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「営業 外部委託」に関する裁判例(11)平成30年 7月20日 東京地裁 平27(ワ)35865号 損害補償請求事件

「営業 外部委託」に関する裁判例(11)平成30年 7月20日 東京地裁 平27(ワ)35865号 損害補償請求事件

裁判年月日  平成30年 7月20日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)35865号
事件名  損害補償請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2018WLJPCA07208006

裁判経過
控訴審 平成30年12月26日 東京高裁 判決 平30(ネ)3913号 損害賠償請求控訴事件

評釈
石毛和夫・銀行法務21 846号69頁

参照条文
民法416条
犯罪による収益の移転防止に関する法律4条1項

裁判年月日  平成30年 7月20日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)35865号
事件名  損害補償請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2018WLJPCA07208006

東京都千代田区〈以下省略〉
原告 株式会社FPG
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 寺崎大介
同 近藤祐史
同 石井あやか
スイス連邦〈以下省略〉
被告 ステラ・ディ・レバンテ・アーゲー
同代表者役員 B
同訴訟代理人弁護士 田中利彦
同 宮本英治
同 久保田聖

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,4439万6354円及びこれに対する平成27年10月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の請求を棄却する。
3  訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4  この判決は,主文第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
被告は,原告に対し,9038万5928円及びこれに対する平成27年10月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,原告が,被告から,被告の完全子会社であった株式会社FPG信託(旧商号「ベルニナ信託株式会社」。以下「対象会社」という。)をその株式の全てを買い受ける方法によって買収したところ,被告が同買収に係る株式譲渡契約(以下「本件株式譲渡契約」という。)締結の際に対象会社が日本の法令を遵守して業務を遂行していると表明保証したにもかかわらず,対象会社には,その事業として締結していた信託契約に犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」という。)4条1項に違反する本人確認義務違反等があったとして,原告が,被告に対し,本件株式譲渡契約上の表明保証違反に係る補償条項に基づき,表明保証違反により生じた損害及びクレーム・ノーティス到達の日の翌日である平成27年10月24日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1  前提となる事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  当事者等
ア 原告は,タックスリース・アレンジメント事業,保険仲介人に関する事業,不動産関連事業及びM&Aアドバイザリー事業などを業とする株式会社である。
イ 被告は,財産の管理,企業コンサルティング及び企業経営などを業とするスイス法人である。
ウ 対象会社は,平成21年3月24日に設立された信託業務,財産の管理業務及びこれらに付随関連する業務などを業とする株式会社であり,平成26年12月8日,ベルニナ信託株式会社から現商号に商号変更した。
対象会社においては,被告の代表者でもあるB(以下「B」という。)が,平成21年9月1日から平成27年4月15日まで代表取締役を務めていた(甲3の1・2)。
(2)  対象会社における信託契約の締結
ア 対象会社とロシア国籍のC1(以下,対象会社内におけるコードネームに従い,「C」という。)は,平成25年2月20日,次のような内容を含む信託契約を締結した(以下「本件契約1」という。)。なお,Cは,本件契約1締結の際,Cの家族がロンドンに居住していることを理由として,契約上の住所をロンドンの住所とした。(甲5,6,33,58)
(ア) 信託の種類
運用指定混合信託
(イ) 契約期間
平成25年3月1日から平成35年2月末までとし,契約期間が満了する90日前までに受益者から解約申入れがない場合には,自動的に10年間更新される。
(ウ) 信託報酬
本件契約1に基づき対象会社に支払われる信託報酬は,以下の計算式を用いて計算され,Cの信託財産から支払われる。なお,最低年間信託報酬額は,2万米ドルである。
算定期間中の信託元金平均額÷1000×算定期間の日数÷365
イ 対象会社とロシア国籍のD1(前同様の理由により,以下「D」という。)は,平成25年10月18日,次のような内容を含む信託契約を締結した(以下「本件契約2」といい,本件契約1と併せて「本件各契約」という。)。なお,Dは,本件契約2締結の際,Dの家族がロンドンに居住していることを理由として,契約上の住所をロンドンの住所とした。(甲7,8)
(ア) 信託の種類
運用指定混合信託
(イ) 契約期間
平成25年11月1日から平成35年10月末までとし,契約期間が満了する90日前までに受益者から解約申入れがない場合には,自動的に10年間更新される。
(ウ) 信託報酬
本件契約2に基づき対象会社に支払われる信託報酬は,以下の計算式を用いて計算され,Dの信託財産から支払われる。なお,最低年間信託報酬額は2万米ドル,最高年間信託報酬額は15万米ドルである。
算定期間中の信託元金平均額÷1000×算定期間の日数÷365
ウ 対象会社は,平成25年9月,信託業法7条1項の登録を受けていないスイスの運用会社であるGWM AG(以下「GWM」という。)との間で,アセット・マネジメント契約を締結した(甲10)。
対象会社は,GWMとの上記契約締結後,本件契約1に基づき,Cの信託財産の運用をGWMに委託した。また,対象会社は,本件契約2締結の際,同契約に基づき,Dの信託財産の運用をGWMに委託した。もっとも,対象会社は,本件各契約について,顧客に対する信託財産状況報告書や運用に関する報告書を提出する業務は引き続き行っていた(甲56,57,59)。
エ 本件各契約は,対象会社の信託事業(以下「既存事業」ともいう。)の受託資産の6割以上を占めていた上,信託報酬の面から見ても,平成25年7月から平成26年6月までに対象会社が受領した既存事業に係る信託報酬のうち約51パーセントを占めていた(甲9,55,59)。
(3)  本件株式譲渡契約締結までの経緯
ア 信託業への参入を検討していた原告は,対象会社の代表取締役及び被告の代表者を務めていたBとの間で,平成26年6月初旬から,対象会社の買収交渉を開始した。原告における交渉事務の担当者は,常務執行役員兼経理部長のE(以下「E」という。)であった(甲54)。
イ 原告は,平成26年7月24日から同年8月7日まで,対象会社についてデューディリジェンスを行ったほか,同年9月17日には,被告に対し,既存の信託口座の本人確認手続に関する質問を行い,同月22日,被告から,C及びDについてチェックリストを用いてチェックを実施し,対象会社の顧客としての適格性に問題ないことを確認している旨の回答を得た(甲11,12の1・2)。
ウ 原告は,対象会社の株主が,株式取得時に払い込んだ金額の合計額(以下「払込金合計額」という。)以上の金額でなければ譲渡しないとの強い意向を示していることを受け,譲渡価格を払込金合計額以上とすることに同意し,原告と被告は,平成26年10月6日頃,対象会社の株式の払込金相当額を基準に譲渡価格を決めることで合意した(乙5)。
エ 対象会社の株式は,被告を含む24名の株主により保有されていたが,本件株式譲渡契約の手続の簡素化を図るべく,被告は,本件株式譲渡契約の締結に先立ち,他の株主から対象会社の全ての株式を取得した。
(4)  本件株式譲渡契約の締結及び実行
ア 原告と被告は,平成26年10月30日,次のような内容を含む本件株式譲渡契約を締結した(甲1)。
(ア) 売買条件等(本件株式譲渡契約2条1項,同条2項,同条3項)
被告は,原告に対し,平成26年10月31日(以下「クロージング日」という。),その保有する対象会社の全株式を8億1010万円(以下「本件譲渡価格」という。)で譲り渡す。
(イ) 表明保証(本件株式譲渡契約3条25項,同条27項)
被告は,原告に対し,平成26年10月30日(本件株式譲渡契約締結日)及び同月31日(クロージング日)において,以下のとおり表明し,保証する(以下「本件表明保証条項」という。)。
a 法令遵守
対象会社は,業務を遂行するにあたり,対象会社に適用される日本の法令の重要な点について全て遵守してきた。
b 情報開示
被告が原告に対して行った対象会社に関する情報開示は,重要な点については全て,真実であり,正確であり,そして,完全なものである。
(ウ) 損害補償(本件株式譲渡契約8条1項)
被告は,本件表明保証条項に違反した場合で,原告からの補償請求の内容や請求金額を記載した通知書(以下「クレーム・ノーティス」という。)受領後合理的な期間内に当該違反状態を治癒しないときは,本件株式譲渡契約8条に基づく原告の請求が被告により承諾されるか裁判上認容された限りにおいて,原告に対し,被告の表明保証違反により生じた損害,損失又は費用(合理的な金額の弁護士費用も含む。)を補償する(以下「本件補償条項」という。)。
イ 原告は,対象会社全株式の代金8億1010万円を支払い,平成26年10月31日,被告から対象会社の全株式を譲り受けた。
(5)  本件各契約の解約
ア 信託会社は,自然人である顧客と信託契約を締結する場合,顧客から,信託契約上の住所が記載されている運転免許証等の本人確認書類の提示を受ける必要がある(犯収法4条1項1号,犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則(以下「犯収法施行規則」という。)6条1項1号,7条1号,4号)。
しかし,対象会社は,C及びDから,本件各契約に関し,本人の名義でロンドンの住所が記載された犯収法施行規則7条1号,4号の本人確認書類の提示を受けていなかった(甲6,8,13)(以下「本件本人確認義務違反」という。)。
イ 対象会社の内部監査部長であるF(以下「F」という。)は,平成26年12月11日,対象会社の経営会議において,本件各契約について,C及びDの本人確認書類に不備があったことを報告した。
ウ 対象会社は,C及びDに対し,平成27年2月2日,本人の氏名及びロンドンの住所が明確に表示されている書類を提出すること,当該書類の提出が不可能な場合には契約上の住所をロシアの住所に変更し本人の氏名及びロシアの住所が明確に表示されている書類を提出することを提案するとともに,同月28日までに対象会社に連絡しない場合には対象会社が一方的に信託契約を解約することを伝える通知書(甲14,15)を送付した。
エ 対象会社とC及びDは,平成27年3月26日,それぞれ解約合意書(甲16,17)を取り交わし,同年6月30日,本件各契約が終了した。
オ 対象会社は,平成27年6月30日,本件各契約の解約に伴い,GWMとの間のアセット・マネジメント契約を解除した(甲19)。
(6)  補償請求
ア 原告は,被告に対し,平成27年10月23日,本件本人確認義務違反等を理由として,以下の合計9038万5928円の補償を求めた(甲20の1~3)(以下「本件クレーム・ノーティス」という。)。
(ア) 本件各契約の解約による対象会社の価値毀損 7224万5000円
(イ) 原告の人件費及び間接費 202万6169円
(ウ) 対象会社の人件費,間接費及び出張費 520万9478円
(エ) 原告による調査に要した法律事務所費用 34万5276円
(オ) 対象会社による本件各契約の解約に要した法律事務所費用 56万0005円
(カ) 原告の調査及び補償請求に関する法律事務所費用(見込み) 1000万円
イ 被告は,原告に対し,平成27年10月29日頃,原告の主張には理由がないため本件クレーム・ノーティスによる請求は受け入れられない旨の回答書(甲21)を送付した。
2  争点及び当事者の主張
争点及び当事者の主張は次のとおりである。
(1)  被告に表明保証違反があったといえるか(争点1)
(原告の主張)
ア 本件本人確認義務違反
対象会社は,本件各契約締結の際も締結後も,C及びDから犯収法施行規則7条1号,4号の本人確認書類の提示を受けなかった点において,犯収法4条1項に違反している。マネーロンダリングの防止という同項の趣旨に鑑みれば,同項に反して本人確認義務を怠ることは重大な法令違反である。
C及びDがいわゆる外国PEPs(犯収法4条2項3号,犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令12条3項参照)に該当するため特に厳格な本人確認が要請されること,対象会社は本件株式譲渡契約締結前にも金融庁から本人確認手続の杜撰さについて指摘されていること,対象会社が本件本人確認義務違反の発覚後に複数回にわたって関東財務局から指導を受けていることからも,本件本人確認義務違反が重大な法令違反にあたることは明らかである。
したがって,本件本人確認義務違反は,本件保証条項にいう「重要な点」に関するものといえる。
イ 信託財産の運用の委託における法令違反
信託業法7条1項の登録を受けていないGWMに本件各信託に係る信託財産の運用を委託したことは同法22条1項2号に反する。また,「登録金融機関のうち,投資運用業を行う者その他政令で定める者」(金融商品取引法(以下「金商法」という。)61条1項)に該当しない対象会社が「外国の法令に準拠して設立された法人」(同項)であるGWMに本件各契約の信託財産の運用を委託したことは,同項に反する。
ウ 表明保証違反
以上によれば,本件本人確認義務違反及び信託財産の運用の委託における法令違反は,いずれも本件表明保証条項にいう「重要な点」に関するものといえるから,被告には表明保証違反(以下「本件表明保証違反」という。)が認められる。
(被告の主張)
ア 本件本人確認義務違反について
対象会社がC及びDから犯収法施行規則7条1号,4号の書類の提示を受けなかったことは認めるが,C及びDの氏名,生年月日並びに受益者であるC及びDの家族の本人確認書類を確認しており,また,C及びDの契約上のロンドンの住所宛てに国際スピード郵便を送付しそれが配達されたことも確認している。そのため,本件本人確認義務違反は重大な法令違反にはあたらない。
イ 信託財産の運用の委託における法令違反について
信託業法7条1項の登録を受けていない者も同法22条1項2号の「委託された信託業務を的確に遂行することができる者」に当たり得る。
金商法61条1項は,その文言から明らかなとおり,外国業者に焦点を当てた規定であることから,対象会社が同項に反して本件各契約に係る信託財産の運用をGWMに委託したことは重大な法令違反にはあたらない。
ウ 表明保証違反について
以上によれば,本件本人確認義務違反及び信託財産の運用の委託における法令違反は,いずれも本件表明保証条項にいう「重要な点」に関するものとはいえない。
(2)  因果関係及び損害額(争点2)
(原告の主張)
ア 本件補償条項による補償の対象となる損害
本件株式譲渡契約において,表明保証違反があった場合に本件補償条項による補償の対象となる損害は,表明保証違反により生じた損害,損失及び費用とされており,損害の対象を限定するような規定は一切置かれていない。したがって,本件補償条項による補償の対象となる損害は,表明保証違反と相当因果関係のある損害を広く含み,表明保証の対象となった事実が存在しなかったことにより原告が被った損害も,本件補償条項による補償の対象となる。
イ 本件本人確認義務違反と本件各契約の解約との間の因果関係
(ア) 原告は,本件株式譲渡契約締結前から一貫して本件各契約を含む対象会社の既存事業を継続することを想定しており,本件株式譲渡契約締結に先立ってBや関東財務局に対して提出した事業計画においても,既存事業の継続が前提とされていた。
特に,本件各契約は,信託報酬が高額である点や運用が外部委託されており人件費がかからない点で,既存事業の中で特に重要な取引であった。
(イ) 対象会社は,本件本人確認義務違反の発覚後,本人確認書類の取得のためにBをスイスに派遣したり,C及びDに対して本人確認書類の提出を求める通知書(甲14,15)を送付したりするなど,本件本人確認義務違反の治癒を試みた。しかし,当該通知書の送付後もC及びDから回答がなく犯収法施行規則7条1号,4号の本人確認書類の提供もされなかったため,対象会社は,行政処分を受けて信託業務そのものが行えなくなることを避けるため,本件各契約を解約せざるを得なかった。
(ウ) 以上の経緯からすれば,本件表明保証違反と本件各契約の解約との間に因果関係があることは明らかである。
ウ 損害の内容及び額
(ア) 事業価値又は企業価値の減少分
a 本件表明保証違反による損害は,表明保証の対象となった事実が存在しなかったことによる損害を含むから,本件各契約に法令違反がなく,本件各契約を継続することができた場合の対象会社の企業価値と,本件各契約に法令違反があった結果これらを解約せざるを得なくなった対象会社の現実の企業価値との差額が損害となる。
そして,当該差額は,本件各契約の評価額そのものであるから,これをDCF法を用いて算定すると,控えめに算定しても,77万8147ドルとなり,クレーム・ノーティスによる請求額7224万5000円を上回る。本件各契約が存在する場合と存在しない場合とのそれぞれの対象会社の企業価値を算定し,その差額を求めた場合でも,損害額は76万3759ドルとなり,やはり7224万5000円を上回る。
なお,本件各契約における信託財産の運用はC及びDの費用負担の下にGWMに委託しており,対象会社において特段の業務を要しなかったため,上記差額の算定にあたり本件各契約における信託財産の運用に関する人件費等の費用を考慮する必要はない。
b 完全親会社である原告は,完全子会社である対象会社の事業を直接把握し対象会社を支配している以上,当該事業に関して対象会社に逸失利益が生じた場合には原告にも同額の損害が生じると考えるべきである。したがって,本件表明保証違反により原告が被った損害は,本件各契約の解約によって対象会社が被った逸失利益を算定することによっても求めることができる。
本件各契約は,信託財産が家族に残すことを意図された財産である点や自動更新条項が付されている点から長期間継続することが想定されており,本件本人確認義務違反さえなければ,少なくともC及びDの死亡時(推定死亡年齢は78歳)まで継続した可能性が高い。本件各契約の解約に伴い同契約から得られるはずであった信託報酬を喪失したことによる対象会社の逸失利益は200万5042ドルとなり,7224万5000円を大きく上回る。
c 本件株式譲渡契約における本件譲渡価格は,売主の強い意向により,払込金合計額を基準として決定されたが,原告は,当該価格による取引を受け入れるかどうかの判断において,本件各契約を含む対象会社の収益性にも着目していたのであって,本件各契約による収益が譲渡価格に直接反映されていないからといって,本件表明保証違反による損害が発生していないことにはならない。
d 以上によれば,原告には本件各契約の解約により少なくとも7224万5000円の損害が生じている。
(イ) 人件費,間接費
a 原告が本件本人確認義務違反に関する調査や対応に要した人件費及び間接費は,以下のとおり202万6169円である。
① 原告代表者 12万7836円
月額基本給416万7450円の5時間分
② E 152万円
月額基本給190万円の0.8か月分
③ G法務部長 4万0638円
月額基本給66万2400円の10時間分
④ 間接費 33万7695円
①ないし③の合計額の2割
b 対象会社が本件本人確認義務違反に関する調査や対応に要した人件費及び間接費は,以下のとおり520万9478円である。
① H弁護士(社外取締役) 75万8750円
月額基本給30万3500円の2.5か月分
② I 40万円
月額基本給100万円の0.4か月分
③ F 112万円
月額基本給80万円の1.4か月分
④ J経営管理部副部長兼リスク管理部副部長 135万9600円
月額基本給61万8000円の2.2か月分
⑤ 間接費 72万7670円
①ないし④の合計額の2割
⑥ B 26万1905円
月額基本給183万3333円の3日分
⑦ Bの出張旅費 58万1553円
(ウ) 調査費用
原告及び対象会社は,本件本人確認義務違反に関する外部調査費用等として,以下のとおり90万5281円を支出した。
a 原告による調査に要した法律事務所費用 34万5276円
b 対象会社による本件各契約の解約に関連した法律事務所費用 56万0005円
(エ) 弁護士費用
原告は,本件表明保証違反により上記損害を被り訴訟追行を余儀なくされたことにより,弁護士費用相当額1000万円の損害を被った。
(被告の主張)
ア 本件補償条項による補償の対象となる損害
本件株式譲渡契約において,対象会社の既存事業の収益は譲渡価格決定の要素とされておらず,原告が本件各契約の継続を信頼して本件株式譲渡契約を締結したという事実はない。そうすると,本件表明保証条項に本件各契約の継続を保証する趣旨が含まれるものと解釈することはできず,同条項は,規制官庁との関係で生ずる規制上のリスクがないことを保証したものにすぎないと解すべきである。したがって,本件各契約の解約によって生じた損害は本件補償条項による補償の対象とはならない。
イ 本件本人確認義務違反と本件各契約の解約との間の因果関係
原告は,不動産関連の信託事業を行うために対象会社を買収したのであり,本件株式譲渡契約締結当時,対象会社の既存事業を廃止する意向であった。このことは,原告が対象会社の既存事業に関わってきた役員の退職を促したこと,原告の代表取締役であるA(以下「A」という。)や原告の社外取締役であるK(以下「K」という。)が既存事業を廃止する旨の発言をしていたことなどから明らかである。
したがって,本件各契約の解約は本件株式譲渡契約締結当初からの原告の経営方針によるものであって,本件表明保証違反との間に因果関係はない。
ウ 損害の内容及び額
(ア) 仮に本件各契約の解約と本件表明保証違反との間に因果関係が認められるとしても,本件各契約が解約されたことによる損失は対象会社に生ずるのであって,それが直ちに原告の損害となるものではない。原告が損害を被るとすれば,原告が把握している対象会社の株式価値の減少分であるところ,それは結局のところ本件譲渡価格と表明保証違反がなかった場合(正確な情報開示がされていた場合)の譲渡価格との差額に帰着する。しかし,本件株式譲渡契約において原告と被告が合意した本件譲渡価格は,対象会社の事業の収益を参照して定められたものではなく,あくまで信託免許に着目して払込金合計額を参照して定められたものであるから,本件各契約の存否は譲渡価格に影響しない。
したがって,本件表明保証違反により原告に損害は発生していない。
(イ) 仮に本件各契約の解約による事業又は企業の価値の減少が観念できるとしても,原告のDCF法による損害の算定は,費用を一切考慮しないもので,そもそも事業又は企業の価値の算定方法として失当である。実際には,本件各契約を含む既存事業が廃止されたことにより,外国人顧客を維持するための高額の人件費の削減が可能になっており,対象会社の全体としての企業価値は減少していない。
(ウ) 人件費,間接費,調査費用及び弁護士費用についても,本件表明保証違反との因果関係は証明されていない。
(3)  原告の請求が信義則違反又は権利濫用として許されないか(争点3)
(被告の主張)
被告は,原告が本件株式譲渡契約に先立ち弁護士に依頼して対象会社のデューディリジェンスを行った際,原告から事前に送付されていた「法的監査資料請求リスト」(乙21)に基づき,本件各契約に関連する全ての書類を原告に開示した。本件本人確認義務違反は,弁護士であれば当該書類から直ちに発見できるものであり,原告は,本件株式譲渡契約締結の際,本件本人確認義務違反を認識していたはずである。このような場合に本件表明保証違反を理由として補償請求をすることは信義則に反し,権利濫用にあたる。
(原告の主張)
そもそも表明保証条項は株式譲渡契約における当事者間のリスク分配を目的として設けられるものであり,当事者の善意・悪意は表明保証違反があった場合の補償請求の可否に影響しない。また,デューディリジェンスは飽くまで買主(原告)の利益のために行われるものであり,デューディリジェンスにおいて認識可能であったことを理由に表明保証違反による補償請求が許されなくなるものでもない。
これらのことを措いても,原告は,デューディリジェンスの際,本件各契約の本人確認書類が開示されていた認識がなく,少なくとも当該書類を検討しておらず,本件本人確認義務違反の事実を認識していたという事実はない。
Bは,平成26年9月22日,原告からの本人確認義務の遵守に問題がないかという質問に対し,問題がない旨回答した。また,対象会社のコンプライアンス担当者も,本件株式譲渡契約締結当時,本件各契約における本人確認書類の不備を認識していなかった。対象会社のコンプライアンス担当者が長年発見できなかった違反事項を当時外部にいた原告が短期間のうちに発見することは容易ではなく,原告が本件株式譲渡契約締結時に本件本人確認義務違反を認識していなかったことには何ら落ち度がない。
第3  当裁判所の判断
1  争点1(表明保証違反)について
前記前提事実によれば,対象会社は,本件各契約において,C及びDの犯収法施行規則上要求されている本人確認書類の提示を受けていない。
犯収法4条が,犯罪による収益移転の防止やテロリズムに対する資金供与の防止を徹底するため,金融機関等に対し厳格な本人確認義務等を課した規定であることからすれば,対象会社が同条1項に違反して同法施行規則7条1号,4号で要求される本人確認書類の提示を受けていなかったことは,たとえ同各号以外の書類をもってC及びDの住所を確認していたとしても,明らかな法令違反に当たるといわざるを得ない。
また,対象会社がGWMに本件各契約に係る信託財産の運用を委託したことは,対象会社が金商法61条1項所定の「金融商品取引業者のうち投資運用業を行う者その他政令で定める者」に当たらないため,同項に違反するものといわざるを得ず,かかる点についても本件各契約には法令違反がある。
以上によれば,対象会社の法令遵守の状況につき,被告により表明保証された内容と実際には相違があるといえ,信託契約に関する本人確認手続の状況についての情報開示の内容(前提となる事実(3)イ)にも,正確性に欠ける点があったと認められるから,被告には本件株式譲渡契約上の表明保証条項違反(本件表明保証違反)があると認められる。そして,少なくとも犯収法という金融機関に対する重要な規制法令に明らかに違反する本件本人確認義務違反は,コンプライアンスが重要視される金融機関である対象会社にとっては,本件表明保証条項にいう「重要な点」に関するものというべきである。
2  争点2(因果関係及び損害額)について
(1)  認定事実
前記前提事実,証拠(後記に各掲記のもののほか,甲49~54,59,乙8,23の1~4,乙15,24,証人E,同L,原告代表者本人,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
ア 本件株式譲渡契約締結に至る経緯
(ア) 原告は,平成23年頃以降,信託事業への参入を検討していたところ,平成26年になり,Bから対象会社の売却の提案を受けたことから,同年6月20日付けで被告との間で秘密保持契約を締結の上,対象会社の買収交渉に入った(甲60,61)。
(イ) 対象会社は,平成26年3月期の決算において約2億4000万円の損失を計上する大幅な赤字企業であったが,Bは,当初から,本件払込金合計額である8億円以上の譲渡価格でなければ売却に応じないという強い意向を示していたため,原告は,8億円を譲渡価格と想定した上で,対象会社の買収後の事業計画(以下「本件事業計画」という。)を作成し,同年7月10日,これをBに送付した。本件事業計画では,本件各契約を含む既存事業の売上げを買収後10年間で倍増させることで,4年後には黒字に転換する計画が示されていた。(甲30,乙1,2の1の1・2,乙2の2)
(ウ) 原告は,平成26年7月24日から同年8月7日まで,対象会社の法務デューディリジェンス及び財務デューディリジェンスを行った。その結果を受け,原告は,同月22日,Bに対し,本件払込金合計額から繰延資産を控除した5億6300万円を譲渡価格として提示するとともに,B及び社外取締役であるHを除く取締役及び監査役から株式譲渡日において辞任する旨の辞任届を受理することを本件株式譲渡契約締結の条件とする旨の書簡を送付した。(乙3の1・2,乙21)。
(エ) 原告は,デューディリジェンスにおいてかつて対象会社が金融庁から本人確認義務の履行に関する指摘を受け,改善状況の報告を指示されていたことが判明したことから,平成26年9月17日,被告に対し,金融庁の指摘事項の改善状況や既存の信託口座に関する本人確認手続の状況等を確認するメールを送信した。これに対し,対象会社から,同月22日,本人確認義務の適切な履行を行っていること,C及びDについても,外国PEPsの観点からチェックを実施し,顧客としての適格性に問題がないことを確認している旨の回答がされた。(甲11,12の1・2)
(オ) 原告は,平成26年10月1日,対象会社の買収に関する報告のため関東財務局の担当官と面談し,買収後の事業計画について説明した。その際,Aは,原告の不動産事業の延長として不動産小口化商品を不特定多数の投資家に販売する信託事業を展開したい旨説明した。また,原告は,同月6日,関東財務局の要請により対象会社の予算案を提出したが,同予算案は,本件事業計画をベースにしたもので,既存事業の継続を前提とするものであった。
(カ) その後,原告は,被告が5億6300万円を譲渡価格とすることを拒絶したことから,最終的には,被告との間で8億1010万円を譲渡価格とすることで合意し,平成26年10月30日,本件株式譲渡契約の締結に至った。
なお,原告と被告は,同日,「譲渡価格に関する覚書」を締結し,既存事業の赤字が解消された場合には原告が本件譲渡価格に加えて1億2994万5000円の金銭を支払うことを合意した(甲47)。
イ 本件株式譲渡契約締結後の対象会社の事業及び本件本人確認義務違反への対応等
(ア) 平成26年11月20日に行われた関東財務局及び金融庁による四半期ヒアリングにおいて,Eは,「ベルニナ信託株式会社M&A後の予算」と題する書面に基づき,対象会社の事業計画について,既存事業を継続しながら,新規事業を拡大して黒字化を目指す旨説明した(乙7,8)。
(イ) 原告の社外取締役であるKは,平成26年11月28日,AやBが出席した戦略会議において,「FPG信託の信託ビジネス検討用資料」と題する資料を配布し,これに基づき会議を進行した。同資料においては,既存事業のうち,人件費等のコストに見合わない指定単独運用金銭信託について優先度を下げることが示唆されていた。(乙6)
(ウ) 平成26年12月4日,対象会社の経営会議において,今後は優先度の高い商品に注力することが確認されたが,Kは,外国人家族を顧客とする事業はB及び対象会社の取締役であるM(以下「M」という。)に依存しており,B及びMがいなくては継続が困難であるから,当該事業の優先度を下げるべき旨の発言をした。
(エ) 平成26年12月11日,対象会社の経営会議において,内部監査部長であるFから,本件各契約における本人確認義務違反の存在が報告された。対象会社は,同月中旬頃,Bをヨーロッパに派遣し,法令違反を解消するため,C及びDから本人確認書類を取得することを試みたが,奏功しなかった。そこで,対象会社は,平成27年2月2日付けで,C及びDに対し,信託契約上の住所であるロンドンでの本人確認書類の追完又はロシアの住所への変更を提案し,同月28日までに返答がない場合には信託契約を解約する旨通知した(以下「本件通知」という。)。(甲14,15,62)
(オ) Aは,平成27年2月5日,対象会社の経営会議において,対象会社の運用金銭信託事業の廃止について検討すべき旨を表明し,まずはサービス終了という意図を顧客に知らせて反応を報告するよう指示した(甲41,乙9)。
(カ) Eは,平成27年2月17日,金融庁及び関東財務局によるヒアリングの際,新規ビジネスの拡充に力を入れ,既存事業については必要に応じて対応する旨記載された資料を提出するとともに,対象会社のビジネスプランや顧客獲得策を継続するのかという質問に対し,外国人顧客獲得については考えておらず純然たる国内の顧客に焦点を当てたい旨回答した(乙10,11,12の1・2)。
(キ) 平成27年2月28日までにC及びDから本件通知に対する返答がなかったことから,対象会社は,本件各契約の解約及びそれ以外の既存事業の廃止を決定した。
(ク) 対象会社は,平成27年3月11日,関東財務局長に対し,不祥事件等届出書を提出し,本件本人確認義務違反及びGWMに対する信託財産の運用委託についての金商法違反について報告した(甲4)。
(ケ) 対象会社とC及びDは,平成27年3月26日,解約合意書(甲16,17)を取り交わし,本件各契約を合意解約した。
(コ) B及び対象会社の取締役内部管理本部長であったLは平成27年4月15日に,対象会社の取締役営業本部長であったMは同月30日に,いずれも対象会社の取締役を辞任し,対象会社の信託運用部長であったNも,本件各契約の解約後対象会社を退職した。また,対象会社は,平成26年12月31日から平成27年末までに,本件各契約を除き20件の信託契約を解約した。
(2)  本件本人確認義務違反と本件各契約の解約との間の因果関係について
ア 前記認定事実によれば,原告は,本件株式譲渡契約締結前にBや関東財務局に対して既存事業の継続を前提とする事業計画や予算案を提出していること,本件株式譲渡契約締結後も,監督官庁に対し,既存事業を継続させながら新規事業を拡大させる旨の事業計画を示した上,社内においても,既存事業を優先度を下げながらも継続させることを前提とする検討を行っていること,対象会社は,本件本人確認義務違反が判明した後もC及びDから本人確認書類を取得することを試みており,これを取得できる見込みがなくなった平成27年2月以降初めて本件各契約の解約を検討するようになったことが認められ,これらの事実によれば,原告は,本件株式譲渡契約締結後も本件各契約を含む既存事業を継続させることを予定していたものと認められる。
イ 確かに,前記認定事実によれば,原告は,信託免許を取得し新規事業として信託を利用した不動産関連事業を展開するために対象会社を買収したことがうかがわれることに加え,原告が,本件株式譲渡契約締結前から対象会社の役員の一部を辞任させる意向を示したり,本件本人確認義務違反が判明する前に既存事業の優先度を下げる方針を表明したりしていることからすれば,原告は,対象会社の買収後は,人件費に見合わない金銭信託事業を縮小させる意向を有していたことがうかがわれるところである。しかしながら,原告が,対象会社の既存事業の規模の縮小にとどまらず,これを早期に廃止する意向を有していたことを認めるに足りる証拠はないし,かえって,本件各契約は,信託財産の運用がGWMに委託されているため対象会社の経費の負担が小さい一方,受託資産の規模が大きく多額の信託報酬を得ることができる魅力的な信託契約であるということができるのであって,原告が,コンプライアンス上の問題が何ら存在しないのに,これを早期に解約する意向を有していたとは考えにくい。
なお,甲42によれば,Aは,平成27年3月12日に開催された対象会社の経営会議において,取引一任勘定の閉鎖は最初の対象会社の取締役会において既に決定されている旨述べたことが認められるが,同取締役会議事録(甲43)にはかかる決定についての記載がないこと,原告の経営陣が問題としていたのが運用担当者の人件費に見合わない信託契約であったことからすれば,上記発言が外部に運用を委託していた本件各契約を含む既存事業の閉鎖を意味していたとまでは断定できないこと,前記認定のとおり,原告は既存事業を継続させることを前提とした事業計画を作成していたこと等に照らせば,Aの上記発言は,前記認定を左右するものではない。
ウ 以上によれば,原告が本件株式譲渡契約締結当初から本件各契約を含む既存事業の廃止を予定していたと認めることはできず,前記認定に係る経緯に照らせば,本件各契約の解約を余儀なくされたのは,本件本人確認義務違反の存在が判明し,これを治癒することができなかったためであると認めるのが相当である。そうすると,本件本人確認義務違反と本件各契約の解約との間には因果関係を認めることができる。
(3)  本件表明保証違反により生じた損害の内容及び損害額
ア 本件補償条項の解釈
本件補償条項は,被告の表明保証違反により生じた原告の損害を被告が補償すべき旨を定めているところ,その文言に照らせば,表明保証違反により生じた損害とは,表明保証した内容が真実と異なったことにより原告が被った損害を広く含む趣旨と解するのが相当である。したがって,原告は,本件補償条項に基づき,被告に対し,本件各契約に法令違反があったこと,すなわち本件本人確認義務違反があったことにより被った損害の補償を求めることができると解される。
被告は,本件表明保証条項に基づく補償の対象は,規制上のリスクに基づく損害に限定される旨主張するが,本件表明保証条項及び本件補償条項には損害の範囲をそのように限定する趣旨の文言はなく,被告の主張は採用することができない。
イ 本件補償条項に基づき原告が請求することのできる損害の内容
前記認定判断によれば,本件各契約は,本件本人確認義務違反により解約を余儀なくされたものといえるから,原告は,被告に対し,本件本人確認義務違反があったことにより被った損害として,本件各契約の解約により対象会社に生じた損害の補償を求めることができると解される。
この点,被告は,本件表明保証違反による損害は本件譲渡価格と正確な情報開示がなされていた場合の譲渡価格との差額によるべきであると主張し,本件譲渡価格を定めるにあたり対象会社の収益は一切考慮されていないから,原告には損害が生じていないと主張する。しかしながら,前記前提事実に証拠(甲54,59,乙23の1~4,証人E,被告代表者本人)を総合すれば,本件譲渡価格は払込金合計額を基準に定められているものの,原告は,対象会社の財務デューディリジェンスを行い,その収益力についても検討した上で本件株式譲渡契約を締結したことが認められ,本件各契約の存否が本件株式譲渡契約を締結するか否かの判断に影響を与えた可能性は否定できないから,被告の主張は採用することができない。
また,被告は,対象会社に生じた損害を直ちにその株主である原告の損害と同視することはできない旨主張するが,原告は,本件株式譲渡契約により,対象会社のすべての株式を譲り受け,その企業価値をすべて把握したのであり,本件表明保証違反により,本来対象会社が有すべき財産が失われたと評価することができるのであれば,当該失われた財産相当額は,原告が把握した対象会社の企業価値の減少分として,原告の損害と同視することができるというべきである。被告の主張は採用することができない。
ウ 本件各契約の解約により対象会社に生じた損害額
原告は,本件各契約の価値をDCF法で算定した金額が本件各契約の解約により対象会社に生じた損害額であると主張し,最も保守的な割引率6.5%を用いたとしてもその額はクレーム・ノーティスにおける請求額7224万5000円を上回ると主張する。
本件各契約の解約により対象会社に生じた損害とは,すなわち本件各契約が継続していれば得られたであろう信託報酬相当額から,本件各契約を維持するために要したであろう費用を控除した金額を現在価値に引き直したものと解すべきであるところ,甲44(株式会社ネクト会計事務所作成の評価報告書,以下「本件報告書」という。)によれば,原告が依拠するDCF法による本件各契約の価値の算定は,本件各契約により将来得られるであろう信託報酬から支払税額を控除し,本件各契約における目標運用利回り又は対象会社の加重平均資本コストにより割り引いて現在価値を算定するものであって,本件各契約が,外部に運用が委託され,対象会社において運用に多額の費用を要するものではなく,信託元本を基準とする一定の信託報酬が見込まれるものであることからすると,本件各信託契約が解除されたことによる損害を算定する方法としては,一定の合理性を有するものと認められる。
もっとも,本件各契約には期間の定めがあり,自動更新条項が存在するとしても,契約を更新するかどうかは受益者の選択に委ねられていること,前記認定のとおり,原告は本件株式譲渡契約締結直後から対象会社の既存事業の優先度を下げる経営判断を行っており,本件各契約のような外国人を対象とする信託事業を担当する人材を保有し続けたかどうかは疑問であること(実際にも,Bを始め,既存事業を担当していた者らが対象会社の役員を退任し,あるいは退職していることは前記認定のとおりである。)からすれば,本件報告書のように本件各契約がC及びDが死亡するまで継続することを前提とするのは相当ではなく,いずれも当初の契約期間(本件契約1については平成35年2月まで,本件契約2については同年10月まで)に限り継続したものとして損害を算定すべきである。
また,割引率については,信託契約における目標利回りによる割引にとどまらず,ビジネスリスクも考慮した対象会社の加重平均資本コストを使用するのが相当である。
以上により本件各契約の解約により対象会社に生じた損害を算定すると,別紙計算表のとおり4039万6354円となる(なお,平成35年3月期及び平成36年3月期については,信託契約が期中に終了することから,報酬は月割り計算とした。また,為替レートは本件口頭弁論終結時である平成30年4月17日時点の円ドル換算レートである106.99円を使用した。)。
エ 人件費,間接費,調査費用及び弁護士費用
(ア) 原告及び対象会社の人件費,間接費
原告は,本件本人確認義務違反への対処のために,原告において合計202万6169円,対象会社において合計520万9478円の人件費及び間接費を要したと主張し,甲54(Eの陳述書)にこれに沿う記載がある。しかしながら,各役員等の基本給や本件本人確認義務違反への対処に要した時間を認定するに足りる的確な証拠はなく,原告が主張する上記人件費及び間接費が本件本人確認義務違反と相当因果関係のある支出であることを認めるには足りないから,原告の主張は採用することができない。
(イ) 調査費用及び弁護士費用
本件補償条項によれば,被告は,原告に対し,本件表明保証条項に違反した場合,合理的な金額の弁護士費用も含めた損害や費用を補償すべき義務を負うところ,甲28,29(枝番を含む。)によれば,原告が弁護士に本件本人確認義務違反についての調査及び本件各契約の解約に関する事務を依頼し,合計90万5281円を支出したことが認められ,本件訴訟の提起及び追行を本件訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかである。本件事案の内容,上記請求認容額等本件に現れた諸般の事情を考慮すると,本件表明保証違反と相当因果関係のある弁護士費用は,上記調査費用等を含め,400万円と認めるのが相当である。
オ 遅延損害金について
前記前提事実によれば,本件補償条項に基づく被告(売主)の補償義務は,売主に表明保証違反があり,かつ,買主からのクレーム・ノーティス受領後,合理的期間内に当該違反が治癒されないときに,売主は買主に対して,当事者の合意又は確定した裁判の内容に従った損害等の額を補償しなければならないというものである。この補償債権は,本来,期限の定めがない債権と解すべきところ,上記合意内容及び契約当事者の合理的意思解釈によれば,この補償債権は,当該表明保証違反の治癒に必要な合理的期間が経過したときに発生し,同合理的期間が経過したときと,売主が買主のクレーム・ノーティスを受領したときの両方を経たときに遅滞に陥ると解される。
前記前提事実によれば,対象会社とC及びDが解約合意書を取り交わしたのが平成27年3月26日であり,遅くともこの時点で本件表明保証違反の治癒に必要な合理的期間は経過していたと認められる。また,前記前提事実によれば,本件クレーム・ノーティスは平成27年10月23日にされた。
そうすると,原告の附帯請求のとおり,被告は,本件クレーム・ノーティスの翌日(平成27年10月24日)から支払済みまで,商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
3  争点3(権利濫用及び信義則違反)について
前記認定事実のとおり,原告は本件株式譲渡契約に先立ち対象会社について法務デューディリジェンスを行っているところ,乙21によれば,その際犯収法に基づく本人確認及び取引記録に関する資料の開示を求めたことが認められることからすれば,原告がデューディリジェンスにおいてC及びDの本人確認書類を確認した可能性は否定できない。しかしながら,原告が本件本人確認義務違反を具体的に認識していたことを認めるに足りる証拠はない。また,対象会社のコンプライアンス担当者自身も認識していなかった本件本人確認義務違反を,限られた時間内でのデューディリジェンスで発見できなかったとしても,そのことをもって原告が本件補償条項に基づく補償を請求することが信義則に反し,あるいは権利濫用に当たると解すべき根拠はない。
したがって,原告の請求が信義則に反し権利濫用に当たるという被告の主張は採用できない。
4  結論
以上によれば,原告の請求は,4439万6354円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第16部
(裁判長裁判官 谷口安史 裁判官 川﨑学 裁判官 渡邉麻紀)

 

〈以下省略〉

 

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