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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(64)平成28年11月29日 福岡高裁宮崎支部 平28(う)18号 詐欺、強要、詐欺未遂、恐喝被告事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(64)平成28年11月29日 福岡高裁宮崎支部 平28(う)18号 詐欺、強要、詐欺未遂、恐喝被告事件

裁判年月日  平成28年11月29日  裁判所名  福岡高裁宮崎支部  裁判区分  判決
事件番号  平28(う)18号
事件名  詐欺、強要、詐欺未遂、恐喝被告事件
文献番号  2016WLJPCA11296020

裁判経過
第一審 平成28年 3月23日 宮崎地裁 判決 平25(わ)245号・平26(わ)18号・平26(わ)45号・平26(わ)90号・平26(わ)17号・平26(わ)44号・平26(わ)89号・平26(わ)137号・平26(わ)171号 詐欺、強要、社会保険労務士法違反、詐欺未遂、恐喝被告事件(被告人Y1関係)、恐喝、詐欺被告事件(被告人Y2関係)、社会保険労務士法違反被告事件(被告人社会保険労務士法人Y3関係)

裁判年月日  平成28年11月29日  裁判所名  福岡高裁宮崎支部  裁判区分  判決
事件番号  平28(う)18号
事件名  詐欺、強要、詐欺未遂、恐喝被告事件
文献番号  2016WLJPCA11296020

被告人Y1(以下「被告人Y1」という。)に対する詐欺,強要,詐欺未遂,恐喝被告事件及び被告人Y2(以下「被告人Y2」という。)に対する強要,恐喝,詐欺被告事件について,平成28年3月23日宮崎地方裁判所が言い渡した判決の各有罪部分に対し,被告人両名から各控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官若杉朗仁出席の上審理し,次のとおり判決する。

 

 

主文

原判決中被告人両名に関する有罪部分を破棄する。
被告人Y1を懲役1年に,被告人Y2を懲役2年に,それぞれ処する。
原審における未決勾留日数中,被告人Y1に対しては260日を,被告人Y2に対しては280日を,それぞれその刑に算入する。
被告人両名に対し,この裁判確定の日から3年間それぞれその刑の執行を猶予する。
本件公訴事実中,各詐欺(平成25年12月25日付け起訴状公訴事実及び平成26年3月13日付け起訴状公訴事実第2),詐欺未遂(平成26年3月13日付け起訴状公訴事実第3)及び強要(平成26年2月6日付け起訴状公訴事実)の点について,被告人Y1は無罪。
本件公訴事実中,恐喝(平成26年5月12日付け起訴状公訴事実)及び強要(平成26年2月6日付け起訴状公訴事実)の点について,被告人Y2は無罪。

 

理由

被告人Y1の控訴の趣意は,弁護人塩地陽介作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書に各記載のとおりであり,被告人Y2の控訴の趣意は,主任弁護人金丸由宇ら作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから,これらを引用する。
第1  本件の経過(以下,略称は,当審において定めない限り原判決の例による。)
1  原審で審理された公訴事実の要旨は,以下のとおりである。
(1)  被告人Y1に関するもの
ア A1らと共謀の上,平成23年3月15日,宮崎労働局に内容虚偽の申請書等を提出するなどしたことにより,同年4月28日,本件助成金名目で502万2000円をだまし取り,更に同年5月17日,宮崎労働局に内容虚偽の申請書等を提出するなどして,同年6月30日,本件助成金名目で60万円をだまし取った詐欺の事案(被告人Y1に係る平成26年3月13日付け起訴状公訴事実第2,d店事件)
イ 被告人Y2と共謀の上,平成23年7月7日から平成24年4月頃までの間,宮崎市内5か所において,社会保険労務士法人r(以下「r法人」という。)の業務に関して,被告人Y1が,社会保険労務士でないのに,「社会保険労務士」等の記載のある名刺をE12ら5名に手渡すなどして社会保険労務士の名称を用いた社会保険労務士法違反の事案(被告人Y1に係る平成26年3月13日付け起訴状公訴事実第1,社労士法違反事件)
ウ 被告人Y2及びA4と共謀の上,平成23年7月9日頃,当時のr法人事務所において,同法人の従業員であるB2を脅迫したことにより,同月下旬頃から平成24年12月4日までの間,同人から12回にわたり合計36万円を脅し取った恐喝の事案(被告人Y1に係る平成26年5月12日付け起訴状公訴事実,恐喝事件)
エ A1らと共謀の上,平成23年12月2日及び平成24年2月2日,宮崎労働局に内容虚偽の申請書等を提出するなどしたことにより,同月29日に本件助成金名目で合計1140万5000円をだまし取った詐欺の事案(平成25年12月25日付け起訴状公訴事実,e店事件)
オ 被告人Y2及びA1らと共謀の上,平成24年5月14日及び同年10月1日,宮崎労働局に内容虚偽の申請書等を提出するなどしたことにより,本件助成金の名目で金員をだまし取ろうとした詐欺未遂の事案(被告人Y1に係る平成26年3月13日付け起訴状公訴事実第3,a店事件)
カ 被告人Y2及びA4と共謀の上,平成25年6月28日,宮崎市内において,B1をして宮崎労働局に虚偽の申告をさせようと企て,B1を脅迫してその旨の書面1通を作成させた強要の事案(被告人Y1に係る平成26年2月6日付け起訴状公訴事実,強要事件)
(2)  被告人Y2に関するもの
ア A5らと共謀の上,平成22年3月30日及び同年5月31日,宮崎労働局に内容虚偽の申請書等を提出するなどしたことにより,同年7月30日に本件助成金の名目で合計694万6000円をだまし取った詐欺の事案(平成26年6月27日付け起訴状公訴事実,c社事件)
イ A8らと共謀の上,平成24年11月22日,宮崎労働局に内容虚偽の申請書等を提出するなどしたことにより,平成25年5月17日に本件助成金名目で合計383万5000円をだまし取った詐欺の事案(平成26年8月14日付け起訴状公訴事実,b店事件)
ウ 前記(1)イ,ウ,オ及びカに挙げた被告人Y1らとの共謀に係る社労士法違反事件(被告人Y2に係る平成26年3月13日付け起訴状公訴事実第1),恐喝事件(被告人Y2に係る平成26年5月12日付け起訴状公訴事実),a店事件(被告人Y2に係る平成26年3月13日付け起訴状公訴事実第2),強要事件(被告人Y2に係る平成26年2月6日付け起訴状公訴事実)
2  原審は,被告人Y1に対し,社労士法違反事件について無罪を言い渡したが,d店事件,e店事件,a店事件(以上3件をまとめて「詐欺等事件3件」ということもある。),恐喝事件及び強要事件について有罪を認定し,懲役3年8月の判決を言い渡し,被告人Y2に対し,社労士法違反事件,a店事件及びb店事件について無罪を言い渡したが,c社事件,恐喝事件及び強要事件について有罪を認定し,懲役2年4月(執行猶予3年)の判決を言い渡した。
3  被告人Y1及び被告人Y2は,原判決中前記有罪部分に対し,控訴を申し立てた(検察官は,控訴を申し立てていない。)。
被告人Y1の弁護人の控訴趣意は,理由齟齬,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤り,事実誤認,量刑不当の主張であり,その主張は,多岐にわたっているが,前三者はいずれも詐欺等事件3件について,原判決の説示を論難し,原審の訴訟手続の違法性を主張するものであるところ,当裁判所は,詐欺等事件3件については,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があると判断したから,その余の論旨について判断するまでもなく原判決は破棄を免れない。そこで,その余の論旨に対する判断に先立ち,詐欺等事件3件に関する事実誤認の主張についての当裁判所の判断を示す。
被告人Y2の弁護人の控訴趣意は,事実誤認,法令適用の誤り,量刑不当の主張である。このうち,事実誤認及び法令適用の誤りの主張は,恐喝事件及び強要事件について原審と同様の理由で無罪を主張するものであり,その検討内容は,被告人Y1の恐喝事件及び強要事件に関する検討内容と大部分が重複するから,被告人Y1の弁護人の恐喝事件及び強要事件に係る事実誤認の控訴趣意と併せて検討することとする。
第2  被告人Y1のd店事件,e店事件及びa店事件に関する事実誤認の主張について
上記3件に係る公訴事実は,被告人Y1が,共犯者A1らに本件助成金申請手続における欺罔行為を指導等するなどし,その指導等により共犯者A1らが内容虚偽の申請書等を提出するなどしたことを内容とする詐欺ないし詐欺未遂の事案であり,これらは相互に関連する一連の事件であって,前の事件で関係者間に形成された人間関係や関係者が得た知識・経験等を前提として次の事件が発生するという関係にあるから,このような場合には,時系列に沿って証拠及び事実関係を整理し,因果の流れに従って証拠の証明力及び間接事実の推認力を検討するのが相当であって,適正な事実認定に資するものと考えられる。そこで,当裁判所は,時系列に沿って,d店事件(下記1),e店事件(下記2)及びa店事件(下記3)の順に検討することとする。
1  d店事件について
(1)  原判決の要旨
原判決が,d店事件について,A1らとの共謀を認め,被告人Y1の有罪を認定した理由は以下のとおりである。
すなわち,d店に係る本件助成金の不正請求の方法等について被告人Y1から指導ないし示唆を受けた旨のA1の供述は,供述自体の信用性が高いとはいえないが,刑訴法321条1項2号前段該当書面として取り調べたA7の検察官調書(原審甲イ135,136)における供述と大筋において一致し,D1の供述のうち被告人Y1との会話内容に関する部分とも整合すること,その内容が自然かつ合理的であること,e店事件で被告人Y1が名義貸しの提案をしたことを含めてその後の事実経過とも極めて整合すること等からすると,少なくとも被告人Y1の前記発言に関する部分は信用できる。被告人Y1が,d店に係る本件助成金申請に含まれていた労働者や改装工事費用等に関する虚偽の内容につき,具体的に認識していたとまでは認められないが,申請書に虚偽の内容が含まれることになることを認識しながら申請手続を進めていたから,被告人Y1にはd店に係る詐欺の全体について故意が認められ,また,少なくともA1らは虚偽のものが含まれていることを認識していたから,A1らとの間の共謀も認められる。
(2)  当裁判所の判断
前記(1)のとおり,原審は,d店に係る本件助成金の不正請求の方法等について被告人Y1から指導ないし示唆を受けた旨のA1の供述が信用できることを有罪認定の根拠としている。
関係証拠上,被告人Y1は,①平成22年10月頃,A1,A7及びD1が,d店の開店準備作業を行っているところに,飛び込み営業の形で来店し,上記3名と初めて面識を持ったこと,その際,本件助成金の支給申請に関する事務手続をr法人に委任するよう働きかける言動をしたこと,②その後,被告人Y1の勧誘を受けてr法人に本件助成金の申請事務を委任したA7が,平成22年11月29日,宮崎労働局において,本件助成金申請に必要な計画申請(詳細は後述。)を行う際,被告人Y1が,r法人の担当者として同労働局のヒアリングに同席したことは認められるが,前記①②以外に,具体的な欺罔行為である本件助成金の支給申請に関与したこと,その支給申請に内容虚偽の経費や労働者が記載されていることを具体的に認識していたことを示す証拠は,A7の検察官調書(原審甲イ135,136)があるにとどまる。よって,本件において,d店事件で被告人Y1の有罪を認定する根拠となり得る証拠は,前記A1及びA7の各供述のみということになる。
しかし,前記各供述が信用できるとする原審の前記説示は,論理則及び経験則等に反して不合理であり,是認できない。その理由は,以下のとおりである。
ア まず前記各供述が客観的証拠等信用性の高い証拠により認定できる事実と整合するか否かを検討する。関係証拠によれば,以下の事実が容易に認められる。
(ア) 本件助成金制度は,雇用失業情勢の改善の動きが弱い地域において,当該地域における重点分野(地域再生分野)に該当する事業(地域再生事業)で創業し,労働者を雇い入れる事業主に対し,創業支援金(地域再生事業の開始に要した経費の支援に係る部分),雇入れ奨励金(地域再生事業を実施する法人等における求職者の雇入れの奨励に係る部分)等の助成をすることにより,雇用創出を図るものであり,平成20年に制度が創設されて以後,数次の改正を経て,徐々に支給要件が厳格化していき,平成25年には廃止された。
個人事業主が本件助成金の支給を受けるまでの大まかな流れは,以下のようなものである。
① 個人事業主は,管轄労働局長に対し,開業日等から起算して6か月以内に,地域再生事業計画の認定申請(以下「計画申請」ともいう。)を行う。
② 個人事業主は,管轄労働局長に対し,創業・雇入支援対象労働者を雇用してから6か月を経過した日以降に,本件助成金の支給申請(以下「支給申請」ともいう。)を行う。
(イ) 本件助成金制度について,平成22年4月1日付けで改正されてから平成23年4月1日付けで改正(ただし,適用開始日は同年6月1日)されるまでの間の支給要領(d店に係る本件助成金の申請に適用されるもの)には,以下の内容が含まれている。
① 本件助成金の支給申請日において,創業・雇入支援対象労働者が1名以上である事業主であることが,支給要件の一つである。ここで,創業・雇入支援対象労働者とは,〈ア〉雇用保険の一般被保険者(高年齢継続被保険者,短期雇用特例被保険者,日雇労働被保険者を除く。)として6か月以上雇用されている者であること,〈イ〉雇い入れられた日現在における満年齢が65歳未満であること,〈ウ〉開業日等から起算して1年を経過する日までの間に雇い入れられた者であることのいずれにも該当するものであって現に雇用しているものをいうと定義されており,これ以外の条件は付されていない。すなわち,雇用経緯が縁故採用であるか否か,雇用形態がアルバイトであるか否かといった点は,支給要件において特に区別されていない。また,支給申請後に創業・雇入支援対象労働者を解雇しても支給要件に影響しない。もっとも,開業日から支給申請日までの間に事業主都合で1人でも解雇した場合には,原則として助成金の支給を受けられないこととされている。
なお,これら労働者に関する要件は,その後の改正で厳格化されており,本件助成金の支給申請日において,創業・雇入支援対象労働者が2名以上であって,本件助成金の支給終了後も引き続き雇用することが確実であると認められる事業主でなければならないこととされ,前記〈ア〉は「雇入れ当初より,雇用保険の一般被保険者であって1週間の所定労働時間が30時間以上である者に限る」とされ,雇用経緯も縁故採用は禁止され,公共職業安定所等の紹介により雇い入れられた者でなければならないこととされた。
② 当該法人等の代表者(事業主)が,事業内容に関し同一性が認められる他の個人事業主若しくは法人の代表者等でないこと,又はこれらであった者でないことが,支給要件の一つであるが,事業主の属性について,これ以上の条件は基本的に定められていない。すなわち,個人事業主の場合,事業主の住所について特に制限はされていない。既に他の事業を行う事業主であったとしても,それが同一内容の事業でなければ,支給要件に影響しない。個人事業主が,本件助成金の対象となる事業に専従する必要もない。過去に同一内容の事業主に雇用されていた労働者であったとしても問題ない。
なお,この要件は,その後の改正で厳格化されており,個人事業主の場合,仮に過去3年以内に別の事業を行う事業主であった場合は当該事業の内容が同一であるか否かにかかわらず本件助成金の支給要件を満たさないこととされ,さらに,事業主自身が本件助成金の対象となる事業に専ら従事(専従)するものでなければならないこととされた。
③ 管轄労働局が事業所に立ち入って行う実地調査に協力的な事業主であることが,支給要件の一つである。また,支給申請書の受理・確認方法として,創業支援金の支給対象となる経費については,法人等の設立等の日から起算して6か月以内に支払ったものであることを実地調査等で確認することとされている。実地調査に関する規定は,いずれも平成22年4月1日付けの改正で新たに追加された。
④ 創業支援金の額は,事業計画作成経費,職業能力開発経費及び設備・運営経費であって,開業日等から起算して6か月以内に支払った金額の合計額に一定の割合を乗じて得た額(ただし,上限がある。)とされている。
(ウ) 宮崎労働局では,計画申請の審査手続において,事業主に対し,所定の申請書類のほか,同労働局で独自に作っていた補足説明書も併せて提出させる取扱いとしていた。また,原則として,事業主及び提出代行者が申請書類を提出しに来た際,当該事業主及び提出代行者に対し,補足説明書に記載された内容を直接聴取して今後の申請手続に関する教示をすることを目的としたヒアリング手続を行う取扱いとしていた。
宮崎労働局においては,平成22年4月から平成24年3月までの間,本件助成金に関する窓口対応は担当職員1名で行われており,2年間で100件以上の助成金申請が処理されていたが,平成22年10月か11月頃までは実地調査も実施されており,その数は何十件かあったが,平成23年に入ってからは実地調査は行われなくなっていた。
(エ) d店の開業に至る経緯は,以下のとおりである。
① A7(旧姓A6)は,平成22年9月28日,E19との間で,宮崎県西都市〈以下省略〉所在のsビル1階をd店のテナント用として同年10月1日から賃借する旨の契約を締結した。同契約は,A7の父が,「娘が旦那と一緒に飲食店をやるからテナントを貸してほしい」などと依頼をして,手付金として現金100万円を払ったことから締結されたものであり,A7の両親が同契約の連帯保証人となっている。
② d店の電気(契約日平成22年9月29日)・水道(供給開始日同年10月9日)・プロパンガス(契約日同月21日)は,いずれもA7ないしd店代表者A7が使用契約を結んでいる。
③ d店の飲食店営業許可は,平成22年10月4日,A7が,調理師のE20を責任者として申請し,同月21日,A7に対して許可が下りている。
④ E9(以下「E9」という。)は,平成22年9月頃,A7の母から,娘が旦那と飲食店を始めるから工事をしてほしい旨依頼され,数日後,A7の母からA1を紹介され,A1からd店の改装工事の依頼を受けて,同年10月中旬頃から約10日間で改装工事を終えた。E9は,同年11月13日及び平成23年4月29日に,A1から前記工事代金の支払を受けた。
⑤ A7の友人であるD1が,平成22年10月,d店で,開店準備の作業を手伝っていたところ,被告人Y1が,飛び込み営業の形で,d店を訪れ,本件助成金の支給申請に関する事務手続をr法人に委任するよう働きかける言動をした。このとき,店内には,A1,A7及びD1がいた。ここで,被告人Y1が誰に対してどういう話をしたのかが重要な点となるが,この点については前記関係者らの間で言い分が食い違っており,後に検討する(後記ウ)。
⑥ A7は,前記⑤の後,d店の事業主として,r法人に本件助成金に関する事務手続を委任した。
⑦ d店は,平成22年10月22日頃,オープンした。
(オ) d店の開業後の事実経過
① d店に係る本件助成金の計画申請の申請書は,平成22年11月29日,宮崎労働局に提出された。同申請書において,d店の事業主はA7とされており,添付書類の内容もすべてこれを前提とされている。同申請書には,「設立等(予定)年月日」欄に「平成22年6月1日」と記載されている。添付の補足説明書には,「労働者の雇入れについて」の欄に,「接客3人」・「調理1人」の従業員を「平成22年10月22日」に「縁故」で雇い入れた旨の記載がある。
前記書類の提出に際し,宮崎労働局において,ヒアリングが実施され,d店の代表であるA7,r法人の被告人Y1及びC6の3人が参加した。宮崎労働局の担当職員E4は,同ヒアリングにおいて,d店が平成22年6月1日に開業し,同年10月22日にオープンしたこと,A7はこれまで事業をした経験がなく,今回初めて事業主になること,A7の直近の経歴は飲食店(スナック)での勤務であり,スナックでママをしていたが事業主ではなかったこと,初年度の労働者の雇入れは調理担当1名,接客担当3名で,被保険者となる労働者として平成22年10月22日より雇用していること等を聴取し,さらに,A7に対し,本件助成金制度の支給要件等について詳細に説明したパンフレットを渡すと共に,今後の支給申請手続に必要な知識等を教示した。
② A7は,平成23年初め頃,r法人代表者である被告人Y2に,d店の求人の事務を委任した。A7は,同年1月17日,r法人の担当者C6に対し,求人の条件を具体的に記載したメールを送信した。C6は,同月19日,ハローワークの担当者に,前記内容の求人票をファックス送信した。
③ d店に係る本件助成金の最初の支給申請の申請書は,平成23年3月15日,宮崎労働局に提出された。同申請書の添付書類には,「設備・運営経費」のうち,店舗改装工事として269万4000円,調理具一式として205万円,車両部品代として198万円を支出した旨の記載があり,これに沿う領収証等が含まれていたが,これらはいずれも架空ないし水増しされた経費であった。同様に,「本件助成金の対象労働者等」として,「平成22年8月16日」に雇い入れたD1,A1及びD2(以下「D2」という。)の3名らが記載され,これに沿う賃金台帳等も添付されていたが,少なくともD1及びD2には雇用保険の一般被保険者(一週間の所定労働時間20時間以上)としてd店で雇用された実態はなかった。A1については,当初,住民票と同じ東京都内の住所が記載されていたが,住所が東京である労働者は対象労働者に該当しないとして補正を求められて,現実に居住している宮崎県西都市内の住所に訂正された。なお,これらの申請書の記載は,r法人の担当者であるC6がA7から得た情報を元に記載したものであり,添付資料はいずれもA7がC6に渡したものである。前記支給申請の手続に被告人Y1は直接関わっていない。
イ 前記ア(エ)及び(オ)によれば,d店は,A7の両親の援助を受けてA7が事業主ないし経営者として開業した飲食店とみるほかない。本件助成金の申請事務も,A7が,d店の事業主として,r法人に委任しており,連絡や書類の授受もすべてA7が行っている。d店事件の欺罔行為は,①架空ないし水増しされた経費,②支給基準に合致しない労働者の雇用を申請書等に記載して本件助成金の支給申請をした行為とされているところ,前記②の点に関する原判示労働者はいずれもA7の知人等で,A7の依頼により名義貸しを承諾した者であり,前記①の点に関する架空ないし水増しされた領収書や請求書の一部を作成したのもA7である。以上によれば,d店事件の欺罔行為は,その全体を通じて,A1でなくA7が主導したものとみるのが自然である。
他方,A1は,A7の内縁の夫であり,前記ア(エ)④のとおり,d店の店舗改装工事をE9に依頼して後日その代金を支払ったほか,前記①の架空ないし水増しされた領収書や請求書の一部の作成を他人に依頼している可能性があるから,A7と共にd店事件に深く関与した可能性がないではないが,d店の事業主ないし経営者であることや本件助成金の申請事務に関与したこと等に関する客観的証拠はなく,前記②の点に関する原判示労働者はいずれもA1の知人ではなく,この点に関する欺罔行為にA1が関与した形跡がないことに照らすと,d店事件の欺罔行為をA7でなくA1が主導したとみる根拠は乏しい。
このことは,a店事件において,支給申請に際して添付したB1作成の請求書等が実際の請求書等と違うものであることが宮崎労働局において問題視され,A1とB1が同労働局に呼び出されて事情聴取を受けるという出来事があった後の時期に当たる平成25年2月26日頃,A7が,宮崎労働局から,d店事件当時の住所氏名宛に簡易書留が届いたことについて,被告人Y1に対し,同簡易書留を受領すべきかどうか相談した際,A1を介することなく,むしろA1のa店事件と区別する形でA7のd店事件の件について相談しているものとみられる会話がなされていること(原審弁イ24)によっても裏付けられている。
ウ 次に,前記ア(エ)⑤のとおり,被告人Y1とA1又はA7との間で交わされた会話の場に居合わせ,その内容を聞いていたD1の原審公判供述の内容を検討する。
(ア) D1は,原審公判で,要旨,友人であるA7のためにd店で開店準備作業を手伝っていたところ,被告人Y1が飛び込み営業で店にきて,助成金の勧誘をしてきた,オーナーと話がしたいと言ったのでA7を呼び,A7と被告人Y1とが話をした,助成金を得るには従業員を雇用する必要があるという話になり,被告人Y1が,無職の私を雇えばいいという話をした,私が無理だと断ると,大丈夫,書類は全部こちらがやる,時間は調整できる,などと言われた,実際に働かなくていいなどと言われたかどうかは覚えていないが,これらのやり取りを聞いて,私はもしかしたらd店で雇ってもらえるかもしれないという気持ちになった,被告人Y1の応対をしたのはA1ではない,などと証言した。
(イ) D1は,本件助成金の支給申請において,実際にはd店で雇用された事実がないのに,申請書添付書類の労働者一覧表に署名押印し,欺罔行為の一部を担った者であるから,一般的には,利害関係を有する証人として慎重に検討する必要がある。しかし,本件助成金の不正請求事件が,被告人Y1の指導等によりA7らが行ったものなのか,被告人Y1の指導等によらずにA7らが独自に行ったものなのか,という点は,基本的にD1自身の利害に影響しない事情である。捜査段階では,自己の関与につき,d店で雇用されていた旨,欺罔行為性を否認する趣旨の供述をしていたが,原審公判では,欺罔行為性を認める証言をしており,この点は変遷がみられるものの,捜査段階ではA7と電話でd店に関するやり取りをすることでも仕事になるというので仕事をしていると勘違いしていた旨,相応に納得できる理由を述べており,いずれにせよ原審公判では自己に不利益な事実を認めるに至っているのだから,前記の変遷は,信用性を減殺する事情にはならない。数年前の他人同士の会話内容であるから,細部まで正確に記憶して証言しているとは考え難いが,d店の事業主がA7であること(前記イ),被告人Y1の説明した本件助成金制度の内容が当時の支給要領に沿うものであること(前記ア(イ))など,基本的な部分は客観的事実と合致しており,記憶の濃淡も区別して供述しているため,話の大筋としては信用して差し支えないと考えられる。
これに対し,原判決は,D1がd店で働くつもりになっていた旨の供述は,①A7に対して雇用手続に関して何らの確認等もしていないこと,②欺罔行為の一部を担った点について言い逃れ等をするために自らに都合の良い話をする態度や傾向がみられることに照らし,後付けの弁解と考えられるから信用できない旨説示する一方で,被告人Y1との会話に関する部分については信用できるとして,D1が,自宅のある宮崎市から通うのは無理だと思い,それを被告人Y1に伝えたところ,同被告人から,大丈夫であるとか,どの店でもやっているとか,どうにでもなるというようなことを言われたので,ごまかすのかなと思った旨の供述をしていることにつき,架空の従業員を雇ったことにしている店があることを前提とした話をしている点において,A1及びA7の供述と整合するとの判断をし,A1らの供述が信用できる根拠の一つとしている。しかし,前記①については,D1の証言は,もしかしたら働けるかもという気持ちになったが,別に働かなくてもよかったという内容であり,働くことを積極的に望んでいたわけではないのだから,A7に対して雇用手続に関して何らの確認等もしていないことは特段不自然な話ではない。前記②については,原審裁判官の補充尋問に基づく説示とみられるが,D1は,一貫して,捜査段階の供述は,電話でも仕事になるという勘違いをしていたために,結果的に事実と反する説明をしてしまった旨の証言をしているのであり,原審裁判官から捜査段階の供述について「うそですよね。」と質問されて「はい。」と答えているのも,「結果的に事実に反する説明になっていた」ことを確認する証言にすぎないことが前後の文脈から明らかである。それにもかかわらず,原審裁判官は,D1が言い逃れのために故意に嘘を付いたことを前提に誘導尋問を続け,「それで,ちょっと都合よく解釈して答えたということですかね。」という質問に「そうなりますね。」とD1が答えたことをもって,前記②のとおり説示しているのであって,尋問の方法として強引に過ぎて適切さを欠き,前記供述についても正確にその趣旨を理解したものとは言い難い。そうすると,D1が働くつもりになっていたという供述につき,直ちに信用できないとはいえない。さらに,原判決は,D1供述のうち被告人Y1との会話に関する部分については信用できるとして,その内容が架空の従業員を雇ったことにして本件助成金を不正に請求するという方法を被告人Y1から指導されたというA1の供述に整合するというのであるが,これもまた,被告人Y1が,前記の不正な方法を指導したという前提でD1供述をみれば,そのような理解もできなくはないが,D1供述を素直にみる限り,被告人Y1が,平成22年10月に,d店に飛び込み営業の形で来店した際,A7に対し,本件助成金制度を利用するには,新規開業に際して従業員を1名以上雇う必要があること,その場にいた無職のD1を従業員として雇用すれば解決すること,D1の労働時間はいくらでも調整可能であること,書類についてはすべて被告人Y1が対応することなどを告げたということ以上の供述はしていないのであり,必ずしも架空の従業員を雇用するという話を前提としているものとは解されないから,A1の前記供述と整合するとはいえない。また,当時の支給要領によれば,雇用形態がアルバイトであるか否か,縁故採用であるか否かを問わず,1週間の所定労働時間が20時間以上になる従業員を1名以上雇用すれば,支給要件を満たしたのであり,被告人Y1が告げた内容は,本件助成金の支給要領を分かりやすく説明した上で,本件助成金の申請事務をr法人に委任するよう働きかけたものとみて矛盾しない。D1は,被告人Y1とA7のやり取りを聞いて,もしかしたらd店で働けるかもしれないと思った旨述べているのだから,被告人Y1とA7のやり取りは,D1が名義貸しをするという話ではなく,実際にD1をd店で雇用するということを前提として,働き方については柔軟に対応できるという話であったとみるのが自然である。原判決が指摘する,D1が「ごまかすのかなと思った。」と証言している部分は,被告人Y1が,「あなた(D1)でいいじゃない。」と言い,D1が,宮崎市内に住んでいるから西都に通うのは無理だと思い,「無理でしょう。」と答えた際に,被告人Y1が,「どこでもやっているし。大丈夫大丈夫。」「時間は調整できる。どうにでもなる。」などと言ったことについて,原審裁判官が補充尋問した結果,被告人Y1が何と言ったのかは記憶にないが,時間を調整してくれて,どうにでもなるという点について,「時間を,分からないですけれど,ごまかすのかなと思っていましたね。」と,あいまいに証言した部分を指すものとみられる。しかし,そもそも前記証言は,D1がd店で実際に勤務することを前提に,その勤務時間を被告人Y1の方で調整するという話をしていることが文脈上明らかであり,「架空の従業員を雇ったことにしている店があることを前提とした話」ではない。被告人Y1が架空従業員を雇ったことにして不正な請求をする方法を指導したということと整合するものとはいえず,かえって内容的には矛盾するものである。
エ 以上の検討を踏まえて,A1の原審公判供述の信用性を検討する。
(ア) A1は,原審公判で,おおむね次のとおり証言した。
私がd店の開店準備をしていた際,被告人Y1が飛び込み営業のように入ってきた。D1から,「お金の話をしているみたいだから,聞いてみたらどう。」と言われたので,A7ではなく,私が話を聞いた。被告人Y1からは,「国から出るお金で助成金というのがあって,それを使いませんか。書類とかは全部代行して作りますんで。」と説明された。そのときは,「とりあえず検討して御返事します。」と話して帰ってもらった。A7と相談した上で,後日,被告人Y1を呼び出した。被告人Y1から,「ここだけの話,営業してないお店でも出てるんですよ。」「五,六人しか入らないお店でも十何人も従業員を雇ったふうにしてるところもあるんですよ。」という説明があった。この時,D1はいなかった。r法人と契約した後,書類のやり取りは,私がA7に指示してC6とやりとりさせたが,肝心なところは被告人Y1と電話で話をしていた。被告人Y1からは,事あるごとに,「ここだけの話,五,六人しか入らないお店でも十何人も雇ったことにしているところもあるんですよ。要は書類が肝心なんですよ。」と言われていた。この話を受けて,形だけの従業員になってくれる人を探した。被告人Y1から,「経費の書類なんかにはまだまだ余裕があるんで,最初は領収書をどんどん集めといてください。」「実際,営業もしてないお店でも書類さえそろっていれば出るんですよ。」などと言われていたので,水増しの領収書を出した。被告人Y1に,助成金が出るのがもうちょっと早くならないのかと尋ねたところ,「開業日を前倒しにすれば問題ないですよ。」と言われたので,開業日を前にずらして記載した。d店の事業主はA7ではなく私である。水増し経費の見積書と領収書は,私が指示してA7に作らせたり,E6に頼んで作ってもらったりしたものであり,被告人Y1と一緒に作ったものではない。d店の助成金申請について,どの従業員が架空で,どの経費が水増しかを具体的にr法人の人に伝えたことはない。d店の事業主がA7ではなく私であること,d店の助成金申請が経費の水増しや架空従業員による不正なものであることを被告人Y1は当然知っていたと思う。
(イ) A1の前記証言のうち,被告人Y1が飛び込み営業でd店にやってきた際にA7でなくA1が事業主として対応したという点は,前記のとおり話の大筋として信用して差し支えないD1の供述内容と大きく異なっている。被告人Y1の供述はもとより,A7の検察官調書(原審甲イ135)においてすら,被告人Y1とやり取りをしたのがA1ではなくA7であることが前提とされているのだから,この供述は明らかに虚偽というべきである。A1の前記証言は,この点を含めて,全体的に,d店の事業主はA7でなくA1であり,被告人Y1と悪巧みをしたのもA7でなくA1であり,A7が水増しの領収書等を作ったりr法人のC6と書類のやり取りをしたりしたのもすべてA1が指示してやらせたものである旨の内容になっているところ,これは,d店の事業主がA7であって,d店事件の欺罔行為もA1でなくA7が主導したものとみるのが自然であることと整合しない。A1は,A7の内縁の夫であり,原審公判証言の時点においてもその関係が継続していたこと,捜査段階の取調べの際,A7が逮捕されたのかどうかを取調べ担当官に確認したことがあると証言していること,d店事件でA1と同等以上の刑事責任を負うべき立場にあると思われるA7が原審公判証言の時点において逮捕も起訴もされていない状況下で,A7が処罰されることを望まない旨証言していること,一連の詐欺等事件3件は,A1が自ら事業主となって申請をしたa店事件,及び,実質的にA1が主犯の一人として関与したe店事件が発覚したことに端を発したものであるから,前記2件について既に相応の処罰を受けることが避けられない状況にあるA1が,d店事件についても一括してA7の代わりに処罰を受けようと考えたとしても不自然ではないことも併せて考慮すれば,A1は,A7をかばうために虚偽供述をしている疑いが濃厚である。
被告人Y1から,実態がなくても書類さえ整っていればいい旨,事あるごとに言われていたという点は,平成22年4月1日に本件助成金の支給要件として実地調査協力義務が追加されたこと,宮崎労働局においては必要に応じて実地調査を行う取扱いをしており,現に同年10月か11月頃までは,相当数の実地調査が行われていたことに照らすと,同年10月頃に説明した内容としてみた場合,その説明内容は客観的事実に反していることになる。被告人Y1が,社会保険労務士の有資格者として本件助成金制度の実務や運用についても専門的知見を有していたとうかがわれることに照らすと,同年10月頃に,前記のような明らかに客観的事実に反する説明をするとは考え難い。むしろ,宮崎労働局では,申請件数の増大に伴い平成23年頃から事実上実地調査を行えない状況に陥っており,d店,e店及びa店の助成金申請についても,結果的に実地調査は行われなかったこと,A1はこれら3件に係る欺罔行為にいずれも関与し,うち2件については現に助成金を詐取することに成功していることに照らすと,d店事件について,被告人Y1から,実態がなくても書類さえ整っていればいい旨,事あるごとに言われていたとするA1の前記証言は,A1が平成23年頃以降に得た知識・経験に基づくものとみる方が自然な内容といえる。
被告人Y1から,開業日を前倒しにすれば助成金の支給を早く受けられると教えられて開業日を前にずらして記載したという点は,本件助成金制度において,開業日から6か月間従業員を雇用することが支給要件の一つとされており,開業日だけを遡らせても意味がないのに,被告人Y1がA7と共に参加した労働局のヒアリングにおいて,d店の開業日は平成22年6月1日で,従業員4名を雇用したのは同年10月22日であることが補足説明書の記載に基づいて説明されていること,被告人Y1は,社会保険労務士の有資格者として本件助成金制度について専門的知見を有していたとうかがわれ,開業日だけを遡らせた前記補足説明書に基づく説明内容では助成金の支給を早く受けられないことを知っていたはずであることに照らすと,この点も,客観的事実と整合していない。むしろ,d店事件においては,その後の支給申請の申請書に,D1らを雇用したのが同年8月16日であると記載され,これに沿う賃金台帳等も添付されていたために実際の開業日から6か月以内に本件助成金の支給を受けることができたこと,支給申請の書類や添付資料の作成に被告人Y1は直接関与してないことに照らすと,前記計画申請の後に,被告人Y1以外の何者かが,実際の開業日よりも遡った日付で計画申請が行われていることを奇貨として従業員の雇用日を遡らせることにしたとみる方が自然である。
A1は,d店事件の共犯者であり,専門家である被告人Y1から事あるごとに不正請求の指導等を受けたために犯行に及んだということにすれば自身の責任が軽減される立場にあるから,被告人Y1の関与をねつ造する動機も認められる。
また,被告人Y1が,飛び込み営業の形で知り合ったばかりのA1及びA7に対し,いきなり不正な支給申請を熱心に勧めたというのも,それ自体不自然な内容であるし,被告人Y1から勧められたとする時期や状況も抽象的で具体性を欠いている。そもそも証拠(原審弁イ32)によれば,被告人Y1に歩合給が支給されるようになったのは平成23年12月20日(対象期間は同年11月分)以降であるから,平成22年10月頃の時点で被告人Y1に歩合給欲しさに不正な支給申請を勧める動機も想定し難い。
以上によれば,A1の原審公判証言は,全体的に信用性が低い。
(ウ) これに対し,原判決は,A1の供述は,供述自体の信用性が高いとはいえないと説示しながら,①被告人Y1から言われたとする内容は,A7の検察官調書(原審甲イ135,136)の内容と大筋において一致するところ,A7の前記供述は反対尋問等を経たものでなく,直ちに信用することができないものの,内容が大筋で一致するなどしていることからA1の供述を補強する限度の証明力は認められる,②「5,6人しか入らない店でも,十何人も従業員を雇ったことにしている店もある」という点については,架空の従業員を雇ったことにしている店があることを前提とした話をしているという点においてD1の供述とおおむね整合する,③被告人Y1は,後にe店事件において名義貸しの提案をしているところ,仮にd店事件で不正請求に関与していなかったとすると,e店事件において名義貸しの提案をした事実が唐突すぎて不自然な話となる,④A1及びA7は,本件助成金制度やr法人の業務体制について特段の知識や情報がないから,本件不正請求の方法等を自ら発案等したとは考え難く,被告人Y1からの指導等に基づいて手続を進めたと考える方が自然な流れである,⑤A1は,すべての非を被告人Y1に押し付けたり,被告人Y1の関与の程度を殊更に強調したりするような供述はしておらず,供述態度は一定程度抑制的であるという点を根拠に,A1の前記供述のうち,被告人Y1の発言に関する部分は信用できると説示する。また,d店事件に関する説示では明示していないが,e店事件における説示を見る限り,⑥A1が,原審公判証言時,d店事件を含む本件一連の詐欺等の事件で既に有罪判決を受け,服役中であるから,自身に不利益な虚偽供述をする動機や利益は見当たらない,という点も信用性判断の根拠に置いていることがうかがわれる。
しかし,前記①については,信用性の低い供述内容と一致しているからといって供述の信用性が補強されるということにはならない。のみならず,A7の検察官調書は,原審公判において,A7の供述不能を理由に刑訴法321条1項2号前段書面として採用されたものであるところ,原審記録によれば,A7は,d店事件を含む本件詐欺等事件3件でA1が刑務所に行くことになったことに起因してうつ病エピソードを発症しており,本件詐欺等事件3件について証言するということはうつ状態になった原因の出来事について話すことに他ならないから,仮に証言することになれば,過呼吸に陥り,パニック状態になってしまうと考えられるので,証言は極めて困難である旨の医師の診断(平成27年10月16日付け宮崎地方検察庁検察官検事E21作成に係る捜査報告書等)を根拠にした判断であることがうかがわれる。その判断の当否はひとまず措くとしても,A7が原審公判で証言できない理由は,本件と関連しない外部的事情にあるのではなく,A1が刑務所に行くことになったことが原因で本件に関する証言をすること自体にストレスを感じることにあるというのであり,前記のとおり,A7がd店事件でA1と同等以上の刑事責任を負うべき立場にある可能性があることに照らすと,自身の処罰を恐れて証言を拒否する気持ちが高じ,前記症状を呈した疑いが強い。A7は,前記のとおりd店事件でA1と同等以上の刑事責任を負うべき立場にある可能性があるのに,逮捕も起訴もされた形跡がなく,A1が一貫して内妻であるA7をかばう供述をしていることも併せて考慮すれば,A7とA1は,捜査段階で,前記捜査機関によるA7に対する追及を回避するために,被告人Y1の関与につき捜査機関に迎合するような供述をしていた疑いを払拭できない。そうすると,A7の検察官調書は,A7に対する捜査機関の追及を回避するために捜査機関に迎合してなされた虚偽供述の可能性があり,他に信用性を補強する事情は見当たらないから,到底信用することができない。A7の検察官調書の内容がA1の供述と大筋で一致するのは,前記の検討を踏まえれば当然の帰結にすぎず,A1の供述の信用性を補強する根拠にはならない。前記②については,前記ウで検討したとおり,D1の原審公判供述は,本件助成金の支給要領を分かりやすく説明した上で,本件助成金の申請事務をr法人に委任するよう働きかけたものとみて矛盾しないものであり,「被告人Y1が,架空の従業員を雇ったことにしている店があることを前提とした話をした」とみるべき内容は含まれていない。また,既に検討したとおり,当時の支給要領によれば,雇用形態がアルバイトであるか否か,縁故採用であるか否かを問わず,1週間の所定労働時間が20時間以上になる従業員を1名以上雇用すれば,支給要件を満たしたのであり,被告人Y1が告げた内容は,D1がd店で勤務する上で,必ずしもフルタイムで働く必要はなく,支給要件を満たす範囲で労働時間が調整できることを説明したものとみて矛盾しない。原判決の前記説示は前提事実を誤認している。前記③については,e店事件で被告人Y1が名義貸しの提案をしたという事実は,後記のとおり,原審が,信用性の低いA1らの供述のみに依拠して認定した事実にすぎないから,この事実と整合するからといってA1の供述が信用できるということにはならない。前記④については,前記のとおり,本件助成金制度は,計画申請の後に支給申請をするとの2段階の手続となっていること,被告人Y1は,計画申請の手続に関与しているものの支給申請の手続には関与していないこと,原判決のいう不正請求の方法等とは,いずれも支給申請の段階で行われた架空ないし水増し経費及び架空労働者の作出に関するものであり,これらは,計画申請の段階で明確になされていたわけではないこと,計画申請のヒアリングで,A7が,宮崎労働局の担当者E4から,支給要件や必要書類について教示を受け,支給要件等が詳細に記載されたパンフレットを提供されていることが,それぞれ認められるから,A7が,これらの機会を通じて得た知識を悪用して不正請求を企てたとみても不自然ではない。むしろ,平成22年4月1日からわざわざ実地調査協力義務が支給要件の一つに追加され,現に同年10月か11月頃まで宮崎労働局において必要に応じて実地調査が行われていたことを,本件助成金制度に関する専門家である被告人Y1が知らなかったとは考えられず,そのような被告人Y1の認識を前提とすると,同被告人が実際には購入していない備品の架空経費や,雇用実態のない架空労働者を仕立て上げるという大胆な方法を教示したというよりは,本件助成金制度の実情を知らない素人が考え出した発想とみる方が自然ということもできる。なお,計画申請の際に,開業日を平成22年6月1日に遡らせていることは認められるが,前記のとおり,本件助成金制度において,労働者の雇用日を同年10月22日であるとしながら開業日のみを同年6月1日に遡らせるメリットはないから,開業日を遡らせた行為が,被告人Y1の不正請求の方法等に関する教示に基づくものとみることもできない。前記⑤については,A1は,被告人Y1から事あるごとに不正請求の方法等を教示されたために不正請求をしてしまったという証言をしているのであり,犯意形成過程における被告人Y1による働きかけの事実を強調して被告人Y1に非を押し付ける内容といえる。原判決の前記説示は,A1が,犯意形成過程とは関係ない場面で被告人Y1の関与を証言していないことを指摘するものであろうが,A1の責任逃れの手法に照らせば当然の帰結にすぎず,A1の証言の信用性を高める事情にはならない。前記⑥については,前記のとおり,A1は,A7をかばうために捜査機関に迎合して虚偽供述をしている疑いが濃厚であること,A1の原審公判供述の時点においてもなお,A7は逮捕も起訴もされていないことが認められ,今後も捜査機関の意向次第で刑事処分を受ける可能性が残されていることに照らすと,A1が自身の刑事裁判で有罪判決を受け,これに基づき既に服役中であるとしても,捜査機関に迎合した虚偽供述を維持する動機は認められる。以上によれば,A1の供述について,供述自体の信用性が高くないと説示しつつ,その供述のうち,被告人Y1の発言に関する部分は信用できるとの原判決の説示は,合理的根拠が示されているとはいえず,是認できない。
オ よって,A1の証言は信用することができないから,被告人Y1がd店事件においてA1及びA7に対し不正請求の方法等を指導等した事実を認めることはできず,他に,被告人Y1がd店事件の欺罔行為について認識し,A1及びA7と共謀したことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,d店事件については,犯罪の証明がないことに帰するから,これと異なり,d店事件について詐欺罪が成立するとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。
論旨は理由がある。
2  e店事件について
(1)  原判決の要旨
原判決が,e店事件について,A1らとの共謀を認め,被告人Y1の有罪を認定した理由の要旨は以下のとおりである。
すなわち,e店の事業主がA1であった旨のA1及びA2の各供述は信用できる。そうすると,e店の事業主がA2である旨の申請書の記載は虚偽といえる。また,被告人Y1,A1,A7及びA3ら4名でd店の移転の話をしているときに,被告人Y1から,形式上新規出店の形にして事業主を別人にすれば本件助成金を受給し得るという話が出た旨のA3及びA2の各供述は信用できる。これを前提に当時の状況等も併せて考慮すると,被告人Y1は,本件助成金申請の手続上,A2が事業主として名義貸しをするだけにすぎないことを認識していたと認められ,本件助成金申請により労働局から本件助成金名目で金銭をだまし取る旨A1らと共謀していたことも認められる。これに反する被告人Y1の供述はいずれも信用できない。
(2)  当裁判所の判断
原審は,前記のとおり,被告人Y1,A1,A7及びA3ら4名でd店の移転の話をしているときに,被告人Y1から,形式上新規出店の形にして事業主を別人にすれば本件助成金を受給し得るという話が出た旨のA3及びA2の各供述は信用できるとし,これを前提に当時の状況等も併せて考慮すると,被告人Y1の故意も共謀も認定できるとしている。
しかしながら,関係証拠によれば,被告人Y1は,d店事件と同様に,計画申請におけるヒアリングの同行までは関与したことがうかがわれるものの,e店に係る本件助成金の支給申請に直接関与したことをうかがわせる客観的証拠はなく,e店事件の支給申請における架空ないし水増しの経費計上や架空労働者の雇用といった具体的な欺罔行為に関与した形跡もなく,前記ヒアリングでの聴取内容や関係者とのその他のやり取りはいずれも被告人Y1に詐欺の故意や共謀がなかったとしても説明が付くものであるから,結局,被告人Y1の故意や共謀は,被告人Y1が前記教示をしたという事実を認定することで初めて成り立つものといえる。
しかし,この点に関するA1,A3及びA2の各供述はいずれも信用できないから,これらが信用できることを前提に被告人Y1による教示の事実を認定した原審の前記説示は不合理であり,是認できない。その理由は,以下のとおりである。
ア 関係証拠によれば,以下の事実が容易に認められる。
(ア) e店に係る本件助成金の申請に適用される支給要領は,前記1(2)ア(イ)の支給要領(d店に係る申請に適用されるもの)と同一である。
(イ) d店は,平成22年10月にオープンしたが,客の入りは悪く,客層は,大半がリピーターであった。それら常連客の中に,E6,A3及びB1がいた。E6は,A3の交際相手であり,A3の紹介でA1らと知り合った。B1もA3の知人であり,A3の紹介でA1らと知り合った。
A3は,不動産会社(n社)の取締役であり,東京都内から宮崎県西都市内に戻ってきたA1及びA7に対し一軒家を賃貸していた。
(ウ) A2は,n社の従業員であるが,平成23年4月17日,e店の事業主として,本件助成金の申請事務をr法人に委任する旨の委任状を作成した。
イ これを前提に,まずはA3の供述について検討する。
(ア) A3は,原審公判において,要旨,平成23年3月頃,A1又はA7から,d店の店舗の移転先について相談を受けて,n社の事務所の隣をA1に貸すことにした,同年3月か4月頃,改装工事をしている所でA1及びA7と世間話をしていると被告人Y1が来た,被告人Y1とはこのとき初めて会ったが,「事業主が変われば移転でも助成金を申請できる。」「屋号も変わればいい。」と言われ,事業主を誰にするかという話になり,被告人Y1から,「A7はd店で営業しているから駄目。」「A1は東京にまだ住所があってこちらに移していないから駄目。」「私(A3)はもう既に事業主なので駄目。」と言われたので,私がA2を推薦し,後日,被告人Y1のいないときに,A1及びA7と一緒にA2に頼んで,事業主を引き受けてもらった旨証言した。
(イ) A3の前記公判供述のうち,本件助成金を申請するに当たり,A7についてはd店の事業主をしているからe店の事業主になれないとする部分は正しいが,A1について住所が東京にあるからe店の事業主になれないとする部分及びA3について既に事業主をしているからe店の事業主になれないとする部分は,前記のとおり,本件助成金の当時の支給要件が,事業主の住所について特に制限しておらず,既に他の事業を行う事業主であったとしてもそれが同一内容の事業(飲食業)でなければ問題がなく,事業主が本件助成金の対象となる事業に専従する必要もないとされていたことに照らし,客観的に誤っている。被告人Y1が,社会保険労務士の有資格者として本件助成金制度について専門的知見を有していたとうかがわれることに照らすと,被告人Y1がこのような教示をするのは不自然である。むしろ,d店事件について説示したとおり,A7は,d店に係る本件助成金の計画申請の際のヒアリングにおいて,宮崎労働局の担当者E4に対し,「これまで事業をした経験がなく,今回初めて事業主になること,直近の経歴は飲食店(スナック)での勤務であり,スナックでママをしていたが事業主ではなかったこと」との説明をしたことが認められ,遅くともこの頃までに,他に事業主をしていると本件助成金の支給申請ができないという知識を得たと推認でき,さらに,A1は,d店に係る本件助成金の支給申請の際の提出書類に,当初,d店の雇用労働者として,住民票と同じ東京都内の住所を記載して署名押印していたが,住所が東京にある労働者は対象労働者に該当しないとして補正を求められ,現実に居住している宮崎県西都市内の住所に訂正した上で改めて署名押印したことが認められ,遅くともこの頃までに,住所が東京になっていると本件助成金の支給申請が通らないという知識を得たと推認できるところ,A1について住所が東京にあるからe店の事業主になれないとする内容及びA3について既に事業主をしているからe店の事業主になれないとする内容は,いずれも当時のA1及びA7が自己の体験により得ていた中途半端な知識に基づく素人判断とみた方が自然な内容といえる。
現に,A3は,捜査段階において,「A2がe店の事業主となったのは,A1から,A3に対し,助成金を申請したいが,A1やA7では助成金は申請できないので,誰かオーナーとして名前を貸してくれる人はいないだろうかという内容の相談を受けたことで,A2をA1に紹介したためです。」「A3自身は今回の事件の中で被告人Y1とは余り話もしていないのですが,被告人Y1がA1やA7らと話している姿を見た限りでは,軽い口調で話していて調子のよさそうな人だと思っていました。」などと供述する一方,被告人Y1から前記の教示を受けたという出来事は一切述べていない。A3は,前記変遷の理由を原審弁護人から尋ねられたにもかかわらず,その理由を全く説明できていない。
専門家である被告人Y1の教示に従いA2を事業主に仕立てたとする供述は,自らの判断でA2を事業主としてA1らに紹介したとする前記捜査段階の供述と対比してA3の関与の程度を弱める有利な内容といえるから,自己の責任を軽減するための巻き込み供述の可能性がある。A3は,原審公判供述と同様の供述をしてe店事件に関して既に有罪判決を受け,執行猶予判決が確定したことがうかがわれるから,原審公判供述時において,責任逃れの供述を維持すべき法的利益は見当たらないように思われるが,他方で,自分の裁判で嘘を付いていたことをあえて認めて告白する動機付けも見当たらない。
以上のとおり,A3の原審公判における前記供述は,客観的事実に反する不自然な内容であり,捜査段階から合理的理由なく変遷したものであって,自己の責任を軽減するための巻き込み供述であった可能性があるから,俄かに信用できない。
(ウ) これに対し,原判決は,A3の原審公判における前記供述が,名義貸しの提案に係る会話に関する点を含め,全体的に高い信用性を有すると説示する。同説示が不合理であることは後に説示する(後記ウ(ウ))。
ウ 次に,A2の供述について検討する。
(ア) A2は,原審公判において,要旨,d店の改装工事中,A1,A7,A3がd店の移転について話し合っているところに,被告人Y1が来て,移転ではなく新規の店で,店主が今まで事業をしたことがない人であれば助成金が受けられると説明していた,そういう条件で事業主になれる人が誰かいないか,A1,A7及びA3はいずれもなれない,という話になった,A3が事業主になれない理由について,被告人Y1は,「ああ,そっか,社長さんですもんね。」と言っていた,後日,A1,A7及びA3から「とにかく名義だけ貸してほしい。」などと頼まれて名義貸しを引き受けた,被告人Y1らr法人関係者は,私が名義貸しの事業主であることを知っていたはずである,などと証言した。
(イ) A2の原審公判供述のうち,被告人Y1が,A3が事業主になれないことを教示していたとする内容が,客観的事実に反して不自然であり,これはむしろA1及びA7が話した内容とみるのが自然であることは,前記イにおいてA3の原審公判供述について説示したとおりである。
また,A2は,平成24年9月21日頃,被告人Y1がn社の事務所を訪れた際に会話をしており,その際のやり取りが録音されている(原審弁イ25)。また,A2は,宮崎労働局から本件助成金の申請に関して調査呼出しを受けたことから,平成25年2月22日頃及び同月26日頃,被告人Y1に対し,対応方を相談しているが,その際のやり取りも録音されている(原審弁イ24)。さらに,A2は,労働局からe店に係る本件助成金の返還を求められた後の平成25年3月11日頃,被告人Y1と電話で会話をしており,その内容も録音されている(原審弁イ16,24)。
これらの録音に係る会話の中で,A2は,被告人Y1に対し,一貫して,自らe店を経営していた事業主であること,当初は,A1及びA7がd店を辞めて他所に移転する代わりにその客を引き継ぐ形でA2が新たにe店を開業するという話を被告人Y1にしていたこと,実際にも,当初は板前に売上を上げるための助言などもしていたが聞き入れてもらえず,A1及びA7にほとんど任せきりになってしまっていたことを前提とした話をしており,A2が名義貸しをしただけの形式的事業主であること,e店に係る本件助成金の創業経費や雇用労働者が水増しないし架空のものであることをうかがわせる言動は一切していない。これらは,A2がd店の移転の際の名義貸しをしただけの形式的事業主であることを被告人Y1も知っていたはずだとするA2の原審公判供述の内容と矛盾する態度である。この点につき,A2は,被告人Y1らr法人の関係者が労働局側の立場なのかもしれないと思った,被告人Y1から「あなたが事業主でしょう。」と強く言われたり話の腰を折られたりして,そういう風に言うように仕向けられているように感じたからそれに従って答えたなどと説明する。しかし,平成24年9月21日頃の会話は,e店事件が発覚しておらず,労働局から調査等もされていない時期のものである上,被告人Y1が誘導している形跡もない。平成25年2月22日頃及び同月26日頃の会話は,e店の営業実態が労働局から問題視されているのではないかという観点で,労働局の調査にいかに対峙するかが協議されているから,当時のA2が,被告人Y1らが労働局側の立場なのかもしれないと思っていたとは考えられず,被告人Y1がA2の発言内容を制御している形跡もみられない。同年3月11日頃の会話に至っては,A2が,労働局からe店に係る本件助成金の返還を求められたことについて,助成金のほとんどをA1に渡していること,A1及びA7にまんまとはめられたと思っており,労働局にもそのように説明したが,労働局からはいったんA2が全額返還した上でA1及びA7に求償するしかないと言われたこと,助成金が成功しなかったことになるからr法人にも渡した報酬は返してもらわないといけないと思っていること,このような事態に陥ったのは,r法人がa店に係る本件助成金を申請したのが原因ではないかと考えていることなど,A1及びA7あるいはr法人に責任転嫁するような恨み言を自ら積極的に述べているが,そのような状況下でもなお,A2が名義貸しをしていただけの事業主であるとは述べておらず,むしろ名義貸しをしていただけの事業主ではないことを具体的に述べているのであって,A2の前記説明内容は,到底納得できるものではない。A2の原審公判供述は,これらの会話内容から合理的理由なく変遷したものというほかない。
加えて,e店事件は,e店の事業主が真実はA1であるのにA2と偽ったこと,水増しないし架空の経費を計上したこと,架空の労働者を雇用したように装ったことを欺罔行為とする巨額の詐欺事件である。仮にA2が事業主として積極的に助成金申請に関与していたとすれば,A2がe店事件の主犯ということになりかねないこと,現にA2は,自身の刑事裁判において,当初から一貫して原審公判供述と同旨の主張をし,「本件詐欺が他の共犯者の主導によって行われ,詐取金額も膨らんでいった中で,被告人(A2)の関与は,本件について事業者側で起訴された中でも最も従属的であった」と評価されて執行猶予判決を受けていること(原審甲イ205)からも明らかなように,名義貸しをしただけである旨の原審公判供述は,A1に責任を押し付けて自己の刑責を軽減する責任逃れの供述とみるのが自然である。なお,A2は,既に有罪判決が確定しているから,原審公判供述時において,責任逃れの供述を維持すべき法的利益は見当たらないが,他方で,自分の裁判で嘘を付いていたことをあえて認めて告白する動機付けも見当たらない。
以上によれば,A2の原審公判における前記供述は,到底信用できない。
(ウ) これに対し,原判決は,同様の事実を法的要件ごとに分断して検討しているため必ずしも明快ではないが,A3及びA2の各供述の信用性について,①A3及びA2の供述は,相互におおむね一致し,A1の供述ともおおむね整合すること(26頁),②全体として不自然不合理な点がないこと(27頁),③細かい表現の違いと思われる点はともかくとしてその信用性が否定されるような供述内容の変遷がないこと(27頁),④相互に口裏合わせをしている様子はみられないこと(27頁),⑤被告人Y1が名義貸しを認識していたことを殊更に誇張するような供述をしていないこと(27頁),⑥被告人Y1が,名義貸しを認識していなかったとも捉えられ得るような発言をしていたことも正直に述べるなど,全体的に真摯かつ抑制的な供述をしており,被告人Y1に責任を押し付けようとしている様子はうかがわれないこと(27頁)のほか,⑦A2は,e店事件の自身の刑事手続で当初から一貫した供述をして有罪判決を受けており,自身に不利益な虚偽供述をする動機がないこと(22頁),⑧e店の事業主が真実はA1である旨の供述が客観的事実に合致していること(22頁),⑨前記平成24年9月21日頃の会話は,必ずしもA2がe店の事業主は自身であると認識していることを前提としなければ理解が困難なものとはいえないこと(23,24頁),⑩前記平成25年2月頃以降の会話に関するA2の原審公判における説明内容は,A2が本件助成金の手続等に精通していないことに照らし,r法人が労働局による責任追及に協力等するのではないかと恐れることはごく自然であるから十分自然かつ合理的であり,このような心情を前提として同月頃以降の発言を見れば,A2の発言内容に特段不自然な点や理解困難な点は見当たらないこと(24頁),⑪A2は,前記各発言の録音データの存在及び内容を示されて質問を受けても,不自然に取り繕うことなく,覚えていない点については覚えていない旨述べるなど,真摯に供述しており,A2の前記供述が虚偽であることをうかがわせるような事情はないこと(24,25頁)も考慮して,「A2及びA3の供述は,名義貸しの提案に係る会話に関する点を含め,全体的に高い信用性を有する。」と説示したものと解される。
しかし,前記①については,信用性の低い供述同士がおおむね整合したからといって,その信用性が高まるわけではない。前記②については,被告人Y1から名義貸しを教示された旨の供述内容が客観的事実に反し不自然不合理であることは前記のとおりであり,原判決が他に例示する供述内容は,いずれも外形的事実を捨象したA2とA3の心情に関する抽象的な供述であって,信用性を高める事情とは言い難い。前記③については,A2及びA3の原審公判における各供述が,それ以前の供述と比べて,核心部分において決定的に矛盾しており,その変遷の理由について合理的な説明が全くなされていないことは前記のとおりである。原審裁判官の補充尋問の内容を見るに,A3の原審公判供述に関する前記説示は,要するに,A3が被告人Y1と最初に会ったのは,e店の改装工事に着手する前だったのか初期段階の頃だったのかという点で,表現に違いがあるという趣旨と解されるが,「被告人Y1がいずれかの時点でA3とn社の前で初めて会った」という事実が客観的に存在することは当然の前提であって,本件で問題となるのは「そのときに被告人Y1から名義貸しに係る教示を受けたのかどうか」という点である。改装工事が始まっていたか否かにより,被告人Y1による上記教示の場面の状況が相当に異なることとなるから,この点に関する変遷は供述の核心部分に関するものといえ,上記供述の信用性を減殺することになるのであって,原判決の前記説示には賛成できない。前記④については,A3及びA2が相互に口裏合わせをしなくても,例えば捜査機関がその見立てに沿って誘導し,両名がこれに迎合した可能性を排斥できるわけではない。前記⑤⑥については,A3は,被告人Y1から名義貸しを教示されたためにA2を巻き込んでしまったという証言をしているのであり,犯意形成過程における被告人Y1による働きかけの事実を強調して被告人Y1に非を押し付ける内容といえる。A2は,前記のとおり,自分が形式的事業主にすぎないことを強調してA1らに責任を押し付ける証言をしているのであり,被告人Y1が名義貸しをA3らに教示していたとする証言はその一環にすぎない。このように,被告人Y1が名義貸しを認識していたかどうかという点は,A3及びA2の利害に直接影響するわけではないのだから,その点について殊更誇張していないからといって,A3及びA2の原審公判供述の信用性を高める事情にはならない。前記⑦については,前記のとおり,e店の事業主ではなかったとするA2の供述は,e店事件の責任をA1に押し付ける責任逃れの供述とみるほかないから,その説示は賛同できない。前記⑧については,前記のとおり,A2が平成25年頃に被告人Y1に説明した内容によれば,e店は,当初はA2が事業主という話になっていたのに,案に相違してA1及びA7に乗っ取られてしまったというのだから,A1及びA7がe店の実質的事業主であったことを示す客観的証拠と整合するからといって,当初から名義貸しであったとするA2の原審公判供述の信用性を高める事情にはならない。前記⑨については,e店の事業主がA2でないことを知っているはずの被告人Y1に対し,e店に係る本件助成金について何ら問題視されていない時期において,A2が,あたかもe店の事業主であることを前提とするような態度を取った点が,A2の原審公判供述と矛盾するのに,原判決の説示には,このような会話の相手や状況を考慮に入れて判断した形跡がない。前記⑩については,実際に録音された前記会話内容に照らせば,平成25年2月22日頃及び同月26日頃,A2は,被告人Y1と共に,労働局の調査呼出しに対する対応方を協議しているのであり,被告人Y1が労働局と共にA2の責任追及をする立場にあると考えていたとは考え難い。のみならず,同年3月11日頃の会話については,A2が,現に労働局から責任を追及されて助成金の返還を求められたことを受けて,その責任をA1及びA7やr法人に押し付けるような恨み言を述べている状況下でなお,e店の事業主はA2であったことを前提にし,名義貸しという話をしていないのであり,原判決指摘のA2の心情を前提としても,不自然かつ不可解というほかない。前記⑪については,原審公判供述と決定的に矛盾する客観的証拠(録音反訳)を突きつけられて,覚えていないと述べた部分のことを指すものと解されるが,これは,「不自然に取り繕うなどしなかった」のではなく,「矛盾点が大きすぎて取り繕いようがなかった」と評価すべきである。
以上のとおり,A2及びA3の各原審公判供述について,全体的に信用性が高いとする原判決の前記説示は,証拠に基づかない一般論や供述者の抽象的な心情等を過度に重視して,供述の核心部分の不合理な変遷や客観的事実との矛盾を看過したものであるから,是認できない。
エ 最後に,A1の供述について検討する。
(ア) A1は,原審公判において,要旨,平成23年2月頃,被告人Y1に対し,d店の移転費用の調達について相談したところ,「助成金が一番手っ取り早い。」「金額もまとまるし,時間も一番早い。」「新規でないと駄目。屋号と事業主を変える必要がある。」と言われた,e店の改装工事中に,被告人Y1を呼んで,A7,A3と共に話をした,被告人Y1からは,「A7はd店で事業主になっている。」「私(A1)はそこの従業員で申請している。」「A3はn社の経営者。」という消去法で,この3人では駄目だと言われたので,「誰か名前を貸してくれる人を探さなきゃいけないね。」「A2がいいんじゃないか。」という話になった,e店の事業主はA2ではなく私である,などと証言した。
(イ) A1の原審公判供述のうち,被告人Y1が,A3が事業主になれないことを教示していたとする内容が,客観的事実に反して不自然であり,これはむしろA1及びA7が話した内容とみるのが自然であることは,前記イにおいてA3の原審公判供述について説示したとおりである。また,A1が事業主になれない理由について,d店の従業員として助成金の支給を受けていることを挙げたとする点も,本件助成金の支給要件として事業主が同一事業の従業員であったことを制限する規定がなく,被告人Y1がそのように教示するとは考え難いことは同様である上,A1は,a店事件においては,被告人Y1から「d店でもe店でも従業員にすぎず事業主ではないからA1が事業主になれる。」との教示を受けた旨述べており,つじつまも合っていない。d店の移転費用の調達を被告人Y1に相談して,本件助成金が手っ取り早いという教示を受けたという内容も,本件助成金が早くても開業後6か月以上経過しないと受給できないことと整合しない上,実際にe店に係る本件助成金の支給申請をしたのが営業開始から約8か月弱が経過した同年12月であることとも整合しない。
A1は,専門家である被告人Y1から事あるごとに不正請求の指導等を受けたために犯行に及んだということにすれば自身の責任が軽減される立場にあるから,被告人Y1の関与をねつ造して引き込む動機があり,また,e店事件は,手続の途中で,A7が,A2に指示して,d店とe店の電話番号が一致している点を不審に思った労働局からの問い合わせに虚偽の内容を回答させるなど,A7が関与した事実が認められるから,d店事件と同様,A1には,A7をかばうために捜査機関に迎合して虚偽供述をする動機も認められる。さらに,被告人Y1に歩合給が支給されるようになったのは平成23年12月20日以降(対象期間は同年11月分)であり,平成23年2月頃の時点で不正な支給申請を勧める動機も想定し難く,内容自体不自然であることは,d店事件において説示したとおりである。なお,e店事件においては,本件助成金の支給申請の時期が平成23年12月以降となったため,結果的に被告人Y1に歩合給として約5万円余り(約1140万円(助成金の額)の15パーセント(r法人の報酬割合)の3パーセント(被告人Y1の歩合の割合))の報酬が加算された事実が認められるが(原審甲イ179),だからといって平成23年2月当時に歩合給欲しさのために不正な支給申請を勧める動機が存在したということにはならない。
以上によれば,e店事件に関するA1の原審公判供述も,到底信用することができない。
(ウ) これに対し,原判決は,①A1は既に有罪判決が確定し服役していること,②A2,A3,B1の供述とおおむね一致ないし整合していること,③A1がe店の実質的な事業主であるとする点は客観的事実に裏付けられていることを根拠に,A1の供述が信用できると説示する。
しかし,前記①が根拠に乏しい説示であることはd店事件において説示したとおりであり,前記②については,A2及びA3の供述が信用できないことは前記のとおりであり,信用性の低い供述がいくつ積み重なったところで,それによりその供述が信用できることになるわけではない。前記③については,A2の供述について検討した前記平成25年以降の録音内容によれば,e店の経営は実際にはA1及びA7に任せきりになってしまい,乗っ取られてしまったということであるから,原判決が指摘する客観的事実やB1の供述との整合性は,A2が事業主であったこととも必ずしも矛盾せず,A1の供述の信用性を高める事情にならない。
原判決の前記信用性判断の説示は根拠に乏しく,不合理である。
オ 以上のとおり,被告人Y1が,e店について名義貸しに係る提案をした旨のA3,A2及びA1の各供述はいずれも信用できず,他に前記提案をした事実を認めるに足りる証拠はないから,被告人Y1が,e店についてA2ではなくA1が事業主であることを認識していたとは認められない。
また,前記3名は,先に検討したとおり,自らの思惑に基づき,あるいは捜査機関の思惑に迎合して,自らが体験した事実とは全く異なる事実を殊更作出して供述していることがうかがわれるのだから,前記3名の各原審公判供述は,名義貸しの提案に関する供述部分以外の供述部分についても,特に信用できる事情でもない限り,基本的に信用することができない。
そうすると,水増しないし架空の領収書を収集したことに被告人Y1が関与していたことを述べるA1の供述も信用できず,他に被告人Y1がe店事件の支給申請における個々の具体的な欺罔行為を認識し,これをA1らと共謀していたとみるべき証拠はない。
カ 以上によれば,e店事件については,犯罪の証明がないことに帰するから,これと異なり,e店事件について詐欺罪が成立するとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。
論旨は理由がある。
3  a店事件について
(1)  原判決の要旨
原判決が,a店事件について,A1らとの共謀を認めて,被告人Y1の有罪の認定をした理由の要旨は以下のとおりである。
すなわち,e店の事業主はA1であると認められるから,A1がa店と同一事業の事業主でない旨の申請書の記載は虚偽といえる。被告人Y1は,e店の事業主がA2でないことを認識していたから,少なくともA1がa店と同一事業であるe店を経営する事業主であったという点について相当高度な蓋然性の認識を有していたと認められる。また,A1は,本件助成金の申請書に記載された改装工事の金額等に虚偽の内容が含まれていることを認識していたことが明らかである。そうすると,そのようなA1を事業主としてa店に係る本件助成金申請手続をした以上,改装工事の金額等に虚偽の内容が含まれていることに関する個別具体的な認識があったか否かについて問題とするまでもなく,a店事件全体について故意が認められ,A1との共謀も認められる。
(2)  当裁判所の判断
原審は,前記(1)のとおり,被告人Y1が,e店の事業主がA2でないことを認識していたという事実認定を前提として,a店の事業主であるA1がe店の事業主であることについて高度の蓋然性を認識していたと認められるから,その他の欺罔行為について具体的に認識していたかどうかにかかわりなく,故意も共謀も認められる旨説示した。
しかし,前記2で説示したとおり,被告人Y1が,e店事件当時,e店の事業主がA2でないことを認識していたと認めるに足りる証拠はない。また,前記平成25年2月ないし3月頃の録音内容に照らすと,その認識状況は,a店事件当時においても異なるものではないと認められる。
よって,原判決の前記説示は,その前提を欠くものであり,到底是認できない。
なお,関係証拠によれば,被告人Y1は,A1が,r法人の職員を介して,水増しないし架空の経費を計上し,架空労働者を雇用した形にしたa店の支給申請(以下「旧申請」という。)を労働局に提出しようとした際,旧申請の内容に虚偽が含まれていることがr法人の内部調査で発覚したため,平成24年9月21日,A1及びA7を呼び出し,旧申請を労働局に提出することはできない旨告げて撤回させたこと,これを受けて,A1は,r法人の職員に対し,旧申請と比べて水増しないし架空の経費の額を圧縮し,雇用労働者の数も減らした形の新たな支給申請(以下「新申請」という。)の提出を依頼し,これを受けた同職員の計らいにより,新申請が宮崎労働局に提出されたことが認められる。このように,被告人Y1は,A1と共にa店に係る本件助成金の支給申請手続を進めたわけではなく,むしろ,r法人の職員が提出しようとしていた旧申請を,A1の意に反して撤回させ,欺罔行為(旧申請)を阻止しているのであるから,被告人Y1が,A1らと意思を通じ,同人らを指導して本件助成金申請につき不正な請求をさせていたものとすると,同被告人のかかる行動はその方向性において矛盾するものであって,合理的な理解が困難というほかない。そして,a店事件に係る欺罔行為は,被告人Y1が撤回させた旧申請の後に行われた新申請の提出行為であるが,これに被告人Y1が関与したことを認めるに足りる証拠はない。
原判決は,被告人Y1が,e店の事業主がA1であると認識していた可能性が高く,そのようなA1を事業主としてa店に係る本件助成金の申請代行業務の委任を受けるなどして申請手続を進めたといえることを理由に,A1らと詐欺の共謀が成立したことが認められる旨説示しているが,仮に原判決と同様の前提に立ったとしても,前記のとおり,被告人Y1は,具体的な支給申請の内容に虚偽が含まれていることを理由に旧申請を撤回させているのだから,少なくともこの時点において,内容虚偽の支給申請が労働局に提出されることを被告人Y1が容認していなかったことになり,その後になされた本件詐欺未遂の実行行為である新申請についてA1らと共謀していたと認定するのであれば,別途共謀を基礎づける事実を認定する必要があるところ,原判決がそのような事情を検討した形跡はない。原判決の説示は,この点においても是認できない。
以上によれば,a店事件については,犯罪の証明がないことに帰するから,これと異なり,a店事件について詐欺未遂罪が成立するとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。
論旨は理由がある。
第3  被告人両名の恐喝事件及び強要事件に関する事実誤認(被告人Y2については法令適用の誤りも含む。)の主張について
1  恐喝事件について
被告人Y1に関する論旨は,要するに,平成23年7月11日のA4の脅迫行為(以下「11日の脅迫」という。)は存在しない,同月9日のA4の脅迫行為(以下「9日の脅迫」という。)によるB2の畏怖状態は同月11日まで継続していない,仮に同日まで継続していたとしても同月下旬頃以降に金員を交付するときまでは継続していない,仮に11日の脅迫が存在したとしても被告人Y1はこれを認識していない,同月11日の被告人Y1による確認書等の作成行為はA4の脅迫と無関係に作成されたものであり,恐喝の共謀は認められないから,被告人Y1は無罪である,仮に有罪であるとしても恐喝未遂罪か恐喝幇助罪が成立するにとどまる,というのである。
被告人Y2に関する論旨は,要するに,被告人Y2はB2を追及する場面の一部に同席しただけであり,9日の脅迫及び11日の脅迫のいずれについても認識していない,A4の威圧的な態度を認識しただけでは恐喝罪の共同正犯は成立しない,というのである。
当裁判所は,原判決の「罪となるべき事実」の第6における事実認定について,被告人Y1につき,A4及び被告人Y2との共謀を認定して恐喝罪の成立を認めたことに関し,A4がB2を脅迫した後に,それによりB2が畏怖しているのに乗じて,A4と暗黙のうちに意思を通じたという事実の限度では正当であるが,それを超えて当初からA4と共謀の上脅迫行為に及んだという点及び被告人Y2と共謀を遂げたという点については是認できず,被告人Y2につき,恐喝の故意並びにA4及び被告人Y1との共謀の成立を認めた原判決の認定にも事実誤認があると判断した。以下,その理由を説明する。
(1)  原判決の要旨
原判決が,恐喝事件について,被告人両名につき有罪の判断をした理由の要旨は以下のとおりである。
すなわち,平成23年7月9日のほか,同月11日にもA4から原判示の脅迫を受けた旨のB2の供述は信用できるから,原判示の脅迫の事実が認められる。諸事情を考慮すると,同月9日の時点で既に,A4は金員喝取の目的を有していたと認められ,これに反するA4の供述は信用できないから,上記両日のA4による脅迫は恐喝罪における脅迫に該当する。その脅迫内容自体,B2を畏怖させるに十分足りる内容であり,その後のリストカットを行う等のB2の行動等も当該脅迫等によりB2が畏怖していたという事実と極めてよく整合することなどから,当該脅迫等により畏怖したため本件の金銭を支払った旨のB2の供述も信用でき,因果関係が認められる。A4が,B2による金員の交付の詳細等について認識していたとは認められないこと,被告人Y1及び被告人Y2が,A4のB2に対する平成23年7月9日の発言の一部及び同月11日の発言の全部について詳細な内容までは認識していなかったこと等を考慮しても,A4,被告人Y1及び被告人Y2は,同月9日及び同月11日に行われた相互の行為の内容及び同人らのその当時の意思をおおむね認識し,それらを利用し合うことで,脅迫によりB2を畏怖させた上でB2から金員を喝取する旨の意思を通じ合っていたといえるから,前記3名の間に本件恐喝について共謀があったと認められる。
(2)  当裁判所の判断
ア 関係証拠によれば,①B2は,r法人において,主任の立場で本件助成金の申請手続業務を担当していたが,平成22年頃,自身が担当する本件助成金の申請手続に関し,漫然と申請期限を徒過して助成金の支給が受けられなくなる等のミスを重ねたことにより,最終的に,r法人において当該顧客に損害賠償等をせざるを得なくなったこと,このことを理由の一つとして,平成23年6月7日,被告人Y2に対し,同年7月31日付けで退職する旨の退職届を提出したこと,②r法人においては,暗黙の了解として社内恋愛が禁止されており,違反者には制裁が科されることがあるということが知られていたこと,その中にあって,B2は,平成22年8月頃以降,r法人の女性職員C6及びC5といわゆる二股交際をしていたが,両名に対し,二股交際であることは告げておらず,他の職員に対しては,いずれの交際についても秘匿していたこと,③C6は,平成23年6月末頃,他の女性職員と関係が悪化するなどしたことにより,表向きは別の理由を告げて,r法人を退職したこと,④被告人Y1は,同年7月5日頃,r法人の女性職員C4から,大要,「C5から,『B2と交際している。これに関して嫌がらせメールが送信されてくる。C6がB2に片思いをしていて,B2に着信拒否されたためにC5の方に反撃してきたのではないか。』という相談を受けている。」旨の報告を受けたため,被告人Y2に対し,その旨報告したこと,被告人両名は,B2らから事情を聞く必要があるとの話になったこと,⑤被告人Y1は,同月8日頃,B2を食事に誘い,C6及びC5との交際の有無について尋ねたが,B2が,交際の事実を否定したため,被告人Y2に対し,その旨報告したこと,⑥被告人Y1は,同月9日の午後,C5を呼び出して,B2との交際の有無について尋ねたが,C5も,B2との交際を否定したこと,⑦被告人両名及びA4は,改めて事情を聞く必要があるとの話になり,同日の夕方頃,B2及びC5をr法人に呼び出したこと,⑧B2及びC5は,被告人Y1やA4から追及を受けたが,当初,両名とも,交際の事実を認めなかったこと,被告人Y2は,遅くともこの頃までには,B2の言い分が真実であり,C5との交際の事実はないと信じる心境になっていたこと,⑨その後,B2とC5は,別々の部屋で個別に事情を聞かれることになったこと,その際,A4が,C5に対し,B2は交際を認めた旨虚偽の事実を告げて,C5を問い詰めたところ,C5が,B2と7月から交際している旨認めたこと,⑩これを受けて,A4が,被告人Y1とB2のいる部屋に行き,B2に対し,いきなり「お前,殺すぞ。殺すぞお前,お前の親も全部行くぞ。お前なんで嘘ばっか嘘言うてんねん,こら。」などと怒鳴りつけながら,C5が交際を認めた事実を告げたところ,B2もC5及びC6との交際を認めるに至ったこと,更にA4は,「自分がやったことは,自分で責任取るんや。親とかじゃない,お前が責任取れ。明日考えよう俺とお前で。どういう責任を取るか。」「俺に損害を与えたんや。」などと告げたこと,このA4が怒鳴っている間,被告人Y1がB2と同席していたことは間違いないが,被告人Y2が同席していた形跡はないこと,⑪このようにしてA4がB2を問い詰めているところに被告人Y2が来たため,A4が,被告人Y2に対し,大要,「B2がC6と交際した後,C5に乗り換えて交際したことが原因で,女性職員らの間で仲間割れが起こり,現状に至ったということが判明した。」旨告げたところ,被告人Y2も,B2に対し,「あんた何がしたかったん?こっち見てん。心の中であざ笑ってたの?私のこと。平気で嘘がつけるの?」と詰ったこと,その後,被告人両名が同席する場で,A4が,B2に対し,「責任を取らんといかん。」「社長(被告人Y2)にそんだけの多大な損害を与えてんねん。」「このトラブルが収まる方法でも考えろ。」「月曜日(11日)必ず出てこいよ。お前の親のとこ行くで,じゃないと。逃げたりすんなよ。逃げたって何の解決にもならんよ。分かるやろ。分かるわな。じゃ考えろ自分で。」「とりあえず月曜日,普通に出てこい。俺と話するから。分かった?こっから社長とタッチ交代で俺や。俺と話をする。分かるやろ?よし,帰れ。」などと言ってB2を帰したこと,A4の発言の間,被告人Y2も,「最低の男やね。」と発言したこと,B2が帰った直後,被告人Y2が「恐ろしい男ですね。」と言い,A4が「いや,これはちょっと対処法考えないかん。」と言ったこと,⑫その後,被告人両名及びA4は,解散することとし,被告人Y1は,C4と一緒に焼肉屋に行って飲食したこと,飲食を終えた後,被告人Y2に電話をかけたこと,その際,被告人両名の間で,要旨,これまで白を切り続けてきたB2の態度が絶対に許せないこと,その中には「恋愛のこじれでq店が失敗したこと」について追及を受けたのに対し「それとこれとは別でしょう。」と反論した態度も含まれていること,被告人Y1が,同月11日にA4はB2を許すかもしれないと危惧したのに対し,被告人Y2が,絶対に許さないから大丈夫だと言い,被告人Y1が,もし許すなら自分は出社しないから今すぐ連絡してほしいと被告人Y2に求めるなどした後,被告人両名で同月11日にB2に認めさせるつもりの損害賠償の内容について具体的に話し合っており,必要なものはすべて被告人Y1が作ること,中身としては,「q店が全額」「C6さんがおらんといかん3か月分」「ひむかとp店とあとは僕(被告人Y1)が何回か走ったその辺の手間賃」などを想定していることなどの話し合いがなされたほか,被告人Y1が「もうびっくりしたもうオーナーには。あの人やっぱり普通じゃないです。」と言ったのに対し,被告人Y2が「でしょう。それを正しいレールに乗せよう乗せようってやってうまくここまでやってきたうちのグループの皆の努力はなかなか大変なものなんですよ。」と答えるやり取りもあったこと,⑬同月11日未明,B2は,いわゆるリストカットをし,同日午前に病院に行ってからr法人に出勤したが,病院では消毒を受けた程度で特に治療はされなかったこと,被告人両名もリストカットの件は職員から報告を受けて知っていたこと,出勤後,B2が,A4の部屋に呼ばれて,まずはA4と2人で話をしたこと(A4が脅迫したかどうかは争いがある。),A4の部屋を出ると,被告人Y1がいる部屋に行き,内容について異議を述べることなく,被告人Y1が作成した始末書及び確認書(原審甲イ140,甲ロ68)に「相違ありません。」などと手書きで書いて最後に署名押印したこと,同始末書及び確認書の本文を作成する過程で,被告人Y1は,内容について被告人Y2と相談したこと,A4も,被告人Y1とB2がこれらを作成している部屋に時折やってきて,「終わった?」などと様子を確認しに来ていたこと,同始末書及び確認書は,大要,「p店の助成金申請漏れによりr法人が被った損害額の確認,その原因はB2の管理していた他社の領収書の混入にあるから責任の所在はB2にあること,q店の助成金申請について申請期限を徒過したことによりr法人がq店に助成金受給予定金額から成功報酬1割を引いた額の損害賠償を支払ったこと及びr法人の損害額は前記損害賠償額に成功報酬額を加えた額であり,鹿児島での風評等を考えれば実損害はその数倍と推定されることについての意見反論の有無,今回のB2に対する賠償請求額はq店の助成金受給予定金額に成功報酬額を加えた額とする予定であることについての意見の有無,この失敗はC6との恋愛関係のもつれが原因となっており,C6の退職に伴いB2に真偽を尋ねたが頑なに否定するなどして不要な混乱を招いたことについての意見の有無,B2が,社内恋愛禁止の社内規定を認識しながら女性職員と交際し,交際した複数の女性職員全員が退職することによりr法人に損害が生じたため,C6の退職につき40万円,C5の退職につき20万円の損害をB2に請求することについての意見反論の有無」について,B2がこれをすべて異議なく認めた上で,毎月3万円ずつ支払う内容となっていること,⑭B2は,同始末書及び確認書に基づいて,原判示のとおり合計36万円をr法人に支払ったことが認められる。
イ 以上の事実経過によれば,B2は,被告人Y1による度重なる追及を受けても,C6及びC5との交際をいずれも一貫して否定し,助成金の失敗も交際が原因ではないと主張していたが,A4から,「殺すぞ。」「親も全部行くぞ。」などとB2及びその親の生命身体等に危害を加える旨語気鋭く申し向けられた途端,C5及びC6との交際を認めているのだから,A4の前記脅迫により畏怖したことが原因で自己の主張を撤回したことが明らかである。A4は,このようなB2に対し,A4に損害が生じていて,その責任を取る方法をA4と一緒に考えるよう要求しているのだから,この要求が金銭の支払を求める趣旨を含んでいることは明らかである。
これを踏まえて,以下,被告人両名について個別に検討を加えることとする。
ウ 被告人Y1は,A4の前記脅迫の場面に終始立ち会っているから,度重なる追及を受けても白を切り続けていた従前の態度から一転して自己の主張を撤回する態度に転じた理由がA4の脅迫により畏怖したことにあることは当然に認識したものと認められる。その上で,被告人Y1は,B2が帰った後も含めて,終始A4に同調する姿勢を示していたばかりか,A4がB2に金銭を支払わせない方法で解決するようなことがあってはならないとして,A4に釘を刺すよう被告人Y2に要求した上で,B2に金銭を支払わせる方針を話し合っているのだから,被告人Y1は,r法人を含む企業グループを統括する地位にあるA4がB2を脅迫して畏怖させた上で金銭の支払を求める趣旨を含む要求をしていたことを認識した後,暗黙のうちにA4と意思を相通じ,A4の脅迫によりB2が畏怖し,従前の主張を撤回して事実関係を認めたのに乗じて,被告人Y1が算定したB2のr法人に対する損害賠償金の支払義務についても認めさせて金銭を喝取しようと企てたことが認められる。そして,前記話し合いの中には,「q店の全額」「C6がおらんといかん3か月分」などの話題や,「恋愛のこじれでq店失敗したんだったら許さないとする被告人Y1の追及に対してかつてB2が否定したこと」に対する不満などの話題が含まれていたところ,現に同月11日にB2がA4と話をした後に作成された前記始末書及び確認書は,「q店の助成金申請に関してr法人が被った損害の全額」や「C6の退職に伴う損害」等の損害を認めることのほか,「q店の助成金申請の失敗の原因がC6との恋愛のもつれであること」を認める内容が含まれているなど,前記話し合いの内容におおむね沿うものとなっており,B2が,以前は被告人Y1から追及を受けて否定していた内容も含めて,何らの異議も唱えずに認めたこと,同月11日のA4との話し合いに先立ってリストカットをしたことなどの態度から,被告人Y1は,同月9日のA4の脅迫による畏怖状態が継続していることを認識した上で,これに乗じて前記始末書及び確認書の内容を認めさせて署名押印させることにより同書面記載の現金合計278万4578円についてr法人に対する月額3万円ずつの支払を要求したことが認められる。このような経過を経て,B2が,前記始末書及び確認書の内容に従い,原判示記載のとおり,3万円ずつ合計36万円の支払をしているのだから,これらを全体として評価すれば,被告人Y1は,A4が加えた脅迫によりB2が畏怖していることに乗じて,A4と暗黙のうちに意思を相通じ,被告人Y1において,B2に対し金員の交付を要求するという実行行為を分担したのであるから,A4との共謀の上,B2から現金合計36万円を喝取したという恐喝の共同正犯が成立するものと認められる。
もっとも,被告人Y1が,予めB2を脅して金員を脅し取ることを企て,A4との間で事前にその旨の意思を通じていたことを認めるに足りる証拠はなく,9日の脅迫の経過を見ても,被告人Y1がB2に対し,女性職員との交際について,特に威迫的な口調によらずに問い質していたところへ,A4が割り込んできて,突然にB2を脅迫し始めたことが認められるから,9日の脅迫はA4が単独で実行したものとみるほかない。11日の脅迫については,B2もA4も,原審公判において,数年前のことなので記憶があいまいで覚えていないという趣旨を証言するにとどまり,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。また,被告人Y1がこれを認識していた証拠も一切ないから,被告人Y1が,11日に改めてB2に脅迫を加えることをA4と共謀していたとは認められない。
エ 被告人Y2は,被告人Y1と異なり,A4がB2に対し「殺すぞ。」などと身体等に対する害悪を告知している場面には同席しておらず,途中から同席して,A4から,B2が従前否定していた内容をすべて認めた旨の報告を聞いて,自らB2を詰り,その後,A4が,B2に対し,要旨,B2は被告人Y2に多大な損害を与えており,その責任を取る方法を考える必要があり,同月11日にA4とその話をする予定だが,もし同日に出社しないとB2の親の所に行く,などと,金銭の支払を求める趣旨を含む要求をし,もしこれに応じなければB2の親に何らかの不利益が生じる旨を告げていることを認識しているにとどまる。被告人Y2は,このとき,B2が,漫然と申請期限を徒過して助成金の支給が受けられなくなる等のミスを重ねたことにより,r法人に損害を与えたこと等を理由として近々退職することになっていたことに加えて,禁止されていた社内恋愛をしたことが原因で職場内の女性職員たちに不和を生じさせていたことを認識したのであるから,結果的に法的に正当なものと認められるかどうかはさておき,B2はr法人に賠償金を支払う責任があると考えていたとしても不自然ではないし,そのような考えが社会的に許容されないほど不当ということもできない。しかも,B2は,度重なる追及を受けてもC5との交際については一貫して否認し続けており,これを受けて,被告人Y2も,B2の言い分を信じる心境になっていたにもかかわらず,A4から,今までのB2の説明が嘘だったことが判明したという報告を受けたのであるから,裏切られたという気持ちからB2を詰ったというのも素朴な感情の発露として理解可能である。このような中,被告人Y2は,A4らと共にB2の責任を追及している場面に同席しているが,前記の事実経過に照らせば,この責任追及が,和やかな雰囲気とは程遠い糾問的な雰囲気で行われたとしても無理からぬ面があり,このような糾問的な雰囲気で責任追及したことをもって直ちに脅迫が行われたと評価することはできない。A4が,B2に対し,もし同月11日に出社しないと親の所に行く旨告げている点は,字面だけを見れば,B2の親の所に押しかけるなどしてB2の親の身体,財産等に危害を加える旨の告知とみる余地もなくはないが,他方で,B2が前記賠償金を含む責任の取り方について話し合いに応じない場合,B2に代わって親に責任を取ってもらう趣旨とみることもできるところ,就職に当たり親が身元保証人になることはままみられることであり,A4の前記発言の趣旨は,B2が前記賠償金を含む責任の取り方について話し合いに応じない場合,B2に代わって親に金銭的な責任を取ってもらう趣旨とみる方が自然である。その場合,B2がr法人に賠償金を支払う義務があり,B2が払わない場合には代わりに親に請求すると告げる行為について,親の財産に対する害悪の告知であるとみるのは無理がある。また,当時,B2は,A4の脅迫により畏怖した状態にあったのであるから,B2がA4を前にして畏怖した態度を取っていることは被告人Y2も当然認識したものと考えられるが,B2の嘘が判明した直後の出来事なのだから,B2において,騙されていたことに気付いたA4らが怒っており,これにより自分にどのような処分が下されるのかと不安な気持ちでいることは容易に想像できるところであるから,B2の畏怖した態度を見ることにより,A4がB2を脅迫していた事実に当然に思い至るものとも考えられない。
以上によれば,被告人Y2が,A4による脅迫を認識していたことを認めるに足りる証拠はないというべきである。
被告人Y2は,その後,被告人Y1との間で,B2を絶対に許さないとの意見を述べた上で,B2に金銭を支払わせる方針について話し合い,これに基づいて,被告人Y1と共に,前記始末書及び確認書を作成してB2に署名させ,現金合計36万円を支払わせるに至っているが,B2がA4の脅迫により畏怖していることを認識していない以上,たとえ後の金銭要求行為に関与していたとしても,恐喝罪が成立する余地はない。
オ これに対し,原判決は,①被告人両名が,A4がB2と話をする目的が女性関係を問い質すことであることを認識していたこと,②被告人Y1が,A4と終始同席しているから,A4がB2に対して追及している内容を認識しながら,自身も同じ内容について追及しているといえること,③被告人Y2が,9日の脅迫より前の時点でA4や被告人Y1によるB2やC5に対する追及の席に一定程度同席していたと認められるし,A4や被告人Y1がB2に対して前記女性関係等について追及していることについても認識していたこと,④被告人Y2は,途中入室後から約5分間,その席に同席することで,A4の脅迫的かつ強引な発言内容を把握しており,B2帰宅後の,A4の行動傾向が相当に乱暴かつ不穏当なものであることを前提とする被告人Y1との会話内容などからして,A4のB2に対する女性関係等についての責任追及が相当に威圧的な態度で行われていたことを認識していたといえ,そのような状況で,A4及び被告人Y1と同様に,B2に対して女性関係等について追及ないし非難する内容の発言をしていること,⑤被告人両名はB2のリストカットの事実を把握しており,B2が当該脅迫や追及によりリストカットをするほどに多大な精神的ストレスや畏怖の念を感じているということを十分認識していたといえること,⑥被告人両名の同月9日の帰宅後の電話での会話は,同日の会話を前提としつつ,かつ,その延長というべきものであること,⑦被告人両名は,同日の時点から,A4及び被告人両名による脅迫や追及の影響を受けたB2から損害賠償の名目で金員を喝取する強い意思を有しており,実際に支払を誓約させる書面の作成や金員の受領という実行行為等の金員喝取に向けた行動も積極的に行っており,これらの行動はA4の意向とも一致する内容であること,などの根拠を挙げて,A4及び被告人両名は,同月9日及び同月11日に行われた相互の行為の内容及び同人らのその当時の意思をおおむね認識するとともに,それらを利用し合うことで,脅迫によりB2を畏怖させた上で,B2から金員を喝取する旨の意思を相通じていた旨説示している。しかし,②については,A4が脅迫している場に同席していたからといって,そのことから直ちに被告人Y1がA4と共に脅迫したといえることにはならない。③については,所論指摘のとおり,9日の脅迫より前の時点で被告人Y2がA4や被告人Y1によるB2やC5に対する追及の席に一定程度同席していたとは認められないし,追及していることを認識しているからといって直ちにA4と共に脅迫していることになるわけではない。④については,前記のとおり,被告人Y2が同席している場面におけるA4の発言は,糾問的で一定程度威圧的であったこともうかがわれるが,これを直ちに脅迫と評価することはできないし,被告人Y2において,その発言の様子を認識していたことは認められるが,前記のとおり,B2の嘘が判明した後のA4の発言が一定程度威圧的なものになるのは半ば当然の成り行きともいえるから,たとえA4の行動傾向が相当に乱暴かつ不穏当なものであることを認識していたことを併せ考慮しても,そのことからA4がB2を脅迫したことを認識していたはずだと断じるのには無理がある。現に,A4は,C5に対しては,いわゆる切り違え尋問によりB2との交際を認めさせており,威圧的な追及などしていないのであって,A4という人物ならばC5との交際を認めさせるためにB2を脅迫したはずだと考えるのが当然のこととはいえない。原判決が挙げるその余の根拠については,被告人Y1において,A4が,B2を脅迫して畏怖させ,金銭の支払を求める趣旨を含む要求をしていたことを認識した後で,暗黙のうちにA4と意思を相通じ,A4の脅迫によりB2が畏怖して事実を認めたのに乗じて,被告人Y1が考える損害賠償金の支払についても認めさせて金銭を喝取しようと企てたものとみて矛盾せず,かつ,被告人Y2において,A4の脅迫の存在を認識しておらず,B2が畏怖している原因がA4の脅迫によるものであることに思い至らないまま,被告人Y1及びA4による金銭喝取行為に事情を知らずに手を貸したものとみて矛盾しない事実経過にすぎない。原判決は,合理的な根拠に基づくことなく,被告人Y2について恐喝罪の成立を認め,被告人Y1について被告人Y2及びA4と共謀してB2を脅迫した旨認定した点において不合理であり,是認できない。
カ 所論は,9日の脅迫によるB2の畏怖状態は同月11日まで継続していない,仮に同日まで継続していたとしても同月下旬頃以降に金員を交付するときまでは継続していない,という。しかし,B2が,従前から一貫して否定していたC6及びC5との交際の事実を,9日の脅迫を受けて一転してこれを認め,同月11日にはq店の助成金失敗の原因がC6との交際にあることまで認めており,この間,B2がリストカットに及んでいるのだから,9日の脅迫により同月11日の時点においてもB2がA4らを畏怖していたことは明らかである(なお,リストカットの原因が,本当に自殺を企図したものであったのか,A4らの同情を買おうとしたものであったのかは,上記判断を左右しない。)。B2が畏怖した状態で署名押印させられた始末書及び確認書の内容に従い,同月下旬頃以降,B2が現金を支払っているのだから,B2がA4らの畏怖状態から脱したと認められるような特段の事情でもない限り,この現金の支払は,上記畏怖状態に基づいてなされたものと認められる。
所論は,同月11日の被告人Y1による始末書及び確認書の作成行為はA4の脅迫と無関係に作成されたものであるから恐喝の共謀は認められない,という。しかし,前記のとおり,被告人Y1は,従前から事実関係を否定していたB2が,A4の脅迫により畏怖して事実関係を認めるに至ったことに乗じて,始末書及び確認書を作成してB2に署名押印させたものと認められる。
上記各所論は,いずれも採用できない。
キ 以上によれば,被告人Y2の恐喝事件については,犯罪の証明がないことに帰するから,これと異なり,被告人Y2の恐喝事件について恐喝罪が成立するとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。論旨は理由がある。
また,被告人Y1の恐喝事件についても,被告人Y1が,A4が単独で実行した脅迫を利用して金員を喝取しようとしたのか,A4と共謀の上で脅迫して金員を喝取しようとしたのかという点は,量刑判断に影響する犯情事実であるから,この事実誤認も判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は,上記限度で理由がある。
2  強要事件について
論旨は要するに,被告人両名はB1から真相を聞き出そうとして事情聴取しただけであり,B1を脅迫したり書面を作成させたりしたのはA4の独断によるものであって,A4がB1を脅迫していたことは知らなかったし,A4と強要を共謀していたわけでもない,というのである。
当裁判所は,原判決の「罪となるべき事実」の第5には,A4がB1を脅迫して書面を作成させたことにつき被告人両名との共謀を認定した点において事実誤認があると判断した。以下,その理由を説明する。
(1)  原判決の要旨
原判決が,A4と被告人両名との共謀を認め,B1に対する強要罪につき有罪を認定した理由の要旨は以下のとおりである。
すなわち,A4の原判示の発言は,加える危害の内容が具体的に明示されておらず,一定程度抽象的なものであるが,B1に対し,身体等に危害を加えるのではないかと畏怖させ,A4らの求めに応じさせるに足りる程度のものである。被告人Y1の原判示の発言も,A4の発言と一連のものとして捉えれば,同様に評価できる。A4らの発言は,B1に不正請求の経緯等についての説明内容の撤回等をさせるなどすることを目的としてされたものであり,原判示の書面をB1に作成させたこともこれに含まれるから,強要罪における脅迫に当たる。暴力団等と何らかの関係を有するのではないかと考えていたグループの最高責任者であるA4らから原判示の発言をされるなどして大きな恐怖を感じたことから,A4らが求める内容の書面を自己の意思に反して作成した旨のB1の供述は信用できる。そうすると,A4らの発言と本件の書面の作成との間には因果関係が認められる。被告人Y1及び被告人Y2は,A4らが,B1に対し,その発言を訂正するよう激しい文言で脅迫するなどしながら執ように求めている現場に同席してその様子を認識しているし,一時的に席を外した際にもA4からB1に対する脅迫が行われたことについて未必的に認識していたはずであり,前記書面の内容についてB1に書き直しを求めるなど書面作成に向けて積極的に関与していること等の事情からすると,故意及び共謀も認められる。
(2)  当裁判所の判断
ア 関係証拠によれば,①B1は,平成24年頃,r法人に対し,数年前から自身が経営していた飲食店gに係る本件助成金の申請代行業務を依頼したこと,このときのr法人の担当者はC1であったこと,C1の関与の程度については後に争いが生じているが,少なくともB1は,宮崎労働局に対し,g店はB1の交際相手が新規事業として始めた飲食店g1であるとして,g店に係る本件助成金の不正請求の手続を進めており,r法人がその手続を代行したこと,②その後,r法人では,宮崎労働局から多数の申請に不備があることを理由に申請の見直しを指示されたことをきっかけに内部調査を実施したこと,C1の担当した案件に不備が多かったことから重点的に調査したこと,その一環として,同年12月18日頃,被告人Y1がg店を訪問した際,経営者がB1であることが判明し,申請内容が虚偽であることが明らかになったため,被告人Y1が,B1に対し,r法人としてはこれ以上本件助成金の手続を進めることはできない旨告げるとともに,同月末頃,宮崎労働局に対しても,その旨通知したこと,③B1は,平成25年3月5日頃,宮崎労働局からg店に係る調査を受けた際,g店に係る本件助成金の支給申請に架空労働者等の虚偽の内容が含まれていることを認めるとともに,これらはC1の指導に従って行ったものである旨説明したこと,④被告人Y1は,同年5月17日頃,宮崎労働局の職員から,前記③のとおりB1が説明している旨聞かされたこと,被告人Y2にその旨報告したところ,C1に直接事情聴取することになったこと,これを受けて,被告人Y1は,同月29日頃,C1を呼び出して,直接事情を聞いたこと,その際,C1は,被告人Y1に対し,要旨,B1には支給要件に該当しない労働者ではダメだと説明した,後から架空労働者がいたことを聞かされて驚いている,などと答えたこと,その後,被告人Y1は,被告人Y2にその旨報告したこと,⑤被告人Y2は,同年6月26日,宮崎労働局から呼び出しを受け,g店に係る本件助成金について事情聴取を受けたこと,その際,同労働局職員から,前記③のとおりB1が説明している旨聞かされたこと,これに対し,C1がそのようなことを言うはずないからB1に直接会って話を聞きたいと申し出て,同労働局職員から許可を得たこと,⑥B1は,同日,A4から電話を受けて,「労働局でr法人について言ったことについて話を聞きたい。」などと言われたため,宮崎労働局に電話をかけて,要旨,r法人に対してはB1の名前を伏せてほしかった,A4はやくざと聞いているので怖いなどと述べたこと,⑦被告人Y2は,同月27日,C2から,g店に関するこれまでの事実経過が記載された報告書の提出を受けたこと,同報告書には,要旨,前記②の際,B1からは,C1が「言うとおりにすれば助成金が出る。」ということを言ったという言葉は一切なかった旨記載されていたこと,⑧A4は,同月28日,B1から直接事情を聞くために,「クラブf」のVIPルームにB1を呼び出したこと,被告人両名及びC2もこれに同席することになったこと,被告人Y1は,B1が来る直前,A4に対し,録音している旨告げて,威圧的な態度を取らないように釘を刺すと共に,被告人Y1の方で誘導して質問することの了解を得たこと,その後,被告人Y2もVIPルームに入室し,B1も到着したこと,被告人両名及びA4は,被告人Y1がやり取りを録音していることを知っていたこと,⑨同日午後6時35分から同日午後6時59分頃までの間,B1は,VIPルームにおいて,被告人両名,A4及びC2が同席する場で,主に被告人Y1から,C1が不正請求を指導したというのはおかしいのではないかという追及を受けたこと(以下「第1場面」という。),その際,B1は,「不正請求をC1の方から指導するはずがない。」とするC1の言い分については否定したものの,要旨,見積もりを出したら出した分だけその半分が入ってくるという話を事前にe店という業者から聞いており,現にe店から見積書や領収証等の金額を上げて出してくれと頼まれて出したこともある,それをC1に対して「入れていいんですか。」と聞いたら「できますよ。」と言われた,もっとも,e店の方で問題とされた領収証や見積書については,B1が作成したものではない旨の事実経過を述べたこと,これを聞いたA4が,B1に対し,「ぶっちゃけた話しよや。その話がどんどんおかしくなっているから。ぶっちゃけ,正直に言わんと。」と言った後,「正直に言わんかったら大変なことになるで。」(以下「第1脅迫文言」という。)と言ったこと,これを受けて,B1が,要するにA1が助成金詐欺を3回やっていて,r法人なら簡単に助成金が出せるという話をA1としたと答え,更にしばらく追及が続いた後,突然,A4が,被告人両名及びC2に対し,理由を説明せずに,VIPルームから退出するよう命じたこと,⑩それから約5分間,B1は,VIPルーム内で,A4と2人きりになり,A4から引き続き追及を受けたこと(以下「第2場面」という。),その際,A4は,B1に対し,ほぼ一方的に,「うちに火の粉が降りかかったり,自分が嘘を言うことで,うちに攻撃をしてくるんやったら,俺は,自分(B1)らを攻撃するで。」「一生商売できんなるで。」「うちに火の粉が降りかかるようなことをしたら,俺は,火の粉を振りかぶせるぞ。」などと言ったこと(以下「第2脅迫文言」という。),⑪その後,A4は,被告人両名及びC2をVIPルームに呼び戻し,同日午後8時22分頃までの間,第1場面と同じ配席で,引き続きB1に対する追及が行われたこと(以下「第3場面」という。),被告人Y1の質問に対するB1の応答ぶりは,第1場面と同様に,肯定するものは肯定し,詳細な説明を求められれば詳細に事実経過を説明し,否定するものは否定するというものであったこと,これを聞いて,被告人Y1が,要旨,B1の話をまとめると,C1に話を聞く前から,助成金を不正請求することについてはA1らと裏で絵を描いており,その上で,C1に対してこういう風にすれば助成金を申請できるんじゃないかという話を持ちかけたということになる,それを,さもC1の方から指導したかのように言われるのは心外である旨述べると,B1も,「そうですね。」と答えたこと,これを受けて,A4が,「まぁ大体真相はわかった。真相は。じゃあ紙持って来い。紙とボールペン。で,全部書け,紙に。自分がどうこうどうこう誰の指示でこうした,誰の,A1に指示をされてこうしたとか,A1からこうやったとか。書け,とりあえず。言ってることがバランバランやから。」と言って,B1に書面の作成を要求したこと,その後もB1に対する追及が同様に続く中で,A4が,「何でうちのせいになってんねん。」「お前,よー相手調べてからせんと,大変なことになるよ。」と言ったこと(以下「第3脅迫文言」という。),さらに,「正直に書いて,な,正直に話をして,ね,すいませんでしたって。」と言ったこと(以下「第4脅迫文言」という。),その後,被告人Y1が,「僕らも結局ほら,それでB1さんから納得いく答えがもらえんかったら,もう僕らも被害に実際に遭っているわけやから,刑事告訴して,実を言うと,B1さんとね,そういう風になんかされたようだ,と言うしかないじゃないですか。」と言い,更に続けて「ちゃんと納得いくようにちゃんと話してくださったら,僕らかて,そんな何かするちゅうことはないでしょうし。」と言ったこと(以下「第5脅迫文言」という。),その後,被告人Y1が,内容についてはB1が自由に考えていい,思っていないことは書かなくてよいなどと説明した上で,B1に書面の作成を求めたこと,B1が1通目の書面を作成している最中,質問を受けたわけでもないのに自発的に,要旨,実際自分も悪いことだと分かってはいたが,どうせ税金だから出せばいいとA1に言われて助成金詐欺に加担してしまった旨述べたこと,B1が作成した1通目の書面には,「今回,自分がg1店の助成金に関して,r法人さんの話を,A1さんに聞き,担当の方を紹介されました。前々から,助成金に関して,おりた方から話を聞き,自分も今回申請いたしました。その中で,C1さんから,お話を聞き,4年前から店を出しているが,名義を変えれば大丈夫と言われ申請いたしました。その件で,r法人さんの指導で書いたと労働局の方には話しましたが,全ては事実ではありません。」「r法人に関して,今回の,労働局に話したことを一部撤回し,謝罪します。」などと記載されていたこと,それを見た被告人Y1が,前記書面の表現だと,C1から「4年前から出してる店も名義を変えろ,大丈夫」などと言われたように聞こえるが,それは今回話した内容とちょっと違うのではないかと言ったところ,B1も,「そうですね。まあ,確かに,だから…。」と答え,被告人両名が,単にA1からr法人のことを教えてもらっただけでなく,こういう風にやれば助成金が出るよというような不正の事実をある程度聞いて知っていたという形にした方が今回話した内容と整合性が合うのではないかと言い,書き直しを求めたところ,B1が,2通目の書面を作成したこと,2通目の書面には,「今回,助成金について助成金がおりたお店さんや,知り合いの話,a店のA1さんからの話を聞き,自分の店も助成金が出ればと,A1さんにr法人さんを紹介してもらいました。ある程度話を聞いていて助成金について知っていました。この件で,今回労働局の方から話を聞きたいとのことでr法人さんのC1さんの指導で行ったと話しましたが,全ては事実ではありません。」「今回労働局に話したことを一部撤回し,謝罪いたします。」などと記載されていたことが認められる。
イ 前記認定事実によれば,第1脅迫文言は,B1が,従前労働局に説明していた内容と異なる事実経過をあいまいながらも説明し始めたことを受けて発せられたものであり,前後の流れに照らすと,「正直に言わんかったら大変なことになるで。」という発言は,B1に更なる説明を促す趣旨に理解するのが自然であり,B1の身体及び財産等に対し危害を加える趣旨であるとは解し得ないし,B1も原審公判においてそのような供述はしていない。
第2脅迫文言は,その発言内容自体から脅迫に該当することが明らかであるが,A4がそのような脅迫を加えることを被告人両名と事前に謀議していたとは認められない。被告人両名は,A4が平素から粗暴かつ威圧的な態度を取る人物であることを認識していたことが認められるから,VIPルームからの退出を求められた際,第2場面でB1を脅迫する可能性があると認識していた疑いはあるが,他方で,B1は,第1場面の当初から,実はe店の不正請求に関与しており,その手口で行けるかどうかをB1の方からC1に質問した旨,被告人両名らが求める内容をあいまいながらも素直に説明し始めていたのだから,この期に及んでB1を脅迫する必要性は乏しいこと,A4がB1に対して繰り返し「ぶっちゃけた話」「正直な話」をするよう求めていたことに照らすと,B1が正直に打ち明けやすいよう2人きりで秘密の話をするためにVIPルームから退出を求められたと考えたとしてもあながち不自然ではない。また,再入室後の第3場面においても,B1は,第1場面と同じか,それを敷衍した内容の説明を繰り返しており,第2場面の後にB1が従前の説明内容を変更して,A4や被告人両名にとって都合のよい説明をし始めたということはなく,第1場面と第3場面とでB1の様子や態度にも特に変化があったこともうかがわれないことに照らすと,第2場面において,B1とA4が二人きりになったからといって,その間に何らかの脅迫ないし威迫に類する行為があったことをうかがわせるような状況の変化はない。これらの事情を併せ考慮すると,被告人両名が,第2脅迫文言の存在を認識していたとは認められない。
第3脅迫文言は,B1の説明内容が,B1がA1らと裏で話し合って助成金の不正請求をしようと企ててr法人を利用したものであると理解できるものであったという会話の流れに照らすと,B1に対して何らかの危害を加える趣旨というよりは,A4の苦情,苦言の吐露とみる方が自然であり,脅迫に当たるとはいえない。
第4脅迫文言は,何らの害悪の告知も含まれておらず,脅迫に当たらない。
第5脅迫文言は,前後の流れに照らすと,B1がこの日話した内容を労働局に話してくれない場合はB1を刑事告訴する旨ほのめかす内容といえる。しかし,B1が協力を拒絶する態度を示している中で発せられた発言であるならともかく,B1が被告人Y1らに協力的な態度を示している中でこのような発言がなされた場合は,これがB1の身体及び財産等に対し危害を加える趣旨であるとは解し得ないし,B1も原審公判においてそのような供述はしていない。
他にも,第3場面において,A4がB1に威圧的な発言をしている部分は散見されるが,当初から被告人両名及びA4に対して比較的協力的な態度を取っているB1に対して発せられたものであることを踏まえると,これらをB1の身体及び財産等に対し危害を加える趣旨の発言と理解することはできない。
なお,原判決は,A4及び被告人両名の言動は,個々の発言をそれぞれ独立した別個のものとのみ捉えて評価すべきものではなく,全体の中で相互に関連を有する一連のものとしても捉えて評価すべきものであると説示した上,第2場面における第2脅迫文言も含めて全体として脅迫に当たると判断している。しかしながら,A4による第2脅迫文言は,既に説示したとおり,被告人両名がこれを認識していたとは認められないから,脅迫該当性を判断するに当たり,第2脅迫文言の存在を前提とすることはできないし,第1場面及び第3場面における被告人Y1及びA4の発言が,被告人両名にとって脅迫行為といえるか否かを評価するに当たっても,第2脅迫文言の存在を踏まえて評価することは相当ではない。また,A4及び被告人両名の言動は,2時間弱にわたり行われたB1に対する追及の場面において,B1から事情聴取をする中で明らかになった事実関係を元にして書面の作成に発展したという事実経過の中でなされているのであって,A4及び被告人両名の言動だけを一連のものとして捉えるのではなく,その発言に至る前後の文脈やB1の対応も含めて一連のものとして捉える必要があるし,そのような長時間にわたり行われた追及の中で発せられた発言の中から,字面だけを見れば「害悪の告知」といえる部分を断片的に抜き出して,前後の文脈と関係なくつなぎ合わせて評価すべきものではない。
以上のとおり,原判示の被告人Y1の発言は脅迫に当たらず,A4がB1を脅迫して書面を作成させたことを被告人両名が認識・認容していたとも認められず,A4との共謀は認められない。
ウ これに対し,原判決は,①原判示の被告人Y1の発言は,A4による発言と一連のものとして捉えれば,脅迫に当たるといえる,②A4及び被告人両名がB1から話を聞くことになった経緯,③A4と被告人Y1がB1と話を始める前にB1に追及する内容等について話し合いをしている,④A4及び被告人両名とB1との会話は,C1の指導を受けて不正請求を行った旨繰り返し述べるB1に対し,不正請求の指導はC1からではなく,r法人の職員以外の者から受けた旨に発言を訂正するよう激しい文言で脅迫するなどしながら執ように求める内容のものである,⑤被告人両名は,一時的に席を外すことがあったとはいえ,主としてA4がB1に対して脅迫するなどしている現場に同席し,その様子を認識している,⑥被告人両名は,いずれも本件会話を被告人Y1が録音していることを認識していたこと等から,A4の普段からの粗暴な傾向を認識していた被告人両名にとって,A4から席を外すよう求められた理由の1つに,A4が,その発言が録音されない2人きりの場面でB1と話をしようとしたという点があろうことや,A4が,当該2人きりの場面において,少なくとも,B1をしてA4の求めに応じ,A4の意向に沿う内容の話をするかのような態度等にさせる程度に激しい文言や口調を用いて追及するなどしたであろうことは容易に想定し得たはずであり,自身らが席を外していた際にもA4からB1に対する脅迫が行われたことについて未必的認識を有していたはずである,⑦A4及び被告人両名は,それぞれB1に対し,書面の内容を自身らの意向に沿うものとなるように書き直しを求めるなどしながらどのような文面にするかを指示するなど書面の作成に向けて積極的に関与している,⑧A4及び被告人両名は,B1に書面を作成させた後,その書面の利用方法や保管方法について自然に話し合いを始めるなどしていることからすると,B1に作成させた書面が,自身が意図していたとおり不正請求の経緯等についてのB1の従前の発言や説明をr法人に都合が良いものとなるように訂正する内容のものとなっているとそれぞれ認識していただけでなく,他の2名も自身と同様の意図や認識を有していることを十分認識し合っていた,などの根拠を挙げて,被告人両名が,A4との間で,相互の意思や行為を認識し,それを利用し合うことで,脅迫によりB1を畏怖させた上で,不正請求の指導はC1からではなく,r法人の職員以外の者から受けた旨記載した書面を作成させる旨の意思を通じ合っていたといえるから,被告人両名には,本件の強要について,故意やA4との間における共謀があったと説示する。
しかし,①については,A4による脅迫と一連のものとみたとしても,前記のとおり,発言の状況等に照らせば,これを脅迫の趣旨に理解することはできない。②については,関係証拠上,労働局の職員から伝聞として聞かされたB1の説明内容と被告人両名が直接聞いたC1の説明内容が食い違っていたため,B1にも直接事実関係を確認したいという被告人Y2の希望により実現したものであることが明らかであり,これが,書面作成を強要することに関する故意や共謀を裏付ける根拠になるとは考えられない。③については,被告人Y1が,A4が威圧的な話し方をするため,発言を控えるように当初からA4に要請し,A4もこれを了承していたことを示す事情であるから,これはむしろ,強要の共謀を否定する事情というべきである。④については,前記のとおり,B1は,全く脅迫を受けていない当初の時点から,一貫して,C1から不正請求を勧められたわけではなく,業者から聞いて知っていた不正請求の方法についてC1に相談を持ちかけて大丈夫と言われた旨の説明をしているのであり,「C1から不正請求の指導を受けた」と評価できるかどうかという点で被告人両名及びA4と見解を異にしていたに過ぎないものとみられる。もっとも,被告人両名が労働局職員から聞かされた内容は,C1から言われるままにB1が不正請求をしたかのような話になっていたのであり,B1のこの日の発言内容は,被告人両名が労働局職員から聞かされた内容とは異なる事実経過であったのだから,この点を確認するために繰り返し質問することが不当な行為であるとまではいえない。そもそも,前記のとおり,被告人両名が同席している場でのB1との会話内容は,「激しい文言で脅迫するなどしながら執ように訂正を求める内容」とはいえない。⑤については,前記のとおり,A4がB1に対して脅迫したと認められるのは第2場面のみであり,その場に被告人両名が同席していなかったことは明らかであるから,前提事実を誤認している。⑥については,被告人Y1の録音を気にしたならば被告人Y1だけを退出させれば足りるはずである上,一般的には周囲を大勢で取り囲んだ方が相手に対する圧迫感が増すことも考慮すると,被告人両名及びC2の退出を求めた行為が被告人Y1に録音されない場面で脅迫するための手段ではないかとの抽象的可能性を指摘することは可能であるとしても,前記認定の経緯やB1の応答ぶりも踏まえると,原判決の指摘する事実関係を考慮しても,第2場面のA4の脅迫について未必的な認識があったとまで認めることはできない。⑦については,確かに被告人両名及びA4の意に沿う内容に書き直しを求めたという評価も不可能ではないが,前記のとおり,B1は,一貫して,C1から不正請求を勧められたわけではなく,業者から聞いて知っていた不正請求の方法についてC1に相談を持ちかけて大丈夫と言われた旨説明しており,これが,被告人両名及びA4が労働局から聞いたとするB1の説明内容と違う内容であることはB1も認めており,1通目の書面がB1のこの日の説明内容と必ずしも整合せず,あたかもC1から不正請求を勧められたように読めるものであることを被告人両名から指摘され,この点についてはB1も認めた上で,2通目の書面に書き直しているのだから,このようにして書面を書き直したことが強要の故意や共謀を基礎づける事情になるとは考えられない。⑧については,そもそも被告人両名及びA4は,B1の言質を取るために被告人Y1がやり取りを録音していることを認識していたのだから,あえて書面を作成させる必要性はなく,現に被告人Y1は,書面を作成させる意味はないという趣旨の発言もしていることが認められる。書面作成後に3名の間でその有効利用等について話し合いがなされたからといって,書面の作成が脅迫に基づくことを推認させる事情とはいえない。そもそも,B1は,本件当時,「C1から言われるままに不正請求を行った」というB1の労働局における説明内容が正確性を欠いており,「過去にA1らと不正請求を行った(ただし,水増し領収証を作成した時点では銀行からの借入れをするためのものであって助成金を申請するためのものとは思っていなかった)経験を踏まえて,そのやり方で大丈夫かをC1に聞いて大丈夫との助言をもらった」という説明を,A4らからの働きかけの以前から一貫してしているのであり,作成された書面の内容もこの説明内容に沿ったものであるから,かかる書面の存在及び被告人両名がそれを利用しようとしたこと自体が,脅迫等の不当な圧力があったことを推認させる事情とはならない。
エ よって,強要事件については,被告人両名についていずれも犯罪の証明がないことに帰するから,これと異なり,被告人両名に対する強要罪が成立するとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。
論旨は理由がある。
第4  結論
以上によれば,原判決中被告人両名に関する有罪部分は,その余の論旨を検討するまでもなく,破棄を免れない。
第5  破棄自判
よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により当裁判所において更に判決する。
1  被告人Y1について
(原判決「罪となるべき事実」第6の事実に代えて当裁判所が新たに認定した事実)
原判決の「罪となるべき事実」第6の本文1行目冒頭から18行目「これらにより」までを「被告人Y1は,A4が,平成23年7月9日,宮崎市〈以下省略〉の当時の社労士法人r事務所において,B2(当時40歳)に対し,「お前,殺すぞ。殺すぞ,お前。お前の親も全部行くぞ。お前,何でうそばっかうそ言うてんねん,こら。自分がやったことは,自分で責任取れや。お前が責任を取れ。俺に損害を与えたんや。責任を取らんといかん。分かるやろ,言ってることが。社長にそんだけの多大な損害を与えとんや。社労士法人なくなるとこやったわ。Y1さんは必死に人間を探してきた。分かる。全部お前のせいや。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し,これによりB2が畏怖したことに乗じて,B2から損害賠償金名目で金員を喝取しようと企て,その頃,暗黙のうちにA4と意思を相通じ,同月11日,被告人Y1において,B2に対し,B2の行為を原因とする女性職員の退職や助成金支給申請におけるミスによって生じた損害を賠償する旨の書面に署名押印させるなどして」と改め,同23行目の「上記」を「同市〈以下省略〉」と改めるほかは,原判示と同一である。
(証拠の標目)
原判決の挙示する「罪となるべき事実」第6の事実に対する証拠と同一である(ただし,括弧内の証拠番号が「甲ロ」「弁ロ」で始まる証拠番号を削除し,「甲イ160」とあるのを「甲イ160(撤回部分を除く。)」と,「甲イ213・甲ロ107(甲イは謄本)」とあるのを「甲イ213」と,「DVD-R(甲イ227・甲ロ242,甲イ228・甲ロ243)」とあるのを「DVD-R2枚(甲イ227,228。宮崎地方検察庁平成27年領第71号符号211,212)」とそれぞれ改める。)。
(法令の適用)
被告人Y1の判示所為は,刑法60条,249条1項に該当するので,所定刑期の範囲内で,本件がいわゆる権利行使と恐喝の類型に属し,恐喝事案の中で比較的軽い部類に属する事案であること,喝取金額は36万円に上っているから結果を軽くみるわけにはいかないものの,被害者の従前の対応にも問題があったことが本件犯行を招いている面がある上,被告人Y1にとっては期せずしてA4が脅迫して被害者を畏怖させた現場に居合わせたことから犯行に加担した側面もあり,被告人Y1に対する非難可能性の程度はそれほど強くないことを中心的に考慮し,執行猶予中の犯行であることは不利な情状として一定程度考慮する必要はあるものの,本件とは異種の前科であって,執行猶予期間が既に満了していることも踏まえるとさほど重視はできないこと,他方で,遅まきながらも当審において反省の態度を示し,母も情状証人として出廷したこと等を被告人Y1に有利な一般情状として考慮した上で,被告人Y1を懲役1年に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中260日をその刑に算入し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予し,原審及び当審における訴訟費用については刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人Y1には負担させないこととして,主文のとおり判決する。
2  被告人Y2について
原判決が認定した「罪となるべき事実」第1の事実に原判決が原判示第1の所為につき挙示した罰条を適用し,所定刑期の範囲内で,本件は,助成金詐欺の事案であり,社会保険労務士としての専門的知識を悪用した計画的かつ巧妙な手口であって,被害額も約694万円にも上る悪質な犯行である上,主導的役割を果たしているといえるから共犯者間で最も重い責任を負うべき立場にあり,動機経緯に酌量すべき点もないことに照らすと,刑責は重いというべきであるが,被告人Y2が全額の被害弁償をしたことは事案の性質に照らして重視すべきであり,その他,前科前歴もなく,当初から一貫して事実を認めて反省しており,母も監督する旨証言していることも被告人Y2に有利な一般情状として考慮した上,被告人Y2を懲役2年に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中280日をその刑に算入し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予し,原審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人Y2には負担させないこととして,主文のとおり判決する。
3  被告人両名についての一部無罪の理由
被告人Y1に対する公訴事実の要旨は,宮崎地方検察庁検察官作成の平成25年12月25日付け起訴状記載の公訴事実,平成26年2月6日付け起訴状記載の公訴事実並びに同年3月13日付け起訴状記載の公訴事実第2及び第3のとおりであり,被告人Y2に対する公訴事実の要旨は,同検察官作成の平成26年2月6日付け及び同年5月12日付け各起訴状記載の公訴事実のとおりであるから,これらを引用する。
被告人Y1に対する平成25年12月25日付け起訴状記載の公訴事実(e店事件),平成26年3月13日付け起訴状記載の公訴事実第2(d店事件)及び第3(a店事件)については,前記第2で詳述したとおり,いずれも,被告人Y1が,A7,A2及びA1らに,本件助成金の支給申請に関する事務手続をr法人に委任するよう働きかける言動をし,これに基づきr法人に事務手続を委任した前記の者らが,架空ないし水増しによる不正請求をして本件助成金を詐取し,又は詐取しようとしたことは認められるものの,被告人Y1がそれらの欺罔行為を認識した上で,これを前記の者らと共謀したことを認めるに足りる証拠がない。
被告人Y2に対する平成26年5月12日付け起訴状記載の公訴事実(恐喝事件)については,前記第3の1で詳述したとおり,A4の脅迫により畏怖したB2に金員の交付を要求する行為に関与したことは認められるものの,B2がA4の脅迫により畏怖していたことを認識していたことを認めるに足りる証拠がなく,故意及び共謀が認められない。
被告人両名に対する平成26年2月6日付け起訴状記載の公訴事実(強要事件)については,前記第3の2で詳述したとおり,A4がB1を脅迫した上で書面を作成させたこと,同書面の作成に被告人両名も関与したことは認められるものの,A4がB1を脅迫したことを認識した上で,書面作成を強要することについてA4と共謀したことを認めるに足りる証拠がない。
よって,前記各公訴事実についてはいずれも犯罪の証明がないことに帰するから,刑訴法336条により被告人両名に対し前記各公訴事実について無罪の言渡しをする。
(裁判長裁判官 根本渉 裁判官 渡邉一昭 裁判官 安部利幸)

 

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