「営業アウトソーシング」に関する裁判例(52)平成25年 6月27日 東京地裁 平24(ワ)19643号 損害賠償請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(52)平成25年 6月27日 東京地裁 平24(ワ)19643号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成25年 6月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)19643号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2013WLJPCA06278028
要旨
◆技術者派遣等を事業目的とする原告が、同じく技術者派遣等を事業目的とする被告は、原告の取引先等に対して原告の信用を毀損する虚偽事実を記載した本件文書を送付し、弁護士会の照会によって原告の信用を毀損する虚偽事実を記載した書面を送付させ、また、被告等のウェブページ上に原告の信用を毀損する虚偽事実を記載した文書を掲載したとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、被告において、被告の元取締役や従業員の違法行為や違法となる可能性のある行為について原告が関与している可能性を疑ったことには相当の理由があるとした上で、本件各文書の記載内容、弁護士法23条の2の照会制度の重要性、投資家に対して訴訟情報を公開することの必要性等に照らすと、本件各文書送付行為、本件各照会文書送付行為及び本件掲示文書の掲載行為はいずれも違法であるということはできないとし、請求を棄却した事例
新判例体系
公法編 > 組織法 > 弁護士法〔昭和二四年… > 第四章 弁護士の権利… > 第二三条の二 > ○報告の請求 > 照会が適法な事例
◆同業他社による自社従業員の大量引抜行為及び顧客奪取行為を理由とする損害賠償事案において代理人弁護士によりされたかかる事実を記載した書面をもってされた弁護士法第二三条の二に基づく弁護士会照会の申出を違法とすることはできない。
参照条文
民法709条
裁判年月日 平成25年 6月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)19643号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2013WLJPCA06278028
横浜市〈以下省略〉
原告 X株式会社
同代表者代表取締役 A1
同訴訟代理人弁護士 的場徹
山田庸一
服部真尚
大塚裕介
川口綾子
小杉健太郎
東京都品川区〈以下省略〉
被告 株式会社Y
同代表者代表取締役 A2
同訴訟代理人弁護士 大塚和成
高谷裕介
小林隆彦
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する平成24年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(附帯請求の始期は,訴状送達の日の翌日である。)。
第2 事案の概要
本件は,技術者派遣等を事業目的とする原告が,同じく技術者派遣等を事業目的とする被告において,原告の取引先等に対し,原告の信用を毀損する虚偽の事実を記載した文書を送付し,弁護士会の照会によって原告の信用を毀損する虚偽の事実を記載した書面を送付させ,また,被告等のウェブページにおいて原告の信用を毀損する虚偽の事実を記載した文書を掲載し,又はさせたと主張し,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,営業活動の妨害によって原告に発生したとする損害の一部1000万円及び弁護士費用100万円の合計1100万円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提となる事実(証拠を付記したもの以外は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,受託開発サービス及び技術者派遣を主たる事業目的とする株式会社である。
イ 被告(旧商号株式会社a1)は,受託開発サービス及び技術者派遣を主たる事業目的とする株式会社である。被告の親会社であった株式会社a2(以下「a2社」という。)は,その保有する被告株式を株式会社a3(以下「a3社」という。)に譲渡し,平成23年6月1日,被告は同社の子会社となった。
(2) 書面の送付
ア 被告は,平成24年2月29日頃,原告の取引先数社に対し,別紙1の書面(甲1。以下「本件第1送付書」という。)を送付した。
本件第1送付書には,「ご協力のお願い」と題して,「当社は平成24年2月29日,同業他社による違法行為に関する調査委員会を設置いたしました」「現在,同業他社の活動により,当社の顧客や社員を巻き込んだ,当社従業員の引抜行為や情報漏洩行為等の,コンプライアンス上及び社会通念上の問題が疑われる事案が発生している」「皆様に上記調査として当社を退職した社員の就業状況等のご協力を弁護士協会を通じ,お願いすることもあるかと存じます」「尚,万が一調査へご協力頂けず,違法行為が発覚した場合に関しては,皆様に対して,事実関係の公表とともに,貴社監査役及びコンプライアンス部門への違法行為に関する調査依頼を含む,しかるべき措置を取らざるを得ないことを申し添えます」との記載がある。
イ 被告は,同年3月5日頃,原告の取引先数社に対し,別紙2の書面(甲2。ただし,実際に送付された書面から文中における送付先会社名や個人名等の固有名詞が削除されている。以下「本件第2送付書」という。)を送付した。
本件第2送付書には,「調査へのご協力のお願い」と題して,被告の元従業員であった者数名の氏名を明示し,同人らにつき,「同業他社に就職の上,同社と貴社との請負契約に基づき,貴社にて業務をしていないかご調査頂き,その結果(同業他社社員としての業務遂行の有無,当該同業他社名,同業他社の従業員としての業務開始時期,及び当該従業員が勤務会社を切り替えた経緯)をお知らせ頂けないでしょうか」との記載がある。
(3) 弁護士会による照会書の送付
ア 被告は,平成24年3月27日,代理人弁護士を通じて,第二東京弁護士会に対し弁護士照会を申請することにより,b株式会社(以下「b社」という。),株式会社c(以下「c社」という。),株式会社d(以下「d社」という。),株式会社e(以下「e社」という。)及びf株式会社(以下「f社」という。)に対し,受任事件の相手方名を原告とする「本件は,労働者派遣事業者である相手方が,同じく労働者派遣事業者である依頼者の従業員(顧客先に派遣している従業員)らに対し,引き抜き(ある企業から労働者を退社させ,自己との雇用関係に入らせること)の勧誘を行い,これにより依頼者の従業員らが大量に相手方に引き抜かれ,かつ,依頼者は一部の顧客先をも失ったという,大規模な引き抜き事件である。依頼者は,当該引き抜き行為及び顧客先の奪取行為が,社会的相当性を欠くものであるため,これにより生じた損害の賠償を求めるべく目下訴え提起の準備中である。」との記載のある書面(乙33等。以下「本件第1照会書」という。)を送付させた。
イ 被告は,同年5月10日,代理人弁護士を通じて,第二東京弁護士会に対し弁護士照会を申請することにより,g株式会社(以下「g社」という。),b社,c社,d社,e社及びf社に対し,受任事件の相手方名を原告とする「本件は,労働者派遣事業者である相手方が,同じく労働者派遣事業者である依頼者の従業員(顧客先に派遣している従業員)らに対し,引き抜き(ある企業から労働者を退社させ,自己との雇用関係に入らせること)の勧誘を行い,これにより依頼者の従業員らが大量に相手方に引き抜かれ,かつ,依頼者は一部の顧客先をも失ったという,大規模な引き抜き事件である。依頼者は,当該引き抜き行為及び顧客先の奪取行為が,社会的相当性を欠くものであると考え,これにより生じた損害の賠償を求めるべく目下訴え提起の準備中である。特に,引抜き行為のうち,依頼者は,従業員が退職し,当該従業員が相手方に移籍しても,なお当該従業員が従前の業務を継続し続けるという,いわゆる居抜き行為は,違法性が高いと考えている。」との記載のある書面(乙34等。以下「本件第2照会書」という。)を送付させた。
(4) ウェブ上での文書の掲載
ア 被告は,平成24年6月15日,被告の自社ウェブページ内の「IR情報」ページの「ニュースリリース」欄に「訴訟提起に関するお知らせ」との記載をし,同記載にリンクさせたページ(http://〈省略〉)において,同日付けで「訴訟提起に関するお知らせ」と題し,同日東京地方裁判所に対して原告ほかに対する訴訟提起をしたこと,「訴訟に至った経緯及び理由」として「当社が顧客先に派遣していた社員が,X社及びX社に移籍した当社の元役職員により,顧客ごと引き抜かれた事実等が明らかとなり,本委員会は,かかる当社元役職員による引抜き行為が社会的相当性を逸脱する引抜き行為に該当する可能性が高いと判断しました。かかる引抜き行為は一般に「居抜き」での引抜行為と呼ばれており,当社としては,かかる「居抜き」での引抜き行為は,企業がコストをかけて開拓した顧客と,教育費等をかけて育成した社員を,同業他社がわずかな労力で根こそぎ奪うものであり,企業から従業員を育成するインセンティブを奪い,安易な引抜き競争を招く行為として,派遣業界,ひいては日本の労働市場にとって由々しき行為であると考えております。」と記載した別紙3の書面(甲3。以下「本件掲示文書」という。)を掲載した。
イ 被告は,JASDAQの開示情報として,JASDAQのウェブページ(http://〈省略〉)に本件掲示文書を掲載させた(以下,被告による本件第1送付書及び本件第2送付書の送付,本件第1照会書及び本件第2照会書を送付させたこと,本件掲示文書等のウェブページへの掲載を併せて「本件送付等」という。)。
(5) 被告従業員の退職
被告においては,平成24年7月時点において,平成23年6月当時約730名いた従業員のうち150名を超える者が退職している。これらの中には,被告退職後,原告に就職した者がいる。
(6) 別訴の提起
被告は,平成24年6月15日,東京地方裁判所に対し,原告並びに被告の元役員及び元従業員を被告らとして,被告従業員の引き抜きが不法行為に当たるとする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟(平成24年(ワ)第17309号。以下「別件訴訟」という。)を提起した。
2 争点
(1) 本件送付等が違法性を欠くものであるか(争点1)
(2) 原告の損害額(争点2)
第3 当事者の主張
1 争点1(本件送付等が違法性を欠くものであるか)について
(被告の主張)
本件送付等は,以下のとおり,いずれも社会通念上正当な企業活動であり,自由競争の範囲を逸脱する違法なものではない。
(1) 原告及び被告について
被告は,エンジニア派遣事業及びエンジニアアウトソーシング事業等を営み,大阪証券取引所のJASDAQ市場に上場している。原告は,受託開発・エンジニア派遣の事業を営む株式会社であって,被告の競業会社である。
(2) 関係者について
ア 被告の代表取締役であったA3(以下「A3」という。)は,平成23年6月30日,被告の代表取締役及び取締役を辞任し(乙4),同年10月1日,原告に入社し,平成24年2月3日に原告の取締役に就任した(乙6の1)。
A3は,平成10年11月に被告に入社し,大阪支店長に就任した後,平成13年4月に西日本統括部長兼大阪支店長となり,被告の西日本における営業全体を統括する立場となった。そして,平成15年10月から,被告のエンジニアリングアウトソーシング事業本部営業部長,エンジニアリングアウトソーシング事業本部長を歴任し,被告の営業全体を統括する立場となった。そのため,A3は,被告と顧客との窓口兼責任者として,顧客に対する営業に赴き,また,被告の各支店長を集めた営業会議を毎月実施し,営業の従業員からの情報を集約して支店の営業状況を把握するなど,被告の全ての営業情報に精通していた。さらに,A3は,そのような営業の従業員からの報告書を集約し,営業活動を行う上で欠かすことのできない内勤者派遣状況表(委託元又は派遣先で業務に従事しておらず仕事の割り振りを待つ技術従業員について,どのような特性,能力等を持ち,どのような顧客ニーズに合致するかを直ちに判断できるようにするため,技術従業員の属性等を一覧にしたもの)を毎営業日に継続して作成し,営業活動に用いていた。
イ A4(以下「A4」という。)は,被告の元営業部門のエンジニアリング事業本部長(営業部門の統括者)であり,平成23年6月30日に被告の取締役に就任したが,同年12月14日に取締役を退任し,同月26日に被告を退社し,平成24年1月10日,原告に入社し,原告の営業担当者として稼働している。
ウ A5(以下「A5」という。)は,被告熊本営業所の営業担当者兼技術従業員として稼働していたが,平成23年7月29日に被告を退職し,同日頃から原告に就職し,原告の営業担当者兼技術従業員として稼働している。
エ A6(以下「A6」という。)は,平成11年1月18日から被告大阪支店の営業担当者として,平成14年6月1日から被告大阪支店長として被告における西日本の営業活動を統括していたが,平成23年9月30日,被告を退職し,同年10月21日に原告に入社し,原告の営業担当者として稼働している。
(3) 原告による被告従業員に対する引き抜き行為
A3が被告取締役を辞任した平成23年6月30日頃から,原告による被告の顧客及び従業員の引き抜きが始まり,同日から平成24年3月31日までの9箇月間に被告従業員53名(営業7名,技術46名)が被告を退職し,原告に入社した。そして,原告へ入社した技術従業員の大半が,従来の被告による技術従業員の派遣先との派遣契約,請負契約又は業務委託契約に基づき,当該従業員が就業していた場所で,そのまま業務を継続している。このように,派遣従業員の就業先の移籍により,派遣元だけが変わり,派遣先(顧客)が従来と変わらない引き抜き(いわゆる「居抜き」と呼ばれている。)は,引き抜き先が何らのコストも掛けずに派遣先(顧客)ごと引き抜く,派遣業界では悪質な引き抜き行為である。
なお,被告のような派遣業者においては,営業担当者が顧客企業と技術従業員との双方の連絡役となり,両者の調整役としての役割を担っているため,両者に強い影響力を有している。そのため,営業担当者を引き抜けば,当該営業担当者を通じて技術従業員を引き抜くことが容易であり,また,技術従業員を引き抜けば,顧客企業としては,専門性の高い当該技術従業員に現場から抜けられると業務遂行に支障を来すため,派遣元業者,発注先又は業務委託先を,技術従業員の新たな就業先に変更せざるを得ないとの事情がある。
A3,A4,A5及びA6(以下,これら4名を併せて「A3ら」という。)による原告との共同しての被告の顧客及び従業員の原告への引き抜き行為として,以下のものが存在する。
ア 被告の営業担当者の引き抜き
A3は,被告における営業担当者,技術従業員及び顧客企業との関係から,営業担当者を引き抜けば,技術従業員を引き抜くことが容易であり,技術従業員が移籍すると,顧客企業としては,派遣元業者,発注先又は業務委託先を,技術従業員の新たな就業先に変更せざるを得ないとの関係にあることを利用し,被告の代表取締役を退任する前から,A3が原告に移籍することを前提に,被告の営業担当者に対して引き抜きの勧誘を行った。
そして,平成23年6月30日にA3が被告の代表取締役を辞任するのと同時に,被告の営業担当者であったA7(以下「A7」という。)は,被告を退社し,平成24年7月1日に原告に入社した。被告の営業担当者であったA8(以下「A8」という。)は,A3が被告の代表取締役を辞任した平成23年6月30日に被告を退社し,原告に入社した。その他,被告の営業担当者であったA9(以下「A9」という。)は同年10月31日,A10(以下「A10」という。)は平成24年2月15日,A11(以下「A11」という。)は平成23年11月30日に被告を退社して原告に入社しており,これに,A4及びA6も併せると,被告の営業担当者7名が被告から原告に引き抜かれた。
イ f社関係
被告とf社とは,f社が事業を引き継いだ従前の会社との契約を含め,期間1年の業務委託請負契約(乙8,9)を締結し,これを12年間にわたり更新してきた。
被告取締役でf社に係る被告営業担当者であったA4は,平成23年10月12,13日頃,「営業出張」「引継ぎ」などと称して被告の費用でf社の大阪事業所を訪れ,f社に対し,「居抜き」での引き抜き行為の打診を行った(乙21)。
また,A4は,同月下旬,元被告従業員で原告営業企画部に所属していたA8とともに,f社に対し,f社大崎事業所に勤務していたA12(以下「A12」という。),A13(以下「A13」という。),A14(以下「A14」という。),A15(以下「A15」という。),A16(以下「A16」という。),A17(以下「A17」という。)及びA18(以下「A18」という。)の被告従業員7名(以下「f社関係従業員」という。)が平成24年1月以降に被告から原告に移籍することを前提として,直接原告との間で業務委託契約を締結することを打診した。これに対し,f社が,これまで原告との取引実績がないとして断ったところ,A4からの求めに応じてf社から代替手段として提案されたf社の既存の業務委託先と原告とが業務委託契約を締結することにより原告がf社の再委託先となる方法を採用するために,A4は,f社に対し,f社の業務委託先の紹介を求め,その結果,平成23年11月下旬頃,f社は,原告に対し,f社の既存の業務委託先であるh株式会社(以下「h社」という。)を紹介した。(乙11)
その後,原告とh社との間で取引が開始され,f社関係従業員は,被告を退職し原告に移籍した後,f社において従前どおりの業務に従事し続けている(乙11)。被告は,f社関係従業員全員が同時に退職したことにより,やむを得ず,f社との業務委託契約を合意解除した。
ウ g社関係
(ア) A3は,被告の代表取締役であった平成23年4月18日,19日,同年5月9日ないし11日,同年6月7日ないし11日,「営業出張」「引継ぎ」などと称して被告の費用で頻繁に熊本を訪れ,被告とg社との間の業務委託契約に基づき被告の熊本営業所において受託開発業務に従事していた被告従業員であるA5,A19(以下「A19」という。)及びA20(以下「A20」という。),被告とg社との間の労働者派遣契約に基づきg社熊本営業所で業務に従事していた被告従業員であるA21(以下「A21」という。)及びA22(以下「A22」という。)の5名に対し,原告に移籍するように勧誘するとともに,原告の熊本営業所設立の準備行為をした。そして,A3の勧誘に応じたA5は,g社に対し,平成23年7月,被告の会社方針として電子・電気機器の請負業務については撤退を決め,同月末日をもってg社からの請負は受注できなくなる旨通知した(乙14)。
しかしながら,被告が,電子・電気機器の請負業務について撤退を決めた事実はなく,また,A5に対してg社に対して上記申入れをするよう許可した事実もなく,A5による上記通知は被告の同意なく行った虚偽のものであった。
これにより,g社から被告に対する業務の発注はなくなり,更にg社関係の上記5名の被告従業員全員が原告に引き抜かれたため,被告はやむなく熊本営業所を閉鎖せざるを得ない状況に追い込まれた。
(イ) これと入れ替わるように,原告は,平成24年7月,熊本に営業所を設置し,g社から被告が請け負っていた業務をそのまま受注した。
A21は平成23年8月31日に被告を退職し同年9月1日に原告に入社し,A22は同月30日に被告を退職し同年10月1日に原告に入社し,それぞれg社において従来と同様の業務を行っている。A5,A19及びA20も,被告を退職し,現在,g社が原告に対して個別に業務を委託した場合には,A5,A19及びA20が同業務に従事する態勢にある(乙14)。
エ d社関係
被告の従業員でd社に対する営業担当であったA7は,平成23年8月中旬,d社に対し,被告従業員でd社に派遣されていたA23,A24及びA25の3名(以下「d社関係従業員」という。)が被告を退職して原告に転籍することを前提に,d社関係従業員が従来どおりd社関係の業務を行いながら,派遣元を被告から原告へ切り替えることを勧誘した。
また,平成14年6月1日から被告大阪支店長として被告における西日本の営業活動を統括していたA6は,平成23年6月中旬頃,d社の被告営業担当者となったが,d社関係従業員が被告を退職するのであれば,当時,被告の従業員として存在した被告からd社へ派遣する代替の技術従業員を提案し,派遣契約の維持を図るべきであったにもかかわらず,A6自身も原告に転職することが決まっていたため,そのような代替従業員の提案を一切せず,かえってd社に対し,d社関係従業員が被告を退職するため,被告がd社との派遣契約の継続ができない旨を連絡した(乙18)。
平成23年9月30日にA6及びd社関係従業員は被告を退社し,その後,原告に入社し,原告は,同年10月1日からd社関係従業員をd社に派遣し,取引を開始した(乙18)。
(4) 原告による違法な引き抜き行為の存在
A3は被告の代表取締役を辞任する前後,A4は被告の取締役として,A5は被告熊本営業所の営業担当者兼技術従業員として,A6は被告大阪支店長として,原告と共謀し,被告の従業員らに被告と競業する原告に移籍するように勧誘し,また,被告と取引先企業との契約の解消に至らせたものであって,その引き抜き行為が,被告の経費を使って,大量,計画的かつ秘密裏に行われたこと,引き抜き方法が,いわゆる「居抜き」であって,技術従業員とともに顧客企業まで奪う悪質性が高いものであったこと,引き抜き行為は,被告と被告の技術従業員間の秘密保持契約に基づき同技術従業員が被告に負担する秘密保持義務を侵害するものであったこと,引き抜き行為が被告における技術従業員の名簿を悪用して行われたものであることによると,原告による被告従業員の転職への勧誘行為は,社会的相当性を逸脱した違法なものであった。
(5) 本件送付等の目的及び態様
ア 本件第1送付書及び本件第2送付書は,送付先である原告の取引先が読めば,被告が同業他社による違法行為に関する調査委員会を設置したこと,当該調査委員会の目的が被告従業員の引き抜き行為や情報漏えい行為等の実態につき,外部有識者を交えて調査し,しかるべき法的措置を策定する点にあることが明示されており,その上で,調査への協力を求めるものである印象を持つものである。そして,これらの書面中には,原告の名称は記載されておらず,「同業他社」が原告であると特定することはできず,これらの書面が原告の信用を毀損するものということはできない。
また,これらの書面は,そもそも原告による被告従業員の引き抜き行為等について,事実関係が必ずしも明確ではないことを前提として,同業他社の活動により被告の顧客や従業員を巻き込んだ被告従業員の引き抜き行為や情報漏えい行為等のコンプライアンス上及び社会通念上の問題が疑われるとして,必要最小限の取引先(本件第1送付書は9社,本件第2送付書は4社)に対して,いまだ不明確な事実関係について調査への協力を求めるものにすぎず,特定の事実関係を確定したものとして告知するものではなく,虚偽事実の記載はない。
さらに,紛争当事者の一方の発言等については,真実性を相当程度緩和するか,単に当事者の一方の主張を述べたものにすぎないとして真実性を問題としないのが一般的傾向である。
そして,本件第1送付書及び本件第2送付書は,被告自身の正当な営業上の利益を守るため,事実関係の調査への協力要請をしたものであって,何らの不当な動機・意図に基づくものではない。
イ 本件第1照会書及び本件第2照会書の記載から,送付先である原告の取引先は,原被告間に紛争が生じており,これに関連して被告が調査を依頼してきており,これらの照会書に記載の事実関係は飽くまで被告の一方的主張であると認識するものであって,これらの記載により,原告の信用は毀損されない。
なお,原告主張のように本件第1照会書及び本件第2照会書に原告が違法な被告従業員の引き抜き行為や情報漏えい行為をしたという事実が摘示されていると照会先が受け取ったと仮定したとしても,弁護士会照会という公的手続を利用したもので,その照会先(本件第1照会書は10社,本件第2照会書は6社)は必要最小限であり,同事実は全て真実であることなどに照らすと,これらの照会書を送付させたことは,被告自身の正当な営業上の利益を守るため,訴訟提起の前提となる事実関係の調査の協力要請をしたものであって,何らかの不当な動機・意図に基づくものではない。
ウ 本件掲示文書は,上場会社である被告がその発行する株式を上場する株式会社大阪証券取引所の開設するJASDAQの規則に基づく適時開示として,株主その他のステークホルダーに情報提供する目的から開示されたものである。
本件掲示文書の「訴訟提起に関するお知らせ」という表題とともに,その内容を一般人が読めば,全体として,被告の原告に対する訴訟提起の事実及び被告の原告に対する請求内容やその事実上及び法律上の主張内容を説明したものであり,これに対して原告は被告が問題視する引き抜き行為を「社会通念上相当な営業行為である」と主張しているのだとの印象を持つものである。そして,競業者間で紛争が生じることなど日常茶飯事であり,その一方当事者が他方当事者を訴え,自己の主張を摘示開示で説明したとしても,それにより他方当事者の信用が毀損されるとまでいえないもので,本件掲示文書の開示が原告の信用を毀損する態様でされたものではない。
また,本件掲示文書は,被告から原告に対する訴訟提起の事実及び被告から原告に対する請求内容やその事実上及び法律上の主張内容を説明したものとしか読めないから,何ら虚偽の事実など記載されていない。
なお,原告が主張するように本件掲示文書に原告が違法な被告従業員の引き抜き行為や顧客奪取行為をしたという事実が摘示されていると当該文書の読者(一般投資家)が読むと仮定しても,それは全て真実であり,虚偽事実の記載などない。
さらに,原告や被告の各派遣従業員派遣先のメーカーは,派遣元である派遣業者の摘示開示をいちいちチェックすることなど通常はなく,取引先への影響度は小さいものである。
本件掲示文書のウェブへの掲載は,JASDAQの適時開示規則に基づく株主その他のステークホルダーへの情報開示という正当な動機・意図の下で行われたものであって,それ以上に殊更に原告を害する目的で行われたものではない。
エ 以上によると,被告による本件送付等は,いずれも社会通念上正当な企業活動であり,自由競争の範囲を逸脱する違法なものではない。
(原告の主張)
被告は,被告の親会社変更に伴って,営業担当従業員については希望退職募集をし,技術従業員については待機中の給与カット,寮制度廃止などの待遇改悪をし,その結果,合計約150名もの従業員が被告を退職する事態を招いたものであった。それにもかかわらず,被告は,退職した従業員の再就職先の一つにすぎない原告に対して引き抜き行為をしたと言い掛かりを付け,原告が現に取引をしているであろう企業を狙い撃ちにして本件送付等を行った。被告が,本件送付等をした根拠は,被告の元従業員のうちの複数が原告に就職しているということだけであり,そのような希薄な根拠だけで,原告の取引先十数社に対して原告を特定できる内容で,「同業他社の活動により引抜行為や情報漏洩行為が発生している」旨の文書を送付などする行為は許されてはならず,被告の行為は,下記のとおり,社会通念上正当な企業活動などではなく,自由競争の範囲を逸脱するものである。
(1) 書面の送付
被告は,少なくとも,原告の取引先であるi株式会社,e社,j株式会社,k株式会社,l株式会社,b社,c社,m株式会社(以下「m社」という。),g社,f社,n株式会社,o株式会社,p株式会社,q株式会社,株式会社r,d社,s株式会社に対し,メールや電話などで,原告の従業員の個人名を明示し,当該個人が原告の従業員として業務を行っていないか問い合わせた上で,平成24年2月29日頃に本件第1送付書を,同年3月5日頃に本件第2送付書を送付した。
これらの書面における「同業他社」は原告であることを前提としており,かつ,送付先会社においては,本件第2送付書に記載された従業員氏名から両書面に記載されている「同業他社」とは原告を指すことが明らかである。
被告による原告の取引先である上記各社に対する本件第1送付書及び本件第2送付書の送付は,原告が違法な従業員の引き抜き行為及び情報漏えい行為をした旨の事実を告知する上に,文書送付先の企業にも何らかの不利益が及ぶかのような告知をするもので,原告に対する悪質な営業妨害であって,社会通念上正当な企業活動とはいえず,自由競争の範囲を逸脱している。
(2) 弁護士会による照会書の送付
被告は,平成24年3月27日,代理人弁護士を通じて,第二東京弁護士会に対し弁護士会の照会を申請することにより,b社,c社,d社,e社,f社及びm社に対し,対象事件の相手方名を原告とする本件第1照会書を送付させた。
また,被告は,同年5月10日,代理人弁護士を通じて,第二東京弁護士会に対し弁護士会の照会を申請することにより,g社,b社,c社,d社,e社,f社及びm社に対し,対象事件の相手方名を原告とする本件第2照会書を送付させた。
これらの書面を送付させることは,照会先会社らに対し,原告が被告に対し社会的相当性を欠く違法な従業員引き抜き行為及び顧客先奪取行為をしたとの事実を告知する行為である。
(3) ウェブ上での文書の掲載
被告は,平成24年6月15日,被告の自社ウェブページ内の「IR情報」ページの「ニュースリリース」欄に「訴訟提起に関するお知らせ」との記載をし,同記載にリンクさせたページ(http://〈省略〉)において,同日付けで「訴訟提起に関するお知らせ」と題し,本件掲示文書を掲載した。
また,被告は,JASDAQの開示情報として,JASDAQのウェブページ(http://〈省略〉)に本件掲示文書を掲載させた。
これらの被告の行為は,原告の営業上の信用を害する告知に該当する。
(4) 本件送付等の内容が虚偽であること
ア 原告による引き抜き行為が存在しないこと
本件送付等において,被告が記載する原告の違法な引き抜き行為は存在せず,その実態は,被告が経営主体の変更を機に,派遣労働者の教育研修等を行う技術部の縮小,賃金規程やその他の待遇に関する規程を従業員にとって不利な内容に変更したことにより従業員の反発を招き多数の退職者を出したこと,その退職者中に,元の同僚にすがって原告に再就職を求めた者がいたことにすぎない。被告は,自らが招いた多数の従業員の離反であるにもかかわらず,それを棚上げし,大量の退職者を発生させた責任を原告に転嫁しようとしているものにすぎない。
平成23年6月から平成24年7月までの間,被告を退職して原告に就職した者がいるが,これは原告が勧誘したものではない。被告においては,平成23年6月時点で730名程度いた従業員のうち,同月から平成24年7月に至るまでに150名を超す従業員が退職しているところ,この人材流出は,被告における不適切な希望退職者募集及び社内規程変更が原因であって,原告がその責任を負担する理由はないものであった。
イ f社関係
A4は,平成23年10月12日,13日,被告の費用で大阪に出張したが,これは,被告従業員の身内の不幸に際してf社から当該従業員の一時的な就業場所の配慮をしてもらった件のお礼のために出張したにすぎず,その際に引き抜き行為の打診を行ったとの事実はない。
また,A4は,平成23年10月末頃,A8とともにf社を訪問したことがあるが,これは,A8から,f社の業務に従事していた被告従業員であるA14及びA15から個人的に転職に関する相談を受けている旨及び原告においてA14及びA15が希望する業務をすることが可能かどうかをf社に相談する旨を知らされ,被告としても,A14及びA15の就労の継続を希望するであろうf社との間で協議の必要があると考え,A8のf社訪問に同行したものであったが,f社に対し,原告との契約締結を打診したのはA8であって,A4は関与していない。
A4は,A14及びA15に対し,慰留を目的とした退職意向の確認を行ったが,A4自身が退職予定であったこともあって,A14及びA15の具体的な退職意向は確認できなかった。
A4が,f社に対し,原告とf社との契約締結を打診し,又は業務委託先の照会を求めたなどという事実はない。
ウ g社関係
(ア) A3は,平成23年4月18日,19日,同年5月10日,11日,同年6月9日,10日に熊本を訪れたが,いずれも正当な業務のためであって,被告従業員に移籍の勧誘をしたことも,原告の熊本営業所設立の準備行為をしたこともない。A3の同月7日ないし11日の出張には,被告の役員であるA26も同行していたもので,移籍の勧誘などできるはずもない。
被告においては,同月24日に熊本にて勤務していたA5が,同月27日にA20が退職届を提出(即日受理)し,熊本でg社からの受託業務を担当していた中心となる2人が退職することから業務の継続が困難になると判断し,同日,熊本営業所閉鎖が決定された。そこで,A5は,同日,g社に対し,同年8月以降,被告がg社からの受託業務を継続することが困難であること,被告が同年7月末頃をもって被告の熊本営業所を閉鎖することを連絡したが,被告が電子・電気機器の請負業務から撤退するなどとは告げていない。
そして,A19も,被告熊本営業所閉鎖を知り,同年6月29日に退職届を提出した。
(イ) 原告がg社との取引を開始したのは同年9月であって,原告は,g社から被告が請け負っていた業務をそのまま受注したものではない。原告は,同年7月の原告熊本オフィス設立当時,原告とg社との取引をしておらず,他企業との取引を開始していたもので,現在もg社は原告熊本オフィスの複数ある取引先の一つである。
エ d社関係
A6は,d社に対し,d社関係従業員3名の派遣の継続が難しいことは連絡したが,派遣契約の継続ができないとは告げていない。A6は,代替要員の提案はしていないが,そもそも被告に代替の技術者がいたか否か不明であり,また,A6は,平成23年8月第1週には被告に対し退職届を提出し,同月中旬には後任となる被告従業員A27(以下「A27」という。)に的確に業務の引継ぎを行っている。代替要員の提案を行うべきだとすれば,それはA6の業務を引き継いだA27が行うべきであった。
(5) 原告による違法な引き抜き行為が存在しないこと
原告が被告の従業員に対して退職や転職の勧誘をしたことはなく,原告が被告の従業員を引き抜いた事実はない。
被告は,平成23年6月に親会社及び経営陣が変わり,経営方針が変更となり,被告従業員の大量削減による経費の削減を社是とし,従業員を退職に追い込むことに腐心し,希望退職者を募り,従業員に対する待遇も従業員に不利益に変更した。その結果,数多くの従業員が被告を退職することを決意するに至ったものであって,その過程に原告の関与はない。そして,被告からの退職を決意した従業員が,その後,いかなる企業に就職するのかについては,個々人にその選択の自由があり,被告はこれを拘束することはできない。
被告の社内環境悪化の中で,被告に見切りを付けて被告を退職した多数の従業員は,これまでになじんできた仕事を続けることを第1の希望とし,採用の情報を求めてそれぞれの人脈を駆使した就職活動を行った。そのような就職活動の中心に,被告を退職して他社で活躍する元同僚に対する相談があり,その結果,原告に就職した者もいた。原告への再就職は,職業選択の自由において何らの違法もなく,被告に非難される筋合いのものではない。被告の退職者らは,被告に対して競業避止を義務として負うものではなく,また,退職・再就職について何らの共同意思を持ち合わせた事情もない。
(6) 小括
以上のとおり,原告が被告の従業員を勧誘し,退職・転職させた事実はなく,原告が被告の従業員を引き抜いた事実がないにもかかわらず,被告は,原告に「違法な引抜き行為があった」と原告の取引先に本件送付等を行い,原告の営業上の信用を害したものであるが,その内容は虚偽であって,被告には不法行為が成立する。
2 争点2(原告の損害額)について
(原告の主張)
(1) f社関係の損害
ア 原告は,平成23年10月頃から,f社との契約を獲得したいと考え,営業担当の原告従業員A8が営業活動を行った。
その結果,原告においては,f社との直接取引はできなかったが,平成24年1月以降,f社と従前から取引のあるh社がf社から受託した業務を原告がh社から再受託する方法で,f社の業務を受託するようになった。さらに,原告が,f社に対し,原告が再受託している業務をf社との直接契約にすることの営業活動を行ったところ,同年2月13日,f社から原告に対し,新規取引審査で取引可能との結果になったとの連絡があり,同年4月から直接の業務委託契約が実現できることとなった。
しかしながら,被告は,同年2月中旬頃から,f社に対して,電話,メール,訪問等の方法で,被告の元従業員で当時原告の従業員であった個人名を挙げて当該個人が原告従業員として業務を行っているか否かを問い合わせた。f社は,原告に対し,同月21日,被告からf社に対して執ように特定個人に関する就業確認が行われており,f社として非常に迷惑を被っていること,このため当該個人の所属先である原告への不信につながっていることを告げ,同月27日,上記の事情から取引開始について一旦白紙として様子をみたい旨を告げられた。
その後の被告による本件送付等により,原告は,現在に至るまでf社との取引ができない状態にある。
イ 原告は,被告による虚偽事実告知により,取引を妨害され,業務委託契約締結の機会を奪われたものであるところ,原告は,h社からf社の業務を再受託するにつき,h社に対し,1箇月当たり60万円の委託管理費用を支払っている。被告による取引妨害行為がなければ,原告は,同年4月以降はf社との直接取引によりf社の業務を受託することができ,h社に対して上記委託管理費用を支払う必要はなかった。
原告とf社との契約期間は(契約の更新は予定されているものの)1年間の予定であったもので,少なくとも,原告は,f社との契約に関し,本件送付等により720万円(=60万円×12箇月)の損害を被った。
(2) その他の取引先関係の損害
被告は,現在も,原告の取引先に際し,「原告が社会的相当性を欠く引き抜き行為をした」旨の虚偽の事実を記載した弁護士会照会書の送付を続け,原告の営業活動を妨害している(なお,原告において具体的な取引先企業の名前を挙げ,状況を説明すれば,被告が更に虚偽事実の告知をするおそれが大きいので,以下では取引先企業名を匿名で主張する。)。
ア t社
原告は,平成24年2月時点でt社に対して技術従業員2名を派遣しており,更に2名の増員要請を受け,原告から派遣可能な技術従業員について提案中であった。ところが,被告は,同月中旬頃から,t社に対し,電話,メール,訪問等の方法で,被告の元従業員で当時原告の従業員であった個人名を挙げて当該個人が原告従業員として業務を行っているか否かを問い合わせた。そのようなことから,同月27日,t社から原告の営業担当者であるA8に対し,t社の社内で被告との件が懸念事項とされており,リスク回避の点からこれ以上の増員は望ましくない旨告げられ,増員が中止され,その後,増員はされないまま現在に至っている。
同日までに検討されていた増員の派遣料金は,1箇月1名当たり67万円の予定であり,派遣従業員の給与及び販売管理費用等を差し引いた残額は,1箇月1名当たり約8万円,増員の要請は2名であったから,原告は,1箇月当たり16万円の利益を失った。
当該増員に係る派遣契約期間は(契約の更新は予定されているものの)1年間の予定であり,原告は,少なくとも,t社との契約に関し,本件送付等により192万円(=16万円×12箇月)の損害を被った。
イ u社
原告は,平成24年3月時点でu社に対して技術従業員4名を派遣しており,更に同月29日に新規で1名の技術者派遣の要請を受けていたが,同年5月16日,u社から原告の営業担当者であるA6及びA7に対し,被告から弁護士会照会が届き,人事担当部署から増員に対して懸念事項が出ているので一旦白紙とする旨の連絡があり,新規派遣が延期となり,同月末頃,新規派遣の話は白紙に戻され,現在に至るまで増員はされていない。
同年3月29日にu社から要請があった新規派遣の料金は1箇月当たり80万円の予定であり,派遣従業員の給与及び販売管理費用等を差し引いた残額は,1箇月当たり約14万円であったから,原告は,1箇月当たり14万円の利益を失った。
当該新規派遣契約の契約期間は(契約の更新は予定されているものの)1年間の予定であり,原告は,少なくとも,u社との契約に関し,本件送付等により168万円(=14万円×12箇月)の損害を被った。
(3) 小括
以上のとおり,原告は,被告による本件送付等によって,上記(1)及び(2)の合計として少なくとも1080万円の損害を被っており,本訴においてその一部1000万円の賠償を請求する。
また,少なくとも弁護士費用100万円が被告の不法行為と相当因果関係のある損害である。
(被告の主張)
不知若しくは否認又は争う。
第4 争点に対する判断
1 争点1(本件送付等が違法性を欠くものであるか)について
(1) 事実認定
証拠(甲4(以下,特にことわらない限り枝番を含む。以下同じ。),甲5~12,乙1~18,21~23,33,34)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる(前記第2の1の前提となる事実を含む。)。
ア 被告は,受託開発サービス及び技術者派遣を主たる事業目的とするJASDAQに上場する株式会社である。a3社は,被告の親会社であったa2社からその保有する被告の全株式を譲り受け,また,被告の普通株式及び新株予約権を公開買い付けし,その結果,被告は,平成23年5月31日付けでa3社の連結子会社となった。
a3社は,平成23年6月以降,同社の子会社となった被告に対して指示し,その結果,被告は,被告管理部門の従業員の希望退職の実施,派遣先のない技術従業員の研修期間の短縮,研修期間経過後の自宅待機(休業扱い)と給与カット,寮制度の縮小,慶弔金及び見舞金支給事由の限定等の労働条件等の変更を行った。
イ 原告(旧商号v株式会社)は,従前,製造派遣事業を行う会社であったが,現在の原告代表取締役であるA1(以下「A1」という。)が同年6月頃に経営権を取得し,事業目的につき,製造派遣事業に加え,受託開発,各種生産工場の製造過程における加工,組立等の請負を目指すこととし,派遣事業の取引先も増やすこととした。
ウ A4は,被告の営業部門のエンジニアリング事業本部長であり,平成23年6月30日に被告の取締役に就任し,同年12月14日に取締役を退任し,同月26日に被告を退社し,平成24年1月10日,原告に入社し,原告の営業担当者として稼働している。
エ 被告は,g社との間で,平成12年12月25日テスターの電子回路設計及び附帯業務の業務委託契約を締結し(乙12),また,平成17年2月21日被告従業員をg社に派遣する契約を締結し(乙13),平成23年7月当時,被告の熊本営業所において,被告従業員であるA5,A19及びA20が受託開発業務を行い,また,被告技術従業員であるA21及びA22がg社の業務に従事していた。
A5は,同年6月30日,g社の担当者に対し,そのような事実がないにもかかわらず,被告の会社方針として,被告が同年7月に電子・電気機器の請負業務については撤退を決め,同月末日をもってg社からの請負は受注できなくなる旨の虚偽の事実を告げた(乙14)。
A5は同月29日,A19及びA20は同月31日,A21は同年8月31日並びにA22は同年9月30日にそれぞれ被告を退職し,A5は同年8月1日に原告に入社するなど,これらの5名全員,その後,原告に入社した。原告とg社との業務委託契約に基づき,A5,A19及びA20は,g社が原告に発注した業務に従事する態勢となっており,また,原告とg社は同年9月1日に労働者派遣基本契約を締結し,同契約及び労働者派遣個別契約に基づき,A21は同年9月1日から,A22は同年10月1日からg社において業務に従事している(乙14)。
オ 被告は,w株式会社(旧商号w1株式会社。以下「w社」という。)とセルラーシステムの調整業務につき業務委託契約を締結して契約を更新してきていたところ(乙8),平成23年4月30日付けでw社のネットワーク事業部に係る事業がf社に譲渡されたことに伴い,被告とf社は,同年9月6日,同業務委託契約のw社の地位をf社が承継することに合意し(乙9),同合意に基づき,被告従業員であるf社関係従業員は,f社大崎事業所に勤務していた。f社関係従業員であるA12,A13及びA14は同年12月31日,A16は平成24年1月5日,A18及びA15は同月9日並びにA17は同月10日にそれぞれ被告を退職した。
A4は,平成23年10月11日に被告の業務としてf社大阪事業所を訪れた際,f社の担当者に対し,A4及びA15が被告を近々退職して他社に転職する予定であり,可能であれば同転職先でもf社と取引を実施したいとの希望を伝えた。これに対し,f社の担当者は,A4に対し,同転職先の会社とf社が取引をするためには,新規取引業者としての新たな手続が必要となることを説明した。(乙10の4,乙21)
また,A4は,同月下旬,被告営業企画部のA8とともにf社の大阪事業所を訪れ,f社の担当者に対し,f社関係従業員が平成24年1月以降原告に移籍することを前提として,f社が原告と直接取引をすることを打診した。これに対し,f社の担当者は,原告とは取引実績もなく,直接取引は困難であると回答したところ,A4は,f社関係従業員がf社の業務を継続するための何らかの方法がないかと尋ねたことから,f社の担当者が,代替手段として考えられるのは,f社の既存の業務委託先と契約して原告がf社の取引先の再委託先となることである旨を回答したところ,A4は,f社の担当者に対し,f社の取引先を紹介してほしいと要請した。そこで,f社は,同年11月下旬頃,A4に対し,f社の取引先としてh社を紹介した。平成24年以降,原告は,f社の取引先であるh社の再委託先となり,f社関係従業員は,原告の従業員として,h社からの委託業務につき,被告従業員であったときと同様のf社関係の業務を行っている。(乙11)
カ 被告は,d社との間で,平成23年7月1日に締結した労働者派遣基本契約に基づく派遣個別契約によって,被告従業員であるd社関係従業員を派遣していたが(乙15,16),平成23年9月30日,d社関係従業員3名は被告を退職した。
A6は,平成11年1月18日から被告大阪支店の営業担当者として,平成14年6月1日から被告大阪支店長として,d社への被告従業員の派遣業務について担当し,遅くとも平成23年7月15日からは被告西日本アウトソーシンググループ長を兼務して被告の名古屋支店,大阪支店,広島支店及び福岡支店を統括する幹部従業員の立場にあったが(乙22,23),平成23年9月30日に被告を退職し,同年10月21日に原告に入社し,原告の営業担当の従業員として勤務している。
平成23年8月中旬,d社は,被告に対し,同年10月以降の労働者派遣契約の継続を申し込んだが,同月下旬,A6は,d社に対し,被告からd社に派遣されているd社関係従業員が被告を退職するため契約を継続できない旨を告げた。その際,被告には代替技術者が存在しており,被告においてd社との契約の継続に対応することが可能であったにもかかわらず,A6はd社に対して代わりの技術者の提案をすることもなかった。(乙18)
同年9月初旬,原告からd社に対し,同社の要望技術と適合した技術者派遣の提案があり,同月下旬,d社は原告との労働者派遣契約を締結し,同年10月初旬からd社は原告との取引を開始した。
キ A4,A6のほか,いずれも被告の営業担当従業員であったA7及びA8は同年6月30日,A9は同年9月30日,A11は同年11月30日並びにA10は平成24年2月15日にそれぞれ被告を退職し,その後,原告に入社している。また,平成23年9月30日から平成24年3月31日にかけて,上記認定を含む被告の技術従業員であった者32名が被告を退職し,その後,原告に入社している。
(2) A4関係
ところで,技術者派遣等を事業目的とする会社において,その技術者である人材は重要な資産であり,そのような会社の取締役が,就任している会社の人材について,競業他社へ転籍しようとすることを援助したり,競業他社が就任している会社の取引先と取引をすることを手助けしたりすることは,取締役就任先の会社に対する重大な忠実義務違反となるといわざるを得ない。
上記(1)の認定事実のとおり,被告の取締役であったA4は,平成23年10月11日,被告の業務として被告の取引先であるf社大阪事業所を訪れた際,f社の担当者に対し,A4及びA15が被告を近々退職して他社に転職する予定であり,可能であれば同転職先でもf社と取引を実施したいとの希望を伝え,また,同月下旬,f社大阪事業所を訪れ,f社の担当者に対し,f社関係従業員が平成24年1月以降原告に移籍することを前提として,f社が原告と直接取引をすることを打診し,さらに,f社と取引実績のない原告がf社と直接取引をすることが困難であるとされた際,f社の取引先の再委託先となって間接的にf社と取引をするとの方法の教示を受け,f社から同社の取引先としてh社の紹介を受けたものであって,このようなA4の一連の行為は,被告の取締役としての重大な忠実義務違反ということができる。
そして,A4は,その後,被告取締役から退任し,被告を退社し,同年1月10日原告に入社し,原告の営業担当者として稼働していること,原告は,同年以降,h社の再委託先となり,被告から原告に転職したf社関係従業員が,h社からの業務として被告従業員であったときと同様のf社関係の業務を行っていることなどの事情に照らすと,被告において,A4の被告取締役としての上記忠実義務違反につき,原告が何らかの関与をしている可能性を疑ったことも相当の理由があったということができる。
(3) A5関係
A5は,被告従業員として,被告熊本営業所において,被告が業務委託契約や従業員派遣契約を締結していたg社関係の受託開発業務に従事していたところ,平成23年6月30日,g社の担当者に対し,被告が同年7月に電子・電気機器の請負業務については撤退を決め,同月末日をもってg社からの請負は受注できなくなる旨の虚偽の事実を告げたものであって,これは,A5の被告業務に対する虚偽告知による妨害行為として違法である。
そして,A5は,その直後の同月29日に被告を退職し,同年8月1日に原告に入社したこと,原告は,同年9月1日にg社と労務委託契約を締結するなどし,A5のほか従前被告の従業員としてg社関係業務に従事していたA19,A20,A21及びA22がいずれも原告に転職し,原告の従業員として従前の被告従業員であったときと同種のg社関係業務を行ったことなどの事情に照らすと,被告において,A5の上記の違法行為につき,原告が何らかの関与をしている可能性を疑ったことも相当の理由があったということができる。
(4) A6関係
A6は,被告西日本アウトソーシンググループ長兼大阪支店長として被告の幹部従業員の地位にあったところ,平成23年8月中旬,被告の取引先であったd社から労働者派遣契約の継続を申し込まれたことに対し,同月下旬,被告には代替技術者が存在しており,被告においてd社との契約の継続に対応することが可能であったにもかかわらず,d社に対し,代わりの技術者を提案することもなく,d社関係従業員が被告を退職するため契約を継続できない旨を告げたものであって,これは,A6の被告業務に対する虚偽告知による妨害行為として違法となる可能性があったものである。
そして,A6は,同年9月30日に被告を退職し,同年10月21日に原告に入社し,原告の営業担当従業員として勤務していること,同年9月初旬,原告からd社に対し,同社の要望技術と適合した技術者派遣の提案があり,同月下旬,d社と原告との労働者派遣契約が締結され,同年10月初旬から原告がd社との取引を開始したことなどの事情に照らすと,被告において,A6の上記違法となる可能性となる行為につき,原告が何らかの関与をしている可能性を疑ったことも相当の理由があったということができる。
(5) 本件第1送付書及び本件第2送付書の送付等について
原告の取引先数社に対する本件第1送付書及び本件第2送付書の内容は,被告が同業他社による被告従業員の引き抜き行為や情報漏えい行為等のコンプライアンス上及び社会通念上の問題が疑われる事案が発生したため,その実態につき調査中であること,同調査として,被告を退職した当該取引先の業務に関わっていた特定の社員(従業員)のその後の就業状況把握等の報告を依頼すること,弁護士会の照会を通じて協力を依頼することがあること,万一,調査への協力がされず,違法行為が発覚した場合には,事実関係の公表と当該取引先の監査役やコンプライアンス部門への違法行為の調査依頼を含む,しかるべき措置を執らざるを得ないことを記載するものである(甲1,2)。
前記(1)の認定事実によると,これら本件第1送付書及び本件第2送付書の内容は,被告において,競業会社である原告を念頭に,原告が被告従業員の違法な引き抜き行為や情報漏えい行為等に関与していることを疑い,従前被告の取引先であった会社に対して発したものと認められ,また,本件第1送付書及び本件第2送付書を受け取った会社においても,記載された被告の元従業員がその後に原告に入社して当該企業関係の業務に従事している場合には,原告を対象とする調査であることが判明するものであるが,そうであったとしても,本件第1送付書及び本件第2送付書の内容は,事実関係について必ずしも明確ではないことを前提として調査中であることを述べ,また,原告の名称を記載するものでもないこと,上記(2)ないし(4)のとおり,被告において,原告が被告の元取締役や従業員の違法行為や違法となる可能性のある行為について関与している可能性を疑ったことについても相当の理由があるといえることに照らすと,被告が原告の取引先である企業に本件第1送付書及び本件第2送付書を送付したことをもって違法であるということはできず,被告に原告に対する不法行為は成立しない。
また,被告が,従前被告の取引先であった企業に対し,本件第1送付書及び本件第2送付書を送付する前提として,その内容をメールや電話などで連絡していたとしても,上記と同様,これをもって被告には原告に対する不法行為は成立しない。
(6) 本件第1照会書及び本件第2照会書の送付について
ア 本件第1照会書及び本件第2照会書は,被告の代理人弁護士が,第二東京弁護士会によって,従前被告の取引先であった複数の企業に対し,①照会事項として,被告の従業員としてそれらの各企業関係の業務に従事しており,その後,被告を退職した者につき,照会先の企業の業務に従事していることの有無,その者の所属会社等を尋ね,また,被告の元従業員の原告への転職を前提とする照会先と原告との契約締結の勧誘行為の有無及び勧誘者の氏名の回答を求めるものであり,②照会理由として,労働者派遣事業者である原告が,同じく労働者派遣事業者である被告の従業員らに対して,引き抜きの勧誘を行い,これにより被告の従業員らが大量に相手方に引き抜かれ,かつ,被告は一部の顧客を失ったという事件について,被告は,当該引き抜き行為及び顧客先の奪取行為が社会的相当性を欠くものであるため,これにより生じた損害の賠償を求めるべく目下訴え提起の準備中であること,被告としては,原告による引き抜き行為が具体的に被告のどの退職従業員に対して行われたのか,また,被告の退職従業員がいつ原告に移籍したのか,さらに,上記勧誘行為をした者の氏名や勧誘内容等を明らかにするために照会をするものであることなどが記載されている(乙33,34,弁論の全趣旨)。
イ ところで,弁護士法23条の2第1項は「弁護士は,受任している事件について,所属弁護士会に対し,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があった場合において,当該弁護士会は,その申出が適当でないと認めるときは,これを拒絶することができる。」とし,同条2項は「弁護士会は,前項の規定による申出に基き,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」旨規定する。同条所定の制度は,弁護士が,受任している事件を処理するために必要な事実の調査,証拠の発見及び収集を容易とし,これによって当該事件の適正な解決を図るためのものであって,我が国の司法制度における重要な制度の一つであるということができる。そして,このような弁護士会による照会制度の内容等に照らすと,弁護士会からの照会を受けた先としては,2者間に紛争が生じており,これに関して被告が調査を依頼してきているものであること,照会書の照会理由に記載の紛争内容は,照会側一方の主張に基づくものであると認識しているものであることが明らかである。
ウ 以上によると,本件第1照会書及び本件第2照会書の送付を受けた企業は,原被告間に紛争が生じており,これに関連して被告が調査を依頼してきていることを認識するものであるが,照会理由に記載された紛争の内容については,被告の主張に基づくものであると認識しているものであって,これに,前記(1)ないし(4)のとおり,被告が,原告の違法な行為によって被告の権利が侵害された可能性があると考えたことにも相当の理由があること,弁護士法23条の2の照会制度は我が国の司法制度における重要な制度の一つであることなどに照らすと,被告が原告の取引先の企業等に対し,本件第1照会書及び本件第2照会書を送付したことをもって違法であるということはできない。
(7) 本件掲示文書の掲載について
ア 前記第2(4)のとおり,被告が自社ウェブページ内の「IR情報」ページの「ニュースリリース」欄に「訴訟提起に関するお知らせ」との記載をし,同記載にリンクさせたページにおいて,「訴訟提起に関するお知らせ」と題し,東京地方裁判所に対して原告ほかに対する別件訴訟を提起したこと,「訴訟に至った経緯及び理由」として,被告が顧客先に派遣していた従業員が,原告及び原告に移籍した被告の元役職員による引き抜き行為により顧客ごと引き抜かれた事実等が明らかとなったことなどを記載した本件掲示文書を掲載し,また,被告は,上場するJASDAQの開示情報として,JASDAQのウェブページに本件掲示文書等を記載した。
イ ところで,上場会社においては,投資家に対して会社情報を公開することが必要であり,また,公開される会社情報としては,会社業績のほか,商品情報,人事情報などの会社価値に影響するものの開示も必要となる。そして,会社が訴訟を提起したことや提起されたことも,その内容によっては会社価値に大きな影響を与えるものであるから,投資家に対して情報を公開する必要がある。
もっとも,訴訟情報については,相手方当事者との紛争の内容を明らかにする必要があるが,その記載内容によっては,相手方の信用毀損等となるおそれがあることから,投資家に対して会社情報を公開するとの目的達成に必要な限度を超えて,不必要に相手方の信用毀損等となる事実を掲示することは許されないと考えられる。
ウ 本件についてこれをみると,別件訴訟は,被告の業務の主要な一つである技術者派遣事業につき,競業会社である原告や,被告から原告に移籍した被告の元役員及び従業員によって,被告が顧客先に派遣していた従業員が引き抜き行為により顧客である取引先ごと引き抜かれたとして不法行為に基づく損害賠償請求を行うものであり(甲3,弁論の全趣旨),訴訟の提起及びその帰すうは,被告の会社価値に密接に結びつくものであって,投資家に対して公開されるべき情報であるということができ,本件掲示文書の記載内容は会社情報の公開として必要な範囲のものということができる。これに加え,前記(1)ないし(4)のとおり,被告が,原告や被告の元役員及び従業員の違法な行為によって被告の権利が侵害された可能性があると考えたことにも相当の理由があることをも併せ考慮すると,被告が被告及びJASDAQの各ウェブページに本件掲示文書を掲載したことをもって違法であるということはできない。
2 結論
以上によると,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないことになる。
(裁判長裁判官 本多知成 裁判官 飯淵健司 裁判官 伊藤渉)
〈以下省略〉
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