契約を締結し,被告に派遣された。このとき,最初の3日間は,a工場(c地区)の作業場所において被告社員から変速機の組立作業を教えてもらうなどし,3分以内に作業を終えられるかの試験に合格してからH職場に配属され,変速機のカバー内の部品の組付け,部品庫での仕分作業,配送などを行った。この職場には,シフト毎に22~23人位の労働者がいたところ,派遣労働者は8人ないし10人程度で,派遣労働者と被告従業員とで仕事の内容に違いはなかった。
原告X4は,2回サポート社員を経験した。サポート社員については,f社の担当者と被告社員の双方から,「派遣法の問題で長く働くことができないから一時期Y社の直接雇用になる。3か月と1日したらまた派遣に戻るから。」などと説明された。原告X4は,仕事が続けられるのであるからサポート社員になることを拒むつもりは全くなかった。サポート社員になっても基本的に仕事内容に変化はなく,給料日が変わったものの時給については変化がなく,入門証も派遣労働者のときと同じ物を使用しており,寮もそのまま利用していた。有給休暇の取得方法についても,派遣労働者のときサポート社員のときいずれも職長の許可が必要であり,どうしても人が足りないときに許可して貰えなかったことが一,二回あった。なお,派遣労働者のときの有給休暇の日数は,サポート社員を経て再び派遣労働者に戻ったとき,繰り越すことができた。
2回目のサポート社員であった平成21年2月頃,サポート社員全員が集められ,被告の社員から「こういう状況なので継続雇用はできません。派遣社員にも戻れません。」と言われ,原告X4は,平成21年3月31日をもって被告における就業を終えた。
オ 原告X5
原告X5(昭和39年○月○日生)は,九州産業大学卒業後,日本放送協会(NHK)福岡放送局に約8年間勤務し,いくつかの職を経験した後,平成16年9月,d社の求人広告を見て同社との間で派遣労働契約を締結し,同月22日以降,a工場(b地区)の第2組立課のI職場に派遣され,車体フレームにゴムパッキンやビスを取り付けたりする作業に従事した。
なお,派遣初日には,a工場(b地区)の食堂の一角で安全講習が行われた。
原告X5は,I職場の職長(I氏)が派遣労働者には有給休暇の取得を認めない運用をしたことを嫌い,平成17年4月以降,派遣元をd社からg社に変更した(これに伴い,派遣先もI職場からa工場(b地区)第2車両工務技術Gr品質管理係のJ職場に変更された。)。原告X5は,J職場においては完成車の傷や塗装具合,へこみなど外観の不具合を点検する仕事に従事した。なお,その後,g社が派遣事業から撤退したため,原告X5は,被告の仲介により,派遣元をf社とすることになり,同社との間で派遣労働契約を締結した。
原告X5は,平成18年9月,Aランクに昇格した。ランク制度の導入に当たり,原告X5は,当時の職長から,「これまでは,人によって経験が違うのに同じ給料だった。それだとずっと長くやっている人の意欲が上がらない。ランク制度によって差をつける。給料もそれによって変わってくる。勤務態度も見るので,遅刻や早退は絶対にしないように。」との説明を受けた。
原告は,派遣先の職場で,新たに派遣される派遣労働者の指導のみならず,被告の新入社員への指導(ライン上に流れてくる自動車のチェック方法,手順,検査票の書き方など)を行うこともあった。品質管理の仕事は,早い者でも慣れるまでに1か月かかるので,その間,原告X5が指導していた。また,TPM(Total Productive Maintenance)と呼ばれる改善作業(生産活動における各種ロスを軽減するための自主保全活動〈甲B10の5〉)や,○○と呼ばれる教育プログラムに参加することがあった。
原告X5は,3回サポート社員を経験した。サポート社員になる前には,派遣元の担当者と職長から別々に説明がなされた。派遣元からの説明は,「仕事は今のままですけど,そういうものが順番に回ってきて,3か月と1日,直接雇用になります。(サポート社員が終わった後は)そのまま同じ仕事をやってもらって結構です。」というものであった。職長から,「サポート社員になりますか? なりませんか? もしならなかったら,Y社には残れません。」という説明もなされた。サポート社員の仕事の内容は,派遣労働者のときと同じであり,サポート期間の前後で一緒に働いていたメンバーの構成にも変化がなかった。サポート期間中,職長から「X5君は4月からも来てくれるんだよね。」と言われたことがあった。
作業着は,a工場の売店で購入することになるところ,職長の印が押してある注文票を使えば,派遣労働者も被告従業員と同じ値段で購入することができた。
有給休暇の取得方法は,派遣労働者のときもサポート社員のときも,まず職場に貼ってあるカレンダーに名前を書き,それを職長が見て調整することになっていた。
原告X5は,3回目のサポート社員であった平成21年2月頃,被告社員から「サポート期間終了してからの延長はなくなりました。」として解雇の話を聞き,平成21年3月31日をもって被告における就業を終えた。
カ 原告X6
原告X6(昭和39年○月○日生)は,高校卒業後,銀行に約4年半勤務し,サービス業などを経験した後,平成16年10月頃,f社の面接を受け,同年11月2日以降,a工場(b地区)の品質管理係のK職場に派遣され完成車の内装及び外装のチェック作業に従事した。チェック項目は,約100項目あり,多い日には50台程度の不具合を見付けたこともあった。不具合の見付からない日はほとんどなく,平均すると1日10台位の不具合があった。原告X6は,新入社員への指導を行うこともあった。
原告X6は,平成18年9月,Aランクに昇格した。職長から認定証を手渡された。f社の担当者の説明によれば,「3か月くらいで,仕事の内容を見て,Aランクになれる。」というものであった。他方,Sランクについては,「Y社のお墨付きをもらった人がなれる。」という説明であり,原告X6は,平成18年冬,職長から推薦されてSランクに昇格するための面接を受けたが,結果的には昇格できなかった。
原告X6は,3回サポート社員を経験した。1回目のサポート社員になる前,f社の担当者からは,「この日からY社の直接雇用になります。時給は同じで,3か月後に慰労金6万円が入ります。サポート期間が終わった後は,f社に戻って働きますよ。」との説明を受けた。3回目のサポート社員になるときには,職長から「サポート社員にならなければ,Y社では今後働けない。サポート期間が終わったら,また戻ってこれる。」との説明も受けた。仕事の内容は,派遣労働者のときと変わらず,一緒に働いているメンバーの構成にも変化がなかった。入門証も,派遣労働者のときに使っていた入門証をそのまま使っていた。
有給休暇の取得方法は,派遣労働者のときもサポート社員のときも,まず職場に貼ってあるカレンダーに名前を書き,他の従業員と重ならなければ職長が許可を出し,f社に職長から署名をもらった取得届を提出するという取扱いであった。他の従業員と希望日が重なったときは,早い者勝ちだったり,職長が調整したり,じゃんけんをして決めていた。
3回目のサポート社員であった平成21年2月頃,サポート社員全員が集められ,被告総務部の担当者から,「3月末で終わりです。その後の契約はしない。」と通告され,原告X6は,平成21年3月31日をもって,被告における就業を終えた。
キ 原告X7
原告X7(昭和40年○月○日生)は,高校卒業後,業務用冷蔵庫の製造会社や建築業を経て,平成15年8月頃,e社の求人に応募し,同月23日以降,a工場(b地区)第4車両製造部第1組立課の職場においてサスペンションの組立作業,コンバーターとブレーキオイルが通るパイプを組立順に並べて行くという作業に従事していた(なお,当初はe社による業務請負方式による就業であったが,平成16年4月以降,派遣形態となった。)。原告X7は,被告の正社員を含め,別の職場から異動して来た労働者に作業内容を教えることもあった。
途中で,ランク制度が導入された。ランク制度について,職長からは,「入って3か月でBランクになる。普通にやっていれば6か月でAランクになる。Aランクの15人くらいから1人,Sランクに選ぶ。給料も少しずつ増える。」との説明を受けた。原告X7は,平成18年9月,Aランクに昇格した。
当初,派遣労働者は自費で作業着や作業帽を購入していたが,途中から,手袋や保護具などの消耗品は被告から支給されるようになった。作業着はa工場の売店で購入していたが,職長の印が押してある注文票を使わせて貰うことで,被告従業員と同じ割引価格で購入することができた。
原告X7は,2回サポート社員を経験した。サポート社員になるとき,e社の担当者からは,「サポート社員になると給料日が社員と一緒になります。3か月満了したあとに慰労金が出ます。」,「山口営業所の所長に聞いたけれど,(なぜサポート社員になるのか)分かりませんでした。ただ,このままじゃY社では働けません。それでいいならサポートにならないでいいです。」との説明があった。また,職長からは,朝礼の際,「来週からみんなサポートという形になるけど気にしなくていい。サポートが終わっても今までどおり働けるから気にせんでやってくれ。」というような説明があった。サポート社員の仕事の内容は,派遣労働者のときと全く同じで,一緒に働いていたメンバーの構成にも変化がなかった。
有給休暇を申請するときは,職長の許可を得て,e社の業務管理の担当者に取得届を提出していた(派遣労働者のときのみ)。e社の担当者に有給休暇が欲しいと言っても,職場の許可を得てくれと言われていた。
原告X7ら派遣労働者には,1年間の勤務シフトのほか,定時退社日のスケジュールが記載された「Y社製造カレンダー」(甲A22)が交付されており,原告X7は,これを参照して,お盆,年末年始等の長期休みのスケジュールを把握していた。被告で働きはじめてから1年間はe社のタイムカードがあったが,その後は撤去され,出退勤は被告の職長が管理していた。
原告X7は,平成20年12月下旬,e社の担当者から「1月31日以降の契約はない。」と通告され,平成21年1月31日をもって被告における就業を終えた。
ク 原告X8
原告X8(昭和41年○月○日生)は,山口県の高校卒業後,建築会社に入社して約20年勤務したが,一身上の都合で退職し,平成17年8月末ころ,新聞の募集広告を見てe社において派遣登録をした。原告X8は,2か月ほど,被告以外に派遣されていたところ,同年11月1日,被告のa工場に派遣される前提で,同工場(b地区)において被告従業員から学科講習(レポート提出を含む。)及びラインにおける実地講習を受け,受講者はB級からD級に区別され,その結果に従い配属される職場が決まり,原告X8は,a工場(b地区)第4車両製造部車体課第2車体係のL職場に配属された。原告X8は,ラインにおいて,リアフレーム,サイドフレーム,バンパー取付などの仕事に従事し,増産体制が取られている時期などは,毎日2時間の残業に加え,休日出勤を余儀なくされることもあった。平成20年8月頃には,製造ラインが最大速度で稼働状態のとき,反復活動によって右手首を痛め,整形外科に通院し,有給休暇を使って1週間安静にしていたこともあった。平成18年9月頃,Aランクに昇格した後は,派遣労働者・被告正社員を問わず,新たに職場に配属された者に対し,取付作業,安全確認作業,ラインの流れ,機械操作の仕方などを指導することもあった。
原告X8は,1回サポート社員を経験した。e社の担当者からは,サポート社員にならないと今の職場では働けないので,継続して働くためにも,また給料が上がるから,一時的にサポート社員になるようにとの説明を受けた。業務内容は,サポート期間前後を通じて何も変わらなかった。違いとしては,サポート社員中は被告の社会保険に変わり,3か月後に派遣元に戻るとe社の社会保険に戻る程度であった。駐車場についても,被告正社員と派遣労働者は別の場所にあったが,サポート社員になっても派遣労働者用の駐車場のままであった。
有給休暇を取得するときは,職場の有給休暇取得用のカレンダーに名前が書かれたマグネットを貼る決まりとなっており,先に希望者がいれば取得できなかったが,そうでなければ職長が許可していた。
原告X8は,平成20年11月24日,e社の担当者から,12月末日をもって期間満了と言われたため,これに抗議しその方針を一度は撤回させたが,結局,同年12月末日をもって被告における就業を終え,平成21年1月をもってe社を退職した。
ケ 原告X10
原告X10(昭和35年○月○日生)は,山口県の高校卒業後,いくつかの職を経験した後,平成17年10月頃,スーパーのポスターを見てe社の求人に応募したところ,被告のa工場で研修があるから参加するようにとの指示を受け,同月25日,同研修に参加した。その研修は,午前に被告従業員の講義を受け,レポートを提出し,午後に実技というものであった。講師の被告担当者は,遅刻した者に対して「時間を守れない人は必要ありません。」,居眠りをした者に対して「やる気がないなら,帰って頂いて結構です。」などと言っていた。午後の実技は,参加者を2グループに分け,ラインの前で担当者の説明どおり実際の作業をやってみるというもので,自動溶接ロボットの溶接棒の先端の研磨・交換,自動溶接ロボットを使ったスポット溶接の2工程で行われた。同月26日,e社の担当者から派遣場所が指示され,a工場(b地区)第4車両製造部第1車体係のM職場に派遣された。この職場は,□□の製造ラインの一部で,被告の売上好調により,休日出勤と残業がひんぱんにあった。その後,派遣先の職場が変わったところ,このときは職長から「X10さんは年齢より動きがいいのでアンダーボディーラインに異動してください。」と言われた。エプロン工程では,通常は班長か補佐が行う半破壊という作業も任されていた。なお,各職場には派遣労働者の他に被告従業員もいたが,仕事内容に違いはなかった。
原告X10は,最初はCランクであったが,Bランクを経て,平成18年9月にAランクに昇格した。逆に,使えない労働者はすぐに辞めさせられた(原告X10の息子もe社から被告に派遣されたが,名札をe社の事務所に返却されたので,同社に相談したが,辞めるように説得された。)。
原告X10を含む派遣労働者は,最初はタイムカートでの労務管理がなされており,e社のブースでタイムカードを押していたが,e社の機械が壊れてからは,タイムカードは押さなくなり,e社の担当者から「たまにはブースに顔を出してください。」と言われるくらいのもので,職長が勤務時間等をe社に報告していた。
原告X10は,1回サポート社員を経験した。サポート社員になるときには,e社の担当者から,「サポートをやらないと働けませんよ。」,「派遣をいったん切ります。サポートになれば給料は派遣よりちょっといい。サポートが終われば元に戻れるから。」などと言われた。派遣労働者のときとサポート社員のときとで仕事内容に違いはなく,ずっとh寮に住んでいた。入門証も派遣労働者のときの物を継続して使用していた。
有給休暇を取得するときは,職場の有給休暇取得用のカレンダーに名前を書く決まりとなっており,先に希望者がいれば取得できないが,そうでない限り取得できていた。
平成20年11月24日,e社の担当者から解雇通告を受け,原告X10は,同年12月31日をもって被告における就業を終えた。
コ 原告X11
原告X11(昭和47年○月○日生)は,熊本県の中学卒業後,いくつかの飲食店で料理人として稼働し,前の仕事先を辞めて仕事を探していたときにe社の求人に応募したところ,同社の熊本オフィスにおいて,知能検査のようなペーパーテスト,ボルトとナットを時間内に何個締めたり緩めたりできるかのテスト,握力のテストを受けた後,同社のaオフィスに行くよう指示され,a工場を見学した後,平成15年12月頃以降,a工場(b地区)第2車両工務技術Gr品質管理係の職場において塗装検査等の業務に従事することとなった(なお,当初はe社の業務請負方式による就業であったが,平成16年4月以降,派遣形態となった。)。
原告X11が従事していた仕事は,完成車のボディの塗装面のゴミ,傷,打痕,亀裂などをチェックするというものであり,同人は,ラインに乗って流れてくる自動車のボディをチェックし,何も問題がなければ通過させ,問題があれば専用用紙にチェックをした上,問題箇所にテープを貼るなどしていた。平成18年9月,Aランクに昇格した。派遣労働者と被告従業員との間で仕事内容に違いはなかった。
原告X11は,3回サポート社員を経験した。サポート社員になるときには,e社の担当者から説明があったが,「サポートをやらないと働けませんよ。」ということ以外,どのような説明があったかは記憶がない。e社の担当者から言われるままに書類を出されサインしたので,何の書類だったのかもよく分かっていなかった。なお,派遣労働者のときとサポート社員のときで業務に違いはなかった。労働時間の管理はずっと職長がしていたが,派遣のときは,出勤簿を自分で書いてe社のブースに持って行っていた。
原告X11は,派遣労働者から被告の正社員に登用された者を四,五人知っており,自分自身もなれるものなら正社員になりたいと思っていた。職長から,「前の職長から社員登用の話はなかったのか。」と聞かれ,学歴を聞かれたので,中卒であると答えると,「じゃあ,しょうがない。」と言われた。
有給休暇を取得するときには,前もって職長に希望日を言えば,希望どおり取得できていた。
原告X11は,3回目のサポート社員中の平成20年11月頃,e社から離職票の交付を受けた。これまでサポート社員に切り替わってもe社から離職票の交付を受けたことはなく,理由を尋ねると,サポート期間満了後,被告では働けないということが分かった。e社の担当者に「もうY社では働けないのか。」,「余っている有給はどうなるのか。」と聞くと,同担当者からは「サポート社員に切り替わるときに書類にサインしているからどうにもならない。」と言われた。そうして,原告X11は,3回目のサポート社員の期間満了日である平成21年3月31日をもって被告における就業を終えた。
サ 原告X12
原告X12(昭和49年○月○日生)は,広告代理店勤務後,平成18年2月下旬頃,e社の求人に応募したところ,被告のa工場で研修があるから参加するようにとの指示を受け,3日間の研修(講義,レポート提出,実技研修)を受講した。研修は,被告担当者の講義を受け,レポートを提出した後(ABC評価が付けられ返却された。),実技研修として塗装課においてボンネット塗装の研磨研修をした。なお,この研修には,派遣元のe社の担当者は関与していなかった。
その後,原告X12は,a工場(b地区)の第4車両製造部第1塗装課第1塗装係の職場に派遣され,ボンネット,トランクの上塗り作業に従事していた。職場約20名のうち,約半数が派遣労働者であった。平成18年7月2日以降,第4車両製造部車体課第2車体係の職場に異動となり,リヤバンパー等の組付作業に従事した。新入社員への指導も行っていた。この職場に勤務しているときにランク制度が始まり,平成18年9月,Aランクに昇格した。職場約15名のうち,約2名が派遣労働者であった。いずれも派遣労働者と被告従業員との間で仕事内容に違いはなかった。
原告X12は,派遣労働者から正社員になった人を知っており,職長から,当時の職場の名前を出せば実績からも正社員となれるので,試験を受けてみないかと誘われたこともあった。
原告X12は,1回サポート社員を経験した。サポート社員になるとき,e社の担当者から,派遣労働者は同じ職場に3年いたらいけないということだけ説明を受けた。派遣労働者のときもサポート社員のときも仕事は全く変わらなかった。
有給休暇を取得するときは,職場の休憩所にあるカレンダーの希望日に名前を書くと,職長が調整をしていた。
平成20年11月中旬頃,e社の担当者から解雇を通告され,同年11月30日をもって,原告X12は被告における就業を終えた。
シ 原告X13
原告X13(昭和44年○月○日生)は,平成20年7月1日,派遣労働契約を締結したe社からa工場(b地区)第4車両製造部車体課第2車体係のL職場に派遣されてバンパーの取付作業に従事していた。
なお,a工場への派遣に当たっては,e社による面接,被告の研修施設での採用試験(時間内にインパクトレンチで何本ボルトを締めることができるか,ピッキングができるかなど五,六種のテストが行われた。),被告担当者による安全教育を経て,上記職場に派遣された。
有給休暇を取得するときは,計画表に希望日を記入し,職長が調整して取得することができていた。
なお,原告X13は,サポート社員は経験していない。
原告X13は,e社の担当者から解雇通知を手渡され,平成20年12月31日をもって,被告における就業を終えた。
ス 原告X14
原告X14(昭和45年○月○日生)は,九州産業大学卒業後,山口トヨタフォークリフト株式会社に就職し,整備・営業の仕事を12年間経験し,同社を自主退職後,製造・ものづくりの仕事をしようと思い,e社との間で派遣労働契約を締結し,平成18年1月5日以降,a工場(c地区)第4PT製造部組立係の職場に派遣され,トランスミッションの製造・組立てに従事していた。
原告X14は,ずっと被告で働くつもりであり,職長から「試験を受けて,社員になってみんか。」との誘いもあったが,「上の方に聞いたら,ダメになった。」という話で終わった。
原告X14は,2回サポート社員を経験した。e社の担当者による1回目のサポート社員への切替時における説明は「(派遣元に)戻る予定になっています。」というものであり,2回目の切替時における説明は「6か月後の状況次第。」というものであった。
サポート社員になっても,派遣労働者のときと仕事内容は同一であった。
出勤簿は被告にはずっと手書きで提出していた(派遣の間は,この他にタイムカードの操作をしていた。)。
有給休暇を取得するときは,派遣労働者のときは職長に申し出て許可を貰い,その後,e社に申請書を出す取扱いとなっており,サポート社員のときは職長に申し出て許可を貰うだけだった。
2回目のサポート社員であった平成21年2月6日,サポート社員が全員集められ,被告人事課の担当者から「経済状況により,生産台数が上がっていく見込みがない。サポートは3月31日をもって終了し,その後は更新しない。」と言われ,原告X14は,同年3月31日をもって,被告における就業を終えた。
セ 原告X15
原告X15(昭和57年○月○日生)は,中学卒業後,職業訓練学校,工務店勤務を経て,平成16年5月30日以降,g社(ただし,後に派遣元をf社に変更した。)からa工場(b地区)第4車両製造部第1塗装課第1塗装係のN職場に派遣され,塗装作業や,塗装前にボディに付着したゴミなどをチェックし,取り除く作業等に従事していた。採用当初の時給は,約1000円であったが,その後,被告が付すランクに従って給料も上がり,最初はCランクから始まって,Bランクを経て,Aランクに昇格した。
原告X15は,2回サポート社員を経験した。サポート社員になるときは,派遣元の担当者と職長から別々に説明があり,派遣元の担当者からは,「期間は3か月で,給料は社員と一緒。簡単に言えば3か月間だけ社員と同じ。」という説明があった。サポート社員の仕事の内容は,派遣労働者のときと同じであり,一緒に働いていたメンバーの構成にも変化がなかった。サポート社員になっても,派遣労働者のときに使用していた入門証を引き続き使用し,寮も同じ部屋のままだった。
有給休暇を取得するときには,希望日について職長の許可を得て,職長の署名のある休暇届を派遣元に提出する必要があった。職長から「違う日にして」と言われることも度々あった。
平成20年11月頃,f社の担当者から「1月いっぱいで切ります。」と解雇通知がなされ,原告X15は,平成21年1月31日をもって,被告における就業を終えた。
(4)  サポート社員制度の概要等
ア 導入の経緯
(ア) 被告は,平成16年7月頃,プロジェクトチームにおいて,派遣可能期間経過後も各職場においてなお人員確保の必要がある場合の対応策として,サポート社員制度を導入することとし,同年10月以降,各職場において順次,サポート社員制度の運用を開始した。
なお,同制度の運用開始に当たっては,必ずしも派遣可能期間が満了していない職場においても制度の運用が開始されたが,その理由は,派遣可能期間経過後に一斉に同制度を導入した場合の煩雑さを避けることにあった。
(イ) なお,サポート期間は当初が3か月と1日間であり,後に6か月間に変更されたところ,被告工場の担当者は,労働局による調査において「サポート期間は,クーリング期間に対応した直接雇用制度です。」と陳述している(乙A70)。
イ 概要
(ア) 前記のとおり,サポート社員制度は,派遣可能期間経過後も各職場において人員確保の必要がある場合に,派遣労働者を被告がサポート社員として直接雇用するという制度であったところ,「派遣社員(製造)処遇及び労務管理ガイドブック」(甲A21)によれば,サポート社員制度の説明として,「派遣労働者に雇用の申入れを行った後,事業主(Y社)と派遣労働者は,雇用期間は3か月と1日(クーリング期間)とする雇用契約を締結し,派遣労働者は生産サポート社員として働くこととなります。派遣契約から雇用契約の切替え,雇用契約から派遣契約の切替えは,あくまで本人の希望に基づくことが原則です。」という説明がなされており,それに付された説明図によれば,ある特定の人物として「Aさん」が,当初の派遣可能期間は「派遣労働者Aさん」として,その後のクーリング期間は「生産サポート社員Aさん」として,再度の派遣可能期間は「派遣労働者Aさん」として,あたかも就業を継続するような図が描かれている。
(イ) なお,上記の図には,注意事項として,「『またこの職場に戻ってきてよ!』と派遣労働者に声を掛けたり,派遣先(派遣会社)に同一の派遣労働者を派遣するよう要請したりしてはいけません。」との記載がなされている。
ウ 採用手続
(ア) 告知
サポート社員制度が導入される職場の派遣労働者に対しては,導入の1か月ないし数週間前にサポート社員への切替えが告知された。
例えば,「『生産サポート社員』(第11期)募集のお知らせ」(甲A6)によれば,「弊社では,該当職場へ派遣されている派遣社員の皆様を対象に,6か月間の有期雇用の『生産サポート社員』を募集いたします。今後,派遣社員の皆様がいらっしゃるすべての生産職場で順次約6か月間ずつ派遣社員の受入れを停止し,『生産サポート社員』を受け入れてまいります。派遣社員の皆様方には継続してY(株)にて就労いただきたいと思いますので,『生産サポート社員』への積極的なご応募をお願いいたします。」として,サポート社員の募集が呼び掛けられており,就労条件としては,下記のように提示されていた。

勤務地 現職場(ただし,同一工場内で異動する場合あり)
応募資格 派遣社員で職場の推薦を得られる者
期間 平成20年10月1日~平成21年3月31日
仕事 Y社車製造に伴う各種作業(原則として現在と同一の業務)
勤務時間 現在と同等
給与 金額は現在の給与水準と同等
(イ) 派遣労働者に対する制度説明
a 派遣労働者に対し被告がサポート社員を募集することは主に派遣元から説明がなされていたところ,その説明内容は,次のようなものであった。
(a) 「法律のため,1年以上は働けない。それで,職場ごとに区分けして,一度Y社の社員になってもらう。3か月して,また戻ってきてもらう。」(原告X1・甲B1の4)
(b) 「3か月と1日が終わったら,また戻ってくる。」,「形だけ」,「書類上のこと」,「わからないだろうけど,そうしないとややこしいことが発生する。」(原告X2・甲B2の1)
(c) 「仕事内容は変わらず,3か月と1日だけY社の社員となり,その後また派遣社員に戻る。給料も今の時給に見合うように出る。実質的に何も変わらないから,理解できたらサインちょうだい。」,「(サポート社員にならなかったら)辞めるか,職場異動になる。」(原告X3・甲B4の6)
(d) 「派遣法の問題で長く働くことができないから一時期Y社の直接雇用になる。3か月と1日したらまた派遣に戻るから。」(原告X4・甲B5の5)
(e) 「仕事は今のままですけど,そういうものが順番に回ってきて,3か月と1日,直接雇用になります。(サポート社員が終わった後は)そのまま同じ仕事をやってもらって結構です。」(原告X5本人4頁以下)
(f) 「Y社の直接雇用になるということと,サポート期間が終わればまた同じf社のほうで再雇用して雇ってくれる。」(原告X6本人10頁以下),「この日からY社の直接雇用になります。時給は同じで,3か月後に慰労金6万円が入ります。サポート期間が終わった後は,f社に戻って働きますよ。」(原告X6・甲B7の5)
(g) 「3か月間Y社の直接雇用,サポート社員として働いてください。今まで取得した有休などについては引き続き3か月後にまた,雇い方が変わるだけでそれ以外に何も変わらない。有休とかは,またサポート期間が終われば通常どおり,今までの分は残ってます。」(原告X7本人20頁以下),「サポート社員になると給料日が社員と一緒になります。3か月満了したあとに慰労金が出ます。」,「山口営業所の所長に聞いたけれど,(なぜサポート社員になるのか)分かりませんでした。ただ,このままじゃY社では働けません。それでいいならサポートにならないでいいです。」(原告X7・甲B8の5)
(h) サポート社員にならないと今の職場では働けないので,継続して働くためにも,また給料が上がるから,一時的にサポート社員になる(原告X8・甲B9の4)
(i) 「サポートをやらないと働けませんよ。」,「派遣をいったん切ります。サポートになれば給料は派遣よりちょっといい。サポートが終われば元に戻れるから。」(原告X10・甲B11の4)
(j) 「サポートをやらないと働けませんよ。」(原告X11・甲B12の5)
(k) 派遣労働者は同じ職場に3年いたらいけない(原告X12・甲13の4)。
(l) 「作業をする仕事内容などは全く変わらないが,一度派遣をやめてY社の期間社員になってもらうということ,それとあと給料は変わらない,それと期間が過ぎればまた派遣社員として働いてもらうということ。」(原告X14本人7頁以下),「(派遣元に)戻る予定になっています。」,「6か月後の状況次第。」(原告X14・甲B15の4)
(m) 「期間は3か月で,給料は社員と一緒。簡単に言えば3か月間だけ社員と同じ。」(原告X15・甲B16の2)
(n) 「3か月と1日だけY社の雇用になる。その後は,またf社に戻ってくる。」(弁論分離前原告B本人15頁以下)
(o) 「サポート社員となったら一度Y社の社員となるが,それが嫌だったら派遣元の社員ではいられるがその職場では働けない。サポート社員の後は自由だけど戻ってきてほしい。」(甲A42)
(p) 「一旦は派遣元を退職してもらいます,サポート終了後はうちで働いてもらうことになりますから,保険証が変わります。」(甲A43)
b 上記のとおり,サポート期間満了後の取扱いについては,再び同一職場で派遣労働者として就業を続けることができるとの説明を受けていた者が多いが,時期により「サポート期間が終わる3月末時点の生産動向によります。」(原告X14本人10頁)という説明を受けていた者もいた。
(ウ) 応募
応募者は,被告に履歴書等の必要書類を提出する必要があったところ,これらの書類授受作業についてはコンサルティング業務として派遣元が代行していた。
エ 労働契約及び就業規則
(ア) 労働契約
サポート社員として雇用することが決まった派遣労働者は,被告との間でサポート社員に係る労働契約(以下「サポート契約」という。)を締結し,被告の期間従業員(サポート社員)となった。
(イ) 就業規則
「生産サポート社員就業規則」(乙A4)によれば,次のとおり規定されている。
a 定義
サポート社員とは,雇用契約期間が6か月以内で現場作業に従事する者をいう。
b 契約更新
雇用期間については,原則として延長は行わない。
c 就業時間(a地区)
(a) 昼勤
始業・午前8時25分,終業・午後5時10分
(b) 夜勤
始業・午後8時25分,終業・午前5時49分
d 時間外及び休日勤務
業務上の都合により法令並びに時間外及び休日労働協定の範囲内で所定就業時間外又は休日に勤務させることがある。
オ 就業実態
(ア) サポート社員の多くが派遣労働者の時と同じ職場で同じ作業に従事していた。
なお,職場によっては,サポート期間への切替時,サポート社員とならなかった派遣労働者も数名程度いたが(その理由が,派遣労働者がサポート社員に応募しなかったのか,被告が採用を拒絶したのかについてはこれを認めるに足りる証拠は存在しない。),派遣労働者の多くはサポート期間への切替えと同時にサポート社員となり,就業を継続していた。
(イ) サポート社員は,有効期間が残存している限り,派遣労働者時代に交付されていた「入門証」を継続して利用していた。
カ 労務管理
「派遣社員(製造)処遇及び労務管理ガイドブック」(甲A21)によれば,サポート社員の労務管理として次の点に留意するよう指摘がなされている。
(ア) 雇用期間中は被告の従業員であり,被告が労務管理責任を負う。サポート期間中,派遣元と委託契約を締結しており,対応に際して派遣元に協力を求めることは構わないが,最終的な対応責任は被告が負うので,派遣元に任せっぱなしにすることがないようお願いしたい。
(イ) サポート社員のランクは,入社時点でのランクを雇用期間中引き継ぐ。雇用期間中はランク昇格は行わないが,雇用期間終了後,継続して派遣労働者となった場合には,サポート期間をランク判定における派遣在職期間とみなして判断する。
キ 福利厚生等
(ア) サポート社員の中には,派遣元が派遣労働者に対して提供していたa工場への送迎を利用してa工場に通っていた者もいた。
(イ) 派遣労働者の中には,派遣元の寮として被告のh寮等(派遣元が同社の寮とするため被告から被告のh寮等を賃借していた〈乙A83,87,90,91〉。)を利用していた者がいたが,そのような派遣労働者がサポート社員となった場合には,継続してh寮を派遣元の寮として利用することができた。また,被告と「生産サポート社員の家賃等の控除に関する覚書」(甲A45)を締結している派遣元もあり,そのような派遣元においては,派遣労働者が「住居費等の控除依頼書」(甲A44,乙B7の4)を被告に提出すれば,派遣元に支払う寮費を被告が支払う給与から引き落として支払うことができた。
(5)  コンサルティング契約の概要等
ア コンサルティング契約締結の経緯
被告は,サポート社員制度の導入に先立ち,平成16年5月頃から,派遣元との間で,被告が派遣労働者を期間社員(サポート社員)として直接雇用する具体的方策について協議した。
その結果,被告は,下記イ記載のコンサルティング業務を派遣元に委託することとし,派遣元との間で,コンサルティング契約を締結した。
イ コンサルティング業務の概要
被告がコンサルティング契約に基づき派遣元に委託したコンサルティング業務の内容は,次のとおりである(乙A6~10,75)。
(ア) サポート社員の採用選考,入社受入れに関連する業務
a サポート社員候補者に対する「募集告知」の配布及び募集内容説明会の開催
b 応募者に対する選考結果の発送業務,内定者に対する入社手続書類の作成サポート・回収,記入漏れチェック業務
c 入社手続に伴うバックオフィス業務(応募者情報のデータ化,入社手続書類の事務処理補助,書類の整理)
d 入社時教育研修会の開催(就業の心得,就業規則,職場安全衛生教育等)
e 入社時配布物の発送業務
(イ) サポート社員期間中の福利厚生補助
a サポート社員の期間中の就業等に関するコンサルティング(職場及び寮生活における問い合わせ対応,情報提供等)
b サポート社員期間中の寮・送迎等,福利厚生補助業務
c サポート社員期間中の通勤手当データを「生産サポート社員就業規則」に基づき作成
d サポート社員契約を継続する場合の対象者に対する意思確認業務
(ウ) サポート社員の退職に関連する業務
a サポート社員退職者に対する退社手続書類の作成サポート及び回収業務
b 退社時配布物の発送業務
ウ 報酬
被告は,コンサルティング業務の対価として,派遣元に対し,サポート社員1名につき毎月約4万円ないし8万円の報酬を支払っていた。
(6)  ランク制度の概要等
ア 導入の経緯
(ア) 被告は,平成18年9月以降,「派遣社員の皆さんがより力を発揮いただけるよう,派遣会社と協力して大幅に見直した制度の運用を開始しました。」(甲A5・製造領域派遣就労ガイドブック)として,ランク制度を導入した。
(イ) なお,被告のHRビジネス支援部採用センターの担当者は,労働局の調査に対し,上記の「製造領域派遣就労ガイドブック」について「派遣会社と一緒に作った物である。」旨の陳述をしている(甲A46)。
イ ランク制度の概要
(ア) ランク制度は,職務に対する期待値によって派遣労働者を「スタンダード」及び「ハイポジション」に大別し,派遣労働者の役割を明確化するためとして,前者を3段階(Cランク・Bランク・Aランク),後者を1段階(Sランク)として4ランクの格付けを行うというものであり,「派遣社員(製造)処遇及び労務管理ガイドブック」(甲A21)によれば,「スタンダード」及び「ハイポジション」の期待値として,次のとおり説明されている。
a スタンダード
派遣社員の基本となる職務です。1か月程度で習熟可能な作業を,単能工として担ってもらいます。基本的には当該作業のみが役割となりますが,当該作業経験が継続6か月を超えた派遣社員には,必要に応じて新人派遣社員への作業指導(引継ぎ)や,改善・TPM活動も担ってもらいます。
b ハイポジション
スタンダードとしての業務経験が継続1年を超え,高いスキルと意欲を有する人に対して,部門で任命することにより,多能工としての定常作業と,併せてリリーフ,欠員補充,作業指導などの役割を担ってもらうことができます(人数枠内での任命制)。
(イ) 「製造領域派遣就労ガイドブック」(甲A5)によれば,各ランクの昇格基準として,次のとおり説明されている。
a スタンダード
基本的に在職期間(サポート社員としての稼働実績がある場合には,サポート社員としての在職期間を通算する。)に応じて自動的に昇格するが,① 直近在職6か月以内に定期休暇以外の欠勤が7日以上ある場合,② Aランクの役割を担う能力・意欲が明らかに不足すると認められる場合には,BランクからAランクへの昇格が見送られる。
b ハイポジション
Sランクについては,継続して1年以上在職し,高いスキルを身に付けた派遣労働者の中から一定の人数枠(基本的に部単位で1割以内)の範囲内で個別に任命する。
なお,被告社員は,労働局の調査に対し,Sランクの任命方法について「1年以上働いている者のリストが労務から提示されます。リストからSランクに相応しい者を職長に評価してもらいます。職長はリストの中から1~2人選別し,係長に推薦します。職長が推薦した者を係長が10分程度面接をして最終的に選定します。」と陳述している(乙A71の1)。
ウ 運用方法
(ア) ランク制度の運用方法として労働局の調査において被告のHRビジネス支援部採用センターの担当者が陳述する内容(甲A47)は,次のとおりである。
a 個別の新規派遣依頼を行う際,C,B,Aの3ランクについては,被告は具体的なランクの指定は行わずに職務内容と必要な人数のみを指定し,派遣元が選定し派遣してきた社員の保有するランクに基づき職務範囲を個別に調整し,被告はこれら社員の保有するランクの合計に応じて派遣料金を支払う形である。
b Sランクに関しては,各部単位で派遣社員数の1割を上限として被告が人数を指定して派遣依頼を行い,派遣元はSランクの資格を有する派遣社員の中から適任者を選定し,被告に派遣する。
c これらC~Aランク,及びSランクいずれの派遣依頼に際しても,被告があらかじめ個人を指定することは一切ない。
d ランク制度の資格制度的な性格上,この運用に必要な範囲で,被告は現に派遣され就労している派遣社員の勤怠,勤務態度,能力評価等を行い,派遣会社に伝達する。
(イ) ランクが昇格した派遣労働者に対しては,朝礼時などに職長から職長の記名押印がなされた「ランク昇格通知」が交付されていた。
エ 派遣料金との連動
(ア) 派遣労働者のランクは,ランク連動部分を通じて派遣料金に反映されることになったところ,「派遣社員(製造)処遇及び労務管理ガイドブック」(甲A21)によれば,「派遣社員のランクの昇格に伴い,そのランクに応じた『派遣料金』をY社から派遣会社に支払います。これに伴い派遣社員の方の給与もランクに応じて設定されることになります。」という説明がなされていた。
(イ) なお,ランク制度の導入に伴う給与の変更については,派遣労働者に対しても告知されており,派遣労働者に配布されていた「製造領域派遣就労ガイドブック」(甲A5)によれば,「昇格に伴う賃金等の処遇内容は,ランクに応じてY社が派遣会社に支払う派遣料金に基づき,派遣会社が自社規定により決定します。尚,07年(平成19年)3月までの期間は,派遣会社によっては制度導入に伴う内部規程等の調整のため,処遇面での対応がごく限られたものになる場合がありますので,予めご了承下さい(詳細は所属する派遣会社にお問い合わせ下さい。)。」という説明がなされていた。
(7)  パフォーマンス評価制度
ア 導入の経緯
被告は,平成18年9月以降,「今回の制度は,頑張った派遣社員の方に報いる制度だけでなく,派遣会社が会社全体としてサービスの向上に努力してもらったことに対しても報いる制度です。この派遣会社の頑張り度合い(パフォーマンス)が『派遣料金』に反映されます。」(甲A21・派遣社員(製造)処遇及び労務管理ガイドブック)として,パフォーマンス評価制度を導入した。
イ パフォーマンス評価制度の概要
パフォーマンス評価制度は,派遣元のパフォーマンスを次の5つの尺度で評価するものであった。
(ア) 出勤率・・・派遣労働者の出勤率の向上に努めたか
(イ) 定着率・・・派遣労働者の定着率の向上に努めたか
(ウ) 事前教育の成績・・・優秀な人材の派遣に努めたか
(エ) 配置領域・・・難しい作業工程に対する派遣に努めたか
(オ) 増員比率・・・増員要請にどれだけ応えられたか
ウ 運用
「派遣社員(製造)処遇及び労務管理ガイドブック」(甲A21)によれば,「これらの評価は,これから導入する製造派遣社員の労務管理システム『MTAS』のデータを使用します。適正な評価を行うためにMTASの運用ルールに基づき正しいデータを入力していただくようお願いします。」とされている。
エ 派遣料金との連動
派遣元のパフォーマンス評価は,パフォーマンス連動部分を通じて派遣料金に反映されることになった。
(8)  山口労働局長による是正指導
山口労働局長は,平成21年6月2日,被告に対し,本件派遣における次のとおりの違反事項を指摘して,是正指導を行った(乙A5)。
ア 職安法44条違反
派遣就業の終了に伴い被告が派遣労働者をサポート社員として直接雇い入れる際に,派遣労働者と雇用関係にあった旧派遣元によって入社(募集内容の説明・意思確認,入社手続のサポート,入社時の教育研修),福利厚生(寮への案内等),退社(退社手続のサポート)の業務が行われていたことなどから,サポート期間に旧派遣元と旧派遣労働者との間に支配従属関係が認められ,労働者供給事業に該当するものであり,同法44条に違反する。
イ 労働者派遣法40条の2違反
前記アにより,クーリング期間が適正に3か月を超えているとは判断できないことから,同一の業務について労働者派遣事業が継続していたとみされ,本件派遣に係る労働者派遣契約は同法40条の2に違反する。
ウ 労働者派遣法26条7項,派遣先が講ずべき措置に関する指針第2の3違反
Sランクに係る労働者派遣契約については,Sランクの派遣従業員を被告が任命し,派遣元に連絡し決定した上で,被告がSランクとなった労働者の数だけ新たなSランクの派遣労働者を発注し,Sランクとなった派遣労働者を受け入れている。これは,派遣されるSランクの派遣労働者を特定することを目的とする行為に該当することから,本件派遣に係る労働者派遣契約は同法26条7項に違反する。
2  原告らと派遣元との間の派遣労働契約を無効と解すべきか否か
(1)  本件派遣が労働者派遣法40条の2に違反する脱法的な違法派遣であるか否か
ア 前記認定事実によれば,平成16年10月以降,被告がサポート社員制度を導入して,各職場において順次,サポート社員制度の運用を開始したこと,被告はサポート期間経過後も同一職場において労働者派遣の役務の提供を受け,労働者派遣・サポート社員・労働者派遣の循環を繰り返していたことが認められる。
イ 労働者派遣法40条の2は,「派遣先は,当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について,派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。」と規定し,厚生労働省が制定した「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(平成11年労働省告示第138号,改正・平成21年厚生労働省告示第245号)第2の14(3)は,「労働者派遣の役務の提供を受けていた派遣先が新たに労働者派遣の役務の提供を受ける場合には,当該新たな労働者派遣の開始と当該新たな労働者派遣の役務の受入れの直前に受け入れていた労働者派遣の終了との間の期間が3月を超えない場合には,当該派遣先は,当該新たな労働者派遣の役務の受入れの直前に受け入れていた労働者派遣から継続して労働者派遣の役務の提供を受けているものとみなす」と規定している。
ところで,同指針は,クーリング期間が3か月に満たない場合に労働者派遣の役務の提供を継続して受けているとみなすことを定めているにとどまり,クーリング期間が3か月を超えている場合に労働者派遣の役務の提供が継続していないとみなすことを定めたものではないことに加え,厚生労働省職業安定局長が平成20年9月26日に発出した「いわゆる『2009年問題』への対応について」においても,「単に3か月を超える期間が経過すれば,新たに当該業務に労働者派遣の役務の提供を受けることとすることは,労働者派遣法の趣旨に反するものであること。」とされていること,そもそも労働者派遣法における派遣可能期間の定めは,常用雇用との調和の観点から労働者派遣が常用雇用の代替となることを防止するために設けられたものであること,「3か月も期間をあければ,常用労働がなくてもやっていけるということでは無理があるのではなかろうかというふうなことで,いろんな御議論を踏まえまして3か月というふうに考えているわけでございますけれども・・・実際問題としては,1か月では余りにも短い,その間は何とか企業の方がやりくりをして1か月ぐらいしのげるのではないかというふうなこともあろうかと思いますが,3か月ぐらいをあければ企業が何とかしのぐというには限界があって,本当に必要であれば常用労働者をそこに配置するのではないか,こういったことを考えて,継続しての解釈として3か月というふうに現在は考えているところでございます。」(第145回国会参議院労働・社会政策委員会における政府答弁〈甲A33〉)という考えに基づき「派遣先が講ずべき措置に関する指針」においてクーリング期間が3か月と設定されたことに照らせば,単に3か月という期間が経過したことのみを理由に労働者派遣の役務の提供を継続して受けていないと解することは相当でなく,派遣先が継続して労働者派遣の役務の提供を受けていたかどうかは,クーリング期間の長短だけでなく,恒常的労働の代替防止という制度趣旨を踏まえて実質的に判断すべきである。
ウ これを本件につきみると,本件のサポート社員制度にあってはサポート期間を3か月と1日間としており,形式的には3か月の期間をクリアしているということができる。しかしながら,前記認定事実によれば,① 被告は派遣可能期間が経過する前の平成16年7月頃からサポート社員制度の導入を決めていたこと,② 被告従業員である被告工場の担当者が「サポート期間は,クーリング期間に対応した直接雇用制度です。」旨の陳述をしていること(乙A70),③ 被告における自動車生産台数は平成15年,16年当時増産傾向にあったところ,「生産サポート社員就業規則」(乙A4)においてサポート社員の雇用期間が原則更新されないと規定されていることに照らせば,サポート期間経過後に同一職場において新たに労働者派遣の役務の提供を受け入れなければ生産ラインが停止してしまうことになること,④ 「派遣社員(製造)処遇及び労務管理ガイドブック」(甲A21)には,特定の人物として「Aさん」が,当初の派遣可能期間は「派遣労働者Aさん」として,その後のクーリング期間は「生産サポート社員Aさん」として,再度の派遣可能期間は「派遣労働者Aさん」として,あたかも就業を継続するかのような図が描かれていること,⑤ 多くの派遣労働者に対してサポート期間経過後に再び派遣労働者に戻って就業を継続することができる旨の説明が派遣元担当者からなされていたこと,⑥ 現実に多くの派遣労働者が突発的な需要の発生などの事情がないにもかかわらず同一職場において派遣労働者・サポート社員・派遣労働者の循環を繰り返していたこと,⑦ 「製造領域派遣就労ガイドブック」(甲A5)によれば,スタンダードのCないしAランクの昇格基準である在職期間の判定に当たってはサポート期間が通算される取扱いであったと認められること,⑧ 「有休とかは,またサポート期間が終われば通常どおり,今までの分は残っています。」などの派遣元担当者による説明は,サポート期間経過後に再び派遣労働者として就業を継続することを前提としたものであること,⑨ パフォーマンス評価において派遣労働者の定着率が一つの評価尺度とされていることなどが認められ,これらによれば,被告は市場が自動車の生産供給を求める情況である限り,同一職場における作業効率の向上のため派遣労働者の定着を図り同一人物を長期にわたって利用したいとの意図を有しており,それを実現できる制度の創設を検討していたものと認められる。
エ これらによれば,被告が導入したサポート社員制度が単にクーリング期間を満たすためだけの方便として導入されたものであることは明らかであり,同一職場における派遣労働者・サポート社員・派遣労働者の循環は,新たな需要の発生などに基づいた結果という面は否定できないとしても,むしろ,そのように制度設計がなされた結果として必然的に生じたものであると認められる。
そうすると,クーリング期間が3か月を超えるサポート社員制度は,それ自体としては,前記法規に抵触しないように創設されたものであるとしても,その制度運用のいかんによっては,被告の新たな労働者派遣の役務の提供の受入れが直前の労働者派遣の役務の提供の受入れと別個独立のものとは解されないことになり,したがって,そのような場合には,被告は,労働者派遣法が定める派遣可能期間の制限を超過して労働者派遣の役務の提供を受けていたものと認められることになる。しかるところ,前記1(4)ウ(イ)認定のとおりの原告らに対するサポート社員制度の説明のあり方(「法律のため,1年以上は働けない。それで,職場ごとに区分けして,一度Y社の社員になってもらう。3か月して,また戻ってきてもらう。」など)や後記の他制度とあわせた運用実態などに照らすと,サポート社員制度導入後に一度でも同制度を利用することになった原告らについては,その労働者派遣は,労働者派遣法40条の2に違反するものと認められる。
(2)  原告らと派遣元との間の派遣労働契約を無効と解すべきか否か
ア まず,原告らは,職安法の適用が除外される労働者派遣は,適法な労働者派遣に限られ,ゆえに,原告らと派遣元との間の労働者派遣契約は,違法な労働者供給契約に該当する旨主張する。しかし,原告らと派遣元との間に有効な派遣労働契約が締結され,原告らの就労形態が労働者派遣である以上,その定義上(職安法4条6項によれば,「この法律において『労働者供給』とは,供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい,労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。」とされている。),職安法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はない。
イ 次に,労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合について,平成21年判決は,「労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質,さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば,仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効となることはないと解すべきである。」と判示するので,以下,違法派遣の態様によって派遣労働者と派遣元との間の派遣労働契約を無効と解し得る特段の事情が存するのかを検討する。
ウ(ア) まず,前記認定事実によれば,被告が派遣可能期間経過後も各職場においてなお人員確保の必要がある場合の対応策としてプロジェクトチームにおいてサポート社員制度の導入を決めたこと,その導入に当たっては被告が派遣労働者を期間社員(サポート社員)として直接雇用する具体的方策について派遣元と協議がなされていたこと,被告は派遣可能期間経過後に一斉に同制度を導入した場合の混乱を避けるため,派遣可能期間が経過していない職場も含め,順次,各職場の派遣労働者をサポート社員に切り替えたこと,そうして現実に多くの派遣労働者が派遣労働者・サポート社員・派遣労働者の循環を繰り返していたこと,サポート社員の入退社手続や福利厚生事務については,派遣元がコンサルティング契約に基づき金銭的対価を得てそれらを代行していたことが認められ,これらによれば,サポート制度を利用した労働者派遣法40条の2の潜脱は,組織的かつ大々的に,かつ,被告及び派遣元が協同して行っていたことが認められる。
(イ) また,被告は,平成18年9月以降,ランク制度及びパフォーマンス評価制度を導入するとともに派遣料金の見直しを図ったところ,前記認定事実によれば,ランク制度は,職務に対する期待値によって派遣労働者を「スタンダード」及び「ハイポジション」に大別し,前者を3段階(Cランク・Bランク・Aランク),後者を1段階(Sランク)として4ランクに格付けするというものであったこと,「製造領域派遣就労ガイドブック」(甲A5)によれば,「スタンダード」の各ランクについては原則として在職期間に応じ自動的に昇格するが,「ハイポジション」のSランクについては高いスキルを身に付けた派遣労働者の中から一定の人数枠の範囲内で個別に任命されるとされていること,「派遣社員(製造)処遇及び労務管理ガイドブック」(甲A21)によれば,各ランクの期待値は,「スタンダード」が必要に応じて新人派遣への作業指導(引継ぎ)や,改善・TPM活動を担えるというものであり,「ハイポジション」が多能工としての定常作業と,併せてリリーフ,欠員補充,作業指導などの役割を担えるというものであったこと,パフォーマンス評価制度は,派遣元のパフォーマンスを出勤率,定着率,事前教育の成績,配置領域及び増員比率の5つの尺度で評価するものであったところ,定着率や事前教育の成績,配置領域が評価尺度に含まれていたこと,「製造領域派遣就労ガイドブック」(甲A5)には「派遣社員の皆さんがより力を発揮いただけるよう,派遣会社と協力して大幅に見直した制度の運用を開始しました。」と記載されていることが認められ,これらによれば,被告は,より高い能力を有する派遣労働者の定着を目指しており,派遣元もこれに協力していたことが認められる。
(ウ) さらに,ランクが昇格した派遣労働者に対しては,朝礼時などに職長から職長の記名押印がなされた「ランク昇格通知」が交付されていたこと,被告のHRビジネス支援部採用センターの担当者が「ランク制度の資格制度的な性格上,この運用に必要な範囲で,被告は現に派遣され就労している派遣社員の勤怠,勤務態度,能力評価を行い,派遣会社に伝達する。」旨陳述していること,Sランクの認定について,被告社員が「1年以上働いている者のリストが労務から提示されます。リストからSランクに相応しい者を職長に評価してもらいます。」旨陳述していることからすれば,ランク決定の主体が被告であったことは明らかである。
そして,ランク決定をする意義・目的については,ランク連動部分を通じて派遣労働者のランクが派遣料金に反映されていたこと,「製造社員(製造)処遇及び労務管理ガイドブック」に「派遣社員のランクの昇格に伴い,そのランクに応じた『派遣料金』をY社から派遣会社に支払います。これに伴い派遣社員の方の給与もランクに応じて設定されることになります。」と記載されていること,派遣労働者に配布されていた「製造領域派遣就労ガイドブック」(甲A5)にも「昇格に伴う賃金等の処遇内容は,ランクに応じてY社が派遣会社に支払う派遣料金に基づき,派遣会社が自社規定により決定します。」と記載されていることなどからすれば,被告が派遣労働者にランクを付与し,派遣元にランクに応じた派遣料金を支払うことで,派遣元から派遣労働者に対しランクに応じた給与が支払われるようにすることにより,派遣労働者の仕事に対する意欲を引き出し,被告における作業効率や技量を向上させ,結局はコストパフォーマンスを上げることにあったと理解するのが相当である。
以上によれば,被告は,まさに,被告が派遣労働者を自社の社員同様に育成指導することが被告の利益につながるとの基本思考のもと,あたかも雇用契約を結んだのと等しい命令する者と命令される者という上下関係を作出したものとも評価し得る。
(エ) 加えて,ランク制度の運用上,Sランクの認定には人数枠があり,各部単位で派遣労働者の1割以内とされていたこと,たとえ在職期間が長くてもSランクには自動的には昇格せず,Sランクの認定は,労務から提示されたリストの中から相応しい者を職長が評価するシステムが採用されていたこと,「ハイポジション」(Sランク)の期待値は,多能工としての定常作業と,併せてリリーフ,欠員補充,作業指導などの役割を担えるという相当高いものであったこと,被告が派遣元との間で締結する個別契約がSランクだけ別であり,契約期間も1年間であったこと,被告のHRビジネス支援部採用センターの担当者が「Sランクに関しては,各部単位で派遣社員数の1割を上限として被告が人数を指定して派遣依頼を行い,派遣元はSランクの資格を有する派遣社員の中から適任者を選定し,被告に派遣する。」と陳述していることからすれば,被告によるSランクの派遣労働者の派遣依頼は,そもそも数に限りのある選りすぐりの労働者を囲い込むものであり,その個々の具体的個人名でもって特定していないとしても,実質的には被告が受け入れる派遣労働者の特定行為と認められる。
また,原告ら派遣労働者の中には派遣先である職場配属前に安全教育のみならず制限時間に作業を終えられるかの実技試験を受けて配属先の職場を決められた者がいること,弁論分離前原告Bが派遣先の職場でいじめに遭い,職長に自ら配置換えを申し入れたところ,その後,希望どおりに派遣先の職場が変わったこと,職長から前の職場への復帰を打診され,弁論分離前原告Bがこれを了承したところ,その後,前の職場に異動したこと(弁論分離前原告B本人19頁以下)によれば,a工場においては派遣労働者の特定行為が行われるという運営実態があったことが窺われる。
エ ところで,我が国においては,従来,労働者派遣事業は労働者供給事業に該当するものとして職安法により禁止されていたところ,昭和60年に労働者派遣法が制定され,常用雇用との代替のおそれが少ない専門的業務等の適用対象業務につき労働者派遣事業が解禁された。その後,規制緩和の観点から,適用対象業務が拡大され,平成11年には適用対象業務が原則自由化されたが,物の製造業務への派遣はなお禁止され,物の製造業務への派遣は,平成15年の改正により解禁され,派遣可能期間は平成19年2月末日までは1年間,同年3月以降は最長3年間とされたのであり,これによれば,労働者派遣法が物の製造領域における労働者派遣をあくまで臨時的・一時的な労働力の需給調整制度と位置づけ,派遣可能期間等の規制を通じて常用代替の防止を図っていることは明らかである。
しかるに,上記のとおり,サポート社員制度の運用の実態においては派遣可能期間を超えて労働者派遣の役務の提供を受ける手段となっていたこと,そのサポート社員制度にランク制度及びパフォーマンス評価制度を組み合わせることにより職務能力の高い労働者の定着を企図していたことによれば,被告は,一方で派遣労働者を利用して人事管理をアウトソーシングすることにより労働需要の増減に素早く対応し得る態勢を構築しつつ(それも,派遣労働者を利用するのであれば,本来,一時的・臨時的に享受し得るに過ぎない上記メリットを比較的長期間にわたる景気変動に合わせる形で享受する意図であったといえる。),他方で派遣労働者を利用するのであれば本来は甘受せざるを得ないはずの生産性の低下を受け入れないで,熟練工の長期的な確保を目指していたということができる。
また,前記のとおり派遣労働者の特定行為が行われていたと評価し得る行為があったこと,特定の個人に対しては,また来てくれるようにとの話をしていたこと,派遣労働者が有給休暇を取得するときには職長の許可を得ることが不可欠であり,職長において取得日の変更を命じていたことなどによれば,被告が労働者派遣法に則って策定していた派遣労働者の管理指針は,現場レベルにおいては形骸化していたといえる。
オ 以上によれば,被告は,サポート社員制度の運用実態において労働者派遣法の規定に違反したというにとどまらず,ランク制度やパフォーマンス評価制度の導入と併せ,常用雇用の代替防止という労働者派遣法の根幹を否定する施策を実施していたものと認められ,この状態においては,すでにこれら制度全体としても労働者派遣法に違反するものとさえ評価することができる。また,派遣元においても,コンサルティング業務の委託料やパフォーマンス評価制度による派遣料金の増額分という金銭的対価を得てそれに全面的に協力していたことが認められる。このような法違反の実態にかんがみれば,形式的には労働者派遣の体裁を整えているが,実質はもはや労働者派遣と評価することはできないものと考える。
ところで,労働者派遣法は,平成24年に改正されその名称が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」とされる(改正前の名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」であった。)以前から,「派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進」がその目的として規定されていたこと,同改正により「派遣労働者の保護」がその目的として正面から規定されるに至った経緯を踏まえると,同改正前の労働者派遣法の立法趣旨が専ら恒常的労働の代替防止にあったとしても,同法が派遣労働者の保護にも配慮する労働法としての側面を併有していたことは否定できないというべきであり,そうすると,同じく労働者派遣法違反であっても,偽装請負のようにそれ自体からは直接雇用の契機が出現しない場合とは異なり,いったんは直接雇用というサポート社員を経験した派遣労働者については,その前後の業務内容,勤務実態,使用従属関係の有無等を併せ考慮することにより,派遣労働期間中についても直接雇用を認め得る契機は高いものと考えられる。その上,本件派遣について労働者派遣法の適用を否定しても一般取引に及ぼす影響はなく,被告及び派遣元がサポート社員制度の運用並びに同制度にランク制度やパフォーマンス評価制度を組み合わせることにより制度全体として労働者派遣法に違反し,協同して違法派遣を行っていたとみられることからすれば,被告及び派遣元の取引関係に及ぼす影響はもとより考慮すべきでないこと,労働者派遣法に基づき厚生労働大臣には同法に基づく指導・助言,改善命令,公表等の監督行政権限が与えられているものの,労働者派遣法40条の2違反には罰則規定の適用がなく,これらの罰則規定の適用や厚生労働大臣による監督行政権限の行使によっては現実にサポート社員を経験した派遣労働者を保護することができないこと,このように,労働者派遣法の枠内では自ら組織的かつ大々的な違法状態の創出に積極的に関与した被告の責任を事実上不問に付すことになることなどに照らせば,現実にサポート社員を経験して上記諸制度の適用を受けた派遣労働者については,後記3のとおり黙示の労働契約の成立を認めることができる諸事実が存することも加味すると,それら派遣労働者と派遣元との間の派遣労働契約を無効であると解すべき特段の事情があると認められる。
そうすると,前記のとおり,サポート社員制度を経験していない原告X9及び同X13を除く原告らとの間においては,前記認定のとおり,それぞれがランク制度やパフォーマンス評価制度の適用を受けて後記3のとおり被告において事実上使用従属関係が認められることからすると,それら原告らと派遣元との間の派遣労働契約は,その運用の結果として無効であると解すべき特段の事情があると認められる(他方,原告X9及び同X13については,同人らはいずれもサポート社員を経験していないことに加え,後述のとおり,同人らが雇用継続に対する期待を有していたとも認められないことに照らせば,同人らと派遣元との間の派遣労働契約を無効であると解すべき特段の事情は認められないというべきである。)。
カ 以上によれば,原告X9及び同X13を除く原告らと派遣元との間の派遣労働契約は無効であると解され,したがって,被告と派遣元との間の原告X9及び同X13を除く原告らにかかる労働者派遣契約は,違法な労働者供給契約に該当し,公序良俗に反する無効な契約であると認めるのが相当である。
3  被告と原告らとの間に黙示の労働契約が認められるか否か
(1)  黙示の労働契約の成否
ア 原告X9及び同X13を除く原告らと被告との間に黙示の労働契約が成立したかどうか,及びその内容については,両者間に事実上の使用従属関係,労務提供関係,賃金支払関係があるかどうか,また,これらの関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断するのが相当である。
イ そこで検討すると,a工場に派遣されていた派遣労働者は,外形上は派遣労働者としてa工場の各職場に派遣されていたものであるところ,労働者派遣とは,自己の雇用する労働者を,当該雇用関係の下に,かつ,他人の指揮命令を受けて,当該他人のために労働に従事させることをいうから,原告X9及び同X13を除く原告ら派遣労働者が被告の指揮命令下にあったことは当然である。
そして,前記認定事実によれば,派遣労働者の中には,派遣当初,被告従業員による安全教育などの研修以外にも,学科講習及び実地研修を受けた者や,試験により選別されて職場配置が決まった者がいたこと,働きぶりによって職場配置の変わった者がいたこと,派遣元が変わった(被告の仲介によって)後も被告に派遣されている者がいたこと,原告X9及び同X13を除く原告ら派遣労働者は,別紙1ないし8,10ないし12,14及び15記載のとおりの各職場において被告従業員である職長の指揮命令下に自動車製造業務に従事していたところ,多くの職場においては被告従業員と派遣労働者(サポート期間中はサポート社員)が混在し同様の作業に従事していたこと,a工場では2交代制が採られていたところ,就業時間は被告従業員及び派遣労働者ともに同じであったこと,早出(午前7時頃から),残業〈午後9時頃まで),休日出勤の指示についても職長又は同補佐から被告従業員又は派遣労働者の区別なく行われていたこと,労働者らの出退勤の管理は派遣元だけでなく被告も職長らによって管理していたこと,派遣労働者が有給休暇を取得するときには,職長に申し出て,他の被告従業員又は派遣労働者と希望日が重なるときには,その調整が行われていた(この点,被告従業員も労働局の調査に対し「(派遣労働者が有給休暇の取得を希望した場合には)本人から事前に申告してもらい,職場の他の職員との休みを調整のうえ休んでもらっている。」旨陳述している〈乙A26の1〉。)上,派遣労働者の中には,希望日の有給取得を職長が了解せず,その日に有給休暇を取得できなかった者がいたこと,派遣労働者が着用する作業着は,被告従業員と同一のものであり,最初の1着は派遣元から支給されるが,2着目以降はa工場内の売店で購入する必要があったところ,当初,派遣労働者は被告従業員に対する割引制度が利用できず,定価で購入していたが,職長が便宜を図るなどして,事実上割引制度を利用して購入している派遣労働者もいたこと(その後,派遣労働者も割引制度を利用できるようになった。),a工場においては,TPM(Total Productive Maintenance)と呼ばれる改善作業(生産活動における各種ロスを軽減するための自主保全活動〈甲B10の5〉)や,○○と呼ばれる教育プログラムが施行されていたところ,派遣労働者も被告従業員に混じりそれらに参加していたこと,派遣労働者に対しては,1年間の勤務シフトのほか,定時退社日のスケジュールが記載された「Y社製造カレンダー」(甲A22)が交付されており,原告らは,同カレンダーを参照して,お盆,年末年始等の長期休みのスケジュールを把握していたこと,a工場においては,ゴールデンウィークやお盆,年末年始等の長期休みには,派遣労働者も含め,現住所,電話番号,帰省先又は旅行先の滞在地と連絡先が記載された「緊急連絡用住所録」が作成されていたことが認められ,これらによれば,被告は,原告X9及び同X13を除く原告らについて,被告従業員と同様に,作業上の指揮命令や出退勤の管理を行うのみならず,派遣元からの派遣を受けない形で雇入れを拒否することのできる権限を事実上保持することにより,生産効率の高い有能な労働者の派遣を受けることができるように配置換えをする権限も有しており,これらは労働者の雇用に関与している事情といえ,したがって,原告X9及び同X13を除く原告らと被告との間には,使用従属関係及び労務提供関係が認められるというべきである。
ウ 次に,賃金支払関係についてみると,派遣労働者が派遣元から受領する金員は,被告が派遣元に派遣料金として支払った金員から派遣元の経費,利益等を控除した額を基礎にするものであると推認されるところ,前記認定説示のとおり,被告は,平成18年9月以降,ランク制度を導入して派遣料金の見直しを図っているところ,その目的が被告が派遣元に派遣労働者のランクに応じた派遣料金を支払うことで,派遣元から派遣労働者に対しランクに応じた給与が支払われるようにすることにあることは明らかであり,ランク制度の導入に伴い,本件各派遣元からランクに応じた給与が支払われるようになることは被告・派遣元・派遣労働者の3者の共通認識となっていたことが認められる。被告が派遣労働者のランクの付与に主体としてかかわっていたことも優に認められ,これによれば,被告が派遣労働者の給与等の名目で派遣元から受領する金員の額を実質的に決定する立場にあったことが認められるというべきである。
エ 以上によれば,被告が,原告X9及び同X13を除く原告らを直接指揮,命令監督してa工場の各職場において作業せしめ,その就業条件の決定,賃金の決定等を実質的に行い,派遣労働者がこれに対応して上記職場での労務提供をしていたということができる。そうすると,原告X9及び同X13を除く原告らと被告との間には黙示の労働契約の成立が認められるというべきである。
オ 他方,原告X9及び同X13については,前記認定のとおり,同人らと派遣元との間の派遣労働契約を無効と解すべき特段の事情は認められず,そうである以上,被告と派遣元との間の原告X9及び同X13にかかる労働者派遣契約が違法な労働者供給契約に該当する余地はなく,有効である。
そうすると,原告X9及び同X13が被告の指揮命令下にあったといっても,それは労働者派遣である以上,当然のことであって,このことをもって被告と原告X9及び同X13との間に黙示の労働契約が成立していたとは認められず,他にこれを認めるに足りる事情も存しない。
(2)  労働契約の内容
ア 契約期間の定めを含む労働条件が当事者間の交渉,合意によって決せられるべき事柄であるとしても,派遣労働者・サポート社員・派遣労働者という循環を繰り返す中で被告が原告X9及び同X13を除く原告ら派遣労働者から労務の提供を受けていたという事実関係,被告が平成18年9月以降,ランク制度及びパフォーマンス評価制度を導入して派遣労働者の定着化を目指したことから窺われる被告の長期雇用の意図からすれば,被告・原告X9及び同X13を除く原告ら間には期間の定めのない労働契約が成立するというべきである。
イ そして,ランク制度の運用上,降格が予定されていなかったこと(乙A70),「『生産サポート社員』(第11期)募集のお知らせ」(甲A6)によれば,サポート社員の給与が派遣労働者時代に支払われていた給与水準と同等とされていることによれば,その賃金は,原告X9及び同X13を除く原告らに支払われていた平均賃金とすることの黙示の合意が成立していたというべきであり,弁論の全趣旨によれば,原告らの平均賃金は別紙1ないし8,10ないし12,14及び15記載の「平均給与額(認定分)」のとおりと認められる。
ウ そうすると,被告は,原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5,同X6,同X7,同X8,同X10,同X11,同X12,同X14及び同X15に対し,それぞれ別紙1ないし8,10ないし12,14及び15の「未払賃金額(認定分)」欄記載のとおり,上記原告らが被告での就業を終えた月の翌月(なお,原告らが被告での就業を終えた日付については,別紙の勤務期間欄記載のとおりである。)から平成21年4月までの確定未払賃金の支払義務を負うとともに,同年5月から本判決確定の日まで,毎月25日限り,それぞれ別紙1ないし8,10ないし12,14及び15の「平均給与額(認定分)」欄記載の金員の支払義務を負うというべきである。
4  サポート社員の雇止めについて
原告X3,同X4,同X5,同X6,同X11及び同X14については,サポート期間満了後,派遣元との間で派遣労働契約を締結できず,再び派遣労働者として被告において就業することができなかったものであるが,前記のとおりサポート社員制度は単にクーリング期間を満たすための方便として導入されたものであること,上記原告らと被告との間には前記3のとおりの黙示の労働契約が成立していると認められることに照らせば,本件サポート契約やサポート社員に係る就業規則にかかわらず,上記原告らと被告の間には,賃金を平均給与額とする期間の定めのない労働契約が成立していたと認めるのが相当である。
5  不法行為(期待権侵害)について
(1)  原告X9及び同X13を除く原告らについて
前記認定説示のとおり,原告らが被告に対し労働契約上の権利を有していると認められることに照らせば,期待権侵害を理由とする不法行為が成立する余地はない。
(2)  原告X9及び同X13について
ア 原告X9は,人証請求もなされなかったばかりか陳述書も提出しておらず,本件全証拠によっても,同人が雇用継続に対する期待を有していたとは認められない(原告X9は,サポート社員も経験していない。)。
イ 原告X13は,自己の雇用形態が労働者派遣であることを認識して派遣元のe社との間で派遣労働契約を締結し,派遣労働者としてa工場で働いていたものであり,サポート社員も経験していないことに照らせば,同人が雇用継続に対する期待を有していたとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠も存在しない。
派遣先である被告に労働者派遣法40条の2違反の事実が認められたとしても,このことのみを理由に個々の派遣労働者において派遣先である被告に対する継続雇用の期待が生じることもないというべきである。
ウ したがって,原告X9及び同X13に対し,期待権侵害を理由とする不法行為の成立は認められない。
第4  結語
1  以上によれば,原告X9及び同X13を除く原告らはいずれも被告正社員の地位にあり,被告はそれら原告に対し賃金及び遅延損害金の支払義務を負うが,本判決確定日以降の将来請求分については訴えの利益がないというべきである(なお,原告X9及び同X13を除く原告らの中には被告における就業を終えてから今日までの間に他の事業所で働いて収入を得ていたものがあることが窺えるものの,それら原告らは被告における就業を希望していたものであり,他の事業所で働いていたからといって被告に対する労務提供の意思及び能力を否定すべきでないし,本件において中間収入の主張・立証はなされていないから,遡及的賃金支払義務から中間収入を直接控除することもしない。この点は別途解決されるべき問題であると思料する。)。
他方,原告X9及び同X13は被告正社員の地位にあるとは認められず,原告X9及び同X13の地位確認,賃金等の支払請求については棄却すべきである(なお,賃金等請求について,本判決確定日以降の将来請求分については,そもそも訴えの利益がないというべきである。)。
また,原告らの雇用継続に対する期待権侵害を理由とする不法行為の主張は理由がないから,棄却すべきである。
2  よって,原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5,同X6,同X7,同X8,同X10,同X11,同X12,同X14及び同X15らの各請求は,主文の限度で理由があるからこれらを認容し,本判決確定日以降に履行期が到来する賃金の支払請求部分の訴えを却下し,その余の請求をいずれも棄却することとして,原告X9及び同X13の請求は,本判決確定日以降に履行期が到来する賃金の支払請求部分の訴えを却下し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山本善彦 裁判官 松永晋介 裁判官 林﨑由莉子)

別紙
当事者目録
山口市〈以下省略〉
原告 X1(以下「原告X1」という。)
山口県宇部市〈以下省略〉
同 X2(以下「原告X2」という。)
山口県宇部市〈以下省略〉
同 X3(以下「原告X3」という。)
山口市〈以下省略〉
同 X4(以下「原告X4」という。)
福岡市〈以下省略〉
同 X5(以下「原告X5」という。)
山口市〈以下省略〉
同 X6(以下「原告X6」という。)
山口市〈以下省略〉
同 X7(以下「原告X7」という。)
山口県宇部市〈以下省略〉
同 X8(以下「原告X8」という。)
山口県防府市〈以下省略〉
同 X9(以下「原告X9」という。)
山口県下関市〈以下省略〉
同 X10(以下「原告X10」という。)
熊本県上益城郡〈以下省略〉
同 X11(以下「原告X11」という。)
山口県宇部市〈以下省略〉
同 X12(以下「原告X12」という。)
福岡県春日市〈以下省略〉
同 X13(以下「原告X13」という。)
山口県防府市〈以下省略〉
同 X14(以下「原告X14」という。)
山口市〈以下省略〉
同 X15(以下「原告X15」という。)
上記15名訴訟代理人弁護士 内山新吾
同 坂元洋太郎
同 田川章次
同 臼井俊紀
同 田中礼司
同 横山詩土
同 林貴士
同 前田将志
同 大賀一慶
上記訴訟復代理人弁護士 仁比聡平
広島県安芸郡〈以下省略〉
被告 Y株式会社
上記代表者代表取締役 A
上記訴訟代理人弁護士 那須野徳次郎
同 檜垣誠次
同 手島将志
上記訴訟復代理人弁護士 寺廣映輝
以上
〈以下省略〉
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