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判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(212)平成24年 1月26日 東京地裁 平21(ワ)2111号 損害賠償請求本訴事件、同請求反訴事件

判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(212)平成24年 1月26日 東京地裁 平21(ワ)2111号 損害賠償請求本訴事件、同請求反訴事件

裁判年月日  平成24年 1月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)2111号・平21(ワ)27511号
事件名  損害賠償請求本訴事件、同請求反訴事件
裁判結果  本訴請求一部認容、反訴請求一部認容  上訴等  控訴(後、控訴棄却、確定)  文献番号  2012WLJPCA01268004

要旨
◆原告らが、被告Y1及び同Y2が被告会社の業務として原告X2及びその夫亡X1(原告X2ら)から、節税対策や調査費等の名目で金員を詐取したなどと主張して損害賠償を求めた(本訴)ところ、被告会社が、調査費の支払を、被告Y1及び同Y2が立替金の支払を、それぞれ求めた(反訴)事案において、原告X2らからの金員の交付の一部については、課税免脱のために一旦は被告会社に交付されたものの既に原告X2らに返還されている、調査費等として被告会社が取得することの合意があったなどとしたが、その余については、返還する意思のない金員を返還すると偽って預託させたものであるなどとして、被告らの不法行為の成立を認めるとともに、被告らの不法原因給付の類推の主張を排斥して、本訴請求を一部認容する一方、被告Y1及び同Y2の各立替金支払の事実を認めるなどして、反訴請求を一部認容した事例

裁判経過
控訴審 平成24年11月28日 東京高裁 判決 平24(ネ)1373号・平24(ネ)6317号

参照条文
民法708条
民法719条
会社法350条

裁判年月日  平成24年 1月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)2111号・平21(ワ)27511号
事件名  損害賠償請求本訴事件、同請求反訴事件
裁判結果  本訴請求一部認容、反訴請求一部認容  上訴等  控訴(後、控訴棄却、確定)  文献番号  2012WLJPCA01268004

平成21年(ワ)第2111号 損害賠償請求本訴事件
同年(ワ)第27511号 同請求反訴事件

川崎市〈以下省略〉
本人兼亡甲山X1訴訟承継人
原告(反訴被告) 甲山X2(以下「原告X2」という。)
同所
亡甲山X1訴訟承継人
原告(反訴被告) 甲山X3(以下「原告X3」といい,
原告X2及び原告X3を併せて「原告ら」という。)

上記両名訴訟代理人弁護士 引田紀之
東京都台東区〈以下省略〉
被告(反訴原告) 株式会社アイアイシー(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 Y1
東京都台東区〈以下省略〉
被告(反訴原告) Y1(以下「被告Y1」という。)
東京都台東区〈以下省略〉
同 Y2(以下「被告Y2」といい,被告会社,
被告Y1及び被告Y2を併せて「被告ら」という。)

上記3名訴訟代理人弁護士 大竹健嗣
同 荻原邦夫

 

 

主文

1  被告らは,原告X2に対し,連帯して2億5622万0010円及びこれに対する被告Y1については平成21年2月22日から,被告会社及び被告Y2については同月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告らは,原告X3に対し,連帯して6461万円及びこれに対する被告Y1については平成21年2月22日から,被告会社及び被告Y2については同月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  原告らのその余の本訴請求をいずれも棄却する。
4  原告X2は,被告Y1に対し,5項の限度で原告X3と連帯して5300万円及びうち2650万円に対する平成21年8月12日から,うち2650万円に対する同月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5  原告X3は,被告Y1に対し,原告X2と連帯して2650万円及びこれに対する平成21年8月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6  原告X2は,被告Y2に対し,7項の限度で原告X3と連帯して60万円及びうち30万円に対する平成21年8月12日から,うち30万円に対する同月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7  原告X3は,被告Y2に対し,原告X2と連帯して30万円及びこれに対する平成21年8月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8  原告X2は,被告Y1に対し,759万3350円及びこれに対する平成21年8月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9  原告X3は,被告Y1に対し,759万3350円及びこれに対する平成21年8月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10  原告X2は,被告Y1に対し,334万5800円及びこれに対する平成21年8月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
11  被告会社の反訴請求並びに被告Y1及び被告Y2のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
12  訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告らの負担とする。
13  この判決は,1,2,4ないし10項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  本訴
(1)  被告らは,原告X2に対し,連帯して5億8362万0010円及びこれに対する被告Y1については平成21年2月22日から,被告会社及び被告Y2については同月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)  被告らは,原告X3に対し,連帯して1億6486万円及びこれに対する被告Y1については平成21年2月22日から,被告会社及び被告Y2については同月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  反訴
(1)  原告X2は,被告会社に対し,後記(2)項の限度で原告X3と連帯して1593万3750円及びうち796万6875円に対する平成21年8月12日から,うち796万6875円に対する同月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)  原告X3は,被告会社に対し,原告X2と連帯して796万6875円及びこれに対する平成21年8月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)  原告X2は,被告Y1に対し,後記(4)項の限度で原告X3と連帯して5300万円及びうち2650万円に対する平成21年8月12日から,うち2650万円に対する同月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)  原告X3は,被告Y1に対し,原告X2と連帯して2650万円及びこれに対する平成21年8月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)  原告X2は,被告Y2に対し,後記(6)項の限度で原告X3と連帯して60万円及びうち30万円に対する平成21年8月12日から,うち30万円に対する同月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)  原告X3は,被告Y2に対し,原告X2と連帯して30万円及びこれに対する平成21年8月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7)  原告X2は,被告Y1に対し,759万3350円及びこれに対する平成21年8月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8)  原告X3は,被告Y1に対し,759万3350円及びこれに対する平成21年8月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(9)  原告X2は,被告Y1に対し,334万5800円及びこれに対する平成21年8月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本訴請求事件は,原告らが,被告Y1及び被告Y2(以下,両被告を併せて「被告Y2ら」という。)が被告会社の業務として,原告X2の夫である亡甲山X1や原告X2(以下,X1と併せて「原告X2ら」という。)から,節税対策や調査費等の名目で金員を詐取したことにより,原告X2らに損害が生じたとして,被告会社に対しては会社法350条に基づき,被告Y2らに対しては共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告らに対し,連帯債務として,X1の訴訟承継人兼本訴原告本人である原告X2が5億8362万0010円の損害の賠償を,X1の訴訟承継人である原告X3が1億6484万円の損害の賠償を求める事案である。
反訴請求事件は,①被告会社が,原告X2らから委託されて,原告X2が監査役を務める株式会社小川組の役員に対する調査業務及び原告X2らが投資用口座を開設していた東海東京証券株式会社に対する調査業務を行ったことにより,1593万3750円の調査費請求権を有するとして,原告らに対し,その支払(ただし,原告X3に対しては相続分2分の1である796万6875円の限度)を求め,②被告Y1が,原告らに対し,同被告が原告X2らに対し貸し付けたとする5300万円(ただし,原告X3に対しては相続分2分の1である2650万円の限度)の返還を求めるとともに,原告X2らが支払うべき市民税等の税金や税理士費用を立て替えたとして,X1に関する立替金1518万6700円については原告らに対し(その相続分2分の1である759万3350円ずつ),原告X2に関する立替金334万5800円については同原告に対し,それぞれ立替金相当額の返還を求め,③被告Y2が,原告X2らが支払うべき弁護士費用60万円を立て替えたとして,原告らに対し,立替金相当額(ただし,原告X3に対しては相続分2分の1である30万円の限度)の返還を求める事案である。
1  前提となる事実(末尾に証拠等の記載のない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)  当事者
ア 原告X2は,X1の妻であり,平成18年9月28日まで,土木建設の請負業務等を目的とする小川組の監査役に就任していた。
イ 原告X3は,X1と原告X2との間の子である。
ウ X1は,平成12年3月18日まで,小川組の代表取締役に就任していたが,平成22年3月8日に死亡し,原告X2及び原告X3が相続分2分の1ずつでX1を相続した(甲31(枝番号含む。以下,特に枝番を記載したもの以外は同じ。))。
なお,X1は,平成20年11月26日,横浜家庭裁判所川崎支部による後見開始の審判が確定し,成年後見人としてA弁護士が選任されたが,同弁護士が,X1の成年後見人の辞任許可の申立てをしたため,平成21年11月20日,B弁護士が新たにX1の成年後見人に選任された(弁論の全趣旨)。
エ 被告会社は,登記上,経営コンサルティング業務及び企業の調査業務等を目的とする株式会社である。
オ 被告Y1は,平成15年頃から被告会社の代表取締役を務めている者である。
カ 被告Y2は,平成15年頃から被告会社の取締役を務めている者である。
(2)  原告らと被告Y2らが知り合った経緯等
X1は,その先代が設立した小川組を実質的に経営していたが,平成10年11月に脳溢血で倒れ,その経営を離れていたところ,小川組がX1に対する退職慰労金や原告X2に対する監査役報酬を減額するなどしたため,原告らは,小川組の経営陣に対し不満を抱くようになった。
原告X3は,平成15年秋頃,長野県の温泉を訪れた際,被告Y2らと知り合い,それ以降,被告Y2らと連絡を取り合う仲となり,平成16年5月頃には,被告Y2らを原告X2に紹介したことから,原告X2も被告Y2らと親交を深めていった。
(3)  X1による小川組の株式の売却と売却代金の被告らへの交付
ア X1は,平成16年当時,小川組の株式を所有していたが,小川組の代表者であるCら経営陣側が小川組に対する支配力を増していたため,原告X2らは,X1が所有する小川組の株式を小川組に売却したいと希望するようになった。
そこで,X1は,小川組に対し,自己の所有する小川組の株式の一部である50万株の買取請求を行い,小川組は,同年7月12日の取締役会において,X1の所有する小川組の株式15万株を1株400円で買い取ることを決議し,同決議に基づき,小川組とX1との間で,同月13日,翌14日を受渡日として,普通額面株式15万株を6000万円で売買するとの契約が締結された。また,小川組は,同月17日の取締役会において,X1の所有する小川組の株式35万株を1株400円で買い取ることを,同年8月26日開催予定の株主総会における承認を条件として決議し,同年7月23日,X1との間で,同月26日を約定日として,普通株式35万株を1億4000万円で売買するとの売買契約を締結した(乙143,154の11,12。以下,上記のX1と小川組との間の各売買を「本件株式売買」という。)。
なお,本件株式売買の成立には,被告らも関与した(ただし,関与の経緯及び内容については,争いがある。)。
イ 小川組は,本件株式売買の代金として,同月14日,川崎信用金庫本店営業部のX1名義の普通預金口座(口座番号:〈省略〉。以下「川崎信金X1預金口座」という。)に6000万円を振り込み,同月26日,同口座に1億4000万円を振り込んだ(甲16。以下,上記各振込みに係る合計2億円を「本件株式代金」という。)。
ウ 原告X2は,同月14日,小川組から6000万円が振り込まれた川崎信金X1預金口座から3000万円を東京三菱銀行(現在の三菱東京UFJ銀行)雷門支店の被告会社名義の預金口座(以下「被告会社預金口座」という。)宛てに送金する手続をし,同金員は,同月15日付けで上記口座に振り込まれた(以下,上記3000万円を「平成16年7月15日交付金」という。)。また,原告X2は,同月26日,川崎信金X1預金口座から6000万円を被告会社預金口座宛てに送金する手続をし,同金員は,同月27日付けで同口座に振り込まれた(以下,上記金員を「平成16年7月27日交付金」という。)。さらに,原告X2は,同月30日,川崎信金X1預金口座から8000万円を引き出し,被告Y2らに対し,同金員を交付した(以下「平成16年7月30日交付金」という。甲16,18,乙117,弁論の全趣旨)。
(4)  原告X2の東海東京証券におけるファンド等の解約と解約金の被告らへの交付等
ア 原告X2は,平成18年当時,東海東京証券に対し,約2億円のファンド等を預託していたが,同年11月末から同年12月にかけて,ファンド等の解約手続を行った。これに伴い,東海東京証券は,解約金として,同年11月29日に6213万6542円,同月30日に2722万8071円,同年12月1日に2622万5817円及び同月4日に8288万9580円の合計1億9848万0010円(以下「本件解約金」という。)を川崎信用金庫本店営業部の原告X2名義の普通預金口座(口座番号:〈省略〉。以下「川崎信金X2預金口座」という。)に振り込んだ(甲19,乙186の5)。
イ 原告X2は,川崎信金X2預金口座から,同月1日に1億1559万0430円を,同月4日に8288万9580円を引き出した(甲19)。
ウ 原告X2は,同月1日に引き出した金員のうち,少なくとも7665万円を被告会社に交付した(なお,本件解約金を原資として,原告X2が被告らに交付した金員の額については争いがある。)。
(5)  原告X2による小川組に対する帳簿等閲覧請求
ア 原告X2は,小川組監査役として,小川組代表取締役らに対し,小川組の帳簿類等の資料を開示するように求めたが,その開示を受けることができなかったことから,平成17年1月頃,被告Y2らから紹介を受けたD弁護士に委任し,同弁護士から改めて小川組に対し帳簿類の開示を求めたものの,その開示を受けることができなかった(乙7)。
イ 原告X2は,平成17年8月,D弁護士及びE弁護士を代理人として,小川組に対し,帳簿類等閲覧謄写請求仮処分の申立て(以下「本件仮処分事件」という。)を行い,同事件の審理を通じて,小川組から任意に帳簿類の開示がされることとなったが,預金通帳については同年12月7日に閲覧謄写をさせることを命じる仮処分決定がされた。
これらにより,小川組から原告X2に対し,確定申告書,領収書,振替伝票,預金通帳,株主総会議事録,取締役会議事録,会計帳簿類が開示された(乙7~9)。
(6)  原告X2らと小川組との間の訴訟上の和解と被告らへの金員の交付等
ア 原告X2は,別紙訴訟事件一覧のとおり,平成18年3月から平成19年5月までの間,小川組監査役の地位に基づき,又は原告X2個人として,小川組や小川組の元代表者,当時の代表者等の役員を被告として,横浜地方裁判所川崎支部に9件の訴訟を提起した。
また,X1は,平成18年9月8日,小川組から支払われた退職慰労金が不当に減額されているとして,小川組に対し,3800万円余の退職慰労金の支払を求める訴訟を提起した(乙162,以下,上記10件の訴訟を「小川組関係訴訟」という。)。
イ 小川組関係訴訟については,平成19年8月16日,①X1が小川組に対し,同社の株式43万2400株を総額1億2972万円で売り渡すこと,②原告X2が,小川組に対し,同社の株式2万株を総額600万円で売り渡すこと,③原告X2が小川総合サービス株式会社(以下,小川組と併せて「小川組ら」という。)に対し,同社の株式6100株を総額1970万9100円で売り渡すこと,④小川組が原告X2に対し,和解金として1億9457万0900円を支払うこと,⑤原告X2は,小川組監査役として提起した訴訟,原告X2として提起した訴訟をいずれも取り下げ,X1も小川組に対する上記退職慰労金請求訴訟を取り下げること等を内容とする訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した(甲11)。
ウ 小川組は,同日,本件和解に基づき,りそな銀行川崎支店のX1名義の普通預金口座(口座番号:〈省略〉。以下「りそな銀行X1預金口座」という。)に上記イ①の1億2972万円を振り込んだ。また,小川組らは,同日,本件和解に基づき,みずほ銀行川崎支店の原告X2名義の普通預金口座(口座番号:〈省略〉。以下「みずほ銀行X2預金口座」という。)に上記イの②から④までの合計2億2028万円を振り込んだ(甲13,14,乙186の4,8。以下,本件和解に基づき支払われた上記合計3億5000万円を「本件和解金」という。)。
エ 原告X2は,同月17日,みずほ銀行X2預金口座から1億5000万円を引き出し,被告Y2らに対し,同金員(以下「平成19年8月17日交付金」という。)を交付した。また,原告X2は,同月20日,みずほ銀行X2預金口座から7028万円を,原告X2が管理していたりそな銀行X1預金口座から1億2972万円を引き出し,被告Y2らに対し,上記7028万円と1億2972万円の合計2億円(以下「平成19年8月20日交付金」という。)を交付した。
(7)  被告Y1による原告X2らの債務の立替え等
ア 被告Y1は,平成19年9月10日から平成20年11月12日までの間,原告X2らに対し,原告X2,原告X3及びX1(以下,上記3名を併せて「甲山家」という。)の生活費等として合計5300万円を貸し付けた(以下「被告Y1貸付金」という)。
被告Y1と原告X2らは,被告Y1貸付金について,弁済期を原告X2らが被告会社に委託した小川組及びその役員並びに東海東京証券に対する調査業務の終了時と合意していたところ,原告X2らから被告らへの上記調査業務を終了させる旨の通知によって,同調査業務は,遅くとも,本件反訴状が原告X2らに送達されるまでに終了していた(弁論の全趣旨)。
イ 被告Y1は,以下のとおり,X1の支払うべき平成20年度の税金合計1508万6700円を立て替えて支払った。
(ア) 平成20年3月17日 所得税 1144万0200円
(イ) 同年4月24日 固定資産税・都市計画税 56万4700円
(ウ) 同年6月25日 市民税・県民税(第1期) 102万7800円
(エ) 同年9月3日 市民税・県民税(第2期) 102万7000円
(オ) 同年10月20日 市民税・県民税(第3期) 102万7000円
ウ 被告Y1は,以下のとおり,原告X2の支払うべき平成20年度の税金合計324万5800円を立て替えて支払った。
(ア) 平成20年3月17日 所得税 257万7700円
(イ) 同年6月25日 市民税・県民税(第1期) 22万4100円
(ウ) 同年9月3日 市民税・県民税(第2期) 22万2000円
(エ) 同年10月20日 市民税・県民税(第3期) 22万2000円
2  争点
[本訴請求関係]
(1) 被告らが本件株式代金を詐取したとの不法行為の成否及び損害賠償責任の有無(争点1)
(2) 被告らが本件解約金を詐取したとの不法行為の成否及び損害賠償責任の有無(争点2)
(3) 被告らが本件和解金を詐取したとの不法行為の成否及び損害賠償責任の有無(争点3)
(4) 原告らの被告らに対する損害賠償請求の可否(不法原因給付の類推適用の可否)(争点4)
[反訴請求関係]
(5) 被告会社の原告X2らに対する小川組及び東海東京証券に関する調査費等請求権の有無(争点5)
(6) 被告Y1の原告X2らに対する税理士費用立替金返還請求の可否(争点6)
(7) 被告Y2の原告X2らに対する弁護士費用立替金返還請求の可否(争点7)
第3  争点に関する当事者の主張
1  争点1(被告らが本件株式代金を詐取したとの不法行為の成否及び損害賠償責任の有無)について
(1)  原告X2が被告Y2らに対し,平成16年7月26日に本件株式代金を原資として3000万円を交付したか
(原告らの主張)
原告X2は,平成16年7月26日,川崎信用金庫本店に被告Y2らとともに出向き,本件株式代金が振り込まれた川崎信金X1預金口座から3000万円を引き出し,全額を被告Y2らに交付した。
(被告らの主張)
被告Y2らは,原告ら主張の日に川崎信用金庫本店まで原告X2に同行したが,同日,原告X2から3000万円を受領したことはない。被告Y2らが原告X2に同行したのは,原告X2から,足が悪いので車で送迎してほしいと要請されたためである。
(2)  本件株式代金2億円を原資とする金員の交付が被告Y2らの欺もう行為によるものか否か
(原告らの主張)
ア 企画料等名下の詐欺
被告Y2らは,本件株式売買に関し,被告会社において高額の企画料,交渉及び立会料を請求できるような行動は何ら行っていないにもかかわらず,平成16年7月頃,X1の財産を管理していた原告X2に対し,小川組との間でX1が保有する小川組の株式を1株当たり400円で売買するとの本件株式売買を行うことができたのは,被告Y2らが交渉したお陰であると被告Y2らの行動の成果を誇張して伝えるなどし,原告X2をしてその旨誤信させ,本件株式売買の企画料,小川組との交渉及びその立会料として6000万円を支払うよう同意させ,これにより,原告X2は,上記企画料等6000万円の一部として平成16年7月15日交付金3000万円を被告会社預金口座に送金する手続を行った。
イ 節税対策名下の詐欺
被告Y2らは,原告X2に対し,「小川組に売却した株式は,自社株であり,自社株を売却した場合に得た売却代金は,税務上,『みなし配当』とされ,最低でも50%,場合によっては80%の税率で税金が課せられる。」「被告会社に預けて税金対策をすれば,みなし配当ではなく,普通の株式売却にかかる20%の税率で済む。」などと虚偽の事実を告げ,X1の預金口座を管理していた原告X2をして,被告会社に本件株式売買で得た金員を交付すれば節税することができると誤信させ,これにより,平成16年7月26日,3000万円を被告会社に交付させ,平成16年7月27日交付金6000万円を被告会社預金口座に送金させ,さらに,平成16年7月30日交付金8000万円を被告会社に現金で交付させた。
なお,仮に,本件株式売買により得た利益につき,税務上,みなし配当として課税されるとしても,みなし配当の税率は最高で50%であるから,被告Y2らが原告X2に対して「最低でも50%」「場合によっては80%」の税率で課税されると告げたことは,被告Y2らによる欺もう行為に該当する。
(被告らの主張)
ア 企画料等名下の詐欺に対する反論
被告会社が平成16年7月15日交付金3000万円を受領したのは,被告会社とX1の資産管理をしている原告X2との間で,原告X2らが,被告会社に対し,本件株式売買の企画及びその調査並びに原告X2と小川組役員との交渉の際の被告Y1の立会いの報酬として6000万円を支払うことが合意され,その一部の支払がされたことによるものである。
小川組の株式が従前1株当たり200円で売買されていたにもかかわらず,本件株式売買においては,その2倍である1株当たり400円で売買が成立し,X1が本件株式代金として2億円を得たことからすれば,被告会社が,企画,調査及び交渉の立会いに係る報酬として6000万円を得ることは合理的な範囲にとどまっていたというべきである。なお,原告X2が被告会社に対し6000万円の報酬を支払うことに納得していたことは,平成16年度のX1の確定申告の際,本件株式売買に関する費用として6000万円が計上されていることからも明らかである。
イ 節税対策名下の詐欺に対する反論
平成16年7月27日交付金6000万円のうち3000万円は,本件株式売買に係る被告会社の報酬6000万円から平成16年7月15日交付金3000万円を控除した残金3000万円の支払であり,被告Y2らの欺もう行為は何ら存在しない(平成16年7月27日交付金6000万円のうちのその余の3000万円は,原告X2が誤って振り込んだものであったため,後記(3)イのとおり,被告会社は原告X2に返還している。)。
なお,被告Y2が「みなし配当」という言葉を初めて聞いたのは,平成20年6月になってからであって,それ以前に,原告X2に対して「みなし配当」について話すことなどあり得ない。原告X2は,本件株式売買に関する申告が必要な平成16年度の確定申告から,申告業務を従前委任していたF税理士ではなく,被告Y2に依頼して紹介を受けたG税理士に委任していたところ,平成16年度のX1の確定申告においては,本件株式売買に関する所得に50%の税率で税金が課せられるみなし配当として申告しなければならなかったにもかかわらず,G税理士に対し一般の株式譲渡代金と同様に処理するように強く働き掛け,被告会社に対する報酬6000万円を費用とした上で,一般の株式譲渡代金として処理させていたものであって,原告X2が本件株式売買による所得に関し,欺もうされていたことはない。
また,平成16年7月30日交付金8000万円は,原告X2が年利を1.2%とする利殖目的で被告会社に預託したものであって,被告Y2らの欺もう行為により交付されたものではない。
(3)  被告らによる交付金等の返還の有無
(被告らの主張)
ア 平成16年7月15日,原告X2から被告Y2らに対して金員が必要である旨の申出があったことから,被告会社が以後の原告X2らから依頼を受けた調査を行うことになっていたこともあり,同日,被告Y1は,原告X2に対する貸付けとして1500万円を交付した。
なお,被告会社は,同日,原告X2に対し,上記貸付けとは別に1500万円を貸金として交付している。
イ 被告Y2らは,平成16年7月27日,X1から被告会社預金口座に6000万円が振り込まれていることを確認したが,本件株式売買に関する被告会社の報酬6000万円のうち3000万円は同月15日に受領済みであったため,原告X2が誤って振り込んだ超過額3000万円を,同日,原告X2方に持参して返還した。
なお,被告会社は,同日,上記3000万円の返還のほかに,原告X2に対し,3000万円を貸金として交付している。
ウ 被告会社は,原告X2から受託した平成16年7月30日交付金8000万円につき,受託期間の金利を支払った上,平成17年6月14日までにその全額を返還した。このことは,原告らが,他に収入源がなかったにもかかわらず,東海東京証券の原告らの口座に多額の金員を入金していることからも明らかである。
(原告らの主張)
ア 原告X2が,平成16年7月15日に被告会社から1500万円の交付を受けたことはない。原告X2が同月14日に被告会社預金口座に3000万円を振り込んでおきながら,翌15日に被告らに対し,金員が必要であると申し入れること自体,不自然である上,同日当時,川崎信金X1預金口座には4111万円を超える預金が存在したことからも,原告X2が被告らから金員の交付を受けたり,貸付けを受ける必要はなかった。
イ 原告X2は,平成16年7月27日交付金6000万円のうちから3000万円の返還を受けたことはないし,同金員の貸付けを受けたこともない。
ウ 原告X2は,被告らから,平成16年7月30日交付金8000万円の返還を受けたことはない。
2  争点2(被告らが本件解約金を詐取したとの不法行為の成否及び損害賠償責任の有無)について
(1)  原告X2が被告Y2らに対し,本件解約金全額を交付したか否か
(原告らの主張)
原告X2は,平成18年11月29日から同年12月1日にかけて本件解約金が振り込まれた川崎信金X2預金口座から同日に1億1559万0430円を,同月4日に8288万9580円をそれぞれ引き出し,本件解約金全額に相当する金員を被告Y2らに交付した。
(被告らの主張)
被告Y2らは,平成18年12月1日,原告X2らから依頼されていた小川組の会計及び業務監査に係る調査業務に関し,平成16年7月6日から平成17年7月31日までに発生した費用の支払として,原告X2から7665万円(以下「平成18年12月1日交付金」という。)を受領したが,本件解約金に係るその他の原告ら主張の金員は一切受け取っていない。
(2)  本件解約金の交付が被告Y2らの欺もう行為によるものか否か
(原告らの主張)
被告Y2らは,東海東京証券の原告X2名義のファンド等を解約させ,その解約金を詐取しようと企て,平成18年11月頃,原告X2に対し,「東海東京証券の担当者が不正をしている。」「このまま東海東京証券に預け続ければ,同社の不正により,預けたお金が返ってこなくなる。」などと虚偽の事実を告げて,原告X2にその旨誤信させ,原告X2名義のファンド等を全て解約させた。さらに,被告Y2らは,東海東京証券から川崎信金X2預金口座に本件解約金が振り込まれることを見込んで,原告X2に対し,「同社に運用を委託していた金員は,もともとX1の金であり,X1の金を原告X2が運用していたことや原告X2が本件解約金を保持していることが税務署に発覚すれば,贈与税として80%の税率が課せられる。」「それを避けるためには,被告会社に預託するしかない。」などと虚偽の事実を告げて,原告X2にその旨誤信させ,本件解約金全額を被告Y2らに交付させた。
(被告らの主張)
ア 原告X2は,自らの意思で東海東京証券に預託していたファンド等を解約したものであり,被告Y2らが虚偽の事実を告げて解約を働きかけたことはない。
イ また,本件解約金に関して被告らが受領したのは,平成18年12月1日交付金7665万円のみであり,同金員は,被告会社が平成16年6月以降長期間にわたって行った小川組役員の尾行調査,関係者からの聞き込み調査等の費用として,原告X2との合意の下に受領したものであり,被告Y2らの欺もう行為によって受領したものではない。
(3)  平成18年12月1日交付金7665万円の返還の有無
(被告らの主張)
被告Y2らは,平成19年4月頃,原告X2から,「お金が必要だから調査費として受け取った7665万円を一旦戻してほしい。」と強く求められたため,被告らは,同年4月20日,平成18年12月1日交付金7665万円全額を現金で返還した。
(原告らの主張)
被告らから,平成18年12月1日交付金の返還を受けたことはない。
3  争点3(被告らが本件和解金を詐取したとの不法行為の成否及び損害賠償責任の有無)について
(原告らの主張)
(1) 被告Y2らは,原告X2らに小川組関係訴訟を提起させ,同訴訟を通じて,原告X2らが保有していた小川組らの株式を小川組らに買い取らせるなどして原告X2らに金員を得させ,その金員を騙取しようと企て,E弁護士等を周旋して原告X2らに訴訟を追行させた結果,本件和解が成立し,原告X2らは,本件和解金3億5000万円を得た。
被告Y2らは,本件和解金が原告X2らの預金口座に振り込まれたことを確認後,自己の財産とともにX1の財産を管理していた原告X2に対し,小川組関係訴訟のための調査費,弁護士費用,印刷代等が掛かっているなどと事実を誇張して報告するなどし,原告X2にその旨誤信させ,平成19年8月17日交付金1億5000万円を交付させた。
また,被告Y2らは,同時期に,原告X2に対し,「本件和解金2億円を原告X2が保持していることが税務署に知られれば,多額の税金がかかるが,被告会社が預かって運用する形にしておけば,税務署からの追及を免れることができる。」などと虚偽の事実を告げて原告X2の不安をあおり,原告X2にその旨誤信させ,平成19年8月20日交付金2億円を交付させ,本件和解金全額相当額を騙取した。
(2) 被告らは,平成19年8月30日,原告X2らと被告らとの間で,原告X2が本件和解金を原資として被告らに交付した金員を調査費や企画料に充当した結果,債権債務がないことを確認する旨の清算合意が成立したと主張するが,同合意は存在しない。2億円もの大金を交付した僅か10日後に,原告X2らと被告会社との間に何らの債権債務が存在しないことを確認することなどあり得ない。
(被告らの主張)
(1) 平成19年8月17日交付金1億5000万円は,被告会社と原告X2が,以下の調査費,企画料等の清算・支払に充てると合意したことに基づき,原告X2から被告会社に支払われたものであって,同交付金の授受に関し,被告らの不法行為は成立しない。
ア 平成16年6月7日から平成17年7月末日までの調査費7665万円
被告会社は,上記期間の調査費を平成18年12月1日に原告X2から受領したが(平成18年12月1日交付金),上記2(3)「被告らの主張」のとおり,平成19年4月20日に原告X2に同交付金相当額を返還したため,改めて清算をすることになったものである。
イ 平成17年8月1日から平成18年7月末日までの調査費4616万3250円のうち4035万円
被告会社は,原告X2から,小川組の会計及び業務監査に関する調査委託を受け,同調査に係る費用は原告X2から支払を受ける旨合意していた。そして,被告会社は,外部の調査機関に委託するなどして小川組の会計,取締役らの素行調査等を実施し,これにより4616万3250円の調査費が発生したので,そのうち4035万円を平成19年8月17日交付金により清算することを原告X2と合意した。
ウ 本件和解に係る企画料等6000万円のうち3300万円
原告X2らは,平成19年8月17日,被告会社との間で,本件和解金により,甲山家が平成16年から被告会社に依頼している各種調査及び企画等に係る諸費用及び本件和解における平成19年度の小川組ら株式の売却に係る企画料等6000万円のうち3300万円を清算することを合意した。
(2) 平成19年8月20日交付金2億円は,原告X2が自宅や銀行に大金を置いておくと,原告X3が使ってしまうとして,被告らに預託することを希望したことから,被告らは,この時点で未精算であった調査費や立替金等を後日清算するために,上記交付金を受領した。そして,原告X2らと被告会社は,同月30日,以下の立替費用等合計2億0737万3250円を清算することとし,その際,被告らは,充当後の被告らが有する立替費用等残額737万3250円を免除することとして,同日,原告X2と被告らとの間で債権債務がないことが確認された。
ア H公認会計士に対する会計士費用 70万円
X1は,小川組に対する退職慰労金請求訴訟に関し,H公認会計士に小川組の会計監査を依頼し,被告らは,その対価として,同公認会計士に対し,平成17年4月21日に30万円,同年7月8日に35万円及び平成18年10月4日に5万円の合計70万円を立て替えて支払った。
イ G税理士に対する税理士費用 30万5000円
被告らは,原告X2らの平成16年度から平成18年度までの確定申告業務を行ったG税理士に対し,業務報酬として,平成17年3月10日に10万円,平成18年3月27日に10万円,平成19年3月2日に10万5000円の合計30万5000円を立て替えて支払った。
ウ I弁護士に対する弁護士費用 50万円
X1は,小川組に対する退職慰労金請求訴訟の訴訟代理をI弁護士に委任し,被告らは,平成18年9月14日,I弁護士に対し,弁護士報酬として50万円を立て替えて支払った。
エ E弁護士らに対する弁護士費用 1500万円
原告X2は,小川組関係訴訟の訴訟代理人をE弁護士,J弁護士,K弁護士及びI弁護士に依頼し,被告らは,平成19年8月20日,上記弁護士らに対する報酬として,1500万円を立て替えて支払った。
オ 蒲田印刷に対するコピー代 4179万円
原告X2は,被告会社に対し,本件仮処分事件を通じて小川組から開示された帳簿類全てをコピーするよう指示し,被告会社は,被告Y2らの知人を介して紹介された蒲田印刷に大型段ボール約130箱分の同帳簿類のコピー作成業務を依頼した。蒲田印刷は,自らトラックを手配して帳簿類原本の引取りと返還を行った上,完成した帳簿類のコピーを納入したことから,平成17年12月15日,被告会社は,蒲田印刷に対し,上記業務の報酬として,現金で4179万円を支払った。
カ 印紙代 103万円
被告会社は,原告X2らが負担すべき小川組関係訴訟に係る印紙代合計103万円を立て替えて支払った。
キ 税金の立替金 2693万5000円
被告会社は,平成17年3月15日から平成19年8月20日までの間,甲山家が納付すべき同日までの税金合計2693万5000円を立て替えて支払った。
ク 甲山家の生活費 100万円
被告会社は,平成19年8月20日,甲山家の1か月分の生活費として100万円を原告X2に交付した。
ケ 平成17年8月1日から平成18年7月末日までの調査費 4616万3250円の残額 581万3250円
コ 平成18年8月1日から平成19年8月16日までの調査費 2730万円
小川組等に対する調査に関し,平成18年8月1日から同年9月16日までの間に,調査費2730万円が発生した。
サ 本件和解に係る企画料等6000万円の残金 2700万円
シ 被告会社から原告X2に対する貸付金(平成16年7月15日分) 1500万円
被告会社は,平成16年7月15日,原告X2に対し,1500万円を貸し付けた。
ス 被告会社から原告X2に対する貸付金(平成16年7月27日分) 3000万円
被告会社は,平成16年7月27日,原告X2に対し,3000万円を貸し付けた。
セ 被告Y1から原告X2に対する貸付金 1500万円
被告Y1は,平成16年7月15日,原告X2に対し,1500万円を貸し付けた。
4  争点4(原告らの被告らに対する損害賠償請求の可否(不法原因給付の類推適用の可否))について
(被告らの主張)
仮に,被告らによる原告X2らに対する欺もう行為が存在するとしても,原告X2らは,被告会社に対し,高額の税金が課せられることを免れる目的,すなわち脱税目的で金員を交付したものであった。このような金員の交付について不法行為による損害賠償請求を認めるならば,反社会的行為を容認する結果となるもので,不法原因給付に係る民法708条の類推適用により,原告らの被告らに対する損害賠償請求は許されない。
なお,原告X2は,本件株式代金が支払われた平成16年度の確定申告の際,G税理士に対し,本件株式売買をみなし配当課税の対象とならないものとして申告するよう強く要求したり,遅くとも平成9年頃からX1の相続税対策を行うなどしたりしており,日頃から積極的に脱税を企図していたものであって,原告X2らの違法性は強く,被告らの欺もう行為を前提としても,民法708条が類推適用されるべきである。
(原告らの主張)
原告X2は,被告Y2らから,合法的な節税対策として説明された内容に従って,G税理士にX1の平成16年度の確定申告書を作成させるよう仕向けられたものであって,原告X2らにおいて,積極的に脱税を企図したことはない。
5  争点5(被告会社の原告X2らに対する小川組及び東海東京証券に関する調査費等請求権の有無)について
(被告会社の主張)
(1) 被告会社は,平成16年6月以降,原告X2の依頼に基づき,小川組の監査業務として,同社の会計及び業務に関する調査を実施した。原告X2は,同調査の結果に基づき,小川組監査役として,本件仮処分事件を申し立て,帳簿類等の閲覧謄写を実現し,さらに,その結果に基づいて小川組関係訴訟を提起し,同訴訟に関し成立した本件和解により,原告X2らは3億5000万円の本件和解金を得た。
原告X2は,本件和解後も,小川組の役員を解任したいと強く思っていたことから,被告会社に対し,Cを始めとする小川組取締役らによる不正行為の監視を含め,同人らの調査を継続することを依頼した。
(2) 被告会社は,原告X2が東海東京証券において行っていた取引に関し,同社が保管している原告X2ら名義の株式の価額に対する同社の説明が疑わしく,また,同社の取締役が,原告X2の残高証明書や取引台帳等の資料の開示請求に対し,不誠実な対応をするなどしたため,平成19年10月1日以降,原告X2名義の口座元帳及び入出金表を元に調査し,東海東京証券が,原告X2に無断でファンド等や株式の売買を行っており,それにより1億円以上もの損害が発生している可能性が高いことを発見した。
そこで,原告X2は,東海東京証券の責任追及を行うため,平成20年10月,被告会社に対し,原告X2らとの取引における東海東京証券の不正行為を調査するよう依頼した。
(3) 原告X2と被告会社とは,被告会社に対する小川組取締役に関する調査費は,被告会社が小川組に関してかねて実施した調査に関する調査費を参考にして決めると合意していたところ,従前の調査費に関する平成16年6月7日付け調査費用見積書(乙29)に基づくと,上記(1)の依頼に係る調査費用は932万4000円となる。
東海東京証券の不正行為の調査に関しては,原告X2と被告会社との間で,原告X2らが回収した金額の50%を被告会社の調査費用及び企画料とすることを合意していたが,原告X2らは,被告会社による同調査業務を一方的に途中で終了させた。被告会社は,民法648条3項に基づき,既にした履行の割合に応じて報酬を請求する権利を有するところ,被告会社の調査により,東海東京証券の不正行為による原告X2らの損害は1億円を下らないことが明らかとなっていたことからすれば,被告会社が同調査費として請求することができる金額は,上記調査費用見積書に基づいて算出される660万9750円を下らない。
(原告らの主張)
(1) 原告X2らが,本件和解成立後に,被告会社に対し,小川組やその取締役に対する調査を依頼したことはない。本件和解においては,原告X2らと小川組あるいはその取締役との間には,本件和解で定められた以外に債権債務のないことが確認されているのであり,調査を継続することは無意味であって,原告X2らもこれを認識していたのであるから,調査の継続はあり得ない。それにもかかわらず,原告X2らの財産を騙取するため,被告Y2らが小川組あるいはその取締役の不正行為を言い立て続けていただけである。
東海東京証券に対する調査も,被告Y2らが東海東京証券に不正行為があると言い立て,調査費の名目で原告X2らの財産を騙取しようとしたものであり,原告X2らが被告会社に調査を依頼したことはない。なお,上記調査業務に対する報酬を,回収額の50%とする合意は,反社会的勢力による債権取立行為と同様であり,社会通念に著しく反するものである。
(2) 仮に,調査委託が存在したとしても,被告会社が,小川組やその取締役らに対する調査を行ったことはない。被告らが調査結果として提出する調査報告書は,調査を委託したとする外部の調査員により作成されたものではなく,小川組から開示された帳簿等を書き写したものや被告Y2の備忘録というべきものにすぎないことからすると,外部の調査員による尾行,張り込みなどの調査が行われたことはなく,被告ら自身が何らかの調査を行ったとしても,何ら有益な調査はされておらず,被告会社に報酬請求権は発生しない。
東海東京証券に関しても,被告らが行ったとする調査の内容は,利益の出た株式取引は考慮せず,損失の出た株式取引についてのみ不正行為による損害が生じたとするものであって,これにより東海東京証券の無断売買を理由とする責任追及ができるものではない。
6  争点6(被告Y1の原告X2らに対する税理士費用立替金返還請求の可否)について
(被告Y1の主張)
被告Y1は,平成20年3月24日,原告X2らそれぞれの確定申告に際し,G税理士に同確定申告に必要な業務を依頼し,同税理士に対し,税理士費用各10万円(合計20万円)を支払った。
(原告らの主張)
原告X2らは,G税理士と一度も会ったことがなく,同税理士に確定申告業務を依頼したことはないから,原告らが同税理士に確定申告業務の報酬を支払う義務はなく,被告Y1の税理士費用の支出は立替金に当たらない。
7  争点7(被告Y2の原告X2らに対する弁護士費用立替金返還請求の可否)について
(被告Y2の主張)
前記5「被告会社の主張」のとおり,原告X2らの東海東京証券における取引に関し,東海東京証券の不正行為により,原告X2らに1億円以上の損害が生じていると見込まれることが被告会社の調査によって判明した。そこで,原告X2らは,本件仮処分事件を依頼したD弁護士に,東海東京証券に対する損害賠償請求等の事務処理を委任した。
D弁護士は,上記委任に基づき,業務を行っており,これに対し原告X2らには着手金及び相談料60万円を支払う義務が生じたため,被告Y2が立て替えてこれを支払った。
(原告らの主張)
原告X2らは,D弁護士と東海東京証券の責任追及に関する話をしたことはなく,そのための委任契約も締結していない。
したがって,原告X2らは,D弁護士に対し,相談料や着手金を支払う理由はなく,被告Y2の支出は立替金に当たらない。
第4  争点に対する判断
1  争点1(被告らが本件株式代金を詐取したとの不法行為の成否及び損害賠償責任の有無)について
(1)  事実認定
証拠(甲5,16,18,32,乙1(乙26と同じ),2,17~19,27,43,45,64,117,120,142,167,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(前記第2の1の前提となる事実を含む。)。
ア 原告X2は,平成15年秋頃,被告Y2らと知り合い,親交を深める中で,X1が脳溢血で倒れた後,小川組の経営の実権を握るようになった同社代表取締役のCらに対する不審や不満を被告Y2らに話すようになった。原告X2の話を受けて,被告Y2が小川組の登記簿謄本を取得したところ,小川組が平成16年3月に新株を発行して増資していること(以下「本件増資」という。)が判明した。
被告Y2が原告X2に本件増資の件を伝えたところ,原告X2は,甲山家の資産が小川組の役員らにより侵害されている可能性が否定できないとして,平成16年5月27日,原告X3とともに,被告会社に甲山家の資産全体に関する「調査及び企画等」を委任し,同年6月7日には,小川組監査役及び原告X2個人として,原告X3とともに,被告会社に対し,小川組及び本件増資に関する調査,X1の退職慰労金に関する調査並びに小川組役員との話合いにおける付添い及び立会いをすることを委任し,同月9日には,行動経費の一部として300万円を被告会社に交付した(乙18,19,120)。
イ 原告X2が同原告の自宅において小川組取締役に対し,本件増資の経緯について事情を聴取するとともに,被告会社が,法務局において本件増資に係る登記申請書類の閲覧・写真撮影をするなどして調査したところ,小川組が本件増資に関し発行した株式は,東京中小企業投資育成株式会社(以下「本件投資会社」という。)が取得したことが判明した。また,被告会社の調査の結果,本件投資会社は,地方公共団体や金融機関等の出資により設立され,中小企業の株式上場に向けたベンチャー支援ファンド等を運営している会社であって,中小企業の株式を取得して投資し,投資先の経営陣の方針に沿って議決権等を行使するため,小川組の株主総会においては,事実上,議決権の過半数が取締役らの意図に沿って行使される結果となることが判明した。
ウ 原告X2は,平成16年6月21日,被告Y1立会いの下,C及び本件投資会社の取締役に対して本件増資の経緯等について説明を求めたり,本件投資会社から小川組の株式を買い戻すことを提案したりするなどしたが,甲山家の小川組に対する支配力を維持することは難しいと考えるようになり,同年7月2日頃には,被告Y1の口添えも得て,X1が保有していた小川組の株式を同社が買い取るようCと交渉するようになり,同月13日に15万株,同月23日に35万株の合計50万株を1株400円で小川組に売却するとの本件株式売買が成立し,同月14日に6000万円,同月26日に1億4000万円の合計2億円が本件株式代金として川崎信金X1預金口座に振り込まれた(乙17,142)。
エ 原告X2は,同月14日,被告Y2らと川崎信用金庫本店に赴き,小川組からの6000万円の入金を確認後,3000万円を川崎信金X1預金口座から被告会社預金口座に振り込んだ(平成16年7月15日交付金)。被告会社は,上記金員に関し,同月15日付けで,X1宛ての本件株式売買に伴う相手方との「交渉,企画,立会料として1部受領」した旨の領収書(甲5)を原告X2に交付した。
オ 原告X2は,同月26日,被告Y2らと川崎信用金庫本店に出向き,小川組からの1億4000万円の入金を確認後,6000万円を川崎信金X1預金口座から被告会社預金口座に振り込んだ(平成16年7月27日交付金)。
なお,被告会社預金口座からは,平成16年7月27日交付金が被告会社預金口座に振り込まれた同日に3000万円が出金されており(乙117),同日付けの原告X2作成名義の被告会社宛ての3000万円を預かった旨を記載した書面(乙27)とは別に,原告X2作成名義で,同日付けの被告会社から原告X2が3000万円を受領した旨を記載した書面(乙1(乙26))が存在する。
また,被告会社は,同月27日付けで,X1に宛て,3000万円を本件株式売買に伴う相手方との「交渉,企画,立会料として1部受領」した旨の領収書(乙2)を作成し,原告X2に交付した。
カ 川崎信金X1預金口座からは,同月26日,上記オのとおり,平成16年7月27日交付金6000万円が送金により出金されたほかに,3000万円が現金により出金されている(甲16,18)。
キ 原告X2は,同月30日,川崎信金X1預金口座から,8000万円を出金し,同金員を被告Y2らに交付した(平成16年7月30日交付金)。
ク 原告X2と被告Y2らとは,本件株式代金が支払われた頃,本件株式代金に課せられる税額を低くすること,X1の財産である本件株式代金を原告らの名義で保有・運用することに対して贈与税等の課税が生じるのを回避することを目的として,本件株式代金を本件株式売買の費用等の名目で一旦被告会社に交付することを合意した。また,原告X2と被告Y2らとの間では,本件株式売買に関する被告会社の報酬は,本件株式代金からは取得しないことが合意されていた(甲32,乙43)。
ケ 本件株式代金を収入に含むX1の平成16年度確定申告は,原告X2の意思に従い,被告Y2が同原告に紹介したG税理士を通じて行われ,譲渡のための委託手数料6000万円が費用として計上され,被告会社がX1に宛てて発行した平成16年7月15日付け及び同月27日付け領収書がその資料として添付された(乙167)。
(2)  原告X2が被告Y2らに対し,平成16年7月26日に本件株式代金を原資として3000万円を交付したかについて
被告らは,本件株式代金を原資として,川崎信金X1預金口座から出金された金員について,平成16年7月15日交付金3000万円,同月27日交付金6000万円及び同月30日交付金8000万円を受領したことは認めているが,上記口座から同月26日に出金された3000万円については,その受領を否定している。
しかしながら,①被告Y2らは,同日,川崎信用金庫本店に原告X2とともに赴き,原告X2を自宅に送り届けており,上記金員の交付を受ける機会があったこと,②この当時,原告X2と被告Y2らとの間では,本件株式代金に対する課税を低くするため,あるいはX1の財産である本件株式代金を原告らの名義で保有等するため,本件株式代金については被告会社に一旦交付することが合意されていたこと,③被告らは,同月27日付けで原告X2から7500万円を借り受けたとする「借用証書(預り金証書)」(乙3)を作成しており,その受領を認めているところ,同証書は,被告らが受領を認めている平成16年7月30日交付金8000万円について被告らが作成した「借用証書(預り金証書)」(乙4)と同様の記載方法によるものであることに加え,原告X2が平成16年7月26日頃,この7500万円とは別に3000万円を支出あるいは入金した事情が認められないことからすると,同月26日に原告X2によって川崎信金X1預金口座から現金で出金された3000万円についても,少なくとも,同月27日に被告らが受領したと主張する7500万円に含まれるものとして,被告らに交付されたものと認めるのが合理的である。
よって,本件株式代金を原資として川崎信金X1預金口座から出金された金員2億円は,その全額が原告X2により,被告らに交付されたと認められる。
(3)  上記交付に係る不法行為の成否について
上記(2)のとおり,被告らは,川崎信金X1預金口座から出金された合計2億円を受け取っているが,これが不法行為を構成するものであるかを検討する。
ア 平成16年7月15日交付金の帰すう
証拠(乙24,25,43)及び弁論の全趣旨によると,被告らが平成16年7月15日交付金3000万円の振込みを受けた同日,原告X2から被告Y2らに対し,金員が必要である旨の申出があったことから,この振込金を原資として,原告X2に対し,被告Y1が1500万円(乙25),被告会社が1500万円(乙24)ずつを交付したことが認められる。
もっとも,原告らは,これらの合計3000万円の受領の事実を否定し,原告X2作成名義の被告Y1宛ての平成16年7月15日付けの1500万円を「頂きました」とする書面(乙24)及び被告会社宛ての同日付けの1500万円を預かった旨の書面(乙25)について,署名押印は原告X2のものと似ているが,署名押印した記憶はないとしてその成立の真正を争う。
しかしながら,原告X2は,その本人尋問において,上記各書面は同原告が作成したものであることを認める供述をしており,原告X2は,平成16年7月15日に被告らから合計3000万円の交付を受けていることが認められる。
なお,被告らは,被告会社から交付した上記3000万円を貸付金であると主張するが,前記(1)のとおり,原告X2と被告らとの間で,課税負担を免れるなどのために本件株式売買の費用等の名目で一旦被告会社に金員を交付するとの合意及び本件株式代金からは被告会社の報酬を取得しないとの合意が存在したことが認められるほか,原告Y2は,平成20年3月頃,原告X2に対し,本件株式代金は全て返還したとの話をしていたこと(甲32)からすると,同金員の交付は,被告会社や被告Y1と原告X2との間に金銭貸借関係を生じさせるものではなく,その実質は,被告らが一旦受け取った平成16年7月15日交付金3000万円を原告X2らに返還したものと認めるのが相当である。
イ 平成16年7月27日交付金の帰すう
(ア) 前記(1)のとおり,原告X2は,平成16年7月26日,川崎信金X1預金口座から6000万円を被告会社預金口座に振り込んでいるが,同金員が被告会社預金口座に現実に振り込まれた翌27日,同口座から3000万円が出金されている。
そして,証拠(乙1(乙26))及び弁論の全趣旨によると,同日,上記3000万円が原告X2に交付されたことが認められる。
もっとも,原告らは,上記3000万円の受領の事実を否認し,原告X2作成名義の被告会社宛ての3000万円を受領した旨の同日付け書面(乙1(乙26))の成立の真正を争い,原告X2は,その本人尋問において,署名は自分のものに似ているが,同書面に署名した記憶がないとの供述をする。
しかしながら,同書面の原告X2の署名の筆跡は,原告X2が署名したことについて争いのない書証(甲10,15,乙10,18,19,40,53の1,乙92,98,110)に記載された署名の筆跡と酷似しており,他に上記書面上の原告X2名義の署名が同原告の意思に基づかずに作出されたとうかがわせる事情は認められないから,上記書面は原告X2の意思に基づいて作成されたものと認められ,同書面によると,原告X2が平成16年7月27日に被告会社から3000万円の返還を受けたものと認められる。このことは,前記(1)のとおり,同月16日に原告X2が被告会社預金口座に振込送金した金員の額が6000万円であったにもかかわらず,被告会社がX1宛てに発行し,原告X2に交付した領収書(乙2)の金額が3000万円であったことや,原告X2がX1の確定申告において,同領収書を資料として使用していること(乙167の5)によっても裏付けられる。
(イ) そして,証拠(乙27,43)及び弁論の全趣旨によると,被告らは,平成16年7月27日交付金6000万円のうち残金3000万円についても,同日,原告X2に交付したことが認められる。
もっとも,原告らは,上記交付の事実を否認し,原告X2作成名義の被告会社宛ての3000万円を預かったとの同日付けの書面(乙27)の成立の真正を争い,原告X2は,その本人尋問において,署名押印は似ているが,同書面に署名押印した記憶がないとの供述をする。
しかしながら,同書面の原告X2の署名の筆跡は,上記(ア)で検討した乙1と同様,原告らにおいて,原告X2が署名したことについて争いのない書証に記載された署名の筆跡と酷似している上,原告X2の印として押印されている印影も,原告X2が自己の使用する印章の印影であると認める特徴的な印影と酷似しており,他に,上記書面の原告X2名義の署名押印が同原告の意思に基づかずに作出されたとうかがわせる事情は認められないから,上記書面は原告X2の意思に基づいて作成されたものと認められ,同書面によると,原告X2は,平成16年7月27日に被告会社から3000万円の交付を受けていると認められる。
なお,被告らは,被告会社から交付した上記3000万円を被告会社から原告X2への貸付金であると主張するが,これについても,上記アと同様,被告会社と原告X2との間に,金銭貸借関係を生じさせるものではなく,その実質は,被告らが一旦受け取った平成16年7月27日交付金6000万円のうちの残金3000万円を原告X2らに返還したものと認めるのが相当である。
ウ 平成16年7月30日交付金及び同月26日に交付された3000万円の帰すう
原告X2作成名義の平成17年6月14日付け確認書には,「貸借契約書(預り金証書2通分)記載の預り金は本日迄に台帳をもとに全額返還頂きました。」との記載がある(乙5。以下同確認書を「平成17年6月14日付け確認書」という。)。また,いずれも原告X2作成名義の同年2月10日付け被告会社宛ての書面には被告会社に出資している金員から1000万円の返金を受けたとの記載(乙45の1),同年3月6日付け被告会社宛ての書面には被告会社に出資している金員から2200万円の返金を受けたとの記載(乙45の2),同年4月16日付け被告会社宛ての書面には被告会社に出資している金員から500万円の返金を受けたとの記載(乙45の3)が存在し,さらに,原告X2作成名義の被告会社に対する平成16年10月7日付け46万5000円の利息の領収書(乙46の1),平成17年1月6日付け46万5000円の領収書(乙46の2)が存在する。原告らは,乙45及び乙46についても成立の真正を争うが,これらの書面の原告X2の筆跡は,原告X2が署名したことについて争いのない書証に記載された署名の筆跡と酷似している上に,乙45についてみると,その押印も原告X2の印章による印影と酷似しているのであって,これらの書面は原告X2の意思に基づいて作成されたものと認められる。
そして,これらの各書面の存在,殊に預り金について全額が返還されたことを確認した旨の平成17年6月14日付け確認書(乙5)に原告X2が署名押印していること,原告らが被告らによる不法行為が行われたと主張しているよりも後である平成20年4月以降に,被告Y2らが原告X2に対し,本件株式代金から被告らが受領した金員は全て返還した旨を複数回にわたり説明,主張したのに対し,原告X2はこれを否定していないこと(甲32,乙43),平成16年7月30日交付金を被告Y2らが受領した後の平成16年8月から平成17年6月14日までの間に,東海東京証券の原告X2名義の口座には少なくとも7315万6285円が,同証券の原告X3名義の口座には3025万5000円が振込み又は現金で入金されているところ(乙101の1,乙102の2),原告らには,被告らから返金を受ける以外に,上記のような短期間に高額の金員を振り込み得る原資があったとは考え難いことなどからすると,平成16年7月30日交付金8000万円及び同月26日に交付された3000万円も被告らから原告X2に返還されたものと認めることができる。
(4)  小括
以上によると,本件株式代金を原資とする金員の交付に関しては,課税負担を免れるなどのために一旦被告会社に交付するものの,その交付を受けた後に返還するものとして被告らが受け取り,実際にもその返還が行われているものであって,平成16年7月のこれらの交付時点において,被告らが,原告X2らから本件株式代金を原資とする金員を直ちに領得しようとする意思を有した上でその交付を受けたものと認めることはできず,これらの交付について被告らの不法行為の成立を認めることはできない。
なお,被告らは,原告らが,原告らが主張する被告らの不法行為の後に,原告X2の自宅における原告らと被告Y2らとの会話を録音したテープの反訳書(甲8の1~6〔甲32は,甲8の1に平成20年4月18日,公証人役場において確定日付が取られたもの〕)を書証として提出したのに対し,被告らは,甲8の2ないし6に関する録音テープを反訳したものとして乙43を提出した上で,原告らの反訳書は信用性を欠くと主張するほか,同録音テープ自体が改ざんされており,乙43自体も信用性を欠くと主張する。
そこで検討するに,甲8の2ないし6に係るものとして裁判所に提出された音源と甲8の2ないし6及び乙43を対照すると,全体としては,乙43の反訳内容のほうがより音源を正確に反映させていると認められるが,会話の内容において両反訳書の内容に顕著な差があるとは認められず,反訳内容の差違は,甲8は同書証が提出された当時の原告X2ら訴訟代理人弁護士の所属する法律事務所の事務員が作成したものであるのに対し(甲20),乙43は反訳業者が作成したものであることによるものと推認される。
そして,甲8及び乙43に係る録音テープ内容は,ICレコーダで隠し録りされた録音内容を当時の原告X2ら訴訟代理人弁護士所属の法律事務所で録音テープにダビングしたものであるところ(甲20),仮にその作成過程において元のデータを削除してしまったり一部途切れたり,重複した部分があったりするなど,その前後の会話の内容との整合性に注意を払わなければならないものではあるとしても,その録音されたそれぞれの会話内容自体について信用性がなくなるというものではなく,そのようなものとして,甲32及び乙43を認定の資料として供することができるというべきである。
2  争点2(被告らが本件解約金を詐取したとの不法行為の成否及び損害賠償責任の有無)について
(1)  事実認定
証拠(甲10,17,35,乙48,101)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(前記第2の1の前提となる事実を含む。)。
ア 原告X2は,遅くとも平成9年10月3日から,東海東京証券に口座を開設し,同口座を通じて金融商品の売買などの投資を行っていた(乙101)。
イ 原告X2は,弁護士に依頼して,平成17年8月頃には小川組を相手方とする本件仮処分事件を申し立て,平成18年3月からは小川組関係訴訟を提起するようになった。原告X2らへの郵便物は,かねてから小川組の郵便受けに配達され,小川組の取締役が原告X2ら宛ての郵便物をより分けて原告X2らに届けていたが,本件仮処分事件の申立て及び小川組関係訴訟の提起を準備する時期には,小川組に訴訟関係の書類が郵送されないようにするため,原告X2ら宛ての郵便物は被告会社に転送されるようになっていた。
ウ 被告Y2らは,平成18年頃,小川組の調査と併行して,原告X2からの依頼に基づき甲山家の資産管理についても調査していたが,その一環として,原告X2から東海東京証券における取引に係る調査の委任を受け,原告X2の東海東京証券における取引内容を把握するようになった。これに基づき,原告Y2らは,原告X2の東海東京証券における取引に損失が生じたものがあることや東海東京証券に支払う手数料額が相当額に達していることなどを原告X2に告げ,このままでは原告X2の資産が目減りするので,東海東京証券における取引を解約し,解約により得た資金の運用を被告会社に預託するように勧誘し,これにより原告X2は,東海東京証券に対し,預託していたファンド等の解約を請求することとした。
エ 原告X2は,平成18年11月頃,東海東京証券に対し,預託しているファンド等の解約を請求した上で,被告Y1とともに東海東京証券に赴き,対応した担当者に対し,東海東京証券における原告X2の取引に損失が生じているものがあるが,東海東京証券における取引で資産が減少するとは思っていなかったことや売買のたびに東海東京証券に対し手数料の支払を要するとは理解していなかったことなどを話し,預託している資産を現金化するように重ねて要望した(乙48)。
これを受け,東海東京証券は,原告X2の保有するファンド等の解約手続を行い,同年12月4日までに,川崎信金X2預金口座に本件解約金合計1億9848万0010円を振り込んだ。
オ 原告X2は,同年12月1日,被告Y2らとともに川崎信用金庫本店に赴き,同日までに支払われた本件解約金合計1億1559万0430円全額を引き出し,少なくとも,同金員のうち7665万円を被告会社に交付した(平成18年12月1日交付金)。
また,原告X2と被告会社は,同日,以下の(ア)ないし(エ)の内容の「確認及び承諾諸」と題する書面を作成し(甲10),被告会社は,小川組監査役としての原告X2に宛てて,平成16年6月7日から平成17年7月末日までの小川組の会計及び業務監査に係る調査費用として,7665万円の領収書を作成し,原告X2に交付した(甲17)。
(ア) 本日から,原告X2の金員を一部,被告会社の事業資金として全額提供し運用する。
(イ) 小川組監査役である原告X2が依頼した小川組に関する会計及び業務に係る平成16年6月7日から平成17年7月末日までの調査費用7665万円が発生しているので,事業資金として提供している中から調査費用全額を充当する。
(ウ) 上記調査費用を差し引いた金額で運用する。
(エ) 調査費用差引残金の運用金を原告X2の都合で一部戻す場合,被告会社の事情を優先し支障のない中で戻すこととする。
カ 原告X2は,平成18年12月4日,被告Y2らと川崎信用金庫本店に赴き,川崎信金X2預金口座から,同日に東海東京証券から振り込まれた8288万9580円全額を引き出した。
(2)  本件解約金全額の交付の有無
ところで,原告らは,川崎信金X2預金口座に振り込まれた本件解約金全額を出金し,被告Y2らに交付したと主張するのに対し,被告らは,平成18年12月1日交付金7665万円を受領したことは認めるが,その余の金員を受領したことはないと主張する。
しかしながら,原告X2と被告会社との間で平成18年12月1日に作成された上記「確認及び承諾諸」(甲10)には,同日,原告X2から被告会社に事業資金として提供され,被告会社が運用することが予定されていた金員は7665万円を超える金額であったことを前提とする記載があること,甲32の反訳書によると,平成20年3月にされた原告X2と被告Y2との間の会話において,被告Y2は,本件解約金の金額にほぼ相当する「2億円」を被告Y2らが原告X2から預かった旨を繰り返し述べていること,原告X2は,川崎信金X2預金口座から1億1559万0430円又は8288万9580円という端数を含む東海東京証券から振り込まれた全額である高額の出金を現金で行っているところ,川崎信用金庫本店に同行した被告Y2らに交付する以外に,原告X2が現金による高額の出金をする必要性が見いだせないことからすると,原告X2が平成18年12月1日及び同月4日に川崎信金X2預金口座から出金した合計1億9848万0010円は,その全額が被告Y2らに交付されたと認めるのが相当である。
(3)  本件解約金交付に関する被告Y2らの不法行為の成否
上記(1)で認定の原告X2が東海東京証券に預託していたファンド等を解約した経緯,上記「確認及び承諾諸」(甲10)には,原告X2が被告会社に対し,金員を事業資金として提供し被告会社において運用する旨が記載されていること,原告X2は本件解約金全額を被告会社に預託していることからすると,被告Y2らは,原告X2に対し,本件解約金を被告会社に預託することを勧誘し,原告X2はこれに応じ,後に返還を受けるものとして,本件解約金全額を被告会社に預託したものと認めるのが相当である。
もっとも,上記「確認及び承諾諸」(甲10)において,原告X2が被告会社に対し,調査費用7665万円を支払うとの合意をしていること,同調査費については,平成16年6月7日に被告会社から小川組監査役である原告X2に対して見積りが提示され,原告X2が承諾する旨の署名押印をしていたものである上,実際に被告会社から同調査費の請求を受けてからは,小川組関係訴訟の1つ(別紙訴訟事件一覧のうち平成18年(ワ)第241号事件)において,平成18年4月11日,小川組に対し,原告X2の監査役業務の遂行に関し生じた費用として,請求しているものであること(乙28~30,146)からすると,本件解約金のうち,7665万円については,被告会社が取得することが合意されていたものと認めることができる。したがって,被告会社が原告X2に返還すべきものとして預託を受けた金員は,1億2183万0010円(=1億9848万0010円-7665万円)となるところ,被告らは,同金員の受領自体を否定して,被告会社の原告X2に対する返還義務の存在を否定している。
このような被告らの対応等に照らすと,被告Y2らが原告X2から本件解約金を原資とする上記金員を受領した当時から,被告Y2らは,被告会社が受領した金員を返還する意思がなかったものといわざるを得ず,そうであれば,被告Y2らは,被告会社の業務として,返還するつもりのない金員を,返還を予定するものと偽って預託させたものというべきであるから,上記金額を限度として,被告らの原告X2に対する詐欺の不法行為が成立するものというべきである。
(4)  原告X2の損害額
上記によれば,本件解約金を原資として被告会社に交付にした金員に関する原告X2の損害額は1億2183万0010円である。
なお,平成20年3月にされた原告X2と被告Y2との会話において,被告Y2が,被告Y2らが本件解約金の金額にほぼ相当する「2億円」を預かったと発言していること(甲32)によると,不法行為が成立すると認定した上記金額について,被告Y2らは,原告X2から被告会社に対する調査費の支払と述べていた可能性もあるが,被告ら自身がこれを主張しておらず,また,上記金額について,少なくとも原告X2に対し正当に請求できる調査費であったと認めることもできず,上記不法行為の成立は覆されないというべきである。
(5)  小括
以上によれば,原告X2から被告会社の代表取締役あるいは取締役として実際に金員を受領した被告Y2ら及び被告会社は,連帯して,原告X2に対し,不法行為に基づく1億2183万0010円の損害賠償義務を負うというべきである。
3  争点3(被告らが本件和解金を詐取したとの不法行為の成否及び損害賠償責任の有無)について
(1)  事実認定
証拠(甲6,15,乙7~9,11,12,31~33,38,40,68,90,95~97,124,125,135,144,146,158~162,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(第2の1の前提となる事実を含む。)。
ア 原告X2が,平成16年6月7日に行った被告会社への小川組やX1の退職慰労金に関する調査依頼は,本件株式売買後も継続していたところ,原告X2は,小川組の経理を調査するため,小川組監査役として,小川組代表取締役らに対し,帳簿類等の資料を開示するように求めたが,その開示を受けることができなかった。そこで,平成17年1月頃,原告X2は,被告Y2らから紹介を受けたD弁護士に委任し,同弁護士から改めて小川組に対し帳簿類の開示を求めたものの,なお開示を受けることができなかった。
イ 原告X2は,平成17年8月,D弁護士を代理人として,小川組に対し,本件仮処分事件の申立てを行い,同事件の審理中にE弁護士にも委任し,D弁護士とE弁護士が原告X2の代理人として遂行した本件仮処分事件の審理を通じて,小川組から金融機関の通帳を除く帳簿類が任意に開示され,同通帳については,同年12月7日,執行官保管を命じた上,執行官が保管する通帳を原告X2に閲覧謄写をさせることを命じる仮処分決定がされた。
原告X2は,同月9日,同決定に基づき,D弁護士及びE弁護士の立会いの下,通帳を受領した。
ウ 小川組から開示された帳簿類は,段ボール100箱を超える大量なものであり,また,小川組からは早急に返還するよう求められていたものもあったため,原告X2及びD弁護士らは,帳簿類全ての複写を作成することとし,被告Y2の知人を通じて紹介された蒲田印刷にその複写作業を依頼した(乙38,68,125,158,159,161)。
エ 原告X2は,小川組から開示された帳簿類を検討した結果,小川組の役員らによる不正経理の疑いが発覚したなどとして,D弁護士,E弁護士のほか,J弁護士及びC弁護士らにも委任した上,平成18年3月30日から平成19年5月1日までの間,小川組監査役の地位に基づき,又は個人として,小川組や同社取締役らの責任追及のための訴訟を提起し(甲6),また,平成18年2月24日には横浜地方検察庁に対し,小川組役員らにつき,刑事告訴をし,小川組の関係者に対する説明会を開催するなどした(甲6)。
また,X1は,小川組を退任した際に支払われた退職慰労金が不正に減額されていたとして,小川組に対し退職慰労金の支払を求める訴訟を横浜地方裁判所川崎支部に提起し,I弁護士がX1の代理人として訴訟活動を行った(乙135,160,162)。
オ 被告会社は,かねてから,原告X2に対し,平成16年6月7日から平成17年7月末日までの調査費用として7665万円を請求していたほか,平成18年8月20日付けで,平成17年8月1日から平成18年7月末日までの調査費として4616万3250円を請求し(乙31),原告X2は,上記7665万円と同様,小川組に対しその支払を請求した(乙32)。
カ 小川組関係訴訟は,裁判所によって和解による解決が試みられ,D弁護士らは,原告X2らに対し,和解に関する説明文書を送付したり,電話や面談を繰り返すなどして和解について検討し,平成19年8月16日,本件和解が成立し,これにより,小川組関係訴訟は終了した(乙95~97)。
キ 被告会社は,原告X2に対し,平成19年8月17日付けで,平成18年8月1日から平成19年8月16日までの調査費として2730万円を請求した(乙33)。
ク 原告X2は,平成19年8月17日,被告会社に対し,本件和解金のうち原告X2に支払われた金員から平成19年8月17日交付金1億5000万円を交付し,同日,被告会社との間で,原告X2らが被告会社に交付した同1億5000万円は,甲山家が平成16年から被告会社に依頼している各種調査及び企画等に係る諸費用及び甲山家が平成19年度に売却した小川組等の株式売買に伴う企画料等の一部として支払ったものであることを確認する旨の「確認及び承諾書」(乙11)に署名押印し,X1名義の署名押印も行った。
また,原告X2らと被告会社との間で作成された,①平成16年から,被告会社による小川組等の調査費用が多額に及んでいるが,現在も甲山家と小川組に関する問題が残っており,被告会社は調査を継続中であり,全てが終了するまで期限を限定せず,調査等に関する全ての仕事を甲山家は被告会社に依頼する,②上記①の調査に伴う調査費,企画,立会等の費用は,甲山家において,分割等により既に請求書等で請求されている金員を含め,今後発生する金員についても責任をもって全額支払う,③原告X2らの株式の売却は,被告会社の仕事の成果によるものであり,企画料等として被告会社から申出の金員6000万円以上を支払うとの内容の平成19年8月17日付け契約及び確認書(乙12)が存在する。
ケ 原告X2は,同月20日,本件和解金のうち原告X2に支払われた7028万円及びX1に支払われた1億2972万円をそれぞれ名義の預金口座から引き出し,全額を被告Y2らに交付し(平成19年8月20日交付金),同日,被告会社と甲山家との間で,①甲山家が,甲山家の金員2億円を被告会社に運用資金として預けたことの確認,②被告会社が,甲山家に対し,上記運用資金から毎月一度甲山家に生活費として100万円を支払う合意,③被告会社は,上記運用資金から原告X2らに発生した税金等について支払うとの合意を内容とする確認書(甲15)を作成した。
なお,被告会社は,同日,X1宛ての小川組の株式譲渡に伴う交渉企画等料の一部として2800万円を受領した旨の領収書(乙144の1)並びに原告X2宛ての小川組の株式譲渡に伴う交渉企画等料の一部として150万円(乙144の2)及び小川総合サービス株式譲渡に伴う交渉企画等料の一部として350万円を受領した旨の領収書(乙144の3)をそれぞれ作成した。
コ 被告会社は,原告X2に対し,平成19年8月20日,原告X2に対し,100万円を交付した(乙40)。
(2)  平成19年8月17日交付金1億5000万円に係る被告Y2らの詐欺行為の有無について
ア 上記(1)の認定事実によれば,平成19年8月17日交付金1億5000万円については,原告X2と被告会社との間で,同金員を原告X2らが被告会社に依頼していた調査の調査費等諸経費又は株式売買に伴う企画料として交付するとの合意が成立していたものと認められる。
原告らは,同交付金は,被告Y2らが原告X2に対し,小川組関係訴訟のために多額の調査費,弁護士費用,印刷代等を要したとの事実を誇張して報告し,その旨原告X2に誤信させて交付させたものであると主張する。
しかしながら,被告会社は,平成16年に原告X2らから甲山家の資産に関する調査の委任を受けて以後,平成19年8月20日までの間に,甲山家に関する税金等を立て替えて支払い,その額だけでも2693万5000円に上り(乙39),これらの税金支払に関する税理士費用も30万5000円を支出している上(乙16,35),小川組関係訴訟に関し,調査のための公認会計士に対する費用として70万円(乙34,155),印紙代103万円(弁論の全趣旨),小川組の帳簿類の複写費用4179万円(乙38)及び弁護士費用合計1550万円(乙36,37,113)を立て替えて支払っている。これに,原告X2自身の署名の筆跡及び印影と酷似する署名及び印影が存在することから,真正に成立したと認められる平成19年8月17日付け契約書及び確認書(乙12)によると,原告X2らと被告会社とが,被告会社の企画料として6000万円を超える報酬を支払うことを合意していること(なお,前記1のとおり,原告X2らと被告会社との間では,最終的に本件株式売買に関する報酬等の支払はされておらず,平成19年8月17日付け契約書及び確認書(乙12)に係る合意は,本件株式売買に関するものも含め,原告X2らが被告会社に6000万円を超える報酬を支払う旨を合意したものと認めるのが相当である。)を併せ考えると,原告X2らが,被告会社との間で,平成16年から平成19年8月17日までの経費の清算及び被告会社に対する報酬として,1億5000万円を支払うとの合意をすることには一定の合理性が認められ,同金員の交付が被告Y2らの欺もう行為によるものであるとは認められない。
イ 原告らは,被告会社が支出の上記費用のうち,複写費用について,作業を依頼された業者が地図上に見当たらないこと,高額であること等を理由に現実に支出されたものではないと主張する。
しなしながら,上記(1)の認定事実によれば,小川組から開示を受けた帳簿類は段ボール箱100箱を超える膨大な量であったこと,原告X2及びD弁護士らは,小川組に早期に帳簿類を返還する必要性からも,帳簿類全てをコピーすることとし,実際に複写作業を行ったことが認められ,多様な書類を裁判資料とすることも前提として複写するには相当の労力を要すると推認されることをも併せ考えると,被告会社が複写作業費用として消費税相当額を含む4179万円を立て替えたことを認めることができる。
したがって,原告らの上記主張は理由がない。
ウ なお,被告らは,平成19年8月17日交付金1億5000万円は,①平成16年6月7日から平成17年7月末日までの小川組の会計及び業務に関する調査費7665万円,②平成17年8月1日から平成18年7月末日までの小川組の会計及び業務に関する調査費4616万3250円のうち4035万円及び③本件和解の企画料等6000万円のうち3300万円を清算する趣旨で受領したものであって,他方,上記アの各立替費用等は平成19年8月20日交付金2億円から清算された旨の主張をする。
しかしながら,被告Y2自身,原告X2との会話において,被告らは,平成19年8月17日交付金1億5000万円の中から印刷費,弁護士費用等を支払うとの発言,それら立替金を控除した残額は成功報酬として受領するとの発言をしている(甲32)。この事実に照らすと,平成19年8月17日交付金1億5000万円の趣旨に関する被告らの主張もまた,これを採用することはできないが,同交付金に関し,被告らに不法行為が成立しないことは上記認定のとおりであるから,同交付金に関し,被告らに損害賠償を請求する原告らの請求は理由がないことになる。
(3)  平成19年8月20日交付金2億円に係る被告Y2らの詐欺行為の有無について
証拠(甲15,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨(前記第2の1の前提となる事実を含む)によると,平成19年8月20日交付金2億円について,原告X2らと被告会社との間において,同金員を運用資金として被告会社に預託し,被告会社は,同預託金から甲山家の生活費として月額100万円,原告X2らに生じた税金等の費用を支出するとの合意が成立していることが認められる。
したがって,被告会社は,平成19年8月20日交付金2億円につき,上記生活費及び原告X2らの税金等の費用については,同交付金をもって支払に充てることができるものということができるが,被告らが支出したとするこれら以外の金員については,その支払に充てることができるものとして預託されたものと認めることができない。
なお,被告らは,平成19年8月20日交付金2億円について,当初は預託金として受領したものではあるが,同月30日,上記(2)の被告会社支出の税金,税理士費用,小川組関係訴訟に関する公認会計士費用,弁護士費用,印紙代及び複写費用のほか,原告X2に対する1500万円2件(合計3000万円)及び3000万円の貸金に充当清算することとなり,原告X2らと被告会社との間で上記交付金に関し,債権債務のないことを確認する旨の合意をしたと主張する。
そして,同日付けで,原告X2らと被告会社との間において,平成16年から同日までに被告会社が原告X2らから委任を受けていた調査,コンサルタント,株の売買等の全ての事項に伴う一切の債権,債務等が終了し,相互に債権債務のないことを確認する旨の「覚書及び確認書」(乙13)が存在する。
しかしながら,①上記のとおり,同月20日に原告X2らと被告会社との間で2億円を運用資金として預託するとの合意が成立しているものであるにもかかわらず,同金員について,その僅か10日後に被告主張の費用等と清算するとの合意が成立したというのは不自然であること,②同月30日に上記「覚書及び確認書」が作成されたにもかかわらず,被告らが,同年9月以降も平成20年11月まで,甲山家に対し,生活費等として合計5300万円を交付し(乙40,57),また,原告X2らに係る平成20年度の税金及びその申告に要する税理士費用を立て替えている(乙41,58~63)ことは,預託金から生活費や税金等を支出するとの合意(甲15)には合致するが,上記交付金を精算したとの事実には沿わない。
そして,上記「覚書及び確認書」(乙13)の内容は,平成19年8月20日交付金2億円に関し清算することを明記するものではないことからすると,同書面は,本件解約金から交付された金員に関するものである可能性も否定できない(ただし,被告らは,本件訴訟でその旨を主張しておらず,そのような被告らの態度からすると,本件解約金に関する清算合意が存在したとしても,原告X2らとの合意として正当性が認められるものとは解されないから,本件解約金に関する不法行為の成否においては,同「覚書及び確認書」の存在を考慮しない。)。
これに,上記(2)ウのとおり,被告Y2自身が,弁護士費用や複写費用等は平成19年8月17日交付金1億5000万円から精算するとの発言をしていることを併せ考えると,原告X2らと被告会社との間で,平成19年8月20日交付金2億円に関する清算合意が存在すると認めることはできない。
それにもかかわらず,被告らが清算合意を主張して争うことからすれば,被告Y2らが被告会社の業務として,原告X2らから平成19年8月20日交付金2億円の預託を受けたときから,被告らには,同交付金を返還する意思がなかったものと認めるのが相当であり,同事実を秘して,預託金として2億円の交付を受けたことは,詐欺の不法行為に該当するというべきである。
なお,上記のとおり,被告らは,原告X2らに対し,生活費を交付し,税金等の立替払をしているが,被告らは反訴請求においてそれらの返還を請求していることからすると,これらの事実は,不法行為の成否に関する上記認定を左右するものではない。
(4)  原告X2らの損害について
ア 以上によると,被告らには,平成19年8月20日交付金2億円の交付に関し,不法行為が成立するところ(ただし,下記イの合意に基づき交付された100万円を除く。),同交付金はそのうち7028万円が原告X2に支払われた本件和解金から,1億2972万円がX1に支払われた本件和解金から交付されているものであるから(前記第2の1(6)エ),原告X2らに生じた損害額は,それぞれ上記の額(ただし,下記イの金額を更に控除した金額)となる。
イ ところで,上記(1)コで認定したように,被告会社は,平成19年8月20日,原告X2に対し,甲山家の生活費として100万円を交付しており,これは原告X2らと被告会社の合意に基づき,上記交付金から支出されたものであると認められ,同金員は原告X2らの上記各損害から控除されるのが相当であるところ,生活費としての性質からすると,原告X2の損害から50万円,X1の損害から50万円をそれぞれ控除するのが相当である。
(5)  小括
以上によれば,原告X2から被告会社の代表取締役あるいは取締役として,平成19年8月20日交付金2億円を受領した被告Y2ら及び被告会社は,連帯して,原告X2に対し6978万円の,X1に対し1億2922万円の不法行為に基づく損害賠償義務を負うというべきである。
4  争点4(原告らの被告らに対する損害賠償請求の可否(不法原因給付の類推適用の可否))について
被告らは,原告X2らが被告らに金員を交付したのは,脱税目的であるから民法708条が類推適用されると主張する。
しかしながら,上記2及び3で認定説示した被告らの不法行為の態様に照らすと,原告X2らに,課税の減免を得ようとの目的が存在したとしても,その違法性が被告らの損害賠償義務を免れさせるほどに強いものであるとは認めることができない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
5  争点5(被告会社の原告X2らに対する小川組及び東海東京証券に関する調査費等請求権の有無)について
(1)  調査委任契約の成否
ア 被告らは,本件和解成立後も,被告会社による小川組及びその役員に対する調査を継続しており,平成19年10月1日には東海東京証券の不正取引に関する調査の委任も受けていたところ,原告X2らから一方的に調査を中断させられたとして,履行した割合による報酬合計1593万3750円の請求権を有すると主張する。
イ この点については,平成19年10月1日付けで,原告X2らが被告会社宛てに作成した,①平成16年から実施している甲山家と小川組及び小川組の現旧役員に関する調査の継続の確認,②上記①の調査費を今までの調査費等を参考にして甲山家が被告会社に支払うとの合意,③甲山家と法人を含む第三者との間に発生した損害金等の回収のために要する調査の継続の確認,④上記③の調査費及び企画料は全て案件ごとに甲山家に入金になった金員の50%を甲山家が被告会社に支払うとの合意を内容とする「契約の確認及び承諾書」(乙49)が存在する。また,平成19年10月1日付けで,原告X2らが被告らに対し,原告X2らと「東海東京証券株式会社の取り扱う,株式売買に関する調査の一切及びそれに伴う関係者との話し合い等,すべてに同席する等の行為を代理する権限」及びこれに関連する「訴訟等に伴い弁護士及び会計士の選任を一任する権限」を委任するとの委任状(乙177)が存在する。
ウ 原告らは上記各書面に署名押印したことがないとして,その成立を争うが,成立に争いのない他の原告X2ら作成名義の書面における署名及び押印との同一性を否定するような事情はなく,上記各書面は真正に成立したと認められるから,原告X2らと被告会社との間に,上記調査に関する委任契約が成立していたと認めることができる。
(2)  報酬請求権発生の有無
ア そして,証拠(甲25,26,乙43)及び弁論の全趣旨によると,原告X2らの被告会社に対する調査依頼は,原告X2代理人弁護士やX1成年後見人からの申入れによって,平成20年11月終わり頃には中断されたが,その原因は,原告X2らが被告Y2らの行動に対し不信感を抱いたためであると認められ,原告X2らは上記委任契約を解除したものと認められる。そして,本件全証拠をもっても,被告会社が上記委任契約に基づく委任事務を完了したとは認められない。
イ ところで,委任契約の受任者が報酬を受けることができるのは,委任事務を履行した後であり,それ以前に請求できるのは,期間によって報酬を定めたとき又は委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了した場合の割合請求であるが,被告らに上記2及び3で認定したような不法行為が存在する本件においては,委任契約の中途終了が被告会社の責めに帰することができない事由によるものということができず,また,上記委任契約において,期間によって報酬を定めるとの合意もない。
(3)  小括
以上によると,被告会社は,上記委任契約に基づき,委任者である原告X2らに対して報酬請求権を取得することはないというべきである。
したがって,被告会社の原告らに対する調査費等の請求は理由がない。
6  争点6(被告Y1の原告X2らに対する税理士費用立替金返還請求の可否)について
証拠(乙60,62,180)及び弁論の全趣旨によれば,G税理士が原告X2らからそれぞれ委任を受け,原告X2らの平成16年度から平成19年度までの確定申告を行っていたこと,被告Y1が,平成20年3月24日,原告X2らの平成19年度の確定申告に係る税理士費用として各10万円を立て替えて支払ったことが認められる。
原告らは,被告Y2らが原告X2らに断りもなく税務処理を委託したものであると主張するが,平成16年度から平成19年度までの確定申告がされるまでの間,G税理士は,原告X2と税務処理に関して面接し,同原告から資料の提出を受けた上で確定申告をしているところ(乙180),同原告から,G税理士に対して,確定申告手続を依頼していないなどの異議が述べられたなどの事実もなく,原告X2らは,少なくともG税理士による確定申告について是認していたものと認められ,原告らの上記主張を採用することはできない。
よって,原告X2らは,被告Y1に対して上記税理士費用の立替金返還債務として,それぞれ10万円の支払義務を負う。
7  争点7(被告Y2の原告X2らに対する弁護士費用立替金返還請求の可否)について
原告らは,原告X2らがD弁護士に対して東海東京証券に対する損害賠償請求の訴訟代理を委任したことはなく,相談料や着手金を支払う義務はない旨主張する。
しかしながら,証拠(乙53,58,59,116,136~140,171~174)及び弁論の全趣旨によれば,原告X2らが,D弁護士に対し,東海東京証券を含む証券会社,生命保険会社等に対する損害賠償請求に関する調査交渉の委任をし,これをD弁護士が受任して同業務を行っていたことが認められ,これに関し,被告Y2がD弁護士に対し,平成19年10月23日及び平成20年10月15日,相談料として各30万円(合計60万円)を立て替えて支払ったことが認められる。
これらの事実によれば,原告X2らは,被告Y2に対して連帯して60万円の立替金債務を負うというべきである。
8  結論
(1)  本訴について
以上によると,被告らは,連帯して,X1に対し1億2922万円の限度で不法行為責任を負い,原告X2に対し1億9161万0010円の限度で不法行為責任を負うことになるところ,X1の相続人である原告らは,法定相続分の2分の1ずつ上記X1に係る損害賠償請求権を承継するものであるから,被告らは,連帯して,原告X2に対して2億5622万0010円(=1億9161万0010円+(1億2922万円×1/2)),原告X3に対して6461万円(=1億2922万円×1/2)及びこれらに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことになる(なお,附帯請求の始期は原告ら請求に係る不法行為の後の被告らに対する訴状送達の日の翌日であるところ,被告Y1については平成21年2月22日,被告会社及び被告Y2については同月24日となる。)。
(2)  反訴について
以上によると,[1]被告Y1に対し,①原告X2らは連帯して5300万円の貸付金債務(被告Y1貸付金。前記第2の1(7)ア),②X1は1518万6700円の立替金債務(前記第2の1(7)イ及び前記6),③原告X2は334万5800円の立替金債務(前記第2の1(7)ウ及び前記6),[2]被告Y2に対し,④原告X2らは連帯して60万円の立替金債務(前記7)及びこれらに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことになり,このうちX1に係る債務については,原告らが法定相続分の2分の1ずつを承継するものであるから,原告X2は,上記②につき,759万3350円(=1518万6700円×1/2)を,原告X3は,①につき2650万円(=5300万円×1/2,原告X2と連帯関係),②につき759万3350円(=1518万6700円×1/2),④につき30万円(=60万円×1/2,原告X2と連帯関係)の債務を負うことになる(なお,附帯請求の始期は原告X2らに対する反訴状送達の日の翌日であるところ,X1の相続分については平成21年8月12日,原告X2自身に係る債務については同月13日が附帯請求の始期となる。)。
なお,被告らは,口頭弁論の再開を申し立てるが,その主張立証を行おうとする事項は,主として本件訴訟係属後の原告X3の行動等をいうものにすぎず,当裁判所は弁論再開の必要はないものと判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本多知成 裁判官 倉地真寿美 裁判官 鈴木美智子)

 

〈以下省略〉

 

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