判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(161)平成25年 9月25日 東京地裁 平23(ワ)28591号 社債償還金等請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(161)平成25年 9月25日 東京地裁 平23(ワ)28591号 社債償還金等請求事件
裁判年月日 平成25年 9月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)28591号
事件名 社債償還金等請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2013WLJPCA09258022
要旨
◆原告が、被告会社の代表取締役である被告Y1から、短期でリスクの少ない投資であるとの勧誘を受けて、被告会社などの社債を取得し、また、被告会社が営業者となっている匿名組合に金員を拠出したが、社債の償還期限が到来しても社債が償還されず、匿名組合出資金について返還手続を行う旨確約したにもかかわらずこれが履行されていないとして、被告会社及び被告Y1に対し、損害賠償を求めた事案において、被告Y1は、被告会社の代表取締役として、本件社債の申込み及び本件匿名契約締結に当たり、本件社債を取得すべきか否かの判断に不可欠の事実及び投資の是非を判断するに必要な事実について原告に説明すべき義務を尽くさなかったとして、被告Y1の不法行為責任を認めるとともに、被告会社についても会社法350条に基づく損害賠償責任を認め、請求を認容した事例
参照条文
民法709条
会社法350条
裁判年月日 平成25年 9月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)28591号
事件名 社債償還金等請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2013WLJPCA09258022
東京都千代田区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 泉義孝
同 箕浦友紀
同 山森一男
同 名村文宏
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Star Gate Investment Holdings Limited Japan株式会社(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 Y1
千葉県八千代市〈以下省略〉
被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 後藤千惠
同 安部史郎
主文
1 被告らは,原告に対し,連帯して,500万円及びうち300万円に対する平成20年7月18日から,うち200万円に対する平成22年1月8日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告会社は,原告に対し,
(1) 500万円及びうち300万円に対する平成21年10月1日から,うち200万円に対する平成22年5月1日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y1と連帯して,500万円及びうち300万円に対する平成20年7月18日から,うち200万円に対する平成22年1月8日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(上記(1)と(2)とは選択的請求)
2 被告Y1は,原告に対し,被告会社と連帯して,500万円及びうち300万円に対する平成20年7月18日から,うち200万円に対する平成22年1月8日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 仮執行宣言。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告会社の代表取締役である被告Y1から,短期でリスクの少ない投資であるとの勧誘を受けて,①被告会社に1000万円を支払って同社の社債を取得し,また,②被告会社が営業者となっている匿名組合に500万円を拠出したが,①の社債の償還期限が到来しても社債1000万円が償還されず,②の匿名組合出資金について返還手続を行う旨確約したにもかかわらずこれが履行されていないとして,
(1) 被告会社に対しては,①社債償還請求権に基づき,社債元本の一部300万円及びこれに対する償還期限の翌日である平成21年10月1日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金,又は,会社法350条の損害賠償請求権に基づき,被告Y1と連帯して,社債取得に係る損害の内金300万円及びこれに対する社債申込金の払込日である平成20年7月18日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,②匿名組合出資金の返還に係る上記確約に基づき,出資金の一部200万円及びこれに対する返還期限の翌日である平成22年5月1日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金,又は,会社法350条の損害賠償請求権に基づき,被告Y1と連帯して,匿名組合への出資に係る損害の内金200万円及びこれに対する出資日である平成22年1月8日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求め,
(2) 被告Y1に対しては,民法709条に基づき,被告会社と連帯して,①社債取得に係る損害の内金300万円及びこれに対する社債申込金の払込日である平成20年7月18日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金,並びに,②匿名組合への出資に係る損害の内金200万円及びこれに対する出資日である平成22年1月8日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
2 前提事実(証拠等を掲記したもの以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,洋服卸売会社等の代表者を務める者である。(甲9,乙29ないし31)
イ 被告会社は,有価証券の投資及び運用等を目的とする株式会社(日本法人)であり,被告Y1は,被告会社を設立した同社の代表取締役である。
(2) 社債取引
ア Otto Marine Limited(以下「オットマリーン社」という。)は,シンガポール証券取引所に上場している造船業等を営む会社である。(乙1の1及び2,弁論の全趣旨)
イ SG Investment(以下「エスジーインベストメント社」という。)は,被告Y1が設立に関わったケイマン諸島籍の会社である。(弁論の全趣旨)
ウ 原告は,被告Y1から,被告会社が募集する被告会社の下記社債(以下「本件社債」という。)について紹介を受け,平成20年7月18日,社債申込金1000万円を被告会社に支払って,本件社債2口を取得した。(甲1の1及び2)
募集総額 3億円
種類 無担保利付少人数私募債
金額 1口500万円(ただし,2口から)
利率 エスジーインベストメント社の運用成績に連動する
償還期限 元金は平成21年9月30日にその全額を償還する
エ 本件社債は償還期限までに償還されず,現在まで償還手続は行われていない。
被告会社は,平成22年11月2日付け内容証明郵便をもって,原告に対し,事情変更により本件社債の償還期限の延長を求める旨通知し(以下「本件償還期限延長通知」という。),そのころ,同通知は原告に到達した。(甲3)
(3) 匿名組合契約
ア 株式会社ゼクス(以下「ゼクス社」という。)は,住宅・ビル等のプロジェクトに関する調査・企画,マネジメント業務等を目的とする会社であり,平成21年当時,東証一部上場会社であった。(乙20,22)
イ 合同会社ダラム(以下「ダラム社」という。)は,不動産取引等を目的とする会社である。(乙23)
ウ ゼクス社は,平成21年9月24日を発行期日として,第三者割当増資の方式により56万6666株の新株を発行し,このうち20万株(発行価額1株1500円)につき,ダラム社が割り当てを受けて取得した。(甲7,乙22)
エ 原告は,被告Y1の提案を受けて,平成22年1月8日,被告会社との間で次の匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約」という。)を締結し,同日,500万円を出資した。(甲4,5)
営業者 被告会社
匿名組合員 原告
営業目的 対象会社に対して投資を行い,コンサルティング等により株主価値を高め,第三者に対象会社を売却すること等を目的とし,次の業務を行う。
① ベンチャーキャピタル業務
② 会社合併・併合(M&A)業務
③ 会社売買業務
④ 上記に付随する業務
決算 平成22年1月31日を第1回決算日とする。
営業年度は年1期として,毎年1回,1月末日を決算日として,決算を行う。また,営業目的の成功又は成功不能確定時に,決算を行う。
損益の分配 純益金又は損失金は,払込金額と償還時受取金額との差額とし,純益金が出た場合は,その50%を被告会社の成功報酬とし,損失金が出た場合は,その50%を被告会社が負担する。
契約の解除 契約を解除する場合は,被告会社は,原告に対し,出資金500万円を返還する。
オ その後,被告会社は原告に対し,ダラム社から打診を受けてゼクス社の株式を購入し,期待したほど運用利益は上がらなかったものの,平成22年1月中に当該株式をすべて売却できた旨,いったんは報告した。しかし,被告会社から原告に対する出資金の返還は行われなかったため,原告は,再三にわたり被告会社に問い合わせをした。
これを受けて,被告会社は,原告に対し,同年4月2日付けで,本件匿名組合契約による出資金の返還手続を遅くとも同月30日までに行うことを確約する旨の確約書(以下「本件確約書」という。)を差し入れた。(甲6,7,9,乙13)
カ 被告会社は,実際にはダラム社がゼクス社の株式を売却していなかったとして,現在まで原告に対する出資金の返還に応じていない。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 社債償還期限の延長(争点1)
(被告会社の主張)
エスジーインベストメント社は,オットマリーン社の株式に投資をする特定目的会社(SPC)であり,本件社債は,被告会社がエスジーインベストメント社に投資する原資となっている。したがって,本件社債は,その利率がオットマリーン社の業績に連動する,いわゆるEB債(エクイティボンド債。特定銘柄の株式の値動きに連動して償還条件が変わる債券で,満期日に,対象株式の株価が設定水準より高い場合には,元本と利息が現金で償還され,株価が設定水準より低い場合には,元本の代わりに,対象株式と利息が償還されるもの。)であり,このことは,原告に事前説明を尽くしている。
EB債取引では,償還すべき株式が値下がりした場合,社債権者に多大な損失が生じるおそれがあり,このようなボラティリティ(資産価値の変動の激しさ)が大きい商品の取引については,商慣習上,権利者になるべく損害を与えないよう,償還期限の延長等により債務者が契約内容を変更することが認められているというべきである。
オットマリーン社は,本件社債発行から約1か月後の平成20年8月にシンガポール証券取引所に上場する予定であったが,リーマンショックの余波などを受けて同年11月28日まで上場が遅れた上,業績悪化と円高のため,その価値が出資当初の約2割にまで下がっており,現時点でオットマリーン社の株式を売却した場合,社債権者に莫大な損失が生じる。
被告会社は,このような事情変更に基づき,原告を含めた社債権者に対し,償還期限の延長を求める権利を有しており,本件償還期限延長通知により当該権利を行使した。なお,原告を除く他の社債権者からは,償還期限の延長について何らの異議も受けていない。
(原告の主張)
本件社債がEB債であること及びこのことを原告に説明したことはいずれも否認する。
事情変更の法理が適用されるためには,契約締結後の事情の変更が当事者にとって予見することができず,かつ,当事者の責に帰することのできない事由によって生じたものであることが必要である(最高裁平成9年7月1日判決参照)。
しかし,本件社債は,利率についてはエスジーインベストメント社の運用成績に連動するとされているものの,元金については償還期限である平成21年9月30日にその全額を償還する旨明記されているから,被告会社は,本件社債の元金について,投資先の運用成績とは関係なく,償還期限到来時に全額を償還する意思を有していたというべきである。
被告会社が本件社債募集時に,投資先の運用成績に変動が生じることを既に予見して社債利率を設定していた以上,運用状況によっては損失が生じることも当然に予見済みであり,事情変更の原則を適用して社債償還義務を免れることはできない。
(2) 社債償還金額(争点2)
(原告の主張)
ア 本件社債の元金が平成21年9月30日に全額償還されることは,社債募集要項に明記されているとおりである。
イ また,被告会社が償還期限到来時に本件社債の元金を全額償還する意思を有していたことは明らかである。そうでないとしても,本件社債の募集要項にEB債である旨の記載が一切存在せず,被告らが原告にEB債である旨の説明をしたこともない以上,本件社債の申込み当時,元金全額償還の条項が被告会社の真意に基づくものではないことが,原告に明らかであったとは到底いえない。よって,民法93条ただし書を適用する余地はない。
ウ したがって,社債元金1000万円が償還されるべきである。
(被告会社の主張)
ア 本件社債はEB債であるから,償還期限におけるオットマリーン社の株式の価値を償還すれば足りる。具体的には,次のとおりである。
(ア) オットマリーン社の株式についての原告の取得株式数
同株式の公募価格は1株51シンガポールセント,平成20年7月31日時点のレートは1シンガポールドル=79.03円,為替手数料は1シンガポールドル当たり0.5円であるとして計算すると,
1000万円×{1-0.03(手数料3%)}÷{0.51×(79.03+0.5)円}=23万9150株
(イ) 原告の取得株式数23万9150株の株式価値
償還期限の平成21年9月30日における同株式の価格は1株約0.2948シンガポールドル,レートは1シンガポールドル=63.69円であるとして計算すると,
239,150株×(0.2948×63.69円)=449万0235円
イ 本件社債の募集要項には元金を償還する旨の条項があるが,EB債である本件社債において,対象株式の価格が下落している場合に元金が償還されることはない。当該条項が被告会社の真意に基づくものでないことは,本件社債の申込みをした当時,原告にも明らかであるから,民法93条ただし書により無効である。
(3) 社債取引に関する不法行為の成否(争点3)
(原告の主張)
ア 断定的判断の提供
被告会社代表者の被告Y1は,原告に本件社債について勧誘した際,償還期限について,期間は1年と短期であり,予定利回りが確保できれば短期で償還すると断定的な判断を提供し,本件社債が短期間,遅くとも1年強で償還される旨,原告を誤信させた。
また,本件社債の募集要項には,運用成績によって償還期限が延長される可能性について一切記載していない。
したがって,被告Y1は,原告に対し,本件社債の償還期限について断定的な判断を提供しており,その投資勧誘行為は違法というべきである。
イ 説明義務違反
本件社債の利率は,エスジーインベストメント社の運用成績に連動するとされ,社債発行会社である被告会社の信用状況次第では,社債そのものが償還されないリスクもあるから,被告会社は,原告に対し,本件社債が有する上記リスクについて,具体的かつ十分な説明を行う義務を負担していた。
しかし,被告会社の代表者である被告Y1が原告に本件社債について勧誘した際,「社債は株式よりもリスクが少ない。」などと述べただけであり,本件社債が有する上記リスクに関し具体的な説明は一切行わなかった。また,本件社債の償還期限についても,「期間は1年強で予定利回りが確保できれば短期で償還する。」との断定的な判断を示しただけであり,運用成績次第では償還期限が延長される可能性についても一切説明しなかった。
よって,被告Y1は,本件社債が有する投資リスク等に関する説明義務を怠っており,被告会社の投資勧誘行為は金融商品販売業者が負担すべき説明義務に違反し違法である。
ウ 詐欺的な投資勧誘行為
本件社債の資金運用に関する被告らの説明には客観的な裏付けが乏しく,投資実態の存在自体,極めて疑わしい。被告会社によって何らかの投資が行われたとしても,償還期限から長期間が経過したにもかかわらず,資金運用状況を具体的に明らかにしないまま,本件社債の償還を拒み続けている以上,被告会社が,償還期限を遵守して運用する意思を有していなかったことは明らかである。
よって,被告会社は,社債償還期限を遵守して社債を運用・償還する意思を有しないにもかかわらず,原告に対し,期間は1年強と短期でリスクの少ない社債であり,予定利回りが確保できれば短期で償還するとの虚偽の説明を行って,本件社債が遅くとも1年強で償還されると原告を誤信させ,社債払込金を支払わせており,このような被告会社の詐欺的な投資勧誘行為は違法である。
エ 被告Y1は,被告会社の代表取締役であって業務執行を担当し,金融商品販売業者が負担すべき説明義務の内容や本件社債の償還期限等について断定的判断を提供することの違法性を当然認識していたにもかかわらず,上記のとおり,断定的判断を提供し,説明義務に違反し,詐欺的な勧誘行為を行ったものであるから,被告会社とともに被告Y1個人としても不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
被告Y1は,原告に対し,断定的判断を提供したことはなく,実際には,オットマリーン社の資料を交付して1枚1枚めくりながら,30分ないし1時間程度の時間をかけ,同社の事業について説明を行うとともに,エスジーインベストメント社について説明した。また,オットマリーン社の株価の上下によって償還額が変動し,元本が償還されないこともあるうえ,償還期限についてもオットマリーン社の株価の変動に応じて延長される可能性があるなど,EB債の詳細についても説明をし,本件社債の取引のリスクを含む説明は尽くしている。まして,被告会社が当初から本件社債の払込金を取得しようとしていたことなどあり得ない。
(4) 匿名組合出資金の返還の可否及び本件確約書の趣旨(争点4)
(原告の主張)
ア 被告会社は,原告に対し,本件確約書を差し入れ,平成22年4月30日までに本件匿名組合の出資金500万円の返還手続を行う旨確約しており,原告は,上記確約に基づき出資金返還請求権を有する。
イ 被告会社は,原告との出資金返還に関するやりとりの中で,自ら出資金の返還を確約したものであって,本件匿名組合契約とは別個に成立したものであるから,匿名組合契約の本質に反しない。
また,上記確約をした被告会社の側から,匿名組合契約の本質を理由に確約の履行を拒否することは,信義則に反する。
なお,匿名組合の出資金の運用状況が明らかにされていない以上,本件匿名組合契約が有効に存続しているとはいえない。
(被告会社の主張)
ア 本件匿名組合契約は有効に存続しており,原告は,出資金の返還を請求できない。すなわち,営業者たる被告会社は,原告の出資金を含む3000万円をダラム社に対して出資し,ダラム社はゼクス社株式に投資しているところ,被告会社がダラム社からゼクス社株式を譲り受け,又は,売却した売買代金を受領するまでは,営業目的の成功又は成功不能確定時になったということはできず,本件匿名組合契約は終了していない。
イ 本件匿名組合契約が終了したとしても,同契約に基づく出資金を返還することは,匿名組合契約の本質に反する。すなわち,匿名組合契約が終了したときは,営業者は,匿名組合員にその出資の価額を返還しなければならないが,出資が損失によって減少したときは,その残額を返還すれば足りる(商法542条)。
本件確約書により匿名組合契約の性質が変更されることはないから,被告会社は,損失によって減少した残額を返還すれば足りるというべきである。そして,最終的な投資先であるゼクス社株式の価値は,ゼクス社の上場廃止により0円になったというべきであるから,現時点の出資残高は0円であり,原告は,出資金の返還を請求することはできない。
(5) 匿名組合契約に関する不法行為の成否(争点5)
(原告の主張)
ア 断定的判断の提供
被告会社の代表取締役である被告Y1は,原告に本件匿名組合契約に係る投資を勧誘した際,運用期間が超短期の1か月間であるとの断定的な判断を提供して,その決算が平成22年1月末に行われる旨,原告を誤信させており,このような被告会社の投資勧誘行為は違法である。
イ 説明義務違反
被告Y1は,本件匿名組合契約に係る投資勧誘の際,原告に対し,東証一部上場会社のゼクス社に中国資本が入るに当たり超短期の1か月間の投資をする旨述べるにとどまり,投資リスクに関する説明を行わず,投資リスクが記載された書面の交付も行わなかった。しかも,現在まで被告会社が出資金の返還を拒み続けており,本件匿名組合契約による投資が短期間の投資とは到底いえないことからすれば,超短期である旨の被告Y1の説明が虚偽であったことは明らかである。
よって,被告会社は,本件匿名組合契約に係る投資リスクについて説明義務を怠っただけでなく,超短期であるとの虚偽の事実まで述べて投資を勧誘しており,金融商品販売業者が負担すべき説明義務に違反し違法である。
ウ 詐欺的勧誘行為
被告らは,これまで出資金の返還時期の引き延ばしを目的とする対応をし,出資金の具体的な運用状況も明らかにしていないことを併せると,出資金が被告らの説明どおりに運用された事実自体疑わしく,何らかの運用が行われたとしても,現在まで出資金が返還されていない以上,短期間で運用させる意思がなかったことは明らかである。
よって,被告Y1は,出資金を運用する意思あるいは短期間での運用を行う意思がなかったにもかかわらず,原告に対し,超短期の1か月間の投資であるとの虚偽の説明を行い,短期で運用が終了する旨原告を誤信させて出資させており,被告会社のこのような詐欺的な投資勧誘行為は違法である。
エ 被告Y1は,被告会社の代表取締役であって業務執行を担当し,金融商品販売業者が負担すべき説明義務の内容や本件匿名組合契約に係る運用期間について断定的判断を提供することの違法性を当然認識していたにもかかわらず,上記のとおり,断定的判断を提供し,説明義務に違反し,詐欺的な勧誘行為を行ったものであるから,被告会社とともに被告Y1個人としても不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
被告Y1は,あくまで早ければ1か月で利益を上げるという趣旨で,第1回の決算日を平成22年1月31日と定めただけで,最終決算が同日になる確証がないことは,合意書上も明らかである。また,投資目的の本件匿名組合契約において,損失が発生した場合に,その損失の負担なしに出資金の返還を求めることができないことは,被告らから説明を尽くしている。また,ダラム社が運用を終了させないため,財産目録等の資料も被告会社から提示できる状況にないものの,短期での運用を行う意思がなかったなどということはあり得ない。
第3 当裁判所の判断
1 争点3(社債取引に関する不法行為の成否)について
(1) 被告らは,本件訴訟において,本件社債に関する取引について,次のように説明している。
ア SUNMAX Premier Select IPO Fund(以下「SUNMAX」という。)は,オットマリーン社に投資した投資ファンドである。(乙6の1及び2,乙13)
イ JCM SINGAPORE PTE LTD(以下「JCM社」という。)は,シンガポール籍の法人であり,シンガポール通貨金融庁(MAS)認可のファイナンシャルアドバイザーであった。(乙17)
ウ エスジーインベストメント社は,オットマリーン社の株式に投資をする特定目的会社(SPC)である。
また,Star Gate Investment Holdings Limited(以下「SGI社」という。)は,被告Y1が設立に関わった香港籍の会社であり,エスジーインベストメント社の資金管理をしている法人である。
エ 本件社債は,オットマリーン社の株式に投資をするエスジーインベストメント社への出資の原資となっている。
被告会社は,平成20年8月27日に8000万円を,同年9月3日に1億5000万円を,SGI社へ送金した。SGI社は,同年8月29日に8000万円(乙5の1及び2,乙6の1及び2)を,同年9月5日に1億5000万円(乙16の1及び2)を,SUNMAXのゲートキーパーであるJCM社へ送金した。JCM社は,遅くとも同年11月末までに,上記合計額をSUNMAXへ送金した。
オットマリーン社は,平成20年11月28日にシンガポール証券取引所に上場されたところ(乙7,8の1及び2,乙18の1及び2),SUNMAXは,その際,公募価格である1株51シンガポールセントでオットマリーン社の株式を購入した。
SUNMAXは,現在もオットマリーン社の株式を保有しており,少なくとも,そのうち1億6400万円に相当する株式は,スイスのプライベートバンキングであるJulius Barに預託されている(乙19の1及び2)。
オ オットマリーン社は,本件社債発行から約1か月後の平成20年8月に上場予定であったが,同年11月28日まで上場が遅れた。さらに,購入時の株式価格は51シンガポールセント(同年7月31日時点で1シンガポールドル=約79.03円,為替手数料は1シンガポールドル当たり約0.5円。乙2の1及び2)であったのが,業績悪化のため,平成24年2月8日時点では1株17シンガポールセント(同日時点で1シンガポールドル=約61.68円,為替手数料は1シンガポールドル当たり約0.5円。乙3の1及び2,乙4の1及び2)にまで下落した。すなわち,株価下落と円高のため,オットマリーン社の株式の価値は,出資当初の2割台にまで下がっている。なお,JCM社はその後,シンガポールにおいて経済活動を停止し,事実上倒産状態にある。
(2) 本件社債に係る資金が上記(1)のとおりオットマリーン社の株式取得に充てられたか否かは,上記のとおり断片的な証拠しかなく,エスジーインベストメント社及びSGI社の実態及びこれらの会社と被告会社との間の取引関係については必ずしも明らかとはいえないものの,本件社債においては,利率はエスジーインベストメント社の運用成績に連動するとされており(前記前提事実),同社への投資が予定されていたことは認められる。また,少なくともSGI社が投資ファンドであるSUNMAXに投資したこと(乙6の1及び2),SUNMAXがオットマリーン社の株式を取得し保有していること(乙19の1及び2)は認められる。そして,本件社債の発行会社である被告会社及びその代表取締役である被告Y1は,本件社債がオットマリーン社の株式の株価によって償還条件の変わるエクイティボンド債(EB債)であると主張している。
(3) しかし,被告らが原告に対し,本件社債がEB債であることを説明したと認めるに足りる証拠はない。すなわち,そもそも原告と被告会社との間では,本件社債の募集要項(甲1の1)に,利率がエスジーインベストメント社の運用成績に連動するとの記載があるのみで,被告Y1が原告に対し,SGI社,JCM社及びSUNMAXを介してオットマリーン社の株式を取得して運用することについて説明したことを裏付ける客観的証拠はない。被告Y1は,オットマリーン社の資料(乙1の1及び2)を示して同社の業務について説明したと述べるが(乙13),当該資料を原告に交付したこと自体,裏付けが乏しい。また,事後的にも,原告と被告らとの間で,本件社債の償還についてやりとりはされているものの(甲2の1,甲3,9,乙13),オットマリーン社の株式の株価の動向等が原告と被告Y1との間で話題になった形跡はない。
そして,本件社債がEB債であるとすれば,償還期限に必ずしも元金が全額償還されない場合があり,このことは,社債の引受けの申込みをしようとする者の利害に関わる重大な関心事であるところ,被告会社がオットマリーン社の株式の株価をどのような水準に設定し,本件社債につき具体的な償還条件をどのように定めたかについて,原告に対し説明がされたと認めるに足りる証拠はない。かえって,本件社債の募集要項(甲1の1)には,元金を償還期限(平成21年9月30日)に全額償還すると明記され,被告会社の判断により期限前に償還する場合もあることが記載されているのみであって,EB債であることをうかがわせる記載は一切されていない。
(4) 被告らの主張と異なり,本件社債がEB債ではないとしても,本件社債は,本件社債の募集時には未だ上場されていなかったシンガポールの会社で,その業績等の見通し判断が必ずしも容易とはいえないオットマリーン社の株式の株価の下落によって,被告会社が全額償還できなくなるおそれの高い社債であり,また,シンガポールドルと円との為替相場の変動による損害発生のおそれもあり,さらに,償還期限も徒過ないし変更される可能性のある社債であり,そのようなリスクの大きいものであることは,被告Y1自身が認識していたものであるところ(乙13),そのようなリスクについて,原告に説明がされたと認めるに足りる証拠がないことは,前記(3)と同様である。
(5) 被告会社は本件社債の発行会社であるとともに,本件社債を募集し,原告の社債引受の申込手続を行ったものであるところ,本件社債がEB債であるとの事実は,社債権者の利害に直結する重要な事実であり,EB債ではないとしても,本件社債は,オットマリーン社の株式の株価の下落や為替相場の変動により被告会社において全額償還できず,あるいは償還期限が変更等されるおそれがあるといったリスクがあり,このことは社債権者の利害に関わる重要な情報であって,本件社債を取得すべきか否かの判断に不可欠の前提事実であるといえるから,被告会社は原告に対し,これらの事実ないしリスクを説明すべき義務があるというべきである。
しかし,被告Y1は,被告会社の代表取締役として,被告会社が募集する被告会社の本件社債を原告に紹介しその引受けの申込みを受けるに当たり,これらの説明義務を尽くさず,原告に本件社債の申込金1000万円を払い込ませ,その結果,原告は同額の損害を被ったものであるから,原告に対し不法行為責任を負い,被告Y1が代表取締役を務める被告会社もまた,会社法350条に基づく損害賠償責任を負うものと認めるのが相当である。
(6) なお,被告らは,オットマリーン社の株式は未だ保有しその価値はゼロではなく,原告が取得した株式数の現存価値に相当する金額について本件社債の償還は可能であると主張するが,本件社債の市場性は低いものと考えられ,原告は元金の全額が償還されるとの募集要項に応じて本件社債を引き受けたものの,元金の全額が未だ償還されていないのであるから,元金の全額について損害と認めるのが相当である。
2 争点5(匿名組合契約に関する不法行為の成否)について
(1) 認定事実
前記前提事実,争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告Y1は,平成21年12月ころ,原告に対し,ゼクス社への投資を匿名組合契約で行うことを検討しているなどと伝えて原告を勧誘し,原告はこれに応じることとして,平成22年1月8日,原告が500万円を出資して被告会社を営業者とする本件匿名組合契約を締結した。(甲9,乙13)
イ 被告会社は,同日,フルブライト投資事業有限責任組合(以下「フルブライト」という。)との間で,ダラム社が第三者割当増資により取得したゼクス社の普通株式のうち,フルブライトが保有する2万2222株を,名義をダラム社のまま変更せず,1株1350円,代金合計3000万円で購入するとの株式売買契約を締結し,同月12日,フルブライトに対し,代金3000万円を送金した。(乙9,21)
ウ 被告らは,フルブライトからダラム社へ当該3000万円が送金され,ゼクス社株式の取得資金になったと主張している。
エ ゼクス社の株式は,同年5月ころ上場廃止となり,その株価は大きく下落した。(乙10ないし12)
また,ダラム社の代表者は,同年11月,金融商品取引法違反容疑で逮捕されるなどし,被告会社はダラム社と連絡が取れない状況となった。(乙23ないし26)
(2) 前記前提事実のとおり,原告は,被告会社から,出資直後の平成22年1月中にゼクス社の株式を売却できた旨の連絡を受けており,被告らとしてもそのような認識であったことが認められるが(甲7),その株式売却代金の精算がされず,よって第1回決算日(同月31日)を経過しても本件匿名組合契約に係る決算がされず,そのうちに,ゼクス社株式は上場廃止となり,ダラム社とは連絡がとれない状況となって,現在まで損益の分配や出資金の返還がされていないことが認められる。
このような事態に陥ったのは,前記(1)イのとおり,被告会社がゼクス社への投資に当たり,ダラム社がゼクス社の第三者割当増資で取得した株式を,ダラム社名義のまま変更せず,資金提供することにより事実上保有するという形を取ったため,平成22年1月中に売却するという被告会社の方針どおりに進まなかったことが原因と考えられるところ,このようにダラム社名義のままゼクス社の株式を事実上保有するという形をとった場合には,株主としての権利行使が十分行い得ないこととなるのみならず,ダラム社の対応によって株式売却時期等が左右されるなどして被告会社に損失が生じる可能性が否定できず,ダラム社の対応いかんが投資による損益に直結することとなる。
本件匿名組合契約は,ゼクス社への投資によって利益を上げることを目的としていたところ,実際には,被告会社が自己の名義でゼクス社株式を取得するものではないために生じるリスクがあり,特にダラム社の信用状況に関わるリスクのある取引であったということができる。
(3) 被告会社は,本件匿名組合契約における営業者であり,被告Y1は,被告会社の代表取締役として原告に本件匿名組合契約の締結を勧誘したものであるところ,ゼクス社に投資として取得する株式はダラム社名義のままであり,ダラム社の対応に左右される可能性があること等の事実は,本件匿名組合契約の営業目的に直接関わる重要な事実であるから,これらの事実について,原告に説明する義務があったというべきである。
しかし,被告Y1は,契約締結に当たり,原告に対し,ゼクス社の株式を取得することは説明したことが認められるが,ダラム社名義の株式を名義変更しないまま取得することによる生じる前記(2)のリスクについて,何ら説明したと認めるに足りる証拠はない。
原告は,被告Y1から投資の是非を判断するに必要な情報提供を受けないまま本件匿名組合契約を締結して500万円を出資し,その結果,損害を被ったものといえるから,被告Y1は,原告に対し不法行為責任を負い,被告Y1が代表取締役を務める被告会社もまた,会社法350条に基づく損害賠償責任を負うものと認めるのが相当である。
3 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求のうち,被告らに対し,民法709条及び会社法350条に基づき,連帯して,①本件社債に係る払込金相当額1000万円の内金300万円及びこれに対する払込日である平成20年7月18日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金,②本件匿名組合契約に係る出資金500万円の内金200万円及びこれに対する出資日である平成22年1月8日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の各支払を求める請求は,いずれも理由があるから認容することとする。
(裁判官 浅岡千香子)
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