「営業アウトソーシング」に関する裁判例(24)平成28年11月29日 東京地裁 平27(ワ)30898号 未払金等支払請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(24)平成28年11月29日 東京地裁 平27(ワ)30898号 未払金等支払請求事件
裁判年月日 平成28年11月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)30898号
事件名 未払金等支払請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA11298025
要旨
◆原告X1及び原告X2が、その所有する訴外会社の全株式(本件株式)を被告会社の親会社へ譲渡するに際し、訴外会社及び同親会社との間で、訴外会社の原告らに対する本件各未払金を精算することを合意したとして、訴外会社を吸収合併した被告会社に対し、本件各未払金等の支払を求めた事案において、本件譲渡契約に係る本件条項は、原告X1が本件株式の譲渡価格の上積みを要求するに当たって示した売上予測が外れた場合に、もともと支払われることが予定されていた本件各未払金の請求権を原告らが放棄することにより、譲渡価格を減額するために設けられた規定であるといえるから、本件各未払金の精算を受けるためには売上予測の達成が条件となっているとして、本件条項を解釈した上で、本件各未払金精算の条件を達成したとは認められない原告らは本件条項により本件各未払金の支払を請求できないとして、請求を棄却した事例
裁判年月日 平成28年11月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)30898号
事件名 未払金等支払請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA11298025
東京都中央区〈以下省略〉
原告 X1
東京都港区〈以下省略〉
原告 X2
上記2名訴訟代理人弁護士 菅沼匠
同 柳田恭兵
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 レカムBPOソリューションズ株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 福間智人
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告は,原告らに対し,それぞれ659万9997円及びこれに対する平成27年11月12日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告らが所有するHJオフショアサービス株式会社(以下「HJ社」という。)の全株式を被告の親会社であるレカム株式会社(以下「レカム社」という。)へ譲渡するに際し,原告らは,HJ社及びレカム社との間で,HJ社の原告らに対する未払金を精算することを合意したとして,HJ社を吸収合併した被告に対し,上記未払金各659万9997円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年11月12日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠(枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)
(1) 当事者等
HJ社(なお,平成26年7月18日までの商号は「Huojin Japan株式会社」であった。)は,BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング。企業活動上の業務プロセスの外部委託のこと。)事業等を主たる事業とする株式会社であり,原告らは,HJ社の全部株主であった者である(乙1,弁論の全趣旨)。
被告は,BPOサービスの提供を主たる事業とする株式会社であり,レカム社の子会社である。
(2) 原告ら,レカム社及びHJ社は,平成26年7月22日,原告らがそれぞれ90株ずつ保有するHJ社の全株式(合計180株。以下「本件株式」という。)をレカム社に譲渡し,HJ社をレカム社の子会社とすることを目的とする基本合意をした。
(3) 原告ら,レカム社及びHJ社は,平成26年8月29日,原告らがレカム社に対し,同月31日に本件株式を1株につき73万3333円で譲渡する旨を合意し(以下「本件契約」という。),株式譲渡契約書を取り交わした。
(4) 上記契約書においては,以下の定めがある(甲3)。
なお,下記イ(ア)の記載は,「甲」及び「乙」を「原告ら」,「丙」を「HJ社」,「丁」を「レカム社」と置き換えていることと,括弧内の記載を除き,本件契約書における原文のままである。
ア 第6条1項
HJ社において計上されている原告らに対する未払金・未払費用(以下「本件未払金」という。)は,平成27年10月1日以降に,第7条4項(以下「本件条項」という。)に反していないことを条件に,精算をする。
イ 本件条項
(ア) 「原告らは,別紙3に定めた案件の契約件数が,平成27年9月30日までに締結されない場合,第2条に定める1株当たり譲渡価格(73万3333円)に譲渡株数の90株を乗じた金額の10%に相当する額(659万9997円)を,第6条第1項に定める原告ら各々に対する未払金・未払費用(本件未払金)のHJ社に対する原告ら各々の請求額から放棄する。また,別紙3に定めた案件の実際の契約額が,想定月間売上より50%以上下回った場合は1件の契約と見做さず,他の案件による契約を追加することで合わせて1件の契約と見做すものとする。」
(イ) 本件条項で引用している「別紙3」には,全部で8件の案件(以下「本件特定案件」という。)が記載されており,各案件について,それぞれ「想定月間売上」として金額が掲げられている。
ウ 原告らは,平成26年9月1日から平成27年9月30日まで,レカム社の特別顧問を受任し,その顧問料は無償とする。
(5) 原告ら,HJ社及びレカム社は,平成26年9月1日,本件未払金の額が,原告らそれぞれにつき,1株当たりの譲渡価格である73万3333円に譲渡株数の90株を乗じた金額の10パーセントに相当する659万9997円であることを確認した(甲4。すなわち,本件条項に該当した場合に原告らが放棄する金額は,本件未払金の全額となる。)。
(6) 被告は,平成27年3月31日,HJ社を吸収合併した。
(7) 原告らは,被告に対し,平成27年11月11日に送達された本件訴状をもって,本件未払金の支払を催告した(当裁判所に顕著な事実)。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,原告らが本件条項に定める本件未払金精算の条件を達成したか否かである。
(原告ら)
(1) 本件条項の趣旨
本来,原告らは当然にHJ社から本件未払金の精算を受けられる立場にあったが,原告らのつながりで見込める新規案件についてHJ社がレカム社の子会社となった後においても契約締結まで至ることができるように,本件契約締結後1年間は原告らが特別顧問としてフォロー業務を行うことになっていたところ,レカム社が原告らに最低限のフォロー業務を行わせることを担保するために設けられたのが本件条項である。
すなわち,本件契約第6条1項において,フォロー期間中は本件未払金の清算を行わないこととし,本件条項において,最低限のフォロー業務を行わなかったことを条件に本件未払金を放棄することとして,原告らに条件不達成のペナルティを課したものである。
(2) 本件条項作成に至る経緯
原告らは,レカム社との交渉過程において,本件未払金の精算につき,①フォロー業務の成果にかかわらず本件未払金の4分の3の支払を保証すること,②本件未払金の満額支払の条件を特定の見込み案件の正式受注とすること,③当該案件を獲得できなかった場合にはその他の案件の新規獲得によってカバーできることを提案するとともに,上記②,③において評価対象となるのはあくまで新規案件の契約件数であって,その売上額は評価の対象とすべきでないと述べ,その理由として,そもそもBPO事業は売上予測が困難であり,フォロー期間中における原告らの関与は限定的なのであるから,原告らが最低限のフォロー業務を行わなかったことに対するペナルティという趣旨からすれば,支払条件に売上額を要求するのは妥当でない旨を説明していた。
そして,レカム社は,上記①については採用しなかったものの,同②,③については特段異議を述べることなく本件契約内容に反映させて,本件条項を作成したものである。
なお,原告らは,レカム社から,本件特定案件に係る想定月間売上が机上の空論になっては困るとして,本件特定案件の実際の売上額が,想定月間売上を50パーセント以上下回った場合は1件の契約とみなさない旨の提案を受けたため,この点については譲歩したが,その他の部分については,売上額が評価対象とはならないというのが当事者間の認識であり,当該50パーセントを下回った案件についても,単に新規案件1件の追加によって補填されるという話合いがされた。
(3) 本件条項の解釈
このような本件条項の趣旨及び同条項作成に至る経緯を踏まえると,本件条項に定める本件未払金精算の条件は,以下のように解釈されるべきである。
ア 本件未払金の精算を行う条件は,原告らが,平成27年9月30日までに,本件特定案件の件数である全8件の新規案件を獲得することである。
イ 原告らが本件特定案件を獲得できなかった場合又は同案件獲得時の月間売上額が想定月間売上の50パーセント以下である場合は,新規案件の獲得とみなさない。(想定月間売上と比較すべきは本件特定案件獲得時の月間売上額であり,フォロー期間中を通じた売上実績と比較すべきではない。)
ウ 上記イの場合は,他の案件を追加して合計8件の新規案件を獲得すれば,上記アの条件を満たしたものとする。(追加案件の獲得で足り,追加案件の売上額と合わせて想定月間売上の50パーセントを上回ることは要求されない。)
(4) 条件の達成
そして,原告らがフォロー期間中に獲得し,かつ,案件獲得時の月間売上額が想定月間売上の50パーセントを上回った本件特定案件は3件あり,原告らは,その他に少なくとも10件の追加案件を獲得したから,結果として,本件条項において定めた8件を上回る件数の新規案件を獲得したといえる。
(5) よって,原告らは,本件条項に定める本件未払金精算の条件を達成しており,本件未払金の精算を請求することができる。
(被告の主張)
(1) 本件条項作成に至る経緯
レカム社は,原告らとの交渉過程において,原告X1(以下「原告X1」という。)から,本件株式の評価額を検討するための資料として売上シミュレーション資料を受け取った。レカム社は,これをもとに自社において作成した売上シミュレーション資料を原告X1に示し,本件株式の評価額は最大1億2000万円であると考えている旨を伝えたところ,原告X1は,本件特定案件についてはより高い売上額が見込めるとして,同シミュレーション資料に修正を加えた上,評価額を1億4000万円以上とするよう要求した。
これを受けて,レカム社と原告X1の間で協議が行われた結果,評価額を1億4000万円に上げる代わりに,もともと全額一括精算を予定していたHJ社の原告らに対する未払金のうち,譲渡価格の10パーセント相当額である本件未払金の精算を留保し,本件特定案件について相当程度の売上額が達成されなかった場合に,本件未払金の請求権を放棄するという方法により,上記評価額を減額するということで話がまとまり,本件条項が作成された。
(2) 本件条項の解釈
このように,本件条項は,原告X1が示した売上額が達成されなかった場合の減額ペナルティの規定であり,以下のように解釈すべきである。
ア 本件特定案件のうち1件でも売上実績が想定月間売上を50パーセント以上下回った場合には,原告らは本件未払金の請求権を放棄する。
イ 想定月間売上の50パーセントを達成できなかった本件特定案件と原告らが追加獲得した新規案件との売上実績の合計額が,想定月間売上の50パーセントを超えた場合には,結果的に原告X1が示した売上額が達成されたことになることから,本件特定案件の売上実績が想定月間売上の50パーセントを超えた場合と同視する。
ウ 株式譲渡における評価額は一定期間の売上総額を基にするものであり,原告X1が示した売上額も平成29年9月までの長期に渡って示されているものであることや,本件未払金の留保期間の末日及び原告らがフォロー業務を行う期間の末日がいずれも平成27年9月30日であることからすれば,想定月間売上と比較する売上実績は,レカム社の平成27年9月期事業年度期間(平成26年10月1日から平成27年9月30日まで)の平均月間売上実績とすべきである。
(3) 条件の不達成
原告らが獲得した本件特定案件のうち平均月間売上実績が想定月間売上の50パーセント以上であったものは3件であり,原告らが追加獲得した新規案件の平均月間売上実績を加えても,本件特定案件全ての想定月間売上の50パーセントを下回っている。
(4) よって,原告らの本件未払金請求権は本件条項に従って放棄されることになるから,被告は,原告らに対し,本件未払金の支払義務を負わない。
第3 争点に対する判断
1 前提事実に証拠(甲1ないし3,5,9,10,15ないし18,乙2ないし9,11ないし15,証人B,同C,原告X1。なお,主な証拠については再掲する。)及び弁論の全趣旨を併せれば,以下の事実を認めることができる。
(1) 原告らとレカム社は,平成26年6月頃より,原告らが保有するHJ社の全株式をレカム社に売却してHJ社をレカム社の子会社にするという交渉を開始した(甲1,15,原告X1)。
(2) HJ社においては,原告らに対する未払金が存在しており,本件株式譲渡に当たって,未払金の精算を行うことが想定されていた。
(3) レカム社は,同年7月1日(以下,日付については特に断りのない限り平成26年7月のものである。),原告X1から,レカム社において本件株式の譲渡価格を検討するための資料として,HJ社が作成した,同社のBPO事業に関する平成26年6月から平成28年12月までの案件別売上予測が記された売上シミュレーション資料を受け取った(乙2)。
(4) レカム社の代表取締役であるB(以下「B」という。)並びに同社従業員であるD(以下「D」という。)及びC(以下「C」という。)は,11日,原告X1を訪ねて打ち合わせを行い,上記HJ社作成に係る売上シミュレーション資料を基にしてレカム社が作成した売上シミュレーション資料を示し,同資料に基づいて社内で検討した結果として,本件株式の譲渡価格につき,最大1億2000万円,最小9000万円という額を提示した。
なお,上記提示においては,HJ社の原告らに対する未払金は別途精算することが前提とされていた。
上記打ち合わせ後,Cは上記資料及び同日付けの基本提案書を原告X1にメールで送付した。同提案書においては,上記提示額のほか,受注見込みの案件について原告らには受注までの営業活動を行ってほしいことや,確度が高いと思われていた見込み案件が成立しなかった場合には譲渡価格の調整をする可能性があることなどについても記載されていた。(乙4)
(5) 原告X1は,14日,Cに対しメールを送信し,レカム社からの提示額はHJ社の事業価値を正当に評価したものではないとして,本件株式の譲渡価格と顧問報酬とを合わせた評価額を1億4000万円以上とすることを要望するとともに,売上予測について正しい見込みを添付したので再算定の参考にしてほしい旨や,同見込みは今後一切の新規開拓営業を行わなくても実現できる数字である旨を伝え,上記レカム社作成に係る売上シミュレーションのうち,本件特定案件に対し,「正しい見込み」としてレカム社の売上予測を上回る売上額を追記した資料を同メールに添付した。(甲9,乙3,6)
また,原告X1は,同メールにおいて,原告らが受注見込みの案件に関するフォロー業務等を行う場合の顧問報酬の支払方法につき,BPO事業においては売上予測が困難であることや原告らの関与が限られていることなどから,売上額を成果指標とすべきでないと述べ,報酬額の4分の3の支払を成果に関わらず保証することや,満額支払の条件を特定の見込み案件の正式受注とし,当該案件を獲得できなかった場合には,その他の案件の新規獲得によってカバーできるようにすることを要求した(乙3,6)。
その後,原告X1は,Cに対し,Bと直接電話で話すことを希望する旨のメールを送信した。
(6) Cから上記メールについて報告を受けたBは,15日,原告X1に電話し,評価額を1億4000万円に上げることを了承するが,原告X1が上方修正した売上額を信用して評価額を上積みするのであるから,その売上額が達成されない場合には1億4000万円から相応の金額を減額するという内容の条項を入れてもらいたい旨の話をしたところ,原告X1は減額の定めを入れることを了承した(乙14,証人B)。
そこで,Bは,Cに電話し,上記合意内容を伝え,減額の定めを含む詳細な契約内容についてさらに原告X1と打ち合わせるよう指示した(乙14,15,証人B,同C)。
Cは,Bから指示を受けた減額の定めを具体化するに当たって,原告らの資力が不明であったことから,本来であれば当然支払われるべきHJ社の原告らに対する未払金の精算を留保し,売上額が達成されなかった場合には原告らが同未払金の請求権を放棄するという方法をとろうと考え,レカム社のファイナンシャルアドバイザーである株式会社社楽パートナーズに相談しながら,①本件株式の1株当たりの譲渡価格を(1億4000万円-役員退職慰労金)÷180株とすること,②HJ社の原告らに対する未払金の支払については平成27年10月1日まで留保すること,③原告らの顧問料は無報酬とすること,④原告らは,原告X1修正に係る売上シミュレーション資料に基づく平成26年10月から平成27年9月までの売上合計額である1億2243万1000円を達成できなかった場合には上記未払金の請求を放棄することなどを内容とする株式譲渡基本合意書案を作成した。(乙11ないし13,15,証人C)
(7) D及びCは,16日,原告X1を訪ね,上記合意書案を示して打ち合わせを行った。
打ち合わせにおいては,上記(6)④の内容が中心的な争点となり,原告X1は,BPO事業において売上額を予測どおりにコントロールすることは不可能であり,売上予測を達成できなかったことを理由にペナルティが発生するというのは不当であるとして,見込み案件を受注できるか否かという点をペナルティ発生の条件にすべきである旨主張したのに対し,D及びCは,原告X1がレカム社に示した売上額が達成されない場合のペナルティを設定するようBから指示されており,ペナルティ発生の条件を売上予測と無関係にするわけにはいかないという意見を述べた(甲15ないし17,乙15,証人C,原告X1)。
そして,折り合える条件を探って話合いを続ける中で,互いに譲歩をした結果,合意可能な大枠の案がまとまった(甲15,乙15,証人C,原告X1)。
そこで,Cは,帰社した後,打ち合わせの結果を踏まえ,原告X1修正に係る売上シミュレーション資料から,同原告が売上額を上方修正した案件である本件特定案件のみを取り出し,各案件について,同原告が上方修正した売上額を参考にして想定月間売上を決定し,これらを記入した別表を作成した上,本件条項とほぼ同一の条項を定めた株式譲渡基本合意書案を作成した(甲9,10,乙15,証人C)。
Cからメールで上記合意書案の送付を受けた原告X1は,要望はほぼ通ったと理解した。(甲15,18,原告X1)
(8) その後,若干の文言や表現の修正等を経て,原告ら,HJ社及びレカム社は,22日付株式譲渡基本合意書の締結に至り,同年8月29日,本件契約を締結した。(前提事実(2),(3),甲10)
(9) なお,上記(6)の認定に反し,原告X1は,Bとの電話の際に売上額についての話は一切出なかった旨陳述及び供述するが(甲15,原告X1),レカム社として本件株式の譲渡代金を最大で1億2000万円と提示していたにもかかわらず,原告X1から1億4000万円との要望を受けるやBが何の条件も付けることなく2000万円もの上積みを即断するとは俄かに考え難く,その後の打ち合わせにおいて,レカム社は,Bの指示により売上額を達成できなかった場合の減額の定めを入れるべく交渉していること(上記(7))に照らしても,上記陳述及び供述は採用できない。
2(1)ア 上記認定した本件条項作成に至る経緯に照らせば,本件条項は,原告X1が本件株式の譲渡価格の上積みを要求するに当たって示した売上予測が外れた場合に,もともと支払われることが予定されていた本件未払金の請求権を原告らが放棄することにより,譲渡価格を減額するために設けられた規定であるといえるから,本件未払金の精算を受けるためには売上予測の達成が条件となっていると考えるのが自然である。
したがって,本件条項は,①原告らが本件未払金の支払を受けるための条件は8件の本件特定案件を獲得することであり,②各案件につき,実際の売上額が想定月間売上を50パーセント以上下回った場合は,1件の契約とみなさないが,③50パーセントを下回った案件の売上額に,他に追加獲得した案件の実際の売上額を加算することで,想定月間売上の50パーセントを超えた場合には,1件の契約とみなすことができるという内容を定めたものと解するのが相当である。
イ これに対し,原告らは,上記ア②の内容については譲歩したが,その他の部分について売上額は評価対象とならず,50パーセントを下回った案件を補填するためには,追加案件を獲得することで足りるとして,上記ア③と異なる主張をする。
しかしながら,上記ア②の限度で売上額を評価対象とすることを合意しながら,その売上額を達成できなかった場合に,売上額と無関係に別の案件を追加するだけで条件を達成したものとみなせるということ自体,BPO事業においては契約締結のみで利益が上がるものではないこと(証人B,同C,原告X1)に照らして不合理であるし,証拠(甲16,原告X1)によれば,原告X1は,減額の定めを巡る話合い(上記1(7))において,見込んでいる案件の規模が下振れし,見込まれる案件量が半分以下になる場合には,その案件は見込み違いだったとみなすが,その場合には別の同規模の案件を受注することでペナルティ発生を回避することができるというような内容であれば了承できる旨をレカム社に伝えていたこと及び原告X1は「規模」という言葉を売上額という意味で用いていたことが認められるところ,原告X1自身,追加案件についても売上が問題となるという認識を有していたというべきであって,原告らの上記主張は採用できない。
(2) また,想定月間売上と比較すべき実際の売上額については,平成26年9月1日から平成27年9月30日までの間,原告らがレカム社の特別顧問として受注見込み案件に関するフォロー業務を行うこととされており,本件条項において上記顧問期間の末日までに条件を達成することが要求されていることに加え(前提事実(4)イ,ウ),想定月間売上の基となっている原告X1修正に係る売上シミュレーション資料が平成29年9月までの長期に渡って売上予測が示されたものであることからすれば(乙3),本件条項に定める条件達成の有無を評価する上では幅を持った期間の売上額を用いるのが相当であるというべきであるから,被告が主張するとおり,レカム社の平成27年9月期事業年度期間である,平成26年10月1日から平成27年9月30日までの平均月間売上実績であると解する。
(3) そして,証拠(乙9)によれば,原告らが獲得した本件特定案件のうち平均月間売上実績が想定月間売上の50パーセント以上であったものは3件にとどまり,原告らが追加獲得した新規案件の平均月間売上実績を加えても,本件特定案件全ての想定月間売上の合計額の50パーセントを下回っていることが認められるから,原告らは,本件条項により,本件未払金の支払を請求することはできない。
第4 結論
以上によれば,原告らの請求には理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第43部
(裁判官 八木文美)
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