判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(281)平成20年12月 1日 東京地裁 平18(ワ)12411号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(281)平成20年12月 1日 東京地裁 平18(ワ)12411号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年12月 1日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)12411号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2008WLJPCA12018007
要旨
◆原告が、被告の従業員から執拗にマンション経営の勧誘を受けた結果、意に反して被告との間でマンションの建設請負契約を締結させられたと主張して、被告に対して使用者責任に基づく損害賠償を請求した事案において、契約締結に至るまでに被告の従業員が頻回に原告宅を訪問したことは営業行為として相当性を逸脱し違法であるとはいえないが、原告が依頼した弁護士から解約通知を受けた後、その弁護士を解任させ、別の弁護士を選任させてその後の諸事務の遂行を円滑に勧めようとしたことや、その後更に変更契約を締結させたことなどは、営業活動としての相当性を欠き違法であるとした一方、原告の行動が本件を長期化させ、損害を拡大させた要因となっているとして4割の過失相殺がされた事例
参照条文
民法709条
民法715条
民法722条
民事訴訟法42条
裁判年月日 平成20年12月 1日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)12411号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2008WLJPCA12018007
埼玉県蕨市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 南木武輝
同 北沢孜
同 南木道雄
東京都港区〈以下省略〉
被告 大東建託株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 落合洋司
埼玉県戸田市〈以下省略〉
被告補助参加人 Z
同訴訟代理人弁護士 河井匡秀
主文
1 被告は,原告に対し,1463万7550円及びこれに対する平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用中,補助参加に要した費用を除く分はこれを3分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とし,補助参加に要した費用は全部補助参加人の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,4782万9250円及びこれに対する平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は,原告が,補助参加人ら被告の従業員から執拗にマンション経営の勧誘を受けた結果,その意に反し,被告との間でマンションの建設請負契約を締結させられるなどして多額の金銭を支出することになったと主張し,被告に対し,民法715条1項に基づき4782万9250円の損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1) 原告は,大正○年○月○日生の女性であり,夫や子はなく,肩書地で一人暮らしをしていた。原告は,父Bから,別紙物件目録1記載の土地及び同2記載の土地(以下「本件土地1」及び「本件土地2」という。)を含む2000坪位の土地を承継し,その後所有していた。そして,平成16年当時,JR蕨駅東口前付近に所在する本件土地1は,昭和59年10月から継続して株式会社イトーヨーカ堂(以下「イトーヨーカ堂」という。)に駐車場として賃貸し,賃料として1か月109万7250円を得ていた。また,本件土地2はC及びD(以下「Cら」という。)に建物所有目的で賃貸していた。
(2) 被告は,アパート・マンション・貸店舗・貸工場・貸倉庫及び貸事務所等の建設業務等を業とする株式会社である。その業務内容は,顧客の目的に適合した土地活用の企画及び立案,賃貸建物の設計及び施工をし,建物完成後には,当該建物において顧客が賃貸事業を継続する間,入居者のあっせん及び仲介をし,原告及び関連会社において賃貸契約管理及び建物管理業務を行うというものであった(乙15)。
(3) 補助参加人(以下「Z」という。)は,運送会社でトラック運転手として稼働していたが,平成14年に被告に入社し,以後,平成18年8月31日に退職するまで,被告川口支店(以下,被告の支店については,単に「川口支店」のようにいう。)において営業を担当していた(丙1)。
なお,平成16年当時,川口支店においては,Eが支店長であった。Eは,平成11年4月に被告に入社し,越谷支店,練馬支店の建築営業課長を経て,平成15年4月から川口支店の支店長となった(乙14)。また,同支店の建築営業課長はFであった。
(4) Zは,平成16年5月中旬ころ,イトーヨーカ堂が駐車場として使用している本件土地1が原告の所有であることを知り,事前の連絡をせずに原告宅を飛び込み訪問し,原告に対し,本件土地1に賃貸マンションを建築して経営をする話を持ちかけた(丙1)。
Zは,その後,単独で,あるいは上司(以下,Zとその上司を合わせて「Zら」ということがある。)と共に頻繁に原告宅を訪問し,賃貸マンションの経営について勧誘をした。
(5) Zは,原告宅を訪問するうち,本件土地1にマンションを建設して,そのマンションの最上階に原告が居住し,他の部屋を賃貸し,1階に被告の事務所を入居させれば,Zらが直接原告の面倒を看ることもできるとの提案をしたところ,原告がこれに興味を示した。
(6) 原告は,同年8月28日,被告との間で,Zの提案を取り入れた5階建て24室,事業予算6億0379万3550円とするマンションの建設の請負契約を締結し(以下「本件契約1」という。),同月31日,同契約に係る契約時金及び契約書印紙代として1144万5000円を支払った。
(7) 原告は,同年9月3日,G弁護士に依頼して,被告に対し,本件契約1を解約する旨の通知をした。
(8) 原告は,Zに紹介されたH弁護士に依頼し,同年12月8日,G弁護士に対する上記依頼を解消した。
(9) 原告は,同月23日,被告との間で,本件土地1のうちの本件契約1では利用しない部分を活用して敷地面積を広くし,建設するマンションの総戸数を増加させることを内容とする本件契約1の変更契約を締結した(甲6,7。以下「本件変更契約」といい,同変更に係るマンションを「本件マンション」という。)。原告は,同月22日,被告に対し,本件変更契約の契約時金,契約書印紙代として359万5000円を支払った(甲9)。
(10) 原告は,平成17年2月19日,被告との間で,本件土地2に4階建14室のマンションを建設することを内容とする契約を締結した(以下「本件契約2」という。)。原告は,同月21日には,被告に対し,同契約に係る工事代金内金244万円及び契約書印紙代9万円の合計253万円を支払った(甲10ないし14,丙1)。
(11) H弁護士は,同年4月17日,原告から,イトーヨーカ堂から本件土地1の返還を受ける事務を受任し,同月26日,イトーヨーカ堂との間で,同賃貸借契約の終了を合意し(甲59),同月末に本件土地1の明渡しを受けた(甲17の1,61)。
(12) 被告は,同月18日,本件マンションについて建築基準法の規定による確認申請をし,同年5月25日,指定確認機関から確認済証の交付を受けた(甲16)。
(13) 原告は,I弁護士に依頼し,同年6月30日,被告に対し,本件土地1及び2にマンションを建設することを内容とする各契約の無効又は解除の意思表示をした(甲22の1・2)。
(14) 原告は,同年9月5日,本件土地1において行われたマンション建設工事のための地鎮祭に出席した(丙2)。
(15) 原告は,同年10月26日,株式会社埼玉りそな銀行(以下「埼玉りそな銀行」という。)の行員の訪問を受け,融資条件に関する説明を受けた。しかし,同銀行が,融資のためには原告の有する預貯金や自宅を含めた他の財産にも担保を設定する必要があることを説明したところ,原告は,翌27日,Zに対し,本件マンションの建設を取りやめることを伝えた。
(16) 原告は,平成17年11月17日から同年12月13日まで日本医科大学付属病院に検査入院をしていたところ,Zは,同年11月29日,同病院に原告を見舞い,本件変更契約を更に変更し,建築施工床面積を本件契約1と同じ面積に縮小することを内容とする契約(以下「本件再変更契約」という。)の契約書に署名を求めた。原告は,上記契約書に署名をしたが,印鑑を所持していなかったため,押印をしなかった。その後,Zは,自ら原告の取引届出印を市販の印鑑に変更する届出をした上,同印鑑を押印し,本件再変更契約の契約書を完成させた(甲28,29,丙1)。
(17) 原告は,平成18年2月中旬ころ,本件マンションを建設しないことを被告に伝えた。
2 原告の主張
(1) 不法行為の成立について
被告の従業員であるZらが,原告に対してしたマンション建設に関する一連の行為は,原告の意思に反してマンション建設を強行しようとするものであり,営業行為として社会通念上許容される範囲をはるかに逸脱した違法なものであって,全体として不法行為を構成する。これを個別に見ると以下のとおりである。
ア 本件契約1を締結させることに向けた不法行為
(ア) Zらは,Zが平成16年5月ころに原告を訪問したのを皮切りに,同年8月に本件契約1を締結させるまでの間,原告が断っているにもかかわらず,繰り返し本件土地1上にマンションを建設することを勧誘した。その勧誘は執拗であり,Zらは,原告がマンション建設を承諾するまで訪問し続けるとの態度を示し,原告の意思を無視し,連日,原告を訪問した。
(イ) Zらは,原告に対し,本件土地1及び完成したマンションを担保にすれば金融機関からの借入れができると説明した。
しかし,原告は,当時83歳であり,相続人もいないため,そのような条件で融資をする金融機関は実際には存在しなかった。
そのため,Zらは,原告に対し,融資を受けるためには後継者が必要であるとして,Zを養子にすることまで提案した。
また,Zらは,原告に対し,融資のために原告の自宅住居や預貯金を含めた全資産に担保を設定する必要があるとの説明もしていない。
(ウ) Zらは,原告に対して,資産が増えることのみを強調し,資産が減少する危険性を全く説明しなかった。
すなわち,Zらは,マンション経営により手取収入が毎月300万円以上になるとの説明をしたが,それは,所得税や住民税等の控除も考慮しない過大なものであった。
また,Zらは,建築したマンションに空室が発生する危険性や賃料が減額されるリスクについて説明しなかった。
その結果,平均余命で計算した場合,原告が死亡した際には多額の負債が残り,資産はかえって減少するから,上記説明は虚偽の内容を含むものであった。
(エ) 原告は,上記(ア)ないし(ウ)のとおり,Zらによる執拗な訪問・勧誘を受けた結果,生活の平穏が害され,不適切な説明の結果,マンションを建設することによって資産が増加するものと誤信した。
そして,平成16年8月28日,そうした状況の中でZ及びEの訪問を受け,不安と恐怖に襲われ,契約の内容につき十分説明を受けることもなく,前記1の前提事実(以下,単に「前提事実」という。)(6)のとおり,本件契約1の契約書に署名押印をさせられたのである。
イ G弁護士への依頼を取りやめさせ,本件変更契約を締結させることに向けた不法行為
(ア) 原告は,本件契約1の締結直後から同契約を締結したことを後悔し,不安にかられていた。そして,原告は,知人に紹介されたG弁護士に相談し,本件契約1の締結に至る経緯を説明し,本件契約1の解約手続を依頼した。G弁護士は,前提事実(7)のとおり,被告に対し,本件契約1の解約通知を送付した。
G弁護士が送付した上記通知書では,被告に対し,原告との直接交渉を差し控えるよう求めていたにもかかわらず,Zらは,その後も原告を直接訪問したり架電するなどし,再度マンション建設を勧めた上,G弁護士への解約依頼を取りやめるように働きかけた。
(イ) Zらは,原告を被告のコントロール下に置こうと企て,H弁護士を原告の代理人に推薦した。原告は,Zらの虚言に弄されて本件契約1に関する諸業務をH弁護士に依頼することとなった。また,前提事実(8)のとおり,H弁護士に委任して,G弁護士に対する依頼を取りやめた。
(ウ) その後,Zらは,原告に対し,マンションの規模を大きくすることにより収益性が高まり,資産も増加するなど,虚偽の事実を述べ,本件契約1の変更を迫った。
原告は,Zらに取り囲まれて不安と恐怖にかられて観念し,前提事実(9)のとおり,本件変更契約を締結させられた。
ウ 本件契約2を締結させることに向けた不法行為
(ア) 原告は,平成17年当時,Cらに対し,本件土地2を賃貸していた。Zらは,そのころ,原告に対し,Cらから本件土地2の賃借権を買い取るように勧め,そのためには同土地上に建物を建設する契約を結んだ方が有利であるとの虚偽の説明をした。
原告は,Zらの上記説明を信じ,被告との間で,前提事実(10)のとおり,架空契約である本件契約2を締結した。その後,被告は,このような本件契約2を有効に成立した契約であると主張している。
(イ) また,H弁護士は,Cらを相手方として調停の申立をしたが,それは,本件土地2の明渡しを求めるものではなく,賃料増額を求めるものであった。
エ I弁護士の依頼を取りやめさせ,本件再変更契約を締結させることに向けた不法行為
(ア) 原告は,H弁護士により,内容がよく分からないまま同弁護士を任意後見人とする任意後見契約公正証書や同弁護士を遺言執行者とする遺言公正証書を作成させられた。
(イ) 原告は,それらに不信感を抱き,I弁護士に対して一連の経緯を相談し,マンションを建設しないことを決断し,前提事実(13)のとおり,I弁護士に依頼して,被告に対し,被告との間で締結した各契約を解約する旨の意思表示をした。
それにもかかわらず,Zらは,原告に対する直接訪問を繰り返し,マンション建設の継続を要求し,I弁護士に対する依頼を取りやめるように働きかけた。
(ウ) 原告は,前提事実(15)のとおり,平成17年10月27日,被告に対して被告との間の各契約の解約の意思表示をした。
それにもかかわらず,Zは,原告に対し,解約書類であると虚偽の説明をした上,前提事実(16)のとおり,本件再変更契約の契約書に署名をさせ,原告に無断で印鑑届出を変更し,押印をした。被告は,このような本件再変更契約を有効に成立した契約であると主張している。
(2) 損害
原告は,上記不法行為の過程において,以下の費用を支出し,また,得べかりし利益を失った。これらは,いずれも上記不法行為がなければ生じなかったものであるから,当該不法行為によって生じた損害である。その損害の合計は4782万9250円を下らない。
ア 契約時金及び契約書印紙代
(ア) 本件契約1に関して交付したもの 1144万5000円
(イ) 本件変更契約に関して交付したもの 359万5000円
(ウ) 本件契約2に関して交付したもの 253万円
イ 弁護士に支払った費用
(ア) G弁護士に支払ったもの 20万円
(イ) I弁護士に支払ったもの 30万円
(ウ) H弁護士に支払ったもの 合計64万5000円
(内訳・甲17の1ないし4)
a イトーヨーカ堂に対する土地明渡請求着手金 21万円
b Cらに対する地代増額請求調停事件着手金 31万5000円
c 近隣説明会立会・交渉費用 10万5000円
d 相談料 1万5000円
ウ 本件マンション建築に関する近隣対策費用 51万円
原告は,平成17年5月14日,Zらに対し,本件契約1に基づくマンション建設に関する近隣対策費として100万円を交付した。そのうちの51万円が返還されなかった。
エ イトーヨーカ堂からの駐車場賃料収入逸失分 1426万4250円
原告は,イトーヨーカ堂に対し,本件土地1を月額109万7250円で賃貸していたところ,本件契約1により建設することとなったマンションの用地とするために,平成17年4月30日をもって上記賃貸借契約を解約させられた。
この結果,原告は,同年5月1日から平成18年5月末日までの13か月間で,以下のとおり1426万4250円の得べかりし賃料収入を失った。これは,Zらによる不法行為の結果生じた損害である。
109万7250円(月額賃料)×13(月)=1426万4250円
オ 慰謝料 1000万円
原告は,Zらの前記不法行為によって不安と恐怖のあまり体調を崩し,入院を余儀なくされるなど筆舌に尽くし難い精神的苦痛を被った。その苦痛を慰謝するには1000万円が相当である。
カ 弁護士費用 434万円
以上のアないしオの損害額は合計4348万9250円であるところ,前記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は434万円を下らない。
(3) まとめ
よって,原告は,被告に対し,民法715条1項に基づき,上記損害金合計4782万9250円及びこれに対する不法行為後の日である平成18年6月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の主張
(1) 不法行為の成立について
Zらの営業行為が原告に対し不法行為を構成するとの原告の主張は争う。
Zらは,原告との間で,マンション建設に関する各契約を締結したが,これらの各契約は,その都度,原告に十分説明をし,その納得を得た上で締結がされたものである。契約締結の経緯に照らしても,原告自身,各契約を締結してマンションを建設することに対して前向きの姿勢を示していたものである。Zらが原告に不当に働きかけて上記各契約を締結した事実はなく,Zらの営業行為に不当な点はない。
ア 本件契約1を締結させることに向けた不法行為について
(ア) Zらが,平成16年5月ころから原告宅を訪問してマンション建設を勧誘したことは認めるが,その勧誘を原告が断っていたこと,原告が建設を承諾するまで訪問し続けるとの態度を示したこと,Zらが原告の意向を無視して連日原告を訪問し,原告を著しく困惑させたことは否認する。
原告は,当初から保有資産を有効活用して現金収入を得たいと話しており,本件契約1は,Zらから説明を受け,原告も納得した上で成立したものである。
(イ) 原告は,当時原告に融資をする金融機関は存在しなかったと主張するが,被告は,本件契約1締結当時,外資系金融機関から融資の内諾を得ていた。また,その後,日本の金融機関である埼玉りそな銀行からも融資が受けられることになったのであって,原告の資産状況からすれば,条件次第では原告に融資をする金融機関は存在した。
Zらが,融資を容易にするために,原告に対しZを養子にすることを提案したことは認めるが,原告はこれを断り,Zらがその後縁組みを強要するようなことはなかった。
Zらは,原告に対し,マンションを建設する敷地(本件土地1)と建設するマンションを担保にすれば借入れができると説明しており,原告の自宅住居や預貯金を含めた全資産に担保を設定する必要があるという説明をしていなかったことは認める。しかし,融資の際の担保の設定に関しては,事柄の性質上,契約が締結される段階までにその内容が確定されていなかったから,上記の点自体に説明義務違反等の問題は生じない。
(ウ) Zらは,マンションを建設した場合の資産状況について説明していたが,マンションを建設すれば資産が増えるなどという乱暴,かつ,不正確な説明はしていない。本件契約1について,手取収入が毎月300万円以上になるという説明もしていない。また,Zらは,賃料変動や賃料収入の増加による税金の負担増加についても説明をした。
(エ) EとZは,十分に説明をして,原告の承諾を得て,本件契約1を締結したのであり,その締結に問題はない。
イ G弁護士への依頼を取りやめさせ,本件変更契約を締結させることに向けた不法行為について
(ア) G弁護士が,被告に対して本件契約1の解約通知を送付したこと,その通知を受けた後もZらが原告を訪問したり架電したりしたことは認めるが,ZらがG弁護士への依頼を取りやめるように働きかけたことは否認する。被告が上記通知に対して返答をしたところ,G弁護士からの返答がなく,原告から連絡があったためにZらが原告を訪問するようになったものである。
原告が,本件契約1を締結した直後から,契約締結を後悔し不安にかられていたことは知らない。
(イ) Zらが原告に対してH弁護士を推薦したこと,原告がH弁護士に対して本件契約1に関する事項を相談し,諸手続等を依頼するようになったことは認めるが,それが原告を被告のコントロール下に置くことを目的にしたものであることは否認する。
(ウ) 原告と被告が,本件変更契約を締結したことは認めるが,本件変更契約の締結に際して,Zらが虚偽の事実を述べたこと,原告を取り囲んで同契約を締結させたことは否認する。Zらは,十分に説明をして,原告の承諾を得て,本件変更契約を締結したのであり,その締結に問題はない。
ウ 本件契約2を締結させることに向けた不法行為について
(ア) 原告が,平成17年当時,Cらに対し,本件土地2を賃貸していたことは認めるが,Zらが虚偽の説明をしたことは否認する。
原告と被告が,本件契約2を締結したことは認めるが,同契約が本件土地2の借地権の買取りを有利にするためにされた架空のものであることは否認する。本件契約2は,原告がCらに貸している土地を有効活用するために締結されたものである。
(イ) また,H弁護士は,原告の依頼の趣旨に従って対応したものであり,Cらとの交渉のために賃料増額の調停を申し立てたことは不合理ではない。
エ I弁護士の依頼を取りやめさせ,本件再変更契約を締結させることに向けた不法行為について
(ア) 原告主張に係る公正証書が作成されたことは認めるが,原告がその内容を理解していなかったとの点は否認する。
(イ) I弁護士が被告との間の各契約を解除する旨通知したこと,その後もZらが原告を訪問したことは認めるが,その余は否認する。
被告が上記通知に対して返答をしたところ,I弁護士からの返答がなく,原告から連絡があったためにZらが原告を訪問するようになったものである。
(ウ) 原告が,平成17年10月27日,被告との間の各契約の解約の意向を示したこと,原告が本件再変更契約の契約書に署名したこと,Zが同契約書に市販の印鑑を使用して押捺したことは認めるが,解約書類であると説明して同契約書に署名させたことは否認する。上記押印は,Zが原告の意思を斟酌して行ったものであり,契約の効力を左右するものではない。
(2) 損害について
原告が,前記2(2)アの各契約時金及び契約書印紙代の支払をしたこと,同ウの近隣対策費を支出したことは認めるが,同イの原告が各弁護士に支払った費用及び同エの損害金の発生の各事実は知らない。同オ及びカの各損害は争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
本件において,原告は,平成16年5月にZが原告宅を初めて訪問してから,平成18年2月にマンション建設を断るまでの一連の出来事を包括的に不法行為に当たると主張するので,長期間にわたるが,以下に,その事実経過を認定することとする。
前提事実に加え,証拠(甲1ないし23,26ないし32,38ないし44,46,47,50,52ないし61,乙1ないし4,6,11,14,16ないし21,丙1,2(枝番のあるものは,いずれもそれを含む。),証人E,同Z,原告)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(なお,上記証拠中,以下の認定に反する部分は関係証拠に照らし採用しない。)。
(1) Zは,平成16年5月中旬ころ,原告の自宅を飛び込み訪問し,原告に対し,本件土地1に賃貸マンションを建設する話を持ちかけた。その際は,玄関先で話をするに止まったが,原告から,80歳の一人暮らしで身寄りがないこと,趣味は年4,5回の旅行であること,お酒が好きなことなどを聞き,また,被告の他にも同様の業者がマンション建設の営業に来ていることなどを聞いた(丙1)。
Zは,翌日,再び原告宅を訪れ,北九州の旅行の資料を渡したところ,原告は喜んで,Zを自宅内に入れた。その後,Zは,1人又はFと共に頻繁に原告の自宅を訪問するようになり,手みやげに焼酎を持参するなどした(丙1)。
(2) Zが訪問を繰り返すうちに,原告は,Zに気を許すようになり,Zに対し,夫とは大分前に別れたこと,一人息子は30年前に亡くなったことなどの家族の話のほか,本件土地1をイトーヨーカ堂に駐車場として貸していること,賃料は毎月100万円程度であり,税金を支払ったら手元に残る金額はそう多くはないこと,資産の一部を日興證券で運用していることなどを話した。
Zは,被告が関与するマンション経営のシステムを原告に説明したが,原告は,自宅の場所は不便だが,死んだ後は全財産を公益法人などに寄付する考えなので,借金をしてまで建物を建てるつもりはない,遺言書も書いてあると述べた(甲46,丙1)。これに対し,Zは,借金をしても,土地活用をすればより多くの財産を寄付することができると述べ,マンション経営を勧めた(甲41,46,47,丙1)。
(3) Zは,被告から得た情報を基に,前提事実(5)のとおり,本件土地1上にマンションを建設して,そのマンションの最上階に原告が居住すれば,Zらが直接原告の面倒を看ることもできるとの提案をしたところ,原告はその提案に興味を示した(甲41,46,47,丙1)。
そこで,同年6月初旬ころ,Zは,上司のFの指示を受けて,マンション建設に関する事業計画書や設計概要図等を作成した。この際の設計計画は,被告と同様に原告に対してマンション建設を勧めていた他の業者が提供していた地上9階建てのマンション計画をベースとして作成したものであった(丙1,Z12頁)。そして,Zは,同年6月16日,Fと共に原告宅を訪れ,上記事業計画書等を示し,完成したマンションの最上階に原告の自宅を設け,1階部分に被告川口支店をテナントとして入居させる内容の計画を説明した。
原告は,その説明を聞き,現在居住している場所と比べると,近くにはJR蕨駅やイトーヨーカ堂があるので生活が便利になると喜んだが,他方,その建設資金が不安であるとして,その調達方法をZに尋ねた。Zは,取り敢えず,融資についての一般的な説明をした(甲46,丙1)。
(4) その後,ZとFは,たびたび原告宅を訪問し,計画しているマンションの説明をし,原告も,完成後の雰囲気や自宅の間取りについて自らの希望を述べるなどした。このため,原告の使用する部屋には,大きな金庫を置くことのできる納戸を設け,玄関で接客ができるように玄関スペースを大きく取り,木の温もりを大切にしたいとの希望に添い,リビングの壁材に木を使用し,また,何かの際にはすぐに連絡が取れるように,原告の部屋から被告の事務所にホットラインを設けるなどの設計がされた(乙14,16)。なお,原告は,融資については,一度聞いても分からない,何回も聞かなければと述べていた(丙1)。
原告は,そうするうち,ZやFと共に,カラオケや飲食に行くようになった。原告は,居酒屋で,Zに対し,身寄りもなく一人暮しで寂しいと述べたことがあった(丙1,原告4頁)。
(5) (養子縁組の提案)
被告においては,顧客との建築請負契約を締結するまでに金融機関に打診して建築資金の融資について目処を立てておくものとされていた。被告は,当初UFJ銀行に原告への融資を打診していたが,原告が高齢であり,法定相続人もいないことからこれを断られ,同年7月上旬の時点では融資に応じる金融機関が決まっていなかった。
本件土地1のマンションの建築計画は川口支店が入ることもあり本社社長決裁の案件となっていたが,本社営業部長Jは,原告がZに好意的であったことから,融資を得やすくするため,Zが原告の養子になることを提案した。Zは,この計画が成約に至れば担当者として2000万円程度の歩合給を得ることができる見込みであったことなどから,これを承諾した。そこで,同月15日,Fは,Zと共に原告と食事をした際,原告に対し,金融機関から融資を受けるためにZを養子にしたらどうかと持ち掛けた。しかし,原告はこれを断った。
その後,当時の被告代表者がZを原告の養子として融資を受ける案に反対したため,その案は,同年8月初旬には立ち消えとなった(甲41,46,乙1,14,丙1)。
なお,川口支店が同月28日に作成した概略工程表(甲52)では,同月31日を契約の予定日とし,同年8月から10月の間に遺言書作成,養子縁組との記載がある。そして,平成17年1月に確認申請をし,同年2月には融資を確定させ,同年3月に着工し,平成18年6月の完成引渡しが目標工程とされていた。
(6) 被告は,関連会社である大東ファイナンス株式会社(以下「大東ファイナンス」という。)を通じ,リーマンブラザーズグループの関連会社であるニューセンチュリーファイナンス(以下「外資系金融機関」という。)に対して,責任財産を担保不動産に限定するいわゆるノン・リコース・ローンにより融資を受けることができるかどうかを打診していたが,平成17年7月下旬ころ,その融資であれば得られる目途がついた(乙21)。そこで,原告に対し,その旨を伝えた。なお,原告死亡後の財産管理について遺言書の作成は上記融資の中で条件とされていた(証人E)。
(7) そのころ,Zは,Eと共に,被告が手掛けている建設工事現場に原告を案内した後,焼肉店で食事をしたところ,原告は嬉しそうにしていた。また,原告が最近カラオケで歌っていないと述べたので,EとZは,原告をカラオケに誘った。その際,原告は,Eに対し,マンション建設を前向きに検討していると述べた(丙1)。
(8) 原告は,同年8月2日,被告に対し,マンション建設の注文書(乙6)を交付した。同注文書の内容は,Zが提示した地上9階建てのマンションを前提とするものであり,総戸数73戸,工事代金総額は約10億円であった。
しかし,その後,Zが同建築計画の内容を原告に説明するうち,原告から,上記計画では規模が大きすぎ,費用も掛かりすぎるとの意見が出された。
Zは,原告の意向を踏まえ,建築計画を変更し,5階建て24室,事業予算6億0379万3550円とするマンションの建設を提案した。その際の提案書(甲4,乙17)には,借入金5億9000万円を30年間で弁済するものとし,収支予想として,手取家賃額から借入弁済額を差し引いた額は月額251万7081円,年度別損益・資金繰り予想として,初年度の年間手取収入は2170万4000円,10年後は1688万6000円との記載がされていた。
Zは,その後,何度も原告宅を訪問し,その内容を説明したところ,原告は,同月25日ころ,上記変更後の事業計画により,被告と本件マンション建設の契約をすると述べた。
なお,そのころ,原告は,自分が死亡した後は,建築するマンションの賃料収入を含む遺産を公益事業を営む団体やキリスト教関係の団体に寄付したいと述べていた。
(9) Zは,翌26日にも原告の契約締結の意思を確認し,同日,被告との間で,完成後のマンション1階部分を,期間3年,賃料月額181万9000円として被告が賃借し,同所に被告の川口支店が入居することを内容とする賃貸借契約の予約契約を締結した(甲26。以下「本件賃貸借予約」という。)。
また,同月27日には,原告及びその友人のKと共に居酒屋に行き,飲食しながら,上記マンション建設計画の話をした(丙1)。
(10) Jは,同月27日,Zから,原告が,自らの死後も賃料収入を継続的に公益団体に寄付したいとの考えを有していることを聞き,Zと共に知合いのH弁護士を訪ね,原告が死亡した後の財産管理について相談した。
H弁護士は,昭和63年ころから株式会社トップアンドホメックスの顧問弁護士をしていたが,平成8年ころ,同社が被告に買収され,Jがその社長として赴任したことから知合いとなり,J個人の事件を受任したことがあった(甲61)。
H弁護士は,JとZから聞いた話に基づき,「財産管理に関する合意書(案)」という書面(甲18)を作成し,Jに送付した。同書面の内容は,原告の死亡後もH弁護士が寄付を行うことを条件に,原告の有する財産をH弁護士に包括遺贈するというものであった。
(11) (本件契約1の締結)
Eは,同月28日,Zと共に,原告宅を訪問し,原告から,前記5階建てマンションの建設に関する契約書類に署名押印を得た(甲1,2。本件契約1)。同契約では,建築施工床面積3046.53平方メートル,敷地面積2490平方メートル,請負代金総額は合計5億6579万3550円とされた。その際,Zらは,原告に対し,本件マンションの設計図面(乙16)により,建築内容の説明をし,また,大東共済会規約(乙4)を交付し,空室が発生した場合でも一定の要件を充足すれば賃料の90パーセントは確保できることなどを説明した(乙14)。原告は,これに応じ,契約書類に署名押印をした(甲1,2)。
本件契約1においては,工事の着手時期は,外構工事については,契約締結日から330日以内とされ,本件マンション建設工事については確認申請承認日から120日以内とされた(甲1,2)。また,本件契約1においては,金融機関からの融資が不可能となったときは,当事者は契約を解除することができるものとされている。また,本件土地1についてイトーヨーカ堂との間に駐車場としての賃貸借契約があることから,特約事項として,工事場所に存在する駐車場契約は,平成17年2月28日までに駐車場賃借人からの明渡しを完了するものと定められた。
なお,その際,Zは,融資に関しては現在審査中である旨の説明をした(丙1)。一方,そのころ被告から原告に交付された「契約のご案内」と題する書面は,契約手続及び諸費用の説明のほか,資金計画確認書等が添付される形式のものであった(乙3)が,同書面の資金計画確認書の保証人予定者の欄にはH弁護士の氏名,職業,年齢が記入されていた(甲40)。原告は,その記載についての説明は受けなかった。
(12) Z及びFは,平成16年8月31日,原告に同行して金融機関に赴き,原告が現金を払い戻すと,そのまま被告の川口支店に向かい,同支店において,原告は,前提事実(6)のとおり,上記払戻金により,本件契約1に係る契約時金及び契約書印紙代1144万5000円を支払った(甲5)。
(13) Eは,同年9月2日,被告の関連会社である大東ファイナンスから,外資系金融機関により,本件契約1の請負代金総額5億6579万3550円に諸費用を加えた6億1751万円の融資見積額が得られたことの通知を受けた(乙14,21)。
(14) (G弁護士からの解約通知)
原告は,同年9月初旬ころ,取引のあった証券会社の社員が原告宅を訪問してきた際,本件契約1の締結をしたことを話したところ,それに対する同社員の反応から不安を抱き,本件契約1を解約したいと考えるようになり,同月3日,上記社員から紹介されたG弁護士を訪れて相談し(甲53),本件契約1を解約することを依頼した。G弁護士は,原告からの依頼を受けて,同日,被告に対して解約通知を発送した。同通知は,本件契約1には融資返済が賃料によって確実にまかなわれるとの断定的判断の提供があること,原告が断っていたにもかかわらず被告の従業員が何度も2,3時間居座って契約に至ったことなどを理由として,本件契約1及び本件賃貸借予約を取り消すとの意思表示をするものであり,今後同弁護士が交渉窓口になるので,原告への直接交渉,自宅訪問,電話等を厳に慎むことを求めていた(甲38,41,乙1)。
(15) G弁護士から上記の通知を受けたE及びZは,原告の意思を確認するため,原告に電話をしたがつながらず,また,原告宅を訪ねても応答がない状態であった。そこで,同月9日,G弁護士に対し,上記取消しの意思表示の効力は争うが,原告が真に契約を解消する意思であることが確認できれば,本件契約1を解消し清算してもよいとして,G弁護士同席の下,原告との面談の機会を設けてほしいとの回答をした(甲39,乙2)。
翌10日,Zは,原告宅を訪れ,G弁護士の通知と被告の回答書を原告に渡した。G弁護士からは,後に,原告に対し,それらの書面が届けられた(甲54)。
(16) 被告からの上記回答書に対し,G弁護士からは特段の連絡がなかった。Zは,原告の真意を確認しようとしたところ,原告が養子の話も気になっていたなどと述べたことから,同月22日,Fと共に原告宅を訪れ,養子縁組の提案をしたことを詫びた上,原告が真に解約したいのであればそれに応じると伝えるとともに,再度マンション建設計画の説明をした。原告は,本件マンションの計画は本当に大丈夫なのかなどと述べ,その建設を迷っている様子であったが,その後,Zから説明を受けるうち,マンションの建設を継続する意向を示すようになった(丙1)。
(17) そこで,Zは,マンション建設の条件整備を進めるため,原告の死亡後の財産管理について確定する必要があることから,原告にH弁護士を紹介し,同月28日,原告を同弁護士の事務所に同行した(甲61,乙14,丙1)。
その際,Jは,原告に対して被告の関係者がZを養子にすることを勧めたことにより,原告の被告に対する印象が良くないと考え,Zに対し,H弁護士をZの個人的な知合いとして紹介するように指示し,H弁護士もこれを了解した。そこで,Zは,原告に対し,H弁護士を個人的な知合いとして紹介した(甲61,乙14,丙1)。
原告は,H弁護士に面会し,経緯を説明し,数億の借金をすることは大変だと述べた。これに対し,H弁護士は,被告の作成した資料によれば,借入金を返済しても家賃収入により月々ある程度の額が残る計算になっていること,現在の自宅その他の資産を処分して負債の早期返済に充てれば,返済後に手元に残る額がより多くなることなどを述べた(甲61)。
なお,原告は,G弁護士に本件契約1の解約を依頼する際,3万円を支払っていたが,同月末ころ,更に37万円を支払った(甲54)。
(18) その後,原告は,H弁護士と原告の財産管理について継続的に話合いをした。原告は,H弁護士が先に作成した同弁護士が原告の遺産の包括遺贈を受け原告の意向に添うように寄付をする案(甲18)を受け入れていなかったため,H弁護士は,原告死亡後に管理を継続するのではなく,死亡時に財産を精算した上で団体に寄付することを提案した(甲61,丙1)。
また,原告は,前記のとおり,G弁護士に対して合計40万円を支払っていたところ,Zらから,G弁護士は特段の活動をしていないが,本件契約1が解約になれば,同弁護士に対して更に成功報酬を支払う必要があることを聞かされた(甲54)。そこで,Zらの勧めにより,同年11月25日ころ,原告は,H弁護士にG弁護士との対応について依頼をし,原告からの委任を受けたH弁護士は,G弁護士に対し,同月29日付け通知書を発送し,被告との間の交渉の経緯等を説明するように求めるとともに,直接原告に対する連絡をしないように求めた(甲54,61)。その後,H弁護士は,G弁護士と協議し,同年12月8日,G弁護士に対する原告の委任契約を解消した上,原告が交付した40万円のうちの20万円について返還を受けた。
(19) そこで,Zは,同月,本件土地1のうちの利用していない部分を活用して,マンションを建設する敷地面積を広くして総戸数を増加させる内容の計画を提案した(甲8,乙18)。
この計画変更は,建築施工床面積を4085.45平方メートルに,敷地面積を2495.22平方メートルに,請負代金総額を合計7億4072万8800円に変更するものであり,本件契約1と比べて請負代金総額は1億7493万5250円増加するものであった。その際の提案書には,事業予算は7億9072万8800円,そのうち7億7590万8800円を借り入れ,借入金は30年間で弁済するものとし,手取家賃額から借入返済額を差し引いた額は月額339万3075円,年度別損益・資金繰り予想として,初年度の年間手取収入が3521万円,10年後には2355万4000円との記載がある。
(20) (本件変更契約の締結)
原告は,同月23日,被告との間で,本件契約1の内容を上記のとおり変更する内容の本件変更契約を締結した(甲6,7)。なお,同契約の特約事項において,本件土地1の駐車場契約は平成17年5月30日までに明渡しを完了することとされた。
原告は,同月22日,被告に対し,本件変更契約に係る契約時金,契約書印紙代として359万5000円を支払った(甲9)。
(21) Zは,平成17年1月ころ,原告が本件土地2を所有し,Cらに貸しているものの,Cらは,同土地を使用しておらず,地代は供託されたままであることを聞いた。そこで,本件土地2に4階建14室のマンションを建設する計画を立てて,Cらと交渉することを提案した(甲13,46)。
その際の提案書には,借入金1億0600万円は30年で弁済するものとし,手取家賃額から借入返済額を差し引いた額は月額47万5071円,年度別損益・資金繰り予想として,当初4年間の年間手取収入が466万5000円,10年目は216万7000円との記載がある。
(22) (本件契約2の締結)
原告は,同年2月19日,Cらから本件土地2の返還を受けることを前提として,被告との間で本件土地2にマンションを建設する本件契約2を締結した。原告は,同月21日には同契約に係る工事代金内金244万円及び契約書印紙代9万円の合計253万円を支払った(甲10ないし14,丙1)。
(23) 平成17年3月ころ,被告が,借入れを予定していた外資系金融機関に対して,原告死亡時に繰上げ一括返済をする予定を伝えたところ,難色が示された。そこで,Zらは,同金融機関以外からの借入れについても改めて検討しなければならなくなった(乙14)。
折から,Fの後任としてLが川口支店に着任した。Lは,地元の銀行である埼玉りそな銀行の融資部部長と知合いであったことから,Zらは,Lを通じて同銀行に対して原告のマンション建設費用の融資を打診したところ,検討の余地があるとの感触を得た。そこで,同銀行との間で融資を受けるための条件整備等を進めることとした(乙14,E8頁)。
(24) 原告は,被告が同年3月に開催した本件マンションの近隣説明会について,H弁護士に,原告の代理人として出席することを依頼した。H弁護士は,上記依頼を受け,近隣説明会に出席し,被告が参加者に建築計画を説明した。H弁護士は,Zを通じて原告にその報酬を請求し,原告は,同年4月18日,10万5000円を支払った(甲17の3,55の1ないし3,61)。
(25)(本件土地1の明渡し)
また,原告は,平成17年4月17日,H弁護士に対し,イトーヨーカ堂に賃貸している本件土地1の返還を受ける事務を委任し,同月18日,着手金として21万円を支払った。H弁護士は,イトーヨーカ堂と交渉をし,同月26日,同賃貸借契約の終了を合意し(甲59),同月末に本件土地1の明渡しを受けた(甲17の1,61)。また,原告は,同月18日,H弁護士に対し,相談料として1万5000円を支払った(甲17の4)。
(26) (公正証書の作成)
原告は,平成2年にその所有する不動産を学校法人日本医科大学に遺贈する内容の遺言をしていたが,平成8年5月,これを取り消した上,所有不動産を宗教法人福音伝道教団に遺贈する内容の遺言公正証書を作成した。原告は,クリスチャンであり,上記遺言においては,遺贈先の教団の牧師であるMを遺言執行者の1人として指定していた(甲42,43)。
原告は,H弁護士の助言を受け,平成17年5月31日,上記遺言を取り消し,自らの死亡後は,預金債権の一部を知人のKに,所有する不動産(本件土地1及び2を含む。)等のその余の財産を換価処分した上で,その中から諸経費を控除した残額のうち3000万円を学校法人日本医科大学に,500万円を宗教法人福音伝道教団に,その余を日本赤十字社にそれぞれ遺贈する内容の遺言公正証書を作成した。この遺言においては,H弁護士が遺言執行者とされた(甲20)。また,原告は,同日,H弁護士を任意後見人とする内容の任意後見契約公正証書も作成した(甲19)。
(27) また,原告は,H弁護士に対し,Cらとの賃貸借関係の処理を委任し,同年4月18日,その着手金として31万5000円を支払った(甲17の2)。H弁護士は,同年6月10日になって,Cらを相手方として,さいたま簡易裁判所に地代増額の調停を申し立てた(甲56)。なお,H弁護士は,原告と被告との間で,本件契約2が締結されていることは知らなかった(甲61)。
(28) 被告は,平成17年4月18日,本件マンションについて建築基準法の規定による確認申請をし,同年5月25日,指定確認機関から確認済証の交付を受けた(甲16)。
また,被告は,同年6月16日,原告に対し,本件賃貸借予約に係る保証金として,454万7500円を支払った(乙20)。
(29) (I弁護士からの解約通知)
しかし,原告は,本件マンションの建築計画に対する不安が増し,Zから紹介されたH弁護士にも不信感を持っていたことから,同年6月29日,H弁護士に対し,Cらとの間の調停事件の依頼を取りやめる旨の連絡をした(甲57)。そして,蕨市役所の法律相談に出向き,I弁護士に対し,経緯を説明した上で被告との間の各契約の解約手続について相談をした。
上記相談の結果,I弁護士は,原告からの依頼を受け,同月30日付け内容証明郵便により,被告に対し,被告との間の各契約はZらの強引な営業活動の結果締結されたものであるから原告の任意の意思に基づかない無効なものであること,仮にそうでないとしも,多額の借入れを必要とする計画であるにもかかわらず資金融資が確定していないこと,Zを原告の養子にしようとしたことなどの背景があり誠意ある履行が期待できないことなどから,債務不履行により被告との間の各契約を解除する旨の意思表示をし,本件の一切については今後同弁護士が処理する旨を伝え,同郵便は同年7月1日被告に到達した(甲22の1・2)。原告は,I弁護士に対し,上記依頼の費用として30万円を支払った(甲21)。
(30) これに対し,Eは,同年7月6日付け書面により,I弁護士に対し,主張する契約無効,債務不履行の法律的根拠が不明であることを指摘するとともに,事実関係につきよく調査確認するように求めた(甲23の1・2)。
被告からの上記書面に対し,その後,I弁護士から被告に対し連絡はなかった。その後,Zが原告宅を訪問したところ,原告は,再度翻意し,マンションの建設を続行する意向を示した。
(31) H弁護士は,原告から,前記(29)の調停事件の依頼取りやめの連絡を受けて,同年7月15日,原告に対し,真意を確認したいとの連絡をしたところ(甲57),原告から,再度お願いしたいとの電話があった。H弁護士は,原告に対し,そうであれば,その旨の手紙を送るように伝えたが,原告からそのような手紙が送られなかったため,裁判所に辞任届を提出し,同月25日,その旨を原告に伝えた。
すると,翌26日,原告がH弁護士の事務所を訪れ,被告にマンション建設を依頼するのを断ろうと思っており,同弁護士も被告側紹介の弁護士であるのですべて断わろうと思っていたが,埼玉りそな銀行からの融資の話があるので,改めて考えており,Cらとの調停事件も再度お願いしたいと述べた。また,その際,前記(26)の各公正証書(甲19,20)の作成費用として30万円を支払った(甲61)。
(32) 埼玉りそな銀行の担当者は,同月,原告宅を訪問して原告の意思を確認し,原告に対する融資について検討を進めることとした(乙14,丙1)。
(33) Zは,原告から,近隣対策費として100万円を預っていたが,同年8月から9月にかけてそのうち51万円を使用したと報告した(甲60の1)。しかし,その中には,Zが,実際には3万円しか支払っていない人に対して8万円を交付した領収書を作成したものも含まれていた(甲60の2)。
また,Zは,野村證券にいる知人が金に困っていると説明して原告から個人的に100万円を借り受けたが,実際はそのような事実はなく,借入金は自らの生活費として費消していた(E25頁,Z30頁)。
(34) 同年9月5日,本件土地1において,本件マンション建設工事のための地鎮祭が行われ,原告も出席した(丙2)。
(35) 埼玉りそな銀行は,融資条件の一つとして,株式会社りそな銀行(以下「りそな銀行」という。)に遺言信託をすることを求めた。そこで,原告は,同年9月21日,前記(26)で作成した遺言を取り消した上,自らの死亡後は金融資産は換価処分し,諸経費を控除した上で上記(26)の遺言において受贈者とした者に対して一部金銭を遺贈し,その余の財産は日本赤十字社に包括遺贈する内容の遺言公正証書を作成した(甲27)。
なお,同遺言書には,付言事項として「私の財産は,私の父が医師として医療活動を行い,また,母がそれを手伝って築いたものであり,それを守るために,今日まで努力してきたつもりです。また若くして亡くなりましたが,私の息子も医師でした。このようなことから,私の財産を医療に役立てて頂きたいと思い,寄付させていただくことに決めましたので,よろしくお願いいたします。」との条項が置かれている。
この遺言においては,りそな銀行が遺言執行者とされた(甲27,乙14,丙1)。
その後も,埼玉りそな銀行は,原告宅を訪問し,融資に関する説明をするなどして,原告に対する融資の実行に向けた準備が進められた(丙1)。
(36) (埼玉りそな銀行からの融資条件の提示)
原告は,同年10月ころ,取引のあった銀行員と話をしているうちに再び本件マンションの建設について不安を抱くようになり,その後,Zらとの連絡を絶つ状態が続いた。Zが原告宅を訪問した際,原告は,未だに融資が決定されていないことが不安であると述べたので,Zは,埼玉りそな銀行による融資を受けられること,事業を実行すれば採算は取れることなどを説明した(丙1)。
原告は,同月26日,埼玉りそな銀行の行員の訪問を受け,融資条件に関する説明を受けた。原告は,従前,被告から,本件土地1と本件マンションに担保を設定すればよいとの説明を受けていたが,同行員の説明によれば,原告の有する預貯金や自宅を含めた他の財産にも担保を設定する必要があるとのことであった。原告は,預貯金や自宅まで担保に取られることに不安を抱き,同月27日,Zに対し,本件マンションの建設を取りやめたいとの意向を伝えた。そのころEは異動していたが,後任の支店長は,Zに原告をつなぎ止めるように指示をした。Zは,原告宅を訪れ,本件マンションの建設を継続するように説得したものの,原告の意向は変わらなかった。
(37) Zらは,これまで原告がZらの説得を受けて再三翻意していたことから,しばらく様子を見ることとした。また,Zは,原告の上記不安を解消するため,埼玉りそな銀行との間で融資条件に関する交渉をし,その結果,原告の自宅は担保としなくても融資を受けることができることの内諾を得るに至った(甲41,乙14,丙1)。
(38) 原告は,平成17年11月17日から同年12月13日まで日本医科大学付属病院に検査入院をした(検査の結果,特に異状は見られなかった。)。
Zは,入院している原告を見舞い,自宅を担保に入れる必要はなくなったことなどを説明し,再度,マンション建設の続行について説得をした。原告は,Zの説明は聞いたが消極的な姿勢は変わらなかった。
(39) (本件再変更契約の契約書の作成)
Zは,同月29日,同病院を訪れ,原告に対し,本件変更契約を更に変更する内容の契約書(甲28,29)に署名を求めた。なお,その際,Eは外で待機していた。上記契約書においては,建築施工床面積が本件契約1と同じ面積とされ,請負代金総額合計は5億7406万4400円とされていた。また,上記契約の提案書(甲30,乙19)には,事業予算が6億1206万4400円とされ,そのうち5億9724万4400円の借入金を30年で弁済するものとし,年度別損益・資金繰り予想として,初年度の年間手取収入が2139万9000円,10年後のそれは1646万9000円との記載がされていた。
同契約書は,Jから,EとZが本件マンションの建築計画を終了させずに継続させるために,原告の署名押印を得るように指示されたものであったが,EもZもその内容はほとんどわからなかった。
原告は,Zの求めに応じ,上記契約書に署名をしたものの,取引届出印を持参していなかったことから,押印をしなかった(甲28,29,丙1)。
(40) 牧師のMは,同年12月1日,入院中の原告を見舞い,原告から,被告との間の本件マンション建設に関する経緯を聞き,翌日Zから解約書類に実印を押すように言われており,病院を抜け出して自宅に行き押印する予定であるので立ち会ってほしいと言われた。そこで,Mは,翌2日,再び原告を訪ねて,Zを待ち,来院したZに対し,立ち会う旨を告げた上,押印は退院まで待ってほしいこと,解約書類はよく見ておくので置いていってほしいことを告げた。Zは,押印を後日とすることに同意したが,書類は置かずに帰った(甲50)。
Zは,原告の取引届出印を市販の印鑑に変更する届け出をした上,原告に無断で同印鑑を押印し,本件再変更契約の契約書を完成させた(甲28,29,丙1)
(41) 原告は,平成18年2月中旬ころ,本件マンションを建設しないことを改めて被告に伝えた。
Lは,同月27日,原告の上記意向を受けて原告を訪問し,一連の契約を解約する場合は,本件契約1につき約4300万円,本件契約2につき約580万円の解約金が必要であるとの説明をした(甲31,32,丙1)。
しかし,原告は,これに納得せず,同年3月には,本件再変更契約書は解約書類であるとの説明を受けて署名したと述べ,原告と被告の間で,解約金に関する話合いはまとまらなかった(甲44,丙1)。
(42) 原告は,同年9月28日,東京建物株式会社に対して本件土地1を売却し,同日,同日付け売買を原因として所有権移転登記手続をした(乙11)。
また,原告は,Cらとの間の調停事件については,同年10月20日,自ら対応し,Cらに対し,本件土地2を2000万円で売り渡し,Cらが供託していた昭和62年7月分以降の賃料に係る供託金の還付を原告が受けること等を内容とする調停が成立したことにより終了した(甲58,61)。
2 判断
(1) 不法行為の成立について
前提事実及び上記1の認定事実(以下,単に「認定事実」という。)に基づいて,以下,判断する。
原告は,Zらが原告に対してしたマンション建設に関する一連の行為を不法行為として主張するが,時期を分けた主張もしているので,まず,原告が主張する時期ごとに検討し,その後,総合的に判断をすることとする。
ア 本件契約1を締結させることに向けた不法行為について
(ア) 原告は,Zが原告の自宅を飛び込み訪問して以降,原告が断っているにもかかわらずZらが執拗にマンション建設の勧誘をし,原告がこれを承諾するまで訪問し続けるとの態度を示し,原告の意思を無視し,連日,原告を訪問したと主張する(第2の2(1)ア(ア))。
確かに,Zらが,平成17年5月から8月の本件契約1の締結に至るまでの間,多数回原告宅を訪問したことがうかがわれるところ,証人Z自身,その間に自ら50回位,Fも30回位は訪問していると証言していることから,これを前提としても,少なくとも2,3日に1度は原告宅を訪問し,繰り返しマンション建設の承諾を求めていたことが認められ,また,原告本人の供述によれば,1日に2度訪問があったこともあることが認められる。このような訪問状況からすれば,Zらは,明確な拒絶のない限り,原告がマンション建設を承諾するまでそのような訪問を継続する意思であったものと推認することができる。
しかしながら,認定事実によれば,原告においても,本件契約1に至るまで,Zを自宅内に入れて財産状況や身上について話をしていること(認定事実(1),(2)),Zが提案した計画に興味を持ち,自らの居宅となるマンション最上階の部屋について種々の希望を出すなどしていたこと(同(3),(4)),Zらと共にカラオケに行ったり,飲食をしたりするようになり,被告が施工している他の建設工事現場にも案内されていること(同(4),(7)),建築計画も原告の意向を踏まえ,当初の9階建てから5階建てに変更されていること(同(8))が認められる。
これらの事実からすると,原告が,Zらの訪問を拒否していたとは認められない。原告が高齢の一人暮らしの女性であり,Zらが承諾を得ようとする企画が原告の総財産を左右する可能性のあるものであることからすると,上記のような頻回の訪問と飲食の付合い等の懐柔策を伴う勧誘方法に疑問は残るものの,直ちに上記頻回の訪問を違法とまでいうことはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 次に,原告は,Zらが,原告に対し,敷地や建物を担保に入れれば借入れができると説明したが,高齢で相続人もいない原告に融資をする金融機関は実際には存在せず,融資を受けるためにZを原告の養子にすることまで提案したこと,また,融資のために全財産に担保を設定する必要があることの説明はしていないことを主張する(第2の2(1)ア(イ))。
a まず,融資をする金融機関の存在についてみると,認定事実(6),(13)によれば,本件土地1及び同所に建築した建物を担保として外資系金融機関からの融資を受ける話は進んでいたものと認められ,融資を受けること自体は不可能ではなかったものと認められる。
b 次に,被告が,Zを原告の養子とすることを提案したことは当事者間に争いがないところ,その経緯は,認定事実(5)のとおりと認められる。そして,証人Eの証言によれば,外資系金融機関からの借入条件は通常の銀行等の融資より不利であることがうかがわれるから,被告においては,より原告に有利な条件での借入れをするために親族関係の創設を考えたものということもできる。しかしながら,原告からの求めがあったものでもないことからすれば,マンション建設を勧誘する企業が顧客に対してする提案としては唐突なものであって,常軌を逸したものであったというほかない。
もっとも,原告は,直ちにこの提案を断っており,被告もその実現を執拗に迫ったことまでは認められないこと(ただし,認定事実(5)のとおり,養子縁組の案は直ちに消滅したのではなく,後に,代表者が反対したことによって立ち消えとなったものと認められる。)からすれば,原告の上記対応によって,その後の原告と被告との間の勧誘者と顧客の関係がかろうじて維持されたものというべきである。
したがって,上記事実をもって,その後の交渉を直ちに違法と認めることはできない(もっとも,この提案が,原告に,被告への根本的な不信感を植え付けたことは,その後の原告の言動(認定事実(16),(29)など。)からも明らかである。)。
c また,Zらが,融資に際して原告の全資産を担保とする必要があるとの説明をしていない点についても,当事者間に争いがない。
しかし,本件契約1に際して,そのような担保が必要とされていたとは認められない(認定事実(36)によれば,そのような条件を出したのは埼玉りそな銀行であり,後のことと認められる。)。
したがって,原告の上記主張に係る被告の各対応をもって違法ということはできず,原告の同主張はいずれも採用することができない。
(ウ) 原告は,Zらが,資産が増えることのみを強調し,資産が減少する危険性を全く説明しなかったなどとして種々主張する(第2の2(1)ア(ウ))。
a まず,資産の増加の点についてみると,原告は,その陳述書(甲41)において上記主張に沿う供述をするが,認定事実の経緯に照らしても,原告がマンション経営によって資産を増大させることに固執していたことはうかがわれないし,そのことを条件に本件契約1に及んだ形跡も認められない。Zらの勧誘において,そのような趣旨に受け止められる発言がなかったともいえないが,同人らが上記の点についてことさら虚偽の説明をする必要があったとも認められない。したがって,原告の上記供述は,直ちに採用することができない。
b また,原告は,Zらが,所得税・住民税等の控除も考慮に入れないまま,手取収入が毎月300万円以上になると虚偽の説明をしたと主張し,上記陳述書において,上記主張に沿う供述をする。
しかしながら,Zらが本件契約1の締結に先行して原告に提示した提案書の内容は,認定事実(8)のとおりであり,その記載内容からしても,月額300万円の手取収入が得られることを説明する余地はないものというべきである(同記載内容からすれば,年間手取収入が2170万4000円であるから,月額180万円程度となる。)。そして,他に,Zらが本件契約1に当たって手取収入が月額300万円以上になると繰り返し述べていたことを認めるに足りる証拠はない(なお,認定事実(19)によると,本件変更契約の際に示された提案書の数字は,月額300万円に近いものと認められることかられば,原告は,その際の説明と混同している可能性がある。)。
Zらが,原告に対し,所得税・住民税について説明をしたのかどうか,あるいはその説明内容については,証拠上,明らかではない。しかしながら,原告は,駐車場として本件土地1の賃貸をしており,それらの課税があることは自ら認識し得るものと認められるから,仮に,手取額の説明の際に上記の点を説明していなかったとしても,そのことをもって,契約の効力を左右するものと認めることはできない。
c 次に,資産減少の危険についてみると,原告は,Zらが空室発生のリスクについて何らの説明もしていないと主張し,上記陳述書においてその旨の供述もする。
しかしながら,認定事実(11)によれば,本件契約1の締結に際し,Zらが大東共済会の案内を交付し,一定の賃料収入の確保について説明をしていることが認められるから,Zらは,それまでの訪問においても,原告の疑問に答えて空室発生のリスクとその対応について説明をしていたものと認められる。したがって,原告の上記供述は採用することができない。
したがって,原告の上記主張に係る被告の各対応をもって違法ということはできず,原告の同主張はいずれも採用することができない。
(エ) 原告は,Zらによる執拗な訪問・勧誘を受けた結果,生活の平穏が害され,不適切な説明の結果,マンションを建設することによって資産が増加するものと誤信して本件契約1を締結させられたと主張する(第2の2(1)ア(エ))。そして,原告は,陳述書(甲41)において,本件契約1の締結の際には何ら説明を受けることなく,言われるがままに契約書類に署名をしたと述べている。
しかしながら,原告自身,本件契約1を締結した当初は外資系金融機関から借入れをしてマンション建設費用を支払おうと考えていたと述べている上(原告46頁),認定事実によれば,原告は,本件契約1を締結する前々日には,本件契約1を前提として,完成したマンションの1階部分を被告に賃貸するための本件賃貸借予約をしていること(認定事実(9)),本件契約1を締結した3日後に被告に対して契約時金及び契約書印紙代を支払っていること(同(12))などの原告の行動に照らしてみても,原告は,本件契約1の意味内容を一応理解した上で同契約を締結したものと認めるのが相当である(なお,外資系金融機関からの融資の点について,それが通常の銀行借入等と比較してどの程度負担が増すものであるのか,あるいは,その融資には遺言により財産管理をすることが条件とされていることなどについて,被告から原告に対して十分な説明がされたことは,証拠上,認めることができない。しかし,融資自体は条件を含めて未確定と認められ,また,融資が得られなければ本件契約1は解消することができることが条件とされていたこと(認定事実(11))からすれば,契約時点で詳細な借入条件が提示されていなくても,直ちに違法ということはできない。)。したがって,原告の上記供述は採用することができない。
そして,上記(ア)ないし(ウ)で説示したところからすれば,被告の営業活動として,Zらが頻回の訪問等をしたことや養子縁組の提案をしたことなどは一人暮らしの高齢者に対する勧誘方法としてその相当性に疑問がないではないが,原告の対応をも踏まえて考えると,それによって原告の生活の平穏が害されたものということはできず,また,Zらの説明内容が不適切で違法と評価されるものであったとまで認めることはできない。
イ G弁護士への依頼を取りやめさせ,本件変更契約を締結させることに向けた不法行為について
(ア) 原告は,Zらが,原告がG弁護士に対してした本件契約1の解約依頼を取りやめるように働きかけたと主張する(第2の2(1)イ(ア))。
a これに対し,被告は,G弁護士への依頼を取りやめたのは原告の意思であり,Zらの働きかけによるものであることを否認する(第2の3(1)イ(ア))。
しかしながら,まず,認定事実(14)ないし(18)の経緯によれば,Zらは,G弁護士からの通知を受けた直後から,電話をしたり,原告宅を訪問するなどして原告と接触を持とうとし,また,被告が回答書を出した翌日の10日には,これを原告宅に持参して原告に直接手渡していることが認められ(認定事実(15)),G弁護士が直接交渉をしないように被告に求めたこと(同(14))を無視して行動していたことが明らかである。
そして,G弁護士を通じての原告の訴えの内容が,融資返済が賃料によって確実にまかなわれるか否かを心配することに加え,Zらが何度も2,3時間居座って契約を求めたことなどを指摘するものであることからすれば,被告において,その批判の対象となるZら自身を直接原告に接触させ,翻意を求めさせること自体,紛争を拡大する要因となることを容易に予見することができ,相当な対応ということはできない。
なお,Zは,陳述書(丙1)において,原告から電話があったから接触したかのように述べるが,上記認定事実のとおり,被告側から積極的に接触を求めていたことは明らかであり,仮に,その間に原告から電話があったとしても,Zらが直接接触することが相当でないことは上記のとおりであるから,それによって,原告との接触を正当化することはできない。被告においては,G弁護士にその旨を伝えるなどして,同弁護士との間で交渉することに努めるべきものであったというべきである(なお,本件についてみれば,被告においては,本件が本社の関与案件であったことから,本社の対応とし,あるいは,H弁護士を代理人として選任し,G弁護士との交渉を依頼するなどの対応を執ることが容易であったものと思われる。)。
b また,認定事実によれば,平成16年9月28日にH弁護士を紹介された原告は,同弁護士にも不安を訴えていたこと(認定事実(17)),そのころ,解約を依頼したG弁護士にも37万円の追加支払をしていること(同),H弁護士からG弁護士に通知を出したのは同年11月29日に至ってのことであること(同(18))などからすれば,原告が本件契約1を解約することを容易に翻意したものとは認められず,この間,Zらから,繰り返し翻意のための働きかけがあったものと認めざるを得ない。そして,被告が,Zらに原告宅を訪問させ,マンション建設を継続するように説得を繰り返すことをしなければ,原告が翻意したとは考えられないから,原告の翻意は,Zらの上記行為によるものというべきである。しかし,それは,G弁護士の通知により問題行動として指摘された行為の繰り返しであったというほかない。
なお,被告は,G弁護士に対して回答書により原告本人の意思を確認する機会を求めたにもかかわらず,その後,G弁護士が何らの対応もしなかったと主張する(第2の3(1)イ(ア))。
しかし,そのような被告の要求に応ずるか否かは原告の委任を受けたG弁護士の判断にゆだねられるものであって,被告において,これを強要することはできない(上記のとおり,被告は,必要に応じ,弁護士等による対応も含めて検討すべきものというべきであるが,被告がそのような方法によりG弁護士との交渉に努めようとした形跡は認められない。)。したがって,上記主張も,Zらが原告宅を訪問することを正当化し得るものではない。
c そして,原告を翻意させてマンションの建設計画を継続するについては,G弁護士を解任する必要があるところ,認定事実(18)によれば,Zらは,G弁護士から連絡がないことや,更に費用が掛かることなどを原告に説明し,解任をするように勧めた経緯が認められる。
以上によれば,Zらは,G弁護士からの解約通知を受けた後,同弁護士の求めにもかかわらず,原告に対して直接接触をし,原告を翻意させ,G弁護士を解任させたものと認められる。そして,その行為は,上記通知を受けた被告の営業活動として,相当なものであったとは認めることができない。
(イ) 原告は,被告が原告をコントロール下に置くことを企ててH弁護士を推薦したものであると主張する(第2の2(1)イ(イ))。
被告はこれを否認する(第2の3(1)イ(イ))が,認定事実(10)によれば,Jは,本件契約1の締結前において,H弁護士に依頼し,原告の資産を同弁護士が包括遺贈を受けることを内容とする書面を作成し,同(11)によれば,本件契約1の「契約のご案内」には,同弁護士が,保証人として記載されていること,同(17)によれば,H弁護士を原告に紹介するについてZの知合いであると虚偽の事実を告げていることなどからすると,H弁護士の認識にかかわらず,被告が同弁護士を利用して,本件計画を推進させることを目的としていたことが容易にうかがわれる。
そして,上記選任の経緯に加え,H弁護士は,G弁護士の解任,H弁護士を遺言執行者とする公正証書遺言,同弁護士を後見人とする任意後見契約公正証書の作成,被告の行う近隣説明会への代理出席,イトーヨーカ堂の駐車場明渡交渉等を行っているが,これらはいずれも被告の行う本件マンション建設の条件整備に資するものであり,また,原告は,H弁護士を代理人として事務処理をしているにもかかわらず,契約の解消についてはI弁護士に相談をしていることに照らしてみても,H弁護士が契約解消に向けた行動はせず,本件計画を推進するために原告との対応をしていたことは明らかというべきである。
したがって,原告の上記主張は,上記の趣旨で認めることができる。
(ウ) 原告は,収益性が高まるなどの虚偽の事実を述べ,Zらが原告を取り囲んで強引に本件変更契約を締結させたと主張する(第2の2(1)イ(ウ))。
しかしながら,原告自身,本人尋問において上記主張のような状況は述べていないし,他に,そのような状況で本件変更契約を締結させられた事実を認めるに足りる証拠はない。もっとも,原告は,十分に認識がないまま本件変更契約を締結させられたかのように述べているところ(原告12頁),確かに,証拠上,融資その他の条件整備が具体的に進んでいたことが認められないにもかかわらず,更に約1億7500万円も融資額を増大させることを前提とする本件変更契約の締結に至ること(認定事実(19),(20))は,多額の借入れや弁済について不安を有していた原告の態度とは相容れないものであって,合理性の乏しい判断といわざるを得ない(なお,前記ア(ウ)bで説示したとおり,この際,手取収入が月額300万円程度となる建築計画であることの説明を受けて,原告が契約に応じたことは考えられる。)。加えて,本件変更契約が前記のような解約申入れを翻意し,G弁護士解任に至った直後の時期であることからすれば,被告において上記のような融資額を増大させる提案書を提出すること自体,これを控えるのが相当というべきである。この時期に本件変更契約の締結に至ることは,原告が合理性の乏しい判断をすることに乗じた行動というほかなく,営業活動として相当なものと認めることはできない。
したがって,Zらが強引に原告に本件変更契約を締結させた事実を認めることはできないものの,G弁護士からの通知を受けた後の交渉経緯を踏まえると,上記契約締結の合理性,相当性を肯定することは困難というべきであり,同契約締結に至ったZらの活動は,社会通念上,被告の営業活動として相当性を欠くものであったといわざるを得ない(もっとも,本件においては,その後,原告において,本件変更契約を前提とした本件マンションの建設に向けた行動も執っており,そのような原告の行動自体が事態を混乱させる要因となっていることも否定することはできない。)。
ウ 本件契約2を締結させることに向けた不法行為について
(ア) 原告は,本件契約2が本件土地2の借地権の買取りを有利にするためにされた架空のものであると主張する(第2の2(1)ウ(ア))。
被告は,架空契約であることを否定する(第2の3(1)ウ(ア))が,本件変更契約により建設するマンションの規模を大きくし,融資額も増大させたにもかかわらず,それから間もないのに,原告において,更に本件契約2を締結することを必要とする事情があるとは考えられない。また,その対象地である本件土地2は,Cらに賃貸中の土地であり,賃料供託中の紛争物件であって,明渡交渉も未着手の状態であったのであるから,マンション建設自体,全く実現の見通しの立たないものというほかない。このような土地について,被告がマンションの建設を勧める場合においては,当然に,その実現可能性を調査し,Cらの明渡しの可能性やその時期について具体的な見込みを得た上で,契約に至ることが当然の手順というべきである。そして,原告が,そのような手順に従うことなく,本件変更契約直後の時期に本件契約2を締結し,その契約時金や印紙代まで被告に支払うことについて,合理的な理由は全く認めることができない。
加えて,本件契約2の存在は,原告から,Cらに対する調停事件を依頼されたH弁護士もこれを知らないこと(認定事実(27)),また,本件契約2の提案書の記載は認定事実(21)のとおりであるところ,賃借権の買取資金の記載は認められず,また,資金を借り入れて30年で弁済する計画とされていたが,その融資について何らの検討もされた形跡がないことなどからすれば,これを架空のものであるとする原告の供述には十分首肯し得るものがあり,Zも,その趣旨の供述をしていたことがあること(甲46,47)からすれば,本件契約2は,原告が,真に建築する意思のないまま,被告の求めに応じて締結したものと認めるのが相当である。
そうすると,本件契約2は,本件土地2の借地権の買取りを有利にするとのZらの説明を受けてした架空のものと認めることができる。なお,原告がこのような契約の締結に応じ,金銭の支払までしていることからすれば,当時,原告は,本件契約2に際しても合理性のある判断をすることができなかったことがうかがわれ,上記契約の経緯及びその内容からすれば,Zらはそのような原告の状態を十分認識し,これを利用しようとしていたものと認めざるを得ない。
(イ) なお,原告は,H弁護士がCらを相手方として土地明渡しではなく賃料増額の調停を申し立てたことが不当であると主張する(第2の2(1)ウ(イ))。
しかしながら,調停の相手方であるCらが賃料供託中であることから,話合いを求める契機としては,賃料増額請求をすることもあり得ないことではないし,上記のとおり,H弁護士は,本件契約2が存在することを知らず,本件土地2を買い取るか,売り渡すかにより処分をすればよいと考えていたものと認められるから,賃料増額調停の中で借地の買取りをすることを提案するとの方策が全く合理性を有しないものとまでいうことはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ I弁護士の依頼を取りやめさせ,本件再変更契約を締結させることに向けた不法行為について
原告は,H弁護士により,内容がよく分からないまま同弁護士を任意後見人とする任意後見契約公正証書や同弁護士を遺言執行者とする遺言公正証書を作成させられた,ZらがI弁護士への解約依頼を取りやめるように働きかけ,さらに,被告との間の各契約について解約を申し入れている原告に虚偽の説明をして本件再変更契約を締結させたと主張する(第2の2(1)エ)。
(ア) まず,公正証書の作成に係る主張(第2の2(1)エ(ア))についてみると,認定事実(26)のとおり,H弁護士が作成に関与した遺言公正証書は従前の遺言内容に加えて新たにKを受贈者に加えるなど原告の意思を反映したものであり,その内容に照らしても,原告がこれを全く理解していなかったものとは認めることができない。
原告は,H弁護士との間で任意後見契約を締結するつもりはなかったと主張し,陳述書(甲41)において,これに沿う供述をするが,原告が同公正証書を作成する手続においても特段の異議を述べていないことからすれば,上記供述も採用することができない。
したがって,原告の公正証書作成に関する上記主張は採用することができない。
もっとも,H弁護士が,上記公正証書の作成を勧めた趣旨は,それが,外資系金融機関から原告が融資を受けるための条件であったためと認められるところ(認定事実(6)),原告が了承した遺言の内容では,予定した外資系金融機関からの融資を得ることが困難であることが判明していたのである(同(23))から,原告は,その時点では,同弁護士により遺言公正証書を作成する必要がなかったものというべきである。そして,上記認定事実によれば,被告は,上記公正証書作成時点では,埼玉りそな銀行と交渉をしていたことが認められるところ,同銀行からの融資につきいかなる条件が提示されるかについては不明な状態であったのであるから,この点からも上記公正証書を作成する必要性があるとは認められない。それにもかかわらず,原告がその作成に至ったのは,被告からその必要性について十分な説明を受けていなかったためと認めるのが相当である(なお,原告が,本件マンション建設の資金調達とは別の目的で上記公正証書を作成すべき事情があったとは認められない。)。
したがって,被告は,原告に対して融資に関する十分な説明をしなかったことにより,必要のない公正証書を作成させたものといわざるを得ない。
(イ) 次に,ZらのI弁護士への働きかけに係る主張(第2の2(1)エ(イ))についてみると,認定事実(29)及び(30)のとおり,被告は,I弁護士から解約の通知を受領し,今後一切を同弁護士が処理する旨を告げられていたにもかかわらず,Zが直接原告宅を訪問し,これを翻意させたものと認められる。しかし,原告は,当時,H弁護士に対して本件変更契約に沿った事務の依頼をしているにもかかわらず,I弁護士を依頼して上記通知をしたものであり,その内容もZらの勧誘行為を問題にするなどG弁護士の場合と重複するものであったことからすると,このように,2度にわたって弁護士を通じて解約を申し入れた原告に対し,被告が,その後の対応を再度Zらにゆだねたことは明らかに不相当なものであったというほかない。
もっとも,認定事実(30)ないし(32)によると,I弁護士に依頼した後,埼玉りそな銀行からの融資話が持ち上がってきたことから,原告のI弁護士への依頼が立ち消えになったことがうかがわれ,ZらがI弁護士への依頼を取りやめるように繰り返し働きかけたことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) さらに,本件再変更契約の締結について,原告は,Zが,本件再変更契約書を解約書類であると説明して原告に署名をさせたと主張する(第2の2(1)エ(ウ))。
認定事実(39)のとおり,本件再変更契約は,本件マンションの建築計画を終了させないために,Jから指示をされたEとZとが原告に契約書の作成を求めて対応したものであることが認められる。しかし,EもZも契約書の内容は十分承知しておらず,しかも,上司であるEは,原告とは面会せず,外で待機していたことが認められるところ,そのような対応は,契約解消を主張する原告に対し,契約内容の変更を説明して建設続行の了解を得ようとする場合の対応としては著しく不自然であり,原告がその場で直ちに解約の意思を翻意する理由も考えられないことからすれば,変更契約であることについて原告の了解を得て署名を得たとする証人Zの証言(9頁)は採用することができない。そして,認定事実(40)の状況からすれば,原告が主張するとおり,Zは,解約書類であると説明して原告に本件再変更契約書に署名をさせたものと推認するのが相当である。
したがって,上記の点は,原告の主張のとおり認めることができる。
オ 総合的判断
原告は,被告の従業員であるZらの原告に対する一連の行為は営業行為として社会通念上許容される範囲をはるかに逸脱した違法なものであり,全体として不法行為を構成すると主張する(第2の2(1))ので,検討する。
(ア) 契約当事者としての原告について
前提事実及び認定事実によると,原告は,既に80歳を超えた一人暮らしの女性であり,本件土地のほか財産を有していたことから,被告のみならず他の業者からも様々な勧誘を受けていたことがうかがわれるが,もともと自ら賃貸マンションを建設し,その経営をする意思を有していたものとは認められない。
また,被告が提案した本件マンション建設計画の用地は,イトーヨーカ堂に賃貸中の土地であり,当時月額109万7250円の賃料収入を得ていたことからすれば,原告が,相当のリスクを覚悟して新規事業を行う必要があったとは認められないし,原告にそのような事業を遂行する能力があったとも認められない(なお,原告は,自宅が駅から遠くて不便であると考えていたことがうかがわれるが,それを解消するために本件マンションを建築する必要があるとは到底認められない。)。
そして,認定事実(19)によれば,本件マンション建設のためには,7億7590万円余の融資を受ける必要があるところ,高齢で法定相続人のない原告が通常の融資を得ることは当初から困難が伴うものであったこと(そのために,被告はZを養子とすることまで提案した。)からしても,原告には,多額の融資を受けて事業を行うことについての適性があったとも認めることができない。
ちなみに,上記認定事実(19)によれば,被告の提案書の想定においても,本件マンションによる初年度の手取収入は月額約293万円,10年後には月額約196万円であること(いずれも同認定事実の年度別損益・資金繰り予想から算出。なお,本件契約1の際の計画では,前記ア(ウ)bで説示したとおり月額180万円程度となる。)が認められる。このような収益予測からすれば,原告にとっては,特段の負担もリスクも負うことなく,イトーヨーカ堂との間の賃貸借契約を当分継続するとの判断も十分合理的なものであったというべきである。
もとより,原告は,意思無能力者ではなく,行為能力の制限を受けているものでもないから,高齢で一人暮らしであるとしても,単独で有効な法律行為をすることができることはいうまでもない。しかしながら,前提事実及び認定事実に見られる原告の言動及び原告本人尋問の状況等を総合してみれば,原告が,多額の融資を受けて事業を行うことについて,その内容を理解し,分析して,合理的な判断をする能力を有していたものとは認め難く,そのような能力や記憶力等について年齢相応の衰えがあることが明らかというべきである。そして,Zらは,頻回にわたる原告宅訪問により,原告の性格や思考ないし行動形態を知悉していたものと認められることからすれば,被告が,原告との間において,多額の融資を伴うような契約を締結しようとするについては,信義則上,契約内容の相当性,合理性を前提として,原告の理解度,判断の合理性を確認し,これを補うとともに,原告の真意を踏まえて慎重に対応し,原告の意に反した事態の生じることのないように,十分な配慮をすることが求められるものといわなければならない。
(イ) 契約当事者としての被告について
被告は,本件マンションの建設を勧誘し,完成後は,被告ないしその関連会社が同マンションの管理業務を受任することを予定していた。
ところで,認定事実によれば,被告は,JR蕨駅東口前に近い本件土地1に建設するマンションに川口支店を入居させることを早々に決め,本件を本社関与案件とした上,Zが飛び込み訪問してから2か月余の平成17年7月28日には,契約日からマンション完成引渡しまでの計画を記載した概略工程表を作成していたこと(認定事実(5)),原告に知らせることなく,契約前にH弁護士に原告の財産管理の相談をし(同(10)),契約時にはH弁護士を保証人予定者とするような資金計画確認書を作成していたこと(同(11))などが認められ,加えて,懸案の融資問題についてZを原告の養子とすることにより解決しようとしたこと(同(5))からすると,被告は,交渉初期の時点から,独自に本件土地1の利用計画を立ててマンション建設を進行させようとしていたことがうかがわれる。そして,そのような被告の意思が継続していることは,その後の認定事実の経緯によって,2回にわたって弁護士からの解約通知があったにもかかわらずこれを翻意させ,不要な公正証書の作成を放置し,金融機関からの融資が確定しない段階で本件マンションの建設工事に着工し,原告の意に反して本件再変更契約に署名させてマンション建設の継続を求めたことなどの事実からも明らかである。
被告において,本件土地1に賃貸マンションを建設することは,JR蕨駅東口前付近の新築ビル1階に川口支店を確保することができるものであり,その敷地は原告が所有地を提供し,建設資金も全て原告が調達して提供するものであり,被告において建築資金を負担する部分はなく,建設請負代金収入を得られるものであるほか,完成後の管理業務を受注することにより収益を得られるものである。
一方,原告は,融資に係る借入金の返済を,建設したマンションの賃料収入によりまかなうことが予定されていたが,上記(ア)のとおり,このような事業の遂行能力があるとは認められない原告が,長期にわたって,その間に生じる状況の変化に対処することは到底困難であると認められることからすると,本件マンション建設後の原告の命運は,その管理業務を委託する被告ないしその関連会社の活動にゆだねるほかなく,結局,本件マンションの運営管理全般が被告の意思に従って行われることになるものと考えられる。
このように,本件土地1におけるマンション建設計画は,被告において何ら不満のないものであり,これを遂行することについて強い期待があったものと推認することができ,そのため,上記のとおり計画の継続に固執したものと考えるほかない。しかし,その契約の相手方が原告であり,Zらは原告の状況を知悉していたものと認められることからすれば,契約締結については,原告の立場に立ち,上記(ア)で述べたような十分な配慮が必要であったというべきである。
(ウ) 検討
原告と被告との関係は,本来自由意思に基づく契約関係ではあるものの,上記(ア)及び(イ)の事情の下において,被告によって上記の配慮が十分にされず,原告との対応が社会通念上被告の営業行為としての相当性を逸脱するものと評価されるに至る場合には,被告の当該行為は違法なものとして,原告に対し,不法行為を構成するものと認めるのが相当である。
そこで検討すると,前記アないしエの説示によれば,原告の適性や判断力等について,上記(ア)のような制約があったとしても,本件契約1の締結に至るまでの間は,原告の対応とも相まって,Zらの頻回の原告宅訪問等が,社会通念上,被告の営業行為として相当性を逸脱し,違法の評価を受けるものとまで認めることはできない。
しかしながら,原告が,本件契約1について,十分に納得したものでなかったことは,その直後,G弁護士から届いた通知により被告にも明らかとなったものというべきである。そして,前記イの説示に照らせば,被告は,上記時点において,本件契約1を遂行するか解消するかにかかわらず,原告と接触するのであれば,G弁護士を通じて原告の意思確認を求め,本件契約1を解約した場合(甲1(工事請負契約約款)12条によれば,本件契約1では,原告に中止権・解約権が留保されていることが認められる。)の精算手続について説明するなどして対処すべきものであったというべきである。
それにもかかわらず,被告が,問題を指摘されたZらに説得活動を担当させることにより原告を翻意させ,G弁護士を解任させ,H弁護士を選任させてその後の諸事務の遂行を円滑に勧めようとしたこと,加えて,本件変更契約を締結させ,更に本件契約2に至ったことは,自らの計画の進行のみを重視し,上記(ア)及び(イ)において指摘した契約当事者としての原告への配慮を欠くものであって,社会通念上,被告の営業活動としての相当性を著しく逸脱したものというほかない。
そして,G弁護士からの通知を受けた後のZらの一連の行為は,前記説示ウ及びエのとおり,被告会社の営業活動としてはいずれも相当性を欠く部分を含むものであるから,これらの行動は一体として,原告に対し,不法行為を構成するものと認めるのが相当である。
よって,被告は,原告に対し,使用者責任に基づき,Zらの上記不法行為(以下「本件不法行為」という。)によって原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。
(2) 損害について
ア 契約時金及び契約書印紙代について
(ア) 前記(1)の認定判断によれば,本件契約1の締結については不法行為の成立を認めることができない。したがって,本件契約1に関して交付した1144万5000円は本件不法行為に係る損害とは認められない(この金員については,G弁護士の通知を受けて,被告も解約に応じる意思があった(認定事実(15))のであるから,上記時点において,清算されるべきものと認められる。原告は,本件賃貸借予約につき受領した保証金454万7500円(同(28))を被告に返還することを要することになるものと考えられる。)。
(イ) これに対し,本件変更契約について交付した359万5000円(認定事実(20))及び本件契約2について交付した253万円(同(22))はいずれも本件不法行為に係る損害と認められる。その合計額は612万5000円となる。
イ 弁護士に支払った費用について
(ア) G弁護士に支払った弁護士費用は,不法行為とは認められない本件契約1を解消するためのものであったが,Zらの対応により,通知後その実現が妨げられたことからすると,H弁護士との交渉の結果G弁護士が取得した20万円(認定事実(18))は,本件不法行為に係る損害と認めるのが相当である。
(イ) I弁護士に支払った30万円(同(29))については,本件不法行為に係る損害と認められる。
(ウ) H弁護士に支払ったもののうち,イトーヨーカ堂に対する土地明渡請求着手金21万円(同(25)),近隣説明会の立会・交渉費用10万5000円(同(24)),相談料1万5000円(同(25))については,本件不法行為に係る損害と認められる。その合計額は33万円となる。
しかし,Cらに対する地代増額請求調停事件の着手金31万5000円(同(27))については,H弁護士が本件契約2の存在を知らなかったものであり,原告の委任内容もマンション建設のための明渡しに限定していたものとは認められないから,これを一連の不法行為に係る損害と認めるのは相当ではない。
(エ) 以上によれば,各弁護士に支払った費用のうち,本件不法行為に係るものは合計83万円となる。
ウ 本件マンション建築に関する近隣対策費用について
認定事実(33)のとおり,原告は,Zに渡した100万円のうち,51万円を近隣対策費に使用したとの報告を受けてその支出をした(Zが個人的に取得した分が一部含まれているものと認められる。)。これは,本件不法行為に係る損害と認められる。
エ イトーヨーカ堂からの駐車場賃料収入逸失分について
認定事実(25)のとおり,原告は,H弁護士に委任して,イトーヨーカ堂との間の本件土地1の賃貸借契約を終了させた。その交渉がなければ,上記契約は継続していたものと認められるところ,その解約後の平成17年5月1日から平成18年5月末日までの間の13か月分の賃料は合計1426万4250円となる。これは,本件不法行為に係る損害と認められる。
オ 慰謝料について
認定事実の経緯によれば,長期間にわたって不法行為が継続したものということができる。しかしながら,そのように長期にわたったことについては,本件が契約上のトラブルの延長線上のものであり,原告においても,契約書や公正証書の作成に容易に応じるなどの対応をし,埼玉りそな銀行との融資の話にも積極的な姿勢を見せていたことがうかがわれることからすると,精神的損害としての慰謝料を認める要素は乏しいものということもできる。もっとも,原告が,埼玉りそな銀行からの条件提示を受けて本件マンション建設を取りやめる旨をZに伝えた(認定事実(36))後において,被告がなお建設を継続させようとして執った行動に係る部分については財産的損害の発生はないものの,その行動に照らし,原告には賠償を相当とする精神的損害が生じたものと認められる。そして,上記部分に係る慰謝料としては50万円を相当と認める。
よって,本件不法行為に係る原告の慰謝料を上記の限度で認めることとする。
カ 過失相殺について
以上のアないしオの損害額を合計すると,2222万9250円となる。
しかしながら,上記オで触れたとおり,認定事実の経過を通じてみると,Zらの不法行為により導かれたものであることを考慮しても,原告自身の行動が本件を長期化させ,損害を拡大させた要因となっていることは否定することができない。そこで,認定事実の経緯において認められる原告の対応を勘案し,上記損害の4割を過失相殺により減ずることとする。
そうすると,原告が請求し得る損害は1333万7550円となる。
2222万9250円×(1-0.4)=1333万7550円
キ 弁護士費用について
本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用については,本件事案の内容,その審理経過,上記認容額その他の事情を総合し,130万円と認めるのが相当である。
ク まとめ
上記カ及びキの額を合計すると,1463万7550円となる。
3 結論
以上の認定判断によれば,原告の請求は,1463万7550円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年6月22日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よって,上記の限度で原告の請求を認容し,その余の部分の請求については理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,66条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井忠雄 裁判官 安部勝 裁判官 鈴木綱平)
〈以下省略〉
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