判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(232)平成23年 3月28日 東京地裁 平22(ワ)19602号 損害賠償等請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(232)平成23年 3月28日 東京地裁 平22(ワ)19602号 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年 3月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)19602号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2011WLJPCA03288027
要旨
◆インターネット上で有料職業紹介事業を行う会社である原告が、原告の運営する求人情報サイト(本件サイト)を通じて求職者を紹介する契約を原告と締結した被告に対し、被告が、本件サイトにおいて被告の募集に応募した本件応募者を本件サイト上では不採用としながら、本件応募者が応募した日から6か月以内に同人を採用したなどとして、本件サイト採用支援サービス契約(本件契約)に基づく成功報酬の支払を求めた事案において、本件契約の成立が認められることを前提に、被告は本件応募者を採用し、雇用していたとして、原告の請求を認容した事例
裁判年月日 平成23年 3月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)19602号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2011WLJPCA03288027
東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社I&Gパートナーズ
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 北村行夫
同 海老沼英次
埼玉県所沢市〈以下省略〉
被告 ハンユウ株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 中田光一知
同 福間智人
同 野口真吾
同訴訟復代理人弁護士 黒住佳寿子
主文
1 被告は,原告に対し,76万0890円及びうち70万円に対する平成22年1月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告は,厚生労働大臣から有料職業紹介事業の許可を得て(有料職業紹介事業許可13-ユ300686),インターネット上で有料職業紹介事業等を行う株式会社である。
原告は,有料職業紹介事業として,ウェブ上で職業紹介を目的とするサイト「○○サイト」を運営している。すなわち,原告は,社員を募集している企業(以下「求人企業」という。)と「○○採用支援サービス契約」を締結し,求人企業の企業情報や求人情報をサイト「○○サイト」(以下「本件サイト」という。)に掲載し,それに対して,当該企業への就職を希望したサイト登録者(求職者)が本件サイトの機能を用いて応募することにより,原告は,本件サイトを通じて求人企業と求職者を紹介し,それによって求職者と求人企業の間で雇用契約が締結された場合に成功報酬を得るシステムとなっている。
イ 被告は,ジャガー等の輸入車,中古車の販売等を行う株式会社である。
(2) 被告の代表取締役Bは,平成20年8月22日,原告(担当者はC)との間で,「○○採用支援サービス利用規約」(以下「本件規約」という。)を前提として,成功報酬は1人採用した場合に70万円とする,契約期間は同年9月4日から平成21年7月31日とし,契約期間満了の2か月前までに当事者のいずれからも契約の終了の通知がされない場合には,契約が自動的に1年間更新されるとの約定で「○○採用支援サービス利用契約」を締結した(以下「本件契約」という。)。本件規約の6条には,「甲が,前条第1項により乙に対して不採用の通知をした求職者について,当該求職者が甲へ応募した日から6ヶ月以内に当該求職者との間で採用合意が成立した場合,甲と当該求職者は本サービスの利用によって採用合意に至ったものとみなす。」と,7条1項には,「乙は,甲及び求職者の間に採用合意が成立した日から,本サービスに対する報酬・・・として,申込書に記載された金額を請求することができる。ただし,前条の場合,乙は不採用通知日から甲に報酬を請求することができ,当該報酬に不採用通知日から実際に報酬の請求をした日まで年10%の利息を付加した金額を甲に請求できるものとする。」(いずれも甲は被告をさし,乙は原告を指す。)と規定されていた。その後,本件契約は,更新された。
(3) 訴外D(以下「D」という。)は,平成21年2月20日,本件サイトに会員登録し,本件サイト上で求職活動を開始し,同年6月12日,被告の募集に応募した。そこで,被告は,同年7月11日,Dに対し,第一次面接を同年8月5日に被告の営業店である「a店」において行う旨を通知した。
そして,被告は,同年8月5日,本件サイト上において,原告及びDに対し,不採用通知をした。
(4) 被告は,本件サイト上では不採用通知をしながら,上記のDが応募した日から6か月以内である平成21年8月15日,Dを採用した。Dは,被告のウェブサイト上のブログ「a店日記」において,同月18日付で,同月15日に入社したことを明らかにしている。
(5) したがって,原告は,被告に対し,本件契約に基づく報酬70万円及び消費税3万5000円の請求権を取得するに至った。また,原告は,平成21年12月17日,被告に対し,上記請求権について催告書を送付したから,本件規約7条により,同年8月5日から同年12月17日までの本件規約7条に基づく利息金2万5890円を有する。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因1,(1),アの事実中,第1文は認め,その余の事実は不知。
同イの事実は認める。
(2) 同(2)の事実は,否認する。「○○サービス申込書」(甲3の1。以下「本件申込書」という。)の「ご契約者」欄の記載は被告代表者が記載したものではないし,印影も被告代表者のものではない。被告としては,本件サイトを利用した従業員の募集業務は,訴外株式会社ソリューション(以下「ソリューション」という。)との業務委託契約に基づくものである。
(3) 同(3)の事実は,認める。
(4) 同(4)の事実は,否認する。被告は,ソリューションに対し,本件サイトを利用した従業員募集を依頼し,依頼書(甲14)において,「採用」について70万円を支払うことを約したが,そこにいう「採用」は70万円の報酬が発生するにふさわしい程度に「採用が成功」したことが必要であり,わずか数日間程度の雇用関係が生じただけで「採用」に該当するとはいえない。
(5) 同(5)の事実は,催告書が送付された事実は認めるが,その余は否認ないし争う。
3 争点
(1) 本件契約は成立したか否か
(2) 被告はDを「採用」したか否か
第3 当裁判所の判断
1 本件契約は成立したか否か
(1) 証拠(各認定事実の末尾に掲記する。)によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 原告は,有料職業紹介事業として,ウェブ上で職業紹介を目的とするサイト「○○サイト」を運営している。すなわち,原告は,社員を募集している求人企業と「○○採用支援サービス契約」を締結し,求人企業の企業情報や求人情報を本件サイトに掲載し,それに対して,当該企業への就職を希望したサイト登録者(求職者)が本件サイトの機能を用いて応募することにより,原告は,本件サイトを通じて求人企業と求職者を紹介し,それによって求職者と求人企業の間で雇用契約が締結された場合に成功報酬を得るシステムとなっている。原告のパンフレットには,「○○サイト料金体系」の記載があり,「初期費用50万円」,「成功報酬(1人成約につき)70万円」,「※成功報酬の請求に関しては,入社日を請求日とさせていただきます。」との記載があり,年収に応じた高額な成功報酬をもらう人材紹介サービスでないことをセールスポイントとしていた。(甲2,16)
イ 原告が「○○サイトサービス申込書」は2枚つづりであり,1枚目は「当社控」,2枚目は「お客様控え」となっており,表面の記載事項は全く同一であるが,「お客様控え」の裏面には本件規約が記載されており,その5条1項には,「甲は,甲へ応募した求職者の採用について,甲及び求職者の間で,甲が求職者を採用し,求職者が甲に就業する旨の合意(以下「採用合意」という。)が成立した場合,または甲が求職者を採用しないことを決定した場合,直ちに○○サイト上の通知機能その他○○サイト上に定める方法に従って乙に通知しなければならない。」,6条には,「甲が,前条第1項により乙に対して不採用の通知をした求職者について,当該求職者が甲へ応募した日から6ヶ月以内に当該求職者との間で採用合意が成立した場合,甲と当該求職者は本サービスの利用によって採用合意に至ったものとみなす。」と,7条1項には,「乙は,甲及び求職者の間に採用合意が成立した日から,本サービスに対する報酬・・・として,申込書に記載された金額を請求することができる。ただし,前条の場合,乙は不採用通知日から甲に報酬を請求することができ,当該報酬に不採用通知日から実際に報酬の請求をした日まで年10%の利息を付加した金額を甲に請求できるものとする。」,同3項には,「求職者が,甲への入社意思を表明したにもかかわらず,甲において就業しなかった場合,報酬は当初より発生しなかったものとする。またこの場合,乙はこれに伴う一切の責任を負わない。」,同4項には,「前項の場合を除き,求職者が甲において就業開始後,退職もしくは解雇された場合であっても,乙は申込書記載の報酬を減額,返金または免除しない。」(いずれも甲は被告をさし,乙は原告を指す。)と各規定されていた。
ウ 被告は,平成20年8月1日,ソリューション(担当者はEである。以下「E」という。)に対し,「依頼書」を交付し,業務内容である「○○サイト」(本件サイトを利用した従業員募集をさすものとみられる。)を,料金を50万円(税別),成功報酬を「一名採用につき別途70万円頂きます。」とする約定で依頼した。この依頼書には,被告会社の記名印と社印が押印されていた。(甲14)
エ 原告の顧客に対する営業は,原告が自ら行う場合と代理店契約を結んだ代理店が行う場合があり,ソリューションは,原告と代理店契約を結んでいた。そして,平成20年8月ころ,ソリューションのEは,原告に対し,上記の依頼書をFAXし,被告を契約ができる旨を通知した。そこで,Eが日程調整をし,契約の締結と募集広告のための取材が1回でできるように,営業して契約を締結することを担当していたアカウントコーディネーターのC(以下「C」という。)と取材担当のF(以下「F」という。)が平成20年8月22日に被告代表者を訪問することにした。(甲15)
オ C,F及びEは,平成20年8月22日,埼玉県所沢市所在の被告の本社に被告代表者を訪問した。名刺交換の後,Cは,パンフレットを使用して「○○採用支援サービス」の内容,契約条件,とくに,求職者からの問い合わせ等については,被告が原則として1週間以内に回答する義務があること(本件規約4条1項),被告が○○サイト上で応募してきた求職者をいったん不採用とした場合でも,応募日から6か月以内に当該求職者との間で採用合意が成立した場合には,○○サイトにより採用合意が成立したものとみなして報酬を請求すること(本件規約6条)を説明した。また,初期設定費が50万円(税別)であり,成功報酬が1人70万円であることは上記書面に印刷されていた。これに対して,被告代表者からは質問もなかったので,Cは,Fに取材を開始するように指示し,被告代表者とFは,写真を撮影するために1階のショールームに降りていった。そして,Cは,被告代表者から受領した名刺を見ながら,「○○サイトサービス申込書」の「ご契約者について」欄の会社名,所在地,担当者(被告代表者の氏名)の欄を記載した上,被告代表者に声をかけ,これへの押印を求めたところ,被告代表者は,被告の女性社員に印を持ってこさせた上,押印した。そこで,Cは,上記申込書の2枚目を被告代表者に交付した。(甲3の1及び2,甲15)
カ 被告は,平成20年9月24日,原告の銀行預金口座に52万5000円を振り込んだ。(甲17)
(2) これに対し,被告代表者は,①平成19年末ころから,ソリューションにコンサルティングを依頼し,その一環として,原告が運営する本件サイトを利用した従業員募集をすることとなり,ソリューションに対し,「依頼書」(甲14)を交付したから,本件サイトを利用した従業員募集はソリューションとの間の業務委託契約に基づくものである,②上記「依頼書」における「採用」とは,従業員として正式に雇用した場合をさすものと考えていた,③原告による取材はあったが,甲3の1及び2を作成したことはなく,契約に三文判を使用することはないから,本件契約をしたことはないと供述する(乙1,被告代表者)。
たしかに,甲3の1及び2の被告代表者の氏名をCが記載したこと及び押印が三文判でされていることは,常識的な行為とは言い難く,本件契約の成立に疑いを生じさせる事実である。
しかし,被告は,原告からの請求書に応じて,原告の銀行預金口座に初期設定費52万5000円を振り込んだところ((1),カ),契約の相手方がソリューションであるなら,上記の請求書が来た段階で疑問に思い,支払いを拒絶すべきところであり,上記の振込をしたということは,被告が原告を契約の相手方と認識していたとみるのが自然である。また,「依頼書」(甲14)には本件規約の記載がなく,提供されるサービスの内容も不明であって,これをもって本件サイトの利用に関する正式な契約であるとみることはできないから,別に正式な契約を締結する客観的必要性が存在したというべきである。また,原告が「依頼書」を所持していることからすれば,ソリューションは,自らが原告の代理店ではあるが,契約当事者とならないため,「依頼書」を原告へ送付し,被告との正式な契約締結を求めたものとみるべきであり,かかるソリューションの行動は,前記認定にそうものである。
そうすると,上記の被告代表者の供述は採用することはできない。
(3) 以上によれば,本件契約の成立を認めることができる。
2 被告はDを「採用」したか否か
(1) 証拠(各認定事実の末尾に掲記する。)によれば,以下の事実を認めることができる。
ア Dは,平成21年2月20日,本件サイトに会員登録し,本件サイト上で求職活動を開始し,同年6月12日,被告の募集に応募した。そこで,被告(担当者は深谷)は,Dと調整の上,同年7月11日,Dに対し,第一次面接を同年8月5日午前10時30分に被告の営業店である「a店1Fショールーム」において行う旨を通知した。そして,被告は,同年8月5日,本件サイト上において,原告及びDに対し,不採用通知をした。(甲5)
イ 被告のウェブサイト上のブログ「a店日記」において,同月18日付の欄には,「入社3日目の私,Dも社員同士の仲がとても良くアットホームな会社に早く馴染めるように頑張りたいと思います。」と記載されていた。(甲6)
ウ Dは,被告で9日間働き,被告は,Dについて,雇用保険法7条,同法施行規則6条の雇用保険被保険者資格取得届をし,Dに対し,賃金を支払った。(被告代表者)
(2) 以上によれば,被告はDを採用し,雇用していたと認めるのが相当である。
被告代表者は,Dはいったん不採用にしたが,本人が熱心だったので,その情にほだされて,面接の延長として会社に置いただけで,雇用したわけではないと供述する(乙1,被告代表者)が,雇用保険被保険者資格取得届を提出したのは,Dが雇用保険法7条の「その雇用する労働者」に該当したからであったとみるほかなく,上記供述は採用できない。
また,本件規約では,「採用合意」は求人企業で「就業」することの合意と定義されており(本件規約5条1項),「前項の場合を除き,求職者が甲において就業開始後,退職もしくは解雇された場合であっても,乙は申込書記載の報酬を減額,返金または免除しない。」(本件規約7条4項)とされているから,本件契約では,「就業」という事実があれば,その期間が短くとも成功報酬が発生することは明らかである。わずか9日間の就業で70万円もの成功報酬を支払うのは納得できないとの被告代表者の心情は理解できなくもないが,被告の主張を採用することはできない。
3 以上によれば,原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,仮執行の宣言につき同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 齊木敏文)
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