
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(190)平成24年12月17日 東京地裁 平21(ワ)34968号 原状回復本訴請求事件、委託金等反訴請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(190)平成24年12月17日 東京地裁 平21(ワ)34968号 原状回復本訴請求事件、委託金等反訴請求事件
裁判年月日 平成24年12月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)34968号・平21(ワ)45805号
事件名 原状回復本訴請求事件、委託金等反訴請求事件
裁判結果 本訴請求棄却、反訴一部認容 文献番号 2012WLJPCA12178006
事案の概要
◇原告が、被告に対し、ハードウェアの開発を委託したところ、①被告が履行期に当該ハードウェアの量産試作機を完成させることができずに履行遅滞に陥ったことを理由として、又は、そもそも被告には当該ハードウェアを製作する能力がなく、その履行を拒否したことにより、履行不能になったことを理由として、上記開発委託契約を解除したとして、原告が、被告に対し、原状回復請求権に基づき、着手金や試作機製作費用等として支払った1126万3990円の返還とこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、選択的請求として、②被告の代表取締役や従業員は、上記ハードウェアの製作をするつもりがなく、または、被告とその関係企業のみの能力では同ハードウェアの製作が困難であることを認識しつつ、原告と契約し、原告を誤信させた上で金員を交付させたとして、原告が、被告に対し、民法715条1項、会社法350条に基づき、上記①と同額の1126万3990円の損害賠償とこれに対する遅延損害金の支払を求めた(本訴)ところ、被告が、上記契約に基づき、①上記ハードウェアの営業用試作機製作の報酬500万円の支払、②被告が立て替えた同ハードウェアの開発に係る部材費用のうち未払分32万7600円の支払、及び③被告は同ハードウェアの量産試作機及び完成機を製作するのに特段の技術的難題のない状況にまで至っていたにもかかわらず、原告は一方的に上記契約を解除し、量産試作機及び完成機の完成・引渡しという報酬支払請求の停止条件の成就を妨害したとして、民法130条又はその類推適用により、量産試作機の報酬300万円及び完成機の報酬500万円のうち200万円の支払、並びに以下の遅延損害金の支払を、それぞれ求めた(反訴)事案
裁判年月日 平成24年12月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)34968号・平21(ワ)45805号
事件名 原状回復本訴請求事件、委託金等反訴請求事件
裁判結果 本訴請求棄却、反訴一部認容 文献番号 2012WLJPCA12178006
平成21年(ワ)第34968号原状回復本訴請求事件,
同年(ワ)第45805号委託金等反訴請求事件
東京都港区〈以下省略〉
本訴原告兼反訴被告 株式会社オリジナルソフト
(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 櫻井彰人
同 萱島博文
東京都狛江市〈以下省略〉
本訴被告兼反訴原告 株式会社ゼニックス
(以下「被告」という。)
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 堤義成
同 中村しん吾
同 大村郁文
同 岩本康博
主文
1 原告の本訴請求をいずれも棄却する。
2 原告は,被告に対し,32万7600円並びにこれに対する平成21年1月11日から同年2月16日まで年6パーセントの割合による金員及び同月17日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員をそれぞれ支払え。
3 被告のその余の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴・反訴を通じて,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
(1) 被告は,原告に対し,1126万3990円及びこれに対する平成21年10月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告に対し,1126万3990円及びこれに対する平成20年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
原告は,被告に対し,1032万7600円及び以下の金員を支払え。
(1) うち532万7600円に対する平成21年1月11日から同年2月16日まで年6パーセントの割合による金員及び同月17日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員
(2) うち500万円に対する平成21年2月11日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1) 本訴請求事件は,原告が,被告に対し,ハードウェアの開発を委託したところ,① 被告が履行期に当該ハードウェアの量産試作機を完成させることができずに履行遅滞に陥ったことを理由として,又は,そもそも被告には当該ハードウェアを製作する能力がなく,その履行を拒否したことにより,履行不能になったことを理由として,上記開発委託契約を解除したとして,原告が,被告に対し,原状回復請求権に基づき,着手金や試作機製作費用等として支払った1126万3990円の返還とこれに対する平成21年10月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,選択的請求として,② 被告の代表取締役や従業員は,上記ハードウェアの製作をするつもりがなく,または,被告とその関係企業のみの能力では同ハードウェアの製作が困難であることを認識しつつ,原告と契約し,原告を誤信させた上で金員を交付させたとして,原告が,被告に対し,民法715条1項,会社法350条に基づき,上記①と同額の1126万3990円の損害賠償とこれに対する不法行為の日(契約締結日)である平成20年8月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 反訴請求事件は,被告が,上記契約に基づき,① 上記ハードウェアの営業用試作機製作の報酬500万円の支払,② 被告が立て替えた同ハードウェアの開発に係る部材費用のうち未払分32万7600円の支払,及び③ 被告は同ハードウェアの量産試作機及び完成機を製作するのに特段の技術的難題のない状況にまで至っていたにもかかわらず,原告は一方的に上記契約を解除し,量産試作機及び完成機の完成・引渡しという報酬支払請求の停止条件の成就を妨害したとして,民法130条又はその類推適用により,量産試作機の報酬300万円及び完成機の報酬500万円のうち200万円の支払,並びに以下の遅延損害金の支払を,それぞれ求める事案である。
ア 上記①の500万円及び②の32万7600円の各支払請求について
(ア) 同各金員に対する平成21年1月11日(同各金員の約定の支払日の翌日)から同年2月17日まで商事法定利率年6パーセントの割合による金員
(イ) 同各金員に対する同月18日から支払済みまで,下請代金支払遅延等防止法所定の年14.6パーセントの割合による金員
イ 上記③の300万円及び200万円の支払請求について
同各金員に対する平成21年2月11日から支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による金員
2 前提となる事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は,ソフトウェアの研究開発,保守,販売及び工業所有権,著作権等の無体財産権の取得・販売等を業とする資本金1億2000万円の株式会社である。原告の役員(取締役)であるC(以下「C」という。)は,本件に係る契約の前後を通じ,被告との交渉を担当していた者の一人である(証人C・42頁)。
イ 被告は,コンピュータ周辺機器及び電子機器の開発,設計,製造,販売を業とする資本金800万円の株式会社である。
被告の代表取締役は,B(以下「B」という。)であり,被告における本件に係る契約の担当者は,被告の従業員であるD(以下「D」という。)であった。
ウ E(以下「E」という。)は,平成20年当時,「○○」の屋号で,ハードウェア,ソフトウェアの受託開発等を業としていた者であり,被告が原告から開発の委託を受けた後記ハードウェアの開発を被告から請け負った。
(2) 本件契約の成立・内容
平成20年8月8日(以下,平成20年中の日付を記載する場合には,年の記載を省略するものとする。),原告と被告は,「ゴルフプレイメイトシステム」(以下「本件システム」という。)に係る後記ハードウェアの開発を目的として,「ゴルフプレイメイトシステム(仮称)開発に関する覚書」と題する文書(甲1。以下「本件覚書」という。)を作成し,当該ハードウェアの開発を原告が被告に委託する契約を締結した(以下「本件契約」という。)。その内容は,以下のとおりであった。(甲1,6,7,証人E・23頁)
ア 本件システムは,ゴルフ場でのプレイ中,ホール数,打数,ピンやグリーンエッジまでの残ヤード,打ち込み注意や雷発生等の警告といった様々な情報をプレイヤーに提供することを目的とするものである。
そして,本件システムの仕組みの概要は,プレイヤーが所持している通信ユニットから送られるプレイヤーの位置情報(GPSにより取得する。)を,カートに搭載した通信ユニットを経由し,さらに,アクセスポイントという中継機(以下「AP」という。)を経由して,基地局装置(以下「コーディネーター」という。)に送信し,基地局のコンピュータにおいて,送信された情報からピンまでの残ヤードなどの情報を算出し(なお,ここでの情報の処理は,原告が製作したソフトウェアによりされる。),その情報を以上の経路とは反対の経路で伝達し,最終的にプレイヤーが所持する表示ユニット(通信ユニットから受信した情報を液晶画面に表示するもの。)に当該情報を表示する,というものである。本件システムでは,最大で,200人のプレイヤーが同時に利用することが想定されていた。
イ 被告が製作することとなったハードウェアの内容は,① 表示ユニット(最大200台),② 通信ユニット(最大200台)③ カートに登載する通信ユニット(最大50台),④ AP(標準5台),⑤ コーディネーター(標準1台)である(以下,これらを「本件ハードウェア」と総称する。)。
ウ 原告は,被告に対し,本件システムのハードウェア開発が完了し,原告の検収が完了した時点で総額2000万円を開発費として支払う(本件覚書1条2項)。
エ 本件ハードウェアの開発費用は,2000万円(部材費用は含まない。)であり,その支払条件は以下のとおりである(本件覚書2条)。
(ア) 被告が開発に着手済みであることを条件として,8月11日に500万円を支払う(初期費用)。
(イ) 試作機が完成していること,原告の検収が完了していること及び納期に納品物件がそろっていることを条件として,検収月末締め翌月10日に500万円を支払う。
(ウ) 量産試作機が30セット程度完成していること及び無線到着距離が充分であることを条件として,検収月末締め翌月10日に500万円を支払う。
(エ) 完成機が200セット完成していること,ゴルフ場へ販売するのに充分な品質であること及び原告の検収が完了していることを条件として検収月末締め翌月10日に500万円を支払う。
オ 部材費用は,被告が必要な時期に原告に対して見積りを提示し,原告の了解を得ることを条件に,原告が支払う。
カ 原告又は被告が契約上の義務を履行しない場合には,相手方は,書面により本件契約を解除することができ,通知後60日以内に不履行が是正されなければ,同期間経過後に効力が生じる(本件覚書4条)。
キ なお,本件覚書には,試作機,量産試作機及び完成機の納期は記載されていない。
(3) 本件契約に至る経緯
原告は,本件システムの開発について,株式会社トリプルワン(以下「トリプルワン」という。)を通じて,被告を含む数社に見積りを依頼することとした。原告は,被告が提出した見積りの内容から,被告に本件ハードウェアの開発を依頼することとした(甲8・添付資料1,乙28)。
被告は,原告に対し,7月24日,本件ハードウェアの開発に係る工程表(甲9。以下「本件工程表」という。)を提出しているところ,同工程表では,本件ハードウェアの完成予定日は,10月10日とされていた(甲9)。
(4) 本件契約締結後の経緯
ア 被告は,8月8日,本件ハードウェアの開発に着手したところ,原告は,被告に対し,同月11日に初期費用500万円を支払った(甲2)。
イ 被告は,9月20日,原告に対し,本件契約に基づき製作した成果物(以下「第1納品物」という。)を納品した(なお,この第1納品物について,被告はこれを本件ハードウェアの試作機であると主張し,原告は本件契約に定められた試作機の要件を充たしていないと主張している。)。
ウ 原告は同月30日,本件ハードウェアの試作機についての検収が完了した旨の記載がある「検収完了報告書」と題する文書を被告に提出した(乙5)。
エ 原告は,被告に対し,11月10日,500万円を支払った(甲3)。
オ 被告は,原告に対し,本件覚書に記載の量産試作機とは内容が異なる量産試作機(以下「量産試作機Ⅱ」という。)について,開発費300万円との内容の追加の見積書(乙13)を交付し,Cは,同月13日に,当該見積書の内容で発注する旨を,Dに対する電子メールで返答した(乙14)。
カ 被告は,11月19日,原告の指示・要請に基づいて製作した成果物(以下「第2納品物」という。)を納品した。
そして,原告は,被告に対し,12月18日,第2納品物について,検収が完了した旨の記載がある「検収完了報告書」と題する文書を被告に提出した(乙6)。
キ 原告は,被告に対し,本件ハードウェアの開発に係る部材費用として,以下のとおり,合計126万3990円を支払った。
(ア) 8月11日 6万7200円
(イ) 9月10日 1万8900円
(ウ) 11月10日 25万3050円
(エ) 12月10日 80万2200円
(オ) 平成21年1月13日 12万2640円
ク 上記キのほか,被告は,第2納品物の製作のための部材費32万7600円について事前に原告に見積りを提示し,原告から了承を得て購入したが(乙3,4参照),原告は,被告が主張する上記の部材費については,被告に支払っていない。
ケ 平成21年2月10日には,原告と被告との間で,本件契約を解消することが確認され,以後は,被告による開発作業も行われないようになった(甲22・5頁,乙89・34頁)。
コ 原告は,被告に対し,同年4月28日,本件覚書4条に基づき本件契約を解除する旨の通知書を発送し,同通知書は,同年5月1日,被告に到達した。
サ 被告は,本件ハードウェアのうち,本件覚書どおりの量産試作機は製作しておらず,また,量産試作機Ⅱ及び完成機を製作するに至っていない。
(5) 本件ハードウェアに用いられた通信規格
被告は,本件ハードウェアの無線通信に,Zigbeeという無線通信規格(以下「ジグビー」という。)を採用した(なお,ジグビーを採用した理由について,被告は,原告の要望であると主張するが,原告はこれを否認している。)ところ,ジグビーとは,家庭用電化製品向けに制定された通信規格であり,消費電力が小さいこと,モジュールが他の通信規格と比較して廉価であることなどの長所がある一方,通信距離が短いこと,一度に送ることができるデータの大きさが非常に小さいことなどの短所があった。ジグビーは,平成19年から平成20年当時,今後利用が拡大するものとして注目されていた。(乙24,乙25,乙89・4頁)
3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 本件契約は請負契約か準委任契約か。(争点1)
(原告の主張)
以下の各事情からすれば,本件契約が本件ハードウェアの完成に対し,その報酬として2000万円を支払うことを内容とする請負契約であることは明らかである。したがって,本件契約は解除により遡及的に消滅し,被告は,原告に対し,原状回復義務を負う(民法545条1項本文)。
なお,本件覚書の支払条件は,本件ハードウェアを開発する被告が開発期間中に資金繰りに苦慮することがないようにするために定めたものにすぎない。
ア 原告は,少しでも早く本件システムを製作して市場に出したかったが,ハードウェアの製作経験がないため,ハードウェア製作の専門業者に本件ハードウェアの製作を委託することとし,トリプルワンを通じて,複数の者に対し,「ゴルフ場無線通信インフラ構築についての要件定義」と題する文書(2月26日付けのもの(甲6。以下「要件定義書1」という。)及び4月25日付けのもの(甲7。以下「要件定義書2」といい,要件定義書1と併せて,以下「本件要件定義書」という。)がある。)を交付した上で,本件ハードウェアの開発に要する費用や時間等についての見積りを依頼した。そして数社から出された見積りを比較検討したところ,被告が作成した本件工程表では,約3か月程度で本件ハードウェアを完成できる見込みとされていたこと,完成までに要する総費用の点でも,被告の見積金額が他社と比較して低額であったことから,原告は本件ハードウェアの開発を被告に依頼することに決定した。
イ 本件契約が成立した当時,市場には本件システムと類似する先行商品が既に多数存在しており,また,本件要件定義書も提示されていたのであるから,見積競合(相見積り)に参加した各社は,本件システムや本件ハードウェアの内容を十分に理解していた。
ウ 請負契約とするか準委任契約とするかは重要な問題であるところ,本件覚書及び本件契約に先立って締結された基本契約書(乙2。以下「本件基本契約書」といい,これに基づく基本契約を「本件基本契約」という。)には,準委任契約とする旨の文言が一切ない。反対に,本件覚書の1条2項には,原告は,被告に対し,本件ハードウェアの開発が完了し,原告の検収が完了した時点で,総額2000万円を支払う旨が明記されており,2条には支払条件として「200セット完成」とまで明記され,本件基本契約書の2条にも「甲(原告)は,機器及びコンピュータ・ソフトウェア・ハードウェア等の開発を乙(被告)に委託し,乙はこれを受託して完成したうえ,その成果物を甲に引き渡すものとする。」と明記されている。
また,被告は,見積書(乙7)に関して,Cから,ゴルフ場に納入されて稼働するところまで面倒を見てほしいので,最後の500万円の支払を200セットの完成時にしてほしいとの要望が出され,被告がこれに応じた旨を認めているのであるから,被告の認識からも,本件契約が請負契約であることは明らかである。
エ 被告は,原告から提示された本件ハードウェアの内容が不明確・不確定であったことや,本件ハードウェアの開発には技術的に困難な点が存したことを主張するが,いずれも失当である。
(ア) 上記イのとおり,見積競合に参加する各社は,本件要件定義書により,本件システムの内容を十分に理解できた。
(イ) 本件契約締結当時,本件システムに類似する商品は市場に多数存在しており,また,原告は,被告への委託が解消された後,他の業者に委託して,本件システムの量産試作機を発注後4か月もしないうちに完成させているのであり,通信技術の困難性などと述べているのは,被告だけである。
そもそも,通信規格の選定は,受注者の広い裁量に委ねられていたのであり,受注者において,適切な通信規格を選定すれば足りる。確かに,原告が,当時流行していたジグビーに関心を寄せていたことも事実であるが,ジグビーでは本件システムが機能しないのではないかという危惧も抱いていた。通信規格をジグビーに限定することで本件システムが機能しなくなるのであれば,意味がなく,他方,原告は,ゴルフ場で機能する通信方式であれば,何でもよかった。この点,「ゴルフプレイメイト表示UNIT機能要件書Rev0.8」と題する文書(乙27の2)及び,「ゴルフプレイメイト通信UNIT機能要件書Rev0.8」と題する文書(乙27の3。乙27の2の機能要件書と併せて,以下「本件機能要件書Rev0.8」という。)には,通信規格をジグビーとするとの記載があるが,それらが作成されたわずか4日後に作成された要件定義書2では,通信方式が限定されていない。したがって,通信規格としてジグビーを採用したのは被告であるから,ジグビーを採用したことによる開発の困難性を主張することは相当ではない。
(被告の主張)
以下の各事情からすれば,本件契約は,被告が善管注意義務を負うにすぎない準委任契約であるというべきである。したがって,本件契約の解除の効力は遡及せず,被告には,支払われた金員の返還義務は生じない。
ア 完成されるべき仕事の内容が契約段階で具体的に確定されていない場合には,役務提供者が何を完成するべき義務を負うのか判然としないから,当該契約は,請負契約とはなりえず,準委任契約となる。
そして,原告は,被告に対して,GPSによる座標情報をジグビー準拠で通信することを強く希望するほかは,機能要件なり仕様なりを特定せずに本件ハードウェアの開発を依頼した。もちろん,原告は,被告が機能なり仕様なりを裁量で決めてよいとは考えておらず,技術的検討の結果を踏まえた被告からの提案・説明や,プロダクトデザイン事務所からのケースデザイン案の提示を受けて,原告において,最終的に商品の詳細を決めることを考えていたはずである。
(ア) 本件契約締結までに原告から被告に交付された本件ハードウェアの仕様に係る唯一の文書である本件機能要件書Rev0.8には,① 表示ユニットや通信ユニットの伝送距離は100m以上との記載しかなく,AP間の伝送距離については記載がない,② GPS座標を何秒おきに計測して基地局のコンピュータに情報を送るか明確でない,③ 実際の運用時の使用形態が確定していないなどといった不確定事項があった。
なお,被告は,原告から,本件要件定義書も,「ゴルフプレイメイト表示UNIT機能要件書Rev1.0」と題する文書(甲17・添付資料1)及び「ゴルフプレイメイト通信UNIT機能要件書Rev1.0」と題する文書(甲17・添付資料1)も受領していない。
(イ) 原告と被告は,本件契約締結前まで開発の検討や協議を進め,ジグビーによる通信について700m程度の距離が得られたなどの進展もあったが,結局,機能要件なり,仕様なりが確定されることはなかった。
(ウ) 本件ハードウェアの表示ユニットや通信ユニットの量産試作機を製作するには,そのケースデザイン(以下,単に「ケースデザイン」という。)が決まっていなければならないが,本件契約締結当時,ケースデザインは決まっていなかった。
イ また,本件ハードウェアの開発には,技術上の難点が存在し,被告が仕事の完成を約束することはできなかった。
(ア) 本件システムの通信規格として原告がその採用を希望していたジグビーは,家庭用電化製品向けセンサーなどに用いられることを念頭に置いて始まった無線通信規格であって,低消費電力の利点はあるが,通信距離が短く,通信速度も遅いという欠点がある。そのため,長距離や大量のデータ送信には不向きとされる。
他方,本件システムの本質的機能は,ゴルフプレイヤーの居る地点からピンやグリーンエッジまでの距離を計測し,その距離を顧客に知らせることである。そうすると,この位置情報のやりとりだけでも,200~250人のゴルフプレイヤーに関する座標データが送受信されることとなり,それだけの大量の情報量の通信に対応しなければならない。
以上からすれば,本件は,通信速度も遅く,長距離送信や大量のデータ送信には不向きとされているジグビーモジュールを使ってゴルフ場という広範囲をカバーするシステムを開発するという技術的に困難な課題のある案件であった。
(イ) 本件ハードウェアは,プレイヤーが携帯する機器を表示ユニットと通信ユニットに分離し,表示ユニットは腕時計のように腕に装着することとされていたところ,原告のいう先行商品で,この点を実現しているものはなかった。
ウ 本件覚書では,「開発」「委託」「受託」といった,被告の主張に沿う文言が用いられている。
(2) 本件契約が請負契約であった場合に開発費の返還を要しないとの合意があったか。(争点2)
(被告の主張)
仮に本件契約が請負契約であったとしても,原告と被告との間には,開発が中断した場合には,それまでに支払われた対価を返還しないとの合意があった。すなわち,被告が原告に対して提出した見積書(乙1,7)の備考欄には,「開発中断の場合,上記支払い対価については,返金しないものと致します。」と明記されている。そして,この見積書の内容に特段の修正や異議が唱えられないまま,本件基本契約や,本件契約が締結されているのであるから,上記見積書の内容は本件契約の内容となっている。
(原告の主張)
原告と被告との間で,開発が中断した場合に支払われた対価を返還しない旨の合意はない。開発が中断した場合に返金しない旨の見積書の記載は,本件覚書や本件基本契約書にはないのであり,このことは,原告と被告との間で,開発が中断した場合に返金しないとの合意が成立しなかったことを意味する。
(3) 量産試作機の引渡期限の合意の有無(争点3)
(原告の主張)
ア 本件工程表では,10月10日までに量産試作機が納品されることとなっているところ,原告は,被告から交付された工程表の内容から,本件ハードウェアの製作を被告に委託したのであるから,量産試作機の履行期は同日である。
イ 原告と被告との打合せに係る議事録(甲8・添付資料4)には,量産試作機の納期を12月31日とする旨の記載があるが,これにより,仮に,原告が,10月10日とされた履行期を,12月31日に猶予したものだとすれば,履行期は同日となる。なお,履行期はそもそも10月10日であったのであるから,それを12月31日とすることは履行期の猶予であって,被告の同意は不要である。
ウ 製品の開発を目的とする契約で納期が定められないということはあり得ない。また,原告は,本件システムを市場に出すことを急いでおり,被告もそれを認識していたのであるから,被告の主張は失当である。
(被告の主張)
原告と被告との間で,量産試作機の引渡期限が,10月10日や12月末日と定められた事実はない。
ア 本件契約は開発案件であるから,工程上の目標はあっても,法的責任を問われるような期限は通常設定されない。
イ(ア) 本件工程表は一定の業務スケジュールの想定にすぎず,事業進行上の目安,努力目標程度の意味があるにすぎない。実際,被告が,原告に送付した見積書(乙7)には,納期は記載されなかった。
また,ケースデザインの作成を受諾していない被告が一人で開発を進行させることはできないところ,本件契約締結当時,ケースデザインは未だ定まっていなかった。
(イ) 仮に,本件工程表に基づいて期限の合意が成立していても,伝送距離の希望の変更,原告の希望による営業用試作機(本件納品物2が,これに相当する。)の製作の追加,液晶のカスタム化への変更,原告側のソフト開発の遅れ,ケースデザイン製作の遅れといった開発内容の変更や原告側の作業の遅れにより,当初の期限は意味を失っている。
ウ 原告は,打合せの議事録(甲8・添付資料4)に記載されている生産スケジュールを根拠に量産試作機の納期が12月末日に変更されたと主張するが,当日の打合せで法的な期限が設定されたことはない。このことは,同打合せの後になされた原告や被告の担当者らの電子メールの内容から明らかである。
それに上記打合せの時点でも,後にケースデザインの作成を担当することになる株式会社賀風デザイン(以下「賀風デザイン」という。)と原告との契約は締結されていなかった。
(4) 被告の履行遅滞の違法性の有無(争点4)
(原告の主張)
原告は被告に対し,営業用試作機の納品・検収の翌月に500万円を支払うとの合意をしたことはないから(後記(8)の(原告の主張)参照),被告において同時履行の抗弁権を有するものではなく,被告による履行遅滞は,違法なものである。
(被告の主張)
被告は,原告の要望により,量産試作機を製作する前に,原告が本件システムの営業のために使用する「営業用試作機」を製作することを合意し,当該合意に基づいて製作したのが,第2納品物である。
そして,原告と被告は,営業用試作機の納品・検収をもって,本件契約第2条の量産試作機の納品・検収に代えることとし,原告は被告に対して,営業用試作機の納品・検収をした翌月10日には,500万円を支払うことになった(後記(8)(被告の主張)参照)。そして,営業用試作機の納品・検収は,遅くとも12月18日までには完了した。したがって,被告は原告に対し,平成21年1月10日限り,500万円を支払う義務があった。ところが,原告は,この支払を行わなかった。そのために,被告は,原告に対し,同年2月に,上記支払がなされるまで開発業務を続行できない旨伝えたものである。
よって,仮に原告が主張する履行遅滞が認められるとしても,被告は,上記500万円の支払がないことをもって,同時履行の抗弁権の行使をすることができるから,被告の履行遅滞は,違法ではない。
(5) 量産試作機を引き渡していないことについての被告の帰責性の有無(争点5)
(被告の主張)
ア 本件ハードウェアの量産試作機を製作するには,そのケースデザインが定められている必要がある(後記イ)ところ,被告は,ケースデザインが決定され,それが常識的な内容のものであれば,本件ハードウェアの量産試作機を完成させるのに特段の技術的な困難のない状況にまで至っていた。そうであるのに,ケースデザインを決定する権限・責務があった原告によるケースデザインの検討が遅れており(後記ウ),被告は,本件ハードウェアの量産試作機を製作することができなかった。したがって,被告に履行遅滞があったとしても,被告に帰責事由はない。
イ 本件ハードウェアを構成する表示ユニットや通信ユニットは,プレイヤーが携帯することとなるため,小さければ小さいほど便宜であるが,その分求められる性能をコンパクトなサイズで実現しなければならない。逆に,それらが巨大なものでよければ製品化に困難はないが,商品にならない。このように,ケースデザインと,システムの仕様とは相互に密接に関連するから,ケースデザインの作成が進まない中で,各ユニットの製品開発だけ進めても,完成させることはできない。
ウ ケースデザインの決定は原告がすべきこととされていた。
(ア) プレイヤーが装着する表示ユニットや通信ユニットのデザインは,プロダクトデザインという独自の分野であるところ,被告はプロダクトデザイン業務を行っていない。
(イ) 原告と被告との間で,プロダクトデザインについての打合せがされたことはない。
(ウ) Eは,9月8日に原告担当者に宛てた電子メール(乙41)において「デザインが決まっていないため,基板は大体の寸法で作っております。最終版は,デザインが決まってから再度作り直すことになると思います。デザイナー選定の方は,いかがでしょうか?」と尋ね,同月11日に原告担当者が賀風デザインにDを案内し,その賀風デザインが原告との契約に基づき,プロダクトデザイン案を原告に提示し,原告がその中からデザインを選択するといった経緯が続いた。
(エ) 原告は,「金型」が見積りの対象になっていたり,本件工程表に金型設計・製作が記載されていたりすることを指摘するが,「金型」は開発が終わりケースなどを量産する段階で必要となるものであって,ケースデザインを誰が担当するかとは無関係である。また,原告は被告に対し見積り段階で金型手配まで依頼されることがありうると述べていたため,見積書に記載があるだけであり,被告は,金型を担当していない(甲1,甲8・添付資料4)。
(オ) また,原告は,議事録(甲8・添付資料4)に,「デザイン」等の担当が「ゼニック」「ポケット」「賀風デ」などと記載されていると指摘するが,基板の開発とケースデザインの作成が互いに密接に関連することから,基板の開発担当と連携をとってプロダクトデザインの作成を進めるためにそのように記載されているだけである。むしろ,同議事録には,「デザインの最終決定者:正善・F様,C」と明記されている。
エ 原告は,賀風デザインにケースデザインを担当させることとしたが,賀風デザインが具体的な活動を始めたのは12月になってからのことであった。そして,平成21年1月15日になり,ようやく賀風デザインからケースデザインの寸法案が示されたが,それでも液晶のサイズやデザインが確定していないものであり,同年2月13日でも同デザインは確定しなかった。
(原告の主張)
ア 被告は原告の責めにより作業が進捗しなかったと主張するが,事実ではない。本件システムの商品化を急ぐ原告が,被告の作業を停滞させるはずがなく,むしろ,迅速に商品化できるように被告を手助けしていた。
イ 以下の事実によれば,ケースデザインは被告が作成すべきであった。
(ア) 販売者にすぎない原告がケースデザインを決めたところで,ハードウェアと整合しなければ意味がないから,ハードウェアを製作する被告がケースデザインを担当することは当然であり,機器製作業における常識にも合致する。
(イ) 本件覚書に記載されている「本件システムのハードウェア開発」にケースデザインが含まれることは明らかであり,同書の「200セット」完成との文言から,被告がケースデザインを担当することは明白である。
(ウ) 被告提出の見積書(甲8・添付資料1)に「通信・表示ユニット金型」との項目があることからも,被告がケースデザインを担当することとなっていたことは明らかである。ケースデザインの内容により金型の個数は大幅に変化するため,自らデザインを担当するのでなければ金型製作の見積りを提示することはできないからである。
(エ) 議事録(甲8・添付資料4)には,量産試作機の「デザイン」や「デザイン調整」の担当者が明記されており,その担当者は賀風デザインと外ならぬ被告及びEである。
(オ) 原告は,被告がケースデザインを作成できるか疑問を持っていたが,被告は自らケースデザインを作成することを前提として見積りを提出し,その後もケースデザインを担当するというから,原告は被告にケースデザインの作成を任せることにした。なお,ケースデザインについても被告の債務不履行があったため,否応なく原告関与の下でケースデザインの作成を進めた。
ウ そもそも,ケースデザインが決まっていなくとも,被告は作業を進めることができる。すなわち,表示ユニットにしても,通信ユニットにしても,ゴルフ場でプレイヤーが所持するものであるから,可能な限り小さいものを目指して開発を続ければよい。
(6) 被告による履行不能の有無(争点6)
(原告の主張)
被告は,原告に見積りを提出した当初から履行拒否に至るまで,伝送距離の問題や同時通信台数の問題をクリアできる見込みを全くもっていなかった。端的にいえば,被告には本件ハードウェアを完成させる能力がなかった。それゆえ,平成21年2月10日,被告は本件契約上の義務を履行しない旨を明確に述べるに至ったのである。量産試作機を完成させる能力のない被告が履行を拒否した以上,本件契約の履行を期待できる状況ではなくなったといえ,履行不能といえる。
なお,契約締結後において人的物的体制を整えれば本件ハードウェア程度のものを製作することは十分可能であるから,原始的不能ではない。
(被告の主張)
被告に開発業務を行う能力が欠けていたという事実はない。すなわち,本件契約は結果責任を問われる内容ではないから,問題は被告が開発業務を行うことについて社会通念上求められる能力を備えていたかどうかであるところ,以下のとおり,被告には,その能力が十分あった。
ア 被告は,原告に対し,試作機や営業用試作機を納品している。
イ 営業用試作機では1229mの伝送距離を確認したし,搭載を準備していたGPSの精度も十分であった。充電器の準備も進められており,プロダクトデザインが作成されれば,量産試作機Ⅱ及び完成機を製作するのに特段の困難はない状態であった。
(7) 被告の不法行為責任の有無(争点7)
(原告の主張)
ア 本件ハードウェアの開発に係る見積競合に参加する者は,本件システムと類似する先行商品や原告から提示された要件定義書を十分に検討し,原告の要望を十分に把握すべきである。また,見積競合に参加する者は,発注者の要望に応えるだけの十分な技術力を備えていなければならない。
イ 被告は,本件ハードウェアの開発には技術的課題が多いと認識しており,被告やその関係者のみではその課題を解決することは困難であると認識していたが,途中で製作できないこととなっても原告から金員だけ奪い取る認識をもって,見積競合に参加し,原告を欺き,契約まで締結した。そのため,原告は,他の者と契約する機会を奪われた。
被告は,本件ハードウェアの開発をEに委託し,また,原告から事細かな指示をもらいながら開発をすすめれば,もしかしたら本件ハードウェアを完成できるかもしれないとの認識であったのかもしれないが,原告は本件システムを早期に完成することを望んでいたのであり,いつまでも待って偶然完成してもらっても仕方がない。
ウ そして,被告において本件ハードウェアを開発する能力がなかったため,前記(6)の(原告の主張)で述べるとおり,本件契約に基づく被告の債務は,履行不能となった。
エ 上記の被告の行為は,B又はDによるものであるから,被告は,同人らの行為について民法715条,会社法350条に基づく責任を負う。
オ 原告は,被告の不法行為により,少なくとも,原告が被告に交付した1126万3990円に相当する損害を被った。
(被告の主張)
原告の主張は,否認し,又は争う。原告が被告に依頼したのは単なる見積りであり,そのような見積りの際に,原告が主張するような特別な義務は生じない。また,本件契約は開発業務の委託であり,原告が希望する機器の仕様すら明確でなく,原告と被告が協議しながら詳細をつめていくことになっていたのであるから,これと異なる前提に立つ原告の主張は成り立たない。
(8) 営業用試作機に係る代金支払の合意の有無(争点8)
(被告の主張)
ア ケースデザインの作成が遅れていたため,10月頃には,量産試作機を早急に完成させることは難しい状況であったが,営業活動のためにどうしても試作機が必要であるとして,原告は,被告に対し,当初の予定にはなかった営業用試作機の製作を求めた。同時に,原告は,本件契約締結時とは仕様の異なる315MHz仕様の量産試作機Ⅱを製作することを求めていた。しかし,そうすると,被告は,従来の仕様による営業用試作機を製作すると同時に,新たな仕様である量産試作機Ⅱを製作しなければならず,被告の負担が増加する。そこで,原告と被告は,協議の結果,被告が営業用試作機とともに,量産試作機Ⅱを製作すること,量産試作機製作時の500万円の支払を営業用試作機の製作時に行うこと,また,量産試作機Ⅱを製作した場合には追加で300万円を支払うことを合意した。
イ 営業用試作機に係る上記合意が成立していたことは,被告が,営業用試作機を,11月に納品したことに対し,原告が,12月18日に検収していることからも明らかである。
(原告の主張)
ア 著しく開発が遅れている本件システムの営業のため仕方なく原告が被告に提案したのが被告のいうところの営業用試作機(第2納品物)である。すなわち,第1納品物は試作機の条件を満たさないものであったが,そのようなものでも,実際の営業現場では必要であった。しかも,第1納品物は数が少なく,営業用には足りなかった。そこで,原告は第1納品物を追加製作することができないか提案したのである。
イ 原告は,被告に対し,第1納品物の余りの部材で第2納品物を製作してもらったにすぎず,その製作について何らかの対価を支払うとの合意はしていない。したがって,被告が量産試作機を完成させ,原告が検収したときに500万円を支払うことは何ら変更されていない。300万円の追加支払は,資金繰りに窮しているEのモチベーションを保つために完成機の納品時に支払うことを約したものである。
ウ 原告が,被告に対し,第2納品物の検収完了報告書を交付したのは,資金繰りの便宜を図ってほしいとの被告の要望によるもので,本来的な検収がされたからではない。
(9) 量産試作機Ⅱ及び完成機の製作に対する報酬請求権に係る停止条件成就の原告による妨害の有無(争点9)
(被告の主張)
12月頃には,ケースデザインの作成を担当する業者も決まり,本件ハードウェアの完成に向けて特段の技術的困難もない状況となった。そして被告は,ケースデザインができ次第,量産試作機Ⅱを一定期間内に製作するよう準備を進めていた。ところが,被告は,平成21年1月29日,原告の代表取締役から訳の分からないクレームを言われ,また,同年2月10日には,原告の担当取締役から一方的に本件契約を解除する旨告知された。
以上のとおり,原告は,被告が開発行為を続行することを不可能にすることで,量産試作機Ⅱ及び完成機の製作・検収という支払条件の成就を妨害した。
(原告の主張)
ア 被告が,ケースデザインさえ決定されれば,本件ハードウェアの量産試作機を完成させられる状況にあったという事実はない。被告は,本件ハードウェアを完成させる能力を有していなかった。
イ 被告は,原告に対し,平成21年2月現在において,今後行わなくてはならないこととして,通信ユニットの通信テスト,通信回路設計,基板検討,表示ユニットの通信テスト,通信回路設計,基板検討,APの1対複数の検討等があることを報告しており,開発のための課題は山積みであった。特に,APの点は極めて重要な基本機能であるにもかかわらず,未だ検討段階ですらない。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提となる事実並びに証拠(甲22,乙88,89,証人C,証人D,証人E及び後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,本件の事実経緯について,以下の事実が認められる。
(1) 本件契約締結までの経緯
ア 原告は,平成19年6月頃,本件システムの開発を行うことにした。本件システムの開発は,初めてハードウェアとソフトウェアの双方を原告で製作する計画であった。なお,本件システムの構想は,もともと,株式会社正善(以下「正善」という。)が原告に持ち込んだものであった。
原告は,トリプルワンに対し,本件ハードウェアの製作を委託しようと考え,本件システム開発について相談していた。
(甲6,甲22・1頁,甲23,乙27の2・3,乙89・6頁)
イ トリプルワンは,被告に対し,4月22日,「DIGI製 Zigbee」「TI製 Zigbee」「無線LANモジュール」のいずれかから通信方式を選定中であり,それらを被告が扱うことができるかどうかなどについて問い合わせた。同電子メールには,「6月中旬には通信テストがしたいと思います。」「同時に500ユニットを稼働する可能性あります。稼働実績で公表できるものはありますでしょうか」との記載がある(乙26,乙89・5頁)。
ウ 本件システムの概要がまとまり,製作に係る見積りを行うという段階になって,トリプルワンが本件ハードウェアの開発を受託することができないこととなった。そのため,原告は,トリプルワンの紹介で,他者に本件ハードウェア開発の見積りを提出してもらい,開発を委託する者を決めることにした。(甲6,甲22・1頁,甲23)
トリプルワンは,被告に対し,4月25日,開発案件の資料を添付するとして,本件機能要件書Rev0.8の電子データを添付した電子メールを送信し,本件ハードウェアの開発の委託の案件を被告に紹介した。トリプルワンは,同電子メールで,被告に対し,原告が,① 開発費を3000万円とすること,② 製品の単価は,通信ユニットを1万円,表示ユニットを3000円とすること,③ 6月に通信ユニットとサーバー側の通信テストをし,7月に本件システムのデモンストレーション(システムデモ)を行うことをそれぞれ希望しているが,現実的ではないかもしれないと伝えている。なお,APやコーディネーターに係る機能要件書は送付されていない。(乙27の1から3まで,弁論の全趣旨)
エ 本件機能要件書Rev0.8は,作成日付が4月21日とされているところ,表示ユニット,通信ユニットのいずれについても,通信規格はジグビーとすること,伝送距離を100m以上とすることが記載され,表示ユニットについては,その装着部について「要検討」と記載され,通信ユニットについてGPSの精度を「1m以内(95%)とし,測位速度を「1秒以内」とすることが記載されている(乙27の2及び3)。
オ 原告は,同月25日,要件定義書2を作成した。同書では,通信方式について,無線LAN,ジグビーの2方式を検討することとされている。(甲7)
カ 被告は,トリプルワンに対し,5月19日,本件ハードウェアの開発について,開発費用2000万円,金型製作費500万円,試作製作費(20セット)100万円など合計2940万円(消費税込み)とする見積書を送付した。同書では,納期は「別途相談」とされ,開発スタート時に見積り金額の半額を先払いすることとされている。(乙28,乙89・9~10頁)
キ トリプルワンは,原告に対し,5月19日,被告を含む三者からの見積りをまとめた表(甲8・添付資料1)を提出した。同表では,被告の見積りについて,開発費が3250万円,開発期間は「別途相談」とされている。なお,上記見積金額には,トリプルワンの費用や利益が含まれていた(証人D・45,46頁)。
原告は,三者の見積りを比較した結果,本件ハードウェアの開発を被告に委託することに決定した。
ク 被告は,原告に対し,6月10日,Eが作成した「GolfPlayMate 機能要件書」と題する書面(乙29)を交付した。同書には,表示ユニットについて,「サイズ,防水性はデザインに依存するため現段階では未定とする」などの記載があり,通信ユニットについて,伝送距離は100m~200mとすること,サイズはデザインに依存するため現段階では未定とする,GPS精度は10m以内(5m程度を目標とする)とするが,モジュールの性能に依存するため精度は保障しないなどの記載があり,その他,APやコーディネーターについての記載がある。他方,同書には通信規格の記載はない。(乙29,乙89・10頁)
ケ 被告は,原告に対し,6月10日,表示ユニットと通信ユニットとを分離しないで一体のものとすること(この場合の,本件システムに係るハードウェアを,以下「一体型」といい,これとの対比で,本件ハードウェアのように分離するものを「セパレート型」ということがある。)を提案し,同月17日には,一体型に係る見積書を原告に送付した。同書では,デザインが未完であることを理由として,金型に係る見積金額は「別途」とされている。また,同書には,① 初期費用として500万円の支払をすること,試作30台完成時に500万円の支払をすること,250台の量産が開始された時点で成功報酬1000万円の支払をすること,② 受渡しの期日は別途打合せにより定めることが記載されている。(乙30,乙89・11頁)
コ Eは,原告に対し,「GolfPlayMate 機能要件書(通信ユニット/表示ユニット一体化バージョン)」と題する書面(乙32)を交付した。同書面では,通信ユニットについて,伝送距離を200~300mとすること,GPS精度を10m以内(3m程度を目標とする。)とすること,サイズはデザインに依存するため現段階では未定とすることなどの記載がある。他方,同書面でも,採用する通信規格についての記載はない。(乙32)
サ その後,原告担当者は,Dに対し,一体型の提案は了承できない旨回答した。
シ 被告は,原告に対し,7月4日,本件ハードウェアの開発費を,開発費用2000万円,試作製作費(30セット)90万円など合計2190万円(税込み)とする旨の見積書を送付した。同書では,① 納期は別途相談して決めること,② 初期費用として500万円を支払うこと,③ 試作30台完成時に1500万円を支払うこと,④ 開発中断の場合,支払われた対価については返金しないことがそれぞれ記載されている。同書では,金型についてデザイン未完のため見積りがされていない。(乙1,乙89・13頁)
ス 7月29日には,被告は,原告に対し,本件ハードウェアの開発費を,開発費用(試作)1000万円,開発費(量産試作)500万円,開発費(量産完成時)500万円の合計2000万円(税込み)とする旨の新たな見積書を送付した。同書には,① 納期は別途相談して決めること,② 初期費用として500万円を支払うこと,③ 試作完成時,量産試作完成時,200セット完成時にそれぞれ500万円を支払うこと,④ 開発中断の場合,支払われた対価については返金しないことが記載されている。(乙7,乙89・14頁)
7月31日に,Cは,Dに対し,上記見積書の見積り番号を引用した上で,① 同見積書に基づいて,開発費用(試作)一式1000万円の部分を仮発注すること,② 初期費用として500万円を8月10日に支払う予定であること,③ 残金は試作に対する検収の完了後とすることなどが記載された電子メールを送信した。(乙36)
セ 原告と被告は,7月31日付けで,本件基本契約を締結した。本件基本契約書(乙2)には,以下の定めがあった(乙2,乙89・13頁,弁論の全趣旨)。
(ア) 原告は,ソフトウェア,ハードウェア等の開発を被告に委託し,被告はこれを受託して完成した上,成果物を原告に引き渡す。(2条)
(イ) 被告は,原告から委託された開発の成果物を個別契約に定められた納期に納入する。(5条)
(ウ) 個別契約は,原告から被告に注文書を交付し,被告がこれを承諾したときに成立する。被告は,原告の注文書を受領した日から起算して3営業日以内に,その諾否を原告に通知するものとする。ただし,3営業日以内に諾否の申し出がない場合,個別契約は自動的に成立する。(6条)
(エ) 個別契約成立後,原告から開発変更の指示等があった場合,被告は,必要に応じて再見積りを行い,注文書の再交付後,再契約を行うものとする。(7条1項)
ソ Eは,本件契約締結までに,ジグビーモジュールにより,700mまで伝送距離を伸ばすことができることを確認し,その旨を原告担当者に伝えたが,原告担当者は,Eに対し,性能の良いアンテナであれば,1kmまで伝送距離を延ばすことができるのではないかと述べ,さらに伝送距離を延ばすことを要望した。しかし,原告と被告及びEとの間で,伝送距離を仕様として,具体的な数値で定めることはなかった。
なお,本件システムでは,通信ユニットの伝送距離を延ばすことができれば,それだけゴルフ場に設置するAPの数を減らすことができ,本件システムを販売する上で有利となるものであったが,原告から被告に対し,本件契約締結までに,APの設置数を具体的にどのようにするかについて明確な要望は示されていなかった。(乙39,乙40,乙61・2枚目,乙89・19頁,乙88・5,6頁,証人E・15~16頁,弁論の全趣旨)
タ そして,8月8日には,原告と被告との間で,本件システムの開発に関し,本件覚書(甲1)が作成され,本件契約が締結された。
なお,原告と被告との間で,本件契約を締結するまでに,本件ハードウェアの仕様に関して具体的に取り決めた文書を作成したことはなかった(証人C・40頁,弁論の全趣旨)。
(2) 本件契約締結後の経緯
ア Eは,原告の担当者に対し,9月8日,ジグビーモジュールのメーカーであるJennic社(以下「ジェニック社」という。)の技術者から,同月9日に,技術的なサポートを受ける約束がとれたこと,基板の製作を開始しているが,ケースデザインが決まっていないため,基板は大体の寸法で作っており,最終版はケースデザインが決まってから再度作り直すことになることなどを報告するとともに,原告に対し,ケースデザインのデザイナーの選定の進捗はどうなっているかを尋ねた。これに対し,原告の担当者は,デザイナーの件は再度確認するなどと回答し(乙41,乙70),その後,原告において,デザイナーとの打合せの日時を調整して,Dへ連絡をしている(乙42,乙89・21頁)
イ Eは,原告に対し,9月10日,ジェニック社との打合せの結果に基づき,本件システムをすべてジグビーで実現するのは,接続台数が多すぎて問題があること等から,通信ユニットと表示ユニットとの間の通信は,ジグビーではなく,315MHz帯域の無線を利用すること等の新しい案を提案した。加えて,Eは,原告に対し,ジグビーのモジュールに組み込まれる制御ソフトウェアの新バージョン(以下「新プロジェクト版」という。)が販売される見込みであり,新プロジェクト版では通信接続をすることができる台数が増える予定であること,どの程度増えるかについては確認してもらっていることをそれぞれ報告した。(甲8・添付資料9,乙88,89)
なお,9月20日には,被告から原告に対して,第1納品物が納品され,同月30日付けで,原告は,被告に対し,本件システムに係る試作機についての納品・検収が完了した旨の検収完了報告書(乙5)を交付した。第1納品物は,市販のケースを使用しており,また,その時点では,原告が製作する予定のコーディネーター側のソフトウェアも完成しておらず,第1納品物には,GPS機能は搭載されていなかった(乙89・16頁)。
ウ 原告,被告,E及び賀風デザインは,10月6日,打合せを行い,開発コンセプトの確認に始まり,表示ユニットの保持の仕方を腕時計タイプとするか,バッジタイプとするか,腕時計タイプとする場合には,表示を液晶とするか,表示はなくボタンのみとするか,液晶表示とするには,耐衝撃性等が保証された腕時計用液晶表示ユニットが必要となり,その場合,表示ユニットのサイズが変わることなどについて話合いがされた。そして,今後の予定として,賀風デザインが,原告に対し,デザインに係る費用の見積りを,同月10日までに提出することなどが決定された。
(乙8)
エ 原告及び被告は,10月7日,同時多数通信の性能が向上した新プロジェクト版の提供が11月中には開始されるとの報告がジェニック社からされたことを受け,本件ハードウェアのジグビーモジュールには新プロジェクト版を用いることにした(乙89・22頁,弁論の全趣旨)。
オ Eは,Cに対し,10月8日,基板の寸法図を送付したが,その際,寸法図は,ケースデザインのことを考慮して描いたものではないこと,耐衝撃性や,防水性を考慮した場合,一回りくらい大きくなることが予想される旨伝えた。(乙44,乙89・21頁)
カ Eは,前記イのとおり,原告に対し,ジグビーによる通信を減らすため,表示ユニットと通信ユニットとの間の無線通信をジグビーではなく,315MHzにより行う案を提案していたが,当該提案は,従前の仕様と異なるため,新たな作業等が必要となることから,被告は,原告に対し,追加の開発費を支払うよう求めることとした。
そのため,被告は,原告に対し,10月8日,量産試作機Ⅱの開発費用を300万円とする見積書を送付した。同書には,見積項目として,① クレイドルユニット開発費(通信ユニット 追加仕様),② 300MHz通信ユニット開発費(通信,表示ユニット 変更仕様),③ 音声ユニット開発費(通信ユニット 追加仕様)との記載があり,また,④ 量産試作機Ⅱの初期費用として100万円の支払が必要であること,⑤ 開発中断の場合,支払対価については返金しないものとすることなどが記載されている。(乙50,乙88・13~14頁,乙89・22,27頁)
キ ところで,10月頃になると,ケースデザインの準備やプログラムの開発等が遅れており,量産試作機が早期に完成することは困難であることが明らかであったため,原告から被告に対して,先行して,営業用試作機を製作するようにとの依頼がされていた。(乙89・23頁)
そして,Dは,Cに対し,10月22日,「先の電話にて,11月検収で問題ありませんとの,ご連絡を頂きましたが,その趣旨を○○様へお伝えした所,確認依頼が御座いました。」,「検収のための,10セットに関して(売り込み用)」「ケースが出来上がらない場合,ケース用の基板作成ができないので,11月に完全な売り込み用の製品を収める事が出来ない可能性があります。」「例えば,デザイナー様にお願いする販売用のケース用ではなく,今回作成した基板で完全動作するものをお納めし,検収をあげて頂く事は可能でしょうか?(基板のみでケースなし)」との電子メールを送った。(甲8・添付資料2)
ク Cは,Dに対し,10月23日,上記キの電子メールへの返事として,「お支払いの問題につきましては一生懸命作業していただいているE様が困らないように対応いたします。ただ,ご承知のように販売を急いでおりますのでケース(営業用)作成がいつできるかは別の問題がございます。」「本日,グラフィックデザイナーのG氏と打合せを行い作業依頼をする予定です。結果ご連絡いたしますので,速やかにケース作成開始・完了するにはどうすればいいのかお力をお貸しください。」との電子メールを送った(甲8・添付資料3)。
ケ Cは,Eに対し,同月23日,「当面の営業用表示ユニットに関してイメージデザインを本日11:00にG氏(グラフィックデザイナー)に依頼しました。」「G氏は次の日曜日(10月26日)の深夜までにはイメージをC宛にMAILにて送付いただける予定です。」との電子メールを送った(乙9)。
コ Cは,D及びEに対し,10月27日,Gが作成した表示ユニットのイメージ画を送った(乙10,46)。
サ Eは,Cに対し,10月28日,上記イメージ画について,① イメージ画のボタンの位置からすれば,イメージ画より横幅が大きい装置ができることになる,② イメージ画からすると防水性を考慮したボタンではないようだが,防水性はなくてもよいか,③ イメージ画の液晶の表示内容が,現行のものと異なるが,イメージ画に合わせて液晶の表示内容を修正してよいかなどといった電子メールを送った(乙10)。
シ Cは,Eの上記電子メールに対し,10月28日,今回の営業用試作に関して,現行の機器内容を修正することは考えていないとの電子メールを送った。その際,Cは,「販売開始が目前となり,いろんな意味で大変な時期を迎えました。あと少し,なにとぞご協力のほどお願いいたします。」と伝えた。(乙11)
ス Cは,Dに対し,10月29日,「昨日お話しました件で,営業用のハードの件 お打合せの内容でお願いいたします」「1 ケースは市販品を使用。よって形状が小さくなくてもかまわない。2 基板も現行と同じものを使用。」との電子メールを送った(乙12)。
セ 原告は,11月に入って,表示ユニットと通信ユニットとの間の無線通信を315MHzにより行う案を採用することにした。そこで,被告は,原告に対し,同月10日,量産試作機Ⅱの開発費用を300万円とする旨の見積書を送付した。同書には,量産試作機Ⅱの初期費用として100万円の支払が必要であること,開発中断の場合,支払対価については返金しないものとすることなどが記載されている。(乙13,乙45,乙88・13,14頁,乙89・22,27頁)
ソ Cを含む原告担当者,D,E,賀風デザインの担当者及び正善の担当者等は,11月12日,打合せを行った。同打合せでは,製品の納品期限を平成21年3月1日とすること,ケースデザインに係るラフデザインを11月末日までに作成し,ケースデザインを12月15日までに決定すること,量産試作機を同月末日までに製作することなど本件システムの生産スケジュールについて話し合われた。同スケジュールは,打合せ議事録に記載されているところ,ケースデザイン等を含む量産試作の担当者は,被告,E及び賀風デザインと記載されている。他方で,製品デザインの最終決定者は,正善のF及びCと記載されている。(甲8・添付資料4)
タ Cは,被告に対し,11月13日,前記セの見積書の見積り番号を特定の上で,当該内容で量産試作機Ⅱの開発を発注する旨,ただし,支払方法は,別途書面で定める旨の連絡を電子メールでした。(乙14)。
チ Cは,11月14日,被告,E及び賀風デザインに対し,同月12日の打合せに係る上記ソの議事録を送信した(甲8・添付資料4)。
ツ 賀風デザインの担当者は,11月17日,原告担当者に対し,同月12日の打合せに係る議事録に記載された製品の納期やスケジュールについては,目標ということで確認しているとの電子メールを送った(甲8・添付資料5)。
テ 原告の担当者は,11月18日,被告,賀風デザインらに対し,上記電子メールへの返答として,① 製品の納期を平成21年3月1日とすることは目標であることに違いはないが,納期を確認し,これを必ず達成することを全員が認識し,そのために何をしていくか,意識を合わせることを目的とするために打合せに集まってもらった,② 原告としては,上記納期をただの目標として掲げていないとの電子メールを送った(甲8・添付資料5)。
ト Dは,Cに対し,11月19日,上記の電子メールへの返答として,① 同月12日の打合せの議事録に記載のとおり,量産試作機のラフデザインを12月の第一週にレビューするために,11月末までに,Eから基板仕様を賀風デザインらに提示することは了解した,しかし,② 従前の打合せでは,Eが,同月末に基板の仕様を提示することは難しいとのことであったため,Eからの基板の提示は12月末くらいになると認識していた,③ 11月末に提出できる基板は,300MHzの検証中の動く根拠のない基板となると思うが,その基板で強引に進めるのか,との電子メールを送った(甲8・添付資料5)。
ナ Cは,Dに対し,11月20日,指摘の件もあるので,もう一度賀風デザインを交えたすり合わせをしたいと考えているとの電子メールを送った(乙52)。
なお,同日,被告は,営業用試作機の趣旨で,本件納品物2を原告に納品した。(乙6,乙48)
ニ 原告は,従前,表示ユニットの液晶は市販のものを利用することにしていたが,液晶をカスタマイズすることを検討することとし,Dに対し,市販の液晶の単価に係る資料の提出を求めた。12月1日に,Dは,Cに対し,同資料を送付した。(乙60,乙89・32頁)
ヌ 原告の担当者であるHは,Eに対し,12月4日,「当方はデモ版製造が一段落し,ようやく本体の開発に入ることができるようになりました。」「本日送ります資料は,PCとコーディネータおよびPCとオフライン装置(クレイドル)間の通信電文案です。数ヶ月前の改善案に改良を加えたものです」との電子メールを送った(乙51)。
ネ Cを含む原告の担当者,E及び賀風デザインの担当者は,12月5日,打合せを行ったところ,同打合せにおいて,デザインイメージを「レジャー・おしゃれ感」のあるものとすることが決定された。また,Eは,現在の仕様で製作を進めた場合,基板の外形寸法が決定できるのは早くても平成21年1月末であるとの意見を述べた。原告の担当者は,開発日程を考慮し,一体型の再検討をすることとした。(乙54の2)
ノ Cを含む原告担当者,賀風デザインの担当者等は,12月9日,打合せを行ったところ,同打合せにおいて,表示ユニットは,腕時計のようなデザイン以外のものにすることに決定した。これを受け,賀風デザインが,同月19日の打合せまでにレンダリング案を作成することになった。設計については,賀風デザインの担当者がEと連絡を取り,その結果をレンダリングに反映させることとされた。(乙54の3)。
ハ 11月20日に納品された第2納品物に関して,原告担当者は,D及びEに対し,12月9日,「デモ機器のテストを実施しました。」として,スイッチ部品の不良があった1台を除いてすべて良好に作動したこと,第1納品物に比較して接続状態が良いことを電子メールで報告した(乙48)。
ヒ 原告の担当者,D及びEは,12月11日,打合せをしたところ,Eは,300MHzの通信はできているが,検証の期間が足りないとして,① 納期優先で3月に間に合わせる場合には,一体型を先に作り,第一ユーザー,第二ユーザーくらいまで一体型で機能を検証し,その期間にセパレート型に移行していくことが考えられ,その場合単価が下がるなどのメリットがあること,② あくまでもセパレート型での開発を進めるのであれば,納期を延ばしてもらう必要があることを述べた(乙56の3,証人D・43頁,証人E・32,33頁)。
フ Dは,Cに対し,12月16日,年内に検収の社内処理を終わらせたいため,3回目の検収を今週中にお願いしますとの電子メールを送った。これに対し,Cは,同日,11月末日の検収の件は承知しています,今しばらくお待ちくださいとの電子メールを返した。(乙49)
そして,12月18日には,原告から被告に対し,第2納品物に関する検収完了報告書(乙6)が交付された。
ヘ 原告担当者,D及びEは,12月25日,打合せを行ったところ,Eから,① 技術的問題として,ジグビー,GPSの検証を行う必要があること,② 今後のスケジュールとして,一体型の場合は,平成21年3月に量産試作機を製作すること,セパレート型の場合は,同年6月に量産試作機を製作すること,いずれについても,同年1月に1kmのモジュールテストを,同年2月から3月にジグビーやGPSの実験を行うことなどの見通しが示された。(乙61)
ホ Dは,Cに対し,12月26日,原告担当者が液晶のカスタマイズについて業者と相談する際の参考資料とするための回路図を送付するとともに,同回路図は,量産時の製品とは部品や基板配置を大幅に変更することを伝えるようにと電子メールした。(乙53)
マ Cは,Dに対し,平成21年1月9日,液晶のメーカーを紹介してもらえることになったことを伝えた(乙67)。
ミ この頃までには,最終的に,原告は,一体型案は採用しないこととした。
ム 賀風デザインの担当者は,平成21年1月15日,C,D,Eらに対し,ケースデザイン案を送付し,同月16日には,その修正案を送付し,同月30日には,基板外形寸法を送付した(乙62~64まで)。
メ Cは,DやBに対し,平成21年2月3日,本件ハードウェアの製作の現状を文書にして報告するよう求めた。
Dは,Cに対し,同月4日,本件ハードウェアの製作の現状をまとめた文書(甲8・添付資料10)を作成し,送付した。同文書によれば,現在の状況として,表示ユニットや通信ユニットについて,無線通信が700mまで達することを確認していること,300MHzの通信についてはテストボードを製作済みであることなどが挙げられているが,今後行わなくてはならないこととして,300MHzの通信テスト,通信回路設計,音声再生回路設計,GPSのアンテナ調整後の精度検査,液晶の選定に合わせた基板のサイズの検討,ジグビーによる同時多数通信の確認が挙げられている。(甲8・添付資料10の6枚目)
モ 賀風デザインの担当者は,C,Dらに対し,平成21年2月9日,ケースデザイン案を同月20日又は19日夕方に納品することを目指して作成中である旨伝えた(乙69の1)。
ヤ 平成21年1月下旬から2月上旬ころには,原告は開発の遅れに不満を持ち,被告は第2納品物に係る支払がされないことに不満を持っていたことを契機として,原告と被告の双方とも,これ以上は契約を続けることができないと考えるに至り,同月10日,Cが被告を訪問した際に,本件契約を解消する旨が伝えられ(甲22・5頁,乙89・34頁),以後,被告において,本件システムの開発作業は行われないようになった。
ユ ジグビーの新プロジェクト版は,前記エの予定どおりには提供されず,その提供が開始されたのは,実際には,平成21年1月か2月ころであった(甲8・添付資料10,乙89・22,23頁,証人D・17,43,44頁)。
2 本訴請求について
前記第2の2(前提となる事実)及び前記1で認定した各事実をふまえて,本訴請求の当否について,検討する。
(1) 本件契約の性質,開発費を返還しない旨の合意の成否について(争点1,争点2関係)
ア 契約関係書類上の記載内容
まず,本件契約に関して原告と被告との間で締結された書類上の記載については,次のとおりである。
(ア) 原告と被告との間で締結された本件覚書の1条2項には,原告は,被告に対し,本件システムのハードウェア開発が完了し,原告の検収が完了した時点で総額2000万円を開発費として支払うものとすると定められている(前記第2の2(2)ウ)。
(イ) 他方で,本件覚書の2条では,開発費の2000万円が開発の着手,試作機,量産試作機及び完成機の各検収完了といった各段階においてそれぞれ500万円ずつが支払われると定められている(前記第2の2(2)エ)。
(ウ) 本件覚書においては,上記(イ)の試作機,量産試作機及び完成機の納品についての履行期が定められておらず,また,最終的な完成についての履行期も定められていない(前記第2の2(2)キ)。
イ 開発の困難性
また,以下の諸事情のとおり,本契約締結当時,本件ハードウェアの開発には,開発上困難な問題があり,その解決策について,被告やEには,具体的な目処がなかったと認められる。
(ア) 原告は,本件ハードウェアの通信をジグビーにより行うことを要望していた(前記1(1)イ,エ,甲7)が,ジグビーは,通信距離が短く,大量のデータを送信することには不向きであった(前記第2の2(5))。
(イ) 本件システムは,ゴルフ場でプレイしている200人のプレイヤーに対して,ピンやグリーンエッジまでの残ヤード,打ち込み注意や雷発生等の警告といった様々な情報を提供することを目的としており(前記第2の2(2)),その実現のためには,大量のデータを長距離で送信することや,同時に複数の通信をすることが必要となるものであった(乙89・4,5頁,証人E・15,16,23頁)ため,上記のような欠点をもつジグビーを用いて,いかにして長距離通信や同時多数通信を可能にし,本件システムの機能を実現するかは,被告やEの創意工夫により克服すべき課題であった。
(ウ) 他方,本件契約締結時において,その課題をいかにして達成するかについて,被告及びEには,具体的な方策の目処がついていなかった。
(エ) 上記(イ)のような課題が存在し,また,上記(ウ)のとおり,その解決の目処がついていなかったことを背景として,被告が,原告に対し,開発が中断した場合に費用を返還しない旨が記載されている見積書を提出している(前記1(1)シ,ス)ものと推認される。
ウ 開発中断の場合における支払済みの対価の取扱いに係る当事者の認識
さらに,開発が中断した場合の対価の扱いについて,原告と被告との間に合意があったかどうか及びその内容に関しては,本件契約の締結の経過として,次の各事情があることが認められ,これらの事情を総合すれば,原告と被告との間では,開発が中断した場合でも,それまでに支払われた対価については返還しないものとすることが,前提とされていたものと解するのが相当である。
(ア) 被告は,原告に対し,本件契約締結前に本件ハードウェア作成に係る見積書を複数提出しているが(前記1(1)カ,ケ,シ,ス参照),それらの内容を見ると,初期費用として一定の金額を支払うこと,試作の完成により総額の一定部分の金額を支払うことが記載されているほか,最終的な量産開始時における残額の支払について「成功報酬」との記載がされているものがあること等からすれば,被告が,本件ハードウェアの製作には困難が伴うため,その完成を約束することができないとの認識を有していたことが認められ,それらの見積書を受領していた原告においても,被告がそのような認識を有していることを認識していたものと推認することができる。
(イ) また,被告が原告に送付している見積書の内容の変遷(前記1(1)カ,ケ,シ,ス)からすれば,開発費の総額や,その支払時期について,原告と被告との間で交渉が重ねられていたことが認められ,これを反映して作成された7月29日の見積書(乙7)に記載された開発費用の金額やその支払時期は,その記載の通り,原告が案文を起案した本件覚書に記載されていることが認められる(前記第2の2(2)エ,前記1(1)ス,乙37)。
(ウ) さらに,被告から原告に対し送付された複数の見積書(前記1(1)シ,ス,(2)カ,セ)に記載されている開発中断の際に対価を返還しない旨の文言は,本件覚書には記載されていないものの,Cは,当該見積書上の文言を認識しつつも,被告に対し,何ら異議を述べることはなかったことが認められる(証人C・39頁)。
(エ) 以上の事実によれば,被告は,本件ハードウェアの製作が容易なものではなく,完成に至らない場合においてもそれまでの作業に対し一定の費用を支払うことを求めていたこと,原告も被告の意図を知りつつ支払条件の交渉をしていたことが認められ,そうした交渉の結果作成された本件覚書(甲1)は,開発中断の際に対価を返還しない旨の定めこそないが,そのことを当然の前提として作成されたものであると認めることができるというべきである。
なぜならば,仮に,原告の主張するように,本件覚書に開発中断の際に対価を返還しない旨の定めがないことが,原告と被告との交渉の結果,開発中断の場合には対価を返還することが前提とされていたためであれば,原告としては,開発費や支払時期と共に,本件覚書にその旨の記載をしてしかるべきであるし,少なくとも,その後に,被告から原告に対して,開発中断の際には支払済みの対価の返還をしない旨が記載されている量産試作機Ⅱに係る見積書(乙50,乙13)を再度送付してきた際には,原告において,そのことに異議を述べるのが自然であると思われるが,Cは,何らそのような異議を述べずに,当該見積書に基づいて発注をしている(乙14)のであり,そのようなCの行動は不自然であるといわざるを得ないからである。
エ 履行期の合意の有無
本件契約時において,本件ハードウェアに係る量産試作機や完成機の完成・引渡しに係る履行期の合意があったかどうかについて,以下の事情に照らせば,原告と被告との間に,一定の時期をそれらの履行期とする合意が成立したとは認められないと解するのが相当である。
(ア) 本件工程表には,本件ハードウェアの量産試作機や完成機の納期に相当すると解される日付の記載があるが,① 本件工程表が原告に交付された後に作成された本件覚書には,量産試作機や完成機の納期について何ら定めがなく(前記第2の2(2)キ),② 被告が,原告に対し,契約締結前に交付していた見積書にも,それらの納期については別途相談と記載されているにすぎない(前記1(1)カ,ケ,シ,ス)。
(イ) また,本件ハードウェアの表示ユニットや通信ユニットはケースデザインがどのようなものになるかによって,その内容や形状が変わってくるため,ケースデザインが決まらなければ,被告が製作すべき表示ユニットや通信ユニットの内容や形状が定まらないところ,本件契約時にはケースデザインは定まっていなかったし(前記1(2)モ),原告が賀風デザインにデザインを発注した経緯(前記1(2)ア,ウ等)から明らかなとおり,被告がケースデザインを作成することとされていたわけでもなかったのであるから,被告による開発の進捗は,外部要因によって左右されざるを得ないものであった。
(ウ) Dは,本件工程表は,Cから本件ハードウェアの製作に係るスケジュールの提出を求められたところ,Dがこれを一度断ったにもかかわらず,それでは困るから最短の見積りを出してほしい旨Cから再度求められて作成したもので,本件ハードウェアの製作が特段の問題なく最短で進んだ場合のスケジュール又は製作のために最低限必要な工程を記載したものにすぎない旨を陳述・供述し(乙89・14頁,証人D2~4,22,23,40,41頁),本件工程表を作成したEも,同表は,工程管理のための目安である旨を供述しており(証人E・2頁),それらの陳述や供述が不合理であるとまではいえない。
(エ) 以上に照らせば,本件工程表が,量産試作機や完成機の履行期を定めるものであるとの原告の主張は採用することができない。そして,他に,本件契約締結時において原告と被告との間に一定の時期をそれらの履行期とする合意が成立したことを認めるに足りる証拠はない。
オ 本件契約の性質等について
以上で検討したところによれば,① 本件契約締結当時,本件ハードウェアの製作には開発上困難な問題があり,その解決策について,被告やEに具体的な目処がなかったこと(前記イ参照),② 原告と被告は,本件ハードウェアの製作が途中で頓挫した場合でも,それまでに支払われた対価を被告が原告に返還する必要はないとの前提で本件契約を締結したこと(前記ウ参照),③ 本件契約締結時において,本件ハードウェアの量産試作機や完成機の完成・引渡に係る履行期の合意がされたとは認められないこと(前記エ参照)がそれぞれ認められる。
これらの事情に加えて,前記アの契約関係書類上の記載を総合考慮すれば,本件契約は,① 被告が,原告に対して本件ハードウェアの量産試作機や完成機の製作を約するものではなく,それらの開発・完成を目指して被告が善管注意義務を尽くして,開発作業を行うことを内容とするものであったこと,② そのために,開発着手及び試作機の製作までの作業に対して1000万円の対価が支払われること,③ 量産試作機や完成機を製作することができなかったとしても,それまでに支払条件を充足し,対価の支払を受け取っている部分については,その返還を要しないことをそれぞれ内容とする契約であったと認めるのが相当である。
カ 本件契約の性質等に係る原告の主張について
上記オの認定に対して,原告は,これに反する種々の主張をするが,いずれも,採用することができないと考えられる。その理由の主たるところは,以下に述べるとおりである。
(ア) 原告は,本件契約は,あくまでも本件ハードウェアの完成に対して2000万円を支払うこととするものであり,一部分の代金を完成前に支払うこととされたのは,Cが被告の便宜を図って先払いをすることとした旨を陳述・供述するが(甲22・1,2頁,証人C・4頁),前述のとおり,本件覚書の締結に先立って交付された各見積書の記載と,これに対するCの対応ぶりに照らせば,上記陳述等は,たやすく信用することができない。
(イ) 原告は,本件基本契約書2条において,原告は,機器及びコンピュータ・ソフトウェア,ハードウェア等の開発を被告に委託し,被告はこれを受託して完成させた上で,その成果物を原告に引き渡す旨が定められており,この定めによれば,原告の主張が相当であると主張する。しかしながら,基本契約書は,個別具体的な契約とは離れて作成されるものであり,同書の規定からしても,本件基本契約書2条でいう成果物が,本件契約における本件ハードウェア全体を指すのか,その途中の試作機等を指すのか,その意味を確定することはできない。したがって,本件基本契約書2条の存在から,直ちに,本件契約が原告の主張する意味での請負契約であるということはできない。
(ウ) 原告は,原告には,本件ハードウェアの通信規格がジグビーでなければならないとの意向はなく,本件ハードウェアが完成すれば,通信規格はどのようなものでもよかったと主張する。しかしながら,原告は,トリプルワンとの間で本件ハードウェアの開発を進めている間にもジグビーを採用することを検討していたこと(乙26),本件契約締結までに原告から被告に交付された本件システムに係る最後の資料である本件機能要件書Rev0.8には,通信ユニットや表示ユニットの通信規格をジグビーとする旨記載されていること(乙27の2及び3),ジグビーによる無線通信が,本件契約当時,世間で流行しており,通信規格として今後広く普及することが期待されていたため,これを採用するほうがよいと考えていたこと(甲22・3頁,乙89・4頁,証人E・6頁),確かに,要件定義書2には,通信方式としてジグビーのほかにWiFiも記載されているが,同書が被告に交付されたことを認めるに足りる的確な証拠はないこと(そもそも,本件要件定義書は,本件機能要件書Rev0.8に比して,本件ハードウェアの内容に係る記載が乏しく,また,その題名(「ゴルフ場無線通信インフラ構築についての要件定義」)に照らしても,本件機能要件書Rev0.8とは異なり,本件ハードウェアの仕様について記載することを主たる目的とするものではないと推認される。),また,Cは,ジグビーが本件ハードウェアの製作が遅れている原因の一つであることを認識しながら,ジグビー以外の通信方式を採用するよう求めたことはないこと(証人C・41頁)からすれば,原告は,被告に対し,本件ハードウェアの通信規格にジグビーを採用するよう求めていたものと認めるのが相当であり,原告の主張は採用することができない。
(エ) 原告は,本件契約が成立した当時,市場には本件システムと類似する先行商品が既に多数存在していたこと,原告は他に依頼して本件システムを短期間のうちに完成させていることからすれば,ハードウェア製作の専門家である被告が,本件ハードウェアを製作するに当たり何ら困難な点は存在しないなどと主張する。しかしながら,原告が類似商品として指摘する各商品(甲11)は,いずれも,①本件ハードウェアで目指されていたセパレート型のものではなく,② ジグビーを通信方式として採用するものでもないと考えられる上,先行商品が存在していても,その開発に必要な技術や情報のすべてが明らかとなるわけではないと思料されることからすれば,本件システムと類似する機能を有する先行商品が複数存在していることから,直ちに,本件ハードウェアの製作が困難ではないと解されることにはならない。
(オ) 原告は,他の会社等によって本件システムを短期間のうちに完成させたのであるから,本件システムの製作は,何ら困難ではないと主張する。しかしながら,前記1で認定した事実経過に照らせば,本件契約締結時には,ケースデザインも定まっておらず,表示ユニットの液晶についても,その後にカスタマイズすることが検討されるに至ったものであり,これらの事情も被告による開発が円滑に進まなかった原因の一つであったと解されることからすると,本件契約締結時と,原告が他の会社等にシステムの製作を依頼した時点とでは,原告による開発依頼内容の具体性・特定性が全く異なっていたと考えられるから,両者を単純に比較することはできないことは明らかであって,原告の上記主張は,採用することができない。
(カ) 原告は,被告から本件ハードウェアの開発に係る見積りの提出を依頼する際に,本件要件定義書を交付しており,同書によれば本件システムの概要について十分理解することができるから,被告は,本件ハードウェアの開発をすることが十分に可能であったはずである旨の主張をする。
しかしながら,本件ハードウェアの製作は,既存の通信規格による部品等を組み合わせて行うものであるから,その性能自体に限界がある場合には,当該部品を用いての開発を行うことができない場合も当然あることになる。さらに,本件事実経過に照らせば,本件ハードウェアについては,① 開発を急ぐために,セパレート型を断念して,一体型に切り替えるかどうか,② ケースデザインとして,どのようなものを採用するか,③ 通信ユニットの液晶を,市販のものにするか,カスタマイズをするか等の点について,開発を進める過程において,原告と被告との間でも,様々なやり取りがされ,方針が変更されるなどしていることがうかがわれ,本件契約締結時においては,本件ハードウェアについては,その用途や機能自体は明確であったとしても,どのようなサイズ・形状・規格・性能を有するものを製作するのかについては,具体的・確定的に定まっていなかったといわざるを得ない。
そうすると,本件のように,ジグビーという一定の機能上の限界を有する通信規格を使用しての開発であって,また,製作すべき物の内容が具体的・確定的でなかったものについては,本件ハードウェアの概要(すなわち,本件ハードウェアに係る原告の主要な要求仕様)が定まっており,それを被告が理解していたとしても,仕事の完成を約することができないということは十分に考えられる。
よって,原告の上記主張も採用できない。
(キ) 原告は,被告が交付した本件工程表は,本件ハードウェアの量産試作機や完成機の履行期を定めるものである旨主張するが,前記エで述べたとおり,本件工程表が,量産試作機や完成機の履行期を定めるものであるとの原告の主張は採用することができない。
(ク) なお,原告は,原告と被告との11月12日の打合せにおいて,量産試作機の納期が12月31日とされたとの趣旨の主張もする。
確かに,11月12日に行われた打合せの議事録には,製品生産のスケジュールが記載され,その中で,量産試作機の製作が12月31日までと記載されていることが認められ,同日を納期とした旨のCの陳述がある(前記1(2)ソ,甲22・3頁)。しかしながら,同打合せの議事録について原告担当者,賀風デザイン担当者及びDの間でされた電子メールのやりとりの内容(前記1(2)ツ~ナ)からすれば,同打合せにおいては,その議事録記載のとおりのスケジュールを目標として定めたことは認められるが,量産試作機等の完成・引渡しの履行期とすることについて原告と被告との間で合意がされたと認めることはできないというべきである。このことは,12月11日及び同月25日に行われた打合せの内容(前記1(2)ヒ,ヘ)や賀風デザインによるケースデザインの作成の経緯(前記1(2)ウ,ネ,ノ,ム,モ)からも明らかである。
したがって,上記原告の主張も採用することができない。
キ 小括
以上によれば,前記オで述べたとおり,本件契約は,量産試作機や完成機の製作を約束し,その完成・引渡しを目的とし,その対価として2000万円を支払う旨の請負契約であるとは認められず,また,完成に至らなかった場合に,支払条件を充足することにより対価の支払を受け取った部分について,その返還をすることが前提とされていたものであるとも認められないことになる。
(2) 原告による原状回復請求の当否について
ア 前記(1)によれば,本件契約が請負契約であり,その解除により,被告に原状回復義務が生じることを前提とする原告の主張は採用することができないから,解除原因(被告による履行遅滞又は履行不能)について判断するまでもなく,解除に基づく原状回復請求権を理由とする原告の本訴請求は,理由がないことが明らかである。
イ ところで,原告は,本件契約が請負契約ではなく,解除に遡及効のない無名契約であったとしても,第1納品物は本件要件定義書に適したものではなく,本件契約で定められた試作品とはいえないのであるから,その出来高部分は観念できないとも主張しており,当該主張は,少なくとも試作機完成に係る500万円の支払部分については,支払条件を充足する成果物の引渡しがないことから,当該金員の返還を求める趣旨と解する余地があるので,この点について,検討する。
(ア) 本件契約では,試作機が完成し,原告の検収が完了していること,納品物件がそろっていることを条件として,検収月末締め,翌月10日に500万円が支払われるとされている(前記第2の2(2)エ(イ))ところ,原告は,被告から第1納品物が納品された日である9月20日から10日後には,本件ハードウェアの試作機についての検収を完了した旨の記載のある検収完了報告書(乙5)を被告に提出し,11月10日には,原告が,被告に対し,試作機製作の報酬と同額の500万円を支払っていること(前記第2の2(4)ウ及びエ),本件契約締結前から,原告は,本件システムのデモンストレーションを行うことを予定していたこと(前記1(1)ウ),原告は,被告に対し,営業用の試作機として,第1納品物と同じ機器内容の機器の納品を依頼していること(前記1(2)シ,ス)がそれぞれ認められる。
以上の事実に照らせば,原告担当者が,試作機の段階では,無線といった各性能は後回しでよい,GPS機能を実際に作動させての説明まではしないので,GPSについては入れないままでよい,とにかく試作機を完成させてくれとの要望を述べたため,被告が,原告の要望のとおりの試作機を製作し,納品した旨のDの陳述(乙89・15,16頁)は信用することができる。そうすると,原告と被告との間では,第1納品物をもって,本件ハードウェアの試作機に当たるものとすることが共通の認識となっていたものであり,それを前提として,被告は原告に対し,試作機が完成した段階で支払われるべき500万円を支払ったものと解されるから,原告の上記主張は,採用することができない。
(イ) この点,原告は,① 第1納品物には,GPSのプログラムが組み込まれていない,② 第1納品物の伝送距離はわずか数十mしかない,③ 本件覚書に定められた納品物件のうち,「各制御ソフト」に係るCD等の媒体物の納品がされていないことを理由として,第1納品物は,本件契約における試作機には当たらないなどと主張し,加えて,以上のことをハードウェアの専門家ではない原告は当時気が付くことができなかったが,後にハードウェアの専門家から指摘を受けた旨主張する。
しかしながら,① 上記(ア)の認定事実に照らせば,原告の担当者は,第1納品物にGPS機能が組み込まれていないことは承知していたものと考えられること,② 伝送距離についても,システムのデモンストレーションの場面で,不都合があれば容易に気がつく内容であるし,仮に気が付かなかったとすれば,その時点では,一定の伝送距離を満たすことが必ずしも要求されていなかったと評価することができるものであること,③ CD等の媒体物が納品されていないことは,一見して明らかな事項であること等からすれば,上記の点について,後に専門家から指摘を受けるまで原告が気付かなかったとは,考えがたいものである。そうすると,原告の上記主張は,被告が,当時の原告の要望に合致する物を納品したにもかかわらず,事後的に,納品物の不足を指摘するものにすぎないというべきである。
ウ 以上によれば,本訴請求のうち,原状回復請求として,被告に支払った代金についての返還を求める点については,理由があると認められないことになる。
(3) 不法行為責任に基づく請求の当否について(争点7関係)
原告は,① 被告が原告に見積りを提出した当初から履行拒否に至るまで,被告は,伝送距離の問題や同時通信台数の問題を解決できる見込みを全くもっていなかったのであり,被告には本件ハードウェアを完成させる能力がなかったものであり,被告が本件契約上の義務を履行しない旨を明確に述べるに至ったことにより,被告による債務の履行は不能となった,② 被告は,本件ハードウェアの製作には技術的課題が多いものと認識しており,被告やその関係企業のみではその技術的課題を解決するのは困難であるとも認識していたが,途中で製作できないこととなっても原告から金員だけ奪い取る認識をもって,見積競合に参加し,原告を欺き,契約まで締結したなどと主張する。
ア そこで検討するに,Eの経歴(乙88・1頁,E・1頁)に照らせば,Eはハードウェア製作に必要な一定の知識・経験を有しているものと認められ,本件ハードウェアを完成させることがおよそ期待できないということはできない。実際にも,Eは,ジグビーによる情報の通信について,① ジグビーモジュールの選定,調整を行ったり(前記1(2)ア,イ,弁論の全趣旨),② 同モジュールにより,1対1の通信で700mまでの通信距離を確認していること(前記1(1)ソ,弁論の全趣旨),③ 通信数を減らすため,表示ユニットと通信ユニットとの通信について,315MHzのモジュールを採用する案を提案し,また,同時多数通信の性能を向上させた新プロジェクト版の採用を検討・提案したり(前記1(2)イ,エ),④ その他,通信する情報量を減らすために,GPSの位置座標の計測間隔をあけたり,プログラムを工夫したりした(乙88・6~11頁,E・23,31,32頁)と認められる。
そうすると,被告が本件契約上の義務を履行する能力がなかった旨の原告の主張は,理由があるとは認められない。
イ そして,被告は,上記のとおり一定の知識・経験を有するEに本件ハードウェアの開発を委託していること(前記第2の2(1)ウ),本件ハードウェアの開発を受託するに当たり,被告は,開発が途中で中断となった場合においても,支払済みの対価については返金しないことを条件とする旨を見積書において明示的に申し出ていたことに照らし,本件ハードウェアの開発が必ずできる旨を申し出て,原告を欺罔したというような経緯があったとは認められないから,原告を欺いて,契約を締結させた旨の原告の上記主張も,採用することができない。
(4) 以上によれば,原告の本訴請求は,いずれも理由がないことになる。
3 反訴請求について
(1) 「営業用試作機」に係る代金支払の合意の有無(争点8)について
被告は,原告が,営業活動のためにどうしても試作機が必要であるとして,被告に対し,当初の想定になかった「営業用試作機」を製作するように求めたため,原告と被告が協議し,被告が「営業用試作機」とともに,量産試作機Ⅱを製作すること,従前の量産試作機納品時における500万円の支払を「営業用試作機」を製作した際に行うこと,量産試作機Ⅱを製作した場合には追加で300万円支払うことを合意したと主張し,Dもこれに沿う陳述をする(乙89・27頁)。
この点,原告と被告との間で,本件契約締結後に,量産試作機Ⅱの製作に係る見積書及び注文書のやりとりがされていること(前記1(2)カ,セ,タ),第2納品物が原告や被告の担当者の間で営業用の試作機と認識されていたこと(前記1(2)キ~ケ,シ,ス),DがCに対し,第2納品物について,11月末までに検収するよう何度も求め,12月16日には,Dが,Cに対し,年内に検収の社内処理を終わらせたいので,3回目の検収を今週中にお願いしますとの電子メールを送り,Cが,承知しているとの返答をした上,同月18日に検収報告書を提出したこと(前記第2の2(4)カ,前記1(2)キ,ク,フ),同検収報告書は,第2納品物の機能を確認した上でされたものであること(前記1(2)ハ)がそれぞれ認められ,これらの事実は,上記Dの陳述に沿うものである。
しかしながら,原告と被告との契約については,見積書の交付とこれに対する発注書の交付により契約が成立することとされている(前記1(1)セ(ウ)。また同(エ)も参照)ところ,営業用試作機に係る見積書及び発注書の存在を認めるに足りる証拠はなく,また,本件では,原告担当者とDやEとの電子メールや打合せの議事録が多数提出されているが,営業用試作機の製作に対する報酬を量産試作機の製作に係る報酬である500万円とすることが当事者間で前提とされていたことをうかがわせる電子メールや議事録は,存在しない。そして,営業用試作機の機器内容は,第1納品物と同様のものでよいとされていた(前記1(2)シ,ス)し,ジグビーによる相当距離の通信や同時多数通信といった本件ハードウェアの重大な課題について解決の目処がたっていない状況であった(前記1(2)メ,ユ)にもかかわらず,営業用試作機製作の報酬として,量産試作機と同額を支払うことを原告が了承するというのは考え難いといわざるを得ない。他方,原告が,被告からの要請に基づいて,営業用試作機についての検収をしたことは事実であるが,これについては,営業用試作機について500万円を支払うことに合意していないが,営業用試作機の製作を被告に急いでもらうため,検収については同意した可能性等も考えられることからすれば,上記のような検収に係るやりとりがあったとの一事をもって,営業用試作機製作の報酬を500万円とするとの合意がされたと認めるには足りないといわざるを得ない。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
(2) 量産試作機Ⅱ及び完成機の製作に対する報酬請求権に係る停止条件成就の原告による妨害の有無(争点9)について
被告は,被告による量産試作機Ⅱや完成機の製作をするのに,特段の技術的困難はなくなっていた状況であったにもかかわらず,原告は,被告に対し,一方的に本件契約の解除を通告するなどして開発行為の続行を不可能にし,これにより,量産試作機Ⅱ及び完成機の製作・検収という支払条件の成就を妨害したと主張する。
そこで検討するに,量産試作機とは,ほぼ最終製品と同じものを,それと同じ方法で製作して検証するためのもので,その製作により,基本的には被告の役割は終わるものであるところ(甲8・添付資料6-2,乙89),本件ハードウェアの開発については,ジグビーによる同時多数通信が開発上の重大な課題とされていたが,前記で認定のとおり,被告及びEが,同時多数通信を克服するための方策としていた新プロジェクト版の提供が平成21年1月又は2月ころとなり(前記1(2)ユ),新プロジェクト版を利用した同時多数通信の可否についてゴルフ場等で実際に実験・検証することはできていないこと,Eは,12月25日の打合せにおいて,セパレート型の量産試作の完成について平成21年6月ころとなる旨述べていたこと(前記1(2)ヘ),同年2月4日の時点でも,今後行わなくてはならないテスト,検査,検討等の項目が多数残されていたこと(前記1(2)メ)などからすれば,被告が量産試作機Ⅱや完成機を製作するのに特段の技術的困難のない状態に至っていたものと認めることはできない。
そうすると,原告による解除の通告等がなければ,量産試作機Ⅱ及び完成機の製作・検収という支払条件の成就が確実な状態にあったものとはいえないことになるから,原告による条件成就の妨害を根拠とする被告の主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
(3) 部材費用に係る反訴請求部分について
被告は,本件ハードウェアの製作のための部材費用32万7600円が支払われていないとして同額の支払を請求しているところ,本件契約では,本件ハードウェアの製作のための部材費用は,被告が必要な時期に原告に対して見積りを提示した上原告の了解を得ることを条件に原告が支払うこととされ(前記第2の2(2)オ),被告は,営業用試作機(第2納品物)の製作のための部材費用32万7600円について事前に原告に見積りを提示し,原告から了解を得て購入したが,原告は,被告が主張する同額の部材費用を被告に支払っていないことについては当事者間に争いがないから(前記第2の2(4)ク参照),被告の上記請求には理由がある。
そして,原告から被告に対する本件ハードウェアの開発の委託は,原告が業として行う販売の目的物の製造の委託に当たること,前記第2の2(1)ア及びイによれば,原告は下請代金支払遅延等防止法2条7項の親事業者に当たり,被告は同条8項の下請事業者に当たること,上記部材費は下請事業者の給付に対し支払うべき代金に当たることがそれぞれ認められるから,上記部材費用に係る請求の遅延損害金(遅延利息)については,同法4条の2の適用があることとなり,原告は,被告に対し,遅くとも同部材費用が製作のために供された営業用試作機の検収がされた12月18日から起算して(初日を算入して)60日が経過した日である平成21年2月16日から支払済みまでは年14.6%の割合による遅延損害金(遅延利息)の支払義務を負うことになる。
4 小括
(1) 前記2で検討したところによれば,原告の本訴請求(①本件契約の解除による原状回復請求権に基づく請求,②不法行為による損害賠償請求権に基づく請求及び③それらの附帯請求)は理由がないこととなる。
(2) また,前記3で検討したところによれば,被告の反訴請求のうち,①営業用試作機の製作に対する報酬請求権に基づく請求,②量産試作機Ⅱ及び完成機の製作に対する報酬請求権に基づく請求及び③これらの附帯請求については,理由がないが,④本件ハードウェア開発の部材費用の支払請求権に基づく請求については,理由があり,また,⑤これに対する附帯請求についても,被告の請求の範囲については,理由があることとなる。
第4 結論
以上によれば,原告の本訴請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,被告の反訴請求については,32万7600円並びにこれに対する平成21年1月11日から同年2月16日まで商事法定利率年6パーセントの割合による金員及び同月17日から支払済みまで下請代金支払遅延等防止法に基づく年14.6パーセントの割合による遅延利息の支払を求める限度で理由があるから,当該限度で認容することとし,その余の請求部分については理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担については民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言については同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 花村良一 裁判官 村上誠子 裁判官 佐藤康行)
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