【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(175)平成25年 3月29日 大阪地裁 平22(ワ)18097号 損害賠償請求事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(175)平成25年 3月29日 大阪地裁 平22(ワ)18097号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成25年 3月29日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平22(ワ)18097号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2013WLJPCA03296005

要旨
◆被告との間で、厚生年金基金である原告を委託者兼受益者、被告を受託者として年金信託契約等を締結してきた原告が、私募不動産ファンド投資で損害を被ったのは、本件各契約に基づいて原告の受託財産から本件各ファンドへ出資した被告に、原告の基金資産全体の分散投資における助言義務などの各種注意義務違反があったからであるなどとして、被告に対し、損害賠償を求めた事案において、各種法令の規定によれば、運用受託機関は、基金によって示された運用指針を遵守し、委託された範囲内で基金との協議に基づいて運用することが義務付けられているが、委託された範囲を超えて基金資産全体の分散投資について助言する義務は課されておらず、信義則上の助言義務も認められないとし、また、本件各ファンドへ出資した被告の投資判断に過失は認められないなどとして、被告の各種注意義務違反をいう原告の主張を退け、請求を棄却した事例

新判例体系
民事法編 > 民法 > 旧信託法 > 第二〇条 > ○助言義務及び説明義務
◆一 厚生年金基金から私募不動産ファンド特化型の単独運用指定金銭信託を受託した運用受託機関は、当該厚生年金基金の基金資産全体に対する分散投資についての助言義務及びそれに基づく受託拒絶義務を負わない。
◆二 厚生年金基金から私募不動産ファンド特化型の単独運用指定金銭信託を受託した運用受託機関は、当該厚生年金基金に対する私募不動産ファンドに関するレバレッジリスクの説明義務を負わない。

 

評釈
田岡絵里子・判評 664号12頁(判時2217号150頁)
松本博・久留米大学法学 70号80頁
浅井弘章・銀行法務21 765号67頁
浅井弘章・銀行法務21 770号86頁

参照条文
民法415条
民法709条
厚生年金保険法1条
厚生年金保険法136条の3
厚生年金保険法136条の4
厚生年金保険法136条の5
厚生年金基金令39条の15第1項
厚生年金基金規則41条の6
厚生年金基金規則42条
信託法20条(平18法109改正前)

裁判年月日  平成25年 3月29日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平22(ワ)18097号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2013WLJPCA03296005

福岡市〈以下省略〉
原告 九州石油業厚生年金基金
同代表者理事長 A
同訴訟代理人弁護士 春日寛
同 矢部陽一
同 池田秀雄
大阪市〈以下省略〉
被告 株式会社りそな銀行
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 井上聡
同 柳澤宏輝
同 森大樹
同 深水大輔

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  主位的請求
被告は,原告に対し,263億6191万0849円及びこれに対する平成23年1月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  予備的請求(第1次)
被告は,原告に対し,261億4732万0088円及びこれに対する平成23年1月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  予備的請求(第2次)
被告は,原告に対し,209億0352万3394円及びこれに対する平成23年1月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  予備的請求(第3次)
被告は,原告に対し,197億0089万6242円及びこれに対する平成23年1月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5  予備的請求(第4次)
被告は,原告に対し,140億1819万6242円及びこれに対する平成23年1月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  争いのない事実
(1)  当事者
ア 原告は,厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)に基づき,九州地区のガソリンスタンド,石油販売事業を営む事業法人(適用事業所)426社を設立事業所として,昭和46年2月1日に設立認可された厚生年金基金(以下「基金」という。)である。
イ 被告(株式会社大和銀行が株式会社あさひ銀行を吸収合併して商号を現在の商号に変更し,その後,りそな信託銀行株式会社を吸収合併している。以下,被告が権利義務を承継した会社を含めて「被告」という。)は,銀行業及び信託業等を営む株式会社であり,金融商品の販売等に関する法律(以下「金融商品販売法」という。)所定の金融商品販売業者等である。
(2)  事実経過等
ア 原告は,昭和46年4月7日,被告外6社との間で,原告を委託者兼受益者,被告外6社を共同受託者として年金信託契約(以下「第1契約」といい,その契約書が甲1である。)を締結した。第1契約の17条には,共同受託者は,この契約の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって信託事務を処理するものとする旨定められている。第1契約は,その後,数回にわたり,信託財産,運用方法等の点で変更されている。
被告は,第1契約締結以来,総幹事受託機関(複数の金融機関を取りまとめ,各金融機関のシェアに応じて掛金を送金したり,給付の指図をしたりする受託機関)として,原告の業務運営に関与してきた。
被告は,平成14年8月頃まで,第1契約及び原告が作成して被告に提示した第1契約に係る運用指針(運用ガイドラインを含む。)に基づき,原告から受託した財産の運用として,いわゆる伝統四資産(国内債権,外国債権,国内株式及び外国株式)への投資を行ってきた。
イ(ア) 原告は,同月29日,原告代表者の知人で,株式会社杉山年金運用研究所の代表取締役であるC(以下「C」という。)を年金運用コンサルタントとして採用した。
(イ) 原告は,Cの採用以降,第1契約の共同受託者であった三井アセット信託銀行株式会社及びみずほ信託銀行株式会社との信託契約を解約した。
(ウ) 原告は,Cの採用以降,資産構成割合(政策アセットミックス)を変更し,オルタナティブ資産(伝統四資産以外の資産を指し,不動産投資信託[J-REIT]や不動産ファンドなどがこれに当たる。)の割合を増加させた。原告は,平成15年9月29日,理事会及び代議員会において不動産ファンドへの出資を可決し,それを受け,原告と被告との間で,同年10月17日,第1契約の内容を変更する旨の契約(その契約書が甲5の4である。)が締結され,出資対象として不動産ファンドが含められた。
被告は,同日,第1契約に基づき原告から受託している財産のうち,50億円をケネディ・ウィルソン・ジャパンの組成する不動産ファンドに出資した。
被告は,平成16年6月頃,Cに対して,投資顧問業及び投資事業を行っている株式会社ダヴィンチ・アドバイザーズ(現在の商号は株式会社ダヴィンチ・ホールディングスである。以下,時期を問わず「ダヴィンチ」という。)の担当者であるD(以下「D」という。)を紹介し,Cは,以降,原告に対し,ダヴィンチが組成する私募不動産ファンドへの出資を推奨するようになった。
原告は,同年7月26日,資産運用委員会において,Dからダヴィンチが組成する私募不動産ファンドであるダヴィンチ・オフィス・ファンドⅢ(以下「オフィスファンドⅢ」という。)についての説明を受け,オフィスファンドⅢに投資する方針となり,原告理事会及び代議員会は,同年9月22日,オフィスファンドⅢへの25億円の出資に同意し,被告にその旨の同意書(甲19)を提出した。
私募不動産ファンドには,①優良物件に投資し,インカムリターン(賃料収入)を中心に長期の安定的な運用を行うコア型(中核型),②主として収益性の低い不動産(劣化した不動産には限られず,情報が不足しているため本来の効率的な運用ができていない不動産を含む。)を投資対象とし,問題点を改善して不動産価値を高めた上で売却してキャピタルリターン(売却益等)の獲得を目指すオポチュニティ型(好機捕捉型,オポチュニスティック),③両者の中間に位置し,収益性が劣後する不動産に投資を行い,運用者のノウハウ,スキルを駆使し,収益性を改善させることで不動産価値の増加を目指すバリューアッド型(付加価値型,バリュー・アディッド)があるが,オフィスファンドⅢは,コア型の私募不動産ファンドである。
(エ) 原告は,原告の意思が通らない体質であることを理由に,平成16年8月1日付けで三菱信託銀行株式会社との信託契約も解約し,同月13日,同社が受託していた信託財産を被告に移管したため,同日以降,被告が第1契約の単独の受託者となった。
ウ 原告は,同年9月27日,被告との間で,原告を委託者兼受益者,被告を受託者し,信託財産を25億円とする年金信託契約(以下「第2契約」といい,その契約書が甲2である。)を締結した。
第2契約の19条1項には,委託者は,受託者の信託財産の額について委託者の規約又は運用管理規程に定める変更を行うことができるものとする旨,同条2項には,前項に定める信託財産の移受管を行うときは,受託者に対し,移管額又は受管額若しくは移管割合又は受管割合を文書で指図するものとする旨,同条3項には,受託者は,前項の指図に基づき,信託財産を移管又は受管するものとする旨が定められており,20条には,受託者は,信託の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,もっぱら受益者の利益のために信託事務を処理するものとする旨定められている。その後,第2契約の内容は数回修正されているものの,上記内容は変わっていない。第2契約では,委託者である原告は,受託者である被告に対し,信託財産の運用に関する基本方針及び運用ガイドラインを提示することができるものとし,提示があった場合には,受託者は,委託者との協議に基づき運用すると定められていたが,被告による原告の基金に係る資産(以下「基金資産」という。)全体の分散投資についての助言義務は定められていない。
第2契約に基づいて設定された信託は,単独運用指定金銭信託(顧客が信託金の運用の範囲を指定して,運用を金融機関等に委ね,金融機関等が指定された範囲内で,自己の判断で運用することを内容とする信託。以下「指定単」という。)である。原告は,第2契約に係る運用指針において,資産構成割合について,不動産ファンド(商法の規定に基づき設立された匿名組合)が100%と指定した。
被告は,第2契約に基づき受託した25億円をオフィスファンドⅢに出資した。
エ 原告は,同年11月29日,ダヴィンチの組成する私募不動産ファンドであるダヴィンチ・ジャパン・リアルエステート3号匿名組合(以下「3号ファンド」という。)への出資に同意する旨の同意書(甲23)を被告に提出し,被告は,同月,第2契約に基づき受託した資産から,3号ファンドに50億円を出資した。
3号ファンドは,オポチュニティ型の私募不動産ファンドである。
オ 原告は,平成17年3月11日,ダヴィンチの組成する私募不動産ファンドであるダヴィンチ・オフィス・ファンドⅣ(以下「オフィスファンドⅣ」という。)への45億円の出資に同意する旨の同意書(甲21)を被告に提出し,被告は,同月,第2契約に基づき受託した資産から,オフィスファンドⅣに45億円を出資した。
オフィスファンドⅣは,コア型の私募不動産ファンドである。
カ 原告は,同年4月28日,3号ファンドへの50億円の追加出資に同意する旨の同意書(甲24)を被告に提出し,被告は,同日,第2契約に基づき受託した資産から,3号ファンドに50億円を追加出資した。
キ 原告は,同年10月26日の資産運用委員会で,ダヴィンチの組成する私募不動産ファンドであるダヴィンチ・ジャパン・リアルエステート4号匿名組合(以下「4号ファンド」という。)への150億円の出資を検討し,平成18年2月3日,上記出資に同意する旨の同意書(甲26)を被告に提出し,被告は,同年3月,第2契約に基づき受託した資産から,4号ファンドに150億円を出資した。4号ファンドは,オポチュニティ型の私募不動産ファンドである。
原告は,同年12月8日,4号ファンドへの150億円の追加出資に同意する旨の同意書(甲27)を被告に提出し,被告は,第2契約に基づき受託した資産から,4号ファンドに上記出資と併せて累計329億9143万6787円を出資した(甲153。なお,出資金合計が上記原告から同意を得た出資額合計を上回っているのは,出資後に出資金の一部が返還されたことなどによるものである。)。
ク 原告は,平成19年3月20日,ダヴィンチの組成する私募不動産ファンドであるダヴィンチ・オフィス・コア・ファンドⅠ(以下「コアファンドⅠ」という。)への62億円の出資に同意する旨の同意書(甲29)を被告に提出し,被告は,第2契約に基づき受託した資産から,コアファンドⅠに62億円を出資した。
コアファンドⅠは,コア型の私募不動産ファンドである。
ケ 原告は,平成20年7月11日,ダヴィンチの組成する私募不動産ファンドであるダヴィンチ・ジャパン・リアルエステート5号匿名組合(以下「5号ファンド」という。)への最大100億円の出資に同意する旨の同意書(甲31)を被告に提出し,被告は,ダヴィンチとの間で,5号ファンドに対する出資枠100億円の匿名組合契約を締結し,5号ファンドへの出資確約を行ったが,平成23年2月10日付けの終了契約により,出資がされないまま解約された。被告は,ダヴィンチに対し,第2契約に基づき受託した資産から,解約手数料として913万1026円を支払った。
5号ファンドは,オポチュニティ型の私募不動産ファンドである。
コ 原告は,被告に対し,オフィスファンドⅢに係る信託報酬として3424万2302円(消費税相当額込み。以下,信託報酬につき同じである。),3号ファンドに係る信託報酬として2億4412万8575円,オフィスファンドⅣに係る信託報酬として5223万7499円,4号ファンド及びコアファンドⅠに係る信託報酬として4億3890万3306円を支払った。
サ(ア) 原告は,オフィスファンドⅢから14億7000万0899円,オフィスファンドⅣから52億7663万0730円,3号ファンドから4億6930万3899円の合計72億1593万5528円の利益をそれぞれ得た。
(イ) 原告は,4号ファンドから115億7599万9405円しか回収できなかったので214億1543万7382円の損失を被り,コアファンドⅠから14億7724万8320円しか回収できなかったので47億2275万1680円の損失を被り,損失額の合計額は,261億3818万9062円となる。
2  原告は,被告に対し,①被告に,原告の基金資産全体の分散投資のために,平成18年2月3日付け,同年12月8日付け及び平成19年3月20日付けの各増額契約又は増額指図の受託を差し控えるべき注意義務違反があると主張し,債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき,主位的請求として263億6191万0849円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年1月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,第2次予備的請求として209億0352万3394円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,②被告に,安定運用すべき年金資産を,5年から8年の運用期間に投資対象不動産の価値が20%から30%程度下落しただけで,出資元本全額が毀損されるリスクがあるハイリスク商品であり,人的・資本的倒産隔離がされておらず,かつ,単一の運用マネージャーが運用している私募不動産ファンドに,基金の全資産の75%を出資した注意義務違反があると主張し,債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき,第1次的予備的請求として261億4732万0088円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,③被告に,第2契約締結時及び各増額契約締結時に,個別の私募不動産ファンドのレバレッジリスク(私募不動産ファンドが投資家からの出資金以外に外部からの借入金を不動産の購入資金にあてることで,利益率は高まるが,借入金の返済が出資金の償還よりも優先されるために損失が膨らむ危険性があること)を具体的に説明しなかった注意義務違反があると主張し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,主位的請求として263億6191万0849円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,第3次的予備的請求として197億0089万6242円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,第4次的予備的請求として140億1819万6242円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
3  争点及びこれに関する当事者の主張
(1)  被告に,原告の基金資産全体の分散投資のために,平成18年2月3日付け,同年12月8日付け及び平成19年3月20日付けの各増額契約又は増額指図の受託を差し控えるべき注意義務違反があったか否か(債務不履行に基づく請求及び不法行為に基づく請求に関する争点)(争点(1))
(原告の主張)
ア 被告に助言義務及び受託拒絶義務が存在すること
(ア) 厚年法1条は,厚年法が労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とすると規定しており,厚年法136条の3第5項は,この目的を達成するために,年金の原資となる基金の資産(年金給付等積立金)の運用につき,「政令で定めるところにより,安全かつ効率的に行わなければならない。」と規定し,同規定を受け,厚生年金基金令39条の15第1項は,「特定の運用方法に集中しない方法により運用するよう努めなければならない。」と規定し,基金資産の分散投資義務を規定している。また,被告は,旧信託法(平成18年法律第109号による改正前の信託法を指す。以下同じ。)20条,第1契約17条,第2契約20条及び信義則上,原告に対して忠実義務及び善管注意義務を負っている。
以上によれば,被告は,原告の全体としての基金資産の運用が特定の資産クラスに過度に集中している場合,全体としての基金資産の運用が特定の資産クラスに過度に集中していることを認識しているときには,信託法上及び契約上の忠実義務,信託法上及び契約上の善管注意義務並びに信義則に基づき,当該運用受託機関が受託した資産クラスのリスク特性の説明を行った上,原告の投資枠設定の考え方が年金資産の分散投資義務の観点から問題があることを理由として原告に対してその抑制を助言すべき注意義務(以下「助言義務」という。)を負い,さらに,原告が助言義務に係る助言に従わない場合には,厚年法130条の2第3項所定の「正当な理由」に当たり,新たな受託を拒絶することが可能であり,かつ,助言義務の延長として,新たな受託を拒絶すべき注意義務(以下「受託拒絶義務」という。)を負うというべきである。
このことは,金融庁が,①平成24年9月4日に,基金の運用受託機関となる信託銀行に対し,信託銀行が基金に分散投資義務違反が生ずるおそれを把握した場合,基金等への通知義務を課す方向で金融商品取引業等に関する内閣府令の改正を予定しており,同改正につき義務規定ではなく,努力規定とすべきであるとのパブリックコメントに対し,基金から各運用受託機関に総資産額等の通知をすることを前提に,一つの運用受託機関が当該基金から資産の相当部分を受託している場合,自らが運用している資産が分散投資義務に違反しているおそれがあるかどうかについて把握できるときは,基金に対して通知を行うことを義務付けることが合理的であることを理由に,行政処分の対象となる法的義務とする見解を表明しており,②金融機関の信託業務の兼営等に関する法律施行規則(以下「兼営法施行規則」という。)23条2項を改正して,指定単の受託者から基金に対する基金資産の分散投資に関する通知義務を法定することを予定し,さらに「信託会社等に関する総合的な監督指針(本編)」等の各種監督指針(以下「監督指針」という。)において,通知義務の履行にもかかわらず,基金の分散投資義務違反のおそれが解消しない場合,受託者に「協議義務」及び「受託者の辞任」を前提とした監督指針の新設を予定していることからも明らかである。
厚年法は,後記「役割分担の関係」を規定しているものの,同時に,運用受託機関に法令及び契約の遵守義務並びに忠実義務(厚年法136条の5柱書)を定めている上,年金資産の運用につき委託運用を原則とし(厚年法136条の3第1項1号から3号まで),基金が運用受託機関との協議に基づき運用の基本方針の趣旨に沿って運用すべきことを示すべきこと(厚年法136条の4第3項)及び運用受託機関に対して運用指針を作成して交付すべきこと(厚生年金基金規則[以下「厚年基金規則」という。]42条4項)を規定しており,年金受給者の受給権確保のために運用受託機関に基金との協働を求めているのであって,原告は,上記運用指針として,運用受託機関が運用業務に関して遵守すべき事項として「新規オルタナティブ資産組み入れに際してのリスク特性についての原告との十分な事前協議義務」を記載した運用指針(乙47)を交付し,被告はこれを受諾している(その際の受諾書が甲110であり,この受諾の効力は,甲123による新たな受諾の際にも維持されている。)ことに照らせば,厚年法が後記「役割分担の関係」を定めていることをもって,被告の助言義務及び受託拒絶義務が否定されないことは明らかである。
(イ) 被告は,原告の基金資産全体の資産構成割合を日常的に把握しており,平成18年2月3日には,4号ファンドへの150億円の出資により原告の基金資産全体に占める私募不動産ファンドの割合が43.8%になること,同年12月8日には,4号ファンドへの150億円の追加出資により原告の基金資産全体に占める私募不動産ファンドの割合が55.5%になること,平成19年3月20日には,コアファンドⅠへの62億円の出資により原告の基金資産全体に占める私募不動産ファンドの割合が53.2%になることをそれぞれ認識し,かつ,そのことにつき了承を与えていたのであるから,被告は,原告に対し,私募不動産ファンドのリスク特性であるレバレッジリスク及びリファイナンスリスク(リファイナンスとは,金融機関からの借入金の返済時期に,投資対象資産を売却せず,再度金融機関からの借入れを行う[又は弁済期を遅らせる]ことをいい,リファイナンスリスクとは,その再度の資金調達が行えない危険性のことを指す。)の説明を行い,分散投資義務の観点から問題があることを指摘し,私募不動産ファンドへの偏重を抑制するよう助言すべき義務があり,原告がそれに従わない場合は,法130条の2第3項及び第2契約16条1項の「正当な理由」に当たることを理由に,新たな受託を差し控えるべき注意義務を負う。
イ 被告が助言義務及び受託拒絶義務に違反したこと
被告は,上記アのとおり,助言義務及び受託拒絶義務があるにもかかわらず,平成18年2月3日,同年12月8日及び平成19年3月20日付け各増額契約又は増額指図の受託に際し,助言義務に係る助言を行わず,各増額契約又は増額指図を受託しており,被告に助言義務違反及び受託拒絶義務違反があることは明らかである。
なお,仮に,被告が,平成16年7月26日に「リスク低減に関する進言・提案」を行ったとしても,株価が上昇する見込みであるとしながら株式への投資割合を減らすことを勧めたり,当該減額部分をオルタナティブ資産に振り替えることを勧めるなど矛盾した内容であり,また,Cにダヴィンチを紹介したり,当時被告自身が全国の基金から私募不動産ファンドの受託を受けることに傾注するなど矛盾した行動をとっていたことに照らせば,その進言及び提案は,おざなりな内容のものであるにすぎず,助言義務の履行としては不十分である上,同日の時点と上記助言義務及び受託拒絶義務違反の各時点とでは原告のポートフォリオ(投資対象の金融商品の組合せ)の具体的状況が全く異なり,原告は,基金資産の運用に関して被告が進言及び提案をする姿勢自体は歓迎しており,原告代表者らが被告の進言及び提案自体を拒否する姿勢を示したことはないのであるから,上記進言及び提案をもって,被告の上記助言義務及び受託拒絶義務違反の各時点での助言義務及び受託拒絶義務がなくなることがないことは明らかである。
(被告の主張)
ア 被告が法律上,契約上及び信義則上助言義務及び受託拒絶義務を負わないこと
(ア) 法律上の助言義務の不存在
厚年法は,基金と運用受託機関との関係につき,基金がその年金資産の資産構成割合の決定及び運用受託機関の選定を行う権限及び責任を有し,基金から年金資産の運用を受託した運用受託機関は,基金が決定した枠組みの下で,受託した範囲において個別の投資判断に係る責任を負うものとして規定している(以下,この基金と運用受託機関との関係を「役割分担の関係」という。)。また,基金の理事らに年金資産全体に係る資産構成割合を決定する能力が欠けている場合,その欠如を補うのは運用受託機関ではなく,年金運用コンサルタントであるという制度が予定されており,原告は,現に,年金運用コンサルタントとしてCを採用していた。
厚年法の定める運用受託機関と基金との「協議」は,被告による具体的な運用方法を原告の運用の基本方針に沿ったものにするための協議に過ぎず,基金の資産全体の資産構成割合を対象としていない。
厚年法は,厚年法1条所定の目的を達成するために基金資産の分散投資義務を基金に対して課しているのであり,分散投資義務は運用受託機関の義務ではなく,厚年法1条は,運用受託機関の具体的な義務の根拠となるものではないし,厚年法136条の5は,運用受託機関に対して基金に法律を遵守させる義務を負わせるものではない上,運用受託機関は,基金に対して善管注意義務及び忠実義務を負うにとどまり,基金の背後にいる基金の加入員に対して義務を負うものではないのであるから,運用受託者に,基金が法令を遵守すること及びその運用方針の適切さを監督すべき義務もない。
年金資産の運用については,従前,大蔵省銀行局(当時の名称である。)の通達により,安全性の高い資産(国債及び地方債等)が5割以上,株式が3割以下,外貨建て資産が3割以下,不動産が2割以下で運用しなければならないとの厳格な規制(「5:3:3:2規制」と呼ばれる。)がされていたところ,このような運用方法の規制が望ましくないとして規制緩和が行われ,厳格な運用規制が順次緩和され,平成12年3月には年金改革関連法により基金の年金資産の運用に係る規制が撤廃された中で,基金(基金の理事)が専門知識の向上に努め,責任を負わなければならないことが強調されてきたことを念頭に置くべきである。
なお,兼営法施行規則や監督指針の改正案は,原告が主張する助言義務の存在の根拠となるものではなく,かえって,現行の制度下ではそのような助言義務が存在しないことを示すものである。
(イ) 契約上の助言義務の不存在
被告が受託者として負う契約上の善管注意義務及び忠実義務は,被告が委託者から与えられた権限を行使する際の義務であり,被告が基金資産全体の資産構成割合を知ったとしても,それだけで受託した範囲を超えて,原告の基金資産全体に係る資産構成割合等について助言を行うべき義務を負わせるものではない。原告が指摘する「新規オルタナティブ資産組み入れに際してのリスク特性についての原告との十分な事前協議義務」を定めた運用指針(乙47)は,第1契約に関するものであり,第2契約について定めるものではない。
第2契約においては,追加信託が原告の一方的な意思表示によってされることが定められており,実際もそうであったのであるから,増額契約は存在しない。
(ウ) 信義則上の助言義務の不存在
上記のとおり,被告は,法律上及び契約上,助言義務を負わないところ,本件で,原告の基金資産全体の資産構成割合について助言を行っていたのはCであり,被告が原告の基金資産全体の資産構成割合について助言を求められたことはなく,助言をしたこともなかったのであるから,被告の原告に対する継続的な助言義務を発生させるほどの信頼を形成させたということは,到底できない。
また,私募不動産ファンドが借入れを利用していることやレバレッジの仕組みは一般にも購読されている投資金融情報誌や各種ビジネス誌でも報道されるほど一般に知られたことであり,基金の理事である原告代表者らはレバレッジリスクを理解していたと推認されるし,万一,原告代表者らがレバレッジリスクを理解していなかったとしても,被告はそのことを告げられておらず,また,そのようなことを認識する余地もなかったのであるから,原告代表者らがレバレッジリスクを認識していないことが助言義務の発生を根拠付けるものではない。
(エ) 仮に被告に助言義務が認められたとしても,その延長としての受託拒絶義務が存在しないこと
厚年法は,運用受託機関が年金信託の受託を拒否することを原則として禁止しており,運用受託機関にとって,年金信託の受託を拒絶することは,法令違反の危険を冒す,極めて異例の行為である。上記のとおり,厚年法が,資産構成割合は基金の責任において決定すべきと定めており,また,第2契約上も,被告は,原告から資産構成割合及びその運用方法等を記載した「運用ガイドライン」を提示された場合,それに従った運用を行うことが義務付けられていたのであり,基金が運用受託機関の助言義務に係る助言に従わない場合,運用受託機関としては,その基金の判断を尊重し,与えられた枠の中で資産の最大化を図るよう投資することは何ら非難に値するものではなく,助言義務の延長として受託拒絶義務が存在しないことは明らかである。
イ 被告が助言義務及び受託拒絶義務に違反していないこと
厚年法136条の3第5項は,「政令で定めるところにより」安全かつ効率的な運用を行うことを義務付けているのであり,政令違反の事実がなければ,同項に違反することにはなり得ず,また,リスクの高い資産への投資が直ちに法令違反となるものではなく,年金資産を積極的に私募不動産ファンドに投資することは何ら法令違反ではない上,基金は,合理的理由があれば分散投資を行わないことも認められており,原告の基金資産全体に占める私募不動産ファンドの割合が最大55.5%になり,企業年金連合会のアンケート等の調査結果と乖離していたとしても,それだけで全く合理性を欠いた状況にあったと評価することはできない。
また,「望ましい実務慣行」として,被告は,平成14年9月20日の原告の資産運用委員会(理事長等を補佐し,年金資産の安全かつ効率的な運用を図るために基金内部に設置される機関)で,原告に対し,従来型のバランス型運用(バランスよく資産を配分することにより,中長期的に安定的な資産の増加を期待する資産運用法)をベースにした運用管理を提案し,被告のE常務取締役(以下「E常務」という。)は,平成15年4月15日,原告のF常務理事兼運用執行理事(以下「F常務理事」という。)と面談し,F常務理事に対し,オルタナティブ投資をさらに増やせば,基金として資産全体に対するリスク管理ができなくなる旨及び仮に,新規の投資顧問業者に委託することにより,原告の基金資産全体に対するオルタナティブ投資の割合が24.3%となり,他の基金に対しても飛び抜けて高い状況になることを指摘し,被告の担当者は,同月18日,F常務理事と面談し,F常務理事に対し,上記リスク管理上の問題点及び新規の投資顧問業者に委託するには,代議員会の議決が必要であることを説明し,被告の担当者は,同月23日,F常務理事と面談し,F常務理事に対し,投資顧問業者への委託割合が増えていることによる運用基本方針からのかい離を指摘し,資産構成割合の見直しを提案し,被告は,同年5月15日の原告の資産運用委員会で,原告の理事に対し,リスク管理の重要性について説明し,そのころ,「厚生年金基金 受託者責任ハンドブック(理事編)」の該当部分をF常務理事に交付し,リスクの管理の重要性について再認識させるとともに,E常務が資産構成割合の変更に伴い,他の基金と比べて原告のリスクが高くなっていることを進言し,被告の担当者は,同年10月8日,F常務理事と面談し,F常務理事に対し,原告の基金資産の資産構成割合が他の基金に比べてリスク資産の比率が高いことを伝え,リスク低減の見地から,「不動産ファンド導入及び運用スタイル変更のご提案」と題する書面(乙28)を交付して内外株式のパッシブ化(パッシブ運用とは,市場予測に基づくのではなく,TOPIX[東証株価指数]や野村BPIといった市場の指数の動きに連動する運用成果を目標とする運用手法)を提案し,同年11月6日の原告の資産運用委員会で,再度内外株式のパッシブ化を提案し,被告のG常務執行役員は,平成16年6月2日,原告代表者に対し,「年金資産の運用について」(乙31)と題する書面を交付し,リスク軽減を目的とした資産構成割合への見直しを提案し,被告の担当者は,同年7月14日,原告代表者らに対し,運用体制の見直しを提案し,被告の担当者は,同月26日の原告の資産運用委員会で,再度,上記「年金資産の運用について」を交付し,原告の理事らに対し,分散投資に関する基本的な説明を行うとともに,具体的な数字等を示しながら,リスク軽減,分散投資を目的とした資産構成割合の提案を行っており,原告に対し,原告の基金資産全体に係る資産構成割合を見直す契機を与えていたのであるから,被告は,助言義務を履行していたというべきである。
(2)  被告に,原告の基金資産を,5年から8年の運用期間に投資対象不動産の価値が20%から30%程度下落しただけで,出資元本全額が毀損されるリスクがあるハイリスク商品であり,人的・資本的倒産隔離がされておらず,かつ,単一の運用マネージャーが運用している私募不動産ファンドに,基金の全資産の約75%を出資した注意義務違反があるか否か(債務不履行に基づく請求及び不法行為に基づく請求に関する争点)(争点(2))
(原告の主張)
被告は,年金信託契約の受託者として,旧信託法20条及び第2契約20条に基づき,原告の指定したガイドラインの範囲内で自らの投資判断と責任において原告の基金資産を運用すべき善管注意義務を負うところ,以下のア及びイの点で,善管注意義務に違反した。
ア 特定の運用マネージャーへの集中防止義務違反
私募不動産ファンドへの出資において,投資家は,運用マネージャーの信用リスクにさらされているのであり,被告は,原告の基金資産の最大約75%を私募不動産ファンドに運用していたのであるから,運用マネージャーの分散投資を行うべき義務があった。金融庁が公表した「信託検査マニュアル(金融検査マニュアル別編〔信託業務編〕)」(以下「信託検査マニュアル」という。)は,複数の資産種別・銘柄に分散投資をすべきであるとしており,私募不動産ファンドのパフォーマンスは,運用マネージャーの判断,ノウハウ,取引執行能力に依存するので,リスク軽減の見地から運用マネージャーの分散を前提としていることが明らかである。
それにもかかわらず,被告は,原告の基金資産の全資産の約75%を,ダヴィンチの組成する私募不動産ファンド(以下,単に「ダヴィンチ・ファンド」という。)という単一の「銘柄」(運用マネージャー)に集中して出資した。
イ 被告が比較検討を行うことが可能であるのに,他の私募不動産ファンドとの比較検討も行わず,また,十分なデュー・ディリジェンスを行わずに,以下のとおり,倒産隔離もされておらず,5年から8年の運用期間に投資対象不動産の価値が20%から30%程度下落しただけで,出資元本全額が毀損されるリスクがあるダヴィンチ・ファンドに,原告の基金資産の最大約75%も投資したこと
(ア) 3号ファンド,4号ファンド及び5号ファンドは倒産隔離がされていないこと
3号ファンド,4号ファンド及び5号ファンドは,各資産保有のためのSPV(投資対象資産を保有する特定目的会社を指す。以下,「資産保有SPV」ということもある。)の親会社(営業者)である有限会社ムーンコイン(以下「ムーンコイン」という。),有限会社カドベ(以下「カドベ」という。)及び株式会社ノービル(以下「ノービル」という。)の代表者が,ダヴィンチの代表者であるH(ムーンコイン及びカドベ)又はダヴィンチの取締役であったI(ノービル)であり,運用マネージャーとSPVの親会社との人的関係が切断されておらず,また,各SPVの親会社は,いずれも,SPVの運用マネージャーであるダヴィンチが100%出資する有限会社であり,ダヴィンチがSPVの親会社の意思決定機関の議決権を有するため,運用マネージャーとSPVとの資本関係も切断されていない。また,3号ファンド及び4号ファンドに対する出資は,自己資金ではなくBNPパリバプリンシパルインベストメンツジャパン株式会社(以下「BNPパリバ」という。)からの借入れでまかなわれ,しかも各出資をBNPパリバに対する借入金の担保としているのであり,5号ファンドに対するダヴィンチの出資は,貸付けであるのであるから,セームボート出資(仮に投資家に損失を計上する場合には,自らにも損失が生ずることで利益相反によるモラルハザードを回避するために,私募不動産ファンド等について,事業者自らも当該不動産ファンド等に出資すること)と評価することはできない。したがって,倒産隔離が十分にされていない。
3号ファンド,4号ファンド及び5号ファンドは,上記のような倒産隔離(親会社隔離)が不十分であったことから,①ダヴィンチが,平成22年2月18日に,カドベ及びムーンコインの株式等を,BNPパリバからの借入れの担保として提供したこと,②ファンドにおいては,通常,ファンドマネージャーの費用(人件費及び販売管理費等)はマネジメント報酬に含まれるが,ダヴィンチ・ファンドでは,マネジメント報酬とは別立てでファンドマネージャーの費用をファンドが負担することとされており,また,有価証券投資につき,個別銘柄ごとに成功報酬を算出するため,ファンド全体では大きな利益が出ておらず又は損失が出ている場合でも,高額の成功報酬が得られる場合があるなど,投資家にとって明らかに不利な内容となっていること,③カドベが,平成20年1月18日にその資産保有SPVの債務について連帯保証したこと,④ムーンコイン及びカドベがノンリコースローンではなく,マージンコール付きの借入れ(投資対象資産以外の資産又は者に対する遡求権のある借入れ)で資金調達を行っていたこと,⑤ⅰカドベとダヴィンチの関連会社との間で平成19年6月29日及び同年11月16日に基本協定書が締結されたことなど,ⅱダヴィンチの運用する私募不動産ファンド間での不動産の売買,ⅲムーンコインからダヴィンチの上場不動産投資信託(REIT)への物件供給,ⅳダヴィンチと密接な関係にある仲介業者である株式会社ラルゴコーポレーションの株式への投資等,投資家の利益に反する行為が行われていたこと,⑥平成21年9月及び同年10月,4号ファンドで行われたフォワード取引(先日付けでの売買契約をしている取引であり,開発中の不動産への投資をその内容とする。)に係る違約金の支払に,4号ファンドが保有する有価証券の一部の処分代金が充てられたこと,⑦ムーンコインが,平成22年7月25日を返済期限とするノンリコースローンのリファイナンスを行うため,資産保有SPVの保有物件を売却し,その売却代金の一部を上記ノンリコースローンの一部弁済に充てたこと,⑧ムーンコインが,平成18年7月20日及び平成20年8月22日に,複数の資産保有SPVの借入れを一本化して連帯債務としたこと,⑨ムーンコイン及びカドベが投資対象不動産の売却代金の一部を投資家に分配せずに,必要な限度を超えた内部留保を行っていたこと,⑩倒産隔離が十分にされている私募不動産ファンドであれば,運用マネージャーが倒産した場合でも,レンダー(貸主)がノンリコースローンのリファイナンスに応じ,バックアップマネージャーがファンドの運営を継続することが多いにもかかわらず,ダヴィンチ・ファンドは,倒産隔離が十分にされていないため,リファイナンスを拒否されたという問題が生じている。
(イ) ダヴィンチ・ファンドは,5年から8年の運用期間に投資対象不動産の価値が20%から30%程度下落しただけで,出資元本全額が毀損されるおそれがあり,通常の私募不動産ファンドに比して,特にハイリスクの私募不動産ファンドであったこと
ダヴィンチ・ファンドは,①3号ファンドのLTV(借入金比率)が78.5%,4号ファンドのLTVが73.0%と同時期に組成されていた他の私募不動産ファンドよりも非常に高い水準にある上,ファンドの時価評価は,ダヴィンチが指定した不動産鑑定士が年1回のみ行うものであって,ダヴィンチに有利に高額な査定を行っており,適正価格で評価すればLTVは更に高くなるし,上記各LTVの数値はファンド全体の平均値であり,個別物件に着目すれば,より高いLTVの物件が存在すること,②ファンドの運用期間が5年から8年と長期に設定されている上,ダヴィンチの裁量により,1年から2年までの期間延長も可能であり,その間中途解約はできず,極端に流動性が低いこと,③投資対象が首都圏のオフィスビルという超大型物件を中心としているため,買手が極端に限定され,投資対象不動産の流動性も低いこと,④投資戦略も,不動産開発案件や不動産関連の上場・未上場株式への投資戦略も対象とするなど複雑であること,⑤ノンリコースローンにつき,資産保有SPVが複数の投資対象不動産を保有している場合でも,個別の不動産にのみ担保を付けるのが通常であるところ,ダヴィンチはそれらを共同担保に供していたことという問題があり,同時期に組成されていた他の私募不動産ファンドに比して極めてハイリスクな不動産ファンドであった。
ダヴィンチの組成する私募不動産ファンドが他の私募不動産ファンドに比してハイリスクであったことは,ARES(不動産証券化協会)の公表している調査結果によれば,平成18年に出資した全国の私募不動産ファンドの大半が現在までにトータルリターン(インカムリターン[賃料収入]とキャピタルリターン[売却益等]との合計)ベースでプラスリターンとなっており,損失が生じていないことからも明らかである。
(被告の主張)
運用受託機関の投資判断については,運用受託機関が与えられた裁量の範囲を逸脱し,又はその裁量権を濫用して投資判断を行わない限り,注意義務違反が認められないと解すべきである。そして,裁量権の逸脱又は濫用の有無を判断するに当たっては,第2契約が不動産ファンド特化型の信託であることに加え,第2契約は,財政難で解散の危機に陥った原告が,その打開策として,Cの主導の下で実施したマネージャー・ストラクチャー(運用機関の構成)の抜本的再構築の一環として,その希望する絶対リターンを追求する(市況の動向に左右されずに収益を求める)ために設定されたものであること及び被告が,運用受託機関が投資判断を行うに当たり,個別指図の禁止に抵触しない範囲で委託者兼受益者である基金の意向に従った運用を行うことは重要かつ望ましいことと考えられていたことを踏まえ,Cの主導する原告の運用方針や原告の資産運用委員会の決議を通じて示される原告の意向を踏まえて運用判断を行ってきたことを十分に考慮すべきである。
ア 運用マネージャーの分散は必要不可欠でないこと
私募不動産ファンドにおいては,投資家は,運用マネージャーの信用リスクにさらされていないため,リスク分散のための分散投資としては,運用マネージャーの分散よりも,投資対象である不動産物件の分散の方が重要であり,投資対象不動産の分散や運用スタイルの分散などの主要なリスク分散が実現されていれば,それに加えて運用マネージャーの分散が必要不可欠ではない。「銘柄」とは,個々の投資商品の種類を意味し,運用マネージャー(運用会社)を意味するものではないので,信託検査マニュアルは,私募不動産ファンドという資産種別の中で,更に運用マネージャーの分散を要求するものではない。
むしろ,私募不動産ファンドへの出資においては,安全運用のみならず効率運用も求められる以上,運用マネージャーを分散することよりも,信頼できる運用マネージャーを選定することの方が重要である。
被告は,平成16年から平成18年にかけて一般にも高く評価されていたダヴィンチ・ファンドに対し,運用マネージャー及びファンドの適格性について適切なデュー・ディリジェンスや過去の投資案件におけるモニタリングなどを実施し,独自のノウハウを活用して積極的に投資対象不動産のバリューアップを試みるなど当時の他の運用マネージャーには見られない運用戦略を採用していた点を評価して,4号ファンド等に出資している。
そもそも,年金資産のような長期資産の運用においては,リターンの変動の約9割が,資産構成割合によって決定されると言われており,私募不動産ファンド特化型の第2契約における被告の分散投資によって得られるリスク分散の効果はもともと限定的である。
イ 私募不動産ファンドは,投資対象資産の購入の目処がついた時点で運用マネージャー側から急に募集が持ちかけられるので,上場株式等と異なり,同時期に募集を行っている投資対象が多数存在することがなく,また,個々の私募不動産ファンドに係る情報は原則として非公開であり,信託銀行として付き合いのある運用マネージャー等から情報の開示を受けたりしない限り,信託銀行といえども私募不動産ファンドに関して出資の是非を判断し得るような有用な情報を網羅的に把握することはできないため,他に比較し得る私募不動産ファンドが存在し又はその組成が検討されているという前提自体が存在せず,他のファンドとの比較検討の過程を経ることが極めて困難であるから,被告がダヴィンチ・ファンドと他の私募不動産ファンドとの比較検討を行っていないことが過失とは評価されないことが明らかである。また,被告は,適切なデュー・ディリジェンスを行っていた。そして,以下のとおり,ダヴィンチ・ファンドが倒産隔離もされており,特にハイリスクな私募不動産ファンドではなかった。
(ア) ダヴィンチ・ファンドは倒産隔離がされていること
いわゆる親会社隔離は倒産隔離のためのごく一部の考慮要素に過ぎない上,3号ファンド,4号ファンド及び5号ファンドにおいては,セームボート出資という仕組みが用いられており,親会社隔離がされていないことに対する手当てがなされている。3号ファンド及び4号ファンドに対するダヴィンチの出資が,BNPパリバからの借入金でまかなわれたことを裏付ける証拠はないのみならず,そもそも,ノンリコースローンであればともかく,借入金を原資とした出資であっても,セームボート出資に当たる。
原告は,ダヴィンチ・ファンドの倒産隔離がされていなかったことにより生じた問題点として(原告の主張)イ(ア)の①から⑩までの点を主張するが,そもそも,①,⑥及び⑦の事実は,5号ファンドへの出資より後に発生した事実であり,これらの事実をもって被告の投資判断の過失を基礎付けることはできないし,被告に判明したのは,③の事実が平成21年9月28日,④の事実が平成20年10月27日,⑤ⅰの事実が平成21年9月28日及び⑨の事実が平成22年9月9日であり,いずれも5号ファンドへの出資より後であり,これらの事実の発生をもって,直ちに被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。次に,②の点については,報酬体系については,匿名組合契約及び運営委託契約書において定められており,被告は,同契約書を検討して,その報酬に見合うリターンが期待できると判断して出資を行っている上,ダヴィンチ・ファンドにおける報酬体系が他の私募不動産ファンドに比して特に高額であったわけでもないし,成功報酬についても,ダヴィンチが成功報酬を受領することができるのは,投資対象となったファンドへの出資金及び過去の投資案件への出資金が投資家に償還済みであり,かつ,現に投資中の案件でも出資金が投資家に償還されると予想される場合のみであるので,被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。次に,⑤ⅱの点については,同一の運用マネージャーの複数の私募不動産ファンド間で物件の売買をすることは一般に行われており,また,私募不動産ファンドにおいては,運用期間終了時に投資対象不動産を売却する必要があり,上場不動産投資信託(REIT)に物件を売却することは,対価が適正である限り(ダヴィンチは,対価の適正性を確保するため,セームボート出資を行っている。),むしろ投資家の期待することである上,当該売買は,いずれも,売買価格も含めて,全投資家との協議を経て行ったものであり,何ら投資家の利益を害するものではないことが明らかであるので,被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。次に,⑤ⅲの点については,株式会社ラルゴコーポレーションはダヴィンチと密接な関係にある会社ではないので,被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。次に,⑧の点については,複数の資産保有SPVのノンリコースローン債務を一本化して連帯債務とすることが営業者に匿名組合出資している投資家にどのような不利益を与えるのか不明であるし,むしろ,これによって,リファイナンスの際,各資産保有SPVが個別にリファイナンスを行うより遙かに有利な条件でリファイナンスを行うことができたのであるから,投資家の利益に反しないことは明らかであるので,被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。次に,⑩の点については,倒産隔離がされていないのであれば,そもそも当初からノンリコースローンの提供を受けられなかったはずであるので,被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。
(イ) ダヴィンチ・ファンドが特にハイリスクな私募不動産ファンドではなかったこと
①平成16年から平成18年にかけての私募不動産ファンドのLTVは,平均7割超であり,3号ファンド及び4号ファンドのLTVが特に高かったことはなく,②ダヴィンチ・ファンドのファンド運用期間は,コア型が5年,オポチュニティ型が8年という私募不動産ファンドの平均的な運用期間と同等であり,③首都圏(特に東京)は,賃貸需要,投資ニーズが国内で最も安定している地域であり,東京や首都圏への重点的な投資は,かえって安全性が高く,リスク回避に資するものであるし,超大型物件の流動性は相対的に低いが,ダヴィンチはこれらの物件を入札により取得しており,競合して購入を希望する者が存在したことに鑑みれば,十分に流動性を確保できるものであり,また,天災リスクにも配慮しており,④個別不動産の資産流動化又は証券化取引の場合は個別の不動産にのみ担保を付けることが一般的であるが,本件のような私募不動産ファンドの場合,資産保有SPVが複数の投資対象不動産を保有しているときは,煩雑さを避けるために複数の投資対象不動産に共同担保を付けることがむしろ通常であるし,その方が有利な条件での借入れを受けることが可能である。したがって,ダヴィンチ・ファンドが,同時期に組成されていた他の私募不動産ファンドに比して特にハイリスクな私募不動産ファンドであったことはない。
ARESの私募ファンド指数は,母集団が限定されており,試験的に提供された指数にすぎず,平均LTVも低く,コアファンド型以外のファンドが含まれておらず,かつ,ARESに報告されているインカムリターンは,私募不動産ファンド自体のインカム(当期利益)であり,投資家に分配されたインカムリターンとは一致しないのであるから,ARESの調査結果によれば,平成18年に出資した全国の私募不動産ファンドの大半が現在までにトータルリターンベースでプラスリターンとなっていることが,平成18年に出資した全国の私募不動産ファンドの大半において,投資家に分配されたトータルリターンがプラスになっていることを意味しない。
(3)  第2契約締結時及び各増額契約締結時に,個別の私募不動産ファンドのリスク(レバレッジリスク)を具体的に説明しなかった注意義務違反の有無(不法行為に基づく請求に関する争点)(争点(3))
(原告の主張)
ア 第2契約の締結時における説明義務
被告は,第2契約の締結より前の平成16年9月22日に,オフィスファンドⅢへの投資を決定して原告に同意依頼書兼同意書の交付を求めており,第2契約締結時には既に投資対象となる具体的銘柄が決定しているのであるから,被告には,当該資産クラス(私募不動産ファンド)のリスクの具体的説明を,具体的銘柄(オフィスファンドⅢ)を素材にして行うべきことが信義則上要請される。
私募不動産ファンドのリスクの内容としては,私募不動産ファンドが借入れを利用していること,借入金の返済が出資金の償還に対して優先すること,そのため,借入れせずにファンドの運用を行った場合に比して損失が数倍に膨らむおそれがあること及び出資金に対する借入金の割合の上限率について,投資家が元本欠損についての危険性の程度を具体的に認識しうるように,具体的に説明がされるべきである。
このことは,金融庁も,平成24年9月4日付けで基金の運用受託機関たる信託銀行に対して,「顧客(年金基金等)の知識・経験等に応じたリスク説明の体制整備」義務を課す方向でパブリックコメントに付し,兼営施行規則22条の改正案として,運用受託機関が基金から資産構成割合の指示を受けた場合には,運用受託機関が当該資産構成割合の指示に従って積立金の運用を行った場合の利益の見込み及び損失の可能性について基金に対して十分な説明を行う体制を整備すべき義務を法定していることからも明らかである。
原告は,私募不動産ファンドについては借入れが出資に優先して返済されることを理解していなかったが,このことは,法律の専門家ではない者にとって常識の範疇に属する事柄ではなく,原告は,金融商品取引法上も金融商品販売法上も,個人投資家と同等の一般投資家と位置付けられており,また,実質的にも原告内部に投資の「プロ」に匹敵する金融業務経験のある者は全く存在していなかったのであるから,原告がこのことを理解していなかったとしてもやむを得ないことである。
イ 各増額契約又は増額指図時における説明義務
被告は,平成18年2月3日,信義則上,同年12月8日及び平成19年3月20日の各時期においても,上記ア同様,当該資産クラス(私募不動産ファンド)のリスク(レバレッジリスク等)の具体的説明を,具体的銘柄(オフィスファンドⅢ)を素材にして行わなければならない。
ウ 被告が上記各説明義務に違反したこと
(ア) 被告は,私募不動産ファンドのリスク(レバレッジリスク等)の具体的説明を,具体的銘柄(オフィスファンドⅢ)を素材にして行わなかった。
(イ) 被告は,第2契約締結時,私募不動産ファンドが借入れを伴うという一般的な説明を行わなかった。
なお,被告が第2契約締結より前に原告に対して交付した平成15年10月付け「匿名組合(不動産ファンド)のリスク説明書」と題する資料(乙34)及び同年11月付け「匿名組合(不動産ファンド)のリスク説明書」と題する資料(乙36)には,借入れを行う旨の記載すらなく,上記資料を交付したことでレバレッジリスクを説明したことにはならない。
(ウ) 被告は,第2契約締結後も,平成17年2月8日の原告の資産運用委員会において同月付け「不動産ファンドのリスクについて」と題する資料(乙49)に基づくシミュレーション説明を行っていないし,また,4号ファンドへの出資の際に平成18年1月付け「不動産ファンドのリスクについて」と題する資料(乙15)に基づく説明を行ったこともない。
(被告の主張)
ア 金融機関の信義則上の説明義務は,リスクに関し投資家に実質的な認識を与えるために金融機関に課されるものであるから,投資家が当該リスクを実質的に認識している限り,説明義務は生じない。
そして,原告は,第1契約において,自らの主導の下で,運用対象として私募不動産ファンドを指定し,その際に一般的な私募不動産ファンドのリスクについての説明を受けていること,ダヴィンチの担当者であるDらから一般的なレバレッジリスク及びリファイナンスリスクについての説明を受けていること,原告は,厚生年金基金であり,年金資産に組み入れる資産クラスのリスク及びリターンを理解し,分析するための知識及び能力が法律上求められているという意味で「プロ」であるし,かつ,年金運用コンサルタントであるCの利用によりその能力を補っていたことなどに照らせば,原告は,第2契約締結時及び私募不動産ファンド出資時に,私募不動産ファンドのリスクについて実質的に認識していると認められるのであるから,被告は,原告に対して私募不動産ファンドのリスクについて説明すべき義務を負わない。
イ(ア) 仮に被告が第2契約の締結時に原告に対して私募不動産ファンドのリスクについて説明すべき義務を負うとしても,第2契約は指定単であり,個別の投資判断を被告が行うものであり,原告に個別の投資判断を求めるものではないのであるから,説明義務の対象は,指定単そのもののリスク及び私募不動産ファンドについての一般的なリスクに限定され,個々の投資対象に係る私募不動産ファンドの具体的なリスクに関する説明義務は存在しない。このことは,第2契約の締結時において,個別の投資対象が決定していたとしても変わることがない。
(イ) 被告は,レバレッジリスクを含む不動産ファンドの一般的なリスクについて,平成17年2月8日の原告の資産運用委員会において,上記同月付け「不動産ファンドのリスクについて」と題する資料に基づくシミュレーション説明を行ったし,また,4号ファンドへの出資の際に,上記平成18年1月付け「不動産ファンドのリスクについて」と題する資料(乙15)に基づく説明を行ったし,コアファンドⅠ,5号ファンドへの出資の際にも同様の説明を行った。
レバレッジリスクについては,私募不動産ファンドにおいて不動産購入資金の一部が借入れによって調達されることさえ説明すれば,借入れが出資に優先して返済されることは,原告にとって常識の範疇に属する事柄であり,明示的に説明されなくても当然理解すべきことであるから,私募不動産ファンドにおいて借入れが利用されていることの説明のみで足りるというべきである。
ウ 前記(1)(被告の主張)ア(イ)記載のとおり,増額契約は存在しないし,第2契約締結時に上記説明を行っている以上,被告は,追加信託時に再度の説明義務を負うものではない。
(4)  上記各義務違反と下記損害との間の因果関係の有無(争点(4))
(原告の主張)
ア 被告が前記(1)の助言義務及び受託拒絶義務を履行していれば,被告による各出資は実行されず,また,他の運用受託機関も各出資を受託しなかったはずであるから,各投資に係る原告の損害は生じなかった。
イ 前記(2)(原告の主張)イ(イ)記載のとおり,ARESが公表している調査結果によれば,平成18年に出資した全国の私募不動産ファンドの大半が現在までにトータルリターンベースでプラスリターンとなっており,損失が生じていないこと及び不動産自体の価格は回復していることからすれば,被告が前記(2)の分散投資義務を履行し,当時被告が採用していた運用マネージャー6社以外の運用マネージャーに適切に分散投資をしていれば,原告に損失は生じなかった。
ウ 被告が前記(3)の説明義務を履行していれば,原告は被告による各出資を許容していないため,被告による各出資は実行されず,また,他の運用受託機関も各出資を受託しなかったはずであるから,各出資に係る原告の損害は生じなかった。
(被告の主張)
ア 被告が前記(1)の4号ファンド及びコアファンドⅠへの投資に供した資金に係る追加信託の受託を差し控えていたとしても,原告は他の運用受託機関に私募不動産ファンドの運用を行わせていたことが推認されるから,前記(1)の助言義務及び受託拒絶義務違反と損害との間の因果関係は認められない。
イ 4号ファンド等と同時期(平成18年から平成20年の間)に組成された不動産ファンドは,ダヴィンチ以外の運用会社が運用する私募不動産ファンドでも出資元本が想定どおりに回収されていない状況となっていることからも明らかなとおり,ダヴィンチ・ファンドの運用実績が悪化したのは,平成20年9月に発生したいわゆるリーマン・ショック及びそれ以降の不動産市況の低迷によるものであり,前記(2)の分散投資義務違反と損害との間には因果関係がない。
なお,前記(2)(被告の主張)イ(イ)記載のとおり,ARESの私募ファンド指数は,母集団が限定されており,試験的に提供された指数にすぎず,コアファンド型以外のファンドが含まれておらず,かつ,ARESに報告されているインカムリターンは,私募不動産ファンド自体のインカム(当期利益)であり,投資家に分配されたインカムリターンとは一致しないのであるから,平成18年に出資した全国の私募不動産ファンドの大半が現在までにトータルリターンベースでプラスリターンとなっていることを意味しないし,投資家に分配されたトータルリターンがプラスになっていることも意味しない。
ウ 仮に,被告が第2契約の締結時に行ったレバレッジリスクの説明が不十分であったとしても,被告は,遅くとも平成17年2月8日及び平成18年1月には,一般的なレバレッジリスクについて具体的なシミュレーションを伴う説明を行っており,借入金の返済が出資金の償還に対して優先するため,不動産の価値が下落した場合には相対的に大きな割合で出資が毀損することを説明しているにもかかわらず,原告は現に平成17年2月8日及び平成18年1月以降も追加信託をしているのであるから,原告が第2契約締結時に説明を受けていれば被告による各出資を許容しなかったということはできず,前記(3)の説明義務違反と平成17年2月8日及び平成18年1月以降の出資について原告が主張する損害との間には因果関係がない。
(5)  損害の発生及びその額(争点(5))
(原告の主張)
ア 主位的主張 265億8622万3394円
前記(1)又は(3)の義務違反により,原告は,4号ファンド及びコアファンドⅠへの出資につき261億3818万9062円の損害を被った。
また,被告に対して上記両ファンドに係る信託報酬として支払った4億3890万3306円及び5号ファンドの解約手数料として支払った913万1026円も,前記(1)又は(3)の義務違反によって原告が被った損害である。
原告は,4号ファンド及びコアファンドⅠの個別の取得価額及び処分価額につき主張及び立証しているのであるから,4号ファンドへの出資以前に第2契約に基づき被告が出資した私募不動産ファンドから生じた原告の利益は控除すべきではない。
したがって,損害額の合計は,265億8622万3394円となる。
イ 予備的主張(第1次) 261億4732万0088円
前記(2)の義務違反により,上記261億3818万9062円及び上記913万1026円の合計261億4732万0088円の損害を被った。
ウ 予備的主張(第2次) 209億0352万3394円
仮に,本件当時の市場の状況に照らすと,ダヴィンチ・ファンド以外の投資商品で資産を運用しても元本が目減りしていたはずであるとしても,その程度は約14.5%(平成18年3月末から現在までの5年間の全国の基金の総合修正利回り[甲115から119まで,甲182]を順次乗じた値)であったはずであり,その場合,前記(1)又は(3)の義務違反により,4号ファンド及びコアファンドⅠへ出資したことによる損害は,204億5548万9062円(本来,204億5543万0728円[261億3818万9062円-391億9143万6787円×0.145]であるが,原告は,204億5548万9062円であると主張している。)である。
また,上記アと同様,上記両ファンドに係る信託報酬として支払った4億3890万3306円及び5号ファンドの解約手数料として支払った913万1026円も,前記(1)又は(3)の義務違反によって原告が被った損害である。
したがって,損害額の合計は209億0352万3394円となる
エ 予備的主張(第3次) 197億0089万6242円
後記(被告の主張)記載のとおり,4号ファンドへの投資以前に第2信託に基づき被告が出資した私募不動産ファンドから生じた原告の利益分72億1593万5528円を損益通算により差し引くとする場合,原告が被告に支払った上記私募不動産ファンドに係る信託報酬合計3億3060万8376円も原告が被った損害というべきである。
そうすると,原告が被告の前記(3)の義務違反により被った損害は,197億0089万6242円(265億8622万3394円-72億1593万5528円+3億3060万8376円)となる。
オ 予備的主張(第4次) 140億1819万6242円
原告の予備的主張(第2次)は,上記ウのとおりであるが,仮に,下記(被告の主張)のとおり,4号ファンドへの出資以前に第2信託に基づき被告が投資した私募不動産ファンドから生じた原告の利益分72億1593万5528円を損益通算により差し引くとする場合,原告が被告に支払った上記私募不動産ファンドに係る信託報酬合計3億3060万8376円も原告が被った損害とすべきである。
そうすると,原告が被告の前記(3)の義務違反により被った損害は,140億1819万6242円(209億0352万3394円-72億1593万5528円+3億3060万8376円)となる。
(被告の主張)
原告の上記主張を争う。
原告の損害額を算定するに当たっては,第2契約に基づく一連の出資の過失が主張されているのであるから,4号ファンドへの出資以前に第2契約に基づき被告が出資した私募不動産ファンドから生じた原告の利益額が損益通算により差し引かれるべきであり,72億1593万5528円を差し引いた金額が原告の損害となる。
(6)  過失相殺の可否(争点(6))
(被告の主張)
原告の主張する損害の大部分は,被告から度重なるリスク軽減の提案を受けていたにもかかわらず,原告の理事らがこれを聞き入れなかったこと,原告の理事らは,自らの立場を名誉職的なものと誤解し,自らの責務を果たす意思が全くなかったこと,Cに確認さえすれば,原告の主張する私募不動産ファンドにはレバレッジリスクがあることを容易に認識することができたこと,原告自身が被告によるダヴィンチ・ファンドへの出資を強く希望していたこと,4号ファンド及びコアファンドⅠへの運用実績の悪化に直接的な影響を与えたのは,リーマン・ショック及びそれ以降の不動産市況の低迷であり,このようなリスクは,原告による第2契約に基づく運用範囲の指定によるものであることに照らせば,原告又はその理事らの過失により生じたものということができるから,大幅な過失相殺がされるべきである。
(原告の主張)
被告の上記主張を争う。
第3  当裁判所の判断
1  本件の事実経過等
前記第2の1の争いのない事実,証拠(甲18から21まで,甲23,甲25から33まで,甲72の1及び2,甲95,甲110,甲121の4から6まで,甲123,甲143,甲144,乙4,乙6から12まで,乙15から17まで,乙23,乙28,乙31から36まで,乙47,乙49,乙53,乙55から57まで,乙66から68まで[枝番を含む。],乙77,乙81,乙85,乙88,乙89,乙91,乙116から119まで)及び弁論の全趣旨によれば,本件の事実経過等として,以下の事実が認められる。
(1)ア  原告は,昭和46年4月7日,被告外6社との間で,原告を委託者兼受益者,被告外6社を共同受託者として年金信託契約を締結した。第1契約は,その後,数回にわたり,信託財産,運用方法等の点でその内容が変更されている。
被告は,第1契約締結以来,総幹事受託機関として,原告の業務運営に関与してきた。
(前記第2の1の争いのない事実)
イ  原告は,被告に対し,平成13年5月1日,「年金資産の運用指針について」と題する書面(乙47)を交付した。同運用指針では,受託運用機関である被告における資産構成割合として,伝統四資産を中心とし,その他資産も0%から5%まで(中心値は2%)で運用するとのバランス運用型の資産構成割合が指示され,また,被告が「運用業務に関し遵守すべき事項」として,「オルタナティブ商品等の新商品等をあらたに投資対象に加える場合は,その資産の収益率,リスクの特性,流動性等について,事前に当基金と十分に協議を行うこと。」(5条)と定められていた。被告は,平成13年6月29日,上記運用指針を受諾した。
(甲110,乙47,乙119)
ウ  被告は,平成14年8月頃まで,第1契約及び原告が作成し被告に提示した第1契約に係る運用指針(運用ガイドラインを含む。)に基づき,原告から受託した財産の運用に関して,伝統四資産への投資を行ってきた。
原告は,平成11年度に508億6100万円程度あった資産が,平成14年度末には405億9800万円程度と急激に減少し,約86億円の積立て不足が生じている状態であった。
(前記第2の1の争いのない事実,乙10,乙88)
(2)ア  原告は,平成14年8月29日,原告代表者の知人で株式会社杉山年金運用研究所の代表取締役であり,野村證券株式会社の出身で,同社で資産運用の経験があったCを原告の運用全般に関する助言等を行う年金運用コンサルタントとして採用し,Cの下で,運用方法の大幅な見直しを図ることとなった。
Cは,年金運用は絶対リターンを追求するものであるとの方針であり,原告代表者もその考えに賛成していた。
(前記第2の1の争いのない事実,甲72の1及び2,甲143,乙6)
イ  原告は,Cを年金運用コンサルタントとして採用して以降,マネージャー・ストラクチャーの見直しを行い,みずほ信託銀行株式会社,三井アセット信託銀行株式会社,東京海上アセットマネジメント投信株式会社,日興アセットマネジメント株式会社及びSG山一アセットマネジメント株式会社との信託契約を解約した。
また,原告は,Cの採用以降,資産構成割合を変更し,オルタナティブ資産への投資に積極的となり,平成14年9月20日の資産運用委員会において,当時70億円であった国内債権への投資の半分(35億円)を不動産投資信託(J-REIT)に投資することを決定し,被告及び三菱信託銀行株式会社に対し,不動産投資信託への出資を同年10月中に開始できるように打診した。当時被告の信託財産運用部に勤務していたJ(以下「J」という。)は,上記資産運用委員会で,「運用管理ストラクチャーについてのご提案」と題する資料(乙23)を配布して,年金資産の運用について,基本的な事項も含め,従来からのバランス型運用をベースにしたマネージャー・ストラクチャーを提案したが,Cから,それは基金が考えることであると言われた。
(前記第2の1の争いのない事実,乙8,乙9,乙23,乙89,弁論の全趣旨)
ウ(ア)  原告は,平成14年11月21日,資産構成割合の変更を通知する旨の運用指針(平成14年度運用ガイドラインの変更について)を被告に提示し,被告は同年12月9日,これを受諾した(被告が甲123によって受諾したのは,上記運用指針であり,甲122[年金資産の運用に関する基本方針]ではない。)。
(甲123,乙81,乙118)
(イ) E常務は,平成15年4月15日,F常務理事と面談し,F常務理事に対し,新規投資顧問の採用を行った場合,年金資産全体におけるオルタナティブ資産の割合が他の基金と比べて飛び抜けて高くなるなどと進言したが,受け入れられなかった(乙89,弁論の全趣旨)。
エ  被告は,同年8月頃,原告以外の顧客から委託を受けている財産をダヴィンチ・ファンドに出資する際,ダヴィンチに対する詳細なデュー・ディリジェンスを行い,以後,被告は,ダヴィンチの社内体制や担当者等が変わるたびに,ダヴィンチに報告や面談を求めるなどして,運用体制等に変更がないことを確認した(乙85,乙88)。
オ  原告は,Cの採用以降,資産構成割合を変更し,オルタナティブ資産の割合を増加させた。原告は,同年9月29日,理事会及び代議員会において私募不動産ファンドへの投資を可決した。
J及び当時被告の信託財産運用部に所属していたK(以下「K」という。)は,「不動産ファンド導入及び運用スタイル変更のご提案」と題する資料(乙28),平成15年10月付け「匿名組合(不動産ファンド)のリスク説明書」と題する資料(乙34)及びケネディ・ウィルソン・ジャパンに対するデュー・ディリジェンス・レポート(乙11)を作成し,同月8日,F常務理事に対し,これらの資料を交付し,ケネディ・ウィルソン・ジャパンの組成する私募不動産ファンドの収益実績(トラックレコード),運用方針及び投資スキームの他,投資対象不動産の不動産価格変動リスク,流動性リスク,営業者の倒産による倒産リスク,運用の失敗により元本が毀損するリスクの各リスクがあることなどを説明し,同月16日の資産運用委員会で上記三つの資料を配付し,同様の説明をした。
原告と被告との間で,同月17日,第1契約の内容を変更する旨の契約が締結され,出資対象として不動産ファンドが含められた。
被告は,同日,第1契約に基づき原告から受託している財産のうち,50億円をケネディ・ウィルソン・ジャパンの組成する不動産ファンドに出資した。
Jは,同月22日,F常務理事の要請を受けて,「匿名組合(不動産ファンド)のリスク説明書」(乙36)と題する書面を作成し,同年11月6日の資産運用委員会で,投資報告書及び「匿名組合(不動産ファンド)のリスクについて」と題する書面を交付して,不動産ファンドのリスクを説明した。
Cの主導による資産構成割合の変更後,原告の基金資産の運用は好転し,平成15年度には,約38%のプラスに転じ,基金資産は141億円以上も増加した。このように原告がCの採用後オルタナティブ投資に傾斜することで基金の解散の危機を乗り越えたことは,一般にも購読されているビジネス誌である日経ビジネスでも,大きく取り上げられ,F常務理事ら原告の担当者の写真も掲載された。
(前記第2の1の争いのない事実,甲144,乙4,乙10.乙11,乙28,乙34から36まで,乙88,乙89)
(3)ア  Kは,平成16年6月頃,Cに対し,ダヴィンチのH及びDを紹介し,Cは,ダヴィンチが組成する不動産ファンドへの出資を推奨するようになった。
被告のG常務執行役員及びJは,同月2日,原告代表者及びF常務理事らと面談し,原告代表者及びF常務理事らに対し,「年金資産の運用について」と題する資料(乙31)を交付し,これに基づき,原告のポートフォリオのリスクが大きく,リスクを引き下げるべきではないかとの提案を行ったが,原告代表者は,提案したこと自体には謝意を示しつつ,やみくもにリスクを高くして収益を上げているという意識はなく,過去の実績を下に,投資対象をファンド・オブ・ファンズ(投資信託のうち,別の投資信託に投資を行う投資信託),不動産ファンド及び不動産投資信託に分散し,また,運用機関を分散させることで,一定のリスク軽減策を採用していると答えた。Jは,同年7月26日の原告の資産運用委員会においても,再度上記資料を配布し,原告の現在のポートフォリオでは国内株式60%になっているところ,これを10%減らして国内債権及びファンド・オブ・ファンズに投資してはどうかとの提案を行ったが,Cは,この提案は,分散投資ではなく,散漫投資であり,この提案を受け入れるとまた大きな損失を被るなどと言ってこの提案に反対し,原告代表者も,この提案を受けると,もとの大失敗を繰り返す危険性があり,被告の提案には信用性がない,原告の現在のポートフォリオは,無理なリスクをとっているのではなく,過去の運用実績から実績のある運用機関を選択した結果であるとして,この提案を否定する意見を述べた。被告は,上記資産運用委員会で,原告が高いリスクの許容度を維持する方針であると受け止めた。
Dは,上記資産運用委員会において,スライドの資料(甲18)を示して,ダヴィンチが老朽化した物件等を修理整備等して売却することで収益を上げることを目指すファンドであること,現在組成を検討しているオフィスファンドⅢでは,総額189億5000万円(ノンリコースローン124億5000万円及びエクイティ出資[匿名組合出資]65億円)の資金を集め,首都圏(東京都心部及び新横浜)の5物件を取得すること,ファンドの終了に当たっては,まず上記ノンリコースローンの返済及び売却にかかる諸経費が控除され,その後の残額が配当の原資となること,運用利回りは9.1%を予定していることなどを説明し,25億円のエクイティ出資を勧誘した。上記資産運用委員会での審議の際,F常務理事は,ノンリコースローンによる借入れの場合,189億円以下でしか売却できないときは,元本が毀損されることを確認したが,Cの推奨もあり,全員一致でオフィスファンドⅢに投資する方針となった。オフィスファンドⅢは,コア型の私募不動産ファンドであり,ファンド運営期間は原則5年間であった。
また,同委員会で,Cから,三菱信託銀行株式会社と被告とは同じ運用管理手法であり,同社は原告の意思が通らない体質であるので,解約すべきであるとの提案がされ,委員が全員異議なく承認したため,原告は,同年8月1日付けで三菱信託銀行株式会社との信託契約を解約し,同月13日,同社が受託していた信託財産を被告に移管したため,同日以降,被告が第1契約の単独の受託者となった。
(前記第2の1の争いのない事実,甲18,甲121の4から6まで,甲143,甲144,乙7,乙31から33まで,乙88,乙89)
イ  被告は,後記(9)と同様の方法でデュー・ディリジェンスを行い,原告に対し,そのデュー・ディリジェンス・レポートを交付した。原告理事会及び代議員会は,上記資産運用委員会の方針を受け,同年9月,オフィスファンドⅢへの25億円の出資に同意し,被告にその旨の同意書を提出した。
原告は,同月27日,被告との間で,第2契約を締結した。第2契約では,委託者である原告は,受託者である被告に対し,信託財産の運用に関する基本方針及び運用ガイドラインを提示することができるものとし,提示があった場合には,被告は,原告との協議に基づき運用すると定められていたが,被告による原告の基金資産全体の分散投資についての助言義務は定められていない。第2契約に基づいて設定された信託は指定単である。原告は,第2契約に係る運用指針において,資産構成割合について,不動産ファンドを100%と指定した。
被告は,第2契約に基づき受託した資産のうち,原告の資産運用委員会で承認されていた25億円をオフィスファンドⅢに出資した。
(前記第2の1の争いのない事実,甲19)
(4)  原告は,同年頃,3号ファンドへの出資を検討した。3号ファンドはオポチュニティ型で,運用期間を8年間(ただし,1年ずつ2回までの延長が可能とされていた。),エクイティ出資で700億円(うち600億円程度を投資家から集め,残りの約100億円程度は,後記のとおりダヴィンチが出資することとされている。)を出資するという私募不動産ファンドであった。3号ファンドの営業者であるムーンコインは,ダヴィンチが100%出資する有限会社である。
被告は,後記(8)と同様の方法で3号ファンドに対するデュー・ディリジェンスを実施し,また,匿名組合契約等の契約内容につき,a法律事務所の弁護士らにチェックを依頼し,同弁護士らから,他のプライベート・エクイティ投資又は不動産投資のために通常締結される匿名組合契約と比較して,特に不利な条項は見当たらないとの意見を得た。
3号ファンドに係る匿名組合契約の組合内容説明書(乙68の1)では,ダヴィンチが100億円を上限に出資確約総額の20%の出資(社員出資又は匿名組合出資)を確約すること(同出資は,貸付けの形式をとるが,匿名組合出資と同順位のもの[通常の貸付けとは異なり,エクイティ出資者に優先しない。]であった。),一投資案件(一物件)について,出資確約総額の20%を超えて投資をしないこと,つなぎ融資の場合を除き,借入総額が投資案件の公正価格の75%(最初と最後の投資事業年度中は80%)を超えることとなる借入れを行わないこと,ダヴィンチに対し出資確約総額等の年率1.5%のマネジメント・フィーを支払うこと,ダヴィンチに対する成功報酬は,ファンド運営に必要な費用を控除し,投資対象となったファンドへの出資金及び過去の投資案件への出資金が投資家に償還済みであり,かつ,現に投資中の案件でも出資金が投資家に償還されると予想される場合に,投資家が年率10%の優先配当を受け取った後,当該投資案件の20%を上限とすることとされている。
3号ファンドに係る匿名組合契約の契約書(乙67の1)では,ムーンコインが3号ファンドの営業に関連しない行為に関与すること,契約で認められる場合を除き金銭の借入れ等を行うこと,一投資案件につき出資確約総額の20%超の出資を行うことが原則禁止され,また,ムーンコイン及びダヴィンチ並びにその関係者との取引も原則として禁止されるが,新たに組成されたSPV(ビークル)に対して投資案件(投資物件)等を原価で譲渡することはできるとされた。
また,ムーンコインは,同契約書において,同契約の履行に関連して必要又は適切な全ての行政機関等の全ての登録や許可等を取得している旨及びダヴィンチが100億円を上限に出資確約総額の20%の投資を行うことを保証及び誓約した。
原告は,同年11月29日,3号ファンドへの出資に同意する旨の同意書(甲23)を被告に提出し,被告は,同月,第2契約に基づき受託した資産から,3号ファンドに50億円を出資した。
(前記第2の1の争いのない事実,甲23,乙67の1,乙68の1)
(5)  K及びJは,原告に対する説明資料として,平成17年2月付け「不動産ファンドのリスクについて」(乙49)を作成し,同月8日の原告の資産運用委員会においてこれを配布した。そこには,私募不動産ファンドの仕組み(100億円のオフィスビルをLTV70%で購入した場合を具体例としたもの),ファンド期間終了時に,投資対象資産である不動産の価格(売却価格)がノンリコースローンによる借入額を下回った場合には,当該不動産を売却して損失を確定させる方法又は新たに借入れをして再運用する対応策があることが記載されている。
(甲143,甲144,乙49,乙88,乙89,乙117)
(6)  原告は,同年頃,オフィスファンドⅣへの出資を検討した。オフィスファンドⅣは,オフィスファンドⅢ同様,コア型の私募不動産ファンドであり,ファンド運営期間が原則5年間,ノンリコースローンによって177億5000万円,エクイティ95億円を集めて,東京都内及び福岡市のオフィスビルを購入するというものであった。
被告は,後記(9)と同様の方法で,オフィスファンドⅣに対するデュー・ディリジェンス等を行い,原告に対し,そのデュー・ディリジェンス・レポートを交付した。原告は,同年3月11日,オフィスファンドⅣへの45億円の出資に同意する旨の同意書(甲21)を被告に提出し,被告は,同月,第2契約に基づき受託した資産から,オフィスファンドⅣに45億円を出資した。
(前記第2の1の争いのない事実,甲20,甲21)
(7)  原告は,同年4月28日,3号ファンドへの50億円の追加出資に同意する旨の同意書を被告に提出し,被告は,同日,第2契約に基づき受託した資産から,3号ファンドに追加出資した(前記第2の1の争いのない事実)。
(8)  原告は,同年10月26日の資産運用委員会で,4号ファンドへの150億円の出資を検討した。
4号ファンドはオポチュニティ型で,運用期間が8年間(ただし,1年ずつ2回までの延長が可能とされていた。),エクイティ出資で3000億円を集め(うち2500億円程度を投資家から集め,残りの約500億円程度は,後記のとおりダヴィンチが出資することとされている。),主に主要8都市(東京,横浜,名古屋,福岡,大阪,仙台,札幌及び広島)に所在するオフィス物件を投資対象とする私募不動産ファンドであった。4号ファンドの営業者であるカドベは,ダヴィンチが100%出資する有限会社である。
カドベは,定款(乙66)上,「匿名組合契約の締結並びにその出資財産の運用業務」,「直接又は間接に不動産投資,不動産に関連する投資又は有価証券に係る投資を行う会社への匿名組合出資」及び「不動産の売買,賃貸及び管理」等のみを営むことを目的とすると定められ,業務内容が4号ファンドの営業者としての活動に制限されている。
4号ファンドに係る匿名組合契約の組合内容説明書(乙68の2)では,ダヴィンチが500億円を上限に出資確約総額の20%の出資(社員出資又は匿名組合出資)を確約すること,一投資案件(一物件)について,出資確約総額の20%を超えて投資をしないこと,つなぎ融資の場合を除き,借入総額が投資案件の公正価格の75%(最初と最後の投資事業年度中は80%)を超えることとなる借入れを行わないこと,ダヴィンチに対し出資確約総額等の年率1.5%のマネジメント・フィーを支払うこと,ダヴィンチに対する成功報酬は,ファンド運営に必要な費用を控除し,投資対象となったファンドへの出資金及び過去の投資案件への出資金が投資家に償還済みであり,かつ,現に投資中の案件でも出資金が投資家に償還されると予想される場合に,投資家が年率10%の優先配当を受け取った後,当該投資案件の20%を上限に,ダヴィンチが受領することとされている。
カドベは,4号ファンドに係る匿名組合契約の契約書(甲32,甲95)において,同契約の履行に関連して必要又は適切な全ての行政機関等の全ての登録及び許可等を取得し,遵守していることを保証し,誓約している。
被告は,4号ファンドに対するデュー・ディリジェンス(4号ファンドは,オポチュニティ型であり,出資確約の時点では物件があらかじめ決まっていないため,運用マネージャーの投資戦略やトラックレコード等,運用マネージャーの運用能力及び運用実績の検証が中心となる。)を行い,運用マネージャーであるダヴィンチがこれまで11本のバリューアッド型又はオポチュニティ型の私募不動産ファンドの運用を行い,個別空調化や機械警備の導入によるコストダウン等の様々な工夫によるバリューアップ戦略に基づき好調な運用実績を上げていること,そのようなこともあり,ダヴィンチは市場での評価も得ており,ダヴィンチには物件情報が豊富に持ち込まれるようになっていることを確認し,また,匿名組合契約等の契約内容につき,a法律事務所の弁護士らにチェックを依頼し,同弁護士らから,他のプライベート・エクイティ投資又は不動産投資のために通常締結される匿名組合契約と比較して,特に不利な条項は見当たらないとの意見を得た。
Kは,平成18年1月26日,F常務理事に対し,4号ファンドに対するデュー・ディリジェンス・レポート(乙12)及び同月付け「不動産ファンドのリスクについて」と題する資料(乙15)を交付した。上記「不動産ファンドのリスクについて」と題する資料には,借入れは,出資持分よりも返済順位が高いことから,組み入れた不動産の価格下落の割合以上に出資持分が目減りすることがある旨,匿名組合の存続期間中に借入れの返済期限が到来する場合,当初の借入れの条件よりも悪い条件で借換えがされること,状況によっては,全部又は一部の借換えができないことがあり,十分な借換えができない場合,投資家に追加出資の要請がされる可能性もある旨記載されている。
原告は,同年2月3日,上記出資に同意する旨の同意書(甲26。上記同意書[兼同意依頼書]には,出資におけるリスクは別途交付する「不動産ファンドのリスクについて」を参照するよう注記がされている。)を被告に提出し,被告は,同年3月,第2契約に基づき受託した資産から,4号ファンドに150億円を出資した。
原告は,同年12月8日,4号ファンドへの150億円の追加出資に同意する旨の同意書(甲27。上記同意書[兼同意依頼書]には,出資におけるリスクは別途交付する「不動産ファンドのリスクについて」を参照するよう注記がされている。)を被告に提出し,被告は,第2契約に基づき受託した資産から,4号ファンドに上記出資と併せて合計329億9143万6787円を出資した。
(前記第2の1の争いのない事実,甲25から27まで,甲32,甲95,乙12,乙15,乙53,乙55,乙66,乙68の2,乙88,乙91,乙116)
(9)  原告は,平成19年頃,コアファンドⅠへの出資を検討した。
コアファンドⅠはコア型の私募不動産ファンドであり,運用期間が5年間,エクイティ出資で220億円,ノンリコースローンで約532億円を集め,東京,福岡及び大阪に所在するオフィス物件を投資対象とする私募不動産ファンドであった。コアファンドⅠは,営業者として有限責任中間法人を使用している。
被告は,コアファンドⅠに対するデュー・ディリジェンス(コアファンドⅠはコア型であり,既に物件が決定しているので,実地調査,鑑定評価書及びエンジニアリングレポートを入手して,その内容を検証している。)を実施し,また,上記匿名組合契約書等の契約書類をa法律事務所の弁護士らにチェックを依頼し,同弁護士らから,他のプライベート・エクイティ投資又は不動産投資のために通常締結される匿名組合契約と比較して,特に不利な条項は見当たらないとの意見を得た。
被告は,原告に対し,コアファンドⅠに対するデュー・ディリジェンス・レポート及び「不動産ファンドのリスクについて」(乙16)と題する書面を交付し,デュー・ディリジェンスの結果,コアファンドⅠには特に問題がなく,契約書類についても,特に問題がない旨の弁護士らの意見を得ていること,コアファンドⅠの投資ストラクチャー及び前記(8)と同様の私募不動産ファンドのリスク(レバレッジリスク及びリファイナンスリスク)を説明した。
原告は,同年3月20日,コアファンドⅠへの62億円の出資に同意する旨の同意書(甲29。上記同意書[兼同意依頼書]には,出資におけるリスクは別途交付する「不動産ファンドのリスクについて」を参照するよう注記がされている。)を被告に提出し,被告は,第2契約に基づき受託した資産から,コアファンドⅠに62億円を出資した。
(前記第2の1の争いのない事実,甲28,甲29,乙16,乙56,乙88)
(10)  原告は,平成20年頃,5号ファンドに対する出資を検討した。
5号ファンドはオポチュニティ型で,運用期間が8年間(ただし,1年ずつ2回までの延長が可能とされていた。),エクイティ出資で3500億円から4000億円まで程度(借入金を含めてファンド総額1兆5000億円程度)を集め,東京のオフィス物件を投資対象とする私募不動産ファンドであった。5号ファンドの営業者であるノービルは,ダヴィンチが100%出資する株式会社である。
5号ファンドの組合内容説明書(乙68の3)では,ダヴィンチが600億円を上限に出資確約総額の15%の出資を行うこと(同出資は,貸付けの形式を採ること),一投資案件(一物件)について,出資確約総額の20%を超えて投資をしないこと,つなぎ融資の場合を除き,借入総額が投資案件の公正価格の75%(最初と最後の投資事業年度中は80%)を超えることとなる借入れを行わないこと,ダヴィンチに対し出資確約総額等の年率1.5%のマネジメント・フィーを支払うこと,ダヴィンチに対する成功報酬は,ファンド運営に必要な費用を控除し,投資対象となったファンドへの出資金及び過去の投資案件への出資金が投資家に償還済みであり,かつ,現に投資中の案件でも出資金が投資家に償還されると予想される場合に,投資家が年率10%の優先配当を受け取った後,当該投資案件の20%を上限とすることとされている。
5号ファンドに係る匿名組合契約の契約書(甲33及び乙67の2)では,ダヴィンチの出資は,貸付けの形式を採るとしても,匿名組合出資と同順位であることが予定されており,ノービルが5号ファンドの営業に関連しない行為に関与すること,契約で認められる場合を除き金銭の借入れ等を行うこと,一つの投資案件に付き出資確認総額の20%超の投資を行うことが原則禁止され,また,ノービル及びダヴィンチ並びにその関係者との取引も原則として禁止されるが,新たに組成されたSPV(ビークル)に対して投資案件(投資物件)等を原価で譲渡することはできることとされた。
また,ノービルは,同契約書において,同契約の履行に関連して必要又は適切な全ての行政機関等の全ての登録や許可等を取得している旨及びダヴィンチが600億円を上限に出資確約総額の15%の出資を行うことを保証及び誓約した。
被告は,前記(8)の4号ファンドに対するデュー・ディリジェンスと同様に,5号ファンドに対するデュー・ディリジェンスを実施し,また,上記匿名組合契約書等の契約書類をa法律事務所の弁護士らにチェックを依頼し,同弁護士らから,他のプライベート・エクイティ投資又は不動産投資のために通常締結される匿名組合契約と比較して,特に不利な条項は見当たらないとの意見を得た。
被告の担当者は,同年7月7日,原告代表者及びL常務理事と面談し,原告代表者及びL常務理事に対し,5号ファンドに対するデュー・ディリジェンス・レポート及び同月付け「不動産ファンドのリスクについて」(乙17)と題する書面を交付し,デュー・ディリジェンスの結果,5号ファンドには特に問題がなく,契約書類についても,特に問題がない旨の弁護士らの意見を得ていること,5号ファンドの投資ストラクチャー及び前記(8)と同様の不動産ファンドのリスクを説明した。原告代表者は,上記面談の際,基金資産全体に占める私募不動産ファンドの割合が高いこと及びダヴィンチ・ファンドに投資が集中していることは十分認識しており,それは必要なリターンを確保するために行っていることであると述べた。
原告は,同月11日,5号ファンドへの最大100億円の出資に同意する旨の同意書(甲31。上記同意書[兼同意依頼書]には,出資におけるリスクは別途交付する「不動産ファンドのリスクについて(平成20年7月)」を参照するよう注記がされている。)を被告に提出し,被告は,5号ファンドへの出資確約を行ったが,平成23年2月10日付けの終了契約により,出資はされないまま解約された。
(前記第2の1の争いのない事実,甲30,甲31,甲33,乙17,乙57,乙67の2,乙68の3,乙77)
2  被告に,原告の基金資産全体の分散投資のために,平成18年2月3日付け,同年12月8日付け及び平成19年3月20日付けの各増額契約又は増額指図の受託を差し控えるべき注意義務違反があったか否か(債務不履行に基づく請求及び不法行為に基づく請求に関する争点)(争点(1))について
(1)  助言義務について
ア(ア) 厚年法1条は,厚年法が労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とすると規定している。
(イ) 厚年法136条の3第5項は,年金給付等積立金(基金の資産)の「運用は,政令で定めるところにより,安全かつ効率的に行わなければならない。」と規定し,これを受け,厚生年金基金令39条の15第1項は,「基金は,年金給付等積立金を,特定の運用方法に集中しない方法により運用するよう努めなければならない。」と規定し,基金の分散投資義務を定めている。
(ウ) 厚年法136条の4第1項,厚年基金規則42条1項は,基金に対し,基金資産の運用の目標,基金資産の構成に関する事項,運用受託機関の選任等に関する事項等を記載した基本指針(以下,「基本指針」というときはこれを指す。)を作成すること及び基本指針に沿って基金資産の運用をすべきことを義務付けている。
また,厚年基金規則41条の6は,基金に対し,その運用する年金資産について,長期にわたり維持すべき資産の構成割合を適切な方法により定めること,上記資産構成割合の決定に関して,基金に使用され,その事務に従事する専門的知識及び経験を有する者を置くことにより,年金給付等積立金の運用を行うよう努めることを求めている。
(エ) 厚年法136条の3第1項1号から3号までは,基金の資産の運用につき,信託会社又は信託業務を営む金融機関への信託等によって委託運用することを原則としており,厚年法136条の4第3項,厚年基金規則42条4項は,基金に対し,委託運用に際して,運用受託機関に対して,基本方針に整合的な運用指針を作成して交付し,協議に基づいて,基本方針の趣旨に沿って運用すべきことを示すことを義務付けている。
(オ) 厚年法136条の5は,運用受託機関に対し,法令及び基金との間の委託契約を遵守し,基金のために忠実にその業務(基金資産の運用)を行わなければならないと定めている。
イ 厚生省年金局長通知「厚生年金基金の資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドラインについて(通知)」(平成9年4月2日年発第2648号。本件は,平成14年3月31日改正後で平成19年9月28日改正前のもの)による厚生年金基金の資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン(以下「厚生省ガイドライン」という。)には,以下のように定められている(乙1)。
(ア) 基金は,自家運用の場合を除き,信託銀行等と積立金の管理及び運用に関する契約を締結することとされており,また,年金運用コンサルタント等と管理運用業務に係る助言に関する契約を締結することができるが,管理運用業務に関する意思決定については,基金自らの判断の下に行う(二)。
基金の理事は,管理運用業務について,理事として社会通念上要求される程度の注意を払い,基金のために忠実にその職務を遂行しなければならず,特に,管理運用業務を執行する理事(理事長,管理運用業務を行う常務理事等[以下「理事長等」という。])は,管理運用業務に精通している者が,通常用いるであろう程度の注意を払って業務を執行しなければならない(三(1))。基本方針,運用ガイドラインや資産構成割合の策定,運用受託機関の選任,評価等に関して,必要な場合には,年金運用コンサルタント等の機関に分析・助言を求めることが考えられる(三(8))。理事長等は,投資理論,資産運用に関する制度,投資対象の資産の内容等の理解及び資産運用環境の把握に努めなければならない(三(9))。
(イ) 理事長等は,運用の基本方針を策定しなければならず,運用の基本方針は,基金の成熟度・積立水準,事業主の掛金負担能力・経営状況等,基金の個別状況に応じて基金自らの判断の下に策定されなければならない(三(4))。
理事長等は,運用の基本方針を踏まえ,文書による運用ガイドライン(運用指針)により,各運用受託機関に対し,資産構成に関する事項,運用手法(運用スタイル)に関する事項,運用業務に関する報告の内容及び方法に関する事項,運用業務に関し遵守すべき事項,その他運用業務に関し必要な事項を示さなければならない(三(5)②)。
(ウ) 基金の理事は,基金資産の運用にあっては,分散投資に努めなければならないが,分散投資を行わないことにつき合理的理由がある場合には,この限りではない(三(1))。
ウ(ア) 以上ア,イのとおり,厚年法,厚生年金基金令及び厚年基金規則は,労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという厚年法1条所定の目的を達成するために,基金に対し,基金資産の分散投資義務を課し,そのために,基金が自ら基金資産の構成割合及び運用受託機関の選任に関する事項等を定めた基本方針を定めるとともに,運用指針を作成して運用受託機関に交付し,運用受託機関に基本方針の趣旨に沿って運用すべきことを示すことを義務付けており,運用受託機関は,基金によって示された運用指針を遵守し,委託された範囲内で基金との協議に基づいて運用することが義務付けられているのであり,運用受託機関に対し,委託された範囲を超えて基金資産全体の分散投資についての助言義務は課していない。このように,基金には基金資産の資産構成割合を含む基本方針の策定という重大な義務が課されているため,厚生省ガイドラインでは,管理運用業務について,基金の理事に,理事として社会通念上要求される程度の注意を払うことを義務付け,特に理事長等は「管理運用業務に精通している者」が通常用いるであろう程度の注意を払って業務を執行しなければならないとして,基金の理事(特に理事長等)に高い注意義務を課した上,理事長等が自らに基本方針策定のための能力が不足していると考える場合,年金運用コンサルタント等に助言を求めることが考えられるとしているのである。
また,第2契約において被告による原告の基金資産全体に対する分散投資義務についての助言義務の定めはないのであるから,旧信託法20条,第1契約17条,第2契約20条所定の運用受託機関である被告に課せられた善管注意義務は,被告に委託された範囲内において履行すれば足りるのであり,委託された範囲を超えて基金資産全体の分散投資についての助言義務を含んでいない。
民法上の委任においては,委任者の指示が不適切であった場合に,受託者はその指示に漫然と従うべきではないと一般的に解されているが,上記厚年法等の規定に照らすと,年金信託の場合にこれと同様に解すべき根拠はない。米国のエリサ法(従業員退職給付保障法。乙44)においては,「共同受託者の責任」が定められ,基金の策定した基本指針が誤っていた場合(基金が受託者責任に反する行為を行っている場合),運用受託機関は,基金に対して問題点を指摘し,場合によっては基金に問題点を修正させる働きかけをしなければならないとされているが,日本の厚年法等の規制は,これとは異なっている。
また,金融庁において,いわゆるAIJ事件を契機に,①平成24年9月4日に,基金の運用受託機関となる信託銀行に対し,信託銀行が基金に分散投資義務違反が生ずるおそれを把握した場合,基金等への通知義務を課す方向で金融商品取引業等に関する内閣府令の改正を予定しており,同改正につき義務規定ではなく,努力規定とすべきであるとのパブリックコメントに対し,基金から各運用受託機関に総資産額等の通知をすることを前提に,一つの運用受託機関が当該基金から資産の相当部分を受託している場合,自らが運用している資産が分散投資義務に違反しているおそれがあるかどうかについて把握できるときは,基金に対して通知を行うことを義務付けることが合理的であることを理由に,行政処分の対象となる法的義務とする見解を表明しており,②兼営法施行規則23条2項を改正して,指定単の受託者から基金に対する基金資産の分散投資に関する通知義務を法定することを予定し,さらに監督指針において,通知義務の履行にもかかわらず,基金の分散投資義務違反のおそれが解消しない場合,受託者に「協議義務」及び「受託者の辞任」を前提とした監督指針の新設を予定しているが,これらの改正は,監督指針だけでなく内閣府令の改正をも含んでいること,一般社団法人信託協会が厚生労働省に設置された有識者会議においてAIJ事件を契機として発覚した問題状況に対する対処として,基金資産全体の分散投資に係る助言を行うことを目指すべき対応として提案していること(乙105)からも,現行法下の規制を確認したものではなく,現行法下で上記助言義務が存在しないことを裏付けているものであることが明らかである。
原告は,「新規オルタナティブ資産組み入れに際してのリスク特性についての原告との十分な事前協議義務」を定めた運用指針(乙47)は,バランス型運用である第1契約において被告に示したものであり,私募不動産ファンド特化型である第2契約についてはこれを示しておらず,上記運用指針が第2契約には適用されないので,上記運用指針を根拠に上記助言義務を認めることはできない。
なお,被告が原告の基金資産全体の資産構成割合を知り得たとしても,上記結論は左右されない。
(イ) 前記1で認定した事実によれば,原告が,第2契約において,被告に対して,原告の基金資産全体の資産構成割合について相談をしたことはないし,助言をしたこともなく,それを了承する立場にもなかったのであるから,被告に,信義則上の助言義務を認めることもできない。
(ウ) なお,仮に,例外的に被告に原告の基金資産全体の資産構成割合に関する助言義務が認められる場合があるとしても,厚生省ガイドライン上,分散投資を行わないことにつき合理的理由がある場合には,分散投資を行わなくても良いとされていることも考慮すれば,原告の基金資産全体の資産構成割合が当時の状況下で全く合理性を欠いた状況にあったということもできないので,そのような場合にも当たらないというべきである。
(2)  受託拒絶義務について
上記のとおり,助言義務が認められない以上,原告がその延長として主張する受託拒絶義務も認められない。
3  被告に,安定運用すべき年金資産を,5年から8年の運用期間に投資対象不動産の価値が20%から30%程度下落しただけで,出資元本全額が毀損されるリスクがあるハイリスク商品であり,人的・資本的倒産隔離がされておらず,かつ,単一の運用マネージャーが運用している私募不動産ファンドに,基金の全資産の75%を出資した注意義務違反があるか否か(債務不履行に基づく請求及び不法行為に基づく請求に関する争点)(争点(2))について
(1)  年金信託を受託した運用受託機関は,自らの判断と責任において資産運用を行うのであるから,その投資判断については裁量が認められる。したがって,運用受託機関は,与えられた裁量の範囲を逸脱し,又はその裁量権を濫用して投資判断を行わない限り,注意義務違反が認められないと解すべきである。
(2)  運用マネージャーの分散義務について
証拠(甲66・19頁,乙82,乙90,乙91)によれば,私募不動産ファンドにおいては,リスク分散のための分散投資としては,運用マネージャーの分散よりも,投資対象である不動産物件の分散の方が重要であり,投資対象不動産の分散や運用スタイルの分散などの主要なリスク分散が実現されていれば,それに加えて運用マネージャーの分散が必要不可欠ではなく,実務的には単一のマネージャーに投資することが少なくないこと,年金資産のような長期資産の運用においては,リターンの変動の約9割が,資産構成割合によって決定されると言われており,私募不動産ファンド特化型の第2契約において,運用マネージャーの分散投資によって得られるリスク分散の効果はもともと限定的であり,適切な運用マネージャーを選定することが運用マネージャーの分散よりも重要であることが認められる。また,信託検査マニュアル(甲62)には,資産種別や銘柄等の分散を要求している記載があるが,運用マネージャーの分散を要求していることを認めるべき記載はない。したがって,私募不動産ファンドに投資する際,同一の運用マネージャーの運営する不動産ファンドに投資をするのではなく,複数の運用マネージャーの運営する不動産ファンドに分散投資をしなければならない義務はないというべきである。同一の運用マネージャーであれば,類似の不動産が投資対象となる場合が多いという問題点があるとしても,それは投資対象不動産の分散の問題として検討すれば足りるというべきである。
これに反する原告の主張は採用することができない。
(3)  他の私募不動産ファンドとの比較検討義務について
証拠(乙54,乙83,乙91)によれば,私募不動産ファンドは,投資対象資産の購入の目処がついた時点で運用マネージャー側から急に募集が持ちかけられるので,上場株式等と異なり,同時期に募集を行っている投資対象が多数存在することがなく,また,限られた関係者で組成され,関係者以外には積極的にディスクロージャーされない上,組成から実際の出資までの時間が短く,迅速な意思決定が求められることが認められ,これらの事情に照らせば,運用受託機関に,私募不動産ファンドへの投資に際し,他の具体的な私募不動産ファンドとの比較検討義務があると認めることができず,私募不動産ファンド一般と比べて当該私募不動産ファンドが特に不利益でないか否かの検討を行っていれば足りるというべきである。また,前記1で認定した事実によれば,被告は,ダヴィンチ・ファンドに出資するに当たり適切なデュー・ディリジェンスを行っていたということができる。
これに反する原告の主張は採用することができない。
(4)  ダヴィンチ・ファンドにおける倒産隔離の有無について
ア 倒産隔離(甲77,甲78,甲125,乙65)
(ア) 証券化は,投資対象資産(不動産ファンドであれば,当該不動産)をオリジネーター(投資対象資産の原所有者)から切り離し,投資対象資産自体の価値等に基づいて資金調達を行うものであるため,オリジネーターやSPVの倒産による投資家への影響を排除することが求められ,そのための措置を倒産隔離という。
倒産隔離は,倒産リスクの所在に応じて,投資対象資産の倒産隔離とSPVの倒産隔離に分類することができる。これらの倒産隔離には,それぞれ下記のとおりいくつかの要素があるが,それらが全て達成できていなければ倒産隔離が実現していないというわけではなく,絶対的な基準があるわけではない。
(イ) 投資対象資産の倒産隔離は,投資対象資産をオリジネーターの倒産の影響から法的に遮断することを意味し,①真正売買性の確保(オリジネーターの管財人等から,SPVへの投資対象資産の譲渡が譲渡担保であると主張されないように,真正な譲渡であると認められるようにしておくこと),②否認リスクの排除(オリジネーターの管財人等から,SPVへの投資対象資産の譲渡につき否認権を行使されないようにしておくこと),③コミングリング・リスク(投資対象資産から生じるキャッシュ・フロー[例えば賃料等]の回収を回収業者[サービサーと呼ばれる。]に委託した場合,当該キャッシュ・フローをSPVに引き渡すより前に当該回収業者が倒産したときに,回収したキャッシュ・フローが回収業者の資産としてその破産財団等に組み入れられてしまう危険性のこと)の回避という要素が挙げられる。
(ウ) SPVの倒産隔離は,倒産予防措置と倒産手続防止措置に分けて検討される。
a 倒産予防措置は,SPVが倒産状態に陥らないようにするための措置をいい,具体的には,①SPVの業務内容を定款によって限定すること,②借入れ等を制限すること,③SPVとオリジネーター等との人的関係及び資本関係を切断することなどが挙げられる。このうち,SPVとオリジネーター等の人的関係の切断は,オリジネーター等は投資家らと必ずしも同一の利害を有していないため,オリジネーター等が投資家らを害する目的又は態様でSPVをコントロールすることができないようにしておくことであり,SPVの取締役や業務執行役員にオリジネーター等の役職員又はオリジネーター等の子会社又は関連会社の役職員を就任させないことなどを指し,資本関係の切断は,上記人的関係の切断の確保のために,オリジネーター等がSPVの取締役等を交代させることができないように,オリジネーター等がSPVについて議決権等を行使できないようにしておくことを指す。
b 倒産手続防止措置は,たとえSPVが倒産状態に陥ったとしても,法的倒産手続の開始を防止するための措置であり,具体的には,①SPV及びSPVの取締役等に破産等の申立権を放棄する旨を誓約させ,②SPVとSPVの債権者との間で,債権者による破産申立てを禁止する旨の契約を締結するなどの方法がある。親会社隔離の問題は,倒産隔離のうち,倒産予防措置の一つである「SPVとオリジネーター等との人的関係及び資本関係の切断」のうちの一部の要素でしかない(しかも,オリジネーター「等」とされているとおり,親会社隔離は,この要素の中でも最も重視される要素ではない。)。
(エ) 被告は,前記1で認定したとおり,倒産予防措置につき,定款又は匿名組合契約上,SPVの営業内容が制限されていること及び借入れ等の上限が定められていることを確認したこと及びSPVの親会社と運用マネージャーとの隔離(利益相反行為の防止)については,後記のとおり,私募不動産ファンドでは使われることが多いセームボート出資の仕組みを採用していることを確認したのであるから,倒産隔離が出資をするのに問題がない程度には達成されていると判断したことが不合理であると認めることができない。このことは,3号ファンド,4号ファンド及び5号ファンドに,被告以外のいわゆるプロの投資家も出資(エクイティ出資及びノンリコースローン等の貸付け)を行っていたことからも明らかであるし,また,証拠(乙70)によれば,後に,ダヴィンチ・ファンドの仕組みに問題があるのではないかと指摘された際,国内の機関投資家から一般社団法人スキームをつかった代替ストラクチャー(一般社団法人は出資者が議決権を有しないため,原告が主張する「親会社隔離」を制度的に達成する仕組みである。)が提案されたものの,海外投資家からは現行スキームでよい旨の意見があったことからもうかがわれる。
(オ) セームボート出資について
原告は,5号ファンドに対するダヴィンチの出資は,エクイティ出資ではなく,貸付けであると主張するが,そうであるとしても,匿名組合出資と同順位であるので,セームボート出資であることの妨げとはならない。
また,原告は,3号ファンド及び4号ファンドに対するダヴィンチの出資は,自己資金ではなくBNPパリバからの借入れでまかなわれ,各出資をBNPパリバに対する借入金の担保としているから,セームボート出資に当たらないと主張するが,3号ファンド及び4号ファンドに対するダヴィンチの出資は,自己資金ではなくBNPパリバからの借入れでまかなわれたことを認めるに足りる証拠はないのみならず,原資が自己資金であるか借入金であるかでダヴィンチの利益が変わるわけではなく,このことは,各出資を借入金の担保に供しているとしても同様であるので,セームボート出資であることの妨げとはならない。
イ そのほか,原告は,ダヴィンチ・ファンドの倒産隔離がされていなかったことにより現実化した弊害として,①ダヴィンチが,平成22年2月18日に,カドベ及びムーンコインの株式等を,BNPパリバからの借入れの担保として提供したこと,②ファンドにおいては,通常,ファンドマネージャーの費用(人件費及び販売管理費等)はマネジメント報酬に含まれるが,ダヴィンチ・ファンドでは,マネジメント報酬とは別立てでファンドマネージャーの費用をファンドが負担することとされており,また,有価証券投資につき,各銘柄ごとに成功報酬を算出するため,ファンド全体では大きな利益が出ておらず又は損失が出ている場合でも,高額の成功報酬が得られる場合があるなど,投資家にとって明らかに不利な内容となっていること,③カドベが平成20年1月18日にその資産保有SPVの債務について連帯保証したこと,④ムーンコイン及びカドベがノンリコースローンではなく,マージンコール付きの借入れで資金調達を行っていたこと,⑤ⅰカドベとダヴィンチの関連会社との間で平成19年6月29日及び同年11月16日に基本協定書が締結されたこと,ⅱダヴィンチの運用する私募不動産ファンド間での不動産の売買,ⅲムーンコインからダヴィンチの上場不動産投資信託(REIT)への物件供給,ⅳダヴィンチと密接な関係にある仲介業者である株式会社ラルゴコーポレーションの株式への投資等,投資家の利益に反する行為が行われていたこと,⑥平成21年9月及び同年10月,4号ファンドで行われたフォワード取引に係る違約金の支払に,4号ファンドが保有する有価証券の一部の処分代金が充てられたこと,⑦ムーンコインが,平成22年7月25日を返済期限とするノンリコースローンのリファイナンスを行うため,資産保有SPVの保有物件を売却し,その売却代金の一部を上記ノンリコースローンの一部弁済に充てたこと,⑧ムーンコインが,平成18年7月20日及び平成20年8月22日に,複数の資産保有SPVの借入れを一本化して連帯債務としたこと,⑨ムーンコイン及びカドベが投資対象不動産の売却代金の一部を投資家に分配せずに,必要な限度を超えた内部留保を行っていたこと,⑩倒産隔離が十分にされている私募不動産ファンドであれば,運用マネージャーが倒産した場合でも,レンダーがノンリコースローンのリファイナンスに応じ,バックアップマネージャーがファンドの運営を継続することが多いにもかかわらず,ダヴィンチ・ファンドは,倒産隔離が十分にされていないため,リファイナンスを拒否されたという問題が生じていると主張する。
しかし,まず,①,⑥及び⑦の各点については,5号ファンドへの出資より後に発生した事実であり,これらの事実をもって被告の投資判断の過失を基礎付けるづけることはできない。また,被告は,③,④,⑤ⅰ及び⑨の各点については,被告に判明したのは,③の事実が平成21年9月28日,④の事実が判明したのは平成20年10月27日,⑤ⅰの事実が判明したのは平成21年9月28日及び⑨の事実が判明したのは平成22年9月9日であり,いずれも5号ファンドへの出資より後であると主張しており,被告が上記各事実を5号ファンドへの出資より前に知り得たことを認めるに足りる証拠はないので,これらの事実の発生をもって,直ちに被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。
次に,②の点については,ダヴィンチが受け取る報酬は,匿名組合契約及び運営委託契約書において定められており,被告は,同契約書を検討して,その報酬に見合うリターンが期待できると判断して出資を行っている上,ダヴィンチ・ファンドにおける報酬体系が他の私募不動産ファンドに比して特に高額であったと認めるに足りる証拠はないし(むしろ,上記契約書等については,デュー・ディリジェンスの際にa法律事務所の弁護士らにチェックを依頼しており,同弁護士らから他の私募不動産ファンド等と比べて特に不利益ではないとの回答を得ていることからすれば,特に投資家に不利な条項ではなかったことがうかがわれる。),成功報酬についても,ダヴィンチが成功報酬を受領することができるのは,投資対象となったファンドへの出資金及び過去の投資案件への出資金が投資家に償還済みであり,かつ,現に投資中の案件でも出資金が投資家に償還されると予想される場合のみであるから,この点は,被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。
次に,⑤ⅱの点については,証拠(乙75,乙91)によれば,同一の運用マネージャーの複数の私募不動産ファンド間で物件の売買をすることは一般に行われており,また,私募不動産ファンドにおいては,運用期間終了時に投資対象不動産を売却する必要があり,上場不動産投資信託(REIT)に物件を売却することは,対価が適正である限り,むしろ投資家の期待することである上,当該売買は,いずれも,売買価格も含めて,全投資家との協議を経て行ったものであり,何ら投資家の利益を害するものではないことが明らかであるから,この点は,被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。
次に,⑤ⅲの点については,株式会社ラルゴコーポレーションがダヴィンチと密接な関係にある会社であることを認めるに足りる証拠はないのであるから,この点は,被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。
次に,⑧の点については,複数の資産保有SPVのノンリコースローン債務を一本化して連帯債務とすることが営業者に匿名組合出資している投資家にどのような不利益を与えるのか不明であるし,弁論の全趣旨によれば,むしろ,これによって,リファイナンスの際,各資産保有SPVが個別にリファイナンスを行うよりはるかに有利な条件でリファイナンスを行うことができることが認められるのであるから,この点は,被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。
次に,⑩の点については,ダヴィンチ・ファンドがリファイナンスを受けられなかったのは,倒産隔離が不十分であったからであることを認めるに足りる証拠はないのであるから,この点は,被告の投資判断の過失を基礎付けることはできない。
(5)  ダヴィンチ・ファンドが他の私募不動産ファンドに比してハイリスクであるか否かについて
ア 原告は,ダヴィンチ・ファンドは,①3号ファンドのLTV(借入金比率)が78.5%,4号ファンドのLTVが73.0%と,同時期に組成されていた他の私募不動産ファンドよりも非常に高い水準にある上,ファンドの時価評価は,ダヴィンチが指定した不動産鑑定士が年1回のみ行うものであり,ダヴィンチに有利に高額な査定を行っており,適正価格で評価すればLTVは更に高くなるし,上記各LTVの数値はファンド全体の平均値であり,個別物件に着目すれば,より高いLTVの物件が存在すること,②ファンド運用機関が5年から8年と長期に設定されている上,ダヴィンチの裁量により,1年から2年までの期間延長も可能であり,その間中途解約はできず,極端に流動性が低いこと,③投資対象が首都圏のオフィスビルという超大型物件を中心としているため,買手が極端に限定され,投資対象不動産の流動性も低いこと,④投資戦略も,不動産開発案件や不動産関連の上場・未上場株式への投資戦略も対象とするなど複雑であること,⑤ノンリコースローンにつき,資産保有SPVが複数の投資対象不動産を保有している場合でも,個別の不動産にのみ担保を付けるのが通常であるところ,ダヴィンチはそれらを共同担保に供していたことという問題があり,同時期に組成されていた他の私募不動産ファンドに比して極めてハイリスクな不動産ファンドであったと主張する。
しかし,①の点については,証拠(乙40,乙52,乙91,乙109から113まで)によれば,私募不動産ファンドは,利回りを上げるため,投資額に対する借入金の比率を高く設定するのが通常であること,平成16年度から平成18年度にかけて組成された私募不動産ファンドのLTVは,平均7割超であり,90%以上の私募不動産ファンドも存在することが認められ,これによれば,3号ファンド及び4号ファンドのLTVが,当時組成されていた私募不動産ファンドに比して特に高いLTVを設定していたことはないことが明らかである。また,乙91によれば,鑑定価格については,私募不動産ファンド投資においては,運用マネージャーが鑑定機関1社を推薦し,ノンリコースローン融資を行う金融機関が同社による鑑定に納得すれば,複数の鑑定機関による鑑定を行うことは通常行われていないことが認められ,ダヴィンチに有利な高額の査定を行っており,適正価格で評価すれば,LTVが更に高くなると認めるに足りる証拠はない。
したがって,①の点は,ダヴィンチ・ファンドが同時期に組成されていた他の私募不動産ファンドに比して極めてハイリスクな不動産ファンドであったことを基礎付けるものということはできない。
次に,②の点については,証拠(乙52,乙113)によれば,私募不動産ファンドの目標運用期間は,平均5年程度であり,7年以上のものも相当数あることが認められ,これによれば,3号ファンド及び4号ファンド(いずれも8年間)の運用期間が,当時組成されていた私募不動産ファンドに比して特に長期であったこともない。
したがって,②の点は,ダヴィンチ・ファンドが同時期に組成されていた他の私募不動産ファンドに比して極めてハイリスクな不動産ファンドであったことを基礎付けるものということはできない。
次に,③の点については,当裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨によれば,首都圏(特に東京)は,賃貸需要,投資ニーズが国内で最も安定している地域であるため,東京や首都圏等の都市部への重点的な投資は,むやみな分散投資よりもかえって安全性が高く,リスク回避に資するものであるし,超大型物件の流動性は相対的に低いものの,ダヴィンチは入札によりこれらの物件を取得しており,競合して購入を希望する者が存在したことが認められ,これによれば,十分に流動性を確保できるものであり,また,弁論の全趣旨によれば,ダヴィンチは,取得する各物件の天災リスクにも配慮していたことが認められるのであるから,この点は,ダヴィンチ・ファンドが同時期に組成されていた他の私募不動産ファンドに比して極めてハイリスクな不動産ファンドであったことを基礎付けるものということはできない。
次に,④の点については,それだけでは,ダヴィンチ・ファンドが同時期に組成されていた他の私募不動産ファンドに比して極めてハイリスクな不動産ファンドであったことを基礎付けるものということはできない。
次に,⑤の点については,証拠(乙91)及び弁論の全趣旨によれば,個別不動産の資産流動化又は証券化取引の場合は個別の不動産にのみ担保を付けることが一般的であるが,私募不動産ファンドの場合,資産保有SPVが複数の投資対象不動産を保有しているときは,煩雑さを避けるために複数の投資対象不動産に共同担保を付けることがむしろ通常であるし,その方が有利な条件での借入れを受けることが可能であると認められる。
したがって,⑤の点は,ダヴィンチ・ファンドが同時期に組成されていた他の私募不動産ファンドに比して極めてハイリスクな不動産ファンドであったことを基礎付けるものということはできない。
イ 原告は,ダヴィンチの組成する不動産ファンドが他の私募不動産ファンドに比してハイリスクであったことは,ARESの公表している調査結果によれば,平成18年に出資した全国の私募不動産ファンドの大半が現在までにトータルリターンベースでプラスリターンとなっており,損失が生じていないことからも明らかであると主張する。
しかしながら,証拠(甲178,乙86,乙87の1及び2,乙113,乙114,乙123,乙124)によれば,ARESの私募ファンド指数は,母集団が限定されており,試験的に提供された指数にすぎず,平均LTVも低く,コアファンド型以外のファンドが含まれておらず,かつ,ARESに報告されているインカムリターンは,私募不動産ファンド自体のインカム(当期利益)であり,投資家に分配されたインカムリターンとは一致しないのであるから,ARESの調査結果によれば,全国の私募不動産ファンドの大半が平成18年に出資した私募不動産ファンドが現在までにトータルリターンベースでプラスリターンとなっていることが,同年に出資した全国の私募不動産ファンドの大半において,投資家に分配されたトータルリターンがプラスになっていることを意味しないこと,5大都市(東京,大阪,名古屋,札幌及び福岡)のオフィスビルの不動産価格は,平成20年4月までは上昇していたが,同年頃から急激に下落し,平成24年4月までに約28%も下落しており,被告が平成18年及び平成19年に投資した私募不動産ファンドはいずれも元本割れとなっていること,当時,いわゆるリーマン・ショックにより,不動産市況が著しく悪化していたことが認められ,これによれば,原告の上記主張は採用することができない。
4  第2契約締結時及び各増額契約締結時に,個別の私募不動産ファンドのリスク(レバレッジリスク)を具体的に説明しなかった注意義務違反の有無(不法行為に基づく請求に関する争点)(争点(3))について
(1)  指定単の契約において契約締結時に具体的に投資対象が決定している場合の説明義務の対象について
顧客が信託金の運用の範囲を指定して,運用を運用受託機関に委ね,運用受託機関が指定された範囲内で,自己の判断で運用することを内容とする信託である指定単においては,個々の投資商品への投資は運用受託機関が自らの判断において行い,その判断について与えられた裁量の逸脱や裁量権の濫用があれば,運用受託機関がその責任を負う。このような指定単の仕組みからすれば,運用受託機関である被告は,顧客である原告に対し,個々の具体的商品についての説明義務を負うことはないと解すべきであり,仮に,契約時点で個々の投資商品が決まっている場合であっても,変わるところはないというべきである。
これに反する原告の主張は採用することができない。
(2)  私募不動産ファンド一般のリスク(レバレッジリスク)の説明義務について
前記1で認定したとおり,原告は,第1契約において,自らの主導の下,運用対象として私募不動産ファンドを指定し,少なくとも第2契約締結前には,私募不動産ファンドには,資金として出資者からの出資金以外に他からの借入金が導入されること,借入金の返済が出資金の償還よりも優先されることを認識していたことに加え,レバレッジリスク自体の理解は,一般人にとっても困難ではなく,平成17年から平成19年にかけて,一般にも購読されている投資金融情報紙(日経金融新聞)や各種ビジネス誌(週刊東洋経済,エコノミスト,日経ビジネス)においても,私募不動産ファンドについて,レバレッジリスクが報じられていたこと(乙96,乙99から101まで,乙121の1及び2,乙122),前記2で説示したとおり,基金は,個々の投資商品の一般的なリスク特性を理解して自ら基金資産全体の資産構成割合を策定しなければならず,必要な場合には,年金運用コンサルタント等の機関に助言を求めることが予定されており,現に,原告は,野村證券株式会社で資産運用の経験があるCを年金運用コンサルタントとして採用していたことに照らせば,被告は,原告に対し,第2契約において上記レバレッジリスクの説明義務を負わないというべきである。
5  結論
以上の次第で,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中村也寸志 裁判官 濵本章子 裁判官 近江弘行)

 

*******

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。


Notice: Undefined index: show_google_top in /home/users/1/lolipop.jp-2394bc826a12fc5a/web/www.bokuore.com/wp-content/themes/rumble_tcd058/footer.php on line 296

Notice: Undefined index: show_google_btm in /home/users/1/lolipop.jp-2394bc826a12fc5a/web/www.bokuore.com/wp-content/themes/rumble_tcd058/footer.php on line 296