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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(149)平成26年 2月28日 東京地裁 平23(ワ)37028号 懲戒処分無効確認等請求事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(149)平成26年 2月28日 東京地裁 平23(ワ)37028号 懲戒処分無効確認等請求事件

裁判年月日  平成26年 2月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平23(ワ)37028号
事件名  懲戒処分無効確認等請求事件
上訴等  控訴後、和解  文献番号  2014WLJPCA02288007

裁判年月日  平成26年 2月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平23(ワ)37028号
事件名  懲戒処分無効確認等請求事件
上訴等  控訴後、和解  文献番号  2014WLJPCA02288007

東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 X1
東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 X2
原告ら訴訟代理人弁護士 光前幸一
吉田幸宗
圷由美子
佐々木亮
小石耕市
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 Y株式会社
同代表者代表取締役 A1
A2
同訴訟代理人弁護士 河井聡
荒井太一
武田彩香

 

 

主文

1  原告X1と被告との間において,被告が原告X1に対してした平成23年7月1日付け懲戒処分(訓戒)が無効であることを確認する。
2  原告X2と被告との間において,被告が原告X2に対してした平成23年7月1日付け懲戒処分(訓戒)が無効であることを確認する。
3  被告は,原告X1に対し,110万円及びこれに対する平成25年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  被告は,原告X2に対し,110万円及びこれに対する平成25年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5  原告X1のその余の請求を棄却する。
6  原告X2のその余の請求を棄却する。
7  訴訟費用は,原告X1と被告との間に生じたものを10分し,その1を被告の,その余を原告X1の各負担とし,原告X2と被告との間に生じたものを5分し,その1を被告の,その余を原告X2の各負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
(原告X1関係)
1  主文第1項と同旨。
2  原告X1と被告との間において,原告X1が被告の投資情報調査室に勤務する雇用契約上の義務がないことを確認する。
3  被告は,原告X1に対し,950万円及びこれに対する平成25年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  被告は,原告X1に対し,別紙1「未払残業代請求目録」の各「月間未払時間外手当」欄記載の金額及びこれらに対する同目録の各「支払日」欄記載の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5  被告は,原告X1に対し,777万5442円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6  第3項から第5項までにつき,仮執行宣言
(原告X2関係)
7 主文第2項と同旨。
8 原告X2と被告との間において,原告X2が被告の投資情報調査室に勤務する雇用契約上の義務がないことを確認する。
9 被告は,原告X2に対し,950万円及びこれに対する平成25年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10 被告は,原告X2に対し,192万円及びこれに対する平成23年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
11 第9項及び第10項につき,仮執行宣言
第2  事案の概要
1  本件は,未上場株式等への投資業務,投資ファンドの運営管理業務等を行う株式会社である被告に勤務している原告X1(以下「原告X1」という。)及び同X2(以下「原告X2」という。)が,被告に対し,①被告がいずれも平成23年7月1日付けで原告らに対してした各懲戒処分(訓戒)(以下「本件各懲戒処分」という。)の無効確認(前記第1の1及び7),②被告が原告らに対してした各配転命令(同日付けの被告のプライベート・エクイティ投資グループ(以下「PE投資グループ」という。)から経営管理グループへの異動を命ずるもの(以下「本件各第1次配転命令」という。)及びそれに引き続き平成24年12月1日付けの経営管理グループから新設の投資情報調査室への異動を命ずるもの(以下「本件各第2次配転命令」といい,本件各第1次配転命令と併せて「本件各配転命令」という。))の無効を理由とする,原告らが投資情報調査室に勤務する雇用契約上の義務がないことの確認(前記第1の2及び8),③本件各懲戒処分及び本件各配転命令並びにその後の被告による組織的なパワーハラスメント(投資業務の取上げ,差別待遇,不実の喧伝等)による原告らの経済的損害及び精神的損害に対する損害賠償金の内金各800万円及び弁護士費用各150万円の合計各950万円及びこれに対する不法行為後の日である平成25年10月19日(同月17日付けの「請求の趣旨の整理2」と題する書面が被告に送達された日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(前記第1の3及び9),④原告X1において,平成21年5月1日から平成23年4月30日までの間(以下「本件残業代請求期間」という。)の別紙1「未払残業代請求目録」(以下「未払残業代請求目録」という。)の「月間未払時間外手当」欄記載の各月分の未払残業代(合計1307万4899円)及び各月分に対する同目録の「支払日」欄記載の各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(前記第1の4),⑤原告X2において,被告が平成22年1月1日から同年12月31日までの原告X2の賃金を前年の月額145万円から月額129万円に一方的に減額したことによる原告X2の未払賃金(前年賃金との差額)192万円及びこれに対する支払日後の日である平成23年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(前記第1の10),⑥原告X1において,上記④の原告X1の未払残業代に係る付加金777万5442円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(前記第1の5)をそれぞれ求めるものである。
2  前提となる事実
掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  被告の概要
被告(以下において「Y社」と表記することがある。)は,投資家から募った資金でファンドを組成し,当該ファンドから未公開企業等に投資を行い,投資先企業の株式等を第三者に売却した際に投資家から得られる成功報酬を主な収益源とする投資ファンド運営会社であり,平成12年10月23日に設立され,従業員数は,平成23年1月1日現在82名(平成25年4月1日現在55名)であり,主要株主には,a1社(以下「a1社」という。),a2株式会社(以下「a2社」という。)などがある。
平成23年当時の被告における従業員の職位・職階としては,上位から順に,マネージング・パートナー(以下において「MP」と略語表記することがある。),パートナー,プリンシパル,マネージャー及びアソシエイトがあり,投資案件に関わるのはプリンシパル以上の職位・職階にある従業員であり,マネージャーはプリンシパル以上の従業員のサポートを行う職位,アソシエイトは,マネージャー以上の従業員のサポートを行う職位である。平成23年4月当時,被告には,マネージング・パートナー9名,パートナー14名,プリンシパル28名,マネージャー13名,アソシエイト10名が在籍していた。
平成23年当時の被告の組織は,別紙2「Y株式会社組織図(2011年6月1日現在)」(甲4の6。以下「組織図(H23.6.1)」という。)及び別紙3「Y株式会社組織図(2011年7月1日現在)」(甲4の7。以下「組織図(H23.7.1)」という。)記載のとおりであり,①投資先企業の経営に直接参画することにより当該企業の価値を高めるプライベート・エクイティ(以下「PE」と表記する。)投資を担当するPE投資グループ,②機関投資家や事業会社等が保有する未公開株式等を取得するセカンダリー(以下において「SD」と略語表記することがある。)投資を担当するセカンダリー投資グループ及び③ベンチャーキャピタル(以下において「VC」と略語表記することがある。)投資を担当するベンチャーキャピタル投資グループといったファンド運営を行う三つの投資グループ並びに④被告全体の事務やファンド運営のサポート等を統括する経営管理グループの4グループに加え,⑤プロジェクト推進室,⑥内部統制・リスク管理室,⑦中国アジア投資グループ設置準備室,⑧ファンド・マネジメント・サービス室があり,各グループにはグループリーダーが,各室には室長が置かれていた(なお,被告の組織規程上,グループ・リーダー及び室長は,それぞれ,取締役会の決議に基づき,所管グループ又は所管室の業務全般に関する方針を立案し,所属員を指揮統括するとされている。)。平成24年12月1日には,新たに,投資情報調査室が設置され,同日現在の被告の組織は,別紙4「Y株式会社組織図(2012年12月1日現在)」(乙30。以下「組織図(H24.12.1)」という。)記載のとおりとなった。なお,平成25年7月1日には,経営管理グループが経営管理室に改められ,同日現在の被告の組織は,別紙5「Y株式会社組織図(2013年7月1日現在)」(以下「組織図(H25.7.1)」という。)記載のとおりとなった。また,同日以降,パートナーとプリンシパルとの間に位置する職位・職階として,ディレクターが設けられた。
また,被告には,被告の組織規程上,取締役会決議に基づき,株主総会,取締役会の議長となり,重要事項の決定を行うほか,会社の経営全般を指揮統括するとされている最高経営責任者(CEO)が置かれ,また,取締役会のほかに,会社経営に関する業務方針を決定する経営会議(平成24年4月に「パートナー会議」から名称変更。構成員は,CEO,常勤取締役及び執行役員。なお,被告の組織規程上,経営会議は,会社及び会社グループの経営に関する業務方針を協議し,経営活動の迅速化,効率化を図り,併せて業務執行の決定並びに経過及び結果の報告を目的とするとされている。),各投資グループごとにファンドによる株式等への投資,組入れについての最終決議を行う投資委員会(構成員は,CEO,常勤取締役,社外取締役のうち取締役会が指名する者,内部統制・リスク管理室長,当該投資グループのマネージング・パートナー及びパートナーであり,このうち議決権を保有しているのは,CEO並びに当該投資グループのマネージング・パートナー及びパートナーである。なお,被告の組織規程上,投資委員会は,取締役会の決議に基づき,会社が運営管理する投資事業組合の資本投資に関する重要な事項を協議決定するとされている。),投資先企業に係る具体的な投資資金回収方法,売却方法の決定等を行う投資管理委員会(構成員は,CEO,常勤取締役,社外取締役のうち取締役会が指名する者,内部統制・リスク管理室長,当該投資グループのマネージング・パートナー及びパートナーであり,このうち議決権を保有しているのは,CEO並びに当該投資グループのマネージング・パートナー及びパートナーである。なお,被告の組織規程上,投資管理委員会は,取締役会の決議に基づき,会社が運営管理する投資事業組合の投資資金の回収に関する重要な事項を協議決定するとされている。)がある。
なお,被告において平成24年2月24日に制定・施行され,同年3月21日及び平成25年7月1日にそれぞれ一部改正された人事評価マニュアル(実務規程)(以下「人事評価マニュアル」という。)においては,各職位・職階に期待される役割につき,別紙6「各職位・職階に期待される役割」記載のとおりとされている。
(甲1,4の6・7,28,43,68,69,76,乙14,30,31,70の1・2)
(2)  原告ら及び被告関係者
ア 原告X1(昭和39年○月○日生)は,東京女子大学卒業後,テレビ局報道部キャスターを経て,平成13年11月,被告(当時の商号「a3株式会社」)に入社し,平成14年6月,被告が運営するファンドの投資先であるa5株式会社(後に「a6株式会社」に商号変更。以下,商号変更の前後を通じて「a5社」という。)取締役COO(最高執行責任者)就任,同年9月,a5社に転籍のため被告を退社,平成15年4月,a5社の常務取締役営業本部長就任,平成16年6月,被告(当時の商号「a4株式会社」)に再入社,平成18年3月,被告のパートナーとなり,当初はプロフェッショナル・マネジメント・サポート・グループ(以下「PMSグループ」という。)に配置され,その後,戦略投資グループ,コーポレート・オフィス・グループのCEOオフィスを経て,平成20年12月1日にPE投資グループに配置された。なお,原告X1は,被告に入社後,早稲田大学でMBAを取得している。
イ 原告X2(昭和46年○月○日生。以下において「A3」又は「A3」と表記することがある。)は,米国ジョージタウン大学ビジネススクール,アメリカン大学ロースクール卒業後,ニューヨーク州弁護士資格を取得し,ニューヨークの法律事務所を経て,日米のコマース・テクノロジー企業の副社長,COOなどを歴任した後,平成13年11月,被告(当時の商号「a3株式会社」)に入社,平成18年3月,被告のパートナーとなり,原告X1と同じく,当初はPMSグループに配置され,その後,戦略投資グループ,コーポレート・オフィス・グループのCEOオフィスを経て,平成20年12月1日にPE投資グループに配置された(原告らがパートナーになりPMSグループに配置された当時の被告の組織は,別紙7「2006年3月1日現在組織図」(甲36)記載のとおり,原告らが戦略投資グループに配置されている当時の被告の組織は,別紙8「a4株式会社組織図(2008年1月1日)」(甲4の1)記載のとおり,原告らがPE投資グループに配置される前後の被告の組織は,別紙9「a4株式会社組織図(2008年11月1日)」(甲4の2)及び別紙10「Y株式会社組織図(2008年12月1日)」(甲4の3)各記載のとおりである。)。
ウ A1(以下「A1」という。)は,平成23年当時,被告の代表取締役会長兼社長として,CEOの地位にあり,平成24年12月1日に投資情報調査室が設置された際には,同室の室長を兼務していたが,平成25年6月28日,被告が代表取締役を2名としたのに伴い,被告の代表取締役会長となり,同年7月1日現在,組織図(H25.7.1)記載のとおり,被告の代表取締役会長兼投資情報調査室長の地位にある。
エ A2(以下「A2」という。)は,平成23年当時,被告のマネージング・パートナーの職位にあり,PE投資グループのグループリーダーを務めていたが,その後,被告の取締役となり,さらに,平成25年6月28日,被告の代表取締役社長に就任し,同年7月1日現在,組織図(H25.7.1)記載のとおり,被告の代表取締役社長兼PE投資担当執行役員の地位にあり,PE投資グループのグループリーダーを務めている。
オ A4(以下「A4」という。)は,平成23年当時,被告のパートナーの職位にあり,同年6月1日時点では,組織図(H23.6.1)記載のとおり,経営管理グループの経営管理室長を務め,同年7月1日付けで,組織図(H23.7.1)記載のとおり,経営管理グループのグループリーダーに異動し,平成25年7月1日現在,組織図(H25.7.1)記載のとおり,経営管理担当執行役員兼マネージング・パートナーの地位にあり,PE投資グループのプリンシパルを兼務している。
なお,平成23年7月1日時点において,A4とともに経営管理グループの共同グループリーダーを務めているA5(以下「A5」という。)は,a2社から被告に出向中の者で,パートナーの職位にあり,PE投資グループのパートナーを兼務していたが,平成25年7月1日現在,組織図(H25.7.1)記載のとおり,PE投資グループのパートナーの地位にあり,兼務は解消されている。
(甲4の1から3まで・6・7,36,48,乙4,11,12,18,20,22,49)
(3)  被告におけるPE投資業務の概要
PE投資は,以下のとおり,①ファンドの組成(ファンドレイズ),②投資に適した企業の発掘(ソーシング)及び当該企業との投資に関する合意(ディールメイキング),③投資委員会による投資実行の決定,④投資の実行及び当該投資先企業の経営改善による企業価値の向上(ハンズオン),⑤投資管理委員会による決定を経た当該投資先企業の売却又は上場(エグジット)という段階を経て行われる。
ア ファンドレイズ
ファンドレイズは,投資を行うための資金を出資者から募集し,ファンドを組成する行為,すなわち,投資事業有限責任組合契約に関する法律に基づく投資事業有限責任組合による場合には,その出資者たる有限責任組合員(以下において「LP」と略語表記することがある。)を募集する行為であり,各投資グループのパートナー間で協議・検討を行ったうえで内容を固めた投資戦略につき,取締役会の承認を得て,当該投資戦略に基づく資金の募集が開始される。資金の募集が開始されると,機関投資家らに対し,投資戦略,投資環境,過去の実績,投資担当メンバー,出資の際の主な契約条件などが記載された目論見書,ピッチ(目論見書の概要版),ディールブック(過去の投資案件の概要説明)等に基づく説明を行い,その後,機関投資家らによるデューデリジェンス(以下において「DD」と略語表記することがある。)を経て,出資契約の経済条件等に関する交渉の結果,合意が成立すると出資が決定・実行されることになる。
イ ソーシング
ソーシングは,積極的に人脈を構築し,投資に適した企業の情報を収集することから始まり,投資先候補となるべき企業を発見した場合,さらに当該企業についての情報を収集し,投資委員会の下部組織であり,各投資グループのプリンシパル以上の従業員により構成される案件会議において,当該投資先候補企業に対する投資の案件化が検討・審議される。
並行して,案件責任者となるパートナー又はマネージング・パートナーにプリンシパル2,3名を加えた担当チームが編成され,詳細なDDや当該投資先候補企業との条件交渉等が行われ,投資委員会での協議・検討に値する候補企業が絞られる。
ウ 投資委員会による投資実行の決定
投資委員会においては,提案者(当該案件の担当チームのパートナー又はマネージング・パートナー)を中心としたチームメンバーが当該案件についての詳細な説明を行い,質疑応答を経たうえで,原則として,議決権保有者(CEO,当該投資グループのマネージング・パートナー及びパートナー)の全会一致(最新ファンドにおいては,議決権保有者の3分の2以上の合意並びにCEO及び当該投資グループのマネージング・パートナー全員の合意)によって,投資を実行するか否かが決定される。
エ ハンズオン
投資委員会の決定を経て投資が実行されると,被告が管理・運営する投資ファンドが投資先企業の発行済み株式の全て,あるいは過半数を保有する状態となり,経営指導のために被告の従業員が当該投資先企業の取締役等の要職に就任するなどの人的資源の提供のほか,様々な支援が行われることになるが,被告が投資先企業に対して行う経営指導がハンズオンであり,各投資先企業に対するハンズオンは,原則として,投資委員会に上程する前に編成されている担当チームが引き続き担当し,メンバーが当該投資先企業の役員に就任し,多くの場合取締役会の過半数を確保したうえ,当該チームのパートナー又はマネージング・パートナーが主導して経営改善を実行する。
オ エグジット
各投資案件の担当チームは,ハンズオンを行いつつ,時機を見て適切な投資の回収方法を検討し,投資先企業の売却先の検索や交渉を行う。
売却等の可否及び内容に関する最終的な決定は,投資管理委員会において,当該投資案件の責任者である担当チームのパートナー又はマネージング・パートナーが,当該投資先企業の経営状況や売却先に関する情報,売却の条件等を説明し,質疑応答を経て,原則として議決権保有者(CEO,当該投資グループのマネージング・パートナー及びパートナー)の全会一致(最新ファンドにおいては,議決権保有者の3分の2以上の合意並びにCEO及び当該投資グループのマネージング・パートナー全員の合意)によって行われる。
エグジットした投資案件については,その売却益のおおむね20パーセントが成功報酬として被告に支払われ,その余が投資家に分配される。
(甲43,乙14,証人A2)
(4)  被告と原告X1との雇用契約の推移
前記のとおり,原告X1は,平成13年11月に被告に入社し,平成14年9月に,被告が運営する投資ファンドの投資先企業であるa5社に転籍し,平成16年6月1日,被告に再入社している。平成14年3月1日から平成22年12月31日までの間の被告との間の契約内容は,別紙11「原告X1に係る雇用契約の推移(平成14年3月1日から平成22年12月31日まで)」(以下「原告X1契約推移」という。)記載のとおりである。
(甲2の1から8まで)
(5)  被告と原告X2との雇用契約の推移
原告X2は,平成13年11月に被告に入社しており,平成14年3月1日から平成21年12月31日までの間の被告との間の契約内容は,別紙12「原告X2に係る雇用契約の推移(平成14年3月1日から平成21年12月31日まで)」(以下「原告X2契約推移」という。)記載のとおりである。
(甲3の1から7まで)
(6)  被告が運用するファンド及び投資先
ア 被告が運用するファンド
被告は,平成13年から○○シリーズと呼ばれるファンドの運営を開始し,投資事業有限責任組合契約に関する法律に基づく投資事業有限責任組合として設立された○○1号投資事業有限責任組合(平成13年設立。ファンド総額40億円。以下「○○ファンド1号」という。),○○2号投資事業有限責任組合(平成16年設立。ファンド総額114億円。以下「○○ファンド2号」という。),○○3号投資事業有限責任組合(平成18年設立。ファンド総額200億円。以下「○○ファンド3号」という。)及び○○4号投資事業有限責任組合(平成23年設立。ファンド総額200億円。以下「○○ファンド4号」という。)を,いずれも無限責任組合員として,運用している(○○ファンド1号については,既に終了している。)。
イ ○○ファンド1号の投資先及び原告らの関与
原告らがハンズオンにおいて関与した○○ファンド1号の投資先企業及び原告らの関与内容は以下のとおりである。
(ア) a5社(業種:映画館の運営。投資金額:10億円,実現金額24億3500万円。ハンズオン:平成14年2月から平成16年5月まで)
原告X2が,平成14年2月から平成15年4月まで,経営企画を担当。
原告X1が,平成14年7月から平成16年5月まで,取締役として,経営全般及び営業本部長を担当。
(イ) 株式会社a7(以下「a7社」という。)(業種:出版及び映像・音楽制作業。投資金額:1億5000万円,実現金額:3億2000万円。ハンズオン:平成14年8月から平成16年8月まで)
原告X2が,平成14年8月から平成16年8月まで,経営管理を担当。
(ウ) 株式会社a8(以下「a8社」という。)(業種:フィットネスクラブ運営。投資金額:2億円,実現金額:2億1000万円。ハンズオン:平成16年3月から平成21年9月まで)
原告X2が,平成16年3月から平成21年9月まで,経営戦略策定及び経営全般支援を担当。
原告X1が,平成16年6月から平成21年9月まで,経営戦略策定及び経営全般支援を担当。
他の○○ファンド1号の投資先企業で,ハンズオンが行われたものとしては,次のものがある。
(エ) 株式会社a9(業種:中古車オークション会場運営。投資金額:7億9300万円,実現金額:25億0800万円。ハンズオン:平成14年10月から平成19年1月まで)
(オ) a10株式会社(業種:建設業。投資金額:6億0100万円,実現金額:0円。ハンズオン:平成14年2月から平成20年8月まで)
ウ ○○ファンド2号の投資先及び原告らの関与
原告らがハンズオンにおいて関与した○○ファンド2号の投資先企業及び原告らの関与内容は次のとおりである。
(ア) 株式会社a11(以下「a11社」という。なお,「a11社」と表記することもある。)(業種:食料品製造・小売業。投資金額:12億5000万円,実現金額:27億円。ハンズオン:平成17年10月から平成20年1月まで)
原告らが,いずれも,平成17年10月から平成20年1月までは代表取締役(原告X2は社長,原告X1は副社長。),同月以降は取締役(原告X2は会長,原告X1は副社長。)として,経営全般を担当。
他の○○ファンド2号の投資先企業で,ハンズオンが行われたものとしては,次のものがある。
(イ) 株式会社a12(業種:フランチャイズチェーン事業。投資金額:6億6200万円,実現金額:12億3600万円。ハンズオン:平成16年4月から平成18年10月まで)
(ウ) 株式会社a13(業種:印刷・同関連業。投資金額:8億7000万円,実現金額:14億3700万円。ハンズオン:平成16年12月から平成19年6月まで)
(エ) 株式会社a14(業種:金属加工機械製造業。投資金額:18億7500万円,実現金額:33億円。ハンズオン:平成18年6月から平成19年3月まで)
(オ) a15株式会社(業種:自動車小売業。投資金額:5億9700万円。ハンズオン:平成16年4月以降)
(カ) a16株式会社(業種:パルプ・紙製造業。投資金額7億8600万円,実現金額:11億2700万円。ハンズオン:平成16年11月から平成22年7月まで)
(キ) 株式会社a17(平成22年8月1日,「a18株式会社」に商号変更。投資金額:22億4600万円。業種:インターネット関連サービス業。ハンズオン:平成17年9月以降)
(ク) 株式会社a19(業種:総合アミューズメント施設運営。投資金額:11億円,実現金額:1円。ハンズオン:平成17年10月から平成23年2月まで)
エ ○○ファンド3号の投資先及び原告らの関与
原告らがハンズオンにおいて関与した○○ファンド3号の投資先企業及び原告らの関与内容は次のとおりである。
(ア) 株式会社a20(以下「a20社」という。)(業種:食料品製造・小売業。投資金額:26億円。ハンズオン:平成18年8月以降)
原告らが,いずれも,平成18年8月から平成19年8月まで,取締役として,事業戦略支援を担当。
(イ) a21株式会社(以下「a21社」という。なお,「a21社」と表記することもある。)(業種:インターネットセキュリティサービス業。投資金額:33億円,実現金額:67億円。ハンズオン:平成21年9月から平成23年3月まで)
原告X2が,平成21年9月以降,代表取締役CEOとして,経営全般を担当。
原告X1が,平成21年9月以降,取締役CFO(最高財務責任者)として,経営全般及び管理本部長を担当。
他の○○ファンド3号の投資先企業で,ハンズオンが行われたものとしては,次のものがある。
(ウ) 株式会社a22(以下「a22社」という。)(業種:ゴルフ用品製造・販売業。投資金額:6億6900万円,実現金額(一部売却):24億7500万円。ハンズオン:平成18年3月から平成22年6月まで)
(エ) a23株式会社(以下「a23社」という。)(業種:特定金銭債権の管理及び回収。投資金額:40億0100万円,実現金額:7億3700万円。ハンズオン:平成18年7月から平成22年7月まで)
(オ) a24株式会社(以下「a24社」という。)(業種:文書管理・翻訳サービス業。投資金額:8億8000万円,実現金額:16億5500万円。ハンズオン:平成20年6月から平成23年1月まで)
(カ) 株式会社a25(以下「a25社」という。)(業種:民芸品及びキャラクターグッズ製造・卸業。投資金額:13億2700万円。ハンズオン:平成21年12月以降)
○○ファンド3号における各投資先における出資比率は,別紙13の図面記載のとおりであり,a21社については,○○ファンド3号が設立した特定目的会社であるa26株式会社が,株式の99.2パーセントを取得し,投資実行後の新経営陣が株式の0,75パーセントを取得していた。なお,上記特定目的会社の代表取締役には原告X2が,取締役には原告X1がそれぞれ就任していた。
(乙9,10,17,20,49)
(7)  被告におけるインセンティブ賞与の仕組み
被告においては,インセンティブ賞与規程(平成16年4月1日制定・施行,平成19年3月23日,平成20年11月28日,平成24年3月21日及び平成25年7月1日各一部改正。平成24年3月21日改正前の名称「インセンティブ・ボーナス規程」)及び人事評価マニュアル(平成24年2月24日制定・施行,同年3月21日一部改正)に基づき,ファンドの会計年度(暦年)を算定期間とし,ファンドの投資案件がエグジットに至った際に被告が受領する当該年度に発生した成功報酬総額のうち,その50パーセントをインセンティブ賞与として,以下のとおり,役職員(マネージング・パートナー,パートナー及びプリンシパル。なお,平成25年7月1日のインセンティブ賞与規程の改正により,ディレクターが加えられた。)に配賦している。
ア ディールチーム枠
インセンティブ賞与総額(成功報酬額の50パーセント)の60パーセントを,ディールチーム枠として,成功報酬の発生・受領に寄与した案件に関与した役職員(成功報酬を受領したファンドを運営する投資グループに所属する役職員に限定されず,ソーシング,投資実行,ハンズオン,エグジットの各ステージのいずれか又は複数の過程に関与し,貢献した役職員が対象となる。)に対して,上記各ステージが当該案件の成功に寄与した割合を決定したうえで,各ステージに関与した役職員とその関与の度合いを決定し,それらにより,支給対象となる役職員の案件全体への貢献度を算出し,その貢献度に応じた額を支給する。
なお,ディールチーム枠の案件ごとの配分については,費用等控除後のキャピタルゲイン額に応じて行う。
イ 職階枠
インセンティブ賞与総額の20パーセントを,職階枠として,成功報酬を受領したファンドを運営する投資グループの職員全員が,担当チームの垣根を超えて当該ファンドの運営にコミットすることを前提として,当該投資グループに所属するメンバー全員に対し,職位に応じて支給する(比重は,マネージング・パートナー20,パートナー15,プリンシパル5。)。
ウ 調整枠
インセンティブ賞与総額の20パーセントを,調整枠として,成功報酬を受領したファンドを運営する投資グループにおいて,キャピタルロスを出すことがほぼ確定した案件に回った社員や,全体プロジェクトに参加するなどして被告のプラットフォーム維持・構築に貢献した社員に配賦する。なお,成功報酬を受領したファンドの中に損失が出た案件があった場合には,調整枠の半分を成功案件を担当するディールチームが被ったマイナス分の補填(ファンドの繰越損によって相殺された部分の穴埋め)に充当している。
エ 支給時期・支給方法
インセンティブ賞与は,原則として,毎年3月に支給し,クローバック条項が付されたファンドから発生する成功報酬に係るインセンティブ賞与は,ファンドごとに支給対象者を決定したうえで,各人に係るインセンティブ賞与金額の50パーセントをエスクロー口座(拘束性預金)に留保し,ファンドの投資期間終了後,①分配率(分配金累計額を受入出資金で除した率)が75パーセントに達し,累計損益率(未実現分を含む。)が100パーセント以上の場合には,人事評価委員会の承認を得たうえで,留保分の半分(インセンティブ賞与金額の25パーセント)を支給し,②クローバックが発生しないことが確定した場合には,留保分の全額を支給し,③クローバックが発生した場合には,発生ファンドにおけるエスクロー口座留保分を上限としてファンドに返還する(これらの取扱いは,留保後に退職した職員についても,原則として同様である。)。
(甲9,乙43,70の1・2,73,74の1・2,証人A4)
(8)  本件各懲戒処分及び本件各配転命令
ア 平成23年6月17日及び同月24日,当時被告の取締役であり経営管理グループのグループリーダーであったA6(以下「A6」という。)による原告らに対する弁明聴取手続が行われた。
イ 被告は,いずれも平成23年7月1日付けで,原告らを訓戒処分に処した(本件各懲戒処分)が,その懲戒処分通知には,次のとおり記載されていた。
「 貴殿は,平成23年5月25日,当社面談担当者との面談の席上において,当社の株式価値棄損行為の実行を示唆するとともに,当社内部情報を含む当社内での待遇への不満を株主,労働基準監督署,金融庁,その他関係各所に伝達する旨の脅迫行為を行った上で,同日,実際に当社の大株主であるa2株式会社の当社担当者の元を訪問し,当社内部情報を含む当社内での待遇の不満を述べ,当社の名誉・信用を棄損した。
上記行為は,就業規則第58条第(2)号,第(4)号及び第(6)号に該当する秩序違反行為であり,就業規則第59条第(2)号に基づき,貴殿を訓戒処分に処す。」
ウ 本件各配転命令
被告は,原告らに対し,いずれも平成23年7月1日付けで,PE投資グループから経営管理グループへの配転を命じ(本件各第1次配転命令),さらに,いずれも平成24年12月1日付けで,経営管理グループから新設の投資情報調査室への配転を命じた(本件各第2次配転命令)。
なお,投資情報調査室の業務は,被告の業務分掌規程において,マクロ経済の分析,有力業界・企業の動向調査,分析に関する業務,上記業務に関わる資料作成および関係部署への情報発信という「市場環境の調査に関する業務」と「上記調査に基づく新しい投資への切り口の開発および推進に関する業務」と規定されており,組織図(H24.12.1)記載のとおり,投資情報調査室の室長はA1が兼務し,同室に配置されたのは原告らだけであった。
(甲4の7,8の1・2,乙4,30,31)
(9)  被告が原告らに支給した給与・賞与の額
被告が原告らに支給した給与・賞与の額は別紙14「原告ら年間支給額一覧表」記載のとおりである。なお,平成23年分については,当初,原告X1につき1884万円,原告X2につき1824万円が,平成24年分については,当初,原告X1につき5121万6470円,原告X2につき5051万6468円が支給されていたが,平成25年4月5日に,それぞれ精算支給された結果,同別紙記載「平成23年分」及び「平成24年分」の各金額となったものである。また,平成24年分については,原告らにつき,それぞれ,同年3月27日に支給されたインセンティブ賞与3018万7126円(チームディール枠4354万4132円,PE投資グループ職階枠508万1980円,PE投資グループ調整枠747万3971円及び全社調整枠427万4168円の合計6037万4251円のうち,インセンティブ賞与規程に基づくエスクロー口座留保分3018万7125円を除いた額)が含まれている。
(乙7の1から9まで,8の1から10まで,53,67,73,75の1・2,76,77の1・2,78)
(10)  平成21年5月から平成22年12月までの原告X1の給与
原告X1は,上記期間において,通勤手当のほか,給与明細書上,次のとおりの区分で給与の支給を受けていた。
ア 平成21年5月から同年12月までの各月分
月額報酬として117万6500円,割増賃金として27万3500円の合計145万円
イ 平成22年1月分
月額報酬として117万8300円,割増賃金として27万1700円の合計145万円
ウ 平成22年2月分
月額報酬として104万8300円,前月分給与として▲16万円,割増賃金として24万1700円の合計113万円
エ 平成22年3月から同年12月までの各月分
月額報酬として104万8300円,割増賃金として24万1700円の合計129万円
(甲17の1から20まで)
(11)  平成23年1月から同年10月までの原告らの給与
被告は,上記各月分の原告らの給与として,各給与支払日において,原告X1については年俸1800万円,原告X2については年俸1740万円を前提とした月額給与(原告X1については150万円,原告X2については145万円)を支払っていたため,原告らは,被告との間で,原告X1については,年俸1920万円(月額160万円)に加え月額25万円の単年度給,原告X2については,年俸1860万円(月額155万円)に加え月額25万円の単年度給をそれぞれ支払う旨の合意が成立していたと主張し,それぞれ上記各月分の差額合計各350万円の支払を求めていたが,平成25年4月5日,被告が原告らに対し,原告らの主張する合意の成立を前提とした平成23年1月分から同年12月分までの差額を支払ったため,原告らは,各上記同年1月分から同年10月分までの賃金差額請求を取り下げた。
なお,原告X1は,同年1月分から4月分までの間,当初,各給与支払日において,通勤手当のほか,給与明細書上,同年1月分については,月額報酬104万8300円,割増賃金24万1700円が,同年2月分については,月額報酬121万8900円,割増賃金28万1100円,前月給与21万円が,同年3月分及び同年4月分については,いずれも,月額報酬121万8900円,割増賃金28万1100円の内訳での支給を受けていた。
(甲17の21から24まで,乙73,75の1・2,76,77の1・2,78)
(12)  被告の就業規則,給与規程の定め
ア 被告の就業規則(平成14年3月1日制定,最終改正平成22年8月26日のもの)には,別紙15「就業規則(抄)」記載のとおり規定されている。
イ 被告の給与規程(平成23年10月28日制定)には,別紙16「給与規程(抄)」記載のとおり規定されている。
(甲15,乙1)
3  争点及び当事者の主張
(1)  本件各懲戒処分が無効であるか否か。
(原告ら)
ア 本件各懲戒処分は,次のような経過を経て,被告のコンプライアンス上の問題点を内部統制・リスク管理室や外部の監督機関に相談しようとした原告らに制裁(報復)を加え,原告らを退職に追い込むという不当な動機,目的のもとにされたもので,何ら客観的合理性,社会的相当性はなく,これらにより原告らが被っている経済的,精神的損害は甚大である。したがって,本件各懲戒処分は無効というべきである。
(ア) 原告らは,被告から,平成23年2月23日,原告らの平成23年度(平成23年1月1日から平成24年3月31日まで)の労働条件について提示を受けたため,前年度の評価面接(フィードバック面談)がないまま,年度開始後に一方的に労働条件が提示されることに抗議し,平成23年5月12日,PE投資グループのグループリーダーであったA2との面談が実現した。
(イ) A2との面談において,原告らは,被告の投資家など社内外に対する不正確な情報開示あるとして,その是正,原告らの権限と義務(管理監督者性の有無)及び業績評価の明確化,年度開始後の一方的な労働条件決定の是正等を求め,さらに,平成23年5月23日,同月25日午前と面談を重ねたが,被告から原告らが納得できる回答が得られなかった。そのため,原告らは,同日の昼,かねてから原告らの動向等に関する情報の提供を繰り返し求めていたa2社の担当者に,原告らがコンプライアンス軽視であると指摘する被告の経営姿勢や被告における業績評価の体制等に改善の見通しがないため,原告らとしては,訴訟を提起して改善を求めるか,被告を退職するかの選択を迫られている状況にあることを伝えた。
(ウ) 他方,原告らは,平成23年5月27日,被告に対し,平成23年度の労働条件の再提示を求め,メールで条件の確認,協議をした後,同年6月1日に被告からメールで契約書の送付を受け,翌2日,被告に対し,同契約書に同意する旨の回答メールを送信した。
(エ) 原告X1は,平成23年6月2日,午前0時54分に上記回答メールを送信した後,午前11時16分,内部統制・リスク管理室に対し,被告のコンプライアンス上の問題点等を相談したい旨のメールを送信した。
(オ) 平成23年6月7日,A2から原告らに対し,平成23年度の労働条件に係る被告からの提案を撤回する旨のメールが送信され,原告らには,平成22年度の賃金額と同額が振り込まれるようになった。
イ 被告が主張する本件各懲戒処分の理由は,原告らが平成23年5月25日にA2らを脅迫し,株主であるa2社の担当者に被告の秘密事項や虚偽の事実を述べ被告の名誉や信用を棄損したというものであるが,被告は同月26日には原告らがa2社の担当者と面談していることを確認しており,その上で,翌27日から原告らとの平成23年度の労働条件の協議を再開し,同年6月1日には,基本年俸等の増額を記載した契約書を原告らにメールで送っている。この一連の事実は,被告が,少なくとも同日までは,原告らに懲戒に相当するような事由が存在していないと認識していたことを示すものである。
ウ 原告らがa2社の担当者に述べた内容は,すべて事実であり,a2社の担当者において既知のものでもあった。原告らとa2社の担当者との面談は,a2社の担当者からの要請に基づくもので,原告らがこの面談をしたのは,原告らが指摘している被告のコンプライアンス体制,行政評価制度の改善,労働基準法(以下「労基法」という。)の遵守を実現することを意図してのものであり,いたずらに被告の名誉や信用を棄損するものではなく,勤務する会社である被告の経営体質の健全化を目的とした従業員としての正当な行為であり,懲戒処分の対象となるものではない。
(被告)
懲戒処分は,使用者の企業秩序定立権の行使として認められるものであり,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合にのみ権利濫用として無効となる(労働契約法15条)ところ,被告は,原告らが,以下のように,企業の一員として極めて不適切な言動を繰り返し,被告の名誉及び信用を棄損したことから,最低限の企業秩序を維持するために,訓戒という極めて軽微な懲戒処分を行ったにすぎないのであるから,本件各懲戒処分が権利濫用にわたるものではなく,有効であることは明らかである。
ア 被告は,平成23年5月12日に行われた平成23年度の雇用条件を巡る原告らとの面談において,同年度の雇用条件の内容として,原告X1に対しては年俸1800万円,原告X2に対しては年俸1740万円,さらに,原告ら両名ともに一般賞与及びインセンティブ賞与を受け得るという条件を提示したところ,原告らが上記条件について低額過ぎて受け容れられない旨回答してきたため,同月20日,原告ら両名について,上記の条件に加え,年俸額を120万円ずつ増額したうえで,同年3月に実行したa21社のエグジットその他についての原告らの貢献に対する特別評価として同年度に限り支給する単年度業績給として300万円(12か月分)ずつを支払うという条件を再提示した。
しかしながら,原告らは,被告が再提示した上記条件についても,「原告らの被告内での業績が年俸や職位に反映されていない。」,「a21社の投資案件に係るインセンティブ賞与の金額が,原告らが関与していない他の投資案件(a23社案件)における失敗によって生じた損失を補填するために減額されることは耐え難い。」などといった理由を付け,受け容れられない旨を回答し,さらに,被告に対し,他のグループメンバーとの公平を度外視し,自らの利益だけを確保するための,次の四つの選択肢を示し,そのいずれを選択するかの回答を迫るという極めて利己的で強硬な交渉態度を貫いた。
① 原告らに対し過去2年間にさかのぼって月額25万円(総額600万円)の業績給を支給するとともに,a21社案件に係るインセンティブ賞与の支給に際して,a23社案件から生じた損失を勘案しない。
② 原告らと,報酬額年3000万円の業務委託契約を過去2年間及び今後1年の3年分締結するとともに,a21社案件に係るインセンティブ賞与の支給に際して,a23社案件から生じた損失を勘案しない。
③ 過去の実績・貢献度を数値化したうえで,被告内における現在の職位を見直すとともに,原告らをマネージング・パートナーに昇格させる。
④ 原告らと裁判で争う。
イ A2及びA4は,平成23年5月25日,原告らと面談し,理由を説明したうえで,原告らが提示した上記四つの選択肢はいずれも受け容れられない旨を回答し,原告らの理解を求めた。
すると,原告らは,A2及びA4に対し,「はい。じゃあ,裁判やむなしと。」,「裁判になる場合は,えっとー,労働基準監督署,金融庁,および株主とLPに話はさせていただきます。はい。」,「えっと,裁判ということを致し方ないっていうのが返事ですね。で,それは株主に言ってもいいし。」,「皆さんが持ってる株がゼロになるリスクも,まあ,ゼロでないにしても,相当,まあ,現金で買われているところも分かったうえで・・・」などと被告に対する脅迫的な発言を繰り返し,原告らの主張を受け入れるよう強要した。
ウ さらに,原告らは,このままでは原告らの要求が通らないとみるや,上記面談終了後,直ちに,被告の株主であるa2社の被告担当者であるA7(以下「A7」という。)に連絡を入れたうえ,a2社を訪問し,応対したA7及びA7の上司に当たるA8(以下「A8」という。)に対し,被告に対する不満等を被告の内部情報(その中には原告らの主観に基づく誤った情報も多々含まれていた。)を交えながら約1時間にわたって訴えた。
その結果,その日の内に,a2社の担当者から被告に対し連絡が入り,翌日である平成23年5月26日に事実確認のためのミーティングが設定され,A2及びA5がa2社に出向いて説明を行う事態となった。
(2)  本件各配転命令が無効であるか否か。
(原告ら)
配転命令の効力を判断するに当たっては,職務限定の有無,配転の動機・目的・合理性・必要性,労働者に及ぼす不利益の程度といった要素を総合的に検討することになるが,本件各配転命令は,以下のとおり,原告らが被告のコンプライアンス上の問題を是正しようとしたことに対抗して,原告らを退職に追い込むことを目的とした不当な動機に基づくものであって,配転の合理性・必要性はなく,原告ら,さらには被告や投資家に与える不利益は甚大であるから,無効というべきである。
ア 本件各第1次配転命令は,本件各懲戒処分と同時にされており,本件各懲戒処分がされるまでの経過に照らし,本件各第1次配転命令も,原告X1の内部通報に対する制裁,報復としてされたものであることは明らかである。
イ 被告は,本件各第1次配転命令の理由について,原告らの独善的な言動がPE投資グループの協調を乱していたため等と主張するが,被告が原告らに対し平成23年6月1日に送った平成23年度の契約書案では,原告らはそれまでどおりPE投資グループでファンド運営の業務に従事する内容となっている。被告は,同月7日,これらの契約書案の提案を撤回し,同年7月1日に本件各第1次配転命令がされている。したがって,被告の主張を前提としても,同年6月1日から同月7日までの間,あるいは,同月1日から同月30日までの間に,原告らにPE投資グループの協調を乱す独善的な行為が存在していなければならないが,被告は,この点について何も主張していない。
ウ 本件各第2次配転命令について,事前の協議はなく,その理由は不明である。また,配転先での業務内容も,新設部署であるにもかかわらず明確には示されず,何を本務とすべきか不明であるが,従前のような投資業務への関与は禁止されている。
本件各第2次配転命令は,本件訴訟の係属中にされたものであって,本件各第1次配転命令が違法,無効と判断されることを避けるための訴訟対策という不当な動機に基づくものである。
エ 原告らは,投資業務を行う条件のもとに被告と労働契約を締結し(職務限定契約),被告内部でもトップレベルの成功実績を残し,投資家からは今後の活躍を期待されていた。被告と投資家との投資契約においてもキーマン(当該投資担当者の離脱が投資活動停止やファンド解散事由になり得る重要投資担当者)と規定されていた原告らを投資業務から外す本件各配転命令は,投資家に対する背信行為であり,ファンド継続中はファンド運用担当者を勝手に配属転換しないとする被告自らの宣言にも反している。
オ 原告らは,本件各配転命令により,投資業務に関与できなくなったため,①平成24年度のPE投資グループメンバーに配分されるインセンティブ賞与が0円となり,②平成24年度には,平成23年度には付加されていたプロジェクト・マネージング手当(投資先のハンズオン業務に関する手当)月額25万円がカットされ,③平成25年度の年俸も減額提示されるなど,甚大な不利益を被っている。
また,投資担当者の評価は,過去の実績が重視されるところ,投資業務に関与できないということは,投資担当者のキャリア形成にとって致命的であり,過去10年以上にわたりPE投資関連の強力なネットワークを構築し,実績を上げてきた原告らにとって,本件各配転命令後のブランクが及ぼす有形,無形の損害は計り知れない。
(被告)
労働者に対する配転命令は,雇用契約上使用者に配転命令権が与えられている場合に行うことができるが,業務上の必要性がない場合や,不当な動機・目的をもってされた場合,又は労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合には,権利濫用となり無効となると解されているところ,本件各配転命令については,原告らと被告との雇用契約上,被告に配転命令権が与えられており,以下のとおり,無効とされるべき事由は存しない。
ア 業務上の必要性の存在
原告らは,本件各第1次配転命令前は,PE投資グループのパートナーであったところ,投資グループのパートナーは,各投資案件の責任者という立場にあることから,原則として自らの裁量と判断に基づき,プリンシパル等の部下に指揮命令を行いながら業務を行っているので,原告らは,原告らが担当する投資案件の責任者として,チームのプリンシパルらに適切な指揮命令を行いながら当該投資案件を成功に導くべき立場にあった。
しかし,原告らは,担当する案件に関する重要な情報をプリンシパルに秘匿して業務に支障を生じさせたり,原告らが担当する投資先企業の競合他社であった別の投資先企業の従業員から,当該別の投資先企業に常駐している担当チームのメンバーに無断で営業上の情報を引き出そうとしたことなどに加え,自らの情報共有不足等が原因でトラブルが発生した場合にプリンシパルらに責任転嫁して厳しく非難するなど,担当チームの他のメンバーを省みない身勝手な言動を続けていた。
その結果,平成21年頃には,PE投資グループに所属するプリンシパルの大多数が原告らとチームを組むことを拒絶するという状況に陥っていたが,原告らが平成23年度の雇用契約の条件を巡り,PE投資グループの他のメンバーを省みない身勝手な交渉(仮に,被告が原告らの要求に応じて原告らのみを特別扱いし,a23社の案件で生じた損失を勘案せずに原告らに対するインセンティブ賞与を支払うとすれば,他のメンバーがより大きな負担を負うことになる。)を行ったことで,信頼関係は完全に崩壊し,PE投資グループのほとんどのプリンシパルが原告らとチームを組むことを拒絶し,さらに,原告らがPE投資グループに残るのであれば被告を退職する旨を表明する者も複数現れた。
以上のような原告らの身勝手な言動による原告らとPE投資グループのメンバーとの信頼関係の完全崩壊により,原告らを配転させなければPE投資グループが機能不全に陥るおそれがあったのであるから,本件各配転命令に人員の適正な配置及び業務の円滑な遂行という業務上の必要性が存することは明らかである。
イ 不当な動機・目的の不存在
本件各配転命令には,原告らが主張するような不当な動機や目的は存しない。
ウ 原告らの不利益の不存在
原告らが実際に本件各第1次配転命令の配転先の経営管理グループにおいて勤務を開始したのは本件各第1次配転命令の約1年後であり,その後,本件各第2次配転命令によって,投資関連業務を行う投資情報調査室に異動しているのであるから,原告らは本件各配転命令による不利益を受けていない。
また,原告らは,PE投資グループの職階枠分も含め,平成23年度のインセンティブ賞与を満額受領(保留分3018万7125円を含む6037万4251円)しており,投資情報調査室においては,投資案件に貢献すればインセンティブ賞与を受領することができるため,給与及び賞与の面においても不利益を受けていない。
(3)  原告X2の被告に対する平成22年度の未払賃金請求権の有無及び額
(原告X2)
原告X2と被告との労働契約は,毎年,その業績や成果に応じて年俸等が改定され,その都度,雇用契約書を交わしているが,その実質は,期限の定めのない契約である。したがって,平成22年度の賃金について,平成21年度の賃金を変更する合意が成立していなければ,平成22年度の賃金額は,平成21年度の賃金額がそのまま引き継がれることとなる。
原告X2は,平成22年度賃金を月額129万円に減額する旨の内容の平成22年度の雇用契約書について,署名,提出を拒否し,原告X2の平成22年度賃金についての合意が成立していないにもかかわらず,被告は,平成22年1月にさかのぼって,原告X2の平成22年度の賃金を月額129万円に減額して支給した。
原告X2は,平成21年度は月額145万円の賃金の支給を受けていたので,平成22年度の賃金につき変更合意が成立していない以上,平成22年度賃金として月額145万円が支給されるべきものである。したがって,平成22年度分の原告X2の賃金は,月額差額16万円の12か月分である192万円が未払いとなっている。
原告X2は,この間,被告に対する平成22年度の雇用契約書の提出を拒絶し続け,被告から振り込まれる減額賃金を本来の給与の一部金として受領していたが,これが,賃金減額に対する黙示の同意と推認されるものではないことは,上記の経過から明らかである。
(被告)
原告X2は,平成22年3月26日に行われたA2との面談において,「平成22年度の年俸減額については理解するが,来年は増額を検討して欲しい」旨発言して,平成22年度の雇用契約書を受領しており,何ら異議を述べることなく上記雇用契約書に記載された給与を受領し続けたにもかかわらず,平成23年11月に本件訴訟を提起して初めて,平成22年度の雇用条件に関する合意は成立していないと主張し始めたのであって,平成22年度の雇用契約については,上記契約書に記載された内容で被告と原告X2との間に明示又は黙示の合意が成立していることは明らかである。
(4)  原告X1の被告に対する時間外賃金請求権の有無及び額
(原告X1)
原告X1は,本件残業代請求期間において,未払残業代請求目録及び別紙17「月別労働時間表」(以下「月別労働時間表」という。)記載のとおり,時間外労働,深夜労働及び休日労働を行い,その間の時間外労働時間数は合計1964時間39分,深夜労働時間数は306時間45分,休日労働時間数は169時間29分である。
時間単価については,未払残業代請求目録記載のとおり,平成21年5月1日から同年12月31日までの間は,原告X1の月額賃金が117万6500円,所定労働日数が161日,月間平均所定労働時間が161時間であるので,上記期間に係る「時間単価」欄記載のとおり7307円,平成22年1月1日から同年12月31日までの間は,原告X1の月額賃金が104万8300円,所定労働日数が244日,月間平均所定労働時間が162時間40分であるので,上記期間に係る「時間単価」欄記載のとおり6444円,平成23年1月1日から同年4月30日までの間は,原告X1の月額賃金が131万8900円,所定労働日数が80日,月間平均所定労働時間が160時間であるので,上記期間に係る「時間単価」欄記載のとおり8243円である。
以上によれば,本件残業代請求期間中の各月の時間外労働割増賃金額,深夜労働割増賃金額,休日割増賃金額はそれぞれ未払残業代請求目録の「時間外労働割増賃金」欄,「深夜労働割増賃金」欄及び「休日労働割増賃金」欄各記載のとおりであり,各月分の合計金額から同目録記載の各月の「既払分」欄記載の額を控除(マイナスになる場合には0円とする。)すると,原告X1に係る未払時間外手当の額は,同目録の「月間未払時間外手当」欄記載のとおりとなり,その合計額1307万4899円である。
なお,原告X1に付与されていた権限は,被告の経営に関する事項ではなく,他方,労働時間や業務内容はグループリーダーであるA2らによって管理され,賃金額は被告において管理監督者ではないとされるプリンシパルと同レベルにすぎなかった。
(被告)
ア 原告X1の基本給には時間外労働(深夜労働を含む。)の割増賃金も含まれており,その旨の合意の成立を認めても,原告X1の保護に欠けるところはない。
東京地方裁判所平成16年(ワ)第23338号平成17年10月19日判決(判例時報1919号165頁。いわゆるモルガン・スタンレー事件判決)は,高額な報酬を受け,勤務時間や業務遂行について広い裁量を認められているプロフェッショナル従業員の割増賃金請求に対して,当該従業員に交付されたオファーレターの記載内容や,基本給とは別名目で割増賃金が支払われないことについて異議を述べていなかったこと,業界における慣行(高額な報酬を支払い,別途割増賃金は支払わない。)等の事実関係に鑑みれば,当該使用者と当該従業員との間には,基本給に時間外労働(深夜労働を含む。)の割増賃金も含めて支払う旨の合意が成立しており,かかる合意の成立を認めても,何ら当該従業員の保護に欠けるところはない旨判断した。
被告と原告X1との間の雇用契約書の記載内容や,原告X1が勤務時間及び業務遂行について広い裁量を認められていたこと,高額な報酬を得ていたこと,投資ファンド運営会社における慣行等に鑑みれば,被告と原告X1との間で,基本給に割増賃金を含めて支払う旨の合意が成立していることは明らかであり,そのような合意の成立を認めても,何ら原告X1の保護に欠けるところはないというべきである。
イ 原告X1は管理監督者に該当する。
仮に,上記アの主張が認められない場合でも,原告X1は,労基法41条2号に定める管理監督者に該当するので,時間外労働に関する割増賃金は発生しない。
すなわち,原告X1は,被告の主要かつ重要な業務である投資業務について責任者として広い裁量権を与えられ,チームのプリンシパルに対して指揮命令や評価を行う等していたほか,労働時間について被告から指示や管理を受けることなく,自らの判断で勤務しており,極めて高額な給与及び賞与を得ていたのであるから,原告X1が管理監督者に該当することは明らかである。
ウ 原告X1には,事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用される。
原告X1は,投資先企業の取締役CFOとして経営改善に携わるなど,被告の事業場外で業務することが極めて多かった。そして,事業場外で業務に従事する場合であっても,被告の事務所で勤務している他の従業員から指示を受けていないことはもちろん,業務の進捗状況や帰社予定時刻等についても報告することはなく,長時間外出していたり,1日に何度も出入りするなどしていたことから,労働時間の算定が極めて困難であった。
したがって,仮に,上記ア及びイの各主張が認められない場合であっても,別紙18「月別労働時間表(被告修正版)」(以下「月別労働時間表(被告修正版)」という。)の「備考」欄に「入室・退室記録なし」と記載された労働日については,事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用され,割増賃金は発生しない。
(5)  被告の原告らに対する不法行為の成否及び損害の額
(原告ら)
ア 本件各懲戒処分及び本件各配転命令による原告らの損害
本件各懲戒処分及び本件各第1次配転命令は,被告のコンプライアンス上の問題を内部統制・リスク管理室や外部の監督機関に相談しようとした原告らを退職に追い込むことを目的としたものであり,本件各第2次配転命令は,本件各第1次配転命令の違法,無効判断を免れるとともに,退職に向けた環境を強化することを目的としてされたものであるから,本件各懲戒処分及び本件各配転命令は,原告らの権利を故意に侵害する不法行為であって,被告は,これらにより原告に発生した以下の損害を賠償すべき義務を負う。
(ア) インセンティブ賞与の職階枠受給権の喪失
原告らは,本件各配転命令により,PE投資グループに在籍していれば受給できたインセンティブ賞与の職階枠を受給できなかった。本件各第1次配転命令後の平成24年3月及び平成25年3月にPE投資グループ所属の職員に支給されたインセンティブ賞与の職階枠の額は100万円を下らないので,原告らは,それぞれ,100万円の損害を被った。
(イ) 新規投資業務により得られたインセンティブ賞与受給利益の喪失
原告らは,本件各配転命令のため,平成24年度以降に投資業務に関与することにより得られるチームディール枠のインセンティブ賞与を獲得する機会を失った。その損害額は,原告らそれぞれにつき,1000万円を下らない。
(ウ) 基本年俸の昇給期待権の喪失
原告らは,本件各第1次配転命令以前は,投資業務の成果が評価され,ほぼ,毎年,基本年俸が増額されてきたのであるから,本件各配転命令がなく,本来の投資業務に関与していれば,平成24年度,平成25年度ともに基本年俸は増額していたはずであり,その年俸増加額は,原告らそれぞれにつき毎年100万円は下らないから,2年間で,それぞれ200万円の損害を被った。
(エ) 投資担当者としてのキャリア形成機会の喪失
投資担当者は,激変する経済環境の中で,日々,広範なネットワークを通じて新たな情報を求め,分析し,投資を実現,成功させることによってキャリアを積み上げ,ステップアップしていく性質のものであり,投資活動の中断は,キャリアの陳腐化,ネットワークの喪失につながり,投資担当者としての信頼を失うこととなる。原告らは,本件各第1次配転命令以後の2年余りの期間にわたる投資業務からの離脱により,投資担当者としての業界におけるステータスを決定的に低下させてしまった。その回復に要する努力と時間を経済的価値に算定すれば,原告らにつきそれぞれ1000万円は下らない。
(オ) 精神的損害
本件各懲戒処分及び本件各配転命令は,被告のコンプライアンス経営の向上を目指して上司に対して問題点を進言していた原告らを退職に追いやることを目的としたものであり,これにより原告らに生じた精神的損害は,上記(ア)から(エ)までの経済的損害の回復で慰謝されるものではなく,原告らの精神的損害を慰謝するには,それぞれ300万円が相当である。
イ 被告のパワーハラスメント行為による原告らの損害
被告は,原告らを退職に追い込むために,本件各懲戒処分及び本件各配転命令のほかに,取締役であるA6によるパワーハラスメント行為,さらには,本件各配転命令後の組織的なパワーハラスメント(原告らから業務を取り上げ,原告らの存在を無視し,原告らを被告の社内情報から隔離し,原告らについて不実の喧伝を行う等)を行っており,それらによりにより原告らに発生している精神的損害は,それぞれ300万円を下らない。
ウ 弁護士費用
被告の不法行為と相当因果関係を有する損害としての弁護士費用は,原告らそれぞれにつき150万円である。
(被告)
争う。
第3  当裁判所の判断
1  事実経過
後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件における事実経過が次のとおりであったことが認められる。
(1)  ○○ファンド4号の募集資料に関する対応
ア 平成22年2月のa27株式会社(以下「a27社」という。)からの資料要求に対する対応
(ア) 平成22年1月29日,当時,被告のファンド業務企画グループのグループリーダーであったA9が,機関投資家であるa27社に,○○ファンド4号の募集資料のドラフトをメールにて送信したところ,同年2月1日,a27社の担当者から,①各投資案件における主担当者及び投資チームのメンバーとそれぞれの役割,②PE投資グループにおける過去の離職者のリスト(氏名,参画時期,参画以前の経歴,離職時期,離職当時のチームにおける役割(担当案件,担当案件における役割等),簡単な離職事由,離職後の行き先(分かる範囲で)についての情報提供を求めるメール(甲29の4)が送られた。
(イ) それを受けて,PE投資グループのグループリーダーであるA2は,a27社に提供するための担当者表の原案を作成し,平成22年2月8日,PE投資グループのマネージング・パートナーであったA6及びA10(以下「A10」という。)並びにパートナーであったA11(以下「A11」という。),A12(以下「A12」という。),A5及び原告らにメールで送信し,求意見をした。それに対し,同日,原告X1は,A2に対し,原案に対する修正点と懸念点を伝えるメールを送信した。また,翌9日には,原告X2が,A2に対し,変更を反映した案件表が出来たら提出前に送付してもらいたいとしたうえで,「案件表についてパートナーとしての意見として案件担当者を全て正しく記載すべきとのポイントはケース作成時にも以前にも申し上げたとおりです。グループリーダー熟考の決断として受け止めていますが会社に対する信頼に関わるポイントなので念をこめて再掲させていただきました。」とのメールを送信している(甲7の2)。
(ウ) a27社から求められた担当者表は,平成22年2月10日,他の○○ファンド4号関係資料とともに,当時,被告のファンド業務企画グループのプリンシパルであったA13(以下「A13」という。)から,a27社の担当者にメールで送信された(甲29の6から8まで)。
(エ) a27社の担当者は,平成22年2月10日,A13に対し,上記(ウ)のA13からの同日のメールに対する返信として,未だエグジットしていない未実現案件に関する資料の提供を依頼するとともに,「過去の案件について,投資時の計画と実績値を見比べたいのですが,投資時やエグジット時の投資委員会資料等につきましては(データルーム等において)拝見させて頂けますでしょうか。これを(金曜日の会議の結果にもよりますが,)来週にでもお願いすることは可能でしょうか。」との内容のメールを送信した(甲29の9)。
上記メールを受けたA13は,同日,a27社から上記の追加依頼がされた旨を伝える内容のメールを,宛先をA11,A2及び当時被告の経営管理本部のアソシエイトであったA14(以下「A14」という。),CCをファンド業務企画室及び原告X2として送信した(甲29の10)。
(オ) 被告は,平成22年2月17日午後5時30分から午後7時まで,a27社に提出するDD用資料の整合性チェックのための会議を開催した。
(カ) 被告は,平成22年2月18日午前10時から,a27社に対し,被告の会議室において,エントリー時及びエグジット時の投資委員会資料を閲覧させたが,上記閲覧対象資料のうち,別紙19「書換え表」記載の案件のものについては,当初の投資委員会又は案件会議において提出された資料に表記されていた担当者の記載が,同表記載のとおり,変更されていた。
イ 平成22年6月の○○ファンド4号の募集資料を巡る対応
平成22年6月15日,A14からPE投資グループのメンバーに対し,○○ファンド4号の募集資料のアップデート版が完成した旨の連絡メールが送信された。
原告X1は,同月21日,A2に対し,上記募集資料の記載について,一部修正を求めるメールを送信し,それに対する同月22日のA2の原告X1に対する「修正点,確認の上修正します。」との返信メールに対する返信として,同日,A2に対して送信したメールには,次の記載がある(甲7の1)。
「また,私が別のグループにいた事(プリンシパルの一部がコンサルティングにいた事)はLPの一部はよく知っているので,いくつか事実と異なる記載があり,インタビューを受けると整合性が取れない点についてはいかがいたしましょうか。
昨日の朝のミーティングで「DDなのだから・・・(居心地がいいと言うべき)」とA2さんから発言がありましたがDDで嘘をつくことを促進するのではなく,DDで本当のことを語って出資してもられるファンドにするのがファンド会社のマネジメントの仕事ではないでしょうか。私はa28社でもa29社でもY社のファンドレイズにとって最善を話そうとしてきていますがだからこそ,整合性の取れない状況になり,話さざるを得なかった事実がいくつかあります。」
(甲4の4,7及び22の各1・2,29の1から10まで,31及び32の各1から10まで,33,34)
(2)  平成22年度の雇用条件に関する被告と原告らとのやりとり
ア 平成22年1月に,PE投資グループのグループリーダーであるA2が,同グループのメンバーとMBO(目的による評価)面談を行った際,原告X2は,「不祥事を起こしたマネージング・パートナーへの処罰」という表現を用いて,担当案件が失敗に終わったマネージング・パートナーの降格を求めていたところ,同月26日にA2が原告X2に送信したMBOシートの提出を促すメールに対する返信及びMBOシートのファイル送付のため,原告X2がA2に送信したメールには,次の記載がある(甲18の1)。
「一応,不祥事について調べてみましたが(祥)めでたい・よろこばしい事ではない,とのようですので今回のことをそのままの記載としていますがまだ意見に齟齬などあればその旨お知らせください。
また,今年の評価も投資サイドもファンドレーズも高い評価を頂きましたが(前回a11社のときも高い評価をもらいましたが給与は上がりませんでした,)今回,業績を上げても,今回は評価とは逆に給与が下がる方向との事。
経営会議のメンバーではないので経営悪化の理由などは詳しくは分りませんが経営責任や赤字になった案件の責任の所在や賞罰処置などが明らかにならず給与カットは,法的にも従業員としては受け入れられないと思います。
会社の基本方針にも「権限と責任を明確にする」とありますが本当に下がるのであれば,事前に,その原因と責任を明らかにし,その処置の適切性について納得する必要があると思いますので事前のご対応をお願いします。」
上記原告X2のメールに対し,A2が,同年2月2日に送信した返信メールには,「業績については定常収益は黒字です。ファンドの持分損失がかなりのポーションでマイナスがきいてきています。よって繰延税金資産の取り崩しも含めて10億円程度の赤字となったものです。」との記載があり(乙44),これに対し,原告X2が,同月5日に送信した返信メールには,次の記載がある(乙45)。
「定常的には黒字であるが,経営悪化は,今年のファンド持分損失に起因すること,了解です。
それでは,今年カットがあったとしても,この特殊事情が無くなる来年は,額は元に戻り,今年分の高評価も反映され直すとの理解でよいでしょうか。
その他,下のメールの
①案件別の損失額(ファンド持分損失の内訳)
②その責任者
③賞罰処置とその適切性
はどうでしょうか。」
イ 平成22年2月15日,A1は,平成22年度の年俸契約の契約更新に先立ち,平成22年度の年俸契約及び賞与に関し,その背景と関連する経営方針について説明するため,被告の全従業員に対し,「2010年度新年俸契約更新および賞与について(長文ですが重要なのでお読みください)」という件名のメールを送信した(乙2)。
同メールには,
(ア) 同年1月22日の取締役会で,売上高41.1億円(前年度27.0億円),経常利益8.9億円(前年度▲8.05億円),ファンド募集目標420億円,定常販管費17.6億円(前年度21.8億円▲19パーセント)内,役員報酬・従業員給与9.8億円(前年度10.9億円▲10パーセント)とする平成22年度予算計画が決議されたこと,
(イ) 平成22年度は,上記予算に従い,被告全体で給与の平均で10パーセント削減を目標に役職別標準削減率が設定され,役員は20パーセント以上,マネージング・パートナーは15パーセント以上,パートナーは10パーセント以上,プリンシパル,マネージャー,アソシエイトは5パーセント以上の削減率としていること,
(ウ) 削減は,各自の基本支給額(ベース給与)に対して,それぞれの役職別標準削減率を一律にかけて算出され,削減後の基本支給額に対して,通常のMBO評価による増減,昇格・降格に伴う増減調整があるので,提示された平成22年度支給額と平成21年度支給額との差異による削減率は役職別標準削減率とは異なった数値となること,
(エ) 新年俸による支給は平成22年1月にさかのぼって実施されること,
(オ) 平成21年度は赤字決算となったが,一般賞与については賞与積立の半分相当額を平成21年度分の賞与として,平成22年2月26日に支給すること,
(カ) 「来年度に向けて」として,
「当社の基礎収支,すなわちファンド運営による管理報酬で当社の販売管理費をまかなえるかどうかを見る基礎収支はこれまで一貫して黒字を維持しており,経営上は安定しています。赤字決算とはいえ,経営的には安定している中で今年の全社的かつ大幅な給与削減は異例とも言えます。その給与削減を今年度あえて行い,同時に経営体質強化のための厳格な予算制度の実施とグループ経営の独立採算体制を構築するのは,経費削減による今期の黒字化達成も経営上大変重要な意味がありますが,この際徹底して成長への土台を作り直し,さらに体を絞り上げて強靱な筋肉質の企業体質にする目的があります。そうすることで今後二度とこうしたことを必要としないY社にするためです。さらにY社がアジアでトップ,グローバルで一流投資会社としての地歩を築くのに相応しい企業に脱皮するという,より大きな経営目標のためでもあります。」との経営方針の考え方
が記載されている。
ウ 平成22年2月25日,被告から原告X2に対し,同月分の月額報酬104万8300円,割増賃金24万1700円の合計129万円から,同年1月分の減額精算として16万円を控除して計算された同年2月分給与が振り込まれ,平成22年度分の原告X2の給与として,月額報酬104万8300円,割増賃金24万1700円の合計129万円を基礎として計算された額が,毎月25日に振り込まれた。
エ 平成22年3月25日,PE投資グループのグループリーダーであるA2が,原告X2に対し,雇用契約書が未提出なので,サインして提出することを求める内容のメールを送信したところ,原告X2がA2に対し,説明を求めるとともに,原告X2もA2に話したいことがあるとして,面談を求める返信をし(甲18の2),翌26日,原告X2とA2が面談することとなった。
上記面談の際,原告X2は,A2から,被告の記名押印がされた平成22年3月1日付けの原告X2の平成22年度の雇用契約書(甲19の1・2)を渡され,これを受け取ったが,原告X2は,同雇用契約書に署名押印したものを被告に提出していない。
なお,同雇用契約書の内容は次のとおりである。
契約期間:平成22年1月1日から平成22年12月31日まで
年俸1548万円(計算期間:平成22年1月1日から平成22年12月31日まで。年俸額を12で除した金額を毎月25日限り支払う。)
インセンティブボーナス規程に従い,インセンティブボーナスを支給する。
所属は,PE投資グループ。職位・職階は,パートナー・経営職。
所属又は職位・職階に変更があるときは,別途,辞令にて被告より通達し,原告X2は,それに従う。
本契約は,被告と原告X2との間の平成21年4月1日付け雇用契約(原告X2契約推移記載クの契約)に置き換わるものとし,本契約の締結により,上記雇用契約はその効力を失う。
契約書に割増賃金についての文言なし。
オ 他方,原告X1は,平成22年度の雇用契約書に関し,職位・職階を「パートナー(経営職)」とする点につき,「経営職」という文言を外してほしいと要望していたところ,被告としては同文言を入れる方向で考えているため,A2は,平成22年3月25日,原告X1に対し,雇用契約の関係での打合せミーティングを求めるメールを送信したが,両者とも時間がとれないことから,メールでのやりとりとなり,A2が,翌26日,原告X1に対し,「経営職」の定義につき,①経営職未満の方との処遇面での明確な違い,②自分自身での出退勤の管理が可能,③経営にある程度参加,④ある程度の人事権を持っているということがポイントであり,①,②は被告では問題なく,③は投資会社としては投資の議決権があるかどうかが大きな判断ポイントとなる,ファンドの運営責任をパートナーは負っているという重みだと思っている,④については,パートナーとグループリーダーで人事評価を行うという形でのチーム運営方法の改善を検討中である旨を記載したメールを送信したのに対し,原告X1は,同日,A2に返信メールを送信しているが,そこには次のような記載がある(甲20)。
「役員ではないので経営職=管理監督職だと思いますが,①はレベルがわからないのでわかりません②④は自分で自分のリソースを調整できることを指していると思いますが実態そうではないと思っています。
人事評価ではなく人事裁量権(採用できる権限があるか)だと思いますが社内リソースで活用できるリソースがないという事実もお伝えしていますし自分のリソースが厳しくても部下はいませんので,自分が極度の残業をして健康を削らないと実務が回らないことがあるのも実態です。また,以前振り替え休日を数ヵ月後にまとめて出したところA15さんから「いつまで振り替え休日を使うのか」とA14さん経由で苦情が入りその頃のリソース管理のA10さんは私をかばうことなく私は有給休暇を使いました。
管理監督職であれば,実は振り替え休日の概念もあまりなく個人で裁量が認められていると社労士からはコメントをもらっています。
Y社の人事とPEのMPの認識が管理監督職扱いをしていないとその時に私は認識しそれ以降,私は社員として当然ですが,9時~18時出社は就業規則にのっとり基本的に社員としてのルールを守っています。
③は投資会社の管理監督職は投資判断だという話を初めて聞いたのでわかりません。
労務管理上言われるところの経営判断を審議するパートナー会議にも出ていないので当社の経営職とは思っていません。
上記,色々書いたように,私個人としてまだ経営職だと納得はしていません。
ただ,株のやり取り同様,事務手続き上管理が問題となるので協力して押印して提出します。
投資先では絶対にしない経営が行われていると思いますので,改善が前提でありこれでいいと判断をしているメンバーが現経営陣・PEグループのマネジメントにいないと信じたいと思います。
追記:今期の目標を踏まえて,本日の会議でのMPの二人が遅刻されたことについてA2さんが言及されるなり,ご本人から説明がなかったことは大変残念です。」
カ A2は,平成22年3月28日,上記原告X1からの返信メールに対する返信として,次の内容のメールを原告X1に送信した(甲20)。
「X1さんの考えは分かりました。
経営管理とわが社における考え方なども含め経営職という概念を再度確認してみます。」
キ 原告X1は,平成22年3月29日,上記A2からのメールに対する返信として,次の内容のメールをA2に送信した(甲20)。
「真摯なご返信,感謝します。
私の先のメールは部分的な返答になります。
経営管理等への転送はご容赦ください。
必要でしたら別途まとめます。
経営職は(会社の数値を暗記している人ではなく)数字の中身を把握しているべきだと思いますが経営数値(例えば人件費)の中身や詳細さえ開示されておらず管理監督しているリソース(人モノ金)もないので経営はできない,していないというのも趣旨です。
そもそも会社として実態のない経営職を明記したい理由は何でしょうか,是非,情報を整理共有ください,よろしくお願いします。
困らせるつもりはなく,正しいことをすべき,理解すべき,共有すべきと,いつも考えています。
「徹底」についても当然ですが,MP自身の徹底した姿勢を見せてください,自分にも甘い,自分の味方になる他人に甘い(人気取りの姿勢)ではハンズオン投資も経営も成果はでないのではないでしょうか。」
(甲18及び19の各1・2,20,46の1・2,乙2,11,44,45)
(3)  平成23年度の雇用条件に関する被告と原告らとのやりとり
ア 原告X1は,平成22年12月3日,A2に対し,MBO面談のやりとりを敷衍して,「多少,言葉が過ぎている感がありますが,投資先経営においては,オーナー経営者と同様24時間365日その会社の経営にコミットしています,言い訳はありません。その視点からすると,今のY社の経営には絶望感を抱いているので,きちんとお伝えした次第です。改善策を伝えずに,仲良くやることが経営陣の仕事ではないと思いますので,そろそろそれには気付いて改善して欲しいと思い,心苦しいながらも提言しています。まだまだ言わないで仲良くやる方が心地よいまま経営をしてきていませんか?是非,いい会社に,生き残れる会社にしてください。今のY社が日本のPE業界を代表する会社なら,日本のPE業界は無くなってしまいます。Y社の経営陣としての職位と給与を受け取られている限りにハンズオン先と同様に24時間365日,私たち実績を出してファンドレイズにも貢献しているメンバーの意見をきちんと受け入れて,苦言が受け入れられ,反省し,改善できる組織にしてください。」との添え書きとともに,以下の内容の「リソース(と経営)に関する意見(と提言)」を,メールで送信した(乙69)。
(ア) 原告X1が被告の経営陣であるなら,1年間で結果の出ないメンバーは減給をする。猶予があったとしても2年である。言い訳を言わせない仕組みを作り,日々,忠告し,経営する。当然,役職者も結果が出せなかったり,大きな失敗があれば,目に見える形で降格減給する。現在のリソースでは投資が進まないのは事実なので,2年計画でリソースの入替えを計画すべきである。
(イ) 原告X1が被告の経営陣であるなら,チーム単位での採算性を導入管理する。評価する立場と責任をとる立場とが一致して明確でない限り,統制がとれない。現在の人事制度は不整合であり限界である。現在の組織運営において,投資が予算通りに進まないのは,A2又はマネージング・パートナー3人の責任である。A2がそのすべての責任をとることができないのであれば,明確な権限委譲をして,チーム単位で人事評価を含め責任を持たせて評価させ,A2がそのチームを評価する仕組みを作るべきである。
(ウ) したがって,結果が出ていて,本人たちが望むのであれば,プロフェッショナルなチームを認めるべきであり,明らかに数字が出ているチームを解体して,運用成績が落ちるような管理運営をするのはナンセンスである。原告X1と原告X2とのチームプレイについては,明らかに結果が出ているので,チーム主体の採用を認めて,リソース(予算)をもらいたい。
(エ) 現在のメンバーを原告X1と原告X2とで行っている投資のタイプに入れることは基本的に無理である。理由は,①メンバーの力不足(原告らが結果を出している投資においては,現在のチームメンバー(プリンシパル)は力不足である。),②経営の失敗(a20社,a21社及びa11社の案件において,メンバーの関係で,投資チームを批判して案件を取り上げようとした経営の失敗についての経営陣の反省の弁が明らかにされない限り,現在のメンバーとの融合は不可能である。)である。
(オ) PE投資グループの管理体制としてA2が必要なメンバーがいるのであれば,それはPE投資のチームとしてではなく,管理チームとして保全するか,A2の投資チームを大きめにして,その中で運営してはどうか。
イ 平成23年2月23日,A2は,原告X1に対し,原告X1の平成23年度の年俸について,平成22年の減額前のベース給月額140万円にいったん戻したうえで,MBOをベースにした評価を反映し,月額150万円とすること,内容のフィードバックについては翌週以降別途行うこと,上記給与は平成23年1月から平成24年3月までが対象であること,人事考課対象期間を平成23年から4月から翌年3月までに変更するため,平成24年3月までを対象とすること,平成23年1月分については,同年2月25日支給分に差額を含む形で支払われることを連絡する旨のメールを送信した(甲14)。
ウ これに対し,原告X1は,上記メール受信の当日である平成23年2月23日,A2に対し,次の記載のある返信メールを送信した(甲14)。
「大切な給与の話なので,今回はある程度主張させていただきます。
昨年の評価を踏まえた本年1月からの給与支給について2月22日深夜に突然メールで「連絡」されましたが,本来MBO評価の面談フィードバックは給与支給前に最優先で行われるべきであるにもかかわらず毎年毎年,契約社員である私たちに対し,1月からの年俸契約が2月になっています,まず,このような場合,ハンズオンも標榜されるファンドの責任者としては責任者の侘びや弁明がされるべきと考えますがどうしてこのような対応になるのでしょうか。
加えて,以下2点質問とお願いです。
一昨年評価期間で他のメンバーが投資が進められていない中,a21社のようなY社にとっては大規模な投資を実質2人で実行達成し新案件ソーシングにも動いているにもかかわらず,2年間合計では結果として年俸で12万減額の理由をお知らせいただけますか。
私の実質任されている職務や達成している実績と全社の赤字の原因とは関係なく,A1さんと話された上での全体額として減額である点を納得された責任者としてのA2さんのお考えをメールでいただきますようお願いいたします。
本年から評価期間を4月にすると,2011年1月~3月の評価が抜けてしまいます,この齟齬はどこで調整される予定でしょうか。
本年6月か12月のボーナス支給で調整される予定でしょうか。
最後に確認です,前年調整すると話されていた本年契約書において,実態とかけ離れた「経営職」という文言は改善されていると理解しております,よろしくお願いします。
ご返答をお待ちしております。」
エ 上記原告X1のメールを受けて,A2は原告X1に対し,平成23年2月25日,次の内容のメールを送信した(甲14)。
「○給与支給の連絡
架電お話したとおりで,2011年の年俸が連絡がきてすぐに2月25日の給与から反映されるとの話しでしたので,月曜の午後から海外出張が入っていた為まずはメールにて連絡したものです。私自身もフィードバックは来週になっている状況です。A1さんと各人の数字についてコメントの確認を別途行う予定でお願いしています。
ご指摘の点のフィードバックなどのプロセスについては,経営管理に改善を求めるつもりです。
○給与の支給額
来週火曜日にA1さんの時間をもらっており,そこで確認した後フィードバックさせてもらいます。
X1さんの業務や実績については十分評価させてもらっており,昨年給与があげれなかった分も合わせて通常5万円/月単位で増える分を10万円/月あげさせてもらっています。
個人的には2013年までに給与水準のスタンダード化と改善を図っていきたいと考えています。パートナーは原則2,000万円/年(1ヵ月分の賞与を含)以上にしたいと考えています。現在のパートナーの中には私的にはパートナーとして十分ではないと思う人もいますのでその人は2,000万円などといったレベルではなく現状に近い数字になると考えています。
全社の赤字の責任所在は関係ないとの話しですが,少なくともY社のプラットフォームで仕事している以上はご理解いただきたいと思います。
○評価期間
経営管理と最終確認をしますが,今般は本年1月~来年3月末の15ヶ月となります。
○経営職
本件については,もう一度A1さんと話をしてみます。」
オ 上記のメールのやり取りの後,平成23年度の給与等に係るフィードバック面談は,平成23年5月12日に,A2と原告らとの間で実現した。なお,それに先立ち,同月11日,A2から原告らに対して,平成23年度の雇用契約書のひな形を添付したメールが送信されている(甲25の1)。
この面談では,A2から原告らに対し,平成23年度の原告らの月額給与を,原告X1については月額150万円,原告X2については月額145万円とする旨の提案が示された。
カ 原告らの平成23年度の給与等に係るフィードバック面談の第2回が平成23年5月20日に実施され,原告らとA2に加え,経営管理グループのグループリーダーであるA4が同日の面談から参加した。
同日の面談では,A2及びA4から,以下のような提案が原告らに伝えられ,原告らは,それを持ち帰り検討することとなった。
(ア) 平成23年度の給与の全体的な方針
基本的には,予算全体は株主と協議のうえ決定し,給与枠も株主の承認を得ている。
平成23年度の原資は,平成22年度の給与減額から平成21年度のベース給与(単年度業績給を除く。)に戻すことが承認され,通常は月額5万円単位の増減で,業績の累計,チーム貢献,会社貢献などを加味して提示している。ただし,場合によっては,月額10万円となるケースもある。
パートナーの年俸(2か月分の賞与を含む。)は,約1500万円から2000万円前後を目安としている。
(イ) 年俸(2か月分の賞与を含む。)
原告X1については,前回提示した月額150万円(年1800万円に賞与300万円を加えた合計2100万円。)にa21社の案件の貢献として月額10万円をプラスした月額160万円(年1920万円に賞与320万円を加えた合計2240万円)とした。
原告X2については,前回提示した月額145万円(年1740万円に賞与290万円を加えた合計2030万円。)にa21社の案件の貢献として月額10万円をプラスした月額155万円(年1860万円に賞与310万円を加えた合計2170万円)とした。
なお,対象期間は平成23年1月から平成24年3月までとなり,2か月分の賞与は黒字であれば支給される。
(ウ) 案件プロマネ手当て
パートナーが投資実行し,ハンズオンを行うことに対する対価を平成24年度から制度化することを検討中である。これは,被告全体の経営に携わる職種を用意し,その手当を検討する一方で,パートナーであって案件を中心にプロジェクト・マネージメントを行っていくことを専門にする職種を用意し,その手当として,月額25万円を案件プロマネ手当てとして平成24年度から制度化したいと考えているものである。
前回の提示の時点では,a21社の案件がエグジット前であったが,今回は,a21社の案件のエグジットを評価し,上記の案件プロマネ手当てと同等金額を,平成23年1月から平成24年3月まで,特別評価として単年度業績給として支給する(上記期間分合計375万円,1年分では300万円。)。
(エ) インセンティブ賞与
インセンティブ賞与は,ファンドの損益通算をし,出ているゲインで按分した金額を成功報酬として支払う。担当チーム枠が60パーセント,職階枠が20パーセント,調整枠が20パーセントとなる。
キ 原告らは,平成23年5月23日のA2及びA4との面談において,被告に対して,四つの選択肢を示して検討を求めた。
この四つの選択肢の具体的内容については,原告らと被告との間で認識が一致していないが,おおむね次のような事項についてのものであった。
(ア) 過去の案件について,既に被告を退職している者も含めた実績表を作成すること。
原告らは,この正確な実績を被告の社内で共有したうえで,投資家には整合性のある説明をすることを求めたとし,この選択肢を第一の選択肢と位置づけている。
これに対し,A2及びA4は,この選択肢は,被告発足以来のメンバーの過去の実績・貢献度を数値化したものを開示し,被告内における現在の職位を見直すとともに,原告らをマネージング・パートナーに昇格させることを求めるものと認識し,原告らの四つの選択肢の3番目に掲げている。
(イ) 原告らに過去2年間さかのぼって月額25万円の業績給を支給するとともに,a21社の案件に係るインセンティブ賞与を全額支払うこと。
原告らは,この選択肢を第二の選択肢と位置付け,インセンティブ賞与について,A1が原告らに対しインセンティブ賞与を「いずれ全額支払う。」と約束していたので,その約束の実行を求めるものであるとし,原告X2は,本人尋問において,上記A1の約束につき,a23社の案件に係る損失を通算した額の支給を前提とし,後に,調整枠等を使って,全額になるまで支払うという趣旨と理解していた旨供述する。
これに対し,A2及びA4は,a21社の案件のインセンティブ賞与の支給に際し,a23社の案件から生じた損失を勘案しないことを求めるものと認識し,この選択肢を原告らの四つの選択肢の1番目に掲げている。
(ウ) 過去2年間及び向こう1年間の合計3年間につき,被告が原告らとの間で年間委託料3000万円の業務委託契約を締結するとともに,a21社の案件に係るインセンティブ賞与を正当に支払うこと。
原告らは,以前から,A1が原告らの退職を求めていたことから,原告らの退職を前提とするこの選択肢を第三の選択肢として位置付けているとする。
A2及びA4は,インセンティブ賞与については,上記(イ)と同様の要求であると認識し,この選択肢を原告らの四つの選択肢の2番目に掲げている。
(エ) 裁判を通じて争うこと。
原告らもA2及びA4も,これを原告らの四つの選択肢の4番目に位置付けている。
この裁判とは残業代の請求の裁判である。
ク 原告らとA2及びA4との間で,平成23年5月25日,前回の面談で原告らから示された四つの選択肢について,被告の立場を説明するための面談が行われた(この面談を,以下「本件面談」という。)。
本件面談の内容は,原告らにより録音されていた(甲44の1・2)が,それによれば,冒頭,A2から,被告における職位の見直しに向けての被告内の検討状況について,未だ結論は出ていないこと,被告が原告らに対して同月20日に提示した案は,被告としてベストの数字であり,今出せるマックスであるというのが回答である旨の発言があり,それに対して,原告X1が,「はい。じゃあ,裁判やむなしと。」,「裁判になる場合は,労働基準監督署,金融庁および株主とLPにも話はさせていただきます。はい。」と発言し,それに対し,A4が,「MPになってないっていうの,もしかしたらあるかもしれないですけど。」と応じたのに対し,原告X2が「いや,違う,MPって話じゃない。」,原告X1が「いやいやいや,そんなことは全然言ってない。」と発言している(本件面談の内容を録音した甲44の1を反訳した甲44の2の記載内容を引用する際には,言葉を継ぐために発せられた,独立に意味を持たないものが反訳されている部分は省略するものとする。以下,甲44の2の記載内容を引用する際に同じ。)。
次に,原告X1は,「この間の話の手順を覚えてますか?まずは,一つ目の提案は,組織を変えると言ったのではなくって,今までの実績の数字できちんと表して納得のいくものを作れれば,水曜日までに作ってくださいと申し上げました。その答えは?」と発言し,これに対し,A2が,「会社として,それを開示,全部開示するものではない,というふうに判断しているということですね。」と回答し,引き続き,A2が,「この前の話だと,例えばA16さんから含めて,A17さんも含めて」と発言したのを引き取る形で,原告X2が「うん,で,それでいうと実績を全部見たときに,そのチョイスを会社として採っていて,で,われわれも,その中で,今のポジションで今の評価となっていると,全体感で説明がつけば,それでもいいというのが,(ここで,原告X1が「そうですね,納得すると。」と言葉を挟んでいる。)われわれのオファーであって,(中略)そういう話でいうと,元々の話とは大分ずれてきていて,委任契約的な物言いであったり,それから,いや,低く抑えているから,アップサイドがあったときはアップサイドを取るっていうのが基本ですよねって言ってる中によると,上に人がいて,そこはマイナスが出てしまって,で,マイナスが出たものを一緒にかぶれという話になっちゃう。そうすると,ちょっと元々言ってた話とずれるじゃないですかと。であれば,それを何らか違う形で補填するとか,そういうオプションを考えて,そこで,例えば元々言っていた話に近い形に直すとかっていうんであれば,そういうのがあれば,それは考えましょうといって,こう理解をしようとはしているんですけど,それに対して,そういうものを開示するつもりは会社としてはないと。」と発言している。
さらに,A4が開示することの目的を原告らに尋ねたところ,原告X1は「フェアに人事制度を運用していただきたいという。」と発言し,「それ評価の話ってことでよろしいですか?」とのA4の確認に対して,「そうですね,はい。」と答えている。さらに,原告X2は,「それでいうと,全体としてどういう評価スキームになっていて,(中略)例えばですね,大枠でいうと,いや,じゃ,その専門職カテゴリーがあってこうなんだっていう話なのか,それとも,要は,その話が,単に従業員なんで,いや,この会社の業績が悪ければ,それはもう受けてくれっていう話なのか。じゃあ,マネジメントにいた人間,じゃあマネジメント層っていうのは,それを本来,そのマネージ層にいるべきで,その実績があって,で,それができてるのか。われわれから見ていると,車に乗っていい人,乗っていけない人がいるんであれば,乗って事故する人が上で事故をして,で,それを一緒に同席で乗らざるをえない人が一緒に被害を被るって形になってしまっているんで,運転をしないほうがいいじゃないか。で,する。そのカテゴリーでいうと,実績ベースでいうと,これまで見ていれば分かりますと。で,われわれ,危ないですよ,危ないですよって,(中略)やっぱり,そういうのはずっとやってきているわけで。そうすると,ああ,これはもう危ないだろうということが見えていても,それに対して,その段階,ランクがあって,階層があって。別にわれわれMPになりたいとは一言も言ってなくて。ではなくて,(中略)それが,意思決定をしてしまう。で,それを変えられない。で,そこで事故が起きてしまう。三十数億円,ロスが出ました。で,それを回避できたかもしれない組織があれば,回避できたかもしれない。ただ,それが回避できなかった。で,それに対して,じゃあ,結果を出した人たちのところからカットして,そこの穴埋めにいきますというんであれば,それはわれわれからすると,(中略)もしその人が,そういうクオリフィケーションが合ってないんであれば,それは変えておくべきであって。(中略)会社と従業員の関係性でいうと,いや,ベースフィーは安いです,業界の中でも安いと。(中略)じゃあアップサイドはそこは取っていこうよっていうのがパッケージでしたと。で,それに対して,結局,アップサイドが出たときでも,いや,払いませんというオファーになってしまうんであれば,それは元々お約束されていた部分と違うし,それでいうと,制度的な改革っていうのは,もうわれわれ10年たちますけども,やっぱりずーっと,ここ何年もずーっと,お話をしてきていて,で,変えるべきであると。で,まあ,ちょっとA1さんと,A2さんはね,頑張って調整はしてもらったけれども,結局ずーっとそれはそのままで。」と発言している。
次に,原告X1が,午後10時以降の割増賃金を被告が払わない理由を尋ね,それに関するやりとりが行われ,原告X1が「前の話で主張をして,裁判しかないけれども,あとは,三つのオプションがありますよと出したと。で,その三つのオプションとものめないですよっていうのが返事なので,で,それ以上の歩み寄りはできないというオファーだと思っていますので,えっと,裁判ということを致し方ないっていうのが返事ですね。で,それは株主に言ってもいいし。」との発言をした後,原告X1が「そのうえに成功報酬のとこは全く手つかずのままなので,この間の論点はほとんど成功報酬のとこなんですね。で,それについては一切今回説明もないし,理解しようとか,組み入れようっていうのはないと理解してよろしいですか?」と発言したのに対し,A2及びA4は,インセンティブ賞与についてはルールどおりに,マイナスがでたときは,その分がネットされて,成功した部分は削られることになるので,そこを後から出た案件で調整枠等を使って埋めていくことになる旨の回答をした。それに対して,原告X2は,「さっきも言ってたけど,その前から問題点だといって,全部を開示して直すべきって言っているのは,」PEの会社としては,インセンティブを上げる方向に本来行くべきところ,「その仕組みに反する動きが起きてるわけですよ,結局。そのロスが出る仕組みがあると。で,それは,原因を追究して排除すればいいじゃないですか。原因を追究していない,排除していない,直していない。」と発言した。
その後は,面談終了まで,原告らだけが発言し,その中で,原告X1は,「もう会社がつぶれる危機になっても,それは致し方ないという覚悟を持って,経営陣に申し入れをしていますが,それを受け入れる余地はないとお答えいただいたと認識していますので,それで結構です。」,「ここまで10年一緒に築いてきた会社,恐らく本当につぶれる危機だと思いますけれども。」,「本当に,大丈夫ですか?だけど,わたしたちは元々その覚悟で元々この交渉には臨んでますので,いや,皆さんが持ってる株がゼロになるリスクも,まあ,ゼロではないにしても,相当,まあ,現金で買われているところも分かったうえで,まあ,A2さんもその会議に入って,それを致し方なしとしてわたしに伝えたのであれば,そういう理解として,株主さんからも,まあ,質問を頂いている部分もありますので,きちんとお伝えをしたいと思います。」といった発言をしていた。
ケ 原告X1は,平成23年5月27日,A2に対し,原告ら連名で,次のことを要望する旨のメールを送信した(甲25の2)。
(ア) 本件面談でA2及びA4が話した内容を,理由とともに,全て漏れがないよう文書にしてもらいたいこと
(イ) 「経営職」について,平成22年度契約書の際に,A2が契約書の書換えを経営管理グループと検討するといっていたものの結論と「経営職」の被告内における位置付け及びその職務,被告全体のこのような職位職階名称とその責任範囲や区分についてのA2及びA4の理解内容を知らせてもらいたいこと
(ウ) 退職者を入れて過去案件の正確な割り振りを明示できないとする点についてのA2及びA4の理解している理由をもう少し明確に示してもらいたいこと
(エ) 成功報酬について,①現在の成功報酬の調整分及び職階分の配分についての被告のルール(割り振りの考え方と決裁過程・決裁メンバーも),②年度末ボーナスの被告のルール(原資の計算方法,割り振りの考え方と決裁過程・決裁メンバーも),③初回の面談でA2が言及した「成功報酬ボーナスは退職しても出す方向で考えている」という点について,どのようなルールになるのか,現在,協議が行われているのか,今後の検討のスピードについてのA2の考えを知らせてもらいたいこと
(オ) 提示されている最終案を雇用契約のひな形に反映された形で最終提示してもらいたいこと
(カ) 成功報酬及び年度末ボーナスについて,①今年度末ボーナスにおいて成功報酬ボーナスが3月に満額支払われないことを補填する考えはないか,②今期3月にエグジットさせた実績について,年度末ボーナスで評価を反映されることはないか,③万一,原告らが平成24年3月までに退職した場合,その時点で成功報酬相当額を払う考えはないか,④退職後に,不足分が補填できるような場合,また,関与案件で売却益が出た場合,退職後に成功報酬を支払うことを約束してもらえるのかを知らせてもらいたいこと
コ A4は,平成23年5月30日,原告らに対し,A2と連名で,上記クのメールに対する以下の内容の回答メール(甲25の4)を送信するとともに,同月21日の提案内容を反映した平成23年度の雇用契約書(案)(甲10の2,11の2)を添付したメールを送信した。
(ア) 本件面談は,口頭での話し合いを前提とし,A2及びA4もメモをとっていないので,書面化は考えていない。
(イ) 「経営職」であるパートナーに求められる役割は,グループマネージメントへの関与,ファンド募集・設計・運用方法の立案,グループ投資案件の最終意思決定,案件開拓及び案件のアドバイザーとリーダーであり,投資委員会及び投資管理委員会での議決権を保有するなど,投資・ファンド運営会社である被告において,重要な意思決定を担っているものと理解している。
(ウ) 原告らから依頼された「過去の業績を全て記載した上で,給与の妥当性について開示して欲しい」との要望については,被告として,他の方々の評価内容を含め,開示する予定はない。給与の評価は,定量的な業績だけでなく,定性的な会社への貢献や他の部門への貢献,ステークホルダーへの対応などを総合的に勘案して決定するので,業績だけで判断するものではない。
(エ) ①職階分は,マネージング・パートナー:パートナー:プリンシパル=20:15:5の比重を各人数にかけて,該当グループ内の全メンバーに割り振りを行っている。調整分については,キャピタルゲインをあげたにもかかわらず他のロス案件の影響で一部相殺された場合の穴埋め,業績低迷している案件を引き継いで業績を回復させた貢献への評価,その他会社・グループへの貢献を,数字に直結しない活動を含めて総合的に勘案した上で,CEO,該当グループのMP,経営管理グループのグループリーダーの協議により決定している。
②会社全体の決算が赤字である等の例外を除き,会社の業績,社員の勤務成績及び出勤率を勘案して算定する「一般賞与」が支給される。その算定基準はその都度決定しているが,実際の取扱いとしては,特段の事情がなければ原則として一律基本給2か月分(インセンティブ制度に参加できないバックオフィス人員については3か月分)を支給している。
③現在検討を行っているが,結論及び支給するとした場合のルール,検討スピードについては,現時点では確定的なことは伝えられない。
(オ) 平成23年度の雇用契約書(案)は,別途メールで個別に送付する。
(カ) ①a23社のキャピタルロスとの相殺によりインセンティブ賞与の原資が減少する案件(a21社,a22社及びa24社)の担当者については,調整分の一部を活用することにより相殺分をできる限りカバーしたいと考えているが,現段階で確定的なことはいえない。
②一般賞与については,特段の事情がない限りは個別の評価は反映しない仕組みとなっている。
③,④現在のルールでは,会社都合の事業の切り離し等の例外を除き,賞与支給の対象は,算定期間末日及び賞与支給日現在の在籍を基準としている。
サ 平成23年5月30日にA4から原告X1に対して送信された平成23年度の雇用契約書(案)(甲10の2)について,原告X1は,同月31日及び同年6月1日の2度にわたって,A4に対して,その内容に関する質問のメールを送信し,それぞれA4とA2からの回答のメールを受けた後,同月2日,A2及びA4宛のメール(甲10の1)で,上記雇用契約書(案)のとおりの内容で平成23年度の雇用契約を締結する旨の意思表示をした。
平成23年度の雇用契約書(案)の内容は次のとおりである。
所属は,PE投資グループ。職位・職階は,パートナー・経営職。
所属又は職位・職階に変更があるときは,別途,辞令にて被告より通達し,原告X1は,それに従う。
年俸(12か月分)1920万円(計算期間:平成23年1月1日から平成24年3月31日までの15か月間。年俸額については,以後1年毎に改定するものとし,評価その他により昇給又は減額するものとする。)
年俸額を12で除した金額に加えて,本契約に基づく年俸計算期間に限り月額25万円の単年度給を毎月25日に支払う。
被告の平成23年12月期の連結純利益及び単体純利益が黒字である場合には,平成24年3月に320万円を賞与として支給する。
インセンティブボーナス規程に従い,インセンティブボーナスを支給する。
本契約は,平成23年1月1日からさかのぼって適用するものとし,平成24年3月31日まで有効とする。
本契約は,被告と原告X1との間の平成22年3月1日付け雇用契約(原告X1契約推移記載クの契約)に置き換わるものとし,本契約の締結により,上記雇用契約はその効力を失う。
契約書(案)に割増賃金についての文言なし。
シ 原告X2は,上記コのA4の回答メールに対し,平成23年5月31日,A4及びA2あてに,再質問のメールを送信し,A4から,同年6月1日,A2との連名で,上記コの回答メールの内容に沿った回答を記したメールを受信した後,同月2日,A4宛の返信メール(甲11の1)で,同年5月30日にA4から原告X2に対して送信された平成23年度の雇用契約書(案)(甲11の2)のとおりの内容で平成23年度の雇用契約を締結する旨の意思表示をした。
平成23年度の雇用契約書(案)の内容は次のとおりである。
所属は,PE投資グループ。職位・職階は,パートナー・経営職。
所属又は職位・職階に変更があるときは,別途,辞令にて被告より通達し,原告X2は,それに従う。
年俸(12か月分)1860万円(計算期間:平成23年1月1日から平成24年3月31日までの15か月間。年俸額については,以後1年毎に改定するものとし,評価その他により昇給又は減額するものとする。)
年俸額を12で除した金額に加えて,本契約に基づく年俸計算期間に限り月額25万円の単年度給を毎月25日に支払う。
被告の平成23年12月期の連結純利益及び単体純利益が黒字である場合には,平成24年3月に310万円を賞与として支給する。
インセンティブボーナス規程に従い,インセンティブボーナスを支給する。
本契約は,平成23年1月1日からさかのぼって適用するものとし,平成24年3月31日まで有効とする。
本契約は,被告と原告X2との間の平成22年3月1日付け雇用契約に置き換わるものとし,本契約の締結により,上記雇用契約はその効力を失う。
契約書(案)に割増賃金についての文言なし。
ス 原告X1は,平成23年6月2日,被告の株主であるa1社からの出向者で当時内部統制・リスク管理室長であったA18(以下「A18」という。)にメールを送信し,A2及びA1との間で,被告の体制や「現在行われている事」について,2点ほど問題提起をしている点があるが,理解が異なる点もあり,改善が見られないので,監督官庁にも相談を始めているとして,今後の対応方針につきアドバイスを求めるメールを送信し,翌3日にかけて,A18との間でメールのやりとりをした(甲12)。
原告X1とA18との間のメールのやりとりの中で,原告X1は,問題提起2点について,何人かの専門家から違法性があるとの確認を得ていること,キーマンの一部となっている原告らがアクションを起こせば,ファンドレイズしている最中なので被告に何らかの傷かつくのは確かであるとは記載しているものの,原告X1がしている問題提起の具体的内容については言及しておらず,A18も,原告X1からのメールについては,被告の役職員には内密にする旨約している。また,原告X1が,株主であるa1社の役員がA1と面談の予定があることについて,原告らの動向と関係があるのかどうかを尋ねたのに対し,A18は,全く無関係であると回答している。
セ A2は,平成23年6月7日,原告らに対し,平成23年度の雇用契約につき,同年5月30日にA4から原告らに対して送信された平成23年度の雇用契約書(案)の条件では契約締結ができない旨を伝えた。
A2が同日原告X1に送信したメールには次のような記載がある(甲13)。
「さて,雇用契約についてですが経営管理と相談しましたが,以下のような方針として会社としては対応していくことになりましたのでご連絡します。
2011年6月2日にX1さんより当社との雇用契約書に調印するご意向である旨のメールを頂きました。
しかしながら,当初当社が提示した雇用契約書案につき,承諾できない旨明言され,その条件と大きく乖離する対案を提示されたことや,かかる提示について当社が受諾できないことをお伝えした際には当社に対し訴訟をおこすつもりであることを明言され,また,金融庁,労働基準監督署,株主,LPに処遇の不当性を訴える旨も発言され,実際にかかる行為に及ばれるなどした事情から,当初当社が提示した条件では契約締結ができる状況ではないことは明らかであると考えております。」
(甲10及び11の各1・2,12から14まで,25の1から6まで,44の1・2,45,72,乙5の1・2,11,12,69)
(4)  平成23年5月25日の原告らとa2社の担当者とのやりとり
ア 原告らは,平成23年4月20日,a2社から被告に出向しているA5のアレンジで,a2社において被告を担当している新産業金融事業グループ担当部長であるA19,A19の部下であるA7と,A5も同席して会食したが,その際,A19から,被告の社内のことを聞かれ,最後に,「何かあったら教えてほしい。会社を辞めるようなことがあれば,必ず事前に連絡してください。」と言われた。
上記のような経緯があったことから,原告らは,本件面談終了後,a2社の担当者に本件面談の結果を伝えることとし,原告X2において,電話で,a2社のA7に対し,訪問のアポイントメントをとり,同日午後,a2社を訪ねて,a2社の被告担当者であるA7とその上司であるA8(以下「A8」という。)と面談した(この原告らのa2社訪問を,以下「本件a2社訪問」という。)。
イ その際,原告らは,A8及びA7に対し,原告らとA2らとの協議が合意に達しそうもないので報告に来たと告げ,原告らの不満点として,次のものを挙げ,残業代については,被告を訴える準備をしたいと話した。
(ア) 平成22年度の年俸が,被告の業績悪化を理由に引き下げられたこと
(イ) 1月からの雇用契約についての条件提示が3月と遅くなっていること
(ウ) 原告らは経営職ではなく,管理監督者ではないのに,被告が労基法に違反して,時間外手当を支払わないこと
(エ) 原告らの案件のゲインは大きかったにもかかわらず,結局,他人の案件のロスとネットされてしまうこと,このようにインセンティブ賞与の支払方法が「できない人」の尻拭いをさせられる仕組みになっており,結局,「できる人」にとってインセンティブになっていないこと
(オ) ロスを出している「失敗したメンバー」がマネージング・パートナーとして上にいるのは納得できないこと
A8は,上記の原告らの面談の際にメモをとっていたノートに,原告らの話のポイントとして,「給与」,「インセンティブ」及び「職位」と記載している。
ウ A8は,被告からも事実関係を確認する必要があると考え,A2に連絡をとり,事実確認のためのミーティングを平成23年5月26日に設定した。
A2及びA5は,同日,a2社を訪ね,前日,原告らがA8及びA7に話した内容に関する被告としての説明を行い,A8及びA7から,前日の面談において原告らがA8及びA7に告げた内容を確認した。
(甲26,44の1・2,45,72,乙11,32,33)
(5)  本件各懲戒処分及び本件各第1次配転命令前後の経緯
ア 本件各懲戒処分に先立つ原告らに対する弁明聴取の際,経営管理グループにおける原告らの業務内容についての質問に対し,当時経営管理グループのグループリーダーであり被告の取締役であったA6は,「そんなの自分で考えてよ。」,「受付でもやる?お茶くみでもやる?」,「うちの中では投資屋は絶対だめ。」,「これからもう案件情報入らなくなります。」,「経営管理でもミッションをかなり限定させなければならない。」,「もう聞きたくないんだ。」,「俺自分で辞めてるよ。」と発言した。
イ 平成23年6月28日,A6が原告X1に対し,同年7月1日付けで懲戒処分(訓戒)及び経営管理グループへの人事異動を発令する旨の事前連絡をメールで行い,同日,原告X1はA6に対し,上記メールの返信として,懲戒処分及び配転命令のそれぞれにつき,根拠となる理由,裏付けとなる具体的事実を記載した書面の交付を求めるメールを送信し,A6は,原告X1の返信メールに対する返信として,発令日に通知を渡すので,その書面で原告X1の求めるものは充足されると思う旨のメールを送信している(甲23の2)。
ウ 本件各懲戒処分に係る懲戒処分通知は,原告X2には,平成23年7月1日に手交され,原告X1には同月4日に手交された。
エ A6は,平成23年7月7日,原告X1に対し,提出期限を同月15日として,原告X1に係る訓戒に基づく始末書の提出を求めるメールを送信した(甲23の2)。
オ 原告X1は,平成23年7月13日,A6に対し,懲戒処分通知書には,原告X1が求めた懲戒処分及び配転命令のそれぞれについての根拠たる具体的理由とこれを基礎付ける具体的事実が記載されていないとするメールを送信し,A6は,同日,上記原告X1のメールに対する回答として,懲戒処分については,同年6月17日に処分案とともに,処分の理由及びこれを裏付ける具体的事実を原告X1に伝えており,懲戒処分通知書にも,処分の対象となる事実及び就業規則上の処分の根拠が記載されていること,配置転換についても,PE投資グループ内での信頼関係が損なわれ,業務に大きな支障が出かねない状況に鑑み,人員の適正配置の観点から行うものであり,これらについてはすでに原告X1に十分な説明を行っているので,更に,書面による回答はしかねる旨のメールを送信した(甲23の2)。
カ 原告X1は,平成23年7月15日,A6に対し,始末書に対応する事実の具体的指摘がないのに,それについての始末書の提出を求めることは矛盾である旨のメールを送信した(甲23の2)。
キ 原告らはいずれも,本件各懲戒処分に基づく始末書を被告に対して提出していない。
ク 原告X1は,弁護士小石耕市を代理人として,平成23年9月1日付けで,被告の取締役副社長A20,取締役A21,監査役A22,同下A23及び同A24宛に,「本件法的紛争に関する報告及び調査依頼書」(甲23の1)を送付したが,その中で,「不正の事実」として,被告が作成し,株主(候補)や出資者(候補)に提出した資料に,被告と被告経営陣にとって都合のいい,事実と異なる虚偽の記載があるとして,a27社から要求のあった投資委員会資料の担当者名の記載のある表紙の書換えが行われた事実を挙げ,原告X1が虚偽記載をやめることを依頼していたにもかかわらず,被告は,給与交渉の話にすり替え,挙げ句に,本件各懲戒処分,本件各第1次配転命令に至っているとしているが,原告X1の時間外手当に関する記載は存しない。
(甲23の1・2)
(6)  本件各配転命令後の原告らの業務
ア 原告らは,平成23年7月1日に本件各第1次配転命令を受けた当時,a21社のエグジットの際の売却契約に基づき,a21社の経営統合補助業務に携わっており,それが完了する平成24年5月31日までは,もっぱら,a21社関係の業務に携わっていた。
イ a21社関係の業務が終了した後,平成24年12月1日の本件各第2次配転命令までの間は,原告らは,オフィスにおいては,経営管理グループが配置されているエリアのグループリーダーA4及び共同グループリーダーA5の席の並びに席が置かれていたものの,原告らの担当事務の指定はされていなかった。
ウ 平成24年12月1日付けの本件各第2次配転命令により,原告らは,同日付けで新設された投資情報調査室に異動となり,原告らの席は,VC投資グループが配置されているエリア内に置かれた。また,投資情報調査室については,その設置に関する提案において,「同室の所属員が個別案件の価値向上に貢献した場合,その貢献度合いに応じて,インセンティブ賞与規程に基づくインセンティブ賞与を支給する。」とされているものの,原告らが投資情報調査室に異動した後も,被告における投資に関する会議への出席の機会は与えられなかった。
(甲72,乙12,30,34の2・3,41)
2  本件各懲戒処分が無効であるか否か(争点(1))について
(1)  本件各懲戒処分についての懲戒事由該当行為が,①本件面談の席上において,原告らが,被告の株式価値棄損行為の実行を示唆するとともに,被告内部情報を含む被告内での待遇への不満を株主,労働基準監督署,金融庁,その他関係各所に伝達する旨の脅迫行為を行ったこと,②同日,実際に被告の大株主であるa2社の被告担当者の元を訪問し(本件a2社訪問),被告内部情報を含む被告内での待遇への不満を述べ,被告の名誉・信用を棄損したこととされており,これらの行為が,就業規則58条に規定されている「業務上の秘密を社外に漏らしたとき」(同条(2)),「会社の諸規定に違反し,または社内の秩序,風紀を乱す行為があったとき」(同条(4))及び「この他前各号に準ずる行為があったとき」(同条(6))に該当するとされていることは,前記第2の2(以下「前提となる事実」という。)(8)イ記載のとおりである。
(2)  A2及びA4は,本件面談において,原告X1が,激昂し,「金融庁や労働基準監督署,株主,出資者等に話をしてもいいのね。」,「(ネガティブキャンペーンによって)ファンド組成がうまくいかなくなっても知らない。」,「前回提示した条件から譲歩がないなんて,あなたがたは交渉の何たるかを知らない。」,「(ファンド組成の失敗によって)株式の価値がゼロになってもいいのね。」といった発言を一方的にまくしたて,「よしっ,じゃ,裁判だ!」と吐き捨てて面談場所である会議室から出て行った旨を陳述書(乙11,12)に記載し,証人尋問においてもそれに沿う供述をしている。
しかしながら,本件面談でのやりとりは,前記1(以下「事実経過」という。)(3)ク記載のとおりであり,一連のやりとりの中において,原告X1が,「はい。じゃあ,裁判やむなしと。」,「裁判になる場合は,労働基準監督署,金融庁および株主とLPにも話はさせていただきます。はい。」,「前の話で主張をして,裁判しかないけれども,あとは,三つのオプションがありますよと出したと。で,その三つのオプションとものめないですよっていうのが返事なので,で,それ以上の歩み寄りはできないというオファーだと思っていますので,えっと,裁判ということを致し方ないっていうのが返事ですね。で,それは株主に言ってもいいし。」,「もう会社がつぶれる危機になっても,それは致し方ないという覚悟を持って,経営陣に申し入れをしていますが,それを受け入れる余地はないとお答えいただいたと認識していますので,それで結構です。」,「ここまで10年一緒に築いてきた会社,恐らく本当につぶれる危機だと思いますけれども。」,「本当に,大丈夫ですか?だけど,わたしたちは元々その覚悟で元々この交渉には臨んでますので,いや,皆さんが持ってる株がゼロになるリスクも,まあ,ゼロではないにしても,相当,まあ,現金で買われているところも分かったうえで,まあ,A2さんもその会議に入って,それを致し方なしとしてわたしに伝えたのであれば,そういう理解として,株主さんからも,まあ,質問を頂いている部分もありますので,きちんとお伝えをしたいと思います。」といった発言をしていたことは認められる。しかしながら,本件面談の内容を録音した甲44の1・2中の原告らの発言には「ファンドの組成」に関するものは見当たらず,上記の発言の前後のやりとりに照らせば,原告X1が「裁判」に言及した発言については,事実経過(3)キ記載のとおり,平成23年5月23日の面談の際に原告らがA2及びA4に対して示した四つの選択肢の4番目に「裁判を通じて争うこと」が挙げられている状況のもとで,本件面談において,A2及びA4から,1番目から3番目までの選択肢について否定的な回答がされたことを受けてのものであり,いわば,A2及びA4としても,予期し得た発言であったというべきであるから,これをもって,被告に対する脅迫行為に該当するということはできない。次に,「会社がつぶれる危機」あるいは「株がゼロになるリスク」に言及した発言も,ファンドの組成とは無関係に,被告が,原告らが提示した上記四つの選択肢のうち,1番目から3番目までの選択肢に対していずれも否定的な回答をしたことにより,「会社がつぶれる危機」,「株がゼロになるリスク」が生ずるとの原告らの認識を示すものにすぎず,これをもって,被告に対する脅迫行為に該当するということはできない。さらに,関係官署,株主及びLPに話をする旨の発言については,残業代請求の裁判をする旨を伝えるという趣旨に解されるのであり,また,事実経過(4)ア記載のとおり,原告らが,同年4月20日にa2社のA19,A7らと会食した際に,A19から「何かあったら教えてほしい。会社を辞めるようなことがあれば,必ず事前に連絡してください。」と言われていたことを念頭においた発言であったと解されるのであるから,やはり,これをもって,被告に対する脅迫行為に該当するということはできない。
たしかに,証拠(乙49)によれば,○○ファンド4号のファンド説明書が同年4月付けで作成されていることが認められるのであるから,本件面談が行われた当時,被告においては,○○ファンド4号の募集を行っていたことが推認され,A2及びA4が,原告X1の上記発言を,○○ファンド4号の募集に関連させて受け取った可能性は否定できないが,原告X1が,そのような趣旨で上記各発言をしたとは認められないことは上記のとおりであり,上記のA2及びA4の供述をもって,本件面談において,原告らに被告に対する脅迫行為に該当する発言があったと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(3)  本件a2社訪問の経緯及びその際の内容は,事実経過(4)ア及びイ記載のとおりであり,これに加え,本件面談の内容に照らせば,原告らの本件a2社訪問の目的は,平成23年4月20日にa2社のA19,A7らと会食した際に,A19から「何かあったら教えてほしい。会社を辞めるようなことがあれば,必ず事前に連絡してください。」と言われていたことを受けて,本件面談において,原告らの平成23年度の給与を巡る被告との交渉が決裂し,原告らにおいて,残業代について被告を訴える準備をしたいと考えていることを伝えることにあったと解するのが相当である。その際,原告らは,事実経過(4)イ(ア)から(オ)までの不満点を述べているが,これらの点や原告らが残業代について被告を訴える準備をするということは,被告にとっての内部的な問題ということはできるが,業務上の秘密に該当するとまでは認めることは困難であり,また,原告らがそれらを伝えた相手が,被告の主要株主であるa2社の被告担当部署の者であり,原告らがa2社のA19,A7らとの上記会食の際に,A19から「何かあったら教えてほしい。会社を辞めるようなことがあれば,必ず事前に連絡してください。」と言われていたことに照らせば,本件a2社訪問の際のやりとりをもって,就業規則58条に規定されている「業務上の秘密を社外に漏らしたとき」(同条(2)),「会社の諸規定に違反し,または社内の秩序,風紀を乱す行為があったとき」(同条(4))及び「この他前各号に準ずる行為があったとき」(同条(6))に該当するとまではいえないものというべきである。
(4)  この点につき,原告らは,本件各懲戒処分は,被告のコンプライアンス上の問題点を内部統制・リスク管理室や外部の監督機関に相談しようとした原告らに制裁(報復)を加え,原告らを退職に追い込むという不当な動機,目的のもとにされたものであると主張する。そして,原告らは,被告のコンプライアンス上の問題点として,被告が,a27社から閲覧を求められた投資委員会資料につき,原資料を書き換えた上で閲覧に供していたことが不正行為に当たると主張し,本件各懲戒処分後に平成23年9月1日付けで原告X1が被告の取締役らに送付した「本件法的紛争に関する報告及び調査依頼書」(甲23の1・2)にも,その点を挙げていることは,事実経過(5)ク記載のとおりである。なお,原告らの主張や供述の中には,残業代が支払われていない点についても,労働基準法違反としてコンプライアンス上の問題であるとするものがあるが,上記「本件法的紛争に関する報告及び調査依頼書」においては,原告X1の時間外手当に関する記載が存しないことは,事実経(5)ク記載のとおりである。
たしかに,平成23年7月1日付けでされた本件各懲戒処分に先立ち,同年5月25日の本件面談において,原告X1が,「裁判になる場合は,労働基準監督署,金融庁および株主とLPにも話はさせていただきます。はい。」と発言していること(事実経過(3)ク),同年6月2日から3日にかけて,原告X1が内部統制・リスク管理室長のA18との間で,メールのやりとりをしたこと(事実経過(3)ス),A2が,同月7日,原告らに対し,同年5月30日に原告らに送信された平成23年度の雇用契約書(案)の条件による契約締結はできない旨のメールを送信したこと(事実経過(3)セ)が認められるが,原告らが被告のコンプライアンス上の問題点として指摘するa27社から閲覧を求められた資料についての記載の変更は,事実経過(1)記載のとおり,平成22年2月の出来事であるが,その後,上記「本件法的紛争に関する報告及び調査依頼書」が送付された平成23年9月までの間において,本件面談を含む一連の平成23年度の雇用条件を巡る原告らとA2又はA4とやりとりも含め,原告らが,被告においてa27社から閲覧を求められた投資委員会資料につき,原資料を書き換えた上で閲覧に供していたことが不正行為に当たるとの指摘や主張をしたことは窺われず,上記本件面談における原告X1の発言については,残業代請求の裁判に係るものであることは事実経過(3)キ及びク記載のとおりである。また,原告X1とA18との間のメールのやりとりについては,原告X1において,「問題提起2点」としているだけで,その具体的内容については明らかにしていないことは事実経過(3)ス記載のとおりである。
以上によれば,本件各懲戒処分に際して,被告において,原告らが,a27社から閲覧を求められた投資委員会資料につき,原資料を書き換えた上で閲覧に供していたことが被告のコンプライアンス上の問題点に当たるとして内部統制・リスク管理室や外部の監督機関に相談しようとしていたとの認識を持っていたとは認められないというべきであり,そのような相談をしようとしていることを理由に原告らを退職に追い込む目的で本件各懲戒処分がされたとは認められない。
むしろ,証拠(乙11,12,証人A2,同A4)によれば,A2及びA4は,本件面談を含む一連の平成23年度の雇用条件を巡るやりとりでは,原告らからの要求は,もっぱら,原告らの職位の見直し,年俸の増額及びインセンティブ賞与につき原告らが担当しない案件の損失を考慮しないものとすることであったとの認識を有していることが認められる。原告らは,原告らが被告のコンプライアンス上の問題の是正を求めているにもかかわらず,被告がこれを原告らの職位,年俸の増額及びインセンティブ賞与を巡る要求にすり替えていると主張し,原告X2は,本人尋問において,本件面談に先立ち原告らがA2及びA4に提示した四つの選択肢のうちの原告らが第1の選択肢としている「過去の案件について,既に被告を退職している者も含めた実績表を作成すること。」を提案した理由につき,「これは会社内部で,内外なんですけれども,これまでの投資実績について正しい担当者の情報というのが共有されておりませんでしたので,それを本当に直すことができれば,まず投資家に対しては事実ではない情報を伝えることがなくて,しっかりと信頼関係を作ることができるようになりますし,あと社内でもフェアな人事評価ができますので,みんなやる気になって会社は正しい方向に向かっていくだろうということを考えていました。」と供述しているが,その提案に対する被告の回答を伝える本件面談におけるやりとり(事実経過(3)ク)及び本件面談後にされた原告X1とA4及びA2との間のメールのやりとりの内容(事実経過(3)ケ及びコ)を見る限り,上記のような原告X2の考え方が,A2及びA4に対して,明確に伝えられていたとは認められず,上記選択肢及び第4の選択肢を除くその余の二つの選択肢が,いずれも原告らに支給されるべき金額を巡るものであること(事実経過(3)キ),本件面談を含む一連の原告らとA2又はA4との面談が,平成23年度の原告らの給与等に係るフィードバック面談として行われていたこと(事実経過(3)オからクまで),本件面談後の本件a2社訪問の際の原告らとのやりとりについてのメモとして,A8が,原告らの話のポイントを,「給与」,「インセンティブ」及び「職位」と記載していること(事実経過(4)イ)に照らせば,A2及びA4において,本件面談を含む一連の面談における原告らの要求が,もっぱら原告らの職位,年俸の増額及びインセンティブ賞与を巡る要求であったと認識したとしても,それが原告らの真意と一致しているかどうかは別にして,不自然ではないというべきである。そして,前記のとおり,本件面談が,○○ファンド4号の募集の時期と重なっていたことから,A2及びA4において,原告X1の発言を,○○ファンド4号の募集に悪影響を及ぼすとの懸念をもって,それと関連付けて受け取ったこと,また,被告において,原告らが,a2社のA19から,「何かあったら教えてほしい。会社を辞めるようなことがあれば,必ず事前に連絡してください。」と言われていたことを認識していなかったことから,原告らの本件面談における発言及び本件a2社訪問が原告らの職位,年俸及びインセンティブ賞与を巡る要求を被告に認めさせるためのブラフであったと受け止めた結果,それが懲戒事由に該当するとの判断のもと,本件各懲戒処分に至ったものと解するのが相当である。
(5)  以上のとおり,本件各懲戒処分は,いずれも,懲戒事由該当性を欠くものであり,無効というべきである。
なお,証拠(乙70の1・2)によれば,人事評価マニュアルにおいて,投資グループ・投資関連部署及びバックオフィスのいずれにおいても,パートナーからマネージング・パートナーへの昇格要件の一つとして,「直近3年間で懲戒事項(厳重注意,戒告を除く)なし」とされ,また,一般賞与及びインセンティブ賞与とも,期間中に懲戒処分があった場合でも,厳重注意及び戒告については,通常の方法により計算した金額の100パーセントが支給されることとされていることが認められ,この事実に照らせば,本件各懲戒処分(訓戒)は,マネージング・パートナーへの昇格や一般賞与及びインセンティブ賞与の支給に関しては原告らにとって不利益とはならないものと推認することができるが,原告らが本件各懲戒処分(訓戒)に基づく始末書を被告に提出していないことは,事実経過(5)キ記載のとおりであり,原告らの始末書の不提出が,就業規則58条(4)の懲戒事由に該当するとして,訓戒よりも重い懲戒処分(証拠(乙70の1・2)によれば,人事評価マニュアルにおいて,減給以上の懲戒処分を受けた場合には,マネージング・パートナーへの昇格要件を欠き,一般賞与,インセンティブ賞与とも,減額あるいは不支給とされる旨が定められていることが認められる。)を受けるおそれは否定できないというべきであるから,原告らにおいて本件各懲戒処分の無効の確認を求める利益は認められるというべきである。
3  本件各配転命令が無効であるか否か(争点(2))について
(1)  使用者に,労働者の個別的同意なしに配転を命じることができる権限が認められる場合には,その業務上の必要に応じ,その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが,使用者の配転命令権は無制約に行使できるものではなく,これを濫用することは許されないことはいうまでもないところ,配転命令に業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても,当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等,特段の事情の存する場合でない限りは,当該配転命令は権利の濫用になるものではないというべきである(最高裁判所昭和59年(オ)第1318号昭和61年7月14日第二小法廷判決・裁判集民事148号281頁参照)。
(2)  被告の原告らに対する配転命令権の存否
被告の就業規則に,被告が業務の都合により異動を命じることがあり,異動を命じられた者は,正当な理由がない限り,これに従わなければならない旨定められている(就業規則7条)ことは,前提となる事実(12)ア記載のとおりであるが,原告らは,被告との間で,投資業務を行う条件のもとに職務限定契約を締結していると主張し,被告の原告らに対する配転命令権を否定するので,以下検討する。
原告らの陳述書中に,上記原告らの主張に沿う供述が存するが,原告らが被告との間で作成してきた毎年の雇用契約書において,所属又は職位・職階に変更があるときは,別途,辞令にて被告より通達し,原告らはそれに従う旨の定めがされていたことは,前提となる事実(4)・原告X1契約推移及び前提となる事実(5)・原告X2契約推移記載のとおりであり,これに照らせば,原告らと被告との間に原告らが投資業務を行う条件のもとで職務限定契約が締結されている旨の原告らの上記供述は採用することができず,他に,原告らと被告との間に上記のような職務限定契約が締結されていたことを認めるに足りる証拠は存しない(原告らは,職務限定契約締結の事実を裏付けるものとして,被告の原告X1に対する専門家スタッフ採用条件提示書(甲27)の業務内容欄に「投資業務及び投資先経営支援(派遣を含む)」と記載されている点を挙げるが,上記記載から直ちに,原告らと被告との間に,原告らの業務を投資業務に限定した職務限定契約が締結されたと認めるには足りず,上記認定を左右するものではないというべきである。)。
したがって,被告は,原告らに対する配転命令権を有しているというべきである。そこで,以下においては,本件各配転命令が,権利の濫用として無効とされる特段の事情が存するか否かにつき,検討することとする。
(3)  業務上の必要性の有無について
ア 配転命令の業務上の必要性については,当該異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度な必要性に限定することは相当ではなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,その存在を肯定すべきものである(前記最高裁判所昭和59年(オ)第1318号昭和61年7月14日第二小法廷判決参照)。
イ この点につき,被告は,本件各第1次配転命令について,原告らは,原告らが担当する投資案件の責任者として,チームのプリンシパルらに適切な指揮命令を行いながら当該投資案件を成功に導くべき立場にあったにもかかわらず,担当する案件に関する重要な情報をプリンシパルに秘匿して業務に支障を生じさせたり,原告らが担当する投資先企業の競合他社であった別の投資先企業の従業員から,当該別の投資先企業に常駐している担当チームのメンバーに無断で営業上の情報を引き出そうとしたことなどに加え,自らの情報共有不足等が原因でトラブルが発生した場合にプリンシパルらに責任転嫁して厳しく非難するなど,担当チームの他のメンバーを省みない身勝手な言動を続けていた結果,平成21年頃には,PE投資グループに所属するプリンシパルの大多数が原告らとチームを組むことを拒絶するという状況に陥っていたところ,原告らが平成23年度の雇用契約の条件に関し,インセンティブ賞与の額を巡りPE投資グループの他のメンバーを省みない身勝手な要求を行ったことで,信頼関係は完全に崩壊し,PE投資グループのほとんどのプリンシパルが原告らとチームを組むことを拒絶し,さらに,原告らがPE投資グループに残るのであれば被告を退職する旨を表明する者も複数現れるに至ったため,原告らを配転させなければPE投資グループが機能不全に陥るおそれがあり,人員の適正な配置及び業務の円滑な遂行という業務上の必要性が存することは明らかであると主張する。
ウ 前提となる事実(6)記載のとおり,原告らは,ハンズオンにおいて,お互いにスイーツ業界における競業他社に該当するa11社とa20社の両社の取締役に就任し,また,a21社については,原告X2が代表取締役CEOに,原告X1が取締役CFOに就任していたところ,証拠(乙11,21,27,28,40)によれば,原告X1は,a20社に常駐していた担当チームのメンバーに告げることなく,a20社の従業員をa11社の会議室に呼び出し,そこでa20社の出店情報等を聞き出すという行為を行ったこと,a20社の担当チームのプリンシパルが,原告らがチームメンバーに伝えずに関係者とミーティングをしており,a11社のためにa20社から情報を吸い上げようとしているのではないかと疑念を持っている旨をA6に伝え,A6から原告らへの指導を求める内容のメール(乙27)をA6に対して送信していること,a11社の案件で,大阪の工場に常駐していた担当チームのプリンシパルが,本社に常駐していた原告らが,情報提供や情報共有をしなかったと受け止めていること,a21社の案件で,担当チームのプリンシパル3名から,チームでの会議の進め方や情報の確認の仕方について,原告らの認識とプリンシパル3名の認識とが一致していないとして,全員でのミーティングの開催を求めるメール(乙21)が原告X1に対して送信されていること,また,同じく,a21社の案件の担当チームのプリンシパルが,重要な交渉を他のメンバーに知らせることなく開催し,交渉内容も十分に知らされないなど,原告らが他のメンバーをイコール・パートナーとみておらず,雑用係としてしかみていないと感じられる場面が散見されること,プロジェクトの取組みにも問題が多いことをA2,A10及びA6に相談するメール(乙28)を送信していることが認められる。
加えて,原告らが,平成22年度の雇用条件に関するA2とのやりとりの中で,原告X2において,担当案件が失敗に終わったマネージング・パートナーについて,「不祥事を起こしたマネージング・パートナーへの処罰」という表現を用いて降格を求めていたこと(事実経過(2)ア),原告X1において,マネージング・パートナーの執務姿勢に対する批判的な意見が示されていたこと(事実経過(2)オ及びキ),平成23年度の雇用条件に関するA2又はA4とのやりとりに先立ち,原告X1において,A2に対し,「リソース(と経営)に関する意見(と提言)」をメール(乙69)で送信し,その中で,①1年間で結果の出ないメンバーは減給し,役職者も結果が出せず,又は,大きな失敗があれば,目に見える形で降格減給すること,②現在のリソースでは投資が進まないのは事実なので,2年計画でリソースの入替えを計画すべきこと,③現在の組織運営において,投資が予定通りに進まないのは,マネージング・パートナー3名の責任であり,その責任をとれないのであれば,明確な権限委譲をして,チーム単位で人事評価を含め責任を持たせて評価させ,チーム単位での採算性を導入管理すべきこと,④原告X1と原告X2とのチームについては,明らかに結果が出ているので,チーム主体の採用を認めて,リソース(予算)をもらいたいこと,⑤現在のメンバーを原告らが行っている投資のタイプに入れることは基本的に無理であること,その理由は,a メンバーの力不足(原告らが結果を出している投資においては,現在のチームメンバー(プリンシパル)は力不足である。),b 経営の失敗(a20社,a21社及びa11社の案件において,メンバーの関係で,投資チームを批判して案件を取り上げようとした経営の失敗についての経営陣の反省の弁が明らかにされない限り,現在のメンバーとの融合は不可能である。)であることを述べていること(事実経過(3)ア),本件a2社訪問の際に,原告らがA8及びA7に対し,ロスを出している失敗したメンバーがマネージング・パートナーとして原告らの上位者としていることは納得できない旨を述べていること(事実経過(4)イ)は,いずれも事実経過記載のとおりであり,証拠(乙39)によれば,原告らは,毎週月曜日に開催されるPE投資グループのパートナー以上の職員が参加するミーティング(以下「朝会」という。)において,たびたび,「現在のプリンシパルメンバーは使えないから全員クビにして入れ替えるべき」という趣旨の発言をしていたことが認められる。
以上の事実に照らせば,原告らは,かねてより,投資案件を担当するチーム内で,プリンシパルとの間で十分な信頼関係が築けていなかったことが窺われる状態のもとで,平成22年から平成23年にかけて,PE投資グループの中にあって,上位者であるマネージング・パートナー全員,また,下位者であるプリンシパル全員についての否定的な意見を公言し,また,PE投資グループのマネージング・パートナー及びプリンシパルたちも,自分たちに対する原告らのそのような否定的な評価について感得していたものと推認することができ,PE投資グループのパートナーであるA25,PE投資グループのプリンシパルであるA26も,それぞれの陳述書(乙39,40)において,原告らの言動により,原告らとPE投資グループのプリンシパルとの間に信頼関係が築けていない旨供述している。
なお,証拠(甲4の1から7まで,84,85,原告X1本人)によれば,平成22年6月25日に被告のプリンシパルであったA27(以下「A27」という。)から,また,平成25年3月29日に被告のプリンシパルであったA28(以下「A28」という。)から,いずれも,原告X1あてに,原告X1といっしょに案件をやりたかった旨のメールが送信されている事実が認められるが,上記証拠によれば,A27,A28ともに,原告X1とチームを組んだことはなく,上記各メールは,A27,A28ともに,被告を退職するに当たってのあいさつの一環として原告X1に送信したものであること,A28は,平成23年6月1日の時点では,PE投資グループではなく,中国アジア投資グループ設立準備室のプリンシパルとして,被告関連法人であるY社・グローバル・パートナーズに出向していたことが認められるのであるから,A27,A28ともに,本件各第1次配転命令当時において,PE投資グループにおいて原告らとチームを組む可能性はなかったものというべきである。したがって,A27,A28両名の上記メールの存在をもって,原告らとPE投資グループのプリンシパルらとの間の信頼関係が構築されていなかったわけではないとすることはできない。
エ たしかに,前提となる事実(6)記載のとおり,原告らは,○○シリーズにおいて,a5社,a7社,a8社(以上,○○ファンド1号),a11社(○○ファンド2号)及びa21社(○○ファンド3号)の各投資案件につき,担当するパートナーとして,ハンズオンを担当し,エグジットさせ,いずれも,キャピタルゲインを得ており,原告らの投資担当者としての能力,力量は高いものと認められるが,前提となる事実(3)記載のとおり,被告においては,PE投資業務を行うにつき,ソーシングの段階で案件責任者となるパートナー又はマネージング・パートナーにプリンシパル2,3名を加えて編成された担当チームが,投資委員会での説明,投資先企業に対するハンズオンを行っていくこととされており,被告における投資業務の円滑な遂行にとって,各投資案件を担当するチームのメンバー相互の信頼関係のうえに構築されるチームワークが重要であることは明らかというべきである。また,ファンドにおいては複数の投資案件が並行して進められるのであり,これらをすべて原告らだけで対応できるものではないのであるから,PE投資グループ内におけるマネージング・パートナー,他のパートナー及びプリンシパルとの相互の信頼関係を前提とした連携,協力関係も重要というべきである。
そのような観点からみたとき,上記イに照らせば,本件各第1次配転命令の時点において,PE投資グループ内における原告らとマネージング・パートナー,他のパートナー及びプリンシパルとの間に,チーム,グループとして投資業務を円滑に遂行するのに必要な信頼関係は維持されているとはいえず,原告らが,PE投資において,高い実績を有し,その力量が高く評価されていたとしても,プリンシパルによるサポートなしに,原告らだけでPE投資業務を行えるものではなく,また,原告らだけで,ファンドに係る同時並行的に行われる投資案件に対応することもできないのであるから,PE投資グループにおけるチームとしての投資業務を円滑に遂行させるという観点から,マネージング・パートナー,他のパートナー及びプリンシパルとの信頼関係が築けていない原告らを,配転命令によりPE投資グループの業務から外し,別の業務を担当させる業務上の必要性は認められるというべきである。このことは,喩えていえば,4番を打てるような強打者とエースとなれるような好投手がいても,その二人だけで野球の試合をすることはできないのであるから,その二人とコーチ,他のチームメイト,スタッフ等とが反りが合わないというのであれば,両者の間の関係が改善するまでの間は,その二人をチーム編成から外すことが必要とする監督の判断が合理性を有すると解されることと同様である。
(4)  本件各配転命令の目的について
ア 原告らは,本件各第1次配転命令は,被告のコンプライアンス上の問題点を内部統制・リスク管理室や外部の監督機関に相談しようとした原告らに制裁(報復)を加え,原告らを退職に追い込むという不当な動機,目的のもとにされたものであると主張するが,そのような目的で本件各第1次配転命令がされたとは認められないことは,前記2(4)において判示したとおりである。
イ たしかに,本件各第1次配転命令は,本件各懲戒処分と同日付でされており,本件各懲戒処分が一つの契機となっていることは否定できず,本件各懲戒処分が無効というべきことは前記2において判示したとおりであるが,本件各第1次配転命令がされた平成23年7月1日は,時期的には,原告らがハンズオンを担当していたa21社の案件がエグジットし,○○ファンド3号関係の原告らの関与する案件が一応の区切りがつき,○○ファンド4号の投資案件はまだ本格化していない状況であったものと推認できるので,上記(2)イの事情及びそれから導かれる業務上の必要性を踏まえ,上記のような時期に本件各第1次配転命令を行うこと自体の合理性が否定されるものではないというべきである。
(5)  原告らの不利益の程度について
原告らは,本件各配転命令により,PE投資グループに在籍していれば支給を受けることができたインセンティブ賞与の職階枠を受給できなかったと主張する。しかしながら,本件各第1次配転後である平成24年3月27日を支給日とする平成23年度に発生した成功報酬に係る原告らのインセンティブ賞与については,チームディール枠,全社調整枠だけでなく,PE投資グループの職階枠及びPE投資グループ調整枠についても総額が決定され,インセンティブ賞与規程に基づき,クローバック条項によるエスクロー口座への留保分を除いた額が原告らに支給されていることは,前提となる事実(9)記載のとおりであり,エスクロー口座に留保されたものについての取扱いが,インセンティブ賞与規程上,退職者についても原則として同様とされていること(前提となる事実(7)エ)に照らせば,原告らの上記インセンティブ賞与のうちエスクロー口座に留保されたものの取扱いについて,原告らがPE投資グループに在籍しているか,PE投資グループ以外の部署に在籍しているかによって差異はないものというべきである。この点に加え,平成25年3月に支給時期を迎える平成24年度の成功報酬を原資とするインセンティブ賞与の発生の事実は窺われないのであるから,少なくとも,本件口頭弁論終結日までに,原告らが,具体的に,本件各配転命令により,PE投資グループに在籍していれば支給を受けることができたはずのインセンティブ賞与の職階枠につき,その受給ができなかったという事実は発生しているとは認められない。そして,本件口頭弁論終結日において,原告らがPE投資グループに在籍していた際に実施された○○ファンド2号及び○○ファンド3号の投資案件で未実現のものについて,具体的な成功報酬を見込むことができ,原告らにおいて,それらについてのインセンティブ賞与の職階枠に対する具体的期待が存すると認められる状況にあると評価できるものは窺われない。
また,原告らは,平成24年度には,平成23年度に支給されていたプロジェクト・マネージング手当月額25万円がカットされ,平成25年の年俸も減額提示されたことをもって,本件各配転命令による原告らの不利益と主張するが,そもそも,プロジェクト・マネージング手当については,平成23年度の雇用条件を巡る原告らとA2及びA4とのやりとりの中で,被告から,平成23年度1月から平成24年3月までの単年度業績給として提案され,最終的に,原告らがその提案を了承したものであることは,事実経過(3)カ,サ及びシ記載のとおりであり,証拠(乙73)によれば,平成25年度の原告らの年俸についても,被告は減額提示をしたものの,最終的には平成24年度の年俸と同額とされたことが認められるのであるから,これらをもって,本件各配転命令による原告らの不利益とみることはできない。
さらに,原告らは,本件各配転命令により,投資業務に関与できなくなることによる不利益の存在を主張する。しかし,原告らをPE投資グループから離れさせる業務上の必要性が存したことは上記(3)記載のとおりである。そして,原告らが,本件各第1次配転命令後,平成24年5月31日までは,本件各第1次配転命令当時に携わっていたa21社の経営統合補助業務に引き続き携わっていたことは,事実経過(6)ア記載のとおりであり,また,本件各第2次配転命令によって,原告らが,前提となる事実(1)記載のとおり,被告の内部の取扱いとしては投資関連部署として位置付けられ,また,事実経過(6)ウ記載のとおり,インセンティブ賞与のディールチーム枠の対象となり得るものとされる投資情報調査室に異動されていること(なお,本件各第2次配転命令により投資情報調査室に異動となった後においても,原告らに,被告における投資に関する会議への出席の機会が与えられていないことは事実経過(6)ウのとおりであるが,証拠(乙79,80,原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,PE投資グループに在籍していた当時においても,また,本件各第1次配転命令後においても,原告ら自らが投資案件を見つけてくるというやり方をとっており,本件各第1次配転命令後においても,原告X1が被告に紹介した案件について,PE投資グループにおいて,その内容にわたる検討を経たうえで,投資対象とすべきか否かを判断していることが認められるのであるから,原告らが被告における投資に関する会議への出席の機会を与えられていないとしても,そのことから直ちに,原告らが投資情報調査室に在籍していても,インセンティブ賞与を得る可能性がないということはできない。)を併せ考えれば,本件各配転命令によって原告らが投資業務に直接関与できなくなったことをもって,本件各配転命令を無効とすべき程度の著しい不利益に該当するとまではいえないものというべきである。
(6)  以上によれば,本件各第1次配転命令は,有効というべきであり,本件各第2次配転命令についても,それを無効とすべき事由は認められない(原告らは,本件各第2次配転命令は,本件各第1次配転命令が違法,無効と判断されることを避けるための訴訟対策という不当な動機に基づくものであると主張するが,本件各第1次配転命令が有効と認められることは上記のとおりであるから,原告らの主張は失当である。)。
したがって,本件各配転命令が無効であることを前提とする原告らの投資情報調査室に勤務する雇用契約上の義務の不存在確認を求める請求は,いずれも理由がない。
4  原告X2の被告に対する平成22年度の未払賃金請求権の有無及び額(争点(3))について
(1)  原告X2は,被告から示された平成22年度賃金を月額129万円に減額する旨の内容の平成22年度の雇用契約書について,署名,提出を拒否しており,原告X2の平成22年度賃金についての合意が成立していない以上,原告X2の平成22年度の賃金額は,平成21年度の賃金額がそのまま引き継がれると主張する。
(2)ア  たしかに,原告X2が,A2に対し,平成22年2月1日,被告の経営悪化を理由とする賃金額の引下げは,経営責任や赤字になった案件の責任の所在や賞罰処理などが明らかにならないのであれば受け入れられない旨のメール(甲18の1)を送信していること,同年3月26日のA2との面談の際,A2から,被告の記名押印がされた平成22年3月1日付けの原告X2に係る平成22年度の雇用契約書(甲19の1・2)を受け取ったものの,同雇用契約書に署名押印したものを被告に提出していないことは事実経過(2)ア及びエ記載のとおりである。
イ  しかしながら,上記原告X2のメールに対しA2が返信した賃金引下げの原因を説明する内容のメールに対する返信として,原告X2が,同年2月5日に,A2に送信したメール(乙45)に「定常的には黒字であるが,経営悪化は,今年のファンド持分損失に起因すること,了解です。それでは,今年カットがあったとしても,この特殊事情が無くなる来年は,額は元に戻り,今年分の高評価も反映され直すとの理解でよいでしょうか。」との記載があること,事実経過(2)イのとおり,同月15日に被告の全従業員に対し,平成22年度の年俸契約及び賞与に関し,被告全体で平均10パーセントの給与削減を目標に役職別標準削減率が設定された旨を伝えるA1のメール(乙2)が送信された後の同月25日以降,被告が原告X2に対し平成22年度の雇用契約書に記載された賃金額を支払い,原告X2がこれを受領していたことは,事実経過(2)ア及びウ記載のとおりであり,また,平成23年度の雇用契約書について,原告X2が,平成23年6月2日,A4宛のメール(甲11の1)で,平成23年度の雇用契約書(案)(甲11の2)のとおりの内容で平成23年度の雇用契約を締結する旨の意思表示をしたこと,平成23年度の雇用契約書(案)には,本契約は,被告と原告X2との間の平成22年3月1日付け雇用契約に置き換わるものとし,本契約の締結により,上記雇用契約はその効力を失う旨の定めがされていたことは,事実経過(3)シ記載のとおりである。
(3)  以上によれば,原告X2は,平成22年度の雇用契約につき,平成22年3月1日付けの雇用契約書(甲19の1・2)に署名押印して被告に提出することはしていないものの,上記雇用契約書を渡された際の前後の経緯及び原告X2が契約締結の意思表示をした平成23年度の雇用契約書において,平成22年3月1日付けの雇用契約の締結を前提とした定めがされていることに照らせば,原告X2と被告との間には,平成22年3月1日付け雇用契約書(甲19の1・2)記載のとおりの内容で雇用契約を締結する旨の合意が成立していたと認めるのが相当である。
したがって,平成22年1月1日から同年12月31日までの間の賃金について,被告との間の合意の成立を否定し,その間に支給された賃金と平成21年度に支払われていた賃金との差額192万円について,未払賃金であるとして,被告に対し,その支払いを求める原告X2の請求は理由がない。
5  原告X1の被告に対する時間外賃金請求権の有無及び額(争点(4))について
(1)  原告X1の本件残業代請求期間における労働時間について
ア 証拠(甲16の1から26まで,59の1から24まで,60,64,原告X1本人)によれば,原告X1は,被告の指示に基づき,毎日の開始時間,終了時間,休憩時間及び時間内労働時間を記載した出勤簿を作成し,被告に提出していること,同出勤簿には,部門長として,PE投資グループのグループリーダー又はマネージング・パートナーの押印,人事担当者の押印がされていること,本件残業代請求期間における原告X1の出勤簿における開始時間,終了時間及び休憩時間の記載内容が,未払残業代請求目録記載のとおりであることが認められ,また,被告においては,就業規則上,休日を,土・日曜日,国民の祝日及び国民の休日,年末年始(12月30日から1月3日まで)並びに被告が定める一定の日(就業規則26条)と,労働時間及び休憩時間を,始業午前9時,終業午後6時,休憩正午から午後1時まで(就業規則25条)と定められていることは前提となる事実(12)ア記載のとおりであるから,これらによれば,本件残業代請求期間における原告X1の時間外労働時間数,深夜労働時間数及び休日労働時間数は,それぞれ,未払残業代請求目録の「時間外労働時間数」欄,「深夜労働時間数」欄及び「休日労働時間数」欄各記載のとおりとなる。
イ なお,被告は,原告X1のセコムカードによる入退室記録(乙42の1から3まで)に基づき,月別労働時間表(被告修正版)のとおり,同表の「備考」欄に「入室・退室記録なし」と記載された労働日については,被告外での勤務が行われ,開始時間及び終了時間も,同表記載のとおり修正されるべきであると主張する。
ウ しかしながら,複数の人間が被告に入退室する際には,そのうちの1名の所持するセコムカードを用いれば,他の者についてはそれぞれのセコムカードを用いることなく入退室することが可能であるので,原告X1のセコムカードによる入退室記録については,それが記録された時点において,原告X1が入室,退室をしているということは証明できても,1日のうち最初の入室記録が実際に原告X1が当日最初に入室した際の記録であること,すなわち,原告X1が当該入室記録までに入室していなかったこと,あるいは,1日のうちの最後の退室記録が実際に原告X1が当日最後に退室した際の記録であること,すなわち,原告X1が当該退出記録後に入室し,退出していなかったことを証明するものではなく,また,入退室記録がないことをもって,入室,退室の事実が存しないと断じることができるものではないというべきである。
エ 以上によれば,本件残業代請求期間における原告X1の労働時間(開始時間,終了時間及び休憩時間)は月別労働時間表記載のとおりであり,上記期間における原告X1の時間外労働時間数,深夜労働時間数及び休日労働時間数は,未払残業代請求目録記載のとおりであると認められる。
(2)  原告X1が管理監督者に該当するか否かについて
ア 被告は,原告X1が,被告の主要かつ重要な業務である投資業務について責任者として広い裁量権を与えられ,チームのプリンシパルに対して指揮命令や評価を行う等していたほか,労働時間について被告から指示や管理を受けることなく,自らの判断で勤務しており,極めて高額な給与及び賞与を得ていたのであるから,労基法41条2号に定める管理監督者に該当する旨主張する。
この点につき,被告が就業規則及び平成23年10月28日に制定した給与規程において,時間外手当,深夜勤務手当及び休日出勤手当についての定め(就業規則50条から52条まで,給与規程12条から14条まで)を置き,マネージング・パートナー及びパートナーの地位にある社員について,時間外手当及び休日出勤手当についての規定を適用除外としている(就業規則53条,給与規程15条)こと(前提となる事実(12)ア及びイ),平成22年度の原告X1の雇用契約書を巡り,職位・職階を「パートナー(経営職)」とする点につき,パートナーである原告X1には管理監督者としての実質が伴っていないので「経営職」との文言を外して欲しいとの原告X1の要望が出された(事実経過(2)オ及びキ)けれども,平成22年度の原告X1の雇用契約書では,職位・職階が「パートナー・経営職」とされ(前提となる事実(4)・原告X1契約推移ク),原告X1が契約締結の意思表示をした平成23年度の原告X1の雇用契約書(案)でも,職位・職階が「パートナー・経営職」とされたこと(事実経過(3)サ),被告と原告X1との雇用契約において,原告X1の職位・職階がパートナー・経営職とされた平成19年4月1日付け契約以降は,それまでの雇用契約において契約書上明記されていた「年俸には時間外労働等に係る割増賃金が含まれる。」旨の記載がなくなっており,本件残業代請求期間に対応する平成21年4月1日付け契約(契約期間:同年1月1日から同年12月31日まで),平成22年3月1日付け契約(契約期間:同年1月1日から同年12月31日まで)には,契約書に割増賃金についての文言がないこと(前提となる事実(4)・原告X1契約推移キ及びク),原告X1が契約締結の意思表示をし,後の被告も契約成立を前提に平成23年度の給与の精算をした平成23年度の雇用契約書(案)(契約期間:平成23年1月1日から平成24年3月31日まで)にも割増賃金についての文言がないこと(事実経過(3)サ)に照らせば,被告においては,本件残業代請求期間中の原告X1につき,一貫して,労基法41条2号に定める管理監督者に該当するとの理解に立った取扱いをしていたことが認められる。
イ 管理監督者は,企業にとって重要な組織単位である組織部分の労務管理を事業主に代わって担当し,当該組織部分に係る労働者の労働時間を決定し,労働時間に従った労働者の作業を監督する者であって,その労働時間の管理監督権限の帰結として,自らの労働時間は自らの裁量で律することができ,かつ,その地位に応じた高い待遇を受けることから,労基法上の労働時間の規制を適用することが不適当とされたものであり,企業の重要な組織単位である担当組織部分を管理することにより,経営者と一体の立場に立って,経営に関する決定に参画していることになるものと考えられる。
したがって,①企業にとっての重要な組織単位である組織部分を担当することを通じて事業主の経営に関する決定に参画し,当該組織部分に係る労務管理に関する指揮監督権限を認められていること,②自己の出退勤を始めとする労働時間について裁量権を有していること,③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていることという要件を満たす者が管理監督者に該当することになる。
ウ 原告X1は,本件残業代請求期間中,平成21年5月から平成21年9月までの間は,原告らが担当した○○ファンド1号の投資対象会社であるa8社のハンズオンに従事し,同月から平成23年3月までの間は,原告らが担当した○○ファンド3号の投資対象会社であるa21社の取締役CFOに就任してハンズオンを行い,同月のa21社のエグジット後は,引き続き,エグジットの際の売却契約に基づくa21社の経営統合補助業務に携わっていたことは,前提となる事実(6)及び事実経過(6)ア記載のとおりである。
ところで,ファンドの運営会社である被告においては,○○シリーズについていえば,投資事業有限責任組合である○○ファンド1号から4号までの無限責任組合員として(前提となる事実(6)ア),投資対象企業のソーシングを行い,投資実行となった企業については,投資事業有限責任組合において株式の過半数以上を保有する状態のもとで,担当するチームのパートナー又はマネージング・パートナー等が投資先企業の役員に就任するなどしてハンズオンを行い,エグジットの結果得られる売却益のおおむね20パーセントを成功報酬として取得している(前提となる事実(3))ところ,被告は,平成23年度における被告の収益のうち成功報酬が53パーセントを占めている旨主張しており,被告の組織及び人的構成(前提となる事実(1))に照らせば,被告にとって,ファンド運営により得られる成功報酬がその収益の主たるものとなっていることが推認できる。そうだとすると,被告にとって,個々の投資先企業のハンズオンは,その企業価値を高め,エグジットの際の売却益をより大きいものとする点において被告の収益に直結するものであり,それぞれ重要な事業として位置付けられるものということができる。
そして,前提となる事実に加え,証拠(甲48,71,乙18,原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告において,原告X1は,常に,原告X2と二人で投資案件をパートナーとして担当しており,原告らが担当する投資案件は,ソーシングの段階で原告らが発掘し,投資実行が決定されると,原則として,ハンズオンを経てエグジットに至るまで,パートナーである原告らを責任者とし,その下に複数のプリンシパルを配置して構成されたチームが一貫して担当し,a21社の案件については,ハンズオンにおいて,原告X2がa21社の代表取締役CEOとして,原告X1がa21社の取締役CFO・管理本部長として,直接,a21社の経営に当たり,同社の経営方針,人事等についても,原告らの裁量的判断で決定し,チームのプリンシパルに対する指示も,原告らの判断に基づき行われており,それらについて,被告の役員,グループリーダーであるA2さらには他のマネージング・パートナーからの指揮命令を受けていなかったこと,勤務場所(被告かa21社か)及び勤務時間についても,毎週月曜日の朝に行われるPE投資グループの朝会に出席する以外は,原告らの判断に委ねられていたことが認められ,証拠(証人A2)及び弁論の全趣旨によれば,a21社のエグジット後の売却契約に基づく経営統合補助業務についても,原告らの判断に基づき行われており,それらについて,被告の役員,グループリーダーであるA2さらには他のマネージング・パートナーからの指揮命令を受けていなかったこと,勤務場所(被告かa21社か)及び勤務時間についても,毎週月曜日の朝に行われるPE投資グループの朝会に出席する以外は,原告らの判断に委ねられていたことについて,同様であったものと認められる。
なお,証拠(乙9,証人A2,原告X1本人)によれば,A2もa21社の取締役に就任していたことが認められるが,証拠(証人A2,原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば,A2のa21社の取締役就任は,原告らの判断に基づき,a21社の取締役会において,被告関係者が過半数を確保するためのものであって,取締役に就任していたA2が,a21社の経営判断にコミットすることはなく,A2のa21社取締役辞任も,取締役会における過半数確保のためのA2の取締役就任の必要がなくなったとの原告らの判断に基づいて行われたものであることが認められるのであって,A2がa21社の取締役に就任していたことをもって,原告らが,a21社のハンズオンにつき,A2の指揮命令下に置かれていたとみることはできない。
また,証拠(甲56の1・2,58の1,乙35,証人A2,原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,a21社のハンズオンに従事していた期間中においても,被告のPE投資グループの朝会に参加していたこと,朝会においては,新しい投資先候補並びにPE投資グループのパートナー及びプリンシパルについての現在余力を一覧表にした「リソース配分パイプライン管理」と題する表が示されていたことが認められるが,証拠(乙35,証人A2)によれば,朝会は,それぞれの投資案件について担当グループの責任者として活動しているPE投資グループの全パートナー及びマネージング・パートナーが毎週月曜日の朝に一堂に会し,それぞれの担当案件の進捗状況についての情報を確認し合うとともに,新規案件への対応可能なプリンシパルを選定するため各プリンシパルの余力を確認するために開催されており,「リソース配分パイプライン管理」表も,平成23年当時は,パートナーの一人であるA12が作成していたことが認められるのであって,原告X1がPE投資グループの朝会に参加し,そこで「リソース配分パイプライン管理」表が示されていたことをもって,原告X1が,A2の指揮命令の下でa21社等の原告X1が担当する案件のハンズオンに従事していたということはできないというべきである。
次に,原告X1は,本人尋問において,原告らのチームのプリンシパルには,原告らの指揮命令に従うとの意識はなく,原告らが原告らのチームのプリンシパルに指揮命令するという状況にはなかった旨供述するが,被告における職位・職階において,パートナーがプリンシパルの上位に位置し,プリンシパルがパートナーのサポートを行うものであるとされていることは前提となる事実(1)記載のとおりであり,このことは原告らがa21社のハンズオンに従事していた当時も同様であったと解されること,また,原告X1において,チームのプリンシパルが原告X1の指揮命令に従うという意識がないと感じるようなことがあったとしても,それは,前記3(3)において判示したとおり,原告らとチームのプリンシパルとの間に信頼関係が構築できていなかったことによるものと考えられることに照らせば,原告X1の上記供述をもって,原告X1がチームのプリンシパルに対して指揮命令できる立場になかったとすることはできない。
そして,前記アのとおり,原告X1は,被告の指示に基づき,毎日の開始時間,終了時間,休憩時間及び時間内労働時間を記載した出勤簿を作成し,被告に提出し,同出勤簿には,部門長として,PE投資グループのグループリーダー又はマネージング・パートナーの押印,人事担当者の押印がされているが,証拠(乙37の1から21まで)及び弁論の全趣旨によれば,同じく,被告の指示に基づき提出された原告X2の出勤簿には,およそ実際の開始時間,終了時間とは考えられない一律の記載がされているにもかかわらず,そのままとされていることが認められるのであって,この点に照らし,原告X1が被告の指示に基づき出勤簿を作成して提出していることをもって,原告X1が,労働時間についての裁量権を有していないとすることはできない。
なお,被告においては,投資対象会社に対し投資を実行するか否か,投資先企業についてのエグジットをいつ,どのような形で行うのかということについては,それぞれ,投資委員会,投資管理委員会における決議により決定されることとされている(前提となる事実(3)ウ及びオ)が,当該投資案件の担当チームのパートナー又はマネージング・パートナーは,投資委員会及び投資管理委員会に出席し,かつ,議決権を行使できる立場にあり,また,投資委員会及び投資管理委員会においては,当該案件の担当チームのパートナー又はマネージング・パートナーが,その内容に係る説明を行い,質疑応答の上で,議決が行われる(前提となる事実(3)ウ及びオ)のであるから,原告X1は,a21社について投資の実行を決定した投資委員会においても,また,a8社及びa21社についてエグジットを決定した投資管理委員会においても,担当チームのパートナーとして,参加し,議決権を行使することによって,ファンドの運営会社である被告にとって重要な意味を持つ意思決定に参画しているということができる。
エ 次に,原告X1に対する賃金上の処遇についてみるに,原告X1と被告との間の雇用契約は,毎年,年俸を定めて締結され(前提となる事実(4)・原告X1契約推移),被告の給与規程では,基本給は,本人の技能・経験・職能を重視して決定する(給与規程8条)とされており(前提となる事実(12)イ),本件残業代請求期間においても,同様の考え方によっていたものと推認できるのであるから,原告X1が投資先企業のハンズオンに従事していたことは,その翌年の年俸の額に反映される仕組みとなっているということができるところ,平成23年度の給与については,最終的に,年俸1920万円に加え,a21社のエグジットを評価した単年度事業給として,平成23年1月から平成24年3月まで月額25万円が支給されていること(前提となる事実(11)及び事実経過(3)カ),また,原告X1がハンズオンに従事していた投資案件がエグジットに至った場合には,インセンティブ賞与規程に基づき,インセンティブ賞与が支給される(前提となる事実(7))ところ,実際に,a21社がエグジットした際には,原告X1につき,合計6037万4251円のインセンティブ賞与が決定され,そのうち,インセンティブ賞与規程に基づくエスクロー口座留保分を除いた3018万7126円が原告X1に支給されていること(前提となる事実(9))に照らせば,原告X1は,被告にとって重要な事業部門というべき投資案件の責任者としての地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられているということができる。
オ 以上によれば,原告X1は,投資案件の担当チームの責任者であるパートナーとして,投資先企業のハンズオン及びそれに引き続き行われるエグジット後の経営統合補助業務に従事している期間については,管理監督者の立場にあるというべきである。
(3)  以上のとおり,本件残業代請求期間中,原告X1は,管理監督者に該当するので,原告X1の主張を前提としても,未払残業代請求目録記載の「深夜労働割増賃金」欄記載の割増賃金以外は発生しないというべきところ,同目録記載の「既払分」欄記載の額を控除することは原告X1も認めるところであるから,これを各月の「深夜労働割増賃金」欄記載の額から控除すると,いずれも支払うべき月間未払時間外手当は0円となる。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告X1の未払残業代の請求及び付加金の請求はいずれも理由がないというべきである。
6  被告の原告らに対する不法行為の成否及び損害の額(争点(5))について
(1)  原告らは,本件各懲戒処分及び本件各配転命令が,被告のコンプライアンス上の問題点を内部統制・リスク管理室や外部の監督機関に相談しようとした原告らを退職に追い込むこと等を目的とした違法,無効なものであり,原告らに対する不法行為である旨主張するが,本件各配転命令が,業務上の必要性に基づく有効なものであると認められることは,前記3のとおりである。
したがって,本件各配転命令が不法行為に該当することを前提に原告らが主張する経済的損害(インセンティブ賞与の職階枠受給権の喪失による各100万円,新規投資業務により得られたインセンティブ賞与受給利益の喪失による各1000万円,基本年俸の昇給期待権の喪失による各200万円及び投資担当者としてのキャリア形成機会の喪失による各1000万円)に係る賠償請求権は,いずれも認められないというべきである。
(2)  これに対し,原告らに対する本件各懲戒処分が無効であると認められることは前記2のとおりであり,被告は,それにより原告らが被った精神的損害を賠償すべき立場にあるというべきである。
ただし,本件各懲戒処分は,被告のコンプライアンス上の問題点を内部統制・リスク管理室や外部の監督機関に相談しようとした原告らを退職に追い込むことを目的としたものとは認められず,A2及びA4において,本件面談を含む一連の面談における原告らの要求が,もっぱら原告らの職位,年俸の増額及びインセンティブ賞与を巡る要求であったと認識し,本件面談が,○○ファンド4号の募集の時期と重なっていたことから,本件面談における原告X1の発言を,○○ファンド4号の募集に悪影響を及ぼすとの懸念をもって,それと関連付けて受け取り,被告において,原告らとa2社のA19との事前のやりとりを認識していなかったことから,原告らの本件面談における発言及び本件a2社訪問が原告らの職位,年俸及びインセンティブ賞与を巡る要求を被告に認めさせるためのブラフであったと受け止めた結果,それが懲戒事由に該当するとの判断のもと,本件各懲戒処分に至ったものと解されることは前記2(4)のとおりであるから,本件各懲戒処分について,被告に,原告らが主張するような意図があったということはできない。
また,原告らは,就業規則59条(2)により,本件各懲戒処分(訓戒)に基づき被告に提出すべきとされている始末書を未だ提出していない(事実経過(5)キ)のであるから,無効な懲戒処分によって,意に沿わない内容の始末書の提出を強いられたというわけではない。
他方,原告らは,本件各懲戒処分に先立つ弁明聴取の際に,A6から,事実経過(5)ア記載のとおりの発言をされ,また,本件各第1次配転命令後,a21社の経営統合補助業務が終了した平成24年5月31日以後,本件各第2次配転命令がされた同年12月1日までの間,原告らは,経営管理グループにおいて,担当事務の指定がされない状態のままとされていたことは,事実経過(6)イのとおりである。
上記の各事情を総合すれば,原告らが本件各懲戒処分及びその前後における被告の対応により被った精神的損害に対する慰謝料は,原告らそれぞれにつき,各100万円が相当というべきであり,原告らの精神的損害に係る賠償請求のうち,それを超える部分については理由がない。
(3)  弁護士費用
被告の上記不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用は,原告らそれぞれにつき,各10万円と認めるのが相当であるというべきであり,原告らの弁護士費用に係る賠償請求のうち,それを超える部分については理由がない。
7  結論
以上の次第であるから,原告らの請求は,原告らにおいて,それぞれ,被告との間で本件各懲戒処分が無効であることの確認を求める部分並びに被告に対し,慰謝料各100万円,弁護士費用各10万円の合計各110万円及びこれに対する不法行為後の日である平成25年10月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分の限度で理由があるから認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとする。なお,仮執行の宣言は,必要を認めないので,これを付さない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 團藤丈士)

 

〈以下省略〉

 

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