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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(85)平成28年 3月31日 東京地裁 平24(ワ)18027号 損害賠償請求事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(85)平成28年 3月31日 東京地裁 平24(ワ)18027号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成28年 3月31日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ワ)18027号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  認容  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA03318004

要旨
◆東京証券取引所一部上場企業である原告が、被告らは原告の経理・財政部門等に所属していた者らと共謀の上、原告の金融資産に発生していた巨額の運用損失を、原告がその存在を公表していない投資ファンドに移して当該損失を隠匿し、その後、隠匿された簿外損失を解消するため、被告らが設立するなどしたいわゆるベンチャー企業3社の株式の価値を偽り、不当に高い価格でこれを原告に買い取らせるなどし、原告において架空ののれんの計上とその償却などを内容とする違法な会計処理を行わせたと主張し、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、原告の財務部長や役員を務めた訴外Cらの一連の行為は、原告に対する不法行為に当たるというべきであり、被告らは訴外Cらの同不法行為を幇助したというべきであるなどと認定して、被告らは共同行為者として、別件刑事事件の有罪判決に従って原告が支払った罰金額全額及び納付命令を受けて原告が支払った課徴金全額について、訴外Cらと連帯責任を負うと判断等して、請求を認容した事例

裁判経過
控訴審 平成29年 6月15日 東京高裁 判決 平28(ネ)2636号・平28(ネ)4307号 損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件

評釈
岩田合同法律事務所・新商事判例便覧 3266号(旬刊商事法務2145号)

参照条文
民法1条2項
民法709条
民法719条2項
民法722条2項

裁判年月日  平成28年 3月31日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ワ)18027号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  認容  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA03318004

東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 X株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 山宮慎一郎
同 川畑和彦
同 横倉仁
同訴訟復代理人弁護士 阪口嘉奈子
同 飯塚陽
東京都文京区〈以下省略〉
被告 Y1
同訴訟代理人弁護士 内野経一郎
同 内野令四郎
同 田渕朋子
東京都世田谷区〈以下省略〉
被告 Y2
同訴訟代理人弁護士 武藤功
同 渡邊淳子
同 相良恵美
同 牧野盛匡
同 新谷紀之
同 前川理佐
同訴訟復代理人弁護士 粂井範之

 

 

主文

1  被告らは,原告に対し,連帯して5億円及びこれに対する平成25年8月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  訴訟費用は被告らの負担とする。
3  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  主位的請求
主文と同旨
2  予備的請求
被告らは,原告に対し,連帯して5億円及びこれに対する平成25年8月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
1  事案の概要
本件は,光学機械の製造販売等を業とする東京証券取引所一部上場企業である原告が,被告らがB(以下「B」という。)並びに原告の経理・財政部門等に所属していたC(以下「C」という。),D(以下「D」という。)及びE(以下「E」といい,これら三者を併せて「Cら」という。)と共謀の上,原告の金融資産に発生していた巨額の運用損失を原告がその存在を公表していない投資ファンド(以下「簿外ファンド」という。)に移して当該損失を隠匿し(以下隠匿された原告の損失を「簿外損失」という。),その後,簿外損失を解消するため,被告らが設立するなどしたいわゆるベンチャー企業3社(以下「新事業3社」という。)の株式の価値を偽り,不当に高い価格でこれを原告に買い取らせるなどし,原告において架空ののれんの計上とその償却などを内容とする違法な会計処理を行わせたと主張し,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償として,主位的に,①上記株式の取得原価と購入価格の差額である572億9540万円並びに②原告が有価証券報告書の虚偽記載の罪により有罪判決を受けて支払った罰金7億円相当額及び虚偽の記載のある四半期報告書を提出したため納付命令を受けて支払った課徴金1986万円相当額(合計7億1986万円)の総額580億1526万円の一部請求として5億円及びこれに対する罰金を納付した日である平成25年8月9日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,予備的に,①ファンド管理手数料等として支払われた費用等の合計117億6338万4926円並びに②上記罰金及び課徴金相当額7億1986万円の合計124億8324万4926円の一部請求として5億円及びこれに対する罰金を納付した日である平成25年8月9日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2  前提事実(争いのない事実以外は,各項掲記の証拠(枝番号を含む。)等により認める。)
(1)  当事者等
ア 原告の関係者
(ア) 原告(平成15年10月1日以前の商号はa株式会社)は,顕微鏡,写真機,精密測定器その他光学機械の製造販売並びに修理及び賃貸事業等を主たる業務とする会社であり,事業年度を4月1日から翌年3月31日までとしている。
(イ) 原告の代表取締役社長は,昭和59年1月から平成5年6月まではF(以下「F」という。),同月から平成13年6月まではG(以下「G」という。),同月から平成23年3月まではH(以下「H」という。)が務めていた。
(ウ) 原告において金融資産の運用等を担当していた部署は,経理部bグループ(後にcグループと改称)であり,同グループは,平成9年4月1日の組織再編により総務部と統合して総務・財務部となった。
C(昭和19年生まれ)は,昭和38年に原告に入社し,昭和55年に経理部bグループに配属されて以降,原告の金融資産の運用に携わるようになり,同グループ長,同部副部長を務め,平成9年に総務・財務部長に昇進し,平成15年6月には原告の取締役に就任した。その後,取締役常務執行役員,取締役専務執行役員を経て,平成21年6月には副社長執行役員に就任し,平成23年6月,取締役を退任するとともに監査役に就任したが,同年11月24日,監査役を辞任して原告を退職した。
D(昭和32年生まれ)は,昭和56年に原告に入社し,昭和60年から約1年間ニューヨーク大学ビジネススクールに留学した後,昭和62年6月に経理部bグループに配属され,以降,Cの部下として金融資産の運用に携わった。そして,平成13年7月に財務部長に昇進し,その後,総合経営企画室長等を務めた後,平成15年6月に取締役執行役員に,平成21年6月に取締役常務執行役員に,平成23年4月に副社長執行役員に就任したが,同年11月8日,解任され,同月24日には取締役も辞任して原告を退職した。
E(昭和32年生まれ)は,昭和56年に原告に入社して経理部bグループに配属されて以降,専らCの部下として金融資産の運用に携わった。平成14年4月に財務部長に昇進し,その後,経営企画本部財務戦略部長を務め,平成20年6月24日,ITX株式会社(日商岩井株式会社(当時。以下「日商岩井」という。)の情報部門が独立して設立され,原告の子会社になった会社。以下「ITX」という。)の代表取締役を務めた後,平成22年6月に原告の執行役員となり,平成23年6月に原告の取締役に選任された。
I(昭和43年生まれ。以下「I」という。)は,平成3年4月に原告に入社して経理部cグループの配属となり,平成4年2月頃から資金運用業務を担当した。
(以上について,甲4,5,125,145)
イ 被告ら及びその関係者
(ア) 被告Y1(昭和29年生まれ。以下「被告Y1」という。)は,昭和53年に野村證券株式会社(以下「野村證券」という。)に入社し,昭和62年5月頃から昭和63年9月頃まで原告の営業担当を務め,営業活動を通じてF,G,Cらと知り合った。
被告Y1は,野村證券の浜松支店次席(平成2年11月頃から平成4年6月頃),高崎支店長,新宿野村ビル支店長(平成9年6月頃から平成10年6月頃)を務め,同月,野村證券を退職し,同月29日,経営コンサルティング及び経営者指導を主たる業務とする株式会社グローバル・カンパニー(以下「GC社」という。)を設立し,代表取締役に就任した。(甲37,136,153)
(イ) 被告Y2(昭和38年生まれ。以下「被告Y2」という。)は,昭和63年に野村證券に入社し,同年10月頃,野村企業情報株式会社に出向した際,被告Y1の部下として働き,平成3年4月に浜松支店に転勤になった際にも,次席であった被告Y1の部下として勤務した。
被告Y2は,その後,香港やロンドンに所在する野村證券の子会社で勤務した後,平成10年6月に同社を退職して被告Y1と共にGC社を設立し,平成11年5月,GC社の取締役に就任した。(甲153,156)
(ウ) B(昭和37年生まれ)は,昭和59年に野村證券に入社し,平成8年頃からロンドンにある同社の子会社に勤務した際,被告Y2と知り合い,平成10年12月頃までに同社を退職してGC社で勤務するようになり,平成12年1月26日,GC社の取締役に就任し,その後,平成22年末までGC社で勤務した。(甲160,162)
(エ) J(昭和38年生まれ。以下「J」という。)は,平成6年2月頃まで野村證券で勤務していたが,同月頃同社を退職し,平成7年1月,リヒテンシュタイン公国に本店があるLGT Bank in Liechtenstein AG(以下「LGT銀行」という。)の関連会社であるGTキャピタル・マネジメントに就職した後,平成8年3月頃,LGT銀行東京駐在所を立ち上げてその所長に就任し,平成21年12月にLGT銀行を退職するまで同職にあった。
Jは,平成4年頃,野村證券の営業業務部運営企画課に在籍していた当時,被告Y1の部下であった。(甲147,149,153)。
ウ GC社及びその関連会社
(ア) GC社は,前記イ(ア)のとおり,被告Y1が平成10年6月29日に被告Y2とともに設立した会社であり,被告Y1らが野村證券在籍時に交流のあった企業に対するコンサルティング等を業とした。設立当初はJも取締役に就任し,LGT銀行東京駐在事務所の一部を間借りして事務所とした。その後,平成11年から平成12年にかけて被告Y2及びBが取締役に就任し,平成22年12月31日にBが退任するまで,被告ら及びBの3名がGC社の役員かつ出資者であり,GC社の株式は,被告Y1,被告Y2及びBが5対3対2の割合で保有していた。(甲2,154)
(イ) 被告Y1は,平成12年2月9日,ケイマン諸島の法律に基づき,特例有限責任会社としてGCI Cayman Limited(以下「GCIケイマン」という。)を設立し,平成16年3月15日,金融コンサルティング,ファンドの運用等を主たる事業とする株式会社グローバル・カンパニー・インベストメント(以下「GCI社」という。)を設立した。(甲3,239)
(2)  関連するファンドの概要
ア Cらが署名権限を有していたファンド
(ア) CFC
Central Forest Corp.(以下「CFC」という。)は,平成8年1月25日に組成されたケイマン諸島籍の簿外ファンドであり,Cらが役員に就任した。CFCは,LGT銀行に預金口座を開設しており,同口座からの送金を指示できる署名権限はCらにあった。(弁論の全趣旨)
(イ) QP
Quick Progress Co. Ltd.(以下「QP」という。)は,平成9年3月26日に組成されたケイマン諸島籍の簿外ファンドであり,Dが役員に就任した。QPは,LGT銀行に預金口座を開設しており,同口座からの送金を指示できる署名権限はCらにあった。(弁論の全趣旨)
(ウ) TEAO
TEAO Limited(以下「TEAO」という。)は,遅くとも平成12年3月10日に組成されたケイマン諸島籍の簿外ファンドであり,LGT銀行に預金口座を開設しており,同口座からの送金を指示できる署名権限はCらにあった。(弁論の全趣旨)
イ GC社が署名権限を有していたファンド
(ア) GCNV
G. C. New Vision Ventures, L.P.(以下「GCNV」という。)は,平成12年3月1日,特例有限責任組合組成契約によって組成されたケイマン諸島籍のファンドであり,GCIケイマンがその運営を行うジェネラル・パートナー(以下「業務執行組合員」という。)に就任し,原告及び同じくケイマン諸島籍のファンドであるGenesis Venture Capital Series 1 Ltd.(以下「GV」という。)がリミテッド・パートナー(以下「有限責任組合員」という。)となった。GCNVは,LGT銀行に預金口座を開設しており,同口座からの送金を指示できる署名権限は被告ら及びBにあった。(甲9)
GCNVは,平成19年9月21日,原告及びGCIケイマンの終了契約によって清算された。(甲27)
(イ) NEO
NEO Strategic Venture, L.P.(以下「NEO」という。)は,平成12年3月15日,特例有限責任組合組成契約によって組成されたケイマン諸島籍のファンドであり,GCIケイマンがその運営を行う業務執行組合員に就任し,TEAOが有限責任組合員となった。(甲8の1,2)
NEOは,LGT銀行に預金口座を開設しており,同口座からの送金を指示できる署名権限は被告ら及びBにあり,平成19年7月頃,業務執行組合員がGCIケイマンからLGT銀行に勤務していたK(以下「K」という。)が代表を務めるパナマ共和国籍の別のファンドであるGurdon Overseas S.A.(以下「Gurdon」という。)に変更になった後も,署名権限は被告ら及びBにあった。
ウ LGT銀行が管理運営するファンド
PS Global Investable Markets-O(以下「GIM-O」という。)及びNew Investments Ltd. Class Fund IT Ventures(以下「ITV」という。)は,いずれもLGT銀行及びその関連会社が組成し管理運営するクラスファンドと呼ばれるファンドである。
(3)  原告がその株式を取得した新事業3社の概要
株式会社アルティス(以下「アルティス」という。)は,平成17年10月1日に休眠会社である有限会社植物栽培研究所を組織変更して設立された医療系廃棄物の処理を主たる事業とする会社であり,同日以降,代表取締役は原告の社員であったLが務め,被告Y1は同日から平成19年6月29日まで,被告Y2は平成17年10月1日から平成20年6月26日まで同社の取締役を務めた。
株式会社ヒューマラボ(以下「ヒューマラボ」という。)は,平成17年6月21日に設立されたLEM(椎茸菌糸体)を利用した健康食品,女性向けサプリメント,化粧品等の通信販売を主たる事業とする会社である。被告Y1は,同日から平成18年10月1日まで代表取締役を務め,被告Y2は,平成17年6月21日に取締役に就任し,平成19年6月13日から平成20年5月28日まで,Mと共に代表取締役を務めた。平成20年5月28日以降は,原告の社員であったN(以下「N」という。)が代表取締役を務めた。
NEWS CHEF株式会社(旧商号はNEWS株式会社。以下,商号変更の前後を通じて「ニュースシェフ」という。)は,Oを創業者として平成3年8月29日に設立された電子レンジ用調理器具及びそれを利用した食材キットの販売事業を主たる事業とする会社であり,被告らは,平成15年9月26日,GCIケイマンの名義で増資による株式を取得し,平成16年8月1日に被告Y1が取締役に就任して経営に関わるようになった。被告Y2は,同年10月26日に取締役に就任し,被告Y1は,平成19年2月23日に代表取締役に就任した。(甲5,12,13,251)
(4)  原告が有価証券報告書に虚偽の記載をするに至った経緯
ア 原告が金融資産に含み損を抱えるに至った経緯
原告は,昭和60年頃以降,円高の影響による営業利益の減少に対応するため,当時の代表取締役であるFの方針に従って積極的な財務政策を展開し,債券,株式先物取引,金利スワップ等デリバティブ商品や仕組債等による金融資産の運用を始めた。
ところが,平成2年にいわゆるバブル経済が崩壊し,原告は,金融資産に多額の含み損を抱えることになり,平成4年3月期末頃には約480億円にまで膨れ上がった。
Cらは,利益が出て損失の補填ができるまで原告の損失を公表せず先送りすることを決め,含み損を抱えた金融資産を決算期前に一時的に証券会社等に簿価で買い取らせ決算期後に買い戻すといういわゆる「期末の飛ばし」を行うようになったほか,かねてから取引をしていた特定金銭信託及び特定金外信託(以下「特金等」という。)のうち,契約終了時に株式等の有価証券で資産が返却されこれを簿価で評価することができる特定金外信託の取引の割合を増加させるなどした。(甲5,37,125)
イ 簿外ファンド等に金融資産を簿価で買い取らせ損失を隠匿した経緯
原告は,その後,よりハイリスク・ハイリターンの金融資産を購入するなどして損失の補填を試みたが,かえって含み損が増え,平成8年頃には約900億円にまで損失が拡大した。
そこで,Cらは,海外に原告の連結決算の対象とならない簿外ファンド等を組成し,これに含み損を抱えた金融資産を簿価で買い取らせて損失を簿外ファンドに移すことを計画し,平成8年頃から,当時,外資系証券会社であるペイン・ウェーバーに勤めていたP(以下「P」という。)及びQらの協力を得てケイマン諸島に組成したメディア・トラスト等の簿外ファンドに対し,原告や原告の子会社であるOlympus Asset Management Ltd.(後にOlympus Hong Kong and China Limitedに改称。以下「OAM」という。)が保有する特金等の資産の中から国債等を貸し付け,簿外ファンドにおいてこれを売却し,その資金をもって原告の金融資産を簿価で買い取らせた。
メディア・トラスト等多数の簿外ファンドにおいて保有されていた原告の金融資産は,その後,損失を一元化する方針が原告において採られたことに伴い,Pらの協力を得て平成8年1月25日に組成したCFCと,平成9年3月26日に組成したQPの2つの簿外ファンドに集約され,平成10年頃には,900から950億円の含み損を抱える金融資産は,これらの簿外ファンドが保有するに至った。(甲38,46,47,51,136,139)
ウ 原告及びOAMが国債等の返還を受けた経緯
(ア) 特金等の解消に伴う資金調達方法の変更
原告及びOAMは,前記イのとおり,特金等から国債等を貸し付けて簿外ファンドに資金を供給していたが,企業会計原則の見直しにより,取得原価主義(資産評価を取得時の原価によって行う方法)を改め,時価評価主義(資産評価を時価によって行う方法)を採用するとの動きが現れるようになり,Cは,平成9年の後半頃,当時,原告の監査法人であった朝日監査法人の公認会計士から,近い将来,特金等の資産についても時価会計が導入されるので,これを計画的に解消することが望ましいと指摘された。また,国債等を簿外ファンドに貸し付けたままの状態では,特金等の残高を減らすことができない上,監査法人から国債等の貸付先について確認を求められた場合,原告の金融資産を簿外ファンドに移していることが露見してしまうのではないかと危惧されたため,Cは,簿外ファンドに新たな資金を供給して国債等を買い戻す方法を模索することにした。(甲39,59)
(イ) LGT銀行ルート
このような中,原告及びその子会社であるOAMにおいて,守秘義務が徹底した外国銀行であるLGT銀行に口座を開設して預金をし,同預金を担保として同銀行から借り入れた借入金をCFCに提供する方法(以下「LGT銀行ルート」という。)が考案され,原告及びOAMは,平成10年3月,LGT銀行に取引口座を開設して同月23日付けで包括的根担保設定契約を締結し,原告及びOAM名義の口座内の資産全てに債務者をCFCとする根担保権が設定された。そして,平成10年3月23日,原告からLGT銀行の原告名義口座に200億円,翌24日,OAMからLGT銀行のOAM名義口座に60億円,同年4月28日にOAMからLGT銀行のOAM名義口座に120億円がそれぞれ入金され,合計380億円の預金がされた。かかる資産を担保に,LGT銀行は,CFCに対し,平成10年3月27日に180億円,同年8月6日に120億円の融資をし,CFCは,同資金を用いて特金等が貸し付けていた国債等を買い戻し,原告及びOAMに返還するなどした。(甲39,59,75)
(ウ) GCNVルート
被告らは,平成12年2月9日,GCIケイマンを設立し,同年3月1日,GCIケイマンを業務執行組合員とするGCNVを組成したところ,原告及びGVにおいて,GCNVに出資をし,これをQPに貸し付ける方法(以下「GCNVルート」という。)が考案され,原告が同月14日に300億円を,GVが同月16日に50億円をそれぞれGCNVに出資金として送金し,GCNVは,同月17日,QPに対し,出資金350億円のうち320億円を債券購入代金として送金し,QPは,同資金を用いて特金等が貸し付けていた国債等を買い戻し,原告及びOAMに返還するなどした。その際,余った20億円は,QPからGCNVに返還された。なお,GVがGCNVに出資した50億円は,LGT銀行ルートによってLGT銀行から融資を受けたCFCがGVの債券購入代金として支払った51億円が原資とされた。(甲9,38,52,53,60,81,82,167)
(エ) GIM-Oルート
原告及びOAMにおいて,LGT銀行及びその関連会社が管理運営するクラスファンドであるGIM-Oに出資をし,GIM-OからTEAO,更にNEOを介して,QPに資金を供給する方法(以下「GIM-Oルート」という。)が考案され,平成12年3月21日,原告が150億円,OAMが200億円をGIM-Oに出資し,同出資金のうち310億円がTEAOの債券購入代金として送金され,さらに同月22日,TEAOからNEOに対して,有限責任組合員からの出資という形で300億円が送金された。また,NEOは,同月24日,QPに対して,債券購入代金として194億円を送金し,QPは,同資金を用いて特金等が貸し付けていた国債等を買い戻し,原告及びOAMに返還するなどした。
なお,NEOは,同月23日,ITVに対して101億円を出資し,ITVは,これを原資としてITXの株式を購入し,そのキャピタルゲインを簿外損失の解消に充てようとしたが,かえって損失を拡大させた。(甲53,76,78,79,137,142)
エ 原告が架空ののれんを計上して損失を解消しようとした経緯
(ア) NEO及びITVによる新事業3社の株式の取得
前記イのとおり,原告の含み損を抱えた金融資産は,簿外ファンドに付け替えられて隠匿されていたが,このままでは簿外ファンドが債務超過の状態となり,将来,監査等で原告の損失隠しが発覚しかねなかった上,簿外ファンドの維持のための費用もかさむ一方であった。そのため,①簿外ファンド(NEO,ITV)に新事業3社の株式を取得させ,②原告及びGCNVにそれらの株式を本来の価値より高い金額で買い取らせる,③NEO等が新事業3社の株式の代金として受領した多額の金を用いて簿外ファンドが原告の金融資産を購入した際に行った借入れなどを返済し,債務超過状態を解消する,④本来の価値に比べて極めて高い金額で購入した新事業3社の株式について,多額ののれんを原告の資産として計上し,これを10年かけて償却していくという損失解消方法が考案された。(甲54,55)
そこで,ITVは,平成16年4月から平成17年3月にかけて,ニュースシェフの株式を合計4億円(1株当たり20万円,合計2000株)で,増資引受けの方法により順次取得し,NEOは,平成17年12月13日,アルティスの株式を合計1億4400万円(1株当たり5万円,合計2880株),同年7月20日,ヒューマラボの株式を合計6000万円(1株当たり5万円,合計1200株)で,それぞれ増資引受けの方法により取得した。(甲95,251,252)
(イ) 平成18年3月の新事業3社に係る株式の売却
ITVは,平成18年3月17日,GCNVに対し,ニュースシェフの株式400株を17億8000万円(1株当たり445万円)で売却し,NEOは,同月23日,GCNVに対し,アルティスの株式760株を44億0040万円(1株当たり579万円),ヒューマラボの株式320株を46億円(1株当たり1437万5000円)でそれぞれ売却した(以下,NEO及びITVとGCNVとの間の新事業3社に係る株式の売買を「平成18年売買」という。)。(甲95,251,252)
(ウ) GCNVの解散と原告における新事業3社の株式の取得
原告及びGCIケイマンは,平成19年9月21日,GCNVの組成契約を解約する合意をし,これにより,GCNVは解散した。
原告は,GCNVの解散に伴い,GCNVが保有していた新事業3社の株式を現物で取得し,これら株式は,原告の連結貸借対照表において,GCNVが平成18年売買の際に取得した価格(簿価)で資産として計上された。(甲5,27)
(エ) 平成20年3月の新事業3社に係る株式の売買
NEOは,平成20年3月26日,原告に対し,アルティスの株式1650株を181億5000万円(1株当たり1100万円),ヒューマラボの株式670株を137億3500万円(1株当たり2050万円)で売却し,ITVは,同日,原告に対し,ニュースシェフの株式1600株を152億円(1株当たり950万円)で売却した(以下,NEO及びITVと原告との間の新事業3社に係る株式の売買を「平成20年売買」という。)。(甲94,251,252)
(オ) 「のれん」の計上
新事業3社は,GCNVの解散による株式の承継と原告による増資引受け及び追加取得により,原告の子会社となり,原告は,平成20年3月期の連結貸借対照表に約545億円の「のれん」を計上した。(甲5)
(5)  原告に対する税務調査
原告は,平成18年10月から平成19年6月頃にかけて,東京国税局の税務調査の対象となり,特にGCNVに関する取引,GIM-Oを含むLGT銀行関連の取引が調査対象とされた。その際,これらの運営を受託していたGCIケイマンやGC社も反面調査の対象とされた。
(6)  ファンド管理費用等の支払状況
ア GCIケイマンに対する支払
(ア) GCNVは,平成12年から平成19年までに,GCIケイマンに対し,ファンド管理手数料として,合計23億5139万1774円を支払った。(甲113,弁論の全趣旨)
(イ) GCNVは,平成12年10月,ITX株式への転換オプション付きフェニックス社債をGVに対して売却したところ,売却益が発生したことから,GCNV組成契約に基づき,成功報酬として,同月18日,GCIケイマンに対し,1億6418万8471円を支払った。(甲109,115)
(ウ) GCNVは,GCIケイマンに対し,GCNVの解散に伴う出資金の返還分として,平成18年3月31日に2000万円を支払ったほか,平成19年10月1日には解約金として7億1506万5413円を支払い,原告は,同月31日,GCIケイマンに対し,解約金の不足分として8億8030万7568円を支払った。(甲109,113の28,114,116,弁論の全趣旨)
(エ) NEOは,平成12年から平成19年までに,GCIケイマンに対し,ファンド管理手数料等として,合計12億8768万5775円を支払い,7843万1373円の返還を受けた。(甲109,117,118)
イ Gurdon名義のLGT銀行預金口座に対する送金
NEOは,平成20年9月11日,被告ら及びBに対する報酬として,Gurdon名義のLGT銀行預金口座に12億5925万円を送金した。(甲102,104,119,弁論の全趣旨)
ウ LGT銀行に対する支払
GIM-Oは,平成13年から平成19年までに,LGT銀行に対し,ファンド管理・保管手数料として,合計40億9475万9126円を支払い,ITVは,同様に合計1億1916万8172円を支払った。(甲129)
エ Nayland Overseas S.A.名義のLGT銀行預金口座に対する送金
TEAOは,平成20年12月19日,被告ら及びBに対する報酬として,パナマ共和国籍のファンドであるNayland Overseas S.A.(以下「Nayland」という。)名義のLGT銀行預金口座に9億5000万円を送金した。(甲102,105,121,弁論の全趣旨)
(7)  有価証券報告書等の提出
原告は,関東財務局において,平成19年6月28日に同年3月期の連結会計年度に係る有価証券報告書を,平成20年6月27日に同年3月期の連結会計年度に係る有価証券報告書を,平成21年6月26日に同年3月期の連結会計年度に係る有価証券報告書を,平成22年6月29日に同年3月期の連結会計年度に係る有価証券報告書を,平成23年6月29日に同年3月期の連結会計年度に係る有価証券報告書をそれぞれ提出し,その後,平成23年4月1日から同年6月30日までの四半期報告書を提出した。(甲130,132,弁論の全趣旨)
(8)  課徴金納付命令
原告は,平成23年4月1日から同年6月30日までの四半期につき,重要な事項につき虚偽の記載のある報告書を提出したとして,平成24年7月11日,金融商品取引法に基づき,1986万円の金融庁長官の課徴金納付命令を受け,同月31日,同額を納付した。(甲132~134)
(9)  刑事訴訟の概要
ア H,C,D,被告Y1,被告Y2及びPは,共謀の上,平成19年3月期及び平成20年3月期の原告の各有価証券報告書に関し,損失を抱えた金融資産を簿外処理するとともに架空ののれん代を計上するなどの方法によって実際の連結純資産額よりも多額の連結純資産額を連結貸借対照表に記載し,これを掲載した有価証券報告書を提出したなどとして,平成24年3月7日,原告とともに証券取引法又は金融商品取引法違反の罪で起訴された。その後,H,C,Dは,平成21年3月期から平成23年3月期について,Pは平成21年3月期及び平成22年3月期についてもそれぞれ追起訴された(以下,被告らの刑事訴訟を「本件刑事訴訟」という。)。
イ 原告,H,C及びDは,起訴事実を認め,東京地方裁判所は,平成25年7月3日,①H,C及びDは,P,被告ら及びBと共謀の上,原告の平成19年3月期の連結会計年度につき,実際の連結純資産額が約2324億5900万円であったにもかかわらず,損失を抱えた金融資産を簿外処理するなどの方法により,「純資産合計」欄に3448億7100万円と記載するなどした連結貸借対照表を掲載した有価証券報告書を提出し,②H,C及びDは,P,被告ら及びBと共謀の上,原告の平成20年3月期の連結会計年度につき,実際の連結純資産額が約2500億2900万円であったにもかかわらず,損失を抱えた金融資産を簿外処理するとともに架空ののれん代を計上するなどの方法により,「純資産合計」欄に3678億7600万円と記載するなどした連結貸借対照表を掲載した有価証券報告書を提出し,③H,C及びDは,Pと共謀の上,原告の平成21年3月期の連結会計年度につき,実際の連結純資産額が約1208億5200万円であったにもかかわらず,損失を抱えた金融資産を簿外処理するとともに架空ののれん代を計上するなどの方法により,「純資産合計」欄に1687億8400万円と記載するなどした連結貸借対照表を掲載した有価証券報告書を提出し,④H,C及びDは,Pと共謀の上,原告の平成22年3月期の連結会計年度につき,実際の連結純資産額が約1713億7100万円であったにもかかわらず,架空ののれん代を計上するなどの方法により,「純資産合計」欄に2168億9100万円と記載するなどした連結貸借対照表を掲載した有価証券報告書を提出し,⑤H,C及びDは,共謀の上,原告の平成23年3月期の連結会計年度につき,実際の連結純資産額が約1252億2500万円であったにもかかわらず,架空ののれん代を計上するなどの方法により,「純資産合計」欄に1668億3600万円と記載するなどした連結貸借対照表を掲載した有価証券報告書を提出し,もって,それぞれ重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したとの事実を認定した上,原告につき罰金7億円,H及びCにつき懲役3年執行猶予5年,Dにつき懲役2年6月執行猶予4年の有罪判決を言い渡し,同判決は確定した。(甲6,130,弁論の全趣旨)
原告は,平成25年8月9日,上記判決に従い,罰金7億円を納付した。(甲131)
ウ 被告らは,前記アの起訴事実のほか,①新事業3社の株式を実際の事業価値を反映していないにもかかわらず実際の事業価値を反映したものであるかのように偽って群栄化学工業株式会社に対して売却したとする詐欺罪,及び②証券取引法又は金融商品取引法違反に該当する行為の報酬として得た金員を隠匿したとする組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反の罪で追起訴を受けたが,いずれの起訴事実も争い無罪を主張した。
東京地方裁判所は,平成27年7月1日,①H,C及びDらが,共謀の上,原告の平成19年3月期及び平成20年3月期の各連結会計年度につき,重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したことについて,そのことを認識しながら,C,Dらと協議の上,被告ら及びBが経営するGCIケイマンにおいて,X社が簿外損失を集約していたQPに資金を供給するなどしていた簿外の事業投資ファンドであるGCNV及びNEOの各業務執行組合員として,両ファンドを維持,管理したり,資金の移動を行うなどしてH,C及びDら正犯者の各行為を容易にさせてこれらをそれぞれ幇助し,②被告らは,共謀の上,群栄化学工業株式会社から新株式払込金の名目で金員を詐取しようと企て,真実は原告が巨額の金融資産の損失を簿外処理している上,新事業3社の株価の算定根拠となる事業計画はそのとおりの業績を上げる見込みがなく,新事業3社の株価は何ら新事業3社の事業価値を反映したものではなかったにもかかわらず,その情を秘し,原告及び新事業3社に関して前記損失の隠ぺい等の事情は存せず,かつ,新事業3社は同事業計画どおりの業績を上げる見込みであり,新事業3社の株価は,同事業計画に基づいて算出されたものであって新事業3社の事業価値を適正に反映したものであるかのように装うなどして,平成18年4月22日,アルティス名義の口座に1億1580万円,ヒューマラボ名義の口座に1億4375万円,ニュースシェフ名義の口座に8900万円をそれぞれ振込送金させてその交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた,③被告ら及びBは,財産上の不正な利益を得る目的で犯した前記①の幇助行為の報酬として得た現金の取得につき事実を仮装し,同現金を隠匿しようと企て,共謀の上,上記報酬として被告ら及びBに支払われることになった12億5925万円をGurdon口座に,9億5000万円をNayland口座に送金するなどし,架空の契約書を用意するなどして契約に基づく正当な報酬の支払であるかのように装い,10億8494万0034円をリヒテンシュタイン公国籍のPerfect Sense財団名義のLGT銀行口座に,6億5096万4020円を同国籍のFine Balance財団名義のLGT銀行口座に,4億3397万6014円を同国籍のGreen Lantern財団名義のLGT銀行口座に送金させ,もって犯罪収益等の取得につき事実を仮装するとともに,犯罪収益等を隠匿したとして,被告Y1につき懲役4年及び罰金1000万円,被告Y2につき懲役3年及び罰金600万円,Bにつき懲役2年執行猶予4年及び罰金400万円並びに被告らの保有する預金債権等について没収及び追徴の判決を受けた。
被告らは,同判決を不服として控訴した。(乙イ29,弁論の全趣旨)
第3  争点及びこれに対する当事者の主張
1  被告らはCらによる原告の損失隠しの事実を認識してこれに関与したか。
(原告の主張)
(1) 原告の簿外損失に係る相談
Cは,昭和62年頃に被告Y1が野村證券における原告の営業担当となって以降,同人が親身になって相談に乗ってくれていたため,平成4年頃,当時,野村證券の浜松支店で勤務していた被告Y1に対し,原告が抱えていた約480億円の損失について,同会計年度において公表すべきか相談し,被告Y1は,原告の損失金額等をメモ(以下「本件メモ」という。)に記載した。
(2) LGT銀行ルートへの関与
ア Cは,平成9年頃,被告Y1に対し,特金等に含み損約400から500億円を抱えており,これを公表していないことを打ち明け,簿外損失を抱えた簿外ファンドに資金を供給するため,秘密保持が徹底している外国銀行を紹介してほしいと頼んだ。
イ 被告らは,平成9年末頃か平成10年初め頃,Cらと六本木の飲食店で会合を持ち,LGT銀行の東京駐在所の責任者であるJを紹介した。
Cらは,被告Y1から,Jに簿外損失の話を知られてしまうと口座の開設ができなくなるおそれがあると言われていたため,Jに対し,CFCが融資を受けるのは原告が名前を出さない形で投資を行いたいからであると虚偽の説明をした。
また,被告Y1は,Jに対してLGT銀行における口座開設の状況を確認し,その手続を急かすなどして原告の口座開設に協力した。
ウ Cらは,Jに,監査法人からの残高確認照会に対して,LGT銀行の原告名義やOAM名義の預金口座内の資産に担保が設定されていることを記載しないでほしい旨を申し入れており,LGT銀行は,監査法人に対して担保設定の記載のない残高確認書を提出した。この点については,Cらから被告Y1に,Jへの働きかけを依頼しており,被告Y1からJに申入れがされていた。
エ 被告Y1の紹介を受けた結果,原告は,前記第2の2(4)ウ(イ)のとおり,LGT銀行に口座を開設し,LGT銀行からCFCに対して合計300億円の融資を受けることができた。
(3) 新たな資金供給方法の構築までの経緯
ア Cらは,平成11年10月頃,被告らに対し,簿外ファンドへの新たな資金供給方法について被告らにアドバイスを求めたところ,被告らは,①「X社がGIMを買って担保にすれば,LGT銀行からCFCへの融資を増やせる」として,LGT銀行が運営するクラスファンドであるGIMに投資をし,これを担保として融資を受ける方法を提案するとともに,②「事業投資ファンドという方法を使えば,資金を裏に回すことができるだけでなく,いいベンチャー企業を発掘して上場させれば,キャピタルゲインを使ってロスを取り戻すのにも使える。」として,事業投資ファンドを用いて簿外ファンドに資金を供給するスキームの2つを提案した。
Cらと被告ら及びBは,上記スキームの具体的な進め方を決めるため,GC社の事務所に集まって打合せをしており,被告Y1が大まかな方針を決定し,被告Y2がその具体的な方法を検討し,Bが事務手続を担当するという役割分担をしていた。
イ 被告Y1は,平成12年3月から5月頃にかけて,Cに対し,原告の簿外損失額がいくらあるのか聞いたところ,Cは,損失の全額を伝えることをためらい,「為替の問題やランニング・コスト等,及び相場の関係での損失もあり,600億円ぐらいに膨らんだ」などと話した。
(4) GCNVルートへの関与
ア 平成12年3月1日に事業投資ファンドとしてGCNVが組成され,GCIケイマンが業務執行組合員に就任した。原告及びGVから350億円がGCNVに出資され,そのうち320億円がY1の署名にかかる送金指示に基づきQPに移動した。GCNVからQPに送金された320億円の資金は,その後,うち301億円が特金等の解消に充てられた。GVは,実質的には原告が資本拠出しているファンドであり,そのことはCらから伝えられ,被告らも認識していた。
イ Cらは,資金供給スキームについての打合せの場において「簿外ファンドでロスを付けるときに,国債を借りたりしていたので,350(億)のうち300(億)ほどはいったんそっちで使わせてもらうことになる。ファンドの決算期には戻しておく。」などと述べ,GCNVから損失移転スキームのための資金をQPに供給することについて,被告らに説明していた。
ウ GCNVの業務執行組合員は被告らの運営するGCIケイマンであり,GCNVの送金等を行う署名権者は被告ら3名であったことから,GCNVは被告らの協力なしに活動することはできなかった。
エ GCNVとQP間では,毎年200億円を超える資金が,短期資金運用名目の貸付金としてGCNVの決算期前にQPから送金され,決算期後にQPへ送金されることが繰り返されていたが,被告らは,このような不自然な資金の移動について何らの疑問も述べておらず,このことは,被告らが原告の損失隠しを知っていたことの証左である。
(5) GIM-Oルートへの関与
ア F,D,J及び被告Y2は,平成12年2月26日から同年3月3日頃までリヒテンシュタイン公国に出張し,GIMを運営するLGT銀行を訪問したが,LGT銀行からGIMの購入を断られた。そこで,Jを通じて更に協議をし,GIM-O(GIMに原告の会社名の頭文字「O」を付した名称の異なるファンド)を新たに組成することになった。
イ Cら及び被告らは,平成12年3月の打合せの中で,GIM-Oにおいて簿外ファンドの債券を購入して簿外ファンドに資金を流すことを決めた。被告Y1は,LGT銀行のJに対し,GIM-Oにおいて簿外ファンドの債券を購入することにより簿外ファンドに資金を供給できること,GIM-Oの資産評価に当たって,簿外ファンドの債券は時価評価の対象としないことなどを確認した上,監査法人等からの照会に対してGIM-Oから大量にTEAOなどのファンドへ資金を供給している事実を回答しないことを依頼するなどした。
被告らは,GIM-Oルートによって簿外ファンドに資金が供給されることを認識し,原告における損失移転スキームの発覚が困難となるような裏工作にも協力したものであり,損失移転スキームの実現において重要な役割を果たしたというべきである。
ウ Cらと被告らは,原告の損失隠しのため,ベンチャー企業株を持たせるファンドとしてNEOの組成を決め,GIM-OとNEOとの関係が外部から分からなくなるよう,間にTEAOを介在させることも決めた。
エ 平成12年3月15日にNEOが組成され,GCIケイマンが業務執行組合員に就任した。NEOの送金指示権者は,被告ら及びBと指定されていた。また,被告Y2は,同月8日からケイマン諸島に出張し,現地でTEAO,NEOの組成手続を行った。GC社は,GIM-Oのアドバイザーに就任し,実質的な運用者,署名権者となった。同月21日から同月24日にGIM-Oルート構築に係る各資金移動が実行された。GIM-OからTEAOへの310億円の送金,NEOからQPへの190億円の送金は,被告らの指示により実行された。NEOからQPに送金された194億円のうち181億円は,その後特金等の解消に充てられた。
(6) ITVの組成及びITX株式の購入への関与
ア ITVの組成
(ア) 被告Y1は,平成11年頃,ITX株式について多額のキャピタルゲインが見込まれるとして,Cらに対し,原告における同株式の取得を勧めた。その後,Cらと被告らは,平成12年3月頃,ITX株式150億円分のうち,100億円分を簿外ファンドで引き受けることにより損失の解消に充てることなどを話し合った。その際,被告Y1は「ITX株は上場したら何倍にも値上がりするので,それでロスを埋めることができる」などと述べていた。
また,被告らとCらとの間では,ITX株式100億円分を簿外ファンドで引き受けることについて,売主である日商岩井には購入直前まで説明しないこと,引き受ける簿外ファンドの名称は「ITV」とすることなどが話し合われた。
(イ) その結果,平成12年3月17日にITVが組成され,GC社は,ITVのアドバイザーに就任して実質的な運用者となり,ITVに関する取引等に関与するようになった。GC社は,ITVの署名権者である。
イ ITX株式の購入
ところが,ITV名義で株式を購入することについて,日商岩井との間でトラブルが発生したため,Cは,ハワイ旅行中の被告Y1に対して,日商岩井の説得を依頼した。
その後,被告Y1の説得もあり,最終的に平成12年3月28日,ITVと日商岩井との間で100億円分のITX株式の売買が行われた。同100億円の送金は,被告Y1の指示により行われた。
(7) 新事業3社の発掘とその利用
被告らは,平成17年頃,Cらに対し,新事業3社を紹介し,「この会社の事業は絶対伸びます」,「この会社は使えます」などと話して,新事業3社が新規事業獲得に役立つとともに,損失解消にも利用できる会社であるとの認識を示しつつ,これらに対する投資を推奨した。
Cらは,被告らのかかる提案に基づき,NEO,ITVにおいて,将来的に新事業3社の株式の売却益を原告の簿外損失解消の引き当てとするため,新事業3社の株式を1株5万円から20万円程度で引き受けた。
(8) 平成18年売買への関与
ア GCNVとQPとの貸借関係の解消の必要性
GCNVとQPとの毎期末の資金移動が監査法人に発覚するおそれが生じてきたことを踏まえ,Cらは,平成17年12月から平成18年1月頃,同年3月までにQPのGCNVに対する240億円の債務を恒久的に弁済し,両者の取引関係を解消することにし,Y1らに対してその意向を伝えた。
Cらは,NEO及びITVが取得した新事業3社の株式をGCNVに売却する取引を利用して,GCNVとQP間の取引関係の解消を実行することとした。
イ 事業計画の作成等
Cらは,損失解消のために株式を購入するとの前提の下,QPにおける損失解消に必要な金額と必要な持ち株数から逆算して購入株価を決定した上,決定した株価に沿うような事業計画の作成を被告らに依頼した。
被告らは,新事業3社の代表取締役又は取締役でもあり,上記Cらの依頼を受けて事業計画の作成に関与した。被告らの指示等によって作成された事業計画は,会社の実態を全く反映しておらず,事業収益を過大に計上するものであったが,被告らが原告における事業投資委員会に出席し,実態を反映していない事業計画を示して収益が見込めると虚偽の説明をしたことから,後記ウのとおりNEOらの簿外ファンドは高額で株式を売却することができた。
被告らは,Cらとの打合せの席において「この3社合計で1000億くらいの事業価値になればいいんだ」,「数字ですから,いくらでも作れますよ」などと発言しており,事業計画が会社の実態を反映したものでないことを認識していた。
ウ 新事業3社の株式の売買(平成18年売買)
アルティスの株式は1株557万円から579万円,ヒューマラボの株式は1株1410万円から1437.5万円,ニュースシェフの株式は1株445万円という20倍から280倍に急騰した価額として算定され,同価格でNEO及びITVからGCNVに売却された。
エ 資金移動の担当
一連の上記スキームにおいては,被告Y1がITVの送金を行い,GC社の実務関係を担当していたBがNEO及びGCNVの送金を行っていたものであり,被告らはこれらの資金移動について認識していたというべきである。
これらの資金移動は,短期間における多額,多数の資金移動であったことから,Cらは,被告らに対し,図を示しながら「ここにいくら入るので,それを次にこちらに回します」などと取引内容を説明しており,このスキームが被告らから何の疑問,異議も出されることなく実現できたこと自体,損失の解消のためのスキームという認識を被告らが有していたことの証左である。
(9) 平成20年売買への関与
ア Cは,平成19年頃,自身が退任するまでには簿外損失の問題を片付けたいと考え,600億円程度を使って新事業3社を原告の子会社にし,簿外損失を解消したいと被告らに相談した。
イ 被告らは,これを受け,新事業3社の株式の価値を高く設定し,原告の経営陣等に同株式の購入を了解させるため,平成19年9月,原告の経営執行会議において行われた新事業3社の事業及び投資に関する集中討議に出席し,新事業3社の事業計画を説明した。
同時点において,既に開始していた新事業3社の事業はいずれも平成18年時点の計画を実現できている状況には到底なかったが,被告らは,営業利益を著しく高額に見積もり,実現可能性の低い事業計画の作成及びその説明を行った。
また,平成19年時点の事業計画は,平成20年にもほぼそのまま引き継がれることとなった。
ウ 平成20年3月に原告がNEO及びITVから新事業3社の株式を購入するなど,一連の損失解消スキームが実行された。この際の新事業3社の株価は,平成17年のNEO及びITVの増資引受価額の45倍から410倍にまで急騰し,2年前の平成18年売買の価額と比較しても,2倍近く上昇した。
この一連の取引により,GIM-O,LGT銀行ルートで隠匿された約600億円の原告の簿外損失が解消されることになり,「架空ののれん」として原告の連結貸借対照表に計上されるに至った。
エ 平成20年売買に係る一連の受送金取引のうち,被告らは,NEO及びITVからの送金を実施した。平成20年3月,NEOからQPに対して304億円もの融資名目での送金を行い,NEOからQPに対する融資残高は約663億円になったが,Bは,QPからの融資の返済を待つことなく,同年9月頃,NEOの解散手続を実行した。
NEOの業務執行組合員は,平成19年7月頃,被告らが運営するGCIケイマンからGurdonに変わっていたが,これは国税の調査を逃れるための形式的な変更にすぎず,実質的には被告らがNEOの運営を行っていたものであり,送金は,被告らによって行われた。
(10) 国税局の調査及び被告らの対応
平成18年10月から平成19年6月頃,原告が国税局から調査を受けた際,Cらは,GCNVと取引のあったQPやNEO等の実態が発覚しないよう被告らとその対応を協議し,NEOの有限責任組合員がTEAOであることを隠すため,国税局に対し,全てLGT銀行を通じて行っている取引であり,GCNVとQPとの取引もLGT銀行関連会社に対する短期資金運用であるから,詳細はLGT銀行に聞いてほしいと説明することにした。
また,被告らは,NEOやTEAOに関する書類の調査を避けるため,これらに関する書類をLGT銀行内で保管し,弁護士事務所やGC社事務所に送付しないようJに要請するとともに,GC社内部に保管していたNEOやITVに関する書類を隠匿した上で反面調査に応じた。Bは,EとGC社の事務所で書類を整理している際,GCNVとQPとの間の送金に関する伝票をEに示して,「ここにこんなのがあるんですよね。どうしましょうか。」などと発言し,これに対してEは,「これは良くないですね。でも隠すわけにはいかないし。税務当局にどう説明するか考えないといけませんね。」など述べるやりとりがあった。
以上の被告らの対応は,GCNVに対する反面調査によって原告の簿外損失が明らかとなることを避けるためのものであり,被告らは,Cらと意を通じて原告の損失隠しを行っていた。
(11) 報酬の受領等
ア 被告らは,平成18年5月頃までに,平成18年売買に基づく形式的な売却益を根拠として,NEOの業務執行組合員であるGCIケイマンにおいて受け取るべき成功報酬名目で原告の損失隠しに協力したことに対する報酬を得ようと考え,これを被告らが設立する新会社の預金口座で受け入れ,さらに被告ら3名がそれぞれ設立する新会社3社に被告Y1・5:被告Y2・3:B・2の割合で分配するスキームを検討した。
また,被告らは,前記(10)の東京国税局による原告への税務調査及びGC社への反面調査を契機として,NEOの業務執行組合員業務を継続することはリスクが高いと考え,遅くとも平成19年4月頃までには,NEOの業務執行組合員を他に移譲した上,NEOから支払われる報酬は移譲先において秘密裏に受領するスキームを検討した。
イ 被告Y2は,Dに対し,平成20年3月の株式売却に係る成功報酬に仮託して約23億円を要求し,Cは,原告の損失隠しに協力したことに対する報酬を支払うという趣旨で,被告Y2からの申出に応じることとした。
そして,被告らは,NEOの業務執行組合員をGurdonに委譲した上で,LGT銀行のNEO名義の口座からGurdon口座に12億5925万円を送金させ,これを英領ヴァージン諸島籍のE-Quality Services Ltd.(以下「E-Quality」という。)及びLGT銀行シンガポールのRらの協力を得て組成したユニットトラストであるPan Pacific Investment Unit Trust(以下「Pan Pacific」という。)を介して,リヒテンシュタイン公国において被告Y1が潜在的受益者となっているPerfect Sense財団,被告Y2が潜在的受益者となっているFine Balance財団及びBが潜在的受益者となっているGreen Lantern財団に,5:3:2の割合で移転した。
さらに,被告らは,平成18年売買に係るNEOの成功報酬が未収であったとして約9億5000万円を要求し,LGT銀行のTEAO名義の口座からNayland口座に対して9億5000万円を送金させ,これを英領ヴァージン諸島籍のInstage Ltd.(以下「Instage」という。)及びPan Pacificを介して被告ら及びBの上記各財団に移転した。
また,被告らは,上記報酬の移転を実体があるものと装うため,各団体間の業務委託契約書等を作成するなどし,上記スキームが単に資金移動のためのスキームであることを隠匿した。
(12) 被告らの不法行為責任
以上のとおり,被告らは,Cらによる原告の損失隠しを認識してこれに関与し,Cらと共謀の上,原告の金融資産に発生していた巨額の運用損失をケイマン諸島籍の簿外ファンドに移して当該損失を隠匿し,その後,当該簿外損失を解消するため,被告らが設立するなどした新事業3社の株式の価値を偽り,不当に高い価格で原告及び原告の出資するファンドに買い取らせ,原告において架空ののれんの計上とその償却などを内容とする違法な会計処理を行わせたというべきであるから,原告に対する不法行為責任を負う。
(被告Y1の主張)
以下のとおり,被告Y1には,原告における損失の簿外処理の状況,簿外損失の解消に関する認識はなく,いずれも適法な行為と認識していたものであるから,不法行為責任を負うことはない。
(1) 原告の簿外損失に係る相談について
被告Y1は,野村證券において原告の担当となって以降,Cと連絡をとることがあったが,それは時候の挨拶程度にすぎなかった。平成4年頃にCから原告が多額の損失を抱えていることを電話で伝えられたことはあったが,被告Y1は,損失は公表するべきであるとはっきり伝えた。原告の損失金額等を記載した本件メモはCの発言をただ書き留めただけものである。被告Y1は,その後,原告の損失が適正に処理されたものと考えており,原告が損失を抱えたままであるとの認識は有していなかった。
(2) LGT銀行ルートへの関与について
ア 被告Y1は,外国銀行に伝がなく,Cから外国銀行の紹介を依頼されたこともない。原告は,守秘義務を守ることで有名なスイスの銀行と取引を行っており,これら銀行との間で金融資産を期末に簿価で買い取ってもらい買い戻す飛ばし取引を行っていたのであるから,被告Y1よりも伝があった(実際にCはスイスのインターアライアンス銀行への打診も検討していた。)。原告の主張によっても,Cが被告Y1に損失のことを相談したのは平成4年頃の1回であって,CらがLGT銀行ルートの構築について被告Y1に相談することなど考えられない。
イ 六本木の飲食店での会食は,もともと被告Y1が被告Y2及びJとの食事を予定していたところに,偶然Cらが同席することとなったものである。被告Y1は,CらにJを紹介したが,同会食において融資の話は出ておらず,原告らが同会食後にLGT銀行に口座を開設し,預金を担保としてLGT銀行から貸付けを受けたのは,同会食の後に被告らの関与しないところでEらがJと直接交渉したものである。
この時点で被告らがLGT銀行に原告を紹介したのであれば,LGT銀行との契約に基づいて紹介料が発生するはずであるが,そのような話は一切なく,被告らがLGT銀行を原告に紹介したという事実はない。
ウ LGT銀行が原告の監査法人からの残高確認照会に対して預金口座内の資産に担保が設定されていることを記載しなかったことについて,被告Y1は何の関与もしておらず,相談を受けたこともない。
エ 被告Y1は,原告がLGT銀行から借入れをしたことを知らない。
(3) 新たな資金供給の方法の構築までの経緯について
被告らがCらに提案したのは,原告の新事業のための事業投資ファンドの創設であり,原告の損失隠しとは関係のないものであった。被告らは,Cらに対し,GIMへの投資やこれを担保にして融資を受けるという話をした事実はない。
その頃,被告Y1が原告の簿外損失の額を聞いた事実はない。
(4) GCNVルートへの関与について
ア GCNVによる事業投資ファンドの構想は,提携する上場企業の経営資源を,ベンチャー企業の経営者の柔軟な発想を取り入れつつ,活性化しようという試みであり,原告の損失隠しのために考案されたスキームではない。GCNVは,実際に有望な事業に投資をしており,投資内容は,定期的に原告の取締役会において報告され,原告からの依頼を受けて投資することもあった。被告らにはGVが原告において出資したファンドであるとの認識もなかった。
イ 被告らは,Cらから当初の余剰資金300億円をQPにおいて短期の資産運用をするように指示され,これをQPに送金したものであり,GCNVにおいて資金不足となった際にはQPから送金があったし,1年に1回は利息を付して返金がされていた。被告らは,これらが特金等の解消のために使われたことを知らない。
(5) GIM-Oルートへの関与について
ア 被告らがCらにGIMの購入を勧めたという事実はないし,GIM-Oの組成は全てCらで行ったことである。被告Y2は,リヒテンシュタイン侯爵家が保有する絵画をデジタルアーカイブ化するという事業構想について協議をするためにリヒテンシュタイン公国に出張したのであり,GIMを購入するという目的はなかった。
GIM-O,TEAO及びNEOの組成は,Cらからもう一つ事業投資ファンドを任せたいということで依頼されたものであり,GIM購入との関係については何も知らされておらず,CらにGIM-Oを原告の損失隠しに利用する思惑があることも知らなかった。
イ 被告Y1は,GIM-Oが事業投資ファンドであるNEOに資金を供給するためのファンドであるという認識しかなく,損失の分離のために資金を供給する目的があることは知らなかった。被告Y1はNEOが簿外ファンドであるという認識もなかった。被告らがCらと簿外ファンドに資金を流すなどということを相談した事実はない。被告Y1がJにGIM-Oの資産評価のことを確認した事実もない。
ウ NEO,GIM-O,TEAOを組成することはCらが決めており,被告らはそれを伝えられたにすぎない。被告らは,原告の損失隠しに利用するといった類のことは全く聞かされていなかった。
エ 被告Y2がTEAOやNEOの組成手続を行った事実はなく,GC社は,GIM-Oのアドバイザーでも実質的な運用者,署名権者でもない。被告らが送金を指示した事実はなく,被告らは,送金後の資金の使途を知らない。
(6) ITV及びITX株式の購入への関与について
ア 被告Y1がITX株式の取得を提案したのは,原告に対し,兄が勤める日商岩井の救済を依頼する趣旨であって,損失の解消に用いる意図はなかったし,そのような発言もしていない。また,ITV等の簿外ファンドで引き受けるという話も聞かされていなかった。
ITVの運用は,原告自身が行っており,また,ITVにおける買付けには送金指示書は不要であったことから,被告らの関与を要しなかった。GC社は,ITVのアドバイザーでも実質的な運用者,署名権者でもない。
イ 被告Y1がハワイに家族旅行中,原告が100億円分のITX株式を引き受けないとの話を聞き,Cと連絡をとり,約束どおり100億円分のITX株式を引き取るよう説得したところ,後にLGT銀行のクラスファンドで引き取ることとなった旨聞かされたものである。
(7) 新事業3社の発掘とその利用について
被告らは,Cらに新事業3社を推奨したことはない。原告の損失に対する認識もなく,損失解消に新事業3社を用いるという認識も全くなかった。NEOやITVで新事業3社の株式を引き受けた事実はあるが,これは,原告の新事業として見込みがあると考えられたため,他の投資先同様,株式を引き受けたものである。売却益を原告の簿外損失解消の引き当てとする意図は全くなかった。
(8) 平成18年売買への関与について
ア 被告らは,GCNVとQPとの貸借関係を解消する必要性があったということは聞かされていない。新事業3社の株式のGCNVによる買取りは,Cらから指示された買値で行ったものであり,被告らにはQPとの貸借関係を解消する意図はなかった。
イ 被告Y1は,Cらから事業計画の作成を依頼されたこともなく,作成したこともない。仮に他のメンバーにより事業計画が作成されていたとしても,Cら以外は損失隠しのことを知らず,原告が新事業3社の事業に力を入れていくものであると信じていたのであるから,新事業3社が高額な事業価値を有していると考えるのは自然であり,不当に高額な株価を付けたものではない。
被告Y1が新事業3社で1000億円くらいの事業価値になればよいなどという発言をした事実はない。また,この1000億円という金額は,Cから原告の損失隠しを知らないNにも伝達されているものであり,損失解消のための金額であるということはできない。
被告らが原告の損失隠しの事実を知っていたのであれば,そのために必要な株価を算出できる事業計画を作成することは容易にできたが,Eから何度も修正を指示されており,このことからも,被告らが損失について知らされていないことは明らかである。
ウ Sが管理していたケイマン諸島籍のファンドであるDynamic Dragons Ⅱ SPC Sub Fund H(以下「DDⅡ」という。)及びGlobal Target SPC Sub Fund H(以下「GT」という。)も,平成18年3月3日及び同月13日に,新事業3社の株式を平成18年売買とほぼ同額の単価で取得しており,新事業3社の株式の売買代金は異常な価格ではない。
エ 被告Y1は,新事業3社の株式売買に係る一連の送金を行っておらず,誰が送金を行ったかも分からない。Cらから送金に先立って説明を受けた事実もない。
(9) 平成20年売買への関与について
ア 被告らは,Cから,600億円程度を使って新事業3社を原告の子会社にして原告の簿外損失を解消したいと相談を受けたことはない。
イ 被告Y1は,原告の経営執行会議でニュースシェフのプレゼンテーションは行ったが,原告の社員であったNが作成した資料を読み上げただけであり,事業計画の説明は行っていない。また,Nといった原告の簿外損失のことを知らず,原告が新事業3社に力を入れていくと信じていた者が事業計画に携わっていたのであり,新事業3社の事業計画に実現可能性がないとはいえない。平成20年売買は,Cらによって行われたものであり,被告らは,その数値がどのように定められたか分からない。
ウ 平成20年売買は,Cらによって行われたものであり,被告らは,原告の簿外損失の解消,原告の連結貸借対照表の記載内容も知らない。
エ 被告Y1は,一連の送金の事実も,NEOの解散手続も知らない。
被告Y1は,国税局の調査の際,毎日調査官に押しかけられるのに苦しんだBの申出により,NEOの業務執行組合員をGurdonに譲ったと思っていた。被告Y1は,移譲後にNEOの業務を行ったことはなく,全てをGurdonに譲ったと信じていた。
(10) 国税局の調査及び被告らの対応について
被告Y1は,国税局の調査の際,CからNEOのことは言わないでくれと頼まれただけである。被告Y1は,原告の損失隠しのことを知らなかった。
被告Y1は,NEO及びTEAOに関する書類の送付先を替え,GC社に保管されていた書類を隠匿するなどの行為はしていない。
(11) 報酬の受領等について
被告Y1は,報酬の受領について検討したことはない。被告Y1は,E-QualityもInstageも知らず,複数のいわゆるタックス・ヘイブン国(地域)を経由して,最終的に財団において報酬を受領したことも知らない。被告Y1は,Kから,報酬をLGT銀行の財団に入れるということを聞いたにすぎない。受領した報酬は,事業投資ファンドの業務執行組合員としての正当な報酬であり,原告の損失隠しに協力した報酬ではない。
(被告Y2の主張)
被告Y2は,以下のとおり,違法な会計処理のための相談を受けたり,これに協力したりしたことはなく,過失によりこれに加担したこともない。原告が損失処理のために用いたスキームは,情を知らない被告らを利用することによっても十分実現可能なものであり,同スキームに関与していたことをもって被告らがスキームの真の意図を認識していたということはできない。原告は著名な上場会社なのであって,被告Y2は,適切な会計処理を当然に行っているものと考えていたから,不法行為責任を負うことはない。
(1) 原告の簿外損失に係る相談について
平成4年頃,Cが被告Y1に原告の簿外損失の額を打ち明けられ,公表すべきか否か,相談した事実は認定できない。
被告Y2が,被告Y1経由で,原告の簿外損失の説明を受けたという証拠も存在しない。
(2) LGT銀行ルートへの関与について
被告Y2は,六本木の飲食店での食事会のときまでCらと面識はなく,平成9年頃は海外で勤務していたところ,Cらから原告の簿外損失について聞かされたということはない。
六本木での食事会は,平成10年3月7日のことであったが,当時,被告Y2は,Cらとは初対面であり,Cらが初対面の人間のいる場で原告のトップシークレットである簿外の莫大な損失について話すとは考え難く,ましてやLGT銀行の紹介を頼んだはずもない。同会食の後,被告Y2は,GC社を設立するまでCらと接触しておらず,原告がLGT銀行において口座を開設し融資を受けたこと等について何ら知らされていないし,Jらから聞かされたこともない。原告とLGT銀行との関係については,GC社がLGT銀行とインターミディアリー契約を締結するまでは,関心を抱くことはなかった。
(3) 新たな資金供給方法の構築までの経緯について
被告らは,平成11年9月頃から,原告や原告の子会社について,様々な内容のプレゼンテーションや打合せを行ったが,これは,専ら内視鏡事業以外の主力事業の立ち上げ,有効に経営資源を活用するための手段の提案が目的であり,損失隠しのための資金供給とは無関係なものであって,アドバイスを求められたこともない。当時の提案資料にも,簿外ファンドに送金がされることが分かる内容の記載はなかった。
(4) GCNVルートへの関与について
ア GCNVは,専ら原告の新規事業の発掘及び創成を目的として組成されたものであり,資金を簿外ファンドに流すという目的はなかったし,少なくとも,被告Y2においてはそのことを認識せず,認識することもできなかった。
被告Y2は,GCNVの有限責任組合員であるGVは原告とは関係のない第三者であると認識しており,原告から資金拠出がされていることは全く知らなかった。実際,GVの組成契約の署名も外国人名であったし,外国ファンドであるGVのために資料は全て英文で作成していた。
イ 被告Y2は,QPが短期資金運用先であるとの認識を有していた。業務執行組合員が当面の余剰資金を運用に回すことは,通常の職務行為であって何ら不自然なことではない。
ウ Cらは,GCIケイマンとの合意に従ってQPへの送金を指示しており,GCIケイマンはこれに拘束された。被告らの協力がなくとも資金を供給するスキームを実行することができた。
エ 被告Y2は,QPへのデューディリジェンスが禁じられていたため,QPにおける具体的な資金の運用状況等を把握していなかった。QPからは毎年12月ないし1月に償還がされていたが,購入債券の償還期限が1年以内という短期運用の方針にも沿っていて不自然な点はなかった。決算期をまたいで行っていた貸付け及び償還は,期末における資料の邦訳や調査負担を回避するため,監査法人の許可を得て行っていた適法行為である。
被告Y2は,GCNVからの個々の具体的な送金行為は行っておらず,その詳細については把握していない。
(5) GIM-Oルートへの関与について
ア Y2が平成12年2月末頃から数日間リヒテンシュタイン公国を訪問した目的は,インターミディアリーとしてのLGT銀行への表敬,GC社がプレゼンテーションをした「デジタルアーカイブ事業」の説明,同事業に使用する可能性のある同国所蔵の美術品等の視察である。Y2は,この帰国途中,デジタルアーカイブ事業のため,アートロス社(The Art Loss)を訪問した。
守秘義務が極めて堅いLGT銀行が,当時既に顧客である原告との未決定の商談に,被告Y2を立ち会わせることは考え難く,被告Y2も,原告がLGT銀行から,GIM購入を拒否された席に同席した記憶はない。
なお,Y2は,GIM-Oの組成が決定したとき,GC社の預金口座開設のためにケイマン諸島を訪問しており,同席していない。
イ 被告らが簿外ファンドへの資金供給方法を相談されたことはなく,Cらの打合せにおいて,原告の損失やその隠匿についての話が出たこともない。被告らがGIMの購入を勧めたという事実もない。
GIM-Oを利用したスキームは,原告とLGT銀行のみで行うことが可能であり,原告は平成10年3月の時点でLGT銀行の預金を担保としてCFCに融資を受けるというスキームを実施済みであるから,被告らのアドバイス及び関与が必須であるということはできない。
TEAOの債券の評価方法及び監査法人に対する回答内容は,LGT銀行が同行名義で行う銀行業務の一環であり,被告らの要請いかんでその取扱いが変わることはない。またJにも,LGT銀行が本来できない対応をさせる権限はない。
ウ 被告Y2は,NEOやTEAOの組成が話し合われた場にはおらず,その詳細も聞かされていなかった。
TEAOの役員をCやDが務めていることからすると,GIM-Oの調査の過程でTEAOの存在が明らかになればNEOの存在も明らかにならざるを得ず,TEAOを介在させる理由はない。NEOの存在を知られないためにTEAOを介在させるという原告の主張(前記(原告の主張)(5)ウ)は不自然である。
エ 被告Y2は,GC社の預金口座を開設するためケイマン諸島にいたところ,被告Y1から電話でNEOとTEAOを組成すると聞かされ,現地の法律事務所に依頼してその手続をしたにすぎない。GIM-OはLGT銀行の関連会社が運用するクラスファンドであり,運用指示はIがJに伝えていた。NEOからQPへの送金は,NEOとTEAOとの間のQPへの送金に関する合意書に基づいて,Cらから指示がなされ,これに応じて短期資金運用として実行されたにすぎない。送金の事実をもって,原告の簿外損失及び簿外損失処理を被告らが認識していたことを推認することはできない。NEOからQPに送金された194億円のうち181億円が特金等の解消に充てられたことは知らない。
(6) ITVの組成及びITX株式の購入への関与について
被告Y2は,ITX株式が損失の解消に用いられるという認識も,ITVが簿外ファンドであるという認識もなかった。Cらが打合せ等において被告Y2にこれを伝えたという事実はない。
仮にITX株式100億円分を簿外ファンドで引き受けることについて,売主である日商岩井には購入直前まで説明しないとの方針が被告らとの間で共有されていれば,当然に日商岩井からの反発を予想して対応を検討しているはずであるが,実際にはハワイに旅行中の被告Y1と協議するなど場当たり的な対応をしており,このことは事前に何ら協議がなかったことを物語るというべきである。
(7) 新事業3社の発掘とその利用について
GCIケイマンは,新事業3社を他の投資先と同程度のものと認識していたが,原告から新事業3社に力を入れたい旨の申入れがあったのであり,被告らが,新事業3社を勧めた事実はない。Cらから,これらを簿外損失に利用するという話はなかった。NEO及びITVが新事業3社の株式を取得したのは,新事業3社を有望なベンチャー企業と評価したからである。
(8) 平成18年売買への関与について
ア 被告Y2は,新事業3社株式の売買代金の移動・供給を利用して,GCNVとQPとの間の資金関係を断ち切ることを説明されたことはない。各資金移動は,貸借関係解消の目的を説明しなくとも,被告らに実行させることが可能であり,Cらが被告らにこれらを説明する必要はなかった。そもそも平成18年売買による原告の損失解消スキームは,専ら原告が発案,構築したものであるが,各送金は,個々の送金の集合にすぎず,何ら複雑なものではない。被告らがそのような送金に疑問を呈さなかったからといって,被告らが平成18年売買の真の目的を認識していたと推認することはできない。
イ 被告らは,Cらの指示に基づき,新事業3社の事業計画を原告の新事業としての成長を図る指標・目標,かつ原告の決意の表れと認識して作成した。新事業3社の事業計画の内容は将来の予想値,目標値であり,その内容が「虚偽」ということはできない。この事業計画は,原告による人,モノ,金のバックアップが想定されており(現に平成17年には原告から人材が複数名出向していた),被告らは,原告の全面的な支援により事業計画を達成できると考えていた。この事業計画は,原告の簿外損失を知らない原告の従業員も関与しており,事業計画の内容から被告らが平成18年売買の真の目的を認識していたと推認することはできない。
被告らが新事業3社で1000億円くらいの事業価値になればよいなどという発言をした事実はない。
ウ 平成18年売買の株価は,原告が,GCNVとQPの貸借関係解消に必要な金額から逆算して決定したものである。平成18年売買の株価から,新事業3社株式の売買が原告の簿外損失処理に利用されたと認識できた者はいないから,被告らが平成18年売買の真の目的を認識していたと推認することはできない。
エ NEOからQPへの送金は,Cらの指示に基づく短期資金運用である。
(9) 平成20年売買への関与について
ア 被告Y2は,新事業3社を子会社化し,原告の簿外損失を解消する目的についての説明は受けていない。
イ 平成19年9月に行った新事業3社の状況説明は,原告に対して新事業3社への更なる注力を求めるものであった。被告らは,平成20年の新事業3社の事業計画の作成に関与していない。
ウ 平成20年売買の,新事業3社株式の売買価格(株価)は,専ら原告が決定した。新事業3社の企業価値の算定に当たってその基礎資料となった事業内容には虚偽の記載はない。平成20年3月に新事業3社を原告の子会社とすることは,専ら原告内部で決議したことである。平成20年売買締結の交渉を行い,売買契約書に署名したのはDとKである。被告Y2は,新事業3社の取締役として譲渡制限株式の譲渡承認を行った以外には平成20年売買に関与しておらず,Dその他原告側から,一切の指示も受けていない。原告の簿外損失処理を知らないKも,平成20年売買の株価で新事業3社株式の売買契約を締結しており,売買契約の締結自体やその内容いかんは,原告の簿外損失処理に関する通謀の存在を推認させる事実とはなり得ない。
エ 平成20年売買の売買代金の送金を行ったのはBであるが,被告Y2はこの事実を知らなかった。この送金は,送金指示書への署名権者がBのままになっていたことによるものであり,ITVからの出金,NEOからの出金のみであって,損失隠しを解消するスキームの説明をしなくとも,原告側が指示をするだけで実行できるものであった。
被告らは,①原告からNEOの出資者がTEAO,すなわち原告であることを税務調査において明かさないよう強く指示されており,出資者の説明をすることができなかったため,国税局から,約20億円の税金を,本来の出資者に代わってGC社に課税する旨を伝えられ,板挟み状態にあったこと,②GCNVとNEO間の株式売買は,GCIケイマンがいずれもの業務執行組合員として関与することが利益相反取引に該当するが,守秘義務の制約から出資者や監査法人からの責任追及を回避できない可能性があったことから,このような状態を脱却すべく,平成19年頃,NEOの業務執行組合員を交代することとした。
(10) 国税局への対応について
被告Y2は税務調査への対応をほとんど行っておらず,その詳細を認識していない。QPとの資金移動については,GCNVの監査の過程で明らかにしており,QPとの関係を隠そうとしたという事実はない。
(11) 報酬の受領及びそのスキームについて
株式の売却益を基礎に算定された成功報酬は,原告内の適正な手続を経て決定された株式売買という正当な根拠に基づく報酬であって,名目的な報酬ではなく,被告らは報酬が受領できるものと認識していた。
また,報酬受領のスキームは,納税を繰り延べるスキームとしてLGT銀行に依頼して構築してもらったものであり,LGT銀行が適法と判断して被告らに提案したものであって,隠匿の目的はなかった。仮に隠匿目的であれば,LGT銀行のみでなく複数の金融機関を経由したり,送金以外の手段を使うなどして複雑にしたはずであり,本件で使用したスキームからは,そのような目的はおよそうかがわれない。
(12) その他Cらとの共謀の事実を否定する事情について
ア QPに対する資金運用に関する合意書の存在
QPへの資金供給について原告が指示をし,GCIケイマンを免責するなどの内容の合意書が作成されているところ,これは,GCIケイマンがQPへの送金に関して債務不履行があった場合を懸念して作成されたものである。仮に原告との間で簿外損失隠匿の認識が共有されていたのであれば,QPへの送金の重要性を認識しているはずのGCIケイマンを合意書によって拘束する必要はないし,GCIケイマンも原告からの損害賠償を懸念する必要はない。
イ QPにのみ資金送金を行っていたこと
原告は,QP以外にも損失隠しに使用する簿外ファンドを複数保有していたが,客観的には,GCNV及びNEOからQPへの送金しか存在していない。仮に被告らとの間で簿外損失隠匿の認識が共有されていたのであれば,資金需要のあるファンドに直接送金するほうが簡便であるが,原告は専らQPへの送金を指示した。
ITVからされる送金も,いったんNEOに送金した上でQPに送金されており,直接の送金はされていない。仮に被告らとの間で共謀があったのであれば,直接に送金することが簡便であるが,それがされなかったのは,被告らとの共謀がなく,原告がNEOの送金指示権限しか有していなかったためと推測される。
ウ ファンドの名称
GCNV及びGCIケイマンの名称の「GC」は被告らの会社であるGC社の略称であるところ,仮に被告らが簿外損失の隠匿等に関与していたのであれば,被告らの関与を推知することができるような名称にはしない。
また,被告らは,GCIケイマンをGCI社の子会社にしたり,GCNVの業務執行組合員であるGCIケイマンの役員に就任し,原告の取締役会等において名前が出る可能性のある立場に就任し続けるなど,簿外損失の隠匿等に関する認識を有しているならば通常とらない行動をとっている。
エ Pらとの比較
本件においては,10年以上にわたって長期間簿外損失の隠匿等が行われており,このような長期に渡って被告らがこれに関与していたのであれば客観的な物証等があって然るべきであり,実際,被告らとは別に関与したとして起訴されたPについては,多数の物証が存在しているが,被告らについてそのようなものは一切見つかっていない。このこと自体,被告らの関与がなかったことを裏付けるというべきである。
オ Cらが,GC社との打合せにおいて明確に簿外損失の話をしたことがないこと
Cらは,GC社との打合せにおいて,原告の簿外損失について具体的な話をしたくないとの認識を有しており,簿外損失の意味で「含み損」と言うなど婉曲的な表現を用いてそれとわからないように話をしたことはあったものの,被告らに対して,直接的に簿外損失の存在に言及したことはなかった。また,Cを除くD,E,Iらは,Cから被告Y1に対して話をしているという認識を有しており,直接に被告Y2に対して損失の話をしたことはなかった。
そうすると,仮にCらが被告らは損失処理のスキーム等について認識しているものと考えていたとしても,被告らにおいてこれを認識できたということはできない。
カ 被告らに動機がないこと
被告らは,GC社の設立前からそうそうたるキャリアを築いてきており,これを無にしてまで犯罪行為に関与する動機がない。また,このようなキャリアを活かしていくらでも活躍の場があったのであり,原告からの報酬を当てにするということもなかった。
2  原告の損害
(1)  新事業3社の株式の購入に係る損害(主位的請求)572億9540万円
(原告の主張)
原告は,前記1(原告の主張)(8),(9)のとおり,被告らの不法行為により,本来であれば取得する必要のない新事業3社の株式を不当に高い価格で取得することとなったところ,以下のとおり,新事業3社の株式の取得価格と売買代金の差額の合計額が原告に生じた損害というべきである。
なお,後記アの平成18年売買に係る株式は,GCNVにおいて取得したものであるが,GCNVの出資は全額原告が行っていることからすると,GCNVにおいて支出した株式取得代金も原告の拠出によるものであって原告の損害となる。そうでなくとも,GCNVは,平成19年9月に解散しており,これに伴い,原告は,GCNVが取得した新事業3社の株式を引き取っており,その損害は,原告自身の損害として顕在化したというべきである。
ア 平成18年売買(GCNVによる取得)
(ア) アルティス株式
売買代金44億0040万円(579万円×760株)-取得価格3800万円(5万円×760株)=43億6240万円
(イ) ヒューマラボ株式
売買代金46億円(1437万5000円×320株)-取得価格1600万円(5万円×320株)=45億8400万円
(ウ) ニュースシェフ株式
売買代金17億8000万円(445万円×400株)-取得価格8000万円(20万円×400株)=17億円
(エ) 小計 106億4640万円
イ 平成20年売買(原告による取得)
(ア) アルティス株式
売買代金181億5000万円(1100万円×1650株)-取得価格8250万円(5万円×1650株)=180億6750万円
(イ) ヒューマラボ株式
売買代金137億3500万円(2050万円×670株)-取得価格3350万円(5万円×670株)=137億0150万円
(ウ) ニュースシェフ株式
売買代金152億円(950万円×1600株)-取得価格3億2000万円(20万円×1600株)=148億8000万円
(エ) 小計 466億4900万円
ウ 損害合計 572億9540万円
(被告らの主張)
ア 平成18年売買に係る売買代金を支払ったのはGCNVであり,原告ではないから,原告の損害であるということはできない。
仮に資金の拠出元を実質的な当事者とみるのであれば,NEOやITVも実質的には原告とみるべきであり,平成18年売買及び平成20年売買に係る売買代金の支払は,実質的には原告内での資金移動にすぎないから,原告に損害はないというべきである。
イ 平成18年売買及び平成20年売買に係る売買代金は,原告自身の判断によって決定されたものであり,原告が合理的な額として納得した金額であるから,そもそも当該額の支出は原告の損害に該当しない。また,当該額を原告が損害として主張することは禁反言である。
そもそも,売買価格はあくまで契約当事者が双方の思惑等に基づいて決定するものであり,その価格が「本来の価値」というべきであって,差額というものは観念できないし,ベンチャー企業はその特性から将来の成長性を見込んで株式価値が算定されるものであり,結果として価値上昇につながらなかったからといって遡って「本来の価値」がなかったということにはならないから,「本来の価値」との比較は無意味である。
そして,このことは,新事業3社に客観的な成長可能性がある限り,売買の目的が不適切な会計処理であったとしても変わらない。
ウ NEOに入金された新事業3社の株式代金は,NEO,QPを通じてLGT銀行に返済されたほか,TEAOに返還されてGIM-Oの償還資金となっているところ,この還流は当初から予定されていたことであり,当然,新事業3社の株式の売買と因果関係があるというべきであって,当事者間の衡平の見地から見ても売買代金の損失を補填しているものとみるべきである。
したがって,上記還流された金額は,損益相殺の対象となるというべきである。
(原告の反論)
ア 平成18年売買及び平成20年売買は,原告をして不当に高い価格で株式を取得させたということであり,その結果,原告において架空ののれんを計上しているのであるから,同行為それ自体から発生した損害として完結しており,還流しているということはない。
イ 原告の取締役会が新事業3社の株式の売買の真の目的が損失の解消にあると知っていたならば当然承認しなかったというべきであるから,被告らは,原告の意に反して新事業3社の株式を異常に高額な代金で原告に買い取らせ,その代金を支出させたのであって,同時点において購入代金と実際の株式価値との差額相当額の損害が発生したというべきである。実際,その後ほどなくして監査法人の指摘による原告における新事業3社の株式の帳簿価額は減損処理され,損失が顕在化した。
原告の資金が還流したとの指摘は,損害の有無の問題ではなく,損益相殺の問題として処理されるべきものである。
ウ 違法行為による会社の損害額の算定に当たり,損益相殺の対象となるべき利益は,当該違法行為と相当因果関係のある利益であるとともに,不法行為法の趣旨及び当事者間の衡平の観念に照らし,当該違法行為による会社の損害を直接に填補する目的ないし機能を有する利益であることを要するとされている。
GCNVから支出された金員は,QPから返金されている。しかしながら,QPのGCNVに対する返金は,GCNVの貸付債権の弁済としてされたものであり,上記原告の損失を補填する役割を有しない。また,原告から支出された金員は,ITV,NEO等のファンドを通じて最終的に原告へ送金されている。しかしながら,これらも預金の担保解除による払戻,出資金の返還であって,損失を補填する機能を有していない。
したがって,原告にとって株式売買代金の損害は,株式価値が増加するか又は株式売買の取消しによって代金が返金されない限り補填されることはない。
(2)  罰金及び課徴金(主位的請求) 7億1986万円
(原告の主張)
前記第2の2(8),同(9)のとおり,被告らの不法行為によって原告は罰金7億円及び課徴金1986万円の支払を余儀なくされたから,これらは被告らの不法行為によって原告に生じた損害である。
(被告らの主張)
ア 新事業3社の株式の売買における株価評価等の問題と,有価証券報告書の記載をどうするかという問題は,別個に考えるべきところ,有価証券報告書は,専ら原告内部で作成されたものであって,被告らはこれに一切関与していない。
したがって,被告らは,罰金及び課徴金を損害とする不法行為には無関係である。
イ 罰金は刑事罰の一つであり,その目的は犯罪の特別予防又は応報刑として課されるものであるから,これを他人に転嫁することができるとすると,刑罰としての意義が失われる。また,法人に科される罰金刑は,その性質上,当該法人において負担すべきもので,個人に転嫁されることを想定していない。
課徴金についても同様に,金融商品取引法違反をした法人が負担することを前提としたものであり,個人への求償を想定していない(平成24年法改正により新設された同法172条の12「特定関与者」に該当する場合に課徴金を課されることとなったが,同制度上も,個人への求償は想定されていない。)。
ウ 本件は原告及びその役員らが自ら引き起こした犯罪であり,これらの者は刑事訴訟において事実を争うことなく罰金刑に処せられ,罰金を納付した。原告自らの意思によって行ったものである以上,その結果である罰金を被告らに求償することは,損害の「公平な」負担という不法行為法の趣旨にもとるものである。
エ 課徴金は,平成23年4月1日から同年6月30日までの四半期に係る有価証券報告書を対象としているところ,そもそも原告の主張する被告らの不法行為の対象外である。
(3)  ファンド管理費用等(予備的請求) 117億6338万4926円
(原告の主張)
ア GCIケイマンに対する支払
前記第2の2(6)アのとおり,原告は,平成12年から平成19年までの間に,GCIケイマンに対し,直接又はGCNV若しくはNEOを経由して,以下のとおりの名目で支払を行っているところ,これら金員は,被告らの不法行為によって原告が不当に支出させられたものであって,原告の損害となる。
(ア) GCNVからの支払
a ファンド管理手数料 23億5139万1774円
GCNVは,業務執行組合員であるGCIケイマンに対してファンド管理手数料を支払ったところ,前記1(原告の主張)のとおり,GCNVは,違法な会計処理を行うために組成され,QPやCFC等簿外損失を抱えるファンドに資金を供給するためのいわば「導管」にすぎず,本来は必要のなかったものであるから,これらの維持管理に要した管理手数料は,原告において不当に支出されたものであって,損害となるというべきである。
b 出資返還金(一部解約) 2000万0000円
平成18年3月,GCNVの組成契約が一部解約されたことに伴い,GCIケイマンの出資額1億円の2割に相当する2000万円が支払われているところ,GCNV組成時点において,GCIケイマンの出資額は当初管理手数料と相殺されており,実際の支払はなかった上,当初管理手数料についても,上記a同様,損失隠し及び解消に用いられる「導管」たるGCNVについての実体のない支払であることから,出資金返還額は損害となる。
c 成功報酬(フェニックス社債売却) 1億6418万8471円
平成12年10月,GCNVがGVに対しITX株式への転換オプション付きフェニックス社債を売却した際,売却益が発生したとして成功報酬が支払われているところ,そもそも,GCNVがGVにフェニックス社債を譲渡したのは,QPへの送金をしていたことによる資金不足に陥ったことが原因であり,GCNVが保有する換価可能な資産を原告が出資するGVに売却して資金をGCNVに流したというものであって,実質的に成功報酬が発生するような取引ではなかった。
したがって,上記成功報酬も原告において支払の必要のない費用であって,損害である。
d 解約金 7億1506万5413円
平成19年10月頃,GCNVは,GCIケイマンに対し,解約金として上記金額を支払っているところ,GCNV組成契約には解約違約金の合意がなかった上,GCNVは当初10年間の継続を予定していたが,平成18年にのれんの計上を行ったことに加え,平成19年に持分法の適用により投資規模の大きいファンドが原告の連結決算対象となったことから,GCNVにおいて資産を保有する必要がなくなったために解消されており,解消自体が損失解消スキームの進行に伴って生じた事由である。
また,解約清算時,GCNVの資産の時価評価を基礎として解約金が算定されているところ,時価は平成18年売買で発生した見かけ上のキャピタルゲインによって高額に算定されていたのであるから,いずれも実体のない支払であった。
したがって,GCNVから支払われた解約金は実体のない支払であって,損害となる。
(イ) 原告からの支払 8億8030万7568円
原告は,GCNVが支払った上記(ア)dで不足する解約金として,上記額を支払っているところ,これは,上記(ア)d同様,損害となるというべきである。また,上記額には,解約清算金のほか,新事業3社の株式の売却に係る成功報酬が含まれているところ,前記(1)(原告の主張)のとおり,売却益は実体のないものである以上,これを基礎とする成功報酬も実体のないものであるし,これらの支払は,実質的には原告の損失隠し及び解消への協力報酬であったから,原告において支出不要であった費用であり,原告の損害となるというべきである。
(ウ) NEOからの支払 12億0925万4402円
原告が実質的に出資するファンドであるNEOは,被告らの運営するGCIケイマンに対し,ファンド管理手数料として12億8768万5775円を支払い,手数料返金分として7843万1373円を受領しているところ,その差額がファンド管理手数料として支払われた総額である。
そして,前記(ア)aのGCNVと同様,NEOも違法な会計処理を行うため,QPやCFC等簿外損失を抱えるファンドに資金を供給するためのいわば「導管」として,また,GCNVにおいて発掘した有望なベンチャー企業株のキャピタルゲインを得て損失の解消に充てようという目的の下,組成され運用されてきたものであって,本来は原告にとって必要のなかったものであるから,これらの維持管理に要した管理手数料は,原告から不当に支出されたものであって,原告の損害となる。
イ Gurdonに対する支払
前記第2の2(6)イのとおり,原告は,Gurdonに対し,報酬名目で12億5925万円を支払ったが,前記1(原告の主張)(11)のとおり,同金銭は複雑なスキームを経て被告らに支払われた。同支払の趣旨は,被告らが損失処理スキームに協力したことへの対価であり,本来原告において負担すべきでなかった費用である。
ウ LGT銀行及びその関連会社に対する支払
前記第2の2(6)ウのとおり,原告は,GIM-Oのファンド管理手数料として40億9475万9126円を,ITVのファンド管理手数料として1億1916万8172円をLGT銀行及びその関連会社に支払った。
これらはいずれも損失処理スキームを目的として組成されたファンドに支払われたものであって,本来原告において負担すべきでなかった費用である。
エ Naylandへの支払
前記第2の2(6)エのとおり,原告は,TEAOを通じて,Naylandに対し9億5000万円を支払った。同支払も,被告らが損失処理スキームに協力したことへの対価として支払われたものであり,本来原告において負担すべきでなかった費用である。
(被告らの主張)
ア GCNVに関する支払について
(ア) GCNVのファンド管理手数料について
ファンド管理手数料は,適法,有効な契約又は合意に基づいて支払われた管理手数料であり,その額も相場より低く設定されたものである。
契約上は投資活動の内容いかんにかかわらず管理手数料を支払う定めとなっているものであるから,当然に支払われるべきものである。業務の内容を見ても,GCIケイマンは,GCNVの業務執行組合員として,投資案件について,100社ほど調査,検討を行い,実際に平成17年頃までに30社以上の会社に投資を行うなど,GCNVにおける実質的な活動を行っていたのであるから,管理手数料の対価に相当する活動をしており,ファンド管理手数料が原告の損害に当たることはない。
(イ) GCNVの出資金返還について
GCNVは,上記のとおり,実際に正当な活動を行っていたのであるから,当初契約期間に満たない解約に関して出資金の返還をしたことは当然のことであり,これをもって原告の損害であるということはできない。
(ウ) GCNVの成功報酬について
ITX株式への転換オプション付きフェニックス社債の取得について,ITX株式会社は,日商岩井のIT部門を独立させた会社であり,帝人株式会社,株式会社船井総合研究所といった名だたる企業が株式の引き受けを行い,平成13年12月にはナスダック・ジャパン市場に上場するなど,その株式は高く評価され得る会社であった。
したがって,上記社債の譲渡益は正当なものであり,成功報酬は,原告の簿外損失処理の有無にかかわらず発生するものであるから,原告の損害であるということはできない。
(エ) GCNVの解約金について
GCNVの解約金は,GCNVの組成契約上解約権を留保する条項がないにもかかわらず原告が一方的にGCNVを解散したことから,その協議において原告が違約金を支払う旨の合意が成立して支払われることとなったものであり,正当な根拠のある支払であるから,原告の損害であるということはできない。
原告の社内手続を経て決定された合意を反故にする主張は,禁反言ないし信義則違反である。
(オ) 上記(ア)から(エ)の支払については,本件刑事訴訟においても犯罪収益とは認識されず,没収対象となっていない。
(カ) 予備的主張
仮に上記(ア)ないし(エ)の支払が損害となるとしても,前記のとおり,その一部はGCIケイマンの提供したサービスの対価として支払われたものであって,全額が損害となることはない。
イ NEOに関する支払について
(ア) NEOの管理手数料
NEOの管理手数料は,適法,有効な組成契約に基づく正当な支払である。また,その額もGCNVよりさらに低廉に設定されており,原告の簿外損失処理に協力したことで優遇されたという事情もないから,純粋な管理手数料である。したがって,原告の簿外損失処理の有無にかかわらず当然に発生するものであり,損害とはならない。
NEOは,ベンチャー企業,具体的には,アルティスやヒューマラボのほか,ETハーベスト,高柳植物研究所等に対して投資を行っており,実際に新事業への投資を行っているのであるから,「導管」ではなく,手数料を支払う根拠を欠くということはできない。
(イ) Gurdonに対する報酬の支払について
被告Y2は,Cらに対して平成20年売買に係る報酬を請求したことはなく,GurdonにNEOの業務執行組合員を委譲後は,請求できるとも思っていなかった。
報酬の支払先はGurdonであり,その支払が損害に該当するのであれば,その負担者はGurdonであり,被告らとGurdonの間に共謀はないから,被告らの負担すべき損害ではない。
なお,原告はGurdonへの支払の根拠がないと主張するが,平成20年売買は当事者の意思の合致により成立したものであり,有効な売買契約に基づいて成功報酬を算定することは合理的であるから,これに基づいて算定される報酬も正当な報酬である。
(ウ) 予備的主張
仮に上記(ア)ないし(イ)が損害になるとしても,前記のとおり,その一部はGCIケイマンの提供したサービスの対価として支払われたものであって,全額が損害となることはない。
ウ GIM-O,ITVに係るLGT銀行への支払について
(ア) GIM-Oは原告自身の判断で選択した投資先であり,実際に投資活動も行われていたのであるから,原告にとって不必要なものであるとはいえない上,GIM-Oの組成,管理に要した費用はGIM-Oとの契約に基づいて支払われる費用であるから,原告の簿外損失処理の有無にかかわらず発生する。したがって,これらは損害とはならない。
また,GIM-Oへの支払が何ら運用がされないにもかかわらず支払われたものであることを理由として損害であると主張するのであれば,損害賠償の請求先はGIM-Oであって,被告らではない。
(イ) ITVについても同様に,原告において日商岩井との間でITX株式を引き受けるという目的の下で組成されたファンドであり,また,投資活動も実際に行っていたのであって,契約に基づく管理手数料等は実体のある費用であって,損害とはならない。
また,ITVが運用を行っていないことを理由として損害であると主張するのであれば,損害賠償の相手方は,ITVを運用するLGT銀行のケイマン諸島籍法人であるLGT Bank in Liechtenstein(Cayman)Ltd.(以下「LGTケイマン」という。)となるはずである。
(ウ) 予備的主張
GIM-Oは現に運用を行っており,一部はNEOにおいて実際に投資に用いられ,一部はITX株式の取得のためにITVにおいて用いられ,一部はQPにおいて原告のために用いられていた。また,ITVにおいても実際に原告のために運用が行われていた。
よって,上記(ア)又は(イ)に仮に原告の損害が含まれているとしても,全額が損害となることはない。
エ Naylandへの支払について
(ア) その趣旨は,未払であった平成18年売買の報酬であるところ,Gurdonが既に閉鎖され,Gurdonを通じての受領ができなくなったためにNaylandを介して支払ったにすぎない。その成功報酬は正当なものであり,損害とはならない。
原告は,Jへの協力報酬として被告らがCらに支払を求めたと主張するが,Jは簿外損失の認識がなく,単に銀行業務を行っていたにすぎないのであるから,その報酬として9億5000万円もの金額を要求したとは考え難い。
(イ) 予備的主張
平成18年売買に係る報酬は,原告自らが決定した価格に基づいて算定されたものであり,正当な報酬であるから,仮に一部損害が含まれているとしても全額が損害となることはない。
3  信義則違反又は禁反言
(被告らの主張)
原告は,新事業3社に関する情報提供を受け,これを精査して投資判断をすることが可能な状態で,自らの判断により投資を行ったものである。そうすると,新事業3社の株式の売買に関しては,たとえ経営陣が交代したとしても,同一法人格である原告から被告らに対して損害賠償請求を行うことは,禁反言の原則又は信義則に反し,許されない。
(原告の主張)
被告Y2は,原告が自ら株価を決定したかのように主張するが,これは被告らとCらによって欺かれた結果の意思決定にすぎないから,損害賠償請求が信義則違反ないし禁反言ということにはならない。
4  過失相殺
(被告らの主張)
本件における損失の隠匿及び解消を考案し,実行したのは,代表取締役であったHを始めとする原告内部の者であり,原告の取締役会の役員らが通常の注意をしていれば気付くことができた。実際,Tが原告の代表取締役に就任した際には,これに気付き,告発を行っている。にもかかわらず,原告は,一部の者に過度な権限行使を許し,監視,監督を十分に行っていなかった。
原告の取締役会及び経営執行会議は,平成18年売買及び平成20年売買について十分な調査,検討を行うことなく新事業3社の株式を購入したのであるから,新事業3社の株式の購入に係る損害の発生について原告の過失は極めて大きく,過失相殺がされるべきである。
損害として主張されているファンド管理手数料等についても,事業投資ファンドの組成,ファンドの管理手数料等の支払に関して,Cらの提案内容を吟味することなく承諾し,一部の者にその運用を任せきりにしていたという過失があり,また,罰金及び課徴金についても,原告内部において重要事項の虚偽記載を訂正する機会があったにもかかわらず,適切な検討,監査を怠った過失があり,過失相殺がされるべきである。
(原告の主張)
被告らは,Cらと協力し,契約書の作成や第三者からの株価評価の取得等,取締役らにおいて容易には看破し得ない方法で簿外損失を隠匿,解消するスキームを実行していたのであり,原告における誤った意思決定を誘引した立場にあるというべきであるから,損害の公平な分配という過失相殺の趣旨に反する。
また,過失相殺を認めると,原告から流出した資金により利益を得ている被告らに不当な利益を保持させる結論となり,不合理である。
よって,本件について過失相殺はされるべきではない。
5  消滅時効
(被告らの主張)
原告による簿外損失の隠匿及びその処理は,いずれも,F,G及びHらの代表者の指示の下,C,D及びEら取締役やIといった財務担当者により立案,実行されたものであるところ,原告の主張によっても,新事業3社の株式の購入に係る損害(前記2(1))は遅くとも平成20年3月26日に,ファンド管理手数料等の損害(前記2(3))は遅くとも同年12月19日までに生じている。
そうすると,原告は,上記損害について,各日以降請求することが可能であったにもかかわらず,これを行わないまま,上記日から3年を経過した平成23年3月26日又は同年12月19日をもって民法724条所定の時効期間が経過した。
被告Y2は,平成27年5月27日,消滅時効援用の意思表示をし,同日,相手方に到達した。被告Y1は,同年8月7日,消滅時効援用の意思表示をし,同日,相手方に到達した。
よって,本件請求のうち,上記損害に係る部分は,時効により消滅した。
(原告の主張)
法人の代表者が加害者に加担して法人に対して共同不法行為を行った場合には,不法行為を行った代表者による損害賠償請求権の行使を現実に期待することは困難であるから,単に同代表者が「損害及び加害者」を知ったのみでは足りず,法人の利益を正当に保持する権限のある上記代表者以外の役員又は従業員において損害賠償請求権を行使することが可能な程度に「損害及び加害者」を知った時から時効期間が進行すると解するべきである。
本件では,損失の隠匿等に関与しなかった役員は,平成23年12月6日に原告が設置した第三者委員会の調査報告が公表されるまで本件損失の隠匿等の概要及びこれに関与した者を認識することができなかったから,同日が時効の起算点となる。原告は,同日から3年以内に訴訟を提起しており,消滅時効は成立しない。
第4  争点に対する判断
1  認定事実
前記第2の2の前提事実,証拠(各項掲記のもの(枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  野村證券在職中の被告Y1と原告との関係
ア 被告Y1は,昭和62年5月頃から原告の営業担当となり,Cから経常利益が足りないので100億円の原資を使って6億円の利益を上げてほしいと頼まれ,1週間か10日間程度で依頼どおり6億円の利益を出したこと,その後,Cから,被告Y1の前任者が約100億円の損失を出し,その損失を商品ごと子会社に移しているので,損失を取り返してほしいと頼まれ,80億円の利益を上げたこと,更にその後の同年10月19日に発生した世界的な株価の大暴落(いわゆるブラックマンデー)により,原告に約300億円の損失が生じたため,ワラントを100億円購入するなどして400億円の利益を出したことから,被告Y1は,Cをはじめ原告の幹部から大きな信頼を得るようになった。(甲153,154)
昭和62年まで原告の決算日は10月31日であったところ,Cは,Fからブラックマンデーによる損失を決算上表に出さないように指示され,含み損を抱えた株式等を海外の証券会社に簿価で引き取ってもらい,その後,決算期が経過した後に利息を付けて原告が買い戻す対応をした。(甲37,136)
イ 原告は,前記第2の2(4)アのとおり,平成4年3月期末頃には約480億円の金融資産の含み損失を抱えるようになったため,Cは,その頃,浜松支店で勤務していた被告Y1と連絡を取り,被告Y1に対し,原告の金融資産に含み損があることを打ち明け,その処理の方策を相談した。
被告Y1は,その際,メモ用紙に,原告のファンドごとの含み損等を一覧表にし,「実現損 合計 250〓」(数字の横の〓は,「億」の意である。以下同じ。),「含み損 合計 150〓」,「※含み損のうち,プロパーの20〓のぞいた130〓は継続」,「プロパーの実現損100〓のうち,60〓は投資有証の益出しで消す。残り40〓はそのまま損出しする。」,「前期末含み損 200〓 今期増加分 200〓」,「過去からの持ち越し分は表に出したくない」,「今期経常予想 150〓→ 最終的に100〓はキープしたい」,「公認会計士へのスタンス 事前に相談を持ちかければすべてNO!であろう。・・・すべての処理をやってしまってから(期をこえてから),その根拠を説明し了解を得るしかないし,過去もすべてそのスタイルでやってきている。」,「CITI T/Bの特金について 帳簿にのせていない。(存在自体を明らかにしていない)」,「12月末 実現損250〓 評価損150〓 評価益(銀行株)(60〓) 合計(400〓) 現在(3/6) 実現損250〓 評価損200〓 評価益(銀行株)(10〓) 合計(450〓)」,「※経営会議 経常100〓(40〓程度おとす)」などと記載した本件メモを作成した。
被告Y1は,Cに対し,損失は公表すべきである旨述べたが,Cは,それを公表せず,原告が金融資産に巨額の損失を抱えている旨の報道もされなかった。
被告Y1は,原告が作成した平成4年4月3日付け「平成4年3月期(平成3年4月~平成4年3月)業績予想の修正について」と題する書面とともに本件メモを保管していたところ,同書面には原告の単独決算における経常利益の修正予想値は100億円であるなどと記載されていた。(甲39,136,186)
(2)  LGT銀行ルート構築の経緯
ア CFCがLGT銀行から融資を受けた経緯
(ア) 前記第2の2(4)イ,ウのとおり,原告の金融資産の含み損は平成8年頃には約900億となり,Cらは,海外に原告の連結決算の対象とならない簿外ファンド等を組成し,原告の特金等から国債等を貸し付けて簿外ファンドに資金を供給して含み損を抱えた金融資産を簿価で買い取らせる損失隠しをしていたが,平成9年の後半頃に,当時,原告の監査法人であった朝日監査法人から,近い将来,時価会計が導入されるので特金等については計画的に解消することが望ましいと指摘を受け,Cらは,新たな資金供給方法を模索していた。
(イ) 一方,被告らは,平成9年6月頃には野村證券を退職する意向を固め,共に会社を設立することを話し合っていたところ,LGT銀行東京駐在所の所長をしていたJは,同年秋から冬頃にかけて,被告らに対し,LGT銀行では,インターミディアリー契約と呼ばれる仲介契約の締結により,契約者に顧客を紹介させ,収益が出た場合には,その3割程度を契約者に支払うというシステムを採用していることなど同銀行の特徴を説明した。(甲75,153,156)
(ウ) Jは,平成10年3月頃,被告Y1から今度X社の人を連れていくからLGT銀行について説明できるように準備しておいてほしいと頼まれていたところ,同月7日,東京都内の六本木の飲食店「プレイバッハ」において,被告らからCらを紹介され,Cらに対し,同店において銀行の概要を資料に基づいて説明した。(甲75,147,156)
(エ) Jは,同月中旬頃,Eから,原告とその子会社であるOAMの名義でLGT銀行に口座を開きたいとの申出を受けるとともに,その頃,D及びEから,原告が運営しているCFCに融資してほしいと頼まれ,CFCに融資を求める理由について,原告が同融資によって欧州の病院を買収する予定であることを知られたくないからであると説明された。(甲59,75,142,147)
(オ) そして,前記第2の2(4)ウ(イ)のとおり,原告及びOAMは,平成10年3月23日,LGT銀行との間において,包括的根担保設定契約を締結し,原告及びOAM名義の口座内の資産全てに債務者をCFCとする根担保権を設定するとともに,同日,原告名義口座に200億円,翌24日,OAM名義口座に60億円,同年4月28日,OAM名義口座に120億円を入金し,かかる資産を担保に,LGT銀行は,CFCに対し,同年3月27日に180億円,同年8月6日に120億円の融資をし,CFCは,同資金を用いて特金等が貸し付けていた国債等を買い戻し,原告及びOAMに返還するなどした。
イ 監査法人対策
Cらは,Jに,監査法人からの残高確認照会に対して,LGT銀行の原告名義やOAM名義の預金口座内の資産に担保が設定されていることを記載しないでほしい旨を申し入れており,LGT銀行は,監査法人に対して担保設定の記載のない残高確認書を提出した。(甲39,49,60,79)
ウ GC社とLGT銀行との関係
GC社は,平成10年11月頃,LGT銀行との間で,GC社がLGT銀行に対して顧客を紹介し,その結果,LGT銀行が収益を得られた場合には,その収益の45%から50%程度をGC社に支払うことなどを内容とするインターミディアリー契約を締結した。(甲76)
(3)  新たな資金供給方法の構築までの経緯
ア 平成10年6月頃,原告が財テクの失敗で巨額の損失を抱えている旨の噂が流れ,原告の株価が数日間で10数%下がったため,原告は,同月7月頃,当時原告の監査法人であった朝日監査法人から,資金運用に限定した監査を受け,朝日監査法人から,平成13年の会計制度変更(時価会計導入)を踏まえて特金等を解約するように求められた。
Cらは,平成13年3月期末までに原告の特金等を解約することを決めたが,特金等を解約するためには,簿外ファンドに貸し付けていた国債等を全て取り戻す必要があった。しかし,前記(2)のLGT銀行ルートによる資金供給だけでは足りず,簿外ファンドへ資金を流す新たな資金供給方法を模索することにした。(甲40)
イ ところが,平成11年9月末頃,損失を抱えていた仕組債を買戻し特約付きで金融機関に簿価で買ってもらっていたことが,朝日監査法人の知るところとなり,原告は,朝日監査法人から,平成12年3月期末までに特金等を解約するよう強く指導され,Cらは,かかる処理の前倒しを余儀なくされた。(甲41,甲50)
(4)  GCNVルート構築の経緯
ア このような中,被告らは,Cらに対し,原告が中心となって事業投資ファンドを組成する案を提案し,Cらは,組成した事業投資ファンドに原告が出資し,その資金を簿外ファンドに流すことを決めたが,このことは,原告の簿外損失を知らない役員には伏せられ,平成12年1月28日の原告の経営会議において事業投資ファンドを組成して新規事業を発掘育成する方針が承認された。
そして,原告,GCIケイマン,CらがPに組成させたGVは,同年3月1日付け特例有限責任組合契約を締結し,原告及びGVを有限責任組合員,GCIケイマンを業務執行組合員として,事業投資ファンドであるGCNVが組成され,GCNVがGCIケイマンに支払う当初管理手数料は有限責任組合員出資額350億円の1.5%とすること,管理手数料を純資産評価額に対して年1%とすることなどが合意された。(甲9,41,52,153,215)
イ 前記第2の2(4)ウ(ウ)のとおり,原告は,同月14日に300億円を,GVは,同月16日に50億円をそれぞれGCNVに出資し,GCNVは,同月17日,QPに対し,上記出資金合計額350億円のうち320億円を債券購入代金として送金し,QPは,同資金を用いて特金等が貸し付けていた国債等を買い戻し,原告及びOAMに返還するなどした。
GVは,LGT銀行ルートによってLGT銀行から融資を受けたCFCがGVの債券購入代金として支払った51億円を原資として上記50億円の出資をしたが,GVも出資者とされたのは,原告の損失隠しを知らない原告の役員や監査法人等から事業投資ファンドによるベンチャー投資になぜ高額な資金を要するのか間われた場合に備えたものであり,原告以外にもGCNVの価値を認めて出資する者がいると説明することが想定されていた。
GCNVの保有する銀行口座からの送金を指示することができる署名権者は,業務執行組合員であるGCIケイマンの役員としての被告ら及びBであり,GCNVのQPに対する上記320億円の送金は被告Y1が行った。(甲52,60,79)
ウ 上記のとおり,GCNV組成後,その資金がQPに移されたが,GCNVには期末である12月末に監査が入るため,GCNVの決算期直前になるとQPから資金が戻され,決算期後に再びQPに資金を出すという資金移動が繰り返された。このような資金移動がされることについて,GCNVの業務執行組合員であるGCIケイマンの役員として被告らから疑問が呈されることはなかった。(甲52,81)
エ GCIケイマンと原告は,GCNVからQPに資金提供をするに当たり,短期現金運用先としてQPを使用することが原告においてGCNV組成契約に署名する条件であること,GCIケイマンは,QPに対して一切のデューディリジェンスを行うことなく原告の要求を受諾し,当初払込後速やかにQPに300億円を短期現金運用のために振り込み,原告は随時GCIケイマンに対して金額の変更を指示できること,原告は,GCNVとQPとの関係に起因する一切の責任,損失,損害等について,GCIケイマンに対して補償することなどを合意した。(甲136,乙ロ7)
オ Cらは,GCNVルートを構築し,これを実行に移すに当たって,虎ノ門にあるGC社の事務所に集まって打合せをしており,被告ら及びBは,被告Y1が方針を決め,被告Y2がそれを具体化し,Bが実務的な手続を担当するといった役割分担をしていた。(甲41,52,60)
カ Cらは,組成したGCNVにおいて有望なベンチャー企業を発掘させ,それによって得られたキャピタルゲインを損失の解消に使うことも念頭に置いており,被告らは,投資案件の情報収集に当たって,知人や金融機関等の企業から投資案件の情報の収集をしつつ,投資案件情報の収集を目的として,大企業の経営資源を公開するとともに,これにベンチャー企業が自社のビジネスプランのアイデアを応募することができる仕組みを企画し,平成13年10月19日,同企画を業とするテクノマイニング株式会社を立ち上げて実際に事業を行うなどした。(甲52,乙ロ16~20,38)
(5)  GIM-Oルート構築の経緯
ア GIM-Oが組成された経緯
Cらは,LGT銀行において格の高いクラスファンドとされているGIMを購入し,これを担保としてLGT銀行のCFCに対する融資額を増やしたいと考え,平成12年1月28日の原告経営会議において,400億を拠出してGIMを購入することの承認を得た。
そこで,Dは,平成12年2月26日から3月3日頃にかけて,LGT銀行のあるリヒテンシュタイン公国へ出張したところ,LGT銀行担当者から,多額の投資に銀行が耐えられないことを理由にGIMの購入を断られ,その後,Jを通じてLGT銀行と交渉した結果,原告のためにGIM-Oというファンドが新たに組成されることになった。(甲52,53,76,191,215)
イ QPに資金が供給された経緯
Cらは,平成12年3月,ケイマン諸島にTEAO及びNEOを組成し,原告がGIM-Oに出資した資金をTEAO,NEOを介してQPに供給することを決めた。
同月8日から12日までケイマン諸島に出張していた被告Y2は,現地の弁護士事務所に依頼してTEAO及びNEOの組成手続を行い,同月10日付けでTEAOが,同月15日付けでNEOが組成された。
前記第2の2(4)ウ(エ)のとおり,同月21日,原告が150億円,OAMが200億円をGIM-Oに出資し,同日,同出資金のうち310億円がTEAOに債券購入代金として送金され,さらに,翌22日,TEAOからNEOに対し,有限責任組合員からの出資金として300億円が送金された。GIM-OからTEAOへの送金は,被告Y1の署名がある送金指示書によって行われた。
NEOからは,さらに,翌23日付けでITVに出資金として101億円が送金され,翌24日付けでQPに債券購入代金として194億円が送金された。そのうち190億円の送金は,被告Y2の署名がある送金指示書によって行われ,4億円の送金は,Bの署名がある送金指示書によって行われた。QPは,同資金を用いて特金等が貸し付けていた国債等を買い戻し,原告及びOAMに返還するなどした。(甲53,76,78,79,153,157,161,167,185,239)。
ウ GIM-Oに係る契約の内容
(ア) GC社とGIM-Oの資金運用者であるLGTケイマンとの間では,平成12年3月17日付ウェーバーやRegulation(規則)が作成された。
同ウェーバーには,GIM-Oの運用に関して「本クラスファンドの規則に従い,LGT銀行は,LGT PMの勘定及び名義において,ITVの規則に定められた投資方針に従って投資し,GC社がLGT銀行のアドバイザーとして行動する。LGT銀行はGC社のあらゆるアドバイスを遵守し,執行する。」こと,これに対して原告は,GC社が「アドバイス」し,LGT銀行が執行する注文は,銀行の活動とはみなされないこと,LGT銀行が一切の損害を負わない旨の記載があり,規則にもGC社がLGT銀行のアドバイザーとして行為することを前提とした記載がある。(甲147,240,309)
(イ) 平成15年4月1日,GC社とLGTケイマンとの間で,ニュー・インベストメントが有するGIM-O及びITVに関する投資権限を,GC社がLGTケイマンから譲り受ける旨を内容とするサブインベストマネジメント契約が締結され,GC社の代表者として被告Y1が署名した。(甲199)
エ NEOに係る契約の内容
(ア) 組成契約
平成12年3月15ないし16日頃,TEAOを有限責任組合員,GCIケイマンを業務執行組合員とし,それぞれ300億円及び1000万円を出資するとの内容でNEOの組成契約が締結され,GCIケイマンの代表者として被告Y1が,TEAOの代表者としてCが署名をした。
同契約においては,契約期間は10年間(ただし,業務執行組合員であるGCIケイマンの申出により2年間の延長が可能)とすること,当初管理手数料は有限責任組合員であるTEAOの出資300億円の1.5%とすること,管理手数料は純資産額に対して年1%とすること,ポートフォリオ投資の利益の90%をTEAOに,10%をGCIケイマンに配分すること,GCIケイマンはパートナーシップに必要な判断をTEAOと協議せずに行うことができることなどが合意された。(甲8,192)
(イ) 短期資金運用に関する覚書
TEAOとGCIケイマンは,同月12日付けで,短期資金運用に関してTEAOはGCIケイマンに対してQPの使用を指示したこと,QPの使用がTEAOがNEOの組成契約に署名する条件であること,GCIケイマンは,QPに対して一切のデューディリジェンスを行うことなくTEAOの要求を受け入れ,NEO組成後速やかにQPの口座に194億円を短期資金運用のために振り込むこと,TEAOは随時QPへの提供額の変更を指示することができ,GCIケイマンはこれに一切のデューディリジェンスなく従うこと,TEAOはNEOとQPとの関係に起因する一切の責任についてGCIケイマンに補償することなどを内容とする覚書(AGREEMENT regarding cash management of Neo Strategic Ventures, L.P.(the“Partnership”))を締結した。(甲268,乙ロ8)
(ウ) NEOの報酬に係る変更合意
平成12年10月頃,前記(ア)の組成契約において定められた管理手数料等の変更合意が締結され,管理手数料については年0.5%とし,ポートフォリオから得た利益の配分については,700億円までは有限責任組合員95%,業務執行組合員5%,700億円から1000億円までは有限責任組合員70%,業務執行組合員30%,1000億円を超えた場合は有限責任組合員50%,業務執行組合員50%とすることとされた。(甲161,260)
(6)  ITVの組成及び運用等
ア ITX株式購入の経緯
被告Y1は,平成11年末頃,自身の兄が日商岩井に勤めていた関係から,同社の情報産業事業部門が独立してITXが組成されるとの情報を得て,Cらに投資するよう勧めた。(甲136,142,153)
Cらは,ITXの株式を簿外ファンドで引き受け,将来キャピタルゲインが得られれば,これを簿外損失の解消に当てることができるものと考え,購入することにした150億円分のうち100億円分は新たに組成するファンド名義で取得することにした。
そこで,平成12年3月23日にNEOから101億円が出資されてITVが組成され,同月31日,原告及びITVと日商岩井との間でITX株式の売買が行われた。同売買契約の契約書には,JがITVの代表者としてLGT銀行東京駐在員事務所名義の押印をし,ITVにおける上記株式の購入代金は,NEOから提供された101億円が充てられた。また,日商岩井への送金は,被告Y1が署名した送金指示書によって行われた。
なお,原告がファンド名義で株式を取得することは,直前まで日商岩井側に説明されなかったところ,日商岩井側から当初の話と違うと難色を示されたため,Cは,ハワイへ家族旅行中であった被告Y1に電話をかけ,ITX株式の購入ができるよう,日商岩井の説得を依頼した。(甲53,136,137,139,142,153,154,157,160,193,253)
イ ITXについて
ITXの組成に際しては,原告及び日商岩井のほか,帝人株式会社,株式会社船井総合研究所等の会社が株式を引き受けており,ITX株式は,組成から約1年半後の平成13年12月にはナスダック・ジャパン市場(現在のJASDAQ市場)に上場された。
しかし,上場後の業績はふるわず,平成14年3月期にはOAMで13億円,GCNVで27億円の減損損失を計上することとなった上,最終的には,ITVにおいては,概算で出資額約100億円のうち63億円の損失が生じることとなった。原告は,ITX株式を全て取得して子会社化したが,平成21年3月期決算において,ITX株式の下落額が50%超となったことを理由として188億6900万円の減損処理が行われた。(甲5,35)
(7)  新事業3社に投資した経緯
ア 前記(4)アのとおり,平成12年1月28日の原告の経営会議において事業投資ファンドを組成して新規事業を発掘育成する方針が承認され,GCNVは,当該事業投資ファンドとして組成されたものであり,原告の新事業の発掘を標ぼうしてきたが,組成から5年程度経過した時点でも,適当な企業が見つからない状況が続いていた。(甲54)
イ 被告らは,平成17年頃,Cらに対し,被告らが出資した新事業3社,すなわち,医療系廃棄物の処理を主たる事業とするアルティス,LEM(椎茸菌糸体)を利用した健康食品,女性向けサプリメント,化粧品等の通信販売を主たる事業とするヒューマラボ,電子レンジ用調理器具及びそれを利用した食材キットの販売事業を主たる事業とするニュースシェフを,原告が関わる新事業を営む会社として紹介した。(甲136,139)
ウ 前記第2の2(3)のとおり,アルティスは,平成17年10月1日,休眠会社である有限会社植物栽培研究所を株式会社に組織変更するとともに商号を変更して発足した会社であり,平成18年3月期の売上は5万5000円であった。
ヒューマラボは,平成17年6月21日,L・E・M販売株式会社として設立され,同年10月17日,商号変更した会社であり,平成17年12月期の売上はなかった。
ニュースシェフは,平成15年9月26日,GCIケイマンの名義で増資による株式を取得し,平成16年8月1日に被告Y1が取締役に就任して経営に関わるようになった会社であり,平成16年5月期の売上は14万円,平成17年5月期の売上は47万9220円であった。(甲5,12,13,64,68,83~85,251)
エ Cらは,新事業3社の事業が原告の既存事業とある程度関連性を有しており,原告の人材その他の経営資源を活用でき,また対象とする市場規模が大きく,事業としての成長も期待できるとして,GCNVや原告が簿外ファンドから新事業3社の株式を巨額の代金で取得して簿外ファンドに利益を出させ,これにより簿外損失を解消することを企てた。(甲54,61,136,139)。
そこで,前記第2の2(4)エ(ア)のとおり,ITVは,平成16年4月から平成17年3月にかけて,ニュースシェフの株式を合計4億円(1株当たり20万円,合計2000株)で,増資引受けの方法により順次取得し,NEOは,平成17年12月13日,アルティスの株式を合計1億4400万円(1株当たり5万円,合計2880株),同年7月20日,ヒューマラボの株式を合計6000万円(1株当たり5万円,合計1200株)で,それぞれ増資引受けの方法により取得した。
オ 一方,Cらは,平成17年秋頃,被告らに対し,新事業3社の将来利益を予測した事業計画の作成を依頼し,被告らは,これに応じた。
(ア) 被告らの協力の下に平成18年3月に作成されたアルティスの事業計画は,平成19年3月期に7億0500万円の売上高を予定し,その翌事業年度には前年比の約4.5倍に成長し,その後も前年比の2倍超の規模で拡大を続け,6年後には293億7400万円(計画初年度売上高の約42倍)となり,計画最終年度の平成24年3月期には88億円の営業利益を計上し,売上高の30%程度の営業利益率を確保する計画とされていた。
しかし,実際は,平成19年3月期も売上はほとんどなく,平成20年3月期に約2300万円の売上を出し,平成24年3月期には2億9000万円の売上を出したにすぎず,平成24年3月期に至るまで一度も営業利益を計上したことがなかった。純損失は,平成18年3月期が約1億4400万円,平成19年3月期が約3億0400万円,平成20年3月期が約3億4000万円,平成21年3月期が約4億7300万円,平成22年3月期が約7億2500万円,平成23年3月期が約7億7000万円,平成24年3月期が約7億6200万円で推移し,アルティスは,同年11月に特別清算手続に入った。(甲5,22,68)
(イ) 同じくヒューマラボの事業計画は,平成18年12月期に5億4600万円の売上高を予定し,その翌事業年度には前年比の約4.2倍,翌々事業年度にも前年比約4.6倍と成長し,その後も前年比の2倍超の規模で拡大を続け,5年後には320億1000万円(計画初年度売上高の約58倍)となり,営業損益も計画3年目に黒字転換して成長し,計画最終年度の平成22年12月期には170億3200万円の営業利益を計上し,売上高の53%程度の営業利益率を確保する計画とされていた。
しかし,実際は,平成23年3月期に約8億8900万円の売上を出したにとどまり,平成24年3月期に至るまで一度も営業利益を計上したことがなかった。純損失は,平成17年12月期が約2700万円,平成18年12月期が約2億1600万円,平成19年12月期が約4億6200万円,平成21年3月期が約7億3200万円,平成22年3月期が約14億9600万円,平成23年3月期が約21億9700万円,平成24年3月期が約6億8400万円で推移し,ヒューマラボは,同年11月に特別清算手続に入った。(甲5,23,83~85)
(ウ) 同じくニュースシェフの事業計画は,4800万円を予定した平成19年2月期の売上高がその翌事業年度には約244倍となり,翌々事業年度も前年比4.0倍の規模で成長を続け,5年後には782億3800万円(計画初年度売上高の約1630倍)となり,営業損益も計画2年目に黒字転換して成長し,計画最終年度には100億円超の営業利益を確保する計画とされていた。
しかし,実際は,平成23年3月期に5億2800万円の売上を出したにとどまり,平成24年3月期に至るまで一度も営業利益を計上したことがなかった。純損失は,平成16年5月期が約2500万円,平成17年5月期が約2億4000万円,平成18年2月期が約2億7500万円,平成19年2月期が約5億5000万円,平成20年2月期が約13億6900万円,平成22年3月期が約18億7700万円,平成23年3月期が約22億4600万円,平成24年3月期が約8億7800万円で推移し(平成21年3月期はニュースシェフが保有していた日本エコロジアの株式を原告に売却して約4億7700万円の純利益を計上した。),ニュースシェフは,同年11月に特別清算手続に入った。(甲5,64,86)
カ 被告らは,平成18年3月9日に開催された原告の事業投資審査委員会にCらと共に出席し,新事業3社を対象とする上記オの事業計画の内容を説明して新事業3社への投資を勧め,同委員会は,同月16日,投資を承認した。(甲20,43,157)
被告らは,平成19年9月に開催された原告の経営執行会議にも出席し,新事業3社のうちヒューマラボ及びニュースシェフの事業計画の内容を説明するなどした。(甲91,92)
(8)  平成18年売買について
ア QPのGCNVに対する債務の弁済
前記(4)ウのとおり,GCNVとQPとの間において資金移動が繰り返されていたが,当該資金移動は巨額の受送金を繰り返すものであるため,監査を通じて原告の損失隠しが発覚するおそれがあった。そこで,Cらは,以下のとおり,平成18年3月までに,QPのGCNVに対する240億円の債務を恒久的に弁済し,両ファンド間の取引関係を解消することにした。(甲54,95,98)
(ア) まず,平成18年3月8日,ITVからNEOに対して,約53億円が返金され,この53億円の中から30億円が,QPに送金され(同送金はBの署名がある送金指示書によって行われた。),翌9日,これを原資としてQPは,債券償還金として約30億円をGCNVに送金した。
また,NEOは,同月13日,DDⅡ及びGTへの新事業3社の株式の売却益を原資として95億円をQPに送金し(同送金はBの署名がある送金指示書によって行われた。),QPは,同月16日,約95億円をGCNVに償還金として送金した。
(イ) GCNVは,上記の償還金約125億円を原資として,前記第2の2(4)エ(イ)のとおり,同月17日及び23日,NEOからアルティス及びヒューマラボの各株式を合計90億0040万円で,ITVからニュースシェフの株式を17億8000万円(合計107億8040万円)で購入した(平成18年売買)。
ITVは,上記売買代金と併せて,同月23日,約31億円をNEOに送金した。
NEOは,ITVから送金を受けた約31億円と売買代金として受領した約90億円の合計約121億円を原資として,同月24日,121億円をQPに送金した。
QPは,同月27日,上記121億円を原資として,GCNVに115億0595万4795円を償還金として送金した。
(ウ) 以上の資金循環を含む2段階の送金取引の結果,GCNVが保有していたQPの債券240億円が全て償還され,両者間の債権債務関係は解消された。
イ GCNVの解散と原告における新事業3社の株式の取得
上記のとおり,GCNVが保有していたQPの債券240億円が全て償還された結果,GCNVは,QPに対する資金供給ルートとしての役割を終え,また,新事業3社に対する多額の投資を行った結果,もはや損失解消に利用するための新たな会社を探知する必要もなくなった。
そこで,Cらと被告らが協議し,前記第2の2(4)エ(ウ)のとおり,原告及びGCIケイマンは,平成19年9月21日,GCNVの組成契約を解約する合意をし,これにより,GCNVは解散した。この解約によって,原告は,GCNV保有の新事業3社の株式を現物で引き取ることになり,これら株式は,原告の連結貸借対照表において,GCNVが平成18年売買の際に取得した価格(簿価)で資産として計上された。(甲5,27,56,97)
(9)  平成20年売買について
ア 新事業3社の子会社化
(ア) Cは,平成19年に取締役専務執行役員に昇進した頃から,自らが取締役を退任する前までには原告の簿外損失の問題を解決したいと考えるようになり,前記(8)イのとおり,同年9月には,原告自身がGCNVから新事業3社の株式を引き取ったこともあって,同じ事業年度内に,原告がこれを買い取って新事業3社を子会社化することを決めた。(甲136)
(イ) 平成19年9月,原告の経営執行会議において,新事業3社の事業及び投資に関する討議が行われ,被告らも出席し,ヒューマラボ及びニュースシェフの事業計画の説明を行った。同会議において示された新事業3社の事業計画(以下「平成19年計画」という。)の内容は,アルティスが平成24年3月期において191億0900万円の売上高及び57億7900万円の営業利益を,ヒューマラボが平成22年12月期に222億7300万円の売上高,117億7100万円の営業利益を,ニュースシェフが平成24年2月期に339億9800万円の売上高,99億0100万円の営業利益を,それぞれ計上するものであった。
そして,平成20年2月,平成19年計画の内容を踏襲した新事業3社の事業計画(以下「平成20年計画」という。)に基づき,原告の経営執行会議と取締役会において,新事業3社の子会社化と株式の追加取得が決議された。同会議において示された新事業3社の事業計画の内容は,アルティスが平成25年3月期において193億7500万円の売上高及び70億0600万円の営業利益を,ヒューマラボが平成24年12月期に269億3700万円の売上高,144億7800万円の営業利益を,ニュースシェフが平成25年2月期に422億3000万円の売上高,135億2900万円の営業利益を,それぞれ計上するものであった。(甲28,29,90~92,139)
(ウ) これを受け,原告は,前記第2の2(4)エ(エ)のとおり,平成20年3月26日,NEOからアルティスの株式1650株を181億5000万円(1株当たり1100万円),ヒューマラボの株式670株を137億3500万円(1株当たり2050万円)で購入し,ITVからニュースシェフの株式1600株を152億円(1株当たり950万円)で購入した(平成20年売買)。
また,原告の連結子会社であるOlympus Finance Hong Kong Ltd.(以下「OFH」という。)は,同日,平成18年3月の取引によって新事業3社の株式を取得したDDⅡ及びGTから,アルティスの株式530株を55億6500万円(1株当たり1050万円),ヒューマラボの株式210株を40億9500万円(1株当たり1950万円),ニュースシェフの株式450株を40億5000万円(1株当たり900万円)で購入し,原告は,同年9月25日,これを現物で引き取った。(甲94)
(エ) 原告は,平成20年3月26日,新事業3社株式の購入代金としてITVに対して152億円,NEOに対して318億8500万円をそれぞれ送金し,ITVは,翌27日,原告からの受領金に保有資金を併せた約157.1億円をNEOに送金した。この結果,NEOは原告から直接,又はITVを経由して約476億円を受領した。同日,NEOは,このうち304億円を,Bの署名がある送金指示書によってQPに送金した。
また,NEOは,同年4月30日,上記約476億円の受領金から304億円を控除した残金を主たる原資として約181億6000万円を,Bの署名がある送金指示書によってTEAOに送金した。(甲94,99)
イ のれんの計上と簿外ファンドの閉鎖
原告及びOFHが純資産価額を上回る価額で新事業3社株式を購入し,新事業3社を子会社にしたことに伴い,同年3月期には約545億円(原告追加取得による),翌年3月期には約136億円(OFH追加取得による),合計約681億円ののれんが,原告の連結貸借対照表に計上されるに至った。
また,平成20年売買の売買代金により,原告の簿外損失が計数上解消されたことから,簿外ファンドの存続が不要となり,平成21年3月末までに,GIM-O,TEAO,NEO,ITV,DDⅡ,GT,QPは,全て解散して清算された。NEOについては,QPに対する融資残高が約663億円存在したが,QPからの返済を待つことなく解散の手続が行われた。(甲100,232)
ウ 新事業3社の株式の減損処理
あずさ監査法人は,平成20年12月5日,原告に対し,新事業3社の業績が当初事業計画と大きく乖離していることから,現状を踏まえて今期中に再評価を実施するように申し入れ,平成21年4月23日にも,「(新事業3社は)3社とも投資額と投資時の純資産持分の差額であるのれんの額が極めて多額に上っております。これは,取得時の純資産ではなく将来の収益とそれに基づくキャッシュフローの計画を前提に取引価格が決められており,かつ,その計画では3社とも短期間に極めて高い成長を遂げることが前提となっているためです。・・・これら3社については,貴社が投資したファンド(G.C New Vision Ventures L.P.)を通じて,平成18年3月期にその一部を取得していましたが,その際の取得価格の前提となった高い成長性を前提とした将来の収益とそれに基づくキャッシュフローの計画を,その後実際には達成できていなかったにも係わらず,平成20年3月期の追加取得時には平成18年3月時点での取得単価の1.4~2.1倍の単価で購入するに至った経緯の検討結果が重要事項になると考えます。」などと指摘した。(甲209,212・資料2)
原告は,これらの指摘を踏まえ,新事業3社の株式取得にかかる「のれん」を減損処理した。
(10)  国税局による税務調査及びNEOの業務執行組合員交代について
ア 税務調査に対する対応
前記第2の2(5)のとおり,平成18年10月頃から平成19年6月頃にかけて,原告に対する税務調査が実施され,GCNV,LGT銀行等に関する取引についての調査が行われるとともに,GCNVの業務執行組合員であるGCIケイマンやこれを運営するGC社に対する反面調査が実施された。
Cらは,この税務調査によってGCNVと取引のあったQPやNEO等の実態と原告の損失隠しの事実が発覚することを恐れ,被告ら及びBに対し,NEOの有限責任組合員がTEAOであることを明かさないようにし,「すべてはLGT銀行を通じてやっていることだから,LGT銀行に聞いてほしい」などと答えるように頼んだほか,NEOやTEAOに関する書類が調査されることを避けるため,NEO及びTEAOに関するあらゆる書類をLGT銀行で保有し,弁護士事務所やGC社等に送付しないようJに依頼するなどした。
GC社における反面調査には主としてBが対応していたところ,Bは,調査官からNEOの平成18年売買に係る譲渡益への課税をGC社に対して行う可能性がある旨の指摘を受けながらも,NEOの利益帰属先を回答しなかった。(甲79,96,154,160,161)
イ NEOの業務執行組合員交代
被告Y1らは,上記税務調査を受け,Cらに対し,GCIケイマンがNEOの業務執行組合員を継続して務めることは困難であるとして,NEOの業務執行組合員をLGT銀行の元職員であったKが代表を務める会社であるGurdonに変更することを求め,Cらは,これに応じた。
NEOとGurdonとの間において,同年6月1日付けの業務委託契約書(MANDATE AGREEMENT)や委任状(POWER OF ATTORNEY)が作成され,これによって,NEOの業務執行組合員の業務がGurdonへ委譲されたものの,Gurdonへの業務委譲が名目上のものにすぎないことを内部的に明らかにするため,同日付けで,Bが新会社に雇われてNEOの会計担当を務めるとともにGurdonの業務を全面支援すること,KにはNEOに関する損害を一切負担させないこと等を確認する「Confirmation and Indemnification」という文書が作成され,被告ら,B及びDがこれに署名した。(177,178)
ウ Bは,業務執行組合員が交代した後もNEOからの送金に係る送金指示書に署名をし,経理関係の書類を作成するなど,NEOの事務手続を担当していた。(甲104,160,174,185,220,221)
(11)  平成18年売買及び平成20年売買に係る報酬の支払
ア 被告らが受けるべき報酬額の試算
Bは,平成18年5月頃までに平成18年売買に関して被告らが受け取るべき報酬について,NEOがGCNV,DDⅡ及びGTに売却したアルティス及びヒューマラボの各株式の売却益(売却価格と取得価格の差額)合計167億3500万円とITVがGCNVに売却したニュースシェフの株式の売却益17億円の合計額に5%を乗じた9億2175万円になると試算した。
また,Bは,平成20年夏頃までに平成20年売買に関して被告らが受け取るべき報酬について,23億3245万円と試算した。
そして,被告らは,その頃までに被告らが原告から受け取るべき報酬額を,被告Y1,被告Y2及びBが5:3:2の割合で分配することにした。(甲161,162,225~227,276,295,296)
イ E-Quality及びInstageの購入
被告ら及びBは,平成20年7月までに,英国領ヴァージン諸島籍の会社であるE-Quality及びInstageを購入した上,同月23日頃,両社の預金口座をLGT銀行シンガポール(以下「LGTシンガポール」という。)に開設した(以下,それぞれ「Instage口座」,「E-Quality口座」という。)。(甲172,223)
ウ Pan Pacific及び3つの財団(Foundation)の設立等
(ア) 被告ら及びBは,平成19年9月初め頃までに,信託会社であるLGT Trust(Singapore)Ltd.(以下「LGTトラスト・シンガポール」という。)のRらと相談し,シンガポール法上のユニット・トラスト(持分型の投資信託)であるPan Pacificを組成し,LGTシンガポールにPan Pacificの受託者としてのLGTトラスト・シンガポール名義の預金口座(以下「Pan Pacific口座」という。)を開設した。
被告ら及びBは,その後,被告Y1が5口,被告Y2が3口,Bが2口のPan Pacificの持分をそれぞれ取得した。(甲223,243)
(イ) KとBは,平成20年4月17日,GurdonとE-Qualityとの間で,E-QualityがGurdonに投資先ポートフォリオの管理にかかる助言を与え,Gurdonは,自分が受け取る成功報酬のうち9億円までについては90%を,それを超える分については80%をE-Qualityに成功報酬として支払う旨のアドバイザリー契約書を交わした。(甲224,296)
(ウ) 被告ら及びBは,Pan Pacificから送金を受けるため,リヒテンシュタイン公国の財団(Foundation)制度を利用することとし,平成20年4月頃から同年6月頃までの間に,それぞれ本人,配偶者及び子孫を潜在的受益者として,被告Y1がPerfect Sense財団を,被告Y2がFine Balance財団を,BがGreen Lantern財団を設立し(以下併せて「3財団」という。),それぞれ各財団名義のLGT銀行預金口座を開設し,それぞれ自己のPan Pacificの持分を自己の財団に移転した。(甲223,224,242,293,294)
エ NEO,Gurdon,E-Qualityの各資金移動状況
(ア) Bは,NEOのLGT銀行預金口座を閉鎖するとともに,残高全額をGurdon口座に送金するようLGT銀行に指示し,平成20年9月11日頃,NEO名義の同口座から全残高の12億5925万円がGurdon口座に送金された。(甲170,234,235)
(イ) Kは,平成20年9月29日頃,GurdonとE-Qualityとの間のアドバイザリー契約書に基づいて算出される10億9740万円を,Gurdon口座に入金した12億5925万円の中からE-Quality口座に送金した。(甲170,177)
オ TEAO,Nayland,Instageに至る資金移動状況
(ア) TEAOとNaylandは,NaylandがTEAOの行う未公開株式投資に助言し,TEAOがNaylandに定額報酬9億5000万円を支払う旨の平成20年12月1日付け契約書,同契約に関連した一切の権利及び義務をNaylandからInstageに委嘱し,Instageは9億3000万円の定額手数料を得る資格を得たことを確認する旨の同年11月5日付け契約書を作成した。(甲172,甲178)
(イ) Dは,同年12月19日頃,TEAOのLGT銀行預金口座からNayland口座に9億5000万円を送金し,Kは,同年12月24日頃,自身の取り分2000万円を控除して,Nayland口座からInstage口座に9億3000万円を送金した。(甲172,261)
カ E-Quality及びInstageからPan Pacific,3財団に至る資金移動状況
Rは,平成21年3月5日頃,E-Quality口座及びInstage口座の残高全額をPan Pacificに移すとともに,Pan Pacificを閉鎖して,その資金を5口,3口,2口の持分に従い3財団に分配する処理を行い,同日頃,Pan Pacific口座に対し,E-Quality口座から残高全額の10億9637万9761円が,Instage口座から残高全額の10億7326万7218円がそれぞれ送金された。(甲172,223)
さらに,同日頃,Pan Pacific口座から,5:3:2の割合になるよう,Perfect Sense財団名義の口座に10億8494万0034円,Fine Balance財団名義の口座に6億5096万4020円,Green Lantern財団名義の口座に4億3397万6014円がそれぞれ送金された。(甲172)
2  争点1(被告らはCらによる原告の損失隠しの事実を認識してこれに関与したか。)について
(1)  簿外ファンドに対する資金供給ルート構築への関与について
ア 原告が含み損を抱える金融資産を簿外ファンドに移転した経緯
前記第2の2の前提事実及び前記1の認定事実によると,①光学機械の製造販売等を業とする原告は,昭和60年頃以降,債券,株式先物取引,金利スワップ等デリバティブ商品や仕組債等による金融資産の運用を始めたものの,バブル経済の崩壊により,金融資産に多額の含み損を抱えることになり,平成4年3月期末頃には約480億円にまで膨れ上がったこと(前記第2の2(4)ア),②原告の金融資産の運用を任されていたCらは,利益が出て損失の補填ができるまで原告の損失を公表せず先送りすることを決め,含み損を抱えた金融資産を決算期前に一時的に証券会社等に簿価で買い取らせ決算期後に買い戻す「期末の飛ばし」を行うなどして原告の損失を隠匿するようになったこと(同),③原告は,その後,よりハイリスク・ハイリターンの金融資産を購入するなどしたが,かえって含み損が増え,平成8年頃には約900億円にまで損失が拡大したため,Cらは,海外に原告の連結決算の対象とならない簿外ファンドを組成し,原告や原告の子会社であるOAMが保有する特金等の資産の中から国債等を貸し付け,簿外ファンドにおいてこれを売却し,その資金をもって原告の金融資産を簿価で買い取らせ,その後,原告の金融資産をCFCとQPの2つの簿外ファンドに集約させた結果,平成10年頃には,CFCとQPが900から950億円の含み損を抱える金融資産を保有するに至ったこと(同イ)が認められる。
イ 簿外ファンドに対する資金供給ルートが構築された経緯
ところが,①企業会計原則の見直しにより,時価評価主義を採用するとの動きが現れるようになり,Cは,平成9年の後半頃,原告の監査法人の公認会計士から,特金等の資産を計画的に解消することが望ましいと指摘されたが,国債等を簿外ファンドに貸し付けたままの状態では,特金等の残高を減らすことができない上,監査法人から国債等の貸付先を明らかにするように求められた場合,多額の含み損を抱えた原告の金融資産の存在が露見してしまうおそれがあったため,Cは,簿外ファンドに新たな資金を供給して国債等を買い戻す方法を模索することにしたこと(前記第2の2(4)ウ(ア)),②そこで,Cらは,守秘義務が徹底した海外の銀行から借入れをすることを検討していたところ,平成10年3月頃,被告Y1から同被告のかつての部下でありリヒテンシュタイン公国に本店があるLGT銀行の東京駐在所の所長をしていたJを紹介され,同月23日,原告とOAMの名義でLGT銀行に口座を開き,口座内の資産に債務者をCFCとする根担保権を設定するとともに,同日,原告名義口座に200億円,翌24日,OAM名義口座に60億円,同年4月28日,OAM名義口座に120億円を入金し,かかる資産を担保に,LGT銀行は,CFCに対し,同年3月27日に180億円,同年8月6日に120億円の融資をしたこと(LGT銀行ルート。前記1(2)ア),③原告は,平成11年9月末頃,損失を抱えていた仕組債を買戻し特約付きで金融機関に簿価で買ってもらっていたことが,監査法人に知られ,平成12年3月期末までに特金等を解約するよう強く指導されたこと(同(3)),④そこで,Cらは,同月1日,ケイマン諸島に事業投資ファンドとしてGCNVを組成して原告及びGVがこれに出資し,GCNVは,同月17日,QPに対し,上記出資金合計額350億円のうち320億円を債券購入代金として送金したこと(GCNVルート。同(4)),④GCNVルートと並行して,Cらは,LGT銀行において格が高いとされているファンド(GIM)を購入してLGT銀行からCFCに対する融資額を増やそうとしたが,LGT銀行から断られ,代わりに新たなファンドとしてGIM-Oを組成してもらい,さらに,ケイマン諸島にTEAO及びNEOという新たな簿外ファンドを組成し,同月21日,原告が150億円,OAMが200億円をGIM-Oに出資し,同日,同出資金のうち310億円がGIM-OからTEAOに対して債券購入代金として送金され,さらに,翌22日,TEAOからNEOに対し,有限責任組合員からの出資金として300億円が順次送金され,NEOから,同月24日,QPに債券購入代金として194億円が送金されたこと(GIM-Oルート。同(5)),⑤LGT銀行ルート,GCNVルート及びGIM-Oルートによって簿外ファンドであるCFC及びQPに流れた資金によって,CFC及びQPは,特金等から借りていた国債等を買い戻し,原告及びOAMにこれを返還したこと(同(2),(4),(5))が認められ,これによって,Cらは,特金等を解消することができ,原告の巨額の簿外損失の発覚を免れることができたものということができる。
ウ 原告の損失隠しに対する平成4年3月当時の被告Y1の認識について
(ア) 前記1の認定事実によると,①野村證券に勤務していた被告Y1は,昭和62年に原告の営業担当となり,いわゆるブラックマンデーによって原告に約300億円の損失が生じた際には400億円の利益を上げるなどしてCをはじめ原告の幹部から大きな信頼を得ていたこと(前記1(1)ア),②Cは,平成4年3月期末頃に原告の金融資産の含み損が約480億円にまで膨れ上がった際にも,被告Y1に対し,原告の金融資産に含み損があることを打ち明け,その処理の方策を相談したこと(同イ),③被告Y1は,その際,Cから聴き取った内容を整理し,400ないし450億円の含み損があり,「過去からの持ち越し分は表に出したくない」,「今期経常予想 150〓→ 最終的に100〓はキープしたい。」,「公認会計士へのスタンス 事前に相談を持ちかければすべてNO!であろう・・・すべての処理をやってしまってから(期をこえてから),その根拠を説明し了解を得るしかないし,過去もすべてそのスタイルでやってきている。」,「CITI T/Bの特金について 帳簿にのせていない。(存在自体を明らかにしていない。)」などと記載した本件メモを作成したこと(同),④被告Y1は,Cに対して損失は公表すべきであると助言したが,Cは,これを公表しなかったこと(同)が認められる。
(イ) これに対し,被告Y1は,本件メモはCの発言をただ書き留めたにすぎず,その後,原告の損失が適正に処理されたものと考えており,原告が損失を抱えたままであるとの認識は有していなかった旨主張し,本件刑事訴訟においても同趣旨の供述(甲153,154)をしている。
しかしながら,上記(ア)のとおり,被告Y1がCから相談を受けた内容は,大企業の巨額の損失隠しに関わる極めて重大な問題であって,聞き流すことができるようなものではなく,本件メモの内容も,よく整理され,対応策まで書かれているのであるから,被告Y1は,Cの相談を深刻に受け止めたものというべきである。だからこそ被告Y1は,Cに対してその公表を勧めたのであって,そうだとすると,被告Y1は,Cから相談を受けた際,原告の金融資産に巨額の含み損があり,Cらがこれを隠匿しようとしていることを認識したものと認めるのが相当である。
ところが,原告が巨額の損失を抱えていることはその後報道もされず,被告Y1も,本件メモと併せて,原告の単独決算における経常利益の修正予想値が100億円であるなどと記載された平成4年4月3日付け「平成4年3月期(平成3年4月~平成4年3月)業績予想の修正について」と題する書面を保管していたのであるから(前記1(1)イ),被告Y1は,結局,Cらが原告の損失を正しく公表しなかったと認識していたとみるのが自然である。
以上の点に,Cも,本件刑事訴訟において,被告Y1に対し,原告の巨額の損失については公表しないことを伝えた旨供述していること(甲39,136,137)を考え併せると,被告Y1の上記供述は採用することができず,被告Y1は,平成4年3月頃,原告が金融資産に少なくとも400ないし450億円もの巨額の含み損を抱えていることを知らされ,その後,これが公表されることなく隠匿されている事実を認識していたものと認めるのが相当である。
エ LGT銀行ルート構築に対する被告らの認識及び関与について
(ア) 前記第2の2の前提事実及び前記1の認定事実によると,①被告らは,いずれもかつて野村證券に勤務し,被告Y1は,被告Y2の上司であったところ,被告らは,平成9年6月頃には野村證券を退職する意向を固めて共に起業することを話し合うようになり,平成10年6月に退職して経営コンサルティング及び経営者指導を主たる業務とするGC社を設立したこと(第2の2(1)イ(ア)(イ),第4の1(2)ア(イ)),②LGT銀行東京駐在所の所長をしていたJは,かつて野村證券に在籍していた際に被告Y1の部下であったところ,平成9年秋から冬頃にかけて,被告らに対し,LGT銀行では,インターミディアリー契約と呼ばれる仲介契約の締結により,契約者に顧客を紹介させ,収益が出た場合には,その3割程度を契約者に支払うというシステムを採用していることなど同銀行の特徴を説明したこと(第2の2(1)イ(エ),第4の1(2)ア(イ)),③Jは,平成10年3月頃,被告Y1から今度X社の人を連れていくからLGT銀行について説明できるように準備しておいてほしいと頼まれていたところ,同月7日,東京都内の六本木の飲食店「プレイバッハ」において,被告らからCらを紹介され,Cらに対し,同店において銀行の概要を資料に基づいて説明したこと(同ア(ウ)),④Jは,同月中旬頃,Eから,原告とその子会社であるOAMの名義でLGT銀行に口座を開きたいとの申出を受け,その後,口座が開設されたこと(同ア(エ)),⑤GC社は,同年11月頃,LGT銀行との間で,GC社がLGT銀行に対して顧客を紹介し,その結果,LGT銀行が収益を得られた場合には,その収益の45%から50%程度をGC社に支払うことなどを内容とするインターミディアリー契約を締結したこと(同ウ)が認められる。
(イ) これに対し,被告らは,被告Y1には外国銀行に伝がなく,Cから外国銀行の紹介を依頼されたこともないし,六本木の飲食店での会食は,もともと被告Y1が被告Y2及びJとの食事を予定していたところに,偶然Cらが同席することになったものであり,被告Y1は,CらにJを紹介したが,同会食において融資の話は出ていない旨主張し,被告らは本件刑事訴訟においても同趣旨の供述(甲153,156)をしている。
しかしながら,上記(ア)のとおり,六本木の飲食店での会食には,原告の損失隠しに関与してきたCらがそろって参加しており,被告Y2も,同会食の際,JがLGT銀行の概要について資料を使って説明していた旨供述しているのであるから(甲157),被告らの会食にCらが偶然に参加したなどと述べる被告Y1の供述は採用することができない。
(ウ) 一方,被告らは,平成9年6月頃には野村證券を退職して共に起業することを計画していたところ,JからLGT銀行とインターミディアリー契約を締結すれば,LGT銀行は顧客を紹介してくれる相手方に収益の3割程度を支払うと聞かされており,また,Jは,平成10年3月頃,被告Y1から原告の担当者にLGT銀行について説明してほしいと頼まれていたことは,上記(ア)のとおりである。
以上の点に,①前記ウのとおり,被告Y1は,平成4年3月頃,原告がその金融資産に少なくとも400ないし450億円もの巨額の含み損を抱えていることを知らされ,これが隠匿されている事実を認識していたこと,②Cは,本件刑事訴訟において,被告Y1に外国銀行を紹介してもらおうと考え,平成9年6月頃から同年10月頃までの間,数回にわたり,都内で被告Y1と面談し,被告Y1に対し,原告が運用による損失を400億円から500億円ほど抱えており,外国の銀行に口座を開いて,そこから簿外ファンドに金を流したいので,秘密保持が徹底している外国の銀行を紹介してほしいと頼み,被告Y1がこれに応じた旨の供述をし(甲39,136,138),Dも同趣旨の供述をしていること(甲49,139)を考え併せると,被告Y1は,その頃,Cらから,原告が依然として巨額の損失を抱えていることを知らされ,損失隠しのために秘密保持が徹底している外国の銀行を紹介してほしいと頼まれたものというべきである。
そして,このようなCらの依頼に応えることは,被告らの退職後の事業の運営にも資するものであり,また,共に会社を設立しようとしている被告Y2の理解が得られなければなし得ないことというべきであるから,被告Y2もその頃被告Y1から上記事情を聞かされていたものと認めるのが相当であり,同認定に反する被告Y2の供述は採用することができない。
オ GCNVルート構築に対する被告らの認識及び関与について
(ア) 前記1の認定事実によると,①原告は,朝日監査法人から,平成12年3月期末までに特金等を解約するよう強く指導され,Cらは,かかる処理の前倒しを余儀なくされたこと(同(3)),②このような中,被告らは,Cらに対し,原告が中心となって事業投資ファンドを組成する案を提案し,Cらは,組成した事業投資ファンドに原告が出資し,その資金を簿外ファンドに流すことを決めたこと(同(4)ア),③GCNVの保有する銀行口座からの送金を指示することができる署名権者は,業務執行組合員であるGCIケイマンの役員としての被告ら及びBであったこと(同イ),④GCNV組成後,その資金がQPに移されたものの,GCNVには期末である12月末に監査が入るため,GCNVの決算期直前になるとQPから資金が戻され,決算期後に再びQPに資金を出すという資金移動が繰り返されたが,このような資金移動がされることについて,GCNVの業務執行組合員であるGCIケイマンの役員として被告らから疑問が呈されることはなかったこと(同ウ),⑤Cらは,GCNVルートを構築し,これを実行に移すに当たって,虎ノ門にあるGC社の事務所に集まって打合せをしており,被告ら及びBは,被告Y1が方針を決め,被告Y2がそれを具体化し,Bが実務的な手続を担当するといった役割分担をしていたこと(同オ)が認められる。
(イ) これに対し,被告らは,被告らがCらに提案したのは,飽くまでも原告の新事業のための事業投資ファンドの創設であり,原告の損失を隠匿するためのものではない,Cらから余剰資金300億円はQPにおいて短期の資産運用をすると指示されたものであり,これらが特金等の解消のために使われたことは知らなかった旨主張し,被告らは本件刑事訴訟においても同趣旨の供述(甲153,156)をしている。また,Cらは,組成したGCNVにおいて有望なベンチャー企業を発掘させ,それによって得られたキャピタルゲインを損失の解消に使うことも念頭に置いており,被告らがテクノマイニング株式会社を立ち上げて実際に事業を行うなどしたことは,前記1(4)カのとおりである。
しかしながら,前記1(4)イのとおり,GCNVに対しては,原告及びGVから合計350億円の出資がされたところ,そのうち約300億円もの巨額の資金が余剰であるとしてQPに対する短期の資産運用のみに利用され,前記1(8)のとおり,融資と返済という資金移動が繰り返される状態が平成18年3月まで続けられたというのは不自然というほかない。被告らがCらに原告の損失隠しの目的があったことを知らなかったのであれば,被告らは,GCNVの業務執行組合員であるGCIケイマンの役員として繰り返される資金移動に疑問を呈したというべきであるが,そのようなこともなかったのである。
以上の点に,①前記エのとおり,被告らは,平成9年頃,Cらから,原告が依然として巨額の損失を抱えていることを知らされ,損失隠しのためにLGT銀行ルート構築に関与したものと認められること,②Cは,本件刑事訴訟において,Cらは,QPで資金が必要になることについて,被告らに対し,「簿外ファンドでロスを付けるときに,国債を借りたりしていたので,350(億)のうち300(億)ほどはいったんそっちで使わせてもらうことになります。ファンドの決算期には戻しておくようにします。」などと説明をしていた旨供述していること(甲42,52,137,139,142,145)を考え併せると,GCNVは,専らQPから国債等の返還を受けるための資金供給の方法として,すなわち原告の損失隠しのために組成されたものというべきであり,被告らもそのことを認識してGCNVの組成等に関与したものと認めるのが相当であって,同認定に反する被告らの供述は採用することができず,被告らがるる主張する点は同認定を左右するものではない。
カ GIM-Oルート構築に対する被告らの認識及び関与について
(ア) 前記1の認定事実によると,①Cらは,LGT銀行のGIMを購入し,これを担保としてLGT銀行のCFCに対する融資額を増やすことを考え,平成12年1月28日の原告経営会議において,400億を拠出する旨の承認を得たこと(前記1(5)ア),②Dは,同年2月26日から同年3月3日頃にかけて,LGT銀行のあるリヒテンシュタイン公国へ出張したが,LGT銀行担当者から,GIMの購入を断られ,その後,Jを通じてLGT銀行と交渉した結果,原告のためにGIM-Oというファンドが新たに組成されることになったこと(同),③Cらは,平成12年3月,ケイマン諸島にTEAO及びNEOを組成し,原告がGIM-Oに出資した資金をTEAO,NEOを介してQPに供給することを決めたこと(同イ),④同月8日から12日までケイマン諸島に出張していた被告Y2は,現地の弁護士事務所に依頼してTEAO及びNEOの組成手続を行い,同月10日付けでTEAOが,同月15日付けでNEOが組成されたこと(同),⑤同月23日にNEOから101億円が出資されてITVが組成されたこと(前記1(6)ア)が認められる。
(イ) これに対し,被告らは,被告らがCらにGIMの購入を勧めたという事実はなく,GIM-Oの組成は,Cらからもう一つ事業投資ファンドを任せたいということで依頼されたものであり,CらにGIM-Oを原告の損失隠しに利用する思惑があることも知らなかった旨主張し,被告らは本件刑事訴訟においても同趣旨の供述(甲153,157)をしている。
しかしながら,前記1(5)イ,(6)のとおり,原告及びOAMがGIM-Oに対して出資した350億円は,そのうち310億円がTEAOに債券購入代金として送金され,さらに,TEAOからNEOに出資金として300億円が送金された後,NEOからITVに出資金として101億円が送金されてITXの株式の購入に充てられたほか,QPに債券購入代金として194億円が送金され,QPは,同資金を用いて特金等が貸し付けていた国債等を買い戻し,原告及びOAMに返還するなどしたものである。そうだとすると,投資に充てられた額は,原告及びOAMが出資した額の3分の1にも満たなかったのであり,それも,前記1(6)のとおり,ITXの株式をITVという簿外ファンドで引き受け,将来キャピタルゲインが得られれば,これを原告の簿外損失の解消に充てることにしたものであって,いずれにしてもGIM-Oを組成した理由が原告の損失隠しにあったことは容易に認識できたというべきである。
以上の点に,①前記エのとおり,被告らは,平成9年頃,Cらから,原告が依然として巨額の損失を抱えていることを知らされ,損失隠しのためにLGT銀行ルート構築に関与したものと認められること,②Cは,本件刑事訴訟において,原告の損失隠しのため,GIM-Oから原告の簿外ファンドに資金を流す方法を被告らと相談した旨を供述し(甲42,136),D及びEも同趣旨の供述をしていること(甲53,139,142)を考え併せると,GIM-Oや簿外ファンドであるTEAO,NEOは,QPから貸し付けた国債等の返還を受け,あるいは簿外ファンドであるITVにおいてキャピタルゲインを得るための資金供給の方法として,すなわち原告の損失隠しのために組成されたものというべきであり,被告らもそのことを認識してTEAO,NEO及びITVの組成等に関与したものと認めるのが相当であって,同認定に反する被告らの供述は採用することができず,被告らがるる主張する点は同認定を左右するものではない。
(2)  新事業3社を利用した原告の損失隠しへの関与について
ア Cらが新事業3社を原告の損失隠しに利用した経緯
前記1の認定事実によると,①GCNVは,平成12年に事業投資ファンドとして組成されたものであり,原告の新事業の発掘を標ぼうしてきたが,組成から5年程度経過した時点でも,適当な企業が見つからない状況が続いていたこと(同(7)ア),②被告らは,平成17年頃,Cらに対し,被告らが設立するなどした新事業3社を紹介したところ,新事業3社は,当時,売上がほとんどない状態であったが,Cらは,新事業3社の事業が原告の既存事業とある程度関連性を有しており,原告の人材その他の経営資源を活用でき,また対象とする市場規模が大きく,事業としての成長も期待できるとして,GCNVや原告が簿外ファンドから新事業3社の株式を巨額の代金で取得して簿外ファンドに利益を出させ,これにより簿外損失を解消することを企てたこと(同イ~エ),③そこで,Cらは,原告が新事業3社に投資することについて,原告の事業投資審査委員会の承認を得るため,新事業3社が数年後には数百億円もの売上が見込まれる旨の事業計画書を被告らに作成させ,同委員会に出席させて説明させるなどしたこと(同オ,カ),④平成12年以降,GCNVとQPとの間において資金移動が繰り返されていたが,監査を通じて原告の損失隠しが発覚するおそれがあったため,Cらは,GCNVがNEO及びITVから新事業3社の株式を総額107億8040万円で購入し(平成18年売買),これを含む送金取引によって,同年3月までにGCNVが保有していたQPの債券240億円を全て償還し,両者間の債権債務関係を解消させたこと(同(8)ア),⑤平成19年9月21日にGCNVが解散し,GCNVが保有していた新事業3社の株式を原告が引き取り,同株式は,原告の連結貸借対照表において,平成18年売買の取得価格(簿価)で資産として計上されたこと(同イ),⑥Cらは,平成20年3月までに新事業3社を原告の子会社化することを決め,原告及び原告の連結子会社であるOFHは,同月26日,NEO及びITVから新事業3社の株式を総額607億9500万円で購入し(平成20年売買),その結果,平成20年3月期の原告の連結貸借対照表において約545億円ののれんが計上され,これによって原告の簿外損失が計数上解消されたことから,原告の簿外ファンドは全て解散したこと(同(9))が認められる。
イ 新事業3社を利用した原告の損失隠しに対する被告らの認識及び関与について
被告らは,Cらに新事業3社を推奨したことはなく,原告の損失に対する認識も,Cらから新事業3社を原告の損失隠しに使うとの説明もなかったから,新事業3社の株式の売却益を原告の簿外損失解消の引き当てとする意図もなかったとし,新事業3社の株価も,原告がこれを新規事業と位置づけて力をいれていくことを踏まえたものであるから,何ら不合理なものではない旨主張し,被告らは本件刑事訴訟においても同趣旨の供述(甲153,157)をしている。
しかしながら,新事業3社の事業計画の内容を主導したのがCらであるとしても,Cらは,GCNVや原告が簿外ファンドから新事業3社の株式を巨額の代金で取得して簿外ファンドに利益を出させ,原告の簿外損失を解消しようと企てたものであり,Cらが平成17年頃に売上がほとんどなかった新事業3社をわずか数年で数百億円もの売上を計上できる会社に成長させる意思などなかったことは,新事業3社の現実の売上がせいぜい数億円にとどまり,一度も営業利益を計上することなく清算手続に至ったこと(前記1(7)オ)からも容易に認識できたというべきである。
以上の点に,①被告らは,前記(1)エからカのとおり,平成9年頃,Cらから,原告が依然として巨額の損失を抱えていることを知らされ,損失隠しのためにLGT銀行ルート構築に関与したものであり,GCNVルート及びGIM-Oルートの構築も原告の損失隠しを目的とするものであることを認識して,これに関与したと認められること,②被告らは,前記第2の2(6)のとおり,被告らが経営するGCIケイマンにおいて,契約に基づき,平成12年から平成19年までにファンドの管理手数料として約36億3900万円,社債の売却益発生に係る報酬及びGCNVの解約金として合計約17億5900万円の支払を受けるなどした(前記第2の2(6))以外に,前記1(11)のとおり,平成18年売買及び平成20年売買に係る報酬として,被告ら及びBは,平成20年9月1日にNEOからGurdon口座に12億5925万円を送金させ,同年12月19日にTEAOからNayland口座に9億5000万円を送金させ,さらに,Instage口座又はE-Quality口座及びPan Pacific口座を経由し,リヒテンシュタイン公国に設立したそれぞれの財団の口座に,5:3:2の割合で分配して入金させるなどしており,被告らが報酬を受領したことが容易に判明しないようにしていたというべきであること,③Cらは,本件刑事訴訟において,被告ら及びBと簿外ファンドの損失解消の必要性や方法に関して,複数回にわたり協議した旨を供述していること(甲43,54,61,136,139)を考え併せると,被告らは,Cらが新事業3社を使って原告の簿外損失を解消しようと企てたことを認識してこれに関与したものと認めるのが相当であり,同認定に反する被告らの供述は採用することができず,被告らがるる主張する点は同認定を左右するものではない。
(3)  被告らの不法行為責任
以上のとおり,原告の財務部長や役員を務めたCらは,バブル経済の崩壊を発端として原告の金融資産に1000億円に近い含み損を抱えることになったため,当時の原告の社長の意向を受け,簿外ファンドを組成して損失を隠匿していたところ,その発覚を防ぐため,資金を簿外ファンドに供給する手段として,LGT銀行ルート,GCNVルート及びGIM-Oルートを構築し,さらに,簿外ファンドが取得していた新事業3社の株式を巨額の価格で購入して新事業3社を原告の子会社とした上,原告の連結貸借対照表にのれんを計上し,これを償却することによって原告の簿外損失を解消しようと有価証券報告書に虚偽の記載をしたものである。
このようなCらの行為は,証券取引法又は金融商品取引法に違反する行為であり,これによって,原告は,GCIケイマンに対するファンド管理手数料等の支払,LGT銀行に対するファンド管理手数料の支払,被告らに対する報酬の支払を余儀なくされたほか,原告自身も証券取引法又は金融商品取引法の両罰規定により同法違反の罪で起訴され,7億円の罰金刑を受けてその納付をすることになったものであるから,Cらの一連の行為は,原告に対する不法行為に当たるというべきである。
そして,被告らは,①LGT銀行ルート,GCNVルート及びGIM-Oルートの構築の目的が原告の損失を隠匿することにあることを認識しながら,平成10年3月頃,LGT銀行東京駐在所長であったJをCらに紹介し,GCNVの組成,運営,QPとの間の資金移動,TEAO,NEO及びITVの組成,QPに至るまでの資金移動,ITVにおけるITX株の購入,GIM-O及びITVの運営に関わり,また,②新事業3社に対する投資の目的が原告の簿外損失を解消することにあることを認識して,平成17年頃,Cらに新事業3社を紹介し,新事業3社の事業計画の作成,平成18年売買,平成18年3月の送金取引によるQPのGCNVに対する債務の弁済,GCNVの解散による原告の新事業3社の株式の取得,平成20年売買に関わったものである。そうだとすると,被告らは,Cらの不法行為を幇助したというべきであるから,民法719条2項に基づき,共同行為者とみなして,原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。
3  争点2(原告の損害)について
(1)  新事業3社の株式の購入に係る損害について(主位的請求)
ア 原告は,被告らの不法行為により,本来であれば取得する必要のない新事業3社の株式を,GCNV又は原告において不当に高い価格で取得することとなったとし,新事業3社の株式の取得価格と平成18年売買及び平成20年売買における各代金との差額の合計額572億9540万円が原告に生じた損害である旨主張する。
イ しかしながら,前記第2の2の前提事実及び前記1の認定事実によると,①平成8年頃には約900億円にまで原告の損失が拡大したため,Cらは,海外に原告の連結決算の対象とならない簿外ファンドを組成し,原告や原告の子会社であるOAMが保有する特金等の資産の中から国債等を貸し付け,簿外ファンドにおいてこれを売却し,その資金をもって原告の金融資産を簿価で買い取らせ,その後,原告の金融資産をCFCとQPの2つの簿外ファンドに集約させた結果,平成10年頃には,CFCとQPが900から950億円の含み損を抱える金融資産を保有するに至ったこと(前記第2の2(4)イ),②Cらは,簿外損失が発覚するのを防ぐため,LGT銀行ルート,GCNVルート及びGIM-Oルートを構築して資金を簿外ファンドに供給したこと(前記1(2)~(5)),③平成12年以降,GCNVとQPとの間において資金移動が繰り返されていたが,監査を通じて原告の損失隠しが発覚するおそれがあったため,Cらは,GCNVがNEO及びITVから新事業3社の株式を総額107億8040万円で購入し(平成18年売買),これを含む送金取引によって,同年3月までにGCNVが保有していたQPの債券240億円を全て償還し,両者間の債権債務関係を解消させたこと(同(8)ア),④平成19年9月21日にGCNVが解散し,GCNVが保有していた新事業3社の株式を原告が引き取り,同株式は,原告の連結貸借対照表において,平成18年売買の取得価格(簿価)で資産として計上されたこと(同イ),⑤Cらは,平成20年3月までに新事業3社を原告の子会社化することを決め,原告及び原告の連結子会社であるOFHは,同月26日,NEO及びITVから新事業3社の株式を総額607億9500万円で購入し(平成20年売買),その結果,平成20年3月期の原告の連結貸借対照表において約545億円ののれんが計上され,これによって原告の簿外損失が計数上解消されたことから,原告の簿外ファンドは全て解散したこと(同(9))が認められる。
そうすると,原告は,平成8年頃,既にその金融資産に約900億円の損失を抱えていたものであり,この金融資産を取得価格(簿価)で簿外ファンドに購入させて損失を隠匿していたところ,平成18年売買及び平成20年売買により,新事業3社の株式を実際の価値よりも巨額の代金で購入して再び含み損を原告に戻したものにほかならず,平成18年売買及び平成20年売買による原告の代金の支払は,原告内部の資金移動にすぎないというべきである。そうだとすると,そもそも損害賠償制度が被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであることに照らしても,新事業3社の株式の取得のために原告が支出した費用は,損害に当たらないというべきである。
(2)  罰金及び課徴金の支払に係る損害について(主位的請求)
ア 前記2(3)のとおり,被告らは,①LGT銀行ルート,GCNVルート及びGIM-Oルートの構築の目的が原告の損失を隠匿することにあることを認識しながら,平成10年3月頃,LGT銀行東京駐在所長であったJをCらに紹介し,GCNVの組成,運営,QPとの間の資金移動,TEAO,NEO及びITVの組成,QPに至るまでの資金移動,ITVにおけるITX株の購入,GIM-O及びITVの運営に関わり,また,②新事業3社に対する投資の目的が原告の簿外損失を解消することにあることを認識して,平成17年頃,新事業3社をCらに紹介し,新事業3社の事業計画の作成,平成18年売買,平成18年3月の送金取引によるQPのGCNVに対する債務の弁済,GCNVの解散による原告の新事業3社の株式の取得,平成20年売買に関わったものである。
一方,前記第2の2の前提事実によると,原告は,平成19年3月期から平成23年3月期までの原告の有価証券報告書に虚偽の記載をしたとして起訴され,東京地方裁判所は,平成25年7月3日,①H,C及びDは,P,被告ら及びBと共謀の上,原告の平成19年3月期の連結会計年度につき,実際の連結純資産額が約2324億5900万円であったにもかかわらず,損失を抱えた金融資産を簿外処理するなどの方法により,「純資産合計」欄に3448億7100万円と記載するなどした連結貸借対照表を掲載した有価証券報告書を提出し,②H,C及びDは,P,被告ら及びBと共謀の上,原告の平成20年3月期の連結会計年度につき,実際の連結純資産額が約2500億2900万円であったにもかかわらず,損失を抱えた金融資産を簿外処理するとともに架空ののれん代を計上するなどの方法により,「純資産合計」欄に3678億7600万円と記載するなどした連結貸借対照表を掲載した有価証券報告書を提出し,③H,C及びDは,Pと共謀の上,原告の平成21年3月期の連結会計年度につき,実際の連結純資産額が約1208億5200万円であったにもかかわらず,損失を抱えた金融資産を簿外処理するとともに架空ののれん代を計上するなどの方法により,「純資産合計」欄に1687億8400万円と記載するなどした連結貸借対照表を掲載した有価証券報告書を提出し,④H,C及びDは,Pと共謀の上,原告の平成22年3月期の連結会計年度につき,実際の連結純資産額が約1713億7100万円であったにもかかわらず,架空ののれん代を計上するなどの方法により,「純資産合計」欄に2168億9100万円と記載するなどした連結貸借対照表を掲載した有価証券報告書を提出し,⑤H,C及びDは,共謀の上,原告の平成23年3月期の連結会計年度につき,実際の連結純資産額が約1252億2500万円であったにもかかわらず,架空ののれん代を計上するなどの方法により,「純資産合計」欄に1668億3600万円と記載するなどした連結貸借対照表を掲載した有価証券報告書を提出し,もって,それぞれ重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したとの事実を認定した上,原告につき罰金7億円の有罪判決を言い渡し,原告は,平成25年8月9日,上記判決に従い,罰金7億円を納付したこと(前記第2の2(9)),原告は,平成23年4月1日から同年6月30日までの四半期につき,重要な事項につき虚偽の記載のある報告書を提出したとして,平成24年7月11日,金融商品取引法に基づき,1986万円の金融庁長官の課徴金納付命令を受け,同年7月31日,同額を納付したこと(同(8))が認められる。
イ 原告が受けた罰金刑は,平成19年3月期から平成23年3月期までの有価証券報告書の虚偽記載に係る5つの犯罪事実に基づくものであり,被告らが起訴された事実は,そのうち平成19年3月期及び平成20年3月期のものに限られているが,これを含む上記5つの犯罪事実は,Cらが含み損を抱えた原告の金融資産を簿外ファンドに移転させ,その後も,被告らの協力を得て,その発覚を防ぐための方策を講じてきたという一連の事実経過を前提とするものであり,被告らが平成10年3月頃又は平成12年3月頃にLGT銀行ルート,GCNVルート及びGIM-Oルートの構築に協力しなければ,1000億円を超える巨額の損失隠しがこれほど長期化することもなく,平成19年3月期から平成23年3月期までの有価証券報告書の虚偽記載により,原告が有罪判決を受けることもなかったというべきである。
そうだとすると,被告らがCらによる原告の損失隠しに加担したことによって,原告に対する罰金刑の言渡しという不可分の一個の結果を招来したものと認めるのが相当であり,被告らは,共同行為者として,原告が同有罪判決に従って支払った7億円の罰金額全額について,Cらと連帯して損害賠償責任を負うべきである(最高裁平成10年(受)第168号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号328頁参照)。
また,原告が納付した1986万円の課徴金は,平成23年4月1日から同年6月30日までの四半期につき,原告が重要な事項につき虚偽の記載のある報告書を提出したことに対するものであるが,これも,Cらが含み損を抱えた原告の金融資産を簿外ファンドに移転させ,その後も,被告らの協力を得て,その発覚を防ぐための方策を講じてきたという一連の事実経過を前提とし,被告らがLGT銀行ルート,GCNVルート及びGIM-Oルートの構築に協力しなければ,課されることのなかったものというべきであるから,被告らは,共同行為者として,同課徴金の全額についてCらと連帯責任を負うべきである。
ウ 被告らは,有価証券報告書等の報告書は,原告内部で作成されたものであり,被告らはこれに一切関与していないから,罰金及び課徴金を損害とする不法行為には無関係である旨主張する。
しかしながら,原告の損失を適正に公表しない有価証券報告書等の作成は,当該損失の発覚を防ぐ行為を前提としているものであるから,被告らが,簿外,すなわち原告の貸借対照表上計上しない損失の存在を認識し,その発覚を防ぐことに関与していたということは,原告の有価証券報告書等の作成に無関係であるということはできない。
したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。
エ 被告らは,罰金は,刑罰の一種であり,その性質上他人に転嫁することが予定されておらず,課徴金についても,法人が負担することを前提としたものであるから,不法行為に基づく損害賠償として請求することはできないと主張する。
しかしながら,罰金や課徴金は,それを科された者が自ら納付すべきものであるとしても,財産的な損失であることに変わりはないから,第三者の不法行為によって罰金や課徴金の納付を命じられたのであれば,当該不法行為と相当因果関係のある損害として,損害賠償の対象となるというべきである。
しがたって,被告らの上記主張は,採用することができない。
オ 被告らは,本件は原告及びその役員らが自ら引き起こした犯罪であり,これらの者は刑事訴訟において事実を争うことなく罰金刑に処せられ,罰金を納付したものである以上,これを被告らに請求することは,損害の公平な負担という不法行為制度の趣旨に反する旨主張する。
しかしながら,原告及びその役員らが刑事訴訟において事実を争わなかったとしても,それによって被告らを陥れる意図があったことをうかがわせる事情はなく,そうである以上,原告が被告らに対して損害賠償を請求することが不法行為制度の趣旨に反するということはできない。
したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。
カ 被告らは,課徴金については原告らの主張する不法行為の対象外である旨主張するが,課徴金も,原告において平成23年まで計上すべき損失を計上していなかったことを理由に納付を命ぜられたものであり,その前提となる行為に被告らが関与していたことは前記イのとおりであるから,被告らの上記主張は,採用することができない。
4  争点3(信義則違反又は禁反言)について
被告らは,原告が新事業3社に関する情報提供を受け,これを精査して投資判断をすることが可能な状態で,自らの判断により投資を行っている以上,新事業3社の株式の売買に関しては,たとえ経営陣が交代したとしても,同一法人格である原告から被告らに対して損害賠償請求を行うことは,禁反言の原則又は信義則に反し,許されないと主張する。
しかしながら,前記1で認定した事実によると,新事業3社に対する投資は,Hを始めとする原告の旧役員が原告の損失隠しのために行った違法な行為であり,これらの原告の旧役員が原告に対して不法行為責任を負うことは明らかである。本件は,原告の旧役員の原告に対する不法行為を被告らが幇助したという事案であり,原告が被告らを共同行為者として損害賠償の請求を行うことが信義則に反し禁反言となるということはできず,被告らの上記主張は,採用することができない。
5  争点4(過失相殺)について
被告らは,本件における損失の隠匿及び解消を考案し実行したのは,代表取締役であったHを始めとする原告内部の者であり,原告の取締役会の役員らが通常の注意をしていれば気付くことができたものであるから,過失相殺が認められるべきである旨主張する。
しかしながら,本件は,Hを始めとする旧役員の不法行為を被告らが故意に幇助した事案であり,被告らが果たした役割も小さなものではないというべきであるから,そのような被告らが原告側に過失があったとして損害賠償額の減額を求めることは許されないというべきである。
したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。
第5  結論
以上によれば,原告は,被告らの不法行為によって少なくとも原告が納付した罰金7億円及び課徴金1986万円の合計7億1986万円の損害を被ったと認められ,そのうち5億円(罰金額と課徴金額を案分して計算した額を請求していると解される。)及びこれに対する罰金を納付した日である平成25年8月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の主位的請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 永谷典雄 裁判官 鈴木進介 裁判官 中田萌々)

 

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