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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(32)平成30年 1月 5日 東京地裁 平26(ワ)21733号 地位確認等請求事件(本訴)、損害賠償請求反訴請求事件(反訴)

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(32)平成30年 1月 5日 東京地裁 平26(ワ)21733号 地位確認等請求事件(本訴)、損害賠償請求反訴請求事件(反訴)

裁判年月日  平成30年 1月 5日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)21733号・平28(ワ)34741号
事件名  地位確認等請求事件(本訴)、損害賠償請求反訴請求事件(反訴)
裁判結果  一部認容、一部棄却  文献番号  2018WLJPCA01058001

要旨
◆携帯電話を保有する営業社員に事業場外みなし制の適用が認められた例

評釈
河本毅・労経速 2345号2頁
山口浩一郎・労働法令通信 2502号18頁

参照条文
労働契約法15条
労働基準法38条の2

裁判年月日  平成30年 1月 5日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)21733号・平28(ワ)34741号
事件名  地位確認等請求事件(本訴)、損害賠償請求反訴請求事件(反訴)
裁判結果  一部認容、一部棄却  文献番号  2018WLJPCA01058001

本訴平成26年(ワ)第21733号地位確認等請求事件,
反訴平成28年(ワ)第34741号損害賠償請求反訴請求事件

東京都調布市〈以下省略〉
原告(反訴被告) X
同訴訟代理人弁護士 笠井收
金田万作
東京都新宿区〈以下省略〉
被告(反訴原告) 株式会社Y
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 河井敏伸

 

 

主文

1 被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)に対し,金201万0800円及びこのうち金191万1867円に対する平成26年3月5日から本判決確定の日までは年6パーセント,本判決確定の日の翌日から支払済みまでは年14.6パーセントの各割合による金員を支払え。
2 被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)に対し,金75万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)に対し,金17万1030円及びこれに対する平成26年9月30日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
4 原告(反訴被告)は,被告(反訴原告)に対し,金1373万4560円及びこれに対する平成28年10月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
5 原告(反訴被告)のその余の本訴請求及び被告(反訴原告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,本訴反訴を通じて,これを5分し,その1を被告(反訴原告)の負担とし,その余を原告(反訴被告)の負担とする。
7 この判決は,第1項,第3項,第4項に限り仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1 本訴請求
(1) 被告(反訴原告。以下,単に「被告」という。)は,原告(反訴被告。以下,単に「原告」という。)に対し,金516万2058円及びこのうち金460万1853円に対する平成26年3月5日から,うち金28万8114円に対する平成26年3月26日からそれぞれ支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告に対し,金394万0992円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(3) 被告は,原告に対し,金50万円及びこれに対する原告の第1準備書面送達の日の翌日(平成26年9月30日)から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
(4) 被告は,原告に対し,金223万8500円及びこれに対する原告の第1準備書面送達の日の翌日(平成26年9月30日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 反訴請求
原告は,被告に対し,金1653万4560円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日(平成28年10月18日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1 原告は,株式会社である被告に勤務する営業担当社員であったところ,被告は,平成25年12月19日,原告に自宅待機を命じた上,「原告が,顧客に対し,虚偽の契約条件を説明し,被告の印鑑を悪用して作成した書面を提示するなどの不正な営業活動を行って,顧客との間で不正に契約を締結しながら,正当に契約が成立したかのように装って,被告から契約実績に応じた成績給を詐取し,業務上の混乱及び経済的損害を与えた」旨の理由を主張して,遅くとも平成26年3月4日までに原告を懲戒解雇した。
本訴事件,反訴事件は,解雇前の労働契約関係及び解雇理由とされた不正な営業活動に関連して,それぞれ次の金員支払を請求する事案である。
(1) 本訴事件
ア 賃金(前記第1の1(1))
(ア) 労働契約に基づき①平成24年1月分から平成25年11月分までの所定時間外,法定時間外,法定休日及び深夜の各労働(一括して以下「残業」という。)に基づく賃金(一括して「残業代」という。)の残金合計394万0992円,②上記①の残業代に対する各支払日の翌日から原告主張の解雇の日である平成26年3月4日までの商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金27万1821円,③平成25年11月分の残業代を除く賃金残金(以下「基本給等残金」という。)35万4972円,④同年12月分の基本給等残金7万0470円,⑤平成26年1月の基本給等残金23万5689円及び⑥同年2月分の基本給等残金28万8114円の総合計516万2058円
(イ) 前記(ア)の①,③ないし⑤の合計額460万2123円から持株奨励金270円(平成25年11月分120円,12月分150円)を控除した残金460万1853円に対する原告主張の解雇の日の翌日である平成26年3月5日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律(以下「賃確法」という。)所定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金
(ウ) 前記(ア)の⑥の平成26年2月分の基本給等残金23万5689円に対する解雇後の支払日の翌日である同年3月26日から支払済みまで賃確法所定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金
イ 付加金(前記第1の1(2))
労働基準法114条,37条に基づいて,前記ア(ア)の①の残業代残金394万0992円と同額の付加金及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金
ウ 被告の営業経費の立替金(前記第1の1(3))
被告の営業のための経費(交通費,接待費等)に係る立替金50万円及びこれに対する原告の第1準備書面送達の日の翌日(平成26年9月30日)から支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による利息
エ 不当利得(前記第1の1(4))
原告が,顧客の頭金及び毎月の支払を立て替えて,被告に支払い,後日,顧客と被告との間の契約関係が解消されたことで発生した不当利得金合計223万8500円及びこれに対する原告の第1準備書面送達の日の翌日(平成26年9月30日)から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による利息
(2) 反訴事件
原告が不正な営業活動を行ったことによる損害につき,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償金1653万4560円(前記第1の2)
2 前提事実(争いのない事実及び括弧内の証拠等で容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 被告は,企業コンサルティング,経営指導,建設技術のノウハウ,パテントの売買などの事業を目的とする東京証券取引所一部上場の株式会社である。
イ 被告は,その事業の一環として,工務店向けに事業計画,経費削減,宣伝広告,集客,商品開発,販売方法効率化,ホームページ作成等に関するノウハウをまとめた各種マニュアル及び各種データの商品提供並びに各種研修プログラムの実施からなる「○○System」「△△SYSTEM」「□□system」「◎◎」「▽▽セールスプロデュース」「▽▽セールスプロデュース」「◇◇システム」「●●スタイル」「▲▲」などという名称の包括的な役務の販売を行っている(以下,これらの役務を総称して「本件サービス」という。)。その販売価格は数十万円から数百万円に及び,支払は一括払い,頭金の現金払い,被告が提携するリース会社とのリース契約等を利用した分割払などの方法が用いられていた(乙4,47ないし68,110,弁論の全趣旨)。
ウ 原告は,平成21年11月ころから派遣社員として被告での就労を開始し,平成22年1月から正社員として建築コンサルティング部門の営業,販売を担当する正社員を務めていた。原告は,平成24年7月ころまでは仙台支店に,平成25年8月ころからは福岡支店に,同年11月からは新宿支店にそれぞれ勤務していた(甲16,乙14,弁論の全趣旨)。
(2) 被告における就業規則等
ア 被告は,就業規則(乙11。以下「被告就業規則」という。)において,次の要旨の定めを置いている(ただし,労働者に周知されているか否か,争いがある。)。
(ア) 1日の拘束時間は9時間,1日の所定内労働時間は8時間とする。勤務稼働計画表で指定されている場合と事業所ごとに別に定める場合を除き,始業時刻は午前8時30分,休憩時間は正午から午後1時まで,終業時刻は午後5時30分までとする。休日は勤務稼働計画表で定める日曜日(年間52日),振替休日を含む祝祭日(年間15日)及び会社指定日(年間43日)とする(43条,54条1項,2項)。
(イ) 出退勤については,定められた始業時刻に直ちに業務が行えるようにし,また,退社の際は定められた就業時刻まで就業し,勤務終了時刻をタイムカードに自ら打刻し,又は所定の出勤簿に自ら捺印することによって記録しなくてはならない。主退勤の際はその記録を所定のタイムレコーダーにより自分でタイムカードに打刻しなければならない(47条,79条3項)。
(ウ) 被告は社内秩序を維持し,正常な労務の提供を受け,会社財産を守るためにこれらに反する従業員について,懲戒委員会の決定によって,譴責,減給,停職,昇級停止,降格,諭旨解雇又は懲戒解雇(行政官庁の認定を経て,予告又は予告手当の支払なしに即時解雇し,退職金を支給しない。)の懲戒処分を行う。懲戒の発起・終結期間の計算は暦日による(38条,91条2項,99条,100条)。
(エ) 「職務上の地位を利用して自己若しくは他人の利益を図り,または図ろうとしたとき」(94条9号),「故意または重要な過失により会社財産に著しい損害を及ぼしたとき」(同条10号)又は「会社の許可なく,私事に関する金銭取引その他の証票類に当事者として会社の称印を用いたとき」(同条19号)は,懲戒解雇又は情状により諭旨解雇とする(94条)。
(オ) 懲戒事由に該当する行為により被告に損害を与えたときは,これを賠償させることがある。退職し,又は解雇された後にあっても,在任中の不法行為は損害賠償の責任を負う(40条3号,98条)。
(カ) 職場秩序維持の必要上,当該糾問から懲戒処分までの間,就業を禁止することがある(91条3項)。被告は,従業員が懲戒に該当する行為があり,その事実について調査する必要があると認めたときは,当該従業員に対し15日以内の出勤停止を命じ,かつその間の賃金は支払わない(101条)。
(キ) 会社の許可なく他の事業体に勤務し,又は自ら事業を営んではならない(76条)。
イ 被告は,被告就業規則(乙11)の付属規程(5条1項,68条)として給与規程を定めている。平成21年4月1日の改訂直後の規程(乙29。以下「平成21年給与規程」という。)は,①給与の計算期間は当月1日から末日とし,翌月25日(その日が金融期間の休日のときは前営業日)に支払うこと(8条),②給与は,基本給(年齢給,勤続給及び職能給)並びに諸手当で構成すること(15条ないし28条),③「係長以下の営業職の者で,時間管理の困難な者」には,事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法38条の2。以下「事業場外労働みなし制」という。)の協定に基づき1日1時間相当の時間外手当相当として月22時間分を営業手当として固定支給すること(25条),④営業職の者で,レンタル業務,セールス業務に従事する場合,実績に応じて成績給などを毎月本人の申告に基づき支給すること(26条)などを定めていた(ただし,社員に周知されているか否か,争いがある。)。
ウ 被告は,平成21年給与規程を平成25年4月1日,平成26年4月22日にそれぞれ改定し,改訂後の給与規程(乙9)では,前記イの③の部分が「主に営業職等,1日の大半を事業場外で労働するなど労働時間の算定が困難な者には,事業場外労働みなし制の協定に基づき外勤手当として固定支給する」旨に(25条),前記イの④の部分は「営業職の者には,各事業のコミッション体系に基づき,毎月実績に応じて成績給等を支給する」旨にそれぞれ改められている(ただし,社員に周知されているか否か,争いがある。)。
エ 被告は,仙台市所在の仙台支店につき,「従業員間で推薦を受け従業員の過半数の賛同を得たもの」とされる社員のB(以下「B」という。実際に労働者の過半数を代表する者に当たるか否かは争いがある。)との間で,平成23年3月,同年4月1日から平成24年3月31日までを有効期間とし,労働基準法38条の2の労働時間を算定し難い事業場外労働における同条1項但書の「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」(以下「通常必要時間」という。)を「営業」の業務につき9時間とする旨の事業場外労働に関する同条2項に基づく労使協定を締結し,労働基準監督署に届け出ている。労働基準法36条に基づく平成23年4月1日から平成24年3月31日までの時間外労働・休日労働に関する労使協定も同様にBとの間で締結し,届け出ている(乙23,24)。
オ 被告は,仙台支店につき,「従業員間で推薦を受け従業員の過半数の賛同を得たもの」とされる社員のC(以下「C」という。実際に労働者の過半数を代表する者に当たるか否かは争いがある。)との間で,平成24年3月,同年4月1日から平成25年3月31日までを有効期間とし,労働基準法38条の2の労働時間を算定し難い事業場外労働における通常必要時間を「営業・入出庫業務」の業務につき9時間とする旨の事業場外労働に関する協定を締結し,労働基準監督署に届け出ている。労働基準法36条に基づく平成24年4月1日から平成25年3月31日までの時間外労働・休日労働に関する労使協定も同様にCとの間で締結している(乙26,27)。
カ 被告は,福岡市所在の福岡支店につき,「従業員間で推薦を受け従業員の過半数の賛同を得たもの」とされる社員のD(以下「D」という。実際に労働者の過半数を代表する者に当たるか否かは争いがある。)との間で,平成25年3月,同年4月1日から平成26年3月31日までを有効期間とし,労働基準法38条の2の労働時間を算定し難い事業場外労働における通常必要時間を「営業」の業務につき9時間とする旨の事業場外労働に関する協定を締結し,労働基準監督署に届け出ている。労働基準法36条に基づく平成25年4月1日から平成26年3月31日までの時間外労働・休日労働に関する労使協定も同様にDとの間で締結し,届け出ている(甲18,乙20,21)。
キ 被告では,原告ら営業担当社員に対し,契約締結の実績(売上げ)に応じて,次のように算定される成績給を毎月支給していた。この成績給は,「コミッション」とも呼ばれていた(弁論の全趣旨)。
(ア) 毎月の売上額が金1000万円以上となった者を支給対象とし,金1000万円以上の売上額から仕入額及び回収リスク金額(売上額に売掛金の回収リスクに応じた掛け率を乗じて算出された金額)を控除する。
(イ) 前記(ア)で算出された金額を営業担当社員とチームを組む内勤社員(「サポートメンバー」と呼ばれている。)に一定の割合で按分する。
(ウ) 前記(イ)の按分額からその者の職務等級に応じた基準額を差し引く。
(エ) 前記(ウ)の金額から前月売上げに応じた3段階の掛け率及びその月の売上金額に応じた4段階の掛け率を乗じる。
(3) 原告の解雇に至る経過
ア 原告は,相当数の顧客となるべき工務店(以下,単に「顧客」という。)に対し,被告では「お試し期間」の利用は認めていないにもかかわらず,原告が頭金を立て替えて,気に入らなければ分割払いをせずにキャンセルとすることを予定して,本件サービスを約1か月試しに利用してもらうという提案をし,そのうち少なくとも1顧客に対して,被告の社印を無断使用して,お試し利用であることの被告名義の証明書を作成して交付していた(ただし,原告が実際に顧客のため,提案したとおり,頭金を立て替えたかどうかは,争いがある。以下,被告が容認してない方法,内容,態様等による営業活動を総称して「不当営業活動」という。)。
イ 被告は,原告の前記アの不当営業活動が判明したとして,平成25年12月19日,原告に対し,自宅待機を命じた(以下「本件自宅待機」という。)。
ウ 原告は,弁護士に対し,被告との労働紛争に関する交渉等を委任した。原告の委任を受けた弁護士ら(以下「原告弁護士」という。)は,被告に対し,平成26年1月14日付けご連絡(甲1)を送付して,「被告から懲戒解雇予定と通知されて,平成25年11月分,12月分の基本給支払がないまま,本件自宅待機となっている」旨を主張して,基本給の支払及び就業規則の開示を求めた。同年2月25日付け御連絡(甲6)にもほぼ同様の内容を通知している。
エ 労働基準監督署は,平成26年1月20日,原告に対する懲戒解雇につき,解雇予告の除外認定(労働基準法20条3項)をした(乙3)。
オ 被告は,平成26年1月29日,原告の預金口座に金27万6300円を振り込んだ(乙19)。
カ 被告は,弁護士に依頼して,原告及び原告弁護士に対し,それぞれ内容証明郵便による平成26年3月4日付け通知書(甲3,4)を送付して,「原告側は,原告が解雇手続をとられないなど,原告が劣悪・不安定な立場に置かれているように主張しているが,被告は,原告が在職中,①顧客との間で商品販売に関する契約が成立したように装って,被告から二百数十万円に上る成績給を詐取したこと,②被告の社内ルール及び原告の権限を逸脱して,顧客に特段のサービスを提供する,又は商品販売代金支払を猶予するかのような約束を交わし,業務上の混乱と経済的損害を与えたこと,③上記①,②の各項を実行・糊塗するための一手段として,被告の印鑑を偽造・使用してほしいままに被告名義の書面を作成したなどの多数の不正行為を行い,被告就業規則94条9号,10号,19号に該当することを理由として懲戒解雇に付する旨を原告に明確に伝えている。念のため,本書面をもって,今一度,原告を懲戒解雇に付する旨を通知する。」旨を通知した(被告の原告に対する解雇の意思表示の日及びその効力発生の日には争いがある。)。
キ 被告は,原告に対し,平成26年3月5日付け退職証明書(甲5)を発行しており,同証明書には「原告には前記カの①ないし③の行為を含む多数の不正行為があり,被告就業規則94条9条,10条,19条に該当することから懲戒解雇となったことで,平成26年1月20日被告を退職した」旨の記載がある。
ク 原告と被告は,それぞれが委任した弁護士を介して,書面の交換による交渉を行い,その中で原告弁護士は,平成26年3月3日付け御連絡(甲7),同月7日付け御連絡(甲8)及び同月10日付け御連絡(甲10)において,原告に懲戒解雇をいつどのように通知されたか明らかにするように求めたが,被告側からの回答はなかった(甲7ないし10)。
(4) 原告に対する賃金支払状況
被告は,原告に対し,毎月末締め,翌月25日払いで毎月の賃金を支払ってきたが,平成26年10月25日の賃金支払の後は,前記(3)オの金27万6300円の振込入金以外には,原告に対し,賃金を支払っていない。
(5) 解雇後の経過
ア 原告は,平成26年6月18日,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位の確認並びに平成26年1月からの月額20万5000円の基本給,残業代を含む未払賃金644万7244円及び立替金244万3500円の支払を求める労働審判事件を申し立てた(東京地方裁判所平成26年(労)第418号)。上記労働審判事件は,同年8月20日,労働審判法24条に基づく終了となり,本訴事件に移行した。原告は,その後,訴えの変更を繰り返し,口頭弁論終結時の請求は,前記第1の1のとおりとなった。原告からの最初の付加金の請求は,平成26年9月24日受付の第1準備書面における平成24年5月分から平成25年11月分までの残業代に係る金483万0332円の支払請求である(顕著な事実)。
イ 原告は,現在,自己の被告に対する労働契約上の権利を有する地位が平成26年3月5日以降も存続していることを主張しておらず,上記地位が既に消滅していることを認めている(顕著な事実。なお,原告と被告との間では原告の解雇が懲戒解雇として有効であるか,普通解雇として有効であるにとどまるか,また,解雇の効力発生日がいつであるか,争いはあるが,そのような争いは現在の法律関係ではなく,過去の法律行為ないし法律関係の存否・効力を巡る争いに過ぎないから,解雇の種類,時期に関して何らかの確認判決を求められるだけの訴えの利益は存しない。)。
ウ 被告は,平成28年10月14日,原告に対し,損害賠償金1457万1015円及びその遅延損害金の支払を求める反訴を提起した(顕著な事実)。
エ 被告は,平成29年2月13日付け訴えの変更申立書で,反訴の訴えを変更し,原告に詐取されたと主張する成果給500万6100円を金396万9645円に減額する一方,新たに損害として信用毀損による無形の損害300万円を主張して,損害賠償金の請求額を金1653万4560円に増額した(顕著な事実)。
オ 本件訴訟は,平成29年5月15日,弁論準備手続を終結した(顕著な事実)。
3 争点
(1) 本訴請求
ア 平成26年3月4日までの基本給
本件自宅待機による基本給不払の可否,本件解雇の時期及び効力等
イ 残業代及び付加金
(ア) 事業場外労働みなし制の効力
(イ) 労働時間及び残業代計算
(ウ) 付加金
ウ 営業経費の立替金
エ 不当利得―顧客のための立替金
(2) 反訴請求
ア 反訴及びその訴え変更の適法性
イ 原告の不法行為又は債務不履行による損害
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(平成26年3月4日までの基本給)について
ア 被告の主張
(ア) 原告は,被告に不当営業活動が発覚した後も,被告に虚偽を報告する,上司の許可を得ないで不当営業活動の相手方である顧客を訪問するなど,不当営業活動を糊塗する姿勢が極めて顕著であった。顧客を巻き込み,犯罪にも該当する不当営業活動の重大性と原告による関係証拠隠滅の具体的危険を考慮すると,原告を勤務させるべきでない緊急かつ合理的な理由があった。そのため,被告は,平成25年12月19日,原告に本件自宅待機を命じた。本件自宅待機には緊急かつ合理的な理由があり,自宅待機の期間も必要かつ合理的な期間にとどまるから,被告は,本件自宅待機以降,原告に対し,賃金支払義務を負わない。
(イ) 被告は,平成26年1月7日,原告を呼び出して,懲戒委員会議事録(甲37)及び被告就業規則を提示しつつ,労働基準監督署から解雇予告の除外認定(労働基準法20条3項)が出たら懲戒解雇することを,その具体的な理由とともに明確に伝えており,それまでの事情聴取における自認書(乙2)の作成,その後の労働基準監督署での事情聴取,被告からの解雇を前提とした電話や同月23日送信の電子メール(乙13の2)などによる連絡からも原告は自らが懲戒解雇されたことを明確に認識できた。平成26年3月4日付け通知書(甲3,4)の送付による解雇の意思表示は念のためのものに過ぎない。
(ウ) 以上によれば,平成25年12月19日の本件自宅待機の開始後は,原告には賃金は発生せず,解雇で雇用関係も平成26年1月20日に終了した。
(エ) 平成25年12月19日の本件自宅待機前の賃金は,完済済みである。すなわち,原告の平成25年11月分の賃金(支払期日は同年12月25日)は合計55万9690円であり,社会保険料等合計20万4718円を控除し,残額は金35万4972円となる。同年12月分の賃金(支払期日は平成26年1月25日)は,平成25年12月19日以降は無給の本件自宅待機であったため金13万5187円しか発生せず,社会保険料等の控除は合計21万3949円であったから,控除に金7万8752円の不足が生じた。被告は,同年11月分の賃金の残額35万4972円から同年12月分の控除不足額7万8752円を控除して,金100円未満を切り上げて算出した金27万7300円を平成26年1月29日,原告の預金口座に振り込んで,本件自宅待機前の賃金を完済した。
イ 原告の主張
(ア) 本件自宅待機は被告の都合によるものであり,原告の不当営業活動に対する調査の必要によるとしても,原告は不当営業活動を全て認めており,長期間にわたる無給の自宅待機を必要とする再発防止や証拠隠滅防止の必要はなかった。被告就業規則は,調査のための無給期間を15日に制限しているから(前記第2の2前提事実(2)ア(カ)),それを超える無給の自宅待機に合理性はない。
(イ) 被告は,平成26年3月4日付け通知書(甲3,4)の送付によって,原告を解雇する旨の意思表示をしたのであるから(前記第2の2前提事実(3)カ),解雇による原告と被告との間の雇用関係終了の日は,同日である。それ以前には口頭でも懲戒解雇に付する旨は伝えられていない。仮に今後解雇する旨伝えられても,具体的な日付を定めたものではない上,労働基準監督署の除外認定が出たらという条件付きのものに過ぎないから,解雇予告にはならない。すくなくとも平成25年12月28日には被告の懲戒処分のための調査も終了していたから,調査の必要があるときの15日以内の無給の出勤停止を定めた被告就業規則101条(前記第2の2前提事実(2)ア(キ))を適用する余地もない。
(ウ) 以上によれば,被告は,原告に対し,平成25年11月1日から平成26年2月末日までの基本給の支払義務を免れない。
(2) 争点(1)イ(ア)(事業場外労働みなし制の効力)について
ア 被告の主張
(ア) 被告の営業担当社員は,全国に多数点在する顧客(工務店)のもとにその都合を合わせて臨機応変かつ効率的に訪問し,本件サービスの詳細な説明や勧誘を実施している。営業担当社員は,業務の大部分は事業場外で遂行しており,自らの裁量で主体的に訪問先,提案商品,訪問経路等を計画し(見込客からの訪問先の選別及び訪問の約束取り付けを含む。),自己で管理していた。上司の監視を受けることもないから,被告が営業担当社員の個々の営業活動を具体的に指揮監督することはできず,労働時間の算定は困難であった。そのため,被告では,営業担当社員につき,被告就業規則及び事業場の労働者の過半数を代表する者(以下「過半数代表者」という。)との間の労使協定に基づき事業場外みなし労働制を採用し,1日9時間(うち8時間は所定労働時間)のみなし労働時間を定めている。また,みなし労働時間に応じた残業代として1日1時間の残業及び毎月の勤務日22日に応じた月22時間分の残業代として営業手当を支払済みであって,営業手当を超えて残業代が発生する余地はない。
(イ) 被告では,営業担当社員に事前に業務内容を具体的に指示しておらず,出張報告も経費精算の適正確保のための簡易なものに過ぎなかった。営業担当社員には平成24年4月以降,携帯電話を貸与していたが,顧客との連絡を臨機応変に行えるようにするためで,被告から営業活動を具体的に指示するためではないし,逐一具体的な指示を与えることも不可能である。上司からの具体的な指示や個別的な報告は,問題が生じたときに限られる個別的,例外的なものに過ぎない。個人別勤務時間表は,労働時間管理目的ではない。
(ウ) なお,営業手当の金額が毎月変動しているのは,営業手当として基本給を基礎賃金とする法定時間外労働22時間分の残業代に加え,成績給を基礎とする22時間分の残業代(以下「営業手当成績分」という。)も支払っているためであり,何ら不適正な措置ではない。
イ 原告の主張
(ア) 事業場外労働みなし制の適用のためには,使用者の具体的な指揮監督や時間管理が及ばず,労働時間の算定が困難であることを要する。被告では,営業担当社員に携帯電話が支給され,毎日のスケジュールは事前にパソコンのスケジュール管理ソフトに登録し,直行を除き,午前8時20分からの朝礼に出席し,原則として直帰せず,訪問先から被告の事業場に戻ることとされており,タイムカードやその時刻記録に基づく個人別勤務時間表(甲17,19)による時間管理もされていた。顧客訪問は,内勤社員とチームを組んで,営業先のリストをチームごとに割り当てられ,内勤社員が事前に訪問の約束を取り付けて,原告ら営業担当社員に報告し,社内のスケジュール管理ソフトに登録して,事前の約束に基づいて訪問を行っており,営業担当社員がいつ,どこに訪問して営業活動を行うか,業務内容は事前に決まっており,変更は原則許されず,変更は支店長及び内勤社員との連絡を要した。再訪問も内勤社員と調整の上で決定しており,営業担当社員単独の裁量は限定的であった。上司からは,深夜の時間帯を含め,随時,携帯電話での電話や電子メールを通じて,今後の予定やスケジュール変更,勧誘方法の指示がされていた。出張経費の精算では領収書だけでなく,出張報告書(甲22)の提出も要し,客観的に見ても,労働時間の算定は困難でなかった。
(イ) 事業場外労働みなし制におけるみなし労働時間を定める労使協定は,過半数代表者が締結していないから,無効である。過半数代表者とされている者は,従業員間で推薦されることもなく,労使協定を締結する者を選出することを明らかにされることもなく,一方的に被告が選出したものに過ぎない。
(ウ) 原告のような営業担当社員の就労の実態では,時間外労働に1日5時間を要していた。1日1時間(月22時間)の時間外労働を通常必要時間とすることには実態に反する。被告からは,どのような労働実態の検証・検討がされて,労使協定でみなし労働時間が定められたのか,具体的な主張立証がなく,合理的根拠に欠ける。
被告は,被告就業規則及び労使協定で営業手当を時間外手当と定めているのに,実際には営業手当と成績給を混合させて支給しており,残業代の管理が杜撰である。
(エ) 以上によれば,被告における事業場外みなし労働時間制は無効である。
(3) 争点(1)イ(イ)(労働時間及び残業代計算)について
ア 原告の主張
(ア) 平成24年1月から平成25年11月までの原告の労働時間は,別紙1「賃金・時間計算書」のとおりである。
(イ) 原告の毎月の基本給を月平均所定労働時間(平成24年は170.66時間,平成25年は170時間)を除する方法で算定される基礎賃金の時間単価は,別紙2「基礎時給計算書」に記載のとおりである。
(ウ) 営業手当は,被告就業規則によれば,月22時間分の定額残業代とされているが,実際の支給額には成績給も混合されて,毎月変動しているから,支給された営業手当のうち,前記(イ)の時間単価に法定時間外労働に係る法定割増率25パーセントと月22時間を乗じて得られる金額に限り,残業代の既払金と扱うべきである。この算定方法によると,残業代の毎月の既払金額は,別紙3「集計表」記載のD「既払金」欄のとおりとなる。
(エ) 以上によれば,平成24年1月から平成25年11月までの原告の残業代は,別紙3「集計表」記載のE「未払残業代」欄のとおり,合計394万0992円となる。これに対する解雇の日である平成26年3月4日までの商事法定利率6パーセントの割合による遅延損害金は,別紙3「集計表」のI「在職中の遅延利息 基準日までの遅延損害金 年利6パーセント」欄記載のとおり,金27万1821円となる。
イ 被告の主張
いずれも否認し,争う。
(4) 争点(1)イ(ウ)(付加金)について
ア 原告の主張
被告は,原告の残業代支払い請求に対し,残業の存在を否定し,タイムカード,給与明細等の資料提出になかなか応じず,反訴まで提起するなど,悪質な対応を示しているので,残業代残金394万0992円と同額の付加金を支払わせるべきである。
イ 被告の主張
争う。
(5) 争点(1)ウ(営業経費の立替金)について
ア 原告の主張
(ア) 原告は原告が領収書(甲13の1ないし57)を保管中のものに限っても,被告の営業のための経費(交通費,接待費等)として金23万2220円を立て替えた。
(イ) 原告は,前記(ア)のほか,被告に既に領収書を提出済み又は被告事業場内の机に領収書を保管中で被告が未だ開示しない分として,被告の営業のための経費,少なくとも金26万7780円を立て替えた。
(ウ) 以上によれば,原告が被告から償還を受けるべき営業経費の立替金は金50万円を下らない。
なお,原告が被告の社内における手続に則った経費の申請ができなかったことは被告の償還義務の存否とは関係がない。経費申請ができなかったのは,本件自宅待機や解雇のためであって社内手続に則った申請がないことを口実とすることは不当である。
イ 被告の主張
いずれも否認する。
被告が領収書の開示を不当に拒んでいるかのような主張は,言いがかりである。原告の営業経費の立替金償還請求は,因果関係が不明で,被告の社内における手続も無視しており,被告に償還義務はない。
(6) 争点(1)エ(不当利得―顧客のための立替金)について
ア 原告の主張
(ア) 原告は,被告の顧客ら(aホーム,b工務店,c工務店,d建設,e組及びf社)が被告に支払うべき本件サービスの利用契約の頭金及び毎月の分割払のうち合計286万8500円(aホームは頭金15万7500円,b工務店は頭金26万2500円及び分割払75万6000円,c工務店は頭金26万2500円,d建設は頭金31万5000円,e組は頭金31万5000円,f社は頭金63万円及び分割払17万円)を後に正当な契約が成立するという前提のもと立て替えて被告に支払った。この立替金は,本件サービスの利用契約が解約されれば,顧客に対する返還を経て,出捐者である原告に返還されるべきものである。
(イ) 原告が計63万円を立て替えたd建設及びe組は被告との契約関係が継続している。その余の顧客は既に被告との契約関係が解消されているにもかかわらず,被告は,前記(ア)の立替金を顧客にも原告にも返金せず,不当利得として保持したままである。
(ウ) よって,原告は,不当利得返還請求権に基づき前記(ア)の立替金286万8500円から契約関係が継続している金63万円(前記(イ))を控除した残金223万8500円の返還を求める。
イ 被告の主張
原告主張の顧客のための立替えの事実は否認する。
仮に原告がそのような立て替えをしていたとしても顧客に対して償還を請求すべきである。また,そのような立替えは,後記(8)アのとおり,原告が営業担当社員として多額の年収を得られる立場を維持し,多額の成績給を不正に得る目的のものであるから,不法原因給付に該当し,返還請求はできない。
(7) 争点(2)ア(反訴及びその訴え変更の適法性)について
ア 原告の主張
(ア) 被告の反訴は,原告と被告との間で紛争が発生し,労働審判事件申立て及び訴訟移行を経て,本訴の審理が重ねられ,裁判所からも平成28年10月7日までに準備書面を提出するよう指示されながら,同日を経過した後に提起されたものである。原告は,既に人証調べの準備を進めており,反訴の提起が無ければ,平成29年年明け早々の弁論終結も見込まれたが,反訴では,それまで審理の対象とされていなかった不正行為も主張され,不正行為の有無,損害及び相当因果関係につき,新たな主張立証を要し,これまでの被告の不誠実な訴訟対応と相まって,審理が明らかに遅延する。
(イ) 反訴に係る訴え変更は,さらに時機に遅れ,無形の損害の有無,金額という新たな損害や因果関係,使用者からの労働者に対する損害賠償請求の信義則による制限に関する審理が必要となるから,ますます訴訟手続を遅滞させる。
(ウ) 別訴でも足りるのにあえて反訴及びその訴え変更としたことからは訴訟の引き延ばしや嫌がらせの目的も認められる。
イ 被告の主張
被告は,原告の不正行為による悪影響を最小限にとどめ,刑事手続も視野に入れて対応していたため,反訴提起の時機も慎重に選択せざるをえなかったもので,訴訟を遅滞させる目的,故意又は重過失は存しない。原告は,別訴での損害賠償には対応せざるを得ないから,反訴提起を認めても実質的な利益は害されない。反訴での損害賠償請求に対する判断は,本訴における懲戒解雇に関する判断と表裏一体であり,反訴を別訴として取り扱うことは紛争を不自然に分断し,紛争の一体的・包括的な解決を妨げる。本訴は,反訴提起以前から原告の主張を補正するため少なからず時間を要していた。
これらの事情にかんがみれば,被告の反訴及びその訴え変更が不適法とはいえない。
(8) 争点(2)イ(原告の不法行為又は債務不履行)について
ア 被告の主張
(ア) 原告は,被告から本件サービスの売上げに基づく成績給を得るとともに,社内で有能な人間と認められるという自己顕示欲を満たすため,「仮契約であるから」「キャンセル可能であるから」などと欺いて,顧客に契約書に押印させる,顧客に信用させるため被告の社印を冒用して権限なく,顧客との間で被告が想定してない内容(仮契約,キャンセル可能)の覚書や念書を作成する,不実の被告社内の会議議事録を作成して顧客に提示する,被告が予定しない追加的なサービスを提供するかのように申し向けるといった方法で顧客との間で本件サービスの利用契約を締結しながら,被告には正常な方法で確定的に適正な契約が成立したかのように装って申告する極めて悪質な不当営業活動を繰り返した。本件サービスは住宅商品開発等に関するノウハウを紙媒体や電磁的記録媒体に記録した商品を提供するものであるから,広く第三者に開示・漏洩されれば商品価値が無価値化する懸念がある。サービス利用契約が解約されても,顧客にいったんノウハウの内容が開示された以上,拡散のおそれが生じており,被告の事業自体を揺るがせる重大な悪影響を生じさせている。
原告は過酷な労働条件に置かれたことはないから,信義則上の損害賠償制限の主張は前提を欠く。すなわち,原告は成績給がなくても毎月約28万円の賃金を保証されており,売上げが成績給の基準額を下回っても不利益を課されることはない。原告の成績給を含む賃金額年収で金1000万円を超えることもあり,同年代の労働者一般に比べ,高水準である。公租公課,社宅家賃等からなる控除が多額なのは,単に過去の高水準の賃金のため公租公課も多額となり(それで生活に困難が生じても,原告が公租公課の支払に備えずに無計画な家計管理をしていたためというべきである。),また,原告が提携不動産業者から紹介された複数の社宅用の物件から自ら高額家賃の物件を選択した結果に過ぎない。
(イ) 被告は,前記の(ア)の不正な不当営業活動のため,次のとおり,総合計1653万4560円の損害を受けた。
a 成績給及び営業手当成績分の不正受給396万9645円
被告は,原告に対し,不正行為によって契約が締結されたもの56件を含む売上げに基づいて平成24年7月から平成25年11月までに成績給499万5627円及び営業手当成績分14万3103円を支払った。適正な契約締結に基づく成績給113万3976円及び営業手当成績分3万5109円を控除した差額396万9645円は,原告が不正に受給したもので,被告の損害となる。
b 不正に締結された契約に係る経費等134万0518円
(a) 原告が不正に契約を締結し,後に契約が解消された案件では,顧客から本件サービスで提供された商品を回収したが,他の顧客に対する提供に用いることはできないため廃棄せざるを得ず,商品提供のための発送費用(計9338円),回収のための返送費用(計4万9894円)及び商品原価(59万8786円)が損害となった。
(b) 本件サービスの勧誘のため,本件サービスの利用者である工務店経営者に講演を依頼し,2か月以内の売上げに応じた成功報酬も支払っていたところ,その売上げは原告の不正な契約締結を含み,成功報酬のうち金68万2500円の過払を余儀なくされた。
(c) 以上によれば,被告は,不正に締結された契約に係る経費等として金134万0518円の損害を受けた。
c 顧客対応費用737万8150円
被告は,原告が虚偽の説明をして不正に契約を締結した顧客に対し,説明や謝罪を余儀なくされ,そのための訪問に要する交通費,宿泊費等の出張費用として合計97万3150円の出費を余儀なくされた。
また,原告から半永久的に無償でサポートサービスを受けられると,虚偽の説明を受けた顧客(g建築)から強硬なクレームを受けて,原告が約束したサポートサービス提供義務を免除してもらう引き換えに,3種類の本件サービスの代金全額(計609万円)の返還を余儀なくされた。また,原告が本件サービスに含めない商品の提供を約していたことで,強硬なクレームを受けて当該商品(31万5000円相当)の無償提供を余儀なくされた。
以上のとおり,被告は,顧客対応のため金737万8150円の損害を受けた。
d リース会社に対する解約手数料等84万6247円
被告は,原告が不正に締結された契約に係る分割払の事後処理のため,リース会社から解約手数料等合計84万6247円を請求されて,支払に応じることを余儀なくされて,同額の損害を受けた。
e 信用毀損による無形の損害300万円
原告の不正行為で,被告は,顧客又は将来に取引の可能性がある潜在的な顧客である工務店及び提携しているリース会社からの信用を著しく毀損されており,この信用毀損による無形の損害は金300万円を下らない。
イ 原告の主張
(ア) 契約のキャンセルは顧客社長の病気や顧客内部の意思疎通による不備によるものもある。原告が仮契約のような趣旨のことを言っていても,最終的には本契約に至る前提での営業活動のためのリップサービスのようなものに過ぎず,実際,多くの場合,本契約締結に至っており,債務不履行や不法行為には該当しない。
原告の不当営業活動は,長時間労働を強いられながら,1月の売上げが金1000万円という多額の水準を超えなければ成績給の支給がないため,社宅の家賃を含めた控除後の手取額が金3万円にも満たなくなる過酷な労働環境で,それまでの成績もよかったため上司から多大なプレッシャーがある中でやむを得ず行ったもので,成績給や自己顕示欲を目的としたものではない。仮に原告に債務不履行や不法行為が認められても,過失によるものであって,被告の企業規模,原告の過酷な労働環境等に照らせば,損害の公平な分担という見地から信義則上せいぜい1割程度の損害賠償で足りる。
(イ) 不正に受給した成績給及び営業手当成績分の金額,不正に締結された契約に係る経費等,顧客対応費用,リース会社に対する解約手数料等,信用毀損による無形の損害はいずれも否認する。顧客に対する本件サービスの代金返還や無償提供,リース会社に関する解約手数料支払に至る相当因果関係も明らかでない。
第3  争点に対する判断
1 認定事実
後記各項掲記の証拠等(なお,原告本人尋問の結果は「原告尋問」と,証人Eの証言は「E証言」と,証人Fの証言は「F証言」とそれぞれ略記する。)によれば,次の事実を認めることができ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) 原告ら営業担当社員の業務の一般的状況
ア 被告の各支店における営業担当区域は広範囲となっており,仙台支店は,東北各県,福岡支店は九州各県,沖縄県,山口県,広島県及び島根県,新宿支店は関東各県,静岡県,新潟県,長野県,山梨県及び北海道をそれぞれ担当していた(甲41)。
イ 原告は,営業担当社員(「リーダー」とも呼ばれていた。)として補助者となる内勤社員(サポートメンバー。「サブ」とも呼ばれている。)とチームを組んで,各地に点在する中小の工務店に訪問して,被告が予め準備した説明資料(乙110)を用いるなどして,本件サービスの購入を勧誘する営業活動に従事していた。被告では,工務店経営に関する無料セミナー,電話勧誘,ダイレクト・メール等の宣伝活動を通じて,見込客を把握・選別しており,この業務は主に内勤社員が担当していた。原告ら営業担当社員は,内勤社員とともに見込客の把握・選別の結果をもとに訪問先の顧客との約束を取り付けて訪問のスケジュールを決めていた(支店長の上司が具体的なスケジュールを決定することはほとんどなかった。)。原告ら営業担当社員は,訪問の際,随時,被告の内勤社員の携帯電話の電子メールや電話で連絡を取り合って,スケジュールを確認したり,訪問先での工務店の都合等によるスケジュール変更,個々の訪問終了時の営業活動の結果を報告したりしていた。また,被告からの携帯電話のメールや電話で,今後の予定,スケジュール変更の指示も随時受けていた。ただ,実際の営業活動では,個々の顧客の意欲,考え,都合,事情等を勘案することを要し,どの種類の本件サービスを勧誘し,勧誘目的の訪問にどのくらいの時間又は回数をかけるか,どのように勧誘するかの判断は,直接顧客に接する営業担当社員の判断によらなければ困難であり,上司又はサポートメンバーは個々の事情に応じて,報告を受けて,助言や指導をすることはあったものの,営業担当社員の営業活動を全般的かつ具体的に指示することはなかった。営業担当社員のスケジュールは,被告社内のスケジュール管理ソフト(甲39)に入力されており,営業担当社員以外の者も閲覧可能であったが,入力内容は15分単位の大まかなものにとどまり,予定の変更又は実際の営業活動の状況を逐一反映させる,上司が実際の営業活動の状況と照合するという利用方法は採られていなかった。出張報告書(乙111の1ないし3)の内容も簡易なものであり,経費の精算のための出張旅費精算書(甲22の1等)は出張の日付,発着地,交通機関,宿泊先,費用の金額,用務等を記載するが,時刻の記載はされていなかった。平成25年10月以降,交通費等の経費精算を適正化するため被告の通達(乙109の1)に基づき営業活動のための出張に関し,事前の出張許可申請書(乙109の2)による申請に基づく上司の承認及び事後の上司による検印が必要とされた後も,出張許可申請書には出張先,日時,目的,訪問結果等を簡潔に記載すれば足りた。原告を含む営業担当社員及び内勤社員とその上司等の間では,被告就業規則での終業時刻午後5時30分(前記第2の2前提事実(2)ア(ア))を過ぎた後も,しばしば,これらの確認,報告及び指示に関する連絡がされており,午後10時を過ぎることもあった。支店長から原告を含む各チームに対し午後8時47分の電子メールで業務改善策の提出が指示され,午後11時16分,34分に翌日の改善案提出は「寝ぼけた事」であり,「明日ではなく,今日のうちに改善するのが仕事だと思います」「今後ではなく,今すぐなの!」「マジで寝ぼけてんな!!」との再度の指示(甲31の6)がされ,原告は,午後11時47分に今後の業務改善策を電子メール(甲31の11,12)で報告したこともあった。週数回ごとに出席が義務付けられている会議も開催されて,その時間が被告就業規則上の終業時刻後に及ぶこともしばしばあった(甲22の1ないし152,甲23の1ないし3,甲24,25,26,甲27の1,2,甲29,30,甲31の1ないし12,甲32の1ないし5,甲33の1ないし5,甲34の1ないし15,甲39,41,乙102,乙108の1ないし4,110,乙111の1ない3,原告尋問,E証言,弁論の全趣旨)。
ウ 被告では,毎朝,各支店で午前8時20分から午前8時30分の被告就業規則での始業時刻までの間,朝礼が開催されており,社員は,顧客訪問に直行する場合を除いて,必ず出席していた。日中は,主に顧客のもとに訪問して,営業活動に従事し,訪問を終えると支店に戻ってその日の営業活動結果の整理や出張報告書作成等の事務,メール送受信,翌日以降の営業活動の準備を行っていた。原告は,被告就業規則での終業時刻午後5時30分を過ぎた後も,しばしば顧客等との間で被告社内から電子メールでの連絡をしていた。被告では,個人別勤務時間表を作成可能なカードリーダーシステムを導入しており,社員に出退勤に際して,カードリーダーにカードを通すよう指示しており,このシステムの記録を出退勤の有無の確認及び社員の健康管理目的の労働時間把握に利用していた。カードリーダーで記録できなかったときは,その理由とともに時刻を個人別勤務時間表に記載させていた(甲12の1,2,甲17,19,甲38の1ないし7,甲41,乙109の2,原告尋問,E証言9,18,19ないし21,34頁)。
エ 被告は,原告に対し,「今月だけで2000万円は決めてください」などと,毎月の売り上げ目標を定めて,契約獲得を強く指示し,業務に関する上司の指示の口調等もしばしば激しく,長時間労働をいとわないことを求めるものになっており(前記イ),原告は精神的な負担を感じていた〔甲35,36,41,乙101,原告尋問,E証言,F証言。ただし,原告が業務上の負荷からうつ病に罹患したと認めるに足りる証拠はない。また,原告は,「被告は従業員に厳しいノルマを課しており,体育会系で,実力主義の会社である。契約がとれなければ退職に追い込まれる。サービス残業が当たり前の社風である」などという旨が記載されたインターネット上の投稿(甲21の1ないし6)を提出するが,投稿者が本当に被告で勤務したことのある者かどうかも不明で,風評の域を出ないから内容の真実性を認めうる証拠としての適格性がない。〕。
オ 被告では,前記イの出張報告書に「訪問先確認印」を設けて,訪問の度に顧客から差出人記載に用いられる住所,社名等が記載されたスタンプを押してもらうことで,訪問の事実を確認できる様式を定めていたが,原告は,報告書用紙(乙18の1ないし19)に少なくとも19社のスタンプを予め得て,これを利用してその後の訪問に係る出張報告書を作成していた(乙111の1ないし3,弁論の全趣旨)。
(2) 原告の処分歴等
ア 原告は,平成24年9月,過去の営業において,リース会社に対する事前審査の要請の際,私文書偽造に類する行為があったことを謝罪し,反省の意を示す始末書(乙7,98)を提出した(原告は,上記行為は,一度リースで商品を購入した顧客が別の商品をリースで購入する際にリース会社の事前審査で前の契約書を用いていたことに過ぎず,支店長を含む多くの営業員が行っていたと主張するが,原告独自の行為でなければ不適切な行為にならないわけではないから,その主張を前提としても始末書の提出に値する不適切な取り扱いであることは左右されない。)。同月,過去の営業活動で,被告が容認していないサービスを顧客に提供したことに関する始末書(乙97)も提出した(原告尋問17,18頁)。
イ 被告は,平成24年10月,「上司から厳しく注意されていたにもかかわらず被告が顧客に提供する役務と異なる内容の資料を独自に作成し,営業先に配布したことで,原告がまかないきれない業務が発生したことで,被告社内に多大なる迷惑をかけ,報告,連絡及び相談を怠った」旨の事案につき,始末書(乙5)を徴した上,同月25日から3か月間,基本給の20パーセントを減額し,同年冬の賞与を一部返上させるとの懲戒処分に付した(乙81,原告尋問17,18頁,F証言)。
ウ 原告は,平成24年10月,被告に対し,過去の営業で,本件サービスに属する商品を被告の了承なく顧客に無償提供をしていたことを謝罪する経緯報告書(乙99)を提出した。
エ 本件サービスは,ノウハウ情報を内容とする性質上,内容が開示されて流布されると,商品そのものは回収しても,ノウハウ情報の経済的価値が低下するおそれがあり,被告では,ノウハウ情報の秘密管理を重視し,社員にも一般的に秘密管理の徹底を指示していた。原告も,平成24年10月,被告に対し,秘密保持に関する誓約書(乙100)を提出して,ノウハウ商品(マニュアル,ソフト,研修及びそれに付随する一切のサービス)に含まれる情報などの秘密を保持することを誓約していた(乙80ないし83,F証言,弁論の全趣旨)。
(3) 解雇の経緯
ア 原告は,本件サービスの勧誘,販売において,被告が容認していない次の態様の行為を行っていた。これらの行為のため,56件を下らない契約につき,その締結過程に瑕疵が生じていた(甲41,乙1の1ないし7,乙2の1,2,乙12,14,30,69ないし83,92ないし96,101,原告尋問,弁論の全趣旨)。
(ア) 被告は本件サービスに関し,キャンセル可能な仮契約及び「モニタリング契約」の締結並びに利用中止可能な「お試し期間」の設定を容認していないのに,独断で顧客に対し,仮契約及びモニタリング契約の締結並びに「お試し期間」の利用を勧誘し,上司の了承を得ずに被告の社印を利用するなどして仮契約締結や「お試し期間」内の利用やその中止に関する念書や覚書(乙1の1ないし7)を顧客と取り交わしていた。
(イ) 代金の分割払に関する割賦販売契約を締結する際に,仮契約や「お試し期間」と合わせて,預金口座引き落としの開始時期を遅らせるため,意図的に誤った預金口座番号を記載したり,顧客に銀行印ではない印を押印させたりしていた。
(ウ) 顧客21社に対し,被告の実施している「■■サービス」(乙69,70)とは異なる内容で本件サービスの利用を定期的に訪問してサポートする約束をし,被告もそのことを「特別対応待遇」として了承したかのような実際には開催の事実がない不実の会議議事録等(乙92ないし96)を作成して,顧客に提出した上,実際に多数回の訪問を実施していた。もっとも,これら訪問は更なる商品購入,サービスを勧誘するための営業活動も兼ねていた。
(エ) 顧客との間で本件サービスによる成果が出たら償還するという約束ののもと,頭金の支払や分割払を個人的に立て替えていた。
(オ) 顧客に仮契約又は「お試し期間」としても本件サービスを利用する意思がないのに,又は顧客から本件サービスの提供が開始される前に利用中止を申し込まれたのに,本件サービスの契約手続を進めた上,本件サービスの一環として送付された商品は単なる手違いを装って回収し,頭金の支払や分割払いを原告の出捐において行った。
(カ) 被告は,前記(ア)ないし(オ)の不当営業活動が行われたことで,顧客との間で被告が想定しない約束がされていることを知らないまま,本件サービスの利用契約が正常に成立したと誤信して,原告に対し,成果給及び営業手当成績分を支給して,原告は,これらを受領していた(乙30,乙31,32の各1ないし17,乙80,乙104の1ないし6,F証言)。
イ 被告は,平成25年12月2日,本件サービスの分割払いに関し提携している信販会社から,顧客から「営業担当社員から「お試し期間」と説明されて契約を締結しており,その後の契約キャンセルによる違約金発生や遅延扱いは納得できない」という旨の苦情を受けたとの情報を得て,社内調査を実施して,原告に対しても事情聴取を実施した。原告は,当初,顧客の勘違いであると弁明し,独断で顧客を訪問した上,顧客の勘違いであったことが確認されたように説明していたが,被告が調査を進めると,仮契約や任意のキャンセル可能であるかのような契約内容の説明,社印の不正使用,不実の社内議事録の作成を含む前記アの態様の不当営業活動を繰り返していたことが判明した。原告も自認書(乙2の1,2)でその概要を認めるに至ったため,被告は,同月19日,原告に対し,本件自宅待機を命じ,また,同年2月末日をもって被告が借り上げて,原告を居住させていた住居を解約することを伝えた。被告は,同月28日,社長,2名の専務及び事業部長から構成される懲戒委員会を開催し,原告を懲戒解雇処分とすること,平成26年1月6日に労働基準監督署に解雇予告手当の除外認定を申請し,認定可否の判定日付けの懲戒解雇処分とし,それまでは被告就業規則により出勤停止とすることなどを決定した(甲37,41,乙2の1,2,乙12,乙13の1,乙14,80ないし85,原告尋問,F証言,弁論の全趣旨)。
ウ 被告は,平成26年1月6日,労働基準監督署に対し,解雇予告の除外認定を申請し,同月7日,原告に対し,前記イの懲戒委員会の議事録(甲37)を提示して,近日中に労働基準監督署から原告に呼出しがあるから呼出しがあれば出頭するよう指示するとともに,労働基準監督署の除外認定の日付で正式に懲戒解雇になる予定である旨を伝えた。労働基準監督署は,原告を呼び出して事情聴取を実施した上,同月20日,解雇予告除外認定をし,同日,被告に告知した。ただ,解雇予告除外認定がされたことは原告には知らされなかった(前記第2の2前提事実(3)エ,甲41,乙3,原告尋問15頁,F証言,弁論の全趣旨)。
エ 被告は,原告に対し,平成26年1月21日,電子メール(乙13の1)で同年2月末日での社宅の解約を改めて知らせた。また,同月23日午後5時31分送受信の電子メール(乙13の2)にて「解雇に伴い,以下の返却物および提出物をお知らせさせていただきます」などと記載して,健康保険証,名札,社章,名刺等の同月31日までの返却及び持株会退会届の提出を求めた(甲2,41,原告尋問16頁,F証言)。
オ 被告は,原告に対し,平成26年2月27日,資格喪失年月日を平成26年1月21日とする社会保険資格喪失証明書を送付した(弁論の全趣旨)。
カ 被告は,弁護士に依頼して,原告及び原告弁護士に対し,それぞれ内容証明郵便による平成26年3月4日付け通知書(甲3,4)において,「既に懲戒解雇に付する旨を原告に明確に伝えているが,念のため,本書面をもって,今一度,原告を懲戒解雇に付する旨を通知する。」旨を通知したが,上記通知書以前には,原告に対し,解雇通知書,解雇辞令その他の解雇の趣旨を明示する書面は交付又は送付されていない(弁論の全趣旨)。
キ 被告は,原告が不当営業活動を繰り返して,顧客及び被告が提携するリース会社を巻き込んで多数の顧客の信頼を裏切った上,契約の成立や効力に重大な疑義のある状態を生じさせたため,正常な契約締結と誤信して本来不要な無益な支出を余儀なくされ,その信用が毀損された上,発覚後は,顧客に対する謝罪や説明のための訪問,そのための費用支出,弁償,リース会社に対する謝罪,説明及び違約金支払などの善後策を要した。その詳細は,後記9「争点(2)イ(原告の不法行為又は債務不履行)について」で認定するとおりである。
(4) その他の事情
被告は,原告の在職当時から,被告就業規則及び給与規程を社内のポータルサイトに掲載し,社員に閲覧ができる状態にして周知していた(乙8,弁論の全趣旨)。
2 争点(1)ア(平成26年3月4日までの基本給)について
(1) 解雇の時期及び効力
ア 解雇は使用者による雇用契約の一方的な将来に向けた解約であるから,その意思表示は,「解雇」「クビ」等の表現を用いること又は解雇通知書,辞令その他の書面によることを不可欠とするものではないが,労働者の意思にかかわらず,雇用契約を解約して終了させようとする使用者の効果意思が確定的に表示されていると認められる言動であることを要する。また,解雇の予告は,労働者がいつ解雇されるのか,明確に認識できるよう解雇の日を特定したものであることを要し,不確定な期限や条件を付する,又は労働者が当該事実発生の日を予知できない事実が発生する日をもって解雇の日として示すといった態様では,解雇の予告として不十分というべきである。
イ 前記1(3)アないしカの認定事実によれば,被告は,原告が不当営業活動を繰り返していたことが発覚したため,平成25年12月19日,本件自宅待機を命じ,同月27日,懲戒委員会で労働基準監督署の解雇予告の除外認定を待って懲戒解雇する方針を決定し,原告に対しても,平成26年1月7日,その方針を伝え,同月20日に労働基準監督署の解雇予告の除外認定を得たが,除外認定が出たことを速やかに原告には知らせず,また,解雇の意思表示を明記した書面,電子メール等を送付することもなかったが,同月23日午後5時31分送受信の電子メール(乙13の2)にて原告が既に解雇されたことを前提として物品の返還等を求めたことが認められ,原告は,それまでに被告から解雇に向けた強い方針を伝えられていたことにも照らすと,被告は,原告に対し,同日,すなわち平成26年1月23日に労働者の意思にかかわらず,雇用契約を解約して終了させようとする使用者の効果意思が確定的に表示されていると認められる言動を示して,原告を即時に解雇したというべきである。なお,証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば,被告就業規則18条は社員の異動に関しては「辞令」,すなわち異動内容を記載した書面の交付を行うことを定めているが,辞令を伴わない発令の効力を否定する趣旨の規定とまでは解されないし,電子メールの送信は書面の交付に準じるものといえる。
これに対し,平成26年1月23日の前には,将来の未だ確定していない時期,せいぜい同年2月末までという限度で時期を限定して解雇する予定が告げられたことしか認められないから(前記1(3)イないしエ),解雇の意思表示又は解雇の予告があったとはいえない。労働基準監督署の除外認定を停止条件とする解雇の意思表示があったとみても,単独行為である解雇に停止条件を付することは労働者の地位を不安定にするおそれがあり,原告にとっても自分が申請者ではない労働基準監督署の解雇予告除外認定の有無を確認することは必ずしも容易でないから,労働者が停止条件の成就を現実に知ることで全体として無条件の解雇の意思表示がされたものと認められる余地があることは別論として,除外認定が出ただけで直ちに解雇の効力が生じるということはできない。被告が行った社会保険資格喪失手続における資格喪失年月日及び退職証明書での退職日は専ら被告が考える解雇の日を示す記載に過ぎず(前記1(3)オ,カ),前記認定を左右するものではない。
ウ 前記第2の2前提事実(1)イ,(2)ア(ウ),(エ),(カ),イ,ウ,キ,(3)ア,カ,キ及び前記1(3)ア,キ,(4)の認定判断によれば,原告は成果給を得ることを少なくとも主要な目的の一つとして顧客及び被告に対する偽計に当たる不当営業活動を繰り返しており,その態様は顧客に対する虚偽の説明,被告の事務手続の妨害,独断による約束,社印の悪用や虚偽内容の文書作成を含む意図的なものであり,その営業活動は顧客及び被告が本件サービスの利用契約に関する事務を適正に処理することを妨げる被害を与えて,被告の信用や本件サービスの経済的価値を毀損するおそれもあるものであり,実際,被告は,その善後策のため相当以上の費用支出を余儀なくされるなどの損失も受けているから,労働者に周知されている被告就業規則の定める懲戒事由である「職務上の地位を利用して自己若しくは他人の利益を図り,または図ろうとしたとき」(94条9号),「故意または重要な過失により会社財産に著しい損害を及ぼしたとき」(同条10号)又は「会社の許可なく,私事に関する金銭取引その他の証票類に当事者として会社の称印を用いたとき」(同条19号)に該当する。その態様,結果に加え,原告の処分歴等(前記1(2))に照らすと,原告は被告が定める売上げ目標に精神的な負担を感じており(前記1(1)エ),自ら顧客のための立替えをする経済的負担まで負っていたこと(前記1(3)ア(エ),(オ))からは,不当営業活動の目的には売上げ目標の精神的な負担から逃れようとする要素もあったと推認されることを最大限に考慮しても,懲戒解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると言わざるを得ない。
エ 以上によれば,原告と被告との間の労働契約関係は,平成26年1月23日午後5時31分送受信の電子メール(乙13の2)をもって確定的な意思表示があったと認められる懲戒解雇をもって終了し,翌24日以降は賃金発生の余地がなくなったというべきである。
(2) 本件自宅待機による賃金不払の可否
ア 使用者が労働者に自宅待機や出勤禁止を命じて労働者から労務提供を受領することを拒んでも当然に賃金支払義務を免れるものではないが,使用者が労働者の出勤を受け入れないことに正当な理由があるときは,労務提供の受領を拒んでも,これによる労務提供の履行不能が使用者の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)によるとはいえないから,使用者は賃金支払い義務を負わない。
前記1(2),(3)の認定事実を総合すれば,原告は,それまでにも不当営業活動を行って,始末書の提出を命じられたり,減給処分を受けたりしていたにもかかわらず,顧客に対し意図的に被告が容認しない契約内容を説明する,被告の社印を悪用して被告が容認しない念書や覚書や不実の議事録を作成する,被告の事務手続を意図的に妨げるなどの不当営業活動を繰り返し,その結果,顧客から苦情が寄せられ,また,被告のノウハウ情報の経済的価値が毀損されているおそれが生じており,懲戒解雇を含む重い懲戒処分に付することが想定されたことが認められるから,原告の不当営業活動に対する調査,証拠隠滅の防止,懲戒処分の検討及び不当営業活動の再発防止を要し,そのため原告の出勤を禁止する必要があったというべきであり,被告の平成25年12月19日からの本件自宅待機は正当な理由があるというべきである。
イ ただ,無給の自宅待機や出勤禁止が長期化することは労働者にとっては生活資金となる賃金を得られない一方,解雇されたわけでもないから自宅待機や出勤禁止が解除されて勤務を再開しなければならない可能性が残り,兼業や兼職も就業規則等に基づき制限される状態(前記第2の2前提事実(2)ア(キ),前記1(4))が継続することになって,その地位の著しい不安定を招くから,使用者としては労働者を懲戒解雇するか,懲戒解雇以外の懲戒にとどめるのか,懲戒には付さないのか,遅滞なく意思決定をすべきであり,相当期間を超えて中途半端な無給の自宅待機又は出勤禁止を継続することは許されないというべきである。被告就業規則101条(前記第2の2前提事実(2)ア(カ))は,懲戒事由につき「調査する必要」があるとき(「調査する必要」には,出勤停止の方法で適切な懲戒処分を妨げる障害を排除する趣旨に照らして,関係者からの事情聴取等の調査活動のみならず,証拠隠滅の防止,調査活動の結果に基づく方針検討,労働基準監督署の見解を確認する解雇予告除外認定申請手続を含むと解される。)に無給の出勤停止を認める一方,社員の利益を考慮して,「調査する必要」のため無給とできる期間の上限を定めて出勤停止の必要と社員の利益の調和を図ったものと解される。ここで定められている上限期間15日は,「調査する必要」のための出勤停止は被告就業規則で暦日によることが定められている懲戒(前記第2の2前提事実(2)ア(ウ))には当たらず,暦日によるとその間の休日の日数によっては調査のための十分な日数を確保できないことにもなる一方,暦日から休日を除いた労働日で計算しても3週間程度で済み,長期間になるとはいえないから,労働日で計算することが相当である。本件自宅待機の初日である平成25年12月19日(木曜日)から起算して,日曜日,天皇誕生日(12月23日)及び一般的な年末年始の休日(平成25年12月30日から平成26年1月3日まで)を除き,かつ,週40時間の法定労働時間の関係上必ず7日ごとに週2日以上の休日を確保できるように15日を計算すると,平成26年1月11日で上限期間15日の期間を満了するから,日曜日である同月12日及び成人の日である同月13日の後の同月14日からは無給の自宅待機の適用外ということに一応なる。
もっとも,労働者が就労していないにもかかわらず,使用者が賃金全額の支払を免れない民法536条2項でいう「責めに帰するべき事由」は,賃金債権とは別個の休業手当請求権を定める労働基準法26条でいう「責めに帰すべき事由」よりも狭く,使用者側に起因する経営,管理上の障害一般にとどまらない故意,過失又は信義則上これと同視すべき事由を指すと解されることに照らすと,被告就業規則の定める無給の自宅待機の期間を超えても,直ちに民法536条2項を適用すべきとはいえない。前記1(3)の認定事実及び前記アの認定判断に照らせば,平成26年1月14日以降も「調査」に含まれる不当営業活動の解雇予告除外認定手続を含む懲戒処分の検討の必要は継続しているということができ,また,「調査」とは別に不当営業活動の再発防止のため出勤を禁止する必要も存続していると認められる。同月14日から解雇の確定的な意思表示があったと認められる電子メール(乙13の2)が送信された同月23日までの経過日数も暦日で10日にとどまり,平成25年12月19日からの本件自宅待機開始からの経過日数も暦日で1か月余りにとどまること,原告が不当営業活動を繰り返しており,調査に相応の日数を要してもやむを得ず,また,再発防止の必要性も高いこと,被告が殊更に解雇までの期間を遅らせたと認めるに足りる証拠はなく,むしろ,解雇予告とは認められないが,早くから解雇の予定を告げて(前記(1)イ),原告に今後の展開を予測させる措置を講じていたことに照らすと,同月14日から23日までの間も被告に民法536条2項でいう「責めに帰するべき事由」があるというには足りない。
(3) 原告に対する未払賃金
ア 以上によれば,平成26年1月14日から同月23日までの間は民法536条2項を適用して賃金支払義務を認めることはできず,同月24日以降は,労働契約関係が消滅しているから賃金支払義務は発生しない。
イ 前記第2の2前提事実(3)オに加え,証拠(甲16,乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告の本件自宅待機前の賃金を完済するため,前記第2の4(1)ア(エ)のとおりの計算結果に基づいて原告の預金口座に金27万7300円を振り込み済みであることが認められ,その金額計算に誤りがあることを合理的に疑わせる証拠はない。計算の前提となった本件自宅待機開始の平成25年12月19日以降の賃金不発生も前記アのとおり肯定することができる。
したがって,原告の本訴請求のうち,平成25年11月分から平成26年2月分までの基本給等残金の支払を求める部分(前記第2の1(1)ア(ア)の③ないし⑥)には理由がない。
3 争点(1)イ(ア)(事業場外労働みなし制の効力)について
(1) 事業場外労働の労働時間算定の困難性
ア 労働基準法38条の2第1項によれば,事業場外労働みなし制を適用するためには,「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事し」,かつ「労働時間を算定し難い」ことを要する。この「労働時間を算定し難い」ときに当たるか否かは,業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告がされているときは,その方法,内容やその実施の態様,状況等を総合して,使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であると認めるに足りるかという観点から判断することが相当である(最判平成26年1月24日労働判例1088号5頁参照)。
なお,携帯電話等の情報通信機器の活用や労働者からの詳細な自己申告の方法によれば労働時間の算定が可能であっても事業場外労働みなし制の適用のためには労働時間の算定が不可能であることまでは要さないから,その方法の実施(正確性の確認を含む。)に過重な経済的負担を要する,煩瑣に過ぎるといった合理的な理由があるときは「労働時間を算定し難いとき」に当たるが,そのような合理的な理由がないときは使用者が単に労働時間の算定を怠っているに過ぎないから,「労働時間を算定し難いとき」に当たらないというべきである。
イ 前記第2の2前提事実(1)ウ及び前記1(1)アないしウ,オ,(3)アの認定事実によれば,①原告は,営業担当社員として事業場(支店)から外出して複数の都道府県にまたがって顧客のもとを訪問する営業活動に従事することを主要な業務としていたこと,②訪問のスケジュールは上司が具体的に決定することはなく,チームを構成する原告ら営業担当社員が内勤社員とともに決定していたこと,③訪問のスケジュールの内容は内勤社員による把握やスケジュール管理ソフト入力である程度共有化されていたが,上司が詳細又は実際との異同を網羅的に把握したり,確認したりすることはなかったこと,④訪問の回数や時間は原告ら営業担当社員の裁量的な判断に任されていたこと,⑤個々の訪問を終えた後は,携帯電話の電子メールや電話で結果が報告されていたが,書面による出張報告書の内容は簡易で,訪問状況が網羅的かつ具体的に報告されていたわけではなく,特に原告に関しては,出張報告書に顧客のスタンプがあっても本当に訪問の事実があったことを客観的に保証する効果はなかったこと,⑥出張報告書の内容は,添付された交通費等の精算に関する領収書に日時の記載があれば移動の事実やそれに関連する日時は確認できるが,それ以外の内容の客観的な確認は困難であり,被告から訪問先の顧客に毎回照会することも現実的ではないこと,⑦上司は,原告ら営業担当社員に業務の予定やスケジュールの変更につき具体的に指示を出すことはあったが,原告ら営業担当社員の業務全体と比較すると,その割合が大きいとはいえないこと,⑧原告ら営業担当社員の訪問に上司その他の監督者が同行することはなく,チームを組む内勤社員も原告の上司その他の監督者ではなかったこと,⑨被告は,原告が訪問の際,不当営業活動を繰り返していたことを相当期間把握できないままであったことが認められる。これらの認定事実を総合すると,原告の労働時間の大部分は事業場外での労働であり,具体的な業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等に照らして,被告が原告の勤務の状況を具体的に把握することは,かなり煩雑な事務を伴わなければ不可能な状況にあったということができるから,被告が原告の事業場外労働の状況を具体的に把握することは困難であったというべきである。被告は,カードリーダーで労働時間管理も実施し,朝礼出席も指示しているが(前記第2の2前提事実(2)ア(イ),前記1(1)ウ),朝礼に出席せず,顧客訪問に直行することもあり,事業場外労働の開始及び終了の各時点をある程度把握可能であるにとどまり,事業場外労働全体の実情を困難なく把握可能であったとはいえない(後記4(3)も参照)。前掲最判平成26年1月24日で労働時間算定の困難性が否定された事案は,スケジュールの遵守そのものが重要となる旅行日程の管理を業務内容とし,また,ツアー参加者のアンケートや関係者に対する問合せで具体的な報告内容の正確性の確認が可能であり,本件とはかなり事案を異にするものといえる。
ウ 以上によれば,原告は労働時間の一部について事業場外で業務に従事しており,かつ,原告の事業場外労働は労働時間を算定し難い場合に当たる。
(2) 労使協定の有効性
ア 事業場外労働みなし制のもと,業務を遂行するために所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合は,その労働時間は通常必要時間とみなされ,当該事業場の過半数代表者との間で締結された労使協定で定められた時間があるときは,この時間が通常必要時間とされる(労働基準法38条の21項,2項)。この労使協定を締結する過半数代表者は,管理監督者(労働基準法41条2号)に該当せず,労働基準法の定める協定を締結する者を選出することを明らかにして実施される投票,挙手等の方法による手続により選出されることを要する(同法施行規則6条の2)。その趣旨は,労務管理について使用者と一体的な立場にある者を排除し,かつ,労働者の過半数から労使協定を締結する者として明確な支持を受けた者をして協定を締結させることで労使協定に労働者の自主的な意思を十分に反映させ,内容の妥当性を確保しようとしたものと解されるから,当該事業場の労働者にとって,自主的な判断をする機会が与えられ,かつ,当該事業場の過半数の労働者がその候補者を支持していると明確に認められる民主的な手続が執られているということができれば投票や挙手以外の方法(例えば労働者間の話合いや持ち回り決議)でも足りるが,使用者の意向によって選出された者であってはならず,また,単にある者が過半数代表者として使用者と協定を締結することにつき,積極的に異議を述べる者がいないというだけでは足りないというべきである(最判平成13年6月22日労働判例808号11頁,平成11年1月29日基発45号,平成11年3月31日基発169号,平成22年5月18日基発0518第1号参照)。また,使用者が選出手続に関与することは,労働者の自主的な判断及び民主的な手続を妨げない限度でのみ許容されるから,使用者の意向で代表者又はその候補者を指名することは,労働者から見て,その者以外の者も代表者又はその候補者となりうることが明確にされて,かつ,使用者を指名した者を支持せず,別の者を過半数代表者として支持することで使用者から何らかの不利益な取り扱い(労働基準法施行規則6条の2第3項参照)を受けるおそれがないと信頼するに足る事情が存しない限り,労働者の自主的な判断を妨げると認めるべき事情というべきである。
イ 前記第2の2前提事実(1)ウ,(2)エないしカに加え,証拠(乙22,25,28,41,原告尋問12頁)及び弁論の全趣旨によれば,①原告が所属した支店における事業場外労働みなし制に関する労使協定を締結したD,B及びCは,「○○さんを従業員代表とすることに同意します」と記載されているが,何に関する従業員代表であるか,説明の記載はない書面(乙22,25,28)に社員が署名押印する方法で過半数代表者に選出されていること,②上記書面は総務担当者から社員に回覧されて,社員が署名押印する方法で作成されており,従業員代表となる「○○さん」の部分は支店長等の意向に基づいて回覧開始時に氏名が既に記入されていたこと,③上記①,②の手続のほか,社員に対し,過半数代表者の立候補や推薦を募る明確な手続はとられていないことが認められる。これらの事情を総合すると,D,B及びCは,その選出手続で労使協定を締結する過半数代表者を選出することが明らかにされていない上,使用者の意向によって選出された者であると認められる。また,労働者から見て,支店長等の意向に基づくD,B及びC以外の者でも代表者又はその候補者となりうることが明確にされて,かつ,別の者を過半数代表者として支持することで使用者から何らかの不利益な取り扱いを受けるおそれがないと信頼するに足る事情があったことを認めるに足りる的確な証拠もないから,D,B及びCが過半数代表者に当たるとは認められない。
ウ E証言では,事業場外労働みなし制に関する労使協定で定める労働時間数は,まず被告全体の労使間の継続的な協議で経験的に見積った上,被告の本社から各事業場(各支店)に労使協定書案等の必要書類を送り,各事業場において自薦や他薦を得て話合いで過半数代表を決定して,労使協定を締結しているとされるが(12,13,24,25,35頁),E証言でいう労使間の継続的な協議に参加したとされる被告(具体的には人事部)の協議相手が,社員からどのように授権を受けて労働者側の協議担当者となっているか,不明であり(被告には労働組合は存せず,労働組合の役員等でもない。),むしろ,社員らの意向聴取等は経ずに,専ら労働者の意向把握のためには被告の本社も兼ねる新宿支店での「事業部の責任のある者」が便宜であるという被告の判断に基づいて,被告が適宜に協議の相手方を指名しているに過ぎないと認められ(35頁),このような実情から見ても各事業場で過半数代表者の選出が適法に行われているとは認めるに足りない。E証言では事業場外労働みなし制の運用に関し,労働基準監督署や顧問弁護士,社外取締役を務める高名な弁護士からも問題を指摘されていないともされているが(14,15頁),これまで問題の指摘を受けていないという抽象的な事実だけで問題の不存在を推認することはできない。
エ 以上によれば,過半数代表者が締結した労使協定による労働時間の定めは存しないから,被告における事業場外労働みなし制は,労働基準法38条の2第1項ただし書に基づき,客観的に通常必要時間と認められる時間,すなわち各日の状況や労働者等によって差異のある実際の労働時間を平均して,通常の状態で当該業務に必要であると推定される経験則上の平均値によるほかない。被告は,労使協定で定められた時間は労使の協議と研究・検討を重ねた結果であるとも主張するが,前記イ,ウの認定判断のとおり,労使協議の実態は定かでなく,研究・検討の具体的状況を明らかにする証拠もないから,通常必要時間を推認する間接事実として労使協定を採用することもできない。
この時間数を認定するためには,実際の労働時間数を斟酌する必要があるから,後記4の争点(1)イ(イ)(労働時間及び労働時間計算)に関する認定判断において,検討する。
(3) 事業場外労働みなし制の適用限界
ア 事業場外労働みなし制が適用されても深夜業や休日に関する労働基準法に関する規定の適用は排除されないから(昭和63年1月1日基発1号),深夜業には実労働時間に応じた割増賃金請求を要するというべきである。休日労働に応じた割増賃金も要するが,事業場外労働に関しては,労働日と同様に通常必要時間の労働があったものとみなすことが相当である(「注釈労働時間法」570頁参照)。
イ 事業場外労働みなし制における労働時間のみなしは,事業場外労働のみを対象としており,前記1(1)の認定のとおり,原告の業務では朝礼出席,訪問準備,訪問結果の整理・報告,会議等の事業場内労働が主に事業場外での営業活動の前後で行われていたことが認められ,この事業場内労働にはみなしの効果は及ばないから,事業場内の実際の労働時間及び事業場外の通常必要時間の合算時間をもって労働時間と認めるべきことになる(昭和63年3月14日基発150号参照)。
ウ このような事業場外労働みなし制の限界から実際の労働時間の算定を要する点は,後記4の争点(1)イ(イ)(労働時間及び労働時間計算)に関する認定判断において,検討することとする。
4 争点(1)イ(イ)(労働時間及び残業代計算)について
(1) 前記第2の2前提事実(2)ア(ア)及び前記1(1)イ,ウの認定事実に加え,証拠(甲12の1,2,甲17,19,甲20の1ないし184,甲22の1ないし152,甲38,39,原告尋問,E証言)及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,通常,午前8時20分の朝礼開始までに被告の支店に出勤して,就労を開始していたこと,②被告では,特に顧客のもとに直行する約束が入っていない限り,朝礼参加が指示されていたこと,③訪問による営業活動では,午後6時ないし午後8時の時間帯に訪問して,1時間以上をかけて商品説明することも多く,原告は支店に戻った後の就労を含めて午後7時ころから午後10時ころまで就労することが少なくなかったこと,④時には午後10時を過ぎても就労が続くことがあったこと,⑤被告の支店長は,就業規則上の終業時刻である午後5時30分以降の就労を要する指示をしばしば出していたこと,⑥被告では日曜日を法定休日,土曜日を所定休日としてともに休日としていたが,原告はこれら休日にもしばしば訪問等の業務に就いており,被告も,原告から休日に訪問を実施した旨の出張旅費精算書(甲22の15,31等)の提出を受けても,特に休日の訪問を禁止するようなことはなかったことが認められる。
(2) 別紙1「賃金・時間計算書」記載の原告主張の労働時間は,証拠(甲17,19,甲20の1ないし184,甲38,39)及び弁論の全趣旨によれば,被告管理のカードリーダーの時刻記録から作成された個人別勤務時間表(甲17,19),原告所持の携帯電話のスケジュール帳(甲20の1ないし184),出張旅費精算書(甲22の1ないし152),原告の業務用メールアドレスの送受信記録(甲38),被告が導入しているスケジュール管理ソフトの入力内容(甲39)を基礎として,原告の代理人弁護士に対する説明に基づいて作成されたものであると認められ,部分的に原告の記憶や推測に依拠しているとはいえ,相当部分は客観的な記録に基づいており,全体として前記(1)で認定した就労状況とも合致するから,相応の信用性を有するものということができる。細かく見ると,説明に矛盾や変遷があった部分も認められるが〔乙15,16,乙17の1,2,弁論の全趣旨(被告第2準備書面13頁,原告第8準備書面10頁)〕,その矛盾や変遷は出張旅費精算書(甲22の1ないし152),業務用メールアドレスの送受信記録(甲38)及びスケジュール管理ソフトの入力内容(甲39)の開示を受ける前のもので,日々の業務の状況を事細かく正確に記憶することは困難であることにかんがみれば,全体的な信用性を失わせるとまではいえない。
(3) もっとも,①訪問と訪問との間の労働時間に当たるといえる移動時間を控除しても,ある程度手空きの時間が生じることは通常で,常時,被告に監視されていたわけでもないから,適宜,自己の判断で昼食,夕食,休息等のための休憩をとることは十分に可能であったこと,②被告就業規則でも正午から午後1時までの休憩時間が認められていたこと(前記第2の2前提事実(2)ア(ア)),③原告が休憩中でも所持する携帯電話に被告の支店,顧客等から電話や電子メールによる連絡が来る可能性は一応常にあるが,そのような連絡が頻繁であったと認めるに足りる証拠はなく,電子メールによる連絡は発信者も即時の応答を求めているわけではないから(即時の応答を求めるなら電話することが通常である。),緊急の用件でない限りはある程度時間を置いた対応でも足りること,④朝礼開始の午前8時20分より前の時間帯に被告の支店に出勤していても遅刻の危険を避けるために余裕をもって早めに出勤したにとどまることが少なくないと推認されることも考慮すると,別紙1「賃金・時間計算書」記載のG「始業時刻」とH「終業時刻」との間,絶え間なく業務に従事していたわけではなく,相当の時間数を休憩等として控除しなければならないというべきである。
(4) 事業場外労働みなし制においても事業場内労働には,みなしの効果は及ばず(前記3(3)イ),事業場内労働は実労働時間での管理を要するが,本件全証拠をもってしても,事業場内労働の時間数を明確に認定したり,事業場内労働と事業場外労働を明確に区分したりすることはできない。ただ,その原因は,被告が事業場内労働の時間数を明確に管理する措置を講じていなかったことにあるから,これをもって事業場内労働の時間数の立証がないとみることは相当でなく,諸般の事情を総合考慮した概括的な推認の余地があるというべきである。
(5) 前記(1)ないし(4)の認定判断を総合すると,原告ら営業担当社員は,日によって変動はあるが,平均的な概況として支店で午前8時20分の朝礼に出席した後,その日の訪問の準備を整えて,営業活動のための訪問に出発し,事業場外での営業活動の間に1時間40分程度の休憩を取得し,営業活動を終えて,被告の支店に戻って,更に多少勤務した後,平均すると午後9時00分ころに業務を終えるという状況を推認できるから(なお,終業時刻の認定には土曜日の労働も斟酌している。),午前8時20分から午後9時00分までの時間13時間10分から休憩時間1時間40分を控除し,事業場内労働の労働時間と事業場外の通常労働時間を合算した1日の労働時間は11時間(うち法定時間外労働は3時間)となることを概括的に認定できる。原告に係る残業代は,この概括的な認定を基礎として,次の方法で算定することが相当である。基礎時給が別紙2「基礎時給計算書」に記載の金額を下回る可能性をうかがわせる主張立証はない。
ア 所定労働日の時間外労働時間に係る残業代
毎月の労働日から土曜日及び日曜日を除いた日数,通常必要時間の時間外労働分3時間,基礎時給及び法定の割増率(125パーセント。月60時間を超える時間数にはさらに25パーセントを上乗せ)を乗じる。営業手当成績分を除く営業手当として月22時間分の残業代に相当するものとして別紙3「集計表」のD「既払金」欄記載の金額が支払済みであるので(争いがない。),これも控除する。なお,営業手当成績分は,成績給を基礎とするもので,基本給を基礎賃金とする原告の残業代請求に対応するものではないので既払金とは扱わない。
イ 法定休日労働に係る労働時間
毎月の日曜日の労働日の日数,事業場内労働の労働時間と事業場外の通常労働時間を合算した1日の労働時間11時間,基礎時給及び法定の割増率(135パーセント)を乗じる。
なお,所定休日である土曜日の労働は1日又は週の法定労働時間を超えたときに時間外労働となるに過ぎず,土曜日の労働が原告の裁量による判断によらず,被告からの具体的な指示によるものであったことを認めるに足りる的確な証拠はないから,事業場外労働みなし制の効力が及び,前記アの所定労働日の時間外労働に含まれるものとみなされ,残業代の算定対象にならないというべきである。
ウ 深夜労働に係る残業代の割増分
別紙1「賃金・時間計算書」記載のZ「深夜早朝労働分」に従って算出する。
(6) 以上によれば,原告の平成24年1月分から平成25年11月分までの未払残業代は,別紙4「裁判所残業代計算書」のとおり,金191万1867円と計算される。
(7) 平成24年1月分から平成25年11月分までの各月の残業代(合計191万1867円)に対する各支払日(毎月25日)の翌日から平成26年3月4日までの商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金は,別紙5「遅延損害金計算書」のとおり,金9万8933円となる。
(8) 原告は,退職後の遅延損害金につき賃確法所定の年14.6パーセントの利率の適用を主張するが,原告の残業代請求には一部にしか理由がないから,被告がその余の部分を争ったことは賃確法6条2項,同法施行規則6条4号,5号所定の「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争つている」場合に当たり,被告は,本判決が確定するまでの間は,賃確法所定の利率の適用を免れる。ただし,本判決が確定すれば,上記場合に当たらないことは明らかであるから,本判決確定の日の翌日以降は上記利率が適用される。
5 争点(1)イ(ウ)(付加金)について
(1) 付加金は,労働基準法114条ただし書により,労働基準法37条の割増賃金を支払わない労働基準法違反の事実があったときから2年間の除斥期間に服する。原告からの付加金の裁判上の請求は,平成26年9月24日受付の第1準備書面が最初であるから(前記第2の2前提事実(5)ア),その時点において,各支払期日(毎月末日締め,翌月25日払い)から除斥期間2年を経過している平成24年7月分(同年8月25日支払)以前の割増賃金に係る付加金は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。付加金の対象となるのは同年8月分(同年9月25日支払)以降の割増賃金141万9643円に限られる。
(2) そのほか,被告は東京証券取引所一部上場の株式会社で(前記第2の2前提事実(1)ア),社会的にも労働法令の遵守が強く要請される立場にあること,被告は高名な弁護士が法令遵守態勢を含む経営の監督を行う社外取締役となっているから被告の労務管理に違法・不適正な点があるような原告の主張は良識ある法曹の常識的判断を逸脱すると強弁していたが(被告の平成28年12月7日付け上申書4頁),実際には,被告の労使協定の締結手続には不備があり(前記3(2)),労使協定で定められた労働時間も通常必要労働時間とは乖離しており(前記4(5)),被告は事業場外労働みなし制における使用者の通常必要時間の適正推定義務に反していたこと,被告は,原告に対し,契約獲得を強く指示し,上司も口調等を激しくして,長時間労働をいとわないことを求めており(前記1(1)エ),これらの事情が長時間労働の要因になっていたことが認められる一方,原告は不当営業活動を繰り返しており(前記1(2),(3)ア),自己の営業活動の把握を妨げる行為もあったから(前記1(1)オ),被告が原告の残業代請求やこれに関する主張に不審を感じて強く争うことにも相応の理由があることにもかんがみると,付加金は金75万円と定めることが相当である。
6 争点(1)ウ(営業経費の立替金)について
(1) 証拠(甲13の1ないし24,26ないし30,33ないし57。なお,甲13の49,50と甲13の51,52はそれぞれ同一の経費支出に関する複数の書類と認められる。)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告において,被告の営業のための経費(交通費,宿泊費用,接待費等)として金17万1030円を立て替えたことが認められる。この立替金は,原告が被告の営業のために随時必要な経費を立て替え,被告がこれを償還するという黙示の合意に基づくものと推認されるから,商行為に当たる。
(2) 航空便のペット料金1万円(甲13の27),住民票取得費用300円(甲13の46),タクシー料金560円(甲13の47)及びタクシー料金1700円(甲13の48)は,原告が仙台支店から福岡支店に転勤する際の移動に関する費用であり,営業のための経費とは認められない。被告が賃金又は福利厚生費としてこれらの費用を被告負担とすることを定めていることの主張立証もないから,被告が償還の義務を負うことはない。
(3) 金2万2000円の領収書(甲13の33)は,原告は顧客との打ち合わせ後の接待で利用したキャバクラ店(乙10)のものと主張し,営業活動のための接待でそのような店を利用することもあり得ないことではないが,上記領収書は日付,宛名及び但書が全て空欄であるという不審点があり,業務の一環としての接待の経費に関する領収書であるとは認めるに足りない。
(4) 計1万2000円の食事代(甲13の31,32)及び飲食代(甲13の34,35)は,被告社内での飲食であって,接待費にも交際費にも当たるとはいえない。原告は陳述書(甲41)及び原告尋問(9頁)で,被告では交際費が余れば社員が被告内部のチームでの飲食代(チーム内交際費)に充てることが許されていた旨を供述するが,その供述内容を裏付ける的確な証拠はなく,被告において,そのような使途が経費として公認されていたとは認めるに足りない。
(5) 原告は,被告に既に領収書を提出済み又は被告事業場内の机に領収書を保管中で被告が未だ開示しない分として,被告の営業のための経費,少なくとも金26万7780円を立て替えたと主張するが,そのような領収書及び経費立替えの存在を認めるに足りる証拠はない。
(6) 被告は,原告の立替金償還請求は,被告の社内ルールに則った申請・許可が皆無であるとも主張し,証拠(乙109の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,被告では,平成25年10月以降,出張許可申請書による事前承認及び事後の検認を受けなければ経費の精算はできない旨が通達されていたことは認められるが,単なる通達では事務手続上の準則としての定めにとどまり,裁判上の請求を制限するほどの法的効力を備えていると認めるべき事実の主張もないから,社内ルール違反を理由に立替金償還請求を排斥すべきとはいえない。
(7) 以上によれば,原告の被告に対する営業のための経費の立替金償還請求(前記第2の1(1)ウ)は,金17万1030円の限度でのみ理由があり,その余の償還請求には理由がない。
7 争点(1)エ(不当利得―顧客のための立替金)について
(1) 前記1(3)ア(エ),(オ)の認定事実に加え,証拠(甲42,43,乙2の1,原告尋問10,14頁)及び弁論の全趣旨(原告の第1準備書面3,4頁)を踏まえると,原告の顧客のための立替金は,次の2類型の状況を基礎とするものと認められる。
ア 原告は,被告の営業担当社員として,顧客に対し,本件サービスの利用を勧誘し,顧客と被告との間で本件サービスの利用契約を一応成立させ(ただし,顧客は原告の説明から任意に解約できる契約を成立させる意思しかなかった。),顧客は本件サービスの代金支払義務を被告に対して負ったところ,原告は,顧客との間の個人的な約束に基づいて,顧客からの委託を受けて,個人的に出捐して,顧客に代わって,上記代金支払義務の履行として頭金の支払又は毎月の分割払をして,被告は,これを受領した。すなわち,原告は,顧客から本件サービスの利点は実際に使用してみないと分からないという意見を受けて,原告が個人的に頭金や分割払の一部を立て替えることを条件として,顧客に本件サービスの利用を申し込んでもらい,本件サービスが気に入れば,そのまま利用を継続し,気に入らなければ本件サービスの利用をキャンセルして代金は返還するという提案をして,その提案に基づいて顧客の了承を得て,頭金及び分割払いの一部を立て替えていた。その後,顧客と被告との間の解約で本件サービスの利用契約関係が解消されたことで,被告が上記代金を受領できる法律上の原因が消滅した可能性がある。
イ 顧客に仮契約又は「お試し期間」としても本件サービスを利用する意思が固まっていないのに,又は顧客から本件サービスの提供が開始される前に利用中止を申し込まれたのに,本件サービスの契約手続を進めた上,本件サービスの一環として送付された商品は単なる手違いを装って回収し,本件サービスの代金の一部である頭金の支払や分割払いを原告の出捐で行って,被告はこれを受領した。被告と顧客との間で本件サービスの利用契約が存するとはいえず,被告が上記代金を受領できる法律上の原因は存在しなかった可能性がある。
(2) 甲が乙に対し負っている(又は負っているように見えた)債務につき,第三者丙が債務者甲に代わって債権者乙に弁済をしたところ,甲と乙との間の債権債務関係が無効,取消,解除等の原因で当初から存在せず,又は事後的に消滅したときには,乙には債権者として弁済を受領したままでいられる法律上の原因がなく,また,丙が甲に代わって弁済する必要はなかったことになるから,不当利得の返還による清算を要することになる。
問題は,誰の誰に対する不当利得返還請求権の成立が認められるかであるが,このような場合,丙の弁済が甲の委託を受けたものであるときは,甲と丙との間の弁済委託の契約関係(補償関係)は,乙と甲との間の債権債務関係(対価関係)の存否の影響を受けず,乙は甲と丙との補償関係及び丙の出捐を介して甲から利得を得たということができるから,甲と乙との間に甲の乙に対する不当利得返還請求権が成立し(最判昭和28年6月16日民集7巻6号629頁参照),甲と丙との間では,乙と甲との間の対価関係の存否にかかわらず,両者間の補償関係に基づく清算が行われるべきである。乙にとっても,乙は甲と丙との間の補償関係の存否・内容を知り得るとは限らず,丙の弁済でも甲による弁済との区別が外形上容易でないことも少なくないから,不当利得返還の相手方を外見上存在した対価関係に従って固定できることは便宜である。丙が乙に対し直接に弁済の返還を請求するためには,甲から甲の乙に対する不当利得返還請求権を譲り受けてその譲受債権によること,甲が無資力のときに甲の乙に対する不当利得返還請求権を債権者代位権に基づいて代位行使すること又は甲,乙及び丙の三者間の清算合意に基づくことが主張される必要があるというべきである。他方,丙の弁済が甲の委託を受けないものであるときは,対価関係が存せず,かつ,何の利得も得ていない甲が丙に対し何らかの義務を負う理由はない以上,乙と丙との間で清算を図るほかないから,丙の乙に対する不当利得返還請求権が成立する。ただし,丙の弁済が甲の委託を受けず,かつ,丙が甲と乙との間の対価関係が存在しないことを知っていた上で任意に弁済をしたときは,その弁済は民法705条の非債弁済に当たるから,不当利得返還請求権は成立しないというべきである(近江幸治「民法講義Ⅵ第2版」76,78頁,野澤正充「事務管理・不当利得・不法行為第2版」81頁参照)。
(3) 前記(1)アの類型における立替えは,前記(2)でいう債務者甲の委託を受けた第三者丙の弁済に該当する。このような場合,顧客は本来,自己が弁済すべき代金支払を原告個人に委ねたのであるから,原告から直接に立替金の償還を求められて,しかるべき地位にあり,原告と顧客との間の清算関係(例えば,顧客が被告から代金の返還を受けられないときでも原告に立替金を償還しなければならないかどうか)は,専ら両者の間の弁済委託時の合意に基づいて規律されるべきであるから,原告と顧客との間で清算が図られるべきと考えられる。他方,被告は,顧客から代金の返還を求められたときは,その代金の出捐者が原告である,又はその可能性があるという理由で返還を拒むことはできず,顧客との間の本件サービスの利用契約に基づく返還拒否事由(例えば顧客の都合による解約の場合の違約金)を主張できるにとどまる(なお,返還拒否事由があるときには,そもそも被告に不当利得があるとはいえない。)。
前記(1)イの類型における立替えは,前記(2)における丙の弁済が甲の委託を受けず,かつ,丙が甲と乙との間の対価関係が存在しないことを知っていた上で任意に弁済をしたときに該当するから,非債弁済として,原告の被告に対する不当利得返還請求権は成立しないというべきである。
(4) 以上によれば,原告が顧客のために出捐した金額や法律上の原因の有無を認定するまでもなく,原告は,被告に対し,不当利得として顧客のための立替金の返還を請求することはできないというべきである。
8 争点(2)ア(反訴及びその訴え変更の適法性)について
(1) 反訴は,その提起により著しく訴訟手続を遅滞させるものでないことを要する(民事訴訟法146条1項2号)。その趣旨は,本訴につき早期に判決を受ける本訴原告の利益を保護することにあるから,反訴の提起が著しく訴訟手続を遅滞させるか否かは,反訴の提起があったときとなかったときのそれぞれの訴訟手続進行の見込みを比較し,反訴提起による訴訟手続進行の遅滞が本訴と反訴を一括して解決できる利益を考慮しても許容し難い程度のものであるかという観点から判断することが相当と解される。
被告の反訴請求は,原告の営業活動における不当営業活動を理由とする不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償であり,被告は,遅くとも本件解雇までに不当営業活動に関する最低限の調査を終えていたはずであり,損害に関する調査を速やかに進めることに困難があったと認めるに足りる的確な証拠はないから,労働審判事件の申立てから2年以上経過した後になって反訴を提起すること(前記第2の2前提事実等(5)ウ)は時機を逸したものというべきである。ただ,不当営業活動の有無その他の原告の営業活動の実態,不正行為による被告の損害の有無,程度は,本件解雇の理由及び相当性並びに経費立替えに関する認定判断(前記1(3)ア,キ,2(1)ウ,7(1)参照)と関連し,被告の反訴は,本訴請求に対する防御方法との間に関連する請求を目的とするものであり(民事訴訟法146条1項柱書),反訴のための審理と本訴のための審理には重複や関連が認められることに照らすと,訴訟被告の反訴提起によって訴訟手続進行に遅滞が生じることは否めないが,それが著しいものとまではいえないというべきである。
(2) 適法な反訴であっても,後に訴えを変更する際は,訴えの変更の要件を満たす必要があり,訴えの変更は著しく訴訟手続を遅滞させないことを要し(民事訴訟法143条1項但書,146条4項),訴え変更前の請求についての審理が判決に熟しつつあるにもかかわらず,訴え変更による新たな請求のため相当期間をかけて新たな裁判資料の収集を要するときは訴えの変更は許されないと解される。
前記第2の2前提事実(5)エ,オによれば,被告の反訴に係る訴えの変更は,弁論準備手続が続行されている中のもので,その内容は原告に詐取されたと主張する成果給の金額を減額して請求を減縮する一方,新たに損害として信用毀損による無形の損害300万円を主張するもので,複雑・詳細な損害計算を伴うものとはいえないことを照らすと,判決に熟しつつあるにもかかわらず,訴え変更による新たな請求のため相当期間をかけて新たな裁判資料の収集を要するとまでは認めるに足りないから,被告の反訴に係る訴えの変更が著しく訴訟手続を遅滞させるものとはいえない。
(3) 本件口頭弁論に現れた全事情に照らしても,被告の反訴及びその訴え変更が訴訟の引き延ばしや嫌がらせを目的としたものであるとは認めるに足りない。
(4) したがって,被告の反訴及びその訴え変更が不適法なものとはいえない。
9 争点(2)イ(原告の不法行為又は債務不履行)について
(1) 不法行為及び債務不履行の成立
前記1(3)ア,イ,キの認定事実及び前記2(1)ウの認定判断によれば,原告が不当営業活動を繰り返したことは,労働者の使用者に対する誠実に勤務すべき義務及び使用者の信用を毀損しない義務に反し,本件サービスの利用契約に関する事務の適正処理及び信用保持に関する被告の法律上保護されるべき利益を侵害するものであるから,債務不履行及び不法行為が成立するというべきである。その態様にはリップサービスなどとは到底いえない社印の悪用や虚偽内容の文書作成を含み,悪質であること,意図的な行為によることにかんがみれば,不当営業活動の目的には売上げ目標の精神的な負担から逃れようとする要素もあったことを最大限に考慮しても信義則上,被告の損害賠償請求権の行使を制限すべきとはいえない。
(2) 被告の損害
ア 成績給及び営業手当成績分の不正受給
証拠(乙30,乙31,32の各1ないし17,乙80,乙104の1ないし6,F証言)及び弁論の全趣旨によれば,①被告は,原告に対し,不当営業活動によって契約が締結されたものを含む売上げに基づいて算定して,平成24年7月から平成25年11月までに成績給499万5627円及び営業手当成績分14万3103円を支払ったこと,②上記①のうち適正な契約締結に基づく金額は,成績給113万3976円及び営業手当成績分3万5109円にとどまったこと,③上記①の金額から上記②の金額を控除し,原告が不当営業活動に基づいて受給した金額は,成績給386万1651円及び営業手当成績分10万7994円(合計396万9645円)となることが認められるから,被告は,成績給及び営業手当成績分の不正受給として金396万9645円の損害を受けたといえる。
イ 不正に締結された契約に係る経費等
(ア) 証拠(乙30,乙80,乙106,107,F証言)及び弁論の全趣旨によれば,原告が不当営業活動によって不正に契約を締結し,後に契約が解消された案件では,顧客から本件サービスで提供された商品を回収したが,他の顧客に対する提供に転用するわけにはいかないため廃棄せざるを得ず,商品提供のための発送費用(計9338円),回収のための返送費用(計4万9894円)及び商品原価(59万8786円)が無益な費用支出となり,被告がこれらと同額の損害を受けたことが認められる。
(イ) 証拠(乙30,80,105,F証言)及び弁論の全趣旨によれば,本件サービスの勧誘のため,本件サービスの利用者である工務店経営者に講演を依頼し,2か月以内の売上げに応じた成功報酬も支払っていたところ,その売上げが原告の不正な契約締結によるものであったため,金68万2500円を下らない過払を余儀なくされたこと,被告の社員である原告の不当営業活動を理由に過払金の返還を求めることは工務店経営者との信頼関係を破壊して,今後の協力を得られなくなるおそれがあるため,事実上困難であることが認められる。
(ウ) 以上によれば,被告は,不正に締結された契約に係る経費等として金134万0518円の損害を受けたことが認められる。
ウ 顧客対応費用
(ア) 証拠(乙30,乙33の1ないし7,乙34の1ないし11,乙35の1ないし7,乙36の1ないし12,乙37の1ないし13,乙38の1ないし9,乙39ないし10,乙40の1ないし3,乙41の1ないし6,乙42の1,2,乙43の1ないし3,乙44の1ないし5,乙80ないし85,F証言)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告から不当営業活動を受けた顧客に対し,善後策として事実確認や説明,謝罪を余儀なくされ,顧客を訪問するための交通費,宿泊費等の出張費用として合計97万3150円の出費を余儀なくされたことが認められる。
(イ) 証拠(乙12,30,80ないし84,86ないし90,F証言)及び弁論の全趣旨によれば,①原告の不当営業活動を受けた顧客(h建設)からのクレームを受けて,原告の無償提供の約束を履行するため,金31万5000円相当の商品の無償提供に応じざるを得なかったこと,②別の顧客(g建築)との間でも,代金支払済みの本件サービス利用契約につき無効の主張を受けて支払済みの代金全額609万円を返還し,結果としてサービスを無償で提供することで解決したこと,③上記②の対応は,原告が独断でサポートサービスを顧客に約束しており,そのようなサポートサービスを提供しないで代金全額を受領したままで通すことは顧客対応上困難であり,また,原告の不適切な事務処理で信用情報に顧客の分割払が遅滞したとの履歴が残ることになったことに厳重に抗議されて,顧客の被害感情を緩和し,これ以上の問題の悪化を避けるための善後策として合理性を欠くものとはいえないことが認められる。
(ウ) 以上によれば,被告は,顧客対応費用として金737万8150円の損害を受けたと認められる。
エ リース会社に対する解約手数料等
証拠(乙30,乙45の1ないし5,乙46の1ないし3,乙80,F証言)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告が不正に締結された契約の事後処理のため,リース会社から金利相当額又は解約手数料等合計84万6247円を請求されて,支払に応じることを余儀なくされて,同額の損害を受けたことが認められる。
オ 信用毀損による無形の損害
前記1(2)エ,(3)ア,キの認定事実及び前記アないしエの認定判断に加え,証拠(乙103の1ないし3,F証言)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件サービスの販売促進のため広告宣伝に費用を費やして,本件サービスのブランド価値を含む被告の信用の維持・向上を図っているところ,原告が不当営業活動を繰り返して,多数の顧客に虚偽の説明をしたことによって,顧客及び被告が提携するリース会社を巻き込んで多数の顧客の信頼を裏切った上,契約の成立や効力に重大な疑義のある状態を生じさせたことで,顧客となるべき工務店の間で被告の悪評が伝播するおそれが生じ,被告の信用にも悪影響が及び,今後の営業活動を阻害する要因になるおそれがあることが推認されるから,被告には,相当程度の信用毀損が生じているといえる。もっとも,信用毀損による損害額を具体的に立証することは,その性質上極めて困難であるから,民事訴訟法248条を適用して,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて損害額を認定すべきである。
原告の不当営業活動による信用毀損の程度は軽視できないが,前記イ(イ),ウのとおり,信用毀損の拡大防止及び回復のための費用に関する損害賠償は別途認められており,この損害賠償との重複を避ける必要がある。被告に対する悪評が現に流布されていること,原告の不当営業活動が報道で取り上げられたこと,他の営業担当社員による営業活動に原告の不当営業活動に起因する具体的な支障が生じたこと,被告の売上げや収益に原告の不当営業活動による影響と認められるような落ち込みが生じたことをうかがわせる主張立証もないことにも照らすと,原告の不当営業活動の結果,被告の業務に前記アないしエで認定したほかにも様々な支障が生じたことを考慮しても,信用毀損による損害額は金20万円の限度でのみ認定することが相当である。
カ 以上によれば,被告の反訴請求は,損害賠償金1373万4560円の支払を求める限度で理由がある。
第4  結論
以上によれば,本訴請求及び反訴請求は,それぞれ次の限度でのみ認容される。
1 本訴請求
(1) 平成24年1月分から平成25年11月分までの各月の残業代合計191万1867円,毎月の各支払日(毎月25日)の翌日から平成26年3月4日までの商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金9万8933円の合計額201万0800円及びこのうち上記残業代合計191万1867円に対する同月5日から本判決確定の日までは商事法定利率年6パーセント,本判決確定の日の翌日から支払済みまでは賃確法所定の年14.6パーセントの各割合による遅延損害金
(2) 付加金75万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金
(3) 営業のための経費の立替金17万1030円及びこれに対する原告の第1準備書面送達の日の翌日(平成26年9月30日。支払請求の日の翌日に当たる。)から支払済みまで年6パーセントの割合による遅延損害金
2 反訴請求
損害賠償金1373万4560円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日(平成28年10月18日)から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金
東京地方裁判所民事第19部
(裁判官 若松光晴)

 

〈以下省略〉

 

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