【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業ノルマ」に関する裁判例(2)平成30年 6月13日 大阪地裁 平27(行ウ)255号 遺族年金等不支給処分取消請求事件、遺族補償年金等不支給処分取消請求事件

「営業ノルマ」に関する裁判例(2)平成30年 6月13日 大阪地裁 平27(行ウ)255号 遺族年金等不支給処分取消請求事件、遺族補償年金等不支給処分取消請求事件

裁判年月日  平成30年 6月13日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(行ウ)255号・平28(行ウ)192号
事件名  遺族年金等不支給処分取消請求事件、遺族補償年金等不支給処分取消請求事件
裁判結果  棄却  文献番号  2018WLJPCA06138001

裁判年月日  平成30年 6月13日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(行ウ)255号・平28(行ウ)192号
事件名  遺族年金等不支給処分取消請求事件、遺族補償年金等不支給処分取消請求事件
裁判結果  棄却  文献番号  2018WLJPCA06138001

平成27年(行ウ)第255号 遺族年金等不支給処分取消請求事件(以下「第1事件」という。)
平成28年(行ウ)第192号 遺族補償年金等不支給処分取消請求事件(以下「第2事件」という。)

大阪府松原市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 岩井羊一
同 田巻紘子
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 A
第1事件処分行政庁 三田労働基準監督署長 B
第2事件処分行政庁 名古屋西労働基準監督署長 C
被告訴訟代理人弁護士 川上良
同指定代理人 W1
同 W2
同 W3
同 W4
同 W5
同 W6
同 W7
同 W8
同 W9
同 W10
同 W11
同 W12
同 W13

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  第1事件
三田労働基準監督署長が平成25年7月23日付けで原告に対してした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。
2  第2事件
名古屋西労働基準監督署長が平成27年3月9日付けで原告に対してした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。
第2  事案の概要等
1  本件事案の概要
本件は,a株式会社(以下「本件会社」という。)の従業員であったD(以下「亡D」という。)の妻である原告が,平成24年8月16日頃に亡Dが自殺したこと(以下「本件自殺」という。)に関し,三田労働基準監督署長及び名古屋西労働基準監督署長(以下,併せて「各処分行政庁」という。)に対して,順次,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償年金及び葬祭料の各支給請求をしたところ,各処分行政庁は,同各支給請求について,いずれも支給しない旨の各処分(第1事件に係る処分を「第1処分」,第2事件に係る処分を「第2処分」といい,これらを合わせて「本件各処分」という。)をしたことから,原告が,被告に対し,本件自殺は,過重労働により発病し又は増悪したうつ病を原因とするものであり,業務起因性があると主張して,本件各処分の取消しを求めた事案である。
2  前提事実(争いがない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)  当事者等
ア 原告は,亡D(昭和41年○月○日生)の妻である。
原告と亡Dとの間には,長男(平成10年○月生),次男(平成11年○月生)及び長女(平成14年○月生)がいる。
(甲1)
イ b株式会社(以下「b社」という。)は,各種物品の国内取引,輸出入取引,外国間取引,建設工事請負,各種保険代理業務等を業とする株式会社である(甲13・117頁)。
ウ 本件会社は,鋼材の卸売等を業とする株式会社であり,b社の子会社である(甲13・130頁)。
(2)  亡Dの経歴等
ア 亡Dは,平成元年4月1日,c株式会社(以下「c社」という。)に入社した。
イ 亡Dは,平成12年12月1日,c社の親会社であるd株式会社とb社との資本・業務提携に伴い,c社から本件会社に転籍し,本件会社からb社大阪支店大阪金属部へ出向した。
ウ 亡Dは,平成14年12月1日,b社への出向を解除され,愛知県東海市の本件会社本社営業第一部に配属された。
エ 亡Dは,平成18年4月1日,本件会社大阪支店大阪金属部に異動した。
オ 亡Dは,平成23年6月15日,b社東京本社鉄鋼貿易部に出向し,①同年7月3日から同月9日まで,②同月31日から同年8月13日まで及び③同年9月5日から同月21日までの3回にわたり,ベトナムに出張した(以下,これらを総称して「本件ベトナム出張」という。)。
カ 亡Dは,平成23年11月1日,b社名古屋本社鉄鋼部に異動し,同日から本件自殺の日まで勤務していた。
(以上につき,甲13・119,121,132頁)
(3)  亡Dの病歴等
ア 心臓疾患
(ア) 亡Dは,平成11年4月,特発性心室細動を発病し,ブルガダ症候群との診断を受け,同年7月,大阪府吹田市の国立循環器病研究センターにおいて,除細動器(ICD)の植え込み手術を受けた。亡Dは,その後,6か月に1回,定期的に同センターに通院し,経過観察を受けていた。
(イ) 亡Dは,上記手術後,体調の不良なく過ごしていたが,平成12年6月に心房細動が起こり,本来,心室細動に対して作動するはずのICDが誤作動したということがあった。
(ウ) 亡Dは,平成18年1月,再度心室細動発作を起こし,愛知県豊田市のトヨタ記念病院に緊急入院した。
(エ) 亡Dは,平成20年3月頃,心室細動発作を頻発し,国立循環器病研究センターへ約2週間入院し,内服薬の変更・調整を行った。また,亡Dは,同月,国立循環器病研究センターから紹介された大阪府松原市の中山内科を受診し,以降,1か月に2回程度,中山内科に通院し,内服薬を処方されていた。
(以上につき,甲2,3,13・54,55,70,79,80,144ないし152頁)
イ 精神疾患
(ア) 亡Dは,c社から本件会社に転籍した頃(上記(2)イ)から不安を募らせ,平成13年1月頃から精神的な不安及び体調不良を訴えるようになり,同年7月,自宅で倒れ,大阪市都島総合医療センター精神科を受診し,そのままうつ病で約3か月間入院した。
(イ) 亡Dは,上記入院期間を含めて約5か月間休職し,平成14年1月,うつ病の治療を続けながら復職したが,同年5月頃に再びうつ病が悪化し,同年7月,トラベルミンという薬を大量服用し自殺未遂を図った。
(ウ) 亡Dは,上記自殺未遂後,数週間の自宅療養をした上で,再度,復職した。
(エ) 亡Dは,その後数年の間に上記うつ病が寛解し,平成23年6月頃まで,精神疾患により通院等をすることはなかった。
(以上につき,甲13・55,56,70,80頁,弁論の全趣旨)
(4)  本件疾病の発病及び亡Dの自殺
ア 亡Dは,本件ベトナム出張中の平成23年9月中旬頃,うつ病(F32。以下「本件疾病」という。)を発病した。
イ 亡Dは,平成24年8月16日頃,自殺した(甲1,13・165頁)。
(5)  本件訴訟に至る経緯
ア 第1事件について
(ア) 原告は,平成25年1月22日,三田労働基準監督署長に対し,遺族補償年金及び葬祭料の各支給請求をしたが,同署長は,同年7月23日,上記各支給請求について支給しない旨の各処分(第1処分)をした(甲13・15ないし18頁)。
(イ) 原告は,平成25年9月12日,第1処分を不服として審査請求をしたが,東京労働者災害補償保険審査官は,平成26年2月27日,これを棄却する決定をした(甲13・243ないし307頁)。
(ウ) 原告は,上記(イ)の審査請求棄却決定に対し,平成26年3月5日,再審査請求をしたが,労働保険審査会は,平成27年2月27日,これを棄却する裁決をした(甲13・1頁,甲14)。
(エ) 原告は,平成27年8月12日,第1処分の取消しを求めて第1事件を提起した(裁判所に顕著な事実)。
イ 第2事件について
(ア) 原告は,平成26年7月23日,名古屋西労働基準監督署長に対し,遺族補償年金及び葬祭料の各支給請求をしたが,同署長は,平成27年3月9日,上記各支給請求について支給しない旨の各処分(第2処分)をした(甲16・5,9ないし13頁)。
(イ) 原告は,平成27年4月28日,第2処分を不服として審査請求をしたが,愛知労働者災害補償保険審査官は,同年10月15日,これを棄却する決定をした(甲16・366ないし411頁)。
(ウ) 原告は,上記(イ)の審査請求棄却決定に対し,平成27年11月17日,再審査請求をしたが,労働保険審査会は,平成28年8月17日,これを棄却する裁決をした(甲16・1頁,乙22)。
(エ) 原告は,平成28年7月22日,第2処分の取消しを求めて第2事件を提起した(裁判所に顕著な事実)。
(6)  行政通達による精神障害に係る労働災害の業務起因性に関する認定基準
ア 旧労働省(現厚生労働省)は,精神障害に係る労働災害の業務起因性に関して,専門家によって構成された「精神障害等の労災認定に係る専門検討会」から「精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書」(乙1)の提出を受けた。
イ 厚生労働省は,専門家によって構成された「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」から,審査の迅速化や効率化を図るための労災認定の在り方に関して検討を行った結果である「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(乙4)の提出を受けて,平成23年12月26日,「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(基発1226第1号。乙5。以下「認定基準」という。)を発出した。
ウ 認定基準の主要な内容である対象疾病,認定要件及び認定要件に関する基本的な考え方は,別紙のとおりである。
第3  本件の争点
本件の争点は,本件疾病の発病及び本件自殺が業務に起因するものであるか否かという点であり,具体的には次の点が問題となる。
1  本件疾病の発病に係る業務起因性の有無(争点1)
2  本件疾病の増悪に係る業務起因性の有無(争点2)
第4  争点に対する当事者の主張
1  争点1(本件疾病の発病に係る業務起因性の有無)について
【原告の主張】
(1) 精神障害に係る業務起因性の判断基準等について
ア 労働基準法(以下「労基法」という。)及び労災保険法が,労働者及びその遺族の生活の安定をその趣旨・目的としていることに照らすと,業務起因性が認められるためには,当該労働者の業務と疾病等との間に合理的関連性が認められれば足り,相当因果関係までは要しないと解すべきである。
また,仮に,合理的関連性では足りず,業務と疾病等との間の相当因果関係が必要であると解するとしても,業務が疾病等の発病に対し相対的に有力な原因となったことまでは必要なく,当該業務が他の原因と共働原因となって疾病等の発病を招いたと認められる場合には,相当因果関係が認められると考えるべきである。
イ 労基法及び労災保険法の上記趣旨・目的に加え,使用者は労働者の労務の提供によって事業を遂行している以上,使用者によって労務の提供が期待されている者全てを対象として,その中で業務に内在する危険に対する抵抗力の最も弱い者を基準として同危険の有無を考えるべきであることに照らすと,業務上外の認定における過重負荷を判断するに当たっては,被災者である本人を基準とすべきであり,少なくとも,平均的な労働者の中で最も脆弱な者を基準に判断すべきである。
ウ 認定基準は,精神障害の発病6か月前からしか心理的負荷を評価していないことや,慢性的な疲労が適切に評価されていないこと等多数の問題があることから,精神障害に係る業務起因性の有無を認定基準に基づいて判断するのは相当でない。
(2) 本件疾病の発病前6か月間の業務による心理的負荷について
ア 亡Dが,平成23年6月15日,本件会社からb社東京本社に出向し,本件ベトナム出張をしたことについては,認定基準別表1の項目22「転勤をした」(平均的心理的負荷の強度:中)及び同21「配置転換があった」(平均的心理的負荷の強度:中)に該当する。
イ b社東京本社への転勤は,単身赴任であった上,これにより,亡Dは,従前の本件会社大阪支店における業務と相当程度異なる業務を担当することになった(同種の業務という観点で見ても,亡Dが以前経験したときから10年ものブランクがあった。)。
そして,①本件ベトナム出張における事業は,b社にとって新規事業に当たり,困難性が高いものであり,亡Dは,ハノイ地区の唯一の専任担当者として,その事業の成否に重大な責任のある立場にあったこと,②上記事業は,亡Dが過去にほとんど取り扱ったことのない鋼管に関するものであり,亡Dの知識,経験を活かせるものではなかったこと,③亡Dは,英語でのコミュニケーション能力が乏しく,商談や情報収集等の業務において困難を伴ったこと,④b社による事前の支援が十分でなかったこと,⑤海外勤務であったこと,以上の事情から,本件ベトナム出張による心理的負荷は非常に強いものであった。
さらに,亡Dは,b社の現地合弁会社の社長から強い叱責を受けるなど,認定基準上,「上司とのトラブル」に該当する事実もあった。
なお,被告は,本件ベトナム出張を前提とするb社東京本社への出向は,亡D自身が希望したものである旨主張するが,亡Dは,当初,体調を理由に断るなど本件ベトナム出張に消極的であったのであり,本件ベトナム出張は,b社の強い意向及び希望に基づくものであって,亡Dの希望によるものではない。
ウ 以上のとおり,b社東京本社への出向及びそれに引き続く本件ベトナム出張は,総合的に評価すると心理的負荷が「強」に該当するものであり,亡Dについて,本件疾病の発病前6か月間に,強い心理的負荷を受ける業務に従事していたといえるのである。したがって,仮に認定基準に基づいて判断するとしても,亡Dが平成23年9月中旬に本件疾病を発病したことは,亡Dの業務に起因するものであるということができる。
【被告の主張】
(1) 精神障害に係る業務起因性の判断基準等について
ア 精神障害の発病について業務起因性を肯定するためには,業務と当該発病との間に相当因果関係があることを要し,具体的には,当該精神障害が,当該業務に内在する危険の現実化として発病したこと(「危険性の要件」及び「現実化の要件」)が認められなければならず,業務が当該発病に対し他の原因と比較して相対的に有力な原因でなければならない。
イ そして,精神障害に係る業務起因性については,今日の精神医学及び心理学で広く受け入れられている「ストレス―脆弱性」理論に依拠して判断することが合理的である。また,ストレスの強度は,多くの人々が一般的にどう受け止めるかという見地から,客観的に評価されなければならず,相当因果関係の要件は,平均的な労働者(日常業務を支障なく遂行できる労働者)を基準として判断することが相当である。
ウ 認定基準は,精神医学,心理学等の専門家によって,それぞれの策定時における最新の医学的知見に基づいて策定されたものであり,その内容は,「ストレス―脆弱性」理論に依拠して客観的な判断基準を打ち出したものであるから合理性の高いものである。
(2) 本件疾病の発病前6か月間の業務による心理的負荷について
ア 亡Dが,平成23年6月15日付けでb社東京本社に出向し,それに引き続いて本件ベトナム出張をしたことは,認定基準別表1項目22「転勤をした」に該当する。
これに対し,原告は,上記出向等が同項目21「配置転換があった」にも該当する旨主張するが,認定基準上,「転勤をした」ことの評価の中に業務内容の変化も評価し尽くされているのであるから,これとは別に「配置転換があった」ことを独立に評価することは妥当でない。
イ そして,上記出向は,亡Dが,ベトナムでの業務を強く希望したために実現されたものである。また,亡Dは,建材関係の営業業務に10年以上従事していた上,シンガポール及びマレーシア向けの鋼材輸出業務の経験もあったことから,b社東京本社における業務に必要な知識,経験を有していた。
これらの事実に加え,①亡Dは課長職であり,ベトナムでの事業の成否について責任を負う立場ではなかったこと,②b社は,亡Dがb社東京本社に出向してから本件ベトナム出張に出発するまでの間,現地の体制や事業内容について説明するなど十分な事前準備を行わせていたこと,③現地における業務では,必ず日本人駐在員又は通訳が亡Dに同行していた上,高度の語学力が求められる業務ではなかったこと等の事情に照らすと,本件ベトナム出張による心理的負荷が強かったということはできない。
また,原告は,亡Dが,現地合弁会社の社長から叱責を受けた旨主張するが,同社長による「叱責」は,亡Dの基本的なミスに対する注意にとどまる程度のものであった。
ウ 以上によれば,b社東京本社への出向及び本件ベトナム出張による心理的負荷は,亡Dにとってベトナムが初めて訪れた土地であったことを考慮しても「弱」ないし「中」にすぎないというべきであり,本件疾病の発病について業務起因性は認められないというべきである。
なお,亡Dは,平成11年4月にブルガダ症候群によりICDの植込み術を受けてから,定期的に受診し,ICD誤作動に伴う入院や,心室細動発作による入院等があったこと,平成12年12月頃から不安感,不眠を訴えるようになり,平成13年7月に自宅で倒れ込み,平成14年5月に再び精神障害を発病し,同年7月に自殺未遂をしたこと等の病歴等があり,ストレスに対する脆弱性を有していたといえる。
2  争点2(本件疾病の増悪に係る業務起因性の有無)について
【原告の主張】
(1) 既に発病した精神障害が増悪した場合の業務起因性に関する判断枠組みについて
精神障害発病後の業務上の事情により,精神障害が増悪し,自殺に至った場合にも業務起因性が認められるべきである。
この点,被告は,精神障害の増悪について業務起因性がある場合を,認定基準別表1の「特別な出来事」がある場合に限定すべき旨主張するが,上記主張によれば,精神障害という疾病の性格上,その発病時期は必ずしも一義的に明確になるものではないにもかかわらず,同じ業務に従事して同じ出来事に遭遇した場合であっても,発病時期についての判断によって業務上外の認定が異なることとなるため,恣意的な制度運用を許すことになり,不当である。
したがって,少なくとも業務において精神障害を発病させるような強い心理的負荷が認められる場合には,発病後の精神障害の増悪に業務起因性が認められるべきである。
(2) 本件疾病発病後の業務による心理的負荷について
ア b社名古屋本社への転勤による心理的負荷について
亡Dは,平成23年9月21日,本件疾病のためベトナムから帰国し,同年11月から,b社名古屋本社に転勤した。
①上記転勤は,亡Dが,上司から「大阪へは戻りづらいよな」と言われ,本件ベトナム出張が中断したことの負い目から承諾したものであること,②b社名古屋本社での業務は,亡Dが得意とする建材関係のものではなかったこと,③単身赴任であったこと等の事情に照らすと,b社名古屋本社への転勤による亡Dに対する心理的負荷は「強」に該当するというべきである。
イ b社名古屋本社での業務による心理的負荷について
(ア) 長時間労働等
亡Dは,平成24年1月上旬から2月上旬にかけて,時間外労働時間が月100時間を超える恒常的な長時間労働を行った。上記時間外労働時間は,その前月と比較すると倍以上に増加しており,亡Dは,その後の業務に多大な労力を費やした。
また,亡Dは,同年1月23日から同年2月4日まで,13日間の連続勤務を行い,その間,深夜時間に及ぶ勤務が5回あった。
(イ) 上司等からの叱責
亡Dは,b社と同じ○○グループ内の容易に受注すべき案件(いわゆる「紐付き案件」)を失注し,上司やグループリーダーから厳しい叱責を受けた。
(ウ) 同僚の休職
平成24年5月以降,亡Dの同僚の1名が休職(年休の消化も含む。)したため,亡Dの業務量が増加するとともに,亡Dが信頼を寄せていた人物を失うこととなった。
(エ) 平成24年夏の賞与の査定
亡Dは,平成24年7月,夏期手当を半月分しか支給されず,その理由について,本件ベトナム出張を中断して会社に迷惑をかけたためであると説明された。
(オ) 平成24年7月の長時間労働
亡Dは,平成24年7月下旬にも,予算策定のため長時間の時間外労働をした。
(カ) 小括
以上のとおり,b社名古屋本社への転勤後における亡Dの業務には,相互に関連するものも含め,心理的負荷が「強」又は「中」に相当する出来事が複数存在し,これらを総合的に評価すると,b社名古屋本社における業務による亡Dに対する心理的負荷は「強」というべきである。
ウ 仙台又は新潟への転勤の打診による心理的負荷について
亡Dは,平成24年7月下旬頃,b社名古屋本社の上司に対し,家族のいる大阪への転勤を願い出たが,当時の本件会社の社長は,同年8月10日,亡Dに対し,大阪への転勤を認めず,家族同伴を条件として,同年10月から仙台又は新潟への転勤を打診した。
亡Dは,本件ベトナム出張を中断したこと等による負い目から,上記打診に応じないことは困難であったところ,その当時,原告は資格取得のため通学し,長男及び次男も中高一貫校に進学していたことから,家族同伴での転勤は困難であったことも踏まえると,上記打診は,退職強要に類似するものと評価すべきであり,これによる亡Dに対する心理的負荷は「強」というべきである。
エ 小括
以上のとおり,亡Dについては,本件疾病の発病から本件自殺までの間に,強い心理的負荷を受ける業務上の出来事があったといえるのであるから,本件疾病の増悪には業務起因性があるというべきである。
【被告の主張】
(1) 既に発病した精神障害が増悪した場合の業務起因性に関する判断枠組みについて
「ストレス―脆弱性理論」を踏まえると,既に発病した精神障害が増悪した場合,精神障害を発病していない者が精神障害を発病する場合に比べて,個体の反応性,脆弱性(個体側要因)の割合が大きくなっているのであるから,原則としてその増悪について業務起因性は認められず,認定基準別表1の「特別な出来事」に該当する出来事があり,その後おおむね6か月以内に当該疾病が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合に限り,業務起因性を肯定すべきである。
(2) 本件疾病発病後の業務に係る心理的負荷の点について
ア b社名古屋本社への転勤による心理的負荷の点について
平成23年11月のb社名古屋本社への転勤は,亡D自身が,自ら本件ベトナム出張を希望した手前,大阪には戻りづらいとして,上司に提示された選択肢の中から希望したものである。したがって,同転勤による心理的負荷は「弱」と評価すべきである。
イ b社名古屋本社での業務に係る心理的負荷の点について
(ア) 上記のとおりb社名古屋本社への転勤による心理的負荷は「弱」にとどまるところ,同転勤による仕事内容及び仕事量の変化は,「転勤をした」ことに含めて評価されるべきであって,独立にこれらを評価すべきではない。
(イ) その上で,①b社名古屋本社における亡Dの時間外労働時間は,平成24年1月14日から同年2月12日までの1か月間に95時間を超え,その間に,深夜時間帯に及ぶ勤務5日間を含む13日間連続の勤務があったものの,これらは,亡Dが予算策定業務に従事していた時期における一過性のものであって,その他の月における1か月間の時間外労働時間は40時間以内であることからすると,b社名古屋本社における亡Dの勤務について長時間労働が常態化していたとはいえないこと,②同年5月に同僚の1名が休職したものの,それによっても亡Dの業務量はさほど変化していないこと,③亡Dによる仕事上の失敗や上司等からの叱責の事実は認められないこと,④平成24年の夏期手当支給額が0.5か月分にすぎなかったのは,本件会社が賃金体系を改めたことによる調整のためであり,亡Dに対するペナルティによるものではないこと,以上の点に照らすと,仮にb社名古屋本社への転勤後の事情を踏まえて上記アの評価を修正するとしても,同転勤に係る心理的負荷は「中」にとどまるというべきである。
ウ 仙台又は新潟への転勤の打診に係る心理的負荷の点について
(ア) 本件会社の社長は,亡Dから,b社名古屋本社での勤務継続が困難である旨の申出を受けたものの,亡Dが,飽くまでも建材に関する業務を希望していたことから,その希望に沿う業務をしたいのであれば,仙台又は新潟に転勤するしかないという実情を説明したにすぎない。また,同社長は,亡Dに対し,その体調を慮り,家族同伴での転勤を提案したが,家族同伴を絶対条件とはしておらず,退職をほのめかすような言動をしたこともない。
(イ) 以上のとおり,本件会社の社長による亡Dに対する仙台又は新潟への転勤の打診は,退職強要と評価されるべき出来事ではない。
エ 小括
以上のとおり,本件疾病を発病した平成23年9月以降,亡Dについて「特別な出来事」に該当する出来事は認められず,また,仮に,精神障害の増悪の業務起因性判断に当たって「特別な出来事」に該当する出来事の存在まで必要がないと解するにしても,本件疾病の発病後における亡Dに係る業務上の各出来事を総合評価すれば,亡Dに係る心理的負荷は「中」にとどまるというべきである。したがって,本件疾病の増悪について,業務起因性があるとはいえない。
第5  争点に対する当裁判所の判断
1  精神障害の業務起因性の有無に係る判断枠組みについて
(1)  労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の疾病等について行われるところ(同法7条1項1号),労働者の疾病等を業務上のものと認めるためには,業務と疾病等との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。そして,労災保険制度が,労基法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該疾病等の結果が,当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,同平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。
(2)  ところで,精神障害発病の機序について,現在の医学的知見によれば,環境由来のストレスと,個体側の反応性・脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという考え方(以下「ストレス―脆弱性理論」という。)が合理的であるとされており,同理論によれば,環境由来のストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害を発病するし,逆に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生じるとされる(乙4)。
このような「ストレス―脆弱性理論」を前提とすれば,精神障害の業務起因性の判断,すなわち当該精神障害が「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」(労基法施行規則別表第1の2第9号)に該当するか否かの判断においては,環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性とを総合考慮し,業務による心理的負荷が,当該労働者と同程度の年齢,経験を有する同僚労働者又は同種労働者であって,日常業務を支障なく遂行することができる労働者(平均的労働者)を基準として,社会通念上客観的にみて,精神障害を発病させる程度に強度であるといえる場合に,当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものとして,当該業務と精神障害の間に相当因果関係を認めるのが相当である。
(3)  また,前記前提事実(6)のとおり,厚生労働省は,精神障害の業務起因性を判断するための基準として,認定基準を策定しているところ,認定基準は,行政処分の迅速かつ画一的な処理を目的として定められたものであり,もとより裁判所を法的に拘束するものでないものの,精神医学,心理学及び法律学等の専門家により作成された報告書(乙4)に基づき,医学的専門的知見を踏まえて策定されたものであって,その作成経緯及び内容等に照らしても合理性を有するものといえる。そうすると,精神障害に係る業務起因性の有無については,認定基準の内容を参考にしつつ,個別具体的な事情を総合的に考慮して判断するのが相当というべきである。
(4)  以上のとおりであるから,精神障害の業務起因性の有無に係る判断枠組みに係る原告の主張(前記第4の1(1)【原告の主張】)は,いずれも採用できない。
2  認定事実
前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(1)  本件ベトナム出張までの亡Dの業務内容等
ア 亡Dは,平成元年4月にc社に入社し,主として建設用各種鋼材(建材)の販売等の営業職に従事していた。
イ 亡Dは,平成3年頃,c社の関連会社のシンガポール支店において半年間の研修を受けたほか,c社において,シンガポールやマレーシアへの鋼材の輸出に関する業務に数年間従事したことがあった。
ウ 亡Dは,平成12年12月に本件会社に転籍した後,出向先のb社大阪支店では,自動車特殊鋼を担当していたが,平成14年12月にb社への出向を解除されてからは,本件会社の本社営業第一部(愛知県)及び大阪支店大阪金属部において,建材を含む鋼材の販売等の営業職に従事していた。
(以上につき,甲13・53,113,119,132,168頁,甲19,乙20,21,32)
(2)  b社東京本社への出向及び本件ベトナム出張の経緯等
ア(ア) b社は,平成22年12月,e株式会社及びf株式会社と共に,ベトナムで操業していた韓国系企業を買収し,インフラ工事で地中杭に使用する鋼管や鋼管矢板の製造及び販売を目的とする合弁会社(以下「g社」という。)を立ち上げた。
(イ) b社は,g社の事業のうち営業部門を担当し(以下,b社のg社に関する事業を「g社事業」という。),同社の副社長及び駐在員等がb社から出向していた。
(ウ) また,b社は,平成23年4月,東京本社鉄鋼貿易部内に,g社事業を担当するインフラ鋼材チームを立ち上げ,完全子会社であるベトナム現地法人(以下「h社」という。)が,その業務を補佐していた。
(以上につき,乙30,31,証人E,証人F)
イ 亡Dは,平成23年2月10日頃,b社東京本社において,鉄鋼貿易部のE部長(以下「E部長」という。)から,g社事業の存在を知らされた(乙19,30,証人E)。
ウ E部長は,亡Dの業務経験等がg社事業に適したものであったこと等から,亡Dをb社に出向させてg社事業に参加させることを希望していた。
亡Dは,E部長に対し,当初は体調等を理由に出向を断ったが,原告に今後の可能性を示唆されたこともあって,亡Dは,E部長に対し,平成23年2月14日付けのメールで,現在は体調が良好に推移している旨や過去の業務経験等を記載した上で,「土木・建材の知識を生かした仕事ができるなら前向きに取り組みたいと思います。」として,g社事業への参加を希望する意思を示し,また,同年3月1日付けのメールで,国立循環器病研究センターの主治医と面談して,ICDが埋め込まれているので海外出張・転勤は問題ない旨確認したことを伝えた。
(甲4,13・59頁,乙19,20,30,証人E,原告)
エ E部長及び亡Dは,遅くとも平成23年4月頃までに,それぞれ,本件会社に対し,亡Dのb社への出向及びg社事業への参加について申し出た。
本件会社の社長であったG(以下「G社長」という。)は,亡Dに心臓疾患及び精神疾患の持病があることから,産業医の意見も踏まえて上記申出を断った。もっとも,亡D自身が上記事業への参加を強く希望していたことから,G社長は,同月4日,亡Dとともに国立循環器病研究センターの主治医と面談し,上記各疾患のいずれも出張に関して問題がないということを確認した上で,亡Dの出向を承諾した。
(甲2,13・114,115頁,甲19,22,乙32,証人H)
オ なお,亡Dは,b社東京本社への転勤前日の平成23年6月14日,東京都港区の品川心療内科を受診し,医師に対し,東京への転勤が決定した経緯や同転勤を契機にうつ病が再発しないようにしたい旨相談していた(甲4)。
(3)  本件ベトナム出張における亡Dの業務内容及び本件疾病の発病等
ア(ア) 本件ベトナム出張における亡Dの主たる業務は,建設用鋼材を日本から東南アジア等に輸出販売するための見積書の作成及び提出,g社の製品のベトナム国内での販売及びベトナムからの輸出等のための営業業務等であった。同各業務は,もとよりg社の製品に関する最低限の知識が必要とされるものではあるものの,建材についての基本的な商品知識や商取引慣習に関する知識経験が重視されるというものであった。
もっとも,亡Dが関与していたのは,g社事業の立ち上げから間がなく,市場調査等を行っていたという時期であって,具体的な販売目標等の数値は定められていなかった。
(イ) b社東京本社鉄鋼貿易部インフラ鋼材チームからは,亡Dのほか,F(以下「F」という。)がベトナムに長期出張しており,Fはベトナム南部のホーチミン地区,亡Dはベトナム北部のハノイ地区を主に担当することとなっていた。
h社は,ハノイ及びホーチミンにそれぞれ事務所を有しており,ホーチミン事務所には,日本人駐在員1名,日本からの長期出張者1名,現地スタッフ4名(うち日本語を解する者1名)及び現地採用の日本人スタッフ1名が在籍し,亡Dが主に担当していたハノイの事務所には,日本人の駐在員1名及び現地スタッフ5名(うち日本語を解する者2名)が在籍していた。また,g社にも,日本人の駐在員2名及び長期出張者1名が在籍していた。
(以上につき,甲13・94,121頁,乙21,30,31,証人E,証人F)
イ(ア) 亡Dは,平成23年6月15日,b社に出向し,東京本社鉄鋼貿易部インフラ鋼材チームに配置され,g社事業における任務や現地体制の説明を受けたり,関係者との打合せをしたりした後,①同年7月3日から同月9日まで,②同月31日から同年8月13日まで及び③同年9月5日から同月21日までの3回にわたり,ベトナムに出張した(本件ベトナム出張)。
(イ) 亡Dの1回目の出張は,主として業務を把握するための下見という位置付けで,g社等のb社が出資する工場の視察や,関係者との打合せ等であった。同出張の全行程に駐在員が同行した。
また,亡Dの2回目及び3回目の出張は,g社の取扱商品の理解や現地需要の情報収集等を目的とするものであり,亡Dは,同各出張において,現地顧客への訪問等を行ったが,その際も,基本的に全行程に駐在員又はFが同行した。
なお,3回目の出張は,当初,平成23年9月5日から同年10月8日までを予定していたが,亡Dは,その途中で本件疾病を発病したため,同年9月20日の夜行便で帰国した。
(ウ) 本件ベトナム出張中における亡Dの標準的な勤務スケジュールは,午前8時にh社又はg社の事務所に出社し,事務所内での業務や顧客訪問等をして,午後7時頃までには業務が終了する(おおむね正午から午後1時までは休憩)というものであり,土曜及び日曜が休日であった。
(エ) 本件ベトナム出張において,訪問先(日系企業を除く。)へのアポイント取りや車の手配等は,全てベトナムの現地スタッフが行っており,顧客等との交渉において英語が必要な場合には,駐在員や日本語と英語及びベトナム語との通訳が可能な現地スタッフが同席していたため,単独で亡Dが,英語を必要とする重要な業務に従事する機会はなかった。
(以上につき,甲13・121,170ないし174頁,乙21,30,31,証人E,証人F)
ウ 亡Dは,本件ベトナム出張の期間中,駐在員が手配したホテル又はFが滞在するアパートに宿泊しており,飲食等はFや駐在員と共にすることが多く,本件全証拠を精査しても,亡Dが日常生活において複雑困難な英語を使用する機会があったとは認められない。
(乙21,31,証人F)
エ 亡Dは,本件ベトナム出張中,g社の社長から,同社長からのメールを誤って顧客に転送したときや,出張中のスケジュールを連絡しなかったため連絡の行き違いが生じたときなどに,厳しい口調で叱責されることがあった。もっとも,亡Dによる上記ミスは,g社の事業に損害を与えるほどのものではなく,不注意による軽微なミスといえる程度のものであった。
なお,g社の社長は,普段から口調が厳しい人物ではあったが,合理的理由がないのに他人を叱責するということはなく,亡Dの主観的なとらえ方は別として,本件全証拠を精査しても,同社長が,亡Dに対してだけ執拗に叱責していたことや職務の範囲を逸脱したパワー・ハラスメントに該当するような個別具体的な言動を行ったことを認めるに足りる的確な証拠は認められない。
(甲13・100頁,乙30,31,証人F)
オ 亡Dは,ベトナム滞在中の平成23年9月中旬頃,本件疾病を発病し,同月20日,b社東京本社の上司に対して電話連絡し,夜眠れない旨告げた。E部長は,同上司からの報告を受け,同日,直接電話で亡Dと話をし,亡Dに対し,同日の夜の飛行機で帰国するよう指示した。亡Dは,同日発の飛行機で日本に帰国した(同月21日到着)。
(前記前提事実(4),乙30,証人E)
カ 亡Dの本件疾病発病前6か月間の総労働時間及び時間外労働時間数は,次のとおりであった。

算定期間 総労働時間数 時間外労働時間数
H23.9.1~H23.9.21 149時間58分 23時間58分
H23.8.2~H23.8.31 190時間34分 22時間57分
H23.7.3~H23.8.1 208時間22分 42時間16分
H23.6.3~H23.7.2 161時間33分 10時間42分
H23.5.4~H23.6.2 190時間30分 30時間30分
H23.4.4~H23.5.3 178時間45分 24時間15分

(甲13・45ないし50頁)
(4)  b社名古屋本社への転勤の経緯等
ア 亡Dは,ベトナムから帰国した翌日の平成23年9月22日,b社東京本社においてE部長と面談した。
E部長は,同面談において,亡Dから,本件ベトナム出張及びそれを前提とする東京での勤務継続を希望しないことを確認した上,b社への出向を解除して本件会社大阪支店に戻るか,b社名古屋本社へ転勤することを打診したところ,亡Dは,大阪へは戻りにくいことを理由に,b社名古屋本社への転勤を選択した。
(甲4,13・108,236頁,乙30,証人E)
この点,原告は,E部長が,亡Dとの面談に先立ち,b社名古屋本社に対して亡Dの受入れの可否を確認していたこと等を根拠として,亡Dのb社名古屋本社への転勤は,E部長から「大阪へは恥ずかしくて帰れないだろう」と言われ,亡Dがやむを得ず承諾したものであって,希望していたものではない旨主張する。しかしながら,E部長は,原告が主張する上記発言を否定しているところ,①E部長は,証人尋問において,亡Dが大阪に戻ることを希望すれば,b社への出向を解除すればよいだけであると考えていた旨証言していることからすると,亡Dとの面談前にb社名古屋本社での受入れの可否のみを確認していたとしても特段不自然ではないこと,②亡Dは,E部長との面談をした当日中に,名古屋へ赴いて居住先を確保したこと(証人E,原告),③亡Dは,名古屋への転勤を選択する前に,原告に何ら相談しておらず,事後的にも原告に対して意に反する転勤であったとは述べていないこと(原告。なお,原告は,本人尋問において,亡Dからの相談や原告から亡Dに対するアドバイス等はなかった旨述べるものの,「主人にしたら,心機一転という気持ちで行きたかったと思うんです。」とも供述している。原告・28頁),④亡Dは,本件会社の役員の反対を押し切ってb社東京本社へ出向したのであるから,それから僅か3か月余りで大阪へ戻りにくいと考えたとしても,そのこと自体には合理的な理由があったといえること(上記(2)エ),以上の点に照らすと,E部長が亡Dに対して「大阪へは恥ずかしくて帰れないだろう」と発言した事実を認めるに足りる的確な証拠は認められず,また,その点を措くとしても,b社名古屋本社への転勤について,亡Dがやむを得ず承諾したとか,希望していたものではなかったとまでは認められない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 亡Dは,上記帰国後,平成23年10月31日まで大阪の自宅で休養し,同年11月1日から,b社名古屋本社鉄鋼部へ転勤した。
(5)  b社名古屋本社における亡Dの業務内容等
ア 亡Dは,b社名古屋本社鉄鋼部において,○○案件を中心にゼネコンへの鉄筋及び生コンの営業,鉄骨業者への鉄骨材料の営業等を行っていた。
営業業務の進め方は,亡Dが過去に所属していた部署と大きく異なるものではなく,案件の成約件数等について,上長との話合いにより目標を設定していたが,会社から一方的にノルマを付与されることや,上記目標を達成しないことによりペナルティを課されるということはなかった。
また,亡Dが,b社名古屋本社への勤務中,所属部署の業績に大きく影響するような失敗をしたということもなかった。
(甲13・122頁,甲16・54ないし56頁,証人H)
イ(ア) b社名古屋本社における亡Dの所定労働時間は,午前9時から午後5時45分まで(正午から午後1時までは休憩)であり,所定休日は,毎週土曜及び日曜,祝日並びに年末年始等であった(甲16・55頁)。
(イ) 亡Dのb社名古屋本社における総労働時間及び時間外労働時間数は,次表のとおりである。亡Dは,平成24年1月23日から同年2月4日まで13日間連続で勤務し,その間,勤務時間が深夜時間帯(午後10時以降)に及ぶ日が5日あった。
なお,b社では,毎年1月,4月及び7月は,予算策定業務があるため,通常よりも時間外労働が増加する傾向があった。

算定期間 総労働時間数 時間外労働時間数
H24.7.12~H24.8.10 195時間26分 33時間17分
H24.6.12~H24.7.11 192時間20分 19時間22分
H24.5.13~H24.6.11 171時間11分 14時間35分
H24.4.13~H24.5.12 171時間57分 34時間10分
H24.3.14~H24.4.12 194時間14分 38時間02分
H24.2.13~H24.3.13 199時間08分 34時間40分
H24.1.14~H24.2.12 255時間02分 95時間02分
H23.12.15~H24.1.13 148時間19分 8時間15分
H23.11.15~H23.12.14 176時間03分 22時間35分
H23.11.1~H23.11.14 81時間19分 4時間35分

(甲16・37ないし46,59頁)
(6)  平成24年7月期の賞与について
亡Dは,本件会社から,平成23年7月に95万円,同年12月に90万円の賞与を支給されていたが,平成24年7月支給の賞与額は22万5000円であり,月俸(45万円)の0.5か月分にすぎなかった。
もっとも,本件会社においては,平成23年4月から管理職について年俸制を導入するとともに,冬季賞与を固定することとされたため,平成24年7月の賞与については,給与体系変更に伴う総額調整措置として,亡Dに限らず一律に支給水準が減額されていた。亡Dについても,平成23年4月に給与の月額が増加しており,その調整も含めて上記支給額が決定されたものである。
(甲10,13・230ないし233頁,甲22,乙32,証人H)
(7)  b社名古屋本社からの転勤の打診等
ア 亡Dは,平成24年7月下旬頃から8月初旬頃までの間にかけて,本件会社の取締役及びb社名古屋本社の鉄鋼部長に対し,それぞれ,不眠の症状を訴え,b社名古屋本社からの転勤の希望を申し出た(甲19,25,乙32,証人H)。
イ G社長は,上記取締役及び鉄鋼部長らからの報告を受けて,亡Dの転勤先を検討したが,亡Dの家族が居住する大阪には,亡Dの受入先を確保することができなかった。そこで,G社長は,平成24年8月10日頃,亡Dに電話をし,その希望する業務や,従前の転勤経緯等を踏まえた上で,①建材関係の仕事を希望するのであれば,復興需要のある仙台又は新潟が転勤先の候補となること,②家族同伴が望ましいので,夏季休暇中に原告と相談して欲しいこと等を伝えた。
(甲11,12,13・115,116頁,甲19)
ウ なお,平成24年8月当時,原告ら家族は,大阪府内の原告の母名義の自宅で生活し,亡Dは名古屋に単身赴任していた。当時,長男及び次男は,それぞれ中高一貫校の中学3年生及び中学1年生であり,原告も,同年4月から,保健師資格取得のための学校に通っていた。
(甲13・59,63頁,原告)
(8)  本件自殺までの亡Dの行動等
ア 亡Dは,平成24年8月10日から,大阪へ帰省した。
亡Dは,同日夜,大阪で友人らと会食し,同友人らに対し,①G社長から転勤の打診を受けたが,その内容は10月から家族同伴を条件として仙台に転勤してはどうかというものであって,家族を連れて転勤できる状況ではないことから,会社は自分に退職を求めているのだと思うこと,②今の身体的・精神的状況では新しい土地で新しい仕事をする自信はなく,家族を巻き込んで迷惑をかけるより,離婚した方がいいのかもしれないこと,③休みたいが,退職する覚悟でないと言い出せないことなどを述べた。
(甲11,12,証人I)
イ 亡Dは,平成24年8月11日の夕食時に,原告に対し,仙台又は新潟へ家族同伴での転勤を提案されたこと等を伝えた。原告は,同日又は翌日以降,亡Dに対し,転勤先へ同行する意思があるが,具体的な時期や方法等は改めて相談したい旨伝えた。
(甲13・64,65頁,原告)
ウ 亡Dは,平成24年8月15日まで大阪の自宅で過ごし,同日,名古屋へ戻った(甲13・65頁,原告)。
(9)  本件自殺
亡Dは,平成24年8月16日頃,名古屋の単身赴任先住居内で自殺した(甲13・165頁)。
3  争点1(本件疾病の発病に係る業務起因性の有無)について
(1)  亡Dは,本件発病の約3か月前である平成23年6月15日,本件会社大阪支社からb社東京本社に出向して単身赴任し,引き続き,3回にわたりベトナムに長期出張しているところ,原告は,これらの一連の出来事が亡Dに強い心理的負荷を与え,本件疾病の原因となった旨主張する。
(2)ア  この点,①亡Dは,E部長からg社事業の存在を知らされた後,E部長に対して同事業への参加の希望を表明し,これに反対していたG社長を主治医との面談に同行させてまで説得するなどしていること(上記認定事実(2)ウ,エ)からすると,b社東京本社への出向及び本件ベトナム出張は,亡Dの強い希望に基づくものであったと認められること,②亡Dは,c社在籍時から,長年にわたり建材の営業業務に携わり,東南アジア向けの輸出業務も経験していた(同(1))ところ,本件ベトナム出張における亡Dの業務についても,建材の営業業務を中心とするものであって,基本的に要求される能力としての商品知識や取引慣習についての知識経験は,これらと共通するものであること(同(3)ア(ア)),③g社事業はb社の新規事業であり,亡Dが関与していたのは,g社事業の立ち上げから間がなく,市場調査等を行っていたという時期であって,具体的な販売目標等の数値は定められず,亡Dは,同事業に関し,営業ノルマ等を課されて結果について責任を負う立場にはなかったこと(同(3)ア(ア)),④亡Dは,事前研修及び1回目の出張等によりg社の事業内容や製品概要を習得する機会を与えられていたこと(同(3)イ(ア),(イ)),⑤顧客との交渉等には駐在員等が同席し,亡Dが英語を必要とする重要な業務に単独で従事することはなかったこと(同(エ)),⑥ベトナムにおける日常生活面でも,高度な語学力が求められる機会があったことは窺えないこと(同ウ),⑦亡Dは,g社の社長から叱責されることがあったものの,それは,亡Dの業務上の軽易なミスに対する注意の範囲を超えるものではなく,また,g社の事業に損害を与えることもなかったものであって,客観的に見てトラブルと評価できるほどのものではなかったこと(同エ),⑧本件ベトナム出張の期間は,1回目が7日間,2回目が14日間,3回目が17日間(ただし,当初の予定は34日間)であって,各出張の間に3週間程度ずつ日本国内で過ごす期間があったこと,以上の事実が認められる。
イ  以上認定した事実によれば,b社東京本社への出向及び本件ベトナム出張自体は,亡D自身が強く希望して実現されたものであり,その業務内容も,亡Dの従前の経験に合致したものであって,英語の点を含めて特段の困難性を有する業務はなかったと認められ,これらの点に,h社の支援体制(全行程への駐在員の同行又は同席等。上記認定事実(3)イ(エ)),出張期間等の点(長期間継続的な滞在を前提とする海外駐在とは大きく異なるものであること)をも併せ鑑みると,転勤により職務及び生活環境に変化が生じ,それが海外での勤務を伴うものであるという点を踏まえたとしても,b社東京本社への出向及び本件ベトナム出張について,客観的にみて,本件疾病を発病させる程度に強度な心理的負荷であったとは認められない。
なお,g社の社長による叱責の点について,仮に「上司とのトラブル」に該当するとしても,上記ア⑦の点に鑑みると,客観的にみて,これによる心理的負荷は弱いものといわざるを得ず,この点をもって,上記認定が左右されるものではない。
(3)  以上のとおりであって,原告が主張する本件疾病発病前6か月間の亡Dに係る業務上の各出来事については,これらを個別に評価しても,また,全体的かつ総合的に評価したとしても,客観的にみて,本件疾病を発病させる程度に強度の心理的負荷を生じさせるものであったとは認められない。そして,亡Dに係る精神疾患の既往歴(前記前提事実(3)イ)及び「ストレス―脆弱性」理論の内容を踏まえた精神障害の業務起因性の有無に係る判断枠組みの点(上記1(1),(2))をも併せ鑑みると,亡Dに係る業務と本件疾病発病との間に相当因果関係があるとは認められない。したがって,本件疾病発病について業務起因性があるとはいえない。
4  争点2(本件疾病の増悪に係る業務起因性の有無)について
(1)  上記3で認定説示したとおり,本件疾病は,業務上の事由により発病したものとはいえないから,認定基準を踏まえると,その増悪について業務起因性が認められるためには,「特別な出来事」の存在が必要であるということになる。
この点,原告は,精神障害の増悪について業務起因性を肯定するに当たり「特別な出来事」の存在は不要であるとの見解を前提として,①b社名古屋本社への転勤,②b社名古屋本社における長時間労働等,③平成24年度の賞与査定における低評価,④G社長による転勤の打診等の一連の出来事による亡Dの心理的負荷が強いものであった旨主張する。
ア 上記①の点について
上記認定事実によれば,亡Dは,E部長との面談において,同部長からの転勤に関する打診に対して,その場で,自らb社名古屋本社への転勤を希望したこと(上記認定事実(4)ア),b社名古屋本社鉄鋼部における亡Dの業務は,亡Dの従前の業務とおおむね共通するものであって,特段販売ノルマ等も課されていなかったこと(同(5)ア),以上の事実が認められ,これらの点に,b社名古屋本社への転勤時期については,亡Dの主治医の意見を踏まえた亡Dからの希望もあって,1か月休養した後の平成23年11月1日ということになったという点(同(4)イ,証人E)をも併せ鑑みると,客観的にみて,b社名古屋本社への転勤による心理的負荷はさほど強度なものであったとは認められない(認定基準によれば,「弱」にとどまると認められる。)。
イ 上記②の点について
(ア) 確かに,亡Dは,平成24年1月から2月にかけて,1か月で95時間を超える時間外労働をしており,同年1月23日から同年2月4日まで13日間連続で勤務し,その間,勤務時間が深夜時間帯に及ぶ日もあったことが認められる(上記認定事実(5)イ)。
もっとも,上記長時間労働となった主たる要因は,b社において,毎年1月が予算策定のための繁忙期であるという点にあったと認められる。そして,上記期間の他に,亡Dについて顕著な長時間労働は認められないことをも併せ鑑みると,同長時間労働は,恒常的なものではなく一過性のものであると認められる。そうすると,客観的にみて,同長時間労働に関する心理的負荷は,さほど強度なものであったとは認められない。(認定基準によれば,「中」にとどまると認められる。)。
(イ) 原告は,平成24年5月頃に同僚の1名が休職したことによる心理的負荷があった旨主張するが,同時期の前後で亡Dの労働時間に顕著な変化が認められないことからすると,上記休職により亡Dの業務が加重されたとは認められない。また,仮に,上記同僚の休職が認定基準別表1項目33「理解してくれていた人の異動があった」に該当するとしても,その心理的負荷は「弱」にとどまるものであるというべきである。
また,原告は,亡Dが,b社名古屋本社において,いわゆる「紐付き案件」を失注し,上司等から厳しく叱責された旨主張するが,本件全証拠を精査しても,亡Dが業務上の大きな失敗をした事実及び上司等から叱責を受けた事実のいずれについても,これらを認めるに足りる個別具体的で,かつ的確な証拠は認められない。
ウ 上記③の点について
上記認定事実(6)のとおり,亡Dは,平成24年7月支給の賞与について,前年度と比較して大幅に減額されているものの,同減額の理由は,本件会社の給与体系の変更に伴うものであって,亡Dの個人的責任に基づくものとは認められない。そうすると,亡Dによる主観的な受け止め方はともかく,客観的にみると,上記賞与減額という事実は,さほど強度な心理的負荷を与えるものであるとは認められない。
エ 上記④の点について
原告は,G社長から亡Dに対する転勤の打診について,退職強要に類似するものである旨主張する。
しかしながら,上記認定事実のとおり,そもそも,b社名古屋本社からの転勤の希望を申し出たのは亡Dであったこと,これを受けて,G社長は,建材の営業という亡Dの希望や,亡Dの心身の状態等を踏まえて,建材関係の業務がある候補先として仙台及び新潟を提示し,加えて単身赴任よりも家族同伴での転勤が望ましいとして,原告とも相談するようにと告げたこと,以上の点が認められる(上記認定事実(7)ア)。他方,G社長が,亡Dに対し,これらを業務命令として指示したとか,これらに従わなければ解雇等の不利益が及ぶ旨を述べたというような事実を認めるに足りる的確な証拠は認められない。以上からすると,G社長による転勤の打診は,飽くまで転勤先に関する一つの提案にすぎず,これを退職強要又はそれに類するものであるとまで評価することはできでない。
以上のとおりであって,G社長による転勤の打診は,それが,亡Dが希望する大阪への転勤ではなかったという点を考慮したとしても,客観的に見て,強度の心理的負荷を与えるものであったとは認められない。
(2)  以上認定説示したとおり,原告が主張する上記①ないし④の各出来事は,いずれも認定基準別表1の「特別な出来事」であるとは認められず,また,上記各出来事を一連のものとして全体的かつ総合的に評価したとしても,客観的にみて,その心理的負荷が本件疾病をその自然的経過を超えて著しく悪化させるに足りる程度に強度のものであったとまでは認められない。
以上のとおりであって,本件疾病の増悪について業務起因性があるとする原告の主張は採用することができない。
5  結論
以上によれば,原告に対し遺族補償給付及び葬祭料を支給しないこととした本件各処分はいずれも適法であると認められ,原告の本件各請求はいずれも理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部
(裁判長裁判官 内藤裕之 裁判官 大森直哉 裁判官 池上裕康)

 

〈以下省略〉

 

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