「営業アウトソーシング」に関する裁判例(29)平成28年 3月28日 東京地裁 平25(ワ)16158号 地位確認等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム(原告2名)事件〕
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(29)平成28年 3月28日 東京地裁 平25(ワ)16158号 地位確認等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム(原告2名)事件〕
裁判年月日 平成28年 3月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)16158号
事件名 地位確認等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム(原告2名)事件〕
裁判結果 一部認容、一部棄却 文献番号 2016WLJPCA03286002
要旨
◆業績不良を理由とする解雇が無効とされた例
評釈
加藤大喜・経営法曹 193号104頁
山崎隆・労経速 2287号2頁
山下昇・法セ 744号115頁
裁判年月日 平成28年 3月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)16158号
事件名 地位確認等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム(原告2名)事件〕
裁判結果 一部認容、一部棄却 文献番号 2016WLJPCA03286002
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1(1) 原告X1と被告との間において,原告X1が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2) 被告は,原告X1に対し,別紙金銭請求認容額等一覧表記載1の「支払期日」欄記載の日に「支払金額」欄記載の各金員をそれぞれ支払え。
2(1) 原告X2と被告との間において,原告X2が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2) 被告は,原告X2に対し,別紙金銭請求認容額等一覧表記載2の「支払期日」欄記載の日に「支払金額」欄記載の各金員をそれぞれ支払え。
3 原告らの訴えのうち,被告に対して本判決の確定後に金銭の支払を求める部分をいずれも却下する。
4 原告らの第1項及び第2項で認容された請求並びに第3項で却下された訴えに係る請求以外の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
6 この判決は,第1項(2)及び第2項(2)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1(1) 主文第1項(1)に同じ。
(2) 被告は,原告X1に対し,平成25年6月から毎月24日限り,51万3500円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 被告は,原告X1に対し,平成25年12月から毎年6月10日限り89万7650円,12月10日限り89万7650円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4) 被告は,原告X1に対し,330万円及びこれに対する平成25年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2(1) 主文第2項(1)に同じ。
(2) 被告は,原告X2に対し,平成25年6月から毎月24日限り,60万2900円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 被告は,原告X2に対し,平成25年12月から毎年6月10日限り82万8938円,12月10日限り82万8855円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4) 被告は,原告X2に対し,330万円及びこれに対する平成25年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
本件は,被告に期限の定めなく雇用されていた原告らが,業績不良を理由として解雇されたことについて,解雇事由が存在せず,労働組合員である原告らを解雇して労働組合の弱体化を狙ったものであって,解雇権の濫用として無効であり,不法行為に当たるとして,労働契約に基づく地位の確認,解雇後に支払われるべき賃金及び賞与並びに不法行為に基づく慰謝料及び弁護士費用を請求する事案である。
1 前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告X1は,昭和42年○月○日生まれで,平成2年3月に早稲田大学法学部を卒業し,同年4月に被告に期間の定めなく採用された者である。
イ 原告X2(以下「原告X2」という。)は,昭和31年○月○日生まれで,昭和52年3月に津山高等専門学校電気工学科を卒業し,同年4月に新日本電気株式会社に入社後,昭和59年12月に被告に期間の定めなく採用された者である。
ウ 原告らは,いずれも被告の労働者によって組織されるa労働組合b支部(以下「本件組合」という。)に所属する労働組合員である。
エ 被告は,情報システムに関わる製品,サービスの提供等を業とする株式会社である。被告の設立は昭和12年6月17日,資本金の額は1353億円である。
(2) 原告X1の被告における経歴及び訴訟に至る経緯
ア 原告X1は,平成2年4月に被告に入社後,社内システムエンジニアとして,被告の従業員が自社内で使用するアプリケーションシステムの開発・設計等に携わっていた。
イ 原告X1は,平成6年10月,顧客に対してアウトソーシングのサービス(顧客の社内システムの開発・運用等を,顧客に代わって被告が行うサービス)を提供する部門に配属された。
ウ 原告X1は,平成15年頃,バンド7に位置付けられた(バンドとは,1から10まで設定された被告における従業員の職位ランクであり,数字が大きいほど職位が高い。)。
エ 原告X1は,平成15年1月,「BP&ITP,ビジネス・プロセス推進」(以下「サービスプロセス推進」という。)に配属された。サービスプロセス推進の業務は,特定の業務分野(具体的にはアウトソーシング,コンサルティング,システムインテグレーション)を担当する被告の従業員によって使用される社内システムの管理・運用である。システムの管理・運用とは,①システムの開発・保守に要する費用の予算を確保する作業,②当該システムの開発や変更に必要な業務要件を取りまとめる作業(要件定義),③当該要件を,システムの開発・設計を担当する部門に伝える作業,④開発・設計部門が構築したシステムが上記要件を満たしているかをテストする作業,⑤当該システムを使用する被告の従業員(エンドユーザー)に対する研修・教育等の作業(以上の各作業を各番号を付して,以下「作業①」のようにいう。),⑥エンドユーザーからの問い合わせや不具合の報告等に対応する業務(以下「ヘルプデスク業務」という,)から成っている。このうち,作業②から作業⑤までの一連の業務は,プロジェクト形式で遂行される。サービスプロセス推進では,約20のシステムを管理・運営しており,各システムにつき,2,3名の担当者が割り当てられ,そのうち1名が主担当者となる。
オ A2(以下「A2」という。)は,平成18年4月,サービスプロセス推進に異動し,原告X1の所属長(直属の上司をいう。以下同じ。)となった(乙D36)。
カ A3は,平成22年1月,サービスプロセス推進に異動し,原告X1の上長(所属長の上司をいう。以下同じ。)となった。A3は,平成22年から平成23年にかけて,原告X1も参加したMASUプロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めた。(乙D37)
キ 原告X1は,サービスプロセス推進において,平成23年夏頃まで,他の2名の従業員とともに,アウトソーシングに関連する5つのシステムの担当者として業務を行っており,うち3つのシステム(送り状DB,PONY DB,OSナビ)について主担当であった。原告X1は,それ以降も3つのシステムについて主担当であった。
ク 被告は,平成25年5月31日,原告X1に対し,同年6月12日付けで解雇する旨の解雇予告の意思表示(以下「本件解雇①」という。)を行った。被告は,本件解雇①の際,同月6日までに自主退職する意思を示した場合はこれを受理し,解雇を撤回した上で,自己都合退職を認め,退職加算金や会社の費用負担で再就職支援会社のサポートを受けられるオプションも用意する考えであることを伝えた。
ケ 本件解雇①について,本件組合(以下,特に断りなき限り,関連団体と連名で行ったものを含む。)は,平成25年5月31日,被告に対し,解雇の意思表示の撤回を要求し,また,本件解雇①に関して団体交渉を求めた。被告は,同年6月6日,本件組合と団体交渉したが,被告は本件解雇①を撤回しなかった。
(3) 原告X2の被告における経歴及び訴訟に至る経緯
ア 原告X2は,平成18年頃,バンド7に位置付けられた。
イ 原告X2は,昭和59年12月の入社後,野洲工場(当時)の積層基板生産技術部に配属され,積層基板の生産ラインを担当した。
ウ 原告X2は,平成4年4月,生産技術開発部に異動になり,液晶基板検査装置の開発から保守までを担当した。
エ 原告X2は,平成20年1月に箱崎事業所(本社)へ異動となり,同年3月1日,営業の後方支援業務を行う部署であるSTH(Sales Transaction Hub。当時の名称は「Deal Hub」。)へ異動した。被告のセールスチームは,顧客に対し,被告のソリューション(業務上の問題・課題の解決等を行うための情報システム)の価値を訴求するために,様々な提案を行って営業活動を行っているが,その提案活動には,複数の製品やサービスを組み合わせたり,提案金額を算出したり,提案のための社内承認プロセスを通過させたりするなど,多くの作業や人手を要する。そこで,STHは,セールスチームにおける提案活動を効率的に行うために,セールスチームからの依頼を受けて,セールスチームに代わって提案活動に必要な社内処理を行う等の支援業務を行っている。原告X2は,ビッド・マネージャー(以下「BM」という。)として,セールスチームの提案活動の支援業務を行うことが期待されていた。BMは,個々の案件について,セールスチームから提案活動の支援の依頼を受け,セールスチームと綿密にコミュニケーションを取りつつ,自ら提案活動の支援に係る作業を行ったり,STH内の他のメンバーに必要な作業を割り振ったりして,自らの責任において納期までに当該案件について必要な支援業務を完遂するという役割を担っている。STHでは,A4(以下「A4」という。)が原告X2の所属長となった。(乙E32)
オ A5(以下「A5」という。)は,BMとして,平成21年3月から11月まで,金融業を担当するチームのShared BMとしてBMのサポート等を行う原告とともに業務を行った(乙E35)。
カ 平成22年9月,原告X2の所属長はA4からA6(以下「A6」という。)に交替した(乙E33)。
キ 平成23年2月,原告X2の所属長はA6からA7に交替した(乙E34)。
ク 平成24年7月,原告の所属長はA7からA8(以下「A8」という。)に交替した(乙E34)。
ケ 被告は,平成25年6月14日,原告X2に対し,同月26日付けで解雇する旨の解雇予告の意思表示(以下「本件解雇②」という。)を行った。被告は,本件解雇②の際,同月20日までに自主退職する意思を示した場合はこれを受理し,解雇を撤回した上で,自己都合退職を認め,退職加算金や会社の費用負担で再就職支援会社のサポートを受けられるオプションも用意する考えであることを伝えた。
(4) 被告における人事管理制度
ア 被告では,従業員の業績を示すPBC(Personal Business Commitments)と称する評価制度(以下「PBC評価」という。)を設けている。PBC評価は,従業員とその上司との間で年初に目標設定を行い,その目標に対する当該従業員の1年間の達成度や,会社に対する貢献度の評価を行うことを内容とする。PBC評価の結果は,上から順に「1」(最大の貢献度を達成),「2+」(平均を上回る貢献度),「2」(着実な貢献),「3」(貢献度が低く,業績の向上が必要),「4」(極めて不十分な貢献)の5段階となっている。それぞれの配分については,「1」が10%から20%,「2+」及び「2」の合計が65%から85%,「3」及び「4」の合計が5%から15%とされている相対評価である。(乙3,乙4)
イ 被告が実施している業績改善プログラム(Performance Improvement Program。以下「PIP」という。)とは,従業員とその上司との間で,一定期間(数か月程度)の改善目標を設定し,その改善の進捗状況を定期的な面談で検証することを内容とする。
(5) 原告らは,平成25年6月20日,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著である。)。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 原告X1の解雇事由(争点1(1))
(被告)
ア 原告X1には,業務効率が悪く対応が遅い,開発・設計部門やエンドユーザーとの間で適切なコミュニケーションを取ることができない,物事に適切な優先順位を付けることができない,ミスが多いなど,業務遂行上の問題が見られた。それに加え,特に平成24年以降,業務時間中に頻繁に居眠りをしたり,事前に連絡もなく大幅な遅刻や半休の取得を繰り返したり,無断で長時間離席したりするなど,勤務態度に関する問題も目立つようになった。このような原告X1の問題点について,所属長のA2を始めとする上司が,本人に対して再三明確に指摘し,その改善に向けた助言や指導を行ってきたが,一向に改善の兆しが見られなかったため,雇用を継続することは不可能であると判断し,解雇したものである。
イ 時系列に沿った原告X1の業務遂行上及び勤務態度上の問題点
(ア) 平成21年のPBC評価において,原告X1は「3」の評価を受けた。これは,担当するシステムの変更プロジェクトにおける貢献度が他の従業員よりも低かったこと及びヘルプデスク業務における対応が不適切であったこと等によるものである。
原告X1がこのような評価を受ける原因の一つには,適切なコミュニケーションを行う能力の不足がある。サービスプロセス推進においては,技術的な知識や能力もさることながら,それ以上に適切なコミュニケーションを行う能力が求められる。ところが,原告X1はコミュニケーションを取ることができず,エンドユーザーからの問い合わせを何の連絡もなく放置して催促を受けたり,同原告の回答内容や態度に関して,所属長のA2にエンドユーザーからのクレームが寄せられたりしていた。
また,原告X1には,業務時間中の居眠りが散見されたため,A2は,気が付いた際にはこれを指摘し,注意していた。
(イ) 原告X1の平成22年のPBC評価は「2」であった。原告X1の業務遂行上の問題点やコミュニケーション上の問題点は改善されなかった。
そして,平成22年から平成23年にかけて上長であるA3がプロジェクトマネージャーを務めるMASUプロジェクトにおいて,原告X1の問題点が露見したことによりプロジェクト遂行に多大な悪影響をもたらした。MASUプロジェクトは,複数のシステムの大幅な変更を伴う比較的大規模なプロジェクトであった。MASUプロジェクトにおいては,当初,変更が必要となる全てのシステムの主担当者が,平成22年12月末までに,各自の担当システムの変更のための要件定義を行い,かつ,当該変更に必要となるコストを確定させることが予定されていた。ところが,他の全てのシステムにおいて,要件定義及びコストの確定が期日までに適切に行われたにもかかわらず,原告X1が主担当を務めるシステムにおいてのみ,要件定義及びコストの確定が期日よりも1か月程度遅延した。これは,原告X1が,担当システムのエンドユーザーからの要望に適切な優先順位を付けることができず,また,エンドユーザーや開発・設計部門との間で適切な協議・調整を行うことができなかった結果,やみくもにエンドユーザーの要望を取り込むこととなり,システム変更の要件が過剰となったことが原因であった。また,変更に要するコストが予定よりも大幅に増大したことも大きな問題となった。
このようなミスは,平成22年12月に判明したものではあるが,MASUプロジェクトは平成23年7月頃まで継続する予定であり,要件定義以降の段階における工夫により,プロジェクトの終了までに要件定義段階でのミスの影響が解消される可能性もあったことから,平成22年の原告X1のPBC評価においてはさほど問題視されず,相対評価の結果として「2」となったものである。しかし,このことは原告X1の業績が改善したことを示すものではない。
(ウ) 原告X1の平成23年のPBC評価は「3」であった。
MASUプロジェクトにおける原告X1のミスの影響はその後の段階で解消されることはなかったどころか,同原告の問題点が顕在化する場面があった。例えば,旧来のシステムから変更後のシステムへの切り替え(サービスイン)に当たって,システムを一旦停止する必要があったところ,原告X1は,開発・設計部門からの要望に従い,この切り替えをエンドユーザーが業務を行っている昼間に行おうとした。しかしながら,エンドユーザーが業務を行っている昼間にシステムを停止すればエンドユーザーの業務遂行に支障を来すことは明らかである反面,開発・設計部門において昼間に切り替えを行わなければならない理由はなかったから,夜間にシステム切り替えを実施するよう開発・設計部門に提案し,調整すべきであったが,原告X1はこれを行わなかった。A2は,原告X1に注意を与え,夜間のシステム切り替えを行うよう開発・設計部門に依頼した。
さらに,平成23年にも,日常的なヘルプデスク業務におけるミスや怠慢が目立っていた。
そこで,所属長のA2は,MASUプロジェクトが終了した平成23年夏頃以降,原告X1の業務の範囲を縮小し,その主な業務をアウトソーシングに関連する5つのシステムのヘルプデスク業務とした。原告X1を3つのシステムの主担当者から外すことはしなかったが,これらのシステムは平成23年夏頃以降に大規模な変更がなく,主担当者が誰であるかが重要となる局面もなかったからである。小規模な変更があったときは,原告X1に代わって,他の担当者が変更内容を監督し,プロジェクトをコントロールした。
(エ) 原告X1の平成24年のPBC評価は「3」であった。
平成24年に入っても,原告X1には依然としてヘルプデスク業務において対応が遅れる,ミスが多いなどといった問題があり,その問題点に改善は見られなかった。
原告X1は,PIPの対象となったが,実施に同意せず,目標設定を行う書式に署名しなかった。しかし,原告X1は,通常の業務の一環として,定期的な面談には応じていた。このとき,改善を要する点としては,「部門内,外とのコミュニケーション」,「業務の優先順位付けと作業漏れ」,「居眠り」が挙げられた。
平成24年に入って,居眠りが非常に目立つようになり,A2は,原告X1がどの程度居眠りしているか把握するため,一定期間,座席の近い部下に対して,同原告が居眠りしている時間を気付いた範囲で報告するよう指示し,記録を行った。A2は,原告X1に対し,定期的な面談において,居眠りを改善するため,夜の睡眠時間を多く取り,早起きするよう指示したり,睡眠時間を記録させたりしていたが,改善は見られなかった。また,病院を受診するようにも指示したが,何らかの疾患に起因する居眠りではないことが確認された。
さらに,平成24年には,時間を勘違いした,足がつったなどといった理由による遅刻や,突然午前中の半休を取得することも多くなった。この連絡が,予定された勤務開始時刻を大幅に過ぎてからされることもしばしば見られた。このような勤務態度自体にも問題があるが,それにより,サービスプロセス推進における業務処理にも重大な悪影響があった。すなわち,アウトソーシングに関連する4つのシステムの担当者間においては,エンドユーザーの要望に迅速に対応できるよう,当番制を設けて朝の業務を分担し,あらかじめチームを組んで担当者間で合意したスケジュールに従って朝の業務の担当者は午前9時に出社することになっていたが,原告X1は早番の日でも時間までに出社せず,その間誰もヘルプデスク業務を行う者がいないという状態になり,エンドユーザーからの問い合わせに対する回答が遅延するなど,ヘルプデスク業務に重大な支障を来していた。また,勤務時間中に上司や同僚に無断で30分以上席を空けることもあった。
原告X1は,平成23年夏以降,業務の範囲が縮小され,主な業務がヘルプデスク業務となっていたため,他の担当者よりも集中してヘルプデスク業務に従事すべきであったにもかかわらず,平成24年後半以降は,他の担当者よりもヘルプデスク業務の処理件数が少ないという状況が継続しており,他の担当者の3分の1程度の処理件数しかない月もあった。
(オ) 平成25年に入っても,原告X1の業務遂行状況に変わりはなく,居眠り,事前の連絡のない遅刻・半休取得といった勤務態度の問題は改善されなかった。また,効率的な業務遂行やコミュニケーション能力の点においても特に改善は見られず,ヘルプデスク業務において対応が遅れたりミスが発生したりすることがしばしば見られた。ヘルプデスク業務の処理件数も,相変わらず他の担当者よりも少ない傾向にあった。そのため,被告は,もはや原告X1の業績の改善を期待することができず,その雇用を継続することは不可能であると判断せざるを得なかった。
ウ 項目ごとの問題点
(ア) クレームのメール等について
a 乙D1の平成21年PBC評価において,原告X1を積極的に評価するようなコメントがあるのは,同原告のモチベーションや意欲を向上させるために記載した儀礼的な文言にすぎない。むしろ,スキル及び知識の習得に改善が必要であること,業務に優先順位を付け効率的に遂行することなどの改善を求めている。
b 乙D2の一連のメールでは,原告X1は平成23年4月30日にエンドユーザーから回答の依頼を受けたものの,その後回答を全く行っていなかったため,同年5月6日に催促を受け,同月10日にも再度催促を受けた結果,当初の問い合わせから2週間近く経過した同月11日になってようやく回答したものであり,同原告の怠慢によりエンドユーザーは多大な迷惑を被っていた。
c 乙D3の一連のメールは,原告X1が平成23年8月21日にエンドユーザーから新担当者についてのシステム登録の依頼を受けた際のやりとりである。依頼後,原告X1から何ら回答の連絡がなかったことから,エンドユーザーは同年9月28日に催促を行っているが,それでも同原告から回答がなかったことから,エンドユーザーは「変更契約も進める必要があり,業務に支障を来しております」と述べ,同年10月22日に更に催促を行い,同時にA2にも進捗状況を尋ねた。これを受けてA2が原告X1に対応の遅れを指摘し,翌日の同月23日になってようやく同原告が対応したものである。複数回の催促が行われ約2か月が経過してから対応が行われており,問題がある。
d 乙D4は,エンドユーザーから原告X1に対して急いで対応してほしいという依頼があったにもかかわらず,迅速な対応をしないばかりか,作業状況について何も連絡をしなかったため,エンドユーザーから2回も電話で催促が行われた際のやりとりである。原告X1は迅速な対応をしなかったばかりか,エンドユーザーとの適切なコミュニケーションが取れていない。
e 乙D5は,A2が原告X1に対し,エンドユーザーからのクレームを指摘しているものであり,他部署からの要望ではなくクレームであることは明らかである。原告X1が相手を問い詰めるようなメールを送っていたというやりとりを見れば,同原告はエンドユーザーからの問い合わせに真摯に答えるというヘルプデスク業務の性質に鑑みて,コミュニケーション能力に問題があったことは明白である。
f 乙D7の一連のメールは,原告X1が,平成23年2月23日に受けたエンドユーザーからの依頼に対応せず,同月3月2日に同日中に対応するよう催促されてもこれに対応せず,同月3日に更に至急の対応を催促されたのに対し,別件があることを理由として更にもう1週間期間を延ばすよう要請したため,エンドユーザーの上司からA2にクレームがされたものである。原告X1は,迅速に対応できないばかりでなく,迅速に対応できていないという現状の報告についてもエンドユーザーから2回の催促を経てようやく行っており,問題があることは明らかである。
g 乙D8の一連のメールは,原告X1が平成23年6月27日に受けたエンドユーザーからの依頼について対応しなかったため,同月30日に催促が行われたが,これにも回答しなかったことから,同年7月14日にA2に対してエンドユーザーからクレームがされたものである。エンドユーザーの業務に支障が生じていたことはメールの文面から明らかである。
h 乙D9は,エクアドルにあるグローバルのヘルプデスクの対応に時間がかかったため,当初の問い合わせから5日経っても問題が解決しなかったにもかかわらず,原告X1がエンドユーザーに対して進捗状況を迅速に連絡しなかったことによりクレームがされたものである。原告X1はエンドユーザーに対し適宜進捗状況を伝えるべきであったことは明らかであり,同原告はエンドユーザーと適切にコミュニケーションが取れていない。
i 乙D10のメールは,ヘルプデスク業務において緊急事態が生じていたにもかかわらず,原告X1の電話もつながらず,被告社内のチャットシステムも適時なかったことを示す。このように原告X1に適時連絡を取れないことにより,あらゆる業務に支障を来しかねないことは明らかである。
j 乙D11の一連のメールは,原告X1が平成23年6月28日に依頼された事項について,同年7月1日になっても回答しなかったため催促が行われたが,それ以降も返答がなかったためにA2から注意がされたことを示している。なお,原告X1が主張するように,中国の担当者(GDメンバー)にヘルプデスク業務を任せることはあるが,その対象となるのは緊急性が低い案件ではなく,定型的な作業であり,ここで問題とされた事項はその対象とは異なるから,中国の担当者に対応させようとしていたことは遅延の理由にならない。
k 乙D12の一連のメールは,原告X1が担当者として処理することになった案件について,グローバルのヘルプデスクに問い合わせを行ったまま,その後の改善状況等について報告を怠ったため,A9(以下「A9」という。)から指摘を受けたものであり,業務怠慢は明らかである。
l 乙D13の一連のメールは,原告X1が作成したエンドユーザーへの説明が誤っていたことに端を発したものであるが,何度もやりとりがされているのは同原告の説明が要領を得ないためであり,同原告のコミュニケーション能力の欠如を示している。
m 乙D14は,サービスを提供する側である原告X1がエンドユーザーに対して不適切な内容のメールを送付したことを示すものである。原告X1は,本来のヘルプデスク業務とはかけ離れた,エンドユーザーを非難するような返信を行っており,抗議するのも当然の内容であった。エンドユーザーから「以前にも会話させていただいたことがありますが」とあり,A2も「今までも何度も言っていると思いますが」と記載しているとおり,原告X1はエンドユーザーに対する不適当なコミュニケーションを繰り返していた。
n 乙D15の一連のメールは,原告X1が平成23年10月17日にされたエンドユーザーからの問い合わせについて回答しなかったため,同月19日にA2がクレームを受け,A2が同原告に2回にわたって対応を求めたものである。
o 乙D16の一連のメールは,A2が各担当者に作業依頼を出したところ,原告X1だけが適時に作業を行わなかったことから催促を行ったこと,その後に同原告から提出があったものの内容は不十分なものであったことを示している。
(イ) 平成23年夏以降の担当業務について
a 平成23年夏以降,原告X1の担当業務は縮小され,ヘルプデスク業務を主な業務としていた。原告X1は,作業②から作業④までには一定程度関与していたが,責任者として関与していたわけではなく,作業量も非常に少なかった。また,作業①及び作業⑤には関与していなかった。原告X1が主担当者であった3つのプロジェクトについては,同原告に代わってA9がプロジェクト全体に責任を持って監督することになり,同原告はA9の下でシステムの変更が生じた場合に変更に必要な作業の一部を行っていたにすぎない。そこで行われていたのも小規模な変更のみであり,必要な作業量は少なかった。また,原告X1が主担当者ではないシステムについては,関与する機会は少なく,関与することがあっても他の主担当者の指示の下にわずかな作業を行っていたにすぎない。原告X1のヘルプデスク業務とそれ以外のプロジェクトに関連する業務のおおよその割合は,平成23年は60%,40%,平成24年は80%,20%,平成25年は95%,5%であった。
b 原告X1は,可能な限り自分が主担当となっていないシステムに関する会議にも出席するようにしていたと主張するが,それはヘルプデスク宛ての問い合わせに関連する事項が当該会議の中で話し合われることから,同原告が担当するヘルプデスク業務にも関連するという理由で参加していたにすぎない。
(ウ) MASUプロジェクトについて
a MASUプロジェクトが遅延したのは,原告X1が主担当を務めるシステム(送り状DB)に関する作業が遅延したためであり,その原因は同原告にあった。サービスプロセス推進において,新規のプロジェクトが始まる際,プロジェクトリーダーはプロジェクトの内容をプロジェクトが関係し得るシステム担当者に広く告知し,各システム担当者はこれを見て自らが担当するシステムの変更が必要になるかを判断し,変更が必要になる場合にはプロジェクトリーダーに必要な変更作業内容を報告することになっている。A3は,原告X1に対し,主担当である送り状DBに変更があることを伝えている。原告X1は,変更の必要があるという連絡がなかったと主張するが,同原告において変更の要否を判断すべきであったのであり,このような主張をすること自体,同原告が自らに求められる業務内容を理解していなかった証左である。
b 進捗状況を毎週上司に報告することは,遅延の有無にかかわらず各システム担当者に求められることであり,報告をすれば良いというわけではなく,遅延を挽回すべく作業を進めることが当然求められていたが,原告X1は積極的な遅延の挽回を行わなかった。
c 原告X1による予算超過の報告を受け,A3はプロジェクトの予算を増やすよう担当部署に掛け合うなどの対応を迫られた。エンドユーザーからはできるだけ要望が取り入れられるよう要求があるが,システム担当者としては,限られた予算の中でエンドユーザーと適切なコミュニケーションを取りながら要件定義を行うべきであった。この件については,原告X1に口頭注意を与えている。
(エ) 勤務態度不良について
a 居眠りについて,原告X1は眠っていないと主張するが,近くの席に座っている同僚が確認して記録をしているのであり,眠っていなかったということはない,また,原告X1は平成24年に退職勧奨を受けるまで居眠りの指摘を受けたことはないと主張するが,平成21年の時点でもA2は居眠りについて口頭で注意している。
b 遅刻について,原告X1は業務に支障はないと主張する。しかし,ヘルプデスク業務を午前9時開始と運用を改めたのは,エンドユーザーにおいては午前9時から業務を開始することが多く,午前9時から午前10時の間に問い合わせをしたいというエンドユーザーからの要望が多かったために,交替制で午前9時から開始することにしたのであり,遅刻によりヘルプデスク業務に支障が生じないということはない。遅刻自体が問題であるが,原告X1は始業時刻を過ぎてから遅刻の連絡をしてきたのであるから,勤怠に看過できはい問題がある。なお,被告が証拠を出しているのは,始業時刻を過ぎてから連絡があった遅刻に関するものに限られており,これら以外にも原告X1は遅刻を繰り返していた。
c 長時間の離席について,原告X1はエンドユーザーの部署に出向いて対応することがしばしばあったと主張するが,ヘルプデスク業務においてそのような対応は一般的ではなく信じ難い。
(オ) ヘルプデスク業務について
原告X1は,ヘルプデスク業務の件数が少ない理由として,中国の担当者(GDメンバー)に緊急性の低い案件を割り当てたからであると主張するが,GDメンバーに担当させる案件は緊急性の有無ではなく定型性の有無によって決まるものであり,前提が誤っている。また,ヘルプデスク業務を行っていたA9やA10(以下「A10」という。)も原告X1と担当業務が質的に異なるわけではないから,同原告のみ処理件数が少なくなる理由とはならない。GDメンバーの作業は定型的なものであるから,基本的にマニュアルどおりに対応でき,原告X1が確認や指導をする必要はほとんどなかった。
(原告X1)
ア 被告が主張する解雇理由は,いずれもささいな出来事や,業務の中で日常的に起こる事柄ばかりである。そのようなささいな事実を積み重ねたとしても,到底,解雇の客観的に合理的な理由とはなり得ない。
イ 時系列に沿った原告X1の業務遂行上及び勤務態度上の問題点について
(ア) 平成21年,原告X1は,サービスプロセス推進の業務の各場面において,適切に役割を果たしており,現場において実績を評価されていた。エンドユーザーからの問い合わせに対しても,必要に応じて調査をするなどして,適切に対応していた。
平成21年において,原告X1はA2から居眠りの指摘を受けたことはない。被告が居眠りと主張するのは,実際には業務メールを読むことに集中していただけであったり,ユーザーからのチャットに対応していて上司らからの連絡チャットにすぐに返信できなかったりしただけのことであり,それによって業務遂行に支障が生じたこともない。
(イ) 平成22年から平成23年にかけてのMASUプロジェクトの遅延は,原告X1の責任で生じたものではない。当時,複数のシステムについて変更を行うことになり,各主担当者にその旨の連絡が入ったが,原告X1が主担当を務めるシステム(送り状DB)に関しては,変更の必要があるという連絡が来なかった。原告X1が主担当を務めるシステムについては,後から変更が決まったため,そもそも着手が遅れていた。しかし,原告X1は,毎週,上司に進捗状況を報告し,了承を得て作業を進めていたのであるから,何ら問題はなかった。結果的に他のシステムが遅延したため,原告X1も待機を余儀なくされた。
システム変更の要件が過剰であったということもない。要件定義の際に協議し,エンドユーザーからの要望を取り入れることが決まり,予算も承認され,当時特段問題にされることはなかった。
平成22年のPBC評価が「2」とされているのは,MASUプロジェクトの遅延が問題のある対応とは認識されておらず,原告X1の業務遂行に何ら問題がなかったことを裏付けている。
(ウ) 平成23年にシステム切れ替えを日中に行おうとしたことはあるが,作業の進め方として珍しいものではない。原告X1はそうした経験があったことから,開発部門と打ち合わせをし,日中の切り替えでも特段の危険が生じないことを確認した上で,日中に実施することで調整した。サーバーを管理する運用部門では,通常,所定時間外のシステム切り替えを受け付けておらず,夜間又は休日の対応が必要な場合には,その都度マネージャーの許可を得た上で進める必要があり,所定時間外の対応となるためコストが発生することにもなる。原告X1が日中の切り替えを検討したのは,十分な検討を行った上での対応であり,結果的に夜間の切り替えを実施することになったのは,送り状DBも含まれる全体の変更の中で,夜間に切り替えを行うことが先に決まっていたシステムがあり,そのシステムと一緒に実施すれば余計なコストが発生せずに好都合と上司が判断したためである。
ヘルプデスク業務については,多数の問い合わせや要望に対応する関係上,緊急性の高い案件や重要な案件から対応するのは当然のことであり,一部から再度の問い合わせがあったとしても,直ちに原告X1が職務怠慢であったことの裏付けとはならない。被告主張の職務怠慢により損害が生じた事実もない。
原告X1の業務が,平成23年夏頃以降,ヘルプデスク業務に縮小された事実はない。原告X1は,主担当としてプロジェクト(送り状DBをサービス終了させるためのプロジェクト)を遂行していた。
(エ) 平成24年において,被告は,4月11日から原告X1に対し退職勧奨をするようになり,同原告は,同月,本件労組に加入し,退職勧奨を拒否することを明らかにした。そうすると,同月26日頃,被告はPIPの実施を持ち出してきた。原告X1は,PIPの実施を拒否し,退職勧奨に応じる意思がないことも明確にしたが,被告からの執拗な面談は止まらなかった。このため,原告X1は体調を崩しがちになった。
原告X1は,退職勧奨を受けるまで,居眠りの指摘を受けたことはないし,業務に支障が生じたこともない。被告が原告X1を監視し,粗探しをして退職へ追い込もうとしていたことは明らかである。
上司との面談において,居眠りを指摘され,受診を進められたことは認めるが,そもそも業務に支障を生じさせた事実はない。
原告X1が,遅刻したり半休を取得したりしたことは認めるが,それによって業務に支障を来したり,実害が発生したりしたことはない。もともとヘルプデスク業務についてプロセス部門からの依頼は午前10時からの開始であったところ,A2の判断で午前9時開始と運用を改めたという経緯があり,エンドユーザー側も午前10時からの対応で特段の支障はなく,午前9時に出社していなかったことによりヘルプデスク業務に重大な支障を来したという事実はない。
原告X1が離席することはあるが,エンドユーザー(他部署の従業員)からの問い合わせに対し,直接その部署に出向いて状況を確認し,対応することがしばしばあったので,そのための離席と思われる。
被告は原告X1のヘルプデスク業務の件数が他の担当者に比べ3分の1程度というが,その算定根拠が不明でありにわかに信用できない上,それぞれが担当するプロジェクトの繁忙状況などにより対応可能な件数が変わるのは当然である。また,被告は,ヘルプデスク業務の人件費を削減するため,日本で対応する必要がない緊急性が低い案件を,人件費が安い中国の大連のヘルプデスクに対応させることを推奨していたところ,原告X1は,指導しながら大連のヘルプデスク担当者に行わせるよりも自ら対処した方が簡単であるが,大連のヘルプデスクに業務を割り当てることがしばしばあったので,その結果対応件数が相当少なくなっている可能性がある。
(オ) 平成25年において,被告は,4月頃から,原告X1に対し新たなプロジェクトの責任者を任せており,これは同原告が業績の改善を期待することができないほどの著しい能力不足の状態にあったという被告の主張と矛盾する。
ウ 項目ごとの問題点について
(ア) クレームのメール等について
a 乙D1の平成21年PBC評価において,「総合評価」の欄に上司のコメントとして「SOプロセスツール・ヘルプデスク業務を通じて,エンドユーザーをよくサポートして頂いた。」と記載され,「補足コメント」にも「本年の貢献に感謝します。」と記載されている。「総評」を見ても,原告の業務遂行方法に問題があったとの指摘はされておらず,「業務にもっと優先順位をつけ,効率的に遂行することを期待する。」などと記載されている。「もっと」とあるとおり,業務効率は低くないが,より効率的に業務を行うよう期待するという前向きなコメントがされている。
b 乙D2から5までのメールは,いずれも社内の別部署の担当者からの問い合わせであり,社外顧客からの問い合わせではない。問い合わせに対しては最終的に問題なく対応しており,業務に重大な支障が及んだこともない。原告X1は常に多数の案件を抱えているため,急な対応ができないこともあるが,できる限り迅速かつ丁寧に対応していた。
乙D5のメールについては,原告X1の対応に問題があった等の指摘や叱責は一切なく,従業員同士お互いに意識を高く持って業務を行おうという意味での前向きなやりとりである。
c 乙D7のメールでは,原告X1は至急の対応を要請されたが,現在急ぎの処理で手一杯なので来週まで待ってもらいたいと回答し,これを受け,対応可能な別の従業員に案件が任されている。原告X1は対応できない状況であることを適時連絡しており,案件を放置していない。
d 乙D8のメールについて,上司から回答を促す内容のメールが来て,原告X1は要請に応じて回答し,問題なく処理された。
e 乙D9のメールについて,遅延が生じたのはエクアドルのグローバルヘルプデスクの対応が遅かったからである。しかも,原告X1は,グローバルヘルプデスクに対し,今後同様の問題は迅速に問題解決をするよう要請することを申し出ており,真摯な態度が垣間見える。
f 乙D10のメールはそもそも原告X1宛てではなく「SOProcessStaff」宛てである。この場合,A9又は原告X1のいずれかが対応することとされていることから,上司が同原告に対し対応を指示したという意味である。また,遅れているのはエクアドルのグローバルヘルプデスクであり,原告X1の対応が遅れた事案ではない。
g 乙D11のメールについて,原告X1は必要な対応を行い,何ら問題は生じていない。被告は,ヘルプデスクの人件費を削減するため,日本で対応する必要がない緊急性が低い案件を,人件費が安い中国・大連のヘルプデスクに対応させることを推奨していた。原告X1は,自分で対応した方が簡単であるが,中国の担当者のスキル向上のため,緊急性がない案件は中国に対応させるようしていたので,本件もそのような対応をしていた可能性がある。
h 乙D12のメールは,ミスでも業務怠慢でもなく,日常的な業務上のやりとりにすぎない。
i 乙D13のメールは,日常的な業務上のやりとりにすぎない。
j 乙D14のメールは,乙D5のメールと同一人物によるものであるが,同人が感情的に騒ぎ立てているだけであり,原告X1の対応に問題はない。原告X1がメールで問い合わせをしたのは,契約書の差し替えをメールのみで承認するか,OATSの再レビュー(承認権者の再承認)を必要とするかの判断の際に必要となる情報であるため確認したものである。当該質問事項も,ヘルプデスクが独自に決めた項目ではなく,プロセス側から通常確認される事項であるため,原告X1において確認したものであり,文言はプロセス側から指示のあった質問事項をコピーして一部加工して利用したものである。
k 乙D15のメールは,エンドユーザーから対応状況の問い合わせがあったものであるが,よくあることであり問題はない。原告X1は問い合わせを受けて即座に回答している。
l 乙D16のメールは,具体的なやりとりの経緯が不明であるが,上司の指示どおり対応しておりミスともいえないような軽微な問題である。
(イ) 平成23年夏以降の担当業務について
平成23年夏以降に原告X1の業務範囲が縮小され,主担当を務める3つのシステムについてもA9が監督するようになったという事実はない。原告X1は,主担当を務めていた3つのシステムについて,システム開発・保守に要する費用の予算を確保する作業①を担当した。また,原告X1は,自分が主担当ではなく,A9が主担当であるシステム(OATSシステム)について,ユーザー要求取りまとめ及びテスト実施に参加している。これは作業②及び作業④であり,その後のヘルプデスク業務にも関与した。ヘルプデスク業務とそれ以外のプロジェクトに関連する業務の割合については,数値の意味や算定根拠が明らかではないが,原告X1の業務の大半がヘルプデスク業務であったということはない。
(ウ) 勤務態度不良について
a 平成24年に退職勧奨されるようになるまで,居眠りを指摘されたことはない。被告は平成21年に口頭注意があったと主張するが,そのような事実はなく,同年のPBC評価にも何ら指摘はない。居眠りの証拠集めをしていることからすれば,原告X1を監視し,粗探しして退職へ追い込もうとしていたことが明らかである。
b 遅刻や半休の取得によって,ヘルプデスク業務に重大な支障を及ぼしたことはない。原告X1は,遅刻について懲戒事由に該当するとの指摘を受けたこともないし,被告が指摘する6件の遅刻(いずれも20分から1時間20分程度の遅刻,理由も体調不良や曜日の勘違いなど)や半休取得(いずれも理由は体調不良)の事実をもって解雇理由とするのは認められない。
(エ) ヘルプデスク業務について
a 被告は,原告X1のヘルプデスク業務の処理件数が他の従業員よりも少ないというが,元資料が明らかにされておらず信用できない。
b ヘルプデスク業務の担当者間で件数が違うとしても,それぞれが担当するプロジェクトの繁忙状況が異なり,対応することができる件数が自ずと異なることは起こり得る。
c GDメンバーに割り当てる案件は,緊急性が低いもの及び定型性のあるものであるが,定型的なものとはいえGDメンバーが誤りなく対応するためには原告X1が指導しながら依頼する必要があり,確認等も必要となり,同原告は対応に時間を要する上,GDメンバーが対応したものは処理件数と扱われないため,同原告の処理件数が少なくなる。
(2) 原告X2の解雇事由(争点(2))
(被告)
ア 原告X2は,平成20年3月からSTHに所属し,BMとしてセールスチームの提案活動の支援業務を行うことが期待されていたが,セールスチーム等との間で円滑にコミュニケーションを行うことができず,また,物事に段取りを付け,効率的に処理を進めることもできなかった。そのため,原告X2の業績は,他のSTHのメンバー等と比較して著しく劣り,同原告の対応について,セールスチーム等からクレームや担当者変更の要請が頻発する状況も生じていた。このような状況において,被告は,原告X2の業績の改善を図るべく,割り当てる業務の難易度を下げ,それによりセールスチームの支援業務の経験を積ませ,本来あるべきBMとして稼働できるよう試みてきた。ところが,原告X2は業績改善の機会を積極的に利用して改善を図ろうとせず,むしろ,せっかく被告が与えた機会を拒否する態度すらとるようになり,業績も一向に改善することがなかった。その結果,被告は,もはや原告X2の業績の改善を期待することはできず,雇用を継続することは不可能であると判断せざるを得なくなったため,同原告を解雇したのである。
イ 時系列に沿った原告X2の業務遂行上及び勤務態度上の問題点
(ア) 原告X2の平成20年及び平成21年のPBC評価は「3」であった。
原告X2は,平成20年3月にSTHに異動した後,当初,製造業セクターを担当するチーム(製造業の顧客に対して営業活動を行うセールスチームの支援をするチーム。以下「製造業チーム」という。)に所属し,研修を経た上でBMとしてセールスチームの提案活動の支援業務に従事していた。しかし,原告X2には,セールスチームから問い合わせを受けた際の対応が遅い,適切な段取りをつけて案件の処理を進めることができないなどの問題があり,かつ,それらの問題に改善も見られず,所属長のA4は,同原告にBMとして一人で案件を担当させることについて強い懸念を有するに至った。
そこで,被告は,原告X2について,平成21年3月からは,金融業セクターを担当するチーム(金融業の顧客に対して営業活動を行うセールスチームを支援するチーム。以下「金融業チーム」という。)に所属を変更し,当該チームにおいて,案件を担当するBMの下で,その指示を受けて作業を行う(ただし,状況に応じて他のチームのBMのサポートを行ったり,通常のBMと同様に一人で案件を処理したりすることもあり得る。)という内容に業務形態を変更した。このような形態で業務を行う者を,「Shared BM」と呼んでいるところ,通常のShared BMは複数のBMから適宜指示を受けて作業を行うが,原告X2については,基本的に特定のBMから指示を受けて作業を行うという体制が組まれた。
しかし,原告X2のShared BMとしての業績は質及び量のいずれの面においても劣っていた。例えば,原告X2は,BMから作業の依頼を受けても,それを満足に理解することができず,ほぼ毎回,STHのメンバーであれば当然に理解しているべき基本的な事柄から説明をしなければならなかった。
また,作業を依頼するBMは原告X2の業務処理能力に問題があることを認識し,依頼する作業を簡易なものに限定していたが,それでも同原告に作業を依頼すると問題が生じた。例えば,STHで提案活動の支援業務を行うに当たってセールスチームとのコミュニケーションが必要な場合,BMが窓口として行うのが通常であるが,Shared BMに依頼することもあり,このとき,Shared BMとしてはBMの意向を理解し,それに沿ってセールスチームとコミュニケーションが取れなければならない。ところが,BMがセールスチームへの連絡を依頼しても,原告X2はしばしば趣旨不明の問い合わせをしたり,的外れな回答をしたりして,セールスチーム及びBMの双方に迷惑をかけていた。
このため,依頼を行うBMにとって,原告X2に作業を依頼することは,負担を軽減するどころか,むしろその負担を増加させるものとなった。
さらに,原告X2は,1年以上STHの業務に携わっているにもかかわらず,業務処理のスピードが非常に遅く,平成21年において処理を行った案件数は,他のSTHのメンバーの平均に満たなかった。
(イ) 原告X2の平成22年のPBC評価は「3」であった。
原告X2は,平成21年12月から平成22年7月にかけて,製造業チームに所属し,一人でBMとして業務をすることとなった。これは,①原告X2は金融業チームのBMにとってもはや負担というべき存在になっていたこと,②当時,製造業チームで人手が不足するようになっていたこと,③製造業チームでは小規模な案件が多くShared BMのサポートを要することは少なかったことから,やむを得ず再度BMとして業務を行わせることにしたものである。
しかしながら,原告X2の業績は一向に改善せず,セールスチームからのクレームが何度も発生していた。例えば,原告X2は,平成22年7月,セールスチームから社内承認プロセスの処理を依頼されたにもかかわらず,自らこれを実施せず,セールスチームに対し,当該承認プロセスを担当する部門・担当者や当該承認プロセスに関する社内システム上のサイトのリンクをメールで送るだけという対応を行った。この対応は,STHの業務を放棄するものに他ならず,しかも承認プロセスが円滑に進まなかった結果,セールスチームは予定していた時期に顧客と契約を締結することが困難な状況に陥った。そのため,セールスチームから,所属長であるA4に対し,STHでやるべき対応ができていない,担当者を変更してほしいといった厳しいクレームが寄せられた。こうした事実は,原告X2が既に2年以上業務を行っていたにもかかわらず,STHの基本的な役割すら理解していなかったことを端的に示している。
このほかにも,セールスチームから,原告X2の業務について,緊急案件であるにもかかわらず対応のスピードが遅い,社内承認プロセスの状況についてセールスチームへの連絡がない等のクレームも寄せられた。
原告X2も,平成22年前半の業績評価の際,自らの業績について「×に近い△」と評しているところである。
(ウ) このような事態を受け,被告は,原告X2にもはやBMとして業務を行わせることはできないと判断せざるを得ず,難易度の低い業務を担当させることを検討し,平成22年8月以降,沖縄ビッド・サポート・センター(以下「沖縄BSC」という。)のメンバーが担当する業務(以下「沖縄BSC業務」という。),及び,箱崎(本社)での「現物作業」に従事させることにした。
STHが行う支援業務は,①セールスチームとのコミュニケーションや高度な判断,リーダーシップが要求される業務と,②複雑な判断が要求されず比較的定型的に進めることが可能な業務に分類され,従来はいずれもSTHにおいて行ってきたが,経費削減や生産性向上の目的から,平成21年4月,被告の子会社であるc株式会社に沖縄BSCが設立され,それ以降はSTHが上記①の業務を行い,沖縄BSCが上記②の業務を行うという方針となった。原告X2には上記①の業務を担当させることができないため,やむを得ず,上記②の業務に従事させることとした。
また,「現物作業」とは,セールスチームで顧客との契約に使用する契約書類を,箱崎(本社)において,プリントアウトする部門から引き取り,それをセールスチームに手渡したり,セールスチームの指示を受けて顧客に対して郵送したりする作業である。これはBMとしての基本的能力を欠いていても遂行できるレベルの仕事であり,また,沖縄に勤務する沖縄BSCのメンバーは地理的な理由から行うことができないため,箱崎勤務の原告X2に担当させることにした。
しかし,原告X2は沖縄BSC業務についても満足な業績を上げることができなかった。例えば,原告X2の作業量は沖縄BSCのメンバーの平均にもおよそ満たないものであった。沖縄BSC業務は契約社員によって行われており,当該契約社員はいずれも沖縄BSCが設立された平成21年4月以降に雇用され,したがって,被告における業務経験を特段有するわけでもなければ,被告の製品・サービスやITについてももともと知識を有しているわけでもなく,さらにその職位についても被告における最も下位のバンド2相当の従業員である。原告X2は,平成20年3月からSTHの業務に携わり,バンド7という職位にあるにもかかわらず,作業量は沖縄BSCのメンバーの平均よりも劣っていた。
また,原告X2は,沖縄BSC業務を行うに当たって,作業担当者を所定のシステム上に入力する際,原告X2自身を担当者として入力すべきところを誤って他の沖縄BSCのメンバーを担当者として入力するというミスをし,業務に混乱を生じさせたことがあった。のみならず,原告X2は,当該ミスについて,システム上の不具合であるなどという不合理な言い訳をしていた。
平成22年9月から11月にかけて,所属長であるA6及び沖縄BSC業務の管理を行っていたA11(以下「A11」という。)は,原告X2と毎月その業績の改善に向けたミーティングを行い,早期にSTHのBMとして業務ができるようになる必要がある旨を明確に伝え,業績の改善を促した。しかし,原告X2の業績に改善は見られなかった。
(エ) 原告X2の平成23年のPBC評価は「3」であった。
平成23年2月から所属長となったA7は,原告X2に対し,期待されている業務は沖縄BSC業務及び現物作業ではなく,STHのBMとしてセールスチームの提案活動の支援を行うことである旨を伝え,PBC目標として,STHのBMとして大型案件を担当し,当該案件について最初から最後までセールスチームの支援業務を行うこと等が設定された。そして,A7は,原告X2と協議し,①平成23年前半で沖縄BSC業務についてその職位に照らして相応の作業量を上げることとし,②平成23年後半にはSTHのBMとして大型案件を担当し,当該案件について最初から最後までセールスチームの支援業務を行うこと等が提案された。この提案に対し,原告X2は,①について,達成目標について自ら不安を示し,平成23年前半の状況を踏まえ見直しをすることにしたいとしつつも,②のとおり,平成23年後半にはSTHのBMとして活動できるように業績を改善するという計画の枠組み自体は受け入れた。しかし,原告X2は,沖縄BSC業務において,他の沖縄BSCのメンバーの平均にも満たない作業量しか処理することができず,結局,STHのBMとして業務を行うまでに改善を進めることができなかった。
(オ) 原告X2の平成24年のPBC評価は「3」であった。
原告X2は,平成24年も,引き続き沖縄BSC業務と現物作業に従事することになった。そして,前年と同様,A7は,原告X2に対し,本来行うことが期待されている業務がSTHのBMとしてのセールスチームの提案活動の支援業務である旨を伝え,同年のPBC目標も,同原告と協議の上,STHのBMとして大型案件やセールスチームが重視する案件を担当し,それらの支援業務を行うこと等が設定された,しかし,平成24年においても,結局,原告X2は,STHのBMとして業務ができるようになるまでに業績を改善するには至らず,その作業量は沖縄BSCの平均にも満たないという結果となった。
さらに,被告は,平成24年3月,原告X2の業務改善を図るため,PIPを実施することを試みたが,同原告がこれを拒否したためPIPを実施することはできなかった。
原告X2は,平成24年6月になっても,小規模かつ簡易な案件について,支援業務として必要な作業を最初から最後まで一人で行うことができる程度に達したにすぎないが,これは当時沖縄BSCにおいて入社1年目のメンバーが担当していた程度の業務である。A7は,原告X2に対し,更なる業績改善のための具体的な計画案を作成し,提出することを求めたが,同原告が計画案を作成,提出することはなかった。
(カ) 以上のとおり,原告X2の業績は著しく低く,関係部門からクレームや担当変更の要請が所属長に寄せられていたため,被告は,業務の難易度を下げ,また,業績の改善に向けた配慮を行い,加えて,所属長において定期的に面談を実施するなどし,その業績の改善を促してきたが,業績は一向に改善せず,また,業績を改善しようとする姿勢を示すこともなかった。
ウ 項目ごとの問題点
(ア) BM又はShared BMとしての能力について
a 原告X2は,DHRM(Deal Hub Request Manager。営業担当者がSTHへ作業依頼する社内システム)でされるセールスチームからの評価(以下「DHRM評価」という。)について,平成20年第1四半期から平成25年第1四半期までの期間に「D」又は「E」の評価を受けた件数を比較し,原告X2に対する評価は低くないと主張する。しかし,DHRM評価は,基本的にその案件においてセールスチームと直接のやりとりを行ったSTHの担当者(通常は案件を最初から最後まで担当するBM)を対象として行われる。原告X2がBMの立場で業務を行っていたのは平成20年3月から平成21年2月まで及び同年12月から平成22年7月までという限られた期間にすぎず,その余の期間はShared BMとしての立場又は沖縄BSC業務及び「現物作業」を行う立場であり,DHRM評価の対象となる機会は少なかった。
b 原告X2は,BMとしての能力が発揮できなかったのは,研修がなかったことが理由である旨主張する。しかし,被告は,STHに新たに異動する従業員が生じるたびに,STHの役割やBMの業務,STHで業務を行うために必要な知識やスキル等の研修(以下「STH新人研修」という。)を開催しており,原告X2も平成20年2月に参加している。このときのSTH新人研修は同月に新たにSTHに異動する従業員が少ないという事情から,通常よりも短縮されたカリキュラムで行われたため,原告X2には,通常どおりのカリキュラムが実施された同年3月のSTH新人研修にも参加している。ちなみに,STH新人研修は既にSTHで業務を行っている従業員も希望すれば再度参加できる。
さらに,被告は,STH新人研修に加え,STHに新たに異動してきた従業員については,既に業務経験を積んだ特定のBMを指導担当者(BMメンター)に指定し,当該BMの下で3か月間にわたって具体的な案件の処理を通じてSTHの業務に必要な知識やスキル等を習得させる「New-Comerバディプログラム」と呼ばれるOJTも実施しており,原告X2はこれによる指導も受けている。原告X2は,BMメンターとして指定されたのがSTH大阪の従業員であり問い合わせにくかったと主張するが,ネットワーク等を用いて情報を処理し業務効率化を目指す時代に,それをビジネスとする被告において,物理的に人が集まらなければ業務を遂行できないかのごとくいう原告X2の主張は失当である。原告X2は同じ職場で勤務する他のSTHのメンバーに質問して助言を受けることも可能であった。
STHでは,新人向けの研修に加えて,社内手続の変更や被告が提供するサービスの最新情報等についての「BMコール」と呼ばれるワークショップ(2週間に1回)やコミュニケーションスキルや英語力といった基本的なスキルについてのセミナー(毎週)なども開催されていた。
原告X2は,被告による各種研修は実務に役立たなかったと主張するが,被告は様々な角度から網羅的に研修等を行っている。
b 原告X2のBMとしての業務に対しては,セールスチームからクレームが来ていた。これは,STHとしての役割を果たせていなかったからであり,業務遂行の過程で通常起こり得る行き違いではない。
例えば,乙E7のメールでは,「X2さんみたいな人だと困ります。全く判断能力ないです。」と,乙E8のメールでも,「やっていることが全く違います!!!」と,それぞれ述べられている。乙E7のメールには「これだけではないのですが・・・」と述べられているとおり,原告X2の問題のある対応は通常起こり得る行き違いの程度を超えるものであった。なお,原告X2は甲E12を提出するが,同原告がクレームを受けて修正をした後も再度修正を求められており,これも同原告が業務を的確に処理できなかったことの一例である。
c 原告X2が後記(原告X2の主張)アで指摘する感謝状(甲E5。以下「本件感謝状」という。)は,被告として同原告の業績を評価する趣旨のものではなく,当時,同原告が所属していたチームの中で,当該チームの親睦を深め,また同原告のモチベーションを高める方法の一つとして作成,手渡されたものにすぎない。このことは,本件感謝状において原告X2の名前が「X2(X2ちゃん)殿」と砕けた表記になっていることからも明らかである。
d 原告X2が評価されていた根拠とするメールは,業務とは関係ないものや,ビジネスマナーとして「ありがとうございます」等と述べられたものにすぎず,同原告の業務を評価して送られたものではない。
e 平成21年1月から3月にかけて実施されたPIPは,A4が原告X2の状況に鑑み,改善目標を本来あるべきレベルよりも大幅に下げて設定している。PIPで設定された改善目標の具体的な内容は,メールを受領した場合には初回の返信を2時間以内に行う,依頼された事項は原則として受ける等,BMとして行う業務の改善というよりも,極めて基本的なビジネスマナーの履践というべき事柄まで含んでいる。したがって,このPIPの改善目標を達成したからといって,原告X2が十分に業績を改善したということはできない。
f 平成22年7月にセールスチームのA12(以下「A12」という。)からクレームを受けた対応について,A13及びA14が原告X2から相談を受けたり,リンク先をメールで送るという対応を指示したりした事実はない。BMがリンク先をメールで送るという対応をすることもあるが,そのような対応を行うのは対象となる社内手続がシンプルでセールスチームがリンク先のサイトを見ればすぐに理解できるような場合に限定されている。これに対し,平成22年7月の件は複雑な社内承認プロセスを経るものであり,セールスチームの負担を軽減するためSTHで処理しなければならないものである。A12のメールでも,「このような事態は一度もありませんでした。」と述べられている。
g 原告X2は,業務に関してセールスチームのA15からお礼に昼食をおごってもらったと主張するが,当該案件はA5がBMとして支援を行ったものであり,同原告はShared BMとして関与したにすぎない。また,このときの昼食はA5ら支援を行ったメンバーをねぎらったものであり,そこに原告X2も参加しただけのことである。
(イ) 沖縄BSC業務について
a 原告X2は,原告X2に割り当てられた沖縄BSC業務が「simple業務」に限定されていたため,評価が低かったと主張する。しかし,原告X2は,平成22年9月に,A6に対し「complex業務」を処理することができると申し出ており,A6はこの申出を受けてcomplex業務を行うことを認めているため,同原告の業務がsimple業務に限定されていたということはない。また,沖縄BSC業務として行われる各作業には,当該作業に想定される時間に応じて「P/H」と呼ばれるポイント(平成22年当時は想定作業時間5分当たり1ポイント)が設定されていた。simple業務のポイントが低いとしても,作業に要する時間が短いからであり,多くの件数を処理することによってポイントを上げることはできた。
b 平成22年10月及び11月に,沖縄BSC業務を行う各メンバーについて,STHのBMがプロセス理解力,調整力,依頼のしやすさ,正確性,スピード,処理量,モチベーション,責任感の観点からそれぞれ1から5までの5段階評価を行ったことがあるが,原告X2は同年10月及び11月のいずれの評価においても最下位から2番目という低い評価を受けている。
c 原告X2は,システム入力ミスに関して,入力ミスをしたことを認識していながら,問い合わせをしてきた沖縄BSCのメンバーに対し,「システムがおかしいと思います。」「ますます不可思議ですね。」などと不合理な言い訳をしている。そのような対応は沖縄BSCのメンバーの信頼を失わせるものであり,業務を混乱させている。
d 原告X2は,平成23年の作業量について,「BSC Direct」以外の業務についての平均P/Hと原告X2のP/Hを比較して,同原告の作業量が劣っていないと主張する。しかし,原告X2の計算方法は,「BSC Direct」の業務(以下「BD業務」という。)と「BSC Direct」以外の業務(以下「非BD業務」という。)の両方を行う沖縄BSCのメンバーのP/Hポイントのうち,非BD業務のP/Hポイントと原告X2のP/Hポイントとを比較するものである。沖縄BSCのメンバーはBD業務も行っているのであるから,非BD業務のみを行っている原告X2と比較しても,公正な比較とはならない。ちなみに,平成23年第3四半期及び第4四半期において,原告X2のP/Hポイントは沖縄BSCのメンバーの非BD業務のP/Hポイントを下回っており,同原告が著しく能力を欠いていたことが明らかである。
e 平成23年12月13日のPBC面談におけるA7の発言として,「2+」というのは,simple業務や「現物作業」という低い目標とした場合には「2+」という評価になるといっているにすぎない。そのような目標は,STHのメンバーが目標とすべきレベルにはほど遠い。また,沖縄BSCのメンバーと比較しても著しく低い。
f 平成24年について,原告X2は「現物作業」が多くなり,沖縄BSC業務はほとんど与えられなかったと主張する。しかし,「現物作業」には繁忙の波があり,月末(特に四半期末)には作業量が多くなるため,「現物作業」の割合が大きくなったことはあるが,1年間を通じて「現物作業」が主であったという事実はない。また,「現物作業」にもP/Hポイントが設定されていたから,P/Hポイントが低くなる理由とはならない。
(ウ) 業績改善への取り組み拒否について
a 平成22年9月からのA6とのミーティングにおいて,A6は,原告X2に対し,沖縄BSCのメンバーの作業量よりも同原告の作業量が少ない原因を検討し,それを解決するために具体的に何をすべきか考えるよう促したところ,同原告は,simple業務に限定されているから作業量が上がらないと弁解した。これは当を得ない弁解ではあったが,A6はcomplex業務も行ってかまわない旨伝えた。しかし,その後も原告X2はsimple業務を主として行っていた。
また,原告X2による「マニュアルのシステム化」及び「excel VBAによる集計作業の自動化」の提案について,A6は,業務改善の検討を行っているチーム(メトリクス・チーム)と情報を共有し,その評価を依頼した。当該チームで評価を行ったところ,原告X2の提案はプログラムとして稚拙であるのみならず,そもそもSTHの業務知識を欠いているといわざるを得ないものであり,実用に耐えないと判断された。
さらに,平成22年9月16日に行われたミーティングでは,原告X2から,STHで使用される「FactSheet」と呼ばれるツールについて改善提案する旨及び当該提案を同月22日までに行う旨の申し出があったが,同原告は同月24日になっても提案の趣旨や具体的な進め方が明確でない不十分な話をするのみであった。その後もA11は進捗状況の報告を受け,作業の進め方等について指導を行っていたが,原告X2の作業は遅々として進まず,結局,同年10月の月次ミーティングで作業は中止されることになった。中止になったのは,同年8月頃からSTHと沖縄BSCの役割分担を見直すプロジェクトが組まれ,そのメンバーらが検討を進めていたところ,「FactSheet」の改善提案についても合わせて進めることが求められていたが,「FactSheet」の改善提案に関する作業は遅々として進まなかったため,進捗を合わせることができなかったことによる。
b 平成24年3月のPIPは,解雇を含む措置を合理化する目的ではなく,飽くまでも業績が低迷する従業員の業績改善を目的として行われるものであった。原告X2はPIPの実施を「保留」したというが,事実上拒否である。これについて本件組合から何らかの助言等があったとしても,原告X2が自らの判断の結果として受け入れなければならない。
c 原告X2は平成24年6月にE2E(End to End)テストに合格しているが,E2Eテストは小規模かつ簡易な1つの案件について最初から最後まで支援業務を行うためのテストである。当該業務は当時沖縄BSCにおいてさほど経験のないメンバーでも担当していた程度の作業である。
d 原告X2は,平成24年7月10日,A7との打ち合わせにおいて,同年第3四半期及び第4四半期の業績改善の具体的な計画案を提出することを要請され,これに応じている。しかし,その後,A7が複数回にわたって当該計画案の提出を催促しても,原告X2はこれを作成,提出しなかった。
(原告X2)
ア 原告X2は,もともと製造部門の技術者であり,平成20年3月に突如不慣れな営業部門に配属となり,慣れない中でも懸命に業績を上げるべく努力を重ねていたのであって,他のSTHのメンバーと比較してクレームが特に頻発していたという事実もなく,むしろその努力が評価され仕事仲間から感謝されることも度々あった。DHRMでは,営業担当者によるSTHの支援内容についての評価は「A」から「E」までの5段階とされ,「D」と「E」についてはSTH内で報告することになっていたが,原告X2が「D」又は「E」評価を受けたのは平成20年,平成21年及び平成22年にそれぞれ1回ずつである。この評価は主観的なものであり必ずしも問題があったとは限らないが,原告X2よりも多く「D」又は「E」の評価を受けている担当者は複数存在する。また,原告X2は,同僚から本件感謝状を送られたり,迅速な仕事ぶりを感謝されるメールを多数受け取ったりしていた。それにもかかわらず,被告は,原告X2が組合員であることを理由に仕事を干し,簡易な作業しか与えず,どれだけ努力しても一方的に低評価を付けて能力不足を作出したのである。
イ 時系列に沿った原告X2の業務遂行上及び勤務態度上の問題点について
(ア) 平成20年及び平成21年において,原告X2は,もともと製造分野から営業分野への異動で,異動に際して系統立った営業の研修もなかったことから,営業の標準的な業務遂行方法,社内処理手順について周囲の同僚に質問しながら適応しようと努力していた。中にはBMにとっては当然の前提となっている質問をしたことがあったかもしれないが,業務上不明な点を聴くのは当然であって,能力不足の根拠となるはずがない。
仮に平成21年の処理案件数が他のメンバーの平均に満たなかったとしても,営業経験が全くない原告X2にとってはやむを得なかったというべきであり,そもそも処理件数が平均以下の従業員は必ず一定数存在するのであるから,そのことをもって能力不足解雇を正当化する根拠とはならない。
(イ) 平成21年12月から平成22年7月にかけて,製造業チームに所属していたときに問題があったという事実はない。
被告は,平成22年7月に社内承認プロセスの処理依頼に対し,社内システム上のサイトのリンクをメールで送るだけの対応をしたことを問題視するが,原告X2は,対応の仕方についてA7らに相談したところ,「A16さんに確認してもらうよう依頼し,社内プロセスのリンクを送っておけばよい」と指示されたことから,それに従ったにすぎない。リンクを送るということは他のBMも行っていた。
対応が遅いなどのクレームについては,確かに多数の業務を行っていればそうしたクレームは一定数あったかもしれないが,その原因が原告X2のみにあるというわけでもなく,他の従業員に比べて同原告が著しくその数が多かったなどという事実はない。
(ウ) 平成22年8月以降の沖縄BSC業務については,沖縄BSCの契約社員が行っている業務と,被告が原告X2に対して指示した業務とは異なっていたため,その作業量を比較することは失当である。沖縄BSC業務には,指示されたことをこなして送るだけの「simple」業務と,社内の承認を取るなどの他の部署との調整が必要なより複雑な「complex」業務があるところ,原告X2には「simple」業務しか割り振られなかった。「simple」業務は点数が低く,どれだけたくさんこなしても作業量としては低い評価となってしまう業務であった。
原告X2がシステム入力に際しケアレスミスをしたことはあったが,業務を混乱させるというほどの問題はなく,ミスを指摘されて終わった話である。
平成22年9月から11月にかけてのA6及びA11とのミーティングについても,A6は,「STHとしてのvalue(価値)を考えろ」などと抽象的な指摘をするのみで,具体的な業務改善の方法について提案することはなかった。原告X2は,マニュアルのシステム化や得意なexcelVBAによる集計作業の自動化を提案したところ,A6は考えておくなどと回答したものの,年末になってその話は立ち消えになった。A11とのミーティングにしても,5分から10分程度の連絡事項の確認があっただけで,具体的な問題点や業績改善について話がされることはなかった。
(エ) 平成23年2月からのA7からの指導については,原告X2の能力不足により達成できなかったわけではない。原告X2に与えられる業務は沖縄BSCのメンバーよりも限定されたものであったため,必然的にいくら努力しても作業量が増えなかった。原告X2に与えられる業務が限定されていることに問題があることはA7も自覚しており,平成23年12月13日の面談の際,与えられている業務の達成度では「2+」の評価になるが,実際の業務よりも上のレベルに業務目標を設定していることによって低評価の結果となったことを認めている。
(オ) 平成24年については,原告X2に与えられた業務は「現物処理」が主であり,通常案件はほとんど与えられることがなかった。原告X2は,沖縄BSC業務については,各四半期に200件以上こなしたが,1件当たりの作業量が一桁の点数でしか評価されないため,総作業量が伸び悩んだ。
PIPの拒否については,既に本件組合が団体交渉議題としていたものであり,原告X2は,団体交渉で結論が出るまでは「保留」(拒否ではない。)にするという本件組合の方針に即して行動したまでである。PIPが結果によっては解雇を含む措置を合理化するためにされるものであったことからすれば,対応に慎重を期したのは当然である。
平成24年3月27日のPBC面談では,A7は,原告X2に対し,現物処理を1回もミスしていないことは評価していると述べている。
平成24年6月,A7に対する具体的な計画案の作成,提出については,A7と協議していたのであって,意図的に作成提出を拒んでいたものではない。むしろ,原告X2は,A7からの指示に従い,大型案件を割り当てる上で必要なE2Eテストを受験し,これに合格している。
ウ 項目ごとの問題点について
(ア) BM又はShared BMとしての能力について
a DHRM評価において,原告X2が「D」又は「E」評価を受けたのは平成20年及び平成22年にそれぞれ1回ずつであり,業務に問題はなかった。平成20年3月から平成21年2月までの期間のDHRM評価を見ても,原告X2に低評価が多いということはない。また,Shared BMであった時期も原告X2のDHRM評価は行われており,平成21年第2四半期には「A」評価4件,第3四半期には「A」評価1件,「B」評価3件と,その評価において他のメンバーより劣っているという事実はない。
b STH新人研修の内容は,概括的な講義を聴くというものであって,これによりすぐに実務に使える知識やスキルが得られるというものではなかった。
「BMメンター」の制度は,STH大阪の従業員が割り当てられたため,分からないことがあっても電話やメールでしか問い合わせることができず,実際に原告X2は分からないことがあると周囲の従業員に質問をして業務を遂行せざるを得なかった。
「BMコール」というのは,従前の運用に変更があった場合の説明が中心であり,全体の運用について把握した十分な経験を持つ者にとっては意味があるが,原告X2のように全くの畑違いの分野からSTHに配属された者にとって理解するのが困難であった。
コミュニケーションスキルや英語力のセミナーは,原告X2の業務にほとんど関係がない。
c セールスチームからのクレームのメールについては,業務遂行の過程において問題点の指摘があるのは珍しいことではない。
d 原告X2には,仕事の迅速さ,丁寧さを示すメールが送られてきていた。
e 平成21年1月から3月までに実施されたPIPにおいて,原告X2は目標を達成している。後になってからそれを達成しても十分なレベルではなかったなどと言い出すのは失当である。
f クレームのメールを送ってきたと被告が主張するA15については,平成21年3月に合計約34億円の契約を取る支援を原告X2が行い,同年4月9日にそのお礼としてA15が同原告に昼食をおごったというエピソードがある。
(イ) 沖縄BSC業務について
a 原告X2の沖縄BSC業務はsimple業務に限定されていた。平成23年12月13日のA7との面談も,simple業務に限定されていることを前提として行われた。
b 被告は,simple業務でも数をこなすことによりポイントを稼ぐことができると主張するが,多数の沖縄BSCのメンバーと仕事依頼を奪い合う形で,自力で仕事を取らざるを得ないから,仕事を間断なく取ってポイントを稼げる状態ではなかった。
c 沖縄BSCのメンバーの作業量と比較すると,原告X2はポイントの高いBD業務を行うことができなかったため,非BD業務について比較をすると原告X2の作業量が決して劣っていないことが分かる。
d A7は,平成23年12月13日の面談の際,原告X2に割り当てた業務について,PBCで「2+」と評価される成果を上げたことを認めている。
(ウ) 業績改善への取り組み拒否について
a 平成22年9月からのA6とのミーティングで,complex業務を行っても構わないと言われたことはない。A6は,原告X2の作業量を増やすなどの業務改善のために何の対応も取らなかった。
原告X2は,A11と「FactSheet」と呼ばれるツールについての改善提案について適宜打ち合わせを行っていたが,平成22年10月18日に「今日から新体制になったからもう意味がない」とされて中止になったのであり,同原告の作業が遅かったことが中止の原因ではない。
b 平成24年3月のPIPについては,本件組合の方針に従って保留し,それに対して被告が撤回したにすぎない。
c 原告X2は,A7からE2Eテストに合格すれば業務を割り当てやすいといわれてテストを受けたのであり,A7との間でBM業務に復帰するための準備が行われていた。
d 平成24年7月の打ち合わせで業績改善の具体的な計画案を作成・提出すべきであったにもかかわらず,原告X2がこれを行わなかったということはなく,計画案について所属長と協議中であった。
(3) 原告らの解雇は不当労働行為に当たるか。(争点(3))
(原告ら)
ア 被告は,平成24年7月以降,業績が低く改善の見込みがないなどとして社員に対して解雇予告を通告しているが,そのうち本件組合に加入していた者は34名を占める。被解雇者の中で解雇予告当時に組合員であった者の割合は68%に上る。この解雇予告の結果及び労使関係の実情から見れば,一連の解雇が労働組合の正当な活動を嫌悪し,本件組合を弱体化することを企図していることは明らかである。
イ 本件組合は,昭和34年5月12日,d労働組合として結成された。結成当時,従業員770名のうち380名の組合員を結集して発足した。本件組合は,賃上げなどの労働条件の向上に取り組み多くの成果を獲得し,昭和36年には組合員数1638名,組織率9割に達する強力な労働組合に成長した。これに対し,被告は脱退工作や組合員の昇進差別を始めとする激しい攻撃を行い,その結果,多くの脱退者を生じ,昭和44年には約130名まで組合員が激減させられてしまった。そこで,本件組合は,昭和45年,総評傘下のf労働組合に加盟し,f労働組合g支部となった。本件組合は,各地で不当労働行為救済命令の申立てをし,救済命令が発せられ,昭和57年12月6日,中央労働委員金において被告は組合員を主任に昇進させて賃金を是正するとともに差別を是正するための多額の解決金を支払うという和解が成立した。
その後も,本件組合は,労働条件改善のために賃上げ要求や団体交渉などを通じて労働組合活動を行ってきた。なお,平成元年2月,本件組合はf労働組合から脱退して,a労働組合に加盟した。
被告は,従来コンピューター会社であったところ情報システムのIT産業分野を扱う事業組織に改編するために,会社分割や事業譲渡等の様々な企業再編を実施し,それに伴い労働者のリストラ・人員削減を急激に進めるようになった。平成13年,当時の被告代表取締役であったA41社長は,大規模なリストラを実施することを公言し,人事制度改革で日本の毒味役になると述べていた。本件組合は,これに対し労働委員会や裁判闘争に取り組んできた。
被告は,平成20年末から平成21年にかけて,大量の労働者の人員削減を実施した。米国本社の意向を受けて1300人もの労働者を退職させることとし,業績改善プログラムの名の下で,人事考課が下位15%とされた労働者を対象に退職勧奨,実際には退職強要を組織的に実行した。この当時,退職勧奨対象者は3000人に上り,結果的に1300人もの労働者を退職に追い込んだ。
本件組合は,退職強要を受けた労働者の相談先となり,正に「駆け込み寺」となった。退職強要を阻止するために,平成21年,組合員4名が損害賠償を求める訴えを東京地裁に提起した。
本件組合は,米国本社の指示に基づく被告の様々なリストラに果敢に抵抗し,一定程度押しとどめてきた。ところが,米国から新たな外国人社長が就任した直後の平成24年7月から本件の一連の大量解雇が実施されたのである。
被告は,平成25年以降も現在1万4000人在籍している労働者を,今後3年に1万にまで削減する計画を立てている。本件組合に加入して退職勧奨に抵抗する労働者が常に存在してきたことから,被告にとって本件組合の存在は,今後の人員削減の大きな障害と認識された。本件組合に加入すれば不利益になることを通告する発言もある。
ウ 被解雇者25名の組合員のうち,解雇当時,本件組合の中央執行委員及び分会執行委員等の役職者は12名にも上る。組合員数は140名であり,役職者12名を含む25名が解雇されたことで本件組合は大きな打撃を受けている。
中央執行委員は,本件組合の中央執行委員会において方針を決定し,労働組合活動の中心を担い,団体交渉に出席し被告と交渉を行う。また,本件組合は事業所ごとに分会を設けており,各事業所の責任者と分会団交を行い,分会執行委員(分会役員)が分会団交の交渉当事者として参加する。中央執行委員会において,被告への要求や申入れを決定した場合には,分会においても各事業所の責任者に分会として申入れを行う活動をしている。これらの日常的な分会活動の中心を担うのが分会役員である。
本件組合は,宣伝チラシなどについて,各事業所において配布活動を行うが,出勤時に,分会役員が中心になり,組合員が事業所玄関付近にて配布する。このような宣伝チラシ配布を本件組合は活発に行っており,月1,2回は実施している。また,組合員の機関誌「△△」(月2回定期発行)は,事業所施設内にて机上配布が慣行として行われており,分会役員が中心になり,原告ら等組合員が参加し手分けをして全従業員宛てに配布している。
エ 本件一連の解雇では,本件組合は,あらかじめ決まっていた団体交渉があったため,自主退職の期限までに団体交渉の議題に解雇の件を追加して団体交渉を行うことを求めたが,被告は議題の追加を拒否し,別途期日を設定するよう回答し,団体交渉に応じなかった。本件組合は,被告の対応は団交拒否の不当労働行為であるとして東京都労働委員会(以下「都労委」という。)に不当労働行為の救済命令の申立て(都労委平成24年(不)第80号。以下「本件救済命令申立事件」という。)を行ったところ,都労委は,不当労働行為であると認定し,命令書を交付するとともにポストノーティスを行うよう命じた。
被告は,一連の解雇について,本件組合との団体交渉を行うことが可能であるにもかかわらずこれを拒否し,本件組合の関与を忌避し,労働組合の取り組みを弱体化させることを狙っている。
オ 被告社内には,本件組合の組合員に対する否定的意識・反組合意識がはびこっている。原告らに関係する具体的事実としては次のようなものがある。
(ア) A17(以下「A17」という。)の所属長であったA18は,平成21年のPIP面談において,A17に対し,「部下が組合に入ると上司にはバッテンが付く」などと発言している。
(イ) A17の所属長であったA19(以下「A19」という。)は,平成22年にA17に退職勧奨をした際,わざわざ組合加入の理由を尋ねており,平成23年にはA17に対して「組合に入っていると不利な査定がされるという事実を知っていますか」などと発言している。
(ウ) A17の上長であったA20事業部長は,平成22年12月頃,レストランでA17に対し,指をUの字に曲げて示した上で「お前,これだろう」「U(ユー),U(ユー)」などと発言した。
(エ) 原告X2の所属長であったA7は,平成23年12月13日のPBC面談の際,人事異動において異動先が組合員の受入れに難色を示すので,組合に加入すると異動が困難になると述べた。
(オ) 原告X2の所属長であったA8も,平成25年1月7日のPBC面談の際,組合員について「腫れ物になっちゃう」「人で見極めるんじゃなくて,(組合員という)立場で(見極める)」と発言した。
(カ) 原告X2の上長であるA21(以下「A21」という。)は,平成25年3月22日の面談の際,「僕は,正直言って,うちの組合は好きではない。」「間違っていると思っているから,やり方が。」と発言した。
カ 被告の内部資料においても,組合員が「お荷物」扱いされている。平成20年10月からRAプログラムと称して大量の人員削減を行った際,被告は管理職に対し資料を用いて退職勧奨のための面談の実施方法を細かく説明している。その説明資料の中では組合員を「センシティブな社員」と位置付けて非組合員と区別し,公式に「お荷物」であるかのような対応を指導している。また,平成22年6月にGTS部門の人事部が作成した資料では,丸ごと1頁を「Union Members」と題して,本件組合の組合員の人数の推移の分析に費やし,平成20年RAプログラムによって組合員数が激増したとの分析が披露されている。被告が組合員の増加を脅威として受け止め,何らかの対策を促す目的で資料を作成したものであることは明らかである。
キ 被解雇予告者は組合員に集中している。
(ア) 被告による一連のロックアウト解雇(解雇予告通知当日直ちに会社からの退去を求めるなどの態様による解雇)が始まった平成24年7月当時,被告の従業員総数は約1万4000名であった。そのうち本件組合に所属する組合員数は約140名であった。つまり,組合組織率は1%未満であった。これに対し,同月1日以降,被告は50名の労働者に対して解雇予告を行ったと主張しているが,そのうち本件組合の組合員は34名(その外に解雇予告後に本件組合に加入した者が一名(A22。以下「A22」という。)がいる。)である。被解雇予告者に占める組合員の比率は68%に達する。本件組合の組織率と比較して,被解雇予告者に占める組合員の比率の高さは目を見張るものがある。
(イ) これに対し,被告は3年連続PBCが「3」以下の従業員のうち組合員占有率は〈省略〉であること,非組合員の中にはRAプログラムによって自主退職した者が多いこと,それを考慮すれば組合員と非組合員とで大差はないと主張する。しかし,解雇を争っている被解雇者は12名いるが,そのうち少なくとも5名(そのうち1名は原告X1)は解雇直前の3年間にPBCが「2」以上であったことがあり,3年連続PBCが「3」以下という条件に当てはまっていない。また,別紙1「解雇・退職者の割合」のとおり,RAプログラム実施後に被告に残留した者は組合員も非組合員も多数存在するにもかかわらず,解雇予告を受けたのはほぼ組合員のみである。
ク 組合員が集中的に解雇予告を受けたことは原告らの上司も証言している。
(ア) A17の所属長であったA19は,これまで通算10人程度とRAプログラムの面談をしたこと,そのうち退職した者は1名だけであり,それ以外は被告に残留していること,A17のみが解雇予告を受けたことを証言している。RAプログラムの対象となった者のうち,A17のみが狙い撃ちでロックアウト解雇された。
(イ) A23の所属長であったA24(以下「A24」という。)は,平成24年のRAプログラムにおいてA23を含む4名と面談したこと,そのうち2名は退職したこと,断った2名のうちA23は解雇されたがもう1名(非組合員)は解雇されなかったことを証言している。RAプログラムの対象となって解雇されたのは組合員であるA23のみである。
(ウ) 原告X1の所属長であったA2は,RAプログラムを通算4,5人に実施し,そのうち1名(組合員)のみ退職したこと,同原告のみが解雇予告とされたことを証言する。また,原告X1の上長であるA3は,部下であった組合員2名がRAプログラム又は解雇予告に基づき退職し,同原告の解雇によって所管する部門に組合員は一人もいなくなったことを証言する。RAプログラムを断った者のうち組合員だけが狙い撃ちされてロックアウト解雇を受けている。
ケ 業績不良を理由とする解雇であれば,被解雇者の選定は現場レベルで行われるのが自然であるが,実際には現場レベルの意向を離れて人事部門が主導して被解雇者を選定している。
(ア) A17の所属長であったA19は,A17が解雇予告を受ける2,3週間前に人事部からPBC評価が複数年「3」以下である業績が悪い複数名についてインタビューを受け,その時,人事の労務担当者がA17の名前を挙げたこと,A19はこのインタビューは勤務状況,勤務実績などの実情をヒアリングする趣旨であり,被解雇者選定の情報収集という理解ではなかったこと,A17の名前が挙がったことについて理由は分からなかったこと,A17が解雇予告の対象となったのを知ったのは解雇予告の数日前であったことを証言している。
(イ) A22の所属長であったA25(以下「A25」という。)は,A22が解雇されると知ったのは平成24年9月初め(実際に解雇予告通知がされたのは同月18日)であり,人事部門からの連絡により初めてA22が解雇されると知ったこと,この解雇に当たりA25が人事部門に解雇予告の候補者を知らせたことはないこと,A22を被解雇者として選定したのは自分ではなく人事部門であり,自分は日常的に行うA22の業績評価の報告をしていたにすぎないと認識していること,A25は解雇者選定の基準を知らないことなどを証言している。
(ウ) A23の所属長であったA24は,A23に対する解雇の決定は人事又はSTH部門,法務その他がしたものであり,A24は何ら選定に関与していないこと,A24はSTH部門の部下4人にRAプログラムを実施したがその対象者の選定についても関与していないことを証言している。
(エ) 原告X2の所属長であったA4は,自分の部下に関するRAプログラムについて,対象者が何人,いかなる基準で選定され,いつ発令されるかについて全く知らず,今まで一度も関わったことがないことを,所属長であったA7は,同原告が解雇されるに当たって事前に人事から意見を聞かれるようなことはなかったことを証言している。
(オ) 原告X1の所属長であったA2は,平成25年初め頃,人事部から日常業務に関するヒアリングはあったが,解雇者選定のためのヒアリングではなかったこと,同年3月28日,A2は同原告に対してPIPを行うものとし,同原告は業績改善進捗管理フォームに署名するのを拒んだが,同年4月1日から6月30日までの3か月間,PIPに代わる面談を月1回設定したこと,A2は同原告が解雇予告を受けた同年5月31日の約2週間前にA3から解雇予告する旨を聞いたこと,同年5月末のPIPに代わる初回面談時に報告を受けることなく解雇予告が行われたことを証言する。
一方,A3は,平成25年3月下旬頃,A2と相談の上,原告X1を解雇するほかないと判断して人事に具申・報告し,同年4月下旬頃,人事部から解雇の連絡があり,同年5月上旬頃A2に伝えたと述べるが,供述は具体性がなく変遷しており,信用できない。
コ これらの状況からすれば,本件組合の組合員に対する一連のロックアウト解雇は,労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為に該当し,違法で無効である。
(被告)
ア 原告らに対する解雇が本件組合を弱体化させる目的でされたことは否認する。特に解雇予告後に本件組合に加入したA22については不当労働行為が成立する余地は全くない。なお,原告らは解雇予告時に本件組合に加入していた者が25名であると主張するが,被告はそのうち2名の組合員資格を争っている。被告は個々の従業員ごとに就業規則53条2号の事由に該当するか否かを個別具体的に判断して,解雇を行っている。
イ 原告らは,組合員の解雇率が高いと主張するが,業績不良を理由とする解雇予告は,対象者個々人の業績評価や,その業績の改善(又はその可能性)の有無,程度等の種々の個別要素・事情を勘案し,当該対象者について解雇理由があると判断された結果として行われる。解雇予告の対象となり得る母集団の中から一定数の対象者を選別するという行為ではないから,何らかの母集団を念頭において確率計算をするのは適当ではない。確率計算をするためには解雇予告において勘案された種々の要素・事情を基準として母集団を設定するべきであるが,そのようなことは不可能である。仮に確率計算をするにしても,解雇予告された従業員の人数は少ないので有意な数値とはいえない。
そして,原告らが設定している母集団は明らかに不適切である。まず,業績不良である者を対象に解雇予告をしているのであるから,全従業員を母集団とするのは不適切である。また,単年度の業績評価のみを理由に解雇予告を行ったわけではないから,単年度における業績評価における下位評価者全員を母集団とするのは不適切である。例えば,2年連続下位評価者を母集団とすると,単年度の下位評価者の人数より著しく少なくなる。さらに,被告は平成4年以降,特別支援金の支給や再就職支援の提供などの支援を付して任意の退職者を募るRAプログラムを継続的に実施しているところ,業績の良い人材が流出するのを防ぐため業績の低い従業員を中心に退職者を募ってきた。RAプログラムにおける傾向として,非組合員はRAプログラムに応じて自主退職する者が多く,非組合員で潜在的に解雇予告の対象となり得る者は自主退職をしていた。また,RAプログラムの対象となった非組合員がそれを契機に本件組合に加入するケースも存在する。
ウ 原告らは,RAプログラムの対象となって解雇予告を受けたのは本件組合の組合員ばかりであると主張する。原告らがその根拠とする原告らの所属している部署における状況は,その部署限りのものにすぎないのであって,被告全体で見ると,RAプログラムの対象となって解雇予告を受けた者の中には非組合員も存在する。
エ 原告らは,原告らに対する解雇予告を決めたのが直属の上司ではなく人事部であることを指摘して,人事部主導による組合員狙い撃ちの解雇である旨主張する。しかし,こうした主張は,多数の者が参加して判断を行うという企業における意思決定のプロセスを全く無視したものであり,企業が従業員の解雇を決める際人事部が関与しないことなどあり得ない。被告は,人事評価の結果や直属の上司を含む関係者からの直接・間接に得た業績情報を踏まえて会社として解雇の判断を行っている。原告らの上司はいずれも部下の業績情報を人事部門に提供している。
(4) 解雇態様の違法性(争点(4))
(原告ら)
ア 被告による原告らに対する解雇は,何らの合理的な理由もないことを知りながら行われたものである。また,その手法は,原告らをいきなり呼び付け,または,一方的に解雇予告通知書を送り付け,何らの弁明も聞かず,同僚社員への挨拶もさせず,その日中に私物をまとめさせて社外に放逐するというものであり,20年以上もの長きにわたり被告において就労を継続してきた原告らに対してあまりに酷な仕打ちである。さらに,理由がないにもかかわらず労働者失格という烙印を押して問答無用の解雇を行いながら,他方で退職加算金をちらつかせて退職を迫っており,労働者の人格を著しく傷つけるものである。
イ 本件解雇は,被告が組織的に行ったいわゆるロックアウト解雇の一環として行われたものであり,その主たる狙いは,会社の意に反し退職強要に抵抗するなどしている本件組合の動きを止め,これを排除する点にある。本件解雇は,本件組合員であることを理由とする不利益取扱いとしての解雇に他ならない。さらに,被告は,原告らに対し,解雇予告通知と同時に,6日以内に自己都合退職を認める旨通告しておきながら,何ら具体的な資料及び解雇理由を示さなかった。これは,本件組合からの要求にもかかわらず団体交渉においても同様であった。これは,団体交渉における誠実交渉義務に違反する。
ウ このような被告の行為は不法行為というべきである。
(被告)
ア 被告が原告らに対し,解雇予告後,私物を整理し速やかに退社するよう伝えた事実はあるが,施設管理権を有する使用者として当然許容される措置である。特に被告は情報システムに関わる業務を行っており,その業務においては高度の機密を扱っている。解雇予告により就労義務を免除しているので被告施設内にとどまる業務上の理由はないし,原告らと被告が対立関係となり得ることは否定し難く,セキュリティ管理上保守的な対応を取らざるを得ない。これは原告らに限らず他の被解雇者についても同様である。
イ 解雇予告に当たって被告から原告らに渡された解雇予告通知書には,就業規則の該当条項とともに当該条項に該当するに至った事実が記載されている。それを基礎付ける個々の事実についてもPBC評価に関して所属長との間で行われる面談,日々の業務における所属長らからの指導,さらに,本件組合からPBC評価の再評価要求やPIP実施への抗議等があった場合における被告からの回答等を通じて各原告に伝えられている。
ウ 被告は,一定の期間までに自ら退職する意思表示を示した場合は自己退職と認め解雇を撤回し,退職加算金を支払い再就職支援のサポートを行う旨を,解雇予告と同時に通知しているが,これは解雇予告のみをする場合に比べ原告らに有利な措置であり,被告が不法行為責任を負うべき理由はない。また,原告らは自らの解雇に至る事実関係について十分認識できる立場にあった。
(5) 原告らの請求額(争点(5))
(原告ら)
ア 原告X1
(ア) 原告X1の本件解雇①前の賃金は,当月分本給が43万7500円,住宅費補助が1万7000円,専門職/副主任手当が5万9000円の合計51万3500円である。平成25年6月分以降,毎月24日限り51万3500円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金が支払われなければならない。
(イ) 原告X1の平成24年6月の賞与の実支給額は89万7650円,平成24年12月の賞与の実支給額も89万7650円であった。本件解雇①がされなければ,平成25年12月以降,毎年少なくとも6月10日及び12月10日限り89万7650円が支払われたはずである。
(ウ) 解雇態様の違法性及び不当労働行為による解雇の違法性からすれば,不法行為が成立し,原告X1の精神的苦痛を金銭的に評価すると300万円は下らない。また,この請求に要する弁護士費用として30万円は被告の行為と相当因果関係にある損害というべきである。
イ 原告X2
(ア) 原告X2の本件解雇②前の賃金は,当月分本給が48万7400円,住宅費補助が5万6500円,専門職手当が5万9000円の合計60万2900円である。平成25年6月分以降,毎月24日限り60万2900円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金が支払われなければならない。
(イ) 原告X2の平成24年12月の賞与の実支給額は82万8855円,平成25年6月の賞与の実支給額は82万8938円であった。本件解雇②がされなければ,平成25年12月以降,毎年少なくとも12月10日限り82万8855円,6月10日限り82万8938円が支払われたはずである。
(ウ) 解雇態様の違法性及び不当労働行為による解雇の違法性からすれば,不法行為が成立し,原告X2の精神的苦痛を金銭的に評価すると300万円は下らない。また,この請求に要する弁護士費用として30万円は被告の行為と相当因果関係にある損害というべきである。
(被告)
ア 否認又は争う。
イ 原告X1の平成24年12月の賞与は88万3647円,平成25年6月の賞与は88万5353円である。その余の賞与の支給額は認める。ただし,賞与は各支払日ごとに賞与基準額,バンド,出勤率,会社業績及び個人業績を勘案して被告が定めるものであって,各支払日における賞与支給額があらかじめ確定しているものではない。
ウ 原告X2は,被告就業規則50条1項・2項の規定により平成28年4月30日に定年となるから,それより後に発生する給与等についての支払請求権を有していない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告X1の解雇事由)について
(1) 認定事実
前記前提事実(第2の1)に加え,以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 平成20年まで(甲D5,原告X1)
(ア) 原告X1は,平成2年4月に被告に入社後,情報開発第一適用業務開発第四業務開発に配属された。この部署は,社内向けのプログラムを作成・運用する部署であり,原告X1が配属された部門は,修理部門が蓄積している事例をまとめたFAQの管理・運用業務や,修理部門の要員手配をスムーズに行うための保守・運用業務を担当していた。
(イ) 原告X1は,平成2年4月から平成3年2月頃まで,SEスクールというシステムエンジニアを養成する研修に参加した。
(ウ) 原告X1は,平成3年1月,情報開発第一適用業務開発第二業務開発に配置転換となり,同年2月には,SEスクールを修了し,SEとして新規システムの開発を担当した。
(エ) 原告X1は,平成3年9月頃,三和銀行(当時)のシステム開発に派遣された。
(オ) 原告X1は,平成3年11月頃から平成6年4月頃まで,情報開発第一適用業務開発第二業務開発に配属され,この間,平成5年頃には,「先任」と称する深夜残業なども可能になる職位に昇格した。
(カ) 原告X1は,平成6年5月頃,情報開発ADMサービスに配属され,社内外のシステムの開発と保守を行った。
(キ) 原告X1は,平成10年頃,新入社員の教育担当も務めており,同年のPBC評価は「A」(現在の評価制度における「1」に相当。前記前提事実(4)ア参照)であった。
(ク) 原告X1は,平成11年1月頃,社内開発部門に異動となった。
(ケ) 原告X1は,平成15年1月,バンド7に昇進し,サービスプロセス推進に異動した。このとき,被告から提示された3か所の候補の中から原告X1が希望して配属先が決まった。原告X1は,サービスプロセス推進において,社内システムの管理・運用の業務を行っていた。
(コ) 原告X1は,平成16年頃には,部門内の社員1,2名が選ばれる「トップ・タレント」に選ばれ,当時の部門理事と話をするイベントに参加した。
(サ) 平成19年から平成20年頃,サービスプロセス推進は,プロセス管理とシステム管理を分離し,当時所属していた4名の従業員が2名ずつ割り振られ,原告X1はシステム管理・運用が主体の部署に配属された。サービスプロセス推進では幾つものシステムを管理・運用しており,各システムに2,3人の担当者が付いていたが,そのうち1名が主担当者として当該システムに関連する一連の業務の責任者となった。原告X1は,アウトソーシングに関わる5つのシステムの担当者となり,そのうち3つ(送り状DB,PONY DB,OSナビ)の主担当者となった。
イ 平成21年について(甲D5,原告X1)
(ア) 原告X1は,引き続きサービスプロセス推進においてシステムの管理・運用を行っており,A2が所属長であった。
(イ) エンドユーザー(被告社内のシステムの使用者)は,平成21年4月30日午後6時16分,原告X1に問い合わせを行ったが返答はなく,エンドユーザーは,同年5月6日午後10時34分,同原告に対し担当者が違うならば知らせるよう催促のメールを送った。これに対しても,原告X1からの返答はなく,エンドユーザーは,同月10日午後3時22分,同原告に対し,11日からの研修に間に合うように,翌日までに連絡をするよう更に催促するメールを送った。これに対し,原告X1は,同月11日午後5時19分,「大変遅くなって済みませんでした」などと謝罪しつつ回答を行った。(乙D2)
(ウ) エンドユーザーは,平成21年8月21日午前9時31分,原告X1に対し,システム登録の依頼を行った。これに対し原告X1からの返答はなく,エンドユーザーは,同年9月28日午後3時35分,同原告に対し,処理の状況を伝えるよう催促するメールを送った。これに対しても原告X1から返答がなかったため,エンドユーザーは,同年10月22日午後8時38分,同原告に対し,最初の連絡から既に2か月が経っており業務に支障を来しているとして更に催促を行い,同日,A2に対しても進捗状況を問い合わせた。A2が,同日午後9時27分,原告X1に対し状況を報告するよう求めたところ,同原告は,求められていた作業を行い,同月23日午後5時15分,A2に対し,「済みませんでした」などと述べて,間違いがあったことを説明し,対応状況を報告した。(乙D3)
(エ) 原告X1は,平成21年11月18日午後0時57分,エンドユーザーから少し急いでいると明示された上で対応を求められたものの,これに対応しなかったため,エンドユーザーからサービスプロセス推進に対し2度電話があり,A2は,同日午後2時57分,同原告に対し,対処が難しい場合はまず連絡するよう指示するメールを送信した。これに対し,原告X1は,同日午後5時37分,A2に対し,「申し訳ございませんでした」などと述べて,別件の対応,電話等があり処理が遅くなったこと,以降連絡が遅くならないよう十分注意すること,依頼は対応済みであることを報告した。(乙D4)
(オ) エンドユーザーであるA26(以下「A26」という。)は,平成21年10月5日午前9時40分,サービスプロセス推進に対し対応を要請した。これに対し,原告X1は,同日午前10時40分,上記要請に疑問を投げかけ,注意するような文面のメールを送信した。A26は,同日午後2時13分,A2に対し,今回の原告X1のやりとりも,過去のやりとりも,少しとげがありやりにくいのでもう少しフレンドリーな対応をお願いしたいなどと連絡してきた。A2は,同日午後4時54分,原告X1に対し,現場からのクレームであるとして,同じ社員なのでビジネスライクに気持ちよく仕事をできるようなコミュニケーションを取るように求め,スタッフ部門として現場を第一に考えるという意識を持つように伝えた。(乙D5)
(カ) 原告X1の平成21年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。総評として,SOプロセスツール・ヘルプデスク業務を通じて,エンドユーザーをよくサポートしたこと,アプリケーション・オーナーのスキル及びアプリケーション・オーナーの役割と責任についての知識の習得に改善が必要であること,業務にもっと優先順位を付け,効率的に遂行することを期待すること,A2の補足コメントとして,本年の貢献に感謝すること,コミュニケーション能力を改善した方が良いこと,知識があるにもかかわらず記述内容が少し複雑であることなどが記載されている。(乙D1)
ウ 平成22年について(甲D5,原告X1)
(ア) 平成22年から平成23年にかけて,A3がプロジェクトマネージャーを務めるMASUプロジェクトが行われた。これは,複数のシステムの大幅な変更を伴う比較的大規模なプロジェクトであった。原告X1もMASUプロジェクトに参加しており,送り状DBというシステムの主担当は同原告が務めた。平成22年12月末までに各自の担当システムについて変更に必要な業務要件を取りまとめる作業(要件定義)を行い,変更に必要なコストを確定させる必要があったが,原告X1が担当していた送り状DBについての要件定義及びコスト確定が遅れたため,プロジェクトの進行が遅延した。(甲D17,乙D37,40,証人A3)
(イ) 原告X1の平成22年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「2」であった。総評として,アプリケーションサービス及びヘルプデスク活動によるビジネスへの貢献に感謝すること,ビジネスを効率よく,かつ,効果的にサポートすることに重点的に取り組んでほしいことなどが記載されていた。(乙D6)
エ 平成23年について(甲D5,乙D36,原告X1)
(ア) 原告X1は,平成23年1月31日午後10時14分,エンドユーザーに対し対応を行ったが,エンドユーザーは,同日午後10時39分,サービスプロセス推進に対し,システムの例外が非常に複雑であるとの感想とともに,ヘルプデスクに問い合わせてもいつ回答がもらえるか分からない,早い回答があるときとそうでないときがある,改善を希望するなどと連絡してきた。A2は,同年2月1日午前5時08分,原告X1にメールを送信し,Q&Aが分かりにくいことを指摘するとともに,質問に対し回答を早く返信するよう求めた。原告X1は,同日午後0時,A2に対し,別の作業をしていたため質問に気付くのが遅れたことを謝罪した。その後,A2は,原告X1に対し,マニュアルの記述をわかりやすく見直すこと,ヘルプデスクのメールでの対応時間を分かりやすく公開した方が良いことを伝えた。(乙D13)
(イ) エンドユーザーは,平成23年2月23日午後6時11分,原告X1に対し,対応を依頼した。原告X1は,同月24日午後3時29分,サービスプロセス推進の名義で,後ほど対応するとメールしたが,対応がなかったため,エンドユーザーは,同年3月2日午前11時31分,サービスプロセス推進に対し,同日中の対応を求めた。これに対し原告X1が対応しなかったため,同月3日午後2時16分,エンドユーザーは,同原告に対し,至急対応するよう連絡したところ,同原告は,同日午後3時23分,エンドユーザーに対し,急ぎの処理で手一杯なので来週まで待つよう連絡した。エンドユーザーの上司は,同日午後3時41分,A2に対し,原告X1が対応できないならば時間がないので代替の人が対応するよう要請した。A2は,同日午後3時51分,原告X1に対し,対応できていない理由の説明を求めるとともに,A9に対し,同原告に代わって対応するよう求めた。(乙D7)
(ウ) エンドユーザーは,平成23年5月6日午後1時28分,サービスプロセス推進に対し,支障を来しているので早急に解決するよう対応を求めた。A2は,同日午後1時37分,原告X1に至急の対応を求めようとしたが,電話も被告社内のチャットシステムも通じない状態であったことから,チャットシステムは必ず立ち上げた状態にしておくよう指示した。(乙D10)
(エ) エンドユーザーは,平成23年6月27日午後4時53分,「Bms Help」と称する部署を介して,原告X1に対し,対応を求めたところ,同原告が対応しなかったため,同月30日午前9時34分,エンドユーザーは,同原告に対応を催促した。なお原告X1からの対応がなかったため,エンドユーザーは,同年7月14日午前9時31分,A2に対し,同原告から返事がなく電話でもコンタクトが取れず,回答待ちで不具合調査が止まっているとして,回答可能な人への転送を求めた。A2は,同日午前10時21分,原告X1に対し,対応を求めた。(乙D8)
(オ) エンドユーザーは,平成23年6月28日午後1時43分,原告X1に対し,対応を求め,同年7月1日午前10時32分,対応を催促したが,いずれも反応がなかったため,同日午後3時28分,サービスプロセス推進に対し,対応を求めた。A2は,同日午後4時49分,なぜ応答しないのかメールで問いただしたところ,原告X1は,同日午後8時39分,A2に対し,対応ができたら連絡しようとしていて遅くなったとして,返信をしなかったことを謝罪した。(乙D11,35)
(カ) エンドユーザーが,平成23年7月8日午後3時33分,サービスプロセス推進に対応を求めたところ,原告X1は,同日午後3時46分,エンドユーザーに対し,トラブルが発生した経緯,今後同様のことが発生しないための対策などを回答するよう求めた。エンドユーザーのA26は,同日午後4時08分,原告X1に対し,ミスがあったとしても一生懸命やっている方にやる気をなくさせるような上から目線のメールは止め,メールの言い回しにも気を付けるよう求め,このようなことが続くと担当者を指定してお願いすることになると伝え,A2に対して同原告を指導するよう求めた。A2は,同日午後5時,原告X1に対し,繰り返し伝えているが,サービスプロセス推進はプロセスの主管者ではなくプロセスの実施を支援するチームであり,言葉の言い回しに注意するよう注意した。原告X1は,同日午後8時44分,A2に対し,エンドユーザーを不快にさせたことを謝罪したが,確認を求めた点は同原告が独自に決めたことではなく,指示を仰いで行っている旨を伝えた。A2は,同日午後9時37分,原告X1に対し,ユーザーの立場に立って自分で考え,必要と思うか,確認するとしてもどのような文面がいいかを考えるよう伝えた。(乙D14)
(キ) エンドユーザーからの依頼に対し,原告X1は日本側では解決できないとして,平成23年8月8日午後3時45分,グローバルのヘルプデスクに対応を求めたことを伝えた。エンドユーザーは,同月10日午前8時47分,サービスプロセス推進に対し,進捗状況の報告を求めた。原告X1は,同日午後3時02分,エンドユーザーに対し,グローバルで対応しているためいつ処理されるかわからないと回答した。エンドユーザーは,同月11日午前9時05分,サービスプロセス推進に対し,グローバルに直接問い合わせをしたいので連絡先を教えるよう求めたが応答がないため,同日午前9時54分,サービスプロセス推進に対し,業務に明らかな支障があるとして,大至急の対応を求めた。原告X1は,同日午後1時09分,一部対応を行ったが,問題が全て解決するには至らず,エンドユーザーは,同月12日午前9時15分,A2及び原告X1に対し,進捗状況の報告を求めた。原告X1は,同月19日午後9時16分,「大変ご迷惑をおかけしてすみませんでした」などと述べて,グローバルのヘルプデスクにおいてトラブルの原因を取り除き,同月15日に解決していたこと,報告が遅くなったこと,今後このような問題で時間がかからないようグローバルのヘルプデスクに早く問題解決するよう要請することなどを伝えた。A2は,同月22日午前9時12分,原告X1に対し,タイムリーなコミュニケーションを行うよう指導した。(乙D9)
(ク) エンドユーザーは,平成23年9月30日午前9時,A9に対し対応を求めたが,同月26日に原告X1が担当者として処理していたものであったため,A9は,同日午前11時48分,同原告に対し状況を問い合わせるとともに,A2に対しても連絡を取った。A2は,同日午後1時47分,原告X1に対して責任を持って対応するよう指示した。(乙D12)
(ケ) エンドユーザーは,平成23年10月17日午前10時41分,「Bms Help」に対応を求めたところ,同部署は,同日午後3時36分,原告X1に対応を求めた。エンドユーザーは,同日午後5時36分,原告X1に対し追加の連絡をしたものの対応がなく,同月19日午前11時02分,更に同原告に対応を催促したが,これにも応答がなかったため,同日午後6時07分,A2と連絡を取った。A2は,同月20日午前9時01分,原告X1に対応を催促した。原告X1は,同日午前10時50分,エンドユーザーに質問をし,同日午前11時32分,エンドユーザーがこれに回答したにもかかわらず,原告X1が対応しなかったため,A2は,同月21日午前10時20分,原告X1に作業の進行を確認した。(乙D15)
(コ) A2は,平成23年12月7日午後3時58分,各担当者に作業依頼をしたところ,原告X1のみ未提出となったため,同月9日午後3時47分,同原告に提出を催促した。原告X1は,同日午後7時07分,A2に対し作業結果を提出したが,不十分な内容であったとして,追加の作業を求めた。(乙D16)
(サ) 原告X1の平成23年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。総評として,MASUプロジェクトの貢献に感謝するが,日々の業務の遂行には向上が必要であること,業務への集中力を失わず,コミュニケーションについて真摯に考え,やるべきことに優先順位を付けるべきことなどが記載されていた。(乙D17)
オ 平成24年について(甲D5,原告X1)
(ア) A2は,平成24年4月27日,原告X1に対し同日から同年5月31日までのPIPの実施を提案した。そこでは,改善を要する点として,自席での業務実施中及び各種会議に出席中度々居眠りをしていること,ユーザーや各関係部門とのコミュニケーションにおいて問題を起こすことがあること,業務の優先順位付けができないため,緊急の要件が後回しになったり,アクションそのものが放置されるケースがあることが示されており,面談が行われたが,原告X1はPIPの実施に応じなかった。(乙D18,34)
(イ) A2は,平成24年5月頃から,原告X1の居眠りの状況を他の従業員に報告してもらうこととし,その結果を受けて,同月15日,同原告に対し,次のとおり,周りの者が居眠りに気付いた時間を伝えた(乙D19,20(枝番号含む。))。
a 同月8日午後3時,午後5時
b 同月9日午前9時42分,午後1時58分
c 同月10日午前10時09分から午前10時15分まで,午前10時14分から午前10時36分まで,午前10時38分から午前10時57分まで,午前11時から午前11時04分まで,午後2時40分,午後3時,午後3時15分,午後3時40分,午後4時56分から午後5時30分まで
d 同月11日午前9時13分から午前9時45分まで,午前9時47分,午後2時38分,午後3時から午後3時20分まで
e 同月14日午前10時13分,午前10時33分,午前11時32分から午前11時38分まで,午前11時49分から午前11時50分まで,午後1時36分,午後3時07分,午後3時32分から午後3時55分まで
(ウ) 原告X1は,平成24年5月15日,朝の会議の間,ほとんど居眠りをしていた(乙D21)。
(エ) 原告X1は,平成24年6月26日,朝の会議において,40分ほど居眠りをしていた。また,原告X1は,この頃離席時間が増えていた。(乙D29)
(オ) 原告X1は,平成24年7月6日午前10時20分,A2に対し,頭痛のため午前中半休を取る旨連絡した。A2は,同日午前10時24分,原告X1に対し,具合が悪いのは仕方がないが,午前9時出社であれば午前9時前に連絡するよう伝えた。(乙D28)
(カ) 原告X1は,平成24年7月11日午後1時から午後1時30分まで及び同月13日午後1時から午後2時まで,居眠りをしていた(乙D22)。
(キ) A2は,平成24年8月9日,原告X1に対し,ほぼ毎日居眠りしていることが改善されていないことを指摘した(乙D34)。
(ク) 本件組合は,平成24年8月14日,被告に対し,原告X1に対するキャリアカウンセリングの強要は,退職強要であるとともに,同原告は中央執行委員であり組合への組織攻撃と同等であって不当労働行為に当たるとして,その中止を求めた(乙D33)。
(ケ) 原告X1は,平成24年8月15日午前10時14分,同じチームで仕事をしていたA10に対し,体調不良で出社が遅くなることをメールした。A10は,同日午前10時22分,A9に対しメールを転送した。A9は,同日午前11時,原告X1に対し,本日のヘルプデスク朝当番は同原告であり連絡は午前9時までにすべきことなどを連絡した。(乙D27)
(コ) 被告は,平成24年9月21日,本件組合に対し,原告X1に退職強要を行った事実はなく,不当労働行為に当たる行為はないと回答した(乙D34)。
(サ) 原告X1は,平成24年10月17日午前10時19分,A10やA9らに対し,曜日を間違え,さらに,乗り過ごして出社が遅れ,午前11時20分頃到着する予定である旨をメールで伝えた。A10は,同日午前10時20分,A2に対しこのメールを転送し,A2は,同日午前10時31分,原告X1に対し,午前10時前に遅刻の連絡がないこと,遅刻が多すぎることを伝えた。(乙D25)
(シ) 原告X1は,平成24年12月4日午前9時03分,A2らに対し,通勤途中,足がつってしまったとして20分程度遅刻する旨連絡した(乙D23)。
(ス) 原告X1は,平成24年12月13日午前10時44分,A2らに対し,連絡が遅くなり申し訳ないと述べつつ,偏頭痛がひどいため午前半休を取る旨連絡した(乙D26)。
(セ) 原告X1は,平成24年12月28日午前9時25分,A2に対し,出社時間を間違えたとして,午前9時50分頃出社すると連絡した。A9は,同日,朝の当番をしなかったのか確認したところ,原告X1は,A9に対し,曜日を勘違いして出社が午前9時45分になり,当番をしなかったと答えた。(乙D24の1及び2)
(ソ) 平成24年1年間のヘルプデスク業務の処理件数は,原告X1は837件,A9は1117件,A10は341件(ただし,育休明けであり,同年4月までは休職。5月から8月まではヘルプデスク業務以外の業務を主に行う。),GDメンバー(中国においてサービスプロセス推進の業務をサポートする者。その担当業務の9割程度はヘルプデスク業務。2人配属されているが稼働するのは1人。)は813件であった(乙D30)。
(タ) 原告X1の平成24年1年間のPBC評価は「3」であった。総評として,1年を通して,自席及び会議の場で何度も居眠りをしていたこと,会社及び会議に何度も遅刻したこと,予定していない午前中の半休が何度もあったこと,成果物にケアレスミスがあったこと,期限を守らないことが何度もあったこと,平成25年は取り組み態度及びパフォーマンスの改善を強く求めることが,原告X1の補足コメントとして,アドバイスは真摯に受け止め,今後全力を尽くすこと,しかしながら評価については完全に納得できるものではないことが,A2の補足コメントとして,責任ある社会人として,勤務時間中の居眠り,無断の遅刻という勤務態度を正すべきことなどがそれぞれ記載されている。(乙D31)
カ 平成25年について(甲D5,原告X1)
(ア) A2は,平成25年3月28日,原告X1に対し,同年4月1日から同年6月30日までのPIPの実施を提案した。そこでは,改善を要する点として,自席での業務実施中及び各種会議に出席中に度々居眠りをしていること,遅刻や当日連絡の休暇,午前半休等勤怠に問題があること,担当するアプリケーションに関して最善の提案を行いビジネス側をリードしていくことができない,または準備不足,確認不足でのアクションによりユーザーへ迷惑をかけるケースがあること,ヘルプデスク業務遂行において居眠りや長期離席により業務が滞ることがあることが指摘された。原告X1は,このときもPIPの実施に応じなかったものの,それに代えて面談には応じる旨を伝えた。(甲D14の1及び2)
(イ) 被告は,平成25年5月31日,原告X1に対し,同年6月12日付けで解雇することを通知した(本件解雇①)。解雇理由証明書には,業績が低い状態が続いており,その間,会社は職掌や担当範囲の変更を試みたにもかかわらず業績の改善がなされず,会社は,もはやこの状態を放置ができないと判断し,就業規則53条2項の解雇事由に該当することが記載されている。他方,被告は,原告X1に対し,同年6月6日午後5時36分までに自主退職の意思を示した場合は,解雇を撤回し,退職加算金や会社の費用負担で再就職支援会社のサポートを受けられるオプションも用意する考えであることも伝えた。また,被告は,原告X1に対し,被告の物品の返却をするよう求めるとともに,私物を持ち帰れずに残す場合は後日送付することを伝えた。(甲D1,2)
(ウ) 平成25年1月から5月までのヘルプデスク業務の処理件数は,原告X1は284件,A9は407件,A10は466件,GDメンバーは432件であった。(乙D32)
(2) 被告は,原告X1の解雇事由として,①業務効率が悪く対応が遅いこと,②適切なコミュニケーションが取れないこと,③物事に適切な優先順位を付けることができないこと,④ミスが多いこと,⑤居眠り,遅刻,突然の半休取得など勤怠不良,改善の兆しが見られなかったことなどを主張する。
(3) 原告X1の解雇事由に関して当事者双方が主張する個別・具体的な出来事について,認定事実を踏まえて検討する。
ア 原告X1は,平成15年1月からサービスプロセス推進において,システムの管理・運用を行っており,その業務には,ヘルプデスク業務として,エンドユーザーからの問い合わせに対応する業務が含まれていたところ,同原告のヘルプデスク業務については,平成21年以降,対応が遅い,適切な対応がされないなど,複数のクレームが寄せられていたことが認められる。
イ MASUプロジェクトにおいて,原告X1が主担当をしていた送り状DBの要件定義及びコスト確定が遅れたため,プロジェクトの進行が遅延したことが認められる(甲D17,乙D37,40,証人A3)。原告X1は,送り状DBの変更の必要性について連絡が来たのが遅かったと主張するが,同原告はキックオフミーティングから参加していたと認められ(証人A3),自ら変更の必要性に気付くべきであったと考えられるから,変更の必要性の連絡が遅かったとしても遅延を正当化できるものであるとはいえない。また,原告X1は,送り状DBの遅延は最終的に取り戻したこと,他のシステムが原因で遅延したことを主張するが,少なくとも平成20年12月中旬の段階で送り状DBには遅れが生じていたと認められ(甲D17,乙D40),上記主張を採用することはできない。
次に,MASUプロジェクトにおいて送り状DBについてシステム変更が多くなり,コストが予算500万円から約1000万円に増額したと認められる(証人A3,原告X1)。被告は,これは原告X1がエンドユーザーと適切に協議を行わずに必要のない要望を取り入れてしまったためであると主張するが,取り入れた要望が必要のないものであったことを認めるに足りる証拠はなく,同原告が独断でコストが高くなるような変更を行ったとも認めるに足りないから,これをもって同原告の能力不足とみるのは相当でない。
さらに,被告は,原告X1がMASUプロジェクトによる新システムへの切り替え作業を日中に行おうとしたことを問題視する。しかし,夜間での切り替え作業ではコストが高くなり,日中に切り替えを行うこともあったという原告X1の供述は不合理とまではいえない上,結果的にA2の指示によって夜間の切り替え作業となり,実際の支障は生じていないのであるから,この点に問題があったということもできない。
ウ 被告は,平成23年夏頃から,原告X1の担当業務が縮小され,原則としてヘルプデスク業務だけになったと主張する。しかし,原告X1は3つのシステムの主担当であったことについて変更が加えられておらず,実際にシステムの主担当としての業務を行っているから(甲D10から13まで,原告X1),原告の担当業務が縮小されたとは認めるに足りない。
エ 平成23年夏以降のヘルプデスク業務については,引き続きエンドユーザーからクレームが来ることがあったと認められる。また,平成24年1月から平成25年5月までの期間におけるヘルプデスク業務の処理件数をみると,原告X1は他のメンバーに比べて少なかったものと認められる(乙D30,32,証人A2)。原告X1は,他の業務の繁忙状況などもあるため件数だけを比較しても意味がないことや,GDメンバーに指導する必要があったことを主張するが,それらの事情は他のメンバーも同様であるから,件数が少ないことを正当化するものとはいえず,同原告のヘルプデスク業務は他のメンバーと比較すれば劣っていたというべきである。
オ 原告X1は,周囲から,業務中に居眠りをしていると見られる状況が頻繁にあったものと認められる。もっとも,原告X1は考え事をしていて目を閉じていることがあると供述していること,チャットで居眠りを指摘されると何度もすぐに反応していること(乙D39の1から3まで)からすると,被告側で居眠りと認識し,指摘したもの(前記(1)オ(イ))が全て居眠りであったとすることには疑問も残る。
カ 欠席及び遅刻については,勤務開始時刻を過ぎてから欠席及び遅刻の連絡が来ることが複数回あったこと,これによりヘルプデスク業務などに支障が生じていたことが認められる。事後的に休暇が承認されたとしても,業務に支障があったことは変わりはない。また,原告X1は勤務時間中に上司や同僚に断りなく長時間離席をすることがあったものと認められ,それが業務によるものかどうかは明らかではないが,ヘルプデスク業務の処理件数が少なくなる要因であったと推認される。
(4) 以上を総合すると,原告X1は,サービスプロセス推進において3つのシステムの主担当やヘルプデスク業務などを担当していたが,システムの主担当に関してはMASUプロジェクトにおいて遅延の原因となり,ヘルプデスク業務においてはエンドユーザーから対応の遅れや適切ではない対応についてクレームがたびたび来る状態であるとともに,ヘルプデスク業務を行う件数自体も他のメンバーよりも少なく,居眠り,勤務時間開始前に連絡のない遅刻及び欠勤などの問題もあり,PIPにも応じず,本件解雇①に至ったと認められる。被告が主張する解雇事由は,その全てが認められるわけではないものの,上で検討したとおり,相当程度これに対応する事実が認められる。
しかし,原告X1は,かつてはシステムの開発,保守の業務においてPBC評価「1」に相当する評価を受けたこともあること,サービスプロセス推進において「トップ・タレント」に選ばれたこともあること,MASUプロジェクトにおいて遅延の問題が発覚していた平成22年のPBC評価は「2」となっていること,3つのシステムの主担当については業務範囲の縮小は認められないこと,ヘルプデスク業務において,クレームが寄せられており,件数が少ないという問題はあるものの,ヘルプデスク業務を担当すること自体を不適格と断ずるほどのものとまではいえないことなどからすると,業績不良は認められるものの,させるべき業務が見つからないというほどの状況とは認められない。また,PBC評価は飽くまで相対評価であるため,PBC評価の低評価が続いたからといって解雇すべきほどの業績不良があると認められるわけではないこと,原告X1は大学卒業後被告に入社し,約23年間にわたり勤務を継続し,配置転換もされてきたこと,職種や勤務地の限定があったとは認められないことなどの事情もある。そうすると,現在の担当業務に関して業績不良があるとしても,その適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格,一定期間内に業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性をより具体的に伝えた上での業績改善の機会の付与などの手段を講じることなく行われた本件解雇①は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないから,権利濫用として無効というべきである。
2 争点(2)(原告X2の解雇事由)について
(1) 認定事実
前記前提事実に加え,以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 平成20年まで(甲E19,原告X2)
(ア) 原告X2は,昭和59年12月1日,被告に中途採用され,野洲工場(当時)の積層基板生産技術・第一積層基板技術に配属され,穴空け工程の担当になり,コンピューターの保守も担当した。原告X2は,産業用ロボット教育インストラクターの資格を有していたことから,部内で産業用ロボット操作者の教育を年2回,8年間,企画・実施したほか,昭和62年頃,穴空け工程の自動化プロジェクトに参加し,部門賞を受賞し,平成元年には第2種情報処理技術者試験に,平成2年には第1種情報処理技術者試験に,それぞれ合格した。
(イ) 原告X2は,平成4年4月,生産技術開発に異動し,液晶基板検査装置の開発・保守の業務を担当した。
(ウ) 原告X2は,平成12年11月,台湾メーカーでの新規立ち上げに対して部門賞を受賞した。
(エ) 原告X2は,平成18年1月1日,バンド7に昇格した。
(オ) 原告X2は,平成19年7月末頃,本社への異動対象者としてITスペシャリスト試験(社内資格)を受験することになり,約2か月の勉強の結果,これに合格した。
(カ) 原告X2は,平成20年1月1日,本社へ異動し,同年3月1日よりSTHへ異動し,BMとして業務に当たった。
(キ) 原告X2のこの間のPBC評価は,平成15年「Achieved」,平成16年「2+」,平成17年「2」,平成18年「3」,平成19年「2+」であった。
イ 平成20年について(甲E19,原告X2)
(ア) 原告X2は,平成20年2月,STHへ異動する前に,STH新人研修を受講した。このときの研修は受講者が少なく通常のカリキュラムよりも期間の短いものであった。(乙E20,21)
(イ) 原告X2は,STHにおいて,製造業チームに配属され,A4が所属長となった。
(ウ) 原告X2は,STHに異動後,平成20年3月のSTH新人研修に参加した(乙E21,22)。
(エ) STHにおいては,「BMコール」と題して,2週間に1回,講演会が開催され,BMとしてのスキルアップ,最新情報入手の機会が設けられていた(乙E23)。
(オ) STHにおいては,毎週,コミュニケーションスキルや英語力といった基本的なスキルについてのセミナーが開催されていた(乙E23)。
(カ) STHにおいては,BMメンターを指導担当者として,新人に対し,3か月間OJTが行われていた。原告X2のBMメンターとなったのは大阪STHに所属するBMであった。(乙E23)
(キ) 原告X2のBMとしての対応について,平成20年4月14日,A7は,処理が非常に速かったとして感謝を伝えるメールを同原告に送信した(甲E7)。
(ク) 原告X2の平成20年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。総評として,第4四半期の実績はそれまでと比べものにならないほど良い状況になったこと,まじめで,頼まれたことは確実に,きっちりこなす姿勢は評価できること,残念だった点は,自身の振り返りの中で改善点を自ら認識し,それに対して積極的に,スピードを持って,十分にキャッチアップ仕切れなかったこと,来年の課題点は,一段上の目線で物事を対応していく姿勢,活動への自主的な参画,後進の育成,指導への積極的な取り組み,各期間を意識した目標設定,1週間後の100点より明日の70点の自己意識改革などが記載され,原告X2の補足コメントとして,今回の処遇には同意できるものではないこと,A11の補足コメントとして,改善アクションの確実な実施を期待していることなどが記載されている。(乙E1)
ウ 平成21年について(甲E19,原告X2)
(ア) 原告X2は,平成21年1月15日から同年3月31日まで,PIPを受けた。その際,改善を要する点は,リーダーシップ,改善活動への貢献,依頼者やチームメンバーへの配慮であり,達成すべき内容としては,5件の改善活動の実施,クイック,スモール案件の進捗管理表(WBS)の作成,初回の返信を2時間以内に行い,評価コメントやサンクスメールを増やす,議事録作成とフォローを100%実施する,必要な情報を早めに収集し,依頼案件100%に対応するということであった。原告X2は,上記PIPで課題を達成したものとされた。(乙E24)
(イ) 原告X2は,平成21年2月18日,サービスチームから,BMとしての対応について,「クイック対応ありがとうございました」という内容のメールの送信を受けた(甲E10)。
(ウ) 原告X2は,平成21年3月から,金融業チームに所属変更となり,Shared BMとしてA5・BMを支援する業務を担当することになった。
(エ) 原告X2の回答に対し,平成21年3月6日,セールスチームのA15(以下「A15」という。)から回答が誤っているのではないかとの指摘があった(乙E6)。
(オ) A15は,平成21年6月20日,A5らに対し,原告X2も忙しいのは分かるが,対お客様向けの仕事もしっかりこなしてもらわないと困ること,全く判断能力がないので,バックヤードが同原告みたいな人だと困るなどと述べたメールを送信した(乙E7)。
(カ) 原告X2が行った作業に対し,A15は,平成21年6月22日,「やっていることが全く違います!!!」という厳しい文面のメールを送信した。もっとも,原告X2が連絡を取って対応した後,A15は,「ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします」という文面のメールを同原告に送信している。(甲E12,乙E8)
(キ) 原告X2は,平成21年8月,再び製造業チームに所属が変更となり,BMとなったが,沖縄BSC業務及び「現物作業」を担当することになった。
(ク) 原告X2は,平成21年8月6日,所属するチームから感謝状(本件感謝状)を授与された。そこには,正確な案件対応,ITスキル面での支援への感謝を伝え,カントリー案件(契約金額が2億円以上の案件)の吸収力やITを駆使した効率化はずば抜けていること,その卓越した力を今後もチームメンバーをけん引してほしいことなどが記載されている。(甲E5)
(ケ) 原告X2は,平成21年9月22日,A15に対し,4人の承認を要する作業について3人の承認しか得られていないにもかかわらず,承認手続が完了したかのような対応を行った。A15は,同月23日,原告X2に対し,3人の承認しか得られていないことを指摘したところ,原告X2は,A15に対し,「先走ったようですみませんでした」などと答えた。(乙E9)
(コ) 原告X2の平成21年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。総評として,前半は業務への要求によく対応したこと,後半は大型案件へのビジネス貢献に寄与したこと,しかし,昨年の自身の改善点についてある程度の改善は見て取れたものの,卓越したレベルまで残念ながら到達することができなかったこと,来年は①スピードをもって物事に取り組み,期間ごとに明確な成果を出す意識を持ち実際の成果を出し続けること,②マインド,姿勢を全てポジティブからスタートさせ,積極的にプロアクティブに物事を遂行することの2点について更なる改善を目指すことなどが記載されている。(乙E2)
エ 平成22年について(甲E19。原告X2)
(ア) 原告X2は,平成22年2月,本件組合に加入した(甲E16)。
(イ) セールスチームは,平成22年2月2日,原告X2が必要な社内承認を得ていないことについて,クレームを出した(乙E11)。
(ウ) セールスチームは,平成22年2月25日,原告X2に対し,同原告の対応は他の人に対応してもらう場合とあまりに勝手が違うため戸惑ったこと,今後はスケジュール感を考慮して対応してもらいたいことを伝えた(乙E12)。
(エ) 原告X2は,平成22年4月26日,A4に対し,ミーティングでのアドバイスを参考に改善目標をまとめ,これを送信した。そこでは,案件数が少ないこと,ミスが多いこと,クレームが多いこと,スピード感がないことが問題点として挙げられていた。(乙E10の1及び2)
(オ) 原告X2は,平成22年7月14日,セールスチームから対応を求められたところ,他の部署の者を紹介するとともに,社内サイトのリンクを貼り付け,それを参照するようにという内容のメールを送信した。これに対し,セールスチームは,同月16日,A4に対し,原告X2の対応は納得しかねること,承認を受けられない状況になり7月の契約がほぼ絶望的になったこと,以前A5が担当していたときはこのような事態は一度もなかったこと,担当の変更を含めて改善を検討してもらいたいことなどを申し入れた。A4は,同月20日午後8時45分,原告X2に対し,至急事実を報告するよう求めたが返答がなかったため,同月21日午前2時09分,クレームがあったにもかかわらず反応も経過報告もなく,業務指示に従っていないとして同原告に注意を与えた。(乙E13)
(カ) 平成22年9月,原告X2の所属長はA4から,それまで同原告の上長の地位にあったA6に交代した。
(キ) A6は,平成22年9月から,原告X2と定期的にミーティングを行った。原告X2は,ミーティングにおいて,「マニュアルのシステム化」や「excel VBAによる集計作業の自動化」を提案したり,「FactSheet」と呼ばれるツールについての改善提案を行ったりした。(乙E28)
(ク) A4は,平成22年9月1日,A6に対し,前月に行った中間PBCの結果として,原告X2が上期を振り返り,「×に近い△」と評していたことを伝えた(乙E14)。
(ケ) 平成22年10月1日,沖縄BSC業務について,原告X2が担当したが,沖縄BSCのメンバーが担当者として入力されているものが判明した。これについて,沖縄BSCのメンバーが原告X2に問い合わせたところ,同原告は「システムがおかしい」などと答えた。(乙E15)
(コ) A6は,平成22年10月18日,原告X2とのミーティングにおいて,STHと沖縄BSCとの役割分担を見直すプロジェクトの新体制が発足したが,「FactSheet」についての改善提案はまだまとまっていないため,中止するよう伝えた(乙E31)。
(サ) A6は,平成22年11月16日,原告X2に対し,現在の業務はBMとして期待されるものとは大きく異なっており,多くのクレームが発生ししているためBMの業務ではなく沖縄BSC業務を担当してもらっているが,同業務を行うことが本来のゴールではないことなどを伝えた(乙E16)。
(シ) STHにおいて,平成22年10月及び11月,沖縄BSC業務を行う者について,プロセス理解,調整力,依頼のしやすさ,正確性,スピード,処理量,モチベーション及び責任感の観点から,それぞれ5段階評価を行った。原告X2については,両月とも,40点中15.3点であり,25人中24位(25位は原告X2よりも先に解雇され,解雇を争う訴訟を提起しているA23である。)であった。(乙E26)
(ス) 原告X2は,平成22年第3四半期,沖縄BSC業務について,1559P/Hポイントであった。これは,沖縄BSC業務担当者の平均が約3566ポイントであるのに対し,担当者26名中3番目に低い数値である(ただし,1番低い者の在籍期間は評価対象期間の3分の1未満であり,2番目に低い者はA23である。なお,同年第3四半期から平成25年第4四半期までのP/Hポイントは,別紙2「P/Hポイント一覧表」のとおりであるが,年度によって時間当たりのポイント換算率が異なるため,同別紙では5分1ポイントに換算して統一的に表記している。)。(乙E25,29,30。枝番号含む。)
(セ) 原告X2は,同年第4四半期,沖縄BSC業務について,1655P/Hポイントであった。これは,沖縄BSC業務担当者の平均が約3327ポイントであるのに対し,担当者25名中4番目に低い数値である(ただし,1,2番目に低い者は期間のうち3分の1未満の在籍であり,3番目に低い者はA23である。)。(乙E25の2)
(ソ) 原告X2の平成22年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。総評として,BMのあるべき姿とゴールを見直すべきことが記載され,原告X2の補足コメントは,「3」という評価なので賞与からの減給を撤回するよう求める内容であった。(乙E3)
オ 平成23年について(甲E19,原告X2)
(ア) 平成23年2月,原告X2の所属長はA6からA7に交代した。
(イ) 平成23年3月31日,A7が,原告X2に対し,PBC目標を提出するよう求めたところ,同原告は,BSC業務として年間640件,年間6400P/Hポイント,BMとして,業務の効率化,品質の安定化を行うという目標の案を提出した。A7が,現時点でBMとしての活動が難しいとしても,年末に向けて,沖縄BSC業務についての目標ではなく,本来のBMとしての目標を設定するよう求めたところ,原告X2は,,年末にはBMとして再び活動できるようにしたいこと,沖縄BSC業務としては年間640件,年間6400P/Hポイント,BMとしてはスモール案件を最初から最後まで担当することなどを目標として示した。A7は,同年4月1日,原告X2に対し,スモール案件も沖縄BSC業務の範囲であること,第2四半期は沖縄BSC業務においてトップレベルを目標にすべきであり,同年第4四半期の上位5名の平均値からすると四半期当たり4800P/Hポイントを目標とすべきこと,下期にはBMとしての活動をすべきことなどを提案した。原告X2は,A7に対し,提案内容を検討したが,現在担当している沖縄BSC業務は件数の割にP/Hポイントが伸びないこと,現物作業のために離席している時間があること,第1四半期は171件,1780P/Hポイントであったため,四半期平均4800P/Hポイントというのは現実的ではなく,前期で3600P/Hポイントが現実的であること,後期の目標はひとまず提案された内容とするが,前期の結果を踏まえて見直したいことなどを伝えた。(乙E17)
(ウ) 原告X2は,平成23年12月13日,A7とPBC面談を行った。その際,A7は,原告X2に割り当てられた業務を基準に,同原告の実績を評価すれば「2+」に当たるが,それはバンド4程度の業務であり,バンド7である原告X2はcomplex業務(営業部とのやりとりが発生する業務)からカントリー案件(契約金額が2億円以上の案件)を行うことが求められていること,来年は準BMの派遣社員が9人減るが,そのうち一人分は原告X2が現物作業を行っているからであり,上位の業務を行うべきであること,言いにくいが異動先によっては労働組合を辞めないと受け入れられない可能性があることなどを話した。(甲E15)
(エ) 原告X2の平成23年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった,総評として,掲げた目標に対する成果はなかったが,確実に契約書の受取り・送付などを実施したこと,平成23年は部門・被告に対しての貢献の観点から見て部門の相対評価を行いこの結果となったこと,来年は会社に貢献できる活動を行うためのプランを考え実行することを期待することなどが記載され,原告X2の補足コメントとして,目標と割り当てられた業務が異なるため,目標に対する評価には納得できないこと,目標に近付くためには割り当てられる仕事の範囲を広げる必要があること,A8の補足コメントとして,来年は中国・大連への仕事の移行を進めていく中で,価値を全員が考えていく年になると思うので,部門の動きにあった適切な仕事を割り当てられるようマネージャーとコミュニケーションを密に取ることなどが記載されている。(乙E4)
(オ) 原告X2が,平成23年中,沖縄BSC業務について獲得したポイント(5分1ポイントに換算)は以下のとおりである。
a 第1四半期 1780P/Hポイント(乙E29の1)
b 第2四半期 1600P/Hポイント(乙E29の2)
c 第3四半期 1474.8P/Hポイント(乙E29の3)
d 第4四半期 1736.4P/Hポイント(乙E29の4)
カ 平成24年について(甲E19,原告X2)
(ア) A7は,平成24年3月6日,原告X2に対し,PIPの対象になっていることを伝え,これを実施するための面談を求めたところ,原告X2は,昨年のPBC評価に納得しておらず被告と団体交渉中であること,PIPそのものがパワーハラスメントの道具として使用されている疑いがありこの点についても団体交渉中であることから,面談を保留する旨答えた。A7は,原告X2に対し,PIPの趣旨を説明した上で,今年のPBC目標設定と同原告がバンド7にふさわしい仕事を実施するため,PIPに前向きに取り組んでもらいたいと伝えたが,同原告は,団体交渉中であるため保留すると重ねて答えた。(乙E18)
(イ) A7は,平成24年7月10日,原告X2に対し,第2四半期の目標は,沖縄BSCの1年目の人と同レベルのスモール案件を最初から最後まで5件実施し,クレームゼロとすることであったが,結果は完全に行ったものは1件であり,疑似案件が5件,クレームゼロであり,本来であれば不合格であるがクレームがゼロであるため次の段階に進むこと,これは沖縄BSC業務のレベルであり,本来のBMとして期待される業務ではないこと,第4四半期にはBMとして期待される業務を行えるよう,第3四半期,第4四半期の目標の作成を求めた(乙E19)。
(ウ) 原告X2の平成24年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。総評として,現物対応を中心とした責任ある年間を通じた支援があったこと,BMとしてはカントリー案件の取り組みまで至らず残念な評価となったこと,一部スキル向上の取り組みは達成し,パフォーマンス向上の予兆は感じられるところまでやってきていること,平成25年はカントリー案件をこなしてもらいたいことなどが記載され,原告X2の補足コメントとして,目標と割り当てられた業務が異なるため,目標に対する評価に納得できないこと,目標に近付くためには割り当てられる業務の範囲を広げる,現物処理のヘルプを早めに手当てするなどが必要であること,A27の補足コメントとして,来年は例えば大型案件支援における価値を中心に設定してもらいたいことなどが記載されている。(乙E5)
(エ) 原告X2が,平成24年中,沖縄BSC業務について獲得したポイント(5分1ポイントに換算)は以下のとおりである。
a 第1四半期 2768.4P/Hポイント(乙E30の1)
b 第2四半期 2176.8P/Hポイント(乙E30の2)
c 第3四半期 1863.6P/Hポイント(乙E30の3)
d 第4四半期 3069.6P/Hポイント(乙E30の4)
キ 平成25年について(甲E19,原告X2)
(ア) 原告X2は,平成25年1月7日,A8とPBC面談を行った。その際,A8は,原告X2が本件組合を経由して被告と対決する状況になっているため,被告も緩い対応ができず一線を引いて対応せざるを得ない状況になっていること,バンド7としては現状の業務評価としては「3」となること,「3」が続いていると解雇のプログラムにも引っかかってくること,現物処理の業務については評価していること,カントリー案件をできるようになってもらいたいことなどを話した。(甲E16)
(イ) 原告X2の上長であるA21は,平成25年3月22日,原告X2と面談した。その際,A21は,本社は人を減らして組織をスリムにすることを求めていること,管理職としては公正に評価して誰かを選ばなければならないこと,A21は本件組合が好きではないこと,本件組合の広報誌は一方的な意見を掲載していることなどを話した。(甲E17)
(ウ) A21は,平成25年6月5日,原告X2とPBC面談をした。その際,A21は,できれば影響の少ない人に辞めてもらいたいこと,今後も人員削減は続く可能性があることなどを話した。(乙E18)
(エ) 原告X2は,E2E判定テストを受け,100点満点中88点(合格基準点は80点)を取り合格した。一部ミスが多かった項目について,改めて出題して解答をメール送信するよう指導を受け,全問正解であれば「E2E パイロット S/I」の資格が与えられることとされた。(甲E14)
(オ) 被告は,平成25年6月14日,原告X2に対し,同月26日付けで解雇することを通知した(本件解雇②)。解雇理由証明書には,業績が低い状態が続いており,その間,会社は様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず業績の改善がされず,会社は,もはやこの状態を放置できないと判断し,これは就業規則53条2項の解雇事由に該当する旨が記載されている。被告は,解雇通知と併せて,原告X2に対し,同年6月20日午後5時36分までに自主退職の意思を示した場合は,解雇を撤回し,退職加算金や会社の費用負担で再就職支援会社のサポートを受けられるオプションも用意する考えであることも伝えた。また,被告は,原告X2に対し,被告の物品の返却をするよう求めるとともに,私物を持ち帰れずに残す場合は後日送付すること,退職加算金は概算で468万6000円であることを伝えた。(甲E1,2)
(2) 被告は,原告X2の解雇事由として,①STHにおいてBMとして業務を行うべきであったが,円滑にコミュニケーションを行うことができず,知識がないなど,BMとしての能力が著しく劣り,クレームや担当者変更の要請も頻発し,②Shared BMとしてBMの支援業務を担当させたがやはり能力不足からかえって手間を増やすばかりとなり,③やむを得ずかなり職位の低い者が担当している沖縄BSC業務や現物業務をさせていたが,それも平均に満たない成果しか上がらず,④PIPを求めてもこれに応じず,改善の見込みがないとして解雇したと主張する。
(3) 原告X2の解雇事由に関して当事者双方が主張する個別・具体的な出来事について,認定事実を踏まえて検討する。
ア 原告X2は,平成20年3月1日からSTHにおいてBMとして業務を行ってきたが,セールスチームから度々クレームが来ていた事実が認められる。原告X2は,これまでBMの経験がなかったにもかかわらず,スキルを学ぶ機会が十分与えられなかったと主張するが,認定事実のとおりSTH新人研修,BMコール,セミナー,BMメンターなどの制度があり,それ以外にも上司や同僚へ質問する機会もあることからすると,技量・知識を習得する機会は与えられていたものと認められ,そのことを前提とすれば同原告のBMとしての業績は不良であったと認められる。原告X2は,DHRM評価では,同原告よりも低く評価されている者が存在すると主張するが,同原告が本来のBMとして業務をしていた期間は長くないため,この点を比較しても参考にはならないというべきである。
イ 原告X2は,平成21年3月からShared BMとしての業務を行うようになったが,依然としてセールスチームからクレームが来るなどの点で業績不良が続いていたと認められる。同年8月6日に本件感謝状が授与されているが,これは宛名などの体裁からみても,社員のモチベーションを高める趣旨のものであって,原告X2の客観的・具体的な業績評価の裏付けるになるようなものであるとは認めるに足りない。もっとも,平成21年時のPIPに合格していること,原告X2に感謝を示す内容のメールも一定数認められることなどから,Shared BMとして一定範囲で業務を遂行していたものと認めるのが相当である。
ウ 原告X2は,平成21年8月から沖縄BSC業務及び「現物作業」を担当することとなった。これらはいずれも定型的な単純作業であり,被告において,同原告にShared BMとしての業務遂行が十分ではなく,同じ業務を継続させることが相当でないと判断した結果によるものと認められる。
エ 原告X2は,平成22年9月に所属長がA6に代わってから,定期的にミーティングを行うようになり,「マニュアルのシステム化」,「excel VBAによる集計作業の自動化」,「FactSheet」などの業務を試みていたが,成果が出るには至っていない。この点について,原告X2は組織変更等から話が立ち消えになった旨供述する(甲E19)が,A6の供述・証言(乙E33,証人A6)に照らして信用できず,かえって,同原告が自ら申し出た期限までに作業を完成できなかったため,同原告が業務を行う必要がなくなったものと認められる。
オ 沖縄BSC業務については,平成22年10月及び11月にSTHのBMにより行われた沖縄BSC業務を行うものについての評価において25人中24位と評価されていること,P/Hポイントの獲得においても沖縄BSCメンバーに比べて低い獲得ポイントであることなどからすると,業績は良くなかったというべきである。原告X2はポイントの低い業務しかできなかったことがその理由である旨主張するが,ポイントが低ければその分多くの件数を行うことができるものと考えられ,ポイントが他社の平均を大きく下回ることの説明にはなっていないというべきである。
カ 平成23年2月に所属長がA7に替わってからは,沖縄BSC業務及び「現物業務」自体は「2+」と評価されてもおかしくないと言われたこともあったこと,平成24年7月10日にスモール案件を最初から最後まで5件実施しクレームゼロとするという目標に対し,疑似案件5件,クレームゼロであったため次の段階に進むことになったこと,平成25年6月7日,E2E判定テストを受け合格したことなど,本来のBMとしての業務に向けて業務改善を行っていたが,その話合い中にA7は異動し,業務改善の計画案の作成には至らず,本件解雇②が行われたという経過が認められる。被告は,A7が業務改善の計画案の作成を再三求めても原告X2は提出しなかったと主張し,確かに計画案の提出には至っていないものの,計画案の作成に関して同原告とA7において協議が行われていたというべきであり,期限を指定して提出を指示しこれに間に合わなかったなどの経過を認めるに足りないから,これをもって原告X2の改善の意思を否定するのは相当でない。
(4) 以上の経緯からすると,原告X2は平成20年3月にSTHのBMとなって以降業績不良が続き,業務内容の変更やPIPの実施,所属長の面談など業績改善の措置を取ってもバンド7という職位に見合った業務は行えていなかったと認められる。被告が主張する解雇事由は,その全てが認められるわけではないものの,上で検討したとおり相当程度これに対応する事実が認められる。
しかし,原告X2は入社以来製造関係の業務を行い,平成16年や平成19年にはPBC評価が「2+」であったこと,平成19年にはITスペシャリスト試験に合格していること,同原告の業務を評価するメールも存在すること,平成21年時のPIPには合格しており,平成24年時にはPIPに応じていないが,本件組合の方針により保留したものであること,本来のBMとしての業務に戻れるよう,A7所属長の下で業務改善を試みていたこと,沖縄BSC及び「現物業務」についてはP/Hポイントが低いなどの問題はあるものの業務を担当させられないほどの業績不良であるとは認められないことなどからすると,一定限度の業績不良は認められるものの,担当させるべき業務がないというほどの状況であったとは認めるに足りない。また,PBC評価は飽くまで相対評価であるため,PBC評価の低評価が続いたからといって解雇すべきほどの業績不良があると認められるわけではないこと,原告X2は昭和59年12月1日に被告に中途採用後,約28年半にわたり勤務を継続し,配置転換もされてきたこと,職種や勤務地の限定があったとは認められないことなどの事情もある。そうすると,現在の担当業務に関して業績不良があるとしても,その適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格,一定期間内に業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性をより具体的に伝えた上での業績改善の機会の付与などの手段を講じることなく行われた本件解雇②は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないから,権利濫用として無効というべきである。
3 争点(3)(原告らの解雇は不当労働行為に当たるか。)について
(1) 認定事実
前記前提事実に加え,以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 本件組合は,昭和34年に結成され,平成元年,a労働組合に加盟し,現在の名称となった(弁論の全趣旨)。
イ 被告は,平成12年ころから,ハードウェア部門の売却を行い,社員数の削減を行ってきた(甲3)。
ウ 被告は,平成19年10月,米国本社のh社の直轄管理となった(甲3)。
エ 被告は,平成20年10月から12月まで,RAプログラムを実施し,下位15%に入る社員に対し退職支援金を上乗せした退職勧奨を行い,約1300人が退職した。本件組合に加入することによって退職勧奨が止まる場合もあったため,そのことを理由に本件組合に加入した者もあった。平成21年度の本件組合への新規加入者は60人,平成22年度の本件組合への新規加入者は33人である。(甲3,36)
オ 平成24年7月20日,A23に対する解雇が行われ,被告では,これ以降,業績不良を理由とした解雇が複数回行われている。
カ 本件救済命令申立事件について(甲31)
(ア) 本件組合は,平成24年11月5日,被告が本件組合の組合員6名(うち1名はA17)に対し同年9月18日から同月20日までに解雇予告等をしたことにつき,同月21日に予定されていた団体交渉の議題に追加するよう求めたにもかかわらず被告がこれを拒否したことが団交拒否の不当労働行為に当たるとして本件救済命令申立事件を申し立てた。
(イ) 都労委は,本件救済命令申立事件について,平成25年8月6日,被告の行為が不当労働行為に当たることを認め,被告に対し文書の掲示及び交付を命じることを決定した。
(ウ) 被告は,平成25年9月10日,上記(イ)の決定を不服として再審査申立てを行った。
(エ) 都労委は,平成26年4月11日,労使双方は,紛争の拡大を招くような行為を控えるなど,格段の配慮を払うよう求める内容が記載された要望書(以下「本件要望書①」という。)を交付した(甲27)。
(オ) 都労委は,同年6月27日,本件要望書①を発したにもかかわらず再度申立人ら(本件組合ら)から審査の実効確保の措置勧告申立てがされるに至ったことは極めて遺憾であり,労使双方は本件要望書①を遵守するとともに被告においても紛争の拡大を招くおそれのある行為を控えるなど,格段の配慮を払われることを強く要望する旨を記載した要望書(以下「本件要望書②」という。)を交付した(甲28)。
(カ) 都労委は,平成27年3月18日,本件要望書①及び本件要望書②を交付したにもかかわらず,その後においても支部組合員に対する退職勧奨や解雇予告等が繰り返し行われるなど,労使関係は不安定化の一途をたどっていると解さざるを得ず,極めて遺憾であるとし,被告において,申立人ら(本件組合ら)の立場を尊重し,円満な集団的労使関係の構築,維持に向け,支部組合員らの解雇等に当たっては,申立人ら(本件組合ら)への協議,説明を十分に行うなど,格段の配慮を払うよう勧告すると記載された勧告書を交付した(甲29)。
(キ) 中央労働委員会は,平成27年6月17日,不当労働行為に当たることを認め,上記(ウ)の再審査申立てを棄却した(甲31)。
キ 本件組合に関する被告従業員の発言
(ア) A17の所属長であったA19は,平成23年,A17に対し,組合に入っていると評価は低いと述べた(甲38,43)。
(この点について,A19はこのような発言をしていない旨供述するが,A17が解雇がされる1年以上前の平成23年5月19日の時点においてA17が診察を受けたカルテに,上記のような発言に関する記載があることからすると,A17の供述は信用でき,これに反するA19の供述は採用できない。)
(イ) 原告X2の所属長であったA7は,平成23年12月13日のPBC面談の際,原告X2に対し,言いにくいが原告X2が労働組合に入ったので異動が困難になる旨述べた(甲E15,証人A7)。
(ウ) 原告X2の所属長であったA8は,平成25年1月7日のPBC面談の際,同原告に対し,組合に入るとある意味腫れ物になってしまい,人ではなく立場で見られるようになる旨述べた(甲E16)。
(エ) 原告X2の上長であったA21は,平成25年3月22日の面談の際,組合は好きではない旨及びその理由はやり方が間違っていると思うからである旨述べた(甲E17)。
ク 被告の資料における組合の位置付けに関する記載
(ア) 被告がRAプログラムに向けて作成した平成20年10月20日付け資料には,センシティブな社員としてメンタルの社員と組合に属する社員を挙げている。組合に属する社員への対応としては,退職強要ととられるような行為は避けること,組合を通すよう要求された場合は人事に報告するが,面談の中断は不要であること,他の組合員が介入しようとする場合は他者の介入は断固拒否し,人事に報告すること,退職しない意思が固いことが確認された場合は,それ以上のアプローチは不要であることが記載されている。(甲23)
(イ) 被告人事部門が平成22年6月に作成した内部資料には,本件組合の組合員についての記載があり,平成20年1月から平成21年10月までの毎月の組合員数が棒グラフで示され,平成20年第4四半期のRAプログラムにより25人の従業員が組合に加入した旨記載されている。(甲16)
ケ RAプログラムと解雇予告の状況に関する原告らの上司の供述
(ア) A17の所属長であったA19は,RAプログラムを年1回程度行い,通算10人程度と面談をしたが,RAプログラムを受け入れて退職したのは1名だけであり,それ以外は退職を断っており,断った者のうちA17のみが解雇予告された旨供述する(甲39)。
(イ) A23の所属長であったA24は,平成24年のRAプログラムにおいてA23を含む4名と面談し,そのうち2名が自主退職し,2名(A23と非組合員)は退職を断っており,断った2名のうちA23は解雇されたが,非組合員であるもう1名は解雇されていない旨証言する(甲42)。
(ウ) 原告X1の所属長であったA2は,RAプログラムを通算4,5人に実施し,そのうち1名が自主退職し,残りは退職を断ったが,断った者のうち原告X1のみが解雇された旨証言する(証人A2)。
(エ) 原告X1の上長であったA3は,部下であった組合員3名がRAプログラム又は解雇予告に基づき退職し,所管する部署に組合員はいなくなったと証言する(証人A3)。
コ 原告らに対する解雇予告がされる経緯に関する原告らの上司の供述
(ア) A17の所属長であったA19は,A17が解雇予告される2,3週間前に複数年PBCが「3」以下の複数名の名前を挙げて人事部からインタビューを受けたが,その中にA17が含まれていたこと,このインタビューの趣旨は勤務状況,勤務実績などに関するヒアリングと理解しており,被解雇者の選定をしているとは理解していなかったこと,複数名の名前が挙げられた中でA17が被解雇者となった理由は分からないこと,A17が解雇予告の対象となったのを知ったのは解雇予告の数日前であったことなどを供述する(甲39)。
(イ) A22の所属長であったA25は,A22の業績については人事に適切に報告していたこと,A22は平成24年9月18日に解雇予告されているが,解雇予告の対象となったのを知ったのは同月初め頃であったこと,解雇予告を知らされたのはA25の意見を聴く趣旨も含まれていたと考えられること,A25から人事部に対し解雇予告の候補者をリストアップしたことはないことを供述する(甲40)。
(ウ) A23の所属長であったA24は,A23を解雇する旨の決定にも,RAプログラムの対象者の決定に関わっていないこと,業績の悪かった人についての情報提供はしたことなどを供述する(甲42)。
(エ) 原告X2の所属長であったA4は,平成20年11月に同原告がRAプログラムの対象になったことを知らず,対象者選定には関わっていないことを証言する(証人A4)。
(オ) 原告X2の所属長であったA7は,同原告の業績については人事部に何度も話をしていたこと,同原告を解雇することについては当時ラインマネージャーではないので意見を聴かれていないことを証言する(証人A7)。
(カ) 原告X1の所属長であったA2は,平成25年初め頃,人事部と同原告の日常業務に関するヒアリングがあったこと,同年3月28日に同原告と面談を実施しPIPを実施しようとしたが署名を拒否されたこと,同年4月1日から同年6月30日までPIPに代わる面談を月1回行うこととしたこと,同原告に対する解雇予告の2,3週間前に解雇予告をすることを初めて知ったこと,PIPに代わる初回の面談予定であった同年5月30日に解雇予告が行われたことなどを証言する(証人A2)。
(キ) 原告X1の上長であったA3は,平成25年3月下旬頃,A2と相談して同原告が解雇に値すると人事に具申したが,解雇を決めたのは自分ではないこと,人事部から同原告を解雇するように言われたわけではないこと,同年4月下旬頃人事部から解雇の連絡があり,そのことを同年5月上旬頃A2に伝えたことなどを証言する(証人A3)。
(2) 原告らは,原告らに対する解雇が本件組合の弱体化を狙って組合員を狙い撃ちして行われたものであると主張するが,次のとおり,組合差別によるものとは認められない。
ア 原告らは,被告における本件組合の組織率に比して,被解雇予告者に占める組合員の比率が高いと主張する。しかし,原告らのPBC評価などからしても,単年度のみではなく複数年PBC評価が3以下であり,業績不良が続いている者を解雇予告の対象にしたものと認められること,業績不良によりRAプログラムの対象となってから本件組合に加入した者も存在することからすると,業績不良により解雇予告の対象となり得る者の比率は,被告全社員中の比率と比較して,本件組合員中の比率は高くなっていたと推測されるので,両者を直接比較するのは適当ではないというべきである。また,解雇予告を受けたのは組合員ばかりではなく,非組合員も一定数存在しており,組合員のみが解雇予告を受けたとは認められない。したがって,解雇予告をされた者に占める組合員の比率から,本件組合を差別的に解雇予告したとは認められない。
イ 原告らは,RAプログラムの対象となった者のうち解雇予告をされたのは本件組合の組合員がほとんどであるかのように主張するが,被告の開示した情報(甲24,26)を整理すると,別紙1「解雇・退職者の割合」のとおりとなり,RAプログラムの対象となって解雇予告を受けた非組合員も存在する。また,上記別紙1のとおり,非組合員の中にはRAプログラムの対象となったことで自主退職した者も多いのであり,RAプログラムの対象となった者のうち自主退職又は解雇予告された者を合わせた割合でみると,組合員が非組合員よりも高い割合で自主退職又は解雇予告されたとは認められない。
ウ 被告の内部資料において組合員をセンシティブな職員として記載していることは認められるが,その中には組合員を狙って退職させるように仕向けるなどの内容は見当たらず,むしろ,そのように誤解されないようにするため,RAプログラム実施に当たってどのように対応すべきかを記載しているにすぎず,不当なものとはいえない。また,別の資料ではRAプログラム後組合員が増加したことが分析されているが,組合員の増加を悪く評価したり,その対策を講じようとしたりするものとは認められない。したがって,これらをもって本件組合に対する差別的な意図は認められない。
エ 被告には本件組合に対する嫌悪感があるとして,原告らの上司らも否定的な発言をしていると主張する。確かに,A19は組合に入っていると評価は低いと述べ,A7は組合員は異動が困難であると述べるなど,本件組合に対する否定的な評価の発言をする者が存在するものと認められる。しかし,こうした発言があるからといって原告らに対する解雇の判断に直接つながるようなは発言とはいえず,また,これらの発言をしている者は,いずれも解雇の対象となった者に対する業績評価には当たったものの,解雇の判断には関わっていない旨供述・証言しているのであるから,組合員であることを理由に解雇の対象としたことの裏付けになるとは認めるに足りない。
オ 解雇を決めたのが所属部署ではなく人事部であるということについては,所属部署から人事部に業績の報告はされているものと推認でき,その程度が解雇理由として十分であるかはどうかはともかく,原告らそれぞれについて業績不良とみる余地のある事情が認められるから,人事部が解雇の判断をしたことをもって組合員であることを理由に解雇したことの根拠になるとは認められない。
(2) よって組合差別による不当労働行為であるとは認められず,不当労働行為であることを理由とする不法行為の成立は認められない。
4 争点(4)(解雇態様の違法性)について
原告らは,解雇態様の違法性を主張するので,これまでの認定事実を踏まえて検討する。
(1) 解雇予告と共に職場から退去させられ出社を禁止させられたことについては,被告が情報システムに関わる業務を行う企業であり,原告らの職場でも自社及び顧客の機密情報が扱われていると推認できるところ,一般的には,解雇予告をして対立状態となった当事者が機密情報を漏えいするおそれがあり,しかもこれは一度生ずると被害の回復が困難であることからすると,違法性があるとはいえない。
(2) 解雇予告時に,具体的な解雇事由を明記せず解雇を伝えるとともに,原告らに対して短い期間内に自主退職をすれば退職の条件を上乗せするという提示をしたことについては,実体要件を満たしている限り本来は解雇予告をするまでもなく即日解雇することも適法であること,使用者に解雇理由証明書を交付する義務があるとしても解雇の意思表示の時点で解雇理由の具体的な詳細を伝えることまでは要求されていないこと,期間内に自主退職をすれば退職の条件を上乗せするという提示はそれがない場合と比較して労働者にとって不利益な扱いともいえないことからすると,違法性があるとはいえない。
(3) したがって,原告らに対する解雇の態様が違法であるとはいえず,これを理由とする不法行為の成立は認められない。そして,本件では,解雇自体は権利濫用に当たり無効であるが,原告らにつきそれぞれ解雇理由とされた業績不良はある程度認められること,解雇時に遡って相当額の給与等の支払がされることにより,解雇による精神的苦痛は相当程度慰謝されるものとみるべきことなども考慮すると,解雇による不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
5 争点(5)(原告らの請求額)
(1) 以上のとおり,原告らに対する解雇は無効であるから,労働契約に基づきそれぞれの解雇前と同額の賃金債権を有すると認められ,次のとおりとなる。
ア 原告X1の賃金は月額51万3500円であること,当月末日締め当月24日払いであること,本件解雇①は平成25年5月31日に行われ,同年6月12日をもって解雇し,53万8961円を解雇予告手当として支払うというものであることは当事者間に争いがない。同年6月12日分までは解雇予告手当ではなく賃金として支払がされるべきであるが,解雇予告手当としての支払であるとすると,同年6月1日分以降の賃金は未払になっていると解されるから,同月24日以降,月額51万3500円の賃金が未払いである。
イ 原告X2の賃金は月額60万2900円であること,当月末日締め当月24日払いであること,本件解雇②は平成25年6月14日に行われ,同月26日をもって解雇し,60万1591円を解雇予告手当として支払うというものであることは当事者間に争いがない。同月26日分までは解雇予告手当ではなく賃金として支払がされるべきであるが,解雇予告手当としての支払であるとすると,同年6月15日分以降の賃金は未払になっていると解される。また,同年6月1日から14日までの賃金が支払われたことを認めるに足りる証拠もない。したがって,同月24日以降,月額60万2900円の賃金が未払いである。
(2) 被告における賞与については,給与規程(乙1)によると,毎年6月10日と12月10日に賞与を支給するものとし,社員の職務内容,バンド,業績評価,執務態度及び本給を総合勘案して,賞与基準額を定めるものとし,さらに,賞与基準額,バンド,出勤率,前年1月1日から前年12月末日までの期間の会社業績及び個人業績を勘案して,毎期会社が賞与支給額を定めるものとしている。こうした定めによれば,業績評価等の過程で被告の裁量により支給額を変動させる余地はあるものの,賞与の支給自体は原則的な契約内容を成しているものと解される。また,被告は賞与支給額の算定式について,詳細な定めを置いていることが認められるものの(甲34の1から4まで),原告らの賞与がそれぞれの解雇直近の支給額よりも減額すべき事情は見当たらないから,解雇直近の支給額と同額の賞与請求権が認めるのが相当である。
原告X2の平成24年12月の賞与の実支給額は82万8855円,平成25年6月の賞与の実支給額は82万8938円であることは当事者間に争いはない。原告X1の平成24年12月分及び平成25年6月分賞与の支給額は争いがあるが,原告X1の主張を認めるに足りる証拠はないので,被告が認める平成24年12月が88万3647円,平成25年6月が88万5353円の限度で支給があったものと認められる。
(3) 原告らの賃金及び賞与請求に係る訴えのうち,本判決確定後の支払を求める部分については,「あらかじめその請求をする必要がある場合」(民事訴訟法135条)に当たるとは認められないから,不適法でありこれらを却下する。
(4) 原告X2は昭和31年○月○日生まれであり(前記前提事実),平成28年4月30日をもって定年退職となるから(乙2),賃金及び賞与請求は同日分までの限度で認めるべきである。
(5) 不法行為に基づく慰謝料及び弁護士費用の請求は認められない。
(6) まとめ
ア 原告X1
(ア) 原告X1は,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位の確認請求権が認められる。
(イ) 原告X1は,被告に対し,賃金として平成25年6月から本判決確定の日まで毎月24日限り51万3500円並びに各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払請求権を有する(別紙金銭請求認容額等一覧表記載1(1)及び(4))。
(ウ) 原告X1は,被告に対し,賞与として平成25年12月から本判決確定の日まで毎年6月10日限り88万5353円及び毎年12月10日限り88万3647円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払請求権を有する(別紙金銭請求認容額等一覧表記載1(2)及び(3))。
イ 原告X2
(ア) 原告X2は,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位の確認請求権が認められる。
(イ) 原告X2は,被告に対し,賃金として平成25年6月から本判決確定の日又は平成28年4月30日のいずれか早い日まで毎月24日限り60万2900円並びに各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の請求権を有する(別紙金銭請求認容額等一覧表記載2(1)及び(4))。
(ウ) 原告X2は,被告に対し,賞与として平成25年12月から平成27年12月10日まで毎年6月10日限り82万8938円及び毎年12月10日限り82万8855円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の請求権を有する(別紙金銭請求認容額等一覧表記載2(2)及び(3))。
エ 原告らの訴えのうち,被告に対して本判決の確定後の賃金及び賞与の支払を求める部分はいずれも不適法である。
オ その余の請求はいずれも理由がない。なお,遅延損害金の請求は,支払期日の翌日から認められる。
第4 結論
以上によれば,原告らの請求は主文1項及び2項に掲記した限度で理由があるから認容し,本判決確定後の金銭支払に係る将来請求部分に係る訴えは却下し,その余の請求部分を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉田徹 裁判官 遠藤東路 裁判官 佐久間隆)
別紙
当事者目録
千葉県八千代市〈以下省略〉
原告 X1
滋賀県野洲市〈以下省略〉
原告 X2
原告ら訴訟代理人弁護士 大熊政一
同 山内一浩
同 並木陽介
同 細永貴子
同 水口洋介
同 今泉義竜
同 本田伊孝
同 穂積剛
同 岡田尚
同 小池拓也
同 河村洋
同 橋本佳代子
同 中野真
同 山田守彦
同 西山寛
同 河村学
同 喜田崇之
同 上出恭子
同 穂積匡史
同 竹村和也
原告ら訴訟復代理人弁護士 笠置裕亮
同 海渡双葉
同 岩井知大
同 石畑晶彦
同 永田亮
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y株式会社
同代表者代表取締役 A1
被告訴訟代理人弁護士 松岡政博
同 宮島和生
同 中村慶彦
同 勝又美智子
同 海老沢宏行
同 井上聡
〈以下省略〉
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