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「営業ノルマ」に関する裁判例(1)平成31年 4月15日 福岡地裁 平29(ワ)1567号 賃金減額無効確認等請求事件

「営業ノルマ」に関する裁判例(1)平成31年 4月15日 福岡地裁 平29(ワ)1567号 賃金減額無効確認等請求事件

裁判年月日  平成31年 4月15日  裁判所名  福岡地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)1567号
事件名  賃金減額無効確認等請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  確定  文献番号  2019WLJPCA04156002

要旨
◆賃金減額に関して、将来請求及び一定の賃金の支払いを受ける地位の確認請求が認められた例

参照条文
労働契約法8条
民法709条
民法715条
会社法350条

裁判年月日  平成31年 4月15日  裁判所名  福岡地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)1567号
事件名  賃金減額無効確認等請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  確定  文献番号  2019WLJPCA04156002

原告 A
同訴訟代理人弁護士 市川俊司
同 田中隆一
同 前田恭輔
被告 株式会社キムラフーズ
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 八谷戦太
同 内田文浩
同 大神朋子

 

 

主文

1  原告が、被告に対し、基本給として月額13万5000円、職務手当として月額5万5000円及び調整手当として月額8万0900円の支給を受ける労働契約上の地位にあることを確認する。
2  被告は、原告に対し、平成29年5月から原告と被告との間の労働契約が終了するまでの間、毎月10日限り7万円を支払え。
3  被告は、原告に対し、20万円を支払え。
4  被告は、原告に対し、50万円及びこれに対する平成29年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5  原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6  訴訟費用は、これを5分し、その2を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
7  この判決は、第2項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。
 

事実及び理由

第1  請求
1  主文第1項、第2項と同旨
2  被告は、原告に対し、79万8376円を支払え。
3  被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する平成29年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は、被告に勤務する原告が、被告に対し、(1)平成29年5月支払分以降の月額賃金のうち、基本給について1万円、職務手当について5万円及び調整手当について1万円をそれぞれ減額されたことについて、上記賃金減額は労働契約法8条に違反し、また、被告の給与決定に関する裁量権を逸脱したものであるから、無効であると主張して、ア月額賃金として基本給13万5000円、職務手当5万5000円及び調整手当8万0900円の支給を受ける労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、イ平成29年5月支払分から労働契約終了時までの間の差額賃金の支払を求め、(2)平成27年夏季賞与から平成29年年末賞与までの各賞与額を不当に減額されたことにより、本来支給されるべき賞与額との差額分の損害を受けたとして、又は精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償金の支払を求め、(3)被告代表者及び被告従業員からのパワーハラスメントにより精神的苦痛を受けたとして、労働契約上の就業環境配慮義務違反による債務不履行責任若しくは民法709条、会社法350条及び民法715条による不法行為責任に基づく損害賠償金並びにこれに対する不法行為日以降の日である訴状送達日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
1  前提事実(当時者間に争いがないか、各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  当事者
被告は、甘納豆や棒ジュースの製造販売等を営む株式会社であり、従業員数はパート勤務の者も含め約40名である(書証略)。
原告は、昭和34年生まれの男性であり、平成17年5月に被告に正社員として採用され、以後現在まで被告に在籍している者である(書証略)。
(2)  労働契約の締結
ア 原告は、平成17年5月、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結して被告に採用された。原告は、被告に入社以降、主として営業と配達業務に従事していたが、平成27年9月頃からは製造業務等に従事している。
イ 原告は、平成17年の入社時に、被告との間で、月額賃金について、基本給13万5000円、職務手当5万5000円、調整手当8万0900円、勤続給100円、通勤手当4100円及び満勤手当1500円の合計27万6600円と合意した。
原告の賃金支給は、毎月末日締め、翌月10日払いである。
ウ 原告は、入社以降、被告から、賃金として、毎月基本給13万5000円、職務手当5万5000円及び調整手当8万0900円を支給されてきた。原告の賃金は、過去に、平成28年4月支払分から職務手当及び調整手当が一旦減額された(以下、「前件賃金減額」という。)ことがあったが、原告申立ての労働審判及び訴訟における和解を経て、再び上記賃金額が支払われるようになり、その後は、平成29年4月支払分まで、賃金として、毎月基本給13万5000円、職務手当5万5000円及び調整手当8万0900円が支給されてきた(書証略)。
(3)  賃金の減額
被告は、平成29年2月28日、原告に対し、原告の賃金につき、平成29年4月分給与(同年5月支払分)から、職務手当2万円及び調整手当3万円の合計5万円を減額する旨通告した。原告が異議を述べたところ、被告は、同年3月31日、同年4月分給与から、基本給1万円、職務手当5万円及び調整手当1万円の合計7万円を減額する旨通告して、同年4月分給与以降、毎月7万円(内訳は上記のとおり)を減額した給与を支給(以下「本件賃金減額」という。)している。
(4)  賞与額の推移
原告は被告に入社以降、毎年夏季と年末に賞与の支給を受けており、原告の賞与額の推移は、平成24年から平成26年までの間は下記アのとおりであり、平成27年以降は下記イのとおりである。(書証略)
ア 平成24年夏季   23万5000円
同年年末   24万0000円
平成25年夏季   18万5000円
同年年末   24万0000円
平成26年夏季   18万5000円
同年年末   16万0000円
イ 平成27年夏季   15万0000円
同年年末   8万0000円
平成28年夏季   3万0000円
同年年末     5000円
平成29年夏季   1万5000円
同年年末     3000円
(5)  給与規程の定め
被告の給与規程には、以下の定めがある。(書証略)
第3条 従業員の給与の種類は、次のとおりとする
(1) 所定内月例給与
① 基本給 職能給
年齢給
② 職務手当
③ 調整手当
④ 家族手当
⑤ 通勤手当
(2)、(3)略
(4) 賞与
第5条(基本給)
1  基本給は、職能給と年齢給で構成する。
2  職能給は、社員の職務遂行能力を評価して決定する。
3  年齢給は、社員の年齢に応じて決定する。
4  基本給は、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき運用し、実際に勤務した労働時間に対して支給する。
第6条(職務手当)
部下の管理指導の職務を担当する者に対して、職責に応じた職務手当を支給する。
職務手当の金額 担当部署および管理能力を評価し決定する。
第7条(調整手当)
基本給に付加する必要がある者に対して、調整手当を支給する。
第26条(賞与)
賞与は、会社の業績に応じ、夏季および年末に支給する。ただし、会社の業績によっては賞与を支給しないことがある。
第27条(賞与の算定期間)
夏季賞与の算定期間は、前年12月1日から当年5月31日までとする。
年末賞与の算定期間は、当年6月1日から当年11月30日までとする。
第28条(賞与の算定)
1  賞与は前条に定める算定期間における会社の業績、社員の勤務成績および出勤率を勘案して査定するものとする。
2  前項により賞与を算定する場合の算定基礎額は、基本給に職務手当と調整手当を加えた額とする。
第29条(賞与の受給資格)
賞与の受給資格者は、第27条の算定期間の末日に在籍し、かつ賞与支給日現在在籍する社員とする。
2  争点及び争点に関する当事者の主張
(1)  本件賃金減額の有効性
(原告の主張)
ア 原告は、平成17年に被告に入社する際に、被告との間で、月額賃金につき、基本給13万5000円、職務手当5万5000円、調整手当8万0900円、勤続給100円、通勤手当4100円、満勤手当1500円の合計27万6600円と合意した。
労働者の賃金は、労働契約における極めて重要な労働条件であり、原則として労働者の同意なくして変更できない(労働契約法8条)ところ、原告は、本件賃金減額に同意していない。
イ 使用者が労働者の同意なく労働者の賃金を一方的に減額するには、少なくとも就業規則においてあらかじめ減額の事由、その方法及び程度等につき、具体的かつ明確な基準が定められていなければならないところ、被告の就業規則及び給与規程は、給与の減額規定を置いていない。また、被告の給与規程では、基本給、職務手当及び調整手当の決定方法について一応の定め(給与規程5条ないし7条)を置いているが、その内部は抽象的であり、給与の変更の方法・程度については、何ら具体的かつ明確な基準がない。よって、被告の給与規程の定めは本件賃金減額の根拠とならない。
ウ なお、仮に、使用者に給与決定に関する裁量権があるとしても、本件賃金減額は給与決定に関する使用者の裁量権を逸脱濫用している。被告においては、これまで原告以外に給与を減額された従業員はおらず、本件賃金減額は、適正な査定を経ずに被告代表者の主観的かつ恣意的な判断によってなされたものである。
即ち、平成27年2月6日頃、被告において、賞味期限切れの近い商品を詰め替えようとする問題が発覚し、その際、原告は、現場担当者に、それは良くないと言ったことがあったが(以下「商品詰替問題」という。)、それ以降、被告代表者は原告を恨むようになった。
原告の給与や賞与の減額は、被告代表者の原告に対する意趣返し又は嫌悪の情に基づいて行われたものであり、使用者の賃金決定の裁量権を逸脱濫用したものである。
エ 以上によれば、本件賃金減額は違法であり、無効である。
したがって、原告は、被告に対し、労働契約に基づき、基本給として月額13万5000円、職務手当として月額5万5000円及び調整手当として月額8万0900円の支給を受ける権利を有する。しかるに、被告は、平成29年4月分給与から、基本給1万円、職務手当5万円及び調整手当1万円の合計7万円を減額した賃金を支給しているから、原告は、被告に対し、同月分以降の賃金について7万円の支払を求める権利を有する。
(被告の主張)
ア 原告が、平成17年に被告に入社する際に、被告との間で、月額賃金について、原告主張の内訳のとおり、合計27万6600円と合意したことは認める。
もっとも、被告の給与規程では、基本給は職能給と年齢給で構成され、職能給は従業員の職務遂行能力を評価して決定する(給与規程第5条)と、職務手当は、部下の管理指導の職務を担当する者に対して、管理能力を評価し決定する(同第6条)と、調整手当は、基本給に付加する必要がある者に対して支給する(同第7条)とされている。
しかるに、原告は、イに主張するとおり、職務遂行能力は著しく劣り、部下はおらず、管理指導の職務もない。調整手当の規定にいう「基本給に付加して支払う必要がある」場合というのは、特に優秀な中途採用社員を採用したい場合等に、年齢等を考慮するとその給料が低くなってしまうため、他社と待遇を合わせることによって、上記社員を確保するために、これを付加して支払うような場合をいうが、原告にはそのような事情はない。
イ 原告の賃金を減額したのは、原告の職務遂行能力に照らすと、原告の賃金が不当に高いからである。最初に原告の賃金を高額に設定したのは、原告を入社させた被告の前代表者であるが、同代表者がいた当時から、原告の給与に対する他の社員の不満は強かった。
被告は、原告が、高額の賃金を得ているにもかかわらず、その職務遂行能力は他の従業員に比べて突出して劣るため、平成28年に、一度、原告の月額賃金から5万円を減額した。しかし、賃金減額に納得しない原告が労働審判を申し立て、その審判に対し不服のあった被告が異議を申し立てて訴訟に移行したが、その訴訟において、原告と被告は、原告の賃金額について原告の訴えに沿った内容の和解をした、原告は、上記和解において、その賃金額に見合った労務を提供するよう努めることを約束した。上記和解後、被告としては、原告に賃金額に見合った労務を提供してもらうべく、原告を甘納豆の製造作業に従事させ、被告代表者やベテランの従業員らにより数か月間に亘って指導したが、上記ベテランの従業員らによる原告の評価は「使い物にならない。」というものであったため、被告は、被告代表者の指導経験及び上記従業員らの意見をもとに、原告を甘納豆製造工程には従事させられないと判断し、原告の給与を平成29年5月支払分から7万円減額した。また、他の商品であるジュースの製造・梱包現場においても、原告はパート社員の補助がなければ作業ができない状態である。
上記のとおり、原告は、被告の戦力に全くなっておらず、原告の給与は、7万円の減額をしてもなお、他の正社員との比較において高いといわざるを得ない状態である。
ウ なお、商品詰替問題は、被告代表者が、賞味期限を延長することを従業員に対し相談したところ、従業員が反対したからこれを止めたというものであり、原告の主張するような問題ではなかったし、同問題により、被告代表者の原告に対する対応が変わったということもない。よって、本件賃金減額は原告に対する意趣返しや嫌がらせとして行われたものではない。
エ よって、本件賃金減額は有効である。
(2)  賞与減額についての被告の不法行為責任の成否及び損害額
(原告の主張)
ア 原告は、被告との間で、賞与の額について合意はしていないものの、平成17年の入社以来、平成26年まで他の社員と同様に平均的水準の額の夏季賞与と年末賞与の支給を受けてきた。しかし、被告は、平成27年2月の商品詰替問題後、原告に対する態度を急変させ、平成27年夏季賞与以降、前記第2の1(4)記載のとおり、原告の賞与額を一方的に減額した(以下、平成27年夏季賞与以降の原告の賞与の減額について「本件賞与減額」という。)。
本件賞与減額は、被告の恣意によるものであり、原告の賞与に関する法的保護に値する利益を故意に侵害するものであるから、被告は、民法709条に基づき不法行為責任を負う。以下詳述する。
イ(ア) 原告には、被告の賞与支給に関する給与規程並びに賞与算定方式及び賞与支給に関する長年の労使慣行に基づき、他の社員と同様に平均的水準の賞与支給を受ける権利又は法的利益があるというべきである。
すなわち、被告の給与規程の第28条1項は、賞与について、「算定期間における会社の業績、社員の勤務成績及び出勤率を勘案して査定するものとする。」としており、同条2項は、「前項により賞与を算定する場合の算定基礎額は、基本給に職務手当と調整手当を加えた額とする。」と規定している。被告代表者は、尋問において、賞与の算定については、前代表取締役当時の賞与支給基準を参考に、被告の業績、従業員の作業内容・責任度合、勤怠状況等を考慮して算定すると供述している。被告においては、概ね前代表取締役の時代から長年に亘って安定的な賞与の支給を実施してきており、現在の被告代表者に変わった後も、そのような定着した実績を継承してきた。
しかるに、原告の賞与額は、前記のとおり、平成27年夏季賞与以降、次第に減少しているところ、他の従業員らの賞与の支給状況と比較すると、原告の賞与のみが著しく低く査定されている。即ち、被告従業員が被告から支給を受ける月額の基本給、職務手当及び調整手当の合計額を算定基礎額とし、その算定基礎額に対する賞与額の割合を賞与支給率(以下、上記算定基礎額に対する賞与額の割合を「賞与支給率」という。)とすると、原告の賞与支給率と、被告に在籍する原告以外の正社員(途中入社の者を除く。以下「他の正社員」という。)の賞与支給率の平均値(以下「平均賞与支給率」という。)の推移は下記のとおりである。

〈賞与時期〉   〈他の正社員の   〈原告の
平均賞与支給率〉  賞与支給率〉
平成27年夏季     61.23%     55.37%
年末     57.80%     29.53%
平成28年夏季     84.82%     11.07%
年末     60.27%      1.85%
平成29年夏季     84.32%      5.54%
年末     50.74%      1.11%
以上のとおり、原告の賞与支給率は、被告の他の正社員の平均賞与支給率と比べ、著しく低いうえ、その差は年々拡大している。
そして、被告の給与規程に賞与の算定項目として挙げられている各項目に照らしてみても、「会社の業績」は概ね順調であること、原告の「出勤率」は100%であること、原告の「勤務成績」についても格別懲戒処分を受けるような事情はないこと、また、被告代表者が賞与の算定要素として挙げる「作業内容と責任度合い」についても、被告は、前記のとおり、商品詰替問題の意趣返しとして、原告を製造部門に配置転換したものであるから、上記項目について低い評価をすることは公正を欠いている。
したがって、原告は、被告における他の正社員の平均的レベルの賞与の支給を受ける権利又は法的利益を有するというべきである。具体的には、原告の賞与算定基礎額である月額の基本給、職務手当及び調整手当を加えた合計額に、他の正社員の平均賞与支給率を乗じた額の支給を受ける権利を有するというべきである。
(イ) そして、被告は、原告の賞与を恣意的に減額したものであるから、本件賞与減額は、原告の前記内容の賞与受給権を侵害する不法行為に該当する。本件賞与減額による損害額は、上記のとおり算定した原告の得べかりし賞与額から、実際に原告に支給された賞与額を差し引いた額である。
したがって、原告の賞与損害額は、以下の計算式のとおり、合計79万8376円となる(円未満切捨て)。
賞与  賞与平均 実際の  損害額
基礎額 支給率  支給額
平成27年夏季 270,900×0.6123-150,000= 15,872
年末 270,900×0.5780- 80,000= 76,580
平成28年夏季 270,900×0.8482- 30,000=199,777
年末 270,900×0.6027- 5,000=158,271
平成29年夏季 270,900×0.8432- 15,000=213,422
年末 270,900×0.5074- 3,000=134,454
原告の賞与損害合計額   798,376
ウ(ア) 仮に、原告について、上記イに主張するような内容の他の正社員の平均的レベルの賞与支給請求権又は法的利益が認められないとしても、原告は、賞与の査定及び算定に当たり、使用者による平等取扱いを受ける法的権利又は利益を有する。
被告は、商品詰替問題以降、原告を嫌悪し、合理的根拠なく原告に対する不当な賃金減額等の処遇を行ってきたものであり、本件賞与減額も、被告の賞与に関する裁量権の限界を著しく逸脱し、原告の賞与に関する上記原告の権利又は法的利益を故意に侵害するものであるから、不法行為に該当する。
(イ) 原告は、前記不法行為により多大な精神的損害を被った。これによる原告の慰謝料は79万8376円を下回らない。
エ 以上により、原告は、本件賞与減額につき、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権として、79万8376円の支払を求める。
(被告の主張)
ア 被告が、原告の賞与だけを恣意的に減額したような事実はなく、本件賞与減額について、被告の不法行為は成立しない。
被告においては、前代表者によると2億円以上もの不適切な多額の借入金が現在も財務を圧迫している状況であり、赤字決算が続いている。被告のような中小零細企業では、本来賞与を出したくても出せないが、そうすると有能な人材を失うことになるため、寸志や金一封は出さざるを得ないのであって、原告だけを特に恣意的に減額しているわけではない。
イ(ア) 原告が、被告における他の正社員の平均的レベルの賞与の支給を受ける権利又は法的利益を有することについては、否認し、又は争う。
そもそも、賞与は会社の業績によっては全く支給できない場合もありうるのであって、賃金と同視することはできない。
また、被告には賞与を算定する具体的な計算式はない。被告における賞与は、会社の業績や社員の能力、勤務成績、職務の達成状況等を勘案して査定するものであるところ(給与規程参照)、これらを厳密に査定すると、前記のとおり職務遂行能力の著しく低い原告に対しては、賞与の支給はあり得ない状況である。
被告においては、前代表者時の賞与支給基準を参考に、①査定期間内の会社業績、②査定期間内の従業員の作業内容、責任度の度合い、③査定期間内の勤怠状況、④査定期間内の作業グループ作業員との協調性、⑤社員に対する会社の必要性を考慮して算定している。
被告従業員の賞与額は、会社の業績から算定した支払可能な会社全体の賞与金額枠内で、具体的に従業員ごとに金額で算定しており、各自の業務遂行実績に基づいて算定しているから、そもそも、他の正社員との比較において原告の得べかりし賞与額というものはない。
被告では、原告を営業部門から製造部門に配置転換して以降、原告に長期間指導員をつけて、原告の賃金に見合った作業ができるように計らったが、原告は全く技術向上がなく、製造補助者を抜け出ることはできなかった。原告は、配転後2年目でも一人で作業できず、ミスが多いなどおよそ信頼できず、製造の現場で稼働させることは危険な状況である。
したがって、原告に対する賞与支給額は、他の従業員よりも低くならざるを得ず、原告の賞与額が前年度より下がったとしても、原告の会社に対する貢献度や勤務態度から判断されたものであって、被告の会社経営上の判断である。よって、本件賞与減額に違法・不当の問題はなく、不法行為を構成するものではない。
なお、前記主張のとおり、被告においては、原告の主張するような商品詰替問題はなかったのであり、被告は意趣返しとして、原告の配置転換や本件賞与減額を行ったものではない。
(イ) 前記のとおり、原告には、被告の他の正社員の平均的レベルの賞与の支給を受ける権利はないから、これを侵害されたことによる損害は発生しない。
ウ 前記のとおり、被告が、原告の賞与額を恣意的に減額している事実はない。原告は、製造現場において、職務遂行能力が劣るため、低い査定となり、賞与の支給額が低下した。
したがって、被告は賞与に関する裁量権の限界を逸脱しておらず、原告の賞与に係る権利又は法的利益を侵害していない。
よって、本件賞与減額について被告の不法行為責任は発生しない。
(3)  パワーハラスメント行為の有無及び被告の損害賠償責任の有無
(原告の主張)
ア 被告代表者は、前件賃金減額の訴訟において原告と和解した平成28年8月8日以降、原告に対し慣れない業務を押しつけ、それが迅速に遂行できないなどとして罵声を浴びせたり、原告を小突いたりする行為を繰り返し、原告の業務遂行等に関して様々なパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)をした。被告代表者は、商品詰替問題に対する意趣返しとして、上記パワハラを行ったものである。被告代表者及び被告従業員が原告に対し行ったパワハラの詳細は、別紙「パワーハラスメント一覧表」(以下「別表」という。別表略)の「原告の主張」欄記載のとおりである。別表の番号11(以下、別表記載のパワハラ行為については、「別表1」等、別表の番号で示す。別表略)23、28の被告代表者の行為は、原告に対する身体的な攻撃であり、同1ないし4、6ないし10、15、16、18、19、22、29、30、31、33等の被告代表者や被告従業員の行為は、原告に対し、解雇等の失職の可能性を示唆するなどして、原告の人格を著しく否定し、適正な指導の範囲を逸脱する行為であり、原告に対する精神的な攻撃に当たる。また、被告代表者の上記各行為及びその他の行為は、原告に過大な要求をしたり、他の従業員との関係を悪化させて原告を孤立させたりする行為であり、違法なパワハラに当たる。被告代表者は、原告の給与が他の従業員よりも高いことを理由に、製造作業において他のベテラン従業員と同程度の能力を要求しており、これは原告に対する過大な要求といえる。さらに、被告代表者は、原告以外の被告従業員に対し、本件訴訟における原告の主張内容等を明らかにしたり、被告代表者の作成した質問状を示してこれに署名押印させたりしており、これらの行為は、原告を他の従業員から隔離しようとする行為である。さらに、被告代表者は、平成29年8月から平成30年2月までの間、原告を製造の現場から外し、工場内外の清掃等の作業に従事させたが、このような行為は、原告を被告の従業員から隔離し、また、原告の能力とかけ離れた程度の低い作業を命じるものである。
被告代表者による上記行為は、被告が原告との労働契約に基づいて負担する就業環境配慮義務に違反する行為であり、被告は原告に対し、債務不履行責任を負う。また、原告主張のパワハラ行為は、いずれも原告の人格及び利益を害する不法行為に該当するところ、これらの行為は、被告代表者を中心に、他の従業員も関与して、会社ぐるみで行われたものであるから、被告は、民法709条に基づく損害賠償責任を負うほか、被告代表者の不法行為について会社法350条に基づく損害賠償責任を、被告従業員の不法行為について民法715条に基づく損害賠償責任を負う。
イ 原告は、被告代表者及び被告従業員のパワハラ行為により、心身ともに疲労して体調を崩して、深刻な精神的苦痛及び肉体的苦痛を受けたものであって、その慰謝料は300万円である。
(被告の主張)
ア 被告のパワハラ行為の存在について否認し、又は争う。被告代表者又は被告従業員が原告に対し行ったパワハラ行為の有無につき、原告の主張に対する被告の認否及び反論の詳細は、別表(略)の「被告の主張」欄記載のとおりである。
被告代表者が、原告に対し、暴力的言動、暴言及び過酷な業務等の嫌がらせをした事実はない。被告代表者は、原告に対し、「辞めさせる」「クビにする」「代金を支払え」「仕事ができないなら他に従業員を雇う」などと言ったことはない。原告は、前件賃金減額の訴訟における和解で、その給与額に見合った労務を提供するよう努めることを約束したので、被告代表者としては、上記労務の提供を受けるべく、製造作業において、原告を自ら指導したり、ベテランの従業員2名に指導を依頼したりして、他の従業員以上に手厚く研修及び指導をして、何とか原告を一人前の従業員にしようとした。しかし、原告は同じ失敗を繰り返した。また、原告は被告代表者や他の従業員の指導に従おうとせず、自分に非があっても言い返すなどして、被告代表者らの指導に反抗的な態度をとった。何回も教えたが作業ミスを繰り返した場合に、始末書、改善報告書や作業手順書の提出を求めるのは当然である。作業手順書は従業員全員に記載させている。被告代表者は、原告に過大な要求などしていない。原告は、原告よりも指導時間の少ないパートの新入社員でもできることをできないのである。
イ 損害額について争う。
第3  争点に対する判断
1  本件の経緯並びに原告の賃金及び業務の状況等
前記前提事実、当事者間に争いがない事実、証拠(文中に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、本件の経緯並びに原告の賃金及び業務の状況等として、以下の事実が認められる。
(1)  原告は、平成17年5月、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結して被告に採用された。原告は、上記被告の入社時に、被告との間で、給与の月額について、基本給13万5000円、職務手当5万5000円及び調整手当8万0900円と合意し、以降、上記給与額の支給を受けてきた。なお、当時の被告代表者は、現在の被告代表者の前の代表者である。
(2)  原告は、被告に採用されて以降、営業を担当し、主として営業及び配達業務に従事してきた。もっとも、原告が営業としての業務を行うのは、1か月に5、6日程度であり、それ以外は、配達、出荷や工場の手伝いをしていた。また、原告が営業を担当していた当時、原告に部下はいなかった。(証拠略)
(3)  平成24年7月、現在の被告代表者であるBが被告代表者に就任した。
(4)  被告は、平成27年5月頃、営業担当者として新たに契約社員を雇用し、これに伴い、原告は、営業の仕事が減って、同業務以外の出荷や配達等の業務の割合が多くなり、同年9月頃からは製造や出荷・配達業務に従事するようになった(証拠略)。
(5)ア  被告代表者は、平成28年3月2日、原告に対し、手書きのメモで、平成28年3月分給与(同年4月支払分)から、職務手当2万円及び調整手当3万円の合計月額5万円を減額する旨通告し、同月28日には、原告に対し、同年4月1日付で、営業部から製造部への異動を命じる旨、給与については、同年5月支払分より「調整給」及び「職能給」の合計より5万円を減額する旨の辞令を交付して、同月支払分より原告の賃金を減額した(前件賃金減額)(書証略)。
イ  原告は、平成28年4月、前件賃金減額の撤回を求めて、当庁に労働審判を申し立て(当庁平成28年(労)第34号)、同年5月30日の第2回労働審判手続期日において、①原告が、被告から、職務給月額5万5000円、調整給月額8万0900円の支払を受ける雇用契約上の地位を有することを確認する、②被告は、原告に対し、平成28年4月分の職務給2万円、調整給3万円の支払義務があることを認め、これを平成28年6月10日限り原告に支払う、③被告は、原告に対し、平成28年6月以降の賃金については、上記①及び被告の給与規程に従って支払うことなどを内容とする審判がされた(書証略)。
ウ  前記労働審判に対し、被告が異議を申し立て、訴訟に移行(当庁平成28年(ワ)第1733号、以下「前件訴訟」という。)したが、平成28年8月8日の和解期日において、原告と被告の間で、概要、①被告は、原告に対し、原告が、職務給として月額5万5000円及び調整給として月額8万0900円の支給を受ける労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する、②原告は、被告に対し、労働契約に基づき、月額28万1600円(基本給13万5000円、職務給5万5000円、調整給8万0900円、勤続給100円、通勤手当4100円、満勤手当1500円、家族手当5000円)に見合った労務を提供するよう努めることを約束する旨を内容とする和解(以下「前件和解」という。)が成立した(書証略)。
(6)  前件和解成立以降、被告は、原告に対し、基本給として月額13万5000円、職務手当として月額5万5000円、調整手当として月額8万0900円を支給していたが、平成29年2月28日、被告は、原告に対し、原告の賃金のうち、職務手当2万円及び調整手当3万円の合計5万円を減額する旨及び不服申立ては30日以内に申し出る旨を通告した。
これに対し、原告が、書面で異議を申し立てたところ、被告は、同年3月31日、減額内容を変更して、同年4月分の給与(同年5月支払分)から基本給1万円、職務手当5万円及び調整手当1万円の合計7万円を減額(本件賃金減額)すると通告した。被告が、本件賃金減額の通告に際し原告に交付した通知書には、原告に対する評価として、①「職務遂行能力」について、与えられた職務を他人の手助けなくしては遂行できていない旨、②「人材代替性」として、採用や配置転換によって代わりの人材を探すことができる旨、③「協調性」として、仕事を進める上で部門内の作業員との協調性がみられず、信頼されていない旨、④「経営への影響」として、製造補助ができず、会社全体の業績に大きく影響する仕事を任すことができない旨、⑤「基本姿勢」として、上司と作業することがあったが、同じ命令を出しても従わないため、「命令に従えないなら帰れ。」と言われ帰ったものであり、命令違反、職場放棄がみられた旨などが記載されており、上記評価により給与の改定を行う旨記載され、添付資料として、他の被告従業員らによる原告の評価表が添付されていた。(書証略)。
(7)  被告は、原告に対し、平成29年4月分以降、前記のとおり、基本給1万円、職務手当5万円及び調整手当1万円の合計7万円を減額した給与を支給している。
2  争点(1)(本件賃金減額の有効性)について
(1)  前記認定によれば、原告は、平成17年の入社時に、被告との間で、賃金について、基本給月額13万5000円、職務手当月額5万5000円及び調整手当月額8万0900円と合意したこと、その後、原告の賃金額は、平成28年4月分から一旦減額されたが、同減額について、原告が被告を相手方として労働審判を申し立て、その審判に対する異議を経て移行した訴訟において、原告及び被告間において、原告が、職務手当として月額5万5000円及び調整手当として月額8万0900円の支給を受ける労働契約上の権利を有する地位にあることを確認することなどを内容とする和解が成立したが、被告は、平成29年4月分の給与から、再び7万円を減額したことが認められる。
賃金の減額は、労働者にとって最も重要な労働条件の一つである賃金を不利益に変更するものであるから、労働者との同意によるか就業規則や給与規程上の明確な根拠に基づいて行われることが必要であり、使用者の一方的な行為によってこれを行うことは許されないというべきである。
前記認定によれば、本件賃金減額は、原告の同意なくされたものであることが認められ、また、被告の就業規則(書証略)及び給与規程(書証略)には、懲戒処分としての減給の定めがあるほかは、降格や減給についての規定はなく、本件賃金減額は懲戒処分としてなされたものではないから、本件賃金減額は、就業規則等に基づく処分や変更としてなされたものであるとも認められない。
そうすると、本件賃金減額は、原告の同意もないまま、就業規則等の明確な根拠もなく行われたものであるといえる。
この点、被告は、本件賃金減額の理由として、給与規程によれば、従業員の基本給は、職能給と年齢給で構成され、職能給は、社員の職務遂行能力を評価して決定するとされているところ、原告の職務遂行能力は著しく低いこと、職務手当は部下の管理指導の職務を担当する者に対して、職責に応じて支給するとされ、その金額は担当部署及び管理能力を評価し決定するとされているところ、原告に部下はいないこと、調整手当は、基本給に付加する必要がある者に対して支給するとされているところ、職務遂行能力の低い原告はこれに該当しないことを主張する。しかし、原告は、上記給与規程の存在下で、被告との間で、給与の基本給、職務手当及び調整手当の額について、個別的な合意をしているから、給与規程上の各手当についての上記定めを根拠にこれらを一方的に減額することはできないし、その点を措いたとしても、上記各手当に関する定めは、いずれも抽象的な定義又は算定要素を定めるにすぎず、算定方式等について具体的に定めるものではないから、上記給与規程の定めをもって、労働者の同意なく、賃金減額を許容する根拠になるとは認められない。加えて、被告が原告の職務遂行能力についていう点については、被告代表者の供述によっても、被告においては、本件賃金減額を除くと、一定の基準や手順を定めた査定等により各従業員の職務遂行能力を評価してそれぞれの基本給を決定しているとは認められないうえ、被告が本件賃金減額の根拠とする原告の評価も、給与規程に定める職務遂行能力を判断するための制度として、具体的な判断基準や金額幅等を定めた査定を行ったうえで得られたものであるとは認められないことに鑑みると、被告のいう原告の評価により、原告の賃金を減額することは、やはり就業規則等の明確な根拠を欠くものとして許されないというべきである。よって、被告の主張は採用できない。
また、被告は、原告が、前件和解において、給与額に見合った労務を提供するよう努めることを約束したが、未だに被告の戦力となっておらず、正社員としての労務提供が見込めないことや、原告の賃金が他の正社員よりも高額であることなども、本件賃金減額の理由として主張するが、上記事情は、労働者の同意なく賃金を減額する根拠とはならず、被告の主張は採用できない。
以上によれば、本件賃金減額は無効であるといわざるを得ない。
(2)  そうすると、原告の給与の月額は、基本給は13万5000円、職務手当は5万5000円、調整手当は8万0900円となるため、被告は、原告に対し、平成29年5月支払分以降、毎月10日限り、差額賃金の7万円の支払義務を負う。
そして、本判決確定後の将来請求分については、本件賃金減額が2回目の賃金減額であり、前件賃金減額に係る前件訴訟における和解成立からわずか半年余り後に行われたものであることや、被告代表者が、本件訴訟の尋問において、たとえ原告の給料を元に戻すという判決が出ても、また減額する旨供述していることを考慮すると、今後もこのような賃金減額を継続する蓋然性はあると認められるから、あらかじめその請求をする必要があり、適法であると認める。
(3)  さらに、原告は、原告の基本給として月額13万5000円、職務手当として月額5万5000円及び調整手当として月額8万0900円の支給を受ける権利を有する地位にあることの確認を求めている。確認の訴えは、特に確認の利益がある場合に限って許されるところ、確認の利益は、判決をもって、法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために有効かつ適切である場合に認められるものである。本件においては、前記のとおり、原告の賃金減額の無効を前提として賃金の差額の支払を求める給付訴訟が併せて提起されているが、前記認定の従前の経過や被告代表者の態度に鑑みると、被告が、今後も減額の内訳の変更も含めて賃金減額を繰り返す蓋然性が相当程度あり、本件賃金減額に係る給付請求が差額分の支払を求めるに止まっていることを勘案すると、一定の賃金(その内訳を含めて)の支払を受ける労働契約上の地位を有することを確定することは、継続的契約関係である労働契約における本件賃金減額に係る紛争を解決する方法として有効適切であるといえるから、上記確認の訴えの利益はあるというべきである。
よって、本件訴えは適法というべきであり、前記認定によれば、上記確認の訴えはこれを認めることができる。
3  争点(3)(パワーハラスメント行為の有無及び被告の損害賠償責任の有無)について
事案に鑑み、先に争点(3)について検討する。
(1)  前記前提事実、第3の1の認定事実、当事者間に争いがない事実、証拠(各項に掲記)及び弁論の全趣旨によれば、被告の商品製造現場の状況、同現場における原告の稼働状況及び被告代表者の言動等として、以下の事実が認められる。
ア 被告は、菓子及び清涼飲料水の製造及び販売を行っており、春から夏にかけては、主に棒ジュースの製造及び販売を、8月中旬頃から翌年2月頃にかけては、主として甘納豆の製造及び販売を行っている(証拠略)。
イ 原告は、被告において、当初は、主として営業を担当しており、その頃から製造現場の手伝いに入ることがあったが、当時は、主として、棒ジュースの製造時期は製造及び出荷を、甘納豆の製造時期は配達及び出荷を手伝っていた(証拠略)。
ウ 原告は、平成27年5月頃から9月頃にかけて、担当業務が営業から工場での製造・包装及び出荷等に変更になり、棒ジュースの製造時期は、専ら同製品の包装・梱包の業務に従事した。また、原告は、前件和解後の平成28年8月中旬頃から、甘納豆の製造作業に従事するようになった。原告は、それまで甘納豆の製造に関わったことはなかった。(証拠略)
エ 被告代表者は、平成28年6月15日頃、原告に対し、「本日のダンボール、ジュースの用意は、30分で終わるはず! 次の日何をしたらいいかわからない時は必ず事務所に聞きに行って用意しなさい! 14日は15:00に包ソー終了後何をしたん! 社長より」と手書きで記載したメモを交付した(書証略)。
オ 被告代表者は、平成28年8月中旬頃から原告を甘納豆の製造業務に従事させるに当たって、当初は、被告代表者が仕事の手順や作業方法等を指導し、その後は、製造業務のベテラン従業員の自見(以下「自見」という。)とC(以下「C」という。)に原告を指導させた。原告の指導は、同年9月中旬頃までは、主として、自見がマンツーマンで行い、その後は、主としてCが行った。(証拠略)
カ 原告は、平成28年8月以降、毎日終業後に、当日の業務等を記録した日報(以下「業務日報記録」という。)を自宅のパソコンで作成し、翌日、これに基づき作成した業務日報を被告に提出していた。もっとも、同年9月8日頃から平成29年2月24日頃までは、概ね毎日、当日の作業内容及び時間等を記録した蜜漬生産日報(以下「蜜漬生産日報」という。)を作成して、被告に提出しており、同日報を提出した時は、業務日報は提出しなかった。原告は、業務日報記録にその日の業務内容及び被告代表者や自見ら他の従業員の言動等について記録していた。(証拠略)
キ 被告代表者は、原告に対し、平成28年11月7日に、「◎何月までに実行終了か明記するように。◎石の上にも3年では、戦力にはなりません。B」と手書きで記載したメモを、同月9日に「・目標達成月を書いてくるように・3回目の時に水煮豆をつける作業を同時に行う・毎日の作業進歩具合の報告書を提出する」と手書きで記載したメモをそれぞれ交付した(書証略)。
ク 原告は、平成28年11月9日、被告代表者宛てに「手順書と自己評価の件」と題する書面を作成して提出したが、同書面のなかで、「時間の短縮については、ある程度の慣れと、熟練を要しますので、申し訳ありませんが、いつまでとは約束はできません。努力を続けます。ということで、ご容赦ください。」「現状の私の作業内容について、社長以下皆さんのご批判は、真摯に受け止めています。今後もご指導よろしくお願い致します。」「あとお願いがあります。怒鳴られながら指導されると、足がすくみ、頭も真っ白になって、今までの作業も、やっていた事が吹っ飛んでしまいます。なにとぞ、怒鳴らずにご指導お願いします。」「会議の席上では、『言い訳ばかりして!』と言われ、何も発言できませんでした。申し訳ないですが、ご容赦ください。」と記載した(書証略)。
被告代表者は、同月15日頃、「努力を続けますでは、何の進展もなく、今の仕事を他の人と同じように出来ないと判断せざるを得ません!期日を設けて下さい。◎約4か月、毎日同じ事をして時間の短縮が出来ないのは?でしょうか。慣れとは違うような気がします。○人には出来ない事があります。A君は出来ない事をいかにも出来そうに言うのはおかしいですよ。○毎日の作業日報に進展状況を書いて提出するように!○工夫・改善が出来ないなら今の仕事はいつまでたっても早く出来ませんよ!いつまで指導してもらうつもりですか。」と手書きで記載したメモを原告に交付した。(書証略)
ケ 原告は、平成28年11月11日、釜に注水する作業時に、本来、ホースに計量器を付けて注水すべきところ、計量器を付けずに注水をし、これを被告代表者に見咎められた。
また、原告は、平成29年1月6日、被告が傍にいる際に、機械のスイッチを押し間違える失敗をした。(書証略)
コ 原告が、前記のとおり作成して被告に提出していた蜜漬生産日報の備考欄には、原告や原告を指導していた自見が時折コメントを記載することがあったところ、自見は、平成28年11月8日の同日報には「9月からまったく進展なし」(書証略)と、同月9日の同日報には「朝早くする努力はしていません。」(書証略)と、同月15日の同日報には、原告の「期日については、いつとはいえない」のコメントに対して、「もう豆の仕事ができないのでは?給料高い人がこんな事ばかり書いて話になりません」とのコメントを記載(書証略)し、同月17日の日報に「たった20釜何時間してるのですか?あなたの給料でこの仕事で良いのですか?」と記載し、同コメントに対し、原告が「青えん、中釜のあんこ取りに時間がかかった。進展はありません。給料は関係ありません。」と記載したのに対し、「給料は関係あるのではないですか?」と記載(書証略)した。
また、原告は、同月11日の同日報の備考欄に、「水入れの時、計量コックを使用していなかった。社長にひじで胸をどつかれて注意された。私の不注意なので今回は痛かったががまんする。」旨(書証略)、平成29年1月31日の同日報の備考欄に、「10時ころ社長にいきなり背中をどんとどつかれた。痛かった。どつかないで欲しいこと、手かげん知らないなら私の体にさわらないで欲しいこと伝えた。いやならやめろとのこと。やめる気ないので返事はしない。裏のバルブ(真空の)を動かしたのがいけないとのこと。」等と記載した(書証略)。
(2)  前記認定によれば、原告は、平成28年8月以降、毎日の業務内容等を記録した業務日報記録を自宅で作成し、蜜漬生産日報を作成・提出していた時期を除いて、上記記録に基づき作成した業務日報を翌日被告に提出していたことが認められる。
上記業務日報記録には、その日の業務内容や被告代表者及び他の従業員の言動や同人らと原告とのやりとり等が時系列に沿って詳細に記載されているところ、その内容は、本件パワハラ行為に関わる事実以外の点も含めて相当に具体的であり、特段不自然な点は見当たらない。そして、業務日報記録に基づき作成された業務日報については、これを被告に提出していた期間中に、被告代表者において、特段その記載内容について異議を唱えたり、訂正を求めたりした形跡はうかがえない。また、蜜漬生産日報については、原告がその職務上作成して被告に提出していたものであるうえ、その記載内容に対して被告代表者が異議や抗議を申し立てたことはうかがわれないことを考慮すると、その信用性は比較的高いと考えられるところ、原告作成の業務日報記録は、平成28年11月11日に原告が被告代表者から肘で突かれた出来事をはじめとして、蜜漬生産日報の記載と一致している点が多いことが認められる。以上の事情を併せ考慮すると、業務日報記録及び蜜漬生産日報の記載内容は概ね信用できるというべきである。
(3)  以上を前提に、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告主張のパワハラ行為について、以下の事実が認定できる。原告の陳述書及び本人尋問における供述のうち前記認定と異なる部分については、その裏付けとなる的確な証拠はない。
ア 平成28年8月11日(以下、特に断りのない限り、日付は平成28年のものである。)
被告代表者は、原告に対し、「誰もあなたと仕事をしたがらない。あなたと一緒に出来る仕事がないと皆がいっている。」「裁判の和解で、あなたは今後給料に見合う仕事をするという約束をした。」「私はあなたのことを全く信用していない。」「来年の3月になって、私が給料に見合う仕事ができていないと判断したら、今後も同様にあなたの給料を減額する。」「あなたは私に全く挨拶もしない。私を無視し続けるということは、会社をないがしろにしていると判断して、あなたを解雇することもできる。」と言った。
イ 8月17日
原告が、甘納豆の製造現場で自見の蜜入作業の見習いをしていた際、自見が、原告に対し、「作業は1回しか教えない、社長に言われている。1回で覚えてね。」と言った。
なお、被告代表者が、自見に対し、上記指示をしたことを認めるに足りる証拠はない。
ウ 8月19日
原告が作業を見習っている自見とともに休憩を取っていたところ、自見が、原告に対し、被告代表者から「お前は休んで良いがAは休ませるな。」と言われていると話した。
被告代表者は、自見に対し、原告にはトイレ休息以外はさせないようにと言っていた。(なお、業務日報等によれば、原告が、実際に、トイレ休憩以外に休憩をとれなかったことまでは認めるに足りない。)
エ 8月24日
原告が自見の作業を見習っている際、自見が原告に対し、被告代表者が、原告について、奴は給料が高い、厳しく教えろ、途中の休憩は取らせるな、辞めさせてもかまわん旨他の従業員に話していると言った。
オ 8月25日
原告が30キログラムの砂糖袋を担げなかったので、自見が、被告代表者に砂糖を分けて入れる方法を提案したが、被告代表者はこれを認めず、同袋を持って入れさせるよう指示した。自見は、原告に対し、被告代表者から絶対に担いで入れさせるよう指示された旨話した。
カ 9月30日
被告代表者、原告、自見、C及び製造現場の従業員であるD(以下「D」という。)の5名で打ち合わせをした際、被告代表者が、原告に対し、今の仕事ができないなら、他の人と交代させると言った。
キ 10月25日~10月27日
10月25日に、被告代表者が、午後に40分間程度、原告の作業に付き従って指示を出し、「作業が遅い。段取りが遅い。」等と強い口調で言った。10月26日午前も、被告代表者が、原告の作業に立ち会い、強い口調で指示し、時に、「何でそんなことをやっている、誰が教えた。」等と怒鳴った。10月27日午前も、被告代表者が原告の作業に立ち会って、強い口調で指示を出し、作業のスピードに付いていけない原告に対し、何度も「遅い、急げ、給料を下げるぞ!」と怒鳴るなどした。
ク 11月4日
被告代表者、原告、自見、C及びDと打ち合わせをした際、被告代表者が、原告に対し、「とにかく作業が遅い、給料分の仕事をしていない」旨告げた。被告代表者は、このままの状態が続くなら給料を下げる旨話し、作業の手順書及び自己評価を書面にして提出するよう指示した。原告は、上記書面を11月9日に提出した。
ケ 11月7日
原告が、被告代表者の指示に従って11月4日に作業の手順書、自己評価及び時間短縮等の作業目標を記載した書面を提出したところ、被告代表者は、原告に対し、作業目標の実行時期を明記するように指示した(書証略)。
コ 11月9日
被告代表者は、原告に対し、毎日の作業の進歩状況を報告する作業報告書を提出するよう指示した(書証略)。
サ 11月11日
原告が、火上げをした釜にホースで水を注入する作業をした際、本来であれば、ホースの先に計量器を付けて作業すべきところ、原告は、これを忘れて計量器を付けずに水を注入していた。上記作業時に被告代表者が作業場に入ってきたため、ミスに気付いた原告が作業を中断して、被告代表者に謝罪しようとしたところ、被告代表者が、「何をしている、そんなこと誰が教えた」などと怒鳴り、肘で原告の胸を突いた。
シ 11月18日
原告が午前8時頃からさつま芋の輪切りの作業をしていたところ、午前8時30分頃に、被告代表者がやってきて、この作業は9時30頃で終わるはずである旨言い、切る時は2本ずつ切るようにと指示した。
また、原告が甘納豆のお好み合わせの作業をしているところに、被告代表者がやって来て、原告に対し、1時間に3パレット作るように指示した。
ス 11月21日
原告が火上げをした30釜のうち1釜の豆が腐敗していた。被告代表者は、腐敗の原因は、原告が蜜漬けの時に水を混入させたのが原因と言い、原告は、身に覚えがないと答えたが、被告代表者は、それしか考えられないと言った。
セ 11月28日
原告がお好み合わせの作業をしている時、被告代表者が、役に立たないので芋切りをするよう怒鳴った。芋がなかったため、自見の指示でお好み合わせの作業に戻ると、被告代表者は「1時間に3枚!」と怒鳴った。
ソ 11月29日
原告が蜜漬けの作業をしているところに被告代表者がやって来て、「A君、いつまでたっても進歩がない。いよいよできなければ辞めてもらうしかない。」と怒鳴った。
タ 11月30日
原告がCの作業を見学しているところに、被告代表者がやって来て、Cの作業を逐一記帳するよう指示し、記帳したとおりの作業ができなければ辞めてもらう旨告げた。また、Cと原告の作業の違いを報告書で提出するように指示した。原告は、12月1日に上記報告書を提出した。
チ 12月2日
被告代表者が、原告に対し、昨日の原告の1回目の蜜漬作業と、本日のCの指導による蜜漬作業とを比較して、どのくらい時間が短縮されたのかについて報告書を出すよう指示した。
ツ 12月15日
被告代表者に、原告の前日の作業について、原告が小豆の蜜を誤って金時豆に入れたため金時豆が黒くなった旨の報告があり、原告が被告代表者に謝罪したところ、被告代表者は、原告に対し、「誤ってすむことではない!」「27万の給料を貰っている者の仕事ではない」「これが裁判までやって給料を守った者の仕事か」「給料を下げて下さいと言え!」「もうこの仕事はできませんと言え。そうすればお前をクビにして、新しい人間を雇う」等と怒鳴った。
テ 12月20日
金時豆の色が黒くなった件について、被告代表者は、原告に対し、「蜜の代金をお前が払え。始末書も書け。」と怒鳴った。
ト 12月21日
被告代表者は、原告に対し、「仕事が遅い。ミスばっかり起こす」などと言った。
ナ 12月24日
午前11時頃、体調不良を感じた原告が被告代表者に早退を申し出たところ、被告代表者は、午後からやってもらう仕事があるとして早退を認めなかった。
ニ 12月28日
被告代表者、原告、C、自見及びDを交えた会議で、被告代表者は、11月から12月にかけて、金時豆が黒くなって蜜を廃棄するなど原告の責任による不良がたて続けに発生しているとして、来年1月からは、これまで原告がやっていた仕事はCが行って、原告はCの補佐をするように指示した。また、被告代表者は、以前、金時豆が黒くなった際に、原告が真空糖度濃縮機の裏のコックの操作を知らなかったと述べたことを取り上げて、原告は、裏を返せば自見やCが悪いと言っているのも同然であるとか、教えてもらってないから分からない、私の責任ではないというのは、向上心がない、女より悪い。女の従業員もそんな言い訳はしないなどと言った。
ヌ 平成29年1月6日
作業中、原告が機械の操作を間違えた。原告はすぐにスイッチを押し直したが、傍らにいた被告代表者は、原告の背中を叩いて、お前、今何をした、間違っただろうと怒鳴った。
ネ 平成29年1月10日~同月13日
平成29年1月10日、原告が、右手の腱鞘炎様の痛みのため早退して病院を受診したところ、医師から2週間程度の安静と加療を要する旨の診断を受けた。原告が被告代表者に対し報告したところ、被告代表者は、原告のできる作業をCと相談するよう指示した。
同月11日、被告代表者は、原告に対し、屋外の斜面に生えた雑木を伐採するよう指示し、原告は、伐採作業を行った。
同月12日、原告は、朝からCとともに火上げ(30釜)、火上げした釜(30釜)への水の注入、豆の蜜漬け(30釜)などの作業に従事した。
同月13日、原告が作業をしているところに、被告代表者がやって来て、原告に対し、「あんた、右手は医者から一生治らんて言われているのか」と尋ね、原告が2週間程度の安静と加療で完治する見込みである旨答えると、「左手は使えるだろう、左手でホースを持て」等と指示した。
ノ 平成29年1月31日
原告が、豆の蜜漬けの作業のため真空濃縮機のバルブを操作していたところ、作業現場に来ていた被告代表者が、いきなり原告の背中を叩いた。原告が、痛いと言うと、被告代表者は、「お前、今何した、裏のバルブを誰が扱えと言ったか」と怒鳴った。原告が、自見に言われた旨答え、叩かないで欲しい旨被告代表者に言ったところ、被告代表者は、嫌なら会社を辞めろと言った。
ハ 平成29年2月6日
被告代表者、原告、C、自見及びDが参加した会議の場で、被告代表者は、原告に対し、原告が被告代表者に叩かれた件を記載した原告作成の1月31日の日報を読み上げるよう指示し、原告の読み上げの後、原告は嘘をついて人のせいにしているので背中を殴られて当然であると話した。さらに、被告代表者は、原告の仕事が遅い旨、原告は給料が高いので作業は早くできて当然である、今後も作業が遅いなら再び給料を減額する旨述べた。
ヒ 平成29年2月28日
被告代表者が、原告に対し、4月分の給料から5万円を減額する旨記載した書類を交付した。原告が、減額は認めないし、納得できない旨言ったところ、被告代表者は、「私とあなたのゲームのようなものだ。ずっと続ける。裁判でも何でもどうぞ。」と告げた。
フ 平成29年3月28日
原告が、棒ジュースの包装作業をしていた際に、他の従業員が置いた製品に指を挟まれて、痛いと叫んだところ、傍らにいた被告代表者が、声に出して笑った。
ヘ 平成29年5月6日
原告は、被告代表者の指示により毎日業務日報を提出していたが、同日、被告会社の事務員から、被告代表者の指示として、今後は日報を提出する必要はない旨告げられた。
ホ 平成29年5月17日
原告が棒ジュースの包装作業に従事している際、同現場に来ていた被告代表者が、原告の作業が遅れたり、もたついたりすると、「何をしている、遅い、アルバイトの作業と違うだろ!」等と他の従業員のいる前で怒鳴った。
(4)ア  なお、被告は、被告代表者は原告に対し、「解雇する。」、「他の人を雇う。」、「給料を減額する。」、「辞めてもらう。」及び「クビにする。」の言葉は使っていない旨主張する。しかし、被告代表者による「解雇できる」「いやなら辞めろ」の発言は、業務日報記録や被告に提出された蜜漬生産日報に記載があること、加えて、前記(1)に認定した被告代表者が原告に交付したメモの内容、蜜漬生産日報に記載された被告従業員のコメントの内容及び被告代表者の供述等によれば、被告代表者や被告従業員は、被告において相対的に高額の賃金を得ていた原告に対し、もともと強い不満を抱いていたところ、原告が甘納豆の製造作業に従事するようになって以降は、そのような原告の給与に対する不満と相俟って、原告の作業の遅さや不手際に対し、強い苛立ちや不満を益々募らせていき、原告にもそのような態度を隠さなかったことが認められ、被告は、実際に本件賃金減額をするに至っていることや被告代表者が、陳述書(書証略)にも「原告は、他の従業員から嫌われ社長からの信用を無くしてまで当社で働く意味があるのか疑問です。裁判において原告の要求を認めると、今の殆どの従業員の給与を上げなければ辞めてしまうおそれがあります。」等と記載して、原告の存在や給与額に対し強い不満を表しており、被告代表者の「解雇する」「給料を減額する」等の発言は、上記事実や状況に沿うものとして把握できることなどの事情を併せ考慮すると、前記認定の被告代表者の発言があったと認めるのが相当である。
イ  また、被告は、原告の主張するパワハラ行為のうち、(3)サ(以下、(4)、(5)の本文内のアないしホの表記は、特に断りのない限り、(3)のアないしホを指す。)ヌ及びノの被告代表者の各行為について、原告の身体に接触したこと自体については認めつつ、サの行為については、原告が釜への注水時に本来付けるべき計量器を付けていなかったので、大声で原告の行動を指摘して呼び止めたが、原告が無視して通り過ぎようとしたので胸を押して止めたに過ぎない旨、ヌの行為について、原告が操作盤の前でじっとしていたのでその行動を確認していたところ、原告が誤操作をしたので、背中を軽く叩いて指導したに過ぎない旨、ノの行為について、被告代表者が社内巡視時に、原告が、機械に損害を与えるだけではなく、作業員に危険を及ぼす誤作動をしているのを見つけたので、原告の背中を叩いて大声を出したが、これは危険な行動であるため強くたしなめたに過ぎない旨等主張し、被告代表者は、その陳述書(書証略)において、危険防止のため咄嗟に取った行動として原告を機械から離れさせたことはある旨述べ、本人尋問において、原告が、被告代表者の注意を無視して去っていこうとする時に、手を胸に当てて押しとどめたりすることはあった旨供述して、一部の行為について被告の主張に沿った供述をする。
しかし、上記各行為の経緯や状況については、原告は、陳述書(書証略)及び尋問においてその主張に沿った供述をしているところ、業務日報記録にも概ねこれに沿った詳細な記載をしているうえ、特にサ及びノの各行為については、原告は、蜜漬生産日報にも「ひじで胸をどつかれて」「いきなり背中をどんとどつかれた」等と被告代表者の行為やこれに対する不満等を記載して、これを被告に提出していること、被告が当時これらの蜜漬生産日報の記載について異議を唱えた形跡はうかがわれないこと、サ及びヌの行為についての被告の説明は、被告代表者が原告の身体に触れた経緯として些か不自然さを否めないうえ、被告代表者の上記各行為について、被告主張の状況や被告代表者の供述を裏付けるような証拠も見当たらないことに照らすと、原告の供述の信用性は高いものといえ、これと異なる被告代表者の一部の行為についていう供述を信用することはできない。また、被告従業員である証人Eは、尋問において、被告代表者が原告に対し暴力を振るったり、暴言を吐いたりしたところを見たことはない旨証言するが、上記Eが稼働していたのは棒ジュースの包装の現場であり、本件で問題となっているのは、その殆どが甘納豆の製造現場における出来事であるから、上記Eの証言をもって、被告代表者による暴行や暴言の存在を否定することはできない。
よって、被告代表者によるサ、ヌ及びノの行為があったと認めるのが相当である。
なお、ノの行為について、被告は、原告が機械を誤操作したため危険を避けるために行った行為である旨の主張をするが、原告の行為に危険性があったことを示すような証拠は見当たらず、仮に原告に機械の誤操作があったとしても、原告の行為にその背中を強く叩くほどの切迫した危険性や必要性があったことをうかがわせるような事情も見当たらないから、被告の主張は採用できない。よって、上記行為が、被告代表者が危険を避けるためにやむを得ず又は咄嗟に行った行為であるとは認められない。
(5)ア(ア) 原告の主張する被告代表者のパワハラ行為のうち、平成28年11月11日の原告のミスを怒鳴って、肘で原告の胸を突いた行為(サ)、平成29年1月6日の原告の背中を叩いた行為(ヌ)、同月31日の原告の背中を叩いた行為(ノ)は、いずれも原告の身体に対する暴行であり、前記認定によれば、被告代表者がこれらの行為に及ぶ必要性があったとは認められないから、原告に対する違法な攻撃として、不法行為に該当する。
(イ) 次に、被告代表者の発言や言動のうち、アの「私はあなたのことを全く信用していない」、「給料に見合う仕事ができていないと判断したら給料を減額する」、「私を無視し続けるということは、会社をないがしろにしていると判断して、あなたを解雇することもできる。」等の発言、キの「遅い、急げ、給料を下げるぞ!」と怒鳴るなどした行為、クの「給料分の仕事をしていない」旨告げて、このままの状態が続けば給料を下げる旨告げた行為、セの原告に対し役に立たないと言って、芋切りをするよう怒鳴るなどした行為、ソの作業現場において「いつまでたっても進歩がない。いよいよできなければ辞めてもらうしかない。」と怒鳴った行為、タの原告にベテラン従業員の作業を記帳するよう指示し、記帳したとおりの作業ができなければ辞めてもらう旨告げた行為、ツの不手際を謝罪した原告に対する「27万の給料を貰っている者の仕事ではない」「これが裁判までやって給料を守った者の仕事か」「給料を下げて下さいと言え」「もうこの仕事はできませんと言え。そうすればお前をクビにして、新しい人間を雇う。」等の発言、テの金時豆が黒くなった件について「蜜の代金をお前が払え、始末書も書け」等と怒鳴った行為、ニの「教えてもらっていないから分からない、私の責任ではないというのは向上心がない。女より悪い。女の従業員もそんな言い訳はしない。」等の発言や、平成29年1月31日に原告の背中を叩いた際に、叩かないで欲しい旨言った原告に対し、嫌なら辞めろと言ったり(ノ)、他の従業員の面前で、原告は嘘をついているので背中を殴られて当然である旨や今後も作業が遅いなら給料を減額する旨言ったりした(ハ)行為、ヒの給与の減額を告げた際の「私とあなたのゲームのようなものだ。ずっと続ける、裁判でも何でもどうぞ。」の発言や、ホの他の従業員の前で原告に対し「遅い、アルバイトの作業と違うだろ」等と怒鳴ったりした行為並びにウ及びエの原告を指導していた自見に対し、原告にはトイレ休憩以外は休憩をとらせないよう指示したりした行為については、もはや業務指導の範囲を超えて、原告の名誉感情を害する侮辱的な言辞や威圧的な言動を繰り返したものといわざるを得ず、原告の人格権を侵害する不法行為に当たるというべきである。
(ウ) また、被告の従業員自見が、原告に対し、「作業は1回しか教えない、社長に言われている」と発言したり(イ)、被告代表者から、お前は休んでいいが、原告は休ませるなと言われている旨(ウ)や原告は給料が高いから厳しく教えろ、途中の休憩は取らせるなと言われている旨等(エ)告げた事実についても、被告代表者による上記トイレ休憩をとらせないよう言った指示と相俟って原告の人格権を侵害する行為といえ、不法行為に当たるというべきである。
イ(ア)  他方、原告の主張するパワハラ行為のうち、被告代表者が、原告に対し、作業の手順書及び自己評価を記載した書面(ク)、作業目標の実行時期を明記した書面(ケ)や毎日の作業の進捗状況を報告する作業報告書(コ)の作成及び提出を指示した行為や、原告とCの作業の違いを報告する書面(タ)や原告の1回目の作業とCの指導による作業とを比較して、時間の短縮について報告する書面(チ)の提出をそれぞれ指示した行為については、一般的に、従業員に自らの作業の手順、目標及び自己評価を記載した報告書や他の従業員の作業を観察させて自らと比較する報告書等を提出させることが研さんの方法として当を得ていないとはいえないうえ、原告が、平成28年8月に初めて甘納豆の製造作業に従事し、自見やCの指導を受けながら製造手順等を習得している立場にあることも併せ考えると、上記報告書等の作成の指示が、そのような原告に対する指導や研さんとして必要がないにもかかわらず嫌がらせ等としてされたとか不当に過大な要求をしたものであるとまでは認められない。同様に、原告が、被告従業員を通じて、被告代表者から、今後は日報を提出する必要がない旨告げられたこと(ヘ)についても、原告に対する嫌がらせとしてされたとまでは認められない。
よって、これらの被告代表者の行為が社会通念上許される限度を超え、原告の人格権を侵害するものとはいえない。
(イ) また、被告代表者が、原告が30キログラムの砂糖袋を担げなかったので、砂糖を分けて入れる方法を打診されたがこれを認めなかったこと(オ)や、被告代表者が、さつま芋の輪切作業をしていた原告に対し、同作業の所要時間について告げ、2本ずつ切るように指示したり、甘納豆の製造速度等について指示したりしたこと(シ)についても、原告に実行不能又は困難な作業を強いたことを認めるに足りる証拠はなく、業務上の必要性がないのにそのような指示をしたなどの事情も認めるに足りないから、これらの被告代表者の指示等が社会通念上許される限度を超え、原告の人格権を侵害するものであるとはいえない。
(ウ) さらに、被告代表者が、釜の豆が腐敗した際に、身に覚えがない旨の原告の言い分を受け入れず、原告が蜜漬けの際に水を混入させたことが原因であるとしか考えられない旨言ったこと(ス)や、原告に対し「今の仕事ができないなら、他の人と交代させる」と言ったり(カ)、「仕事が遅い。ミスばっかり起こす。」などと申し向けたり(ト)したことについては、叱責や指導としてやや妥当性を欠く点はあるものの、他方で、被告代表者の供述に加え、前記認定の前件和解の内容や製造現場における原告に対する指導体制等に鑑みると、被告代表者や原告と共に作業する他の従業員としては、原告が、早く甘納豆の製造作業に慣れて、戦力になることを願って指導をしていたことも認められ、その中での原告に対する叱責や不満の口調が、厳しくやや妥当性を欠くものになったとしても、そのことをもって直ちに原告に対する人格権を侵害するものとは評価できないところ、上記被告代表者の各行為について、被告代表者が、何らの根拠もなく、また業務上その必要性がないにもかかわらず、原告に対する嫌がらせとして叱責等をしたとまでは認められず、作業現場における注意指導の範囲を超えているとまでは認められないから、これらの行為が社会通念上許される限度を超え、原告の人格権を侵害するものであるとまではいえない。
(エ) 被告代表者が、体調不良のため早退を申し出た原告に対し、やってもらう仕事があると言って、これを認めなかったこと(ナ)について、被告は、原告の退社時間は午後3時からであるから、医者に行けると判断し、当時、被告は繁忙期であり、交代要員がいなかったのでやむを得ずとった措置である旨主張する。原告の体調が業務遂行が困難なほどに悪かったことや被告代表者がそれを知りながら早退を認めなかったことを認めるに足りる証拠はなく、被告代表者が、当時の被告における製造現場状況や原告とのやりとりを勘案した結果の措置として、早退を認めなかったことが、直ちに原告に対する嫌がらせであるとか、職務上必要がないにもかかわらず原告に過重な負担を強いたとまでは認められない。
また、被告代表者が、右手の腱鞘炎様の症状により2週間程度の安静と加療を要する旨の診断を受けたと報告した原告に対し、原告にできる作業をCと相談するよう指示し、その後の数日間に、原告に対し、屋外の雑木の伐採を指示したり、甘納豆の作業に従事させたり、左手は使えるとして、左手でホースを持って作業するよう指示した行為(ネ)についても、被告は、繁忙期であったため、原告には片手でできる仕事を指示した旨や有給休暇の取得を拒否したことはない旨主張する。原告の症状の内容及び程度を示す的確な証拠は見当たらないところ、被告代表者は、診断結果を報告した原告に対し、原告のできる作業をCと相談するように指示していること、原告に対する雑木の伐採作業の指示が、直ちに原告の上記症状を悪化させることを認識した上での指示であるとまでは認めるに足りないところ、原告の記載した業務日報記録にも、雑木の伐採作業(ノ)により腕が痛くなったとしたうえで、「次回は腕が痛くてできない旨を話そう。」と記載し、翌日の平成29年1月12日には、実際に異なる作業に従事していることに照らすと、被告代表者が、原告の症状を顧慮せず、これらの作業に無理に従事させたとまでは認められない。加えて、当時の業務日報記録によれば、原告としても右手を使わないように作業をしていることがうかがわれること(書証略)や、被告代表者が、原告に対し、「左手は使えるだろう」「左手でホースを持て」と言ったりしていることを考慮すると、被告代表者の指示等が、直ちに、原告の症状を顧慮せず、疾患を悪化させるような作業をそれと認識しながら従事させているとか、原告に過重な負担を強いる業務を命じているとまでは認められない。
よって、上記被告代表者の行為が、社会通念上許される限度を超え、原告の人格権を侵害するものであるとまではいえない。
なお、原告は、上記り患の際に、被告代表者が、原告の有給休暇取得を認めなかった旨の主張をするが、その際の原告と被告代表者とのやりとりを示す的確な証拠はないうえ、証拠(書証略)によれば、原告は、医師の診察を受けた平成29年1月10日は有給休暇を取得しており、これと前後する時期においても、原告の有給休暇の取得が認められていることを勘案すると、被告代表者が、違法に原告の有給休暇の取得を拒絶した事実までは認めるに足りない。
次に、原告が、他の従業員の置いた製品に指を挟まれて、痛いと叫んだ際に、傍らにいた被告代表者が笑ったという点(フ)についても、このことをもって、直ちに、被告代表者が、ことさらに原告に対する嫌がらせとしてそのような行為に及んだとまでは認めるに足りず、原告の人格権を侵害する行為であるとまではいえない。
(オ) なお、原告は、被告代表者が、原告以外の被告従業員に対し、本件訴訟における原告の主張内容等を明らかにしたり、被告代表者の作成した質問状を示してこれに署名押印させたりしているところ、これらの行為は、原告を他の従業員から隔離しようとする行為である旨や、被告は、平成29年8月から平成30年2月までの間、原告を工場内外の清掃等の作業に従事させているところ、このような行為は、原告を被告の従業員から隔離し、また、原告の能力とかけ離れた程度の低い作業を命じるものである旨も主張するが、上記各事実の内容やその詳細を裏付ける的確な証拠は見当たらず、仮に上記各事実が存在するとしても、それが直ちに原告の人格権を侵害する行為であるとまではいえない。
(カ) 以上によれば、(5)イ(ア)ないし(オ)の被告代表者の行為については、不法行為に該当せず、また、被告が労働契約上の就業環境配慮義務に違反しているとまでは認めるに足りない。
ウ  前記(5)ア(ア)及び(イ)の被告代表者の行為は、原告に対する暴行及び原告に対する人格権を侵害する行為であり、不法行為に当たるから、被告は、会社法350条に基づき、原告が受けた身体的及び精神的苦痛について賠償責任を負う。また、前記(5)ア(ウ)の被告従業員の行為も、原告の人格権を侵害する行為であり、不法行為に当たるから、被告は、民法715条に基づき、原告が受けた精神的苦痛について賠償責任を負う。
(6)  損害額
前記認定の被告代表者及び被告従業員の不法行為は、いずれも原告に対する暴行又は人格権を侵害する行為であり、被告は損害賠償責任を負うところ、被告代表者による(5)ア(ア)の行為は原告への暴行であること、同ア(イ)の行為は、原告に対し、半年以上の期間に亘って、威圧的又は侮辱的な発言を繰り返していることのほか、被告代表者らが上記各行為に及んだ経緯や各行為の内容等の本件に現れた一切の事情を総合勘案すると、原告の身体的及び精神的苦痛に対する慰謝料額は50万円が相当である。
4  争点(2)(賞与減額についての被告の不法行為責任の成否及び損害額)について
(1)  賞与が具体的な請求権として発生するためには、賞与の具体的な支給額又は支給要件が労働契約、就業規則及び労使慣行等で定められており、かつ、その要件が具備されていることを要し、その要件として使用者の査定その他の決定を要することが定められているときは、別途、これに代わる労使間の合意又は労使慣行がない限り、その査定その他の決定がされていることを要するというべきである(最高裁平成17年(受)第2044号同19年12月18日第三小法廷判決・裁判集民事226号539頁、最高裁平成25年(受)第1344号同27年3月5日第一小法廷判決・判例タイムズ1416号64頁参照)。
前記前提事実(5)のとおり、被告の給与規程は、賞与について、「会社の業績に応じ、夏季および年末に支給する」が、「会社の業績によっては賞与を支給しないことがある」旨(給与規程第26条)規定し、賞与の算定についても、「基本給に職務手当と調整手当を加えた額」を算定基礎額として、「算定期間における会社の業績、社員の勤務成績および出勤率を勘案して査定する」(給与規程第28条1項、2項)と規定しているにとどまり、賞与について、被告の業績によっては支給しないことも定めているうえ、具体的な支給額の定めや支給額を算定できるような算定基準等の具体的な支給要件の定めもない。また、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告を含む被告の従業員に対しては、従来から毎年8月と12月に賞与が支給されていたが、各従業員に支給される賞与額及び賞与支給率(賞与の算定基礎額とされる基本給、職務手当及び調整手当の合計額(月額)における賞与額の割合)は、従業員ごと及び支給期ごとに異なっており、原告以外の他の正社員に同時期に支給された賞与を比較しても、例えば平成27年夏季賞与においては、賞与支給率が最も低い者は16.11%、最も高い者は99.61%であり、平成29年夏季賞与においては、賞与支給率が最も低い者は28.99%、最も高い者は115.94%であるなど、同じ時期に賞与を支給された従業員の間においても、その賞与支給率は従業員ごとに大きく異なっているうえ、各従業員についてみても、その賞与額及び賞与支給率は、支給期ごとに変動していたこと、原告についてみても、本件賞与減額に係る期間以前の賞与額及び賞与支給率は支給期ごとに変動しており、原告の本件賞与減額に係る期間の賞与も被告の査定を経てその額が決定されたことが認められる。
したがって、被告においては、賞与の支給について、一定の査定期間内の被告の業績及び従業員の勤務成績等を勘案した被告の査定に委ねられており、支給期ごとに、上記要素を勘案して、具体的な金額が決定されていたことが認められ、賞与支給率が毎年固定されていたとか、全従業員に対し一律の支給率で算定された賞与額が支給される労使慣行があったとは認められない。
以上によれば、原告が、被告に対し、他の従業員の平均的水準の賞与として、原告の賞与算定基礎額に他の正社員の平均賞与支給率を乗じた額の賞与の支給を受ける具体的権利を有しているとは認めることはできないから、原告に対し平成27年から平成29年までの間に支給された賞与額が、上記平均賞与支給率により算定された賞与の額よりも低いことをもって、原告の賞与の支払請求権が侵害されたということはできないというべきである。
(2)ア  もっとも、賞与の支給及び算定が使用者の査定等を含む裁量にゆだねられていても、使用者はその決定権限を公正に行使すべきであり、裁量権を濫用することは許されず、使用者が公正に決定権限を行使することに対する労働者の期待は法的に保護されるべきであるから、使用者が正当な理由なく査定その他の決定を怠り、又は裁量権を濫用して労働者に不利な査定その他の決定をしたときは、労働者の期待権を侵害するものとして不法行為が成立し、労働者は損害賠償請求ができるというべきである。
イ  前記認定のとおり、原告に支給された賞与の額は、平成27年夏季賞与から平成29年年末賞与までの間、次第に減少しているところ、被告は、上記減額の理由として、会社の業績及び原告の会社に対する貢献度や勤務態度を考慮した会社経営上の判断であると主張する。これに対し、原告は、被告が、平成27年2月の商品詰替問題の際の原告の行為に対する意趣返しとして、原告を営業部門から製造部門に配置転換して、給与や賞与を減額した旨主張する。
ウ  原告の製造部門への配置転換について、被告代表者は、営業を担当していた頃の原告は月に5日程度しか営業しておらず、営業の成果となっていなかったことや、被告代表者が、赤字経営から脱却する手立てを模索している時に、営業に役立つ者がいると紹介されて日給で雇ってみたところ、原告がそれまで行っていた営業の用がその者で十分足りたことが理由であると供述し、原告に対する意趣返しとして行った旨の原告の主張を明確に否認する。
前記前提事実、第3の1の認定事実、証拠(文中に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、(ア)被告においては、平成27年2月頃に、賞味期限切れの近い商品を、賞味期限を延長して詰め替えることを検討したことがあり、その際、原告がこれに異を唱え、結果として、上記商品の詰替えは見送られたこと(証拠略)、(イ)原告は、平成17年に被告に採用されて以降、主に営業を担当していたが、平成27年5月当時の原告の営業としての業務内容は、主として、被告代表者から指示された取引先等の営業先を訪問し、集金するというものであり、新規開拓や営業ノルマもないうえ、原告が上記営業で出かけるのは月に5、6日程度であり、それ以外は、出荷・配達や工場の手伝いをしていたこと(証拠略)、(ウ)被告の平成29年の経営状況は負債合計額が資産合計額を1億円以上上回っている債務超過の状態であり、このような経営状況は被告代表者が就任した当時から続いていたこと(証拠略)、(エ)被告は、平成27年5月頃に営業担当者として契約社員を雇用し、これに伴い、原告は、営業の仕事が減って、他の配達等の業務の割合が多くなり、同年9月頃からは工場での製造・包装や出荷等の業務に従事するようになったこと、(オ)同年5月当時、原告に支給されていた給与額(時間外手当を除く)は、被告の代表者を除くと、被告の正社員の中で最も高額であったこと(書証略)が認められる。
平成27年5月当時の原告の営業の業務内容や実態に鑑みると、当時原告が担当していた営業業務が、特別な能力や経験を要する業務であるとか担当者の能力により成果を上げることが期待されるような業務であったとは認められないから、被告が、業績が良くない中での経営判断として、原告よりも賃金の低い契約社員を別途営業担当として雇って、原告を工場での製造・包装等の業務に配転したことが不合理であるとまではいえない。よって、原告を製造等の業務に配転したこと自体が被告の恣意によるものであるとか、上記商品詰替問題に対する被告の意趣返しとして行われたとまでは認められない。
エ  次に、原告の賞与の査定及び減額について検討する。
(ア)a 原告に支給された賞与の額は、平成24年夏季賞与から平成26年年末賞与までは16万円から24万円の間で推移していたが、平成27年以降は、同年夏季賞与は15万円(賞与支給率55.37%)、同年年末賞与は8万円(賞与支給率29.53%)、平成28年夏季賞与は3万円(賞与支給率11.07%)、同年年末賞与は5000円(賞与支給率は1.85%)、平成29年夏季賞与は1万5000円(賞与支給率5.54%)、同年年末賞与は3000円(賞与支給率1.11%)と次第に減少しており、特に平成28年以降は大幅かつ急激に減少していることが認められる。
b そして、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、①被告における賞与の支給の実態として、少なくとも原告が入社して以降、毎年8月と12月に正社員全員に対し、一定額の賞与が支給されてきたこと、②平成27年夏季賞与から平成29年年末賞与までの間に、被告の他の正社員4名に対し支給された賞与の支給額及び賞与支給率は、別紙「被告の正社員の賞与一覧表」(略)のとおり(別紙の表の(7)、(12)、(13)及び(17)は他の正社員を表している。また、表の最上段の欄の「夏」は夏季賞与を、「冬」は年末賞与を表す。)であり、うち1名の賞与支給額は3万円から5万円の間、賞与支給率は16.11%から28.99%の間で、うち1名の賞与支給額は5万円から15万円の間、賞与支給率は26.32%から78.95%の間で、うち1名の賞与支給額は20万円から28万円の間、賞与支給率は82.82%から121.26%の間で、うち1名の賞与支給額は8万円から18万円の間、賞与支給率は49.88%から107.85%の間でそれぞれ推移していることが認められ、他の正社員と比較すると、原告の賞与支給額は平成28年年末賞与以降、他の正社員の最低額を大きく下回っており、賞与支給率についても、平成28年夏季賞与以降は、極めて低率になっていることが認められる。
(イ) 前記認定のとおり、賞与の算定について、被告の給与規程は、基本給に職務手当と調整手当を加えた額を算定基礎額とし、会社の業績、社員の勤務成績及び出勤率を勘案して査定するものとしている。また、被告代表者は、賞与の算定要素として、被告の業績、被告に対する貢献度及び勤務態度を挙げる(人証略)。
被告の業績についてみるに、前記認定のとおり、被告は現在の被告代表者が就任した当時から債務超過の状態が続いており、本件賞与減額に係る期間中、業績が良くなかったことが認められる。また、原告の出勤率が他の従業員と比較して特段低いことはうかがわれない。
原告の勤務成績については、前記認定のとおり、原告は、甘納豆の製造作業においては、機械のスイッチを間違えたり、注水の際に本来ホースに装着すべき計量器を付けないで注水したりする等の不手際があったことが認められる。また、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、①原告は、製造部門において、3月から8月中旬頃までは商品の包装作業、それ以外の期間は甘納豆の製造作業に従事していたところ、上記包装作業においては、梱包のための段ボール等の準備を忘れたり、機械が止まった際に、安全確認を忘れて機械を作動させるなど、先輩の従業員の指示事項に反する単純なミスや不手際を繰り返し、他の従業員がこれを補ったり、後始末をせざるを得ないことが少なくなかったこと、②甘納豆の製造作業においても、製造業務に精通したベテランの従業員2名が、数か月に亘って原告の指導に当たったが、原告は作業手順をなかなか覚えられず、他の従業員と比べても作業の効率や精度が低かったこと、③原告は、指導や不手際の叱責を受けた際に、必ずしもこれを素直に受け止める態度を示さないことがあったことが認められる。
(ウ) そこで、被告による賞与の査定における裁量権の濫用の有無について検討する。
前記認定によれば、製造部門に異動後の原告の勤務成績や被告に対する貢献度は他の従業員と比べて必ずしも芳しくなかったことが認められる。
しかし、他方で、原告が製造部門に配転されてからそれほど期間が経過していないことに加え、配転前の営業担当時期の原告に特段の問題行動や失敗があったことはうかがわれず、前記認定のとおり、上記配転が被告の経営判断として行われたことを考慮すると、原告の賞与を査定するに当たって、配転先の業務における作業の速度や成果等の勤務成績を大きく考慮することは、査定における公平を失するといわざるを得ない。そして、被告が賞与の減額要素として主張する事情のうち、被告の業績が良くなかったという事情については、他の正社員についても共通の事情であること、原告の勤務成績についても、前記のとおり作業速度や成果の点において芳しくないとしても、原告に被告やその従業員に大きな損害を与えるような事故や失敗があったことは認められないことなども考慮すると、他方で、原告の給与及び賞与等を併せた年収額が、本件賃金減額及び本件賞与減額後においてもなお被告における他の正社員の各年収額を上回っているという被告における従業員全体の賃金の実情があること(書証略)を斟酌しても、本件賞与減額のうち、少なくとも、原告が平成26年以前に支給された賞与の最低額の2分の1を下回り、かつ平成27年から29年までの間の他の正社員の賞与支給率のうちの最低の支給率をも下回った平成28年夏季賞与以降の賞与の査定については、これを正当化する事由を見出しがたいというべきである。
加えて、前記認定のとおり、被告代表者が、原告の賃金額等に強い不満を抱き、2回に亘って原告の賃金を減額し、暴言等のパワハラ行為を繰り返していることやその発言内容等をも併せ考慮すると、被告代表者が、原告の平成28年夏季賞与以降の賞与の算定に当たり、公正な査定を行わず、恣意的にこれを減額した意図も推認される。
以上によれば、被告は、平成28年夏季賞与から平成29年年末賞与までの原告の賞与については、裁量権を濫用して、これを殊更に減額する不公正な査定を行ったことが認められ、これは、被告が査定権限を公正に行使することに対する原告の期待権を侵害したものとして不法行為が成立するというべきである。
そして、上記不法行為による原告の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は、上記平成28年夏季賞与から平成29年年末賞与までの賞与支給額、原告が平成27年以前に受給していた過去の賞与額及び上記平成28年から同29年の間の他の正社員の賞与の査定等の事情を考慮すると、20万円が相当である。
5  結論
以上の次第で、原告の請求は、主文第1項ないし第4項掲記の限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第5民事部
(裁判官 山田智子)

 

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