判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(254)平成22年 3月24日 東京地裁 平20(ワ)30427号 報酬金等請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(254)平成22年 3月24日 東京地裁 平20(ワ)30427号 報酬金等請求事件
裁判年月日 平成22年 3月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)30427号
事件名 報酬金等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2010WLJPCA03248008
要旨
◆原告が、被告に対し、被告から企業買収に関する指導、助言業務を委託されたと主張して、約定報酬の支払等を請求した事案において、原告と被告との合意書について、原告と被告との合意が合意書の記載内容と異なるとする被告の主張を排斥し、原告が合意書に記載された業務を行ったとして、被告に合意書の記載に基づいて報酬支払の義務があることを認め、請求を一部認容した事例
参照条文
民法643条
民法648条
民法656条
裁判年月日 平成22年 3月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)30427号
事件名 報酬金等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2010WLJPCA03248008
東京都中央区〈以下省略〉
原告 株式会社パートナーズ・コンサルティング
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 永塚良知
大阪市〈以下省略〉
被告 株式会社未来システム
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 榎本久也
大宅達郎
藤田将貴
主文
1 被告は,原告に対し,3150万円及びこれに対する平成20年10月1日から支払済まで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決の第1項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求(報酬金請求)
主文第1項同旨
2 予備的請求(不法行為損害賠償請求)
被告は,原告に対し,3150万円及びこれに対する平成19年11月20日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告から企業買収に関する指導,助言業務を委託された原告が,被告に対し,主位的に,約定報酬の支払を求め,予備的に,被告が報酬支払意思なく上記業務委託契約を締結したことが不法行為に該当するとして損害賠償を求めた事案である。
1 前提事実
(1)原告代表者は,公認会計士,税理士であり,企業経営に関する指導,助言,企業の合併・提携,営業権,有価証券の譲渡に関する指導・仲介・斡旋等を業とする原告を経営している。
(2)原告と被告との間で,平成19年11月20日付「基本合意書」(甲第5号証。以下「本件合意書」という。)が作成された。本件合意書には,別紙のとおりの記載がある。
(3)被告は,石油鑿井機製作株式会社,株式会社セキサク(以下,あわせて「本件対象会社」という。)を買収することとし,平成19年11月22日,被告と被告代表者の兄弟が経営する株式会社マントミ・アセット・マネージメントの出資によりセキサクホールディングス株式会社(以下「セキサクHD」という。)を設立し,平成19年12月25日,セキサクHDが本件対象会社の株式を旧株主から譲り受けて本件対象会社を子会社化し,その結果,セキサクHDは,石油鑿井機製作の総議決権の76%の株式(残りのうち22%はセキサクによる持合株式),セキサクの総議決権の80%の株式(残りの20%は石油鑿井機製作による持合株式)を取得した。
(4)平成20年9月1日,本件対象会社は,それぞれ同名の事業会社を会社分割により設立し,自らは,石油鑿井機製作が株式会社セキサク・キャピタル・マネジメントに,セキサクが株式会社セキサク・アセット・マネジメントに商号を変更した。
2 主位的請求の原因
(1)平成19年2月28日,原告は,被告との間で,原告が被告に対し,本件対象会社の事業価値評価,買収に関する手法の立案,買収の実行につき指導,助言すること(以下「本件業務」という。),被告が原告に対し,成功報酬として,本件業務の報酬を支払うことを合意し,原告が被告に対し上記助言を行った結果,平成19年12月25日,被告は,セキサクHDを通じて,本件対象会社の株式を取得した。
(2)原告と被告は,平成19年11月20日付本件合意書により,原告が被告に対し本件対象会社株式の取得,同取得の方法につき助言する報酬として,被告が原告に対し3000万円を支払うことを合意した。
(3)よって,原告は,被告に対し,本件合意に基づき,約定報酬3000万円に消費税を加算した3150万円及びこれに対する平成19年12月26日(セキサクHDが本件対象会社の株式を取得した日の翌日)から支払済まで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 主位的請求の原因に対する被告の認否
(1)請求原因(2)の事実を否認する。
(2)被告が原告に対して委託した業務内容は,次の①~⑦の業務(以下,本項の番号により,「被告主張業務①」などと表示する。)であり,原告と被告との間で合意した報酬は,被告主張業務①~④が全て行われたとき1500万円,被告主張業務⑤~⑦が全て行われたとき1500万円を支払うというものであった。
① 本件対象会社の買収にあたっての事業価値評価,買収手法の立案,買収実行の指導・助言
② 株式併合に関する立案,手続
③ 合併に関する立案,手続
④ 存続会社からの配当による資金回収
⑤ 会社分割に関する立案,手続
⑥ 分割承継会社の売却による資金回収に際しての税務・会計上の分析,検討,指導,助言等のコンサルティング
⑦ セキサクビル管理株式会社の株式取得に関する立案等のコンサルティング
(3)本件合意書は,別途,具体的な業務委託契約書を作成する予定で合意した「基本合意」にすぎず,原被告間の業務委託報酬に関する確定的合意とはいえない。
① 乙第1号証の1は,「株式購入及び組織再編」と題する平成19年10月4日付書面であり,同号証には,「プランニング及び実行報酬」として,「①株式購入時のプランニング,②株式併合のプランニング及び手続き,③合併のプランニング及び手続き,④配当による資金の回収,⑤合計 1500万円」との記載があり,乙第1号証の2は,「会社分割及び株式分割」と題する平成19年10月4日付書面であり,同号証には,「プランニング及び実行報酬」として,「①会社分割のプランニング及び手続き,②分割承継会社の売却のプランニング及び手続き,③合計 1500万円(買手を仲介した場合には別途成功報酬(5%)をお願い致します。)」との記載があり,乙第1号証の3は,「合併及び株式併合」と題する平成19年10月12日付書面であり,同号証には,「プランニング及び実行報酬」として,「①株式購入時のプランニング,②株式併合のプランニング及び手続き,③合併のプランニング及び手続き,④配当による資金の回収,⑤合計 1500万円」との記載がある。
② そして,原告は,被告に対し,上記各日付当時,上記各書面記載の業務を遂行する報酬が各1500万円であると説明し,本件合意書の草案が示された後も,被告が原告に対し,平成19年11月10日付メール(甲第7号証101頁)で,本件合意書の位置づけ,本件合意書には株式取得についてのみ記載されているが,合併,分割等に関してはどうなるのか等を確認したところ,原告担当者であるCは,平成19年11月12日付メール(甲第7号証100頁)で,本件合意書作成後,別途業務委託契約を締結すること,合併,分割等に関しては,セキサクとの契約の中で記載する予定であるなどと回答した。
③ そこで,被告は,本件合意書は,本契約となる業務委託契約を締結する前段階のものであり,被告の原告に対する業務委託契約の最終的な内容の確定は,本契約である業務委託契約でされるものと理解して,その作成に応じたものであり,本件合意書の記載内容は,被告が原告に対して委託した業務の報酬に関する確定的合意とはいえない。
4 主位的請求に関する抗弁
被告は,原告に対し,被告主張業務①~⑦を委託する意思で本件合意をしたものであるから,本件合意には要素の錯誤があり,本件合意は無効である。
5 上記抗弁に対する認否
否認する。
6 予備的請求の原因
(1)被告は,本件合意書を作成したのに,同合意書記載の報酬を支払う意思がなかったと主張するが,そうであれば,被告は,原告が本件業務を遂行することにより報酬が得られると信じていることを知りながら,上記報酬を支払うかのごとく原告を欺いて本件合意書を作成し,原告をして本件業務を遂行させ,原告に上記報酬相当額の損害を被らせたものというべきであるから,本件合意書作成は,被告の詐欺による不法行為を構成する。
(2)よって,原告は,被告に対し,上記報酬(消費税込)相当額である3150万円の損害金及びこれに対する平成19年11月20日(本件合意書作成の日)から支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
7 予備的請求の原因に対する被告の認否
否認する。
第3 当裁判所の判断
1 本件合意書には,石油鑿井機製作,セキサクの買収に関し,原告が被告に対し,石油鑿井機製作,セキサクの株式取得,同取得方法について助言する業務を行い,被告が原告に対し,同業務の成功報酬として3000万円を次のとおり分割して支払うこととし,原告と石油鑿井機製作との間で業務委託契約を締結することにより,被告は,上記報酬を石油鑿井機製作に支払わせることができる旨の記載がある。
(1)業務委託契約締結後1週間以内 1500万円
(2)下記のいずれか早い日 1500万円
① 石油鑿井機製作が予定している合併及び分割完了時
② 平成20年9月末日
2 原告は,主位的請求として,本件合意書記載の本件合意に基づき,本件合意書記載の報酬支払を求め,これに対し,被告は,原被告間で合意されていた内容が本件合意書に記載されたものとは異なるとして,本件合意書作成前の経緯を主張し,本件合意書には法的拘束力がない旨主張する。しかし,本件合意書が真正に成立したことは当事者間に争いがなく,本件合意書記載の内容で合意がされたことは明らかであって,本件合意書記載の合意に法的拘束力がないと解することはできない。そして,本件合意書記載の業務が行われたことは前示のとおりであるから,被告には,原告に対し,本件合意書記載の報酬を支払う義務がある。
3 被告は,本件合意書作成に至る経緯を縷々主張し,本件合意の成立を否認するが,前提事実に甲第5ないし第7号証,原被告各代表者尋問の結果,弁論の全趣旨を総合すると,被告が,本件対象会社の買収について原告に相談し,平成19年2月28日,原告に対し,本件対象会社の事業価値評価,買収に関する手法の立案,買収の実行につき指導,助言する本件業務を委託し,本件業務に対する報酬を成功報酬として支払うことを約束したこと,そのため,原告は,平成19年3月から本件業務に着手し,同年7月ころまでに本件対象会社の事業価値評価を行い,被告に対し,買収の手法等を提案し,株式取得に関する契約書を作成するなどしたこと,しかし,本件業務の報酬については成功報酬とする約束がされただけで,具体的金額の合意がされていなかったため,原告と被告とで話し合った結果,報酬に関する本件合意がされたこと,具体的には,平成19年11月8日,原告が,被告に対し,本件合意書の草案を送付し,被告は,同草案の記載内容を確認した上で,業務内容が株式の取得に関する指導,助言のみとなっている点などについて原告に質問し,これに対し,原告が,合併,分割等に関する指導,助言については,原告が本件対象会社との間で別途締結する業務委託契約に盛り込む予定であり,また,セキサクビル管理株式会社の株式取得については別途覚書を締結する予定であることなどを回答したこと,平成19年11月19日,原告は,被告に対し,本件合意書(甲第5号証),原告が被告に対しセキサクビル管理の株式取得方法につき助言し,その報酬を本件合意の報酬に含めることを内容とする覚書(甲第6号証。以下「本件覚書」という。)を送付し,同月20日,被告は,これらの内容を検討して了解し,同日付で本件合意書,本件覚書に押印して,同月23日ころ,原告に対し郵送したことが認められるところであり,本件合意に法的拘束力がないなどと解することはできない。
本件合意書の表題は,「基本合意書」とされているが,被告が原告に委託する業務の内容と報酬の額とが確定的に記載されており,報酬の額も,支払方法も,具体的に特定して記載されているのであり,その内容が不確定であるとか,将来締結する別の契約に関する方針等を示すにすぎないなどと解することはできない。
4 なお,被告が援用する乙第1号証の1ないし3,被告代表者の供述等について付言する。
(1)まず,被告は,乙第1号証の1ないし3を援用し,被告主張業務①~④の対価が1500万円,被告主張業務⑤,⑥の対価が1500万円であったと主張するが,乙第1号証の1ないし3,原告代表者尋問の結果によれば,そもそも,乙第1号証の1,2は,本件合意前である平成19年10月4日,原告が行う業務の報酬を本件対象会社に出捐させるための説明資料として原告が作成した書面にすぎず,また,乙第1号証の3は,乙第1号証の1を同月12日付で修正したものにすぎないことが認められるところであり,本件合意書作成前に上記各書面が作成されたからといって,本件合意の内容が覆されるものではない。
(2)また,被告代表者は,原告担当者が被告に対するメール(甲第7号証100頁)の中で,「別途業務委託契約書を締結させていただきます。」と記載したことを指摘し,原告代表者から,原告社内における説明等のために必要であると言われて本件合意書を作成したにすぎず,正式な業務委託契約書は,後に,別途作成される予定であったと供述するが,本件各証拠を総合すると,前記認定のとおり,上記メールの記載は,原告が行う業務の報酬を石油鑿井機製作に負担させるために,原告と被告との間ではなく,原告と石油鑿井機製作との間で,別途業務委託契約を締結する予定である旨述べたものにすぎず,原告が作成した業務委託契約書案(作成された順に,乙第9号証の2,3,第2号証の2,3,第4号証の2,3)は,いずれも原告が行う業務の報酬を本件対象会社に出捐させるために作成されたものであると認められる。そして,甲第7号証(104頁)によれば,被告代表者は,本件合意の内容を十分に認識した上で,本件合意をしたことが認められるのであって,本件合意書が法的拘束力を有しない社内的な文書にすぎないなどと解することはできない。
5 被告は,上記否認の事由をもって,要素の錯誤にあたるとも主張するが,被告代表者が本件合意の内容を十分に認識した上で本件合意をしたことは前示のとおりであり,本件合意につき要素の錯誤があったと認めることはできない。
6 ところで,本件合意書記載の報酬支払債務の弁済期は,次のとおりであると認められる。
(1)前記1のとおり,報酬3000万円は,「業務委託契約締結後1週間以内」に(1)の1500万円を,「石油鑿井機製作が予定している合併,分割完了時」,「平成20年9月30日」のいずれか早い日に(2)の1500万円を支払うことが合意されている。
(2)まず後者についてみるに,石油鑿井機製作が予定している合併,分割が完了したことを認めるに足りる証拠はないから,文言上,(2)の1500万円の支払債務の弁済期が平成20年9月30日に到来したことは明らかである。
(3)次に前者について検討するに,本件合意書記載の報酬3000万円は,1500万円ずつの2回に分割して支払う旨合意されたものであり,本件合意書の記載自体からみて,(1)の1500万円,(2)の1500万円の順に支払うことが予定されたものと解されるから,(1)の弁済期は,(2)の弁済期より前とするのが通常の当事者意思に合致する。
そして,(1)の1500万円の弁済期とされた「業務委託契約締結後1週間以内」とは,本件合意書の文面上,同合意書記載の報酬を石油鑿井機製作に負担させるために原告と石油鑿井機製作との間で別途締結されることが予定されていた「業務委託契約」の締結後1週間以内の趣旨であることが明らかであるところ,前記認定の事実経緯に原告代表者尋問の結果を総合すると,上記「業務委託契約」の締結が予定されていた時期は,「石油鑿井機製作が予定している合併,分割完了時」,「平成20年9月30日」より前であること,(2)の1500万円の弁済期を「石油鑿井機製作が予定している合併,分割完了時」,「平成20年9月30日」のいずれか早い日と定めたのは,原告の希望により,本件報酬債務の最終弁済期を本件合意書の作成日付である平成19年11月20日から約10か月後である平成20年9月30日とする趣旨であり,それ以前に石油鑿井機製作が予定している合併,分割が完了したときは,その時を(2)の1500万円の弁済期とすることを合意したものであることが認められるから,(1)の1500万円の支払債務の弁済期も平成20年9月30日には到来したものと解するのが相当である。
(4)よって,本件報酬の弁済期は,平成20年9月30日であり,遅延損害金の起算日は,その翌日である同年10月1日となる。
(5)なお,原告は,予備的請求において,遅延損害金の起算日を平成19年11月20日と主張するので,予備的請求についても判断するに,被告が原告主張の不法行為をしたことは,これを認めるに足りる証拠がないから,予備的請求は理由がない。
7 よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本光一郎 裁判官 右田晃一 裁判官 髙橋玄)
〈以下省略〉
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