判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(283)平成20年 9月25日 東京地裁 平20(ワ)7335号 請負代金請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(283)平成20年 9月25日 東京地裁 平20(ワ)7335号 請負代金請求事件
裁判年月日 平成20年 9月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)7335号
事件名 請負代金請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2008WLJPCA09258002
要旨
◆インターネット上に求人情報を検索して閲覧できる求人情報用ウェブサイトを開設・運営している原告が、労働者派遣業を営む被告との間で、被告が希望する求人情報を掲載する内容の請負契約を締結したとして、被告に対し、その未払代金及び弁護士費用を請求した事案において、契約書及び注文書等からすれば、被告が主張するような原告が被告に対して一定以上の応募者数を保証したとは認められず、原告の債務不履行は認められないとする一方、代金支払の拒否が不法行為を構成するとの原告の主張は認められないとして、弁護士費用を除き、原告の請求を認容した事例
参照条文
民法632条
裁判年月日 平成20年 9月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)7335号
事件名 請負代金請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2008WLJPCA09258002
東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社インターワークス
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 稲垣隆一
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 株式会社TOUA
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 保持(やすもち)清
主文
1 被告は,原告に対し,102万0537円及びこれに対する平成20年3月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し,その2を原告の,その余を被告の各負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,132万0537円及びこれに対する平成20年3月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,インターネット上に,様々な就労条件別に求人情報を検索して閲覧することのできる求人情報用ウェブサイトを開設,運営している原告が,労働者派遣事業を営む被告との間で,一定期間,当該ウェブサイト上に被告が希望する求人情報を有料にて登録,掲載するという内容の請負契約を締結したとして,その未払の請負残代金(月額利用料)102万0537円の支払と,不当な主張に基づき代金支払を拒絶し続ける被告の態度が,正当な権利行使に対する不当抗争として原告に対する不法行為に該当するとして,その結果原告に生じた損害たる本訴弁護士費用30万円相当の賠償を請求したのに対し,被告が,両者間の契約に基づく原告の債務内容には,当該ウェブサイトにおける被告希望の求人情報の登録,掲載という債務のみならず,現に当該ウェブサイトを利用したことによる就職希望者を1か月に30名以上集めるという債務が含まれていたことを前提に,当該債務が履行されていないとして,原告の請負代金請求権の発生を否定するほか,原告主張の契約期間の途中で,被告から前記契約を口頭解除したことを主張して,その請負残代金債務,損害賠償債務の存在を争った事案である。
第3 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(詳細は本文中の丸括弧内に示す。ただし,争いのない事実であっても,基本的書証については参照として鍵括弧内に表示した。)によって容易に認定することができる。
1 原告は,「派遣ネット」「工場WORKS」という商標のウェブサイトの開設,運営を始めとする人材ビジネス業界向け募集サイトの企画,開発,運営等を行う株式会社であり,被告は労働者派遣事業,有料職業紹介事業等を行う株式会社である(争いなし)。
2 原告と被告は,平成19年5月24日,以下の趣旨の文言が表示された派遣ネットサービス基本契約書を作成して,同契約書に基づく契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した(争いなし〔甲3〕)。
(1)「派遣ネットサービス」とは,原告が運営するウェブサイト「派遣ネット」で提供するサービス及びそれに関連するサービスをいう(契約書1条1項)。
(2)被告が派遣ネットサービスを申し込もうとするときは,原告の定めた書式による注文書に必要事項を記載して行う(契約書3条1項)。
(3)原告は,被告から前記の申込みを受けたときは,速やかに所要の審査を遂げ,派遣ネットサービス提供を可とするときは,被告に対し派遣ネットサービス利用開始通知書をもって,その旨及び利用開始日を通知する(契約書3条2項)。
(4)被告は,派遣ネットサービス利用料として,原告が別に定める料金を原告の指定口座に振り込んで支払う(契約書4条1項)。
(5)被告は,通知された派遣ネットサービス利用開始の日から原告の定める月額利用料(利用月の末日締め,翌月末払い,暦日日割計算)を支払って,派遣ネットサービスを利用することができる(契約書4条2項)。
(6)原告は,被告に対し,ユーザー利用頻度等,派遣ネットサービスの提供に関し,何らの保証をしない(契約書5条2項)。
(7)原告は,被告が「料金などの支払いを怠り,または支払いを拒否したとき」は,被告に対する何らの通知催告をすることなく,直ちに本件基本契約を解除し,被告が派遣ネットサービスに表示している内容の全てを削除する(契約書7条1項③号)。
(8)被告が本件基本契約を解約しようとするときは,原告に対し予め書面をもって届け出ることとし,この届出が毎月末日までに原告に到達したときは,その翌月末日を解約日とし,被告は,解約日までの料金の全額を支払うものとする(契約書11条1項)。
3 被告は,本件基本契約に基づき,原告に対し,以下のとおり「派遣ネットサービス」の利用を申し込む原告所定の注文書を提出した(甲4,5,6)。
(1)商標名「派遣ネット」ウェブサイトに関する利用申込み
申込日 平成19年5月24日
月額利用料 18万9000円(消費税込み)
解約 解約の申し出をした月の翌月末に解約となる
(2)商標名「工場WORKS」ウェブサイトに関する利用申込み
ア 申込日 平成19年6月29日
契約期間 平成19年7月15日から同年10月31日まで
月額利用料 10万5000円(消費税込み)
イ 申込日 平成19年12月5日
契約期間 平成19年11月1日から平成20年1月31日まで
月額利用料 10万5000円(消費税込み)
(なお,甲5号証の契約期間につき「2007年10月1日~2008年1月31日までの契約」とあるのは,「2007年11月1日~2008年1月31日までの契約」の誤記であると認めた。)
4 原告は,前項の注文書に基づき,原告が運用する商標名「派遣ネット」のウェブサイトには平成19年5月24日以降同年12月31日まで,また商標名「工場WORKS」のウェブサイトには平成19年7月15日から同年12月31日まで,いずれも被告が希望する求人情報を登録,掲載して,求職者による閲覧を可能とする状態(携帯電話やパソコン等の端末からインターネットを用いて閲覧し,ウェブサイトの操作,メール,電話等により掲載企業への応募をすることを可能とする状態)に置いた(被告において争うことを明らかにしない)。
5 被告は,原告に対し,平成19年9月分以降の月額利用料の支払を怠り,原告は同年12月31日をもって,「派遣ネット」「工場WORKS」両ウェブサイトにおける被告のための求人情報登録,掲載サービスの提供を中止した(弁論の全趣旨,甲16)。
6 なお,一部の月額利用料については原告による値引きが行われた結果,第3項の利用申込みに基づき,「派遣ネット」「工場WORKS」両ウェブサイトのサービス利用に伴い,契約上,被告が負担すべき平成19年9月分から同年12月分までの月額利用料は,合計102万0537円となっている(甲7~14)。
第4 争点とこれに関する当事者の主張
1 当事者間の契約において合意された原告の債務内容は何か
(原告の主張)
本件基本契約とこれに基づく個別注文書の受注によって当事者間に成立する契約は,被告が定められた月額利用料を支払うことにより,原告において,商標名「派遣ネット」,商標名「工場WORKS」の各ウェブサイト上に,被告希望の求人情報を登録,掲載して,就労希望者をして閲覧可能な状態(携帯電話やパソコン等の端末からインターネットを用いて閲覧し,ウェブサイトの操作,メール,電話等により掲載企業への応募をすることを可能とする状態)に置くことを,請負契約の目的たる原告の債務とする内容の契約である。
(被告の主張)
当事者間の契約の内容は,原告において,原告主張の債務(ウェブサイト上に,被告希望の求人情報を登録,掲載して,就労希望者をして閲覧可能な状態とする債務)のみならず,当該ウェブサイトを利用することにより,1か月に30人以上の求職者を実際に集客する債務を負うという契約である。
原告主張の契約期間中,原告は,当該集客債務を履行していないから,契約の目的は達しておらず,原告には約定の月額利用料(請負代金)請求権は生じない。
2 当事者間の契約の解除の成否
(被告の主張)
原告には,1か月に30人以上の求職者を集客する債務についての不履行が存在した。
そこで被告は,原告に対し,平成19年9月末日をもって,本件基本契約に基づく「派遣ネット」「工場WORKS」の利用を停止する旨を口頭で告知し,もって同契約を解除又は解約する旨の意思表示をした。
よって,当事者間の契約は,平成19年9月末日をもって解除されたから,被告は,本件基本契約にかかる債務を負わず,少なくとも平成19年10月以降の月額利用料支払義務は生じない。
(原告の主張)
原告が,被告に対し,1か月に30人以上の求職者を集客する債務を負っていること,被告から,平成19年9月末日をもって本件基本契約を解除する旨の口頭の意思表示がなされたことはいずれも否認し,その主張は争う。
3 被告による契約代金支払拒否行為が,原告に対する不法行為となるか
(原告の主張)
原告は,本訴提起のために,原告訴訟代理人弁護士に対し,着手金15万円及び成功報酬金15万円の支払を約した。
被告は,本件基本契約とこれに基づく個別注文書の受注によって当事者間に成立する契約が,労働者派遣契約の成果もしくは実際の応募者数の保証をするような契約ではないことを十分理解して契約締結に至りながら,原告の運営するウェブサイトを利用した実際の契約者,応募者がいない,あるいは少ない等といった理不尽な主張を繰り返して,月額利用料の支払を拒否したものであるから,かかる被告による月額利用料の支払拒否行為は,それ自体が,被告の原告に対する不法行為にあたる。
その結果,原告は本訴提起を余儀なくされたのであるから,前記弁護士費用相当額は,被告の不法行為と相当因果関係のある損害である。
(被告の主張)
争う。
第5 認定事実
前提事実,証拠及び弁論の全趣旨(詳細は本文中の括弧内に示す。)によれば,以下の事実が認められる。
1 原告が運営する「派遣ネット」「工場WORKS」というウェブサイトは,何千何万といった多数の求人情報を載せた上で,これらの情報のうち,稼働エリアや業種,給与額,勤務時間,最寄り駅等,様々な項目ごとに,希望する条件に合致するものだけを検索,抽出して,インターネット上で閲覧することのできるサイトであって,その結果,同サイトを閲覧した求職者が,気に入った仕事を見つければ,ウェブや電話等を用いて求人先に連絡を取り,応募することを可能にするような情報媒体である。なお,「派遣ネット」は全職種を対象としたサイトであるのに対し,「工場WORKS」は,求人対象となる職種を,専ら製造業等の工場労働者向けに絞って情報提供しているサイトであるという相違がある(前提事実,甲1,17,18,証人C)。
2 原告の営業担当従業員であるCは,平成19年4月から5月にかけて,被告方を訪問の上,被告担当者に対し,本件基本契約の締結に向けた勧誘を行った。その際,被告担当者は,被告の求人情報に関し,原告のウェブサイトを利用した実際の応募者が,1か月あたり30人以上となることの保証と,その旨契約条項として契約書上にも明記するよう求めたことがあったが,Cは,これには応じられないとしてその要求を断った(乙1,4,証人C,証人D)。
3 その後もCが営業活動を行った結果,被告は,平成19年5月24日,原告との間で本件基本契約を締結した上,当初はウェブサイト「派遣ネット」の利用を,また同年7月15日からは,同年10月末までの約定で,ウェブサイト「工場WORKS」の利用を申し込むに至った(前提事実,証人C)。
なお,当事者間の月額利用料の支払期限は,当月末締めの翌月末払いと規定されていた本件基本契約とは異なり,実際には,当月末締めの翌々月15日払いとされていた(甲7~14)。
4 被告が,パソコン又は携帯電話によるウェブサイト及び電話連絡により,応募のあった求職者等の数を現時点で集計したと主張する資料によれば,平成19年5月から12月までの8か月間で,ウェブサイト「派遣ネット」を利用して被告の求人情報に応募した人員数は,月毎にそれぞれ「5月4人,6月22人,7月33人,8月48人,9月33人,10月23人,11月14人,12月14人」であり,そのうち実際に被告に登録の上稼働した人員数は,月毎にそれぞれ「5月0人,6月3人,7月3人,8月1人,9月0人,10月0人,11月4人,12月0人」であった。また同様に同年7月から12月までの6か月間で,ウェブサイト「工場WORKS」を利用して被告の求人情報に応募した人員数は,月毎にそれぞれ「7月7人,8月12人,9月12人,10月14人,11月14人,12月18人」であり,そのうち実際に被告に登録の上稼働した人員数は,月毎にそれぞれ「7月0人,8月0人,9月1人,10月1人,11月2人,12月0人」であった(乙2の1,2の2)。
5 ところで被告は,平成19年8月分までの月額利用料は原告に支払ったものの,「派遣ネット」を利用した実際の稼働者が,同年9月には1人も出なかったとして,そのことが被告の社内で問題視されたことをきっかけに,原告に対し,月額利用料の半額割引を要求するようになる一方,同年11月15日が入金予定日とされていた同年9月分の月額利用料の支払を停止した(証人D,甲7,11,16)。
6 そこで,Cや他の原告営業担当者が,平成19年11月28日ころ,被告担当者と協議した結果,原告は,被告の値引き要求に応える形で,同年11月分の月額利用料のうち,半額にあたる9万円相当の値引きを行うほか,同年12月19日から平成20年1月1日までの間,「工場WORKS」のウェブサイトのモバイルトップページに,被告のための広告(代金10万円相当分)を無償で掲載するサービスを行うことを約束した(甲9,14,16,乙1)。
なお,原告は,それ以外にも,ウェブサイト「派遣ネット」上に不具合(画面のフリーズ)が生じたことを理由に,平成19年10月分の月額利用料については,そのうち22日から31日までの分の日割計算である5万8060円相当の値引きを行っている(甲8.証人C)。
7 その結果被告は,平成19年12月5日になって,ようやくウェブサイト「工場WORKS」の同年11月1日から平成20年1月31日までの間の利用申込みを行った(前提事実)。
8 しかし,その後も被告は,平成19年12月17日(月曜日)を入金予定日とする同年10月分のみならず,既に支払期限を徒過していた同年9月分の月額利用料も支払わず,さらに同年10月分の月額利用料を半額とするよう要求してきたことから,Cとその上司は,被告担当者に対し,先の約束以上の値引きはできないことを告げて,月額利用料の入金がなければ,被告の求人情報掲載を同年12月末で停止する旨通告したが,被告の要求は変わらず,延滞月額利用料の支払もなかった。そこで原告は,同月末をもって被告に対するサービス提供を中止した(甲16)。
第6 判断
1 争点1(当事者間の契約における原告の債務内容如何)について
(1)被告は,原告の営業担当従業員であったCが,本件基本契約の勧誘を行うに際し,原告提供のサービス利用により,被告の求人情報に対する実際の応募者数が,1か月あたり30人以上となることを口頭で保証し,これが当事者間での契約内容として,原告の具体的な債務になったと主張する。
(2)しかし,まず当事者間で取り交わされた契約書,注文書その他の関係書類上に,上記のような保証条項に関する取り決めは一切記載されていない。それどころか,逆に前提事実のとおり,本件基本契約においては,原告は,派遣ネットサービスの提供に関し,ユーザー利用頻度等を何ら保証しない旨が,明確に規定されている。そして,認定事実のとおり,C自身もまた,被告担当者から,30人以上の応募者の保証を契約書の記載条項とするよう求められた際に,これを拒否している。したがって,被告担当者らは,当事者間で取り交わされようとしている契約の本旨が,もともと提供された求人情報に対する実際の応募者数を原告が保証するようなたぐいの契約でないことは,十分に理解していたものというべきである。
そもそも,原告がウェブサイト「派遣ネット」又は「工場WORKS」の運営を通じて提供しているサービスは,膨大な量の求人情報を,任意の条件に従って検索,抽出できるようなシステムを用いて,インターネット上で閲覧することを可能とする形での,情報の登録,掲載を行うサービスであり,これを利用することにより,求職者は求める仕事を探しやすいというメリットが得られるし,そのように求職者にとって便利なシステムであればこそ,求人企業においても,結果的に多数の求職者を集め易いというメリットが期待できるものといえる。が,いってみればそれだけの,求人情報提供サービスに過ぎないのであるから,一般的には応募者増加という期待は持てるにせよ,そのサービス提供を受けることで,実際に何人の求職者が応募するか,またその応募者の中から,労働者派遣事業を営む被告の派遣社員として,実際に何人の者が登録するか,さらにその登録者の中から,派遣先への派遣要請を受け入れて,実際に何人の者が稼働するか,というようなことについては,事前に正確な予想をすることが相当に困難であるのは明らかというべきである。また,ウェブサイトを利用した応募者人数については原告も把握可能ではあるが,被告に直接電話連絡等をもって行う応募者の人数に関しては,原告にはその有無,人数を把握する方法すら原則として存在しないといえるのであって,仮に一定数の応募者人数を保証したとすれば,原告は,当該月において自らがその債務を果たせたか否かについて,自分一人では必ずしも検証すらできない立場に置かれることになる。しかも,実際に応募者がその保証人数を下回りそうな場合でも,原告は,求職者に対して,自ら直接職業の斡旋をすることはできない立場にあるのだから(有料,無料を問わず,職業紹介事業を行おうとする者は,原則として厚生労働大臣の許可を必要とする〔職業安定法30条,33条〕が,原告はその許可を得ていないと推認される。),当該月の保証人数クリアという債務を完遂するために,具体的にいかなる方策を採れば良いのか,非常に対応に苦慮することになろうが,その場合の解決策については何ら検討された様子もない。かかる状況下において,Cがいかに新規契約を取るため熱心な営業活動を行ったにせよ,原告が想定している契約内容とは全く異なる効果を持つことになる,応募者人数の保証というような発言を,安易に行うとも考えにくい。
仮に真実Cがかかる発言を行ったとしても,これを契約書の契約条項に記載することは拒否されたのであるから,被告担当者が,それでもなおかかる発言内容こそが当事者間の契約として合意されたものだと考えたのであれば,それは契約書の契約条項とは全く矛盾する内容の,新たな合意を形成したことになる。そのような場合,せめて口頭で保証をしたというC個人から,その旨を記載した念書や覚書等のメモ的な記録を徴求するのが当然ではないかと思われるが,被告担当者らにおいて,そのような行動を取った形跡もない。
(3)結局,Cが1か月あたりの応募者30人を口頭で保証したという被告の言い分を裏付け得るものは,被告取締役の一人であるD証人において,Cが平成19年4月か5月当時,口頭でその旨約束したことを,部下から報告されたと証言するもの以外,何一つない。
なお,被告は,平成20年2月14日当時の電話もしくは面談による,CとDほか1名との間の会話の中で,Cが,本件基本契約勧誘に際して,30人の応募者を保証する発言をしていたことを認める発言をしたかのように主張するようだが,当時の会話内容の録音テープの反訳書であるという乙1号証を子細に検討しても,その会話の中のCは,Dからの一方的な責任追及に対し,合いの手的な返答こそしているものの,結局のところその全体を通してみれば,応募者の人数を保証することは,もともと契約内容には含まれていないものであること,また応募者30人という要求を受けて「頑張ります」といった趣旨の発言をしたことはあったにせよ,応募者が絶対来るとは間違っても言えない等として,その旨約束したことはないという趣旨の発言を,一貫して主張し続けているというべきなのであって,そもそもかかる会話内容が,被告主張に添うものであるとの被告の解釈自体,容易に同調することができない。
また,原告が,応募者や稼働者が少ないといったクレームに答える形で,平成19年11月分の「派遣ネット」の月額利用料を半額にしたという経緯は認められるが,それは,モバイルトップページにおける被告のための広告を,一定期間無償で掲載するというサービスと共に,その当時はなお被告との継続的な取引を希望していた原告において,一般的な顧客へのサービスの一環としての値引きを行ったものと考えて何の矛盾もないのであって,それが原告自身の債務不履行を認めた上での言動であるとは解されない。むしろ被告において本当に,「応募者30人以上」という結果を保証することが当事者間の契約内容たる請負の目的になっていたと解するのであれば,それを達成できない月については,そもそも原告の報酬請求権自体が発生しないはずなのであって,月額利用料請求権の存在を前提に,その値引き交渉をするということ自体が,自らの主張とは必ずしも整合しない行動である。
さらには,被告の社内で,原告に対する月額利用料支払の是非が最初に問題となったきっかけは,毎月の応募者の人数の多寡というよりは,実際の稼働者の人数の多寡を問題とするものだったということや,仮に被告の主張を前提としても,その保証条件をクリアしているはずの平成19年9月分の「派遣ネット」利用料すら支払を拒否した(同月の応募者数は,被告提出資料によっても33人となっている。)という被告の行動,また乙1号証の会話内容に表れた被告担当者らの交渉態度等を併せ考えれば,被告の値引き要求や支払拒否は,原告の契約上の債務の履行の有無を巡る法的な責任追及の態度の表れというよりは,単に原告のサービスを利用することによって被告が期待したとおりの効果が現れなかったという見込み違いに対する不満を,原告からの値引き獲得という形で,多少なりとも解消しようと図った言動であることがうかがわれるところである。
(4)かかる事情を総合考慮すれば,Cが,本件基本契約締結に際し,被告に対して,原告提供のウェブサイトを利用した実際の応募者人数が,1か月あたり30人以上となることを保証ないし約束するといった発言をしたことを認めるには足りない(万一かかる発言があり得たとしても,それは営業職たるCのサービストークの一環に過ぎず,被告担当者においても,かかる内容が当事者間の契約内容そのものになると理解したものではなかったというべきである。)。他に当事者間においてかかる合意が成立したことを認めるに足りる証拠はなく,当事者間の本件基本契約に伴う原告の債務として,かかる合意がなされた事実はないというべきである。
とすれば,本件基本契約とこれに基づく個別注文書の受注によって当事者間に成立した原告の債務内容は,当事者間に争いのない範囲である,「派遣ネット」もしくは「工場WORKS」の各ウェブサイト上における,被告希望の求人情報の登録,掲載にかかる債務というべきところ,原告が,平成19年9月1日から同年12月末までの間,前記ウェブサイト上で,かかる登録,掲載を行ったことは優に認められる(前提事実)。
2 争点2(当事者間の契約の解除の成否)について
(1)ところで,被告は,原告との間の契約は,平成19年9月末日をもって解除(又は解約)されたと主張するところ,その真意が,原告の債務不履行を原因とする解除にあるのか,あるいは本件基本契約に基づく将来効としての解約請求にあるのかが必ずしも判然としないため,その双方について主張するものと善解するが,まず債務不履行解除の成否については,争点1に対する判断で摘示したとおり,原告に,被告主張のような債務不履行はなかったと認められるから,これを理由とする契約解除については,仮にその意思表示がなされていたとしても,その効力を生じない。
(2)次いで,本件基本契約に基づく解約請求の当否について検討するに,被告は,平成19年9月末をもって,本件基本契約を解約する旨の口頭での意思表示をしたと主張するが,かかる意思表示をした人物の特定や,その際の状況等の詳細を明らかにするよう求める当裁判所からの釈明(第1回口頭弁論期日調書)に対しても,これを明らかにしないし,むしろ被告平成20年7月8日付準備書面では,平成19年11月以降の中止の提案をした旨,答弁書の記載と異なる主張を行っていて,その主張内容自体に一貫性がない。
そして,被告が真実,契約の解約を求めたいのであれば,いつでも本件基本契約に定められた,書面による解約手続を行うことは可能であったはずだが,口頭解約というその主張自体からして,被告が書面による解約請求を行っていないことは明らかであるし,却って被告は,平成19年12月5日付けで,ウェブサイト「工場WORKS」につき,改めて平成19年11月1日から平成21年1月31日までの利用を求める申込みを行っているのである。
かかる経過を考慮すれば,そもそも被告が,原告に対し,平成19年9月末日をもって,本件基本契約や,それに基づくウェブサイト「派遣ネット」「工場WORKS」の利用を中止する旨の解約の意思表示をしたことがあったとは認められない。
(3)以上によれば,被告の契約解除又は契約解約にかかる抗弁は,いずれも採用することができない。
3 争点3(被告の契約代金支払拒否行為の不法行為該当性)について
(1)原告は,被告による前記請負残代金の支払拒絶行為が,その主張内容に照らして明らかに不当な抗争であって,原告に対する不法行為にあたると主張する。
確かに,争点1に対する判断で示した経緯によれば,そもそも被告が,当事者間に成立した契約の内容として,原告において,原告提供のウェブサイトを利用した実際の応募者数を,1か月あたり30人以上確保する旨の債務を負ったとする被告自身の主張を,被告が真実正当なものと認識して主張していたのか否かにも,疑問が生じないわけではない(被告取締役の一人であるD自身,その証言中において,1か月の応募者を30人以上とする旨の保証は,当事者間の契約内容というよりは,原告の営業担当者であったC個人の発言として,責任を取ってもらいたいといった趣旨の発言をしていた程である。)。また,原告のウェブサイト利用による求人効果に,期待どおりの結果を認めなかった被告が,これを不満に思って代金の値引き交渉をしたこと自体は,商取引における交渉事の範囲内として許容される部分があり得たとしても,その際の被告が,契約で合意された代金の支払自体を停止したこと,特に,契約代金どころか,被告が妥当と主張する契約代金の半額相当の金員すら支払わなかったことについては,確信的な債務不履行という意味で,確かに法的にも,また商道徳的にも,不当なことといえなくもない。
しかし,原告の被告に対する債権は,かかる確信的な債務不履行によっても,当該債権自体が消滅させられるというものでは全くないばかりか,履行が遅滞したことによって生じた損害については,商事法定利率もしくは約定利率に基づく遅延損害金請求債権が新たに生じ,被告においてその負担をすることになるのはもちろん,他に履行遅滞と相当因果関係のある範囲で,原告に生じたと認められる損害についても,被告においてその賠償をなすべき債権債務関係が生じるのであり,原告は,かかる請求権を行使することによって,被告の債務不履行の結果生じた損害を,法的にすべて回復することができるのである。そうすると,被告の債務不履行の動機や態様がいかに不当なものであったにせよ,その支払拒絶行為の結果,原告の権利利益が新たに侵害されたということはできず,かかる被告の行動が,それ自体原告に対する不法行為となるものではないというべきである。
(2)なお,訴訟における弁護士強制主義を採用していない我が国では,訴訟追行を本人が行うか,弁護士を選任して行うかの選択は,基本的に当事者に任されているところであり,一般的に,契約の債務不履行その他の社会生活上の様々なトラブルに起因して,訴訟を余儀なくされた場合でも,そのための弁護士費用相当額が,当然にトラブルの相手方の負担すべき費用や損害,すなわち契約上の債務不履行と相当因果関係ある損害と認められるものではない。
本訴弁護士費用相当額の賠償を求める原告の主張は,被告の債務不履行に起因して原告に生じた損害のうち,法的な相当因果関係があるとは認め難いものについて,実質的にその賠償請求を求めるものに過ぎず,その意味でも原告の主張には理由がないというべきである。
第7 結語
以上の次第であるから,原告の被告に対する請求のうち,当事者間の契約に基づき,平成19年9月分から同年12月分までの月額利用料合計102万0537円と,これに対する各支払期限後であることが明らかな平成20年3月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで,商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める部分には理由があるが,同契約上の債務支払を被告が拒絶した行為が不法行為であることを前提に,その損害である本訴弁護士費用相当額の賠償請求を求める部分には理由がない。
(裁判官 荻原弘子)
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