【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業コンサルタント」に関する裁判例(17)平成31年 1月11日 東京地裁 平29(ワ)7083号 雇用関係存在確認等請求事件

「営業コンサルタント」に関する裁判例(17)平成31年 1月11日 東京地裁 平29(ワ)7083号 雇用関係存在確認等請求事件

裁判年月日  平成31年 1月11日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)7083号
事件名  雇用関係存在確認等請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2019WLJPCA01118004

裁判経過
控訴審 令和元年 6月 5日 東京高裁 判決

裁判年月日  平成31年 1月11日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)7083号
事件名  雇用関係存在確認等請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2019WLJPCA01118004

埼玉県さいたま市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 内藤隆
同訴訟復代理人弁護士 和田史郎
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 社会福祉法人Y会
同代表者理事 A
同訴訟代理人弁護士 鈴木銀治郎
同 木下達彦
同 鈴木一平
同 神村泰輝

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2  被告は,原告に対し,平成29年3月25日から本判決確定の日に至るまで,毎月25日限り,83万4000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,被告により発達支援事業部長として採用された原告が,被告から平成29年1月31日限りで解雇されたところ,同解雇は無効であると主張して,前記第1,1のとおり雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,同2のとおり,同年3月25日以降本判決確定の日に至るまで,支払期日又は支払期日後の日である毎月25日限り,同年2月分以降の月例賃金月額83万4000円及びこれに対する上記各日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2  前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることのできる事実)
(1)  被告は,平成19年3月15日に認可を受けた,保育所や障害児通所支援事業の社会福祉事業等を行う社会福祉法人であり,首都圏を中心に,認証保育園であるa保育園や発達支援施設bを運営していた。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(2)  被告は,発達支援事業部の部長となるべき者を募集していたところ,原告がこれに応募し,採用内定を経て,原被告間で,平成28年11月1日,要旨,以下の内容を含む労働契約(以下「本件労働契約」という。)が締結された。
契約期間 期間の定めなし(入社時の試用期間は3か月とする。)
業務内容 1 発達支援事業全体のマネジメント
2 Y会グループ全体の事業推進への寄与
賃金 月額83万4000円
末日締め翌月25日(同日が休日の場合は前営業日)払い
(甲3,乙2)
(3)  被告は,原告に対し,平成28年12月1日,自宅待機命令を発し,同月28日,さらに「本採用拒否の通知」と題する書面を送付して,平成29年1月31日付けで本採用を拒否する旨を通知した(以下,同通知を「本件本採用拒否通知」といい,同通知による本採用拒否を「本件本採用拒否」という。)。その理由は,要旨,原告が採用時に被告に提出した履歴書記載の経歴等に虚偽があることが判明したばかりか,原告の組織の運営・職員のマネジメント(職員に精神的圧迫を加える方法によること等)が被告の求めるものとは異なることが判明したなどというものであった。
(甲7)
(4)  これに対し,原告は,被告に対し,平成29年1月6日付け書面により,代理人弁護士を通じ,本件本採用拒否は無効な解雇に当たるなどとして抗議するとともに解雇理由を明らかにするよう求めたところ,被告は,原告に対し,本件本採用拒否の理由を記した同月26日付け解雇理由証明書を送付し,本件本採用拒否の日である同月31日は経過した。なお,上記解雇理由証明書に記載された本採用拒否の理由は,要旨,下記のとおりであった。

正職員就業規則14条1項6号,29条5号,11号及び同就業規則14条1項1号に該当し,試用期間中又は試用期間満了時までに職員として不適格であると認められたため。具体的には,
ア 原告に,他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし,協調性を欠くなどの言動が認められること(正職員就業規則14条1項6号,29条5号,11号)
被告は,発達支援事業部の運営及び職員のマネジメントを含めた事業全体のマネジメント及びY会グループ全体の事業推進への寄与が期待できる即戦力の人物であるとして,原告を発達支援事業部部長として採用した。
しかしながら,勤務開始後わずか1か月の間に,上司との関係において,適切な報告・相談を繰り返し怠ったこと,自己の判断にて不適切な意思決定をしたこと等,また,部下との関係においても,適切な意思疎通を図ることを怠り,職員に対して原告に対する不信感,恐怖感等を抱かせたこと等が認められた。このことから,部下からパワハラであるとして内部通報・外部通報をされるという事態にまで至っている。
また,原告は,被告に関する以下の虚偽の事実を流布し,よって職場に混乱を生じさせ,もって被告の秩序を乱した。
(ア) 被告がさいたま市において事業を検討している案件に関して,取引先業者からキックバックを得ている,あるいは補助金の流用を行っているなど,被告が不正行為を行っているとの虚偽の事実
(イ) 何者かが,被告のサーバーを経由し,パソコンにダウンロードしたアメリカの不正ソフトを用いて,原告私用のパソコン・携帯電話に対して不正にアクセスし,各端末にコンピューターウィルスを感染させて,原告の各端末を使用不能にしたことから,原告が警察に被害届を提出し,捜査が行われた結果,犯人として被告の関係者2名が特定されたとの虚偽の事実
イ 原告が提出した履歴書に記載された職歴のうち,少なくとも以下の職歴に関して事実に反する不適切な記載が確認されたこと(正職員就業規則14条1項1号)
(ア) 平成20年4月から同25年3月までc大学d研究所e研究センター独立講師として勤務したとされているが,実際には同20年10月頃に同研究所長とトラブルを起こし,大半の勤務期間につき同研究所において勤務した実績がないこと
(イ) 平成21年4月から現在まで,社会福祉法人f会(以下「f会」ということがある。)においてサイエンス教室に関与しているとされているが,同教室を相当前に辞めており,現在,f会に関与している事実はないこと
(ウ) 上記以外にも在籍の事実が確認できていない前職が複数存在することが確認されている
ウ 以上の事実を総合すると,原告は,被告の発達支援事業部部長として採用され,試用期間中であったが,被告が原告に期待した適格性を欠くものと判断し,本採用を拒否し,解雇することとしたものである。
(甲8,9)
(5)  本件に関連する被告の就業規則(正職員就業規則。以下「本件就業規則」ということがある。)の主要な規定の内容は,要旨,以下のとおりであった。
ア 試用期間(13条)
(ア) 新規採用者は,採用の日から3か月(90日)を試用期間とする。ただし,被告が認めたときは,この期間を短縮し,又は設けないことができる。(1項)
(イ) 試用期間を満了した者については,職場適応性,勤務成績,業務習得の程度,健康状態等を総合的に判断し,本採用とする。(2項)
イ 試用期間中の解雇(14条)
試用期間中の者が次の各号の一に該当するときは,試用期間中又は試用期間満了時に解雇する。(1項)
(ア) 被告への提出書類の記載事項又は面接時に申し述べた事項が事実と著しく相違することが判明したとき(1号)
(イ) この規則の懲戒解雇事由に該当したとき又はこの規則の解雇事由に該当したとき(6号)
ウ 普通解雇(29条)
職員が次の各号の一に該当するときは,解雇する。
(ア) 試用期間中で,本採用するに不適格と認められるとき(5号)
(イ) 協調性を欠き,他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼすとき(11号)
(乙4)
(6)  被告は,原告に対し,本件労働契約に基づき,平成29年1月分までの所定賃金を支払期日までに支払った。
(争いのない事実)
3  争点及びこれに関する当事者の主張
本件の主要な争点は本件本採用拒否による本件労働契約解消の有効性であり,これに関する当事者の主張は以下のとおりである。
(1)  被告の主張
ア 被告は,平成28年9月頃,被告の組織及び事業規模の拡大に伴い,発達支援事業を立ち上げてその部長を務めていたB(以下「B」という。)の後任として,発達支援事業部を率いて部の特性に理解あるきめ細やかなマネジメントを行うことができ,しかも被告グループ全体の新たな事業分野の開拓にも貢献できる即戦力の管理職人材を求めて,中途採用活動を実施した。原告は,自身の職務経歴書を含む履歴書を提出してこれに応募をしてきたところ,その履歴書には,原告が,被告と同じ発達支援事業を展開している社会福祉法人f会において6年以上に亘ってサイエンス教室を継続するなど,子どもの教育に豊富な経験を有する人物であるとともに,ハーバード大学,c大学を始めとする一流の大学に研究者として在籍するほどの高い学識や学位を有し,c大学においては5年間もの長期間在籍し,その間,研究者として研究施設において周囲の多くの人たちと調和し,多大な実績や評価を得てきた人物であり,しかも民間企業におけるコンサルタントとしての実務経験等をも有し,高いマネジメント能力をも兼ね備えた人物であることを示す記載がなされていた。そこで,被告は,原告に対する採用面接を経て,同年10月20日に開催された被告の経営会議において原告の採用を決定し,理事会報告を経て,同年11月1日付で本件労働契約を締結した。その待遇は,一般の職員として最高位の職員等級8,年収1000万円超という破格のものとされた。なお,本件労働契約において試用期間は3か月とすることが合意された。
イ ところが,就職後1か月も経過しない試用期間中の平成28年11月末に,原告の部下から被告のホットラインに対し,原告によるパワーハラスメントに関する通報が入ったことを契機として,原告による不適切な言動が次々と発覚することとなった。そのため,同年12月1日,原告に自宅待機命令を発し,原告に関する調査を進めたところ,原告の発達支援事業部部長としての適格性に重大な疑問を抱かせる事実が次々と判明し,被告は,同月28日,原告が試用期間中又は試用期間満了時までに職員(発達支援事業部部長)として不適格であると判断して本件本採用拒否通知をしたものである。
ウ 原告に,他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし,協調性を欠くなどの言動が認められたこと(本件就業規則14条1項6号,29条5号,11号)
発達支援事業部は,子どもたちを対象とした保育事業の中でも特に障害児を対象とする事業であり,その事業の性質上通常の保育以上に優しさ,気遣い等の配慮が求められるところ,かかる事業の特徴から,発達支援事業部には優しく繊細な職員が多数在籍している。そして,発達支援事業部全体のマネジメント業務に従事する原告には,このような職員たちの特徴や気質等をふまえたマネジメントが要求されていた。ところが,原告は,以下のとおり,発達支援事業部に所属する職員としての協調性を欠く極めて不適切な言動を繰り返し,その結果,直接の対象となった職員だけでなく,発達支援事業部の職員,ひいては被告全体の業務遂行に重大な悪影響を及ぼし,業務の混乱を招いた。これらの事実は,即戦力の管理職として採用された発達支援事業部部長かつ被告グループ全体の事業推進を期待される被告の幹部職員として著しく不適格であることを示すものであり,本件就業規則14条1項6号,29条5号,11号に該当する事由がある。
(ア) 被告のホットラインに対する内部通報
原告は,就職直後に用意されていた約2週間のOJT研修を終え,平成28年11月12日以降,発達支援事業部部長として本格的に発達支援事業部のマネジメント業務に従事することとなった。しかし,それからわずか2週間余り後の同月28日には,原告の部下であり発達支援事業部の施設である「gルーム」(以下「gルーム」という。)の施設長をしているC(以下「C」という。)から,同月29日には,同じく原告の部下であり「hルーム」(以下「hルーム」という。)の施設長をしているD(以下「D」という。)から,それぞれ,被告の役員室へ直接つながる内部のホットライン及び被告の顧問弁護士であるE(以下「E」という。)弁護士へつながる外部のホットライン宛に,原告の言動に関する相談が寄せられた。被告において,外部のホットラインに相談がなされたことは初めての事態であった。そこで,事態を重く見た被告において,C・Dからの通報内容や関連する資料,原告との面談結果等に基づき事実関係を確認したところ,以下の事実が確認された。
a 臨時施設長会議において退職勧奨や降格等,職員が萎縮しかねない言動を繰り返していたこと
原告は,平成28年11月18日の発達支援事業部の臨時施設長会議において,出席した施設長に対し,採用に関する権限を与える,採用した職員が不適切であれば同職員に対して退職勧奨,解雇等を行う責任を持たないといけない,必要な人材を見極められなければ施設における問題がわかっていないことから施設長として不適格であるなど,退職勧奨や降格等職員が萎縮しかねない言葉を頻繁に使用した。そもそも人材の採用権限の変更については,原告にそのような職務権限はなく,当時そのような職務権限の変更も予定されていなかったのであるから,かかる内容を公の場で議題として話すこと自体不適切である。この点を措くとしても,発達支援事業部の職員には施設長も含めて繊細な職員が多く,各施設長はこれまで人材採用の経験もなかったところ,そのような施設長らに対し,上記のように伝えることは,過度な負担や不安を与えるものであり,現実に,出席した施設長の中からも不安の声が多数上がった。
b Cに対する不適切な言動
(a) Cから要望されていた面談を行わなかったこと
原告は,平成28年11月1日付で発達支援事業部長のほか,発達支援事業部第3グループの課長に就任しており,同グループに属するgルームの施設長の直属の上司となり,Cに対し,マネジメントをしていくことも職務となっていた。
Cは,同月10日,原告による面談の実施を求めたにもかかわらず,原告は,同月12日,特に明確な理由を述べることなく延期する旨の回答をし,同月19日には,実施予定がないなどと面談を拒否する旨の回答をした。
(b) Cの業務上の相談を取り合わず,「下らない要件で部長の時間をとるのは施設長として不適格である。」などと発言したこと
Cは,従前から原告に依頼していた利用者への配布文書に関する確認が得られていなかったことから,臨時施設長会議前の時間を利用して意見を求めたところ,原告は,今忙しいなどと言って取り合わず,喫煙に行ったばかりか,直後の施設長会議において,Cに対して,怒鳴るような口調で,にらみ付けながら特別扱いしないといった発言をし,返事をしないCに対して,わかったかなどとさらに問い詰めるような発言を行ったほか,Cが原告に対して確認を求めた上記配布文書の件についても「下らない要件で部長の時間をとるのは施設長として不適格である。」などとCを攻撃するような言動をした。
(c) Cに対して被告が業務上の必要性から貸与していたパソコンを自費で返還するように指示したこと
原告は,被告が業務上の必要性を認めてCに対して貸与していたパソコンを,平成28年11月24日に自費にて被告本部へ返却するようにメールで指示した。しかも,かかるメールは,Cに対してのみ送信されたものではなく,発達支援事業部の施設であるb施設の各ルームの共用メールアドレスも宛先に含む形で送信されていたことから,原告がCに対して個人攻撃を行なっている様子を各ルームの職員全員が自由に確認できる状況になっており,その結果,Cがひどく落ち込むこととなっただけでなく,同メールを見た他者も原告のマネジメントに恐怖を覚えた。
(d) 施設長から降格させる旨のメールを送信したこと
原告は,平成28年11月27日,Cが施設長を務めるgルームを一度も訪れることのないまま,同日,突然,一方的にCを施設長から降格させる趣旨のメールを送信した。Cは,かかるメールを見て非常に強いショックを受け,原告の言動に耐えかね,被告の内部ホットライン及び外部ホットラインに対して原告の言動に対する相談を行うとともに,元上司であるBに対して,原告と会議で顔を会わすことすら避けたいという苦しい胸の内を吐露した。
(e) Cは,原告から送信された上記メールをきっかけに,仕事に対するモチベーションを著しく低下させ,被告からの説得も虚しく,最終的には被告を退職してしまった。
c Dに対する不適切な言動
原告は,平成28年11月1日付で,発達支援事業部第3グループの課長として,同グループに所属するhルームの施設長であるDの直属の上司として,Dのマネジメントを行うことも業務とされていたが,原告は,Dが施設長を務めるhルームを一度も訪れることも,また面談等を実施してDと一度も話をすることもなく,十分なコミュニケーションを取ることも全くしない中,同月27日,突然,一方的にDを施設長から降格させる趣旨のメールを送信した。また,原告は,同メールにおいて,D及びCが同月18日開催の臨時施設長会議の議事録の開示を求めたのにこれに応じなかったばかりか,施設長会議の内容を口頭で説明できない場合には,そのことを評価の対象とすると脅す内容の文章まで記載していた。
この点,Dは,上記臨時施設長会議の翌日には,原告の指示どおり,hルームの職員に対して口頭で同会議の内容を伝え,職員の理解を得ていた。Dとしては,D自身が臨時施設長会議の中で感じた原告の言葉のニュアンス等を,原告が開示する議事録を通じてhルームの職員たちにも直接感じてもらい,原告の話を共有したいと考えて原告に議事録の開示を求めたものであった。ところが,原告は,Dが会議の内容を口頭で説明済みであるか否かすら確認することなく,突然,上記内容のメールを送信し,あたかもDが口頭で説明すらできない施設長だと判断したかのような内容と,Dを施設長から降格させる旨を告げた。
同メールを見たDは,同メール中に「現施設長」として自身の名前が記された後,「新施設長の意向」,「新しい人員配置」という表記があったこと等から,自分を施設長から降格させる内容の人事異動がなされるものと理解して激しく動揺し,パソコンの画面から目を離せず,涙があふれてきただけでなく,非常に気分が悪くなってhルームのトイレで嘔吐するほどの強い精神的な衝撃を受けた。
しかも,原告は,同メールを無配慮にhルーム及びgルームの職員全員が確認できる共有メールアドレス宛に送信したため,hルームの職員全体に強い不安を生じさせ,同ルームの職員が「Dさんが降格しないように,辞めないようになんとかして欲しい。」と訴えるに至るなど正常な業務遂行にも悪影響を与えた。
そもそも,施設長からの降格については,被告の社内規則上,部長だけでなく,その上長である本部長及び担当役員の同意を前提に,経営会議の決裁まで必要となり,原告の意向のみで勝手に決定することができない事項であったものであり,この点においても,原告が送信した前記メールは不適切なものであった。
かかるメールが送信された結果,Dは数日経っても精神状態の動揺が鎮まらず,食欲もなくなり,胃痛により服薬せざるを得なくなるなど心身ともに疲弊させ,同年12月5日に予定されていた月例の施設長会議において原告と再度顔を合わせることを思うと恐怖で我慢できないほど追い込まれ,救いを求めて被告のホットラインへ相談することとなった。
(イ) 被告がさらに原告の不適切な言動に関する事実の確認を進めた結果,次の事実も確認された。
a 被告本部において施設長を交代させる旨の発言を繰り返したこと
原告は,研修終了直後の平成28年11月14日頃以降,hルーム及びgルームを含めて発達支援事業部の各現場をほとんど視察せず,現場の職員の働き方をみることも面談等を実施することもなかったにもかかわらず,周囲に発達支援事業部の職員のほか他部署の職員も多数いる被告本部内において,C及びD等の施設長を降格あるいはクビにするなどの発言を,部下からの注意にもかかわらず繰り返し行っていた。かかる発言を聞いて,原告に対して恐怖を覚え,戸惑いを覚える職員が多数生じた。
b Fに対する不適切な言動について
発達支援事業部において課長を務めていたF(以下「F」という。)は,平成28年11月当時,翌月に控えた年中行事である「○○」のイベントの準備の中心的な役割を担っていた。そして,かかる準備の過程で,同月24日頃,今後の課題としてより採算が取れる形で運営していくために,費用やイベントの運営方法等をより効率化したい旨原告に相談した。ところが,原告は,同イベントに関係する職員に対し,「Fさんが○○なんてやめてしまえなどと発言している。」などと,Fの話を曲解した内容の話を広めるとともに,同イベントに関するメーリングリストの宛先からFを外すように指示した。なお,原告は,「○○なんてやめてしまえ。」との発言を直接聞いたものでもなければ,Fに対して発言の有無を確認したわけでもなかった。
このような状況を受け,Fは,関係職員に対して誤解を解くことを試みたが,Fの上長である部長としての原告の影響力は強く,一部の職員を除いて誤解を解くことはできなかった。そのため,Fは,原告に対して,改めて先に相談した趣旨を説明するとともに,メーリングリストの宛先から外すことを止めるようメールで依頼したが,原告はこれを取り合わなかったばかりか,Bを除く被告の部長以上の役職者全員をメールの宛先に入れて,あたかも役職者全員が共通の認識であるかのような内容のメールを送信した。
その結果,Fは,自らの発言を曲解された内容が共有され,自分の信用は失墜させられ,もはや誰も自分の話を信じてくれないなどと強い孤独感を抱くこととなった。また,メールを見た他の職員の中にも,原告のやり方を恐れて精神的に不安定になる職員や,Fに対する公開処刑だなどと激怒したり,Fに対する仕打ちを見て涙を流す職員が複数出た。
このように,原告の言動によって,Fが担当していた○○のイベントの運営に支障を来たすとともに,Fと他の職員との信頼関係にも亀裂を生じ,Fだけでなく現場の職員の業務にも重大な悪影響を生じた。
c 子育て中の職員の不安を煽ったこと
原告は,平成28年11月25日,発達支援事業部において子育てと両立しながら就労する職員に対して,当該職員が与えられた仕事を全て問題なくこなしているにもかかわらず,その職員の勤務態様について被告の他の職員が問題視している旨伝え,同職員の不安を煽った。
d 新規採用時の研修を真摯に受講しなかったこと
原告には入社直後の実地研修の際に,現場での保育に参加することなくただ立っている,現場職員が子どもたちとともに食事を取っている中,独り事務所に戻って食事を摂る,業務時間中にもかかわらず,施設に隣接する他人の駐車場において,被告施設の制服を着用したまま喫煙を行うといった様子が職員に目撃されており,研修の趣旨を理解せずに真摯に受講しようとしない態度が認められており,原告の研修を受け容れた施設の現場職員から,被告の部長職に就く人物としての資質に関する疑問が複数寄せられた。
e 被告内部の重要な会議を無断で欠席したこと
平成28年11月16日,発達支援事業部内で選抜されたメンバーにおいて今後の被告における発達支援事業の方向性について議論する重要な会議が予定されていたところ,発達支援事業部長である原告は,同会議を無断で欠席した。
f 東京都主催の重要な説明会を無断で欠席したこと
被告は,東京都葛飾区内で開設を検討していた新規の大型発達支援施設に関して平成28年11月24日に開催される東京都主催の説明会に出席することが必須の状況であったところ,同説明会には上長であるBの指示に基づき,被告の代表として原告の出席が予定され,同月14日,原告自らも,同説明会への出席票を提出していたのに,東京都及び被告に対して事前に何らの相談,連絡なく,同説明会を無断で欠席した。
その結果,同説明会の終了直後に東京都から被告に対して直接連絡が入り,被告以外の団体は全て出席しており欠席したのが被告のみであったなどとして被告の対応を強く非難され,東京都の信頼を大きく損なった。
g G(以下「G」という。)に対して人事上の機微な情報を無配慮に開示したこと
Bは,原告に対して発達支援事業部の第3グループの課長職を引き継いだ際の人事の参考資料として,CとGの関係性が良好ではない旨を記載されたメールを送信していた。ところが,原告は,Gに対して,CがGとの相性も一つの理由として異動したと説明するとともに,実際に上記メールを無配慮に示し,その結果,Gに不快な思いを抱かせることとなった。
エ 原告が,被告に関する虚偽の事実を流布し,よって職場に混乱を生じさせ,もって被告の秩序を乱したこと(本件就業規則14条1項6号,29条5号,11号)
原告は,被告の職員に対して,自ら又は被告の他の職員を介して,被告に関する虚偽の事実を被告の職員に流布し,かかる虚偽の事実を聞いた職員に不安感等を抱かせ,職場に混乱を生じさせた。
a さいたま市の案件に関する虚偽の事実
被告は,原告の前任の発達支援事業部部長であるBを中心として,さいたま市浦和美園周辺に保育所等の新規施設を開設すべく,行政等との協議・検討を進めてきたところ(以下,この案件を「さいたま市案件」という。),原告の就職後はBから原告にその担当が引き継がれた。
ところが,原告から,平成28年12月1日の面談の際,被告及びBが,さいたま市案件に関して業者からリベートを受け取っている,あるいは補助金を流用している疑いがあるといった事実無根の話がなされた。
さいたま市案件は計画段階のものであって,行政からの補助金はおろか建設業者等との金銭的の授受など一切ない。
それにもかかわらず,原告は,なおもさいたま市案件に関する被告等の不正があると誤信し,かかる虚偽の事実を流布した。
これによって,一部の職員が被告の業務運営に不安を抱くこととなり,職員の業務遂行に悪影響が生じることとなった。
b 被告の職員が原告の使用するパソコン及び携帯電話に不正にアクセスしたとの虚偽の事実
原告は,平成28年12月22日に行われた被告と原告の加入するi労働組合(以下「i労組」という。)との団体交渉の席上において,被告に対し,同月3日,被告の職員が原告の自宅パソコン及び携帯電話に対して不正アクセスを行い,同パソコン及び携帯電話に不正ソフトを感染させて破壊したなどと虚偽の事実を流布し,それを聞いた職員の,被告に対する不信感,不安感等を煽り,その結果,職員の業務遂行に悪影響を生じさせた。
c その他の虚偽の事実の流布
上記の事実のほか,原告は,被告の職員に対し,自ら又は被告の他の職員を介して,発達支援事業部の施設である「b施設」の各拠点に対して,被告幹部が盗聴器を仕掛けようとしていたなどの虚偽の事実を流布した。
オ 原告が提出した履歴書に記載された職歴に関して,事実に反する不適切な記載が確認されたこと(本件就業規則14条1項1号)
前記のとおり,被告は,原告の提出した履歴書からその経歴を高く評価し,そのマネジメント能力に大きな期待を寄せて,管理職に従事する即戦力となりうる人物として被告の発達支援事業部部長に採用したものであるが,被告が調査会社に対して原告の経歴の調査を依頼したところ,以下の重要な事実について,履歴書の記載が事実に反し,あるいは不適切な記載がなされていることが確認された。
(ア) 履歴書では平成20年4月から同25年3月までc大学d研究所e研究センター独立講師として勤務したとされているが,実際には同20年10月頃に同研究所長とトラブルを起こし,その後の大半の勤務期間につき同研究所における勤務実態がなかったこと
(イ) 平成21年4月から採用時まで社会福祉法人f会においてサイエンス教室に関与しているとされているが,同教室は相当前に辞めており,採用時現在社会福祉法人f会に関与している事実はなかったこと
なお,調査会社による調査の過程において,そもそも在籍の事実が確認できない前職が複数存在したものの,原告がこれまで所属した組織のうち,確認できている限りでも,c大学在職中,j大学在職中,k株式会社(以下「k社」という。)在職中に職場内でトラブルを起こして,退職を繰り返していたことが併せて確認された。
原告の履歴書における記載内容のうち,研究者としてc大学の研究室で5年間活躍していたこと,被告と同じく社会福祉法人である社会福祉法人f会において,子ども達の教育のためのサイエンス教室を6年以上も継続的に行っているという点は,被告が原告の採用を決断するに至った大きな要因の一つであった。にもかかわらず,上記のとおり,事実に反する不正確かつ不適切な記載がなされていた。しかも,c大学を含めいくつかの経歴については,マネジメント業務に従事する者としての適格性の判断に直結する職場でのトラブルを起こしていた。これらは採用の際の原告の全人格的評価の前提となる重要な事実について被告に誤認を生じさせるものであり,被告の原告に対する信頼は著しく損なわれた。
カ 以上に述べたとおり,原告は,試用期間中である就職後わずか1か月(研修期間を除けば約2週間程度)という極めて短期間の間に,発達支援事業部部長という管理職の立場にありながら,不適切な言動を次々に重ねた結果,被告の多数の職員に対して恐怖感や不信感を抱かせ,被告の職員の業務遂行に極めて重大な悪影響を生じさせたばかりか,被告に関する複数の虚偽の事実を流布することによって,職員の被告に対する不信感を煽るなど,被告の職員の業務遂行に極めて重大な悪影響を及ぼした。また,原告による経歴についての不実な記載によって,被告の原告に対する信頼を全く失わせしめた。前者の点は本件就業規則14条1項6号,29条5号,11号に該当し,後者の点は同14条1項1号に該当する。
なお,被告は,原告を,専らマネジメント業務を任せられる高いレベルの能力を有した即戦力となる人材であると判断し,特別の地位・職務・給与等を特に定めたものであるから,かかる能力や適格性を有しない場合,被告が原告を他の部署に異動させるなどの解雇回避の措置をとるべき義務は無く,即解雇することにしても本件労働契約の特質上やむを得ない。
以上のとおり,被告は,上記の事実を前提として,原告の言動による被告の職員に対する影響の大きさ及び原告のマネジメント能力等の事情も考慮し,原告に対する最終的な対応を検討した結果,平成28年12月28日,本採用を拒否することが適切であるとの判断に至ったものである。
以上の点からすれば,解約留保権の行使としてした本件本採用拒否には合理的理由があり,かつ,相当なものであって,これによる本件労働契約の解消は有効である。
(2)  原告の主張
ア 被告の主張はいずれも争う。被告の主張する本件本採用拒否の理由は,以下に述べるように,いずれも恣意的・抽象的で客観的な根拠や事実を欠き,本件本採用拒否による契約解消(解雇)は無効である。
イ 原告の採用について
(ア) 原告は,被告の採用条件を充足し,その意欲と力量と実績を有した者であるとして採用された。その採用条件には,経営陣との軋轢を恐れないことも条件とされていた。原告には被告の職場を改善,改革する大胆な意見具申と改革提案が期待されていた。
(イ) 被告は,試用期間による本採用拒否であると主張するが,原告は多くの領域で学問的,実務的経験を有し,大阪大学大学院医学系研究科では博士の学位も得ている。原告には試用を必要とする労働契約上の事情はない。被告も試用契約であることを原告に告知しなかった。したがって,試用期間を理由として原告を本件本採用拒否により解雇することは,そもそも本件労働契約の実態に反するものとしてできないというべきである。
ウ 組織・職員のマネジメント等について
(ア) 原告が入社した当時,被告には事業運営上,改善を要すべき問題が存在した。原告は,被告が抱えている問題点を,着任後の社内研修及び実務を通じ,「事業部内の組織内脆弱」と「事業経理上の懸念」と認めた。具体例としては,原告が研修に訪れた4つの発達支援事業施設(b施設)で,現場と本部とのコミュニケーションがうまくできないとの話を聞いたこと,有利,不利の恣意的な処遇を受ける職員(C)がいて,職位にかかわらず平等な組織運営の必要を感じたこと,施工業者の担当者と施設建設の件で原告が初めて面談した際に,「Hさん(被告常務理事Hのこと。以下「H」という。),Bさんと同じパーセントでいいですよね。」と意味深長な言葉をかけられたことなどがあった。これらの認識を踏まえて,原告は,平成28年11月24日,各支援事業施設と原告の部下であるFとI(以下「I」という。)の両課長に対し,Cだけの個人用メールアカウント廃止して施設課長専用のメールアカウントを設置すること及び各施設のコンセプトに合わせた人事採用等の権限を施設長に委譲することの2点の事業運営方針を通知した。
このように,原告が採用された後の一連の言動は,上記問題意識に基づき原告の学歴,職歴,社会的経験も踏まえてなされたもので,その目的は正当である。この点,同年12月1日開催の幹部会議(原告も出席)において,原告の言動は批判を受ける一方で,「Xさんの目指すところは自分たちとズレてはいない。」,「(原告が)一生懸命やってきたことは何ら疑いなく素晴らしいと思っている。」などと評価もされていた。
仮に原告の表現方法や伝達の仕方に問題があったとしても,上記の目的実現との関係では非本質的であり,かつ,是正可能であって,およそ本採用拒否の理由とはなり得ない。原告も是正に努力する旨を弁明として述べていた。
(イ) そもそも,上司には自らの職位・職能に応じて権限を発揮し,業務上の指揮監督や教育指導を行い,上司としての役割を遂行することが求められる。パワーハラスメント対策は,そのような上司の適正な指導を妨げるものではない。原告の協調性に関する被告主張は,原告に不適切な言動があったというにとどまるものであり,事実,原告の言動は違法なパワーハラスメントに該当するものでもない。違法とはいえない不適切な言動で解雇することはできないし,曖昧な事実をいくら積み重ねたところで解雇が有効となるものでもない。被告の主張は,職員からの主観的な反発を精神的圧迫,不信感,恐怖心と言い換えて非難するにすぎず,客観的な理由でない。被告との協議によって解決が期待されるものというべきであって,即時の本採用拒否の理由となるべきものではない。
(ウ) 被告は,原告に,他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし,協調性を欠くなどの言動があったと主張するところ,平成28年11月27日に原告から関係者に宛てて出したメール(被告の主張するところの降格するとの内容のメール)とこれに起因するCとDのホットラインへの通報を特に問題視している。
しかし,同メールは,原告が,発達支援事業部の部長として,hルーム施設長であるDからの問い合わせに対してした回答文である。回答内容は,会議の内容を施設長から口頭で説明すること,正確に伝達(説明)できないのであれば施設長としての評価対象項目となること,被告職員であるJ(以下「J」という。)の立ち位置はhルーム,gルームのアドバイザーを予定しているが新施設長の意向によること,以上の点が記載されたものにすぎず,上記メールの内容のどこがどのように他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼしたのかは何ら明らかでない。
被告は,同メールの回答の中に,現時点での施設長,新しい人事配置,新施設長といった表現があったことから降格を意味するメールとみるべきものとするようである。
しかし,Gによれば,Cは,研修がつまらないと言って,1日研修なのに午前中で帰ってしまい,Bから注意を受けるなどしていたものであり,Dについても,同人による「コピーも使えないの。」,笑い交じりに「死刑」と述べるなどの言動により,パート職員(K)が2週間余で退職を申し出て,12月中旬に退職するという出来事があった。新しく部長に採用されて就任した原告が,CやDに関する各種の情報に基づき自らの人事配置を構想することは何ら非難されることではなく,この人事構想を関係者に明らかにすることにも何ら問題はない。むしろ,CやDのような被告主張の反応をする方が稀有である。
仮に人を不安にさせるような表現伝達方法をとるべきではなかったとみるとしても,この点については,Bの助言を受け,被告にふさわしい部下との接し方を原告が学んでいくことにより是正していくことが可能である。
したがって,この点が本採用拒否の理由となることはない。
被告は,会社組織の同意を得ていない中で新施設長という言葉が出たのは不適切であるなどとも主張する。確かに,被告の同意を得ていないのは事実であるが,上記メールは原告が新部長となって自分の考える人事の一端を示した構想にすぎず,そのように評価されるべきものでない。
エ 虚偽事実の流布の点について
(ア) さいたま市案件について
a そもそも,原告は,同案件に関して被告の役員に3回ないし4回問題提起をしたにすぎず,同案件に係る事実を流布した事実はない。しかも,この点に係る問題認識と問題提起については,被告幹部であるHや被告代表者(旧姓A1。以下「A」という。)らの了解を得ていた。
b 原告が同案件について最も問題があると考えたのは,事業費の総額が3億円であるのに対して,設計費が6000万円と不相当に高額だったからであり,リベートの上乗せ,あるいはバックマージンが合理的に疑われた。
c 原告は,さいたま市案件について,施工業者の担当者と打合せをしている際,同担当者から,Hの離席中,「Hさん,Bさんと同じパーセントでいいですよね。」というリベートを匂わせる意味深長な発言をされた。
平成28年11月18日に当時被告の課長職にあった部下のIとともに,さいたま市子ども未来局を訪問し,これまでさいたま市として被告に対して設置許認可を出さなかった理由を聴取したが,さいたま市職員から,被告に会計上の不正があること,県下他自治体にて住民トラブルが頻発していること,浦和美園地権者とBとの間に過去,金銭トラブルがあったことの指摘があった。さらなる事実関係を理解するため,原告は,Iとともにさいたま市議会議員を訪問し,被告と地権者,被告とさいたま市とのこれまでの経過を聴取した。
d 以上のとおりであり,原告は,自らの体験,関係者からの直接の事情聴取に基づいて被告の事業運営の経理上の疑問を感じたもので,単なる憶測や伝聞を述べたものではなく,被告の経理の不正については原告自身,体験による相当の根拠がある。したがって,原告が虚偽の事実を流布したことを本採用拒否理由としている被告の主張は失当である。
(イ) 原告のパソコン等の不正アクセスについて
平成28年12月3日を初回として,原告所有及び原告家族が所有するパソコンに不正なアクセスがされた。そして,その不正アクセスによって突如パソコンから会話が流れ始めたところ,その内容は,いずれも被告の社内事情に関わるものであった。したがって,被告の関係者が不正アクセスに関与したと推測された。こうしたことから,原告は,埼玉県浦和東警察署の警察官に被害を届け出た。
以上によれば,原告らのパソコンが被告によって不正アクセスを受けて,捜査対象となっていることは事実である。したがって,これを虚偽の事実の流布として本採用拒否の理由とする被告の主張は失当である。
オ 履歴書の不適切な記載について
(ア) 被告は,原告の履歴書の経歴に不適切な記載があるとする証拠として,調査書(乙23)を提出している。しかし,上記調査書は,平成29年年9月11日の本件訴訟の弁論準備手続期日にようやく提出されたものであり,不自然な提出経過を辿っている。体裁,内容面でも,作成名義が明らかでなく,作成者の記名も押印もないほか,調査責任者,調査日時,調査方法の記載もなく,総じて原告の職務態度や人柄を批判する内容となっているなど,およそ信用できない。
(イ) 被告は,c大学の研究所の勤務期間について研究所長とトラブルを起こし,大半の期間について勤務した実績がなかったと主張する。しかし,研究所長からの適式の回答によれば,研究所への在職期間は平成20年5月1日から同年6月30日まで,研究センターへの在職期間は同年7月1日から同25年3月31日までとされ,勤務実績がないとの回答ではない。また,トラブルを生じた事実もない。
(ウ) 被告は,原告が履歴書に記載している社会福祉法人f会の活動への関与もなかったなどと主張する。しかし,f会への関与は,職業として関わる,すなわち,f会に勤務するという意味ではない。この点は,履歴書の「職歴」欄にではなく「事項」欄に記載していることからも窺うことができる。そして,原告はf会からの要請があれば,いつでもサイエンス教室に協力する用意があったのであり,履歴の記載として誤りではない。
(エ) 被告はk社での在職期間も問題視するが,それが被告の採用条件であるはずの原告の資質とどう関係するのか明らかでない。
(オ) j大学でのトラブルについても,原告が科学研究費の補助金について不正使用があることを発見して同大学や文部科学省の公益通報窓口に相談をした事実はあるが,結局,不正は認定されており,原告の行為はトラブルとして非難されるべきものではない。
(カ) 結局,被告の主張は,在職期間の問題に係る程度のものにすぎず,発達支援事業部の部長としての資質,能力に関わるものではないから,本採用拒否の理由となるべきものではない。
カ 本件本採用拒否に当たり,原告には指摘された問題点を再考あるいは反省する余裕が全く与えられず,わずか2週間ほどの実働期間と1回の事情聴取のみで本件本採用拒否通知がなされた。
原告の職務は発達支援事業部のマネジメント及びY会グループ全体の事業推進であり,その評価には時間を要する。原告は中途採用で幼児福祉事業の経験もなく,被告の職場に原告がなじんでその有する能力を発揮していくためには相当の時間と原被告の相互の努力が必要と思われる。
しかるに,被告は,C及びDのホットライン通報に動揺し,既存組織の温存という保守的思考に走って原告を解雇するに至った。これでは被告が発達支援事業部部長を公募した意味がない。
以上のとおり,本件本採用拒否による契約解消は,その理由がなく,告知聴聞の手続もなく強行されたという点においても,解雇権の濫用により無効というべきである。
第3  当裁判所の判断
1  前記前提事実(2)及び証拠(甲2)によれば,被告は,原告に対し,平成28年10月27日付けで採用内定通知を発して原告がこれに同日付で応諾し,さらに原被告間で,同年11月1日付けで本件労働契約が締結されたものであるところ,これら採用内定通知及び本件労働契約において,試用期間を入社時より3か月とする旨の約定がなされていたものであり,原告は,同日より3か月の日までの間,試用期間にあったものと認められる。この点,原告は,原告について試用期間とする根拠はなかったなどとも主張しているが,上記のとおり明確に原被告間で合意されており,その主張は採用できない。
そして,被告は,前記前提事実(3)のとおり,試用期間中である原告に対し,平成28年12月28日,試用期間の末日である同29年1月31日付けで本採用を拒否する旨通知しているところ,被告の上記所為は,試用期間中に使用者たる被告が本件労働契約における上記規定に基づき留保していた解約権を同日付で行使する趣旨に出たものとみることができ,かかる認定を左右するに足りる証拠はない。
2  判断の基礎事実
もっとも,留保解約権の行使も,解約権留保の趣旨,目的に照らし,客観的に合理的な理由が存し,社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されるものと解される。
よって検討するに,前記前提事実のほか,当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(ただし,人証(陳述書による陳述を含む。)に係るものについては下記認定に反しない措信できる部分に限る。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができ,かかる認定を左右するまでの的確な証拠はない。
(1)  原告の採用に至るまでの経緯
ア 被告は,平成28年9月頃,被告の組織及び事業規模の拡大に伴い,発達支援事業を立ち上げてその部長を務めていたBの後任者を求めて,中途採用活動を実施した。その募集要項では,発達支援事業の新規拠点立ち上げから運営に関わるあらゆること,そして,将来を見据えた被告の事業計画の立案,実施に携わるものとされ,マネジメント経験及び責任感が必須とされていた。なお,想定年収は700~850万円とされ,経営陣との軋轢をおそれない,社会課題への強い関心がある方を募集してみたいなどとされていた。
(乙2,24,26)
イ 原告は,上記募集に対して応募をした。その際,原告により職務経歴書を含む履歴書が作成され,これが被告に提出されたが,同履歴書には,鹿児島大学大学院工学研究科や大阪大学大学院医学系研究科の工学修士課程や医学博士課程を終了し,平成14年4月から同17年3月までハーバード大学で研究者として在籍していたこと,同18年6月から同20年4月までj大学医学部において講師を務め,同月から同25年3月までc大学d研究所e研究センターにおいて独立講師を務めたこと,その後も,各種機関に務める傍ら,合同会社の副代表を務めるなどし,さらに同27年4月からはk社においてコンサルタントとして地域振興といった業務に従事していたことが学歴・職歴欄及び添付の職務経歴書に記載されていた。また,事項欄には,同21年4月から社会福祉法人f会のサイエンス教室を現在も継続中などと記載されていた。
(甲1)
ウ そうしたことから,被告は,原告が,c大学を始めとする一流の大学に研究者として在籍するほどの高い学識や学位を有し,c大学においては5年間もの長期間在籍して研究者として活動してきた人物であり,しかも民間企業におけるコンサルタントとしての実務経験等をも有し,高いマネジメント能力をも兼ね備えた人物である,また,被告と同じ発達支援事業を展開している社会福祉法人であるf会において6年以上に亘ってサイエンス教室を継続するなど子どもの教育にも豊富な経験を有する人物であると評価するに至った。そうしたことから,原告には幼児福祉事業に係る職歴こそなかったものの,平成28年10月12日,Bによる一次面接,同月14日のHによる二次面接を経て,同月20日,被告の役員により構成される経営会議において原告の採用が審議・承認され,被告理事会への報告を経て,同月27日付けで採用内定通知が出された。そして,同年11月1日付で本件労働契約が締結された。なお,賃金について,被告は当初,募集要項と同じ年収700~850万円を想定していたが,原告の意向を踏まえ,年収1000万円に相当する月額83万4000円と定められた。
(甲2,3,乙19(枝番を含む。以下,枝番があるものは特記しない限り同じ。),24~26)
(2)  原告は,平成28年11月1日の入職後,2週間にわたる研修(発達支援事業部における業務打ち合わせや被告グループの4つの施設の実地研修を含む。)を経た後,発達支援事業部部長として業務を開始した。
なお,原告は,発達支援事業部のうち第3グループが担当している横浜市内の2つの事業所(hルーム及びgルーム)の課長職を兼ねることとなったほか,Bが担当していたさいたま市浦和美園付近への新規施設の立ち上げ業務(さいたま市案件)を担当することとなった。
(乙24,27)
(3)  業務開始後の執務状況等
ア 原告は,発達支援事業部長として,日常的業務のほか,福岡県内への新規事業所立ち上げ業務やさいたま市案件における施工業者や行政との折衝等に関与した。また,発達支援事業部内において,Cをはじめとする特定の社員が待遇上優遇され,職員間で不公平感を生じていると認識してこれを問題視し,その不公平感の是正に努めようとした。
もっとも,その過程の中で,以下のような事象も生じた。
(争いのない事実,甲18,20,31,乙7,原告本人)
イ 被告では,平成28年11月16日,発達支援事業部内で選抜されたメンバーにより被告における今後の発達支援事業の方向性について議論する会議が予定されており,原告も参加が予定されていたが,発達支援事業部部長である原告はこれを特段の理由なく欠席した。
この点,原告本人は,その日は体調不良で休んだ,その旨をIに伝えたなどと供述するが,陳述書(甲31)では業務外の交流会であったなどと陳述していたほか,体調不良であったことを裏付ける証拠もなく,その供述はたやすく採用できない。
(乙17,24,証人F)
ウ 平成28年11月18日,被告の発達支援事業部では臨時施設長会議が予定されていた。この会議に先立ち,原告が発達支援事業部第3グループの課長として管掌していたgルームの施設長であるCは,原告に対して,利用者へ配布する案内文書についてのメールへの返信を求めていた。もっとも,原告から特段の応答がなかったため,Cは,同会議の開催前,この点について原告に確認を求めた。ところが,原告は,喫煙のためこれに応じず,会議内でも「くだらないことのために呼び止められた。」などとCを批判した。
同会議では,冒頭,原告が,hルームで同年10月末頃に就職した契約期間1年の有期契約の社員が2週間余りで退職の申し出をして同年12月中旬で退職することとなった件について,施設名を伏した上で施設長らに説明した上,「このような事態は法人の恥だ。」,「部長として申し訳ない。」などと陳謝した。なお,退職することとなった上記社員は,退職理由について,親族の都合のほか,hルームの施設長であるDが,同職員に対し,コピーの機械の使用が余り得意ではなかったときに「コピーも使えないの。」などと述べたり,笑い交じりに「死刑。」と発言するなど不適切な言動があったことにも言及していた。
同会議で,原告は,被告の職員の採用方針を大きく変更し,各施設の現場に採用に関する権限を委譲することを明らかにした。これに対し,施設長らには人材登用の経験がなかったことから不安の声が上がったが,原告は,「人材を見極められないのは,施設における問題点等がわかっていないことと同義であるから,以降,同旨の発言をした場合には施設長として適性がないと判断する。」などと施設長らに申し伝えた。そして,以上の方針を各施設の職員に口頭で説明するよう指示した。また,議事録については公開する旨申し添えた。
ただし,原告が告げた採用方針の変更について,被告で承認は得られておらず,そのようなことを行うことのできる職務権限も原告にはなかった。
また,原告は,同会議で,施設長らに対し,子どものために入職したはずであって自己満足的な働き方は認めないなどと説諭するとともに,職員間で待遇や勤務形態に不公平が生じているなどと問題点の指摘をし,被告所有のパソコンを被告の許諾の下で業務上使用し,施設長の中でメールアカウントを保有していたCに対して,その場でパソコンの返還をするようきつく申し伝えた。もっとも,原告は,Cが被告所有のパソコンを業務上使用することとなった理由や経緯を確認するといったことを事前にしてはいなかった。この点,原告本人は,Cに対して貸与されていたパソコンを返還させることについて,事前にBに対して相談し,Cに対してもなぜ貸与されているか確認したなどと供述するが,そのようにみるべき的確な証拠はない。
(甲20,乙5,7~9,14,28,29,証人B,同D)
エ 原告は,平成28年11月19日,Cがかねてから実施を求めていたMBO(半期査定)面談について「実施予定がないない。」などと拒否した。さらに,同月24日には,他の施設勤務の職員も読むことのできる共有メールアドレス宛に,C宛追記部分を付記し,同日中に直ちに前記パソコンを自費で返却するよう記したメールを送った。
(乙5,7,9)
オ 原告は,開設を検討していた東京都葛飾区の新規の大型発達支援施設に関して平成28年11月24日に開催される東京都主催の説明会に出席することが予定されていたところ,特段の理由なく同説明会を欠席した。そのため,同説明会の終了直後に東京都から被告に対して直接連絡が入り,被告の対応に苦言を呈されるということがあった。
この点,原告本人は,同会議についても,体調不良で休んだ,その旨をIに伝えたなどと供述するが,陳述書(甲31)では開発部が出席するべきもので自分が出席する必要はなかったなどと陳述しており,体調不良であったことを裏付ける証拠もなく,同供述はたやすく採用できない。
(乙16,24,26,証人B)
カ hルームの施設長であるD及びgルームの施設長であるCは,前記平成28年11月18日開催の臨時施設長会議の後,従前,施設長会議の議事録が施設長らに公開されていたことや前記のとおり臨時施設長会議で原告も議事録を開示する旨述べていたことから,各別に,その議事録の交付を要望した。また,同ルームの運営に関わっていたJ(Bの妻)も,同月26日,今後の方針や施設長採用の範囲等を理解するため議事録の交付を希望したいなどと原告にメールで要望していた。
もっとも,原告は,Jの上記メールに対し,同月27日,DやCからも連絡があったようであるのでCCに入れておくなどとした上で返信をしたところ,同メールにおいて,要旨,「先日の緊急施設長会議の際,会議内容は現時点での施設長から関係者に自らの口で説明するよう指示しています。まずは,D・Cの両施設長から説明を受けて下さい。」などと記して前記要望を拒絶するとともに,「他ルームの施設長は先日の会議内容を理解し,議事の内容を各職員に伝達していると聞いております。説明責任が施設長には求められますし,正確に伝達できないのであれば,それはそれで評価対象項目となります。」などと記して,あたかもD及びCが施設職員に対して伝達ができない者として評価されるかのように読める記載をした。さらに,同メールで,「Jさんの立ち位置ですが,…新しい人員配置後における横浜両拠点のアドバイザーを予定しております,新施設長の意向もあるかと思いますし,現状頭を整理したり行動に移される時期でもなく適切ではありません。順序として,上記のとおり,現在の両施設長から内容をお聞き下さい。全てが確定後に関係者と合議の上で,横浜両拠点を盛り上げて頂ければと思います。いまは現時点でのご自身の職責に集中して下さい。…組織運営上,順序と立ち位置を尊守して下さい。」などとして,Jに対し,身の御し方について注意をした。なお,上記のとおり,同部分には,「新施設長の意向」,「新しい人員配置」という表現が記されており,メールの前半部分でD及びCが「現時点での施設長」と表現されていたこととも相まって,D及びCを施設長から降格させる内容の人事異動がなされるものと理解できる内容となっていた(以下,同メールを「本件メール」ということがある。)。
しかも,同メールは,hルーム及びgルームの共有メールアドレス宛にも送られていたことから,D及びCはもちろん,同人ら以外のこれらルームの職員においてもその内容は閲覧可能な状態となっていた。
なお,このような人事が行われるべきことについては,被告の他の幹部は承知しておらず,そもそも施設長からの降格については,被告の社内規則上,部長だけでなく,その上長である本部長及び担当役員の同意を前提に,経営会議での決裁まで必要とされていた。
(乙8,28,証人B)
キ 原告は,以上のような本件メールを送信するに先だち,hルーム及びgルームに訪れ,これら施設の施設長であるCやDと面談をし,施設運営の問題点を協議するといったようなことは何らしていなかった。また,Dは,原告の指示どおり,平成28年11月18日の臨時施設長会議の翌日にはhルームの職員に対して口頭で同会議の内容を伝えており,臨時施設長会議の中で感じた原告の言葉のニュアンス等をhルームの職員たちにも直接感じてもらい原告の話を共有したいなどとして議事録の開示を要望していたものであったが,原告は,Dが議事録の開示を求めた趣旨や会議の内容を口頭で説明済みであるか否かといった点の確認も特段してはいなかった。
しかるに,そのような原告が,突然,他の職員も閲覧可能な状態で,上記内容の本件メールを送信したことから,Dは,強い衝撃を受けて動揺し,気分を害して嘔吐するなどした。そして,他の職員周知の中で降格を余儀なくされたとして強く思い悩み,同日,Bに対し,どうか降格するときはBから告げてほしいなどと苦衷を申し述べたほか,同月29日には,原告の威圧的・攻撃的態度から会うことにとても気が重い,上司との関わり方に悩みがあるなどとして,被告のホットラインに相談を持ちかけ,併せ,被告の外部相談ホットラインの委嘱を受けていたE弁護士に対しても相談を持ちかけた。
また,gルームの施設長であったCにおいても,原告から,かねてより,面談の拒否や衆人環視の中での会議における批判,パソコンの自費での返送を求める業務命令等による執拗な個人攻撃を受けていたと認識していた中,他の職員周知の中で,降格予定と読める本件メールを突如受信するに至ったことから,Dと同様,大きな衝撃を受け,胃痛を訴える精神状態となり,同月28日,上司からパワハラを受けているとして被告のホットラインに相談を持ちかけるとともに,E弁護士にも相談を持ちかけた。そして,Bに対しては,同年12月の施設長会議で攻撃されることを懸念し,どうしても行かなければダメですかなどと苦しい胸の内を吐露した。
(乙5,6,8,10,28,証人D)
ク 他方,この頃,発達支援事業部においてIとともに課長を務めていたFは,平成28年12月に控えた年中行事である「○○」という音楽イベントの準備を担っていたものであるところ,原告は,同年11月27日,同イベントに関するメーリングリストの宛先からFを外すよう指示した。これは,Fが「○○」なんてやめてしまえと発言しているなどと原告において聞き及んだことに基づくものであったが,原告はこれを直接聞いていた訳ではなく,その発言趣旨をFに確認していたわけでもなかった。
そうしたことから,上記指示を聞き及んだFは,そのような発言をした記憶はなく,せいぜい,原告に対し,同イベントについて,今後の課題としてより採算が取れる形で運営していくために,費用やイベントの運営方法等をより効率化したい旨原告に相談したことがあった程度にすぎなかったところ,自身に対して直接指導をするのではなく,原告から現場職員に対し,直に上記指示がなされたことから,上記指示を遺憾に思い,思い悩んだ末,同日,原告に対して,相談をした趣旨について真意を説明するとともに,メーリングリストの宛先から外すことを止めるようメールで求めた。
しかし,原告はこれを取り合わず,かえって,同日,被告の役職者をメールの宛先に含めて同人らが閲覧できる状態の中,Fの対応を非難するメールをF宛に返信し,さらにその送信メールを施設の共有メールアドレス宛にも送信して施設職員が読めるようにした。
こうしたことから,メールを見た他の職員の中には,原告のやり方を公開処刑であるなどとして疑問視する者を生じた。また,当該施設の施設長も,Fを殊更外す原告のやり方が酷すぎて,堪えられない人が続々出ているなどとBにコメントするなどした。
(乙10,11,27,29,証人F)
ケ また,被告には,当時,子育てをしながらフレキシブルに仕事をするための諸制度に乏しかったところ,養育上困難のあった子を育てながら正社員として主としてgルームで稼働していたJは,子の養育の都合上,被告の承認を得るなどしながら,遅刻や早退,在宅勤務等をすることがあった。これについて,他の職員との間で不公平があると感じた原告は,平成24年11月25日のJとの面談で同人に苦言を申し述べたが,Jから,遺漏なく仕事はこなしている,他の非正規社員にも同様の勤務をしている者がいるなどとして反発を受けるといったことがあった。
(甲20,乙10,31)
コ ところで,D及びCによるホットラインによる相談があったことを了知した被告は,外部ホットラインによる相談など初めての事態であったことから上記事態を重く見て,相談事実に係る事実関係の調査を行うこととし,平成28年12月1日,A,H,M管理本部長(以下「M」という。)及びBにより原告との面談の場を設けた。
同面談において,被告は,C及びDから相談があった事実を伝え,同相談内容について原告から説明を受けたところ,原告は,要旨,本件メールに関してはあなたは交代しますよというような言い方はしていない,もう1回権限委譲してからが新施設長という言い方であるなどと弁明し,Cに対して「くだらないことのために呼び止められた。」などと述べたとする点については,Cに真意をわかってくれないという思いがあって,普通にやっているつもりでも恐怖心を与えてしまったのではないか,ただし,根幹はコミュニケーションの不足で反省するところが多いなどと弁明した。また,同人と面談をしていないことについては,IやFが一生懸命面談をやっているはずなどという発言をしたものの,自身が管掌しているhルームの施設長であるCと面談をしていない理由については特段言及するところはなかった。同人にパソコンを自費で返送するよう求めた点については,Cが個人で使用していると聞いていたからであり,少し強引であったことは反省すると弁明した。こうした弁明の後,原告は,Bが原告のポストにFを充てるなどと話をしてきた,Bについてブラックに近い事実を掴み,この人は何を考えているかという疑念も生じた,簡単にいえばキャッシュバックがあったのではないかなどという発言もした。
以上の弁明を受け,HやAからは,要旨,上司とコミュニケーションがとれていないのにどうしてマネジメントができるのか,(外部)ホットラインというのは余程のことである,原告の目指すところは自分たちとずれてはいないが丁寧にいかないとあっという間に心が壊れてしまう人が被告には多い,今回のことからすると大規模な組織のマネジメントは任せられない,そうなると,被告として一緒に仕事はできない,園との信頼関係が最重要であるところ,現場に一度も行っていない中で人事に言及する発言が威圧的・攻撃的と思わせてしまっている,今のマネジメントがこのまま続いてしまうとどうなるのかと思うなどとの注意がなされた。
これに対し,原告は,要旨,高圧的に取られてしまったということに関しては自分の反省する点である,自分も通報者も真意のくみ取り不足があったと思う,恐怖心を与えてしまったことについては,もう一度彼らに歩み寄って心を解くという努力は優先してしたい,もう一度チャンスをもらえるのであればありがたいなどと述べた。
以上の原告の弁明の後,被告は,原告に対する対応方針が決まるまで,原告に自宅待機命令を発した。
なお,被告は,同日,C及びDに対しても事実確認を行ったが,同人らは前記認定と同旨のことを述べた。
(乙7,24~26,証人B)
サ 原告に自宅待機命令を発した後,被告は,hルームとgルームの管掌を課長であるFに委ね,平成28年12月21日には施設長らに事実経過を説明する説明会を開き,部長職にあった原告が自宅待機となっていることに関する職員の動揺を鎮める措置を講じる傍ら,原告の稼働状況について調査をしたところ,D及びC申告に係る前記相談事実のほか,hルームの職員からDが降格しないようなんとかしてほしいなどの懇請がされるに至っていること,前記クのとおり,Fに直接事実確認を経ないままメールの宛先から外し,施設職員から反発を招いているといった事実も生じていたこと,原告が,特段現場を視察してはいないのに,被告本部内で特定の施設長を交代させるといった発言を不用意に繰り返していたこと,Jと稼働に関して紛議を生じていたこと,Cと相性が悪いと指摘されていたGに対して,業務上の必要性が特段認められない中,Cの異動理由がGとの相性が良くなかったことも一因であるなどという趣旨が記されたBからの原告宛メールを示すなどしていた事実等も認められた。
のみならず,被告は,原告のマネジメント能力に不審を抱いて,調査会社に原告の経歴調査を依頼していたが,同月12日に調査会社から受領した調査報告書には,要旨,原告が現在まで継続していたと履歴書で申告していたサイエンス教室は随分前に辞めており,同月当時,f会に関与することもなかったとされていたこと,c大学でも就職後半年ほどでトラブルを起こし,大半の期間において勤務実績がなかったこと,さらにはk社やj大学でもトラブルを生じていたこと等が記載されていた。
(甲18,20,乙10,11,23~26,27,30,証人F)
シ 他方,原告は,I,Gや,l施設長のL,開発部職員のNら総勢10名ほどの者らとともに,平成28年12月5日の段階でi労組に加入し,同月22日,同労組と被告との間で,原告に対する自宅待機命令に関して団体交渉が行われたが,その席上で,原告は,要旨,被告の職員が原告の自宅パソコン及び携帯電話に対して不正アクセスを行い,同パソコン及び携帯電話に不正ソフトを感染させて破壊したなどと述べ,警察に被害届も出しているなどと告げた。
(甲5,乙13,25,原告本人)
ス そうしたことから,被告は,平成28年12月28日,原告との間で本件労働契約を継続することは困難であると判断し,前記前提事実(3)のとおり,原告に対し,要旨,原告が採用時に被告に提出した履歴書記載の経歴等に虚偽があったことや,原告の組織の運営・職員のマネジメント(職員に精神的圧迫を加える方法によること等)が被告の求めるものとは異なることが判明したなどといった点が理由として記載された同日付け「本採用拒否の通知」と題する書面を送付して,平成29年1月31日付けで本採用を拒否する旨通知した(本件本採用拒否通知)。
これに対し,原告は,同月6日付け書面により,代理人弁護士を通じ,本件本採用拒否は無効な解雇に当たるなどとして抗議するとともに,同月,東京都庁や厚生労働省の記者クラブで,さいたま市案件に係る補助金の不正使用に端を発した不当解雇であるなどとして記者会見を行うなどしたが,被告は,前記前提事実(4)のとおり,原告に対して,他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし,協調性を欠くなどの言動が認められ,履歴書記載の職歴に関して事実に反する不適切な記載が確認されたなどという内容の同月26日付け解雇理由証明書を送付し,平成29年1月31日付けで本採用を拒否した(本件本採用拒否)。
(甲7~9,乙26)
(4)  Cは,原告の自宅待機命令後も被告での勤務を続けていたが,平成29年4月頃には,同28年11月のことでモチベーションが下がりやる気が起きないなどとして退職の意向をほのめかすようになり,Fが慰留に努めたが,平成29年9月頃には退職をした。
(乙27,証人F)
3  そこで,前記認定事実を踏まえ,本件本採用拒否による本件労働契約の解消の有効性について検討する。
(1)  前記認定事実によれば,原告は,その履歴書における経歴から,発達支援事業部部長として,さらには被告グループ全体の事業推進を期待される被告の幹部職員として,被告においては高額な賃金待遇の下,即戦力の管理職として中途採用された者であったものであり,職員管理を含め,被告において高いマネジメント能力を発揮することが期待されていたものである(前記2(1))。
しかるに,原告は,前記認定事実のとおり,入職後,1か月ほどの間のうちに,外部機関による説明会を含む被告の重要会議にしばしば欠席するなどしたことがあったほか(前記2(3)イ,オ),実際には権限はないのに,自らが示した人事採用方針について不安を述べる施設長に適格性がないと判断するなどと申し伝えたり(同ウ),被告本部内にあって不用意に施設長の降格について言及するなどしたばかりか(同サ),特段,本人に対する面談や事実確認,施設訪問を経ているわけでもないのに,Cに対しては,案内文書の確認についてくだらないことで呼び止められたなどと衆人の目のある中批判し,パソコンの自費による返還を命ずるなどしたほか,MBO(半期査定)面談について「実施予定がない。」などと拒否し(同ウ,エ),議事録の開示を求めた同人に対し,不適格で降格予定と読める本件メールを他者が閲覧できる状態の中送信するなどしてその面目を失わせ,その高圧的言動により内部ホットラインによる相談はおろか外部ホットラインによる相談まで招く事態を生じてその離職の一因を作り,同様,Dに対してもこれらホットラインによる相談を招く事態を生じさせたものである(同カ,キ,(4))。また,「○○」に係る一連の事象においても,同様の手法によりFの面目を失わせ,Fはもちろん当該施設長からもその威圧的手法についてクレームを生じさせたところであって(同(3)ク),発達事業本部の管理職たるFと軋轢を生じさせたほか,被告事業の主要な構成要素であるといえる施設の要たる施設長との間でも軋轢を生じさせたものといえる。これらの点からすると,原告の業務運営の手法は,少なくとも施設長らとの円滑な意思疎通が重要となる被告の発達支援事業部部長としては,高圧的・威圧的で協調性を欠き,適合的でなかったと評価せざるを得ない。
しかも,原告は,前記認定のとおり,さいたま市案件に関して,被告がリベートを取得するなどの不正を行っているなどと事実確認の面談の際に述べるなどしたほか,この点に関して不正な補助金使用があったなどとして記者会見を行い(同コ,ス),さらには被告が不正アクセスを行ったなどと団体交渉の場で指摘するなどしたものである(同シ)。
この点,原告は,さいたま市案件に関して被告に上記不正があった旨主張し,原告本人もこれに沿う供述をしているが,本件全証拠をみても同供述を裏付ける的確な資料根拠は認められず,かえって,証人B・同Fの反対趣旨の証言やM・Hの反対趣旨の陳述がある。これらの点に照らすと,原告指摘の事実があったとは認められない。
また,原告は,被告による不正アクセスがあったとも主張し,これに沿う原告本人の供述のほか,甲21,27ないし31,43及び44号証はある。しかし,被告は,原告の上記主張を争っているところ,上記甲号証も,原告からその旨の被害事実の申告がされたことを窺わせる根拠資料とはいえても,これによっては,その事実の有無及び原因が真に被告によるものであるかは不詳というほかなく,そもそもパソコンから被告内部の会話が流れ出すなど自己に不利益な状況となりかねない不正アクセスを被告が試みたとみること自体も不自然であり,Mの反対趣旨の陳述もあるほか他に被告について官憲による捜査が進捗しているとも窺われないことにも照らすと,原告の上記主張事実についてもこれがあるとは認められない。
結局,以上の点からすると,本件証拠上,原告が問題視するところのさいたま市案件に係る不正や被告による不正アクセスはなかったものと認めるべきものであり,原告は,これらの点について事実に沿わない発言をしたものといわざるを得ない。
そして,さいたま市案件に関し,原告が殊更これを流布したと認めるべき的確な証拠はないものの(この点,被告は,原告が平成28年12月のサッカーイベントで流布していたなどと主張し,これに沿う証人Dや同Bの証言部分はあるが,いずれも原告が現に流布していたことを認めるべき証言内容とはいえず,他に上記被告主張事実を裏付けるに足りる的確な証拠はない。),平成29年1月に至ると,本件本採用拒否の日に先立ち,記者会見を行って一般にこれを摘示して被告にその対応を余儀なくさせ(乙25,26),また,不正アクセスの点についても,被告が犯罪行為を行った旨を衆人の下摘示したものといえ,信頼関係を損なう言動に及んだものといえる。
のみならず,被告は,原告が申告していた経歴にも事実に沿わない記載があったなどと主張しているところ,証拠(甲1,乙18,20,21,23)によれば,少なくとも,被告が経歴において重視していた点の一つである原告のf会におけるサイエンス教室の現在までの6年間に亘る継続開催につき,実際には平成26年6月から平成27年6月までの1年間において,4回ばかり科学実験の先生として関与していたと認められたにとどまって,以降,特にf会とのやり取りも途絶えていたこと,さらには,同様,被告が民間企業でのマネジメント能力に関して注目をしていたk社でのコンサルタントとしての稼働に関しても,仔細については本訴提起後に判明した事情であったものの,履歴書付属の職務経歴書の記載から推知されるほどの活躍は認められなかったほか,そもそも稼働期間自体,その記載に反し,同28年4月から同年8月31日までとわずかであったことが認められる。この点,原告は,前者(f会での活動)の点につき,履歴書の「職歴」欄にではなく「事項」欄に記載している,f会からの要請があれば何時でもサイエンス教室に協力する用意があったから履歴の記載として誤りではないなどと主張し,原告本人も,f会の理事長とは今も懇意としているなどと供述するほか,上記原告主張と同旨の供述をしているが,事項欄であっても履歴であることに変わりはなく,サイエンス教室に協力する用意があるから現在も継続しているなどとは一般にもおよそ見難い。また,原告は,後者(k社での稼働)の点についても,同社からの回答(乙20)の証拠力も争うが,その信用性を疑わせる事情は本件証拠上認められない。以上のとおりであるから,その主張の点からその記載が正当化されるものではない。
結局,以上の点に照らすと,上記のように高いマネジメント能力が期待されて管理職として中途採用された原告につき,少なくとも,本件就業規則14条1項6号,29条5号,11号及び同就業規則14条1項1号に規定するように,他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし,協調性を欠くなどの言動のほか,履歴書に記載された点に事実に著しく反する不適切な記載があったことが認められるところであり,本件本採用拒否による契約解消は,解約権留保の趣旨,目的に照らし,客観的に合理的な理由が存し,社会通念上相当なものと認められる。
(2)  原告のその他主張について
ア 以上に対し,原告は,採用に際して「経営陣との軋轢を恐れない」ことが条件とされており,大胆な意見具申と改革提案が期待されていたなどと主張する(原告の主張イ(ア))。確かに,募集要項にそのような記載はあり,外部の人材であった原告に意見具申と改革提案が期待されたとはいえるが,現実に軋轢を生じては企業活動が進まないことは自明であって上記募集要項の記載もそのような気概で募集に応じてくれる者を求めた程度の趣旨にすぎない。以上のとおり,上記記載と実際に職員と軋轢を生じることとは別であり,その記載から原告の所為が正当化されるものではない。
イ 原告は,原告の言動は批判を受ける一方で評価もされており,仮に言動の表現方法や伝達の仕方に問題があったとしても,非本質的かつ是正可能で,およそ本採用拒否の理由とはなり得ないなどと主張する(同ウ(ア))。
確かに,原告が,職員間の不公平感を是正に努めようとしていたこと等については,被告内部でも,役員や一部職員に,一面,これを肯定的に評価する声もあったとはいえる(甲20,前記2(3)ア,コ)。しかし,前判示のとおり複数の施設長から外部ホットラインへの相談等を引き起こすなど相応に大きな紛議等も生じたことに照らせば,高いマネジメント能力が買われて採用された原告の本採用の是非の判断に当たり,その運営手法が非本質的とみるべきものであったなどとは到底いえない。また,原告が,その履歴に鑑み,高いマネジメント能力を買われて,被告としては好待遇の下,即戦力として中途採用されたものであったことに照らせば,改善指導を当然の前提とすることも相当でなく,むしろ,原告の高圧的言動に係る事実が短期間で複数認められたことや,原告の不正行為や違法行為に係る指摘により被告の信頼関係を大きく損なう事態にもなっていたこと,しかも,原告申告の経歴を踏まえて前記労働条件が設定されたものであったのに,経歴上不適切な点も少なくとも前記(1)の範囲であったことにも照らせば,原告の是正意向(前記2(3)コ)にかかわらず,これをしなかったからといって,およそ本採用拒否の理由にならないものでもない。
ウ 原告は,原告の一連の言動は指導としてなされたものでもあったなどという主張もする(原告の主張ウ(イ))。確かに,前記認定事実によれば,原告の課員に対する言動には部下に対する指導としてされた側面もあったことは否定できないが,前判示のとおりその手法は不適切で,上記のとおり経歴申告上の問題(不適切な記載)もあったことにも照らせば,その指摘の点から前記判断が左右されるものでもない。この点,原告は,同所において,原告の言動がパワーハラスメントに該当しないことについても主張しているが,本件本採用拒否の理由は上記のとおり被告における協調性を欠くマネジメントであったことや経歴申告上の問題があったことであって,パワーハラスメントに該当するか否かを問議する意味に乏しい。
なお,原告は,原告の言動の背景事情として,CやDに,それぞれ研修を早退したり,契約社員に不適切な発言をして退職を招くなどの不適切な言動があったことについても主張しているところ(同(ウ)),確かに,同人らにそのような問題点があったことは窺われるが(甲18,前記2(3)ウ),原告に,本件メールはもちろん,それ以外の言動においても,同人らに対し,そのような問題点があることを諭そうとする姿勢があったとはおよそ垣間見ることはできず,協調的態度に欠けるものであったことには変わりはなく,不適切な運営手法により紛議を招き,経歴申告上の問題もあったことにも照らせば,その指摘によっても本件本採用拒否の正当性が左右されるものではない。
エ 原告は,本件メールがどのように他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼしたのかも明らかでないなどとも主張する(原告の主張ウ(ウ))。しかし,前判示のとおり,その内容は,被告の事業の要である施設の施設長に大きな衝撃を与えるメールの内容であったといえるのであり,そのこと自体,業務遂行に悪影響を及ぼしたものといえる。原告は,CやDの反応こそが稀有で,本件本採用拒否は同人らの主観的な感情に基づくものにすぎないというような主張もする(同所)。しかし,本件本採用拒否は,原告について,Cらによりなされた外部ホットラインへの相談等客観的事象を踏まえてなされたもので,単なる主観的感情に基づきされたものではない上,前判示のとおり,直属の上司たるべき者から,面談もないまま会議等で批判され,さらには降格が予定されていると読める内容の本件メールを自身が管掌する施設の共有メールアドレスに送信されるに至っては,これにより退職にまで至るかはともかくとしても,上司たるべきものとの関係を思い悩むに至ることは予期し得べきものといえ,Cらの稀有な反応に基づくものであるなどと評価されない。したがって,かかる指摘によっても前記判断は左右されない。
なお,原告は,原告の主張ウ(ウ)で,本件メール等に関し,各種の情報に基づいて自らの人事配置を構想することは当然で,これを関係者に明らかにすることにも何ら問題はないはずであるなどとも主張するが,そもそも前記認定のとおり,人事配置に係る権限は原告にはなかったものであるし,この点措いても,原告が発達支援事業部部長としてCらの上役にあり,発達支援事業部全体の円滑な運営を図る立場にあったことにも照らせば,そもそも構想であってもこれを当該本人も含む共有メールアドレス宛に不用意に送ること自体,紛議を生じさせるものとしてマネジメント能力や協調的姿勢に欠けるものであったといわざるを得ず,原告の指摘からその行為がおよそ正当化されるものとはいえない。
オ 原告は,原告に対し,告知聴聞の手続が履践されておらず,不当であるなどとも主張する(原告の主張カ)。
しかし,本件において原告は解約留保権の行使により労働契約の解消に至ったものであって,懲戒手続により解消に至ったものではなく,その指摘の点から本件本採用拒否による契約解消の有効性が左右されるものでもない。
カ 結局,以上のとおりであり,原告が,施設における人材登用等により事業部内の組織力を高め,あるいは職員間の不公平感の是正をしようとしたこと自体は理解されるところではあるが,その手法は,被告においては高圧的,威圧的であったといわざるを得ず,前判示のとおり紛議も生じ,経歴申告上の問題もあったこと,そもそも原告については高いマネジメントを発揮することが予定されて高額な待遇が設定されていたことにも照らせば,原告のこれら主張を踏まえても,原告につき本件本採用拒否をすることとしたとしてもやむを得ず,その他原告の主張を仔細にみても,前記判断を左右するに足りるまでのものはない。
(3)  以上のとおりであるから,本件本採用拒否による本件労働契約の解消は,その余の事情について判断に及ぶまでもなく,有効と認められる。
4  以上によれば,原告の本件各請求はいずれも理由がないから,これらを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
(裁判官 芝本昌征)

 

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